31.劉備登場

劉備登場

  

 翌朝、呂布は長安宮に一同をあつめ、我が意思を伝えた。


呂 布:俺様はただちに荊州へ戻る!


 大方針である。呂布の所在地を大本営とするならば、ふたたび戦略の主眼は関中から楚へ戻されたということなのだ。


陳 宮:結構でしょう。ならば後の守りと、米賊はいかがします。

呂 布:うむ。――三弟!

馬 超:おう!


 進み出たのは、馬騰の子、馬超である。南蛮最強の武力101(方天戟レプリカ)を誇り、いつのまにやら張バクや孟獲とともに呂布の義兄弟格と目されている。父・馬騰のあとを継いで西部方面の総帥たり、先年長安・武都を立て続けに奪われたものの、それ以上の侵攻を見事に喰い止めている。


呂 布:またオマエらに任せる。法正とよく協議して、張魯の事など好きなようにしろ。

馬 超:任せてくれ!

呂 布:天水留守、呉懿、呉班!

 次に呂布が指名したのは、前の益州牧劉璋の義兄・呉懿と、同族の呉班。
 呉班は父・呉匡がらみで呂布とは旧知であり、呉懿は呂布とともに聖獣と闘った経緯もある。すべての能力値が70代というバランス型で(えぢたー済み)、何だかんだと毒突き合いながら、その実、呂布が生涯でもっとも信任・酷使した男たちであるとさえ評された。 


呂 布:オマエらは天水に駐留して馬超を援護しろ。武都が片づいたら、そのまま長安へ入って馬超らの監督にまわれ。

二 人:はっ!。

 その後、次々と残留組、荊州組が指名され、南蛮王の軍はふたたび二分されることになった。


呂 布:というわけで法正!西の采配はすべてオマエの脳みそだ!キリキリ働け!

法 正:御意。


 馬超の頭脳となるのは、副軍師法正。最も早く呂布に鞍替えした一人であり、その知力97は、正軍師陳宮のそれを遙かに上回り、未登場武将である呂布の末娘・呂文姫に次ぐ高数値であった。


呂 布:――以上!次に合うときは洛陽だ! 

一 同:はは――っ!

  ………………
   ………

  長安を進発するに先立ち、呂布は密かに軍列を離れ、長安城市の一画に足をのばしている。

   

呂 布:というわけで俺様は荊州へ戻る。   

蔡文姫:はい――。大王の御武運をお祈り申し上げます。  


 蔡文姫は寂しげに微笑し、一礼した。


呂 布:おう。…蒋容にも、よろしくな。

蔡文姫:はい――。

 呂布、城市内の親しき者たちへの別れを済ますと、馬上の人となる。

呂 布:じゃ、またな!  

 赤兎と呂布の巨体は、忽然、捲き上がる砂塵の中へ消えた。
 ――ふらりと出かけるような別れであったが、彼女たちにとって、これが南蛮王・呂布の最後の姿であった。 


 行軍のあいだに年が明け、建安12年――
 じつは漢中・長安方面で戦闘が続いてい間も、荊州の勢力図は変動を続けていた。
 江夏を巡って劉?軍と孫策軍は何ターンも戦争を繰り返し、その間隙を縫うように、張燕軍は江陵を確保している。
 呂布は、制圧が済んだばかりの江陵へ到着した。
 一足先に荊州へ戻っていた小間使いの元気のよい挨拶が、呂布を出迎える。


小間使:あ、お帰りなさいませ――っ!

呂 布:なんだ!?

 呂布が面食らったことに、小間使い、赤ん坊を背負って玄関掃除中であった。

呂 布いつ産んだんだ!?

小間使:もーっ、私が産むわけないじゃないですかー!

 ふくれた顔の小間使い。近所の若夫婦から赤ん坊を預かっているらしかった。

呂 布:なんだ、驚かすな!一瞬誰が相手かと思ってハァハァしたぞ!

小間使:勝手に人でハァハァするのはよくないことだと思います! 

呂 布:わからんヤツめ! ハァハァは男に許される唯一の自由だぞ!

 ………………
 …………
 館で早めの夕食をとった呂布は、政庁に入るや、全軍に出撃を命じた。
 すでに万端の準備を整えている南蛮軍9万、軍門に篝火を連ね、ほとんど下知と同時に、薄闇の立ちこめる荊北方面へと消えていった。

 ――戦場「襄陽」は、森と平野部と山岳の入り乱れるバリエーション豊かなマップである。さらに砦の先には、マップを斜めによぎる大河(樊水?)があり、地形自体が一個の防衛線を形成していると言える。
 迎撃に出た8万余は、劉?軍のほとんど全戦力であり、この一軍を失えば、もはや劉?には新野に駐屯するわずかばかりの兵しか残されておらぬ。

陳 宮:…敵援軍が新野からこちらへ直行しているようです。

呂 布:ふん、劉備一党か?

陳 宮:さあ、そこまでは…


   荊州軍は、なお強い。主将の蔡瑁もさることながら、以前呂布を散々に手こずらせた黄忠、益州から逃れていた厳顔などというゴールデンシルバーコンビ(?)がおり、ほかにも文聘、霍峻などという諸侯垂涎の勇将が集中している。実のところ、呂布軍を圧倒するくらいのクオリティである。

呂 布:続けっ!

 野生の勘で悟るところがあるのか、ちかごろ予備兵力として待機することの多い呂布、この戦ではひさびさに陣頭に立って突撃した。
 武力108に加えて、突撃・極レベル、おまけに鉄騎二万というMAXづくしである。荊州軍がいくら精鋭を揃えようとも、とうてい歯が立つユニットではない。
 決して弱くないはずの厳顔軍が紙切れのように裂け、後続の公孫楼、張遼らの猛撃をくらい、たった1ターンで7000近い損害を出して城へ引っ込んだ。

呂 布:よおし! 次ッ!

呂刀姫:父上、私が! 

 中央の森林を突っ切ってきた歩兵軍団が戦線に加わった。陳宮隊、呂刀姫隊をはじめ、士気は極めて高い。が――。

張 燕:あ、熱゛ぃ――!!

呂 布:ぶわっはっは! 格好悪ぃ~!

 突然火罠が作動し、広大な森林が瞬く間に炎に包まれてしまった。巻き込まれたのは、張燕隊ほか、なんと援軍で駆けつけてくれた孫策軍であった。運が悪いとしか言い様がない。慌てて各自鎮火を始めるが、同時に「足止め」状態になっているため、戦線に参加できそうになかった。

 

呂 布:ちっ、相変わらず使えん奴らめ!

高 順:まあまあ…

 
 遙かに武力で勝る黄忠を、一騎討ちで何とかしとめた高順、砦のひとつを制圧し、補給線を確保する。
 ――この戦、久々に呂布本人が突撃方に回ったこともあり、妙な安心感が漂っていた。
 

呂 布:よっし! 渡河開始だ!張遼、いけ――っ!

張 遼:押忍!

 森の地形を活かしてなかなか善戦していた蔡瑁軍、火炎地獄から抜け出してきた呂布軍後続に包囲されて残数2000を切り、王威や文聘らも過半を失っている。
 いわば楽勝ムードに沸く呂布軍の元へ、しかし悲報がもたらされる。
 ――張遼軍壊滅、主将行方不明、であった。
 関羽との一騎討ちに敗れたのだ。


呂 布:あ!?

高 順:馬鹿な…!

 張遼、欲張りすぎたと言うべきか。
 このゲームは一騎討ちは滅多に発生しない。せいぜい、自分より強い相手に申し込んだときくらいである。が、多少の武力差ならば、呂刀姫が文聘を討ち、高順が黄忠を斃した例の秘技で、なんとかなる。
 しかし。
 中にはボーナスポイントでもあるのではないかしら、と疑うくらいに強い武将が存在する。
 呂布もその一人であったし、関羽、張飛あたりもそうであった。
 

呂 布:くそっ! 俺様も向こう側へ行って来るぞ! 

陳 宮:気を付けてくださいよー!

 猛然と渡河を敢行すると、城門前に整然と展開している残存兵力が視界に入った。
 5000程の部隊ばかりだが、「劉」の旌旗の下、遠目にも桁外れの戦闘能力が見て取れる。

 呂布は陣頭に躍り上がると、大喝した。
 

呂 布劉備っ!――出てこい、三人とも!

 呂布の怒号は、全戦場に響き渡った。全将兵が戦闘を止め、襄陽城を見守る。
 やがて流浪劉備軍の兵列が割れ、二人の巨漢に護られつつ、堂々たる体躯の大男が姿を現した。

  

劉 備:ひっさしぶりやなあ、呂布の旦那~

呂 布:ふん。誰に断ってその大耳ブラブラ垂らしてやがる…!

 とたんに、三人の顔色が変わった。

張 飛:てめえ!長兄の長い耳は禁句って言っただろうが!

呂 布:聞いてねえよ!

関 羽:うろたえるな益徳! ――長兄、野人の言に過ぎぬ。長い耳のことなど気になさるな。

劉 備:関さん、益徳――俺ァ別に気にしてへん…。生まれつきやから、仕方がないわな…

 フっ、と馬上ほろ苦く微笑む劉備。

張 飛:呂布ッ! てめえが人の肉体的特徴をあけすけに指摘するから、長兄がまた長い耳のことで悩んじまっただろうが!

関 羽:益徳! 長兄は長い耳のことを悩んでいないと、今仰ったではないか! そう何度も長い耳長い耳と怒鳴るな!

張 飛:す…すまねえ兄ィ! 俺が長い耳のことばかり気にして、かえって長兄が長い耳を悩む事になってたかもしれねえ!

関 羽:益徳!よく悟った!――それが“”だ!

張 飛:兄ィ――! 今まで俺が間違っていた! 俺をもっと叱ってくれいッ! 


 ガッシリと、熱くアツく手を取り合う豪傑・関羽と張飛。その兄弟愛と仁義の絆には一片の曇りさえ無かった。
 

呂 布:………………。

劉 備:………………。

呂 布:あー、その、なんだ。相変わらずだな、あいつら。

劉 備:せやろ…?

 異様なまでに頼もしい二人の兄弟愛に、ホントは辟易しているらしい劉備。呂布は同情を禁じ得なかった。
 が、不意に視線を厳しくして、二人は睨み合った。

劉 備:――張遼はこっちで預かってる。欲しけりゃ力尽くで取り戻すんやな…!

呂 布:ふん、言われるまでもないわ! 

 
 全軍突撃を命じる呂布。劉表の正規部隊や援軍の存在を忘れたかのように、呂布軍はひたすら劉備軍団めがけて攻撃を開始した。
 

呂 布:張遼を返せ! 関羽、俺様と勝負しろ!

関 羽:今はその時に非ず。

呂 布:けっ、チキンが!。

 関羽が呂布の一騎討ちを断るのは無理もない。張遼の豪勇は、決して関羽にとっても楽なモノではなかったはずだ。相当の負傷をうけている。
 それにしても――恐るべきは劉備軍団のすさまじさであった。
 主将の劉備も、今作ではかなりバランスのよい戦闘屋だが、それより関羽、張飛の強さは尋常ではない。部隊の攻撃力・反抗力に武力がダイレクトに反映されるシステムの今作、武力100オーバーの部隊は、まず戦場で打ち倒すのは不可能であろう。

 …陣頭で猛烈に戦う関羽と張飛の人影は、遠目にもハッキリと見える。
 長さ4メートル以上の蛇矛や偃月刀が旋回するたび、矛を掴んでいる腕だの、中身入りの兜首だの、輪切りになった胴だの、馬の首だのが、血しぶきとともに10数メートルもはね上げられ、バラバラと雨のように落下してくる。それが扇風機のように絶え間なく続いているのだから、前線の兵士たちにとっては生きた心地のしない光景であろう。

劉 循:さすがに凄まじいものですな…。とても同じ人間とは思えぬ…。

 蒼白になって馬を寄せてきた劉循に、呂布は獰猛な笑みを向けた。

呂 布:だが人間には違いあるまい。そうだろ、劉循。

劉 循:そりゃそうですが…。

呂 布:ふん、オマエは俺様がどう呼ばれていたか知らんのか!

劉 循:!?

呂 布――人中有呂布、馬中有赤兎、ってな!


 言うや、呂布は赤兎馬を駆って陣頭に出ると、雑兵どもを殺戮しながら、一直線に張飛の立てる死屍噴水のもとへ突進した。

張 飛:やっと来おったかッ!

呂 布:泣かすぞ虎髭!  

 ただ一言怒鳴りあっただけで、二人の蛇矛と方天戟は、激烈な火花を散らし始める。不運にも逃げ遅れた兵士たちは、敵も味方も、旋回するふたりの武器に肉体を粉砕されて飛び散った。何とも迷惑な一騎討ちであった。

公孫楼:…包囲!

関 羽:む…? 

 
  関羽、見覚えのある白馬軍団の功囲を受け、不思議そうな表情を敵将たる公孫楼へむけた。、
 

関 羽:ひょっとして、貴女が伯珪(公孫)の御息女か。

公孫楼:………………  

関 羽:面影がのこっている。私を覚えておられぬか

公孫楼:………………。

 公孫楼、無言で腕を振り上げ、振り下ろす。
 1万5千の白馬軍団が、白い津波のように関羽隊2000余を呑み込んだ。関羽の姿もまた、その波濤の中に消えた。

呂 布:はっはっは!馬超のとき以来だぞ!こうまで楽しいのは!

張 飛:ぬ、ぬかせ! 

 減らず口を叩きながら、楽しそうに一騎討ちを続ける二人。――が、ほとんど勝負にもなっていない。一対一では呂布が圧倒的に強かったのだ。
 呂布の猛烈なラッシュを捌ききれず、とうとう張飛、石突きで強烈な打突をくらった。その巨体は馬上から吹っ飛び、50メートル離れた城壁に叩きつけられた。

劉 備:――救えっ! 趙雲、陳到! 俺を助けろ――!

高 順:もう二将とも手捕りにしている。豫州、覚悟されよ。  

 劉備本隊を最後まで援護していた旗本二騎が、相次いで高順軍1万8千に飲み尽くされ、劉備隊は丸裸で戦場を逃げ回っている。
 河べりに遁走を続けた挙げ句、残り500まで撃ち減らされた時点で城へ退却してしまった。
 それを合図にしたかの如く、最後まで戦場の片隅で震えていた韓嵩ら文官の部隊が壊滅し、襄陽正規軍は全滅。
 荊州の州都・襄陽は、南蛮軍の制圧するところとなった。
 残ターン、わずか4であった。

  本当に長く面白かった戦闘を終え、南蛮軍団はとうとう荊州の中枢を得る!
 劉備一党を数珠に繋いで、如何なる裁きが待ち受けているのか! 次回、臥竜覚醒編と合わせてお楽しみに!