2009.01.01

34.小覇王

小覇王

  

 建安13年、春。
 新野城を進発した南蛮軍十四万余は、同じ南陽郡の首府・宛城を望む平原に展開した。
 おりからの小雨で視界がかすむ中、すでに要衝要衝を押さえている曹操軍の旌旗が遠望できる。 
 戦場「宛」は、マップ中央の森林地帯に塞があり、城の前を河が横切っているという、わりとオーソドックスな地形であった。

呂 布:ジジイ! 

黄 忠:なんじゃい! 

呂 布:あの塞が目障りだ!何とかしろ! 

黄 忠:いきなり年寄りに頼るな。  

 

 陣頭でだしぬけに言い合いを始める二人を後目に、公孫楼の白馬義従がスルスルと前進する。
 公孫楼の無言の指示で、劉備軍と関羽軍が右翼方面へゆるりと繞回をはじめ、張遼軍と高順軍が中堅を前進させる。 


呂 布:――で、こないだ地下鉄でさあ、お爺ちゃんの痴漢がいたんだよ。お爺ちゃんの痴漢が。 

黄 忠:儂ゃ知らんぞ。

呂 布:誰もオマエとは言っとらん!…で、その痴漢、俺様と同じ駅で降りたんだが、ホームに下りたとたん、女の人が「その男痴漢です!」って叫んでな。駅員が寄ってきたんで、お爺ちゃん、慌てて逃げ出したのだ。

黄 忠:ふんふん。 

呂 布:で、駅員さんとか、まわりの人とか、いっせいに追っかけはじめてな。お爺ちゃん、もの凄い勢いで階段駆け上るんだけど、そりゃ早い早い。あっという間に距離を離されてな。 

黄 忠:ほう。 

呂 布:で、俺様も追っかけなきゃならんと思って、一緒に追っかけたんだけど、エスカレーターの真ん中くらいで、蹴つまづいてコケちゃってさあ、後続の人がみんな一緒にコケちゃったんだよ。 

黄 忠:ぶっ! 格好悪いのう。

呂 布:結局お爺ちゃん、駅員二人の間をかいくぐって、改札機の隣の団体用出入り口をよじ登って逃げおおせたんだな、これが。 

黄 忠:…ひょっとして、それって公のせいではないのか? 

呂 布:がっはっはっは!

 

 黒煙が吹き上がり、山塞のひとつが炎に包まれた。
 どうやら、前線に到着した参軍・陳宮が総指揮を執り始めたらしく、南蛮軍の働きはますます精緻なものになる。
 森林に包まれた塞は、守りやすそうで、実はそれほどではない。山岳と違って「落石」の集団計略が使えない上に、類焼速度が早い。守備側の利点といえば、「奇襲」の成功率が格段に高くなるくらいであろう。
 劉岱や朱霊らはよく戦っているが、折からの猛火と南蛮軍の息もつかせぬ集中攻撃にさらされ、一隊、また一隊と、すり潰されるようにして兵を失ってゆく。
 ――このターン、洛陽方面から曹操軍の援軍が到着する。曹洪を主将とし、徐晃軍、于禁軍を含む大部隊であった。同時に、汝南方面からも満寵軍がかけつけ、曹操軍の数は一挙に倍にふくれあがった。
 が、ほぼ時を同じくして、遙か西方面より、おびただしい砂塵が巻き上がるのを、かなりの数の兵が目撃している。長安から緊急出動した騎馬軍団が、強行に強行を重ねて、戦場へ到着したのだ。主将の馬休のほか、馬雲緑、趙雲らの猛将ばかりであった。
 さらに、反曹を旗印とする諸侯の「連衡軍」が、次々と戦場へ到着をはじめた。
 

呂 布:おいジジイ! なんか他の連中の姿が見えんぞ! 

黄 忠:はて? そういえば向こうが騒がしいですの。 

 
 長安の時もそうであったが、曹操軍は混戦にこそ力を発揮する。1ユニットの攻撃力というよりも、そのバランスの良い「硬さ」が厄介であった。大部隊同士での消耗戦に引きずり込まれたときの疲労度は、たとえば南蛮軍や馬超軍などとは比較にならぬ。


陳 宮:いいか、確実に一部隊ずつだ! 正規軍のみを集中的に狙え!

 指揮官としては、そう命じる以外ない。
 このとき中央の塞へ迎撃に出ていたのは、正規軍の半数ほどであり、敵主力部隊はいまだ河の向こうにいる。
 これに、敵の10万におよぶ援軍が合流してしまえば、たとえ中華最強の南蛮軍といえども、その鉄壁を乗り越えて敵城を陥とす、あるいは敵正規軍を全滅させる、という絶望的な作業の中で嫌気がさして、むなしく全軍撤収ということになっていたであろう。
 が、このあたり、陳宮はせこい。わざと塞を陥とさずに、敵迎撃軍とジリジリ戦闘を続けている。
 ――ややあって、敵援軍がウジャウジャと河沿いに進軍し、陳宮らの索敵範囲にはいってくる。 

 

陳 宮:殿に伝令。――漫才をただちに中止し、老人とともに渡河されたし。

 マップ中央部の塞が健在なあいだ、一定のCOMユニットは敵も味方も、火に集まる虫の如く塞へ群がってくる。陳宮はそれを待っていたのだ。敵援軍の一部が城を離れて、こちらへ向かってくるのを。

 

呂 布:漫才だと!失敬なヤツだな! 

黄 忠:まったく! バカにするのも程がある!

 ぷんぷん怒りながら、一直線に敵城を目指す呂布と黄忠の鉄騎軍団。
 すぐに補給線の外へ出てしまうが、次のターン、それにあわせて中央部隊がすべての塞を制圧。呂布軍の行動範囲がマップ全体に及んだ。
 最初からそんなこと気にもかけない呂布と黄忠。猛然と河を渡り、城門前までやすやすと到達していた。
 

黄 忠:なんじゃ? 不用心な城じゃな…。

呂 布:やっぱアレだよ、危機管理というものをもっとだな…どわあ!

黄 忠:将軍…!? 


 油断であった。
 呂布、側頭部に矢を受けて落馬。
 あわてて駈け寄る黄忠、薙刀を振り回して、雨のように降り注ぐ飛箭を切り払い、呂布を救い上げた。呂布軍、2000ちかい犠牲を出しながらもなんとか体勢を立て直し、逆撃の構えをとる。
 至近距離で伏兵していた李典軍の一斉射であった。
 が、最初に李典の放った渾身の一矢は、呂布のコメカミからわずかに逸れた冠の留め金を射抜き、頭皮を貫通し、その頑丈な頭蓋骨で跳ね返っていた。着弾角度がもう少し急だったら、やすやすと脳に達していたであろう。

呂 布:い、痛って――――ッ!

李 典:外したか……  


 李典、観念の表情で弩をしまうと、麾下1万5千に攻撃を命じる。が、彼らは近接戦闘を苦手とする弩兵であり、対する呂布、黄忠軍3万4千とは、勝負にもならない。
 ――が、李典軍の粘りは想像を越える。


呂 布:くそったれが! 李典っ! どこだっ!

 ブチ切れた呂布が血眼になって血戦するものの、李典軍は善戦し、なかなか崩れない。そのターンのうちに、やはり伏せていた正規軍の他部隊や敵増援軍が攻撃を始め、黄忠軍と呂布軍は分断されてしまう。
 さらに、中央塞の失陥をうけて、慌てて城門へ駆けつけてきた敵援軍と、それを追って進軍してきた陳宮らが河向こうで戦闘状態に突入し、その混戦に連合軍が躍り込んでしまい、ほとんど泥沼状態となってしまった。
 結局、事態を打開したのは、いちど塞を目指して渡渉し、また逆に渡渉し直して駆けつけてくれた長安軍であった。


馬雲緑:将軍、ずいぶんと苦戦してるみたいね! 

呂 布:ふん!  遊んでるだけだ!

馬雲緑:あっそ。 

 馬超の妹は、生意気そうな微笑みを一瞬だけ呂布に向けると、すぐに李典軍へ突撃を敢行した。
 李典や徐晃といった諸軍は、あわててそちらへも兵を割いたが、それよりも早く、馬軍団が歩兵陣を蹂躙する。…

 ――長安軍の到着が決定打となり、宛の守備軍は総崩れとなる。
 最後まで踏みとどまって諸軍の撤退を援護していた李典軍は、信じられないほど激しい抵抗の後、全滅する。
 「正規軍の全滅」により、洛陽方面の援軍は南陽は呂布の手におちた。
 敵軍のあらかたは逃げおおせたが、最後まで抵抗した李典は捉えられ、他の捕虜とともに檻送された。
 呂布、すでに今日の狙撃が李典のものであるという報を受けている。

李 典:…。

呂 布:ふん、李典か。今日はヒヤッとしたぞ。 

李 典:族父の仇が討てなかったのが残念だ。

呂 布:何だ、それ?

 以前、呂布麾下の薛蘭と李封が、呂布の命を受けて大豪族・李家の一党を謀殺したことがある。が、呂布がそんな細かいことをいちいち覚えているはずがない。
 呂布が軽く合図をすると、屈強の兵士らが執刀を携えて、李典の後ろへ立った。
 脅しではない。実際これからの連戦を考えると、もうなりふり構わず敵将を斬ってゆかねばならぬのだ。
 

呂 布:オマエがうんと言ってくれんと、オマエを殺さねばならなくなる。…どうだ、俺様の部下にならんか?

李 典:ふん。

 鼻で嗤う李典。
 覚悟はとうにできているのだろう。実は戦が始まる直前に娘(登録武将。現時点で11才)を城から落とし、楽進のもとへ送っているのだ。
 呂布、もったいなさそうに良将の顔を眺めていたが、やがて手を上げ、振り下ろした。
 執刀が、李典の首があった空間を走り抜けた。
 惜しむべし、李典曼成は、まだ30も半ばの若さであった。

 ――南陽を押さえ、洛陽を指呼の距離においた南蛮軍。
 が、その活動は、なお滅亡とスレスレの崖っぷちを歩むものである。一度でも踏み外せば、いくらでも勢力差は逆転するであろう。
 手薄になった新野城へ、汝南から曹操軍が攻め込んできたのが同ターン内である。
 このときは守将の諸葛亮と援軍の黄権らの活躍で退けはしたが、ほとんど紙一重といってよい、際どい戦であった。
 宛で報を受けた呂布は、諸葛亮を賞揚すると同時に、速急の汝南攻略を命じる。
 …が、それよりも一足早く、汝南を攻略せんと兵を挙げる者がいた。
 江東の「小覇王」、孫策である。
 

呂 布:あーもう! 遅かったか~!

呂刀姫:どうされますか、父上。連合軍として、三部隊を援軍に出さないとダメなんですが。

呂 布:面倒くさいなあ…。


 呂布、頭をかいて諸将を眺めやる。
 みな、来るべき洛陽攻略戦に備えて準備をしている者ばかりであり、呂布と視線を合わそうとしない。おもむろに呂布が「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」と始めたので、皆ぎゅっと目を閉じて首をすくめている。
 結局、てんのかみさまが指名した気の毒な男は、張遼であった。

 

張 遼:ちっ…ツイてないな。

 

 苦笑しながら、佩剣をつかんで一礼し、座を去る張遼。
 他の人選は? という視線をうけて、呂布はあっさり言った。

呂 布:可愛い子には旅をさせろ。

呂刀姫:…?

呂 布:刀姫、可愛い。

呂刀姫:?

呂 布:――旅、OK!


 二人目、呂刀姫。
 結局、三人目は襄陽を守っている張燕に声がかかり、三部隊4万余は、準備でき次第の出陣となった。
 呂刀姫にとっては、はじめての連合軍参加である。
 呂布にしてみれば、別に勝つ必要もないこの戦争に、全力を投入する気はない。南蛮の旌旗を汚さない程度に戦って、さっさと引き上げてこればよいのだ。
 真面目一途な呂刀姫は、この点そういう任務に向いていないが、十分に世間ずれした張燕あたりが、その辺の呼吸を心得ているだろう。

呂刀姫:では、張将軍、頑張りましょう!

張 遼:…ま、頑張りましょう。


 馬をそろえて出撃した二人は、すぐに張燕と合流して、主戦場である汝南へと急ぐ。
 三隊が到着したのは、開戦後7ターン後くらいであろうか。
 孫策軍主力と曹操軍主力が、マップ中央の塞をめぐって激烈な白兵戦を繰り広げている最中であった。すでに許昌方面からの援軍が到着し、曹操軍はその陣容をどんどん厚くしつつある。
 

張 遼:一番乗りか。

張 燕:…他の援軍到着を待つかな。


 と、オトナ2人が打ち合わせを始めるその傍らを、呂刀姫軍が駆け抜けた。まっしぐらに敵部隊へ突撃しようと言うのだ。

張 遼:COMかよ、あのお姫様は!。


 舌打ちして、慌てて追いかける両将軍。
 もう呂刀姫は、自ら戟を舞わして敵陣の一郭を切り崩し、敵将王忠を追い回している。

張 燕:あらあら気の毒に…。


 結局のところ、この三軍団の早期参戦が功を奏したのか、他の諸連合軍が到着する頃には、敵主力部隊はあらかた全滅し、中央部の塞は孫策軍の制圧するところとなった。
 総帥孫策を筆頭に、黄蓋、韓当などといった猛将の攻撃を支えきれず、敵軍団は次々と潰走をはじめた。
 最終的には、おきまりの消耗戦となったが、孫策軍、鮮やかすぎるほどの快勝であった。

 ……
 追撃戦を終え、諸将が次々と帰投してくる本陣。
 呂刀姫は、軍団の収集を二張将軍にゆだね、ひとり孫策の元へ挨拶に訪れた。
 この日の呂刀姫の戦績は、1部隊の殲滅と2部隊のアシスト。おそらく孫策軍の誰よりも活躍したであろう。
 その昂奮もあって、呂刀姫は揚々と陣幕をくぐる。
 ――薄暗い本幕の中は、ちょうど諸将が参集したばかりと見え、あわただしく席が整えられているところであった。 両列にずらりと諸将が座り、一番奥中央の床几は、まだ空席であった。
 が、そのすぐ傍らに、ひとりの青年士官が思案顔で立ちつくしている。
 白戦袍の上に銀鎧をまとう青年は、白銀造りの剣把を無意識に弄しながら、何かを待っている風情であった。
 呂刀姫、青年の顔を見て、その美しさに思わず息をのむ。
 と、青年は、天幕から入ってきた少女の姿に気づいたらしい。ちょっと驚いた表情を浮かべると、にこっと頬笑んで歩み寄ってきた。

周 瑜:姫君、気づきもせず、申し訳ありませんでした。今回の参軍をつとめた周瑜と申します。

呂刀姫:…は、はじめまして。り、呂鳳と申します…。

周 瑜:お疲れでしょう。すぐに姫の席を用意させます。 

呂刀姫:え、いえ…っ。た、ただ討逆(孫策)さまにご挨拶をと――

周 瑜:それが、将軍は敗走する敵を討つのが何よりもの趣味でして、まだ戻って参らぬのです。どうぞそれまで、この陣でくつろいでください。


 周瑜が再三、席を促すものだから、呂刀姫もどぎまぎしながら、陣の中へ招き入れられた。
 東呉の諸将軍も、噂に聞く呂布の娘とはどのような鬼姫であろうかと思っていたらしいから、呂刀姫の、どちらかといえば可憐な外貌に驚いた様子である。
 ――と。

? ?:…ふん、オオカミの娘が、手柄面で、報償を戴きに来おったわ。

 50人ほどの部将の中から、だしぬけに、その声が呂刀姫の前へ放り出されたのだ。

呂刀姫:え…?


 思わず立ち止まった呂刀姫は、茫然として、居並ぶ諸将を見た。
 謹直そうな顔が並ぶ一隅に、確かに面白くなさそうな顔をしている集団があった。もともと呂布の台頭を快く思っていない連中であろう。
 

? ?:…父も父だが、娘はもっと油断ならんらしいな。

 ひとりがそう言うと、その周りから追従するような笑いがおこる。

呂刀姫:……っ。

 

 呂刀姫、さすがに信じられないのか、立ち尽くして声も出ぬ。いくら剛毅に育てられようと、やはりお姫様であった。ここまで直裁で露骨な悪意にさらされたことが、これまでに無かったのだ。
 それでも健気なもので、ぎゅっと手を握って、何事もなかったように、呂刀姫はその男たちの側を通り過ぎようとする。

? ?:…けっ!


 唾を吐く音を、泣きそうな顔で無視しようとする呂刀姫の傍らを、白い長套が通り過ぎた。
 周瑜はそのまま呂刀姫とすれ違い、くだんの男たちの前へ立つ。
 彼らは反周瑜派でもあるのか、この美貌の都督に対しても、うさんくさそうな表情を浮かべて畏まっていた。

周 瑜:…。


 一言も言わず、一言も言わせず、周瑜は首領らしい男の頬を、手の甲でしたたかに撃った。
 頬を張る、などというやさしいものではなかった。
 男は広い陣幕の端から端へ吹っ飛び、騒々しい音を立てて地面に叩き付けられ、まるで吸い出されるかのように、陣幕の出口まで滑走していった。
 さすがに、他の男どもも居並ぶ諸将も、蒼白になって天幕の出口を眺めるだけであった。
 ――と、その男と入れ違うようなかたちで、緋の戦袍に金鎧という、目にもあざやかな装いの青年が、大股に入ってきた。
 列将、慌てて立ち上がり、拝礼した。
 彼こそが、いにしえの項羽と擬して「小覇王」と称され、江東に紅い旋風を巻き起こした孫策伯符そのひとである。
 孫策、きょろきょろと中を見渡し、だいたいの事情を悟ったらしい。

孫 策:…なんだよ公瑾。いつもおれに部下を打擲なさいますなと叱言を言いながら、肝心のお前がそれではダメだろう?

周 瑜:申し訳ありません。 

孫 策:ふん。

 
 すました顔で頭を下げる周瑜に、孫策も苦笑をむけただけで咎めようともしない。
 孫策は呂刀姫の方に向き直ると、日焼けした精悍な顔に白い歯をうかべて、ただひとこと、

孫 策:孫策です。

 

 と名乗って破顔した。
………………
……………

 ――連合軍の呂布本陣。
 将帥の宿舎に割り当てられた館の院子から、美しい月が見えている。
 明日には本国へ引き揚げると言うことで、帰り支度も済ませた呂刀姫は、欄干のうえに腰掛け、、蒼白い光の中、ぼんやりと物思いに耽っているようである。

張 遼:姫様、明日は早いですぞ? そろそろお休みになられては。

呂刀姫:張遼将軍

張 遼:はい?

呂刀姫:周瑜将軍や孫策将軍は、奥方がいらっしゃるのでしょうか?

張 遼:…はあ。

 張遼、慎重な表情で呂刀姫を見やり、答えを選ぶ。

張 遼:確か、大喬、小喬という江南一の美人姉妹を、それぞれ妻に迎えたとか聞きますね。

呂刀姫:……張遼将軍。

張 遼:はい?

呂刀姫:そのお二人は、私なんかよりずっと美しいのでしょうか?

張 燕:ぶっ

 後ろの方でちびりちびり飲んでいた張燕が、鼻から酒を吹き出して咳き込んでいる。


張 遼:あー…その、見たことないんで。

呂刀姫:…うん…。

 呂刀姫、もう聞こえていないのか、糸のように細い新月をぼんやり眺めている。
 張遼と張燕は、そっと拝拱して姫の元を辞した。


張 遼:おい、張燕。何かとんでもないことになってないか?

張 燕:わはは、張虎には手強いライバル出現だな。

張 遼:勘弁してくれ…。

 苦笑して頭をふる張遼。ふと表情を改めて、僚友を見る。

張 遼:ところで、あの孫策と周瑜の若大将だが、どう見た?

張 燕:噂どころじゃないな。あんな傑物ふたりが、よくもまあ、同い年で隣に住んでたものだぜ。

張 遼:ああ、俺もそう思う。

 …いささか厳しい表情で、二人は夜の回廊を歩き去った。  
 
 建安13年、春。呂布は宛に本営を移し、洛陽を臨む位置にある。
 すでに長安へ、出撃命令が下っている。
 ――潼関を抜け、弘農を攻略すべし!
 長安の馬超軍団は、数日前の事前決議を受けて、すでに出撃準備を整えているであろう。
 予備兵力を含めると20万にも及ぶという西方軍団が、いよいよ本格的に中原へなだれ込むのだ。
 「洛陽にて会合せん」
 その約束を果たすために。
 

  呂布の中原進出がはじまった! 洛陽と許昌を目前にし、東西歩みをそろえて曹操を討つ! いよいよ本格化する対曹操戦争前編、次回、クライマックスです!

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