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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

551 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:28
……

とても目立つ少女だった。
遠目にもつややかな髪をばっさりとオカッパにまとめ、さらなる特徴として誰が見ても明らかな胸のふくらみのなさ。
そして制服も膝がちょうど隠れるくらいのショートパンツ。
典型的なカムロである。

解説しよう。
カムロとは髪をショートボブまで切り詰め、少年と見まがうばかりに胸がないブラジャーいらずの
もののことである。
なぜそのような存在が学園に存在するか、についてはいろいろある、としか答えようがない。
答えたくとも説明が長くて答えるのが面倒だ、というのが本音である。
とりあえず今は話を少女に戻そう。

「なんでこの私の……曹騰の名前がないわけぇ〜ッ!?」
「さぁ、そんなことを私に言われてもねぇ……困るんですよ、とにかく。あなたの名前はこの名簿にありません。つまり入寮は許されません」
学生課……
そう書かれた看板の下で曹騰と係員が言い争っていた。
正確には言い争っている、と感じているのは曹騰だけであり、係員にとってはうるさいハエをつぶすことすら面倒だから放っておいている程度のことだろう。

「だいたいカムロごときが、この司隷特別校区にというのも、ねぇ」
係員の言い草に曹騰の怒りゲージは急速に溜まっていく。
今の曹騰であれば水温94度くらいでお湯が沸騰する。

『カムロ』というのはつまり学園の象徴である『学園都市女子高等学校連合生徒会代表会議』……通称、蒼天会の会長にはべり、連合生徒会との連絡、調整役を勤めるのが役目なのである。
もう少し世代交代すればそうでもなくなるが、現時点では勉強の成績もあまりよくない人間が多く、無教養で軟弱、と見られることが多かった。
曹騰とてあまり勉強ができるわけではないが、それでもこの言い方はあんまりだと思う。
だいたい曹騰なりにがんばって、ようやく掴み取った司隷特別校区……そう、蒼天会、生徒会などの全管理機能が集中している学園都市最大の『首都』への切符をこんな係員ごときにバカにされなければならないのか。
しかも入寮名簿に名前を書き漏らしたのはそっちだろうに……!
「とにかく本日の入寮は認められません。後日、書面で入寮申請をお願いします」
『お願いします』などとは言っているが明確な拒否である。

552 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:30
「……ッ!」
「それは酷くないですか?」
曹騰が口を開こうとした、まさにその瞬間、後ろからの涼やかな声がやんわりと割って入る。
「それに彼女だって遊んでここまでこれたわけではないはず。先ほどの『カムロごとき』という言葉は取り消すべきだと思います」
係員はぱくぱくと金魚のように口を開け閉めさせて顔を青ざめさせている。
いい気味、と思いながら曹騰は天使の声の持ち主を見た。

天使だった。

腰まで届くような長い髪。
優しげな顔。
曹騰は今まで『美人』に会ったことならあったが『天使』に出会ったのは初めてだった。
惜しむらくは胸の大きさが曹騰と比べても遜色ないところだが……まぁ、これは好みが別れるところであろう。
天地がひっくり返ってもこんな娘にはなれない……曹騰は人知れず敗北感に浸った。
「なんとか彼女を寮に入れることはできないのですか?」
「し、しかし……規則は規則ですので……」
抗弁を試みる係員。
「わかりました。もう頼みません。彼女は私と同じ部屋に来ていただきます。私もちょうど1人部屋でしたからちょうどいいですわ」
「あぁーッ!? そ、それはいけません!」
「もう決めました」
真っ青になる係員。
彼女ってば……こんな傍若無人な係員が一発で恐れ入っちゃうくらい良家のお嬢様なのかな? 曹騰はそっと彼女の顔を盗み見る。
目があった。
恥ずかしくなって顔を伏せる曹騰に彼女はにっこりと笑いかけ、手を差し伸べる。
「これからよろしくお願いしますね……私は劉保、と言います」
劉……
蒼天会長の家柄……この娘が誰だかよくわからないけどいいとこのお嬢さん、という推測は間違っていなかったようだ。
「りゅうほ……劉保ね。私は曹騰! 季興って呼んでね。これからよろしく!」

曹騰が彼女の差し出した手を握り締める。
そのときの彼女のなぜか、曹騰に対して驚いたような表情が印象的だった。

553 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:32
-Sakura-
第2話:琴平

「劉保ってお嬢様なんだよねぇ〜?」
「りゅ、りゅうほ……!?」
曹騰の言葉に劉保は目を白黒させた。
曹騰はくるくると逢魔が時の薄暗闇の中を回転しながら……
そして劉保はそれを楽しそうに眺めながらしずしずと、2人は並んで歩いていた。
「あっれ? 劉保って名前じゃなかったっけ? 違った?」
心底、不思議そうに曹騰が劉保に問う。
「いえ、劉保であってます。ただ……」
「ただ……?」
不思議そうな顔を浮かべる曹騰に劉保は苦笑を浮かべる。
「あまりそう呼ばれ慣れなかったものですから」
「呼ばれ慣れなかったって……」
自分の名前だろうに、と思いはしたがそれも家庭の事情なのだろうと思って言葉を飲み込む。
どういう事情だかはよくわからないが。
「……で、お嬢様なんだよね?」
露骨な曹騰の言葉に劉保は再び苦笑。
「そう、かもしれませんね」

思えば子供の頃から大事にされすぎて同年代の友達を得ることも出来なかった。
周りがみな自分の名前を知っているのだ。
近づいてくるのは自分の名前を利用して出世しようとするやつらばかり……

だから劉保にとって自分のことを知らないでいてくれる曹騰ははじめての興味深い存在だった。
「ねぇねぇ、劉保ってあだ名ってないの? あだ名」
「あ、あだ名!?」
劉保は一瞬、呆然としたがすぐににっこりと笑った。
「あだ名、というのはありません。私のことは劉保とだけ呼んでくれればそれで十分です」
「ふ〜ん……あ、そうそう……」
何気ない会話。
曹騰が振ってくる……彼女にとっては本当に何気ない話題なのだろうが……それは劉保にとってはとてつもなく新鮮な時間だった。

「……ってば! 劉保ってば!」
少しぼんやりしていたのだろう。
ふ、と気付くと曹騰の顔がほんの目の前にあった。
「は、はい?」
「あ〜、びっくりした。劉保ってば急に立ち止まるんだもん」
屈託なく笑う。
「ちょっと考え事をしちゃいました」
「わかるわかる」
なにがわかるというのか、曹騰は劉保の言葉にしきりに頷いてみせる。
それもまた……なにか嬉しかった。

554 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:33
「で、どうかしましたか?」
劉保の言葉に曹騰は『あぁ、そうそう』と言った。手をポン、と打つアクション込みで。
芸の細かい娘である。
「劉保って何年生なの?」
曹騰は学生課の係員を明らかに圧倒する存在感から自分よりも1歳か2歳は年上だと思っていた。
胸は……まぁ、成長期には個人差がある。きっとこれからだ。大丈夫。
「今年から高等部です。曹騰さんと同い年ですね」
劉保の言葉に曹騰はぴしっ、と石化した。
「あ、あの……えっと……季興さん?」
まるまる30秒固まってから曹騰は目をぐるぐるさせながら喚いた。
「お嬢様で、キレイで、私よりも年上かと思ったら実は同い年でーッ!? 完璧超人か、あんたはーッ!?」
「え、えぇッ!?」
劉保にとっては……まぁ、当たり前であろうが……はじめてこんなことで怒られているわけである。
「天は二物どころか森羅万象をあんたに与えたかーッ!?」
「そ、そんなッ!?」
理不尽である。
目をぐるぐるさせていた曹騰は……しかし、ある一点を見やってからふむ、と考えこんだ。
「き、季興さ……わひゃあ?」
劉保が変な声をあげた。
曹騰が劉保の胸を前から揉みはじめたからだ。
「ごめんごめん。完璧超人じゃなかったね」
「あ、いや。やめてください……季興さん」
ふにふにふに。
顔を真っ赤にして悶える劉保。
「これが劉保の完璧超人っぷりを阻害してる、と思うと愛しく思えるねぇ」
「あ、だめ。そこ……や、やめて、ください」
ふにふにふに。
ちっちゃいが感度はいいようだ。いいからどうだ、というわけでもないが。
不意に曹騰の手が止まる。
「あ、ん……え?」
「へへ〜、劉保ちゃん、感じちゃった? 可愛かったよ〜」
胸を揉まれたときとは違う気恥ずかしさで再び劉保の顔が朱に染まる。
「もう、季興さんなんて知りません!」
ぷいっ、とそっぽを向く。
「ごめんごめん」
へらへらと笑いながら劉保に謝る曹騰。
「許しません」
しかし劉保の口元はその言葉とは裏腹に笑みを形作っていた。
……こんな友達なんてはじめてだったからだ。

555 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:34
「うっわぁ」
曹騰はその巨大な建物に驚きの声をあげた。
司州蒼天女子寮。
さすが学園都市の首都の寮である。
その威容はまだこの司隷特別校区に到着して間もない曹騰を驚かせるに十分なものだった。
「ふふ、どうしました?」
曹騰の驚いた顔を見て劉保はくすり、と笑った。
「びっくりしたよ〜。こんな大きいんだねぇ」
心の底からの驚きに劉保はまた笑みを漏らす。
「さ、お姫様。こちらが女子寮になりますわ」
「うん、苦しゅうない」
劉保の言葉に曹騰は尊大に頷き……吹き出した。
「く、くくく……劉保っておもしろいんだね」
「そんなことはありませんわ……さ、司州蒼天女子寮へようこそ」
劉保が曹騰を招き入れる。
そこも……曹騰が見たことがない別世界だった。
「ほぇ〜」
感嘆にもならないような声をあげる曹騰。
それを微笑ましげに見ていた劉保の顔が不意にこわばる。
「ここにおられたんですか」
「あ、えぇ……ただいま帰りました」
曹騰は劉保に声をかけてきた女性を横目で観察する。
背の高い、しかし目の細い女性である。

竹刀を片手に持っていることから恐らくは軍人なのであろう。
ぽわぽわとした喋り口調ながら劉保には礼儀を尽くしているようだ。
しかし……そう、親しそう、という言い方は少し違うような気がする。
どこかに遠慮が感じられる口調。
まぁ、無遠慮よりはいいだろう……
自分のことを棚に上げて(曹騰の心には棚が108個ある)曹騰は女性の胸を見た。

でかい! いや、そうじゃない!
女性の胸には燦然と輝く二千円札階級章。
カムロの自分にとっては雲の上のひとである。
思わずびしっと気をつけをしてしまう。
というか……
「劉保……ねぇ、このひと……」
誰? と聞こうとする曹騰の目の前になにかが突き出された。
目で追うと……女性の手元に……って、竹刀!?
「うわぁッ!」
跳び退る曹騰。
女性はにこにこと笑みを浮かべたまま竹刀を曹騰に向けたまま……
(こ、こあい……)
目の前の女性はとりあえず名前がまだわからないので曹騰の中で『ぽわぽわ暴力的二千円』と命名された。
そのまんまである。そうでもないか。
「そこのカムロ……この方を誰だと考えているのかは知りませんが呼び捨てにする所見をぜひとも伺いたい」
「え? ……えぇ?」
呼び捨てにする所見、ってあんた……
「梁商さん、季興さんは……このひとはなにも知らないの!」
慌てて女性……梁商と呼ばれたか……の腕にすがる劉保。それでも竹刀の切っ先はピクリとも動かず曹騰に突きつけられたまま。
「なにも? ……なにも、とはどういうことです?」
劉保は梁商に答えず曹騰に向き直り、少し痛々しい笑みを浮かべた。
「隠していたわけじゃないんですけど……私、次期蒼天会長に指名されているんです」
劉保の言葉に曹騰は意識が遠くなりそうになった。
雲の上どころか大気圏の上のひとだ。すでに人間ではない……

556 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:34
蒼天会……
正式には『夏学園都市女子高等学校連合生徒会代表会議』。校祖である劉邦からはじまって以後、数十年もの伝統をもつ組織。
学園の学園であるための象徴的組織、そしてその頂点に……5万余にも及ぶ学生たちの頂点に君臨する存在こそ蒼天会長であった。

次期蒼天会長、ということは……

曹騰は前を歩く劉保のあとをとぼとぼ歩く。
その後ろを牽制するように歩く梁商が怖いわけではない。
梁商のことは多少しか怖くない。
それよりも……

ぴたっ、と劉保が足を止めた。
びくっ、と曹騰も足を止める。

「なんで……隣を歩いてくれないんですか……?」
劉保の声は悲しみに満ちていた。
しかし曹騰にとってはもう取り繕うだけで精一杯である。
「え、いや、だって、ほら、次期会長サマの横を歩くなんて恐れ多い……」
「サマなんて呼ばないでッ!」
曹騰の言葉を切り裂くような劉保の悲鳴。
曹騰は梁商と一瞬、顔を見合わせる。
「季興さん……私のことを呼び捨てにしてくれたじゃない……それははじめてのことで……とても嬉しかったのに……」
劉保は泣いていた。
「いつだってみんな私のことを知っていた……だからなにも知らないでいてくれたあなたのことがすごく嬉しかった……でも、もうそれもおしまい」
歌うように呟く劉保。曹騰もカムロであるから差別を受けてずっと生きてきた。
無視される辛さはこの身に染みているはずだ、なのに……今、自分が劉保を傷つけてしまった……
「ごめん、劉保」
悲しみに彩られたその口調に償いの言葉はすんなりと口の端に乗せられた。
この子を悲しませるくらいなら地獄の業火に焼かれてしまえ、とそう思った。
「申し訳ありませんでした。次期会長がそんなことを思い煩わされていたとは露知らず……しかしわたくしはもうずっとこの態度で慣れてしまいました。いずれお名前を呼び捨てにさせていただきますので今はこれでご勘弁を」
梁商も首をたれる。
「曹騰さん、さっきはごめんなさいね」
首をたれながら梁商は曹騰にもそっと呟く。
いいひとなんだな、と曹騰は漠然と思った。
「ホントにごめん。もうサマなんて言わない。ごめんね」
曹騰の言葉に劉保はようやく涙を流しながら笑顔を見せた。
「今度、サマなんて言ったら絶交、ですよ……」

557 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:36
とりあえずあんまり連投もあれなので2話までです。
復帰したら続投の方向性でお願いします。

まぁ、引越しは土曜なのでそれまでに3話くらいまで投下するかもですが^^;

558 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:50
>北畠蒼陽様
(;;゚Д゚)曹騰キタ―――――!!!
とか言いながら、実は党錮事件以前(しかも第二次以前)の知識はさっぱりな私_| ̄|○
とすれば今の私に残された道はひとつ、話そのもののよさに浸るしか…続きが楽しみであります!
一刻も早いオンライン復帰を心よりお待ち申し上げる!

では、今度は私めが北畠様の後を追っかける形になりますな。
実は個人的に好きな人物である審配の最期SS、僭越ながら上梓致します。

559 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:55
-邯鄲の幻想(まぼろし)-

冀州校区、ギョウ棟。かつては邯鄲棟と呼ばれ、先代、先々代の学園混乱時代から、この地屈指の堅城として知られる棟だ。袁氏生徒会役員の残党と、曹操率いる蒼天会との戦いも、この地の陥落をもって一区切りのついた形だ。
「ようやく、落ちたな」
「そうね〜、こんなに梃子摺るなんて、思ってもみなかったなぁ」
そのギョウ棟がよく見渡せる小高い丘の上に、二人の少女が立っていた。その腕には、蒼天会役員であることを表す腕章と、その身分を表す紙幣章をつけている。片一方の、小柄で赤みがかった髪の少女のつけているのは、学園組織の中でも数名しか存在しない一万円章だ。
小柄な少女は、いまや蒼天生徒会を掌握する、蒼天会長の曹操。
その傍らに立つのは曹操幕下きっての参謀・郭嘉。
「会長、ギョウ棟の主将、ご命令通り捕縛いたしました」
「ん、ご苦労様」
報告に駆けつけた少女に労いの言葉をかけ、
「でさ、何人か集めて棟の執務室を掃除しといて。例の娘は、別の部屋で待ってて貰うように…くれぐれも、丁重にね」
「畏まりました」
命令を受けた少女は再び、本陣のほうへ駆け戻っていく。
「…会長、あんたマジであいつを口説き落とすつもりか?」
「もっちろん。アレだけの逸材、放っとく手は無いでしょ」
「…きっと無駄だと思うけどなぁ…」
呆れ顔の郭嘉を他所に、曹操はこれから会いに行く少女にどんな言葉をかけようか、どう用いようかと、そのことで頭が一杯になっているように見えた。

宛がわれた部屋で、少女は椅子に腰掛けたまま項垂れていた。
飴色の光沢がある髪を、スタンダートなツインテールに纏めている髪型は幼い印象を与えるが、その幼い顔立ちのせいか良く似合っている。笑えばかなりの美少女のように思えるが、その鳶色の瞳は虚ろで、何の表情もみせていない。
手は布で戒められているが、その布は手触りこそ柔らかだが恐ろしく丈夫な、学園の制服にも使用されている特殊素材だ。かつて「鬼姫」と恐れられた呂布の力を以ってしても、紐状に捻ってあるこの布を引き千切ることが出来なかったと言うウワサがある。
その少女の名は審配、綽名して正南。かつてこの地を治めていた実力者で、曹操との戦いに敗れて失意のうちに引退した袁紹の専属メイドのひとりであった。袁紹が学園に覇を唱えるべく動き出すと、その才覚を見出され、参謀として抜擢された逸材だ。自分を認めてくれた袁紹への忠誠心は正に鉄石、その遺志を奉じ袁尚の副将としてギョウ棟の守備を任されていた。
そう、「いた」のだ。
彼女はギョウ棟を追われてしまった主・袁尚の留守を護り、迎え入れるために必死に棟を護ってきた。曹操の腹心・荀揩ネどは彼女を「我が強くて智謀に欠ける」なんて酷評していたが、その指揮能力の高さは曹操も舌を巻くほどだった。
攻めあぐねた曹操は、審配が従姉妹の審栄をはじめとした同僚達と不仲であったことを利用し、離間の計で内部から切り崩したのだ。ギョウ棟を守った忠義の名将は、哀れにも身内の手によって戒めを受けることとなった。
「いい様ね、正南先輩」
不意に扉が開かれ、一人の少女が入ってきた。
黒髪をポニーテールに結った、真面目そうな雰囲気の少女。先に袁氏を見限り、曹操の傘下についた辛(田比)、綽名して佐治である。邯鄲陥落の直前に、審配とも顔見知りだったことから、降伏勧告を呼びかけてきた少女だ。
審配は一瞥し、再び視線を戻す。
「知ってますか? あなたがあの時投げ捨ててくれたティーセット、アレは私の宝物だったんですよ?」
審配は何の反応も示さない。
「此処の初等部に入学した際、記念に祖母が贈ってくれた大事なものだったんです」
独白を続ける辛(田比)の顔にも表情は無い。いや、正確にいえば、感情を努めて押し殺しているように見える。
「…だから…何」
一拍置いて、審配はようやく口を開いた。
「宝物を壊された仕返しに、私をこの窓から放り投げてやるとでも?」
「…!」
相変わらず表情は無いが、抑揚の無い声には、明らかな蔑みの響きがある。辛(田比)の表情は、見る間に険しくなっていった。
「折角あんたの頭を狙ってやったのに、外したのが残念…」
「貴様ぁぁー!」
刹那、辛(田比)は怒りで顔を紅に染め、審配を無理やり立たせると、その顔面へ向けて思いっきり拳を振り下ろそうとする。
「はい、そこまで」
その拳が、寸前で止まる。手首を捕まれた辛(田比)が振り向くと、曹操を始めとした蒼天会幹部の面々が何時の間にか立っていた。手首を掴んでいるのは、曹操が最も信頼するボディーガード・許チョ。この緊迫した事態にあってもぽやんとした表情を崩さないあたりは、流石は許チョといったところか。
「曹操…会長」
「駄目だよさっちゃん。どんな事情があっても、捕虜の私刑はご法度なんだからね!」
そんな一連の事態の渦中にあっても、審配の表情は相変わらず、虚ろなままだった。

560 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:58
整然と片付けられた執務室。
部屋の壇上、曹操が卓に着き、その後ろには、ぼんやりした表情の許チョが立っている。
その左には夏候惇、張遼ら曹操幕下きっての猛将たちが揃い踏み、右には郭嘉、荀攸、程Gといった鬼謀の知者がずらりと並ぶ。その片隅には、先程揉め事を起こした辛(田比)の姿もあった。
壮観な風景である。この中央に立たせられ、曹操と面と向かい合って立つものの殆どは、その威風に居竦み、あるいはその名誉に打ち震え、あるいは己にもたらされる末路に恐怖する。
しかし、審配はそのどれにも当てはまらない。席を与えられ、腰掛けている彼女の表情は虚ろなままだ。
「っと、さっきのはごめんね。理由はどうあれ、あたしの監督不行き届きが招いたことだから」
気を取り直すように、曹操は努めて明るい口調でそう言った。
「いやぁ、この邯鄲棟を落とすのにそりゃあもう苦労させてもらったわよ。いくら棟内部を知り尽くしてるからって、あそこまで護りきれる人なんて滅多に居るもんじゃないよ」
「…何が…言いたいの?」
ようやく、沈黙を守っていた審配が口を開いた。相変わらず表情は無く、声に抑揚も無い。
学園で袁紹を見かけると、顔良や文醜といった輩に混じって、明るい笑顔を振り撒くこの少女の姿をよく見ていた曹操は、少し寂しい気持ちになった。しかし、それをおくびにも出さず、なおも明るい口調を崩さず、
「ようするにあたし、キミのこと気に入ったんだ…どうかな、蒼天会に協力してくれないかな?」
「…部下になれ、と?」
「ぶっちゃけて言えば、そういう事になるのかな。もちろん、ただでとは言わないよ。何か条件があれば…あ、もしかして袁尚たちのことが心配なら、可能な限りその立場は保障する。キミが彼女達を説得してくれるならそれでも…」
「ふざけた事言わないでッ!」
その瞬間、審配は怒声をあげ立ち上がった。ギョウ陥落以降、彼女が見せた初めての感情は、怒り。
「私は腐っても袁家の…ううん、袁本初の遺志に殉じる臣よ! そこの辛(田比)みたいな日和見主義者と一緒にされるなんて侮辱以外の何者でもないわ!」
その言葉に、辛(田比)の顔色が変わる。曹操は目配せをして、その両隣りに立たせていた徐晃と夏候淵に辛比を制させた。激昂する審配は、自分の階級章に手をかけると、それを無造作に引きちぎり…
「虚しく虜囚となった今、本初様に合わせる顔も無い…私の答えは、これだッ!」
「!」
ほんの一瞬前、曹操の顔があったあたりに何かが飛んできて、背後の黒板に当たって跳ねた。
床に落ちたそれは、審配のつけていた貨幣章だった。袁紹の寵を受けながら、富貴を求めず、ただ誠心誠意仕えたことを示す、その重責に似合わない低い階級章は、まこと彼女らしいといえる。
曹操の表情から、笑みが消えた。居並ぶ諸将の表情にも、緊張の色が浮かぶ。
「さぁ…放校だろうが、退学だろうが、好きになさい! もう、未練は無いわ!」
「そう…なら、キミに相応しい罰を受けてもらうよ…」
静かだが、内面に沸き起こる憤怒をこめた曹操の視線が、審配を射抜く。しかし、審配は気丈にも、それを睨み返していた。

どの位時間が経っただろうか。
あのあと審配は、最初に居た部屋に戻されていた。その手に、戒めはない。
(終わったのね…すべて)
彼女は、ジャージのズボンのポケットから何かを取り出し、手の上に載せた。それは小さなロザリオの着いた、銀のネックレス。
官渡公園での決戦が行われる直前、兵卒を預かる将の証として袁紹から下賜されたものだ。審配にとっては、敬愛する袁紹に認めてもらえた確かな証。殆どの袁氏生徒会役員達が自身の保身の為に打ち捨て、あるいは討たれて戦利品代わりに持ち去られていってしまった。
恐らくは、これを保持しているのは彼女のほかは、今なお戦い続けているであろう袁尚、袁熙姉妹か、高幹といった袁紹の身内連中くらい…いや、それも怪しい所だ。
(…申し訳ありません…私は、あなたの遺志を守ることは出来なかった…)
手の中のそれを、強く握り締めた。
彼女が見つめる窓の先には、リタイアしてのち、一般生徒として生活する袁紹が居るだろう学生寮が見えた。その瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
(私は学園を、あなたの元を去ります…これで、さよならです…二度と、お会いすることは…)
「お待たせ〜」
先程とはうって変わって、実に能天気な調子の曹操と、郭嘉のふたりが部屋に入ってきた。慌てて涙を払い、再び気丈な表情で、曹操と向き合う。
「まぁ…いろいろ考えさせてもらったんだけどね。やっぱりこれしかないと思ってわざわざ来て貰う事にしたんだ。入って」
「えっ…?」
曹操が促すと、ひとりの少女が部屋に入ってきた。その人物を見た瞬間、審配の表情が凍る。
山吹色のヘアバンドで留めた、流れるような光沢のあるストレートの黒髪。多少やつれてはいるが、目鼻の整った気品のある美貌と、制服の上からでも解るスタイルの良い長身。その雰囲気は、深窓の令嬢という表現以外に出て来そうに無い。
彼女こそ、袁紹そのひとだった。
「たっぷり、叱って貰うといいわ…後は、彼女にキミの処遇を任せるから…じゃあね」
それだけ言うと、曹操たちは二人を残し、部屋を後にした。
閉じた扉の音が、何よりも残酷なものに、審配には思えていた。

561 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:58
「…あ…あの、私…」
沈黙を破ったのは審配だった。
「私…何も出来ませんでした…顕甫お嬢様を護るどころか、曹氏蒼天会に一矢報いることさえ」
袁紹は黙ったままだ。その沈黙が、自分を責めたてているように思えた。
「私にそんな力は無いのに…いきがってつまらない意地張って…こんなことに」
俯いた瞳から、涙が零れる。
不意に、抱き寄せられる感覚に審配は驚き、顔を上げた。
「…え…」
「御免ね…私が愚かなばかりに、あなたをこんなに苦しませてしまうなんて…」
「そ…そんなっ! 本初様は何も悪くないです!」
袁紹は頭を振る。表情はわからないが、その声は涙声だった。
「…私は、たくさんの娘達を…私を信じてついて来てくれたみんなを…裏切ったのよ。そして、残ったあなたたちに、すべてを押し付けて逃げた卑怯者よ…」
「本初…様」
「許してなんて言えないわ…本当に…ごめんね…」
審配は思い返していた。
この部屋に入ってきた袁紹の顔は、酷くやつれていた。官渡の決戦に敗れ、失意の引退宣言をした時よりもずっと、やつれているのが解った。覇道を断たれ、一線を退かなくてはならなかった無念がそうさせたのだと、審配は最初思っていた。
しかし、彼女はそれが間違いだったことを理解した。袁紹はずっと、自分の不明によって失ったかつての仲間達や、残った自分達の事を思い、それに罪の意識を抱き、苦しみつづけていたのだろう。恐らくは、ひとりで。
だから、彼女は思った。
「…大丈夫ですよ…みんなきっと、あなたの事を恨んでなんか居ません」
「…え?」
「考えたプロセスが違ったかもしれないけど、みんな同じ未来を目指して、あなたについてきたんですから」
自分は心底、この人のことが好きだからこそ、この人を見捨てることが出来ないから。
「だから、もうそんなに、ご自分を責めないで下さい…それでもあなたが、ご自分を許せないと言うなら」
それが自分の償いの道であると、そう思ったから。泣き笑いのその表情は、何処か吹っ切れたように見えた。
「私にも、その苦しみを、背負わせてください」
「…正南、さん」
泣き崩れた大切なひとの身体を、審配は強く、抱きしめていた。

部屋を立ち去り、屋上に上った曹操は、振り向きもせずに呟く。
「…どうして、なんだろうね」
「あん?」
「公台も、雲長も、あの娘も…どうして、あそこまでひとりのひとについて行けるんだろうね」
その背中は、酷く寂しそうに見えた。元々小柄な少女だが、郭嘉にはそれが一層小さく見えるように思えていた。
郭嘉は、口にくわえた煙草に火をつけ、その味を一度確かめる。そして、おもむろに言った。
「…そりゃあな、きっとあたし達があんたにくっついていくのと変わらないんだと思うぜ」
「え?」
「あいつ等にはあいつ等の信じたヤツと同じ未来しか見てないように、あたし達は曹孟徳と同じ未来しか見てないんだ…そういうもんさね」
「…そっか」
振り向いた曹操の笑顔は、何処か寂しげだった。
「さ、もう往っちまった連中は放っておいて、これからのことを考えようぜ。まだまだ、先は長いんだからな」
「ん…そだね」
眼下には、棟から去って行く二人の姿が見えた。
かつて課外活動で己の覇道を貫こうとした少女と、それを支えた名臣は、今や只の一生徒でしかない。しかし、彼女等はそれでも、よき友で在り続けることを選んだようだった。
いや、多分、これからふたりは本当の"友達"になるのかもしれない。
曹操の目には、それがあまりに寂しくも見え、羨ましくも見えた。
「ね、奉孝」
「何だ?」
「もし…もしもだよ、あたしが本初みたいになったら、キミはあたしについてきてくれるかな?」
一瞬、呆気に取られる郭嘉。次の瞬間、さも可笑しそうに笑う。
曹操は少し不機嫌そうに、
「な、なんだよ〜、あたしは真面目に話してるんだよっ!」
「ははは…そんなこと、させねぇよ…あたしの命に賭けても、会長を袁紹みたいな目に合わせやしないさ」
「もしもだって言ったじゃん」
「…その、もしも、もありえないさ。絶対に」
微笑んだ彼女が見上げる空は、何処までも青く澄みきっていた。
最期の言葉は、その身に待ち受ける、あまりに過酷な未来をも覆せるようにと…そんな彼女の願いもこめられているようだった。

(終わり)

562 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 22:09
以上です。
主役は審配のハズですが、実は最後で、雪月華様の「烏丸反省会、懊悩」への微妙な複線になってるとかなんとか。

あと、袁紹との絡みは完全にドリーム(つーか妄想?)です。
審配(&逢紀&郭図)もオフィシャルがなかったみたいなので、またしても勝手に描いてしまいました…
それものちほど持ってきます。

563 名前:北畠蒼陽:2005/02/11(金) 00:05
>海月 亮様
くはぁ……
さすがのヒトコトですな……

思えば私が審配ってヒトを意識したのは中学生の頃、市立図書館で読んだ三国志の小説。
誰が書いたものかは忘れてしまいましたがちょうどこのSSのように辛ピがでてきて……
辛ピの兄、辛評の仇の審配を号泣しながら責め立てようとするシーンがありまして、それが三国志を人間ドラマとして見る一番最初の理由だったような気がします。
曹操にとっても審配をとるか辛ピをとるか、ってんですごい悩んだでしょうね、実際のとこ。

とりあえず眼福で御座いました(笑

564 名前:海月 亮:2005/02/11(金) 22:25
>北畠蒼陽様
なんですと!(;;゚Д゚)そんな素晴らしい小説があるなんて…!
私が審配を知るきっかけになったのは吉川栄治「三国志」なんですよ。アレだとそのシーンの描写も素っ気無いんですけどね。
それはさておき、実は審配や、(異論はあるかもしれないですが)日本でいえば真田幸村とか島左近とか山中鹿之助とかのように、忠義に殉じて散った人物が大好きなのですよ。

565 名前:岡本:2005/02/13(日) 16:58
海月亮様、北畠蒼陽様 岡本と申します。
こちらに貢献できなくなって久しいですが、閲覧は続けております。
活気を呼び込んでいただいてありがたいです。

>海月亮様
文章はお見事ですが、なまじ私も正史を読んでいるだけに、
”そこは解釈が違うんじゃないか””あまりにも主人公側を持ち上げ、
敵役を(背景を考えずに)安易に貶めすぎてはいまいか”と気になってしまいますね。
まあ、そこは各執筆者様ごとの見解の違いであって云々すべきところ
ではないかも知れませんが。

丁奉=個人的には”三国で見ても最後の豪勇”ですね。そういう意味では興味深い
一人ではあります。ただ、切り込み隊長的スタンスから最後まで抜け出せなかった
のが惜しまれますが。この人は最終的に大将軍や大司馬までなっていますが、多大な
功績はともかく政略眼や将帥としての才幹が乏しい人間がこういう地位にいるのは
国としてはある意味不幸だったかも...。攻撃型君主待望論にのって孫皓を皇帝に推挙した
人間の一人でもあるんですよね...(そういう意味では孫皓は末期まで軍官からは以外に悪く言われていません)

韓綜=初期の元勲の不肖の息子(ここでは妹)という立ち位置ですが、そう単純な話でも
なさそうなんですよ、これが。韓当の葬儀にかこつけて一族郎党を国外逃亡させ、その際にも部下に親族の娘を
娶わせて離反を防ごうとしています。突発的に反抗したのでなく、かなりの計画性を感じます。
わざと不評を流すことで、処罰を恐れた部下の踏ん切りをつけさせたという説も聞いたことがあります。
結局、20年近く対呉戦線で暴れていたことを考えると軍人としてもこの時期では優秀な部類に入ります。
周瑜の息子が優遇されなかったことに関して、孫権はもっともらしいことをいっていますが、
豪族連合体で権力基盤の弱い孫家を脅かしかねない大姓を一つ一つ牽制していた可能性があります。
程普・黄蓋の息子が優遇されていない、甘寧の息子は交州送りという事柄を考えると、勢力基盤が0に近い一代目は
他の大姓を牽制するために優遇しますが、2代目以降になると逆に彼らが大姓化して孫家を脅かす可能性が無視できなくなり
勢力を削るようになっていたという考え方もできます。

審配=忠魂烈士と評がある人物ですが、彼(彼女)が忠義を尽くしたのは袁紹というよりむしろ袁尚という気がしてます。
かなりきついタイプの人ですね。袁譚と袁尚の仲たがいで決定的に袁家勢力が弱まったことを考えると、果たして
本当に忠義の人物だったか?といわれると首をすこし捻りますね。ギョウ攻防戦で見せた防戦指揮はすばらしいものでしたが、
こと際まる直前に袁譚派の辛評の家族を抹殺したのは、”曹操を手引きした”という問題を追求した結果にせよ、人間として超えては
いけない一線を越えた人物という印象のほうが強いです。私は独善性の強い激情家と解釈しています。

以上、長々とあら捜しのような発言で失礼いたしました。

566 名前:海月 亮:2005/02/13(日) 21:18
>岡本様
お初にお目にかかります、昨年末よりこちらにお邪魔させていただいている海月でございます。
こちらこそ、私めの瑣末な文章に対し、ご丁寧な指摘の数々、恐れ入ります。

仰る通り、私が話を書く場合、どうしても話の主役(この場合は丁奉と審配ですな)に重点を置いてしまい、その他の登場人物を軽く扱ったり、それが敵対者であれば主役を引き立てるために必要以上に貶めて書いてしまうのです。
これが性分だ、と言ってしまえば簡単ですが、こうやって人様の目に触れる場所に拙作を上梓する以上、キチンと考えなければならない問題だと思いました。
確かに、物事には複雑に絡み合った事情があるわけで、そういったものを巧く書き出せば、より良い作品が出来るのも道理です。
実際、呉の凋落を招いたのは孫氏と配下にある有力豪族との関係に齟齬を生じていたことに遠因があったわけですし、韓綜出奔の事情も、そこに求めることだって出来るわけですし…それを無視していたことは、大きな失敗でした。

ここはこのご指摘を心に留めて素直に己の未熟を猛省し、更なる精進を積み、岡本様始め参画者の皆様方に納得して戴ける作品を上梓することで、お詫びに代えさせていただきたく存じますm(__)m
と、いうわけで、お目汚し失礼いたしました&未熟者ですがこれからもよろしく御願いいたします。では。

567 名前:★ぐっこ@管理人:2005/02/13(日) 21:42
あー、私出遅れすぎ。

>>540
教授様GJ( ゚Д゚)!
凌統。・゚・(ノД`)・゚・いや、楽進の方か。・゚・(ノД`)・゚・
このシーンで飛ばされるということは蒼天テイスト込み…
そういや無双でも出てくるんですね、凌統…つうことはアレか、
甘寧とのカラミが増えて呉スキーたちはハァハァなんだろうな…

>ロバミミモード
うわははははは!海月様!イイ!
何がいいといって、顧雍たんや歩隲たんの反応がっ!
海月様はこのへんの脇キャラが特にうまいなあ…。
あのロバ耳の原因は、やはり孔明だったか(;´Д`)

>曹騰初登場( ゚Д゚)
北畠蒼陽さま!キタ!キタ!キましたよ!?
あっ、何かが降りてきた!Σ(・∀・)ピキーン
チクショウ、もっと早く熟読しておけば!東鳩2なんかやってるんじゃなかった!
曹騰姉さん、キャラのディテールとかはこちらの脳内騰たんと多少違うとはいえ、
順サマとの関係とか、梁商とか、イイ感じに降りてきましたよ!?
リヨみてとかリヨみて外伝とかの、更に源流になる物語!
むう、双璧祭と兼ねて何かできそう…(;´Д`)ハァハァ

>審配
(´Д⊂…!
いや、彼女の場合、なんつうか姜維と似通った暴走癖みたいなのが印象
に残ってますが、それでも当代の人物には違いない。郭図もそうですが
リヨみて的世界観でいえば、袁紹お嬢様の側近として「ごきげんよう」
の世界を守ろうと頑張っていたに違いない…

そういやBSでやってたドラマでも、辛[田比]が審配を鞭で叩いてました(;´Д`)

568 名前:海月 亮:2005/02/15(火) 00:30
>ロバ耳誕生秘話
なんでもかんでも孔明に帰結させるのは正直、安直な気もしましたが…。
まぁ、孔明ですから、何しててもおかしくないってことで、どうかひとつ。

>BSのドラマ
…ってあの人形劇のヤツでしたっけ?
何気にそのシーン、観たかも知れない…。

先日は申し述べることを忘れていたので、ここでひとつ審配のことについて。
海月の解釈は、審配が袁尚に忠義を尽くしたのは、袁紹が袁尚を後継者にしたいと思っていたことを汲んでのことだと思ってます。
袁紹に対する忠誠心ゆえに、袁尚に尽くしたという解釈です。袁紹が袁尚を後継者にしたいと思っていたことについては、袁紹伝にも記載されてましたし。
もっとも審配が「独善性の強い激情家」ということについては、私も同意見ですが。

それと郭図。
何気にぐっこ様の一言で、イメージがうまく固まりそうです。
何かいい味が出せそうな予感が…(;´Д`)

569 名前:北畠蒼陽@ネットカフェ:2005/02/17(木) 19:48
ネットカフェからこんばんは。
明日がお休みであることをいいことに今日は徹夜でネッカです。

それはともかくまだネット環境復活しません。
しばらく復活しないかもしれません。
なので投下もできません。
5話まで完成してるのにぃ(ノ_・。

まぁ、岡本様のおっしゃる活気からは程遠い人間ですがもうしばらくお待ちを^^;

570 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:17
えっと……
昨日の19時にネッカから復帰できないと書き込んでおいて家に帰ってみたらネットがつながっていたすごいかっこ悪いメルヘンです。
復帰記念に第3話投下させていただきますよぐすん(ノ_・。

571 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:17
-Sakura-
第3話:平野突羽根

劉保、曹騰、梁商の3人は劉保の部屋でくつろいでいた。
……広い。
広すぎる……
これが特権階級というものなのか……
曹騰は唖然としたが、よく考えたら自分もこの部屋に住むことになるのだ。
さらに唖然。

「……わたくし? 2年生ですわ」
ファーストインパクトは恐怖しか感じなかった梁商も話してみるとやけにいいひとだった。
劉保はお茶を入れると言って(本当は梁商が『わたくしがやります』と言ったのだけど劉保が自分がお茶を入れたい、と言って譲らなかったのである)
「梁商さんは〜……じゃあ劉保のおつきかなにかなの?」
「えぇ、そうお考えください」
よかった。もう呼び捨てても怒られない。
曹騰はない胸をなでおろす。
「曹騰さんはどうしてカムロに?」
「え〜と……私のお姉ちゃん、曹節っていうんだけど『一流の人間になるためには一流のものに触れ続けるのが一番だ』ってのが持論で。この学園都市の『一流』ってやっぱり司州だからどうしてもここにきたくて。でも私、カムロになるくらいしかここにくる方法がなかったの」
私、頭が悪いから、と言ってえへへ、と笑う。
「なるほど……」
正直な曹騰の答えに梁商も苦笑をもらした。
「……だったらこうしてはどうかしら」
台所でお茶を入れていた劉保がティーカップを手に持ちながら話に加わる。
「私と一緒の先生に勉強を教えてもらう、というのは……はい、梁商さん、どうぞ」
「ありがとうございます、次期生徒会長……なるほど、『一流』に触れる、という観点から見るとそれもいいかもしれませんね。班昭先生をはじめとして学園の頭脳と呼べる方々に教わることができますから」
細い目をさらに細めてティーカップに顔を近づけお茶の香りを楽し……もうとして梁商は固まりつく。
なんで緑茶なんだろう……
まぁ、飲めるからいいか。梁商はにこにこと笑みを顔に貼り付けたままなにも言わない。
「はい、季興さんもどうぞ」
「ありがとう……でも私なんかが一緒に教えてもらってもいいの?」
「えぇ、かまいません」
にっこりと微笑む劉保につられて笑いかけながら曹騰はティーカップの中身を指差した。
「ところでなんでこれりょ……」
その瞬間、風圧にも似た強大な『気』が曹騰を襲う。
にこにこと笑顔の梁商。
その目は『次期生徒会長が入れてくださったお茶だ。黙って飲め』と語っていた。
「どうかしましたか?」
「なんでもないよ」
冷や汗を隠しながら曹騰は笑みを浮かべ、ティーカップを傾けた。

緑茶はおいしかった。

572 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:18
蒼天会長、安サマの治世はおおむね平穏に過ぎていた。次期蒼天会長である実の妹、劉保もおり、後継も万全と言えるだろう。
しかし安サマは小、中等部の頃から英才教育を受けてはいたもののまだ学園の裁量を取り仕切るには力量不足であり、先々代蒼天会長、和サマの頃からの副会長、搴Mが実際の政務を取り仕切っているのが現状であった。
搴Mは成績向上を推進し、また蒼天会内部の経費節約につとめた。
だが匈奴高校をはじめとする他校とのトラブルが絶えず、完全に安定している、とは言いがたい。
しかしそれらは対外的な問題であり、搴Mの欠点ではない。
搴Mにはただ一点、本当に困った面があったのである。
一般学生の前には決してその姿を現さなかったのだ。
先々代蒼天会長のパートナーであり、優秀な学園都市の牽引役ともいえる彼女はそれだけで学園のアイドルとも呼べる存在であったが、姿を表さなかっただけでミステリアスというよりも不気味さをまとい学生を引かせてしまった観は否めない。
一般学生の前に姿を現さなかった、ということは一般学生と彼女との橋渡しをする役目が当然のように必要になってくる。
それをおこなったのが蒼天会秘書室のカムロたちであった。
これによってもともとただ蒼天会の事務を司り、ハンコを捺すだけの庶務部署であったはずの秘書室は権力を増大させていったのである。

「……へぇ〜、そうなんだぁ」
「そうなんだ……って」
梁商が困ったような顔で曹騰を見る。
現在の蒼天学園についてあまりにも無知すぎる曹騰に現状を教えようとした梁商は眉を八の字にした。
「曹騰さん……一流に近づきたくてカムロになったのではなかったの?」
「うん、そうだよ」
屈託なく答える曹騰。
「……だったらなぜカムロが一流に近い位置にいるのか、ということを知らなかったのはなぜ?」
「知らないものは知らないよ〜」
知ろうとしろ、と思ったが口には出さない。
「仕方ないですよ、梁商さん。季興さんはまだ司州に到着したばかりなんですから」
劉保までも曹騰にフォローを入れてくる。
到着したばかり、なのが問題ではなく到着するまでに下調べをしておかなかった、ことが問題のように思えるのは梁商の考えすぎだろうか。

573 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:19
翌朝、曹騰は眠い目をこすりながら劉保の後ろについて歩いていた。
梁商はいない。
彼女は彼女で忙しいのである。
「劉保〜? どこいくの〜?」
あくびをしながら声を出すので『ううほ』と聞こえた。
「えぇ、これから季興さんには私と一緒にあるひとにあってもらいます。忙しいひとですからあまり時間は取れませんでしたが」
忙しい、と言っても劉保ほどではないはずである。
しかしだからといってあんまり偉いひとにあって、その目の前で劉保のことを呼び捨てにしてもいいもんだろうか……
昨日、竹刀を目の前に突きつけられたばかりだし……
曹騰が控えめにそれを劉保に伝えると劉保はしばらく考え、そして笑いながら言った。
「大丈夫だと思います。あのひとは大雑把なひとですから」
大雑把なひと、って……
「それに……どんな場所であれ、私にサマなんてつけて呼んだら絶交ですからね」
悪戯っぽい表情。
曹騰は苦笑しながら素直に両手を挙げて降参の意思表示をした。

劉保より忙しいひとはそうはいない。
それは正確な言葉である。
次期蒼天会長である劉保が忙しいことについてはなんの異論もないからだ。
しかし『そうはいない』ということは『まれにいる』ということの裏返しである。

曹騰は緊張にこわばった顔でそのひとを見た。
背は曹騰より少し高いくらいだろうか。曹騰自身の背がかなり低いので彼女も世間一般的に見てもそれほど身長があるわけではない。
一見すると美人、と言っても差し支えないような顔つきだが目つきは鋭く、一概に美人と呼ばれることを拒否しているようにも見える。
髪は後ろでゆるく三つ編みを結んでいる。
そしてその胸に光るのは一万円札階級章。

蒼天会副会長、搴Mの実の姉であり連合生徒会会長、晁ォ。
超オオモノであった。

「晁ォ会長、ご無沙汰しておりました」
劉保が優雅に一礼する。
その瞬間、ずっと睨むような表情だった晁ォの顔に笑みが広がった。
「よ〜。どうだった、次期会長。体とか壊してねぇ?」
けらけらと笑う。
気難しいひとかと思ったら、ただのとらえどころのないひとだったようだ。

574 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:19
「妹が副会長なんかになるから私がこんなとこに座んなきゃいけなくなるんだっつの。まったく……どっかに優秀な人間がいれば喜んで階級章返上するのになぁ」
ぴん、と指で自分の胸の一万円をはじいてみせる。
「困ります。晁ォ会長は私の下でも生徒会長として指導していただかなくては」
「あっはっは。次期会長には梁商ちゃんがいるじゃねぇの。大丈夫大丈夫。あの子にだったら今すぐにでも階級章を譲ってかまわないね」
他愛ない世間話、というにはいささか庶民的ではない時空の話が続く。
「……で、その子は?」
笑顔のまま晁ォが曹騰のほうへ顔を向ける。
「きこ……曹騰さんといいます。昨日から私のルームメイトになりました」
「あ、あの! 曹騰です! 劉保のルームメイトになりました! よろしくお願いします!」
かちこちになりながら慌てて頭を下げる。
頭を下げる瞬間に見えたのは晁ォの獲物を見定める鷹のような目。
……このひと……ただの豪快なひとじゃない……
下を向いているが冷や汗が止まらない。
「……劉保、ね」
やがて晁ォは呟く。
その口調は先ほどの笑顔の表情と同じものだ。
「よかったじゃん、次期会長。友達が見つかったな」
「……そんな」
劉保の照れくさそうな声。
多分、真っ赤になっているのだろうな、と曹騰は下を向いたままで思う。
「っと、曹騰ちゃん。いつまでも下向いてるこたぁねぇ」
晁ォの明るい声。
曹騰は頭を再びあげる。
「曹騰ちゃん、ね」
晁ォのどこか底の知れない、だが不快ではない笑顔。
「あんたがどっからきた誰なのか、私には興味がない。だけど次期会長があんたのことを信頼している以上、私もあんたのことを信頼してやる」
晁ォは言葉を切り、窓の外を眺めた。
鳥が飛んでいる。
一層笑みを深くし、晁ォは言葉を続ける。
「秘書室に入るためには誰かの推薦が必要になる。私があんたを秘書室に推薦してやろう」
劉保は笑みを曹騰に向けた。
「ただし……この信頼を裏切ったら私があんたをぶっ殺す」
笑顔のままさらっと言ってのける。
しかし曹騰の答えは決まっていた。
「失礼ですが晁ォ会長は劉保のことをよくわかってません」
疑問を顔に浮かべる晁ォ。
「私がそんなことをしたら……」
曹騰は劉保の顔を一瞬見てから笑って言った。
「絶交されちゃうじゃないですか」
晁ォは曹騰の言葉に爆笑した。

晁ォに見えないように曹騰と劉保は手をつないでいた。
この手が離れることがありませんように……

575 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:49
-Sakura-
第4話:千里香

それからしばらくは勉強の日々だった。
劉保の教師は確かに一流であった。
明らかに学力の劣っていた曹騰にもわかりやすい、しかも高度な授業、というのはそうあるものではないだろう。
自分が補完されていく感覚は曹騰にとって嬉しいものだったし、それになにより劉保も一緒にいてくれたことが曹騰にとってのなによりの支えだった。

講義後の部屋。
たった2人を教えるために教室を使う、というのも妙な話ではあるので寮の私室を使っている。
つまり教師を寮まで来させているわけだ。
VIPってすごい……
「季興さんって覚えが早いんですね。先生も褒めてましたよ」
劉保がにこにこと笑いながら湯飲みを差し出してくる。
中身はチャイだった。
もう慣れた。
「覚え……早いのかな」
曹騰は苦笑する。
苦笑の主な原因はチャイなのだが。
「早いですよー。私がずっと教わってきたことにもう追いつかれちゃいましたから」
そう言いながら劉保は嬉しそうだ。
追いつかれて喜ぶ性格かと一瞬思ったがそうではないだろう、多分。
「私が蒼天会長になったら政務は全部、季興さんに任せて大丈夫そうですね」
悪戯っぽく笑いながらとんでもない発言をする劉保の顔めがけて曹騰は思い切り飲んでいたチャイを吹き出した。
「汚ーッ!」
「わぁ! ごめん!」
劉保が半泣きで制服の濡れた部分を指でつまんだ。
「うぅ、クリーニング代がもったいないなぁ」
意外とけちくさい。
「劉保がいきなり変なこというからビックリしたじゃないのさ」
心臓がばくばくいっている。
「変なこと……先生も褒めてました?」
「そのあとそのあと」
劉保は形のいいあごに指を当てて考える。
「クリーニング代?」
それは吹いたあとの発言である。
「ん〜と……政務全部?」
こくこく頷く。
「変かな?」
自覚がない。
「私、そんな権力なんていらないよ〜」
曹騰はたった1人、劉保と一緒にいられる、というだけで幸せを感じていた。
だから権力など必要ない。

「権力なぁ。まぁ、私もいらねぇなぁ」

いきなり後ろから声がした。

576 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:50
「よぉ」
曹騰は声の主を目で確認すると同時に背筋を伸ばす。
連合生徒会会長……
「晁ォ会長……」
……であった。
劉保が困ったような顔で晁ォの名を呼ぶ。
「どした?」
「ノックくらいしてください。いきなりはビックリするじゃないですか」
晁ォは劉保の言葉に初めて気付いたように手を打った。
「おぉ、すまんすまん。じゃあ……」
部屋から出て行く。
コンコン。
ノックしてからまた入ってきた。
「これでいいか?」
いいわけがない。
「えぇ、結構ですわ」
劉保はにっこり笑った。
……曹騰には理解できない感情だった。
「で、だ……」
晁ォは気をつけの姿勢をとったままの曹騰に普通の姿勢でいるよう促すように手をひらひらさせる。
「楽にしていいぞ。取って食やしねぇよ」
別に食べられることを心配しているわけではない。
しかしまぁ、言われて休まないのも失礼な話ではあるので曹騰はまたチャイを飲む姿勢に戻った。
「うん……前に言ったあれだけど覚えてるか?」
あれ、と言われても困る。
「秘書室に推薦してやる、ってやつだ」
忘れていた。
「秘書室を極めれば蒼天会長の側近に行き着く……ま、お前の望みどおりじゃねぇか?」
忘れていたとはいえ確かに望みどおりであることは確かである。
曹騰はチャイで口を湿らせてる。

カムロになったときにいずれは蒼天会長の側近になりたい、という思いがあったことは確かだ。
蒼天会長の側近になり権力の座につきたい、という思いが昔はあったことは確かだ。
昔は、である。
今、権力がほしいか……
そう聞かれれば即答できる。
権力などいらない。
その意味では秘書室に入り込むのは望みどおりなどではない。
でも……
曹騰は横を見る。
劉保は曹騰の秘書室への推薦を心から喜んでいるように見える。
だったら……
劉保のために権力を使うのも悪くない。

答えなど最初から決まっていた。

577 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:50
……と、簡単に秘書室入りを決めたわけではなかった。
内心、十分に考えてから決めたことのはずなのだが……

秘書室初日の感想は『早まったかな〜?』だった。

秘書室長、江京や実力者の李閏を中心にいつも集団行動。
ちらちらとこっちを見てはくすくす笑い。
非常に殴ってやりたくなる。
もっとも曹騰にとっても居心地が悪いことこの上ないが、江京たちにとっても連合生徒会会長の推薦というのは目の仇にされるものらしく曹騰は初日から孤立状態であった。

しかしそんな状況であれ仕事はあるらしく(もっとも秘書室長らは仕事などしていないが)曹騰もデスクにつき資料のまとめをしていく。
劉保と一緒に勉強したことが役に立っているようで、それだけが今のところほぼ唯一の秘書室での収穫だった。

ぺしっ。
なにかが頬に当たる。
……というか痛い。
ころころと書類の上を転がるそれはシャーペンの折れた芯だった。
指でつまんで折れた芯を眺める。
シャーペンの芯というのは曹騰の知っている限り、折れることはあっても顔に跳んでくることはめったになかったはずだ。
つまり……
……いやがらせ?
不機嫌な顔で芯が飛んできた方向を睨みつけてやる。

いやがらせではなかったらしくメガネをかけた同僚が声は出さずに、それでも口の動きと雰囲気で謝っている。

まぁ、どんな場所でも追従するやつらばかりじゃないってことか……
曹騰はそんなことをぼんやりと考えつつ、まだ必死で謝っている少女に『いいよ』と手の動きをしてみせる。
少女は頭を下げることこそやめたがそれでも手のひらを合わせたままウィンクしてくる。
そのポーズがやけにかわいくて……
曹騰は内心の思いに修正を加えた。

唯二の秘書室での収穫だな。

578 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:51
「いや〜、ごめんね、さっきは〜」
孫程と名乗った少女と照れ笑いを浮かべていた。
「ホント、気にしなくていいから」
ここまで謝られると曹騰のほうが恐縮してしまう。

2人は屋上で弁当を広げていた。
孫程も『集団行動』というやつは苦手らしい。
その意味でも収穫、という言い方は正しそうだ。

「いや、私、今でこそカムロやってるけどもともと体育会系だからね〜」
タコさんウィンナーをぱくつきながら、いかにも図書委員的な外見の少女はさらっと体制批判して見せた。
ここまで素直に言われると逆に心配になってくる。

しかし……曹騰は孫程の頭からつま先までをゆっくり見つめた。
カムロの象徴であるオカッパ。
フレームなしのメガネの下のちょっとタレ気味の目。
ほんのちょっとでも力を入れたら折れそうなくらいに細い首。
曹騰よりも小さいのじゃないか、と思わせる胸。
華奢、という言葉以外で言い表せそうにない腕。
すらりと伸びた、といえば聞こえはいいがやせっぽち、とも言いかえられる足。
曹騰はゆっくりと孫程の全身を眺めてから目線をもう一度合わせた。
「体育会系ってうそでしょ?」
「たは〜。まいったなぁ」
孫程は自分の後頭部をぺしん、と叩いて見せた。

体育会系かどうかはともかくとして図書委員ではありえないことだけは納得できた。

「本当ですか!?」
『ただいま〜』の声よりも先に部屋の中から劉保の叫び声にも似たような声が響く。
クエスチョンマークを頭に浮かべながら曹騰は室内に入った。
劉保は少し顔を青ざめさせて電話に向かっていた。
受話器をぎゅっと握り締めている。
「えぇ……えぇ、わかっています」
顔を青ざめさせながら、それでも普通に対応している。
明らかにまずい案件だ……
曹騰はそう判断し劉保の邪魔にならないよう部屋の隅で着替える。
着替えがようやく終わる頃、劉保の電話がようやく終わった。
電話が終わった瞬間、劉保はソファに倒れこむように座り込んだ。
相当まずい案件であることが伺える。
「ただいま。どうしたの?」
劉保はちらっと曹騰の顔を見て、再びうなだれた。
「おかえりなさい……」
そして意を決したように、それでも目を伏せたままぼそぼそと言った。
「摯實長がご病気で副会長を辞任なさるそうよ。階級章もすでに返上なさったんだって……」
予想以上にとびっきりまずい案件だった。

579 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:50
-Sakura-
第5話:白妙

「……で、お前たちはなぜここにいる?」
にこやかな笑みを浮かべたまま連合生徒会会長の椅子に深く腰をかけ晁ォは自分を取り囲む生徒会執行本部の面々を睥睨した。
そう、睥睨である。
晁ォはそれほど背が高いわけではなく、また座っているため見下ろしていられるわけがない。
それでも場を支配し、圧迫しているのは晁ォだった。
「と、晁ォ会長。あなたを解任します……私たちも手荒な真似はしたくありませんから階級章の自主返上をお願いしま……」
執行本部員たちの中でも一番偉いのであろう晁ォの目の前に立った娘が発言しようとし……しかし言葉の途中で晁ォの闘気とも呼べる異常なまでの気配をもろに浴び、最後まで発言することすらできずにへたりこんだ。
「あぁ? ……返上、だと?」
ゆっくりと執行本部員たちを見渡す。
執行本部員たちは青ざめ、まともに話ができる状態ではない。
「私は聞いてるんだ……いいか? 返上なのか? と聞いている」
デスクをはさみ、へたり込んだ娘のあごをゆっくりとなでながら優しく晁ォは尋ねた。
もう執行本部員たちは戦意を喪失していた。
「まったく……あまり彼女らをいじめないでほしいものですね。彼女らは貴女と違って前途ある若者なのですから」
その声に晁ォは執行本部員のあごをなでる手を止め、入り口の方向を睨みつけた。
執行本部員の人垣がわれ、その向こう側からおかっぱの女が姿を現す。
不健康なほどやせた体。
ひとを小バカにしたような目。
「……江京、てめぇか」

安サマは小、中等部の頃から英才教育を受けており昔は神童と呼ばれたものだった。
しかし実際に政務を取り仕切ることはない。
なぜならそこに蒼天会副会長、搴Mがいたから。連合生徒会会長、晁ォがいたから。
あまりにも優秀な人間に囲まれたため自分がなにもすることができなかったのだ。
もちろん彼女らがいなければ自分1人でどうする、というビジョンも持ち合わせていなかった。
ただ自分でなにかやりたかったのだ。
その安サマにとってこの搦o妹は本当に邪魔な存在だった。
彼女らがいなければどうなる、ということも考えもせずにただ邪魔だったのだ。

その反動はこの搴M引退の日にすべて降り注いだ。

580 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:51
「へッ」
晁ォは鼻を鳴らして笑った。
江京の姿を見た瞬間、すべてを理解した。
安サマがどれだけ自分を邪魔に思っているか、そしてどれだけ自分を憎んでいるか……

やってられるか。

正直な感想はそれだった。
搴Mと自分がいなければ何一つ満足に出来ないような小娘に自分の運命を左右されるのは癪だった。
ふむ……
腰に右手を当てて周りを見回す。
執行本部員は15人……
少ないな。
こいつらは血祭りにしてやろう。
その後、江京を人質にとってクラウドタワーを占領する……人質の役に立たなくなるのも困るから江京は半殺しで勘弁してやろう。
連合生徒会会長として子飼いの委員たちも数多い。
また各校区の総代の中にも彼女が目をかけてやったものも数多くいる。
時間が経てば経つほどこっちに有利になるのか……
しかも自分の元のポストは蒼天会長のボディガードだ。
もちろん元のポストなだけに自分のあとを継いだ後輩も自分がなにかをする、といえば力を貸してくれるだろう。
……おぉ、クーデターすら起こせそうじゃないか?
そのまま安サマをとばして自分が蒼天会長になってやるのも悪くはないな……

「く、くくッ」
自分の考えについつい笑いがもれる。
バカバカしい。
権力など自分には無用のものだったはずだ。
ましてこんなくだらない学校組織のために指一本分の労力を使うことすらお断りだ。
「どうしました? いきなり笑い出して……おかしくなってしまいましたか?」
自分のことを嘲笑する江京に逆にバカにするような笑みを浮かべる。
「いや? べぇ〜つにぃ〜」
あからさまにバカにした晁ォの言葉に江京はむっとした顔を浮かべた。
……自分がバカにされるのは耐えられないってか。心底小物だな。
「これだけの数の執行本部員を前にいつまでその余裕が続けられるのかしら!? 私が命令すれば貴女をいつでもとばせるんですよ!」
「少ねぇよ。私にかすり傷を負わせたかったらこの二乗倍の人数は用意しな」
江京は絶句した。それはそうだろう、15人を少ない、と言い切れる実力を江京は想像すらできない。
「……あ、安サマは寛大にも階級章のみの返上で貴女を許して差し上げよう、と仰っておいでです」
「ありがたい。ありがたいねぇ」
へッ、と鼻を鳴らす。
「ありがたすぎて反吐が出る」

晁ォは階級章と蒼天章を投げ捨てた。

581 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:52
劉保のことを一番に気に入っていたのは搦o妹だった。
劉保はその庇護下での次期会長であったのだ。
安サマのパートナーであり、搴Mのあとを継いで副会長になった閻姫は安サマの恨みにつけこむ。
その耳元でこう囁くのだ。
「次期会長は……あなたの妹は『あの』搦o妹の息がかかってるんですよ」

劉保の運命が決定した。

「なんだってッ!?」
劉保は諦めたようにうなだれたまま。
梁商はなにも言わず竹刀を片手に握り締めたままでティーカップからはと麦茶を飲む。
全校評議会からの使者の言葉に激昂したのは曹騰だった。
「もう一回言ってみろ!」
「か、カムロ風情がいきがらないで貰おう。私は蒼天会の正規の使者だ」
使者を名乗る女性の胸倉をつかみ、犬歯をむき出しにする曹騰。
「使者がなんだッ! もう一回言えと言ってるんだッ!」
「う、うあ……」
あまりの迫力に使者が口をぱくつかせる。
「曹騰さん、離してあげなさい。苦しそうですよ」
梁商がやんわりとたしなめる。
「……」
曹騰は使者を睨みつけながら、それでも梁商に従って手を緩める。
「はぁ……た、助かった」
息をつく使者に……その目の前に竹刀が突き出された。
「助かってはいないです。わたくしも『もう一度』言ってほしいのですから……今度は命をかけて内容を伝達していただきましょう」
使者が泣きそうな顔になる。
しかしどこにも助けなどない。
意を決し、そして使者はゆっくりとその内容を伝えた。

「劉保様を次期蒼天会長から解任します」

空気が重くなるのを感じる。
梁商がゆっくりと立ち上がった。
「ひ……わ、私はただの使者です! た、助けて……」
しかしその言葉に曹騰は冷たい目を向け、梁商は竹刀をふりかぶる……
「やめてあげて」
凛とした声で制止が入った。
……劉保。
「彼女はただ言われたことをこなしただけ。なにも悪くない」

582 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:52
「劉保、それは間違ってるよ。彼女は決定的に悪い」
曹騰が劉保のほうに視線も向けずに使者を睨みつけながら言い捨てる。
「決定的に『運』が悪いんだ。梁商さんも私も……機嫌の悪いところにこの部屋に来てしまったんだから」
「曹騰さんの仰るとおりですね。今ならどんなに無様に土下座されても許さない自信がありますよ」
曹騰と梁商、2人の腹心の言葉に……それでも劉保は言った。
「お願い。やめてあげて」
部屋を沈黙が支配する。
「2人がなにに怒っているのか、わかるつもりです。でも、やめて、あげて」
曹騰は憎々しそうに目線を落とした。
梁商は竹刀を床に叩きつけた。
そして……

劉保はただの劉保になった。

次期蒼天会長から済陰の君、というなんの権限もないただの名誉職に格下げされた劉保は、それでも表面上だけでも明るく振舞っていた。
曹騰も梁商もその明るさにずいぶんと助けられた。
くる日もくる日も好きなだけ勉強をし、好きなだけ体を動かし……
権力という鎖から解き放たれ……
それはそれで楽しい日々だった。

1ヶ月が過ぎた。
安サマが急病のために引退を宣言した。

「……蒼天会長の引退を新聞で知る羽目になるとはね」
曹騰が苦笑しながら蒼天通信を梁商に放った。
「まぁ、1ヶ月前であれば考えられないことですね」
肩をすくめながら新聞を受け取り、トップページを開く。
「ふ〜ん、ヘルニアですか」
どうでもよさそうに新聞をナナメ読みして梁商が呟く。
「腰痛い、とか言われてもねぇ」
曹騰が苦笑を返す。
制服を着た劉保が奥の部屋から姿を現したのはそのときだった。
「おや? 劉保、どっかいくの?」
曹騰が見咎める。
梁商も不思議そうな顔を劉保に向けた。
「えぇ……季興さんもついてきてください」
「いいけど……どこいくん?」
不思議そうな曹騰に……決心をこめて劉保は言い切った。
「安サマの……お姉さまのお見舞いに行きます」

583 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:40
-Sakura-
第6話:雨情枝垂

「はぁ?」
人を小ばかにしたような表情と態度に曹騰の怒りが急速にたまっていく。
江京……
蒼天会秘書室長。
良識人であり、学園の総鎮守たる搴Mが現役だったころにはカムロも常識人、と呼べる人間ばかりが登用され、江京は歯牙にもかけられないような小物であったが今では……
その蒼天会秘書室長が……
なぜこいつがこんなところにいるのか。
病気療養のために引退した……そのはずの安サマの病院の前にこいつがいるのか。
あまつさえ……
「安サマがあんたがたのような下賎の人間にお会いになるわけがないでしょう?」
……きれそうになる。
一歩前に出……ようとして劉保に袖口をつかまれて止められた。
「季興さん、だめです」
ちょっと涙目。出ていけない。
「あらあら。負け犬同士、仲のよろしいこと」
おほほ、と笑う。
似合ってない。
というかむかつく。
「あんたになんでそこまで言われなきゃいかんのか理解しかねるとこはあるけど、それはともかくなんであんたに一個人の見舞いの面会の可否まで許可を取らなきゃいけないんだ」
曹騰は額に青筋を浮かべながら精一杯丁寧な言葉で言う。
言い方は丁寧ではないが、普通だったら怒鳴り散らしてる。
そういう意味では十分丁寧。
「はッ」
しかし曹騰の内心の葛藤もむなしく江京は鼻で笑う。
「バカじゃない? 今の私は秘書室長様なわけ。つまりあんたがたのようなゴクツブシよりもはるかに偉いわけ。もう雲泥なわけ」
『雲泥』を『ウンディー』と発音するところがまたむかつく。
「あんたがたのようなザコと話してたら気品が腐るわ」
おほほ、と笑う。
それにこいつに気品なんてない。
断じてない。
「だめです、季興さん。いけません」
肩口で劉保の声がする。
どうやらそうとう力が入っていたらしい……
劉保のほうがもっと怒っていいはずなのに……
「そうそう、済陰の君閣下。そうやって権力者におもねっておけばいずれは中央に戻ることができるかもしれませんよ……気が向けばねぇ」
ふん、と笑う。
むかついた。

584 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:41
「ごめんかった!」
結局、安サマには一目も会えず……
そして意気消沈して帰ろうとする2人の足を止めたのはそんな明らかに間違っている日本語だった。
孫程……
「そっか。あんた、秘書室に残ってたんだっけ……」
曹騰は劉保と一緒に野に下った。
孫程は秘書室に残った。
野に下ったほうが精神的には楽だったろうな……
心労だろうか。少しやせ……
やせ……
やせ……
「あんまりやせてないね」
「まぁ、食べるもんは食べてるからね」
これ以上やせたら困る、とでも言いたげに孫程は苦笑する。そりゃそうだ。
「まぁ、それはともかく……」
孫程は済陰の君……劉保に向き直る。
「本当にごめんでした」
深々と頭を下げる。
こんな場面、他のやつらに見つかったらまた大問題であろう。
「あの、頭を上げてください」
「日本語間違ってるから」
曹騰と劉保は苦笑を浮かべながら同時に発言する。発言の方向性はまったく違うが。
「いや、なんつか……秘書室に愛想が尽きそうです」
悔しそうな顔になって言う。
良識人は中にもいたか、よかったよかった……というのは曹騰たちの側から見た感想であり、実際に内部の腐敗していく様子をまざまざと見せ付けられる孫程にしてみればこれ以上に悔しいものはないだろう。
「まぁまぁ……」
なだめてみる。
なだめてはみるがさっきの江京を思い出し……あれと一緒にいて自分だったら『まぁまぁ』程度じゃ落ち着かないなぁ、と思ってやめた。
「とにかく!」
孫程は急に頭を上げた。
なだめていた曹騰のあごに孫程の後頭部がジャストヒットした。
「お、ぉぉぉ……」
「く、くぁぁ……」
2人とも患部を抑えて倒れこむ。
これは痛いですよ、実際。
「きゅ、急に立ち上がらないでよ! 私のあごがバカになったらどうするの!」
「わ、私が悪いのぉ!?」
「そりゃそうよ! あごがだめになったらガラスのあごなんていわれて世界が狙えなくなっちゃうじゃない!」
なんの世界だ。
「そ、そうか。ごめん」
納得したらしい。
それを見て……
「……くす」
劉保の張り詰めていたものが緩んだ。
今日、初めて口からこぼれた笑みだった。

585 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:41
劉保と初めて会ったのが4月……
……そして劉保が次期生徒会長でなくなったのが4月の終わり。
5月終わりには安サマがリタイアし……
「……」
曹騰は窓の外の雨を眺めていた。
手に持っているのは蒼天通信。
世界は移り変わっていく……
自分たちを置いていくように……

新しい蒼天会長に抜擢されたのはわずか初等部2年の少サマである。
このあまりにも年若い蒼天会長が治世を取り仕切ることなど当然できはしないことは自明の理である。
つまり学園は閻姫とその姉妹たちによって私物化されつつあった。

あの伝説の孔子に並び称され『関西の孔子』とまで呼ばれ、この後、孫の楊彪に至るまで4人の連合三長を排出し……また教授の推薦のための賄賂を贈り、『誰も見てないんだから受け取ってくださいよ』と言った少女に対し『天が見てる。神様が見てる。貴女が見てる。私が見てる。誰も見てないなんてとんでもないわ』と言い賄賂をはねつけた仁者、生徒会執行本部と全校評議会の長を歴任した客員教授(こののち洛陽大学に招かれ名誉教授となる)楊震は安サマの在職中にすでにとばされていた。

晁ォの後を継ぎ連合生徒会会長になった耿宝……
耿宝の派閥であり江京とともに劉保を陥れたカムロ、樊豊……
蒼天会長ボディガードの謝ヲとその妹の謝篤……

閻姉妹に逆らうものがどんどんととばされていった。

「〜……♪」
曹騰は雨を見ながら鼻歌を歌っていた。
陽気な歌、というわけではないが暗い、というほど暗いわけではない。

学園は大変みたいだ。

「〜♪」
曹騰はぼんやりと窓の外を眺めながら鼻歌を口ずさむ。
正直、もうどうでもよかった。
いや、それは正確な言い方ではない。
劉保がいて梁商がいて……
他にはなにもないけどそれで十分に思えた。
それ以外のことなんてどうでもいい。

雷が鳴った。
曹騰は鼻歌をやめて空を見上げる。
ゴロゴロゴロゴロ……
遠雷。
「ん〜、落ちてきそうだな……」
再び雷。今度は近い。
「近くに……落ちたなぁ?」
窓の外を見回し……そして曹騰は窓の外の雨の中にたたずむ人影を見つけた。

586 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:42
部屋に招き入れると人影はぶるっと大きく震えた。
梅雨といっても濡れれば寒いに決まっている。

服から雨雫がたれる。
こんな雨の中、コートも傘も差さずにずっと立ってたのか……
「やぁやぁ……」
人影……孫程は弱弱しく笑った。
弱弱しい……
まさにそのとおりであった。
あれほどのバイタリティの塊であった孫程も心労によってか見る影もなく……
「……やせ、たね」
そしてやせていた。
「いやぁ、ははは。ダイエットの手間省けちゃったよ」
普段の孫程であれば絶対に口にしないようなタイプの冗談……
それほど……
中央はそれほどに腐りきっているのだろう。
「いやぁ……あはは」
孫程は笑いながらうなだれる。
曹騰は黙って孫程のぬれた体をタオルで拭いた。
孫程は拭かれるに任せるかのように黙って目を閉じる。
しばらくは布がこすれる音だけが室内に響いた。

「ふぅ」
ようやく服が乾き始めたころ……
孫程がため息のような声を漏らした。
「なに?」
「いや、さ……」
苦笑の雰囲気。
「曹騰に見つけてもらえなかったらそのまま帰ろうと思ってたんだよ、ほんとはね」
「……」
再び沈黙。しかし今度はそれほど長くかからなかった。
「曹騰……済陰の君閣下に会わせてくれないかな」
「……会ってどうするの?」
決意を込めた声。
「言いたいこととか言わなきゃいけないこととか言うだけだよ」

587 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:51
-Sakura-
第7話:墨染

「……」
部屋の中には沈黙が落ちていた。
曹騰、梁商にとって孫程の言葉は悪い話ではない。
もはや失うものなどなにもない。
しかし……
「孫程、さんとおっしゃいましたね」
「……はい」
劉保は静かに孫程に語りかける。
「私に……お姉さまの指名なさった後継者と争え、とおっしゃるの?」
窓の外では雨が降っていた。

孫程の話は単純なものだった。
今の学園は秩序を失いつつある。
また劉保はなんらかの罪があって次期蒼天会長の座から降格されたわけではなく、前会長、安サマが閻姉妹の悪口を信じたために降格されただけにすぎない。
本来であれば蒼天会長は劉保が継いでもいいはずなのである。
秩序回復のために劉保に蒼天会長になってほしい。

孫程の話は本当に単純なものだった。

「お姉さまの意思に逆らうのは私の本意ではありません。申し訳ありませんが聞かなかったことにさせてもらいます」

蒼天会の内外で閻姉妹の横暴に対する批判の声は根強く残っていた。
劉保が一声発すれば理解あるものの賛同が得られるであろう。
ただ……
劉保本人だけがそれに反対していた。

「済陰の君閣下……学生たちはみな秩序を求めています。貴女が一声発すればそれに賛同し、貴女を蒼天会長の座へと導くことでしょう。決して勝ち目のない戦いではありません」
孫程の言葉に劉保はゆっくり首を横に振る。
「勝ち目のあるない、が問題ではないです。ただお姉さまと争いたくないだけなのです……孫程さん、これ以上なにもおっしゃらないでください」
曹騰、梁商にとって劉保の今の状況は当然、納得できるものではない。
しかし劉保がそう考えているのであれば反論することなどできはしない。

劉保は奥に下がり、部屋に曹騰、梁商、孫程だけが残された。

588 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:51
「……」
「……」
曹騰も梁商も無言だった。
本音を言えば孫程の言葉どおり劉保が蒼天会長になること以上に望むことはない。
だが劉保があそこまできっぱりと意思を口にした以上、無理強いすることもできない。
「つまりは……この考えは無理だってこと」
肩をすくめて曹騰が呟く。
劉保が部屋から出て行ってなお無表情だった孫程の顔にようやく表情らしい表情が浮かんだ。
「……まぁ、本音をはなしたわけじゃなかったしね。さて……お次は済陰の君閣下の側近中の側近の2人に聞いてもらおうかな」
「どういうことです?」
梁商の言葉に孫程も笑みを浮かべる。
「いや、つまりさっきの私の言葉だけが本音じゃないってことです……いや、さっきのも本音ではあるんだけどそれがすべてじゃない」
孫程は窓の外に目を向ける。
梅雨が窓を濡らしている。
「……私は本当は学園なんてどうでもいいです。自分が身動きできるちっぽけな範囲内が平和であればいい」
曹騰も梁商も黙って孫程の言葉に耳を傾ける。
「ほとんどの生徒がそういう考えなんだと思いますよ? 自分が不幸にならなきゃいい……みんながそう思うからまずは自分の身近が幸せであるように……それが積み重なって全員の幸せにつながるんだと思います」
雨は音もなく降りしきり、孫程の言葉だけが静まり返った室内に響く。
「だから私は自分のちっぽけな領域を幸せにするために蒼天会長をかえようとしています。まぁ、済陰の君閣下を利用しようとしている、なんていわれちゃあ返す言葉もないんですけどね」
苦笑。
しかし曹騰も梁商も黙ったまま。
「これが……」
孫程は黙って懐から書類を取り出した。
「済陰の君閣下が蒼天会長になってくれれば幸せになってくれる人間の署名です」
そのリストはカムロからも実力者の王康や王国といった政権の中枢部にいるような名前も見受けられた。
「……すごいね」
曹騰が正直な感想を漏らす。
「それ集めるの、ちょっと苦労したんだからね」
孫程はにっこりと笑った。

589 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:52
「済陰の君閣下の安サマを思う気持ちはわかるつもりですがこれだけの人間が貴女の発する言葉を望んでいます、とそんだけ伝えてくれないかな」
孫程はすべて伝えきった、という顔で笑う。
梁商はリストを一瞥し……
ボールペンでその最後尾に自分の名前を書き足す。
「済陰の君閣下の説得は私たちが承りました」
ボールペンを指先でくるり、と回してから胸ポケットにしまう。
曹騰は……
腑に落ちない顔をして孫程のほうに顔を向けた。
「……あんたの気持ちはわかったけど……なんでそれをさっき直接、劉保に言わないかなぁ?」
「そんなん決まってんじゃん」
曹騰の至極当然の疑問に孫程も当然のような顔で答える。
「あんたらのほうが今の私の気持ちを私以上にしゃべることができる、ってそんだけ」
にやりと笑いながら言う。
「私は体育会系だからね。体育会系には体育会系の仕事があるってこと」
カバンから分厚い本を取り出す。
本のタイトルはマルクス全集と書かれていた。

「劉保、はいるよ〜」
孫程を送り出し、先に奥の部屋に閉じこもった劉保を追って曹騰、梁商はドアをノックする。
……返事がない。
ただのしかばねのようかどうかは別としてまったくのノーリアクションだった。
「……?」
曹騰と梁商は顔を見合わせてからドアノブをひねる。
カチャ、と軽い音を立ててドアは開いた。

部屋の中は真っ暗だった。

「劉保? 目が悪くなるよ〜」
「電気はつけないでください」
茶化して電気をつけようとする曹騰を劉保の言葉が止めた。
「私にはわからなくなってきてしまいました」
ぽつり、と暗い部屋の中、劉保は独白する。
「私はただお姉さまと仲良くしたかっただけなのに……」
雨はまだやまない。

590 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:53
お姉さま……
安サマ……
前蒼天会長、劉祐……
劉保の実の姉であり劉保を失脚させた張本人。
だから曹騰にとっても梁商にとってもあまりいい印象のある人物ではない。しかし……
「お姉さま、子供のころは本当に優しかったんです」
遠い過去を懐かしむ口調で劉保が呟く。
今はないもの……
だからこそ人は過去をいとおしく思うのだろう。
「お姉さまはいつかわかってくれると思います。だから私はお姉さまが許してくれるまでずっと雨宿りしようと思います……やまない雨はないのですから」
劉保の言葉が窓の外の雨にかき消される。
「やまない雨、ってずっと待ち続けるの?」
曹騰の言葉に劉保は頷く。
曹騰は黙って窓を開けた。
雨が降っている。
雨が降っている。
雨が降っている……
「やまない雨はないかもしれないけどやむまで時間のかかる雨ばっかりだよ、この世は」
梁商が劉保にリストを差し出す。
「貴女が一声かけるだけでこれだけの……いえ、これ以上の人が幸せになれるんです」
「……」
劉保は肩を震わせて、それでもリストを受け取る。
「雨がやむのを待つのもいいかもしれない。でも雨に濡れる覚悟ってのもたまには必要だと思う」
「……雨に濡れる、覚悟?」
劉保が初めて聴く言葉に顔を上げた。
「雨って冷たいよ。だから濡れたくなんてない。でもいつまでもやまない雨を呪って空を見上げるより一歩を踏み出すのも大事なことなんじゃないかな、ってそう思う」
「……覚悟」
劉保は曹騰の言葉を繰り返す。
「覚悟のためにお姉さまを裏切れ、というの?」
「裏切る裏切らない、じゃないよ。劉保が劉保でいるために必要なことなんだと思う」
劉保はゆっくり考える。
そして……
「私が雨に濡れて……幸せになれる人がこれだけいるんですね?」
曹騰、梁商は力強く頷く。
「わかりました。傘を持たずに出かけましょう」
歌うような劉保の言葉。それは曹騰がはじめて出会ったころの響きだった。
「行きましょう、司隷特別校区へ!」

591 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:00
-Sakura-
最終話:染井吉野

「うん、うん……わかった……ありがとう……うん、それじゃまたあとで」
孫程は携帯電話をゆっくり置いた。
やはりあの2人に済陰の君の説得を頼んでよかった。
自分であればなせなかったであろうことをあの2人はこんなにも短時間で成し遂げてくれた。
……さて……
机の上に置いた携帯電話を指でもてあそぶ。
これで終わった、といえないのが体育会系のつらいところ。
「むしろこれからが本番、ってね〜」
左手で携帯電話をくるくると回しながら器用に右手に皮のグローブをつける。
ぱちん……最後にバタンを留める。
グローブが手になじむのを……自分の手と同化していくのを感じる。
「ふぅ……」
さぁ、これから、だ……

このとき、孫程すらも知らなかったことだが少サマは喘息で入院しており、明日にも蒼天章を返上するかもしれない、という状況であった。
少サマはわずか初等部2年生……
もちろん政治がどういうものか、ということはわかりもしないし後継者を指名するなどできようはずもない。
密室政治により後継の蒼天会長は河間の君、劉簡と決まっていた。
もはや一刻の猶予すらなかった。

孫程は肩をぐるぐる回しながらそこに立っていた。
風が身にしみる。
目線を少し上にやると司隷特別校区の名物校舎、3号館、通称西鐘校舎が見える。
無機質に校舎を眺めてから孫程は再び体をほぐしにかかる。
孫程はいつものカムロの服を脱ぎ去っていた。
かといってスカートなどをはいていたわけではない。
孫程はその身に拳法着をまとっていた。
これは動きやすい。
動きやすいが目立つ。
だが目立とうと目立つまいと孫程にはまったく関係なかった。

(とりあえず……うん……)

心の中で手順の確認。
そして腕時計を見る。

592 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:02
(そろそろ頃合かな……)

孫程はディパックからただ1冊……
マルクス全集を取り出す。

(この本もかなり読んだよね……)

本にすら愛しさを感じる。
だから今日、この場に持ってこようと思ったのだ。
「ふぅ……」
ディパックを肩に背負い、屈伸を2回してから孫程は西鐘校舎を背に歩き出した。

(次にこの校舎を見るとき、私は逆賊かな? 英雄かな?)

「江京様の悪知恵の働かれること、まったく鬼謀とはよくいったものですねぇ」
「こらこら、誰が鬼ですか」
そして笑い声。
秘書室の有力者たち、江京、劉安、陳達、李閏がまとまって帰宅しようとしていた。

(まだ仕事が残っているはずなのに……部下に任せて自分らはさっさと帰宅かぁ)

ふぅ、と溜め息をひとつついてから孫程はそのまま足を進める。
最初に孫程に気づいたのは江京だった。

「あぁ、孫程……あんた今日、サボったわね。クビよ、クビ。明日から来なくていいわ」
江京の言葉に左右からどっと笑い声が漏れる。
孫程は目を伏せたまま近づき、20歩の距離を残して立ち止まる。
「……」
「なぁにぃ? 聞こえないわ?」
孫程が口の中でぼそぼそと呟くのを見て江京がはやし立てる。
また笑い声が上がる。
劉安が孫程の手に持ってるものに目を止めた。
「こいつ、マルクス全集!? 共産主義なんてバカみたい!」
共産主義がバカのように見えるのは民主主義が共産主義を駆逐した現在の歴史を知っているからだ。
ディパックを左手で捨てながら孫程は笑顔を江京たちに向ける。
「先輩、こんな言葉って知ってます?」
「……?」
孫程は笑いながら言葉を接ぐ。
「イギリスの元首相、チャーチルの言葉です……20歳をすぎて共産主義を信奉するようなヤツは知能が足りない。でも……」
孫程は笑みをたたえたまま……
「20歳までに共産主義にかぶれないヤツは情熱が足りない。先輩たちに足りないものは……まさにそれ」
孫程はマルクス全集を空高く放り投げ、そして江京たちに向かって声も上げずに突進した。

593 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:02
李閏は目の前で何が起こったのかわからなかった。
孫程がすすす、と近寄ってきたかと思ったら先頭の劉安がいきなり吹っ飛んだ。
なにをされたのかわからなかった。
孫程が手の甲を江京に向ける。江京は自分をかばおうとしてカバンを盾にした。そして次の瞬間、孫程のひじから先が消えたかと思うと江京が白目をむいてひざから崩れ落ちる。
なにをされたのかわからなかった。
そのまま回転するように孫程は陳達に近づく。陳達は逃げようとして……孫程が回転したかと思うと陳達は顔から地面に突っ込んでぴくりとも動かなくなった。
なにをされたのかわからなかった。
そして孫程はそのまま右手を高々と上げる。
空を舞っていたマルクス全集はまるでそこが安住の地であるかのように孫程の手の中にぴたり、と収まる。
まるでなにかのショーを見ているようだった。
ショーと違う点は次に襲われるのは自分だ、ということ。
李閏は左右を見回す。
江京、劉安、陳達……微動だにしない。
今、これだけの武威を見せ付けられ、抵抗してもどうにかなるとは思えない。
生き残ることは出来ない……
絶望すら感じることが出来ずに李閏はぺたり、と座り込んだ。
目の前の今までバカにしていた孫程、という少女が怖くて仕方なかった。
「……さて」
李閏が息をすることすら忘れたようにじっと孫程のことを凝視している。

孫程は心の中だけで苦笑する。
自分、それほど怖くないのになぁ……
しかし相手が自分のことを怖がっているのならそれも武器には違いない。

李閏にマルクス全集が突きつけられる。
それを手にしているのはもちろん孫程。
「李閏先輩、あなたは秘書室内の諸先輩方の中でも『多少はまとも』と思われていますからあなただけは生かしておいて差し上げます」
孫程はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「次期蒼天会長に……済陰の君閣下を推薦する、といえば良識人であるあなたのこと、当然賛成してくれるでしょうね?」
李閏はゼンマイの壊れたおもちゃのようにがくがくと頷いた。

594 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:03
……

「……あの日、1日だけでそりゃ大変だったねぇ」
懐かしそうな目で曹騰が語る。
西鐘校舎の前で済陰の君の即位式をやった。
たった何人か、だけの即位式。
しかしそのうわさを聞きつけ、多くの人々が新蒼天会長の下に集まってくれた。
もちろん閻姉妹がそれを放っておくはずがない。
それに対して戦って……戦って……
何度、自分もリタイアするかと思ったことか……
そして戦いも終わって……
劉保とは友達のままでずっといられたと思う。
梁商も約束どおり最後には劉保のことを『劉保』と呼んでいた。
そして3人は本当に友達、だったのだと思う。
曹騰は懐かしさに目を細め、ながらふ、と時計に目をやった。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん……続きは〜?」
「ぎゃ!」
続きを催促する曹操に意味不明の叫びが浴びせかけられた。
叫びだけじゃなくて唾もちょっとだけ飛んだ。
「もうこんな時間じゃない!?」
「え、えぇッ!?」
意味不明にあわてる曹騰を見て曹操もあたふたした。
曹操はあたふたしなくてもいいと思う。
「ごめんね、孟徳ちゃん! 私、今日は同窓会だから続きはまた今度ね!」
曹操は苦笑する。
なるほど、同窓会だからそんなよそ行きの服を着てたのか……
同窓会……
同窓会……
「! ……お姉ちゃん、もしかして!?」
気づいたように顔を上げる曹操に曹騰は親指を立ててウィンクした。

桜が舞っている。
あのころの熱さがうそのようだ。
こんな静けさがこの世に存在するなんてあのころは気づきもしなかった。
歩を進めながら思う。
彼女たちを友達に持つことができて本当によかった。
彼女たちが友達でいてくれたことに誇りを感じる。
だから……
桜の花冠の向こうで小柄な影が大きく手を振った。
その横には少し大柄な女性が会釈してみせる。
曹騰も小柄な、その人影に負けずに大きく手を振り返しながら大声で叫んだ。
「劉保! 梁商さん! 久しぶりーッ!」

  〜了〜

595 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:12
ってわけで終了です。
なんか、こう、打ち切りチックですね。
まぁ、それはそれ。

なんかまったく反響のない中つらつら書いてしまいましたがまぁ、まったく意味のない作品、という単語すらおこがましいものになってしまったので……そんでも途中で止めるのはあれだなぁ、と思ってここまで書きましたが、まぁ、その意地もここまで、ってことで。
なんというか……まぁ、自分の文章力のなさを痛感するとともに、ぐっこ様にはこのような駄文でサーバーに負担をかけてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいです。このHPにきておられる諸氏にとってもこのようなモノがTOPにある、というのは見苦しさを感じておられたと思いますし、本当に私の意地だけでここまで引っ張ってしまったことに謝罪の言葉すらありません。
もう一足早く桜を散らせときましたのであとはROMに戻らせていただきみなさんのすばらしい作品を楽しませてもらおうと思います。
今まで本当にでしゃばってすいませんでした。

596 名前:海月 亮:2005/03/04(金) 23:19
・゚・(ノД`)・゚・
いや、お見事ですよ! 久しぶりに良いものを観させていただきましたとも!
立場を超えた友情、よくぞここまで書き上げられました…脱帽であります!
…うぐぅ、なんだか上手く感想をまとめきれない我が文章力の貧困さが恨めしい_| ̄|○

>反響が無い
大丈夫ですってば…少なくとも私めは感想を言うの、全て終わってからだと決めてましたから…
きっと誰もが続きどうなるのか楽しみにしてたのではないかと…

惜しむらくは私がこのあたりの史実を知らないと云ふ事…_| ̄|○

597 名前:岡本:2005/03/05(土) 14:28
北畠様
宦官であった曹騰のエピソードを絡めて、宦官が政権決定に力を示していた
時期を記述された作品ですね。楽しんで読ませていただきました。
宦官・外戚・官僚・地方豪族が絡んでいく政争の変遷を考える上でも興味深い
作品です。これが、党コ・何進との闘争・董卓の専横とつながるわけですね。
また歴史の裏面というべき私生活ですが、私はそういうのを書くのが
苦手ですので、ただただ感心させられました。

>反響が無かった
レスが着かなかったことが作品の質・内容に原因があるのではと
判断されたようですが、そのようなことは当然ありません。
時期が時期であったことが(決算期・新作三国志系ゲームの発売)
最大の理由かと思います。

何より、歴史を調べて自分なりに解釈し形にして公表したことは
よほど脱線して自己陶酔しないかぎり、コメントという形の批評を
受けはしますが評価こそされ非難されることはありえません。

598 名前:北畠蒼陽:2005/03/05(土) 19:33
……???

ぎにゃーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
ち、違うんです! 違うんです!
まず謝罪を! 次に謝罪を! 最後に謝罪を!

……595番目の北畠蒼陽名義の書き込みは無視でお願いします、違うんです。
繰り返します。595番目のやつは無視でお願いします。

えっと……事情説明ですね、私も理解できてるわけじゃないですけど……

昨日、最終話を書き上げまして、まだ推敲もしてなかったんですがそれなりに満足してシャワー浴びて寝たわけですね。
今日、推敲して投稿させていただくつもりだったんです。

えっと……

同居人が推敲前の文章をそのまま投稿してやがった……
しかもオリジナリティあふれる文章を添えて……

同居人は今日の朝から旅行に出かけてるため真意を問いただすことは出来ませんが私にも意味不明です。

とりあえずみなさまがたには辛気臭い文章を(私の本意ではないにせよ)お目にかけてしまったことと海月 亮様と岡本様には温かい言葉をかけていただき30年間はご飯を食べなくてもおなかいっぱいです。
とりあえず同居人にはすげぇ怒っておくつもりですんでなにとぞご寛恕のほどを〜。
えぇ、あんな笑いどころのない文章を書いたことを怒っときますよ!(そっちか!(そっちさ!

みなさまがたには微妙な心境にさせてしまって申し訳ありませんでした。1億5000万の謝罪を(ノ_・。


とりあえず北畠個人は反響があると逆に照れて書けなくなっちゃうんで^^;
595番目のヤツと本当に正反対です^^;

599 名前:海月 亮:2005/03/05(土) 21:31
>595の件
ぬわんだとぉぉぉ━━━━━━( ゚Д゚)!
つーかアレで推敲前だったと! マジですか!?
じゃあなにか、実はアレよりも洗練されたモノがあると…!

なんたることだ…これ以上のものがあるというなら、私感動のあまり死にますよ!?(w
ただでさえ続きが気になって、自分のSS製作ほったらかしにしてたってのに…(え?

600 名前:★ぐっこ@管理人:2005/03/07(月) 00:05
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!

北畠蒼陽さま! GJ杉!
いやさ、このへんモロストライクですがな私( ゚Д゚)!
本家ラウンジの四方山スレに書いた通りの事情で、長期間ネット断ち
続けておりますもので、レスが遅れに遅れてしまいましたが…
とにかく、順さまと曹騰の友情、そして孫程らカコイイ秘書連中の活躍!
そういや蔡倫もいたっけか…仲悪かったようですけど…

むう!やるやると口で言いながら全然進んでない党錮事変の、更にベース
なっているこの孫程のクーデター!貴重な情報源ありがとうございます!

601 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:46
-あおいそら-

その日……
彼女は桜の並木道を歩いていた。
もちろん桜の季節にはまだ早い。
葉もない桜などただ物悲しいだけである。
彼女はそんな道を歩いていた。

向こうに見知った顔を見つけはっとする。
その少女は大勢の少女に囲まれ楽しそうに話をしていた。
「……でん」
声をかけようとして思いとどまる。
いまさらどんな顔をして会え、というのか。
少女の胸には誇らしげにコサージュがゆれている。
そして親友、なのだろう……
4月に学園生活の転機が訪れて……そして彼女にはすでに親友とも呼べるひとがいる。

自分の隣には誰もいない……

彼女は伸ばした手を下ろし……
そして軽くこぶしで自分の額をこつん、と打ちつけた。
彼女……袁紹は1人だった。

学園の卒業式は通常、校区ごとに行われる。
そして冀州学院校区……
この場所において袁紹は卒業式を迎えようとしていた。

式も単調に進められていく。
その中でも袁紹はたった1人だった。
一般学生たちが袁紹のほうを見て、なにかを囁きあい、そして笑っている声が聞こえる。
仕方がない、と思う。
自分はそれだけのことをやってしまった。
多くの人を……自分を信じてついてきてくれた人を裏切ってしまった。そう思う。
卒業式という行事の中、袁紹は一人ぼっちだった。

「……続いて連合生徒会会長よりの祝辞です」
退屈な式を聞き飛ば、そうとして袁紹ははっ、と顔を上げた。
連合生徒会会長!?
まさか、と思った。
彼女がこんなところに来るわけがない……
彼女を魏会長に推す動きがあることは袁紹も風の噂で聞いていた。
そんな大事な時期に彼女がこんなただの一般行事にくるわけがない……!

小柄な少女がステージの壇上に姿を現した。

602 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:47
「みなさん、連合生徒会会長の曹操です。まずは先輩がたの卒業をお祝いします。
さて……本来であれば私はここに来るつもりはありませんでした。私も忙しい身ですし卒業式程度、私が出席しなくても進行することは知っているからです。代理人を立てようと思えばいくらでも立てられる……私にとってはその程度のものでしかありません。
でも、それでも私がここにきたのには理由があります。
それは……みなさんには申し訳ないのですが諸先輩がたを祝福するためではありません。

たった1人の人を見送るためです。

その人はいつも毅然とした人でした。
その態度のりりしさに私は憧れを抱いていました。
私はいつしかその人のことを『姉』と呼んでいました。
『姉』のしゃべり方に憧れていました。
『姉』の立ち振る舞いに憧れていました。
『姉』の……そう、すべてに憧れていました。
私はその人のことを好きだった……いえ、今でも好きです。

『姉』とは結局、いろいろあって別れることになってしまいました。
そのことをご存知の人もいると思います。
『姉』のことをリタイアさせた私がこの場に立っていることをこっけいに思う人もいるかもしれません。
でも私はあのとき、一生懸命考えて、そして自分で選んだ道を間違っているとは思っていません。
『姉』とは進路が別たれてしまったけれど、それは『姉』が悪い、ということではなくただ立場が違っていただけです。
私が彼女を敬愛しているのは今でも間違いありませんし、まぁ、彼女のほうが私をどう思っているかは知りませんが……とにかく他人からどうこう言われたくはない、というのが本音です。

『姉』は世界でも有数の財閥の次期当主です。
卒業したらさらに帝王学を身につけ、そしてきっと本当に世界でも有数の経営者になることでしょう。
私が今後、どうなるかはわかりませんが私は何年かして『姉』とあのころの話を笑って話すことができればいい、心からそう思っています。

……すいません。もう時間のようです。
忙しくていけませんね、この立場というやつは。
最後にもう一度だけ……
ありがとう! そしてこれからもがんばってね、本初お姉ちゃん!」
小柄な少女がステージを降りた。

603 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:48
「……」
誰もいなくなった式場。
そこに袁紹はたった1人で座っていた。
曹操が自分のことをあれほどまでに思っていてくれたのが嬉しかった。
誰の祝福よりも胸を張って受け取れる、とそう思った。
ことり……
後ろから物音。
「おめでとうございます、袁紹先輩」
袁紹がゆっくり振り返る……

夏侯惇。曹操の腹心。
「孟徳も本当に忙しくて……今日、アレだけの時間をとるのも精一杯でした。先輩に直接、お祝いを言うんだ、って3日徹夜で政務を片付けてましたけど……すいません」
隻眼の少女が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
袁紹は微笑みながら首を横に振った。
「そんなことはない。むしろ孟徳が挨拶に来るとは思わなかったからびっくりしたわ」
来る、と知っていたら心構えも出来たのに、と苦笑する。
「それに『隻眼の鬼主将』様が忙しい孟徳の代理を務めてくれてるわけじゃない? 光栄に思わないわけがないわ」
夏侯惇が憮然とした顔をする。
それがおかしくて袁紹はまた笑った。

「さて、そろそろいかなきゃね……」
袁紹が立ち上がる。
「寮まで送りますよ」
その夏侯惇の言葉に袁紹は首を横に振る。
「……ここも私にとって馴染み深い場所だからね。最後に1人でゆっくりと歩いて回りたいの」

明日からはもう、この場所に帰ってきてはいけないんだよ。

「そうですか……」
目線をふ、と下に向けた夏侯惇に袁紹の手が差し伸べられる。
その手には……
「袁紹先輩……?」
その手には今まで袁紹の髪に結ばれていたトレードマークとも言うべき黄色いヘアバンドが握られていた。
「これを孟徳に渡してくれないかな? 私はこの学園になにも残すことが出来なかったからこんなものしかないけど……ほんとにちっぽけなものだけど私からの礼だ、って」
「ありがとうございます。孟徳もきっと喜びます」
笑顔の袁紹に泣き笑いのような顔になって夏侯惇はヘアバンドを受け取った。
「じゃあ、そろそろいくね。見送りありがとう、夏侯惇」
夏侯惇は袁紹に頭を下げる。

袁紹は心地よい気分のまま式場をあとにする。
見上げれば3月の青い空。
その日差しに袁紹は眩しそうに目を細めながら笑った。

604 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:53
というわけで学三参加1週間後に書きたくて書きたくてでも書けなくて、これって恋?
いや、ただ時期ものだったから書けなかっただけです、というものがようやっと書けました。
あと書きたい人物は……王允、かなぁ?
王允書きたいかなぁ?

>ぐっこ様
本家HPのほうには伺ってなかったので状況を今日、初めて知りました。
心痛お察しします、と言葉で言うのは簡単ですが私にはなにもわからないんですよね。
ただぐっこ様やご家族の方が苦しんでおられる状況でなにもわからずのほほんとしている自分が悔しいです。

今はただご家族の一刻も早いご回復をお祈りいたします。

605 名前:海月 亮:2005/03/07(月) 19:21
>ぐっこ様
重い…重過ぎますよこれは。何というか、本当にシャレにならない事情の中で奮戦されて居られたのですね…。
何の事情も存じあげず、好き放題振舞う毎日を送る私めなど、この件について何か言うべき資格はなさそうですが…それでも、なにとぞご自愛の程を。
そして此方に戻って来られる日を心待ちにしております。

>北畠蒼陽様
ああ、卒業かッ! そういやもうそんなシーズンになってたんだなぁ…(しみじみ)
しかし、何というか北畠様の曹操と袁紹って、表面上はともかく心の何処かで繋がっている、っていう雰囲気が良いですね。


私めのSS製作もそろそろ佳境です…もうじき、持って来れるかもしれません。

606 名前:北畠蒼陽:2005/03/11(金) 16:34
-王允の亡霊-

「お久しぶりです、お姉さま〜♪……って、なんであんたがッ!?」
「……それはこっちのセリフ」
喫茶店に回るようにくるくると踊りながら駆け込んできたロングヘアーを無造作に後ろに流した少女をすでに席についていた肩のラインで髪をそろえた少女が紅茶を傾けながら冷静にツッコんだ。
「なんであんたがここにいるのよ、伯輿!」
「……多分、文舒と同じ理由。あなたの『お姉さま』に呼ばれただけ」
文舒……王昶。
曹丕にその才能を見出され、エン州校区総代に抜擢され功績を挙げた。また荊・予校区兵団長となり司馬懿に学園人事について意見を求められた際にも意見状を提出し事務員の賞罰の基準を定めさせた。
のちに学園都市運営会議議長までのぼりつめることになる。
伯輿……王基。
孤児だったが叔母の王翁に引き取られて育つ。安平棟長として順当に出世街道を歩むかに見えたが、一時期曹爽の副官だったことが災いし、その失脚時に免職となる。だがつい最近、ようやく復帰し荊州校区総代に就任した。
のちにリタイア後、学園都市運営会議議長を贈られる。
「いやだわ、お姉さまったら。伯輿の前で私たちのラヴラヴっぷりを見せ付けるつもりなのかしら」
「……見ててもいいけどね。どうせ慰めることになるのは私だし」
頬に手を当てて考え込むようにした王昶にやはり冷静に王基がツッコむ。
「まてぇ。誰が慰められることになるんだぁ!」
「……恋愛運占ってあげようか?」
「あんたの占い、当たらないからいいわ」
「……失敬な」
憮然とした顔で紅茶を傾ける王基。
しかしそれ以上薦めないということは占いが当たらない自覚だけはあるらしい。
しかしこの2人は一見、口ゲンカしているように見えるが実は仲がいい。まぁ、どうでもいいことだが。
「あ、ルイボスティーね……で、なんであんたがお姉さまに呼ばれたの?」
ウェイトレスに注文しながら王昶は王基に尋ねる。
「……さぁ?」
「ふ〜ん」
口数少ない王基に王昶は気を悪くした風もない。
長い付き合いで親友がどういうやつかは大体わかっている。

「待たせたわね」
しばらくして喫茶店に涼やかな声が響いた。
「お姉さま♪ ……と、公治? ……いやだわ、お姉さま。ギャラリーが多いほうが萌える性癖なのかしら」
喫茶店に入ってきたのが1人ではなかったことで混乱する王昶。
「お久しぶりです、王凌先輩。おかわりはありませんか」
丁重な王基の挨拶をにっこりと笑いながら王凌は優雅に会釈をした。

607 名前:北畠蒼陽:2005/03/11(金) 16:36
王凌……あだ名は彦雲。
かの王允の従妹。後に各地の棟長を務め、曹丕によってエン州校区総代に任命された。その後は揚、予校区の総代を歴任し、いずれも生徒から好評を得る。揚州校区兵団長に転じ、校区総代を引き継いだ孫礼とともに長湖部の全Nの攻勢を撃退した。
現在は生徒会の生徒会執行本部本部長として辣腕を振るっている。
……ちなみに王昶とプティスールの契りを交わしている。
また王基の才能を一番最初に見出したのも彼女であった。
王昶が公治と呼んだのは令狐愚。
王凌の姪であり、各地の棟長を勤めた令狐邵の妹。曹爽に才能を見出され現在はエン州校区総代を勤めている。
「で、どうしたんです、お姉さま?」
王昶の質問に王基も王凌のほうを見る。
「えぇ……その、そう。王基の復帰記念パーティってとこかな」
歯切れが悪そうに答える王凌。
令狐愚は一瞬なにかを言いたそうに口を開こうとしたが結局、なにも言わなかった。
「王基の! 復帰記念パーティ!」
くぎりながら王昶が叫ぶ。
「いいですね、伯輿パーティ! じゃ、あんたはここで公治と2人でパーティしてなさい! 私はお姉さまとどっかいってくるから!」
「……趣旨違うから、それ」
王昶のムチャクチャな言葉に王基は、しかしまんざら気分を悪くした風もなく言った。

そして4人は楽しいひと時を過ごした。
王凌は王昶と王基の掛け合いをずっと楽しそうに聞いていた。

王昶と王基が帰宅して……
喫茶店に王凌と令狐愚だけが残る。
「彦雲姉、あの2人をなんで誘わなかったの?」
恨めしそうに令狐愚が王凌に言った。
「彦雲姉、このまま曹芳サマが蒼天会長にいたんじゃ司馬姉妹の思うつぼだ、って。だから曹彪サマを担ぐんだ、って言ってたじゃん。あの2人なら彦雲姉が誘えばついてきてくれたのに……」
「そうね、そのとおり。あの2人ならついてきてくれたかもね……でもね、少なくとも司馬懿は悪政をしてるわけじゃない。子師姉さまのときは董卓という絶対悪のために反乱、と位置づけられたけど今は少なくともそうじゃない。私は子師姉さまの亡霊に衝き動かされてるだけ」
王凌は力なく微笑む。
「そんな無意味なクーデターにあの前途有望な2人を巻き込むことは出来ない……公治、あなたもそろそろ私から離れたほうがいいわ」
「もう肩までどっぷり浸かっちゃったんだ。いまさら離れてももう遅いよ」
王凌の言葉に令狐愚は冷めた紅茶を不味そうに飲み干しながら吐き捨てた。

608 名前:北畠蒼陽:2005/03/11(金) 16:43
わぁお、王允の話を書くつもりだったのにー!
まぁ、王昶の話しもいずれ書きたかったので、その前準備と割り切りました。
ちなみに王昶&王基は玉川様イラストの外見とちょっと違うような性格ですが私の脳内ではあの外見でこういう性格です。

令狐愚は……もうちょっとバカのような気がします。

>海月 亮様
そんなシーズンですよ、いつの間にか。
本当はこの2人に許攸とかも絡ませられればいいんでしょうけど3人友情ストーリーってなかなかずるずると長くなるばっかりで書きにくいですからねぇ。
精進精進。

609 名前:北畠蒼陽:2005/03/13(日) 21:10
-晋の系譜-

東晋ハイスクールの誕生……
それは落日の司馬蒼天会の意地、といっても過言ではないだろう。
生き残りのための共学化。
後漢市南部の荊、揚、廣、交をおさえるのみではあるが、しかしそれでもその誕生に多くの少女が期待を胸に抱いた。
そして東晋ハイスクール初代蒼天会長、司馬睿が就任したその日、そのブレーン、王導のもとを1人の少女が訪れた。

「な……!」
少女……いや、もう少女と呼べる年齢ではない。
毋丘倹、文欽の叛乱鎮圧で功績を挙げ、曹髦のクーデターに対し司馬昭の名を汚さぬよう自らすべての汚名を引き受け、また長湖部にとどめを刺す、その戦いの総指揮官であった女性。
すでに学園を卒業したが司馬蒼天会の基礎を築いた大元勲であり王導にとっては伝説、とも呼べるレベルにある女性。
……賈充。
その言葉に王導は驚愕で口をパクパクとさせた。
「あなたは司馬睿……元サマの親友なんでしょ? だったら知っておかなければいけないわね」
賈充は……幾多の修羅場を真っ向からねじ伏せたその女性は顔色一つ変えることなく王導に諭すように語り掛ける。
「もう一度言うわ……元サマは司馬家の血を引いていない」

……

「納得できねぇな」
つるつるに頭を剃りあげたスキンヘッドの少女が目の前の少女を睨みつけた。
後主将、牛金……もともとは曹仁指揮下の暴走族、『薔苦烈痛弾』の特攻隊だったが曹仁のチーム解散宣言により更正……だがスキンヘッドは変わらない……し、その後は司馬懿に属し馬岱や公孫淵と戦った。
今は自らが最前線に立つことはないとはいえ気の弱いものであればそれだけで失神するであろうほどの威圧を受け、それでもなおその目の前に立つ少女は不思議そうに小首をかしげた。
「敵対者を打ち倒して……なにが悪いの……?」
司馬懿……あだ名は仲達。
現蒼天会の最高権力者。
一時期、曹爽との政争に敗れたものの今、再び勢力を盛り返し……そして今まさしくその曹爽を捕らえる命令を牛金にくだしたところであった。

610 名前:北畠蒼陽:2005/03/13(日) 21:11
「確かに敵対者を叩き潰すのは反対しねぇ。だがそうなると曹仁の姉御から続くピンクパンサーズヘッドの……曹真の姉御の妹をトばす、ってことになる。アタシにゃあそんな義理を欠くようなまねはできねぇな」
力強く言い切る牛金に……
司馬懿は再び少し考えるようにして……そして執務机から乗り出すようにして牛金の胸元の蒼天章をつまんだ。
司馬懿が少し力を入れれば簡単に蒼天章は牛金の胸元からはずされることだろう。
だが牛金は司馬懿を睨みつけたまま微動だにしない。
「……義理のために蒼天章を失っても……いいというの?」
「蒼天会はあんたにのっとられるかもしれない。だがそんな滅びていくものに殉じるバカがいても悪くない」
司馬懿の言葉に、しかし一片の感情すらも浮かべることなく牛金は言い切った。
「……牛金には確か、妹がいたよね?」
「? あぁ、まだ初等部だけどな」
突然の司馬懿の話題転換に牛金は不審そうな顔を浮かべる。
「剛毅なる猛将、牛金に最大限の敬意を。あなたの妹は私が引き取るわ……私にトばされた牛家の人間となれば世間の風当たりはきついかもしれないけど私の従妹、司馬覲の妹ぐらいに書類を書き換えてしまえばいいわ」
「好きにしろ」
司馬懿の言葉に牛金は苦笑にも似た笑みを浮かべる。

牛金の蒼天章は失われた。

……

「……そ、そんなことって……」
「そんなこと。確かにバカな話よね」
絶句する王導に賈充は面白くもなさそうに応じた。
「でもあなたは元サマの親友として……またこの東晋ハイスクールの重鎮として知っておかなければならないの」
賈充の言葉に弱弱しそうに眉を寄せて王導は呟く。
「……このことが一般学生に知れたら……司馬一族の血を引いてない人間が蒼天会長になってることに不満を持ち、また『自分が』って思う生徒だって出てくるでしょう……」
「そうね。だからこのことが一般学生に知られたら他の誰でもない、私があなたを殺すわ」
賈充の明確な殺意。
それはあくまで自分への信頼である。
王導はそれを知って、なお呟かずにはいられなかった。
「……知らないほうが幸せなことって……あるんですね」

611 名前:北畠蒼陽:2005/03/13(日) 21:12
えと、その……
北魏正史の司馬睿伝で『司馬睿は牛金の子である』とか書かれてるんで想像を逞しくしてしまいました。
まぁ、ぶっちゃけ年齢的にありえない話ではあるんですけど、年齢の垣根が低いこの学三だったらやれるかのぁ〜、と。
とりあえず参考文献、というか早稲田大学三国志研究会による『三国志大研究』という本において以下のような仮説があるためそれに準じてみましたー。

以下、引用。

牛金は何らかの重大な原因により司馬仲達に粛清され、晋の人陳寿はその功績を記録することが許されなかった。《玄石図》は金徳の晋が土徳の魏に代わる権威付けとして作られたが、北魏に至り東晋を貶めるために牛金粛清事件ともからめて、司馬睿牛氏説が流された。――時期的に見て、仲達のクーデターと何らかの関連が想像できる。

以上!
連投ダイスキ(ぇー)北畠蒼陽でした!

612 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:20
-銀幡流儀-
そのいち 「夜襲、銀幡軍団」

「ええええ!? たった10人で曹操会長の本陣に〜!」
「ああ…やらせてくれ、部長」
濡須棟の棟長室、その机を蹴倒さんばかりに驚いて仰け反る孫権を目の前にして、甘寧は内心の怒りを最大限に抑えた表情で、そう告げた。
「悪いが俺は、あんな屈辱を喰らって、指咥えて済ませられるほど大人じゃねぇ。張遼がかましてくれた上等の礼をくれてやりたいんだよ…ッ!」
「で…でもでもっ、こないだ公績さんだって酷い目にあってきたばかり…」
「な〜に、なにも奴等を潰しにいくんじゃねぇ、からかってくるだけだ。もし一人でも飛ばされるようなことがあれば、好きなように処断してくれてかまわねぇ」
孫権は少し考えた。
この孫権という少女、普段は温和で大人しい少女なのだが、その根っこのほうはかなりの負けず嫌いだ。
本音を言うと先の合肥における学園無双において、長湖運動部の精鋭500が、合肥を護る張遼率いる僅か50足らずのMTB隊に蹴散らされ、自分も壊された橋の上をママチャリで跳んで危難を脱する羽目に陥ったことをとにかく悔しがっていたのだ。
それに、甘寧の言葉は一見すると無謀なものに聞こえるが、この甘寧という少女もまた、何の考えもなく無茶をやるような人間ではないことを、孫権は知っていた。
「…勝算は、あるの?」
「当っ然、必ず連中の鼻をあかしてやるさ」
「じゃあ、御願いしようかな。メンバーは、興覇さんの好きに決めていいよ」
「流石は部長、話がわかるぜ」
甘寧は不敵な笑みで応えると、背に飾った羽飾りを翻し、部屋を後にした。

「お〜い承淵、興覇さんが呼んでるぜ〜。あたし先行ってるからな〜」
「あ、は〜い、すぐ行きま〜すっ!」
髪の色を派手な金髪に染めたちょっと柄の悪い先輩に呼ばれ、承淵と呼ばれた狐色髪の少女はストレッチを済ませ、ぱたぱたと駆けだした。言葉使いは真面目そうだが、その明るい髪の色に木刀なんてモノを持っていたら、何処からどう見てもヤンキーの妹分にしか見えない。
いや、実際この少女−丁奉は、現時点では長湖部最凶の問題児・甘寧の妹分である。髪の色云々ではなく、この底抜けに人当たりのいい性格で、問題児集団である"銀幡"の先輩達から何気に可愛がられ、何の違和感もなく溶け込んでいる感がある。
やがて校庭の一角、甘寧の羽飾りを見つけた丁奉。よく見れば、"銀幡"軍団の何人かと軽くチューハイをあおってるらしい。先刻彼女を呼びつけた少女も、その中にいた。
「先輩っ、呼びました?」
「おぅ承淵、待ってたぜぇ。まぁ、お前も一杯やっとけや。あ、お前はまだ酒駄目だからこっちだけど」
そう言って甘寧はジュースの缶を投げて寄越す。見回せば、学区周辺の名店から取り寄せたオードブルが円陣の中を埋め尽くしている。
「え、いただいていいんですか?」
「もち、部長のおごりだ。いっちょパーッとやってくれや」
「わぁ…!」
円座の中に混じって、丁奉も並べられたご馳走に舌鼓を打った。
その後、何が起こるのか夢想だにもせずに…。

日も暮れ落ち、学園無双終了の規定時間が近づき、宴もたけなわになった頃、甘寧はおもむろにこう告げた。
「さぁ、景気良くやれよ! これからこの10人で、曹操の本陣に上等くれてくるんだからな!」
「!!」
その一言に、何人かが酒を吹いた。丁奉も鶏のから揚げを喉に詰まらせたらしく、目を白黒させている。その背中を叩いてやりながら、少女の一人が問い返した。
「ちょ…マジですかリーダー?」
「冗談でしょう? いくらなんでも10人ってアンタ」
「冗談でンなコト言うか。まぁ、酔狂ではあるだろうが」
何を今更、といった感じで返す甘寧に、他の9人は目を見合わせた。はっきり言って無茶もいいところである。これでは、無駄に飛ばされに行くだけじゃないか…。
そんな部下達の感情を読み取った甘寧、傍らに置いた愛用の大木刀"覇海"を掴んで立ち上がり、それを少女達に突きつけて、怒色を露に言い放った。
「てめぇら、甘えたこと言ってんじゃねぇ! 大体お前等悔しくないのか!? 張遼の野郎に我が物顔でうち等の目の前に上等くれられてよ! 俺等"銀幡"のモットーは何だ!」
その言葉に少女達は目の色を変えた。
「…そうよ、リーダーの言う通りだわ」
「あんな上等かまされて、泣き寝入りはアタシ等の流儀じゃないね…!」
「目には目を、だな。よ〜し、一丁やってやろうじゃねぇか」
「それでこそ"銀幡"特隊だぜ…ん、承淵どうした?」
満足げに少女達を見回す甘寧、傍らに座らせていた丁奉がなにやら不安と期待に満ちた目でこちらを見ているのに気がついた。
「あたしも、あたしも連れてってくれるんですか!?」
「何言ってやがる、その為に呼んだんだぜ?」
その言葉に満面の笑みをこぼす妹分の頭を、甘寧は乱雑に撫でてやった。

613 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:21
「てめぇら、準備はいいな?」
「オッケー、何時でも往けるぜ、リーダー」
目印に羽飾りをつけた鉢巻を身に付けた、"銀幡"軍団は合肥棟入り口正面の草陰に潜んでいる。
「よし…先ずお前、ブレーカーの位置はわかっているな?」
「もちろん、任せといて下さいよ!」
「おう…行けっ!」
甘寧の指示を受け、少女は物影から物影へ駆けていく。
「よぉしお前ら、電源が落ちたら…解ってるな?」
少女達が頷く。
「…あと、承淵」
「! あ、はいっ、なんですか先輩っ」
唐突に名を呼ばれ、ちょっと面食らった丁奉に、甘寧はなにやら耳打ちする。その内容に、少女は目を丸くした。
「えええ! 本当にやるんですか!?」
「たりめーだ、戦利品も必要だからな。それを奪われたとあっちゃ、奴等の面目丸つぶれだぜ? 奴等の目は俺たちでひきつけるから安心しな」
暗がりだが、他の少女達も「任せろ」と言わんばかりに親指を立てているのが解る。丁奉も、俄然やる気になった。
「…解りました、必ず取って来ます!」
「よし、いい返事だぜ…ん!」
その瞬間、合肥棟は暗闇に包まれ、少女達の悲鳴が上がる。
「行くぜ野郎共、目に物みせてやれッ!」
甘寧以下、"銀幡"選りすぐりの猛者たちは、怒号とともに合肥棟へ突っ込んでいった。

「敵だ! 敵が侵入ーッ!」
瞬く間に合肥棟内は大混乱に陥った。日もどっぷり暮れた午後七時半、終了間際のロスタイムを狙っての奇襲はまんまと図にあたり、合肥棟守備軍は次々に同士討ちを開始する。
執務室の曹操も大慌てだった。
「もうっ、何だよいったい!? いきなり停電ってどーゆーことだよっ!」
「…多分…ブレーカーを落とされてる…」
「んなこたぁわかってるっつーの!」
傍らに立っていた司馬懿の呟きに、鋭くツッコミをいれる曹操。気にした風もなく、何かの気配を敏感に感じ取った司馬懿はぼそっと呟く。
「会長…誰か、来る」
「無視すんなー…って、えっ?」
曹操も気付いた。執務室の前に、人の気配を感じる。
「誰? そこに居るのッ!」
「…いよぅ会長サン、気分はどうだい?」
「!」
扉の前に居たのは言うまでもなく甘寧。曹操は怒気を露に、かつ静かな語調で言う。
「なめた真似してくれるじゃん…どうせ執務室(このなか)が手薄だってコト、知っててやってるんでしょ?」
「さぁ…どうだかねぇ?」
お互い暗闇の中で、しかも扉越しだったが、お互いどんな顔をしているのかはよく解っていた。
そのまま、どの位経っただろうか。その雰囲気に場違いなくらいの軽い足音と、明るい声が響く。
「せんぱ〜い、例のモノ、手に入りましたよ〜! あと、残ってるのあたし達だけです!」
「おしッ、良くやった! じゃあな会長サン、俺たちゃこれでずらからせてもらうぜ!」
「…! ちょっと、待ちなさいよぅ!」
慌てて執務室を飛び出す曹操。開け放たれた窓から階下を覗けば、其処には既に走り去る少女達の姿しか見えない。良く見ると、一人の少女が何かを手に持っている。街頭の下、その正体が見えると曹操は絶句した。
「…んな!」
「…蒼天生徒会の生徒会旗…」
その時、電源が復旧する。時計は既に八時を指していた…。

甘寧が10名で奇襲を敢行した翌日。
「ほい、コイツは戦利品ですぜ。承淵!」
「はいっ、こちらですっ!」
「わぁ…!」
合肥棟から奪われてきた生徒会旗を手渡され、満面の笑みを浮かべる孫権。それを見ると居並ぶ長湖部幹部、主将達も感嘆の声を挙げた。ただ一人、隅っこで面白くない顔をしている凌統以外はだが。
「すごいっ、すごいよ興覇さん!」
「こういうことやらせると、やっぱアンタは一流だねぇ…」
この間の溜飲はすっかり下がって上機嫌の孫権、その隣りにいた長湖部実働部隊総括の呂蒙も、呆れ半分にそう言った。
「しかし10人、誰一人として飛ばさずに戻ってくるなんてね」
「本当だよ〜、承淵まで連れ出してるとは思わなかったけど…」
「あったりまえですよ。暗がりを利用して押しかけるなら、少人数のほうが却って安全なんですよ。それにコイツにも、どんどん経験を積ませてやらなきゃいけねぇし」
甘寧はそう言って、傍らの少女の背を軽く叩いた。
「まぁ、そういう事解ってそうだったから止めなかったんだけどね。とはいえ、お見事だわ」
「いやぁ…」
呂蒙の言葉に、普段は不遜な甘寧も少し照れたようだった。
だが、沸き立つ長湖部幹部・主将陣の片隅、それを眺めながら凌統が悔しそうに歯軋りをしていたのを、甘寧と孫権は見逃さなかった。
(続く)

614 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:21
-銀幡流儀-
そのに 「混沌の中の純潔」

「…くっ!」
執務室から離れて一人、凌統は壁に拳を打ち付けた。
惨めだった。
蒼天生徒会が誇る"鬼姫"張遼が、その威名だけで戦場を引っ掻き回していたあの日。凌統はすべての部下を戦闘で失い、蒼天生徒会五主将の一角・楽進を破るもその階級章を手にしたわけでもない。
残ったのは、全治一ヶ月の大怪我で戦える状態にない自分自身と…尊敬する姉から課外活動の舞台を奪い去った怨敵・甘寧の功績に対する見苦しいまでの嫉妬心。
「ちくしょう…ちくしょぉぉッ!」
獣の如き雄叫び…いや、慟哭の叫び声とともに繰り出される拳が、壁に自身の血を染め付けていく。
それでも、彼女はその行為を止めようとしない。拳は既に血にまみれ、一振りするごとに鮮血が舞う。
不意に、その手が掴まれた。
「………止めとけ」
「…ッ!」
振り向くと、其処には甘寧が居た。
振り解こうとするが、怪我の為に身体に巧く力が入らない。もっとも、万全の状態でも凌統が甘寧の力でねじ伏せられた場合抜け出すことはほぼ不可能だった。
「離せッ!」
もう片方の拳で甘寧の顔を殴りつけようとするが、それもあっさり止められてしまう。
そんな凌統を見つめる甘寧の眼は、何時ものそれではなく…酷く、哀しい眼だった。
その眼が、まるで自分を哀れんでいるように思えた。
その眼差しに、心の中を満たした悔しさと嫉妬が、暴れ狂うのがわかった。
「ちくしょう…さぞかし気分がいいだろうな! あたしはこの有様で、貴様は立派に面目を躍如して見せた! どうせこの負け犬みたいなあたしを嘲笑いに来たんだろうが!」
甘寧は無言だ。普段なら嫌味のひとつでも返してきそうな彼女がそんな態度をみせているのが、激昂した凌統をさらに苛立たせていた。
「何とか云えよッ!」
「なぁ凌…いや、公績」
不意に、自分のことを字で呼ばれ、凌統は驚いた。
本名でなく、字で呼ぶのは一種の礼儀である。自分のことを煙たがっていると思っていた甘寧が、自分に対して礼儀を払ってくれたことが、凌統には意外なことだった。
「お前が俺の行動に対して何思おうが勝手だ。確かに何時も何時もお前が突っかかってくるのは面倒じゃあったが…本音、嬉しくもあった」
「…え?」
「知っての通り、俺は不良上がりのはみ出し者だ。チームの頃からの仲間ならともかく、どいつもこいつも俺のことを怖がりこそすれ、親しく付き合ってくれるヤツなんて殆ど居なかったし、俺が不良上がりってことで馬鹿にするヤツだっていた」
甘寧の眼差しは、変わらない。凌統も、こんな甘寧を見るのは初めてのことだ。
「俺も俺で、そうやって意味なく怖がったり馬鹿にしたりするヤツ…お前のことだってうぜぇと思ってたのは確かだよ。だがな、思い返してみれば、それでも俺をかまってくれたのは子明さんと子敬と承淵、あとはお前くらいだって、気づいたんだ」
そう言って、寂しそうに微笑んでみせる甘寧。何時しか、凌統の心を満たしていたはずの負の感情は消え失せ、その一言一言に聞き入っていた。
「公績…お前が俺のことを嫌いだというなら、それでも構わない。でも、お前にもしものことがあって、俺に突っかかってこれなくなったら…やっぱり寂しいんだ」
甘寧は掴んでいた凌統の両腕を解放する。凌統は、自身の血で濡れた拳を、所在無さ気に下ろした。
「…言いたい事は以上だ。その怪我、ちゃんと診て貰えよ。じゃな」
それだけ言うと、甘寧は羽飾りを翻し、その場を立ち去っていった。
凌統には、その背中が、何時もよりずっと弱々しいものに見えていた。
「…公績さん」
はっとして振り返ると、そこには孫権の姿があった。どうやら、孫権も凌統の様子にただならぬものを感じ取って後を追ってきたようだった。
「公績さんの気持ちも、よく解るよ…でもね、興覇さんの気持ちも、すこし考えてあげて…」
泣きそうな顔でそう告げる孫権に、凌統は俯いたまま、無言でその場を立ち去っていった。

あの後、凌統は部屋の中で、今日あったことをずっと思い返していた。
姉の仇。不倶戴天の敵。打ち倒すべき相手。今日、自暴自棄になっていた自分を止めてくれた甘寧は、それまで自分が抱いていたどんな甘寧のイメージにも当てはまらないものだった。
(あいつは…あたしのことを純粋に心配してくれていた)
一番遠いところに居たと思っていた存在が、実は一番近いところに居たことを知って、正直、凌統は戸惑っていた。包帯の巻かれた両拳を見つめると、甘寧と孫権の言葉が、頭の中で繰り返される。
-お前にもしものことがあって、俺に突っかかってこれなくなったら…やっぱり寂しいんだ-
-興覇さんの気持ちも、少し考えてあげて-
何時もなら、顔を思い浮かべるたびに不快感を覚えるというのに。
(あいつの力なら、何時でもあたし一人潰すくらいわけないのに…あいつが、あんなふうに考えてたなんて…なのに、あたしは…!)
初めて相対した舞台は、去年の年明けにあった長湖部体験入部。その大舞台で、"銀幡"の演舞に踊りこんだ自分が、衆人環視の前で敵対宣言したのが初め。それ以来、凌統は甘寧を敵視し、逆もまた然りだった…はずだった。
何時から、甘寧の中でそれが違ってきたんだろう。
自分は、変わることがなかったというのに…
(違う…あたしは、最初はそんなこと、思ってなかった)
(あたしは…彼女を…甘興覇を超えようと、そう思ったんじゃないか…)
凌統は、そんな自分の愚かしさに、ただ涙を流すのだった。

翌日。
「こぉの恥知らずの外道どもがぁぁ! あたし達の怒り、思い知れぇぇ!」
先鋒軍の先頭に、普段はバットを持つ手で竹刀をぶん回しながら、長湖部の軍勢に突っ込んでいくのは満寵。何時ものぽやんとした温和そのものの表情は何処にもなく、こめかみに青筋すら浮かばせ、憤怒を露に次々と長湖部員を薙ぎ払っていく。
「旗なんて飾りに過ぎねぇけどなぁぁ! ヤツらの奪ったのはあたし達の魂だぁぁ!」
「このあたしがついていながら! このザマは何事だぁぁ!」
その左翼から曹仁、右翼から夏候惇も怒号とともに突撃をかける。
蒼天会旗を奪われたことは、やはりというか、蒼天会の主将たちにも大きな衝撃を与えていた。もっとも彼女達の怒りは、「会旗を奪われた」と言うことではなく、むしろ「会旗の近くにいた曹操を危険に晒してしまった」ことによるものである。
更に言えば、曹操に危害らしい危害を与えず、自分達を小馬鹿にするかのような、そんな行為に対する怒りでもあった。
「あ〜むっかつく〜! 大体ブレーカー周りを無防備にさらしすぎだっつーの!」
蒼天会本陣・合肥棟の屋上で戦況を眺める曹操も、悔しそうに地団駄を踏んだ。後ろに侍した劉曄がぼんやりした表情で呟く。
「…今回の件が帰宅部連合へ知られれば、彼女達も何処かの局面で使ってくるかもしれません」
「解ってるわよそんなことっ。ねぇ子揚、何か対策とかできない?」
「前々から申し上げていると思いますが…やはり本来の電源とは別に存在する、各棟の予備電源の復旧作業を早めるべきでしょう」
「そ〜ね〜…」
曹操はふと、怪訝そうな表情で劉曄のほうを振り向いた。
「…ちょっと待て…何時言ったんだよ、そんなコト? てかそんなのあったの?」
「…………ごめんなさい、知ってると思ってました」
ぼんやりした顔のまま、劉曄は悪びれることなくさらっと言った。
実は蒼天学園の各学区には、棟ごとに緊急時の予備電源が存在するのだが…黄巾党蜂起のドサクサで学園全体にある八割以上の棟で予備電源が壊され、二年以上経った現在もそのままである。メイン電源の安全性が良過ぎる為にほとんど支障は出ず、それゆえに直されもせず放っておかれたのだ。
そんな説明を受けた曹操は、
「そんなの初めて聞いたよ…つーか何で誰もそんなこと言わなかったのよぅ?」
「さぁ…」
同じ表情のまま小首を傾げる劉曄に、曹操も呆れ顔になる。
「まぁいいや、知ったからにはどうにかしなきゃなんないわね。次の生徒会会議で優先事項として審議にかけないと…とりあえず勢力境界線にある合肥や襄陽、長安あたりのを速攻で直しておきたいわね〜」
なにやら懐からメモ帳を取り出し、メモをとりだした曹操の姿を見ながら、劉曄は相も変わらずぼんやりと突っ立っていた。

615 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:22
曹操と劉曄がなにやらやり取りしていた、同じ頃。
「ええ!? ちゃんと探したの!?」
「すいませんッ! あたし達がちょっと目を離した隙に…」
狼狽した表情で濡須棟執務室から飛び出した孫権。その後ろ、数人の少女達が後を追って出てくる。
「公績さん、絶対安静の大怪我なんだよ? …それに、武器だって壊れちゃったんでしょ?」
「え、ええ…確かに凌統先輩愛用の"波涛"は前の戦闘で壊れましたが…」
「…じ、実は凌操先輩の"怒涛"を持ち出したみたいで…」
「嘘ッ!?」
少女の言葉に、孫権は狼狽の表情を強める。
"波涛"とは、凌統の愛用していた両節棍(ヌンチャク)の名前で、先に凌統が楽進と戦った際、最後の一撃を繰り出した時に破壊されたモノだ。"怒涛"は凌統の姉・凌操が愛用していたもので、"波涛"よりも重く、棍の部分も長めなので、取りまわしが難しい。
凌統は、それゆえこれまでに参加した戦闘で一度も"怒涛"を使ったことがなかったのだ。
「無茶だよ! 普段だって使わなかったものなのに…」
「部長!」
正面から駆けて来たのは甘寧と、数人の"銀幡"の少女達だった。
「興覇さん! 公績さんが…!」
「解ってる、承淵のヤツが一度止めたらしいんだが…今あいつに後を追わせてる。俺もヤツを連れ戻しに出るが…」
どうやら甘寧も甘寧で、丁奉らに凌統の様子を見張らせていた様である。待機命令の出ている甘寧のことなので、恐らくここへは出撃許可を取りにきたというところであろう。
「御願い! 早く、早く連れ戻して!」
「承知ッ!」
言うが早いか、甘寧は窓を開け放つと、そこから一気に一階へと飛び降りた。

「はぁ…はぁ…」
戦場の一角、小さな林の中に、彼女はいた。
年季の入った大振りの両節棍をしっかりと掴んだ手の包帯は、紅い染みをつけている。
「やっぱり…まだあたしには早かった…かな?」
肩で息をしながら、自嘲気味に呟く。
顔は蒼白で、体中の包帯や湿布の存在が痛々しい。この満身創痍の状態のまま、凌統はこっそりと寮部屋を抜け出し、合肥と濡須の間にある戦場へと舞い戻ってきていた。
壊れた"波涛"の代わりに持ち出してきた"怒涛"の重さと長さは、傷ついた彼女の身体に予想以上の負担を強いていた。数人を薙ぎ払うだけで、かえって自分の体力を大きく奪われていったのだ。
「公績先輩っ!」
林の中に人影が飛び込んできて、凌統は弱った身体を叱咤して身構える。それが丁奉であることに気づくと、凌統は再び背後の木にもたれかかった。
「承淵か…」
「先輩、御願いですから戻ってくださいっ! 皆さん、先輩のこと心配してるんですよ! 部長だって…それに…興覇先輩だって!」
凌統の服に取りすがって、丁奉はなおも叫ぶ。
「先輩…先輩は御存知ないかもしれませんけど…興覇先輩、ずっと公績先輩のこと心配していて…今回、あえて出撃を辞退して待機しているのだって、公績先輩が戦えないって事を知ってたから…公績先輩と一緒に戦えないのが嫌だ、って言って…」
「解ってる…解ってるんだ、そんなコトは」
「…え」
丁奉はきょとんとした表情で、凌統を見た。
「つまらないことに固執して…あの人を…興覇のことを解ろうともしなかったのは、あたしのほうだったんだ…あたしは興覇を越えたい…そのために、この程度の怪我で寝てるワケにいかない…」
よろめきながら、凌統は再び立ち上がった。その表情からは、鬼気さえ漂い始めていた。
「…あたしの命に代えても…張遼を飛ばしてみせる!」
「いい心がけだ」
ふたりが振り向くと、そこにはひとりの少女が立っていた。
口元にはわずかに笑みがあるが、その瞳はあくまで冷たい。冷たいながらも、その瞳の奥には確かに憤怒の炎が燃え盛っているように思えた。
その正体に気づいた瞬間、丁奉の表情が恐怖に凍る。
(張遼さん! そんな…こんなところで…!)
ふたりはまるで金縛りにあったかのように、微動だにせずその少女−張遼を見つめていた。
「ここで討つのは惜しい気がするが、文謙を倒すほどの力量を持った貴様をただで帰すつもりはない…手負いといえど加減は無いぞ!」
突きつけた竹刀を八相に構えると、張遼の周囲の木々が、僅かに揺れて音を立てた。まるで、その鬼気から逃れるかのように。
「…願ってもない相手だ」
「先輩!?」
震える足を、よろめく身体になんとか気合を入れなおして、凌統は構えをとった。
「承淵…あんたは逃げろ。張遼の狙いもあたしだ。あんたには関係ない」
そんな凌統に触発されたのか、丁奉も持っていた木刀を正眼に構える。恐怖のためか顔は強張っているが、それでも何とか、腹を括って踏ん張ってみせた…そんな感じだ。
「先輩を、置いてはいけません…それが、あたしの役目ですから」
「バカっ! そんなことはどうだって…」
「それに、ふたりがかりでも…あたしも、挑戦してみたい」
「承淵…あんた」
「いい根性だ…張文遠、参る!」
一瞬笑みを浮かべた張遼の形相は、次の瞬間、鬼のそれに変わった。

「くそっ…あいつら、いったい何処まで行きやがったんだよ…!」
甘寧は数名の“銀幡”メンバーとともに戦場を駆けていた。その表情には焦りの色も見える。
「多分ですけど、あいつ蒼天会の本陣にでも向かってるかもしれませんよ? あいつがリーダーに対抗意識を燃やしてること考えれば…」
「ちっ…他の奴等ならいざ知らず、公績なら十分有り得る! だが、承淵のヤツが何処で食いついたかさえ解れば…」
そして、数分前まで凌統たちがいたあたりに辿り着く。
そこには凄まじい戦闘の跡があった。細い木は悉く折れ、太い木の幹にも何かで抉り取られたような痕が生々しく残っている。折れた木の様子から、そうたいした時間が経っていない事も読み取れた。
「な、何これ…!」
「いったい…ここで何が…」
その時、木々の折れる音が聞こえる。その中にはかすかに…。
「居た! あいつ等だ!」
「って、ちょっと待って、まさか戦ってるの…」
その相手を類推し、少女達の顔から笑みが消えた。
「は…ははは…マジか、オイ」
甘寧も流石に苦笑するしかない。手負いの凌統と、素質はあってもまだまだ発展途上の丁奉の二人が、どのくらいの時間かは知らないが、あの張遼を相手に戦っているらしいことなど、考えもつかないことだった。
「…どうします? 向こうもひとりだと思うんですが…」
「どうしますもこうしますもねぇだろ…俺が張遼を食い止めるから、おまえ等は公績と承淵を抱えて逃げろ、いいな?」
少女達は一度、互いの顔を見合わせて、頷いた。
傍らの少女から愛用の大木刀“覇海”を受け取り、一振りする甘寧。
「いくぞおまえ等! 目的履き違えるなよ!」
「応ッ!」
甘寧が林の奥へと飛び込むとともに、少女達も次々と藪の中へ突っ込んでいった。

何度目だろうか。
張遼の鋭い一撃が、一瞬前まで自分の頭があったあたりを掠め、大木の幹に痕をつける。エモノが竹刀であるにもかかわらず、「学園最強剣士」の名をほしいままにする張遼が繰り出す一撃は、まるで鋼鉄の棒で殴りつけたような衝撃を生むものらしい。
ふたりは、その恐怖の一撃をカンと偶然だけでかわしていた。林という地の利が無ければ、恐らく一番最初に放ってきた一撃だけでふたりは飛ばされていたかもしれない。凌統も丁奉も、相手の力量と自分達の力量の差を読み違えていた愚を悟り、何時しか逃げることに専念していた。
走っているうち、不意に目の前が開けた。合肥棟の裏山、その反対側であるのだが、凌統たちにはそんなコトは解るはずも無い。しかし、自分達が絶体絶命の窮地に追い込まれたことは理解できた。
「…鬼ごっこは終わりだ。ここなら、遮るものは何も無いぞ」
振り返った先に姿をあらわした張遼は、まったく息を切らしている様子は無い。満身創痍の凌統は言わずもがな、その凌統を庇いつつ逃げてきた丁奉も完全に息が上がっている。
「覚悟しろ…貴様等の健闘に免じて、痛いと思う前に意識を飛ばしてやる」
踏み込みとともに剣閃が飛んでくるのが見えた。
ふたりは無意識のうちに、互いを庇いあうようにして目を閉じた。
(続く)

616 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:23
-銀幡流儀-
そのさん 「果てしない青空に誓う」

まるで雷鳴のような音がした。
しかし、痛みのようなものは何処にもない。目を開けたふたりが見たのは、鮮やかな一対の羽飾り。
「…間一髪、だな」
「興覇先輩!」
甘寧は振り向いてふたりの無事な姿を確認し、口元を緩めた。次の瞬間、猛獣のような咆哮とともに、力任せに張遼の身体を後方へ突き飛ばした。
「…ぐ…!」
不意を突かれた張遼は大きく間合いを離されたが、それでも難なく踏ん張ってみせていた。
間髪いれず、茂みの中から飛び出してきた"銀幡"の少女達が、凌統と丁奉のふたりを護るように集まってきた。
「よし、そのまま行けッ!」
「おのれッ…!」
甘寧の合図とともに少女達が凌統と丁奉を抱えて逃げ出すのと、体制を立て直した張遼が再び踏み込んできたのはほぼ同時だった。
甘寧はその前に立ち塞がるように滑り込むと、再び覇海を縦に構えてその剣を受け止めた。
「そうはいかねぇぜ大将、ここからは俺様が相手だ」
「ふ…そう言えば貴様にも、蒼天会旗奪取の屈辱の件で、叩きのめす理由があったな…甘寧!」
「報恩と報復、それが俺達"銀幡"のモットーだ…てめぇがかましてくれた上等の礼、気にいったか?」
「ほざいてくれる…」
膂力は互角。少女同士の立ち合いとは思えない鍔迫り合いは、張遼が不意に力を緩めて後方へ飛びのいたことで均衡が崩れた。
「…!?」
勢い余ってバランスを失った甘寧。
その隙を逃すことなく、張遼は踏み込みと同時に袈裟懸けの一撃を繰り出してきた。
茂みの中でその様子を見た丁奉が堪らずに叫んだ。
「先輩!」
「ちっ…甘ぇんだよ!」
驚異的なバランス感覚で踏み止まった甘寧は辛うじてその一撃を払い返した。
しかし張遼は怯むことなく、その刹那の間に剣を柳生天に構え直す。
(!)
甘寧の背筋に一瞬、悪寒が走った。
先に放った"仏捨刀"はオトリ。本命は、この構えから繰り出される"逆風の太刀"。
「これで、終わりだッ!」
火の点くような速度と勢いで、逆風に切り上げられた竹刀の一撃が、甘寧のがら空きになった左脇腹へと吸い込まれていった。

かしゃん、と音をたてて、グラスが床で砕けた。
「わ! 仲謀様っ、大丈夫ですか!?」
「あ…う、ううん」
谷利が慌てて箒と塵取りを持ってきて、破片を手際よく片付ける。
「ダメですよぼーっとして…仲謀様、どうかなさったんですか? 顔色、良くないです」
孫権のただならぬ様子に気づいた谷利が、心配そうに主の顔を覗き込む。
「あ、えと…大丈夫だよ…ごめんね阿利」
「…そうです、大丈夫ですよ…興覇さんだったら、きっと巧くやってくださいますよ」
あわてて取り繕ってみせる孫権の心中を悟ったのか、谷利はそう言って元気付けようとする。
「うん…」
しかし、孫権の胸騒ぎは収まる気配を見せようとしない。
窓の外を眺める孫権の表情は、今にも泣き出しそうなくらい、不安に満ちていた。

ふたりは技の極まった体制で、ピクリとも動かない。
少女達も茂みの中で立ち止まり、その光景に釘付けにされている。
「…捕まえたぜ」
「な…!」
見れば、甘寧は技を極められた状態で、脇腹と肘で竹刀を受け止めている。
甘寧は技の極まる一瞬、僅かに前へ踏み込んで、鍔元を受けたことでダメージを減殺したのだ。
「今度は、こっちの番だ…喰らえッ!」
甘寧は張遼が見せた隙を逃さず、その肩口を掴んで思いっきり頭突きを食らわせた。
「ぐあ…!」
直接、脳へダイレクトに伝わった強烈な衝撃に、さしもの張遼も大きく体制を崩した。
軽い脳震盪を起こした彼女の膝が地に付く。
「よし、今のうちにずらかるぞ!」
「くっ…待てッ!」
「待てと言われて待つバカはいねぇよ! あばよ、張遼!」
甘寧が茂みに飛び込み、少女達とともに逃げ去るのを、張遼はただ眺めていることしか出来なかった。

それから数刻、凌統と丁奉の救出に成功した甘寧ら"銀幡"軍団は、引き上げにかかっていた周泰の軍団と合流し、誰一人欠けることなく濡須棟へ帰還してきた。その際、甘寧は帰路に立ちふさがった蒼天会の一軍を散々なまでに討ち散らし、その将と思しき少女を負傷させるという活躍を見せた。
その討ち漏らした少女が何者だったかなどと言うことは、甘寧以下誰も知ることはなかった。ただこの日の一戦で、蒼天会でも夙に名の知られた良将・李典が帰還中の長湖部軍と遭遇し、それとの戦闘によって受けた怪我が元で引退を余儀なくされたという記録が残っている。
この二つの記録に整合性があるのか否か、はっきりはしていない…何しろ、その記録もいわゆる風説の類であり、その根拠として信用できる史料がないのだから。

617 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:23
「公績さんッ!」
抱えられていた凌統の姿を認めると、棟の昇降口で待っていたらしい孫権が泣き顔で駆け寄り、その傷ついた身体を抱き寄せた。
「ばかばかっ! なんでこんな無茶なことしたんだよっ! どれだけ、どれだけ心配したと思ってるんだよっ…!」
「…すいません、部長」
その様子を見ていた甘寧が呟いた。
「部長…差し出がましいことかも知れねぇけど、公績の気持ちも酌んでやってください。コイツはコイツなりに、必死に考えた末の事だと思いますから」
そして、しゃがみこんで凌統の肩を叩く。
「無茶をやらかすのは結構だが、せめて怪我してるときくらいは大人しくしてな。お前が万全なら、張遼のタコに負ける要素なんて何処にもねぇんだからな?」
「…うん。た…助けてくれて、ありがと…先輩」
恥ずかしそうに俯いて、呟くように言う凌統に、甘寧は苦笑した。
「ああ…でも先輩は止せ、そんなの承淵だけでたくさんだ」
「…わかったよ、興覇」
そうやって笑いあう二人には、もうこれまでのようなわだかまりはすっかり消え去っていた。
だが、異変が起きたのはそのときだった。
「っと、これで…俺様の……仕事、は…」
立ち上がろうとした甘寧の体が、突如力を失ったようによろめく。
動かない世界の中で、まるでスローモーションを見ているかのように、その体が大地に倒れた。
「興覇さんッ!?」
「先輩!?」
一瞬置いて、孫権と丁奉の悲鳴が上がる。
慌てて身体を抱き起こす少女達。
「ちょっと、リーダー! しっかりしてくださいっ!」
「先輩っ! 先輩っ!」
「ちぃっ、救急車だッ…誰か救急車呼んで来いッ!」
その騒ぎに、帰還してきた呂蒙、潘璋、徐盛も慌てて駆け寄ってきた。
「そんな……」
その光景を眺めていた凌統は、呆然と呟いた。

それから一週間の時が過ぎた。
合肥・濡須の攻防戦は、秋口からの風邪の流行のせいもあり、合肥棟と濡須棟の中間点を長湖部・蒼天生徒会双方の勢力境界線とすることで和議が成立し、束の間の平和が訪れた。
凌統の怪我も、彼女の強い自己治癒力のせいもあってかほぼ平癒し、日常生活には殆ど支障がなくなっていた。
しかし、甘寧の容態は予想以上に深刻で、未だに揚州学区の総合病院の集中治療室にいるらしい。
総大将不在という事もあり、丁奉を含めた"銀幡"軍団は臨時に潘璋預かりになった。
濡須棟の屋上で、孫権と凌統は互いに顔を合わせることなく、戦場となった大地を見下ろしていた。
「…肋骨を2本、折ってたんだって。内臓も少し傷つけてるって…全治六ヶ月って、お医者様は言ってた」
「そうですか…」
凌統には、その原因はわかっていた。
(もし、あれを受けたのがあたしなら…今頃は土の下か)
凌統は、甘寧が張遼の逆風の太刀を受けたシーンを思い返していた。
やはり、いくら技の威力を減殺したとはいえ、受けた場所が悪かったのだ。
それでも、やはり甘寧だったからこそ、こうして生き延びることが出来たのだろう。
「あたしは…あいつが、興覇がいなければ、今此処に居られなかったんですね」
「え?」
自嘲気味に呟く凌統に、初めて孫権は振り返った。
「もしかしたら、あたしがそれと気づいていないだけで…もっと何回も、興覇に助けられていたような、そんな気がします」
「…うん」
「あたしがもっと素直に彼女のことを理解することができていれば、こんな気持ちになる事だって…」
「公績さん…」
凌統の目から涙が溢れ、俯いたその頬を流れ落ちる。
「…まだ、決着だって…つけてないのに…」
「縁起でもない事言わないでくださいッ!」
その時、屋上のドアを勢いよく跳ね飛ばし、丁奉がそこから踊り出た。
「興覇先輩はあんな程度でまいるほどヤワな人じゃないです! そんな言い方、先輩に失礼ですよっ!」
そう言って、ぷーっと膨れてみせる。
呆気にとられた孫権と凌統だったが、そんな丁奉の様子がおかしかったのか、つい噴き出してしまった。
「う、うん、そうだよ。承淵の言う通りだよ」
「…そうだな…こんな程度でどうにかなるようなヤツじゃないよな、興覇は」
「そうですよ」
ふたりが笑顔に戻ったことを確認し、丁奉も少し笑った。
「そうそう、今日ようやく…先輩と面会ができるようになったんです」
「本当!?」
「ええ…そんな長い時間は無理だったんですけど…それで公績先輩に、届け物を預かってきたんです」
そうして差し出されたのは、一通の手紙だった。
凌統がそれを開くと、そこには、
-じきにこんなトコ抜け出て来てやるから、そうしたらお前との勝負、受けてやるから覚悟しとけ!-
そう簡潔に、勢いの良い字で書かれている。
「有難いこった…今からちゃんと技を磨いて、今度こそあっと言わせてみせるさ…」
どこか吹っ切れたように、凌統は手紙を握り締め、何処までも蒼く広がる空を見上げる。
その先で、苦笑する甘寧の顔が見えたように、彼女には思えていた。

余談になるが、公式記録では、この戦いののちにあった荊州攻略戦の参加主将の中に、甘寧の名を見ることはない。甘寧の武を誰よりも評価し、彼女を活かしてきた呂蒙が指揮していたハズのこの戦いにおいて、その名が見られないのは不思議である。
そのため、合肥・濡須攻防戦において華々しい戦績を挙げた甘寧は、その理由も定かならぬまま突如引退したとも囁かれたが…ある記録によれば、長湖部存続の危機とも言われた夷陵回廊戦の前哨戦にて、病に冒された身で出陣し、激戦の中で散ったとも伝えられている…。
(終わり)

618 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:42
なんだかSSを持ってくるのがえらい久方ぶりになってしまいました…ってなわけで、海月です。
まぁ、一話ずつ上がり次第持ってくれば良いような気もしましたけど、そうすると、多分完成しないような気がしたんで…所詮、人間失格ですので_| ̄|○

前々から甘&凌の和解話を書こう書こうと思ってたんですが、なかなか構想がまとまらなくて(楽進も別件で飛ばされてしまいましたし;w)最終的にこの形になるまで随分かかりました。
甘寧の百人夜襲(ここでは十人ですが)もセットで。あと、「玉屋歴史館」(玉川様のページのコーナーですな)に取り上げられていた甘寧の最期に関する記事も取り入れてみたり。

でも出来上がってみると、拙作「風を継ぐ者」の冒頭展開につながってるようで居て、微妙につながってないような。
毎度の如く歴史考証もさっぱりだし…相変わらず承淵嬢ちゃんの出番むだに多いし…むぅぅ…いずれ書き直すかなぁ。

619 名前:岡本:2005/03/17(木) 15:49
海月様
>久方ぶりのSS
私から見れば驚異的なハイペースですが。お話としては、甘寧&凌統の魏呉激突
前後の諍いと和解ですね。凌統の無双W登場もあって学三の気運を高めるには
効果的な話題ですね。

>楽進
個々人によって解釈や膨らませ方は違いますので、無理に先人の作品に
こだわる必要はないと思いますよ。納得できない解釈がなされている作品例
も多々ありますし。異説によると...が蔓延しているのが学三ですから。
>丁奉の出番
呉の趨勢を長年見ていた人物としてはむしろ最適では。
そういえば蜀では廖化がいましたが、魏には該当する人物がいましたっけ?
私も関羽に比重が恐ろしく偏っていて、なんとか釣り合いをとらねばと
考えています。
気にされていると思われる、”贔屓がすぎて読者にひかれるのでは?”という
事に関しては、各筆者の常識と良識に任せるとしか申し上げれられません。

>痛い三国迷のコメント
私個人として、(張遼を持ち上げるためだけに)
逍遥津で凌統が楽進を倒したのと甘寧が李典を倒した設定は
蒼天航路の数あるミスでも容認できないものです。
魏書を読めば、李典や楽進は凌統や甘寧程度で釣り合う相手ではないと分かります。
(甘寧に関しては、限られた条件内では戦術能力で五覇に匹敵しえますが、将としてのトータルで
考えると大きく劣ると考えています。)
そもそも、水戦ならいざ知らず、陸戦で呉が魏と互角に戦えるはずがありませんから。
逆も真なりですが。合肥・濡須を巡る戦いでは双方共に強化された防御線と兵科特性の相性の
悪さで決め手に欠いていたのが実状ではないかと。
大体、キャラ数を三国でそろえるためだけに、どう考えても”三国無双”にはほどとおい連中の
比率が呉では魏・蜀よりも圧倒的に高いです。
もちろん、呉で上から拾っていけば凌統は無視できる存在ではありません。

620 名前:海月 亮:2005/03/17(木) 18:47
>異説
そいつを言われてしまうと…
ただ、楽進vs凌統の展開は活かしたうえで話を書きたかったってだけでして。
満寵達がキレて突っ込んでいくのも、何気に「蒼天航路」のオマージュですからね。

>「蒼天航路」逍遥津
仰られる事、確かに一理あると思います。
将器そのものに釣り合いが取れているかどうかの解釈は、人それぞれではないかとは思いますが、少なくとも張遼、李典、楽進の三人に関しては、そこまで差があるのかとは思いますし。
というより、むしろ「張遼がそこまで抜きん出ていたのか?」というところでしょうか。
甘寧の百人夜襲もですが、騎馬八百で孫権の本陣を急襲した件のインパクトが強すぎるせいもあるかと。
結局、目立ったもの勝ちなんですかね?

621 名前:北畠蒼陽:2005/03/17(木) 20:38
>海月 亮様
まずはわけのわからん名前でメールを出してしまったことに10万の謝罪を……
いや、あれ、私がネットゲームで使ってるキャラの名前なもので^^;

んで感想ですけどまぁ、私はシーンが最初に頭の中に思い浮かんでそのシーンを描くためにストーリーを作っていく、っていう邪道1207%(約12倍の邪道)な人間なんで
『あ、このシーンいいな!』とかそういうこと思いながら読んでました!
えぇ、孫権のばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか。

まぁ、全部の作品の設定をすべて包括しつつ描ければそれがベストなんでしょうけど、そげなこと難しいけぇ(方言)逆に学三、という世界の設定に幅が出て面白いんじゃないでしょうかね。
『この人はこう書いたけど自分はこう書くよー!』みたいな感じでしょうか。

そうでも思わなきゃ自分は……自分は……(ノ_・。

>今週の蒼天航路を読んでのご感想
……牛金の話を書いた直後に……_| ̄|○
近所のコンビニまで旅に出ます。探さないでください。

622 名前:岡本:2005/03/17(木) 22:06
>結局目立った者勝ち?
大抵の人が三国志に足を踏み入れる原因が三国志演義であり横光であり人形劇
であったり三国無双であったりするわけです。客引きができないとお話にならないわけです。
目立った活躍をした人物に光があたり、さらにファンが煽って尾ひれをつけて
新たなファンを生むという構造上、目だった活躍をする人間のファンが持ち上げられる傾向
にあるのは必然でしょう。
受け入れられる裾野を広げる意味では当然の流れでしょうね。

ただ、よりこの時代に興味を持つと単なる荒唐無稽な英雄譚に飽き足らなくなって
実状はどうであったのか個人的に調べるようになり、新たな見方を見つけていくのだと思います。
三国迷の誕生ですね。そしてマイナーといわれる人物に目をむけ、彼らも決して
メジャーな人物に引けをとるわけではないと見るようになるわけです。
学三で、”演義でメジャーな人物の登場が遅れる”というのもその例です。

ですが、最初っからそういう人物を好む傾向が現れるのは不気味でもありますよ。
例えば張遼の活躍する合肥戦役以前にも2,3回、孫権の10万の軍による襲来を合肥城は撃退
しています。これらの戦いには張遼は全く関係有りません。殊勲甲は揚州をにらむ上で合肥の重要性に
着目し廃城と化していた合肥城を整備して周辺の豪族を慰撫した劉馥です。
彼のような有能な人物が多数いたことが曹魏の強さの一つですね。
こういった人物の存在に気づくことで、張遼がいたから(もちろん、彼の果した役割も大きいですが)
合肥戦役で孫権を撃退できたわけではないと理解を深めていくことができるわけです。

けれども、蒼天航路で劉馥ファンになったならいざ知らず、最初から
「劉馥サイコー」といっている三国志ファンがいたらかなり怖いですよ。

623 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:35
-どおきのきづな-

……同級生は仲がいいものだ、とか世間では思われているようだ。
……確かに私にだって仲がいい人がいないわけじゃない。
……でも、なぁ、とか思う。

「んあ?」
……本当に同年代ってのは仲がいいものなんだろうか、そういったことを尋ねたとき彼女の第一声がそれだった。
……私の同級生といえば彼女……寮でも同室の王昶……文舒のほかに諸葛誕、胡遵、昜、司馬姉妹。それから今、眼前の寿春棟に自分の妹、カン丘秀とともに立てこもる彼女、カン丘倹……
……別働隊を率いている文欽、といったところだろう。
……彼女は叛乱を起こし、私たちはそれを鎮圧に来ていた。
……彼女がなぜ叛乱を起こしたか、ということはわからなくもないつもりだ。
……年下ながらひときわ強い光を放つ夏侯玄に魅せられながら、同じく彼女の未来に夢を見ていた李豊が司馬師を失脚させ、夏侯玄をトップに据えよう、などと考えたことから夏侯玄もトばされ……
……カン丘倹は夢を失った。
……今、カン丘倹には司馬師に復讐することしか考えてないんだろうなぁ、と思う。
……でも私には特にそれ以外の感慨も沸いてこない。
……しょせんヒトゴトなんだろうな、と思う。
……そんな関係の同級生が仲がいい、とかいわれてもぴんと来ないのである。
……文舒にそう言うと……
「伯輿ってば難しいこと考えてんね」
……んっと、あなたは考えないの? あっそう……

……私は王基、あだ名は伯輿。
……荊州校区総代として王昶と一緒に長湖部を攻めたりしている。
……自画自賛だけど文舒とのコンビプレーだったらそうそう負ける気はしない。
……今回もそれを買われてカン丘倹の反乱鎮圧に送り込まれた、わけだ。

……客観的に見てカン丘倹の叛乱は成功することはないだろう。
……司馬師を筆頭に文舒、昜、諸葛誕、胡遵……そして私。
……同年代のほとんどを敵に回したこの戦いで勝機など万に3つしかありはしない。
……1つ、戦いの長期化とこの叛乱に呼応する長湖部の援軍。
……2つ、戦いの長期化と病気なのに強行してこの戦いに参加している司馬師の病状悪化。
……3つ、カン丘倹と一緒に叛乱を起こした文欽は寿春棟から出ているので、その別働隊としての動き。
……まぁ、そういったことに気をつけていればほぼ負けはありえない。
……だから逆にかわいそうなんだよね、カン丘倹。
……滅びの美学、ってのは私も持ち合わせてるつもりだから。

624 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:35
「戦場で余計なこと考えてるとトばされるよ、伯輿。今は同級生がどう、って話じゃない。私たちが戦ってるのは同級生、カン丘倹じゃない。ただの敵」
……文舒に叱られた。
……反省。確かに王昶の言うとおり。迷いは戦いのあとに置いておくものだ。
……
……? 文舒?
「ん? なに?」
……その拡声器はなに?
「いや、これで投降促すの。戦いがなければそれに越したことはないしね」
……戦いがなければそれに越したことはない、という彼女の言葉は正論だ。
……でも、なぜか私は言い知れない不安を感じた。

「あー、あー……カン丘倹のとこのみなさ〜ん。毎度おなじみの生徒会ですー。あんたがたは完全に包囲されてまーす!」
……拡声器を通して文舒の声が響き渡る。
「みなさんが叛乱起こしてー、故郷のお母さん、泣いてるんじゃないかなぁ! きっとお母さん、涙流しながらこう言うんじゃないかなー? 『人生に絶対はない。でも人に迷惑かけたらあかん』……お母さんそう言ってあんたがたのことを育ててきたんじゃないかー!?」
……不安的中。文舒は説得に向いてない。それも致命的に。
……しかもなんでお母さん、関西弁?
「うぅ……お母さん!」
「まてまて、秀! あれは敵の誘降の策略だ!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……あれでなんで泣けるか。
「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」
……危なかったのか。

「私は生徒会の胡遵です! みなさんを説得しにやってきました!」
文舒の次に拡声器を持ったのは胡遵だった。堂々としてる、声だけは。
「みなさんの叛乱に一般学生は迷惑を被っています! 一般学生にこれ以上の圧力をかけないためにも矛を収めてもらえないでしょうか!」
言うことは立派だ、言うことは。
「うぅ……ごめんよ、一般学生!」
「まてまて、秀! そういったこと前もってわかってただろうが!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……面白いなぁ、棟内。
「このようなあなたがたの暴虐に対し……」
「うるさいぞ! 地味っ子、胡遵!」
……あ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! 地味なんて酷いーッ!」
胡遵は拡声器を捨てて泣きながら走っていった。
「ウィークポイントをついた一言。敵ながら見事だね」
……うん、お見事。
……いつの間にか役目を終えて私の隣に来ていた文舒に私も深く頷いた。
……文舒がやけにすっきりした顔をしていたのが気になった。そんなにお母さん話をできて満足なんだろうか。

625 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:36
「カン丘倹! なんで私に相談してくれなかったの!?」
……次に拡声器を持ったのは諸葛誕。
……うん、それだったら期待できそう。
「私に相談してくれればもっといい方法だって思いつくことが出来たのに! ……文欽ね!? 文欽でしょ!? あの女狐がカン丘倹をそそのかしたんでしょ! 文欽めー! 曹爽とかと同系列のくせにー! 死んじゃえー!」
……うーわ。まともだと思った私が早計だった。
「うぅ……そうだ、文欽が悪い!」
「まてまて、秀! あれ、もう説得になってないから!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……よくいえば感受性が強い、とかそういう感じなんだろうな。
「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」
……カン丘倹、大変だなぁ。

「えっと、あの……う、あ……えー、えっと……そ、その……あの……えっと、えー……あー、その……うん、あの……」
……次に拡声器を持ったのは……昜。
……ここでようやく私は気づいた。
……やばい、司馬師面白がってる。
「えっと……あの、えっと……み、みなさん……だから、その、あー……うん、と……あの、だから……えー、や、やめたほうがいいと思います、けど……えっと、な、なんでかっていうと、あ、あの、つまり……えっと……あの、や、やめたほうがいいと思います」
……どもるにも程があるだろう。
「うぅ……どもってるよぅ!」
「まてまて、秀! いや、だからなんでそうなるんだよ!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……カン丘倹のことを思うと涙が出てくる。
「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」
……かわいそうなカン丘倹。

……私は司馬師のところにいこうとしていた。
……こんな説得ショーで時間つぶすより、今は速攻で片付けるべきだと思ったからだ。
……司馬師は、いた。そしてサイコロを振っていた。
「あ、王基、ちょうどよかった。今、2が出たから次、貴女が説得してきて」
……サイコロで決めてたのか。
「ね? 説得任せたから」
……私、口下手だから。
「あらそう、残念……んじゃショータイムも終わりってことでそろそろ動きますか」
……了解。その言葉を最初から聞きたかったけどね。

「イッツァショーターイム♪」
……嬉しそうに司馬師は叫んだ。

626 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:42
学園モノなんだから同級生モノってことでやっちゃいました……_| ̄|○
まぁ、王昶&王基がこの中じゃ一番仲いいんでしょうけどね。

ちなみにツッコまれる前に補足。
カン丘倹が立てこもってたのは寿春じゃないですね。
まぁ、学園における『棟』って単語をどこまで使っていいかわかんなかったのでこうなりました。
これは私の設定知識の不足ってことで反省してきます。
反省して三国志大戦してきますひゃっほう。

627 名前:海月 亮:2005/03/18(金) 18:16
自作品について、泣き言をひとつ。
結局のところ、初心者スレで呉派を宣言して入って来た以上、どうしても作品の方向性が呉に偏らざるを得ないのですよ、ワタクシ。
ただ、それだけですから。ええ。

でも次はそろそろ、蒼天会で何か書きたい気分…陳矯か、陳泰&昜あたりで。

北畠様へ。
>メール
つかこちらこそ、返信が随分遅れて面目次第も(以下略
もしかしたら、おいらのは宛名が本名になってる可能性が(オイ
>孫権たん
海月のなかでは大体、(シラフのときは)あんなイメージなんですよ。
あれが二宮の変の頃になるとどうコワれていくか、想像するだけでも萌えると思いませんか?
>毋丘倹と毋丘秀
仲恭ねーさん哀れすぎ…。
個人的には泣きながら走り去る胡遵がツボです。なんか、絵ぇ描けそうなくらいはっきり想像できました(w
あと、どもり昜と暴走諸葛誕もいい味出てますなぁ〜。

628 名前:★ぐっこ@管理人:2005/03/22(火) 01:35
>卒業
。・゚・(ノД`)・゚・

そうですよねっ!袁紹は曹操にとって、長年世話になったお姉さまですもの!グランスールですもの!
許攸…難しいキャラですよねえ(^_^;)
リヨみての中では白薔薇っぽい立ち位置にいますが。彼女の場合、「おこった事」の解説
(言い訳ともいう)は天才的。難解な事態に遭遇しても、蕩々と現状分析とかするから、
みんなそれに感心して、よほどの鬼謀の女と思い込むのですが、実は「これから起こる事」
の予測は凡人レベルだったり。荀揩竓s嘉たちとの決定的な差ですな。

袁紹や袁術は、それぞれ財閥の後継者として巣立ち、例えば荀揩ネんかは、後に天才
経営コンサルタントとして、財界に名を馳せることになったり。
曹操と劉備はどうなるんだろ(^_^;)


>王凌
なるほど…。最後まで読んで、王允の亡霊の意味がわかりました〜
太原王氏も含め、このへんの王姓のひとってややこしいなあ(^_^;)
揃いも揃って高官になってるし…久々に辞書読み返して再確認…。
そういや王淩も、叛乱を起こす直前まで、三議長のポストを歴任するほどの大物だったのですね…

>牛金
そういえば今週の蒼天。・゚・(ノД`)・゚・
牛金ネタといえばhttp://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=sangoku&key=1036208714&ls=50
あたりが懐かしい。
彼女も曹仁の下で相当に鍛えられて、司馬姉妹に恐怖されるほどの女傑に成長したっぽい。
牛氏の小吏に関する真偽はさておき、学三的には彼女をピックアップしたいところ( ゚Д゚)!

>銀幡流儀
大作乙( ゚Д゚)!
むう、シーンとしてはあのへんか!
魏は魏で、呉は呉で色々あるんだなあ、というドラマが詰め込まれてるシーンんになって
ますやね〜。
まだまだ甘寧に貫目が足りない凌統はもとより、丁奉が健気な後輩ってのもいいなあ〜。
この暴風娘甘寧の姉貴分である呂蒙が、登場しないぶん頼もしく感じる…
でも、学三の戦闘、もうちとソフトのがいいかも…

>同期の説得とか
ワロタ。みんな個性がある…つうか毋丘秀いい娘や…(´Д⊂ そういや彼女だけなんとか
逃げ延びるあたりがまたツボ。
個人的には諸葛誕の「死んじゃえー」がヒット。さすがは諸葛たん!
全てにツッコミを入れてる王基のキャラに、新しい何かをかんじますた。

>議論
…(-_-)

>棟の範囲
ケースバイケースになりますねえ(^_^;) 特に魏呉の国境あたりは校区が入り乱れてるから特に…

629 名前:海月 亮:2005/03/22(火) 22:01
>戦闘
………………気がついたら結局殴り合いしか書いていないという。
「学園モノ」ならでは、という対決を考えつけない未熟者ゆえ…_| ̄| ...○オユルシヲ

このあたりはもちっと考えて然るべきところですよね。
樊城の曹仁vs関羽とか、漢中攻略とか、まだ誰もSSでやってない戦役も多いことですし、そのあたりで何か考えてみようかと思います。
どこかで水泳大会とかやってみたいなぁ…孫策の江南平定戦とかどうかなぁ…むぅぅ。


あと、ここでの争論も原因は私…狼藉の数々、平にご容赦の程を…。

630 名前:★ぐっこ@管理人:2005/03/28(月) 00:58
いえいえオキニなさらず〜。
というかアレです、最近リヨみてとかで、マターリした学園モノが念頭にあるから。
でもまあ、基本的に女の子同士の喧嘩ですから、流血とか骨折とかは無しで、
コミック時空よろしく、「吹っ飛ばす」くらいの流れの方がよいかなあ、と(^_^;)

631 名前:国重高暁:2005/05/21(土) 18:12
■■ シ水関 ■■

 劉備・関羽・張飛が蒼天学園高等部へ進んだ頃、その内側はかなり荒れていた。
 涼州校区総代だった董卓が、生徒会執行部員十名の追放を口実に洛陽棟へ入り、一挙に学園の主機能を制圧し、蒼天会長を少さまから献さまへすげ替えるなどの暴威を振るったのである。
 これをみて、陳留棟の曹操は中華市内各地へ檄を飛ばし、南皮棟の袁紹らと「董卓追討軍」を結成。横河の南岸のシ水関で衝突したが、苦戦を強いられ、果ては敵将・華雄により、孫堅軍の剛勇・祖茂をリタイアさせられたのであった。

「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
 追討軍の盟主・袁紹が、本陣全体を見渡して号令した。と、そこへ、冀州校区総代・韓馥の部下、潘鳳が進み出て言う。
「俺が飛ばしてやるぜ!」
「頼もしいですね。では、お任せしましょう」
 癒し系の声援を受け、彼女は戦場へ飛び出した。
「行くぜ!」
 気合一閃、模造刀を振るって斬りかかった次の瞬間。
(き……消えちまった?!)
 何と! 相手の姿が、視界から外れたではないか。
(全く、あんたは猪武者ね)
 華雄は、潘鳳の切先をかわし、背後へ回り込んでいた。そして、自分の模造刀で、うろたえる彼女を袈裟懸けに斬った。葛餅みたいに三角に……はならなかったが、それでもうつ伏せにばったり倒れた。
「じゃ、これはもらっていくわ」
 華雄は、潘鳳の階級章を引きちぎり、横河へ向かって思い切り投げ捨てたのである。

「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
 袁紹は、再び本陣全体を見渡して号令した。と、そこへ、彼女の異母妹・袁術の部下、兪渉が進み出て言う。
「先輩、わたしにお願いできないでしょうか?」
「では、あなたが潘鳳さんのリベンジを果たすというのですね」
「はい。この兪渉、必ず、あの娘を飛ばしてまいります!」
 不退転の決意と共に、彼女は出陣した。
「先輩、胸を借りさせていただきます」
 両手両足をおっ広げ、ちらちらと誘いの隙を見せる。
(もらったわ!)
 挑発された華雄は、模造刀を振るって斬りかかったが、それが相手の思う壺。先刻とあべこべに、自分がバックを取られる破目となった。
(見せましょう。わたしたち、柔道部員の力を……)
 兪渉は、腕をフックし、担ごうとする。
(甘い!)
 これをみて、華雄は右足を振り上げ、恥骨結合の辺りをぼかんと蹴りつけた。相手がびっこを引いて飛びのくと、容赦なく鉄拳制裁を食らわす。
「人の三大急所、それは眉間・鳩尾・恥骨接合よ。覚えときなさい!」
 彼女は、仰向けに倒れた兪渉の階級章を引きちぎり、横河へ向かって思い切り投げ捨てたのであった。

「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
 袁紹は、三たび本陣全体を見渡して号令した。
「本初ちゃん、あんたの部下を出したら?」
 と提案したのは、傍らにいた曹操。彼女とは、幼馴染で同級生の間柄である。
「いえ、それが、その……わが冀州校区の誇る『ソードマスター』と『ナイトマスター』が、まだここへ到着しておりませんので……」
 袁紹は、歯噛みしてそう言った。
 こんな彼女たちの会話を、本陣の片隅で聴いていた三人娘がある。
「何や、かったるいな……」
 最も小柄な、ショートカットの眼鏡っ娘が、大きく伸びをしてそう言った。
「姉者、いかがなされた?」
 最も大柄な、ストレートロングの少女が問う。
「どないしたもこないしたもあるかい。本初先輩の派遣した娘が、あっちうまに二人も飛ばされて……うち、もう観ちゃおれんのや」
「よし、ほな、うちがやっつけたる!」
 立ち上がるなり、右手を高々と挙げて叫んだのは、両者の向かいに座っていたツインテールの少女である。
「益徳、行くな!」
 やにわにその場を離れようとする彼女の袖を引き、ストレートロングが警告した。
「何でやねん?」
「あの娘は腕っ節も強いが、頭脳プレーもできる。お前のような猪武者では危ない」
「はあ、さよか……」
ツインテールがしおしお引き返す。入れ替わりに、ショートカットがストレートロングへ近づいて言う。
「雲長、どないする?」
「姉者、お任せくだされ。私には、あの娘を飛ばす自信がある。早速、本初先輩へ掛け合うといたそう」
 寸考ののち、ショートカットはぽんと手を打って答えた。
「よし、ここはあんたに頼も。ほな、飛ばされんように頑張りや!」
 ストレートロングは小さくうなずき、袁紹の元へ馳せ参じたのである。

「見慣れない娘ですね……あなたは、一体たれなのでしょう?」
 盟主の問いに答え、かの少女は自己紹介をした。
「私は、姓を関、名を羽、字を雲長と申す者。平原棟の弓道部長を務めておる」
「平原棟といえば……玄徳さんのところですね」
「いかにも」
「わかりました。それはそうと、この私に何の御用でしょう?」
 関羽は、戦場の華雄を指して言った。
「当方、あの娘の階級章を剥奪したいと存ずる」
「何ですって?!」
 驚いたのは袁紹である。幾ら平原棟長・劉備の義妹といっても、身分の低い者を前線へ出すわけにはいかない。
「ちょっと、地位をわきまえてくださいません?」
「身分などどうでもいい。私には、あの娘を飛ばす自信がある」
「とはいえ、うかつにあなたを派遣いたしますと……」
 悩んでいるところへ、曹操が再び首を突っ込んだ。
「本初ちゃん、この娘は闘いたくてうずうずしてるわ。罪を糾すなら、負けて逃げ帰ってからでも遅くはないわね」
 寸考ののち、袁紹は答えて言う。
「わかりました。あなたがそうおっしゃるなら、私も従いましょう」
 そして、温かい緑茶の缶を関羽へ差し出した。
「雲長さん、景気付けに飲んではいかがですか?」
「いや、今はいらん。まず、あの娘を飛ばしてからいただくとしよう」
 彼女は、袁紹のもてなしをはねつけ、凛々と戦場へ向かったのである。

 腰の模造刀を抜き、関羽と華雄は身構えた。互いの眼が光る。
「華雄先輩、階級章は奪わせていただく!」
「さあ、それはどうかしら?」
 と、先に仕掛けたのは相手方であった。
「わが刃、受けなさい! 燕返し!」
 右腕一本で模造刀を持った華雄が、体をぶん回しながら斬りかかる。

 ジャキーン!

 互いの刃が触れた次の瞬間、彼女は仰向けに倒れていた。必殺の「燕返し」を関羽に受け止められ、頚動脈を斬られたのである。
(な、何という強さ……)
 あわれ、華雄は階級章を剥奪され、永久に蒼天学園の歴史から除去されたのであった。

 大きな戦利品を手に、関羽は本陣へ舞い戻った。
「お帰り。結果はどないやった?」
「うち、それだけを気にしとってん……」
 劉備や張飛から声がかかる中、彼女は華雄の階級章を提示する。
「わお、華雄先輩の階級章やないか!」
「ほんまや……ほんまに、華雄先輩の階級章や……」
 しばし茫然とする両者を差し置き、関羽は袁紹の元へ向かった。
「当方、約束どおり、あの娘を飛ばしてまいった」
「何ですって?!」
 盟主も驚きを隠せない。何しろ、既に友軍武将を三人も飛ばされたのだから。
「ちょっと、冗談は止してくださいません?」
「冗談ではない。彼女の階級章がここにござる」
 と、関羽は後ろ手に握っていた物を提示した。
「な、何と! あ、あなたが華雄さんを……い、一介の棟長の部下にすぎないあなたが、よくも、まあ……」
 不快感を覚えた袁紹が、彼女へ撃ちかかろうとすると、曹操が割り込んで制止した。
「本初ちゃん、あたしの言ったとおりでしょ? 『罪を糾すなら、負けて逃げ帰ってからでも遅くはない』って」
 そして、乳房の間から、先刻の缶入り緑茶を取り出す。
「これ、懐で保温しといたわ。さあ、一気に飲み干しなさい」
「かたじけのうござる。では、お言葉に甘えて……」
 関羽は、軽くタブを開け、両手で缶を奉げ持ち、まだ冷めていない緑茶をキューッと空けた。彼女の傍らには、華雄から奪った階級章が投棄されていた。

                   糸冬

632 名前:国重高暁:2005/05/21(土) 18:14
いかがでしたでしょうか。
当方としては、約七ヶ月ぶりのSSとなります。
虎牢関の戦いについては、既に新・参・者さんが
書いていらっしゃいますが……こちらは、それに
先行する「シ水関の戦い」を小説化してみました。
なお、潘鳳・兪渉の出撃順は、演義とあべこべに
してあります。

          以上、国重でございました。

633 名前:海月 亮:2005/05/24(火) 22:22
-水際の小覇王-

「暇だねぇ…」
揚州学区の中心地、寿春棟の屋上に少女がひとり、大の字になって流れる雲を見上げていた。
スタイルには難があるが、顔立ちそのものは十分に美少女の範疇に入るだろう。明るい栗色の髪をショートに切り、見た感じも少年のようである。
少女の名は孫策、字を伯符。
かつて荊州学区は長沙棟を中心に、様々な暴動を鎮圧して名をあげ、反董卓連合軍でもその人ありといわれた孫堅の妹である。

司隷特別校区における一連の騒乱が沈静化してきた頃、孫堅は荊州学区の覇権を賭け、襄陽棟において権勢を振るう劉表と妨害、直接攻撃何でもありのトライアスロンで対決したのだが…あと僅かで勝利、というところで劉表側の仕掛けたトラップに引っかかり、高さ数十メートルの崖に落ちて大怪我し、引退を余儀なくされてしまった。
普通の人間なら死んでるだろうが、それでも何の後遺症もなく、二月ほどベッドの上に居ただけで済んだのが彼女の凄い所だ。
とはいえ、この事件で孫堅の軍団は瓦解してしまう。その妹達を取りまとめることになった孫策は、彼女等を比較的騒乱の影響が少ない曲阿寮に留め置くと、数ヶ月前からここ寿春棟を支配する袁術のもとに厄介になっていた。

何をするでもなく、ただぼーっと空を眺める孫策の視界を、ひとりの少女が遮った。年の頃は孫策とさほど変わらない、ちょっとキツめの顔に散切りの黒髪を載せたその少女は、皮肉めいた笑みを浮かべる。
「なによ伯符、またこんなことろでふててるの?」
「別にぃ」
孫策はその顔を避けるように寝返りを打つ。しかし、少女はその動きを見透かしたかのように一瞬早くその視線の先に自分の顔をもってきた。逆に返しても、その先には変わらぬ表情が待っている。
「…なぁ君理…あたしの顔なんか見てて楽しいか?」
呆れ顔の孫策。君理と呼ばれた少女は、その傍らに腰掛けた。
君理こと、朱治は揚州学区でも名門の一族の子息である。孫策の姉・孫堅が作り上げた軍団の若手として課外活動に参加していたが、軍団瓦解後は呂範、孫河らと一緒になって、孫策と行動を共にしていた。
「人に話をしたいときはその人の顔をちゃんと見なさいっていうのが、うちの父ちゃんの口癖でね。親孝行なあたしとしては、何時でもそれを実践するよう心がけてんのよ」
「自分で言うなっての」
孫策は苦笑して、その身体を起こして座り直す。
「で? その親孝行な君理さんが、このヒマ人に何の御用で?」
「御用もへったくれもないわよ…伯符、あんた何時までこんなところでくすぶってるつもり?」
朱治の表情から、笑みが消えて真剣なものにかわる。
「聞いたわよ、慮江の話。あのバカ令嬢、またあんたとの約束破ったんでしょ」
「毎度のこった。いちいち腹立ててられるかよ」
再び仰向けに寝転がる孫策の顔を、朱治は覗き込んだ。
「…ねぇ伯符、あんた何時まで袁術の飼い犬で居るつもり? いっておくけど、あんなバカが好き勝手やってられなくなるのも時間の問題よ」
「そうだな…でも、姉貴の軍団は散り散り、あたしに独り立ちできる基盤もない…せめて、袁術お嬢様から手下をパクる材料があれば…?」
そこまで言った時点で、何かを思い出したように跳ね起きた。唐突だったので朱治は吃驚して、
「きゃ…! な、何よ伯符」
「ある…あるぞ、あのドケチから兵隊をふんだくる方法が!」
嬉々とした表情の孫策に、朱治はその意味を図りかねて小首を傾げる。
「ちょ…どういう事?」
「へへっ、まぁ、今に解るさ」
怪訝な表情の朱治を尻目に、孫策はおもむろに立ち上がり、その場を立ち去った。

634 名前:海月 亮:2005/05/24(火) 22:23
「兵を借りたい?」
「ええ」
それからすぐ、孫策は袁術に面会の約束を取り付け、会うなりそう切り出した。
「従姉妹の呉景たちが今、丹陽地区で劉ヨウの圧力に苦しめられているのを、助けてやりたいんです。貴方にとっても、劉ヨウは勢力拡大の障害。悪い提案ではないと思いますけど」
ふぅん、と怪訝そうに鼻を鳴らす袁術。袁術としても、勢力拡大の手駒として孫策の存在は魅力的であったに違いない。
しかし、孫策の能力を知っているだけに、あまり大きな力を持たせるのは危険であることも、袁術は理解していた。このあたり、袁術がただのタカビーお嬢様ではないことを良く物語っているが…同時に、それが彼女の器の限界でもあった。
「でもねぇ…今徐州攻めの計画が進行中で、余分な労力を割く余裕なんてないですわ」
「ほんの数人で構いません。あとは、道すがら頭数を集めますから」
「う〜ん」
あくまでとぼけた感じで答えを渋る袁術。しかし、孫策にとってはそんなことも想定内の反応だ。
「まぁ、ご信用ならないのも無理もない話です。こちらもただで、とは申しませんよ。あたしの姉がかつて洛陽棟に一番乗りを果たした際、校舎の片隅で見つけた蒼天会のマスターキー、質として献上いたしましょう」
懐から袋を取り出し、中から一枚のカードキーを捧げ出す。
それを見た瞬間、袁術の顔は瞬時に綻んだ。
「え? 私にこれを?」
「歯牙無い居候の身が持っていても役に立たないものです。これを代賞とし、是非貴方の厚恩に対する恩返しの機会を与えていただければ、それ以上のことはありません」
その、由緒ある品物を手渡された袁術は、もはやそれを手に入れた喜びで頭が一杯になりかけていた。辛うじて保っていた僅かな理性でも、長湖周辺地区の勢力を孫策が平らげきれないだろうという考えしか出てこなかった。
「仕方ないですわね〜…でしたら、部下として三十名、貴方に預けて差し上げますわ。それに今確か、蒼天学園水泳部長のポストが空いていた筈…蒼天会に掛け合って、そのポストに就けるよう、取り計らいますわ。そうすれば、討伐遠征主将としての名目も立ちますわね?」
「勿論です…破格の待遇、痛み入ります」
恭しく一礼する孫策、その顔には「してやったり」の表情が張り付いていた。

「はぁ!? あんたいったい、何考えてるのよっ!」
水泳部長の認定を表すバッジを階級章の脇につけた孫策を迎えた朱治の第一声が、それだった。
「随分な言われ様だなぁ…要らないものを要るものに変えてもらっただけだぜ、あたしは」
「だからって…だからって何も蒼天会のマスターキーを渡すことないじゃない!」
「だって此処にいる分にはまったく使い道なんてないし、思いうかばないし」
孫策の言うことも、あんまりといえばあんまりな言葉である。
蒼天会のマスターキーといえば、東西南北へ広大に広がる蒼天学園都市の、いわば最大権力者の証。確かに司隷特別校区から遠く離れた一校区支配者にとっては、その実際の大きさからは想像もできないほど重い。ましてやそんな一校区の支配者の下に飼われているような身分であればなおさらだ。
そう言う意味で言えば、孫策の言い分も理解できないこともない。もっとも、孫策自身はカードキー一枚“ごとき”にどうしてそんなに大騒ぎしなければならないのかあまり解っていないようだったが。
この思い切りの良さだとか、物怖じしないようなところは彼女の長所でもあることは朱治も解っている。それでも、使い方次第では“天下取りの特急券”にもなるマスターキーをこんなにあっさり手放してしまったことを惜しくも思っていた。孫策の天運、天賦を考えればなおさらのこと…朱治は心底残念そうに項垂れた。
「それにしたって…くれてやる相手が違うよ。あいつがそんなの持ったら何仕出かすか…」
だが、孫策は真顔で言った。
「あたしが欲しいのはあんなちっぽけなものじゃない…この学園の覇権、そのものだ」
「伯符…あんた」
「抜け殻になった権力の象徴なんて要らないんだ…そんなの、欲しいヤツにくれてやればいい。今の公路お嬢様にこそ、お似合いだよ」
手摺りにもたれ、掻き揚げた前髪をそっと風が薙いでいく。
「あたしは手始めに、この地に覇を唱えてみせる。姉貴がやれなかったことを、あたしは存分にやってみたい」
「…伯符」
「それにさ」
振り向いた孫策が、不意にいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「本当に必要になれば、きっとまた戻ってくるんじゃないかな、ああいうのってさ?」
その笑顔が妙に眩しかったのは、照り返した太陽の光のせいじゃないように、朱治は思った。
その笑顔につられるように、彼女も微笑んだ。
「そうだね…あんたなら、またきっと手に入れちゃうかもね、あれくらい」
「そう言うこった」
朱治も孫策に倣って、手摺りにもたれて吹く風に身を任せてみた。
心地よい風。
「一応な、散り散りになってた連中とかにも声掛けたよ。子衡や伯海も来るし、徳謀さん達とは途中合流だ」
「そっか…じゃあまた、賑やかになるね」
「ああ、そうだな」
こんな風に、これから隣の少女が巻き起こす“風”に身を任せてみたら、きっともっと凄いだろう。
「さ、そろそろ出かけようぜ…あたし達の、天下を獲りに!」
「ええ!」
互いの拳を突き合わせた少女ふたり。
その眼下には、いくつもの水路が蒼く彩る揚州学区と、広大な長湖が広がっていた。

635 名前:海月 亮:2005/05/24(火) 22:48
うおー、二ヶ月ぶりになんか書いてみたー(゚∀゚)

てなわけで、海月です。
同じシーンでは居たはずの呂範がいなかったりとか、
話的には相方はむしろ周瑜のほうがしっくり来るんじゃないかとか、
袁術のキャラがえらく薄味な感じがするだとか…

久しぶりにやった割にはあまり覇気が感じられない作品だな_| ̄|○


>国重さま
お初にお目にかかります…(<今ごろかよ!)海月というケチなモノ書きもどきでございます。
いや、もうなんと申しましょうか、曹操の行動がナイスですね(´ー`)b
てか関さんもツッコミなしですか。さらしと流して飲み干しちゃうとこが更にいいです…すいません、真面目な話なのにヘンなトコばかり見てしまって(つД`)

636 名前:北畠蒼陽:2005/06/05(日) 22:03
飢狼の血族

「あんた、呂布に私と戦うな、っていったらしいね?」
烈女と呼ばれ、学園にその名をとどろかせた少女が両の指をぽきぽきと鳴らしながら横を静かに歩くその少女に語りかけた。
真っ暗で人気のない廊下。
月明かりが窓から差し込んでくる。
「ねぇ……」
少女……姉が無実の罪で陥れられたとき自分のチーム、たった十数人を率いて倍以上の数の護送者に囲まれた姉を助け、張角の乱では陶謙に従いそれを打ち破った武勇の人。のちに琅邪棟長の蕭建が呂布の脅迫を受け、その圧力に屈したとき、それに反発し蕭建をトばした硬骨の人。またそのまま蕭建の守っていた校舎に立て籠もり呂布の猛攻を守りきった知略の人……数々の賛美で彩られながら面白くなさそうな目で月の明かりを睨みつける少女、臧覇は感情を浮かべないまま自分の横でぴったりと歩む少女を見る。

臧覇は呂布と敵対し、しかしまた和睦した。
今、この下ヒ棟まで出向きこれからの方策について話し合ってきたところだ、が……

臧覇は人知れずため息をついた。
自分の横にいる少女はこの世の中になにも冗談がない、というような眼をして前だけを見ている。
呂布が今、ここでこの少女に臧覇をトばせ、と命令すれば少女は一瞬すら迷わずにそれを実行するだろう。
それでなくても少女のその鍛え上げられた体は歴戦の臧覇すら引くものであった。

つまり、これは……呂布はまだ自分を信用してない、ってことか。
私をこうして威圧して屈服できないようにするつもりか。
2回目のため息。
信用しないのなら盟約など結ばなければいい。盟約を結んだからには骨まで信用してほしいものだ。
臧覇は心のうちで自分の理論を展開し、憤慨する。

「……多方面に敵を抱えた状態で呂布さんにあなただけを見ることは危険だ、と思っただけです」

「?」
臧覇はきょとんとした顔でどこからか聞こえてきた声の主を探した。
廊下には自分たち2人以外誰もいない。
ということは……
「今、しゃべったの……もしかしてあんた?」
大柄な少女、高順はさっきまで無表情だった顔を少し照れたように歪ませながら一度だけ頷いた。

637 名前:北畠蒼陽:2005/06/05(日) 22:03
「私だけを見ること、って……」
なにを言っているのか、と笑い飛ばそうとして臧覇はふ、と気づく。
「もしかしてさっきの言葉って……私の『呂布に私と戦うな、っていったらしいね』って言葉の返答?」
無愛想に頷く高順。
臧覇は一瞬、唖然とする。
こんなに時間をかけて、そんなことを答えなくても、と思った。

よく見ると高順の頬はすこし赤く染まっているようだ。
『言わなければよかった』と後悔しているさまがありありと見て取れる。
それを見て……
「……ぷ」
笑いがこみ上げてきた。
「く、くく……」
そうか。
私も不器用な人間だった。
姉を救う方法がわからなくて殴り込んだ。
今、思えば中央に正式な抗議文書のひとつでも出せばよかったのかもしれない。
私も、不器用な、人間だったんだ。
だからこそこの高順の感情の表し方が……
「あっはっはっは!」
すごく好ましいものとして臧覇の目に映った。
「わ、笑わないでください」
憮然として高順が遠慮なしに大声で笑う臧覇に抗議する。
「だ、だって……ぷ……あーっはっははははは!」
腹を抱えて笑う臧覇にいつしか高順も笑顔を浮かべていた。

そうだ。
わかりあうのは夕日の河原で殴りあい、だけとは限らないじゃないか。
臧覇は苦笑にも似た笑みを浮かべる高順を見ながら大声で笑い続けた。

「見送りはここまででいい」
「はい」
ひとしきり大声を出した後、臧覇と高順は校門まで来ていた。
臧覇はバイクにまたがり高順を見る。
あれだけとっつきにくさを感じた顔が今では好ましいものとして映っていた。
「狼の血族はどんなに飢えても同族を裏切ることはない。私はお前を裏切らない……そう呂布に伝えてほしい」
そう……
呂布も私も……そして高順も、みな飢えた狼だ。
この世のなにもかもを噛み切ってやればいい!
「承りました」
頭を下げる高順に笑みを残し、臧覇は風になった。

638 名前:北畠蒼陽:2005/06/05(日) 22:11
文章家なら文で語れ!
語ると思う。
語るんじゃないかな。
ま、ちょっとは語っておけ?

とりあえず雑号将軍様は高順がお好きとのことで復帰1発目は高順&臧覇になりました!
まぁ、臧覇は1回書いてみたかったので書きながら楽しかったのですが……
しばらく書いてないと腕落ちるなぁ……
常になにかを書いて生きていきたい……

>国重高暁様
いやぁ〜……これがもともとの常連の人のお力ですよ……
華雄いい! とりあえず華雄ステキですよー!

>海月 亮様
ところでまったく関係ない話ですが海月様のHPのbbsで三国志大戦のことが書いてありましたがもしかしてやっておられる?
三国志大戦における朱治は弱すぎて……つ、使えなくて……(ノ_・。
それはさておきGJ! なのですよー!

639 名前:海月 亮:2005/06/06(月) 00:44
>三国志対戦
ええ。でも正確に言えば「やっとりました」なのですがw
朱治に限らず呉将はどいつもこいつも呂蒙が居ないと(ry

まぁ、こっちでは三国志対戦を置いてあるゲーセンがないみたいなので…。
…音ゲーは充実してるのになんでなんだろうな…。

>高順と臧覇
というか高順。「倚天の剣」でもあんまり喋らないって話は出てましたが…。
てか声を意外がられて照れるってシチュは高順ならでは、といったら言い過ぎなんですかね?
臧覇もカッコいいですね〜。学三の不良三巨頭(=臧覇、曹仁、甘寧/勝手に命名w)の一角としてもっと活躍の場を見せてほしいトコですね。
何はともあれ、復活作、お見事です。

640 名前:北畠蒼陽:2005/06/06(月) 01:38
>私をこうして威圧して屈服できないようにするつもりか
うああわ。屈服できないようにしてどうしますか、臧覇サン!

○屈服させるつもりか
×屈服できないようにするつもりか

これで脳内補完よろしくお願いいたしますorz

641 名前:北畠蒼陽:2005/06/09(木) 22:43
ハッピーハッピーバースデイ

「ぶ〜んわ♪」
聞きなれた声が私を呼ぶ。
今となっては私のことをこう呼ぶ人など1人しかいない。
王佐の叔母と姪も純粋軍師もすでにリタイアしている。もっとも彼女らが私に親しみを感じているなど冗談にしてもそう出来のいいものではないが。
あの無愛想な大女はまだリタイアしていなかったが私に対して感情は上記3人と似たようなものだろう。
つまり、この声は……
「なんでしょうか、魏の君閣下」
私が振り返ると敬愛する上司は子供のように歯を見せて笑った。

賈ク……
この私の名前がかつての閣下にとって絶対の悪魔、と同義語であったであろうことは想像に難くない。
私にとっても閣下の……曹操の名前はかつての上司、張繍さんと一緒に学園を支配するために絶対に打ち倒さなければならない名前だった。
今、こうして一緒にいることが不思議な経歴ではあるがそれこそ敵対したからこそわかる親近感、というものなのだろう。

「ねぇ、賈クってコンピュータ好きだったよね?」
唐突に曹操閣下が私に言った。
当然である。自慢ではないが私はこの学園でナンバー1のハッカーである。そして私は嫌いなものを続けられるほど人間が出来ているわけではない。
「よかった、それじゃあ……」
曹操閣下はいたずらっぽく笑い……
「誕生日おめでとう!」
私に箱を突き出した。

不覚だった。
私は子供のころから……親にすら誕生日、というものを祝ってもらったことがなかった。
はじめて私の誕生日を心から祝ってくれたのは張繍さん……
あとはもうゴミのような連中だ。
だからこの曹操閣下の不意打ちは……
胸の奥が暖かいもので溢れるほどの不覚だった。
私は頬に涙が流れるのを感じた。
「なにぃー? 文和、泣いてるのぉ?」
曹操閣下がにやにやと私の顔を覗き込む。
「ち、違います! これは閣下の心理を虜にするための策略です」
あわてて涙をぬぐいながら我ながら取り乱した弁解をする。
「ね、ね。開けてみて」
曹操閣下が期待のこもった眼差しで私を見る。
私は若干の照れを感じながら箱を受け取り……

http://www.thinkgeek.com/stuff/41/fundue.shtml target=_blank>http://www.thinkgeek.com/stuff/41/fundue.shtml

目が点になった。
箱の中のシロモノをじっと見て、もう一度、曹操閣下を見る。
100%の好意が目に溢れている。
……好意なのか、これ?
「あー、賈クが喜んでくれてよかった!」
喜んでるように見えるのか、おい。
しかし相手が好意でやってくれている以上、うん、なんというか……うん。やりづらいことこの上ない。
「あ、っと。そろそろこっちも仕事あるから行くねー」
私を残して曹操閣下が走っていく。
私に箱を持たせたまま曹操閣下が遠ざかっていく。

……これ、使わなきゃだめなんだろうか?

642 名前:北畠蒼陽:2005/06/09(木) 22:46
もうじき賈クタンの誕生日ですよ!
ってわけでどっちかといえば反則ぎりぎり一歩向こう側なネタ投下でございました。

>補足
USBフォンデュセットは今年のエイプリルフールのネタなので実在しません。
あったらほしいし!(笑

643 名前:雑号将軍:2005/06/10(金) 22:50
ほんとに遅くなって申し訳ありません!実はクラブの原稿の制作に追われてこの一週間ネットを開けなかったのです!と、そんなこと言っても言い訳にしかなりませんけど・・・・・・。
今日やっと皆様の作品を読むことができました。

>国重高暁様
はじめまして。最近書き込ませていただいた文字通り新参者の雑号将軍です。
それにしても国重高暁様の作品すばらしいです!僕には真似できませんね。有名なシ水関をここまで再現できるとは!
三国志の知識が豊富だからなせる技だと思いましたっ!見習いたいです。
ふと思ったのですが、曹操と袁紹って同級生だったのですか?曹操の方が一学年低かったような気がするのですが。

>海月 亮様
お見事です!孫策の袁術から羽ばたいていく瞬間と言えばいいのでしょうか?とにかく孫策の意気込みが伝わってくるような作品でした。
>話的には相方はむしろ周瑜のほうがしっくり来るんじゃないかとか
そういえばこのとき周瑜でてこないんですよね。このとき周瑜はどこにいたんでしょうか?勉強し直してきまーす。

>北畠蒼陽様
一週間の間に二作品も!すごいです・・・。僕は昨日やっとクラブ用の原稿が書き終わって、ここに投稿させて頂くための作品の制作に取りかかったとこだというのに。
>飢狼の血族
臧覇が呂布と盟約を結ぶ所ですか。よく知らないお話だったので、とても勉強になりました。臧覇の悟りが印象的でした。
>雑号将軍様は高順がお好きとのことで復帰1発目は高順&臧覇になりました!
北畠蒼陽様、ホントにありがとうござりまする。僕は正史の高順伝?を読んでからというもの、高順の大ファンになっています。
>ハッピーハッピーバースデイ
賈クの意外な一面がみられたような気がしました。賈クにもちゃんと感情はあったんですねっ!

新参者がながながと失礼いたしました。

644 名前:北畠蒼陽:2005/06/10(金) 23:44
>雑号将軍様
書かないペンは錆び付く一方なので1週間に最低1度は集中してものを書くようにしてるのですよ(笑
まぁ、集中してこの程度かよ! というのはあまり深くツッコまない話。

>周瑜はどこに
あの人は今? のノリですな!(違
正史周瑜伝にジョにずっといたんだけどおじさんが丹陽太守になったんでご機嫌伺いに出かけたらそんときに孫策が軍をあげてたらしいよ? みたいな記述があるんでそのころはまだ無名の人、ですね。

>臧覇
一時期、ただの武将ではなく群雄の1人でしたから、この人。
呂布亡き後は曹操に仕えてますね。
この人は爆笑三国志の『三国志より水滸伝に出てきたほうがしっくりするような経歴』という書かれ方が印象に残ってますね〜。

645 名前:雑号将軍:2005/06/11(土) 11:24
>書かないペンは錆び付く一方なので
それわかります。僕も一ヶ月ぶりにクラブ作品(続き物)を書いてみると、これがまあ散々なできで・・・・・・。
それで、一週間の間、必死になって書き直してのです。

>正史周瑜伝にジョにずっといたんだけどおじさんが丹陽太守になったんでご機嫌伺いに出かけたらそんときに孫策が軍をあげてたらしいよ? みたいな記述があるんでそのころはまだ無名の人、ですね。
そ、そうだったのですか!全然知りませんでした。まだ正史「三国志」は高順伝?と張嶷伝ぐらいしかまともに読んでないありさまで。教えてくれたありがとうござりまする。

>『三国志より水滸伝に出てきたほうがしっくりするような経歴』
そ、それはまあ。なんともな。きっとかなりのアウトローぶりだったんでしょうな〜

646 名前:海月 亮:2005/06/12(日) 13:54
>USBフォンデュ
そ…そんなネタがあったなんて…
しかしまた最近になってエイプリルフールって言われるようになりましたね。一時忘れ去られたような気さえしますが…。

ついでに言えば賈(言羽)の話、見たらまた「蒼天航路」16巻の烏巣攻めのシーンを読み返しちゃいました。いいわぁ。

>キャラクターの年齢
実は書く人によって解釈それぞれだそうです。おいらなんぞは、書いたSSの張昭が年表設定より一歳年上だったりしたし…。

>周瑜の事跡
補足(蛇足?)になりますが、周瑜伝ではこのようになっておるようです。
故郷の舒県から叔父の居る丹陽へ→そのとき孫策に手紙を貰って合流→横江、当利、秣陵攻撃に参加→劉ヨウ撃破後に丹陽へ一時帰還→袁術に招かれて寿春へ→外地勤務を願い出て居巣へ→呉へ帰還(一九八年/周瑜二十四歳)
参考までに。

>書かないペンは…
引越しのごだごだでしまいこんでいたインクが固まった私…。
ちょっとシャレになりませんね。気持ちの上だけじゃなくて、道具にさえ見放された私って…_| ̄|○

647 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 14:34
>キャラクターの年齢
ああ!なるほど。そうなんですか。そうとは知らず・・・国重高暁様疑ってしまい本当にごめんなさい・・・・・・。

>周瑜の事跡
おお!流石は呉を愛される海月 亮様ですな。
みなさん三国志に詳しくて勉強になってますっ!

あと、ここに書くべきじゃないのかもしれないのですが、まだ初来訪者様歓迎スレッドの僕の書き込みについてのぐっこ様の返事が来ていません。その状態で投稿はしてもいいのでしょうか?どなたか教えてください。
と、言ってみたものの、まだ作品は完成してないんですけど・・・・・・。

648 名前:★惟新:2005/06/12(日) 17:31
や、ぐっこ様は多忙につきお返事できずに
いらっしゃいますが、お気になさらずどうぞ♪

はじめまして雑号将軍様! 
私もご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません…orz
よろしくお願いいたします〜!

649 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 22:35
これはこれは惟新様。お返事&回答ありがとうございます。新参者のくせにやたらめったら書き込んでいる雑号将軍です。
惟新様のサイトにも行かせて頂きました。僕も一度、川中島合戦絵巻に出場したいものです。

>ぐっこ様は多忙につきお返事できずに
いらっしゃいますが、お気になさらずどうぞ♪
そ、そうですか。そうおっしゃって頂けるのなら、作品が完成次第投稿させて頂きます!
そのときはだめ出しをして頂ければ幸いです。

>私もご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません…orz
よろしくお願いいたします〜!
なんのなんの。お気になさらずに〜。こちらこそ大して役にも立ちませんが、よろしくお願いします!

650 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 22:39
こちらこそはじめまして。新参者のくせにやたらめったら書き込んでいる雑号将軍です。
惟新様のサイトへも行かせて頂きました。僕も一度川中島合戦絵巻に出場したいものです。

>や、ぐっこ様は多忙につきお返事できずにいらっしゃいますが、お気になさらずどうぞ♪
そ、そうですか。そう言ってくださるなら、作品が完成次第、投稿させて頂きます!
そのときはだめ出しをして頂ければ幸いです。

>私もご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません…orzよろしくお願いいたします〜!
なんのなんの。お気になさらずに!
こちらこそ大して役にも立たないと思いますがよろしくお願いします。

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