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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

761 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:13
「うわ! あつぅ〜っ!」
前線から聞こえてくる声に朱績は唇を噛む。
見上げれば校舎屋上に敵主将、王昶の姿。
その手にはカップ焼きそば。
どうやら屋上から下に向かって湯きりをしたらしい。
お湯の直撃を受けた人はいないようだが……こうもあからさまな挑発はむかつくっ!
鼻歌でも歌いだしそうな……いや、実際に歌っているのかもしれないが……表情で焼きそばにソースと青海苔を絡めている。どうやらマヨネーズは使わないらしい。
「……あい……つ……!」
朱績は眉を危険な角度に吊り上げながらぎゅっと竹刀を握り締めた。


夾石のディキシィ


それは長湖部の人間にとって信じられないニュースであり、第一報を聞いたときは誰もが耳を疑ったものだった。
諸葛誕の蒼天会造反。
誰がこんな展開を想像したことだろう。
確かに長湖部にとって諸葛誕という人物は課外活動で実績を残しているわけではなかったが、それでも揚州校区の北側で睨みをきかせるその姿は目の上のたんこぶという以外の形容詞がなかった。
諸葛誕はすぐさま妹を長湖部に派遣し援軍を要請。
孫リンはこの機を逃さず文欽、唐咨らを派遣した。

長湖の畔が激情に揺れる。

本当に大丈夫?
承淵はあたしにそう聞いた。
そのときあたしはどう答えただろうか?
よく覚えていない。
だけど恐らく……承淵を怒鳴りつけただろう。
『あたしがあの女に負けるとでも思っているの!?』と。
承淵の心配があたしの能力を疑っての悪意のある発言ではないことはわかっている。

あたしはわずか半年前にあの女にいいようにされ、陸凱によってなんとか救い出されたようなものだった。
心配する気持ちはわかる。
だけど……
……だからこそあたしはあいつに勝たなきゃいけない。
江陵棟の主将として諸葛誕の援軍として動こうとすればどうしてもあいつとぶつからなければならない。
今度こそ……
今度こそ目に物を見せてやる。
見てなさいよ、王昶!
あたし……朱績は竹刀を振った。

あたしの予想通り王昶は私が援軍として動くことを阻むように新野棟から夾石棟までのこのことでしゃばり、そしてあたしを挑発するようにまともに戦おうとしなかった。
あいつの目的が時間稼ぎだってことはわかっている。
こっちが援軍にいけないことで困窮していくのは蒼天会ではなく長湖部。
あいつはただへらへらと時間を稼げばいい。
しかしあたしたちにはあいつらを無視して前に進むこともできない。
後ろに敵を残したまま前進するなんて危険な真似、できやしない。
つまりどちらにしてもあたしはあいつにつきあってやらなければならないのだ。

あいつをトばさなきゃいい夢なんて見ることできるわけないじゃない!

その感情は多分、恋にも似てた。

762 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:14
ここ何日か夾石棟を包囲し、それを陥落させようと躍起になってはみたものの、あたしの打つ手はほとんど先回りして潰されているような状態であった。
あたしはあいつには勝てないんだろうか。
いや、弱気になっちゃダメだ、朱績!
そして今日も……
「しゅ〜せきちゃ〜ん!」
……屋上からの拡声器の声。
1日に1度はこれを聞かされる。
挑発だとはわかっているけどどうしてもむかつく。
「期待してたんだよぉ? 半年前とは違う成長した姿見せてくれなきゃぁ」
『ふぁいとぉ』などと煽る。
……ガマン。ガマンだ。
「それともあれですか〜? チキン・オブ・ハートの朱績ちゃんとしてはとりあえず逃げ帰りたい気持ちでいっぱいかしらぁ?」
くねくねと体を揺らす。
ガマンだ。ガマンしろ、あたし。
「まったくさぁ? そんなカタどおりの攻め方ばっかでおもしろい? おかしい? 狂おしい? こっちはま〜ったくおもしろくないよ〜」
ぱたぱたと手を振る。
ガマン……
「まったく朱然センパイ? あのひとも後継者に恵まれなかったご様子……あ、それともこれで恵まれてるのかしら、ぷぷぷ」
口元に手を当てて笑う。
ガ……無理。
「お姉ちゃんの悪口を言うなーッ!」
「あ、やべ。聞こえちゃった」
拡声器を通してなんか言ってる。
「お姉ちゃんだったらお前なんか左足の薬指だけで一発だっつの!」
「……器用だな、おい」
若干引きながら王昶が呟いた。
「このバカー! おたんこなすー! ピザ屋のバイクー!」
「うわ、すごい悪口言われてる……ピザ屋はともかく」
あくまで余裕を見せ付ける。
あいつはなんだ? 神か?
どんどん感情が高まってくる。
「王昶! 一対一で勝負だ!」
私の激情に落ちる沈黙。
「……なんで?」
たっぷり25秒の沈黙の後、王昶は心底不思議そうな声で聞き返した。
「なんで、って……いや、だって……へ、へへん! あんた、よわっちぃからやりたくないんでしょ! あー、わかるわかる。怖いんだもんねー?」
やっと攻め口が見つかった!
あたしはどんどん言葉を回していく。
これで冷静な判断を失わせればいい。
かつてのあいつにやられたこと……それを思い出し、私は内心ほくそえむ。
「弱虫王昶ちゃん? ここはあなたみたいな子がいていい場所じゃないのよ? 公園のブランコに1人で座って夕日をバックに寂しそうにしてなさい……うわ、ほんと寂しそう! 同情するわ! 友達いないんだから仕方ないよねー!?」
「こ、この! 言わせておけばー!」
かかった!
「……なんて言うと思った? 残念。私の部下ちゃんズはみんなできた子でね。私は一騎打ちを断ったくらいじゃ信頼は失墜しないみたいよ?」
ぐ……ぬ、ぬけぬけとっ!
あたしは言葉が空回りしたことに歯軋りをする。
「だいたいさ、なんつ〜か……私、直接的な暴力で泣かすのは好みじゃないんだよね」
……もう勝ったつもりか。
……勝てるつもりなのか。
「朱績、落ち着いて。こんなの、あいつの常套手段でしょ」
副将の全煕があたしに声をかけてくる。
えぇ、えぇ。あたしは落ち着いてますよ? 地獄の業火のように落ち着いてますとも。

763 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:14
「まったく……一騎打ち? そんなバカなことばっかり言ってるとMNSVに犯されてえそ斑点病になっちゃうぞっ!」
えそ斑点病ってメロンの病気じゃないかッ!
せめて人間様の病気を言えッ!
ストレスがたまるのを感じる。
なるほど……承淵の心配どおりになった。

そう自分で思い当たった瞬間、なぜか心が楽になった。
なるほど。『突き抜ける』っていうのはこういうことなのか。

「朱績ちゃん、聞いてる? おぉ、不肖の主将よ。人の話を聞かないとは嘆かわしい」
王昶がわざとらしく首を横に振る。
なぜかそのときのあたしの心の中は余裕で満たされていた。
「全煕、全員を下げさせて」
傍らの全煕に指示を出す。
「え、でも……」
「いいから」
全煕の反論をにっこりと笑って封じる。
『なにがいいものか』という全煕の顔。多分、彼女はまだあたしが感情に突き動かされてる、と思ってるんだろう。
気持ちはわかる。
でもあたしには勝算があった。
全煕が渋々、全員を後退させる。
「……?」
拡声器からの声はない。でも当惑の雰囲気だけは伝わってくる。
……大丈夫だよ? その当惑に答えを与えてあげる。
あたしは全煕にさらに指示を出したあとゆっくりと拡声器のスイッチを入れた。

「やぁやぁ、さすがは名将? あたしじゃ太刀打ちできないからこのまま撤退させてもらおうと思うんだけどそういうのってどんなもんかな?」
あいつは……
王昶は確かにすごい。それはもう認めざるを得ない。
でも、だからこそ。
今、あたしは撤退を宣言した。
実際にその選択肢も幕僚会議で出ている。
あたしはあくまで援軍。援軍『だけ』で決まる勝負なんてこの世に存在しない。
要するに主戦場の朱異ががんばってくれさえすればあたしまでがんばる必要はないのだ。

そう思っても……誤解させてもおかしくないのだ。

だから撤退する。
王昶ならそれを追撃することだろう。
後方からの攻撃というのはいつでも、誰にとっても弱点だからだ。
しかも相手はあたし……王昶にとって安全牌以外の何者でもないだろう。
だから追撃させる。
王昶に校舎の主力部隊を空にさせる。
その隙に伏兵に校舎を攻めさせる。
今、全煕に精鋭を募らせている。
あたしが弱いからこそ……
……必ず王昶をトばすことができる。
あたしは確信していた。

764 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:15
「ふ〜ん」
冷静な声が校舎の拡声器……王昶……から聞こえる。
「なるほど、私が追撃してるうちに伏兵で校舎を直接攻めようって? その攻め方は『いい』ね。ちょっと感心した」
……ッ!
あたしは呆然とする。
こいつはなぜこんなにも……ッ!
「あぁ、誤解しないで。私は本当に褒めてるんだよ? 実際にいきなりだったら本当に撤退してるとこを追撃することに頭が回ったと思う……ただ朱績ちゃんの今までの言動からするとそれが考えられない。裏がある、と思っただけ」
作戦自体は本当に素晴らしいね、拡声器からの声。
あたしはしかし……屈辱に震えていた。
褒められても嬉しくもなんともない!
しかも見破られたのがあたしの今までの言動自体だったなんて!
悔しくて涙が出そうだ。
「しまったな。『羽化』……させちゃった、かな」
王昶の意味のわからない呟きにも反応の余裕がなかった。
あたしは……
そのとき拡声器を通じて聞こえてきた声はあたしの理解を完全に超えたものだった。
「玄沖、しばらくあんたが主将代理ね。好きなように指揮してみなさい」
指揮権の譲渡?
どういうこと?
「今までで一番楽しませてくれた朱績ちゃんのその作戦の敬意を表して一騎打ちなんてどんなもんだろう?」

あたしはきっとそのときとてもマヌケな顔で校舎を見上げていたんだと思う。

「朱績ちゃん、おまたせぇ♪」
王昶が笑いながら校舎の外から出てくる。
手にはなんの変哲もない丸い棒。木刀よりちょっと長いだろうか……あれがあいつの武器?
ブラウスにタイ……それはいいとして頭に赤いベレー帽。ブレザーのかわりに迷彩柄のハーフコート、手は袖に通さずいつでも脱げるように肩にかけてあるだけらしい。スカートのかわりに迷彩柄のハーフパンツ……これはなにかの主張があるんだろうか?
あたしは応じることなく竹刀を構える。
ここで……
たしかにあたしは弱いかもしれない。
でもやっと自分の土俵に誘い出せた。
それがとても満足だった。
あたしの表情に気づいたのか王昶が表情を緩め、そしてため息をひとつ。
「……さっきのね? 伏兵で校舎を奪い取っちゃおう大作戦、ね。本当に素晴らしいわ」
王昶が笑いながら語りかける。
隙を作ろうというのだろうか?
あたしは油断なく王昶の様子を伺う。
「もう、ね。この時点で私の負けなわけ。わかる? つまり……」
王昶は言葉を切り、ため息2回目。
「……私は朱績の才能を開花させてしまった。これはカンペキに私の失態、ね。だから……」
あ……
王昶の言葉からあたしに対するちゃん付けが取れた。
あたしは……王昶に認められた。
「……絶対に建業棟に帰さない。才能がまだ蕾であるうちに刈り取らせてもらう」
言葉とともに王昶は少し身をかがめ、コートをあたしに向かって投げつける。
視界を奪うつもりか……!
左上から鋭角なものが振り下ろされるイメージがなんとなく頭の中に浮かぶ。
あたしはそれにとっさに竹刀を合わせた。
棒の重い一撃があたしの手を痺れさせる。
でも……でも受け止められた。

765 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:15
「へぇ……これは本当に開花させちゃったかな。しまったな」
無表情で無感動に呟く王昶。
これがこいつのホンキか!
あたしは素早く様子を見るための距離をとる。
棒の長さは木刀以上……実際にどれくらいだ!?
間合いがとりづらいことこの上ない。
「突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀……神道夢想流杖術、王昶、参る」
じょ、杖術!?
聞いてない!
技を見たこともない……つまり王昶がどんな間合いで仕掛けるのかまったく想像もできない……
「こうしようか。あんたは私の体に竹刀をかすらせれば勝ち。私はあんたの蒼天章をはずせば勝ち……現時点ではそれくらいの実力差がある」
バカにしてっ! ……とはちっとも思わなかった。
ただ相手が塩を送ったことによってチャンスが広がったと思った。
30分前の自分ならきっと王昶のその言葉だけで冷静を失い、ラッキーとは思えなかっただろうな……自分に苦笑。
しかし……
王昶を見る。
まったく『殺気』とか『覇気』とか、そういったものが伝わってこない。
伝わってくるのはただ純粋な戦闘力。
こいつは……
こいつは……なにかをしよう、というんじゃなくただ呼吸をするのと同じ感覚で私をトばそうとしているんだな……
私は心を決める。

決めるのは最初の一発。
後の先で一太刀浴びせる。

竹刀を正眼に構え、目をつぶり、一呼吸。
「天眞正傳香取神道流、朱績、参ります」
「よく吼えた。泣いて謝っても許さないからね」
王昶が無感情に吐き捨てる。
あとはただゆっくりと……
無言で時間が流れていく。
空気が張り詰める。
なにも……

王昶が動いた。
あたしはどう動いたのか覚えていない。

「……ちっ」
王昶は自分のブラウスの袖を見下ろし、不機嫌に眉根を寄せた。
足元には朱績が倒れている。
完全に首筋に一撃を叩き込んだ。
まぁ、しばらくは起き上がることもできないだろう。
夢の中の住人でいるがいいさ、と思う。
だが……
王昶のブラウスの袖は鋭い刃物で切り取ったように裂け、腕の肌が姿を見せていた。

避けたつもりだったけど……予想以上に鋭かった、か。

今、こうして倒れた朱績の蒼天章をはずそうと思えばいつでもやれる……
だけど……
「……ま、約束は約束か。向こうの剣は私をかすった。朱績の勝ちには違いない」
本当は……約束なんぞ反故にしてでもこいつをトばしておいたほうが蒼天会のためになることは間違いないが……
「……ちっ」
倒れた朱績を助けようと、非好意的な視線を向ける全煕に目をやる。
「私のせいで長湖部に名将が誕生してしまった。早く回収して手当てしてやりな……そして呪われろ」
手をひらひらと後ろ手に振って王昶は校舎の中に消えた。

766 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:15
「あれ……あたし……?」
ぼーっとする頭をさすりながら起き上がる。
「痛!」
首筋を押さえる。
なにか……あったっけ?
「朱績ー! 気づいたんだねー!」
全煕があたしの胸に飛び込んでくる。
「う、うわわっ!」
あたしはそれを支えきれず倒れこんだ。当然後頭部を打った。

「〜っ!」
「……いや、悪かったって」
睨みつけるあたしに全煕が謝る。
「とりあえず朱績が……いや、朱績主将が眠っておられる間に夾石棟からは撤退しました」
全煕の言葉……
あぁ、そうか……
あたしは夾石棟で王昶と一騎打ちをしたんだっけ……
あたしが眠っていた、ということはあたしは負けた、ってことか。
……?
蒼天章はあった。
「へ? あたし勝ったの?」
「んー、勝ちかと聞かれれば……んー、勝ち、かなぁ?」
歯切れ悪っ!
「まぁ、いいや。あたしたちが撤退することで王昶が油断するのなら……あいつが油断しきったときにもう一度攻めかかればいい。そのための休憩」
あたしの頭にはどうやって攻めるのか、往路では思いつかなかったような考えが湧き水のように噴出していた。

「お姉ちゃん、よかったの?」
王家の食卓。
王昶と王渾が鍋を囲んでいた。
まだ残暑が激しいのに。
「玄沖、白菜も食べなさい、白菜も」
「いやぁーッ!」
王渾が嫌がる。
「いやじゃない。栄養あるんだから食べるの」
「だめぇーッ!」
王渾が嫌がる。
王昶は有無を言わせず王渾の取り皿を白菜満載にした。
「あぁッ!? お姉ちゃん、ひどい! この暴君ッ!」
「なんとでも言いなさい」
呆れるように王昶は豆腐を口に運んだ。
「で、よかった、ってなにが?」
「んっと、朱績? のこと」
王渾の言葉に王昶の右眉がつりあがった。
「い〜わけないでしょ〜!?」
しかも声が裏返っている。
「ん、ごほん……あれは完全に大失敗。長湖部を潰すのがまた遅れたことは間違いないわね」
王昶は平然を装って言うがこめかみが高速で痙攣している。
「あー……あはは。でもほら……ね? うん、大丈夫だよ」
王渾が言う。なにがだ。
「……」
「え? お姉ちゃん、なに?」
王昶の聞こえないほど小さな言葉に王渾が聞き返す。
「く……」
「く……クエン酸ナトリウム?」
なぜ添加物なのだろう?
「くきぃーッ!」
「わぁ! お姉ちゃん、奇声を上げてもお鍋してるときのちゃぶ台返しはダメーッ! キケンーッ!」
王家の夜はふけていく。

建業棟。
「公緒ちゃん、どうだった?」
承淵の心配そうな表情にあたしは笑って親指を立てて見せた。
「まぁ、結果は残せなかったけど、それ以上に大事なものをゲットしたよ」
あたしの言葉に承淵も笑顔を見せる。
……これから。これからだ!
あたしは北の空を見上げて指鉄砲を撃った。

767 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:16
はいほう、週刊北畠蒼陽です。
あ、いらないとか言わないで! へこむから! へこむから!

というわけで朱績復権の一幕です。
本当はもっと一騎打ち描写をねちっこくやろうと思ったんですけど……よく考えたらそういうときってどう動いたかぜんぜん覚えてないんですよねぇ、自分でも。
客観的に見たらどう動いたのかわかるけど、自分がやると無意識ですからねぇ……
なのでこんな感じになりました。うん、一人称ならこんなもんかと。

>天眞正傳香取神道流
神道夢想流杖術って香取神道流の流れを汲んでるんで本当はあんまり使いたくなかったんですよねぇ。
まぁ、あんまり見たことがないエモノって意味ではいいかな、と思ったんでそのまま書くことになりました。
いや、書き直したんですよ、これでも?(笑

>承淵
えぇ、必要ないのに丁奉がでしゃばって意外とおいしいトコもってってるのは一応、海月様リスペクトってことでひとつ(笑

768 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:27
キタ――――――――――――(゚∀゚)――――――――――――!!!!

てかココまでやられちゃったら私ゃどうすりゃいいんだ!?(;;゚Д゚)
ついでに言えばこれから繁忙期にはいるっぽいんでSSが(ry

てかやはり王昶がカコイイ(;´Д`)
いろいろ頑張っちゃ見たが、今の海月では逆立ちしてもこれ以上の王昶を書けん…。
くそう、こうなったら絵だ!絵で支援するッ!!(;;゚Д゚)ノシ


で、気を取り直して。
繁忙期に入るのはマジなので、大ネタの一発目を落っことしておきます。
明らかに尻切れトンボなので、先の展開は色々想像して見てください(←無責任

769 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:29
降り注ぐ雨の中、向かい合った少女たち。
同じ長湖部の旗を持って対峙しているのだが、それが学園無双の演習などではないことは、双方の先頭に立つ少女ふたりがかもし出す異様な雰囲気が否定している。
目の前に立つかつての友を、何の感慨もない冷たい瞳で見据える、紅髪で長身の少女。
それと対峙する狐色髪の少女の表情は、困惑しきっていて…今にも泣き出しそうにも見えた。
「…どうして」
狐色髪の少女が、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「どうしてなんだよっ、どうしてあんたが長湖部を裏切るんだよ…世議っ!」
「…裏切り、か」
紅髪の少女の吐いた言葉は、何処までも静かに…そして冷たかった。
「孫峻や孫チン、それに学外から紛れて来た雌ギツネに食い散らかされたアレを…あんたはまだ、長湖部だと言うの…?」
「…っ!」
「あたしは認めない。もう、長湖部なんてものは、存在しないんだ」
止まぬ雨が、彼女の涙にも見えた。
「いいかげんに目を覚ませ、承淵! あんたが真に“長湖部”を想うのであれば、もう終わらせてやるべきなんだ!」
「違うっ!」
狐色髪の少女が頭を降る。
「まだ…まだやり直すことだってできるんだよ! 幼節も、敬風も、公緒も…みんなみんな、そのために必死に頑張ってるんだよ!? まだまだこれから、ううん、むしろあたしたちの手で新しい長湖部を…」
「寝惚けるな!」
その大喝に、狐色紙の少女は口を噤まされた。
「あたしは、もううんざりだ…尊敬するひとたちが、大切な友達が、仲間が…あたしは部長の一門に使い潰されるなんて真っ平ご免なんだよっ!」
「…世議」
紅髪の少女が、背に差していた棍を取り、目の前の少女に突きつけた。
「だから、あたしが間違っているってなら…あんたがあたしを止めろ、承淵。あんなクズ共にあたしが粛清される前に、せめてあんたの手であたしを葬って見せろ…!」
その悲愴な宣言と共に、少女は棍を構えた。

決着は一瞬だった。
紅髪の少女の乱調子が、小柄な体を容赦なく打ち据えてくる。
狐色髪の少女は、紙一重でその乱撃をかわしながら、それでも尚、彼女を止めるべくその言葉を模索した。
だが、紅髪の少女の決心が変えられないと悟り…柳生天に構えた大木刀で、少女の棍を一撃で粉砕した。
そして、残りの部分で捨て身の攻撃を仕掛ける紅髪の少女と、狐色髪の少女が放った“月影の太刀”が交錯した。
淀みのない太刀筋は、一瞬で紅髪の少女の鎖骨を砕き、その意識を彼方へ飛ばした。
だが、捨て身に放った棍の一撃は、幼さを残した少女の顔を確かに捉えていた。

少女が昏倒するのにあわせて、その顔から血の飛沫が飛ぶ。
「…どうして…」
呟いた少女の顔から、紅の雫が涙のように滴り落ちて…秋雨に濡れる大地に溶けた。


-長湖に沈む夕陽-


「…夢、か」
まだ薄暗い部屋の中、目を覚ました丁奉はその痕を確かめるかのように、顔に触れた。
彼女の左目の下には、未だ消えることのない傷跡が残っていた。
半年前、晩秋の氷雨の中で戦ったかつての親友・呂拠の放った最後の一撃によってつけられたものだ。
それまで良く笑う素直で真面目な性格だった彼女は、その日以来、めっきり口数も減り、笑うこともなくなっていた。

公式記録によれば、呂拠は孫チンのもとに長湖勢力が力を結集したのを知り、自ら階級章を返上したことになっていた。
それ以後、呂拠の姿を長湖部管轄校区で見たものは誰もいない。

770 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:30
それからは怒涛の如く、長湖部の内情は変化した。
権力を掌握して好き放題の孫チンを粛清すべく動いた部長・孫亮は、クーデターによって部長職を追われた。
しかも直後一週間行方不明になり…その空白の時間に、一体どんな目に遭わされたのか…発見された時には心身ともに無残な状態だった。
その一週間の間に、孫チンは自ら部長職に就くという野心を顕にした。この時、虞レが尤もらしい言葉で彼女の野心に釘を刺し、当初の予定通り孫亮の実姉で、孫権の母方の従姉妹である孫休が部長職に就いた。
孫休は、妹が受けた仕打ちが孫チンに原因があることを九割九分証拠をつかんでおり、孫チンを憎悪していた。
いずれ手をこまねいていれば自分も同じ目に遭うと考えた孫休は、先手を打って孫チンを謀略で陥れ、粛清した。その際、丁奉も彼女に協力し、孫チンに引導を渡すことと相成ったのだ。


学園祭後夜祭が終わっての定例会議の席で、その変事は起こった。
物々しく武装した風紀委員会が部屋を埋め尽くし、数人の少女たちに地面に押さえつけられた少女…孫チンは、何の感慨もなさそうに自分を見下ろす部長・孫休に、狼狽を含んだ怒声を浴びせた。
「い…いったいこれって…説明しなさいよッ!」
遠縁の従姉妹に向けた孫休の瞳は、何の感情もない、冷たい視線でそれを見下ろしていた。
「この長湖部はあなたの遊び場ではないの。そして、子明にあなたがしたことを知らないわけではないわ」
孫チンは孫休の瞳の中に、自分に対する激しい憎悪の炎が燃え盛っていることにようやく気がついた。
「うぐ…な、なら私が権力の座を手放して、一般生徒に戻ればいいんでしょ…? そうすれば、私も責任を…」
その瞬間、孫チンの目の前の床に木刀が突き立てられた。それに驚いた孫チンは短い悲鳴を上げ、恐る恐る上目にその人物を見た。
「…承淵」
「答えろ。だったら貴様は何故、世議や季文、承嗣さんや孫亮部長を一般生徒に戻してやらなかった…?」
その紅玉のような瞳は、気の弱い人間ならそれだけで心臓が止まるのではないかと思われるほどの殺気を、視線に込めていた。
図太い性格の孫チンですら、その殺気に顔色を失った。
「何故…彼女たちを私刑で傷つけたんだ…?」
「し…知らない! あたしは無関係だ! あたしの妹たちが勝手に…」
その瞬間、数枚の写真がその目の前にばら撒かれた。
その正体に気づいた瞬間、孫チンの全身から一気に血の気が引いた。
「…放校処分だけで済ませるつもりは毛頭ない…貴様らにも、同じ目に遭ってもらうぞ…!」

その後、孫チンや彼女の妹たちがどうなったかを知る者はいない。
何らかの処罰を行ったらしい丁奉が、そのあらましを報告しに戻った際、その衣服は髪飾りの鈴に至るまで、真っ赤に染まっていたという。

丁奉は年を経るごとに、様々な功績を認められ、長湖部の武闘派として押しも押されぬ地位にまで登りつめた。
彼女は要所要所で部の危機を救い、そのために汚れ役も厭わなかった。
しかし…あまりに多くの「闇」を見続けた彼女の心は…いくつもの深い傷跡を刻み、表情からもかつての面影を消し去っていた。

771 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:30
ベッドから身を起こし、彼女は衣服を整えた。
ふと、目をやった先には一着の水着が架けてある。
もっともかつての彼女であれば、例え今が真冬であろうとも、すぐに水着に着替えて部屋を飛びだすところであるのだが…今ではそれを着る回数もめっきり減ってしまっていた。
「…今の私に、そんなお遊びをやっている暇などない…な」
そうひとりごちて、彼女は部屋を後にした。
部屋の机の上には、倒されたままの写真立てがひとつ、残されていた。

「こんな朝早くに呼び出したからには、相当の理由があるんだろうな…?」
呉郡寮からそう離れていない河原に、その少女たちはいた。
安物の釣竿で釣りに興じている跳ね髪の少女…現長湖部の副部長である陸凱は、かつての親友が吐きつけた言葉に溜息を吐き、大仰に頭を振って見せた。
「随分な言い草じゃないか。棟が違うから滅多に会えない旧友に対する久闊の言葉もないとは」
「無礼はお互い様だ、敬風。互いに暇もない身、用件なら手短に済ませて欲しい」
その抑揚のない口調と、何の感慨もない無表情。
任務によって離れ離れになった僅かな間に、こうも丁奉が変わってしまったことに少なからずショックを受けたが、それでも表面上はこれまでと同じよう接していた。
「嫌味を言うつもりはないが、暇なしはお前にも原因がある。お前と張布が結託してつまらん事をしてくれて以来、あたしも子賤もロクに寝てない有様だ」
その一言に、丁奉はその鉄面皮の表情を、僅かに曇らせた。
「…あの娘は…孫皓は、部長の器ではなかったか」
「ああ。あんたは見事に張布のアホに丸め込まれたわけだ。結局張布は擁立した相手に粛清されてやがるし、その尻馬に乗っかった濮陽興には同情の言葉もないね」
引き上げた釣竿の先には、餌どころか針すらついていない。その妙な釣竿を仕舞うと、彼女は丁奉と向き合った。
その表情は、険しい。
「勿論あんたにもだ、承淵」
きっぱりと言い放ったその瞳には、強い非難の視線があった。

しばしの沈黙のあと、口火を切ったのは丁奉のほうだった。
「…私に、何をしろ、と?」
陸凱は表情を緩め、普段どおりの皮肉めいた笑みを浮かべる。
「別に責任とって階級章返上しろ、と言うつもりはない。あんたの一友として、汚名返上の機会を与えてやろうかと思ってね」
「…御託は良い。本題は?」
「孫皓を部長職から引き摺り下ろす。そのためにはどう考えても、あんたの存在が鍵になる」
「何…!?」
丁奉は二の句を失った。
目の前の少女が、よもやそんなことを言い出すとは夢想だにしていなかった。
「馬鹿な…敬風、お前何を言っているのか、解っているのか!?」
「何も孫チンみたいに部を引っかき回すつもりはないし、張布の真似する気もない。ヤツを活かそうと必死の努力してきたつもりだが…肝心の本尊が足を引っ張っている有様なのは、お前にも良く解ってるはずだ」
「だが、やろうとしていることに変わりはないだろう! 何で好んで悪名を残すこと…」
目の前の少女は、その言葉を遮り、つかみかかって来た手を払いのける。
「ならば、お前にどんな良策がある?」
「え…」
その一瞬の出来事に戸惑う丁奉を睨む瞳には、涙を浮かべていた。
「孫皓の排斥を抜きにして…長湖部を立て直す方策が、これを見てもお前には思いつくのかよっ!」
怒声と共に、紙の束を叩きつけるように押し付けた。
それは、孫皓が部長に就任して以来の、長湖部の様々な事務文書だった。武闘派を束ねる丁奉には縁の薄いものではあったが、それでも、そこに記録されるデータから、最早長湖部がその組織を維持することが不可能な状態にあることは理解できた。
そして、それが総て孫皓の行動によってなされていることも。
「…もう、どうにもならないところまで来ているんだよ…あたしや子賤、恭武のやれる所はここで限界なんだ…! 孫皓をこのまま野放しにしていたら、長湖部は…あたしたちの代で終わるかもしれないんだよっ…」
その瞳から流れ落ちる涙を、言葉の端から漏れる嗚咽を隠すように、陸凱は丁奉の体にしがみついた。
「…伯姉達との約束を、破ることに…だから、今しか…」
「聞かせて…あたしは…何をすればいいのか」
そっと肩を抱かれ、陸凱は丁奉の顔を見上げた。
その瞳には、既に失われたと思われていた…かつての親友の面影を取り戻していた。

772 名前:北畠蒼陽:2005/07/24(日) 14:01
>長湖に沈む夕陽
血がー! 血がー!
超好みの展開です(難儀な性格
ホンネをいえば丁奉が陸凱の言葉を受け入れるまでもっとひねてくれれば……(友情がこじれる雰囲気ダイスキ

とりあえずお仕事がんばってください!
そして続き期待してます(笑

773 名前:雑号将軍:2005/07/24(日) 21:39
>北畠蒼陽様
週刊お疲れ様です!もうこれはミスターサタデーオブ学三(語呂悪い…)とお呼びする以外にありませんな!…って呼びませんよ。語呂悪いし、嫌でしょうし。
王昶って、杖術使うんですね。一番驚いたのは、朱績が香取神道流を使ったことですけど…。となるとやはり朱然もよほどの使い手だったのでしょうか?

>海月 亮様
後期版丁奉お疲れ様です!いや〜ほんとに変わっちゃいましたね。丁奉。なんかこう…寂しいですね。でも、人は変わっていくものですからこれでいいのかもしれませんね。とかちょっとかっこつけてみたり。
いつも海月様の作品読んでて思うんですけど、陸凱いいキャラしてますよね〜。きっとあの世で泣いて喜んでいるはずです!

僕は・・・・・・・・・・・・すみません、本当にごめんなさい。まだいいのが思い浮かびません。曹操ネタがまとまりそうでまとまりません。なので…しばらくかかりそうです…。

774 名前:海月 亮:2005/07/24(日) 22:50
脳は煮込まず半生で…というのは荀揩ナも曹操でもない海月には無理_| ̄|○
ナウ●カ風に言えば「腐ってやがる…早すぎたんだ!」ってトコですね。

そうですねぇ…むしろ呂拠のあたりから練り直してもいいかもしれませんね。
性格的に嫌われる要素を少なくしてしまったもんだから、正史の「おごり高ぶるように…」とのつじつま合わせしようと必死でして…。
やっぱり時間と余裕をたっぷり持って書きたいなぁ…

>ミスターサタデーオブ学三
略してMSG。なんだか少しカコイイ…

>陸凱
(;´▽`A゙ 三 ゙A´▽`;)゙
そう言っていただければ、私としても考えたかいがあるというものです(^^)
自サイトでも触れてますけど、もうキャラデザの時点でかなり趣味に走ってますからねぇ(オイ
あと「良いキャラ」といえばやっぱり王昶と張嶷(ry

775 名前:北畠蒼陽:2005/07/24(日) 23:40
ども〜、MSGです(ぇー
いや、ミスターってほどの仕事はしてませんし!(笑

>杖術
まぁ、イメージ的なもんですけどねー。
剣って感じでもなかったし、薙刀ってのも違うような気がしたんでこうなりました。
実際に正史に武芸に優れてた、とか書かれてるわけでもないのにねっ!
ちなみに朱然は対魏戦線の重鎮ですぞ?
呂蒙のあとをついで江陵入りしたほどの実力の持ち主!
実績と実力を兼ね備えた名将です! 背は低かったみたいだけどねっ!

>いいキャラ
王昶をいいキャラといっていただけるのはなんだか照れくさかったり(笑
ちなみに裏設定ですが……

南方の重鎮、満寵とお姉さま、王凌がもともと仲が悪かったことから王昶もさんざん満寵をバカにしたような言動を取ったため、拳で躾けられる。
それから多少は生意気も治った。

……ってのもあったり。
多分書かないけど(笑

776 名前:雑号将軍:2005/07/25(月) 20:45
>むしろ呂拠のあたりから練り直してもいいかもしれませんね
いやいや!そんな滅相もない。あれで十分だと思いますよ。丁奉はどこまでも丁奉でしょうし!あんまり奢りたかぶらせると、別の人になっちゃいそうですし。僕はあれで十分だと思いますよ。もうホントに!

>朱然とか王昶とか
朱然…そうですよね。呂蒙の跡を継いだんですもんね。当然ですよね。なに言ってんだか。僕は…。って背、低かったんですか?曹操と同じくらいに?
王昶も杜預と同じタイプの武将なんでしょうか?いや杜預は言い過ぎか…。

777 名前:北畠蒼陽:2005/07/25(月) 21:50
>杜預と王昶
んー、杜預ほど文系文系してないかと。
あそこまで運動音痴なら正史にもなにか書かれてるだろうし。
それがなにも書かれてないということは『個人的な戦闘能力』は並だったのではないかな、と。
王昶は……誰と同じタイプなんだろう?
トップに立って指揮できる文官、なんですよね。
鍾ヨウ? タイプはね。

>奢りたかぶらせる
それがまたいいのです(邪笑

>朱然
彼は169cmに満たなかったーって記述がありますね。

778 名前:雑号将軍:2005/07/25(月) 22:10
>みんなまとめて
なるほど、王昶は馬にも乗れたし、剣も使えたし、弓も引けたという、基本的な戦闘能力は持っていたということですな!
鍾ヨウってかなりすごい人なんですか?正史読んでないのでじつは鍾ヨウを掴みきれてなくて…。もしかしたらこれは雑談スレの方がいい質問だったのかもっ!?
169pって、なるほど、たしかに高くない…。曹操よりは高かったような気がしますけど。

779 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 20:06
「うあぁぁぁぁぁん! お姉ちゃん助けてー!」
泣き声とともに王渾が王昶の執務室に入ってくる。
王昶はいなかった。
かわりに王基がいた。
王基が少しびっくりしたような顔で扇子を手に持ってソファに座って涼んでいた。
日の丸に『Japan!』と金で書かれた扇子。
「ん、と……伯輿ちゃん、その扇子、すごいセンス悪いよ」
「……これ、あんたの姉さんの扇子だよ」
王渾はホンキで嫌そうな顔をした。
「うわぁぁぁぁ……」
顔だけじゃなくて声も出た。


統率指揮概論T


部屋に入ってきたときに比べ幾分落ち着いた王渾に王基が尋ねる。
「……で、文舒なら今、買い物にいってるけどなにか用?」
「うん、あのね、私、墨テキ教授の統率指揮概論Tをとってるの」
王基は頭に墨テキの顔を思い浮かべた。
「……あのひと、優しいけど怖いからね。それで?」
「うんー……で、レポートを宿題に出されたの。学園課外活動における統率法において注意しなければならない点をできる限り詳しく述べよ、って」
……なるほど。それで姉の話を聞きにきたわけか。
確かに王昶であれば話を聞いて、まとめるだけで十分なレポートになるだろう。
「……感じないこと」
「お姉ちゃんに話し聞こうと思ったのにいないんじゃどうしよ、って……え? 伯輿ちゃん、なに?」
聞き返す王渾に王基は苦笑を浮かべる。
「……もし私でよければ話をするくらいかまわないけど?」
「わぁー、伯輿ちゃん、ありがと!」
王渾はにぱぁと笑った。

「……有名な映画でね、カンフースターがこんなセリフを言ってるの。『考えるな。感じろ』って」
「あぁー! ブルーさん!」
……なんでブルーで切るか。
多少ツッコみたいものを残しながら王基は話を続ける。
「……人を指揮するってのはまったく逆の作業。『感じちゃダメ。考えなさい』ってとこかな」
「ふむ」
小首を傾げて考える。
「どういうこと?」
わかってなかったようだ。
「……敵の動き、味方の動き、双方の人数、天候、地形、時間、時期、温度、湿度……人によっては成績とか教授との相性とかを考えなきゃいけないこともあるかもね……つまりそういった要因をすべて考えることによって判断を下すこと」
「考える……?」
王渾は『う〜むむむぅ?』と頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「んでも一瞬の判断ってないの? 『こう感じたからこうだ!』っていうのはよく話とかであると思うんだけど……」
「……そういうのは3つのパターンにわかれるわね。まず1つ目は計算が異様に早い人」
……『名将』の部類に入るわね、と王基は付け加える。
「……これがすごい、ってのはまぁ、言わなくてもわかると思う。瞬時に、しかも総合的にすべての要因を計算しつくした上で判断し、決断する、ってのは誰にでもできるもんじゃないわ」
「なるほど」
頷く王渾。

780 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 20:06
「……2つ目は計算している自覚のない人」
……意味はちょっと違うけど『天然』な人よね、と付け加える。
「……ほら、なんとなく雨が降りそうだ、とかあるでしょ? あれって天気予報を見なくても空を見ればなんとなくわかる。つまり空模様を見て無意識で『計算』してるのね。ただ自覚して計算してる人間に比べると判断に『抜け』が多いと思うわ」
「ふむふむ」
メモを取る王渾。
「……まぁ、どっちにしろ計算ミスってのはありえるわ。または計算に入れるべき要因を考えていない、というのも致命的なミスよね。それが積み重なったものが敗北だと私は思う」
……計算がいくら速くても間違えてたら仕方ない、ってこと。
呟きながら王基はペットボトルの紅茶を飲んだ。
「ん〜と……伯輿ちゃん、3つ目を忘れてるよ?」
尋ねる王渾に王基は肩をすくめた。
「……3つ目は参考にもならないから言わなかっただけ。つまり……『天才』よ」
紅茶を口に含みながら話を続ける。
「……迷惑なことに何百年に1人くらいそういう人間が出てくるらしいわね。幸いにして私は出会ったことないけど。そういう人たちに常識は通用しない。計算してるかどうかすらも不明……ただ、常に、正しい。それだけが真実」
……歴史上で『軍事を革新した』とか言われるのはそういう人なのかもね。
面白くなさそうな声で呟く。
「……ま、そういう人は人間と思わないほうがいいわね。『天才』は異種族と思ってもらってかまわない」
「敵に『天才』がいたらどうするの?」
ペットボトルに口をつけながら目だけで王基は王渾を見る。
「……諦めるわ」
あまりにも早い王基の回答に王渾は苦笑を浮かべる。
「……でも幸いなことに『天才』なんて何百年に1人、ってシロモノよ。まぁ、私がここにいる間に出会うことはないでしょうね」
……生きてる間にすら出会えるかどうか、と苦笑交じりに呟く。
「……そしてただ計算が速いだけ、とかの人間ならいくらでも対処できるわ」
「ほえ〜」
王渾が感心したような声を漏らした。
「……とりあえず3つ目は考えなくていいわ。とりあえず言えることは計算ミスをしないこと」
「けいさんみす」
ひらがな発音で王渾が繰り返す。
「……私は速攻にこだわりを持ってるけどそれは計算すら早く行う、ってことじゃない。そういうことを考えるのはいくら時間がかかってもいいと思う。答えが出てから迅速に動けばいいだけ」
……まぁ、何日も考え続けて手遅れ、ってのは笑える話じゃないけどね、と苦笑。
「んっと……つまり自分が考える。相手がその対処法を考えてきたら、さらに自分はその対処法を考える。考え尽くしたほうが勝つ、って理解でいいのかな?」
「……もちろん答えを出すまでの時間が短ければ短いほどいいでしょうね。そして相手がミスをしたらすぐにそれにつけこまなきゃいけない」
忙しいんだー、とヒトゴトのように驚く王渾。
「じゃあ、じゃあ。伯輿ちゃんにとって絶対にやっちゃいけないこと、っていうのは?」
「……感じること。感情に身を任せて突っ走っても、少なくともこの学園都市の課外活動において利点はないわね。『猛将』っていわれてる人たちは感情の生き物だと思われがちだけどそういう人たちもほとんどなんらかの計算の上で行動してるわ」
なるほどー、という王渾の声。
しばらく王渾がメモをまとめるシャーペンの硬質な音が響く。
「うん、いいレポートがかけそう! 伯輿ちゃん、ありがとね」
「……どういたしまして」
『伯輿ちゃん』は苦笑を浮かべながら飲みかけのペットボトルのキャップを閉めた。

781 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 20:07
ってわけで軍事論です。
『感じるな。考えろ』というのは私が昔、TRPGでやったキャラのセリフだったりするわけですが実際に北畠の軍事理論そのままだったりします。

まぁ、ちょっと毛色の違うSSになりましたとさ。

今回は王昶いないんで服の描写はないですがかわりに扇子を書いときました。センスの悪い扇子っていうのはダジャレじゃないよ。ホントダヨ?

782 名前:雑号将軍:2005/07/30(土) 23:04
北畠蒼陽様…じゃなかったMSG様!「統率指揮概論」お疲れ様です!いつも思うんですが、王基や王昶、王渾が登場するSSって、学三だけですよね。
なにはともあれ「統率指揮概論」…なるほど参考になります。感じるんじゃなくて、計算するんですね。僕はどうも計算遅いですけど…。
天才…ああ、王基は曹操の戦い見たことないんですよね?
僕も『納涼中華市祭』のSS早く仕上げないとなあ。先鋒という大役を任されちゃいましたから…。

783 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 23:14
>雑号将軍様
計算だけが人生じゃない、と自分に言い聞かせて生きている北畠です。

で、ですね。実は私の中では曹操は天才に至ってないんですよ。
曹操は破格の才能を持ってるけど天才ではない、ってのが私の評価です。

なんていうか天才論を組み立てる中で能條純一氏に出会ってしまったのが運のつきと言うかなんと言うか……
なんというか『すべてわかってないと』天才とは認められなくなってしまったのです、私(苦笑

784 名前:雑号将軍:2005/07/31(日) 22:12
>曹操云々
なるほど〜曹操は天才ではないんですか…。言われてみるとそんな気がしないでもないですが、寂しいと言えば寂しいです。
僕はどう考えても蜀大好き人間なんですけど、曹操が好きだったり、趙雲があんまり好きでなかったり(ファンの方土下座するんでお許しを)するんですよね。
まあ、雑食性なんでしょうね。僕。

785 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:26
「……これ、は?」
司馬昭からのメールに目を通した王基は思わず眉をひそめた。
「……多分……いえ、でも……」
……多分間違いないとは思うが……こういうときは親友の意見も必要か……
王基は頭の中の考えをまとめるようにそっとノートパソコンを閉じた。


冬空の鼓動


襄陽棟長であり車騎主将、胡遵の妹である胡烈からひとつの連絡が生徒会の中央執行部にもたらされた。
長湖部、摎Rが蒼天会に帰順するという……
それと同時に胡烈は期日を約束し、摎Rと合流し長湖部を混乱に陥れる案を提出した。
これを受け、連合生徒会会長、司馬昭は征南主将、王基に胡烈のフォローを命じる。

……だが……
王基はメールの文面を思い出す。
摎Rとの合流場所として指定された地点は……
……あまりにも長湖部領域の中に入り込みすぎる。
王基は摎Rという人間を知らなかったが、考えれば考えるほどこの帰順は策略としか思えなかった。
……確かに本当に摎Rの帰順があるのであればこれはチャンスであるといえる。
……だけど。
リスクがあまりにも大きすぎる。
……それに、ねぇ。
初期長湖部から夷陵回廊の決戦にいたるまで常に最前線に立ち続けた最古参主将、韓当の……その妹、韓綜が蒼天会に帰順してなお長湖部を瓦解させるには至らなかったのだ。
もはや長湖部は1人の寝返りで崩れるほどぬるい組織ではない。
……リスクのわりにリターンが少なすぎ、ね。
ハイリスクローリターンなんて笑えやしない。
……さて……
……この件、文舒ならどう結論付けるかな。
少しだけ口の端から漏れる笑いをかみ殺し……
王基は学園都市運営会議議長の執務室の前に立つ。
王昶は三委員長の一角にまで上り詰めながら荊・予校区兵団長を同時に勤め、最前線である荊州校区から中央執行部としての任を果たしていた。
「……?」
ノックをしようとして違和感。
王基は眉をひそめる。
部屋の中の人間……まぁ、王昶なのだろうが……せわしなく動いている雰囲気を感じ取ったのでる。
……忙しいのならあとにしようか。
そうは思うものの本当に忙しいのかどうかもわからない。
……とりあえず様子だけ見てみよう、かな。
王基は一人頷き、ノックをする。
「あいよー。あいてるよー」
あまりにも無防備なその物言いに王基は苦笑を浮かべつつドアを開け……

面食らった。

786 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:26
「おぉ、伯輿か。ちょうどよかった。話したいことがあってね」
「……ん。それはいいんだけど……これ、は?」
あっけらかんとした王昶の態度に王基は今、見ているものが信じられない、というように瞬きを繰り返した。
王昶は珍しく制服を着ている。
いや、ただの制服ではない。
肩章、ネクタイ、スカート……
式典のときのみに着用される幹部用制服である。
王昶であればこの制服どころか講義時にさえ通常の制服ですらまともに着ることは少ないというのに……
しかもそれだけでなく部屋は……そう……

……その部屋はまるで引越し準備だった。

「……ん、んー」
ようやく頭が推測を導き出す。
さすがに地方にあって中央執行部の仕事をするのは無理がありすぎたか……
恐らくは司馬昭に召還されたのだろう。
であればこの引越しのような荷物も納得できる。
……そうなるとこの荊州校区における後任は誰になるんだ?

考えてみればみるほどありがちな推測に聞こえた。
だからやっと王基は余裕を取り戻す。
王昶はそんな王基に背を向け『あれー? どこにしまったかなぁ?』などと言っている。
……なるほどそれで『話したいことがあってね』か。
……ついでになにかを渡したいのだな……
「あー、これこれ」
王昶が王基に封筒を放り投げる。
……封筒、ね。
……後任が誰かは知らないけど私にお守りをしろ、ってことか。
……恐らく封筒の中身はなにか秘密の弱みメモとかそんな感じだろう。まったく王昶らしい。
そうか、制服を着ているのも引継ぎのためか。
苦笑を浮かべながら封筒を受け取り……

違和感。

硬質の小さなものが封筒の中に入っている感触。
……手紙、ではない?
再び王基の頭の中をとらえどころのない靄のようなものが湧き出す。
……なに?
……なにを話そうとしているの、文舒?

封筒の中から王基の手のひらに蒼天章が転がりこんだ。

「……」
「あー、びっくりした? いや、まぁ、びっくりさせようとおもったんだけどさ」
王昶がけらけらと笑いながら3段に積み上がったダンボール箱の最上段にジャンプし、腰掛ける。
「いや、いろいろ考えたんよ」
しみじみと王昶が呟く。
「ほら、この前、伯輿と同じ大学いくんだー、っていったじゃん?」
……確かに言っていた。
王基は黙って頷く。
「あれねー。私、推薦入試のとき、受験会場にいけなかったんだわ」
たはは、と苦笑を浮かべる。
「いや、三委員長になんかなるもんじゃないね。受験の日の昼ごろまで公務終わらなくてさ」
結局、受験いくの諦めて寝ちゃったよ、と王昶はいつもの顔で笑う。

787 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:27
「もう私らも卒業近いしね。ま、聞いた話だけどあの仲恭ですらどっかの大学受かったみたいなんで焦ってるわけよ、こう見えても」
あのバ毋丘倹がねぇ〜、などと呟く顔からは焦りはまったく伝わってこない。
でも、確かに……忙しすぎる、というのは事実なのだろう……
「ま、伯輿とおんなじトコいこうと思ったらちょっと一般入試に向けて勉強に励もうかな、と思いましてね」
……文舒だったら……
……文舒だったら合格通知を簡単に奪い取ることだろう。
……だが、それは……時間があれば、ということだ。
「だから引退、さ」
……なぜ。
……私と同じ場所に来るために引退する、と言ってくれるんだ。
……なぜ止められる。
「やぁ、よかったよ。伯輿に一番最初に報告できてさ」
……一番、だったのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ心情を聞けた、それだけでいいような気がした。
「で、伯輿は? 用事なしでここにきたわけじゃないっしょ? これから中央執行部に引退の届出しなきゃいけないからそれほど時間は取れないけど、ね」
『ん? 言ってみ?』という顔で王昶が言葉を促す。
……言えるわけがないだろう。
これから引退しようという人間に……しかもその理由が自分と同じ場所に来てくれるため、という人間になぜこれ以上の心労を煩わせなければならないのか。
きっと相談すれば王昶であれば適切な答えを出すことだろう。
そして……
そしてきっと……すべてに決着がつくまで引退を先延ばしにすることだろう。
……それは。
……本意ではない。
「……いや、なんかごそごそうるさかったからね。なるほど……引越し、っていうか引退準備だったのね」
肩をすくめる。
……内心の想いがばれていませんように。
「ってわけで、あとを全部任せちゃって悪いけどさ。頼むわ」
……そんな満面の笑顔で頼まれたら断れないだろう。

王基は廊下を歩く。
……結局……この件は私が始末をつけなきゃいけない、ということか。
廊下に冷たい風が吹き込み、王基は身を縮こまらせた。
どこかの窓が開いているのだろう。

……これからは1人でこんな冷たい風を浴びていかなきゃ。

王基は窓の外の風に揺れる木に指を差し伸べ……
そしてもう振り返らず歩き去った。

788 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:27
三公にまで上り詰め位人臣を極め、シアワセに引退した王昶に全部押し付けられた不幸風味な王基話です。
ちなみに王基もこのあとすぐに引退してますけどね!

あ、ちなみに史実での王昶死亡のタイミングは摎R帰順事件の2年前なんでこういう話が史実であったか、っつったらありえないことですがね。
まぁ、王基が仕事押し付けられたのは間違いないと思われます。

789 名前:雑号将軍:2005/08/07(日) 14:30
やばいやばい。前夜祭用のSS書いていたら気づきませんでした・・・・・・。え、本祭用?あはははははあ…。

おお!ついに王昶が引退!?ってことはもう北畠蒼陽様のSSには王昶は出てこられないんですか?
残念だなあ。まあでもまだ王基とか王渾とかがいますもんね。う〜ん、早く王渾が王濬に先こされるところみたいです。所詮、僕の希望なんで、あっさりスルーされて構いませんので。これこそ、ハイリスクローリターンですから。

王基もすぐ引退しちゃったってことはさらに仕事押しつけられちゃった可哀想な方がいらっしゃるんですね。

790 名前:北畠蒼陽:2005/08/07(日) 19:12
>引退王昶さん
あー、いや、なんつ〜か、私の作品時系列を順番に書いてるわけじゃないので、ごめんなさい。王昶、まだ出てきます(苦笑
今、学園史デビューの話書いてるし(苦笑
ちなみに王昶王基のあとくらいにくるのが羊コ、にらいになるのかな? かな?

>王渾王濬
ん〜、正直、あんまり書こうという気はおきてなかったんですが、今まで……
雑号将軍様の文章を読んでなんかインスピレーションというか……
セリフが1つ浮かびました。
「待ちなさいよ、王戎。私があの蜀の山猿に遅れを取るというの!?」
セリフだけセリフだけ。
でもなんか熱そう。書いてみたくなりましたね。

問題は私、晋書読んだことがないから資料とかまったくないということですがっ!

791 名前:雑号将軍:2005/08/07(日) 21:21
>王昶さん引退疑惑
おお!まだ出るんですね!いやあ、もう北畠蒼陽様王昶がみれなくなるではないかと危惧しておりましたので安心安心。なにせ北畠蒼陽様の作品を読んで以来、王昶が三國志\でフル稼働していますので。

>王渾王濬
いえいえ、まったく僕の言葉なんて気にしないで下さい。ふと読んでみたくなっただけなので。
資料ないと辛いですよね…。それがしも正史がないのでつらいのなんのって、今は三國志]武将ファイルで頑張ってます…。


792 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:09
「湿っぽいとこだねぇ! 早く中央に戻りたいよ!」
「……」
電車を降りて大声で第一声を放つ少女とそれに影のように従う少女。
『湿っぽいところ』よばわりされた荊州校区の皆さんは、剣呑な視線を少女たちに向けながらも特になにも言う様子はない。
少女たちにはまさにエリートのみが放つ風格、とでもいうものが備わっていた。
それに気おされた、というのはあまりにも言いすぎだろうが係わり合いになることを避けた、というのはあながち間違った見方ではない。
王昶と王基……
学園1年生。
このとき2人は自信に満ち溢れていた。


愚者の嵐


このとき荊州校区は2人の大物とも呼べる人物の権力争いの最中であった。
かたや『曹操とともに戦った世代』であり対長湖部戦線の重鎮、満寵。
かたや董卓トばしの名委員長であるあの王允の従妹であり、自身も類まれな政治センスに恵まれた治世家、王凌。

この2人はもともと仲が悪く、『張遼、李典に続いて満寵、王凌というのはきっと中央執行部は対長湖部戦線メンバーは仲が悪くないと勤まらないと考えているか、そういう伝統を作ることが好ましいと考えているに違いない』と陰口を叩かれるほどであった。
王凌はここにきて目の上のたんこぶともいえる満寵を排除するために2人の子飼いの1年生を招いた。
王昶と王基である。

「さて、キミたちは私の指揮下にはいることになるわけだが、なにか質問は?」
満寵は目の前の2人に辟易しながら、それでも事務的な口調を崩さずに言った。
この2人が王凌の腹心ということは知っていたし、王凌になにか……まぁ、自分を排除することだろうが……言い含められていることも簡単に予想できることであった。
1人は静かに視線をこの部屋中にさまよわせて……いや、さまよわせているのではない。この部屋の防衛力を測っている。あまりにも冷静だ。
1人は制服すら身に着けてはいない。黒い着物、その背には白く『楽園』という文字……あまりセンスがいいとは言えないな。それと緋色の袴に身を固め後ろ髪を真っ赤なリボンでまとめている。挑発するような笑みを口の端に浮かべ、満寵を睨みつけていた。その自信は悪くない。
生意気そうな笑みを浮かべる王昶が口を開く。
「はーい、質問でーす」
バカにしたようにひらひらと手を挙げる。
「センパイってホントに私らを使いこなせるくらいスゴ腕なんスかー?」
けけけ、と笑う。

793 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:09
「貴様ッ……!」
激昂した妹……満偉が殴りかかろうとするのを右の手をわずかに上げただけで静止し、満寵はゆっくり口を開く。
「そうね。私が凄腕かどうかはじっくりと見定めればいいわ」
満寵の言葉に王昶は露骨に顔を歪め、舌打ちする。
「わかんねーヒトっスねー。アンタじゃ役不足だってことを遠回しに言っただけなんスけど!」
王昶の後ろでは王基が冷静に満寵の一挙手一投足を見定めている。
その王昶も傍若無人な言葉使いに見えるが目の奥には冷静の影が見え隠れしている。
なるほど……なかなかいいコンビだ。
確かに王凌が懐刀として信頼するだけのことはある。
だが……
「ふぅ」
満寵はため息をつき椅子から立ち上がる。
「表へ出な」
……まだ不足だ。

対峙する1人と2人。
南方戦線最高峰の女傑と2人の1年生。
校庭へ出た3人を校舎の中から興味深く皆が眺めていた。

もちろんこの南方の重鎮が負ける、などと考えている人間などいはしない。
生意気な1年生が何秒持つか、だけをただ興味深く眺めていた。

「あの目、気に入らなーい」
校舎のほうを睨みつけ王昶が呟く。
今、自分がこの校舎の英雄をどれほど挑発したか、は自覚していたし、それによってここの校舎の学生たちがどれほどの敵意を抱いたのかはなんとなくわかっているつもりだ。
だが敵意だけを自分にぶつけてあとは満寵に任せようとする、その根性が気に入らない。
「……」
だがその王昶に王基はちら、とも視線を向けることなく注意を喚起することもない。
『油断するな』とか『集中しろ』とかいう言葉は必要ない。悪態ついてるあの状況が王昶の集中、ってことか。
「センパイ、早く終わらせましょう。気分が悪い」
吐き捨てるようにいう王昶。
それをことさらに無視するように満寵は王昶の傍らに立つ王基に声をかける。
「そっちの……王基だっけ? あんたはしゃべんなくていいの?」
「……正直、あなたにかかっていくのは時期尚早だと思う」
ほう、と思う。
「……今、あなたをぶちのめしてもあなたに政治的に最大限のダメージを与えられるわけじゃない。本当はもう少し工作したかった」
ただの腰巾着かと思ったら……言ってくれるじゃないか。

794 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:10
ふ、と笑みを浮かべる自分に満寵は気づいた。
「いいね。いいよ、お前ら……若いうちは多少の無謀は許される」
久しぶりの……
「それを躾けるのは……年長者の『権利』だ」

……本気だ!

中天に月が昇っていた。
「……文舒……生き返った?」
「んあー」
校庭に2人の影が大の字で転がっていた。
ケガをしていない場所のほうが少なく、立つ気力すら残っていない。
2人はずっと……
……悪夢のような2分を経て、気絶していた。
「……あれが……曹操先輩と一緒に戦った世代、なのね」
「リビングレジェンド、ってやつね……いや、あれは無理だわ」
夜闇の中に苦笑の雰囲気。
「どうする?」
「……どうする、って?」
聞き返す王基に王昶は聞かなくてもわかるくせに、と唇を尖らせる。
「私は……あの満寵『先輩』からその経験も知識も実力も……すべて吸い取ってやる。それまで中央には帰らない」
「……そうね。私も悔しいもの」
満身創痍。だが心はなぜか晴れ晴れとしていた。
「んじゃがんばろっかね」
「……そうね」
月が2人を照らす。

……
……
……
「って、のはまぁ、昔の話だがねぇ」
「うっわ。お姉ちゃん、無謀さんだったんだ」
王家の食卓。なぜか王基もいる。
まぁ、なぜか、というか王昶の執務室での昼食なのだが。
ちなみに今日は弁当である。
手作りではない。コンビニ弁当。
女子高生3人がコンビニ弁当、というのはビジュアル的にいかがなものか。
「……あれが……まぁ、ターニングポイントだったことは確かね。今でも満寵先輩は怖いわ、私」
「あの人にゃあ逆らえない」
しみじみと呟く2人に王渾の口元が引きつる。
王渾にとってはこの2人こそがリビングレジェンドである。それが怖いという満寵先輩というのはどんなのだ、と。
……ひょい。
「って……伯輿ーッ! 私のだしまきタマゴ、略奪してんじゃねーッ!」
「……ほほう、タマゴに名前が書いてあったのかな?」
平然とタマゴを食べる王基。
「てめぇ、表ぇ出ろーッ!」
王家の食卓は今日もにぎやかだった。

「騒がしいね、まったく……オシオキ、かな」
ある卒業生が大学の休暇を利用して懐かしい校舎に足を踏み入れていた。
「まぁ、それも『権利』だね」
にやにやと笑いながら彼女は懐かしい執務室のドアに手をかけ……

795 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:11
王昶&王基のボコされ話、書かないって言ったのに……

はいほう、嘘つき北畠です。狼少年でも可。
「オオカミがきてたぞー!(過去形)」
はい、勢いだけであとがき書いてます!

しかしこの文章のまとまってなさはなんだ!?
小学校の作文でも余裕でこれ以上の文章書かれてそうでかなりしょんぼりです。スランプかなぁ……
なんか書くだけ書いたけどそれだけ……って感じですね。ほんと申し訳ない。
もっと文章上手くなりたーい。
あと20億円くらいほしーい(関係ない)

796 名前:雑号将軍:2005/08/13(土) 22:29
あわわ!北畠蒼陽様、これで今週四本目ですよね?すごいです…。どうやったらここまでたくさんのネタが思い浮かぶのでしょうか?ほんともう一日かけてお聞きしたいくらいです。
これがこの前言われた、王昶の学園史デビューの話ですな!
スランプいや、大丈夫ですよ!(僕の保証があてにはなるかは不明ですが…。)
僕は満寵が格好良く感じました。曹操時代のメンバーは根っからの戦争屋ですからね。強いですよね。

797 名前:海月 亮:2005/08/17(水) 00:39
そして国家予算くらいの金が欲しいけど、使い道の思い浮かばない海月が来ましたよ(え?

満寵…いや、王昶もだけど…このあたりの連中の描写は流石の一言に尽きます。
つかどーしてそんな格好良く書けるのやら。私めもあやかりたいものです^^A


そしてキャラの年齢設定とかわりとどうでもいいことが気になる海月…

798 名前:北畠蒼陽:2005/08/17(水) 18:43
はいほう!
格好よくかけないよ! かけないよ! 書きたいよ!
いや、ほんと精進が必要です^^;

>年齢設定
女の子に年齢を聞いちゃいけません! うそです、ごめんなさい!
満寵/曹丕・陳羣・鍾ヨウ・趙雲と同世代
王凌/曹叡・曹真・司馬懿・孫権・陸遜と同世代
王昶/劉禅・姜維・昜・司馬師・司馬昭と同世代
王渾/司馬炎・孫晧と同世代
……ってつもりで書いてます。
海月様キャラで言えば王昶&王基世代は丁奉たちの1個上ってつもりで書いてます。
王渾は丁奉たちの1個下ですね。
満寵>王昶>羊コというのが私の中では対長湖部戦線黄金リレーですだよ。
王凌は……ん〜、どうなんだか、あのひとは……

799 名前:北畠蒼陽:2005/08/20(土) 16:01
冷気が立ち込めている。
上弦の月が天に輝き、その光はやけに眩しい。
冬の長湖湖畔。
水面は月の光を照り返し、幻想的ですらあった。
そこに1人の少女が立っている。
この寒空の中、稽古着と稽古袴。
八尺槍……長さ3.6mもの稽古槍を手に幾度も幾度もゆっくりと構えを取る。
激しい動きなどなにもなく、ただ静寂に包まれた基本の動作。
その張り詰めた空気が……わずかに揺らいだ。
「伯輿、待ったか?」
言葉とともに缶コーヒーが投げつけられる。
「……ううん、そう待ってもいないわ」
伯輿……王基は構えをとき、投げられた缶コーヒーを受け取った。
缶の熱気が冷えた指にしみわたる。
「さみぃなぁ、しっかし」
あとから来た少女……令孤愚が肩をすくめる。
湖畔に2人の少女が対峙する。


冷気の天秤


「……悪かったわね、こんなときに呼び出して」
王基はゆっくりと缶コーヒーのプルトップを開け、口に含み、あまりの甘さに顔をしかめた。
「いやいや、王基主将の相談とあればいつでも駆けつけるさ」
ひょい、と肩をすくめる令孤愚。
そのおどけた仕草に王基は苦笑を浮かべる。
「で、実際のとこ、相談ってなんなの? まぁ、私だけを呼んだってことで文舒には内緒のことなんだろ?」
「……そう。そうね……文舒のことだから気づいちゃうかもしれないけど……基本的には内緒にしておきたいわね」
わかりにくい王基の言葉に苦笑を浮かべる令孤愚。
「まぁ、気づかれても仕方ないけどあまり気づかれたくない、ってことか……ってことは基本はオフレコ、だろ?」
頷く王基。
「オッケーオッケー。ま、なんで私なのかはわからんがな」
王基に背を向け、長湖に向かって石を投げる。
「私が王基と会うことは彦雲姉にすら言ってないわ。ほんっとにオフレコの相談乗っちゃうぞ」
彦雲姉……王凌の名前を出して確約する令孤愚。
風のない長湖に石が飛び込んだ波紋が広がっていく。
王基も令孤愚もただ黙ってその光景を見ていた。
「いいにくそうだなぁ」
「……まぁ、ね。でも言わなきゃいけないことでもあるからね」
ため息をつき王基は令孤愚の背中に語りかける。
「……まず公治。基本的に私はあなたのことを高く買ってる」
「おやおや、そりゃありがたいねぇ」
石が投げ込まれる。波紋。
「……王凌さんのブレーンとして、その能力は過はあっても不足はまったくない。私がもし委員長であればあなたを側近として指名したいくらい」
「えっと……そんな手放しで褒められると恥ずかしいぞ」
照れたように頭をかく令孤愚。
そして王基は決定的な言葉を投げつけた。

「……曹彪さんはなんて言ってる?」

800 名前:北畠蒼陽:2005/08/20(土) 16:01
びくり、と令孤愚の背が震える。
「なんのことかな?」
「……無理に答えなくていいわ。質問の形式をとってはいるけど実際はただの確認だから」
王基の言葉に黙り込む令孤愚。
「……文舒も気づいてるけどね。あの子はクーデター……というか乱というものを許せない性質だからね。あの子、あれで意外と生真面目なとこあるから……だから今回、王凌さんとクーデター阻止の板ばさみで結構、つらい思いしてる」
……誰にも言わないけどね、そんなことは、と付け加える。
「……私は公治ほどには王凌さんを買ってない……あなたさえいなければ……」
令孤愚の背が王基の隙をうかがっているのがありありとわかる。
王基もすでに稽古槍を両の手に持ち、戦闘体勢に入っていた。
「……あなたさえいなければ……クーデターは失敗する」
「文舒のために戦うって? かっこいいねぇ」
「……えぇ、私は文舒の剣だもの」
誇り高く答える王基。そして……
「あっそう」
言葉とともに令孤愚が動く。
渾身の抜き手が王基の眉間を正確に狙う。
会話の最中に戦闘に移行……
無手として槍という武器を対峙するために相手のタイミングを完全にはずした攻撃。
それは間違いなく令孤愚のこれまでの人生で最高の一撃だった。
王基は目をつぶり……

令孤愚が湖畔に倒れていた。
その一撃は王基に届くことなく……
その手は天に届くことなく……
槍の間合いに素手で飛び込むなどという無謀。
そうせざるを得ないよう仕組んでいたのは自分だ。
「……」
令孤愚の胸からはずした蒼天章を手のひらの上で弄ぶ。
そしてなにも言わずに倒れた令孤愚に一礼し、王基は歩き出した。

……
……
……
新野棟の一角の兵団長執務室。
放課後の倦怠感の中、王基と王昶はぼーっとしていた。
王基はクロスワードパズルの雑誌を手にソファに寝転び、王昶もファッション誌などを手にポテトチップなどを食べている。
「……文舒……薩摩鶏、名古屋コーチンと並ぶ日本三大美味鶏ってなに? 5文字で2文字目が『ナ』」
ポテトチップをとる手を止め、一瞬、記憶を探るかのように視線をさまよわせる。
「あ、『ヒナイドリ』だね」
「……さんきゅ」
そしてまた沈黙。
「そうそう。公治が病気療養のために蒼天章の返上をしたんだってね」
「……へぇ」
……さすがに情報が早い。
内心の想いを顔に出すことなく王基は軽く返事をする。
王昶が立ち上がったのが視界の隅に見えた。
そして近づく気配。
王昶は王基の横で立ち止まり、その肩に手を置く。
「ごめん……いやな仕事押し付けた」
「……気にしなくていい。文舒と私は一蓮托生だもの」
……さすがに気づかれたか。
苦笑しながら……王基はそれでも満足感を感じていた。

801 名前:北畠蒼陽:2005/08/20(土) 16:02
祭りは今日までッ!
まだのひとはお早めにねっ!

さて、評価が微妙な令孤愚です。
最初、私はムノーモノのつもりで令孤愚を書いてたわけですが正史を読み返してみると……なんつか、いいよ、このひと。

田豫が蛮族討伐で功績を挙げたときに、ちょっと規律違反があったんで令孤愚が取り締まったら帝に『バーカ!』ってすげぇ怒られたよ。

とか書いてあるんですけど……まぁ、状況がわからんから断言はできませんけど一読してみると帝(曹丕)怒った理由って『功績のある人間をそんな些細なことで陥れるな』ってこと?
……いやいや、それを取り締まるから有能な官僚っていえるんでしょ。わかってくれよ、曹丕サン。
まぁ、性格とか結構恨みを忘れないようなとこはあったみたいだけどそれは決して無能の証ではないわけで。
もっとも『清潔でつつましく質素でゴホウビなんかはみんな部下連中にあげてたんだってさ。蛮族の贈り物なんかも全部帳簿につけて上に納めて、家には入れなかったから家族みんな超貧乏だったんだって』とか書かれる田豫にどういう違反があったのか、なんて上層部が取り合わないのもそれはそれでわかる気はしますがねー。そんでも一方的に令孤愚がワルモノってのはどうよ? と。

そんなわけで今回は王基主人公ですが、それも令孤愚のアシストがあってこそですよー。

802 名前:雑号将軍:2005/08/20(土) 23:16
北畠蒼陽様、お疲れ様ですっ!僕は最近いつも疲れてますけど…。ではでは感想を…まずまず最初に感じたのは「令孤愚ってだれ?前にも出てきたような…」という非常に申し訳ないものでした…。今回は王基が汚れ役を演じていたことろがすごいかっこよかったですっ!あと3m強ある槍を練習では使われるんだなあと、感心していました。

>令孤愚とか田豫とか
僕は令孤愚をよく知らないのでとくに言えたことはないのですが、北畠蒼陽様がおっしゃる通り、「性格とか結構恨みを忘れない≠無能の証」だと思います。その代表として法正がいますし…。
田豫の慎ましさには敬意を表しますが、家族みんなが貧乏になるまでする必要はあるんですかね

803 名前:北畠蒼陽:2005/08/21(日) 00:12
>令孤愚さん
令孤愚は王昶のお姉さまの従妹です。わかりにくい関係ですな(苦笑
エン州校区総代に赴任し、当時車騎主将だった王凌とともにエン豫青徐あたりを牛耳る一大勢力にー。
んで叛乱を起こそう、ってことになって曹彪のとこに使者を送った……直後くらいのシーンですね、これは。

毋丘倹ほどではないけど味のあるひとだと思いますよー。

>法正さん
……ほど実力はないけどね(笑

804 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:39
「ッ!? ……そう、わかったわ。ありがとう」
報告を受けた毋丘倹の顔が一瞬こわばり……しかしそれでもそれをできる限り表に出さないよう、平静を装おうとする。
寿春棟、揚州校区兵団長の執務室。
そこに集った毋丘倹をはじめとした、その幕僚たちの顔には隠すことのできぬ疲労の影が落ちていた。
校舎の外からは騒がしい声。
蒼天会において曹操が卒業した翌年に高等部に進学した世代の中で突出した実力と実績を誇った戦乙女、毋丘倹。彼女は曹家蒼天会を裏で操ろうとする司馬師に反発し、やはり同世代の文欽とともに揚州校区を中心として大規模な叛乱を起こした。
その趣旨は『対司馬師』の一点のみであり、まぎれもなく政治の領域の話であった。毋丘倹にとって不幸なことに毋丘倹にも文欽にも、またその幕僚たちにも司馬師に対抗できるほどの切れ者はおらず、この叛乱はまさに暴発という色すら帯びていた。まさに『不幸』である。
そして今……
校舎外でゲリラ活動をしていた盟友、文欽が司馬師の本隊に遭遇し、その最精鋭MTB部隊によって壊滅させられたとの報告が寿春棟に届けられていた。
とびっきりのバッドニュース……
「仲恭姉さん……どうするの?」
毋丘倹の妹の毋丘秀が、その顔を歪めながらそれでも気遣うように問いかける。
もう敗北は決定付けられた……どんなに残酷でも、ここは主将に決断してもらわなければならない。
「落ち延びよう。これ以上は……もう無益」
悔しそうに唇をかみ締め、毋丘倹が呟くように言う。
「でもッ! ……外はあんなに敵に囲まれてッ!」
叫ぶように反論する毋丘秀。
毋丘倹はゆっくりと顔を上げた。
「私が……みんなが落ち延びる時間を稼ぐ」


殺戮の戦乙女


普段はクローゼットの奥にしまわれたままの幹部生徒専用の制服に身を包んだ王昶はパイプ椅子に座ったまま遠く寿春棟を眺めた。
そして周りを見回す。
荊州校区総代、王基。
征東主将、胡遵。
豫州校区兵団長、諸葛誕。
エン州校区総代、昜。
そして連合生徒会会長、司馬師。
この世代を代表するメンバーである、が……
裏を返せばそれだけ仲恭が恐れられてる、ってことか。
確かに仲恭は並外れた実績がある。
私ですら彼女の功績の前には一歩譲らざるを得ない。
それだけに……
今、仲恭は追い詰められている。
仲若を失い、また助けのない籠城戦を強いられるという屈辱。
翼を失い堕天した戦乙女。
今、彼女は焦っているだろうか……
自分の考えにバカバカしくなって王昶は苦笑をもらす。
仲恭は追い詰められても冷静を欠くことはない。それは実績が証明していることだ。
だったら……
「おね……主将、どう動くの?」
傍らの王渾が声をかけてくる。
「玄沖、毋丘倹はどう動くと思う?」
「え、えっと、仲若ちゃ……文欽がもういなくなった以上、撤退を考えてると思うの。バンザイアタックとかって毋丘倹に似合わないもんね」
そう、仲恭は撤退を考えているだろう。

805 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:40
すべての部下に戦ってトばされる……華々しく散ることを強要する毋丘倹など想像も出来ない。
「じゃあ……玄沖、こっちがそれに対してどう動く?」
「う……え……」
王渾は王昶の問いに一瞬、言葉を詰まらせたがそれでもなんとか答える。
「このまま包囲、かな。どう考えても人数も戦意も上なんだから撤退のための道を作らせない。数で圧倒するのがいいんじゃない……かなぁー?」
自信なさそうなその答え。
しかし王昶は内心、笑みを浮かべる。
パーフェクトな解答だったからだ。
だったら……
「よし」
満足して王昶はパイプ椅子から立ち上がる。
「玄沖。今からの指揮権を委任するわ……私はちょっと出かけてくる」
「え! し、指揮権!? えう!? いや、だ、だめだよぉ!」
慌てる王渾。いつかはまっとうな主将になってもらわなければならないのにこの引っ込み思案は困ったものだ。
「玄沖は私のあとを継がなきゃいけないんだからこの程度でびびってどうすんのさ」
王昶の言葉に王渾は不安げに顔を歪める。
「で、でも……お姉ちゃんはどこにいくの?」
泣きそうな顔の王渾。
「あぁ……なんつーか……」
王渾の問いに言いにくそうに頭をかく王昶。
「今からの私の行動は悪い見本だ。立派な主将になるために絶対に真似するんじゃないぞ」
その王昶の言葉とほぼ同時に校舎南側でひときわ大きな声が上がった。

包囲網の薄そうなところを切り取っていこうと思ったが……なるほど公休の陣だったか。
毋丘倹は妹や自分につき従ってくれた幕僚を先に落ち延びさせるためにたった1人、ここに立っていた。
堅実な陣ね。
堅実なだけに読みやすい。
木刀を振るい、諸葛誕の部下たちを叩き伏せながら冷静に考える。
まぁ、それはそうだろう。
諸葛誕は心情的に対司馬の曹寄りであることは間違いない。だからこそ親曹の旗の下、叛乱を起こした私とは戦いづらいのだろう。
その想いが部下にも伝染し……私がたった1人でここにいることに困惑と弱気を隠せないでいるのだろう。
私を討ちたくない……そう思う諸葛誕の弱気こそが私の勝機だ。
時間は稼げそうね、なんとか……
毋丘倹は木刀をだらりと下げ笑ってみせる。
ホンキで振るった木刀……
もう幾人もその額から血を流し、地に横たわっている。
そして私は体中、その返り血に塗れ、制服もところどころ破れ泥や血や埃やいろいろなもので汚れている……
「道をあけろ……貴様ら、皆殺すぞ」
これが公休の部下たちの目にどう映るか。
返り血で真っ赤に濡れた、その中の凄惨な笑み。
自分が相手であれば……こんなビジュアルのシーンを前に立っていたくないと思う。
ま、これくらいの演技は許されるよね。
苦笑しながら自分の左肩をちらと見る。
さすがにこれだけの人数を相手に無傷というわけにはいかない。左肩は脱臼し、まったく使い物にならなくなっていた。
救いがあるとすれば返り血か私自身の血か見分けがつかず、相手は誰も私の負傷に気づいていないということだろう。

806 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:40
「聞こえているのか、ゴミムシども……まぁ、いい。このぶんだと地獄に雀卓があといくつ立つか、楽しみじゃないか?」
余裕を装い、右肩に木刀を乗せる。
疲労は体中を覆い、今すぐにでも倒れてしまいたい。
それでも毋丘倹は立ち、そして笑っていた。
諸葛誕の部下たちが目に見えて戦意を失っている。
もうちょっと……もうちょっとだけ時間を稼ぎさえすれば十分かな。
もうちょっとだけ脅して……そして倒れよう。もう疲れたしね……
毋丘倹は薄く笑い一歩踏み出す。
包囲網が一歩後ろに下がる。
毋丘倹はもう一歩踏み出そうとして……足を止めた。
文舒……

肩に棒を担いではいるがその一見、緊張感のない顔は戦場に不似合いだ。その不似合いさが実際の戦場においてどれほどの一瞬の集中力につながるかは味方として戦っていたときから十二分に理解していたが。
「さすがだなぁ、仲恭」
王昶ののんきな言葉に思わず苦笑する毋丘倹。
王昶はその光景を見回し……
「凄惨だねぇ」
ヒトゴトのように言う。
「やぁ、文舒。この光景の一部になりにきてくれたのかい?」
挑発する毋丘倹。
王昶の手の棒を見たときから毋丘倹はなんとなく気づいている……
「あぁ、秀たちは包囲網を抜けたみたいだぞ」
そうか……なんとか抜け出してくれたか。
毋丘倹は王昶の言葉に感謝する。
「さて……おい、こいつは私がもらうぞ。公休には悪いが手柄は私がかっさらう」
王昶が冗談めかして諸葛誕の副官である蒋班に声をかける。
……包囲網はそのまま観客にかわった。
「すまないわね」
「あぁ、気にするな」
毋丘倹の短い感謝にどうでもよさそうに答える王昶。
いくさ人であれば戦友を看取るのは当然である。
それが自らを囮にして部下たちを落ち延びさせ、そして自分はトばされてもかまわない、と戦っているものならなおのことだ。

王昶は戦友、毋丘倹を自ら看取るためにここに立っていた。

「さて……んじゃやるか、仲恭。泣いて許しを乞う準備はできてるか?」
「文舒もうがいとかはちゃんとしてる? 汚い舌で靴を舐められても嬉しくないわよ?」
2人は笑顔で対峙する。
片や柳生新陰流、毋丘倹。
片や神道夢想流杖術、王昶。
2人ともが黙ったまま……
「? ……仲恭」
やがて王昶が毋丘倹の左肩の異変に気づき口を開くが……なにもなかったかのように口を閉じる。
これで王昶は間違いなく左肩を狙ってくるだろう。
相手の弱点を狙うことは卑怯ではない。むしろ自分の力の及ぶ限り、相手の弱点を叩くことが礼儀ともいえる。
毋丘倹は内心の苦笑を押し殺す。
少しの手加減も望めない相手に弱点を知られた。
恐らくはかなり痛い目にあわせられることだろうなぁ……
でも……こうして最後の戦いに立ち会ってくれる親友に心からの感謝を。
毋丘倹は……今までで一番澄み切った境地に立っていた。
風が吹く。

2人が同時に動いた。

807 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:40
「あ、ぐぅ……ぅ、あああ……」
勝負は一瞬。そしてあまりにもあっけないものだった。
毋丘倹は迷うことなく必殺の突きを王昶に見舞う。
王昶は毋丘倹の左肩を狙うように見せかけ、突きにあわせるように木刀に焦点を絞り、それに向かって棒を叩きつける。
毋丘倹は折れた木刀にこだわることなく王昶の棒の軌跡から体を翻すように王昶の胸に右正拳を叩き込んだ。
「あ……がはっ。ぐ……ぅ」
胸を押さえ片膝を地に付ける王昶。
それを立ったまま見下ろす毋丘倹。
「お、おま、えなぁ……ろ、肋骨が、お、折れたらどうす、んのよ」
はぁはぁと息を荒げ王昶が抗弁する。
「大丈夫だって。手加減はしてないけど」
毋丘倹の返答に苦笑する王昶。
「どうす、る? しょ、勝者のけん、りだ。もって、いくか?」
脂汗を流し、それでもにやり、と笑って自分の胸を指す王昶。そこには蒼天章が光っていた。
「いや、やめとくわ。せっかくここまで来てくれた親友をリタイアさせる趣味はないしね」
「けっ……呪われろ」
毋丘倹の答えに王昶は笑いながら毒づく。
「仲恭、南に進め。ここを抜けたらそれ以降はまだ包囲網は完成していない……長湖部領内に入れば私らでも追うことはできない」
荒い息の下、王昶はウィンクしながら毋丘倹に進む道を示す。
「……私も疲れてるのに……さらに前に進めって言うのね、あんたは」
「当たり前だ。私に勝ったやつにこんなところでトんでもらうと困る」
あきれたように苦笑する毋丘倹。
そして王昶は自分の手にしていた棒を毋丘倹に放る。
「もってけ。折れた木刀よりゃマシだろ」
「ありがとう……さよなら、文舒」
棒を手に背を向け歩き出す毋丘倹。
「じゃあな、バ毋丘倹」
王昶は毋丘倹をを目で追うこともなくそっと呟き、そして前のめりに倒れ、そのまま気を失った。

……
……
……
寿春棟、旧揚州校区兵団長の執務室。
部屋の元の持ち主の性格を物語るかのような実用性のみの無骨な部屋に生徒会のトップたちが集う。
「やぁ、みんな。ご苦労ご苦労♪ バ毋丘倹は逃がしたけど十分じゃない? もう二度と歯向かおうって気にはならないだろうさ♪」
執務机に座りご機嫌な司馬師。
王昶はあきれたような視線を向けた。
毋丘倹はそんな小さな人間じゃない。
長湖部まで逃れることさえできれば……そう彼女はあまりにも強大な敵になるだろう。
王昶の脳裏にはすでに対毋丘倹の作戦がダース単位で練られていた。
この胸の痛みは7京倍にして返してあげるから楽しみにしてなさい……内心の想いを隠し切れず口元に笑みを浮かべる。
「大変です!」
だからそのとき執務室に飛び込んできた伝令にも特に注意を払うことはなかった。
「毋丘倹が安風で見つかりました! その班長の配下の張属というものが毋丘倹をトばしたそうです!」
「お〜、ハッピー♪ いいねいいねぇ、最高じゃない!」
司馬師の歓声が遠く聞こえる。
言葉が嘘に聞こえた。
でも嘘とは思えなかった。
ひとつ大きなため息をついて王昶はソファに深く座り込んだ。

808 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:41
ラスト・オブ・淮南三叛の第2弾です。
令孤愚-王基
毋丘倹-王昶
……第3弾は地味なひとを目立たせようかと。

今回ので思い知ったのですよ、あまりにも悲しかった事実。私、萌えを書くの無理(ぁ
もうかっこいいのほう専門で。あとギャグと。ちなみにギャグのほうはかなりの割合ですべるので注意が必要です。逃げてーッ! ……かといってかっこいいほうもかっこよく書けるわけではなく。なんとかしたいもんです。
いや〜、萌え文章書こうとすると、なんか違和感ががが。他のひとのを読むのは好きなのにねぇ……

809 名前:雑号将軍:2005/08/27(土) 20:45
おお!今度は毋丘倹がやられましたか…。どうなんでしょう?彼がもう少し我慢(司馬師が死ぬまで)していれば、魏国でまだまだ活躍できたんでしょうか?
今回、毋丘倹の強さを改めて思い知らされたような気がします。王昶でさえもやられることになるとは…。それとも王昶はわざと・・・・・・。
第三弾は誰が来るんでしょう?文鴦とかでしょうか?いや、奴は地味じゃあないか…。

810 名前:北畠蒼陽:2005/08/28(日) 00:28
>わざと
いやいや、超ホンキですよ。
毋丘倹はそういうことに関しちゃ図抜けてる、と思うのでー。
まぁ、ちょいとやりすぎ気味なモノなんで……まぁ、ねぇ?

>ラスト
文鴦は書くつもりないですけど……あー、その意味で言えば文欽もありなのか。
まぁ、文欽はいずれってことで。

811 名前:海月 亮:2005/08/29(月) 18:08
なんと申しますか、海月的にはこういう展開が大好きなのですよ。
コブシとコブシのぶつかり合いでしか語れぬ、そんな不器用さがたまりませんね。

展開からいえば楽リン→諸葛誕&文欽とかいうのが自然な流れのような気もしまふが…。
それと地味っ娘胡遵は、終始地味なままで終わっちまうんですかね?


そろそろいつぞやの話の続き書かないとなぁ…。

812 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 18:52
           Memory that should be abhorred
              〜忌むべき記憶〜

 夏休みも終わり、幾分か夏の暑さも和らいできた。もうそろそろ、冬用の制服も出さなければならないのだろうか?できればもう少し、地肌に日光を浴びていたいものだなあ。
 そんなことを考えながら、皇甫嵩(義真)は頬杖をつきながら、窓から見える景色を眺めていた。
 ここまで、私はいろんなことをしてきた。しかし、今はそんな血なまぐさい世界から抜け出したただの隠居人だ。もうなにもすることはないだろう。
 皇甫嵩はぼんやりと空の景色を眺めながらそんな取り留めのないことを考えていた。
 そんなとき、皇甫嵩の親友である盧植が教壇の中央に立った。彼女の腰まであるライムグリーンの髪と犬のように愛らしい眼は男女問わず人気がある。もっとも、皆、恐れ多くて一歩下がって憧れるしかないのだが・・・・・・。
「今日は今年の華夏大学園祭での、我がクラスの出し物を決めたいと思います。何か意見のある人はいますか?」
 盧植の言うように、毎年一〇月にこのでは華夏大学園祭――世間一般に言う文化祭や学園祭――が催される。これは華夏学術学園都市に所属するすべての教育機関合同で行うため、さすがに規模も広い。そして内容も凝っているのでちょっとやそっとのものでは客が見込めない。





だから、今回、文化委員になった盧植は皆に意見を求めているのだ。
しかし、盧植はなんとも嬉しそうに頬を転ばせている。いや、にやけていると言った方が正しいだろう。まるで、好きな人への想いが届いたかのようなのだ。
(子幹の奴・・・・・・なにかあるな)と皇甫嵩は勘づいた。
これはただの行き当たりばったりなどではなく、盧植とのつき合いからのデータによる確率計算による。
しかし、所詮数字では次のような言葉が飛び出すことは予測不可能であった。
 盧植に呼応するように、金髪の少女・丁原(建陽)が右手を天井に向けて高々と上げた。そして、恐るべき一言を繰り出した。
「はい〜はい〜!あたいは『コスプレ喫茶』がいいと思いまーす!」
 すぐにクラスの中がざわつく。当然である。急に「コスプレ喫茶」をすると言われればそうもなる。しかし、それも彼女の一言に一蹴され、歓声へと変体することとなる。
「あたしもー!それがいい!みんなも義真のコスプレ見たいでしょ?」
 さらには赤紙のひとふさが飛び跳ねている少女であり、皇甫嵩の親友である朱儁(公偉)までもがクラスの出し物に「メイド喫茶」を開くことに賛同したのだ。
 すると、辺りから一斉に歓声が上がった。キャーキャーと黄色い悲鳴さえも響いてくる。皇甫嵩はそのルックスと物言からどうも女生徒から人気がある。だからこそ、この一言には万金の重みのがあった。
 皇甫嵩はこのとき「しまった」と本気で後悔した。
「なぜもっと早くきがつかなかったのか」そんな無念でいっぱいであった。気付く機会ならいくらでもあった。
なぜなら最近、彼女ら三人は何かと集まっていたのだ。どうやら皇甫嵩が反対することを見越して、三人で話を進めていたのだろう。
(あの子幹のことだ。票集めは完璧だろう・・・。さらにあの公偉の言葉でクラスの浮動票もすべて賛成に変わるだろう。だとすれば、私がその悪鬼から逃れる方法は・・・・・・)

813 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 18:53
「義真・・・・・・すっごい似合ってる!」
「シンちゃん(皇甫嵩)ってこんな服も似合うんだ・・・・・・」
「こっ、こっちを見るな!あっちを向け、あっちを!」
 皇甫嵩が耳の先まで真っ赤にして、賛美の言葉を贈る朱儁と丁原に怒鳴っている。それに対して、朱儁と丁原は品定めするように皇甫嵩を凝視し、ときどき下衆な笑みを浮かべていた。
 とうとう皇甫嵩は悪鬼の軍勢から逃げ延びることはできず、今こうして彼女らの餌食となっているわけだ。
 それで、皇甫嵩の着ている服装なのだが・・・・・・。
「・・・・・・義真・・・そのメ・イ・ド・服、ばっちりみたいね。流石は私の義真だわ」
 盧植はしたたかな女だ。「メイド服」と「私の」をしっかりと強調し、皇甫嵩が照れるのを狙ってきた。もちろんそんな言葉を書けたのは皇甫嵩が照れるところを見たいからだとは言うまでもないだろう。
 盧植の言うように、皇甫嵩が着せられたのはメイド服だった。
フリルがちりばめられていることは当然として、ミニスカート調のワンピースに純白のエプロンドレスにカチューシャ、さらに白のロングニーソックスも忘れてはいない。
 盧植はこのときに備えてある人物に皇甫嵩にぴったりのメイド服の製作を要請していたのだ。もっとも自らにもナース服を用意していたようだが・・・・・・。
その証拠に急造仕様の更衣室から出てきた盧植は桜色のナース服に着替えている。もちろん頭にはナースキャップがピンで留められていた。
それは盧植のライムグリーンの髪と合わさって、まるで草原に花開く白菊のようであった。
「いつから子幹のものになったか。私は?」
 皇甫嵩が左手を腰にあて、普段の低い声で盧植に抗議する。どうやら冷静であるとみせようとしたのだろう。しかし、顔が真っ赤であるため照れ隠しにさえなってはいない。
盧植はまったく気にする素振りも見せずに、あるいは聞こえていなのか、ただくすっと口元に手を当て微笑して、メイド服姿の皇甫嵩を見つめている。
 流行りの服を着せられたマネキンのような気がして、皇甫嵩はどうも落ち着けなかった。
 そんな皇甫嵩に魔の手が伸びてくる。
あろう事か、盧植がじりじりと歩を進め始めたのだ。皇甫嵩にとっては、森の中で熊に狙われたも同じであった。
「こ、こら!近づくのはやめろ!頼むから、な、子幹!」
 皇甫嵩が珍しく取り乱し、両手を前に突き出して盧植をこちらに来させまい必死である。しかし、盧植にはそんなものは通用しなかった。蛇のように身体をくねらせ、城門を突破し、本陣へと飛び込んだ。
 皇甫嵩が声を掛けようとしたとき、皇甫嵩の首に盧植の両手が迫った。皇甫嵩は今度はなにをされるのかと焦りを隠せなかった。
 だが、それは全くの杞憂であった。盧植は襟元に着いているピンク色のリボンを直しただけであったのだ。
「義真・・・。あなた、リボンを結んだことないでしょ?もうめちゃくちゃよ。じっとしててよ。今なおすから・・・・・・患者さま、じっとしていて下さいね」
「し、しかたないだろう。今までこんな、女っぽい服は着たことがないのだから・・・・・・」
 皇甫嵩の視線がわずかにうつむいた。それと同時に声にも力がない。
なにやら不安そうにも聞こえてくる。
無論、盧植が看護師になりきっているのがその原因ではない。まあ、まったく違うとは言わないが・・・・・・。
彼女は今まで、ジーンズやカッターシャツやトレーナーなどどちらかといえば、男装をすることの方が多い。なにぶんと皇甫嵩にはこんなフリルの付いたスカートを履いたことがないのだ。
そんなことを知ってか知らずか、自らの衣装に身を包んだ朱儁が皇甫嵩の両肩に手をのせ、その愛嬌のある顔を覗かせる。
「だいじょぶだって!義真は十分に綺麗だからっ。こんなメイドさんならみんな自分に仕えてほしいって思うよ!」
「な、なにを言うか!わ、私が、き、綺麗なはずなどあるか!そ、それにな、なんだ公偉、その白一色の服は?」
 「綺麗」とひとさら強調された皇甫嵩は気恥ずかしくなってどもってしまった。むしろ「仕えてほしい」のほうが皇甫嵩の自尊心の高さから気になるのだが・・・・・・。
なんだかんだ言っても皇甫嵩も女子高生のようだ。
 「かわいいでしょー」と言って朱儁はその場でくるりと回ってみせる。
 朱儁は白一色のワンピースを着ていた。
もっともところどころにピンクのリボンがあしらわれているので完全な白とは断言できないのだが。
ワンピースは胸元までのミニスカート調で、両腕には純白のアームカバー(日焼け防止が目的ではない)をつけ、首には首輪とおぼしきものが付いている。さらに衣装の先端という先端にはフリルがあしらわれている。なんとスカートのフリルはなんと二段になっていた。
「これこそ、白ロリファッションよ!」
 朱儁は目を輝かせてそう言い放ち、見事にポーズを決めた。
 そんなとき、朱儁と入れ違いに更衣室に入った丁原が弾丸のように飛び出してきた。そして、皇甫嵩と朱儁の間で見事に止まる。
「じゃーん!見て見て、シンちゃん!こーちゃん!この耳としっぽ、かわいいと思うでしょ!」
 丁原が教室中に響き渡るような大音量で言う。さらには右手を猫手にし、それを付け耳にあてて、ポーズを取っている。
 猫だ。丁原はセーラーブラウスに猫耳としっぽを付けていた。
しっぽはスカートの下から垂れるように伸び、耳の毛は茶色で肌触りも良さそうである。着衣もセーラーブラウスこそ、学園のものだが、スカートはミニもミニ、なんと、膝上十五センチという驚異の短さである。
しかし、これが背の低い丁原2は恐ろしいほどに映えていた。
 皇甫嵩は朱儁と丁原、さらに思い思いのコスプレを施した、クラスの面々を眺め、最後にメイド服を身に纏った自分を鏡越しに見た。
 かつては「生徒会の剣」として、畏敬の対称となった皇甫嵩が今はメイド服を着ている・・・・・・。そんな自らの姿にあきれるのも無理のないことだった。
 しかし、皇甫嵩もまんざらではないようで、クラスメイトに「メイド服姿かわいいっ!」とか「綺麗よね。義真って」とか言われるたびに否定をしながらもどことなくうれしそうだった。
 そんな姿を盧植はちらちらと皇甫嵩の方を見やり、そのつど、笑みを浮かべている。その笑みも微笑といえるような見やすい者ではなく、ニヤリと笑う下卑な笑みを浮かべて愉しんでいた。
が、しばらくして、思い立ったように椅子からすっと立ち上がり、再び教壇に上がった。
「皆さんー!集まってください。学園祭までもう日にちがありません。したがって、これから練習に入ります。今日はプロの方にも来て頂きました。それでは、以下の班に分かれてください。一班・・・・・・・・・・・・」
 皇甫嵩は盧植の言葉を聞いたとき、なぜか背筋に冷たいものが流れた。
(なにやら、そのプロとやら・・・・・・。いやな予感がする)自らの勘がそう訴えかけていた。

814 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 18:54
皇甫嵩の予感は的中した。もっとも、これが悪いものか良いものかは皇甫嵩自身もわからなかった。わかるのは盧植にはめられたということ・・・・・・。
 そしてそのプロというのが・・・・・・。
「り、李儒ではないか!?何故ここに?」
 皇甫嵩は走り出したが、どうやら自分が短いスカートを履いていることを忘れているらしい。
 それに気が付いた李儒と呼ばれた深緑のショートカットに癖毛が特徴の少女は両手を前で組み、無表情だがたしなめるように言う。
「皇甫嵩様。メイドは極力走らないようにしなければなりません。そして、歩くときは両手をお腹の前で合わせるように、スカートを乱さないようにゆっくり歩いてください。判って頂けましたか?」
 この少女の声にはどうも音の強弱がない。本当に一定のリズムで話す。その声は澄んでいて、よく通っているのだが、いかんせん聞き手には怒っているのか、冗談なのかの区別が付かない。
極論すれば彼女の言い方は感情がこもっていないのだ。
「そ、そうなのか?す、すまぬ・・・・・・。このようなことしたことがないので勝手がわからんのでつい・・・・・・」
 皇甫嵩が李儒のペースに飲まれている。もっとも皇甫嵩が李儒に弱いというのも関係しているのだが・・・・・・。
 李儒はすぐさま言葉を続ける。
「皇甫嵩様。そのような言葉遣いもメイド服を着ているときはおやめ下さい」
「なに?それもいかんのか・・・・・・。ならば、どのような話し言葉がよいのだ?」
 最初はやる気の全くなかった皇甫嵩だが、今では李儒の説明に聞き入っている。盧植の思うつぼということに皇甫嵩はまったく気が付いていない。
しかし、次の一言は皇甫嵩のプライドを打ち砕くものであった。
「では私のいう言葉を復唱してください。『ご主人様、おかえりなさいませ』はい、どうぞ?」
「・・・・・・・・・・・・」
 皇甫嵩は顔を真っ赤にし、口をかすかに上下させていたが、李儒の言ったことをリピートすることはできなかった。
「言っては、いただけないのですか?これでは私が盧植様にしかられてしまいます・・・・・・」
 なんということであろうか。
今までまったく感情もこもらず無表情で話していた李儒が一変した。目を皇甫嵩から眼をそらし、うつむき加減となり、細々と消え入りそうな声で言った。
「な!卑怯だぞ、李儒、こういうときだけ感情を表に出すとは!」
 皇甫嵩が一瞬ドキッとしながらも、激しく抗議している。それが、自らの首を絞めることとなった。
 李儒は皇甫嵩のそれほど大きくもない声に驚いた振りをし、泣きそうになりながら、頭一つ大きい皇甫嵩を上目遣いで見てくるのだ。
 もはや、皇甫嵩に選択の余地はなかった。
「わかった、言う!言うから!」
皇甫嵩はがっくりと肩を落としてそう言った。このとき彼女は自らのプライドを捨てたのだ。
「本当ですか?!では『ご主人様、今日は早く帰ってきてくださいませ。私、ご主人様がいなくては寂しくて寂しく、我慢できません・・・・・・』どうぞ」
(くっ!わざわざ台詞を変えたな!もうなんでもよい!)皇甫嵩は横で盧植が見ているのにも気付かずに、李儒の言葉を復唱する。
「ご、ご主人様、今日は、早く帰ってきてくださいませ。わ、私、ご主人様がいなくては・・・寂しくて寂しくて、我慢できませんっ!・・・・・・これで満足か・・・・・・?」
 皇甫嵩がどもりながらもなんとか最後まで言い切った。
照れていて、声が擦れたり上擦っていたりもしたが、それはそれで初々しいと思えば、むしろ、良い効果であるといえた。
「八十点です」
「なんだと!私のプライドを捨てての文字通り捨て身の演技だったのだぞ!」
「いいえ、まだまだ、練習が必要のようです」
 もう李儒はいつもの無表情に戻っていた。それに皇甫嵩は為す術もなく飲み込まれてゆく。まるで荒波が小舟を吸い込むように。
こうして、皇甫嵩の高等部生活最後にして最凶の学園祭が始まろうとしていた・・・・・・。

815 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 19:02
どうもご無沙汰でした。やっと、学校の行事もすべて終わり、時間ができたので書いてみました。ネタは…特にないです。なぜコスプレ喫茶にしたのかも不明。強いて言うなら、Yahoo!のニューストピックスに、メード喫茶がなんとかと書いてあったからでしょうか?
話として・・・・・・また気が向いたら、いや時間があれば、文化祭当日も書くかもしれません。時間があれば!ですが。
補足として、朱儁の白ロリファッションはアサハル様のを参考に、皇甫嵩のメイド服はサクラ大戦のメルさんをイメージさせて頂きました。

816 名前:一国志3:2005/10/30(日) 00:14
>>812-815 雑号将軍様

こういう砕けた話は好きなので、コメントしてみます。
かつてはオタク客だけだったメイド喫茶も、一般人に知れ渡った存在に
なっていますね。
硬派キャラの皇甫嵩も、コスプレ色物キャラの董卓軍(李儒、李カクなど)の
カラーに染まってしまうのでしょうか。

文化祭があったら、帰宅部陣営(劉備軍)も独自にコスプレ喫茶を
催しそうな気がします。

817 名前:一国志3:2005/10/30(日) 01:15
自己レスになります。

インデックスから、人物設定を再チェックしてみたときに浮かんだことです。
帰宅部のコスプレ喫茶で、劉禅+東鳩2制服→このみ、
諸葛亮+メイド服→咲夜(東方)、に近くなるのかと思ってみたり。
(キャラ絵からだけのイメージですが。)

改めて見返してみると、葉鍵を知っているとにやりとするキャラデザが
それなりの数ありますね。

818 名前:雑号将軍:2005/10/30(日) 10:14
>816
一国志3様、お返事ありがとうございます!そうですね…僕としては皇甫嵩は董卓連中とは逆ベクトルだと思っているので染まることは無いですね。盧植が愛しの皇甫嵩にメイド服を着せたくてコスプレ喫茶を開いたと考えてもらえれば幸いです。

>帰宅部陣営
なるほど…その手がありましたか…。ただ諸葛丞相なら長湖部に「ツンデレが多い」とかいう理由でコスプレ喫茶を開かせようと策を巡らせようとする気もしたり・・・・・・。そのときは呉筆頭の海月様にお願いしましょうか。

819 名前:海月 亮:2005/10/30(日) 10:52
今しがた自サイトにドリームSSを封印してきたばかりの私がきましたよ(゚∀゚)
つか最近は某ゲームのIRとネット対戦にかまけてまったく何も考えてないです_| ̄|○

ちなみにコスプレネタは私も考えたんですが、死ぬほど季節外れ(卒業イベント)な上、曹操や献サマまでからんでドリームどこの騒ぎでなくなってきたので封印しようか迷ってる状態^^A
服装ネタヒント:5割がポップン、4割が東方。周泰が「くらにゃど」バージョンの智代になっている(w
…これ以上は恐ろしくて云えません(オイ

学園祭ネタはちょっといい話というか「蒼梧の空の下から」の別話で書き進めてます(というか書き始めました^^A)。
その前に陳矯の話が仕上がりそうなので、そっちを先に持ってくることになるでしょうけどね…。

820 名前:雑号将軍:2005/10/30(日) 11:16
>ドリームSS
丁度、読み終えたところであります!海月様のSS読んでるといつも思うのが、キャラが確立してますよね。10人くらい出てくるのに…。惜しむらくはそれがしが呉の人物の字を覚えきれていないってことでしょう…。ドリームSSで虞翻に興味を示し始めた今日この頃。

>卒業イベント
いやいや、封印してはもったいないですぞ!かくいう自分も七月に卒業式ネタ投稿しました。クソ暑い中だというのに。たしかタイトルは「卒業演奏」…。献サマが周瑜と争うは曹操、劉備、孫策登場するはのてんやわんやの大騒ぎだった気が……。でも献サマは面白いのでまた何かでだしたですね。例えば官渡の戦いとか。

821 名前:海月 亮:2005/10/30(日) 18:38
>雑号将軍様
というか感想を書くのをすっかり忘れてた^^A

なんというか、萌えました(*´Д`*)
皇甫嵩でこのネタは反則ですよマジで(*´Д`*)
なんだかコレ以降は廬植だけじゃなくて李儒にもおもちゃにされそうな気配が(*´Д`*)

>卒業演奏
もちろん、熟読させていただいた上での悪さですよ、あの卒業式ネタは。
何気に作られたお話に関連付けして何か話作るの大好きなんです^^

>あの人の話
正史と演義を読み比べるととにかくとんでもない人だったということが分かります。
もっとも、さんざん馬鹿にされてたくせに、魏に帰るとその人物を賞賛した于禁はさらに一枚上手のような気もしますが^^A

822 名前:一国志3:2005/10/30(日) 22:07
>>818 雑号将軍様
皇甫嵩他、霊帝紀の名将たちは正統派路線でこそ生きる
キャラですしね。
逆に、董卓陣営や帰宅部はお笑い路線のほうで生きるキャラ
かと思っています。個人的には、後者のほうがいじりやすくて
親しめるのですが。

823 名前:雑号将軍:2005/10/30(日) 23:14
>海月様
萌えて頂けて恐縮であります。「李儒は皇甫嵩によって心を開き、感情の起伏が徐々に現れるようになった」設定なのでこれからも李儒は皇甫嵩で遊んでくれると思いますよ。もっとも、また書く機会があればですが…。どうも気分で書く習性があるらしくので……。

>于禁の謎
そうなのですかっ!?これは火曜日なんとしても図書室で正史「三国志」虞翻伝(違ったら正式名称を教えてください)を読まなければ!!

824 名前:海月 亮:2005/10/31(月) 01:01
>虞翻伝
合ってますよ。
因みにちくまなら七冊目に収録の、呉書十二の筆頭です^^A

虞翻は他に張昭にも喧嘩売ってたり、宴会の席で酔った孫権に殺されかけたという逸話もあります。あとは正史を読んでみてのお楽しみ(w

825 名前:北畠蒼陽:2005/10/31(月) 14:58
あらま、久しぶりにきてみたらなんかSS投下されてますね。
私? 私は、えぇと……
みんなもうっかり入院とかしちゃだめだぞっ☆

orz

>SS
なんか最近まったくなにも書けてなくて、今もキータッチがおぼつかなくてかなりザンネンな雰囲気を醸し出しているわけですが……
で、SSの感想なんですが……いやぁー、萌えるねなごむね〜。
さすが雑号将軍様、ここらへんの書き方はうまいなぁ、と感心することしきりであります。

この作品を力にして今しばらくの闘病生活を乗り切ろうと思います。
復帰したら罵声を浴びせてくださいませ^^

明日からはまた病院なんでしばらくHPにもくることはできないわけですが、このSSスレが皆様の才能に彩られることを切に祈っています。

826 名前:北畠蒼陽:2005/10/31(月) 15:12
追記。
どうでもいい話なんですが10月29日が私の誕生日でして、このSS投下も10月29日ってことで、まぁ、誕生日プレゼントを頂いたと思っときます。ありがとうございましたー(笑

827 名前:雑号将軍:2005/10/31(月) 22:53
>北畠蒼陽様
に、入院でありますか!?大丈夫…じゃないから入院するですよね。愚問でした。このようなものでよろしければ、お誕生日プレゼントしてお持ち帰り下さい。おお!萌えて頂けましたか。ありがとうございます。個人的にもツンデレの勉強してきたのでパワーアップした皇甫嵩(ツンデレではないかもしれませんが…)をお見せしようと意気込んでおりましたので皆様に萌えて頂いて嬉しい限りです。
ただ、まだまだ、海月様や北畠蒼陽様のように情景描写が上手く書けていないのでその辺りはこれから勉強が必要です…。
闘病生活を乗り切られたら後、是非ともSSを!!楽しみに待っております!ではくれぐれもお大事に。

828 名前:海月 亮:2005/11/15(火) 22:27
>北畠蒼陽様
多くは語りませんぞ。
ただただ、一日も早く快癒し、再びこの地にて相まみえんことを切に願うのみです。

そして私もそろそろ何か書いてうぷしたい_| ̄|○(<しろよ

829 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:55
「はぁ?」
あたしの言葉の何処がおかしかったのか…目の前の少女は心底呆れたような顔をして見せた。
そしてたっぷり三分ほど顔を見合わせると「…はぁ〜」と特大の溜息をついて、視線を手元の本に戻す。
「やっぱどう転んでも公緒は公緒か。夾石棟の一件聞いたときはちったあ成長したかと思ったんだけどなぁ」
「ど〜ゆ〜意味だよっ!」
なんかすっごく馬鹿にされてる。
この緑の跳ね髪の少女…陸凱(敬風)はあたしの友達だけど、どういうわけかあたしに対しては辛辣すぎるきらいがある。
まるで蒼天会のあるひとを連想させるくらいに。

−巣立つ若鳥を謳う詩−

あたしの名は朱績、字は公緒。
かつてはこの長湖部でその人ありといわれた名将・朱然の妹として、その名を辱めないよう日々努力している…つもり。
だけどあたしが頑張ろうとすればするほど、かえって散々な結果になってばかり。しかも敵にも味方にも一癖も二癖もある人間ばかりで、どんどん気が滅入ってくる。
でも、この間の寿春攻略(あ、それは全体の結果としては失敗だったんだけど…)で、あたしはようやく"敵方の嫌なヤツ"に一目おいてもらえるようになったみたい(?)なんだけど…。
あたしはまだ、その"嫌なヤツ"こと、現蒼天会きっての名将・王昶を今度こそ打ち倒すべく、色々研究しているワケ。

夾石棟では結局、あたしは王昶先輩に勝ったわけじゃない。
あっちが勝手に決めて、勝手に引き下がっただけ。
相手の技…確か、杖術って言うらしいんだけど…の正体なんか掴むどころの騒ぎじゃない。だからあたしは、次に直接対決する機会のため、その技に詳しそうな人に話を聞きに着た、というわけ。
本当だったら承淵(丁奉)とか幼節(陸抗)とか、長湖部でも武道に通じた人に聴きたかったんだけど…承淵は最近色々ありすぎてそっとしておいてあげたかったし、幼節は幼節で余りそういうものに興味がなさそうだからやめた。
だから長湖部でもかなりのトリビア王である彼女…敬風に聞くことにしたんだけど…やっぱやめときゃよかったかも。


「…というかあんたは自分のやってる武道の流派も知らんのか。そんなことだから何時まで経っても"朱績ちゃん"呼ばわりされるんだ。相手のことをどうこういう前にちったぁ自分について勉強しろ」
敬風はあたしのほうに視線を戻してくる気配がない。完璧にあきれ返った様子。
けどあたしとしてはなんか納得行かない。知らないものは知らないんだし、わざわざ恥を忍んで教えてもらおうと、好物の珍味・鮭冬葉まで差し出したのにこの態度。当然ながらあたしもムキになりますとも。
「何でよぅ! あたし杖術なんて全ッ然知らないもんっ! そういう敬風だってホントは知らないんでしょ!?」
「…知ってるも何も、神道夢想流はおまえがやってる香取神道流の流れを汲む杖術の流派だ。いうなれば親戚のようなものだろ。神道流やってるなら知ってて当然の知識だと思うけどな」
知らない。ていうか断じて知らない。
というかあたしの通っているのは剣術道場であって、そんな聞いたこともない獲物を扱う道場じゃない。道場のパンフとかにもそんな説明なんて書いてなかったし。
「まぁ確かに杖術の知名度そのものはそんなにはないだろうが…一応、知り合いに神道夢想流の使い手がひとりいるはずだけど?」
「はい?」
あたしは思っても見ない言葉に絶句した。
鏡がないから解んないけど、きっとあたしはすごくマヌケな顔をしてる事だろう。
「先に言っておくが、あんたが目の仇にして止まない王昶先輩じゃないぞ。ちゃんと長湖部身内の人間だ」
そうして再び彼女は、視線を本からあたしに移し変えた。
そして敬風はあたしの献上した鮭冬葉を一切れ、口に放り込んでしばしその味を確かめていた。
「…それ、初耳だよ。だって承淵が柳生と北辰、幼節も柳生でしょ。あたしが香取神道流で…」
「不慮の事故で姿を消した世議は截拳道、同じく季文は少林寺の棍だな。棍と杖もまた勝手が違うものだが」
敬風はまるで当然のようにさらりといったが、世議(呂拠)と季文(朱異)はこの間、部内のごたごたに巻き込まれて退部してしまった仲間。あたしは二人のことを思うと…寂しくなるから、あまり口にしないことにもしていた。
当然ながら、ふたりがどんな武術に通じていたかとかなんてあたしもよく知ってる。
「ついでにあたしが何をやってるかは知ってるか?」
「諸嘗流でしょ。古武術の」
…ばかにするなコノヤロウ。
しつこいようだがあたしは身内だったら大体誰がどんな武術に通じているか知ってるつもり。防具があってもそれが意味を成さないといわれる諸嘗流の使い手は、少なくとも長湖部では敬風以外にはいないと思う。
だからこそ、杖術なんて知らなくても当然。身内に使ってる人間なんて…。
「…じゃあ、世洪は?」
「え?」
あたしは小首を傾げた。
世洪(虞レ)…なんかいまいちピンと来ない。あたしの記憶が確かなら…。
「確か世洪って運動神経キレてるはずだよ? だって逆上がりも出来ないし、マラソンだって何時もビリ…」
「あぁ、やっぱり知らなかったか。てことは知ってるのはあたしと承淵位じゃないかな…世洪は件の神道夢想流の使い手、いや、達人といってもいいな。アイツは部のごたごたに巻き込まれたくないから、わざとネコ被ってるんだよ」
「うっそ〜? あの世洪が?」
「そうだなぁ…今の部はだいぶ落ち着いてきたから、久しぶりにやってるかもしれないな」
あたしは未だに信じられず、美味しそうに鮭冬葉を味わうその顔を凝視した。
もしかしてあたしはまた馬鹿にされて、一杯食わされかかってるんじゃないかって身構えた。あたし、敬風には常日頃からかわれてわりと痛い目観てるしね。
「ウソだと思うなら、明日5時頃に起きて寮の中庭見てみな。運がよければ面白いものが見れるよ」
そう言って、敬風はまた一切れ、鮭冬葉を口に放り込んだ。

830 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:56
次の日の朝。
あたしはいつもより一時間半早い目覚ましに起こされ、晩秋の冷たい空気から逃れるように布団の中に…戻ろうとしたところでようやく、目覚ましを早くセットした理由を思い出した。
半信半疑というか、あたしはまったく信じていないし、はっきりいって騙されるのは癪だったけど…まぁウソならウソで、たまには朝から勉強してもいいかなと思ってとりあえず起きることにした。
…確か中庭を見てみろ、とかぬかしてたよね。
いいわよ、見てやろうじゃないの。どうせまだ街灯がついたままの、寒々とした石畳の景色が見えるだけなんだから。
そうして、あたしはカーテンを明け払った。寮の三階にあるあたしの部屋のその位置からなら、ちょうど中庭が見れるはずだったから。
そうして辺りを見回す。窓を閉めた状態では見える位置も多寡が知れているので、あたしは強烈な冷気が部屋に入るのを承知の上で窓まで明け払い、寒さを感じる前にベランダに飛び出し…そして見えたのは。
「…誰もいないじゃない」
まぁ予想していたとおり、あたしはまたしても彼女に一杯喰わされたわけだ。
結局彼女の言葉を少しでも信じようとした自分に腹が立つと同時に、一気に寒気が襲ってきてあわてて部屋の中へ戻ろうとした。
「あれ…?」
もしそのときそれに気がつかなければ、あたしは今日も敬風にいわでもなことをいって、散々馬鹿にされたのかもしれない。
振り向きかけたとき、寮の玄関に人影が見えた。
遠目でもはっきりわかる学校指定の青いジャージ、そしてその特徴的なプラチナブロンドの髪は…。
「…世洪?」
見間違えようがない。彼女みたいな目立つ容姿の娘はそういない。
それに自慢じゃないけど、ゲーマーでも本の虫でもないあたしの視力は両目とも1.5あるからはっきり解る。
みれば彼女、手には棒の様なものを携えている。
中庭に出てきた彼女はストレッチを始め、よく身体を解している様子。ストレッチを終えると、身体も温まってきたらしい彼女はジャージの上を脱ぎ、袖を腰のあたりにまき付け縛り付けている。そして、おもむろに手に持った得物を構える…次の瞬間。
「…やっ!」
凛とした、よく透る声の気合一閃、彼女の技が、放たれた。
踏み込んで突き。横薙ぎ。打ち下ろし。突き上げ。
時折織り交ざる掛け声で技はどんどん変化していく。総ての技がまるで流れる水のように、まったく無駄のない連なったひとつの動きを…ううん、もう言葉じゃ全然説明できない。
「…綺麗…」
素直に、そう想った。
例えるなら、日本刀の美しさに近い。
引き込まれそうな美しさを持ちながら、あの前に自分がいたら…という恐怖感も併せ持つ…そんな美しさ。
あたしはその見事すぎる"練武"から、何時の間にか目が離せなくなっていた。
「…お〜い、公緒、起きてるか〜?」
不意に真下から軽そうな声が聞こえてくる。
その声に、あたしは現実から引き戻された。下を見れば、上着を脱いだままの世洪がいる。
「お〜、珍しいじゃない。寝惚けて這い出てきたってワケでもないみたいね〜」
彼女は何時もの彼女に戻っていた。
これがついさっきまであの見事な技を繰り出したのと同一人物とは信じられなかった。

あたしは自分の目に写ったものの真実を確かめるため、自分もジャージに着替えてその上からパーカーを羽織り、中庭に出てきていた。
「…おはよ」
「うむ、おはよう」
挨拶を交わす。
でも、そのあとの言葉が続いてこない。
訊きたい事が多すぎて、一体何から話したらいいのか…そう思っていたら、彼女のほうから口火を切ってきた。
「…あたしがこんな事してるなんて、やっぱり意外だった?」
「あ、えっと、その」
「あたしも隠すつもりはなかったけど、あんまり騒がれるのって、好きじゃないから」
その淡々とした口調に、なんだか悪いことをしてしまったんじゃないかという気になってくる。
「ごめん…でも、気になったから…敬風が言ってたことが本当かどうか…」
「ええ? まさかアイツこのこと知ってんの? 巧く隠してたと思ってたんだけどな〜」
驚いてる。なんだか意外なことだったらしい。
「…見てるヤツは結構見てるもんねぇ。それであんたはまたしても敬風に一杯食わされて見ようと此処に出てきた、というわけね」
あたしは頭を振る。半分はあたりだけど、もう半分の理由。
「それもあるけど…あたし、これが本当だったら…世洪に、訊きたい事があったから」
「ふむ」
彼女は腕組みしてちょっと思案顔。
「あたしに答えられる範囲でならいいけど…後で良いかな。流石にそろそろ皆起きだしてくるし、朝食の準備もあるからね」
「う、うん」
そしてあたしも彼女にくっついて自分の部屋へと戻っていった。

831 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:57
その日の昼休み。
あたしは彼女と図書館の談話室に来ていた。子賤(丁固)とか他の娘達も何事かと思ってついて来ようとしたのを、敬風が気を利かせて巧く丸め込んでくれたらしい。振り向きざまににかっと笑って見せたあたり、昨日の鮭冬葉の礼のつもりなのだろう。
世洪にも何か奢ろうとしたけど、今朝のことをおおっぴらに言わなければ別にいいとのたまった。けどまぁ、後でお茶の一本も奢る事にしておくかな。
「…んで、訊きたい事って何なのさ?」
「う、うん。実はね…世洪がやっているあれって…」
「神道夢想流杖術…ああ、なるほど。あんたまだ、あのひとに打ち勝つことに拘ってるのか」
ずばり言い当ててくれるよ、このひとときたら。
あたしが余程解りやすい人間なのか、それとも彼女や敬風の洞察力がバケモノじみてるのか…あるいはその両方なのかもしれないが、もう呆気にとられる他にない。
「うん…だから、せめて詳しい人に、どんなものだか教えてもらおうと思って。今のあたしには、どうしてもあのひとのことを、よく知っておきたいと思うから」
「なるほどねぇ」
彼女は腕組みしたままうんうんと頷く。
「…王文舒先輩の腕前が実際どれほどのものかはあたし知らないけど、少なくとも杖術というならとんでもないひとを、あたしはひとり知ってる」
「え?」
とんでもない、と彼女が言った。
先に対決した王昶先輩ならいざ知らず、世洪の技量だって今のあたしにとっては勝てるかどうか解らない。
…ううん、正直、勝てる気がしない。それがとんでもないひと、なんて…あたしには想像もつかなかった。
「誰なの、そのひとって…?」
あたしは恐る恐るといった具合に、目の前の少女に尋ねてみた。
「姉さんよ、あたしの」
それはなんとも意外すぎる人物であった。

「姉さんは一般的には長湖随一の口の悪さのほうが有名だったアレもあるけどね。良くも悪しくもお祭り人間の多い長湖初期の経理を一手に引き受けていた業績のほうが目立つから、姉さんが杖の達人だったことを知ってる人はかなり少ないと思う」
確かに、彼女のお姉さん…仲翔(虞翻)先輩といえば、皮肉屋として有名な人だ。
でも、先輩は先代部長のために、あえて濡れ衣を被って誰の目からも触れないところから長湖部の危機を救ったひとであり…先代部長と先輩がどれほど強い絆で結ばれていたか…そんなことを知っているのは今の同期の中でもごくごく少数。あたしも、その少数のひとりだ。
けど、仲翔先輩が杖術の使い手だったなんて話は、これが初耳だ。
「姉さんはあくまで護身のためと言い張ってたけど…あたしに言わせれば、あのひとが戦線に立たなかったのが不思議なくらいよ」
「強かった、ってこと?」
「そんなレベルじゃない…はっきり言って、姉さんは天才よ。姉さんが編み出した"秘踏み"は、恐らくは世に出ずに終わる絶技…あたしが主将にならないのは、せめてあたしがあの"秘踏み"をモノにしてから…そう思っているからよ」
そう言った世洪…その顔は、ちょっと寂しそうに見えた。
彼女も、やっぱりお姉さんの後姿を見ながら、色々考えたり、悩んだりしているのだろう。未だに義封(朱然)お姉ちゃんの影を追い続けている、あたしのように。
「やっぱり、その技って難しかったりするの? いろいろと」
「ううん、"秘踏み"の理論そのものは単純よ。公緒、"一の太刀"は知ってるわよね?」
「うん…まだ、習った事はないけど…確か逆足踏み込みから、更に利き足で一気に踏み込みながら撃つのよね」
「そうね。でも"秘踏み"は更にもう一度、そこからさらに逆足で踏み込みながら一気に斬り抜けるの」
「…ええ?」
ええと、つまりはこういうことか。
利き足で踏み込んで撃って、そのまま更にもう一歩踏み込んでいくと…でも。
「そんなことしたら、振りぬきの勢いがかかりすぎて自分の足まで斬っちゃうんじゃ?」
「真剣でやったら、そうかもね。杖や木刀でも、誤爆は骨折の元になるわ。だからしばらくあたし、朝のをしばらく休んでたんだけどね」
一瞬また敬風に騙されたと思ったけど、よくよく考えれば彼女は秋頃しばらく体育は見学してたっけ。
それに頭のいい世洪のこと、のっけの幸いと本当に猫を被ってたのかもしれない。
孫峻先輩ならいざ知らず、見境のない孫リンが彼女の実力を知っていれば本気で潰しにかかるくらいはやってたかもしれないし。
「…ねぇ、世洪」
しばしの沈黙を挟んで、あたしは世洪に問い掛けた。
「もし世洪さえ良ければ…あたしも朝のあれ、いっしょにやっちゃ…ダメかな…?」
恐る恐るその顔を覗き込んでみる。
何か呆気にとられたような顔をしていたが、彼女は、
「そうね。ひとりよりも、ふたりのほうが何か掴むものがあるかもしれないわね」
そう言って微笑んだ。

832 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:57
以来、あたしは彼女と一緒に、朝に自主トレを始めるようになる。
王昶先輩が突如引退を表明したことを知ったのはそれから間もなくの事で…敬風なんかは「押しかけて闇討ちでもいいからちょっと叩きのめして来い」なんて言ってたけど、実際のところ再戦を申し込むという考えは、あたしにはなかった。

「随分剣も鋭くなってくるわね。あたしがこういうのもなんだけど、やっぱりあんたスジが良いわ。"一の太刀"の極意を掴むにもそう時間は要らなさそうね」
「…それほどでもないよ」
朝、毎日30分ほどのトレーニングを続けることふた月が経とうとしている頃。
あたしはようやくこの生活に慣れてきて、最初は目で追う事すら出来なかった世洪の"乱調子"も、かなり見えるようになってきていた。
今日は休日で、他の子達もほとんどは夢の中。あたしたちは普段より長めにトレーニングの時間を取っていた。
どちらともなく休憩を取ろうと、中庭にベンチに腰掛けた。
「…でも公緒、本当にいいの? 王昶先輩の事」
世洪が不意にそんなことを訊いてきた。
確かに再戦する機会があれば、あたしはもう一度戦っては見たかった。
けど、その勝負での勝ち負けが、すべてじゃない…あたしは、そう思っているから、
「あたしにはあたしのやり方で、"勝つ"ことは出来ると思うから」
頭を振りながら、あたしはそう応えた。
「それも、そうだよねぇ」
彼女もそれを酌んでくれたのか、にっと微笑(わら)い返した。
「…そろそろ、一度手合わせしてみようか?」
「そうだね」
そしてあたしたちは、今日もそれぞれの"目標"に向けて歩み続ける…。


そんな二人の様子を眺める、二つの影がある。
ひとりは紫がかったロングヘアの少女。筆書きで「海老」と白抜きに大書された紺のトレーナーに、デニムジャンパーとヴィンテージ物らしいジーンズに黒のブーツを身につけて、どこか緊張感のない表情で朱績たちを眺めている。
もうひとりはそれとは対照的に、ウェーブのかかった黒のセミロング。ベージュのハーフコートから、厚手のチェックスカートが覗いており、お揃いのブーツを身につけている。
「やれやれ…もうこりゃあ、ちょっと突っついてどうにかできるシロモノじゃなくなっちまったなぁ」
「完全なミスね、文舒。引退は良いけど、とんでもない厄介事残して…玄沖が可哀相だわ」
ウェーブ髪の少女の淡々とした物言いに、文舒と呼ばれたその少女は、朱績たちを指差しながら言う。
「まぁ、いいんでねぇの? そのくらいの"壁"があったほうが、かえって玄沖のためになるし?」
「相変わらずね」
やれやれ、といった風に、少女は頭を振る。
「…それにあなたも、再戦は果たさなくて良いの?」
「愚問だな」
踵を返し、その少女が振り向きつつ言う。
「そんなものは、何時だって出来るし、何時だって受ける事も出来る。そうだろ、伯輿?」
「そうね」
「今はただ、あいつらが何処までやってくれるのか…そして玄沖たちがそれをどうするのか…それを見届けてみるのも一興だな」
立ち去るふたり…蒼天生徒会随一の名将であった王昶と王基の言葉を聴くものは、その場には彼女たちしかいなかった。


(終)

833 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 21:02
「夾石のディキシィ」の後日談的な話を勝手に考えてみました(゚∀゚)
結局陳矯の話も全然カタチにならねぇし斜陽期長湖の続きも巧くまとまらないし。

本当の「大法螺吹き」と言うのは海月みたいなのを言うのだろう_| ̄|○


しかし此処へSS持ってきたのはあれか、夏祭り以来か。ずいぶんご無沙汰だったんだなぁ…(  ̄ー ̄)y=~~~

834 名前:烏丸沙宮:2005/11/16(水) 21:09
>海月 亮様
す・すすす素敵妹キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!! 可愛いなぁこのヤロウ。
虞レ可愛いよ可愛いよ虞レ。


それでは、ネタSS投下行きます。

835 名前:烏丸沙宮 『マックスコーヒー。。。』:2005/11/16(水) 21:13
 それはいきなりだった。
 「おねーちゃん!今日は私が作るよ!!」
 その言葉に固まったのは、徐晃と張遼。
この二人は剣道部つながりで友達であり、『つくる』と言った人物
――徐蓋と張虎――の姉である。徐晃が徐蓋の肩を揺さぶった。
 「ねぇ蓋!お菓子が欲しいならお姉ちゃんが買ってきてあげるから
止めよう!?かなり怖いよそれ!!」
 「大丈夫だよ。そんなに信頼ない?」
 不平な顔をした徐蓋に、張遼がつぶやく。
 「虎はともかく、蓋ちゃんじゃなぁ・・・。」
 「姉さま、駄目?」
 「いや、虎が手伝う(というかほとんど作る)ならいいよ。」
 張遼は妹に、少し甘いようだ。いや、張虎はお菓子作りが得意だから、
それでいいのだろうが。それに徐蓋が喜ぶ。
 「んじゃ、早速作るよー!!」



 「えーと、まずは・・・。」
 「ゼラチンを溶かさないとね。湯煎しよう。」
 「ゆせんってなあに?そもそも普通に鍋で溶かせばいいんじゃあ・・・。」
 「・・・鍋で溶かしたら凄いことになるよ。お湯を沸かして、その中で溶かす
のよ。お菓子を作るなら、それくらい覚えておかなくちゃ。」
 なんやかんやとやっている二人のすぐ後ろで、姉たちはため息をついた。
 「・・・不安だなぁ。ま、虎がいるから大丈夫だろうけど・・・」
 「やっぱり文遠もそう思う?・・・ゲテモノ食わされないかしら。」
 
 「えーと、それでこれを入れて・・・。」
 [え?何入れてるの?]
 考えながら何かを入れている徐蓋に、張虎が問う。徐蓋は当然とでも言う
ように答えた。
 「んー?マックスコーヒー。これ甘くて美味しいよ?張虎も飲む〜?」
 「・・・いや、いい。」
 遠慮した張虎に、徐蓋はつまらなそうに眉根を寄せる。
 「え〜?美味しいのにぃ・・・。」
 そういいながら一口ソレを飲んだ。



 やがて、台所から噎せそうなほど甘い匂いが漂ってきた。
張遼が吐き気をこらえて徐晃に聞く。
 「ねぇ。徐蓋はいったい何を作ってるの・・・?」
 「知らない・・・。寧ろ私が聞きたい・・・。」
 徐晃が頭を抱えて答えた。向こうから徐蓋と張虎の声が聞こえた。
 「よし、後はこれを冷蔵庫で冷やして固めるだけ!だよね、張虎。」
 「うん・・・頑張って・・・もう、駄目・・・・・・。」
 早速張虎が逃げたようである。姉二人は顔を見合わせてため息をついた。



 その後。残りの五将軍と李典、そしてその妹たちが呼び寄せられた。
 「何だ徐蓋・・・って、ま、まさか・・・!!」
 不機嫌なのは于圭。于姉妹の妹である。だが、すぐにおびえたような表情
になった。・・・ゲテモノを食わされた経験があるらしい。
 「大丈夫だよー。(外見的には)そんなに不味い物じゃないから。」
 笑う徐蓋に、全員がほっとした。・・・張虎と于圭を除いて。

 全員が席に着くと、徐蓋が手際よくデザートを運んでいく。そして、
並べ終わった後。
 「んじゃ、いただきまーす!」
 思いっきり食べ始めた。甘くて美味しいという徐蓋に、皆がそのゼリーを
口に運ぶ。そして、徐蓋を除く皆が叫んだ。
 「甘過ぎッ!!!」




 PS.その後、ばたばたと人が倒れていく、最後には徐蓋が総て食べつくし
たという・・・。

836 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 23:30
おお、久方ぶりの五覇妹話ですな(゚∀゚)
前回に引き続きマックスコーヒーにこだわる徐蓋タンいいわぁ(*´Д`*)

というかどんな材料にマックスコーヒーを混ぜていたのやら…?((((;;゚Д゚))))
そして全員がノックアウトされたシロモノを食べ尽くす徐蓋…「ONE」の茜なみの甘党だな…。


ちょっと思い出したので、余談めいた話をひとつ。
実際にコーヒーゼリーを作る場合、実は冷やすと甘味が感じにくくなる事を考慮してかなりの量の砂糖を加えなければならないそうで。
普通にコーヒーを飲むときに入れる量の割合(カップ1杯に大体角砂糖1〜2個)では甘味なんてなくなるので、実はマックスコーヒーをそのまま固めるくらいが丁度良いとか…?

837 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 16:59
「きゃっ」
「わぁ」
王昶の体の上に柔らかいものが覆いかぶさってきた。
柔らかいが重いものだった。


王家只今合宿中


それは夏休み前までさかのぼる。

「夏休み、みんなでうちの別荘にいかない?」
王凌が読んでいた単行本から、ふ、と顔を上げてみんなに声をかけた。
青州棟の棟長の執務室にいた人間がみな王凌の顔を見る。
王凌と姉妹の契りを交わした王昶。
王凌に見出された王基。
王凌の従妹、令孤愚。
3人の1年生の視線が王凌に集中する。
「えっと……お姉さま、今なんと?」
他の2人の思いを代弁するかのように王昶が口を開いた。
「合宿……そうね、合宿とでも思えばいいわ。今の時期ならお姉様もおられるはずだし……」
王凌が呟くように言う。お姉様……かつて学園の全校評議会評議長にまで上り詰めた王允のことだろう。
夏休みの予定……3人はそれぞれ考える。
もちろん王凌の申し出を断る理由は見つからなかった。

「いらっしゃい、みんな」
白いワンピースに身を包み、深窓の令嬢といった風貌の王允が4人を出迎える。
にっこりと微笑みながら……このような笑みは学園にいたころの、あの苛烈な性格からは考えづらいものだ。昔のように皺が眉間に刻まれていることもない。
『いろいろ苦労したんだろうなぁ』とか思いながら王凌以外の3人は内心でうんうんと頷く。
「お姉様、しばらくよろしくお願いしますね」
「こちらこそ……さ、疲れてるでしょ。入って」
笑顔の王凌に笑顔の王允。
珍しいことではある。
玄関から入っていく2人の後ろを見ながら、王昶、王基、令孤愚は一瞬顔を見合わせて、いそいそとあとに続いた。

838 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 17:00
「やっぱり久々だとずいぶん埃もたまってるわね……」
いち早く荷物を部屋に置いて、応接室でくつろいでいた王昶に、やはり部屋に荷物を置いてきたのであろう、2階から下りてきた王凌が声をかけた。
王基と令孤愚はまだ部屋で荷物の整理中。
王允はキッチンでご飯を作っているようだ。
王昶も王允の手伝いをしようとしたのだが『お客様はもてなされるのが礼儀よ』とやんわり断られてしまったので手持ち無沙汰なのである。
つまり応接室にはお姉様とたった2人なのだ。
「……あ」
それと自覚した王昶は顔が赤くなるのを感じる。
それに気づいているのかいないのか、王凌は王昶の座っているソファのそばにより……壁を指でなぞり……
「ほら、ここなんてこんなに……」
そのままバランスを崩して王昶の上に倒れてきた。

そしてシーンは冒頭に移行する。

下から王昶は王凌の体を抱きしめながらドキドキしていた。
ちょっと重たいがそんなことは問題ではない。
王凌の匂いとか体温とかそういったものがいろいろ感じられて……鼻血が出そうだった。
「はい、そこまでー」
「……17時台でそれ以上の展開はダメよ」
2階に2人ほどお邪魔キャラがいたのを忘れていた王昶は真っ赤になって王凌から離れた。
「文舒、ラブコメなら私らのいないとこでやれ」
「……ま、あとで思い出になるわね」
令孤愚はからかうようにいい、王基は冷静に手元にあるデジカメを確認する……ってデジカメーッ!?
「伯輿……それはどんな思い出なのかな?」
「……お姉さまに押し倒されたのになにもできなかったヘタレな思い出」
冷静に受け流しながら満足そうに頷く王基。
いい画像が撮れていたらしい。
「にゃんだとーッ!?」
王昶は王基につかみかかろうとし、王基は2階に逃げる。あとはお定まりの鬼ごっこ、だ。
少し呆然としていた王凌だったがやがてくすりと笑みを漏らす。
「彦雲姉、ご機嫌じゃん」
ととと、と階段をスキップするように下りたった令孤愚が王凌の顔を覗き込む。
「そうね……」
2階ではどすんばたん、という音。
「楽しい夏休みになりそうだな、って思って……ね」
呟いてくすり、と笑う。
「みんなー、ご飯できたわよー」
王允の声が別荘に響いた。
夏の一番星が別荘の上に輝く。

839 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 17:01
あれー? 何ヶ月ぶりー?
どうも空気を読まない北畠蒼陽です。
一応、復活ってことでよろしくお願いしますよ。こんだけブランクあいたってことで新入り扱いで。午後ティー買ってきまっす!

せっかく海月様が旭日記念日をあげたのにSS投稿という自分のクオリティに大変満足しつつネタもないのに文章を書こうとするとこんな支離滅裂なものになってしまうので注意が必要です! みんなはマネしちゃだめだぞっ☆
しかも季節感度外視だしなっ☆

840 名前:海月 亮:2006/01/08(日) 22:08
久しぶりのことなんで散々ネタに逡巡した挙句、結局普通の挨拶しか思い浮かばないヘタレの海月が来ましたよ(゚∀゚)


それはさておき、お久しぶりです。
なんにせよ、無事こうやってお姿を拝見するだけでなく、このような土産を引っさげてお帰りになられたこと、ただ感動するほかありませぬ(ノД`)


…というか旭日祭を前にしてここまで萌えさせられたらたまりませんな(;´Д`)
つかあの文舒たんが完全に祐巳すけ状態…(;´Д`)
いや、「マリみて」にこんなシーンはなかったとは思うけど、なんとなくそんなイメージが湧いただけで…(;´Д`)


よーし、私めも前哨戦に何か持って(ry

841 名前:雑号将軍:2006/01/08(日) 22:16
ど、どうも、おひさしぶりであります。それからあけましておめでとうございます。 北畠蒼陽様、ついに復活して頂けましたか!待っておりました。これからもよろしくお願いします。

王允がまさか登場するとは!それも丸くなってる!!皇甫嵩たちといろいろあったんでしょうねぇ。王昶が麗しのお姉様に囲まれて顔がゆるんでいるとこを想像してしまいました。
僕?えーと・・・ただいま制作中・・・・・・。

842 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 10:59
「センパイ……ここ、間違ってますよ」
「あ、ご、ごめんなさい」
年下の棟長の冷ややかな視線が突き刺さる。
「私だってヒマじゃないんですよ。補佐ってのは私の仕事を楽にしてくれるためにいるんであって、仕事を増やすためにいるわけじゃないと思うんですよね」
「ごめんなさい。す、すぐに訂正します」
滑稽なほどぺこぺこと頭を下げる彼女。
その目の端には涙が……


日のあたる場所


彼女はベンチに座ってずいぶんと遅い昼食をとっていた。時刻はもう3時を回っている。
自分が不器用なのは知っていたけど、まさかここまでなんて、ね……
彼女はそういって自嘲気味に笑う。
膝の上には弁当。家計を切り詰めるためだ。自炊しなければならない。コンビニ弁当なんて贅沢なんてできやしない。
彼女は手を合わせていただきます、と言おうとして不意に視線を感じ顔を上げた。

そこにはいたのは少女だった。
目が悪いのだろうかメガネをかけた少女はじっと彼女のほうを見ている。
少女は中等部の制服を着ていた。まぁ、このベンチは校内とはいえ立ち入りのできない場所にあるわけではない。そう珍しくもないことだ。
しかし彼女はそう思いながら少女から目をそらすことができなかった。
それは少女の強い目の光を見てそう思ったのだろうか……だから彼女は少女がベンチに向かって歩いてくるのを見て思わず心臓が高鳴るのを感じた。
その少女は紛れもなく彼女を見ていた。
彼女も少女をずっと見ていた。
そして時間が流れる。

「先輩、この校区の方じゃないですよね?」

少女がようやく口を開いたとき彼女は一段と心臓が高鳴るのを感じた。
「ど、どうしてそう思うの?」
見透かされた、と思った。
「いえ、昔話です。この潁川棟が韓信先輩の本拠地だったころに今、先輩が座っているベンチが韓信先輩のお気に入りだったんです。なんとなく座らないようにしよう、って不文律があるんですよ」
少女の言葉を聞いて彼女は仰天し、立ち上がろうとする。
「じゃ、じゃあ……」
別のベンチに、と言おうとして少女の次の行動にあっけにとられた。
「でもただの昔話。そんなの守る義務はありません」
少女はすとん、と彼女の横に腰を下ろした。

843 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 11:00
彼女はどぎまぎしながら少女のことを見ていた。
少女は黙って紙パックから牛乳を飲んでいる。ぶらぶらさせる足が可愛らしい。
「先輩、出身校区はどこなんですか?」
紙パックから口を離して少女が彼女に尋ねた。
「え、あ、うん。私は涼州校区」
「そんな遠くから?」
少女は彼女の答えに若干驚いたようだ。この校区出身ではないにしてももっと近い校区だと想っていたのだろう。
「うん、私、バカだからね。課外活動に参加しようと思ったら出身校区じゃなくても、どんなとこにでもいかなきゃ」
彼女の苦笑にも似た笑いに少女が眉をひそめる。
「課外活動は義務じゃありません……なぜそこまでして……?」
「はは、私が多少でも課外活動しておかないと妹が課外活動をするとき苦労するでしょ? 多少でもコネ……まぁ、ないよりマシ程度だけどさ……作っておいてあげないと、ね。私はこんなだけど妹は棟長……もしかしたらそれ以上になれるくらいの人間だと思ってるから」
彼女の言葉を少女は黙って聞き……そしてやがて深いため息を漏らした。
「先輩の妹さんはとても幸せ者ですね。ここまで想ってくれるお姉さんなんてなかなかいません」
自分の出身校区である涼州校区から、ここまで遠く離れた予州校区まで来て……
そして年下の棟長に疎まれ、文句を言われながらも……
それもすべて妹のため。
「先輩、もしよければ先輩のお名前と妹さんのお名前を教えていただけませんか? もしかしたら先輩の妹さんがいずれこの校舎の棟長になるのかもしれませんし……」
少女はそこまで言ってはっ、と気づいたように口を押さえた。そういった仕草は歳相応で可愛らしいのだが発言は大人びている。
「失礼しました。私は……」
彼女は少女の名前を胸に刻む。
「私は荀揩ニ言います」
うん、と彼女は頷いた。
「私の名前は……」
荀揩ヘ彼女と、その妹の名前を胸に刻む。
「私は董君雅。妹の名前は董卓よ」

844 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 11:00
『冬の体があったまる飲み物ってな〜んだ?』と聞かれて『しょうゆ』と即答できる北畠蒼陽です。あったまるけど健康にはむやみに悪いですね。
異色な2人を書いてみました。ありかなしかの2択でいったら……あり? ぎりぎりあり?
ま、董君雅が涼州出身でありながらまったく違う場所に派遣された、とか、嫌いではないエピソードなのですよ。年下の上司にいびられたんだろうなぁ、とか。
この2人のことは気が向いたらまた書くかぁも?

あ、ちなみに今はリハビリ代わりに連投してみただけなんでペースは続きませんよ?
あ、あとは任せた(ガクリ

845 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:31
何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。
だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。
普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。
「…間に合うのかな…?」
自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。
その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。


-武神に挑む者-


呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。
学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。
そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。
それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。

しかし。
彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。
南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。
公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。
魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。

在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。
しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。

「…やっぱり厳しいなぁ…」
長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。
名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。
このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。
「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」
「やっぱ厳しいん?」
「うわ!」
不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。
見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。
「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」
「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」
「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」
「なんとなく〜」
その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。
しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。
「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」
孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。
「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」
「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」
呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。
「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」
「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」
「え…?」
呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。
「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」
「うん…頑張ってみる。おおきにな」
「礼言うトコでもないよ、もう」
自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。
人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。

846 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:31
翌日の昼休み。
混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。
「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」
「ん?」
隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。
「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」
「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」
「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」
「うーん」
サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。
実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。
「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」
「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」
「うちを? でも…」
「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」
自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。
「マネージャーとはどうなんかな?」
「マネージャー?」
「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」
「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」
数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。
そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。

「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」
「あ…えっと、それは」
狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。
明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。
昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。
「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」
「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」
「あ、だからその、それはちょっとした…」
ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。
すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。
そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。
「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」
「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」
「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」
「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」
「だからそうじゃないんです!」
必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。
「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」
そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。

その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。
丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。
「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」
遊び半分ではない。
彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。

847 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:41
とりあえず先の展開が思い浮かばないSSのキリのいいところまでをうぷってみた。反省はしていない。


はい、実はこのSSを書いたのも何気に二月ほど前です^^A
夷陵回廊戦SSも時折手を加えたりもしておりますが、そろそろその前に起きた事件…呂蒙の荊州取りの話を書こうと思ったまではいいのですが。
構想は出来上がっているのに、同時に長湖の卒業話だとか、孫皓排斥計画だとかの長編を同時進行で書いてるうちに存在そのものを忘れかけていたという…。


>董卓の姉貴…
思わず正史董卓伝を見返しちまいましたよ。
つかうちのソースは三国志だけですから実はよう知らんのでして…。

でも異色だからこそ許される組み合わせだってあるでしょう。
このあとの董卓の専横やら、それに逆らって投獄された荀攸とかの件で思い悩む荀令君を想像して(;´Д`)ハァハァするのも一興…(<何処のアブないひとだ


そしてこの勢いで旭日祭とかいったりするのかな?かな?(;´Д`)

848 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 20:05
>海月 亮様
あれ? これは続きを書かなきゃいけないんじゃないかな? かな?
ガンバッテクダサイ。

>董君雅
もうちょっとこの2人のコンビは掘り下げて書いてみたいと思ってます。いつくらいになるかわかりませんが〜。

849 名前:海月 亮:2006/01/11(水) 00:47
>続き
誰か考えてくださいとか言っちゃダメですか?ダメですよねそうですね_| ̄|○
いや、流石にそれは冗談ですが^^A

一応持ち込みきれずに仕舞い込んでみた卒業話も完結したので、旭日祭明けくらいにとりかかる……かも。
多分最後のほうはドリームです。それも、冗談抜きで非難浴びるくらいの…。

850 名前:海月 亮:2006/01/28(土) 23:27
ついでなのでこちらもそろそろ再浮上させますかねぇ(゚∀゚)


というわけで予告。
そろそろ荊州奪取の続き書きます。何気にネタ固まってきたので。


うちのサイトでリク貰った甘寧の話とかも書かなきゃらならんとは思うんだけど…ネタが…_| ̄|○

851 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:13
易京棟、
それは、彼女、公孫伯珪の心の如く、高く堅く、そびえ立っていた――――――――




「えっと、伯珪さま・・・書類を持ってきました。」
「ああ、ありがとう士起、其処に置いていてくれ。」
生徒会長室を出て、あたしはため息をつく。
最近は、伯珪さまはあたし以外を部屋に入れようとしない、従妹の範さま、中等部の妹、続さまですら、だ。
憂鬱な気持ちのまま廊下をしばらく歩いていると、前から範さまが歩いてきた。
「あら、士起ちゃん、どうしたの?そんな顔しちゃって。」
「え・・・」
あたしの悪い癖、気持ちがそのまま顔に出るのだ、ただでさえ範さまは鋭い、すぐにあたしの気持ちなんか看破してしまう。
「いえ、その・・・最近の伯珪さまの様子を見ていると・・・」
「そうね・・・最近の伯珪姉は、以前に増して引きこもり気味よね〜。」
あたしを励ましてくれようとしているのだろう、明るく話しかけてくれる。
なんていい人なのだろう、あたしと同い年とは思えない、そう思うと、逆に、もっと落ち込んでくる。
「まあ、流石の伯珪姉でもさ、敵さんが来れば立ち直るでしょ、そう落ち込みなさんなって。」
「ありがとうございます」
それで話は終わり、寮の自分の部屋に戻る。
いつか来るべき袁紹との戦いを考えると、その夜は、なかなか寝付けなかった




それは、予想外に早く訪れた。
袁紹の攻撃、そして
伯珪さまとの、別れ――――――――


3月、桜の季節。
花びら舞い散る中、彼女、袁紹は攻めてきた。
桜吹雪の中布陣する彼女の姿は、名家の風格を感じさせた。
だけど、伯珪さまはきっと負けない。
あの方は、決して、負けない。
あたしは、そう信じている。



「ふん・・・」
屋上から布陣を見下ろす、
たかが棟一つにご大層なことだ、だが・・・面白い。
久しぶりに、血が騒ぐ。
しかし、だ、白馬義従だけでは、勝ち目はないだろう。
棟の中に戻り、続を探す。
「続、いるかい?」
「なあに、お姉ちゃん」
「悪いけど、BMFのところに使いしてくれないか。」
「張燕先輩のとこだよね、わかった!」
そう言って、すぐに駆けだしていく、よっぽど嬉しかったのだろう、まったく、変わった娘だ、そんなに「お使い」は楽しいのか?
まあ良い、袁紹、首を洗って待っていろ。






やった!お姉ちゃんから久しぶりにお使い言いつけられちゃった!
あいつ、関靖先輩がきてから、お姉ちゃんは、私に冷たくなった、範お姉ちゃんも何も言わないからって関靖先輩ってば、調子に乗っちゃってべたべたして・・・
と、噂をすれば、あの人だ。
「ああ、続さま。」
笑いながら会釈してくる、なによ、いちいち、頭に来る人。
なんなのよ、私に何の用?いいかげんにしてほしいわ。
「あなたに、さま付けされる覚えはありません!」
そう言い放って、あの人を残してガレージまで一気に走る。
いらいらした気分のまま、私は愛車にまたがった。



「・・・と、言うことなんです。」
「ふーむ、士起ちゃんも大変ね。」
廊下を歩いていた士起ちゃんを「範先生の、お悩み相談室〜!」と称し、私の部屋に連れ込んだ。
理由は単純で、私が見ていられなかったからというだけ。
彼女が「範さまってこんなひとだったっけ?」みたいな顔しているのはまあ、放っておいて、大事なのは彼女から聞いた話だ。
まったく、続ちゃんも困ったものだ、なにも、其処まで言わなくてもいいのに。
だが、だいぶ周りに馴染んでいるといっても、まだ伯珪姉の元に来て日の浅い士起ちゃんが、一部の人から少なからず疎まれているのは事実だ。
そう言う私だって、嫉妬が全くないと言えば嘘になるだろう。
本人は至ってよい娘なのだが・・・「新参者」の悲しさか。
「まあ、あの娘が帰ってきたら、私からも言っておくから、元気出して、ね?」
「はい・・・ありがとうございました」
一応、彼女を部屋まで送ってあげることにした、伯珪姉は、戦いの準備で忙しそうで、彼女にかまってばかりもいられないだろう、士起ちゃんは、今、とても寂しいのだと思う。
だから、私だけでも、この娘を大切にしてあげなければ。
わかっている、だけど、どうしても
――――――――胸の奥の嫉妬は消せなかった。

852 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:14
その次の日、私と士起ちゃん、単経ちゃん、田揩ちゃんの四人が、生徒会長室に呼び出された。
士起ちゃん以外の娘―もちろん私も含めてだが―は生徒会長室に入るのは久しぶりだ。
私はわくわくしていた、自分でもすこし恥ずかしいほど、だ。
「ああ、よく来てくれた、早速だが、本題に入らせてもらう。」
話というのはこうだ、伯珪姉が白馬義従を率いて突撃、袁紹軍の背後を遮断、そして私たちが棟から打って出て、挟撃する。ということらしい。
確かに、白馬義従と伯珪姉ならば不可能ではないかもしれない。
だが・・・
「そんな!危険です!それに伯珪さまが今この棟を出たら、みんなの心はばらばらになってしまいます。」
最初に口を開いたのは、士起ちゃんだった。
そう、私が危惧しているのも其処なのだ、今、人心は離れてきている、それでもこの篭城戦が破綻しないのは、伯珪姉がこの棟内にいるからだ。
もし、突破に成功し、袁紹軍の背後を突けても、上手く呼応できないかもしれない。
リスクが、大きすぎる。
「そうですよ!もし、失敗したら貴女の身まで危険に・・・」
田揩ちゃんが続く。いつもはおどおどしている彼女が、これほど大きな声を出すのは珍しい。
「だが、田揩、今の状況を打開するには、これしかないんじゃないか?もし、などとばかり言っていては、何もできないぞ?」
今まで口を閉ざしていた単経ちゃんが口を開く。
「だけど・・・!」
「まあ、そう熱くなるな、二人とも。範、貴女はどう思う?」
「そうですね、確かに、この作戦はリスクが大きすぎます、張燕さまの援護を得た上で実行するのがよろしいかと。」
「ふむ、なるほど・・・皆、それで良いか。」
誰からも異議は出なかったので、これで会議はお開きになった。
とりあえず、張燕殿が到着するまでは、特に仕事はないだろうと思ったのだが、何故か皆解散した後、私と士起ちゃんだけ、また呼び出された。
「ふむ、来てくれたか。」
「どうなさったのですか、伯珪さま?」
「先ほどの話に関わる話なのだが、範、おまえは士起を連れ文安棟に移ってくれないか。」
「え・・・」
文安棟は此処より五キロ程西にある棟で、今はそれほど重要な拠点でもない。
其処に移るということは、今回の決戦には参加できないということ、そして、何より・・・
「何故!?何故なんですか!?そんなにあたしは足手まといですか!?」
悲痛な叫びだった。士起ちゃんの気持ちはよくわかる、彼女は運動こそ苦手なものの、事務的な仕事はよくやってくれていた、決して足手まといなどではない。
伯珪姉も唇をかみ、俯いていた。
私が士起ちゃんを宥めようとした時、伯珪姉が口を開いた。
「すまない、私だって貴女と離れたくない、だが、此処は危険なのだ。わかってくれ。」
伯珪姉が士起ちゃんに話しかける、私ではなく、彼女にだけ。
不意に、嫉妬がこみ上げる。
伯珪姉が、離れがたいのは、彼女だけ。


私 じ ゃ な い 。

そ う

彼 女 だ け。







結局、その言葉に士起ちゃんも折れた。
と、いうわけで、早速私たちは出発することになった。
いまさらながら、あんな風な感情を抱いてしまった自分が嫌になってくる、それなのに、士起ちゃんは、私のことをいつものように見つめてくれる。
やめて。
私は、そんな目で見てもらえるほど、綺麗な人間じゃないの。
もちろん、そんなこと口には出せない。
そんな私の心を知ってか知らずか、士起ちゃんが「いきましょうか?」と声をかけてくる
これ以上考えたら、本当におかしくなりそう。
すべての感情を振り切って、私はバイクのエンジンをかけた。

853 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:16
遂に来た。
続からの連絡、「あと二十キロほどの地点に到着、合図は狼煙によって行う。」
ついに、越の敵をとれるのだ。
白馬義従に出撃の準備をさせる、あと少し、あと少しだ。
じりじりするような焦燥、そして興奮が私を支配する。
それからしばらくして、黒山の方に狼煙が上がった。
「よし!我が精鋭達よ、出陣だ!」







あたしは、範さまと一緒に、空を見ていた。
文安棟から見る空は、易京の空と変わらないはずなのに、どこか寂しく映る、それは、範さまも同じだと思う。
あれ?
「範さま、あれって。」
「狼煙ね、張燕さんはいつもああやって連絡を取るの。」
「へえ・・・」
「でも、少し妙ね。」
「と、いうと?」
「いえ、ちょっとね、なんかいつもより上げかたが下手な気がするの。」
「そうなんですか、あたしにはぜんぜんわからないです」
「うん・・・私の気のせいかもね。」







「そんな・・・」
違う、あの狼煙は違う。
お姉さま・・・そんな
「ちっ・・・袁紹め」
張燕さまも口惜しそうに俯く。
どうする、どうするのよ・・・
考えるのよ、公孫続!
そうだ・・・
「張燕さま、バイク部隊を、私に貸していただけないでしょうか。」
私には、それしか考えつかなかった。全力で行っても、間に合わないかもしれない。
しかし、何もしないのは最悪だ。
「続、落ち着け、あんたが行ったところで、伯珪さんは救えない、それより、あんたが飛ばされずにいる方が大事じゃないか?」
「でも、でも・・」
そんなこと、私にはできない。
お姉ちゃんを、見捨てるなんて、できない。
「・・・本気だな?」
何も言わず、頷く。
「ふぅ、わかった、其処まで言うならこの黒山の飛燕、断るわけにはいかないな。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そう言って、私は、バイクに乗った。
エンジンの震えが伝わってくる、深呼吸して、みんなに呼びかける。
「皆さん、行きますよっ!」







風を切っていく。
袁紹軍の先頭とぶつかり、押し込み始める。
私が突破したところを、田揩と単経が左右から挟撃する。
先頭が崩れ、退いていく。
だが、何か妙だ、退くのが早すぎる。
嫌な予感がする、全軍一旦退け。そう言おうとしたところで、敵の伏兵が現れた。
あの狼煙は偽報ということか。
「退け、退け!易京棟まで退くのだ!」
今度はこちらが挟撃される。
私の周りにいる娘達も少なくなっていく。
どうやら囲まれてしまったようだ、全軍で、ではなくまだ一部の連中なだけましか。
だが、どうしたものか、そう思っていると、いきなり一隊が囲みを突き破ってきた。
「単経!それに・・・続!?」
「お助けに参りました、伯珪さま。」
「同じくだよ、お姉ちゃん!」
相変わらず無表情な単経と、疲れ切った様子だが、笑顔を作る続。
多勢に無勢には変わりない、が、今の私にはとても心強かった。




文安棟に届いた使い、それがもたらした報せは、衝撃的なものだった。
「なんですって!」
伯珪さまが・・・危ない。
さっきの範さまの言ったとおりだったのか。
どうしたらいい?
周りを見ても、みんな驚き、考えが回らないようだ。
こんな時、範さまが居れば・・・
彼女は、用事があるからといって、どこかに行ってしまった。
此処にいる娘達は、いわゆる「文官」というやつで、戦うのは得意でない。
むろんあたしも含めて、だ。
だけど、此処でじっとして居ちゃだめだ、それじゃ、あのとき、伯珪さまと初めてあったときと変わらないじゃない!
今度は、あたしが助けるんだ!
「ちょっと、どこに行くのよ。関靖ちゃん。」
「伯珪さまを、助ける。」
「助けるって言っても、無茶よ!」
「それでも、行かなくちゃいけないのっ!一人でも、あたし行くよ。」
それに、あたしがあのとき止めなかったら、単経さんの言うとおりにしていれば・・・
そう思えば、なおさらだ。
「そうだ、無茶だね。」
この声は、範さま!?
いつの間にか帰ってきていた範さまが後ろにいた。
「あなたまで、そんな・・・」
「第一、  あなた免許持ってないでしょ、そんなんでどうするつもりだったの?」
「でもぉっ!」
「わかってるわ、行くな、って言ってるんじゃないの、私の後ろに乗っかっていく気はない?って言ってるの。」
「えっ・・・」
「ほら、どうするの?」
「い、行きます、お願いします!」
ガレージに向かう範さまの後についていくとき、後ろから呼び止められた。
「あの・・・関靖ちゃん、頑張ってね。」
其処にいた三人、確か劉緯台ちゃん、李移子ちゃん、楽何ちゃんだったか。
「伯珪さまは、いじめられていた私たちに、まるで兄弟みたいに接してくれた・・・私たちが行っても、足手まといになるだけ、だから・・・」
「うん、わかった!みんなの分まで頑張るよ。」
「ありがとう・・・」
「お別れは終わった?」
「あ、はい!済みませんでした、じゃあ、行って来るね。」
「うん・・・頑張ってね。」
それ以上何も言わず、あたしは笑顔で手を振った。





「ねえ、士起ちゃん。」
そう声をかけたのは、文安棟を出て、暫くしてからだった。
「なんですか?」
「あのね、私今まで貴女に嫉妬してたの。」
ああ、言っちゃった、もう戻れないぞ。
「えっ、あっ、その。」
はは、戸惑っちゃてる、それはそうよね、今まで信じてきた人からこんな風に言われたんだもんね。
「だって、普通そうじゃない?私はさ、董卓と戦ってた頃、いや、もっと前から居たのよ?
それがいきなり新しく来た貴女に負けたのよ?」
「えっと、えっと・・・すいません・・・」
本当に、この娘は。なんでこんなこと言ったのにそんな綺麗な瞳で私を見れるの?
「いいの、言ったでしょう?今まで、って。」
「え?」
「さっきもさ、実を言うとね、貴女と居たくなかったから、貴女と居るのが怖かったから、用事って言って逃げたの。でもそれも虚しくなって戻ってきたらさ、伯珪姉がピンチって聞いて、その上貴女が思い詰めた顔でどっか行こうとしていたんだもの、驚いちゃった、でも、その時思ったの、ああ、この娘には勝てないな、ってさ。」
この娘の気持ちは本当、そう痛感したから、私はふっきれた。
「でも・・・範さまの方が綺麗で、優しくて、思いやりがあって・・・」
「そんなの関係ないよ、さっきの貴女を見て、本当にそう思った・・・格好良かったよ、士起ちゃん!自信もって良いよ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
そう、その笑顔。
その笑顔に私は負けたの。
ずっと、そのままの笑顔で、ね・・・
「よし、じゃあ話は終わり!ほら、戦場が見えてきたよ。」
本当だ・・・あ!あれは
「伯珪さまぁ!」
思わず涙がこぼれる、だけどそんなこと気にしている場合じゃない。
「よし、飛ばしていくよ!」
「はい!」
待っててください、伯珪さま。





ある程度は退いてこれたのだが、最早周りには続しかいない。
単経は、私のために殿を努め、
田揩も、乱戦の中で見失った。
「どうしよっか、お姉ちゃん。」
「うむ・・・」
最早、道はないのか、そう思っていると、聞き慣れた声がしてきた。
「伯珪さま!」
「士起!?」
そんな、馬鹿な。
何故士起が此処に?
「関靖先輩!?」
何でこいつが居るのよ、そんな怖がっちゃって。
馬鹿じゃないの?
本当に馬鹿じゃないの?
「あ〜もう!どうでも良いです!とにかく先輩は伯珪お姉ちゃんと退いてください。
ここは私がくい止めます!」
「貴女だけじゃないわよ?私だって居るわ。」
「あ、あたしも・・・」
「先輩は早く行ってください!」
伯珪お姉ちゃんとあいつが遠ざかっていく。
「貴女、士起ちゃんが嫌いなんじゃなかったの?」
範お姉ちゃんが面白そうに聞いてくる。
「あの人は馬鹿です!ついさっきわかりました!でないとろくに戦えないくせに此処まで来ようなんて思いません!でも・・・」
「でも?」
「私は、馬鹿は嫌いじゃないんです。」
「なるほど、良い答えよ。」
そんな話をしていると、袁紹軍が迫ってくる、ざっと五十人ほどだ。
「じゃあ、振られた者同士、いっちょやりますか?続ちゃん?」
「振られた、って言うのがなんか引っかかりますけど・・・まあいいです。」
「よし、行くよ!」
私たちは、敵の群に突っ込んでいった。
関靖先輩、お姉ちゃんを頼みましたよ。







なんとかあたし達は、易京棟まで戻ってきた、ほとんど全員を連れて出陣したらしく、棟内はがらんとしていた。
「ありがとうね、士起。」
「いえ、伯珪さまのためですから。」
「ふっ、そうか・・・なあ士起、私は階級章を返済しようと思う。」
「えっ、そんな・・・」
わかっている、それしかないのだろう、袁紹に奪われるよりはましだ。
でも・・・
「済まなかったな、今まで本当に苦労をかけた。」
「いえ・・・お世話になったのはこちらです、貴女に会えなかったら、あたしは弱虫のままでした。」
「そうだな、私も貴女に会えなかったら、私は一人ではないことにずっと気がつかなかっただろう。」
越がいた、厳綱がいた、単経がいた、田揩がいた、範がいた、続がいた。廬植先生だって、玄徳だって、子竜だっていた・・・みんな、私の周りにいてくれた。なのに、私は気がつかなかった、ひとりぼっちだと思っていた。
「貴女がそれに気づかせてくれた、そして、こうしてそばにいてくれる。
私は幸せ者だ。」
そうだ、玄徳、貴女は、もう気づいてたんだね、一人じゃ何もできないって。
最早夢の終わりだというのに、不思議と口惜しくはなかった。
楽しい、夢だった。
みんな、ありがとう。

854 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:25
なんとか合格した弐師です
>北畠蒼陽様

一応高校受験です。
三国志大戦ってやったことないんです(一応ゲーセン禁止なので)w
高校に入ったらやってみたいですね。

>海月 亮様
ありがとうございます、何とか受験は終わりましたが、どっさり宿題が・・・
それに油断していると受験に向け必死の皆さんにすぐに追い抜かれてしまうので。
(て、言いますか実際段々数学がやばいことに・・・orz)

では、駄文失礼しました

855 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:46
「こんにちは、今日はいいお日柄ね?」
「……」
上機嫌に語りかける少女にもう1人の少女は無愛想に応じた。
袁紹と公孫サン。
易京棟の戦いの勝者と敗者が、同じ易京棟の生徒会長室において顔をあわせた。


ブルーブルーデイズ


「……私はすでに蒼天章を返上した身だ。なんの用だ?」
公孫サンはうんざりしたように……袁紹と目を合わせることもなく視線を斜め下に泳がせながら呟くようにいった。
その背には田楷、関靖ら、公孫サンの腹心たちが憔悴した顔で付き従っている。
「なんの用、ですって?」
公孫サンの言葉に眦を吊り上げる袁紹。
「貴女1人が蒼天章を返上したところで劉虞さんは帰ってこないわ。無意味なのよ、貴女は」
吐き捨てるように言う袁紹。
その話か……公孫サンは顔を下に向け苦笑した。
劉虞は私にとってジャマだった。だから潰した……それだけのことだ。
「なにがおかしいというの……ッ!」
手を振り上げる袁紹。
パシーンという音が鳴り響き、公孫サンが左頬を押さえて1歩後ろに下がった。
「貴様……!」
袁紹に飛び掛ろうとする関靖を左手で制して公孫サンは右手で口の端をぬぐう。
おっと……唇を切ったようだ……
どうでもよさそうに公孫サンはその血を眺めた。
「ふん……無能は無能なりによく躾けてあること。ただその程度が腹心、ってようじゃ私に逆らうのは早すぎたみたいね」
揶揄するように袁紹が呟く。
「……なぁ、袁紹殿。もう開放してもらってもいいだろうか? 今日は見たいテレビ番組があるものでね」
小ばかにしたように言う公孫サンに袁紹の眉が危険な角度につりあがっていく。
お、もう一発殴られるかな……
公孫サンは苦笑する。お嬢様のお守りも大変だ。
しかし次の瞬間、袁紹の顔には微笑が広がった。
「……?」
なんだ、この余裕は……?
「そうね。もう帰ってもかまわないわ……麹義」
「はーいよ♪」
袁紹は後ろに控えていた腹心の名を呼ぶ。それと同時に顔良、文醜……2人が公孫サンの斜め後ろについた。

856 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:46
「みなさんをお連れして頂戴」
「はいはい、了解」
袁紹の言葉に麹義は砕けた一礼をしてから部屋より退出する。
なんだ、この胸騒ぎは……
公孫サンは嫌な予感に眉をひそめる。
「そちらは……部下に対しての躾が完全に行き届いているようね。まったく羨ましいわ」
嫌味でも言わないと……自分が抑えられない。
「まぁ、待っていなさいな」
ふん、と笑う袁紹。
「大将、つれてきたよ〜♪」
「入っていただいて」
廊下からの麹義の声に、視線を公孫サンから離すことなく袁紹は言う。
公孫サンは唖然とした。
そこに入ってきたのは自分の戦友たち……白馬義従の面々。その胸に輝く蒼天章に公孫サンは顔をほころばせた。
……よかった。私のせいでトばされずにすんだんだな。
「よかったわ、貴女が忘れっぽいひとじゃなくて……この方々の顔も覚えておられなかったらどうしようかと思ったところよ」

公孫サンのその表情に満足したように袁紹は、その白馬義従の1人の蒼天章を中指で弾き飛ばした。

一瞬なにが起こったのかわからなかった。
「あらあら、どうしたのかしら、呆けちゃって」
袁紹はくすくすと笑いながら2人目の蒼天章に手を伸ばす。
「貴様ッ! やめろーッ!」
袁紹に飛び掛ろうとした公孫サンは……しかし後ろから顔良、文醜に肩を押さえ込まれ床に倒れる。
袁紹はくすくすと笑いながら……次々と蒼天章を弾き飛ばしていく。
「やめろッ! やめろーッ!」
悲痛な叫び。
袁紹は振り返る。
その目に……公孫サンは初めて恐怖を感じた。
笑みなどもうすでにその顔には浮かんでいない。あるのはただ純粋なまでの憎悪。
「劉虞さんがそういったとき貴女はどうなさったのかしら……?」
公孫サンは黙り込む。
これは罰だとでも言うのか……
黙り込んだ公孫サンに袁紹は白馬義従からはずした蒼天章を公孫サンの顔めがけて叩きつける。
蒼天章は公孫サンの額にぶつかり、血が流れた。
「私は……貴女をトばしたことを誇らない。最も恥じるべき愚者、公孫サン、貴女はこの学園に通う価値もないわ」
袁紹の宣告にも公孫サンは答えることができず……

翌日、公孫サンは転校届けを出した。
彼女がどこに転校したのかは学園史にも残されていない。

857 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:47
かっこいいエンディングのあとには醜いほどのエゴがあるッ!
どっちかといえばエゴのほうを書いてたほうが楽だと思う北畠です、ごきげんよう。

>弐師様
……に影響されて公孫サン&袁紹を書いてみました。
公孫サンを書いたのははじめてかな?
かっこいい話のあとなんでおもいっきしアレな話にしちゃいましたが……なんか、ねぇ?
最近ギャグを書いてないのでギャグが書きたい! もう空気読んでないようなギャグが!

とりあえず合格おめですよぅ。
高校受験といえば……うちの中学もゲーセン禁止だったんですが受験の帰り道、ゲーセンに寄ったら先生に見つかって補導されたのはいい思い出ですあははははは!
三国志大戦はおもろいですよ〜。もしよかったらいろいろ教えますし(笑
ぜひやりまっしょい。

858 名前:海月 亮:2006/02/07(火) 20:40
うむ?



( ̄□ ̄;)


おい俺は越されたのかぁぁぁ━━━━━━(;;゚Д゚)━━━━━━ !!??



やばいよここんとこ2chの音ゲー板で遊んでたよ私!?
つか私ってば確か関羽攻略の続き考えてたと思ったら…

ぜんぜん話進んでないようわーん回線切って吊ってやるー!・゚・(ノД`)・゚・


…冗談はさておき(半分本気だったけどw)
>弐師様
いやぁやれやれ、なんだかあっという間に追い越されちまいましたよてかもうメチャ萌えた(;´Д`)
大丈夫大丈夫、腑抜けた今の私じゃあ束になってもこれ以上の作品かけませんって_| ̄|○

こうなったら絵で支援だ、近日ちうに関靖描いて来る!!(;;゚Д゚)ノシ

>北畠蒼陽様
お嬢様黒いよお嬢様ッ!(;;゚Д゚)でもそういうのも私は大好きだ!!w
いつぞやの鐘会もそうだったけど、人間のこういう面を巧く書けるのってめっさ羨ましいです本当に。
私はそういう表現が下手くそだから未だに岑昏と郭図のイメージが巧く出来なくて困ってますよ_| ̄|○

859 名前:弐師:2006/02/08(水) 20:36
>北畠蒼陽様

良いですね、劉虞を飛ばしてからの「小董卓」的な公孫サンにはこういう結末しかないでしょうね
私にはこういった話は書けないのでうらやましい限りです。
三国志大戦には劉虞と公孫サンは出てるんですか?

>海月 亮様

いえいえ、まだまだ未熟者でございます。
続きを期待していますです。
無理せず頑張ってくださいませ。


さて、次はどうしましょうねぇ。
九泉での劉虞と公孫サンの話とか、界橋とか、劉虞戦とか。
個人的には劉虞も好きなのでその話になりますかね。

860 名前:冷霊:2006/02/11(土) 16:41
白水門への出立

「やっぱり行くんですか?」
「ああ、タマのお願いなら断る理由がないだろう?」
楊懐が荷物をまとめ、問いかけに答える。
「でも、先輩達がわざわざ白水門まで行かなくても……」
「あたし等だから行くんでしょ?」
トウ賢の言葉を高沛が遮る。
「それだけ信頼されてるって証拠でしょう。嬉しい話じゃないの」
高沛がトウ賢の肩に手を置く。
「それに気になることもあるしね……」
高沛が楊懐に視線を送る。
楊懐は応じるかのように頷く。
「……荊州の劉備」
視線の意味を理解した冷苞が口を開く。
「いくら張魯対策っつっても、わざわざ呼ぶ必要もないと思うんですけどねー……」
トウ賢が呟く。
周りの意見を鵜呑みにするのは劉璋の悪い癖である。
今回は曹操への偵察もこなした張松の提案だが……どうも腑に落ちない。
賛成派が異様に多かったのも気になる所である。
「張魯くらい、オレとトウ賢でもトバせるのに……」
「冷苞、相手を倒すだけが戦いじゃないぞ」
楊懐が嗜めるように言う。
「相手を制するのも戦いだ。お前等が行けばどれだけ怪我人が出ると思う?」
「あ……」
冷苞が不意に声を漏らす。冷苞やトウ賢が腕が立つのはわかる。
下手すると高沛や楊懐とタメを張るかそれ以上なのだ。
そんな二人が行けば当然敵にも大きな被害が及ぶだろう。
「タマちゃんの優しさってトコかな?相手のことまで気使う必要ないのにさ」
クスリと微笑む高沛。
「ま、逸る気持ちも分からないでもないが、な」
楊懐が笑みを浮かべ、冷苞の肩を叩く。
「楊懐さん……」
冷苞が握り締めていた拳をそっと解く。
「ま、私の初陣もお前達と同じ頃だったからな」
懐かしそうに楊懐が遠くを見つめる。
その様子を見て、同じく目を細める高沛。
「そうそう、初陣と言えば楊懐が……」
「こ、高沛!」
少しだけ慌てた様子で楊懐が声を張る。その頬は僅かに紅潮している。
「初陣がどうしたんですか?」
冷苞が首を傾げた。
「ん?聞きたい?聞きたい?」
「聞きたいでーす」
トウ賢が口元を綻ばせながら答える。
一方、尋ねた高沛の口元も既に緩みっぱなしだったりする。
「無駄口を叩くな!高沛、さっさと行くぞ!」
「楊懐せんぱーい、まだ荷物詰め終わってないんじゃないんですかー?」
憮然と立ち上がる楊懐へトウ賢が追い討ちをかける。
「だ、だからさっさと準備を済ませろ!それに高沛も終わってないだろう?」
「……あ」
そこには詰める途中で放置された高沛の荷物が置いてあった。
「それじゃ、さっさと準備済ませちゃいましょーか。冷苞は楊懐先輩の手伝い宜しくー」
トウ賢はすたすたと高沛の後に付いて行く。
「うーん……一体何が……?」
冷苞は首をかしげたまま、楊懐の方へと歩み寄っていった。

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