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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

373 名前:岡本:2003/12/02(火) 00:31
>教授様
日常の”クスッ”という笑いを誘われるような描写がお見事です。
こういうのはちょっと書けません。次回の作品を楽しみにしております。

>雪月華様
魔法の自己制御ができない人間を野放しにしていいのか、
陪臣同士が喧嘩した場合、勝つにしろ負けるにしろ上の人間の関係において
ただでは済まないので"飛ばす"という言葉を比較的思慮深いこの2人の間で出るのか?
という突っ込みどころは別にして、ノリを楽しむ感覚で拝読したしました。

ひとつ伺いたいのですが、雪月華様の設定では張遼の剣は自己流とのこと
でしたが柳生新陰流の影響が濃いのでしょうか。基本的に”待ち剣”が多い印象が
ありましたので、騎兵を用いて”先の先”と積極果敢に攻める張遼の印象とはなんとなく
違ったのですが。
まあ、個々人の設定の問題ですが。

音無しの構:一刀流・中西派三羽烏の一人・高柳又四郎で知られる。
起こり(相手の動きの前兆)に対応できないときは間合いを開け、相手が打ち損じた
下がり端を打ち込む。起こりに対応できるときはその出鼻をうつ。結果として竹刀が触れ合わない。
北辰一刀流創始者・千葉周作の免許皆伝祝いの試合では千葉周作の起こりが読みづらかったのと
剣の鋭さのため竹刀が打ち合い、相打ちに。

無形の位:柳生新陰流の位(構え、転じて剣の技量のことも位といいます)のひとつ。後の先を突き詰めた
柳生新陰流ではある意味究極の構えかもしれません。が、典型的な合わせ技狙いの構えです。
自分から攻める場合は全く無意味な構えです。

374 名前:雪月華:2003/12/03(水) 18:19
>373
正史の記述によると、文句なしの軍才だが傲岸不遜だったというので、あえて高柳又四郎をイメージしてみたのですが…
ちなみに、拙作・倚天の剣における皇甫嵩は、薩摩示現流の開祖、東郷重位をイメージしています。
(ちなみに盧植は富田流小太刀の達人で、幽州校区伝統技能の北斗張扇術第19代目正統継承者という、ハァ?な設定)
上意討ちの文書を全て処分していたり、幼年の者に対しても礼を尽くしていたというところが、
皇甫嵩のイメージに合ったので…

関羽→相手の剣を強引に打ち払って隙を作る。いわゆる介者剣術で『道場では』敵なし。
張遼→『待ち』ではなく、相手を動かして、その隙を斬る。無駄な動きがないため疲労が少なく、多人数相手の実戦向き。
といったイメージです。
張遼は、并州校区での対不法侵入者への実戦経験により、見切りというか、間合を極めているとmy設定しています。
がっちりと正眼に構えている相手は斬りづらいので、言葉による挑発や、あえて構えない事で
隙を見せ、相手を自分の思い通りに動かして隙を生み出し、そこを斬るという流儀。
また、対多人数戦が多かったため、構えや流れが崩れる受け太刀や突きは用いない。
それと、先の先とは、ただ単に前に出るのではなく、相手の僅かな動きから次の動きを読み、
いち早くそれに対応する動きをする、というものではないでしょうか。

余談ですが「相手を自分の思い通りに動かす」というのが、兵法の極意ではないでしょうか。
まだ、いろいろと主張したい事はありますが、それは作品中で著します(と思う)ので。

375 名前:雪月華:2003/12/04(木) 08:27
そんなこんなで、放課後は、めっさハードボイルドな張遼ですが、
「気を抜く時は徹底して抜く」というポリシーがあるので、寮生活や休日には結構女の子っぽいです。
静かだが圧倒的な風格を持つ関羽と違い、見た目では人を威圧しないタイプ。
関羽以上の親友である、薄命軍師の郭嘉曰く、
「おしゃれして街を歩けば、10分に1度はナンパされる」とのこと。

376 名前:那御:2003/12/08(月) 02:40
駄文書きました・・・
他の方に比べるとだいぶ劣りますが・・・
公孫サンと劉備は、それほど懇意じゃなかったと聴きますが、
あえて、猛烈に懇意にしてみました(絡みはないですが・・・)

― 信じられた人と信じられる人 ― 〜易京の戦い〜
公孫サンは窮地に陥っていた。
本拠地である易京棟に篭城したものの、四方を袁紹軍に囲まれ、身動きの取れない状況にあった。

公孫サン――字は伯珪。
「白馬委員長」と謳われ、幽州校区劉虞を倒し、総代となった烈女である。
一時期は、あの名門袁紹を脅かすほどに勢力を広げ、幽州、冀州、エン州と、三校区にわたって支配したこともあった。

彼女の快進撃の原動力。
それは、「白馬義従」と呼ばれた精鋭部隊である。
バイクからの射撃に優れた者を集め、制服、バイクなどを白一色で統一した部隊である。
北の鮮卑高との抗争では、この白馬義従が大活躍し、公孫サンの名は一気に知れ渡ることとなった。

しかし、彼女の誤算は、界橋にあった。
当時、郎となっていた公孫サンは、青州の黄巾の残党の討伐へと出陣。
持ち前の戦闘力で、いとも簡単にこれを平定。
返す刀で、袁紹の治める広宗棟へと軍を進め、ここに陣を構えたのである。

これに激怒した袁紹は、自ら出陣。
両軍は界橋で激突した。
この戦いのキーマンは、袁紹配下の麹義であった。
長く涼州でシゴかれ、バイクとの戦いの経験には事欠かなかった。

この麹義に、公孫サン自慢の白馬義従が、木っ端微塵に打ち砕かれてしまったのである。
そのうえ、前線で袁紹に遭遇したにも関わらず、これを取り逃がしてしまった。
公孫サンは大敗北を喫し、幽州校区への撤退を余儀なくされてしまったのである。

その後、劉虞を倒して総代の座を奪ったのだが、この劉虞が袁紹と懇意であったため、
さらに袁紹の怒りを招くこととなったのである。

袁紹は、生徒会長の権限と兵力を以て、北上を開始した。
勢いを失った公孫サンの拠点は、次々と陥落し、遂に本拠地易京での篭城戦にまで追い込まれてしまったのだった。



一人の生徒が、易京棟の一室のドアをノックした。
「・・・失礼します」
生徒の名は関靖。公孫サンの側近として仕え、よき相談役でもあった。
(また痩せられた・・・)
関靖は、公孫サンに会う度に、そう思うようになっていた。
以前は澄み切っていた蒼い眼にも、どこか曇りが見られた。

白馬義従が破られてから、公孫サンはずっとこんな具合だったのである。
自ら全身全霊を込めて育て上げた精鋭。

常にメンテナンスは欠かさないよう指示していた。
戦場も、極力走りやすい位置を選んで布陣した。
なのに・・・なぜ・・・!
公孫サンは、悔しさで頭を抱え込んだ。

(あれほど覇気に溢れた方だったのに・・・)
関靖は公孫サンのこのような姿を見るたびに、悲しくなっていくのであった。

「自軍の物資の残量を調査しました・・・ここに置いておきます・・・」
「・・・ありがと」
やはり、公孫サンは生返事であった。
関靖はファイルを机の上に置くと、そそくさと部屋を後にする他無かった。

公孫サン軍には、もはやそれほど長い時間篭城していられる余裕は無かった。
公孫サンはファイルから書類を取り出し、焦点の定まらない目で眺めた。

(姐さん・・・アンタはこうなることが分かってたってかい?)
公孫サンの頭に、卒業した元執行部員、盧植の姿が浮かんだ。

公孫サンは以前、盧植に学問の手ほどきを受けたことがあった。
学年でも名の通った優等生であった盧植の部屋には、後輩が集まり、小さな勉強会が行われることがしばしばあった。

そして公孫サンは、盧植の卒業に際して、ある言葉を肝に銘じるよう言われていた。

377 名前:那御:2003/12/08(月) 02:41
柔能ク剛ヲ制ス

柔軟な者は、かえって勇猛な者を制することができる、という意である。
盧植は、公孫サンが学問においても、兵法においても、柔軟な考えに欠けているということを懸念して、
この言葉を肝に銘じるよう言ったのであった。

しかし、公孫サンはこの言葉に反し、
領地を増やすために冀州に進入し、総代の座を奪うために劉虞を飛ばすなど、
直情的な行動が多かった。

(そのツケが今頃回ってきたってかい・・・)
こうしている間にも、袁紹軍はいろいろと仕掛けてきているのであろう。

(何か手を打たなければ・・・)
だが、考えれば考えるほど、盧植の言が頭を過ぎり、公孫サンを憂鬱な気分にさせるのであった。



遂に、公孫サンは前線に立つことを決意した。
というのは、遥か遠くに狼煙が上がっているのを確認したからである。
「ようやくご到着かい・・・」
公孫サンは、黒山賊ことBMFに使者を送り、増援部隊の派遣を要請したのである。

BMFのトップには、戦闘力に優れた張燕がいる。
(張燕の元までたどりつければ・・・この状況を打破できる!)
そう考えた公孫サンは出陣を決意した。

公孫サンは、僅かに残った部下にこう下知した。
「黒山の張燕が援軍として到着した!
私は、いったん張燕のもとへ身を寄せ、そこで再起を図ろうと思う!」

そう一声言うと、公孫サンは、愛車にまたがり、薙刀を手にし、弓を担ぐと、
一気に易京棟を飛び出し、狼煙に向かって真一文字に突き進んだ。


だが・・・
狼煙まであと百メートル、というところで、突如公孫サンの目の前に、伏兵が現れた。
「ちっ・・・蹴散らせ!」
公孫サンは、薙刀を振り下ろし、2人を倒した。
目の前が開けたところで、公孫サンはスロットルを全開にし、一気に突っ切った。

そして、狼煙が段々近づいてくる。
50メートル・・・30メートル・・・

「なっ・・・どういうことだっ・・・」

公孫サンが驚くのも無理は無かった。
狼煙を上げていたのは、張燕などではない。
事もあろうに、あの袁紹であったのだ。

「だから田舎娘は単純って言うのよね・・・」
袁紹が不適な笑いを浮かべる。

「貴様ッ!」
公孫サンが袁紹に斬り掛かるも、袁紹の隣に侍立していた文醜が、これを受け止めた。
「生徒会に歯向かおうなどたぁ、いい度胸じゃないかい!」
ナイトマスターと呼ばれ、恐れられた猛将である。

篭城の疲れと、盧植の言葉の苦悩により、公孫サンにもはや戦う余力は殆ど無かった。
一、二合交えたところで、公孫サンは撤退の指示を出した。
(とはいえ・・・もはや易京棟は落ちていよう・・・。かくなる上は、斬り死にするのが武人の名目ッ!)
公孫サンは、悲壮の覚悟で、敵軍に再び突入していった。

公孫サンの姿が見えなくなると、袁紹はとんでもないことを言い出した。
「田豊、易京棟を彼女に返して差し上げなさい。」
「・・・は?」
「公孫サンを易京棟に撤退させなさい、と言ったのよ。」
「なぜです!わが軍の勝利は決定的、それをみすみす・・・」
「あの田舎娘に、思い知らせてやるのよ・・・」
「そのようなことをすれば、わが軍に降伏してくるものはなくなります!」
「今回だけよ、あの女は・・・あの女だけは許さない!」
「・・・」

田豊は呆れ返ってしまった。
袁紹は、一時期公孫サンに苦戦したことを、かなり根に持っているようだった。
(これは・・・諌めても聞き入れて下さらないだろう・・・)
剛直で知られた田豊も、これには矛を引っ込めるしかなかった。

(どういうことだ?)
なぜか無事に易京棟に入ることができた公孫サンは、考え込んでいた。
敵軍の勝利は確実であった。にも関わらず、袁紹は易京棟を取らず、自分に棟を明け渡した。
(侮辱・・・としか思えん・・・)
この露骨な侮辱も、公孫サンの心に大きなダメージを与えた。

(姐さん・・・私は間違っていたんだろうか・・・)
公孫サンの頭に、再び盧植の言葉が浮かんだ。

自分の力、自分の意志、自分の心、それが、この動乱を切り開く唯一の武器である。
そう信じていた。そう信じて突き進んできたのだ。
だから、心から信じることが出来る人間は、殆どいなかった。
逆に、自分を信じてくれる人間も、少なかったように感じられる。

姐さん・・・アイツは・・・劉備は今どうしてるんだろう・・・
アイツらだけだったよ・・・後輩で私になついたのは・・・

玄徳・・・

つかみ所がないタイプの後輩だった。
しかし、不思議と自分と馬が合った。
ともに盧植の部屋で語らったこともあった。
自分が唯一心から信じられた後輩であった。

玄徳・・・アンタは、私と同じ路を辿っちゃならない。
乱世を切り開くには・・・力だけじゃダメだったんだ。
私は身を以てそれを知ったよ・・・

最後くらいは・・・カッコイイ事言わせてくれ・・・
アンタは、間違いなく大物になる・・・そんな気がするよ・・・


翌日、公孫サンは階級賞を自主返済し、群雄割拠の時代から、その名を消した。
心の中に、ひとりの後継者を残して・・・

378 名前:玉川雄一:2003/12/09(火) 22:18
私は長らくピンとこなかったのですが、
公孫サンも一時は袁紹をしのぐ勢力を誇っておったのですね。
しかし界橋の一戦を機に(?)パワーバランスが逆転し、
挽回もままならず易京に潰えた、と…

公孫サンはけして完全無欠の英傑ではないにせよ、
天下の一角を占めるだけの力量は確かに持っていたはずですが、
それを総合力で覆した袁紹というのはやはりただものではないということでしょうか。
(この論法で行けば曹操はさらに…)

盧植先輩と、劉備と、共に机を並べて学んだ奇妙な勉強会というのも興味がわきます(^_^;)

379 名前:★惟新:2003/12/09(火) 22:22
力作乙! やはりアサハル様の神絵にインスパイアされましたかにゃ?
姐さん…っつーか女王様な公孫[王贊]閣下の壮絶なる最期。
盛者必衰の世界が広がっていますね。
彼女もかなりの実力派だったようですが、相手があの袁紹では…

それはそうと性悪袁紹(;´Д`)ハァハァ

380 名前:★アサハル:2003/12/09(火) 22:40
姐さんの最期、実は物凄く好きなシーンでありまして。
こうして改めて文章で見ると感無量であります!!
一瞬「袁紹一発殴っていいですか?」と思ったのは(゚ε゚)キニシナイ!!

ハリセン娘2人に囲まれる姐さんってのもなかなか…
もしかしてあのナリ(自分で設定しておいて)で実はボケですか?

381 名前:那御:2003/12/09(火) 23:30
アサハル様の絵に完全にインスパイアですw
ちなみに、好きな日本文学「平家物語」が大いに影響しているかと。。
「滅び」に美しさを感じる人間ですから(爆

勉強会ネタはお気に入りw
全くテンション、キャラの違う三人の勉強会。空恐ろしいものがあります。

てか、正史の袁紹があまり好きでない、って根性が性悪袁紹の生みの親w
こう・・・裏表があって、しかも自分に手向かう者は、どうしても許したくない、
そういうキャラになっちゃいました、、

業務連絡(何)、
曲は、「皇甫嵩のテーマ・バラードアレンジ」とその他2曲同時進行中。
コツコツやっていきます。

382 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/10(水) 23:08
遅まきながら、読みますた(゚∀゚)!
公孫瓉先輩の、激しくもあっけない、自滅に近い最期。
北上してきた青州黄巾勢力を蹴散らし、幽・冀・青の三校区を圧倒的な武力で支配し、
おそらく袁紹がいなければ、あるいは韓馥がもう少し豪毅であれば、まず河北ブロック
を支配していた女傑であったでしょう。ひょっとすると袁紹が躊躇った中原進出をいとも
あっさり実現していたかもしれません。

そういう狼みたいな彼女のコアの部分には、やはり盧植先生やら後輩・劉備やらの思い出
があるわけで…。やりたい放題やってる彼女ですが、盧植先生が一瞬マジモードになって
ハリセン取り出すと、途端に硬直するものと思われ。
というか、公孫瓉もハリセンを持ってたとか…三人全員ツッコミ。

袁紹さんも、敵と認めた相手に対する底意地の悪さカコイイ! 「自分の中でその人が“どうでも
いい存在”になるまで徹底的にいじめ抜く」を地でいく袁紹お嬢さま(;´Д`)ハァハァ… 呉匡たん
の方が珍しい存在なんでしょうねえ…

>業務連絡
(゚∀゚)! 期待ナリ!

383 名前:7th:2003/12/14(日) 21:04
だいぶ遅くなりましたが感想を書かせて頂きます。

袁紹と公孫サンの対立というのは要するにお嬢様vsヤンキーの戦いなんですよね。
単純な武力主義者の公孫サンと裏表のある優等生の袁紹が理解しあえる事はない…という感じでしょうか。
公孫サンも劉虞をトばした所までは良かったんですけど、その後も同じ路線で走っていってしまったのが間違いだったのかもしれません。
頭の切り替えが出来なかったばかりに、なんとも哀しい最期を迎える事に…。

それはそうと勉強会。あの廬植とあの劉備とこの公孫サンが一つの机で勉強しているのが何か凄いんですが。
「………」
「………」
「…おい劉備、出来たか?」
「…まだです。後200」
「だー、やってられるかこんなモン。大体何でこのトシにもなって漢字の書き取りなぞせにゃならんのだ!?」
「先生は『基本を疎かにするな』って言っとりましたけど」
「アタシはこのテのちまちました作業が死ぬほど嫌いなんだ…お前もそうだろ?」
「そらそうですけど…って伯珪さん、何してるんですか」
「フケる。ここは一階だ。窓を跨げばすぐに…」
窓のすぐ外に廬植の姿。窓を開けた姿勢で硬直する公孫サン。
「すぐに…何かしら?」(ハリセン装備)
「せ、先生、何でここに…」(冷汗)
「そろそろ集中力の限界だと思って。…覚悟はいいかしら?」(いい笑顔で)
(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル(滝汗)
といった感じでしょうか。

しかし皆様レベルが高い。いまSSを一本書いていますがSS初書きの自分なんかが肩を並べるのは躊躇われますね。
取り敢えず今週中に上げられるように頑張ってみたいと思います。

384 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/14(日) 23:39
>>383
いい笑顔の盧植先生(・∀・)イイ! タイムまで把握済みとは。
そして、やはりむずかりの公孫瓉先輩。案外真面目な劉備。
三者三様の学窓ですねえ…。
盧植先輩は、どちらかというとクールっ娘っぽい外貌ですが、中身はかなり
弾けてます。普段静かなのは地声がデカイのが気になってるからで、劉備や
公孫瓉は遠慮なく大声で叱責されたり。

そして7thさま、SS期待しておりますっ!

385 名前:那御:2003/12/20(土) 01:50
注)このSSは、全て実話を元に構成されております。

長湖部調理実習  〜禁断の蒲茹でと豚汁入り〜

「あ〜、めんどくせぇ。なんで俺様がこんなことをしなきゃならないんだ・・・」
ボヤきながら米をとぐ甘寧。
その手つきは、ややおぼつかない様子である。
「まぁまぁ・・・数学よりはマシじゃないか。」
その隣でゴボウを洗う魯粛。こちらはなにやら楽しげである。

揚州校区の家庭科の授業。その一環として、今回の調理実習は行われていた。
勿論、一人で調理実習は出来ない。
班分けがあるわけだが――。

2班の周瑜班は勿論、班長周瑜が絶妙な料理の腕を振るうことが予想される。
1班孫権班には顧雍ら。4班程普班には歩シツらがいる。
文科系の彼女らも、なかなかの料理を作るであろう。
だが・・・3班だけは明らかに異彩を放っていた。

呂蒙班。その班員は、班長呂蒙以下、甘寧、魯粛、陸遜である。
陸遜は、この班編成を見て、自分の不運を呪ったという。
案の定、呂蒙は一言、
「伯言は手ぇ出さないでくれよ。お前が関わるとロクなことにならないからな。」
(それはこっちの台詞です・・・)
その一言を飲み込んだ陸遜は、ため息をついてうなだれた。

今回、学園から指定されたメニューは、白飯、秋刀魚の蒲焼、豚汁であった。
「終わり!モーちゃん皮むいて!」
ゴボウを洗い終えた魯粛は、呂蒙にゴボウをパスした。
「おい!これってどれくらいとげばいいんだ?」
「・・・既にとぎすぎです。」
あきらかにとぎすぎといえる米を見かねた陸遜が言った。
「じゃあ、それを水に浸しておいてください。」
「あいよ。」

ニンジン、ゴボウ、大根・・・
一通り野菜を洗い終えた4人。
「じゃあ、次は野菜を切らないとな。」
「よ〜し、ここは俺様の出番だ!これを一番楽しみにしてたんだ。」
そう言うと甘寧は、おもむろに両手に包丁を構えて、まな板の前に立った。
「ちょ、ちょっと!何する気ですか!」
あわてて陸遜が静止する。
「え・・・何って、野菜を切る。」
「そんな切り方って・・・」
「いいんだって!どんな切り方したって、食えないもんじゃないだろ?」
「ま、まぁ・・・」
「じゃあ、行くぜ!うぉらッ!双剣連打!」
ダダダダダダダダダン!
まな板に置いたゴボウを、二刀流で叩き切っていく。
次々とまな板から飛び散っていくゴボウの欠片。
「うわぁ・・・、あの班絶対おかしいって・・・」
1班の朱桓らが、3班を横目で見ながら呟く。
「あの面子じゃあねぇ。」

「おもしろいな!次あたしにやらせて。」
楽しさに気付いたか、魯粛が目を輝かせて言う。
「あぁ。」
「じゃあ、興覇さぁ、あたしに向かってニンジン投げて。」
「は?」
またも予想外の展開に陸遜があわてる。
「投げるって・・・?」
「まー見てなって。」

「とりゃ!」
甘寧がオーバースローでニンジンを投げ込む。
「てぃッ!」

スパッ!

ニンジンが真っ二つに切れて、その半分は調理台のうえ、もう半分は床に落下した。
「あぁ・・・。やると思った・・・」
こうなることは見え見えだったのに、と陸遜が頭を抱える。

386 名前:那御:2003/12/20(土) 01:50
「で、これどうする?」
落ちたニンジンを拾い上げ、呂蒙が訪ねる。
「う〜ん・・・、そうだ!」
魯粛が頭の上に豆電球を点灯させた。
「興覇、モーちゃん、耳貸して!」
(ヒソヒソヒソヒソ・・・)
「ははははは!そりゃあ面白い!」
呂蒙が爆笑して言う。
「で、どこの班にやる?」
甘寧が尋ねる。
(どこの班?一体どういうこと?)
「1班とか?」
「やっぱり?」
(公瑾さんの班・・・何をする気なの?)

すると、甘寧は、落としたニンジンのほうを切り始めた。
ある程度の大きさになったところで、なぜか周囲を見回し始めた。
「さ〜て、細工は流々・・・」
魯粛が、そのニンジンの一欠けらを手に取ると、
「仕上げを御覧じろ〜。」
周瑜班のメンバーの動きを見据えて・・・

ぽいっ。
ぽちゃん。

「!!!」
陸遜が言葉にならない悲鳴をあげた。
「な、なな、何してるんですか!事もあろうに公瑾さんの班の鍋に投げ込むなんて!」
「いやさぁ、あいつ料理上手いから、ちょっとくらい落ちたニンジン入っててもフォローできるって。」
「いや・・・」
「しかも皮付きときた。」
呂蒙が無意味な補足をする。
「あぁ・・・」
陸遜は、昏倒しそうになるところを堪え、
(見なかったことに・・・見なかったことに・・・。気づいてない・・・気づいてない・・・)
一人、言い聞かせ続けるのだった。

(秋刀魚・・・秋刀魚だけは私がさばかないと・・・。
あの人たちにさばかせたら、食べられるものも食べられなくなる・・・)
陸遜は、秋刀魚をさばきに取り掛かった。
幸い、甘寧らは野菜を投げ切りすることに夢中である。

「お〜、割とよさげじゃん。」
ダシ汁の中に野菜を入れて、数分。
湯気がもうもうと上がり、ひとまず食べ物らしくなってきたようだ。
「教科書には、そろそろ味噌とか七味を入れるって書いてあるが。」
「じゃあ、味噌だな。一人分いくらだ?」
「めんどい!いいや適当で。」
そういうと甘寧は、味噌を手掴みで鍋に次々と放り込み始めた。
(うわぁ・・・絶対多い・・・)
一人、調理台で秋刀魚をさばく陸遜の目にも、その光景は映った。
「したら、七味入れるよ。」
魯粛が七味唐辛子の蓋を開け、鍋のうえで振ると・・・

387 名前:那御:2003/12/20(土) 01:51
どさどさどさっ。

「あ・・・」
鍋が見る間に真っ赤に染まっていく。
中蓋が取れて、七味が一瓶、鍋の中に投入されたのだった。
「うわ〜、こりゃあ辛いぞ。」
顔は全然深刻では無い甘寧が、言う。
「あたしは辛いの平気だもん。」
「俺様も平気だが。」
「モーちゃんも大丈夫だったよね?」
「うん。」
彼女らは、調理台で顔面蒼白になっている陸遜には、全く気付かずにいる。
(あぁ・・・舌が死ぬ・・・)
陸遜は、辛いものが大の苦手だったりするのだった。

「これってさぁ・・・どっかの民族料理に近いよな。」
「インド料理だよね・・・誰がやったのよ!」
「子敬がやったんじゃん・・・」
特に深刻さを感じない三人は、ずっとこの調子である。
「そういえば秋刀魚は?」
「あれ、切ってある。残念!これも鍋に投げ込んでやろうと思ったのに・・・」
「じゃあ、教科書にある、蒲焼のタレっていうヤツを作るとするか。」
呂蒙が、教科書を片手に、
「醤油と水と砂糖で作るんだとよ。」
「砂糖醤油じゃんかよ!餅でも焼いて食うか?」
「ハハハハ!」


秋刀魚に小麦粉をつけて、ようやくひと段落、と落ち着いた陸遜だったが、
目の前にある光景を見て、再び昏倒しかけた。
あきらかに、蒲焼のタレが多い。
鍋いっぱいに蒲焼が満たしてあるのだ。
「ちょ、ちょっと・・・蒲焼って焼いてる秋刀魚にタレをかけて作るものじゃなかったですか?」
「ん?しらねぇよ。とりあえず伯言、秋刀魚貸せよ。」
甘寧は、魯粛の手から、秋刀魚の皿を奪い取ると、それを一気に鍋に放り込んだ。
「あ・・・」
秋刀魚の蒲焼は、一瞬にして秋刀魚の蒲茹でと化し、グラグラと鍋の中で茹でられていくのであった。

「ご飯どう?」
「噴いてる噴いてる!」
「火ィ止めろ!」
「え・・・、止めるんですか?」
「当たり前だろ!噴いてるんだから!」
(蒸らさない気だ・・・)
陸遜は、白飯ですらマトモに食べられないであろう、自分の不運をまた呪うのだった。

「いよ〜しっ!かんせ〜い!」
魯粛が大きく伸びをして言った。
「うわ・・・」
陸遜は、わが目を疑った。
豚汁とは思えない、燃えるように赤いスープ。野菜は粉々である。
さらに、蒲焼とは程遠い、煮物に近い秋刀魚。茹で過ぎたために、身はボソボソになってしまっている。
そして、白飯も、水を吸っていないうえ、蒸らしてもいない。かなりの覚悟が必要だろう。

「さぁ〜て、食うか!」
甘寧が音頭をとっての、食事タイム開始である。
まずは、魯粛が、豚汁入り七味スープをすする。

ずずず・・・。

「・・・うげっほ!げふん!げふん!」
むせ込んで座り込む魯粛。
「ありゃ?おい、子敬?」
「げほん!げふん!」
(うわぁ・・・魯粛さんでもああなる代物を・・・)
陸遜は、数分後に自分の身に降りかかるであろう、この惨劇を、三度呪った。

「甘寧・・・ちょっとまずかったんじゃないか?」
「でも・・・子敬が自分でやっちまったんじゃん。」
「まぁね・・・」
「じゃ〜、残りのスープを誰が飲むか、きめようぜ!」
「え!?」
甘寧は、これを飲まない気である。
(ひ、卑怯だ・・・)
「じゃあ、ジャンケンだな。」
「せ〜の、だっさなきゃ負けよ〜、さ〜いしょ〜はパー!」

・・・ぱー?

「よっしゃ!陸遜の負け!」
「やったぁ、助かった〜!」
「そ、そんなぁ・・・」
(今時、「最初はパー」で勝負してくる人間がいるとは、予想だにしなかった・・・)
「さぁ〜て、まだまだたくさんあるからな、陸遜、頼んだぜ!」
「あぁ・・・」
「ってか、俺らこれから魯粛を保健室に連れて行くから、お前一人で全部食べとけ。」
「えぇーーーーっ!!?」
「じゃ、そういうことだから。」
ピクリとも動かない魯粛を抱え、甘寧と呂蒙が走り去っていく。

「・・・そんな殺生なぁ・・・」
翌日、陸遜が喉と胃の痛みにより欠席したのは、言うまでもない・・・

388 名前:玉川雄一:2003/12/20(土) 20:49
第二作おつ。それにしてもこのメンツは動かし易いなあ(^_^;)
これまでほとんどの人が彼女らをネタにしてお話書いてません?

ただ、キャラ的にはそれぞれ上手くさばけていると思ったのですが、
甘寧までミラクル料理作りに荷担しちゃうのはいかがでしょ。
以前、『甘寧は隠れグルメ』っていうネタがあったのですが、
(今は読めないので仕方ないのですがレガッタ大会の話など)
彼女は素がああいうキャラだからこそ、
敢えて正統派に料理を追求させてみるともう一ひねりが利いたかも。

普段の活動とは違って、こと料理に関しては
暴走する魯粛と呂蒙−妙に玄人こだわりの甘寧−(相変わらず)板挟みの陸遜
といった図式もありかもしれません。

ところで、周瑜のナベに投入されたニンジン(皮付き)の行方は…?
リアルの方ともども顛末が気になるのですが(((((;゚Д゚))))

389 名前:那御:2003/12/20(土) 21:04
甘寧や魯粛には、「何をやらせても問題ない」という勝手な図式が浮かび上がっております。
雪月華様の作品の設定を、可能な限り生かしました。

>敢えて正統派に料理を追求させてみるともう一ひねりが利いたかも
そのあたりは加筆・修正を大いに希望します。
(ただしリアルでは被害者は一名)

>ニンジン(皮付き)の行方
いやだなぁw
そんなのバレていたら僕が無事にココにいられるわけ無いじゃあないですか(爆

390 名前:那御:2003/12/20(土) 22:28
てか、甘寧に対するイメージが、僕の意識の中で違ったみたいですね。
ってか、料理番を打ち殺した話のことを考慮に入れてませんでした。
反省・・・

391 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/21(日) 02:16
激しくワロタァ! 那御さまグッジョブ!
本当に悩み無さそうですな、魯粛嬢と甘寧。モーちゃんも加えて揚州の傍若無人
トリオですやね…ひたすらに悲惨な陸遜に哀悼を。
しかし、こういう連中を一瞥で大人しくさせることの出来る完璧美少女周瑜たんに
改めて憧れてみたり。描写がないぶん、異様な存在感があるのですねえ(^_^;)
皮付きニンジンどう扱うんだろう…。無様に取り乱すこともないでしょうし。

>甘寧
たしかにグルメという設定は生きてましたねえ(^_^;) ってレガッタリンク切れてる!?
岡本様の作品と言い、リンク切れ多いな…。次回で必ず復帰させます!

392 名前:7th:2003/12/21(日) 16:20
或る夏の暑い日。
「むー………」
蒼天学園の学食。そこに入るなり、何晏 は形の良い眉を顰めて唸った。
暑い。とにかく暑いのだ。
外の気温は既に35度を超している中、あろう事か食堂の冷房が壊れたというのだ。
直射日光は当たらないとはいえ、厨房の熱と大勢の人の熱がこもり、下手をすると外より暑い。
この環境下で食べるものといえば冷たいもの…素麺なんか良いかも。そう思い何晏は長蛇をなしている行列に並ぶ。
「ふっふっふ…なってないわね、何晏」
突然、後ろから聞こえた声に、何晏は振り返る。
「会長、他人の食べるものにケチを付けるのは如何なものかと思うんですけど」
会長と呼ばれた少女は腕をびしぃっ!と突き出し、人差し指で何晏を指さしていた。
彼女の名は曹叡。この学園の生徒の頂点に君臨する蒼天会長、その人である。
「甘い、甘いよ何晏。この暑い中にソーメン?栄養がないし美容に悪い。そして何より、そんなもの食べたって涼しくなんかなんないわよっ!」
夏の風物詩、素麺に対し何て事を。素麺業者の方に失礼だぞ。と何晏は思った。
「では会長は何を食べるおつもりで?まさか煮麺(にゅうめん)なんて言いませんよね」
「うどんよ。それも熱いやつ」
「………はぁ?」
何言ってんだこの女。暑さで頭がイカレたか?と半分茹だった頭で滅茶苦茶失礼な事を考える何晏。
「逆療法ってやつよ。暑い中で熱いものを食べると涼しくなるってアレね。それにソーメンよりうどんの方がカロリー低くて美容に良いのよ。何晏、あなたもうどんにしなさい。私がおごるから。」
おごると言われては是非もない。曹叡は何晏に席取りをさせ、人もまばらなうどんコーナーへと駆けていった。


………やられた。そう思わざるを得なかった。
目の前には熱々の鍋焼きうどん。てっきり、かけうどんの類だとばかり思っていたのに。
「会長、本当にコレで良いんですか?」
「もちろんよ!見なさい、貧相なソーメンと違うこのボリューム、この栄養価!」
鍋焼きうどんの上に乗っている具材を指さして曹叡は言った。野菜、カマボコ、かしわ、卵。確かに栄養価は素麺を軽くしのぐし、体にも良いのは間違いない。
しかし、しかしである。この溶岩の如く煮えたぎる鍋焼きうどん。食べて涼しくなる前に熱さでもだえ死ぬのではないだろうか。
「コレを食べれば、夏バテなんて絶対しないわ!」
ぱきぃん、と勢いよく割り箸を割り、果敢に鍋焼きうどんに挑む曹叡。
確かに夏バテはしないだろう。だがその前に熱さで…やめた。考えても埒があかない。何晏はそう判断しうどんを食べることにした。
じわじわとにじみ出る汗をハンカチで拭き、熱々のうどんをすすり込む。周囲の視線がやや気になるが、なかなか旨いものである。
何分、いや何十分経っただろうか。とにかく二人は鍋焼きうどんを完食した。
顔は汗まみれであるが、二人とも清々しい表情をしている。
何晏の顔をしげしげと覗き込んでいた曹叡が不意に言った。
「………美白」
「は?何のこと?」
「ほら、何晏の顔って白くて綺麗じゃない。それで、それが化粧か地肌かって事でもめたのよ。それを確かめる為に鍋焼きうどんを食べてもらったんだけど…。いいなぁ…美白」
「…で、会長。いくら儲けました?」
「配当8倍で4ま…っっ!」
慌てて口をふさぐ曹叡。だが時既に遅し。何晏は微笑んでいる…ただし、目は笑っていない。
「ごごご…ごめん何晏!悪気は無かったの!つい出来心っていうか………」
「良いですよ、許します。ですが、代わりに………」
びくぅっ、と身を竦める曹叡に、何晏は目に一杯の笑みを浮かべて言った。
「また、鍋焼きうどんおごって下さい。ただし、今度は冬の寒い日に」
「お安い御用よ」
安堵の笑みを浮かべ、曹叡は何晏に微笑み返した。

393 名前:7th:2003/12/21(日) 16:26
玉川様の世説新語シリーズに触発され、書いてみました。
世説新語・容止篇より、何晏と曹叡のお話です。
初SS故、至らないところも多いとは思いますが、投下させていただきます。

ちなみに上の方で言っていたSSとは別物だったり。
そっちは役職がうまく定まらなかったので後回しにしました。いずれ書き上げると思います。

394 名前:那御:2003/12/21(日) 21:44
力作乙!世説新語を上手く学三化してますね。
曹叡と何晏の、学三ならではの不思議な関係がGoodです!
てか、曹叡は曹操のキャラを受け継ぎまくりですね・・・

>何言ってんだこの女。暑さで頭がイカレたか?
何晏なら絶対考えるw

>ちなみに上の方で言っていたSSとは別物だったり。
>そっちは役職がうまく定まらなかったので後回しにしました。いずれ書き上げると思います。
期待してます!

395 名前:玉川雄一:2003/12/21(日) 22:02
むう、世説新語の完本が手元にないので元ネタを思い出せないのが恐縮ですが。
それにしてもこういうひねったネタが出るのが学三ならでは!
7thさん、初挑戦ながらなかなかやりますな( ̄ー ̄)

確かに、曹操のキャラが見えてくる曹叡がいい!
真夏の鍋焼きウドンとはまた剛毅な…
しかしトータルで見ると、何晏もなかなかいい勝負をしておる模様。
次回作を楽しみにお待ちしております。

396 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/21(日) 23:22
7thさまグッジョブ!
アレですね、可晏の美白っぷりに疑問を抱いた明帝が、真夏にアツアツの料理を喰わせて、
汗で流れるかどうかを観察したという…(^_^;)

何平叔美姿儀、面至白。魏明帝疑其傅粉、正夏月与熱湯餅。既ロ敢、大汗出、以朱衣自拭。色転皎然

マターリしてて、可晏たんと曹叡たん仲良さそう〜。案外おちゃめなのな、曹叡たん。さすがは
曹操の妹と言うべきか。
次回作に期待であります!

397 名前:★教授:2004/01/07(水) 00:29
 三角巾を頭に巻きつけマスクを付けて…ゴミ袋に不要な物品を放りこむ。
 ある者は箒、ある者は雑巾…力のある者は机や椅子の運び出しに粗大ゴミの撤去。
 どこにでもある学校の大掃除。それはこの蒼天学園でも同じだった。
 舞台は益州校区成都棟演劇部部室。関係者以外知る事のない季節外れの春一番が開幕していた――


■■簡雍と法正 -仲良き事は美しき哉-■■


「やー…色んな衣装があるもんだな」
 簡雍が衣装棚をごそごそと漁る。一つ手に取り、またもう一つ手に取る――先刻からこれの繰り返しだった。
「ちょっと憲和。掃除しにきてるんでしょ、衣装見てサボってる場合じゃないわよ」
 真っ白な三角巾に白衣を着こんだ法正がぽんぽんとハタキで簡雍の頭を叩く。ジャージに身を包んだ簡雍が鬱陶しそうにハタキを払いのける。
「分かってるよ、だからこうやって衣装の整理を…」
「見てるだけじゃない。それに掃除を始めて一時間、憲和は箒の一本も持ってないのよ?」
「よく見てるな…」
「総代からしっかり面倒見てやってって頼まれてるのよ」
 これ見よがしに大きな溜息を吐くと簡雍に雑巾を手渡す法正。
 当の簡雍は雑巾を渡されると頭を掻いて少しだけ眺めて、周りでダンボール箱を片付けていた女子生徒に写真を添えて渡していた。勿論、法正の見ている目の前で。
 当然、法正も黙ってるわけがなかった。簡雍の胸座を掴んでゆさゆさがくがくと揺らしはじめる。
「憲和! 何で他のコに雑巾渡すのよ! それに…今一緒に何を渡したの!」
「うぷ…やめろよー。昨晩から今朝にかけて呑み会やってたんだからー…」
 揺らされる度に青くなっていく簡雍。一瞬、法正の脳裏に1分後の凄惨な現場がちらついた。慌てて揺らす手を止めると、簡雍はふらふらと椅子に座りこんでぐったりしてしまった。酒脱人とはいえ、やはり二日酔いになるのだろう。
「もー…一体何を渡したのよぅ」
 肩を竦めて、雑巾を渡された女子生徒を見る――目が合う。と、その女子は顔を赤らめて顔を背けた。
 そのリアクションを見た法正の頭に電気が流れる。ずかずかと女子生徒に近づくと、写真を脅し取る。そして――
「け、憲和ーっ!」
 法正はコンマ何秒の世界で顔を朱色に染めると写真を放り投げ、ぐったりしてる簡雍をハタキでぺしぺし叩き始めた。
「何だろ…」
 その辺で作業をしていた他の生徒達が放り出された写真を手に取り、眺める。
「…………」
 10人前後の生徒が写真を見て、全員が同じリアクションを取っていた。
「…いや、でも法正さんだから…」
「黒下着って大人っぽいよね…ガーターだって…」
「胸なくてもこれはこれで…」
 喧喧諤諤と写真に付いての考察まで始める始末。しかし目ざとい法正がそれに気付かないわけもない。
「お前等っ! 全員でてけーっ! その写真の事を忘れなきゃヒドイ目に遭わせるからなっ!」
 ぶんぶんとハタキを振り回して女子生徒達を部室外に追い出す法正。簡雍も女子生徒達に椅子ごと運ばれて出ていった。
「はぁはぁ…憲和のヤツ、一体何処であんな写真撮ったのよ…」
 大きく息を切らしながら写真を丸めてゴミ袋に投げこむ。
「これじゃ大掃除にもならないわよ…ったく」
 深呼吸、溜息と続けると三角巾を外した。今日はもう大掃除は止めにしたらしい。汗を拭い鏡の前で髪を整える、こうしていると普通の女の子にも見えるかもしれない。
 ふと、法正の視界に簡雍が物色していた衣装棚が飛びこむ。好奇心をそそられるのか徐に近づくと衣装を手に取って眺めはじめた。
「へぇ…憲和じゃないけど本当に色々あるんだ……あ、これ…」
 一着の衣装を手にした時、法正の動きが止まる。少し考えた後、きょろきょろと辺りを警戒しながら部室の入り口に鍵を掛けた――


 約10分後――
 衣装チェック用の大きな姿見の前で自分の姿に感動している法正の姿があった。
「一度…着てみたかったんだよね…これ」
 先ほどまで怒り爆発させていた女子と同一人物とは思えない笑みを浮かべる法正、余程着てみたかったのだろう。
「女の子だったら誰でも一度は…って感じかな」
 姿見の前で軽やかに一回転。洋風の花嫁衣装…分かり易く言うとウェディングドレスの裾がふわりと浮かんだ。純白のドレスだけならまだしも、実は唇に薄紅を引いたりと化粧まで周到だった。
 一人、鏡の前で悦に浸る法正。しかし、シンデレラに制限時間は付き物だった。
「何や…鍵かかっとるわ…」
 部室のドアがガタガタと動くと同時に、外から関西弁が飛び込んできたのだ。一瞬にして青褪める法正。
「やば…総代が…」
 慌ててドレスを脱ごうとする法正、しかし焦る気持ちが手に正確な情報を伝えない。
「総代、法正はもう帰ったのかもしれませんぞ?」
「んー…そうかもなぁ…」
 ぼそぼそと聞こえてくる諸葛亮と劉備の会話が余計に法正の心をかき乱す。自分で蒔いた種とは言え、こんな姿は見られたくない――泣きそうになりながらドレスを脱ごうと必死になる。
「まぁ、でも鍵もあるさかいに…一応チェックだけはしとこ」
「そうですな。では…」
 絶体絶命の窮地に立たされる、例えるなら一人分にも満たない足場の断崖絶壁で強風が吹き荒れる――そんな所だろう。法正はじたばたしながら脳をフル回転させた。
 そして――部室のドアが開き劉備と諸葛亮が姿を見せた。
「なーんや…誰もおらん。法正、やっぱり帰っとるわ」
 制服の上からエプロンを着こみ、ハリセン代わりの箒を持った劉備は広くはない部室を見渡すと踵を返した。
「ふむ…仕方ありませんな。この部屋の掃除は明日にでもやらせますか」
 白羽扇の代わりにちりとりを扇ぎながら劉備に続いて部室から出ていく。
 長い沈黙。静かでゆっくりとした時間が流れる。その静寂を破ったのはロッカーが開く音だった。緩々と開くロッカーの中から法正が出てきたからだ。
「あ、危なかった…」
 冷や汗を流しながら安堵の息を漏らす。と、次の瞬間――
「いただき」
「え? うわっ!」
 強烈な閃光、その向こう側に簡雍が立っていた。正にお約束。
「け、憲和…何でいるの?」
 カクカクと口を動かす法正。フラッシュの眩しさ云々よりも簡雍がこの場にいる事の方がショックだったようだ。
「玄徳と一緒に入ってきてたんだよ。何かあるな〜って思って待機してたら…へぇ〜」
 にやにや笑いながらウェディングドレス姿の法正を上から下まで眺める簡雍。法正はただ頬を染めて後ろを向くしかなかった。と、ある重要事項に気付いた。
「憲和!」
「な、何だよ…急に」
「そのカメラ寄越せ!」
「わわっ! やめろって!」
 飛び掛かる様に簡雍に襲いかかる法正。無論、カメラを奪う事が目的だ。
 しかし、簡雍も折角のスクープを無に帰す訳にはいかないから抵抗する。お互いに体力、筋力は似たり寄ったりの性能なので一進一退の攻防になっていた。しかもかなりの低レベル。
 やがて、簡雍が疲れ気味の法正の隙を突いて押し倒してマウントポジションを取る事に成功。
「へへー…観念しろい」
「く、くやしーっ!」
 勝ち誇る簡雍に本気で悔しがる法正。
「さーて…どうしてくれようかな?」
「な、何よ…」
 意味深な動きで法正を翻弄する簡雍。まだ酔ってるのだろうか。
 その時だった、部室のドアが開いたのは――
「憲和〜。鍵渡すの忘れ…て…?」
 劉備が苦笑いしながら入ってきて…凍った。同時に法正も凍っていた。きょとんとしているのは簡雍一人だけだった。
「な、何してんのや…?」
 劉備から見れば『簡雍が法正を押し倒して襲ってる』ようにしか見えない。堅い笑みを浮かべながら劉備が尋ねる。
「いや、見ての通り…私が法正を…」
 簡雍が普通に答える。しかし、冷静さは時に悲劇を招く事もある。
「あ、アンタら…そんなイケナイ関係はあかんって! 同人だけにしときや!」
「は、はぁ? ち、ちょっと…玄徳! それは誤解…」
 ここで初めて簡雍が動揺し始めたが、時既に遅し。劉備は猛烈な速度で部室を後にしていた。
 マウントポジションのまま呆然とする簡雍と法正。我に返ったのはほぼ同時だった。
「ど、どーすんだよ! 玄徳のヤツ誤解したまま行っちまったぞ!」
「知らないわよ! 憲和が押し倒したりなんてするからこんな事になったんじゃない!」
「法正が襲い掛かってこなかったらこんな事にもならなかったんだよ!」
「私のせい!? 有り得ないよ!」
 そのままの体勢でぎゃーぎゃー喚き散らす二人。
 この口喧嘩の果てに得たものは大勢のギャラリーと二人に関するちょっと危ない噂だった――


 数日後の夜――
 簡雍と法正は劉備の部屋で弁解をしていた。
「そやから、二人が怪しい関係なんやっちゅー事は衆知の事実で…」
「違うって言ってるだろ! 玄徳は説明聞いてたのかよ!」
「そうですよ! 私が総代に嘘を吐くように見えますか!?」
 二人して劉備に迫る。ちょっと恐くなってるので一歩後退する。
「そんな二人して真剣やと…余計に怪しいわ…」
 苦笑いしながら二人を逆撫で。
「「そんな事はない!」」
 簡雍と法正の声が重なると、今度は矛先が互いに向き合った。
「大体、憲和が余計なマネしなきゃこんな事にはならなかったの!」
「だーかーらー! 法正が襲いかかってこなきゃ在らぬ噂をかきたてられる事もなかったんだよ!」
 弁解は何処吹く風、二人で責任転嫁を繰り広げ肥えた話術で戦闘している。こちらは高レベルな争いだ。この隙に劉備はいそいそと部屋から脱出した。ドアをゆっくり閉めて溜息を吐く。
「ふー…何やかんや言うても…あの二人、仲ええんよな…」
 苦笑いを浮かべると論争巻き起こる自室を後にした。
 それから数十分後、二人が疲れた顔をして出てくる。
「…コンビニ行く」
「私も…割引チケットあるから…使う?」
「使う…」
「じゃ、行こ…」
 簡雍と法正の微妙に和やかな光景。劉備の言う通り、本当は仲がいいのかもしれない。
 その答えは彼女達しか知らない。

「肉まん美味しいね…」
「うん…美味しい…。あ、これ法正の分のコーヒー…奢りだよ」
「ありがと…」

 コンビニ前の二人、白い息は風に吹かれて儚く消える。
 薄暗い外灯の光が缶コーヒーを持った二人に降り注ぐ。
 この御話はここで終幕。でも二人の舞台はこれで終幕ではない。
 脚本も観客もいない御話。続きが語られるのは、また別の機会――
 

398 名前:★教授:2004/01/07(水) 00:34
復帰一発目に目に悪いものを投下した事を深くお詫び申し上げます。
嗚呼、もっと文章力が欲しい…発想力も…。
ホントはXデー(1/18)用だったんですけども…別ネタが浮かんだので投下。何て安直なんだろう…(凹)
まあ、存在表明みたいな感じになればいいかと思いますし…ここ最近の参加者様に『こんな変な生き物いたんだ…』って認識してもらえれば幸いです。

399 名前:那御:2004/01/07(水) 00:56
直接教授様とお会いするのはお初でしょうか、那御と言いますデス。
過去の作品を読ませていただき、簡雍らに萌えまくったわけですが、、
いやはや、今回もこのお二人というわけで、
大掃除の時に、物を触るだけで仕事しないヒトは、どこにでもいるもんですw
2人の友情が、末永く続きますように・・・(何

400 名前:★惟新:2004/01/07(水) 09:34
教授様キタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
いやもう待ちに待ってましたって(;´Д`)
泣きそうになりながらドレスを脱ごうともがく法正とか
自爆して動揺したり誤解を解こうと必死になったりする簡雍とか(;´Д`)ハァハァ
んでもってそんな二人の仲をしっかり見抜いている劉備の深さにも(;´Д`)ハァハァ

そのうえXデー用に別ネタが!? これは楽しみに待つしかあるまいて!

401 名前:★玉川雄一:2004/01/07(水) 19:37
憲×孝スペシャルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
マウントポジションハァハァ……でなくて!
ええなあ…これでこそ学三ですわ。
なにげに、メインキャラだけじゃなくてモブ女生徒が出てるのもポイント。
でも、アレ例のセクスィ写真(絵板の旭絵)ですよね…
流出しちゃったらそれこそえらい事ですよ?


さあ、ここでドレス着用版法正を描く猛者はおらぬか!?

402 名前:アサハル:2004/01/07(水) 23:30
(゚Д゚)…

コソーリ(,,・∀・)つ http://fw-rise.sub.jp/tplts/dress.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/dress.jpg

403 名前:玉川雄一:2004/01/07(水) 23:54
          - - - -=二三⌒ヽ >>402
      - - - - - - -=二三 ´_ゝ`)
        - - - - -=二三_  /  すいません、全速力で通りつつその法正タンをいただきますよ…
⌒;   - - - - -=二三(__   ヽ
)⌒);   - - - -=二三ミ/  ̄彡
  )⌒), , - - -=二三〃 -=二彳

404 名前:那御:2004/01/08(木) 00:08
キタァ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
ダメダメダメダメ!討ち取られる!(廃人化)

>>403
一足・・・遅かったようですねw
ならば奪い取るまでッ!(←真性バカ)

405 名前:★惟新:2004/01/08(木) 00:49
さて…無双3諸葛亮伝のごとく、我ら求婚者たちは
コブシで語り合わねばならないようですね…(コキッコキッ

ああもうタマランですよ! らびゅーんですよ!(;´Д`)
おねだりされた玉川様もグッジョブ!
ドレスのデザインも素敵ですねぇ…
私もいつの日か愛しい人にこのようなドレスを着せたいもの…(;´Д`)

406 名前:雪月華:2004/01/12(月) 04:16
草原の小さな恋

 緑色に波打つ午後の草原を、甘ささえ含んだ梅雨明けの風が吹き抜けてゆく。
 7月初頭。午後三時過ぎ。幽州校区と并州校区の境目付近の草原は、輝くような優しい日差しに包まれていた。
 こんもりと盛り上がった丘の上に一本だけ立っている、常緑樹の生い茂った枝葉が作り出す陰に、長ラン・サラシ・高下駄・目深にかぶった破れ学帽に身を包んだ、身長2メートルオーバー・超筋肉質の大男が寝転んでいた。荒削りで精悍そうな顔つきであり、いかにも時代遅れの番長といった貫禄を漂わせている。木の傍には、かなり使い込まれた750tの単車が駐められていた。
 丘から二百メートルほど離れた場所には幾つかの水田が区切られており、并州、幽州の園芸部員数人が、合同で水質調査や雑草の駆除などを行っている。
 草を踏む音が近づいてきて、それが大男の頭上付近で止まった。大男がめんどくさそうに重いまぶたを開けると、そこには見知った顔が、大男の顔をのぞきこんでいた。
「ヒマヒマ星人、みーっけ」
「ち…オメーか、丁原」
 迷惑が五割、安堵が五割といった表情と声で、大男…烏丸高校総番である丘力居は舌打ちした。
「隣、いい?」
「勝手にしろ」
 丘力居の返事も半ばというところで、もう丁原は腰を下ろしている。丘力居も、めんどくさそうに上半身を起こし、そのまましばらく、二人は無言で水田のほうを眺めていた。
「一ヶ月ぶり…か?」
「そだね。黄巾事件の前に会ったきりだから」
 水田のほうを見やったまま、丘力居が短く問い、丁原が応じた。
 烏丸高の丘力居と蒼天学園の丁原は、もう一年ちかくの付き合いになる。少なくとも、恋人ではないと丘力居は言う。一年前、好奇心から、放課後ひとりで蒼天学園に侵入し、昼寝を楽しんでいた丘力居を発見したのが、巡察中の丁原の一隊であった。
 当然のことながら、丁原は退去を命令する。性格から言って、丘力居が応じるはずが無い。命令が反論を招き、それが口論に発展し、実力行使が用いられるまでに30秒とかからなかった。
 激闘は10分近く続き、それ以来、お互いを認め合い『強敵』と書いて『とも』と読む間柄となったのである。
 不意に丁原が、丘力居の顔を覗き込んだ。
「随分とシケた顔してるね?悩みでもあるの?」
「オメーにゃ関係ねえよ」
 そっけなく丘力居が応じたが、丁原はなおも食い下がる。
「やっぱりあるんだ。なに?なに?お姉さんに話してみ?」
「…ち、まあいいか。猫や犬に相談すんのは、もう沢山だからな。少なくともオメーは人間だし」
「なんか、シャクに触る言い方ね」
「気のせいだろ」
 相変わらず水田のほうに目をやりながら、丘力居が悩みとやらを打ち明け始めた。
「先週、そこの水田に農業指導に来てる人に一目惚れしちまってな…寝ても覚めても、あの人の顔が目に焼きついて離れねーんだ」
「…へえ。朴念仁のアンタが恋をねえ。こりゃあ聖母マリアさまの処女懐妊以来の大事件だよ、で、その人って誰?」
「名前までは知らん。その日以来、ほとんど毎日ここで張ってるんだけどな…」
「写真とかある?」
 これだ、といって、丘力居は胸ポケットから安物の定期入れを取り出した。それに収められた写真の中では、柔らかく後ろで三つ編みにされた豊かな髪を揺らしながら、クリップボードを持った長身の少女が、このあたりの風景と似たような草原をバックに微笑んでいる。
「…この写真、随分とアップで撮ったみたいだけど、どうやって撮ったの?」
「…撮ったわけじゃねえ。なんせ俺は、使い捨てカメラすら上手く扱えねえからな。ここの生徒から買ったんだよ」
「幾らで?誰から?」
「…二万だ。ヨレヨレの制服で、耿雍って名乗ってたな。3日くらい前、いきなり話し掛けてきて、いい写真があるから買わないかって…」
「…アンタ馬鹿でしょ」
「そんだけの価値はあるさ。いいか、俺はオメーみてえな、口より早く手が動くような暴力女には、憧れって奴を感じねーんだ…!」
 言い終わった瞬間、その巨体に似合わぬ敏捷さで、丘力居は飛びのいていた。コンマ一秒前まで丘力居の鼻のあった部分を、丁原の裏拳がマッハで通り過ぎている。
「いい度胸してるわねえ?かかってきなよ、純情君?」
「いわれるまでもねえっ!」
 言い終えるなり、丘力居は丁原に掴みかかっていった。

 …3秒後。

「あだだだだだだ!放せ!折れる、折れるって!」
「まいった?」
「ま、まいった!俺が悪かった!」
 実にあっさりと丁原にサブミッションをかけられ、右の肘と肩、手首を同時に極められて、丘力居は情けない悲鳴をあげた。
 一年近くの付き合いのうちに、幾度もド突きあいを演じているが、初手合わせ依頼、未だに丘力居は丁原に勝てないでいる。膂力や体格でははるかに勝っているものの、戦闘技術では遠く及んでいないのである。
「これでアタイの21連勝っと。いつになったら、アンタはアタイに勝てるようになるのかしらね?」
「…ってて。いいか、俺は、オメーがいちおう女だから手加減してやってんだからな。それを忘れんなよ」
「それがホントならいいんだけどねぇ?」
 右腕をさすりつつ、丘力居は憎まれ口を叩く丁原の傍に座りなおした。定期入れも返してもらい、そのまましばらく、二人は初夏の心地よい風に身を任せていた。
「…セッティング、したげようか?」
「あん?」
 唐突に、丁原が思いがけない事を言った。
「実はさ、その人のこと、満更知らない訳でもないのよ。で、アンタさえ良ければ…ね」
 そういう丁原は、どこと無く淋しそうな気配を漂わせていた。当然、そんなことに気付かず、考え込んでいた丘力居が、ようやく口を開いた。
「…そこまでしてもらう必要はねーよ」
「アタイが信用できないっての?」
「そうじゃねえ。あの人と俺とに間に縁ってものがありゃ、また会えるさ。そしてそん時、俺は…」
「俺は?」
「…真正面から」
「真正面から?」
 一旦言葉を切った丘力居が、うつむき、両手を握り締め、やっとのことで声を絞り出した。
「交際を申し込む」
 沈黙した二人の間を、夏の風が吹き抜けていった。しばらくして、丁原があきれたように、溜息をついた。
「でかいガタイに、ド凶悪な面構えの割には、やろうとしていることは、妙にプラトニックね。どうせなら掻っ攫ってきて、無理矢理キスとかしちゃえばいいのに」
「バ、バ、バ、バカ野郎!俺ぁ仁と愛に生きる正義の番長だぞ!あの人に対して、そんな下衆で破廉恥なマネができるわけねえだろうが!」
「冗談よ。なにをバカみたいに慌ててんのさ」
 二人の眼下では、一連の仕事を終えた園芸部員達が、撤収を始めていた。それを見た丘力居が、ひとつ伸びをすると腰を上げた。
「さて、もう帰るか。どうやらあの人は今日も来ねえみてーだからな。じゃ、またな、丁原」
「あ、待って」
 慌てて立ち上がった丁原が、丘力居を手招きした。2mを超える巨体の丘力居と、150cmあるかないかの小柄な丁原が並ぶと、まるで熊と猫が並んでいるかのように見える。
「ちょっと耳貸して」
「なんだよ」
 両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、丘力居が丁原の傍に立った瞬間、丁原の右拳が、完全に油断していた丘力居の鳩尾にめり込んでいた。
「ぐお…!?」
「なんで…なんで気付いてくれないのさ!この…」
 強烈なボディブローを食らって、丘力居は体を「く」の字に曲げ、顎がちょうどいい位置まで下がった。丁原が右拳を、再び後ろに引いた。その両目に涙がたまっているのが、暗くなりかけた丘力居の視界に入った。
「鈍感やろ──────っ!」
 地面を擦るように繰り出された、力石式アッパーカットが、爽快な音を立てて、丘力居の顎に炸裂した。
 ……
 …
 
 午後6時。既に草原は茜色に染まっている。心なしか、吹き渡る風も冷たさをはらみ始めているようだった。
 丘の麓で大の字になってのびていた丘力居が、ようやく目を醒ました。あたりに人影は既に無く、強烈な打撃を受けた顎と鳩尾がずきずき痛むだけであった。
「ってぇ…あの野郎…しっかりヒネリまで加えやがって…」
 顎をさすりながら上半身を起こした時、かさり、と音を立てて、胸の上に置かれていた封筒と、重石として乗せられていた小石が滑り落ちた。どこにでも売っている無地の封筒で、中に紙のようなものが入っているようだった。少々躊躇った後、丘力居は封筒から手紙を取り出した。鞄の上で書いたらしく、ミミズが這ったように字が乱れている。

『丘力きょへ
 たん刀ちょく入にいえば、アタイはあしたから、らくようとうへ、てん校します
 (えいてんだって!ワーイ\(^O^)/。でも、えいてんってどういういみ?(゜_。)? )
 今年ど中には、もう会えないと思いますが、お元気で
                                    丁原』

 読み終わった丘力居の顔に、ほろ苦い微笑が浮かんだ。
「…ち、あの野郎。最後ってんならもうちょっと素直になりゃあいいものを…、ま、ああやって意地を張り合うのが、あいつの持ち味だったんだけどな……ん?続きがあるな」

『ついしん
 アンタの思い人は劉虞さんといって、ゆう州校区総代として、けい棟に通っています。
 おとなしいおじょうさまだから、いじめちゃだめだよ。せいぜいお幸せにね(^o^)/~~~~~』

「劉虞さん…か。そこはかとなく、まろやかさを感じる名前だぜ…サンキュな、丁原」
 丘力居は手紙を封筒に戻すと、上着の内ポケットに大事に仕舞いこんだ。そして丁原がいるであろう、南のほうに向きなおり、学帽のつばを指で弾いた。
「…劉虞さんとは、意地でも幸せになってやるさ。じゃあ、あばよ丁原。オメーは俺の最高の…ダチ公だったぜ」
 そう呟くと、丘力居は丘の上に停めてある単車に向かって歩き出した。
 ひとつの恋が、おたがいの綺麗な思い出となって終わり、もうひとつの恋がこの草原で始まろうとしていた。
 茜色に波打つ夕暮れの草原を、甘ささえ含んだ梅雨明けの風が吹き抜けていった。

 −完−
 
 …その夜、中央女子寮705号室の、皇甫嵩&朱儁の部屋では、酒盛りが始まっていた…
皇「それでは!建陽の洛陽棟着任を祝って…乾杯!」
朱「かんぱーい!」
盧「乾杯」
丁「……かんぱい…クスン」
皇「そうそう、建陽。失恋おめでとう!いや、めでたい!」
朱「なんだかよくわかんないけど、おめでとう」
盧「おめでとう、建ちゃん」
丁「うわーん!しーちゃんまでひどいー!みんな嫌いだーっ!!」
 翌日、三日酔いの丁原は、洛陽棟への転棟初日に3時間の遅刻をしてしまったらしい。

407 名前:雪月華:2004/01/12(月) 04:30
リハビリ代わりに、呂布がらみ以外では今ひとつ目立っていない、丁原ちゃんのストーリーを書いてみました。
学園正史、項翔様の「秋風は遠く」から、丘力居君を友情出演させています。無断借用スマソ。
張純と組んだ丘力居が、青、幽、冀、徐州を荒らしまわったという記述があり、
ハテ、并州は?と思ったところから思いついたストーリーでして…
丁原スレに投下しようと思ったのですが、少々長いのでやはりこちらに。

さて、今回の作品は旭祭のレギュレーション「一月十八日限定シチュ」には外れてますが…
実はもう一本、長湖さんがらみのストーリーを構想しています。
そっちはレギュレーションに合わせるつもりです。構築次第では19日あたりに投下できるやもしれません。

>ドレス法正
>>402→◆⊂( ゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡≡≡ ズザー
ゲット!

408 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/12(月) 17:02
>>397
(;´Д`)ハァハァ…! 法正たんも女の子ってことか!
やはり衣装合わせは基本ですかにゃ!可愛いっ!
そして珍しく動揺する簡雍たん(;´Д`) 何だかんだいって彼女も可愛いところ
あるじゃないか…。

>>43>>407

  _           __  __           〉    待
  l  l  ロロ     l l l l          〈    て
  l  \         l__l l__l /7        〉   い
  |  |\l  l`ヽー―/ \ / /       〈
  l_l    l        /_/         ∨∨∨∨
        l           \        
       l            \      
        l                  \    
       人 <●> <●>  /\ \ 
      / /ヽ、  、_---_,     /l  \ ヽ        /
     / /   \_ `ー' _/ l    l  l       /
    / /       ̄`ー'ヽi \l    し'      ,-^
    し'                     _-‐' ̄
ー―、____          _,-―――'
          `ー――' ̄ ̄ ̄

>>402は、お前たちには早すぎる!一時私が預かろう!

>>406
雪月華さまグッジョブ!
丁原たんの、何とも無骨でほほえましい恋愛未満物語…
サリゲに簡雍たん出てる(^_^;)
楼班の兄貴・丘力居と、その舎弟のトウ頓のトリオ、コイツらなかなか面白い
キャラですし…。いずれきちんと舞台を与えてあげたいですねえ…。
っていうか演義の一話で出すか出さないか…
そして来るべき旭祭に向けて期待をさせていただく。

409 名前:★玉川雄一:2004/01/12(月) 17:33
くっ… この勝負、やはりコブシでつけねばなるまい!
ジャンケンのことだが。


               -― ̄ ̄ ` ―--  _          
          , ´  ......... . .   ,   ~  ̄" ー _
        _/...........::::::::::::::::: : : :/ ,r:::::::::::.:::::::::.:: :::.........` 、
       , ´ : ::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::::: : ,ヘ ::::::::::::::::::::::: : ヽ
    ,/:::;;;;;;;| : ::::::::::::::::::::::::::::::/ /::::::::::::::::::: ● ::::::::::::::::: : : :,/ ←敗れ去った>>408
   と,-‐ ´ ̄: ::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::r(:::::::::`'::::::::::::::::::::::く
  (´__  : : :;;:::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::`(::::::::: ,ヘ:::::::::::::::::::::: ヽ
       ̄ ̄`ヾ_::::::::::::::::::::::し ::::::::::::::::::::::: : ●::::::::::::::::::::::: : : :_>
          ,_  \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: `' __:::::::::-‐ ´
        (__  ̄~" __ , --‐一~ ̄ ̄ ̄


>>406
丁原のメールがソレっぽくてカワイイ!
耿雍(旧姓)も昔ッから手広くやってたもんですねえ。でも地元の方なのか。
丁原と丘力居、互いにキャラは異なるけど
どちらも素直になれないもどかしさが堪らんですたい。

410 名前:7th:2004/01/12(月) 18:42
>教授様
教授様の書かれる簡雍と法正はやっぱ良いですわ。
そういえば祭りの発端のSSを書かれたのも教授様でしたしね。

ぬう、>>402が欲しくば儂を倒してから征けぃ!(速攻でやられそうだが)

>雪月華様
確かにあの4人の中で一番男と接触する機会があるのは丁原ですよね。
殴り合いから生まれる恋心…丁原らしいですね。
あと簡雍、アンタはそんなトコにまで進出しとったんかい!

記念日のSS書いてて大ポカ発見しました。
『旭記念日』のSSじゃねぇ!…どーしましょう?

411 名前:那御:2004/01/12(月) 21:41
>>406
雪月華様グッジョブです!
併州校区で繰り広げられる、素朴過ぎる恋物語。
本心を言わずしての別れ・・・切ないですね、丁原。。

412 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:50
よし!こっちでも祭りだ!
いくぞ!!

413 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:52
「か〜ん〜よ〜う〜、あんたもうちょっとシャキッとしなさいよ!」
「………何で?」
だらしなくテーブルに突っ伏していた簡雍に法正が抗議の声をあげる。
髪はくしゃくしゃになり、服はヨレヨレ。おまけにテーブルの周りには酒瓶が何本か転がっている。
「んも〜、よく見れば素は悪くないんだからもっとこう……」
「へいへい…」
法正が説教をたれ、簡雍が生返事をする。彼女たちにとってはごくありふれた光景である。
「う〜ん、そうよね。素は悪くない、そうなのよ、うん。」
「もしも〜し」
何やら自分の発言に思うところを見つけた法正。既にインナーワールドへとトリップし始めている。
「そうよ、もっとしっかり着飾らせればいい感じになるわね」
「…孝直?」
「先ずはその安っぽい髪留めを外して、そんでもって服を………」
「…いや〜な予感が…」
本能的に身の危険を感じてその場を逃げ出そうとする簡雍。誰だって自分の身は可愛い。
「んじゃ、あっしはこれで」
「ま・ち・な・さ・い」
こそこそと逃げ出す簡雍の襟首をぐわしっ、と掴む法正。その目は獲物を狙う猛獣の目をしていた。
猫を持つように簡雍をひっ掴んで自分の前に座らせると、法正はおもむろに口を開いた。
「というわけでここに『第一次簡雍改造計画』の開始を宣言します!」


 〜〜簡雍改造計画〜〜


何が「というわけ」なのか。しかも改造計画!?本人の意思は関係ありませんか。…ありません?そうですか。そうですか。
……冗談ではない。
何でそんな事されないといけないんだ。他人のオモチャになるのは御免被る。
日頃の自分の行いを棚に上げて、かなり身勝手な事を考える簡雍。そんな懊悩はお構いなしに法正は携帯電話に手をかけた。
「みんなにも知らせておかないと。楽しいことは大勢でしろ、ってね」
法正がボタンをプッシュし始めたその瞬間、信じられないような瞬発力で、まさに脱兎の如く簡雍は逃げ出した。法正がそれに気付くより速くドアを通り抜け、愛用のキックボードに乗り、疾風の如く去って行く簡雍。
「ふ…ふっふっふ……イイ度胸してるじゃない」
不適な笑みを浮かべ、今し方かけようとした番号とは違う番号をプッシュする法正。数回の呼び出し音の後、電話は取られた。
「もしもし、部長ですか?法正です。大至急、手の空いてる人全員に召集をかけて下さい!」
「何や、随分と唐突やな。何やらかす気や?」
「大捕物です。詳しくは後で説明しましょう」
かくて前代未聞、帰宅部連合全てを巻き込んだ大捕物の幕が切って落とされた…。



かんかん照りの太陽の下、簡雍は独り道を歩いていた。
どうせ何時もの法正の気まぐれだ。ほとぼりが冷めるまでぶらぶらしていよう。
…それにしても暑い。既に外気は35℃を越えている。何処か涼める所はないだろうか、そう思い辺りを見渡す。…ふと目に付いた喫茶店。丁度良かった。思い立ったが早いか、手で押していたキックボードを店の前に停めて、簡雍は喫茶店のドアを開けた。

カランカラン、とドアに付いたベルが鳴る。と同時に店内の空気がひんやりと肌をなでる。
簡雍はカウンターでアイスコーヒーを注文した後で、クーラーの風が最もよくあたるポジションを確保して座った。
そして改めて店内を見渡す。しっとりと落ち着いた店内に、ゆったりと優雅なクラシック音楽が流れている。そして照明は目に悪くない程度に薄暗く、気分を落ち着かせてくれる。
良い店だった。学園都市という性質上、喫茶店、またはそれに類する店が多数存在するこの中華市において、簡雍が知る限りでも五指に入るであろう。
注文したアイスコーヒーが簡雍の前に運ばれてくる。それにストローをさし、口を付けようとして――――硬直した。
一瞬前まで只の客だった少女達が揃って簡雍を囲み、彼女に銃口を向けていた。
「簡雍さん、ですね?」
その内の一人が簡雍に問う。その全身から放たれる、殺気にも似た圧迫感。下手に答えようものなら即座に撃たれかねない。そう判断し、簡雍は素直に肯いた。
「説明を要するわね。いったい何事?」
「部長命令です。詳しくは後で法正さんに聞いて下さい」
法正、その一言で理解した。
つまり、意地でも着せ替えをさせたい、そういうことか。
…それだけでこんな大事にするか普通?しかも部長命令。劉備がからんでいるということは、捕まったら間違いなくさらし者だ。意地でも捕まるわけにはいかない。
席を立とうとする簡雍。それに合わせて上へあげられる銃口。
簡雍が立ちきったと思ったその瞬間、その姿がまるで手品のようにかき消える。
椅子から滑り落ちるように足下へと転がった簡雍は、そのまま転がり出るように店を出る。
「お客さん、勘定」
「帰宅部の法正にツケといて!」
「了解した」
こともなげに他人のツケにしていく簡雍。それにあっさりと答えるマスター。……いいのかそれで。
後ろから数人が走って追いかけてくるが、キックボードに追いつけるはずもない。ぐんぐんと距離は離れてゆく。
「くそっ、逃がすな!」
叫びはすれども足は動かず。追跡を諦めようとした彼女たちの後ろから、不意に声がかけられる。
「苦戦しているようね。まぁ見てなさい」
その声の主はクラウチングスタートの姿勢をとると、一気に駆けだした。



「待ちなさーい!」
簡雍の後方よりかけられる声。ありえない、さっきの連中は振りきったはずだ。大体、そこらの一般生徒が本気を出した簡雍のキックボードに走って追いつけるはずがない。
「待ちなさいってば!!」
声は遠ざかるどころかさらに近づいてくる。いったい何者か!?と訝しんだ簡雍は後ろを振り向いた。
「あーもう、待ちなさいって言ってるでしょう!!」
赤い髪に虎の髪留め。そして陸上部のジャージ。
「ばっ、馬超!?」
帰宅部連合、いや学園きってのスプリンター、馬超が鬼のような形相で簡雍を追いかけていた。
あわてて地面を蹴る力を強める簡雍。それによりキックボードはスピードアップするも、馬超との距離は依然として離れない。むしろ逆に縮まっている。
馬超はタイミングを見計らうや、一気に簡雍の横に躍り出た。かつて曹操を追いつめた健脚は、帰宅部入りを果たした今なお健在である。
「さーて、もう逃げられないわよ。大人しく捕まりなさい」
「くっ…さすが馬超ね。『錦』の二つ名は伊達じゃない…か。だけど!」
前輪を浮かせ、後輪のみで急ターンする簡雍。その向かう先は階段。
「こんな所で捕まってたまるかー!!」
キックボードのノーズを持ち上げ、階段の手摺りに引っかける。そして90°回転。ボードの腹を手摺りに乗せてそのまま滑りおりていく。金属の擦れ合う音と火花を撒き散らしながら最下段に到達するや、そのままの勢いでジャンプ!空中で両足をキックボードの上に乗せ、そのまま着地し、何事もなかったかのように走り去っていく簡雍。
「あーっ!それインチキよー!!」
階段の上で馬超が何か叫んでいるが簡雍には聞こえていない。追われる者は常に余裕がないのだ。



「待ちなさい。ここから先へは行かせません」
「んげっ、姐さん方」
曲がり角を曲がった簡雍の前に立ちはだかったのは黄忠と厳顔。両人とも胴着に黒袴、そして弓を携えての出で立ち。明らかに本気である。
「てか何で姐さん達まで出て来るんですか!?」
「それは……」
「……ねぇ」
顔を見合わせる黄忠と厳顔。
『一度見てみたいからに決まってるでしょう!』
…一番聞きたくなかった答えだった。しかも二人してハモって言わなくても…。
「一つ言わせて貰って良いですか?」
「ん?なにかしら。最期の一言くらいは聞いてあげるわよ」
「…いいトシしてそういう趣味はどうかなー、と」
………プチーン。
何かが切れた音。実際にはそんな音はしていないのだが、簡雍は確かに聞いた。
『ふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ』
黄忠と厳願は笑っている。否、嗤っている。
その表情はまさに悪鬼羅刹の如く。額には血管が浮き、頭からは角が生え、躯からは陽炎のように謎のオーラが立ち上っている……ように簡雍には見えている。
「どうやら」
「お仕置きが必要のようね」
予備動作無しで弓を引き、マシンガンの如く次々と矢を射掛けてくる二人。
鏃の部分をゴムに替えてあるとはいえ、当たればシャレにならないほど痛い。ましてやこの二人の弓はかなり強い。その威力、推して知るべし。
「ち、ちょっとタンマ!待った!ストーップ!!」
文字通りの矢の雨を潜り抜け、簡雍は一目散に逃げ出した。



人を斬る風だった。
とっさに飛び退った簡雍の目の前を、風を切る音と共に白刃が通過する。はらり、と前髪が数ミリ、頬を伝って落ちた。
「ち、趙雲……真剣は反則……」
「何を今更」
随分と物騒なことを趙雲はあっさりと言ってのける。
「銃刀法などこの学園では無意味でしょう?」
「イヤそれ絶対違うから」
誓って言うが、この学園内が治外法権などということは絶対にない。……多分。
「大体何でアンタまでっ!(割と)良識派だと思っていたのにっ!」
「だって…アトさんが見たいって言うから」
……あきれたを通り越してもう馬鹿馬鹿しいの領域である。そんな理由で命狙われるなんてたまったモンじゃない。
「趙雲、アンタもっと行動に主体性を持った方がイイよ」
「そう…ですか?」
「アトちゃんが可愛いのは解るけどさ、それだけじゃなくてもっと自分のことを考えてみたらどう?」
「でも、そしたらアトさんが」
「アンタが何でもしてたらアトちゃんは成長しないよ?それにアンタだって何時かは卒業する。何時だってアトちゃんの側に居られる訳じゃないんだからさ」
「そう……ですよね」
「アンタはもっと自己中心的になってもいいの。きっとその方がアンタのためになるよ。これ、先輩からの忠告。覚えときなさい」
「はい、ありがとうございました」
深々とお辞儀をして去っていく趙雲。彼女が見えなくなった後、簡雍は大きく安堵のため息をついた。
「いやー、まさかアレで何とかなるとはね」
当然、先ほどの言葉は口から出任せである。
「うん、なかなか真に迫った演技だったかも。アカデミー賞ものだね」
命がけでやれば何とかなる、ということの好例だろうか。尤もこの場合、比喩表現ではなくホントに命がかかっていたのだが。
「さて、このまま逃げているのも疲れるし…どっかに隠れようかな」
脳内の簡雍データベースから当該箇所を見つけると、そこに向かって簡雍はキックボードを走らせはじめた。

414 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:53
荊州校区と益州校区のちょうど境界に一つの建物が建っている。
「いや〜助かったよタマちゃん」
「いえ、大したことはありませんよ」
簡雍の言葉に、タマちゃんと呼ばれた少女が返事する。
彼女の名は劉璋、あだ名は季玉。故に簡雍はタマちゃんと呼んでいる。前益州校区総代であった彼女は、総代の座を劉備に譲り渡してから、この建物でまったりしていることが多い。ご多分に漏れず、この日も彼女はここにいた。
「大変だったようですね。…お茶でも淹れましょうか?」
「あ、いいねぇ。お願い」
喫茶店でコーヒーを飲みそびれたことを思い出し、簡雍は肯いた。
お茶を淹れに席を立つ劉璋。それを見送る簡雍。
ふと窓の外を見つめる。その目が捉えたのは違和感。
良く目を凝らして物陰を見遣る。そこにあったのはかすかな人の影。
気付かれたか?いや、それにしては早過ぎる。
5分ほどそうしていただろうか。そちらへ向けていた意識を、劉璋の声によって引き戻された。
「お茶がはいりましたよ〜」
劉璋がお盆の上にのせたお茶を持ってくる。よく冷えた麦茶だった。
やはりおかしい。差し出された麦茶を前に簡雍は考える。
冷えた麦茶。冷蔵庫から出してコップに注ぐだけの手順の筈が、何故こんなにも時間がかかる?
そして向かいに座った劉璋の態度が、かすかだがそわそわと落ち着き無い。
もう一度、窓の外を見遣る。巧妙に隠れてはいるが、明らかに人の数が増えている。
…つまり、結論は一つ。
「タマちゃん、アタシを売ったね?」
じっと劉璋を見据える簡雍。
「…何のことです?」
あくまで平静を装う劉璋。だがその目が泳いでいるのを簡雍は見逃さない。
「…ならアタシの前のこの麦茶、飲んでみせて」
「……っ!それは…」
思った通りだ。多分その麦茶の中には睡眠薬か何かが入れられているのだろう。
「ごめんなさい……私…」
俯いたまま泣き出しそうな声で謝る劉璋。
「ん、いいよ別に。タマちゃんが悪いんじゃないし」
彼女にそんな悪知恵があるとは思えない。きっと誰か……諸葛亮あたりに入れ知恵されたに違いない。
さて、また逃げないと。幸い、まだこの建物の周りの追っ手は少人数だ。何とか撒くことも出来るだろう。
簡雍はそう判断し、ドアを開けた。
『うえるか〜む!』
ドアを開けた先に待ちうけていたのは追跡者の皆さん。開けた早さに倍する速度でドアを閉め、鍵をかける簡雍。
「謀ったね!タマちゃん!!」
一連の劉璋の行動は全て時間稼ぎ。ここの包囲がまだ完成していないと錯覚させつつ、わざとダミーの計略を看破させ、着々と包囲を進めていたのだ。
今更気が付くも既に遅し。出口は既に固められている。
簡雍は部屋の中に入れてあったキックボードをひっ掴むと、窓の方へ向かって走る。
「か、簡雍さん、ここ二階…」
「てりゃっ!」
劉璋が止めるより先に、簡雍は窓から飛び出した。
着地。そして尻もち。落ちた先は幸運にも花壇の中だった。
「…へっへ〜、日頃の行いが良かったせいかな」
軟らかい土にショックは吸収されたせいか、服は汚れたものの、体はほとんど無傷である。
頭上から心配そうに見下ろす劉璋に親指を立てて無事をアピールすると、簡雍は少々痛む体を引きずって逃走を再開した。



「ふんふふふ〜ん♪」
鼻歌混じりに何やらごそごそと物をあさる簡雍。
あまたの監視の目をくぐり抜け、やってきたのは寮の一室…というか簡雍と法正の部屋である。灯台もと暗しとはまさにこの事か。
ポーチにフィルムその他を詰め、カメラのコンディションを確認する。
「よし、完璧」
簡雍、完全装備完了。本気の相手…タイガーファイブ級を相手取るにはこのくらいしないと、逃げ切るのも容易ではない。
「さーて、また逃げるかね」
「そうはいかないわよっ!!」
簡雍の言葉を遮る雄叫び。一瞬の後、大きな音を立てて開けれる鉄製のドア。
「…もうもうと土埃の立つ中、逆光を背負って現れたるは『漢・魏延』!」
「そこ!地の文にかこつけて口に出さない!てか絶対わざとでしょ、それ!!」
竹刀をづびしぃ!!と突きつける魏延。どうでもいいがアンタ乙女志望はどうなった?
…そんなことはどうでもいいとばかりに簡雍から目と竹刀を逸らさず、後ろのドアを蹴り閉める魏延。これで退路は窓だけとなった。
「どうする?また飛び降りてみる?尤も、ここは四階だけど」
張飛あたりならともかく、簡雍にそれは無理だ。例え無事飛び降りたとしても、下に待ちかまえているであろう連中に捕まって終わり、のはずだ。
だが簡雍に動揺はない。にいっと口の端をゆがめて、勝ち誇ったように宣言する。
「甘い」
そう言っておもむろに天井からのびたロープを引っ張る。刹那、ブラインドが下り、さらに暗幕がかかる。部屋の明かりはついていない。すなわち、真っ暗闇。
写真の現像のために、部屋を暗室にするギミックを簡雍は施していた。…まさかこんな用途で使うことになるとは思っていなかったが。
勝手知ったる自分の部屋。ベッドの位置、冷蔵庫の位置、果ては法正の持ってるぬいぐるみの位置までつぶさに記憶している。簡雍にとっては、この暗闇の中でドアまで辿り着くことなど朝飯前だ。
だが魏延は違う。暗闇に慣れぬ目を凝らし、簡雍を見つけようとするも何も見えず。駄目か、と諦めかけたそのとき、目に飛び込んでくるかすかな赤い光。
光の正体はカメラの発光ダイオード。その光の動きで簡雍の位置は手に取るように解る。
竹刀をひと振りして足下に障害がないか確認。足下の安全を確信した魏延は、一足飛びに間合いを詰める。そして竹刀を振り下ろそうとしたその瞬間――――視界が真っ白に染まった。
必殺簡雍フラッシュ。部屋が暗かった事もあって威力は倍増だ。あまりの眩しさにもんどりうって転げ回る魏延。
「あ、散らかしたのは片付けといてね」
そう魏延に告げて悠々と外へ逃げる簡雍。その言葉が魏延に聞こえているかは怪しいが。

さて、どうしたものか。このまま逃げ続けても、いずれ捕まるのは目に見えている。
ならどうするか。臭い物は元から絶つべし。ということで、この騒動の元凶である法正をとっちめて、例の言葉を撤回させれば良い。
結論は出た。ならば後は実行するのみ。
「ふっ、法正。首を洗って待ってなさいよー!」



「魏延の突入、失敗しました」
「呉班のD班、目標をロスト。現在、呉懿のB班・雷銅のF班が周辺を捜索中」
次々に持ち込まれる報告に、劉備はやれやれと嘆息した。
「無理やろな。連中ごときに見つかる程、憲和は甘ないわ」
「ほう、どういうことですかな?」
傍らに立った諸葛亮が問う。
「実戦経験の差やな。考えても見ぃ、憲和は黄巾騒動の時からウチらと一緒だったんやで?踏んだ修羅場の数なら馬超や漢升はん、子龍でさえ及ばんやろな。まして新入りの魏延や争いの少なかった益州の連中ならなおさらやな」
学園一のトラブルメーカー、劉備新聞部の初期メンバーにしてカメラマン簡雍。その役目柄、危険にさらされたことは数知れずある。しかし、彼女はトばされてはいない。
その逃げ足の早さを以て知られる劉備だが、彼女すら逃げ足という一点においては簡雍に一歩の遅れをとると思われる。
「言い出しっぺはどした?」
「法正殿なら何人か連れて外に行きましたが、何か?」
「…ま、あっちはあっちで何か企んどるんやろ」
こと戦略・戦術においては諸葛亮すらしのぐ才を持つ彼女だ。何か罠を仕掛けていることだろう。
「張飛より入電!『我、目標を発見。追いつき次第交戦を開始する』以上です!」
「益徳か!?そら拙いわ。ウチも後詰めに出る!…ちゅーことやから孔明、後頼むわ」
「お任せ下さい」
慇懃に礼をする孔明の姿を目の端に留め、劉備はその身を戦場へと赴かせた。



ばんっ!!
聞こえてきたのは炸裂音。それが聞こえた方へ劉備は走る。
校舎の角を曲がった劉備が目にしたものは、目を回してぶっ倒れている張飛と、その傍らに立つ簡雍の姿。
張飛のことだ。多分、飛びかかっていった瞬間、簡雍に返り討ちにあったと思われる。
「言わんこっちゃ無い…」
先程の音、あれはおそらくスタングレネードを使用した音。至近距離で炸裂したならば、その音と閃光によって一発で戦闘不能に陥るシロモノだ。
「丁度良かったわ。玄徳、法正は何処?」
「知らんな。それよりも憲和、そろそろお縄についた方がええんちゃうか?」
「話す気はない……ようね」
「そっちも捕まる気はないようやな」
どこからともなくハリセンを取り出し、慎重に間合いを計る劉備。
右手にカメラを、左手にスタングレネードを構える簡雍。
凍り付く気配。流れる一触即発の空気。
先に動いたのは簡雍。左手のスタングレネードを劉備に向けて投げる。
「甘いわっ!!」
気合い一閃、弾かれたグレネードは2秒後、劉備の頭上で爆発した。
ハリセンをヒュンヒュンとガン=カタばりに回し、簡雍に近づく劉備。
「さーて、そろそろ年貢の納め時やで?大人しく捕まってゴスロリを着ぃ」
「ごっ、ゴスロリぃ!?待て待てまてマテ、なにゆえゴスロリか」
「決まっとるやん。そっちの方がおもろいからや」
きっぱりはっきり断言する劉備。それを聞いて、簡雍はげんなりした。
この部はアホばっかりか?そう考えざるを得なかった夏の日だった。
「ほれほれ、考え事しとる場合やないで!」
目の前に迫る劉備の顔。そしてハリセン。紙一重でそれを避けるも、続いて二撃、三撃目が飛んでくる。いつしか背後には壁。完全に追いつめられていた。
「今大人しく捕まったら手荒なことはせんが、どや?」
完全に劣勢のこの状況。選択肢は降伏か死かと思われるこの状況下で、あろう事か簡雍は唇の端をゆがめて嗤った。
「断る」
そう言って左手に持った物体を地面に投げつける簡雍。地面にたたきつけられたそれは、凄い勢いで煙幕を吹き出した。
煙に紛れて劉備の横をすり抜ける簡雍。だがそれに気付いた劉備はしつこく簡雍を追う。
不意に、劉備の鼻先に投げつけられたボール。それは破裂すると、辺りにコショウをまき散らした。
「ぶえーくしっ、がん゛よ゛〜!ぶえっくしゅん!」
…涙と鼻水まみれになった劉備は、簡雍の追跡を諦めた。張飛はまだ目を回している…と言うか既にそれは失神から睡眠へとシフトしていた。
世界は平和である。そう思った夏の日の午後だった。

415 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:55
世界は平和だろうが、今の簡雍は平和とはほど遠い所に居た。
一人対数百人。かつて如何なる者も経験していないであろう戦争。タイトルを付けるならば、
まさに『真・三国無双』……シャレにならない。
そしてここに、またしても簡雍の前に立ちはだかる影が三つ。
「さぁ簡雍!!」中央に立つ、『壱』と書かれた赤色の覆面をかぶった少女が絶叫する。
「いい加減に!!」向かって左、青い覆面に『弐』と書かれている少女がそれに続け叫ぶ。
「捕まって下さいね」と、向かって右の黄色い覆面の少女がおっとりと言った。予想通り、覆面には『参』と書かれている。
「○陽戦隊サ○バルカン!?」
「違う!我々は『内政戦隊ショッカン4(−1)』!!」
簡雍のツッコミは、予想を遙かに超えたエキセントリックな答えで返された。
ホントにこの部はアホばっかりか。そう深刻に考えざるを得なかった夏の日だった。
「えーと、取り敢えず左から伊籍、孫乾、糜竺?」
「違う!左からショッカンブルー、ショッカンレッド、ショッカンイエローだ!!」
「……なんだそりゃ」
何か色々とはっちゃけすぎの三人。あきれ果てる簡雍。
ちなみに簡雍が三人を見分けたのは胸の大きさだ。孫乾<糜竺<伊籍である。
「なんかアホくさくなってきたわ。ってことであんたらスルーね」
「こら!逃げるな!」
逃げるなと言われて立ち止まる簡雍ではない。キックボードに乗って、すたこらと去っていく簡雍。
「こうなったら…ショッカンビークル!!」
そう叫ぶや、ごそごそと植え込みをあさる三人。そして取り出される、一台の買い物自転車。
それにさっそうと飛び乗る三人。自転車の三人乗りは違反です。
「待てーい!!」
叫ぶ孫乾…もといショッカンレッド。ただ乗っているだけのイエロー。そして鬼のようにペダルをこぐブルー。いせ…ブルーの中の人も大変…と言うか死にそうだ。哀れなり。
当然、三人乗りの自転車なんぞで簡雍に追いつける筈もない。見る見る距離は離れていく。
「はー、大変だねぇ…」
後ろを振り返り、のんきにのたまう簡雍。しかし次に前を振り向いたとき、その目は驚愕に見開かれた。
前から迫り来る人、人、人。ついに捜査本部は人海戦術に訴えることにしたようだ。
後ろを仰ぎ見れば必死こいて追いすがる伊籍、孫乾、糜竺。…必死なのは伊籍だけだが。
進退窮まったか、そう思って周りを見回した簡雍は細い路地を見つけた。そこに一筋の光明を見出した簡雍はすぐさまそこに駆け入った。

そこまでだった。
急に足を取られ、キックボードごと転倒する簡雍。
「あたた…って何よコレ!」
地面にぎっしり敷き詰められた粘着シート。引き剥がそうとするも、よけいに絡まってしまう。
「かかったわよ!やっちゃて!」
頭上より降ってくる法正の声、そして投網。

捜査開始より3時間57分。  簡雍、捕縛。




白いワンピース、手編みのサンダル、麦藁帽子。
白いテーブル、白い椅子、木漏れ日の影。
さらりと流れる髪、銀縁の眼鏡、手に持った詩集。
どこからどう見ても、生粋の文学少女にしか見えないのだ。あの簡雍が。
「おお〜〜〜〜〜」
ギャラリーからあがる、感嘆のため息。
はっきり言って想像以上だった。
「いや〜見違えたわ」
簡雍をひん剥いて着替えさせた劉備が言った。ちなみに彼女の提唱したゴスロリは多数決により僅差で却下されている。
「グレイトですぞ簡雍殿。どうです、そのまま眼鏡を着用しては?」
と諸葛亮。簡雍が眼鏡をかけているのは、勿論彼女の提案によるものだ。
「うぅ、持って帰りたい…」
「テイクアウトはオッケー!?」
「はうー、何かソッチの道に目覚めそう」
等々、なにやら怪しい声が飛び交う中、簡雍は面白くなさそうに、テーブルに置かれたグラスの氷をストローで突っつく。

不意に、風が吹いた。
麦藁帽子が舞い、簡雍は為す術もなくそれを見送った。それはさながら一枚の絵のようで。
「をををっ!!記録班、今の撮った!?」
「ばっちりです!カメラ、ビデオ共に撮りました!」
「グッジョブ!後でみんなで見るわよ!」
親指をびしっと立てて、法正が言った。
「いやー、それにしても予想以上ね。みんなで追っかけた甲斐があったわ」
「……追っかけられた方はたまったモンじゃないんだけど」
「まぁまぁむくれない。憲和だって乗り気だったでしょ。自分でこんな飲み物まで用意して。で、これ何?アイスティー?あ、レモン入っているからアイスレモンティーかしら?」
「あぁ、それ?ロング・アイランド・アイスティー」

『……って酒かよっ!!!』

簡雍を除く全員の声が、夏空にこだました。





※補足
ロング・アイランド・アイスティー

ドライ・ジン………15ml
ウォッカ………15ml
ホワイト・ラム………15ml
テキーラ………15ml
ホワイト・キュラソー………15ml
レモン・ジュース………30ml
コーラ………40ml
レモン・スライス………1枚

クラッシュド・アイスを詰めたゴブレットに、
上記の順で注ぎ、ステアする。
レモン・スライスを飾り、ストローを添える。

茶なんぞ一滴も入っておりません。

416 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 21:01
以上です。
元は「蒼天乙女の春夏秋冬」として短編連作を予定していましたが、悪ノリしすぎてこんな形に。
何か性格が違うキャラが居るかもしれませんが、そのへんは大目に見て下さい。

417 名前:那御:2004/01/18(日) 21:24
おおおおおおお!7th様グッジョブ!
こっちとしても早く見たくてたまらない簡雍の姿、
それをあざ笑うかのような、簡雍の逃避行w!

(何故かw)猛烈にドキドキしましたぞw

418 名前:アサハル:2004/01/18(日) 22:06
取り急ぎっ!!
(ノ゚Д゚)ノ −=≡ http://fw-rise.sub.jp/tplts/after.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/after.jpg

419 名前:那御:2004/01/18(日) 22:24
アサハル様グッジョブ!!
え〜、テイクアウトはオッケー!?

420 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/19(月) 00:32

>7thさま
うまい! 
素直に感心しましたわ!ノリといい掛け合いのテンポといい!
何よりもキャラのチョイスとシチュが(;´Д`)ハァハァ…!
したたか度では学三中最強の簡雍たんに次々撃ち払われてゆく、帰宅部連合の面々…
体力だけではなく口先で切り抜ける機転! なんかより簡雍たん好きになりましたわ。

それにしても…胸で識別される内政戦隊にワロタ。伊籍たんのナニゲな設定まで活かすとは
お見事!

>アサハル様

Σ( ̄□ ̄;)!! か…簡雍――ッ!?

>>419
ならぬ!>>418はワタクシがテイクアウト予約済み!

421 名前:★玉川雄一:2004/01/19(月) 01:00
ナニゲに簡雍って、
今までの総作品中で登場回数トップなんじゃないだろうか(^_^;)

いやはや、帰宅部連合のほぼフルメンバーが余すところなく活躍(?)しておりますね。
智恵と舌先三寸を駆使してハリウッド映画ばりの逃走劇…
つうかアレですか、簡雍は内政戦隊のグリーンかピンク?
これはまた、次回作が非常に楽しみでありますことよ。
帰宅部連合以外でもぜひ!

>>419-420
ええい、散れィ!(丿`▽)丿━━━━*
奪ったモン勝ちじゃあ! (゚∀゚)ノ>>418

422 名前:★惟新:2004/01/19(月) 01:18
つ、ついに法正タンの真骨頂が! 恩も恨みも十倍返しが! (;´Д`)ハァハァ…
それにしても簡雍恐るべしっ! その生命力はもはや学園最強?
そして! 結末が! 簡雍…(;´Д`)ハァハァ…

始終大笑いさせていただきましたが、中でも『内政戦隊』が無茶苦茶好き!
もうこの人たちで他にもイロイロ読みたいほど(^_^;)
時折見せる小ネタの数々もしっかりツボを抑えていてグッド!
それでいて迫力のアクション! 実に読み応えのある作品でありましたよー!
いやーこれからもよろしくお頼み申し上げます、7th様!

>アサハル様
ナント━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
しかもメガネッめがねッ眼鏡えッ!!!
なんと可憐な…これがあの簡雍とは…
私にその眼鏡の曇りを拭かせてくださいませー(;´Д`)

むむ! 諸氏には悪いが私も譲りませんぞッ!
;y=( ;゚д゚)д゚)д゚)
先祖伝来のこの種子島、そう易々とやらせはせぬっ!

423 名前:7th:2004/01/19(月) 20:22
予想外の反響!Σ( ̄□ ̄;
皆様ありがとうございますm(_ _)m
特にアサハル様!!感謝感激でありますっ!!
まさにこのイメージ!自分ごときが万の言葉をもってしても、この一枚の絵には敵いません!

なんか反響の大きかった『内政戦隊』ですが、簡雍はグリーン…かなぁ。
この後、第二世代になって、『内政戦隊ショッカン5』に…なったら面白いなぁと思ったり。
ちなみにメンバーはレッド:蔣琬 、ブルー:費禕、グリーン:董允、イエロー:尹黙、ピンク:郭攸之 とか。

424 名前:★教授:2004/01/24(土) 23:48
本日、帰国の途に着きました。とても久しぶりな日本の土は感動でした。
感想等は休養を取ってからしますので、暫しお待ちを…。

んで…これまでの『しょーとれんじすとーりー』に登場した人達を宿泊先で数えてみました。
玉川様の予想通り、1位は簡雍でした(笑) 作業時間2時間50分、信用出きると思われます(何)

1.簡雍
2.劉備
3.張飛
4.法正
5.曹操
6.皇甫嵩
7.諸葛亮
8.朱儁
9.関羽
10.厳顔
11.甘寧
12.夏侯惇
13.周瑜
14.趙雲
15.黄忠
16.孫乾
17.魯粛
18.張遼
19.劉禅
20.盧植

ベスト20の中に貴方のお気に入りのオンナノコはいましたか?

425 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/26(月) 00:07
教授様、おかえりなさいませ!

そしていきなり大事業乙っ!3時間弱…(´Д⊂
うーん、やはり簡雍でしたか…。そんで次点劉備…。作品中では他のキャラほど
インパクトがないのですが、それでも締め役として必ず登場してるのがポイント
ですやね。
しかし…こうしてみると、やはり長湖部勢が元気ないな(´・ω・`) 
よろしい。ならば我が手でなんとかしてみせるまで。

426 名前:★教授:2004/02/04(水) 22:43
■■ 卒業前夜第二幕 --


「郭嘉…」
 3月某日、寒風の吹きつける墓所。
 少女は墓石の一つに細く白い指先を滑らせる。彫られた文字をなぞるようにゆっくりと滑らせる。

 郭嘉奉孝――

 少女が指でなぞり、墓石に刻まれたその名前。
 連合生徒会の者なら誰もが知り、そして忘れられぬ少女の名だ。
 限りある命の中で彼女ほど美しい大輪の華を咲かせた者に列挙できる人物はそういないだろう。
 それ故に薄命であった事を悔やむ者も少なくない。彼女の主であった少女も誰彼憚る事なく大粒の涙を零し、激しく天を呪ったという。
 郭嘉が眠る墓石の前に立っている少女もまた縁浅からぬ仲であった。
「…貴女の眠ってるこの場所に私が来る…なんて意外だった…?」
 憂いを帯びた微笑を浮かべ、現世にいない少女に言葉を掛ける。まるで目の前にその者がいるかのように。
 少女は手に持っていた手提げ鞄から一台のMDプレイヤーを取り出す。
「随分遅くなっちゃったけど…これを返しに来たの」
 そっと墓前にMDプレイヤーを置く。
 生前、この少女が郭嘉から取り上げた品。風紀委員として当然の行為だった。その時はこのMDプレイヤーが遺品になるなんて予想も想像もしてなかった。
 会えば口喧嘩、顔も見たくないと思った事もあった。すれ違ってばかりの二人だったが、その相手を永遠に失ってしまって初めて気が付いた大切な何か。

 でも気付くのが遅かった――

 心の奥に悔恨という大きく深い爪痕を刻みつけられた。
 返そうと思い何度も郭嘉の下へ足を運んだ。だけど神の悪戯か、療養の為に学園を去るその日にさえ彼女と顔を合わせる事は適わなかった。
「私…貴女とゆっくり話してみたかった…」
 眼鏡の奥に佇む悲哀に満ちた双眸は既に頬を濡らしていた。
 彼女の死を哀れんでいる訳じゃない、ただ和解出来なかった事と郭嘉を理解できなかった心中の哀しみに包まれていたのだ。
 永遠に解する事の出来ない心の溝。これから先も埋まる事はない。
「明日…卒業式なんだよ? 私も…生きていれば貴女も…。だけど…何だか悲しいよ」
 吹き抜けていく風が少女の髪を靡かせる。郭嘉がいたあの頃から随分伸びた。あの時の自分を見たくはなかったから――
 少女は涙を拭うと、再び墓石に指をなぞらせる。締めつけられる胸の内をぐっと堪え、踵を返した。
「サヨナラ…またその内顔見せに来るね」
 寂しく、そして小さな背はゆっくりと墓地から姿を消して行く。まるで風に流されるかのように――


 深夜2時、草木も眠る丑三つ時。
「…………」
 墓前に置かれたMDプレイヤーに伸びるしなやかな腕。手に取りイヤホンを耳にする。
「…………」
 その人は目を閉じ微かな笑みを浮かべている。
 やがて、その姿は闇に紛れるように消えていった。墓前のMDプレイヤーと共に――


――そして卒業の時を迎える

427 名前:★ぐっこ@管理人:2004/02/06(金) 00:42
。・゚・(ノД`)・゚・…

教授様、復帰第一弾乙であります。

そしていきなりしっとり系…。
天敵どうしであった郭嘉と陳羣の、決して同じ刻に出逢うことのできない
逢瀬ですね…

ぽんぽんとお互いに悪口を言い合える二人は、曹操にとっても「見てて飽きない」
と風物詩めいた光景であったはず。失われてから初めてわかる、かけがえのない
関係。
ガチガチの風紀委員長だった陳羣も、郭嘉の死を乗り越え、だいぶ成長できたでしょう…

428 名前:惟新:2004/02/06(金) 21:54
陳羣…(つД`)
「失ってしまって初めて気が付いた大切な何か。」
でもそれは遅すぎて…それでも!

うう、愛されてますねぇ郭嘉…


昨年度末、私たちを涙させた卒業前夜の第二幕が明ける。
教授様ついに本復帰!? 今後も目が離せないですよー!

429 名前:那御:2004/02/06(金) 22:46
泣いた・・・いい話じゃねぇかぁ!。・゚・(ノД`)・゚・
遅すぎた和解・・・帰ってくることの無い時間を悔い、
お互いすれ違いばかりだった日々を悔いる。

でも、そういう辛く、悲しい過去をバネにしたからこそ、
学園での陳羣があったのかもしれないですね・・・

あ〜泣いた。教授様の完全復帰とあらば、強力な作品がまたまた・・・

430 名前:★おーぷんえっぐ:2004/02/07(土) 19:11
昨今、他の用事で多忙を極め、SSさえ読んでるヒマありませんでした(汗)
教授さんの得意分野が見事に炸裂した、シットリとくるお話ですな^^
”喧嘩するほど仲が良い!”
を地で行く二人の姿を見せてもらった気がします。

431 名前:★教授:2004/02/15(日) 23:05
■■ バレンタインSS -多人数SP- ■■


「関さんは例年通り指名手配になっとるけど…」
「関姉も大変だなー…俺らも今大変だけど…」
 成都棟屋上、給水塔下で劉備と張飛は毛布を頭からかぶって茣蓙の上に座りながら七輪で暖を取っていた。
 今日は2月14日。世はバレンタインと呼ばれる女の子に取っても、男の子に取ってもあらゆる意味で緊張する日である。
 女子高でもあるこの学園でもバレンタインというイベントは発生する。むしろ、それは必然であるとも言える。こんなイベントを放っておく女子などいないのだ。
 …で、何故劉備と張飛が寒空の下でこんな事をしているのか。答えは簡単、一般女子のチョコ攻めから逃れる為だ。
 益州校区を落としてから一気に株が上昇した二人は前日の深夜から異様な視線を感じていた。そこで諸葛亮に調査を依頼した所、驚愕の事実が判明。逃亡のきっかけとなったのは、諸葛亮の資料と共に添付されていた見るからに毒々しいラッピングのチョコを見た事だった。
 ちなみにこの場にいない荊州校区を管理している関羽は妹や水練達者な部下の助けを借りて今も逃亡中である。最も妹と部下は既に大量の靴跡の烙印を押されて倒れているのだが――
 暖を取りながら潜伏中の二人以外にも馬超、黄忠、厳顔も同様の被害に遭っている。黄忠、厳顔は大人の対応で凌いでいるが馬超はそうもいかない。如何に帰宅部屈指のスプリンターと云えども限界はある。逃げ場を失って拉致されていく姿を馬岱が見たそうだ。
 しかし、趙雲はチョコ被害に遭っていない。その時彼女の周りには簡雍、法正と敵に回したら最強最悪の二人がいたからだった。流石に自分の命と引き替えにチョコを渡す強行には出る事は出来ない。
 場面を戻そう。劉備と張飛は給水塔の下で難を逃れていたが、そろそろ限界を感じてきていた。先ほどから屋上の探索に何人か現れているのだ。1分前に一度見つかったが、その時は張飛が間髪入れずに記憶消去(頭部強打)をしたお陰で命拾いはしている。見つかるのはもう時間の問題っぽいが――


 場面は変わり、益州校区郊外の丘の上。
 ここで簡雍と法正がベンチに腰掛けていた。趙雲がアトちゃんの部屋に入ったのを確認すると二人で適当な雑談をしながらぶらぶら歩いていたらこんな所まで来てしまっていたのだ。
 しかし、どことなく二人の間に気まずい空気が流れていた。
「………」
「………」
 お互いに目線も合わせずに落ちつかない様子。簡雍も法正も頬を染めている。
 二人とも綺麗にラッピングされたハート型のチョコを一つずつ持っていた――


 更に場所は変わりラク棟――

「毎年毎年…何で私がこんな目に!」
 半泣きになりながら一人の少女が一個師団にも匹敵する集団に追われている。
 悲しい事に、課外活動から退いている今でもこの日になると逃げ回る事を余儀なくされるのだ。
 必死に逃げ惑う少女、通称『益州タカラヅカ』張任。潔さと忠信の高さが仇となってしまっている。そこはかとなく報われない少女――


 夜――

 劉備と張飛は撤収しようとした所を待ち伏せしていた諸葛亮率いる女子達に取り囲まれていた。夜まで粘ってた事は誉めてやるべきだろうか――
 余談だが、今年の関羽は無事逃げ切る事に成功していた。尊い犠牲、名誉の殉職者2名――

                糸冬

432 名前:那御:2004/02/15(日) 23:49
バレンタインキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
劉関張、年増コンビ(後で二人に殺されるさ!)、馬超、簡雍法正コンビはもちろんのこと、
何より『益州タカラヅカ』こと張任がイイ!
間違いなく、バレンタインとかに興味関心0。それでも顔を真っ赤にして逃げる張任に惚れ。。

433 名前:惟新:2004/02/16(月) 20:40
ウァレンティーヌスの贈り物━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
対策の違いにキャラの個性がしっかり出てますね〜!
にしても簡雍と法正は何イイ雰囲気出してますかー(;´Д`)ハァハァ
何気に幸せ不幸の張任ワラタ。
彼女の苦労伝説は続く…

434 名前:★ぐっこ@管理人:2004/02/17(火) 00:47
むう、あのチョコ話(>>24-29)から一年経つのか…(;´Д`)ハァハァ
って二年経ってるやんけΣ( ゚Д゚) うわ、やっべ…
あー、あのころはまだ今ほど校区がどうこういう話になってなかったのね…

さておき、教授様グッジョブ!
むう、舞台が益州に移り、張任たんもその毒牙にかかってますか(^_^;)
簡雍と法正は相変わらず、劉備は今回は追われる側…
悲喜こもごものバレンタインだったようで…

435 名前:★教授:2004/02/25(水) 23:41
■■ THE EARLY DAY -法正と簡雍- ■■


▲15:40 法正専用作業室という名の図書準備室

「参ったなぁ…」
 法正は鉛筆を動かしながらため息を吐く。しきりに柱時計や腕時計をチェックしながら筆を進めていた。随分と焦っている様子が見て取れる。
 傍らには『定軍山攻略報告書』と書かれたA5の用紙が山のように積まれていた。そう、法正は劉備に提出する為の報告書を書いていたのである。メインの活躍を見せた黄忠&厳顔の御姐様コンビは別件でこの場にはいない。法正に言わせてみれば一人の方がスムーズに作業が進むのでむしろいない方がいいらしい…のだが、今回ばかりは後悔していた。
「こんなに報告書があるなんて…予想外だったわ。憲和待たせてるからなー…」
 どうやら想像以上の報告書と重なって簡雍と約束をしていたようだ。
 待たせたりすっぽかしたりしたらどんな恐ろしい事が待っているか――法正の脳内で想像するには容易い事であった。それ故にのんびり筆を進めている場合ではなかったのだ。
「絶対17時までに完成させなきゃ!」
 凝った肩を数回叩くと集中作業モードに以降した――

▲16:00 某喫茶店

「可愛いバイト雇ってるねー…マスター」
「ははは、よく働いてくれるし助かってるよ」
 カウンター席に腰掛けて紅茶を飲む簡雍。その正面で喫茶のマスターが愛想良く話相手になっていた。
「マスター! 私、表を掃除してきます!」
 そして、可愛いと評されたバイトの娘さんは照れ隠しかどうかは分からないが、怒りながら箒とちりとりを持って外へ出て行ってしまう。その様子をマスターと簡雍が微笑みながら見送った。
「張任ちゃんも案外照れ屋だからね。あんまり囃したてないでよ」
「マスターの頼みじゃ断われないね」
 こんな調子でちっとも待っているという素振りのない簡雍だった。

▲16:58 法正専用作業室という名の図書準備室

「終わらないっ! 絶対ムリっ!」
 壊れかけの法正が冷や汗を流しながら筆を進めていた。自分では頑張っているのだが、思うように作業が進まない。苛立ちと焦りが余計に作業を滞らせるのだ。
 別に今日中に提出という訳ではないが、中途半端に残すのも寝覚めが悪い。変な使命感が後押ししながら死に物狂いで報告書を仕上げていく。
 しかし、待ち合わせ時間は17時半…柱時計の短針が5になった。

▲17:27 某喫茶店

「おっそいなー…いつもなら5分前には来てるのに」
 小洒落た柱時計を見ながら簡雍がぼやきはじめた。真正面ではマスターが夕刊を、張任が食器を洗っていた。柄無しの赤いエプロンが似合うがどこか家庭的な印象を受ける。
 やがて時刻が17時半になると、簡雍はため息を吐いた。その仕草にマスターが新聞から顔を上げる。
「簡雍ちゃん、待ち人来ず…かい?」
「今、約束の時間丁度。もう少しだけ待ってみるよ」
「そうかい。ま、ゆっくり焦らずにね」
「いぇっさー」
 ぷらぷらと足を揺らしながら簡雍の目は柱時計を見据えていた――

▲19:00 法正専用作業室という名の図書準備室

「お、終わったー…」
 がたんと椅子から立ち上がり勢い良く背伸びをする法正。その顔は達成感に満ちた何とも爽やかなものだった。
 報告書をまとめてファイリングしながらちらりと柱時計を見てため息を吐く。
「流石にこんな時間じゃね…明日憲和に謝らなきゃ…」
 何されるか分かったものではないが、仕方ない。自分が蒔いた種だ…と覚悟を決めると、再び大きなため息を吐いて図書準備室の明りを落とした――

▲20:30 某喫茶店

「………」
 簡雍はうっすらと目を開け、顔を上げる。マスターの顔が目に入った。
「おはよう…と、言いたいけど…もう閉店の時間なんだよね」
「やべ…寝ちゃってたのか…」
 無造作に頭を掻く簡雍。柱時計に目を遣りため息を吐いた。
 そんな簡雍の前に一杯の珈琲が差し出される。珈琲とマスターを交互に見遣る。マスターは微笑するとエプロンを外した。
「それは奢りだよ。ぐいっと飲んで眠気覚ましてから帰りなさい」
「太っ腹だねー…それじゃ、遠慮なくいただきまーす」
 丁度、金銭面で四苦八苦してたので珈琲一杯でも随分助かる。簡雍に取っては優しさも立派な渡りに舟にもなっていた。
「それじゃ、マスター。私はこれで失礼します」
 張任がエプロンを外しながら奥から出てきた。…どうやらこの店では学生服の上からエプロンで仕事をしているようだ。
「ああ、お疲れ様。明日もよろしくね」
「はい。それじゃ失礼します」
 礼儀正しく挨拶をすると入り口から出て行く。実直なその姿は簡雍も魅せられるものがあった。
 やがて、珈琲を飲み終える。カップを返却して鞄を掴むと笑顔を見せた。滅多に人には見せない、そんな笑みだった。
「ごちそうさまでした」

▲21:00 寮前

「はー…随分遅くなっちゃったわ」
 とぼとぼと歩く法正。学校を出る頃にはもう真っ暗になってしまっていた。
 報告書は科学室で怪しげな発明をしていた諸葛亮に渡してあるから問題無い、取りあえず今日はゆっくり寝て明日の簡雍の襲撃に備えよう――半ば開き直りを見せているようだ。
 寮の門をくぐった時だった。目の前に馬超が――鉢合わせてしまっている様子。
「馬超じゃない…何してるのよ、こんな時間に。寮が違うでしょ? もしかして寝ぼけてる?」
「そんな訳ないわよ! 何で『夜はこれから♪』な時間に寝ぼけなきゃならないのさ!」
 疲れてるから普段の2割増しで言う事がキツイ法正に何処となく不良じみてきた馬超、姦しい。やがて疲れてる法正が折れる事に。
「まあ…何でもいいけど。早く戻らなくてもいいの?」
「憲和にこの間の漢中での写真貰おうと思ったんだけどな。待ってても帰ってこないから」
「あー…ずっとシャッター切ってたものね…って、今何て言ったの!?」
 危うく聞き流しかけた。法正が馬超に詰め寄る。
「え…いや、簡雍いなかったからって…」
「ウソ! じゃ…まだ待ち合わせ場所にいるの…もしかして!」
「ちょ…いてっ!」
 法正は馬超を突き飛ばすと踵を返して駆け出した。馬超は門で頭をぶつけて悶絶。馬超1回休み――

▲22:00 某喫茶店

「………憲和」
 閉店した様子の喫茶店の前に立つ法正。明りも消えて人の気配すらしない店内をちょろちょろとカーテンの隙間から覗きこむ。もしかしたら――そう思うと必死になって辺りも探し始めた。
 元々は自分が誘ったのに何で一番最初にここに来なかったのだろう、法正は激しく後悔していた。――次の瞬間!
「いつまで待たせるのよ! このバカ法正!」
「きゃっ!」
 後ろから鞄で法正の頭を殴った輩に痛そうに頭を押さえて蹲る法正。痛みを堪えながら後ろを振り返ると、そこに立っていたのは簡雍だった。
「憲和…ずっとここにいたの!?」
「待たせすぎ! 自分から誘っておいて…許せないぞ!」
 今度はでこぴん。小気味いい音が静かな通りに響いた。
「…ごめん」
 額を押さえながら深く頭を下げる法正。流石に悪いと思っているようだ。その姿を見て簡雍も怒るに怒れなくなってしまう。
「…牛丼奢ってくれたら許す」
「…いいの? そんな事で…?」
「お腹空いてるの!」
 ふんっと鼻を鳴らすと歩き始める簡雍。慌てて法正も後に続く。
「言い訳しなくていいからなー…来たんだから謝る代わりに奢れよー」
「…味噌汁と玉子も付けるわ」
「んじゃ、手打ちね」
 くるりと簡雍が振り返ると法正に微笑みかけた。その笑みを見て法正も自然と笑顔になれていた――

▲22:30 某牛丼チェーン店

「いらっしゃ…マジ…?」
 バイト着に身を包んだ張任に呆気に取られる簡雍と法正。そそくさと外に出て大笑いしていた――

▲24:00 法正の部屋

「くー…」
「………ぐぅ…」
 法正と簡雍が静かに寝息を立てていた。
 この後から二人の少し変わった日常が始まる――

          糸売 or 糸冬

436 名前:惟新:2004/02/27(金) 22:03
法×簡シリーズまだまだ続くっ!
もはや学三には無くてはならない名物となりつつありますなー(;´Д`)ハァハァ

気が付けば二人の友情も温まり。
艱難辛苦も何のその、すっかりわかりあってるじゃありませんか!
心の中が温まるですよ〜
そんでもって張任タンが可愛くて仕方が無いです(;´Д`)
壮絶にいじらしいですよもう!

ところで牛丼が食べたくなったですが、絶滅危惧種…

437 名前:那御:2004/02/27(金) 22:36
教授様による法&簡シリーズキタ―(・∀・)―!!
実務が多い法正に対し、簡雍は暇そうですね・・・
ズボラな性格でも、心は暖かいことこの上ないですね。。
サブキャラ馬超、張任も良い味出してる・・・

438 名前:国重高暁:2004/04/05(月) 16:12
 ■■ 小さな才媛 ■■

「公路お姉ちゃん、こんにちは!」
 敷地中雪化粧した豪邸の、その母屋の表出入口に、一人の幼女の姿があった。
 両手に大きな包みを抱え、ちんまりと立っている。
「はい、今開けますわ」
 公路お姉ちゃんと呼ばれて返事をしたのは、年の頃十六、七の少女。
 その声には品があるが、なぜか元気がない。
 彼女はドアを開け、幼女と対面した。
「あら、あなたは……どこの子でしたかしら?」
「お姉ちゃん、あたしのこと忘れたの? わーん」
 泣きじゃくる幼女を制止しながら、少女は懸命に自分の記憶をたどる。
「えーと、ちょっと待ってらして……ごほ、ごほ」
 ただの咳払いではない。彼女はここ数日、風邪で四十度の熱に苦しんでいるのである。
「思い出しましたわ。確か……陸さんちの績ちゃんでしたわね?」
「よかったあ。ちゃんと覚えててくれて」
「ごめん遊ばせ。私、こういう体でございますから、ちょっと頭がぼけておりまして……」
 大いに謝りながら、少女は持っていた絹のハンカチで、幼女の顔を丁寧に拭いてあげた。

 この少女の姓名は袁術、字は公路。
 ここ荊州でも他に比類なき豪家の令嬢で、蒼天学園高等部の生徒会副会長を務めている。
 一方、やってきた幼女の姓名は陸績、のちに字して公紀。
 今春から小学生になるところだが、既に微積分の知識を持ち、「小さな才媛」と評判の幼女である。
 もとより彼女も深窓の生まれであり、したがって家族ぐるみの交流を持つ。
 そんな陸績を自室に通すと、袁術は悪趣味なベッドに身をゆだねた。
「績ちゃん、私を見舞いにいらしたのね?」
「うん。だから、あたし、これ持ってきたの!」
 こたつに入った陸績が包みを解くと、立派なかごに盛られたフルーツが姿を現した。
「お姉ちゃん、しっかり食べて、元気出してね」
「あら、フルーツなら、既にたくさん届いておりましてよ」
 袁術は豪家の令嬢であるから、当然見舞い品の差し入れも多い。
 現に、こたつの周りには、フルーツを盛ったかごが所狭しと並べられていた。
「そ、そんな……三十分もかけて、せっかく持ってきたのに……」
「泣かない、泣かない。私、あなたの分もちゃんといただきますわ」
 再び涙目になる陸績を、袁術は丁寧になだめすかす。

「では、とりあえず……オレンジでもいただきましょう」
「お姉ちゃん、風邪にオレンジはあまり効かないんだけど」
「病は気合で治すものですわ。お黙り!」
 医学的知識をひけらかす陸績を抑え、袁術は彼女の持ってきたかごからオレンジを一個取る。
 そして、自らもこたつに入り、片隅に置かれていたナイフでこれを割いた。
 「こたつミカン」ならぬ「こたつオレンジ」である。
「績ちゃん、あなたもお食べなすって」
 オレンジの一切れを食べながら、別の一切れを陸績に勧める。
「いらない。せっかくあたしが持ってきたんだから、全部お姉ちゃんが食べて」
「うーん……しようがないですわ」
 残ったオレンジを食べ終わると、件のかごからまた一個のオレンジを取り出す。
 結局、袁術は陸績の持ってきた三個のオレンジを全部食べた。

「これ、人のかごに手をつけるんじゃありません!」
 すさまじい怒号である。袁術は、陸績が突然、他人の贈ったかごからオレンジを三個取るシーンを見透かさなかった。
「お姉ちゃん、怒らないで。あたしの一生のお願いだから」
「怒りたくないのはこっちですわ! なんてはしたないことを……」
「はしたないけど許して。これには深いわけがあるの」
 涙をこらえ、陸績は事情を説明し始めた。
「あたし、これから家に帰って、ママにもオレンジを食べさせてあげたいの」
「なるほど」
「今、あたしんちがどうしようもない状態なの、お姉ちゃんも知ってるでしょ?」
「もちろんですわ」
「だから、お姉ちゃんからもらったことにして、このオレンジをママにあげたいの。ねえ、いいでしょ?」
(な、なんとまあけなげな子……)
 袁術は思わず涙腺を緩めた。この幼女が高校生並の知能だけでなく、並ならぬ孝心をも備えていようとは。
「わかりましたわ。では、私のことをよろしくお伝えくださいませ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
 陸績は、三個のオレンジを先刻のかごと同じ包みに納め、これを懐にして去った。
 一方、ベッドに戻った袁術の枕元には、彼女の持ってきたかごと並んで、先ごろ入手したばかりの「伝統の蒼天会印」が置かれていたのであった。

                   糸冬

439 名前:国重高暁:2004/04/05(月) 16:29
いかがでしたでしょうか。
呉書陸績伝などにある、かの有名な
「陸績懐橘」の故事をSS化してみました。
元来は九江県で起こった出来事なのですが、
ここは袁術の本拠・宛県にしておきました。
伝国の玉璽については未だに公式設定がない(?)
ようなので、とりあえず「伝統の蒼天会印」と
しておきましたが……宜しかったでしょうか?

以上、国重でした。

440 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/05(月) 23:50
国重高暁さま、初参加初登校ありがとうございますヽ(´∀` )ノ
袁術の前で橘を懐に入れたという陸郎のお話ですな!
これまでSS化されていなかったあたりですので、これでまた一つの物語が
学三史に組み込まれたことに…
健気な幼女・陸績たんと、お嬢様袁術たん…(;´Д`)ハァハァ…


ちなみに学三史的修正ですが、陸績は陸遜より4つ年下なので、新設定でいえば
4ヶ月年下。まず、同学年。諸葛亮や孫権とも同年なんですねえ(^_^;)
つまり袁術が玉璽を手に入れてた頃だと、中学二年生だったり。

もちろん国重高暁さまの投稿は他のSSと同じく“異説”ですので、こういう細かい
ことは気にせずに! これからもよろしくお願い致しますねー!

441 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/05(月) 23:57
>>435
                  __ __ __ __ __                 __ __
                 ∠__∠__∠__∠_.∠_../ |        __∠__∠__∠l__
               ∠__∠__∠__∠__∠__/|  |        ∠__∠__∠__∠__/.|_
.                ∠__∠__∠__∠_.∠_./|  |/|       ∠__∠__∠__/   /|  |/|
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        __ _|    |__|__|__|__|/| ̄ ̄|  |    ∠__|__|__l/   /|  |/|  |
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.     ___|__|__.| ̄ ̄|  |_|/      |    |  |__|/     |    |    |    |    |  |/|  |
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  | ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|  |.         |    |  |            .|_|    |    |  |__|/
  |__|__|__|__|/        |__|/               |__|__|/


今日の今日まで投稿に気づきませんでした…_| ̄|○  スマソ教授さま…

うーん、法正と簡雍の凸凸コンビ。すっかり定番というか、学三的に定着して
しまってますが、いよいよ熟年期のカポーじみてきましたねえ(^_^;)
法正のようにある意味人見知りするタイプだと、ツボに入るようで…

442 名前:那御:2004/04/06(火) 00:12
というわけで、国重様初投稿乙!
何を隠そう私は隠れ陸績ファンでして・・・
文人なのに剛毅な人物っていうところにツボがあるのかも(孔融とか)
「陸績懐橘」・・・陸績を語る上で欠かせないイベントですよね。
それを見事に学三へ、良かったです!

443 名前:惟新:2004/04/09(金) 04:05
いらっしゃいませ国重高暁様!
さっそくのご投稿、拝読させていただきました!
おおっ! しっかり学三風にアレンジされてますよ!
何気に感受性豊かな袁術たんイイ(・∀・)!!

444 名前:はるら:2004/04/17(土) 14:09
■平和なひと時■


「だぁ〜〜〜〜〜!!!遅〜れ〜る〜!!!」
平穏そのものの学園に一人の少女の声が響き渡る。
「あっ、伯珪先輩!!どうかしたん〜!!」
「やや、玄徳!お前こそ何やってる?きょう授業あるぞ!!」
「ええぇ!!!!先輩マジ!?」
「嘘ついてど〜すんだよ!!!また盧植先生に怒鳴られるぞ!!・・・てもういないし」
伯珪と呼ばれた少女はまた駆け出した。


所変わって盧植先生の部屋。
「……遅い………」
盧植先生が呟いたその時、
「ギリギリセ〜フ!」劉備が部屋に猛ダッシュで突入した。
「いえ、47秒遅いです」
「ってえぇ〜!!なんで秒単位なん!?」
「…まぁ、1分以内ですから特赦としましょう」
そう言って盧植先生、ドアを閉める。
ドドドドドドォ〜〜!!!!!
「えっ??何かしら???」
その時公孫サンがドアにスライディングをかまし、ドアが吹っ飛び、
盧植先生に激突した!!
「どりゃ!!!よっしゃ〜!!ギリギリセ〜フ!!!」
劉備心の声「(どこがやねん!?)」
「は、は、伯・珪〜〜〜〜!!!!!!」
「え、えぇ〜??(先生キレちゃったよ、ちょっとドア吹っ飛ばしただけじゃん)」
「あなたはどうしてもっとおとしやかにできないんですか!?」
公孫サンため息をつきながら
「い、いや、先生それは先生だって・・・」
「なにか?」盧植先生、先手を打つ。
「う、(先生、顔は笑ってるけど目まで笑ってない。む、むしろ怖い…)」
劉備心の声「(っは!これはピンチや!!伯珪先輩にとってもあたしにとっても!!)」
「(こりゃ、なんとかせな・・・!!あれや!!!)」
「せんせ〜!このクッキー食べていい〜!?」劉備が話を変えようとする。
「な、げ、げ、玄徳〜〜!!!!!」
「は、はぅ〜!?(ミ、ミスった〜)」
公孫サン心の声「(馬鹿でしょ!?)」


―何だかんだで2時間経過―

「…………わかりましたか?二人とも!」
公孫サン「へぇ〜い」
劉備「(先輩、やる気ねぇ〜)は、はい!!」
「よろしい」
「本来なら今日は英作文のテストをしようと思っていましたが、
あなたがた二人のせいで見事潰れてしまいました」
公孫サン&劉備の心の声「(イヤッホ〜〜〜!!!!!)」
「なので今日は不本意ながら英単語のテストをしましょう♪」
「大差ねぇ〜」公孫サンがやる気のない声をあげる。
劉備心の声「(鬼や、本物の鬼がおる・・・!!)」

「コンコン」ノックが鳴る。
「どなたですか??」
「しーちゃん元気ぃ〜!?」朱儁が現れた!!
公孫サン心の声「(先生が、先生が『しーちゃん』!?)」公孫サンは吹き出した。
しかし劉備が公孫サンの口をふさいだ。
「伯珪先輩、今度こそ死んじゃいますよ!?」

「…しーちゃん、あの子達…」朱儁が劉備と公孫サンを指をさす。
盧植の目は恐ろしく凍りついている。
「こーちゃん、お願いだからちょっと部屋から出ててくれない???」
「…えっ、いいけど。……あの二人かわいそーに」そう言って朱儁は部屋を出た。

盧植先生、足早に二人を間合いに詰める。
「あっ、先生!……いつもながらスマイルが素敵ですね!!」劉備は適当に誤魔化した。
「ふふふ、ありがと、玄徳。……と・こ・ろ・で伯珪、どこに行くのかしら??」
さっさとエスケープを試みる公孫サンに魔の手が!!!
「…えっ!!あ、あ、先生……、いやちょっと…」口ごもる公孫サン。
その時、公孫サンは秘計を閃いた!!
公孫サン心の声「(こ、これだ!!)」
「あっ!!!先生このクッキー食べていいですか!?」
劉備心の声「(何考えてんねん!?)」

「あなたもですか!?……あなた達二人はそんなにクッキーが食べたいのですか!?」
盧植は怒りを通り越して泣きかけている。そんな盧植の様子を見かねた朱儁が
「ほら!しーちゃん!!しっかりして!!!嫌なことは皆で飲み明かして吹っ飛ばそうよ!!…ね」
「あなた達も飲みあかそ〜♪」
かなり陽気な朱儁を前に公孫サンは怖気づいた。
「い、いえ遠慮させてもらいます。仲のいい先輩二人で飲んでください。な、なぁ玄徳!?」
「あ、そりゃええ!先輩方二人でど〜ぞ!」
「ふ〜ん、じゃ、しんちゃんと建ちゃんも誘って飲もぉ〜!!!」

盧植と朱儁は部屋を出て行った。と思ったら盧植がドアからひょっこり顔を出して言った。
「…伯珪、玄徳、今日はまともな授業ができなくて申し訳なかったと思います。
………しかし、宿題は出させてもらいます。
…今日の反省文を400字詰めの作文用紙10枚以上で書いてくること。今日はこれだけにします。
くれぐれも体には気をつけるように。……では、また明日」そう言って盧植は行ってしまった。

部屋に沈黙が漂う・・・。

「な、なぁ玄徳、盧植先生まだ怒ってるよ」
「せやね、いつもの1.5倍は宿題でとるで」
「しかも明日までって先生あたし達を殺すきか!?」



―5時間後、皇甫嵩の部屋―

「で、なんで私の部屋なんだ!?」
「うっわ〜!!義真、ひっど〜い!!!
しんちゃんのセンチメンタルな感情を蔑ろにするつもり!?」
「そうそう!!しんちゃんがかわいそーだよ!!!」
「け、建陽、おまえもか!!」
「……ぎ、ぎし〜ん!!もうやだよぉ〜!!!」
「って、し、子幹……!?」
盧植に思いっきり抱きつかれ困惑する皇甫嵩。
それを見て笑っている朱儁と丁原。



―同時刻、劉備と公孫サンは・・・―

「…玄徳、何枚終わった??」
「………二枚。先輩は??」
「……一枚半……」
ひたすら文を書きまくる劉備と公孫サン。・・・でもあまり進まない。



色々あったけど今日も平和な一日でした。


― 平和なひと時 完―

445 名前:はるら:2004/04/17(土) 14:10
盧植と公孫サンと劉備、どうしてもこの三人の逸話が書きたかったんで書いてみました。
7thさまのスレを一部参考にさせて頂きました。
書いてみてはじめてわかったんですけど、大阪弁ってムズイですね。
何か文章的におかしい部分もあるかと思いますが生暖かいスルーをお願いします(爆

446 名前:惟新:2004/04/19(月) 23:05
盧植先生のありがた〜いご指導には劉備も公孫[王贊]も適わない!
はるら様GJ! 勢いを感じさせる作品ですよ〜!
劉備の必死な誤魔化し方とその結果がとても可愛らしいです(*´Д`)
そしてクッキーワラタ。なかなかツボを心得ていらっしゃいますよ〜!

447 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/20(火) 01:14
はるらさま、グッジョブ!!(b^ー°)

盧植とて、後輩たちのまえでは先生でいたいようですし(^_^;)
昔劉備と公孫瓉が机を並べていた光景って、こんなカンジだったのでしょうね〜。
あのころは朱儁も皇甫嵩も丁原も居なかったので、非常にスムーズに授業が…
出来る分けないか、この二人が生徒なら(^_^;)

盧植先生は、学三的にもっと書き込みたいキャラ。演義の無口っ娘はできれば無しの
方向で…

448 名前:那御:2004/04/20(火) 01:42
いやぁ、はるらさまGJ!

相変わらず人気抜群の盧植先生、そして最強(笑。
両名、「頭はさほど悪くないのに授業を聞かないからできない」を地で行ってますな。
そして言い訳でスベりまくる二人に爆笑。

449 名前:国重高暁:2004/04/20(火) 16:41
■■ 将軍の飼い方 ■■

「呂奉先さん、いらっしゃいますか?」
「いるよ。入っといで」
 いつもどおりのぶっきらぼうな口調で、安楽いすの呂布は来客を室内に迎えた。

 ここは、下ヒ棟の徐州校区総代室。
 元来の校区総代である劉備が、関羽らを率いて袁術を攻めた隙に、棟を守っていた張飛らを呂布が駆逐し、この地を制圧したのである。
「そりゃそうと、あんたはどこの何者よ?」
「お初にお目にかかります。私は、蒼天会の役員で韓胤と申します」
「そ、蒼天会?!」と呂布はマルボロを一服噴かした。
「蒼天会って、もはや袁グループのお嬢様に乗っ取られるほど権威が墜ちてるじゃんか。今更そんなとこから使いをよこすなんて……一体どういう風の吹き回し?」
「申し上げます。実は、その袁お嬢様が、妹をあなたのプティスールにしたいとの思し召しで……」
「プティフール?! 旨そうじゃん。あたいにもちょうだい」
「いえ、そうではございません。プティスール、つまり、妹分にしていただきたいので……」
「あんたを?」
「私ではございません。袁お嬢様の妹でございます」
 袁お嬢様とは、もちろん、先日から蒼天会長を勝手に名乗り始めた袁術のこと。
 自分の宿敵たる劉備を呂布が庇護したので、妹を彼女のプティスールにさせて懐柔し、地盤の安定を図ろうというのである。

 しかし、呂布は首を縦に振らなかった。
「韓胤ちゃん、あたいをプティスールなんか取る柄だと思って?」
「では、一昨年、丁建陽さんのプティスールになられたのはどこのたれでしょう?」
「うっ……」呂布は困惑した。
 丁建陽は名を原といい、もと生徒会執行部員の一人である。
 しかし、董卓が会長職を奪うと、プティスールの呂布に裏切られ、階級章まで剥奪され、今春、失意のうちに高等部を卒業していた。
「確かに、丁先輩はあたいのグランスールだったけど……あんなもん、出世の手がかりにすぎなかったわ!」
「奉先さん、なんということを……」
「とにかく、嫌といったら嫌だかんね!」
「あの、ケホッ……そんなに、ケホッ、ケホッ……嫌ですか?」
 呂布の噴き出す紫煙に咽びながら、韓胤は更に言葉を続けた。
「袁お嬢様は、妹をプティスールにする見返りとして、あなたを蒼天会書記に任命するとの思し召しですが……」
「そんなもんに釣られるあたいじゃないわよ。さあ、とっととお帰り!」
「奉先さん。あくまで固辞するのでしたら、私自らの手であなたの階級章を……」
「聞き分けのない娘ね。みんな、やっておしまい!」
 呂布の号令である。たちまち、室内のそこかしこに隠れていた彼女の部下たちが次から次へ飛び出し、逃げ帰ろうとする韓胤を、あっという間にしばきあげた。
 捕縛された韓胤は階級章を剥奪された上、制服を引き裂かれ、実にあられもない姿となったのである。

 翌日、呂布の部下の一人・陳登は韓胤を連行し、許昌棟の「蒼天通信」編集室へ乗り込んだ。
「編集長、いらっしゃいますか?」
「いるわよ。入っといで」呂布そっくりの応対である。
「お久しぶりです。下ヒ棟の陳登と申します」
「あら、こちらこそ……って、その縛られてる娘は一体?」
 編集長の曹操が韓胤に目配せすると、それまで押し黙っていた彼女が漸く口を開いた。
「韓胤でございます。南陽棟の袁お嬢様の思し召しで、彼女の妹をプティスールにしていただくべく、呂奉先さんの所へ参ったのですが……」
 ここで、陳登がすかさず縄目を解く。
「固く拒絶された上、私をこのような姿に……シク、シク」
 慟哭する韓胤の制服はズタボロに裂かれ、階級章もついていなかった。
「さすが奉先ちゃん、ひどい仕打ちね……それはそうと、元龍ちゃん」
「はい?」曹操の突然の質問に、陳登は驚きを隠せない。
「将軍の飼い方について、あなたはどうお考えかしら?」
「しょ、将軍の飼い方ですか……」彼女はしばし考え込んだ。

 やがて、陳登は自分の脳内を整理すると、曹操にこう語った。
「将軍を飼うのは、虎を飼うようなもんだとわたしは考えてます」
「それはなぜかしら?」
「満腹時、つまり任務を負ってる時はいいんですが、空腹時、つまり任務のない時は、ひたすら暴れ回って手がつけられません」
「なるほど……」と曹操が小さくうなずいた次の瞬間、彼女の反論が陳登を襲った。
「あいにく、わたしはそうは思わないわ」
「とおっしゃいますと?」
「将軍を飼うのは、鷹を飼うようなもんよ」
「と、鳥の鷹……ですか?」
「ええ、そうよ」
「それはなぜでしょう?」
「獲物、つまり野望があるうちは必要だけど、それがなくなれば不要になっちゃうからよ」
「正に『狡兎死して走狗烹らる』ってわけですね」
「そういうこと」
 曹操は私見を説き終えると、大きく伸びをしてから、傍らの缶コーラを一気に空けた。

 続いて、陳登が先刻とあべこべに曹操へ質問する。
「孟徳さん。あなたは、呂奉先さんをどんな方だと思いますか?」
「うーん、あいつは……ボブ=サップみたいな娘ね。タイマンで勝負させたら、かなうやつなどたれもいやしない。蒼天じゅうが『学園に呂布あり』などと誉めそやすのもうべなるかなって感じ」
 曹操の回答は正鵠を射ていた。実際、呂布は「鬼姫」と渾名されていて、喧嘩の強さはおろかバイクの運転技術も学園一……というのが専らの評判である。
 しかし、イバラにもとげあり。
 陳登は、そんな彼女の無二の汚点を見抜いていた。
「あいにく、わたしはそうは思いませんね」
「っていうと?」
「はっきり言って、彼女は……接着剤みたいな娘です!」
「せ、接着剤?!」
 狐につままれたような曹操に、陳登は呂布の本心を打ち明ける。
「呂奉先さんは、ただ強いだけで計画性のかけらもないんです。目先の利益に流されるまま、昨日はあの娘、今日はこの娘と接着を繰り返してきました」
「それで?」
「新学期に入ってからも、劉玄徳さんを追い落として徐州校区総代の座を奪い、ただ今は南陽棟の袁お嬢様を飛ばして、蒼天会長の称号を我が手に収めんと必死になってます」
「ふーん……それで、あたしにどうしろと?」
「孟徳さん! 彼女を飛ばすため、早急に軍を下ヒ棟へ差し向けてください。わたし、いざとなればあなたに寝返りますから」
「わかったわ。南陽棟を奪う前に下ヒ棟を押さえとけば、いい行きがけの駄賃になるし」
 一礼すると、曹操は何やら文書を作り始めた。
「元龍ちゃん、今日は奉先ちゃんの本心を暴いてくれてありがとう……さあ、今すぐこれへサインして」
 陳登は、彼女の示した文書に目を通すと、二つ返事で署名捺印した。
 新たなる広陵棟長の誕生が、「鬼姫」退学の端緒を開いた瞬間であった。

        糸冬

450 名前:国重高暁:2004/04/20(火) 16:54
いかがでしたでしょうか。
今回の出典は「綱鑑」です。
曹操と陳登との談義が実に
面白いので、SS化してみました。
政略結婚については公式設定がない(?)
ようなので、「マリア様がみてる」風に
「スール(義姉妹)の契り」と表現して
みましたが……これで宜しかったでしょうか?

以上、国重でした。

451 名前:はるら:2004/04/20(火) 17:56
国重高暁さまはじめまして、はるらです。
早速ですが読ましていただきました。国重高暁さまグッジョブ!!
呂布が接着剤・・・。思わず「おぉ!!」と感嘆してしまいました(^_^;)

452 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:36
■ 邂逅 ■(1)

「あれっ、憲和。この写真って…。」
帰宅部連合写真部の記録保管庫にて整理作業中に一休みしてアルバムを見ていた法正はその中にあった一枚の写真に目を留めた。アルバム自体もほこりの多い片隅に平積みと保管が悪かったため、ほとんどの写真はセピア色に色褪せていた。

法正が課外活動からの引退を決意したのは高2の12月。帰宅部連合の一員としてやりたいことは先週の漢中アスレチックス攻防戦の勝利で大体終え、受験を考えての惜しまれながらの早期引退を行ったのである。1つ上の悪友というべき簡雍も卒業を控えてほぼ同時期の引退を決意。以後、帰宅部連合を揺り動かす大事件が連続して起こることは神ならぬ彼女らには予想もできなかった。
ともかく、2人は年明け1月の引退を考えた引継ぎ作業に12月の中旬はてんてこ舞いであった。もっとも、主として引き継ぎ作業で忙しかったのは運営の重鎮であった法正の方で、ものぐさな簡雍のほうは帰宅部連合劉備新聞部写真班班長および帰宅部連合写真部部長であったのだが、書類仕事は前々から全部後輩に投げていたので事務上の手続きの手間は実質皆無であった。
なのに今、保管庫の整理を法正がしているのは新聞部と写真部に残された簡雍の管理物品(のはずの物)の整理に駆り出されたからである。当初は簡雍の手伝いをしていたのであるが、肝心の簡雍がすぐにサボるため、法正も途中で忍耐を切らし、気晴らしに古いアルバムを見ていた。
本当に闇に葬らねばならない、墓場まで持っていかねばならないような社会的に政治的にヤバイ代物、あるいは金になりそうな物件は簡雍自身がちゃっかり安全なところにいち早く動かしていたのだが、それ以外のあまり重要でないか重要そうに見えないもの、公的に発表して問題ない物は“やはり”新聞部の私物棚に投げっぱなしになっていた。こういう物件に関して簡雍は自分の手から離れた瞬間存在自体を忘れることも多々あるので、最初のファイル閉じのような整理作業自体も行ったのは実際にその写真を使用した別人であるに違いない。
当然、荊南地区を制覇して正式に帰宅部連合が発足した今年度初頭以前のネガやデータファイルは全て処分されている。片隅に積み上げられていたこのアルバムもそれ以前のものであるため、もはや焼き増しもできず後は朽ちる一方である。

セピア色に色褪せた写真には、満開の桃の花のした、筵に座って甘酒が入っていると思われる器を手にした人物が3人写っている。折りたたんだ三節棍を腰に挿し片膝立てて座り、左手に杯を持ち右手でヴイサインをしている張飛に、刀袋を脇に正座して両手に杯を持ちカメラに向かって穏やかな笑みを浮かべる関羽、そして二人の間で甘酒の入っていると思しき酒瓶と切り分けられた肉料理を載せた皿を前において、胡坐をかいた劉備が右手の張り扇を肩に担ぎ、左手に杯を持って、二カッと朗らかな笑顔を向けていた。また3名とも制服ではなく私服姿である。劉備はトレードマークの赤パーカーを緑のシャツとジーパンの上に羽織っている。関羽は黒のシャツとベージュのチノパンの上にカーキ色のトレンチコート。張飛はオレンジ色のタンクトップの臍だしルックにデニムパンツとジージャン。
日時は3年前の3月3日。劉備、関羽、張飛そして簡雍がまだ中等部3年もしくは新高1としての期待に胸を膨らませていたであろう時期である。それに日付。“桃の節句”
間違いない、“ピーチガーデンの誓い”の写真だ。

最近の帰宅部連合の隆盛はすさまじく、劉備、関羽、張飛の所謂“ピーチガーデン三姉妹”の名は蒼天学園でも知らぬものがない。
−我ら三姉妹、蒼天学園に入学した時期は違えど、願わくば同じ年、同じ月、同じ日に引退せん。−
“ピーチガーデンの誓い”は彼女らの交誼の固さを示すものとして既に学園の伝説となっている。帰宅部連合の前身である劉備新聞部発足時に、資金・印刷機器と取材の足を提供してくれた張世平と蘇双の縁者が現在、幽州校区における3姉妹関係のグッズやイベントに関しての権利を持っている。例えば、該当地の幽州校区涿地区のピーチガーデンにおいては、“ピーチガーデンの誓い”で当の三姉妹が食したという“桃園結義ランチ”なる便乗メニューがあったりする。
だが、その誓いが存在したかの真偽のほどが疑問とされていた以上、このメニューに付属する話も疑わしい。3人も初期の活動区域は涿地区だったため、ランチ自体はどの時期にかは食べていた可能性はある。つまり決定的な証拠がないのである。

ピーチガーデンの宣伝パンフに“ピーチガーデンの誓い”の説明として、咲き乱れる桃の花のした、劉備が差し上げた張り扇に両脇に居並んだ関羽と張飛がおのおの居合刀と連結式三節棍を交差させている写真が添付されているが、この写真は人差し指を突きつけての“異議あり”の連発である。3名とも蒼天学園“高等部”の制服姿であるし、つけている階級章も当時着けていたと思われる1円玉でなく高額の紙幣章である。第一、3人ともいかにも“やらせ”と分かるぎこちない笑みを浮かべている。この写真自体は実際の年以降、おそらく今年の春に撮影されたものであることは明らかである。

当事者の3名に聞けば一発で分かると思われるが、3名の名がここまで大きくなった今、“あれはあったのですか”と直に聞けるほどの度胸の持ち主はほとんどいない。とはいえ、宴会の席等でぽろっと漏れた情報が皆無というわけでもなかった。法正は、その証言内容を思い起こしてみた…。

453 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:37
■ 邂逅 ■(2)

尋問内容:
“3年前の3月3日 幽州校区涿地区ピーチガーデンであったことを証言してください。”

証言その1:赤パーカーと眼鏡着用の張り扇娘
「3年前なぁ、あの年は暖冬で桃の開花が早かったから桃の節句に花が咲いたっちゅうんでピーチガーデンに翼徳とバイトついでに花見に行ったんは覚えとるわ。もうひとりいたような気もするけどな…。そうそう、行った先でたまたま関さんに会うたんやった。“関さん”って呼び出したのもあの日からやったなぁ…。せやせや、関さん昔から年の割りに落ち着いてて貫禄あるから、てっきり上級生と勘違いしてもうてなぁ〜。」
韜晦が巧みなのか、大事な情報は多いものの直接関係のある証言はどうしても引き出せず。ゆさぶればゆさぶるほど脱線するようにも思えたので尋問は中断。

証言その2:長身の美髪嬢
「…私が蒼天学園に入学した日ですね。私は姉者や翼徳に出会い、共に蒼天学園での3年を過ごそうと心に誓いました。それで充分ではないでしょうか。」
核心は突いてるがあまりにも漠然に過ぎる。取り付く島もなくこれ以上の証言は引き出せず。

証言その3:スタイル抜群の格闘娘
「う〜ん、先週の宿題の内容忘れてるアタシが3年も前のこと覚えてると思うか?いや、そこで頷かれるとなんか腹立つんだけど。…あのときから姉貴たちにはほんと頭あがんねぇんだけどな。でも今やったら…。あ、やべ、姉貴や関姉には言うなよ。」
忘れた振りをしているのか本当に忘れているのかが判明しないところもあるが、何かをごまかそうとしているのは確かである。だが、釘を刺していたのが義姉二人らしいので尋問は断念。

はっきり“誓い”が成されたかは証明されなかったものの、3年前の3月3日に幽州校区涿地区ピーチガーデンの桃の花見で3人が出会ったことは間違いない。

興味深いのは劉備の「もうひとりいた」という発言である。
劉備新聞部の最初期メンバーは劉備玄徳、関羽雲長、張飛翼徳、簡雍憲和であるが…。
「この中にそのもう一人がいるのよね…。しかも見方を変えると2人…。」
ケース1:簡雍憲和
簡雍は劉備の幼馴染であり、劉備との縁はもっとも長い人物のはずであるが“ピーチガーデンの誓い”は3人姉妹である。
ケース2:関羽雲長
劉備、張飛、簡雍の3名とも蒼天学園の本籍地といってよい最初の登録は幽州校区涿地区内である。関羽の本貫は司州校区河東地区解棟である。このときが初対面だった可能性もある。

が、“もう一人”が関羽だと後の証言に繋がらないし、ピーチガーデン“3姉妹”である事実との矛盾が説明できない。
「…ここらあたりの矛盾に証言がはかばかしくない答えがありそうね…。」
その答えをくれそうな人物は法正に片付けの仕事を任せてサボっていた。

確かに重要人物の一人であることには間違いないが、うかつにつつくと何が出てくるか分からないのと、成都棟開放を除けばあまりにも蒼天学園の公務には関わってこなかったので誰もが尋問をスルーしていた人物でもある。彼女に尋問できる人物はごく限られている。ピーチガーデン3姉妹と諸葛亮、つきあいのある運営庶務三羽ガラスのあと二人である糜竺と孫乾を除けば法正しかいない。
「…どーした、孝直、仁王立ちになって。」
「どーでもいいわよ、キリキリ白状なさい!3年前の3月3日、何があったか。あんた知ってんでしょう!!」
「おいおい〜そんな昔のこと覚えてるわけ…。何、その右手で高々と差し上げた如何にも重そうなアルバムは?」
「いや、ショック療法してあげようかと…。」
にこやかに微笑みながらアルバムを振りかぶる法正に、流石に粘る限界を感じたのか簡雍は内心はともかく急いで寝転んでいたところから起き直った。これを見てとばかりに突きつけられた一枚の写真に、ほぉと目を丸くする。
「…しっかし、よくこんな写真見つけたよねぇ〜、アタシ自身今見せられるまでふと忘れてたのに…。」
あやしい。今の3姉妹の株を考えれば正統的に金を儲けられるこんなお宝写真を撮ったことを簡雍が思い出さないはずはない。何かしら忘れたあるいは積極的に忘れたがっていた理由があるはずである。
「…話してもらえるわよね、何があったか。劉備新聞部の最初期メンバーのあんたが知らないはずはないものね…。」
予想はできるが、この相手は転んでもただではおきない。
「じゃあ、対価は片付け全部やってくれるということで…。」
「うぐっ、多すぎ!せめて3分の1!もともとあんたの仕事なんだから!」
「誰も知らない情報なんだからねぇ〜。3分の2!」
「半分!これ以上は負けられないわよ!!」
「…ま、そこで手を打ちますか…。」
意外にすんなりと商談成立。
「...(ひょっとして謀られた?)…。」
なんとなく納得のいかない表情をしている法正に、簡雍が写真を見ながら思い起こしつつ話したのは次のような内容だった。

***

454 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:38
■ 邂逅 ■(3)

3年前の3月3日、蒼天学園司州校区河南地区洛陽棟にある司州校区事務課は学生でごった返していた。年度末の風物詩、事務手続きである。窓口のひとつでも背丈から中等部と思しき生徒が事務員と応対していた。その後ろは数名生徒が順を待って並んでいる。早くしろとの無言の威圧はかなり大きい。
「あら廖淳さん、あなた本貫の欄が抜けてるけど。」
「あぁ〜〜、すみません。えぇっとぅ、荊州校区襄陽地区です。」
廖淳と呼ばれた生徒は必要書類の不備を指摘されて、慌ててカバンから筆記用具を出そうとした。が、慌てていて見つからない。見かねた事務員が窓口の横にあるペンたてを指差す。すみませ〜んと頭を下げて、ペンを取ろうとしたがつかみ損ねて、途中で取り落としてしまった。
あっちゃ〜何泡食ってんのよ、アタシってドジ、と思ったところ、横からすっと伸びてきた手がペンを掴み上げた。慌てていたことと、急な動きでは無かったことでそのときには凄いとは思わなかったのだが、後にして思えば反射神経や運動神経が良いだけの者と違い、瞬発スピードに頼らない無駄のない動きで落ちる前に自然に摘み上げていたのである。よほど武道か舞の修練を積んでいないとできない動きであった。なお、廖淳自身も後に武闘派として年季を積んで帰宅部連合・右車騎主将という高位に着くのであるが、このときの動きはいつまでたっても真似できなかったという。
だからといって廖淳を後代において
“廖化当先鋒”− 廖化を先鋒にする = 人材不足
とあげつらうのは不当に過ぎるだろうが…。

「どうぞ。」
「あっ、ありがとうござい…(うわっ、デカっ!)」
声に応じてペンを受け取ろうとした廖淳は、振り向いたときに目に入った人物、いや正確には眼の高さにあった“物体”に驚いて声をとぎらせた。
そう、目の前の人物は“いろいろな意味で”大きかった。
170cmを越える長身に広い肩、癖がなく艶やかな腰に余るほど長い豊かな黒髪。そして廖淳の目の高さにある物体。そのくせ全体で見るとすらりと均整が取れている。
「どうかしましたか?事務員さんがお待ちしていますよ。」
廖淳の不躾な視線に気を悪くした様子もなく、女性にしては低い深みのある声で丁寧に廖淳に注意を促す。容貌も声のイメージに違わず、派手ではないが落ち着いた美貌である。

今は進学の決まった生徒たちが高等部の進学、そして大学部の進学手続きを済ませに来る時期である。各校区所轄事務課でも手続きができないわけではないが、蒼天学園という単位互換性を持つ仮想巨大学園が存在する華夏研究学園都市においてはいろいろな事情で手間取りそうな場合、中央事務管理課とでも言うべき司州校区事務課で手続きをするのが通例である。2月下旬から3月中下旬までの一ヶ月はこういった学生たちで大病院の待合室並みの大きさがある司州校区事務課のロビーはごった返すのである。廖淳もその口で、追試が幾つかあったため荊州校区での正規中等部進級手続きに遅れ、慌てて司州校区で手続きに来たのである。
“高等部の先輩かな…。”
担当事務員の手続きに時間がかかりそうな廖淳は、これまでの後ろからのプレッシャーもなんのその、件の人物をゆっくり観察することにした。
彼女は廖淳の隣の窓口で事務手続きを受けていた。
黒のシャツにベージュのパンツ、上に深緑所謂カーキ色のトレンチコート(長身の人が着るとすごく映える)を羽織った男装の出で立ちであるが、声高に上等を叫ぶ連中に在りがちな伊達や無頼を気取っているわけでなく、またマニッシュとも違う。マニッシュというのは“男っぽさ”というより敢えて男装することで逆に女性としての色っぽさをアピールしている感がなくもないが(宝塚の男役はどうみても“美男子”でなく女性の色気がある)、この女性の場合は単に動きやすい服装を選んだらこうなったという様子で、無駄を省いた機能美のほうを考えているようである。
左手に紫の袋(刀袋)に包んだ1 mを越える棒状の物を携え、脇には風呂敷包みを抱えている。蒼天学園の“武闘派”集団のなかには電動ガンや模造刀をこれ見よがしにぶら下げているものも多いが、本来銃刀法では刃のない模造刀といえど公共の場では刀袋に収めておくことが規定されている。
風呂敷には書類や筆記用具が包まれていたのがこれまた古風である。
ちろちろと横目で書類をみると、氏名は関羽、本貫は司州校区河東地区解良棟ということであった。
“…関羽先輩か、よし覚えた…。しっかし、妙に気になる人だなぁ…。”
事務課の他の窓口に来た生徒たちも廖淳ほどじろじろ見ることはないが、時折盗み見たり振り返る者がいた。
いかにも物に動じない穏やかな内にも威を納めた風だが無闇に威圧感があるわけでもない。整った顔立ちに出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ長身、そして腰に余るほど豊かにある癖のない艶やかな黒髪と、1つ1つがモデルでもなかなか見れないような要素を持っているが全体的には落ち着いてまとまっており花が咲き誇るような派手さがあるわけではない。きびきびと動きのつぼを押さえた水際立った挙措であるが、ありがちなオーバーアクションではないので身体の大きさに反して目立つわけでもない。
だが存在感は比類なく大きい。

この女性の方は廖淳と違い書類に不備がなかったようですんなりと事務手続きは終了した。
一度も廖淳の方には振り返らなかったが見遣っていたのは気がついていたようで、それではお先に失礼、と微かに微笑んで会釈し、事務課を後にした。
「…やっぱり、高等部の先輩方ってかっこいいですねぇ。私も後3年もしたらああなれるのかなぁ…。」
絶対無理よ、という社会的・教育的に問題のある突っ込みは内心にとどめ、書類手続きをしていた事務員さんは問題にならないほうの突っ込みを口にした。
「…あの娘、あなたと同じ中等部よ。あ、もっとも新高1という意味で高等部の先輩というのは正しいけどね。高等部への入学手続きだったから…。」
「…え゛っ!大学部への進学だったんじゃないんですかぁ?!」
この時期に進学でなく高等部に入学するというのは妙である。入学試験・正規入学手続き自体は既に終わっている。正確に言えば新高1への編入ということになる。蒼天学園への編入は言ってしまえば試験に合格さえしてしまえば365日いつでもOKである。ということは…。
「体育科だったんですか?」
あの体格ならさもありなんである。
「い〜え、それが普通科よ。久々に編入試験の数学で満点が出たという話よ。」
次の生徒の事務作業を済ましつつ、事務員は廖淳に返事を返す。
世間話をしながらでも作業効率がさほど落ちないのは流石プロというべきか。もっとも華夏研究学園都市の事務員は時折学生の年齢や入学年度が正規書類と合わなかったりと総じてかなり作業内容がアバウトらしいが…。
「え゛え゛っ!!」
一芸でも飛びぬけていれば入れる専門科でなく普通科であると編入の場合満遍なくかなり成績が良くないと入れない。コネでもない限り正規入学者の上位10分の1に入れるくらいでないと駄目である。聞くところによるとかなり珠算が巧みらしく、非常に素早く正確に検算していたため、膨大に計算せねばならないはずの数学で満点が取れたらしい。
…天は二物を与えずって嘘じゃないの…?いや、あの人だって何もせずにああなったわけじゃない、私だっていつかはきっと!廖淳、ガンバよ!!
廖淳、本質は打たれるほどに強くなる熱血体育会系である。
「…廖淳さん早くして…。」
廖淳の夢想は後ろからの催促で破られた。
約1年半後に廖淳はこの娘と再会する。

***

455 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:38
■ 邂逅 ■(4)

ところ変わって、冀州校区常山地区に存在する華夏研究学園都市唯一の神社である常山神社では近日に迫った“曲水の宴”の準備で大忙しだった。

〜 曲水の宴 〜
― 観梅の時期、三月の第一日曜日[古代では三月上巳(弥生はじめの巳の日)]に行われる雅やかな歌会。梅園の中を流れる曲がりくねった小川に小船に乗せた酒盃を流し、それが目の前を流れる前に漢詩(奈良時代)もしくは和歌(平安時代)を読む宮廷人の遊びである。作品が出来たらその杯の酒を頂き注いで再び流すというものと、作品が出来ない場合に罰として酒を飲ませるという2通りがあるようである。
東晋の右将軍 王羲之が353年3月3日に主催した流觴曲水(りゅうしょうきょくすい)が高雅な現在の形の曲水の宴の起源といわれ、日本では485年に始められた。現在も日本の各地で行われ、太宰府天満宮では、958年に太宰大弐 小野好古が菅原道真の往時を偲んで始めたと伝えられる。
本来、中国においては春の禊の行事であり、秦の時代に清らかな流れに杯を流して禊払いの儀式として行われたのが始まりと言われ、平安時代には杯でなく穢れ払いの人形を流していたのが貴族の姫の雛かざりとなって桃の節句に発展する。―

本来が節句の禊の行事のため、多数の参加希望者の中から抽選で選ばれた衣冠束帯(男役)や十二単(女役)の先輩方の歌会の前には白拍子の舞そして巫女の神楽舞がある。
常山神社の一人娘である趙雲子龍、常山流薙刀道の同輩にして巫女見習いの陳到叔至、そしてバイトで雇われた彼女らの友人にしてライバルの田豫国譲の3人は、この日、神楽舞の練習をしていた。長髪の趙雲と陳到、ショートカットの田豫はいずれもそろいの巫女姿である。
午前中は3人とも物珍しさも手伝って見物にきた生徒たちの撮影に気軽に応じていた。ところが暖冬の影響で桃の開花が早まったため、幽州校区のピーチガーデンでの桃の花見のついでに訪れる生徒がかなり多かったのである。
そのため舞の練習と撮影が度重なると流石に疲れ、午後は人の来ないところで一息入れようと、お茶とお茶菓子を用意して普段は人の来ない神社の裏手に向かった。
ところが薄暗く人けがないはずの裏手からは、やぁ、とぅ、と掛け声が聞こえてきた。
裏手に回ると先客がいた。それも抜き身の刀を持って。といっても危険人物というわけではない。見たことのない長身の生徒が模造刀と思しき刀で剣術の稽古をしていたのである。
関羽も最初は近場の体育館に行こうとしたのであるが、どの体育館も既に部やサークルが練習に使っており、個人が居合刀を遣うスペースを借りられそうになかった。地図を頼りに何箇所か歩き回った挙句、人けのない常山神社の裏手を借りて型を遣うことにしたのである。軒下に風呂敷包みをおき、コートを脱いだシャツ姿であるが既に長時間稽古していたようで寒そうではない。
巫女服姿の三人に気づいて、神社の関係者と思ったのか(趙雲がいる以上間違いではない)、練習を中断し、会釈して“お邪魔しています、ご迷惑をお掛けしたなら引き払います”と聞いてきた。場を弁えた態度に、趙雲が、ご自由にお構いなく、と返事を返すと謝意を示して再び稽古を再開した。三人もタオルで汗をぬぐい、湯のみ片手に軒下に座わり、休憩方々何とはなしに稽古を眺めていた。
大きく動く度にそれに合わせて豊かな黒髪がうねるように波うつ様は印象的であった。が、それ以上に3人の関心を引いたのは、この人物の滑らかな挙措と3人の耳に微かに聞こえた風切り音であった。
趙雲、陳到、田豫の3名とも中学生としては傑出した格闘技能を持っているため、挙動の一つひとつを見ただけで、この人物の力量のおおよそは見て取れる。滑らかな無駄のない動きで俄かには真似できそうにない。また、遠目には撫でる様に大きく軽く振っているように見えたのだが、風切り音はこれまで耳にしたことがないくらい短く鋭いものであった。
「…なあ、子竜。あの人の刀って普通より短いのか?」
疑問に思って、田豫が尋ねる。薙刀をたしなむ二人と違い、田豫は格闘畑である。
「どうしてそう思うの?」
「いや、竹刀に比べたら短いしさ。それだったら早く振れるのも分かる気はするけど…。」
だが、力任せに振ったからといって速く振れるわけではない。
この人物の動きは根本的に違う。
田豫の疑問にクスッと陳到が笑って答える。
「あの人の遣っている刀はかなり長いですよ。背が高いからでしょうね。」
確かに目の前の人物は3人に比べて頭一つ以上高い。
「…デカいのタッパだけじゃないけどな…。」
田豫の視線は胸の辺りにいっていた。
「…それは言わないほうが無難でしょう…。」
趙雲、陳到ともに、自分の胸部を無言で見た後に付け加えた。
竹刀は大体全長が3尺6寸から9寸ある(110 cm 〜120 cm)。真剣に直したならば刃渡り3尺(90 cm)クラスの大業物になる。現在、居合いによく遣われるのは刃渡り2尺4寸5分(74cm)のもの。江戸時代の常寸(普通の長さ:治安にも関わるので触れで規定が出されることも)は時期にもよるが2尺2寸から4寸位である(67 cm ~ 72cm)。
「そんなものだったのか?もっと長いものだと思ってたよ。」
「私の見たところ、2尺6寸(80 cm弱)かそこらだと思いますけど。」
「80 cmよりはちょっと長いんじゃないか?」
「2尺7寸(82 cm)ね。」
こういった得物の寸法の見極めは間合いの見切りの深さにも通じる。その技量はこの3人では陳到<田豫<趙雲であった。

456 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:39
■ 邂逅 ■(5)

外野の雑音を気にした風もなく、件の人物は稽古を続けている。ビュッ、ビュッと短い風切り音が聞こえるが、力任せに振っているようには見えない。つまり得物の重心を把握した上で無理なく全身運動で振るっているため、動きの途切れがなく“きれ”が非常によい。よほどこの得物を使いこなしているのであろう。
一つ一つの型の終わりでは血振りしての納刀が入るのだが、その血振りと納刀がまた一風変わっていた。通常の血振りと納刀は右手のみで握った刀を頭上を通るように斜めに振り、そのまま鞘の鯉口に当てた左手の親指と人差し指の又に刀の棟を載せて切っ先を誘導して納める。この人物の場合、諸手の残心の構えから右手を離し鍔のすぐ上の棟のところを握り拳にした右手で音を立てて叩くのである。そして逆手で握りなおした右手のみで柄を握り、そのまま下から刀身を半回転させて左の二の腕と少し抜いた鞘の鯉口に当てた左手の親指と人差し指の又に載せ、切っ先を誘導して納めるという見慣れない血振りと納刀の仕方をするのである。実際にやってみようと思うと少々ややこしい動きであるが、これもまたよほど遣り込んでいるらしく滑らかな動きである。
「あれは多分、香取神道流です。」
納刀を見て首をかしげていた陳到の疑問に答えるかのように趙雲が口を開いた。
「あの棟を右手でたたく血振りと持ち替えて刀身を回転させる納刀は香取神道流独特のものと聞いたことがあります。」
香取神道流の特徴は常に戦国時代さながらの実戦を念頭に置き、相手の攻撃に対し一瞬早い攻撃により必ず倒すという、全ての技に一撃必殺の工夫がなされていることにある。稽古では木刀を使い防具はつけず常に怪我、最悪死と隣合わせる厳しいものであるが、その一方で“試合は死に合い”、“兵法は平法なり”として戦うこと厳しく戒めている。事実、鹿島の本拠では開祖・飯篠長威斎以来600年もの間、他流試合が行われたことない。すなわち兵法は平和のための法であって、戦わずして勝利を得ることが最上であると教えている。門流に“無手勝流”の塚原卜伝がいることも無縁ではない。一撃必殺の技術の習得と平法の順守という一見矛盾したところにこの流派が600年もの間失われることなく昔の型を継承した答えがあるのかもしれない。

「あれで血振りができるのでしょうか?時代劇や先輩方の居合いですと片手でブンって振るものですし、握りは変えずに素早く納刀する人もいますが…。」
陳到の疑問も当然である。
「血振りのことを言うのなら、どのやり方も本当に血はぬぐい取れません。懐紙でぬぐわねば駄目だったそうです。居合いでの血振りの動作は敵を倒して所作の終了を示す合図に過ぎませんから。それに居合いで納刀するとき、古流では相手を既に倒しているわけですから早く納刀する必要はどこにもありません。却って指を切ったり鞘内にぶつけて刃を痛めたりことがあったそうです。抜くときは文字通り抜く手も見せないくらい早く行いますが。」
事実、抜き打ちを見せたが、居合腰で右手の甲を柄に当てそれが翻ったと思ったときにはビュッと短い風きり音とともに白い光が水平に走っていた。
一度見せた型などは、片膝立てて座った状態から瞬時に1mも飛び上がって抜き打ちを放ち着地時に間髪をいれず拝み打ちを切り下ろすとんでもないものであった(抜附の剣)。
居合、立合の抜刀術の後は、刀を改めたのち、太刀術の稽古を始めた。相手(打手)が居ることを想定して型を遣っていることは分かるのだが、1つ1つの型が他流派の数個分ほどに長い。
「しっかし、古流剣術っていったらいろいろ“奥義”とかがあったりする訳だろ。今日はたまたまとはいえ人前で見せていいものなんかね?」
「…普段の稽古では見学に来た他流の武芸者に技を盗まれないようにいろいろ工夫していると聞きます。たとえば、今遣っている太刀術でも一つの型が非常に長いのは、実戦なら打ち合わせず相手の動きに応じて変化して仕留めるところをわざと相手の太刀を受けて次の動きにつなげているからだと聞きました。」
それを表の型、相手の動きに応じて変化する技を裏の型という。それを抜きにしても、型が長いのは鎧武者による剣術(介者剣術)を想定して、長時間の行動に耐えうるだけの体力をつけるためという理由もある。また、鎧をつけない素肌剣術を想定した系統の技も存在する。

3人の持ってきた急須の茶が冷めるころまで件の女性は型を遣ったのち、稽古をやめて近くにあった笹の茂みの方へ歩いていった。
常山神社裏手にはここそこに七夕祭りで学園生が切りに来る笹が生い茂っている。その1つの前に居合刀を構えてしばらく佇んでいたかと思うと、3度大きく鋭く太刀を振るった。
ビュッ ビュッ ビュッっと連続した音が届いてくる。
しばらく残心したのち、よしとばかりに頷くや、血振りをくれて納刀し腰から居合刀を鞘ごと抜いた。これでおしまいということだろう。首筋の汗をぬぐってコートを羽織り、風呂敷包みの上においていた刀袋に居合刀を納めて本殿に一礼した後、荷物をまとめてスタスタと常山神社の大鳥居の方へ歩み去っていった。その際、律儀に“お邪魔しました”と三人に挨拶をするのも忘れていなかった。

「最後、何やってたんだろうあの人?」
「さぁ?」
「…ひょっとしてこれじゃ…。」
田豫の指差した先には小指ほどの大きさの笹の葉があった。何の変哲もない笹の葉である。他の葉と違い、同じ長さで縦に4等分されていたことを除けば。
3人は思わず顔を見合わせた。
「…出来る?」
「…アタシの得物は拳だよ…。」
「…無理ね…。」
3名とも武道や格闘と戦闘系の分野では中等部で期待の人材と目され自身でもそれなりの自負はあったのであるが、こと蒼天学園においてはいろいろな分野でいそうもない人物が集うという事実を改めて突きつけられた気がした。
「…練習に戻ろっか…。」
「…そうね、私も…。」
「…宮司さん、そろそろ探しにくるだろうしな…。」
しばらく無言でいた三人は誰からともなく練習再開を口にした。あたかも、衝撃から気をそらそうとするように。

***

457 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:39
■ 邂逅 ■(6)

関羽は、境内で香取神道流の型を一通り遣って一汗かいた後、山門から石段を下るときに目に入った桃園によることにした。
緑の木々の間に淡い桃と白の花が慎ましくも美しく咲き乱れ、遠目にも芳しく薫るようである。18年後に陶淵明が随説を書く、荊州校区は武陵地区の秘境・桃源郷にも見劣りはしないであろう。

桃はバラ科サクラ属モモ亜属、つまり桜の仲間で花を楽しむ花桃と果実も取れる実桃がある。3月の花であり、古来東洋では明るく美しい女性の象徴である。
“ほとんどの桃の花の開花時期は3月下旬から4月上旬。暖冬とはいえ今咲いているということは桃色は矢口、白色は寒白ですね…。”
花桃の主な種類としては早生種の矢口(桃)、寒白(白)、中生種の源平(一つの木に桃と白の花が咲く)がある。雛祭りで用意されるのは矢口であるが、これは枝ごと切ったものを温室においてより早く開花させたものである。
一般の桃の花の開花時期は桜とほぼ同じくらい、もしくは少し遅いのである。3月3日は“桃の節句”というが、本来は陰暦の三月最初の巳の日の行事であり、これは現在の3月末から4月中旬にあたる。ここらが通常桃の花の咲く季節である。今日は、暖冬の影響で、花開いたものと思われた。桃園に近づいていくにつれて周りの景色が華やかになっていくが、人の数も増していた。ごった返すというほどではないが、かなりの学園生が花見に訪れているようである。
人の流れに逆らわないように、桃園の奥へ向かう路を両側に立ち並ぶ桃の花を楽しみながら抜けていくと、陸上競技場ほどに大きく開けた広場にたどり着いた。広場を囲むように立ち並んだ桃の木々が遠めに見た以上に華やかに咲き乱れ、蒼天学園生が開いている花見客相手の出店も数多く立ち並んで食欲を誘うにおいを振りまいていた。客寄せの声が活気よくここそこであがっている。
花より団子というわけでないが、かなり運動したこともあり、昼食抜きは流石に応える。
飲食物を扱っている出店の一つに立ち寄ろうとして、ふと足を止めた。
“今日は手持ちが不如意でしたね…。”
進学手続きで授業料を納入したこともあり、帰りの運賃を払ってしまえば手元にはほとんど残らなかったのである。せいぜい、甘酒を1杯買える程度で食事するほどはない。編入試験が好成績だったおかげで、明日からは中等部の学生相手の家庭教師のバイトの口があり日々の食費は購えるのであるが…。
夕飯まで我慢することにしようとしたところ、食欲をそそる匂いに釣られて、ぐうぅぅぅぅ、と腹の虫が鳴るのが分かった。思わず顔を赤らめる。
“少々、見っとも無かったですね。”
武士は食わねど高楊枝という言葉もあるが、腹が減っては戦はできないのも事実である。少しは腹を満たしてからゆっくり桃の花を楽しみたい。さて、どうするかと思案しつつ出店を縫って歩いているうちに、解決策と思しきものが目に入った。
“ひとつやってみましょうか…。”
関羽は広場の一角の人だかりの方へと歩みを向けた。

ギャラリーの注目の中、がっしりとして体力に自信のありそうな女生徒が手に唾してハンマーを振りかぶる。掛け声と共にハンマーを勢いよく台に振り下ろした。
次の瞬間、激突音とともに錘が高く設えられたカウントタワーを跳ね上がっていったが、半分に到達したところで失速し始め、頂上まではまだだいぶ残したところで止まってしまった。あ〜あ、というため息が上がる。
「ざーんねん、惜しかったねぇ、75点。熊のぬいぐるみはあげられないわよ。」
制服を着ていた赤毛の生徒が、がっくりとうなだれた客からハンマーを受け取りつつ、得点の景品を渡した。
この日、簡雍憲和は広場の一角に設えたハンマーストライカーの担当をしていた。劉備玄徳とその義妹の張飛翼徳、そして劉備の幼馴染である簡雍憲和の3人で立ち上げた非公認サークル劉備新聞部の運営資金稼ぎの一環であった。

〜ハンマーストライカー〜
― 昔ながらの遊園地なら大体あるレクリエーションのひとつ。ハンマーで台をたたくと10mの高さのカウントタワーに錘が上昇する。上昇した高さに応じて点数が決められており、点数に応じた景品を渡す。返しばねの着いた板を押しのけて上昇していくので頂上に着かなければ最後に通りきったところで止まる。頂上にゴングが設置してあって最高得点に到達した場合には最後のばねとゴングの間で錘が跳ねてベルが連続してなるようになっている。最高景品は 熊のぬいぐるみ というのが定番。
使用するハンマーは大体、子供・女性用のものと男性用の2つが用意されており、男性用のものは2倍近くの重量がある。運動エネルギーを位置エネルギーに変換するゲームなので、ハンマーの重量よりも叩き付けるスピードのほうが効いてくる。―

458 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:41
■  邂逅 ■(7)

客の半数近くが中等部であるが、たまに高等部、時には大学部とも思える客も来た。そういった如何にも記録を出してくれそうな客にはハンディとして男性用のハンマーを使ってもらっていた。
このハンマーストライカーの最高得点は100点であるが、簡雍の目利きも効いていて、女性用ハンマーを使った最高得点は80点、男性用のハンマーを使った最高得点は今の75点というところであった。
景品が取れないと客から文句が出ないように、1時間に一回、張飛がサクラで男性用ハンマーを振り、最高得点を出すというデモンストレーションをしている。とはいってもこういった景品つきの出し物は、普通ならどうやってもトップ賞は取れないように仕組んであるものである。男性用ハンマーを使った場合、張飛が本気で叩かないと最高得点がだせないように錘と返しばねを調整してあった。ちなみに、張飛は中学3年生にも関わらず重量挙げのトータルで200 Kgをマークしている。なお、女子53 Kg級の重量挙げ世界記録はスナッチ(腕の力だけで一気に足元から頭上まで上げる)97.5 Kg、ジャーク(胸から頭上へ上げる)121.5 Kg、トータル217.5 Kgである。
この日の特賞の景品は、恒例の熊のぬいぐるみと大皿に盛られた見事な東坡肉“トンポーロー”だった。

〜東坡肉“トンポーロー”〜
― 北宋の詩人、蘇東坡(1036−1101)が政変で杭州に左遷されたとき、不作だったのを西湖の土木工事で領民を飢えから救った。そのお礼に領民が豚肉と紹興酒を送ったが蘇東坡は受け取らず、醤油と紹興酒で角切りにした豚肉を煮込んで振舞ったのが始まりと言われる。
もっとも、本場は黄州という説もある。実際、蘇東坡は杭州にも黄州にも赴任しているし、以下のように“食猪肉”という題の調理法を記した詩も黄州に残している。

食猪肉      豚肉を食べるなら

黄州好猪肉    黄州の豚肉は上等で
価銭等糞土    値段は非常に安いが
富者不肯喫    金持ちは食べたがらないし
貧者不解煮    貧乏人は調理法をしらない
慢著火      火はゆっくりつけ
少著水      水は少なめにする
火候足時他自美    充分煮込めば自然にうまくなる
毎日起来打一碗    毎日起きたら一皿にだけつくる
飽得自家君莫管    自分の腹が満たせればいい
              他人の知ったことではない

『漢詩紀行』(二)P.111(NHK取材グループ編、NHK出版刊)

日本の豚の角煮のルーツとも言われるが、中国の東坡肉は似て全く非なるものである。皮付きの豚バラ肉を土鍋に入れ、紹興酒と香辛料の入った醤油ダレで長時間煮込む。肉は、やわらかく、とろけるような口当たりに仕上がる。本場中国杭州の東坡肉は筆舌に尽くしがたいほどおいしいらしい。―

この東坡肉は劉備の義妹、張飛が手間隙かけてつくったものであった。張飛は実家が肉屋であることもあり、料理などできそうもないがさつな普段の行動とは裏腹に、肉料理に限っては実は大の得意である。ハンマーストライカーのそばに、これまた劉備新聞部の運営費を稼ぐため、豚肉料理を扱った出店を開いていたが、昼の食事時が終わる前に売り切れる盛況ぶりだった。なお、左脇に劉備担当の同人誌を出していたが、こちらもそこそこの客足であった。劉備と張飛は、今は休憩方々桃園内をあちこちを冷やかして歩き回っているはずである。
さて、この東坡肉であるが、もともとはハンマーストライカーの景品にするつもりはなかった。売り物に出している物とは別に、今日のバイトが終わった後に姉貴分の劉備に花見方々食べてもらおうとよい部分を選んで特別に時間をかけてじっくり煮込んで作った自慢の一皿である。
間違って売らないように取り分けておいたのであるが、特賞の景品がいくらかわいいからといって熊のぬいぐるみだけだと引き寄せられる客層が限られるので、簡雍が食欲旺盛な体育会系も取り込もうと「どうせ、だれも取れないだろうから貸してくれない?」と借り出したものであった。ハンマーストライカーの錘設定には張飛自身が立ち会って、主な客層である幽州校区の人間ではおそらく張飛以外では最高得点が取れないようにしくんでいたこと、劉備新聞部の運営費をもっと稼ぐためという簡雍の誘い文句にのったことで、張飛も借用には同意していた。もちろん、絶対に取られないようにと念押しはしておいたが。

459 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:43
■ 邂逅 ■(8)

昼時を回ったこともあり、熊のぬいぐるみ目当ての中等部生や、花見で浮かれたついでに仲間内の力試しを楽しむ連中に加えて張飛自慢の東坡肉の臭いにつられて挑んでくる体育会系の客層も多い。作戦は成功だったと気をよくしていた簡雍に、新たな客が声をかけてきた。
「…最高得点を取ったなら、この景品がいただけるのですか?」
トレンチコートを羽織った大柄な女性がトップ賞の札がつけられた棚に熊のぬいぐるみと共に置いてある東坡肉の皿を指差している。
「お目が高いねぇ〜おねーさん。こいつはちょっとやそっとじゃ味わえない、自慢の逸品さね。これをちょっとハンマー一振りしただけで差し上げちゃおうっていう、この気前のよさ。どうよ、ひとつ“力試し”してみない?」
取れないように仕組んであるからこそいくらでもいえる台詞。
相手も苦笑交じりに口上を聞いている。
「ええ、美味しそうですね。ひとつ、“運試し”してみましょうか。」
運試し、と言い換えた時点でそれなりに力に自信があり、何か細工していることに気づいてることは伺える。小脇に抱えた風呂敷包みと長い紫の紗の袋を置き、財布を取り出そうとしている間に簡雍は客をじっくり観察する。長身に広い肩。そして刀袋
“…この姐さんは武道系か。”
簡雍は、張飛という規格外の格闘マニアと知り合いであることと、劉備新聞部カメラマンとして多くの被写体を撮っていることもあって、体つきを見ただけでその人物の得意な運動を大体判断できる。剣道部やテニス部といった長物を振るのに慣れていそうな連中も挑戦していたが、ハンマーのように重いものを振るのはかなりの筋力と慣れが必要で、木刀やラケットを振るようにはいかなかった。柔道や空手やレスリングの格闘関係も、筋力は仮にあっても振り慣れていなくて駄目であった。張飛以外での最高得点である75点を出したのは巻き割りやくい打ちの経験がある山岳部の連中であった。
“…ま、男用だったら大丈夫か…。”
簡雍は何気ないそぶりで百円硬貨と交換に男性用のハンマーを渡した。客はハンマーを受け取ると、静止線から離れて、ごく近くに人がいないのを確認してハンマーを持ち上げた。
「おっとっと、走っちゃだめですぜ、おねーさん。」
ハンマーを肩に担いで走りこみ、勢いを稼ごうとする者もよくいるので、そこは注意する。
が、そんなことはしないとばかりに再び苦笑が返ってきた。
その場で2,3回ゆっくり振っただけだった。重心の位置を確かめていたのである。
改めて静止線に立って、静かにハンマーを上段に構える。真面目にすっとハンマーを構えた姿はかなり滑稽味がある。失笑が周りの客たちからあがった。
だが、簡雍の本能には警鐘がなっていた。
“なんか嫌な予感がするのよね…。”
思うに、相手の立ち姿とハンマーを軽く振った様子からより正確に筋力を推察していたのだろう。だが、劉備や張飛ほど喧嘩慣れしていなかったため、こういった類の推測の作動するのが遅れてしまった。張飛なら挙措を見ただけで能力をより正確に推し量ってくる。
既に料金は受け取っていた。受け取る前なら苦しいが言い逃れの仕様はあった。
簡雍の不安をよそに、件の客は一瞬後、短い気合と共にハンマーを振り下ろした。
豊かな長い黒髪が舞い上がる。
腹に響く鈍い衝撃音と同時に張飛の時と劣らぬスピードで錘がカウントタワーを駆け上がった。
“うそっ、やばい!”
カンカンカンカン!!
簡雍の心中とは逆に、済んだ鐘の音がギャラリーの歓声を圧して桃園に鳴り響いた。
「…では、お言葉に甘えさせていただきます。」
目論見が外れて呆然としていた簡雍の耳には、ギャラリーの歓声も相手の受領の宣告も届いていなかった。われに返ったときには、既に相手は景品の熊のぬいぐるみと東坡肉の大皿を持ってその長身を花見客の中に紛れ込ませていた。

関羽は広場の喧騒から離れ、より奥まったところに一本はなれて聳え立つ桃の大木に向かっていた。桃園を通り抜けている間に目をつけていた静かな場所である。大皿の東坡肉を左手に捧げ持ち、右手に刀袋と栓をした酒瓶をぶら下げている。あの後、甘酒売り場を担当していた中等部学生に交渉して、熊のぬいぐるみと甘酒とを交換してもらったのである。
大木の下に腰を降ろして、一息つく。
杯に甘酒を注ぎ、大皿に載せられていた小刀で東坡肉を切り分ける。
「では、いただきましょうか。」
小さく切り分けた東坡肉を一口含む。空腹だったこともあるが、それ以上にあまりの美味に思わず表情がほころぶ。箸で掴むのが難しいくらいトロトロと軟らかいのに、長時間じっくり煮込んであって油が抜けている。紹興酒とタレ、香料、砂糖もよくしみており、調理した人物の熱意が感じられる逸品である。

甘酒で疲れを癒し、美味い料理に舌鼓を打ち、咲き誇る桃の花を一人静かに楽しむ。
これほどの贅沢はそうはあるまい。
桃の花を見上げて寛ぐ関羽の口から、感に堪えぬかのように言葉が漏れた。
…幸せだ…

***

460 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:43
■ 邂逅 ■(9)

幸せに浸っている人間のいる一方で地獄の業火に焙られかけている人間もいた。
“…やばい、やばい。マジで翼徳にどやされるかも…。”
張飛に本気でどやされたら命に関わりかねない。
「.どーいうことだ、憲和ぁ!獲られないはずじゃなかったのかよぉ!!」
簡雍の前には、鐘の音を聞いて休憩を切り上げてすっ飛んできた張飛がいた。劉備をほっぽって全力で駆けてきたようで顔に血が上っており、中3にしてはかなり豊かな胸がオレンジ色のタンクトップの下で上下している。
「オレが姉貴のためにどれだけ手間暇かけてあれをつくったのか…」
怒りのあまり、知らないわけじゃないだろぉ、という後半のせりふは声にならなかった。
折角丹精込めて劉備のために用意した料理が反古になっただけでない。自分ほどに強いものなど学園全体ならいざ知らず、この校区程度なら絶対いないと思っていたプライドが傷ついたことも手伝って気が立っている。
「翼徳、ごめん!気持ちは分かるけど、まあ甘酒でも飲んで落ちついて。」
頭に血を上らせたまま状況を説明するのは危険だった。簡雍は持参のポットに入れてあった甘酒をコップに注いで張飛に渡す。これには落ち着かせる意味以外にも別のもくろみがあった。この甘酒は普通の甘酒ではない。中学生とはいえ呑み助の簡雍が普通の甘酒を飲むはずがない。
“翼徳は調理酒を料理の味見する低度しか飲んだことないはずだから、甘さにごまかされて多分分からないだろう。走ってきて息を切らしている今なら簡単に酔いが回って動けなくなるはず。”
ゆっくり事情を話して酔いが回る時間を稼ぎ、動けなくなっている間に劉備を探してなんとかなだめてもらおう。そう考えたのだが展開は再び簡雍の甘い予想を裏切った。
確かに特製甘酒の効果はあり、コップ片手に事情を聞いている張飛の視線に変化が出てきた。だが、とろんと視線がさ迷うなんて甘いものではない、完全に目が据わり始めた。
「…頭下げて少しでも返してもらうように頼み込むなんてまどろっこしいことしてられねぇな。憲和、そいつ武道やってるようだっていってたな…。」
あろうことか、隣の肉料理屋台の暖簾の竿代わりにしていた六尺棒を降ろし始めた。義理の姉の劉備に、他人様に向けるなとたしなめられていた得物である。
“翼徳のやつ、酒乱の気があったのか…。”
飲ませてしまったものはもどってこない。策士策に溺れる。
「…あの、翼徳サン、どうなさるお積りなんでしょう?」
一縷の望みを託して尋ねるものの、むなしい希望は打ち砕かれた。
「決まってんだろ!勝負して獲られたもんは勝負して獲り返す!うだうだ言うようだったら、張り倒してでもな!!」
“やばい、血の雨が降る…。”
張飛は暴走寸前である。相手の女性が話の分かる人間であることを期待するしかないが、張飛より先にあの女性を掴まえて事情を説明し、少しでも返してもらうよう交渉するしかなかった。
「あたし先に行ってその人と…」
「憲和、お前も着いて来るんだ。オレはそいつの顔を知らねぇ。探すの手伝え。」
簡雍の台詞を聞きもせず、襟首を万力さながらの握力でむんずと捕まえる。得意の逃げ足を披露する暇もなかった。
“…天中殺だ、今日は….。”

目立つ人間であっただけに、件の女性の足取りはすぐに判明した。
「いた、翼徳。あそこ。」
簡雍の指差した先には、満開の桃の花の下に静かに佇み、花を見遣る佳人一人。
甘酒を慌てるでなくゆっくりと口に運び、東坡肉を少しずつ味わうように食べている。
其処だけ切り出せば一幅の絵になる。
“いい被写体ジャン。”
切迫した状況に関わらず暢気な思考が生じたが、張飛のほうは東坡肉が半分近く無くなっているのを見て形相が一気に険しくなる。問答無用で腕ずくに出られてはたまらない。
「翼徳、ちょっと待ってて。」
喧嘩腰で話を進めては、まとまるものもまとまらない。ましてや、景品にしたこちらのほうが立場が弱い。諦めろと言われても本来返す言葉は無いのである。仮に返してくれるとしても、代償に何を要求されるか分からないが、できるかぎり穏便に済ませたい。事件を起こして活動停止などたまったものではない。
花を眺めていた女性は近づいてくる簡雍に気づいて振り返った。
「…どうかしましたか。」
実に切り出しにくい用件だが仕様がない。
「いえ、あの、その東坡肉、ほんとに申し訳ないんですけど、返品願えませんでしょうか?」
簡雍の不躾と言える要望に、訝しげに柳眉を顰めて問い返してくる。
「…詳しく事情を聞かせていただけませんか。そう伺っただけではなんともご返事できませんが。」
もっともである。
「…あれはこいつがうちの大将に食べてもらおうと手間暇かけてつくったやつなんです。客引きしようと景品にしたのはあたしの手落ちです。ほんとに済みませんけど、かわりの景品用意しますから、残った分だけでも交換してもらえませんか。」
頭を下げ下げ頼み込む簡雍の姿に、関羽はしばし顎に手を当てて考えた。軽率な判断ではあったが、ここまで頭を下げに来たのである。顔は立てねばなるまい。幸い、自分はそれほど大食漢ではない。空腹は完全ではないが満たされている。
「….成程、あらましは伺いました。こちらはもう充分堪能させていただきました。半分ほどしか残っていませんが、それでもよろしければ。」
「….憲和、なに長々とくっちゃべってんだ。ぺこぺこ頭下げる必要ないぞ!」
何とか話が通じ、助かったと思ったところ不機嫌そうな大声が後ろから飛んできた。二人が振り返った先には目を怒らせた張飛がいた。

461 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:45
■ 邂逅 ■(10)

張飛にとって、問題は東坡肉を食べられてしまったことにとどまっていない。東坡肉を食われて悔しいのもあるが、それ以上に自分より強い人間が目の前にいるかもしれないという事実に苛立ちを感じるのである。自分の苛立ちの原因がどちらに主にあるのか判断するには張飛は酔っていて冷静さを失っていた。また、簡雍が頭を下げているのを見るのも、自分の力量が足りないことを示しているようで腹立たしかった。
二つの鬱屈を収めるには、目の前の人間を叩き伏せて自分のほうが強いと証明し、東坡肉を獲りかえすのが手っ取り早い。
「翼徳、ようやく話がつきそうなところを。」
「黙ってろ。これはオレの問題だ。」
止めようとした簡雍を押しのける。完全に意地になっていた。
「オレは張飛っていって、腕っ節じゃちっとは知られた顔だ。そいつはあんたが勝ち取った景品だ。だがこっちもただで返してもらうわけにはいかねえ。勝負で獲られたもんは勝負で獲りかえすのがオレらの鉄則だ。」
目的が少しでも東坡肉を返してもらうことから喧嘩に完全に摩り替わってしまった。
「…勝負といわれましてもね。」
「な〜に簡単さ。こいつでケリをつける。あんたも腕に覚えがあるんだろ。その刀袋はお飾りじゃないだろうしな。」
ブン、と手にした六尺棒を一振りする。怪しい雲行きに何事かとギャラリーが集まり始めてきた。編入したての関羽に知る由はなかったが、階級章の強制剥奪権をかけた決闘・喧嘩は蒼天学園では日常茶飯事であった。
「翼徳、よしなって。玄徳が怒るよ。」
「うるさい憲和。文句言うくらいなら、お前の甘酒もう一杯よこせ。」
簡雍の文句も聞かず、有無を言わさずにもう一杯特製甘酒を注がせる。
関羽の鼻腔にぷ〜んと明らかに甘酒のそれと違う酒の香りが伝わった。張飛の思考が短絡的な理由が薄々分かる。
「酔っていますね…。」
びくっと脛に傷のある簡雍が反応する。
「酔う?甘酒で酔うやつなんているかよぉ〜」
呂律が少々回っていない。ぐびっと一気に飲み干して器を投げ捨てる。
“飲んだのが本当に‘甘酒’だったらね…。”
桃の木の下に転がった器を手に取ると、壁面に白い酒粕がこびりついている。そこまでは通常の甘酒であったが、ぷんと鼻腔にかなりきつくアルコールの匂いが伝わった。
“…やはり思ったとおりですか。いい加減な人間が知らずに偶然作っのたか、それとも手の込んだ悪戯だったかは分かりませんが…。”
甘酒の造り方は2通りある。
1) 米麹、ご飯、水を2:2:1の割合でまぜ55 ~ 60度で5時間ほど保って糖化してつくる。
2) 酒粕100 gに水1リットルの割合で水に溶かし砂糖と塩、生姜で味を調えて沸騰させつくる。
問題はこの2つめのほうである。
酒粕の含むアルコール濃度は8 %ぐらいのため、10分の1に薄めればアルコール濃度は1%未満になり酒税法上は「酒類」にはならない。
が、酒粕を使って作る元禄時代の焼酎は、酒粕を細かく砕いて水に漬け、これを温度を保って長期間発酵させて作っていたのである。‘92に再現された薩摩焼酎「辛蒸(からむし)」では7日間の発酵の後の一回目の蒸留で既にアルコール度数は20度あったという。
つまり、誰かが酒粕から甘酒を作ろうとして、水で溶いた溶液を数日くらいうっかりか確信犯かで寝かしておいて発酵させてしまい、それを煮詰めて外観は甘酒であるがその実、酒成分が充分高い濁り酒(どぶろく)を作ってしまったのである。一人暮らしの会社員が炊飯器にご飯を残していたのを忘れて長期出張から帰ってくると酒になっていたという話もあるが、もっとも湿度と温度が適度に(麹菌にとって適度ということで社会生活上はむしろだらしないほうに入るかもしれない)保たれていないとカビが生えてこうはならない。

酔っ払い相手にまともな会話は成り立たないと、無理やりつれてこられたと思しき簡雍と話をしようと思ったが既に近くにいない。見覚えのある赤毛がギャラリーの中へ紛れ込もうとするのが見えた。
“…逃げましたか…。”
当然の判断かもしれない。相手はかなり熱くなっている、衝突は避けがたい。無責任な野次や掛け声もギャラリーから飛んでくる。
「ここまで来て、逃げようって奴は学園にゃいないぜ。腹くくりな。…いくぜ!」
だが、ギャラリーはおろか張飛も知らないことだが、関羽も並大抵ではない。既に尋常でない修羅場をくぐっていた。この時期に編入したのも、とある事件を起こして県下の不良高校生を百人単位で病院送りにしたからである(参考:ぐっこ様“頭文字R”)。だが、そのような事件をまた起こすなど願い下げであった。
“腹をくくれ、ですか…。”
改めて張飛の得物を観察する。六尺棒のようであるが、三等分する位置に金輪が二つついている。それにスイングと風斬り音からただの木製とは思えないほどの重量があるのが分かる。
“六尺棒ではありませんね、あれは…。”
足捌きを駆使して迫り来る棍をさけつつ、刀袋の口紐を解いて模造刀を鞘ごと取り出す。
だが、まだ柄に右手はかけない。一度すっぱ抜いてしまうとただではすまなくなる。極力抜かずに済ませたい。左手で柄を、振った弾みで鞘走らないように右手で鞘の鍔元を握って構える。かわすのみで凌ぎぎれる相手ではない。杖のようにふるって対処しようとした。
“止むをえん!”
打撃のカウンターに柄で突きを入れ、左右の袈裟懸けを繰り出し、膝を払う。が、相手の反応は予想以上であった。棍棒を支点にして軟らかく上体を振ることで突きと斬りを外し、アクロバットのように開脚して飛び上がることで脛払いを避けたのである。当たりそうで当たらない。鞘ごと振っていた上に相手が避けに徹したとはいえ、同世代の人間にここまで完全に避けられたことはない。
“カンフー映画みたいな避け方をしてくれるとは…。”
また、攻撃をかわした張飛としても目を瞠ることであった。たいていの相手なら、少なくとも最後の開脚で飛んで避けるときに同時に棍を振りかぶり、相手の攻撃が空を切ったところを打ち降ろす余裕があったはずである。まだ相手を甘く見ていた分もあるが避けに徹せねばならないのは初めてである。
“やってくれるじゃねえか…、面白え!どっちが強えぇかとことんやってみっかぁ!”
血中のアドレナリンが(アルコールの助けを借りて)身体を駆け巡るのを感じる。
“…ちっとマジにいくぜ…。”

462 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:46
■ 邂逅 ■(11)

「喧嘩だ喧嘩だー!!」
ピーチガーデンを満たしていた長閑な雰囲気が破られた。
「張飛が新入り相手に喧嘩売ったんだって。」
「へえ〜相手もかわいそうに。秒殺?」
「それがまだ結構もってるらしいよ。見物らしいわ。」
災難を避けようとする生徒もいるが、野次馬に参加する生徒も多い。
良くも悪くも活気のある生徒がこの学園にはそろっている。もちろん、中には呆れたように、はぁ〜と長々とため息をついた生徒もいた。
「…翼徳のやつ、また羽目外しよったんかいな。性懲りもない話やなぁ…。」
赤パーカーを羽織った生徒は眼鏡のズレを直しながらぼやいた。
まあ、祭りや花見に喧嘩は付きもんやけどな、とつぶやくと、 
「どら、おおごとになる前に止めんとな。」
ホタホタと右手の張り扇で肩を叩きながら、喧騒轟く奥へ向かっていった。

真剣試合において精神的重圧は非常に大きい。剣道の試合においても気分をほぐすためコップ一杯ビールを引っ掛ける人がいるくらいである。まして生死とは言わないまで大怪我に発展しかねない野試合の場合のプレッシャーは想像に難くない。何も考えずに暴力を振るえる人間は真性の馬鹿かこれまで強い相手と当たったことがなくまた勝ったにしても大事に発展させるほどの力量もなくゲーム感覚で喧嘩をしてきた人間のみである。
さて、今の相手はアルコールのせいで判断力が甘くなり箍が外れてこのような暴挙に出たのは明らかだが、その実力のほどは関羽をして気を引き締めさせるものがある。
通常ならこのまま動き回らせてガンガンにニトロを燃やさせてエンジン加熱によるオーバーヒート(酔いつぶれ)、もしくは大惨事だがラジエータの逆噴射(バーストによる行動不能)を狙うところであるが、注入されたニトロがそれほど大量ではなかったようで適度に燃えているというところである。酔いの助けで身体能力のリミッターが外れ、威圧や痛覚に対しても鈍くなっているので、駆け引きを抜きにした単純な攻防能力では素面の時を上回っているであろう。頼みの綱は、ニトロが尽きるまで持たせるのみであろうが…。
“この相手に、抜かずにいつまでかわしきれるか…。”
模造刀の重心は杖のそれとは違うので、今の握りでは思うように扱いきれない。防御主体では限界が見えてきた。
「そらそらそらぁー!!何時までもよけてちゃ始まんねえぜぇ〜〜!!」
怒涛のラッシュが襲い掛かる。
“これほどとはッ!避けきれんッ!”
最大の危機に日ごろ鍛え上げた身体が無意識に反応した。瞬時に左手の握りを変え、腰を抜刀の位置に捻るや右手が翻る。白光が関羽の腰間から張飛目掛けてほとばしった。
ギャリンッ!
鈍い金属音が響く。間髪をいれず、両者は即座に飛び下がって間合いを開けた。抜き放たれた白刃が関羽の右手で光芒を放つ。
“…やってしまったか…。”
緊張に引き締まった張飛と違い、関羽は少し苦虫を噛み潰したような苦渋の表情を作っていた。それが次の瞬間には拭い取ったかのように表から消えた。
一度抜刀してしまうと却って開き直れたようである。動揺していた気持ちが落ち着き、目の前の人物をはっきり“打ち倒さねば止められない相手”と認識できた。
切れ長の目がきゅっと細くなる。
張飛のほうでも相手の雰囲気が変わったのは判った。これまでは感じられた動揺・躊躇いがなくなっている。それに先ほどの横薙ぎの一閃。とっさに柄の中ほどで受けたのだが打点を外したつもりが間に合わなかったようで、受けたと思われる場所に切れ込みが走り、その奥の隙間がキラリと日を受けて光るのが見えた。棒をしごいて構えを左右に変えると見せて回転させ、相手に切れ目が見えないようにし、棒の金輪部分を両の手の内に納めるように握りなおす。
酔っているとはいえ緊張からか、無意識にペロリと舌で乾いた唇を湿らせていた。いや舌なめずりかもしれなかった。
“…やっとマジになったってとこか。この張飛様をビビらせるたぁ、やるじゃねえか。だがな、まだこっちには奥の手がある。実戦にこれを使おうと思わせたのはあんたが最初だよ…。リーチの差とこの奥の手、あんたに凌ぎきれるかぃ?”

463 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:47
■ 邂逅 ■(12)

関羽は抜きつけの一閃後右手で刀を相手に擬したまま、張飛は構えの左右を変えたまま、間合いを空け、互いの隙を窺うかの様に回り始めた。対峙するその意識下で、彼我の状況の観察が続けられる。
関羽の模造刀は“超薄刃仕立て”というが本身ではない。遠めには真剣に見えるが焼入れのできない特殊合金製で、普通の模造刀なら刃の代わりに平面のでている部分が鋭角になっているものである。とはいえ、関羽ほどの達者なら刃筋が狂わず手の内がしまっておれば棍棒ぐらいは両断できる。その刀身の“物打ち”(切っ先から10 cm位までの刃部)が1cmほどにわたってわずかではあるが潰れて捲れ上がっている。
“…先程の音と手ごたえ、妙な位置に二つある金輪、そして捲れたこの刃。あの棍、やはり疑ったとおりか…。”
関羽は視線を相手から外さず右手で刀を擬したまま、左手で器用にベルトに鞘を挿すと、両手に刀を構え直した。

本来、刀を腰に帯びない状態から抜刀した場合は、諸手で剣を振るうことができないため、即座に鞘を捨てるのが普通である。巌流島の戦いで浅瀬に鞘を捨てた佐々木小次郎を宮本武蔵が“小次郎敗れたり、勝つ者が何で鞘を捨てようか。”と喝破したのは有名である。しかし、これは佐々木小次郎が “物干し竿”の刀身(3尺1寸5分=96 cmと1mない。だが、江戸初期の常寸とされた2尺4寸= 72 cmに比べれば圧倒的に長い)と“燕返し”(佐々木小次郎の流派・巌流では虎切あるいは虎切刀というのが正式名称。振り下ろしの一刀で相手の動きを牽制し、返す刀を振り上げて仕留める二拍子の技)を生かして、海から来た武蔵を足場の効かない浅瀬で仕留めようとしたのを、それを読んだ武蔵がまだ足場の効く波打ち際まで上がる時間を稼ぐために放った揶揄である。長い鞘なので身に帯びるのは邪魔になる。鞘に砂が入ると刀を納めるときに刃を痛めるので海中に捨てるのが乾かすのに要する時間を除けばベストである。けれども既に2時間以上待たされて精神力を消耗していた小次郎はこの揶揄に引っかかってしまった訳であるが。

ひゅんひゅんと唸りをあげて面上と膝に六尺棒の両端がマシンガンのごとく連続で襲い掛かる。関羽は間合いをぎりぎりに開けてこれをかわし、引き戻したところをピタリと張飛の六尺棒に剣先を貼り付けた。押し付け、圧力を加えることで張飛が思うように六尺棒を振るのを妨げる。少々振ったくらいで外れず、強引に振り払おうと張飛が足場を固めて一瞬、動きを止める。関羽はその隙をついて剣先を棒に沿って滑らせ、間合いを一気に詰めてきた。“橋掛かる攻め”である。
長物に剣先を付け、そこを支点にして力を加える(=橋掛ける)ことで長物の動きの自由を奪い、付け入って間合いをつめる。香取神道流では対長物の定石である。だが、張飛の方に動揺は無かった。純粋な長物ならこれは大ピンチだが、あいにくこの得物では一発逆転の対応策がある。足場を固めたのも有効に効く。
“いまだ!!”
両の掌に包み込んだ金輪を素早く緩め、六尺棒を一瞬にして三節棍に変える。先ほどの関羽の斬撃で生じた金属音は模造刀の刃が三節棍を繋いでいた鎖に切り込んだものだったのである。驚いたことに焼入れした刃がついていない模造刀とはいえ、関羽の一撃は棍の木製部を切り裂き、鎖にわずかながらも切れ込みを入れていた。だが、攻撃に支障はない。
固い足場を生かして腰を捻り、勢いよく振り出した。圧力を急に逃がされて、橋架けていた剣先が外れる。それだけではない。関羽の側からは死角になる張飛の背面から、反動で三節棍のもう一方の先端が飛んできた。
“もらった!”
だが、相手も然る者。とっさに歩をとめ、強靭な手首を利して、棟で打ち落とす。
ガシン!!
体の左に張飛の攻撃を捻り落とし、次の連続攻撃が来る前に飛び下がって間合いを開けた。

剣術の攻防において、最善は相手の打撃を受けずにかわして切り込むことである。かわしきれず受けざるを得ないときはまず棟で弾き、次善が刃で受けることである。流派によっては頭上に横たえた刀の鎬で受けカウンターで突きを入れる技もあるが、刀の側面である鎬は刀の弱点であるので、極力鎬で相手の打撃を受けないに越したことはない。
また、実戦においてはまったく見たこともない太刀筋、嵌め手を持っている剣士が存在しうる。現代剣道と違い、剣先が掠っただけで命獲りになりかねない武者修行をしていた武芸者達は、どうしても体捌きでかわしきれないときには、手首の捻りで相手の攻撃を棟で左右に払い落とし、身に掠らせもしない技術を身に付けていた。

“けっ、不発か。まぁ、あんだけ良い反応じゃしゃぁないか。だが、これで攻撃力はさっきより増えるぜぇ。”
ひゅんひゅんとヌンチャクのように一方の端を持って握りを左右変えつつ右肩、左肩そして腰周りを回して周囲をなぎ払う型を示して、威勢を振るう。最後に開いた左手を前に突き出して、バンッと型を決めたときにはギャラリーから畏怖のどよめきすらたった。
リーチの差を抜きにしてもその遠心力から来る打撃力、速度。そして真ん中の節で受ければ先端が襲い掛かり、先端で受ければ真ん中と手元の節での打撃をうけるという構造を持つ三節棍は、一刀での対処はきわめて難しい。間合いを十二分に空けて完全にかわすか、届くぎりぎりの間合いで先端の節を外せば防ぐこと自体は可能だが、これでは防戦一方である。リーチの差のため、一撃をかわして飛び込むのも難しく、張飛もそれは当然のこととして折込済みである。
だが、関羽は中段正眼に構えたまま、表情・様子は変わらない。
むしろ、予定どおりという雰囲気ですらある。
この連結式三節棍、六尺棒を格闘中に三節棍にするのはたやすいが、三節棍を六尺棒に瞬時に戻すのはほぼ不可能である。早めに奥の手と思われる三節棍での不意打ちをつぶして勝負を挑むのを選択したのである。
“その余裕…、気にいらねぇなぁ…。まあいい、化けの皮剥いでやる!”
掛け声とともに、中央の節と末節を握って間合いを変化させつつ左右の連打を頭部、胴、そして膝へ繰り出す。関羽は短い間合いを見切って足捌きでかわし、踏み込もうとするが張飛もすかさず引き戻しながら動いて間合いを開け、長い間合いでの打撃を踏み込んできた関羽へ繰り出す。踏み込む呼吸に合わされ、今度は足捌きではかわしきれず、棟で先端を弾いて払い落とした。三度、両雄は矛を交えたが、互いに付け込む隙はやすやすとは見出せそうになかった。

464 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:47
■  邂逅 ■(13)

生徒集団間の勢力争いが絶えなかった蒼天学園において、戦略や謀略のみならず、戦闘に直接関係する武道や格闘技、戦闘術に秀でた生徒はどの時期においても数多く出現した。後代からそれを振り返って、所詮“見てきたような嘘を言い”の域を超えはしないものの “最強コンテスト”なる私選の番付をするものは多い。その上位陣の常連となる面々はいずれも大規模な騒乱が起こった時期の学生に集中しているのも当然であろう。
後に陳寿著の学園史“学園三国志”で扱われる時期もよく取り上げられる年代であり、 人外の範疇に入りそうな常識はずれの豪勇を示すエピソードを持つ人物が数多く存在した。そういったいずれ劣らぬ猛者の中でも、こと剣技とその駆け引きにおいては関羽が一目置かれていたらしいことは次の言い回しが残されたことで明らかであろう。
“関公面前要大刀” ― 関羽の前で刀を振るう = 身の程知らず
当時の張飛では知る由もなかったが、関羽はその豊富な鍛錬・実戦経験を元に布石をしいてチャンスを待っていたのである。これまでの打ち合いで手の内をそれほど見せず、足捌きか棟での打ち落としで対処していたのも駆け引きであった。

「せやぁ!!」
数度の打ち合いの後、改めて繰り出した張飛の三節棍が関羽の右膝を薙ぐように襲い掛かるが、なんと片足立ちで膝を折り曲げ回避してきた。その足を下ろす動作に合わせた踏み込みで、大技・右片手打ちが得物の間合いの差を埋めて張飛の右側頭部を狙ってすっと伸びてきた。実際、対薙刀対策として古流には膝を狙ったときに狙われた前膝を折り曲げてすかしたところを切り込む手がある。
“これがその余裕かぃ!だが甘いんだよ!!”
空ぶった引き戻しに恐ろしく呼吸を合わせてきたが、余人ならいざ知らず張飛なら対応できなくはない。それが長物と刀の埋めようのないリーチ差からくる余裕だ。それよりこれで胴ががら空きになった。カウンターへのカウンター、ダブルクロスカウンター狙いだ。
“もらったぜ!!”
中央部を右手一本で握り、関羽の攻撃をかがんで避ける勢いで三節棍のもう一端を関羽の右胴へ振り込んだ。これを喰らえば如何に強靭な身体の落ち主であろうと耐えられまい。
ガシッッ!!
張飛の目に映ったのは、会心の一撃が、抜き打たれた左手の鞘で絡めとられている様だった。右片手打ちは三節棍を絡めとるための見せ業だったのである。二刀の心得もある関羽ならではの伏せ技であった。
“がぁっ、なにっ?!”
がしゃんと音を立てて、絡みついた三節棍とともに鞘が張飛目掛けてたたきつけられた。思わず左手で攻撃を受ける。視野がふさがって、一瞬ではあるが関羽自身からは注意が逸れた。即座に注意を引き戻したが、目の前に相手の姿はなく、長い黒髪がぶわっと尾を引いてたなびくのが映った、その先は…がら空きの左!
“本命は左か!!”
模造刀を諸手に振りかぶり、これまでと比較にならない鋭さで風を巻いて袈裟懸けに切り込んできた。
“いけねぇっ、やられる…”
模造刀とはいえ、相手は棍の木製部を切り裂き、鋼の鎖に切れ込みを残したほどの手慣れである。その刃が如何に鍛えたとはいえ人体に当たればどうなるか…。生命の危機に本能が反応して、全身の血が引き背筋に冷たいものが流れ、アルコールとこれまでの剣戟で高揚した気分が一瞬にして冷めた。切り込んでくる相手の鋭い視線がそれに拍車を掛ける。
“ちくしょう、動きがやたらスローモーションに見えやがるぜ…。”
が、こちらの体は指一本動かない。アドレナリンのせいで時が止まったように感じるだけだ。心臓の鼓動がやけに大きく響く…。
どくん
「その喧嘩っ、うちが預かったぁ〜〜!!」
一瞬後、張飛の視界は赤いもので遮られた。



どくん
予期した衝撃はなく、静寂は心臓の鼓動で破られた。一瞬恐怖のあまり意識が飛んだようであった。
“オレ、助かったのか…?!”
赤いのは血でなく、関羽と張飛の間に飛び込んできた人物のパーカーの色であった。
張飛に振りおろされるはずの模造刀は二人の間に飛び込んできた眼鏡の女生徒の眼前でぴたりと静止していた。
「…全く、無茶をする御仁ですね…。」
呆れとも叱責ともつかぬ言とともに関羽は刀を引いた。あまりのことに正直毒気を抜かれたのである。張飛の方も戦闘継続の意欲を失っているようであった。人騒がせな方法ではあるが、取り敢えずの水入りはなった。だが、これからの展開は予想もできない。流れは鉄砲玉のように飛び込んできたこの人物が握っていた。

465 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:48
■ 邂逅 ■(14)

「こらっ、翼徳!あれほど他人様にその道具むけたらあかんてゆぅたやないかぁ!!」
赤パーカーの生徒からは、先ほどまで続いていた剣戟に負けないほどの叱責の声が上がっていた。伴奏にスパコーン、スパコーンといっそ気持ちがいいまでに張り扇の乱れ打ちが続く。打たれるほうの相手もこれまでの勢いはどこへ行ったのか、両膝を折って、頭を守るかのように合わせた両手を持ち上げて平謝りの体勢に入っている。先ほどの瞬間にアルコールが全て飛んでしまったようである。
「うぅっ、姉貴ィ〜〜、相手が歯ごたえありそうだったんでつい熱くなっちまったんだよぅ〜!ごめんよう〜〜。」
どうやらこの眼鏡の人物が、簡雍の言う“うちの大将”らしい。
「皆さん、お騒がせしてすんませんでしたなぁ。さぁさぁ、見世物はお開きでっせぇ。」
どうやらこの人物はこのあたりでかなりの顔役らしい。ギャラリーにもこの人物の素性は知れ渡っているようで、口々に勝手な感想は言っているものの素直に場を離れていった。
血の雨が降るか、という状況を強引ではあったがあっさりかたを付けてしまったのだ。
“…たいした御仁のようですね。”
これで事は済んだもの、と鞘と刀袋を拾い模造刀を納め、甘酒の瓶と大皿の東坡肉は迷惑料に残してこの場を離れようとした。が、そうは行かなかった。
「そこのお人。すんませんなぁ、ウチのアホがご迷惑おかけしたようで。うちは新高1の劉備っちゅうけちな同人屋ですわ。親しいのは玄徳って呼んでくれますけど。こいつ、翼徳の姉貴分やってますんや。」
いかにもお気楽そうだが、いったんつかんだら離しそうに無い。なかなかの曲者だ。巧みにペースに乗せられそうである。
「大事に至らずにまとめられたのはお見事ですが、少々危険でしたよ。」
「いやなぁ〜、最初はちょっとやばいかって思うたけど、結局あんさん棟返したやないですか。それなら痛いで済むし。」
“!…この御仁、傍から見ていたとはいえ私が棟を返すのを見て取ったのか…。”

“棟打ち”というのは時代劇のように相手の見ているところで棟を返して打つことを言うのではない。真剣で切ると見せて振りかぶった一瞬で相手に判らないように握りを変えて切り下ろすのである。相手は棟で打たれた衝撃を真剣で切られたものと勘違いして戦意を喪失もしくは失神するのである。同様に、時代劇における剣術の誤用例として、握りを変えたときにチャッと音が入る“鍔鳴り”がある。効果音としては格好がいいが、実際のところ、鍔の上下を切羽という矩形の金具(切羽詰まるの語源)で挟みつけ、これを柄できっちり押さえて目釘という芯で刀身に固定する日本刀の構造から考えると、“鍔鳴り”がするというのは切羽が緩々になっていて手入れの悪い刀(酷いときは振ったときにガタついた振動で目釘が抜け落ちて刀身が柄からすっぽ抜ける)のことを示すものなので、実は非常に恥ずかしいことである。また“鍔鳴り”がするようだと手入れ云々を抜きに相手に握りを変えたことを悟らせる可能性があるので関羽の模造刀ではそのようなことがないように手入れはしてある。

関羽の選択は“棟打ちで張飛を当て落とす”ことであり、当然、当事者である張飛には棟を返したのは悟らせなかった。闘争の場では相手は一人とは限らないので棟を返すのは一瞬であるし、またすぐに元へ戻す。棟打ちによる無力化は時代劇ほど単純なものではない。張飛の横へ回り込んだ一瞬で握りを変えたので、岡目八目とはいえ、見物していた者でもそれを見て取れたものはいないはずである。それに刃を止めたときも、そのとき刃がどちらを向いていたかは正面にいたこの女生徒にはわからない。第一、これまでの剣戟の激しさから考えると、寸止めになると予想した見物人はほとんどいないため、剣が止まったことにのみ気がいったはずである。関羽自身がすぐ刀をひいて元の握りに戻したこともあり、そのとき刃がどちらを向いていたかは後でゆっくり思い返してもわかるかどうかは不明である。
となると、この女生徒は関羽が勝負どころで多分棟を返すと思って刀身を注視していたことになる。
「こら翼徳!どうせあんたが先に手ぇ出したんやろ!途中から見てたら、このお人、どうやら、極力あんたを痛めつけんようにことを納めようとしてたようやないかぁ!!」
お見通しである。関羽のほうを向いて続ける。
「…それに翼徳相手にして棟返すような優しいお人やったらうちが飛び込んでも多分寸止めくらいはしてくれるやろ思いましたしなぁ。」
あけっぴろげな人物ではあるが、そこまで自分の観察眼を信じられるものなのであろうか。それに、
“…私が、優しい…。”
面と向かって言われると面映いものである。関羽自身の持つ超然とした雰囲気もあいまって、ほとんどの相手は相対する際には良いにつけ悪いにつけ何らかのフィルターがかかっていた。このようなストレートな対応に関羽は弱いところがある。
「…だからといって、私が刃を止めるとは限りませんでしたよ。」
「でもあんさんは止めれたし実際止めてくれはった。それならええやないですか。」
裏表のないカラッとした笑顔でそういわれると反論に困る。こちらの弱いところというかツボを無意識であろうがついてくる。だが、それに付け込むという風もない。
ええでっか、とばかりに指を立てて、二カッと笑って続ける。
「なぁあんさん、“付き合い”ちゅうんはな、ウチの思うところ、心と心の“ドツキあい”ですねん。真剣になればなるほど相手の本音っちゅうか本質が見えてきますわ。ウチはけちな同人屋ですけど、そこらへんはちっとは分かってるつもりですわ。簡単に手ぇ出すようなこいつみたいな奴はまだ心が弱い。まぁ強い人はなかなか手は出さへんけど出すときは凄いんですけどな。あんさんは強いし優しいお人や。それは一件見てただけでもよう判りましたわ。」
不思議な人物である。こちらの心を意図せずに開かせるような懐の広さを感じる。争闘の直後ということで、張り詰めていた神経がほぐされるのを感じる。思わず表情が緩んだ。
それを見て、“おっ、笑いはった”と当人も嬉しそうに微笑んで、予期せぬ、いや内心期待していたかもしれない言葉を口にした。
「なぁ、あんさんお一人でっか?よかったら喧嘩の詫びというのもなんやけど、うちらと一緒に花見の続きでもやりまへんか?」
「…よろしいのですか?」
「折角ここまで足運んでもらいましたのに、このアホとの喧嘩でわやになったままお返しするのは気がひけますしなぁ。それに“袖摺りあうも多少の縁”言いますやろ。そうそう、あんさんのお名前聞いてへんかったなぁ、お聞かせ願えませんやろか?」
「…誠に失礼しました。申し遅れましたが、私、関羽と申します。皆は雲長と呼びます。」

466 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:49
■ 邂逅 ■(15)

関羽としては最初はごたごたが済めばこれ以上関わるつもりはなかった。だから無礼を承知で仲裁にたったこの人物に名を告げるつもりは無かったのであるが、この人物との縁をこれで終わらせるのも惜しい気がした。この人となら蒼天学園でやっていけると感じた瞬間かも知れなかった。それに一見して乱暴者の張飛がこの劉備の妹分であるあたり、張飛自身もこの劉備と共感しあうものがあるのだろう。この姉貴分のために手間暇かけて美味い東坡肉を作ったあたり、ただの喧嘩屋ではない。
関羽は東坡肉の大皿を取り上げ、劉備と張飛のほうへ差し出した。
「….お受けください、迷惑料です。」
「…いや、それは姐さんがとったもんで…。」
劉備に東坡肉を振舞って喜ぶ顔を見れないのは残念である。しかし、落ち着いて考えれば、事情はともあれ自分は景品にすることを承諾したのである。騒動を劉備に預かってもらったこともある。こだわってこれ以上姉貴分に迷惑をかけるわけにはいかない。
だが…、
「ここまで手塩にかけたものを、おいそれといただくわけには参りません。」
背景を知り、劉備が気に入ってしまった以上、景品としてとったとはいえ、関羽としても黙って受け取るわけにも行かない。
このままでは意地の張り合いでまた押し問答になりそうであった。
膠着しかけたところ、救いの手が文字通り伸ばされた。
関羽の持った皿に劉備の手がすっと伸ばされて、東坡肉を一切れ摘み上げる。二人が反応するまもなくむしゃむしゃと頬張った。ほうっ、見張った目がとくりくりと愛嬌たっぷりに眼鏡の奥で動いた。
「翼徳、腕上げたやないか。美味いでぇ。」
張飛が状況を飲み込めないうちに畳み掛ける。
「昨日からじっくり煮込んでくれててんやろ、ごっつう嬉しいわぁ。おーきになぁ。」
関羽もまた劉備の意図を読んで動いた。
「ええ、私も美味しくいただきました。もう少しいただくことにしましょうか。…絶品ですよ。」
自分もまた一切れ口にし、張飛に微笑みかける。
流石に張飛にも分かった。再び収拾が着かなくなりそうなところを劉備が収め、そして関羽が折れてくれたと。二人が自分を許してくれたと。
ぶわっと両の眼に光るものが溢れる。
「姉貴、ごめんな…。…姐さん、ありがと…。」
「こらこら、なに泣いとんねん。あんたも食べえや。美味いもんはみんなで分け合う、そうすりゃもっと美味くなるってもんや。なぁ、関羽さん。あんさんもそう思うでっしゃろ。」
「ええ、そうですね。甘酒もまだ大分残っておりますし、いかがです。」
「ほう、こりゃええですなぁ。ちょっとした宴ですなぁ。翼徳、あんたもお流れ頂戴しぃや。」
「う、うん。姐さん、ごめんな、ホントに…。」
先ほどまでいきり立っていた張飛が今はやけにしおらしく関羽の杯を受けているのがなんとなく微笑ましい。
「関羽さんか…。なんか呼びづらいなぁ、“関さん”で構いませんやろか?年上の人には無礼かも知れまへんけど…。」
「いえ、お構いなく。私も貴女方と同じく新高1ですから…。」
「え゛っ、そうなんや…。」
流石の劉備もこのときだけは絶句したという…。
誕生日は劉備が関羽より一ヶ月早く、関羽は張飛より4ヶ月ほど早かった。
以後新学期までの2,3ヶ月で、彼女ら3名の縁は深まり、いつしか劉備を長姉、関羽を次姉、張飛を末妹とした“ピーチガーデン3姉妹”として知られることになる。

****************************************

「…で、そのときの桃の花見をとった写真がこれってわけよ。私が昔っから歴史の観察者だってことがよく分かったぁ?こんなお宝画像撮ってたんだから。」
「…ええ、よく分かったわ。昔っから騒動の根源はあんただったって。張飛さんのそもそもの暴走の原因があんたの都合と酒にあって、起こした騒動が手がつけられないほど大きくなったことに慌てて、関羽さんと部長が沈静化させるまで逃げて部外者の顔してたから結局“3姉妹”に入れなかったってことが。」
表では如何に喧伝された歴史でも、その裏側など所詮こんなものなのかもしれない。
「うぅ〜、孝直ちゃん、お姉さんは悲しいよぉ〜。こんなひねた娘になっちゃってぇ〜。」
「多少ひねてるのは昔から。それに自業自得も少しは入ってるんじゃないの?大体、撮ったときはあの3人があれほどビッグネームになるなんていくら憲和でも夢にも思わなかったことはこの写真の存在自体忘れて保存が悪くてネガも処分していたことが何よりの証拠じゃない!!」
現在、この写真の焼き増しを持っている可能性があるのは当事者の3姉妹のみである。当然、非売品である。
「…いや、まだ遅くない最後の大もうけにはまだ…。」
「お生憎様。私たち階級章返却したから課外活動行為は退学処分よ。」
「…そうね、最期くらい後輩に土産やっとくか….。」
翌日、色褪せたこの写真は小さな額に入れられて帰宅部連合写真部の壁に歴史の瞬間として掛けられた。後、帰宅部連合が解体されたとき、その直後の騒乱で行方不明になったとの話があるが、司州校区洛陽棟の蒼天学園記念館の倉庫の片隅に眠っているという説もある。

467 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:55
岡本です。全15回と意味も無くやたら長い作品で申し訳ありません。
一気に読むと疲れますので、ごゆっくりお読みください。
日本にいる間に完成させるつもりでしたが、今日になりました。

元ネタは桃園結義ですが、
関羽関係は民間伝承から引っ張ってきたネタが多いです。

断っておきますが、一応中国版の三国志演義連環画を読んで、演義では
どの武将がどの武器を使用しているか大体把握しています。
ただ、そのものずばりは面白くないという理由で、学三に起こす際には
イメージに合う武器やスポーツ・格闘技に置き換えています。
関羽が香取神道流というのはあくまで学三(もっと言ってしまえば、勝手な私設定)限定です。

468 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/23(金) 00:17
>>449
国重高暁さま、グッジョブ!曹操と陳登でしたか…
なるほど、タイトルの意味がわかりましたわ(^_^;)
虎にせよ鷹にせよ、呂布の存在をよくよく表しているワードですものねえ…
誰からも、飼い慣らす、という発想を得られなかったのが呂布の不幸か。
それにしてもスール制度か〜…ホント、結婚の類ってどうしたものでしょうかねえ。
「義姉妹の誓い」ってのはちゃんとありますし…


>>452-467
相変わらず凄いボリュームですね、岡本様(^_^;)
これほどまでの長さになると、しょーとれんじではなく立派な長編ですので、
メールで頂ければありがたいです…

さて、何度かに分けて読もうかと思いましたが、一気に読めました♪
ピーチガーデンの誓いの岡本版真相ですにゃ( ̄ー ̄)
随所ににやりとする民間伝承ネタあり! なるほど、劉備は通りがかった仲裁
ではなく、最初から張飛の悪徳商法のグルで…。簡雍が何故義姉妹から外れてる
かという謎も解決〜
廖化になる前の惇さんもいいなあ…

469 名前:那御:2004/04/25(日) 14:29
>国重高暁さま
結婚に関しては、これもまたちゃんと確定しておきたい事柄ですね。
だんだんと最期へと近づく呂布を見事に描いていますね。
「接着剤」、切れ者陳登のキツイ一言が、引導を渡すか・・・

>岡本さま
う〜む、膨大な知識に裏打ちされた大作!
毎度お馴染み武道ネタから、今回は料理ネタにまで、本当に知識が幅広い・・・
民間伝承も盛り込まれて、いやぁ楽しめました。

廖惇がイイのは私もですがw

470 名前:岡本:2004/04/25(日) 16:12
〜 移ろい行くもの、受け継がれるもの 〜

学園三国志の舞台となった時期は、まさに激動の時期であった。学園運営活動に対する価値観や行動理念が学年ごとにくっきりと色濃く分かれ、主たる統治形態に固定概念など存在せず、時流に流されるがごとく、様変わりしていった。
末期の連合生徒会で声望があったのは、双璧といわれた皇甫嵩に朱儁、気骨の文官・盧植、北方の監視者・丁原。政務では千里の駒といわれた王佐の才・王允、カムロと実務の調整役として重きをなした袁隗。やり方に違いはあったとはいえ、彼女らは当時の連合生徒会を支える屋台骨であったはずである。が、如何に個人として優れていようと、その人物の価値観を取り巻く情勢や時の流れが許さない場合、表舞台から駆逐され退場せざるを得ないのが歴史というものであろう。彼女らが学園、蒼天会や生徒会にかけた思いにも関わらず、黄巾事件や菫卓の専横に示されるように、既に連合生徒会には自力で学園を統率するだけの能力を失っていた。それが各校区の総代・生徒会会長や地区長の独立を呼び起こし、群雄割拠の事態を招いたともいえる。結果、彼女らは連合生徒会と象徴たる蒼天会の権威失墜を回復することかなわず、学園の表舞台から不遇のままに消え去ることとなった。

彼女らにとって変わって、群雄割拠の時節に学園の表舞台に上がったのは、袁紹・袁術姉妹や公孫瓉に代表される世代である。彼女らは蒼天会や連合生徒会の無力さを肌で感じて中央から脱却した経緯を持つ。それぞれ、基盤としたものは各地に連綿と受け継がれた名声であったり辺境守備戦の実績であったりしたが、蒼天会に依存しない実力を背景に独自の秩序だてを模索していた。一面、実力が物を言う時節に突入したわけであるが、力のみで泳ぎきれるほど甘くも無かった。公孫瓉は白馬義従と呼ばれ恐れられた当時随一の機動戦力を有していたものの、劉虞を問答無用で飛ばしたことなどで政治的な失敗が重なって諸勢力からそっぽを向かれ、結局は袁紹との政治力や統治能力、声望も含めた総力戦で敗れ去った。袁術は、袁家の権威のみでは求心力には決定的にかけるということに気づかず、地道に自勢力の運営を行って地力を付けることを怠り、諸勢力間の叩きあいで勢力を減退させ、退場することになった。

残った北方の巨人・袁紹は最大勢力となり無敵と思われた。だが、彼女ですら、時流を読み、波に乗った姦雄・曹操の前に激闘の末、敗れた。曹操は、最初は袁紹の下働きから始まったものの、学園の混迷がいまだ深い中、勢力間の権力闘争に参加することで徐々に力を蓄えた。どの勢力も、万人の総意として蒼天学園全体に対し自己の権威を確固たる物と認めさせる根拠は薄弱であった。その点を見据えて、蓄えた実力だけをあてにするのでなく、流浪していた蒼天会会長・劉協を擁立して権威面での補強を行い、のし上がっていったのが曹操というわけである。
強大な群雄がサバイバルレースから脱落した中、リタイア必至と見られながらも、今なお駆け続けている弱小勢力の主がいる。劉備、あだ名は玄徳。
盧植門下生であり、公孫瓉の後輩でもある。が、彼女の行動理念や価値観は、この2人とは全く違っていた。それが全てとは言わないが、生き残った原因のひとつであることは間違いあるまい。
「うちはうちや。蒼天学園や連合生徒会についての考え方や価値観もまるで違うしな。第一、盧植先生や伯珪先輩自身が、そんなことは望んでへんかったやろし。」

だが、変化の渦中においても連綿と受け継がれるものはあった。学園生活にかける思い、熱意である。
“おまえの思うようにやれ。だけど最後くらい、先輩面はさせろ。”
徐州校区生徒会会長・陶謙の厄介になると決めて、公孫瓉の元から離れることを決意し別れの挨拶に赴いたとき、公孫瓉はそういって、身に付けていたクロスタイを外して劉備に渡したものだった。丁度、公孫瓉と劉備の活動方針や考え方にすれ違いが見え始めていたころだった。袂を分かつことを劉備が必要以上に気に病まないように、せめてさっぱりと送り出してやりたいという、妹分に対する気遣いだったのだろう。己の信念を胸に駆けようとしている者同士だからこそ理解できる相似と相違。
「正しいか正しくないか、時節に合ってたか合ってなかったかは別にして、一所懸命、自分の信じるものを貫こうと頑張った人らがこの蒼天学園にはいた。それだけは忘れとうないし、そういう気持ちは後輩のうちらが引き継いでいかないかんことやと思うんや。」
盧植、公孫瓉、陶謙、袁紹、劉表。
劉備がこれまで厄介になった先輩達である。

劉備は、引退したり中道で果てたりした彼女らの思いを受け継ぐかのように、彼女らに由来するものをその都度身に付けていた。盧植からは張り扇。公孫瓉からはクロスタイを。そして、陶謙、袁紹、劉表からは新しくあつらえて貰った伊達眼鏡、総帥旗の旗竿に赤パーカーを。
それらを身に付けていると、苦難をものともせず学園生活を精一杯に駆け抜けた彼女らの思いが感じられる。それが劉備の力になる。
過去となってしまった人物だけではない。劉備と共に歩み続けてきた者達。自身の未来を劉備に預けようと集ってくる者達。
彼女らと思いと共に、玄徳は学園を駆ける。

帰宅部連合の門出のこの日。
指示を仰がんとする面々を前に、届いたばかりの帰宅部連合総帥旗を担いで号令をかける。
「皆の衆、ほな行こか!」
数多の先人たちの思いをはらんだかのように、帰宅部連合総帥旗が“宅”の緑字も鮮やかに蒼天に翻った。

471 名前:はるら:2004/04/25(日) 16:52
>>470
アサハルさまのイラストを見事活用しきって・・・
岡本さまお見事です^^
個人的には、伯珪姐さんの、
>“おまえの思うようにやれ。だけど最後くらい、先輩面はさせろ。”
が、かなりかっこよかったです^^

472 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/26(月) 00:35
(゚∀゚)! 確かにカコイイ! 
公孫瓉先輩、ホントにキャラとしてはつかみづらいところがありますが、
それでも盧植先生の「後輩」で、劉備の「先輩」でいたかったのですよね…
一代で駆け抜けた曹操と違い、劉備は多くの人の夢やら何やらのリレーを
引き継いでいたのですな(´Д⊂

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