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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

651 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 22:41
すみません。僕の不注意で同じ書き込みをしてしまいました。本当にごめんなさい・・・・・・。
できるなら削除をお願いします。

652 名前:★惟新:2005/06/13(月) 00:57
や、それは惟新違いの別の方でいらっしゃいます(^_^;)
私もあの方みたいにああいったのに出場してみたいなあ、とか思っていますが…
比較的近い、壇ノ浦の武者行列にはついぞ参加できませんでした(つД`)
でもあちらをご覧になられたということは、島津家についてもアレコレお読み頂けたのですかにゃ( ̄ー ̄)

さておき! 作品、楽しみにさせていただきます!(*´Д`)ハァハァ

653 名前:雑号将軍:2005/06/13(月) 22:01
遅くなってしまいました。

>や、それは惟新違いの別の方でいらっしゃいます(^_^;)
なっ!なんとっ!人違いとは!申し訳ありません・・・・・・。

>でもあちらをご覧になられたということは、島津家についてもアレコレお読み頂けたのですかにゃ( ̄ー ̄)
もちろん、読ませて頂きましたよ〜!なんというか、僕は日本の戦国時代は常人程度の知識しかないので、かなり勉強になりました。
高校の日本史のテストはもらいましたよ!?

>作品、楽しみにさせていただきます!
ようやく完成にこぎつけられたので、推敲した後に投稿したいと思います。

654 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:56
「全員、まだよー」
少女が微笑みすら口元に浮かべながら目の前の敵を睥睨する。
彼女の前には1000人にも届こうかという敵の一団が、そう、彼女に向かって突進してくる。
その迫力たるや無様に泣き叫んで許しを乞うても誰からも批判されることはないだろう。
それが戦場のプレッシャーというものである。
だが彼女は微笑み……
「はい、よく我慢したね。んじゃ撃とうか」
軽い調子でタクトを振るかのように自分の後方に控えていた少女たちに指揮を飛ばす。
我慢に我慢を重ねた少女たちは手にしたエアガンを一斉に放つ。
策もなにもなく、ただ1人の少女だけを目標に突撃を敢行していた一団はそれだけでパニックに陥り……
「た、退却だー」
やがてその声に従うように隊列を崩したまま撤退していく。
「追撃しますか?」
「んー、こっちも陣形を整えるのに時間かかるでしょ。今は撤退させてやろっか」
部下の言葉に気楽に言い放ち、そしてふと気づいたようにわざとらしく額の汗をぬぐうふりをした。
「あー、緊張した」
少女……王昶はににっと笑いながら言った。


策を投じる者〜王昶の場合〜


長湖部は揺れていた。
絶対的なカリスマである部長、孫権もその長きに渡る統治により水を淀ませている。
のちに二宮の変と呼ばれる事件により陸遜という稀代の名主将は放逐され、また部長、孫権ももはやすでに引退時期を考えている、という風のうわさすら流れていた。
そんな時期、荊・予校区兵団長の王昶が生徒会に1つの提案をした。
「孫権って最近、能力持ってる人間を次々トばしちゃって、しかも後継者争いなんかさせちゃってる状況みたいなんですよー。今のうちに長湖部を攻めたらいけるとこまではいけると思うんですよね。白帝、夷陵の一帯とか黔、巫、シ帰、房陵のあたりなんて全部、長湖のこっち側ですからね。あと男子校との境目だから混乱も起こしやすいし。今が攻め時、お得ですよ!」
生徒会はその進言を受け入れ、荊州校区総代の王基を夷陵へ。荊・予校区兵団長の王昶を江陵へ進撃させた。

荊州校区に熱風が吹き荒れる。

「しまったなぁ」
王昶は頭をかきながらぼやいていた。
眉間にはしわ、しかも相当深い。
「大失敗だぁ」
誰にともなく呟き、ため息をつきながらがっくりとうなだれた。
彼女の眼前には江陵棟の威容がそびえていた。

王昶は緒戦で長湖部の施績を完膚なきまでに打ち破った。
施績はそれにより江陵棟まで撤退せざるを得なくなった、それはそれで完全勝利といえる。
精神的優位に立った王昶はそのままの勢いで攻め続ける……そのつもりだった。
「まさか校舎に閉じこもったまま出てこないとわ……」
本日何度目かのため息。
王昶は撤退した敵はそのままある程度持ち直したら逆襲してくると考えていた。
そのまま校舎に閉じこもるなど思いもよらなかった。

だがそれはそれで正しいといえる。
一般的に篭城を打ち破ろうと思えば10倍の兵力が必要といわれる。
しかもそれで勝ったとしても多大な犠牲込みである。
兵力に劣り、さらに策謀に劣ったとしてもこうしてひたすら閉じこもり援軍を待たれれば疲弊するのは王昶の側である。
当然、王昶としても疲弊を望んでいるわけではない。
だからこそ……
「しまったなぁ……多少、強引でも追撃して校舎に立て篭もらせないようにすべきだったか」
……なのであった。

655 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:56
「ん〜」
少しだけ考えて……
「よし!」
王昶はパシンと両の頬を自分で叩き気合を入れる。
このあたりの切り替えの速さは名将の素質といえるだろう。
そのままアウトドア用の折りたたみいすに前後逆に座り両の頬に手を当てたまま目をつぶって前後に動いた。
「お姉ちゃ〜ん」
不意に響くどピンクのその声に王昶はびっくりしてバランスを崩す。
そして受身も取らずにいすに座ったまま後ろに倒れ、後頭部を地面に打ち付けた。
結構いい音がした。
「……っ……っっ……!?」
後頭部を抑えてうずくまる。
これは痛いですよ、実際。
「ど、どしたの、お姉ちゃん。なにやってるの」
「な、なにやってるように見える?」
痛みがようやく引いたか、しかし涙目になって王昶は自分のことを『お姉ちゃん』と呼び心配そうに見下ろす少女……王昶の妹で名前を王渾、あだ名は玄沖という……を据わった目で見返した。
「えっと……遊んで、ないよね?」
「当たり前でしょ」
不機嫌に勢いをつけて上半身だけ起こしながら王昶は王渾を見た。
「玄沖、あんた、ここは公の場所であって私は主将、あんたはその部下なんだから『お姉ちゃん』はやめなさい。ほかのひとに示しがつかないでしょ」
「う、うん。ごめんなさい、お姉ちゃん、じゃない。主将」
王渾の受け答えに王昶は転んだせいではないたぐいの頭痛を覚えた。
「……で、なんだって?」
眉間を揉みほぐしながら王昶は王渾に尋ねる。
「うん〜。おね……主将がこれからどうするのかなぁ〜、って」
「どうするのか、って?」
王昶の反問に王渾は少し困ったような顔をした。
「う〜んと、ほら、校舎って攻めづらいから……う〜んと、なんで攻めづらいのかって説明しにくいけど……う〜。もしおね……主将が校舎をそのまま攻めるつもりなら止めなきゃって思ったの」
王渾のたどたどしい説明。
しかし悪くはない。
もしここで校舎攻め強行なんぞを提案してきたらはったおしているところだ。
「じゃ、具体的にはどうする?」
「え、う……え〜と」
そこまで考えていなかったらしい。王渾は目を白黒させた。
まぁ、いいか……
校舎攻めが下策ってことを看破しただけでここのところは及第点としておいてやろう。
「玄沖、見ておいで。『お姉ちゃん』が戦い方を教えてあげる」
地面から上半身を起こしたままの格好で王昶は不適に微笑んだ。

施績は江陵棟の執務室で落ち着き払いタンブラーに入ったブレンドコーヒーを飲んでいた。
戴烈と陸凱の救援隊が今、江陵に向かっていることは知っていたし、諸葛融にも援軍を要請していた。
敵がある程度の能力を持っているやつらなら援軍到着前に撤退するだろうし、もしなんの取り柄もない無能モノが敵の主将なら大きい勲功を上げることが出来る。
私の役目はそれまでずっと校舎に立て篭もっておくことだけだ……
施績は余裕の笑みでタンブラーを傾け……
「し〜せきちゃ〜ん、あ〜そ〜ぼ〜!」
……思わずタンブラーを手から滑らせた。
「な、なに!? なに、さっきの声は!?」
床で転がったタンブラーを踏みつけ、転びそうになりながらなんとかバランスを保つ。
「誰か状況を説明しなさい!」
取り乱した施績の言葉に部下の鍾離茂が駆け寄る。
「え、っと……説明するより窓の外をご自分で見ていただいたほうが……」
なにやら言いにくそうな鍾離茂にクエスチョンマークを頭に浮かべながら施績は窓の外を見る。

敵主将、王昶がたった1人で拡声器を持っていた。

656 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:57
「し〜せきちゃ〜ん、あっそびっましょ〜」
遊びましょ、って……
おびき寄せるにしてもあまりにも幼稚な方法に苦笑を禁じえない。
これは敵は無能だわ。援軍到着と同時に大勲功かなぁ……
ここで大出世しちゃうのは悪くないなぁ……
施績は頬の辺りが緩むのを感じた。
「もぉ〜、しせきちゃん、いけずだね〜。遊んでくれないんだったら帰っちゃうぞ〜」
帰るの?
だったらそれはそれで悪くはない。
敵壊滅には劣るけど江陵棟を守りきるだけでも十分な功績だ。
「それにしてもここらへん湖が近いからかな? 寒いね〜」
寒いか?
施績は校舎を守りきった人間の余裕で王昶を見る。
あいつはしょせん敗残者だ。
ここを守りきった私の足元にも及ばない。
「あ〜、鼻水出てきた……ハンカチハンカチ」
……いや、そんなことをいちいち拡声器を通していわなくても。
苦笑する。
「チーン」
鼻をかむ音がやけにリアルに響く。
施績は吹き出しそうになった。
「ん? なにこれ?」
王昶の不思議そうな声が拡声器を通してあたりに響く。
なにがなんだというのだ?
「ん? ……んー?」
ハンカチ、にしてはやけに大きい……
「あー」
ハンカチ、のようなものを広げた王昶が照れの混じった声を出す。
施績はすでにそんな声など聞いていなかった。

王昶が鼻をかむのに使ったのは長湖部のジャージだった。

施績の頭が真っ白になる。
泣き笑いのような表情のまま……
「鍾離茂、全軍特攻準備を」
「……はい、わかりました」
鍾離茂も真っ白な頭のままで無表情に言う。

あいつらは長湖部の魂を踏みにじった。
この罪はトんでも償えない。

王渾は手近な建物に身を潜めながら姉の言葉を聴いていた。
「おね……主将いじわるだよぉ」
敵ながら長湖部の連中がかわいそうになる。
敵が校舎から総攻撃をかけようと出てくるのが見えた。
「……ふぅ」
息をひとつ大きくつき心を落ち着かせる。
戦場が頭にリアルに思い浮かんだ。
「じゃ……とっつげき〜!」
王渾の指揮で伏兵が熱い奔流となり、指揮系統のない狂乱の群れの横っ腹に突き刺さった。

凱旋。
圧倒的勝利を収め帰途につきながら……
王昶は遠く長湖を眺めた。
あれだけ混乱した状態でありながら結局は湖を渡ることが出来なかった。
本格的に湖を渡るには……時間が必要か……
横で嬉しそうににこにこ笑う妹を見る。
「玄沖、長湖はお姉ちゃんの代じゃ渡れないかもしれない」
王渾は笑いを収めて敬愛する姉を見た。
「もちろん私だって出来る限りの手は打つつもり……でももしお姉ちゃんが長湖を渡れなかったら……玄沖が渡るんだよ」
一瞬、王渾は不思議そうな顔をし……
「うんっ!」
元気に頷いた。

657 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:58
雑号将軍様が投稿しようとかいってらっしゃる空気を読まずに『策を投じる者〜王昶の場合〜』です。
タイトルの前に1シーンあるのはちょっとアニメっぽく、って感じですかね。
というか3つに分けたのに3つ目だけ省略されてしまった……orz

嘉平2年(250年)のこの戦いは赤壁なんかと同じで魏と呉でまったく書かれ方が違うんですよねぇ。
魏書だと戴烈&陸凱とか出てこないし!(戴烈&陸凱の記述は呉主伝参照のこと)
呉側から見た場合は……海月様に書いていただくとしましょうか(笑

あ、ちなみに王渾ちゃんはのちに呉討伐戦で建業一番乗りを王濬ちゃんにとられちゃったのでダダをこねちゃうんです。
「私が〜! 私が建業一番乗りしなきゃいけないのに〜! 私が〜!」
机をバンバン叩きながら超涙目。かわいいデス。

次回は『策を投じる者〜王基の場合〜』です。
ホントは当時、同時行動した州泰の場合も書きたいんだけど〜……州泰はねぇ〜……
資料がなさすぎで……
とりあえず州泰が戦った相手やら、なんか情報お持ちの方がいたら教えてほしいのデスよorz

658 名前:海月 亮:2005/06/14(火) 22:25
>王昶
「どおきのきづな」でもいい味出してましたが…やってることがエグくていいですな。
史実では馬に奪い取った鎧と兜をつけた首を乗っけて城の周りを駆けさせたらしいですが…。

>呉側で…
王昶伝では挑発に乗って出た朱績(施績)の軍を散々に打ち破ったってありますが、朱績伝だと逆ですからね。
朱績は退却する王昶の軍を追撃したんだけど、諸葛融の軍が来なくて不利に陥ったって書いてあったし。

そういえばおいらは東興堤しか書いてないや。

>州泰
一応魏書昜伝におまけで州泰伝がありますぜ御大。
それによれば、裴潜がまず従事として召し出したのですが、孟達が反逆した時司馬懿の軍に従軍して、そのとき軍を先導してたんだそうです。
当時州泰は両親と祖父を立て続けに亡くして喪に服してたようですが、司馬懿は彼の喪が明けるのを待って新城太守に抜擢したんだとか。
司馬懿は宴会で鐘ヨウに州泰をからかうよう仕向けたんだけど、州泰は見事に言い返して見せて喝采を浴びたとか。
後にはエン州、豫州刺史を歴任して高い治績を上げたとあります。
字が伝わってないのは、彼が平民の出だったせいみたいですが。


おいらも一本書いてる途中だけど…小分けして出してもあれなんで自粛するかな。
交州でのある人のお話。多分に異論が出そうです(^_^A

659 名前:海月 亮:2005/06/14(火) 22:36
>州泰補足
結局州泰伝も、そのくらいしか書いてないわけでして。
州泰が出向いたところに誰がいたか、なんて話は呉書にも書いてなかったですし…。

660 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 22:45
>王昶
いっや、彼女、それくらいやるだろう、と(笑
エグいのダイスキデス!(笑
ま、実際、兵書を書いてる程度には軍事に精通してるみたいなんで曹操のすでにいないあの時代では屈指の指揮官だったと思うのですよ。

>州泰
おー、さっそくチェック!
……なるほど、確かに司馬懿に新城太守に任命されてますね。
ただ問題はこの250年の戦いでは州泰はすでに新城太守なんですよね(王昶伝参照)
この戦いのことが書いてある資料はないのかー! ないのかー!
とりあえず調べていただきありがとうデスよ。
まさか昜伝に書いてあるとは^^;

>交州
あのひとか!? それともあっちか!?
わくわくしながら待ってますデスよ♪

661 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 21:44
  ■影の剣客 その一

 この年の一〇月、この蒼天学園を根本から揺るがす大事件が起こった。
 なんと張角をはじめとする「オペラ同好会」の会員が蒼天学園東部で一斉に蜂起したのである。それはもはや革命だった。
参加者は「オペラ同好会」の会員にだけにとどまらず、一般生徒も加わり、その数は見当がつかないほどだ。
この集団は「黄巾党」と呼ばれた。それは指導者である張角がいつも黄色のスカーフを巻いていたのにあやかって、参加者全員がどこかに黄色のスカーフを巻いているからである。
そして、その黄巾党の大軍が蒼天学園の首都ともいえる洛陽棟まで迫ろうとしていた・・・・・・。

そしてそんなある日の早朝
「皇甫嵩。そなたに左軍主将の位を与える。この学園の平和を取り戻すのだ」
「はっ、我が身に変えましても」
 静まりかえった会場に、マイクを通した声が響き渡る。ここは司隷特別校区、洛陽棟の第一体育館。床には真っ赤なカーペットが敷き詰められ、その中央に大きな舞台が設けられている。
 その舞台に立つのは二人の少女。ひとりは無表情で渡された文章を棒読みしている少女。彼女はこの蒼天学園の象徴である蒼天会会長・霊サマ。そして、いま一人・・・・・・皇甫嵩と呼ばれた少女は屹立して、それを聞いていた。
 そして、少女はうやうやしく、任命書と金の勲章を受け取り、一礼した。
 同時に一般生徒は少女にわれんばかりの拍手を送る。
 この少女の名は皇甫嵩。親しい者は義真と呼ぶ。蒼天学園一の用兵巧者との誉れ高い人物である。今の蒼天学園を救うことができるとしたら、彼女、以外には考えられないだろう。
 しかし、与えられたのは「黄巾党」討伐の総司令ではない。彼女に与えられたのは一方面軍の指揮官という役職で、総司令となったのは、また別の人物であった。
 皇甫嵩は謀略だと気づき、自身の左前側に立っている、おかっぱ頭の女生徒を鋭い目つきで睨み付けていた。
 その鋭い眼光で睨み付けられている、少女はすくんだ身をなんとか動かし、皇甫嵩から目をそらすことに成功した。
 この皇甫嵩という少女は、このおかっぱ頭の少女たち、つまり蒼天会秘書室と正面から対立している。そのため、秘書室としては皇甫嵩の名声を高めるようなことは極力したくないのだ。
 自らの地位を守ることしかできない。そんな秘書室に皇甫嵩は憤りを感じていた。
 しばらくすると、皇甫嵩は憤りを押さえ込んで、一般生徒の方に振り返り、微笑を浮かべ右手を挙げてその拍手に答えようとした。
そのとき。まさにそのとき――
キャーという黄色い悲鳴が一斉に沸き起こったのである。なかには、涙を流している者さえいる。
皇甫嵩はこの歓声に顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
彼女のすらっとした長身から発せられる男口調は一部の腐女子から偏った影響を受けているため、今日みたいなことがあると、こういうことになる。
もちろん皇甫嵩にその気はないのだが・・・・・・。

 会場からでできた皇甫嵩を待っていたのは、最愛の友たちであった。
「義真、頑張ろうね!」
「ああ、もちろんだ!公偉」
 皇甫嵩が多少顔をほころばせ、赤髪の少女としっかりと握手を交わす。
 面倒な行事が終わりほっとしているのだろう。
彼女は朱儁。親しい者は公偉と呼ぶ。彼女もまた、黄巾討伐の一方面軍の指揮を任された逸材である。
 皇甫嵩は朱儁の横にいた、もう一人の少女を見た。
「義真・・・・・・」
 腰までありそうな緑色の長髪を赤いバレッタで結んだ少女が、力なく言う。その少女はただただ地面だけを見つめていた。
 彼女は盧植。親しい者は子幹と呼ぶ。彼女こそが今回の黄巾討伐軍の総司令であった。
「どうした、子幹。顔色が良くないぞ?」
 盧植を見た皇甫嵩があわてて言う。
それに盧植はうつむいたまま、呟くように答えた。
「・・・・・・私に司令官なんて、できるわけない・・・・・・。義真と公偉は別働隊で行っちゃうし、建ちゃん(丁原)は食中毒で倒れちゃうし・・・・・・。どうすればいいのかわからないの・・・・・・」
「そんな顔をしていてどうするんだ。それじゃあ、指揮に関わるぞ」
「・・・でも・・・・・・」
皇甫嵩の励ましはなんの効果もなかった。盧植はがっくりと肩を落とし、その声は今にも消えそうだった。
「子幹・・・・・・不安なのはわかる。私だって今回の作戦が成功するか不安だ。だがそんなことは言ってられない。ここで逃げたら、いったい誰がこの学園を守るんだ?だからお願いだ、子幹。今はその不安を押し隠してでもいい。総司令として、頑張ってはもらえないか?」
 皇甫嵩は子どもをあやすように優しく語りかけた。
 盧植は顔を上げて、皇甫嵩を見つめた。距離にして30センチ強。その潤んで光る盧植の両目を皇甫嵩はしっかりと見つめ返した。
 そして、盧植が恐る恐る、口を開いた。
「・・・・・・ええ、そうね。私は総司令。弱音なんか吐いちゃいけないのよ・・・・・・。わかってる、わかってるの・・・・・・だけどっ!」
 ついに堪えきれなくなった盧植の身体は地面から離れ、そして皇甫嵩にもたれかかってきた。
「おっ、おい!子幹!」
 なんとか盧植を受け止めた皇甫嵩だったが抱きしめる形になり、あたふたしている。
 皇甫嵩の狼狽ようは尋常でなく、眼をキョロキョロさせ、顔を真っ赤にして盧植から視線をそらす。
もちろん確信犯の盧植は離れる様子など無い。
「ごめんなさい・・・・・・。義真。帰ってくるまではもう絶対、弱音なんか吐かない・・・・・・だから、今だけ、泣いてもいいよね・・・・・・?」
 盧植の嗚咽が自分の顔のすぐ側から聞こえることに皇甫嵩はますます困惑して、顔をしかめた。
しかし、皇甫嵩にはどうすることもできなかった。
「あ、ああ・・・・・・」
 皇甫嵩はそれだけ言うと、盧植の長い髪をゆっくりと撫でてあげた。
 盧植はただただ泣きじゃくっていた。
 このとき、カメラのシャッターを切る音がしたのには、だれも気づいてはいなかった。
「・・・・・・義真に子幹。わ、私、兵の訓練をしなきゃいけないから、さ、先に行くね!そ、それじゃっ!」
 居たたまれなくなった朱儁はそれだけ言うと、その場から逃げ出すように、猛スピードで走っていった。

 それから、数分後。
「ありがとう。義真。おかげで楽になったわ。ごめんね。変なことしちゃって・・・・・・」
 顔と眼を真っ赤にした盧植がそう言った。皇甫嵩は咎める様子もなく、ポケットから何かを取り出した。
「私からの総司令就任祝いだ。・・・・・・その、なんだ、一緒に戦場に行ってやれないせめてもの償いというやつだ。それなら、寂しくはないだろ?」
 皇甫嵩は自分の言葉に恥ずかしさを感じ、口元を手で覆うようにして、照れ隠しした。
そして盧植の後ろに回り込むと、持っていたあるものを盧植の首からかけてあげた。
それは細い銀色のチェーンに繋がったロザリオだった。
「これ・・・。ありがとう、義真。これなら私、頑張れそう!・・・・・・でも、義真、知ってたの?自分が総司令になれないこと・・・・・・」
 盧植は目を光らせ、大事そうにロザリオを両手で包み込んでいる。
「ふっ、薄々とはな。今の蒼天学園は秘書室が支配しているようなものだ。
そんな世界で、秘書室と仲の悪い私が総司令に慣れるはずもないだろう」
 皇甫嵩は苦笑しながら言う。
その眼は雲一つ無い青空を見つめていた。
「そうね。変わってしまったのね。なにもかも。・・・・・・義真、私もそろそろ行くわ。このロザリオ大事にするからね。今日はありがとう。おかげで楽になったわ。公偉(こうい)によろしく」
「元気になったならよかった。さっきも言ったが、子幹ならできる。頑張れよ。子幹。絶対に飛ばされるなよ」
「義真も・・・・・・」
 二人はそう言うと、皇甫嵩は東側に、盧植は西側へと歩いていった・・・・・・。

662 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 21:50
  ■影の剣客 その二

 グランドの前にある何かのクラブの部室で待っていた朱儁はニタニタしながら、現れた皇甫嵩に話しかけた。
「あっ、もう、子幹との愛の誓いは済んだの?」
「なっ!何を言う。そんな誓いなどしていないっ!断じてない!そんなことよりも、黄巾党の動きはどうなんだ?」
 戦況不利と判断した皇甫嵩が無理矢理話題を変える。朱儁もしぶしぶ、それを聞き入れると、話し始めた。
「今、あたしたちが倒さなきゃいけない敵は豫州学院校区にいる。その数は報告によると三〇〇人。義真とあたしの兵がそれぞれ四00ずつ。それからたった今、秘書室から作戦が通達されたのよ。これよ」
 皇甫嵩は「秘書室」という言葉に顔をしかめて不快感をあらわにした。
そして、朱儁からその命令及び黄巾賊の情報がまとめられた書類を受け取ると、皇甫嵩は近くにあったパイプ椅子に腰掛けた。
皇甫嵩は一通り目を通すなり低い声で言った。
「『敵は少数。そのため朱儁隊を先鋒とし、敵を壊滅させ、皇甫嵩隊は洛陽棟で命令あるまで待機』か・・・・・・。公偉。どうやら私たちの敵はどうやら黄巾の連中だけではないらしいな」
「あたし、一つのことしかできないからさ。今は豫州にいる、あいつらをどうにかしなくちゃいけない。それだけよ」
「前だけを見つめている公偉らしい意見だな。そういう公偉は好きだ」
 皇甫嵩は少し恥ずかしげにそう言うと、足を組み、椅子にもたれかかった。
「ありがと!・・・それで作戦だけど、命令に逆らうわけにはいかないから、あたしが先鋒隊として四〇〇人を引き連れて出るよ。義真は許可が出たら来てくれればいいよ」
 皇甫嵩は迷った。報告通り黄巾党の数が三〇〇人ならいいのだが、もし増えていたとしたら・・・・・・。だからといって、今出陣しなければ黄巾党の思うようにされてしまう。
「・・・・・・わかった。公偉、頼むぞ!私も許可がおり次第、直ちに援軍に向かう。それまで持ちこたえてくれればいい」
 ここまできたら、これは賭だった。味方の報告を信じるしかなかった。
「まかせといてよ!黄巾賊なんかあたし一人でなんとかしてみせるよっ!」
 そんな皇甫嵩の悩みに気づく様子もなく、朱儁は親指を上げてそれに答える。
 そして、朱儁は愛用の深紅のリボンを結ぶと、部室から出て行った。
(頼むぞ、公偉。絶対に飛ばされるな)
 皇甫嵩はそう願うよりほかになかった・・・・・・。

  それから約一時間後・・・・・・
「なっ、なんだと!公偉が敗れと!?」
 部室で事務処理をしていた皇甫嵩に届いたのは突然の悲報であった。
「そ、それで、公偉・・・いや右軍主将はどうなったのだ?それ以前に敵はどうやって我が軍を打ち破ったのだ?」
 皇甫嵩がいつになく動揺した様子で、報告に来た伝令に詰め寄る。
 伝令は一歩後ずさりすると、息も絶え絶えに話し出した。
「敵はあらゆる所に兵を隠していたようで、我が軍勢は広場に差し掛かった所を賊軍に包囲され、朱儁主将はなんとか敵の包囲を脱しましたが兵の半数が飛ばされました。賊軍の将は波才。その数は一〇〇〇人に上るとのこと」
 皇甫嵩は天を仰いだ。怖れていた事態が起こった。
しかし、皇甫嵩は怖れてなどいられなかった。
(十年来の友を助けねばならぬ!)
 皇甫嵩は即座に決断した。
「悪いがもうひと働きしてもらいたい。これからこの場所に行って、そこにいるメンバーを一人残らず連れてきて欲しいのだ。私が呼んでいると言えば、納得してくれるはずだ。頼めるか?」
 伝令が頷くと皇甫嵩は地図を手渡した。地図を受け取った伝令は、皇甫嵩に一礼する。そして、振り返って走り出そうとしたとき、それを皇甫嵩が呼び止めた。
「腕から血が出ているぞ。ちょっと待っていろ・・・・・・」
 皇甫嵩はそう言うと、ポケットから消毒液を取りだし、傷口を洗うと、今度はまた別のポケットから大きめのばんそうこうを取りだし、その伝令に張ってあげた。
「これでよし・・・・・・と。悪いな、怪我しているというのに」
 皇甫嵩は若干視線を下げるとそう言った。
 伝令はぶんぶんと顔を横に振ると、一目散に地図に書かれた方へと駆けていった・・・・・・。
 
 一〇分としないうちに、四〇〇人の女子生徒がグランドに集まった。
「これから、我らは豫州学院校区にはびこる黄巾賊を討ちに行く!しかし、我らの出陣は生徒会からは認められてはいない。これは私の独断である。故にこの出撃に異議のある者は待機していてくれればいい。もし私を信じて着いてきてくれるならば私と共にこれより出陣して欲しい!」
 皇甫嵩が彼らの正面に立ち演説する。
彼女から滲み出る風格、威厳は蒼天学園に籍を置くいかなる者も上回ることはできないだろう。
しかしながら、そんな皇甫嵩といえども、軍律違反はとなればその罪を免れることはできない。
それでも皇甫嵩はやめようとはしない。学園を護るためには自分の階級章など惜しくはないということだろう。
この皇甫嵩の決死の覚悟は四〇〇人の生徒の心を大きく震わせた。
四〇〇人の生徒は歓声を上げると共に、一斉に竹刀を天に向けて突き上げたのだ。そして一人の女生徒が一直線に皇甫嵩を見つめ、問いかける。
もうこれは睨んでいるといった方が正しいのだろう。
「義真!なに三年間も一緒に剣道やって来て、水くさいこといってんの!私たちはみんな義真のことを友だちだと思ってるのよっ!義真は私たちを友だちとは思ってくれないの?」
その声には怒気が込められていた。
 皇甫嵩はしばらく黙り込んだまま何も言わない。悩んでいるのだろう。
(友だちだと思っていないはずなどあるか。友だちだからこそ、こんないらない罪を着せるのは嫌なんだ。私はどうすれば・・・どうすればいい?)
 耐えきれなくなったさっきの少女が皇甫嵩の胸ぐらにつかみかかる。
「なに迷ってるの!そんな暇があれば早く命令出しなさいよ!私たち義真のためだったら階級章なんか捨ててやるよっ!」
 女生徒は皇甫嵩を見上げ、睨み付ける。
 二人の睨み合いがしばらく続いたが、ついに皇甫嵩が声を上げて笑った。
「はっはっはっは!お前たちも馬鹿な奴だ・・・・・・」
「・・・・・・義真にはかなわないけどね」
 二人はそう言うと、声高らかに笑った。もう皇甫嵩に迷いはなかった。
 一つ深呼吸すると断を下した。
「よし、全軍、出陣するぞ!」
 こうして皇甫嵩とその兵四〇〇人は出撃していった。

 皇甫嵩隊四〇〇人は驚異的なスピードで行軍し、通常三〇分はかかる司隷特別校区から豫州学院校区までの道のりをたった一五分でやってのけてしまったのだ。
 その甲斐あって、黄巾党が到着する一歩前に、彼女たちは豫州学院校区に数多く存在する校舎の一つである長社棟に立てこもることができた。
 外に陣を張らなかったのは皇甫嵩が数的不利だと判断したからだ。
 そして、防戦準備を整え終えたのと同じ頃、ついに正面のグランドに一〇〇〇人を超える人の群れがあらわれたのである。
 そして、なにやら何人かの生徒が拡声器を手に取って歩いてくる。
「やーい、へなちょこ。くやしかったらでてきてみなさ〜い!」
 罵声だった。それにまた数人の生徒が続く。
「あんたたちみたいな、おこちゃまなんか、家でおままごとでもしてなちゃ〜い!」
「あら〜でてこれないの〜?それとも腰が抜けちゃったのかなあ?え〜!おしっこ、ちびっちゃたの?もうだめね〜!」
 罵声はやむどころかどんどんエスカレートしていく。
 要は長社棟に籠城されて攻めあぐねた黄巾党は挑発して皇甫嵩たちを誘い出そうというわけだ。
 ついに耐えきれなくなった一人の女生徒が、屋上からその光景を眺めていた皇甫嵩のところに詰め寄った。
「義真っ!もう頭、来た!今すぐ出撃の許可を出してちょうだい!」
 皇甫嵩は首を二度、横に振った。
「いいか、戦とは実と虚の二つしかない。だからこそ、これら二つの組み合わせが肝要だ。あのような子どもにでもできる挑発しかできない奴らだ。後、二時間もすれば、おそらく彼らの語彙も尽き果てて、ぴくりとも動かない私たちに油断しているころであろう。我らがその隙をつき、そして、援軍を引き連れた朱儁隊が四方から攻め立てれば賊軍共は・・・・・・壊滅!する」
 そう言うと、皇甫嵩は左手を腰に当てたまま、右手で竹刀を大きく振り上げ、そして、振り下ろした。
(公偉、頼むぞ。お前なら、私の作戦・・・・・・理解してくれるよな)
 皇甫嵩は目を閉じ、後ろから吹いてくる風に髪をゆらせながら、そう自分を納得させると、棟長室へと戻っていった・・・・・・。

663 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 21:51
 ■影の剣客 その三
  そして約二時間後・・・・・・
 時間は午後五時四〇分。沈み駆けた夕日のまばゆいばかりの光を背中に浴びながら、一人の少女が屋上からグランドを見下ろしていた。
 彼女の見える光景は、もはや挑発の語彙が尽き果て、ただ馬鹿騒ぎをして挑発している者と、することもないので、弁当を食べている者のいずれかであった。
 皇甫嵩は右目と上唇をつり上げ、そして、ニヤリと一流の殺し屋のような笑みを浮かべる。
そのニヒルな笑みが夕日のバックには面白いようにマッチする。
そして、皇甫嵩は決断した。
(今こそ攻める!)
 このときに備えて、皇甫嵩は二時間前から長社棟の倉庫にあった、百本近いロケット花火に爆竹と煙玉をセットし屋上に配置させていた。
 
屋上から戻った皇甫嵩は四人の部隊長を集めて作戦を発表した。
「まず、棟長は元々この長社棟にいた一〇名と共に屋上にセットしておいた、ロケット花火を遠慮無く賊軍の陣に打ち込んでくれ。打ち尽くした後は背後から敵の強襲を受けないように注意!では、棟長は直ちに準備にかかってくれ!」
 棟長は皇甫嵩に一礼すると、準備のため屋上に駆け上がっていった。
 それを見送った皇甫嵩は話を続ける。
「我らは賊軍が混乱を始めたと同時に敵陣に斬り込む!我らが『抜刀隊』の剣技を見せつけてやるぞ!我らは出撃まで昇降口で待機する」
 皇甫嵩は両手でバンと机を叩いて立ち上がると、そう言いはなった。

  午後六時
 長社棟周辺が轟音に包まれた。ついに皇甫嵩の反撃が開始されたのだ。
屋上からは無数のロケット花火が流星雨となり黄巾党の陣に降り注いだ。
 着地するたびにドーンという炸裂音が鳴り響く。
 黄巾の将・波才は仮眠を取っていた急造仕様の小屋から飛び出してきた。
 状況を確認しようにも煙のおかげで一メートル先も見えない。
 波才はとにかく、敵の襲撃に備えなければならないと考え、小屋においてあった木製の薙刀を掴むと、必死に声を張り上げて事態を収拾しようとする。
 しかし、彼女の声はロケット花火の轟音にかき消されて、味方の兵たちには届かなかった。

 そんな、黄巾の陣を静かに見守っているものたちがいた。皇甫嵩率いる四〇〇人の精鋭部隊である。
「伝令!ロケット花火は全弾打ち尽くしました!」
 屋上から一人の生徒が駆け下りて来るなり皇甫嵩に報告する。
 皇甫嵩はこくりとそれに頷くと、声を張り上げて言った。
「これより我らは敵陣に斬り込む!全員藍色の鉢巻きは巻いているな。間違っても同士討ちはするな。よし、打って出る!」
 皇甫嵩は竹刀を右手で握り直すと、四〇〇人の先頭を切って、走り出した。
 正面にいた門番役の黄巾の兵士の胴を薙ぎ払うと、皇甫嵩を始めとする四〇〇人は一斉に斬り込んだ。
 彼女らは目の前にいる黄巾の兵たちをばったばったと切り倒していく。
 なかには竹刀を振りかぶり打ち合ったのだが、その竹刀が自分の顔面に跳ね返って脳震盪を起こし気絶する者さえいた。
 皇甫嵩とその兵四〇〇人のだれもが黄巾党の兵三人を同時に相手にしていた。
 それから数分後、五〇人ばかりのマウンテンバイクに乗った軍勢が戦場に現れた。その指揮を執っていた小柄な少女が戦場の光景を見渡す。
彼女の見た光景は凄まじいものであった。
 脇腹を押さえてもがき苦しむもの。竹刀で滅多打ちにあっているもの。顔が腫れ上がっているもの、恐怖に泣き叫ぶもの。
 その中で暴れ回っているのが皇甫嵩を中心とする部隊だと、その少女は気がついた。
 少女はこの光景に足が震え、前に進むことができなかった。
「あ、圧倒的じゃない!こ、これが、皇甫嵩先輩の用兵・・・・・・」
 そう言った少女の目は視点が合っていなかった。一種の錯乱状態に陥っていたのかもしれない。
 そのとき、放たれた矢のような物体が凄まじいスピードで少女に迫ってきたのである。
 その少女がそれに気がついたとき、それはもう数メートルの所まで迫っていた。
 少女は身体が動かなかった・・・・・・いや動かせなかった。戦場にうごめく恐ろしいまでの気迫に少女は飲まれてしまっていた。
 流星が少女にぶつかるほんの一瞬だけ、ほんの一瞬だけ早く、後ろに控えていた長髪の少女がそれを自らの竹刀で弾き飛ばした。
「げ、元譲!」
「何ぼやっとしているんだ、孟徳!敵は乱れている。今が攻め時だろ?」
「そ、そうだよね!全軍攻撃!あたしたちの力見せつけてやるよ!」
 正気を取り戻した少女は一度深呼吸をすると、一斉攻撃を告げた。

 援軍が到着した頃、皇甫嵩は敵陣深くまで斬り込んでいた。理由はもちろんこの軍勢の指揮を執っている波才を飛ばすためだ。
 皇甫嵩はただただ奥へ奥へと進んでいると、視界に数人の生徒を従え、薙刀を構える少女が飛び込んできた。
「貴様が波才か!?」
「そうよ!この計略は見事だった。けどね・・・・・・まだ終わったわけじゃないわよ!」
 波才がそう言うと、小屋の中から数十人の生徒が飛び出してきたのである。
 そうして、皇甫嵩の周囲は瞬く間に黄色の集団に囲まれてしまった。
「ふふふ・・・・・・。形勢逆転ね。冥土のみやげにその名前を聞いておくわ」
 腕を組んだ波才が不敵にそう言う。
「私か・・・私は皇甫嵩。貴様ら悪しきものを破るために生まれてきた剣だ」
「なによ。かっこつけちゃって!みんな、やってしまいなさい!」
 波才が断を下すと、まず三人の少女が皇甫嵩に斬りかかってきた。
皇甫嵩は大上段から斬りかかってきた少女の竹刀に合わせるようにして、下段から竹刀を振り上げた。
 すると少女の竹刀は根本から砕け散ったのである。次に少女が目にした光景は皇甫嵩の竹刀がめり込んでいる自分の胴だった。
 さらに体勢を立て直した皇甫嵩は右肩に向かって振り下ろされた竹刀を持ち前の見切りでかわすと、前のめりになった少女の首に皇甫嵩は手刀を見舞った。
そして左からの浮かび上がってくる竹刀は左手で持った竹刀を振り下ろして叩き折ると、間髪容れずに少女の脇腹に回し蹴りを決めた。
ここまでわずか6秒。皇甫嵩を囲んでいた少女たちは恐怖に顔をゆがめた。
「どうした。もうお終いか・・・・・・。貴様らにはもう、うんざりしていてな・・・・・・決めさせて貰うぞ!」
 皇甫嵩はそう言うと、正面に突っ立ていた少女を逆袈裟に切り上げると、同時に横にいた少女の腹に蹴りを入れた。
 そうして、皇甫嵩は流れた竹刀を引き戻すと、右手で自然に振り上げた形に左手を添えるようにして、上段に構えた。
 辺りにぴりぴりとした緊張感が漂っている。竹刀を上段に構えた皇甫嵩の頬からついに汗が流れた。
(どうする・・・・・・。敵はざっと見て二〇人。周りに味方はない。多勢に無勢というやつだな・・・・・・。まったく、あの将軍様はいつもどうやってこの修羅場をくぐり抜けているのか問い詰めてやりたいところだ・・・・・・)
 皇甫嵩が頭の中で皮肉を漏らす。
確かに今、皇甫嵩が置かれた立場は某時代劇番組に出てくる将軍様によく似ている。悪代官の屋敷で多数の手下に囲まれた将軍様・・・・・・敵将の陣近くでその配下に囲まれた皇甫嵩。そっくりである。
 皇甫嵩が考えていると、ついに前後から二人の少女が斬りかかってきた。
 前から向かってきた少女めがけて、皇甫嵩は竹刀を振り下ろす。少女は慌てて受けをとろうとしたのだが、気がついたときには右肩に重い衝撃を受けて、地面に叩きつけられていた。
 そうして後ろから迫ってきていた少女の胴を振り返る際の回転力を利用して薙ぎ払おうとした。
 しかし、皇甫嵩の竹刀は大きく空を斬った。なんと皇甫嵩は向かってきた少女は腰を曲げ、皇甫嵩の両足を掴もうとしていたのだ。
 皇甫嵩は体勢が崩されていたので両足を掴むのは容易であった。両足を掴まれた皇甫嵩は、そのまま地面へ押し倒されてしまう。
 そして、少女が皇甫嵩の階級章に手を伸ばした。
 そのとき・・・・・・
 少女は首に衝撃を受けて皇甫嵩に倒れ込むようにして気絶した。
 皇甫嵩がその少女をどかして、顔を上げる。飛び込んできたのは真っ赤な髪の少女。さらに髪のひとふさが逆立っている。
 こんな少女は皇甫嵩の知り合いに一人しかいなかった。
「助かったぞ、公偉!」
 朱儁だった。朱儁は皇甫嵩に気さくに笑いかける。
「なんの、なんの。義真、立てる?」
 差し出された朱儁の手につかまるようにして、皇甫嵩は立ち上がった。
 皇甫嵩が辺りを見渡すと、皇甫嵩を囲んでいた少女たちがばたばたと倒されていく。
 戦っているのは朱儁が連れてきた援軍だった。
「ごめんね。義真。遅くなって。兵を集めてたら時間かかっちゃったっ!」
 そう言って朱儁が舌を出す。
「構わんよ。さすが公偉だ。私の作戦に間に合うように来てくれたのだから・・・・・・」
「残念でした〜!義真の作戦に気がついたのはあたしじゃないのよね」
「なに!・・・・・・そうか、蒼天学園もまだまだ捨てたものではないようだ」
 皇甫嵩は朱儁の答えを聞くと一瞬驚いたような仕草を見せたが、すぐに微笑を浮かべてそう言った。
「義真、あたしたちも行こっ!まだ敵は残ってるんだから」
「そうだな。よし!行くぞ!」
 皇甫嵩はさっきの揉み合いで手放してしまった、愛用の竹刀を拾い上げると朱儁と共に地面を蹴って走り出した。

 この戦いで皇甫嵩軍は大将の波才こそ討ちもらしたものの、七〇〇人あまりの黄巾党員を飛ばすことに成功し、その半数以上が骨折などで入院生活を余儀なくされた。
 そして戦場には根本から折れた一〇〇〇本近い竹刀が残されていたという・・・・・・。

664 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 22:06
 ■影の剣客 その四
 激戦が終わり、長社棟の体育館で行われたささやかな祝勝会。
「みんな、よく頑張ってくれた!今日は戦いの疲れを癒してくれ!それでは・・・乾杯!」
 皇甫嵩の音頭と共に祝勝会が始まった。
音頭を終えた皇甫嵩が舞台から降りると、朱儁がグラスを片手に立っていた。その横には朱儁よりも小柄な少女が背筋をピンとたたせ起立していた。
「どうした、公偉。こんなところで」
「あっ、義真。紹介するわ。今回義真の作戦を見抜いた――」
「皇甫嵩先輩ですよね?あたしMTB(マウンテンバイク)隊長をしてる曹操、あだ名は孟徳って言いますっ!あ、あのよろしくお願いしますっ!」
 朱儁が紹介しようとするのを遮って、少女つまり曹操はあいさつすると、腰を曲げるようにして頭を下げた。
「上官を見て硬くなるのはわかるが、もう少し落ち着いたらどうだ。朱儁まで使って私を捕まえようとしたのだ。なにか訊きたいことがあるのだろう?」
 皇甫嵩は舞台裏の壁にもたれかかり、腕を組む。
「・・・・・・さすがは皇甫嵩先輩。では、率直に伺います。皇甫嵩先輩の部隊はいったいなんなんですか?あの異常なまでの強さ。恥ずかしいですけど、戦場に着いたとき、足が震えました。そんなプレッシャーを放てる皇甫嵩先輩たちはいったい何者なんですかっ!?」
 曹操は見上げるようにして、長身の皇甫嵩の目をしっかりと見つめる。
「今回の作戦に参加した私の部隊は『抜刀隊』だ」
「『抜刀隊』・・・・・・」
 曹操は自分の記憶をひもとくが、どこにもその名前は記されていなかった。
 皇甫嵩は続けて言う。
「知らないのも無理はない。今回が『抜刀隊』の初陣だったのだ。皆、私と同学年の『格闘技術研究所』に所属している者たちだ。私を含めた『抜刀隊』のメンバーは皆、示現流を使う。そのため『人に隠れて稽古すべし』という心得に忠実でな。今まで表立って何かをしたことがないのだよ。言うならば影の剣客だ・・・・・・」
 皇甫嵩の凛とした声が舞台裏に響き渡った。
「影の剣客・・・・・・」
 曹操はそう呟いた。
話し終えた皇甫嵩が腕組みを解いたその刹那、皇甫嵩の話に聞き入っていたかに見えた曹操が皇甫嵩の胸に飛び込んできた。
「なっ、なんのつもりだ。曹操!」
 皇甫嵩の問いかけもなんのその、曹操はなにか考え事をしている。
「七二・・・違う・・・見切った!七六だ!」
 曹操の言葉が皇甫嵩の耳の先まで真っ赤に染め上げた。曹操は皇甫嵩のバストをズバリ言い当てたのだ。
 横にいた朱儁も曹操の見事な答えに目をパチクリさせている。
「はっ、離れんか。この無礼者!」
 皇甫嵩が強引に曹操を自分の胸から引きはがす。
「はあ、はあ・・・・・・。まったく貴様にはわずかな油断が命取りとなりそうだ」
 なんとか曹操を引きはがした皇甫嵩の息は上がっていた。
「お褒めにあずかり光栄です。お礼にこれ、差し上げます」
 曹操はそう言うと胸ポケットから一枚の写真を取りだした。
「誉めてなどいない!・・・写真?・・・・・・なっ!」
 皇甫嵩は絶句した。その写真には盧植に抱きつかれて狼狽した自分の姿が写っていたからである。
 皇甫嵩が顔を引きつらせ、こみかみをピクピクさせている。
そして、曹操を捕まえようと顔を上げたとき、つい数秒前までそこにいた曹操の姿はなかった。
「・・・公偉。ヤツは?」
「写真を渡すなり、帰っちゃったけど?」
 朱儁の回答に皇甫嵩は目を丸くして驚いていた。しばらく目線を落としていたが、あるとき何かが吹っ切れたのか大声で笑い出した。
「はっはっは!曹操か・・・・・・その名覚えておくぞ」
 皇甫嵩は振り返ると舞台裏にある窓から見える空に向かってそう言った。
「そんなに胸の大きさを当てられたのが悔しいの?」
「う、うるさいっ!い、行くぞ、公偉!」
「あ〜ん。待ってよ、義真〜!」
 皇甫嵩は朱儁から目をそらすと、スタスタと会場の方へと走っていった。
 外ではさわやかな秋風が吹き抜けていた・・・・・・。


  「あとがき」みたいなもの・・・・・・

 長くなってしまいました。ほんともう、なんかぐだぐだになってしまってますね。次回までにもっと練習しておきます・・・・・・。
 僕が皇甫嵩萌えになった理由は雪月華様の「倚天の剣」を読んで皇甫嵩のかっこよさに気がついたからです。だから、雪月華様の「倚天の剣」で紹介されていた皇甫嵩が大活躍する長社棟を書いてみたいなあと思って書いてみると・・・・・・申し訳ありません!僕のレベルではここまでしか表現できませんでした・・・・・・。
 戦いは「倚天の剣」で書かれていたことを基本にし、ほんのちょっとだけ手を加えさせていただきました。
 後、雪月華様の設定には「皇甫嵩と曹操が師弟のような関係」みたいなことが書かれていたような気がしたので、皇甫嵩と曹操の初めて?の出会いを書かせて頂きました。
 雪月華様。雪月華様が創られた設定を無断で使用してしまったことに不快感を感じられましたなら、なんとお詫びしたらよいかわかりませんが、この場を借りてお詫びさせて頂きます。
 こんな長々しい文章にお付き合い頂きありがとうございました。

665 名前:北畠蒼陽:2005/06/15(水) 22:18
>雑号将軍
皇甫嵩の話、まずはお見事!
かっこいいデスよ、十分(笑
おもしろかったので今後にも期待! なのですよ〜。

666 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 22:48
これで一応「影の剣客」完結です!あとがきにも書きましたがホント長くなってしまい申し訳ありません・・・・・・。
ちょっと盧植の性格が違ったかな〜と苦悩している今日この頃です。

>北畠蒼陽様
遅くなってごめんなさい・・・・・・。
それで・・・『策を投じる者〜王昶の場合〜』読ませて頂きました!王昶ってなかなかの名将だったんですね!ドジなところがまたいい感じで。
僕は蜀が滅んだあたりぐらいから呉の滅亡までに出てくる武将はホントに有名な武将しか知りません・・・・・・。だから王昶がこんなに優れた人物であったとは露にも知らず。ふう、もっと勉強しないとなあ・・・・・・。

>交州
海月 亮様、僕は交州っていわれるとあの人しかわからないのですが、とにかく楽しみに待っておりまする〜!

あ、あと、どなたか、皇甫嵩が董卓と一緒に梁州の賊の王国を討伐しに行くときの流れを教えて頂けないでしょうか。次はその話を書きたいなあと思っていますので・・・・・・ご迷惑ばかりかけて本当にすみません。

667 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 22:53
うわっ!ごめんなさい・・・・・・ 北畠蒼陽様。全然気がつきませんでした。
感想ホントにありがとうございますっ!
そんな、まだまだです。もっと頑張らないといけない部分も多くて・・・・・・。
お褒めに預かり、光栄の限りですっ!

>おもしろかったので今後にも期待! なのですよ〜。
はい!いつできるかわかりませんが全力で頑張ります。

668 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:29
-意思の担い手たち-


「…なんっつーか、あたしも御人好しだよな」
目の前をあわただしく走って行ったり、集まって何か指示を受ける少女たちを高台から見やりながら、緑の跳ね髪が特徴的なその少女が呟いた。
長湖部の本部がある建業棟は、長湖制圧を目論む蒼天会の大侵攻を迎え撃つべく出撃準備で大忙しの状態。
学園に在籍しているとはいえ、陸遜や朱然といった名将たちも既に課外活動から身を引き、長湖部は数の上でも質の上でも人員不足というこの時期に、狙い済ましたかのような今回の凶報である。
(そんな人材不足の元凶が…あの部長にあるなんてな)
少女はほんの数ヶ月前…年末にあった忌まわしい事件を思い返していた。
次期部長の座をかけた、ふたりの少女の取り巻きが引き起こしたその事件により、実に多くの名臣たちが長湖部を去っていった。
今でこそ健康を取り戻したが、陸遜に至ってはストレス性の胃炎で吐血し、病院に担ぎ込まれたほどだ。
この事件がきっかけだったかどうか…その不祥事を取りまとめられないほどの精神不安定であった部長・孫権が正気を取り戻したものの…。
(納得はしてないさ…そんな簡単に、割り切れてたまるか。伯姉や子範さん…敬宗まであんな目に遭わせたあの人は許せない。だけど…)
少女は、雪の舞う空へと、その思いを馳せた…。

「あなたの気持ちも、よく解る…双子の妹を傷つけられても黙っていられるって言うなら、むしろ私があなたを許さないわ」
「だったら!」
感情のあまり大声を出してしまったが、少女はそこが病室であることを思い出し、一端は口を噤んだ。
「だったら、どうしてそんな事…! あたしは、あたしは絶対に…」
「あなたが仲謀さんをどうしても許せないなら、私にそれを止める権利はない…でもね、敬風」
ベッドの少女は、あくまで優しく、穏かな口調でそう呼びかけた。
「それでも、あなたにも頼まなきゃならない…孫家のためにじゃなくて…これまで長湖部を支えてきた総ての人のために、あなたにも長湖部を援けていって欲しい…」
「…伯姉」
「一昨年の夷陵回廊…私は大好きだった公瑾先輩の意向に逆らってまで大任を受けた。大好きな人がいっぱいいて、いろんな思い出の詰まった長湖部を、無くしたくなかったから」
少女の表情は、酷く悲しげで…涙はないが、その声も、表情も、泣いているように見えた。
「私はもう、長湖部に関わることは出来ない…だから、これから部を支えていくだろうあなたたちに頼むしかないの。幼節や承淵、公緒、子幹、敬宗…それに、あなたに」
「そんな…そんな言い方勝手すぎるよ、伯姉…あたしたちに、伯姉たちの代わりなんて勤まるわけないよ…っ!」
少女の目から、何時の間にか大粒の涙が落ちていた。
ベッドの少女は身を起こし、傍らの少女をそっと、抱き寄せた。
「ごめんね…でも、私は心配なんて全然してないわ」
突然のことに驚いた少女は、間近になった族姉の顔を覗き込んだ。
「あなた達は、きっとあなた達が思っている以上に、ずっと凄いことができるって、信じてるから」

どんよりと空を覆う雪雲の中に、その時に見た族姉・陸遜の穏かな笑顔を見た気がして、陸凱は苦笑した。
「あんなこと言われたら、断るに断れないよ…」
尊敬する族姉を、大好きな妹を追い詰めた孫権のことが許せないのは変わらない。
それでも、彼女がこうしてまた、長湖部を守るために戦場に出ようとしている理由は、ふたつ。
「主将、出撃準備整いました!」
「解った、すぐに行く」
その妹が、族姉が、それでも長湖部を守りたいと言ったから。
そして、彼女の愛すべき友人たちが、その思い出と共にまだ長湖部にいるのだから。
「我らは江陵の援軍として赴く! 全軍、出撃!」
号令と共に整然と出立する少女たち。
雪の舞う校庭から、少女はその強い意思を胸に、戦場へと消えていった。

669 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:30
「此処まで予想通りだと却って清々しいもんだねぇ…」
「落ち着いてる場合ですか! 早く助けに…」
「もうちょい待って。もう少し喰らいつかせてから」
陸凱は、気のはやる部下を宥め、草陰に潜んで戦況を眺めていた。
陸凱率いる軍団が江陵棟に辿り着いた時、雪のちらつく校門前は人並みでごった返していた。
要するに凄まじい大混戦だったのだが、恐慌状態だった長湖部勢がほとんど一方的に飛ばされている状態。
(ま、あっちの主将があの天然性悪の王昶で、こっちが感受性の塊みたいな公緒なら仕方ないか)
陸凱は王昶がどんな手を使って、江陵の主将である朱績を引きずり出したのか直接は知らなかった。
しかし、相手の性格の悪さならよく知っている。あの何とも言えないナイスな性格の持ち主である王昶なら、先に引退したばかりの長湖部総参謀・朱然の妹で、これまたその後を継ぐ者としてプレッシャーの中にいる朱績を江陵棟から引きずり出すなんて朝飯前だろう。
(でもっ、調子に乗りすぎだよ…王昶!)
伏兵の王渾軍があらかた出尽くし、後方に控えていた王昶の本隊が動き出すのと同時に、陸凱は叫んだ。
「よし、全軍突撃! あの座敷犬どもに目にもの見せてやんなっ!」
「おーっ!」
陸凱号令一下、彼女の軍団が怒号と共に勢いづいた蒼天会軍の横っ腹めがけて突っ込んでいった。

「てかさぁ…気持ちは解るけどそんな教科書通りの挑発に乗るなっての」
そんな挑発の仕方なんて教科書に載ってはいないんだろうが、と心の中で自分ツッコミする陸凱。当然ながら、この失態の悔しさに未だ涙を止めるきっかけすらつかめない朱績からそんなツッコミが飛んでくるとは、陸凱も思っていない。
「…だよ…っ」
「ん?」
そのとき、嗚咽の中からそんな声が聞こえた。
「あたしに…あたしなんかに…お姉ちゃんの…代わりなんてっ…」
「そ〜だろうね〜」
この重苦しい雰囲気を意に介するでもなく、軽く流す陸凱に、朱績は悔し涙を払うことなく睨みつけた。
「伯姉なら言うに及ばず、義封先輩だったらきっと笑って流したでしょうね。周りが呆れたって、自分の感情を無闇やたらと周囲に振りまくような人じゃなかったしね」
しかし、それでも陸凱は取り合おうともしない。更に少女の心を抉るような言葉を容赦なく吐きつけた。
「酷いよっ!…何でそんな、酷いこと…平気で…」
朱績が掴み掛かってきても、陸凱はまったく動じない。そのまま彼女の胸に顔を預け、再び泣き出してしまう。
陸凱は振り払おうとせず、その体を抱き寄せた。
「なぁ公緒、あたしたちはどう頑張っても、あんな人たちの代わりになんてなれやしないんだ」
「…ふぇ…?」
「いくら能力があったって、たとえ血のつながりがあったって…あたしや幼節が伯姉の代わりなんて出来ないだろうし、承淵が興覇さんの牙城に迫ることも出来ない。季文も休穆先輩と似てるのは性格だけだ。世洪は仲翔先輩みたいになれないだろうけど…まぁ、あれはならないほうが無難かもな」
冗談めかしてそんなことを言って、そして真顔で続けた。
「あんたも同じだ、公緒。だったら、あたしたちはあたしたちなりに、頑張るしかないんだ。失敗したら、また次へ活かしていけばいい…」
その言葉に、弱々しいながらも「うん」と朱績は頷いた。

670 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:31
それから少し時間が空いて、落ち着いた朱績はこれまでの戦況を語りだした。
「…本当はね」
「うん」
「本当だったらね、叔長と挟み撃ちにするって話、昨日の打ち合わせでしていたんだ。でも、アイツはまったく動いてくれなかったんだ」
「…叔長だって!?」
陸凱は耳を疑った。
叔長とは諸葛融の字だ。彼女はかつて“長湖部三君”の一角になぞらえられていた諸葛瑾の末妹にあたり、今現在、長湖部でも中心的な立場にあり、次期部長の後見役と目されている俊才・諸葛恪の妹だ。
穏かな性格で、質実剛健を旨としていた諸葛瑾と対照的に、諸葛融は派手好きで奔放な性格…陸凱に言わせれば、我侭なお子ちゃま丸出しのガキ。陸凱は大雑把なくせしてやたらと才能を鼻にかける諸葛恪共々、彼女らのことを快く思っていない…いや、むしろ嫌いな範疇に入るだろう。
それはさておき、
「バカな…アイツ、あたしが此処へ来る前に建業棟で見たぞ。それに、こっちへ来たのはあたしと戴陵だけだ」
「そんな…!」
その瞬間朱績の顔から一気に血の気が引いた。
恐怖からではなく、信用していた人間に裏切られたというショックからだったことは、次の瞬間一気に顔が紅潮して来た事からも明白だ。朱績は怒りで震える拳を、思いっきりテーブルにたたきつけた。
「…結局、あいつらも子瑜先輩には遠く及ばない。しかもあいつらは、自分にそれ以上のことが出来て当然って勘違いしてやがる…現実を見れないって悲しいことだな」
嫌いではあったが、陸凱は彼女らのことが心の底から哀れだと思った。

「さて、机と書きモン貸してくんないかな。諸葛融の件も一緒に報告するよ」
「え…」
今度は朱績が自分の耳を疑う番だった。いくら相手が約束を違えたっていっても、相手は次期部長後見役の妹だ。下手に告発すれば、逆に陸凱が処断されかねない。
「ダメ、それはダメだよ敬風! あんな連中のために敬風の手をわずらわせるなんて…」
「今までならいざ知らず、正気を取り戻した孫権部長が黙ってるとも思えないしな。大丈夫、勝算はあるさ」
そうして部屋の机からメモ用紙と筆箱を取り出すと、陸凱はその場で何やら書き出し始めた。恐らくは、きちんとした報告書として報告するための草案を書いているのだろう。
「…やっぱり、敬風は凄いや」
そんな陸凱の姿を見て、朱績はそう呟いた。
「そうかい?」
「うん。今のあたしじゃ、太刀打ちできそうにないよ。いろんな面で」
その言葉に、羨望はあっても嫉妬じみたものはない。この素直なところは、陸凱に限らず多くの同僚たちが好感を抱いている朱績の美点でもあった。
「でも、あんただっていいとこはいっぱいあるだろ。例えば…」
「例えば?」
朱績にそう真顔で聞かれて、陸凱は返答に困ってしまった。こう言うときは「そ〜お?」とか言って能天気に流してくれる丁奉や鐘離牧の方が数倍やりやすいと、陸凱は思った。
「う〜ん…まぁ、少なくとも奴らよりはマシだわな。少なくとも今回の失敗で、次どうすればいいか勉強にはなったろ?」
「う〜…やっぱりバカにしてる?」
「あのなぁ」
ぷーっと膨れて抗議する朱績に苦笑しつつも、陸凱はあえて、彼女の良いところはまだおおっぴらに言わないほうがいいかも、と思った。これからは、もっといいところが増えていくかもしれない、と思ったから。
(そうなれば、あたしたちも伯姉たちの期待に、少しは応えられるかな?)
窓の外を見れば、雪はもう止んでいた。
雲に覆われた、くぐもった茜色の空のなか、彼女は満足げに微笑む陸遜たちの顔を見たような気がしていた。

(終)

671 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:43
で、触発されて書いてみました(゚∀゚)
挙げて見たら「号令一下」の前、接続詞「の」が抜けていましたので、各自補完の事w
あと施績が朱績になっちょりますが、同一人物なのには変わりませんので気にしないでくださいな。
これはまぁ、書かれ方が違うということで。

おいらの本命、ある人の交州日記話はもう少しで完成です。週末には完成予定…かな?

672 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:51
>影の剣客
雑号将軍様、初投稿乙です!(>Д<)ゝ
いや、正直な話皇甫嵩関連は何か語り尽くされた感があったと思っていましたが…なんのなんの、また新たな切り口を見出せそうですぞ!!
いや、お見事でござる。

というか、DG細胞かTウィルスに冒されてそうなあの丁原たんが食中毒ってw


以上、自作うぷ直後に作品があげられていることに気づいたw海月でした。

PS:何も交州って言っても、そこで活躍した人をメインにするとは限りませんよ?

673 名前:北畠蒼陽:2005/06/16(木) 01:19
>海月 亮様
わおー!
陸凱だー! 陸凱だー!
私の中で陸凱の評価って蒼天航路の張遼の関羽まんまの評価なんですよね。
『互角に見えて打ち倒すのは至難』ってやつです。
ま、イメージ的なものですケドね(笑

>天然性悪の王昶
ある意味最大限の好評価、ありがとうございます(笑

>交州
歩さんか虞さんという予想をしておりマス(笑

>王国についてあれこれ
まず『梁州』ってなぁなにか、デスよね〜。
梁州は益州を分割した漢中一帯なんですけど、これ、晋になってからはじめて作られるんですよねぇ。
後漢書皇甫嵩伝に以下記述があります。

(※英雄記に書いてあるんだけどね。涼州の賊王国とかが兵を起こしちゃってさ、閻忠に迫って盟主とかやっちゃって三十六郡を統べさせて、車騎将軍とか自称しちゃったんだってさ。閻忠、もうプレッシャーとかいろいろで死んじゃった。なむー)

ってとこから梁=涼カナ? と。
そのわりに王国サン、陳倉を包囲してるんでもうゴチャゴチャ! どっちがどっちやねーん!
まぁ、後漢書の成立年代がかなり下ってるんで『涼』のほうが間違いかもしれんです。

とりあえず王国とのいろいろについて書くとかなり長くなるのでパス。
『皇甫嵩 董卓 王国』でGoogle検索して一番上にあるページはかなりわかりやすいのではないかと思われマス。

とりあえず皇甫嵩にクーデターを薦めておいて却下されたら身の危険感じて逃げて、逃げた先でなぜか賊の大将に祭り上げられてる閻忠タン萌えー。

674 名前:雑号将軍:2005/06/16(木) 22:25
>海月 亮様
おおぅ!陸凱が遂に主役となるとはっ!
海月 亮様の陸凱を拝見して以来、彼女が動くとどうなるのかなとわくわくしながら考えていましたが、遂にこのときがやって来ました〜!
まさに、お見事!見習いたいものです。

海月 亮様、北畠蒼陽様・・・・・・これが、常連の技というものですな!

>丁原たんが食中毒
ああっと、それは、丁原が盧植と一緒だった記述がなかったからどうにかしないと→アサハル様の設定をお借りする・・・・・・とまあ付け焼き刃なんです。

>王国についてあれこれ
な、なるほど、難しいですな〜。これは設定を練るのに時間がかかりそうです。まずは教えて頂いたサイトを検索してみます。
本当にこんなに細かく教えて頂きありがとうございます。

675 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:49
-蒼梧の空の下から-
第一章 「追憶」


交州学区、蒼梧寮。
今でこそ長湖部の勢力範囲となっている僻地、交州学区に籍を置く生徒たちの多くが生活の場とする場所である。
かつては士姉妹を初めとして、長湖部の勢力拡大を良しとしないものたちが互いに覇権を競い合ったこの地だが、呂岱、歩隲の活躍によりその問題勢力は一掃された。
後世、交州統治といえば歩隲と呂岱(あるいは、稀にだが陸胤)の名が挙がるのは、それだけ彼女らがこの地の統治に心血を注いだ結果であったと言って良い。

加えてこの地は長らく、長湖部の中央で何らかの不始末を犯した者達の左遷先、というイメージも持たれていた。
しかし、一般的な記録では「左遷されてきた」者達の中にも、別の目的があってあえてこの地へ来ることを望んだ少女が居たことは、ほとんど知られていない。

それもそのはず。
それはあくまで、後世の学園史研究家の間で「もしかしたら…」程度に言われる説のひとつに過ぎない。
その実情を知るのが、その当人を含む、ほんの数人の少女だけしか居なかったのだから。


蒼梧寮の前庭。休みの日で昨日からその住人たちは学園都市の中心街に出払ってしまい、すっかり人気のないその場所に、ただひとりだけ、彼女はいた。
この地に住む人種としては珍しい、柔らかそうなプラチナブロンドの髪。スタイルも背丈も、歳相応と言ったところ。
その出で立ちは学園指定の体操服、夏用の半袖とブルマという姿。真冬の朝に外に出るには心ともない格好だが、彼女は意に介した風を見せていない。
手にはその背丈と同じくらいある木製の棍が握られている。
彼女はふぅ、と一息つくと、その棍をゆっくりと構えた。
様になっている、というどころの話ではない。その構えは堂に入っており、全身から達人特有の気迫が感じられる。
「はっ!」
気合とともに、踏み込みから一閃。
そして立て続けに、連続で払い、打ち下ろし、打ち上げと技を繰り出していく。
ただ闇雲に振り回しているのではない。彼女の動きは、型通りの演舞から、次第に乱調子の動きへ変化するが、その動きにはまるで無駄が感じられなかった。もし彼女の目の前に人体模型でも置いてあれば、そのすべての一撃がその急所すべてを打ち据え、薙ぎ払い、衝きとおしていることだろう。
そして彼女は渾身の横薙ぎを放つと、そのままの勢いのまま最初と同じように構えなおした。彼女はこうした演舞を、何回かに分けて、既に一時間近く行っていた。それゆえか、季節外れの薄着でも、気にならないのも当然である。
彼女は一息ついて、構えを解こうとした…まさにそのときだった。
「!」
僅かに風を切る音が聞こえた瞬間、彼女は反射的に振り回した棍で何かを叩き落し、それを地面に押さえつけてから視認した。その間コンマ何秒という世界である。
その目に飛び込んでいたのは、己の棍と地面のアスファルトの間できれいにつぶされていた空き缶…と思われるものだった。
「お見事ですね」
拍手とその声が聞こえてきた方向には、ひとりの少女の姿があった。
棍を構えていた少女と、背丈は同じくらい。色素の薄い髪の、あどけなさを残した温和そのものといった表情が特徴的な少女…彼女こそ、この交州学区現総代・呂岱、字を定公である。
棍を地面に突き立てたまま、少女は苦笑した。
「…毎度毎度不意打ちを食らわせてくるなんて…あまりいい傾向とは言えないわよ、定公」
「そんな事言わないでくださいよ、ほんの挨拶程度じゃないですか」
「それはまた随分なご挨拶ね。仮にも二年年上の人間に空き缶を投げつけるのが挨拶とは畏れ入るわ」
「それはあんまりじゃないですか〜。だって先に“隙があったら何時でも仕掛けて来い”って仰ったのは仲翔先輩のほうじゃないですか」
「…そうだったかしらね」
少女は缶のなれの果てを、見事な棍捌きでかち上げ、近くにあったくず入れに放り込んだ。


棍の少女の名は虞翻、字を仲翔という。
元は会稽棟にその名を知られた名士・王朗の副官であったが、この地を席巻した小覇王・孫策の眼鏡に適い、長湖部の経理事務を一手に引き受けたほどの人物である。
孫策が思いもがけぬ理由でリタイアすると、そのあとを継ぐことになった孫権に仕え、張昭らと共に長湖部の活動を裏方でバックアップしていたのだが…彼女生来の歯に衣着せぬものの言い方と、正しいと思うことを憚りなく主張するその性格が災いして孫権の怒りを買い、ついには孫権の個人パーティーの席で失態を犯して左遷させられたのだ。

しかし、彼女が交州の地に送られた頃は、丁度帰宅部連合との一大決戦があって、その事後処理で政情不安定だった時期である。いくら虞翻の性格が災いしたとはいえ、人使いに長けた孫権が一時の怒りに任せて彼女ほどの逸材を左遷してしまったことは、後世学園史研究者の疑問の種となった。
その多くは結局、「二宮の変」に代表される孫権の狭量さを表す一事例、として片付けてしまった。
しかし僅かながら、そこに何か別の意味を見出した者達も、確かに存在していた。

676 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:50
一息ついて、寮玄関の花壇に腰掛ける虞翻。羽織った自前のコートを汚すのを厭わず、呂岱はその近くに腰掛けた。。
「しかし勿体無い事ですね。それほどの腕をお持ちなら、部隊の主将としても申し分ないでしょうに」
「どうも荒事には向いてないみたいでね。本来は護身術兼息抜きとして始めたものだったんだけど」
「知ってますよ。前部長が孤立したとき、先輩が傘一本で血路を切り開いたって話」
「大げさな…まぁ確かに、相手の獲物を奪った最初のときだけ使ったんだけどね」
苦笑しながら彼女はそう言った。
「え、本当なんですか?」
「一発でダメになったわ。流石に相手が木刀だとコンビニ傘じゃ荷が重過ぎるわよ。相手が一人だった事も幸運だったかもね」
「へ〜え」
なんともウソっぽく聞こえる話だが、呂岱は虞翻が、弁が立つくせに冗談を言うのが苦手なことを良く知っていた。ましてやあの見事な演舞を日常的に見ていると、ウソには聞こえないだろう。だからこそ、素直に感心した。


会稽寮から程近い山中。
虞翻は道なき道、草の生い茂った獣道を遮二無二突っ込んでいく。彼女の制服は所々土で汚れ、手には一本の木刀を持っている。普段も寡黙で気難しそうにしている顔を一層険しくし、彼女は何か…いや、誰かを探していた。
「部長っ、何処ですか! 孫策部長!」
「おう、仲翔じゃねぇか」
不意に彼女の左手の草陰から、ひとりの少女が姿を現した。明るい色の髪を散切りにし、真っ赤なバンダナを巻いている、少年のような風体の少女だ。その少女こそ、虞翻が探していた長湖部の部長・孫策である。
「大声出さなくたって聞こえてるって。てか、何をそんな慌ててんのさ?」
あまりに能天気なその応えに、虞翻は一瞬眩暈すら覚えた。
無理もない、このとき彼女らは、活動再開して間もない長湖部の利権を守るため、学園都市で不祥事を起こす隣町の山越高校の不良たちの取締りと摘発の真っ最中なのだ。
「…何を、じゃないですよまったく…部長の腕が立つのは良く存じてますが、こんな時にこんなところでひとりで居るなんて正気の沙汰じゃありませんよっ! おまけに親衛隊まで全部散らしてしまって! あなたの身にもしものことがあったら…っ!」
大声でまくし立てる虞翻。どうやら彼女、何時の間にかはぐれてしまった孫策が心配で追って来た様子。激昂のあまり、そのまま泣きわめきそうな勢いだ。
「解った解った。それ以上言うなって。それにあんたが来てくれただけでも十分だよ」
孫策がそういってなだめると、虞翻は一瞬目をぱちくりさせた。
「そ…そんなことっ……と、とにかく此処も危険です。私が先導しますから、皆と合流しましょう」
そして気恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてしまった。声の調子も少し上ずっていて、孫策も思わず苦笑した。
そのとき、ふと孫策は気づいた。
「そういや仲翔、その木刀どうしたんだ?」
「え?…あ、これは…その、此処へくる途中でひとり捕縛したのですが…彼が持っていたモノを拝借して…」
「え、まさか素手でか!?」
「あ、い、いえ。実は私、杖術の道場に通っておりまして…ビニール傘で応対したんです。結局、傘は壊れちゃったんですけど…」
「へぇ…」
先導する虞翻が丈の長い草を掻き分け、その後に続きながら孫策は感心したようにそう呟いた。
「ああ、じゃあその手のタコはそのせいだったんだな」
「え?」
孫策が納得したようにそう言ったのに驚き、虞翻は思わず足をとめてしまった。そして虞翻が振り向いた瞬間、歩みを止めていなかった孫策と見事に額を衝突させ、獣道の中にひっくり返ってしまう。ふたりの背丈が丁度、同じくらいなのが災いした。
「痛ぁっ…急に振り返んなよ…」
「うぐ…ごめんなさい…」
そして、お互い額を真っ赤にし、涙目になってるのが可笑しくて、同時に噴出してしまった。
一息ついて、虞翻は上目遣いに孫策を見る。
「…気づいて、いらしたんですね」
「ああ。初めて会ったとき、会計担当って言うわりに随分身のこなしに隙がなかったしな。それに、可愛らしい顔してるくせに、握手したらえらくごっつい手だと思った」
孫策の一言に、虞翻は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
こんな時にというのもあったが、こんな真顔で“可愛い”なんて言われた事、自分の体に女の子らしからぬ表現をされてしまった事、そのどちらも恥ずかしかったからだ。
流石に悪いこと言ったかと、孫策も気づいたようだ。
「ま、気にすんなよ。別にそんなこと気にすることないって。徳謀さんとか義公さんだって、あの顔で結構ガタイいいし…それに比べりゃあんたはルックスもいいし、スタイルだって十分…」
「も、もういいかげんにしてくださいよっ…行きましょう」
うつむいたまま立ち上がり、虞翻は足早に再度前進し始めた。
「あはは…解ったもう言わないよ。てか置いてくなってよ〜」
「知りませんっ」
そのあとを、さして慌てた様子もなく孫策が続いていった…。


ほんの僅かな間、虞翻は当時のことを思い返していた。ふと我に帰った彼女は、傍らの呂岱に問い掛けた。
「ああ、そういえばあの頃、君はまだ中等部に入ったばかりだったっけ?」
「ええ。運良くというか悪くと言うか…中等部志願枠に入ってすぐですよ。次の日にいきなり、部長がリタイアですからね。お陰でまた一般生徒に逆戻りで…」
「それもすごい話ね」
「部長も、一日しか参加していなかったあたしのこと、すっかり忘れてたみたいだったし」
呂岱はそう言って苦笑する。
「どうかな…仲謀部長のことだから、わざと知らないふりをして、君のことを試したのかもね」
「そうですかね?」
「あの娘はよく気のつくいい娘だよ…あ、今や平部員の私がそんな言い方をしたら、いけないか」
虞翻はそう言って、少し寂しそうに微笑んだ。
でも、呂岱はそれを咎め立てる気にはならなかった。彼女は十分理解していたのだ…目の前の少女が、その風説とは裏腹に、孫権とは深い信頼関係で結ばれていると言うことを。
そして、その身を案じてやまないからこそ、虞翻が今の立場を受け入れていることを。

677 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:51
-蒼梧の空の下から-
第二章 「少女の檻」


実は呂岱も、元々虞翻と気の合う方ではない。
そもそも虞翻はその難儀な性格ゆえか、本音で語り合えるような友人というものが少ない。先にこの交州に左遷され、間もなく課外活動から引退した陸績、劉備の元で蜀攻略に参加した「鳳雛」ことホウ統…あるいは、いまやほとんど連絡も取らなくなった王朗くらいが、彼女にとって“友人”といえる存在だった。
虞翻は多くの有能な少女たちにアプローチをかけ、その少女が大成するよう世話を焼いたことも少なくはない。しかし、そうした少女たちもまた、彼女を尊敬することはあっても、親しく付き合うまでには至らなかった。あるいは虞翻自身が己の性格と、鼻つまみ者である自分との関わりが足枷にならぬよう、わざとつき離していたせいもあっただろう。
だから呂岱も始めは、あまり彼女に関わらないようにしていた。

「突然で、なんですけどね」
「ん?」
暫くの沈黙の後、呂岱はそういって切り出した。
「あたしも始め、やっぱり仲翔先輩のこと、とっつきにくい人だって…正直、あまり関わりたくないと、思ってました」
「…随分はっきり言うじゃないの」
「すいません…でも、これだけはどうしても言っておきたくて…あたし、最近よく思うんです。もし先輩が裏から色々と手引きしてくれなければ、今此処にこうして居れなかったんじゃないか、って」
その思いつめたような表情に、虞翻は呂岱が何を言わんとしているかに気がついたようだった。
「…考えすぎだよ。交州平定は君や子山の成し遂げた功績…私には何の関わりもないわ」
「その子山先輩名義で来てた手紙だって…よくよく考えればあの先輩がマメに手紙を書くような人じゃない事だって解るでしょう! 仲翔先輩、本当はあなた、部長のために敢えて罪を…」
そこまで喋りかけたところで、その口に指を当てられた。不意を突かれて呂岱は思わず口を噤む。
「それ以上は言わないで、定公。それはあくまで、私の我侭でやったことだから」
言いながら、虞翻は頭を振る。その口調は何時になく穏かな、それでいて何処か寂しげだった。


「…本気、なんだね…仲翔さん」
「ええ。是非ともその大任、私にお任せいただきたい」
人払いの済んだ…常に孫権の元に同席している周泰や谷利の姿すらないその部屋で、虞翻と孫権は二人きりで居た。
「既に子布先輩の許可も頂いています。あとは、部長の指示次第です」
「でも…それじゃあ仲翔さんは…」
「覚悟の上です。それに、変に肩書きがないほうが隠密行動の上では便利ですよ。それに、私と部長の関係が表面上巧くいっていないからこそ取れる戦法ですし…皆も、私が交州に流された所で、誰も異を唱えることはしないでしょう」
「だって…そんなのって…ねぇ、やっぱり考え直してよっ…ボクにはそんな残酷なこと、できないよ…! 伯符お姉ちゃんの時から、仲翔さんたちがずっとずっと裏方を支えてくれたからこそ、今の長湖部があるって…皆だってちゃんと解っているから…だから…そんな事言わないでよっ…」
泣きそうな表情で、虞翻に取りすがる孫権。
帰宅部連合との全面戦争、そしてその隙を突いた蒼天会の急襲。そのふたつの危機を乗り切ったとはいえ、それがために長湖部勢力下の政情は非常に不安定なものだった。
それまで鳴りを潜めていた反乱分子、あるいは山越高校の不良たちの暗躍が再燃し、それに同調する形で交州学区にも不穏な空気が渦巻いていた。それでも、士一族の棟梁格である士燮がいたうちはまだ良かった。彼女が大学生活の合間を縫って、その妹や親戚の少女たちの不満をなだめていたおかげで、爆発寸前の士一族はまだ抑えられていたのだ。
しかし、彼女が協力してくれる期限も残り僅か。この局面で交州勢力が暴発すれば、三度長湖部崩壊の危機だ。
この危機に虞翻は、先だって交州入りし、後に士一族勢力の根絶をも視野に入れた交州平定の人的な橋頭堡を作る策を提言した。
しかもそのために、自ら平部員として赴くことも併せて、である…。
これには孫権もかなりの難色を示した。表面上、孫権は何処か、苦手とする張昭によく似た虞翻を快くは思っていなかった。張昭同様、姉・孫策の信頼していた少女たちであり、実際長湖部に必要な人材だからと割り切って付き合っていた。
だから…孫権は虞翻が己の一身も省みず、自分のために尽くしてくれる覚悟を聞かされたことで、明らかに当惑していた。
「…私は…長湖部の危機を、既に二度も見て見ぬふりをしてしまいました」
虞翻は孫権を抱き寄せると、静かにそう言った。
「え…」
「赤壁島の時と、今年の夷陵回廊と…私は、あなたと長湖部に尽くすという、伯符さんとの約束を二度も破ったのです。私は、公瑾や伯言のような勇気のある人間じゃない…でも、今度も見て見ぬふりをしてしまえば、私には伯符さんに合わせる顔がないから…」
「仲翔、さん」
「だから、征かせてください」
寂しげな笑みだったが、その瞳には悲壮ともいえる決意があった。
「…解ったよ」
孫権は止めても無駄だということを悟り、その意思を尊重した。その瞳から大粒の涙が溢れ、抱き寄せてくれた少女の胸に、その顔を預けた。

翌日。
彼女は孫権や張昭との打ち合わせ通り、パーティが盛り上がりを見せたところで暴言を吐き散らすという暴挙に出て見せた。シャンパンのアルコールが効きすぎた上での失態と周りが取り成したが、それでも孫権は彼女を許さず、即時幹部会の任を解き、交州往きを命じたという。
このとき、彼女と親しかったはずの敢沢すら彼女を庇おうとはしなかった。敢沢はこの事件について多くを語ろうとしなかったが…恐らくは、この事件が彼女たちの仲にヒビを入れたのだろうと噂された。その真実は、明るみに出ることはない…。

678 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:52
「本当に…これで良かったんですか、仲翔さん…」
「ええ…ごめんね、君や伯言にも不快な気持ちにさせてしまって」
そのパーティから数刻の後、荷をまとめる虞翻の元を敢沢が訪ねてきていた。
「構いませんよ。それにアイツには、折をみてあたしから事情を話すつもりだし」
「そんな必要はないよ。むしろ、私のことなんて忘れてもらったほうが良いかもしれない」
「そんな…」
実のところ、虞翻は予めこのことを敢沢に打ち明けていた。
彼女も思いとどまるよう口を極めて説得したが、結局は折れた。敢沢も一度決めたら梃子でも動かないという虞翻の性格を良く知っていたし、むしろ敢沢自身も夷陵回廊の時何も出来なかった無念があったため、虞翻の気持ちは痛いほど解ってしまったのだ。そうなると、もはや止めるべき言葉も出て来なかった。
「それに皆、僻地だというけど…高望みの受験をする場合、むしろ中心街から離れた静かなところのほうが受験勉強には良いかも知れないしね」
珍しく、冗談めかした台詞が、その口から飛び出した。
敢沢の瞳には、その寂しげな笑みが、柄にもない冗談が…その仕草の総てが、痛々しいものに映った。

さして多くもない身の回りのものを、一通りまとめ終わると、彼女は待たせてある配送屋にその荷物を託し、部屋を後にした。
「…徳潤、部長のこと…よろしく頼むよ」
「ええ…仲翔さんも、お気をつけて」
それきり虞翻は振り返ることなく、住み慣れた会稽の寮を後にしようとした…その時だった。
目の前に、ふたりの少女が駆けて来るのが見えた。
「…部長…それに子瑜まで」
「仲翔さんっ!」
飛びついてきた孫権の勢いに思わずよろけそうになったが、彼女は何とか踏みとどまってその体を抱きとめた。
その腕の中で泣きじゃくる孫権をなだめながら、ようやく追いついてきたクセ毛の少女−諸葛瑾を見やった。
「これは…どういう事、なんだろうね?」
「聞きたいのは私のほうよ…私はどうしてもあなたの交州左遷に納得がいかなかった。子布先輩や徳潤まで何も言わないし、それを部長に問いただそうとしただけよ」
諸葛瑾の表情は何時になく険しい。
「ねぇ、どういうことよ! 一体どうしてこんなことに…!」
「ごめん…これは、私の我侭なんだ。私も、自分の身を切り捨ててでもこの娘の…長湖部の力になりたい」
「…!」
その一言と、後ろにいた敢沢の表情から、諸葛瑾も何かを悟ったようだった。
「やっぱり…狂言だったのね」
「ええ。どうせ私がどうなろうと気にする人なんてそう多くないと思ったけど…念には念を入れて」
「…馬鹿よ、あなたは」
俯いたその瞳から、大粒の涙が地面へと吸い込まれていく。
「あなたは他人だけじゃなくて、自分自身も傷つけなきゃ気が済まないなんて…本当の馬鹿だわ…」
「否定はしないわ…それが、私だから」
口ではそう言ったが…虞翻はその心の中で、ただ純粋に自分のことを心配してくれていた者がいた事を嬉しく思うと共に…己の預かり知らぬところで、そんな存在を傷つけてしまったことに慙愧の念を禁じえなかった。
ただひたすら、心の中で謝り続けることしか出来なかった。


「私…先輩が部長に当てた手紙、見てしまったんです」
「え?」
「部長が長湖部を生徒会執行部組織として独立したとき、仲翔さんが部長に当てた手紙を、です」
その正体に気がついた虞翻は、思わず大声をあげてしまった。
「ちょっとちょっと…あの手紙見られたの? ていうか人様の手紙盗み見るのはあまりいい趣味じゃないわよっ」
「あ、やっぱり恥ずかしいモンなんですか? 確かにちょっと、ラブレターっぽかったですしね」
「あんたねー!」
顔を真っ赤にして、照れたような怒ったような口調で呂岱を責める虞翻。以前の彼女ならそれこそ人の肺腑をえぐるようなキツい一言が飛んで来るところだろうが…彼女の言葉が以前よりずっと丸くなったのも、余計な肩書きがなくなったせいだけでないのかも知れないと、呂岱は思った。
「あはは…すいませんってば。…でも、確かにあの手紙で私も、ずっと仲翔先輩のこと誤解してたんだって思いました。でも、それだけじゃなくて」
全然本気ではないけど、しつこく小突いてくる虞翻を宥め、呂岱は続けた。
「あのあと、私はふと気がついて、今まで子山先輩名義で届いていた手紙を引っ張り出したんです。あの手紙を見なければ、今まで子山先輩からだと思い込んでいた手紙の、本当の送り主も知らずにいたかもしれません」
「そう…私かなり練習したんだけどな、子山の筆跡」
「なんとなくですけど…字の運びとか違和感は感じてました。でも倹約家の子山先輩が、あんなマメに手紙を書く人だとは思ってませんでしたから、だからさして気にしてはいなかったんです」
「そっか…そうだったわね」
虞翻はそれを聞いて、ため息を吐く。
あまり親しくもしていないから、そんなちょっとしたことも忘れてしまっていた。そのことが少し寂しかった。
諸葛瑾のことにしてもそうだ。
彼女なら、どんな点からでも、どんな僅かな長所であろうと、見逃さずに褒めてくれる様な心の優しい少女だということを忘れていたのだから。
「私は…私が思っている以上に、周りに対して無関心に過ごしてきたんだね…」
そう呟いた彼女の表情は、涙こそないものの、泣いているように呂岱には思えた。

679 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:53
-蒼梧の空の下から-
第三部 「還るべき場所」


「これって…どういう事?」
「さぁ…私はただ、部長にこれを届けてくれって頼まれただけなんですが」
交祉棟の執務室で、呂岱はそれを受け取ると、その意味をはかりかねて首を傾げる。
なんでもない、一通の手紙。
問題は、その宛名が部長・孫権宛だった事、そして、差出人の名前が…。
「あの虞翻先輩ってところが、どうも引っかかるのよねぇ…」
「ですよね」
虞翻が常々孫権の意向に反した言動を取り、ついには年度始め、帰宅部や蒼天会との悶着がひと段落ついたところで、孫権の怒りを買って交州流しにあったことを知らない長湖部員はいない。ただ、御人好しの権化ともいえる諸葛瑾ひとりが、最後の最後まで彼女のことを取り成した以外、誰も彼女を庇ってくれるものがいなかったという話も。
「とりあえずそのまま渡しに行くのも怖かったんで…此方にお持ちしたんですけど」
「好判断だわ。今、長湖部の独立政権樹立に向けての準備に忙しい折…こんな時に部長の機嫌を損ねられても困るしね…解ったわ、コレは私が預かっておくわ。もし行方を聞かれたら、もう出したとか何とか行って誤魔化しておいて」
「解りました」
手紙を持ち込んだ少女は、その手紙を呂岱に宛がうと、一礼して執務室を退出した。その顔が、来た時の困りきった表情から、あからさまな安堵の表情に変わったのを見ると、呂岱も苦笑するしかなかった。
「ったく…こんな僻地に居ても、周りの顔色変えさせ続けるなんてたいした先輩だわ」
その手紙をひらひらと弄ぶ。
今度はその手紙を宛がわれた呂岱が困る番だった。受け取ったはいいが、相手が相手だけに一体どんな内容なのかを考えるだけでも悪寒が走る。
孫権は相変わらず張昭と、年齢と立場の垣根を越えたバトルを展開する毎日。別に虞翻が張昭と仲が良いとかいう話も聞かないが、このふたりの言うこと成すことは何処か似ていから、どうせ碌なことは書いてなさそうだと、呂岱は思った。
(でもそう言えば、私はっきりと虞翻先輩が部長に何か言ってたの、見たことないのよね)
そうである。
長湖幹部会のことなんて、それ以外の人間には噂話でしか聞こえてこないのが常だ。虞翻の毒舌ぶりだって、噂でしか聞いたことがない。
確かにとっつきにくそうな人ではあったが、直接何か言われたわけでもない。それどころか、口を利いたことすらなかった。
(…なんかそう思ったら、ちょっと見てみたい気が…)
人様の手紙の内容を覗き見るのはマナー違反のような気もするし、ちょっとは心も痛んだりするが…留まる所を知らない好奇心がそれを押し切った。
(これもこの地の風紀を守る総代としての責任…災いの芽を摘み取るためだからね)
そんな建前をつけ、とうとう呂岱はその手紙の封を切ってしまった。

それを読んでしまったことで、深い感銘と、深い慙愧の念を同時に抱く事になるとは知る由もなく。

「そんな…そんなことって」
彼女は普段は整えていた本棚の中身をひっくり返し、その中心で呆然と呟いた。
その目の前には、数え切れぬほどの手紙をばら撒いて。
その宛名から、どれも同一人物によって書かれたものだと推測される。そして、件の手紙とは字の細さは全然違うが、その筆跡は同じことに気づいた。
今まで、その宛名を鵜呑みにしていた彼女は、それがまったく違う人物の手によるものであったことを知り、愕然とした。
それと共に、その手紙の真の差出人に対して、自分が今までとってきた態度を思い返し、自分の不明が情けなく思えてきた。
その人物は、己を殺し、あとからやってきた自分がやりやすいように、実に細やかな心配りをしていてくれたというのに…それを知ることさえしない自分がたまらなく恥ずかしかった。
(こんなに…こんなにも、誰かのために尽せる人だったなんて)
知らず、涙が溢れてきた。
(こんなにも…部長のことを、好きでいてくれているなんて)
いてもたってもいられなくなった呂岱は、執務室を…交州学区を飛び出していた。
その手に、件の手紙を握り締めて。

680 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:53
「そっか…気づかれちゃったんだね」
それから小一時間後、呂岱は建業棟にいた。
目の前には、長湖生徒会の座に就任したばかりの孫権。その手には、虞翻が寄越した一通の手紙がある。
その手紙をいとおしそうに眺める孫権の姿に、呂岱は衝動的に地に手をつけ、その額をリノリュームの床に押し付けた。
「申し訳ありませんっ…」
「…え?」
「私は…私は衆目の邪推を間に受け、先輩の真情も知ろうともせず、あまつさえ総代の地位を盾にそれを踏みにじりました…! そして、今まで先輩が影ながら助けてくださっていたことも知らず、己の功績ばかりを鼻にかけて…私のような人間が総代など、おこがましい話…なにとぞ!」
その表情はわからないが、激昂したその声には嗚咽が混ざっていた。
「私の如き菲才ではなく、是非とも仲翔先輩に…!」
「駄目だよ」
穏かだが、はっきりとした否定の響きを持つその声に、呂岱は思わず顔をあげた。孫権の視線は、その手の中にある手紙からまったく動く気配がない。
「仲翔さんは、きっとそんなの喜ばない…ボクだって何度も仲翔さんをこっちに帰してあげたかった…でもね、自分はもう十分働いたから、どうかこのまま卒業まで居させて欲しい…って。もう自分の出番は終わったから、これからの長湖部を担う子達の席次を、私なんかに与えないでくれって…」
言葉と共に、孫権の碧眼からも涙が伝わり、落ちてゆく。呂岱は、その涙に孫権の真意を見た。
「ボクはそれ以上何もいえなかった。ボクだって、あの人のことずっと誤解してたから…理解しようとしなかったから。だから、最後くらいは、あのひとの望みをかなえてあげたいんだ」
「…はい…」
呂岱はただ、頭を下げることしか出来なかった。


「そっか…あれはちゃんと、部長の下に届いていたんだね」
「…本当に」
座ったまま大きく伸びをする虞翻に、俯いたまま呂岱が問い掛けた。
「先輩は本当にこのままで良かったんですか…? あなたなら、私なんかよりずっと総代として相応しい才覚を持っている…その気になれば、始めから総代としてこの地に赴き、平定する事だって出来たはず…」
「…性に合わないんだ、そういうの」
跳ねるように立ち上がり、もうひとつ伸びをしながら言う。
「私はやっぱり、こういう裏方仕事のほうが好きなんだ。それにさ」
そして棍を一振りし、それを担いで振り返る。
「私には決定的に人望ってモノが欠けているからね」
「そうでもないと思うよ?」
不意に背後から、酷く懐かしい声がする。呂岱も思わず目を丸くした。
恐る恐る振り返った、その視線の先には…。
「部長…それにみんな」
その視線の先には、孫権を筆頭に、彼女が交州へ赴く直前の幹部会メンバーが居た。
ただし、家の事情で既に学園を去った駱統と陸績はおらず、その代わりに潘濬と陸遜がいたのだが。
虞翻はこの突然の事態に、言葉を失った。

「あなたは冗談だけじゃなくて、芝居を打つのも下手だってことなのかしらね…まぁ、アレは私の立案だから言えた義理ないけどさ」
「およ、ご自分のことはちゃんとお解かりでしたか大先輩」
張昭の一言にすかさず茶々を入れる歩隲。その隣では顧雍と薛綜が納得したように頷いた。
「まぁ子布先輩の独りよがりは今に始まったことじゃ…」
「なぁんですってぇ〜!」
厳Sが余計な追加攻撃を叩き込むが早いが、張昭の怒りが爆発し、蜘蛛の子を散らすように散開する少女たちを追っかけていく。
「…ったく、アイツは何時も一言多いんだから」
「まったくですね」
逃げ惑う少女たちのきゃーきゃー言う声と、ヒステリー全開の張昭の声をBGMに、諸葛瑾と敢沢が呆れたように呟く。
視線のその先では、立ち位置のせいで無理やり巻き込まれた感のある潘濬が張昭に捕まっていた。
「…どうして」
虞翻はようやく、それだけの言葉を喉からしぼり出すことが出来た。相当に感情が高ぶっているのを最大限に抑えたような、震えた声だった。
「どうして、こんなところへ来たのよ…こんなところ、せっかくの休みの日にくるようなトコじゃないでしょ…?」
「どうして…って言われても」
「ねぇ」
手前に居た陸遜と孫権が顔を見合わせた。
「会いたくなったら、会いに来ちゃいけないんですか、先輩?」
「そうだよ〜」
その笑顔を見たら、もう歯止めなんか利くはずもなかった。
人目もはばからずに、まるで幼い子供のように大声をあげて泣き出した“仲間”の姿を見て、張昭たちも追いかけっこを止めて微笑を浮かべていた。
「話には聞いてましたけど…現物は凄いですね」
潘濬が感心したように呟くと、
「“泣きの仲翔”は健在、って所かしらね」
「あ、巧いこと言いますね。それいただき」
張昭と歩隲がそう付け加えた。その隣で、珍しくそれと解るほどの微笑を浮かべた顧雍が頷いた。


その日の夜。
彼女は別れ際、孫権から手渡された一通の案内状を、飽きることなく眺めていた。
約一ヶ月後に控えた長湖部体験入部、その案内状だった。しかし彼女はその裏側…本来何もない面を眺めている。其処には、孫権が書いたと思われるもうひとつの“案内状”があった。
曰く『そのあと、みんなで打ち上げをやります。先に引退した人もみんな呼んで楽しくやりたいから、絶対に来てね』と。
「…打ち上げ、か」
そろそろ、学園生活も終わりに近い。
一匹狼で居るのにもいささか飽きていた彼女は、このまま、誰とも打ち解けずに学園を去ることが寂しいと思うようになっていた。
「推薦入試の結果ももう出てるし…楽しみだね」
呟いて、彼女は目を細めた。
もう既に、その心は一ヵ月後に飛んでしまっているようだった。

その飲み会で何が起こるかなんてことは、今の彼女には知る由もなかっただろうが…。

(終わり)

681 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 01:13
というわけで、こんなお話。

実は虞翻左遷の裏には何かしらの意図があったんではないか、っていう話が、いつか立ち読みした三国志関連の書籍にあったんですよ。その書名は忘れちゃったんですけど。
それを読んだ時「ああ、こう言うのがネタでも良いかもなぁ」とか思ったものですが、当時は色々あって一本の話に練り上げるまでに至らなかったのです。

何せ、海月がいちばん最初に上梓した「風を継ぐ者」を書いてた頃の話ですから(^^A

>互角に見えて…
あ、確かに。「三国志]」の能力値見ると本当にそんな感じがします。
そう言えば、「三国志]」の王昶と陸凱、能力値構成似てませんかね?よく見ると。

>歩さんとか虞さんとか
解りやすい答えを引っ張りすぎて本当すみま(ry
次は陸胤の話っつーことでどーですかね?

>王昶付記
まぁなんつーか、ナイスな性格ですね。海月の貧相な語彙で巧く表現するにはアレが限界です…。

>丁原
むしろそのギャップが良いと思うんですよ(^^
いや、それこそ本当に巧いことやりましたね。それこそ脱帽ですわ。

682 名前:北畠蒼陽:2005/06/17(金) 02:27
>海月 亮様
虞翻お見事です!
いやぁ、なんというか私が長湖部メンバーの中で虞翻左遷後の話は書いてみたいなぁ、と思ってたんでたまたま予想が当たってしまっただけです^^;

>互角に見えて…
言い方変えれば『誰とでもライバル足りえる存在』って感じですかね。
陸凱ってのはそんなひとのような気がします。
で、能力値、確かに似てますね(笑

683 名前:雑号将軍:2005/06/17(金) 20:13
>海月 亮様
流石は海月 亮様!僕では足下にも及びませぬ。まさにお見事!この一言に尽きます。
虞翻・・・・・・横山三国志しか読んだことがない僕では影の薄い方で。実は三國志でも袁紹→新武将とプレイするので、登用する機会がないんですよ。
でも、彼女?が登用できるなら、今度は孫策あたりでプレイしてみようかと考えたり。
僕は歩隲かな〜と思ってたので。虞翻とはダークホースでしたっ(いや、僕に三国志の知識が足らんだけか・・・・・・)!

>丁原の設定
いや、あの、すごいのは僕じゃなくて、アサハル様でして・・・・・・。詳しくはアサハル様の学三コミックの方に。
こう考えると今回僕が書かせて頂いた作品、皆さんの設定を借りまくっているような・・・・・・。みなさん、すみません・・・・・・。

684 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 23:15
>仲翔さんといえば…
まぁ横光だと、王朗の小鳥を逃がした人。そんな程度でしたしね。
「蒼天航路」じゃもっと影が薄いです。

「三国志]」の虞翻は何気にスゴいですよ?提督とか医者とか持ってるし。


>コミック
ああ…あの伝説の飲み物の…(((;;゚Д゚)))ガクガク

685 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:30
「……って知ってるぅ?」
「はぁ?」
李崇は唖然として部長……孫権の言葉に頷くことも出来ず、語尾を上げて聞き返した。
その態度はいささか礼儀知らず、といわれてもおかしくないものであったが当の孫権は気づかないようで『ちょっと会ってみたいかもね〜』などと言っている。
李崇は孫権の目をまじまじと覗き込んだ。
まだ孫権が精神不安定状態から脱却していないかと思ったのだ。
しかし李崇の思惑に反し、孫権の目は明らかに正気だった。李崇はさらに愕然とする。

――正気でそんなのがいると思ってるのッ!?

いや、いやいや。もしかしたら自分の聞き間違いかもしれない。
そうそう、自分の聞き間違いだとしたらなんの問題もない。
「あの、部長……あの、もう一度、おっしゃってもらえます?」
李崇の言葉に孫権はにっこりと笑っていった。
「揚州校区の臨海棟に美少女宇宙刑事がいるんだってさ♪」

李崇はかなり死にたくなった。


戦え☆美少女宇宙刑事 王表!
第7話『きゃっ♪ 部長さんに会っちゃった☆』


そんなわけで李崇は臨海棟にいた。
なんで自分がこんなところにいるんだろう、とかそういうことは何度も考えたけどもう考えるのはやめた。
んっと、名前は確か……
棟長に『美少女宇宙刑事』とやらを探させてる間に棟長室の柔らかいソファに寝転がって李崇はその資料をぼんやり眺めた。

名前は王表。
普通の日本語をしゃべり、普通のご飯を食べるが、ややマヨネーズが好きらしい。
授業にはあまり出ていないらしくクラスに姿を見せることはまれらしい。

――普通のひとじゃんッ!

李崇はこれまで何度も繰り返した心の中のセルフツッコミを敢行する。
「あの……李崇さん」
「ん、あ、あぁ。見つかった?」
物思いにふけっている間にいつの間にか帰ってきたらしい棟長の言葉に李崇は現実に強制的に引き戻された。
「えぇ……見つかっちゃいました」
棟長は言外に『見つからなければよかったのに』と雄弁に語りながら残念そうに頷いた。
その気持ちは今の李崇にはよくわかる。
「大丈夫。あとは私が引き受けるわ……よくがんばったわね」
「すいません、お願いします。私じゃもう無理です」
完全に弱気に陥ってしまった棟長を痛ましく眺めながら……
李崇はその背中に隠れるようにしている小柄すぎる人影を見た。

686 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:31
どピンクの塊だった。
頭の後ろに巨大すぎるリボン。顔よりリボンのほうが大きいのは問題じゃないのか?
すでに改造、という範疇に入っているのかどうかすらわからないピンクの制服。
スカートは膝上25cm……短すぎないッ!?

その人物は明らかに規格外だった。

「えっと……あなたが王表、さん?」
「そうですよこんにちはーっ☆」
くぁッ!? なんでそんなに元気なのよッ!?
「あのね、孫権部長があなたに会いたいんだってさ。もしよければ一緒に来てくれないかな?」
断れーッ! 断れーッ! と心の中で祈る。
「喜んでーっ☆」
祈りは通じなかった。
「そ、そう」
……であれば一番言いたくないあの言葉も言わざるを得ない。
部長の命令だ、本当に仕方ない。
「王表さん、あなたを輔国主将に任命します」
「ほ、輔国主将ーッ!?」
李崇の言葉に棟長は顔色を失わせ、壁にふらふらと力なく寄りかかった。
気持ちはよくわかる。
「あ、あの……李崇さん、参考までに輔国主将って俸禄はいかほどですか?」
顔を蒼白にさせ棟長は李崇に尋ねた。
聞かなければいいのに……
李崇はその絶望に満ちた顔から目をそらし、ゆっくりと口を開く。
「俸禄は大してあなたとかわらないわ……でも権威的には部長付官僚の私と同格。あなたよりはるかに上」
「……あぁ」
棟長は泣きそうな声で呻いた。
かわいそうに。
一方の王表はにこにこ笑いながら……
「わぁい☆」
……喜んだ。

「……で、キミが王表ちゃん?」
「そうですよこんにちはーっ☆」
このやり取りはどこかで聞いたことがあるような気がする。
李崇はそう遠くない過去に思いをはせた。
問題は王表にそれを確認しているのが私ではなくて部長、ってこと。
諸葛恪をはじめとする諸官僚の愕然としている様がよくわかる。
「へぇ〜、すっごいね〜♪」
「えへへ〜、部長さんにほめられちった☆」
……なんなんだ、この頭の弱そうな会話は。
「じゃあさっそく本題で悪いんだけど……」
部長がまじめな顔になった。
なんだ? なんだ、その本題ってのは……?

「変身してもらおうかな♪」

687 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:32
はぁーッ!?
声すら出せずに自分も含めた諸官僚が固まりつく。
へん……なんだって?
へん、へん……
あぁ、返信の聞き間違いか?
でもそれにしては文脈おかしくない?
じゃあ文脈にあった『へんしん』ってなにさ?
『変身』……かなぁ?

諸葛恪が自分を睨みつけているのが見えた。
いや、私だって変身なんてはじめて知ったんだってば!

「他ならぬ部長さんの頼みですっ! 王表ちゃん、がんばって変身しちゃいますよーっ☆」
が、がんばるなーッ!?
「じゃ、ちょっとスペースあけてもらっていいですか? あ、そこのロバ子さん、2歩くらい下がってくださぁい☆」
ロバ子さん呼ばわりされた諸葛恪が釈然としない顔で言われたとおり下がる。
怒る気すらないらしい。
「じゃぁ☆」
王表がなにやらかわいいポーズをとる。
孫権が胸の前で握りこぶしを作ってわくわくしているのが横目に見えた。

「スペースノイドポリス! プリティパワーでメイクアーップ☆」
李崇が一生かかっても言えそうにないような言葉を平然と口にした王表が光に包まれる。
ふりふりの服が光の中で輪郭をぐんにゃりと形を変え、体にぴったりしたものに置き換わっていく。
やがて光が収まり、王表の姿が李崇たちにも見えはじめる。

奇妙な形のフルフェイスヘルメット。
コーティングされたバイザー越しに王表の笑みが透けて見える。
腕や両足などが金属? なのかどうかすらよくわからない材質に覆われている。
ボディラインもよくわかるような鎧? の右胸にはかっちょいいエンブレムが燦然と輝いていた。

「愛と☆」
(ポーズ:ビシィッ!)
「勇気の☆」
(ポーズ:ビシィッ!)
「美少女宇宙刑事、王表ちゃん! 悪い子はおしりぺんぺんよ♪」
(BGM:ちゃーちゃっちゃっ♪ ちゃーちゃっちゃっ♪ ちゃちゃんっ♪)

……コメントしようがない空気の中、誰かが手を叩く。
誰か、というか具体的には孫権。
「すっごーい! すごいすごいー♪」
いや、すごいことはすごいが……
「どうやって変身してるの?」
「それはβイナンモナンソ波動のせいですー。そんな見つめられると王表ちゃん、恥ずかしいですっ☆」
「すっごーい! すごいすごいー♪」
ご満悦すぎな孫権とポーズのまま照れる王表。
なんなんだ、この空間は。

不意に李崇の肩がポンと叩かれた。
後ろを振り返ると諸葛恪が疲れたような顔をして眉間を揉みほぐしていた。
「李崇、あとで校舎裏まで付き合いなさい」
……私が悪いのぉッ!?

688 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:33
王基の場合を書くつもりだったんですけどその前にネタが思い浮かんじゃったんで。すいません。反省してますorz
やらなきゃよかった、とかちょっと思いました。後悔しても遅いですねそうですねorz

こりゃ孫盛さんに邪神いわれても文句いわれないわ(ぇー

あ、ちなみに1〜6話はロストしました(ぇー

さらに補足。輔国主将っつったら蒼天の大カムロ、曹騰やら長湖部に引導を渡した龍驤主将、王濬やらと同格ですね。げんなりはふん。
うわ、丁原も同格だわorz

689 名前:雑号将軍:2005/06/19(日) 14:00
>北畠蒼陽様
お疲れ様です!これまたすばらしき作品で。なんか、李崇がかわいそうになりました。
きっと諸葛恪に存分にいたぶられるのでしょう・・・・・・そんな姿が思い浮かんでみたり。
王表、学三では凄まじいキャラになりそうです。

690 名前:海月 亮:2005/06/19(日) 14:53
>宇宙KG
うーわまさかこんな一撃で来られようとは…。
てか魔法少女とか魔女っ娘じゃなくて、美少女宇宙刑事ってとこがミソですかね?
何気に魔法少女は顧雍っていう前例があるわけだし…w

あと、あのBGMってもしかしてギャ○ンですか?


海月はネタが尽きたので暫くは見る側にまわります…。
というか朱績(施績)と虞姉妹描きたいので(オイ

691 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 15:07
>雑号将軍様
いや、無理無理。
これ、すばらしいとかいうの無理。かいかぶりすぎデス(笑
スレッドでも最近シリアス物が続いてる中での久々のギャグだったんでやや滑りました(やや、か?
王表、はじめて正史読んでまず読み流して10秒後に気づいてその行をもう一回読み直して
( д )             ゚     ゚


あと李崇なむ。

>海月 亮様
ギャフンですか!
ごめんなさい冗談です。
ちょうど直撃その世代です。
ただそのわりにはBGMとかまったく覚えてないですねぇ……
BGMは『ありがち』な感じで(笑

最初は美少女戦士にしようかとも思ったんですがそれだと……ねぇ?
いろいろ水兵服のひとらが……ねぇ?

692 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:27
「……進め! 全員、自分の横は見ず、ただ前だけを向いて戦いなさい!」
苛烈な命令が少女の口から飛ばされる。
敵と少女の率いる部隊が真正面からぶつかり合った。
しかしその人数差は圧倒的に少女の側が上回っている。
敵はその圧力を耐え切れずに……
そう、もうじき壊走をはじめることだろう。
少女の頭はそれをどう追撃するか、ということにすでに意識が傾けられていた。
「珍しいですね」
部下が少女に声をかける。
「あなたがまさかあんな命令を出すなんて」
少女は部下の言葉の意味を一瞬、考え、頷いた。
「……あの、『進め』ってこと?」
いかにも優等生然としたその風貌からそんな言葉が出てくるとは考えにくいことであるし、事実、珍しいことでもある。
「……そうね。でも……まだ若いんだし、たまには無茶もしないとね」
少女……王基は前髪をかきあげながらうっすらと微笑んだ。


策を投じる者〜王基の場合〜


長湖部は揺れていた。
絶対的なカリスマである部長、孫権もその長きに渡る統治により水を淀ませている。
のちに二宮の変と呼ばれる事件により陸遜という稀代の名主将は放逐され、また部長、孫権ももはやすでに引退時期を考えている、という風のうわさすら流れていた。
そんな時期、荊・予校区兵団長の王昶が生徒会に1つの提案をした。
「孫権って最近、能力持ってる人間を次々トばしちゃって、しかも後継者争いなんかさせちゃってる状況みたいなんですよー。今のうちに長湖部を攻めたらいけるとこまではいけると思うんですよね。白帝、夷陵の一帯とか黔、巫、シ帰、房陵のあたりなんて全部、長湖のこっち側ですからね。あと男子校との境目だから混乱も起こしやすいし。今が攻め時、お得ですよ!」
生徒会はその進言を受け入れ、荊州校区総代の王基を夷陵へ。荊・予校区兵団長の王昶を江陵へ進撃させた。

荊州校区に熱風が吹き荒れる。

夷陵……
かつて劉備が当時、無名であった陸遜に敗れ、リタイアの遠因となった地。
その威容を眺め、王基はうっとりとため息をついた。
「……確かにこれは難攻ね。不落とは思わないけど」
陸遜はこの校舎を囮に劉備を引き付けておいて、大風の日を待ち、発炎筒を大量に炊きつけることにより混乱させるという奇策により劉備を打ち破った。
しかしそれもこの夷陵が大風の日まで持ちこたえる、という前提のもとでの作戦である。
夷陵が大風以前に陥落していたとすれば、それは作戦ではなくただの『世迷言』と分類させるべきものであろう。
「……げにおそるべきはこの校舎の防衛力、か」
もちろんそれは孫桓と朱然という2人の手腕であることは否定できない。
王基は手元の資料に目を落とす。
「……今の主将は……歩協? ……歩ってことは……あぁ、やっぱり元副部長、歩隲の妹なのね」
納得したように頷く。
歩協の実力は未知数だが……
まぁ、この土地を任されている、ということはやはり長湖部内ではそれなりに評価されているということで間違いないだろう。
だが……
「……なんなの、これ」
王基の顔が不機嫌そうに歪む。

693 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:28
夷陵棟の校門は厳重に閉ざされ、完全に守りに入っていた。
「……もしかして……劉備のときと同じ作戦とろうとしてるのかしら。もしそうだとしたら……私がそれに引っかかると思われてるのかしら」
「せっかくだから夷陵攻めのとき、劉備が拠点として使った馬鞍山に仮設テントでも張っちゃいましょうか」
王基のグチに部下の1人が軽口を飛ばし、王基は苦笑した。
発炎筒で大混乱大作戦大発動。
そんなばかな。

奇策は1回限りであるからこその奇策なのであり、それにこだわりを持つようなものではない。
「……まぁ、いいわ」
王基が肩をすくめる。
「……敵が弱いのは私の責任じゃないし」
そして校舎を睨みつける。
「……そして曹仁先輩や張遼先輩で生徒会の伝説のネタが尽きたわけじゃない、ってことを教えてあげなきゃいけないしね」

「なんとか……なる、かなぁ?」
かつて長湖部三君の1人に数えられた姉を髣髴とさせる風貌の少女がカーテンの脇から外を見、胃の痛みに必死で耐えていた。
歩協。現在の夷陵主将である。
戴烈と陸凱の救援隊がこちらに向かっていることは知っている。

一戦してよくわかった。
正攻法で勝てる相手ではない。
自分はもちろんのこと戴烈や陸凱でもどうなるかわからない。

もちろん王基が直前に言ったグチのように同じ作戦を取ろうとしているわけではない。
さすがにそんな作戦を再び取ったところで無理であろうことは当の歩協が一番よくわかっていた。
歩協の願いはただ1つ。

『夷陵』と『援軍の主将は陸の苗字』という2つのキーワードに怯えて敵に撤退してほしい、というだけであった。
しかし……
「あい……たたた……」
胃がきりきりと痛む。
カーテンから覗き見た敵の部隊はすごく士気盛んに見えた。
撤退は露ほども期待できそうにない。
「なんであんなにやる気なのよ……!」
歩協は神を呪った。

694 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:28
譚正は事務仕事に追われていた。
後方でのフォローなしにいかなる戦闘も機能しないというのは歴史の教訓といってもいいだろう。
譚正は後方校舎においての事務に精力を費やしていた。
「まったくぅ……私、安北主将よ? なんでこんな地味な仕事ばっかり……!」
毒づきながら書類をまとめる。
校舎の一室で譚正のグチとキーボードのカタカタという音だけが響く。
「歩協主将から食事の催促メールきてます。なんて返事しましょう?」
「あー、もう! カップラーメンでもすすってろ……!」
毒づきながらキーボードに指を走らせる。
1000人からの学生が篭城している中で、カップラーメンだけとはいえ当然備蓄は……
「あう……足りない」
譚正は呆然と呟いた。
正確に言えば足りることは足りるが今後、心もとない、というところであろう。
「ここでなんかあって、んで私に食糧輸送の怠慢があった、とかいわれるのもたまらないしなぁ……送っとくか」
譚正の呟きと同時に教室の外がにわかに騒がしくなった。
「なに!? 静かにしなさいよ、もう!」
バン、と机を叩いて立ち上がると同時にガラっとドアが開けられる。
開けたのは……見覚えのないような女だった。
肩のラインで髪を切りそろえた少女、その後ろには武装した少女の部下と思しきやつらもいる。
見覚えがない、ということは自分の部下ではない。
ということは歩協の部下か?
なんのつもりだ?
大量の疑問符が譚正の頭の中に飛び交う。
「なんなの、あんたたち!」
だから口にした質問は一番汎用性に富んだそれだった。
少女は譚正の言葉に少し考え……
「……こういうとき文舒なら『毎度おなじみ生徒会です』って言うんだろうけどね。別におなじみになるつもりはないけど生徒会荊州校区総代、王基っていうわ」
て、敵!?
……判断を下すより早く王基の部下が部屋を制圧していく。
竹刀を突き立てられ、誰1人としてまともな抵抗をすることもなく両手を上げる。
「……さ、いい子だからあなたも手を上げてくれるかしら? もちろん私は荒事は嫌いだけど『嫌い』というのは『やらない』というのと同義語じゃない、ってのはわかってくれてるわよね?」
歌うように囁きかける。
ちら、とさっきまで自分が叩いていたキーボードとパソコンを見る。
もちろんそこにSOSが書かれているわけではないし、そもそもメーラーが立ち上げられているわけもない。
メーラーが立ち上げられていたとして、そのメールを運良く送信することが出来たとしても、今の現時点での状況打破にはなりようがない。
譚正は嘆息し、両手を頭の上に上げた。
「降参だ」

「王基さん、これで撤退でいいんですか?」
「……うん、十分」
敵の後方支援を管理していた部隊をつぶしたのであればさらに粘れば夷陵も陥落させることが出来たのではないか、その思いを言外に滲ませながら尋ねる部下に王基は笑いながら答えた。
「……そろそろ敵も応援が到着するころだしね。応援に対しての備えは完成していない以上、しかも敵の地元だから地の利だって敵にある以上、長居してもいいことはないわ」
部下は王基の言葉に口ごもる。
確かに敵からしてみれば夷陵を簡単に手放すことが出来ない以上、応援とするのは『どんな状態にも対応できる手腕の持ち主』であろう。
そうなれば勝敗の行方はどうなったか知れたものではない。
「……それより早く帰っておいしいものでも食べようよ」
王基は笑いながらそう言った。

695 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:30
王基です。
州泰は書きようがないですね、あれは。
次はなに書こうかなぁ……

696 名前:雑号将軍:2005/06/26(日) 22:27
>北畠蒼陽様
王基編お疲れ様です。自分も新しい作品を書きたいのですが、テスト、テストがあー!!
すみません。取り乱してしまいました。
王基も伊達に荊州を任されてるわけじゃないみたいですね。
歩協・・・たしか、羅憲にやられた人でしたよね。この人ってあんまいいとこがないような・・・・・・。
王基、王昶・・・・・・蜀でいうと誰辺りがそれなんでしょう?呉懿とか張嶷、馬忠がその辺りだと考えているのですが。

697 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 00:14
「つわものどもが夢のあと〜、ってねぇ」
長髪の少女が歌うように呟き、そして寒さにコートの前を合わせる。
「夏草や、っていうにはちょいと寒すぎだねぇ」
苦笑しながら少女が振り向いた視線の先にはもう1人の少女が割れた窓ガラスを物憂げな表情で見つめていた。
「どうしたー?」
物憂げな表情の少女に前を歩く少女が声をかける。
「ん、いや……夢のあと、ね。仲恭はどんな夢を見てたのかな、って思ってね」
「しらーん」
アンニュイに染まろうとする空気を少女は一声で吹き飛ばす。
しかし外を見つめていた少女はその言葉にきっと眉を吊り上げた。
「仲恭は本当に曹家のことを考えてたんじゃないかって! もしかしたら私たちが仲恭を討ったのは間違……」
しかしその言葉は前を歩いていた少女の視線によって途中で止められた。
「それ以上言ったら私も聞いてない振りができなくなるわ」
2人の少女……王昶と諸葛誕は黙って対峙した。


乱世を見る方法


この月、北辺に割拠する公孫淵を攻め、さらに進んで高句麗高校にも遠征し生徒会内で実力、実績ともに抜きん出た存在であった毋丘倹が自身の勢力基盤であった揚州校区を中心として長湖部すらも巻き込んだ大叛乱を起こし、そして討伐された。
叛乱の理由はただ一点。
当時より蒼天会長、曹家を凌ぐほどの影響力を持っていた司馬師を除くため、であった。
すでに司馬姉妹は生徒会内でもはや誰も……蒼天会長すらも……太刀打ちできないほどの力を持っており、それに対し憤りを感じるものも少数ではなかった。
毋丘倹以前にも生徒会執行本部本部長の王凌がやはり揚州校区を中心に叛乱を起こし敗れ、そして今回の毋丘倹の失敗により……

……もはや司馬姉妹への流れ、という大勢は決していた。

「別に聞いてる振りをして、ってお願いしてるわけじゃないわ」
諸葛誕は腕を組み目を伏せる。
「ただ……仲恭の気持ちがよくわかる、ってだけ」
仲恭……毋丘倹は2人にとっても同期の友人であった。
2人は数瞬、毋丘倹に思いを馳せる。
「私には……仲きょ、毋丘倹の気持ちは欠片もわからない」
王昶は諸葛誕を睨みつけながら言い放った。
諸葛誕が驚きに目を見張る。
「私はね、公休。曹だろうが司馬だろうがどっちだってかまわない。ただ学園の平和のためなら戦える。どんな汚い真似だってできる……でも平和を乱す毋丘倹の行為は絶対に許せない」
王昶と諸葛誕が睨み合う。
「文舒、それは間違ってる。だったら今、司馬姉妹が蒼天会長を名乗らないのはなぜ? やつらは『部下として』『会長に』汚名を着せようとしてるだけ。許せるわけないじゃない」

698 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 00:14
王昶は思う。この目……まっすぐだな……
とてもうらやましいと思った。
そして自分がこれほどまでに汚れていることを悲しく思った。

諸葛誕は思う。自分の戦歴は負けで覆い尽くされている。
だから毋丘倹や王昶の才能に嫉妬を感じたことは一度や二度ではない。
それでも……と思った。

「はい、これまで」
首筋を撫でながら……先に視線を外したのは王昶だった。
「私は公休を手伝うつもりはない。でも邪魔はしない……がんばれ」
諸葛誕にとって王昶のその言葉は完全に満足のいくものではなかった。
だがそれでも王昶の考えからすれば最大限の譲歩なのであろう。
「ありがとう……」
そして諸葛誕は踵を返し、もう王昶のほうを振り返らなかった。

王昶はひらひらと手を振る。
振り返りもしない相手に手を振り続けることは自己嫌悪の裏返しか……
「……そんなに悲しいなら公休を止めればよかったんじゃない」
王昶の横から声が投げかけられる。
王基……醒めた瞳の少女が階段の上から面白くなさそうに王昶を眺めていた。
「いつから聞いてた?」
「……多分最初から」
王基がいることなどわかっていたのだろうあまり驚いた様子もない王昶のもとに階段を二段飛ばしで王基は歩み寄った。
「……公休、叛乱起こすだろうね」
「だね」
王基の言葉に王昶は無理に笑みを形作り頷く。
「……『乱』を嫌う文舒がそれを止めようとしないのはなぜか。『お姉様』とまで慕っていた王凌先輩のときも毋丘倹のときも」
「私たちの代じゃ学園都市の統一が難しいから……だから妹の世代、玄沖たちに実戦の経験をさせなければならない……ゲームでいえば公休はただの経験値」
呟き……王昶は顔を覆った。
「私は最低なやつだ! 学園の平和のためとか言いながら友達を売ろうとしている! 公休は私のことを信じたのに! なのに……!」
いきなり泣き崩れる王昶を王基は後ろから抱きしめる。
「……大丈夫。あなただけの罪じゃない。私も半分罪をかぶってあげる……半分こだもの、それほどの重みでもないでしょ?」
王昶の頭を撫でながら王基は他の誰にも見せないようなやさしい顔をする。
「……それでも重かったら荷物を地面に置けばいい。疲れが癒えたらまた歩き出せばいい」
「……」
ひとしきり泣いた王昶が一瞬、沈黙したかと思うと……ひらひらと手だけ上げてみせた。
王基は苦笑し、上がった手に自分のポケットから取り出したハンカチを持たせる。
王昶がそれを受け取り、そしてもぞもぞと動き……涙を拭いているのだろう……そして次に顔を上げたとき、もういつもの王昶だった。
「うん……んじゃ視察はここらで切り上げて帰ろうか。おいしいラーメン屋見つけたんだ」
ににっと笑い、そして王基に背を向けて歩く。
王基はその背中に笑みを見せ……
「……またつらくなったら泣き用の胸は用意しとくよ」
「ありがと」
前を行く王昶からそっと漏れ聞こえた言葉に王基は再び笑みを見せた。

699 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 00:32
ぐっこ様帰還記念!

もうなんつ〜か前にどこかで誰かが『各時代に名物チームがあった』みたいなことおっしゃってたような気がしますが、この時代の魏のキーマンはやっぱ王基&王昶だと思うのです。
なわけでこの2人好きなのデス。なんか他の時代の名物チームに比べて地味で(笑
あれです。
誰も応援してあげないから私くらいが好きでいてあげないとかわいそうじゃない!? ってやつ?(笑

まぁ、王昶とかもカンペキ超人じゃなくて普通の女の子なんでー、って話です。

ちなみに私の人物評価。

政治力
王昶>諸葛誕>王基>毋丘倹
諸葛誕が『自分が三公になるのは王昶のあとじゃろ? ギャワワー』といってるため王基よりは上と考えられる。毋丘倹はあの戦歴をもってしても都督止まりだったためなんらかの政治バランス的な欠陥があったのではないか、と。

統率力
毋丘倹>王基>王昶>諸葛誕
王基は王昶に比べて曹爽のために一時失脚というハンデをおいながらも、その能力ですぐに返り咲いていることから上かと。でもそれでも毋丘倹の実績にはかなわないなぁ、というのが本音。高句麗討伐ってのはあんた何様のつもり! ……諸葛誕は呉との戦いだと出ると負けてるので。

ま、こんな感じで。

700 名前:雑号将軍:2005/07/03(日) 13:57
北畠蒼陽様、お疲れ様です!ホントにすごいですね。一週間に一作品つくられてるんですから。
僕は…季節はずれですが、やっと書きたいのが決まったのでそれを書こうかと。要は卒業式&ピアノネタを…。ここまで言うと誰かわかってしまうかもしれませんが。
皇甫嵩と張嶷の方は設定にもう少し時間がかかりそうなので、設定ができてるもので・・・・・・。逃げです…。ごめんなさい。

>政治力
なるほど・・・・・・。諸葛誕が二番目とは。なんか政治バカのイメージがあったんで。理由はないんですけど。

>高句麗討伐
前から疑問だったんですけど、毋丘倹が高句麗という立派な大国を討伐できたんですかっ!?実は毋丘倹の統率力ってかなり高いんですか?張遼、関羽くらいに。

701 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:12
で、王基から王昶&王基を連続で読んだ私。
何というかこのコンビ、北畠様の筆に馴染んだと言うか、昔からそう言うキャラだったのか、って感じになってきましたねぇ(´ー`)
う〜ん、いい仕事してますねぇ(←中島誠之助風

>政治力とか
統率力はそうかもしれませんね、諸葛誕は。
人望にしても、私兵団からは絶大な信望を寄せられていましたけどね…それ以外は…。

海月的には文欽はともかく、毋丘倹の義理が低いのが納得いかない、といったらどうですかね?
あれは単に「司馬師が気に食わなかったから」での反抗だったわけだし…あ、それでもダメか。


でもって海月も>>690の宣言から二週間足らずでもうヘンなSS書きましたので投下。
麻雀を知らない人は読み飛ばすか、麻雀の本を読みながら御覧になるのが吉。

702 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:13
「真冬の夜の夢」


「…と言うわけだ、皆の衆」
と、数人の少女たちを眼前に置き、その緑髪の少女はそう言った。
その少女と少女たちの間には、意味ありげに置かれた二つのケース。
「何が“というわけ”なのよ。突然呼びつけておいてなにやらかそうっての?」
「そうだよ〜、早く寝ないと、舎監の先生に怒られるよ?」
少女たちは一部除いてみな不満げだ。その一部だって、眠たいのかしきりに目をこすっているから、おそらく話の趣旨なんてまったく理解していないだろう。
「ふむふむ…諸君の言い分はもっとも。しかし、われわれ来年度新入生をお迎えになった先輩方が打ち上げと称して今も酒盛りの真っ最中。それなのにわれわれは何もなくただ不貞寝するしかないと来た。理不尽とは思わないか?」
「…そりゃあ…そうだけどさ」
「承淵みたく部員待遇でもなく、ましてやまだ高等部に入学したわけでもないあたしらを入れてくれるとは思えないわよ」
「その承淵だって、結局ここにいるわけだし…」
「………ふぇ?」
少女の一人が、隅っこでとろんとした表情をしている狐色髪の少女を小突く。その衝撃で、承淵と呼ばれたその少女も夢心地だったところから現実に引き戻されたようだった。
緑髪の少女はにっ、と笑った。
「そりゃそうだ。何せこれからやることに必要だったからあたしが引きとめたんだよ」
「どういうこと?」
柔らかなプラチナブロンドをショートカットにした少女が、怪訝な表情をして聞き返す。
「実は今日、確かな筋からの情報で舎監不在は確認済み。で、来年度の長湖部幹部候補生たる我々しかこの寮に残っていないことも確認済み。で、この場にはあたしら八人しかいない」
「え? え?」
「ちょっと敬風、もったいぶらずに本題言いなさいよ。あたしの予想が正しければそれ」
「…大歓迎だろ、世議」
「もっちろん! 他のみんなは?」
世議と呼ばれた、亜麻色のロングヘアの少女が嬉々とした顔で満座を見回した。
「あたしもいいけど…」
「でも敬風ちゃん、まさかただ延々と朝までそうしてるってのも」
「心配無用だ皆の衆。景品は用意済み、うちの堅物伯姉が珍しく手ぇ廻してくれたから…総合1位は豫州学区本校地下のバイキングタダ券一か月分!」
敬風と呼ばれた、そのリーダー格と思しき少女が懐から取り出した回数券の束を見て、少女たちから思わず感嘆の声が飛び出す。蒼天学園生徒の憧れの的とも言える、学園最高級との呼び声高い学生食堂のタダ券を目の前にしたのなら、それは当然の反応だ。
「そして当然、ノーマルな賭けも同時進行だ。世議や世洪は物足りないかもしれないけど、小遣い事情を考えて点五(千点=50円レート)で。その代わり回転数を上げるためのデンジャラスなルールも取り入れますんで」
「お、話わかるじゃん」
「というわけで、これからヨチカのタダ券を賭けた、旭日祭後夜祭麻雀大会の開催に異議あるものは!?」
「異議な〜し!」
その元気のいい満場一致を見て、敬風こと陸凱は満足そうに頷いた。

その参加者は陸凱以下、実に濃いメンツだった。
プラチナブロンドのショートカットを、ぱっちりとした大きな、かつ勝気そうな瞳が特徴的な顔に乗せているのは虞レ、字を世洪。
亜麻色のロングヘアをストレートに流している、ツリ目で長身の少女は呂拠、字を世議。
黒のクセっ毛を、ツインテールに束ねた童顔の少女は朱績、字を公緒。
セミロングの黒髪をうなじのあたりで二つ括りにした、どこか柔らかな雰囲気のある少女は丁固、字を子賤。
緑髪の少女があと二人いるが、そのうちのセミロングで陸凱によく似た顔立ちをしているのは、陸凱の双子の妹・陸胤、字を敬宗、もう一人の、ロングヘアにして三つ編みを作っているのは現長湖部の実働部隊総帥である陸遜の実妹・陸抗、字を幼節。
そして結局最後の瞬間まで夢うつつだった狐色髪の少女は、中等部生でありながらその陸遜軍団の突撃隊長として名を馳せる丁奉、字を承淵。
後に長湖部の柱石となり、あるいは外地でさまざまな功績をあげる事となる名臣たち…そんな少女たちが高等部入学を目前に控えたこの時期に、このような馬鹿をやらかしていたという話が学園史に残っていることもなかった。


八人が二卓を作り、最初は特に何もせず打って、その中で上位陣四人と下位者四名を分け、以降は一局終わる毎に上位者二名と下位者二名を入れ替える。
回転数を上げるために割れ目適用、二家和(ダブロン)あり、さらに上位陣では陸凱が定めたルール…というか、彼女が普段虞レや呂拠と卓を囲んでいるときのルールが適用される。
即ち、5・10のウマ、飛ばし賞あり、役満賞あり。サシウマと飛ばしで点五でも一局で万近い儲けまたは損が出る恐るべきシロモノだ。しかも上位者に名を連ねる陸凱たちはイカサマも平気でやるからそのハンデを埋めるため、いくつか厳しいルールも付け加えている。麻雀にあまり慣れてない陸胤は罰符の適用外であることもそのひとつだ。

そんなこんなで、慮江の中等部寮で長湖幹部候補生たちによる、学食のタダ券を賭けた血で血を洗う戦いの幕は切って落とされた。

703 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:14
「よし来た! リーチ一発ツモタンピン三色…裏乗ってドラ2、親倍満八千オール!」
「え、嘘っ!?」
「うっわ…いきなり飛ばしてきやがったなこの女…」
陸凱が倒した手は、まるで麻雀のガイドブックにお手本で載っているかのような、整った手役である。そのあまりの鮮やかさに、上家の虞レも呆れ顔だ。別卓の陸抗や朱績も思わず手を止めて覗き込んできた。
「そりゃあなんたってあんた、ヨチカのタダ券懸ってますから」
「あざといねぇ…子幹や敬宗もいるんだからちったぁ遠慮しなよ…あ」
清算を終えてがらがらと牌をかき混ぜ始めた陸凱を嗜める呂拠だったが…
「悪ぃ、あたしもツモだ。メンホン一通でハネ満、六千の三千」
「…世議も言えた義理な〜い」
「ホントだよぅ」
こちらも呆れ顔の朱績と陸抗のブーイングを食らうのであった。

(さぁて…世洪は多分万子の真ん中辺、敬風は張ってる気配ないな。問題は承淵だが…)
二局目。上位陣の構成メンツは周りの予想通り虞レ、陸凱、呂拠の三名、それに前局で後半に追い込みを見せた寝ぼけ眼の丁奉を加えた四名という顔ぶれ。呂拠は聴牌となった己の手牌と、場の捨て牌を眺めて思案顔。
(一色系なんだろうけど鳴いてないのが不気味なんだよな…てかコイツ、半分寝ってるせいか表情読めね〜…)
ちら、と呂拠は下家の丁奉を見る。まだ眠いのかぼんやりしていて表情が読みにくいことが戸惑いに拍車をかけた。普段なら、読みたくなくたって考えが読めるほど解りやすい相手のはずなのだから。
(まぁいい…ヤツは放っといて一気に決めるか)
呂拠は思案の末捨てようとした索子の四を、瞬時に目の前の山の一牌とすり替える。
そこには先ほどすり替えた北の牌。
「リーチ」
まさに一瞬の動作で難なくそのイカサマを実行し、完全な安牌であると思われたその牌を横倒しにして置く。
ついでに言えば山に戻したのはちょうど自分のツモ牌、かつ高目のあがり牌だ。流石に百戦錬磨の玄人呂拠、そつがない。
そして、リーチ棒を置こうとすると…。
「あ、出さなくていいよ〜。それだからぁ」
「はぁ!?」
半分眠ったような顔で、ゆらゆらと揺れる丁奉の“意外な”反応に、捨てた呂拠どころか虞レと陸凱も思わず間抜けな声をあげて見事にハモってしまった。そして、パタパタと音を立てて倒れる牌を見て呂拠の表情が一瞬で凍った。
「えっとぉ、国士無双〜…割れ目で倍だから六万四千〜」
「えー!」
信じられない単語が飛び出して満座の注目を一気に集める。わらわらと集まってくる少女たち。
「…あ…有り得ねぇ…」
「なんか知らんけどナチュラルのコイツは得体の知れないトコ、あるからなぁ…」
呆然と呟く虞レと陸凱。
残った卓ではただ一人、朱績が自分の手役と牌の山から好き勝手に牌を弄くっていることに誰も気づかなかったという…。

試合開始からわずか三時間の間に、消化した局は六局にもなっていた。
一時休憩の間、談話室のホワイトボードに貼り付けられた点数表を目の前に、どっかりと陣取りながらにらめっこしている緑の跳ね髪少女が一人。言うまでもなく、今回の発起人である陸凱その人だ。
「…こりゃあ意外な展開になってきたな〜」
書かれた点数を計算してみると、1位はぶっちぎりで丁奉という有様。そのあとには朱績、虞レ、陸凱と続く。哀れなのは二局目で丁奉の割れ目役満に振り込んで以来ビリをひた走る呂拠だ。
「うわ、コレは思った以上にめちゃくちゃな順位ねぇ」
「まったくだよ…てか、今の承淵は一体何なんだろうな?」
頼まれていた緑茶の缶を渡し、横に腰掛けた虞レに陸凱が問いかける。
「そんなの私が聞きたいよ。それに公緒、アイツも結構やり口があざといわね」
「ああ…でも多分ヤツは次に討ち取れるよ」
「おや、これは自信満々な」
「まさかとは思ったけど…あの子のお姉さん、義封先輩とやり口が一緒だからね。承淵が国士あがったとき、アイツだけ顔見せてなかったから、そのときも何かやってたみたいだし」
陸凱の慧眼に思わず口を鳴らす虞レ。お茶を飲み干した陸凱が大きく伸びをした。
「さぁて、世議がへこんでいる今のうちに、せめて点数だけは荒稼ぎしておかないと」
「承淵は?」
「ほっとこう。あいつが勝てば、もしかしたら振舞ってくれるかもしれないし」
「……言えてる。あなたなら絶対そんなことしないでしょうけど」
「一言余計だ」
その会話が終わるころ、思い思いに休憩を取っていた少女たちが戻ってきた。
話題に上った丁奉が“目を覚ました”のはそれから五分後のことだった。

704 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:14
「いや〜…まさかあたしがそんなに勝ってたなんてねぇ…」
「本当に覚えてないの、しょーちゃん?」
「世議さんなんて魂抜けかかってたよ〜」
「覚えてない覚えてない…っと、これでリーチかな」
それから更に三局を消化して、何時の間にか総合得点がマイナスに転じていた丁奉は陸抗、陸胤、丁固を含めた下位卓の顔ぶれに混じって居たりする。
あのあと意識がはっきりするにつれて、彼女は人が変わったように負け始めた。自然体でのらりくらりとかわされて対策に頭を悩ませていた陸凱と虞レの集中攻撃を受けて、金額にすれば三万円近い勝ち分を一気に吐き出したのだ。同時に、仕掛けていたガンパイのタネを見破られた朱績も陸凱の逆襲を受けて大きくへこまされていた。
「まぁ、この手のゲームは欲がないほうが強い場合ありますからね」
言いながら丁固が、引いてきた牌と手役を見ながら言う。
「あと承淵さんは、半分寝てるときのほうが手強いかも、です」
その次に牌を捨てながら陸胤も続ける。
「そんなもんなのかな…あ、残念違うか」
「あ、それ当たりだよ〜」
「え、うっそ?」
丁奉が切った牌を取り上げて、手役を開陳する陸抗。
「だって普段のしょーちゃん、何考えてるか解りやすいんだもん。あ、断公のみで千点だよ〜」
「ちぇ〜」
素面に戻った彼女の周囲では、まぁそんな平和な空間が生まれていたわけである。

順位はほぼ固定されつつあった。一局ごとに陸凱、虞レ、そして調子を取り戻した呂拠の三名でトップの順位はめまぐるしく変わり、下位四名からちまちまと点を稼ぎながらやっとの思いで追随する朱績。
(まいったなぁ…おねーちゃんから教えてもらった手は敬風達に見破られてるみたいだし…何か良い手はないかなぁ)
またしても下位卓に引きずり降ろされて来た朱績。対面の丁固が何か切ろうとしたが、それは今張っている朱績の当たり牌であることは彼女には解っていた。そういう仕掛けをしたからである。
しかし、どういうわけかそれが切って出されることはなかった。
(あれ…まさか、あんな牌を抱え込むなんて?)
一瞬、彼女は違和感を感じた。しかし、陸胤のことだから何か珍しい手を狙ってるのかもしれないと思い直し、上家の丁奉の牌を覗き込む。こちらにも、同じ牌を握っているようだ。
だが、彼女もそれを切ることはなかった。
(え…承淵まで…?)
偶然にしてはおかしい。いくらなんでも二人して示し合わせたように同じ牌を抱え込むなんて。
まさかこの二人にも仕掛けがばれたのだろうか。先の局も、陸抗に何故か狙い撃ちされている時点で、彼女は仕掛けがばれたことを疑うべきだったのだが…。
(はは…まさか、ね)
タネをばらしてしまうと、彼女が何らかの“目印”をつけていたのは万子の一から三の牌。彼女はわずかな間に各二枚づつ計十八牌、両方の卓合わせて三十六牌に印をつけていたのだ。そして、彼女が引いてきたのは、今現在の手役に不要な二の万子。彼女の記憶が間違っていないなら、丁奉と陸胤の二人が抱え込んでいるのは一の万子。
捨て牌を見る限りではそれを利用できる手役ができているとも思えない…というのは、あくまで彼女の希望的観測でしかない。わずかな時間で牌に目印をつけるくらいの腕があるくせに、捨て牌から手役を読める能力がなかったことが致命的な弱点であった。
プラス、自分の力を過信していたことが朱績の命取りとなった。
彼女の姉・朱然なら、危険を察知し確実に戦略を切り替えていただろう。あるいは、そこいらの有象無象が相手なら、それでも良かったのかもしれない。だが今此処にいるのは、まかりなくも何か光るものを見出され、長湖部幹部候補生となった少女達なのだ。
「ロン、一通ドラ2で満貫です♪」
「同じく、純チャンドラ1。あたしは親満ですかね?」
「何でー!?」
同時に牌を倒す丁奉と丁固。
この瞬間、朱績はトップ争いの争奪戦から一気に引き摺り下ろされた。

対戦数は既に十回をとうに超え、薄く開いたカーテンの隙間から、弱々しい冬の朝焼けの光が入ってきた。
時間ももう朝の五時を指していた。そろそろ限界に近い者も出始めたようである。
「よ〜し…じゃあ泣いても笑ってもこれで最後にするよ〜」
「え〜?」
陸凱の提案にひとりだけブーイングを飛ばす朱績。
「これで終わったらあたし逆転できないよ〜」
「文句言うな。承淵や敬宗、子賤だって逆転不可能なんだからあきらめろ」
実は陸抗もなのだが、まぁ、とにかく陸凱、呂拠、虞レ以外は誰がどうがんばっても1位は望めない。暫定1位の呂拠を引き摺り下ろしたって虞レか陸凱が優勝を持っていく状態だ。
「そんなぁ…」
がっくりとうなだれる朱績を見かねたのか、その暫定1位が助け舟を出した。
「いいじゃないの敬風、最終戦くらい派手にサシウマつけよーよ」
「あぁ?」
「このままじゃどうせあたしか世洪かあんたしか得しなさそうだし…順位に応じて、サシウマの値を変えてやってもバチ当たんないでしょ?」
「それが勝負、ってモンでしょ。あたしはむしろ今止めたって文句言うつもりないよ」
「面白くないじゃん。最後の一発であたしら三人が負けたとき、あたしらの得点を0換算にして買ったヤツにつぎ込んでやるとかよくない? そうすれば計算上ドンケツの敬宗も逆転可能だし、あたしらが勝てば儲け倍だし、そのほうがスリルあっていいよ?」
「う〜ん…世洪は?」
「私は別にいいよ…ふぁ…そういう理不尽な大博打も、たまには」
あくびをかみ殺して虞レも同意する。
「なら認めてやるか。その代わり、あんたが悪戯した分の牌はとっかえて使わせてもらうから…いいわね公緒?」
「う…わかったわよぅ…」
渋々承諾する朱績。
予備に用意された牌と、印付けされた牌を交換する数分のインターバルを挟んだ後、運命の最終戦が幕をあけた。

705 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:15
上位陣。人のことをいえた義理もないあざとさで派手な手役を組み上げる陸凱だったが、南場に入る直前…。
「ちょっとタンマ」
牌を引く直前、不意に虞レに腕を捕まれ、しまった、という表情を一瞬見せる。そして普段出したことのない猫撫で声で言った。
「…えと、なんでしょうか世洪さん?」
「とぼけたって駄目。あんたらしからぬミスだわね敬風…そのお手々、開いて見せて?」
なんというか、そう言う虞レの笑顔はとてつもなく怖かった。かつて彼女の姉・虞翻をして「あの子の笑顔ほど恐ろしいものはない」と言わしめた、その“凍りついた”笑顔がそこにあった。
その異様な雰囲気のなか、恐る恐る覗き込んできた朱績と陸胤も、一歩引いた位置で成り行きを見守っている。
冷や汗とともに開かれた手からは、牌が二つ出てきた。よく見れば彼女の手牌も規定より一枚少ない。
つまり陸凱は、不要牌と山の牌を交換しながら牌を引いていたのだ。
「…この罰符、役満払いで文句なくて?」
「ちっ……………覚えてろコノヤロウ」
さらににっこり具合を強める虞レをジト目で睨みつける陸凱の背後では、呂拠と丁奉が必死に笑いをこらえていた。

「ふっふ〜♪」
イカサマ発覚のあと、トップ争いから外された陸凱を尻目に着々と点を稼ぐ朱績を見、虞レは怪訝そうな表情をした。
(おっかしいわね〜…この短い間でまた何をやったのかしら、コイツは?)
見れば陸凱も同じような顔だ。一瞬目が合ったが、彼女はぷいとそっぽを向いてしまう。まぁ、先ほどの一件を鑑みれば仕方ないとは思うのだが。
(駄目か。敬風も割りと根に持つからなぁ…彼女なら見破ってそうなんだけど、これが見破れないと、優勝さらわれちゃうかもね)
そうして再び手役に目を戻す虞レ。
その隣の陸凱、朱績が何をしているかをほぼ九割がた、見破っている様子だ。
(世洪め、やってるれるわ本当に…それに公緒、コイツも懲りないわね。義封先輩なら見破られた戦法なんて二度三度と使ってこないわよ)
おそらくその技は、先ほどと同じくガンパイであることは九割九部、間違いないようだ。ただ、先ほどとはその目印が違うらしい。
更に言えば、目印をつけた牌もそう多くなかろう。
だが、同じ技を使っている以上、決めてかかればタネを見破るくらい陸凱にとっては朝飯前だった。
そして、目当ての牌を引き入れ、わずかに笑みを浮かべた。
(見てろコノヤロウ…この陸敬風の本気、思い知れ!)
朱績の優位がひっくり返されるのは、その一巡後のことであった。彼女は陸凱がすり替えた牌を握らされ、ドラをたっぷり抱え込んだ倍満手を喰らい、一気に最下位に引きずり落とされるのだった。

波乱に満ちた最終戦、そのクライマックスを彩ったのは意外にも陸胤だった。
「えと…待ってくださいね……わ、すご〜い」
「え?」
パタパタと倒れた手牌。
「あがっちゃってます〜、しかも字の牌ばっかり〜」
「…………………!!」
天和、大三元、字一色。当然ながらこの組み合わせなら四暗刻もつく。親の四倍役満、十九万二千点…いや、割れ目ルールがあるから更に六万四千点加わって、その得点は計二十五万六千点也。
はっきり言って平打ちなら有り得ない展開だ。
呆気に取られて言葉を失う陸凱。しかし一瞬後、彼女はなんとなくだがその理由に気がついた。
このとき皆が牌を引いたのは、陸凱の積んだ山からだったのだ。陸凱はオーラスに最後の望みをかけ、盲牌で探り当てた字牌を自分のところにかき集めていたのだ。それが巧い具合に、彼女の対面に座っていた双子の妹のところに集まってしまった…。
(てとなにか、原因は…………あたし?)
隣では朱績と虞レが酸欠の金魚よろしく口をパクパクさせている。
呂拠、丁奉、丁固の三人も思わず目が点。
ただ一人陸抗だけが「すごーい」とかいって素直に喜んでいた。

この一発をもって、豫州地下学食のバイキングタダ券を賭けた少女たちの仁義なき戦いが幕を閉じた。
下位卓は呂拠が無難に勝ちを収めたが…陸凱と虞レのふたりを飛ばし、有り得ないほどのサシウマが加算された陸胤が総合優勝を掻っ攫うという、誰もが予期していなかった結果に終わったという。

706 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:19
その決戦の翌々日、件の豫州地下食堂には特徴的な緑髪の少女たちの一団がいた。
「じゃあ結局、敬宗がタダ券持ってったわけ?」
その顛末を聞き終えて、口火を切ったアップのヘアスタイルは、既に長湖部を引退して久しい陸績。
「え〜そうですよ〜。あたしと世洪が仲良く下からワンツーっておまけつきで」
ふてくされた様子でテーブルにへばっている跳ね髪は陸凱。
「それは災難ねぇ。でもあなた達の場合は因果応報ってトコだわ」
痛烈な台詞を吐くショートボブは陸遜。
「何でよ」
「どうせまたあざとい手使ってたんでしょ、あなたも虞レさんも」
「え〜使いましたともさ。だってヨチカのタダ券欲しかったんだも〜んだ」
更なる陸遜の追い討ちに、むくれてそっぽを向く陸凱。
そのとき、何か違和感を感じたらしい陸績。
「じゃああなた、負けたんなら余計に此処、いれないんじゃないの?」
「それは異な事を仰るな公(きみ)姉。なら前金制の此処に負け組のあたしや幼節その他がいてたまるか」
「そういえば…」
集まった面子はその夜の参加者八名を含んでいる。単なる打ち上げというなら、裏から景品を廻した陸遜はともかく、不参加の同級生や長湖部員でない陸績が呼ばれるのもおかしな話だった。
「コレはみんな敬宗のおごり。ついでに言えば、あたしたちは賭け金も鐚一銭払ってませんよ」
更なる証言に顔を見合わせる陸遜と陸績。
「勝負は勝負で面白かったからお金賭けるのナシ、とか言い出したんだよアイツ。ダントツの大勝がそんなこと言い出したもんだから他も何もいえなかったってオチだよ」
「はぁ…なるほど」
「あの娘らしいわね」
そこまで聞いて、二人も納得したようだった。
「しかも今日でタダ券もばら撒くつもりみたいだよ。みんなで食べたほうがおいしいです〜とか言って。こんな結果になるなら、一昨日のあれはなんだったんだか」
呆れた様な表情で息つく陸凱。
それを挟んで両サイドの陸績と陸遜が、
「いいじゃないの、楽しんだんだから」
「さしずめ“真夏の夜の夢”ならぬ“真冬の夜の夢”かしら」
「あ、巧いこと言うわね…差し詰めタダ券を廻してあげた私は、夢の運び手ってところかしらね」
そんなことを言った。そんな族姉ふたりの隣で陸凱は「勝手に言ってろ」とふてくされたように呟いた。
三人の振り向いた先には、わいわい言いながら色とりどりの食材を取って回る少女たち。
その中心では、
「それでも敬宗ちゃん凄かったよ〜」
「えへへ…まぐれですよ〜」
その状況を作り出した張本人が、はにかんだ顔で笑っていた。
(終わり)


裏「長湖・新春の攻防戦」、そのとき丁奉たちは何をしていたかを書いてみました。
最近になって気づいたことですが、海月が旭祭りに持ち込んだSSには丁奉がいなかったのですよ。
まさかヤツも人知れず暴れていた、というのも寂しい気がしたので…

密かに後期長湖部主要メンバーが勢ぞろいなSSであります。
実におばかな話で恐縮ですが(^^A

707 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 18:31
>筆に馴染んだ
こりゃまたありがたいお言葉で、いやはや。
今度はここらへん連中を建業あたりに遊びにいかせてみようかとか考えてます。

>義理
いや、私も毋丘倹はハチャメチャに義理堅い人だと思いますよ?
曹か司馬か、ってのはここらへんの世代の魏将だと常に考えさせられる問題でしょうからねぇ。

>んで麻雀かよッ!?(三村風
久しぶりに打ちたくなりました(笑
私も今、ちょっと別のことで麻雀を文章にする機会があったんですけど難しいんですよねぇ、文章だけで牌を書くの、って。
麻雀をよく知ってるの人に文章見せたら『わかりづらい』って言われてがっくりです。
とりあえずこういう日常が私ももっと書きたいですね、せっかくの女子高ですし(笑

708 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 21:13
>麻雀ネタ
確かに、文章で表現するのはかなり難しいですね。私は書いた当人だから、どんなシーンになってるか解らなかったら問題ありますけど(^^A

で、本題ですが間違い数点。
>>703
第一段落 ×子幹→○子賤(実は最初、丁固じゃなくて鐘離牧がいたのです(^^A
>>704
第二段落 一箇所だけ陸胤になっている箇所がありますが、丁固の誤りです。

以上。よく見てから投稿しない海月のせっかち加減に乾杯_| ̄|○

709 名前:★教授:2005/07/03(日) 22:47
◆◆ 大切なおくりもの ◆◆

「公祐…何してんの?」
 簡雍の第一声はこの言葉だった。
 色彩感に溢れる毛糸玉達が小会議室のあちこちに所狭しと我が物顔に転がり、思わず足の踏み場に困る簡雍。更にそれを修飾するかのように型の崩れた雑巾みたいな物体が折り重なって倒れている。公祐こと、孫乾はその中心に正座して入り口に背を向けていた。
 何かに集中しているのか簡雍の問い掛けに気付いた風もなく、黙々と上半身を揺らしている。
(あののんびり娘がこんなに集中出来る事があるなんて……)
 簡雍はある種の異様な空間に思わず固唾を飲んでしまう。悪戯をしたいとは不思議と思わず、ただその後姿を見ているしかなかった――


――3時間後

「出来た…」
「ほぇ?」
 今まで黙々と作業を続けていた孫乾が小さく呟くと、障害物を横に避けて寝そべりながら海苔煎餅を齧っていた簡雍も変な声を出してしまった。
 と、慌てた様子で孫乾が振り返り青いような赤いような驚愕の表情を簡雍に見せる。きょとんとそれを見ていた簡雍は『やぁ』と片手を挙げてそれに応えた。
 それには不可思議な表情をしていた孫乾の顔がはっきりと赤くなった。そして目尻に涙が溜まっていくのが簡雍にも視認出来た。
「い、いたのなら声くらいかけてくださいー!」
「声掛けても返事しなかったじゃん………ってか、泣くなよ」
「だ、だってだって…恥ずかしいですぅ…」
「あーっ! 泣かないの! 私が悪かった!」
 ぽろぽろと涙を零して泣き出した孫乾に白旗を挙げて降参する簡雍。宥めるのにこれまた時間が掛かって今度は簡雍も泣きたくなってしまった。


――1時間後

「で、何してたわけ? 周りが見えなくなる程の事だから余程って感じがするけど」
 簡雍は両手を出して毛糸を巻きつかせながら孫乾に尋ねる。
「えーと…マフラー作ってました…」
「まふらぁ? アンタ、まさか…おと…」
「違います違います違います!」
 物凄い勢いで否定されて、一歩退く簡雍。孫乾は一息置くと先ほどまで格闘していたマフラーを広げる。
「私から…頑張ってるあの人に心を篭めたおくりものなんです。私にはこれくらいしかできませんから…」
 所々がほつれたり形が崩れたりしている手製のマフラー、お世辞にも上手とは云えない出来栄えだ。しかし、空気を読めない簡雍ではない。
「いいじゃん、それ。高価なマフラーを贈るよりも下手でも手で編んだ方が美しいってね。贈られるヤツは三国一の幸せ者よ」
 にかっと白い歯を見せて笑う簡雍に照れ笑いを浮かべる孫乾。
 外はもうじき桜が満開になる季節、時期外れの贈り物は誰に贈られるのか。簡雍はそれには一切触れなかった。ただ、分かっている事が一つだけある。それは――

「頑張り屋さんからの贈り物は同じく頑張ってる人に贈られるんだろうね」

 そして、孫乾もまた贈る人にこんなメッセージも添えていた――

「復帰おめでとう! これからも頑張ってくださいね、風邪なんかに負けちゃダメだよ」


――30分後

「おーい…何とかしてよ…」
「あれ…こんなはずじゃ…」
 毛糸でぐるぐる巻きにされて揉みくちゃにされた簡雍とそれを助けようとして一緒に絡まってる孫乾が小会議室に転がっていた。
 この後、偶然通りかかった李恢に助けられ事無きを得たようです。

710 名前:北畠蒼陽:2005/07/04(月) 01:57
>教授様
あ〜、ぐっこ様へ向けてのメッセージってのはこうやって発信するんかー!(目からうろこが5、6枚
大変勉強になりました(笑

>雑号将軍様
カキコに気がつかなくて申し訳ないです^^;
高句麗討伐については正史を読む限りは100%毋丘倹の功績ですねー。
ただ句麗王、位宮が率いた兵力が20000ってのは一国としては明らかに少ないのも事実。
これがなにを意味するのか、ってのは私も不勉強でわかってないんですけどね^^;
でも20000の兵を10000で打ち破る、ってのはほんとありえない功績ですよ。

711 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:11
 ■卒業演奏 Part1■
卒業式・・・ただの通過儀礼だと考える人も、どうでもいいと考える人もいます。でも私はそうは思えないのです。私にはどうしてもやりたいことがあったから・・・・・・。

 そんな卒業式の一ヶ月前。私は洛陽棟の体育館に行きました。中央には大きく重厚なグランドピアノ。そして体育館を埋め尽くさんとする学園の生徒たち。そんななか、私はなにをするのか?それは・・・・・・。
「エントリーナンバー一四、劉協さん。演奏を始めて下さい」
 体育館にアナウンスが響き渡る。
そう私の名前は劉協。一年くらい前までは「献サマ」と呼ばれていました。これでも蒼天会会長をしていたんですよ。でも、その位は別の方に差しあ
げることにしました。
 それから私はある目標のためだけに頑張ってきました。その目標を叶えるために今ここに立っています。
 私は来て下さった生徒の方々に一礼し、椅子に座ります。そして、両手をグランドピアノにのせ、動かしました。
 そう今日は卒業式のピアノ伴奏者選考会なのです。私はどうしても自分の卒業式で合唱のピアノ伴奏をしたかったのです。理由は簡単です。ただ、いつまでも、ピアノが弾いていたかったから・・・・・・。
 
劉協の奏でる音色は本当に美しかった。しかし、どこか悲しげであった。「哀愁に満ちた旋律」とでもいえばいいのだろうか。そんな劉協の旋律は
それを聴いていた生徒たちの心を震わせていた。
そうして、劉協の演奏は終焉を迎えた。もう勝負は誰の目から見ても明らかだった。割れんばかりに響き渡る拍手が劉協の実力を照明していた・・・・・・。

「ふうー」
 自分のやれる限りのことはやった。素直にそう思えます。心地よい達成感。それともこれは私の自己満足に過ぎないのでしょうか。・・・・・・やめましょう。  
それを決めるのは私ではないのですから。
私は最初と同じように、来て下さった生徒の皆様方に深々と感謝の意を込めて頭を下げました。
そうすると、皆さんはもう一度大きな拍手を私に送ってくれました。本当にうれしくて、少しだけですが、私の目から涙がこぼれました。

その日の放課後。私は結果を聞くために控え室で待っていました。不思議と負ける気はしませんでした。
なぜなのかはわかりません。でも、そんな気がしたのです。
「劉協さん。おめでとう。あなたが卒業式のピアノ伴奏者に選ばれたわ。しっかり頑張ってちょうだい」
「は、はいっ!」
 私は満面の笑顔でそれに答えた。自分で言うのもなんだが、ここまで笑ったのはいつ以来だろう。もしかしたら、生まれて初めてかもしれないと思えるほどでした。
 それと同時になにか足りない。そう一つ欠けたパズルのような、何とも言えない空虚感に囚われていました。
 しかし、その気持ちはすぐに解決することになります。
「あの子がいれば、周瑜さんがいたら、どうなっていたかわからなかったわね・・・・・・」
 先生が、私から目をそらして、呟くように言いました。
 私には「周瑜さん」がどなたかは知りませんでした。でも、知っているような気がしたのです。だから私は訊いてみることにしました。
 先生は悲しそうに答えます。
「えーと、あなたとの一年先輩だったんだけど、事故があってね。今年、卒業できることになったの。黒髪で・・・腰くらいまであったかしら。ビックリするくらいピアノが上手かったのよ。でも、卒業する単位を取るだけで精一杯だったの。だからピアノを弾いてる時間がなかったのね・・・・・・」
 私のある記憶にいる少女とその「周瑜さん」が一致しました。
いつだったでしょうか。あるとき、一人のミカン売りの少女がやってきました。彼女は私の部屋にあったピアノを弾きたいと言いました。
 私は断る理由もないので、許可しました。そうして、私は横にあった椅子に腰掛けて、席を譲りました。
 彼女は席に座るなり、ピアノの鍵盤に指をのせ、弾き始めました。その音色はもう言葉では言い表せないほどにすばらしく、人の心を震わせる力がありました。
彼女の演奏は、私の到底及ぶところではありませんでした。
 
 それ以来、私はその少女を目標にピアノを頑張ってきましたの。無意識のうちにその少女・・・周瑜さんに勝ちたいと思っていたのかも知れません。
この場所で・・・・・・。
それが叶わなかったこと、それが私の身体の中に空洞を創り出していたのでしょう。
「・・・・・・協さん?劉協さん?」
 考え込んでいて、意識が別の方にいってしまっていたようです。気がつくと先生が心配そうな顔でこっちを見ておられました。
「す、すみません。それでは、私、練習してきます。周瑜さんの分まで頑張らないといけませんから」
 その気持ちにウソはありませんでした。せめて、私がどれだけ成長したのか、見せつけてやりたいのです。私だってここまで出来るんだって。
 私って、もしかすると負けず嫌いかも知れませんね。

 それから一ヶ月の間私は、練習に練習を重ねました。
周瑜さんが訊いて満足してもらえるような、一緒に卒業するみんなが納得してもらえるような、なにより、自分が納得できる演奏にするために・・・・・・。

712 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:20
 ■卒業演奏 Part2■
 ついに卒業式がやってきました。
 私は朝の光をいっぱい受けながら、大きく深呼吸をします。
「三年間、ありがとう。最後だけど、今日もよろしくね」
 そう語りかけて、制服に袖を通しました。最後だと思うとなんだか悲しい気持ちになります。
 それでも、私は新しい世界が待っています。そこへ進むためには私は前に進まなければなりません。だから私は自室を後にすることにしました。

 洛陽棟第一体育館。もうたくさんの生徒でごった返していました。そこには私が知っている方々の姿がちらほら。
 そんなことを考えながら、私は自分の教室に向かおうとしました。そのとき、ほんの一瞬でしたが、懐かしい人の姿が見えました。
「あ、あれは孟徳さん!?」
 私が振り返ったとき、もうその姿はありませんでした。
曹操 孟徳・・・・・・私がこの学園で最も信頼していた先輩。中には彼女のことを悪く言う人もいたけれど、私は思います。あの人以上に学園の統一を望んでいる人はいない・・・と。

 教室では担任の董仲舒先生が号泣していました。まだ卒業式も始まっていないのに。
 そんな先生は私たちに卒業式の諸注意をすませると、体育館へと移動することを、促しました。
 廊下に並んだ私たちは下級生から胸に付ける花を受け取り、体育館へと歩いていきました。

「卒業生入場」
 司会の先生合図で私たちは会場へと向かいます。ここまでくると、やっぱり緊張するものです。私は何度も深呼吸をして、自分を落ち着かせようとしましたが、むしろ逆効果でした。
 席に着いてから私は気が気じゃありませんでした。
 失敗しちゃいけない・・・・・・。そんなプレッシャーが私の身体の中を満たしているみたいな気がします。
 でも、私は負けるわけにはいきません。選考会で私と一緒に競い合った人たち、私に投票して下さった皆さんの想いを受けて、私はこの場に立つことができているのですから・・・・・・。

「卒業生全員合唱」
 ついにこのときがきた。私はすっと席から立ち上がり、グランドピアノのある方へと向かいます。
 こつこつと、革靴の乾いた音が体育館に響きます。それほどまでに体育館は静まりかえっていたのです。
 席に着き、私は気持ちを指先に集めます。これは私がピアノを弾くときに必ずします。こうした方がピアノに気持ちが乗りやすいような気がして。
 指揮者が私の方を向き、指揮棒を振り始めました。それに合わせて私も鍵盤に指を滑らせるようにして、ピアノを弾き始めました。
  ♪僕らの前にはドアがある いろんなドアがいつもある 
  ♪ドアを大きく開け放そう 広い世界へ出て行こう
 これは「広い世界」という名前の歌です。小等部の卒業式で歌った歌で、もう一度、歌ってみたくて、皆さんにお願いしてこの歌にしていただきました。
 私はそこまでしてくださった皆さんに応えるために、必死に、全力で、自分の最高の演奏を目指しました。
 周りではみんなが泣き声になりながらも歌っています。泣いていたのはみんなだけではありませんでした。私も、三年間を振り返ると、自然と涙が溢れて、止まってくれません。
 それでも、私は持てうる力のすべて、なにより想いをピアノに載せて、ピアノを弾き続けました。
  ♪雨に打たれ 風に吹かれ
  ♪手と手をつなぎ 心をつなぎ
  ♪歌おう 歌おう 歌いながら
 もう、この曲も終わりに近づいてきました。この歌が終わってしまうと、もうみんなは別々の道へと旅立ってしまう。
 そう思うと、一度は止まりかけた涙が、もう一度、堰を切ったようにまた溢れてきました。もうこの想いは止められませんでした。
私はせめてこの想いをこの会場にいる皆さんに伝えるために、より一層、気持ちを前面に押し出し、ピアノと心を一つに、そして、最高の音色を響かせようと努力しました。

歌は終わりました。
すると、会場にいた皆さんが本当に、本当に、会場が揺れるんじゃないかというほどの拍手を私たちに向けて送って下さいました。
下級生、招待席に座っていた誰もが、涙を流してくれていました。
これが、多少なりとも自分の演奏のおかげだと思うと、今度はうれし泣きをしてしまいました。今日は泣いてばっかりです。
みんなに会場に来ているみんなと想いを共有することができるから、ピアノはやめられないのだなあと私は改めて思いました。
 そして、私はそんな自分の気持ちがピアノで伝えられる。そんなピアニストになりたいです!それが私の夢・・・・・・。


卒業式は終わった。荷物をまとめ、懐かしい中等部時代の友だちと昔話を弾ませた後、私は体育館に舞い戻ってきていた。
体育館の舞台に上がった私は、その横に置かれている、漆黒でとても大きな友だちに触れました。
「二年間、ありがとう。あなたと一緒にいられて楽しかったです」
 窓の隙間から差し込んでくる光は私の友だち・・・グランドピアノを鮮やかに輝かせます。その姿が笑いかけてくれているように見えました。
「最後にもう一曲だけ、一緒に・・・・・・ね」
 私はそう言ってゆっくりとその頭を撫でてあげた後、椅子に腰を下ろし、このピアノとの最後の演奏をしようと鍵盤に手を添えたとき・・・・・・。
「伯和ちゃん!最後の演奏にあたしを呼んでくれないってのはどういうことなのっ!」
「ほんま、ほんま。伯和はん、つれないやないですか〜」
 二人の少女の声が私の耳に響き渡ったのです。
この声の主を私は知っていました。私を「伯和」と呼んでくれる人なんて、あの二人しかいませんから・・・・・・。
「孟徳さん!玄徳さん!」
私はその名前を大きな声で呼びました。
「伯和ちゃん卒業おめでとっ!あたし感動して泣いちゃったんだから!」
 そう言って、孟徳さん・・・曹操は私の方にパタパタと走って来ます。
その後ろを追うようにして、玄徳さん・・・劉備が私の方へと来てくれました。
「邪魔かも知れませんけど、伯和はんの高校生活最後の演奏、うちらも参加させてもらいますわ。うちもギターくらいは弾けますし!」
 玄徳さんはそう言って、不敵な笑みを浮かべていました。この笑顔にはなにか人を惹きつける力があるような気がします。
「いいんですか?じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
 私はうれしさ半分、恥ずかしさ半分でそう言うと、二人は笑い、そして頷いてくれました。

713 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:27
 ■卒業演奏 Part3■
しかし、不意の客人はこの二人だけではなかったのです。私が、二人と談笑しているまさにそのとき。
私がもっとも会いたかった人が来てくれました。
本当に綺麗にまっすぐと腰まで伸びる黒髪。痩せてしまっていたけれど私は一目見て彼女が周瑜さんだとわかりました。
「ちょっと伯符、自分で歩けるからっ!」
「なに言ってるんだ。さっきも倒れそうになったくせにっ!」
周瑜さんは伯符という少女に抱きかかえられて、私の方まで来ると降ろしてもらい、恭しくひざまずくと、その美しい声で私に声をかけました。
やっぱり病気のせいか、どことなく顔が強ばっているような気がします。
「今日はお疲れ様でした。実は私、献サマにお詫びしなければならないことがございます」
「や、やめて下さい。私はもう「献サマ」じゃないんですから。劉協というただのピアノが好きな女の子です」
 私の言葉に周瑜さんは最初、驚かれていましたが、微笑すると、近くにあった椅子に腰を下ろしました。
 私は周瑜さんが落ち着かれたのを見て、話を進めました。
「ミカン売りの少女は自分だった・・・ですよね。音楽の先生が教えて下さいました。周瑜さんのピアノは本当にお上手で、私なんかは到底及びませんでした。今日はどうでした?ちょっとは周瑜さんに追いつけましたか?」
 私は訊いてみることにしました。訊くのが怖くないと言えばウソになります。でも、私は、どうしても訊いておきたかったのです。
私が前へ進むために・・・・・・。
 周瑜さんはしばらく黙り込んでいました。
やっぱりまだまだだったのでしょうか。私がそんな悲観的になり顔を打つ目受けて考え込んでいると、ついに周瑜さんがその口を開いて私の質問に答えてくれました。
「・・・・・・私の負けです。もう献・・・劉協さんのピアニストの実力は私の全盛期のものを遙かにしのぐほどに成長しています。だから、もっと自分に自信を持って下さい。貴女には私なんかとは比べものにならないほどの素養を持っておられるのですから・・・・・・。今日の演奏が何よりの証拠です」
 私はうれしかった。本当にうれしかった。自分が目標、いや、憧れとしていた人から誉めてもらえるなって思ってもいませんでした。
 私はちょっぴり泣いてしまいました。私はそれを隠すように手で拭うと一つ提案しました。
「今から、孟徳さんと玄徳さんと一緒に演奏しようと思うんですけど、周瑜さんとそちらの方もどうですか?」
「あっ、紹介が遅れました。私の幼なじみで親友の孫策という者です。今日も彼女のおかげで卒業式に来ることができました」
 周瑜さんは慌てて横にいた少女・・・孫策を私に紹介します。
「私、孫策って言うんだ。よろしく。で、公瑾。どうするんだ?」
 孫策さんは私にからっとした笑顔で答えてくれました。
「でも、そろそろ帰らないと・・・・・・」
「公瑾〜。そんなにしたそうな顔で『帰らないと』とか言われてもなあ。やってたらどうだ?自分の後悔がないようにさ」
 孫策さんの言葉に周瑜さんはうれしそうに頷いていました。二人は通じ合っているみたいです。私もそんな友だちがほしいです。
「やれやれ。蒼天学園の元トップどもが、がん首揃えて演奏することになるなるとわねっ!」
「まったくや。関さんや益徳にも見せたかったわぁ」
「普通は見られないスペシャルステージってとこだ」
 孟徳さん、玄徳さん、孫策さんの三人が代わる代わるそう言いながら、笑っています。私もそれにつられて声を上げて笑ってしまいました。

 しばらく、みなさんと蒼天学園での出来事のお話をしていました。楽しかったこと、つらかったことなど、いろいろなことを聞きました。
やっぱり箱に開けられたちっぽけな窓から見える世界だけでは、すべてを見ることはできなかったんですね。
「じゃあそろそろ、やろっか」
 話しが一段落したところで孟徳さんが切り出しました。それに皆さんも素直に答えます。
 玄徳さんはギター、孫策さんがドラム、孟徳さんは指揮者を務めることになりました。
「ピアノは劉協さん、弾いてもらえますか?」
 私は思わず息をのみました。周瑜さんが私に、ピアノを弾いて欲しいと言って下さったのですから・・・・・・。
「よ、よろこんでっ!じ、じゃあ、周瑜さんはシンガーをお願いできますか?」
 私の混乱する言語中枢は必死に言葉をたぐり寄せ、周瑜さんの問いかけに答えることができました。
「わかりました・・・・・・。それで、歌う歌は?」
「これしかないじゃないっ!この歌がなかったらあたし今頃こんな生活してなかっただろうし」
周瑜さんが物腰鷹揚にそう尋ねると、横で鞄の中を探っていた孟徳さんは四人分の楽譜を取りだして手渡します。
どうやら孟徳さんはここに来る前からこうなることを予測していたみたいです。
「こ、これは・・・・・・」
 その楽譜は古びて、セピア色になっていていました。端の方はもうぼろぼろです。それでも私はこの曲を弾いていたときのことを昨日のことのように、本当に鮮明に覚えています。
「じゃ、いくよっ!」
 そう言うと、孟徳さんは腕をゆっくりとなだらかに振り始めました。私もゆっくりと鍵盤の上を滑らせます。
 それに続いて、玄徳さんのギター、孫策さんのドラムが音を奏でます。そして・・・・・・周瑜さんの美声が波が海岸に広がっていくかのように、体育館全体を流れていきました。
 この日は私は生まれてから一番楽しい日だと思います。
 


ひとりごと・・・・・・
「卒業演奏」これでお終いです。なんとか短くしようと頑張ったのですが、無理でした・・・・・・。
 誰か書きたいなあって掲示板をさまよっていると、雪月華様の「学園正史 劉氏蒼天会紀 孝献蒼天会長紀」を見つけまして・・・・・・。さらにある一部分にひどく萌えてしまって、こんなことに。申し訳ありません。雪月華様。一度ならず二度までも面汚しをしてしまいまして・・・・・・。
 後、どうでもいいことなんですが、あの「広い世界」は自分が小学校の卒業式で歌った歌で、僕が音楽の授業で歌ってきた歌の中で一番好きな歌です。
 でも歌詞がちゃんと覚えて無くて・・・・・・。
 もう感想は躊躇無く批判して頂けるとありがたいです。
 読んで頂き本当にありがとうございました。

714 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:34
玉川様、教授様、アサハル様、はじめまして!梅雨入りで蒸し暑いこの季節になぜか卒業ネタを書いた雑号将軍です。
常連の皆様が次々と復活されて・・・・・・。ほんとに楽しみですっ!なんの役にも立たないですが、よろしくお願いします。
も、申し訳ないのですが、皆様の作品は修学旅行から帰ってきてから、ゆっくりと読みたいと思います。
自分勝手で申し訳ありません。

715 名前:北畠蒼陽:2005/07/04(月) 23:39
>雑号将軍様
献サマの卒業式ですか。いいですねぇ、しみじみ。
時期モノなだけに今の季節ってのが残念デス^^;

>修学旅行
あっ!? あっ!?
なんか降りてきた! 降りてきましたよ!(DM

716 名前:雑号将軍:2005/07/09(土) 12:13
>海月様
なんかもう、かなりのマイナ・・・・・・失礼、後期の武将が多かったですな。とくに陸姉妹と半分寝てる丁奉!いいですなあ。

>教授様
あらためてご挨拶を。はじめまして。教授様がいない間に学三に巣くっていた雑号将軍というヤローです。
さすがは教授様!孫乾って主役になったの初めてじゃないですか?もうまさに「ぽややんネゴシエーター」ですな!

717 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:14
「旅行の夜といえば枕投げ、でしょお?」
毋丘倹がどアップで言い切った。
顔があまりにも近かったのでみんな離れながら頷いた。


枕の杜に見る夢

※誰が戦死したかメモをとりながら読むとわかりやすいかもしれません。


中華学園都市も当然、学園であるからには学校行事というものが存在する。
ただやはりいまだに生徒会も学園統一を成し遂げていない以上、各校区1つ1つがばらばらに旅行をするというのは……学園都市においてすべての課外活動が単位となる、と定義づけられている以上……敵対勢力につけこまれるもとになりかねない。
かといってすべての校区がまとまって旅行に行く、というのもコストがかかりすぎる。
折衷案として提出されたのが現行の『何方面かに校区を分割し、まとまって旅行に』というものだった。

今、ここに対長湖部において名を馳せた少女たちが集っていた!
全員浴衣で!

「……でね? そのとき後ろを振り返ると人形が血まみれで廊下にぽつーん、と落ちていたの」
「あ、あぁうぅぅぅぅ」
王昶はマイペースに昜を怪談で泣かしていた。
昜半泣き。怖いのなら聞かなければいいのに。
「はい、そこ。いいから話を聞け」
毋丘倹がツッコむ。
「……ん〜、でも……テレビが……」
旅館備え付けのテレビに100円を入れようとしながら王基が呟く。
「あとにしろ。あーとーにー」
毋丘倹がツッコむ。
「ねぇ? それより温泉入りにいかない?」
うきうきしながら諸葛誕が言った。ちなみに10分前まで温泉に入っていた。まだ入るのか。
「さっきも入ってただろ、お前!」
毋丘倹がツッコむ。
忙しいやつだ、毋丘倹。
「それってさ、『ホンキ』でやっちゃっていい、ってことだよね?」
令孤愚の言葉に毋丘倹は笑いながら頷いた。
「戦術の粋を集めた枕投げ。おもしろそうじゃない?」

ルール。
枕が当たったものは戦死扱いとする。
2チームに別れ相手チームを全滅させたほうの勝ち。
枕さえ使えばあとは自由。
フィールドは旅館の敷地すべて。
単純明快なルールである。

「んじゃグーとパーでチームわけー」
「10人かぁ……5人ずつに別れる、って結構珍しいんじゃない?」
「……別に同戦力で開始しなくてもいいじゃない」
「うわ、なんかすごい意見が出た。じゃあ1対9もありってこと?」
「いじめじゃない、それ」
「ちょ……もしかして今、チョキ出したら……死?」
「死だねぇ、それは」
「第3勢力誕生かよ!」
「あんまり勢力が拮抗しそうにないよね、それ」
「じゃあいくよー」
『グーとパー!』

ちょうど5人ずつにわけられた。

718 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:15
便宜上、Aチーム、Bチームとわけられるそのメンバーは……
「よおお待ちどう」
「……それ、別のAチーム」
そのメンバーは……っ!

Aチーム。
世代無双! 毋丘倹。
現生徒会において、図抜けた統率力を有し、次代のリーダーシップを期待される戦乙女。
どもりの国のプリンセス! 昜。
地理の成績だけ天才的。ただしいまだ開花しないものの統率の才能は先輩である万能の怪物、郭淮のお墨付きである。
静かなる威風! 胡遵。
文武の才をあわせ持ち、西方の大実力者、張既によって召し出された俊才。
心にいつもひとかけらの邪心! 令孤愚。
四天王の北、田豫を校則で取り締まったために蒼天会長の叱られ、そのときの言葉をそのまま名前にしたある意味、剛毅な少女。
冷徹な智将! 王基。
生徒会執行本部本部長の王凌に見出され、その信頼ぶりは中央執行部からの王基召集命令を無視するほどのものであった。まさに文武両道の申し子である。

Bチーム。
小さな駿馬! 州泰。
一般生徒から1日にして棟長に上り詰めた奇才。その才能はからかいの言葉を投げかけた鍾ヨウすらを喜ばせるものであった。
勇武英略! 王昶。
毋丘倹がナチュラルに戦うことを得意とするのならば彼女はすべての意図を戦闘に乗せることを得意とする。その瞳は常に悪いことを考えている。
戦一文字! 文欽。
まさに剽悍。反乱者、魏フウと仲がよかったために一時失脚するものの、その才能で返り咲き、またその協調性のなさでたびたび弾劾されたが蒼天会長に庇われる才人。
義士! 諸葛誕。
蒼天会長、明サマには疎んじられたものの、その言葉は夏侯玄、トウヨウらとともに生徒の人気を集めた。諸葛瑾、諸葛亮の従妹にあたる。
楽進の風格! 楽チン。
果断剛毅。楽進の実の妹であり『そっくり』といわれるほどの風格の持ち主。姉に似て、背は高くないもののその胆力は戦場を脅かす。

「Bち……B……! くっ! ボケられないっ!」
「……無理にボケなくていいから」
戦いのはじまり、である。

旅館の通路に2つのチームが対峙する、両手には枕。ハートには野獣。いや、野獣かどうかは微妙だが。
「んじゃコインが落ちた瞬間、戦闘開始ねー」
王昶がにやにや笑いながら左手でコインをつまんでみせる。
コイントスする人間は最初から左手に枕を持つことができない、というハンデはあるものの戦闘開始タイミングをある程度左右することができる、というメリットも存在する。
どちらが有利に左右するかはともかく王昶がなにかを考えていることだけは敵として対峙していなくてもよくわかる。
「んじゃ開始ー」
王昶は左手を高く上げゆっくりとコインを放り投げ……

719 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:15
Aチームの面々がコインの軌跡を追う。

王昶は高々と上げた左手をいきなり振り下ろした。

Aチームメンバーは唖然とし、次の瞬間、王昶の考えを理解する。
王昶はこう言った。『コインが落ちた瞬間、戦闘開始』……別にコインを放り投げたあともう一度、コインに触れない、とは一言も言っていない。
Aチームメンバーが理解したときには加速度をつけた左手とともにコインが旅館廊下に叩きつけられ……

「おぶわッ!?」
諸葛誕が横殴りの一撃を受けて吹っ飛んだ。
「ふふ……ってなんで諸葛誕ーッ!?」
王昶が勝ち誇った笑みと同時に絶叫する。なかなか器用である。
ちなみに諸葛誕はBチームだ。
諸葛誕に枕を投げつけたのは文欽だった。
ちなみに文欽もBチームだ。
「おぉっと、あまりにも偽善者くさいから間違えちった。なに? オウンゴールってやつ?」
そんなに嫌いか、諸葛誕のことが。
Aチームメンバーが呆然として事の成り行きを見守る。
頭を抱える王昶。気持ちはよくわかる。
そして悪びれない文欽。
「あ……あんたってやつは……」
側頭部に強烈な一撃をくらいながら、諸葛誕は唖然と文欽を見上げる。
「うるさい。戦死者に発言権はない」
Aチームもどう動いていいのかわからなさそうに顔を見合わせ……

王基がしゃがんで頭上を高速で吹っ飛んでいく枕を回避し、令孤愚は枕をモロに顔面で受ける羽目になった。
「ちぃ、当てるつもりだったのに!」
「こっちは撃墜マーク1個、まぁまぁね」
地団太を踏んで悔しがる楽チンとガッツポーズの州泰。
さすがに諸葛誕戦死は予想外であったものの、その混乱に付け込むことができずただ呆然とする敵に対し、立て直し、即反撃するところはさすが生徒会の一流ドコロといえた。

しかし当然、Aチームも生徒会の猛者である。

武器である枕を手に全員が散会した。

州泰は旅館通路をひた走っていた。
ルールはよく覚えている。
枕が当たったものは戦死扱いとする。
逆を言えば極論、銃で撃たれても戦死にはなりえない。
ではその枕はこの世に無限に存在するのか?
否、である。
フィールドが旅館のみに限定される以上、当然のように枕の数も有限である。
武器がなくなればジリ貧になることは間違いない。
であればまずは武器の確保にいそしむべきであろう。
どこから武器を徴収する?
いくらなんでもまったく知らない客が泊まっている部屋に入っていって枕を要求するわけにもいかない。
当然、同じ修学旅行という空間である以上、同じ旅館に泊まっている学校の人間に要求することになるが……
「え、えっと……そ、そこまでです」
後頭部に枕がぽすん、と当たる感覚に州泰は天井を見上げた。

720 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:16
「どもー! 実況の令孤愚です! 昜選手、素晴らしい動きです!」
令孤愚がマイクを握り、興奮したようにしゃべりまくる。
「枕を確保しようとした州泰選手の進路を読みきった上で先行し、隠れてやり過ごした上で後ろからの攻撃! これには州泰選手、どうしようもありません! 今の昜選手のプレイをどう見られますか、解説の諸葛誕さん」
「文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね」
解説どころか会話になっていなかった。

楽チンの目の前には毋丘倹が立っていた。
楽チンの背を冷たい汗が伝う。それはそうだ、毋丘倹と勝負するには楽チンには圧倒的に経験が足りない。
しかしそれでも姉譲りの胆力は健在であった。
「ここであんたを討ち取れるなんてね」
よし、声も震えていない。
楽チンは自分をほめてやりたくなった。
ぎゅっと枕を握り締める。
毋丘倹はその楽チンの両の手に目をやってから楽チンの目を正面から見据える。
「楽チン……」
両手に1つずつの枕を持ち、毋丘倹は流れるように動いた。
無造作に左手の枕が楽チンの眼前に投げ出される。
その枕は緩慢な動きで……
「こんなので私の動きを止めるつもりかぁ!」
楽チンが左手で簡単に枕をキャッチしたそのとき……
毋丘倹の右手の枕によって楽チンは足を払われ、尻餅をついた。
「……あんたが私を討ち取るなんて無理があるんじゃない?」

「毋丘倹選手、貫禄の勝利です。先に投じた枕で楽チン選手の視界を奪った上で、しゃがみながらの足払い! これには楽チン選手、対応できません」
「文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね」
令孤愚が恨みがましい目で諸葛誕を見た。

「さて……どこに隠れてんのかな?」
にやにやと笑いながら文欽が歩く。
実のところ敵の位置は大体わかっていた。
毋丘倹はさすがに気配を消す術にも長けているものの楽チンとの無用な勝負によって位置をさらけ出してしまった。
「まぁ、まずは昜、かな」
自分が昜ならどうするか考える。
さすがの文欽でも昜の地理把握能力には感服せざるを得ない。
昜はすでにこの旅館の1部屋1部屋に至るまで自分の空間として自在に移動することができるだろう。
ならば……
考えろ、文欽。
自分がそんな能力を持っていたとしたら、『文欽』という人間をいつ、どこで襲うか……
文欽の唇が笑みの形に持ち上がった。
いつ襲うか?
そんなの決まっている。
「今だろうがぁッ!」
文欽はいきなり後ろを振り返り、枕を投げつけた。
後ろからそ〜っと近寄っていた昜はその一撃を顔面に受け昏倒した。

「えっと……文欽選手、お見事です」
「……ッ!?」
令孤愚がすごい目をした諸葛誕に睨まれた。

721 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:16
「あんまりいたずらが過ぎるんじゃないかな、文欽」
ついに毋丘倹が文欽の前に立つ。
「そうでもないよ。みんな準備運動にも付き合ってくれないんだもん……毋丘倹だったら準備運動くらいにはなるかな?」
そのあまりにも大胆な発言に毋丘倹は苦笑する。
「ご期待に沿えるかはわかんないけど努力してみるわ」
そういいながら両の足を大きく広げ、両手に持った枕をやや後ろに構える。
投擲する気か?
しかも両方?
文欽の心に迷いが生まれる。
投擲は確かに遠距離の相手に対して有効だ。
しかし避けやすい、という欠点もある。
……だったら避けて攻撃、だね。
にやり、と笑い文欽は毋丘倹の攻撃を誘うように大きく構えを取る。
一瞬、緊迫した時間が流れ……
毋丘倹が両手の枕を文欽の足元を狙うように投げつけてきた。
……なるほど、こういうことか。
文欽は感心する。
枕はほぼ横に並び、横に避けるというのは難しそうだ。
普通に避けようとしただけでは足を枕がかすっていくことだろう。
だが……!
「横がダメなら縦で……ッ!」
ジャンプして避ければなんの問題もない。
ましてや毋丘倹はすでに両手の枕を使い切り、武器がない状態だ。
取れる……ッ!
口元を哄笑するように歪めながら、しかし枕を投擲せずにより確実に止めを刺すために握り締める。
そのとたん毋丘倹はばっ、と廊下に伏せた。
文欽はジャンプしながら唖然とする。
両足を大きく広げ構えていた毋丘倹の向こう側には……
「……いくら文欽でもジャンプしてるときに軌道を変えるのは難しいんじゃない?」
冷静な王基の超遠距離狙撃が宙を舞う文欽の胸に吸い込まれた。

「おっと王基選手、頭脳プレ……」
「うわはははははははははははははははははっ! 文欽ざまあみろー!」
解説しようとした令孤愚の頭を押さえつけ、諸葛誕が涙すら流しながら爆笑した。
「あー、気分いい! 気分いいから温泉いってくるー」
諸葛誕は鼻歌を口ずさみながら上機嫌でタオルを持って立ち上がる。
「いや、また入るのかよ!」
聞いてない。
諸葛誕はスキップでもしそうな足取りで立ち去り……
「えっと……?」
マイクを持ったまま令孤愚は途方に暮れた。
昜がなぜか期待するような視線を令孤愚に送ってくる。
「あんた、どもるからダメ」
令孤愚の言葉に昜はショックを受けたように黙り込んだ、半泣きで。

722 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:17
……残りは文舒。
……だがこれは難敵だ。
毋丘倹と別れ、王基は廊下を走る。
どこにいるか想像もつかないがどこにいたとしてもおかしくない。
王基は長い付き合いの親友に思いを馳せる。
……文舒なら絶対にありとあらゆる策略を駆使して自分を葬り去ろうとすることだろう。
王基は考えながら走り……
前方から旅館の仲居さんが歩いてきた。
ぶつかるのもアレなので王基は走るスピードを少しだけ落とそうと……
「……ッ!?」
バランスを崩しながらも仲居さんが投じる枕を避けた。
「……なるほど。そうきたか」
「ま、着替えちゃダメ、ってルールもなかったしね」
仲居さんから着物を借りたのであろう、にやにやと王昶が笑う。
……まずいな。
心の中で王基が思う。
さっき枕を無理に避けたから、あまりにも体勢が悪すぎる。だが姿勢を直そうとする隙を見逃してくれるほど甘い相手ではない。
王昶はふ、と唇の端だけで笑いながら枕を持つ右手を下ろし、なにも持たない左手を上げる。
「……?」
いぶかしそうな表情の王基にくいくいと手首だけで挑発。
「待っててあげるから体勢立て直しなさい」
……なにを考えているのかわからない。
……でも彼女がなにを考えてるか想像して泥沼にはまるよりはマシか。
王基はゆっくりと体勢を立て直し、構えを取る。
「……礼はいわないからね」
「言ってほしくもない」
対峙する2人。
「……でもそんな優しい文舒に選択肢をあげる。Bチームはあとあなた1人だけ。降参するなら枕をぶつけないでおいてあげるけど?」
「わぁ、嬉しい。断ったらどうなるのかな?」
お互いに会話を楽しむ風を装いながら相手の隙を探そうとする。
「……そうね。断った場合は……何世紀も変わらない措置を繰り返すことになるわ」
「やれやれ……肉体労働は苦手なんだけどなぁ」
王昶は苦笑しながら背を丸め……左足を少し前に出し、手をだらんと下げた構えをとる。
右手にはしっかりと枕が握られ……
……なるほど。王昶はホンキってわけだ。
……恐らくあの体制から一瞬で間合いを詰めながら振りかぶった枕で攻撃してくるつもりなのだろう。
王基には王昶の攻撃までの動きがありありと脳裏に浮かんで見えた。
……だったら王昶が動いた瞬間、機先を制して枕を投擲する。
王基の心は決まり……そしてお互いが相手の動きを待つ……
ふ、と王昶の目が驚いたように見開かれ、伸び上がって左手を振った。
王基の後ろにいる『誰か』に合図するように。
……誰!?
王基の集中力が一瞬削がれ……
それが致命傷になった。
気づいたとき、王昶の顔がほんの目の前にあり……
「もうBチームは私1人だー、ってさっき言ってたじゃん」
優しくすら聞こえる言葉と同時に王昶は右手の枕をぽん、と王基の肩に当てた。

723 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:17
ぱちぱちぱちぱち……
場違いなほどに緊迫した空間に拍手が響く。
「王昶、すごいなぁ。王基を一蹴かぁ」
ずっとその決戦の行方を見ていたのだろう、毋丘倹が柱の影から顔を出す。
「一蹴ってほどでもないさ。今日はたまたま私に軍配が上がっただけ」
毋丘倹がいたことに驚くことすらなく興味もなさそうにため息すらまじえながら王昶がいう。
「私はどう料理してくれるのか、楽しみになってきちゃうな」
「我に策なし。困ったなぁ」
嬉しそうに微笑みながら構えを取る毋丘倹に王昶はにやにやと笑いながら再び猫背になる。
一触即発。
緊迫感だけがどんどんと高まっていく。
現生徒会最強を決めるにふさわしい勝負が……

王昶の後頭部に枕がぶつかった。

……あっけなく終わった。
王昶だけでなく対峙する毋丘倹も不思議そうな顔をする。
「私がいるってこと、忘れてもらっちゃ困るわね」
……胡遵。
「あ、いたっけ。すっかり忘れてた」
「あー、地味すぎだよぉ」
王昶だけでなく毋丘倹からも忘れられていた。
「え……忘れていた、って冗談、よね?」
胡遵の言葉に2人はそろって首を横に振る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! ひどいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
胡遵は泣きながら走り去った。
あまりといえばあまりな仕打ちである。

「えぐ……えぐ……」
戦い終わってみんなで温泉に浸かっていた。
大浴場だから結構広い。
「胡遵泣かないで。大丈夫だから」
州泰が慰めているがなにが大丈夫なのだろうか。
文欽と諸葛誕は目すらあわせようとしない。目があったら血の雨が降る、多分。
楽チンはお湯に顔を半分浸からせてぶくぶくさせて遊んでいる。結構満足そうだ。
毋丘倹は文欽と諸葛誕のフォローに入ろうかどうか迷っているようだ。気苦労が耐えない性格である。
令孤愚は昜をからかって遊んでいるようだ。確かにからかいがいはあると思う。
「……文舒、ぼーっとしてどうしたの?」
同級生たちをただ見ていた王昶に王基が声をかける。
「いや……変なやつらだなぁ、と思ってね」
「……朱に交われば赤くなる、ってやつね。文舒も十分に変だってことを自覚したほうがいいと思う」
王基の身も蓋もないセリフに王昶は苦笑を浮かべながら手ぬぐいを頭の上に乗せた。

724 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:18
まったく関係ないけど七夕会話。
王昶「あぁ!? 織姫と彦星!? 勝手にデートしてるがいいさ、ファミレスの天の川支店で!」
王基「……ロイホじゃないと思う。多分、ガスト」
諸葛誕「お前ら、うるさいよ!」

というわけで修学旅行です。
私の出身学校では2年で修学旅行だったんでそんな感じです。
枕投げとか雪合戦ってのはいくらでもホンキになれるんだなぁ、とか思いました。

>雑号将軍様
前にちょいと話題になった高句麗の件なんですが魏書の東夷伝にモロ答えが書いてありました。

高句麗は遼東郡の東1000里くらいのとこにあって、南は朝鮮・ワイ貊と、東は沃ソと、北は夫余と国境を接してるんだって。丸都山のふもとに首都があって、その領域は2000里ぽっち、戸数は30000。

戸数が30000ほどだったら人口は15万人強ってとこでしょうね。

いや、兵力20000を動員、ってすげぇがんばったよ、位宮サン。
ただがんばりすぎて余力がまったくない状態です。民衆も不満ありありな状態だろうからそれ以上無理ができないし。

725 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 01:21
>卒業演奏
おお…ついにこのシーンがSSになろうとは…。
これは私にも何か火がつきましたですよ?
むしろ何かいじるとしたら海月は周瑜&献サマ&曹丕&長湖部一味だな…(←何コレ?

>枕投げ戦争
(・∀・)イイ!
これ本当に笑えますよ!てか諸葛誕がナニかいい味だしまくってますよ!?
そしてどもりで令狐愚に一蹴される昜に、最期まで目立たず泣きながら走り去る地味っ娘胡遵!
てかもうすべてのシーンが明確に浮かんできてますよー!?(;;゚Д゚)

いや、GJですよ本当。
欲を言えば、折角話題に出たんだから「特○野郎●チーム」みたいなナレーションがあれば尚…。



海月も大ネタを執筆中。
その前に荀揩ナ何か、書いときたいなぁ。あと献サマ卒業式の裏ネタとか。
書きたいもの多すぎるよ何とかして・゚・(ノД`)・゚・

726 名前:雑号将軍:2005/07/10(日) 11:11
>北畠蒼陽様
お見事っ!これが修学旅行ですよね!!暴れ回った後、ゆっくりとみんなで大浴場or温泉に入る。…うちの修学旅行はユニットバスでしたけど。
いやあ、もう諸葛誕と文欽の仲の悪さ炸裂ってかんじですな!昜の喋り方、いいですねえ〜。

>高句麗の件
あ、ありがとうございまする。よくわかりました。なるほど〜それ以上徴兵したらもう住民蜂起でうちから滅んじゃいますね。
それでも毋丘倹は頑張ったんでしょうなあ。なにせ倍の兵力と対峙し打ち破ったんですから。

海月様も新作の制作に着手されたとのこと、僕も頑張って完成させないとっ。

727 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:10
僭越ながら・・・。
>枕投げ
楽チンが可愛いよ!!これぞ烏丸の求めていた楽チンちゃんですウボアー。
修学旅行の夜ってわくわくしますよね。
今のところ、五将軍妹者たちの小説はあるのですが・・・。そうだよなほかのキャラのも書かなきゃだよなウボアー
ハイ、ちゃんとUPしてからいいます。こういうことは_| ̄|○

728 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:13
五将軍+1の妹たち、の朝。



 まず見えたのは少女の左足。外気にさらされて寒いのか、すぐ足を引っ込める。そこに。
 「張雄!起きろ!!今日は日直だろう!」
 張雄と呼ばれた少女は、寝ぼけ混じりに、布団を引き上げた。
 「于圭、うるさい・・・。」
 「うるさいじゃなーい!おりゃ!」
 于圭と呼ばれた少女は、無理やり掛け布団を引っぺがし、自分のベッドへ押しやった。張雄は今度は敷布団をかけようとする。
 「起きろっつってんの!」
 肩関節を軽くひねり、あとの足やら腕やらを捕らえると、軽く引っ張る。そうして、今日も今日とて大音量の悲鳴が響くのであった。
 「きゃああああああああ!!」



 起きた二人は、徐蓋と李禎の部屋へ向かった。于圭が立ち止まる。
 「どうかしたの?于圭。」
 張雄が尋ねると、于圭は顔をしかめた。
 「どうもこうもない。またあれが妙なものを作っていたら、今度こそ無事ではすまなくなるからな。」
 于圭のいいように、張雄は首をすくめた。ありえないとでもいうように。
 「いくらなんでも、李禎が居るところで作ったりはしないでしょ。徐蓋はそんなに常識はずれじゃないと思うな・・・。」
 「私もそう思う。いや、そうであって欲しい。だが、あれは徐晃先輩と張遼先輩(じぶんのあねとそのゆうじん)の前で"マックスコーヒー"なるものを煮詰めていたからな。あれは煮詰めてはいけないだろう?だから、私はそんなに楽観的にはなれない。」
 于圭が苦笑しながら張雄に説明すると、急に扉が開いた。見ると、噂の徐蓋である。
 「于圭、あなたは私をなんだと思ってるの?」
 呆れながら出てくる。後ろには李禎も居た。張雄が驚く。
 「へえ、徐蓋起きてたんだ。」
 「あの音量を隣で聞いてたら、誰だって起きるわよ。」
 あの音量とは、言うまでも無く張雄の悲鳴の音量である。李禎がさわやかに言った。
 「おはよう、于圭ちゃん、張雄ちゃん。張雄ちゃん、今日はよろしくね。」
 「ああ、よろしく。」
 そういっているところに、二つの人影が近づく。真っ先に気付いた李禎が挨拶した。
 「あ、張虎ちゃん、楽チンちゃん!おはよう!」
 「おはよー!今日もいい天気だね李禎!うけーたちおはよー!今日も凄かったねぇ、張雄の悲鳴。」
 「おはよ。」
 頭を抱えながら張虎は挨拶をする。徐蓋が尋ねた。
 「どうしたの張虎。またいつもの?」
 「うん。気にしないで・・・。」
 いつものとは、立ち眩みのことだ。この少女は頻繁にある。まあ、成長している、ということだろう。楽チンが言った。
 「それより、早く食堂行こう。お腹減ったー!」
 その意見で、四人は食堂へ行くこととなった。

729 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:15


 流石に、朝も早いこの時間、食堂には人がいなかった。四人は、自分の分のトレーを受け取ると、いつもの席へ向かった。
 それぞれに食べ始めると、二人の女性が近づいてきた。
 「あ、張遼先輩、李典先輩。」
 真っ先に気付いた于圭が言った。それは、犬猿の仲とも呼べる組み合わせだった。そんな二人が食堂で食べるとは、珍しい。
 「おはよう、皆。」
 「おはよう。」
 先輩が挨拶したからには、こちらも挨拶し返さないといけない。
 「「「「「「おはようございます!」」」」」」
 そして、二人は席に着いた。張遼は張虎の隣。李典は李禎の隣。真反対の方向であった。二人の先輩は気にしないで食べ始める。
 やがて、李典がお代わりすると言い出した。飯櫃に一番近いのは張遼である。張遼が厭味たらしく言った。
 「あらー、李典さんお代わりするの?運動しないのに?そ ん な だ か ら最近横っ腹が出てきてるんじゃありませーん?」
 李典も負けじと言い返す。
 「あらー、じゃあ張遼さんはお代わりしないの?そ ん な だ か ら試合中集中力が途切れたりするんじゃありませーん?」
 二人の視線は、冷たい氷のように寒い空気を生み出した。それに気付いた徐蓋が言った。
 「李典先輩、私がくみます!」
 徐蓋の伸ばした手に、李典のお茶碗が乗っかると、張遼は『フンッ』とでも言うようにそっぽを向いた。それに胃を痛くしたのは李禎である。
 「どうして二人とも、仲良くできないかなぁ・・・。」



 学校へつくと、張雄と李禎とは分かれた。二人は日直なのだ。階段を上りながら、楽チンはのんきに言った。
 「今日も仲悪かったねぇ、張遼先輩と李典先輩。」
 「そうだねぇ。卒業しても、お姉さまと李典先輩の仲はよくならないと思うな。」
 受け答えをする張虎も、のんきなことだ。于圭は呆れた。
 「張虎、お前には自分の姉たちを仲良くさせようとする気は無いのか。李禎はあんなに胃を痛めてるというのに・・・。」
 「だって、無駄でしょ?」
 悪びれず答える。こんなのを説得するほうが時間の無駄である。そんなこんなで、教室に着いた。
 「ねえ于圭、今日の数学の宿題やった?見せてー!」
 教室に着くなりそんなことを言っている楽チンに、于圭は特大の怒鳴り声を浴びせた。
 「そんなん自分でやれぇーーー!!」
 
 

730 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:19
 ごめんなさい、張虎の設定も好き勝手っぽいっすこれじゃ・・・。
 それより、徐蓋のブラックな設定も活かせなかった・・・それよりキャラが大爆発してるのは于圭ですね。レッツ、突っ込み役。。。

731 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 20:50
>烏丸 沙宮様
うけータンかわいいよ。うけータン。
ちなみに多分、王昶&王基世代と五覇妹ズ(ごはいもず)は世代的にタメと思われるので私も小説に使いやすかったり! なんだ結局は自分がかわいいのか!あぁ、そうさ!(ナニ?


でも実際になにをやったか、ってエピソードが残ってるのは楽チンの『しょかつたんにころされちゃった。てへv』だけなんだよなぁ……
エピソードなくて使いづらいなぁ。
うけータン、もっとがんばらなぁあかんよ?

732 名前:雑号将軍:2005/07/10(日) 21:06
>烏丸 沙宮様
おお!ついに学三もここまで来ましたか!!たぶん、どこの三国志小説サイトさがしても、魏の五将軍の息子(妹)が登場するのはここしかないでしょう!
お疲れですっ!お見事です!僕も于圭いいと思いましたよ〜。彼女らのキャラ絵が楽しみです!
僕も五虎将軍の娘たちやってみようかな。
そう言えば、呉でもし五将軍がいたとしたら誰だったんでしょうね。

733 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:09
>五覇妹ズ
とうとう来やがったかッッ!!(;;゚Д゚)
てかマックスコー○ーを煮詰めたらヤバいですよ、マック○コーヒーは。
海月も大学の旅行で出会ってトラウマになった飲みモノですし…(((((;;゚Д゚)))))

>呉の五将軍
そういえばそんなの考えたこともないぜコンチクショウ_| ̄|○
呉で五人…孫堅、程普、韓当、黄蓋、祖茂ですか?とか本気で言いそう。
その頃にはまだ組織としての「孫呉」という概念もなかったはずだし…。

呉書第十から適当に誰か見つくろってみます?

734 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:11
「独立政権を作るべきではない」
隣に腰掛けた、赤い髪の小柄な少女がそう呟く。
「董昭たちが何考えてるのかなんて知らないけどさ、文若が考えていることなら良く解ってるつもりだよ…でもね」
私が彼女と行動を共にするようになってから、既に二年の月日が流れていた。
乱れた学園を自らの手で立て直すと言って、ただがむしゃらに駆け抜けてきた少女と共に、何時か自分も彼女と同じ夢を見ているような、そんな気がしていた。
「“魏の君”の名前なんて、あたしにとっては“奸雄”の呼び名となんら変わることもないんだ」
「…ええ」
そう言った瞳も、彼女の心も、私が知る彼女のまま、変わることはなかった。

何時から、それが食い違っているように思えるようになったのだろう?
董昭が発議した、魏地区独立政権樹立運動の頃からだろうか?
彼女が、実績や品行を問題とせず、広く人材を募ると言う「求賢令」の発令を求めた時だったろうか?
それとも…彼女が孔融先輩を不敬罪で処断した時から?

もしかしたら、もう私が彼女と出会ったそのときから、それはあったのかもしれない。
私が勝手に作り上げた「彼女のイメージ」と、現実に目の前にいる「彼女本人」の違い、というものが。


-輪舞終焉-


私は部屋の中、彼女が寄越してくれたと言う箱を眺めていた。
何処にでもある、ケーキを入れるような真っ白な紙の箱。
中身は何も入ってなくて、何か書いてあるのかと思って分解してみても、文字どころか何の汚れも見当たらない。

中身のない、純白の空箱。
もしかしたらコレは、それ自体が彼女のメッセージなのかもしれない…そう思い至るのに時間はかからなかった。
その意味しているものに思い至った時、私はそれに気づいてしまった自分自身を呪わずにいられなかった。

「自分からはもう取るべきものは何もない」
すなわち、もはや「曹操」にとって、「荀撻が無用の存在である…そう示唆しているようにしか思えなかったからだ。

私の瞳から、堰を切ったように涙が溢れた。

735 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:12
そのあと、どのくらいの間、そうしていたのか解らない。
何時の間にかあたりはすっかり暗くなっていて、その夜闇の中、目の前に鎮座している白い紙箱が、妙に目立って見えた。
たんに瞬きもせずに目をあけていたせいのか…それとも、既に涙も涸れ果ててしまったのか…乾ききった私の瞳には、その白さがただ、痛かった。

私はそれを燃やしてしまおう、と思った。
この中に彼女との想い出も詰め込んで、一緒に焼いてしまえばいい…楽しかったことも、辛かったことも…そうすれば、楽になれるような気がした。

私はマッチと、火が周りに燃え移らないように大き目の皿を取り出し、その上に紙箱を置いた。
おもむろにマッチを一本取り出すと、ふと、脳裏にひとつの考えが浮かんだ。
「もし…このまま私が死ぬのなら…神様は幻でも見せてくれるのかしらね…?」
誰に言うともなく、そう呟く。
昔読んだ童話では、少女は寒空の中、売れ残ったマッチの火の中に、楽しかった思い出の日々の幻を見ていた。
だったら、すぐに消えてしまうマッチの火ではなく、この紙箱を燃やしたら、何が見えるのだろう?
捨て去ろうとした想い出が、走馬灯のように流れていくのだろうか?
自分がまだ、こんなことに思いを馳せるくらいの心の余裕があったことに、私は苦笑した。
そして…マッチに火をつけ、紙箱の中に投じた。

燃え盛る火の中に、やはり幻は見えない。
ましてや、私が彼女と過ごしてきた日々の想い出も、心の中に色褪せず残ったまま。
そんなことは解りきっていたことだ。この行為に何か意義があるかどうかなんて、期待はしていない。
だったら、私は何を求めていると言うのだろう?

彼女との想い出を、総てなくすことなのだろうか?
それとも、またあの頃みたいに、一緒にいたいというのか?

「…解らないよ…」
私は頭を抱えた。
切なくて、苦しくて…気が狂いそうなほど、何かを求めているのに、その「何か」が見えてこない。
私は、この火に何を求めようとしたのだろう?
いや、この白い箱の中に、何が入っていることを望んでいたのだろう?
心に渦巻く奔流が、その堰を破って噴出そうとした時。

「荀揩ヘ、荀揩ナあればいいんだよ」

はっきり聞こえたその声に、私はその声の方向へ振り向いた。
何時の間に開け放たれたのか…さして明るくもない廊下の非常灯が、嫌に明るく見えて私は目を細めた。
そこにいた人影が、一瞬彼女に見えた気がしたが…
「…公達」
いたのは、穏かな笑みを返す、同い年の姪っ子だった。
「伯母様、その箱の中には…何が見えました?」
その声の中に、求めて止まなかった幻はもう、消えうせていた。

736 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:13
それから、その火が燃え尽きるまで、ふたりでただそれを眺めていた。
相変わらず目に映るのは、炎の柔らかな緋の色と、その中で黒く小さく変わっていく、白かった紙箱の慣れの果て。
私には、まるでそれが今の…いや、これまでの自分のように思えていた。
緋の炎は彼女。
私はその中で、その炎が消えないようにしてきたんだと、そう思えてきた。
だったら…その「白い箱」が私自身であったと言うのなら…
「…なぁんだ」
私はきっと、とんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
きっとこの白い箱には、最初私が思い込んだ意図など、何処にもなかった…。
「答え、見つかりました?」
「ええ…荀揩ヘ荀揩ナしかない、って、こう言うことだったのね」
私の心の靄は、もうすっかり晴れて…その向こうにあった私なりの「答え」を、ようやく見つけることが出来た。



合肥棟の屋上で、眼下の戦場を眺める少女ふたり。
眼下の喧騒に比べ、曹操と夏候惇がいるその場所だけが、まるでそこだけ別の世界のように静かだった。
「文若さんたち…引退、するんだってな」
「うん。でも…いいんだ」
背後に立つ従姉妹に振り向くこともなく、寂しげな笑顔を空に向けながら、曹操は呟いた。
「あたしの気持ち、ちゃんと解ってもらえたと思うから」
「そうか」
少女は、かつて自分を影ながら支えてくれた少女が身に付けていたストールを翻す。
(今まで…ありがとう。たまには、学園から出て一緒に遊びに行こうね)
今まで影ながら支えてくれた少女に、彼女はしばしの別れを告げた。
その瞳から流れる涙は、風が払ってくれた。

737 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:22
重苦しい話でごめんなさい_| ̄|○
「蒼天航路」29巻と「静かなる夜のまぼろし」見てたらこんな話が書きたくなっただけなんです…。

二宮の変もそろそろやりたいんですが…構想がまとまらないので先にもうひとつの大ネタにとっかかります。
孫皓関係の話なので、多分めちゃめちゃ重苦しい話になるでしょう。

738 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 23:13
>海月 亮様
おぉっと、荀令君! こりゃまたお見事っす。
呉ネタだけでなく魏ネタもかいちゃうとこ、見習わなきゃいけませんねぇ。
でも私が呉……呉かぁ。
……ネタが浮かばないなぁ。

んー、あの大軍師の最期はいろんな人がいろんなこといってますけど私は大澤教官の『真実の三国志』第8章で書かれたのが一番近いんじゃないかな、と思いますがいかがなもんでしょうか?

まぁ、人の数だけ物語がある、ってことでこれはこれでGJなのですよ〜。

739 名前:★玉川雄一:2005/07/11(月) 02:33
>>732-733
http://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=sangoku&key=1035648903&ls=50

ちなみに魏だとこういうのもある
http://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=sangoku&key=1035648462&ls=50

まあ、千葉県民の漏れにとっちゃマクースコーヒーなんざ湯水のごとくあびるよオにいけるがな(´ー`)y-~~~



……ゴメンナサイイッポンデカンベンシテクダサイ_| ̄|●

アタシも二宮の変書きたい…けどそれ以前のネタで行き詰まってるし('A`)

740 名前:雑号将軍:2005/07/11(月) 23:20
>海月様
お見事っ!呉だけでなく魏の話しまで書かれるとは…。感服つかまつりましてござりまする。
荀掾cなんか曹操の軍師ってみんな最期が切ないですよね。荀揩ゥあ。僕も今度は魏の武将書いてみようかなあ。

>玉川様
ありがとうございます!さっそく覗かせて頂きました。なるほど。やっぱりこういう談義あったんですね。
僕もみなさんとだいたい一緒で、甘寧、朱然、朱桓、徐盛、太史慈だと考えています。時代がバラバラですが…。

741 名前:海月 亮:2005/07/16(土) 11:51
荀令君のあとまったくネタも浮かばない私が来ましたよ(^^

>北畠様
てか王表の6話までをキボンヌ。とか言ったらダメですかね?
私めはそろそろ蜀でも誰か書きたい気もしますが…。

>雑号将軍様
魏将は書く人間に事欠きませんからねぇ。
まだまだ書いてみたいとかSSを見たいヤツはゴマンといますよ。

そういえば私、何時か書こうと思っていた陳泰&昜の話の草案、何処やったっけ…?(オイ

>呉の五将
こいつぁとても参考になりますねぇ…。
皆様それぞれでやはり大いに見解の割れるところなんですね。
周瑜、魯粛、呂蒙、陸遜はやはり別格としても朱然、朱桓、全N、呂岱、賀斉の名が挙がってきそうです。
徐盛も捨てがたいんですけどね。

甘寧は確かにゲリラ戦術に長けてはいると思うのですが…「五将」と言うカテゴリーにはまるかは個人的には疑問の残るところ、ですかね。
同様に、伝では諸侯扱いになった感のある太史慈は別格の存在だった気もします。


孫皓時代になると陸抗を別格に置いて、丁奉、施績、留平、鐘離牧、陸凱という実に海月好みのメンツしか挙げられないと言う罠。

742 名前:海月 亮:2005/07/16(土) 12:08
…と思ったけど、甘寧の件で早くも訂正。
考えてみれば甘寧は蜀攻略を献策したり、戦闘以外でも活躍していること思い出した…
甘寧も五将の候補に加えても問題ないですね。

743 名前:雑号将軍:2005/07/16(土) 13:28
同じく、何もネタが浮かびそうで浮かばない雑号将軍です。一応、絵描きBBSで談義した曹操の話を書こうと思ってはいるのですが。

>私めはそろそろ蜀でも誰か書きたい気もしますが…。
それなら羅憲と歩協の戦いとかどうですか?まあ、僕の希望ですが…。

>呉の五将
そうですよね。やっぱり四大都督は別格として・・・・・・朱然、朱桓は決定。後が、魏や蜀のメンツから比べると見劣りしてしまうんですよね。呉ファンの皆さんごめんなさい。
甘寧。そうかもしれませんね。趙雲もそうなってしまいそうですが。そうでしたね。太史慈はなんか別格の扱いを受けてました。手元に正史三国志がないもので…。本気で購入考えようかな。
孫皓時代は海月様とまったく同じですね。張悌はどうなんですかね?政治家なのか将軍なのかよくわかりません。

744 名前:海月 亮:2005/07/16(土) 17:48
>羅憲VS歩協
…が、頑張ってみます…。
でもそれなら何気に丁奉の出番があるかも。

>甘寧と張悌
いえいえ、甘寧は入れちゃっていいと思いますよ(^^A
最近思い入れ持ちすぎないよう過小評価しているきらいがあったものだから…

張悌は…たしかにかなり難しいところですよね。
あの時代になるともう、ひとかどの人物を呉で探すことが最早困難なような気がしますが…まぁ張悌ならあの時代では、呉将でも飛びぬけた存在ではあることは間違いない気がしますね。

745 名前:雑号将軍:2005/07/16(土) 21:57
>羅憲VS歩協
あ、あの、ただの独り言と思ってスルーしちゃってもかまいせんからっ!気を使わせてしまったようで…。

>呉の五将
なんか難しいですね。やっぱり呉で同時期に五人の将を集めるのは難しいのでしょうかね?

>張悌
そうですね。あの時代になるとホントに…。後は・・・・・・ごめんなさい、僕の知ってる限りでは見つかりません。
こう考えると呉が滅亡したのは自然だったのでしょうか?

746 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 10:40
「〜♪」
王昶がお気に入りの洋楽を口ずさんでいる。
王基がそれを胡散臭そうな顔で見た。
王昶はスカートの丈をヒザ下まで伸ばし、別に目に異常があるわけでもないのに右目にアイパッチをつけている。本人に聞いたら『ファッションだ』と言い張ることだろう、恐らく。
ちなみにアイパッチにディフォルメされ可愛くなったドクロのマークが描かれているところなんぞはもうどうツッコんでいいのかすらよくわからない。
だがそういう王基からして曹爽副官時代に着ていたボレロを身に着けているのはアナーキーっぷりを存分に発揮しており、いい感じといえるかどうかすら微妙なのだが。


東興の日


その日、長湖部の巨人、孫権が引退した。
これは蒼天会にとって混乱しているであろう長湖部を打ち倒す千載一遇のチャンスであった。
司馬師はこの機を逃さず諸葛誕と胡遵を東興に、王昶を南郡に、毋丘倹を武昌に進めさせた。
これは現蒼天会を代表する人材であり、まさに司馬師のこの一戦にかける意気込みが伝わるものであった。

「まさに無人の沃野を征くが如し♪」
王昶が本陣とする仮設テントの長机に腰掛けながらご機嫌に呟いた。
王基は微妙な表情をする。
確かに『無人の沃野』だ。人がいなさ過ぎる。
恐らく東興か武昌に全軍を集結させているのだろう。
そちらの戦線が敗れれば……あまり好ましい事態にならないことは確かだろう。
王昶が王基の表情に気づき苦笑する。
「わかってるって、私だってバカじゃない……まぁ、かった〜い校舎があるんだからそれを利用した防衛、ってのが正攻法。多分、敵が集結してるのは胡遵のとこだろうね」
「……うん。だったら今、惜しいものは時間」
「そぉそ♪ OGの孫ビン先輩は敵国に攻められた趙を助けるために敵国の本校舎に直接攻めかかったらしいけどね。つまり私らのなすべきことは……」
「……今だから建業棟を目指す。それがわかってるんだったら……」
すぱこーん。
王基が王昶の頭をスリッパで叩いた。
いい音がした。
「……テントなんか撤収してとっとと動く。一刻一秒の無駄は許せないわ」
「えぇい、伯輿だけが副官ならわざわざ意思確認なんて必要ないわい! 他にもひとがいるから意思疎通のための会議が必要なんでしょ!」
頭を庇うように腕を上げて王昶が王基に抗弁する。
……まぁ、それもそうか。
王昶の妹の王渾をはじめとして幕僚には恵まれている。だが恵まれてはいるものの意思疎通は重要だ。
「……じゃ、もういいでしょ。動く動く」
「ぇー、まだいいよー。胡遵も諸葛誕もバカじゃないんだから。まともに戦闘せずに時間稼ぎに徹してさえくれれば私と毋丘倹でなんとかするさ」
王基が拳を振り上げると王昶はカンフーポーズで対抗した。よくわからない。

伝令が息を切らして王昶のテントに飛び込んできたのはちょうどそんなときだった。

747 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 10:43
「あのバカッ!」
シニカルな笑みを浮かべるか、またはにこにこと笑うか……どちらにしても王昶にしては珍しいことに激情を顕わにして机を拳で打ちつけた。
王基も気に入らなさそうに鼻にしわを寄せている。
しかしそれを王渾をはじめとした幕僚たちも止めることはできない。
伝令の伝えたニュースはそれほどショッキングなものだった。

東興において諸葛誕と胡遵、敗北。

韓綜や桓嘉はトばされ、主将の諸葛誕と胡遵も身ひとつで逃げるという絵に描いたような大敗北であった。

王昶も王基もそのまま固まったように動かない。
幕僚たちも戸惑いを止めることはできない。なんといっても今、この場に2人以上の戦歴の持ち主はいないのだ。
実質、指示待ちではあるもののその肝心の2人ともが動かない状態であった。

たっぷり2分凍りついたように動かないでいた王昶がやがてぼそっと口を開く。
「撤収するよ」
「おね……主将! 私たちは無傷です! ぜんぜん戦える状況ですよ!」
抗弁する王渾に今度は王基が答える。
「……ここは長湖部領内ってことを忘れちゃいけないわ。これは一方面の敗北ってだけじゃない……『蒼天会のホンキ』の敗北よ……ただ」
王基がちら、と王昶を見る。
「……文舒、責任とろうなんて考えてないでしょうね?」
「軍隊を無傷で撤収させるんだ。せっかく高まってた士気もがた落ち……誰かが責任とらにゃあいかんだろ」
拳を机に打ちつけたまま王昶が答える。
王渾たちははっと息をのんだ。
それはそうだ。中央の人間の中にも今の自分のように『まだ戦える』と考える人間だっているだろう。
まだ戦えるにもかかわらず撤収などをすれば処罰……最悪、自主引退……
「玄沖、その場合はあんたが指揮権を握るんだよ。大丈夫、あんたまで責任が回らないようにはしてやる」
「おね……!」
なにかを言おうとする王渾に、王昶はやっと顔を上げ、笑顔を見せた。
「責任者ってのは文字通り責任を取るためにいるんだ。なにもおかしくはない」
「……ふ〜ん」
今にも泣きだしそうな顔の王渾。
しかし王基だけがさらに不満げな顔をする。
「……文舒、1人で責任取るなんてかっこつけたこと、許せないんだけど」
「あんたは残れ、って言いたいけどね。ま、そういう顔したときはなに言っても無理か」
王基は王昶の苦笑交じりの言葉ににっこりと笑った。
「……長い付き合いだからね。諦めなさい」

748 名前:雑号将軍:2005/07/17(日) 10:59
またまた来ましたな、王姉妹&王基!責任者は責任を取るためにいる…なんか前にもどこかで聞いたことがあるような…。
性格が悪い王昶もこの辺りは流石に名将と呼ばれることはありますね。格好いいですなあ。
僕も曹操ネタそろそろまとめないと・・・・・・。

749 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 11:06
以前、海月 亮様が書いてた東興の別視点ですね。

いや、これは私事なんですが前に入院してたうちの祖父が亡くなりましてちょっと里帰りなぞをしておりました。
純粋文人(になりたいなぁ、と思っている)北畠としてはへこんでいるときにしか書けない小説もあるはずだ、などと思ったわけですが……
ごめん、ただの支離滅裂ものだったorz
あ、ちなみに祖父はもともと医者から夏まで生きられない、といわれてたんで精神的なへこみはそれほどないのです。
むしろ今まで生きていてくれたことにむしろ7月までよく生きてくれたなぁ、とか思うわけです。
さすが若いころは満鉄の機関士だった男だぜ! 関係ないですけど!

生き死にとかに触れたあとでごく普通のテンションのものってのはちょいと書きづらかったですね、精進が足りませぬ。

>王表の6話まで
か、勘弁してください(吐血笑

>五呉将(『ごごしょう』は非常にゴロがいいです
黄蓋、韓当、程普、祖茂、凌操ってのはなしですかっ!?(笑

>呉滅亡についての所見
いや、実際のところ自分の個人的意見ですが『人1人の能力ってのはそれほどかわらない』ってものがありまして。
まぁ、確かに失敗者と成功者がいるわけですが『能力』としてはそれほどの違いはないと思うんですよ。
じゃあ呉末期に有名な人がいないのはなぜか。

呉は負けましたから!

実際、無能モノばっかりだから自分らが攻めていって住民を解放してあげた、という体裁をとらないと王朝としても都合が悪いでしょうしね。
えぇ、本当はいたと思いますよ、歴史が語る以上の『名将』は。

750 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 11:16
わおお、あとがき書いてる間に先行カキコされたー!(笑

>雑号将軍様
やっぱ性格悪いだけじゃ『いくさ人』じゃないですよ。
私の尊敬する隆慶一郎先生がその小説に書いてることを自分なりに考えたのですが……

徳川家康はタヌキ親父などといわれているが戦国時代を通して織田、徳川連合ほど強固で礼儀正しい同盟は存在しない。
だからこそ関が原においていくさ人たちは『このひとであれば自分が信用するに足りる』と徳川方についたのである。
家康はもちろん策略などは使うが武人としての『ルール』は守る。

もちろん『責任者だから責任を取る』ってのもルールだと思うわけですよ。
王昶は『武人としてのルールだけは守る策略家』……そういうふうに書いていきたいなぁ……

あ、ちなみにこのとき王昶&王基は罪に問われてません。
この一事だけを見ても司馬師ってすごいな、と思うわけです。

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