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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

250 名前:★教授:2003/04/12(土) 00:15
■■ 甘寧VS凌統 ROUND 1 ■■


「あのアマ! どこいきやがった!」
 胸元を押さえながら甘寧が更衣室から飛び出してきた。
 周囲で休憩していた長湖部の下っ端(酷)連中が驚き振り返る。
 ――が、全員が瞬間的に顔を俯かせた。
 彼女達の目に映ったのは、まさしく『鬼』だったからだ。
「おいっ! 凌統がどこ行ったか知らねーか!」
 空腹の極限に達した獣の咆哮のような怒声が下っ端に向けて放たれる。
 特に何も悪い事をしていないはずなのに、小さく縮こまる下っ端達。
 泣き出す女子もちらほら窺えた。
「し、知りません…」
 泣きそうな顔で一人の女生徒が勇気を振り絞る。
 だが、これは薮蛇だった。
「…隠すとタメにならねーぞ…」
 未だ胸元を押さえる甘寧がずかずかとその女生徒に近づく。
「ほ、本当に知らないんで…ひぃっ!」
「さっさと吐け! 今すぐ言わねぇと…潰す!」
 必死に知らないと言い張る女生徒の胸座を掴みあげ脅す甘寧。
 怒声だけで泣きそうだったのに、間近で物凄い剣幕を見せつけられる。
 もうそれだけで失神しそうになっていた。
 しかし、この哀れな子羊を神様は見捨てなかった。
「はい、ストップね。この子、本当に知らなさそーじゃん」
 甘寧の腕を横から掴む手。
 ぎろりと甘寧がその手の主を睨みつける。
 と、その姿を確認すると同時に目許が緩んだ。
「魯粛…」
「何があったワケ? それよりも、解放してやりなよ」
 いつも通り、どこか人を食ったような笑顔を向ける魯粛。
 甘寧は軽く舌打ちして女生徒から手を放した。
「うんうん。ただ恐いだけの先輩じゃダメだしね。その点、興覇は流石だよ」
「そ、そうか?」
 それとなく甘寧を誉める魯粛。
 だが、甘寧には見えないように周りの下っ端に手をひらひらと振っている。

――今の内にどっかいけ

 意味を理解したのか、そろそろと女生徒達がこの場を後にしていく。
「…で、何で怒ってるわけ?」
 魯粛は胸元を押さえる甘寧の手を見ながら尋ねる。
 その視線に気付いた甘寧が顔を紅潮させた。
「じ、じじ…じろじろ見んなよ!」
「いーじゃん、別に減るもんでもないし。それよりも何で?」
 照れ隠しに怒る甘寧に受け流す魯粛。
 口上ではやはり魯粛の方が一枚も二枚も上手のようだ。
「凌統だよ! あいつ…あいつが!」
「凌統?」
「あいつが俺のサラシ盗んでいきやがったんだよ!」
「ふーん…って、興覇…あんたまさか…」
 魯粛が訝しげな表情を浮かべた。
 そして、再び甘寧の胸元に目線を送る。
「な、なんだよ…」
「もしかして…世間一般で言うところの…『のーぶら』…ってやつ?」
 禁断の単語が魯粛の口から飛び出した。
 甘寧の頬の赤みに更に赤が追加されていく。
「は、はははは…恥ずかしい事言うなーっ!」
「わっ」
 思わず甘寧が魯粛を掴み上げた。
 この行動は後に甘寧のトラウマランキングの1位を独占する事になる。
 掴み上げられた魯粛がぽつりと一言呟いた。
「…丸見え」
「…え?」
 甘寧は一瞬理解できなかった。
 ふと魯粛の視線を辿り…そして――
「…っわああああっっっっっ!!!!!!」
 甘寧は魯粛を放り出し、何処へともなく走り去って行った――


 ――その頃の凌統

「ふふ…どんな反応しているのか楽しみー♪」
 くるくると指先で甘寧のサラシを回していましたとさ。

 後日、凌統は何者かの闇討ちに遭ったそうな――

251 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/12(土) 20:44
Σ(´Д`;)ハァハァ…
の、のーぶらの興覇たん…ウッ

ていうか公績たんは後先考えて行動するべきだと思うのですよ。
でもこの二人って、その場の思いつきでイタズラはじめるから楽しいですねえ…

教授様のSSでは長湖部の狂言まわしは魯粛たんに定着してきましたな(゚∀゚)
曹操陣営だと、誰が適任なんだろうか…

252 名前:★教授:2003/04/20(日) 23:32
■■甘寧VS凌統 ROUND2 -魯粛プロデュース 前編-■■

「甘寧! 今日こそ白黒はっきりつけてやる!」
「突っかかってくるのもいい加減にしろよ!」
 ロッカールームで衝突中の甘寧と凌統。
 厳密には凌統が甘寧に突っかかってるだけなのだが。
 周りで着替え中の除盛と丁奉は別段気にする素振りも見せない。
 目の前で繰り広げられてる軽い修羅場は彼女達には見慣れたものだったのだ。
「またやってるよ。毎度毎度飽きないもんなのかな…」
「いいんじゃない? それで本人達が楽しければ」
 所詮他人事の二人。
 だが、凌統の投げたボストンバック(水着やら体操服がぎっしりつまってる)が除盛の側頭部に直撃。
 くるりと一回転してコミカルに倒れる。
「じ、除盛!?」
 丁奉が慌てて除盛を抱え起こそうとする。
 しかし、今度は甘寧の投げたボストンバック(鉄アレイやらメリケンサック等の凶器がぎっしりつまってる)が丁奉を襲った。
「ぐはっ」
 後ろ頭に直撃した勢いで除盛の上に覆い被さるように倒れる。
 そんな哀れな被害者二人を全く意にも介さない甘寧と凌統。
 一方的に突っかかられている甘寧もそろそろ我慢の限界なのだろうか。
 こめかみにピクピクと血管が浮きあがり今にも襲いかからんばかりだ。
 と、ロッカールームに一人の女生徒が入ってくる。
「…またやってるの。いい加減にしなさい、二人とも」
 優雅な物腰で嗜める。
「あぁん…? ひっこんで…」
 タンカを切りながら振り返る甘寧と凌統。
 その目に映っているのは、周喩だった。
 周喩はダウンしている除盛と丁奉の様子を見ると、厳しい目線で二人を見据える。
「う…」
 甘寧も凌統もばつが悪そうな顔をしながらたじろぐ。
「二人とも、今からグランド30周! さっさと行きなさい!」
 周喩の怒号がロッカールームに轟く。
「はいいっ!」
 二人は稲妻のような勢いでロッカールームから出て行った…。


「くそぉ…オメーのせいなんだからな!」
「ふざけないでよ! そっちが悪いんじゃない!」
 甘寧と凌統は走りながら責任転嫁を繰り広げる。
 その下で肘や蹴りが飛び交っているのは言うまでもない。
「後1周だぞー。頑張れー」
 グランドの真ん中でメガホンを片手に魯粛の棒読みの応援。
「子敬! もう少し気持ち篭めろよ!」
 毒づきながらペースを上げる甘寧、そして負けじと凌統が横に並ぶ。
 そのまま二人が並んでゴールした。
「わ、私の方が…少し早かった…」
 息を切らしながら凌統。
「な…何言ってんだ! 俺の方が先だったろうが!」
 甘寧もぜぇぜぇ言いながら反論する。
 そこへ魯粛が近寄ってきた。
「凌統、残念〜。甘寧の方が先にゴールしたぞー」
 薄笑いを浮かべて甘寧の手を掴んで挙げる。
「な…!」
 納得がいかない様子の凌統と勝ち誇った様子の甘寧。
「残念だったな〜。やっぱ、俺の方が早かったみたいだわ」
「納得いかないよ! 何で!?」
 地団太を踏んで悔しがる凌統。
「そうだな〜。胸の差ってトコかな?」
 甘寧の胸を指で突つき、真顔できっぱりと言い放つ魯粛。
 愕然とする凌統、そして…
「な…!? は、恥ずかしい事言うなーっ! って…触るなーっ!」
 頭の芯から真っ赤になる甘寧。
 しかし、魯粛はその抗議の声を余裕で無視する。
「さて…二回戦に移ろうか。次の種目は…これ!」
 魯粛は懐から出した一枚の紙を二人に見せる。
「二回戦って…こ、これは…絶対嫌だ!」
「へぇ…面白そうじゃない」
 紙を見た途端に体全体で拒否する甘寧。
 それとは正反対に興味深深の凌統。
 その紙には『コスプレ対決』と、でかでかとマジックで書かれていた。
「絶対嫌だ! 別の事にしようぜ! なっ!」
 泣きそうな顔で魯粛に詰め寄る甘寧、必死だ。
 そこに凌統がにやにや笑いながら近づく。
「試合放棄? なーんだ、情けないな〜」
「なんだと!」
 甘寧が凌統に向き直る。
「逃げるの? いや、別に構わないけどね」
 この言葉にカチンと来た甘寧。
「誰が逃げるか! やってやらぁ!」
 勢いと怒りでつい口走ってしまった。
「じゃ、勝負は明日の昼休みで決まりね」
「え? あ、いや…これは勢いで…」
 甘寧は慌てて自分の発言を取り繕おうとする。
 ――が、時既に遅し。
「それじゃ、明日の昼休みまでに何するか決めといてね」
「分かったよ」
「ち、ちょっ! 子敬! 待てって!」
 二人に投げキッスを寄越して魯粛はさっさと校舎に入っていった。
「明日が楽しみね。それまで首は預けとくわ♪」
 自信に満ちた顔の凌統が挑発の言葉を投げかけてグランドから出て行く。
「…マジか…?」
 甘寧は呆然とグランドに立ち尽くすしかなかった…。

 そして、運命の朝がやってきた――。

253 名前:アサハル:2003/04/22(火) 22:12
甘寧って既に殆どコスプレっp(ry

徐盛と丁奉の見事な巻き添えっぷりにとりあえず笑わせて頂きました。
胸の差って…ってことは凌統の胸はサラシ巻いた甘寧より小…

ところで魯粛って「〜しなさい!」と命令口調で言われたら
「ああん?誰に向かって口利いとんじゃこのアマ!!」って
逆ギレしそうな気がします。何となく。

254 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/22(火) 23:41
ハッΣ(´Д`;)コス対決…っ
しかしながら甘寧の方が、外貌的にバリエーション豊富な気もするが…
凌統たんはどう巻き返すのか!?

>凌統の胸はサラシ巻いた甘寧より小(ry
ワロタ。言われてみれば…
魯粛は周瑜のマブだったりしますので、確かに逆ギレするでしょうねえ…

255 名前:岡本:2003/04/24(木) 02:59
■十常侍の乱(前)■

既に末期化していた蒼天学園連合生徒会の不甲斐無さが形に現れたのが黄巾事件とそれに触発された各地の反乱と見るならば、後の群雄割拠に示される学園騒乱の実質的な幕開けは何進のリタイアとそれによる洛陽棟の混乱−“十常侍の乱”−にあると目されることが多いだろう。

アイドルである妹の“Kai”がファンであった前蒼天会会長・劉宏とその妹・劉弁と姉妹の誓を交したことで、“垢抜けないもののちょっと愛嬌のある肉屋の看板娘”として平凡な学園ライフをおくるつもりだった何進の運命は急展開を示した。
なんと劉宏自身のご指名で、蒼天学園の実質最高責任者といってよい連合生徒会会長に推されたのである。ただ、何進自身はそれなりに頑張ってはいたものの、所詮“それなり”で、連合生徒会会長としての思考のスケールや実行力といった器量の需要と供給の天秤が完璧に破綻していた。野心など薬にもしたくない“気の優しい近所のお姉さん”の域を超え得なかった以上、正規の役職に着かない方が幸せであったのは間違いない。頼みの綱である連合生徒会の官僚組織ですら華夏研究学園都市の13校区を切り盛りするどころか、なんのかんの文句をつけ山のように送り届けてくる問題に対処しきれず運営機関としては末期症状を示していたのであるから悲惨であった。それに加えて黄巾賊蜂起というダブルコンボが見舞ったのであるから目も当てられない。
皇甫嵩・朱儁・盧植・といった将達が奮闘し首魁たる張角3姉妹達を処断することに成功したものの、自らの利権にのみ汲々としている蒼天会執行部“十常侍”が劉宏を動かし玉である彼女らを連合生徒会から放逐処分にすることになり、ダメージを受けた連合生徒会の傷口に薬を塗るどころか毒を塗る結果になった。劉宏に蒼天学園の現状を訴える声が直に届かない以上、唯一十常侍の障壁を超えて劉宏に話ができる何進が現状回復を訴えるのがとるべき方法であったのだろうが、悲しいかな何進自身の思考のスケールで把握できる世界がそれこそ洛陽棟に所在を構える蒼天会と連合生徒会が精一杯であり、“現状”の意味する蒼天学園規模での危険性を把握することなど不可能であった。
結果として中央集権を放棄し有能な(言い方をかえると野心に溢れた)人物を校区生徒会会長として送り込むことで各地の反乱に対処し安定化を図ったわけであるが、各校区の独立化に拍車を掛けることになる。

何進の勢力基盤は名目上とはいえ蒼天学園の最高権力者たる蒼天会会長・劉宏が持てる権力にあったのだが、これを独占していたわけでなく、蒼天会執行部“十常侍”と折半していたに過ぎなかった。
黄巾事件後の何進の連合生徒会会長としての役目は互いの存亡をかけた十常侍との権力の綱引きに終始することになる。

では、なぜ蒼天会と連合生徒会の連絡・調整役たる蒼天会執行部“十常侍”がそれほどの権力を持ちえたのであろうか。それについてはまず“カムロ”という存在について触れねばならない。
くだらないと思われる節もあるが、中華研究学園都市には奇妙なジンクスがある。
“位階・威勢を極めた組織の初代会長はなぜか胸が無い。”
それに反して、抗争で敗れたライバル達や組織のNo.2以下の部下達、そして2代目以降の会長は
通常の統計どおりにばらけているか、あるいは非常に均整のとれた容姿を誇っているのである。
例を挙げれば
連合生徒会 始会長・政
蒼天学園 校祖 劉邦
蒼天学園 光武サマ 劉秀
は全員、“のっぺり”した体型、ぶっちゃけた話“ぺた”であったらしい。
それに反して、劉邦と最後まで覇権を争った項籍、勢力を警戒されて粛清された韓信、黥布、彭越は全員非常に魅力的な体型をしていたという。
男性でも、シーザーは若禿が入っていてナポレオンが小男と外見上のコンプレックスをもっていたことを考えると、人生妙なところでバランスが取れているのかもしれない。
現在でも“神聖Aカップ同盟”という秘密同盟があるが、そもそもの起源は政や劉邦が過去の因縁を忘れて肝いりで作った“洗濯板同盟”である。皇帝の高貴な容貌のことを”龍顔“というが、蒼天学園においては伝統的に蒼天会会長の容姿を”龍体“という。龍体=流体、つまり流体力学上抵抗の非常に少ない理想的な形、というひどい駄洒落から来るネーミングである。

なにはともあれ、位人身を極めた面々にとって、公私を問わず日常生活において外観上の理由で不快感を覚えるのは堪える物が有ったらしく、日常生活上の側近という形で“女性らしさを自分以上に感じさせない”者たちをパシリとして使ったのが“カムロ”の始まりといわれている。
“カムロ”即ち“禿”で、そもそもは平家が間諜として用いた髪を短く切りそろえた少年をさす言葉である。
蒼天学園では、
1.髪を“おかっぱ”といっていいショート・ボブまで切り詰め、
2.少年と見まがうばかりに胸がない、ブ○ジャ○いらずの
者が該当した。
最初は何らかの不始末をしでかした者のうち、2に該当するものが“焼きを入れる”ということでリンチまがいに女の子の命である髪を短く切られ、ブ○ジャ○なしかサラシのみの着用に制限され、“カムロ”になっていた。なお、この刑を女性にとって恐怖の刑ということで“怖刑(ふけい)”といっていた。
彼女たちは、そもそもが処罰者ということで能力を必要とする実務上の権限を初めは全然持たされていなかったのだが、形式上とはいえ最高権力者たる蒼天会会長にもっとも近い位置にいて連合生徒会との連絡・調整役を勤めるようになったことからだんだん権力を身に帯びるようになってきた。この風潮は悪化し、後には蒼天学園内で権力を手っ取り早く掴む方法として、蒼天学園の学生としての3年間、 “女性”としてのおしゃれは日常でも厳禁というデメリットにも関わらず自ら“カムロ”に志願するものもでるようになった。事実、曹操が実姉のようにしたった従姉妹の曹騰も志願した“カムロ”であった。

さて、話を元に戻すと、互いの存亡をかけた何進と十常侍との権力の綱引きは、情勢の判断力が決定的に不足していた両者のダブルノックアウトという形で終焉となる。
蒼天会及び連合生徒会がもはや野心に溢れた群雄に対してなんら強制力を持たないという事実はこの事件によって周知の事実となる。むしろ、この時期は、強制力と野心による反発がぎりぎりの均衡を保っており、誰かが先鞭を付けてしまえばあっさり天秤が傾く状態にあったといえるだろう。
これに気づいていた居た者は蒼天会及び連合生徒会内部にはごくごく少数しかおらず、何進と共に狂言回し的な役割を演じた者に、後に河北の巨人として知られる袁紹がいる。具体的には、独立化して強大な力を持つようになった各校区の群雄たちを十常侍達への抑止力として運用しようと考えたのである。危険を感じた十常侍は一発逆転を掛け、詫びをいれるという名目を立てに何進を彼女らの本拠地たる洛陽本部棟へおびき出し始末することを計画する。うかうかと乗ってわずか数名の随員と共に洛陽本部棟へ赴いた何進は、十常侍ら“カムロ”の闇討ちですっとばされることになった。もともと“カムロ”に嫌悪感を抱いていた袁紹は、何進のあだ討ちとばかりに反撃にでることになる。
十常侍の乱当日の袁紹の対処については以下のような記録が残っている。

256 名前:岡本:2003/04/24(木) 03:00
■十常侍の乱(後)■

“何進連合生徒会会長、十常侍に討たれる!”の報は洛陽棟郡全域に野火の勢いで広がっていた。数日間の連合生徒会対蒼天執行部の情勢は非常に緊迫していたこともあり、夜にも関わらず洛陽本部棟前の広場へ集まってくる学園生は多かった。にもかかわらず、便乗してそういった学園生相手に飲食系サークルが臨時店を開いているあたり、蒼天学園生のしたたかさを感じさせる。広場の片隅のオープン・カフェも時間を延長して店を開けており、情勢を見守る学園生が多く詰めていた。

袁紹本初が急ごしらえの演壇に立ち、立ち並ぶ生徒たちにむけ激を飛ばす。彼女らは連合生徒会の実働機関たる連合生徒会執行部の部員たちだ。袁紹はその恵まれた容姿と声、機知に飛んだ文句で演説達者として知られていた。ただし、オリジナリティは模倣から始まるとはいえ、その文言は借り物が多かった。

『我々は一人の英雄を失った。これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!
十常侍に比べ我ら連合生徒会構成員の総課外点数は30分の1以下である。にも関わらず今日まで活動し続けてこられたのは何故か!執行部の諸君!我ら連合生徒会の活動目的が正義に他ならないからだ!一握りのカムロ達が中華市全域にまで膨れ上がった蒼天学園を支配して20余年、中華市に住む我々が自由を要求して、何度連中に踏みにじられたかを思い起こすがいい。連合生徒会の掲げる、学園生一人一人の自由のための戦いを、天が見捨てる訳は無い!
我らが連合生徒会会長、諸君らが愛してくれた何進は倒れた、何故だ!』

血管が数本音をたてて切れそうな勢いで熱弁を振るっていた袁紹が、聴衆の反応をみるため、そして演説にインパクトをつけるため、一息ついた。朗々たる袁紹の美声は、演壇前に集まっていた数十名の執行部員はもちろん、広場の全域に届いていた。ざわついていた広場全体がしんと静まり返る。
そのとき、オープン・カフェの片隅で、夜にも関わらずサングラスをかけ、ちゅ〜とクリーム・ソーダを飲んでいた燃えるような赤毛が印象的な小柄な生徒がぼそっとつぶやいた。
「へタレだったからよ。」
カフェにいた全員の視線が彼女に向く。その視線を気にした風も無く、再びストローを口に咥えた。
ちゅーーー、ズズズズズッ!
格好をつけたものの、クリーム・ソーダが既に無くなっていたことに気づかず、間の抜けた音がカフェに響く。バツの悪い空気が流れた…。
「だからええ格好しぃはやめろっていったろう、孟徳!」
「ここでやらずして何がお約束よぉ〜!」
相席していた片目に眼帯をつけた大柄な生徒が顔を真っ赤にして、すみません、すみません、と周りに頭を下げて小柄な生徒をひきずっていく…。
“なにをしたかったのかしら、孟徳は…。”
少々毒気を抜かれたものの、予定どおりに袁紹は演説を続ける。
『・・・学園内の混乱はやや落着いた。諸君らはこの混乱を対岸の火と見過ごしているのではないのか?しかし、それは重大な過ちである。十常侍に代表されるカムロ達は唯一絶対の犯すべからざる蒼天会会長を擁して生き残ろうとしている。我々はその愚かしさを十常侍の万札章所持者達に教えねばならんのだ。何進は、諸君らの甘い考えを目覚めさせるために、倒れた!勝負はこれからである。我々の体制は復興しつつある。十常侍とてこのままではあるまい。諸君の母も姉も、彼女らカムロの無思慮な抵抗の前に倒れていったのだ。この悲しみも怒りも忘れてはならない!それを何進は自ら連中の矢面に立つことで我々に示してくれたのだ!我々は今、この怒りを結集し、十常侍に叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。この勝利こそ、階級章剥奪者全てへの最大の慰めとなる。蒼天学園生よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ学園生!生徒会は諸君等の力を欲しているのだ。Victory for Students!』

拳を突き上げ気勢を上げる袁紹にまずはサクラの袁術が、そして息のかかった執行部員達が呼応して喚声を上げる。広場に様子を見に来ていた連合生徒会とは直接関係のない生徒たちも、雰囲気に呑まれたのか徐々に気勢を上げる面子が増え、ついには喚声が広場全体に響き渡り洛陽本部棟を揺るがせた。
“よしっ、正義は我にあり!”
「蒼天学園の勇者達よ!いまこそ“カムロ”を一掃し、学園に秩序を取り戻すのだ!門を開けよ!」
身の軽い者数名が本部棟正門を内側から開けんと、素早く塀を乗り越える。
まさか強行するとは思っていなかったのだろう、正門に警備兵はおらずすんなりと門は開いた。
竹刀を手にした袁紹を先頭に本部棟敷地内へ執行部員達は雪崩れ込んだ。
目指す本部棟の入り口には流石に警備兵がおり、突然の乱入者に色めき立った。蒼天会所属の警備兵は儀礼的意味合いが強く(どこの国も近衛師団は最弱)生徒会執行部員には及びもつかないが、騒がれると面倒である。自身で制しようとした袁紹を抑えて、鉢巻を締め白襷を掛けた袁術が稽古用薙刀を構えて進み出る。
「わたくしたちの路を遮るとおっしゃいますの?袁家の路を阻むなど、身のほど知らずもいいところですわね。」
薙刀が袁術の頭上でひゅんひゅんとうなりを上げたとみるや、刃と石突が警備兵の脛を連続して薙ぎ払う。たまらず転倒したところを留めと肩を打ち据えられ、あわれな警備兵は失神した。
お嬢様芸とはいえ、見事なものである。打ち倒した警備兵を尻目に快哉をあげる。
「いいですこと?わたくしの字は公路。わたくしの歩いた後に路はできるのですわ、おーほっほっほっ!」
妹の高ビーぶりに額を押さえたものの、袁紹は気を取り直して指示を下す。
「行けぃ!突入せよ!蒼天会会長を“カムロ”どもに渡してはならん!!」
袁紹の号令と共に、喚声を上げて執行部員達は本部棟へ乱入した。“カムロ”達と執行部員達との乱闘いや、戦闘力において遥かに勝る執行部員による一方的な“とばし”が随所で発生した。怒号と悲鳴が木霊し、蒼天学園の中心地たる洛陽本部棟は戦場と化した。

この時、洛陽本部棟には“カムロ”以外にも残務整理等にあたっていた蒼天会事務系生徒達が数多くつめていた。“カムロ”達は余り連合生徒会実働部員との接点が少なく、十常侍のような高位階級者ですらあまり顔を知られていなかった。
カムロの特徴は上に述べたように、
その1:“おかっぱ”と言っていいほどのショートカット・ボブ。
その2:実際にあるかないかは別にして、外観上は“ぺた”。下着は無しかサラシ。
必然的に、ショートカットで、“ない”者たち=“カムロ”と見なされ、該当者は実際にカムロであるかどうかに関係なく次々に捕捉され、階級章を剥奪された。
突入隊が外観だけを頼りに見境無く捕捉していることは直ぐに判明したため、この難を乗り切った“カムロ”でない該当者たちには、拘束されかかると前を開いて、「ないけど、ブ○着けてる〜!!」という涙混じりの屈辱的宣言を余儀なくされたものも多かったという…。

他の“カムロ”の面々が見事何進を屠ったという事で勝利確定と暢気に祝杯をあげていたなか、十常侍の事実上リーダーたる張譲は少しは連合生徒会内部の力関係が見えていたのか部下を本部棟入り口に貼り付けていた。急報で袁紹・袁術姉妹率いる生徒会執行部員の乱入を察知するや、かねてから用意していた付け髪と夜食の肉饅頭2個で偽装し、勝手知ったる洛陽本部棟の最短距離を疾走した。
“会長さえ押さえれば、まだ交渉の優位はこちらにある。”
半分寝入りかけていた現蒼天会会長・劉弁と従姉妹の“陳留の君”劉協を、突入隊が会長室に到達する前に確保することに成功。事態がつかめず、蒼天会会長の所在を吐かせようと本部棟の最深部まで突入してきた袁姉妹らに次々にとばされる他の十常侍や“カムロ”を見捨てて数名の側近と共に裏口から逃走したのだが…。洛陽棟の郊外で手ぐすね引いて待っていた涼州の餓狼の顎に落ちることになる。

袁紹は強硬手段をとることで、連合生徒会の天敵ともいうべき“カムロ”集団を一時的に駆逐することには成功した。とはいえ、犬を追い出して餓狼を招き入れ蒼天会と連合生徒会を共に飲み込まれる結果を導いてしまった。蒼天会と連合生徒会が餓狼から開放され暗黒時代に終焉を迎えるには更に数ヶ月の日数を要することになる。

257 名前:岡本:2003/04/24(木) 03:04
>ぐっこ様
改装、お疲れ様です。

ダンパのほうがちょっと行き詰ったので、ちょっと”Aカップ同盟”で思いついた
小ネタで書いてみました。
表現が適切でない可能性がある場合、削除していただいて構いません。

258 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/25(金) 22:11
うほ! 早速新設定投入の岡本作品が!
短編にまとめるのは惜しい舞台ではありますが、新設定のお披露目として、後続作品
や演義で補完するとしましょう!
さておき!
いきなりの神聖Aカップ同盟設定ワロタ。そこまで由緒正しい組織だったのか…(;´Д`)
そして露骨に借り物っぽい演説の袁紹ステキ…♥
逆に袁術お姉様もカコイイ! すみれ嬢ばりの女傑でございますな…。

あと、カムロじゃない証拠を見せる女子生徒たん萌へ…

259 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:31
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第一章 宿将たち

「…以上の証言、証拠から、盧植の備品横領の罪は明らかである。よって、対黄巾党総司令官職の罷免と二週間の謹慎を申し渡す」
執行部長、張譲の酷薄な声が洛陽棟生徒会室に響く。被告の席に立った盧植は、無駄だとわかりきっているからだろうか、うつむいたまま反論もしない。
何か違うな、と副官として生徒会長、何進の傍らに席を置く、書記長次席・袁紹は思った。
袁紹は公明正大、清廉潔白で知られる盧植を、生徒会の中では誰よりも、いや、蒼天会会長、劉宏よりも尊敬していた。1年生の時は何度か勉強を教わりに行ったことがあるし、生徒会に入って間もない自分の面倒を何かと見てくれたものだった。
対黄巾党総司令官として盧植が黄巾党の本隊600人を正規軍450人でじわじわと圧倒し、250人までその数を減らして黄巾党の本拠地、広宗音楽堂の攻囲に取り掛かったのは昨日のことである。攻囲の陣中に左豊という監査委員がやってきて露骨に賄賂を要求してきた。盧植は「陣中の備品は公のもの。あなたにそれを私物化する権利はありません!」と明言し、左豊を叩き出したのだが、唐突に翌日召還され、この結果である。少し握らせればおとなしく左豊は帰ったのだろうが、盧植にはそれができなかったらしい。
退室を命じられた盧植がうつむいたまま生徒会室を出て行く。今度食事にお誘いしてみようか、そう思ってしまうほど、盧植の背中は袁紹には頼りなく見えた。盧植の退室に続き、後任の総司令選抜の協議が始まった。が、協議とは名ばかりで、執行部、つまり張譲らの一方的な提案を何進がそのまま承認しただけだったが。
選抜された人物の名が、袁紹をますます暗鬱な気分にさせた。

うつむいたまま生徒会室を出た盧植を、皇甫嵩、朱儁、丁原の三人が心配そうに迎えた。三人とも、高等部進級以来の友人同士であり。皇甫嵩と朱儁、丁原と盧植は寮のルームメイトでもある。
皇甫嵩、あだ名は義真。体育委員会所属の格闘技術研究所所長と生徒会執行部員を兼ねる生徒会の重鎮中の重鎮であり、知勇の均衡が取れた生徒会随一の用兵巧者との名が高い。174cmの長身、誇り高い気質と、男性的な言葉遣いとがあいまって、一般生徒からの人望はきわめて高い。生徒会、蒼天会には絶対の忠誠を誓っているが、張譲ら執行部の上層部へは、あまり好意をもっていないようである。
朱儁、あだ名は公偉。皇甫嵩に次ぐ用兵の腕を持つ生徒会の宿将。機動性に富んだ速攻の用兵に定評があり、皇甫嵩を『静』とすれば朱儁は『動』。前髪のひとふさが天を向いて逆立っており、その速攻の用兵とあいまって、好意を持つ者からは「紅の流星」と呼ばれ、悪意ある者からは「シャ○専用」と呼ばれている。成績は中の上。噂好きで口は悪いが、人情家で屈託のない性格のため、あまり他人に恨まれることはない。皇甫嵩とは悪口をたたき合う仲ながら、小等部時代からの無二の親友である。
丁原、あだ名を建陽。匈奴南中学出身で、あの鬼姫・呂布と、後の生徒会五剣士筆頭・張遼の先輩にあたる。4人の中では一番小柄だが、特に武芸を嗜んでいるわけでもないのに、ケンカは一番強い。并州校区総番…もとい総代であり、部下を率いての突撃力は目を見張るものがあるものの、他の三人と違って、学業成績は壊滅的によろしくなく、三年生に進級するために、全教科の補習、追試を受けねばならなかったほどで、すべてを切り抜けることができたのも盧植の「3日連続徹夜猛勉強」によるところが大きい。なぜか近々統合風紀委員長に就任することが内定しており、様々な儀式や雑務のため、ここ数日は洛陽棟に詰めている。盧植とは蒼天学園高等部入学からの親友である。
「しーちゃん(※子幹)…やっぱ、コレ?」
丁原が手刀で首を切るジェスチャーをして尋ねた。
「階級章は何とか無事だけれど、2週間の謹慎よ」
盧植は力なく頷く。謹慎、とはいっても授業には出ることができる。ただ、階級章を剥奪された者と同様に課外活動への参加は厳禁される。言ってみれば、期間を限って「死んで」いることになるのだ。
「自分で自分の首を締めるとはこのことだな。生徒会も、そしておまえ自身も」
「シンちゃん(※義真)、言い過ぎだって!」
「いえ、義真の言うとおりよ建ちゃん(※建陽)。もう少し融通が利いていれば、今日にでも黄巾党を壊滅させえたのに…」
「ああ、惜しいことをした。そう思うよ」
執行部の策謀だな、と皇甫嵩は察した。本来、カリスマ性と集団指揮能力に秀でた皇甫嵩が総司令となり、盧植が参謀としてそれを補佐し、別れた敵に対しては遊撃隊として皇甫嵩に次ぐ指揮能力を持つ朱儁と、突撃力に優れた丁原がそれぞれあたる、というのが生徒会側にとっては最高の布陣であったはずだ。しかし、それでは常々執行部上層部に反感を持っている皇甫嵩ら4人の力が強くなりすぎ、張譲らに都合が悪い。そこで一番武官らしく見えない盧植を総司令とし、その下に皇甫嵩らをつけ、4人の分断を狙ったものだろう。しかし、盧植は意外に将才を発揮し、その配下となった皇甫嵩らも進んで協力したため、戦局が有利に運んだ。そのため執行部は左豊を送り込み、盧植を失脚させたのだろう。目先のことに気を取られて小細工を繰り返し、大局の見えない張譲らが皇甫嵩には腹立たしいかぎりである。
「義真…」
盧植が考え込んでいた皇甫嵩の手を取り、彼女を慌てさせた。
「な、なんだ?」
「後のことはお願いするわ。そして、あの子を、張角を救ってあげて。あの子はとても苦しんでる。私にはわかるの…」
盧植の手に力がこもる。力強くその手を握り返して皇甫嵩は頷いてみせた。
「わかった。この皇甫嵩、必ずこの乱を鎮圧し、あの子を救ってみせる。そう、誓おう」
「ありがとう、義真…」
そこまで言うと、堪えきれなくなったのか、盧植の頬に一筋の涙が光った。
突然、弾かれたように盧植が皇甫嵩の胸に飛び込んできた。
「お、おい、子幹!?」
あまりのことにあわてる皇甫嵩。盧植は答えず、皇甫嵩の胸に顔を埋めたまま、少女のように泣きじゃくっていた。
皇甫嵩はとりあえず、慰めるように盧植のふわふわの髪を優しく撫でた。さわやかなシャンプーの芳香が立ち昇り、皇甫嵩をますます困惑させた。皇甫嵩は学園内の一部腐女子から偏った人気を得ており、よからぬ噂もいろいろあったが、本人はそういうことはいたって苦手な真人間であった。一部の者には感涙ものであるこのシチュエーションも、本人にとっては、ただ迷惑なだけでしかない。
朱儁と丁原が顔を見合わせ、小声でささやきあった。
「あーあ、完全に二人の世界に入っちゃった…」
「マズイよ〜、こーちゃん(※公偉)…ここ結構人通り多いのに…やばっ!あの人達アタイら見てる!」
「えーと、あの、義真、子幹。あたし達これから用事あるから、これで…」
「シンちゃん、しーちゃんを寮まで送っていってあげて。あーそれから、くれぐれも成り行きで変なことしないように!」
「な、何だ!?変なこととは!?」
皇甫嵩は慌てて盧植を引き離す。盧植も我に返って赤面していた。
「じゃあ、ごゆっくり、ご両所」
「鳳儀亭なんか行っちゃダメだよー!」
朱儁と丁原は笑いながら走り去っていった。
「まったく、あいつらは…」
「あの、義真、これから二人で…」
「お、お前まで何を言い出す!私にはそのケはないと常々…」
「そ、そうじゃなくて…」
赤面してうつむいた盧植が消え入りそうな声で誤解を打ち消した。
「これまでのこととか、これからの戦略を引継ぎしたいから、これからファミレスにでも行こうかなと…」
「そ、そうか、そうだな。何を勘違いしたんだろうな、ハハ…」
「…」
「時間は…5時か。ちょっと夕食には早いが、とりあえずピーチガーデンに行くか」
皇甫嵩と盧植はややぎこちなく、連れ立って昇降口へ向かった。

260 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:34
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第二章 トラブル・メイカー

皇甫嵩らが去ってから約10分後、何進ら生徒会の重役達がぞろぞろと生徒会室を出てきた。最後に冴えない表情で袁紹が生徒会室を出てくると、大きく伸びをして、湿って汚れた空気を肺から追い出す。
「ずいぶん浮かない顔してるねぇ、袁紹」
手持ち無沙汰で生徒会室前の掲示板を見ていた大柄な女生徒が、からかうように尋ねた。
文醜。袁紹の入学時からの腹心であり、後日、ナイトマスターと呼ばれることになる勇猛の士である。
猪武者との周囲の評判だが、優れた集団指揮能力と戦術立案能力を有するため、袁紹は重用していた。
袁紹が棟長を勤める汝南で剣道部の指導にあたっている顔良と仲がよく「心の姉妹」の誓いを結んでいるらしい。
「機嫌も悪くなるわ、文醜。自分で望んで入った世界だけど、梅雨時の地下室みたく湿っぽくて汚れていると、いつか自分まで汚染されそうな気がするのよ。こんなことならいっそ…」
「「私が」かい?いずれはそうなるとしても、そこから先をこの場で言うのは危険すぎるよ」
軽く文醜が嗜めた時、
「あっ!本初ー!」
快活な声が廊下の奥から響いてきた。誰かな、と思ったがすぐにわかった。自分を本初と呼び捨てる人間はいまのところ校内に一人しかいない。
声のした方から軽快な足取りで小柄な少女が走ってきた。曹操、あだ名を孟徳。袁紹よりひとつ下の幼馴染であり、つい最近、袁紹の推薦で生徒会書記、騎隊長に任じられている。先の頴川における野戦では派手な戦功もたてていた。
「何の用…あっ!?」
駆け寄ってきた曹操はそのまま袁紹の胸に飛び込んできた。あまりのことに文醜も唖然とし、とっさに動けないでいる。
「ちょ、ちょっと孟徳!いきなり何するのよ!」
「だって、本初っていつもいい香りするんだもの。う〜ん、高貴な香…今日はジャスミンかな?」
「そんなことはいいから早く離れて!恥ずかしいでしょ!」
「…87、いや、88!また大きくなってる…この牛乳女!」
「な!!…」
ズバリと当てられ、耳まで真っ赤になる袁紹。曹操の数ある特技の一つである。抱きつくだけで胸の大きさわかるのだ。確度は99%(自称)であり、荀掾A張遼、関羽らの他、数十人がその被害に遭っている。3年生になってからは不思議とやらなくなったが、その理由は「狼顧の相」状態の司馬懿に試みてトラウマになったからだといわれているが、真偽は定かではない。
「お馬鹿ッ!」
「遅いよっ!」
横薙ぎの平手打ちを、曹操は跳び退って難なくかわした。踏み込みと共に襲い掛かる返しの平手も軽く屈んでかわす。燕が身を翻すように反転して駆け出そうとしたとき、素早く回り込んだ文醜が両手を広げて立ち塞がった。
「ここは通さ…あっ!」
サッカーのスライディングの要領で、曹操は文醜のわきの下をくぐりぬけた。さらに、立ち上がりざま片手を跳ね上げ、文醜のスカートを思い切りめくり上げる。
「わっ!」
「あれ残念、スパッツか。相変わらず色気「ゼロ」ですね〜。文醜先輩?」
「き、貴様ぁ〜!!」
ことさらに「ゼロ」を強調され、激怒した文醜は、笑いながら逃げ出した曹操を追いかけようとしたが、袁紹の笑い声が、それを押し止めた。
「…笑わないでよ。ま、元気になったようで良かったけどね」
「ええ。あの子を見てるとなんだか楽しくて」
「無礼だけど、不思議な奴だね」
「そういえば…何の用だったのかしら?」
疑問がわきあがり、袁紹は軽く首をかしげた。

昇降口を走り出た曹操は、一台のバイクと、その傍らに立つ女生徒を見つけ、駆け寄った。
「やっほー、妙才、みんなは?」
「惇姉は礁棟で剣道部の練習。子孝は相変わらずパラリラやってるし、子廉は相変わらず取り巻きと一緒に闇マーケットに入り浸ってるわね」
「いつもどおりってことね」
「そろそろ風紀も集団で駆けつけてくるから…って、孟徳、さっきから何見てるの」
「さっきの生徒会幹部会の議事録」
「幹部会って、あんた、確かまだ下っ端じゃ…」
「さっき本初からスってきたのよ」
「そんなもの、何に使うのよ?」
「近代戦の基本は情報だよっ!正確で有為な情報をなるべく早く入手すればそれだけ今後の戦略が組みやすくなるの!」
「戦略…ねぇ」
「なにせアタシの学園生活の目標は『目指せ!蒼天会会長!』だからね。時間を無駄にしてる暇は無いのよ」
「今、何かとんでもないこと口にしなかった?」
「気のせい気のせい…さて、そろそろかな?」
「え?」
曹操がファイルに目を通していると、校舎の奥から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。周囲にいた生徒達が、何事かと校舎の奥を見やる。
「さっすがお嬢様。悲鳴もお上品であらせられること」
「…孟徳、あんた、袁紹先輩に何をしたのよ?」
「別れ際にスカートのホックとファスナーに細工をね。40歩くらい歩くと自然にスカートがストーンと落っこちる仕掛けだから、誰がやったのかはわからないよ。本初ってば、今日は珍しくパンストはいてなかったからすごいことに…」
「孟徳ーーーーーーーッ!!!!」
校舎の奥のほうで怒りに燃えた叫びが轟いた。雷喝、というべきで、様子をうかがっていた生徒たちが思わず一歩跳び退くほどの怒りがこもっていた。
「『怒声もお上品』ってとこかしらね?ところで、あっさりバレてるみたいだけど?」
「そーだね。じゃ、礁まで逃げるよ。あっ!田豊せんぱーい。これ本初に返しといてくださーい!」
偶然、近くにいた袁紹の腹心、田豊にスってきたファイルを投げ渡すと、夏侯淵に渡された半球型のヘルメットを素早く被り、バイクの後部座席に身軽に跨る。夏侯淵はすでにフルフェイスヘルを被り、エンジンを始動させていた。
「待ちなさい!孟徳ーッ!!」
「そこのバイク!止まれー!」
腰のあたりを押さえた袁紹と風紀委員一個小隊がそれぞれの目的で昇降口を走り出てきた。だが、時すでに遅く、後輪を派手にスピンさせてバイクが走り出しており、どちらもその目的を果たすことはできなかった。
「アディオス・アミーゴ(※さらば我が友)、キャハハハハ!」
「孟徳ーッ!おぼえてなさいよーッ!」
曹操の高らかな哄笑に袁紹の無念の絶叫が重なる。黄巾の乱の最中だが洛陽棟は騒々しくも平和のようだった。

1−1 >>259

261 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:44
岡本様の力作に続くことになって恐縮ですが、以前ちょっと話題にした歌合戦SSです。といっても前フリですが。
実を言うと、全部できてます(^^;。歌合戦より、皇甫嵩がメインですが…
皇甫嵩。横光では登場1コマ、白目、台詞なしと、部下の雛靖よりひどい扱いですが、後漢書ではやたらカコイイエピソードが目立ちます(なにか高順と似てる)。
まあ、劉備や呂布とほとんど関わっていないので演義では目立たないのも無理ありませんが…
残りは、空気を読みまして追々…

262 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/27(日) 17:21
あいっ! 拝読いたしました!
あははは、雪月華さま、うまいっ!
皇甫、朱、盧、丁の4先輩たちといい、彼女らより格下とはいえめきめき
頭角を現している袁紹と言い…
その袁紹と曹操のフランクで油断も隙もない関係がまた(;´Д`)ハァハァ…
ていうか今回のお話は、お嬢様袁紹たんに存分に萌えますた…!
88!? …となると袁術たんは87か…? 
文醜も何だかんだでイイ(・∀・)!  このテンション好きだな〜

自作期待! って既に完成…!?
皇甫嵩ですか〜。楽しみ〜!

263 名前:アサハル:2003/05/01(木) 01:07
何よりも「シoア専用」で大ウケした私を許して下さい。
そしてうっかり文醜に萌えた私を許(ry

袁紹&曹操と愉快な仲間達(違)もさることながら
やっぱり生徒会カルテットの連帯が大好きです。
盧植たんもちゃんと女の子だったんだな…とか思ったり。

同じく、続きが楽しみであります!!

264 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 21:39
少々(かなり)長くなりますがこちらに投下します。
分かる人(岡本さんなら…)には分かりますが、
ネタをまんまパクってあるので演義扱いということでよろしこ。

265 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 21:41
 ▲△ 震える山(前編) △▲

雍州校区の西の端、狄道棟。
棟長・李簡の帰宅部連合への内応に端を発した姜維四度目の北伐は、数で優る生徒会の反攻に遭いまたも頓挫。狄道棟一帯は雍州校区総代・郭淮の動員した生徒会実動部隊の重囲下に置かれていた。ここ数日は一般生徒に限って臨時休校となるほどの有様であり、帰宅部連合の立て籠もる棟内への突破口を開くべく生徒会勢の攻勢が開始されていたのだった。


「第11小隊突撃開始! 第21、24小隊は後方で待機せよ!」
バリケードで固められた正門を避け、裏門あるいは塀からの突入を図るべく生徒会勢が取り付く。後方からは支援射撃も行われているが、対する棟内からの応戦は至って僅かであり、戦力を既に喪失しているか、あるいはいまだ温存しているかのどちらにせよ大勢はあらかた決しているはずだった。そのことが油断を誘ったわけでもないのだろうが…
「う、わっ、きゃああああああッ!」
「ど、どうした− ああッ!」
突如矢のように躍りかかった人影から発せられたサバイバルゲーム用ゴム製ナイフによる斬撃で、二人の女生徒が倒れ伏した。思いも寄らぬ白兵による反撃に生徒会勢は混乱し、隊列が崩れる。ようやく後方からの支援班が射線を移し始めたが、この地方独特の複雑な地形を縫うように駆けてゆくその人影に追随しきれず空しく地面に、あるいは壁にペイント弾の染みを作るだけだった。それどころかその人影から打ち出されたエアガンの弾は恐るべき精度で生徒会勢にヒットしてゆく。狄道棟裏門付近を文字通り飛ぶように走り回り、生徒会の前進部隊をひとしきりかき回して潰走に追い込んだ少女は引き上げざまに振り向くと、苦々しげにつぶやいた。
「フラットランダーが、生徒会にも山岳部隊はいるだろうに…」
汗をひと拭いして、歓喜の声に迎えられながら棟内に姿を消した少女の名は張嶷、字を伯岐。帰宅部連合の盪寇主将を務める、いまや残り少ない武闘派の筆頭格である。


それまで南中校区越スイ棟長を長らく務めてきた張嶷は、帰宅部連合総帥代行・姜維の要請に応じて今回の北伐に随行していた。利あらずして窮地に立たされたものの、南中校区で一癖も二癖もある女生徒達と渡り合ってきた彼女は今なお戦意旺盛であり、姜維らが狄道棟からの脱出策を練る間に生徒会勢の攻勢を撃退したことで他の部員達もいくらか士気を取り戻すことができたのだった。だが、数に優る生徒会側がいつ総攻撃に訴えるとしても不思議はなく、益州校区への帰還は半ば絶望視されてさえいたのである。

棟内に引き上げた張嶷がクールダウンを終えて一息ついていたところへ姜維がふらりと現れた。他の部員達は皆それぞれに用事があるのだろう、辺りに二人以外の人影は見えなかった。
「お疲れさま。噂に聞いた以上の実力じゃない。惜しいわね、貴女をもっと早く招いていれば−」
「いや、私は南中での仕事が気に入っているよ。こんなのは性に合わないな」
姜維は苦笑した。性に合わぬと言いながらも遠征随行の要請は請けてくれた上にこの戦果である。それに噂に聞いたところでは元々彼女が名を知られるようになったきっかけはといえば、劉備が益州校区入りを果たした際のどさくさで彼女が本籍を置いていた南充棟が蜂起した反対派の手に落ちた際、単身乗り込んで副棟長を救出したからだという。その度胸を買われて抜擢され、反覆常ならぬ南中校区を剛柔両面を駆使して巧みに治めてきたその手腕は帰宅部連合の中でも抜きん出ていた。だが何故、彼女は北伐への随行を承諾したのだろうか…
「さあ、ね… ただ、引退するまでにもう一暴れしておきたかったのかもしれない。 …はは、結局はそういうことなのかな」
そう言うと張嶷は少し照れたような顔で笑って見せた。その顔を見て、姜維もどこか安心できたような心地がしたのである。 −すると、張嶷がやおら立ち上がると軽くジャンプを繰り返し、腕を二、三回クルクルと回して体をほぐすと姜維に向かった。
「さてと、それじゃ、出るか…」
「ええっ!? 貴女、どうするつもりよ」
「退路は私が開く。アンタは全員を連れて脱出するんだ」
そう言うと、腰に差したゴム製ナイフを取り出し軽く振るうと、肩から下げたエアガンの動作を確認し、予備弾倉のチェックを始めた。
「そんな、まさか一人で… 無茶だ!」
だが張嶷はその言葉を遮る。姜維に向けた瞳には決意の光を宿していた。
「私に任せろ。この狄道の山、南中の奇峰に比べればどうということはない。それに、あれも役に立つ」
そういうと窓の外を指差す。校庭には部員達が構築したバリケードがさながら迷路の様相を呈していた。なおも不安の色を隠せない姜維に向かい張嶷は言葉を継ぐ。
「蒼天学園での3年間の価値は、何をなしたかで決まる。アンタの役目は連合を導くために戦うこと、私はそれを助けることが今の役目だ」
そう言うと、もはや議論は不要と背を向けて歩き出す。姜維は呼び止めようと一旦は伸ばした手を、胸の前できつく握りしめた。
「止めることなんて、できない……」
何かを思いきるようにギュッと目を閉じ、しばらく後に開く。張嶷の背中は、もう届かないほどに遠ざかっていた。
「伯岐にもしもの事があったら、私のせいか… その時には、一人でいかせはしない……ッ!」
姜維もまた己の責務を果たすべく立ち上がると、振り返ることなく歩き出した。彼女には、導かねばならぬ仲間がいる。

266 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:26
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第三章 優しいヒト

全国の中規模以上の都市に、一軒は必ずある、大手ファミリーレストランチェーン「ピーチガーデン」。後日、劉備三姉妹の結義の場として、幽州校区店は、味やサービスとは無関係なところで、人気を得ることになり、それに便乗して、当日三姉妹が頼んだメニューが「桃園結義セット」とされ、おおいに話題を呼んだが、季節ごとにメニューの組み合わせが変わるため、本当に劉備三姉妹の頼んだものであるかどうかは、怪しいものであった。
客層の99.99%が女子高生であるため、通常にメニューに加え、サラダ系のダイエットメニューやデザートの種類が通常の店舗より豊富である。客層をかんがみてか、オーダーストップは午後八時半と早めで、午後十時には閉店となる。
皇甫嵩と盧植が司州回廊店に入ったときは、5時過ぎという時間帯のためか、あまり客は多くなく、奥の日当たりのいい席に、二人は向かい合って座ることができた。
まだ夕食には早いが、皇甫嵩は、数種類のパンとロールキャベツ、ザッハトルテ、アイスココアを。盧植はエビピラフといちごのタルト、エスプレッソ・コーヒーを注文する。
50分後、食欲を満足させ、取り留めの無い雑談を一区切りさせると、盧植は手提げカバンから数冊のファイルを取り出し、テーブルの上に広げた。すでに食器は片付けられている。
「随分、びっしりと書き込んであるな」
「文字は手書きが一番よ。なまじワープロを使っていると、読みはできても実際に漢字を書けなくなるから。それに、手書きに勝る暗記方法があれば教えてもらいたいものだわ」
「同感だな」
近視用の眼鏡をかけた盧植がこれまでの経過の説明を始めた。皇甫嵩も眼鏡を取り出して装着する。
二人とも、普段は眼鏡をかけてはいないが、授業中や読書の時には、少し度の入った眼鏡をかける。とくに盧植の文字は綺麗で細かい。罫線も引かれていない紙に、少しのずれも歪みも無しに、書き込むことができるのだ。
眼鏡をかけると、盧植は、より優しそうに見えるのだが、皇甫嵩はその逆できつめの顔がよりいっそうきつく見えてしまう。さながら頑迷な女教師のようであり、皇甫嵩も密かにそれを気にしていた。
傍から見れば、仲のいい優等生同士の勉強会に見えるだろう。実際、二人とも3年生では、トップクラスの秀才ではある。しかし、話し合われている内容は、数学や物理ではなく、各校区の黄巾党の動き、戦場に適した地形とその利用法、敵味方の主だった者の緻密な情報、「後方」への対策etc…etc…およそ女子高生同士の会話とは思えない内容である。これも、武と覇を実地で学ぶ、蒼天学園ならではであろう。
手書きの地図やグラフなども交えて、盧植が説明し、時折、皇甫嵩が質問をする。わかり易く筋道を立てて盧植が答え、皇甫嵩が頷き、分厚いノートにメモを取る。一通り終わったとき、すでにとっぷりと日は暮れており、時計の針は八時半を指していた。
「これまでの経過を聞くと、作戦自体は成功しているが、思ったように隊伍を動かせずに後手後手に回っていることが多いようだな」
「私は作戦立案や情報収集、分析は得意だけど、実際に他人に命令するのが苦手なの。義真がいればと、何度思ったことかしら」
「それは光栄なことだな。場合によっては、飛ばされて来いも同然のことを、部下に言わなければならないのも、将たる者のつらいところだ。ま、お前は優しすぎるからな、なかなか部下にきついことも言えないのだろう」
皇甫嵩はわずかに身じろぎし、すらりとした長い足を組み替えると、やや照れたように付け加える。
「それが、お前のいいところでもあるのだがな…」
「ふふ、ありがと。でもね、私は学業でも、戦略戦術でもあなたに負けない自信はあるのだけど…」
「随分とまた、はっきり言ってくれるものだな」
傷ついたように横を向いた皇甫嵩に、盧植がいたずらっぽく微笑みかけた。
「そう不貞腐れないで。それでね、あなたにどうしても勝てないことが3つあるの」
「伺おうか」
「第一に、実際に部下を指揮したときの動きの機敏さ。第二に自然に敬意を寄せられるカリスマ性。そして…」
「そして?」
「その優しさよ」
しばらく、二人の間を沈黙の神が支配した。ややあって、皇甫嵩が照れ隠しに硬い笑いを浮かべて口を開く。
「何を言うかと思えば…『鬼軍曹』と呼ばれたこともあるのだぞ?私は」
「あなたが部下に対して厳しくするのは、本当に大事に思うからでしょう?」
「厳しくしなければ、集団の規律が乱れる。規律の乱れた集団が真の意味で勝利を収めた例は、歴史上まず無いからな」
「厳しいだけだったら、一段高いところから、ああしろこうしろ命令するだけでしょう?あなたはいつもみんなと苦労を分かち合っているじゃない」
「遠くから見るだけでは小さなほころびを見逃してしまう。それに、部下と苦労を分かち合うのは将たる者の最低限の義務だ」
盧植は、さも可笑しそうに低い笑い声を立て、皇甫嵩は怪訝な顔で彼女を見やった。盧植は、友人として得がたい存在なのだが、思わせぶりな言動と態度で、他人を揶揄する癖はどうにかならないものかと、皇甫嵩は思った。
「ふふ…やっぱり評判どおりね。義真って」
「評判?どんな」
「見た目はキツそうでとっつきにくいけど、その実、愛情深く、慎重で、生真面目。人の上に立つ者がどうあるべきか心得ていて、常に、そうあろうと振舞う。下級生はみんな、義真を尊敬しているわ。悪く言うのは張譲たちくらいのものよ」
皇甫嵩は、やや呆然としていたが、我に返ると、無理矢理しかめつらしい表情を作ってみせた。
「…面と向かって褒めないでくれ。つい増長してしまうじゃないか」
「はいはい。あ、もうこんな時間。建ちゃんが、ある意味心配するからそろそろ切り上げましょう?」
「そうするか」
盧植は机の上のファイルを片付け始めた。皇甫嵩も、ノートを閉じてショルダーバッグにしまう。
「義真、寮まで送っていってくれる?」
「ああ、いいとも」
「そのさりげない優しさが、あなたのいいところよ」
「…やっぱり一人で帰れ!」
「あらあら、心にも無いことを言うのね。さては義真、照れてるのね?」
「誰が照れるか!」
やや乱暴に伝票を掴んで、皇甫嵩は椅子から立ち上がった。だが、それはどう見ても照れ隠しでしかなかった。

「あっ、義真。こんな遅くまで何やってたのよーっ!まさか…不純、不純よっ!」
「不純が服を着込んだような奴に言われたくないな」
盧植を寮の「玄関」まで送り届け、別の棟の自分の部屋に戻った皇甫嵩を、朱儁の軽口が迎えた。時刻はすでに九時を過ぎている。
「がっかりさせてすまないが、何もやましい事はしていない」
「ホントー?ま、そういうことにしとくわね。あれ?義真、そのネックレスどうしたの?」
皇甫嵩の胸にシンプルなデザインのロザリオが光っており、それは細い銀色のチェーンに繋がっていた。気づいた皇甫嵩が、慌ててブラウスの内側にしまいこんだ。
「ん、ああ、これか?…別れ際に子幹から預かった物だ…公偉、何をニヤニヤしている?」
「愛のしるしってやつ?」
「世迷言を。もともとは私が子幹に贈った物だ」
「やっぱり…」
「邪推するな。総司令就任の祝いとしてだ」
「お気の毒に、気に入らないから、つき返されたのね?」
「いいかげんに恋だの愛だのといった話題から離れてくれ。司令官職の引継ぎの証だそうだ。まあ、あの金モールのついた悪趣味な腕章よりは、よほど気分が引き締まるというものだな」
無論、それだけではない。参謀として同行できない自分の、せめてもの「代理」だそうだ。だがそれを話せば、余計な誤解を招くことになる。特に、この噂好きの朱儁に対しては…
「後任の総司令の発表がある、明日の放課後を楽しみに、ってやつね。あ、それから義真」
「何だ?」
「いつまで眼鏡かけてるの?」
そのときになって、皇甫嵩はファミレスからずっと、眼鏡をかけっぱなしだったことに気がついた。

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267 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:32
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第四章 青空の下の憂鬱

──2日後の昼休み 洛陽棟屋上にて
六月半ばの梅雨どきにしては、奇妙に晴れた日がここ数日続いていた。気温はすでに七月半ばと同様であり、衣替え宣言は、まだ出ていないが、気の早い生徒が、すでに半袖のブラウスを着用している姿を、ちらほら見かけることができる。
生徒数、三学年あわせて一万人弱を誇る洛陽棟は、蒼天学園の中枢ということもあって、学園中で一番大規模な建築物である。通常の棟の約30倍の敷地を有し、屋上からの眺めは、後漢市でも五指に入る。
屋上は、洛陽棟に籍を置く生徒達の憩いの場であり、基本的に一日中、出入りは自由であるので、昼休みを利用して、ビーチバレーやバトミントン、バスケに興じる者や、所々に置かれたベンチで昼食をとる者、滅多に居ないが、授業を抜け出して昼寝を楽しむ、不届き者の姿も見られる。
その一角に、日除けのついたベンチのひとつを占領して、昼食をとる皇甫嵩、朱儁、丁原の姿があった。三人とも、どうにも隠しようもない仏頂面をしている。その原因は、昨日の放課後発表された、盧植の後任の人事にあった。ややあって、ベンチから立ち上がった丁原が、鉄柵を蹴りつけて喚いた。
「あったま来るな!もー!」
「よりによって子幹の後任があの董卓だなんて、下馬評では義真が最有力だったのにね」
「人事の決定権は、事実上、張譲ら十常侍にある。まめに金をくれる董卓と、一円も寄付していない私と、どちらを選ぶか、明白だろう。それに私は張譲に嫌われている。もっとも、無理に仲直りをしようとは思っていないが」
「そういえば、この間、趙忠の備品購入費のピンハネ、暴いたばっかりだしね」
「張譲発案の執行部協力費、五万円の集金も「執行部の規約に明記されていない」って言って、平然と無視してるし」
「今に始まったことではない」
BLTサンドをコーヒー牛乳で胃に流し込むと、皇甫嵩は人の悪い笑みを浮かべた。
1年生の頃、蒼天会会長直々の招聘で学園評議会議員に就任してから、上層部の汚職や無法な集金を皇甫嵩は弾劾し続けている。彼女が蒼天会会長に宛てた「上奏」は三年間で500通を超えており、その結果、張譲らも幾度か譴責処分を受けているため、皇甫嵩を逆恨みする始末である。そのため、一般生徒からの受けは極めてよいが、反対に執行部上層部からの心証は壊滅的に良くない。
さらに皇甫嵩は、黄巾事件勃発の際、張譲らの「党箇」で解散させられた優等生組織「清流会」が、黄巾党にシンパシーを抱き、協力することを警戒し、霊サマに、「党箇」を解いて清流会を復活させるべし、と上奏して、それを実現させている。そのため、まったく意外な形で清流会の支持をも得ることになり、張譲らの逆恨みも、それに比例して増加の一途を辿っている。
結果、洛陽棟内外に「皇甫嵩を執行部長に」という声も高く、張譲らにとって、皇甫嵩は二重三重に気の抜けない、いまいましい「競争相手」なのである。もっとも、さほど出世や権力に、興味の無い皇甫嵩にとって、張譲などに競争相手に擬せられるのは、不本意と迷惑の極みでしかなかったが。
「高い地位にある者が権力を濫用して不正を働いても、それを公然と非難できないことを体制の腐敗というんだ。だから私は日々、偽善者だのチクり屋だのいう陰口を甘受しつつ、上奏を続けている。もっとも、残念ながら周囲は腐敗しはじめているようだが…」
「ホントだよねー。前の執行部長で蒼天通信編集長も兼ねてた陳蕃サンが、党箇で飛ばされてから、蒼天通信も、すっかり御用新聞に成り下がっちゃって。生徒会の公表を過剰に装飾して発表するだけで、その裏面のことなんて考えもしないし。ジャーナリスト精神も何もあったものじゃないよねー」
「ありゃ単なる紙資源の無駄遣いだよ」
「建陽の場合は、読めない漢字が多いから、余計に読みたくなくなるんだよね?」
「そうそう…って、こーちゃん。アタイのことバカにしてない?」
「この間、月極を「げっきょく」、給湯を「きゅうゆ」と読んだだろう?社会に出てから困ることになるぞ」
「うぐぐ…意味が通じれば、いいんだって!」
朱儁と丁原はすでに半袖のブラウスを着用している。皇甫嵩は生真面目にブレザーを着込んでいるが、その下はやはり半袖のブラウスである。夕方、急に冷え込むことを警戒しているのだが、素肌にブレザーの裏地が心地いいというささやかな楽しみもあるのだ。
「さっきから随分落ち着いてるけど、義真。総司令の人事、怒ってないの?」
「さあな、なにか、こうシラけてしまってな。例えていうなら、前日必死で勉強したテストが延期になった気分だ」
「あっ、それわかる。なんとなくほっとするんだけど、何の解決にもなってないから余計イラつくんだよねー」
「ま、何にせよ、董卓がうまくやれるわけないよ。すぐシンちゃんに出番が回ってくるって!」
「それはどうかなー?董卓以外にも献金がまめな奴はごまんといるよ?」
「奴らがすべて飛ばされるのを待つしかないか…」
「シンちゃんってば、随分と極悪非道なことを言うんだね」
「悪いか?それはともかく、建陽。いつまで洛陽棟に居られるんだ?」
「就任の儀式練習や手続きにあと二日ぐらいかかりそうでさ、まったく、いろいろ無駄が多いんだよね。正直言うとさ、早く并州校区に帰りたいんだよ。そりゃ、シンちゃん達と一緒に居られるのは嬉しいんだけどさ…」
丁原は、深く深くため息をついた。
「青い草の海…それを渡ってくる甘い風、授業サボって昼寝するには最適な気温と湿度!匈奴高や鮮卑高といった、ケンカの相手には年中事欠かない!!并州校区は、冬は寒いけど、夏が涼しいから、これからがいい季節なのにー!何でこんな、真夏でもジメジメと蒸し暑い、ろくでもない校区に詰めなきゃならないんだっ!!?」
「田舎の番長か、お前は」
「并州校区を田舎って言うなーっ!…そりゃ確かに、校舎は昭和初期に建てられた木造だし、冷房なんて当然無いし…正直言うとさ、こっち来て、ちょっと面食らってるんだよね」
「大丈夫よ。建陽の野生動物並の適応力があれば、校舎にも仕事にもすぐに慣れるから」
「蒼天風紀委員長か…アタイが自分でいうのもなんだけど、あんな皇宮警察みたいな仕事、ガラじゃないんだよね」
唐突に、丁原は左手のヤキソバパンを前に突き出し、あのポーズをとった。
「スケ番まで張ったアタイが何の因果か落ちぶれて、今じゃマッポの手先…」
「似てる似てないは置くとして、たしかにガラじゃないようだな」
「どっちかと言うと、建陽は追っかけるより、追いかけられるほうが似合ってるし」
「そうそう…って、二人とも重ね重ねバカにするなーッ!」
「どうどう、落ち着け」
「アタイは馬か!?」
「まあ、それはおいといて…」
大きなメロンパンの最後のひとかけを飲み込んだ朱儁がやや強引に話を変える。
「私たちの敬愛する新司令官殿は今日、自分の部下100人に子幹の率いてた450人を加えた550人で広宗を攻めるそうよ。董卓からは張宝、張梁に備えて待機って命令来てたけど、二人とも先日の大負けですぐには動けないから、部下は雛靖に任せてさ、視察って名目で見物に行かない?」
「賛成。涼州校区総代の用兵手腕を見せてもらおうか」
「アタイはパス。并州校区のことや委員長就任の事でいろいろ面倒な事があるから」
「それは残念。総代も大変だな。ところで…」
飲み終わったコーヒー牛乳の紙パックを、くずかごに放ると、皇甫嵩が座りなおして丁原を見つめた。
「子幹の具合はどうだ?」
「やっぱ気になる?シンちゃん?」
「邪推する者が、そこにいるから付け加えるが、友人としてだ」
「はっきり言うと、良くない。熱は高いし、食欲はないし…」
解任直後、盧植は過労から夏風邪を引きこんでしまい、授業にも出れない有様だった。
「しーちゃん、毎日、3時間しか寝てなかったから…」
「子幹は気になることがあると眠れない体質だったからね、昔から」
「高い地位にある者は、それだけ地位に応じた責任を抱え込まねばならない。ある程度のところで「何とかなる」と割り切れればいいんだが、子幹はそれができるほど、横着ではなかったということだな」
「誰でも他人のことはよくわかるものよねー?」
「…どういう意味だ?公偉」
「ま、ま、二人とも、おさえておさえて」
そのとき、授業開始5分前を告げる予鈴が鳴り響き、慌しく3人は別れた。洛陽棟は、ただでさえ広いので、この場から教室まで相当急がなければ、始業ベルに間に合わないのである。

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268 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:45
第1部はここで終了です。次回から第2部「広宗編」に突入します。
圧倒的な兵力で迫る董卓軍。半数以下の兵力で本拠地に迎え撃つ黄巾党。
勝敗を決めるのは、戦術?士気?将帥?はたまた歌声か?

>玉川雄一様
すみません。ごめんなさい。9時頃からブラウザ出しっぱなしにして、
文章の最終チェックしてたので、投稿に気づかず、かぶってしまいました。

269 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 23:07
>雪月華さん
いえいえ、お気になさらず。私は書きかけの途中で細切れアップしていくところでしたので。
それよか自分の書きかけほっぽって新作を読みふけってしまいましたよ。

皆さん揃って統率者の鏡ですね。そしてこういう人たちから学ぶ人はまた強くなる。
こうして代々受け継がれる“器”は大事なものです。
とかいいつつもしっかり女子高生してるところがまたイイ!
建陽ちゃんは私の中のイメージが変わりましたわ…

あと、「桃園結義セット」ワロタ

270 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 01:24
Σ( ̄□ ̄;)!!神のダブル降臨!?
いやはや、眼福でござったわ!

>義兄上
乙! 姜維と、そして張嶷のお話でありますか!…083?
いや、元ネタが気になってググって見ました(゚∀゚)
平地戦しかできない蒼天会側を、山岳戦をもっぱらとする人間として冷笑しているシーンなわけですな!
たった一人で鬼神の如き活躍をする張嶷たん…。カコイイ! そして意外にも姜維たん初登場(だったけ?)!
狄道の狭隘な山岳地帯を舞台にサバゲ決戦を繰り広げる両陣営…。
続きに激しく期待であります!

>雪月華様
こちらも拝読! うわー、なんか凄い!
前曹袁時代の先輩達がしっかりキャラ立てされてるーー!
なんか皆それぞれに英雄の風貌っていうか、「格」があります! 一般生徒とは明らかに違う、学園の命運を
担うに足る迫力が…。
うわーっ、早く続き読みてえ!(;´Д`)ハァハァ… 雪月華様がどう董卓を料理するのかも気になる(^_^;)


ここでビジュアル的なおさらい。
アサハル絵による皇甫嵩先輩↓


朱儁先輩↓


盧植先輩と丁原先輩↓


(いずれもアサハル様のサイトより。多謝)

271 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 01:24
今しみじみとアサハル様の神絵を見つつ、思ったこと。

眼鏡っ娘の皇甫嵩たんと盧植たんキボンヌ。

272 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 01:43
あははーっ、続き書こうとしたらどんどん延びてますよーっ。

>元ネタをぐぐる
「フラットランダー」で検索すれば一件そのものズバリが出てきましたね(^_^;)
つうか、ちゃんと意味のある言葉だったんだコレ…
ちなみに、『震える山(前編)』というのがそのまま元ネタのタイトルなわけですが、
私の書くのはあと中編、後編でも終わるんだかどうだか。


盧植タン(;´Д`)ハァハァ

273 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 02:31
>>265から続き

 ▲△ 震える山(前編の2) △▲

生徒会の狄道棟包囲軍は張嶷の先の奮戦を恐れて突入を一旦諦め、布陣を改めていずれ脱出するであろう連合軍の狙撃体制を整えた。ようやく雍州方面軍にも配備が始まった虎の子の長距離狙撃用ライフルは3挺。数こそ少ないものの、射撃精度が高く数発までの連射も利く。予想される脱出ルートは狭路であり、一度に大勢が突破することはあり得ないために採用されたのである。だが、狙撃班は長射程とはいえある程度は接近する必要があり、そのために護衛部隊が臨時編成された。メンバーは雍州方面軍で頭角を現しつつあった新進気鋭の女生徒たちであり、徐質を隊長に胡烈、牽弘、楊欣、馬隆の5人が選抜されて“第08特設小隊”と命名されたのだった。


パァン、と乾いた音が断続的に響くと、棟内から姿を現した帰宅部連合の生徒に命中したペイント弾が染みを作る。その生徒は痛みも忘れて信じられない、といった表情で自らの胸元を見遣るが、そこにはまごうことなく生徒会の識別カラーで彩られた擬似的な血痕が広がっていた。こうしてまた一人、帰宅部連合はその戦力を減らしていくのだった。
−現在のように「戦闘状態」にある場合には、原則としてサバイバルゲームのルールが適用されることが諒解されていた。これはかの官渡公園での一大決戦においてその有用性が認められた方式を援用すべくBMF四代目団長である張融(二代目団長・張燕の妹)が主張したのを受けてのことであり、各校区に常駐するBMF団員が審判として立ち会うことになっている。もちろん、改めて形式を定めたサバイバルゲーム以外の『決戦』が行われることもあった− 

「おー、また命中♪ さすが新型は違うねェ」
バリケードの陰から双眼鏡をのぞき込んでいた楊欣が暢気な声を上げた。先程から狙撃班がテストも兼ねて狄道棟の連合部員への狙撃を行っており、第08特設小隊(以下『08小隊』)のオペレーターを務める楊欣はその弾着を確認していたのである。
「あんまり顔を出さないでくださいよ。向こうだってどこからか狙っているのかもしれませんし」
「おっと、そりゃ危ないわね。退避退避、っと」
いま一人のオペレーターで、最年少のメンバーでもある馬隆に諭されて楊欣は慌てて頭を引っ込めた。彼女らは狙撃班も含めて正門を突破し、校庭に築かれたバリケード地帯に前進してきている。隊長以下の3人はこの地帯を制圧するためにさらに先行しており、もう暫くで再集結することになっていた。

徐質はバリケードの陰に身を隠し、近づく足音を息を潜めて待ちかまえていた。胡烈、牽弘はある程度距離を置いて行動しており、足音の主が帰宅部連合の戦闘員であることは確かだった。こちらの狙撃班の存在を知ってその排除に動き出したようだが、護衛部隊の存在までには気が回らないものか…
(来たッ!)
徐質の隠れていた角を抜け、姿を現したのはやはり連合の生徒! だがその視線は自身の前方に向いており、直角に交わる角に隠れた(とはいえもう横を振り向けば丸見えなのだが)徐質には全く気付いていない。徐質は迷うことなくその生徒のエアガンを持った手に軽く一連射を叩き込んだ。どこか運動部に所属しているのだろう、ジャージ姿のその女生徒は驚く間もなく銃を取り落とし、しかる後に手の痛みを、そして横合いからの射撃手の存在に思いを至らせる。だが既に最初の一連射で決着は付いていた。『BB弾の連続3発以上のヒット』は戦死判定となる。
「出てこなければ、やられることもなかったのにね…」
なおも呆然としている女生徒に声を投げかけた徐質だったが、その視界の隅、バリケードの一本向こう側の通路部分を人影が走り抜けるのを見逃さなかった。
「玄武、スカート付きだ! 速いぞ!」
「了解!」
今度は文化系なのか制服姿の女子生徒だった。おそらくバリケードの構築に携わり構造を熟知しているのだろう、地図を必要としようかという程の迷路を凄まじい速さで駆け抜けてゆく。ここからでは間に合わない… 徐質は胡烈に迎撃を委ねた。その胡烈はエアガンのグリップを握り直して待ちかまえていたが、直前の角から突如姿を現した女生徒は出会い頭に何かをこちらに向けてかざす。かと思うと目の前がフラッシュでも焚いたかのように真っ白になった。 −いや、本当にフラッシュを焚いていたのだ。胡烈は知るべくもなかったがこの生徒は写真部員であり、偉大なる先輩・簡雍から受け継いだ「拡散フラッシュ砲」なる目くらましの大技を繰り出してきたのだった。反射的に左手をかざしたためその光がまともに目に入ることだけは避けられたが、完全に写真部員からは視線が外れてしまう。気付いたときには−
「上かッ!」
バリケードを踏み台に利用して、写真部員は胡烈の上を飛び越えていた。そして空中でエアガンを構えたその先には−
「301が!」
狙撃班の一人、コードネーム“301”嬢がいた。胡烈は背中から地面に倒れ込みながら真上に銃をかざすとトリガーを引く。その弾は辛うじて写真部員のライフルに命中して手から弾き飛ばすことに成功しこそしたものの、着地した写真部員は小さく舌打ちしながら白兵戦用ナイフを手に取る。その隙に301嬢は退避することができたのだが、胡烈はといえば地面に大の字で寝転がっているようなものであり、絶体絶命のピンチに陥ってしまったのだ。
「どう撃ってもスカートの中に当たっちまう!」
飛び道具であるエアガンを手にしてこそいるが、下から撃ち上げた弾がもし、相手のスカートの中に命中してしまったら… いくらルールでは『体の箇所に関わらず、当たれば有効判定となる』と規定されているとはいえ、同じ女子として引き金を引くことができようはずもなかった。それと知ってか知らずか写真部員はゆっくりとナイフを振りかざす。もうだめか、と観念したその瞬間、きゃっ、という存外可愛い悲鳴と共に写真部員はすっ飛ぶように倒れ込んだ。起きあがった胡烈の目の前に、狙撃兵301嬢(仮名)がライフルを構えて立っていた。急遽引き返した彼女が胡烈に引導を渡そうとした写真部員を背中から(しかもかなりの至近距離から)撃ったのだ。
「大丈夫?」
「ああ、助かったよ」
至近距離からのヒットの衝撃に目を回してしまった写真部員に念のため“とどめ”をさしてから、胡烈は301嬢の手を握った。彼女は胡烈の顔をのぞき込むと、悪戯っぽく笑う。
「危なかったねェ、スカートの・ぞ・き・さん♪」
「あのなあ、のぞきはやめてくれ、のぞきは…」
胡烈は半ばゲンナリしながら服に付いた埃を払う。薄氷を踏む思いではあったがこれを最後に帰宅部連合の突撃は止み、08小隊前進部隊は狙撃班と共に集結地点へと向かった。

何度かバリケードの向こうから銃声が響き、楊欣、馬隆の留守番組は気が気ではなかった。…と、そこへ人の近づく気配がしたかと思うと、戦場ならではの緊張感を帯びた声が投げかけられた。
『諸君らが愛してくれた何進は倒れた、何故だ?』
あらゆる意味で思わず耳を疑うような文句であったが、楊欣はさもそれが当然であるかのように言葉を返す。
『ヘタレだからさ』
「よし、戻ったわよ。狙撃班も順調なようね」
当の何進−数年前の連合生徒会長であり、つい先だって失脚した何晏はその妹である−にとっては酷なこと極まりない以前にまったく脈絡のない応酬ではったが、要は合い言葉である。徐質を先頭に、なおも後方を警戒しつつ胡烈と牽弘が続く。08小隊の面々は再集結を果たすと、情報の整理と分析に入った。この結果をオペレーターが狙撃班に伝え、作戦の円滑化を図ることになっていたのである。
「さて、と。みんな配置に付いたわね。それじゃあ、一旦休憩にしましょ。孝興、貴女のところにコンビニの袋、あったわよね」
徐質が促すと、はいはいっ、と馬隆は足下の袋を取り出した。その中に入っていたものは差し入れ、陣中食、レーション等々呼び方は色々あれど要は“おやつ”である。馬隆が慣れた手つきで先輩達にスナックやらチョコやらを渡して回ったが、ひとり先程から難しい顔をして耳をそばだてている楊欣の姿を見ていぶかしんだ。
「あれ、楊欣先輩どうしたんですか? いまのうちに食べておきましょうよ」
「しっ、黙って! みんなも音、立てないで」
ガサガサと音を立てるメンバーを制した楊欣の声は緊迫感を帯びていた。特製の聴音装置を駆使してターゲットを捕捉するためのレシーバーは微かな足音を捉えていた。それは近いものではないが、何か無視できないものを感じさせる。
「来る、何か来る… どこだ、どこなんだ…」
「楊欣、何が…」
「隊長、おやつは後回しだ。こいつはヤバいかもしれない…」
楊欣は間違いなく何者かの存在を捉えていた。カンカンカン、と鳴る足音は、スチールの階段を上る時に発する音。ということは…
「上かッ!」
楊欣が見上げた視線の先、狄道棟本校舎に隣接した運動部室棟、その屋上に躍り出た一人の女子生徒。逆光に照らされたその姿は遠目にも見る者を圧倒する何かを放っていた。その存在を誇示するかのように光に映える濃淡二色のブルーを配したコスチュームに身を包み、眼下を睥睨するのは張嶷その人。一騎当千の強者が、今その持てる力の全てを解き放とうとしていた。

続く

274 名前:アサハル:2003/05/04(日) 02:46
http://fw-rise.sub.jp/tplts/gls.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/gls.jpg

こんなもんでよろしーでしょーかー。

ていうか張嶷かっこええ…ええ漢や!!

感想の文章が思い浮かばないので(感動しすぎ)
これをもって感想と代えさせて頂きます(無理!)

275 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 21:10
>義兄上
あひゃ、スマソ。すぐに続けるおつもりだったとは知らず…。
んー、やはりしょーとれんじスレも、html化した方がいいですね…
最近とみに大作ふえてますし。

そしてナニゲに強い徐質たんらカコイイ! スカート付きワロタ。
何となく元ネタのシチュを想像できるような。あと、合い言葉も。
ですが何と言っても張嶷キタ━━━(((( ;゜Д゜)))━━━━━ッ
いよいよ次回クライマックスですな!
ちなみに玉絵張嶷たん↓

カコイイ!玉絵の中でも一番バランスがいい気がする萌え絵。

>アサハル様
(;´Д`)ハァハァ
眼鏡っ娘二人、あまさず堪能いたしますた。
うわー、なんか二人ともオトナ〜。曹操たちなんかまるでガキですな。

276 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 22:28
前編>>265  前編の2>>273

 ▲△ 震える山(前編の3) △▲

これまでに感じたことのないような高揚感に包まれつつも、張嶷の目もまた倒すべき目標をしっかりと見据えていた。敵は校庭に広がるバリケードの山の中に潜んでいるつもりかもしれないが、闘うものが発する独特の気配は隠しようがない。
「指揮者2、白兵3、狙撃手3、一人は真下か…」
そう、彼女の眼下には狙撃兵の一人が捉えられていた。校舎に最も肉薄しているコードネーム“303”嬢である。だがさしあたって張嶷はたった一人、対する生徒会側は指揮所の二人(楊欣と馬隆)を差し引いてなお三人ずつのの戦闘員と狙撃員を擁している。選りすぐりの精鋭であることを自負していた胡烈には少々面白くなかった。
「たった一人で…? ハッ、なめられたもんだ」
「ここからじゃ近すぎて死角だ、頼む玄武!」
牽弘は303嬢の護衛についてその近傍に占位していたため、張嶷は死角に入っている。比較的距離を置いた胡烈に狙撃を要請した。
「おうよ!」
間髪入れず胡烈は中距離射程のライフルを放つ。この射線ならば命中は確実−
「なにッ!?」
張嶷は僅かに立ち位置をずらした。それだけで、かわしてみせたのだ。まるで、弾道をはっきりと見切ったかのように… 必中の一撃を放ったはずの胡烈には信じがたい光景だった。
「白兵にも狙撃銃! 脱出部隊には脅威になる…」
自身が狙撃を受けたことについてはさして意に介するでもなく、張嶷は彼我の戦力を冷静に分析し対策を練っていた。屋上に設置された給水タンクにザイルのフックを引っかけると二、三度ワイヤーを引っ張って固定を確認し、やおら壁を蹴って降下を開始する。眼下では張嶷の出現を知った狙撃兵303嬢が退避しようと装備をかき集めている最中だった。
「もらった!」
08小隊の至上命令は狙撃班を守り抜くことである。長距離狙撃戦力を喪失してしまえば、連合残留部隊への攻撃は困難になる。一人として失うわけにはいかなかった。
「任せて、落下なら予測できるわ!」
ザイルを繰り出して部室棟の壁を蹴りながら降下してゆく張嶷に牽弘が照準を合わせる。高速で動く目標を狙撃する事は基本的に不可能であり、弾の無駄撃ちをなくすためにも避けるべきとされていた(そういう場合は弾幕をはるのだが、現在の状況では射程距離の問題上無理)。だが今回のように垂直降下の場合は軌道を予測することが容易であり、射程距離と降下速度を見越して撃てば命中させられる理屈である。エアガンの腕に覚えのある牽弘のこと、瞬時に弾き出したポイントに狙いを定めると躊躇わずトリガーを引く。
「いける!」
銃にしろ弓矢にしろ、およそ射撃の名手たるものは標的に命中する『手応え』を感じるものだという。射手と標的の間には、極めた者だけが感じ取ることのできる繋がりがあるのかもしれない。牽弘の手にもまた、BB弾がターゲットを捉えた時のあの確かな感触が伝わっていた。だが−
「………嘘ッ!?」
ペイント弾の派手な塗料は、張嶷のからだ一つ分下の壁面に花を咲かせていた。 …牽弘の狙いが外れたのではない。計算通りに降下していれば、間違いなく弾は張嶷にヒットしていたはずだ。張嶷がザイルを繰り出す手を止めて、降下に制動をかけたのである。
「もらった!」
08小隊の皆が唖然としている間に張嶷は壁に足をかけて体勢を整えると、銃の狙いを真下に定めてトリガーを引き絞る。
「ひとーつ!」
「きゃあああああああっ!!」
降り注いだBB弾の嵐が狙撃兵303嬢を包み込む。張嶷が姿を現してから、ものの一分と経っていなかった。
「アタシと牽弘が手玉に取られた…」
「あっという間に一人… こいつは、撃墜王(エース)だ!」
小隊の面々は自分たちが闘っている相手の実力に今更ながらに気付き始めていた。地面に降り立った張嶷はザイルの自分の腰側のフックをベルトから外すと、校庭に林立するバリケードの中へと駆け込み姿を消した。


彼我の戦力差は僅かではあるが縮まりつつあった。だが、有利・不利の差はまた異なるバランスの上に成り立っている。張嶷は単身であるため攻撃が集中するはずだったが、持ち前の機動力を生かして狙いを定めさせない。一方で、目標とする狙撃兵が数を減らせば減らす程、一人あたりの護衛は厚くなるはずだった。護衛部隊とまともに渡り合ってしまえば、狙撃兵を取り逃すことになりかねない。張嶷にとってみれば、できる限り各個撃破してゆくことが重要だった。
「しかし、奴らもヤキが回ったか… これでは、居場所をこちらに教えているようなものじゃないか」
生徒会側は、数を頼みに包囲しようと牽制の射撃を行ってくる。だがそれはおよそ見当違いの場所に命中してばかりだった。このバリケードには廃材やら使われなくなった机、椅子やらが使用されているようで、着弾の度に煙とも埃ともつかないような何かがもうもうとわき起こっていた。無論、校庭の乾いた砂地も事ある毎に砂煙を立て続けている。
「あの一撃が外れるなんて… 絶対、当たるはずだったのに…」
「牽弘、頭を切り換えなさい、飛ばされるわよ。悔しいけど、奴の方が一枚上手のようね」
「あ、ああ…」
先程の結果をまだ引きずっている牽弘に徐質は発破をかけた。あれはけして牽弘のミスではない。相手の運動能力が予想の範疇を超えていただけだった。空間を三次元のレベルでここまで使いこなす恐るべき機動性に今まで出会ったことはなかったのだ。

「どこだ、奴はどこにいる…」
狙撃兵302嬢を護衛している胡烈は、たった一人の刺客の動きを捉えかねていることに苛立ちと軽い焦りを覚えていた。302嬢を背後に控え、微かな兆候も見逃すまいとやっきになって前方を注視する。だが、得てしてそんな時こそ視野は狭くなるものである。突如としてわき起こった砂埃に意識の間隙が生じた瞬間−
「!? 左かッ!」
突如飛来した『何か』が彼女のライフルに直撃して持ち手に鈍い衝撃を走らせる。それは張嶷が二本目のザイルの先端部フックの重さを利用して、“鎖鎌の投げ分銅”の要領で放ったものだった。
「うっ、ぐうっ!!」
そして砂埃を突き破るかのように突進してきた張嶷のショルダータックルを食らって胡烈はバリケードに叩きつけられる。衝撃に息が詰まって一瞬気が遠くなりさえしたが、すぐに我に返ると張嶷がいるとおぼしき方向に向けてライフルを乱射した。
「こなくそーッ!」
だが、立ちこめた砂埃の向こうに人の気配は感じられない。無駄に視界を悪くしただけのことに気付いた胡烈が慄然としたその直後、最悪の事態が襲った。
「やッ、いやあああああ!」
「しまった!」
声を向く方に目を遣れば、彼女が守るはずだった狙撃兵302嬢が張嶷に背後から組み付かれている姿が飛び込んできた。302嬢はジタバタともがいてみせるが張嶷の膂力に叶いそうもなかった。もとより、狙撃班は白兵の装備を持っていない。本来は相手に素手で立ち向かうほどの格闘力が要求されるわけでもないため、接近戦に持ち込まれるとなす術がないのである。それを見越しての08小隊の護衛であったのだが、張嶷の戦闘センスはまたも彼女達を上回っていた。張嶷はチラリと胡烈の方に視線を向けると、誇示するようにナイフをかざして見せる。
「白兵戦で飛ばすつもりかッ!」
しかし胡烈の悲痛な叫びを嘲笑うかのようにナイフが振り下ろされ、峰打ちとはいえ相当な衝撃を受けたであろう302嬢は気を失ってカクンと崩れ落ちる。
「玄武、任せて!」
ようやく駆けつけた牽弘が一連射を浴びせるが、張嶷は気絶した302嬢のゼッケンを剥ぎ取ると横跳びに退いてバリケードの向こうに姿を消した。

次第に追いつめられてゆく生徒会勢。だが、次の目標は最後に残った狙撃兵301嬢ひとり。最終的に敵は彼女に近接せざるを得なくなるわけで、一人を三人で護ることも考え合わせれば敵の選択肢も少なくなってきているはずである。そして、指揮所の楊欣はついに張嶷の動きを捉え始めた。
「つかまえた… 中央6列目、長机の上!」
バリケードとして積み上げられた長机の上を張嶷は軽い身のこなしで駆け抜けてゆく。それが崩れることを考慮していないというよりは、たとえ崩れたとしても我が身を御する術を知っている故の大胆さであった。だが、狙撃によって足下をすくうことができれば、あるいは…
「301、撃てーッ!」
「このっ、当たれ、当たれ、当たれッ!」
今やただ一人となった狙撃班の301嬢が凄まじい勢いでライフルを連射する。その流れるような一連の動作には鬼気迫るものがあった。おそらくは散った二人の僚友の敵討ちに燃えているのだろう。しかしその執念をもってしても、あと少しというところで張嶷を捉えられずにいる。
「あと一人!」
張嶷の奮戦はいよいよ修羅の領域へと踏み込もうとしていた。

続く

277 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/05(月) 20:23
ぐはッ!Σ(゚□゚;)!! 張嶷たんカコイイ!
なんか単身で凄ェ活躍していますか!? 弾道を見切りつつ近接戦闘
で速射するシーンなんかもう燃え!張嶷もガンカタの使い手か!?
白兵戦闘でも、やはり牽弘・徐質など遠く及ばない!
これで南中の荒くれ者たちをまったりと統治していた棟長だったとは…
帰宅部連合の人材も、まんざら棄てたモノではありませんな!

そしてお絵描きBBSにアサハル様から神支援投下確認↓


張嶷たんマイブーム…(;´Д`)ハァハァ…

278 名前:岡本:2003/05/06(火) 22:23
GWは休養で寝倒していましたので、反応が遅れました。
お絵かき掲示板もそうですが、SSスレッドも豪華作品の林立
で圧倒されました。

>玉川様
この台詞で感想に換えたいと思います。
”...直撃か、いい腕だ...”。

>雪月華
私は後漢書を断片的にしかもっていないので詳細な内容を追えないのが
心苦しいです。
理論家・盧植と実務家・皇甫嵩の性格が現れる会話がつぼにはまりました。

279 名前:★玉川雄一:2003/05/07(水) 00:42
前編>>265  前編の2>>273  前編の3>>276

 ▲△ 震える山(前編の4) △▲


狄道棟内に置かれた帰宅部連合軍の臨時本部に詰めている姜維のもとに副官の倹盾ェやってくると、撤収の準備が整ったことを告げた。彼女は窮地にあって姜維を助け補佐の任をよく果たしていたが、さすがに精神的、肉体的両面の疲労はかなりのものになっているようだった。
「代行、いつでも出られます。あとは、張嶷主将の…」
「大丈夫、彼女なら必ずうまくやってくれるよ」
たとえ気休めだと分かっていても、今は希望を持たせることが大事だった。もっともグラウンドでの張嶷の実際の戦いぶりを目の当たりにしたならば、気休めどころか大逆転すら予測させていたかもしれない。だが実際には後方に控えているはずの生徒会勢の包囲網を突破するという難事も控えており、それこそ口に出すことさえ憚られるものの最終的にはある程度の、いやかなりの犠牲は覚悟しなければならないはずだった。
(伯岐、必ず還ってきてよ…)
姜維の願いは、張嶷に届くだろうか…

バリケードの上を駆けてゆく張嶷に、狙撃兵301嬢の狙いが少しずつ合い始める。そろそろ潮時、とみた張嶷は積み上げられた机や椅子を派手に蹴り崩すと地面へと滑り降りた。
「やった、足を止めたぞ!」
崩れ落ちた残骸のこちら側に徐質が駆けつける。素早い動きを止めれば、数に優るこちらがイニシアチブを取ることができる。崩れ去ってなお目前にそびえるガラクタの山、その向こうに相手はいるはずだ。まずは回り込んで− と足を踏み出そうとした矢先。
ギッ、ギギッ、ギイイイッ……
「え、な、なに……!?」
目の前に立っている巨大なテーブル −それは女生徒でも二人いれば運べるような折り畳み式の長机ではなく、会議室に鎮座しているような巨大な天板を持つものだった− が、ギシギシと軋みをあげながらこちらへゆっくりとせり上がってきたのだ! それはさながら“壁”とすら呼べるほどの広さを持ち、並の女生徒にはとてもではないが動かすことなどかなわないだろう。だが現実にその壁は今や直立に近い角度をとり、なおもこちらへと迫ってきた。このままでは−
「うそ、まさか、そんな…」
「そ、れっ…… そらーーーッ!」
「きゃっ!!」
ズッ、ズウウウウウン…
慌てて後ろに飛び退いた徐質の目の前で、轟音を立ててテーブルはこちら側に倒れ落ちた。バリケードの文字通り『壁』となっていた個所を無理矢理こじ開けたのだ。相手は、あの刺客は、あれほどまでのスピードに加えて、男子顔負けのパワーも併せ持つというのだろうか?
「な、なんて馬鹿力なのよ…」
激しくわき立つ砂埃の向こうにいるはずの存在に、徐質は今はっきりと恐怖感を覚えていた。あいつが単身で殴り込んできたのにはそれだけの裏付けがあったのだ。自分たちとは、完全にランクが違う…
「ふっ、ふふっ、はははははッ!」
「!!」
少しずつ晴れつつある砂煙の中から、勝ち誇ったような笑い声と共に張嶷が姿を現す。さすがに先程の大技で力を使ったらしく、ゆっくりとしてこそいるが却って力強さを誇示するような足取りで一歩一歩近づいてきた。
「あ、ああ、ああ……」
今の張嶷に先程までのスピードは皆無で、ただ真っ直ぐにこちらへと近づいてくるだけだ。エアガンを撃てば、徐質の腕前ならば軽く一連射は命中させられる距離でもある。だが、手が動かない。手だけではない。全身が凍り付いたかのように固まってしまっていた。
「おびえろーっ、すくめーっ! 山岳猟兵の恐ろしさを土産に、飛んで行けーッ!」
ことさら恐怖心を煽るかのように大喝を繰り出す張嶷は、自身が昂揚状態にあることを自覚しており、なおかつそれをコントロールできていることに内心驚いてもいた。これほどまでに心躍る戦いというのは今まで経験したことがなかったのだ。それを楽しめるということは自分は根っからの戦争屋なのではないかという思いもかすめたが、今は仲間のために戦っているのだと思えばいくらでも闘志を奮い立たせられるというものである。目の前の女生徒、腕前はなかなかのようだが完全に私の勢いに呑まれている。悪いがこのまま…
だが、並の女生徒ならば逃げ出すか、腰を抜かすか、泣き出すかというような瀬戸際で徐質は踏みとどまった。大きく息を吸い込むと、恐怖心もまとめて飲み下す。両の手に再び力を込め、地面を蹴って吶喊を開始した。
「守ったら負ける… 攻めろーッ!」
「フッ、そう来なくっちゃ!」
エアガンを連射しながら突進する徐質に対し、張嶷はその射線を見切ると左腕に装備した小型シールドで弾を受け流す。そのまま右手のナイフで前方をひと薙ぎ。だが徐質はすんでの所で踏みとどまると、膝のバネを最大限に使ってバックステップを踏む。その勢いで再び間合いを取ろうと図ったのだが、背後にはバリケードが…
 ドズウンッ!
「うっ、ぐうっ!」
背中からモロに突っ込んで息を詰まらせたのも一瞬のこと、徐質は辛うじて取り落とさずに済んだ銃を振りかざすとトリガーを引き絞る。
「倍返しだーーーーッ!」
だが狙いもなにもあったものではなく、いずれも見当違いの場所でペイント弾の塗料をぶちまけ埃を巻き上げるだけだった。張嶷は全く動じたそぶりもなく、余裕すら混じった笑みを浮かべる。
「見た目は派手だが…」
そして視線を切った向こうには−
「狙撃手がガラ空きだ!」
「しまったッ!」
本来ならば徐質が立ちはだかっているべき通路の向こうには、蒼白な顔をした狙撃兵301嬢の姿があった! 張嶷との間に、遮るものは何もない。張嶷はその姿に狙いを定めると勝利を確信してトリガーに指をかける。
「終わりだ!」
「間に合えーっ!」
背後の山を蹴り飛ばし、やはり左腕に装備したシールドを振りかざしながら徐質は張嶷の射線上に飛び込んだ。
「なんと!?」
彼女たち白兵要員が装備するシールドは激しい運動にも邪魔にならぬようさして大きくはない。だからその限られた面積をいかに有効に使いこなすかが求められるのであり、腕の一部のように自在に操れて初めて一人前の戦闘員といえる。張嶷はもちろんのこと徐質もその有資格者であり、振り上げたシールドは見事に射線と交錯、すんでの所でその向きを変えることに成功し、倒れ込んでなお繰り出された牽制射撃で張嶷の好機は封じられた。しかし、向こうの角を曲がって消えてゆく301嬢と砂にまみれて息を付く徐質を交互に見つめる張嶷の表情に悔しさの色はなかった。むしろどこか満ち足りた笑みすら浮かべると、腰のベルトから信号弾代わりの小型打ち上げ花火を取り出し発射する。ポンッ、という音と共に舞い上がったそれは上空で破裂するとヒュルヒュルと激しく回転しながら赤い煙をまき散らした。
「伯約、どうやら合流はできないようだ。私は、死に場所を見つけたよ…」
張嶷の瞳に諦めの色はない。最大の目標を達成するための新たな決意が溢れていた。


「代行、張主将からの信号弾です!」
倹盾フ声に姜維はハッと我に返る。どうやら、疲れからか少々ボーッとしていたらしい。張嶷からの信号弾ということは、少なくとも今までは彼女が健在であったという証である。打ち合わせていた信号弾の色は二色。どちらが上がるかで彼女の命運は決する。
「色は、伯岐はなんと…?」
しかし、倹盾フ表情はかき曇る。悲痛な声で絞り出したその答えは−
「赤です…」
『合流できず、残存部隊は脱出を開始せよ…』
呆然と姜維はつぶやいた。張嶷は今、どんな状況にあるのだろうか。自らの命運が断たれたことを知ってなお、戦い続けることができるのだろうか?
『全部隊脱出地点への集結完了、以後は各指揮官の指示に従え』
校内放送を通じて最後の指令が送られ、直後にブツン、とスピーカーが音を立てた。ギリギリまで残っていた通信要員も撤退するのだろう。もはや逡巡している暇はなかった。
「私達も出るわよ… 倹潤Aついてきなさい!」
「はいッ!」
張嶷の奮戦を無駄にするわけにはいかない。姜維も自らの役割を全うするべく、皆の待つ場所へと足を速めた。


 続く

280 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/07(水) 23:40
むう、以外にも徐質の善戦…。
つうか、回を追うごとにハードボイルドな展開!
張嶷たん… 将の良なるは己の役割に徹することと
いいますが、まさに今回の張嶷たんの奮戦は…・゚・(ノД`)・゚・

281 名前:雪月華:2003/05/10(土) 18:49
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第一章 軍師人形

先日、黄巾党から盧植が奪回した冀州校区鉅鹿棟を発した生徒会軍550人は一路、黄巾党本拠地である鉅鹿棟付属施設の広宗音楽堂を目指していた。付属施設といっても、鉅鹿棟からは5qの距離があり、途中、両脇を切り立った崖で挟まれた山道を3qほど越えねばならない。指揮は新たに総司令官職についた涼州校区総代の董卓である。
董卓軍はある異名を持つ。コスプレ軍団というのがそれであり、董卓配下は放課後、常に何らかの仮装をしていなければならず、それはかつての盧植配下であった450人も例外ではなかった。董卓直属の100人はそれなりに気合が入っており、いずれもハイレベルな衣装であるが、かつての盧植配下は、それを噂には聞いていたものの、突然の命令と短い準備期間だったため、良くて学芸会レベルの者がほとんどであった。
「赤兎」のサイドカーに座する、董卓の衣装がふるっていた。荒事を覚悟してきたのか、いつもの朝服…ゴスロリファッションではなく、やや戦闘的な、ひとことで言えばベル○らのオ○カルの衣装である。ご丁寧に金髪巻毛のウィッグまで乗せている。一種異様な貫禄さえ漂わせており、そのインパクトたるや、宝塚ファンが見たら生涯立ち直れないほどの衝撃を受けるであろうことは疑いない。
「李儒、お茶おねがい」
「かしこまりました」
李儒と呼ばれたメイド、正確にはメイドの仮装をした女生徒が、歩きながら器用に紅茶を淹れ始めた。流麗な手さばきであり、ティーカップの周囲には、一滴のはねもとばさない。
李儒。董卓の懐刀であり、酷薄非情の参謀兼メイドとして名高い。くせのある緑がかったセミロングの髪、きめ細かい滑らかな白磁の肌、しなやかな均整の取れた肢体、整った顔立ち。美少女の条件は充分すぎるほどに備えている。だが、完璧と賞するには、喜怒哀楽を母親の腹に置き忘れて生まれてきたかのような無表情は、無機的に過ぎ、冷たい、というよりまったく「温度」というものを感じさせない瞳は、高級フランス人形の水晶でできた瞳を思わせた。皮肉にも、その人形然とした雰囲気に、茶色のエプロンドレスを基本としたメイド姿が、身もだえするほど良く似合っている。とにかく他人はおろか自分自身でさえ、物、駒と考える癖があり、おまけに罪悪感という「脆弱な」ものを持ち合わせていないため、どんな非情な作戦や陰謀でも、眉ひとつ動かさずやってのけることができる。故に、友人は皆無だが、それを気にしている風には見えない。
董卓は砂糖壺の蓋を開けると、李儒の淹れた紅茶にティースプーン12杯の砂糖を立続けに投入し、13杯目を掬ったところで「高血圧になるからね」と慎ましく呟き、とても名残惜しそうに砂糖壺に戻した。温かい「紅茶入り砂糖水」をゆったりした仕草で喫すると、董卓は満足げなため息をもらした。
「美味しいお茶ね。アールグレイ?」
「はい」
本当はアッサム茶なのだが、あえて訂正はしない李儒である。
「それで、今回の作戦はどうなってるの?」
「はい…賈ク」
李儒が呼ぶと、傍に控えていたOL、正確にはOLの仮装をした女生徒が進み出て、持参のモバイルPCから、サイドカーの前面に据え付けられた液晶モニターにLANケーブルを接続し、左手でモバイルを持ったまま、右手のみでキーボードを操作し始めた。
賈ク、あだ名を文和。涼州校区の一年生では、際立った知恵者であり、パソコンの扱いでは涼州校区で二番目である。ハードウェア、ソフトウェア双方に精通し、ネットの技術も一流。少々幼さは残っているものの、腰の辺りで切りそろえた艶やかな黒髪の佳人であり、キツめの目元と口元にたたえられた不敵な笑みが、なかなかの曲者という印象を与える。彼女も李儒のように冷たい印象を受けるが、その目にはいくらか人間味が残っていた。いくらか、という程度ではあるが。
やがて液晶画面に、戦場となる広宗音楽堂前自然公園を上空から俯瞰し、3D化した物と、青の矢印が4つ、音楽堂を背にするように黄色の矢印が2つ表示された。
李儒が無表情に作戦の説明を始める。機会音声のような、温かみもそっけもない声であるが、一部の者には、それがたまらなく萌えるらしい。
「まず、我が軍を4つに分けます。450の生徒会正規兵を150ずつ3つの集団に分け、それらを横に3つ並べて、賊軍に正対させます。董卓様と直属の100人はその後方で待機します」
李儒の声にしたがって、画面の中の矢印が動く。
「今までの戦歴から推測するに、黄巾党の戦術はただ一つ、正面突破しかありません。というより、戦術も用兵もあったものではなく、正面からの力押ししか知らないようです。広宗の賊軍は250人。ですが、50人は音楽堂の守備に回るのと考えられるので、実質200人程度しか出てこれないと推測します。まず、450人を正面から突撃させます。賊軍とぶつかったら、両翼の300は賊軍の左右を逆進し、後背で合流後、攻めかかり、そのまま包囲、殲滅します。容易に決着がつきそうに無い場合、待機の100は混戦を迂回し直接、音楽堂を衝きます」
「それで勝てるのね☆」
「100%、とは言いかねます」
「うみゅー、どうして?」
「まず、はじめにいた賊軍600が、盧植の働きで250まで減ったということは、飛ばされるべき者が、振るい落とされたということです。必然的に、残った者は精強であり、少ない分だけまとまりも強く、あとが無いため士気も高いでしょう。一方、我々、生徒会正規軍のほうは、険しい道を踏破した疲労と、突然の指揮官交代により、少なからず動揺していますので、盧植のときと同じ士気を保つのは難しいかと存じます。ですが、この作戦が最も有効であることに変わりはありません」
コスプレによる士気低下には、紅茶のときと同じく、あえて触れない李儒である。言わなくてもいいことがあるのを、彼女は心得ているのだ。やがて、考え込んでいた董卓が重々しく首を縦に振った。
「他にいい手はないようね。わかったわ。その作戦を諒承しちゃうことにするわね」
「ありがとうございます。すべては、董卓様の覇権のために」
うやうやしく、李儒が頭を下げる。その宣言の内容とは裏腹に、声には一片の熱意もこもっていなかったが、董卓は咎めようとはしなかった。もともとこういう性格であるのは、長いつきあいでお互い十分理解しているのである。
今ひとつ気勢の上がらぬまま、生徒会軍は進軍する。やがて山道が開け、パルテノン神殿を模した広宗音楽堂とその前に広がる自然公園が、彼女達を迎えた。

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282 名前:雪月華:2003/05/10(土) 18:51
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第二章 天使の歌

広宗音楽堂。かつて冀州校区合唱祭が開催された場所であり、黄巾党蜂起に伴う合唱祭襲撃事件後は、黄巾党の本拠となっている。自らの意思に反する形で党首、天公主将に祭り上げられた張角は放課後のほとんどをここで過ごし、一時期のピンクレディー以上のハードスケジュールをこなしていた。音楽堂の前には800m四方ほどの野原が広がり、自然公園となっている。自然そのまま、といえば響きはいいが、何か施設を建てるほどの予算が、慢性的に不足している裏返しでもあるのだ。
今、そこに、西に生徒会軍550、東に黄巾党250が、互いに200mほど距離をおいて対陣していた。そろいのTシャツと黄色いバンダナに身を固めた黄巾党に対し、思い思いの仮装をした生徒会軍は、どこと無く秩序に欠け、魑魅魍魎、百鬼夜行の妖怪集団に見えなくもない。
両軍の中間地点から南に1kmほど離れた小高い丘に、2つの人影が現れた。皇甫嵩と朱儁。視察という名目で自転車を駆り、観戦にやってきたわけである。目立つとまずいので互いに一人の部下も連れていない。待機命令に違反しているが、留守番の雛靖には、厳重に口止めしているので、直接ここで見つかりさえしなければ、何も問題は無いのだ。
「やれやれ、間に合ったようだな」
「こんな映画顔負けのことがタダで見れるのも、後漢市ならではってところだよねー」
「それにしても、董卓軍は噂以上だな。盧植の元部下達も気の毒に」
「ホントホント。いきなり司令官が変わった上にこの仕打ち。やる気を出せというほうが無理よね」
抜け目無く持参した双眼鏡で、黄巾党のほうを見ていた皇甫嵩が、唐突に驚きの声を上げた。
「おい、あれって…張角じゃないか!?どうして前線に!?盧植のときは一度も出てきていなかったぞ!?」
200人の黄巾党前衛部隊の後方、50人の親衛隊に守られ、音楽堂の手前30m程の所にある国旗掲揚台に張角は立っていた。
白を基調とし、青で縁取りされた足首まである長衣。同じデザインのフード。さながら神に仕えるシスターのようだ。襟元から覗くトレードマークの黄色いスカーフ。そして見間違いようの無い金銀妖瞳。神々しささえ感じさせる美貌。紛れも無く張角本人であった。敵味方あわせて800人を超す人の群れを前にして、物怖じしたところは微塵も見られない。数々の舞台で場慣れしているからであろう。
「そんな馬鹿な…張角は平和主義者で戦いを望んではいないのではなかったのか?」
「はっきり、私たちを敵と認識したのなら厄介なことになるわね、何があったのかな?」
「生徒会ではなく、董卓個人に対する忌避であってほしいが…」
「妙なことに気づいたんだけど、あの歌が聞こえないのよね」
「黄巾のマーチか?確かに、今までの戦場ではうるさいくらい聞こえていたものだったが…というより音響関係の機材が一切見当たらないぞ?一体どうするつもりだ?」
「義真、敵の心配してどうするの?」
「敵…か。なあ公偉、張角は私たちの敵なのか?」
「組織だって学園の平和を乱してるよ。敵じゃなくて何なの?」
「そうか…そうだな」
頷く皇甫嵩の声には、納得以外の何かが含まれていた。

「黄巾党諸君。これより…」
張角は、親衛隊長である韓忠の演説を片手を上げて制止した。代わって、彼女が口を開く。
「…黄金の騎士達よ。今こそ決戦の時です」
決して声量は大きくはない。激しくもない。だが、拡声器を通していないにもかかわらず、その声は黄巾党全員にはおろか、1q離れたところにいる、皇甫嵩と朱儁のもとにもはっきりと聞こえた。張角が言葉を続ける。
「あの異形の軍団を撃破し、首領を討つのです。かの者こそこの学園を混乱させ、近い将来、学園を暗黒の奈落に落とし込む元凶。禍の根を今ここで絶つのです!」
もともと高かった士気は、張角の鼓舞で一気に最高潮に達した。必勝の意気高く、劉辟らの指揮というより煽動で、黄巾党は眼前で赤い布を振られた猛牛の如き勢いで突撃を開始した。
張角が、何故前線に出てきたのか、明らかにはされていない。張宝らに強制されたと言う説もあり、董卓の危険性を予感し、総力を持ってそれを討つべく自らの意思で出てきたと言う説もある。だが、真相が明らかになる前に張角は自主退学し、張宝、張梁らは廃人同様になってしまったため、真実は闇の中である。
黄巾党の突撃と共に、張角が目を閉じ、静かに歌い始めた。

一方、生徒会側でも董卓の演説が始まっていた。
「見果てぬ夢よ。永遠に凍りつきセピア色の…」
「あの、董卓様?」
李儒が怪訝な顔で、サイドカーの上に立つオスカ…もとい董卓を仰ぎ見た。
「メモを間違えちゃった。キャラも違ってたし。ええと…栄光ある生徒会の兵士達よ!これから黄色い賊徒に罪の重さを教え込んであげるのよ!生徒会の為に!そしてなにより、この董卓ちゃんの栄光の為に!あ、それから、賊徒に遅れをとるようなことがあったら、蒼天会長に代わっておしおきよっ!」
もともと、盧植の元部下450人の士気はそれほど高くなく、突然の指揮官交代とこの妙な仮装、演説によって、よけいに士気は下がり気味であった。だが、目の前の相手を倒さない限り、彼女達に未来はない。半ばやけくそで喚声を上げ、黄巾党へ向かって進撃を開始した。
「第一次広宗の戦い」の始まりである。

黄巾党と生徒会軍は広宗自然公園のほぼ中央で激突した。激突直後、生徒会軍の左右両翼は黄巾党の両脇を素早く逆進し、後背で合流して包囲を完成させる事に成功した。黄巾党も、もたつきながらも円陣を組んで、それに対抗する。激しい戦闘が展開された。喚声と悲鳴と竹刀をたたきあう音が幾重にも重なって、広宗自然公園に物騒な協奏曲を響かせる。
後世、群雄割拠、三勢力鼎立時代に行われた戦闘に比べると、この時代のそれは、武芸の華やかさにおいても、用兵の緻密さにおいてもいささか迫力不足であったことは否めない。個人個人の武芸の練度が低く、主将の指揮能力も不足気味であったからだ。
それでも、戦闘の始まる前に、黄巾党の敗北は決定していたようなものである。生徒会に比べ、数において劣り、戦術においても劣っていた。主要な道は生徒会に押さえられており、張宝、張梁は皇甫嵩たちにより手痛い打撃をこうむっているため援軍も出せない。おまけに本拠地に追い込まれているため、主将、つまり張角を討たれれば全ては終わりなのだ。戦う前に勝つ。盧植の戦略の凄みはそこにあった。
本来、張宝、張梁に痛撃を与えた直後、皇甫嵩、朱儁の両名と、その率いる精鋭を呼び寄せ、総勢800で決戦に臨む予定だったのだが、盧植は作戦始動直前に讒言によって解任されてしまったため、予定は未定で終わってしまった。

張角の歌が、優しく広宗の野に響き渡る。空を舞う鳥が羽を休めて枝に止まり、うっとりと歌に聞きほれている。生死をかけた追撃戦を演じていた猫とネズミが仲良く寄り添ってじっと聞き入っている。およそ戦場には似つかわしくない平和な雰囲気が辺りを包み始めた。心を揺さぶるのではなく、そっと包み込み、母親が乳児をあやすように、優しく、暖かく、心を癒してゆく。張角の天使声は絶好調であった。肉声で、しかも拡声器を通していないにもかかわらず、1km近く離れたところにいた皇甫嵩たちのもとにもその歌声ははっきりと聞こえた。
「戦場には似つかわしくない、優しい歌だな…ん?どうした公偉?」
「義真…これ、声じゃないよ!耳を塞いでても聞こえてくる!」
「初めて聞くが、これが『天使声』か…」
張角のソプラノは、世界トップクラスのオペラ歌手に匹敵する。天賦の才と、たゆまぬ努力によって、声量、声のツヤ、技巧、音程の幅広さ、いずれも高校生とは思えない程、高いレベルでまとまっているのだ。そして張角を異能者たらしめているのが、この精神感応音波「天使声」である。どういう仕組みかは不明だが、黄巾党には勇気を与え、敵対する者には脱力を強いる。その効果範囲は約700m。声自体は2q先まで届く。ただ、この超音波は現代の録音技術では拾えないため、この効果を得るには、張角自ら出向くしかない。
やがて、戦場の様子が目に見えて変化しはじめた。天使声の効果が現れ始めた為、黄巾党の圧力に抗することができず、生徒会側の包囲のタガが目に見えて緩み始めたのだ。

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2−1 >>281

283 名前:雪月華:2003/05/10(土) 19:15
─次回予告(※黄巾党視点)─
悪魔軍団の狡猾な作戦により窮地に立たされた黄金騎士団だったが、張角の歌声で劣勢を盛り返す事に成功する。しかし、悪魔軍団総帥董卓の奥の手により、再び窮地に陥る事に。その時、張角に奇跡が起こる。その最中、皇甫嵩、朱儁の友情に亀裂が…
次回、いよいよ決着。蒼天己に死し 黄天当に立つべし。 

随分長くなってますが、もう少しだけ続きます(^^;
董卓のキャラ立て、なんだか失敗しました。いまいち目立ってないです。猛省。
李儒≠セ○オ(東鳩)≠オーベルシュタイン≠綾○のつもりで書いたのですが、本末転倒と言うべきか、なんだか全部混ざったようなキャラに(^^;
ちなみに、シスター張角の衣装イメージは
その1→ttp://www.galstown.ne.jp/5/cospre/goh/trinity-2.htm
その2→ttp://www.webkiss.jp/catalog/TrinityBlood/Esther_Blanchett.html
です。個人的に、その2のメタルアクセサリ無しの方が張角のイメージに合うような気が…

>玉川雄一様
カント大戦以後のいわゆる「軍師の時代」の戦い方の代表的な例ですな。呂布、関羽といった前線で剛勇を振るう武将が戦の帰趨を決める時代から、緻密な作戦の駆け引きを必要とされる近代戦に時代が移り変わったのが良くわかります。
続き、楽しみです。
>岡本様
確かに、第一部は皇甫嵩伝をかなり参照しましたが、第二部からは、具体的な戦の資料がほとんど無い状態でして…
場面、人物共にかなりフィクションが入ってますので、続きは気楽に読めるかと思います。

284 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/11(日) 21:43
エンジェルヴォイス実戦投入キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

身もだえするほどカコイイ!
書き手の力量によっては文章が浮き上がってしまいそうなシチュでも、しっかりと
地に足着けてますし!読んでいて安心できます!
すでに十重二十重に包囲されている戦況の中、張角たんの声が戦場に響く…
何とも鳥肌ものシチュではありませんかっ!
そして張角たんのコスチュームもまた…( ´Д`)ハァハァ… これでヘテロクロミア
だなんて…。ハマってるなあ…。
しかし張角の命運も、黄巾の学園革命も、佳境ですか…

そして一変して董卓軍団ワロタ。
どんどこイロモノ軍団化が進んでいましたが、とうとうその全容が明らかに!
李儒たんの冷徹メイドグッジョブ! なんかこう、隙の無い万能メイドってのがカコイイ!
キャラはそれで! 万能メイドは私心を持ってはいかんのですよ!主に忠実なのではなく
職務に忠実なのです!
そしてサリゲに中核に参加している賈詡たんもカコイイ!

それにしても次回予告が気になる…

285 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:15
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第三章 広宗の笑劇

「どうも戦局が思わしくないわねっ☆」
「士気の低下速度が異常です。張角の『天使声』…予想以上の効き目のようですね。あれを止めなければ勝利は無いでしょうから、張角に対して刺…」
「董卓ちゃん、いいこと閃いちゃった☆」
「いきなり何です?」
献策を遮られた不満をおくびにも出さず、李儒は頭上に豆電球を点灯させた董卓に聞き返した。
「歌には歌で対抗するのよ☆董卓ちゃんのミラクル★ボイスで黄色い賊徒を正気に戻してあげるわ☆」
やめておいたほうが、と言いかけ、李儒は口をつぐんだ。こうなっては、もうこの主人を止めることはできない。作戦全体の変更もやむをえないだろう。
もともと、この作戦は張角が前線に出てこない、という前提で立てたものである。その誤算が想定以上にこちらを不利にするものならば、董卓にもまだ進言していない、次善の作戦に移らねばならない。董卓の兵力を減らさず、「生徒会の」兵力をできるだけ削ぐ。そのためには…
一瞬のうちにそこまで計算し、さりげなく、李儒は董卓の傍を離れた。
「ハイ、ミュージックスタート!」
カセットデッキを持った一年生がテープを差し込み、再生ボタンを押した。
♪さぁけはのぉ〜め、のぉ〜め、のぉむならば〜、ひぃ〜の…
ぼこおん、と音がして、董卓の熊と見まがう逞しい右腕で、後頭部を強打された一年生は、上半身を地面に突っ込んだ。
「間違えないでよ!何が悲しくて黒田節を歌わなきゃならないのっ!こっちでしょ!」
董卓は毒々しいピンク色のテープを取り出すと、デッキに差込み、再生ボタンを押した。聞いていて恥ずかしくなるような、なつかしの少女アニメ主題歌が流れ出す。
「おほほほほほ!董卓ちゃんの18番!名作アニメソングメドレー50連発よ!イッツ☆ショーターイム☆」
♪西涼校区からやぁ〜ってきた♪とぉって〜もチャームな女の子♪仲頴〜♪仲頴〜♪
呆れたことに全編替え歌である。ボリュームを最大限にひねった董卓は、伝令用の拡声器を片手に、嵐のような振り付けとともに歌い始めた。
魔界のリサイタルが、広宗の野において開演された。

それよりほんの少し前、董卓直属の兵100人の中核部分において。
「華雄」
「おう軍師殿じゃないか。いよいよ突撃か?」
灰色熊のきぐるみを身にまとい、イライラと歩き回っていた華雄は、話し掛けてきたメイドに歩み寄った。歩み寄るというより、いきりたって掴みかかるという勢いであり、並の軍師なら、たとえ撤退を指示すべきでも震え上がって相手の意を肯んじたかも知れない。しかし、李儒は「並の軍師」ではなかった。
「撤退します。準備をはじめてください。…この手は何です?痛いのですが」
「一戦も交えんうちにか?少し消極的に過ぎるんじゃ…あだだだだ!」
胸倉を掴んだ華雄の右手の親指を掴むと、李儒は外側に捻った。苦痛のうめきと共に手を離した華雄を、何事も無かったかのように見据え、言葉を続ける。
「董卓様の御命令です。私としても不満ですが、不服従は許されません」
「だが、あの混戦を収拾するのは容易ではない。少なくとも半数は犠牲に…」
「その心配は無用です。撤退するのは、我々100名のみですから」
「何だと!?」
「張角が前線に出た時点で、こちらの「完勝」の可能性は消えました。この100で混戦を迂回して突撃すれば、あるいは勝てるかもしれませんが、犠牲も大きくなります」
「しかし、450名を見捨てるとは…」
「何を躊躇う必要があるのですか?別に、450人は『董卓様の』兵というわけではないのですよ。後日、洛陽棟に軍事の真空状態を作るため、追撃を防ぐ盾として、できるだけ飛ばされてもらう事を期待しているのですが」
「貴様…これは本当に董卓様の命令なのだろうな?」
「疑うのですか?董卓様自ら、しんがりを買って出ているというのに」
「董卓様自ら?危険ではないのか」
「黄巾党如きが、あのお方を飛ばせると本気で思っているのですか?」
「…わかった。撤退の準備をさせる」
董卓の名前を出されては逆らうわけにはいかず、華雄は撤退の準備を始めた。機会音声のような李儒の言葉が、華雄をさらに急がせる事になった。
「まもなく、董卓様の『あれ』が始まります。可能な限り、急いでください」
代名詞を出されただけで、華雄は事態を悟った。

♪いやよ☆いやよ☆いやよ見つめちゃいや〜☆仲頴フラッシュ!
新たに湧き起こった歌声が、夢見心地だった皇甫嵩たちの気分を粉砕した。
「な、なんだ、この声は?雷鳴か?」
「せっかくいい気分だったのにー!思いっきりぶち壊してくれるじゃないの」
「頭痛が…なあ、公偉。好きこそ物の上手なれ、という教育論の肯定例と否定例の両極端が目の前で展開されているようだな」
「さ、流石に黄巾の連中にも効いているようね」
このとき、潮が引くように整然と、董卓配下100名は戦場を離脱し始めている。だが、董卓の歌で失調していた二人は、不覚にもそのことに気がつかなかった。もっとも、気づいていても、どうしようもなかった事は確かであるが。

♪笑って〜笑って〜笑って仲頴〜
朱儁の指摘したとおり、黄巾党の勢いが目に見えて鈍った。戦闘行為を中断して、耳を塞ぐ者が続出する。だが、耳を塞げば武器を持っていることができなくなるので、耐えながら戦うしかない。一方、張角の加護を得られない分だけ、生徒会正規軍の被害はそれを上回っていた。蒼白な顔をし、胸を押さえ、貧血を起こして次々に膝をつく。空を飛んでいた鳥が次々と気絶し、地面に落下していく。1年生の中には泣き出す者もいた。いまや最悪の音響兵器と化した董卓には、それらの姿はまったく見えていない。張角の天使声と董卓のミラクルボイスに挟み撃ちにされ、戦場は奇妙な膠着状態に陥り始めた。
すでに董卓直属の100人は、華雄の指揮で戦場を完全に離脱し、いっさんに鉅鹿棟を目指していた。残された生徒会軍は、もはや人類史上最悪の音響兵器と化した董卓と、不幸な正規兵450人のみである。
董卓のミラクルボイスにより、深刻な精神的ダメージを受けた黄巾党が、救いを求めるように張角に視線を集中させた。曲の節目に来たため、張角が言葉を切る。次いで、それまで閉じられていた両目がゆっくりと開き始めた。
開かれた張角の色の異なる両目に、神秘的な輝きが踊っていた。夕日を照り返してのことではない。張角の目、それ自体が光を放っているのだ。董卓を除く、戦場にいた全員がその神秘的な光景に一時、目を奪われた。
奇妙な事に、いつのまにか風向きが変わっていた。北から吹いていた風が、東から西へ、つまり張角の背後から生徒会軍に向けて吹き始めていた。国旗掲揚台に掲げられた学園旗のなびきでそれがわかる。
張角が沈み行く夕日に両手を掲げ、声を発した。
「Hort!(※聞け!)」
広宗自然公園に衝撃が走り、戦場の空気は一変した。

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286 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:24
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第四章 女神光臨

張角が新たな楽章を歌い始めた。
それは、それまでの天使の歌ではなかった。普段の温和な張角からは想像する事のできない、圧倒的な威厳を漂わせるその歌は、すべての生物を屈服させ、改宗させ、従える、女神の歌であった。広宗自然公園は巨大なオペラ座と化し、すべての生物が息を呑み、崇拝の目で張角を見つめた。その場にいた全ての者の耳に、オーケストラの演奏が聞こえたほどだといわれている。そして、黄巾党と生徒会の者は見た。シスター服をまとう張角の背中に、光り輝く天使の翼を。古代王朝の神事の如き荘厳な雰囲気の中にあって、董卓の歌など、もはや蚊の羽音に等しかった。
黄巾党の後背に回りこんだ300人は、張角の天使声と董卓のミラクルボイスの挟撃によって、失神しかけていたところに、この女神の歌の直撃を受け、一挙にとどめを刺された。黄巾党に打ち倒されるまでもなく、女神の歌で次々と魂を砕かれ、失神し、倒れこんでいく。張角の変貌から10を数えないうちに、迂回部隊の300人すべてが立つ力を失い、地に這った。最期の一瞬に何を垣間見たのだろうか。倒れた300人のすべての顔には、安らかな微笑みが浮かんでいた…
「安楽に気絶」した300人とは対称的に悲惨な目に遭ったのは、はじめに黄巾党を受け止めた150人である。女神の歌の直撃を受けこそしなかったものの、それだけ董卓に近く、ミラクルボイスの被害で、より重度の貧血状態に陥っていた彼女達には、いまや目の前で赤い布を振られ、猛り狂った猛牛でさえ青ざめて逃げ出すほどの勢いとなった黄巾党を迎撃することは当然できなかった。瞬く間に陣形を打ち破られて壊乱状態に陥り、悲鳴をあげて逃げ惑うばかりである。だが、敵味方の音響攻撃で、その逃げる力さえ蒸発しつつある。多くの者は50mも走ることができず、立ち竦んだところを黄巾党に階級章を剥ぎ取られ、呆然と座り込むばかりであった。
皮肉なことに、その妙な仮装のせいで、戦場全体の雰囲気が「黄巾の賊軍に散々に打ち破られた生徒会正規兵の災難」ではなく「女神の加護を受けた黄金の騎士団が、異形の悪魔軍団を撃破した」というように、完全に正邪が逆転して感じられてしまったのである。

「大変!助けなきゃ!」
「待て!公偉!!」
走り出しかけた朱儁の右肩を皇甫嵩の左手が掴んだ。制止した皇甫嵩を睨みつけた朱儁の目には、怒りの炎が燃え盛っている。
「止めないで!義を見てせざるは勇なきなりって、学園長も言ってたよ!」
「落ち着け!今、私たちが出て行ってどうなる!」
「でもっ!」
「あそこまで混乱してしまっていては、もう収拾する事は不可能だ!ただ勇気があればいいものではないだろう!」
「義真…まさか、まだ董卓の待機って命令に、拘っているんじゃないよね!?」
「何だと?」
「きっとそうよ!それとも、すっかりあの勢いにビビってて、董卓の命令に拘ったフリして…」
「手勢の50人もいれば、あの歌が始まる前に、すでに駆けつけている!待機命令違反などという、くだらんことに拘るものか!」
「ちょ、ちょっと義真、痛…」
右肩を掴んでいる皇甫嵩の左手に凄まじい力がこもり始め、朱儁を怯ませた。
「それとも公偉!お前はたった一人であの200人を何とかするつもりか!ここでおまえが飛ばされたらこの後どうなるか、考える冷静ささえお前は失っているというのか!!」
「痛いってば!義真!離して!」
肩の骨がきしみ、堪えきれずに朱儁は悲鳴をあげた。はっ、と我に返った皇甫嵩が左手の力を緩めると、朱儁は右肩を押さえてその場にうずくまってしまった。そして、朱儁は見た。固く握り締められた皇甫嵩の右の拳に爪が食い込み、紅い雫を滴らせているのを。皇甫嵩も、朱儁以上に義憤に駆られていたのだが、何もできない不甲斐無い自分に腹を立てていたのだ。
お互い、呼吸を整えるのに5秒ほどかかり、先に皇甫嵩が口を開いた。
「…すまない、公偉」
「義真、あなたも…」
「それ以上言うな。引き揚げるぞ。これ以上ここに居ても、何の意味もない…立てるか?」
「なんとか、ね…あ」
皇甫嵩は、朱儁の手をとって立たせると、スカートについた砂埃を払ってやった。そのさりげない優しさが、朱儁の胸にしみた。
戦場では酸鼻極まる光景が展開している。いまや、まともに階級章を所持している生徒会軍は、10人に過ぎず、それ以外の者は、女神の歌の直撃を受けて気絶しているか、黄巾党に階級章を奪われ、呆然と座り込んでしまっていた。そして彼女達も、やがて女神の歌によって意識を失っていくのである。
気を失った440人あまりの乙女達が散らばる戦場に背を向けると、皇甫嵩と朱儁は自転車を駆って、司州校区へと向かった。
自転車を駆りながら、皇甫嵩は必死で考えていた。
(あの女神に勝てるのか?張宝や張梁、他の黄巾党幹部相手なら、たとえ2倍の戦力差があっても勝ってみせる。だが、あの歌にはどうやって対抗したらいいんだ?どのような状況であれ、対峙して時間が経つにつれ、急激な速度で味方の士気は落ち、敵の士気は増す。たとえ4倍の兵力があっても勝てはしないだろう。とすれば…張角個人への闇討ち…何を馬鹿な事を考えているっ!それだけはしてはならないことだ。人道にも反するし、子幹との誓いもある。…子幹か)
無意識のうちに胸のロザリオを握り締めている自分に気がついた。そんな自分を激しく叱咤する。
(だめだ。子幹に頼るわけにはいかない。今、彼女は風邪で伏せっている。意見を求めたところで、いい考えが浮かぶはずはないし、躰に負担をかけるだけだ。そしてなにより、私の力でこの乱を鎮圧すると、子幹に誓った。私にもプライドはある。誓いは果たす。必ず!)

♪信じているの♪ミラクル☆ロマンス
メドレーは終わった。嵐のような喝采を期待して、そのままポーズをとっていた董卓だったが、いつまで待っても拍手は聞こえない。やや憤然として辺りを見回し、花束を捧げ持ったファンならぬ、殺気立った黄巾党200人に包囲されていることに、ようやく気がついた。すでに李儒や、部下の100人、愛車の赤兎は姿を消している。
「あ、あら、えーと…」
「張角様が奴の階級章を所望だ!かかれ!」
劉辟の命令で、董卓の両腕を二人の黄巾党が後方から抱え込んだ。
「いやん、お放し☆」
董卓が身をよじって思い切り両腕を広げた。二人の黄巾党は、高さにして約10m、距離にして約50mの空中散歩を無料体験することになった。それでもなお戦意を失わない黄巾党が、次々に董卓に飛びかかっていったが、いずれも先ほどの二人の後を追って空の旅に出かけていく始末である。
「いや〜ん!どいてどいて!」
董卓は逃げ出した。群がる黄巾党を右に左に薙ぎ倒し、投げ飛ばし、単身、それも徒歩で200人の包囲を突破していった。
その後を黄巾党200人は追撃してゆく。
最終楽章まで歌いきると、張角は目を閉じた。その体が前後に揺れ、やがてゆっくり、後方に倒れこんだ。護衛隊長の韓忠が慌てて駆け寄り、倒れこむ寸前で抱きとめることができた。張角は疲れ果てた表情を浮かべ、軽い寝息を立てていた。
このとき、張角の声帯に、わずかに亀裂が入っていたが、周囲の者はおろか、本人すら気がつかなかったのである。そして張角はこの後、悲しく、つらい夢を見ることになる…
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287 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:45
広宗の女神 エピローグ 始まりの終わりへ

董卓配下の100人以外で、進軍してきた山道にたどり着いた生徒会軍は7人に過ぎず、まともに鉅鹿棟にたどり着けたのは4人に過ぎなかった。4人のうちの一人が、董卓であるのは言うまでもない。
無事にたどり着けた理由にひとつに、追いすがる黄巾党200人に、突然現れた謎の二人組が奇襲をかけ、瞬く間に30人近くを叩き伏せ、残りの者を撤退させたということがあった。だが、董卓の提出した報告書にはその二人のことは触れられていなかったので、この二人が何者だったのかは、謎となっている。生き残った者の証言によると、一人は、ずば抜けた長身で、漆黒の見事な長髪が人の目を引く、静かだが圧倒的な風格のある美女で、竹刀を携えており、もう一人は意外と小柄で可愛らしい童顔をしていたが、隆々と盛り上がる筋肉と、常に青筋立ててる表情がそれと悟らせない少女であり、三節棍を携えていたらしい。崖の上に、さらに二人居たようだが、逃げるのに必死で、詳しくは覚えていないとのことだった。そのうちの一人は赤い上着を羽織っていて、それだけが印象的だったらしいが…
「第一次広宗の戦い」の参加者は、生徒会軍550人。黄巾党250人。飛ばされた者は、生徒会軍447人。黄巾党37人。生徒会側にとって、酸鼻極まる数字である。ことに、張角の女神の歌で昏睡状態に陥った440人あまりの生徒は、3日間意識が戻らず、まともに立てるようになるまで2週間を要した。ここまで一方的な敗北を喫したのは蒼天会成立以来であり、総司令官の董卓は更迭され、涼州校区へ戻ることになった。戦場に最期まで残って味方の撤退を助けた、という武勇伝は残りはしたが…
この敗戦により、生徒会直属である450人の正規兵を一気に失ったことで、各校区の私兵や義勇兵に頼る比率がさらに大きくなり、生徒会の権威は日に日に失墜していく事になる。

──二日後の放課後、洛陽棟第一体育館において
「皇甫嵩を対黄巾党総司令官に任命する。速やかに反乱を鎮圧し、学園をもとのあるべき姿にせよ」
「非才なる身の全力をあげて」
内心はどうあれ、表面上は完璧に礼儀を保ったまま、壇上で皇甫嵩は執行部長、張譲に対面した。洛陽棟で100円玉貨幣章以上を持つ、上級生徒全員が整列する前で「悪趣味な」総司令官の腕章と、総司令官の辞令を受け取る。
張譲らとしても、ほかに選択肢がないのである。激減した戦力を補い、勢いづいた黄巾党に対抗できる人材を、献金がまめな人物から見出すことが、ついにできなかった。醜態を演じた董卓を推薦した張譲としては、面目を失ったというところであろう。すでに監査委員の左豊に推薦の濡れぎぬを着せて階級章を剥奪しており、表面上は何事もなかったかに思えるが、この一件で何進の信用をかなり失ったことだけは確かであった。
総司令官職への抜擢。武人としては最高の名誉であり、階級章にもかなり加点される。軍事に関する権限も飛躍的に大きくなる。式典の様子は学内ケーブルテレビで、全校区に中継され、皇甫嵩の武名は学園中に鳴り響く事になる。だが、式典の間ずっと、皇甫嵩は仏頂面をしていた。もともとあるべき状態に戻っただけであり、事態が手遅れになりかけてから押し付けられ、しかも片手だけで勝てと言われたようなものである。前途のあまりの多難さに、機嫌がいいはずがなかった。

体育館を出た皇甫嵩に、珍しく改まった表情の朱儁が敬礼を向けた。あの後は、お互い少々気まずくなり、ろくに会話を交わしていなかった事を皇甫嵩は思い出し、少し狼狽した。
「公偉?」
「総司令官への就任、祝着に存じます。今後とも、全身全霊をもちまして補佐奉りますゆえ…」
堅苦しい言葉遣いからすると、やはり、まだ完全には打ち解けられないか、と、皇甫嵩は少々さびしく思った。
「…ってね、ガラじゃなかったかな?」
唐突に、朱儁は態度を変え、いつもどおり、屈託なく笑った。つられて、ずっと仏頂面だった皇甫嵩も、笑顔を見せる。
盧植は謹慎二週間に加え風邪を引きこみ、丁原は并州校区に戻ったが、まだ傍には親友の朱儁がいる。孤立無援というわけではないのだ。皇甫嵩はそう思うと、少し気が楽になった。単純だな、とやや自嘲気味に皇甫嵩は思った。
「義真、これからもずっと、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしく頼む。公偉」
皇甫嵩は、差し出された右手を強く握りかえして、最も信頼できる僚友と頷きあった。朱儁がにやりと笑って言葉を続ける。
「ほら、義真って何かと不器用だから、私がいないとダメだし…むわっ!?」
「生意気を言うのはこの口か?ん?」
皇甫嵩は朱儁の両頬をつまんで、かるく左右に引っ張った。
「やったなーっ!」
「うわっ!?お返し!」
「うきゃあっ」
胸を触られた皇甫嵩は、お返しとばかりに朱儁の「ツノ」をぐいっと引っ張った。
十年来の親友同士の、小学生のようにふざけあう、微笑ましい姿がそこにあった。
こうして、二将の間に入った亀裂は完全に修復され、生徒会の危機のひとつは回避された。吉凶定かならぬ事件の多い昨今、皇甫嵩の司令官就任と、この仲直りだけは、完全に「吉」と言えるものであっただろう。

激減した兵力の再編に忙殺されていた皇甫嵩の元に吉報が飛び込んできた。少なくとも、周囲の者にとっては吉報である。だが、皇甫嵩にとっては、このうえない凶報であった。
「黄巾党首領張角、広宗音楽堂での舞台中、吐血、昏倒」
皇甫嵩の心に氷刃が滑り、鋭く冷たい痛みを走らせた。この瞬間、盧植と交わした誓いのひとつが、永遠に果たせなくなってしまったのである。皇甫嵩は無意識のうちに、胸のロザリオに手を伸ばした。
(すまない、子幹。あの子を救う事はできなかった。だが、もうひとつの誓いは必ず果たす。あと一週間以内に張宝、張梁らを討ち、この乱を終わらせてみせる!)
誓いを新たにすると、皇甫嵩は精力的に活動を始めた。激減した兵力を補うために、各校区の総代、棟長への募兵の指示を出す。勢いを盛り返した張宝、張梁の動きはどうなっているか調べ、対策を練る…解決しなければならないことは山積しており、皇甫嵩の判断を待っているのである。なにかと煩雑で苦労の多い仕事だが、その苦労を皇甫嵩は嫌いではなかった。
−広宗の女神 完−
〜あとがき〜
まず、ぐっこ様、改装、乙かれさまです。
ようやく完結です。全9回の長い間、つたない駄文にお付き合いくださってありがとうございました。アウトルッケがようやく復活しましたので、次回から、長文はちゃんと投稿しますのでご容赦を。m(_ _)m
皇甫嵩、かっこいいですよね。強くて優しい、頼れるセンパイという感じで、書いてて楽しかったです。この後冀州校区生徒会長に就任してテーマソング作ってもらったり、董卓を引き連れて西へ行ったり、表彰式で張譲を殴ったり(?)…歳のせいか、董卓入京後は著しく精彩を欠きますが(泣)
後、李儒。こちらも結構良く書けたと思います。張角の神がかり的怖さとは対照的な、人間の怖さと言うものを書いてみたんですが…いかがだったでしょうか。
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おまけ 張角の夢 >>180 (デビューSS。今読み返してみると赤面もの(^^;)

288 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/24(土) 00:52
まずは雪月華様、乙っ(T_T)ゞビシ!
全九回!? そんなになりますか! 皇甫嵩・朱儁ペアを中心に
学三世界の黄巾主力と生徒会の争乱を余さず描いたロングシリーズ!
お見事に書き上げられました!

やはり皇甫嵩先輩の颯爽とした勇姿が、印象に残りますね〜。
朱儁先輩も無論頼りになる先輩でしょうけど、皇甫嵩先輩のスマートな
格好良さときたら( ´Д`)ハァハァ…。
天下を掴む力を持ちながらついに掴まなかった彼女の、引退までの学園生活
もいずれ見たいものです…。もちろんその前に、総司令官の腕章を付けた勇姿を。

そして次代の英雄達の出現。まだまだ下役ながら、ぼちぼち頭角を現しつつ
ある袁姉妹。さらにその後輩の曹操。
で、董卓。(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
存在自体がもはや冗談としか思えない彼女の、ジャイアンボイス
張角と同じ舞台同じ世界で存在することが信じられないキャラですが(^_^;)、なるほど
その戦闘能力と歌唱能力は伊達ではないと…。

んで最後にサリゲに登場した劉備一党! これまたカコイイ!
学園史に名を残さなかったとはいえ、これがデビュー戦だったわけで…
演義早く書きてーっ!

289 名前:★教授:2003/06/16(月) 00:08
お久しぶりです、忘れられてる人が大半かと思われる教授です。
復活したのに何の進歩もないまま使い回しする私って…。
前回の続き、恥ずかしながら少し詰まってまして…。
今月中には掲載予定ですので、期待しないで待っててください…。

■■必撮! 仕事人 〜法正編〜■■

「くー…」
 ふふふ…。
 法正のヤツ、またしても無防備に寝てるな。
 ま、軽く一服盛ったんだけど。
 …それにしても思ったより効くんだなぁ、目薬。
「うぅん…」
 おっ、やけに色っぽい寝返りじゃん。取りあえず一枚ゲット。(シャッター音)
 これだけでも充分ミッション成功っぽいけど…クライアントの要望には応えないとねー。
 鞄を漁り、例のブツを取り出すと…作業に取り掛かった…。

「…で、これが依頼の写真とテープよ」
 某棟某所の暗室で私は先ほど入手した写真とビデオテープをクライアントに手渡す。
「うむ…君は仕事が早くて信用できる」
「当然。伊達に仕事人をやってないわ」
 微笑んで見せたが、クライアントにはさぞ不敵に映ったはず。
 だが、クライアントは白羽扇を片手に涼やかな目をしている。相変わらず食えないヤツ。
「報酬はキミの部屋の冷蔵庫に入れておいた。苦労して手に入れた銘酒、じっくり味わってくれ」
「毎度あり。またいつでも来てね〜」
 私は契約完遂を確認してクライアントを完全に見送った。
 さて…部屋に戻って打ち上げの一杯でも頂きますか♪

 同時刻、法正の部屋――
「な、ななな…何コレー!」
 鏡の前で自分の姿を驚愕の眼差しで見つめる法正の姿があった。
 その姿は、某猫娘のライバルでもあるウサ耳娘のコスプレだった。
「け、憲和のヤツ! 一服盛ったなー!」
 蒸気を出しながら憤る。
 しかし、姿が姿なだけに却って可愛らしく見えてしまう。
 ――そういう時に限って不幸は重複するもの。
 怒る法正を余所に突如部屋のドアが開く、厳顔だ。
「法正、辞書借り…」
 目と目が合う。厳顔が言葉を失い、法正が固まる。
「え、あの…その…」
 思いきり動転して手をぱたぱたと振る法正。
「わ、悪い…私は何も見てないからな…」
「ち、違うの…これは…」
「み、見てない…お前がそんなコスプレ趣味だったなんて…」
「これは誤解だっ…」
 ばたん…。
 誤解されたままそっと閉まるドア。
「いやああああ!!!!」
 法正の叫び声が虚しく部屋に響き渡ったとさ。

290 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/16(月) 21:58
教授様復帰オメ(゚∀゚)
Σ(;´Д`)…某ウサ耳にょ?
言われてみれば髪の色が…

つうか憲和たん目薬は犯罪だよ…。
最近のは効かないともっぱらの噂ですから、旧製品を密かに持ち歩いてるのですな…

291 名前:★アサハル:2003/06/16(月) 22:30
そいやラヴィアンローズは普段は三つ編みメガネっこでしたかΣ(゚Д゚*)

その後法正たんは中華の誇るカリスマ同人屋・劉備ちゃんの
着せ替え人形になる、に3594ペリカ…
つか、何ちゅーもん依頼してんですか諸葛亮(w

292 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:20
ご無沙汰しておりました。忙中閑ありと言い訳して、ひとつ投下します。
それもまだ前後編の前編のみですが...。

■天誅−前編−■
(1)白波五人女

蒼天学園暦29年6月に張角・張梁・張宝三姉妹によって引き起こされた黄巾事件は、蒼天学園生徒会
からすると主要3名の階級章が皇甫嵩・朱儁らの活躍で剥奪されたことにより1月足らずのうちにひと
とおりの決着は見た。だが、黄巾党の根絶をなしたわけでなく、また事件決着後も黄巾の蜂起に賛同
する者は後を立たず、各地で蒼天学園の現状に不満をもつ者達が跳梁跋扈し一大勢力をなすようになる。
一例としては黄巾の蜂起に呼応して中山・常山・上党・河内地区あたりを根城に周囲を荒らしまわった
サバゲー軍団、黒山軍(Black Mountain Force)がある。他にも著名な武闘派チーマーとしては同年9月
に河東地区白波峡谷あたりを根城に、元黄巾党の郭太を長として蜂起した”白き荒波(white surge)”がある。
集団戦術などどというべきものは持ち合わせていなかったのだが、元黄巾一党の中でも武闘派とか
精鋭と称されたいずれも劣らぬ荒くれ者が揃っており、柔弱化が末期症状を呈してした生徒会正規軍
と比較するとやたら喧嘩なれしており討伐は困難を極めた。
共同戦線を張っていた黒山軍(BMF)に対抗してホワイト・サージというハイカラな(死語)ネーミングをし、
白き波頭のエンブレムに基本装備はグリーンベレー風サバイバル仕様だったにも関わらず、
首領の郭太、主要幹部の楊奉、胡才、李楽、韓暹の5名は変に傾いた趣味をもっていたことから、
“白波五人女”として恐れられていた。彼女ら5名は初期のホワイト・サージと并州・司隷校区の執行部員、
風紀委員や生徒会鎮圧部隊との戦闘の際にヒーロー戦隊よろしく、以下の口上で見栄をきっていた。
(作者注:河竹黙阿弥“白浪五人男”の“稲瀬川勢揃いの場”の口上を元にしています。七五調です。)
郭太:
♪〜 問われて名乗るも おこがましいが、生まれは兗州 浜松在、十四の年から 親に放たれ、
身の生業も 白波の 沖を越えたる 夜働き、盗みはすれども 非道はせず、
人に情けを 掛川から 金谷をかけて 宿々で、義賊と噂 高札に 廻る配附の 盥越し、
危ねえその身の 境界も もはや十八に、人間の 定めはわずか 二十年、
十三校区に 隠れのねえ 賊徒の首領 黄天郭太 ♪〜

楊奉:
♪〜 さてその次は 江の島の 岩本院の 稚児あがり、
ふだん着慣れし 振袖から 髷も島田に 由井ヶ浜、打ち込む浪に しっぽりと 乙女に化けた 美人局、
油断のならぬ 小娘も 小袋坂に 身の破れ、悪い浮名も 竜の口 土の牢へも 二度三度、
だんだん越える 鳥居数、八幡様の 氏子にて 鎌倉無宿と 肩書も、島に育って その名さえ、
弁天小僧 楊奉 ♪〜

胡才:
♪〜 続いて次に 控えしは 月の武蔵の 江戸そだち、幼児の折から 手癖が悪く、
抜参りから ぐれ出して、旅をかせぎに 西国を 廻って首尾も 吉野山、
まぶな仕事も 大峰に 足をとめたる 奈良の京、碁打と言って 寺々や 豪家へ入り込み、
盗んだる 金が御嶽の 罪科は、蹴抜の塔の 二重三重、重なる悪事に 高飛びなし、
後を隠せし 判官の 御名前騙りの 忠信胡才 ♪〜

韓暹:
♪〜 またその次に 列なるは、以前は武家の 中小姓、故主のために 切り取りも、
鈍き刃の 腰越や砥上ヶ原に 身の錆を 磨ぎなおしても 抜き兼ねる、盗み心の 深翠り、
柳の都 谷七郷、花水橋の 切取りから、今牛若と 名も高く、
忍ぶ姿も 人の目に 月影ヶ谷 神輿ヶ嶽、今日ぞ命の 明け方に 消ゆる間近き 星月夜、
その名も赤星 韓暹 ♪〜

李楽:
♪〜 どんじりに 控えしは、潮風荒き 小ゆるぎの 磯馴の松の 曲りなり、人となったる 浜そだち、
仁義の道も 白川の 夜船へ 乗り込む 船盗人、波にきらめく 稲妻の 白刃に脅す 人飛ばし、
背負って立たれぬ 罪科は、その身に重き 虎ヶ石、
悪事千里と いうからは どうで終いは 木の空と 覚悟は予て 鴫立沢、
しかし哀れは 身に知らぬ 念仏嫌えな 南郷李楽 ♪〜

ホワイト・サージは近隣の太原地区、河東地区へ乱入し、抗争を繰り返して各種小規模サークルを半
ば強引に吸収して強力化し、とうとう司隷校区洛陽棟の生徒会正規軍でも手が付けられない勢力に成
長した。并州校区総代の張懿がホワイト・サージの鎮圧に失敗し飛ばされるにいたり、劉焉の建議を
うけて各校区「総代(=刺吏)」に代わってより権限の強化された「生徒会長(=牧)」を置くことを
決定したほどである。余談ではあるが、各校区の総代は校区の支配者というよりは、地区長の
監査役程度の権限しか持っておらず、さらには各校区正規軍の指揮権は地区長にあり、総代は
独立した軍事力を持っていなかったのである。

293 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:26
■天誅−前編−■
(2)ホワイト・サージ

各校区生徒会会長の成立のように、ホワイト・サージは当時、間違いなく蒼天学園の流れを幾たびも揺
るがす潮流であった。地理的にも蒼天学園の中心たる司隷校区をその勢力範囲に押さえており、いか
なる群雄よりも蒼天学園の歴史の鍵を握りうる位置にいたと言えなくも無い。だが、曹操はおろか
菫卓、袁紹、袁術のようなある種のカリスマを備えた指導者を持たず拠ってたつ政治方針も
持たなかったことから当時のどの群雄から見ても脅威といってよい戦闘力を有していたものの、
勢力基盤となる地区生徒達(特に絶対数の多い文化系生徒達)の抱きこみはまったく進まず
“群党”の域を越えることは最後まで無かった。政情不安であった頃は後に生徒会の五剣士のひとり
となる徐晃が楊奉の旗下にいたように、腕っ節に自身のある連中が集まってきてはいたが、
だんだん各地の群雄が勢力をまし、政情が安定してくるにつれ、文にも優れたような器量のあるもの
は離れ、単なる喧嘩屋・チーマーの集まりとなっていた。
ホワイト・サージの幹部たちもそういった安定化の流れは察せられなかった訳ではなく、もっとも目端の
効く楊奉がいち早く蒼天会の擁立に動いたように、李傕・郭レの政権争いに際には楊奉をつてに
胡才・李楽・韓暹(そして匈奴高校の去卑)が両者の餌とされた蒼天会の実働部隊として李傕・郭レに
対抗し、“錦の御旗”側としての転身を図ったのである。この抗争で胡才が飛ばされたように、
ホワイト・サージは勢力で勝る李傕・郭レを相手にかなりの健闘を示し、蒼天会の生存には
(文字通り生き延びただけという話もあるが)その戦闘力を生かして一方ならぬ貢献を果たしたといえる。
だが、その戦闘力を嵩に着て、山出し同然の李楽を筆頭に思慮の足りない無茶な発言や私欲に
駆られた暴力行動をとることが多く、蒼天会の面々からは、所詮は共に語るに足りない腕っ節のみが
自慢の不良の集まりと敬遠されていた。まだ目端の効いた楊奉・韓暹は何とか学園のシンボルたる
蒼天会会長を手中に納め続けることであわよくば権力の掌握を狙い、方向転換を考えて喧嘩屋から
脱却しきれない李楽と袂を分かった。これは李傕・郭レと結んだ李楽との内部抗争へ発展し、李楽を
飛ばし李傕・郭レを出し抜くことに成功したかと思われたのだが、戦闘力のみで定見を持たない集団と
いう宿命からは逃れられず、結果、兗州校区で勢力を拡大していた曹操に、菫昭を伝手としての
蒼天会との接触を許し、学園暦30年の4月には“曹操の蒼天会会長擁立”という形で全てを攫われて
しまうことになる。
許昌棟へ蒼天会を移そうとした曹操の行く手を遮ろうと当時“最強”とまで称された戦闘集団を率いて
楊奉・韓暹は戦いを挑んだ。しかし、所詮個人戦闘の足し算に過ぎない彼女らは、数を生かす
集団戦術に長けた曹操軍団の敵ではなく、当時本拠地であった梁棟を失い、同4月、徐州校区の
席巻を図って劉備と対峙し戦力の強化を求めていた袁術を頼って落ち延びることになった。
権力の座から元のならず者集団に落ちたショックも手伝って楊奉・韓暹は袁術の庇護のもと
徐州校区・揚州校区で“かつあげ・喧嘩”を日常茶飯事として暴れ廻り、公孫瓚・袁術とともに
“第一級お尋ね者”として懸賞課外点数をかけられることになる。
ここでも、楊奉・韓暹はなんら政治方針・定見を持たず、もっぱら欲望のままに動静をきめる集団
であることを露呈する。
劉備の徐州校区生徒会長からの追い落としでは、徐州校区への勢力拡大を望む袁術と曹操に破れ
戦力再編のための基盤を必要としていた呂布(正確には陳宮)の思惑が一致していたため手を
むすんでいたのであるが、袁術が蒼天学園全体を望む意志を明らかにしてくるにつれ様相が
変わってくる。翌5月、無謀にも袁術は蒼天学園連合生徒会会長を自称した。学園全体から
つまはじきされて“賞金首”にされることを恐れた呂布は、袁術が友好締結に送った使者である
韓胤を蒼天会への誠意の証として階級章剥奪処分にふし、結果もともと信頼関係があったとも思えな
い両勢力の仲が決定的にこじれ、呂布vs袁術の全面対決と相成った。袁術はこのときのためと飼っていた楊奉・韓暹も動員し、張勲・橋蕤を主将としたバイク・歩兵合わせて数百人の軍勢を七方面
から呂布を攻めさせた。後に戦国最強軍団と評されることになる呂布軍団も高順・張遼以外は
基本的に個人戦闘の足し算に過ぎず全戦力も100〜200人そこそこであったため、数に圧倒的に勝る
袁術軍団には劣勢となる。呂布に韓胤の処断を示唆した沛地区長の陳珪は、呂布にこの戦況の原因
を作り出した責任をとるよう詰め寄られるが、有名な離間の策を提案し戦況をひっくり返したのである。
陳珪曰く、
「楊奉・韓暹がにわかに袁術と同盟したのは、もともと定見があってのことではないので維持することは
できません。もともと利と衝動で動く連中ですから、十分に利を示した書簡ひとつで操ることは可能
でしょう。」
以外に筆まめな(内容と論旨は子供じみているが)呂布は楊奉・韓暹に手紙を送り、戦利品の私物化を
認めたうえで内応を依頼した。
策を示唆した陳珪が呆れるほどあっさりと楊奉・韓暹はこの誘いに応じた。
守備兵力をも戦闘に使えるように可能な限り袁術軍団を下邳棟に近づけて呂布vs袁術の会戦は幕を
開けたのだが、両軍団の先頭が300mまで近づいたところで楊奉・韓暹の部隊は一斉に蜂起した。
まったく警戒していなかった他の部隊へ背後からの突撃を行い、乱闘の最中、その戦闘力を生かして
計10名の主将を飛ばした。突然の裏切りに混乱する袁術軍団へ同時に呂布軍団も突撃を敢行、
混戦が続く中、小沛棟からも劉備の援軍として20名ほどを率いた関羽が到着し、駄目押しの攻撃を
しかけた。結果、7手のうち2手が寝返ったとはいえ数において勝る袁術軍の総指揮官たる張勲の
部隊を大破し、次席指揮官たる橋蕤を生け捕りにする大勝利に終わった。

大勝利の殊勲として楊奉・韓暹は、利や衝動で何とでも動く連中という評価を裏付けたことも意に
介せず増長することになり、徐州・揚州校区で働く略奪・暴力行為も悪化の様相を示すようになる…。

294 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:46
連続で申し訳在りませんが、一応プロットなどを。

「チーマー100人切り(ぐっこ様執筆の作品"頭文字R"中で指摘あり)を
学三関羽が可能にするには、何らかの潜伏技術をもっていることが必須」
と考えていたところ、PS2で発売された立体忍者活劇”天誅3”をやって
「これだ、このネタつかえないか?」と思ったのがもとです。
徐州時代に、楊奉・韓暹が劉備に粛清されたところを使いました。
さしづめ、関羽が”力○”、張飛が”彩○”というところになります。


楊奉・韓暹が”天誅”される筋書きへ以下繋がるわけですが、ただやられるだけでは
つまらんと白波賊について書いているだけでながくなり、前後2編組みと相成りました。

295 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/20(金) 23:22
うお、さすが岡本さま、相変わらず圧倒的な文章量…(^_^;)
なるほどお、白波の本家逆取り…。

確かに純粋な軍事力としては、旧白波の連中は、一つの勢力と言えるでしょうねえ…
それを二人で蹴散らした関羽たんと張飛たんの活躍が見れるですね(;´Д`)ハァハァ…

296 名前:一国志3:2003/06/21(土) 16:40
>>289 教授様

  ∧ ∧     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 / Φ Φ    /思わず法正の髪の色を確認してしまったにょ。
○w ´∀`○<  ついでに、一国志3の立てたアフォスレも晒しあげするにょ。
 (  ○ )   \http://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1027249880 target=_blank>http://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1027249880
           \_____________________

297 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/24(火) 00:11
あ、懐かしい(^_^;)
うーん、ぼちぼちキャラに関するガイドラインも決めた方がいいかもしれませんねえ…

298 名前:教授:2003/07/01(火) 01:02
■■必撮! 仕事人 〜皇甫嵩編〜■■

CAUTION!
皇甫嵩ふぁんの方に袋叩きに遭う事請け合いなので、皇甫嵩ふぁんの方は見ない方がいいかも…

「ふむ…提出書類はこんな所だろう」
 凛とした顔立ちの少女は筆を置き、大きく息を吐いた。
 その鷹の如き鋭い目線の先には蛍光灯の光。
 時折点滅する、そんな蛍光灯を見てまた息を吐く。今度は溜息のようだ。
「公偉に蛍光灯の交換を頼んだのにな…全く」
 溜息の後は苦笑い、そして大きな伸びをする。
 彼女の名前は皇甫嵩。生徒会の重鎮としてその存在は全校中に轟き渡っている。
 先の戦では指揮官として数多の生徒達の舵を取り、己もまた最前線に立ち数多くの戦果を挙げた。
 厳しく前を見据える双眸には強く誇り高い意志、そして仇為す敵を射抜き退かせる獅子の威圧。その二つの強さが色濃く鮮明に映し出されている。
 肩の力を抜いている今もその光を失う事無く輝き続けている。
「蛍光灯の替えは無いのか…?」
 皇甫嵩は小会議室と呼ばれるこの部屋をごそごそと物色し始める。
 余談だがこの小会議室とは名ばかりで、実際は雑用雑務処理を行う為だけにある部屋だったりする。
 主に彼女や親友の朱儁や櫨植達が書類を整理したり資料を漁ったりしている。
 平たく言ってしまえば、ここは皇甫嵩達の専用作業スペースなのだ。
 ただ一人、丁原だけはこの部屋を休憩室代わりとして使用しており、やたらと散らかすので皇甫嵩達はその都度掃除をするなどの後始末をさせられている。
 当の本人は掃除が終わる頃に見計らった様に現れてゴミ捨てだけしていたりする。
 話が大幅に逸れてしまった――が、この部屋の構造が理解してもらえたと思うので善しとしておく。
 椅子に乗ってロッカーの上の大きめのダンボール箱を開く。かなり埃をかぶっており、動かすだけで咳き込みそうになりそうな塵が舞う。
 しかし、中には少々年代物の冊子や資料が入っているだけだった。
「無いな…仕方ない、明日にでも用意するとしようか…」
 ダンボール箱を片付け椅子を降りようとする皇甫嵩。
 その時、突然椅子がバランスを崩し上に乗っていた彼女を振り落としてしまう。
「なっ…うわぁ!」
 予期せぬ出来事に皇甫嵩は派手に転倒してしまう。
「いたた…いきなり何事…ぶふっ!」
 更に予測外の事象が皇甫嵩の身に降り注ぐ。
 転倒したはずみで先ほど物色していたダンボール箱が彼女の頭に落ちてきたのだ。それも謀った様に絶妙な間で。
 しかも皇甫嵩を直撃したダンボール箱はその衝撃で壊れ、中に入っていた埃まみれの書類の束が散乱する。
「…………」
 余りに突然の出来事に暫し呆然とする皇甫嵩。
 頭には冊子が乗り、制服は埃まみれ。先刻までの威風堂々とした姿は既に影も形も無くなってしまっていた。
 大量の書類と埃の山に埋もれるその姿は、さながら戦場後に立つ敗軍の将の様。
 丁度、その時だった。窓の外からキラリと何かが光ったのは。
「…何…っ! 何だ!?」
 皇甫嵩がその光に我に返った。
 そして光を確認しようと立ちあがろうとする――が、立てなかった。
 情けない事に腰が抜けてしまっていたのだ。
「くそっ! 動け!」
 ぺしぺしと自分の足を叩く。しかし、言う事を聞いてくれるはずもなく虚しい時間が流れるだけだった。
 そして最悪の事態が訪れる――
「義真〜。書類整理終わった?」
「そんなのテキトーにやっちゃいなよ〜」
 小会議室のドアが開き、朱儁と丁原が入ってきたのだ。
 その瞬間、世界が凍りついた。――刹那、二人の少女の爆笑が小会議室を包みこむ。
「見るな〜!! 笑うなぁ〜!!!!」
 顔から火を出さんばかりの勢いで頬を紅蓮に染め上げ怒る皇甫嵩。
 だが、朱儁も丁原もお腹を抱えて転げまわっておりとても聞いている風には見えない。
「どうかしましたか?」
 そこに遅れて櫨植が現れる。と、中の様子を一望して目が点になってしまう。
「これは…義真?」
「何でもない! とにかく…出て行ってくれ〜!!!」
 依然として炎色の顔で皇甫嵩が怒鳴る。
 しかし、皇甫嵩の姿を見ていた櫨植の頬に突然朱が差す。
 その表情に皇甫嵩がびくっと体を震わせた。
「ど、どうした?」
 動揺を悟られない様に努めて平静を装う。
「義真…その…」
 もじもじと目線を逸らす櫨植。そして――
「下着…見えてるよ…」
「………」
 再び凍りつく世界。
 流石に朱儁と丁原も笑いが止まってしまった。
「お…」
 皇甫嵩が右手に冊子、左手に辞書を握り締める。
「お前ら! でてけーっ!!」
 皇甫嵩の怒叫と共に書類一式が宙を舞い出した。
「うわぁっ!」
「痛っ! やめろーっ!」
 丁原は朱儁を羽交い締め、そして盾にしながらじりじり後退を始める。
 勿論、盾にされている朱儁が皇甫嵩の攻撃を受けている。実に悲惨だ。
 櫨植は既に外に退避してロザリオを握り締めていた。要領はかなりいい様子である…。
 こうして激しい放課後が過ぎていったのであった。

 後日――丁原、朱儁、櫨植の三人は皇甫嵩から口を利いて貰えなかったそうな。



 某棟某部屋――
「これ新聞に載せない?」
 簡雍が一枚の写真を劉備に見せる。
「…載せたいけど、流石にこれはあかんやろ…」
 皇甫嵩の醜態がはっきり映し出されたその写真に複雑な笑みを浮かべるしかない劉備。
 結局、この写真は世に出まわる事なく簡雍のアルバムの中に納められる事になった。

299 名前:★教授:2003/07/01(火) 01:04
名前間違えました…。

300 名前:★ぐっこ@管理人:2003/07/02(水) 00:45
(;´Д`)ハァハァ…教授様グッジョブ!
独特のストイックな重厚さと、とっさのときの間抜けっぷりの
ギャップがまたイイ!
もはや一種のパターンと化してますな。
それにしてもまー、散々簡雍たんのネタになってしまって(^_^;)

301 名前:★アサハル:2003/07/02(水) 01:14
か→わ↑い↑い→(今時こんな言い方しないだろうな)
なんというか…先輩、そんなだから簡雍に狙われるんですよ(wと。
イメージ的には皇甫嵩たんはスカートの下に短パンかスパッツはいてそうなんで
(男性陣には却下されそうですが)やっぱブラウスのボタンが雪崩の際に
飛んじゃったんでしょうか。胸は大きくもなく小さくもなく。(何)

朱儁さん、ご愁傷様です。

302 名前:★教授:2003/07/03(木) 00:55
追記

ブラウスのボタンは当初、飛んだと書いてたのですが…いや、あんまり桃色だとまずいと判断しまして。
残念ながらそこの所は割愛となりました。割愛となっただけで、ホントは飛んでるんですけどね。

追記2

明確に記載してませんが、皇甫嵩は両手で機関銃の様な速度でモノを投げつけてますw

追記3

実はこの小会議室。私的設定では3階なのです。
…簡雍はどうやってこの部屋を撮影したのでしょうか? 私が聞きたいです(切腹)

@梯子 A都合よく植えられていた樹 B空中浮遊(爆) C盗撮 D神の力(滅)

303 名前:★教授:2003/07/10(木) 01:13
■■必撮! 仕事人 〜被害者(?)多数・デパート編〜■■

「なんでや! ウチの貴重な五百円玉が受け取られへんっちゅーんか!」
 劉備は何度入れても落ちてくる自販機に業を煮やしてガンガン蹴りを入れる。
 分からなくもないが、暴力は反対である。
「玄徳の怒りは御尤もだね」
 自販機の陰から現れた簡雍がシャッターを切った…。

「うーん…今年の夏はこれかな」
 今年の新作水着を手にした法正。結構大胆な代物だ。
「これを底上げして着ようか…」
「素が一番。小細工は無しの方向で♪」
 陳列された水着の間から現れた簡雍がシャッターを切った…。

「これをアトちゃんにプレゼントしたらきっと喜ぶでしょうね」
 猫がプリントされているビーチボールを手に微笑む趙雲。
 一に帰宅部連合、二にアトちゃん的な思考になっているようだ。
「禁断の愛は避けるべし」
 マネキン人形がくるりと半回転して簡雍が現れる。シャッターが切られた…。

「………」
 孫乾が泣きそうな顔をしながら右往左往している。
 買い物に来てまでパシリをさせられていた…。
「…可愛そうだから免除」
 流石に居た堪れなくなったのでシャッターを切らない簡雍だった…。

「こーゆー時こそ隙だらけになるんだよなー」
 簡雍は屋上のベンチでカメラのチェックを入れていた。
 皆が買い物をしている間、ひたすらターゲットを絞って撮り続けていた為か、自分は何一つ買い物をしていない。
「別段欲しいものなんて今ないしね」
 くすくすと笑いながらフィルムを胸ポケットに放りこんだ。
 その時だった、デパートの店内放送が響いたのは――

『○○からお越しの簡雍憲和さんが迷子になられております。特徴は赤いボサボサ髪に安物の髪留をしており、落ち着きの無い女の子らしいです』

「いいっ!?」
 簡雍がびくっと体を震わせる。
 周りの視線が自分に向けられているのがひしひしと伝わってきた。
 店内放送はまだ続く――

『もしおられましたら、1Fサービスカウンター前の諸葛亮様の元までおいでください』

「コーメー!」
 珍しく慌てふためく簡雍。疾風の如くサービスカウンターへ向かった。
 その間、法正に捕まりかけたがカメラのフラッシュ攻撃で撃退。
 1Fに着くと、そこには諸葛亮の姿があった。ずかずかと近づく。
「なんつー放送流すんだよ!」
「ふむ…実はだな――」
 ごそごそとポケットを漁る諸葛亮。取り出したものを素早く簡雍に装着させた。
「な、何すんだよ!」
「うむ。やはり似合うな…眼鏡も中々サマになっててよいぞ。」
「…まさか、この伊達眼鏡を着けさせる為だけに呼んだの?」
「その通り!」
 白羽扇をそよそよと振りながらきっぱり言い放つ諸葛亮。実に大胆不敵だ。
 伊達眼鏡を着けた簡雍は溜息を吐くと諸葛亮に強烈な不意打ちフラッシュを浴びせてデパートを後にした――


 その後、伊達眼鏡は簡雍の変身グッズの中に紛れこんでいたのを誰かが見た…らしい?
 

304 名前:★玉川雄一:2003/07/10(木) 02:04
今までに見ないタイプのテンポで展開されるストーリーがツボです。
そして割とウワテの諸葛亮がイカス!
憲和タン1000人斬り目指して明日も激写!

305 名前:★ぐっこ@管理人q:2003/07/11(金) 00:38
グッジョブ!!(b^ー°)
すでに夏話への前哨戦が始まっているのか!? とりあえずウソ胸着用を開き直ってる
法正たんに1000萌を。
子龍たんも、どんどこ深いトコにはまっていくようで(^_^;)
そしてお使い乾ちゃん・゚・(ノД`)・゚・
(ていうか、ちと教授様の描く孫乾像とは違ってきますが、今私の中で、乾ちゃん=マルチの
 図式が唐突に出来上がりました。嬉々として人のお使いに出向くタイプ)

やはり孔明たんは無敵か…

306 名前:★教授:2003/07/27(日) 01:14
◆◆ 〜萌えポイントって何?〜 ◆◆


 日曜日の朝。
「んー…これなんだろ?」
 タンクトップに膝が破れたGパン姿の法正が自室で首を傾げている。
 その目線の先には自分の机。その更に先にはカウンターが置かれている。
「萌えポイント…1000点って…」
 謎のカウンターを前に疑問だけが頭の中を駆け巡る。
 しかし、不思議な事にそのカウンターを排除しようという気にはならなかった。
 何故か…捨ててはいけないような気がしているからだ。
「って言うか、誰が置いて行ったのよ…」
 短い溜息を吐くと、そのままベッドに横になる。考えても埒が明かないと匙を投げたようだ。
 と、玄関のドアが開く。ノックもチャイムも無かったので思わず法正が起きあがった。
「だ、誰?」
「おっはよー。遊びにきたぞー…ゲッツ!」
 赤いボサボサ髪の少女――今日は猫プリントのTシャツに右足部分が破れて無いGパン姿の簡雍憲和が微妙に流行中のポーズをしながら部屋に入ってきた。
「もー…憲和…。ノックかチャイムぐらいしてよ」
「細かい事はいーの」
「細かくない!」
「いてっ」
 法正はベッドから飛び降りると手近にあった輪ゴムを簡雍目掛けて撃った。
「心狭いぞー。そんなだからムネの成長止まるんだよ」
「うぐっ」
 簡雍、法正に100のダメージを与えた。
 膝をついて項垂れる法正を尻目に簡雍があるものを見つける。先ほどのカウンターだ。
「何これ? 萌えポイント?」
「私が知りたいんだけど…朝起きたらあったから」
「ふーん…あ、カウンター回った…」
 何が基準で回るのか、何で自動的に動くのか、そもそも誰が置いたものなのか…存在理由も動作の原理も分からないカウンターはくるくるとアナログ数字を回している。
 簡雍は顎に手を当てて考え込む。時折、法正を見ながらだ。
 当の法正はダメージが深刻な様子で、まだ項垂れていた。
「あ、分かった♪」
 簡雍がぽんと拍手を打つ。
「法正の萌えポイントに応じてカウンターが回ってるんだ」
「私の萌えポイントって…」
 満面の笑みの簡雍と複雑な表情の法正。
 簡雍はおもむろに法正に近づくと…いきなり懐から取り出した伊達眼鏡を装着させる。
「わぁっ!」
「ほら、やっぱり!」
 驚き慌てふためく法正の後ろでカウンターがくるくると回っている。
「憲和〜!」
「取りあえず一枚…ゲッツ!」
 顔を真っ赤にして怒る法正にデジカメのシャッターを切る簡雍。
 こうしていつもの鬼ごっこが始まったのだった――

「はっ!」
 法正がぱちっと目を開ける。
「…変な夢見た…」
 冷や汗を流しながら法正は傍にあった目覚し時計を手に取る。
「3時…もう一回寝よ…」
 あまり気にしない事にした法正。再び目を閉じ眠りに落ちていく。
 ――だが、机の上には…

                            おしまい

あとがき

 ショートショート。思いつきですぱっと書いてみました。しかも夢オチだし(爆)
 1000萌(モエー)を獲得した法正たんを書きたかったので…
 萌えカウンター…謎すぎのシロモノなのであまり気にしないでください。

307 名前:★ぐっこ@管理人:2003/07/27(日) 15:33
Σ( ̄□ ̄;)!!萌えスカウター!
一流のオパーイ星人の視神経は、一目見ただけでサイズやらカップ数やらが数値化されて
表示されるらしいですが、それを物理化し、かつ萌えに焦点を合わせた謎の装置!?
…本当に正体不明の装置ですね(^_^;) 簡雍でない以上、誰が設置したかは見当も付きます
けれど…

それにしても、ショートショート(・∀・)イイ!小気味よくて読みやすい!

308 名前:★玉川雄一:2003/07/27(日) 21:16
グコーさんがスカウターって書いてるから、
てっきり「戦闘力10万、15万、20万…ッ!」のアレかと思いますた(゚∀゚)

…いや、ソレもありかも。
誰か電子工作同好会(あるんか)の人が萌えスカウター作ってくれないカシラ?
阿斗ちゃんとかで測定するとあまりの萌えっぷりに弾け飛ぶな、きっと。

てゆうか本題ですが。憲和タンの「ふーん…あ、カウンター回った…」がなんかツボに入りました。

309 名前:おーぷんえっぐ:2003/07/27(日) 22:04
この二人は仲が良いのか悪いのかw・・・その辺がわからない所がいいのですが・・・
最後の一文は、ちょっとミステリーっぽいし。
個人的にはそのオチに高いポイントが・・・(怖い話し好きで、ミステリー好き
な自分w)

310 名前:★ぐっこ@管理人:2003/07/27(日) 23:39
ああ、確かに話が飛んでますな(゚∀゚) 萌えカウンターの仕組みを考えてるウチに、
「萌え力10万ッ」の設定が脳内で完成しちゃったのですよ(^_^;) 元ネタは幕張の
「貴様のスカウターは幾つを表示している?」「戦闘力(バスト)86」みたいな会話。
科学系のサークルが開発に成功してそう…

それにしても、ホント仲いいのか悪いのか…

311 名前:雪月華:2003/08/02(土) 08:36
ひと夏の思い出 〜孫権 運命の出会い〜 その1

涼州校区の雄、董卓が夏休みを利用して中央政権の足場固めを行っているちょうどその頃…
万博の折、撃ち上げられた気象操作ミラーの故障から、凶悪なまでに豊かな太陽の恵みが降り注ぎ、完全に熱帯性気候と化してしまった揚州校区。その約半分を占める宏大な湖は、東西に長い幅を持つ事から長湖と呼称された。
約二億年前のジュラ紀前期に、火山の沈没でできた湖といわれ、その中央に位置する赤壁島は当時の火口の名残である。ジュラ紀当時のジャングルを保ち続けるこの島で、長湖部名物である、地獄の強化合宿終了後の夏休みの残りを、ごく近しい者だけでキャンプして過ごす事が、初代長湖部長にして長沙棟の棟長である孫堅の、中等部時代からの習慣だった。
キャンプといえば聞こえはいいが、実際のところは、初日の昼食と最低限の食器しか持ち込まずに、その後の食料や飲料水は全て自給自足という、完全な無人島サバイバルである。妹の孫策・孫権と、孫策の親友である周瑜も、それぞれ中等部進級と同時に付き合わされることになり、孫堅が高等部一年であるこの年、中等部三年である孫策、周瑜は三度目。二年生である孫権は二度目の体験であった。
そのハードさは、脱落者が続出する地獄の強化合宿ですら、お泊り会程度と思えるほどに過酷であり、ことに姉と違い、あまり頑健ではない孫権──とはいっても中学一年にして基礎体力は高校生クラスのものではあったが──の初参加時は、二十日間の日程で体重が半分に減ったといわれている。

「伯符ー、そっちはどうだった?」
やたら巨大なシダ植物群を掻き分けながら、高台に置いたベースキャンプ──棒を立てて防水シートで屋根をつけただけ──に這い出してきた孫策に、ベースキャンプ周辺を整備していた周瑜が問いかけた。その背中の籠に満載された果物の小山を見て顔をほころばせる。
「大漁大漁!バナナとリンゴが沢山なってた!」
「超オッケー!!」
互いに走り寄ると、頭上高く掲げた右手を打ち合わせるハイタッチの挨拶を交わし、その喜びを表現した。
「伯符おねえちゃーん、周瑜さーん、お水汲んできましたー」
「ご苦労様!後で煮沸するから、そこに置いててね。お姉様や伯符は生水飲んでも平気だけど、私達はそうも行かないから」
洗い物と水汲みを担当している孫権が、手製の濾過器を通した湖水を満載した、2リットル入りのポリタンクを右手に、洗った食器の入った籠を左手に持ち、中華鍋を頭にかぶって、200mほど坂を下ったところにある湖岸から、意外に危なげない足取りで戻ってきた。
「これで後二日は保つ…か。残り二週間、先は長いよなぁ…」
情け容赦なく照りつける長湖の太陽に手をかざし、眼下のさざ波立つ長湖に目を落として、孫策がぼやいた。三人とも、長湖部Tシャツに、膝まで捲ったジャージ姿だが、孫策はTシャツの袖を肩のあたりでちぎっている。
「いいじゃない、こういうのも。孫権ちゃんも結構逞しくなったことだし。一昨年、初めて体験した時は、さすがに死を覚悟したものだけど…」
「それにしても、お前らって日焼けしないよなぁ…ちょっとうらやましい」
「体質よ体質。もともとが白いから日光を弾くらしくて」
他校区の数倍の強さで照りつける揚州の太陽の影響で、孫策はポリネシアンさながらに日焼けしていた。一方の周瑜と孫権の肌は白いままである。
「あとは文台お姉ちゃんだけか…お魚さん、たくさん獲れたかなぁ?」
妹の心配を受けて湖水に目をやった孫策が、ある事に思い至り、周瑜に尋ねた。
「なあ周瑜、ずっとここにいたんだよな。姉貴の最後の息継ぎから何分経ってる?」
「えっと…7分!?」
「えーっ!」
「…素潜りだぞ。いくら姉貴でもやばくないか?」
「…うん…ひょっとすると」
「うう…お姉ちゃあん…」
最悪の事態が三人の脳裏をよぎる。孫権が地面に手をつくと、涙を流し始めた。
「…太く、短い人生だったな」
「ええ…でも、お姉様の雄姿と志の熱さは、私たちの心にしっかり刻み込まれているわ。お姉様の死を、私達は無駄にするわけにはいかないのよ」
「うう…」
「孫権!泣くんじゃねえ!」
「伯符も涙を拭いて…それから考えましょう。今の私たちに、何ができるのかを!」
「おう!やるぜ!姉貴の遺志を無駄にしねえ為にも、今の俺たちにできる事を精一杯…ぐあっ!?」
「なに勝手に殺してくれてんのよ」
背後から頭を思い切りこづかれた孫策が、地面にうずくまった。その背後に立っていたのは、孫堅である。東洋人離れした見事なプロポーションを、虎縞のビキニが鋭く引き締め、健康的な色気を惜しげもなく振りまいていた。腰には同じ虎柄のパレオ(タヒチなどで一枚の布を身体に巻く民族衣装。いわゆる水着の腰巻き)を巻きつけており、長湖から上がったばかりらしく、それからは湖水が滴っている。
「お、おねえちゃん!?無事だったの!?」
「あたしの肺活量を甘く見ないでほしいわね。ほら、エモノ」
「わーい…って、これ、卵?しかも氷漬け…」
孫堅が砂浜に放り出したのは直径40cmほどの氷漬けの卵だった。奇妙な模様が規則正しく全体にちりばめられており、いかにも恐竜の卵といった感じである。
「お姉様、これは湖底から?」
「もちろんよ。周瑜」
「でかっ!よし、早速ゆでるぞ!周瑜!鍋を火に…ぐあっ!?」
「何バカな事を言ってんの?博物館に売りつけてカネにすんのよ!」
割り込んできた孫策に再びゲンコツをくれると、孫堅は、がめつい事を言った。
「そ、そんなこといっても、結局んとこ魚は取れてねーじゃねえか!毎日毎日焼き林檎と焼きバナナだけじゃ味気ねーって!」
「孫策…あんた、あくまであたしに逆らうってのかい?」
「おう、実りある食生活のためなら姉貴といえども容赦はしねえ…故人曰く『食べ物の恨みは恐ろしい』ってなぁ!!」
「お姉様も伯符も落ち着いてくだ…きゃっ!」
カミソリの如き鋭さで繰り出された孫策の強烈な後ろ廻し蹴りが、止めに入りかけた周瑜の目の前を掠めて孫堅の側頭部を襲う。
大木をも粉砕するその右足を、孫堅は無造作に掌で受け止めた。
そのまま無造作に足首を掴むと、片腕一本で無造作に振り回して勢いをつけ、無造作にジャングルのほうへ放り投げた。
撃ち出された砲弾の如き速度で、原始林を薙ぎ倒しながら孫策はジャングルの奥へ消えた。
孫堅がその後を追って猛然とジャングルへ走りこんでいく。
「孫策、逃げるな!」
「姉貴が吹っ飛ばしてくれたんじゃねーかよっ!」
めくるめく轟音と土煙がジャングルの奥から吹き上がり、怪しげなエネルギー波の輝きが爆発音を伴って連鎖した。
断末魔の悲鳴をあげて次々と原生林が倒れ、赤壁島は時ならぬ地震に見舞われた。
背後の龍戦虎争など我関せずといった感じで、かがみこんだ孫権はひたすら先ほどの卵を撫で回している。赤壁島の暑熱により、周囲の氷はすっかり溶け出してしまっており、乾燥した表面は鶏卵より少しざらざらする手触りであった。
「また始まった…アレで結構仲がいいんだけど…ね?孫権ちゃん」
疲れたようなため息を漏らすと、周瑜は孫権に歩み寄った。
「あ…」
「どうしたの?」
「この卵…生きてる。いまトクンって…」
「それじゃあ…」
「間隔が短くなってる…産まれる!?孵るの!?ねえ!周瑜さん!」
「お、落ち着いて、こういうときは…そうよ!ラマーズ法よ!」
「ボクが産むんじゃないよー!」
おもいきり取り乱した二人の前で、卵の一点ににひびが入り始めた。それは蜘蛛の巣状に広がり、外周を一回りして後背で繋がる。ひとりでに卵が左右に揺れ始めた。
背後のジャングルで、やたらと大規模な姉妹喧嘩が続くさなか、神秘的な光景を二人は目の当たりにしていた。
珍しく取り乱した周瑜が、さらに二歩あとずさった。一方、落ち着きを取り戻した孫権は、卵に歩み寄り、その傍にかがみこむ。
「あ、あぶない!離れて!食べられるわよ!」
「この子…出ようとしてるんだけど、殻が破れないみたい…だんだん動きが遅くなってる…このままじゃ…」
孫権の観察どうり、卵の揺れが少しずつゆっくりになってきている。卵の中で活動可能なまでに成長したものの、殻を破る力がまだ備わってきていないのだ。孫権は、そっと卵に両手をかけた。
「孫権ちゃん!なにをするつもり?」
「ねぇ、キミ、頑張って!ボクも手伝ってあげるから…頑張って!せっかく生まれてきたのに卵の中なんかで死にたくないでしょ、生きたいんでしょ!ねえ!頑張って!外に出てきて!」
必死に呼びかける孫権の声が届いたのだろうか、卵は…いや、生まれようとする小さな生命は再び力強く動き出した。
そして、奇跡は起こった。
卵が、ひびに沿って真っ二つに割れた。勢い余って飛び出してきた黒い影に胸を直撃され、孫権は勢い余って砂浜に仰向けに倒れこんだ。掴んでいた卵の殻の上半分が宙を舞う。
孫権を押し倒した黒い影が、小さな鳴声を上げた。
それはイルカのようにすべすべした肌をしており、蛇のようにもたげた頭部にはインド象を思わせるおだやかな目があって、少しびっくりしたようすで孫権を見つめている。頭の先から尻尾までの長さは約40cm。重さは4キロほどで、4枚の足ひれから、形的にはジュラ紀前期に生息していた首長龍・プレシオザウルスによく似ているようだった。
やがて首長龍は表情を和らげ、目を細めると、その小さな頭部を孫権に擦り付けてきた。くるる、と甘えたように喉を鳴らしている。
「孫権ちゃん…大丈夫?わ、わたし爬虫類は苦手なのよ…」
「うん…この子、ボクのことをお母さんだって思ってるみたい」
「刷り込み…ってやつね、なんにせよ良かったわ〜」
「この子、あったかい…それに、いい手触り。スベスベしてるに、柔らかい…」
ほっと息をつくと、緊張がきれたのか、周瑜は砂浜にへたり込んだ。
先ほど孫権が放り投げた卵の上半分が、周瑜の頭にかぶさり、まるで、某黒いひよこのキャラを髣髴とさせているが、それに周瑜は気づいていない。
やがて孫権が体を起こし、首長龍の子供を膝の上に抱くと、首から背中にかけて優しく撫で始めた。その表情は、年齢にそぐわぬ聖母の優しさに満ちていた。
背後で草を掻き分ける音がしたとき、周瑜は振り向いたものの、孫権は首長龍に夢中で振り向こうとはしなかった。
「まったく、このバカ、てこずらせて…余計なエネルギー使ったじゃないの」
実に島の三分の一の原始林をなぎ倒すほどの激闘を制したのは、やはりというか姉の孫堅であった。激闘の証拠に、体のあちこちから血を流し、ビキニの肩紐が半分ずり落ちている。右手では、孫堅以上にボロボロになって気絶している孫策の襟首を掴んで引きずっていた。
「ええと、お姉様。伯符は死んじゃ…いませんよね?」
「一時間もすれば目を覚ますわよ。…それより、あんた面白いものかぶってるわね?」
「え、あっ!いつの間に…」
「アハハ、卵の殻かぶってて気がつか…って、それってまさか、さっきの!?」
「はい…孫権ちゃんが、孵しちゃったんです」
「ああ〜…洛陽棟の白馬博物館に卵を売った金で、東呉スポーツへの支払い目処がたったと思ったのに…また長沙棟でムチャやらなきゃなんないのね…」
目論見が外れた孫堅は、がっくりと肩を落とした。
<続く>

312 名前:雪月華:2003/08/02(土) 08:49
皆様、お久しぶりです。
修羅場も一段落(とはいっても明日より今日がマシ、という程度のものですが)しまして、
雑談スレ157番の、教授様提案『夏と乙女達』のテーマに沿ったSS書いてみました。
本当は執筆中の長編に30行ほどで挿れるエピソードだったのですが、
考えてるうちにどんどん世界が広がってきたので、ここにageさせてもらいました
さて、登場した首長龍ですが、次回、孫権によって命名されます。
史実では温厚で慎み深い人格者で知られ、孫権に最も愛された、あの人です(ここまで書けばバレるかな)。
プロットはすでに完成しているので、夏が終わらないうちに完結させるつもりです(長編は蒼天航路に追いつかれないうちに何とか…)。

313 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/03(日) 10:22
(゚∀゚)! 
雪月華様、お久しぶり!そして待望の新作っ!
うわー、最近学三に磨きを掛けるため、年代物の学園ギャグ漫画をハシゴしてるんですけど、
コレ凄い雰囲気でてるなー。
特に孫堅のキャラがナイスだなー。最近妙に孫策が話題になってますが
やはり呉の主は孫堅! 妹孫策を片手であしらう姉さんに萌え…

そして出てきた首長竜のタマゴ! うーん…誰になるのだろうか…(^_^;)

ところで↓

>「間隔が短くなってる…産まれる!?孵るの!?ねえ!周瑜さん!」
>「お、落ち着いて、こういうときは…そうよ!ラマーズ法よ!」
>「ボクが産むんじゃないよー!」

思いっきり取り乱している二人ワロタ。

314 名前:★教授:2003/08/03(日) 23:49
■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第一章〜 ■■


 ここは益州校区内にある学生用私設プール。
 夏という事もあって利用する生徒は星の数程いる。
 ――が、今日に限っては違った。
 入り口には『本日貸し切り、ゴメンネ 幹部達、一日だけの夏休み』と書かれた紙が貼られているのだ。
 これには一般生徒達も引くしかなかった。…と言うよりも『一日だけ』という文字を見て可愛そうになったのだった。
 そして…熱い一日が幕を開けた――


「やー…夏は泳ぐに限るよなー」
 プールサイドに立ち、降り注ぐ陽光に劣らぬ笑顔の張飛。
「さよか。そんでも準備運動はしぃや」
 麦藁帽子を片手に劉備が今にも飛び込みそうな張飛を窘める。
「分かってるって。健康には人一倍気を使ってるからなー」
 張飛はそう答えて柔軟体操を始めた。
「やれやれ…普段からこう素直に人の言う事聞いてくれたら苦労せんのになぁ」
「仕方ないでしょう、半ば本能で生きてるような所がありますし」
 肩を竦める劉備の後ろから諸葛亮が声を掛けてきた。
「上手い事言うやんか…って。それは…何か? 新しいジャンルの開発に成功したんか…?」
「これが私のスタンダードです」
 涼やかに白羽扇を口元に当てる諸葛亮。黒のビキニに玉虫色のパレオ、ここまでは普通。しかし、更に白衣を着こなしているのだ。これは劉備でなくとも言葉に疑問詞を付けてしまうだろう。
「総代、中々涼しそうなお姿ですね」
「シチュー。あんたは泳がんのか?」
「私は泳ぐよりもパラソルの下で読書してる方が好きなんですよ」
 白のビキニの上からいつものパーカーを着る劉備。そして、これまた白いワンピース姿のビ竺。自称『プチ清純派』と通称『お嬢様』の名にそぐわぬ井出達だ。
「あんたらしいけど…あっちももう少し色気欲しいもんやな」
 ちらりと柔軟体操をしている張飛を横目に見る。スクール水着という何ともお約束な姿だが、実によく似合ってたりする。
「関さんも子龍も来れたら良かったのになぁ」
「仕方ないでしょう。関羽殿は荊州棟の守り、趙雲殿にはアトちゃんの看病がありますから」
 溜息混じりの劉備に諸葛亮が静かに答える。
 ちなみにこのアトちゃん、先日まで元気だったのに今朝になって突然熱を出してしまったのだ。本番に弱いタイプなのかもしれない。
 そんな彼女に付きっきりになっているのが趙雲。アトちゃんの一大事とばかりに颯爽と現れて看病を買って出ているのだ。
 劉備とビ竺がパラソルと折り畳み式の椅子をセットしていると、黄忠と厳顔が姿を見せた。
 黄忠は青ラインの縦縞ビキニ、厳顔は赤ラインの横縞ビキニ。二人ともサンバイザーとサングラスを装備して大人の雰囲気を出している。
「おー…流石やなぁ。大人の魅力が炸裂しとるで、二人とも」
 ひゅうと口笛を吹いて感嘆の声を出す劉備。
「大人…まあ、そうでしょうね」
「その辺の子供には負けない自信はありますよ」
 サングラスの下から余裕の眼差しを見せる年増二人組。しかし、あんまり誇れる事でもないのだが。
「それじゃ、私達は準備体操してきますね」
 そう劉備に告げるとプールサイドで準備運動している張飛の元へ移動した。だが、その時、一筋の稲妻…は言い過ぎだがそれっぽいモノが劉備の横を駆け抜けた。そして――

「雷同(ライドゥー)キーック!」
「はぶっ!!!!」

 どばっしゃぁんっ!!!!!!

 厳顔が物凄い勢いでプールに飛びこんだ。厳密には蹴り込まれたのだが。
「厳顔!」
 慌てて黄忠が柔軟体操もそこそこにプールへ飛び込む。
 プールサイドには一瞬の出来事を呆然と見ていた張飛と、飛び蹴りを叩きこんだ雷同の姿があった。
「やった…遂に完成した! あたいの雷同キックが遂に!」
 見事に飛び蹴りが決まった事が余程嬉しかったのだろう。プール際で狂気乱舞する雷同。
 だが、喜びもつかの間だった。
 突然、水中から伸びてきた手が雷同の足を掴むと、あっという間に彼女をプールへ引きずり込んだ。

「雷同ーっ! テメー、殺す!」
「キャー! イヤー! 悪気はなかったのーっ! 背伸びしたかっただけなのーっ!」
「うるせーっ! こーしてやるっ、こうだっ!」
「やーめーてーっ! 下克上じゃなかったのーっ! 殺さないでーっ!」
「オラオラオラオラオラ!」
「っギャーーーーーっっっっ」

 …断末魔の叫び、そして喧騒が止んだ。
 厳顔と黄忠がプールから上がってくる。しかし、雷同の姿は見えない。
 暫くするとぷかぷかと雷同が水面を漂っているのが見えた。
 張飛はこの時の事を後にこう語った。

『ありゃあ…鬼だったね。雷同も自業自得っちゃあそうなんだけど…それ以上にあの二匹の獣を怒らせたってのが間違い。俺、絶対にあの二人を怒らせないようにしようって心に誓ったよ』

 
 ――場所は変わって更衣室。
「なー、法正。それウソ胸?」
「違うわよ! 素よ、素!」
 かなり失礼な簡雍に本気で返す法正。黒ビキニとパレオに身を包み、疑惑視された胸を隠す。
「素が一番だって。外観を取り繕うのはサイテーだね」
「う…そ、そうだね」
 痛い所を突かれた法正。簡雍はデジカメを首からぶら下げて法正の横を通り過ぎる。
 だが、簡雍が何もせずに通りすぎる訳がなかった。
 なんと、法正のビキニの上のヒモを引張ったのだ。
「…!! わああっ!!」
 咄嗟にビキニが落ちないように手で押さえる法正。
「いただき♪」
 簡雍の本日一枚目のシャッターが切られた。法正の怒りのボルテージが最高潮に達した。
「憲和コロスーっ!」
「あははっ、早く直さないと小ぶりの胸が見えちゃうよー」
 投げキッスを法正に寄越して簡雍が更衣室を出ていった。
 悔しさに握り拳を震わす法正。
「憶えてなさいよーっ!」
 どうやら復讐を誓ったようだ。具体的に何をするかは決めてないようだが。

 こうして帰宅部の長く熱い一日が幕を開いた。
 乙女達の夏は始まったばかりなのだ――

315 名前:★教授:2003/08/03(日) 23:54
プールSSの第一弾。雷同たんの扱いヒドすぎ。

雪月華様>

孫堅、孫策の姉妹喧嘩に激しく笑わせていただきました。
ある意味、恐竜よりも怖いっす。大怪獣激突? やはり姉に軍配が挙がったようですが。
周喩の取り乱し方は個人的にツボに入っちゃいました。

316 名前:おーぷんえっぐ:2003/08/04(月) 00:41
雪月華さん>孫権たちの合宿読みましたw 以前自分が絵描きBBSで、予定していた
      ”長湖部・海獣大決戦”の大まかな荒筋で、符合するとこがあったので
      こっちは、もうちょこっと煮詰めてからネームを一考したいと
      思いますです。 しかし、おもろかったw 一文だけで想像すると孫策が
      半分死んでるような感じが・・・・w

教授さん>雷同の登場、果たして偶然だったんでしょうか?(雷同キックで爆笑w)
     お絵かきで描いたばっかりだったので・・ついついw
     そしてトドメはやっぱりあの二人ですか・・・^^;
     この学園では、夏場は(いつも、かw)どこも修羅場ってイメージがついて
     しまいましたw

317 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/04(月) 23:19
水着祭りキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
教授様グッジョブ!!!(b^ー°)

まず雷同キックワロタ。わかる!非常によく分かる!プールでしか繰り出せない大技!
脳天気な少年役ができそうな声優が似合いそうな雷同たんが想像できるなあ…
妙にガキっぽいのが揃ってる帰宅部連合のなかで、大人な黄忠&厳顔コンビいいな。

そして法正たん…。いつもの事ながら気の毒に(;´Д`)ハァハァ…
ヤパーリウソ胸2割り増しなのかしらん…?

318 名前:★教授:2003/08/05(火) 23:36
 少し数えてみたら何と25本も駄文を書いている事が判明。
 ここまで恥を晒すと却って開き直りそうな自分に危機感を憶える今日この頃です。

おーぷんえっぐ様>

 実は雷同の登場は偶然ではありません。
 お絵描きBBSをふと拝見してたら…

『雷同…この娘は使える!』

 と、衝動的に登場をしてもらいました。厳密に言えば、張飛の他にやんちゃなキャラが欲しかったんですけどね。
 雷同キックが概ね好評のようですが、元ネタは某特撮ヒーローの必殺技です。
 最近の特撮とかアニメには疎いので…あの設定が分からなかったのですネ、これが(涙)

ぐっこ様>

 夢も希望もない事を言いますが…ズバリ、ウソ胸です。(爆)
 裏話的な事言うと、実は投稿前に修正してるのです。内容が少し大人向けに傾いちゃってたので…。(切腹)

319 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/05(火) 23:49
>教授さん
初めまして。前々からここにお世話になっていながら、数ヶ月間来れなくて色々変わっていてビックリのヤッサバ隊長です(長いなぁ)。
今後ともよろしくです。

それにしても雷同キックは、やはり狙っていましたか…。
俺も技の一号は大好きですw
なお、おーぷんえっぐさんがお絵かきBBSで紹介してた例の特撮作品についてですが、
比較的(というよりかなり)古いヤツばっかりだと思いますですよ?
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと俺を呼ぶ!」の名口上を残している仮面ライダーストロンガーとかね。
しかし本放送が昭和50年って…俺生まれてないし!w

320 名前:★アサハル:2003/08/06(水) 00:04
乗り遅れますたー!

>雪月華様
某ネコ型ロボットとダメ少年と首長龍の長編版を思い出しました…。

それにしても何してるんですか孫シスターズ(w
二人の凶悪姉妹喧嘩(戦争)をモロに受け止めてきた孫家の実家の
耐久性が妙に気になりました。
続き…どうなっちゃうんでしょう?まさか折角生まれてきたのに
喰われるなんて事は(ry

>教授様
あ、ああー(゚∀゚;)
雷同たん、ご愁傷様です…惜しい人を亡くされ………(死んでない)
それにしても水着姿にも性格が出てて藁いました。特に諸葛亮。
何気に麋竺が萌え…

321 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/11(月) 21:58
■■魏文長、その密やかなる趣味(1)■■

 魏延は生来より、豪胆かつ粗暴な女傑であった。
 しかし、蒼天学園へと入学した直後より、彼女はその性格を改め、真なる淑女…つまり乙女への道を志した。
 その経緯は、中学時代(蒼天学園中等部に非ず)剣道部に所属していた際、腰を痛めた為に一線を退く事になり、大そう悲しんだ。
 しかし、その時彼女の先輩より「女は武のみに生きるに非ず」と諭されたが故であったという。
 ともあれ、彼女は武骨な性格を正し、「乙女」として行きようと決意したのである。


「ふんふんふ〜ん♪」

 荊州校区蒼天女子寮。
 朝、誰もいない調理室で、魏延は鼻歌とともに何やら洋菓子を作っている。
 どうやらクッキーのようだが、何とその形状は「クマさん」。
 確かに、クマというところがある意味彼女を象徴するクッキーであるが、武辺者として既にその名を蒼天学園中に知られつつあった魏延が、そのようなモノを作る趣味を持っている者は、皆無と言えよう。
 いや、彼女は意図的にそのような趣味がある事をひた隠しにしてきたのである。

 かつて、このような事があった。
 まだ、魏延が帰宅部連合に参加する前の事だ。
 当時一年生だった彼女は、参加する部活を決めかねていた。
 最初は中学時代のように剣道部に入部するのが筋だと思っていたものの、「乙女を目指す」という大目標が出来た手前、体育会系の部活に入る訳にもいかない。
 そこで、荊州校区の文化系の部活に入ろうと決意したのであるが…。

「こんなんちまちまやってられっかぁぁぁっ!!」

 …と仮入部した茶道部で、あまりの退屈さに苛立ち、ついには茶釜をひっくり返すという剛毅なマネをしでかしたのだった。
 当然すぐさま追い出される魏延であったが、彼女は諦めない。
 続いて美術部へと仮入部するのだが…。

「こんなんちまちま描いてられっかぁぁぁっ!!」

 …と、例によってカンバスをビリビリと豪快に引き裂き、周囲を凍りつかせてしまう。
 当然美術部も追い出された彼女は、最後に料理研究会に入ろうとする。
 だが、既に魏延の勇名は荊州校区全体に広がっており、

「あ、あの…料理研究会に入りたいんですけど…」
「結!構!です!!」

 …と、恐る恐る尋ねた魏延を、研究会代表・趙累が一蹴してしまうのだった。
 さらに、当時魏延が所属していた長沙棟の棟長・韓玄は、粗暴な性格の魏延が大そう気に喰わなかったらしく、わざわざ魏延を呼び出してこう言い放っている。

「あんたに文化系の部活なんざ務まる訳無いでしょ。相撲部や牛乳部や魚拓部がお似合いよ」

 このセリフに逆上しそうになった魏延であったが、

(ガマン、ガマンよ文長…こんなところでキレたりしたら、あたしはこれから一生乙女でいられなくなっちゃう…)

 と、じっと怒りを抑え、悶々とする日々が続いたのである。
 だが、皮肉な事に魏延は「乙女」ならぬ「漢女」と言う異名と、武名を轟かせてゆく事になってしまうのだった。




 そのような彼女であったから、「クマさんクッキーを作る」事が趣味であるなどとは、口が裂けても言えなかった。
 それは、劉備が荊南棟群を平定し、その際に劉備に降り、名実共に「帰宅部」の仲間入りを果たした後でも変わらなかったのである。

「焼けた焼けた、っと」

 オーブンから焼きあがったクッキーを取り出し、その一つを口に運んだ。
 ポリポリとしばしクッキーを味わった後、魏延の表情が思わずほころぶ。

「んん〜、おいひぃ♪」

 正直言って、「普段の魏延」を知る者がこのシーンを見せ付けられれば、気味悪がって逃げ出してしまうだろう。
 それほどまでの変貌ぶりであった。
 魏延は焼きあがったクッキーを小さな紙箱に入れ、包装紙で包んで部屋を後にするのだった。

(このクッキー、今日こそ部長に食べてもらうんだ〜♪)

 魏延は、ルンルン気分(死語)で学園に登校する。
 しかし、そんな彼女に思いもよらぬ災難が待ち受けていようとは、この時まだ知る由も無かった…。

(2)へ続く。

322 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/11(月) 22:08
脱字発見しますた(T_T)

>既にその名を蒼天学園中に知られつつあった魏延が、そのようなモノを作る趣味を持っている者は、皆無と言えよう。

の、「趣味を持っている者は、」の部分は、
正確には「趣味を持っている事を知る者は、」が正解です(^^;

323 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/11(月) 22:12
…と言う訳で、先刻より周知しておりましたSSがようやく完成しました。
と言っても、まだ導入部分ですけど(^^;

この続きは、またの機会という事でよろしくです。

324 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/13(水) 17:18
…っΣ(´Д`;)
むう!魏延たんが人知れずクッキーを! 漢乙女の面目躍如!
戦闘時のバトル少女との落差がハァハァもの。
ところで韓玄たん、牛乳部って何でつか…(;´Д`)

続きを期待!

325 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/13(水) 23:56
■■魏文長、その密やかなる趣味(2)■■


 放課後。
 蒼天学園の生徒達がそれぞれの課外活動に精を出している中、魏延もまた荊州校区風紀委員の一人として、長沙棟内の巡回を行っていた。
 だが、一方で帰宅部連合部長という重役である劉備は、その魏延の数倍の作業をこなしている。
 無論、諸葛亮や馬良、ホウ統といった総務役も部長のサポートに回っていたのだが…。
 益州攻略の時が近づいていた今、劉備の双肩には、多大な責任が圧し掛かっていたのである。

「うー、孔明…ちったぁ休ませてんかぁ〜」
「いけません。今日中に、各予算の配分を完了してしまわねば。
 この荊州の地盤をしっかりと固めねば、長湖部に背後を襲われるやもしれません」
「さよか…ま、しゃーないなぁ」

 ブツブツと文句をたれながら、劉備は鉛筆を片手に頭を悩ませている。

「せやけど、こーゆー仕事は庶務の三羽ガラスがやるもんやろ。
 何でうちが…」
「仕事を部下に任せて、主は椅子に座って命令するだけというのは、三流の組織の体系です。
 それに、部長自らが雑務をこなす姿を見れば、おのずと部下もついてくるというものですよ」
「うう〜…」

 孔明は、お得意の舌先三寸で劉備を上手く丸め込んだ。
 しかし、問答をしている諸葛亮自身も山のような書類と格闘しており、劉備にぐうの音も言わせない。
 そんなこんなで、その日の雑務を終えた時には、既に時計は夜6時を回っていた。

「う〜、やっと終わったわ…」

 へとへとになり、思わず机にうつ伏せになる劉備。
 諸葛亮は、そんな彼女の目の前に栄養ドリンクのビンを置いた。

「部長、お疲れ様でした。
 この『スパビタンX』を飲んで、元気を出して下さい」
「おおきに、そんじゃお言葉に甘えて遠慮なく…」

 劉備は、諸葛亮に渡された栄養ドリンクを一気に飲み干す。
 しかし、直後劉備の顔が真っ青に染まり、苦しみの表情へと変わってゆく。

「ぐぁっ…!!
 な、なんやコレ!? 一体ナニが入っとんねん…?」
「ああ、それでしたら…私が市販の栄養ドリンクをベースに冬虫夏草と高麗人参、さらにはマムシやスッポンのエキスをブレンドした特製品ですが?」
「!!!?」

 それを聞いた劉備は、口を両手で抑えながら真っ直ぐトイレへと駆け込んで行ってしまう。

「…やはり、栄養を重視しすぎたかな…?」

 諸葛亮は、さして罪の意識を持っていない様子で、『スパビタンX』のビンを眺めるのだった…。



「あ〜、えらい目に遭うたわ…」

 暫くして、劉備は余計疲れたような表情でトイレから現れた。
 そんな時、偶然巡回をしていた魏延とばったり出会う。

「あっ、部長。こんな時間までお疲れ様です」
「おう、文長か。あんたもこんな時間まで大変やな」

 劉備は苦しそうな表情を必死に隠しながら、魏延と普段どおりに会話しようと努めた。

「いいえ、あたしは見回りですから。いつもデスクワークに追われている部長達に比べたら…」
「せやなぁ。孔明や士元、季常にいっつもせっつかれるんや。
 おまけに、今度益州校区まで行かなあかんやろ。大変や〜」

 劉備は力で益州を攻める事に、乗り気では無かった。
 だが、漢中の張魯が益州への侵攻を開始した為に、劉備は益州校区生徒会長である劉璋の援軍として出陣する事になったのだ。
 しかし、その裏では諸葛亮を始めとする謀臣達が益州攻略の策を練っており、一方の劉璋陣営でも親劉備派が帰宅部連合を迎え入れる準備を始めていた。
 劉備の思惑に反するかのように、時勢は激しく動きつつあったのである。

「心配しないで下さい。
 この魏文長、部長に同行する事が決まった以上、必ずやお役に立ってみせます!」

 不安を抱えていた劉備を、魏延が励ます。
 魏延は、今度の遠征で劉備と一緒に戦える事が大そう嬉しかった。
 勿論、新参者である彼女にとって、理由はどうあれ劉備の下で武功を上げられるチャンスだったからでもあるのだが。

「元気やな、あんたは。
 うちも、もっとシャキッとせなあかんな」
「部長…」

 魏延に励まされ、劉備はようやく心の迷いを僅かながら消し去る事が出来た。
 その様子を見て安心したのか、魏延の表情も綻ぶ。

「そうだ、部長に渡したいモノがあるんです。
 受け取って貰えますか?」
「お、おう」

 魏延はそう言うと、スカートのポケットの中に忍ばせておいた小さな紙の箱を取り出し、劉備に手渡す。

「開けてみて下さい」
「ん…分かった」

 劉備が箱を開けると、そこにはクマさんの形をしたクッキーが入っていた。
 だが、流石の劉備もまさかこのようなモノが入っているとは思いもしなかったようで、

「な、何やコレ!? く、クマさん…!!?」

 そう言った直後、思わず口から笑い声が噴き出してしまうのだった。

「ギャハハハハッ! あ、あんた、こないなモンどないしたんや?」
「あ、あたしが一生懸命作ったんです!
 部長に食べてもらおうと思って、誰にも見つからないように、必死にお菓子の勉強をしながら…!」

 魏延の真摯な態度に感銘した劉備は、どうにか笑いを止めて魏延に向き合う。

「す、すまん笑ろたりして。
 いや〜、それにしても『漢魏延』がクマさんクッキーたぁ、なんちゅーミスマッチやねん。
 せやけど、あんたにこんなモンを作る趣味があったなんてな」

 劉備の言葉に対し、魏延は顔を真っ赤にして俯く。
 やはり、相当恥ずかしいのだろう。

「うう〜、それについては話せば長くなるんですけど…。
 と、とにかく食べてみて下さい」
「ああ、分かった…」

 劉備は、箱の中にあったクッキーの一つを手に取り、口に含んだ。
 そして、ゆっくりとそれを噛みしめてゆく。

「んん〜…」
「ど、どうですか?」

 恐る恐る、劉備に尋ねる魏延。
 だが、劉備は満面の笑みでそれに応えた。

「うん、美味いわコレ」
「ほ、ホントですか!?」

 その言葉を聞いて、思わず喜び舞い上がる魏延。
 やはり、憧れの人物に手作りのクッキーを食べてもらい、さらに「美味しい」と言って貰えたのが余程嬉しかったのだろう。

「ああ、ホンマに美味いわ。
 よう考えてみたら、こないな手作りの菓子なんざ、もう10年は食べてへんな。
 おおきにな、文長…」
「部長…」

 感激の余り、両目が潤む魏延。
 しかし直後、薄暗い廊下に眩い閃光が走った!

 パシャッ!!

「な、何や!?」
「えっ!!?」

 二人が同時にその光の方を向くと、何とそこにはカメラを持った簡雍の姿が!!

「遂に捉えたぁ、決定的瞬間!!」
「ああっ!! け、憲和ッ!!?」
「ヒューヒュー! お熱いねぇ、お二人さん!」
「……!」

 見事にイチャイチャ(?)現場を押さえられた劉備と魏延は、驚きの表情を隠せない。
 特に、魏延は自分の一番見られたくない姿を見られたショックで、声も出ない…。

「それにしても…『漢魏延』と恐れられた魏延に、そんな趣味があるなんてねぇ〜♪」
「ぐぐぐ…!!」

 魏延は、必死に怒りを抑えて俯いているが、全身が激しく震えている。

「な、なぁ憲和…その写真のネガ譲ってんか…頼むわ」
「ん〜、どうしよっかねぇ〜」

 簡雍は、内心してやったりと大喜び。
 そして、わざと劉備達に対してそっぽを向き、二人の反応を見て楽しんでいる。

「うううう〜ッ!! 憲和様、この通りでございますッ!!
 何卒、その写真をバラ撒くのだけはお止めくださいッ!!」
「あたしからも、どうかッ!!」

 劉備と魏延は、揃って床に手をついて簡雍に懇願する。

「へいへい。んじゃ、一人2千円づつお恵みを頂きましょ〜か」

 劉備達の情け無い姿を見て満足したのか、簡雍はようやく二人を許すのだった(と言っても、しっかり金は取っているのだが)…。

「毎度あり〜♪ んじゃ、あたしはこれで」
(く〜っ!!堪忍やでぇっ!!)
(きばると文長! こげん試練も真の乙女になる為じゃッ!!)

 悠々と廊下を後にする簡雍の背中を見ながら、怒りに打ち震える劉備&魏延。
 その夜、劉備は魏延と共謀し、簡雍の部屋に忍び込んで眠っている彼女の額に「肉」の文字を黒の油性マジックで書き入れ、ささやかなる復讐を果たすのだった。

「ああ〜っ!! な、何よこれぇっ!?」



 終

326 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/14(木) 00:14
てな訳で、ついに完成しましたです。
当初は広…もとい楊儀を出して、魏延を徹底的に叩かせる展開にしようと考えていたのですが…。
それだと全然コメディにならないので、かような展開になりました。

しっかし何だか方言関連が全然ダメですな…特に魏延の薩摩弁(汗
親戚に実家が鹿児島の人がいるのに、すっかりそっち系の方言を忘れてしまいましたわ(^^;

拙作ですが、どうかお楽しみ頂ければ幸いです。

PS・諸葛亮の栄養ドリンクネタは、アサハルさんのイラストに。
   そのドリンクのネーミングは、某カンフー映画のタイトルに影響されましたw

327 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/15(金) 15:26
ヤッサバ隊長乙!
ふー。楊儀が出てこなくてよかった…(^_^;) 漢魏延たんのヨサゲなところだけで…
ナニゲに庶務三羽ガラスの呼称がツボ。ていうか、その一羽は簡雍たんなわけだが。
しかし今回、おそらく初めて簡雍たんの敗北!やはり劉備がその気になって反撃すると
簡雍たんもしれやられるということですねえ…

>某ドリンク
私はゲームの方かと。

328 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/15(金) 17:17
考えてみたら、簡雍たんってば帰宅部連合(それ以外の陣営もですが)の機密の数々を激写してきた、かなり重要な人物ですよね。
もし彼女が生徒会に捕らえられてしまったらと思うと…(ガクガクブルブル
まぁ、劉備も彼女を信頼しているからこそ、かのような重任を命じているのだとは思いますが。

>簡雍敗北のオチ
もうちょっとその辺を詳しく書いとくんだったと激しく後悔(^^;
そうすればオチの面白さも倍増しただろうに…。

>ドリンク名称
うぃ、自分もゲームで知りましたです!w
ってか、俺が小学一年の時に初めて買ったFCソフトだったり(爆

329 名前:★教授:2003/08/18(月) 21:58
■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第二章〜 ■■


「うりゃっ」
「わっ! やったな〜」
 燦燦と降り注ぐ暑く眩い陽の下。乙女は水と、そして仲間達と戯れている。
 薄く涼しげな衣に身を包み、一時の休息を愉しむ。
 日が沈み、そしてまた日が昇るその時まで――



「だーっ! 義姉貴! 反則だぞ!」
「こういうのはアタマ使った方の勝ちや!」
 プールサイドを楽しそうに逃げまわる張飛。そしてウォーターガンを両手にガンタタスタイルの劉備。
 玩具での攻撃…と言えば聞こえはいいのだが。ウォーターガンから射出される水の勢いは明らかに玩具の粋を脱していた。
「うりゃっ!」
 劉備の放った一撃がコンクリートの壁に当たる。――穴が開いた。
 張飛はその様を見て急速に蒼褪めていく。
「な、なな…何だよ、その規格外の破壊力は!」
「孔明に改造してもらったんや。アンタは頑丈やさかい、被験体になってもらうで」
「ひでぇ! 義理妹への愛が感じられねーぞ!」
 今度は本気で逃げ出す張飛。その後ろを本気で追い掛ける劉備。
 殺人ウォーターガンを作成した孔明はリクライニングチェアーに腰掛けながら、のんびりと義理姉妹の修羅場を眺めていた。威力の確認も兼ねているようだ。
 その横でビ竺が本(恋愛小説)を広げている。その優雅な姿は正しく『深窓の令嬢』という言葉がピッタリだった。
 更にビ竺の隣では雷同が目を回してうなされている。
「鬼が…歳食った鬼が…」
 そんなうわ言を繰り返しながら痙攣していた。不憫な娘である…。
 プールの中では黄忠と厳顔が浮き輪を手にぷかぷかと漂っていた。
 無邪気に泳ぐでもなく、ただ流されるままに漂っているのだ。
 そんな二人の横を法正が泳ぎ抜けていく。
 長い髪を綺麗にまとめて華麗なフォームで水をかき分ける。
 …と、法正の横に並ぶもう一つの影――簡雍だ。
(憲和!? 負けられない!)
 簡雍の姿を確認した法正がペースを上げる。
(やるじゃん、法正)
 にやりと口元を歪めると簡雍もギアを上げた。
 そして――二人の手がほぼ同時に縁に触れる。
「ぷはっ。…ちぇっ、法正の勝ちだよ」
「憲和の方が速かったよ…」
 お互いに勝ちを譲り合う。二人の顔に自然と笑みが零れた。
 そんな二人の近くに先ほどの漂流している黄忠と厳顔が漂ってきた。
「青春ね〜…」
「そうね〜…」
 ぼーっとそんな事を呟きながら再び遠ざかっていく。
「年増舟だ! やっぱり力無く漂ってる!」
 簡雍がとんでもない発言をする。
「誰が年増だ、こらぁ!」
「いい度胸してんじゃないの!」
 この発言は年増コンビに聞こえたらしく、物凄い勢いで戻ってきた。
 身の危険を感じた簡雍は法正を盾にすると…
「…って、法正が言ってました♪」
 と、身代わりにしてさっさとプールサイドに退却。
「え? え、ええっ!?」
 法正は自分が何を言われたのか、そして何をされたのか理解し切れずに、ただうろたえるしかなかった。
「法正! テメー、死なす!」
「無事に帰れると思うなよ!」
 年増コンビはうろたえる法正を捕獲すると、浮き輪の中に押しこめてプールの中央まで拉致しはじめた。
 ここに来て自分がスケープゴートにされた事に気付く。
「憲和ーっ! 覚えてなさいよーっ!」
「生きて帰って来れたらね」
 簡雍は喚き散らす法正にひらひらと手を振って、デジカメのシャッターを切った。
 芽生えかけた友情という芽はいともあっさり摘まれてしまった…。


 法正がお仕置きという名の粛正を受けてから一時間。全員が遊び疲れてプールサイドで休憩を取っていた。
「それにしても今日は暑いなぁ」
「そうですね、私の予想では明日もこのような天気かと」
 劉備の言葉に白羽扇を口元に孔明が太陽を見上げる。ちなみに黄忠から借りたサングラスを着用しているので眩しくはないようだ。
「……………」
 孔明の隣ではビ竺が小さく寝息を立てている。そしてそんな彼女をほっとけない二人がいた。黄忠と簡雍だ。
「気持ちいい天気だから眠たくなっても仕方ないな…」
 黄忠はビ竺を膝枕しながら髪を優しく撫でている。母性本能をくすぐる寝顔についつい黄忠の顔も綻んでいた。
「夏は最高な場面に出くわす事が多いしね♪」
 周りでは簡雍が忙しく動きながらビデオ撮影中。かなり際どい画像も撮っているようだ。
 ほっとけないというニュアンスがかなり食い違っている二人である。
「ビ竺は寝てるんだ、あっちの方で撮影してくれ」
 大人の余裕を見せながら簡雍を張飛の方へ押しやる厳顔。
 分が悪いと算段した簡雍も渋々その場を離れた。年の功が悪魔を遠ざけたのだ。
「雷同…何だソレ?」
「これが無いと落ちつかなくて」
 張飛が覗きこむその先には、雷同が手にした護身用武器。
 基本的にか弱い女性が犯罪から己の身を護るべく持つ代物――そう、スタンガンである。
「ふ、ふーん…それをどうするんだ?」
「しびれる為に使う」
 ごく当たり前のように、かなり危険な返答をする雷同。
 流石にこれには引いた張飛。一歩ずつ後ずさりしながらほくそ笑む雷同から離れる。
 後日、何の因果か雷同は張飛の下に付いて従軍する事になる。時折スタンガンを手にしてニヤニヤ笑う雷同に頭を振って悩む張飛の姿が戦場で見うけられたとか…その話はまた次の機会にでも。
 そして、法正はどうなったのか――
「憲和〜…もう許さない〜…あ…年増の鬼が…」
 雷同同様うわ言の様に恨み言と恐怖に慄く言葉を繰り返しながら、うつ伏せに寝かされていた。
「簡雍殿、法正の写真を撮ってもらえないかな?」
 うろうろと動きまわりながら撮影を続ける簡雍に声を掛ける孔明。
「いいよー。あ、そうそう…ここだけの話だけどね」
 簡雍がちょいちょいと手招きして孔明を呼ぶ。
 孔明も面倒くさそうに立ちあがると簡雍の傍に近づく。
「実はね、ダンナ。法正のちょっとした…俗に言う『ポロリ』な写真もゲットしてんですよ…一枚300円でどうっすか?」
 こそこそと悪事を耳打ちする簡雍。黒いシッポと羽が生えてる…。
「ほほう…買った。そちも相当の悪よのぅ…」
「いえいえ、お代官様ほどでは…」
 邪な笑みを浮かべる二人の悪魔がプールサイドに降臨。
 B級の時代劇の悪人のような二匹の悪魔の下で法正が更に魘されていた…。


「皆さん〜、アイス買ってきました〜」
 暫く休憩していると孫乾が両手一杯に紙袋を抱えて現れた。
「お、ご苦労さん。大変やったやろ?」
 紙袋を受け取りながら労いの言葉を掛けてやる劉備。
「いえ、皆さんが喜んでくださるのなら全然苦にはなりません〜」
 にこにこと太陽に負けないくらいの笑顔を見せる健気な少女、孫乾。
 その眩しさに目を背ける張飛と雷同と簡雍。眩しすぎる程疚しい事があるのだろうか。
「…えらい! そや、アンタも泳いでいき!」
 感動して滝の様な涙を流す劉備が孫乾の肩を掴む。
「え、えーと…」
 あたふたしながら動揺する孫乾。アイスを届けに来ただけなので水着も持ってきてないので返事に困っている様子だ。
「アイス落ちてるって!」
 張飛と雷同がコンクリートの地面に落ちた紙袋をかっさらっていく。
 そして、その動きを二匹の老鷹…失礼、二匹の鷹が追いかけていった…。

 一名増えそうな勢いのプールサイド――
 乙女達の夏はまだ終わらない――

330 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/18(月) 22:15
水着祭り第二段キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

むう、やはりガンカタで張飛を射殺せんとする劉備たんに萌えるべきだが、
防戦一方の張飛たんにも今回は萌えた。
そして密かに麋竺たんの活躍も光ってるなあ…(;´Д`)ハァハァ…
案外運動神経いい簡雍たんも法正たんもツボですが、ゆらゆらと漂い去ってゆく
年増舟二艘も可愛いかも…。
つか、雷同、そこまで…
最後はお使い乾ちゃんでトドメさされました…

331 名前:おーぷんえっぐ:2003/08/19(火) 02:50
やっぱり、学三の夏(特にプール)では、どこも、こんな感じのい修羅場
なんでしょうかね。  法正・・・ゴチュージョーサマ・・基い
ご愁傷さまw

332 名前:彩鳳:2003/08/19(火) 02:58
 >皆様方へ
 どうも、長々と姿を消していた彩鳳です。(覚えてる方いらっしゃいますか?)
 SS未完成のまま消えてしまって面目無い次第です。何はともあれ、復帰の御挨拶に参りました。

 >教授様
 電気ビリビリの雷同(雷銅?)がここまで強烈なキャラになるとは・・・
 何故か電撃文庫の某小説に登場する銀髪の戦士を思い出します。(電気以外に特に共通項は
無いのですけど・・・必殺技のサ○ダーヘッドが格好良すぎて)
 簡雍&法正、黄忠&厳顔のコンビも以前と変わらぬ活躍振りですが、活躍の幅が広がっていますね。
 

333 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/20(水) 22:28
ワショイー!彩鳳様おひさしぶり! 復帰おめ&ありがとうございますっ!
げ、彩鳳様の最後の作品を拝見してから、もう半年近くになるのかΣ( ̄□ ̄;)!!
マジ戦略と萌えと笑いの三拍子揃った彩鳳作品を、また読むことができるならば
これに勝る幸いはありません…。
ともあれ、今後も宜しくお願いします〜

334 名前:彩鳳:2003/08/22(金) 00:51
 >教授様
 お節介なのは百も承知なのですが、勢いに任せて描いてしまいました。一応、

「ほほう…買った。そちも相当の悪よのぅ…」
「いえいえ、お代官様ほどでは…」    

 http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi

 のシーンなんですが・・・とても見えませんね(滝汗)。てか、某文和さんの時といい
なぜマトモな表情にならないのか(嘆息)
 魘されてる筈なのに無邪気に寝ている誰かさんに至っては・・・(^^;
 

335 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/22(金) 01:19
いえいえカワイイ!(゚∀゚) 彩鳳さまありがとうございます!
なんか悪代官と越後屋っぽい「目」が二人のマジ度を思わせます(^_^;)
法正タン…

336 名前:★教授:2003/08/22(金) 22:35
彩鳳様>

孔明タンと憲和タンが悪人っぽいマジな目と口元がイイ!
真剣、そして本気と書いてマジと読む。素晴らしいです、感謝の嵐でございます。
書き手冥利に尽きる一枚…頭が上がりません。

337 名前:彩鳳:2003/08/23(土) 11:35
 何を今更の感がありますが、水着の紐描き忘れてました( ̄▽ ̄;;;
 元々平面的ですが、にしても立体感に欠けると思ったら(今ごろ気付いてどうする@冷汗)
  
 ま、うつぶせな状態の訳ですから、大騒ぎするほどの問題では(ドキューン)
 

338 名前:雪月華:2003/08/29(金) 09:53
ひと夏の思い出 ─そして現実へ─
そんなこんなで、4人に一匹を加えたサバイバル生活は続いた。
島内の滝で、滝の飛沫と満月の光の組み合わせでできる白い虹『月虹』を見たり、島の北東部で偶然発見した謎の遺跡の探検中、孫策のヘマで遺跡が崩れて生き埋めになりかけたり、突如飛来したUFOらしきものに孫権がさらわれかけ、それを孫堅と孫策の連携技───超○覇○電○弾といい、後に孫策はスタンドアローンでこの技を放つ事ができるようになる─で撃墜したり(船体に『諸葛』と刻んであったようだが、長湖の藻屑となった今では確認のしようが無い)…例年に比べ、驚くほど平穏のうちに時の大河は流れ去り、夏休みも、残すところあとわずかとなった。
キャンプ最終日の前日の夕食後のことである。

「なあ、孫権」
「なあに?伯符お姉ちゃん」
膝の上で寝息をたてている首長龍の背中を、飽きもせず撫でながら孫権は上の空で返事をした。時折、のどのあたりを優しくくすぐってやると、くるる、と甘えた声を上げる。
益州校区の山々の陰に沈む夕日の、最後の光が、焚火を囲む4人をオレンジ色に染め上げている。孫策と周瑜は何やかやと冗談や悪口雑言を応酬しており、孫堅は先日の遺跡探検の際に持ち帰った壺や、怪しい偶像を磨くのに余念が無い。別に学術的熱意や考古学的愛情に駆られての事ではなく、「きれいなほうが高く売れるだろう」と抜け目無く考えた上での事であったが。
「そいつ、名前決まったのかよ?」
「うん、あゆみって決めたの」
「へぇ〜、ま、母親格のお前が決めたなら文句は無いけどよ。長湖からとって『チョーさん』って考えがあったんだけどな。首も長いし」
「伯符ったら、あいかわらずネーミングのセンスがないのねぇ。それに、なんか似たような響きの存在がある気がするから却下」
酷評に失望した孫策は、じろりと周瑜を睨むと、妙に慇懃な態度をとった。
「情け容赦無くキツイ事言ってくれますなぁ、周瑜さん」
「いえいえ滅相も無い。己の欠点を知り、屈辱をばねにして、よりいっそう成長してほしいと願う純粋なオヤゴコロですよ、孫策さん」
「いやいや、それは親心ではなく老婆心というもの。うら若きオトメでありながらババアの心を有するとは、その精神の老け方…いやいや成長には恐れ入ります。されどこの不肖孫策、もう充分にオトナであるゆえ、余計な気遣いは無用というもの」
「あらあら、そういうことはせめてバストが75を超えてから言うものですよ、伯符ちゃん」
「んな…!?」
「73・55・77。この数字は五ヶ月前からまったく変化していませんわ。伯符のことなら、もう隅から隅まで知っていましてよ。オホホのホ」
「な、何で知ってる!?身体測定の結果は全て焼き捨てていたはずなのに…」
「そんなこと、赤子の手を捻るより簡単よ。伯符って一旦寝付くと絶対に朝まで起きないから、その隙に服…」
「周瑜!それ以上言うな!」
羞恥と怒りで顔を真っ赤にした孫策が、抗議の声を上げて周瑜につかみかかった。
ひらりとそれをいなすと、跳ねるように立ち上がった周瑜は砂浜のほうへ駆け出した。
「ホホホ、捕まえてごらんなさ〜い」
「待ちやがれ!」
「終わりない鬼ゴッコを楽しむのが恋愛というものよ〜」
「いつから俺達は恋人になったんだよ!?」
周瑜にいなされてうつぶせに倒れていた孫策も、その後を追って猛然と駆け出していった。
「ったく…見てて飽きない連中だよ。ま、それだけ仲がいいってことなんだろうけどねぇ」
壺を磨く手を休めて、孫堅が苦笑した。そのまま孫権の方を見て何気なく、そして一番重要なことを質問した。
「仲謀。このキャンプが終わったら、その子はどうするつもりでいるの?」
「え…その、寮で飼え…ないか」
「育て上手のあんたのことだから、ペット管理能力に疑いは持ってないわよ。今まで拾ってきた動物、しめて5羽と22匹。いずれも老衰以外では死なせてないし、エサ代も自分の小遣い切り詰めて出している事だしね。…あたしが心配してるのは徐州校区生物部のことよ」
「生物部…最近徐州校区で興った天帝教っていうインチキ宗教に染まったっていう…」
孫権はうそ寒そうに首をすくめた。
「そう。最近、とみに汚染具合がひどくなってきたらしくてねぇ…『解剖するぞ解剖するぞ解剖するぞ』って呟きながら尋常じゃない目つきで小川を浚ってる姿も良く見かけるわね。解剖が学術的手段じゃなくて目的にすりかわっているから、その子、見つかったらただじゃすまないでしょうねぇ…」
「それじゃ、この島に残していくしか…ないのかな」
「まあ、さしあたって、それ以上の手はないわね。幸い、この島にはそう危険な動物もいないし、食べ物だって沢山ある。明日の朝十時頃に、迎えに来るから、今夜のうちに別れを惜しんでおく事ね」
そう言って、再び孫権は壺を磨き始めた。

深夜、孫権はふと目を覚ました。
赤壁島の夜は蒸し暑く、蒸し風呂という表現がぴったりだが、なぜか蚊の類がいないため、慣れてしまえば結構快適ではある。
時計が無いため正確な時間はわからないが、遠くに僅かに見える揚州校区校舎群の常夜灯も消えている事、月明かり以外に光源が無い事から、午前三時頃である事がわかった。世間一般でいう逢魔ヶ時の真っ只中である。
「…あれ?」
孫権は、半身を起こしてあたりを見回し、自分の手元から首長龍の子供…あゆみが消えている事に気づいた。
なんとなくそのまま眠ってしまおうかと考えたが、ひとつ頭を振って睡魔を追い出すと、立ち上がって、あゆみを探す事に決めた。
なにやら這いずった跡が孫権の傍から300mほど離れたところにある砂浜に続いており、それを追っていけば容易に発見できそうだ。
熟睡している姉達と周瑜を置いて、しばらくその跡を辿っていった孫権は、ふと、砂浜に立って遠い対岸のほうを見ている人影に気づいた。
ありえる話ではない。今、この島には、孫姉妹と周瑜の四人しかいないはずである。だが不思議と恐怖は無く、好奇心がそれに勝り、孫権は足を止める事は無かった。
ようやく人影が何者か判別できる距離に近づき、それが小学3年くらいの少女である事がわかった。身長は125cmくらい。白い帽子と同じく白のノースリーブワンピースを身につけている。肩の下あたりまでの、つやのある髪は、月光を浴びてやや青みがかっているように見えた。
孫権は気づいていなかったが、このとき、注意深く観察していれば、這いずった跡が少女の手前3mほどのところから人間の足跡に変化しているのに気がついたであろう。
少女が振り向いた。その表情に驚いた色は無く、ただ、優しく微笑んでいる。
大きな目をした美少女ではあるが、生徒数十万人を誇る蒼天学園には、目の前の少女以上の美人はいくらでもいた。ことに孫策の親友である周瑜は中等部三年の身でありながら、中等部、高等部に並ぶ者の無い美女であるため、孫権は美人を見慣れているはずであった。
いや、孫権の心を惹いたのは、その美貌ではない。優しさ、穏やかさ、温かさなど、人の世に存在する柔らかい単語を擬人化したようなその雰囲気が、孫権の心を引いたのである。
なんとなく立ち尽くしていると、少女が孫権に語りかけてきた。
「ありがとうございます…そして、お待ちしていました」
「え…?」
かける言葉を見つけられずにいると、少女がさらに話を続けた。10歳ほどの少女とは思えないほどの丁寧な言葉遣いである。それでいていやみが無いのは、言葉の根底を成す、その優しさからだろうか。
「…明日で、お別れですね」
「お別れって…キミは誰?どうしてここにいるの?確か初対面だよね?」
質問をしながら、孫権は急に睡魔が勢いを取り戻してきた事に気づいた。視界が揺れ、立っているのが困難になりつつある。
「別れるのは寂しいですが、お互い元気であれば、いずれまた会えます。…いつかまた、必ず会いに来て…」
「え…ちょ…ちょっと待って…キミは…誰?」
今や睡魔の勢いは孫権の全身を席巻しつつあった。視界が霞み、立っていられなくなって孫権は砂浜に膝をついた。
「私の名は、あなたがつけてくださいました。私は……」
孫権が憶えていたのはそこまでだった。

暗い夜空を駆逐して、東の空に姿を著した太陽が、空という名の山を中腹あたりまで踏破し、緩やかに波打つ長湖の湖面を、数万の宝石を浮かべたかのようにきらめかせている。キャンプ二日目の朝から見慣れた光景ではあるが、その日は少し様子が違っていた。
砂浜の端に備え付けられた粗末な桟橋には、二艘の手漕ぎボートが係留されており、六つの人影が忙しく立ち働き、キャンプ道具や発掘品を積み込んでいる。孫堅ら4人と、彼女達を迎えに来た、韓当と祖茂である。
「しかし周瑜。今朝の孫権は一体どうしたんだろうな?」
「目が醒めたらベースキャンプにいなくてびっくりしたわね。まさか砂浜で寝てるなんて」
「夢遊病の類でもないしなぁ。あそこまで寝返りを打ったってことも無いだろうし…」
二人の視線の先では、孫権がしゃがみこんで、首長龍の子供と無邪気に遊んでいた。
全ての積み込みが終わり、いよいよ別れの時がやってきた。
孫権は最後の別れを惜しむように、首長龍の子供を抱き上げると、ありったけの思いをこめて抱きしめた。規則正しい鼓動が、優しく伝わってきて、ともすれば悲しみに沈みそうになる孫権の心を励ましている。
「また、逢えるといいね…」
そう呟くと、首長龍の子供を砂浜に降ろし、船のほうに向かって駆け出した。
孫権が飛び乗ってくるのを合図に、ボートが桟橋を出た。一艘目には孫策と周瑜、最初の漕手には祖茂。二艘目には孫堅と孫権、漕手は韓堂という割り振りである。
船尾から身を乗り出た孫権の視界の中で、赤壁島と、湖岸でじっとこちらを見つめている首長龍の子供の姿が、どんどん小さくなっていく。不意に、昨夜見た不思議な少女と、首長龍の子供の姿が重なって見えた。視界が滲んだ。孫権は自分が泣いているのに気がついた。
「絶対、絶対来年も来るから、それまでボクも頑張るから!それまで待ってて!絶対だよー!」
そう叫んで、孫権は赤壁島に向かって身を乗り出すと、ちぎれんばかりに手を振った。
首長龍の子供のほうも、孫権を真似てか、小さな前ヒレをぎこちなく振っていた。
口元をほころばせ、その様を肩越しに見ていた孫堅は、韓当のほうに向き直り、少し照れくさげに言った。
「もっとゆっくり漕いでやって、義公」
「ふふ、了解しました」
韓当も柔らかく微笑み、船を漕ぐ手を少し緩めた。

その頃、少し先行するもう一艘の船では、滑稽だが、ある意味深刻な問答が交わされていた。
「頼む!周瑜!一生のお願い!宿題写させてくれ、いや下さい!」
「伯符…あなたの「一生のお願い」はこれで…ええと21回目よ。小学一年生の頃から全然成長してないのねぇ。長期休みの恒例になってるじゃないの?」
船底に這いつくばる孫策を見下ろして、周瑜はあきれたようにため息をついた。実際、心の底からあきれ果てている。
「お姉様も孫権ちゃんも、合宿始まる前に全部終わらせたのに、どうしてあなただけ毎年毎年…」
「頼む!何でも言う事聞くから!」
そう言ってしまってから、孫策は心の底から後悔した。
「何でも…ねぇ。うふふ…」
小学校入学以来、長期休みの終わり近くには毎回繰り返されてきた問答である。よく飽きないものだと思いつつも、周瑜は魔界の大魔王すら恐れおののく邪悪な微笑を浮かべながら、さて、どういう要求をしてやろうかと、その怜悧な頭脳をフル回転させていた。
ちなみに始業式は明後日である。

339 名前:雪月華:2003/08/29(金) 09:55
いや、ども、おひさしぶりです。お盆休みを5日取れたのはいいんですが、体調を崩してしまって、休みの殆どを通院する羽目に(T_T)
キャンプ関連SSとして「願いの橋」「レイダース」「魔人襲来!揚州校区最後の日」というタイトルで考えてたんですが(どういう内容かは後編の冒頭を読み返していただければわかるかと)、なんか夏が終わりそうなので急遽完結。石を投げないで下さい(^^;
学園版歩夫人詳細設定も人物設定スレに上げておきましたので、そちらのほうもご一読を…
一応、孫権の江夏攻め直前を舞台とした再開編へと続く予定ですが、長編も二つ掛け持ちしているので、いつになるかは…

ちなみに人間モードのあゆみタンのモデルは、修学旅行一日目の大阪さんだったり…ちゃんぷるー!
できれば玉川様に、こども大阪を描いていただけたらと…

老婆心ながら、正史における歩夫人の紹介を…
○歩夫人
孫権の筆頭側室。のちの丞相である歩シツの一族。その美貌と優しさを孫権に永く愛された。
その地位にも関わらず、嫉妬を知らない優しい性格であり、むしろ積極的に、後宮の他の女性たちの後ろ楯になったりしていた。
孫権が皇帝を称した際、皇后に冊立しようとしたが、太子の孫登らに、側室だからという理由で反対された。ちなみに孫登は、母親が卑賤の女であったため、孫権の正室であり、こちらは烈女として知られた徐夫人に扶育されていた。(烈しい正室と、温和な側室。長男は正室に育てられる…誰かの家庭環境と似ているような気が…その長男が早死にして、後継者争いが起きるところもそっくり。こちらの場合は、孫権の日和見によりかなり深刻な事になってしまった)
しかしながら、親戚や重臣からは中宮(皇后の尊称)と呼ばれ、宮中では皇后同然の扱いを受けていた。
問題が解決しないまま十数年が経った頃、ふとした病で急死してしまい、孫権はその墓前に皇后の印綬を供え、その死を惜しんだと伝えられている。

ちなみに孫権との間に二女をもうけており、姉が魯班、字を大虎。妹を魯育、字を小虎といい、姉の魯班は重臣の全ソウに嫁ぎ、母親の歩夫人の死後、その寵が薄れることを恐れ、個人的に対立していた王夫人や、その息子の孫和を讒言して遠ざけさせ、孫権の生涯の汚点のひとつである「二宮の変」における、孫覇側の黒幕となった烈女であった。
それ以前にも、魯班は母親の威を笠に着て好き勝手に振舞っていたらしく、どうやら歩夫人は、良妻ではあっても賢母ではなかったらしい。その全責任を歩夫人にかぶせるのは酷というものだが

340 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/30(土) 00:54
雪月華作品キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

うーん。さすがの一言!小ネタのバランスもいいなあ…。冒頭で三度ワロタ。
そして案外さばけてる周瑜たんハッケーン。なるほど、孫策たんとはそういう仲だったのか(^_^;)
まさに主従逆転。堅姐ェも孫姉妹の中で無敵。ええなあ…

でも今回は孫権たんに激烈に萌え。やはり動物好きなのね(゚∀゚)
心温まるエピソードや…


それにしても、あゆむタンときましたか! 人化!? 今後もしょっちゅう現れるということですが、
どういうタイミングで人化するんでしょう?あゆみたん(;´Д`)ハァハァ…

341 名前:雪月華:2003/09/03(水) 18:55
書き忘れた事 追記(人物設定スレの内容も含む)
>周瑜
やっぱり孫堅・孫策時代の周瑜はこれぐらいハイテンションじゃないかなって思います。
個人的な印象では、意外と喧嘩好きで、激昂する孫策を一応なだめているうちに、いつのまにか孫策が引くほど自分が怒りだしてしまう(笑)。
やたら鋭い勘と勢いで突進する孫策と、同じ勢いで突進しつつ、悪魔的な策をめぐらすため、敵にとっては孫策よりも厄介な存在(笑)
でも、孫策あっての陽気さというやつで、孫策リタイア後は本来の生真面目な部分が現れた、という感じですか。

>あゆみタン
・背中に二人ほど乗せて、長湖を泳げます。とはいっても、孫権と谷利以外は乗せようとはしません。
江陵棟近くの湖畔から、長湖さんの背中に乗って長湖を行く孫権の姿を見て
「いいなぁ…長湖さんいいなぁ…」と呟いた人がいたりします。
・人化の仕組みは…謎です(笑)。長湖さん本人にもわかっていません。
基本的に、初対面時以降は人化していません。ある意味、作家にとって扱いやすい設定(笑)

>>歩騭とのカンケイ
正史では同族、ということで結構悩んだのですが、
他の部員と比べて仲が良かった、というぐらいでしょうか…

>教授様
帰宅部連合夏の陣、大変楽しく読ませていただきました。
ある意味、任侠と友情だけで結束している(褒め言葉?)帰宅部連合の特徴が良く出ていると思います。
成都棟攻囲の話も楽しみにさせていただきます。遅レス失礼を…

>ヤッサバ隊長様
周瑜、魯粛と並ぶ諸葛亮伝説の犠牲者、魏延への愛情がひしひしと伝わってまいりました。
魏延と諸葛亮の関係は、いわば三国志の黒歴史というべきものですので、これからも楽しみにさせていただきます。
でも全ての事情を知ったうえでも、私は魏延が好きになれない…失礼。
同じく遅レス失礼しました。

今、関羽の長編が煮詰まってしまっているので、とりあえず、新しい構想に取り掛かっております。
無口っ娘倶楽部会長の左慈提唱、シチュに萌えるで、
「貂蝉を排除しようとしたために露骨に董卓に疎まれてしまうが、それでも「健気に」尽くす李儒と、彼女をいたわる世捨て人、皇甫嵩・盧植。その頃、董卓の副官になるのを嫌がって洛陽に逃げた朱儁は…」
また後漢ズ(李儒含む)に萌えてきました。将軍位や戦シーンなど、かなりifを含んでおりますが…

おまけ
ttp://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1994/
「書庫」にGo! 見つけた瞬間「玉川様のサイトかな?」と思ってしまいました

342 名前:★教授:2003/09/14(日) 23:09
■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第三章〜 ■■


「あの〜…これでいいんでしょうか…?」
 孫乾がもじもじと恥ずかしそうにプールサイドに現れる。
「スレンダーでええなぁ…うん、よく似合っとる」
 劉備の微妙な褒め言葉。しかし、それも孫乾には嬉しかったらしく素直に安心したようだ。
 ちなみにこの水着は孔明が『こういう事もあろうかと…』とか言いつつどこからか取り出したのだ。
 しかし、その水着はスクール水着。明らかに萌えを狙ったもので『そんかん』と平仮名で書かれたネームラベルが綺麗に縫い込まれていた。その場にいた一同が変な汗を流した一時であった。
「うむ。萌えポイント1000点を献上しよう」
「う、嬉しくないです〜…」
 満足げな孔明の言葉には複雑な顔をする孫乾。
 そんな彼女を二人の刺客が挟撃する。
「よーし、第二ラウンドだーっ!」
「いぇーっ!」
 張飛と雷同が絶妙なテンションで孫乾を担ぎ上げると、そのままプールの中に拉致していった。
「ふぇぇ…」
 困ったような泣き出しそうな表情で大人しく攫われる孫乾。彼女らしいと言えば彼女らしい。
「さて、私達も泳ぎにいきましょうか」
 黄忠と厳顔もゆっくり立ちあがると軽く柔軟体操を始める。
「孔明と子仲はどうするの?」
 すっかり回復した法正が何故か着崩れしていた水着を物陰で直しながら二人に尋ねた。
「私は遠慮しておきましょう」
「私も…もう少し眠ります」
 やんわりと遊泳を拒否する孔明とビ竺。一体何しに来ているのだろう。
「ウチはそろそろ泳ごかな…」
 ストレッチを入念に行いながらメガネを外す劉備。その途端、孔明の目の色が変わった。
「総代! 今日は泳がれない方がよろしいかと!」
「な、なんやねん。ウチが泳ぐくらい別にええがな」
「いいえ。今日のプールには不吉な空気が漂っております! 何かに取り憑かれますぞ!」
 ずずいと劉備に迫る孔明。目がかなり真剣だ。
「さ、さよか…。でも、今泳いでるあいつらにも言うたらな…」
「彼女達ならば大丈夫でしょう。紛がりなりにも我等が帰宅部の強者、凶兆など撃退する事です。しかし、総代にもし何かあれば…私は悔やんでも悔やみきれませぬ!」
「孔明…ウチの事をそこまで考えてくれてんのやな…。よし、分かった! 今日はここで日光浴してる事にするわ」
 孔明の言葉に感銘を受けた劉備はメガネを掛け直すとビニールシートの上に横になった。
「………(ふぅ…これで総代がメガネを外すという緊急事態を回避する事が出来たな。流石は私、見事な口上だ)」
 単にメガネを外されたくなかったらしい孔明は安心しながら自画自賛を脳内で行っていた。
「あっつぅ…」
 簡雍はアイスキャンディーを口にしながら気だるそうにプールサイドで足だけ水に浸けていた。元々インドア派の彼女にはそろそろ夏の日差しがきつくなってきている模様。
「それそれ〜っ」
「きゃーっ!」
 一方、プールでは猛烈な勢いで泳ぐ張飛に引張られる孫乾が可愛い悲鳴を上げていた。
 少し離れた所では雷同が黄忠にラリアットを、厳顔にドロップキックを食らっている。鬼神と化した二人の攻撃によって沈められた雷同の手には二人分の水着の上が握られていた。
 固く握り締められた手を無理矢理こじ開けようと奮闘する黄忠と厳顔。相当焦っている事が誰の目にも明らかだった。当然、こんなおいしい演出を見逃すパパラッチはいない。
「ナイスショット。連写モードで撮るよ〜」
 だらだらとアイスを咥えていた簡雍が突如覚醒。デジカメとビデオを構えて激写し始める。
「こらぁっ!」
 やっと雷同の手から自分達の水着を取り戻した黄忠と厳顔が簡雍に向かって猛然と水を掻き出した。
「あははっ。捕まるようなヘマは私はしないよ〜」
 悪戯っぽく笑うと手提げバッグから『ある物』を取り出して二匹の野獣に投げつける。
「な、なんだ…コレ。…いいっ! 誰の下着だよ!」
 黄忠は掴み上げたその『ある物』…誰かさんの下着に動揺と驚きを隠せない。大人っぽいその黒の下着に完全に困惑しきってしまう。
「ああああっっっっ!!!! それ…私の下着だーっ!!!」
 簡雍と反対側のプールサイドで法正が真っ赤な顔をしながら叫び声を上げた。
「今日は楽しかったよ♪ じゃ、また明日ねー」
 全員に向けて投げキッスを贈ると簡雍はさっさとプール場から出て行く。
「ま、待てえええぇっ!」
 怒りと羞恥で完全に紅潮しきった法正が簡雍を追っかけていく。
「法正まで行っちゃった…。…これ、どーしよ」
 びよーんと下着を広げながらまじまじと見つめる黄忠と厳顔。後で返せばいいと思う。
「もう一本いくぞーっ!」
「うう…もう勘弁してくださいー…っきゃー!」
 半べその孫乾を引張りながら縦横無尽に泳ぎまくる張飛。楽しそうではあるが中々に可哀想な光景だ。
 そんな喧騒を目を細めながら見ている劉備と孔明もいそいそと撤退準備を始めていた。

 こうして、騒がしくも楽しい一日が終わりを迎える。
 乙女達を照らしていた太陽が沈み、再びその姿を現す。
 それは飽くなき戦いの日々の訪れを乙女達に知らせる。
 これより後、今までよりも過酷な運命が彼女達を待ち受けている事を誰も知らない――


――翌日
「待てっ! 憲和ーっ!」
 怒りのオーラを発しながら簡雍を追いかける法正。
「そんなに怒るなよー。…あ、そうだ」
 逃げながら何かを思い出した簡雍。その直後に彼女の口から飛び出した言葉は法正の怒りに油を大量にぶちまける結果になる。
「昨日…『のーぱん』で帰ったの?」
「こ、ここここ…コロスーっ!!!」
 髪を逆立てながら簡雍を追う鬼女、法正。その目は殺意に満ちていた。
 いつもの鬼ごっこを繰り広げる二人が劉備の横を走りぬける。
「…本当にいつも通りやなぁ。さ…漢中制圧作戦、気張ろか…」
 ふぅと溜息を吐くと劉備は静かに会議室のドアを開く――

343 名前:★ぐっこ@管理人:2003/09/15(月) 00:32
>>341
見のがしたっ!スマソ、10日遅れのレスですが…
むう、確かに周瑜のキャラ造形、それくらいのアクがあった方がいいですねー!
どうも、私の中のキャラだといい娘ちゃん過ぎて。いわばキルヒアイス。
孫策と同レベルのバカ騒ぎしながら、常に二手先を読む知将ぶり!曹操がたじろく
ほどの美貌!…案外、学三は凄い周瑜像を世に送り出すやもしれぬ…(;´Д`)
あと、長湖さん(^_^;) あ、わたし乗れますよーって孫権たんが! 首長竜いいなあ…
歩騭たんとの絡み、ちょいと設定で考えてみますね〜。
おまけ…本家のガンダムスレでネタとして借用します、今から。

>>342
教授様グッジョブ!
以前の水着祭りの続きか〜。サリゲに悲惨な目にあってるライダー雷銅たん…
そして予告通り、お使い乾ちゃんの虜のようですな!教授様!
あっはっは!ヤッサバ隊長! 旧すくですよ旧すく!萌えポイント1000点!?
孔明め…さすがにあなどれんわ…!
しかしやはり学三における萌えは、法正が持っていってしまうのか…(;´Д`)ハァハァ
黒い下着…そしておそらく黒ストも所有しているでありましょう…
将来、手に負えない娘になりそう…。

344 名前:ヤッサバ隊長:2003/09/16(火) 08:45
>>342
旧スク…旧スク…旧スク……。
やってくれすぎですぞ教授殿!
俺の萌えハートは爆発寸前!! いや、今爆発!!

…暴走失礼しました。
想像しただけで、余りにも強烈なモノが脳裏に浮かんでしまったもので。
とにかく教授殿グッジョブ!!でしたw

345 名前:★教授:2003/10/10(金) 23:21
■■ 成都棟制圧 劉備と簡雍の決意 ■■


「…ちゅーわけで、これから成都棟を包囲するって事でええか?」
「異議無し。うー…燃えてきたぜ!」
「力に物を言わせて陥落させるんじゃないですよ、張飛さん」
 ここはラク棟会議室。最前線に立つ上将達が、今まさに成都棟に立て篭もる劉章達を降伏させる術を話し合っていた。
 論場で説き伏せようと意見する者、攻め落としてしまおうと意見する者。様々な意見が飛び交う中、最終的に決定されたのが『取り囲んで降伏させちゃおう』作戦だった。
 圧倒的な戦力差を見せつけ、アテもなく篭城を決めこむ生徒達の恐怖を煽る――そこはかとなくシンプルな手段だが、これ以上に効果的な手段もない。
 先日から法正が幾度と無く降伏を促す黒手紙を書きつづけているのも相乗効果をもたらしている。結構毒々しい内容なので割愛させてもらう事にした。
「ふむ…まあ伏線も引いてある事ですから、降伏して出てくるのにそう時間は掛からないと思いますが…」
 白羽扇を口元に当て、劉備一同及び会議室全体を見渡す諸葛亮。そして天井を仰ぐ。
「長引くと士気の低下、及び周辺組織の攻撃…特に曹操辺りでしょうか。…その辺りが心配になりますので…その際は諸将の方々、頼みます」
「…そうはならないようにしたいなぁ。劉章はんも頑張らんと降伏してくれればえぇんやけど…」
 劉備は溜息を吐くと窓を開けて成都棟の方角を哀しげな眼差しで見つめた。


「ふー…」
 簡雍は溜息を吐きながらラク棟をとぼとぼと歩きまわっていた。
 いつもの感じとは違う、少しアンニュイな表情を浮かべている。傍目から見ても悩みを抱えている事が誰の目にも明らかだった。
 彼女の心の中にあるのは、『益州校区成都棟総代』劉章の事唯一つ。
 劉備達と共に益州校区に入ってすぐに劉章に気に入られ、いつ何時でも彼女は簡雍を誘ってきた。色々な所へ連れて行ってもらったり色々な物を貰ってきた。自分達が益州校区を乗っ取るつもりで来た事も知らずに――。
 それだけに気に入られた自分が劉章を追い落とす…未だかつて経験した事のない『恩を仇で返す』事。それに戸惑いを覚えていたのだ。
「あの娘には法正同様裏切り者だって思われてるんだろーな…」
 ラク棟の中庭、池の側のベンチに腰を掛ける。自然と溜息が零れた。
「…玄徳の事だから降伏論で制圧論をねじ伏せてるんだろうけど…」
 そう呟きながらちらりと会議室のある棟を見上げる。丁度同じ時間に会議が終わっていた。簡雍の読み通り、劉備の降伏論で締めくくられて。
「最初は私もノリノリだったんだけどなぁ…らしくないや」
 ごろんとベンチに横たわると青々とどこまでも広がる空を、雲の流れを見ながら目を閉じる。
 浮かんでくるのは劉章の笑顔、声、そして哀しげな後姿。その背中が自分を『裏切り者』、『恩知らず』、『卑怯者』と蔑んでいる様に映った。
(違う! 裏切るつもりなんて…なかった!)
 心の中で全てを否定する。しかし、声は尚も簡雍を締めつける。木霊の様に、残響を残しながら全身を駆け巡る。
(違う! 違う! 違う!)
 何が違うのか、それすらもどうでもよくなっていた。とにかく否定する事しか出来なくなっていた。
 劉章の体がこちらを振り返る。哀しくも憎悪に満ちた目を向けながら。
『何が違うの? 仕方なかったなんて言わせない!』
 怒号が体の中に染み渡る。切り裂かれるような、引き裂かれるような…そんな痛みが突き抜けて行く。
 逃げ出したかった。形振り構わず、自分の立場もプライドもかなぐり捨てて遠く…遠くまで逃げ出したかった。
 だが、出来なかった。自分にしか出来ない事があったから――
 簡雍は心の中の劉章に真っ直ぐ目線を向けた。
(私は…君を…)




「…劉章はん。何で出てきてくれへんのや…」
 成都棟を取り囲んで既に何時間も経過していた。
 周囲には張飛、趙雲、馬超、黄忠といった名だたる将…そして帰宅部連合に降ってきた益州校区の雄将達が、攻め込む為の最終調整を行っていた。
 劉章の降伏をひたすらに待ちつづけた劉備にも焦りの色が強く浮かんでいる。
 そんな劉備に諸葛亮が最後通告を言い渡す。
「…部長。そろそろ…攻め込む時間です。これ以上は待てませんぞ」
「…仕方あらへんな…」
 最後通告、即ち劉章への死刑宣告に等しい言葉を劉備は苦々しく受け入れる。
 そして手を高らかに挙げると率いる全ての隊に号令を下した。
「全軍…とつげ…」
「あーあー…物々しいったらありゃしない」
 号令は最後まで続かなかった。眠そうなトボけた声が軍の中を割って飛び出してきたのだ。
 全員が声のする方を振り向いた。
「何? そんな大勢で取り囲んじゃ降伏できるものも出来ないっつーの」
 軍を割って簡雍が酒瓶を片手に劉備の前に立った。
「憲和…何しに来たんや? 今はあんたの出番とちゃうで」
 きっと簡雍を睨みつける劉備。しかし、それを涼やかに受け流す。
「玄徳。すこーしだけ時間ちょーだい。私が行って口説いてくるからさ」
「は、はあ? そ、そんな事したらあんた階級章取り上げられて追い出されるで!」
「大丈夫大丈夫。まあ、仮にそうなっても別にいいんだけどね」
 ぐいっと酒をラッパ呑みする。景気付けのつもりかどうかは分からないが豪気である事には違いない。
「憲和…あかんて」
 劉備は心配そうな眼差しを向ける。長い間ずっと自分に付いてきてくれた友人を失いたくはなかったのだ。
「あー…もう! 大将がそんなツラしてどーすんだよ、周りの士気も考えろっつーの。じゃ、行ってくる!」
「あ! 憲和!」
 簡雍は劉備の制止の声を聞かずに成都棟に向かって歩き出した。
 うなだれる劉備の肩に諸葛亮が手を置く。
「…今は簡雍殿にお任せしましょう。もし、簡雍殿の身に何かあった時は…」
「分かってる。でも…ウチはまだ憲和を失いたくない」
「…簡雍殿の仰られた通りですぞ。貴方がそのような顔をされると貴方に付いてきた全ての生徒が不安になられます。貴方は…我々の担ぐ神輿なのですから」
「…そやな。よしっ! 全軍、このまま待機! 指示があるまでそのままの態勢やで!」
 パシッとハリセンで地を叩く。その顔に迷いの陰はどこにもなかった――


「劉章…」
 簡雍は成都棟の正門前に立っていた。窺いを立てるので暫く待っててくれと言われているので大人しく待っているのだ。
「君は…私が…」
 天を仰ぎ、そして酒瓶を投げ捨てる。
「私が救ってみせるから!」


 ――簡雍が成都棟に入って1時間余り後
 劉章は簡雍に連れられて成都棟から出てきた――

346 名前:★ぐっこ@管理人:2003/10/11(土) 21:22
(゚∀゚)簡雍たんが初めて活躍らしい活躍を!
劉璋とは妙にウマがあったんですよねえ…。
しかし…孔明の前で堂々と酒をあおれるのはこの娘だけ。
あの自由奔放な生き様の裏には、イロイロと悩みも葛藤も
あったわけで。

ところで学三演義にて、簡雍たんにちょっとした設定追加予定。
たぶん皆さんが簡雍萌えになること間違いなし。

347 名前:★アサハル:2003/10/12(日) 16:19
簡雍たんはきっと普段のちゃらんぽらんな「萌え請負人」は仮の姿で
実は帰宅部連合の初期メンバーの一人として(或いはジャーナリストとして)
真面目で熱い娘なんだろうなあ、と思いました。
しかし降伏勧告に行くのに酒の香り漂わせてるのはマズいぞ簡雍さん!!(w

そういえば劉璋とか劉表辺りってまだキャラ絵ありませんでしたよね?

348 名前:★玉川雄一:2003/11/09(日) 21:15
とりあえず、以前書きかけてた『震える山(前編)』のケリつけちゃいます。
相変わらず元ネタモロパクリでお恥ずかしい限り。

349 名前:★玉川雄一:2003/11/09(日) 21:21
前編>>265  前編の2>>273  前編の3>>276 前編の4>>279

 ▲△ 震える山(前編の5) △▲

その頃、張嶷は徐質と対峙しつつ姜維たち本隊の脱出のタイミングを計っていた。しばらくは体勢を立て直した徐質の斬撃をいなしていたが、頃合いはよしと見計らうと地を蹴って猛然と反撃を開始する。
「それじゃ、そろそろ仕掛けさせてもらうよ!」
「くっ…」
先程までの守勢が嘘のように積極的に打ち込んでくるその鋭い太刀筋に、一転して徐質は防戦一方となってしまう。辛うじて左腕のシールドで受け止めてこそいるものの、このシールドというものはあくまでも補助的な装備であって連続した打撃を完全に防ぎ止めるための物ではない。打ち込まれた衝撃は吸収しきれずに腕にまで届いており、このままでは骨折、とまでは行かないにしても腕を痛めるのは確実だった。
「くうっ… 離れろーっ!」
徐質は隙を見計らって後ろに跳び、距離を空けるとエアガンを放つ。だがその射線は張嶷のシールドに弾かれて空しく飛び散るばかり。本来ならその時点で速やかに射撃を中止せねば無駄に弾を消耗するだけなのだが、徐質はトリガーから指を離せなかった。張嶷を相手に白兵戦を挑むことを心のどこかで恐れているのだろう。そして程なくしてガリガリッ、という嫌な音を発したかと思うと案の定エアガンは沈黙してしまったのだった。
「弾切れ!?」
双方は睨みあった体勢のままでしばらく時が流れる。徐質は相手の様子を窺いつつ腰のベルトに装着した予備弾倉のパックにそっと手を伸ばすが、張嶷がそれを制するようにエアガンを構える。身動きがとれないままでさらに沈黙が続いたが、再び張嶷から距離を詰めると嵩に懸かってナイフを振るう。弾切れを起こした徐質も接近戦で応じなければならず、弾倉交換のために距離を取るだけの余裕は皆無だった。しかし度重なる衝撃に耐えかねたのか、シールドを腕に固定するバンドの一本がバツン、と弾ける。こうなると効果的なガードはもはや不可能となってしまい、腕への衝撃は一層激しさを増す。だがそれでもなお斬撃をシールドで受け続けることができているのは彼女もまたいっぱしの格闘センスを有している証でもあった。
「はッ、反射神経だけはいいようね!」
張嶷も相手がそれなりの力量を備えていることを確信したが、さすがに業を煮やしたかこれまでの連続した攻撃から一旦呼吸を置くとナイフを持った右腕を振るう。
「だけどこれが… 避けられるかッ!」
瞬間、放り出されたナイフがあらぬ方向に飛んで行くのが徐質の視界に入る。 −そして、ついそれを目で追ってしまったのだ。
(しまった!)
近接格闘戦では、ほんの一瞬でも相手から視線を逸らしてしまえば致命的な隙を生むことになる。その間隙を埋めるべく視線を戻した時にはもう、眼前には急突進してきた張嶷の姿が迫っていた。
「目の良さが命取りよ!」
ズンッ!
「ぐうっ…」
肉薄した張嶷が放った拳が徐質の鳩尾に吸い込まれる。このままではやられる… と遠のいてゆく徐質の意識は、しかし途切れる直前に投げかけられた声で辛うじて引き上げられた。
「まだ終わっちゃいない。悪いけど、もう少し生きててもらうよ」
背後に回った張嶷が、がっちりと徐質の腕を絡め取る。動きを封じられた徐質は、これから自分はどうなるのだろうと考えようとしたが、茫洋とする意識の中でその答えは浮かんでこなかった。


「し、主将!」
「なんてことよ…」
デポ(装備補給所)で弾薬を補充して駆けつけた胡烈と牽弘の目に最初に映ったのは、ぐったりとした徐質と背後から彼女の動きを封じている張嶷の姿だった。
「畜生、弾を補充しに行ってみりゃこのザマか…」
「そのままじゃアンタらもやられてたわよ! 今は狙撃班を死守よ、死守!」
ぼやく胡烈に楊欣が半ばヤケになって応じる。張嶷は徐質の腕を固めながらも器用に自らのエアガンの弾倉を交換していたが、胡烈らがやってきたのを見ると徐質をグイと立たせてその姿を見せつけると、挑発するように言い放った。
「安心しなさい… まだ、この娘は『生きて』いるわよ!」
張嶷は実質上ダウンしている徐質のとどめを刺そうとはしないでいた。彼女の存在を人質をすることで08小隊や狙撃班の行動を掣肘し、ひいては姜維らの脱出へ時間を稼ごうと企図していたのだ。牽弘は不安げに徐質の様子を窺ったが、目立つ傷こそないものの表情は朦朧としており、張嶷から受けたダメージは確実に利いているようである。
「主将… 私達、どうすればいいの…」
残念ながら徐質にその声は届いてはいない。だが、その意識の中では何かが少しずつ浮かび、形を結びつつあった。

 続く

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