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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

409 名前:★玉川雄一:2004/01/12(月) 17:33
くっ… この勝負、やはりコブシでつけねばなるまい!
ジャンケンのことだが。


               -― ̄ ̄ ` ―--  _          
          , ´  ......... . .   ,   ~  ̄" ー _
        _/...........::::::::::::::::: : : :/ ,r:::::::::::.:::::::::.:: :::.........` 、
       , ´ : ::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::::: : ,ヘ ::::::::::::::::::::::: : ヽ
    ,/:::;;;;;;;| : ::::::::::::::::::::::::::::::/ /::::::::::::::::::: ● ::::::::::::::::: : : :,/ ←敗れ去った>>408
   と,-‐ ´ ̄: ::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::r(:::::::::`'::::::::::::::::::::::く
  (´__  : : :;;:::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::`(::::::::: ,ヘ:::::::::::::::::::::: ヽ
       ̄ ̄`ヾ_::::::::::::::::::::::し ::::::::::::::::::::::: : ●::::::::::::::::::::::: : : :_>
          ,_  \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: `' __:::::::::-‐ ´
        (__  ̄~" __ , --‐一~ ̄ ̄ ̄


>>406
丁原のメールがソレっぽくてカワイイ!
耿雍(旧姓)も昔ッから手広くやってたもんですねえ。でも地元の方なのか。
丁原と丘力居、互いにキャラは異なるけど
どちらも素直になれないもどかしさが堪らんですたい。

410 名前:7th:2004/01/12(月) 18:42
>教授様
教授様の書かれる簡雍と法正はやっぱ良いですわ。
そういえば祭りの発端のSSを書かれたのも教授様でしたしね。

ぬう、>>402が欲しくば儂を倒してから征けぃ!(速攻でやられそうだが)

>雪月華様
確かにあの4人の中で一番男と接触する機会があるのは丁原ですよね。
殴り合いから生まれる恋心…丁原らしいですね。
あと簡雍、アンタはそんなトコにまで進出しとったんかい!

記念日のSS書いてて大ポカ発見しました。
『旭記念日』のSSじゃねぇ!…どーしましょう?

411 名前:那御:2004/01/12(月) 21:41
>>406
雪月華様グッジョブです!
併州校区で繰り広げられる、素朴過ぎる恋物語。
本心を言わずしての別れ・・・切ないですね、丁原。。

412 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:50
よし!こっちでも祭りだ!
いくぞ!!

413 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:52
「か〜ん〜よ〜う〜、あんたもうちょっとシャキッとしなさいよ!」
「………何で?」
だらしなくテーブルに突っ伏していた簡雍に法正が抗議の声をあげる。
髪はくしゃくしゃになり、服はヨレヨレ。おまけにテーブルの周りには酒瓶が何本か転がっている。
「んも〜、よく見れば素は悪くないんだからもっとこう……」
「へいへい…」
法正が説教をたれ、簡雍が生返事をする。彼女たちにとってはごくありふれた光景である。
「う〜ん、そうよね。素は悪くない、そうなのよ、うん。」
「もしも〜し」
何やら自分の発言に思うところを見つけた法正。既にインナーワールドへとトリップし始めている。
「そうよ、もっとしっかり着飾らせればいい感じになるわね」
「…孝直?」
「先ずはその安っぽい髪留めを外して、そんでもって服を………」
「…いや〜な予感が…」
本能的に身の危険を感じてその場を逃げ出そうとする簡雍。誰だって自分の身は可愛い。
「んじゃ、あっしはこれで」
「ま・ち・な・さ・い」
こそこそと逃げ出す簡雍の襟首をぐわしっ、と掴む法正。その目は獲物を狙う猛獣の目をしていた。
猫を持つように簡雍をひっ掴んで自分の前に座らせると、法正はおもむろに口を開いた。
「というわけでここに『第一次簡雍改造計画』の開始を宣言します!」


 〜〜簡雍改造計画〜〜


何が「というわけ」なのか。しかも改造計画!?本人の意思は関係ありませんか。…ありません?そうですか。そうですか。
……冗談ではない。
何でそんな事されないといけないんだ。他人のオモチャになるのは御免被る。
日頃の自分の行いを棚に上げて、かなり身勝手な事を考える簡雍。そんな懊悩はお構いなしに法正は携帯電話に手をかけた。
「みんなにも知らせておかないと。楽しいことは大勢でしろ、ってね」
法正がボタンをプッシュし始めたその瞬間、信じられないような瞬発力で、まさに脱兎の如く簡雍は逃げ出した。法正がそれに気付くより速くドアを通り抜け、愛用のキックボードに乗り、疾風の如く去って行く簡雍。
「ふ…ふっふっふ……イイ度胸してるじゃない」
不適な笑みを浮かべ、今し方かけようとした番号とは違う番号をプッシュする法正。数回の呼び出し音の後、電話は取られた。
「もしもし、部長ですか?法正です。大至急、手の空いてる人全員に召集をかけて下さい!」
「何や、随分と唐突やな。何やらかす気や?」
「大捕物です。詳しくは後で説明しましょう」
かくて前代未聞、帰宅部連合全てを巻き込んだ大捕物の幕が切って落とされた…。



かんかん照りの太陽の下、簡雍は独り道を歩いていた。
どうせ何時もの法正の気まぐれだ。ほとぼりが冷めるまでぶらぶらしていよう。
…それにしても暑い。既に外気は35℃を越えている。何処か涼める所はないだろうか、そう思い辺りを見渡す。…ふと目に付いた喫茶店。丁度良かった。思い立ったが早いか、手で押していたキックボードを店の前に停めて、簡雍は喫茶店のドアを開けた。

カランカラン、とドアに付いたベルが鳴る。と同時に店内の空気がひんやりと肌をなでる。
簡雍はカウンターでアイスコーヒーを注文した後で、クーラーの風が最もよくあたるポジションを確保して座った。
そして改めて店内を見渡す。しっとりと落ち着いた店内に、ゆったりと優雅なクラシック音楽が流れている。そして照明は目に悪くない程度に薄暗く、気分を落ち着かせてくれる。
良い店だった。学園都市という性質上、喫茶店、またはそれに類する店が多数存在するこの中華市において、簡雍が知る限りでも五指に入るであろう。
注文したアイスコーヒーが簡雍の前に運ばれてくる。それにストローをさし、口を付けようとして――――硬直した。
一瞬前まで只の客だった少女達が揃って簡雍を囲み、彼女に銃口を向けていた。
「簡雍さん、ですね?」
その内の一人が簡雍に問う。その全身から放たれる、殺気にも似た圧迫感。下手に答えようものなら即座に撃たれかねない。そう判断し、簡雍は素直に肯いた。
「説明を要するわね。いったい何事?」
「部長命令です。詳しくは後で法正さんに聞いて下さい」
法正、その一言で理解した。
つまり、意地でも着せ替えをさせたい、そういうことか。
…それだけでこんな大事にするか普通?しかも部長命令。劉備がからんでいるということは、捕まったら間違いなくさらし者だ。意地でも捕まるわけにはいかない。
席を立とうとする簡雍。それに合わせて上へあげられる銃口。
簡雍が立ちきったと思ったその瞬間、その姿がまるで手品のようにかき消える。
椅子から滑り落ちるように足下へと転がった簡雍は、そのまま転がり出るように店を出る。
「お客さん、勘定」
「帰宅部の法正にツケといて!」
「了解した」
こともなげに他人のツケにしていく簡雍。それにあっさりと答えるマスター。……いいのかそれで。
後ろから数人が走って追いかけてくるが、キックボードに追いつけるはずもない。ぐんぐんと距離は離れてゆく。
「くそっ、逃がすな!」
叫びはすれども足は動かず。追跡を諦めようとした彼女たちの後ろから、不意に声がかけられる。
「苦戦しているようね。まぁ見てなさい」
その声の主はクラウチングスタートの姿勢をとると、一気に駆けだした。



「待ちなさーい!」
簡雍の後方よりかけられる声。ありえない、さっきの連中は振りきったはずだ。大体、そこらの一般生徒が本気を出した簡雍のキックボードに走って追いつけるはずがない。
「待ちなさいってば!!」
声は遠ざかるどころかさらに近づいてくる。いったい何者か!?と訝しんだ簡雍は後ろを振り向いた。
「あーもう、待ちなさいって言ってるでしょう!!」
赤い髪に虎の髪留め。そして陸上部のジャージ。
「ばっ、馬超!?」
帰宅部連合、いや学園きってのスプリンター、馬超が鬼のような形相で簡雍を追いかけていた。
あわてて地面を蹴る力を強める簡雍。それによりキックボードはスピードアップするも、馬超との距離は依然として離れない。むしろ逆に縮まっている。
馬超はタイミングを見計らうや、一気に簡雍の横に躍り出た。かつて曹操を追いつめた健脚は、帰宅部入りを果たした今なお健在である。
「さーて、もう逃げられないわよ。大人しく捕まりなさい」
「くっ…さすが馬超ね。『錦』の二つ名は伊達じゃない…か。だけど!」
前輪を浮かせ、後輪のみで急ターンする簡雍。その向かう先は階段。
「こんな所で捕まってたまるかー!!」
キックボードのノーズを持ち上げ、階段の手摺りに引っかける。そして90°回転。ボードの腹を手摺りに乗せてそのまま滑りおりていく。金属の擦れ合う音と火花を撒き散らしながら最下段に到達するや、そのままの勢いでジャンプ!空中で両足をキックボードの上に乗せ、そのまま着地し、何事もなかったかのように走り去っていく簡雍。
「あーっ!それインチキよー!!」
階段の上で馬超が何か叫んでいるが簡雍には聞こえていない。追われる者は常に余裕がないのだ。



「待ちなさい。ここから先へは行かせません」
「んげっ、姐さん方」
曲がり角を曲がった簡雍の前に立ちはだかったのは黄忠と厳顔。両人とも胴着に黒袴、そして弓を携えての出で立ち。明らかに本気である。
「てか何で姐さん達まで出て来るんですか!?」
「それは……」
「……ねぇ」
顔を見合わせる黄忠と厳顔。
『一度見てみたいからに決まってるでしょう!』
…一番聞きたくなかった答えだった。しかも二人してハモって言わなくても…。
「一つ言わせて貰って良いですか?」
「ん?なにかしら。最期の一言くらいは聞いてあげるわよ」
「…いいトシしてそういう趣味はどうかなー、と」
………プチーン。
何かが切れた音。実際にはそんな音はしていないのだが、簡雍は確かに聞いた。
『ふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ』
黄忠と厳願は笑っている。否、嗤っている。
その表情はまさに悪鬼羅刹の如く。額には血管が浮き、頭からは角が生え、躯からは陽炎のように謎のオーラが立ち上っている……ように簡雍には見えている。
「どうやら」
「お仕置きが必要のようね」
予備動作無しで弓を引き、マシンガンの如く次々と矢を射掛けてくる二人。
鏃の部分をゴムに替えてあるとはいえ、当たればシャレにならないほど痛い。ましてやこの二人の弓はかなり強い。その威力、推して知るべし。
「ち、ちょっとタンマ!待った!ストーップ!!」
文字通りの矢の雨を潜り抜け、簡雍は一目散に逃げ出した。



人を斬る風だった。
とっさに飛び退った簡雍の目の前を、風を切る音と共に白刃が通過する。はらり、と前髪が数ミリ、頬を伝って落ちた。
「ち、趙雲……真剣は反則……」
「何を今更」
随分と物騒なことを趙雲はあっさりと言ってのける。
「銃刀法などこの学園では無意味でしょう?」
「イヤそれ絶対違うから」
誓って言うが、この学園内が治外法権などということは絶対にない。……多分。
「大体何でアンタまでっ!(割と)良識派だと思っていたのにっ!」
「だって…アトさんが見たいって言うから」
……あきれたを通り越してもう馬鹿馬鹿しいの領域である。そんな理由で命狙われるなんてたまったモンじゃない。
「趙雲、アンタもっと行動に主体性を持った方がイイよ」
「そう…ですか?」
「アトちゃんが可愛いのは解るけどさ、それだけじゃなくてもっと自分のことを考えてみたらどう?」
「でも、そしたらアトさんが」
「アンタが何でもしてたらアトちゃんは成長しないよ?それにアンタだって何時かは卒業する。何時だってアトちゃんの側に居られる訳じゃないんだからさ」
「そう……ですよね」
「アンタはもっと自己中心的になってもいいの。きっとその方がアンタのためになるよ。これ、先輩からの忠告。覚えときなさい」
「はい、ありがとうございました」
深々とお辞儀をして去っていく趙雲。彼女が見えなくなった後、簡雍は大きく安堵のため息をついた。
「いやー、まさかアレで何とかなるとはね」
当然、先ほどの言葉は口から出任せである。
「うん、なかなか真に迫った演技だったかも。アカデミー賞ものだね」
命がけでやれば何とかなる、ということの好例だろうか。尤もこの場合、比喩表現ではなくホントに命がかかっていたのだが。
「さて、このまま逃げているのも疲れるし…どっかに隠れようかな」
脳内の簡雍データベースから当該箇所を見つけると、そこに向かって簡雍はキックボードを走らせはじめた。

414 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:53
荊州校区と益州校区のちょうど境界に一つの建物が建っている。
「いや〜助かったよタマちゃん」
「いえ、大したことはありませんよ」
簡雍の言葉に、タマちゃんと呼ばれた少女が返事する。
彼女の名は劉璋、あだ名は季玉。故に簡雍はタマちゃんと呼んでいる。前益州校区総代であった彼女は、総代の座を劉備に譲り渡してから、この建物でまったりしていることが多い。ご多分に漏れず、この日も彼女はここにいた。
「大変だったようですね。…お茶でも淹れましょうか?」
「あ、いいねぇ。お願い」
喫茶店でコーヒーを飲みそびれたことを思い出し、簡雍は肯いた。
お茶を淹れに席を立つ劉璋。それを見送る簡雍。
ふと窓の外を見つめる。その目が捉えたのは違和感。
良く目を凝らして物陰を見遣る。そこにあったのはかすかな人の影。
気付かれたか?いや、それにしては早過ぎる。
5分ほどそうしていただろうか。そちらへ向けていた意識を、劉璋の声によって引き戻された。
「お茶がはいりましたよ〜」
劉璋がお盆の上にのせたお茶を持ってくる。よく冷えた麦茶だった。
やはりおかしい。差し出された麦茶を前に簡雍は考える。
冷えた麦茶。冷蔵庫から出してコップに注ぐだけの手順の筈が、何故こんなにも時間がかかる?
そして向かいに座った劉璋の態度が、かすかだがそわそわと落ち着き無い。
もう一度、窓の外を見遣る。巧妙に隠れてはいるが、明らかに人の数が増えている。
…つまり、結論は一つ。
「タマちゃん、アタシを売ったね?」
じっと劉璋を見据える簡雍。
「…何のことです?」
あくまで平静を装う劉璋。だがその目が泳いでいるのを簡雍は見逃さない。
「…ならアタシの前のこの麦茶、飲んでみせて」
「……っ!それは…」
思った通りだ。多分その麦茶の中には睡眠薬か何かが入れられているのだろう。
「ごめんなさい……私…」
俯いたまま泣き出しそうな声で謝る劉璋。
「ん、いいよ別に。タマちゃんが悪いんじゃないし」
彼女にそんな悪知恵があるとは思えない。きっと誰か……諸葛亮あたりに入れ知恵されたに違いない。
さて、また逃げないと。幸い、まだこの建物の周りの追っ手は少人数だ。何とか撒くことも出来るだろう。
簡雍はそう判断し、ドアを開けた。
『うえるか〜む!』
ドアを開けた先に待ちうけていたのは追跡者の皆さん。開けた早さに倍する速度でドアを閉め、鍵をかける簡雍。
「謀ったね!タマちゃん!!」
一連の劉璋の行動は全て時間稼ぎ。ここの包囲がまだ完成していないと錯覚させつつ、わざとダミーの計略を看破させ、着々と包囲を進めていたのだ。
今更気が付くも既に遅し。出口は既に固められている。
簡雍は部屋の中に入れてあったキックボードをひっ掴むと、窓の方へ向かって走る。
「か、簡雍さん、ここ二階…」
「てりゃっ!」
劉璋が止めるより先に、簡雍は窓から飛び出した。
着地。そして尻もち。落ちた先は幸運にも花壇の中だった。
「…へっへ〜、日頃の行いが良かったせいかな」
軟らかい土にショックは吸収されたせいか、服は汚れたものの、体はほとんど無傷である。
頭上から心配そうに見下ろす劉璋に親指を立てて無事をアピールすると、簡雍は少々痛む体を引きずって逃走を再開した。



「ふんふふふ〜ん♪」
鼻歌混じりに何やらごそごそと物をあさる簡雍。
あまたの監視の目をくぐり抜け、やってきたのは寮の一室…というか簡雍と法正の部屋である。灯台もと暗しとはまさにこの事か。
ポーチにフィルムその他を詰め、カメラのコンディションを確認する。
「よし、完璧」
簡雍、完全装備完了。本気の相手…タイガーファイブ級を相手取るにはこのくらいしないと、逃げ切るのも容易ではない。
「さーて、また逃げるかね」
「そうはいかないわよっ!!」
簡雍の言葉を遮る雄叫び。一瞬の後、大きな音を立てて開けれる鉄製のドア。
「…もうもうと土埃の立つ中、逆光を背負って現れたるは『漢・魏延』!」
「そこ!地の文にかこつけて口に出さない!てか絶対わざとでしょ、それ!!」
竹刀をづびしぃ!!と突きつける魏延。どうでもいいがアンタ乙女志望はどうなった?
…そんなことはどうでもいいとばかりに簡雍から目と竹刀を逸らさず、後ろのドアを蹴り閉める魏延。これで退路は窓だけとなった。
「どうする?また飛び降りてみる?尤も、ここは四階だけど」
張飛あたりならともかく、簡雍にそれは無理だ。例え無事飛び降りたとしても、下に待ちかまえているであろう連中に捕まって終わり、のはずだ。
だが簡雍に動揺はない。にいっと口の端をゆがめて、勝ち誇ったように宣言する。
「甘い」
そう言っておもむろに天井からのびたロープを引っ張る。刹那、ブラインドが下り、さらに暗幕がかかる。部屋の明かりはついていない。すなわち、真っ暗闇。
写真の現像のために、部屋を暗室にするギミックを簡雍は施していた。…まさかこんな用途で使うことになるとは思っていなかったが。
勝手知ったる自分の部屋。ベッドの位置、冷蔵庫の位置、果ては法正の持ってるぬいぐるみの位置までつぶさに記憶している。簡雍にとっては、この暗闇の中でドアまで辿り着くことなど朝飯前だ。
だが魏延は違う。暗闇に慣れぬ目を凝らし、簡雍を見つけようとするも何も見えず。駄目か、と諦めかけたそのとき、目に飛び込んでくるかすかな赤い光。
光の正体はカメラの発光ダイオード。その光の動きで簡雍の位置は手に取るように解る。
竹刀をひと振りして足下に障害がないか確認。足下の安全を確信した魏延は、一足飛びに間合いを詰める。そして竹刀を振り下ろそうとしたその瞬間――――視界が真っ白に染まった。
必殺簡雍フラッシュ。部屋が暗かった事もあって威力は倍増だ。あまりの眩しさにもんどりうって転げ回る魏延。
「あ、散らかしたのは片付けといてね」
そう魏延に告げて悠々と外へ逃げる簡雍。その言葉が魏延に聞こえているかは怪しいが。

さて、どうしたものか。このまま逃げ続けても、いずれ捕まるのは目に見えている。
ならどうするか。臭い物は元から絶つべし。ということで、この騒動の元凶である法正をとっちめて、例の言葉を撤回させれば良い。
結論は出た。ならば後は実行するのみ。
「ふっ、法正。首を洗って待ってなさいよー!」



「魏延の突入、失敗しました」
「呉班のD班、目標をロスト。現在、呉懿のB班・雷銅のF班が周辺を捜索中」
次々に持ち込まれる報告に、劉備はやれやれと嘆息した。
「無理やろな。連中ごときに見つかる程、憲和は甘ないわ」
「ほう、どういうことですかな?」
傍らに立った諸葛亮が問う。
「実戦経験の差やな。考えても見ぃ、憲和は黄巾騒動の時からウチらと一緒だったんやで?踏んだ修羅場の数なら馬超や漢升はん、子龍でさえ及ばんやろな。まして新入りの魏延や争いの少なかった益州の連中ならなおさらやな」
学園一のトラブルメーカー、劉備新聞部の初期メンバーにしてカメラマン簡雍。その役目柄、危険にさらされたことは数知れずある。しかし、彼女はトばされてはいない。
その逃げ足の早さを以て知られる劉備だが、彼女すら逃げ足という一点においては簡雍に一歩の遅れをとると思われる。
「言い出しっぺはどした?」
「法正殿なら何人か連れて外に行きましたが、何か?」
「…ま、あっちはあっちで何か企んどるんやろ」
こと戦略・戦術においては諸葛亮すらしのぐ才を持つ彼女だ。何か罠を仕掛けていることだろう。
「張飛より入電!『我、目標を発見。追いつき次第交戦を開始する』以上です!」
「益徳か!?そら拙いわ。ウチも後詰めに出る!…ちゅーことやから孔明、後頼むわ」
「お任せ下さい」
慇懃に礼をする孔明の姿を目の端に留め、劉備はその身を戦場へと赴かせた。



ばんっ!!
聞こえてきたのは炸裂音。それが聞こえた方へ劉備は走る。
校舎の角を曲がった劉備が目にしたものは、目を回してぶっ倒れている張飛と、その傍らに立つ簡雍の姿。
張飛のことだ。多分、飛びかかっていった瞬間、簡雍に返り討ちにあったと思われる。
「言わんこっちゃ無い…」
先程の音、あれはおそらくスタングレネードを使用した音。至近距離で炸裂したならば、その音と閃光によって一発で戦闘不能に陥るシロモノだ。
「丁度良かったわ。玄徳、法正は何処?」
「知らんな。それよりも憲和、そろそろお縄についた方がええんちゃうか?」
「話す気はない……ようね」
「そっちも捕まる気はないようやな」
どこからともなくハリセンを取り出し、慎重に間合いを計る劉備。
右手にカメラを、左手にスタングレネードを構える簡雍。
凍り付く気配。流れる一触即発の空気。
先に動いたのは簡雍。左手のスタングレネードを劉備に向けて投げる。
「甘いわっ!!」
気合い一閃、弾かれたグレネードは2秒後、劉備の頭上で爆発した。
ハリセンをヒュンヒュンとガン=カタばりに回し、簡雍に近づく劉備。
「さーて、そろそろ年貢の納め時やで?大人しく捕まってゴスロリを着ぃ」
「ごっ、ゴスロリぃ!?待て待てまてマテ、なにゆえゴスロリか」
「決まっとるやん。そっちの方がおもろいからや」
きっぱりはっきり断言する劉備。それを聞いて、簡雍はげんなりした。
この部はアホばっかりか?そう考えざるを得なかった夏の日だった。
「ほれほれ、考え事しとる場合やないで!」
目の前に迫る劉備の顔。そしてハリセン。紙一重でそれを避けるも、続いて二撃、三撃目が飛んでくる。いつしか背後には壁。完全に追いつめられていた。
「今大人しく捕まったら手荒なことはせんが、どや?」
完全に劣勢のこの状況。選択肢は降伏か死かと思われるこの状況下で、あろう事か簡雍は唇の端をゆがめて嗤った。
「断る」
そう言って左手に持った物体を地面に投げつける簡雍。地面にたたきつけられたそれは、凄い勢いで煙幕を吹き出した。
煙に紛れて劉備の横をすり抜ける簡雍。だがそれに気付いた劉備はしつこく簡雍を追う。
不意に、劉備の鼻先に投げつけられたボール。それは破裂すると、辺りにコショウをまき散らした。
「ぶえーくしっ、がん゛よ゛〜!ぶえっくしゅん!」
…涙と鼻水まみれになった劉備は、簡雍の追跡を諦めた。張飛はまだ目を回している…と言うか既にそれは失神から睡眠へとシフトしていた。
世界は平和である。そう思った夏の日の午後だった。

415 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:55
世界は平和だろうが、今の簡雍は平和とはほど遠い所に居た。
一人対数百人。かつて如何なる者も経験していないであろう戦争。タイトルを付けるならば、
まさに『真・三国無双』……シャレにならない。
そしてここに、またしても簡雍の前に立ちはだかる影が三つ。
「さぁ簡雍!!」中央に立つ、『壱』と書かれた赤色の覆面をかぶった少女が絶叫する。
「いい加減に!!」向かって左、青い覆面に『弐』と書かれている少女がそれに続け叫ぶ。
「捕まって下さいね」と、向かって右の黄色い覆面の少女がおっとりと言った。予想通り、覆面には『参』と書かれている。
「○陽戦隊サ○バルカン!?」
「違う!我々は『内政戦隊ショッカン4(−1)』!!」
簡雍のツッコミは、予想を遙かに超えたエキセントリックな答えで返された。
ホントにこの部はアホばっかりか。そう深刻に考えざるを得なかった夏の日だった。
「えーと、取り敢えず左から伊籍、孫乾、糜竺?」
「違う!左からショッカンブルー、ショッカンレッド、ショッカンイエローだ!!」
「……なんだそりゃ」
何か色々とはっちゃけすぎの三人。あきれ果てる簡雍。
ちなみに簡雍が三人を見分けたのは胸の大きさだ。孫乾<糜竺<伊籍である。
「なんかアホくさくなってきたわ。ってことであんたらスルーね」
「こら!逃げるな!」
逃げるなと言われて立ち止まる簡雍ではない。キックボードに乗って、すたこらと去っていく簡雍。
「こうなったら…ショッカンビークル!!」
そう叫ぶや、ごそごそと植え込みをあさる三人。そして取り出される、一台の買い物自転車。
それにさっそうと飛び乗る三人。自転車の三人乗りは違反です。
「待てーい!!」
叫ぶ孫乾…もといショッカンレッド。ただ乗っているだけのイエロー。そして鬼のようにペダルをこぐブルー。いせ…ブルーの中の人も大変…と言うか死にそうだ。哀れなり。
当然、三人乗りの自転車なんぞで簡雍に追いつける筈もない。見る見る距離は離れていく。
「はー、大変だねぇ…」
後ろを振り返り、のんきにのたまう簡雍。しかし次に前を振り向いたとき、その目は驚愕に見開かれた。
前から迫り来る人、人、人。ついに捜査本部は人海戦術に訴えることにしたようだ。
後ろを仰ぎ見れば必死こいて追いすがる伊籍、孫乾、糜竺。…必死なのは伊籍だけだが。
進退窮まったか、そう思って周りを見回した簡雍は細い路地を見つけた。そこに一筋の光明を見出した簡雍はすぐさまそこに駆け入った。

そこまでだった。
急に足を取られ、キックボードごと転倒する簡雍。
「あたた…って何よコレ!」
地面にぎっしり敷き詰められた粘着シート。引き剥がそうとするも、よけいに絡まってしまう。
「かかったわよ!やっちゃて!」
頭上より降ってくる法正の声、そして投網。

捜査開始より3時間57分。  簡雍、捕縛。




白いワンピース、手編みのサンダル、麦藁帽子。
白いテーブル、白い椅子、木漏れ日の影。
さらりと流れる髪、銀縁の眼鏡、手に持った詩集。
どこからどう見ても、生粋の文学少女にしか見えないのだ。あの簡雍が。
「おお〜〜〜〜〜」
ギャラリーからあがる、感嘆のため息。
はっきり言って想像以上だった。
「いや〜見違えたわ」
簡雍をひん剥いて着替えさせた劉備が言った。ちなみに彼女の提唱したゴスロリは多数決により僅差で却下されている。
「グレイトですぞ簡雍殿。どうです、そのまま眼鏡を着用しては?」
と諸葛亮。簡雍が眼鏡をかけているのは、勿論彼女の提案によるものだ。
「うぅ、持って帰りたい…」
「テイクアウトはオッケー!?」
「はうー、何かソッチの道に目覚めそう」
等々、なにやら怪しい声が飛び交う中、簡雍は面白くなさそうに、テーブルに置かれたグラスの氷をストローで突っつく。

不意に、風が吹いた。
麦藁帽子が舞い、簡雍は為す術もなくそれを見送った。それはさながら一枚の絵のようで。
「をををっ!!記録班、今の撮った!?」
「ばっちりです!カメラ、ビデオ共に撮りました!」
「グッジョブ!後でみんなで見るわよ!」
親指をびしっと立てて、法正が言った。
「いやー、それにしても予想以上ね。みんなで追っかけた甲斐があったわ」
「……追っかけられた方はたまったモンじゃないんだけど」
「まぁまぁむくれない。憲和だって乗り気だったでしょ。自分でこんな飲み物まで用意して。で、これ何?アイスティー?あ、レモン入っているからアイスレモンティーかしら?」
「あぁ、それ?ロング・アイランド・アイスティー」

『……って酒かよっ!!!』

簡雍を除く全員の声が、夏空にこだました。





※補足
ロング・アイランド・アイスティー

ドライ・ジン………15ml
ウォッカ………15ml
ホワイト・ラム………15ml
テキーラ………15ml
ホワイト・キュラソー………15ml
レモン・ジュース………30ml
コーラ………40ml
レモン・スライス………1枚

クラッシュド・アイスを詰めたゴブレットに、
上記の順で注ぎ、ステアする。
レモン・スライスを飾り、ストローを添える。

茶なんぞ一滴も入っておりません。

416 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 21:01
以上です。
元は「蒼天乙女の春夏秋冬」として短編連作を予定していましたが、悪ノリしすぎてこんな形に。
何か性格が違うキャラが居るかもしれませんが、そのへんは大目に見て下さい。

417 名前:那御:2004/01/18(日) 21:24
おおおおおおお!7th様グッジョブ!
こっちとしても早く見たくてたまらない簡雍の姿、
それをあざ笑うかのような、簡雍の逃避行w!

(何故かw)猛烈にドキドキしましたぞw

418 名前:アサハル:2004/01/18(日) 22:06
取り急ぎっ!!
(ノ゚Д゚)ノ −=≡ http://fw-rise.sub.jp/tplts/after.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/after.jpg

419 名前:那御:2004/01/18(日) 22:24
アサハル様グッジョブ!!
え〜、テイクアウトはオッケー!?

420 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/19(月) 00:32

>7thさま
うまい! 
素直に感心しましたわ!ノリといい掛け合いのテンポといい!
何よりもキャラのチョイスとシチュが(;´Д`)ハァハァ…!
したたか度では学三中最強の簡雍たんに次々撃ち払われてゆく、帰宅部連合の面々…
体力だけではなく口先で切り抜ける機転! なんかより簡雍たん好きになりましたわ。

それにしても…胸で識別される内政戦隊にワロタ。伊籍たんのナニゲな設定まで活かすとは
お見事!

>アサハル様

Σ( ̄□ ̄;)!! か…簡雍――ッ!?

>>419
ならぬ!>>418はワタクシがテイクアウト予約済み!

421 名前:★玉川雄一:2004/01/19(月) 01:00
ナニゲに簡雍って、
今までの総作品中で登場回数トップなんじゃないだろうか(^_^;)

いやはや、帰宅部連合のほぼフルメンバーが余すところなく活躍(?)しておりますね。
智恵と舌先三寸を駆使してハリウッド映画ばりの逃走劇…
つうかアレですか、簡雍は内政戦隊のグリーンかピンク?
これはまた、次回作が非常に楽しみでありますことよ。
帰宅部連合以外でもぜひ!

>>419-420
ええい、散れィ!(丿`▽)丿━━━━*
奪ったモン勝ちじゃあ! (゚∀゚)ノ>>418

422 名前:★惟新:2004/01/19(月) 01:18
つ、ついに法正タンの真骨頂が! 恩も恨みも十倍返しが! (;´Д`)ハァハァ…
それにしても簡雍恐るべしっ! その生命力はもはや学園最強?
そして! 結末が! 簡雍…(;´Д`)ハァハァ…

始終大笑いさせていただきましたが、中でも『内政戦隊』が無茶苦茶好き!
もうこの人たちで他にもイロイロ読みたいほど(^_^;)
時折見せる小ネタの数々もしっかりツボを抑えていてグッド!
それでいて迫力のアクション! 実に読み応えのある作品でありましたよー!
いやーこれからもよろしくお頼み申し上げます、7th様!

>アサハル様
ナント━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
しかもメガネッめがねッ眼鏡えッ!!!
なんと可憐な…これがあの簡雍とは…
私にその眼鏡の曇りを拭かせてくださいませー(;´Д`)

むむ! 諸氏には悪いが私も譲りませんぞッ!
;y=( ;゚д゚)д゚)д゚)
先祖伝来のこの種子島、そう易々とやらせはせぬっ!

423 名前:7th:2004/01/19(月) 20:22
予想外の反響!Σ( ̄□ ̄;
皆様ありがとうございますm(_ _)m
特にアサハル様!!感謝感激でありますっ!!
まさにこのイメージ!自分ごときが万の言葉をもってしても、この一枚の絵には敵いません!

なんか反響の大きかった『内政戦隊』ですが、簡雍はグリーン…かなぁ。
この後、第二世代になって、『内政戦隊ショッカン5』に…なったら面白いなぁと思ったり。
ちなみにメンバーはレッド:蔣琬 、ブルー:費禕、グリーン:董允、イエロー:尹黙、ピンク:郭攸之 とか。

424 名前:★教授:2004/01/24(土) 23:48
本日、帰国の途に着きました。とても久しぶりな日本の土は感動でした。
感想等は休養を取ってからしますので、暫しお待ちを…。

んで…これまでの『しょーとれんじすとーりー』に登場した人達を宿泊先で数えてみました。
玉川様の予想通り、1位は簡雍でした(笑) 作業時間2時間50分、信用出きると思われます(何)

1.簡雍
2.劉備
3.張飛
4.法正
5.曹操
6.皇甫嵩
7.諸葛亮
8.朱儁
9.関羽
10.厳顔
11.甘寧
12.夏侯惇
13.周瑜
14.趙雲
15.黄忠
16.孫乾
17.魯粛
18.張遼
19.劉禅
20.盧植

ベスト20の中に貴方のお気に入りのオンナノコはいましたか?

425 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/26(月) 00:07
教授様、おかえりなさいませ!

そしていきなり大事業乙っ!3時間弱…(´Д⊂
うーん、やはり簡雍でしたか…。そんで次点劉備…。作品中では他のキャラほど
インパクトがないのですが、それでも締め役として必ず登場してるのがポイント
ですやね。
しかし…こうしてみると、やはり長湖部勢が元気ないな(´・ω・`) 
よろしい。ならば我が手でなんとかしてみせるまで。

426 名前:★教授:2004/02/04(水) 22:43
■■ 卒業前夜第二幕 --


「郭嘉…」
 3月某日、寒風の吹きつける墓所。
 少女は墓石の一つに細く白い指先を滑らせる。彫られた文字をなぞるようにゆっくりと滑らせる。

 郭嘉奉孝――

 少女が指でなぞり、墓石に刻まれたその名前。
 連合生徒会の者なら誰もが知り、そして忘れられぬ少女の名だ。
 限りある命の中で彼女ほど美しい大輪の華を咲かせた者に列挙できる人物はそういないだろう。
 それ故に薄命であった事を悔やむ者も少なくない。彼女の主であった少女も誰彼憚る事なく大粒の涙を零し、激しく天を呪ったという。
 郭嘉が眠る墓石の前に立っている少女もまた縁浅からぬ仲であった。
「…貴女の眠ってるこの場所に私が来る…なんて意外だった…?」
 憂いを帯びた微笑を浮かべ、現世にいない少女に言葉を掛ける。まるで目の前にその者がいるかのように。
 少女は手に持っていた手提げ鞄から一台のMDプレイヤーを取り出す。
「随分遅くなっちゃったけど…これを返しに来たの」
 そっと墓前にMDプレイヤーを置く。
 生前、この少女が郭嘉から取り上げた品。風紀委員として当然の行為だった。その時はこのMDプレイヤーが遺品になるなんて予想も想像もしてなかった。
 会えば口喧嘩、顔も見たくないと思った事もあった。すれ違ってばかりの二人だったが、その相手を永遠に失ってしまって初めて気が付いた大切な何か。

 でも気付くのが遅かった――

 心の奥に悔恨という大きく深い爪痕を刻みつけられた。
 返そうと思い何度も郭嘉の下へ足を運んだ。だけど神の悪戯か、療養の為に学園を去るその日にさえ彼女と顔を合わせる事は適わなかった。
「私…貴女とゆっくり話してみたかった…」
 眼鏡の奥に佇む悲哀に満ちた双眸は既に頬を濡らしていた。
 彼女の死を哀れんでいる訳じゃない、ただ和解出来なかった事と郭嘉を理解できなかった心中の哀しみに包まれていたのだ。
 永遠に解する事の出来ない心の溝。これから先も埋まる事はない。
「明日…卒業式なんだよ? 私も…生きていれば貴女も…。だけど…何だか悲しいよ」
 吹き抜けていく風が少女の髪を靡かせる。郭嘉がいたあの頃から随分伸びた。あの時の自分を見たくはなかったから――
 少女は涙を拭うと、再び墓石に指をなぞらせる。締めつけられる胸の内をぐっと堪え、踵を返した。
「サヨナラ…またその内顔見せに来るね」
 寂しく、そして小さな背はゆっくりと墓地から姿を消して行く。まるで風に流されるかのように――


 深夜2時、草木も眠る丑三つ時。
「…………」
 墓前に置かれたMDプレイヤーに伸びるしなやかな腕。手に取りイヤホンを耳にする。
「…………」
 その人は目を閉じ微かな笑みを浮かべている。
 やがて、その姿は闇に紛れるように消えていった。墓前のMDプレイヤーと共に――


――そして卒業の時を迎える

427 名前:★ぐっこ@管理人:2004/02/06(金) 00:42
。・゚・(ノД`)・゚・…

教授様、復帰第一弾乙であります。

そしていきなりしっとり系…。
天敵どうしであった郭嘉と陳羣の、決して同じ刻に出逢うことのできない
逢瀬ですね…

ぽんぽんとお互いに悪口を言い合える二人は、曹操にとっても「見てて飽きない」
と風物詩めいた光景であったはず。失われてから初めてわかる、かけがえのない
関係。
ガチガチの風紀委員長だった陳羣も、郭嘉の死を乗り越え、だいぶ成長できたでしょう…

428 名前:惟新:2004/02/06(金) 21:54
陳羣…(つД`)
「失ってしまって初めて気が付いた大切な何か。」
でもそれは遅すぎて…それでも!

うう、愛されてますねぇ郭嘉…


昨年度末、私たちを涙させた卒業前夜の第二幕が明ける。
教授様ついに本復帰!? 今後も目が離せないですよー!

429 名前:那御:2004/02/06(金) 22:46
泣いた・・・いい話じゃねぇかぁ!。・゚・(ノД`)・゚・
遅すぎた和解・・・帰ってくることの無い時間を悔い、
お互いすれ違いばかりだった日々を悔いる。

でも、そういう辛く、悲しい過去をバネにしたからこそ、
学園での陳羣があったのかもしれないですね・・・

あ〜泣いた。教授様の完全復帰とあらば、強力な作品がまたまた・・・

430 名前:★おーぷんえっぐ:2004/02/07(土) 19:11
昨今、他の用事で多忙を極め、SSさえ読んでるヒマありませんでした(汗)
教授さんの得意分野が見事に炸裂した、シットリとくるお話ですな^^
”喧嘩するほど仲が良い!”
を地で行く二人の姿を見せてもらった気がします。

431 名前:★教授:2004/02/15(日) 23:05
■■ バレンタインSS -多人数SP- ■■


「関さんは例年通り指名手配になっとるけど…」
「関姉も大変だなー…俺らも今大変だけど…」
 成都棟屋上、給水塔下で劉備と張飛は毛布を頭からかぶって茣蓙の上に座りながら七輪で暖を取っていた。
 今日は2月14日。世はバレンタインと呼ばれる女の子に取っても、男の子に取ってもあらゆる意味で緊張する日である。
 女子高でもあるこの学園でもバレンタインというイベントは発生する。むしろ、それは必然であるとも言える。こんなイベントを放っておく女子などいないのだ。
 …で、何故劉備と張飛が寒空の下でこんな事をしているのか。答えは簡単、一般女子のチョコ攻めから逃れる為だ。
 益州校区を落としてから一気に株が上昇した二人は前日の深夜から異様な視線を感じていた。そこで諸葛亮に調査を依頼した所、驚愕の事実が判明。逃亡のきっかけとなったのは、諸葛亮の資料と共に添付されていた見るからに毒々しいラッピングのチョコを見た事だった。
 ちなみにこの場にいない荊州校区を管理している関羽は妹や水練達者な部下の助けを借りて今も逃亡中である。最も妹と部下は既に大量の靴跡の烙印を押されて倒れているのだが――
 暖を取りながら潜伏中の二人以外にも馬超、黄忠、厳顔も同様の被害に遭っている。黄忠、厳顔は大人の対応で凌いでいるが馬超はそうもいかない。如何に帰宅部屈指のスプリンターと云えども限界はある。逃げ場を失って拉致されていく姿を馬岱が見たそうだ。
 しかし、趙雲はチョコ被害に遭っていない。その時彼女の周りには簡雍、法正と敵に回したら最強最悪の二人がいたからだった。流石に自分の命と引き替えにチョコを渡す強行には出る事は出来ない。
 場面を戻そう。劉備と張飛は給水塔の下で難を逃れていたが、そろそろ限界を感じてきていた。先ほどから屋上の探索に何人か現れているのだ。1分前に一度見つかったが、その時は張飛が間髪入れずに記憶消去(頭部強打)をしたお陰で命拾いはしている。見つかるのはもう時間の問題っぽいが――


 場面は変わり、益州校区郊外の丘の上。
 ここで簡雍と法正がベンチに腰掛けていた。趙雲がアトちゃんの部屋に入ったのを確認すると二人で適当な雑談をしながらぶらぶら歩いていたらこんな所まで来てしまっていたのだ。
 しかし、どことなく二人の間に気まずい空気が流れていた。
「………」
「………」
 お互いに目線も合わせずに落ちつかない様子。簡雍も法正も頬を染めている。
 二人とも綺麗にラッピングされたハート型のチョコを一つずつ持っていた――


 更に場所は変わりラク棟――

「毎年毎年…何で私がこんな目に!」
 半泣きになりながら一人の少女が一個師団にも匹敵する集団に追われている。
 悲しい事に、課外活動から退いている今でもこの日になると逃げ回る事を余儀なくされるのだ。
 必死に逃げ惑う少女、通称『益州タカラヅカ』張任。潔さと忠信の高さが仇となってしまっている。そこはかとなく報われない少女――


 夜――

 劉備と張飛は撤収しようとした所を待ち伏せしていた諸葛亮率いる女子達に取り囲まれていた。夜まで粘ってた事は誉めてやるべきだろうか――
 余談だが、今年の関羽は無事逃げ切る事に成功していた。尊い犠牲、名誉の殉職者2名――

                糸冬

432 名前:那御:2004/02/15(日) 23:49
バレンタインキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
劉関張、年増コンビ(後で二人に殺されるさ!)、馬超、簡雍法正コンビはもちろんのこと、
何より『益州タカラヅカ』こと張任がイイ!
間違いなく、バレンタインとかに興味関心0。それでも顔を真っ赤にして逃げる張任に惚れ。。

433 名前:惟新:2004/02/16(月) 20:40
ウァレンティーヌスの贈り物━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
対策の違いにキャラの個性がしっかり出てますね〜!
にしても簡雍と法正は何イイ雰囲気出してますかー(;´Д`)ハァハァ
何気に幸せ不幸の張任ワラタ。
彼女の苦労伝説は続く…

434 名前:★ぐっこ@管理人:2004/02/17(火) 00:47
むう、あのチョコ話(>>24-29)から一年経つのか…(;´Д`)ハァハァ
って二年経ってるやんけΣ( ゚Д゚) うわ、やっべ…
あー、あのころはまだ今ほど校区がどうこういう話になってなかったのね…

さておき、教授様グッジョブ!
むう、舞台が益州に移り、張任たんもその毒牙にかかってますか(^_^;)
簡雍と法正は相変わらず、劉備は今回は追われる側…
悲喜こもごものバレンタインだったようで…

435 名前:★教授:2004/02/25(水) 23:41
■■ THE EARLY DAY -法正と簡雍- ■■


▲15:40 法正専用作業室という名の図書準備室

「参ったなぁ…」
 法正は鉛筆を動かしながらため息を吐く。しきりに柱時計や腕時計をチェックしながら筆を進めていた。随分と焦っている様子が見て取れる。
 傍らには『定軍山攻略報告書』と書かれたA5の用紙が山のように積まれていた。そう、法正は劉備に提出する為の報告書を書いていたのである。メインの活躍を見せた黄忠&厳顔の御姐様コンビは別件でこの場にはいない。法正に言わせてみれば一人の方がスムーズに作業が進むのでむしろいない方がいいらしい…のだが、今回ばかりは後悔していた。
「こんなに報告書があるなんて…予想外だったわ。憲和待たせてるからなー…」
 どうやら想像以上の報告書と重なって簡雍と約束をしていたようだ。
 待たせたりすっぽかしたりしたらどんな恐ろしい事が待っているか――法正の脳内で想像するには容易い事であった。それ故にのんびり筆を進めている場合ではなかったのだ。
「絶対17時までに完成させなきゃ!」
 凝った肩を数回叩くと集中作業モードに以降した――

▲16:00 某喫茶店

「可愛いバイト雇ってるねー…マスター」
「ははは、よく働いてくれるし助かってるよ」
 カウンター席に腰掛けて紅茶を飲む簡雍。その正面で喫茶のマスターが愛想良く話相手になっていた。
「マスター! 私、表を掃除してきます!」
 そして、可愛いと評されたバイトの娘さんは照れ隠しかどうかは分からないが、怒りながら箒とちりとりを持って外へ出て行ってしまう。その様子をマスターと簡雍が微笑みながら見送った。
「張任ちゃんも案外照れ屋だからね。あんまり囃したてないでよ」
「マスターの頼みじゃ断われないね」
 こんな調子でちっとも待っているという素振りのない簡雍だった。

▲16:58 法正専用作業室という名の図書準備室

「終わらないっ! 絶対ムリっ!」
 壊れかけの法正が冷や汗を流しながら筆を進めていた。自分では頑張っているのだが、思うように作業が進まない。苛立ちと焦りが余計に作業を滞らせるのだ。
 別に今日中に提出という訳ではないが、中途半端に残すのも寝覚めが悪い。変な使命感が後押ししながら死に物狂いで報告書を仕上げていく。
 しかし、待ち合わせ時間は17時半…柱時計の短針が5になった。

▲17:27 某喫茶店

「おっそいなー…いつもなら5分前には来てるのに」
 小洒落た柱時計を見ながら簡雍がぼやきはじめた。真正面ではマスターが夕刊を、張任が食器を洗っていた。柄無しの赤いエプロンが似合うがどこか家庭的な印象を受ける。
 やがて時刻が17時半になると、簡雍はため息を吐いた。その仕草にマスターが新聞から顔を上げる。
「簡雍ちゃん、待ち人来ず…かい?」
「今、約束の時間丁度。もう少しだけ待ってみるよ」
「そうかい。ま、ゆっくり焦らずにね」
「いぇっさー」
 ぷらぷらと足を揺らしながら簡雍の目は柱時計を見据えていた――

▲19:00 法正専用作業室という名の図書準備室

「お、終わったー…」
 がたんと椅子から立ち上がり勢い良く背伸びをする法正。その顔は達成感に満ちた何とも爽やかなものだった。
 報告書をまとめてファイリングしながらちらりと柱時計を見てため息を吐く。
「流石にこんな時間じゃね…明日憲和に謝らなきゃ…」
 何されるか分かったものではないが、仕方ない。自分が蒔いた種だ…と覚悟を決めると、再び大きなため息を吐いて図書準備室の明りを落とした――

▲20:30 某喫茶店

「………」
 簡雍はうっすらと目を開け、顔を上げる。マスターの顔が目に入った。
「おはよう…と、言いたいけど…もう閉店の時間なんだよね」
「やべ…寝ちゃってたのか…」
 無造作に頭を掻く簡雍。柱時計に目を遣りため息を吐いた。
 そんな簡雍の前に一杯の珈琲が差し出される。珈琲とマスターを交互に見遣る。マスターは微笑するとエプロンを外した。
「それは奢りだよ。ぐいっと飲んで眠気覚ましてから帰りなさい」
「太っ腹だねー…それじゃ、遠慮なくいただきまーす」
 丁度、金銭面で四苦八苦してたので珈琲一杯でも随分助かる。簡雍に取っては優しさも立派な渡りに舟にもなっていた。
「それじゃ、マスター。私はこれで失礼します」
 張任がエプロンを外しながら奥から出てきた。…どうやらこの店では学生服の上からエプロンで仕事をしているようだ。
「ああ、お疲れ様。明日もよろしくね」
「はい。それじゃ失礼します」
 礼儀正しく挨拶をすると入り口から出て行く。実直なその姿は簡雍も魅せられるものがあった。
 やがて、珈琲を飲み終える。カップを返却して鞄を掴むと笑顔を見せた。滅多に人には見せない、そんな笑みだった。
「ごちそうさまでした」

▲21:00 寮前

「はー…随分遅くなっちゃったわ」
 とぼとぼと歩く法正。学校を出る頃にはもう真っ暗になってしまっていた。
 報告書は科学室で怪しげな発明をしていた諸葛亮に渡してあるから問題無い、取りあえず今日はゆっくり寝て明日の簡雍の襲撃に備えよう――半ば開き直りを見せているようだ。
 寮の門をくぐった時だった。目の前に馬超が――鉢合わせてしまっている様子。
「馬超じゃない…何してるのよ、こんな時間に。寮が違うでしょ? もしかして寝ぼけてる?」
「そんな訳ないわよ! 何で『夜はこれから♪』な時間に寝ぼけなきゃならないのさ!」
 疲れてるから普段の2割増しで言う事がキツイ法正に何処となく不良じみてきた馬超、姦しい。やがて疲れてる法正が折れる事に。
「まあ…何でもいいけど。早く戻らなくてもいいの?」
「憲和にこの間の漢中での写真貰おうと思ったんだけどな。待ってても帰ってこないから」
「あー…ずっとシャッター切ってたものね…って、今何て言ったの!?」
 危うく聞き流しかけた。法正が馬超に詰め寄る。
「え…いや、簡雍いなかったからって…」
「ウソ! じゃ…まだ待ち合わせ場所にいるの…もしかして!」
「ちょ…いてっ!」
 法正は馬超を突き飛ばすと踵を返して駆け出した。馬超は門で頭をぶつけて悶絶。馬超1回休み――

▲22:00 某喫茶店

「………憲和」
 閉店した様子の喫茶店の前に立つ法正。明りも消えて人の気配すらしない店内をちょろちょろとカーテンの隙間から覗きこむ。もしかしたら――そう思うと必死になって辺りも探し始めた。
 元々は自分が誘ったのに何で一番最初にここに来なかったのだろう、法正は激しく後悔していた。――次の瞬間!
「いつまで待たせるのよ! このバカ法正!」
「きゃっ!」
 後ろから鞄で法正の頭を殴った輩に痛そうに頭を押さえて蹲る法正。痛みを堪えながら後ろを振り返ると、そこに立っていたのは簡雍だった。
「憲和…ずっとここにいたの!?」
「待たせすぎ! 自分から誘っておいて…許せないぞ!」
 今度はでこぴん。小気味いい音が静かな通りに響いた。
「…ごめん」
 額を押さえながら深く頭を下げる法正。流石に悪いと思っているようだ。その姿を見て簡雍も怒るに怒れなくなってしまう。
「…牛丼奢ってくれたら許す」
「…いいの? そんな事で…?」
「お腹空いてるの!」
 ふんっと鼻を鳴らすと歩き始める簡雍。慌てて法正も後に続く。
「言い訳しなくていいからなー…来たんだから謝る代わりに奢れよー」
「…味噌汁と玉子も付けるわ」
「んじゃ、手打ちね」
 くるりと簡雍が振り返ると法正に微笑みかけた。その笑みを見て法正も自然と笑顔になれていた――

▲22:30 某牛丼チェーン店

「いらっしゃ…マジ…?」
 バイト着に身を包んだ張任に呆気に取られる簡雍と法正。そそくさと外に出て大笑いしていた――

▲24:00 法正の部屋

「くー…」
「………ぐぅ…」
 法正と簡雍が静かに寝息を立てていた。
 この後から二人の少し変わった日常が始まる――

          糸売 or 糸冬

436 名前:惟新:2004/02/27(金) 22:03
法×簡シリーズまだまだ続くっ!
もはや学三には無くてはならない名物となりつつありますなー(;´Д`)ハァハァ

気が付けば二人の友情も温まり。
艱難辛苦も何のその、すっかりわかりあってるじゃありませんか!
心の中が温まるですよ〜
そんでもって張任タンが可愛くて仕方が無いです(;´Д`)
壮絶にいじらしいですよもう!

ところで牛丼が食べたくなったですが、絶滅危惧種…

437 名前:那御:2004/02/27(金) 22:36
教授様による法&簡シリーズキタ―(・∀・)―!!
実務が多い法正に対し、簡雍は暇そうですね・・・
ズボラな性格でも、心は暖かいことこの上ないですね。。
サブキャラ馬超、張任も良い味出してる・・・

438 名前:国重高暁:2004/04/05(月) 16:12
 ■■ 小さな才媛 ■■

「公路お姉ちゃん、こんにちは!」
 敷地中雪化粧した豪邸の、その母屋の表出入口に、一人の幼女の姿があった。
 両手に大きな包みを抱え、ちんまりと立っている。
「はい、今開けますわ」
 公路お姉ちゃんと呼ばれて返事をしたのは、年の頃十六、七の少女。
 その声には品があるが、なぜか元気がない。
 彼女はドアを開け、幼女と対面した。
「あら、あなたは……どこの子でしたかしら?」
「お姉ちゃん、あたしのこと忘れたの? わーん」
 泣きじゃくる幼女を制止しながら、少女は懸命に自分の記憶をたどる。
「えーと、ちょっと待ってらして……ごほ、ごほ」
 ただの咳払いではない。彼女はここ数日、風邪で四十度の熱に苦しんでいるのである。
「思い出しましたわ。確か……陸さんちの績ちゃんでしたわね?」
「よかったあ。ちゃんと覚えててくれて」
「ごめん遊ばせ。私、こういう体でございますから、ちょっと頭がぼけておりまして……」
 大いに謝りながら、少女は持っていた絹のハンカチで、幼女の顔を丁寧に拭いてあげた。

 この少女の姓名は袁術、字は公路。
 ここ荊州でも他に比類なき豪家の令嬢で、蒼天学園高等部の生徒会副会長を務めている。
 一方、やってきた幼女の姓名は陸績、のちに字して公紀。
 今春から小学生になるところだが、既に微積分の知識を持ち、「小さな才媛」と評判の幼女である。
 もとより彼女も深窓の生まれであり、したがって家族ぐるみの交流を持つ。
 そんな陸績を自室に通すと、袁術は悪趣味なベッドに身をゆだねた。
「績ちゃん、私を見舞いにいらしたのね?」
「うん。だから、あたし、これ持ってきたの!」
 こたつに入った陸績が包みを解くと、立派なかごに盛られたフルーツが姿を現した。
「お姉ちゃん、しっかり食べて、元気出してね」
「あら、フルーツなら、既にたくさん届いておりましてよ」
 袁術は豪家の令嬢であるから、当然見舞い品の差し入れも多い。
 現に、こたつの周りには、フルーツを盛ったかごが所狭しと並べられていた。
「そ、そんな……三十分もかけて、せっかく持ってきたのに……」
「泣かない、泣かない。私、あなたの分もちゃんといただきますわ」
 再び涙目になる陸績を、袁術は丁寧になだめすかす。

「では、とりあえず……オレンジでもいただきましょう」
「お姉ちゃん、風邪にオレンジはあまり効かないんだけど」
「病は気合で治すものですわ。お黙り!」
 医学的知識をひけらかす陸績を抑え、袁術は彼女の持ってきたかごからオレンジを一個取る。
 そして、自らもこたつに入り、片隅に置かれていたナイフでこれを割いた。
 「こたつミカン」ならぬ「こたつオレンジ」である。
「績ちゃん、あなたもお食べなすって」
 オレンジの一切れを食べながら、別の一切れを陸績に勧める。
「いらない。せっかくあたしが持ってきたんだから、全部お姉ちゃんが食べて」
「うーん……しようがないですわ」
 残ったオレンジを食べ終わると、件のかごからまた一個のオレンジを取り出す。
 結局、袁術は陸績の持ってきた三個のオレンジを全部食べた。

「これ、人のかごに手をつけるんじゃありません!」
 すさまじい怒号である。袁術は、陸績が突然、他人の贈ったかごからオレンジを三個取るシーンを見透かさなかった。
「お姉ちゃん、怒らないで。あたしの一生のお願いだから」
「怒りたくないのはこっちですわ! なんてはしたないことを……」
「はしたないけど許して。これには深いわけがあるの」
 涙をこらえ、陸績は事情を説明し始めた。
「あたし、これから家に帰って、ママにもオレンジを食べさせてあげたいの」
「なるほど」
「今、あたしんちがどうしようもない状態なの、お姉ちゃんも知ってるでしょ?」
「もちろんですわ」
「だから、お姉ちゃんからもらったことにして、このオレンジをママにあげたいの。ねえ、いいでしょ?」
(な、なんとまあけなげな子……)
 袁術は思わず涙腺を緩めた。この幼女が高校生並の知能だけでなく、並ならぬ孝心をも備えていようとは。
「わかりましたわ。では、私のことをよろしくお伝えくださいませ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
 陸績は、三個のオレンジを先刻のかごと同じ包みに納め、これを懐にして去った。
 一方、ベッドに戻った袁術の枕元には、彼女の持ってきたかごと並んで、先ごろ入手したばかりの「伝統の蒼天会印」が置かれていたのであった。

                   糸冬

439 名前:国重高暁:2004/04/05(月) 16:29
いかがでしたでしょうか。
呉書陸績伝などにある、かの有名な
「陸績懐橘」の故事をSS化してみました。
元来は九江県で起こった出来事なのですが、
ここは袁術の本拠・宛県にしておきました。
伝国の玉璽については未だに公式設定がない(?)
ようなので、とりあえず「伝統の蒼天会印」と
しておきましたが……宜しかったでしょうか?

以上、国重でした。

440 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/05(月) 23:50
国重高暁さま、初参加初登校ありがとうございますヽ(´∀` )ノ
袁術の前で橘を懐に入れたという陸郎のお話ですな!
これまでSS化されていなかったあたりですので、これでまた一つの物語が
学三史に組み込まれたことに…
健気な幼女・陸績たんと、お嬢様袁術たん…(;´Д`)ハァハァ…


ちなみに学三史的修正ですが、陸績は陸遜より4つ年下なので、新設定でいえば
4ヶ月年下。まず、同学年。諸葛亮や孫権とも同年なんですねえ(^_^;)
つまり袁術が玉璽を手に入れてた頃だと、中学二年生だったり。

もちろん国重高暁さまの投稿は他のSSと同じく“異説”ですので、こういう細かい
ことは気にせずに! これからもよろしくお願い致しますねー!

441 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/05(月) 23:57
>>435
                  __ __ __ __ __                 __ __
                 ∠__∠__∠__∠_.∠_../ |        __∠__∠__∠l__
               ∠__∠__∠__∠__∠__/|  |        ∠__∠__∠__∠__/.|_
.                ∠__∠__∠__∠_.∠_./|  |/|       ∠__∠__∠__/   /|  |/|
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        __ _|    |__|__|__|__|/| ̄ ̄|  |    ∠__|__|__l/   /|  |/|  |
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.     ___|__|__.| ̄ ̄|  |_|/      |    |  |__|/     |    |    |    |    |  |/|  |
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  | ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|  |.         |    |  |            .|_|    |    |  |__|/
  |__|__|__|__|/        |__|/               |__|__|/


今日の今日まで投稿に気づきませんでした…_| ̄|○  スマソ教授さま…

うーん、法正と簡雍の凸凸コンビ。すっかり定番というか、学三的に定着して
しまってますが、いよいよ熟年期のカポーじみてきましたねえ(^_^;)
法正のようにある意味人見知りするタイプだと、ツボに入るようで…

442 名前:那御:2004/04/06(火) 00:12
というわけで、国重様初投稿乙!
何を隠そう私は隠れ陸績ファンでして・・・
文人なのに剛毅な人物っていうところにツボがあるのかも(孔融とか)
「陸績懐橘」・・・陸績を語る上で欠かせないイベントですよね。
それを見事に学三へ、良かったです!

443 名前:惟新:2004/04/09(金) 04:05
いらっしゃいませ国重高暁様!
さっそくのご投稿、拝読させていただきました!
おおっ! しっかり学三風にアレンジされてますよ!
何気に感受性豊かな袁術たんイイ(・∀・)!!

444 名前:はるら:2004/04/17(土) 14:09
■平和なひと時■


「だぁ〜〜〜〜〜!!!遅〜れ〜る〜!!!」
平穏そのものの学園に一人の少女の声が響き渡る。
「あっ、伯珪先輩!!どうかしたん〜!!」
「やや、玄徳!お前こそ何やってる?きょう授業あるぞ!!」
「ええぇ!!!!先輩マジ!?」
「嘘ついてど〜すんだよ!!!また盧植先生に怒鳴られるぞ!!・・・てもういないし」
伯珪と呼ばれた少女はまた駆け出した。


所変わって盧植先生の部屋。
「……遅い………」
盧植先生が呟いたその時、
「ギリギリセ〜フ!」劉備が部屋に猛ダッシュで突入した。
「いえ、47秒遅いです」
「ってえぇ〜!!なんで秒単位なん!?」
「…まぁ、1分以内ですから特赦としましょう」
そう言って盧植先生、ドアを閉める。
ドドドドドドォ〜〜!!!!!
「えっ??何かしら???」
その時公孫サンがドアにスライディングをかまし、ドアが吹っ飛び、
盧植先生に激突した!!
「どりゃ!!!よっしゃ〜!!ギリギリセ〜フ!!!」
劉備心の声「(どこがやねん!?)」
「は、は、伯・珪〜〜〜〜!!!!!!」
「え、えぇ〜??(先生キレちゃったよ、ちょっとドア吹っ飛ばしただけじゃん)」
「あなたはどうしてもっとおとしやかにできないんですか!?」
公孫サンため息をつきながら
「い、いや、先生それは先生だって・・・」
「なにか?」盧植先生、先手を打つ。
「う、(先生、顔は笑ってるけど目まで笑ってない。む、むしろ怖い…)」
劉備心の声「(っは!これはピンチや!!伯珪先輩にとってもあたしにとっても!!)」
「(こりゃ、なんとかせな・・・!!あれや!!!)」
「せんせ〜!このクッキー食べていい〜!?」劉備が話を変えようとする。
「な、げ、げ、玄徳〜〜!!!!!」
「は、はぅ〜!?(ミ、ミスった〜)」
公孫サン心の声「(馬鹿でしょ!?)」


―何だかんだで2時間経過―

「…………わかりましたか?二人とも!」
公孫サン「へぇ〜い」
劉備「(先輩、やる気ねぇ〜)は、はい!!」
「よろしい」
「本来なら今日は英作文のテストをしようと思っていましたが、
あなたがた二人のせいで見事潰れてしまいました」
公孫サン&劉備の心の声「(イヤッホ〜〜〜!!!!!)」
「なので今日は不本意ながら英単語のテストをしましょう♪」
「大差ねぇ〜」公孫サンがやる気のない声をあげる。
劉備心の声「(鬼や、本物の鬼がおる・・・!!)」

「コンコン」ノックが鳴る。
「どなたですか??」
「しーちゃん元気ぃ〜!?」朱儁が現れた!!
公孫サン心の声「(先生が、先生が『しーちゃん』!?)」公孫サンは吹き出した。
しかし劉備が公孫サンの口をふさいだ。
「伯珪先輩、今度こそ死んじゃいますよ!?」

「…しーちゃん、あの子達…」朱儁が劉備と公孫サンを指をさす。
盧植の目は恐ろしく凍りついている。
「こーちゃん、お願いだからちょっと部屋から出ててくれない???」
「…えっ、いいけど。……あの二人かわいそーに」そう言って朱儁は部屋を出た。

盧植先生、足早に二人を間合いに詰める。
「あっ、先生!……いつもながらスマイルが素敵ですね!!」劉備は適当に誤魔化した。
「ふふふ、ありがと、玄徳。……と・こ・ろ・で伯珪、どこに行くのかしら??」
さっさとエスケープを試みる公孫サンに魔の手が!!!
「…えっ!!あ、あ、先生……、いやちょっと…」口ごもる公孫サン。
その時、公孫サンは秘計を閃いた!!
公孫サン心の声「(こ、これだ!!)」
「あっ!!!先生このクッキー食べていいですか!?」
劉備心の声「(何考えてんねん!?)」

「あなたもですか!?……あなた達二人はそんなにクッキーが食べたいのですか!?」
盧植は怒りを通り越して泣きかけている。そんな盧植の様子を見かねた朱儁が
「ほら!しーちゃん!!しっかりして!!!嫌なことは皆で飲み明かして吹っ飛ばそうよ!!…ね」
「あなた達も飲みあかそ〜♪」
かなり陽気な朱儁を前に公孫サンは怖気づいた。
「い、いえ遠慮させてもらいます。仲のいい先輩二人で飲んでください。な、なぁ玄徳!?」
「あ、そりゃええ!先輩方二人でど〜ぞ!」
「ふ〜ん、じゃ、しんちゃんと建ちゃんも誘って飲もぉ〜!!!」

盧植と朱儁は部屋を出て行った。と思ったら盧植がドアからひょっこり顔を出して言った。
「…伯珪、玄徳、今日はまともな授業ができなくて申し訳なかったと思います。
………しかし、宿題は出させてもらいます。
…今日の反省文を400字詰めの作文用紙10枚以上で書いてくること。今日はこれだけにします。
くれぐれも体には気をつけるように。……では、また明日」そう言って盧植は行ってしまった。

部屋に沈黙が漂う・・・。

「な、なぁ玄徳、盧植先生まだ怒ってるよ」
「せやね、いつもの1.5倍は宿題でとるで」
「しかも明日までって先生あたし達を殺すきか!?」



―5時間後、皇甫嵩の部屋―

「で、なんで私の部屋なんだ!?」
「うっわ〜!!義真、ひっど〜い!!!
しんちゃんのセンチメンタルな感情を蔑ろにするつもり!?」
「そうそう!!しんちゃんがかわいそーだよ!!!」
「け、建陽、おまえもか!!」
「……ぎ、ぎし〜ん!!もうやだよぉ〜!!!」
「って、し、子幹……!?」
盧植に思いっきり抱きつかれ困惑する皇甫嵩。
それを見て笑っている朱儁と丁原。



―同時刻、劉備と公孫サンは・・・―

「…玄徳、何枚終わった??」
「………二枚。先輩は??」
「……一枚半……」
ひたすら文を書きまくる劉備と公孫サン。・・・でもあまり進まない。



色々あったけど今日も平和な一日でした。


― 平和なひと時 完―

445 名前:はるら:2004/04/17(土) 14:10
盧植と公孫サンと劉備、どうしてもこの三人の逸話が書きたかったんで書いてみました。
7thさまのスレを一部参考にさせて頂きました。
書いてみてはじめてわかったんですけど、大阪弁ってムズイですね。
何か文章的におかしい部分もあるかと思いますが生暖かいスルーをお願いします(爆

446 名前:惟新:2004/04/19(月) 23:05
盧植先生のありがた〜いご指導には劉備も公孫[王贊]も適わない!
はるら様GJ! 勢いを感じさせる作品ですよ〜!
劉備の必死な誤魔化し方とその結果がとても可愛らしいです(*´Д`)
そしてクッキーワラタ。なかなかツボを心得ていらっしゃいますよ〜!

447 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/20(火) 01:14
はるらさま、グッジョブ!!(b^ー°)

盧植とて、後輩たちのまえでは先生でいたいようですし(^_^;)
昔劉備と公孫瓉が机を並べていた光景って、こんなカンジだったのでしょうね〜。
あのころは朱儁も皇甫嵩も丁原も居なかったので、非常にスムーズに授業が…
出来る分けないか、この二人が生徒なら(^_^;)

盧植先生は、学三的にもっと書き込みたいキャラ。演義の無口っ娘はできれば無しの
方向で…

448 名前:那御:2004/04/20(火) 01:42
いやぁ、はるらさまGJ!

相変わらず人気抜群の盧植先生、そして最強(笑。
両名、「頭はさほど悪くないのに授業を聞かないからできない」を地で行ってますな。
そして言い訳でスベりまくる二人に爆笑。

449 名前:国重高暁:2004/04/20(火) 16:41
■■ 将軍の飼い方 ■■

「呂奉先さん、いらっしゃいますか?」
「いるよ。入っといで」
 いつもどおりのぶっきらぼうな口調で、安楽いすの呂布は来客を室内に迎えた。

 ここは、下ヒ棟の徐州校区総代室。
 元来の校区総代である劉備が、関羽らを率いて袁術を攻めた隙に、棟を守っていた張飛らを呂布が駆逐し、この地を制圧したのである。
「そりゃそうと、あんたはどこの何者よ?」
「お初にお目にかかります。私は、蒼天会の役員で韓胤と申します」
「そ、蒼天会?!」と呂布はマルボロを一服噴かした。
「蒼天会って、もはや袁グループのお嬢様に乗っ取られるほど権威が墜ちてるじゃんか。今更そんなとこから使いをよこすなんて……一体どういう風の吹き回し?」
「申し上げます。実は、その袁お嬢様が、妹をあなたのプティスールにしたいとの思し召しで……」
「プティフール?! 旨そうじゃん。あたいにもちょうだい」
「いえ、そうではございません。プティスール、つまり、妹分にしていただきたいので……」
「あんたを?」
「私ではございません。袁お嬢様の妹でございます」
 袁お嬢様とは、もちろん、先日から蒼天会長を勝手に名乗り始めた袁術のこと。
 自分の宿敵たる劉備を呂布が庇護したので、妹を彼女のプティスールにさせて懐柔し、地盤の安定を図ろうというのである。

 しかし、呂布は首を縦に振らなかった。
「韓胤ちゃん、あたいをプティスールなんか取る柄だと思って?」
「では、一昨年、丁建陽さんのプティスールになられたのはどこのたれでしょう?」
「うっ……」呂布は困惑した。
 丁建陽は名を原といい、もと生徒会執行部員の一人である。
 しかし、董卓が会長職を奪うと、プティスールの呂布に裏切られ、階級章まで剥奪され、今春、失意のうちに高等部を卒業していた。
「確かに、丁先輩はあたいのグランスールだったけど……あんなもん、出世の手がかりにすぎなかったわ!」
「奉先さん、なんということを……」
「とにかく、嫌といったら嫌だかんね!」
「あの、ケホッ……そんなに、ケホッ、ケホッ……嫌ですか?」
 呂布の噴き出す紫煙に咽びながら、韓胤は更に言葉を続けた。
「袁お嬢様は、妹をプティスールにする見返りとして、あなたを蒼天会書記に任命するとの思し召しですが……」
「そんなもんに釣られるあたいじゃないわよ。さあ、とっととお帰り!」
「奉先さん。あくまで固辞するのでしたら、私自らの手であなたの階級章を……」
「聞き分けのない娘ね。みんな、やっておしまい!」
 呂布の号令である。たちまち、室内のそこかしこに隠れていた彼女の部下たちが次から次へ飛び出し、逃げ帰ろうとする韓胤を、あっという間にしばきあげた。
 捕縛された韓胤は階級章を剥奪された上、制服を引き裂かれ、実にあられもない姿となったのである。

 翌日、呂布の部下の一人・陳登は韓胤を連行し、許昌棟の「蒼天通信」編集室へ乗り込んだ。
「編集長、いらっしゃいますか?」
「いるわよ。入っといで」呂布そっくりの応対である。
「お久しぶりです。下ヒ棟の陳登と申します」
「あら、こちらこそ……って、その縛られてる娘は一体?」
 編集長の曹操が韓胤に目配せすると、それまで押し黙っていた彼女が漸く口を開いた。
「韓胤でございます。南陽棟の袁お嬢様の思し召しで、彼女の妹をプティスールにしていただくべく、呂奉先さんの所へ参ったのですが……」
 ここで、陳登がすかさず縄目を解く。
「固く拒絶された上、私をこのような姿に……シク、シク」
 慟哭する韓胤の制服はズタボロに裂かれ、階級章もついていなかった。
「さすが奉先ちゃん、ひどい仕打ちね……それはそうと、元龍ちゃん」
「はい?」曹操の突然の質問に、陳登は驚きを隠せない。
「将軍の飼い方について、あなたはどうお考えかしら?」
「しょ、将軍の飼い方ですか……」彼女はしばし考え込んだ。

 やがて、陳登は自分の脳内を整理すると、曹操にこう語った。
「将軍を飼うのは、虎を飼うようなもんだとわたしは考えてます」
「それはなぜかしら?」
「満腹時、つまり任務を負ってる時はいいんですが、空腹時、つまり任務のない時は、ひたすら暴れ回って手がつけられません」
「なるほど……」と曹操が小さくうなずいた次の瞬間、彼女の反論が陳登を襲った。
「あいにく、わたしはそうは思わないわ」
「とおっしゃいますと?」
「将軍を飼うのは、鷹を飼うようなもんよ」
「と、鳥の鷹……ですか?」
「ええ、そうよ」
「それはなぜでしょう?」
「獲物、つまり野望があるうちは必要だけど、それがなくなれば不要になっちゃうからよ」
「正に『狡兎死して走狗烹らる』ってわけですね」
「そういうこと」
 曹操は私見を説き終えると、大きく伸びをしてから、傍らの缶コーラを一気に空けた。

 続いて、陳登が先刻とあべこべに曹操へ質問する。
「孟徳さん。あなたは、呂奉先さんをどんな方だと思いますか?」
「うーん、あいつは……ボブ=サップみたいな娘ね。タイマンで勝負させたら、かなうやつなどたれもいやしない。蒼天じゅうが『学園に呂布あり』などと誉めそやすのもうべなるかなって感じ」
 曹操の回答は正鵠を射ていた。実際、呂布は「鬼姫」と渾名されていて、喧嘩の強さはおろかバイクの運転技術も学園一……というのが専らの評判である。
 しかし、イバラにもとげあり。
 陳登は、そんな彼女の無二の汚点を見抜いていた。
「あいにく、わたしはそうは思いませんね」
「っていうと?」
「はっきり言って、彼女は……接着剤みたいな娘です!」
「せ、接着剤?!」
 狐につままれたような曹操に、陳登は呂布の本心を打ち明ける。
「呂奉先さんは、ただ強いだけで計画性のかけらもないんです。目先の利益に流されるまま、昨日はあの娘、今日はこの娘と接着を繰り返してきました」
「それで?」
「新学期に入ってからも、劉玄徳さんを追い落として徐州校区総代の座を奪い、ただ今は南陽棟の袁お嬢様を飛ばして、蒼天会長の称号を我が手に収めんと必死になってます」
「ふーん……それで、あたしにどうしろと?」
「孟徳さん! 彼女を飛ばすため、早急に軍を下ヒ棟へ差し向けてください。わたし、いざとなればあなたに寝返りますから」
「わかったわ。南陽棟を奪う前に下ヒ棟を押さえとけば、いい行きがけの駄賃になるし」
 一礼すると、曹操は何やら文書を作り始めた。
「元龍ちゃん、今日は奉先ちゃんの本心を暴いてくれてありがとう……さあ、今すぐこれへサインして」
 陳登は、彼女の示した文書に目を通すと、二つ返事で署名捺印した。
 新たなる広陵棟長の誕生が、「鬼姫」退学の端緒を開いた瞬間であった。

        糸冬

450 名前:国重高暁:2004/04/20(火) 16:54
いかがでしたでしょうか。
今回の出典は「綱鑑」です。
曹操と陳登との談義が実に
面白いので、SS化してみました。
政略結婚については公式設定がない(?)
ようなので、「マリア様がみてる」風に
「スール(義姉妹)の契り」と表現して
みましたが……これで宜しかったでしょうか?

以上、国重でした。

451 名前:はるら:2004/04/20(火) 17:56
国重高暁さまはじめまして、はるらです。
早速ですが読ましていただきました。国重高暁さまグッジョブ!!
呂布が接着剤・・・。思わず「おぉ!!」と感嘆してしまいました(^_^;)

452 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:36
■ 邂逅 ■(1)

「あれっ、憲和。この写真って…。」
帰宅部連合写真部の記録保管庫にて整理作業中に一休みしてアルバムを見ていた法正はその中にあった一枚の写真に目を留めた。アルバム自体もほこりの多い片隅に平積みと保管が悪かったため、ほとんどの写真はセピア色に色褪せていた。

法正が課外活動からの引退を決意したのは高2の12月。帰宅部連合の一員としてやりたいことは先週の漢中アスレチックス攻防戦の勝利で大体終え、受験を考えての惜しまれながらの早期引退を行ったのである。1つ上の悪友というべき簡雍も卒業を控えてほぼ同時期の引退を決意。以後、帰宅部連合を揺り動かす大事件が連続して起こることは神ならぬ彼女らには予想もできなかった。
ともかく、2人は年明け1月の引退を考えた引継ぎ作業に12月の中旬はてんてこ舞いであった。もっとも、主として引き継ぎ作業で忙しかったのは運営の重鎮であった法正の方で、ものぐさな簡雍のほうは帰宅部連合劉備新聞部写真班班長および帰宅部連合写真部部長であったのだが、書類仕事は前々から全部後輩に投げていたので事務上の手続きの手間は実質皆無であった。
なのに今、保管庫の整理を法正がしているのは新聞部と写真部に残された簡雍の管理物品(のはずの物)の整理に駆り出されたからである。当初は簡雍の手伝いをしていたのであるが、肝心の簡雍がすぐにサボるため、法正も途中で忍耐を切らし、気晴らしに古いアルバムを見ていた。
本当に闇に葬らねばならない、墓場まで持っていかねばならないような社会的に政治的にヤバイ代物、あるいは金になりそうな物件は簡雍自身がちゃっかり安全なところにいち早く動かしていたのだが、それ以外のあまり重要でないか重要そうに見えないもの、公的に発表して問題ない物は“やはり”新聞部の私物棚に投げっぱなしになっていた。こういう物件に関して簡雍は自分の手から離れた瞬間存在自体を忘れることも多々あるので、最初のファイル閉じのような整理作業自体も行ったのは実際にその写真を使用した別人であるに違いない。
当然、荊南地区を制覇して正式に帰宅部連合が発足した今年度初頭以前のネガやデータファイルは全て処分されている。片隅に積み上げられていたこのアルバムもそれ以前のものであるため、もはや焼き増しもできず後は朽ちる一方である。

セピア色に色褪せた写真には、満開の桃の花のした、筵に座って甘酒が入っていると思われる器を手にした人物が3人写っている。折りたたんだ三節棍を腰に挿し片膝立てて座り、左手に杯を持ち右手でヴイサインをしている張飛に、刀袋を脇に正座して両手に杯を持ちカメラに向かって穏やかな笑みを浮かべる関羽、そして二人の間で甘酒の入っていると思しき酒瓶と切り分けられた肉料理を載せた皿を前において、胡坐をかいた劉備が右手の張り扇を肩に担ぎ、左手に杯を持って、二カッと朗らかな笑顔を向けていた。また3名とも制服ではなく私服姿である。劉備はトレードマークの赤パーカーを緑のシャツとジーパンの上に羽織っている。関羽は黒のシャツとベージュのチノパンの上にカーキ色のトレンチコート。張飛はオレンジ色のタンクトップの臍だしルックにデニムパンツとジージャン。
日時は3年前の3月3日。劉備、関羽、張飛そして簡雍がまだ中等部3年もしくは新高1としての期待に胸を膨らませていたであろう時期である。それに日付。“桃の節句”
間違いない、“ピーチガーデンの誓い”の写真だ。

最近の帰宅部連合の隆盛はすさまじく、劉備、関羽、張飛の所謂“ピーチガーデン三姉妹”の名は蒼天学園でも知らぬものがない。
−我ら三姉妹、蒼天学園に入学した時期は違えど、願わくば同じ年、同じ月、同じ日に引退せん。−
“ピーチガーデンの誓い”は彼女らの交誼の固さを示すものとして既に学園の伝説となっている。帰宅部連合の前身である劉備新聞部発足時に、資金・印刷機器と取材の足を提供してくれた張世平と蘇双の縁者が現在、幽州校区における3姉妹関係のグッズやイベントに関しての権利を持っている。例えば、該当地の幽州校区涿地区のピーチガーデンにおいては、“ピーチガーデンの誓い”で当の三姉妹が食したという“桃園結義ランチ”なる便乗メニューがあったりする。
だが、その誓いが存在したかの真偽のほどが疑問とされていた以上、このメニューに付属する話も疑わしい。3人も初期の活動区域は涿地区だったため、ランチ自体はどの時期にかは食べていた可能性はある。つまり決定的な証拠がないのである。

ピーチガーデンの宣伝パンフに“ピーチガーデンの誓い”の説明として、咲き乱れる桃の花のした、劉備が差し上げた張り扇に両脇に居並んだ関羽と張飛がおのおの居合刀と連結式三節棍を交差させている写真が添付されているが、この写真は人差し指を突きつけての“異議あり”の連発である。3名とも蒼天学園“高等部”の制服姿であるし、つけている階級章も当時着けていたと思われる1円玉でなく高額の紙幣章である。第一、3人ともいかにも“やらせ”と分かるぎこちない笑みを浮かべている。この写真自体は実際の年以降、おそらく今年の春に撮影されたものであることは明らかである。

当事者の3名に聞けば一発で分かると思われるが、3名の名がここまで大きくなった今、“あれはあったのですか”と直に聞けるほどの度胸の持ち主はほとんどいない。とはいえ、宴会の席等でぽろっと漏れた情報が皆無というわけでもなかった。法正は、その証言内容を思い起こしてみた…。

453 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:37
■ 邂逅 ■(2)

尋問内容:
“3年前の3月3日 幽州校区涿地区ピーチガーデンであったことを証言してください。”

証言その1:赤パーカーと眼鏡着用の張り扇娘
「3年前なぁ、あの年は暖冬で桃の開花が早かったから桃の節句に花が咲いたっちゅうんでピーチガーデンに翼徳とバイトついでに花見に行ったんは覚えとるわ。もうひとりいたような気もするけどな…。そうそう、行った先でたまたま関さんに会うたんやった。“関さん”って呼び出したのもあの日からやったなぁ…。せやせや、関さん昔から年の割りに落ち着いてて貫禄あるから、てっきり上級生と勘違いしてもうてなぁ〜。」
韜晦が巧みなのか、大事な情報は多いものの直接関係のある証言はどうしても引き出せず。ゆさぶればゆさぶるほど脱線するようにも思えたので尋問は中断。

証言その2:長身の美髪嬢
「…私が蒼天学園に入学した日ですね。私は姉者や翼徳に出会い、共に蒼天学園での3年を過ごそうと心に誓いました。それで充分ではないでしょうか。」
核心は突いてるがあまりにも漠然に過ぎる。取り付く島もなくこれ以上の証言は引き出せず。

証言その3:スタイル抜群の格闘娘
「う〜ん、先週の宿題の内容忘れてるアタシが3年も前のこと覚えてると思うか?いや、そこで頷かれるとなんか腹立つんだけど。…あのときから姉貴たちにはほんと頭あがんねぇんだけどな。でも今やったら…。あ、やべ、姉貴や関姉には言うなよ。」
忘れた振りをしているのか本当に忘れているのかが判明しないところもあるが、何かをごまかそうとしているのは確かである。だが、釘を刺していたのが義姉二人らしいので尋問は断念。

はっきり“誓い”が成されたかは証明されなかったものの、3年前の3月3日に幽州校区涿地区ピーチガーデンの桃の花見で3人が出会ったことは間違いない。

興味深いのは劉備の「もうひとりいた」という発言である。
劉備新聞部の最初期メンバーは劉備玄徳、関羽雲長、張飛翼徳、簡雍憲和であるが…。
「この中にそのもう一人がいるのよね…。しかも見方を変えると2人…。」
ケース1:簡雍憲和
簡雍は劉備の幼馴染であり、劉備との縁はもっとも長い人物のはずであるが“ピーチガーデンの誓い”は3人姉妹である。
ケース2:関羽雲長
劉備、張飛、簡雍の3名とも蒼天学園の本籍地といってよい最初の登録は幽州校区涿地区内である。関羽の本貫は司州校区河東地区解棟である。このときが初対面だった可能性もある。

が、“もう一人”が関羽だと後の証言に繋がらないし、ピーチガーデン“3姉妹”である事実との矛盾が説明できない。
「…ここらあたりの矛盾に証言がはかばかしくない答えがありそうね…。」
その答えをくれそうな人物は法正に片付けの仕事を任せてサボっていた。

確かに重要人物の一人であることには間違いないが、うかつにつつくと何が出てくるか分からないのと、成都棟開放を除けばあまりにも蒼天学園の公務には関わってこなかったので誰もが尋問をスルーしていた人物でもある。彼女に尋問できる人物はごく限られている。ピーチガーデン3姉妹と諸葛亮、つきあいのある運営庶務三羽ガラスのあと二人である糜竺と孫乾を除けば法正しかいない。
「…どーした、孝直、仁王立ちになって。」
「どーでもいいわよ、キリキリ白状なさい!3年前の3月3日、何があったか。あんた知ってんでしょう!!」
「おいおい〜そんな昔のこと覚えてるわけ…。何、その右手で高々と差し上げた如何にも重そうなアルバムは?」
「いや、ショック療法してあげようかと…。」
にこやかに微笑みながらアルバムを振りかぶる法正に、流石に粘る限界を感じたのか簡雍は内心はともかく急いで寝転んでいたところから起き直った。これを見てとばかりに突きつけられた一枚の写真に、ほぉと目を丸くする。
「…しっかし、よくこんな写真見つけたよねぇ〜、アタシ自身今見せられるまでふと忘れてたのに…。」
あやしい。今の3姉妹の株を考えれば正統的に金を儲けられるこんなお宝写真を撮ったことを簡雍が思い出さないはずはない。何かしら忘れたあるいは積極的に忘れたがっていた理由があるはずである。
「…話してもらえるわよね、何があったか。劉備新聞部の最初期メンバーのあんたが知らないはずはないものね…。」
予想はできるが、この相手は転んでもただではおきない。
「じゃあ、対価は片付け全部やってくれるということで…。」
「うぐっ、多すぎ!せめて3分の1!もともとあんたの仕事なんだから!」
「誰も知らない情報なんだからねぇ〜。3分の2!」
「半分!これ以上は負けられないわよ!!」
「…ま、そこで手を打ちますか…。」
意外にすんなりと商談成立。
「...(ひょっとして謀られた?)…。」
なんとなく納得のいかない表情をしている法正に、簡雍が写真を見ながら思い起こしつつ話したのは次のような内容だった。

***

454 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:38
■ 邂逅 ■(3)

3年前の3月3日、蒼天学園司州校区河南地区洛陽棟にある司州校区事務課は学生でごった返していた。年度末の風物詩、事務手続きである。窓口のひとつでも背丈から中等部と思しき生徒が事務員と応対していた。その後ろは数名生徒が順を待って並んでいる。早くしろとの無言の威圧はかなり大きい。
「あら廖淳さん、あなた本貫の欄が抜けてるけど。」
「あぁ〜〜、すみません。えぇっとぅ、荊州校区襄陽地区です。」
廖淳と呼ばれた生徒は必要書類の不備を指摘されて、慌ててカバンから筆記用具を出そうとした。が、慌てていて見つからない。見かねた事務員が窓口の横にあるペンたてを指差す。すみませ〜んと頭を下げて、ペンを取ろうとしたがつかみ損ねて、途中で取り落としてしまった。
あっちゃ〜何泡食ってんのよ、アタシってドジ、と思ったところ、横からすっと伸びてきた手がペンを掴み上げた。慌てていたことと、急な動きでは無かったことでそのときには凄いとは思わなかったのだが、後にして思えば反射神経や運動神経が良いだけの者と違い、瞬発スピードに頼らない無駄のない動きで落ちる前に自然に摘み上げていたのである。よほど武道か舞の修練を積んでいないとできない動きであった。なお、廖淳自身も後に武闘派として年季を積んで帰宅部連合・右車騎主将という高位に着くのであるが、このときの動きはいつまでたっても真似できなかったという。
だからといって廖淳を後代において
“廖化当先鋒”− 廖化を先鋒にする = 人材不足
とあげつらうのは不当に過ぎるだろうが…。

「どうぞ。」
「あっ、ありがとうござい…(うわっ、デカっ!)」
声に応じてペンを受け取ろうとした廖淳は、振り向いたときに目に入った人物、いや正確には眼の高さにあった“物体”に驚いて声をとぎらせた。
そう、目の前の人物は“いろいろな意味で”大きかった。
170cmを越える長身に広い肩、癖がなく艶やかな腰に余るほど長い豊かな黒髪。そして廖淳の目の高さにある物体。そのくせ全体で見るとすらりと均整が取れている。
「どうかしましたか?事務員さんがお待ちしていますよ。」
廖淳の不躾な視線に気を悪くした様子もなく、女性にしては低い深みのある声で丁寧に廖淳に注意を促す。容貌も声のイメージに違わず、派手ではないが落ち着いた美貌である。

今は進学の決まった生徒たちが高等部の進学、そして大学部の進学手続きを済ませに来る時期である。各校区所轄事務課でも手続きができないわけではないが、蒼天学園という単位互換性を持つ仮想巨大学園が存在する華夏研究学園都市においてはいろいろな事情で手間取りそうな場合、中央事務管理課とでも言うべき司州校区事務課で手続きをするのが通例である。2月下旬から3月中下旬までの一ヶ月はこういった学生たちで大病院の待合室並みの大きさがある司州校区事務課のロビーはごった返すのである。廖淳もその口で、追試が幾つかあったため荊州校区での正規中等部進級手続きに遅れ、慌てて司州校区で手続きに来たのである。
“高等部の先輩かな…。”
担当事務員の手続きに時間がかかりそうな廖淳は、これまでの後ろからのプレッシャーもなんのその、件の人物をゆっくり観察することにした。
彼女は廖淳の隣の窓口で事務手続きを受けていた。
黒のシャツにベージュのパンツ、上に深緑所謂カーキ色のトレンチコート(長身の人が着るとすごく映える)を羽織った男装の出で立ちであるが、声高に上等を叫ぶ連中に在りがちな伊達や無頼を気取っているわけでなく、またマニッシュとも違う。マニッシュというのは“男っぽさ”というより敢えて男装することで逆に女性としての色っぽさをアピールしている感がなくもないが(宝塚の男役はどうみても“美男子”でなく女性の色気がある)、この女性の場合は単に動きやすい服装を選んだらこうなったという様子で、無駄を省いた機能美のほうを考えているようである。
左手に紫の袋(刀袋)に包んだ1 mを越える棒状の物を携え、脇には風呂敷包みを抱えている。蒼天学園の“武闘派”集団のなかには電動ガンや模造刀をこれ見よがしにぶら下げているものも多いが、本来銃刀法では刃のない模造刀といえど公共の場では刀袋に収めておくことが規定されている。
風呂敷には書類や筆記用具が包まれていたのがこれまた古風である。
ちろちろと横目で書類をみると、氏名は関羽、本貫は司州校区河東地区解良棟ということであった。
“…関羽先輩か、よし覚えた…。しっかし、妙に気になる人だなぁ…。”
事務課の他の窓口に来た生徒たちも廖淳ほどじろじろ見ることはないが、時折盗み見たり振り返る者がいた。
いかにも物に動じない穏やかな内にも威を納めた風だが無闇に威圧感があるわけでもない。整った顔立ちに出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ長身、そして腰に余るほど豊かにある癖のない艶やかな黒髪と、1つ1つがモデルでもなかなか見れないような要素を持っているが全体的には落ち着いてまとまっており花が咲き誇るような派手さがあるわけではない。きびきびと動きのつぼを押さえた水際立った挙措であるが、ありがちなオーバーアクションではないので身体の大きさに反して目立つわけでもない。
だが存在感は比類なく大きい。

この女性の方は廖淳と違い書類に不備がなかったようですんなりと事務手続きは終了した。
一度も廖淳の方には振り返らなかったが見遣っていたのは気がついていたようで、それではお先に失礼、と微かに微笑んで会釈し、事務課を後にした。
「…やっぱり、高等部の先輩方ってかっこいいですねぇ。私も後3年もしたらああなれるのかなぁ…。」
絶対無理よ、という社会的・教育的に問題のある突っ込みは内心にとどめ、書類手続きをしていた事務員さんは問題にならないほうの突っ込みを口にした。
「…あの娘、あなたと同じ中等部よ。あ、もっとも新高1という意味で高等部の先輩というのは正しいけどね。高等部への入学手続きだったから…。」
「…え゛っ!大学部への進学だったんじゃないんですかぁ?!」
この時期に進学でなく高等部に入学するというのは妙である。入学試験・正規入学手続き自体は既に終わっている。正確に言えば新高1への編入ということになる。蒼天学園への編入は言ってしまえば試験に合格さえしてしまえば365日いつでもOKである。ということは…。
「体育科だったんですか?」
あの体格ならさもありなんである。
「い〜え、それが普通科よ。久々に編入試験の数学で満点が出たという話よ。」
次の生徒の事務作業を済ましつつ、事務員は廖淳に返事を返す。
世間話をしながらでも作業効率がさほど落ちないのは流石プロというべきか。もっとも華夏研究学園都市の事務員は時折学生の年齢や入学年度が正規書類と合わなかったりと総じてかなり作業内容がアバウトらしいが…。
「え゛え゛っ!!」
一芸でも飛びぬけていれば入れる専門科でなく普通科であると編入の場合満遍なくかなり成績が良くないと入れない。コネでもない限り正規入学者の上位10分の1に入れるくらいでないと駄目である。聞くところによるとかなり珠算が巧みらしく、非常に素早く正確に検算していたため、膨大に計算せねばならないはずの数学で満点が取れたらしい。
…天は二物を与えずって嘘じゃないの…?いや、あの人だって何もせずにああなったわけじゃない、私だっていつかはきっと!廖淳、ガンバよ!!
廖淳、本質は打たれるほどに強くなる熱血体育会系である。
「…廖淳さん早くして…。」
廖淳の夢想は後ろからの催促で破られた。
約1年半後に廖淳はこの娘と再会する。

***

455 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:38
■ 邂逅 ■(4)

ところ変わって、冀州校区常山地区に存在する華夏研究学園都市唯一の神社である常山神社では近日に迫った“曲水の宴”の準備で大忙しだった。

〜 曲水の宴 〜
― 観梅の時期、三月の第一日曜日[古代では三月上巳(弥生はじめの巳の日)]に行われる雅やかな歌会。梅園の中を流れる曲がりくねった小川に小船に乗せた酒盃を流し、それが目の前を流れる前に漢詩(奈良時代)もしくは和歌(平安時代)を読む宮廷人の遊びである。作品が出来たらその杯の酒を頂き注いで再び流すというものと、作品が出来ない場合に罰として酒を飲ませるという2通りがあるようである。
東晋の右将軍 王羲之が353年3月3日に主催した流觴曲水(りゅうしょうきょくすい)が高雅な現在の形の曲水の宴の起源といわれ、日本では485年に始められた。現在も日本の各地で行われ、太宰府天満宮では、958年に太宰大弐 小野好古が菅原道真の往時を偲んで始めたと伝えられる。
本来、中国においては春の禊の行事であり、秦の時代に清らかな流れに杯を流して禊払いの儀式として行われたのが始まりと言われ、平安時代には杯でなく穢れ払いの人形を流していたのが貴族の姫の雛かざりとなって桃の節句に発展する。―

本来が節句の禊の行事のため、多数の参加希望者の中から抽選で選ばれた衣冠束帯(男役)や十二単(女役)の先輩方の歌会の前には白拍子の舞そして巫女の神楽舞がある。
常山神社の一人娘である趙雲子龍、常山流薙刀道の同輩にして巫女見習いの陳到叔至、そしてバイトで雇われた彼女らの友人にしてライバルの田豫国譲の3人は、この日、神楽舞の練習をしていた。長髪の趙雲と陳到、ショートカットの田豫はいずれもそろいの巫女姿である。
午前中は3人とも物珍しさも手伝って見物にきた生徒たちの撮影に気軽に応じていた。ところが暖冬の影響で桃の開花が早まったため、幽州校区のピーチガーデンでの桃の花見のついでに訪れる生徒がかなり多かったのである。
そのため舞の練習と撮影が度重なると流石に疲れ、午後は人の来ないところで一息入れようと、お茶とお茶菓子を用意して普段は人の来ない神社の裏手に向かった。
ところが薄暗く人けがないはずの裏手からは、やぁ、とぅ、と掛け声が聞こえてきた。
裏手に回ると先客がいた。それも抜き身の刀を持って。といっても危険人物というわけではない。見たことのない長身の生徒が模造刀と思しき刀で剣術の稽古をしていたのである。
関羽も最初は近場の体育館に行こうとしたのであるが、どの体育館も既に部やサークルが練習に使っており、個人が居合刀を遣うスペースを借りられそうになかった。地図を頼りに何箇所か歩き回った挙句、人けのない常山神社の裏手を借りて型を遣うことにしたのである。軒下に風呂敷包みをおき、コートを脱いだシャツ姿であるが既に長時間稽古していたようで寒そうではない。
巫女服姿の三人に気づいて、神社の関係者と思ったのか(趙雲がいる以上間違いではない)、練習を中断し、会釈して“お邪魔しています、ご迷惑をお掛けしたなら引き払います”と聞いてきた。場を弁えた態度に、趙雲が、ご自由にお構いなく、と返事を返すと謝意を示して再び稽古を再開した。三人もタオルで汗をぬぐい、湯のみ片手に軒下に座わり、休憩方々何とはなしに稽古を眺めていた。
大きく動く度にそれに合わせて豊かな黒髪がうねるように波うつ様は印象的であった。が、それ以上に3人の関心を引いたのは、この人物の滑らかな挙措と3人の耳に微かに聞こえた風切り音であった。
趙雲、陳到、田豫の3名とも中学生としては傑出した格闘技能を持っているため、挙動の一つひとつを見ただけで、この人物の力量のおおよそは見て取れる。滑らかな無駄のない動きで俄かには真似できそうにない。また、遠目には撫でる様に大きく軽く振っているように見えたのだが、風切り音はこれまで耳にしたことがないくらい短く鋭いものであった。
「…なあ、子竜。あの人の刀って普通より短いのか?」
疑問に思って、田豫が尋ねる。薙刀をたしなむ二人と違い、田豫は格闘畑である。
「どうしてそう思うの?」
「いや、竹刀に比べたら短いしさ。それだったら早く振れるのも分かる気はするけど…。」
だが、力任せに振ったからといって速く振れるわけではない。
この人物の動きは根本的に違う。
田豫の疑問にクスッと陳到が笑って答える。
「あの人の遣っている刀はかなり長いですよ。背が高いからでしょうね。」
確かに目の前の人物は3人に比べて頭一つ以上高い。
「…デカいのタッパだけじゃないけどな…。」
田豫の視線は胸の辺りにいっていた。
「…それは言わないほうが無難でしょう…。」
趙雲、陳到ともに、自分の胸部を無言で見た後に付け加えた。
竹刀は大体全長が3尺6寸から9寸ある(110 cm 〜120 cm)。真剣に直したならば刃渡り3尺(90 cm)クラスの大業物になる。現在、居合いによく遣われるのは刃渡り2尺4寸5分(74cm)のもの。江戸時代の常寸(普通の長さ:治安にも関わるので触れで規定が出されることも)は時期にもよるが2尺2寸から4寸位である(67 cm ~ 72cm)。
「そんなものだったのか?もっと長いものだと思ってたよ。」
「私の見たところ、2尺6寸(80 cm弱)かそこらだと思いますけど。」
「80 cmよりはちょっと長いんじゃないか?」
「2尺7寸(82 cm)ね。」
こういった得物の寸法の見極めは間合いの見切りの深さにも通じる。その技量はこの3人では陳到<田豫<趙雲であった。

456 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:39
■ 邂逅 ■(5)

外野の雑音を気にした風もなく、件の人物は稽古を続けている。ビュッ、ビュッと短い風切り音が聞こえるが、力任せに振っているようには見えない。つまり得物の重心を把握した上で無理なく全身運動で振るっているため、動きの途切れがなく“きれ”が非常によい。よほどこの得物を使いこなしているのであろう。
一つ一つの型の終わりでは血振りしての納刀が入るのだが、その血振りと納刀がまた一風変わっていた。通常の血振りと納刀は右手のみで握った刀を頭上を通るように斜めに振り、そのまま鞘の鯉口に当てた左手の親指と人差し指の又に刀の棟を載せて切っ先を誘導して納める。この人物の場合、諸手の残心の構えから右手を離し鍔のすぐ上の棟のところを握り拳にした右手で音を立てて叩くのである。そして逆手で握りなおした右手のみで柄を握り、そのまま下から刀身を半回転させて左の二の腕と少し抜いた鞘の鯉口に当てた左手の親指と人差し指の又に載せ、切っ先を誘導して納めるという見慣れない血振りと納刀の仕方をするのである。実際にやってみようと思うと少々ややこしい動きであるが、これもまたよほど遣り込んでいるらしく滑らかな動きである。
「あれは多分、香取神道流です。」
納刀を見て首をかしげていた陳到の疑問に答えるかのように趙雲が口を開いた。
「あの棟を右手でたたく血振りと持ち替えて刀身を回転させる納刀は香取神道流独特のものと聞いたことがあります。」
香取神道流の特徴は常に戦国時代さながらの実戦を念頭に置き、相手の攻撃に対し一瞬早い攻撃により必ず倒すという、全ての技に一撃必殺の工夫がなされていることにある。稽古では木刀を使い防具はつけず常に怪我、最悪死と隣合わせる厳しいものであるが、その一方で“試合は死に合い”、“兵法は平法なり”として戦うこと厳しく戒めている。事実、鹿島の本拠では開祖・飯篠長威斎以来600年もの間、他流試合が行われたことない。すなわち兵法は平和のための法であって、戦わずして勝利を得ることが最上であると教えている。門流に“無手勝流”の塚原卜伝がいることも無縁ではない。一撃必殺の技術の習得と平法の順守という一見矛盾したところにこの流派が600年もの間失われることなく昔の型を継承した答えがあるのかもしれない。

「あれで血振りができるのでしょうか?時代劇や先輩方の居合いですと片手でブンって振るものですし、握りは変えずに素早く納刀する人もいますが…。」
陳到の疑問も当然である。
「血振りのことを言うのなら、どのやり方も本当に血はぬぐい取れません。懐紙でぬぐわねば駄目だったそうです。居合いでの血振りの動作は敵を倒して所作の終了を示す合図に過ぎませんから。それに居合いで納刀するとき、古流では相手を既に倒しているわけですから早く納刀する必要はどこにもありません。却って指を切ったり鞘内にぶつけて刃を痛めたりことがあったそうです。抜くときは文字通り抜く手も見せないくらい早く行いますが。」
事実、抜き打ちを見せたが、居合腰で右手の甲を柄に当てそれが翻ったと思ったときにはビュッと短い風きり音とともに白い光が水平に走っていた。
一度見せた型などは、片膝立てて座った状態から瞬時に1mも飛び上がって抜き打ちを放ち着地時に間髪をいれず拝み打ちを切り下ろすとんでもないものであった(抜附の剣)。
居合、立合の抜刀術の後は、刀を改めたのち、太刀術の稽古を始めた。相手(打手)が居ることを想定して型を遣っていることは分かるのだが、1つ1つの型が他流派の数個分ほどに長い。
「しっかし、古流剣術っていったらいろいろ“奥義”とかがあったりする訳だろ。今日はたまたまとはいえ人前で見せていいものなんかね?」
「…普段の稽古では見学に来た他流の武芸者に技を盗まれないようにいろいろ工夫していると聞きます。たとえば、今遣っている太刀術でも一つの型が非常に長いのは、実戦なら打ち合わせず相手の動きに応じて変化して仕留めるところをわざと相手の太刀を受けて次の動きにつなげているからだと聞きました。」
それを表の型、相手の動きに応じて変化する技を裏の型という。それを抜きにしても、型が長いのは鎧武者による剣術(介者剣術)を想定して、長時間の行動に耐えうるだけの体力をつけるためという理由もある。また、鎧をつけない素肌剣術を想定した系統の技も存在する。

3人の持ってきた急須の茶が冷めるころまで件の女性は型を遣ったのち、稽古をやめて近くにあった笹の茂みの方へ歩いていった。
常山神社裏手にはここそこに七夕祭りで学園生が切りに来る笹が生い茂っている。その1つの前に居合刀を構えてしばらく佇んでいたかと思うと、3度大きく鋭く太刀を振るった。
ビュッ ビュッ ビュッっと連続した音が届いてくる。
しばらく残心したのち、よしとばかりに頷くや、血振りをくれて納刀し腰から居合刀を鞘ごと抜いた。これでおしまいということだろう。首筋の汗をぬぐってコートを羽織り、風呂敷包みの上においていた刀袋に居合刀を納めて本殿に一礼した後、荷物をまとめてスタスタと常山神社の大鳥居の方へ歩み去っていった。その際、律儀に“お邪魔しました”と三人に挨拶をするのも忘れていなかった。

「最後、何やってたんだろうあの人?」
「さぁ?」
「…ひょっとしてこれじゃ…。」
田豫の指差した先には小指ほどの大きさの笹の葉があった。何の変哲もない笹の葉である。他の葉と違い、同じ長さで縦に4等分されていたことを除けば。
3人は思わず顔を見合わせた。
「…出来る?」
「…アタシの得物は拳だよ…。」
「…無理ね…。」
3名とも武道や格闘と戦闘系の分野では中等部で期待の人材と目され自身でもそれなりの自負はあったのであるが、こと蒼天学園においてはいろいろな分野でいそうもない人物が集うという事実を改めて突きつけられた気がした。
「…練習に戻ろっか…。」
「…そうね、私も…。」
「…宮司さん、そろそろ探しにくるだろうしな…。」
しばらく無言でいた三人は誰からともなく練習再開を口にした。あたかも、衝撃から気をそらそうとするように。

***

457 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:39
■ 邂逅 ■(6)

関羽は、境内で香取神道流の型を一通り遣って一汗かいた後、山門から石段を下るときに目に入った桃園によることにした。
緑の木々の間に淡い桃と白の花が慎ましくも美しく咲き乱れ、遠目にも芳しく薫るようである。18年後に陶淵明が随説を書く、荊州校区は武陵地区の秘境・桃源郷にも見劣りはしないであろう。

桃はバラ科サクラ属モモ亜属、つまり桜の仲間で花を楽しむ花桃と果実も取れる実桃がある。3月の花であり、古来東洋では明るく美しい女性の象徴である。
“ほとんどの桃の花の開花時期は3月下旬から4月上旬。暖冬とはいえ今咲いているということは桃色は矢口、白色は寒白ですね…。”
花桃の主な種類としては早生種の矢口(桃)、寒白(白)、中生種の源平(一つの木に桃と白の花が咲く)がある。雛祭りで用意されるのは矢口であるが、これは枝ごと切ったものを温室においてより早く開花させたものである。
一般の桃の花の開花時期は桜とほぼ同じくらい、もしくは少し遅いのである。3月3日は“桃の節句”というが、本来は陰暦の三月最初の巳の日の行事であり、これは現在の3月末から4月中旬にあたる。ここらが通常桃の花の咲く季節である。今日は、暖冬の影響で、花開いたものと思われた。桃園に近づいていくにつれて周りの景色が華やかになっていくが、人の数も増していた。ごった返すというほどではないが、かなりの学園生が花見に訪れているようである。
人の流れに逆らわないように、桃園の奥へ向かう路を両側に立ち並ぶ桃の花を楽しみながら抜けていくと、陸上競技場ほどに大きく開けた広場にたどり着いた。広場を囲むように立ち並んだ桃の木々が遠めに見た以上に華やかに咲き乱れ、蒼天学園生が開いている花見客相手の出店も数多く立ち並んで食欲を誘うにおいを振りまいていた。客寄せの声が活気よくここそこであがっている。
花より団子というわけでないが、かなり運動したこともあり、昼食抜きは流石に応える。
飲食物を扱っている出店の一つに立ち寄ろうとして、ふと足を止めた。
“今日は手持ちが不如意でしたね…。”
進学手続きで授業料を納入したこともあり、帰りの運賃を払ってしまえば手元にはほとんど残らなかったのである。せいぜい、甘酒を1杯買える程度で食事するほどはない。編入試験が好成績だったおかげで、明日からは中等部の学生相手の家庭教師のバイトの口があり日々の食費は購えるのであるが…。
夕飯まで我慢することにしようとしたところ、食欲をそそる匂いに釣られて、ぐうぅぅぅぅ、と腹の虫が鳴るのが分かった。思わず顔を赤らめる。
“少々、見っとも無かったですね。”
武士は食わねど高楊枝という言葉もあるが、腹が減っては戦はできないのも事実である。少しは腹を満たしてからゆっくり桃の花を楽しみたい。さて、どうするかと思案しつつ出店を縫って歩いているうちに、解決策と思しきものが目に入った。
“ひとつやってみましょうか…。”
関羽は広場の一角の人だかりの方へと歩みを向けた。

ギャラリーの注目の中、がっしりとして体力に自信のありそうな女生徒が手に唾してハンマーを振りかぶる。掛け声と共にハンマーを勢いよく台に振り下ろした。
次の瞬間、激突音とともに錘が高く設えられたカウントタワーを跳ね上がっていったが、半分に到達したところで失速し始め、頂上まではまだだいぶ残したところで止まってしまった。あ〜あ、というため息が上がる。
「ざーんねん、惜しかったねぇ、75点。熊のぬいぐるみはあげられないわよ。」
制服を着ていた赤毛の生徒が、がっくりとうなだれた客からハンマーを受け取りつつ、得点の景品を渡した。
この日、簡雍憲和は広場の一角に設えたハンマーストライカーの担当をしていた。劉備玄徳とその義妹の張飛翼徳、そして劉備の幼馴染である簡雍憲和の3人で立ち上げた非公認サークル劉備新聞部の運営資金稼ぎの一環であった。

〜ハンマーストライカー〜
― 昔ながらの遊園地なら大体あるレクリエーションのひとつ。ハンマーで台をたたくと10mの高さのカウントタワーに錘が上昇する。上昇した高さに応じて点数が決められており、点数に応じた景品を渡す。返しばねの着いた板を押しのけて上昇していくので頂上に着かなければ最後に通りきったところで止まる。頂上にゴングが設置してあって最高得点に到達した場合には最後のばねとゴングの間で錘が跳ねてベルが連続してなるようになっている。最高景品は 熊のぬいぐるみ というのが定番。
使用するハンマーは大体、子供・女性用のものと男性用の2つが用意されており、男性用のものは2倍近くの重量がある。運動エネルギーを位置エネルギーに変換するゲームなので、ハンマーの重量よりも叩き付けるスピードのほうが効いてくる。―

458 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:41
■  邂逅 ■(7)

客の半数近くが中等部であるが、たまに高等部、時には大学部とも思える客も来た。そういった如何にも記録を出してくれそうな客にはハンディとして男性用のハンマーを使ってもらっていた。
このハンマーストライカーの最高得点は100点であるが、簡雍の目利きも効いていて、女性用ハンマーを使った最高得点は80点、男性用のハンマーを使った最高得点は今の75点というところであった。
景品が取れないと客から文句が出ないように、1時間に一回、張飛がサクラで男性用ハンマーを振り、最高得点を出すというデモンストレーションをしている。とはいってもこういった景品つきの出し物は、普通ならどうやってもトップ賞は取れないように仕組んであるものである。男性用ハンマーを使った場合、張飛が本気で叩かないと最高得点がだせないように錘と返しばねを調整してあった。ちなみに、張飛は中学3年生にも関わらず重量挙げのトータルで200 Kgをマークしている。なお、女子53 Kg級の重量挙げ世界記録はスナッチ(腕の力だけで一気に足元から頭上まで上げる)97.5 Kg、ジャーク(胸から頭上へ上げる)121.5 Kg、トータル217.5 Kgである。
この日の特賞の景品は、恒例の熊のぬいぐるみと大皿に盛られた見事な東坡肉“トンポーロー”だった。

〜東坡肉“トンポーロー”〜
― 北宋の詩人、蘇東坡(1036−1101)が政変で杭州に左遷されたとき、不作だったのを西湖の土木工事で領民を飢えから救った。そのお礼に領民が豚肉と紹興酒を送ったが蘇東坡は受け取らず、醤油と紹興酒で角切りにした豚肉を煮込んで振舞ったのが始まりと言われる。
もっとも、本場は黄州という説もある。実際、蘇東坡は杭州にも黄州にも赴任しているし、以下のように“食猪肉”という題の調理法を記した詩も黄州に残している。

食猪肉      豚肉を食べるなら

黄州好猪肉    黄州の豚肉は上等で
価銭等糞土    値段は非常に安いが
富者不肯喫    金持ちは食べたがらないし
貧者不解煮    貧乏人は調理法をしらない
慢著火      火はゆっくりつけ
少著水      水は少なめにする
火候足時他自美    充分煮込めば自然にうまくなる
毎日起来打一碗    毎日起きたら一皿にだけつくる
飽得自家君莫管    自分の腹が満たせればいい
              他人の知ったことではない

『漢詩紀行』(二)P.111(NHK取材グループ編、NHK出版刊)

日本の豚の角煮のルーツとも言われるが、中国の東坡肉は似て全く非なるものである。皮付きの豚バラ肉を土鍋に入れ、紹興酒と香辛料の入った醤油ダレで長時間煮込む。肉は、やわらかく、とろけるような口当たりに仕上がる。本場中国杭州の東坡肉は筆舌に尽くしがたいほどおいしいらしい。―

この東坡肉は劉備の義妹、張飛が手間隙かけてつくったものであった。張飛は実家が肉屋であることもあり、料理などできそうもないがさつな普段の行動とは裏腹に、肉料理に限っては実は大の得意である。ハンマーストライカーのそばに、これまた劉備新聞部の運営費を稼ぐため、豚肉料理を扱った出店を開いていたが、昼の食事時が終わる前に売り切れる盛況ぶりだった。なお、左脇に劉備担当の同人誌を出していたが、こちらもそこそこの客足であった。劉備と張飛は、今は休憩方々桃園内をあちこちを冷やかして歩き回っているはずである。
さて、この東坡肉であるが、もともとはハンマーストライカーの景品にするつもりはなかった。売り物に出している物とは別に、今日のバイトが終わった後に姉貴分の劉備に花見方々食べてもらおうとよい部分を選んで特別に時間をかけてじっくり煮込んで作った自慢の一皿である。
間違って売らないように取り分けておいたのであるが、特賞の景品がいくらかわいいからといって熊のぬいぐるみだけだと引き寄せられる客層が限られるので、簡雍が食欲旺盛な体育会系も取り込もうと「どうせ、だれも取れないだろうから貸してくれない?」と借り出したものであった。ハンマーストライカーの錘設定には張飛自身が立ち会って、主な客層である幽州校区の人間ではおそらく張飛以外では最高得点が取れないようにしくんでいたこと、劉備新聞部の運営費をもっと稼ぐためという簡雍の誘い文句にのったことで、張飛も借用には同意していた。もちろん、絶対に取られないようにと念押しはしておいたが。

459 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:43
■ 邂逅 ■(8)

昼時を回ったこともあり、熊のぬいぐるみ目当ての中等部生や、花見で浮かれたついでに仲間内の力試しを楽しむ連中に加えて張飛自慢の東坡肉の臭いにつられて挑んでくる体育会系の客層も多い。作戦は成功だったと気をよくしていた簡雍に、新たな客が声をかけてきた。
「…最高得点を取ったなら、この景品がいただけるのですか?」
トレンチコートを羽織った大柄な女性がトップ賞の札がつけられた棚に熊のぬいぐるみと共に置いてある東坡肉の皿を指差している。
「お目が高いねぇ〜おねーさん。こいつはちょっとやそっとじゃ味わえない、自慢の逸品さね。これをちょっとハンマー一振りしただけで差し上げちゃおうっていう、この気前のよさ。どうよ、ひとつ“力試し”してみない?」
取れないように仕組んであるからこそいくらでもいえる台詞。
相手も苦笑交じりに口上を聞いている。
「ええ、美味しそうですね。ひとつ、“運試し”してみましょうか。」
運試し、と言い換えた時点でそれなりに力に自信があり、何か細工していることに気づいてることは伺える。小脇に抱えた風呂敷包みと長い紫の紗の袋を置き、財布を取り出そうとしている間に簡雍は客をじっくり観察する。長身に広い肩。そして刀袋
“…この姐さんは武道系か。”
簡雍は、張飛という規格外の格闘マニアと知り合いであることと、劉備新聞部カメラマンとして多くの被写体を撮っていることもあって、体つきを見ただけでその人物の得意な運動を大体判断できる。剣道部やテニス部といった長物を振るのに慣れていそうな連中も挑戦していたが、ハンマーのように重いものを振るのはかなりの筋力と慣れが必要で、木刀やラケットを振るようにはいかなかった。柔道や空手やレスリングの格闘関係も、筋力は仮にあっても振り慣れていなくて駄目であった。張飛以外での最高得点である75点を出したのは巻き割りやくい打ちの経験がある山岳部の連中であった。
“…ま、男用だったら大丈夫か…。”
簡雍は何気ないそぶりで百円硬貨と交換に男性用のハンマーを渡した。客はハンマーを受け取ると、静止線から離れて、ごく近くに人がいないのを確認してハンマーを持ち上げた。
「おっとっと、走っちゃだめですぜ、おねーさん。」
ハンマーを肩に担いで走りこみ、勢いを稼ごうとする者もよくいるので、そこは注意する。
が、そんなことはしないとばかりに再び苦笑が返ってきた。
その場で2,3回ゆっくり振っただけだった。重心の位置を確かめていたのである。
改めて静止線に立って、静かにハンマーを上段に構える。真面目にすっとハンマーを構えた姿はかなり滑稽味がある。失笑が周りの客たちからあがった。
だが、簡雍の本能には警鐘がなっていた。
“なんか嫌な予感がするのよね…。”
思うに、相手の立ち姿とハンマーを軽く振った様子からより正確に筋力を推察していたのだろう。だが、劉備や張飛ほど喧嘩慣れしていなかったため、こういった類の推測の作動するのが遅れてしまった。張飛なら挙措を見ただけで能力をより正確に推し量ってくる。
既に料金は受け取っていた。受け取る前なら苦しいが言い逃れの仕様はあった。
簡雍の不安をよそに、件の客は一瞬後、短い気合と共にハンマーを振り下ろした。
豊かな長い黒髪が舞い上がる。
腹に響く鈍い衝撃音と同時に張飛の時と劣らぬスピードで錘がカウントタワーを駆け上がった。
“うそっ、やばい!”
カンカンカンカン!!
簡雍の心中とは逆に、済んだ鐘の音がギャラリーの歓声を圧して桃園に鳴り響いた。
「…では、お言葉に甘えさせていただきます。」
目論見が外れて呆然としていた簡雍の耳には、ギャラリーの歓声も相手の受領の宣告も届いていなかった。われに返ったときには、既に相手は景品の熊のぬいぐるみと東坡肉の大皿を持ってその長身を花見客の中に紛れ込ませていた。

関羽は広場の喧騒から離れ、より奥まったところに一本はなれて聳え立つ桃の大木に向かっていた。桃園を通り抜けている間に目をつけていた静かな場所である。大皿の東坡肉を左手に捧げ持ち、右手に刀袋と栓をした酒瓶をぶら下げている。あの後、甘酒売り場を担当していた中等部学生に交渉して、熊のぬいぐるみと甘酒とを交換してもらったのである。
大木の下に腰を降ろして、一息つく。
杯に甘酒を注ぎ、大皿に載せられていた小刀で東坡肉を切り分ける。
「では、いただきましょうか。」
小さく切り分けた東坡肉を一口含む。空腹だったこともあるが、それ以上にあまりの美味に思わず表情がほころぶ。箸で掴むのが難しいくらいトロトロと軟らかいのに、長時間じっくり煮込んであって油が抜けている。紹興酒とタレ、香料、砂糖もよくしみており、調理した人物の熱意が感じられる逸品である。

甘酒で疲れを癒し、美味い料理に舌鼓を打ち、咲き誇る桃の花を一人静かに楽しむ。
これほどの贅沢はそうはあるまい。
桃の花を見上げて寛ぐ関羽の口から、感に堪えぬかのように言葉が漏れた。
…幸せだ…

***

460 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:43
■ 邂逅 ■(9)

幸せに浸っている人間のいる一方で地獄の業火に焙られかけている人間もいた。
“…やばい、やばい。マジで翼徳にどやされるかも…。”
張飛に本気でどやされたら命に関わりかねない。
「.どーいうことだ、憲和ぁ!獲られないはずじゃなかったのかよぉ!!」
簡雍の前には、鐘の音を聞いて休憩を切り上げてすっ飛んできた張飛がいた。劉備をほっぽって全力で駆けてきたようで顔に血が上っており、中3にしてはかなり豊かな胸がオレンジ色のタンクトップの下で上下している。
「オレが姉貴のためにどれだけ手間暇かけてあれをつくったのか…」
怒りのあまり、知らないわけじゃないだろぉ、という後半のせりふは声にならなかった。
折角丹精込めて劉備のために用意した料理が反古になっただけでない。自分ほどに強いものなど学園全体ならいざ知らず、この校区程度なら絶対いないと思っていたプライドが傷ついたことも手伝って気が立っている。
「翼徳、ごめん!気持ちは分かるけど、まあ甘酒でも飲んで落ちついて。」
頭に血を上らせたまま状況を説明するのは危険だった。簡雍は持参のポットに入れてあった甘酒をコップに注いで張飛に渡す。これには落ち着かせる意味以外にも別のもくろみがあった。この甘酒は普通の甘酒ではない。中学生とはいえ呑み助の簡雍が普通の甘酒を飲むはずがない。
“翼徳は調理酒を料理の味見する低度しか飲んだことないはずだから、甘さにごまかされて多分分からないだろう。走ってきて息を切らしている今なら簡単に酔いが回って動けなくなるはず。”
ゆっくり事情を話して酔いが回る時間を稼ぎ、動けなくなっている間に劉備を探してなんとかなだめてもらおう。そう考えたのだが展開は再び簡雍の甘い予想を裏切った。
確かに特製甘酒の効果はあり、コップ片手に事情を聞いている張飛の視線に変化が出てきた。だが、とろんと視線がさ迷うなんて甘いものではない、完全に目が据わり始めた。
「…頭下げて少しでも返してもらうように頼み込むなんてまどろっこしいことしてられねぇな。憲和、そいつ武道やってるようだっていってたな…。」
あろうことか、隣の肉料理屋台の暖簾の竿代わりにしていた六尺棒を降ろし始めた。義理の姉の劉備に、他人様に向けるなとたしなめられていた得物である。
“翼徳のやつ、酒乱の気があったのか…。”
飲ませてしまったものはもどってこない。策士策に溺れる。
「…あの、翼徳サン、どうなさるお積りなんでしょう?」
一縷の望みを託して尋ねるものの、むなしい希望は打ち砕かれた。
「決まってんだろ!勝負して獲られたもんは勝負して獲り返す!うだうだ言うようだったら、張り倒してでもな!!」
“やばい、血の雨が降る…。”
張飛は暴走寸前である。相手の女性が話の分かる人間であることを期待するしかないが、張飛より先にあの女性を掴まえて事情を説明し、少しでも返してもらうよう交渉するしかなかった。
「あたし先に行ってその人と…」
「憲和、お前も着いて来るんだ。オレはそいつの顔を知らねぇ。探すの手伝え。」
簡雍の台詞を聞きもせず、襟首を万力さながらの握力でむんずと捕まえる。得意の逃げ足を披露する暇もなかった。
“…天中殺だ、今日は….。”

目立つ人間であっただけに、件の女性の足取りはすぐに判明した。
「いた、翼徳。あそこ。」
簡雍の指差した先には、満開の桃の花の下に静かに佇み、花を見遣る佳人一人。
甘酒を慌てるでなくゆっくりと口に運び、東坡肉を少しずつ味わうように食べている。
其処だけ切り出せば一幅の絵になる。
“いい被写体ジャン。”
切迫した状況に関わらず暢気な思考が生じたが、張飛のほうは東坡肉が半分近く無くなっているのを見て形相が一気に険しくなる。問答無用で腕ずくに出られてはたまらない。
「翼徳、ちょっと待ってて。」
喧嘩腰で話を進めては、まとまるものもまとまらない。ましてや、景品にしたこちらのほうが立場が弱い。諦めろと言われても本来返す言葉は無いのである。仮に返してくれるとしても、代償に何を要求されるか分からないが、できるかぎり穏便に済ませたい。事件を起こして活動停止などたまったものではない。
花を眺めていた女性は近づいてくる簡雍に気づいて振り返った。
「…どうかしましたか。」
実に切り出しにくい用件だが仕様がない。
「いえ、あの、その東坡肉、ほんとに申し訳ないんですけど、返品願えませんでしょうか?」
簡雍の不躾と言える要望に、訝しげに柳眉を顰めて問い返してくる。
「…詳しく事情を聞かせていただけませんか。そう伺っただけではなんともご返事できませんが。」
もっともである。
「…あれはこいつがうちの大将に食べてもらおうと手間暇かけてつくったやつなんです。客引きしようと景品にしたのはあたしの手落ちです。ほんとに済みませんけど、かわりの景品用意しますから、残った分だけでも交換してもらえませんか。」
頭を下げ下げ頼み込む簡雍の姿に、関羽はしばし顎に手を当てて考えた。軽率な判断ではあったが、ここまで頭を下げに来たのである。顔は立てねばなるまい。幸い、自分はそれほど大食漢ではない。空腹は完全ではないが満たされている。
「….成程、あらましは伺いました。こちらはもう充分堪能させていただきました。半分ほどしか残っていませんが、それでもよろしければ。」
「….憲和、なに長々とくっちゃべってんだ。ぺこぺこ頭下げる必要ないぞ!」
何とか話が通じ、助かったと思ったところ不機嫌そうな大声が後ろから飛んできた。二人が振り返った先には目を怒らせた張飛がいた。

461 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:45
■ 邂逅 ■(10)

張飛にとって、問題は東坡肉を食べられてしまったことにとどまっていない。東坡肉を食われて悔しいのもあるが、それ以上に自分より強い人間が目の前にいるかもしれないという事実に苛立ちを感じるのである。自分の苛立ちの原因がどちらに主にあるのか判断するには張飛は酔っていて冷静さを失っていた。また、簡雍が頭を下げているのを見るのも、自分の力量が足りないことを示しているようで腹立たしかった。
二つの鬱屈を収めるには、目の前の人間を叩き伏せて自分のほうが強いと証明し、東坡肉を獲りかえすのが手っ取り早い。
「翼徳、ようやく話がつきそうなところを。」
「黙ってろ。これはオレの問題だ。」
止めようとした簡雍を押しのける。完全に意地になっていた。
「オレは張飛っていって、腕っ節じゃちっとは知られた顔だ。そいつはあんたが勝ち取った景品だ。だがこっちもただで返してもらうわけにはいかねえ。勝負で獲られたもんは勝負で獲りかえすのがオレらの鉄則だ。」
目的が少しでも東坡肉を返してもらうことから喧嘩に完全に摩り替わってしまった。
「…勝負といわれましてもね。」
「な〜に簡単さ。こいつでケリをつける。あんたも腕に覚えがあるんだろ。その刀袋はお飾りじゃないだろうしな。」
ブン、と手にした六尺棒を一振りする。怪しい雲行きに何事かとギャラリーが集まり始めてきた。編入したての関羽に知る由はなかったが、階級章の強制剥奪権をかけた決闘・喧嘩は蒼天学園では日常茶飯事であった。
「翼徳、よしなって。玄徳が怒るよ。」
「うるさい憲和。文句言うくらいなら、お前の甘酒もう一杯よこせ。」
簡雍の文句も聞かず、有無を言わさずにもう一杯特製甘酒を注がせる。
関羽の鼻腔にぷ〜んと明らかに甘酒のそれと違う酒の香りが伝わった。張飛の思考が短絡的な理由が薄々分かる。
「酔っていますね…。」
びくっと脛に傷のある簡雍が反応する。
「酔う?甘酒で酔うやつなんているかよぉ〜」
呂律が少々回っていない。ぐびっと一気に飲み干して器を投げ捨てる。
“飲んだのが本当に‘甘酒’だったらね…。”
桃の木の下に転がった器を手に取ると、壁面に白い酒粕がこびりついている。そこまでは通常の甘酒であったが、ぷんと鼻腔にかなりきつくアルコールの匂いが伝わった。
“…やはり思ったとおりですか。いい加減な人間が知らずに偶然作っのたか、それとも手の込んだ悪戯だったかは分かりませんが…。”
甘酒の造り方は2通りある。
1) 米麹、ご飯、水を2:2:1の割合でまぜ55 ~ 60度で5時間ほど保って糖化してつくる。
2) 酒粕100 gに水1リットルの割合で水に溶かし砂糖と塩、生姜で味を調えて沸騰させつくる。
問題はこの2つめのほうである。
酒粕の含むアルコール濃度は8 %ぐらいのため、10分の1に薄めればアルコール濃度は1%未満になり酒税法上は「酒類」にはならない。
が、酒粕を使って作る元禄時代の焼酎は、酒粕を細かく砕いて水に漬け、これを温度を保って長期間発酵させて作っていたのである。‘92に再現された薩摩焼酎「辛蒸(からむし)」では7日間の発酵の後の一回目の蒸留で既にアルコール度数は20度あったという。
つまり、誰かが酒粕から甘酒を作ろうとして、水で溶いた溶液を数日くらいうっかりか確信犯かで寝かしておいて発酵させてしまい、それを煮詰めて外観は甘酒であるがその実、酒成分が充分高い濁り酒(どぶろく)を作ってしまったのである。一人暮らしの会社員が炊飯器にご飯を残していたのを忘れて長期出張から帰ってくると酒になっていたという話もあるが、もっとも湿度と温度が適度に(麹菌にとって適度ということで社会生活上はむしろだらしないほうに入るかもしれない)保たれていないとカビが生えてこうはならない。

酔っ払い相手にまともな会話は成り立たないと、無理やりつれてこられたと思しき簡雍と話をしようと思ったが既に近くにいない。見覚えのある赤毛がギャラリーの中へ紛れ込もうとするのが見えた。
“…逃げましたか…。”
当然の判断かもしれない。相手はかなり熱くなっている、衝突は避けがたい。無責任な野次や掛け声もギャラリーから飛んでくる。
「ここまで来て、逃げようって奴は学園にゃいないぜ。腹くくりな。…いくぜ!」
だが、ギャラリーはおろか張飛も知らないことだが、関羽も並大抵ではない。既に尋常でない修羅場をくぐっていた。この時期に編入したのも、とある事件を起こして県下の不良高校生を百人単位で病院送りにしたからである(参考:ぐっこ様“頭文字R”)。だが、そのような事件をまた起こすなど願い下げであった。
“腹をくくれ、ですか…。”
改めて張飛の得物を観察する。六尺棒のようであるが、三等分する位置に金輪が二つついている。それにスイングと風斬り音からただの木製とは思えないほどの重量があるのが分かる。
“六尺棒ではありませんね、あれは…。”
足捌きを駆使して迫り来る棍をさけつつ、刀袋の口紐を解いて模造刀を鞘ごと取り出す。
だが、まだ柄に右手はかけない。一度すっぱ抜いてしまうとただではすまなくなる。極力抜かずに済ませたい。左手で柄を、振った弾みで鞘走らないように右手で鞘の鍔元を握って構える。かわすのみで凌ぎぎれる相手ではない。杖のようにふるって対処しようとした。
“止むをえん!”
打撃のカウンターに柄で突きを入れ、左右の袈裟懸けを繰り出し、膝を払う。が、相手の反応は予想以上であった。棍棒を支点にして軟らかく上体を振ることで突きと斬りを外し、アクロバットのように開脚して飛び上がることで脛払いを避けたのである。当たりそうで当たらない。鞘ごと振っていた上に相手が避けに徹したとはいえ、同世代の人間にここまで完全に避けられたことはない。
“カンフー映画みたいな避け方をしてくれるとは…。”
また、攻撃をかわした張飛としても目を瞠ることであった。たいていの相手なら、少なくとも最後の開脚で飛んで避けるときに同時に棍を振りかぶり、相手の攻撃が空を切ったところを打ち降ろす余裕があったはずである。まだ相手を甘く見ていた分もあるが避けに徹せねばならないのは初めてである。
“やってくれるじゃねえか…、面白え!どっちが強えぇかとことんやってみっかぁ!”
血中のアドレナリンが(アルコールの助けを借りて)身体を駆け巡るのを感じる。
“…ちっとマジにいくぜ…。”

462 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:46
■ 邂逅 ■(11)

「喧嘩だ喧嘩だー!!」
ピーチガーデンを満たしていた長閑な雰囲気が破られた。
「張飛が新入り相手に喧嘩売ったんだって。」
「へえ〜相手もかわいそうに。秒殺?」
「それがまだ結構もってるらしいよ。見物らしいわ。」
災難を避けようとする生徒もいるが、野次馬に参加する生徒も多い。
良くも悪くも活気のある生徒がこの学園にはそろっている。もちろん、中には呆れたように、はぁ〜と長々とため息をついた生徒もいた。
「…翼徳のやつ、また羽目外しよったんかいな。性懲りもない話やなぁ…。」
赤パーカーを羽織った生徒は眼鏡のズレを直しながらぼやいた。
まあ、祭りや花見に喧嘩は付きもんやけどな、とつぶやくと、 
「どら、おおごとになる前に止めんとな。」
ホタホタと右手の張り扇で肩を叩きながら、喧騒轟く奥へ向かっていった。

真剣試合において精神的重圧は非常に大きい。剣道の試合においても気分をほぐすためコップ一杯ビールを引っ掛ける人がいるくらいである。まして生死とは言わないまで大怪我に発展しかねない野試合の場合のプレッシャーは想像に難くない。何も考えずに暴力を振るえる人間は真性の馬鹿かこれまで強い相手と当たったことがなくまた勝ったにしても大事に発展させるほどの力量もなくゲーム感覚で喧嘩をしてきた人間のみである。
さて、今の相手はアルコールのせいで判断力が甘くなり箍が外れてこのような暴挙に出たのは明らかだが、その実力のほどは関羽をして気を引き締めさせるものがある。
通常ならこのまま動き回らせてガンガンにニトロを燃やさせてエンジン加熱によるオーバーヒート(酔いつぶれ)、もしくは大惨事だがラジエータの逆噴射(バーストによる行動不能)を狙うところであるが、注入されたニトロがそれほど大量ではなかったようで適度に燃えているというところである。酔いの助けで身体能力のリミッターが外れ、威圧や痛覚に対しても鈍くなっているので、駆け引きを抜きにした単純な攻防能力では素面の時を上回っているであろう。頼みの綱は、ニトロが尽きるまで持たせるのみであろうが…。
“この相手に、抜かずにいつまでかわしきれるか…。”
模造刀の重心は杖のそれとは違うので、今の握りでは思うように扱いきれない。防御主体では限界が見えてきた。
「そらそらそらぁー!!何時までもよけてちゃ始まんねえぜぇ〜〜!!」
怒涛のラッシュが襲い掛かる。
“これほどとはッ!避けきれんッ!”
最大の危機に日ごろ鍛え上げた身体が無意識に反応した。瞬時に左手の握りを変え、腰を抜刀の位置に捻るや右手が翻る。白光が関羽の腰間から張飛目掛けてほとばしった。
ギャリンッ!
鈍い金属音が響く。間髪をいれず、両者は即座に飛び下がって間合いを開けた。抜き放たれた白刃が関羽の右手で光芒を放つ。
“…やってしまったか…。”
緊張に引き締まった張飛と違い、関羽は少し苦虫を噛み潰したような苦渋の表情を作っていた。それが次の瞬間には拭い取ったかのように表から消えた。
一度抜刀してしまうと却って開き直れたようである。動揺していた気持ちが落ち着き、目の前の人物をはっきり“打ち倒さねば止められない相手”と認識できた。
切れ長の目がきゅっと細くなる。
張飛のほうでも相手の雰囲気が変わったのは判った。これまでは感じられた動揺・躊躇いがなくなっている。それに先ほどの横薙ぎの一閃。とっさに柄の中ほどで受けたのだが打点を外したつもりが間に合わなかったようで、受けたと思われる場所に切れ込みが走り、その奥の隙間がキラリと日を受けて光るのが見えた。棒をしごいて構えを左右に変えると見せて回転させ、相手に切れ目が見えないようにし、棒の金輪部分を両の手の内に納めるように握りなおす。
酔っているとはいえ緊張からか、無意識にペロリと舌で乾いた唇を湿らせていた。いや舌なめずりかもしれなかった。
“…やっとマジになったってとこか。この張飛様をビビらせるたぁ、やるじゃねえか。だがな、まだこっちには奥の手がある。実戦にこれを使おうと思わせたのはあんたが最初だよ…。リーチの差とこの奥の手、あんたに凌ぎきれるかぃ?”

463 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:47
■ 邂逅 ■(12)

関羽は抜きつけの一閃後右手で刀を相手に擬したまま、張飛は構えの左右を変えたまま、間合いを空け、互いの隙を窺うかの様に回り始めた。対峙するその意識下で、彼我の状況の観察が続けられる。
関羽の模造刀は“超薄刃仕立て”というが本身ではない。遠めには真剣に見えるが焼入れのできない特殊合金製で、普通の模造刀なら刃の代わりに平面のでている部分が鋭角になっているものである。とはいえ、関羽ほどの達者なら刃筋が狂わず手の内がしまっておれば棍棒ぐらいは両断できる。その刀身の“物打ち”(切っ先から10 cm位までの刃部)が1cmほどにわたってわずかではあるが潰れて捲れ上がっている。
“…先程の音と手ごたえ、妙な位置に二つある金輪、そして捲れたこの刃。あの棍、やはり疑ったとおりか…。”
関羽は視線を相手から外さず右手で刀を擬したまま、左手で器用にベルトに鞘を挿すと、両手に刀を構え直した。

本来、刀を腰に帯びない状態から抜刀した場合は、諸手で剣を振るうことができないため、即座に鞘を捨てるのが普通である。巌流島の戦いで浅瀬に鞘を捨てた佐々木小次郎を宮本武蔵が“小次郎敗れたり、勝つ者が何で鞘を捨てようか。”と喝破したのは有名である。しかし、これは佐々木小次郎が “物干し竿”の刀身(3尺1寸5分=96 cmと1mない。だが、江戸初期の常寸とされた2尺4寸= 72 cmに比べれば圧倒的に長い)と“燕返し”(佐々木小次郎の流派・巌流では虎切あるいは虎切刀というのが正式名称。振り下ろしの一刀で相手の動きを牽制し、返す刀を振り上げて仕留める二拍子の技)を生かして、海から来た武蔵を足場の効かない浅瀬で仕留めようとしたのを、それを読んだ武蔵がまだ足場の効く波打ち際まで上がる時間を稼ぐために放った揶揄である。長い鞘なので身に帯びるのは邪魔になる。鞘に砂が入ると刀を納めるときに刃を痛めるので海中に捨てるのが乾かすのに要する時間を除けばベストである。けれども既に2時間以上待たされて精神力を消耗していた小次郎はこの揶揄に引っかかってしまった訳であるが。

ひゅんひゅんと唸りをあげて面上と膝に六尺棒の両端がマシンガンのごとく連続で襲い掛かる。関羽は間合いをぎりぎりに開けてこれをかわし、引き戻したところをピタリと張飛の六尺棒に剣先を貼り付けた。押し付け、圧力を加えることで張飛が思うように六尺棒を振るのを妨げる。少々振ったくらいで外れず、強引に振り払おうと張飛が足場を固めて一瞬、動きを止める。関羽はその隙をついて剣先を棒に沿って滑らせ、間合いを一気に詰めてきた。“橋掛かる攻め”である。
長物に剣先を付け、そこを支点にして力を加える(=橋掛ける)ことで長物の動きの自由を奪い、付け入って間合いをつめる。香取神道流では対長物の定石である。だが、張飛の方に動揺は無かった。純粋な長物ならこれは大ピンチだが、あいにくこの得物では一発逆転の対応策がある。足場を固めたのも有効に効く。
“いまだ!!”
両の掌に包み込んだ金輪を素早く緩め、六尺棒を一瞬にして三節棍に変える。先ほどの関羽の斬撃で生じた金属音は模造刀の刃が三節棍を繋いでいた鎖に切り込んだものだったのである。驚いたことに焼入れした刃がついていない模造刀とはいえ、関羽の一撃は棍の木製部を切り裂き、鎖にわずかながらも切れ込みを入れていた。だが、攻撃に支障はない。
固い足場を生かして腰を捻り、勢いよく振り出した。圧力を急に逃がされて、橋架けていた剣先が外れる。それだけではない。関羽の側からは死角になる張飛の背面から、反動で三節棍のもう一方の先端が飛んできた。
“もらった!”
だが、相手も然る者。とっさに歩をとめ、強靭な手首を利して、棟で打ち落とす。
ガシン!!
体の左に張飛の攻撃を捻り落とし、次の連続攻撃が来る前に飛び下がって間合いを開けた。

剣術の攻防において、最善は相手の打撃を受けずにかわして切り込むことである。かわしきれず受けざるを得ないときはまず棟で弾き、次善が刃で受けることである。流派によっては頭上に横たえた刀の鎬で受けカウンターで突きを入れる技もあるが、刀の側面である鎬は刀の弱点であるので、極力鎬で相手の打撃を受けないに越したことはない。
また、実戦においてはまったく見たこともない太刀筋、嵌め手を持っている剣士が存在しうる。現代剣道と違い、剣先が掠っただけで命獲りになりかねない武者修行をしていた武芸者達は、どうしても体捌きでかわしきれないときには、手首の捻りで相手の攻撃を棟で左右に払い落とし、身に掠らせもしない技術を身に付けていた。

“けっ、不発か。まぁ、あんだけ良い反応じゃしゃぁないか。だが、これで攻撃力はさっきより増えるぜぇ。”
ひゅんひゅんとヌンチャクのように一方の端を持って握りを左右変えつつ右肩、左肩そして腰周りを回して周囲をなぎ払う型を示して、威勢を振るう。最後に開いた左手を前に突き出して、バンッと型を決めたときにはギャラリーから畏怖のどよめきすらたった。
リーチの差を抜きにしてもその遠心力から来る打撃力、速度。そして真ん中の節で受ければ先端が襲い掛かり、先端で受ければ真ん中と手元の節での打撃をうけるという構造を持つ三節棍は、一刀での対処はきわめて難しい。間合いを十二分に空けて完全にかわすか、届くぎりぎりの間合いで先端の節を外せば防ぐこと自体は可能だが、これでは防戦一方である。リーチの差のため、一撃をかわして飛び込むのも難しく、張飛もそれは当然のこととして折込済みである。
だが、関羽は中段正眼に構えたまま、表情・様子は変わらない。
むしろ、予定どおりという雰囲気ですらある。
この連結式三節棍、六尺棒を格闘中に三節棍にするのはたやすいが、三節棍を六尺棒に瞬時に戻すのはほぼ不可能である。早めに奥の手と思われる三節棍での不意打ちをつぶして勝負を挑むのを選択したのである。
“その余裕…、気にいらねぇなぁ…。まあいい、化けの皮剥いでやる!”
掛け声とともに、中央の節と末節を握って間合いを変化させつつ左右の連打を頭部、胴、そして膝へ繰り出す。関羽は短い間合いを見切って足捌きでかわし、踏み込もうとするが張飛もすかさず引き戻しながら動いて間合いを開け、長い間合いでの打撃を踏み込んできた関羽へ繰り出す。踏み込む呼吸に合わされ、今度は足捌きではかわしきれず、棟で先端を弾いて払い落とした。三度、両雄は矛を交えたが、互いに付け込む隙はやすやすとは見出せそうになかった。

464 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:47
■  邂逅 ■(13)

生徒集団間の勢力争いが絶えなかった蒼天学園において、戦略や謀略のみならず、戦闘に直接関係する武道や格闘技、戦闘術に秀でた生徒はどの時期においても数多く出現した。後代からそれを振り返って、所詮“見てきたような嘘を言い”の域を超えはしないものの “最強コンテスト”なる私選の番付をするものは多い。その上位陣の常連となる面々はいずれも大規模な騒乱が起こった時期の学生に集中しているのも当然であろう。
後に陳寿著の学園史“学園三国志”で扱われる時期もよく取り上げられる年代であり、 人外の範疇に入りそうな常識はずれの豪勇を示すエピソードを持つ人物が数多く存在した。そういったいずれ劣らぬ猛者の中でも、こと剣技とその駆け引きにおいては関羽が一目置かれていたらしいことは次の言い回しが残されたことで明らかであろう。
“関公面前要大刀” ― 関羽の前で刀を振るう = 身の程知らず
当時の張飛では知る由もなかったが、関羽はその豊富な鍛錬・実戦経験を元に布石をしいてチャンスを待っていたのである。これまでの打ち合いで手の内をそれほど見せず、足捌きか棟での打ち落としで対処していたのも駆け引きであった。

「せやぁ!!」
数度の打ち合いの後、改めて繰り出した張飛の三節棍が関羽の右膝を薙ぐように襲い掛かるが、なんと片足立ちで膝を折り曲げ回避してきた。その足を下ろす動作に合わせた踏み込みで、大技・右片手打ちが得物の間合いの差を埋めて張飛の右側頭部を狙ってすっと伸びてきた。実際、対薙刀対策として古流には膝を狙ったときに狙われた前膝を折り曲げてすかしたところを切り込む手がある。
“これがその余裕かぃ!だが甘いんだよ!!”
空ぶった引き戻しに恐ろしく呼吸を合わせてきたが、余人ならいざ知らず張飛なら対応できなくはない。それが長物と刀の埋めようのないリーチ差からくる余裕だ。それよりこれで胴ががら空きになった。カウンターへのカウンター、ダブルクロスカウンター狙いだ。
“もらったぜ!!”
中央部を右手一本で握り、関羽の攻撃をかがんで避ける勢いで三節棍のもう一端を関羽の右胴へ振り込んだ。これを喰らえば如何に強靭な身体の落ち主であろうと耐えられまい。
ガシッッ!!
張飛の目に映ったのは、会心の一撃が、抜き打たれた左手の鞘で絡めとられている様だった。右片手打ちは三節棍を絡めとるための見せ業だったのである。二刀の心得もある関羽ならではの伏せ技であった。
“がぁっ、なにっ?!”
がしゃんと音を立てて、絡みついた三節棍とともに鞘が張飛目掛けてたたきつけられた。思わず左手で攻撃を受ける。視野がふさがって、一瞬ではあるが関羽自身からは注意が逸れた。即座に注意を引き戻したが、目の前に相手の姿はなく、長い黒髪がぶわっと尾を引いてたなびくのが映った、その先は…がら空きの左!
“本命は左か!!”
模造刀を諸手に振りかぶり、これまでと比較にならない鋭さで風を巻いて袈裟懸けに切り込んできた。
“いけねぇっ、やられる…”
模造刀とはいえ、相手は棍の木製部を切り裂き、鋼の鎖に切れ込みを残したほどの手慣れである。その刃が如何に鍛えたとはいえ人体に当たればどうなるか…。生命の危機に本能が反応して、全身の血が引き背筋に冷たいものが流れ、アルコールとこれまでの剣戟で高揚した気分が一瞬にして冷めた。切り込んでくる相手の鋭い視線がそれに拍車を掛ける。
“ちくしょう、動きがやたらスローモーションに見えやがるぜ…。”
が、こちらの体は指一本動かない。アドレナリンのせいで時が止まったように感じるだけだ。心臓の鼓動がやけに大きく響く…。
どくん
「その喧嘩っ、うちが預かったぁ〜〜!!」
一瞬後、張飛の視界は赤いもので遮られた。



どくん
予期した衝撃はなく、静寂は心臓の鼓動で破られた。一瞬恐怖のあまり意識が飛んだようであった。
“オレ、助かったのか…?!”
赤いのは血でなく、関羽と張飛の間に飛び込んできた人物のパーカーの色であった。
張飛に振りおろされるはずの模造刀は二人の間に飛び込んできた眼鏡の女生徒の眼前でぴたりと静止していた。
「…全く、無茶をする御仁ですね…。」
呆れとも叱責ともつかぬ言とともに関羽は刀を引いた。あまりのことに正直毒気を抜かれたのである。張飛の方も戦闘継続の意欲を失っているようであった。人騒がせな方法ではあるが、取り敢えずの水入りはなった。だが、これからの展開は予想もできない。流れは鉄砲玉のように飛び込んできたこの人物が握っていた。

465 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:48
■ 邂逅 ■(14)

「こらっ、翼徳!あれほど他人様にその道具むけたらあかんてゆぅたやないかぁ!!」
赤パーカーの生徒からは、先ほどまで続いていた剣戟に負けないほどの叱責の声が上がっていた。伴奏にスパコーン、スパコーンといっそ気持ちがいいまでに張り扇の乱れ打ちが続く。打たれるほうの相手もこれまでの勢いはどこへ行ったのか、両膝を折って、頭を守るかのように合わせた両手を持ち上げて平謝りの体勢に入っている。先ほどの瞬間にアルコールが全て飛んでしまったようである。
「うぅっ、姉貴ィ〜〜、相手が歯ごたえありそうだったんでつい熱くなっちまったんだよぅ〜!ごめんよう〜〜。」
どうやらこの眼鏡の人物が、簡雍の言う“うちの大将”らしい。
「皆さん、お騒がせしてすんませんでしたなぁ。さぁさぁ、見世物はお開きでっせぇ。」
どうやらこの人物はこのあたりでかなりの顔役らしい。ギャラリーにもこの人物の素性は知れ渡っているようで、口々に勝手な感想は言っているものの素直に場を離れていった。
血の雨が降るか、という状況を強引ではあったがあっさりかたを付けてしまったのだ。
“…たいした御仁のようですね。”
これで事は済んだもの、と鞘と刀袋を拾い模造刀を納め、甘酒の瓶と大皿の東坡肉は迷惑料に残してこの場を離れようとした。が、そうは行かなかった。
「そこのお人。すんませんなぁ、ウチのアホがご迷惑おかけしたようで。うちは新高1の劉備っちゅうけちな同人屋ですわ。親しいのは玄徳って呼んでくれますけど。こいつ、翼徳の姉貴分やってますんや。」
いかにもお気楽そうだが、いったんつかんだら離しそうに無い。なかなかの曲者だ。巧みにペースに乗せられそうである。
「大事に至らずにまとめられたのはお見事ですが、少々危険でしたよ。」
「いやなぁ〜、最初はちょっとやばいかって思うたけど、結局あんさん棟返したやないですか。それなら痛いで済むし。」
“!…この御仁、傍から見ていたとはいえ私が棟を返すのを見て取ったのか…。”

“棟打ち”というのは時代劇のように相手の見ているところで棟を返して打つことを言うのではない。真剣で切ると見せて振りかぶった一瞬で相手に判らないように握りを変えて切り下ろすのである。相手は棟で打たれた衝撃を真剣で切られたものと勘違いして戦意を喪失もしくは失神するのである。同様に、時代劇における剣術の誤用例として、握りを変えたときにチャッと音が入る“鍔鳴り”がある。効果音としては格好がいいが、実際のところ、鍔の上下を切羽という矩形の金具(切羽詰まるの語源)で挟みつけ、これを柄できっちり押さえて目釘という芯で刀身に固定する日本刀の構造から考えると、“鍔鳴り”がするというのは切羽が緩々になっていて手入れの悪い刀(酷いときは振ったときにガタついた振動で目釘が抜け落ちて刀身が柄からすっぽ抜ける)のことを示すものなので、実は非常に恥ずかしいことである。また“鍔鳴り”がするようだと手入れ云々を抜きに相手に握りを変えたことを悟らせる可能性があるので関羽の模造刀ではそのようなことがないように手入れはしてある。

関羽の選択は“棟打ちで張飛を当て落とす”ことであり、当然、当事者である張飛には棟を返したのは悟らせなかった。闘争の場では相手は一人とは限らないので棟を返すのは一瞬であるし、またすぐに元へ戻す。棟打ちによる無力化は時代劇ほど単純なものではない。張飛の横へ回り込んだ一瞬で握りを変えたので、岡目八目とはいえ、見物していた者でもそれを見て取れたものはいないはずである。それに刃を止めたときも、そのとき刃がどちらを向いていたかは正面にいたこの女生徒にはわからない。第一、これまでの剣戟の激しさから考えると、寸止めになると予想した見物人はほとんどいないため、剣が止まったことにのみ気がいったはずである。関羽自身がすぐ刀をひいて元の握りに戻したこともあり、そのとき刃がどちらを向いていたかは後でゆっくり思い返してもわかるかどうかは不明である。
となると、この女生徒は関羽が勝負どころで多分棟を返すと思って刀身を注視していたことになる。
「こら翼徳!どうせあんたが先に手ぇ出したんやろ!途中から見てたら、このお人、どうやら、極力あんたを痛めつけんようにことを納めようとしてたようやないかぁ!!」
お見通しである。関羽のほうを向いて続ける。
「…それに翼徳相手にして棟返すような優しいお人やったらうちが飛び込んでも多分寸止めくらいはしてくれるやろ思いましたしなぁ。」
あけっぴろげな人物ではあるが、そこまで自分の観察眼を信じられるものなのであろうか。それに、
“…私が、優しい…。”
面と向かって言われると面映いものである。関羽自身の持つ超然とした雰囲気もあいまって、ほとんどの相手は相対する際には良いにつけ悪いにつけ何らかのフィルターがかかっていた。このようなストレートな対応に関羽は弱いところがある。
「…だからといって、私が刃を止めるとは限りませんでしたよ。」
「でもあんさんは止めれたし実際止めてくれはった。それならええやないですか。」
裏表のないカラッとした笑顔でそういわれると反論に困る。こちらの弱いところというかツボを無意識であろうがついてくる。だが、それに付け込むという風もない。
ええでっか、とばかりに指を立てて、二カッと笑って続ける。
「なぁあんさん、“付き合い”ちゅうんはな、ウチの思うところ、心と心の“ドツキあい”ですねん。真剣になればなるほど相手の本音っちゅうか本質が見えてきますわ。ウチはけちな同人屋ですけど、そこらへんはちっとは分かってるつもりですわ。簡単に手ぇ出すようなこいつみたいな奴はまだ心が弱い。まぁ強い人はなかなか手は出さへんけど出すときは凄いんですけどな。あんさんは強いし優しいお人や。それは一件見てただけでもよう判りましたわ。」
不思議な人物である。こちらの心を意図せずに開かせるような懐の広さを感じる。争闘の直後ということで、張り詰めていた神経がほぐされるのを感じる。思わず表情が緩んだ。
それを見て、“おっ、笑いはった”と当人も嬉しそうに微笑んで、予期せぬ、いや内心期待していたかもしれない言葉を口にした。
「なぁ、あんさんお一人でっか?よかったら喧嘩の詫びというのもなんやけど、うちらと一緒に花見の続きでもやりまへんか?」
「…よろしいのですか?」
「折角ここまで足運んでもらいましたのに、このアホとの喧嘩でわやになったままお返しするのは気がひけますしなぁ。それに“袖摺りあうも多少の縁”言いますやろ。そうそう、あんさんのお名前聞いてへんかったなぁ、お聞かせ願えませんやろか?」
「…誠に失礼しました。申し遅れましたが、私、関羽と申します。皆は雲長と呼びます。」

466 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:49
■ 邂逅 ■(15)

関羽としては最初はごたごたが済めばこれ以上関わるつもりはなかった。だから無礼を承知で仲裁にたったこの人物に名を告げるつもりは無かったのであるが、この人物との縁をこれで終わらせるのも惜しい気がした。この人となら蒼天学園でやっていけると感じた瞬間かも知れなかった。それに一見して乱暴者の張飛がこの劉備の妹分であるあたり、張飛自身もこの劉備と共感しあうものがあるのだろう。この姉貴分のために手間暇かけて美味い東坡肉を作ったあたり、ただの喧嘩屋ではない。
関羽は東坡肉の大皿を取り上げ、劉備と張飛のほうへ差し出した。
「….お受けください、迷惑料です。」
「…いや、それは姐さんがとったもんで…。」
劉備に東坡肉を振舞って喜ぶ顔を見れないのは残念である。しかし、落ち着いて考えれば、事情はともあれ自分は景品にすることを承諾したのである。騒動を劉備に預かってもらったこともある。こだわってこれ以上姉貴分に迷惑をかけるわけにはいかない。
だが…、
「ここまで手塩にかけたものを、おいそれといただくわけには参りません。」
背景を知り、劉備が気に入ってしまった以上、景品としてとったとはいえ、関羽としても黙って受け取るわけにも行かない。
このままでは意地の張り合いでまた押し問答になりそうであった。
膠着しかけたところ、救いの手が文字通り伸ばされた。
関羽の持った皿に劉備の手がすっと伸ばされて、東坡肉を一切れ摘み上げる。二人が反応するまもなくむしゃむしゃと頬張った。ほうっ、見張った目がとくりくりと愛嬌たっぷりに眼鏡の奥で動いた。
「翼徳、腕上げたやないか。美味いでぇ。」
張飛が状況を飲み込めないうちに畳み掛ける。
「昨日からじっくり煮込んでくれててんやろ、ごっつう嬉しいわぁ。おーきになぁ。」
関羽もまた劉備の意図を読んで動いた。
「ええ、私も美味しくいただきました。もう少しいただくことにしましょうか。…絶品ですよ。」
自分もまた一切れ口にし、張飛に微笑みかける。
流石に張飛にも分かった。再び収拾が着かなくなりそうなところを劉備が収め、そして関羽が折れてくれたと。二人が自分を許してくれたと。
ぶわっと両の眼に光るものが溢れる。
「姉貴、ごめんな…。…姐さん、ありがと…。」
「こらこら、なに泣いとんねん。あんたも食べえや。美味いもんはみんなで分け合う、そうすりゃもっと美味くなるってもんや。なぁ、関羽さん。あんさんもそう思うでっしゃろ。」
「ええ、そうですね。甘酒もまだ大分残っておりますし、いかがです。」
「ほう、こりゃええですなぁ。ちょっとした宴ですなぁ。翼徳、あんたもお流れ頂戴しぃや。」
「う、うん。姐さん、ごめんな、ホントに…。」
先ほどまでいきり立っていた張飛が今はやけにしおらしく関羽の杯を受けているのがなんとなく微笑ましい。
「関羽さんか…。なんか呼びづらいなぁ、“関さん”で構いませんやろか?年上の人には無礼かも知れまへんけど…。」
「いえ、お構いなく。私も貴女方と同じく新高1ですから…。」
「え゛っ、そうなんや…。」
流石の劉備もこのときだけは絶句したという…。
誕生日は劉備が関羽より一ヶ月早く、関羽は張飛より4ヶ月ほど早かった。
以後新学期までの2,3ヶ月で、彼女ら3名の縁は深まり、いつしか劉備を長姉、関羽を次姉、張飛を末妹とした“ピーチガーデン3姉妹”として知られることになる。

****************************************

「…で、そのときの桃の花見をとった写真がこれってわけよ。私が昔っから歴史の観察者だってことがよく分かったぁ?こんなお宝画像撮ってたんだから。」
「…ええ、よく分かったわ。昔っから騒動の根源はあんただったって。張飛さんのそもそもの暴走の原因があんたの都合と酒にあって、起こした騒動が手がつけられないほど大きくなったことに慌てて、関羽さんと部長が沈静化させるまで逃げて部外者の顔してたから結局“3姉妹”に入れなかったってことが。」
表では如何に喧伝された歴史でも、その裏側など所詮こんなものなのかもしれない。
「うぅ〜、孝直ちゃん、お姉さんは悲しいよぉ〜。こんなひねた娘になっちゃってぇ〜。」
「多少ひねてるのは昔から。それに自業自得も少しは入ってるんじゃないの?大体、撮ったときはあの3人があれほどビッグネームになるなんていくら憲和でも夢にも思わなかったことはこの写真の存在自体忘れて保存が悪くてネガも処分していたことが何よりの証拠じゃない!!」
現在、この写真の焼き増しを持っている可能性があるのは当事者の3姉妹のみである。当然、非売品である。
「…いや、まだ遅くない最後の大もうけにはまだ…。」
「お生憎様。私たち階級章返却したから課外活動行為は退学処分よ。」
「…そうね、最期くらい後輩に土産やっとくか….。」
翌日、色褪せたこの写真は小さな額に入れられて帰宅部連合写真部の壁に歴史の瞬間として掛けられた。後、帰宅部連合が解体されたとき、その直後の騒乱で行方不明になったとの話があるが、司州校区洛陽棟の蒼天学園記念館の倉庫の片隅に眠っているという説もある。

467 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:55
岡本です。全15回と意味も無くやたら長い作品で申し訳ありません。
一気に読むと疲れますので、ごゆっくりお読みください。
日本にいる間に完成させるつもりでしたが、今日になりました。

元ネタは桃園結義ですが、
関羽関係は民間伝承から引っ張ってきたネタが多いです。

断っておきますが、一応中国版の三国志演義連環画を読んで、演義では
どの武将がどの武器を使用しているか大体把握しています。
ただ、そのものずばりは面白くないという理由で、学三に起こす際には
イメージに合う武器やスポーツ・格闘技に置き換えています。
関羽が香取神道流というのはあくまで学三(もっと言ってしまえば、勝手な私設定)限定です。

468 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/23(金) 00:17
>>449
国重高暁さま、グッジョブ!曹操と陳登でしたか…
なるほど、タイトルの意味がわかりましたわ(^_^;)
虎にせよ鷹にせよ、呂布の存在をよくよく表しているワードですものねえ…
誰からも、飼い慣らす、という発想を得られなかったのが呂布の不幸か。
それにしてもスール制度か〜…ホント、結婚の類ってどうしたものでしょうかねえ。
「義姉妹の誓い」ってのはちゃんとありますし…


>>452-467
相変わらず凄いボリュームですね、岡本様(^_^;)
これほどまでの長さになると、しょーとれんじではなく立派な長編ですので、
メールで頂ければありがたいです…

さて、何度かに分けて読もうかと思いましたが、一気に読めました♪
ピーチガーデンの誓いの岡本版真相ですにゃ( ̄ー ̄)
随所ににやりとする民間伝承ネタあり! なるほど、劉備は通りがかった仲裁
ではなく、最初から張飛の悪徳商法のグルで…。簡雍が何故義姉妹から外れてる
かという謎も解決〜
廖化になる前の惇さんもいいなあ…

469 名前:那御:2004/04/25(日) 14:29
>国重高暁さま
結婚に関しては、これもまたちゃんと確定しておきたい事柄ですね。
だんだんと最期へと近づく呂布を見事に描いていますね。
「接着剤」、切れ者陳登のキツイ一言が、引導を渡すか・・・

>岡本さま
う〜む、膨大な知識に裏打ちされた大作!
毎度お馴染み武道ネタから、今回は料理ネタにまで、本当に知識が幅広い・・・
民間伝承も盛り込まれて、いやぁ楽しめました。

廖惇がイイのは私もですがw

470 名前:岡本:2004/04/25(日) 16:12
〜 移ろい行くもの、受け継がれるもの 〜

学園三国志の舞台となった時期は、まさに激動の時期であった。学園運営活動に対する価値観や行動理念が学年ごとにくっきりと色濃く分かれ、主たる統治形態に固定概念など存在せず、時流に流されるがごとく、様変わりしていった。
末期の連合生徒会で声望があったのは、双璧といわれた皇甫嵩に朱儁、気骨の文官・盧植、北方の監視者・丁原。政務では千里の駒といわれた王佐の才・王允、カムロと実務の調整役として重きをなした袁隗。やり方に違いはあったとはいえ、彼女らは当時の連合生徒会を支える屋台骨であったはずである。が、如何に個人として優れていようと、その人物の価値観を取り巻く情勢や時の流れが許さない場合、表舞台から駆逐され退場せざるを得ないのが歴史というものであろう。彼女らが学園、蒼天会や生徒会にかけた思いにも関わらず、黄巾事件や菫卓の専横に示されるように、既に連合生徒会には自力で学園を統率するだけの能力を失っていた。それが各校区の総代・生徒会会長や地区長の独立を呼び起こし、群雄割拠の事態を招いたともいえる。結果、彼女らは連合生徒会と象徴たる蒼天会の権威失墜を回復することかなわず、学園の表舞台から不遇のままに消え去ることとなった。

彼女らにとって変わって、群雄割拠の時節に学園の表舞台に上がったのは、袁紹・袁術姉妹や公孫瓉に代表される世代である。彼女らは蒼天会や連合生徒会の無力さを肌で感じて中央から脱却した経緯を持つ。それぞれ、基盤としたものは各地に連綿と受け継がれた名声であったり辺境守備戦の実績であったりしたが、蒼天会に依存しない実力を背景に独自の秩序だてを模索していた。一面、実力が物を言う時節に突入したわけであるが、力のみで泳ぎきれるほど甘くも無かった。公孫瓉は白馬義従と呼ばれ恐れられた当時随一の機動戦力を有していたものの、劉虞を問答無用で飛ばしたことなどで政治的な失敗が重なって諸勢力からそっぽを向かれ、結局は袁紹との政治力や統治能力、声望も含めた総力戦で敗れ去った。袁術は、袁家の権威のみでは求心力には決定的にかけるということに気づかず、地道に自勢力の運営を行って地力を付けることを怠り、諸勢力間の叩きあいで勢力を減退させ、退場することになった。

残った北方の巨人・袁紹は最大勢力となり無敵と思われた。だが、彼女ですら、時流を読み、波に乗った姦雄・曹操の前に激闘の末、敗れた。曹操は、最初は袁紹の下働きから始まったものの、学園の混迷がいまだ深い中、勢力間の権力闘争に参加することで徐々に力を蓄えた。どの勢力も、万人の総意として蒼天学園全体に対し自己の権威を確固たる物と認めさせる根拠は薄弱であった。その点を見据えて、蓄えた実力だけをあてにするのでなく、流浪していた蒼天会会長・劉協を擁立して権威面での補強を行い、のし上がっていったのが曹操というわけである。
強大な群雄がサバイバルレースから脱落した中、リタイア必至と見られながらも、今なお駆け続けている弱小勢力の主がいる。劉備、あだ名は玄徳。
盧植門下生であり、公孫瓉の後輩でもある。が、彼女の行動理念や価値観は、この2人とは全く違っていた。それが全てとは言わないが、生き残った原因のひとつであることは間違いあるまい。
「うちはうちや。蒼天学園や連合生徒会についての考え方や価値観もまるで違うしな。第一、盧植先生や伯珪先輩自身が、そんなことは望んでへんかったやろし。」

だが、変化の渦中においても連綿と受け継がれるものはあった。学園生活にかける思い、熱意である。
“おまえの思うようにやれ。だけど最後くらい、先輩面はさせろ。”
徐州校区生徒会会長・陶謙の厄介になると決めて、公孫瓉の元から離れることを決意し別れの挨拶に赴いたとき、公孫瓉はそういって、身に付けていたクロスタイを外して劉備に渡したものだった。丁度、公孫瓉と劉備の活動方針や考え方にすれ違いが見え始めていたころだった。袂を分かつことを劉備が必要以上に気に病まないように、せめてさっぱりと送り出してやりたいという、妹分に対する気遣いだったのだろう。己の信念を胸に駆けようとしている者同士だからこそ理解できる相似と相違。
「正しいか正しくないか、時節に合ってたか合ってなかったかは別にして、一所懸命、自分の信じるものを貫こうと頑張った人らがこの蒼天学園にはいた。それだけは忘れとうないし、そういう気持ちは後輩のうちらが引き継いでいかないかんことやと思うんや。」
盧植、公孫瓉、陶謙、袁紹、劉表。
劉備がこれまで厄介になった先輩達である。

劉備は、引退したり中道で果てたりした彼女らの思いを受け継ぐかのように、彼女らに由来するものをその都度身に付けていた。盧植からは張り扇。公孫瓉からはクロスタイを。そして、陶謙、袁紹、劉表からは新しくあつらえて貰った伊達眼鏡、総帥旗の旗竿に赤パーカーを。
それらを身に付けていると、苦難をものともせず学園生活を精一杯に駆け抜けた彼女らの思いが感じられる。それが劉備の力になる。
過去となってしまった人物だけではない。劉備と共に歩み続けてきた者達。自身の未来を劉備に預けようと集ってくる者達。
彼女らと思いと共に、玄徳は学園を駆ける。

帰宅部連合の門出のこの日。
指示を仰がんとする面々を前に、届いたばかりの帰宅部連合総帥旗を担いで号令をかける。
「皆の衆、ほな行こか!」
数多の先人たちの思いをはらんだかのように、帰宅部連合総帥旗が“宅”の緑字も鮮やかに蒼天に翻った。

471 名前:はるら:2004/04/25(日) 16:52
>>470
アサハルさまのイラストを見事活用しきって・・・
岡本さまお見事です^^
個人的には、伯珪姐さんの、
>“おまえの思うようにやれ。だけど最後くらい、先輩面はさせろ。”
が、かなりかっこよかったです^^

472 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/26(月) 00:35
(゚∀゚)! 確かにカコイイ! 
公孫瓉先輩、ホントにキャラとしてはつかみづらいところがありますが、
それでも盧植先生の「後輩」で、劉備の「先輩」でいたかったのですよね…
一代で駆け抜けた曹操と違い、劉備は多くの人の夢やら何やらのリレーを
引き継いでいたのですな(´Д⊂

473 名前:はるら:2004/04/26(月) 18:26
■■盧毓が行く■■


はじめましてー、盧毓です。
わたしはかなり前の連合生徒会の盧植の妹で、
今は蒼天会の文サマこと曹丕さんのもとでスカウトとして働いてます。
ところで、わたしはこの学園じゃあんま、たいした事じゃないかもしれませんけど、
結構数奇な学園生活を送ってるんですよー。
そこで!!
そのお話を皆さんに話そうと思います。



 〜 姉は総司令官!? 〜

と、いうわけで姉盧植との思い出について話していきたいと思いますー。
あれはあたしが中2の時でした………。

「あら、子家……。ここは連合生徒会の管轄の部屋よ。ダメじゃない…」
あっ、子家っていうのはわたしの事ですよ。で、話に戻ります。
「えっ、……でも、to不定詞がわかんなくって…」
姉は少し困惑してちょっと考えて、
「……わかったわ。不定詞は大切だからね。お姉ちゃんが教えてあげるわ!!」

姉はいっつもわたしに、いえ、皆に優しかったです。
姉の瞳を見てると、何かこう、”癒される”っていうか、なんか神秘的なモノがありましたね。
……でも神秘的って言ったら張角さんの方が数枚上手でしたけど。

「あ、ありがとー!おね―ちゃん!!」
姉は教えるのが上手かったです。あ、劉備さんと公孫サンさんも姉に勉強習ってたんですよね!!
しかも姉はそれでいて蒼天会の参事官。それに比べてわたしは……。うぅー。
っとと、話がずれちゃいましたね。

姉の教師魂に火がついて三十分くらい経ったとき、
 コンコン!
「盧植さーん?連合生徒会の何進ですけど、いらっしゃいますか??」
「あ、はい!どうぞ!!」
「失礼しま〜す。………あ、よく整理してますね〜」
「い、いえ、それ程でもありませんよ」
姉はきちっとした性格だったので整理整頓がよくできていてこの部屋もとても綺麗でした。
それにしても何進さん、何進さんの方が姉よりも位高いのに何か立場逆みたいに見えますよね。

「それで、今日は何でまた??」
「あっ、いや、最近張角さんが大変なことになってるじゃないですかー。
あっ、でも私は張角さんの声はいい声だと思うんですけど、蒼天会サイドはそうは思ってないみたいなんですよ。
それで実は盧植さんを総司令官として張角さんと戦ってもらいたいんですけど……、どうでしょうか??
…あ、嫌なら良いんですよ!!」
「…………身に余る光栄です…私なんかでよければ……」
「盧植さん、ありがとう!!。任命式はまた日を追って知らせますんで、今日はこれで!」

で、何かわたし、何進さんの眼中に完全に入ってなかったっぽいです。
うぅー、少しは気ずいて下さいよぉ〜。

で、それから二日後に任命式があったそうです。
………え、わたしですか?もちろん入れませんでしたよ。
忍び込んだんですけどね、捕まって怒られてしまいました。でも偶然通りかかったおねーちゃんに助けてもらいました。
おねーちゃんありがとー♪



というわけで、今回は姉盧植と何進さんの邂逅をわたしが
偶然見てしまった事を話させていただきましたー。
この後姉は、皇甫嵩さん、朱儁さん、丁原さんらと協力して張角さんを追い詰めていったんですね。
そして姉はちょっとした事で総司令官を辞任させられちゃうんですよね。
しかしそれはまた別の物語。またの機会に話させてもらうとしましょう。
    
     それじゃ、またね〜〜〜!!!!


 ― 盧毓が行く〜姉は総司令官!?〜 完 ―

474 名前:はるら:2004/04/26(月) 18:30
今回の作品は盧毓が語り部として今までの事を振り返っていく、
というもので一応短編集チックなモノにしようかなと思っています(w
第一弾は盧植と何進の会話でそれを盧毓が聞いてしまう、というものです。
・・・かなり無理がありますよね、スイマセンm(__)m

475 名前:岡本:2004/04/26(月) 23:12
>国重高暁様
虎と鷹。こういった何かに喩えるものを現代学園に置き換える作業は難しいですがその分、書き手の
方の解釈が伺えて興味深いです。国重様の場合は鷹=>接着剤ですか。二股膏薬にもつながりますね。

>はるら様
著名な人物の日常・非日常を裏から見たら、という切り口は面白いですね。
現実のほうでも、中郎将任官の打診・根回しが非公式にあったかも知れません。
このような作品を拝見すると、現実の三国志を女子高生の学園ライフにかなりの
精度で置き換えることは不可能ではないと実感します。...私も精進しますか。

>ぐっこ様、那御様
やたら長くてくどいマニアな話で恐縮でした。
関羽ファンの私の妄想が暴走したようで、注意したはずなのに比重がもろ偏ってますし。
しかし、なぜに廖惇の人気が高い?!

476 名前:★ヤッサバ隊長:2004/04/28(水) 00:19
よー、皆。あたしさね。
え?文章だけじゃわかんないって?
しゃーない、面倒いけど自己紹介するか。
あたしは姓は龐(ホウ)、名は統。あだ名は士元。襄陽棟出身。
世間じゃ「鳳雛」って言われて、ちーとばかり名前が知られてる女さね。
だけど、何故かセットで覚えられている「臥龍」諸葛亮孔明の方が知名度が高いだな、これが。
…ふん。どうせ、あたしゃ不細工で目立たない女だよ。

さて。今日は、そんなあたしが劉備さんの幕下に加わった時のエピソードでも話してやるかね。
ん? そんな話聞きたくない?
やなこった、嫌でも聞かせちゃるわ。


● 鳳凰飛翔 ●


あれは、劉備さんが荊州南部を統一した頃の話。
その頃のあたしゃ、長湖部の連中と一緒に行動する事が多かったっけ。
けど、あそこの上層部の連中ったら、あたしの事を口を揃えて「不細工」だとか抜かしよった。
そんな所にいたって気分が悪くなるだけだし、あんまりうだつが上がりそうになかったし、周瑜が引退した後、
魯粛の薦めで友人である孔明のいる帰宅部連合に参加する事になったんだけど……。


「なあ孔明。こないな娘が、ホンマにあんたの言っとった『鳳雛』なんか?」

部長の劉備さんってば、あたしのラフな格好を見てこう言い放ちよった。
やれやれ、人望厚い天下の劉備玄徳ともあろうお方までも、あたしの外見で判断して見下すなんてねぇ。
やっぱり所詮器の小さい奴なんだろうか…。

「いいえ、部長。外見で人を判断してはいけません。
 この女性こそ、紛れも無く私の友人である『鳳雛』龐統です」
「ん〜、さよか。せやけど、ウチの方針としてまずは『班長』からやってもらおか」

劉備さんは、まだ私の力量っつーもんを理解していないようだった。
しょうがないので、とある班の班長になってみたものの、あまりにも仕事の中身がショボかったので、とてもやる気が起きなかった。
周りの生徒達は、私のボサボサの髪に分厚いメガネ、さらにはそばかすだらけの顔を見て、皆避けていたので、余計気分が悪かったし。
酒でも飲んでなきゃやってられなかったよ、ホント。
そんな訳で、とうとう班長の仕事をクビにされようかという頃、事態は一変した。
あたしを帰宅部連合に推薦してくれた魯粛から、劉備さんに書状が届いたのだ。
その後、慌ててあたしの元を訪れた劉備さんは、これまでの態度を一変させ、土下座しながら私に訴えかけてきた。

「龐統はん、ウチが悪かった!
 あんたの才能を、もう少しで潰してしまう所やった!!
 これからも、ウチらの為に働いて下さい!!」

どうやら魯粛が、あたしの為に世話を焼いてくれたようだった。
あたしは決して自分の実力に自惚れているつもりは無かったけれど、それでもあたしの事を正しく評価してくれたのだから。

「劉備さん、顔を上げて下さいな。
 あたしゃ、そーゆーことをされるのが苦手でねぇ…ホント」

照れ隠しに、そう言ってみた。
帰宅部から除名される危機は去ったのでホッとしたのは確かだけど。
ともあれ、その後孔明の強い進言もあったのか、あたしゃいきなり孔明の次席について仕事をする事になった。
ついでに言っておくと、それまで溜まっていた班長としての仕事は半日で終わらせた。





「しっかしさぁ…アレだよねぇ。
 あんたも運が悪いというか、何と言うか…。
 あんたが部にずっと残っていたら、もう少し帰宅部のピンチを回避出来たかもねー。
 少なくとも、関羽が暴走する事は無かったんじゃない?」

それから数年後。
あたしは卒業の際、既に学園を卒業した簡雍先輩と出会った。
酒好きという共通点もあり、互いに先輩後輩の垣根無しで、良く夜通し語り合ったもんだった。
今でも、その交友は続いている。
ちなみに、あたしが部にいられなくなった直接の原因である通称「落鳳事件」の際には自主退学も考えたが、勉学第一と考えて踏みとどまった。

「歴史に『IF』なんて禁句さね。
 それに、もし『あの場』にあたし一人いたところで何かが変わったとは思えんし」
「ふーん、相変わらずの達観ねぇ。
 どう?卒業記念に一杯やらない?」
「おっ、いいねぇ」

おっ、孔明の奴もこっちに来たみたいだ。
あいつってば、帰宅部の存続に奔走する余り、学業をおろそかにして単位を落として落第たあ、本末転倒だねぇ。
まぁ、あいつらしいって言えばあいつらしいけど。

「お二人とも、お揃いのようで」
「やー、落第生」

わざと強調して言ってみる。
これくらいからかっても良いわな。

「不注意で階級章を取られて、リタイアした人に言われたくありませんね」
「そう言うのを五十歩百歩って言うんだぞ、あんたら」

簡雍先輩の鋭いツッコミ。
この人、ボケだけじゃなくてツッコミまで出来たのか。

「悔しかったら、あたしみたく平穏無事に学園を卒業すりゃ良かったのにさ」
「…ふぅ、あんたにゃ勝てんよ。色んな意味で」

梅の花が咲き始めた校門を、3人で後にする。
ま、これからも何とかなるさね。
好きな酒と、かけがえのない友がいれば……。

477 名前:★ヤッサバ隊長:2004/04/28(水) 00:29
てな訳で、三国志ファン(特に蜀ッカー)ならば良く知っている龐統初登場のエピソード+αを書いてみました。
本人視点からの内容という事で、あまり目新しいネタを入れられなかったのはアレですが…。
ちなみに後半部分の龐統卒業時の話に、矛盾点などのツッコミがあれば遠慮なく指摘をお願いします(^^;

478 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 21:45
 ◆ 学園世説新語・第六話 〜豪華三本立て! 荀勗の名門でいってみよう!〜 ◆

はぁい、アタシは荀勗。潁川の荀氏っていったらみんなも聞いたことあるんじゃないかな?
自分で言うのもなんだけど、まあちょっとしたお嬢様ってわけなんだなこれが。
…あー違う違うの、別にそんなこと自慢したいんじゃなくて!
今日はね、アタシの実力の程をちょこっとだけご披露しちゃおうってわけ。
清流会の七光りじゃないってところ、よーく見ておいてね。それじゃいってみよー!

 ★ その1・絶対音感頂上対決! ★
えーと、やっぱり自慢になっちゃうかなあ? アタシってば音感には自信があるのよ。
これは決して思いこみじゃないんだよ? オーケストラ部の人たちだって認めてくれてるんだから。
それで、みんなが使ってる楽器の調律をやったわけよ。
そうそう、どうしても合わせられない音階がひとつあったんだけど、
アタシは以前に趙で聴いたカウベルの音がそれだ!って閃いたの。
さっそく趙の学区からありったけのカウベルを集めてもらって調べたら、
そのものズバリの音が見つかった、なんてこともあったわね。
ちょっとした大仕事だったけど、効果のほどは覿面ね。
試しに演奏してもらったら、これまでよりは確実に音が良くなっていたわ。
微妙な、本当に微妙な差なんだけど、分かる人には分かっちゃうんだな。
『闇解』(これでも褒め言葉よ)なんて呼んでもらっちゃって、悪い気はしない… のだけど。
一人だけ、そうたった一人だけ文句ありそーな顔をしてる娘がいたの!

その娘は阮咸。ほら、阮籍っているじゃない? 気分のままに好き放題しててさ、
何様のつもり? ってカンジでアタシは嫌いなんだけど… って、ごめんあそばせ。
その阮籍の従妹なんだけど、悔しいけど音楽のセンスはなかなかのものを持っているのよね。
クラシックギター同好会をやってたりするんだけど、
ズバリ彼女の名前がついた“阮咸”なんてモデルが人気らしくてね。
ううん、別に羨ましいわけじゃないのよ? アタシは他人の実力だって認める…つもりだし。
なにせ彼女も『神解』なんて呼ばれちゃってね、まあ学園でも指折りの音感を持ってるって評判なの。
で、アタシが気に入らないのはよ? 言いたいことがあるんならはっきり言えばいいのに、
アタシの調律した演奏を聴いててもなーんだか文句ありげな顔して黙ってるのよ!
あーもうムカつくったらありゃしない! さすがのアタシも腹に据えかねて、
始平棟長に左遷してやったわ。あら、ちょっと意地悪だったかしら?

……でね、ここからはオフレコなんだけど。
倉庫の掃除をしていたら、学園設立のころに使われていたモノサシが見つかったの。
これがまた年代物のくせに、もうこれこそがスタンダードっていう精巧さだったわけよ。
それでこっそり調べてみたら、どうもアタシの調律はびみょーにズレてたんだなこれが。
でもでも、ちょっぴりよちょっぴり! ほんの黍(あわ)一粒分だけだったんだから!
…そりゃ、アタシだって完璧ではないってことよ。謙虚にならなきゃね。
でも癪だから阮咸には言わないでおくわ。


 ★ その2・違いの分かる女 ★

えーっと… そうそう、たしか、安世(司馬炎のこと)が蒼天会長になってからのことだったんだけど。
ちょっとしたパーティーをしよう、って話になってね、
そしたら安世が趣向を凝らした内容にしよう、とか言い出して、
まああの娘もちょっとかわってるところがあったんだけどさ、タケノコご飯を炊く、ってことになったのよ。
何とも渋い趣向もあったもんだけど、
安世はそりゃもう乗り気で材料の調達やらかまど(本格的!)の手配から指示して回ってたっけ。
さて、当日になってみれば気合いを入れただけあって、出来映えはさすがのものだったわね。
みんなたいがい舌の肥えた(それなりに、ね)連中ばかりだったけど、絶賛の嵐で安世も喜んでたわ。
そこで水を差すつもりはなかったんだけど、アタシは気付いてしまったの。
「これ、使い古しの木を薪にしてかまどの火を焚いてるよね」って。
みんなは信じようとしなかったけど、かまど担当の生徒に訊いてみたらどうしても薪が足りなくて、
古いリヤカー(というか大八車ね)を解体してその車輪の木を使ってたんだって。
どう、アタシの目利きもなかなかのものじゃない?


え? 薪が違うと何か影響があるのか、ですって?
そりゃアレよ、ご飯の炊きあがりとか、味の染み込み具合とか…
だからァ、その辺の微妙な機微がね、違いの分かる女ってやつなのよ!

 続く

479 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 21:51
 ★ その3・仁義なき戦い“潁川死闘編” ★

アタシは親戚がいっぱいいるんだけど、おなじ潁川の鍾氏なんかは家族ぐるみで色々お付き合いがあるの。
ウチの文若(荀彧)従姉さんや公達(荀攸)従姉さんもお世話になった元常(鍾繇)従姉さんなんか、
同じ女の子のアタシからみても憧れちゃうぐらい素敵な人で!
一緒に活動できなかったのが残念なんだけど、その元常従姉さんの妹がね…
とくに士季(鍾会)! アイツはもう天敵ね。
あのマセガキってばちょっと口が達者だからって憎ったらしいてばありゃしない… ごほんごほん!
えーと、まあともかく士季とはちょっとばかし相性が悪いっていうかウマが合わないっていうか。

で、ウチの実家にはちょっと自慢の(これは自慢していいわよね)ルージュがあるんだけど。
母さんが愛用してて、自然な感じなんだけど自己主張も忘れないっていうか、
よくぞこの色を選んだ! みたいな逸品なわけ。それをあの士季が目を付けてね。
まったくどこで覚えたのやら(※『学園世説新語』第四話参照)使ってみたい、とか言い出したのよ。
当然、そんなこと許すつもりはなかったんだけど…
士季ってばあろうことかアタシの筆跡を真似て手紙を偽造すると、母さんの所から取り寄せちゃったの!
信じられる!? それで本人知らんぷりして返そうとしないんだから腹が立つったらありゃしない!
だいたい騙される母さんも母さんよ! いくら身内(実は母さんは鍾氏の出身なの)だからって、
実の娘の筆跡を偽造されても気付かないなんて… それだけアイツの腕前が立つってことなんだけどね。
それどころか、母さんってば『士季ちゃんにもちょっと貸してあげればいいじゃない』なんて、
あーもう姪には甘いんだから! マセガキの得意げな顔がちらついて堪らないわ。

で、他人の助けは借りられないと、アタシはひとりでも戦うことを決意したの。
突然だけど、アタシは絵の方もちょっと心得があってね。美術部と漫研からスカウトされたこともあったっけ。
その線で行こうと決めたところにちょうどいい突破口が開いたってわけよ。
士季とそのすぐ上の姉の稚叔従姉さん(鍾毓。まあこの人には個人的な恨みはないんだけど)が、
寮の部屋を改装したの。二人は今の部屋からそこに引っ越す予定らしくて、
アタシもチラリと覗きに行ったんだけどあなたそりゃ実家じゃないんだからって程の豪華さだったわ。
そこでアタシはちょいと筆を振るったわけなんだけど、元常従姉さんの絵を描いたのよ。
ほら、学長室に歴代の学長先生なんかの肖像画とか飾ってあるじゃない? あんなやつね。
自分で言うのもなんだけど、そりゃもう従姉さんが現役だった頃の姿が浮かぶ様なほどの出来映えだったわ。
それを例の部屋の壁にひっかけといたら、もうクリーンヒット級の大当たり!
引っ越してきた二人がそれを見て、元常従姉さんのかつての姿を思い出しちゃったみたいなのよ。
ほら、あの娘たちってば元常従姉さんにベッタリだったでしょう?
まあ元常従姉さんの方も姉バカっていうくらいに二人を可愛がってはいたんだけど。
で、あの二人こんな部屋にいると元常従姉さんを思い出しちゃって耐えられない、ってんで
引っ越しは取りやめにしちゃったんだって! 士季のヤツに一泡吹かせたと思うとせいせいしたわ。

それであの娘も懲りれば良かったんだけど、相変わらずだったわね…
アタシたち身内同士の話で済んでいればまだしも、他人様にまで迷惑かけちゃあおしまいよ。
益州校区に遠征して帰宅部連合を解体した後、また手紙を偽造して鄧艾先輩を陥れたあげくに
自分は姜維に焚き付けられて自立しようなんてバカな事を言いだした時には心底呆れたわね。
さすがのアタシもかばうにも限度があるし、
ヘタするとアタシ自身があの娘の身内だからって疑われかねなかったから
心を鬼にして司馬昭会長に彼女の討伐を進言したわ。
まあ何とか大事に至らず済んだけど、とばされた士季は自業自得よね。
ちなみに例のルージュなんだけど、士季がリタイヤして退寮になったとき、私物整理の際に取り返してきたわ。

まったく、こんなご時世に大それた事なんて考えるものじゃないわよね。
アタシはお陰様で今の蒼天会でいいポジションをもらってるし、うまいことやってみせるわよ。
潁川荀氏の看板も使いよう、ってね。
さて、と。最近茂先(張華)が何かとうるさいからしっかり相手してやらなくちゃね…

 おしまい

480 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 21:57
ネタは世説新語から三つのエピソードを合体。
タケノコご飯(元ネタだとタケノコとご飯は別に食べたっぽい)のお話は
なんかほのぼのしてますけど、
他の二つは一筋縄ではいかないっぽいのがこの人らしいとゆうか。

ちなみに最後のネタで、ルージュは宝剣だったんですけど。
さすがに扱いが難しそうだし、以前書いた鍾姉妹のメイク話に繋げてみました。

しかし、はるらさん、ヤッサバ隊長殿に続いて自分語りネタ三連発になったんですが、
私のはおネエ言葉な上に頭悪そうでアレな気分です(^_^;)

481 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 23:30
ニューフェイスも増えて賑わって参りました。

■(゚∀゚)ゝプロフェッサー!
陳羣の墓参、これまでにも何度かネタにされてきましたがやはりジワリときますね。
どこか不器用な彼女だからこそ映えるシリアスな一コマ…
すれ違っても、ぶつかり合っても、二人が共に時を過ごした日々のことももっと見てみたいです。

そしてバレンタイン。バラエティに富んだ面々がそれぞれ繰り広げる逃避行。
…そうか、やっぱみんな逃げるんですね(^_^;)
あと簡×法は反則。なんだよイイ雰囲気ですやん!

さらには回を重ねてなお新鮮さと萌えを損なわない簡×法シリーズですか。
やっぱ簡雍ってば、日頃のはっちゃけ属性だけじゃここまでブレイクしなかったですよね。
法正とのこんな一面があってこそ、ここまで厚みのあるキャラクターになったってことでしょうか。
しかし張任ワロタ。特に牛丼屋でのエンカウントが。

■国重さん
おいでませー。これからもどんどん投稿よろしくお願いします。

さて一発目は陸績と袁術のエピソードですね。
陸績の健気なまでの孝心が微笑ましくありますが、袁術お姉さまの挙動にも注目。
各メディアで何かとアレな扱いを受けることが多いこの人ですが、
この学三では案外とおいしいポジションを貰うこともしばしばです。
(相応のポカをやらかしてることもありますけど)
国重さんの作品でも、名家のお嬢様らしい振る舞いが素敵な雰囲気を醸し出しています。
陸績をなだめるシーンはツボに来ましたよ!

続いて群雄割拠の角逐の水面下で密かに進むハンターキラーの策動という。
中堅勢力時代の曹操が、強敵・呂布を相手取るために布石を打つわけですが…
一方の陳登も自身の思惑を持って乱世の一角を(ほんの僅かの間ながら)占めることになるだけに、
侮りがたい深慮で虚々実々の駆け引きを繰り広げると。
餓狼軍団との本格的な激突がこれからどう展開してゆくのか、期待が膨らむエピソードでした。

■はるらさん
こちらもニューフェイス! 新風が吹いてイイ感じ。

東漢カルテットと後輩たちのタテの繋がりというのはいくつかありますが、
この盧植センセイを巡る面々は公孫サンに劉備と一癖も二癖もあるメンツですね。
盧植が先輩として、教師として後輩に臨む姿と、親友たる朱儁に対する姿が交錯するあたりが魅力的。
事ある毎に書いていますが、私はこういった異世代(この場合は学年が違う程度ですけど)間の
交流が好きなんですよね。まだまだヒヨッコの公孫サンたちも微笑ましいものがありました。

盧毓って今までなかなか出番がなかったのですが。
東漢カルテットのひとりである盧植を姉に持ち、
また自らは蒼天会の変転を長く見続けることになる貴重な存在ですよね。
彼女がこれから何を見て、何を綴ってゆくのか楽しみです。

■岡本さん
もはやしょーとれんじにあらざる超大作!
全体的なボリュームはおくとして、若干重く感じられもしましたが、
さすがに綿密な考証に裏打ちされた展開は読者を飽きさせませんね。
個々の場面に納得のゆくまでの説明が施されているので、
ストーリーが飲み込みやすいといえるでしょう。
また、格闘シーンにおいてもわずかコンマ何秒かという間に繰り広げられる
矢継ぎ早の動作をテキストで表現しながらもそれがビジュアルとして想像できる描写力は毎度ながらさすが。
基本的に読んでいて破綻していないんだから羨ましい限り。

内容については、伝説のピーチガーデンの近いにまつわる秘話(?)ということで、
それぞれの思惑が絡み合ってやがてまとまってゆく流れでした。
簡雍はまあ、あの頃からうまいことやっていたというか… とはいえ、
いくら当事者であっても将来を見通すことは難しいということですね。
浮き沈みの激しいこの一党ではなおさらのことでしょうが(-_-;)

ちなみにやっぱり廖惇いいですよね(^_^;) 彼女が関羽に再会してから、とかも… ねえ。

そして新生帰宅部連合の門出を前にした劉備の述懐を兼ねた学園史の俯瞰。
わずか数年の間に、それまでには思いも及ばなかった程の大変革が起こったこの学園で、
生き延びるということだけでもままならない中で無念の涙を飲んだ者は数知れず。
さらには僥倖と実力を兼ね備えた者だけが自らの手で学園を動かすに至ったわけですが、
去っていった者たちとの間はあるいは紙一重であったりあるいは遠く離れていたり、
その中で変わらずに受け継がれてゆく物は確かに存在するというのですね。
多くのものを背負い、劉備の新たな一歩が踏み出されるのか…

■ヤッサバ隊長殿

そういえば今までホウ統の出番ってなかったんじゃ…?
確かに活動期間は短い(考えたらものっそい短いやん)のですが、
その中でも印象的な場面は色々とあったわけでまずはその立志編ですやね。
卒業間際からの回想って形がポイントかも。諸葛亮と簡雍をふくめたやりとりがもっと見たいなあ。

そういや、キャラ絵描いたときには意識してなかったんだけど、無双口調が違和感ないですのう(^_^;)ゞ
しかし『落鳳事件』気になるなあ。隊長の次回作に期待してよかとですか?

482 名前:★ぐっこ@管理人:2004/05/02(日) 00:17
うほッ! またまた豊作だーヽ( ´∀`)ノ!
管理人はなくともサイトは育つ…←ってそれじゃ駄目だって。

>はるら様
ほほう! 盧植姉妹の日常エピソード!
当時はまだ平凡な中学生である盧毓たんから見た、お姉さんの姿…
妹から見たら、頼りになる姉である盧植は、実は学園の情勢を単身で
左右できるほどの超大物であるわけで、そのへんのギャップがまた萌える…

>ヤッサバ隊長
あー、そういえば龐統ってあまり出てこなかったですねえ(^_^;)
酒飲み、そばかす、面倒くさがり、眼鏡外せば割と美人、と萌えポイントがここまで
揃ってるキャラってのに…。やはり早死にだからキャラにしづらいのね…
んで、今回は落第県令・龐統のエピソードですやね(゚∀゚) 彼女の物語もまた、痛快な
サクセスストーリー。今回はまったりだけど、親友である諸葛亮との密かな確執とか、
色々面白くなりそう…

>義兄上
東晋系ストーリー乙! うーん、荀勗って私も蜀攻め進言したエピソード
しか知らなかったので、このSSで激しく学習。色々エピソードあるキャラ
だったのね…相変わらず、不思議と勉強になるサイトだ( ゚Д゚)!
最初にアレンジ読んでから、オリジナルの世説新語読むのも斬新。
こうして見てみると、完璧美女・鍾繇たんもカワイイかんじだなあ…。

483 名前:那御:2004/05/02(日) 21:25
溜まりに溜まった感想たち。

>岡本様
上手い!アサハル様の設定を見事に生かし切った形となりましたね。
そして相変わらずの知識量を強烈な文で綴ってらっしゃる。
あんな文は書けませんて(何。

>はるら様
盧植&盧毓ストーリー、出てきましたね。
学園屈指の女傑の妹って、立場的にビミョーなんだろうなぁ。
それでも明るく楽しく、姉に誇りを持って生きる盧毓タンに乾杯!
中学生っぽさ爆発の盧毓タンの行動に萌えw

>ヤッサバ隊長殿
龐統の出仕ネタ!語り口調で面白い!
しかし、人生を達観してるだけあって、なかなか毒のあるキャラですなw
そしてラストは簡雍と酒で締める!
簡雍はホントどこに出しても味のあるキャラですねぇ。

>玉川様
荀勗もまた毒のあるキャラですねーw
そういえば陳寿を左遷したのも荀勗じゃなかったですか?
『魏志』の自分の記述が不満だったとか・・・
鍾会との確執というか、ガキっぽい喧嘩がなかなかスリリングですね。
(しかしマセガキって・・・w

484 名前:那御:2004/05/02(日) 21:48
−占いに無い出会い−

「ふぅ・・・」
夜も更けた深夜1時。すっかり冷え切ったコーヒーを飲み干し、譙周は溜息をついた。
『仇国論』と銘打たれた、原稿用紙数十枚にも渡る論文。
幾度となく繰り返される無謀な北伐の意義について、友人の陳祗と語った内容を、文章で綴ったものである。
今回はこの内容をお話しすることはないが、彼女が帰宅部連合の行く末を憂いていたことが伺える。

譙周、あだ名は允南。
帰宅部連合随一の古典好きで、よくひとりでニコニコしながら古文を暗誦していたようだ。
明晰な頭脳の持ち主であったが、切れ者というわけではなく、不意の質問には答えられないことが多かった。
誠実かつ素朴な人柄で、トレードマークは長い髪の毛を束ねる緑色のリボンと縁無しの眼鏡。
どこか抜けたところがあり、諸葛亮と始めて会ったときには、諸葛亮の部下が笑いを堪え切れずに吹き出してしまったという。
諸葛亮曰く、「私ですら我慢できなかったのですから、あの娘たちに我慢しろと言う方が無理ですよ・・・」と。

最近、帰宅部連合について何度占っても、あまり良い結果は得られない。
事実、北伐によって疲弊した軍と、腐敗した中央政権。これで良い結果を望むほうが無理なのだろうか。
(これから連合は一体どうなっちゃうんだろうな・・・)
こんな時間は、なぜか物思いに耽ってしまうことが多い。
(伯瑜さん・・・貴女の言葉の重み、今になって実感しています・・・)


譙周の言う『伯瑜さん』とは、杜瓊のことである。
杜瓊はもともとは益州校区総代・劉璋の下で働いていたが、劉備が益州に入ると、書記として仕えることになった。
小等部に在学中に、周りの友人が『こっくりさん』に興じるのを見て、
「くだらない・・・」と言い放ち、これを聞き付けた占い部の部長・任安にスカウトされて占いを始めたという経歴がある。
そして任安が卒業するまで、その知識の全てを叩き込まれ、その技量は神業級であった。

一口に占いといっても、その種類は膨大なものである。
学園で正式とされている『易』では、筮竹と呼ばれる長さ30〜40cmほどの細い竹の棒50本と、
算木、もしくは卦子と呼ばれる1.5cm角で長さ9cmほどの棒を6本用いる。
筮竹を規則に従って両手で操作し、片手で掴み取った数によって算木を配列する。
算木の2面には、黒く色が塗ってある。これは陽爻を表す。
また、残りの2面には溝が彫ってあり、溝の内側は赤で目印が付けられている。これは陰爻を表す。
筮竹の操作によって得られた爻は、順番に並べられて卦を構成する。
六卦を得るためには、計18回もの筮竹の操作が必要で、算木はそれを暗記するための道具であるといわれている。


杜瓊は、その天才的な占いの技術の反面、彼女は口数も少なく、人付き合いが苦手であったため、
殆ど友人らしい友人はいなかった。
しかし、ある日・・・

「伯瑜さん、お願いですッ!私に・・・私に占いを教えてくださいッ!」
・・・もう何度頭を下げたことだろうか。でも、伯瑜さんの答えは素っ気無い。
いきなり押しかけたのがまずかったのだろうか。
「・・・何度も言わせないで。駄目な物は駄目。」

しつこく訊き過ぎたかもしれない。呆れられているかもしれない。
それでも、私は占いの道を究めてみたい。
占いで切り開ける未来。そういうものを私は見てみたい。
でも、今のままじゃダメ。何か決定的なものが、私には欠けている。
それを、伯瑜さんに教えてもらいたい。
そのためには、私は何度だってお願いする・・・

「なんでです?ど・・・して駄目なんで・・・か?こんなに・・・願いしているのに・・・」
なんだか鼻声になってきている。目の辺りも熱い。
もしかして・・・泣いてるのかな・・・私。
「お願いしますッ!」

485 名前:那御:2004/05/02(日) 21:50
気がつくと、私は中庭のベンチに横になっていた。
・・・あれ?さっきまで私は、廊下で伯瑜さんに頭を下げ・・・

「お目覚め?」
頭の上のほうから、聞き覚えのある声。

「・・・って、ええぇーーーっ!!!??」
私が今、頭の下に敷いているもの。それはなんと伯瑜さんの膝だった。

「・・・そんなに驚かないで貰えない?」
「うひゃあっ!」
私は思わず、がばっと飛び起きてしまった。
せっかくの伯瑜さんの膝枕・・・もうちょっと横になっていればよかったかも・・・

「・・・私、あの後どうなったんですか?」
私は恐る恐る訊いてみた。
「いや・・・さんざん喚いたあと、貴女、抜け殻みたいになっちゃって・・・。
放っておくのも悪いかと思って、ここに連れてきたわけ。」

「・・・まずかった?」
赤面して黙り込んでしまった私に、伯瑜さんは尋ねる。

「でも、貴女、面白い娘だね・・・私に好き好んで近付くなんて。」
「いや・・・あの・・・」
あぁ・・・私は今、憧れの伯瑜さんと話している。伯瑜さんって、思ったより取っ付きやすい人だったんだなぁ・・・
そして改めて見ると、美しい方だ。長い黒髪・・・どこか憂いを秘めたような瞳。
・・・って、私は何を考えてるんだ・・・

「貴女、占いやってるの?」
「えっ?」
伯瑜さんの唐突な、それも核心に迫る質問。
「そ、それは・・・」
「その顔を見ると、ある程度は齧ってるみたいね・・・」

伯瑜さんは、少し考え込んでから言った。
「私ね・・・私の知識を誰かに教えたいとは思ってないの。別に意地悪とかそういう意味じゃなくて。」
「どうしてですか?伯瑜さんの占いは、これからもずっと引き継いでいくに相応しいものだと思うんですが・・・」
「私は占いは『易』とかの概念とはちょっと違って、まずその対象をよく観察して、本質を見極めるの。」
「はぁ」
「だから、他人の目や言葉を信用したりしては、この占いが根底から崩れることになるの。分かる?」
「・・・」
「私の占いは、明らかにすることは困難だと思うの。だって他人を信用することができないから。
他人に話すことができないから。全て自分ひとりでやらなければならないのよ・・・。これって悲しいことだと思わない?」
「でも・・・」
「それに占いで知った未来が、必ずしも良いものだとは限らないのよ。でも、結果は結果として受け止めなければならないのよ。」

その言葉一つ一つに、伯瑜さんの心の憂いが詰まっていた気がした。
『他人を信用できない』もの。こんな悲しいことは、確かにない。
伯瑜さんの瞳に宿る、暗い影。その正体を、私はたった今、知った。

「・・・だから、こんな昏い世界に踏み込まないほうが無難だと思うの。どう?これでも分かってくれない?」
「伯瑜さん・・・。伯瑜さんは、私も信じていないんですか?」
「えっ?」
「他人を信じられないなら、私も信じることができないんですか?」

486 名前:那御:2004/05/02(日) 21:54
あぁ・・・言っちゃった・・・。自分でも爆弾発言だと思うくらいだから・・・
伯瑜さんは、やっぱり苦笑いを隠せなかった。
「・・・参ったわね・・・」
「伯瑜さん・・・ごめんなさい・・・」
「いや、参ったってのは・・・私が今、貴女を信じてることに気付いたってことよ。」
「えっ?」
「本当は、貴女みたいな良い娘には、この世界に入って欲しくないんだけどね・・・。
でも・・・どうしてもって言うんでしょ?そんなに頼み込まれたんじゃあ、無下には断れないわね。」
「それじゃあ・・・」
「えぇ。貴女に私の知識の全て、受け継いで頂くわ。」
やったぁ!ついに・・・ついに念願が叶った!
あれ・・・?またなんか目から涙が・・・
このまままた気絶して、もう一回膝枕・・・なんて、そんなうまく行かないよね。

「そういえば、名前・・・」
「あっ・・・」
しまった・・・弟子入りを志願しに行ったのに、名前も言って無かったなんて・・・
「譙周と言います。允南って呼んでください!」



暫しの間、回想に耽っていた譙周であったが・・・
「・・・あれ?」
長い髪を束ねていたはずの緑色のリボンが見当たらない。
先程、外してポケットに入れたことは、数分のうちに彼女の記憶から消えていた・・・


     −占いに無い出会い− <完>
**********************************
というわけで、占い師弟の杜瓊・譙周ネタ。
譙周に関しては、アサハル様の設定を利用させていただきました。
杜瓊ってマイナーですね・・・

487 名前:7th:2004/05/03(月) 09:07
内政戦隊ショッカン4  〜〜ショッカンロボ、大地に立てるか?〜〜


ある日の昼下がり、帰宅部は珍しく静かだった。………その時までは。
「…戦隊モノにはやっぱり巨大ロボが必要だと思うの」
事の発端は孫乾のその一言。折しも内政戦隊こと孫乾・糜竺・伊籍・簡雍が、仕事を終えて一息ついている時のことであった。
あまりに唐突すぎるその一言に、きょとんと呆ける三人。
しばしの沈黙の後、漸くその意図を理解したのか、「あー、そりゃ要るねぇ」と、こくこく肯く伊籍。何か思う所でもあったのか、額に指をあてて考え込む糜竺。そしてしょっぱなからやる気の欠片もない簡雍。「頭いてー」とばかりに頭を抱え込む。
そんな簡雍を尻目に、ますますヒートアップする孫乾。
「正義の味方あるところ、必ず悪の怪人が居るのよ。そして一度負けてから巨大化、これ鉄則。だから正義の味方にも巨大ロボが要る、これも鉄則よ!」
やたらテンション高い孫乾。
この人、かの鄭玄に推挙されて劉備新聞部に入ったほどの能力の持ち主なのだが、戦隊モノや仮面ライダーモノがやたらと好きなのだ。尤も、新聞部には更に個性溢れる面子が揃っていたため、さほど目立つことはなかったが。
その彼女が、その場のノリで最近結成したのが「内政戦隊ショッカン4」。半ば無理矢理ながらもまんざらでもなさそうな糜竺と伊籍、滅茶苦茶嫌がっている簡雍が隊員である。
「よし、多数決を取る!必要だと思う隊員は挙手願いたい!」
………賛成3、反対1。よって本案は可決されました。ありがとう。
「宜しい、では善は急げ!よって正義の味方も急げ!早急に本案を実行に移すべく出撃ー!!」
『おーー!!』
気勢を上げる三人と、それに引きずられていく簡雍。
「『正義の味方』って………何処に悪の怪人が居るのよ」
その問いは、誰にも聞かれず大気に消えた。


「と云う訳なので、巨大ロボを作りなさい」
「何故私が?」
「あなた以外に作れる人が居ないからよ」
益州校区、科学部部室。
劉焉・劉璋が益州校区総代を務めていた頃は只の地方弱小部の部室だったそこは、劉備の益州校区乗っ取りと共にその主を替え、閑散としていた部屋は魔窟へとその姿を変えた。
既に科学部は無く、そこの主は只一人。ガラクタの山の中で謎の研究を行っている。
主の名は諸葛亮。帰宅部連合の幹部にして生粋のマッドサイエンティストである。
「唐突な上にに命令形ですか」
孫乾が部室に入って開口一声それである。やれやれと首を振る諸葛亮。
「何よ、作れないって訳でも無いでしょう」
「左様、可能と言えば可能です。が、大事なことを忘れていらっしゃる」
「む?」
「予算は何処から出るんですか」
「う゛っ」と呻く孫乾。どうやらその辺の細かいところ迄は考えていなかったらしい。
「帰宅部の予算から―――」
「出る訳無いでしょう」
一撃轟沈。がっくりと肩を落とす孫乾。後の三人も簡雍を除いて心なしか残念そうだ。
がっくりと、この世の終わりでも来たかのように肩を落とす孫乾。他の人にはどうでも良い事なのだが、彼女にとっては非常に重要なことなのだ。「神は死んだー円谷も死んだー」とか訳のワカラン事を呟きつつ天を仰いでいる。錯乱し過ぎ。そして大袈裟過ぎ。
流石に見かねた――と云うか鬱陶しくなった――諸葛亮が孫乾の肩にぽんと手を置く。振り返った孫乾が見た物は、微妙な笑みを浮かべる諸葛亮と怪しく光る彼女の眼鏡だった。
「ふ……あなたの熱意には負けました」
正確にはそんなモノには負けていないのだが、この場合は方便である。時に真実は人を傷つけるのだ。
「確かに私には作ることが出来ます。が、それにはかなりの時間と、途方もない費用がかかることは先ほども申しました通り。ならどうするか。…簡単です、一から作るから時間と金がかかるのなら、最初からそこにある物を使えばいい」
そう言ってガラクタの中から一枚の紙を取り出す(もしくは掘り出す)諸葛亮。
「地図……かな?」まじまじと紙に書いてある点と線を見つめる簡雍。
「荊州校区辺りみたいですわね」思い当たる地形があったのか、位地を特定する糜竺。
「そしてこのあからさまに怪しい×点はもしや」伊籍がその特異点を指し示し―――
「宝の地図かーーっ!!」孫乾、大絶叫。
「左様。宝と言うにはやや語弊がありますが、まぁあなた達にとっては宝には違いありませんな」
そう言った諸葛亮の眼鏡が更に怪しげな光を放つ。
「取り敢えずそこへ行きましょう。話はそこで」


かつん、かつん、と。薄暗い階段に靴音が響く。
「随分と深いわね。かれこれ三階分は下りたと思うけど……」
「もうすぐですよ」
とは言うものの、通路は果てしなく続き、靴音は先の見えぬ闇に吸い込まれてゆく。
二度ほど折り返しただろうか。漸く暗闇が途切れ、大きな鉄扉が代わりに現れた。
「時に…皆さんは公輸般(こうしゅはん)と云う人を知っていますか?」
扉の前で立ち止まった諸葛亮が、芝居がかった口調で問う。
「何十年か昔、この町に住んでいたと云う発明家でしたわね」
「木製のグライダーを作ったって話よね。三日間飛び続けたとか云う奴」
眉唾ものだけど、と付け加える孫乾。
「で、それが何なのよ」
「鈍いですな孫乾殿。つまりここは公輸般の秘密の研究所。そしてこれが―――」
地響きと共に鉄扉が左右に開く。その奥、地下とは思えないほど広大な空間に横たわる巨大な物体。
それには腕があった。
それには足があった。
それには顔があった。
それは人の形をしていた。
「ここで建造された巨大ロボ。名を公輸8号と云います」
絶句。その大きさ、その存在、そして何より、その形に―――
「これって……」
「まさか……」
「ねぇ……」
「先○者じゃん……」


それには腕があった。…やけに細くて手の平がしゃもじ形の。
それには足があった。…これは本当に立てるのか?と思うほどにひょろい足が。
それには顔があった。…やけに安っぽい顔が。しかも何だかフレンドリー。
それには大砲がついていた。…あろう事か股間に。
「身長18m、乾燥重量36t、全備重量は64t。材質は主に鋳鉄、一部に謎の合金が使用されています」
「動力と武装は?」
「風水式龍気変換炉による大地のパワー。武装は股間にある中華キャノンです」
「パーフェクトだ孔明。……形を除いて」
「感謝の極み。形状は私の知ったことではありません」
何やら何処かで見たような会話を繰り広げる孫乾と諸葛亮。違いがあるとしたら、孫乾が話の中身の半分も理解し切れていないと云うことか。
「で、動くの?コレ」
「無論。ただ、変換炉を起動するのに多少のエネルギー投入が必要でして。勿論、そのための用意はしてありますが」
そう言って胸のハッチをあける諸葛亮。どうやらそれはコクピットハッチだったらしく、内部にはシートだのコンソールパネルだのが設置されていた。そしてその片隅に鎮座している、前輪を外して床に固定された自転車。
「…自転車」
全員の目が一斉に伊籍に集中した。


曰く、発電によって得たエネルギーを更に水晶髑髏により変換・増幅。そのエネルギーをもって変換炉を起動させると言う話だ。
「な、何で私がぁ……」
縦割り社会の不条理を嘆きつつ、ペダルを鬼漕ぎする伊籍。後輪に取り付けられた十連装ダイナモが唸りをあげて駆動し、伊籍の体力と引き替えに電力を生み出していく。
「98、99、100%! 変換炉、起動します!」
「リフト起動。地上まで上げるぞ」
天井が開き、床ごと機体が持ち上がって行く。約3分後、数十年の時を経て、ついに機体は日の目を見た。
「さぁ、立ちなさい!ショッカンロボ!」
正式名称そっちのけで自分のインスピレーションから湧き出た名を叫ぶ孫乾。片隅で簡雍が「センスねぇなー」と呟いていたが、無視した。
その叫びに応じたように、上半身を起こし、更に足を立てて起きあがるショッカンロボ。姿が先○者のせいか余り迫力はないが、とにかくショッカンロボは立ち上がったのだ。
「わー」と拍手する糜竺。「つっかえ棒無しで立てたのか」と驚きを隠せない簡雍。どうだ!とばかりに胸を張ってふんぞり返る孫乾。伊籍は…自転車に突っ伏して動かない。合掌。
「よーし!今からこの世の悪を打ちのめすべく、ショッカンロボ発進よ!」
「しつもーん」
「何よショッカングリーン」
「…悪って何処にいるわけよ?」

沈黙。

「何でそれを早く言わないのよー!」
「いや、言ったって」
泣きそうになりながら叫ぶ孫乾に、あくまで冷静につっこむ簡雍。
「こ、この振り上げた手の立場は何処に…」
「ないない、ンな物」
身も蓋もなく撃沈。と、そこに
『あー、孫乾殿。聞こえますかー?』
スピーカーから聞こえてくる諸葛亮の声。
「うぅ、何よ」
『簡雍殿の言は尤もですので、ここはひとつ穏便にいきましょう。……只、折角ですから動作確認を兼ねて中華キャノンを、一発ドーンと撃ってみませんか?』
「え、良いの?」
『構いません。ドーンといっちゃって下さい。ドーンと』
泣いたカラスがもう笑ったとはこの事か、と言わんばかりの早さで立ち直る孫乾。つくづく感情の起伏の激しい人だ。
「ぃよーし!派手に一発いってみよー! 総員、中華キャノン発射準備!」
「えーと、大地のパワー吸収っと……えいっ」
そう言って糜竺がボタンを押した途端、凄まじい揺れがコクピットを襲った。
外から見る分には足をバタつかせているようにしか見えないが、中はトンデモないことになっている。
シートに座ってシートベルトを締めていた孫乾・糜竺・簡雍はまだマシだが、自転車に突っ伏していた伊籍はたまったものではない。自転車からズリ落ちて、そこら中を跳ね回っている。
10秒ほどで充填は完了したものの、伊籍は白目むいてダウン。他三人もげんなりしている。
「ま……まだ続けるわけ?」
「も……勿論よ。今更止められるわけないわ。…次、キャノンにエネルギー注入」
「待て、確か次は……」
簡雍が言い終わるより早く、またしても激しい揺れが襲いかかる。
今度の揺れは縦。伊籍が床と天井をばいんばいん往復している。さほどの高さはないので命の危険は無いと思われる。死んだ方がマシとの見解もあるが。
今度は5秒ほどで終わった。が、三人の顔色は死人さながら。
「う゛ぇ〜、24時間耐久でジェットコースターに乗った気分」
「バーテンさんにシェイクされるカクテルの気持ちがよ〜く解りましたわ……」
「めげないで二人とも。…後は撃つだけよ。私たちの努力も、これで報いられるわ」
眼前にある操縦桿を握りしめ、照準機を起動させる。今回はカラ撃ちなので、照準レティクルを何もない空に合わせる。何時の日か、悪の巨大化怪人に向ける日を夢見て。
「よーしっ、中華キャノン、ファイヤー!!」
瞬間、世界は白光に満たされた。


「…オチは読めてたんだ、オチは。くうっ、一瞬でも淡い期待を抱いたアタシがバカだった…」
学園の保健室。体中を包帯でぐるぐる巻きにされた簡雍が呟いた。
「なら止めろ。体を、さもなくば命を張ってでも」
その韜晦をにべもなくあっさり斬って捨てる華陀先生。
「まぁあの爆発でその程度の怪我で済んだんだ。神様か何かに感謝しろ」
爆発半径30メートル。おそらくは市内全域から確認できたであろう大爆発。
原因は注入されたエネルギーのオーバーロードであるらしいが、何にせよ5人が生き残っていたのは奇跡に近い。と云うか奇跡そのものか。
「私、テロに巻き込まれても生き残る自信がつきました」
いや糜竺。今ので一生分の運を使い果たしたと思うぞ。
「うぅ、私今回良いこと無し?」
負けるな伊籍。きっと何時かいいことあるさ。何時かは知らんが。
「う〜ん、ちょっと勿体なかったかなぁ。ま、いっか。また今度に期待しよ」
まだ懲りんのか、孫乾。
「……所で先輩方。実はまだ調整中の機体が何機かありますが…また挑戦しますか?」
『あの人の機械には金輪際乗らん!!』
満場一致、簡潔極まりない結論によって、諸葛亮の提案は却下された。


………その後、公輸般の秘密の発明品を見た物は居ない。一説によれば、学園がその役割を終えた後も、静かにそれは荊州校区の地下に眠っていると云う。

488 名前:7th:2004/05/03(月) 09:18
ご無沙汰してました7thです。
しばらく来ぬ間に職人の方も増えて喜ばしい限りです。
…で、何書いてるんでしょうね自分。皆様がまじめな作品を書いてるのに何なんだコレは(w
時間軸としては簡雍改造計画の後。孫乾が暴走し過ぎたり、糜竺の影が薄かったり、伊籍がひたすら不幸だったりしますが、その辺は目を瞑っていただきたく思います。

…別に伊籍が嫌いなわけじゃないですよ?彼女には何とか幸せになって貰いたい物ですね。
内政戦隊モノの中では無理かもしれませんが。

489 名前:はるら:2004/05/03(月) 11:57
■■盧毓が行く■■


はい!!皆さんお久しぶりですー!!盧毓で〜す!!!
今回はわたしが中一のとき、乙女百合様にお会いした話です。
    はぁ〜、優しかったなー、劉虞さま………。


 〜女神さまとわたし〜

「………はぁはぁはぁ」
わたしは正直なところ運動が苦手です。ドッチボールでは常に逃げ惑って、そして途中で力尽きてあっさり当てられるタイプです。
特に中学生のころは運動音痴も甚だしいって感じでした。
でもこの時わたしは走り続けていました。なぜならこの時わたしは何故か道に迷って幽州女子学院の中等部ではなく、
高等部の区域に入り込んでいた事にさっきようやくきずいたからです。
それだけでもかなりダメダメなのにわたしはよりにもよって野良犬に追われていました。
・・・ぼけー、と歩いてた時尻尾を思い切り踏んでしまったようです。皆さんはちゃんと前を向いて歩きましょうね。
盧毓心の声「(あー、もう駄目……。声も出ないよー、助けて…)」
完全に力尽きようとしたその時、わたしは幸運にも女神様にお会いできました。
わたしが野良犬を巻こうと曲がり角を急に曲がったその時!!
  ドン!!!!!
「あう!!!」
出ましたね……、声。
「あ、痛い!!」
「…あ、すすす、スイマセン!!だいじょーぶですか!?」
見事高等部の先輩と頭がごっつんしました。
頭が割れそうに痛かったです。…向こうの方もそうなんでしょうけど。
「あ!!!!!」
わたしと高等部の方が倒れていたところを野良犬がゆっくりこちらに向かってきました。
そのときわたしは湿布を覚悟しました。
盧毓心の声「(うぅ〜、追いつかれたー。どうか優しく噛んでくれますよーに)」
「あら!!林芝!?こんなトコで何やってたの…。探したのよ…」
林芝「クゥ〜ン」
うそ……!?あの野良犬が懐いてる!?
「あなたが林芝を探してくれたんですか??ありがとうございます!」
その高等部の方の顔は満面の微笑みを顔に浮かべてわたしに言った。
やっぱ言えない……。林芝ちゃんの足を思いっきり踏んだなんて言えない…。
ていうか、野良犬だと思ってました。ごめんなさい。
「あの…、お礼をさせていただきたいんですけど……」
「貴女のお時間さえよければ、お茶でもしませんか…??」
え、なんか、その………、積極的。見かけはお嬢様って感じなのに…。
「………ダメ…ですか??」
え、そんな目で言われると断れない……。


「へぇ〜、劉虞さんっていうんですか〜。いい響きですねー」
んで、結局その高等部の人、劉虞さんっていうんらしいけど、一緒に
ピーチガーデンに行きました。…あ、林芝ちゃんも一緒に。
「盧毓さんは今、中一なんですよね〜。どうです?学園には慣れましたか??」
「うーん、ビミョーですね。」
うーん、我ながらあいまいな返事!!
「ふふ、ここであったのも何かの縁。何か困った事があったら私に言って下さいね」
「あ、ありがとうございます!!」
「ところで林芝ちゃんって劉虞さんの部屋で飼ってるんですか?」
せっかく食事に誘ってくれたんだから話をとぎらせ無い様にと何気ない話題を持ち出した。
「そう、ね。この子、もともと野良犬だったのを前の乙女百合さまの劉淑さまに頂いたの」
「あ、頂いたじゃ失礼よね、ゴメンね…、林芝……」
   …………劉虞さん…、優しい………。
盧毓心の声「(ところで、乙女百合……、劉淑さまとお知り合い……、で劉虞さん…
      どっかでつながってる様な、何だったっけなぁ……」
「あら、もうこんな時間ですね…。そろそろお別れですね」
林芝「クゥ〜ン」
そういえば林芝ちゃん、『クゥ〜ン』しか言わなかったわね…。
「はい、今日は会えてよかったです。それじゃ、劉虞さんごきげんよう!!」
「ごきげんよう…、盧毓さん……」


以上がわたしと劉虞さんの出会いです。
劉虞さん、ホントに女神さまみたいに優しかったですー。
ちなみにわたしが劉虞さんが現乙女百合さまで幽州校区総代である事を知ったのは
この日から四日ほど経ってからでした。何できずかなかったんだろー??
で、その後わたしは劉虞さんにお会いすることなく劉虞さんは姉盧植の教え子、公孫サンさんに
よって引退に追い込まれてしまいました…。 世の中って変なトコでつながってますよね……。
もう一度、もう一度でよかったから優しい劉虞さんのお世話になりたかったなー。

         それじゃ、皆さんサヨナラ〜〜〜!!!!

― 盧毓が行く〜女神さまとわたし〜 完 ―

490 名前:はるら:2004/05/03(月) 11:59
今回はなぜか盧毓が乙女百合様こと劉虞に会ったという話です。
正史だと明らかに劉虞が善人で伯珪姐さんが悪人ってかんじですよね。
まぁ、伯珪姐さんは悪な感じなのが魅力の一つなんですけど(^_^;)

以下感想文
>岡本様
やっと邂逅シリーズ読み終わりましたー!!(遅っ!)
巨編お疲れ様でした。お見事の一語に尽きる傑作でした。
何と言ってもやはり岡本様の武道や料理の知識量が凄すぎます。
私もそれだけ博識だと色々と便利なんですけどねw

>ヤッサバ隊長様
確かにホウ統の出番ってあまりありませんでしたね。
それだけにおもしろかったですw
特に孔明とホウ統の五十歩百歩なあたりがウケました。

>玉川様
学園世説新語乙です!!
荀勗……申し訳ないことにあまりイメージがありません。
でも何か色々凄い逸話をお持ちのようでw
個人的にはやはりキャラの濃い鐘姉妹に萌え。

>那御様
占い師弟……いいですね〜、何かオカルトな香りプンプンなトコが(爆
そして学園公式の易の説明が凄い…。かなり本格的( ゚Д゚)!

>7th様
初めまして、はるらと言います。
内政戦隊ショッカン4……笑いまくりました。
何気に戦隊ヲタな孫乾とトコトン不幸な伊籍がナイスキャラ!!
ショッカンロボこと公輸8号…何か凄い物体ですね…。そしてその存在を知っていた孔明って……。

491 名前:★ぐっこ@管理人:2004/05/04(火) 00:49
>那御さま
うお、譙周とは渋い選択を! 彼女もキャラ絵持ちでしたな(^_^;)
杜瓊さん相手に舞い上がっているのが可愛い…
それにしてもリアル譙周って、当時では三国中一位二位を争う大学者だったんですねえ…
門弟には陳寿をはじめ羅憲や杜軫などビッグネームが。
おまけに実家の譙家は益州土着の大姓で、劉氏でさえ憚るほどの実力者…。意外だ…

>7thさま
激しくワロタ( ゚Д゚)! 魯般神あんた何造ってるんだ!
あー、ていうか先行者ネタ、何かで使おうと思ってたんですねえ(^_^;)
学三世界だとガンダム等の版権モノが使えないので、その代替で。学三世界
の人気アニメシリーズで、先行者乙、先行者乙乙、先行者種、みたいな。
それにしても、7thさまの描かれる三羽ガラス(というか孫乾)は元気が
あっていいなあ…。

>はるらさま
や、今度はリリウム・ルベルムこと劉虞さまと!
お姉さん絡みと言えばそうとも言える関係。
意外に人見知りしないんですねえ、劉虞様。まあ、だからこそ異民族な男子生徒
たちと仲良くできるのか…
もし公孫瓉に一言言える立場であれば、盧植は絶対教え子を叱ってたでしょうね…

492 名前:★教授:2004/06/22(火) 03:33
◆◆復活ショートショート ある日の更衣室◆◆


「でさー…玄徳のヤツ、『頼む! 殺さんといてくれ!』って言うんだよねー。それがあまりにも悲痛だったから思わず情が移っちゃった」
「でも、殺っちゃったんでしょ?」
「当たり前じゃん。この憲和様の『爆弾包囲網』で爆殺してやった。そしたら『もう1回チャンスくれ!』って…何度もしつこいっての」
「ゲームでそこまで熱くなれる人も珍しいですよね」
 簡雍はスカートを下ろしながら隣で着替えをしている伊籍と談笑している。どうやら簡雍と劉備のゲーム対決が話題の中心になっているようだ。
「げーむとは云えど手を抜かないのが礼儀というものでしょう」
「お、いい事言った! その通りだってばー、玄徳に言っちゃれ言っちゃれ」
 伊籍の更に隣で着替えをしている趙雲も話に参加。談笑の熱がまた加熱された。
「………」
 そんな笑い声やおしゃべりが絶えない更衣室に一人ぽつんと椅子に座って姦しい3人の美女を物憂げに見つめている女子がいた。
「………(大きいよ、3人とも大きいよ…)」
 その恨めしそうな瞳の先には自分にない大きなもの。法正は心の中でため息を吐いた。
 自分は大きくない、むしろ小さい、お父さんお母さん、貴方達を恨みます…と、ずっとその事を呪い、気にしていた彼女に取って、今この空間は地獄にも匹敵する。もし、念で人に呪いを掛けられるのならこの3人の胸を小さくしてくれと心底考える辺り随分と心が荒んできてる。
 法正の恨みがましい視線に気付いたのが簡雍。憎悪とも取れる眼差しの奥にあるその羨望と嫉妬の心も勿論読んでいた。物凄くいやらしい笑みを浮かべると、いきなり隣の伊籍の胸を後ろから掴む。その行為に思わず吹き出す法正。
「きゃあ! 憲和さん…わ、私にはそんな趣味は…」
「愛い奴め、何食べたらこんな大きくなる?」
 耳元で息を吹きかけながら嫌がる伊籍を責めたてる簡雍、超危険な女だ。たまらず伊籍が隣の趙雲に助けを求めるが…
「………」
 手製のアトちゃん人形を見ながら遠い世界へ行ってしまっていて伊籍の助けを呼ぶ声は届いていなかった。伊籍の胸を掴んだまま方向転換して法正に向き直る簡雍。
「今年は豊作だぞー…ほれほれ」
「う、羨ましくなんかないわよ! 何さ、牛乳! 大きければいいってもんじゃないわよ!」
 カチンときた法正が食らい付いてきた。簡雍にしてみれば狙い通りであったのだが。 
「わ、私で遊ばないでくださいよ! それに牛乳って私の事!?」
 抵抗及び脱出を試みた伊籍だが、しっかり簡雍の巧みなロックに阻まれて文句の声だけが法正に届く結果に終わった。
「どうせ、私は小さいよ! 肩凝らない分お得だもんね!」
「んー…法正ったら可愛い!」
 伊籍を解放して今度はふてくされる法正に躍り掛かる簡雍。瞬間的に赤ランプが激しく点灯した法正、驚異的な反射神経でそれを回避した。
「待て待てー」
「あーもう! 何でこうなるのよ! あっちいけったら!」
 更衣室内に巻き起こる壮絶な鬼ごっこ。今日は捕まったら一巻の終わりの法正が逃亡者、捕まえたら悪戯三昧の簡雍が鬼…珍しい光景だった――


「更衣室が何が何やら騒がしいな」
「いつものアレでしょ。放っておこう」
 黄忠と厳顔がどったんばったん騒がしい更衣室を横目に通り過ぎる。大人の反応なのか関わり合いになりたくなかっただけなのかは分からないが…。
 20歳の現役高校生の二人、体育の授業なのだろう…体操服姿ではあるが…。
 飽きたのか更衣室から出てきた簡雍。二人の姿を見るなり正直な言葉が飛び出す――

「うわ、きっつ!」
「「何だとコラ!」」

今度は簡雍が二人に追い掛け回される。今日も平和だ――


「よいしょ…」
 簡雍、黄忠、厳顔がいなくなった廊下に法正と伊籍を担いで歩く趙雲の姿があった。
 法正と伊籍が何をされたのかは不明。当人達も語らないし誰も触れない――

              言迷を残して糸冬言舌

493 名前:那御:2004/06/23(水) 00:18
復活SS乙!そしていきなり超絶クラスのを投下してきましたな。
いよいよ簡雍はセクハラオヤジ化w。相変わらず法正は気にしてますねー。
良くも悪くも以心伝心の簡雍と法正、そして姐さんコンビの体操服・・・

短い中にも、読み応え(萌えとも言う)たっぷりでした。。

494 名前:★ぐっこ@管理人:2004/06/24(木) 00:09
やや、教授さま、ご帰還の手土産ゴチであります!
うーん、帰宅部位置頭がキレてひねくれ者な法正たんも、身体のことについては
コンプレックスが激しいようで(;´Д`)ハァハァ
逆に伊籍たんのぎゅーにゅー体型もまた、法正をからかうダシに使われて哀れ(^_^;)

ちうか、二十歳の大台コンビの体操服&ブルーマ姿(;´Д`)ハァハァ…

495 名前:takahisa:2004/08/12(木) 18:11
皆様、始めまして&お久しぶりです。
覚えている方は少し(ていうか、いない)と思いますが、私、昔「takayuki」と言う名前で何度か書き込みさせてもらいました。

結論から言うと、「takayuki=takahisa」ってことです。あと、別の名前で書き込んでいたこともあるような気が…。
えっと、まあその、一応、「しょーとれんじすと〜り〜2『曹操の涙』」の著者です。

手ぶらで復活ってのもアレですんで、『曹操の涙-りめいくばーじょん-』でも…。
今見ると2年前の文章は幼稚臭いなーとも思ったりしてかなり恥ずなぁと思ったんですが、
今書き直してもどうせ意味のわからん文章になっちまうんだろうなぁ…。
まあ、リハビリみたいなモノ(なんせ2年間来てないものでして…)なんで、「設定とは違うぞ( ゚Д゚)ゴルァ!takahisaしっかりしる」という点があればハリセンで突っ込んであげてください。

…というわけで、皆様以後宜しくお願いします。

しかしまぁ、『曹操の涙』ってかなりヤバい作品ですな。
何ですかあの郭嘉!もうtakahisa逝ってヨス!みたいな。
あんなの郭嘉じゃねぇ…(涙

なんか独り言だけでだいぶ使ってしまったな…。
とにかく、「曹操の涙-りめいくばーじょん-」スタートです!

 ― 曹操の涙 前編 ―

官渡公園にて袁紹を倒し、今やこの学園都市の北方をほぼ制圧した、連合生徒会会長、曹操孟徳。
彼女は今、冀州学院校区にある連合生徒会会議室にいた…。

生徒会室にカツ、カツと靴の音が鳴り響く。その音の主は、「連合生徒会 会議室」と書かれているドアの前で止まった。
「…ここだな…」
レーシングスーツをまとい、フルフェイスメットを2つ抱えた夏侯淵が呟いた。
ノックもせず、「孟徳…いるか?」と部屋に入って行く。予想通り、会議室の一番奥のソファーに、曹操が座っていた。どうやら寝ているようである。
起き上がった曹操は、「んぁ…もしかして、寝てた?」と夏侯淵に問う。
「ああ、爆睡してた…。それより、大丈夫なのか?」と夏侯淵は問い返した。
「大丈夫って…何が?……………っ!!!!!」どうやら気がついたらしい。
「あああああーーーーーっっっっっ!!!!!」…急に叫びだす曹操。
それを見て、夏侯淵はフルフェイスメットを1つ、曹操に投げた。「まだ間に合うだろ?出発は…9時だったな」こくりと頷き、曹操は走り出した。夏侯淵もそれを追う。
すべるように非常階段を降り、止めてあった夏侯淵の愛機・CB400Fに跨る。
「…さて、行くか。司隷までの道はピンクパンサーズに確保してもらってる」キーをひねりながら、夏侯淵が言った。
「さすが妙才!頼りになるわね…」曹操は右手を振り上げる。「目標は司隷!出発進行〜!」その右手を振り下ろしながら、曹操が叫んだ。
フルフェイスヘルメットを着けながら、夏侯淵が答えた。「了解!飛ばすからな!…振り落とされるなよ!」
力強くアクセルを踏む。もの凄い轟音を残し、バイクは走り出した。

司隷へと続く道。両端にはピンクパンサーズが警護している。その中を夏侯淵と曹操は駆けていく。
「絶対に…郭嘉に、絶対会わないと…」
郭嘉奉孝。
思えば曹操はかなりこの人に世話になっていた。
部費が足りない時、競馬で75万を儲けたてくれたこともあった。
―もっともその時、こっぴどく陳羣に怒られたりもしたのだが―。
そして、北伐。
軍師として獅子奮迅の活躍、そして烏丸の残党の降伏の時間をピタリと当てた。が…。
…それ以後、連合生徒会室で彼の姿を見ることは、一度しかなかった。

その病名は、ALS―筋萎縮性側索硬化症。
脳からの信号が筋肉から伝わりにくくなる病気である。
病状が進むと呼吸が浅く、困難になったり、何もないところでよく転ぶようになる。病状が進むと、寝たきりにもなる病気である。
校医の華陀曰く、「入学当初は卒業まで持つはずだったのに…」らしいが…。

―今となっては、それはどうでもよいこと。

…ふと、曹操の頭に郭嘉の台詞が浮かんだ。
「このあとは荊州、長湖だな。まあ、まかせとけって。最近自信が出てきてさ、あっと驚く戦略戦術が次から次に沸いてきてんだからな。これからは会長にもラクさせてやれるよ」

…ずっと郭嘉との思い出を思い浮かべていた曹操を現実世界に引き戻したのは、夏侯淵の声だった。
「…孟徳!近道だ、揺れるからしっかり捕まっとけよ!」
「へ!?」曹操が答える前に、夏侯淵はハンドルを右に切った。森の中へ入っていく。
「ちょっ…ここ、大丈夫なの!?」夏侯淵に捕まりながら、曹操が言う。
夏侯淵はちょっと間を置き、「司隷への近道って、曹仁が言ってたが…」と後ろを振り向く。

深くて暗い森を突き進むバイク。
数分後、「おし、森を出るぞ!」と夏侯淵が叫んだ。それと同時にバイクは森を抜け…宙を舞った…。絶叫する曹操。

「妙才!な、なんで飛んでるのーーーーーッ!?」

496 名前:takahisa:2004/08/12(木) 18:12
 ― 曹操の涙 中編 ―

「待ったーーーーーッ!」曹操が叫ぶ。郭嘉と郭嘉の両親が辺りを見回す。やがて、空を見上げると…。

ズッドーン! …ギリギリセーフ!

郭嘉の両親は驚きで顔面蒼白になっているが、郭嘉はいたって普通の様子であった。
この学園では何が起きてもおかしくないと、身をもって学んでいるからだろうか。

…バイクを降りると曹操は一直線で郭嘉の元へ走った。「会長…見送りか?」と、いつものように郭嘉は言う。
「そう…見送りよ…うっ…」いつの間にか、曹操の目には涙が浮かんでいた。反応に困る郭嘉。
少し離れたところで見守る夏侯淵。いつのまにか曹仁を先頭にピンクパンサーズも到着していた。
「それよりも…」郭嘉の一言に曹操が顔を上げた。「『これからは会長にもラクさせてやれるよ』…って言ったけど、嘘になっちまったな…。許してくれ」と頭を下げた。
「いや…もういいよ…今はゆっくり休んで…また、私と一緒に…」曹操の一言に、郭嘉は首を縦に振った。
「当たり前だ。またもう一度、会長のために働くよ。ちゃんと待っててくれよ?」二度三度と曹操は首を振る。
郭嘉の両親が、郭嘉の耳元で何かを呟く。「わかった」と郭嘉は答える。
「すまん、会長。もう行かないと…」すまなさそうに郭嘉が言う。曹操は右手をポケットに突っ込み、何か探しているようだ。
「あ、あった…。郭嘉、これ!」曹操が差し出した右手には、古いお守りがあった。曹操がいつもポケットに忍ばせていたお守りである。
曹操がどんな危機に陥っても、このお守りを握っていればどうにかなったという、結構有名なお守りである。
「大切な物だろ?預かってていいのか?」郭嘉が問う。「大切だから預けるの…。ちゃんと…返しに来てね…」
まだ半泣きの曹操の発言を聞いて、郭嘉は笑い出した。「ハハハ、嬉しいな!それだけ私は信頼されてるんだな!…何があっても返しに来るからさ、ちゃんと待ってろよ?」
そう言いながら郭嘉はお守りを曹操から受け取り、握り締めた。
「そんじゃ…会長の武運を祈ってるぜ」といいながら、車に乗り込む。
車の窓を開け、曹操に向かって手を振る。
「んじゃ、会長…元気でな!また帰ってくるからさ!…夏侯淵も曹仁も、見送りありがとな!」夏侯淵と曹仁にも手を振る。
「ああ…。お大事にな。」と夏侯淵。「また来いよ!」と曹仁。
車の窓が閉まり、車が走り出す。
「よーし、みんな!郭嘉を見送るわよ!…ミュージックスタート!」頬の涙を拭い、曹操が言った。
とたんに、司隷特別校区中に生徒会の突撃行軍歌が流れ出す。曹仁の指揮でピンクパンサーズのバイク部隊が郭嘉の乗る車を囲む。
そしてだんだんと野次馬が集まり、辺りは「英雄の出陣」という感じになってきていた。

「♪誇り高き学園の為に 命を賭けて敵を討て
 ♪胸に黄金の勲章をつけた勇者を 皆で称えよ我等が連合生徒会…」

「ヒュー、突撃行軍歌で見送りか…まるで英雄気分だな…」
外を見ながら郭嘉は呟いた。その右手には曹操から贈られたお守りが握られている。
空は素晴らしい蒼に染まっていた…。

497 名前:takahisa:2004/08/12(木) 18:14
 ― 曹操の涙 後編 ―

夏休みが終わって、曹操が郭嘉を見送って、2ヵ月後。
曹操は赤壁の決戦に敗北、失意のうちに連合生徒会室にいた。
「郭嘉がいれば…ね…」
郭嘉がいれば、どうなっていただろうか。
赤壁での敗戦はなかったかもしれない。もしかすると、孫権・劉備を倒し、学園のほとんどを手中に収めていたかもしれない。
椅子から立ち上がり、夕焼けの見える窓際へと行く。
誰もいない部屋。コツ、コツと足音だけが聞こえる。しばらく曹操は夕日を眺めていた…。

バタバタバタッ!誰かが走っている。「も、孟徳ッ!大変だッ!」と、雪崩のように夏侯淵が部屋に入ってきた。
「何?何処かから攻められたの?」窓の外を見ながら、曹操が言う。
「違う!それ以上に大変だ…。郭嘉が…ッ、死んだ…」
曹操は後ろを振り向き、一言「えっ…」と叫ぶと、その場に崩れ落ちた。「孟徳!?」と夏侯淵が駆け寄る。
「大丈夫…。嗚呼、哀れや郭嘉、痛ましや郭嘉、口惜しや郭嘉…。ありがとう、郭嘉…。私、あなたのことは、絶対に忘れないから…」
「…それから孟徳、これを…」と夏侯淵が取り出したのは、真っ白な封筒。「曹操会長」と宛名が書かれている。

「会長、すまないがもうヤバいらしい。主治医は大丈夫って言ってるが、自分の体は自分が一番わかってる。
 まあ、悔やんでも仕方ないんだが…それより、二度も裏切ってしまって、申し訳ない。
 これからは天から会長を見てるから。会長は学園の統一目指して頑張ってくれ」

そして、その封筒には、曹操が渡したお守りも入っていた。

「追記…。そのお守りのおかげかわからんが、予想以上に生きれた気がする。…ありがとう」

…曹操はただ泣くしかなかった。夏侯淵は何も言わず、無言で部屋を後にした…。

    ― 終わり ―

…っていうか、郭嘉って殺してもいいですよね…?

それから後半は眠くて疲れてかなり手抜き。誰か書き直して下さい_| ̄|○

ちなみに今回、『曹操の涙』をリメイクしようと思った(ていうか、再び「学園三国志」に参加しようと思った)のは、雪月華様の「烏丸反省会、懊悩」の最後に、
>このあとほどなくしてtakayuki様の「曹操の涙」にシフトします
というのを発見、「こんな素晴らしいお話の後に俺のクソッタレな、そして設定無視なお話を見せてしまっては読んでいる方もそうだが雪月華様にも失礼だッ!」という気持ちからです。どうでもいい話ですが…。
ちなみに現在は帰宅部連合オールスターズvs曹操軍団オールスターズの野球のお話を執筆してます。
「西方の守護神」郭淮、ついに復活…!?の予定。昜が!陳泰が!姜維が!夏侯覇が!グランドを所狭しとかけまわる!…予定。
ていうかあんまり三国志に詳しくない(ちょっと読んだ程度)の知識では架空の話しか書けないんですねぇ…。

それから、もひとつ予告を。
「学園三国志ゲーム化計画」がtakahisaの脳内で進行中です。確か昔、誰か(=takahisa)が宣言してからあんまり進行してなかった気が…。
ひとまず導入部分だけ作って公開しますんで、お楽しみに…。

498 名前:★ぐっこ@管理人:2004/08/13(金) 02:41
。・゚・(ノД`)・゚・

お久しぶりです、takayukiさま改めtakahisaさま。
曹操の涙リメイクバージョン、確かにお預かりしました…

あー、なんか今やってるゲームが結構こういうシーンとかある
ものだから、余計に胸にくるなあ…。勝手にBGMが…。
ええ、郭嘉は残念ながら、本当に死んでしまう役回りです。
急激に進行が早まったALSで、一日ごとに身体のどこかが動かなくなってゆく
状態でありながら、誰にもそれと悟られることなく、立っていられる最後の
日まで、曹操の側にいるわけで。

演義の構想だと、セクションごとのオムニバスになるので、官渡以降のあたり
は、実は郭嘉視点になる予定なんですねえ…(^_^;)
彼女の死に際しての態度とかは、これとはちょっと違ってくるのですが、もちろん
「曹操の涙」の郭嘉もまた、学園三國志版郭嘉の一つ…。

それにしても新企画をイロイロひっさげてらっしゃる(゚∀゚)!
期待しておりますよ〜!

499 名前:takahisa:2004/08/13(金) 02:57
お久しぶりですぐっこ様。
ひとまず2年分の遅れを取り戻すため怒涛の勢いでSS投下&ゲーム製作をするつもりなんで、まあよろしくお願いします。

ゲーム化なんですが、まずは素材集めからやってます。
何故かRPGツクールというソフトには中世っぽい素材しかないので現代風の素材を集めないといけないんですな…。
オマケにゲームの方向性なども決めないといけないわけでして、できればこの掲示板にゲーム化の本部スレでも立ててもよろしいでしょうか?

ひとまずオープニングだけでも、今月のうちに…。

それでは、ひとまずSS書いてきます…w

500 名前:国重高暁:2004/08/31(火) 17:15
 ■■ レリーフ ■■

(やはりあの時、素直に階級章を返上すればよかったか……)
 于禁は、深く後悔していた。

 思えば、今を去ること二ヶ月前。
 彼女は、樊棟を守る曹仁の援護に赴いた。しかし、その正門前に罠があった。
どこからか流れてきた油に足をとられ、同行したホウ徳とともにスリップ。巨大な大阪城の置物に頭から激突し、目を回したところを、帰宅部連合の将軍・関羽に捕らえられたのである。
敵陣内へ引き出され、ホウ徳はその場で階級章を返上。しかし、于禁はこれを選択しなかった。
「今回は思わぬ計略のために敗れたのだ。ここで終わるわけにはいかぬ!」
 熱意が通じ、彼女は階級章剥奪をまぬかれた。そして、帰宅部連合から長湖部を経、このたび生徒会へ戻ってきたのである。
 ところが、生徒会は既に「生徒会」ではなかった。姉の後を継いで会長となった曹丕が、「献サマ」こと劉協に蒼天会長を禅譲させ、生徒会を発展的解消させたのである。
 于禁は、それから冷遇されていた。安遠将軍に任命されたものの、どうにも遠征の機会がないのである。
 捕囚されている間、心労ですっかり青みの抜けた髪も、今やますます色彩を失っており、彼女がかつて学園の剣道部協会の総長であった頃の面影には程遠い。
(やはりあの時、素直に階級章を返上すればよかったか……)
 于禁は、深く後悔していた。

「……文則ちゃんね」
「いかにも」
 新・蒼天会長じきじきの呼び出しである。重要任務の依頼に違いない。
「本日は、どのような用件でございましょう?」
「あんた、長湖部へ行ってくれないかしら」
(なるほど、遠征の要請か……)
 于禁は、噂に聞いていた。妹分の関羽・張飛を相次いで失った劉備が、このたびリベンジの兵を挙げたということを。
 彼女は一礼して、言った。
「わかりました。早速、長湖部へ援軍を送り、私を解放してくれた恩に報いるとしましょう」
「……いや、その前に」
 曹丕の口から意外な言葉が漏れる。
「その前に?」
「ギョウ棟を視察してきてほしいわ」
(遠征の前に自勢力の視察……一体どんな思惑があるのだろう?)
 于禁は、曹丕に彼女の本心を聞いてみた。
「会長、そんなことをする必要はないのでは?」
「必要があるから言ってるんでしょ!」
 拳で机を強く叩くと、曹丕は更に言葉を続ける。
「実はね、ギョウ棟の構内に新しくできたものがあるの」
「剣道場か?」
「違う、孟徳記念館よ」
 前生徒会長(であると同時に曹丕の姉)の曹操は、于禁が捕囚されている間に引退したが、現役のうちから、巨大な記念館を造らせていたのである。
「ほーお、ついにそんなものができたのか……これは視察する価値があるな」
「でしょ、でしょ? だから、長湖部より先にそっちへ行ってほしいってわけ」
 于禁はぽんと手を打って、言った。
「わかりました。私、これより、ギョウ棟を視察してまいります」
 出発しようとする彼女に、曹丕は最後の楔を打ち込む。
「たれが今すぐ行けと言った? 行ってほしいのは明日よ、明日」
「そうですか……では、明日は日曜日ですから、朝食をとったらすぐに現地へ向かいましょう」
 于禁は一礼して、会長室を去った。

 翌朝。
 于禁がギョウ棟の正門をくぐると、陰から不意に飛び出してきた者がある。
「文則ちゃん、おはよう!」曹丕であった。
「会長、なぜここに?」
「あんた、孟徳記念館は初めてでしょ。だから、あたしが案内してあげるわ」
(な、何とありがた迷惑なことを……)
 于禁の心に一抹の不安が募る。
「何か言った?」
「べ……べ、べ、別に……」
「じゃ、さっさとついてきなさい!」
 于禁は小さくうなずいて、走る曹丕を追った。
 学生玄関を左へ折れ、本校舎と塀との間を抜けると、グランドをはさみ、向こうに巨大な建物。自分が見も知らぬ施設である。
「すいません。今日は部下を案内しに来ましたので……」
 曹丕の二人分無料入館願いは、あっさり認可されるところとなった。

 彼女は于禁を連れ、ずんずん奥へ通っていく。
 順路やフロアに所狭しと並べられた、姉・曹操の遺品。しかし、そんなものはどうでもよかった。
「会長。私は、ゆっくり時間をかけて見物したいのですが……」
「いいから、いいから!」
 広い館内のガイドを、曹丕は一気に進めてしまう。
 そして、最上階に設けられた「魏の君の間」へ到達した時のことであった。
「これは……前会長の等身大人形ですね。間近に見れば見るほど、小柄さがよくわかります」
「失礼なこと言わないの! その上を見なさい、上を」
 指示されるまま、于禁は視線を移す。
「う、浮き彫りのようですが……」
「レリーフと言え、レリーフと! とにかく、それをもっとよく見なさい」
「そ、そうおっしゃいましても……あーっ!」
 レリーフを凝視した次の瞬間、于禁はたちまち血の気を失った。
 何と、彼女が関羽の虜となり、階級章剥奪を恐れてぺこぺこしているさまが彫られていたのである。
 曹丕は、力強くこう言い捨てた。
「文則ちゃん……あんたは、永遠に、この情けない姿を見られる運命にあるのよ。姉さんも言ってたわ、『あんたを知って二年以上になるけど、階級章剥奪を恐れて降伏するとは思わなかった』てね」
 この声を聞くなり、于禁は憤怒の形相で、のっしのっしと曹丕に歩み寄る。
そして、次の瞬間、鳩尾へ肘鉄砲を撃ち込んだ。後は、「魏の君の間」を出て一気に走り去るばかり。
「……文則ちゃん?」
 曹丕がふらふらと立ち上がった時、彼女の周りにはもうたれの姿もなかった。
「あ、あいつ……蒼天会長に何ということを……」
 曹丕は、ただ呆然とするだけであった。

 翌日、蒼天学園事務局に、一枚の退学届が提出された。
 いわゆる「五将」の筆頭として重きをなした于禁は、高等部二年の十二月、転校という形で学園史から姿を消したのである。

        糸冬

501 名前:国重高暁:2004/08/31(火) 17:17
いかがでしたでしょうか。
僕としては約四ヶ月ぶりとなる学三小説、
今回のテーマは「于禁の最期」です。
年表に、彼女の転校は「夏侯淵のリタイアと
同時期」と記されていますが……
正史でも曹操より後に死んでいますので、
これは年表を修正してしかるべきでしょう。

      以上、国重でした。

502 名前:★ぐっこ@管理人:2004/09/05(日) 22:32
( ゚Д゚)!
曹丕たんのサディスティックな面が最も現れているエピソード!
降った于禁も于禁ならば、それを容赦なく辱める曹丕も曹丕と…
この件、誰にとっても後味悪いことになったでしょうね…

でも今回は、于禁が最後の意地を曹丕に返したと言うことで…救いには
ならないけど、ちょっと溜飲下がったカンジ。

503 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:17
こちらでは初書き込みの海月です。
やっとこさSSが仕上がったんで、もってきました。何気に全六話。
しかも詰め込みすぎて一話一話がバカみたいに長いので…全部見せるのにスレッドをいくつ消費するのやら…

というわけで今回は第一話のみを置いていきます。


「風を継ぐ者」
-第一部 鈴音の鎮魂歌-

「ええっ、叔武と義封が…!」
「はい…帰宅部連合の勢いは抑えがたく、早急に援軍を要するとの事です!」
揚州学園の中枢にして、長湖部の総本部がある建業棟に、その報がもたらされたのは孫桓出陣の二日目でのことだった。
その報を受け、まだ幼さの残る長湖部代表・孫権の表情が驚愕に染まる。集まった幹部達にも動揺は隠せない。
孫桓軍団の"三羽烏"こと李異、謝旌、譚雄のリタイア。
そして追い詰められた孫桓とお目付け役の朱然が夷陵棟に押し込められた格好で孤立しているという、最悪の戦況。前線からの報告から察するに、孫桓の類稀な指揮能力を百戦錬磨の朱然がサポートすることによって、辛うじて現状を維持しているという有様である。
そのとき、孫権の右側、廊下側の壁に腕組みしてもたれていた、ロングの黒髪をきちんと整えた眼鏡の少女…いや、年齢的には、女性というべきか…が、これ見よがしに溜め息をつく。
皆の注目を集めたその女性…既に学園から卒業したものの、いまだに長湖部の顧問を気取っているかつての功臣・張昭は孫権をたしなめるように、口を開く。
「言ったとおりでしょ、関羽を処断したことがどういうことを意味するかって」
「うぐっ…でも、でもあっちが悪いんだよ! ボクだけじゃなくて、お姉ちゃん達のことやみんなのことまでバカにするなんて…」
「………………」
その一言に、ロバの耳に見える特徴的な癖っ毛の少女−諸葛瑾は、バツが悪そうに視線を逸らした。先に関羽の元に使いにいって、その「暴言」を直に浴びせられ、せがむ孫権にそれを一言一句過たず伝えた張本人こそ、彼女であったからだ。
「確かにあの態度は頭に来るわね…あたしのことまで、散々馬鹿にしてくれたみたいだし。でも、荊州学区さえ手に入れれば十分にヤツの鼻もあかせるし、送還させたって勢力はこっちのほうが上になるから、仕返ししたくたって手出しできなくなるわよ」
「うう…でも、飛ばしておけば厄介事がひとつ減ると思ったから…」
「ええ、そりゃあひとつは減ったわよ、その意味では正解。その代わり、呂蒙は関羽軍団残党の闇討ちにあって飛ばされるし、今劉備の怒りも買っちゃった意味では、大失敗じゃない。収支はマイナスだわ」
「…うう…だってぇ…」
ほら見なさい、と言わんばかりの口調の張昭に、部長たる孫権は完全にやり込められ、半べそどころかもう完全に泣いている。張昭の言い方もどうか、と思う他の幹部達も、その言葉が正鵠を射ている以上フォローの言葉も出てこない。
一人息巻く張昭と、泣きべそをかいている孫権、いまだ視線を逸らしたままの諸葛瑾、そして現状の居辛さと事の深刻さに何の言葉も出てこない他の幹部達…普段は孫権以下和気藹々と進行していくはずの長湖部幹部会議は、ここ数日はそんな重苦しい空気に支配されていた。その理由は、既に学園を去りながらも、いまだにこうして首を突っ込んでくる"御意見番"張昭の存在だけでないことは、誰の目から見ても明らか…今、長湖部全体が置かれているのは、その存亡の危機だったからだ。
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事の発端は、荊州・益州の二学区を支配下に治めた劉備が、その統合生徒会長(←正史で言えば漢中王)の座に就いた事にあった。
かつては幽州近辺の非公認報道組織の長として、様々な実力者の庇護を受けながら各地区を流れ歩いていただけの少女が、遂に蒼天学園を三分する大勢力の一角を担うまでになったのだ。
早くから蒼天会の中枢部にいて、学園を動かす立場にあった曹操にすれば、実に面白くない話である。かつては自分の庇護の元に居たクセに、妙な野望をもって自分に歯向かい続けた挙句、自分と対等の勢力と権力を得る…曹操の性格を考えれば、黙って見ている筈がない。
だが、敵は劉備率いる帰宅部連合だけではない。それと手を結び、赤壁島で曹操の学園制覇の野望を頓挫させたもうひとつの勢力の存在が、劉備との全面戦争を躊躇わせていた。その存在こそ、今や孫姉妹の三女である孫権に受け継がれた長湖部である。
曹操はまず、長湖部を唆して帰宅部連合に当たらせることを考えた。
長湖部にしても、勢力拡大の為に荊州学区の領有、ひいては、益州学区までを制圧する遠大な戦略構想を抱いていた。だが、後に言う「赤壁島の戦い」のどさくさに紛れて荊州学区を抑えた帰宅部連合の為に、その戦略も大きな見直しを余儀なくされた。
曹操の蒼天会に対抗するために、劉備と結んだことが今や大きな癌となって、長湖部幹部を悩ませていたのだ。
曹操の申し出に議論百出する長湖部にあって、その重鎮の一人・諸葛瑾が一策を案じる。すなわち、劉備の名代として、荊州学区の生徒会長代行の座に収まっている関羽に個人的な友誼関係を持ちかけ、荊州学区併呑の布石にし、蒼天会に対抗する力をつけてからその申し出を受けるというものだった。
もし関羽がこれを突っぱねたら、それを口実に帰宅部連合との同盟を破棄し、このとき荊州を伺うために出張ってきていた曹仁をぶつけ、その隙に荊州を狙う…という二段構えの策だ。
その案が通り、言い出しっぺの諸葛瑾は関羽の元へと赴くが、関羽はそれ突っぱねるどころか長湖部を挑発するかのような暴言を吐く有様だった。口を渋る諸葛瑾からその口上を聴きだした孫権は、普段の彼女からはとても想像出来ないくらい激怒し、完全に頭に血が上った孫権の剣幕に押される形で、諸葛瑾が示した第二の策は決行された。
果たして曹仁と関羽の激戦が繰り広げられ、戦線は関羽軍有利の状況で進んでいた。蒼天会が送り込んできた大援軍も、関羽の水攻めによって壊滅、総大将の于禁は関羽の虜囚となり、名将(ホウ)徳を筆頭に多くの将が処断された。
それで勢いに乗ったことが仇となり、荊州学区は完全に手薄の状況となる。その一因には、荊州学区との境目に当たる陸口棟の責任者が、名将で名高い呂蒙から、その呂蒙の策謀で、当時学園全体ではまったくの無名だった陸遜にかわったこともあった。呂蒙はこの機を逃さず、荊州学区諸棟の責任者の調略にかかる。
関羽の勘気を被って後方支援を任されていた傅士仁、糜芳を筆頭に、長湖部の威容を恐れた各棟の責任者は先を争って帰順し、関羽の退路を断つことに成功する。
さらに曹仁の援軍として現れた徐晃の活躍もあり、関羽は荊州学区の外れにある、廃棄寸前の麦棟へ敗走した。そして長湖の大軍勢に包囲された関羽は、脱出に失敗してとらわれ、件の暴言に対する怒りの覚めやらぬ孫権の独断で、その部下もろとも処断されてしまったのだ。
その後、この復讐の機を劉備と共に伺っていたその義妹・張飛が、自身の不始末によって引退を余儀なくされたことで焦りを覚えた劉備は、学園生活最後のこの時期に、長湖部への復讐を遂げるための大号令をかけたのである。
関羽・張飛縁故の者達と、連合の荊州学区系構成員の意気は凄まじく、それを迎撃するために孫権の妹分の一人・孫桓が勇んで出陣していったのだが…その顛末は、冒頭のとおりである。
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「まぁ、過ぎたことを今更言っても仕方ないわ。向こうが烏合の衆でないことが解った以上、こちらも戦い慣れた古参の手練で対抗すれば良いだけの話でしょ」
「で…でも、ほとんどの人たちはもう、引退しちゃったんだよ?」
大学生にもなってこんなトコに顔出してるあなたを除いては、なんて言葉が喉まで出かかっていたが、孫権はぎりぎりのところでその言葉を飲み込んでいた。多少感情を乱していても、張昭を徒に刺激することの愚は承知していた。
後ろに控えた谷利から手渡されたハンカチで涙を拭うと、孫権はすがるような目で張昭を見つめた。
これまで部を支えてきた周瑜や魯粛、そして先に不慮の事故でリタイアした呂蒙といったメンバーが居ない以上、今この場にいるメンバーで一番頼りになるのは張昭しかいないこともまた、孫権は理解していた。
流石の張昭も、頼りにされるのは悪くないと見え、柄にもなくちょっと照れ臭そうに視線を逸らす。この甘え上手なところも、孫権の長所であり武器である。
「ん…まぁ、そうだけどさ。幸いにも韓当はまだ残っててくれてるし、周泰や凌統、徐盛だっているじゃないの。連中を駆り出して、当たらせるのが最善手ね。山越高や対蒼天会の護りは呂岱や賀斉で十分だし」
そこまで話し、急に普段どおりの真面目な顔に戻る。
「ただ、総指揮を任せるとなると適任は…」
「それだったら、俺様が引き受けるぜ」
そのとき、不意に会議室の扉が開け放たれ、全員の視線がそちらへ集まる。"御意見番"の完全な一人舞台状態に割って入ったのは、先に引退を表明したばかりの甘寧だった。

504 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:18
「甘寧…? 貴女、どうして此処に…?」
卒業生だから、という理由もあったが、呂蒙が不慮の事故で引退を余儀なくされた頃から、彼女も著しく体調を崩していた。
その理由については明らかではなかったが(その原因を聞いていたとしても、おそらく彼女のことだからそんなものをいちいち覚えてはいないだろう)、そのために風邪をこじらせていたのは事実である。
万全の状態なら誰も文句はつけないだろうが、今の甘寧はお世辞にも本調子とは言いがたい。
現に、甘寧はほんの数時間前まで病院のベッドの上にいたはずなのだ。顔は蒼白で、ほとんど気合だけで立っているふうに見え、今までの彼女を知るものから見れば、その姿にかつてのような覇気は感じ取れないだろう。だが…。
「公式にはまだ、俺の蒼天章も、階級章も返上されてないからな…それなら、問題ねぇハズだよな?」
「確かにそうだし、そりゃあ貴女が往ってくれるなら心強いけど…でもあんた、風邪こじらせて入院してたはずでしょう? そんな身体で…」
「引退直後に古巣がなくなりました、じゃ、寝覚めが悪すぎらぁ。理由(ワケ)なんざ、知ったこっちゃねぇが、これ以上、あんな山猿共にキャンキャン騒がれるのも…ムカつくんでな」
息は荒く、言葉も途切れ途切れだったが、そう言い切った甘寧の眼は未だ死んでいない。合肥で蒼天会の本陣に数名で奇襲をかける、と言い出したときの、そのままの眼光を保っていた。
そんな眼をしている以上、例え「駄目」と言ってベッドに無理やり寝かせつけようとしても、彼女は這ってでも独りで戦線へ突っ込んでいくだろう。その気迫に呑まれ、流石の張昭にも反対すべき言葉が出てこない。一息ついて、孫権の方を見る。
「…と、彼女は言っているようですけど…どうする部長?」
孫権も迷ったが、他に頼れる者も思い当たらない。悲痛な面持ちのまま甘寧を見つめ、断を下す。
「……………解った。興覇さん、お願い」
「へっ、そうこなくっちゃ…な」

「どうして、どうしてアンタがここにいるのよ、興覇ッ!?」
「なんでぇ、公績…俺様が、ここにいるのが、まぁだ気に喰わねぇのか…?」
その姿を認めるなり、手前にいた黒髪をショートにした少女…凌統は、思わず大声をあげた。
凌統以下、救援軍の編成に当たっていた諸将にとっても、彼女がそこにいることが信じられなかった。ましてや凌統は、先刻病室で甘寧を見舞っているのだ。
かつて姉を飛ばされたことで甘寧を激しく憎悪していた凌統だったが、先の合肥戦のさなか、楽進・曹休のタッグからの攻撃から身を呈して救った挙句、孫権を護って逃げるための殿軍(しんがり)まで買って出てくれた甘寧の行為に、その憎悪は彼女に対する尊敬へと変わっていた。
一方の甘寧にしてみても、相手が恨んでいない以上こちらからも恨む理由はない、ということで、ふたりはこれまでとはうって変わって、良き戦友と呼べる仲になっていた。
「そんなんじゃないわよ! アンタ絶対の安静だって、医者に言われてるんでしょ!? そんな身体で…」
「公績先輩の言う通りですよ!」
凌統の隣りに居た丁奉も声を挙げる。ポニーテールにまとめた、生来のものである狐色の髪が特徴的なこの少女は、中等部入学直後の夏休みに孫権直々のスカウトを受けた逸材である。並み居るの先輩部員を差し置いて、将として認められていることからも、その実力は明らかだろう。
彼女は現在潘璋の副将という立場にあったが、かつては甘寧の部下に配され、こき使われながらも一方で非常に可愛がられ、今では一番の妹分と言っても過言ではない。言うまでもなく、彼女の甘寧に対する尊敬の情も、ひとしおだ。
「ここで無理をしたら、大変なことになりますよ! ここはあたし達が…」
「やかましいッ!」
甘寧の大喝に、気圧されて黙り込むふたり。
蒼白の顔に、脂汗まで滲ませているその容貌にかつての精彩はない。だからこそなのか、その貌(かお)には鬼気迫る何かがあった。その勢いに、まだ中学二年生の丁奉は半泣き状態になり、気丈な凌統も言葉を失った。他の一般部員の中には、腰を抜かしてへたり込んでしまったものもいた。
「俺は…俺も、失いたくないんだ…! はみ出し者だった俺を"仲間"として扱ってくれた長湖部を…」
「…興覇」
「興覇先輩…」
甘寧の表情は、悲痛で、真剣だった。その心底を洗い浚い吐き出すような言葉は、少女達の心を打った。
「俺は、こういうカタチでしか、恩義を返せない、人間だから…だから、最期まで戦わせてくれ…頼むッ!」
そのとき、甘寧の身体がよろめく。しかし、その身体はすぐに背後から現れた人物に支えられる。
艶のある黒髪をショートに切り揃えた、整った顔立ちの少女。その少女は甘寧同様に卒業を控えた、初期長湖部からの功臣・韓当だった。
「義公…さん」
「いろんな意味であなたのその性格は、死んでも治りそうにないわね。居残り組最古参の私を差し置いて総大将に名乗りをあげたことの文句のひとつでも言ってやろうかと思ってたけどね…」
私だって有終の美を飾りたかったのに、とか言わんばかりの口調だが、これも悲痛な空気を少しでも紛らわそうとする韓当流の言い回しである。そろそろ付き合いも長い甘寧達にも、それはよく解っていた。
ふぅ、とひと息ついて、韓当は続ける。
「まぁ、部長の命令も出たことだし、今のを聞かされた以上、もう何も言わないわ。その代わり、承淵を副将に連れときなさい。文珪や上層部(うえ)には、私が話しとくから」
「すんません…恩にきります」
苦笑を浮かべる韓当に、何時もより弱々しくも、苦笑で返す甘寧。
「あなた達もいいわね?」
「そう仰られるなら…異存はありません」
「…任せてください! 全力でお守りします、先輩!」
「へっ、こいつ…ナマ言いやがって…」
もはやふたりにも反対の言葉は出てこなかった。苦笑して返す凌統と、涙を拭って極力笑顔で返す丁奉を軽く小突く甘寧を見て、韓当は「よろしい」と軽く呟いた。
それから数刻のうちに、編成を終えた総勢500名弱の夷陵棟救援軍は甘寧を総大将に、先手を潘璋、左右に周泰と韓当、後詰めに凌統、そして中軍の副将に丁奉といった錚々たるメンバーとともに建業棟を進発した。

505 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:19
夷陵棟に程近い(オウ)亭広場で、長湖部軍が帰宅部連合軍を迎撃する形で開かれたその戦況は、時間がたつにつれ長湖部にとって芳しくない状況になりつつあった。甘寧の想いとは裏腹に、帰宅部連合の勢いに押された長湖の精鋭たちはじりじりと後退を始めていた。
一説では、潘璋隊に帰宅部の"五虎(タイガー・ファイブ)"の一角として知られる黄忠が単騎で大立ち周りを演じ、自身は最終的に飛ばされてしまうものの、潘璋隊に壊滅的な打撃を与え、逃げる潘璋はその途上、関興に飛ばされた…などという説話もあったほどだ。
無論これは帰宅部寄りの誰かが言い出した俗説に過ぎず、黄忠はこのころ既に引退しており、潘璋が引退したのも夷陵回廊戦の翌年度である。しかしながらそんな俗説が飛び出るくらい、長湖部の孫桓救援軍が手痛い打撃を受けていた、ということなのだろう。
先に旗色悪しと見て、帰参を申し入れた傅士仁、糜芳の二人が、関興によって心ゆくまでぶちのめされた挙げくに処断されてしまったことも手伝い、荊州棟出身者で、関羽を裏切る形で長湖部についた者達は関興の姿を確認するや、その怒りを恐れて我先にと逃げ出す始末であった。
そのことが、長湖部軍全体に恐慌となって伝播し、さらには姉の復讐に燃える関興の働きもあって、先手は潘璋の奮戦空しく壊滅に近い状態となった。命からがら逃げてきた潘璋は、残存隊員をかき集めて既に退却を開始していた。
剛毅で無鉄砲な性格で知られる甘寧も、この状況にあっては流石に焦燥を隠せない。病状は会戦直前に飲んだ頓服薬のお陰で小康状態を保っていたが、今度はこの戦況のために顔色が変わる。
「くそっ…これじゃあ勝負にならねぇじゃねぇかよ!」
先鋒の潘璋隊壊滅の余波を受けて、恐慌は甘寧、凌統、丁奉のいる中軍にまで伝播してきていた。両翼に居た周泰や韓当の隊でも、副将を飛ばされて後退を始めている。勢いに乗った帰宅部期待の新星・関興、同じく張苞の隊が中軍に突っ込んでくるのも時間の問題だった。
「興覇先輩ッ、正面の敵本隊も進軍を開始しましたッ! このままじゃ三方向から挟み撃ちですよッ!?」
丁奉が悲痛な叫び声を挙げ、甘寧も舌打ちする。中軍の部隊も、外側では関興・張苞隊との戦闘が始まっていた。
「ええいッ、 引いて軍を整える! 俺らは後ろの凌統隊に合流し、来る連中を撃退しながら下がるぜ! 俺も戦闘に入る!」
「ええっ!? 大丈夫なんですか!?」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇ! "覇海"を寄越せ、来るぞッ!」
傍らに居た甘寧子飼いの親衛隊−かつて彼女を首領とした不良集団・銀幡あがりの少女が、ひときわ大きな木刀を甘寧に手渡したのと、正面の布陣が割れたのはほぼ同時だった。崩れた一角から、怒号とともに帰宅部の精鋭たちがなだれ込み…。
「いたぞッ!」
「甘寧を狙え! ヤツさえ飛ばせば軍は崩せるッ!」
「ヤツは半病人だ! 囲めば確実にとれるぞ!」
他には目もくれず、混乱する少女達を尻目に、甘寧をめがけて殺到する。
「興覇先輩!」
「しゃらくせぇ、やれるもんならやって見やがれっ! 承淵、遅れをとるんじゃねぇぞ!」
言うが早いか、銀幡時代からの愛刀・覇海を一閃し、群がってきた数名を吹き飛ばした。いくら病に体を蝕まれていても、やすやすと飛ばされるほど衰えてはいない。まさに鬼神の如き働きで、一時は帰宅部軍を押し返していた。
しかし、そのために彼女は、何時しか敵軍の深みに入り込み、孤立した状態になってしまっていた。
深入りを認識し、血路を開いて後退しようとする甘寧の前に、ひとりの少女が立ちふさがった。青みがかった髪を無造作にショートで切り、春先だと言うのに夏服を着ているその腕には無数の傷があり、頬にもバンドエイドを貼り付けている。
猛禽を思わせる鋭い目つきと言い、その雰囲気からも只者ではない気配を漂わせていた。
「甘興覇先輩とお見受けします…お手合わせ願います!」
「け、上等だッ! 病院送りにする前に名前だけ聞いといてやらぁ。かかって来な!」
「益州学区古武道同好会主将、沙摩柯。参るッ!」
言葉と同時に、沙摩柯と名乗った少女が、一陣の疾風に変わった。3メートルほどの間合いが、一瞬にして0になる。古武道の達人が成せるその驚異的な踏み込みに、甘寧の顔から一瞬にして笑みが消えた。
(! コイツ…っ)
一瞬にして間合いの中に斬り込み放った必殺の掌を、甘寧は恐るべきカンでぎりぎりかわしていた。それと同時に、逆手に構えていた覇海を振り上げる。スウェーでかわした沙摩可が反撃に出ようとした瞬間、即座に手首を返して全体重をかけた返しの一太刀を振り下ろす。
はっとして、沙摩可は即座にバックステップで回避した。仕留めるつもりで放った一撃をかわされた甘寧だったが、間合いを離してにらみ合った相手に対して、再びニヒルな笑みを浮かべて見せた。
「ちっ…右か左にかわしてくれれば、ワキにヒザでもくれてやろうかって思ってたけどよ」
「流石です…合肥での風聞は、本物だったみたいですね。その剣…いえ、格闘術は我流ですね?」
「こちとら、生まれてこのかたキチンとした武道なんてのに手ぇ出したことがないんでね…暴走族(ゾク)仕込みの喧嘩殺法ってヤツだ、よ!」
言うや否や、鳩尾を狙っての独特な前蹴り…俗に「ヤクザキック」と呼ばれる蹴りを放つ。踏み込むと同時に、左拳と木刀の歪なワンツーが沙摩柯を襲う。
木刀をいなすことは出来ても、拳は辛うじてガードする。一撃の重さで彼女の全身に衝撃が走った。攻撃の隙を見出して反撃しようにも、衝撃に痺れた腕が上手く反応してくれない。
(くっ…一見出鱈目に見えて、思った以上に無駄がない…単純に喧嘩慣れしてるだけで、ここまで出来ると言うの…!?)
休むことない連続攻撃に、沙摩柯は防戦一方だった。しかも木刀だけでなく、単純な拳打の重さもハンパではない。ガードの上からでも、ダメージは蓄積されていく。
「そら、足元がお留守だぜッ!」
「あっ…!」
拳打を受けるのに精一杯で、足元から注意をそらしてしまったのが仇となった。強烈な左のローキックを軸足に受け、沙摩柯は大きくバランスを崩した。そこに、かつて甘寧が凌統の姉・凌操を飛ばしたときに使った、全力のアッパーがよろめく顔めがけて飛んできた。
(くっ…やられる!?)
だが、その必殺の一撃を放とうとした瞬間、これまで小康状態を保っていた高熱が、強烈な眩暈となって甘寧を襲った。
自分の体調について決して無関心でなかった甘寧だったが、この一騎打ちは当人の予想以上にその体力を奪い取り、薬の効き目を打ち消していたのだ。アッパーを放つためにとった体制のまま、甘寧の体が大きくよろめいた。
(ちぃっ…こんな、時にッ!)
「もらった!」
体制の崩れたその一瞬を、沙摩柯は逃さなかった。バランスを失って前のめりになった甘寧の顎を、何とか踏み止まって放った右の掌底が捉える。甘寧の意識が、もぎとられるように吹き飛んだ。
「嘘ッ……興覇先輩ッ!」
ゆっくりと崩れ落ちる甘寧には既に、丁奉の叫びも届かなかった。

506 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:20
倒れ伏した甘寧の姿を見つめ、沙摩柯は何の感慨もなく、呟いた。
「まさか…本調子ではなかった…?」
切れ長の双眸には、長湖部軍の筆頭将を打ち破ったことへの歓喜はない。沙摩柯にも解っていたのだろう、もし甘寧の体調が万全であれば、あのアッパーで自分が飛ばされていたことを。
古武道の達人である彼女の実力であれば、徒手であっても並の剣士など物の数ではない。しかしながら、今打ち倒した相手は、剣術の心得はないものの、合肥で「学園最強剣士」として名高い張遼と互角に戦ったといわれる学園屈指の喧嘩屋なのだ。
何でもありの「喧嘩」ということであれば、その戦闘能力は帰宅部の誇る"五虎"とほぼ同等とまで言う者さえいる。それが誇張だとしても、明らかに今の自分より格上であったことは間違いないことは、現実に手合わせして思い知っていた。
「でも、此処は戦場…悪く思わないでください」
そう割り切った沙摩柯は、気を失った甘寧の階級章にゆっくりと手を伸ばす。その刹那。
「やらせるもんですかぁー!」
怒号と共に、頭上から降って来る一撃を、軽くいなす。
降って来たのは狐色の髪の少女。いなされてもバランスを崩すことなく着地すると、間髪いれずに横凪ぎの一撃を繰り出す。
「ふん…甘いッ!」
その少女−丁奉の一撃を見切った沙摩柯は、右手で難なく木刀を掴み取る。反撃の一撃を加えようとして引き寄せるが、予想外の"軽さ"に違和感を覚える。そこにあったのは木刀だけだったのだ。
「何…!」
気づいたときには、倒れていた甘寧の姿がない。丁奉は自分の木刀の一撃を囮に、甘寧の救出を第一義としたのである。てっきり自分に向かってくるはずだと思っていた沙摩柯は、完全に裏をかかれた格好になった。
加えて、甘寧との戦いで受けたダメージが、反応をわずかに鈍らせていた。
甘寧を背負って既に駆け出していた丁奉は、落ちていた覇海を空いている手で拾い上げ、前方の長湖軍に兵が集中したことで完全に手薄になった、帰宅部本営の方向へと疾走していた。
「興覇先輩は返してもらったよっ! この借りは、絶ッ対返してやるからねッ!」
「味なマネを…くっ…誰か奴等を追え! 逃すな!」
追いかけようとするが、甘寧からもらったローキックが激痛となって、彼女を阻む。駆けつけた来た古武道同好会の部員に追撃の指示を出しながら、沙摩柯は甘寧を連れて逃げ去る少女にも感嘆の意を禁じえなかった。
人一人を背負ってあれだけの速さで走るなどと言うのは尋常なことではない。それを、自分よりも頭一個小柄な少女がやってのけているのだ。
「あの娘、良い資質を持ってる…上手く逃げおおせたなら、手合わせする機会が楽しみだわ…」
自分の指示で数名が追いかけていくのを、足を抑えて座り込んだ沙摩柯はじっと眺めていた。その顔には、大魚を逸した悔しさではなく、期待に満ちた笑みを浮かべていた。

反射的に人手の薄い方へ駆け出してしまったものの、自軍本陣からは反対方向であることは丁奉も理解していた。前方への敵に集中していた連中が自分達に気づけば、本営に控える連中と一斉包囲されて一巻の終わりだ。
彼女は、進行方向を直角に曲げると、南側に広がる林の中へ駆け込む。比較的手薄な、長湖に続く支流周辺まで出れば、そこを辿って本営まで帰ることもできるかもしれない…丁奉はそう考えた。
しかし、沙摩柯子飼いの古武道同好会の部員が迫ってくるのを見て、その考えが甘いことを悟った。彼女等の対処に手間取れば、おそらく本隊も駆けつけてくるに違いない。
たとえ人一人抱えていても、水泳部のホープで、揚州学区から赤壁島までの遠泳を毎日の日課とする丁奉なら、安全な対岸へ泳いでいく事もできるのだが…。
(駄目っ…興覇先輩の体調を考えれば、この季節の渡河は命取りになっちゃう…!)
木々が疎らになり、目指す河岸にたどり着いた。だが、その先どう逃げるかの結論が出ない。河を渡ろうにも、船代わりになるものもない。
(どうしよう…このままじゃ…)
「…承淵、か? 俺は…一体…」
そのとき、気を失っていた甘寧が眼を覚ました。
「興覇先輩! 気がついたんですね!」
丁奉は甘寧をゆっくりと背中からおろすと、適当な樹にもたれさせる。
そのとき、はっとして甘寧の左腕を見た。あの時無我夢中で気づかなかったが、敵将は甘寧の階級章に手をかけていたことを思い出したのだ。
だが、その心配は杞憂に終わる。木々の中を無理に走ってきたせいで上着はボロボロだったが、それでも左側は幸運にも無傷で、彼女の殊勲に比べればあまりに低いのではないかと思える硬貨章も、そこに顕在だった。丁奉は、ほっと胸をなでおろす。
「…へへっ…俺様としたことが、あんな三下に遅れを、取るなんてな…」
「そんな日だってありますよ」
力なく笑う甘寧に、丁奉も精一杯の笑顔で応える。だが、来た道から無数の足音が近づくにつれて、丁奉の顔にも焦りの色が濃くなってくる。意を決したように、彼女は今来た方向へ向き直る。
「此処まで、か…ちょっと待っててくださいね。あんな奴等、すぐに蹴散らして…」
「止めておけ…タイマンならともかく、多勢に無勢ってヤツだ。ましてやお前、丸腰だろ」
「でも、足止めくらいになります…地の利もこっちにあるし…」
「時間が経てば、不利な状況は増える…奴等も、バカじゃない…おっつけ、こっちにも本隊が、来るだろうよ…大将を、ふたりも、飛ばせば、どうなるか…言わなくたって、解るだろ…?」
無鉄砲な性格で、暴れん坊として知られた甘寧を、「勇猛無策」と評するものもいる。だが、幾度となく死線を潜り抜け、学園にその悪名を轟かせた銀幡の首領の座を保ってきたのは、その状況観察能力に裏打ちされたところも大きい。
長期戦略の面においても、初期から周瑜同様、荊州から益州までの侵攻計画を献策したことで知られている。だからこそ、この危難の局面で防衛軍の総大将を任されたのだ。丁奉は今更ながらも、感嘆の息をついた。
「…だから俺様を置いて…お前だけでも、さっさと、泳いで逃げろ。お前一人なら、問題ねぇだろ?」
丁奉の腕をつかんだまま、甘寧が厳しい口調で言う。まるで先ほどまでの自分の思考を読み取られたようで、丁奉ははっとして甘寧の顔を見た。

507 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:20
本来の病状に加え、先ほどのダメージの為に顔色は目に見えて悪く、息も荒い。触れた手からは、明らかに高熱を発していることも理解できた。表情には出さないが、今こうしていることも、甘寧にとっては辛いことなのかもしれない。
「でも…先輩を置いていくなんて…ッ」
「バカヤロウ、此処でお前までっ、飛ばされたら…お前のことを任された、部長に、申し訳たたねぇんだ!」
その一喝に、丁奉は二の句が告げない。泣きそうな表情の丁奉に、甘寧は不意に表情を緩めた。
「俺が…お前のこと、任されたとき…将来長湖部に、とって、必要な人材になるから、大切にしてあげて、って…部長が、言ってたよ。俺なんかの、せいで…そんなヤツを、さっさと、飛ばされるわけに…いかねぇ。ここは、逃げ延びるんだ…部長の、ためにも…俺の、ためにも…」
「でも…」
「俺のことなら、心配ない…奴らも…俺が、病人だと、わかれば…そう悪くは、扱わないだろ…ましてや、既に……飛ばされて、いるので、あれば…っ!」
「え!?」
言うが早いか、甘寧は自らの階級章に手を伸ばし、無造作に引きちぎった。そして、呆気に取られる丁奉の手に、それを握らせる。
「これで、文句は、ねぇだろ…さ、解ったら、さっさと…逃げろ」
「そんな…先輩!」
「…いいから…行けっつってんだよ!」
甘寧は最期の気力を振り絞って立ち上がると、小柄な丁奉の身体を河へと突き飛ばす。大きな水音と共に、丁奉の身体は河へと投げ出された。
不意の一撃で頭から突っ込んでしまった丁奉は、河の流れに一瞬抵抗できずそのまま流される。しかし流石に水泳部のホープとまで言われただけあって、すぐに体制を立て直して顔を出す。そして、突き飛ばされた岸へ戻ろうとする。
「せ…先輩、どうして…」
「この、バカ…戻るんじゃ、ねぇッ! 行けッ! 行くんだッ!」
「興覇…先輩」
「後は、頼んだぜ…コイツは、俺様からの…餞別だ」
岸から甘寧が投げてきたものを、丁奉は反射的に掴み取る。それは、逃げるときに一緒に掴んできた、甘寧の愛刀・覇海。それには何時の間に付けたのか、甘寧の腰につけられていた鈴飾りも括り付けられていた。
「大切に、使ってくれよ…じゃあな、承淵」
「…うぐぅ…っ…先輩…」
まだ春から遠いことを知らせる冷え切った流れに身を任せながら、その冷たさも忘れたように丁奉は何時までも、岸辺に残った甘寧のほうを見ていた。流れ落ちる涙を拭うこともせずに。
そして、意を決したかのように顔だけで小さく会釈すると、覇海を抱いたまま流れに乗って、下流へと泳いでいった。本隊が集結しているであろう、陸口の本営に向けて。
(そうだ…それでいい…絶対、逃げ切るんだぜ…)
それを見て、甘寧は満足げに、普段とは違う穏やかな笑みを浮かべた。その姿が視界から消え、甘寧が樹にもたれたとき、木々の間から帰宅部の追っ手が姿をあらわす。
「ふふ、遅かった、じゃ、ねぇか…」
「長湖部の甘寧先輩とお見受けします」
その言葉を気にした風もなく、その中の小隊長と思しき少女が、問い掛けてきた。
「上意により、階級章を貰い受けに参りました。観念してください」
「だから、遅ぇっての…よく見な、俺はもう、飛んでるんだ…からよ」
「え!?」
そういう甘寧の左腕には、確かにあるべきものが存在していなかった。呆気に取られる少女達。一体どうしたのか、の誰何の声を上げる前に、甘寧はつぶやく。
「理由は、どうあれ…これで、俺も"戦死"扱いの、脱落者だ…囲むだけ無駄、だぜ。だがもし…慈悲が、あるなら…早く搬送して、くれると…助かる……」
「あっ!?」
崩れ落ちた甘寧を反射的に抱きとめてしまった少女は、その事実に驚愕せざるを得なかった。
「すごい熱……ま、まさかこの人、こんな体調で沙摩柯さんをあそこまで追い詰めたって言うの!?」
「なんて人なの…」
その事実に、もう一人の少女が既に安全圏まで逃げおおせたことなど、彼女等には気づけるはずもなかった。眠りに落ちた甘寧の寝顔は…その息づかいこそ苦しげだったものの…満足げに微笑んでいた。


(第二部へ続く)

508 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:26
と、此処までで第一話終了です。
後の文章量もさほど、変わらんのですが…外見描写とか余計なんだろうか…。

史実どころか演義と比べてもなにやら無理のあるキャストになってます。
甘寧最期のシーン、実は横光三国志のオマージュなんですが…

…てか、承淵ちゃん活躍しすぎ?

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