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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

201 名前:彩鳳:2003/02/20(木) 02:06
 
 >岡本様
「広宗のG・P・M」、拝読致しました。
 流石は無敵の新聞部と言うべきか・・・音楽に国境は無い、という事でしょうね。
 ただ、私もガンパレは詳しくないのであまりそっちの話が出来ませぬ。(‐‐;
 一番格好良いのは主役のの4人の筈なのですが、それ以上に皇甫嵩が
格好良すぎると思ってしまったり(^^; 

 すみません。ここから先は与太話です(−−;
 合唱の事は詳しくありませんが、最近のアーティストは昔と比べて声が高くなっている。
騒音の中でも声が良く聞こえるからだ・・・という内容の番組を数年前に見た覚えがあります。
そういう実験結果もあったと思います。
 また、たまたま通りかかった心理学関係のサイトでは、音程の高い曲ほどカタルシス
(=心を癒す効果)がある・・・という文章を見かけました。
 これに関しては、私の好きなワーグナーやヴィヴァルディは完全に当てはまっています。(と私は信じています(^^; 
 (ただ、両者の曲の性格上、ワーグナーは「壮麗」、ヴィヴァルディは「華麗」と言うべきだと思いますが・・・)

 >雪月華様
 「黄巾の落日」より
 何と言えば良いのか・・・切ないですね。この手のシリアス物も機会があったら手掛けてみたいです。
 本当は、「一月の花時雨」もシリアス路線の筈だったのですが、完成した第一部はああなっていた(滝汗)ので、
私としても参考になります。SSの中盤をこれから手掛ける予定なので、活かせればいいのですが・・・。  
 すみません。ものの勢いでこんなものを ↓・・・(−−;
 http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi

 「烏丸征伐反省会」より
 これは・・・!面白いです! 呂布が出てる話って余り見かけないので、新鮮な感じですね。
 次の第3部で呂布の絶大なパワーが炸裂しそうな予感ですが、張遼がどう対抗するのか・・・
非常に楽しみであります。 

 >教授様
 「簡擁と張飛」より 
 これです!私もこんなコミカル調(?)に筆を進めたいのですが、なかなか難しい・・・(‐‐;
 それにしても、簡雍の神出鬼没ぶりは神の領域に達していますね。(^^; ジャーナリストは情報力が命ですが
(世論とは別のアングルから物を見るスタンスも必要ですが。)
 簡雍に関しては、私のSSでも登場予定なので、これまた参考になりました。
 
 話は変わりますが、簡雍に海外で売られている様なウソ専門の雑誌を書かせたら無敵じゃないか?
と思うのは私だけでしょうか(^^;;;
 けどそれだと新聞部が新聞部として成り立たちませんね・・・( ̄▽ ̄;

202 名前:雪月華:2003/02/20(木) 10:39
烏丸征伐反省会 その3 〜呂布と張遼 −勝者と敗者−〜

 剣道場に殺気が満ちている。凄まじい殺気の奔流を発している呂布。急流の中に屹立する岩のようにその殺気を押し返すでなく自然に受け流す張遼。呂布は相変わらず竹刀を右手に下げ、張遼は八双に構える。部員達は呂布の気に圧倒され、ほとんど背後の壁に背中を押し付けられるようにしていた。凄まじい緊張感。
 不意に呂布がそのままの構えでスッと右側に一歩動いた。0.2秒前まで呂布の喉があった空間を張遼の竹刀が貫く(ちなみに中学生の剣道では喉への突きは禁じ手です。高校以上は有効。)。必殺の突きを外されて張遼は体勢を崩さ…なかった。刺突と同じ速さで手元に竹刀が引き戻され、すかさず胴を薙ぐ。呂布が跳んだ。3尺(約90cm)ほど飛び上がる。足の下スレスレを張遼の竹刀が通り抜けていった。呂布は着地と同時に面打ちに行く。張遼は流れた竹刀を引き戻さず、逆に竹刀のほうに体を寄せ、面をかわした。呂布の竹刀が床を打つ寸前に静止し、右膝をついた呂布は伸び上がりつつ右足を踏み込み、竹刀を凄まじい勢いで斬り上げる。体勢を立て直した張遼が袈裟懸けに斬り下げる。乾いた音がして、お互いの竹刀が中ほどから粉砕された。お互いに一歩飛び退る。張遼の突きからここまで2秒とかかっていない。
「竹刀を!」と張遼が叫ぶ。ようやく我に返った部員の一人が、立ち上がろうとして転び、また立ち上がると新しい竹刀を2本持ってきた。
 最後の連続した斬り下げ、斬り上げは燕返し。佐々木小次郎が得意とした技であり、虎斬りとも呼ばれた。上段からの見せ太刀(かわされることを前提とした剣。)で体勢を崩した相手の股間を狙って斬り上げる。地面スレスレまで振り下ろした剣をすかさず斬り上げるのだから、強靭な筋力が必要とされる。佐々木小次郎は細面の美男であると同時に筋骨隆々の大男であったといわれている。
 再び気が張り詰める。今度の対峙は長いものになった。呂布は相変わらず竹刀を右手に下げ、張遼は今度は上段にとっている。5分、10分と時が過ぎていく。一見、互角に見えるが、その実、張遼は押され始めていた。激流の中に屹立した岩はいずれ、外郭を削り取られ、ひびが張り、崩壊する。ただ、押され始めはしたが、張遼は汗もかいていなければ、震えてもいなかった。よりいっそう神経が研ぎ澄まされてゆく…
 20分が過ぎたとき、今度は張遼が仕掛けた。
「エェェェェェェイッ!」
 腹の底から裂帛の気合を発する。於夫羅でさえ聞いたことのない張遼の気合。剣道場内の時が止まった。
 止まった時の中を張遼が動いた。
 止まった時の中で呂布も応じた。
 凄まじい踏み込みとともに張遼が面打ちに行く。呂布が左手に避けた。胸の高さで張遼の竹刀が滑らかに横移動し、呂布を追う様に薙ぐ。呂布はそのままの体勢で待ち、それを1cmで見切った。胴薙ぎの体勢に入る。張遼は流れた竹刀を剣尖を回しながら八双に戻し、少し体をかがめると、空気抵抗により発火しそうな勢いで斬り上げる。柳生新陰流「逆風の太刀」である。
 もともと、戦場で使われた剣であり、唯一鎧で覆えない股間を狙って切り上げる。内股には動脈があり、それを狙う。狙う場所が場所だけに、現代の剣道では禁じ手とされている。
 呂布は右手に下げた竹刀に左手を添え、無造作に胴を薙いできた。これも発火しそうなほどの速さだ。
 だが、見事に張遼の読みどおりのタイミングである。あとは下から呂布の竹刀を擦り上げ、体勢を崩した呂布を打つ。
 思いがけないことが起こった。張遼の竹刀が何の手ごたえも無く振り上がってしまったのである。自分の時間だけが0.5秒飛んだような感覚があった。タイミングは完璧だったはずで、自分の竹刀が呂布の竹刀を擦り上げていたはずである。しかし今ここには、胴が伸びきってがら空きになった張遼と、今まさに胴を薙ごうとする呂布の姿があった。(死んだ)、と張遼は思った。
 呂布の竹刀が張遼の胴に叩き込まれた。息が詰まる。それでも必死の思いで体を伸ばし、鳩尾への直撃を外す。衝撃で自分の体が浮き上がる錯覚を覚えた。いや、錯覚ではなく実際に浮き上がり、背後の壁に向かって吹き飛びつつある。吹き飛ばされたときに汗よけの手拭がほどけ、セミロングの艶やかな黒髪が解放された。
 ほとんど本能だけで体を半回転させ、両足をそろえて「壁に」着地し、態勢を立て直して床に降り立つ。姿勢が前に崩れた。前のめりになったところを咄嗟に左手をついて上半身を支え、すかさず右手に逆手に持った竹刀を杖に立とうとする。…が、中腰になった時点でそれ以上体が持ち上がらなかった。膝に力が入らないのだ。
「…腹への打撃は足に来る。5分は立てない。」
 相変わらず竹刀を右手に下げたまま呂布が言う。不思議と嘲りには聞こえなかった。張遼は堪え切れなくなり、ぺたんと座り込んでしまう。それでも竹刀は放そうとしなかった。
 呂布の右頬にわずかに血がにじんでいる。胴を打たれると同時に張遼が横面を狙って薙いだのだ。その分、回避が遅れ腹部へのダメージは大きくなった。すんでの差でかすり傷のみに終わったが、まぎれもない覚悟と執念の賜物であった。
「…全員倒すつもりだったけど、その子…張遼って言ったっけ。…張遼の「覚悟」に免じて帰ってあげる。」
 呂布は竹刀を投げ捨て、身を翻すと入ってきたときと同じように無造作に出て行った。きちんと扉を閉めていったのは張遼への敬意だったのだろうか?
 張遼が剣道部をやめたのはそのすぐ後だった。

「その後の1年間は私のトップシークレットです。たとえ会長でもお話することはできません。」
「え〜!なんで〜?!いいじゃんかさ〜。」
「ダメです!」
「…はい。」
 于禁が感心したようにため息をついた。
「しかし中学生どうしの立会いとは思えん技の応酬だったな。呂布の強さも凄まじいが、その呂布に防具無しで立ち向かうお前もどこかキレていたとしか思えんぞ。」
「あの時は初めて自分と対等以上に戦える人に会って、どうしようもなく高揚してたものですから…つい100%の自分でぶつかってみたかったんです。」
「それで、最後に呂布が使った技、「無拍子」だろう。宮本武蔵が京都の一乗寺下り松の決闘で吉岡清十郎を破ったときに使った。」
「そうです。ぎりぎりの間合で故意に自分の動きをほんの一瞬中断させ、相手に隙を作り、そこを斬る。見切りと度胸が無ければできません。ただ、動きが中断するため威力は落ちます。私が今生きていられるのもそのおかげかもしれません。」
 しばらく、于禁、張遼、徐晃の3者間で剣談に花が咲いた。
 
 やや退屈そうに曹操が壁の時計を見る。5時52分。郭嘉の宣言した時刻まで500秒弱。
 なにげなく許チョのほうに目をやると、許チョは天井の隅あたりを見上げて茫洋としている。
 星でも見ているのだろうと解釈した曹操は新たな話相手を求めて、郭嘉のほうを向いた。
 はっとした。様子がおかしい。目の焦点が定まっておらず、上半身がかすかに左右に揺れ始めている。気を失いかけているのだ。そのまま郭嘉は、ゆっくりと、右手側の徐晃に寄りかかった。
「え?何?ちょ、ちょっと郭嘉どうしたのよ?」
 徐晃が慌てて郭嘉の肩をつかんで揺さぶる。于禁と張遼も郭嘉の異変に気づいたようだ。ややあって郭嘉の目の焦点が合い、ちょっと驚いたようにあたりを見回す。
「…え…あ、わ、わりぃ徐晃。最近、寝不足でさ…」
 声にも力がない。ほんの2時間前とは別人のようだ。
「ホントに大丈夫?ほら、そこの席空いてるから横になりなよ。」
「心配すんなって。あんまり長ったらしい話が続いたから…」
ぴんぽーん
(生徒会の郭嘉さん、冀州校区[業β]棟保健室の華陀先生から2番にお電話です。繰り返します・・・)
「華陀先生が?奉孝、あなたひょっとして…」
 曹操はなにかとてつもなく悪い予感に襲われた。そしてこういう予感は例外なく的中するものである。
「わりぃ徐晃、ちょっと通して…。」
 徐晃が立ち上がって廊下への道を空ける。廊下に出て3歩と歩かぬうちに郭嘉が膝をついた。それまで茫洋としていた許チョが機敏に駆け寄って肩を支える。たった三歩歩いただけなのにもう呼吸が荒い。
「すごい熱…」
「虎ちょ。内線まで連れてってあげて。」
「うん。」
 曹操が真剣な口調になっている。
「…よけいなことすん…」
「いいからっ!!」
 その声はほとんど叫びに近かった。周囲の数組の生徒達が何事かと視線を向ける。郭嘉もしぶしぶ承知したようだ。許チョが郭嘉に負担を与えないように注意して、レジスターの傍の内線まで連れて行く。3分ほど話が続き、許チョに支えられて郭嘉が戻ってきた。その間、曹操をはじめ4人とも一言も言葉を交わしていない。
「郭嘉、明日からしばらく絶対安静だって。放課後だけじゃなくて、授業も出られない。」
「どうして?どんな病気なの?どのくらいで治るの?」
「…言えない。」
「虎ちょ!」
「なんでもねえって…只の…風邪…だよ。3日も…すりゃ…。」
「うそっ!風邪程度でそんなにひどい症状が出るわけないよっ!」
「会長、落ち着いてください!」
「公明の言うとおりです。許チョ、君は郭嘉を寮まで送ってくれ。まだ路面電車の最終があるはず。」
 6人の雰囲気が周囲の生徒に伝染し、深刻な雰囲気に包まれたティーラウンジ。そこに場違いなほど明るい声が飛び込んできた。
「やっほー!会長ー!会長ー!あっ!やっぱりここでしたか!吉報ですよ吉報!公孫…」
「「「やかましいっ!!!」」」
 曹操、于禁、徐晃に同時に怒鳴られ、生徒会の1年生は何がなんだかわからず、床にへたり込んでしまった。あまりのショックに半べそをかいている。張遼が慌てて駆け寄り、なぐさめながら用件を聞き出す。用件を伝えた1年生は入室のときとは正反対のテンションでしょんぼり出て行った。
「会長。遼東棟長の公孫康からの封筒です。」
 曹操は張遼から封筒を受け取り、封を切ると逆さにして振った。千円札をかたどったバッジが二個、高額貨幣章が数個。裏には袁姉妹とその主立った幹部の名が刻印されていた。誓紙が一枚。内容は以降、遼東棟および周辺の各施設は生徒会に従う。というものだった。意図せずして郭嘉を除く全員が時計を見る。6時ちょうど。本来なら小躍りして喜び、郭嘉を褒めちぎるところだが、誰も喜色を示さなかった。当の郭嘉はもはや喋る気力も無いようであり、許チョにもたれかかり、浅く、短い呼吸を続けていた。
「…反省会を閉会します。明日放課後、生徒会幹部全員は冀州校区〔業β〕棟、生徒会会議室(旧生徒会分室会議室)に集合。今後の戦略を話し合います。以上。解散。」
 「幹部」の中に郭嘉が含まれることはしばらくないだろう。期待が大きかっただけに、曹操の声もどこか気落ちしていた。

その頃、荊州校区、襄陽棟近くの臥龍ヶ丘公園地下秘密実験室では…
「フフフフ…できた…できました!エキセントリック!これでワタクシの世界征服の夢は一歩前進…」
「お夕食ですよ孔明様ー。あれ?そのおっきな機械、なんです?」
「おお、これはマイ・リトル・シスター諸葛均。聞いて驚け、このマーヴェラスなマシーンは超弩級中性子ビームカノン!開発名R.E.N.D Ver.αだ!。プラズマを利用してニュートリノを核融合させ、そこから導き出される熱量を…」
「この赤いボタンを押すとビームが出るんですかぁ?えいっ!」
「うわあアあアあアぁ…」
「ああっ、孔明様がこんがりと黒焦げに。」
「だ、だいじょうぶです、ノゥ・プロブレム。身頭滅却すればマグマもまた一段とクール…」
「じゃあもう一発。えいっ!」
「うわあアあアあアぁ…………ぱた」
「あっ、倒れた。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−
ギリギリだったけどちゃんと入ったかな?お待ちかね決着編&急遽完結です。
郭嘉…。このしばらくあと、曹操の身内にも悲劇が待ってます。
「怒り、恐れ、嘆き、悶えるお前の”人の顔”を露にしてくれよう。」
とっても魯粛な気分です。あっ!いつの間にか孔明が!

203 名前:★ぐっこ:2003/02/20(木) 23:43
>呂布のキャラ
基本的に、現在の人物設定どおりだと「榊さん級」萌えキャラというところ
なんですよね…(;^_^A ただ、実際の呂布の人物と較べると、かなりギャップが…
もっと自分勝手…というか超然としたエゴとフィーリングだけで、特に意識もせず
学園史を引っかき回すような存在のほうが、よりフィットするかもです…
まあ、作品ごとに多少キャラ像が揺れても、構いません。

>教授様
む…! 「最終回予告」ノリな一本!
ここしばらくガンガン前面に出てた簡雍&法正たんですが、いよいよ
卒業の日を迎える時がキタですか〜。期待。
ほややん麋竺たんとお使い乾ちゃんも登場きぼん…

>雪月花さま
呂布の中の人…じゃない、人中の呂布の真骨頂ですな!
な、なんか凄い殺陣描写(;´Д`)ハァハァ… 張遼たんも凄いけど、
やはり呂布ですな…。
そして郭嘉たんが…

・゚・(ノД`)・゚・

204 名前:★ぐっこ:2003/02/21(金) 00:22
あ。レス抜け(;^_^A
>彩鳳様
やや、イラストありがとうございます! いかん、そういえばアプロダの
巡回しばらくやってなかった…
独特の迫力というか、切実さがひしひし伝わってくる絵ですよ…

205 名前:彩鳳:2003/02/21(金) 18:48
>教授様
 卒業式ですな! 人それぞれの思いがあるでしょうが、どうなるか・・・
 凄い重みの在る予告です!
 
 >雪月華様
 
 なんというのか・・・「るろうに剣心」の剣心vs斎藤を思い出させますね。
 アレはアレで凄まじいですが、呂布のケタ違いのパワーも凄い・・・(^^;

 問題の郭嘉が・・・あぁ・・・(T_T)

>ぐっこ様
 アレは、実は下書きの試作の方が良く出来ていたりしていまして(T_T)
 次こそは・・・・

206 名前:彩鳳:2003/02/21(金) 19:03
 さて、私も皆様に続きまして、第二部を・・・

 ■ 一月の花時雨 ■

 第二部 ―雪道の交錯―
 
 「ふぇっ・・・くしょん!!」
 「畜生! 寒くてかなわへん!!」

 ここは、荊州校区の新野棟。まだ表には出していないが、曹操が狙っている荊州校区の北東部に位置しており、校区の中枢である襄陽棟とは比べるべくも無い、辺鄙な棟である。
 だが、前年の秋に帰宅部連合総帥の劉備が棟長に就任してからというもの、事情が少々変わりつつある。
 
 前年度の夏休み、カント公園にて生徒会長の袁紹と副会長の曹操による一大決戦が行われた。
 戦闘開始直後は圧倒的な大兵力を擁する袁紹の勝ちかと思われた。だが、参謀の許攸が曹操側へ寝返った事で状況は一変、危機的状況にあった曹操が文字通りドンデン返しの大勝利を収めたのである。
 大敗北を喫した袁紹は会長を辞任、ここに曹操の覇権確立は決定的なものとなる。
 袁紹の大敗という誰もが予想出来なかった(一部の人間を除く。)結末に学園内部は震撼し、曹操の名前を知らない生徒は存在しなくなったと言っても過言ではなかった。
 当の曹操は会長に就任し、袁紹の後継者が定まらずに内部割れを起こす華北の情勢を見るや直ちに進撃を開始した。冀州、青州は立て続けに制圧され、袁氏の勢力圏は、并州の高幹と幽州の袁尚に分断された。
 なおも生徒会勢の進撃は止まらず、正月が明けてから李典・楽進率いる生徒会の大軍は高幹の守る并州校区へと動き出した。 
 数で勝る生徒会勢だが、高幹は地形を利して激しい抵抗を行っており、并州校区では現在も戦闘が続けられている。

 一方、帰宅部連合(新聞部)を率いる劉備は、カント公園の決戦直後に関羽と涙の再開を果たし、冀州に主力を向ける生徒会勢の後方攪乱を行うべく汝南棟へ移動、黄巾党の残存勢力と共に決起した。
 だが、蒼天会本部を狙う帰宅部の動きを曹操は見逃さなかった。夏侯惇、夏侯淵らの逆襲を受けた帰宅部は大敗し、汝南の地を維持出来ずに荊州校区へ逃亡したのである。
 荊州校区へ逃れた劉備一行は、校区総代・劉表の庇護を受け、新野棟長に就任。帰宅部本来の新聞部としての活動を再開し、校区公認のローカル新聞(地方紙)「新野通信」を刊行していた。
 「新野通信」は、その内容と劉備のカリスマ性との相乗効果で愛読者を多数獲得し、新野棟とその周囲の地域では徐々に劉備の名声と支持者が増大している。
 劉備の本拠地となった新野棟には劉備を慕う生徒達が集まり始め、僅かづつにではあるが辺鄙な棟は賑やかになりつつあった。
 だが、荊州校区本部では劉備の影響力を恐れ、蔡瑁を中心とするグループが密かに動き出していた。この動きは引退が近い荊州校区総代の後継者問題とも絡み、
このしばらく後から蔡瑁一派は幾度と無く劉備を付け狙う事になるのであった。

 当の劉備は、妹分の関羽と張飛を従えながら校舎への道を歩いてゆく。だが、今日は生憎の大雪で路面電車(レールバス)が止まっている。生徒達は皆、雪道に苦戦しつつも校舎への長い道を歩いていた。

 「・・・しっかしエライ雪やなぁ。歩きにくいったらあらへんで。」
 「確かに歩きにくいですが・・・姉者、雪で路面電車が止まっています。急いだほうが良いかも知れませんよ。」
 「・・・ハックション!!」

 「そやな、急ごうか。電車使(つこ)うてたから気付かんかったけど、寮から校舎まで結構な距離あるで。」
 「ええ、急ぎましょう。ここで我らが遅刻でもしようものなら、『新野通信』の名誉に関わります。折角生徒達の支持を集めてきたところです。生徒達を失望させるような真似は避けるべきです。」
 「関さん、そこまで大げさに考えんでも・・・って、遅刻する以前に朝飯食えへんな。遅れたら。」
 「・・・ハーックション!!」

 「・・・翼徳?あんた寒いんちゃう?」
 「まったく・・・だから『コートを着ていくように』と言ったのに・・・。」
 
 当の張飛は普通の制服姿だ。ただし『制服』だけであって、その上には劉備の様なパーカーも、関羽の様なコートも何も着ていない。他の生徒の様にマフラーもしていないのだ。

 「あんなのいらへん!だいたい動きにくいし面倒くさ・・・――ックショイ!!」

 『要らない』と言い張る張飛だが、意地を張っていることは誰が見ても明らかだ。
 劉備が白い溜息を付く。

 「――ったく、見てられへんなぁ。しゃーない、コレ貸してやるわ」
 「いえ、姉者がそこまでなさらなくても・・・それでしたら私が」
 「ええって、いらん言うとるねん!んな事言うひまがあったら先にいくぞ!」

 あくまでも拒絶する張飛であったが、劉備もこう言う事ではテコでも引かない。

 「うるさい!お前が着ない言うならワイが着せたる!! 関さん、手伝ってな!」
 「はぁ・・・姉者がそこまで言うのでしたら。」
 
 関羽が張飛の腕を押さえ込む。内心『こんな道の真ん中で・・・』と思っているのだが、その一方で張飛のやせ我慢に
呆れているのもまた事実だ。増してや劉備はやる気満々であった。こういう時は止めても無駄だと、長い付き合いで分かっている。

 「――っ、おい!よせって、こんな所で!!大体急ぐんじゃなんかったんか!?」
 「お前が人の言う事聞かんから、こんな所で上着着せてるんやで。それが嫌なら大人しくせや!」

 雪道の通学路でもみ合う三人。
 はっきり言って目立つ事この上ない。劉備自身多数の視線を感じているが、今更やめる気にはならない。意地でも自分のパーカーを着せる気である。

 もみ合う三人を避けて、横目で見ながら登校する生徒達。その中に紛れて――。

 「あーぁ、朝っぱらからよくやるよ・・・雪降ってるのに。ま、私は構わないけど。」

 遠巻きにこの騒動を見つめる少女たちの影に紛れ、嬉しそうに笑いを浮かべながら、一人の少女がビデオカメラを構える。周りの少女達も
目の前の騒ぎに目が向いていて、この少女の事に気付いていない。もちろん、劉備たちも――。

 「おっ、いいよいいよ。翼徳〜頑張れ〜☆」

 (『よくやるよ』って・・・そう言うあんたもよくやるよ、と私は思うね。ま、お互い様と言うところかな?)
 
 構えたビデオに夢中になっている少女をこれまた横目に見ながら、一人の女生徒がもみ合う劉備たちを眺めている。品定めをするかのようなその目つきは、
興味本位で三人を眺める女生徒たちや、すぐ近くで楽しげにビデオを廻す少女のものとは全く性質を異にしている。 
  
 「あぁ、玄徳のヤツ!何やってんだ。折角良いアングルなのに・・・」

 (『何やってんだ』はあんたもだろ。だが・・・確かに噂通り、面白そうな連中だな・・・)

 満足そうに目を細めた少女は、向きを変えて校舎の方へと再び歩き始めた。その手には、袋に納められた竹刀が握られている。
 
 (劉備玄徳・・・『新野通信』の責任者さんか。さて、どうしたものか・・・一応司馬徽先生に話しておくかな。)

 「翼徳のヤツ・・・(ププッ)パーカーのサイズ合ってないぞ。(まあ、玄徳のだから当たり前なんだけど。)しかし今日は朝からツイてるぜ〜☆」
 
 (それは良かったな。まあ、御健闘を。)

 録画の邪魔にならないよう、竹刀の少女はビデオの少女の後ろを回って、そのまま遠ざかってゆく。少し
離れたところでは、無理矢理サイズの合わないパーカーを着せられた張飛が、露骨なテレ隠しで喚き散らしていた。
いつの間にやら荷物係になっている関羽と、ハリセンを振り回して張飛と向かい合う劉備。そして、それを様々な目で見つめる女生徒たち。

 幾つもの思いが交錯しながら、新野棟の一日が始まろうとしていた。

 ―第二部 END―

  ■作者後記■

 ・・・何とか第二部、「雪道の交錯」が完成致しました。(タイトル被ったりしてませんよね?@滝汗)
 第一部、「北風の銀華」と第二部が《午前の部》
 次の第三部から《昼休みの部》となります。また製作が長引きそうで心苦しいのですが、どうか見捨てないで下さい(m‐‐m)

 ・・・張飛って冬でも薄着のイメージがあったので、あんな展開になりました・・・(^^;
 敢えて名前出さなかった人物が二名ほどおりますが、誰だか分かりますよね? (^^;
   

207 名前:教授:2003/02/23(日) 05:08
■■卒業 〜序章 曹操編〜■■


「孟徳、急げよ〜」
「分かってるって!」
 卒業式当日の朝。
 トーストを頬張りながら夏侯淳が曹操を急かす。
 いつもと変わらない朝の光景だ。
 当の本人は下着姿で制服を品定めしていた。
 その数はクローゼット一つでは納まりきらない程だった。
 同室の夏侯淳はやたらと制服を詰め込む曹操を見兼ねて、自分のクローゼットを使わせている。
 その為、自分の分のクローゼットは無くなり、仕方なく自分で作って隅においていた。
「いい加減、何か着ろよ」
 コーヒーカップを優雅に傾けながら苦笑いの夏侯淳。
「んーと…どれにしよ〜…」
 下着姿のままの曹操がクローゼットを文字通り引っ掻きまわす。
 暫くして、はたと動きが止まる。
 そして一着の制服を手に取った。
「これ! これがいい!」
 その制服は曹操自身が生徒会長に就任した時に特別に作った服だった。
 夏侯淳は曹操の手に掴まれた制服を見ると、右目を閉じ憂いを込めた笑みを浮かべる。
「…それか。そうだな、今日はそれがいいだろ」
「うん。この服は…奉公がいなかったら作れなかったもん…」
 きゅっとその制服を胸に抱きしめる曹操。
 制服の右腕部に『郭嘉奉孝』という名前が刺繍されている。
 それは彼女達を大勝利に導いた現生徒会最高の頭脳の名前。
 今は亡きその人物の功績は評価しても評価しきれない。
 それだけに早すぎるその死は曹操達に悲しみの涙を与えた。
 曹操は姿見を前に制服に袖を通していく。
 一年以上も前に作った服だが、それでも曹操の体躯にぴったりだった。
「…奉孝。今日は一緒に卒業しようね」
 鏡に映る自分の姿を見ながら、いるはずのない少女に言葉を掛ける。
 …と、その背後に微笑む少女の姿が映った。
「…! 奉孝!?」
 ばっと振り返る曹操。
 しかし、その姿は見えず、夏侯淳が不思議そうな顔をしてこちらを見ているだけだった。
「…どうしたんだ? 何か見えちゃいけないものでも見たような顔して…」
「う、ううん…何でもない…」
 曹操は苦笑いを浮かべてもう一度姿見の前に立つ。
 すると、また郭嘉の姿が曹操の後ろに見える。
「奉孝…」
 今度は驚かなかった。
 むしろ、嬉しささえ込み上げてきていた。
 鏡に映る郭嘉が囁いた。
『卒業おめでとう…これからも私は貴方を見ています…』
 懐かしくも力強い声。
 曹操の目に涙が溢れてくる。
 そして、郭嘉の姿が鏡の中から消える。
「本当にどうしたんだ?」
 姿見の前で立ち尽くす曹操を心配して夏侯淳が傍に近づいてきた。
「何でもないよ。それよりも、早くいこ!」
「お、おい!」
 涙を乱暴に拭うと夏侯淳の手を握り駆け出す。
 郭嘉が最後に見せた最高の笑顔と言葉は何よりも曹操の心に残り続けていた。

『本当にお疲れ様でした、会長。私はずーっと傍にいますからね♪』

208 名前:雪月華:2003/02/23(日) 09:11
懊悩

冀州校区[業β]棟保健室にて。
曹操が緊張した面持ちで丸椅子に座っている。
傍にはつきそいの許[ネ者]がぼーっと立っている。
パラパラとカルテをめくっていた校医の華陀がやがて重々しく宣言した。
「結果が出た。おぬしの頭痛の原因、それは…」
「ゴクリ…」
「脳腫瘍じゃ。すでに手遅れ。あと三ヶ月ももたん。」
「えええええーーーっ!!」
「嘘じゃ。そうでかい声を出すでない。」
「な、なんてこと言うんだよっ!このクソじじいっ!」
「ぐわっ!こ、校医に脳天唐竹割りを食らわすでない!」
頭を押さえる華陀と本気で怒る曹操。許[ネ者]はあいかわらずぼーっしている。
「どこも悪くないわい。強いて言えば、おぬしは一度に色々なことに頭を使いすぎじゃ。」
「どーいうことよ?」
「テストでは全科目90点台は当たり前。100点も珍しいことではない。8校区の統合生徒会長職。放課後の覇王の二つ名。おぬしは青春を謳歌しすぎじゃ。やらねばならぬこと、やりたいことがあまりに多く、それが人間の許容範囲を越え、頭痛を引き起こしておる。そうとしか言えんのう。」
「じゃあどうしろというのよ。いまさら自主返済して一般生徒に戻れとでも?」
「それはおぬしが決めることじゃ。とにかく、現状のままでは頭痛はさらに酷くなる。これだけは間違いないのう。」

「ところでおぬし郭嘉のことについて知りたがっておったの。」
「あたしは会長として部下の健康状態を知っておく必要があるのよ。」
「知らんほうがいい。知れば頭痛がいっそう酷くなるじゃろう。それでもか?」
「当然だよ!」
「許[ネ者]、すまんが席をはずしてくれんか?」
「うん。」
頷いて許[ネ者]が保健室を出ていった。
「後悔するでないぞ。ほれ。」
「カルテ…?。…ALS…。」
「筋萎縮性側索硬化症。脳からの信号が筋肉に伝わりづらくなる病気じゃ。信号が伝わらんとやがて筋肉は衰弱してゆく。影響が出るのは随意筋のみで、内臓の働きは損なわれんからいきなり命にかかわるということはないが、呼吸が浅く、困難になったり、何ともないところで頻繁に転んだりする。病状が進むと寝たきりになる。入学当初は、卒業まではもつと予想しとったのじゃが・・・」
「確か意識障害はでないはずだったけど…この間は座ったまま気を失いかけてたんだよ。熱も出てた。」
「そっちは半分、いやほとんどはおぬしに責任がある。」
「どうして?」
「確かにALSでは発熱や意識障害は起きん。だが、同時に風邪を併発したんじゃ。それも相当悪性の。原因は…わかっとるな。」
「北伐…」
「おぬしは別格として、許[ネ者]はもと女子プロ部。于禁、張遼、徐晃はみな剣道部じゃろう。だが郭嘉はどちらかといえば文化系。あまり野外活動には向いとらん。それをなんじゃ。あのクソ寒い幽州校区へ連れまわして戦(いくさ)などさせおって。」
「…」
「それでよく”会長として部下のため”などと。部下の向き不向きを見極められずして何が会長じゃ。」
「う…」
「まあ、すんだことじゃ。そう落ち込むでない。」
華陀が書類に何か書き込んでいる。
「郭嘉は来週から休学して入院じゃ。おそらくおぬしの在学中の復学は無理じゃろう。長引けば退学となるかもしれん。まだ寮で寝込んでおるから今のうちに見舞いを済ましておくとよかろう。もっとも、風邪が治らねばまともに話すのは無理じゃろうがな…」
華陀が時計を見た。13:25。
「話はこのくらいじゃ。ほれ、そろそろ戻らんと授業に遅れるぞ。頭痛薬の処方箋は出しておく。帰りにでも「黄帝薬局」にとりにいくといい。」
「…頭痛がおさまらなかったらまた来るよ。」
「おさまるはずはあるまい。あくまで薬は気休めに過ぎん。」
扉を開けると許[ネ者]が扉の傍で待っていた。
許[ネ者]と一緒に曹操は教室へ向かった。
(郭嘉の病気は…あたしのせい?まだ荊州校区や長湖の連中の事が残ってるのに…郭嘉。)
北伐に向かう前の郭嘉の言葉が思い出された。
『このあとは荊州、長湖だな。まあ、まかせとけって。最近自信が出てきてさ、あっと驚く戦略戦術が次から次に沸いてきてんだからな。これからは会長にもラクさせてやれるよ。』
「裏切者…」
「ん?何?」
「…」
「変なの。」
郭嘉は自分の信頼を裏切った。無論裏切りたくて裏切ったわけでないことはわかっていた。そしてわかっていながら裏切者と呟いた自分を、曹操は激しく嫌悪していた。
頭痛がまた始まっていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
烏丸の続きです。このあとほどなくしてtakayuki様の「曹操の涙」にシフトします。なんか最近重い話しか書いてないような…
また出そうかな、諸葛亮…。四輪車=諸葛亮発明のソーラーカー=ゆかり車(!)で同乗した劉禅がトラウマになるとか(爆)。

209 名前:★ぐっこ:2003/02/23(日) 23:09
Σ( ̄□ ̄;)!! またまた留守の間に神降臨〜

>彩鳳様
荊州編! 新野の新天地へやってきた劉備一党と、彼女らを観察する
ふたつの視点…って一つは身内か(;^_^A
それにしても、状況説明ありがとうございます。学三史のよきおさらい…
張飛は…きっと男子に生まれていたら半袖半ズボンで冬を通すタイプだったかも。
ヘタすれば凍結した長湖を車が通れるような、中華市の寒空で、コートを着ない
で頑張る翼徳たん…。
…そうだ、司馬徽って結局教師でしたっけ、先輩でしたっけ(;^_^A ここのとこ各キャラ
の低年齢化が進んでるから、「イイ! 凄くイイ!」の電波系先輩が有力だったっけか…

>教授様
むう、一転してのシリアス系。
卒業曹操verですか〜。彼女も、色々ありましたが、やはり学園を去るにあたって心に
残るのは郭嘉ですね…
郭嘉が生きていれば学園史は…などというifではなく、一緒に曹操と卒業させてあげたかった…
と素直に思います…。てゆうか彼女死なす設定にしたの私じゃないか…・゚・(ノД`)・゚・

>雪月花様
偶然なのでしょうか、ちょうど死に繋がる病に倒れる郭嘉が…
郭嘉の死に関しては、実はだいぶ前から腹案というか、実話に基づいたお話を考えて
るので、いつかは発表したいですが…。とにかく、切なくなりますよね…
本人は隠してるけど、だんだんろれつがおかしくなってきたり、お箸が持てなくなって
きたり…一日ごとに、身体の機能が低下してゆく恐怖…。しかも現在の人類の医学では、
回復する手だてさえない、死を待つだけの絶望…
郭嘉が活躍していたのは、そういう時期だったりします。そう、登場した最初から。

余談ですが、「Kanon」の真琴シナリオはこたえた…。

210 名前:アサハル:2003/02/24(月) 01:06
か、神降臨しまくってますがなー!!

郭嘉たんの最期ネタ…皆様のSSを元にしてイメージに起こさせて
頂きました。
ALSという病気のことを考えると、高等部に上がった時点で
既に発病していたと考えられますんで…
これをもちまして感想に代え…られるかヴォケ!!>自分

http://fw-rise.sub.jp/tplts/wind.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/wind.jpg

211 名前:彩鳳:2003/02/24(月) 09:24
>教授様
 曹操サイドからの卒業式ですね。

 郭嘉と共にある曹操・・・ BGMは「炎のたからもの」が似合いそうですね。
 (「カリオストロの城」で使われた曲です。ご存知ない方は、下記アドレスを) 
 
 http://www.biwa.ne.jp/~masayo-i/jmidi.html target=_blank>http://www.biwa.ne.jp/~masayo-i/jmidi.html

>雪月華様
 そういえば、曹操も持病持ちでしたっけ(‐‐;
 あちこち忙しい人って、何と言うのか、自分のことを省みない人が多くいますからね・・・

 >ぐっこ様
 司馬徽は先輩案はありましたっけ?私もこのサイトに来て一年経ちましたが
知らない事がまだまだ多い様ですね・・・。(では済まされないかも(^^;;;

 >アサハル様
 郭嘉はそうですね、自分に残された時間が無いのを知っていたからこそ
敢えてハードな仕事もこなしたんじゃないか、なんて思いますね・・・。
 

212 名前:教授:2003/02/24(月) 23:15
彩鳳様>

郭嘉と共にある曹操のBGM…イイ!!
これを書いてる時は自作のバラードを聴いてましたが…『炎のたからもの』は完全にマッチしてます!
卒業シリーズは全部で10部構成の予定。
その一つ一つにBGMを考えたらキリがなさそうだ…。

213 名前:★ぐっこ:2003/02/25(火) 23:32
>アサハル様
うが━━━━━━━━━━━━っ!!!!
郭嘉が…郭嘉が…っ
うわ、これむっちゃツボ! 自分の死をも他人事のように踏破しようとする
鬼謀の少女の生き様が…。何かで絶対に使おう…・゚・(ノД`)・゚・

>彩鳳様
司馬徽生徒説ですが…そういえばここの掲示板ではないかったような…(;^_^A
こちらでは先生説が有力ですので、当然先生でオッケーであります!
そして、カリオストロの城のBGMですか〜。確かにしっくり合ってる…

214 名前:教授:2003/03/03(月) 23:36
■■卒業 〜法正の涙〜■■


 卒業式も滞りなく終わった。
 周りには泣いてるコもたくさんいたけど…私には込み上げてくるものが何一つ無かった。
 自分でも驚くくらい呆気なく感じられた。
 卒業…まあ、勉学に関しては修めてるから卒業とは言えるだろうけど。
 でも、何か納得できない。
 満たされない…何かがまだあるの?
 難解な迷路の何ランクも上の迷宮に迷い込んだみたい…。
 答えは…何処?


「おーい、法正〜」
「ん…?」
 コートを羽織り、教室を出たところで『酔いどれクイーン』こと、簡擁憲和に声を掛けられた。
 いつも通りの元気そうな笑顔。
 だけど、それも今日で見納めかしら。
「憲和、どうしたの?」
「一人で帰るの?」
 一人で帰る?
 まあ…確かに誰かを誘うつもりもなかったし、お呼びが掛かってるわけでもないからね。
「そうね。一人で帰るつもりだったけど」
 私の答えに憲和が首を傾げた。
「今日で最後なんだから、一人で帰るのは勿体無いぞ〜」
「…別に。今までとそう変わりはないわ…」
「さみしー事言わないように。友達甲斐のないセリフだからね、それ」 
「友達…」
 その単語に心の中で何かが揺れた…。
 私を…友達だなんて…。
 …何だろう、胸が…苦しい。
 痛い程に締めつけられてる…。
 それに…自分の鼓動が耳に届いてる…。
 分からない…何でこんな事に…。
「ほーせー?」
「…憲和……っ! 何でもないよ」
 心配そうに私を覗き込む憲和に我に返った。
 でも…まだ症状は治まらない。
「何でもないって顔じゃないけどなー。っと、シチューとパシリが来た」
「卒業してもパシリ扱いってのも…」
 私は苦笑いを浮かべ、憲和の見ている方に向き直る。
 『お使い乾ちゃん』こと孫乾と『おじょーさま』ことビ竺のコンビが仲良く私達の元にやってきた。
 と、早々に子仲がにこにこと微笑みながら口を開く。
「法正さん、一緒に打ち上げ行きませんか〜?」
「打ち上げって…私はやめとく…」
「何でよー」
 憲和が抗議の声を上げる。
「…私が行っても…」
 私はここで言葉を切った。
 後には『楽しくなんかならないよ』って続くはずだったけど…。
 三人に気を遣わせてしまいそうでイヤだった。
 でも、それ以上に気になる事があった。
「それに、何で私を誘うの?」
 私の言葉に三人がきょとんとした目を私に向けた。
 な、何よ…その目は…。
「何でって…ねぇ?」
「うん、そうですね」
 憲和と孫乾が互いを見合って頷き合う。
 それにビ竺も加わった。
 何か分からないけど…。
「あのね…法正さん」
 孫乾が三人を代表して私に話し掛けてきた。
「何?」
「法正さんを誘うのって…友達だからなんですけど…」
「友達って…」
 再び蘇る諸症状。
 顔まで熱くなってきた…。
「え、えーと…友達って…、わ、私の事?」
 な、何動揺してるのよ…。
「はあ? 法正以外の誰を指してると思うのよ」 
 憲和がさも当然のように答えを返してきた。
 孫乾とビ竺も頷く。
「私が…友達…」
 やっと…自分に納得いかなかった理由が分かった気がする。
 私の事を…友達として見てる人がいなかった…。
 いや、いないと思い込んでいた。
 課外活動だけの仲間、友達未満の繋がり。
 それだけ…ただ、それだけだと…ずっと思ってた。
 でも…今、こうして目の前に私を友達と呼んでくれる人達がいる。
 霞に隠れていた…もやもやしていた部分が見えてきた…。
「ほーせー♪」
「え…っ!」
 憲和の声に顔を上げた途端、強烈な光が目に飛び込んできた。
「憲和…」
「へへー…法正の泣き顔ゲット♪」
「私の泣き顔って…あ…」
 慌てて自分の頬に触れると、濡れた感触が伝わってくる。
「さぁて、法正の泣き顔も手に入れた事だし…行きますか!」
 憲和が私の肩をぐいっと引き寄せ、そのまま歩き始めた。
「け、憲和〜…だから、近すぎるってば…」
「恥ずかしがる事ないじゃん」
 悪戯っぽく笑う憲和。
「仲がいいですね」
「…喧嘩する程仲が良いと言いますし」
 孫乾とビ竺もくすくすと微笑みながら、私達の後ろから付いて来る。
「全く…」
 私は…無意識に自分の顔が綻んでいた事に気付いてはいなかった。


 私達が校舎から出ると…そこには見た事もないような綺麗な光景が広がっていた。
「うわ…」
「綺麗…」
 憲和と孫乾が感嘆の声を漏らす。
 朝はまだ蕾だった桜が…今は大きく花を開き、文字通り咲き乱れていたのだ。
「早咲きの…桜ですか…」
 ビ竺はそんな事を呟き、風に吹かれてきた桜の花弁を手に取る。
「私達の門出には…最高の祝福…だと思いませんか?」
 にこりと微笑むビ竺。
 その目尻には涙が滲んでいた。
 私も目頭が熱くなるのを感じている。
 孫乾は…溢れてるし、憲和は…潤んでる。
「卒業は別れじゃない…また…いつでも会えます」
「そうだね…。会えなくなるわけじゃないもんな」
 ビ竺の言葉に感慨深く答える憲和。
 答えてはいないが、私も孫乾もきっと憲和と同じ事を思ってるだろう。
 と、憲和が何かに気が付いた。
「おっ、あそこにいるのは…玄徳とその妹達じゃん。合流しよっか?」
 憲和の指差す先には…元総代達の姿が見えた。
 私と…孫乾、ビ竺は顔を見合わせる。
「行こう!」
 三人の声が重なった。
 憲和はその答えに微笑みを返すと、そのまま駆け出した。
「私達も行こっ」
 孫乾とビ竺は並んで走り始める。
 私は…ゆらりひらりと舞う桜の流れを見上げていた。
「こんなにも心が軽くなったのは初めてだよ…ずっと、ずっと続いてほしい…」
 心の中にあった本当の気持ちが素直に言葉に出来た。
 もう少し早く気付いていれば良かったなぁ…。
 ちょっと後悔。
「法正〜! 早くおいでよ〜!」
 遠くの方から憲和が私を急かす。
「分かってる! そこで待っててよ!」
 私は笑顔を向けると、親友のいる場所へと駆け出した。
 きっと…心の底から笑っていられてるよね?

215 名前:惟新:2003/03/04(火) 10:36
>岡本様
>広宗のG・P・M
むむっ! 相変わらず圧倒させられる作品!
こりゃガンパレやっときゃよかったなぁ…
それなりに楽しんで読ませていただきましたが、それだけに何か悔しい(^_^;)

>雪月華
>烏丸征伐反省会
あ、こんな所にも簡雍が(^_^;)
ド迫力戦闘描写は岡本様に続く超新星のヨカーン!
今後とも大期待〜!
>懊悩
ALSといえば、ホーキング博士も若くしてこの病にかかられたんでしたね…
ああ、郭嘉…(ノД`)

>教授様
>簡擁と張飛 〜こんな日常もたまにはね〜
うおっコミカルだっ!
スカートめくられて慌てる張飛カワ(・∀・)イイ!
>卒業 〜序章 曹操編〜
郭嘉がコンボでキタヨ…(ノД`)
そうです。みんなで卒業するんですよ、ね…
>卒業 〜法正の涙〜
ああ、ヨカタね法正…(T▽T)
それにしても教授様、苦手とか言いながらシリアスでも良いものを書かれているじゃないですか!

>アサハル様
郭嘉。・゚・(ノД`)・゚・。
近い終末を知りつつ、最期まで自分らしくあり続けた彼女。
そこには多くの苦悩や、恐怖があったことでしょう。
それを見事に一枚の絵で表現なされましたね…

余談ですが、自分の前途に絶望して地下鉄に火を放ち、多くの人を巻き添えに自殺を図る人だっているわけで。
願わくば、郭嘉のような、絶望に打ち克つ強さを…

>彩鳳様
>雪道の交錯
三姉妹の心温まる冬の光景。
いいですな〜ほんわかぷーですよ〜
そしてここにも湧いて出た簡雍! もうすっかり簡雍ブームですな(^_^;)
続きが楽しみ…

216 名前:雪月華:2003/03/05(水) 00:45
長湖部夏季強化合宿。
孫堅が提唱し、孫策が受けついだ、夏休み開始から1週間にわたって行われる長湖部名物行事であり、そのハードさは孫権が三代目部長に就任した今も衰えていない。そのスケジュールは、
6:00      起床・洗顔・身支度
6:30〜7:30     長湖南岸(10km)早朝ジョギング
7:30〜8:10     朝食&宿舎の掃除
8:15〜10:00    全員での基礎体力づくり
(10分休憩)
10:10〜12:00      〃
12:00〜13:00    昼食・ミーティング
13:00〜15:00    各種目ごと練習
(10分休憩)
15:10〜17:30      〃
17:30〜18:00    全員での柔軟体操
18:00〜      自由時間(外食可)
21:00      門限(違反者は翌日、練習量2倍のペナルティが課せられる)
23:00      消灯
となる。
生徒会が荊州校区を席巻し、赤壁島の決戦が差し迫った今、イメチェンに成功した周瑜が部長の孫権の全権代理として総指揮にあたっている。脱落者、不適応者は容赦なく退部となるため、黄蓋ら3年生からは不評を買っていたが、その効果については異論のはさみようがなく、いわば実績が不満を押さえ込んでいた形であった。

…23:30
消灯時間は過ぎているが、いまだ眠る気配の無い一室がある。消灯といっても、3年生が一度各部屋を見回るだけで、それさえやり過ごせば後は結構自由な時間が持てる。
灯りを消し、なにやらボソボソと語り合う数人の気配。
魯粛、甘寧、凌統、呂蒙、蒋欽の長湖部問題児軍団に加え、陸遜、朱桓ら数名の1年生の姿も確認できる。話の内容は、怪談のようだ。修学旅行、合宿など、若い者同士の一夜の定番である。
「…つまりさ、いないはずの5人目がいたのよ。」
懐中電灯で顔を下から照らした魯粛が話を締めくくる。話をする者には懐中電灯が渡され、場を演出するために使用される。
「つまんねぇな。どっかで聞いたぜ。その話。」
「黙って聞きなよ。」
洗いざらしの金髪を無造作にタオルで包んだいわゆるタオラー状態の甘寧に凌統がつっこむ。
この二人、仲は悪いくせに不思議と隣り合って座ってしまう。教室でも、食堂でも、練習でもシャワー室でも。
「次は、えーと、一年生の君。」
「はいっ!任せてください、とっておきがあるんですから!」
仕切り役の呂蒙に指名を受けたのは朱桓休穆。部長の孫権の同級生で、スポーツ万能で学業成績もいい。性格も思い切りがよく、長湖部期待の新星の一人である。
「これは、人に聞いた話じゃなくて私が実際に体験したことなんです…」

「私が小学校4年の頃、母が風邪をこじらせて入院したので父はお手伝いさんを雇ったんです。Aさん、としておきますね。外国の方らしいのですが、日本語が堪能で、仕事も速く、正確なので父はとても気に入ってたんです。」
「外国っていうと、東南アジアあたりか?」
「タイ人だとAさんは言っていましたが…なぜか、うちの飼い犬がやたらとAさんに吠え付いたんです。今までは絶対に他人に吠えたりしなかったのに。」
「へぇ…」
「雇って1週間たったあたりで、…見てしまったんです。」
「何を?」
「あの日の夜、2時ごろでした。私はトイレに行こうと思って、2階の自分の部屋から1階に降りていったんです。そこで信じられないものを見てしまったのです。」
座が静まり返る。
「Aさんがいました。ただし首だけで。首から下が無くて、向こう側の洗面台が見えたんです!」
朱桓が懐中電灯をつけて顔を下から照らした。
その顔が3m近く上、天井近くに見えた!
「うわあぁーーー!!!」
どすん、ばたん、ゴキッ!
電灯がつけられた。
朱桓は積み重ねた布団の上に立っていただけだった。
面白そうな顔をしている魯粛。あまり動じていない蒋欽。後ろ手をついて仰け反っている呂蒙。微妙な表情をしている甘寧。そして…なぜか甘寧の首にしっかりと抱きついている凌統。一番驚いたのは間違いなく彼女である。
「ほ、ほんとの話、それ?」
「はい。信じてもらえないかもしれませんが、本当です。あの後、Aさんの部屋へ逃げていったので、追いかけたら、部屋の中でAさんが泣いていました。あのあと、すぐ辞めちゃいましたっけ。」
「追いかけたって…あんたは凄いわ。」
「……凌統。」
「なに?」
「…いつまで抱きついてるつもりだ?」
「あっ…」
慌てて凌統が離れる。
「俺様にはそんな趣味は無いんだが…」
「う、うるさい!物のはずみよ!」
「ところで陸遜は…あ」
呂蒙の隣に座っていた陸遜が目を回して仰向けに倒れている。暗闇の混乱の中、仰け反った呂蒙のエルボーをまともに顎に受けたらしい。
無防備に気絶している陸遜を眺めていた魯粛にふと、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。計画を他の者に耳打ちする。
やがて話がまとまり、甘寧が頭側を、魯粛が足を持って部屋からいずこかへ運び出していった。

…視界のエメラルド色のもやが晴れてくる。起きたら顔を洗って、歯を磨いて、寝床を整理したら着替えて食堂に。今日はトーストと紅茶のセット。残っていたらベーコンエッグも…
陸遜が目を開けるとそこには見知った、しかしそこにいるはずの無い人の寝顔があった。意識の混乱が収まり、その人物が周瑜であることに気がつくと、慌てて跳ね起きる。つられて周瑜も目を覚ました。
「な、なに、何?なんで!?」
「ちょ、ちょっと陸遜!?どうして私の布団に!?」
「ち、違います!違います!!違いますっ!!!」
何が違うのかわからないがとにかく否定する。董襲、陳武、徐盛らが起きだしてきた。絶体絶命のピンチである。昨夜、魯粛の提案で集まり、怪談話をしたところまでは覚えているが、そこから先の記憶が無い。なにやら顎のあたりが痛むが…。
廊下のほうで複数の笑い声が聞こえ、逃げるように足音が遠ざかっていった。
「あ!まさか…まてー!」
陸遜が慌てて部屋を飛び出してゆく。部屋の隅では魯粛が狸寝入りで笑いを堪えるのに苦労していた。
…夏休みの間、陸遜は周瑜に口を聞いてもらえなかったらしい。
ーーーーーーーーーーーーー
ちょっと季節外れですが、張角SS推敲の合間に息抜きのつもりで書いたものです。
実際の朱桓もこの妖怪に遭遇しているらしいです…。
最後の悪戯は、高校時代、実際に修学旅行で悪友数人と行ったもので、真っ先に寝た者を隣の部屋の誰かの布団に添い寝させるという荒技です。異性の布団だとシャレにならないことになるので、同性の布団に添い寝させ、そのまま私達も部屋に戻りました。…翌朝、隣の部屋から絶叫が(^^;)…徹底したアリバイ工作&黙秘で事件を迷宮入りさせましたが、今、この場で真相を明かします。

217 名前:アサハル:2003/03/05(水) 01:07
>教授様
・゚・(ノД`)・゚・法正たん…!!
確かに彼女、自分から友達だと思ってたのって張松ぐらいなイメージが…
簡雍の相変わらずっぷりも、またいつもと違う感じでいい味出しっぷり…

>雪月華様
!!わ、私もやりましたそれ!つかやられた経験アリ…!!
陸遜、いろんな意味でご愁傷様…。
帰宅部に簡雍がいるなら長湖部には魯粛って感じですねー。笑いました!
てゆーか朝イチで10kmって…そりゃ脱落者も出るわ…

218 名前:★ぐっこ:2003/03/05(水) 23:31
>教授様
皮肉にも、卒業をむかえる日になって初めて友情なるものを知って
しまった法正たん…。私意と利害と劉備への妙な忠誠心だけで波乱に
満ちた学園生活を送っていた法正たん。卒業した後、はじめて彼女の
学生生活がはじまるのかな…。案外女子大とかでは耳年増な純情な女の子に
なるタイプだったり…

>雪月花様
激しく笑いましたが、何と言ってもツボは甘凌ペア。これ。
おそらく一方的に突っかかる事が多いと思われる凌統たん…
魯粛も悪戯好きなんですねえ…(;´Д`)ハァハァ…ていうか周瑜
その他の面々が「小うるさい上役」になって、下の面々が
のびのび遊んでる長湖部の雰囲気が好きだなあ…

219 名前:★ぐっこ:2003/03/06(木) 00:32
>惟新様、てかALL
ガンパレードマーチは、親を売ってでも入手・プレイするべきです。

220 名前:教授:2003/03/06(木) 01:46
■■ 卒業 〜孫策と周瑜〜 ■■


「…周瑜〜」
 卒業式の朝。
 面会時間にもなってない病院の一室。
 カーテンの閉まったその窓を外から叩き親友の名前を呼ぶ孫策。
 下では梯子を懸命に支える甘寧と魯粛がいた。
「周瑜…寝てるの…?」
 再度、窓を叩く。
 あまり強く叩くと看護婦や医師に気付かれる可能性があるので、なるべく弱く。
 しかし、この状況。かなり目だって仕方がないのだが。
「…周瑜」
 寂しそうに呟く孫策。
 周瑜――かつて長湖部を支え、かの赤壁島の決戦で圧倒的不利な状況を引っ繰り返して勝利に導いた名参謀である。
 そして、孫策の親友でもあった。
 赤壁島の決戦の後、周瑜は矢傷を負い…それが元で引退を余儀なくされてしまう。
 引退してからの周瑜は傷の影響か、病気を併発し入退院を繰り返していた。
 卒業式の当日、その日も周瑜は病院のベッドの上だった。
 孫策はどうしても彼女と一緒に卒業したかった。
 それが故に無理と危険を冒して、このような行動を取ったのだった。
「周瑜…一緒に卒業したかったな…」
 諦めて梯子を降りようとした時だった。
「孫策…?」
 病室のカーテンが開き、周瑜が顔を出したのだ。
「周瑜!」
「ち、ちょっと孫策! 何してるのよ!」
「見れば分かるだろ!」
「分からないわよ!」
 窓から顔を覗かせる周瑜。
 その顔は少しやつれているように見える。
 腕や脚だけではなく全身が痩せていた。
 学園一の美女と呼ばれていた頃に比べれば大分衰えてはいる。
 それでも、美女と呼ぶには差し障りはなかった。
「こんな押し問答はどーでもいい。周瑜、今日は卒業式だ」
「知ってるわよ。…私は出られないけど」
「出るんだよ! 私と一緒に…卒業するんだ!」
 毅然とした強い眼差しを向ける孫策。
「駄目だよ…私…お医者様に外出禁止って言われてるもの…」
 その目を受ける周瑜は、ゆっくりと首を横に振り、そう呟いた。
「駄目なもんあるか! 駄目だったら抜け出せばいい! だから…迎えに来たんだ!」
「孫策…」
「早く!」
 孫策はさっと自分の利き手を周瑜に差し出す。
 信頼している相手だからこそ、利き手を預けるのだ。
 その事は周瑜自身が一番よく理解していた。
「孫策…行こう!」
 周瑜は笑顔を見せると孫策の手を取り、身を乗り出す。
「しっかり掴まってろよ…」
「分かってる…って! わわっ!」
 注意深く梯子を降りようとした孫策と周瑜。
 しかし、予期せぬアクシデントが起こったのだ。
 強烈な横風が二人を襲う。
 俗に言う春一番という強風だ。
 間一髪、孫策は梯子に掴んで難を逃れたが、周瑜はそうはいかなかった。
 長い入院生活で衰えた体には自分を支えられるだけの体力はなかったのだ。
 周瑜の手が梯子から離れる――
「周瑜!」
 咄嗟に宙に舞う彼女を捕まえる孫策。
 しかし…この行動が裏目に出た。
 周瑜の体を捕らえるのに孫策自身が両手を梯子から離してしまったのだ。
「ヤバ…」
 無我夢中になっていた。
 二人の体が引力に従い地面に落下していく。
 そして地面に打ち付けられる…はずだった。
 不思議と衝撃が走らなかった。
 ぎゅっと閉じた目を開くと澄みきった青い空が孫策の目に映る。
「先代…周瑜さん…無事ですか…?」
 その声は下から聞こえてきた。
「甘寧…? …甘寧!?」
 孫策は周瑜を抱えたまま起き上がり、下にいるその姿を確認する。
「へへ…無事で良かったですよ」
 彼女の心配を余所に甘寧が埃を払いながら立ち上がる。
「怪我は! 怪我はない!?」
「大丈夫です。丈夫な事が俺の取り柄なんスから」
 笑顔で答える甘寧。
 その元気そうな様子に安堵の息を漏らす孫策。
「孫策…ごめんなさい…」
 丁度、お姫様抱っこのような状態になっている周瑜。
 彼女は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「気にすんなって! それよりも…早くここからずらからねーと…」
 屈託のない笑みを浮かべて周瑜を嗜めると、ちらちらと周りの様子を窺い始める。
「孫策…?」
「結構、大きな音だったからな…。気付かれでもしたら厄介だよ」
 そう呟くと、孫策は甘寧と魯粛の方に向き直る。
「それじゃ撤収!」
「了解!」
 元気良く返事をすると、三人は疾風の如き速さで駆け出す。
「そ、孫策! 自分で走れる!」
「無理言ってんな! こんな軽くなっちまった体で…走れるもんか!」
 抗議する周瑜に言い放つ孫策。
 その言葉と同時に彼女の目から涙が溢れた。
「ごめん…私が不甲斐なかった所為で…いらない迷惑をたくさん掛けて…挙句の果てにはこんな目にも遭わせちまって」
「…貴方の所為じゃない。だから…泣かないで…」
 嗜める周瑜の瞳にも涙が浮かぶ。
 互いに信頼し合い、そして誰よりも気遣い合った。
 以心伝心――二人の心は誰よりも…どんな人にも負ける事はない。
 程なくして三人は止めてあったバイクに飛び乗る。
「それじゃ、先代! 俺等がケツ持ちしますので!」
「頼んだよ!」
 ケツ持ちを買って出た甘寧(その後ろに魯粛)にこの場を託す。
「今度は飛ばされないように…しっかり掴まってろよ!」
「…今度は…離さない…絶対に!」
 孫策は力強い周瑜の言葉に思わず笑みを浮かべる。
「行くよ!」
 孫策は勢い良くアクセルを全開にする。
 そして…朝霧の中、二人を乗せたバイクは走り出した…。
 二人の未来を差す光に向けて―― 

221 名前:彩鳳:2003/03/06(木) 02:29
 >教授様
 〜法正の涙〜より 
良いですね。やはり卒業式は・・・私も一年前は高校の卒業式でした。
一応後輩から花束は貰いましたが、花吹雪はありませんでした。校門の前は
桜並木になっているのですけどね・・・(−−;

 〜孫策と周瑜〜
 ああ、やっぱ孫策は格好良いですね〜(^^) 孫策に限らず、ヤンキー揃いの長湖部は
みんな格好良いんですけど。
 しかし、ヤンキー揃いの中だと、周瑜はさぞかし目立つ事だろうと
今更ながら気付きました(^^;

 >雪月華様
 やっぱ会談話は合宿のお約束ですね(^^;
 私は高校時代、天文部の合宿の時に墓地の隣で天体観測と言う
今思うととんでも罰当たりな事もやってましたが、私が墓地のベンチで寝ていたら
誰も気付かなくて行方不明扱いされました(^^;;;
  
 しかし陸遜も気の毒に・・・ただし、見ている分には面白いのですが・・・(^^;
 凌統は凌統で、甘寧に軽くあしらわれそうなイメージがあります(^^;
 どうあれ、個性派揃いの長湖部は、何をやっても盛り上がりそうですね。

222 名前:彩鳳:2003/03/06(木) 03:09
 長々と掛かってしまいましたが、SSの第三部が完成致しました。
長くなったので二つに分割します。

■ 一月の花時雨 ■

 第三部 ―大食堂の臨時会合―

 時計の針は十二時半を指している。
 この頃から学園の各クラスとも午前の授業が終了するようになり、学園は
昼休みに入り始めた。
 時間が時間だけに、お腹を空かせた生徒たちは先を争う様にして学食や売店へと
足を向ける。
 
 廊下を歩く女生徒達の中には、彼女らの姿もあった。
 
 「あ〜ぁ、もうお腹減ったよ〜ぅ。元譲は何にする?」
 「カレーか麺類かな。今日みたいな寒い日はそういうのに限るよ。」
 「え゛〜〜!? またカレー!? 昨日食べたばっかじゃん〜。」
 「ならラーメンだな。」

 速い。即答だ。どうやら彼女の中で、既にメニューは決まってしまっているようだ。

 「ほ〜んと、元譲はいい加減だね〜。いつか体壊すよ?」
 「いい加減って・・・単純明解と言って欲しいんだけどね。人間時には単純でないと。孟徳も
心当たりがあるんじゃない?。」

 「う゛〜」と不機嫌な声を上げていた曹操だったが、急に挑発的な目つきになる。その顔には
妙な笑みまで浮かべていた。

 「元譲〜?麺類は太るんだからね〜。消化が速いから太らないと思ったら大間違いだよ〜。」

 これは事実だ。麺類はなまじ消化が速いだけに、無意識の内に沢山食べてしまうものだ。
何より、麺を主に構成しているのは澱粉(デンプン)、即ち炭水化物だ。
 炭水化物は体内で糖分に変わり、糖分は脂肪となって熱になる。消化が速いと言うことは、
血糖値が急速に上がるということでもあり、同じ炭水化物でも消化が緩やかな米飯やパン類とは
大きい差となるのである。

 「そうなのか?でもまぁ、食べた分は消費してるし問題無いだろ・・・。」
 
 まぁ、夏侯惇の得意な剣道の様に、激しく動く運動ではカロリーの消費量は人並み以上だ。
増してや今は冬。カロリーの消費量が当然増大する。冬の朝、朝食を摂らないで登校・出勤し、
寒さに震えた経験がある人なら、季節の変化とカロリー消費量の関係はピンと来るのでは
ないだろうか?
 かく言う私も麺類は好きなので、他人の事をどうこう言える立場ではないが、余り食べ過ぎると
塩分抜きでも危ないという事は言わせて頂きたい。もっとも、消化が早いので急ぎの用の時には
米飯よりも麺類の方が良いのもまた事実である。赤穂浪士が討ち入り直前に食べたのは
蕎麦だったと言われているくらいだ。
 話を戻すが、夏侯惇の場合、本人が言うように摂取量と消費量の釣り合いが保たれているので、
特に問題にはならないのだ。
 
 「元譲なら心配ないと思うけどね。けど気を付けてよ?私達はもう、学校中から注目されてる
立場なんだから。」
 「まあ、確かに目立ってるね。余り目立つのは好きじゃないんだけど・・・仕方ないか。」

 そうこうしている内に、二人の眼前に冀州校区の学生食堂が見えて来る。
 
 「うわ〜込んでるね〜。」
 「今日は凄いな・・・どうしたんだ?」

 多数の校区に無数の校舎が林立する蒼天学園内でも、[業β]棟の学食は最大規模の
キャパシティ (利用者収容能力)を誇っている。その学食が、今日は大勢の生徒で
溢れかえっていた。
 思わず顔をしかめる二人。この日は学食に呼び出した人間が多々居るので、早いうちに
並びたかったのだ。

 「今日は雪だからね〜。まあこういう事もあるって事。」

 普段ならば、外の椅子やベンチを利用する人が多いのだが、今日は生憎の大雪である。
いつもより込み具合が激しくなるのも仕方のない事であろう。だが、雪が降るような寒い日は、
学食利用者の行動にもう一つのパターンが現れてくるものだ。

 「参ったな・・・考える事はみんな一緒か・・・。」
 
 廊下で夏侯惇は「寒い日はカレーか麺類・・・」と言っていたが、これは並んでいる者の大半が
同じだった様だ。トレーを持った生徒たちは、カレー類と麺類のコーナーに集中して並んでいる。
思わず夏侯惇も苦笑してしまう。
 
 「孟徳、空いている方に行く?私達も時間があるわけじゃないし・・・。」
 「うん、子孝たちが待ってるから。麺もダメ、カレーもダメ、となると―――」
  
 二人は同時に周囲を見渡し―――

 「―――あそこ(にしよ?)しかないか。」
 
 ―――同時に口を開いていた。


 一方、学食の上級幹部専用席では、曹操に呼び出された面子――曹仁・曹洪・李典・楽進が
既に集まっている。
 
 「あぁ・・・ったくもう、今日は何でこんなに混んでるのよ!?」
 「知らねぇよ。私らは座れてるからまだましだって。」

 「ねぇ文謙?私らが呼ばれたのってやっぱり・・・」
 「并州でモタついているから・・・に決まってるじゃない。他にどんな理由が?」
 
 それぞれが、各自の話題で花を咲かせる中、呼び出された少女がやって来る。

 「おっ、奉公じゃねぇか!お前も呼び出しか?」
 「まぁね。けど、呼び出しだ本人がまだ来ていない様だな?」
 
 郭嘉の言葉に、皆の視線が学食のカウンターに注がれる。だが、長々と連なる長蛇の列の中に
曹操らの姿を見つけることは出来なかった。

 「あれじゃぁ会長もご苦労されてますよねぇ・・・まったく・・・」
 
 嘆息を漏らす李典に続き、今度は楽進が口を開いた。
 
 「ホント嫌になるよね〜。せっかく幹部専用席があるんだから、専用のカウンターも造って
欲しいよね〜。」

 「いやいや文謙さん、そりゃまずいぜ。何せ一部じゃ『専用席は逆差別だ』なんて声もあるからな。
まぁ、便利なのは確かなんだけど、『あの席が空いてれば・・・』って思う連中が居るんだよ。
 そこでだ、専用のカウンターを造ったら連中はどう思うか?
 私らだって下っ端からいまのポスト(役職)まで来たわけだし、あんたも連中の気持ちは
分かるだろう?」

 席に座りながら、郭嘉が口を開く。作戦会議以外ではあまり長話はしない彼女だけに、
皆の視線が集まる。

 「ま、あまり深く考える事はないんだけどさ、この学園じゃ一般生徒の不満がきっかけで
大騒ぎになった例はいくらでもあるだろう?最近だと黄巾の連中とか。
 だから、あまり生徒連中の不満を煽るような事は止めたほうがいいぜ。要するに生徒会と
生徒の間の信頼関係に気を配らないといけない、って事なんだけどな。」

 楽進が「そうね・・・奉公の言う通りだね。」と返事を返そうとしたが、それより先に―――
 
 「さ〜っすがは奉公!!うんうん、よーく分かってるじゃん!! 文謙も謙虚な気持ちを
持たなきゃダメだよ!」
 「いや、別にそこまで真摯に受けとめなくても・・・で、いつから聞いてたんだ、会長サンよ?」
 「う〜んと『不満がきっかけで』の辺りから。」
 
 ―――楽進よりも先に、いつの間にやって来たものやらトレーを抱えた曹操が口を開いていた。
 
 
 主催者もやって来たので、各自が自分の皿をつつきながらの臨時ミーティングが始まった。
 だが、その内容は最初から脱線してしまう。それも主催者の手によって。

 「それにしても珍しいよね〜。奉公があんなに長話するなんて。」
 「そうか? アレがそんなに長いかねぇ?」
 「うん。奉公はそう感じないのかも知れないけど、十分長いと思うよ。」

 これには曹操のみならず、全員が頷いて見せる。だが、郭嘉は別段気を悪くした様子は無く、

 「そうか・・・オレとしては、自分の意見は言える時に言っておきたいんでね。だから話が
長くなる時もあるんだろうな。
 で、それはさて置き何の為にオレらを呼んだんだ?メンツからして大体の予想は付くけど・・・
放課後までに伝えなきゃならないほど重要でもないと思うぜ。今日はあのドカ雪だから、戦いは
無理だろうし。」

 返事のついでにミーティングの軌道修正を仕掛けて来た。これには逆に曹操の方が
気を悪くした様で、口を尖らせる。

 「も〜奉公もつれないね〜。ま、いいけどさ・・・。まずは曼成と文謙?」
 「「はいっ!」」
 「高幹との戦いの件だけど、苦戦してるんでしょ? 長引く様だったら私と子孝が加勢するけど、
現場の指揮官としての状況報告を聞かせてくれない?」
 「分かりました・・・」

223 名前:彩鳳:2003/03/06(木) 03:10
并州校区は学園北部のに位置しており、劉備の新野棟並みに辺鄙な校区である。袁紹が華北を
制した際に高幹が校区総代に就任し、それ以来彼女が校区を管理している。
 前年の年末に南皮棟の袁譚を下し、冀州を制した曹操は、年度の始めから李典と学進を派遣して
并州校区の攻略に着手した。
 高幹と生徒会の戦力差は大きい。しかし、高幹には強力な切り札が残されていた。
 その切り札こそ「壺関ロック・ガーデン」(Rock garden=岩が主役の庭園・築山)である。

 岩山で構成されたこの自然公園は登山同好会の上級練習コースとしても使用されており、
屈強な要塞としての高い評価を得ている。高幹はこの公園を決戦場に選択し、地形を駆使しての
防衛戦を目論んだのである。
 
 高幹の判断は正しかった。狭く急な道を登ってくる生徒会の大部隊は、進撃ルートを制限されるが
故に用兵家のタブーである戦力の分散・逐次投入を半ば強制されたのである。
 生徒会勢は狭い道の中でダンゴ状態となり、味方同士で立ち往生しているところへ高幹の手勢から
容赦の無い十字砲火を浴びせかけられた。
 地形が地形だけに、生徒会勢は兵力の優位を生かした車懸かり(連続波状攻撃)戦法や
機動包囲戦法を取る事が出来ない。このため生徒会勢の連日の攻撃はワンパターン化してしまい、
生徒会の手勢は次々と倒れた。
 「ロック・ガーデン」はその前評判を裏切らず、未だに生徒会勢の攻勢を跳ね返し続けている。
 生徒会側も何とかしようと打開策を考えてはいたのだが、その答えはまだ出てきてはいなかった。

 「―――と言う訳で、残念ですが并州攻略の目処は今のところ立っておりません。」

 半ば予想された報告ではあったが、どうしても皆の口から溜息が出てしまう。重い空気の中、曹操が
口を開いた。
 
 「流石は壺関と言うところね。打開策は考えているけど・・・。子孝?壺関では薔苦烈痛弾のみんなに
頑張ってもらうから、そのつもりでいてね。この雪だから今日は無理だけど、雪が消えたら仕掛けるよ。」
 「―――っし!待ってました!! それで、何をすれば良いんだ?」

 曹操が考えていたのは、薔苦烈痛弾の面々による少数精鋭での奇襲作戦だ。先にも述べたが
「ロック・ガーデン」は大人数での戦闘には全く不向きな地形である。ならば、戦闘能力の高い者を
少数差し向けたほうが却ってやりやすいのではないか?と考えたのである。
 口には出さないが、すでに南の荊州・揚州校区の動向に目を向け始めている曹操としては、
ここで時間を取られるわけにはいかない。春休みまでに北方を制し、春休みを南方(特に荊州校区)
制圧のための準備期間に充てたいのが曹操の本音なのだ。

 「要するに殴り込みか! ・・・上等だ・・・!!」

 曹仁の身体から、心なしか激しいものが発せられる。その“気”を受けとめながら、曹操は次々と
指示を出す。

 「曼成と文謙はしばらく休みね。薔苦烈痛弾の皆が動く時は陽動で動いてもらうけど、こっちからは
仕掛けなくて良いよ。
 それから元譲は、南の抑えをお願いね。劉表や長湖部が動くとは考えにくいけど、元譲がいるなら
向こうから仕掛けて来る事は無いと思うから。あ、もちろんだけど北の方が片付くまでは仕掛けちゃ
駄目だよ。」
 「「分かりました。」」
 「了解。任せてもらう。」

 「・・・あの〜・・・私は何をするの?さっきから呼ばれてないけど・・・。」

 口を開いたのは、最後まで呼ばれなかった曹洪だ。参謀の郭嘉もまだ呼ばれていないので

 (最後に呼ばれるからには、きっと大事な仕事を・・・)
 
 と半ば覚悟していたのだ。が、それに反して曹操の言葉は彼女の全く予想しないものであった。
 
 「あっ、ごめ〜ん。子廉の仕事は大事だよ。并州と幽州を取ったら祝勝会を―――」
 「ゲぇッ!!!」

 曹洪の顔が一気に青くなる。そして、彼女に寄せられる同情の眼差し。

 「何よ〜『ゲッ』って。―――祝勝会をやる予定だから、会計係として頑張ってもらうってだけなのに〜。」
 「はぁ・・・新年会の残務処理が終わったばかりなのに・・・。」
 
 ゲンナリする曹洪。一方、それを見ていた夏侯惇や李典の脳裏には、書類の山と格闘する曹洪の
壮絶な姿が思い出されていた。
 冬休み期間中はクリスマス会や忘年会、そして新年会と大きなイベントが連続する。無尽蔵に等しい
資金力を持つ蒼天学園の生徒会ともなれば、その支出は半端ではない。
 増してや、曹操はこういう時はド派手に金を掛けるのだ。

 盛大に行われる大パーティ。そして、パーティにつぎ込んだ金額に比例して増える書類と会計係の仕事。
 
 冬休みが終わってから一気に寄せられてきた書類の山は、さながら霊峰・泰山の様だった。
 書類の山の麓では、曹洪が印を傍らに置きながら、必死の形相でペンを走らせている。

 寝不足気味で赤くなった目、目の下の隈、そして沢山並んだ栄養ドリンクのビン。
 年頃の女子高生のあるべき姿でない事は、誰にも分かるであろう。
 
 「けどさ、あの時は時間も掛かったけど、どうにかなったでしょ?今回は一回だけだからそんな
気にしなくて良いよ。」
 「はは・・・その『一回』が問題なのよ・・・その『一回』が。」
 
 「じゃあ会長、資金調達の方はオレに任せてもらうけど、構わないよな?」
 「うん、そっちは奉公にお任せするから、どんどん稼いじゃってね!」
 「ああ、今度は500円から頑張ってみるよ。どこまで稼げるか・・・オレの腕の振るいどころだ・・・!!」

 半ば放心状態の曹洪を脇に見ながら、郭嘉と曹操が言葉を交わす。思いっきり不謹慎な会話だが、
この生徒会が公認しているので特に問題は無い。 

 「500円って、お前本気か?0が一つ足りないんじゃないか?」
 「いや、奉公さんの事です。多分なんだかんだで大儲け・・・」
 「なんと言うのか・・・よくやるよ・・・」

 いつの間にか、ミーティングはお喋りへと変わってしまった。しかし、誰もそんな事を咎めはしない。
もう先に言うべきことは言ってしまったのだから。

 楽しげに話すその姿は、一般生徒たちのそれと何の変わりも無い。
 身も蓋も無く語り合う少女達の声は、他の生徒たちの声と重なり合い・・・喧騒となって
広い学食を満たしてゆく・・・。
 
 時間は午後の一時を回ったばかり。
 まだしばらくは、この喧騒が続きそうな気配であった。

 ―第三部 END―

 ■作者後記■
 すみませぬ。思ったよりも長くなりました。今のところ、一部と二部を合わせて26kbだったのですが、三部はそれ自体で27kbに達しました。ちょっと余計な話が多かったかも知れません。
 第四部では、いよいよお待ちかね、放課後編となりますので、どうか気長にお付き合い下さい
(m‐‐m) 

 あ、ここだけの話、壺関の攻防戦は信州上田城の真田昌幸の戦い方を参考にしております。 
 (多分気付かれた方も多いのではと・・・汗)

224 名前:アサハル:2003/03/08(土) 20:53
>彩鳳様
う…私も麺類は大好物だ…気をつけよう。

…それはさておき。
何というか、「蒼天学園」の全てがこのSSに凝縮されている
ような気がしました。
階級制度があって課外活動と称して闘争に明け暮れ、でも
その分そこには普通の学校よりもずっと濃くて熱い青春が
ある…というか。
言葉が見つからないですけど。

225 名前:★ぐっこ:2003/03/09(日) 20:15
>教授様
卒業シリーズ! 孫策と周瑜の卒業…。
切ないですよね…。
それでも周瑜を誘って、ともに卒業式を受けようという孫策たち。
この頃はもう劉備も曹操も学園にいないわけですが、もし会場で
鉢合わせたらどんな顔をするのか…。ふたりとも温かく迎えそう。
甘寧や、最近すっかり定番となったヤンキー魯粛もイイ味です(;^_^A

>彩鳳様
乙〜。アサハル様が仰るように、このシリーズも定番としていよいよ安定!
学園生活と戦略進行がイイ感じでブレンドされてると思います。
そういえば楽李コンビ、高幹攻めで手こずってましたね…
曹操麾下の連中も、あれで気苦労が絶えない様子。
特に曹洪たん気の毒…・゚・(ノД`)・゚・

226 名前:雪月華:2003/03/09(日) 23:36
I・G・Vの戦い −前編−

ここは予州、長社棟付近。鉄門峡(IronGateValley)と呼ばれる山峡の地。幅5mほど左右を岩壁にはさまれた山道を400mほど登ると、500m四方の広場に出て、100人を収容できる講堂がある。講堂の後ろの山道をさらに進むと、そのまま後方の陽城棟に辿り着く。中央の山道以外に、山の左右を自転車道が通っているが、道の途中が黄巾党による落石でふさがれており、2本とも通行止めとなっている。
張角の入院直後、広宗で張梁が飛ばされ、次の日、張宝率いる100人の黄巾党がこの難攻不落の地に拠った。すぐさま執行部は皇甫嵩、朱儁の両名に400人をつけ討伐を命じた。その中には先日の広宗で非公式ながら勝利の直接原因となった4人の姿があった。

壇上では張宝による士気を鼓舞する演説が続いている。聴衆として守備の者以外の50人がおり、講堂は熱狂に包まれていた。赤く染めた髪をポニーテールにまとめた長身の少女が壁に寄りかかって周囲とは違う醒めた目でそれを見ていた。
張宝は変わった、とその少女、厳政は思った。小学生の頃からの付き合いだが、昔はここまで右翼的な考えは無かったはずだ。理想に拘りすぎる節はあったが純粋な学生革命家であったはず。学園を変える、それに共感できたからこそ、黄巾党に加わったといっていい。執行部の気に食わない連中を十数人飛ばした。後戻りはできないことも覚悟していた。しかし、あの冀州校区音楽祭の後、数千人を自由に使える立場になったとたん、張宝は二流の政治屋や愛国屋も恥ずかしがるような台詞を吐き散らすようになった。勢いはあり、美声ではあるが、よくよく聞くと支離滅裂の内容であることが容易にわかる。
変わってしまった友人を見ているのが辛くなり、厳政はそっと講堂を出た。
山道に近いところでは巨大なキャンプファイアーが炊かれている。灯油や薪も沢山用意されているようだ。この講堂付近では大規模な焚き火が執行部により禁止されている。その裏の意味を張宝は知り、利用しているのだ。暖められた空気は気圧差とI・G・Vの絶妙な地形を経て、烈風となって麓へ噴出す。その烈風を張宝は「神風」と呼んでいる。神風で動きの止まった敵を左右の岩棚に拠った30人が投石で撃退する。いい作戦だが、いずれ石も、火も尽きる。それが張宝にはわかっていない。
もともと、張宝の理想に共感して黄巾党に加わったのであるから、張角の天使声の影響を厳政は受けていない。その共感できる張宝が変化したことで、厳政は争うことに疲れ、醒め始めていた。しかし、これからどうしたらいいのかが、わからなかった。

突撃、そして撤退。すでに5度目である。40人単位で突撃させているが、負傷者が増えるばかりで一向に事態が進展しない。山道は目を開けているのも困難な烈風が吹き降ろし、左右の岩棚に拠った30人が投石攻撃をしかける。石よけの盾を構えれば台風時の現場リポーターの如く、風圧で前に進めなくなり、進んだとしても盾の死角から投石を受ける。
「また失敗!?上にはたった100人しかいないのよ!」
「落ち着け公偉。報告によればI・G・Vには強い向風が吹いているという。山頂に煙も見える。張宝の奴はおそらくアレに気づいているな。」
「アレに?生徒会の最高機密じゃないの?。」
「執行部のデータバンクに一ヶ月も前にハッキングされた跡が、一昨日見つかってな、最高機密である戦場データの大半が閲覧されていたらしい。稚拙な足跡消しだったからすぐに犯人は割れた。例の馬元義だった。」
皮肉屋で知られる皇甫嵩は一息つくとさらに皮肉な口調で続ける。
「一ヶ月も前にハッキングされたのに、それに気づいたのが一昨日。間抜けな話だ。我々は当面、前方の敵と、後方な無能な味方の両方と戦わねばならん。」
「随分と悲観的ね。」
「お前はいいな、いつも楽観的で。この戦いが終わったら終わったで、執行部とのいさかいは必ず起こる。奴らとうまくやる自信も無い以上、一時的に生徒会から離れることも覚悟せねばなるまい。悲観的になるのも仕方ないだろう。子幹もつまらん告げ口で罷免されたことだしな。」
「まったく、執行部の奴ら、戦闘中に指揮官が変わることがどれだけ士気に響くかわかってないのね。おまけに後任に指名されたのがあの董卓。まあ、失敗続きですぐ義真が総司令になったのは嬉しかったけど。」
「重荷なだけだ。私の才は子幹に数段劣る。」
魯植子幹。読書好きの物静かな眼鏡っ娘だが、合気道の腕は師範クラスであり、その戦略戦術は生徒会随一を誇った。総司令として敵の半数の兵力で黄巾党を圧倒していたが、執行部との折り合いが悪くなり、黄巾党との抗争中にもかかわらず、罷免されてしまったのである。
「とにかく、これ以上時間をかければ怪我人が増えるばかりだ。あの4人に期待するしかあるまい。」
「大丈夫かな?」
伝令の生徒が走りより、皇甫嵩に耳打ちした。
「3人が落石の手前から岩壁を登り始めたか。で、あと1人はどうした?」
「そ、それが…ちょっと目を離した隙にいなくなってて…」
「逃げたか。まあいい。持ち場にもどれ。」
皇甫嵩は一息つくと腕を組んだ。三人がうまくやれば、風はやむはず。それまで正面から陽動し続けなければならない。失敗したら黄巾をさらに勢いづかせることになる。頼むぞ、と皇甫嵩は心から思った。

厳政は高台の端。落石でふさがれた自転車道が眼下50mに見渡せる展望台までやってきた。少し風にあたろうと思ったからだ。ふと、転落防止用の柵に寄りかかって景色を見ている女生徒がいるのを見つけた。黄色いバンダナをつけてはいるが、この山に拠った100人の中にこの生徒はいなかったはずだ。怪しく思った厳政は声をかけた。
「ちょっと、こんなところで何してるの?」
「え?あたし?」
振り向いた女生徒の顔にはやはり見覚えが無かった。意外に整った顔立ちはしているが、女子高生らしくないぼさぼさの髪。飄々としたどこか眠そうな目。
「あなた、黄巾党の者じゃあないね?生徒会のスパイ?」
「はずれ。税務署の査察員よ。」
「はぁ?」
「あなた方、黄巾党には不正な蓄財があるというタレ込みがあって、調査にきたワケ。」
「嘘でしょ?」
「そう、嘘。ただの一般生徒よ。ま、そんなことより一杯どうよ?」
その女生徒は傍らのナップザックから、ラベルをはがした500mlペットボトルに入ったグレープジュースらしきものを取り出し、傍のベンチに座った。厳政もその放胆さに呆れつつ、腰を下ろす。手渡されたペットボトルの蓋を開けて口をつけた。思わずむせた。
「こ、これ、酒!?」
「自家製の赤ワイン。3年ものよ。」
「あなた未成年じゃ…」
「5年後には成人してる。それにワインなんて南ヨーロッパじゃ子供の飲み物よ。それに未成年飲酒禁止法だっけ?あれって売ったほうの責任について明記してあるだけで、呑んだほうの罰則は具体的じゃないの。それにこれは自家製。誰にも迷惑かかってないのよ。」
「そんなものなの?」
そんな会話を重ねつつ、ペットボトルは二人の手を往復し、気づくと中身は半分以下に減っていた。喉から胃にかけて不思議な、心地よい熱さが感じられた。
「酒は2回目だから、ちょっと酔ったかな?」
「酔人之意不在酒っていうよ。なにか、でかい悩みあるんじゃないの?」
ズバリ、である。
「…人に言えるようなことじゃないわ。」
「じゃ、無理には聞かないことにする。」
そのまま無言で飲み続けた。不意に厳政が呟く。
「ねぇ、人ってほんの数日で変わってしまうものなのかなぁ?」
「人の本質は変わらないよ。山だって北から見るのと南から見るのでは形が違うでしょ。要は見る人の心がけってやつよ。」
「心がけ…か。あたしはあいつの友人面してたけど、結局何一つわかってなかったのかな…」
ふと、岩壁の下に目をやると、岩肌に取り付いて登ってくる3人の人影が見えた。
「あいつら…たしか劉備、関羽、張飛。」
「あちゃ〜、見つかっちゃったか…」
「あなたの仲間?」
「そ。奇襲しようと思って登ってきたんだけど、運が悪かったみたい。」
「正直ね。」
そろそろ潮時かと思った。そして…張宝。あいつをそろそろ楽にしてやりたかった。今のままではさらにあいつは苦しむだけだ。そのことがはっきりわかった。
「酒のお礼。いいこと教えてあげるわ。」
「え?」
「張宝はこの先の講堂で演説をしてるわ。ここから講堂までは20人の歩哨がいるけど、そいつらはみんなあたしの部下。展望台の奇襲部隊を追い落としたってことにして、全員を前線に連れていったげる。」
「いいの?そんなことして。」
「講堂を左回りに行くと裏口があるわ。そこを入って左手の2つ目の扉を開けると直接舞台袖に出られる。まだ講堂には50人いる。正面から行ったら勝ち目は無いわよ。」
「あなたはどうするの?」
「あたしは…あいつへの義理がある。前線で一人でも多く、飛ばす。」
「あいつって?」
「張宝。物心ついたときからの付き合いよ。あいつは今苦しんでるわ。一刻も早く楽にしてあげて。」
そういって腰を上げた。酔いで足元が少しふらついたが何歩か進むと、酔いも醒めた。
自分の名前は多分、張宝を裏切った卑怯者として学園史に残るだろう。それでも良かった。変わっていくあいつを見ているのはもう沢山だった。

227 名前:雪月華:2003/03/09(日) 23:38
I・G・Vの戦い −後編−

「姉者、もう少しです。静かなことから察するに、誰もいないようですな。」
「それにしても、人がこんなに苦労してる時に憲和はどこいったんや!」
「ここよ。」
「へ?」
劉備が顔をあげると、上では簡雍が微笑んでいた。
「い、いつの間に…」
「自転車道の脇に、昔の戦場の名残の地下道の入口があってさ、そこ辿ったら上に出れたの。出口で何人か竹刀もって警備してたけど、黄巾巻いてたら黙って通してくれたよ。」
「…その手があったか。」
「あんた達じゃダメ。幹部を何人か飛ばしてるから顔を知られすぎてるし。よいしょ。」
簡雍は3人を引っ張り上げながら笑った。

不意にステージの左手から3人が飛び出してきた。張宝の傍に侍立していた2人が誰何の声と共に駆け寄る。短い格闘の後、2人は関羽と張飛に叩き伏せられた。劉備が2人の前にずいと歩み出る。50人の聴衆はあっけにとられて身動きができない。
「貴様ら!生徒会か!?」
「あんたらの暴走によって迷惑をこうむった生徒代表っちゅうところやな。」
「この国賊が…」
女性ながら詰襟の学生服に身を包み、目に血光をみなぎらせた張宝が、日本刀を抜いた。水銀灯の光を照り返し、刃が不吉に光った。真剣である。周囲の空気が凍りつく。
関羽が劉備をかばうように一歩進み出た。右手には木刀が握られている。
「関さん!」
「お任せあれ。」
白刃を目の前にして、驚くほど静かな声。
「その器に見合わぬ力を持てば、その力はその器を砕く。それがその刀であり、多数の黄巾党であった。剣を引け。」
「小生には大和魂がある!亡国の非国民など斬り捨ててくれるわ!」
「聞こえておらぬか…」
「鬼畜米英!天誅を受けよ!」
張宝が袈裟懸けに斬りかかって来た。関羽は一歩踏み込むと無造作に木刀で刀を払う。澄んだ音がして張宝の刀が鍔元10cmを残して折れた。関羽はそのまま張宝の左手側に抜ける。続いて張飛が踊りかかり、例の三節棍で残った刀を叩き落として、右手側に抜けた。
「浪速の一撃!受けてみいや!」
劉備の愛用のハリセンが野球のアッパースイングの要領で張宝の顎に叩き込まれた。

20人を連れて前線についた時、後方で騒ぎが起こった。風も弱まってきている。劉備達にキャンプファイヤーが消され、張宝が飛ばされたか、と厳政は思った。うろたえる50人に対し、厳政は怒鳴った。
「地公主将が飛ばされた!神風ももうすぐやむ。逃げたい者は講堂の背後から陽城棟へ逃げるといい!」
「厳政先輩はどうなさるのです!?」
「あたしはここに残る。残って一人でも多く生徒会の連中を飛ばす。」
もとからいた30人が逃げ去っていった。残ったのは連れてきた20人だ。
「あなたたちも、ばかね。」
「ばかで結構です。がんばりましょう!」
風が弱まったことに気づいた下の生徒たちが、50人ほどで登ってくるのが見えた。
ぎりぎりまで引きつけ、ありったけの石を一斉に投げつけた。不意を疲れた50人は大混乱に陥る。石がなくなり、鍔無しの竹刀をとった厳政は白兵戦の指示を出した。
戦闘が収まり、二十数人を倒された生徒会は撤退していった。厳政の部下も7人が倒れ、苦しげにうめいている。それを見て厳政は心が痛んだ。
「もういい。あなた達も逃げなさい。」
「できません!」
「あたしは張宝とは物心ついたときから友達やってる。せめて、最後まで付き合ってやる義務があるのよ。あなた達はあたしについて2ヶ月しかたっていない。最後まであたしに付き合う必要はないわ。」
「たった2ヶ月でも部下は部下で…」
「利いたふうな口きいてんじゃねえよっ!!」
思い切り頬を張った。その女生徒は2m吹き飛んで気絶した。
「いいか、これ以上あたしに「いい人」をやらせてくれるな。まだわからないなら、あたしがあなた達を飛ばす!わかった!?」
「…」
「わかったなら、そいつら連れてさっさと逃げなさい。」
そういって背を向けた。しばらくして、背後の人の気配が消えた。

「やられた!?あの厳政って女…やるわね。どうしようか…」
「人海戦術。それしかあるまい。20、30と小出しにしても地形を利用されて犠牲者が増えるだけだ。幸い、風もやんでいる。障害はほとんどないはずだからな。」
人海戦術。中国人民解放軍お得意の戦法であり、少数の強敵に対して圧倒的な大軍をぶつけるのである。とにかく飛びかかり、のしかかり、引きずり倒す。
「全員突撃!一気に陽城棟まで押し切る!」
皇甫嵩のハスキーボイスが鉄門峡にこだました。

山道の麓から黒い川が逆流してくるように厳政は見えた。400人の突撃である。
「来ると思ったけど、いざ実際に見ると凄いわ…」
厳政は呟くと竹刀を構えた。下から道幅一杯に広がって400人が川のように走り登ってくる。不意にその川が二つに分かれた。あっけにとられる厳政の左右を数十人が駆け上った時、後ろから右肩に誰かが抱き付いてきた。もう一人に竹刀がもぎ取られる。反射的に振り上げた左手に二人が抱きついてきた。腹部に鈍い衝撃が走り、地面に引きずり倒された。意識が遠のく…
「張宝…義理は果たしたわ…お前が一日も早くまともに戻ることを…期待するわ。」
厳政の意識はそこで途切れた。

こうして、張角の入院からわずか2日で、張宝、張梁の姉妹は共に飛ばされた。まとまりを失った黄巾党は生徒会によって駆逐されてゆき、学園には束の間の平和が訪れることになる。

次の日、冀州校区総合病院の門の前に一人の女生徒が立った。皇甫嵩である。
蒼天学園。実地で覇を学ぶこの学園では、その校風ゆえ入院患者が発生しやすい環境にあるため、保健室では間に合わず、各校区にひとつずつ、入院設備の整った病院が誘致されている。学園医師会の医師が常時詰めているが、医師会会長の「神医」華陀は非常勤であり、興味の引く患者のいる校区を行ったり来たりしている。
張角は反乱の首謀者ではない。だが、学園を混乱させた元凶としての処分は与えねばならない。本当は温厚な魯植に行ってもらいたかったが、生徒会を退いた後、夏風邪を引いて寝込んでいた。頼める状況ではなかった。
「気の重い仕事だ…手負いの天使を狩らねばならんとはな…」
そう呟くと、皇甫嵩は病院の門をくぐった…
−−−−−−−−−−−−−−−−−
ふと浮かんだので、鉄門峡の戦い(横光風に劉備軍奇襲、張宝戦死)を書いてみました。
厳政がかなりかっこよくなってますが、原典どおりに、形成不利になって親玉の首を差し出した、ではなんとなく学三の雰囲気にそぐわないので、少年ジ○ンプ風に友情、努力、熱血をアレンジしてみました。結果的には裏切ったことになってるし。
簡雍、何気に大活躍(^^;)。あんなこと書きましたが、未成年の飲

228 名前:雪月華:2003/03/10(月) 15:32
お詫び
魯植タン、眼鏡っ子じゃありませんでした(^^;)スミマセヌ
あと、以前のSSで華陀先生を爺にしていましたが、
japan様、項翔様、御二方の正史を読み直した結果、女医であることが判明(汗)。
次のSSでは訂正してあります。
張角関連はあと2部ばかり続く予定(9割がた推敲済み)です。
第4部書いててふと思う…英文の作詞って難しい…
>教授様
時期的にぴったりの卒業シリーズ。微笑ましかったり、切なかったり…
そういえば彼女達の進路って一体…袁術は決まってたみたいですけど…
>彩鳳様
学園生活、戦略戦術、相反するはずの二つをうまくまとめる…お見事です。
あと、確かに蕎麦って意外とカロリー高いですよね。

229 名前:彩鳳:2003/03/11(火) 01:00
 皆様、お久しぶりで御座います。しばらく蕎麦屋のバイトで留守に
していたので返事が遅れてしまいました。
 また木曜日or金曜日には戦線離脱しますが、それまではなんとか動けます。


 私もSSのお詫びから先に(^^;;;

 「二人は同時に周囲を見渡し、同時に口を開いていた。」

 の部分で、二人(曹操&夏侯惇)は何を頼んだんだ? って思った方は当然いらっしゃると思います。
 すみませぬ。その辺りを書くのを忘れていました(ドキューン)
 SSの続きに紛れ込ませることが出来れば良いのですが・・・完全に泥縄ですね(^^;

 >アサハル様、
 アサハル様のおっしゃる様に、蒼天学園の生徒はなんだかんだで熱いと思います。
(その「熱さ」の形はそれぞれですけど・・・。)
 高校生としては洒落にならないくらいにハードな毎日ですけど、それはそれで
一つの幸せなのでは・・・とも思います。

 >ぐっこ様、
 曹洪はまだ会計係として出て来た事はありませんよね?
 私は高校時代二つの部の会計を掛け持ちしていたので、実体験を元に会計係の
曹洪を書いてみた次第です。
 学三の曹操は、お祭りになると景気良く金をつぎ込むこと間違い無いので(^^;
気の毒ですが曹洪には頑張って頂く事に・・・(それが無ければ会計ってヒマなんですけどね(^^;

 まだ構想段階ですが、部活だったら予算折衝があるので、そっちのネタでSS書ければ・・・
と思っています。(いかんせん、帰宅部が参加出来ないのがネックですが・・・)

>雪月華様
 「I・G・Vの戦い」 拝読致しました。
 厳政の葛藤が上手く書かれていると思います。しかし、こう言う立場の人って
歴史的に見ると結構多いような気が・・・

230 名前:アサハル:2003/03/13(木) 18:49
>雪月華様
厳政…!!熱い!熱いぞ!!
うああー…こんな素晴らしいSSの後に続くのが私の駄漫画というのが
申し訳ないです…(;´Д`)
しかし最近簡雍ツッ走ってますなー!ワインも醸造できるのか…凄い人だ。

てゆーか盧植はメガネっこでもいいかもと一瞬でも思った私を許して下さい。

231 名前:★ぐっこ:2003/03/14(金) 00:26
>雪月花様
むう! 黄巾の、厳政の熱い戦いを拝見しました!
黄巾の連中、とくに中堅幹部は張角への忠誠と現実の狭間で、
かなり無理をしていたようですね…
そして敵がたたる皇甫嵩らの思いもむなしく、学園史は悪化の
運命を辿るのですな…
続編に期待! 学三演義にも熱が入るというモノ!

>彩鳳様
実体験こみですか!曹洪たん…(^_^;)
ケチというところから現在の設定がある曹洪ですが、実際でも
色んなトコロから資金やら人員やらを掻き集めた苦労人なんですよね…

>アサハル様
むう、私も眼鏡っ娘盧植に萌えているところです。
本を読むときなんかはかけてるんだろうな(;´Д`)ハァハァ…

232 名前:教授:2003/03/16(日) 01:55
■■卒業 〜甘寧と魯粛〜■■


「よーし…二代目は行ったな…」
 甘寧は孫策達が走り去った事を確認すると、背中併せになっている魯粛に呼びかけ
る。
「魯粛! そっちはどうだ!」
「やっばいよ! 何か…わらわら出てきた!」
 声を荒げて状況を簡単に説明する魯粛。
 その目には、病院から巣を突つかれた蜂の群れの如く医師や看護婦、警備員から患者まで映ってい
た。
「な、なんだ〜!?」
 後ろを振り返った甘寧も、その異様な光景に思わず驚いてしまう。
「こらぁ! 患者泥棒!」
「絶対安静の患者さんを連れ出すなー!」
「俺達の公謹ちゃんを返せー!」
 様々な声や雄叫びを上げながら追っ手達が迫ってくる。
 ある種の殺気が篭ってるからこれがまた恐い。
「…興覇。ずらかるよ!」
「あ、ああ…。あれにゃ勝てる気がしねーし…」
 魯粛は世にも不思議な光景に呆然としている甘寧の肩を叩いて走り出す。
 後ろをちらちらと見ながらも甘寧が後に続く。
 幸い、近くにバイクを止めていた事もあったので追っ手に追い付かれる事はなかった。
 甘寧は素早くバイクに跨ると、思いきりアクセルをふかす。
 消音機が抜かれた違法改造バイクから放たれた轟音に追ってくる病院関係者達が足
を止めた。
「へへん! 俺様のデビルアローの前じゃカミサマだって足を止めるぜ!」
 得意気な甘寧。
 ふと、魯粛を見ると…
「うう…興覇のアホ…やるならやるって先に言え…」
 耳を押さえて蹲っていた。
「わ、わりぃわりぃ…。とにかく後ろに乗れや…な?」
「後で何か奢れよ〜…」
「分かったから…早く後ろ乗れって」
 機嫌を損ねた魯粛を宥めながら、バイクに乗せる。
 だが、ここで足の速い警備員の手が魯粛の肩を掴み、引きずり降ろそうとする。
「わあっ!」
「捕まえたぞ! おとな…しぃっ!」
 しかし、その警備員は甘寧の蹴りをまともに顔に受けて倒れた。
「ふざけんな! 捕まってたまるかよ!」
「助かったけど…口上してる暇があったら早く出して! ほらっ!」
 この間に、追っ手と二人の距離はもう目と鼻の先になっていた。
「仕方ねえ…。子敬! しっかり掴まってろよ!」
「え!? う、うん…」
 甘寧の叫びに魯粛はぎゅっと彼女の体にしがみつく…ただしそこは思ったより柔らかかった。
「ひゃっ! そ…そこは違うだろ! もっと下だって!」
 顔を烈火の如く染めて猛抗議する甘寧。
「あ…ご、ごめん」
 改めて魯粛は甘寧にしがみつく。
「よーし! 行くぜ!」
 気を取り直した甘寧の右手が目一杯絞り込まれる。
 バイクは雷鳴を轟かせながら急発進。
 だが、甘寧はここでブレーキを入れた。
 左足を地面に付け、大きくバイクを傾ける。
 そして再びアクセルを全開。
 途端にバイクは甘寧の左足を軸に半回転し…そして軸を取り除く。
 バイクは瞬時に追っ手達の方を向いた。
「悪いけどオメーらに付き合ってられねんだわ…往生しな!」
 と、同時に一気に彼等に向かって発進。
「うわわ!」
 魯粛は振り落とされないように懸命に甘寧にしがみつく。
 この突然の甘寧の攻勢に驚いた病院関係者達はその場で腰を抜かしてしまった。
「へへ…なーんてな。アバヨ!」
 甘寧はブレーキを握り、体重を移動させ、ハンドルを切る。
 その卓越した一連の動きは、最早人間業とは言えない程のものだった。
 瞬きをする程度の時間、それだけの間にバイクは既に反対方向を向いていた。
 医師達との間隔、実に1メートルあるかないかだ。
 そのまま返す勢いに乗り、甘寧達はそのまま走り去っていく。
 呆然とする医師達の耳に鈴の音を残して――。


「なー…子敬」
「んー?」
「卒業したら大学だっけー…」
「そーだけど」
「あーあ…俺もちったぁ勉強すりゃ良かったかな」
「何よ、寂しいとでも言うつもり?」
「バカ言え。俺は勉強続けるよりも気ままにフリーターやってる方が性に合ってる
さ」
「興覇らしいな、それ」
「それにな…卒業したからって会えないってわけじゃねーんだから」
「…分かってるよ。…それよりも今は…」
「ああ…そーだな…」
 バイクを走らせる甘寧、そして後ろに乗っている魯粛。
 その後ろには…。
『あー、そこのノーヘルの二人乗り。速やかに止まりなさい』
 白バイが尾いていた。
「アホか、誰が止まるんだよ」
「興覇といると退屈しないよねー」
「…お前もアホだな」
「お互いにね」
 二人は微笑むと、物凄い勢いで朝霧の中に溶けて行った――。

233 名前:★ぐっこ:2003/03/17(月) 01:46
Σ(; ̄□ ̄)!!
「ひゃっ! そ…そこは違うだろ! もっと下だって!」

(;´Д`)ハァハァ…



…いや、それはともかく! あの後にもまだドタバタが待っていたようで(^_^;)
やはり公瑾たんは病院関係者のなかでもアイドルでしたか…
魯粛と甘寧、方向性はおなじだけど進路は全く正反対の2人、これからどういう
人生を歩んで行くやら…。
どちらにしてもスレンダーで奔放な女性になりそう。

234 名前:アサハル:2003/03/17(月) 22:22
実は先んじてメールで読ませて頂いております(w

>「俺達の公瑾ちゃんを返せー!!」
に腹筋痙攣せんばかりに笑わせて頂きました。怖ー
口が悪い魯粛ちゃんに萌え…
しかしいいコンビだなあ…甘寧と呂蒙。

235 名前:アサハル:2003/03/18(火) 13:54
気づくの遅いよ!というツッコミは重々承知の上ですが
>>234…当然ながら「甘寧と呂蒙」ではなく「甘寧と魯粛」です。
すみませんすみません…あー・゚・(つДT)・゚・

236 名前:雪月華:2003/03/18(火) 16:30
Departure -First Half-

曲の中盤に差し掛かったとき、喉に奇妙な痺れを覚えた。
突然、喉のあたりで何かが破れる感じがし、灼熱感と共に凄まじい激痛が喉を襲った。喉からの血が気管支に拒絶され、咳の衝動が襲いかかり、左手で口を押さえて咳き込んだ。肘まであるレースの手袋の掌が鮮やかな赤に染まり、猛烈な息苦しさが襲ってきたが、息を吸おうとすると血が気管に流れ込み、咳こんでしまう。苦痛と息苦しさに耐えかねて膝をつき、声を出そうとしたが掠れた唸り声となるだけだった。肌身離さず身につけているママに貰った黄色いスカーフに点々と赤い染みがついているのが見えた。左手は既に手首まで赤く染まっている。
不意に、目の前が深紅に染まり、暗転した。影のように何者かが覆い被さり、それの触れたところから感覚が消えうせてゆく…
覆い被さってきたものは「死」だろうか。楽になれる…解放される…そこまで思った時、意識の最後の断片が闇に沈んだ。
 …また、あの時の事を思い出した。
上半身を起こして辺りを見回し、冀州校区総合病院の大部屋に居ることを思い出した。室内に自分以外の入院患者は居らず、8つあるベッドのうち、7つがマットレスを剥き出しにしている。時刻は…午後4時少し前。
「ん?目が覚めたか?」
窓の傍の花瓶に名残の紫陽花を活けていた白衣の女性が振り向く。校医の華陀先生。まだ20代だが、ありとあらゆる医道に通じ、日本医師会では「神医」と呼ばれるほどの存在らしい。性格に多少、難があるが…
「腹が減ったか?そろそろ、流動食をとってもいい頃だな。6時には運ばせるから、それまで読書でもしておけ。面会者があるかもしれんが、疲れたら遠慮せず追い出すこと。いいな。」
そろそろ会議がある、と言ってハイヒールを音高く鳴らし、華陀先生は出て行った。
壁の日めくりカレンダーを見て、入院、手術から5日が経っているのに気づいた。今までは点滴で栄養補給をしていたが、そろそろ胃が無為の休暇に飽きはじめていたことに気がついた。
 初めて目を覚ましたのは手術後2日してからだった。つきそっていてくれた華陀先生は長湖部のところへ行き、入れ違いに、峻厳な雰囲気を漂わせた、黒髪の背の高い女生徒が面会に来た。生徒会の大物、皇甫嵩だった。学年は同じだが面識はほとんどない。立場からすれば憎むべき敵のはずだが不思議と恨みや怒りは湧いてこなかった。自分が原因となった学園の混乱を収めてくれたことで、いっそ感謝の気持ちすら湧いてきたほどだった。部下を伴わずに一人で来た事も、好感をもてた。きつめの雰囲気はあるが、根は優しい人なのだ。
無言の短いやり取りの後、それほど高額でもない階級章と、あの舞台の前に書いておいた退学届を、皇甫嵩は預かってくれた。それを見届けると猛烈に眠くなり、目を閉じるとそのまま眠った。
夢は相変わらず見ることができず、眠ると、辛い思い出ばかりが脳裏に浮かんだ。金銀妖瞳に対する執行部からの蔑視。異能の声ゆえに自分を追い出した合唱部。自分の制御を離れ、暴走した妹達。最後に見た夢。そして最後の舞台のこと…
 3日目から何人かが面会に来た。多少、面識のある同級生。まだ熱心さを失わない親衛隊。彼女達とのコミュニケーションのために、携帯用のワープロを使っていた。目を覚ました時、華陀先生が貸してくれたのだ。
『筆談という手もあるが、君は面会者が多いだろうからな。紙とペンでは資源の浪費になる。』
ナスのような体型をしたオレンジ色の猫のような動物のマスコットがデザインされており、不思議とそのキャラクターに親近感を覚えた。
張宝と張梁は顔を見せなかった。伝え聞くところによると、相次いで飛ばされた彼女達は、ほとんど廃人同様になっているらしい。とくに張梁はまともに授業にも出席できず、寮で寝込んだままであると言う。

「失礼仕る。」
古風な言葉づかいの一人の女生徒が入ってきた。はっ、とした。女性にしてはずば抜けて高い身長。艶やかな長い黒髪、何度目かの舞台の後の握手会で会った一人だった。確か名前を関羽と言った。自分の視線をまともに受け止めた初めての人物。あの時は一言二言で別れたが、できればゆっくり話してみたいと思っていた。無意識に胸が高鳴る。
「お加減はいかがでしょうか?」
ベッドの傍の丸イスに腰掛けた関羽が躊躇いがちに尋ねた。すぐさまパタパタとキーボードに指を走らせる。
『まだ立ち上がることはできませんが、悪くはありません。関羽さん、でしたね。』
「覚えていてくださったのですか?」
『私の視線をまともに受け止めることができた人に会ったのは初めてでしたので。』
「優しい、綺麗な目です。もっと自信を持たれると良い。そんなことより…」
関羽が居住まいを正した。
「退学なさると人づてに聞きましたが、真実ですか?」
『この学園に居るとかつての私を応援してくれた人達と嫌でも顔をあわせることになります。もう彼女達の期待には応えることができない。それが辛いのです。すでに階級章は返還し、退学届も然るべき人に渡してあります。退院すれば、そのまま学園を去ることになります。』
「それほどの才を持ちながら…惜しいことです。」
しばらく二人とも黙った。
「…拙者を恨みに思っておられないのですか?」
『何故、恨まねばならないのです?』
「貴女の妹御を我らは、飛ばしました。」
『あの子達は罪に対する報いを受けたのです。残念だ、という思いはあっても、恨みには思っていません。そして何より、誰よりも罪深いのは私自身なのですから。』
「解せませんな。貴女は広告塔として担がれただけということになっているのですが…」
『冀州校区合唱祭の折、私は妹達の暴走を止めることができたはずなのです。しかし、みんなの前で歌うという小さな幸せに拘ったせいで、学園中を混乱に陥れてしまい、結果的に妹達をはじめとする多くの人達の青春を奪ってしまった。誰が一番罪深いか、聡明なあなたならおわかりになるでしょう?』
「む…」
 溌剌とした足音が病室の前を通り過ぎ、戻ってきた。
「姉者!こっちこっち。関姉がいたぜ!」
「どうも騒がしゅうしてしまって、えろうすんまへん。翼徳!病室に入る時はアイサツぐらいしいや!」
小柄だが元気の塊と言った感じの女生徒に続いて、制服の上から赤いパーカーを羽織り、眼鏡をかけた女生徒が恐縮しながら入ってきた。
「そないなことより、関さん。ずるいで〜。抜け駆けして学園のとっぷあいどるに単独インタビューなんかしよって。」
「インタビューなどと、拙者はただ、見舞いに…」
「ま、ええわ。…あ、えろうすんまへん、自己紹介がまだでしたな。ウチは劉備玄徳。」
「それでは改めて、拙者は関羽雲長。」
「オレは張飛翼徳!張飛の飛は「飛ばし」の飛…」
「それはええっちゅうねん。」
大見得を切った張飛に、すかさず劉備がツッコミを入れる。この劉備も、張飛も、恐れる風も無く自分の金銀妖瞳を見据えて話す。そこに好感が持てた。
「ウチら3人、血縁はあらへんけど、気が合うたんで心の姉妹っちゅうことになっとります。」
『関羽さんとは面識があります。いつかの舞台の後、サインを貰いに来ましたね。それも4人分。』
「せやった。あのあとウチら用事があったんで関さんに頼んだんでしたわ。ウチと翼徳と、憲和の分…」
『その憲和という方は?』
「あたしのこと。簡雍憲和、よろしくね。劉備とは小学校からの付き合いで…」
「おわっ!憲和いつのまに!」
「相変わらず神出鬼没なことですな、簡雍殿。」
見るからにルーズそうな女生徒がいつのまにか劉備の隣に立っていた。少しアルコールの匂いがする。関羽ですら入ってきたことに気がつかなかったらしく、驚いた表情をしていた。
『仲のよろしいことで。』
「かしましいだけですがな。とくに翼徳は色々面倒を起こしますさかい。」
『いえ、羨ましいことです。笑い、悩み、楽しみ、泣く。それを共有できる友人がいるのが青春でしょう。』
「いやいや…張角はんにもそういう友人はおらはるでしょう?」
『私には…親友と呼べる存在はいませんでした。』
「…さいですか…失礼なこと聞いてすんまへん。せや!ウチら4人が親友になったげるわ!それでええでっしゃろ?」
『ですが、私は後1、2週間でここを去ることになっています』
「たとえ数日でも友人は友人や!そういうのも青春の1ページになるんやで!な、関さん、翼徳、憲和。」
「そうですな。たとえ一瞬でもいい友人が増えるのは良きことです。」
「あたしも大賛成!」
「やれやれ、まるで小学生みたいだな。」
「なんやて!?行動原理が小学生以下の翼徳がなにえらそーなこと言うとんねん!」
「なにおう!?」
劉備と張飛が凄まじい勢いで口喧嘩を始めた。関羽と簡雍はあきれ返っている。なんとなく楽しい気分になり、笑いの衝動がこみ上げてきた。
突然、戸口のあたりから閃光が走り、10cmの距離までに近づいた劉備と張飛の顔の間を縫い、しかーん、と音を立てて壁に突き立った。それがメスの形をとったとき、冷ややかな女性の声が聞こえた。
「君たち、日本語が読めたら、そこの張り紙の内容を復唱してみたまえ。」
「…病室では静かに。」
「わかっているようだな。では、面会時間は終わりだ。帰りたまえ。それとも全員全治2週間でそこのベッドに並ぶか?私は一向に構わんぞ。新薬の臨床試験にはうってつけだからな。」
右手にはさらに4本のメスが光っている。噂では白衣の下には常にメスを20本近く仕込んでいるらしい。
「…か、帰ります。」
劉備たちはそそくさと去っていった。
「…さて、喉以外には異常は無いのだから明日あたりから少し歩き回っても構わんぞ。そろそろ疲れも取れただろうし、これ以上寝っぱなしでは足が萎えるばかりだからな。」
華陀先生も出て行き、病室は私一人になった。六時まで英字新聞を読み、運ばれてきたお粥を食べるとそのまま眠った。
2年間の胸のつかえが取れたような気がし、不思議と、その日からまた楽しい夢を見ることができた。
 劉備たちは2日に1度はやってきた。そのつど病院の中庭まで一緒に歩き、ベンチに座って一時間ほど歓談した。やりたいことが見つからないので幽州、冀州校区のサークルをはしごする毎日らしい。
気の置けない仲間との会話。一時的にせよ、こういう時間をもてたことを誰かに感謝したい気分だった。
 入院して2週間が過ぎ、退院の許可が出た。…つまり退学の日。
「経過は順調だ。もう声を出してもいいかもしれん。やれることはすべてやったが、以前と同じ声が出せる確率は35.94%位だな。もちろんあの超音波は二度と出せないことは確かだ。」
それでよかった。もともと2度と欲しい力でもない。
午前10時、身支度を済ませ、華陀先生一人に見送られて病院を出ると、そのまま寮に向かう。平日であるため、他の生徒の姿は無い。階段を上り、自分の部屋に入る。もともと殺風景な部屋は机と本棚を運び出したおかげで一段と殺風景になっていた。私服に着替え、制服を手提げバッグにしまい、部屋を出て鍵をかけた。鍵を舎監の孟嘗君さんに返し、寮を出ると、中原市場で購入した自転車に跨った。
振り返って冀州校区鉅鹿棟の建物をしばらく眺めた。今ごろは二時間目の半ばだろうか。入学からの2年と少しの学園生活が脳裏をよぎる。その中で一番印象に残った思い出が、ここ数ヶ月であったことを改めて感じた。
頭を振って迷いを払い、父さんの待つ外界、青州校区の東の端へ向けてペダルを踏み込んだ。
−−−−−−−−−−−
黄巾の乱完結編の前半です。
ち○ちちと張角の関連がわからない人は…金銀妖瞳つながり(w。
それでもわからない人は、あ○まんがと銀○伝を観…いや聴いてください。
しかし霧○聖先生や、か○み先生等、女医っていい性格してる人が多いような(w

237 名前:雪月華:2003/03/18(火) 16:33
Departure -Conclusion -

 校区どうしをつなぐ道路はアスファルト舗装されており、自転車を走らせるには絶好の環境にあった。昨日までの梅雨空が嘘のように晴れ渡り、水溜りが太陽の光を反射して煌き、気分が浮き立ってくる。
 不意に、体の中から言葉が溢れ出てきた。
♪The light of morning gold fades and a dazzling blue sky appears
(朝の黄金の光が薄れ、眩しい蒼天が現れる)
 自分で自分が信じられなかった。声が出る。それもあの力を得る前の自分の声。何の気兼ねもなしに歌えたあの時の声。この数ヶ月で一番欲しかったものだった。
 溢れ出た言葉は自然に音階が整い、歌となって夏の冀州校区の野原に響く。
♪From west,black cloud appear and the whole sky is covered
♪Stars in the whole sky end and oppose black cloud
♪Black cloud obtain lightning and tear between stars
♪Three novas drive off lightning and black cloud retreat to west
♪Stars also lose a settlement and are scattered to the whole sky
(西のかたより黒雲が湧き起こり、蒼天を覆う。満天の星達は集い、黒雲に抗する。黒雲は稲妻を得て、星達の間を縦横に引き裂く。三つの新星が稲光を追い払い、黒雲は西へ退く。星達もまとまりを失い全天へ散らばる。)
 いつの間にか校区の境を越え、青州校区に入っていた。梅雨明けの煌く風を感じる。今まで味わったことの無い開放感を感じた。
 さらに言葉は歌となって溢れ出す。
♪Black cloud are scratched out by lightning and lightning runs to an east
♪Two stars change to the sun and are located in north and the center sky
♪Although the star which became the moon goes to south sky, but it disappears by impatience.
♪Three novas which drove off lightning serve as jewelry and both wings,respectively,change to a dragon,and are located east sky
♪The north sun is the increase of a size slowly,The central sun runs about busily
♪Two new moons are produced,and the star which twinkles is held and it is located in the southern sky
♪A dragon is driven off by lightning in an east sky and stays at the sky of the central sun
♪Lightning is scratched out by the central sun and a dragon hears under the central sun about an opportunity
(黒雲は、稲光によりかき消され、稲光は東へ走る。二つの星が日輪へ変わり、北と中天に拠る。月へと変わった星は南へ赴くが、焦りにより消え去る。稲光を追い払った三つの新星はそれぞれ宝石、両翼となり龍に変化し、東に拠る。北の日輪はゆっくりと大きさを増し、中天の日輪は忙しく駆け回る。新たな二つの月が生まれ、輝く星を抱き、南の空に拠る。龍は稲光により東を逐われ、中天の日輪のもとに身を寄せる。稲光は中天の日輪によりかき消され、龍は日輪のもと、機会を窺う。)
 どこか予言めいている…と思わないでもなかったが、言葉は次から次へと溢れ出してくる。
 鮮やかに音階が定まり、流麗な歌となって青州校区の夏の野原に響く。
♪The north sun tends to take in the central sun,takes advantaging of it,and a dragon raises a male shout in the east sky
♪One of the two of the southern moon disappears,the star which twinkles supports the small moon and it is changed to a new crescent
♪Suddenly,the central sun tends to move to an east and it is going to take in a dragon
♪A dragon leaves one of the two's wings,and escapes to the basis of the north sun
♪The north sun and the central sun come into contact with,and a dazzling light is emitted
♪The dragon which left north goes to the southern sky,and obtains a tooth
♪The wings of one of the two of a dragon scratch out the light of two north stars,and leave it to the sky of the south in which a dragon is
♪The sun of haughty north loses the cause that it can shine,by the arrogance
♪It runs to the central sun after the sun which retreated to north,and it is taken in
(北の日輪が中天の日輪を取り込もうとし、それに乗じた龍は東の空で雄叫びをあげる。南の月のひとつが消え、小さな月を輝く星が支え、三日月へと変える。突然、中天の日輪が東進し、龍を取り込まんとする。龍は片翼を残し、北の日輪のもとへ逃れる。北の日輪と中天の日輪が触れ合い、眩い光を放つ。龍は南の空へ行き、牙を得る。龍の片翼は北の二つの星の光をかき消し、龍の拠る南の空へ去る。傲慢な北の日輪はその傲慢さによりその輝けるもとを失う。北へ退いた日輪は中天の日輪に取り込まれる。)
 いつしか青州校区の半ばを越え、外界への境界に近づきつつある。まだ言葉は溢れ続けていた。気分が高揚しているせいか、不思議と疲れは感じない。
♪The sun used as one goes to south
♪Although the clouds which should be held were obtained,the dragon which cannot obtain time takes many stars with it,and escapes to southeast
♪A new crescent unites with a dragon and sends back the sun to north by the power of the wind from southeast
♪The star which pursued the sun and which can twinkle loses light in the middle of a way,and disappears
♪A dragon goes to west sky and gains control of the ground in the twinkling of an eye
♪And the sky is divided into the sun, the moon, and a dragon.
(一つとなった日輪は南へ向かう。雲を得たが、時を得られない龍は、多くの星達を引き連れ、東南へ逃れる。三日月は龍と結び、東南からの風の力で日輪を北へ逐う。日輪を追った輝ける星は道の途中で力尽き、消える。龍は西へ行き、瞬く間にその地を制する。かくして、日輪、月、龍により空は3つに分かれる。)
 スカーフをほどき、夏の風に託した。風に弄ばれながらどこかへ飛んでゆく…。もうそろそろママの想いから解放されてもいい頃だと思った。
 さらに歌声は澄み渡り、冴え渡る。
♪Furthermore,although a dragon tends to go to north sky,a new crescent plucks off the wings of one of the two of a dragon,and it changes to half moon
♪Although the angry dragon attacks half moon,one of the two's wings are already lost by himself out of anger
♪Although the dragon which lost both of wings still goes to east sky,the shooting star which appeared suddenly breaks jewelry
♪But a dragon survives and hangs down the tail to south sky
♪The sun darkens,a sunspot appears and the size is increased gradually
♪A dragon loses a tooth,clouds and a sunspot fight it and clouds disappear in the middle of a way
♪The sun covers all dragons and attaches a dragon to eternal sleep in the sun
♪Suddenly, the sun is wrapped in the flame which blew off from the sunspot, and the sun is born again.
♪The new sun swallows the moon from west and north,and sky serves as only the sun
♪Soon,the sun sets to south and night steals near from north
(さらに龍は北へ向かわんとするが、三日月が龍の片翼をむしり取り、半月へと変化する。怒れる龍は半月を襲うが、自分自身でもう片方の翼を失う。両翼を失いし龍はそれでも東へ向かうが、突如現れた流星が玉を砕く。だが龍は生き延び、その尾を南へ垂らす。日輪が翳り、黒点が生じ、次第にその大きさを増す。龍は牙を失い、雲と黒点が争い、雲は道半ばで力尽き掻き消える。日輪が龍を覆い尽くし、龍は日輪の中で永遠の眠りにつく。突然、黒点から噴出した炎に日輪は包まれ、生まれ変わる。新たな日輪は西と東より月を飲み込み、空は日輪のみとなる。やがて日輪は南へ沈み、北より夜が忍び寄る…)
 言葉は溢れ出すのをやめた。大きく息をつく。満足感が潮のように胸に満ちた。昨日までの懊悩が嘘のように消えていることに気づいた。
 後ろを振り向くと、遠くから2台の自転車に分乗した4人が近づいてくるのが見えた。劉備、関羽、張飛、簡雍の例の4人。学園を去る間際にできた1年生の友人達だった。関羽と簡雍の乗った自転車は何事も無く停止したが、劉備と張飛の乗った自転車は、完全に停止する前に張飛が降りようとしたためバランスを崩し、2人を巻き込んで派手に転倒した。自転車のスタンドを立てた関羽が慌てて駆け寄る。
「姉者、大丈夫ですか?」
「あたたた…翼徳!ちゃんと止まってから降りぃや!」
ずれた眼鏡を直しながら劉備が張飛をこづく。
「いいのですか?まだ授業中のはずですが…」
「かまへんかまへん。そないなことより、もう会えんかもしれん友人を見送る方がだいじ…って張角はん!?喋れるようになりはったんですか!?」
「ええ、ついさっき。」
「それはなにより!しかし冀州校区合唱祭で我々が聞いたあの「声」とは微妙に違いますな。心を強烈に震わせる何かが抜け落ちて、優しさが増している…」
「ええ。これは去年までの私の声、いわば本来の私の声なのです。」
「華陀先生恐るべし、というところですな。」
「ところで張角はんはこれからどないするおつもりです?」
「姉者、そのようなことは…」
「実家に帰って、改めて地元の高校に転校し、将来は音楽関係の仕事をしたい、と思っているのですが…。」
「何度も言うようですが、自信をもたれることですな。学業はもとより、人付き合いでも、我々のようにその眼を怖がらずに付き合ってくれる人も、探せば必ず居るはずです。」
「そうだぜ。世の中には目が見えない人だって沢山居るんだ。この学園にも片目が見えない奴だっているしさ。色が違ったりビームが出るぐらい、何もおかしいところは…」
「ビームなんか出せるかいな!」
ハリセンの小気味いい音が響く。
「まあとにかく、遠く離れてもこの同じ蒼天の下にはウチらは必ず居ります。つらくなったらウチらのことを思い出すとええです。」
「ええ。忘れはしません。あなたがたことは…ずっと。」
「せや!お別れに一緒に写真撮ろうや!憲和!準備はおっけー!?」
「いいよー」
5歩ほど離れたところでは簡雍がカメラを3脚にセットし終わったところだった。ファインダーをのぞく。
「ハイ、張角さん、もうちょっと右よってー。張飛はそのままで、関羽はもうちょこっと左。劉備ー、あたしの場所空けといて。じゃあいくよー。」
シャッターボタンを押した簡雍が駆け寄ってくる。しばらく5人ともそのままの姿勢で固まった。
このときが永遠に続けば…ちらっとそう思った瞬間、シャッター音が響いた。
「…あかん、目ぇ閉じたかもしれへん。憲和、悪いけどもう一枚。」
「しょうがないなあ…あ、張角さん、あとで連絡先教えて。写真できたら送るから。」

…結局、取り直しは5回に及んだ。劉備はこういうことには拘る性格らしい。
「元気でなー!」
「またどっかで会おうぜ!」
「がんばってねー」
「お達者で…」
4人4様の別れの挨拶と握手を受け、父さんの車に乗り込む。乗ってきた自転車は劉備達に譲った。車が発進し、4人の姿と学園の門が遠ざかってゆく…
「…学園に活気に満ちた時代が来る。あの子達をはじめとする覇気に満ちた1年生によって…。騒々しいだろうけど、重く沈んだよりは、はるかにましでしょうね。それを見ることができないのが唯一の心残り。できればもうすこし遅く、あの子達と同時期に入学できてたらよかった…。」
-The end of beginning- 
──────────────
完結です。
張角の歌…日本語で詩を書いてから翻訳ソフトを通し、細かく文法直しただけなので、語呂悪すぎですが…(加筆修正コソーリ希望)。(^^;

238 名前:アサハル:2003/03/20(木) 20:34
Σ( ̄□ ̄;張角たん、天使声の次は予知能力!?
…ごめんなさい嘘です。

何というか…言葉が見つかりません。感動ッス。・゚・(つДT)・゚・

5年後ぐらいにはニューエイジ辺りで大物になっていそうな気がします。

239 名前:★ぐっこ:2003/03/21(金) 15:19
Σ<(T□T) 張角たんに敬礼!
あー、でも劉備一党が張角にからんでくるのって嬉しいなあ…
ちょっと(だいぶ?)キャラ変わってるんですが、演義版でも
張角と劉備は仲良しさんだったりしますし…。
それにしても華佗先生の心憎い腕前に感謝…
あと、微妙に紛れ込んでるネタワロタ。

>加筆修正
今なら英検4級も通りそうにない私に何か?

240 名前:岡本:2003/03/22(土) 16:38
雪月華様への支援になればと思ったのですが。単語やフレーズがごっそり
頭から抜け落ちていました。大恥ですな。受験期だったら...。
タイトルは”The myth of the blue arch”
直訳で”蒼穹の神話”、意訳で”蒼天の譜”ですか。

The Myth of the Blue Arch

Light of the golden sun becomes obscure.
Dazzle of the blue sky becomes clear.

Dark clouds come from the west and cover the whole sky.
All stars gather in the sky and counter the dark clouds.

Dark clouds get a thunder and the stars are driven away to the ground.
Three novas defeat the thunder and the clouds are driven away to the west.
All stars lose their aims and the stars are scattered into the sky.

The thunder blows out the dark clouds and runs to the east.
Two stars change to the suns and stay at the north and the middle.

One star changes to the moon and goes to the south but disappears by its impatience.
Three stars change to the heart gem and two wings and become the dragon and stay at the east. 

The northern sun increases its size gradually.
The middle sun moves its feet busily.

Two moons are given new lives and stay at the south with a bright star
The dragon is driven away by the thunder and stay in the middle with the sun

The thunder loses its destiny owing to the sun.
The dragon finds its opportunity behind the sun.

The northern sun tries to take in the middle sun and the dragon roars at the east at the same time.
The one of the southern moons fades away and the other changes into the crescent with the help of the bright star

The middle sun goes to the east suddenly and tries to take in the dragon.
The dragon drops its right wing and runs away to the northern sun.

The northern sun grapples with the middle sun.
The intense battle continues with emitting glints.

The dragon gets its fangs and goes to the south.
The right wing blows out two northern stars and follows the dragon.

The northern sun loses its shining core owing to its haughty.
The middle sun gains the sun running back to the north.

Since the sun combines with the northern sun, he goes to the south with mighty powers.
Since the dragon has no fortune besides the clouds, it runs to the southeast with many stars.

The crescent cooperates with the dragon and sends away the sun to the north with the help of the wind from the southeast.
The bright star runs after the sun but fades away on its way to the west without the help of the sky.
The dragon goes to the west and gains control over the area immediately with the help of the stars.

Then the sky is divided in three by the sun, the crescent, and the dragon

The dragon tries to go to the north, but the crescent plucks off the right wing of the dragon and changes into a half moon.
The angry dragon attacks the half moon but loses the left wing out of its anger.

The dragon which loses both wings still goes to the east but an unexpected shooting star breaks the heart gem of the dragon.
The dragon still lives long and hangs down its tail to the south.
 
The sun decreases his brightness and a macula appears on the sun. The macula becomes large as it goes.
The dragon loses its fangs and the clouds fight with the macula. The clouds get exhausted and vanish on their way.

The sun covers the dragon completely and invites the dragon to an eternal sleep.
A flame covers the sun suddenly and leads the sun to a renewed life.

The new sun absorbs the half moon from the east and the west and only the sun is left in the sky.
The sun sets to the south and night falls from the north.

*****************
・時制は前後を明確にするのが難しいため、現在形で統一。

・素人の私には叙事詩や自由詩は難しいため、無理に対句形式にしたところ
があります。そんなに内容は変えていませんが。

・雲は菫卓や諸葛亮を示すもので単数にするべきか迷いましたが、
語呂と集合名詞で使うことが多いことからcloudsで。
牙=趙雲も一本牙はおかしいとfangsに。

・sun, moonはそれぞれ男性、女性として扱うので動詞の格はそれにあわせました。

後は、現役大学生の方々、よろしくお願いします。

241 名前:雪月華:2003/03/23(日) 06:25
夜勤明け!現在帰宅!もちろん見ましたとも、東の空のmorning goldを…
結構レスさぼってたのでここらでまとめて…
>教授様
デビルアロー!!大笑いしました。さながらあの触覚はデビルウィングですか(w
#コジンテキニハリョウトウタンモカラメテホシカッタ…ナンテネ
>アサハル様
>>236の予知能力の伏線となったエピソード(家系関係)削ったの忘れてた!Σ(T□T
ちなみにmy設定では、現代ロックポップスには異常に疎いことになってます(汗

>★ぐっこ様
<(^^)答礼!ナンチテ
演義、楽しみにしてます!かんちゅーちゃんにヨロシク(笑) 

>岡本様
早速の援護、多謝!
むむ、やはり英検三級(準二級面接で4回落ち)の私にはチト無謀な試みだったか(^^;

242 名前:★ぐっこ:2003/03/27(木) 00:05
>岡山様
ぐお、英語だ! 英単語が並んでる!(((( ;゜Д゜)))
乙でございます! あ、ちゃんと対句っぽくなってるし!
これも何かでつかいます!

>雪月花様
演義! もお! 早く続き書きたいのに!
とりあえず乞うご期待でございますれば…
多分、皆様が思われてるのとちょっと違った学三世界になってるかも…
かんちゅーちゃんの暴走ですので(^_^;)

243 名前:教授:2003/03/29(土) 22:47
■■ 法正の休日 ■■


「んー…」
 CDショップで新作を物色している法正。
 普段から殺伐としている課外活動から離れれば、法正も一人の少女に戻る。
 CDを選りすぐるその姿はどこにでもいる普通の女子高生だ。
「…あった♪」
 目的の品を発見すると嬉々とした声を上げる。
 早速ブツを手にレジで清算を済ませ、店を出た。
「寮に帰ってゆっくり聴こうかな〜」
 ほくほく顔の法正、余程欲しかったのだろうか。
 その時、向かいの通りから聞き慣れた声が響く。
 ふと目線を向けると、そこには張飛を追いかける劉備の姿が見受けられた。
 追いかける劉備は悪鬼羅刹を思わせる形相。
 そして伝家の宝刀ならぬ伝家のハリセンをこれでもかというほど振りまわしている。
 一方、逃げる張飛は必死な顔でハリセンをかわしながら走っていた。
「待てや〜! ウチの肉まん返さんかい〜!」
「く、食っちまったモンを返せねーって!」
「やかまし! 食いモンの恨みは恐ろしいんやで!」
 実にくだらない理由だった。
 だが、当人にとっては自身の進退に関わるほどの重大な事のようだ。
「私は何も見てない…見てないのよ…」
 法正は見なかった事にして歩く速度を速める。
 …と、今度は眼鏡屋の前に諸葛亮を発見。
 休日のプライベートな時間なのに白衣を着こなし、白羽扇を片手に眼鏡を真剣な眼差しで見つめていた。
「ふむ…この眼鏡は彼女に合いそうだ…。いや…こちらも中々…」
 時折、白羽扇を口元に当てて悩む素振りを見せる。
「…何やってんの…あの子は…」
 関わり合いにはなりたくないと本能で感じた法正は横道に逸れてその場を後にした。
 この道は寮まで多少遠回りになるが、以前の眼鏡事件(笑)もあるので迂闊に近づきたくなかったのだ。
「憲和に会わなかった事がせめてもの救いね…」
 ため息を吐きながら寮への道を急ぐ。
 と、悪戯な風が法正のスカートをめくりあげた。
「わ…」
 スカートを押さえようとした、その時――
「いただき!」
「ええっ!?」
 法正の背後から簡擁が駆け抜けた。
 それもカメラのフラッシュを3度ほど叩いて。
 金魚のように口をぱくぱくさせる法正。
「相変わらず隙だらけ♪ じゃあね〜」
 投げキッスを寄越して、簡擁は物凄い速度で走り去っていく。
 すっかり油断していた。
 簡擁はこういう瞬間、どこからともなく現れる。
 前回で懲りてたはずなのに、ふとした気の緩みが招いた悪夢だった。
「何なのよーっ! 折角の日曜日くらい休ませろーっ!」
 法正の怒鳴り声が昼下がりの街に木霊した…。



PS.卒業シリーズの合間に(爆)

244 名前:★ぐっこ:2003/03/31(月) 01:11
うわはは!
法正たんの受難というか、いつもこういうドタバタやってるんですね、
帰宅部連合の面々…(^_^;)
なんかこう、一番の常識人というか、ペースに慣れ切れていないで
割を食ってるのが法正たん、というシチュが(;´Д`)ハァハァ…

245 名前:雪月華:2003/04/08(火) 02:54
長湖部夏合宿 その2

夏休み4日目の午前6時45分。朝日に煌く長湖の水面を右手に見ながら若々しい掛け声とともに約千人の長湖部員が早朝ジョギングを行っていた。後漢市を南北2つに分けている長湖の北岸と南岸(揚州校区限定)では気候がまったく違う。北岸は典型的な北日本的気候であり、湖岸には防風林の役目を果たす針葉樹が目立つ。さらに、冬になれば湖面は凍結し、アイススケートやワカサギ釣りをもを楽しむことができる。長湖のほぼ中央に位置する赤壁島を南に越えるとそれは一変し、湖岸にはヤシの木が立ち並び、ハイビスカスやヒマワリが咲き乱れる。冬でも雪は降らず、日中最高気温は27℃、夜の最低気温16℃と、ほとんどハワイと変わらない常夏の地域なのである。この校区だけが異常気象となった理由は、万博の折、撃ち上げられた気象操作ミラーの誤作動であり、この地域だけに他の地域の数倍の日光が降り注ぐことになってしまったからである。いまだ復旧の目処は立っていない。

早朝ジョギングとはいえ、そこは長湖部夏合宿(日程については>>216参照)。生易しいものではない。距離的には10Kmだが、すべてが舗装路というわけでは無論無く、ときに砂浜を走り、水深が腰まである幅10mの川を何本も渡り、石ころだらけの山道を踏破し、登り坂の数はそれこそ無数。あまりのハードさから「地獄の行軍訓練」との恐ろしげな通称で呼ばれ怖れられていた。だが、この行軍訓練もこの後の地獄のスペシャルメニューのいわばオードブルに過ぎないのである。現に合宿二日目の時点で、脱落し、泣きながら退部する者は70名を越えていたが、不思議と、3日目には脱落者は出ていなかった。そして4日目の行軍訓練が開始されていた。

「それにしても呂蒙サン、なんで凌統はあそこまで俺様を敵視するんスか?」
「…甘寧、あんた、それマジで聞いてる?」
「ええ。何でですかね?長湖にきてから、アイツに特別何かした記憶はないんスけど?」
甘寧は心底不思議そうな表情で、隣を走る呂蒙に尋ねた。
地獄の行軍訓練の半ば、5q地点近くである。1年生などはそれこそ必死で駆けているのだが、甘寧、呂蒙らはダベる余裕すら見せている。そもそもの基礎体力が並外れているのだ。
「あんたがまだ黄祖んトコいたとき、長湖部と黄祖んトコで遠征試合したよね。あんた、そのとき凌統の姉さんの凌操先輩をおもいっきり飛ばしたじゃないの?」
「…ああ!妙に突出してきた紫っぽい長髪の3年がいたから、逃げるフリして誘い込んで囲んだ後、全本気でアッパー食らわしたんッスよ。その直後にそっくりな顔した奴が乗り込んできて、船から落っこちたそいつを引き上げていったんスよね。道理で凌統と顔あわせたときに初対面って気がしなかったわけっスよ。」
「とにかく気をつけなよ。凌統は本気であんたを憎んでるんだからね。」
「んじゃ、凌統は姉の仇ってことで俺様を憎んでいるんスか?小さいやつっスね!」
「…誰の胸が小さいって?」
「おわっ!?凌統!?てめ、いつの間に?」
「小さい小さい好き勝手言ってるみたいだけどね、アタシ83あるんだよ。」
どうやら凌統、肝心なところを聞いていなかったらしい。その短慮を呂蒙が嗜めようとした。
「凌統、誰も胸のはなし…」
「そんくれぇで自慢になるかよ!俺様はなぁ、92あるんだぜ!」
「うそっ!?」
「バーカ。嘘だよ。いくらなんでもそこまででかいはず無いだろうが。邪魔になって仕方がねー。ま、てめぇよりあるのは確かだがな」
「何よ!でかけりゃいいってものじゃないでしょ!」
「てめぇ、さっき小さいって言われて反発してたじゃねーか!」
「やっぱり、胸の話してたんじゃないのよ!」
「…あなたたち、ずいぶん仲がいいのね。」
冷ややかな美声が果てしなく続くかと思われた口喧嘩を制した。
「げっ!副部長…」
「二人とも、自分の隊の引率はどうしたの?」
口喧嘩を続けるうちに走るペースが上がってゆき、隊列の中ほどを走っていたはずの二人はいつのまにか先頭を走る周瑜の近くまで来ていたのである。
「随分元気があまっているようね。」
「ご、誤解っス!もとはといえばこの凌統が…」
「いえ、この甘寧がもともとの原因で…」
「問答無用!ふたりともこの場でスクワット300回!隊列の最後尾が宿舎に帰着するまでに追いつけなかったら朝食抜きよ!」
「げっ!そんな殺生な!」
「監視役として陸遜を残すわ。いいわね陸遜?」
「えっ?ひょっとして私も追いつけなかったら朝食抜きってことに…?」
「当然」
「ええええええ!そんな!私が何を…」
じろり、と周瑜が陸遜を睨み、沈黙させた。どうやら一昨日の朝(>>216参照)のことをまだ根に持っているらしい。
こうして、その場には甘寧と凌統、とばっちりの陸遜が残された。甘寧と凌統はスクワットを開始し、二人のメンチに絶えられなくなった陸遜も半べそでスクワットを始める。まだ朝の7時だが強烈に照りつける太陽の下、すでに気温は21℃を超え始めていた。

7時10分。
「298、299…300!いよっしゃー!終わった!んで、甘寧はあと何回?」
「今271回目だ。」
「じゃあ、先行ってるよ。」
「てめ、待ってやろうって気はねぇのか!?」
にたり、と凌統は邪悪な微笑を浮かべた。
「てめ、何かたくらんでやがるな…」
「別にぃ」
そう言って、凌統は駆け出していった。
「ったく…陸遜、お前今何回目だ?」
「に、254回です…」
「そういや…なんでお前まで、スクワットやってるんだ?」
「お二人が睨むからじゃないですか!」
「睨んでねぇよ。ちょっと足が痛んで顔がひきつっただけだ。おい、あといいぜ。先行っとけよ。」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、お前までやる必要ねぇだろうが。ホラ。朝飯逃すぜ。」
「じゃ、じゃあ失礼します!」
すこしよろめきながら陸遜が走り去り、その一分後、甘寧も後を追った。

7時25分。約2分前に行軍に追いついた凌統。そして今ようやく甘寧が追いついてきた。流石に息が乱れている。
「おっ、随分早かったじゃないの」
「てめぇ!たった3分先行しただけで、どうやったらあそこまでトラップ仕掛けられるんだよ!」
「急ごしらえだったから足止めにもならなかったかな?」
「十分足止めになってるぞ。陸遜には」
「え?マジ?」
「…俺様はしらねぇぞ。」

陸遜が朝食をとり損ねたのは言うまでも無い…合掌。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
どうも、掲示板移転お疲れ様です。
無双3にハマっててしばらく執筆してませんでしたが、久しぶりにネタが浮かんだので記念、というカタチで投稿します(また季節外れネタ…)。
同時進行で、黄巾シリーズの董卓vs張角歌合戦というお馬鹿なSS書いているんですが、皇甫嵩ら後漢4天王や袁紹、曹操、劉備一統が絡んできて、萌え、ギャグ、シリアス入り乱れたかなりの大作に(汗)。完成はまだ遠いです。

246 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/08(火) 23:59
雪月花様ナイス! 長湖部の地獄の合宿ですな。
なんかこう、甘寧たんがイイ感じのバカで嬉しいです(・∀・)
早とちりする凌統たん萌え。しかし83…むう…ハァハァ…つか、甘寧
たんもあのサラシの下は結構なアレなようですかい!
逆に陸遜たんは気の毒な役どころが多いですねえ(^_^;) これまた
萌えキャラ定番に…


しかし最大の笑いツボは万博の折、撃ち上げられた気象操作ミラーの誤作動
うわはは! これイイ! なんかこれくらい非現実的なことがあった方が面白い!
うーん、長湖を挟んで南岸は、万年異常気象による熱帯雨林気候なわけで。
SWEET三国志の呉みたい(^_^;)

247 名前:アサハル:2003/04/10(木) 01:30
(´-`).。oO(http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg) target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg)

雪月華様のSSを読んだ直後に描いたものなんですが、
あまりに走り描きにすぎるので丁寧に描き直そうとしたら
ポーズが全然しっくり来ず動きが全然(元々ないけど更に)
無くなったのでもうちゃんと描かないことにしました。(馬鹿)

てゆーか陸遜…(さわやかに合唱しながら合掌)

歌合戦SSのも楽しみにさせて頂きますー。後漢ズ…(*´Д`)

248 名前:アサハル:2003/04/10(木) 01:31
閉じ括弧までリンクされちゃったよ…(つД`)
http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg
でつ。

249 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/11(金) 00:05
甘寧モエ━━━━━━(;´∀`)━━━━━━!!!!ハァハァ
アサハル様、あいかわらずのグっジョブ!
うわー、年甲斐もなく胸にきましたよ胸に!これは…(;´Д`)ハァハァ…
ちうか、こういうラフがサラッと描けて、しかも上手な方がうらやましくてもう!
凌統たんもナニゲに可愛くていいなあもう!

ところでアサハル様、キャップ通知のメールって届きました?一応確認を…

250 名前:★教授:2003/04/12(土) 00:15
■■ 甘寧VS凌統 ROUND 1 ■■


「あのアマ! どこいきやがった!」
 胸元を押さえながら甘寧が更衣室から飛び出してきた。
 周囲で休憩していた長湖部の下っ端(酷)連中が驚き振り返る。
 ――が、全員が瞬間的に顔を俯かせた。
 彼女達の目に映ったのは、まさしく『鬼』だったからだ。
「おいっ! 凌統がどこ行ったか知らねーか!」
 空腹の極限に達した獣の咆哮のような怒声が下っ端に向けて放たれる。
 特に何も悪い事をしていないはずなのに、小さく縮こまる下っ端達。
 泣き出す女子もちらほら窺えた。
「し、知りません…」
 泣きそうな顔で一人の女生徒が勇気を振り絞る。
 だが、これは薮蛇だった。
「…隠すとタメにならねーぞ…」
 未だ胸元を押さえる甘寧がずかずかとその女生徒に近づく。
「ほ、本当に知らないんで…ひぃっ!」
「さっさと吐け! 今すぐ言わねぇと…潰す!」
 必死に知らないと言い張る女生徒の胸座を掴みあげ脅す甘寧。
 怒声だけで泣きそうだったのに、間近で物凄い剣幕を見せつけられる。
 もうそれだけで失神しそうになっていた。
 しかし、この哀れな子羊を神様は見捨てなかった。
「はい、ストップね。この子、本当に知らなさそーじゃん」
 甘寧の腕を横から掴む手。
 ぎろりと甘寧がその手の主を睨みつける。
 と、その姿を確認すると同時に目許が緩んだ。
「魯粛…」
「何があったワケ? それよりも、解放してやりなよ」
 いつも通り、どこか人を食ったような笑顔を向ける魯粛。
 甘寧は軽く舌打ちして女生徒から手を放した。
「うんうん。ただ恐いだけの先輩じゃダメだしね。その点、興覇は流石だよ」
「そ、そうか?」
 それとなく甘寧を誉める魯粛。
 だが、甘寧には見えないように周りの下っ端に手をひらひらと振っている。

――今の内にどっかいけ

 意味を理解したのか、そろそろと女生徒達がこの場を後にしていく。
「…で、何で怒ってるわけ?」
 魯粛は胸元を押さえる甘寧の手を見ながら尋ねる。
 その視線に気付いた甘寧が顔を紅潮させた。
「じ、じじ…じろじろ見んなよ!」
「いーじゃん、別に減るもんでもないし。それよりも何で?」
 照れ隠しに怒る甘寧に受け流す魯粛。
 口上ではやはり魯粛の方が一枚も二枚も上手のようだ。
「凌統だよ! あいつ…あいつが!」
「凌統?」
「あいつが俺のサラシ盗んでいきやがったんだよ!」
「ふーん…って、興覇…あんたまさか…」
 魯粛が訝しげな表情を浮かべた。
 そして、再び甘寧の胸元に目線を送る。
「な、なんだよ…」
「もしかして…世間一般で言うところの…『のーぶら』…ってやつ?」
 禁断の単語が魯粛の口から飛び出した。
 甘寧の頬の赤みに更に赤が追加されていく。
「は、はははは…恥ずかしい事言うなーっ!」
「わっ」
 思わず甘寧が魯粛を掴み上げた。
 この行動は後に甘寧のトラウマランキングの1位を独占する事になる。
 掴み上げられた魯粛がぽつりと一言呟いた。
「…丸見え」
「…え?」
 甘寧は一瞬理解できなかった。
 ふと魯粛の視線を辿り…そして――
「…っわああああっっっっっ!!!!!!」
 甘寧は魯粛を放り出し、何処へともなく走り去って行った――


 ――その頃の凌統

「ふふ…どんな反応しているのか楽しみー♪」
 くるくると指先で甘寧のサラシを回していましたとさ。

 後日、凌統は何者かの闇討ちに遭ったそうな――

251 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/12(土) 20:44
Σ(´Д`;)ハァハァ…
の、のーぶらの興覇たん…ウッ

ていうか公績たんは後先考えて行動するべきだと思うのですよ。
でもこの二人って、その場の思いつきでイタズラはじめるから楽しいですねえ…

教授様のSSでは長湖部の狂言まわしは魯粛たんに定着してきましたな(゚∀゚)
曹操陣営だと、誰が適任なんだろうか…

252 名前:★教授:2003/04/20(日) 23:32
■■甘寧VS凌統 ROUND2 -魯粛プロデュース 前編-■■

「甘寧! 今日こそ白黒はっきりつけてやる!」
「突っかかってくるのもいい加減にしろよ!」
 ロッカールームで衝突中の甘寧と凌統。
 厳密には凌統が甘寧に突っかかってるだけなのだが。
 周りで着替え中の除盛と丁奉は別段気にする素振りも見せない。
 目の前で繰り広げられてる軽い修羅場は彼女達には見慣れたものだったのだ。
「またやってるよ。毎度毎度飽きないもんなのかな…」
「いいんじゃない? それで本人達が楽しければ」
 所詮他人事の二人。
 だが、凌統の投げたボストンバック(水着やら体操服がぎっしりつまってる)が除盛の側頭部に直撃。
 くるりと一回転してコミカルに倒れる。
「じ、除盛!?」
 丁奉が慌てて除盛を抱え起こそうとする。
 しかし、今度は甘寧の投げたボストンバック(鉄アレイやらメリケンサック等の凶器がぎっしりつまってる)が丁奉を襲った。
「ぐはっ」
 後ろ頭に直撃した勢いで除盛の上に覆い被さるように倒れる。
 そんな哀れな被害者二人を全く意にも介さない甘寧と凌統。
 一方的に突っかかられている甘寧もそろそろ我慢の限界なのだろうか。
 こめかみにピクピクと血管が浮きあがり今にも襲いかからんばかりだ。
 と、ロッカールームに一人の女生徒が入ってくる。
「…またやってるの。いい加減にしなさい、二人とも」
 優雅な物腰で嗜める。
「あぁん…? ひっこんで…」
 タンカを切りながら振り返る甘寧と凌統。
 その目に映っているのは、周喩だった。
 周喩はダウンしている除盛と丁奉の様子を見ると、厳しい目線で二人を見据える。
「う…」
 甘寧も凌統もばつが悪そうな顔をしながらたじろぐ。
「二人とも、今からグランド30周! さっさと行きなさい!」
 周喩の怒号がロッカールームに轟く。
「はいいっ!」
 二人は稲妻のような勢いでロッカールームから出て行った…。


「くそぉ…オメーのせいなんだからな!」
「ふざけないでよ! そっちが悪いんじゃない!」
 甘寧と凌統は走りながら責任転嫁を繰り広げる。
 その下で肘や蹴りが飛び交っているのは言うまでもない。
「後1周だぞー。頑張れー」
 グランドの真ん中でメガホンを片手に魯粛の棒読みの応援。
「子敬! もう少し気持ち篭めろよ!」
 毒づきながらペースを上げる甘寧、そして負けじと凌統が横に並ぶ。
 そのまま二人が並んでゴールした。
「わ、私の方が…少し早かった…」
 息を切らしながら凌統。
「な…何言ってんだ! 俺の方が先だったろうが!」
 甘寧もぜぇぜぇ言いながら反論する。
 そこへ魯粛が近寄ってきた。
「凌統、残念〜。甘寧の方が先にゴールしたぞー」
 薄笑いを浮かべて甘寧の手を掴んで挙げる。
「な…!」
 納得がいかない様子の凌統と勝ち誇った様子の甘寧。
「残念だったな〜。やっぱ、俺の方が早かったみたいだわ」
「納得いかないよ! 何で!?」
 地団太を踏んで悔しがる凌統。
「そうだな〜。胸の差ってトコかな?」
 甘寧の胸を指で突つき、真顔できっぱりと言い放つ魯粛。
 愕然とする凌統、そして…
「な…!? は、恥ずかしい事言うなーっ! って…触るなーっ!」
 頭の芯から真っ赤になる甘寧。
 しかし、魯粛はその抗議の声を余裕で無視する。
「さて…二回戦に移ろうか。次の種目は…これ!」
 魯粛は懐から出した一枚の紙を二人に見せる。
「二回戦って…こ、これは…絶対嫌だ!」
「へぇ…面白そうじゃない」
 紙を見た途端に体全体で拒否する甘寧。
 それとは正反対に興味深深の凌統。
 その紙には『コスプレ対決』と、でかでかとマジックで書かれていた。
「絶対嫌だ! 別の事にしようぜ! なっ!」
 泣きそうな顔で魯粛に詰め寄る甘寧、必死だ。
 そこに凌統がにやにや笑いながら近づく。
「試合放棄? なーんだ、情けないな〜」
「なんだと!」
 甘寧が凌統に向き直る。
「逃げるの? いや、別に構わないけどね」
 この言葉にカチンと来た甘寧。
「誰が逃げるか! やってやらぁ!」
 勢いと怒りでつい口走ってしまった。
「じゃ、勝負は明日の昼休みで決まりね」
「え? あ、いや…これは勢いで…」
 甘寧は慌てて自分の発言を取り繕おうとする。
 ――が、時既に遅し。
「それじゃ、明日の昼休みまでに何するか決めといてね」
「分かったよ」
「ち、ちょっ! 子敬! 待てって!」
 二人に投げキッスを寄越して魯粛はさっさと校舎に入っていった。
「明日が楽しみね。それまで首は預けとくわ♪」
 自信に満ちた顔の凌統が挑発の言葉を投げかけてグランドから出て行く。
「…マジか…?」
 甘寧は呆然とグランドに立ち尽くすしかなかった…。

 そして、運命の朝がやってきた――。

253 名前:アサハル:2003/04/22(火) 22:12
甘寧って既に殆どコスプレっp(ry

徐盛と丁奉の見事な巻き添えっぷりにとりあえず笑わせて頂きました。
胸の差って…ってことは凌統の胸はサラシ巻いた甘寧より小…

ところで魯粛って「〜しなさい!」と命令口調で言われたら
「ああん?誰に向かって口利いとんじゃこのアマ!!」って
逆ギレしそうな気がします。何となく。

254 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/22(火) 23:41
ハッΣ(´Д`;)コス対決…っ
しかしながら甘寧の方が、外貌的にバリエーション豊富な気もするが…
凌統たんはどう巻き返すのか!?

>凌統の胸はサラシ巻いた甘寧より小(ry
ワロタ。言われてみれば…
魯粛は周瑜のマブだったりしますので、確かに逆ギレするでしょうねえ…

255 名前:岡本:2003/04/24(木) 02:59
■十常侍の乱(前)■

既に末期化していた蒼天学園連合生徒会の不甲斐無さが形に現れたのが黄巾事件とそれに触発された各地の反乱と見るならば、後の群雄割拠に示される学園騒乱の実質的な幕開けは何進のリタイアとそれによる洛陽棟の混乱−“十常侍の乱”−にあると目されることが多いだろう。

アイドルである妹の“Kai”がファンであった前蒼天会会長・劉宏とその妹・劉弁と姉妹の誓を交したことで、“垢抜けないもののちょっと愛嬌のある肉屋の看板娘”として平凡な学園ライフをおくるつもりだった何進の運命は急展開を示した。
なんと劉宏自身のご指名で、蒼天学園の実質最高責任者といってよい連合生徒会会長に推されたのである。ただ、何進自身はそれなりに頑張ってはいたものの、所詮“それなり”で、連合生徒会会長としての思考のスケールや実行力といった器量の需要と供給の天秤が完璧に破綻していた。野心など薬にもしたくない“気の優しい近所のお姉さん”の域を超え得なかった以上、正規の役職に着かない方が幸せであったのは間違いない。頼みの綱である連合生徒会の官僚組織ですら華夏研究学園都市の13校区を切り盛りするどころか、なんのかんの文句をつけ山のように送り届けてくる問題に対処しきれず運営機関としては末期症状を示していたのであるから悲惨であった。それに加えて黄巾賊蜂起というダブルコンボが見舞ったのであるから目も当てられない。
皇甫嵩・朱儁・盧植・といった将達が奮闘し首魁たる張角3姉妹達を処断することに成功したものの、自らの利権にのみ汲々としている蒼天会執行部“十常侍”が劉宏を動かし玉である彼女らを連合生徒会から放逐処分にすることになり、ダメージを受けた連合生徒会の傷口に薬を塗るどころか毒を塗る結果になった。劉宏に蒼天学園の現状を訴える声が直に届かない以上、唯一十常侍の障壁を超えて劉宏に話ができる何進が現状回復を訴えるのがとるべき方法であったのだろうが、悲しいかな何進自身の思考のスケールで把握できる世界がそれこそ洛陽棟に所在を構える蒼天会と連合生徒会が精一杯であり、“現状”の意味する蒼天学園規模での危険性を把握することなど不可能であった。
結果として中央集権を放棄し有能な(言い方をかえると野心に溢れた)人物を校区生徒会会長として送り込むことで各地の反乱に対処し安定化を図ったわけであるが、各校区の独立化に拍車を掛けることになる。

何進の勢力基盤は名目上とはいえ蒼天学園の最高権力者たる蒼天会会長・劉宏が持てる権力にあったのだが、これを独占していたわけでなく、蒼天会執行部“十常侍”と折半していたに過ぎなかった。
黄巾事件後の何進の連合生徒会会長としての役目は互いの存亡をかけた十常侍との権力の綱引きに終始することになる。

では、なぜ蒼天会と連合生徒会の連絡・調整役たる蒼天会執行部“十常侍”がそれほどの権力を持ちえたのであろうか。それについてはまず“カムロ”という存在について触れねばならない。
くだらないと思われる節もあるが、中華研究学園都市には奇妙なジンクスがある。
“位階・威勢を極めた組織の初代会長はなぜか胸が無い。”
それに反して、抗争で敗れたライバル達や組織のNo.2以下の部下達、そして2代目以降の会長は
通常の統計どおりにばらけているか、あるいは非常に均整のとれた容姿を誇っているのである。
例を挙げれば
連合生徒会 始会長・政
蒼天学園 校祖 劉邦
蒼天学園 光武サマ 劉秀
は全員、“のっぺり”した体型、ぶっちゃけた話“ぺた”であったらしい。
それに反して、劉邦と最後まで覇権を争った項籍、勢力を警戒されて粛清された韓信、黥布、彭越は全員非常に魅力的な体型をしていたという。
男性でも、シーザーは若禿が入っていてナポレオンが小男と外見上のコンプレックスをもっていたことを考えると、人生妙なところでバランスが取れているのかもしれない。
現在でも“神聖Aカップ同盟”という秘密同盟があるが、そもそもの起源は政や劉邦が過去の因縁を忘れて肝いりで作った“洗濯板同盟”である。皇帝の高貴な容貌のことを”龍顔“というが、蒼天学園においては伝統的に蒼天会会長の容姿を”龍体“という。龍体=流体、つまり流体力学上抵抗の非常に少ない理想的な形、というひどい駄洒落から来るネーミングである。

なにはともあれ、位人身を極めた面々にとって、公私を問わず日常生活において外観上の理由で不快感を覚えるのは堪える物が有ったらしく、日常生活上の側近という形で“女性らしさを自分以上に感じさせない”者たちをパシリとして使ったのが“カムロ”の始まりといわれている。
“カムロ”即ち“禿”で、そもそもは平家が間諜として用いた髪を短く切りそろえた少年をさす言葉である。
蒼天学園では、
1.髪を“おかっぱ”といっていいショート・ボブまで切り詰め、
2.少年と見まがうばかりに胸がない、ブ○ジャ○いらずの
者が該当した。
最初は何らかの不始末をしでかした者のうち、2に該当するものが“焼きを入れる”ということでリンチまがいに女の子の命である髪を短く切られ、ブ○ジャ○なしかサラシのみの着用に制限され、“カムロ”になっていた。なお、この刑を女性にとって恐怖の刑ということで“怖刑(ふけい)”といっていた。
彼女たちは、そもそもが処罰者ということで能力を必要とする実務上の権限を初めは全然持たされていなかったのだが、形式上とはいえ最高権力者たる蒼天会会長にもっとも近い位置にいて連合生徒会との連絡・調整役を勤めるようになったことからだんだん権力を身に帯びるようになってきた。この風潮は悪化し、後には蒼天学園内で権力を手っ取り早く掴む方法として、蒼天学園の学生としての3年間、 “女性”としてのおしゃれは日常でも厳禁というデメリットにも関わらず自ら“カムロ”に志願するものもでるようになった。事実、曹操が実姉のようにしたった従姉妹の曹騰も志願した“カムロ”であった。

さて、話を元に戻すと、互いの存亡をかけた何進と十常侍との権力の綱引きは、情勢の判断力が決定的に不足していた両者のダブルノックアウトという形で終焉となる。
蒼天会及び連合生徒会がもはや野心に溢れた群雄に対してなんら強制力を持たないという事実はこの事件によって周知の事実となる。むしろ、この時期は、強制力と野心による反発がぎりぎりの均衡を保っており、誰かが先鞭を付けてしまえばあっさり天秤が傾く状態にあったといえるだろう。
これに気づいていた居た者は蒼天会及び連合生徒会内部にはごくごく少数しかおらず、何進と共に狂言回し的な役割を演じた者に、後に河北の巨人として知られる袁紹がいる。具体的には、独立化して強大な力を持つようになった各校区の群雄たちを十常侍達への抑止力として運用しようと考えたのである。危険を感じた十常侍は一発逆転を掛け、詫びをいれるという名目を立てに何進を彼女らの本拠地たる洛陽本部棟へおびき出し始末することを計画する。うかうかと乗ってわずか数名の随員と共に洛陽本部棟へ赴いた何進は、十常侍ら“カムロ”の闇討ちですっとばされることになった。もともと“カムロ”に嫌悪感を抱いていた袁紹は、何進のあだ討ちとばかりに反撃にでることになる。
十常侍の乱当日の袁紹の対処については以下のような記録が残っている。

256 名前:岡本:2003/04/24(木) 03:00
■十常侍の乱(後)■

“何進連合生徒会会長、十常侍に討たれる!”の報は洛陽棟郡全域に野火の勢いで広がっていた。数日間の連合生徒会対蒼天執行部の情勢は非常に緊迫していたこともあり、夜にも関わらず洛陽本部棟前の広場へ集まってくる学園生は多かった。にもかかわらず、便乗してそういった学園生相手に飲食系サークルが臨時店を開いているあたり、蒼天学園生のしたたかさを感じさせる。広場の片隅のオープン・カフェも時間を延長して店を開けており、情勢を見守る学園生が多く詰めていた。

袁紹本初が急ごしらえの演壇に立ち、立ち並ぶ生徒たちにむけ激を飛ばす。彼女らは連合生徒会の実働機関たる連合生徒会執行部の部員たちだ。袁紹はその恵まれた容姿と声、機知に飛んだ文句で演説達者として知られていた。ただし、オリジナリティは模倣から始まるとはいえ、その文言は借り物が多かった。

『我々は一人の英雄を失った。これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!
十常侍に比べ我ら連合生徒会構成員の総課外点数は30分の1以下である。にも関わらず今日まで活動し続けてこられたのは何故か!執行部の諸君!我ら連合生徒会の活動目的が正義に他ならないからだ!一握りのカムロ達が中華市全域にまで膨れ上がった蒼天学園を支配して20余年、中華市に住む我々が自由を要求して、何度連中に踏みにじられたかを思い起こすがいい。連合生徒会の掲げる、学園生一人一人の自由のための戦いを、天が見捨てる訳は無い!
我らが連合生徒会会長、諸君らが愛してくれた何進は倒れた、何故だ!』

血管が数本音をたてて切れそうな勢いで熱弁を振るっていた袁紹が、聴衆の反応をみるため、そして演説にインパクトをつけるため、一息ついた。朗々たる袁紹の美声は、演壇前に集まっていた数十名の執行部員はもちろん、広場の全域に届いていた。ざわついていた広場全体がしんと静まり返る。
そのとき、オープン・カフェの片隅で、夜にも関わらずサングラスをかけ、ちゅ〜とクリーム・ソーダを飲んでいた燃えるような赤毛が印象的な小柄な生徒がぼそっとつぶやいた。
「へタレだったからよ。」
カフェにいた全員の視線が彼女に向く。その視線を気にした風も無く、再びストローを口に咥えた。
ちゅーーー、ズズズズズッ!
格好をつけたものの、クリーム・ソーダが既に無くなっていたことに気づかず、間の抜けた音がカフェに響く。バツの悪い空気が流れた…。
「だからええ格好しぃはやめろっていったろう、孟徳!」
「ここでやらずして何がお約束よぉ〜!」
相席していた片目に眼帯をつけた大柄な生徒が顔を真っ赤にして、すみません、すみません、と周りに頭を下げて小柄な生徒をひきずっていく…。
“なにをしたかったのかしら、孟徳は…。”
少々毒気を抜かれたものの、予定どおりに袁紹は演説を続ける。
『・・・学園内の混乱はやや落着いた。諸君らはこの混乱を対岸の火と見過ごしているのではないのか?しかし、それは重大な過ちである。十常侍に代表されるカムロ達は唯一絶対の犯すべからざる蒼天会会長を擁して生き残ろうとしている。我々はその愚かしさを十常侍の万札章所持者達に教えねばならんのだ。何進は、諸君らの甘い考えを目覚めさせるために、倒れた!勝負はこれからである。我々の体制は復興しつつある。十常侍とてこのままではあるまい。諸君の母も姉も、彼女らカムロの無思慮な抵抗の前に倒れていったのだ。この悲しみも怒りも忘れてはならない!それを何進は自ら連中の矢面に立つことで我々に示してくれたのだ!我々は今、この怒りを結集し、十常侍に叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。この勝利こそ、階級章剥奪者全てへの最大の慰めとなる。蒼天学園生よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ学園生!生徒会は諸君等の力を欲しているのだ。Victory for Students!』

拳を突き上げ気勢を上げる袁紹にまずはサクラの袁術が、そして息のかかった執行部員達が呼応して喚声を上げる。広場に様子を見に来ていた連合生徒会とは直接関係のない生徒たちも、雰囲気に呑まれたのか徐々に気勢を上げる面子が増え、ついには喚声が広場全体に響き渡り洛陽本部棟を揺るがせた。
“よしっ、正義は我にあり!”
「蒼天学園の勇者達よ!いまこそ“カムロ”を一掃し、学園に秩序を取り戻すのだ!門を開けよ!」
身の軽い者数名が本部棟正門を内側から開けんと、素早く塀を乗り越える。
まさか強行するとは思っていなかったのだろう、正門に警備兵はおらずすんなりと門は開いた。
竹刀を手にした袁紹を先頭に本部棟敷地内へ執行部員達は雪崩れ込んだ。
目指す本部棟の入り口には流石に警備兵がおり、突然の乱入者に色めき立った。蒼天会所属の警備兵は儀礼的意味合いが強く(どこの国も近衛師団は最弱)生徒会執行部員には及びもつかないが、騒がれると面倒である。自身で制しようとした袁紹を抑えて、鉢巻を締め白襷を掛けた袁術が稽古用薙刀を構えて進み出る。
「わたくしたちの路を遮るとおっしゃいますの?袁家の路を阻むなど、身のほど知らずもいいところですわね。」
薙刀が袁術の頭上でひゅんひゅんとうなりを上げたとみるや、刃と石突が警備兵の脛を連続して薙ぎ払う。たまらず転倒したところを留めと肩を打ち据えられ、あわれな警備兵は失神した。
お嬢様芸とはいえ、見事なものである。打ち倒した警備兵を尻目に快哉をあげる。
「いいですこと?わたくしの字は公路。わたくしの歩いた後に路はできるのですわ、おーほっほっほっ!」
妹の高ビーぶりに額を押さえたものの、袁紹は気を取り直して指示を下す。
「行けぃ!突入せよ!蒼天会会長を“カムロ”どもに渡してはならん!!」
袁紹の号令と共に、喚声を上げて執行部員達は本部棟へ乱入した。“カムロ”達と執行部員達との乱闘いや、戦闘力において遥かに勝る執行部員による一方的な“とばし”が随所で発生した。怒号と悲鳴が木霊し、蒼天学園の中心地たる洛陽本部棟は戦場と化した。

この時、洛陽本部棟には“カムロ”以外にも残務整理等にあたっていた蒼天会事務系生徒達が数多くつめていた。“カムロ”達は余り連合生徒会実働部員との接点が少なく、十常侍のような高位階級者ですらあまり顔を知られていなかった。
カムロの特徴は上に述べたように、
その1:“おかっぱ”と言っていいほどのショートカット・ボブ。
その2:実際にあるかないかは別にして、外観上は“ぺた”。下着は無しかサラシ。
必然的に、ショートカットで、“ない”者たち=“カムロ”と見なされ、該当者は実際にカムロであるかどうかに関係なく次々に捕捉され、階級章を剥奪された。
突入隊が外観だけを頼りに見境無く捕捉していることは直ぐに判明したため、この難を乗り切った“カムロ”でない該当者たちには、拘束されかかると前を開いて、「ないけど、ブ○着けてる〜!!」という涙混じりの屈辱的宣言を余儀なくされたものも多かったという…。

他の“カムロ”の面々が見事何進を屠ったという事で勝利確定と暢気に祝杯をあげていたなか、十常侍の事実上リーダーたる張譲は少しは連合生徒会内部の力関係が見えていたのか部下を本部棟入り口に貼り付けていた。急報で袁紹・袁術姉妹率いる生徒会執行部員の乱入を察知するや、かねてから用意していた付け髪と夜食の肉饅頭2個で偽装し、勝手知ったる洛陽本部棟の最短距離を疾走した。
“会長さえ押さえれば、まだ交渉の優位はこちらにある。”
半分寝入りかけていた現蒼天会会長・劉弁と従姉妹の“陳留の君”劉協を、突入隊が会長室に到達する前に確保することに成功。事態がつかめず、蒼天会会長の所在を吐かせようと本部棟の最深部まで突入してきた袁姉妹らに次々にとばされる他の十常侍や“カムロ”を見捨てて数名の側近と共に裏口から逃走したのだが…。洛陽棟の郊外で手ぐすね引いて待っていた涼州の餓狼の顎に落ちることになる。

袁紹は強硬手段をとることで、連合生徒会の天敵ともいうべき“カムロ”集団を一時的に駆逐することには成功した。とはいえ、犬を追い出して餓狼を招き入れ蒼天会と連合生徒会を共に飲み込まれる結果を導いてしまった。蒼天会と連合生徒会が餓狼から開放され暗黒時代に終焉を迎えるには更に数ヶ月の日数を要することになる。

257 名前:岡本:2003/04/24(木) 03:04
>ぐっこ様
改装、お疲れ様です。

ダンパのほうがちょっと行き詰ったので、ちょっと”Aカップ同盟”で思いついた
小ネタで書いてみました。
表現が適切でない可能性がある場合、削除していただいて構いません。

258 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/25(金) 22:11
うほ! 早速新設定投入の岡本作品が!
短編にまとめるのは惜しい舞台ではありますが、新設定のお披露目として、後続作品
や演義で補完するとしましょう!
さておき!
いきなりの神聖Aカップ同盟設定ワロタ。そこまで由緒正しい組織だったのか…(;´Д`)
そして露骨に借り物っぽい演説の袁紹ステキ…♥
逆に袁術お姉様もカコイイ! すみれ嬢ばりの女傑でございますな…。

あと、カムロじゃない証拠を見せる女子生徒たん萌へ…

259 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:31
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第一章 宿将たち

「…以上の証言、証拠から、盧植の備品横領の罪は明らかである。よって、対黄巾党総司令官職の罷免と二週間の謹慎を申し渡す」
執行部長、張譲の酷薄な声が洛陽棟生徒会室に響く。被告の席に立った盧植は、無駄だとわかりきっているからだろうか、うつむいたまま反論もしない。
何か違うな、と副官として生徒会長、何進の傍らに席を置く、書記長次席・袁紹は思った。
袁紹は公明正大、清廉潔白で知られる盧植を、生徒会の中では誰よりも、いや、蒼天会会長、劉宏よりも尊敬していた。1年生の時は何度か勉強を教わりに行ったことがあるし、生徒会に入って間もない自分の面倒を何かと見てくれたものだった。
対黄巾党総司令官として盧植が黄巾党の本隊600人を正規軍450人でじわじわと圧倒し、250人までその数を減らして黄巾党の本拠地、広宗音楽堂の攻囲に取り掛かったのは昨日のことである。攻囲の陣中に左豊という監査委員がやってきて露骨に賄賂を要求してきた。盧植は「陣中の備品は公のもの。あなたにそれを私物化する権利はありません!」と明言し、左豊を叩き出したのだが、唐突に翌日召還され、この結果である。少し握らせればおとなしく左豊は帰ったのだろうが、盧植にはそれができなかったらしい。
退室を命じられた盧植がうつむいたまま生徒会室を出て行く。今度食事にお誘いしてみようか、そう思ってしまうほど、盧植の背中は袁紹には頼りなく見えた。盧植の退室に続き、後任の総司令選抜の協議が始まった。が、協議とは名ばかりで、執行部、つまり張譲らの一方的な提案を何進がそのまま承認しただけだったが。
選抜された人物の名が、袁紹をますます暗鬱な気分にさせた。

うつむいたまま生徒会室を出た盧植を、皇甫嵩、朱儁、丁原の三人が心配そうに迎えた。三人とも、高等部進級以来の友人同士であり。皇甫嵩と朱儁、丁原と盧植は寮のルームメイトでもある。
皇甫嵩、あだ名は義真。体育委員会所属の格闘技術研究所所長と生徒会執行部員を兼ねる生徒会の重鎮中の重鎮であり、知勇の均衡が取れた生徒会随一の用兵巧者との名が高い。174cmの長身、誇り高い気質と、男性的な言葉遣いとがあいまって、一般生徒からの人望はきわめて高い。生徒会、蒼天会には絶対の忠誠を誓っているが、張譲ら執行部の上層部へは、あまり好意をもっていないようである。
朱儁、あだ名は公偉。皇甫嵩に次ぐ用兵の腕を持つ生徒会の宿将。機動性に富んだ速攻の用兵に定評があり、皇甫嵩を『静』とすれば朱儁は『動』。前髪のひとふさが天を向いて逆立っており、その速攻の用兵とあいまって、好意を持つ者からは「紅の流星」と呼ばれ、悪意ある者からは「シャ○専用」と呼ばれている。成績は中の上。噂好きで口は悪いが、人情家で屈託のない性格のため、あまり他人に恨まれることはない。皇甫嵩とは悪口をたたき合う仲ながら、小等部時代からの無二の親友である。
丁原、あだ名を建陽。匈奴南中学出身で、あの鬼姫・呂布と、後の生徒会五剣士筆頭・張遼の先輩にあたる。4人の中では一番小柄だが、特に武芸を嗜んでいるわけでもないのに、ケンカは一番強い。并州校区総番…もとい総代であり、部下を率いての突撃力は目を見張るものがあるものの、他の三人と違って、学業成績は壊滅的によろしくなく、三年生に進級するために、全教科の補習、追試を受けねばならなかったほどで、すべてを切り抜けることができたのも盧植の「3日連続徹夜猛勉強」によるところが大きい。なぜか近々統合風紀委員長に就任することが内定しており、様々な儀式や雑務のため、ここ数日は洛陽棟に詰めている。盧植とは蒼天学園高等部入学からの親友である。
「しーちゃん(※子幹)…やっぱ、コレ?」
丁原が手刀で首を切るジェスチャーをして尋ねた。
「階級章は何とか無事だけれど、2週間の謹慎よ」
盧植は力なく頷く。謹慎、とはいっても授業には出ることができる。ただ、階級章を剥奪された者と同様に課外活動への参加は厳禁される。言ってみれば、期間を限って「死んで」いることになるのだ。
「自分で自分の首を締めるとはこのことだな。生徒会も、そしておまえ自身も」
「シンちゃん(※義真)、言い過ぎだって!」
「いえ、義真の言うとおりよ建ちゃん(※建陽)。もう少し融通が利いていれば、今日にでも黄巾党を壊滅させえたのに…」
「ああ、惜しいことをした。そう思うよ」
執行部の策謀だな、と皇甫嵩は察した。本来、カリスマ性と集団指揮能力に秀でた皇甫嵩が総司令となり、盧植が参謀としてそれを補佐し、別れた敵に対しては遊撃隊として皇甫嵩に次ぐ指揮能力を持つ朱儁と、突撃力に優れた丁原がそれぞれあたる、というのが生徒会側にとっては最高の布陣であったはずだ。しかし、それでは常々執行部上層部に反感を持っている皇甫嵩ら4人の力が強くなりすぎ、張譲らに都合が悪い。そこで一番武官らしく見えない盧植を総司令とし、その下に皇甫嵩らをつけ、4人の分断を狙ったものだろう。しかし、盧植は意外に将才を発揮し、その配下となった皇甫嵩らも進んで協力したため、戦局が有利に運んだ。そのため執行部は左豊を送り込み、盧植を失脚させたのだろう。目先のことに気を取られて小細工を繰り返し、大局の見えない張譲らが皇甫嵩には腹立たしいかぎりである。
「義真…」
盧植が考え込んでいた皇甫嵩の手を取り、彼女を慌てさせた。
「な、なんだ?」
「後のことはお願いするわ。そして、あの子を、張角を救ってあげて。あの子はとても苦しんでる。私にはわかるの…」
盧植の手に力がこもる。力強くその手を握り返して皇甫嵩は頷いてみせた。
「わかった。この皇甫嵩、必ずこの乱を鎮圧し、あの子を救ってみせる。そう、誓おう」
「ありがとう、義真…」
そこまで言うと、堪えきれなくなったのか、盧植の頬に一筋の涙が光った。
突然、弾かれたように盧植が皇甫嵩の胸に飛び込んできた。
「お、おい、子幹!?」
あまりのことにあわてる皇甫嵩。盧植は答えず、皇甫嵩の胸に顔を埋めたまま、少女のように泣きじゃくっていた。
皇甫嵩はとりあえず、慰めるように盧植のふわふわの髪を優しく撫でた。さわやかなシャンプーの芳香が立ち昇り、皇甫嵩をますます困惑させた。皇甫嵩は学園内の一部腐女子から偏った人気を得ており、よからぬ噂もいろいろあったが、本人はそういうことはいたって苦手な真人間であった。一部の者には感涙ものであるこのシチュエーションも、本人にとっては、ただ迷惑なだけでしかない。
朱儁と丁原が顔を見合わせ、小声でささやきあった。
「あーあ、完全に二人の世界に入っちゃった…」
「マズイよ〜、こーちゃん(※公偉)…ここ結構人通り多いのに…やばっ!あの人達アタイら見てる!」
「えーと、あの、義真、子幹。あたし達これから用事あるから、これで…」
「シンちゃん、しーちゃんを寮まで送っていってあげて。あーそれから、くれぐれも成り行きで変なことしないように!」
「な、何だ!?変なこととは!?」
皇甫嵩は慌てて盧植を引き離す。盧植も我に返って赤面していた。
「じゃあ、ごゆっくり、ご両所」
「鳳儀亭なんか行っちゃダメだよー!」
朱儁と丁原は笑いながら走り去っていった。
「まったく、あいつらは…」
「あの、義真、これから二人で…」
「お、お前まで何を言い出す!私にはそのケはないと常々…」
「そ、そうじゃなくて…」
赤面してうつむいた盧植が消え入りそうな声で誤解を打ち消した。
「これまでのこととか、これからの戦略を引継ぎしたいから、これからファミレスにでも行こうかなと…」
「そ、そうか、そうだな。何を勘違いしたんだろうな、ハハ…」
「…」
「時間は…5時か。ちょっと夕食には早いが、とりあえずピーチガーデンに行くか」
皇甫嵩と盧植はややぎこちなく、連れ立って昇降口へ向かった。

260 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:34
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第二章 トラブル・メイカー

皇甫嵩らが去ってから約10分後、何進ら生徒会の重役達がぞろぞろと生徒会室を出てきた。最後に冴えない表情で袁紹が生徒会室を出てくると、大きく伸びをして、湿って汚れた空気を肺から追い出す。
「ずいぶん浮かない顔してるねぇ、袁紹」
手持ち無沙汰で生徒会室前の掲示板を見ていた大柄な女生徒が、からかうように尋ねた。
文醜。袁紹の入学時からの腹心であり、後日、ナイトマスターと呼ばれることになる勇猛の士である。
猪武者との周囲の評判だが、優れた集団指揮能力と戦術立案能力を有するため、袁紹は重用していた。
袁紹が棟長を勤める汝南で剣道部の指導にあたっている顔良と仲がよく「心の姉妹」の誓いを結んでいるらしい。
「機嫌も悪くなるわ、文醜。自分で望んで入った世界だけど、梅雨時の地下室みたく湿っぽくて汚れていると、いつか自分まで汚染されそうな気がするのよ。こんなことならいっそ…」
「「私が」かい?いずれはそうなるとしても、そこから先をこの場で言うのは危険すぎるよ」
軽く文醜が嗜めた時、
「あっ!本初ー!」
快活な声が廊下の奥から響いてきた。誰かな、と思ったがすぐにわかった。自分を本初と呼び捨てる人間はいまのところ校内に一人しかいない。
声のした方から軽快な足取りで小柄な少女が走ってきた。曹操、あだ名を孟徳。袁紹よりひとつ下の幼馴染であり、つい最近、袁紹の推薦で生徒会書記、騎隊長に任じられている。先の頴川における野戦では派手な戦功もたてていた。
「何の用…あっ!?」
駆け寄ってきた曹操はそのまま袁紹の胸に飛び込んできた。あまりのことに文醜も唖然とし、とっさに動けないでいる。
「ちょ、ちょっと孟徳!いきなり何するのよ!」
「だって、本初っていつもいい香りするんだもの。う〜ん、高貴な香…今日はジャスミンかな?」
「そんなことはいいから早く離れて!恥ずかしいでしょ!」
「…87、いや、88!また大きくなってる…この牛乳女!」
「な!!…」
ズバリと当てられ、耳まで真っ赤になる袁紹。曹操の数ある特技の一つである。抱きつくだけで胸の大きさわかるのだ。確度は99%(自称)であり、荀掾A張遼、関羽らの他、数十人がその被害に遭っている。3年生になってからは不思議とやらなくなったが、その理由は「狼顧の相」状態の司馬懿に試みてトラウマになったからだといわれているが、真偽は定かではない。
「お馬鹿ッ!」
「遅いよっ!」
横薙ぎの平手打ちを、曹操は跳び退って難なくかわした。踏み込みと共に襲い掛かる返しの平手も軽く屈んでかわす。燕が身を翻すように反転して駆け出そうとしたとき、素早く回り込んだ文醜が両手を広げて立ち塞がった。
「ここは通さ…あっ!」
サッカーのスライディングの要領で、曹操は文醜のわきの下をくぐりぬけた。さらに、立ち上がりざま片手を跳ね上げ、文醜のスカートを思い切りめくり上げる。
「わっ!」
「あれ残念、スパッツか。相変わらず色気「ゼロ」ですね〜。文醜先輩?」
「き、貴様ぁ〜!!」
ことさらに「ゼロ」を強調され、激怒した文醜は、笑いながら逃げ出した曹操を追いかけようとしたが、袁紹の笑い声が、それを押し止めた。
「…笑わないでよ。ま、元気になったようで良かったけどね」
「ええ。あの子を見てるとなんだか楽しくて」
「無礼だけど、不思議な奴だね」
「そういえば…何の用だったのかしら?」
疑問がわきあがり、袁紹は軽く首をかしげた。

昇降口を走り出た曹操は、一台のバイクと、その傍らに立つ女生徒を見つけ、駆け寄った。
「やっほー、妙才、みんなは?」
「惇姉は礁棟で剣道部の練習。子孝は相変わらずパラリラやってるし、子廉は相変わらず取り巻きと一緒に闇マーケットに入り浸ってるわね」
「いつもどおりってことね」
「そろそろ風紀も集団で駆けつけてくるから…って、孟徳、さっきから何見てるの」
「さっきの生徒会幹部会の議事録」
「幹部会って、あんた、確かまだ下っ端じゃ…」
「さっき本初からスってきたのよ」
「そんなもの、何に使うのよ?」
「近代戦の基本は情報だよっ!正確で有為な情報をなるべく早く入手すればそれだけ今後の戦略が組みやすくなるの!」
「戦略…ねぇ」
「なにせアタシの学園生活の目標は『目指せ!蒼天会会長!』だからね。時間を無駄にしてる暇は無いのよ」
「今、何かとんでもないこと口にしなかった?」
「気のせい気のせい…さて、そろそろかな?」
「え?」
曹操がファイルに目を通していると、校舎の奥から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。周囲にいた生徒達が、何事かと校舎の奥を見やる。
「さっすがお嬢様。悲鳴もお上品であらせられること」
「…孟徳、あんた、袁紹先輩に何をしたのよ?」
「別れ際にスカートのホックとファスナーに細工をね。40歩くらい歩くと自然にスカートがストーンと落っこちる仕掛けだから、誰がやったのかはわからないよ。本初ってば、今日は珍しくパンストはいてなかったからすごいことに…」
「孟徳ーーーーーーーッ!!!!」
校舎の奥のほうで怒りに燃えた叫びが轟いた。雷喝、というべきで、様子をうかがっていた生徒たちが思わず一歩跳び退くほどの怒りがこもっていた。
「『怒声もお上品』ってとこかしらね?ところで、あっさりバレてるみたいだけど?」
「そーだね。じゃ、礁まで逃げるよ。あっ!田豊せんぱーい。これ本初に返しといてくださーい!」
偶然、近くにいた袁紹の腹心、田豊にスってきたファイルを投げ渡すと、夏侯淵に渡された半球型のヘルメットを素早く被り、バイクの後部座席に身軽に跨る。夏侯淵はすでにフルフェイスヘルを被り、エンジンを始動させていた。
「待ちなさい!孟徳ーッ!!」
「そこのバイク!止まれー!」
腰のあたりを押さえた袁紹と風紀委員一個小隊がそれぞれの目的で昇降口を走り出てきた。だが、時すでに遅く、後輪を派手にスピンさせてバイクが走り出しており、どちらもその目的を果たすことはできなかった。
「アディオス・アミーゴ(※さらば我が友)、キャハハハハ!」
「孟徳ーッ!おぼえてなさいよーッ!」
曹操の高らかな哄笑に袁紹の無念の絶叫が重なる。黄巾の乱の最中だが洛陽棟は騒々しくも平和のようだった。

1−1 >>259

261 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:44
岡本様の力作に続くことになって恐縮ですが、以前ちょっと話題にした歌合戦SSです。といっても前フリですが。
実を言うと、全部できてます(^^;。歌合戦より、皇甫嵩がメインですが…
皇甫嵩。横光では登場1コマ、白目、台詞なしと、部下の雛靖よりひどい扱いですが、後漢書ではやたらカコイイエピソードが目立ちます(なにか高順と似てる)。
まあ、劉備や呂布とほとんど関わっていないので演義では目立たないのも無理ありませんが…
残りは、空気を読みまして追々…

262 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/27(日) 17:21
あいっ! 拝読いたしました!
あははは、雪月華さま、うまいっ!
皇甫、朱、盧、丁の4先輩たちといい、彼女らより格下とはいえめきめき
頭角を現している袁紹と言い…
その袁紹と曹操のフランクで油断も隙もない関係がまた(;´Д`)ハァハァ…
ていうか今回のお話は、お嬢様袁紹たんに存分に萌えますた…!
88!? …となると袁術たんは87か…? 
文醜も何だかんだでイイ(・∀・)!  このテンション好きだな〜

自作期待! って既に完成…!?
皇甫嵩ですか〜。楽しみ〜!

263 名前:アサハル:2003/05/01(木) 01:07
何よりも「シoア専用」で大ウケした私を許して下さい。
そしてうっかり文醜に萌えた私を許(ry

袁紹&曹操と愉快な仲間達(違)もさることながら
やっぱり生徒会カルテットの連帯が大好きです。
盧植たんもちゃんと女の子だったんだな…とか思ったり。

同じく、続きが楽しみであります!!

264 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 21:39
少々(かなり)長くなりますがこちらに投下します。
分かる人(岡本さんなら…)には分かりますが、
ネタをまんまパクってあるので演義扱いということでよろしこ。

265 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 21:41
 ▲△ 震える山(前編) △▲

雍州校区の西の端、狄道棟。
棟長・李簡の帰宅部連合への内応に端を発した姜維四度目の北伐は、数で優る生徒会の反攻に遭いまたも頓挫。狄道棟一帯は雍州校区総代・郭淮の動員した生徒会実動部隊の重囲下に置かれていた。ここ数日は一般生徒に限って臨時休校となるほどの有様であり、帰宅部連合の立て籠もる棟内への突破口を開くべく生徒会勢の攻勢が開始されていたのだった。


「第11小隊突撃開始! 第21、24小隊は後方で待機せよ!」
バリケードで固められた正門を避け、裏門あるいは塀からの突入を図るべく生徒会勢が取り付く。後方からは支援射撃も行われているが、対する棟内からの応戦は至って僅かであり、戦力を既に喪失しているか、あるいはいまだ温存しているかのどちらにせよ大勢はあらかた決しているはずだった。そのことが油断を誘ったわけでもないのだろうが…
「う、わっ、きゃああああああッ!」
「ど、どうした− ああッ!」
突如矢のように躍りかかった人影から発せられたサバイバルゲーム用ゴム製ナイフによる斬撃で、二人の女生徒が倒れ伏した。思いも寄らぬ白兵による反撃に生徒会勢は混乱し、隊列が崩れる。ようやく後方からの支援班が射線を移し始めたが、この地方独特の複雑な地形を縫うように駆けてゆくその人影に追随しきれず空しく地面に、あるいは壁にペイント弾の染みを作るだけだった。それどころかその人影から打ち出されたエアガンの弾は恐るべき精度で生徒会勢にヒットしてゆく。狄道棟裏門付近を文字通り飛ぶように走り回り、生徒会の前進部隊をひとしきりかき回して潰走に追い込んだ少女は引き上げざまに振り向くと、苦々しげにつぶやいた。
「フラットランダーが、生徒会にも山岳部隊はいるだろうに…」
汗をひと拭いして、歓喜の声に迎えられながら棟内に姿を消した少女の名は張嶷、字を伯岐。帰宅部連合の盪寇主将を務める、いまや残り少ない武闘派の筆頭格である。


それまで南中校区越スイ棟長を長らく務めてきた張嶷は、帰宅部連合総帥代行・姜維の要請に応じて今回の北伐に随行していた。利あらずして窮地に立たされたものの、南中校区で一癖も二癖もある女生徒達と渡り合ってきた彼女は今なお戦意旺盛であり、姜維らが狄道棟からの脱出策を練る間に生徒会勢の攻勢を撃退したことで他の部員達もいくらか士気を取り戻すことができたのだった。だが、数に優る生徒会側がいつ総攻撃に訴えるとしても不思議はなく、益州校区への帰還は半ば絶望視されてさえいたのである。

棟内に引き上げた張嶷がクールダウンを終えて一息ついていたところへ姜維がふらりと現れた。他の部員達は皆それぞれに用事があるのだろう、辺りに二人以外の人影は見えなかった。
「お疲れさま。噂に聞いた以上の実力じゃない。惜しいわね、貴女をもっと早く招いていれば−」
「いや、私は南中での仕事が気に入っているよ。こんなのは性に合わないな」
姜維は苦笑した。性に合わぬと言いながらも遠征随行の要請は請けてくれた上にこの戦果である。それに噂に聞いたところでは元々彼女が名を知られるようになったきっかけはといえば、劉備が益州校区入りを果たした際のどさくさで彼女が本籍を置いていた南充棟が蜂起した反対派の手に落ちた際、単身乗り込んで副棟長を救出したからだという。その度胸を買われて抜擢され、反覆常ならぬ南中校区を剛柔両面を駆使して巧みに治めてきたその手腕は帰宅部連合の中でも抜きん出ていた。だが何故、彼女は北伐への随行を承諾したのだろうか…
「さあ、ね… ただ、引退するまでにもう一暴れしておきたかったのかもしれない。 …はは、結局はそういうことなのかな」
そう言うと張嶷は少し照れたような顔で笑って見せた。その顔を見て、姜維もどこか安心できたような心地がしたのである。 −すると、張嶷がやおら立ち上がると軽くジャンプを繰り返し、腕を二、三回クルクルと回して体をほぐすと姜維に向かった。
「さてと、それじゃ、出るか…」
「ええっ!? 貴女、どうするつもりよ」
「退路は私が開く。アンタは全員を連れて脱出するんだ」
そう言うと、腰に差したゴム製ナイフを取り出し軽く振るうと、肩から下げたエアガンの動作を確認し、予備弾倉のチェックを始めた。
「そんな、まさか一人で… 無茶だ!」
だが張嶷はその言葉を遮る。姜維に向けた瞳には決意の光を宿していた。
「私に任せろ。この狄道の山、南中の奇峰に比べればどうということはない。それに、あれも役に立つ」
そういうと窓の外を指差す。校庭には部員達が構築したバリケードがさながら迷路の様相を呈していた。なおも不安の色を隠せない姜維に向かい張嶷は言葉を継ぐ。
「蒼天学園での3年間の価値は、何をなしたかで決まる。アンタの役目は連合を導くために戦うこと、私はそれを助けることが今の役目だ」
そう言うと、もはや議論は不要と背を向けて歩き出す。姜維は呼び止めようと一旦は伸ばした手を、胸の前できつく握りしめた。
「止めることなんて、できない……」
何かを思いきるようにギュッと目を閉じ、しばらく後に開く。張嶷の背中は、もう届かないほどに遠ざかっていた。
「伯岐にもしもの事があったら、私のせいか… その時には、一人でいかせはしない……ッ!」
姜維もまた己の責務を果たすべく立ち上がると、振り返ることなく歩き出した。彼女には、導かねばならぬ仲間がいる。

266 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:26
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第三章 優しいヒト

全国の中規模以上の都市に、一軒は必ずある、大手ファミリーレストランチェーン「ピーチガーデン」。後日、劉備三姉妹の結義の場として、幽州校区店は、味やサービスとは無関係なところで、人気を得ることになり、それに便乗して、当日三姉妹が頼んだメニューが「桃園結義セット」とされ、おおいに話題を呼んだが、季節ごとにメニューの組み合わせが変わるため、本当に劉備三姉妹の頼んだものであるかどうかは、怪しいものであった。
客層の99.99%が女子高生であるため、通常にメニューに加え、サラダ系のダイエットメニューやデザートの種類が通常の店舗より豊富である。客層をかんがみてか、オーダーストップは午後八時半と早めで、午後十時には閉店となる。
皇甫嵩と盧植が司州回廊店に入ったときは、5時過ぎという時間帯のためか、あまり客は多くなく、奥の日当たりのいい席に、二人は向かい合って座ることができた。
まだ夕食には早いが、皇甫嵩は、数種類のパンとロールキャベツ、ザッハトルテ、アイスココアを。盧植はエビピラフといちごのタルト、エスプレッソ・コーヒーを注文する。
50分後、食欲を満足させ、取り留めの無い雑談を一区切りさせると、盧植は手提げカバンから数冊のファイルを取り出し、テーブルの上に広げた。すでに食器は片付けられている。
「随分、びっしりと書き込んであるな」
「文字は手書きが一番よ。なまじワープロを使っていると、読みはできても実際に漢字を書けなくなるから。それに、手書きに勝る暗記方法があれば教えてもらいたいものだわ」
「同感だな」
近視用の眼鏡をかけた盧植がこれまでの経過の説明を始めた。皇甫嵩も眼鏡を取り出して装着する。
二人とも、普段は眼鏡をかけてはいないが、授業中や読書の時には、少し度の入った眼鏡をかける。とくに盧植の文字は綺麗で細かい。罫線も引かれていない紙に、少しのずれも歪みも無しに、書き込むことができるのだ。
眼鏡をかけると、盧植は、より優しそうに見えるのだが、皇甫嵩はその逆できつめの顔がよりいっそうきつく見えてしまう。さながら頑迷な女教師のようであり、皇甫嵩も密かにそれを気にしていた。
傍から見れば、仲のいい優等生同士の勉強会に見えるだろう。実際、二人とも3年生では、トップクラスの秀才ではある。しかし、話し合われている内容は、数学や物理ではなく、各校区の黄巾党の動き、戦場に適した地形とその利用法、敵味方の主だった者の緻密な情報、「後方」への対策etc…etc…およそ女子高生同士の会話とは思えない内容である。これも、武と覇を実地で学ぶ、蒼天学園ならではであろう。
手書きの地図やグラフなども交えて、盧植が説明し、時折、皇甫嵩が質問をする。わかり易く筋道を立てて盧植が答え、皇甫嵩が頷き、分厚いノートにメモを取る。一通り終わったとき、すでにとっぷりと日は暮れており、時計の針は八時半を指していた。
「これまでの経過を聞くと、作戦自体は成功しているが、思ったように隊伍を動かせずに後手後手に回っていることが多いようだな」
「私は作戦立案や情報収集、分析は得意だけど、実際に他人に命令するのが苦手なの。義真がいればと、何度思ったことかしら」
「それは光栄なことだな。場合によっては、飛ばされて来いも同然のことを、部下に言わなければならないのも、将たる者のつらいところだ。ま、お前は優しすぎるからな、なかなか部下にきついことも言えないのだろう」
皇甫嵩はわずかに身じろぎし、すらりとした長い足を組み替えると、やや照れたように付け加える。
「それが、お前のいいところでもあるのだがな…」
「ふふ、ありがと。でもね、私は学業でも、戦略戦術でもあなたに負けない自信はあるのだけど…」
「随分とまた、はっきり言ってくれるものだな」
傷ついたように横を向いた皇甫嵩に、盧植がいたずらっぽく微笑みかけた。
「そう不貞腐れないで。それでね、あなたにどうしても勝てないことが3つあるの」
「伺おうか」
「第一に、実際に部下を指揮したときの動きの機敏さ。第二に自然に敬意を寄せられるカリスマ性。そして…」
「そして?」
「その優しさよ」
しばらく、二人の間を沈黙の神が支配した。ややあって、皇甫嵩が照れ隠しに硬い笑いを浮かべて口を開く。
「何を言うかと思えば…『鬼軍曹』と呼ばれたこともあるのだぞ?私は」
「あなたが部下に対して厳しくするのは、本当に大事に思うからでしょう?」
「厳しくしなければ、集団の規律が乱れる。規律の乱れた集団が真の意味で勝利を収めた例は、歴史上まず無いからな」
「厳しいだけだったら、一段高いところから、ああしろこうしろ命令するだけでしょう?あなたはいつもみんなと苦労を分かち合っているじゃない」
「遠くから見るだけでは小さなほころびを見逃してしまう。それに、部下と苦労を分かち合うのは将たる者の最低限の義務だ」
盧植は、さも可笑しそうに低い笑い声を立て、皇甫嵩は怪訝な顔で彼女を見やった。盧植は、友人として得がたい存在なのだが、思わせぶりな言動と態度で、他人を揶揄する癖はどうにかならないものかと、皇甫嵩は思った。
「ふふ…やっぱり評判どおりね。義真って」
「評判?どんな」
「見た目はキツそうでとっつきにくいけど、その実、愛情深く、慎重で、生真面目。人の上に立つ者がどうあるべきか心得ていて、常に、そうあろうと振舞う。下級生はみんな、義真を尊敬しているわ。悪く言うのは張譲たちくらいのものよ」
皇甫嵩は、やや呆然としていたが、我に返ると、無理矢理しかめつらしい表情を作ってみせた。
「…面と向かって褒めないでくれ。つい増長してしまうじゃないか」
「はいはい。あ、もうこんな時間。建ちゃんが、ある意味心配するからそろそろ切り上げましょう?」
「そうするか」
盧植は机の上のファイルを片付け始めた。皇甫嵩も、ノートを閉じてショルダーバッグにしまう。
「義真、寮まで送っていってくれる?」
「ああ、いいとも」
「そのさりげない優しさが、あなたのいいところよ」
「…やっぱり一人で帰れ!」
「あらあら、心にも無いことを言うのね。さては義真、照れてるのね?」
「誰が照れるか!」
やや乱暴に伝票を掴んで、皇甫嵩は椅子から立ち上がった。だが、それはどう見ても照れ隠しでしかなかった。

「あっ、義真。こんな遅くまで何やってたのよーっ!まさか…不純、不純よっ!」
「不純が服を着込んだような奴に言われたくないな」
盧植を寮の「玄関」まで送り届け、別の棟の自分の部屋に戻った皇甫嵩を、朱儁の軽口が迎えた。時刻はすでに九時を過ぎている。
「がっかりさせてすまないが、何もやましい事はしていない」
「ホントー?ま、そういうことにしとくわね。あれ?義真、そのネックレスどうしたの?」
皇甫嵩の胸にシンプルなデザインのロザリオが光っており、それは細い銀色のチェーンに繋がっていた。気づいた皇甫嵩が、慌ててブラウスの内側にしまいこんだ。
「ん、ああ、これか?…別れ際に子幹から預かった物だ…公偉、何をニヤニヤしている?」
「愛のしるしってやつ?」
「世迷言を。もともとは私が子幹に贈った物だ」
「やっぱり…」
「邪推するな。総司令就任の祝いとしてだ」
「お気の毒に、気に入らないから、つき返されたのね?」
「いいかげんに恋だの愛だのといった話題から離れてくれ。司令官職の引継ぎの証だそうだ。まあ、あの金モールのついた悪趣味な腕章よりは、よほど気分が引き締まるというものだな」
無論、それだけではない。参謀として同行できない自分の、せめてもの「代理」だそうだ。だがそれを話せば、余計な誤解を招くことになる。特に、この噂好きの朱儁に対しては…
「後任の総司令の発表がある、明日の放課後を楽しみに、ってやつね。あ、それから義真」
「何だ?」
「いつまで眼鏡かけてるの?」
そのときになって、皇甫嵩はファミレスからずっと、眼鏡をかけっぱなしだったことに気がついた。

1−1 >>259 ・1−2 >>260

267 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:32
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第四章 青空の下の憂鬱

──2日後の昼休み 洛陽棟屋上にて
六月半ばの梅雨どきにしては、奇妙に晴れた日がここ数日続いていた。気温はすでに七月半ばと同様であり、衣替え宣言は、まだ出ていないが、気の早い生徒が、すでに半袖のブラウスを着用している姿を、ちらほら見かけることができる。
生徒数、三学年あわせて一万人弱を誇る洛陽棟は、蒼天学園の中枢ということもあって、学園中で一番大規模な建築物である。通常の棟の約30倍の敷地を有し、屋上からの眺めは、後漢市でも五指に入る。
屋上は、洛陽棟に籍を置く生徒達の憩いの場であり、基本的に一日中、出入りは自由であるので、昼休みを利用して、ビーチバレーやバトミントン、バスケに興じる者や、所々に置かれたベンチで昼食をとる者、滅多に居ないが、授業を抜け出して昼寝を楽しむ、不届き者の姿も見られる。
その一角に、日除けのついたベンチのひとつを占領して、昼食をとる皇甫嵩、朱儁、丁原の姿があった。三人とも、どうにも隠しようもない仏頂面をしている。その原因は、昨日の放課後発表された、盧植の後任の人事にあった。ややあって、ベンチから立ち上がった丁原が、鉄柵を蹴りつけて喚いた。
「あったま来るな!もー!」
「よりによって子幹の後任があの董卓だなんて、下馬評では義真が最有力だったのにね」
「人事の決定権は、事実上、張譲ら十常侍にある。まめに金をくれる董卓と、一円も寄付していない私と、どちらを選ぶか、明白だろう。それに私は張譲に嫌われている。もっとも、無理に仲直りをしようとは思っていないが」
「そういえば、この間、趙忠の備品購入費のピンハネ、暴いたばっかりだしね」
「張譲発案の執行部協力費、五万円の集金も「執行部の規約に明記されていない」って言って、平然と無視してるし」
「今に始まったことではない」
BLTサンドをコーヒー牛乳で胃に流し込むと、皇甫嵩は人の悪い笑みを浮かべた。
1年生の頃、蒼天会会長直々の招聘で学園評議会議員に就任してから、上層部の汚職や無法な集金を皇甫嵩は弾劾し続けている。彼女が蒼天会会長に宛てた「上奏」は三年間で500通を超えており、その結果、張譲らも幾度か譴責処分を受けているため、皇甫嵩を逆恨みする始末である。そのため、一般生徒からの受けは極めてよいが、反対に執行部上層部からの心証は壊滅的に良くない。
さらに皇甫嵩は、黄巾事件勃発の際、張譲らの「党箇」で解散させられた優等生組織「清流会」が、黄巾党にシンパシーを抱き、協力することを警戒し、霊サマに、「党箇」を解いて清流会を復活させるべし、と上奏して、それを実現させている。そのため、まったく意外な形で清流会の支持をも得ることになり、張譲らの逆恨みも、それに比例して増加の一途を辿っている。
結果、洛陽棟内外に「皇甫嵩を執行部長に」という声も高く、張譲らにとって、皇甫嵩は二重三重に気の抜けない、いまいましい「競争相手」なのである。もっとも、さほど出世や権力に、興味の無い皇甫嵩にとって、張譲などに競争相手に擬せられるのは、不本意と迷惑の極みでしかなかったが。
「高い地位にある者が権力を濫用して不正を働いても、それを公然と非難できないことを体制の腐敗というんだ。だから私は日々、偽善者だのチクり屋だのいう陰口を甘受しつつ、上奏を続けている。もっとも、残念ながら周囲は腐敗しはじめているようだが…」
「ホントだよねー。前の執行部長で蒼天通信編集長も兼ねてた陳蕃サンが、党箇で飛ばされてから、蒼天通信も、すっかり御用新聞に成り下がっちゃって。生徒会の公表を過剰に装飾して発表するだけで、その裏面のことなんて考えもしないし。ジャーナリスト精神も何もあったものじゃないよねー」
「ありゃ単なる紙資源の無駄遣いだよ」
「建陽の場合は、読めない漢字が多いから、余計に読みたくなくなるんだよね?」
「そうそう…って、こーちゃん。アタイのことバカにしてない?」
「この間、月極を「げっきょく」、給湯を「きゅうゆ」と読んだだろう?社会に出てから困ることになるぞ」
「うぐぐ…意味が通じれば、いいんだって!」
朱儁と丁原はすでに半袖のブラウスを着用している。皇甫嵩は生真面目にブレザーを着込んでいるが、その下はやはり半袖のブラウスである。夕方、急に冷え込むことを警戒しているのだが、素肌にブレザーの裏地が心地いいというささやかな楽しみもあるのだ。
「さっきから随分落ち着いてるけど、義真。総司令の人事、怒ってないの?」
「さあな、なにか、こうシラけてしまってな。例えていうなら、前日必死で勉強したテストが延期になった気分だ」
「あっ、それわかる。なんとなくほっとするんだけど、何の解決にもなってないから余計イラつくんだよねー」
「ま、何にせよ、董卓がうまくやれるわけないよ。すぐシンちゃんに出番が回ってくるって!」
「それはどうかなー?董卓以外にも献金がまめな奴はごまんといるよ?」
「奴らがすべて飛ばされるのを待つしかないか…」
「シンちゃんってば、随分と極悪非道なことを言うんだね」
「悪いか?それはともかく、建陽。いつまで洛陽棟に居られるんだ?」
「就任の儀式練習や手続きにあと二日ぐらいかかりそうでさ、まったく、いろいろ無駄が多いんだよね。正直言うとさ、早く并州校区に帰りたいんだよ。そりゃ、シンちゃん達と一緒に居られるのは嬉しいんだけどさ…」
丁原は、深く深くため息をついた。
「青い草の海…それを渡ってくる甘い風、授業サボって昼寝するには最適な気温と湿度!匈奴高や鮮卑高といった、ケンカの相手には年中事欠かない!!并州校区は、冬は寒いけど、夏が涼しいから、これからがいい季節なのにー!何でこんな、真夏でもジメジメと蒸し暑い、ろくでもない校区に詰めなきゃならないんだっ!!?」
「田舎の番長か、お前は」
「并州校区を田舎って言うなーっ!…そりゃ確かに、校舎は昭和初期に建てられた木造だし、冷房なんて当然無いし…正直言うとさ、こっち来て、ちょっと面食らってるんだよね」
「大丈夫よ。建陽の野生動物並の適応力があれば、校舎にも仕事にもすぐに慣れるから」
「蒼天風紀委員長か…アタイが自分でいうのもなんだけど、あんな皇宮警察みたいな仕事、ガラじゃないんだよね」
唐突に、丁原は左手のヤキソバパンを前に突き出し、あのポーズをとった。
「スケ番まで張ったアタイが何の因果か落ちぶれて、今じゃマッポの手先…」
「似てる似てないは置くとして、たしかにガラじゃないようだな」
「どっちかと言うと、建陽は追っかけるより、追いかけられるほうが似合ってるし」
「そうそう…って、二人とも重ね重ねバカにするなーッ!」
「どうどう、落ち着け」
「アタイは馬か!?」
「まあ、それはおいといて…」
大きなメロンパンの最後のひとかけを飲み込んだ朱儁がやや強引に話を変える。
「私たちの敬愛する新司令官殿は今日、自分の部下100人に子幹の率いてた450人を加えた550人で広宗を攻めるそうよ。董卓からは張宝、張梁に備えて待機って命令来てたけど、二人とも先日の大負けですぐには動けないから、部下は雛靖に任せてさ、視察って名目で見物に行かない?」
「賛成。涼州校区総代の用兵手腕を見せてもらおうか」
「アタイはパス。并州校区のことや委員長就任の事でいろいろ面倒な事があるから」
「それは残念。総代も大変だな。ところで…」
飲み終わったコーヒー牛乳の紙パックを、くずかごに放ると、皇甫嵩が座りなおして丁原を見つめた。
「子幹の具合はどうだ?」
「やっぱ気になる?シンちゃん?」
「邪推する者が、そこにいるから付け加えるが、友人としてだ」
「はっきり言うと、良くない。熱は高いし、食欲はないし…」
解任直後、盧植は過労から夏風邪を引きこんでしまい、授業にも出れない有様だった。
「しーちゃん、毎日、3時間しか寝てなかったから…」
「子幹は気になることがあると眠れない体質だったからね、昔から」
「高い地位にある者は、それだけ地位に応じた責任を抱え込まねばならない。ある程度のところで「何とかなる」と割り切れればいいんだが、子幹はそれができるほど、横着ではなかったということだな」
「誰でも他人のことはよくわかるものよねー?」
「…どういう意味だ?公偉」
「ま、ま、二人とも、おさえておさえて」
そのとき、授業開始5分前を告げる予鈴が鳴り響き、慌しく3人は別れた。洛陽棟は、ただでさえ広いので、この場から教室まで相当急がなければ、始業ベルに間に合わないのである。

1−1 >>259 ・1−2 >>260・1−3 >>266

268 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:45
第1部はここで終了です。次回から第2部「広宗編」に突入します。
圧倒的な兵力で迫る董卓軍。半数以下の兵力で本拠地に迎え撃つ黄巾党。
勝敗を決めるのは、戦術?士気?将帥?はたまた歌声か?

>玉川雄一様
すみません。ごめんなさい。9時頃からブラウザ出しっぱなしにして、
文章の最終チェックしてたので、投稿に気づかず、かぶってしまいました。

269 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 23:07
>雪月華さん
いえいえ、お気になさらず。私は書きかけの途中で細切れアップしていくところでしたので。
それよか自分の書きかけほっぽって新作を読みふけってしまいましたよ。

皆さん揃って統率者の鏡ですね。そしてこういう人たちから学ぶ人はまた強くなる。
こうして代々受け継がれる“器”は大事なものです。
とかいいつつもしっかり女子高生してるところがまたイイ!
建陽ちゃんは私の中のイメージが変わりましたわ…

あと、「桃園結義セット」ワロタ

270 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 01:24
Σ( ̄□ ̄;)!!神のダブル降臨!?
いやはや、眼福でござったわ!

>義兄上
乙! 姜維と、そして張嶷のお話でありますか!…083?
いや、元ネタが気になってググって見ました(゚∀゚)
平地戦しかできない蒼天会側を、山岳戦をもっぱらとする人間として冷笑しているシーンなわけですな!
たった一人で鬼神の如き活躍をする張嶷たん…。カコイイ! そして意外にも姜維たん初登場(だったけ?)!
狄道の狭隘な山岳地帯を舞台にサバゲ決戦を繰り広げる両陣営…。
続きに激しく期待であります!

>雪月華様
こちらも拝読! うわー、なんか凄い!
前曹袁時代の先輩達がしっかりキャラ立てされてるーー!
なんか皆それぞれに英雄の風貌っていうか、「格」があります! 一般生徒とは明らかに違う、学園の命運を
担うに足る迫力が…。
うわーっ、早く続き読みてえ!(;´Д`)ハァハァ… 雪月華様がどう董卓を料理するのかも気になる(^_^;)


ここでビジュアル的なおさらい。
アサハル絵による皇甫嵩先輩↓


朱儁先輩↓


盧植先輩と丁原先輩↓


(いずれもアサハル様のサイトより。多謝)

271 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 01:24
今しみじみとアサハル様の神絵を見つつ、思ったこと。

眼鏡っ娘の皇甫嵩たんと盧植たんキボンヌ。

272 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 01:43
あははーっ、続き書こうとしたらどんどん延びてますよーっ。

>元ネタをぐぐる
「フラットランダー」で検索すれば一件そのものズバリが出てきましたね(^_^;)
つうか、ちゃんと意味のある言葉だったんだコレ…
ちなみに、『震える山(前編)』というのがそのまま元ネタのタイトルなわけですが、
私の書くのはあと中編、後編でも終わるんだかどうだか。


盧植タン(;´Д`)ハァハァ

273 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 02:31
>>265から続き

 ▲△ 震える山(前編の2) △▲

生徒会の狄道棟包囲軍は張嶷の先の奮戦を恐れて突入を一旦諦め、布陣を改めていずれ脱出するであろう連合軍の狙撃体制を整えた。ようやく雍州方面軍にも配備が始まった虎の子の長距離狙撃用ライフルは3挺。数こそ少ないものの、射撃精度が高く数発までの連射も利く。予想される脱出ルートは狭路であり、一度に大勢が突破することはあり得ないために採用されたのである。だが、狙撃班は長射程とはいえある程度は接近する必要があり、そのために護衛部隊が臨時編成された。メンバーは雍州方面軍で頭角を現しつつあった新進気鋭の女生徒たちであり、徐質を隊長に胡烈、牽弘、楊欣、馬隆の5人が選抜されて“第08特設小隊”と命名されたのだった。


パァン、と乾いた音が断続的に響くと、棟内から姿を現した帰宅部連合の生徒に命中したペイント弾が染みを作る。その生徒は痛みも忘れて信じられない、といった表情で自らの胸元を見遣るが、そこにはまごうことなく生徒会の識別カラーで彩られた擬似的な血痕が広がっていた。こうしてまた一人、帰宅部連合はその戦力を減らしていくのだった。
−現在のように「戦闘状態」にある場合には、原則としてサバイバルゲームのルールが適用されることが諒解されていた。これはかの官渡公園での一大決戦においてその有用性が認められた方式を援用すべくBMF四代目団長である張融(二代目団長・張燕の妹)が主張したのを受けてのことであり、各校区に常駐するBMF団員が審判として立ち会うことになっている。もちろん、改めて形式を定めたサバイバルゲーム以外の『決戦』が行われることもあった− 

「おー、また命中♪ さすが新型は違うねェ」
バリケードの陰から双眼鏡をのぞき込んでいた楊欣が暢気な声を上げた。先程から狙撃班がテストも兼ねて狄道棟の連合部員への狙撃を行っており、第08特設小隊(以下『08小隊』)のオペレーターを務める楊欣はその弾着を確認していたのである。
「あんまり顔を出さないでくださいよ。向こうだってどこからか狙っているのかもしれませんし」
「おっと、そりゃ危ないわね。退避退避、っと」
いま一人のオペレーターで、最年少のメンバーでもある馬隆に諭されて楊欣は慌てて頭を引っ込めた。彼女らは狙撃班も含めて正門を突破し、校庭に築かれたバリケード地帯に前進してきている。隊長以下の3人はこの地帯を制圧するためにさらに先行しており、もう暫くで再集結することになっていた。

徐質はバリケードの陰に身を隠し、近づく足音を息を潜めて待ちかまえていた。胡烈、牽弘はある程度距離を置いて行動しており、足音の主が帰宅部連合の戦闘員であることは確かだった。こちらの狙撃班の存在を知ってその排除に動き出したようだが、護衛部隊の存在までには気が回らないものか…
(来たッ!)
徐質の隠れていた角を抜け、姿を現したのはやはり連合の生徒! だがその視線は自身の前方に向いており、直角に交わる角に隠れた(とはいえもう横を振り向けば丸見えなのだが)徐質には全く気付いていない。徐質は迷うことなくその生徒のエアガンを持った手に軽く一連射を叩き込んだ。どこか運動部に所属しているのだろう、ジャージ姿のその女生徒は驚く間もなく銃を取り落とし、しかる後に手の痛みを、そして横合いからの射撃手の存在に思いを至らせる。だが既に最初の一連射で決着は付いていた。『BB弾の連続3発以上のヒット』は戦死判定となる。
「出てこなければ、やられることもなかったのにね…」
なおも呆然としている女生徒に声を投げかけた徐質だったが、その視界の隅、バリケードの一本向こう側の通路部分を人影が走り抜けるのを見逃さなかった。
「玄武、スカート付きだ! 速いぞ!」
「了解!」
今度は文化系なのか制服姿の女子生徒だった。おそらくバリケードの構築に携わり構造を熟知しているのだろう、地図を必要としようかという程の迷路を凄まじい速さで駆け抜けてゆく。ここからでは間に合わない… 徐質は胡烈に迎撃を委ねた。その胡烈はエアガンのグリップを握り直して待ちかまえていたが、直前の角から突如姿を現した女生徒は出会い頭に何かをこちらに向けてかざす。かと思うと目の前がフラッシュでも焚いたかのように真っ白になった。 −いや、本当にフラッシュを焚いていたのだ。胡烈は知るべくもなかったがこの生徒は写真部員であり、偉大なる先輩・簡雍から受け継いだ「拡散フラッシュ砲」なる目くらましの大技を繰り出してきたのだった。反射的に左手をかざしたためその光がまともに目に入ることだけは避けられたが、完全に写真部員からは視線が外れてしまう。気付いたときには−
「上かッ!」
バリケードを踏み台に利用して、写真部員は胡烈の上を飛び越えていた。そして空中でエアガンを構えたその先には−
「301が!」
狙撃班の一人、コードネーム“301”嬢がいた。胡烈は背中から地面に倒れ込みながら真上に銃をかざすとトリガーを引く。その弾は辛うじて写真部員のライフルに命中して手から弾き飛ばすことに成功しこそしたものの、着地した写真部員は小さく舌打ちしながら白兵戦用ナイフを手に取る。その隙に301嬢は退避することができたのだが、胡烈はといえば地面に大の字で寝転がっているようなものであり、絶体絶命のピンチに陥ってしまったのだ。
「どう撃ってもスカートの中に当たっちまう!」
飛び道具であるエアガンを手にしてこそいるが、下から撃ち上げた弾がもし、相手のスカートの中に命中してしまったら… いくらルールでは『体の箇所に関わらず、当たれば有効判定となる』と規定されているとはいえ、同じ女子として引き金を引くことができようはずもなかった。それと知ってか知らずか写真部員はゆっくりとナイフを振りかざす。もうだめか、と観念したその瞬間、きゃっ、という存外可愛い悲鳴と共に写真部員はすっ飛ぶように倒れ込んだ。起きあがった胡烈の目の前に、狙撃兵301嬢(仮名)がライフルを構えて立っていた。急遽引き返した彼女が胡烈に引導を渡そうとした写真部員を背中から(しかもかなりの至近距離から)撃ったのだ。
「大丈夫?」
「ああ、助かったよ」
至近距離からのヒットの衝撃に目を回してしまった写真部員に念のため“とどめ”をさしてから、胡烈は301嬢の手を握った。彼女は胡烈の顔をのぞき込むと、悪戯っぽく笑う。
「危なかったねェ、スカートの・ぞ・き・さん♪」
「あのなあ、のぞきはやめてくれ、のぞきは…」
胡烈は半ばゲンナリしながら服に付いた埃を払う。薄氷を踏む思いではあったがこれを最後に帰宅部連合の突撃は止み、08小隊前進部隊は狙撃班と共に集結地点へと向かった。

何度かバリケードの向こうから銃声が響き、楊欣、馬隆の留守番組は気が気ではなかった。…と、そこへ人の近づく気配がしたかと思うと、戦場ならではの緊張感を帯びた声が投げかけられた。
『諸君らが愛してくれた何進は倒れた、何故だ?』
あらゆる意味で思わず耳を疑うような文句であったが、楊欣はさもそれが当然であるかのように言葉を返す。
『ヘタレだからさ』
「よし、戻ったわよ。狙撃班も順調なようね」
当の何進−数年前の連合生徒会長であり、つい先だって失脚した何晏はその妹である−にとっては酷なこと極まりない以前にまったく脈絡のない応酬ではったが、要は合い言葉である。徐質を先頭に、なおも後方を警戒しつつ胡烈と牽弘が続く。08小隊の面々は再集結を果たすと、情報の整理と分析に入った。この結果をオペレーターが狙撃班に伝え、作戦の円滑化を図ることになっていたのである。
「さて、と。みんな配置に付いたわね。それじゃあ、一旦休憩にしましょ。孝興、貴女のところにコンビニの袋、あったわよね」
徐質が促すと、はいはいっ、と馬隆は足下の袋を取り出した。その中に入っていたものは差し入れ、陣中食、レーション等々呼び方は色々あれど要は“おやつ”である。馬隆が慣れた手つきで先輩達にスナックやらチョコやらを渡して回ったが、ひとり先程から難しい顔をして耳をそばだてている楊欣の姿を見ていぶかしんだ。
「あれ、楊欣先輩どうしたんですか? いまのうちに食べておきましょうよ」
「しっ、黙って! みんなも音、立てないで」
ガサガサと音を立てるメンバーを制した楊欣の声は緊迫感を帯びていた。特製の聴音装置を駆使してターゲットを捕捉するためのレシーバーは微かな足音を捉えていた。それは近いものではないが、何か無視できないものを感じさせる。
「来る、何か来る… どこだ、どこなんだ…」
「楊欣、何が…」
「隊長、おやつは後回しだ。こいつはヤバいかもしれない…」
楊欣は間違いなく何者かの存在を捉えていた。カンカンカン、と鳴る足音は、スチールの階段を上る時に発する音。ということは…
「上かッ!」
楊欣が見上げた視線の先、狄道棟本校舎に隣接した運動部室棟、その屋上に躍り出た一人の女子生徒。逆光に照らされたその姿は遠目にも見る者を圧倒する何かを放っていた。その存在を誇示するかのように光に映える濃淡二色のブルーを配したコスチュームに身を包み、眼下を睥睨するのは張嶷その人。一騎当千の強者が、今その持てる力の全てを解き放とうとしていた。

続く

274 名前:アサハル:2003/05/04(日) 02:46
http://fw-rise.sub.jp/tplts/gls.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/gls.jpg

こんなもんでよろしーでしょーかー。

ていうか張嶷かっこええ…ええ漢や!!

感想の文章が思い浮かばないので(感動しすぎ)
これをもって感想と代えさせて頂きます(無理!)

275 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 21:10
>義兄上
あひゃ、スマソ。すぐに続けるおつもりだったとは知らず…。
んー、やはりしょーとれんじスレも、html化した方がいいですね…
最近とみに大作ふえてますし。

そしてナニゲに強い徐質たんらカコイイ! スカート付きワロタ。
何となく元ネタのシチュを想像できるような。あと、合い言葉も。
ですが何と言っても張嶷キタ━━━(((( ;゜Д゜)))━━━━━ッ
いよいよ次回クライマックスですな!
ちなみに玉絵張嶷たん↓

カコイイ!玉絵の中でも一番バランスがいい気がする萌え絵。

>アサハル様
(;´Д`)ハァハァ
眼鏡っ娘二人、あまさず堪能いたしますた。
うわー、なんか二人ともオトナ〜。曹操たちなんかまるでガキですな。

276 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 22:28
前編>>265  前編の2>>273

 ▲△ 震える山(前編の3) △▲

これまでに感じたことのないような高揚感に包まれつつも、張嶷の目もまた倒すべき目標をしっかりと見据えていた。敵は校庭に広がるバリケードの山の中に潜んでいるつもりかもしれないが、闘うものが発する独特の気配は隠しようがない。
「指揮者2、白兵3、狙撃手3、一人は真下か…」
そう、彼女の眼下には狙撃兵の一人が捉えられていた。校舎に最も肉薄しているコードネーム“303”嬢である。だがさしあたって張嶷はたった一人、対する生徒会側は指揮所の二人(楊欣と馬隆)を差し引いてなお三人ずつのの戦闘員と狙撃員を擁している。選りすぐりの精鋭であることを自負していた胡烈には少々面白くなかった。
「たった一人で…? ハッ、なめられたもんだ」
「ここからじゃ近すぎて死角だ、頼む玄武!」
牽弘は303嬢の護衛についてその近傍に占位していたため、張嶷は死角に入っている。比較的距離を置いた胡烈に狙撃を要請した。
「おうよ!」
間髪入れず胡烈は中距離射程のライフルを放つ。この射線ならば命中は確実−
「なにッ!?」
張嶷は僅かに立ち位置をずらした。それだけで、かわしてみせたのだ。まるで、弾道をはっきりと見切ったかのように… 必中の一撃を放ったはずの胡烈には信じがたい光景だった。
「白兵にも狙撃銃! 脱出部隊には脅威になる…」
自身が狙撃を受けたことについてはさして意に介するでもなく、張嶷は彼我の戦力を冷静に分析し対策を練っていた。屋上に設置された給水タンクにザイルのフックを引っかけると二、三度ワイヤーを引っ張って固定を確認し、やおら壁を蹴って降下を開始する。眼下では張嶷の出現を知った狙撃兵303嬢が退避しようと装備をかき集めている最中だった。
「もらった!」
08小隊の至上命令は狙撃班を守り抜くことである。長距離狙撃戦力を喪失してしまえば、連合残留部隊への攻撃は困難になる。一人として失うわけにはいかなかった。
「任せて、落下なら予測できるわ!」
ザイルを繰り出して部室棟の壁を蹴りながら降下してゆく張嶷に牽弘が照準を合わせる。高速で動く目標を狙撃する事は基本的に不可能であり、弾の無駄撃ちをなくすためにも避けるべきとされていた(そういう場合は弾幕をはるのだが、現在の状況では射程距離の問題上無理)。だが今回のように垂直降下の場合は軌道を予測することが容易であり、射程距離と降下速度を見越して撃てば命中させられる理屈である。エアガンの腕に覚えのある牽弘のこと、瞬時に弾き出したポイントに狙いを定めると躊躇わずトリガーを引く。
「いける!」
銃にしろ弓矢にしろ、およそ射撃の名手たるものは標的に命中する『手応え』を感じるものだという。射手と標的の間には、極めた者だけが感じ取ることのできる繋がりがあるのかもしれない。牽弘の手にもまた、BB弾がターゲットを捉えた時のあの確かな感触が伝わっていた。だが−
「………嘘ッ!?」
ペイント弾の派手な塗料は、張嶷のからだ一つ分下の壁面に花を咲かせていた。 …牽弘の狙いが外れたのではない。計算通りに降下していれば、間違いなく弾は張嶷にヒットしていたはずだ。張嶷がザイルを繰り出す手を止めて、降下に制動をかけたのである。
「もらった!」
08小隊の皆が唖然としている間に張嶷は壁に足をかけて体勢を整えると、銃の狙いを真下に定めてトリガーを引き絞る。
「ひとーつ!」
「きゃあああああああっ!!」
降り注いだBB弾の嵐が狙撃兵303嬢を包み込む。張嶷が姿を現してから、ものの一分と経っていなかった。
「アタシと牽弘が手玉に取られた…」
「あっという間に一人… こいつは、撃墜王(エース)だ!」
小隊の面々は自分たちが闘っている相手の実力に今更ながらに気付き始めていた。地面に降り立った張嶷はザイルの自分の腰側のフックをベルトから外すと、校庭に林立するバリケードの中へと駆け込み姿を消した。


彼我の戦力差は僅かではあるが縮まりつつあった。だが、有利・不利の差はまた異なるバランスの上に成り立っている。張嶷は単身であるため攻撃が集中するはずだったが、持ち前の機動力を生かして狙いを定めさせない。一方で、目標とする狙撃兵が数を減らせば減らす程、一人あたりの護衛は厚くなるはずだった。護衛部隊とまともに渡り合ってしまえば、狙撃兵を取り逃すことになりかねない。張嶷にとってみれば、できる限り各個撃破してゆくことが重要だった。
「しかし、奴らもヤキが回ったか… これでは、居場所をこちらに教えているようなものじゃないか」
生徒会側は、数を頼みに包囲しようと牽制の射撃を行ってくる。だがそれはおよそ見当違いの場所に命中してばかりだった。このバリケードには廃材やら使われなくなった机、椅子やらが使用されているようで、着弾の度に煙とも埃ともつかないような何かがもうもうとわき起こっていた。無論、校庭の乾いた砂地も事ある毎に砂煙を立て続けている。
「あの一撃が外れるなんて… 絶対、当たるはずだったのに…」
「牽弘、頭を切り換えなさい、飛ばされるわよ。悔しいけど、奴の方が一枚上手のようね」
「あ、ああ…」
先程の結果をまだ引きずっている牽弘に徐質は発破をかけた。あれはけして牽弘のミスではない。相手の運動能力が予想の範疇を超えていただけだった。空間を三次元のレベルでここまで使いこなす恐るべき機動性に今まで出会ったことはなかったのだ。

「どこだ、奴はどこにいる…」
狙撃兵302嬢を護衛している胡烈は、たった一人の刺客の動きを捉えかねていることに苛立ちと軽い焦りを覚えていた。302嬢を背後に控え、微かな兆候も見逃すまいとやっきになって前方を注視する。だが、得てしてそんな時こそ視野は狭くなるものである。突如としてわき起こった砂埃に意識の間隙が生じた瞬間−
「!? 左かッ!」
突如飛来した『何か』が彼女のライフルに直撃して持ち手に鈍い衝撃を走らせる。それは張嶷が二本目のザイルの先端部フックの重さを利用して、“鎖鎌の投げ分銅”の要領で放ったものだった。
「うっ、ぐうっ!!」
そして砂埃を突き破るかのように突進してきた張嶷のショルダータックルを食らって胡烈はバリケードに叩きつけられる。衝撃に息が詰まって一瞬気が遠くなりさえしたが、すぐに我に返ると張嶷がいるとおぼしき方向に向けてライフルを乱射した。
「こなくそーッ!」
だが、立ちこめた砂埃の向こうに人の気配は感じられない。無駄に視界を悪くしただけのことに気付いた胡烈が慄然としたその直後、最悪の事態が襲った。
「やッ、いやあああああ!」
「しまった!」
声を向く方に目を遣れば、彼女が守るはずだった狙撃兵302嬢が張嶷に背後から組み付かれている姿が飛び込んできた。302嬢はジタバタともがいてみせるが張嶷の膂力に叶いそうもなかった。もとより、狙撃班は白兵の装備を持っていない。本来は相手に素手で立ち向かうほどの格闘力が要求されるわけでもないため、接近戦に持ち込まれるとなす術がないのである。それを見越しての08小隊の護衛であったのだが、張嶷の戦闘センスはまたも彼女達を上回っていた。張嶷はチラリと胡烈の方に視線を向けると、誇示するようにナイフをかざして見せる。
「白兵戦で飛ばすつもりかッ!」
しかし胡烈の悲痛な叫びを嘲笑うかのようにナイフが振り下ろされ、峰打ちとはいえ相当な衝撃を受けたであろう302嬢は気を失ってカクンと崩れ落ちる。
「玄武、任せて!」
ようやく駆けつけた牽弘が一連射を浴びせるが、張嶷は気絶した302嬢のゼッケンを剥ぎ取ると横跳びに退いてバリケードの向こうに姿を消した。

次第に追いつめられてゆく生徒会勢。だが、次の目標は最後に残った狙撃兵301嬢ひとり。最終的に敵は彼女に近接せざるを得なくなるわけで、一人を三人で護ることも考え合わせれば敵の選択肢も少なくなってきているはずである。そして、指揮所の楊欣はついに張嶷の動きを捉え始めた。
「つかまえた… 中央6列目、長机の上!」
バリケードとして積み上げられた長机の上を張嶷は軽い身のこなしで駆け抜けてゆく。それが崩れることを考慮していないというよりは、たとえ崩れたとしても我が身を御する術を知っている故の大胆さであった。だが、狙撃によって足下をすくうことができれば、あるいは…
「301、撃てーッ!」
「このっ、当たれ、当たれ、当たれッ!」
今やただ一人となった狙撃班の301嬢が凄まじい勢いでライフルを連射する。その流れるような一連の動作には鬼気迫るものがあった。おそらくは散った二人の僚友の敵討ちに燃えているのだろう。しかしその執念をもってしても、あと少しというところで張嶷を捉えられずにいる。
「あと一人!」
張嶷の奮戦はいよいよ修羅の領域へと踏み込もうとしていた。

続く

277 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/05(月) 20:23
ぐはッ!Σ(゚□゚;)!! 張嶷たんカコイイ!
なんか単身で凄ェ活躍していますか!? 弾道を見切りつつ近接戦闘
で速射するシーンなんかもう燃え!張嶷もガンカタの使い手か!?
白兵戦闘でも、やはり牽弘・徐質など遠く及ばない!
これで南中の荒くれ者たちをまったりと統治していた棟長だったとは…
帰宅部連合の人材も、まんざら棄てたモノではありませんな!

そしてお絵描きBBSにアサハル様から神支援投下確認↓


張嶷たんマイブーム…(;´Д`)ハァハァ…

278 名前:岡本:2003/05/06(火) 22:23
GWは休養で寝倒していましたので、反応が遅れました。
お絵かき掲示板もそうですが、SSスレッドも豪華作品の林立
で圧倒されました。

>玉川様
この台詞で感想に換えたいと思います。
”...直撃か、いい腕だ...”。

>雪月華
私は後漢書を断片的にしかもっていないので詳細な内容を追えないのが
心苦しいです。
理論家・盧植と実務家・皇甫嵩の性格が現れる会話がつぼにはまりました。

279 名前:★玉川雄一:2003/05/07(水) 00:42
前編>>265  前編の2>>273  前編の3>>276

 ▲△ 震える山(前編の4) △▲


狄道棟内に置かれた帰宅部連合軍の臨時本部に詰めている姜維のもとに副官の倹盾ェやってくると、撤収の準備が整ったことを告げた。彼女は窮地にあって姜維を助け補佐の任をよく果たしていたが、さすがに精神的、肉体的両面の疲労はかなりのものになっているようだった。
「代行、いつでも出られます。あとは、張嶷主将の…」
「大丈夫、彼女なら必ずうまくやってくれるよ」
たとえ気休めだと分かっていても、今は希望を持たせることが大事だった。もっともグラウンドでの張嶷の実際の戦いぶりを目の当たりにしたならば、気休めどころか大逆転すら予測させていたかもしれない。だが実際には後方に控えているはずの生徒会勢の包囲網を突破するという難事も控えており、それこそ口に出すことさえ憚られるものの最終的にはある程度の、いやかなりの犠牲は覚悟しなければならないはずだった。
(伯岐、必ず還ってきてよ…)
姜維の願いは、張嶷に届くだろうか…

バリケードの上を駆けてゆく張嶷に、狙撃兵301嬢の狙いが少しずつ合い始める。そろそろ潮時、とみた張嶷は積み上げられた机や椅子を派手に蹴り崩すと地面へと滑り降りた。
「やった、足を止めたぞ!」
崩れ落ちた残骸のこちら側に徐質が駆けつける。素早い動きを止めれば、数に優るこちらがイニシアチブを取ることができる。崩れ去ってなお目前にそびえるガラクタの山、その向こうに相手はいるはずだ。まずは回り込んで− と足を踏み出そうとした矢先。
ギッ、ギギッ、ギイイイッ……
「え、な、なに……!?」
目の前に立っている巨大なテーブル −それは女生徒でも二人いれば運べるような折り畳み式の長机ではなく、会議室に鎮座しているような巨大な天板を持つものだった− が、ギシギシと軋みをあげながらこちらへゆっくりとせり上がってきたのだ! それはさながら“壁”とすら呼べるほどの広さを持ち、並の女生徒にはとてもではないが動かすことなどかなわないだろう。だが現実にその壁は今や直立に近い角度をとり、なおもこちらへと迫ってきた。このままでは−
「うそ、まさか、そんな…」
「そ、れっ…… そらーーーッ!」
「きゃっ!!」
ズッ、ズウウウウウン…
慌てて後ろに飛び退いた徐質の目の前で、轟音を立ててテーブルはこちら側に倒れ落ちた。バリケードの文字通り『壁』となっていた個所を無理矢理こじ開けたのだ。相手は、あの刺客は、あれほどまでのスピードに加えて、男子顔負けのパワーも併せ持つというのだろうか?
「な、なんて馬鹿力なのよ…」
激しくわき立つ砂埃の向こうにいるはずの存在に、徐質は今はっきりと恐怖感を覚えていた。あいつが単身で殴り込んできたのにはそれだけの裏付けがあったのだ。自分たちとは、完全にランクが違う…
「ふっ、ふふっ、はははははッ!」
「!!」
少しずつ晴れつつある砂煙の中から、勝ち誇ったような笑い声と共に張嶷が姿を現す。さすがに先程の大技で力を使ったらしく、ゆっくりとしてこそいるが却って力強さを誇示するような足取りで一歩一歩近づいてきた。
「あ、ああ、ああ……」
今の張嶷に先程までのスピードは皆無で、ただ真っ直ぐにこちらへと近づいてくるだけだ。エアガンを撃てば、徐質の腕前ならば軽く一連射は命中させられる距離でもある。だが、手が動かない。手だけではない。全身が凍り付いたかのように固まってしまっていた。
「おびえろーっ、すくめーっ! 山岳猟兵の恐ろしさを土産に、飛んで行けーッ!」
ことさら恐怖心を煽るかのように大喝を繰り出す張嶷は、自身が昂揚状態にあることを自覚しており、なおかつそれをコントロールできていることに内心驚いてもいた。これほどまでに心躍る戦いというのは今まで経験したことがなかったのだ。それを楽しめるということは自分は根っからの戦争屋なのではないかという思いもかすめたが、今は仲間のために戦っているのだと思えばいくらでも闘志を奮い立たせられるというものである。目の前の女生徒、腕前はなかなかのようだが完全に私の勢いに呑まれている。悪いがこのまま…
だが、並の女生徒ならば逃げ出すか、腰を抜かすか、泣き出すかというような瀬戸際で徐質は踏みとどまった。大きく息を吸い込むと、恐怖心もまとめて飲み下す。両の手に再び力を込め、地面を蹴って吶喊を開始した。
「守ったら負ける… 攻めろーッ!」
「フッ、そう来なくっちゃ!」
エアガンを連射しながら突進する徐質に対し、張嶷はその射線を見切ると左腕に装備した小型シールドで弾を受け流す。そのまま右手のナイフで前方をひと薙ぎ。だが徐質はすんでの所で踏みとどまると、膝のバネを最大限に使ってバックステップを踏む。その勢いで再び間合いを取ろうと図ったのだが、背後にはバリケードが…
 ドズウンッ!
「うっ、ぐうっ!」
背中からモロに突っ込んで息を詰まらせたのも一瞬のこと、徐質は辛うじて取り落とさずに済んだ銃を振りかざすとトリガーを引き絞る。
「倍返しだーーーーッ!」
だが狙いもなにもあったものではなく、いずれも見当違いの場所でペイント弾の塗料をぶちまけ埃を巻き上げるだけだった。張嶷は全く動じたそぶりもなく、余裕すら混じった笑みを浮かべる。
「見た目は派手だが…」
そして視線を切った向こうには−
「狙撃手がガラ空きだ!」
「しまったッ!」
本来ならば徐質が立ちはだかっているべき通路の向こうには、蒼白な顔をした狙撃兵301嬢の姿があった! 張嶷との間に、遮るものは何もない。張嶷はその姿に狙いを定めると勝利を確信してトリガーに指をかける。
「終わりだ!」
「間に合えーっ!」
背後の山を蹴り飛ばし、やはり左腕に装備したシールドを振りかざしながら徐質は張嶷の射線上に飛び込んだ。
「なんと!?」
彼女たち白兵要員が装備するシールドは激しい運動にも邪魔にならぬようさして大きくはない。だからその限られた面積をいかに有効に使いこなすかが求められるのであり、腕の一部のように自在に操れて初めて一人前の戦闘員といえる。張嶷はもちろんのこと徐質もその有資格者であり、振り上げたシールドは見事に射線と交錯、すんでの所でその向きを変えることに成功し、倒れ込んでなお繰り出された牽制射撃で張嶷の好機は封じられた。しかし、向こうの角を曲がって消えてゆく301嬢と砂にまみれて息を付く徐質を交互に見つめる張嶷の表情に悔しさの色はなかった。むしろどこか満ち足りた笑みすら浮かべると、腰のベルトから信号弾代わりの小型打ち上げ花火を取り出し発射する。ポンッ、という音と共に舞い上がったそれは上空で破裂するとヒュルヒュルと激しく回転しながら赤い煙をまき散らした。
「伯約、どうやら合流はできないようだ。私は、死に場所を見つけたよ…」
張嶷の瞳に諦めの色はない。最大の目標を達成するための新たな決意が溢れていた。


「代行、張主将からの信号弾です!」
倹盾フ声に姜維はハッと我に返る。どうやら、疲れからか少々ボーッとしていたらしい。張嶷からの信号弾ということは、少なくとも今までは彼女が健在であったという証である。打ち合わせていた信号弾の色は二色。どちらが上がるかで彼女の命運は決する。
「色は、伯岐はなんと…?」
しかし、倹盾フ表情はかき曇る。悲痛な声で絞り出したその答えは−
「赤です…」
『合流できず、残存部隊は脱出を開始せよ…』
呆然と姜維はつぶやいた。張嶷は今、どんな状況にあるのだろうか。自らの命運が断たれたことを知ってなお、戦い続けることができるのだろうか?
『全部隊脱出地点への集結完了、以後は各指揮官の指示に従え』
校内放送を通じて最後の指令が送られ、直後にブツン、とスピーカーが音を立てた。ギリギリまで残っていた通信要員も撤退するのだろう。もはや逡巡している暇はなかった。
「私達も出るわよ… 倹潤Aついてきなさい!」
「はいッ!」
張嶷の奮戦を無駄にするわけにはいかない。姜維も自らの役割を全うするべく、皆の待つ場所へと足を速めた。


 続く

280 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/07(水) 23:40
むう、以外にも徐質の善戦…。
つうか、回を追うごとにハードボイルドな展開!
張嶷たん… 将の良なるは己の役割に徹することと
いいますが、まさに今回の張嶷たんの奮戦は…・゚・(ノД`)・゚・

281 名前:雪月華:2003/05/10(土) 18:49
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第一章 軍師人形

先日、黄巾党から盧植が奪回した冀州校区鉅鹿棟を発した生徒会軍550人は一路、黄巾党本拠地である鉅鹿棟付属施設の広宗音楽堂を目指していた。付属施設といっても、鉅鹿棟からは5qの距離があり、途中、両脇を切り立った崖で挟まれた山道を3qほど越えねばならない。指揮は新たに総司令官職についた涼州校区総代の董卓である。
董卓軍はある異名を持つ。コスプレ軍団というのがそれであり、董卓配下は放課後、常に何らかの仮装をしていなければならず、それはかつての盧植配下であった450人も例外ではなかった。董卓直属の100人はそれなりに気合が入っており、いずれもハイレベルな衣装であるが、かつての盧植配下は、それを噂には聞いていたものの、突然の命令と短い準備期間だったため、良くて学芸会レベルの者がほとんどであった。
「赤兎」のサイドカーに座する、董卓の衣装がふるっていた。荒事を覚悟してきたのか、いつもの朝服…ゴスロリファッションではなく、やや戦闘的な、ひとことで言えばベル○らのオ○カルの衣装である。ご丁寧に金髪巻毛のウィッグまで乗せている。一種異様な貫禄さえ漂わせており、そのインパクトたるや、宝塚ファンが見たら生涯立ち直れないほどの衝撃を受けるであろうことは疑いない。
「李儒、お茶おねがい」
「かしこまりました」
李儒と呼ばれたメイド、正確にはメイドの仮装をした女生徒が、歩きながら器用に紅茶を淹れ始めた。流麗な手さばきであり、ティーカップの周囲には、一滴のはねもとばさない。
李儒。董卓の懐刀であり、酷薄非情の参謀兼メイドとして名高い。くせのある緑がかったセミロングの髪、きめ細かい滑らかな白磁の肌、しなやかな均整の取れた肢体、整った顔立ち。美少女の条件は充分すぎるほどに備えている。だが、完璧と賞するには、喜怒哀楽を母親の腹に置き忘れて生まれてきたかのような無表情は、無機的に過ぎ、冷たい、というよりまったく「温度」というものを感じさせない瞳は、高級フランス人形の水晶でできた瞳を思わせた。皮肉にも、その人形然とした雰囲気に、茶色のエプロンドレスを基本としたメイド姿が、身もだえするほど良く似合っている。とにかく他人はおろか自分自身でさえ、物、駒と考える癖があり、おまけに罪悪感という「脆弱な」ものを持ち合わせていないため、どんな非情な作戦や陰謀でも、眉ひとつ動かさずやってのけることができる。故に、友人は皆無だが、それを気にしている風には見えない。
董卓は砂糖壺の蓋を開けると、李儒の淹れた紅茶にティースプーン12杯の砂糖を立続けに投入し、13杯目を掬ったところで「高血圧になるからね」と慎ましく呟き、とても名残惜しそうに砂糖壺に戻した。温かい「紅茶入り砂糖水」をゆったりした仕草で喫すると、董卓は満足げなため息をもらした。
「美味しいお茶ね。アールグレイ?」
「はい」
本当はアッサム茶なのだが、あえて訂正はしない李儒である。
「それで、今回の作戦はどうなってるの?」
「はい…賈ク」
李儒が呼ぶと、傍に控えていたOL、正確にはOLの仮装をした女生徒が進み出て、持参のモバイルPCから、サイドカーの前面に据え付けられた液晶モニターにLANケーブルを接続し、左手でモバイルを持ったまま、右手のみでキーボードを操作し始めた。
賈ク、あだ名を文和。涼州校区の一年生では、際立った知恵者であり、パソコンの扱いでは涼州校区で二番目である。ハードウェア、ソフトウェア双方に精通し、ネットの技術も一流。少々幼さは残っているものの、腰の辺りで切りそろえた艶やかな黒髪の佳人であり、キツめの目元と口元にたたえられた不敵な笑みが、なかなかの曲者という印象を与える。彼女も李儒のように冷たい印象を受けるが、その目にはいくらか人間味が残っていた。いくらか、という程度ではあるが。
やがて液晶画面に、戦場となる広宗音楽堂前自然公園を上空から俯瞰し、3D化した物と、青の矢印が4つ、音楽堂を背にするように黄色の矢印が2つ表示された。
李儒が無表情に作戦の説明を始める。機会音声のような、温かみもそっけもない声であるが、一部の者には、それがたまらなく萌えるらしい。
「まず、我が軍を4つに分けます。450の生徒会正規兵を150ずつ3つの集団に分け、それらを横に3つ並べて、賊軍に正対させます。董卓様と直属の100人はその後方で待機します」
李儒の声にしたがって、画面の中の矢印が動く。
「今までの戦歴から推測するに、黄巾党の戦術はただ一つ、正面突破しかありません。というより、戦術も用兵もあったものではなく、正面からの力押ししか知らないようです。広宗の賊軍は250人。ですが、50人は音楽堂の守備に回るのと考えられるので、実質200人程度しか出てこれないと推測します。まず、450人を正面から突撃させます。賊軍とぶつかったら、両翼の300は賊軍の左右を逆進し、後背で合流後、攻めかかり、そのまま包囲、殲滅します。容易に決着がつきそうに無い場合、待機の100は混戦を迂回し直接、音楽堂を衝きます」
「それで勝てるのね☆」
「100%、とは言いかねます」
「うみゅー、どうして?」
「まず、はじめにいた賊軍600が、盧植の働きで250まで減ったということは、飛ばされるべき者が、振るい落とされたということです。必然的に、残った者は精強であり、少ない分だけまとまりも強く、あとが無いため士気も高いでしょう。一方、我々、生徒会正規軍のほうは、険しい道を踏破した疲労と、突然の指揮官交代により、少なからず動揺していますので、盧植のときと同じ士気を保つのは難しいかと存じます。ですが、この作戦が最も有効であることに変わりはありません」
コスプレによる士気低下には、紅茶のときと同じく、あえて触れない李儒である。言わなくてもいいことがあるのを、彼女は心得ているのだ。やがて、考え込んでいた董卓が重々しく首を縦に振った。
「他にいい手はないようね。わかったわ。その作戦を諒承しちゃうことにするわね」
「ありがとうございます。すべては、董卓様の覇権のために」
うやうやしく、李儒が頭を下げる。その宣言の内容とは裏腹に、声には一片の熱意もこもっていなかったが、董卓は咎めようとはしなかった。もともとこういう性格であるのは、長いつきあいでお互い十分理解しているのである。
今ひとつ気勢の上がらぬまま、生徒会軍は進軍する。やがて山道が開け、パルテノン神殿を模した広宗音楽堂とその前に広がる自然公園が、彼女達を迎えた。

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282 名前:雪月華:2003/05/10(土) 18:51
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第二章 天使の歌

広宗音楽堂。かつて冀州校区合唱祭が開催された場所であり、黄巾党蜂起に伴う合唱祭襲撃事件後は、黄巾党の本拠となっている。自らの意思に反する形で党首、天公主将に祭り上げられた張角は放課後のほとんどをここで過ごし、一時期のピンクレディー以上のハードスケジュールをこなしていた。音楽堂の前には800m四方ほどの野原が広がり、自然公園となっている。自然そのまま、といえば響きはいいが、何か施設を建てるほどの予算が、慢性的に不足している裏返しでもあるのだ。
今、そこに、西に生徒会軍550、東に黄巾党250が、互いに200mほど距離をおいて対陣していた。そろいのTシャツと黄色いバンダナに身を固めた黄巾党に対し、思い思いの仮装をした生徒会軍は、どこと無く秩序に欠け、魑魅魍魎、百鬼夜行の妖怪集団に見えなくもない。
両軍の中間地点から南に1kmほど離れた小高い丘に、2つの人影が現れた。皇甫嵩と朱儁。視察という名目で自転車を駆り、観戦にやってきたわけである。目立つとまずいので互いに一人の部下も連れていない。待機命令に違反しているが、留守番の雛靖には、厳重に口止めしているので、直接ここで見つかりさえしなければ、何も問題は無いのだ。
「やれやれ、間に合ったようだな」
「こんな映画顔負けのことがタダで見れるのも、後漢市ならではってところだよねー」
「それにしても、董卓軍は噂以上だな。盧植の元部下達も気の毒に」
「ホントホント。いきなり司令官が変わった上にこの仕打ち。やる気を出せというほうが無理よね」
抜け目無く持参した双眼鏡で、黄巾党のほうを見ていた皇甫嵩が、唐突に驚きの声を上げた。
「おい、あれって…張角じゃないか!?どうして前線に!?盧植のときは一度も出てきていなかったぞ!?」
200人の黄巾党前衛部隊の後方、50人の親衛隊に守られ、音楽堂の手前30m程の所にある国旗掲揚台に張角は立っていた。
白を基調とし、青で縁取りされた足首まである長衣。同じデザインのフード。さながら神に仕えるシスターのようだ。襟元から覗くトレードマークの黄色いスカーフ。そして見間違いようの無い金銀妖瞳。神々しささえ感じさせる美貌。紛れも無く張角本人であった。敵味方あわせて800人を超す人の群れを前にして、物怖じしたところは微塵も見られない。数々の舞台で場慣れしているからであろう。
「そんな馬鹿な…張角は平和主義者で戦いを望んではいないのではなかったのか?」
「はっきり、私たちを敵と認識したのなら厄介なことになるわね、何があったのかな?」
「生徒会ではなく、董卓個人に対する忌避であってほしいが…」
「妙なことに気づいたんだけど、あの歌が聞こえないのよね」
「黄巾のマーチか?確かに、今までの戦場ではうるさいくらい聞こえていたものだったが…というより音響関係の機材が一切見当たらないぞ?一体どうするつもりだ?」
「義真、敵の心配してどうするの?」
「敵…か。なあ公偉、張角は私たちの敵なのか?」
「組織だって学園の平和を乱してるよ。敵じゃなくて何なの?」
「そうか…そうだな」
頷く皇甫嵩の声には、納得以外の何かが含まれていた。

「黄巾党諸君。これより…」
張角は、親衛隊長である韓忠の演説を片手を上げて制止した。代わって、彼女が口を開く。
「…黄金の騎士達よ。今こそ決戦の時です」
決して声量は大きくはない。激しくもない。だが、拡声器を通していないにもかかわらず、その声は黄巾党全員にはおろか、1q離れたところにいる、皇甫嵩と朱儁のもとにもはっきりと聞こえた。張角が言葉を続ける。
「あの異形の軍団を撃破し、首領を討つのです。かの者こそこの学園を混乱させ、近い将来、学園を暗黒の奈落に落とし込む元凶。禍の根を今ここで絶つのです!」
もともと高かった士気は、張角の鼓舞で一気に最高潮に達した。必勝の意気高く、劉辟らの指揮というより煽動で、黄巾党は眼前で赤い布を振られた猛牛の如き勢いで突撃を開始した。
張角が、何故前線に出てきたのか、明らかにはされていない。張宝らに強制されたと言う説もあり、董卓の危険性を予感し、総力を持ってそれを討つべく自らの意思で出てきたと言う説もある。だが、真相が明らかになる前に張角は自主退学し、張宝、張梁らは廃人同様になってしまったため、真実は闇の中である。
黄巾党の突撃と共に、張角が目を閉じ、静かに歌い始めた。

一方、生徒会側でも董卓の演説が始まっていた。
「見果てぬ夢よ。永遠に凍りつきセピア色の…」
「あの、董卓様?」
李儒が怪訝な顔で、サイドカーの上に立つオスカ…もとい董卓を仰ぎ見た。
「メモを間違えちゃった。キャラも違ってたし。ええと…栄光ある生徒会の兵士達よ!これから黄色い賊徒に罪の重さを教え込んであげるのよ!生徒会の為に!そしてなにより、この董卓ちゃんの栄光の為に!あ、それから、賊徒に遅れをとるようなことがあったら、蒼天会長に代わっておしおきよっ!」
もともと、盧植の元部下450人の士気はそれほど高くなく、突然の指揮官交代とこの妙な仮装、演説によって、よけいに士気は下がり気味であった。だが、目の前の相手を倒さない限り、彼女達に未来はない。半ばやけくそで喚声を上げ、黄巾党へ向かって進撃を開始した。
「第一次広宗の戦い」の始まりである。

黄巾党と生徒会軍は広宗自然公園のほぼ中央で激突した。激突直後、生徒会軍の左右両翼は黄巾党の両脇を素早く逆進し、後背で合流して包囲を完成させる事に成功した。黄巾党も、もたつきながらも円陣を組んで、それに対抗する。激しい戦闘が展開された。喚声と悲鳴と竹刀をたたきあう音が幾重にも重なって、広宗自然公園に物騒な協奏曲を響かせる。
後世、群雄割拠、三勢力鼎立時代に行われた戦闘に比べると、この時代のそれは、武芸の華やかさにおいても、用兵の緻密さにおいてもいささか迫力不足であったことは否めない。個人個人の武芸の練度が低く、主将の指揮能力も不足気味であったからだ。
それでも、戦闘の始まる前に、黄巾党の敗北は決定していたようなものである。生徒会に比べ、数において劣り、戦術においても劣っていた。主要な道は生徒会に押さえられており、張宝、張梁は皇甫嵩たちにより手痛い打撃をこうむっているため援軍も出せない。おまけに本拠地に追い込まれているため、主将、つまり張角を討たれれば全ては終わりなのだ。戦う前に勝つ。盧植の戦略の凄みはそこにあった。
本来、張宝、張梁に痛撃を与えた直後、皇甫嵩、朱儁の両名と、その率いる精鋭を呼び寄せ、総勢800で決戦に臨む予定だったのだが、盧植は作戦始動直前に讒言によって解任されてしまったため、予定は未定で終わってしまった。

張角の歌が、優しく広宗の野に響き渡る。空を舞う鳥が羽を休めて枝に止まり、うっとりと歌に聞きほれている。生死をかけた追撃戦を演じていた猫とネズミが仲良く寄り添ってじっと聞き入っている。およそ戦場には似つかわしくない平和な雰囲気が辺りを包み始めた。心を揺さぶるのではなく、そっと包み込み、母親が乳児をあやすように、優しく、暖かく、心を癒してゆく。張角の天使声は絶好調であった。肉声で、しかも拡声器を通していないにもかかわらず、1km近く離れたところにいた皇甫嵩たちのもとにもその歌声ははっきりと聞こえた。
「戦場には似つかわしくない、優しい歌だな…ん?どうした公偉?」
「義真…これ、声じゃないよ!耳を塞いでても聞こえてくる!」
「初めて聞くが、これが『天使声』か…」
張角のソプラノは、世界トップクラスのオペラ歌手に匹敵する。天賦の才と、たゆまぬ努力によって、声量、声のツヤ、技巧、音程の幅広さ、いずれも高校生とは思えない程、高いレベルでまとまっているのだ。そして張角を異能者たらしめているのが、この精神感応音波「天使声」である。どういう仕組みかは不明だが、黄巾党には勇気を与え、敵対する者には脱力を強いる。その効果範囲は約700m。声自体は2q先まで届く。ただ、この超音波は現代の録音技術では拾えないため、この効果を得るには、張角自ら出向くしかない。
やがて、戦場の様子が目に見えて変化しはじめた。天使声の効果が現れ始めた為、黄巾党の圧力に抗することができず、生徒会側の包囲のタガが目に見えて緩み始めたのだ。

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2−1 >>281

283 名前:雪月華:2003/05/10(土) 19:15
─次回予告(※黄巾党視点)─
悪魔軍団の狡猾な作戦により窮地に立たされた黄金騎士団だったが、張角の歌声で劣勢を盛り返す事に成功する。しかし、悪魔軍団総帥董卓の奥の手により、再び窮地に陥る事に。その時、張角に奇跡が起こる。その最中、皇甫嵩、朱儁の友情に亀裂が…
次回、いよいよ決着。蒼天己に死し 黄天当に立つべし。 

随分長くなってますが、もう少しだけ続きます(^^;
董卓のキャラ立て、なんだか失敗しました。いまいち目立ってないです。猛省。
李儒≠セ○オ(東鳩)≠オーベルシュタイン≠綾○のつもりで書いたのですが、本末転倒と言うべきか、なんだか全部混ざったようなキャラに(^^;
ちなみに、シスター張角の衣装イメージは
その1→ttp://www.galstown.ne.jp/5/cospre/goh/trinity-2.htm
その2→ttp://www.webkiss.jp/catalog/TrinityBlood/Esther_Blanchett.html
です。個人的に、その2のメタルアクセサリ無しの方が張角のイメージに合うような気が…

>玉川雄一様
カント大戦以後のいわゆる「軍師の時代」の戦い方の代表的な例ですな。呂布、関羽といった前線で剛勇を振るう武将が戦の帰趨を決める時代から、緻密な作戦の駆け引きを必要とされる近代戦に時代が移り変わったのが良くわかります。
続き、楽しみです。
>岡本様
確かに、第一部は皇甫嵩伝をかなり参照しましたが、第二部からは、具体的な戦の資料がほとんど無い状態でして…
場面、人物共にかなりフィクションが入ってますので、続きは気楽に読めるかと思います。

284 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/11(日) 21:43
エンジェルヴォイス実戦投入キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

身もだえするほどカコイイ!
書き手の力量によっては文章が浮き上がってしまいそうなシチュでも、しっかりと
地に足着けてますし!読んでいて安心できます!
すでに十重二十重に包囲されている戦況の中、張角たんの声が戦場に響く…
何とも鳥肌ものシチュではありませんかっ!
そして張角たんのコスチュームもまた…( ´Д`)ハァハァ… これでヘテロクロミア
だなんて…。ハマってるなあ…。
しかし張角の命運も、黄巾の学園革命も、佳境ですか…

そして一変して董卓軍団ワロタ。
どんどこイロモノ軍団化が進んでいましたが、とうとうその全容が明らかに!
李儒たんの冷徹メイドグッジョブ! なんかこう、隙の無い万能メイドってのがカコイイ!
キャラはそれで! 万能メイドは私心を持ってはいかんのですよ!主に忠実なのではなく
職務に忠実なのです!
そしてサリゲに中核に参加している賈詡たんもカコイイ!

それにしても次回予告が気になる…

285 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:15
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第三章 広宗の笑劇

「どうも戦局が思わしくないわねっ☆」
「士気の低下速度が異常です。張角の『天使声』…予想以上の効き目のようですね。あれを止めなければ勝利は無いでしょうから、張角に対して刺…」
「董卓ちゃん、いいこと閃いちゃった☆」
「いきなり何です?」
献策を遮られた不満をおくびにも出さず、李儒は頭上に豆電球を点灯させた董卓に聞き返した。
「歌には歌で対抗するのよ☆董卓ちゃんのミラクル★ボイスで黄色い賊徒を正気に戻してあげるわ☆」
やめておいたほうが、と言いかけ、李儒は口をつぐんだ。こうなっては、もうこの主人を止めることはできない。作戦全体の変更もやむをえないだろう。
もともと、この作戦は張角が前線に出てこない、という前提で立てたものである。その誤算が想定以上にこちらを不利にするものならば、董卓にもまだ進言していない、次善の作戦に移らねばならない。董卓の兵力を減らさず、「生徒会の」兵力をできるだけ削ぐ。そのためには…
一瞬のうちにそこまで計算し、さりげなく、李儒は董卓の傍を離れた。
「ハイ、ミュージックスタート!」
カセットデッキを持った一年生がテープを差し込み、再生ボタンを押した。
♪さぁけはのぉ〜め、のぉ〜め、のぉむならば〜、ひぃ〜の…
ぼこおん、と音がして、董卓の熊と見まがう逞しい右腕で、後頭部を強打された一年生は、上半身を地面に突っ込んだ。
「間違えないでよ!何が悲しくて黒田節を歌わなきゃならないのっ!こっちでしょ!」
董卓は毒々しいピンク色のテープを取り出すと、デッキに差込み、再生ボタンを押した。聞いていて恥ずかしくなるような、なつかしの少女アニメ主題歌が流れ出す。
「おほほほほほ!董卓ちゃんの18番!名作アニメソングメドレー50連発よ!イッツ☆ショーターイム☆」
♪西涼校区からやぁ〜ってきた♪とぉって〜もチャームな女の子♪仲頴〜♪仲頴〜♪
呆れたことに全編替え歌である。ボリュームを最大限にひねった董卓は、伝令用の拡声器を片手に、嵐のような振り付けとともに歌い始めた。
魔界のリサイタルが、広宗の野において開演された。

それよりほんの少し前、董卓直属の兵100人の中核部分において。
「華雄」
「おう軍師殿じゃないか。いよいよ突撃か?」
灰色熊のきぐるみを身にまとい、イライラと歩き回っていた華雄は、話し掛けてきたメイドに歩み寄った。歩み寄るというより、いきりたって掴みかかるという勢いであり、並の軍師なら、たとえ撤退を指示すべきでも震え上がって相手の意を肯んじたかも知れない。しかし、李儒は「並の軍師」ではなかった。
「撤退します。準備をはじめてください。…この手は何です?痛いのですが」
「一戦も交えんうちにか?少し消極的に過ぎるんじゃ…あだだだだ!」
胸倉を掴んだ華雄の右手の親指を掴むと、李儒は外側に捻った。苦痛のうめきと共に手を離した華雄を、何事も無かったかのように見据え、言葉を続ける。
「董卓様の御命令です。私としても不満ですが、不服従は許されません」
「だが、あの混戦を収拾するのは容易ではない。少なくとも半数は犠牲に…」
「その心配は無用です。撤退するのは、我々100名のみですから」
「何だと!?」
「張角が前線に出た時点で、こちらの「完勝」の可能性は消えました。この100で混戦を迂回して突撃すれば、あるいは勝てるかもしれませんが、犠牲も大きくなります」
「しかし、450名を見捨てるとは…」
「何を躊躇う必要があるのですか?別に、450人は『董卓様の』兵というわけではないのですよ。後日、洛陽棟に軍事の真空状態を作るため、追撃を防ぐ盾として、できるだけ飛ばされてもらう事を期待しているのですが」
「貴様…これは本当に董卓様の命令なのだろうな?」
「疑うのですか?董卓様自ら、しんがりを買って出ているというのに」
「董卓様自ら?危険ではないのか」
「黄巾党如きが、あのお方を飛ばせると本気で思っているのですか?」
「…わかった。撤退の準備をさせる」
董卓の名前を出されては逆らうわけにはいかず、華雄は撤退の準備を始めた。機会音声のような李儒の言葉が、華雄をさらに急がせる事になった。
「まもなく、董卓様の『あれ』が始まります。可能な限り、急いでください」
代名詞を出されただけで、華雄は事態を悟った。

♪いやよ☆いやよ☆いやよ見つめちゃいや〜☆仲頴フラッシュ!
新たに湧き起こった歌声が、夢見心地だった皇甫嵩たちの気分を粉砕した。
「な、なんだ、この声は?雷鳴か?」
「せっかくいい気分だったのにー!思いっきりぶち壊してくれるじゃないの」
「頭痛が…なあ、公偉。好きこそ物の上手なれ、という教育論の肯定例と否定例の両極端が目の前で展開されているようだな」
「さ、流石に黄巾の連中にも効いているようね」
このとき、潮が引くように整然と、董卓配下100名は戦場を離脱し始めている。だが、董卓の歌で失調していた二人は、不覚にもそのことに気がつかなかった。もっとも、気づいていても、どうしようもなかった事は確かであるが。

♪笑って〜笑って〜笑って仲頴〜
朱儁の指摘したとおり、黄巾党の勢いが目に見えて鈍った。戦闘行為を中断して、耳を塞ぐ者が続出する。だが、耳を塞げば武器を持っていることができなくなるので、耐えながら戦うしかない。一方、張角の加護を得られない分だけ、生徒会正規軍の被害はそれを上回っていた。蒼白な顔をし、胸を押さえ、貧血を起こして次々に膝をつく。空を飛んでいた鳥が次々と気絶し、地面に落下していく。1年生の中には泣き出す者もいた。いまや最悪の音響兵器と化した董卓には、それらの姿はまったく見えていない。張角の天使声と董卓のミラクルボイスに挟み撃ちにされ、戦場は奇妙な膠着状態に陥り始めた。
すでに董卓直属の100人は、華雄の指揮で戦場を完全に離脱し、いっさんに鉅鹿棟を目指していた。残された生徒会軍は、もはや人類史上最悪の音響兵器と化した董卓と、不幸な正規兵450人のみである。
董卓のミラクルボイスにより、深刻な精神的ダメージを受けた黄巾党が、救いを求めるように張角に視線を集中させた。曲の節目に来たため、張角が言葉を切る。次いで、それまで閉じられていた両目がゆっくりと開き始めた。
開かれた張角の色の異なる両目に、神秘的な輝きが踊っていた。夕日を照り返してのことではない。張角の目、それ自体が光を放っているのだ。董卓を除く、戦場にいた全員がその神秘的な光景に一時、目を奪われた。
奇妙な事に、いつのまにか風向きが変わっていた。北から吹いていた風が、東から西へ、つまり張角の背後から生徒会軍に向けて吹き始めていた。国旗掲揚台に掲げられた学園旗のなびきでそれがわかる。
張角が沈み行く夕日に両手を掲げ、声を発した。
「Hort!(※聞け!)」
広宗自然公園に衝撃が走り、戦場の空気は一変した。

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286 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:24
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第四章 女神光臨

張角が新たな楽章を歌い始めた。
それは、それまでの天使の歌ではなかった。普段の温和な張角からは想像する事のできない、圧倒的な威厳を漂わせるその歌は、すべての生物を屈服させ、改宗させ、従える、女神の歌であった。広宗自然公園は巨大なオペラ座と化し、すべての生物が息を呑み、崇拝の目で張角を見つめた。その場にいた全ての者の耳に、オーケストラの演奏が聞こえたほどだといわれている。そして、黄巾党と生徒会の者は見た。シスター服をまとう張角の背中に、光り輝く天使の翼を。古代王朝の神事の如き荘厳な雰囲気の中にあって、董卓の歌など、もはや蚊の羽音に等しかった。
黄巾党の後背に回りこんだ300人は、張角の天使声と董卓のミラクルボイスの挟撃によって、失神しかけていたところに、この女神の歌の直撃を受け、一挙にとどめを刺された。黄巾党に打ち倒されるまでもなく、女神の歌で次々と魂を砕かれ、失神し、倒れこんでいく。張角の変貌から10を数えないうちに、迂回部隊の300人すべてが立つ力を失い、地に這った。最期の一瞬に何を垣間見たのだろうか。倒れた300人のすべての顔には、安らかな微笑みが浮かんでいた…
「安楽に気絶」した300人とは対称的に悲惨な目に遭ったのは、はじめに黄巾党を受け止めた150人である。女神の歌の直撃を受けこそしなかったものの、それだけ董卓に近く、ミラクルボイスの被害で、より重度の貧血状態に陥っていた彼女達には、いまや目の前で赤い布を振られ、猛り狂った猛牛でさえ青ざめて逃げ出すほどの勢いとなった黄巾党を迎撃することは当然できなかった。瞬く間に陣形を打ち破られて壊乱状態に陥り、悲鳴をあげて逃げ惑うばかりである。だが、敵味方の音響攻撃で、その逃げる力さえ蒸発しつつある。多くの者は50mも走ることができず、立ち竦んだところを黄巾党に階級章を剥ぎ取られ、呆然と座り込むばかりであった。
皮肉なことに、その妙な仮装のせいで、戦場全体の雰囲気が「黄巾の賊軍に散々に打ち破られた生徒会正規兵の災難」ではなく「女神の加護を受けた黄金の騎士団が、異形の悪魔軍団を撃破した」というように、完全に正邪が逆転して感じられてしまったのである。

「大変!助けなきゃ!」
「待て!公偉!!」
走り出しかけた朱儁の右肩を皇甫嵩の左手が掴んだ。制止した皇甫嵩を睨みつけた朱儁の目には、怒りの炎が燃え盛っている。
「止めないで!義を見てせざるは勇なきなりって、学園長も言ってたよ!」
「落ち着け!今、私たちが出て行ってどうなる!」
「でもっ!」
「あそこまで混乱してしまっていては、もう収拾する事は不可能だ!ただ勇気があればいいものではないだろう!」
「義真…まさか、まだ董卓の待機って命令に、拘っているんじゃないよね!?」
「何だと?」
「きっとそうよ!それとも、すっかりあの勢いにビビってて、董卓の命令に拘ったフリして…」
「手勢の50人もいれば、あの歌が始まる前に、すでに駆けつけている!待機命令違反などという、くだらんことに拘るものか!」
「ちょ、ちょっと義真、痛…」
右肩を掴んでいる皇甫嵩の左手に凄まじい力がこもり始め、朱儁を怯ませた。
「それとも公偉!お前はたった一人であの200人を何とかするつもりか!ここでおまえが飛ばされたらこの後どうなるか、考える冷静ささえお前は失っているというのか!!」
「痛いってば!義真!離して!」
肩の骨がきしみ、堪えきれずに朱儁は悲鳴をあげた。はっ、と我に返った皇甫嵩が左手の力を緩めると、朱儁は右肩を押さえてその場にうずくまってしまった。そして、朱儁は見た。固く握り締められた皇甫嵩の右の拳に爪が食い込み、紅い雫を滴らせているのを。皇甫嵩も、朱儁以上に義憤に駆られていたのだが、何もできない不甲斐無い自分に腹を立てていたのだ。
お互い、呼吸を整えるのに5秒ほどかかり、先に皇甫嵩が口を開いた。
「…すまない、公偉」
「義真、あなたも…」
「それ以上言うな。引き揚げるぞ。これ以上ここに居ても、何の意味もない…立てるか?」
「なんとか、ね…あ」
皇甫嵩は、朱儁の手をとって立たせると、スカートについた砂埃を払ってやった。そのさりげない優しさが、朱儁の胸にしみた。
戦場では酸鼻極まる光景が展開している。いまや、まともに階級章を所持している生徒会軍は、10人に過ぎず、それ以外の者は、女神の歌の直撃を受けて気絶しているか、黄巾党に階級章を奪われ、呆然と座り込んでしまっていた。そして彼女達も、やがて女神の歌によって意識を失っていくのである。
気を失った440人あまりの乙女達が散らばる戦場に背を向けると、皇甫嵩と朱儁は自転車を駆って、司州校区へと向かった。
自転車を駆りながら、皇甫嵩は必死で考えていた。
(あの女神に勝てるのか?張宝や張梁、他の黄巾党幹部相手なら、たとえ2倍の戦力差があっても勝ってみせる。だが、あの歌にはどうやって対抗したらいいんだ?どのような状況であれ、対峙して時間が経つにつれ、急激な速度で味方の士気は落ち、敵の士気は増す。たとえ4倍の兵力があっても勝てはしないだろう。とすれば…張角個人への闇討ち…何を馬鹿な事を考えているっ!それだけはしてはならないことだ。人道にも反するし、子幹との誓いもある。…子幹か)
無意識のうちに胸のロザリオを握り締めている自分に気がついた。そんな自分を激しく叱咤する。
(だめだ。子幹に頼るわけにはいかない。今、彼女は風邪で伏せっている。意見を求めたところで、いい考えが浮かぶはずはないし、躰に負担をかけるだけだ。そしてなにより、私の力でこの乱を鎮圧すると、子幹に誓った。私にもプライドはある。誓いは果たす。必ず!)

♪信じているの♪ミラクル☆ロマンス
メドレーは終わった。嵐のような喝采を期待して、そのままポーズをとっていた董卓だったが、いつまで待っても拍手は聞こえない。やや憤然として辺りを見回し、花束を捧げ持ったファンならぬ、殺気立った黄巾党200人に包囲されていることに、ようやく気がついた。すでに李儒や、部下の100人、愛車の赤兎は姿を消している。
「あ、あら、えーと…」
「張角様が奴の階級章を所望だ!かかれ!」
劉辟の命令で、董卓の両腕を二人の黄巾党が後方から抱え込んだ。
「いやん、お放し☆」
董卓が身をよじって思い切り両腕を広げた。二人の黄巾党は、高さにして約10m、距離にして約50mの空中散歩を無料体験することになった。それでもなお戦意を失わない黄巾党が、次々に董卓に飛びかかっていったが、いずれも先ほどの二人の後を追って空の旅に出かけていく始末である。
「いや〜ん!どいてどいて!」
董卓は逃げ出した。群がる黄巾党を右に左に薙ぎ倒し、投げ飛ばし、単身、それも徒歩で200人の包囲を突破していった。
その後を黄巾党200人は追撃してゆく。
最終楽章まで歌いきると、張角は目を閉じた。その体が前後に揺れ、やがてゆっくり、後方に倒れこんだ。護衛隊長の韓忠が慌てて駆け寄り、倒れこむ寸前で抱きとめることができた。張角は疲れ果てた表情を浮かべ、軽い寝息を立てていた。
このとき、張角の声帯に、わずかに亀裂が入っていたが、周囲の者はおろか、本人すら気がつかなかったのである。そして張角はこの後、悲しく、つらい夢を見ることになる…
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287 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:45
広宗の女神 エピローグ 始まりの終わりへ

董卓配下の100人以外で、進軍してきた山道にたどり着いた生徒会軍は7人に過ぎず、まともに鉅鹿棟にたどり着けたのは4人に過ぎなかった。4人のうちの一人が、董卓であるのは言うまでもない。
無事にたどり着けた理由にひとつに、追いすがる黄巾党200人に、突然現れた謎の二人組が奇襲をかけ、瞬く間に30人近くを叩き伏せ、残りの者を撤退させたということがあった。だが、董卓の提出した報告書にはその二人のことは触れられていなかったので、この二人が何者だったのかは、謎となっている。生き残った者の証言によると、一人は、ずば抜けた長身で、漆黒の見事な長髪が人の目を引く、静かだが圧倒的な風格のある美女で、竹刀を携えており、もう一人は意外と小柄で可愛らしい童顔をしていたが、隆々と盛り上がる筋肉と、常に青筋立ててる表情がそれと悟らせない少女であり、三節棍を携えていたらしい。崖の上に、さらに二人居たようだが、逃げるのに必死で、詳しくは覚えていないとのことだった。そのうちの一人は赤い上着を羽織っていて、それだけが印象的だったらしいが…
「第一次広宗の戦い」の参加者は、生徒会軍550人。黄巾党250人。飛ばされた者は、生徒会軍447人。黄巾党37人。生徒会側にとって、酸鼻極まる数字である。ことに、張角の女神の歌で昏睡状態に陥った440人あまりの生徒は、3日間意識が戻らず、まともに立てるようになるまで2週間を要した。ここまで一方的な敗北を喫したのは蒼天会成立以来であり、総司令官の董卓は更迭され、涼州校区へ戻ることになった。戦場に最期まで残って味方の撤退を助けた、という武勇伝は残りはしたが…
この敗戦により、生徒会直属である450人の正規兵を一気に失ったことで、各校区の私兵や義勇兵に頼る比率がさらに大きくなり、生徒会の権威は日に日に失墜していく事になる。

──二日後の放課後、洛陽棟第一体育館において
「皇甫嵩を対黄巾党総司令官に任命する。速やかに反乱を鎮圧し、学園をもとのあるべき姿にせよ」
「非才なる身の全力をあげて」
内心はどうあれ、表面上は完璧に礼儀を保ったまま、壇上で皇甫嵩は執行部長、張譲に対面した。洛陽棟で100円玉貨幣章以上を持つ、上級生徒全員が整列する前で「悪趣味な」総司令官の腕章と、総司令官の辞令を受け取る。
張譲らとしても、ほかに選択肢がないのである。激減した戦力を補い、勢いづいた黄巾党に対抗できる人材を、献金がまめな人物から見出すことが、ついにできなかった。醜態を演じた董卓を推薦した張譲としては、面目を失ったというところであろう。すでに監査委員の左豊に推薦の濡れぎぬを着せて階級章を剥奪しており、表面上は何事もなかったかに思えるが、この一件で何進の信用をかなり失ったことだけは確かであった。
総司令官職への抜擢。武人としては最高の名誉であり、階級章にもかなり加点される。軍事に関する権限も飛躍的に大きくなる。式典の様子は学内ケーブルテレビで、全校区に中継され、皇甫嵩の武名は学園中に鳴り響く事になる。だが、式典の間ずっと、皇甫嵩は仏頂面をしていた。もともとあるべき状態に戻っただけであり、事態が手遅れになりかけてから押し付けられ、しかも片手だけで勝てと言われたようなものである。前途のあまりの多難さに、機嫌がいいはずがなかった。

体育館を出た皇甫嵩に、珍しく改まった表情の朱儁が敬礼を向けた。あの後は、お互い少々気まずくなり、ろくに会話を交わしていなかった事を皇甫嵩は思い出し、少し狼狽した。
「公偉?」
「総司令官への就任、祝着に存じます。今後とも、全身全霊をもちまして補佐奉りますゆえ…」
堅苦しい言葉遣いからすると、やはり、まだ完全には打ち解けられないか、と、皇甫嵩は少々さびしく思った。
「…ってね、ガラじゃなかったかな?」
唐突に、朱儁は態度を変え、いつもどおり、屈託なく笑った。つられて、ずっと仏頂面だった皇甫嵩も、笑顔を見せる。
盧植は謹慎二週間に加え風邪を引きこみ、丁原は并州校区に戻ったが、まだ傍には親友の朱儁がいる。孤立無援というわけではないのだ。皇甫嵩はそう思うと、少し気が楽になった。単純だな、とやや自嘲気味に皇甫嵩は思った。
「義真、これからもずっと、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしく頼む。公偉」
皇甫嵩は、差し出された右手を強く握りかえして、最も信頼できる僚友と頷きあった。朱儁がにやりと笑って言葉を続ける。
「ほら、義真って何かと不器用だから、私がいないとダメだし…むわっ!?」
「生意気を言うのはこの口か?ん?」
皇甫嵩は朱儁の両頬をつまんで、かるく左右に引っ張った。
「やったなーっ!」
「うわっ!?お返し!」
「うきゃあっ」
胸を触られた皇甫嵩は、お返しとばかりに朱儁の「ツノ」をぐいっと引っ張った。
十年来の親友同士の、小学生のようにふざけあう、微笑ましい姿がそこにあった。
こうして、二将の間に入った亀裂は完全に修復され、生徒会の危機のひとつは回避された。吉凶定かならぬ事件の多い昨今、皇甫嵩の司令官就任と、この仲直りだけは、完全に「吉」と言えるものであっただろう。

激減した兵力の再編に忙殺されていた皇甫嵩の元に吉報が飛び込んできた。少なくとも、周囲の者にとっては吉報である。だが、皇甫嵩にとっては、このうえない凶報であった。
「黄巾党首領張角、広宗音楽堂での舞台中、吐血、昏倒」
皇甫嵩の心に氷刃が滑り、鋭く冷たい痛みを走らせた。この瞬間、盧植と交わした誓いのひとつが、永遠に果たせなくなってしまったのである。皇甫嵩は無意識のうちに、胸のロザリオに手を伸ばした。
(すまない、子幹。あの子を救う事はできなかった。だが、もうひとつの誓いは必ず果たす。あと一週間以内に張宝、張梁らを討ち、この乱を終わらせてみせる!)
誓いを新たにすると、皇甫嵩は精力的に活動を始めた。激減した兵力を補うために、各校区の総代、棟長への募兵の指示を出す。勢いを盛り返した張宝、張梁の動きはどうなっているか調べ、対策を練る…解決しなければならないことは山積しており、皇甫嵩の判断を待っているのである。なにかと煩雑で苦労の多い仕事だが、その苦労を皇甫嵩は嫌いではなかった。
−広宗の女神 完−
〜あとがき〜
まず、ぐっこ様、改装、乙かれさまです。
ようやく完結です。全9回の長い間、つたない駄文にお付き合いくださってありがとうございました。アウトルッケがようやく復活しましたので、次回から、長文はちゃんと投稿しますのでご容赦を。m(_ _)m
皇甫嵩、かっこいいですよね。強くて優しい、頼れるセンパイという感じで、書いてて楽しかったです。この後冀州校区生徒会長に就任してテーマソング作ってもらったり、董卓を引き連れて西へ行ったり、表彰式で張譲を殴ったり(?)…歳のせいか、董卓入京後は著しく精彩を欠きますが(泣)
後、李儒。こちらも結構良く書けたと思います。張角の神がかり的怖さとは対照的な、人間の怖さと言うものを書いてみたんですが…いかがだったでしょうか。
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おまけ 張角の夢 >>180 (デビューSS。今読み返してみると赤面もの(^^;)

288 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/24(土) 00:52
まずは雪月華様、乙っ(T_T)ゞビシ!
全九回!? そんなになりますか! 皇甫嵩・朱儁ペアを中心に
学三世界の黄巾主力と生徒会の争乱を余さず描いたロングシリーズ!
お見事に書き上げられました!

やはり皇甫嵩先輩の颯爽とした勇姿が、印象に残りますね〜。
朱儁先輩も無論頼りになる先輩でしょうけど、皇甫嵩先輩のスマートな
格好良さときたら( ´Д`)ハァハァ…。
天下を掴む力を持ちながらついに掴まなかった彼女の、引退までの学園生活
もいずれ見たいものです…。もちろんその前に、総司令官の腕章を付けた勇姿を。

そして次代の英雄達の出現。まだまだ下役ながら、ぼちぼち頭角を現しつつ
ある袁姉妹。さらにその後輩の曹操。
で、董卓。(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
存在自体がもはや冗談としか思えない彼女の、ジャイアンボイス
張角と同じ舞台同じ世界で存在することが信じられないキャラですが(^_^;)、なるほど
その戦闘能力と歌唱能力は伊達ではないと…。

んで最後にサリゲに登場した劉備一党! これまたカコイイ!
学園史に名を残さなかったとはいえ、これがデビュー戦だったわけで…
演義早く書きてーっ!

289 名前:★教授:2003/06/16(月) 00:08
お久しぶりです、忘れられてる人が大半かと思われる教授です。
復活したのに何の進歩もないまま使い回しする私って…。
前回の続き、恥ずかしながら少し詰まってまして…。
今月中には掲載予定ですので、期待しないで待っててください…。

■■必撮! 仕事人 〜法正編〜■■

「くー…」
 ふふふ…。
 法正のヤツ、またしても無防備に寝てるな。
 ま、軽く一服盛ったんだけど。
 …それにしても思ったより効くんだなぁ、目薬。
「うぅん…」
 おっ、やけに色っぽい寝返りじゃん。取りあえず一枚ゲット。(シャッター音)
 これだけでも充分ミッション成功っぽいけど…クライアントの要望には応えないとねー。
 鞄を漁り、例のブツを取り出すと…作業に取り掛かった…。

「…で、これが依頼の写真とテープよ」
 某棟某所の暗室で私は先ほど入手した写真とビデオテープをクライアントに手渡す。
「うむ…君は仕事が早くて信用できる」
「当然。伊達に仕事人をやってないわ」
 微笑んで見せたが、クライアントにはさぞ不敵に映ったはず。
 だが、クライアントは白羽扇を片手に涼やかな目をしている。相変わらず食えないヤツ。
「報酬はキミの部屋の冷蔵庫に入れておいた。苦労して手に入れた銘酒、じっくり味わってくれ」
「毎度あり。またいつでも来てね〜」
 私は契約完遂を確認してクライアントを完全に見送った。
 さて…部屋に戻って打ち上げの一杯でも頂きますか♪

 同時刻、法正の部屋――
「な、ななな…何コレー!」
 鏡の前で自分の姿を驚愕の眼差しで見つめる法正の姿があった。
 その姿は、某猫娘のライバルでもあるウサ耳娘のコスプレだった。
「け、憲和のヤツ! 一服盛ったなー!」
 蒸気を出しながら憤る。
 しかし、姿が姿なだけに却って可愛らしく見えてしまう。
 ――そういう時に限って不幸は重複するもの。
 怒る法正を余所に突如部屋のドアが開く、厳顔だ。
「法正、辞書借り…」
 目と目が合う。厳顔が言葉を失い、法正が固まる。
「え、あの…その…」
 思いきり動転して手をぱたぱたと振る法正。
「わ、悪い…私は何も見てないからな…」
「ち、違うの…これは…」
「み、見てない…お前がそんなコスプレ趣味だったなんて…」
「これは誤解だっ…」
 ばたん…。
 誤解されたままそっと閉まるドア。
「いやああああ!!!!」
 法正の叫び声が虚しく部屋に響き渡ったとさ。

290 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/16(月) 21:58
教授様復帰オメ(゚∀゚)
Σ(;´Д`)…某ウサ耳にょ?
言われてみれば髪の色が…

つうか憲和たん目薬は犯罪だよ…。
最近のは効かないともっぱらの噂ですから、旧製品を密かに持ち歩いてるのですな…

291 名前:★アサハル:2003/06/16(月) 22:30
そいやラヴィアンローズは普段は三つ編みメガネっこでしたかΣ(゚Д゚*)

その後法正たんは中華の誇るカリスマ同人屋・劉備ちゃんの
着せ替え人形になる、に3594ペリカ…
つか、何ちゅーもん依頼してんですか諸葛亮(w

292 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:20
ご無沙汰しておりました。忙中閑ありと言い訳して、ひとつ投下します。
それもまだ前後編の前編のみですが...。

■天誅−前編−■
(1)白波五人女

蒼天学園暦29年6月に張角・張梁・張宝三姉妹によって引き起こされた黄巾事件は、蒼天学園生徒会
からすると主要3名の階級章が皇甫嵩・朱儁らの活躍で剥奪されたことにより1月足らずのうちにひと
とおりの決着は見た。だが、黄巾党の根絶をなしたわけでなく、また事件決着後も黄巾の蜂起に賛同
する者は後を立たず、各地で蒼天学園の現状に不満をもつ者達が跳梁跋扈し一大勢力をなすようになる。
一例としては黄巾の蜂起に呼応して中山・常山・上党・河内地区あたりを根城に周囲を荒らしまわった
サバゲー軍団、黒山軍(Black Mountain Force)がある。他にも著名な武闘派チーマーとしては同年9月
に河東地区白波峡谷あたりを根城に、元黄巾党の郭太を長として蜂起した”白き荒波(white surge)”がある。
集団戦術などどというべきものは持ち合わせていなかったのだが、元黄巾一党の中でも武闘派とか
精鋭と称されたいずれも劣らぬ荒くれ者が揃っており、柔弱化が末期症状を呈してした生徒会正規軍
と比較するとやたら喧嘩なれしており討伐は困難を極めた。
共同戦線を張っていた黒山軍(BMF)に対抗してホワイト・サージというハイカラな(死語)ネーミングをし、
白き波頭のエンブレムに基本装備はグリーンベレー風サバイバル仕様だったにも関わらず、
首領の郭太、主要幹部の楊奉、胡才、李楽、韓暹の5名は変に傾いた趣味をもっていたことから、
“白波五人女”として恐れられていた。彼女ら5名は初期のホワイト・サージと并州・司隷校区の執行部員、
風紀委員や生徒会鎮圧部隊との戦闘の際にヒーロー戦隊よろしく、以下の口上で見栄をきっていた。
(作者注:河竹黙阿弥“白浪五人男”の“稲瀬川勢揃いの場”の口上を元にしています。七五調です。)
郭太:
♪〜 問われて名乗るも おこがましいが、生まれは兗州 浜松在、十四の年から 親に放たれ、
身の生業も 白波の 沖を越えたる 夜働き、盗みはすれども 非道はせず、
人に情けを 掛川から 金谷をかけて 宿々で、義賊と噂 高札に 廻る配附の 盥越し、
危ねえその身の 境界も もはや十八に、人間の 定めはわずか 二十年、
十三校区に 隠れのねえ 賊徒の首領 黄天郭太 ♪〜

楊奉:
♪〜 さてその次は 江の島の 岩本院の 稚児あがり、
ふだん着慣れし 振袖から 髷も島田に 由井ヶ浜、打ち込む浪に しっぽりと 乙女に化けた 美人局、
油断のならぬ 小娘も 小袋坂に 身の破れ、悪い浮名も 竜の口 土の牢へも 二度三度、
だんだん越える 鳥居数、八幡様の 氏子にて 鎌倉無宿と 肩書も、島に育って その名さえ、
弁天小僧 楊奉 ♪〜

胡才:
♪〜 続いて次に 控えしは 月の武蔵の 江戸そだち、幼児の折から 手癖が悪く、
抜参りから ぐれ出して、旅をかせぎに 西国を 廻って首尾も 吉野山、
まぶな仕事も 大峰に 足をとめたる 奈良の京、碁打と言って 寺々や 豪家へ入り込み、
盗んだる 金が御嶽の 罪科は、蹴抜の塔の 二重三重、重なる悪事に 高飛びなし、
後を隠せし 判官の 御名前騙りの 忠信胡才 ♪〜

韓暹:
♪〜 またその次に 列なるは、以前は武家の 中小姓、故主のために 切り取りも、
鈍き刃の 腰越や砥上ヶ原に 身の錆を 磨ぎなおしても 抜き兼ねる、盗み心の 深翠り、
柳の都 谷七郷、花水橋の 切取りから、今牛若と 名も高く、
忍ぶ姿も 人の目に 月影ヶ谷 神輿ヶ嶽、今日ぞ命の 明け方に 消ゆる間近き 星月夜、
その名も赤星 韓暹 ♪〜

李楽:
♪〜 どんじりに 控えしは、潮風荒き 小ゆるぎの 磯馴の松の 曲りなり、人となったる 浜そだち、
仁義の道も 白川の 夜船へ 乗り込む 船盗人、波にきらめく 稲妻の 白刃に脅す 人飛ばし、
背負って立たれぬ 罪科は、その身に重き 虎ヶ石、
悪事千里と いうからは どうで終いは 木の空と 覚悟は予て 鴫立沢、
しかし哀れは 身に知らぬ 念仏嫌えな 南郷李楽 ♪〜

ホワイト・サージは近隣の太原地区、河東地区へ乱入し、抗争を繰り返して各種小規模サークルを半
ば強引に吸収して強力化し、とうとう司隷校区洛陽棟の生徒会正規軍でも手が付けられない勢力に成
長した。并州校区総代の張懿がホワイト・サージの鎮圧に失敗し飛ばされるにいたり、劉焉の建議を
うけて各校区「総代(=刺吏)」に代わってより権限の強化された「生徒会長(=牧)」を置くことを
決定したほどである。余談ではあるが、各校区の総代は校区の支配者というよりは、地区長の
監査役程度の権限しか持っておらず、さらには各校区正規軍の指揮権は地区長にあり、総代は
独立した軍事力を持っていなかったのである。

293 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:26
■天誅−前編−■
(2)ホワイト・サージ

各校区生徒会会長の成立のように、ホワイト・サージは当時、間違いなく蒼天学園の流れを幾たびも揺
るがす潮流であった。地理的にも蒼天学園の中心たる司隷校区をその勢力範囲に押さえており、いか
なる群雄よりも蒼天学園の歴史の鍵を握りうる位置にいたと言えなくも無い。だが、曹操はおろか
菫卓、袁紹、袁術のようなある種のカリスマを備えた指導者を持たず拠ってたつ政治方針も
持たなかったことから当時のどの群雄から見ても脅威といってよい戦闘力を有していたものの、
勢力基盤となる地区生徒達(特に絶対数の多い文化系生徒達)の抱きこみはまったく進まず
“群党”の域を越えることは最後まで無かった。政情不安であった頃は後に生徒会の五剣士のひとり
となる徐晃が楊奉の旗下にいたように、腕っ節に自身のある連中が集まってきてはいたが、
だんだん各地の群雄が勢力をまし、政情が安定してくるにつれ、文にも優れたような器量のあるもの
は離れ、単なる喧嘩屋・チーマーの集まりとなっていた。
ホワイト・サージの幹部たちもそういった安定化の流れは察せられなかった訳ではなく、もっとも目端の
効く楊奉がいち早く蒼天会の擁立に動いたように、李傕・郭レの政権争いに際には楊奉をつてに
胡才・李楽・韓暹(そして匈奴高校の去卑)が両者の餌とされた蒼天会の実働部隊として李傕・郭レに
対抗し、“錦の御旗”側としての転身を図ったのである。この抗争で胡才が飛ばされたように、
ホワイト・サージは勢力で勝る李傕・郭レを相手にかなりの健闘を示し、蒼天会の生存には
(文字通り生き延びただけという話もあるが)その戦闘力を生かして一方ならぬ貢献を果たしたといえる。
だが、その戦闘力を嵩に着て、山出し同然の李楽を筆頭に思慮の足りない無茶な発言や私欲に
駆られた暴力行動をとることが多く、蒼天会の面々からは、所詮は共に語るに足りない腕っ節のみが
自慢の不良の集まりと敬遠されていた。まだ目端の効いた楊奉・韓暹は何とか学園のシンボルたる
蒼天会会長を手中に納め続けることであわよくば権力の掌握を狙い、方向転換を考えて喧嘩屋から
脱却しきれない李楽と袂を分かった。これは李傕・郭レと結んだ李楽との内部抗争へ発展し、李楽を
飛ばし李傕・郭レを出し抜くことに成功したかと思われたのだが、戦闘力のみで定見を持たない集団と
いう宿命からは逃れられず、結果、兗州校区で勢力を拡大していた曹操に、菫昭を伝手としての
蒼天会との接触を許し、学園暦30年の4月には“曹操の蒼天会会長擁立”という形で全てを攫われて
しまうことになる。
許昌棟へ蒼天会を移そうとした曹操の行く手を遮ろうと当時“最強”とまで称された戦闘集団を率いて
楊奉・韓暹は戦いを挑んだ。しかし、所詮個人戦闘の足し算に過ぎない彼女らは、数を生かす
集団戦術に長けた曹操軍団の敵ではなく、当時本拠地であった梁棟を失い、同4月、徐州校区の
席巻を図って劉備と対峙し戦力の強化を求めていた袁術を頼って落ち延びることになった。
権力の座から元のならず者集団に落ちたショックも手伝って楊奉・韓暹は袁術の庇護のもと
徐州校区・揚州校区で“かつあげ・喧嘩”を日常茶飯事として暴れ廻り、公孫瓚・袁術とともに
“第一級お尋ね者”として懸賞課外点数をかけられることになる。
ここでも、楊奉・韓暹はなんら政治方針・定見を持たず、もっぱら欲望のままに動静をきめる集団
であることを露呈する。
劉備の徐州校区生徒会長からの追い落としでは、徐州校区への勢力拡大を望む袁術と曹操に破れ
戦力再編のための基盤を必要としていた呂布(正確には陳宮)の思惑が一致していたため手を
むすんでいたのであるが、袁術が蒼天学園全体を望む意志を明らかにしてくるにつれ様相が
変わってくる。翌5月、無謀にも袁術は蒼天学園連合生徒会会長を自称した。学園全体から
つまはじきされて“賞金首”にされることを恐れた呂布は、袁術が友好締結に送った使者である
韓胤を蒼天会への誠意の証として階級章剥奪処分にふし、結果もともと信頼関係があったとも思えな
い両勢力の仲が決定的にこじれ、呂布vs袁術の全面対決と相成った。袁術はこのときのためと飼っていた楊奉・韓暹も動員し、張勲・橋蕤を主将としたバイク・歩兵合わせて数百人の軍勢を七方面
から呂布を攻めさせた。後に戦国最強軍団と評されることになる呂布軍団も高順・張遼以外は
基本的に個人戦闘の足し算に過ぎず全戦力も100〜200人そこそこであったため、数に圧倒的に勝る
袁術軍団には劣勢となる。呂布に韓胤の処断を示唆した沛地区長の陳珪は、呂布にこの戦況の原因
を作り出した責任をとるよう詰め寄られるが、有名な離間の策を提案し戦況をひっくり返したのである。
陳珪曰く、
「楊奉・韓暹がにわかに袁術と同盟したのは、もともと定見があってのことではないので維持することは
できません。もともと利と衝動で動く連中ですから、十分に利を示した書簡ひとつで操ることは可能
でしょう。」
以外に筆まめな(内容と論旨は子供じみているが)呂布は楊奉・韓暹に手紙を送り、戦利品の私物化を
認めたうえで内応を依頼した。
策を示唆した陳珪が呆れるほどあっさりと楊奉・韓暹はこの誘いに応じた。
守備兵力をも戦闘に使えるように可能な限り袁術軍団を下邳棟に近づけて呂布vs袁術の会戦は幕を
開けたのだが、両軍団の先頭が300mまで近づいたところで楊奉・韓暹の部隊は一斉に蜂起した。
まったく警戒していなかった他の部隊へ背後からの突撃を行い、乱闘の最中、その戦闘力を生かして
計10名の主将を飛ばした。突然の裏切りに混乱する袁術軍団へ同時に呂布軍団も突撃を敢行、
混戦が続く中、小沛棟からも劉備の援軍として20名ほどを率いた関羽が到着し、駄目押しの攻撃を
しかけた。結果、7手のうち2手が寝返ったとはいえ数において勝る袁術軍の総指揮官たる張勲の
部隊を大破し、次席指揮官たる橋蕤を生け捕りにする大勝利に終わった。

大勝利の殊勲として楊奉・韓暹は、利や衝動で何とでも動く連中という評価を裏付けたことも意に
介せず増長することになり、徐州・揚州校区で働く略奪・暴力行為も悪化の様相を示すようになる…。

294 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:46
連続で申し訳在りませんが、一応プロットなどを。

「チーマー100人切り(ぐっこ様執筆の作品"頭文字R"中で指摘あり)を
学三関羽が可能にするには、何らかの潜伏技術をもっていることが必須」
と考えていたところ、PS2で発売された立体忍者活劇”天誅3”をやって
「これだ、このネタつかえないか?」と思ったのがもとです。
徐州時代に、楊奉・韓暹が劉備に粛清されたところを使いました。
さしづめ、関羽が”力○”、張飛が”彩○”というところになります。


楊奉・韓暹が”天誅”される筋書きへ以下繋がるわけですが、ただやられるだけでは
つまらんと白波賊について書いているだけでながくなり、前後2編組みと相成りました。

295 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/20(金) 23:22
うお、さすが岡本さま、相変わらず圧倒的な文章量…(^_^;)
なるほどお、白波の本家逆取り…。

確かに純粋な軍事力としては、旧白波の連中は、一つの勢力と言えるでしょうねえ…
それを二人で蹴散らした関羽たんと張飛たんの活躍が見れるですね(;´Д`)ハァハァ…

296 名前:一国志3:2003/06/21(土) 16:40
>>289 教授様

  ∧ ∧     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 / Φ Φ    /思わず法正の髪の色を確認してしまったにょ。
○w ´∀`○<  ついでに、一国志3の立てたアフォスレも晒しあげするにょ。
 (  ○ )   \http://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1027249880 target=_blank>http://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1027249880
           \_____________________

297 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/24(火) 00:11
あ、懐かしい(^_^;)
うーん、ぼちぼちキャラに関するガイドラインも決めた方がいいかもしれませんねえ…

298 名前:教授:2003/07/01(火) 01:02
■■必撮! 仕事人 〜皇甫嵩編〜■■

CAUTION!
皇甫嵩ふぁんの方に袋叩きに遭う事請け合いなので、皇甫嵩ふぁんの方は見ない方がいいかも…

「ふむ…提出書類はこんな所だろう」
 凛とした顔立ちの少女は筆を置き、大きく息を吐いた。
 その鷹の如き鋭い目線の先には蛍光灯の光。
 時折点滅する、そんな蛍光灯を見てまた息を吐く。今度は溜息のようだ。
「公偉に蛍光灯の交換を頼んだのにな…全く」
 溜息の後は苦笑い、そして大きな伸びをする。
 彼女の名前は皇甫嵩。生徒会の重鎮としてその存在は全校中に轟き渡っている。
 先の戦では指揮官として数多の生徒達の舵を取り、己もまた最前線に立ち数多くの戦果を挙げた。
 厳しく前を見据える双眸には強く誇り高い意志、そして仇為す敵を射抜き退かせる獅子の威圧。その二つの強さが色濃く鮮明に映し出されている。
 肩の力を抜いている今もその光を失う事無く輝き続けている。
「蛍光灯の替えは無いのか…?」
 皇甫嵩は小会議室と呼ばれるこの部屋をごそごそと物色し始める。
 余談だがこの小会議室とは名ばかりで、実際は雑用雑務処理を行う為だけにある部屋だったりする。
 主に彼女や親友の朱儁や櫨植達が書類を整理したり資料を漁ったりしている。
 平たく言ってしまえば、ここは皇甫嵩達の専用作業スペースなのだ。
 ただ一人、丁原だけはこの部屋を休憩室代わりとして使用しており、やたらと散らかすので皇甫嵩達はその都度掃除をするなどの後始末をさせられている。
 当の本人は掃除が終わる頃に見計らった様に現れてゴミ捨てだけしていたりする。
 話が大幅に逸れてしまった――が、この部屋の構造が理解してもらえたと思うので善しとしておく。
 椅子に乗ってロッカーの上の大きめのダンボール箱を開く。かなり埃をかぶっており、動かすだけで咳き込みそうになりそうな塵が舞う。
 しかし、中には少々年代物の冊子や資料が入っているだけだった。
「無いな…仕方ない、明日にでも用意するとしようか…」
 ダンボール箱を片付け椅子を降りようとする皇甫嵩。
 その時、突然椅子がバランスを崩し上に乗っていた彼女を振り落としてしまう。
「なっ…うわぁ!」
 予期せぬ出来事に皇甫嵩は派手に転倒してしまう。
「いたた…いきなり何事…ぶふっ!」
 更に予測外の事象が皇甫嵩の身に降り注ぐ。
 転倒したはずみで先ほど物色していたダンボール箱が彼女の頭に落ちてきたのだ。それも謀った様に絶妙な間で。
 しかも皇甫嵩を直撃したダンボール箱はその衝撃で壊れ、中に入っていた埃まみれの書類の束が散乱する。
「…………」
 余りに突然の出来事に暫し呆然とする皇甫嵩。
 頭には冊子が乗り、制服は埃まみれ。先刻までの威風堂々とした姿は既に影も形も無くなってしまっていた。
 大量の書類と埃の山に埋もれるその姿は、さながら戦場後に立つ敗軍の将の様。
 丁度、その時だった。窓の外からキラリと何かが光ったのは。
「…何…っ! 何だ!?」
 皇甫嵩がその光に我に返った。
 そして光を確認しようと立ちあがろうとする――が、立てなかった。
 情けない事に腰が抜けてしまっていたのだ。
「くそっ! 動け!」
 ぺしぺしと自分の足を叩く。しかし、言う事を聞いてくれるはずもなく虚しい時間が流れるだけだった。
 そして最悪の事態が訪れる――
「義真〜。書類整理終わった?」
「そんなのテキトーにやっちゃいなよ〜」
 小会議室のドアが開き、朱儁と丁原が入ってきたのだ。
 その瞬間、世界が凍りついた。――刹那、二人の少女の爆笑が小会議室を包みこむ。
「見るな〜!! 笑うなぁ〜!!!!」
 顔から火を出さんばかりの勢いで頬を紅蓮に染め上げ怒る皇甫嵩。
 だが、朱儁も丁原もお腹を抱えて転げまわっておりとても聞いている風には見えない。
「どうかしましたか?」
 そこに遅れて櫨植が現れる。と、中の様子を一望して目が点になってしまう。
「これは…義真?」
「何でもない! とにかく…出て行ってくれ〜!!!」
 依然として炎色の顔で皇甫嵩が怒鳴る。
 しかし、皇甫嵩の姿を見ていた櫨植の頬に突然朱が差す。
 その表情に皇甫嵩がびくっと体を震わせた。
「ど、どうした?」
 動揺を悟られない様に努めて平静を装う。
「義真…その…」
 もじもじと目線を逸らす櫨植。そして――
「下着…見えてるよ…」
「………」
 再び凍りつく世界。
 流石に朱儁と丁原も笑いが止まってしまった。
「お…」
 皇甫嵩が右手に冊子、左手に辞書を握り締める。
「お前ら! でてけーっ!!」
 皇甫嵩の怒叫と共に書類一式が宙を舞い出した。
「うわぁっ!」
「痛っ! やめろーっ!」
 丁原は朱儁を羽交い締め、そして盾にしながらじりじり後退を始める。
 勿論、盾にされている朱儁が皇甫嵩の攻撃を受けている。実に悲惨だ。
 櫨植は既に外に退避してロザリオを握り締めていた。要領はかなりいい様子である…。
 こうして激しい放課後が過ぎていったのであった。

 後日――丁原、朱儁、櫨植の三人は皇甫嵩から口を利いて貰えなかったそうな。



 某棟某部屋――
「これ新聞に載せない?」
 簡雍が一枚の写真を劉備に見せる。
「…載せたいけど、流石にこれはあかんやろ…」
 皇甫嵩の醜態がはっきり映し出されたその写真に複雑な笑みを浮かべるしかない劉備。
 結局、この写真は世に出まわる事なく簡雍のアルバムの中に納められる事になった。

299 名前:★教授:2003/07/01(火) 01:04
名前間違えました…。

300 名前:★ぐっこ@管理人:2003/07/02(水) 00:45
(;´Д`)ハァハァ…教授様グッジョブ!
独特のストイックな重厚さと、とっさのときの間抜けっぷりの
ギャップがまたイイ!
もはや一種のパターンと化してますな。
それにしてもまー、散々簡雍たんのネタになってしまって(^_^;)

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