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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

824 名前:海月 亮:2005/10/31(月) 01:01
>虞翻伝
合ってますよ。
因みにちくまなら七冊目に収録の、呉書十二の筆頭です^^A

虞翻は他に張昭にも喧嘩売ってたり、宴会の席で酔った孫権に殺されかけたという逸話もあります。あとは正史を読んでみてのお楽しみ(w

825 名前:北畠蒼陽:2005/10/31(月) 14:58
あらま、久しぶりにきてみたらなんかSS投下されてますね。
私? 私は、えぇと……
みんなもうっかり入院とかしちゃだめだぞっ☆

orz

>SS
なんか最近まったくなにも書けてなくて、今もキータッチがおぼつかなくてかなりザンネンな雰囲気を醸し出しているわけですが……
で、SSの感想なんですが……いやぁー、萌えるねなごむね〜。
さすが雑号将軍様、ここらへんの書き方はうまいなぁ、と感心することしきりであります。

この作品を力にして今しばらくの闘病生活を乗り切ろうと思います。
復帰したら罵声を浴びせてくださいませ^^

明日からはまた病院なんでしばらくHPにもくることはできないわけですが、このSSスレが皆様の才能に彩られることを切に祈っています。

826 名前:北畠蒼陽:2005/10/31(月) 15:12
追記。
どうでもいい話なんですが10月29日が私の誕生日でして、このSS投下も10月29日ってことで、まぁ、誕生日プレゼントを頂いたと思っときます。ありがとうございましたー(笑

827 名前:雑号将軍:2005/10/31(月) 22:53
>北畠蒼陽様
に、入院でありますか!?大丈夫…じゃないから入院するですよね。愚問でした。このようなものでよろしければ、お誕生日プレゼントしてお持ち帰り下さい。おお!萌えて頂けましたか。ありがとうございます。個人的にもツンデレの勉強してきたのでパワーアップした皇甫嵩(ツンデレではないかもしれませんが…)をお見せしようと意気込んでおりましたので皆様に萌えて頂いて嬉しい限りです。
ただ、まだまだ、海月様や北畠蒼陽様のように情景描写が上手く書けていないのでその辺りはこれから勉強が必要です…。
闘病生活を乗り切られたら後、是非ともSSを!!楽しみに待っております!ではくれぐれもお大事に。

828 名前:海月 亮:2005/11/15(火) 22:27
>北畠蒼陽様
多くは語りませんぞ。
ただただ、一日も早く快癒し、再びこの地にて相まみえんことを切に願うのみです。

そして私もそろそろ何か書いてうぷしたい_| ̄|○(<しろよ

829 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:55
「はぁ?」
あたしの言葉の何処がおかしかったのか…目の前の少女は心底呆れたような顔をして見せた。
そしてたっぷり三分ほど顔を見合わせると「…はぁ〜」と特大の溜息をついて、視線を手元の本に戻す。
「やっぱどう転んでも公緒は公緒か。夾石棟の一件聞いたときはちったあ成長したかと思ったんだけどなぁ」
「ど〜ゆ〜意味だよっ!」
なんかすっごく馬鹿にされてる。
この緑の跳ね髪の少女…陸凱(敬風)はあたしの友達だけど、どういうわけかあたしに対しては辛辣すぎるきらいがある。
まるで蒼天会のあるひとを連想させるくらいに。

−巣立つ若鳥を謳う詩−

あたしの名は朱績、字は公緒。
かつてはこの長湖部でその人ありといわれた名将・朱然の妹として、その名を辱めないよう日々努力している…つもり。
だけどあたしが頑張ろうとすればするほど、かえって散々な結果になってばかり。しかも敵にも味方にも一癖も二癖もある人間ばかりで、どんどん気が滅入ってくる。
でも、この間の寿春攻略(あ、それは全体の結果としては失敗だったんだけど…)で、あたしはようやく"敵方の嫌なヤツ"に一目おいてもらえるようになったみたい(?)なんだけど…。
あたしはまだ、その"嫌なヤツ"こと、現蒼天会きっての名将・王昶を今度こそ打ち倒すべく、色々研究しているワケ。

夾石棟では結局、あたしは王昶先輩に勝ったわけじゃない。
あっちが勝手に決めて、勝手に引き下がっただけ。
相手の技…確か、杖術って言うらしいんだけど…の正体なんか掴むどころの騒ぎじゃない。だからあたしは、次に直接対決する機会のため、その技に詳しそうな人に話を聞きに着た、というわけ。
本当だったら承淵(丁奉)とか幼節(陸抗)とか、長湖部でも武道に通じた人に聴きたかったんだけど…承淵は最近色々ありすぎてそっとしておいてあげたかったし、幼節は幼節で余りそういうものに興味がなさそうだからやめた。
だから長湖部でもかなりのトリビア王である彼女…敬風に聞くことにしたんだけど…やっぱやめときゃよかったかも。


「…というかあんたは自分のやってる武道の流派も知らんのか。そんなことだから何時まで経っても"朱績ちゃん"呼ばわりされるんだ。相手のことをどうこういう前にちったぁ自分について勉強しろ」
敬風はあたしのほうに視線を戻してくる気配がない。完璧にあきれ返った様子。
けどあたしとしてはなんか納得行かない。知らないものは知らないんだし、わざわざ恥を忍んで教えてもらおうと、好物の珍味・鮭冬葉まで差し出したのにこの態度。当然ながらあたしもムキになりますとも。
「何でよぅ! あたし杖術なんて全ッ然知らないもんっ! そういう敬風だってホントは知らないんでしょ!?」
「…知ってるも何も、神道夢想流はおまえがやってる香取神道流の流れを汲む杖術の流派だ。いうなれば親戚のようなものだろ。神道流やってるなら知ってて当然の知識だと思うけどな」
知らない。ていうか断じて知らない。
というかあたしの通っているのは剣術道場であって、そんな聞いたこともない獲物を扱う道場じゃない。道場のパンフとかにもそんな説明なんて書いてなかったし。
「まぁ確かに杖術の知名度そのものはそんなにはないだろうが…一応、知り合いに神道夢想流の使い手がひとりいるはずだけど?」
「はい?」
あたしは思っても見ない言葉に絶句した。
鏡がないから解んないけど、きっとあたしはすごくマヌケな顔をしてる事だろう。
「先に言っておくが、あんたが目の仇にして止まない王昶先輩じゃないぞ。ちゃんと長湖部身内の人間だ」
そうして再び彼女は、視線を本からあたしに移し変えた。
そして敬風はあたしの献上した鮭冬葉を一切れ、口に放り込んでしばしその味を確かめていた。
「…それ、初耳だよ。だって承淵が柳生と北辰、幼節も柳生でしょ。あたしが香取神道流で…」
「不慮の事故で姿を消した世議は截拳道、同じく季文は少林寺の棍だな。棍と杖もまた勝手が違うものだが」
敬風はまるで当然のようにさらりといったが、世議(呂拠)と季文(朱異)はこの間、部内のごたごたに巻き込まれて退部してしまった仲間。あたしは二人のことを思うと…寂しくなるから、あまり口にしないことにもしていた。
当然ながら、ふたりがどんな武術に通じていたかとかなんてあたしもよく知ってる。
「ついでにあたしが何をやってるかは知ってるか?」
「諸嘗流でしょ。古武術の」
…ばかにするなコノヤロウ。
しつこいようだがあたしは身内だったら大体誰がどんな武術に通じているか知ってるつもり。防具があってもそれが意味を成さないといわれる諸嘗流の使い手は、少なくとも長湖部では敬風以外にはいないと思う。
だからこそ、杖術なんて知らなくても当然。身内に使ってる人間なんて…。
「…じゃあ、世洪は?」
「え?」
あたしは小首を傾げた。
世洪(虞レ)…なんかいまいちピンと来ない。あたしの記憶が確かなら…。
「確か世洪って運動神経キレてるはずだよ? だって逆上がりも出来ないし、マラソンだって何時もビリ…」
「あぁ、やっぱり知らなかったか。てことは知ってるのはあたしと承淵位じゃないかな…世洪は件の神道夢想流の使い手、いや、達人といってもいいな。アイツは部のごたごたに巻き込まれたくないから、わざとネコ被ってるんだよ」
「うっそ〜? あの世洪が?」
「そうだなぁ…今の部はだいぶ落ち着いてきたから、久しぶりにやってるかもしれないな」
あたしは未だに信じられず、美味しそうに鮭冬葉を味わうその顔を凝視した。
もしかしてあたしはまた馬鹿にされて、一杯食わされかかってるんじゃないかって身構えた。あたし、敬風には常日頃からかわれてわりと痛い目観てるしね。
「ウソだと思うなら、明日5時頃に起きて寮の中庭見てみな。運がよければ面白いものが見れるよ」
そう言って、敬風はまた一切れ、鮭冬葉を口に放り込んだ。

830 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:56
次の日の朝。
あたしはいつもより一時間半早い目覚ましに起こされ、晩秋の冷たい空気から逃れるように布団の中に…戻ろうとしたところでようやく、目覚ましを早くセットした理由を思い出した。
半信半疑というか、あたしはまったく信じていないし、はっきりいって騙されるのは癪だったけど…まぁウソならウソで、たまには朝から勉強してもいいかなと思ってとりあえず起きることにした。
…確か中庭を見てみろ、とかぬかしてたよね。
いいわよ、見てやろうじゃないの。どうせまだ街灯がついたままの、寒々とした石畳の景色が見えるだけなんだから。
そうして、あたしはカーテンを明け払った。寮の三階にあるあたしの部屋のその位置からなら、ちょうど中庭が見れるはずだったから。
そうして辺りを見回す。窓を閉めた状態では見える位置も多寡が知れているので、あたしは強烈な冷気が部屋に入るのを承知の上で窓まで明け払い、寒さを感じる前にベランダに飛び出し…そして見えたのは。
「…誰もいないじゃない」
まぁ予想していたとおり、あたしはまたしても彼女に一杯喰わされたわけだ。
結局彼女の言葉を少しでも信じようとした自分に腹が立つと同時に、一気に寒気が襲ってきてあわてて部屋の中へ戻ろうとした。
「あれ…?」
もしそのときそれに気がつかなければ、あたしは今日も敬風にいわでもなことをいって、散々馬鹿にされたのかもしれない。
振り向きかけたとき、寮の玄関に人影が見えた。
遠目でもはっきりわかる学校指定の青いジャージ、そしてその特徴的なプラチナブロンドの髪は…。
「…世洪?」
見間違えようがない。彼女みたいな目立つ容姿の娘はそういない。
それに自慢じゃないけど、ゲーマーでも本の虫でもないあたしの視力は両目とも1.5あるからはっきり解る。
みれば彼女、手には棒の様なものを携えている。
中庭に出てきた彼女はストレッチを始め、よく身体を解している様子。ストレッチを終えると、身体も温まってきたらしい彼女はジャージの上を脱ぎ、袖を腰のあたりにまき付け縛り付けている。そして、おもむろに手に持った得物を構える…次の瞬間。
「…やっ!」
凛とした、よく透る声の気合一閃、彼女の技が、放たれた。
踏み込んで突き。横薙ぎ。打ち下ろし。突き上げ。
時折織り交ざる掛け声で技はどんどん変化していく。総ての技がまるで流れる水のように、まったく無駄のない連なったひとつの動きを…ううん、もう言葉じゃ全然説明できない。
「…綺麗…」
素直に、そう想った。
例えるなら、日本刀の美しさに近い。
引き込まれそうな美しさを持ちながら、あの前に自分がいたら…という恐怖感も併せ持つ…そんな美しさ。
あたしはその見事すぎる"練武"から、何時の間にか目が離せなくなっていた。
「…お〜い、公緒、起きてるか〜?」
不意に真下から軽そうな声が聞こえてくる。
その声に、あたしは現実から引き戻された。下を見れば、上着を脱いだままの世洪がいる。
「お〜、珍しいじゃない。寝惚けて這い出てきたってワケでもないみたいね〜」
彼女は何時もの彼女に戻っていた。
これがついさっきまであの見事な技を繰り出したのと同一人物とは信じられなかった。

あたしは自分の目に写ったものの真実を確かめるため、自分もジャージに着替えてその上からパーカーを羽織り、中庭に出てきていた。
「…おはよ」
「うむ、おはよう」
挨拶を交わす。
でも、そのあとの言葉が続いてこない。
訊きたい事が多すぎて、一体何から話したらいいのか…そう思っていたら、彼女のほうから口火を切ってきた。
「…あたしがこんな事してるなんて、やっぱり意外だった?」
「あ、えっと、その」
「あたしも隠すつもりはなかったけど、あんまり騒がれるのって、好きじゃないから」
その淡々とした口調に、なんだか悪いことをしてしまったんじゃないかという気になってくる。
「ごめん…でも、気になったから…敬風が言ってたことが本当かどうか…」
「ええ? まさかアイツこのこと知ってんの? 巧く隠してたと思ってたんだけどな〜」
驚いてる。なんだか意外なことだったらしい。
「…見てるヤツは結構見てるもんねぇ。それであんたはまたしても敬風に一杯食わされて見ようと此処に出てきた、というわけね」
あたしは頭を振る。半分はあたりだけど、もう半分の理由。
「それもあるけど…あたし、これが本当だったら…世洪に、訊きたい事があったから」
「ふむ」
彼女は腕組みしてちょっと思案顔。
「あたしに答えられる範囲でならいいけど…後で良いかな。流石にそろそろ皆起きだしてくるし、朝食の準備もあるからね」
「う、うん」
そしてあたしも彼女にくっついて自分の部屋へと戻っていった。

831 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:57
その日の昼休み。
あたしは彼女と図書館の談話室に来ていた。子賤(丁固)とか他の娘達も何事かと思ってついて来ようとしたのを、敬風が気を利かせて巧く丸め込んでくれたらしい。振り向きざまににかっと笑って見せたあたり、昨日の鮭冬葉の礼のつもりなのだろう。
世洪にも何か奢ろうとしたけど、今朝のことをおおっぴらに言わなければ別にいいとのたまった。けどまぁ、後でお茶の一本も奢る事にしておくかな。
「…んで、訊きたい事って何なのさ?」
「う、うん。実はね…世洪がやっているあれって…」
「神道夢想流杖術…ああ、なるほど。あんたまだ、あのひとに打ち勝つことに拘ってるのか」
ずばり言い当ててくれるよ、このひとときたら。
あたしが余程解りやすい人間なのか、それとも彼女や敬風の洞察力がバケモノじみてるのか…あるいはその両方なのかもしれないが、もう呆気にとられる他にない。
「うん…だから、せめて詳しい人に、どんなものだか教えてもらおうと思って。今のあたしには、どうしてもあのひとのことを、よく知っておきたいと思うから」
「なるほどねぇ」
彼女は腕組みしたままうんうんと頷く。
「…王文舒先輩の腕前が実際どれほどのものかはあたし知らないけど、少なくとも杖術というならとんでもないひとを、あたしはひとり知ってる」
「え?」
とんでもない、と彼女が言った。
先に対決した王昶先輩ならいざ知らず、世洪の技量だって今のあたしにとっては勝てるかどうか解らない。
…ううん、正直、勝てる気がしない。それがとんでもないひと、なんて…あたしには想像もつかなかった。
「誰なの、そのひとって…?」
あたしは恐る恐るといった具合に、目の前の少女に尋ねてみた。
「姉さんよ、あたしの」
それはなんとも意外すぎる人物であった。

「姉さんは一般的には長湖随一の口の悪さのほうが有名だったアレもあるけどね。良くも悪しくもお祭り人間の多い長湖初期の経理を一手に引き受けていた業績のほうが目立つから、姉さんが杖の達人だったことを知ってる人はかなり少ないと思う」
確かに、彼女のお姉さん…仲翔(虞翻)先輩といえば、皮肉屋として有名な人だ。
でも、先輩は先代部長のために、あえて濡れ衣を被って誰の目からも触れないところから長湖部の危機を救ったひとであり…先代部長と先輩がどれほど強い絆で結ばれていたか…そんなことを知っているのは今の同期の中でもごくごく少数。あたしも、その少数のひとりだ。
けど、仲翔先輩が杖術の使い手だったなんて話は、これが初耳だ。
「姉さんはあくまで護身のためと言い張ってたけど…あたしに言わせれば、あのひとが戦線に立たなかったのが不思議なくらいよ」
「強かった、ってこと?」
「そんなレベルじゃない…はっきり言って、姉さんは天才よ。姉さんが編み出した"秘踏み"は、恐らくは世に出ずに終わる絶技…あたしが主将にならないのは、せめてあたしがあの"秘踏み"をモノにしてから…そう思っているからよ」
そう言った世洪…その顔は、ちょっと寂しそうに見えた。
彼女も、やっぱりお姉さんの後姿を見ながら、色々考えたり、悩んだりしているのだろう。未だに義封(朱然)お姉ちゃんの影を追い続けている、あたしのように。
「やっぱり、その技って難しかったりするの? いろいろと」
「ううん、"秘踏み"の理論そのものは単純よ。公緒、"一の太刀"は知ってるわよね?」
「うん…まだ、習った事はないけど…確か逆足踏み込みから、更に利き足で一気に踏み込みながら撃つのよね」
「そうね。でも"秘踏み"は更にもう一度、そこからさらに逆足で踏み込みながら一気に斬り抜けるの」
「…ええ?」
ええと、つまりはこういうことか。
利き足で踏み込んで撃って、そのまま更にもう一歩踏み込んでいくと…でも。
「そんなことしたら、振りぬきの勢いがかかりすぎて自分の足まで斬っちゃうんじゃ?」
「真剣でやったら、そうかもね。杖や木刀でも、誤爆は骨折の元になるわ。だからしばらくあたし、朝のをしばらく休んでたんだけどね」
一瞬また敬風に騙されたと思ったけど、よくよく考えれば彼女は秋頃しばらく体育は見学してたっけ。
それに頭のいい世洪のこと、のっけの幸いと本当に猫を被ってたのかもしれない。
孫峻先輩ならいざ知らず、見境のない孫リンが彼女の実力を知っていれば本気で潰しにかかるくらいはやってたかもしれないし。
「…ねぇ、世洪」
しばしの沈黙を挟んで、あたしは世洪に問い掛けた。
「もし世洪さえ良ければ…あたしも朝のあれ、いっしょにやっちゃ…ダメかな…?」
恐る恐るその顔を覗き込んでみる。
何か呆気にとられたような顔をしていたが、彼女は、
「そうね。ひとりよりも、ふたりのほうが何か掴むものがあるかもしれないわね」
そう言って微笑んだ。

832 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:57
以来、あたしは彼女と一緒に、朝に自主トレを始めるようになる。
王昶先輩が突如引退を表明したことを知ったのはそれから間もなくの事で…敬風なんかは「押しかけて闇討ちでもいいからちょっと叩きのめして来い」なんて言ってたけど、実際のところ再戦を申し込むという考えは、あたしにはなかった。

「随分剣も鋭くなってくるわね。あたしがこういうのもなんだけど、やっぱりあんたスジが良いわ。"一の太刀"の極意を掴むにもそう時間は要らなさそうね」
「…それほどでもないよ」
朝、毎日30分ほどのトレーニングを続けることふた月が経とうとしている頃。
あたしはようやくこの生活に慣れてきて、最初は目で追う事すら出来なかった世洪の"乱調子"も、かなり見えるようになってきていた。
今日は休日で、他の子達もほとんどは夢の中。あたしたちは普段より長めにトレーニングの時間を取っていた。
どちらともなく休憩を取ろうと、中庭にベンチに腰掛けた。
「…でも公緒、本当にいいの? 王昶先輩の事」
世洪が不意にそんなことを訊いてきた。
確かに再戦する機会があれば、あたしはもう一度戦っては見たかった。
けど、その勝負での勝ち負けが、すべてじゃない…あたしは、そう思っているから、
「あたしにはあたしのやり方で、"勝つ"ことは出来ると思うから」
頭を振りながら、あたしはそう応えた。
「それも、そうだよねぇ」
彼女もそれを酌んでくれたのか、にっと微笑(わら)い返した。
「…そろそろ、一度手合わせしてみようか?」
「そうだね」
そしてあたしたちは、今日もそれぞれの"目標"に向けて歩み続ける…。


そんな二人の様子を眺める、二つの影がある。
ひとりは紫がかったロングヘアの少女。筆書きで「海老」と白抜きに大書された紺のトレーナーに、デニムジャンパーとヴィンテージ物らしいジーンズに黒のブーツを身につけて、どこか緊張感のない表情で朱績たちを眺めている。
もうひとりはそれとは対照的に、ウェーブのかかった黒のセミロング。ベージュのハーフコートから、厚手のチェックスカートが覗いており、お揃いのブーツを身につけている。
「やれやれ…もうこりゃあ、ちょっと突っついてどうにかできるシロモノじゃなくなっちまったなぁ」
「完全なミスね、文舒。引退は良いけど、とんでもない厄介事残して…玄沖が可哀相だわ」
ウェーブ髪の少女の淡々とした物言いに、文舒と呼ばれたその少女は、朱績たちを指差しながら言う。
「まぁ、いいんでねぇの? そのくらいの"壁"があったほうが、かえって玄沖のためになるし?」
「相変わらずね」
やれやれ、といった風に、少女は頭を振る。
「…それにあなたも、再戦は果たさなくて良いの?」
「愚問だな」
踵を返し、その少女が振り向きつつ言う。
「そんなものは、何時だって出来るし、何時だって受ける事も出来る。そうだろ、伯輿?」
「そうね」
「今はただ、あいつらが何処までやってくれるのか…そして玄沖たちがそれをどうするのか…それを見届けてみるのも一興だな」
立ち去るふたり…蒼天生徒会随一の名将であった王昶と王基の言葉を聴くものは、その場には彼女たちしかいなかった。


(終)

833 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 21:02
「夾石のディキシィ」の後日談的な話を勝手に考えてみました(゚∀゚)
結局陳矯の話も全然カタチにならねぇし斜陽期長湖の続きも巧くまとまらないし。

本当の「大法螺吹き」と言うのは海月みたいなのを言うのだろう_| ̄|○


しかし此処へSS持ってきたのはあれか、夏祭り以来か。ずいぶんご無沙汰だったんだなぁ…(  ̄ー ̄)y=~~~

834 名前:烏丸沙宮:2005/11/16(水) 21:09
>海月 亮様
す・すすす素敵妹キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!! 可愛いなぁこのヤロウ。
虞レ可愛いよ可愛いよ虞レ。


それでは、ネタSS投下行きます。

835 名前:烏丸沙宮 『マックスコーヒー。。。』:2005/11/16(水) 21:13
 それはいきなりだった。
 「おねーちゃん!今日は私が作るよ!!」
 その言葉に固まったのは、徐晃と張遼。
この二人は剣道部つながりで友達であり、『つくる』と言った人物
――徐蓋と張虎――の姉である。徐晃が徐蓋の肩を揺さぶった。
 「ねぇ蓋!お菓子が欲しいならお姉ちゃんが買ってきてあげるから
止めよう!?かなり怖いよそれ!!」
 「大丈夫だよ。そんなに信頼ない?」
 不平な顔をした徐蓋に、張遼がつぶやく。
 「虎はともかく、蓋ちゃんじゃなぁ・・・。」
 「姉さま、駄目?」
 「いや、虎が手伝う(というかほとんど作る)ならいいよ。」
 張遼は妹に、少し甘いようだ。いや、張虎はお菓子作りが得意だから、
それでいいのだろうが。それに徐蓋が喜ぶ。
 「んじゃ、早速作るよー!!」



 「えーと、まずは・・・。」
 「ゼラチンを溶かさないとね。湯煎しよう。」
 「ゆせんってなあに?そもそも普通に鍋で溶かせばいいんじゃあ・・・。」
 「・・・鍋で溶かしたら凄いことになるよ。お湯を沸かして、その中で溶かす
のよ。お菓子を作るなら、それくらい覚えておかなくちゃ。」
 なんやかんやとやっている二人のすぐ後ろで、姉たちはため息をついた。
 「・・・不安だなぁ。ま、虎がいるから大丈夫だろうけど・・・」
 「やっぱり文遠もそう思う?・・・ゲテモノ食わされないかしら。」
 
 「えーと、それでこれを入れて・・・。」
 [え?何入れてるの?]
 考えながら何かを入れている徐蓋に、張虎が問う。徐蓋は当然とでも言う
ように答えた。
 「んー?マックスコーヒー。これ甘くて美味しいよ?張虎も飲む〜?」
 「・・・いや、いい。」
 遠慮した張虎に、徐蓋はつまらなそうに眉根を寄せる。
 「え〜?美味しいのにぃ・・・。」
 そういいながら一口ソレを飲んだ。



 やがて、台所から噎せそうなほど甘い匂いが漂ってきた。
張遼が吐き気をこらえて徐晃に聞く。
 「ねぇ。徐蓋はいったい何を作ってるの・・・?」
 「知らない・・・。寧ろ私が聞きたい・・・。」
 徐晃が頭を抱えて答えた。向こうから徐蓋と張虎の声が聞こえた。
 「よし、後はこれを冷蔵庫で冷やして固めるだけ!だよね、張虎。」
 「うん・・・頑張って・・・もう、駄目・・・・・・。」
 早速張虎が逃げたようである。姉二人は顔を見合わせてため息をついた。



 その後。残りの五将軍と李典、そしてその妹たちが呼び寄せられた。
 「何だ徐蓋・・・って、ま、まさか・・・!!」
 不機嫌なのは于圭。于姉妹の妹である。だが、すぐにおびえたような表情
になった。・・・ゲテモノを食わされた経験があるらしい。
 「大丈夫だよー。(外見的には)そんなに不味い物じゃないから。」
 笑う徐蓋に、全員がほっとした。・・・張虎と于圭を除いて。

 全員が席に着くと、徐蓋が手際よくデザートを運んでいく。そして、
並べ終わった後。
 「んじゃ、いただきまーす!」
 思いっきり食べ始めた。甘くて美味しいという徐蓋に、皆がそのゼリーを
口に運ぶ。そして、徐蓋を除く皆が叫んだ。
 「甘過ぎッ!!!」




 PS.その後、ばたばたと人が倒れていく、最後には徐蓋が総て食べつくし
たという・・・。

836 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 23:30
おお、久方ぶりの五覇妹話ですな(゚∀゚)
前回に引き続きマックスコーヒーにこだわる徐蓋タンいいわぁ(*´Д`*)

というかどんな材料にマックスコーヒーを混ぜていたのやら…?((((;;゚Д゚))))
そして全員がノックアウトされたシロモノを食べ尽くす徐蓋…「ONE」の茜なみの甘党だな…。


ちょっと思い出したので、余談めいた話をひとつ。
実際にコーヒーゼリーを作る場合、実は冷やすと甘味が感じにくくなる事を考慮してかなりの量の砂糖を加えなければならないそうで。
普通にコーヒーを飲むときに入れる量の割合(カップ1杯に大体角砂糖1〜2個)では甘味なんてなくなるので、実はマックスコーヒーをそのまま固めるくらいが丁度良いとか…?

837 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 16:59
「きゃっ」
「わぁ」
王昶の体の上に柔らかいものが覆いかぶさってきた。
柔らかいが重いものだった。


王家只今合宿中


それは夏休み前までさかのぼる。

「夏休み、みんなでうちの別荘にいかない?」
王凌が読んでいた単行本から、ふ、と顔を上げてみんなに声をかけた。
青州棟の棟長の執務室にいた人間がみな王凌の顔を見る。
王凌と姉妹の契りを交わした王昶。
王凌に見出された王基。
王凌の従妹、令孤愚。
3人の1年生の視線が王凌に集中する。
「えっと……お姉さま、今なんと?」
他の2人の思いを代弁するかのように王昶が口を開いた。
「合宿……そうね、合宿とでも思えばいいわ。今の時期ならお姉様もおられるはずだし……」
王凌が呟くように言う。お姉様……かつて学園の全校評議会評議長にまで上り詰めた王允のことだろう。
夏休みの予定……3人はそれぞれ考える。
もちろん王凌の申し出を断る理由は見つからなかった。

「いらっしゃい、みんな」
白いワンピースに身を包み、深窓の令嬢といった風貌の王允が4人を出迎える。
にっこりと微笑みながら……このような笑みは学園にいたころの、あの苛烈な性格からは考えづらいものだ。昔のように皺が眉間に刻まれていることもない。
『いろいろ苦労したんだろうなぁ』とか思いながら王凌以外の3人は内心でうんうんと頷く。
「お姉様、しばらくよろしくお願いしますね」
「こちらこそ……さ、疲れてるでしょ。入って」
笑顔の王凌に笑顔の王允。
珍しいことではある。
玄関から入っていく2人の後ろを見ながら、王昶、王基、令孤愚は一瞬顔を見合わせて、いそいそとあとに続いた。

838 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 17:00
「やっぱり久々だとずいぶん埃もたまってるわね……」
いち早く荷物を部屋に置いて、応接室でくつろいでいた王昶に、やはり部屋に荷物を置いてきたのであろう、2階から下りてきた王凌が声をかけた。
王基と令孤愚はまだ部屋で荷物の整理中。
王允はキッチンでご飯を作っているようだ。
王昶も王允の手伝いをしようとしたのだが『お客様はもてなされるのが礼儀よ』とやんわり断られてしまったので手持ち無沙汰なのである。
つまり応接室にはお姉様とたった2人なのだ。
「……あ」
それと自覚した王昶は顔が赤くなるのを感じる。
それに気づいているのかいないのか、王凌は王昶の座っているソファのそばにより……壁を指でなぞり……
「ほら、ここなんてこんなに……」
そのままバランスを崩して王昶の上に倒れてきた。

そしてシーンは冒頭に移行する。

下から王昶は王凌の体を抱きしめながらドキドキしていた。
ちょっと重たいがそんなことは問題ではない。
王凌の匂いとか体温とかそういったものがいろいろ感じられて……鼻血が出そうだった。
「はい、そこまでー」
「……17時台でそれ以上の展開はダメよ」
2階に2人ほどお邪魔キャラがいたのを忘れていた王昶は真っ赤になって王凌から離れた。
「文舒、ラブコメなら私らのいないとこでやれ」
「……ま、あとで思い出になるわね」
令孤愚はからかうようにいい、王基は冷静に手元にあるデジカメを確認する……ってデジカメーッ!?
「伯輿……それはどんな思い出なのかな?」
「……お姉さまに押し倒されたのになにもできなかったヘタレな思い出」
冷静に受け流しながら満足そうに頷く王基。
いい画像が撮れていたらしい。
「にゃんだとーッ!?」
王昶は王基につかみかかろうとし、王基は2階に逃げる。あとはお定まりの鬼ごっこ、だ。
少し呆然としていた王凌だったがやがてくすりと笑みを漏らす。
「彦雲姉、ご機嫌じゃん」
ととと、と階段をスキップするように下りたった令孤愚が王凌の顔を覗き込む。
「そうね……」
2階ではどすんばたん、という音。
「楽しい夏休みになりそうだな、って思って……ね」
呟いてくすり、と笑う。
「みんなー、ご飯できたわよー」
王允の声が別荘に響いた。
夏の一番星が別荘の上に輝く。

839 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 17:01
あれー? 何ヶ月ぶりー?
どうも空気を読まない北畠蒼陽です。
一応、復活ってことでよろしくお願いしますよ。こんだけブランクあいたってことで新入り扱いで。午後ティー買ってきまっす!

せっかく海月様が旭日記念日をあげたのにSS投稿という自分のクオリティに大変満足しつつネタもないのに文章を書こうとするとこんな支離滅裂なものになってしまうので注意が必要です! みんなはマネしちゃだめだぞっ☆
しかも季節感度外視だしなっ☆

840 名前:海月 亮:2006/01/08(日) 22:08
久しぶりのことなんで散々ネタに逡巡した挙句、結局普通の挨拶しか思い浮かばないヘタレの海月が来ましたよ(゚∀゚)


それはさておき、お久しぶりです。
なんにせよ、無事こうやってお姿を拝見するだけでなく、このような土産を引っさげてお帰りになられたこと、ただ感動するほかありませぬ(ノД`)


…というか旭日祭を前にしてここまで萌えさせられたらたまりませんな(;´Д`)
つかあの文舒たんが完全に祐巳すけ状態…(;´Д`)
いや、「マリみて」にこんなシーンはなかったとは思うけど、なんとなくそんなイメージが湧いただけで…(;´Д`)


よーし、私めも前哨戦に何か持って(ry

841 名前:雑号将軍:2006/01/08(日) 22:16
ど、どうも、おひさしぶりであります。それからあけましておめでとうございます。 北畠蒼陽様、ついに復活して頂けましたか!待っておりました。これからもよろしくお願いします。

王允がまさか登場するとは!それも丸くなってる!!皇甫嵩たちといろいろあったんでしょうねぇ。王昶が麗しのお姉様に囲まれて顔がゆるんでいるとこを想像してしまいました。
僕?えーと・・・ただいま制作中・・・・・・。

842 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 10:59
「センパイ……ここ、間違ってますよ」
「あ、ご、ごめんなさい」
年下の棟長の冷ややかな視線が突き刺さる。
「私だってヒマじゃないんですよ。補佐ってのは私の仕事を楽にしてくれるためにいるんであって、仕事を増やすためにいるわけじゃないと思うんですよね」
「ごめんなさい。す、すぐに訂正します」
滑稽なほどぺこぺこと頭を下げる彼女。
その目の端には涙が……


日のあたる場所


彼女はベンチに座ってずいぶんと遅い昼食をとっていた。時刻はもう3時を回っている。
自分が不器用なのは知っていたけど、まさかここまでなんて、ね……
彼女はそういって自嘲気味に笑う。
膝の上には弁当。家計を切り詰めるためだ。自炊しなければならない。コンビニ弁当なんて贅沢なんてできやしない。
彼女は手を合わせていただきます、と言おうとして不意に視線を感じ顔を上げた。

そこにはいたのは少女だった。
目が悪いのだろうかメガネをかけた少女はじっと彼女のほうを見ている。
少女は中等部の制服を着ていた。まぁ、このベンチは校内とはいえ立ち入りのできない場所にあるわけではない。そう珍しくもないことだ。
しかし彼女はそう思いながら少女から目をそらすことができなかった。
それは少女の強い目の光を見てそう思ったのだろうか……だから彼女は少女がベンチに向かって歩いてくるのを見て思わず心臓が高鳴るのを感じた。
その少女は紛れもなく彼女を見ていた。
彼女も少女をずっと見ていた。
そして時間が流れる。

「先輩、この校区の方じゃないですよね?」

少女がようやく口を開いたとき彼女は一段と心臓が高鳴るのを感じた。
「ど、どうしてそう思うの?」
見透かされた、と思った。
「いえ、昔話です。この潁川棟が韓信先輩の本拠地だったころに今、先輩が座っているベンチが韓信先輩のお気に入りだったんです。なんとなく座らないようにしよう、って不文律があるんですよ」
少女の言葉を聞いて彼女は仰天し、立ち上がろうとする。
「じゃ、じゃあ……」
別のベンチに、と言おうとして少女の次の行動にあっけにとられた。
「でもただの昔話。そんなの守る義務はありません」
少女はすとん、と彼女の横に腰を下ろした。

843 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 11:00
彼女はどぎまぎしながら少女のことを見ていた。
少女は黙って紙パックから牛乳を飲んでいる。ぶらぶらさせる足が可愛らしい。
「先輩、出身校区はどこなんですか?」
紙パックから口を離して少女が彼女に尋ねた。
「え、あ、うん。私は涼州校区」
「そんな遠くから?」
少女は彼女の答えに若干驚いたようだ。この校区出身ではないにしてももっと近い校区だと想っていたのだろう。
「うん、私、バカだからね。課外活動に参加しようと思ったら出身校区じゃなくても、どんなとこにでもいかなきゃ」
彼女の苦笑にも似た笑いに少女が眉をひそめる。
「課外活動は義務じゃありません……なぜそこまでして……?」
「はは、私が多少でも課外活動しておかないと妹が課外活動をするとき苦労するでしょ? 多少でもコネ……まぁ、ないよりマシ程度だけどさ……作っておいてあげないと、ね。私はこんなだけど妹は棟長……もしかしたらそれ以上になれるくらいの人間だと思ってるから」
彼女の言葉を少女は黙って聞き……そしてやがて深いため息を漏らした。
「先輩の妹さんはとても幸せ者ですね。ここまで想ってくれるお姉さんなんてなかなかいません」
自分の出身校区である涼州校区から、ここまで遠く離れた予州校区まで来て……
そして年下の棟長に疎まれ、文句を言われながらも……
それもすべて妹のため。
「先輩、もしよければ先輩のお名前と妹さんのお名前を教えていただけませんか? もしかしたら先輩の妹さんがいずれこの校舎の棟長になるのかもしれませんし……」
少女はそこまで言ってはっ、と気づいたように口を押さえた。そういった仕草は歳相応で可愛らしいのだが発言は大人びている。
「失礼しました。私は……」
彼女は少女の名前を胸に刻む。
「私は荀揩ニ言います」
うん、と彼女は頷いた。
「私の名前は……」
荀揩ヘ彼女と、その妹の名前を胸に刻む。
「私は董君雅。妹の名前は董卓よ」

844 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 11:00
『冬の体があったまる飲み物ってな〜んだ?』と聞かれて『しょうゆ』と即答できる北畠蒼陽です。あったまるけど健康にはむやみに悪いですね。
異色な2人を書いてみました。ありかなしかの2択でいったら……あり? ぎりぎりあり?
ま、董君雅が涼州出身でありながらまったく違う場所に派遣された、とか、嫌いではないエピソードなのですよ。年下の上司にいびられたんだろうなぁ、とか。
この2人のことは気が向いたらまた書くかぁも?

あ、ちなみに今はリハビリ代わりに連投してみただけなんでペースは続きませんよ?
あ、あとは任せた(ガクリ

845 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:31
何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。
だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。
普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。
「…間に合うのかな…?」
自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。
その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。


-武神に挑む者-


呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。
学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。
そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。
それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。

しかし。
彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。
南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。
公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。
魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。

在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。
しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。

「…やっぱり厳しいなぁ…」
長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。
名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。
このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。
「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」
「やっぱ厳しいん?」
「うわ!」
不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。
見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。
「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」
「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」
「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」
「なんとなく〜」
その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。
しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。
「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」
孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。
「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」
「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」
呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。
「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」
「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」
「え…?」
呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。
「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」
「うん…頑張ってみる。おおきにな」
「礼言うトコでもないよ、もう」
自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。
人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。

846 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:31
翌日の昼休み。
混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。
「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」
「ん?」
隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。
「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」
「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」
「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」
「うーん」
サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。
実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。
「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」
「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」
「うちを? でも…」
「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」
自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。
「マネージャーとはどうなんかな?」
「マネージャー?」
「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」
「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」
数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。
そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。

「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」
「あ…えっと、それは」
狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。
明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。
昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。
「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」
「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」
「あ、だからその、それはちょっとした…」
ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。
すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。
そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。
「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」
「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」
「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」
「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」
「だからそうじゃないんです!」
必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。
「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」
そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。

その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。
丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。
「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」
遊び半分ではない。
彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。

847 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:41
とりあえず先の展開が思い浮かばないSSのキリのいいところまでをうぷってみた。反省はしていない。


はい、実はこのSSを書いたのも何気に二月ほど前です^^A
夷陵回廊戦SSも時折手を加えたりもしておりますが、そろそろその前に起きた事件…呂蒙の荊州取りの話を書こうと思ったまではいいのですが。
構想は出来上がっているのに、同時に長湖の卒業話だとか、孫皓排斥計画だとかの長編を同時進行で書いてるうちに存在そのものを忘れかけていたという…。


>董卓の姉貴…
思わず正史董卓伝を見返しちまいましたよ。
つかうちのソースは三国志だけですから実はよう知らんのでして…。

でも異色だからこそ許される組み合わせだってあるでしょう。
このあとの董卓の専横やら、それに逆らって投獄された荀攸とかの件で思い悩む荀令君を想像して(;´Д`)ハァハァするのも一興…(<何処のアブないひとだ


そしてこの勢いで旭日祭とかいったりするのかな?かな?(;´Д`)

848 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 20:05
>海月 亮様
あれ? これは続きを書かなきゃいけないんじゃないかな? かな?
ガンバッテクダサイ。

>董君雅
もうちょっとこの2人のコンビは掘り下げて書いてみたいと思ってます。いつくらいになるかわかりませんが〜。

849 名前:海月 亮:2006/01/11(水) 00:47
>続き
誰か考えてくださいとか言っちゃダメですか?ダメですよねそうですね_| ̄|○
いや、流石にそれは冗談ですが^^A

一応持ち込みきれずに仕舞い込んでみた卒業話も完結したので、旭日祭明けくらいにとりかかる……かも。
多分最後のほうはドリームです。それも、冗談抜きで非難浴びるくらいの…。

850 名前:海月 亮:2006/01/28(土) 23:27
ついでなのでこちらもそろそろ再浮上させますかねぇ(゚∀゚)


というわけで予告。
そろそろ荊州奪取の続き書きます。何気にネタ固まってきたので。


うちのサイトでリク貰った甘寧の話とかも書かなきゃらならんとは思うんだけど…ネタが…_| ̄|○

851 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:13
易京棟、
それは、彼女、公孫伯珪の心の如く、高く堅く、そびえ立っていた――――――――




「えっと、伯珪さま・・・書類を持ってきました。」
「ああ、ありがとう士起、其処に置いていてくれ。」
生徒会長室を出て、あたしはため息をつく。
最近は、伯珪さまはあたし以外を部屋に入れようとしない、従妹の範さま、中等部の妹、続さまですら、だ。
憂鬱な気持ちのまま廊下をしばらく歩いていると、前から範さまが歩いてきた。
「あら、士起ちゃん、どうしたの?そんな顔しちゃって。」
「え・・・」
あたしの悪い癖、気持ちがそのまま顔に出るのだ、ただでさえ範さまは鋭い、すぐにあたしの気持ちなんか看破してしまう。
「いえ、その・・・最近の伯珪さまの様子を見ていると・・・」
「そうね・・・最近の伯珪姉は、以前に増して引きこもり気味よね〜。」
あたしを励ましてくれようとしているのだろう、明るく話しかけてくれる。
なんていい人なのだろう、あたしと同い年とは思えない、そう思うと、逆に、もっと落ち込んでくる。
「まあ、流石の伯珪姉でもさ、敵さんが来れば立ち直るでしょ、そう落ち込みなさんなって。」
「ありがとうございます」
それで話は終わり、寮の自分の部屋に戻る。
いつか来るべき袁紹との戦いを考えると、その夜は、なかなか寝付けなかった




それは、予想外に早く訪れた。
袁紹の攻撃、そして
伯珪さまとの、別れ――――――――


3月、桜の季節。
花びら舞い散る中、彼女、袁紹は攻めてきた。
桜吹雪の中布陣する彼女の姿は、名家の風格を感じさせた。
だけど、伯珪さまはきっと負けない。
あの方は、決して、負けない。
あたしは、そう信じている。



「ふん・・・」
屋上から布陣を見下ろす、
たかが棟一つにご大層なことだ、だが・・・面白い。
久しぶりに、血が騒ぐ。
しかし、だ、白馬義従だけでは、勝ち目はないだろう。
棟の中に戻り、続を探す。
「続、いるかい?」
「なあに、お姉ちゃん」
「悪いけど、BMFのところに使いしてくれないか。」
「張燕先輩のとこだよね、わかった!」
そう言って、すぐに駆けだしていく、よっぽど嬉しかったのだろう、まったく、変わった娘だ、そんなに「お使い」は楽しいのか?
まあ良い、袁紹、首を洗って待っていろ。






やった!お姉ちゃんから久しぶりにお使い言いつけられちゃった!
あいつ、関靖先輩がきてから、お姉ちゃんは、私に冷たくなった、範お姉ちゃんも何も言わないからって関靖先輩ってば、調子に乗っちゃってべたべたして・・・
と、噂をすれば、あの人だ。
「ああ、続さま。」
笑いながら会釈してくる、なによ、いちいち、頭に来る人。
なんなのよ、私に何の用?いいかげんにしてほしいわ。
「あなたに、さま付けされる覚えはありません!」
そう言い放って、あの人を残してガレージまで一気に走る。
いらいらした気分のまま、私は愛車にまたがった。



「・・・と、言うことなんです。」
「ふーむ、士起ちゃんも大変ね。」
廊下を歩いていた士起ちゃんを「範先生の、お悩み相談室〜!」と称し、私の部屋に連れ込んだ。
理由は単純で、私が見ていられなかったからというだけ。
彼女が「範さまってこんなひとだったっけ?」みたいな顔しているのはまあ、放っておいて、大事なのは彼女から聞いた話だ。
まったく、続ちゃんも困ったものだ、なにも、其処まで言わなくてもいいのに。
だが、だいぶ周りに馴染んでいるといっても、まだ伯珪姉の元に来て日の浅い士起ちゃんが、一部の人から少なからず疎まれているのは事実だ。
そう言う私だって、嫉妬が全くないと言えば嘘になるだろう。
本人は至ってよい娘なのだが・・・「新参者」の悲しさか。
「まあ、あの娘が帰ってきたら、私からも言っておくから、元気出して、ね?」
「はい・・・ありがとうございました」
一応、彼女を部屋まで送ってあげることにした、伯珪姉は、戦いの準備で忙しそうで、彼女にかまってばかりもいられないだろう、士起ちゃんは、今、とても寂しいのだと思う。
だから、私だけでも、この娘を大切にしてあげなければ。
わかっている、だけど、どうしても
――――――――胸の奥の嫉妬は消せなかった。

852 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:14
その次の日、私と士起ちゃん、単経ちゃん、田揩ちゃんの四人が、生徒会長室に呼び出された。
士起ちゃん以外の娘―もちろん私も含めてだが―は生徒会長室に入るのは久しぶりだ。
私はわくわくしていた、自分でもすこし恥ずかしいほど、だ。
「ああ、よく来てくれた、早速だが、本題に入らせてもらう。」
話というのはこうだ、伯珪姉が白馬義従を率いて突撃、袁紹軍の背後を遮断、そして私たちが棟から打って出て、挟撃する。ということらしい。
確かに、白馬義従と伯珪姉ならば不可能ではないかもしれない。
だが・・・
「そんな!危険です!それに伯珪さまが今この棟を出たら、みんなの心はばらばらになってしまいます。」
最初に口を開いたのは、士起ちゃんだった。
そう、私が危惧しているのも其処なのだ、今、人心は離れてきている、それでもこの篭城戦が破綻しないのは、伯珪姉がこの棟内にいるからだ。
もし、突破に成功し、袁紹軍の背後を突けても、上手く呼応できないかもしれない。
リスクが、大きすぎる。
「そうですよ!もし、失敗したら貴女の身まで危険に・・・」
田揩ちゃんが続く。いつもはおどおどしている彼女が、これほど大きな声を出すのは珍しい。
「だが、田揩、今の状況を打開するには、これしかないんじゃないか?もし、などとばかり言っていては、何もできないぞ?」
今まで口を閉ざしていた単経ちゃんが口を開く。
「だけど・・・!」
「まあ、そう熱くなるな、二人とも。範、貴女はどう思う?」
「そうですね、確かに、この作戦はリスクが大きすぎます、張燕さまの援護を得た上で実行するのがよろしいかと。」
「ふむ、なるほど・・・皆、それで良いか。」
誰からも異議は出なかったので、これで会議はお開きになった。
とりあえず、張燕殿が到着するまでは、特に仕事はないだろうと思ったのだが、何故か皆解散した後、私と士起ちゃんだけ、また呼び出された。
「ふむ、来てくれたか。」
「どうなさったのですか、伯珪さま?」
「先ほどの話に関わる話なのだが、範、おまえは士起を連れ文安棟に移ってくれないか。」
「え・・・」
文安棟は此処より五キロ程西にある棟で、今はそれほど重要な拠点でもない。
其処に移るということは、今回の決戦には参加できないということ、そして、何より・・・
「何故!?何故なんですか!?そんなにあたしは足手まといですか!?」
悲痛な叫びだった。士起ちゃんの気持ちはよくわかる、彼女は運動こそ苦手なものの、事務的な仕事はよくやってくれていた、決して足手まといなどではない。
伯珪姉も唇をかみ、俯いていた。
私が士起ちゃんを宥めようとした時、伯珪姉が口を開いた。
「すまない、私だって貴女と離れたくない、だが、此処は危険なのだ。わかってくれ。」
伯珪姉が士起ちゃんに話しかける、私ではなく、彼女にだけ。
不意に、嫉妬がこみ上げる。
伯珪姉が、離れがたいのは、彼女だけ。


私 じ ゃ な い 。

そ う

彼 女 だ け。







結局、その言葉に士起ちゃんも折れた。
と、いうわけで、早速私たちは出発することになった。
いまさらながら、あんな風な感情を抱いてしまった自分が嫌になってくる、それなのに、士起ちゃんは、私のことをいつものように見つめてくれる。
やめて。
私は、そんな目で見てもらえるほど、綺麗な人間じゃないの。
もちろん、そんなこと口には出せない。
そんな私の心を知ってか知らずか、士起ちゃんが「いきましょうか?」と声をかけてくる
これ以上考えたら、本当におかしくなりそう。
すべての感情を振り切って、私はバイクのエンジンをかけた。

853 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:16
遂に来た。
続からの連絡、「あと二十キロほどの地点に到着、合図は狼煙によって行う。」
ついに、越の敵をとれるのだ。
白馬義従に出撃の準備をさせる、あと少し、あと少しだ。
じりじりするような焦燥、そして興奮が私を支配する。
それからしばらくして、黒山の方に狼煙が上がった。
「よし!我が精鋭達よ、出陣だ!」







あたしは、範さまと一緒に、空を見ていた。
文安棟から見る空は、易京の空と変わらないはずなのに、どこか寂しく映る、それは、範さまも同じだと思う。
あれ?
「範さま、あれって。」
「狼煙ね、張燕さんはいつもああやって連絡を取るの。」
「へえ・・・」
「でも、少し妙ね。」
「と、いうと?」
「いえ、ちょっとね、なんかいつもより上げかたが下手な気がするの。」
「そうなんですか、あたしにはぜんぜんわからないです」
「うん・・・私の気のせいかもね。」







「そんな・・・」
違う、あの狼煙は違う。
お姉さま・・・そんな
「ちっ・・・袁紹め」
張燕さまも口惜しそうに俯く。
どうする、どうするのよ・・・
考えるのよ、公孫続!
そうだ・・・
「張燕さま、バイク部隊を、私に貸していただけないでしょうか。」
私には、それしか考えつかなかった。全力で行っても、間に合わないかもしれない。
しかし、何もしないのは最悪だ。
「続、落ち着け、あんたが行ったところで、伯珪さんは救えない、それより、あんたが飛ばされずにいる方が大事じゃないか?」
「でも、でも・・」
そんなこと、私にはできない。
お姉ちゃんを、見捨てるなんて、できない。
「・・・本気だな?」
何も言わず、頷く。
「ふぅ、わかった、其処まで言うならこの黒山の飛燕、断るわけにはいかないな。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そう言って、私は、バイクに乗った。
エンジンの震えが伝わってくる、深呼吸して、みんなに呼びかける。
「皆さん、行きますよっ!」







風を切っていく。
袁紹軍の先頭とぶつかり、押し込み始める。
私が突破したところを、田揩と単経が左右から挟撃する。
先頭が崩れ、退いていく。
だが、何か妙だ、退くのが早すぎる。
嫌な予感がする、全軍一旦退け。そう言おうとしたところで、敵の伏兵が現れた。
あの狼煙は偽報ということか。
「退け、退け!易京棟まで退くのだ!」
今度はこちらが挟撃される。
私の周りにいる娘達も少なくなっていく。
どうやら囲まれてしまったようだ、全軍で、ではなくまだ一部の連中なだけましか。
だが、どうしたものか、そう思っていると、いきなり一隊が囲みを突き破ってきた。
「単経!それに・・・続!?」
「お助けに参りました、伯珪さま。」
「同じくだよ、お姉ちゃん!」
相変わらず無表情な単経と、疲れ切った様子だが、笑顔を作る続。
多勢に無勢には変わりない、が、今の私にはとても心強かった。




文安棟に届いた使い、それがもたらした報せは、衝撃的なものだった。
「なんですって!」
伯珪さまが・・・危ない。
さっきの範さまの言ったとおりだったのか。
どうしたらいい?
周りを見ても、みんな驚き、考えが回らないようだ。
こんな時、範さまが居れば・・・
彼女は、用事があるからといって、どこかに行ってしまった。
此処にいる娘達は、いわゆる「文官」というやつで、戦うのは得意でない。
むろんあたしも含めて、だ。
だけど、此処でじっとして居ちゃだめだ、それじゃ、あのとき、伯珪さまと初めてあったときと変わらないじゃない!
今度は、あたしが助けるんだ!
「ちょっと、どこに行くのよ。関靖ちゃん。」
「伯珪さまを、助ける。」
「助けるって言っても、無茶よ!」
「それでも、行かなくちゃいけないのっ!一人でも、あたし行くよ。」
それに、あたしがあのとき止めなかったら、単経さんの言うとおりにしていれば・・・
そう思えば、なおさらだ。
「そうだ、無茶だね。」
この声は、範さま!?
いつの間にか帰ってきていた範さまが後ろにいた。
「あなたまで、そんな・・・」
「第一、  あなた免許持ってないでしょ、そんなんでどうするつもりだったの?」
「でもぉっ!」
「わかってるわ、行くな、って言ってるんじゃないの、私の後ろに乗っかっていく気はない?って言ってるの。」
「えっ・・・」
「ほら、どうするの?」
「い、行きます、お願いします!」
ガレージに向かう範さまの後についていくとき、後ろから呼び止められた。
「あの・・・関靖ちゃん、頑張ってね。」
其処にいた三人、確か劉緯台ちゃん、李移子ちゃん、楽何ちゃんだったか。
「伯珪さまは、いじめられていた私たちに、まるで兄弟みたいに接してくれた・・・私たちが行っても、足手まといになるだけ、だから・・・」
「うん、わかった!みんなの分まで頑張るよ。」
「ありがとう・・・」
「お別れは終わった?」
「あ、はい!済みませんでした、じゃあ、行って来るね。」
「うん・・・頑張ってね。」
それ以上何も言わず、あたしは笑顔で手を振った。





「ねえ、士起ちゃん。」
そう声をかけたのは、文安棟を出て、暫くしてからだった。
「なんですか?」
「あのね、私今まで貴女に嫉妬してたの。」
ああ、言っちゃった、もう戻れないぞ。
「えっ、あっ、その。」
はは、戸惑っちゃてる、それはそうよね、今まで信じてきた人からこんな風に言われたんだもんね。
「だって、普通そうじゃない?私はさ、董卓と戦ってた頃、いや、もっと前から居たのよ?
それがいきなり新しく来た貴女に負けたのよ?」
「えっと、えっと・・・すいません・・・」
本当に、この娘は。なんでこんなこと言ったのにそんな綺麗な瞳で私を見れるの?
「いいの、言ったでしょう?今まで、って。」
「え?」
「さっきもさ、実を言うとね、貴女と居たくなかったから、貴女と居るのが怖かったから、用事って言って逃げたの。でもそれも虚しくなって戻ってきたらさ、伯珪姉がピンチって聞いて、その上貴女が思い詰めた顔でどっか行こうとしていたんだもの、驚いちゃった、でも、その時思ったの、ああ、この娘には勝てないな、ってさ。」
この娘の気持ちは本当、そう痛感したから、私はふっきれた。
「でも・・・範さまの方が綺麗で、優しくて、思いやりがあって・・・」
「そんなの関係ないよ、さっきの貴女を見て、本当にそう思った・・・格好良かったよ、士起ちゃん!自信もって良いよ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
そう、その笑顔。
その笑顔に私は負けたの。
ずっと、そのままの笑顔で、ね・・・
「よし、じゃあ話は終わり!ほら、戦場が見えてきたよ。」
本当だ・・・あ!あれは
「伯珪さまぁ!」
思わず涙がこぼれる、だけどそんなこと気にしている場合じゃない。
「よし、飛ばしていくよ!」
「はい!」
待っててください、伯珪さま。





ある程度は退いてこれたのだが、最早周りには続しかいない。
単経は、私のために殿を努め、
田揩も、乱戦の中で見失った。
「どうしよっか、お姉ちゃん。」
「うむ・・・」
最早、道はないのか、そう思っていると、聞き慣れた声がしてきた。
「伯珪さま!」
「士起!?」
そんな、馬鹿な。
何故士起が此処に?
「関靖先輩!?」
何でこいつが居るのよ、そんな怖がっちゃって。
馬鹿じゃないの?
本当に馬鹿じゃないの?
「あ〜もう!どうでも良いです!とにかく先輩は伯珪お姉ちゃんと退いてください。
ここは私がくい止めます!」
「貴女だけじゃないわよ?私だって居るわ。」
「あ、あたしも・・・」
「先輩は早く行ってください!」
伯珪お姉ちゃんとあいつが遠ざかっていく。
「貴女、士起ちゃんが嫌いなんじゃなかったの?」
範お姉ちゃんが面白そうに聞いてくる。
「あの人は馬鹿です!ついさっきわかりました!でないとろくに戦えないくせに此処まで来ようなんて思いません!でも・・・」
「でも?」
「私は、馬鹿は嫌いじゃないんです。」
「なるほど、良い答えよ。」
そんな話をしていると、袁紹軍が迫ってくる、ざっと五十人ほどだ。
「じゃあ、振られた者同士、いっちょやりますか?続ちゃん?」
「振られた、って言うのがなんか引っかかりますけど・・・まあいいです。」
「よし、行くよ!」
私たちは、敵の群に突っ込んでいった。
関靖先輩、お姉ちゃんを頼みましたよ。







なんとかあたし達は、易京棟まで戻ってきた、ほとんど全員を連れて出陣したらしく、棟内はがらんとしていた。
「ありがとうね、士起。」
「いえ、伯珪さまのためですから。」
「ふっ、そうか・・・なあ士起、私は階級章を返済しようと思う。」
「えっ、そんな・・・」
わかっている、それしかないのだろう、袁紹に奪われるよりはましだ。
でも・・・
「済まなかったな、今まで本当に苦労をかけた。」
「いえ・・・お世話になったのはこちらです、貴女に会えなかったら、あたしは弱虫のままでした。」
「そうだな、私も貴女に会えなかったら、私は一人ではないことにずっと気がつかなかっただろう。」
越がいた、厳綱がいた、単経がいた、田揩がいた、範がいた、続がいた。廬植先生だって、玄徳だって、子竜だっていた・・・みんな、私の周りにいてくれた。なのに、私は気がつかなかった、ひとりぼっちだと思っていた。
「貴女がそれに気づかせてくれた、そして、こうしてそばにいてくれる。
私は幸せ者だ。」
そうだ、玄徳、貴女は、もう気づいてたんだね、一人じゃ何もできないって。
最早夢の終わりだというのに、不思議と口惜しくはなかった。
楽しい、夢だった。
みんな、ありがとう。

854 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:25
なんとか合格した弐師です
>北畠蒼陽様

一応高校受験です。
三国志大戦ってやったことないんです(一応ゲーセン禁止なので)w
高校に入ったらやってみたいですね。

>海月 亮様
ありがとうございます、何とか受験は終わりましたが、どっさり宿題が・・・
それに油断していると受験に向け必死の皆さんにすぐに追い抜かれてしまうので。
(て、言いますか実際段々数学がやばいことに・・・orz)

では、駄文失礼しました

855 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:46
「こんにちは、今日はいいお日柄ね?」
「……」
上機嫌に語りかける少女にもう1人の少女は無愛想に応じた。
袁紹と公孫サン。
易京棟の戦いの勝者と敗者が、同じ易京棟の生徒会長室において顔をあわせた。


ブルーブルーデイズ


「……私はすでに蒼天章を返上した身だ。なんの用だ?」
公孫サンはうんざりしたように……袁紹と目を合わせることもなく視線を斜め下に泳がせながら呟くようにいった。
その背には田楷、関靖ら、公孫サンの腹心たちが憔悴した顔で付き従っている。
「なんの用、ですって?」
公孫サンの言葉に眦を吊り上げる袁紹。
「貴女1人が蒼天章を返上したところで劉虞さんは帰ってこないわ。無意味なのよ、貴女は」
吐き捨てるように言う袁紹。
その話か……公孫サンは顔を下に向け苦笑した。
劉虞は私にとってジャマだった。だから潰した……それだけのことだ。
「なにがおかしいというの……ッ!」
手を振り上げる袁紹。
パシーンという音が鳴り響き、公孫サンが左頬を押さえて1歩後ろに下がった。
「貴様……!」
袁紹に飛び掛ろうとする関靖を左手で制して公孫サンは右手で口の端をぬぐう。
おっと……唇を切ったようだ……
どうでもよさそうに公孫サンはその血を眺めた。
「ふん……無能は無能なりによく躾けてあること。ただその程度が腹心、ってようじゃ私に逆らうのは早すぎたみたいね」
揶揄するように袁紹が呟く。
「……なぁ、袁紹殿。もう開放してもらってもいいだろうか? 今日は見たいテレビ番組があるものでね」
小ばかにしたように言う公孫サンに袁紹の眉が危険な角度につりあがっていく。
お、もう一発殴られるかな……
公孫サンは苦笑する。お嬢様のお守りも大変だ。
しかし次の瞬間、袁紹の顔には微笑が広がった。
「……?」
なんだ、この余裕は……?
「そうね。もう帰ってもかまわないわ……麹義」
「はーいよ♪」
袁紹は後ろに控えていた腹心の名を呼ぶ。それと同時に顔良、文醜……2人が公孫サンの斜め後ろについた。

856 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:46
「みなさんをお連れして頂戴」
「はいはい、了解」
袁紹の言葉に麹義は砕けた一礼をしてから部屋より退出する。
なんだ、この胸騒ぎは……
公孫サンは嫌な予感に眉をひそめる。
「そちらは……部下に対しての躾が完全に行き届いているようね。まったく羨ましいわ」
嫌味でも言わないと……自分が抑えられない。
「まぁ、待っていなさいな」
ふん、と笑う袁紹。
「大将、つれてきたよ〜♪」
「入っていただいて」
廊下からの麹義の声に、視線を公孫サンから離すことなく袁紹は言う。
公孫サンは唖然とした。
そこに入ってきたのは自分の戦友たち……白馬義従の面々。その胸に輝く蒼天章に公孫サンは顔をほころばせた。
……よかった。私のせいでトばされずにすんだんだな。
「よかったわ、貴女が忘れっぽいひとじゃなくて……この方々の顔も覚えておられなかったらどうしようかと思ったところよ」

公孫サンのその表情に満足したように袁紹は、その白馬義従の1人の蒼天章を中指で弾き飛ばした。

一瞬なにが起こったのかわからなかった。
「あらあら、どうしたのかしら、呆けちゃって」
袁紹はくすくすと笑いながら2人目の蒼天章に手を伸ばす。
「貴様ッ! やめろーッ!」
袁紹に飛び掛ろうとした公孫サンは……しかし後ろから顔良、文醜に肩を押さえ込まれ床に倒れる。
袁紹はくすくすと笑いながら……次々と蒼天章を弾き飛ばしていく。
「やめろッ! やめろーッ!」
悲痛な叫び。
袁紹は振り返る。
その目に……公孫サンは初めて恐怖を感じた。
笑みなどもうすでにその顔には浮かんでいない。あるのはただ純粋なまでの憎悪。
「劉虞さんがそういったとき貴女はどうなさったのかしら……?」
公孫サンは黙り込む。
これは罰だとでも言うのか……
黙り込んだ公孫サンに袁紹は白馬義従からはずした蒼天章を公孫サンの顔めがけて叩きつける。
蒼天章は公孫サンの額にぶつかり、血が流れた。
「私は……貴女をトばしたことを誇らない。最も恥じるべき愚者、公孫サン、貴女はこの学園に通う価値もないわ」
袁紹の宣告にも公孫サンは答えることができず……

翌日、公孫サンは転校届けを出した。
彼女がどこに転校したのかは学園史にも残されていない。

857 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:47
かっこいいエンディングのあとには醜いほどのエゴがあるッ!
どっちかといえばエゴのほうを書いてたほうが楽だと思う北畠です、ごきげんよう。

>弐師様
……に影響されて公孫サン&袁紹を書いてみました。
公孫サンを書いたのははじめてかな?
かっこいい話のあとなんでおもいっきしアレな話にしちゃいましたが……なんか、ねぇ?
最近ギャグを書いてないのでギャグが書きたい! もう空気読んでないようなギャグが!

とりあえず合格おめですよぅ。
高校受験といえば……うちの中学もゲーセン禁止だったんですが受験の帰り道、ゲーセンに寄ったら先生に見つかって補導されたのはいい思い出ですあははははは!
三国志大戦はおもろいですよ〜。もしよかったらいろいろ教えますし(笑
ぜひやりまっしょい。

858 名前:海月 亮:2006/02/07(火) 20:40
うむ?



( ̄□ ̄;)


おい俺は越されたのかぁぁぁ━━━━━━(;;゚Д゚)━━━━━━ !!??



やばいよここんとこ2chの音ゲー板で遊んでたよ私!?
つか私ってば確か関羽攻略の続き考えてたと思ったら…

ぜんぜん話進んでないようわーん回線切って吊ってやるー!・゚・(ノД`)・゚・


…冗談はさておき(半分本気だったけどw)
>弐師様
いやぁやれやれ、なんだかあっという間に追い越されちまいましたよてかもうメチャ萌えた(;´Д`)
大丈夫大丈夫、腑抜けた今の私じゃあ束になってもこれ以上の作品かけませんって_| ̄|○

こうなったら絵で支援だ、近日ちうに関靖描いて来る!!(;;゚Д゚)ノシ

>北畠蒼陽様
お嬢様黒いよお嬢様ッ!(;;゚Д゚)でもそういうのも私は大好きだ!!w
いつぞやの鐘会もそうだったけど、人間のこういう面を巧く書けるのってめっさ羨ましいです本当に。
私はそういう表現が下手くそだから未だに岑昏と郭図のイメージが巧く出来なくて困ってますよ_| ̄|○

859 名前:弐師:2006/02/08(水) 20:36
>北畠蒼陽様

良いですね、劉虞を飛ばしてからの「小董卓」的な公孫サンにはこういう結末しかないでしょうね
私にはこういった話は書けないのでうらやましい限りです。
三国志大戦には劉虞と公孫サンは出てるんですか?

>海月 亮様

いえいえ、まだまだ未熟者でございます。
続きを期待していますです。
無理せず頑張ってくださいませ。


さて、次はどうしましょうねぇ。
九泉での劉虞と公孫サンの話とか、界橋とか、劉虞戦とか。
個人的には劉虞も好きなのでその話になりますかね。

860 名前:冷霊:2006/02/11(土) 16:41
白水門への出立

「やっぱり行くんですか?」
「ああ、タマのお願いなら断る理由がないだろう?」
楊懐が荷物をまとめ、問いかけに答える。
「でも、先輩達がわざわざ白水門まで行かなくても……」
「あたし等だから行くんでしょ?」
トウ賢の言葉を高沛が遮る。
「それだけ信頼されてるって証拠でしょう。嬉しい話じゃないの」
高沛がトウ賢の肩に手を置く。
「それに気になることもあるしね……」
高沛が楊懐に視線を送る。
楊懐は応じるかのように頷く。
「……荊州の劉備」
視線の意味を理解した冷苞が口を開く。
「いくら張魯対策っつっても、わざわざ呼ぶ必要もないと思うんですけどねー……」
トウ賢が呟く。
周りの意見を鵜呑みにするのは劉璋の悪い癖である。
今回は曹操への偵察もこなした張松の提案だが……どうも腑に落ちない。
賛成派が異様に多かったのも気になる所である。
「張魯くらい、オレとトウ賢でもトバせるのに……」
「冷苞、相手を倒すだけが戦いじゃないぞ」
楊懐が嗜めるように言う。
「相手を制するのも戦いだ。お前等が行けばどれだけ怪我人が出ると思う?」
「あ……」
冷苞が不意に声を漏らす。冷苞やトウ賢が腕が立つのはわかる。
下手すると高沛や楊懐とタメを張るかそれ以上なのだ。
そんな二人が行けば当然敵にも大きな被害が及ぶだろう。
「タマちゃんの優しさってトコかな?相手のことまで気使う必要ないのにさ」
クスリと微笑む高沛。
「ま、逸る気持ちも分からないでもないが、な」
楊懐が笑みを浮かべ、冷苞の肩を叩く。
「楊懐さん……」
冷苞が握り締めていた拳をそっと解く。
「ま、私の初陣もお前達と同じ頃だったからな」
懐かしそうに楊懐が遠くを見つめる。
その様子を見て、同じく目を細める高沛。
「そうそう、初陣と言えば楊懐が……」
「こ、高沛!」
少しだけ慌てた様子で楊懐が声を張る。その頬は僅かに紅潮している。
「初陣がどうしたんですか?」
冷苞が首を傾げた。
「ん?聞きたい?聞きたい?」
「聞きたいでーす」
トウ賢が口元を綻ばせながら答える。
一方、尋ねた高沛の口元も既に緩みっぱなしだったりする。
「無駄口を叩くな!高沛、さっさと行くぞ!」
「楊懐せんぱーい、まだ荷物詰め終わってないんじゃないんですかー?」
憮然と立ち上がる楊懐へトウ賢が追い討ちをかける。
「だ、だからさっさと準備を済ませろ!それに高沛も終わってないだろう?」
「……あ」
そこには詰める途中で放置された高沛の荷物が置いてあった。
「それじゃ、さっさと準備済ませちゃいましょーか。冷苞は楊懐先輩の手伝い宜しくー」
トウ賢はすたすたと高沛の後に付いて行く。
「うーん……一体何が……?」
冷苞は首をかしげたまま、楊懐の方へと歩み寄っていった。

861 名前:冷霊:2006/02/11(土) 17:02
いろいろ迷った挙句、一旦出発の話を書いてみました。
劉璋や劉闡も登場させたかったのですが、とりあえず東州関係者でまとめてしまいました。
劉備との対面なども結局書き直したり……むぅ、ぼちぼち頑張らねば(汗)

>弐師様
まずは合格おめでとう御座いますー。
改めて読み返してみると、関靖が酷吏と呼ばれてたのを初めて知りました(汗)
でも、公孫サンに信頼されてたり袁紹軍に突撃したりなど一概にそう言えない面も……
何だかそういう関靖の一面を感じちゃいました。

>北畠様
因果応報といいますか……歴史の影の部分を垣間見たような気も致します。
やはりこういう話も時には必要となるわけで……見習わなくては、ですね。
いつかきちんと、こういう話も書いてみたいものですね。

862 名前:北畠蒼陽:2006/02/12(日) 21:19
>冷霊様
んー、東州をこのまま進めていくと……
いや、とても私好みの血で血を洗う展開になりそうです。めでたい!
とりあえず楊懐&高沛はがんばってほしいですね。うひひ。

863 名前:北畠蒼陽:2006/02/17(金) 17:59
夏の日差しがプールの水面に乱反射する。その眩しさに諸葛誕は目を細めた。
「いっやー、あっついねぇ! もう青春って感じだねぇ!」
隣にはご機嫌な王昶。王基はちょっと離れたところで泳いでいる。
「ちょっと静かにしなさいよ……っていっても聞いてくれるようなタマじゃないわね」
諸葛誕が自分のセリフに諦めたように視線を斜め下45度のあたりへ彷徨わせた。
「こう暑いと太陽に向かって叫んじゃうね! 青春セリフバンザイ!」
青春セリフってなんだ……
「あぁ、叫んでもいいから大人しくしてて」
「公休は不純異性交遊のエキスパートになりましたー!」
王昶は諸葛誕にエアウォーターガンの射撃を食らった。
「目がー目がー」
「水が当たったのは胸だし! あんたが向かって叫んだのは太陽じゃなくて女の子だし! そもそも不純じゃないし!」
泳いでいた王基が諸葛誕の方向に顔を向ける。
「……不純じゃないってことは男がいる事実だけは認めるのね」
「あんたらなにやってんのよ……」
視線を向けると諸葛恪が怖い顔をしていた。


なついあつのほにゃらら


「あー、やっほー、元遜」
「やっほー」
諸葛誕が嫌な汗を額に浮かべながら手を振る。王昶もまねをした。王基は無表情に手だけ振った。
「あんたら、なにやってんのよ……」
諸葛恪がもう一度同じ質問を発する。
「ほら、泳ごうと思って」
王昶が滅多やたら明るく答えた。
「あの……私は止めたのよ?」
諸葛誕が目線をそらす。
「泳ぎたい、それはわかった……で……」
諸葛恪が言葉の途中に無理やり笑みを浮かべる。額にはもちろん青筋。

「な ん で わ ざ わ ざ 建 業 棟 ま で 泳 ぎ に 来 る の か し ら ?」

「ん、だってここのプール広いじゃん」
王昶がこともなげに言って王基はこくこくと頷いた。んで泳ぎだした。
「泳ぐな人の話を聞けー!」
王基が不満そうな顔をして泳ぐのをやめる。
「いや……私は止めたのよ?」
諸葛誕は目線をそらしたまま。でもしっかり水着を用意しているので同罪だと思う。
「……まぁまぁ、夏休み中は無礼講」
とりなすように言う王基。
「無礼すぎるわッ! ……うっ」
頭に血があがってちょっとふらっときたようだ。
「あー、大丈夫?」
「はぁはぁ……大丈夫、ありがとう……じゃないわよッ! ……うっ」
ふらっときた。
「もぉ……ほんとに夏休み中だけだからね! それ以降来るんじゃないわよ! あとあんたらが来たらうちの部員がドン引きするから前もって襲撃を連絡してちょうだい!」
不機嫌な表情のまま、それでも何を言ってもムダと悟ったか諸葛恪がため息をついた。
「悪いわね、元遜」
「いいわよ。あんたもヘンなヤツらのお守り大変ね、公休」
従妹同士が苦笑を交わす中、王昶が張り切って宣言した。
「じゃ、前もって連絡ってことで明日明日ー!」
「毎日来るつもりかよッ! ……うっ」

864 名前:北畠蒼陽:2006/02/17(金) 17:59
やっとギャグが書けました。
これを書いてる最中に新聞屋が襲撃したので撃退成功。つまりこの物語が書けたのは新聞屋のおかげです。ありがとう新聞屋。もうこなくていいよ!

夏ダイスキ星人、北畠にとって今の季節ってのは、まぁ、じょじょにあったかくなってきてるとはいえ苦痛でしかないので夏ですよ! ド夏!
はやくあったかくなれー。30度くらいに。

865 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:18
-何処までも甘い一日-


妙に開けづらいと思ったら、空けた瞬間に何か大量の包み紙がぎっしりと詰まっていた。
私は徐にその一角を摘み、引きずり出そうとするが…どんな密度で詰め込まれているのか、まったくびくともしない。
「…どうやって詰めたのよ、こんなに…?」
私は包み紙の大群に占拠された自分の下駄箱の有様に苦笑するしかなかった。

たっぷり30分かけて下駄箱から内容物のすべてを引き出し、それを体操服の入ったリュックサックへと詰め込んだ。
今日は体育があったんで、学生鞄とは別に持ってきたものなのだが…普段体操服一式を入れるだけではいささか大きすぎるそれが、見事に満杯だ。
面倒くさいのと、さすがに時期が時期だけにスカートだけじゃ寒いので、体操着の半袖どころかジャージの下まで着込んでいた分あったスペースなんてあってないようなものだ。
「…というか去年より多い」
…いやいやいや、そうじゃないだろ私。
状況をストレートに口に出してしまったが、どう考えても女子高で女の子がバレンタインにチョコ貰うのっておかしいでしょ。
しかも私は去年も、一昨年も貰っている。しかもその9割が差出人不明だ。
そりゃあ私だって、妹達にチョコをあげたり貰ったりしてるし、医者という仕事柄滅多に家にいない父のためにチョコを用意したりもするけど…でもこの場合「私がこんなに貰ってどうすんだ?」って言う気持ちがある。
いったい、私の何処が良くて、みんなこんなに一生懸命になって用意してくれるのか…それだけがよく解らなかった。

そして何より、私はチョコレートというヤツが、実は死ぬほど嫌いなのだ…。



一方その頃、呉郡の中等部寮では。
「…それで此処まで逃げてきたってワケですか?」
「まぁそういうこった」
部屋の主と思しき、狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女…丁奉が差し出した水を、一気に飲み干す茶髪の少女はその姉貴分である甘寧。
部屋着代わりに学校指定じゃない紺ジャージの丁奉に対し、甘寧は制服姿である。かつて学園の問題児であった甘寧も卒業を控え、それなりに真面目な学生生活を送ってきたことをうかがわせる。
現在一留の三年生で、しかも既に引退して往年のパイナップル頭を辞めて久しい甘寧だが、彼女は暇をもてあますとふらっと長湖の三年部員の元に現れては自堕落な休日を過ごすこともしょっちゅうである。だが、いくら親しくとも流石に中等部にいる後輩のところに転がり込んでくるようなことはなかった。
まぁそれだけの緊急事態であることは察しがつく。何しろ今日は学園全体がある種の狂気に支配される日なのだ。
甘寧にとってみれば、何故自分が標的にされてしまうのかと首を捻っているのだが…。
「幼平や公績も俺同様逃げ回ってるクチだし、文珪は何処行ったかよくわかんねぇ。子明さんと子敬は大学寮の下見で不在。あと頼りになりそうなのはお前くらいしかいねぇんだ」
ほとほと困り果てた様子で溜息を吐く甘寧。
「それじゃあ阿撞さんと蘇飛さんは?」
「……多分生きてると……思いてぇな……」
遠い目をする甘寧。どうやら甘寧は、銀幡の二枚看板ともいえるこの二人の尊い犠牲があって、ようやくノーマークの丁奉の元へ逃げてきたようである。
丁奉も流石に苦笑を隠せない。
「つーわけだ、ほとぼりが冷めるまでちと匿ってくれないか? 礼は必ずするから」
「お礼なんて…何にもない部屋ですけど、こんなところで良ければ」
急須にポット、更にはお茶菓子まで一通り出し終えたところで、丁奉は甘寧と向かい合う形で座った。
そして悪戯っぽく笑う。
「それにお礼なら、阿撞さんたちにしてあげたほうがいいと思いますけど、ね」
「…それはもちろん」
後輩の鋭い一発に、最早苦笑するしかない甘寧であった。



「…勘弁してよ」
教室へ行けば黒山の人だかり。その中心には私の机。
下駄箱があんな感じだったから大体予想はついたが…机の鞄架けに引っ掛けてある袋包みの数も、机からはみだしている包みの数も…いやもう置ききれなくなったらしい包みが机の上にも所狭しと並んでいる。
異常だよ。はっきり言うけど。
「あ、仲翔先輩、おはようございます」
その中心で、風紀委員の腕章をつけた少女数人を引き連れていた、ライトブラウンのロングヘアが特徴的な少女が、にっこりと笑いかけてきた。
交州学区総代の呂岱、字を定公。色々あって、結果的に親しくさせてもらっている後輩の一人だ。
「…おはよ。ていうか、この状況は…ナニ?」
「いやいや、先輩に心当たりがないとなると私にも解りませんって」
それもそうね、と返して、互いに苦笑する。
話を聞けば、どうやら私よりも先に来ていたクラスメートが私の机の状態を見て、驚いて風紀委員を呼びに行ったらしい。
まぁ無理もない。ほとんど"学園の辺境"とも言える場所柄か、構内の何処かで何か興味を引く事件が起こると皆寄って来てしまう。見回せば、別クラスの同輩はおろか下級生達もわんさか寄って来ている。
「…とりあえず…コレどうします先輩? このままでは、机もろくに使えなくて困りますよね?」
「うん…どこかに置いておける場所とかない? 帰りに取りに来るから」
「解りました、じゃあとりあえず執務室もって行きましょう。ね、たしか使ってない段ボールあったよね、持ってきてくれる?」
定公の命令一下、風紀委員たちはパタパタと駆け出していった。

866 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:19
所変わって…。
「…で…なんで私まで巻き込まれなきゃなんないんですか…?」
「…済まん…本当に済まん」
呉郡寮に程近い公園の茂みの中に、二人の少女が隠れていた。
ひとりは緑がかった髪をショートボブに切りそろえ、小柄ではあるがスタイルの良い童顔の美少女。
もうひとりは流れるようなロングヘアを銀に染め、目鼻の整った長身の美人。
緑髪の少女…陸遜は制服を着ているが、銀髪の少女…周泰は"長湖さん"トレーナーに黒のハーフコート、ジーンズにスニーカーと文句のつけようがない私服。
「しかし何で毎年毎年こうなるんだ…私がいったい何をやったと…」
心底困り果てた様子で空を見上げ、長嘆する周泰。
実はというと、陸遜は午後の授業に必要な教科書を寮に忘れたことに気づき、昼休みのうちに取りに戻ろうとした途中、暴徒の大群に追われていた周泰とばったり出くわし、勢いでその逃亡劇に巻き込まれてしまったのだ。
なんというか…陸遜も始めはその理不尽さに、当然ながら少々ご機嫌斜めの様子であったが、気分が落ち着いてくるにつれて周泰の立場に同情の念を禁じえなくなっていた。
(というか…このひとが人気ないってったら、きっと関羽先輩だって追っかけまわされずに済むんでしょうけどね)
そう考えると、少し可笑しくなって、陸遜は少し笑った。
「…何が可笑しいんだ…?」
それに気づいて恨めしげな目で睨む周泰。
「いえ、別に。ところで先輩、これからどうしましょうか?」
「どうしようか…って言われてもなぁ…去年の様子を見るからに、多分このまま廬江棟に行っても公績も居ないだろうし…」
今頃は自分と同じく、暴徒の大群に追っかけまわされているだろう友を想い、さらに途方にくれる周泰。
陸遜も巻き込まれた以上、流石にあの暴徒の群れに捕まるのは御免被りたいところである。自分の身を守る意味でも、ちゃんとした逃亡経路を見つけ出す義務はあるだろう…そう思うと、彼女の脳裏にある場所が思い浮かぶ。
「…そうだ…今日確か中等部の三年生は午前放課だったから、寮にうちの妹が居るかも」
「え?…あ、そうか呉郡寮か!」
「いくらなんでもあの場所までは誰も考えてないでしょう。身を落ち着けるのはもってこいです」
ようやく安堵の表情を見せた周泰が、感心したように呟く。
「流石は伯言…こう言うのもなんだが、結果的にお前を巻き込んだのは大正解だった」
「いや〜…私としては、大迷惑極まりないんですけどね」
陸遜は苦笑を隠せない。
ふたりは茂みの中をこそこそと、今だ彼女達を探して大路地を行ったり来たりしている暴徒の目を避けるように移動し始めた。



放課後。
しゅんとした表情の、金髪碧眼で巻き髪が特徴的な少女と、耳のようなクセ毛のある黒のロングヘアの少女、そして定公と私が向かい合う格好で、執務室のソファに座っている。
「…こりゃあまた…」
黒のロングヘアの少女…子瑜(諸葛瑾)が、呆れたというか面食らったという感じで苦笑しながらつぶやいた。
その視線の先には、回収されたチョコレートが溢れんばかりに詰め込まれた段ボールが二箱。
実はあれから、休み時間の度に見知らぬ女の子たち(恐らく後輩)に次から次へと押し付けられ、更にひと箱ぶん増えてしまったのだ。
「…なんというか、モテモテじゃない」
「ごめんその冗談笑えない」
我ながら見事な棒読み。きっと表情もなかったかもしれない。
「幹部会にすら仲翔の本性知らない人間が多かったんだから、学園にいるほぼすべての人間は仲翔がチョコ嫌いってコト知ってるわけもないか」
「え? そうなんですか?」
溜息交じりな子瑜の解説に、定公が目を丸くする。
まぁ話してもないことを知ってられてもそれはそれで困る。でも私の記憶が確かなら子瑜に話したこともなかったはずだけど…。
「話してもいい?」
「いいけど…情報源(ソース)は何処よ?」
「昨日、部長に内緒で幹部会のみんなと商店街に行ったときに伯言(陸遜)から。彼女は彼女の妹からあなたの妹経由で聞いたらしいんだけど」
納得。
そういえば妹…世洪の世代はみんな仲がいい。伯言の妹…幼節(陸抗)とかならうちによく遊びにくるしね。
まぁ子瑜の場合、いったい何処から情報を得ているのか解らない事も時々ある。何しろ彼女の身内には、今は故あって課外活動を退かなければならなくなった奇人・諸葛亮が居るわけだし…子瑜はともかく、あの孔明ばっかしは得た情報で何を仕出かしてるか解ったもんじゃない。
「じゃあ当人の口から聞いたほうが早いでしょ。あまりいい話じゃないけどね…」
溜息をひとつ吐き、気が重いながらも私はその経緯を語って聞かせた。


遡る事十年前。
虞姉妹に六人目の妹が生まれると言うことで、身重になった母親は父親の勤める病院に入院してしまい、姉妹のうち八つになった長女と四つの次女、三つになったばかりの三女は、近所に住んでいた父方の祖父母に預けられることとなった。

そんなある日、祖父母がたまたま家を空け、長女は妹二人を監督する大役を仰せつかっていた。
戸棚にはその前日買ったばかりの袋入りチョコレートがあり、祖母からおやつとしてあてがわれていた。
学校帰り、保育園へ妹二人を迎えに行き、そして帰宅。
「ねーねー、おやつまだー?」
しばらく遊んでいた二人の妹が、生真面目にも机に向かっている長女の袖を引いてきた。
時計を見れば、ちょうどそういうものが恋しくなる時間帯。
「はいはい。今用意するから、一緒に食べよ」
「はーい♪」
妹二人を引き連れ、いそいそと台所へ向かう。
ご多分に漏れず甘いものが大好きだった姉妹にとって、袋いっぱいのチョコレートとくればまさに宝の山。
長女は菓子皿にそれをすべて注ぎいれ、皆で行儀良くテーブルに着くと、姉妹で心行くまで頬張り始めた。

「あぅ…」
食べ初めて間もなくのころ、長女はなんだか妙な感覚に襲われていた。
何処かふわふわといい感じなのに、何でか天地がぐるぐると回転してそこはかとなく気分が悪い。そして何より、体が火照ってしまって二月とは思えないくらい暑かった。
「おねーちゃん…どうしたの?」
「お顔がまっかだよ?」
心配して覗き込んでくる二人の妹の顔が、ぶれて一人が三人にも四人にも見えた。
目がちかちかとしたと思ったら、そのまま長女の視界が暗転した…。

867 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:19
「後で知った話なんだけど、祖母が買ってきた袋入りの中に、ウィスキーボンボンが一個偶然に紛れ込んでたらしいの。しかも製作工程のミスで、全然アルコールが飛んでなかったらしくて」
「知ってた人間が言うのも何だけど…なんともありえない話よね」
呆れ顔の子瑜。でも現実に起こったものは仕方ない。
「一応、父さんがすぐ飛んできてくれてね。私の胃の中身まで出して検査してくれたカルテの写しがまだ残ってるけど…見てみる?」
「そんなものって…とってあるものなんですか?」
「裁判沙汰になったからね。証拠品として」
ぽかんとした顔で、はぁ、と相槌を打つ定公。
まぁこんな荒唐無稽な話、鵜呑みにするほうがヘンだ。事実は小説より奇なり、とも言うけど。
「それで三日ほど生死の境をさまよったトラウマでね、チョコの匂い嗅いだだけでも気持ち悪くなるの」
「それだったら仕方ないわね…とのコトですが、どうします部長?」
そうしてさっきから一言も喋らず、俯いている少女に問いかける子瑜。
金髪の少女…長湖部長である仲謀(孫権)さんが此処にきたのも、その手の中のものを見ればなんとなく察しがつく。ひとつは定公の分だろうが、やはりもうひとつは私のためにわざわざ用意してくれたものなのだろう。
もっと早くこのことを話してあげるべきだったと、申し訳ない気分だ。
「…知ってたもん」
「そうですよね〜知ってますよね〜…って、知ってたんですか?」
ようやく口を開いたその言葉に、子瑜だけでなく私まで面食らってしまった。
「伯符(孫策)お姉ちゃんから聴いたんだ。仲翔さんならどんなのを喜んでくれるか知りたくて…だからはじめからチョコなんて買ってないし作ってない」
そういった彼女の顔は至極不機嫌に見えた。
確かに私は、一昨年のバレンタインデーにチョコ交換会をやるって話になったとき、伯符さんや子明(呂蒙)、君理(朱治)など一部にそういう話をしたことがある。孫姉妹はきわめて仲がいいから、よくよく考えれば仲謀さんが最初から知っていても不思議ではない。
でも、だったらどうしてこんな表情を…?
「…本当はボクがいちばんにあげたかったのに…」
「え…」
その一言に、私の心臓がまるで口から飛び出してしまうんじゃないかと思う勢いで跳ねた。
次の瞬間、頬の温度が一気に上がっていく感覚に襲われる。
「あ…えっと…その…」
あとで思えば、自分でも可笑しくなるくらい狼狽している自分が居たと思う。
とても嬉しかった。
かつては決して受け入れてくれないかも知れないと思っていたひとが、今こうして私のことを想っていてくれた事に。
「順番なんて…そんなの関係ないです。あなたの気持ちが、私には、一番…嬉しいから」
「…仲翔さん」
驚いた風に私を見つめてくる彼女。
見る間にその頬が紅潮し、再び俯きながら、その胸に抱いていた包みをそっと、差し出してきた。
「うん…じゃあ、これはボクから。受け取って…もらえるかな?」
「…喜んで」
差し出された包みを受け取ると、彼女はようやく満面の笑顔を見せてくれた。



「…で、結局お前達もここに居るってオチなのか」
テーブルの前に胡坐をかいて、呆れたような眼差しで先客を見やる周泰。
「いやぁ…流石に今年も寒中水泳したら、多分死ぬし」
「つか最終的に頼りになるのは承淵しかいなかったってことでファイナルアンサー」
丁奉の部屋には甘寧のほか、ジャージ姿の凌統の姿もある。
周泰と陸遜は幸運にも暴徒達の目を逃れ呉郡寮に辿り着いたものの、陸遜が頼りとしていた陸抗も、親戚の陸凱、陸胤も夕食の買出しで不在という有様だった。それゆえ、丁奉の部屋に上がりこんでいた。
まぁそれもそのはず、生徒が自炊しているこの中等部寮においては、基本的に人数分の食糧しか用意されていないのだ。それゆえ、この三十分ほど前に命からがら逃げ込んできた凌統を迎え入れた時点で、これ以後も逃亡者が来るだろうことを見越して買出しに出かけたのである。
「まぁお陰で俺達はこうしてのんびりできるわけだがな。お、これで王手だな」
「え…うわ、そう来たかっ!」
流しではお茶の用意をしている丁奉を尻目に、先輩二名はのんびりと将棋を指していた。序盤は凌統の攻勢を許しながらも、残った駒で美濃囲いを完成させた甘寧が形勢を逆転したと言った風の盤面である。
「…てか客分を満喫しすぎじゃないですか?」
「…朝から追っかけまわされた身にもなってよ…あたし此処に来るまで五時間飲まず喰わずでトライアスロンやらされる羽目になったんだから」
陸遜の一言に、泣きそうな表情で反論する凌統。
「一応その代わりと言っちゃなんだが、連中が戻ってきたら俺達が夕飯を作ることにしてるんだよ」
「まぁ、そのくらいしてやらなきゃ罰が当たるな…ん?どうした伯言?」
甘寧が「夕食を作る」といったあたりでびくっと震え、真っ青になってかたかたと怯えている陸遜。
かつて合宿で炊事をやった際、陸遜は甘寧、魯粛、呂蒙の問題児三人組の班に放り込まれ、三人がふざけて作った超激辛スープ(豚汁らしい)の餌食になったことがあった。
それを思い出し、げらげらと笑う甘寧。
「まぁ安心しろって、一応俺様も以後はちゃんと料理作れるように勉強はしてるんだからよ!」
「…秋に紅天狗茸でキノコ汁作ったのは何処の誰だったっけ?」
「…う」
凌統の冷静なツッコミに言葉を失う甘寧。
「あぁ、あの時も大変だったな。仲謀さんと仲翔が完全に出来上がって…」
「傑作なことは傑作だったけどね〜」
「う、煩ぇ! 大体お前等だって美味しい美味しいって人一倍貪り食ってやがったクセに!」
「まぁまぁ、先輩が料理上手なのはうちらも良く知ってますから。あ、こういうのもなんですけど、一応バレンタインデーということでどうぞ」
居間へ戻ってきた丁奉の差し出した、菓子皿一杯の一口チョコレートに、一同は苦笑しながら顔を見合わせた。



「ちわっす。例のもの、回収しに来ましたよ」
しばらくして、交祉棟執務室に数人の少女が顔を見せた。
徳潤(敢沢)、子山(歩隲)の長湖苦学生コンビに、何故か文珪(潘璋)まで。
「あら、早かったわね…てかどうしてあんたまで居るのよ文珪」
しかも徳潤たちは制服着てるのに、文珪だけ何故かジージャンにジーパン、青のチェックが入った厚手のシャツという超私服…多分バレンタインの騒ぎに乗じて学校サボってたのかも知れない。
「チョコ嫌いなのにやたらとチョコを押し付けられてしまうヤツが居るときいて、そのおこぼれ頂戴に来たんだよ。文句あるか?」
しかもなんて言い草だよコイツは。
てかこうもストレートに欲求を言われると最早怒る気もしないから不思議なものである。まぁ確かに彼女の言うとおり、私はチョコを一切食べられない口なのだが。
「しっかし、今年はやけに多いですね〜」
「コレなら三人で山分けしても十分でしょ〜ね♪」
感心したような様子の徳潤に、まるでお宝の山を目にしたみたいに嬉しくて仕方ないといった感じの子山。実は去年もこのふたりにチョコを食べてもらったのである。
「ばっか言え、半分はあたしが戴く。あんた達はこっちひと箱」
「うっわ、なんかとんでもねー狼藉働いてる人が居るよおい」
やや多めに入った箱のほうを自分のほうに引き寄せ、しっかりキープする文珪と、ぶーぶーと遠まわしに文句を言う子山…浅ましいなオイ。
「あんた達ね〜、自分で買いも貰いもしないくせに、ひとのもらい物で…」
「まぁまぁ、私が持っていても仕方のないものだし…私がコレをくれた娘たちの気持ちさえ受け取っているなら、あとに残ったチョコレートはこの娘たちの胃袋に収めてもらったほうがいいわ」
「…そういうものなの?」
そう。大切なのは中身じゃなくて、それをくれたひとがこめてくれた想いだから。
私は中身のそれを食べることは出来ないし、どうしてこんなにも自分のために一生懸命作ってくれるのかは理解できないけど…それでも、その気持ちだけは無性に嬉しかった。

そして私の頭には、さっき貰ったばかりの、緋色のリボンが結いつけられている。
其処に刺繍されている"長湖さん"が、彼女の手によるものであることをちゃんと主張していた。
「大切に、使わせてもらいますね」
「うん」
おそろいの、紺色のリボンを結いつけている送り主が、柔らかな笑みを返してくれていた。



(終わり)

868 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:29
一週間ほど過ぎてしまいましたがバレンタインのお話。


余談ですがベニテングタケは死ぬほどの毒キノコではないです。
バイキングは闘争心をかき立てる為、戦闘前にはこのキノコを食べてトリップ状態になったとも言いますし。
あと塩やウオッカ漬けにして普通に食べるという地方もあるそうで。

まぁ私は喰ったことないですけどね^^A



>北畠様
いやぁ暑いですね良いですねw
スク水大好き人間というどう見ても「人間的にどうよ?」な某も夏が恋しいのであります。

ともかくGJであります(´ー`)b
あぁ、読んでたらなんか急に西瓜喰いたくなって来たw

869 名前:弐師:2006/02/19(日) 19:56
「あ、あのぉ・・・」
「ん?」
声をかけられて、振り返る。
そこには、小柄な、いかにも気の弱そうな少女が立っていた。
何度か、北平棟で見かけたことのある顔だが・・・はて?
「ぜ、単経さん・・・ですよね?」
「ああ、そうだけど。」
「私、田揩っていいます・・・その、弟子にしてください。」
「?」
何を言っているのだろう。変わった人だ。
そういえば、田揩。
そう、そうだ、そんな名前だったな。
ああ、すっきりしたな。
「じゃあ、そう言うことで。」
すっきりしたところで行くか。
「え・・・」
田揩君が唖然としているが、どうしたんだろう?
「あの・・・弟子・・・」
ああ。
そうだった。
つい私は人に言われたことを忘れてしまう。
悪い癖だ、まったく。
「いいけど、何故私の弟子などになりたい?私は裁縫もペン習字もできないぞ?」
「い、いえそんなのじゃなくて、その・・・」
彼女は自分の話をたどたどしくし始めた。
自分の気の弱さ、そんな自分が嫌いで変わりたいということ。
なるほど、それで仏頂面で有名な私のところに。
よし、納得。
「じゃ、そう言うこ・・・」
「待ってください!」
ああ。
なんかついさっきもこんなことが。
これがデジャ・ヴというものか。
「まあ、話は理解した。それで、だ、田揩君。」
「あ、田揩でいいです、弟子ですから。」
「・・・」
私はどうしたらいいのだろう。
ううむ・・・
「あれ〜単さん。どうしたの?」
おや、越君。
助かった。
これで何気なくこの場を・・・
「おお、田さんまで。二人って仲良かったんだ。二人とも仲良くね。それじゃあ、ばいばい。」
ふむ。
これってもしかして気を逸したのではないだろうか?
これが戦だったら飛ばされてたぞ。
って、そんなことはどうでもいい。
まあ、しょうがないか、諦めよう、降伏だ。
「・・・わかった、だが、私は人に何か教えるのは苦手だ。其処のところは覚えておいてくれ。」
「いえ、そんな、そばに居させてもらえるだけで良いんです。」
「あと、私のことも単経で良い。師匠などと呼ばれても困る。」
「はい!単経さん!」

870 名前:弐師:2006/02/19(日) 19:58
それから、一週間ほど彼女、田揩と過ごした。
やはり、そう簡単に性格など変わるものではない、彼女はまだおどおどしていることには変わりない。
だが、少しは変化があった。
私には、何故か常に笑顔で話してくるようになったのだ。
まあ、それは良い傾向なのだろう。
彼女の笑顔を見るのは、私も嫌ではない。
それに、段々と彼女の話を聞くのが楽しくなってきたのだ。
他愛ないような話。
例えば、今日は誰々と話すことができた、こんな話をできた。
私からしてみたら、あまりにも「普通」なこと。
それでも彼女は、まるで子供のように、目を輝かせながら話してくれる。
そしてそのたび、「ありがとう」と私に言う。
「あなたのおかげです」と。
彼女は私のことをまだ凄いと思っているのだろうか?
こちらにしてみれば、彼女の方が偉いと思う。
私も、変わりたいと思っていた。
そう、私は、彼女とどこか同じ部分を持っていた。
それなのに彼女は、変わっていっている。
私を、残して。

「君は・・・偉いな。」
「え、何がですか?」
「いや・・・この少しの間に、君は確実に変わっていっている、それに比べ、私は情けないな。」
「そんなことないです、単経さんだって、変わって来ていると思いますよ?」
「私が?」
「そうです、こんなこと言ったら失礼かもしれないですけど、単経さん、笑うようになりました。」
「私が、笑う?」
「はい、私と話しているとき、楽しそうに笑ってくれてますよ。だから、いつも言うんですよ?私の話を微笑みながら聞いてくれてありがとうって、あなたが微笑んでくれてるから、私も、同じように笑いながら話せるんです、変わって来ていると言うのなら、それはあなたのおかげです。」
「そうか、いや、むしろ、礼を言わないといけないのは私の方だな。ありがとう」
「いえ、そんな・・・じゃあ、お互い様って事で。」
そう言って彼女は笑う、竜胆の花のように。
可憐に、それでいて控えめに。
そんな彼女につられ、私もいつの間にか笑っていた。
笑うというのは、良いものだな。
今は、本当にそう思う。
そう思えるのも、彼女のおかげだ。
彼女が居てくれたから、私も、変わっていけた。
心から、感謝している。

871 名前:弐師:2006/02/19(日) 19:59
単経さんに弟子入りしてから二週間、私と単経さんは、北平棟の棟長室に呼ばれた。
伯珪さんが言うには、私たちに烏丸工の抑えをして欲しいとのことだ。
それまでは、彼女の一つ下の妹である越ちゃんと、その越ちゃんと同じ学年の厳綱ちゃんがその役を負っていたのだが、彼女たちでは抑えきれなくなり、私たちに変わって欲しいと言うことらしい。
私では、力不足かもしれない、だけど、伯珪さんの期待を裏切るわけには行かない。
それに、私一人では無理でも、単経さんがいてくれる。
「わかりました。」
「が、頑張ります!」
「じゃあ、頼んだよ、二人とも。」


漁陽棟を出て、少し北に奴らはいた。
見回りの中、数人の娘しか連れてないが、こんな連中にはこれだけで十分だ。
「田揩、私はあいつらの中に突っ込むから、君は後詰めを頼む。」
「え・・・でも・・・こちらの人数が少な・・・」
「大丈夫、私があんな奴らに負けると思うのか?」
そう言って、私はバイクを走らせる。
皆、敵に突っ込んでいくのは恐ろしいという、伯珪さまですら、そうなのだそうだ。
何故、私はそうじゃないのだろう?
私は狂ってでもいるのか?
皆、そんな私を賞賛しながら不気味がっている。
田揩も、こんな私を見たら、嫌いになってしまうのだろうか?
だが、敵が近づいてくると、そんなことはどうでも良くなった。
連中の一人を、バイクから叩き落としてやる、それで、怖じ気づいたか、あいつらは逃げて行く。
それを私は追い討つ、有る程度痛めつけてやった方が良いだろう。
そして、気付いたら、少し深追いしていた。
まずい、戻らなくては。
そう思ったとき、後方から悲鳴が聞こえた。
まさか、罠?
だとしたら、田揩が危ない。
そう気付いた瞬間、背中に悪寒が走る。
頭が上手く回らない。
血の気が引いていく。
これが、恐怖という物か?
気付けば、私は叫び声を上げながら引き返していた。
田揩・・・!
どうか、無事で。
――――――――私は、生まれて初めて、神に祈った。

872 名前:弐師:2006/02/19(日) 20:00
この娘達は、飛ばさせない。
元はといえば、私の油断のせいだ。
単経さんを追いかけて前進したところに、物影から彼らが襲ってきた。
なんとか一撃目は避けたものの、向こうの方が人数が多く、取り囲まれてしまった。
「皆さん!私のあとに続いてください!」
一点に集中攻撃、包囲をうち破る。
「皆さん、先に退いてください。」
「え・・・でも田揩さんは・・・」
「いいから!早く退いてください!」
私は一人残る、所謂「殿」と言う奴だ。

相手の木刀を摺り上げ、手元を打つ。
突っ込んで来るところに、突きを放つ。
面を打つふりをして、思いっきり逆胴を決める。
襲いかかってくる人たちをあしらっていく、だが、バイクの乗り方は向こうが上、段々押されてくる、まだ倒したのは二、三人程。
もう、無理か。
そう思ったとき、奴らの後ろから、白い学ランを着た男が現れた。
この人は、蹋頓!
烏丸工のナンバー2まで出てきちゃったか、これは私も年貢の納め時ってやつかな。
「ふん、なかなかの根性だな、気に入った。一騎打ちをしないか?子分には手出しさせない。あんたが俺と戦っている間は、あんたの部下の連中を追っかけたりしない。それでいいかい?」
「へえ、話がわかりますね。」
もちろん、ただの強がりだ。
怖い。
とても、怖い。
だけど、私が戦わなきゃ。
「はっはっは、可愛い顔して、言ってくれるねえ!」
何も言わず、私は隙を探す。
バイク同士での一騎打ち、向こうの方が運転技術が上なら、私は一撃に賭けるしかない。
「一撃に賭ける、か?いいぜ、来いよ。」
二人の間の緊張が高まる。
まだ
まだ
まだ――――――――
「よし!」
一瞬できた隙、そこに、私は迷わず突っ込んでいった。
胴を薙払う、しかし、それは紙一重でかわされ、学ランを裂いただけ。
そして、肩に響く一撃。
さっきのは、誘いか。
体が宙に舞い、次の瞬間激しく地面に打ち付けられる。
まずい・・・体が言うことを聞かない・・・
「惜しかったな。」
そんな声も遠く聞こえる。
蹋頓が、階級章に手を伸ばしてくる。
そこに、いきなりバイクが走り込んでくる。
単経さん!?
「貴様・・・よくも田揩を・・・許さん、絶対に許さんぞ!」
単経さん、駄目だよ。
そんな怒ってたら、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ・・・
「ほう、あんた、そいつの友達かい?」
「そうだ。彼女は、田揩は私の親友だ。」
え・・?今、私のこと親友って・・・
「そうか・・・」
新しく出てきた女の放った言葉。
親友。
俺には、使う資格のない言葉。
その言葉を聞いて、今も思い出すのは、俺が守ってやれなかったあいつ。
張純のこと。
俺がもう少し強ければ、あいつも烏桓高でやっていけたはずなのにな。
結局、あいつは此処にもいられなくなって鮮卑高まで逃げて、そこで・・・
くそっ!!
「よし、今日は、退いてやる。」
「な・・・!貴様!逃げるか!」
「勘違いするな、おまえなんかには負けないよ、それに、そんなことよりそいつを早く病院にでも連れていった方が良いんじゃないかい?」
「ちっ・・・」
「じゃあな。」
そう言って、彼は走り出した。
だが、暫くして振り返り、一言だけ、私たちに話しかけた
「親友は・・・大事にしろよ・・・」
その後、私は立ち上がりバイクにまたがろうとした。
だけど、もう意識も遠のいてきて・・・だ・・・め・・・だ・・・・・

873 名前:弐師:2006/02/19(日) 20:01
目覚めたのは、夕方。
清潔な部屋、真っ白なシーツ、此処は北平棟の保健室か。
そっか、あの後、此処に・・・
それまでの経緯を思い出そうと寝返りを打つと、そこにいたのは・・・
「単経さ・・・」
一瞬大声を出しかけたが、すぐに彼女が眠っていることに気がついて、口をつぐんだ。
期せずして凝視することになってしまった、単経さんの寝顔。
思わず、息をのんでしまう。
そこには、いつものクールさより、どこか年相応の可愛らしさを感じた。
「む・・・田揩、目が覚めたのか。」
「え、わ!その!」
今度こそ本当に大声を出してしまった。
恥ずかしい・・・
「よかった・・・本当に、良かった・・・」
しかし、次の瞬間には、彼女は涙を流し始めた。
またもや初めて見ることになった、単経さんの涙。
どうしよう、と思っていると、いきなり彼女から抱きしめられる。
「本当に・・・心配した・・・」
「・・・単経さん・・・」
初めて見る、彼女の無防備で、弱い部分。
そんな彼女の頭に、そっと手を置く。
「大丈夫ですよ、私はここに、ちゃんと居ますよ・・・」
「うん・・・」
「ほら、笑ってください!笑ってる単経さんの方が、綺麗ですよ?」
そう私が言うと、単経さんは、照れたように微笑んだ。
純白のカーテンの隙間から差し込む夕日が、彼女の微笑みを照らす。
それは、今まで見たどんな物より、綺麗だった。

874 名前:弐師:2006/02/19(日) 20:03
ども、宣言と全く関係ない物を書いてしまいました・・・

>冷霊様

二人の先輩達の覚悟が格好いいです。
に、しても!
楊 懐 さ ん の 初 陣
 
気になりますねーw

ぜひそちらも読んでみたいですね。


>北畠蒼陽様

いいですね、夏ですね、堪りませんね!(何が?

な ん で わ ざ わ ざ 建 業 棟 ま で 泳 ぎ に 来 る の か し ら ?


がつぼにはまりましたw
諸葛誕さんもかわいくていやなんとも・・・

本当に夏が待ち遠しくなってきました。


>海月 亮様

凄まじい逃走劇の中、丁奉さんの部屋に集まってしまった皆様方と、仲謀さんと仲翔さんのほのぼのさが最高です!
特に仲謀さん、萌え殺されるところでしたよあなたw


こんな感じの季節ネタが書けるのは流石ですね。
堪能させて頂きました。

あと、関靖!良かったです!
ちょうど私の中のイメージとぴったりですよ!
ありがとうございました。

875 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 22:34
>弐師様
いやいや、貴殿こそGJでござるよ(<何時の時代の人間だw
というか女の子同士の友情は萌えるのでつよ。
不器用なふれあいが何時しか絆に変わる、その過程がよいのです。


で、私なんぞはそれが無残にも砕け散る一瞬もまた好きだとか(オイ
そしてそれがまた新たな絆を生むとかだったらもうさらに以下略w


余談ですが…。
馬忠(阿撞)と蘇飛がどうなったのか知りたい方は>>431を、
甘寧&呂蒙&魯粛がやらかした悪事wについては>>385を参照のこと。

引用失礼。

876 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 22:37
いやまて、>>431は「参照」じゃないな。「参考」ですなw


あと関靖が御気に召していただけたようで一安心でつ^^A

877 名前:北畠蒼陽:2006/02/19(日) 23:43
>海月 亮様
のー、バレンタイン! バレンタインですから!
蒼天長湖部方面軍の連中のバレンタインは……諸葛誕くらいしか思い浮かばないなぁ。あの子に彼氏がいるのは私の中では確定だし(ぁ
あぁ、毋丘倹は多分チョコは作るけど渡せないの。乙女だから。
あ、そうそう。最近思いついたネタで丁奉使いたいと思ってるんですが、丁奉はいつごろから悪丁奉ちゃん予定です? 悪丁奉ちゃんvs某人をかいてみよーかなー、と(笑

>弐師様
ごきげんよう、三国志大戦で公孫サンだけはどう使っていいのか見当もつかない北畠です。というか使ってる人見たことないしっ!
劉虞に至っては登場すらしてませんっ!
あと昔は単経のほうな娘が好きだったものですが最近は田揩のようなストレートな子の可愛さが身にしみるお年頃で、あぁもう!
とりあえずgjですよー。

878 名前:海月 亮:2006/02/20(月) 08:17
>豹変の話
うーむはっきりとは考えてませんが…諸葛誕が飛ぶ頃かも。
帰宅部消滅の頃には間違いなく変わってるかと。


これまでバレンタインという大ネタの主役って言えば関羽だったからなぁ…。

879 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:25
「……聞いてるの、承淵」
黎斐が声をかけてくる。
うるさい。うるさい。うるさい。
他人の戦場に駆り出されてなにをしろというんだ。
ふざけやがって。どいつもこいつもどうせ私の前から去っていってしまうんだ。
強くならなきゃ……
もっと……強くならなきゃ……


新陰流の系譜


眼前の戦場の様子に丁奉は鼻で笑い飛ばした。
まるでお遊戯……
蒼天会はトップクラスのメンバーを総動員してこの戦いに挑んでいる。
こちらはそれに引き換えはるかに小勢。
蜂の一刺しでどの程度のダメージが与えられるものか。
季文もこんなどうでもいい戦いの責任を押し付けられてかわいそうに。
校舎を見る。
あの校舎に立て篭もっているのは今まで敵だった人。
諸葛誕先輩。
蒼天会の中で……蒼天会の今の三年生世代の中でずば抜けて軍事的才能がなく、しかしその圧倒的な政治力を駆使して長く長湖部のマウントを取り続けた女性。
そして毋丘倹の乱で長湖部に身を寄せた文欽先輩もまたあの分厚い包囲網の中にいた。
どうということはない、もともとは蒼天会の内部分裂。
こんなどうでもいい場所でなぜトばされなくてはならないのか。
丁奉はあきれたようにため息をつく。
「季文からの伝令よ、承淵。できるだけ包囲網を崩して欲しい、って」
黎斐が返事もしない丁奉に気分を害したように、それでも事務的な口調で伝えた。
「はぁん? これを抜けろっていうの?」
季文もよほどテンパってるらしい。
まぁ、いい。やれるところまでやるだけ、だ。
そう思い木刀を握った丁奉に1人の人影が飛び込んできた。
それは戦場から離れたところにたった1人でたたずんでいる人だった。
戦場の様子を遠めに見ている一般生徒……
一見そう見える……だが……
丁奉の唇が獰猛な笑みを形作る。
「……承淵?」
丁奉の様子を不審に思ったのだろう、黎斐が声をかけてくる。
「あぁ、黎斐。ちょっとだけ出かけてくる……包囲網の切り崩しはそのあとね」
「ちょ……ちょっと!」
黎斐の呼び止める声にもかまわずに丁奉は駆け出していた。

880 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:26
彼女はどんな思いでこの戦場を見ているのだろう。

丁奉が彼女のそばに近寄ったとき……彼女は遠めに見たときと同じ佇まいでそこにいた。

彼女の目にはなにが映っているのだろう……?

「なにかしら……? 私はただの一般生徒よ」
すでに丁奉が傍によっていることに気づいていたのだろう、背を向けたまま彼女は丁奉に問いを発する。
「今はただの一般生徒だろうとなんだろうと……あなたの名前には意味があるんですよ」
丁奉の言葉に彼女はゆったりろ振り返る。
その顔は不思議なものでも見るような表情が浮かんでいる。
「私の名前に意味?」
……蒼天章なんてすでにないのに、わずらわしいことね。
苦笑を浮かべる彼女。
「有名税ってやつですよ、毋丘倹先輩」
丁奉の言葉に彼女……毋丘倹は苦笑を濃くする。

長湖部に身を寄せた文欽先輩はことあるごとに言っていた。
お前の剣は毋丘倹にははるかに及ばない、と。
同じく新陰流を使うものとして毋丘倹という名前は知っていた。
……私よりも強いのならなぜそうそうにリタイアなどするのか。
私はまだ、ここにいる!
文欽先輩の言葉はただの身内贔屓だろう。
毋丘倹先輩は弱いから、弱いからリタイアすることになったのだ。
弱いから……リタイア……
私の脳裏に誰よりも強くて、でも病気を押して戦場に立ち……私を生かして自分はリタイアした人の姿が浮かんだ。
爪を噛む。強く。強く。
私はその人よりも強いことを証明しなければならなかった。

「それで私にどうしろっていうのかしら。私もそろそろ帰って受験勉強でもしたいんだけど」
困ったように毋丘倹は首をかしげる。
受験勉強……あまりにも眼前の戦場にそぐわない単語に丁奉はあきれたような顔をする。
「勉強もせずに、こんなところにいていいんですか、先輩」
「そう。そうね……」
丁奉の嫌味に、しかし毋丘倹は再び戦場に目を向ける。

「これが……蒼天会3年生の最後の光だからね。私もあの中にいた人間として看取ってあげなきゃいけない」

881 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:26
戦場を眩しそうに見つめる毋丘倹に丁奉は黙り込み……そしてやがて口を開く。
「……るだけですか?」
「ん?」
聞き取れなかった毋丘倹が顔を丁奉に向ける。
「看取るだけですか!? それじゃああんたはただの弱虫だ!」
戦ってる仲間がすぐ傍にいるのに……力があるのに助けようともしない。
ただ見ているだけ!
「私はすでにリタイアした身よ」
苦笑を浮かべる毋丘倹。
「……まぁ、それでもあなたが言うように出ていきたくなるわ。手を差し伸べたい。助けたい」
毋丘倹は言葉を切り……そして再び戦場を眺める。
「でも絶対に助けない。私がいないことを前提で全力で戦ってる親友を侮辱することになる」
「……理解できません」
丁奉の呟きに毋丘倹は肩をすくめる。
「別に理解する必要なんてないわ。考えずに感じろ、なんていうつもりもない。ただそんなもんなんだ、って思っておけばいいわ。さて……」
毋丘倹はゆっくりと丁奉に体を向ける。
「あなたは誰? そして私になんの用かしら?」

なんの用……そんなことなどわかりきっているのだろう。
冬の朝の空のように澄み切った純粋な闘気が風のように丁奉に向かって吹きつける。

これが……これが在校生最強の新陰流の使い手か……

額を汗がつたうのを感じる。
「長湖部虎威主将、丁奉、です」
「あぁ……あなたが、あの……」
眉をぴくんと上げる毋丘倹。
「蒼天章を返上した人間にもケンカを売られれば買う権利くらいはあるのを知ってるわよね?」
「えぇ、そのために売ってますから」
丁奉の答えに納得した表情の毋丘倹。そして……
「!?」
毋丘倹がすばやく太刀を振りぬき、丁奉の右手首を打ち抜く。
丁奉は2歩下がり木刀を構え臨戦態勢に……

毋丘倹先輩は太刀など最初から持っていただろうか?

毋丘倹は最初となにも変わらずポケットに手を入れたまま、そこに立っていた。
「ただのフェイントだから気にしなくていいわよ」
かといってなにも反応されなかったら悲しいものがあるけどね……そういいながら苦笑する毋丘倹。
反応しないでいられるものか。あんなに純粋な殺気をフェイントに使うなんて。
しかし丁奉は顔に笑みを浮かべる。
これだ。
こいつに勝ってこそ私は今よりも強くなれる。
「先輩のエモノがないですね。どうしましょう?」
構えを崩さず、また呼吸を精一杯に落ち着かせながら丁奉は毋丘倹に尋ねる。
「あぁ、いらないわ」
毋丘倹は気軽に答えた。

882 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:27
「……無刀取りでも気取るつもりですか」
上泉伊勢から柳生石舟斎に伝えられた新陰流の極意。
「まさか。あんなのが使えるのは歴史に名前を残すようなバケモノだけよ」
にっこりと笑いながら……
「でも状況を見て利用する、って技術は私程度でもできるわ」
足元の砂を蹴り飛ばす。
こんなものを目くらましにするつもりか。バカにしてッ!?
バックステップしてかわそうとする丁奉の正面……砂煙の向こうから斧のようなものが振り下ろされるイメージ。
慌てて目を向ける。
そこには砂煙を抜け……砂を蹴り飛ばすのと同時に全力で前進していたのだろう毋丘倹が拳を握っていた。
間に合わない!
丁奉は迷わず木刀を捨て、正確に心臓を狙って打ち出される正拳をなんとかガードする。
自分からジャンプしてパンチの衝撃を殺してなお、丁奉のガードした腕に鈍痛が走る。
「あぁ、決めたつもりだったんだけどなぁ」
ぼやくように言う毋丘倹。
「まぁ、そっちも木刀を失ったわけだし、よしとしましょ」
足元に転がる木刀に見向きもせず再びポケットに両手を入れる。
小細工と圧倒的な力。
これが蒼天会最強の戦乙女、毋丘倹。
丁奉は深呼吸する。
間合いは槍の間合い。剣には遠く、ましてや無手の間合いではない。
しかしさっきの毋丘倹のダッシュを見る限り、彼女であればこの間合いを一瞬で詰めることが可能だろう。
……そこまで考えて丁奉は舌を巻いた。
なるほど、さっきのダッシュを見せ付けたのはこの間合いを自分が一瞬で詰められることをアピールし、警戒させるためか。
一挙手一投足に意味がある。ではなぜそれをアピールしなければならないか。
……恐らくは……
ふっと、丁奉の力が抜ける。
「?」
そして構えを解き、ゆっくりと毋丘倹に向かって歩を進めた。
「なるほど。ばれちゃったか」
毋丘倹が苦笑を浮かべる。
あの距離は本来の毋丘倹の間合いではないのだろう。
ただあの間合いを嫌って不用意に丁奉が近寄ることがあれば自分の間合いに入った瞬間に牙を剥く。
「先輩、お互い忙しい身ですし一撃だけで決めましょう」
「賛成だわ」
丁奉が立ち止まる。
毋丘倹が薄く笑った。

何の前触れもなく……
2人が交差する。

「こっちの……勝ちです」
丁奉の拳が毋丘倹の心臓を捉え寸止めされていた。
「そうね。あなたの勝ちよ」
毋丘倹は微笑む。
勝者と敗者が決定する。
風が吹いた。
「戦場はまだ止まらないわ。あなたは自分の剣を振るえる場所に行きなさい」
毋丘倹の言葉に丁奉は頷いた。

883 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:27
特になんでもないんですがあれですよ。
ねぇ? えっと……ごめんなさいorz

884 名前:海月 亮:2006/03/01(水) 19:04
>北畠御大

( ̄□ ̄;)
や…やられた…



おいらが「孫皓排斥計画」のクライマックスに考えてるのってこういう展開ですよまさに。
まぁキャストは違うんですけどね^^A



だんだん「排斥計画」の構想が固まってきたので、いずれリンク先だけ持ってきます。
此処に本文うぷしたらものすげぇレス数食いつぶしそうだし…ww

885 名前:冷霊:2006/03/04(土) 20:34
葭萌の夜 〜白水陥落・壱〜

「劉備が帰る?それホントなの?」
高沛がページをめくる手を止める。
「ああ、何でも荊州校区の方でトラブルがあったそうだ」
楊懐が何やら作業をしつつ答える。
「確か蒼天会の侵攻でしたっけ。皆、その話題で持ち切りですよ?」
劉闡が稽古の手を休め、棒を傍らに置く。
「え?あたしは長湖部が荊州返せってもめてるって聞いたけど?」
「あれ?そうなんですか?」
高沛の言葉に首を捻る劉闡。
「うーん、あたしはそう聞いたんだけど……」
高沛も劉闡に続き、首を捻る。
「どちらにせよ、帰ってもらえるのなら幸いだな。戦力の低下は免れんが、皆が落ち着くのは確かだ」
楊懐が静かに呟く。劉備が来て以来、益州校区では全体的に落ち着きが無かった。
葭萌門や白水門だけでは収まらず、成都棟よりはるばる劉備の顔を見に来た生徒もいた。
一方の劉備も益州校区への挨拶回りをきちんとやっており、益州校区の大半の生徒が劉備の顔がわかる程だった。
「じゃあ、帰る前にもう一回くらい挨拶しといた方がいいかもね。世話になったのは事実だしさ」
「そうですね。それなら何か、手土産とか準備した方がいいですか?」
「んー、そうだね。今の季節だと蜜柑とか温泉の素とかでいいかな?」
高沛が蜜柑を手に取る。そのとき、がらりと扉が開けられた。
「楊懐いるー?」
「あ、孟達さん」
入ってきたのは孟達、現在は法正と一緒に葭萌門の劉備の手伝いをしつつ目付役を務めている。
「劉闡も一緒?なら丁度良かったわ」
「ほうひはほ?ははひはひひはひは……」
「高沛、飲み込んでから話せ」
楊懐が冷静に言う。
「えっと、どうなさったんです?」
劉闡が孟達に駆け寄る一方、高沛は口一杯に頬張った蜜柑を何とか飲み込もうとしていた。
「三人に招待状だそうよ、ホラ」
孟達は足を止めると、駆け寄ってきた劉闡に招待状を差し出した。
「劉備が荊州に帰るって話は聞いてるわよね?」
「聞いた聞いた。荊州の方で何やら揉め事だって?」
高沛がごろりと寝転がり、孟達を見上げる。どうやら炬燵から出て来るつもりはないらしい。
「そう。だから、世話になったお礼も兼ねてパーティーを開くそうよ。」
「パーティーですか?そんなこと、わざわざして頂かなくてもいいのに……」
劉闡が招待状を受け取り、申し訳なさそうに小さくなる。
「タマも来るのか?」
楊懐がふと疑問を口にした。
「急な話だったから劉璋さんは来れないみたい、残念だけど」
孟達が小さな溜息をついた。楊懐は耳だけを傾けている。
「その代わりってわけじゃないけど、それも兼ねて劉闡には是非とも来て欲しいって言ってたわよ」
「わ、私もですか?」
自分の名前を呼ばれ、思わず声が裏返る劉闡。
「えっと、私はその……」
劉闡が申し訳なさそうに楊懐達を見やる。
「三人にって言ったでしょう?今夜はもちろん空いてるわよね?」
孟達が高沛を見下ろす。
「うーん……見張りは皆に任せてもいいし、問題無い……かな?」
高沛が首を傾げ、楊懐の方を見やる。
「……ん?ああ、必ず行く」
楊懐が腕組みを解き、孟達に視線を移す。
「わかったわ。それじゃ、今夜六時に葭萌門に来て頂戴ね」
「りょうかーい」
高沛が手をひらひらと振って、孟達の後姿を見送る。
「高沛さんどうしましょう!?お土産の準備とかまだ出来てないですよ!」
劉闡が戸棚や冷蔵庫の中身を慌てて確認する。
「お土産ねぇ……どうしよっか?身嗜みも整えないといけないし……っと、楊懐」
「ん、すまない」
高沛が楊懐に櫛を放り投げる。楊懐は櫛を受け取ると、鏡台に向き直る。
「六時から、か……」
長い髪を梳かしながら、楊懐は再び呟いた。

886 名前:冷霊:2006/03/04(土) 21:18
いよいよ白水門の本編開始してみました。
遅筆ですがのんびりと書き連ねております。
三部構成のつもりですが、勢いとノリによっては増えるかもですw

>北畠様
血を血で洗う展開ですかー……
ある意味では緊迫した展開になりそうな気がしております。
血が流れるかどうかは……予定は未定ということで。

それにしても建業棟までわざわざ行くとはw
諸葛誕も諸葛恪も何だか苦労性な印象を受けつつありますw
暑いのは苦手ですが夏はやはり好きですねぇ、イベント事も結構多いですし。

>海月様
バレンタイン、甘いものが苦手な人にはつらい日ですね。
ふと蒼天で最も多くチョコを受け取っているのは誰かと気になってみたりw
孫晧排斥計画ですかー……三国志の終盤のイベントですから気になっております。

>弐師様
単経に田楷とは……やられました。
公孫サン陣営への印象が次々に変わっておりますw
激しくGJですよー。

楊懐の初陣に関しては劉焉周りを暖めてからになるかもですね。
過去ログより劉焉周りをしっかりと調べておかねばですね。

887 名前:海月 亮:2006/03/05(日) 01:34
>冷霊様
お、白水門の攻防ですな。
この展開を見ると、かなり濃いものが期待できますな。


あと、バレンタインの話
>>431もそうですが、過去ログ読むと恐らくは関羽かと。あと張任かな。

そして私・海月は甘いものは好きだけどチョコは苦手というひねくれものです^^A

888 名前:弐師:2006/03/05(日) 11:20
今日もまた、屋上でうたた寝をする。
つまらない授業をほっぽりだして、私はここに来ていた。
授業が解らないのではない、解るから、つまらないのだ。
あんな風に、他の人たちにも解るように、ゆっくり、丁寧に進んでいく授業など、つまらない。
もちろん教師達は正しい、わかりやすいように教えるのは、彼らの仕事であり、それが当然の事なのだ。
それに馴染めない、私が異端なのだ。
まあ、だから、というわけでもないのだけれど、いつしかここで、授業をさぼって一人で寝るのが習慣となっていた。
一人で、
そう、独りで。
「あれ、其処にいる人、どなたですかぁ?此処は立入禁止だよ?」
うとうとしているところに、急に声を掛けられ、そちらへと顔を向ける。
其処にいたのは、栗色の髪の少女。
そうだ、この人は確か・・・
「棟長さんの妹さんか、こんな場所に何の用?」
そう、彼女は確か公孫越と言って、この北平棟の棟長である公孫サン先輩の妹だった。
「えっとね、「授業をさぼってばっかりだけどテストの点は良い」って言う人類の敵見たいな娘が私の同級生に居るって聞いたからね、探してたんだ。よろしくね
厳  綱  さ  ん  ?」
にっこりと、挑発するかのように微笑む彼女。
ご丁寧に、私の名前の部分にアクセントをつけてくれた。
なにが「どなたですかぁ?」だ、まったく。
最初から私目当てか。
棟長の妹って言うから、ただの真面目な娘かと思ってたが、なかなか、食えない娘じゃないか。
面白い。
「ふふ、人類の敵とは言ってくれるじゃない。」
「だって、そうでしょう?私みたいなお馬鹿さんには貴女の存在はもはや犯罪だよ?」
また嘘?
この娘は、一年生どころか、上級生にも負けないほどの知謀を持っている。
ただ、それを表に出さずにこにこしてるだけ。
ほんとに面白い娘。
「で?結局何の用?人類の敵をやっつけにきたのかしら?」
「まさかぁ、そんなことしないよ。ただね、会いたかったの、厳さん、あなたにね。」
それから毎日、彼女は屋上に来た。
くだらない言葉遊び、だけど、どこか私のことを探っている。
そして、ある日彼女は遂に私に自らの目的を打ち明けた。
「ねえ、私のお姉ちゃん・・・公孫伯珪に仕えない?」
何だ、結局それ?
実を言うと、同じ事を劉虞先輩のところから言われていたのだ。
劉虞先輩は、優しく、慈愛の心にあふれた、女神のような――――――――
――――――――そんな、とてもつまらない人。
だからといってそんな彼女と真逆な公孫サン先輩に協力する気もない。
正直、興醒めだ。
「興味ないわね、他の、もっと真――――――――

他の、もっと真面目な人にでも言ってみたら?
そう言いかけたところに、彼女の声が割り込んできた。
始めて会った時みたいな、誘うような声で――――――――

「退屈なんでしょ?」

タ イ ク ツ ナ ン デ シ ョ ?

「別に?何でそう思うのかしら?」
動揺を悟られないように、慎重に声を絞り出す。
とことん、面白い娘だ、的確に心を攻めてくる。
「嘘・・・ふふ、厳さん、嘘は良くないよ?」
「誰が嘘なんてっ・・・!」
思わず声を荒げてしまう
「ほらぁ・・・そんなに怒らないの。可愛い顔が台無しだよ?ふふふ・・・」
ちっ・・・危うくこの娘に乗せられるところだったわ。
「解るよ、だって、私も退屈だったからね・・・
くだらない授業、くだらない友達、くだらない毎日。そうでしょう?
何もかもつまらない、世の中馬鹿ばっかり、何か物足りない・・・
・・・貴女は飢えている、渇いている。」
自分の満たされない心を見透かされ、思考回路が破裂寸前になる。
「だから、どうだと言うの。」
そう言って私は、彼女から顔を背ける、私にできる抵抗は、最早それだけだった。
しかし、彼女はそんな私の顎をつかみ、自分の方に向け、私にとどめを刺すように、耳元で囁いた。



「私なら、貴女の心を満たしてあげられる・・・」


よく小説などで、悪魔の誘惑と言う物がある、まさしくこんな感じなのだろう。
この錆び付いた心に、熱い血が通っていく。
もう、止められない。
「わかったわ、だけど、貴女のお姉さんの為じゃない。私の渇きを満たすため。
それでいいかしら。」
「ふふ・・・御自由にどうぞ。よろしく、厳さん。」

面白い事になった。
これが、私の望んでいたことなのだろうか?
いや、そんなこと、どうでも良い。
今、私は楽しんでいる、こんなにも愉快な思いは初めて。

それだけで十分だろう――――――――

889 名前:弐師:2006/03/05(日) 11:21
>北畠 蒼陽様

格好いい承淵アンド毋丘倹に萌え燃えですよw
後期の人たちは殆どわからないので、毎回イメージが塗り替えられていきます
にしても、やっぱり一瞬の勝負っていいですね。
自分も剣道をしてるのでそんな緊張感大好きです。
にしても三国志大戦の公孫サン・・・イラストはとても男前なのに・・・
劉虞に至っては登場すらしてないとは・・・
まあ、でも董卓も袁紹もいるようなので、そちらに望みを・・・

>海月 亮様

孫晧排斥計画、楽しみにしてますです。
呉は自分も好きなので。
張布・濮陽興でしたっけ?廃位しようとしたのは。
間違ってたら済みませぬ・・・


>冷霊様

白水門、来ましたね。
いままであまり注目してなかった東州の皆さんの物語から目が離せません。
印象が次々に変わっているのは私もですw





にしても、我ながら何故越はこんなキャラに・・・orz

890 名前:北畠蒼陽:2006/03/05(日) 16:23
>冷霊様
きたきたきたきたぁぁぁぁぁッ!
うふふ、これからが楽しみな展開じゃありませんか。
血なんて流さなくてもそれ系の展開でおなかいっぱいですよ。
うぅふ、楽しみ。がんばってくださいね!

>弐師様
んー、これまた私好みのナンパですね(ぇー
越っちゃんがまたもう、いい雰囲気じゃないですか!
GJ!なのですよー!
ちなみに今、董卓は大ブレイク中のカードでネコも杓子も董卓って感じです。なので使ってあげません(笑
袁紹はあんまり人気がないカードですけど弱くはないですよ〜。今、試行錯誤してなんとか使おうと必死になってます(笑

891 名前:海月 亮:2006/03/05(日) 18:36
>弐師様
悪魔の囁きは何処までも甘いのですな( ̄ー ̄)
私もこういう展開大好き。いやマジで。


そして廃位計画の話。時代的には、
1.濮陽興、張布
2.陸凱、丁奉、丁固
の順です。1は決行前に孫皓がふたりを粛清して、2は実行には至らず終っています。

以降はぐだぐだで、万揩烽モと不満を漏らしたのが原因で留平もろとも粛清されています。
そのあとにも賀循、楼玄、王蕃といった連中が孫皓の逆鱗に触れて殺されていますが・・・
陸凱の件にしても、陸凱伝に触れられているのみで、真偽のほどははっきりしてないんだそうですよ。

まぁだからこそいじくり甲斐があるわけでwww

892 名前:弐師:2006/03/11(土) 17:57
あ〜あ、暇だなぁ。
私は、いつも厳さんで遊んでる屋上に寝転がって、空を見ている。
仕事が、無い!
私たちのルールは「自分の仕事は自分で、己が領分を越えるな」なので、自分の仕事が終わるとかなり暇だ。
仕事中の厳さんでもからかって遊ぼうかな?
あ、単さんだ、どうしたんだろ。
あの人は厳さんと違って乗りが悪いからなぁ、冷静すぎてつまんない。
弱点の田さんも弄りにくい人だし・・・
そんなことを勝手に考えていると、彼女は私を見つけて話しかける
「おや、越君じゃないか、伯珪さまが呼んでいたぞ。」
「え、本当ですか?ありがとうございます。」
よかった、このままだと暇で暇で死ぬところだった。
跳ね起きて、一直線に階段に向かう。
「じゃあ、失礼します!」
「あ、ああ。」
まったく、相変わらず元気な娘だな。
だが・・・何か彼女には引っかかるところがある、何が、とは言えないが、彼女は自分自身を隠している気がする。
その時、一陣の風が、吹き抜けた。
まるで、彼女のことを、私の頭から追い払おうとするかのように――――――――



「お姉ちゃん、入るよ?」
「ああ、越。よく来てくれたね。」
そう言って、お姉ちゃんはいつものように私に微笑む。
本当に、この人は私の誇りだ。
「それで、用というのはだな・・・」
言いにくそうに、お姉ちゃんは私にそれを告げた。
袁術先輩への、使い。同盟の強化のために白馬義従の人たちを十人くらいつれて、彼女の元へ行くということだった。
はあ、あの人のところに行くのか。
お姉ちゃんは、私が彼女に好意を抱いてないのを知っているはずだけど。
「そう嫌そうな顔をするな。仕様がないことだ。劉虞さんも自分の妹を送ったんだ。
本来なら範に行ってもらうところだが、生憎範には張燕さんの所に行ってもらっているから。」
「うん、わかってる、せいぜいあのお嬢様のご機嫌を損ねないように気をつけるよ。」
「ああ、済まないな。頼んだよ。」
「ふふ、任せといてよ!」
そう言い放って、私は棟長室を飛び出した。
よし!やりますか!



疲れた。
全く、確かに以前よりはずっとましだが、デスクワークはつまらない。
やはり人間嫌なことをしたら疲れるわけで・・・
「あ!厳さん!もう仕事終わったの!?凄いね!早いね!」
疲れてるときにはあまり会いたくない奴が来た・・・
なんでこんなに元気なんだこいつは・・・
「えっと、まあ、何て言うか、とりあえず越、落ち着け。」
「だって、これからお使いだよ、テンション上げないと!」
「え?」
それは初耳だ、いったい誰の所に?そう言えば、詔勅が出たとか言って劉虞先輩が袁術先輩の元に兵を送ったらしいが・・・ならば袁術先輩か?
「そうだよ、その通り。袁術先輩のとこ。」
「そうだったんだ・・・って私は何も言ってない!」
「ふふ、顔を見れば分かるよ。」
こいつは・・・本当に疲れる。
でも、逆に言えばこいつぐらいしか私を疲れさせられるような奴は居ないし、それはそれでいいのかも。
って何を考えてるんだ、私は。
「じゃあ、いってきま〜す!お土産はいらないよね?」
そう言って、あいつは笑い、私に背を向ける。
あたりまえでしょう、と言い返そうとしたが、その言葉は胸に詰まって出てこなかった。
何故か、あいつが帰ってこないような気がしたから――――――――
私が何も言えないでいると、あいつは不思議そうな顔をして振り向いた。
「ん?どしたの?」
「いや、その・・・ちゃんと、帰ってきてね。」
「おやおやぁ?ラブコールですか?わかりました!厳綱姫!必ずこの公孫越、貴女の元に!」
「違っ・・・別にそんなつもりじゃ・・・!」
「ははは、わかってるよ、安心して。私は、ちゃんと戻ってくるから。」
静かに笑いながら、あいつはそう言った。
だけどその笑顔が、さっきの背中以上に儚く見えて、私は、目を背けた。
「どうしたの?赤くなっちゃってさ。」
「うるさい!元はといえば貴女が・・・!もう、知らない!とっとと行けばいいでしょう!」
「ふふ、はいはい、言われなくても行きますよ〜。」
そう言って、いつもの意地の悪い笑顔で走っていった。
大丈夫だ、きっと私の杞憂で終わる。
あんな憎たらしい奴が、そう簡単に飛ばされるはずはない。

きっと・・・そうだ。

893 名前:弐師:2006/03/11(土) 17:59
> 北畠蒼陽様


とりあえず、越を気に入ってもらえたようで。
董卓大ブレイクですか、それはそれで楽しそうですね。
そして袁紹はあんまり人気が無いんですかそうですか・・・
とりあえずルールとか全然分からずにイラストだけで判断してますw
魏続が妙に格好いいのがツボですw


>海月 亮様

ふむふむ、勉強になります。
丁奉さんは好きなんですが、陸凱さんなんかは海月様の紹介で初めて知りました。
呉は2代目世代はあまり分からないです・・・
では、期待しています!

894 名前:雑号将軍:2006/03/12(日) 15:10
えーと、その…はじめましてじゃないけど、はじめまして。雑号将軍です。
皆さんの作品、読ませて頂きました!

> 北畠蒼陽様
なんか、毋丘倹格好良くないですか!?これはもう、三國志\の毋丘倹の武力と統率を90に編集するしかないですね!
お見事でした。

>冷霊様
お見事です!白水関をここまで再現されるとは!そんな偉そうなこといいながらも、僕は演義でしか白水関のあたりは知らないんですけどね。
これからの展開に期待しておりまする。

>弐師様
それがしめも越殿はお気に入りとなりました。いや横山三国志でも「兜(ていうかツノ)がいいなあ」と一人で思っていたのですが、今度はこのなんとういうのか小悪魔な感じがよいですなあ。

それがしめも何か書こうと思うのですが、難しいものです…。大学受験と言う名の戦に巻き込まれ始めたので…。

895 名前:冷霊:2006/03/22(水) 14:26
葭萌の夜〜白水陥落・弐〜

夕日がもうじき沈む。
「もうすぐやな……」
劉備は一人、夕日を見つめながら呟いた。
「悪いけどウチはここで止まるわけにはいかへん……」
ぐっと拳を固める。
それは皆の誹りを受けるかもしれない恐れとそれに対する覚悟の表れであろうか。
士元とも十分に話し合って決めたことだ。
だが、ここまで着実にやってきたが為に踏み切れない。
「孔明なら……いや、気にしてもしゃあないな」
ふと漏らす一言。士元が頼りになるのもわかっている。
だが、それ以上に孔明という存在は彼女の中で大きくなっていた。
「姉貴、どうした?」
不意に後ろから影が差す。
「ん?いや、次は誰のネタで行こうか思うてな」
劉備は振り返り、劉封にニッと笑ってみせる。
「次のネタねぇ……」
劉封は少しだけ腕組みをし、考え込む。
「そうだ。法正さんや孟達さんとかどう?」
「孟達はもうちょいしてからの方がええやろ。法正は……一考の余地はありそうやな」
何やら笑みを浮かべつつ手帳に書き込む劉備。
「お。ここにいたんだねぇ」
後ろから声がかけられる。
「ホウ統はんか。どないしたんや?」
劉備が振り向く。そこにいるのはホウ統だった。
今回の張魯征伐……いや、蜀攻略の軍師である。
「劉備さんにお客さんさね。なんでも孟達さんが話したいことがあるんだとさ」
「孟達が?今頃何の話やろ?」
手帳を仕舞うと劉備はホウ統に目を向けた。
「ま、一応聞いといてやりなよ。いい報せだといいねぇ」
ホウ統はくいと管理棟の方に視線をやる。
「管理棟やな?わかった、すぐ行く」
劉備は歩き出そうとして、もう一度だけ夕日の方を振り返った。
「姉貴?」
劉封が止まった姉を怪訝そうに見やる。
すると突然、劉備がパァンと己の頬を叩いた。
劉封が驚きの表情を見せる。
「ウチはウチのやりたいことをやる……それだけや」
ぼそりと呟き、劉備は葭萌門へと向かう。
「そう、うまく行けばいいんだけどねぇ……ホント」
劉備とその後ろを付いて行く劉封の姿を見送りつつ、ホウ統は呟いた。

896 名前:冷霊:2006/03/22(水) 14:31
葭萌の夜〜白水陥落・参〜

「孟達、首尾はどないやったん?」
「問題無しね。三人とも慌てて準備してたわよ」
「そうか?そんなら大丈夫やな」
葭萌門管理棟。
部屋には劉備と孟達の二人きり、劉封は只今お茶を注ぎに行っている。
「で、話したいことってなんや?なんぞ、向こうさんの情報でもあるんか?」
孟達が僅かにかぶりを振った。どうやら情報を持ってきたわけではないらしい。
僅かに息を吸う。そして孟達ははっきりとした声で言い放った。
「蜀を取った後、貴方はどうするつもり?」
部屋の空気が止まる。
一瞬だけ孟達の視線を正面から受け止め、劉備は口を開いた。
「蒼天会に対抗出来るだけの勢力を作るだけや。蒼天会や長湖部の連中とは肌が合わんしな」
真面目な口調。滅多に見せない表情に、孟達は僅かに息を呑んだ。
「そやけど……」
不意に口調ががらりと変わった。
「ウチの周りにおる奴等と楽しい学園生活を送る。これが一番の目標や」
劉備がニッと笑ってみせた。
「その為やったらウチは何でもしたる。それがウチらの夢やからな」
本心からの台詞なのだろう。孟達にもそれが伝わっていた。
鬼にも仏にもなれる人物……それが劉備なのだと。
「なんや?劉璋はんの心配しとるんか?」
一瞬の間。
「ま、まあね。していないと言ったら嘘になるわ」
孟達は視線をそらし、窓の外に目をやる。外は次第に暗くなりつつある。
「そやなぁ……劉璋はんには雲長と一緒に荊州棟でも頼もうか。あっちなら治安もええし、劉璋はんには合うてると思うで」
劉備は立ち上がり、窓から外を眺めた。孟達の反応はない。
「なんや?安心してぇな。もちろん、東州のこともまとめて面倒見るつもりやで」
その言葉を聞いた途端、孟達の顔から表情が消えた。
ギィンッ!!
次の刹那、劉備のハリセンは孟達の短杖を受け止めていた。
「劉備……やはり君とは分かり合えない」
「そら残念やったな。東州の纏め役をオトせたら楽やったんやけどなぁ」
素早く両者は距離を取る。
「多分楊懐はんの方やろ?アンタならウチのこと、わかる思うてたんやけどなぁ」
残念そうに呟く劉備。孟達がマスクを掴み、剥ぎ取る。その下から現れたのは楊懐の顔。
「分かっているつもりだ……だからこそ渡せない」
楊懐は短杖を構え直す。
「そんならどうして劉璋はんにこだわるんや!今のやり方やったら益州は……」
「わかっている」
きっぱりと、しかし強い口調で言い切った。
「今のままでは蒼天会どころか張魯にも勝てないだろう。タマは益州校区を統べる器ではない」
「うわ、きっついなぁ……」
劉備が軽く苦笑いを浮かべる。
「だが……」
楊懐が再び口を開く。
「行き場の無い私達に場所をくれたのが君郎さんだった。趙イさんが私達が問題起こしたから追い出そうとしたとき、タマは言ってくれた。私達はここにいてもいいのだ、と」
両者の間に流れる緊張した空気は変わらない。
「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」
静かながらも強い口調。
「例え、ウチらが益州校区を劉璋はんに任せる言うてもか?」
劉備が一瞬、窓の外へと注意を向ける。
「タマと君、どちらが優れているかは自明の理だろう?頭は二つも要らない」
「それは関しては同感やな」
楊懐と劉備、互いに笑みを浮かべる。
だが、両者の瞳は真剣そのものである。
「姉貴、お茶淹れてきたけどー……」
「ホウ統さんが伝言があるってー……」
劉封と関平がやってきたのはそんなときであった。

897 名前:冷霊:2006/03/22(水) 15:03
悩んだ挙句、四話構成になっちゃいそうです……冷霊です。
白水門、こういう形になっちゃいました。
劉備サイドもちょっぴし書いてみたかったもので……。
白水関って正史に記述がほとんどない場所ですからねぇ。
やはり蜀としては細かいところを伝えるわけにはいかなかったのかな、とか思ってしまいます。
次は高沛の見せ場が……うまく作れるといいなぁ、と。

>弐師様
正史を見てると越って、袁術繋がりで孫堅と共に戦ってるんですねぇ……。
こうしてみると袁術って意外と人間関係の核となってるのかも?w

そういえば厳綱もこの後の界橋の戦いで麹義とやりあってますし、
界橋の戦いを諌めたという話も聞きませんし……こういう絆があったのかもと想像してしまいますね。

>北畠様
静かに始めてみました。
確認すると楊懐の方が高沛よりも上の立場だったようで、ある意味こういうのもありなのかなぁと。
正史では二人とも酒宴の際に二人して斬られてますが。
劉闡の記述がないので、密かに悩んでたりしてますが……きっとなんとかなるでしょうw

>雑号将軍様
演義も実は正史とそこまで変わってはおりません。
ただ、楊懐が匕首を帯びていますが、暗殺しようとしたとの記述は確かなかったかと。
華陽国志やら劉焉・劉璋伝を只今読破中で御座いますw

898 名前:海月 亮:2006/03/25(土) 23:59
何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。
だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。
普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。
「…間に合うのかな…?」
自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。
「あたしが…あの武神を打ち倒すのが先か」
その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。


-武神に挑む者- 第一部 至上命令


少女…呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。
学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。
そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。
それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。

しかし。
彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。
南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。長湖部最古参のまとめ役でもあった程普、黄蓋らも時を同じくして引退していった。
公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。
魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。

在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。
しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。


「…やっぱり厳しいなぁ…」
長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。
名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。
このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。
「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」
「やっぱ厳しいん?」
「うわ!」
不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。
見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。
「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」
「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」
「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」
「なんとなく〜」
その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。
しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。
「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」
孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。
「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」
「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」
呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。
「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」
「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」
「え…?」
呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。
「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」
「うん…頑張ってみる。おおきにな」
「礼言うトコじゃないよ。あたしが勝手に思っていることなんだからな」
「うん」
自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。
人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。

899 名前:海月 亮:2006/03/25(土) 23:59
翌日の昼休み。
混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。
「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」
「ん?」
隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。
「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」
「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」
「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」
「うーん」
サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。
実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。
「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」
「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」
「うちを? でも…」
「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」
自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。
「マネージャーとはどうなんかな?」
「マネージャー?」
「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」
「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」
数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。
そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。

「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」
「あ…えっと、それは」
狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。
明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。
昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。
「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」
「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」
「あ、だからその、それはちょっとした…」
ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。
すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。
そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。
「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」
「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」
「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」
「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」
「だからそうじゃないんです!」
必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。
「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」
そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。

その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。
丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。
「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」
遊び半分ではない。
彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。

900 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:01
呂蒙は様々な折衝事を孫皎に任せ、たまたま陸遜が出張ってきている丹陽棟を訪れていた。
その棟内に足を踏み入れてすぐ、廊下の向こうから出てきた一人の少女が呂蒙に気づき、駆け寄ってきた。
「や〜、また珍しいお客さんが来たもんねぇ」
「これはこれは君理棟長殿。あんた自らの出迎えとは恐れ入るな」
襟にかかる程度の柔らかなショートカットの黒髪を揺らし、その少女…丹陽棟切っての顔役・朱治が笑う。
「まぁこんなところで立ち話もなんだし、ちょっと寄ってく?」
「うーん…そうだな、たまにはゆっくりさせてもらおうかな」
呂蒙とてそう暇があったわけではないが、そもそも彼女は此処へ人探しに来ていたわけだから、それなら顔役である朱治に話を聞いたほうが早いと判断した。
「そーかそーか。ね、ちょっとお茶用意してもらっていい?」
「はい」
傍らに寄り添っていた少女が恭しく一礼して立ち去ると、呂蒙も朱治に伴われるまま階段を上っていった。
「随分、規律が整っているもんだな」
周囲をざっと見回し、思わず感嘆する呂蒙。
棟内に落書きのようなものは一切なく、廊下で無駄話しているような生徒もいない。そしてすれ違う少女達も軽く会釈し、挨拶して立ち去っていく様子は、長湖部の本部がある建業棟にも見られないものだった。
「コイツもやっぱり、あんたの人徳のなせる業かい?」
「いやいや、とてもじゃないけどあたし一人じゃこうはならないさ。ほとんど仲翔のお陰さね」
「仲翔だって?」
意外な人物の名前を聞き、呂蒙は鸚鵡返しに聞き返した。
仲翔…即ち会稽の虞翻も、呂蒙や朱治と並ぶ"小覇王"孫策時代からの功臣の一人だ。確かに彼女みたいな"キレるとコワい"タイプの文治官僚(ビューロクラート)がいれば、このくらいの状況を作り出すのも朝飯前だろうが…。
「確かあいつは幹部会にいたんじゃなかったのか?」
「それがねぇ…」
朱治は苦笑いして、
「あの娘、どういうわけか知らないけど、唐突にこっち寄越されたのよ。別に幹部会で何かやらかした話は聞かないんだけど…どうもあの性格だからね、丹陽の風紀更正の名目で厄介払い食らわせられたのかもしれないわ」
と肩を竦める。
虞翻は確かに経理に強いし、仕事振りも真面目なのだが、その生来の真面目さゆえか自分が正しいと思ったことは梃子でも曲げない性格だ。孫権も孫権で同じくらいに意地っ張りなものだから、普段何気ないところからでもかなりの軋轢が生じているだろうこと位は、容易に想像できた。
「なるほど…確かにそういう理由付けされたら、流石の子布(張昭)さんも何も言えないだろうな」
「まぁ、お陰で私は助かってるんだけどねぇ…」
ふと、校庭の方へ目をやると、一人の少女とすれ違った二人組の少女が、眉をひそめてこそこそ言っているらしい様子が目に映る。
すれ違ったプラチナブロンドの少女は、それを意に解するでもなく、そのまま歩き去ってしまう。
「相変わらずだなぁ…仲翔のヤツも」
その様子には流石の呂蒙も苦笑せざるを得なかった。


「…陸伯言? まぁ確かにあの娘も此処にいるけど」
執務室の一角、朱治の趣味で設置された畳三畳のスペース、お茶の用意されたちゃぶ台に二人は向かい合う形で胡坐をかいていた。
そこで思いもがけぬ名前が呂蒙の口から出たことに、朱治は小首を傾げた。
「どうしてまたあの娘の名前が? 確かによく働く娘だけど、そんな目立って何かすごいトコもないような気もするけど…」
「そいつは悪いけど詮索無用で頼むわ。で、今あいつは何処に?」
「うーん…あの娘そこらじゅう動き回ってるからねぇ…呼び出す?」
あぁ頼む、という言葉が喉まで出掛かった呂蒙だったが、何故かそうしてしまってはいけないような気がして止めた。
冷静になって考えてみれば、陸遜の件に関する証言は丁奉からしか得られていない。
合肥では確かに彼女の指揮振りを実際目にしているものの…まだまだ自分の中では彼女に対する評価材料が少なすぎる。
「いや…今日は余裕があるし、散歩ついでに探してみるよ」
「そお?」
丁奉の言葉を疑うわけではないが…だがその言葉を信じればこそ、いきなり面と向かってしまえば、陸遜は警戒し、その本音を明かそうとはしないだろうと呂蒙は思った。

901 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:01
それから数刻の後。
普段は利用することすらない豫州丹陽棟の地下食堂に、ふたりの少女がやってきていた。
放課後、暇をもてあました生徒の何人かや、あるいはマネージャーたちが活動計画の話し合いに利用するなど普段は賑わっている場所にもかかわらず、そのときはそのふたりしかいなかった。
ひとりは呂蒙。
もうひとりは緑色の髪をショートボブに切り揃えた、少々気弱そうな印象を与える少女…彼女こそが、探し人の陸遜、字を伯言その人であった。
「…あの…何の御用ですか?」
「あー、急に呼び出して悪かったな。うん、用事といえば用事。だが少しその前にあんたと話をしておきたくてね」
恐る恐るといった感じの陸遜をこれ以上警戒させないよう、呂蒙は勤めて自然に振舞った。
「…お話」
鸚鵡返しに聞き返す。
ここまで来る間にも呂蒙は、それとなく陸遜の一挙一動をそれとなく見ていた。
確かに一見、何処にでもいるごく普通の少女。
そして何より、かつて自分や甘寧から散々な目に遭わされたというトラウマがあるような様子も、今のおどおどした態度を見れば疑いようがなく見える。
しかし、呂蒙は確かに、その仕草の諸所に違和感を感じ取っていた。

陸遜がかつて自分の考えるような少女であったなら、恐らくどんな手を使ってでもこの場から早く逃げたいと思っても、結局自分の気の弱さ故最後まで引きずられてしまうだろう。
だが、呂蒙は陸遜が、今この場から如何に自然に切り抜け、やり過ごしてしまおうと考えているような余裕がどこかにあるような気がした。

確信があったわけではない。
だが、こわばっているその顔の中でただ一点…彼女の瞳だけが、冷徹な光を宿しているように、呂蒙には思えていた。
呂蒙は一筋縄ではいかないと考え、その日はとりとめもない話をして切り上げることにした。


そんなことが一週間ほど続いていた。
そのころになると、呂蒙はわざわざ丹陽まで出向き、陸遜を誘い出して昼食にまで出るようになっていた。
最初のころの警戒心もだいぶ和らいできたことを見計らい、彼女はそれとなく今の状況を話してみることにした。
「…そういうわけでな。仮に相手の龍馬を攻略するにしても、どうも二、三手足りないのさ。何処かでいきなりと金をぶち込んで一気に勝負を決めるとしたら…お前ならどう考える?」
「うーん…そうですねぇ。私は将棋のことはあまり詳しくないですけど…」
「見たまんま言ってくれていいよ。参考までに、あまり詳しくないって人間がどう考えるか興味があってな」
陸遜は、その言葉の真に意味するところを気づいていない…正確に言えば、今呂蒙が問おうとしていることの趣旨に気づいていないように見える…。
呂蒙は息を呑んだ。
陸遜はその手を指し示そうとして…

一瞬…ほんの一瞬、その表情を強張らせた。

「…すいません、やっぱりいい手は思い浮かびませ…」
「場所が悪いなら、変えても一向に構わないよ」
再び困ったように作り笑いに戻る陸遜に、呂蒙は初めて、その笑顔の下に隠された素顔を垣間見た気がしていた。
恐らくは、彼女も気づいたであろう。
何故相手の王ではなく、龍馬を狙っているのかが。

盤面の龍馬は関羽。
それを守るように囲う半壊状態の美濃囲いは現在の荊州学区。
そして何故呂蒙側がわざわざ飛角落ちなのか。

それはまさに、今の長湖部を意味しているものなのだから。

「…謀ったんですか…私を」
「ああ」
互いの強い視線が交錯する。
「あんたを試した非礼は詫びる。あんたがこういう資質をまったく見せないか…むしろ持っていないのであれば、あたしは公瑾や部長を裏切らずにすんだかもしれない」
陸遜の表情は変わらない。
だがその表情は、今まで呂蒙が見たこともない、陸遜自身の激しい怒りを感じた。
「…何処で、その事を…?」
「聞かないでくれ…それを教えてくれた奴も、悪気があったわけじゃない…けど今そいつの名を告げれば、そいつにも迷惑がかかることになる」
校舎からやや離れたその広場には人はいない。
呂蒙は始めから、この場で本心を明かすつもりでいたのだ。
「あたしは公瑾や子敬から請け負った荊州奪取を成し遂げたい…そのためにはお前の力が必要なんだ! この一戦だけで構わない…だから伯言、この一戦…この一戦だけでいい! 力を貸してくれ…っ!」
呂蒙は反射的に、大地に手をついていた。


どれほど時間がたっただろうか。
自分に愛想を尽かし、その少女は自分を置いて立ち去っていたかもしれない…と呂蒙は思っていた。
だが、自分はそうされても仕方ないことをしていたことも、重々承知していた。そしてそうなってしまえば、荊州を落とす機会は二度とはやってこないだろう。
関羽が蒼天会を攻めようとしている、今をおいてその機会はないかもしれないのだ。

そうなれば、自分はどうするだろう。
やはり周瑜と魯粛の後釜として不十分、というレッテルを貼られたまま、空しく部を去るのであろうか。
それとも、それを良しとせず玉砕して終わるのか。

「先輩…顔を上げてください」
ふと見上げると、ここ数日では、恐らくはもっとも自然な微笑を浮かべる陸遜の顔があった。
「先輩のお覚悟、確かに…私如きがどれほどお役に立てるか解りませんが…この一戦、全力を尽くさせていただきます」
呂蒙もまた、自分の至誠がようやく目の前の少女を動かすことができたことを知り、笑みを返す。
「…ありがとう…これでようやく、あいつらの顔を汚さずにすむかも知れない」
ふたりはしっかりと、その手を取り合っていた。

902 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:06
久しぶりに書いた作品が>>845の焼き直しであるというお話。


えぇ加筆部分はぶっちゃけ>>901だけなんですよね実は。
あとは細かい部分、台詞直したり誤字脱字点検したりとか。


で、一応これも続きがありましてね。
私めのことなんで何処かで、正史にも演義にも準拠のない創作が混じってきます。
これから転職活動しながらぼちぼち手がけてくる予定でありますよ--)y=~~~



とりあえず留守中の作品群にもこれから読む所存でふ。

903 名前:弐師:2006/04/06(木) 19:26
ふうん、ここが南陽棟か。
玄関の前に立って、その姿を見上げる。
白亜の城、といったところか。
「お待ちしていました、公孫越さんですね?」
そうしていると一人の女性がこちらに歩いてきた。
ショートカットの艶やかな黒髪を持つその人、董卓と戦ったときに見た覚えがある。
ああ、そうだ、確か紀霊先輩だ。
高校柔道の「クイーン」と呼ばれる人だったっけ。
「あ、はい。どうも、よろしくお願いします。」
「ええ、では、こちらに。」
彼女に棟の中を案内される。外見のシンプルな美しさと異なり、至る所に金ピカのシャンデリアだとか、無駄に派手なカーテンが有ったりと、ここの棟長の性格がよく分かる内装だった。
そんな悪趣味な物の中を通り抜け、精神的苦痛を受けながらも棟長室にたどり着いた。
「じゃあ、私はここで・・・」
「はい、ありがとうございました。」
この悪趣味な空間の中で、私のそばにいた唯一のまともな感性の持ち主と別れると、一気に気が重くなる。
だけど、そんなことも言っていられない。
まず深呼吸して、私は棟長室のドアをノックした。
「失礼します。」
うわ・・・
棟長室の中は、さらにお金のかかった・・・輪を掛けて酷いセンスのインテリアで構築されていた。
ねえ、先輩。
流石に床ぐらいは普通にしましょうよ。
何で其処まで金にこだわるんですか。金の床なんてテレビでしか見たことないですよ?
嗚呼、自分の顔が床に映る・・・
「あら、公孫越さん、御機嫌よう。ほ〜ほっほ。」
だが、このセンスの伝染源は、更に・・・凄かった。
えっと、すいません、手の甲を口に当てて高笑いするのはどうかと思いますが。ベタすぎです。
このご時世にこんな人本当にいるんだ・・・
「はい。ご無沙汰しております。」
「ええ、ところで伯珪さんから、何の御用かしら?」
「はい、私どもの誠意と言うことで、白馬義従の娘達と共に、私が及ばずながらご助力に参りました。」
「あら、それはそれは、ありがたいことですわ。」
そう言って、また高笑いする。
「これであの女の最後も近づきましたわ・・・」
しかし、その笑いはすぐ途切れ、呪いの言葉へと変わった。
「あの女」とは袁紹先輩のことだろう、まったく、悲しい人だ。
聞くところによると、昔は仲が良かったのだそうだ。家を継ぐときになって家が割れて、それ以来不仲らしい。
常に自分が一番でないと気が済まないのだろう、まあ、まだそのために努力してるだけ他の連中よりは何倍もましなんだろうけど。
「失礼しましたわ、それなら、早速で申し訳有りませんが私の部下の孫堅さんが今あの女の将と戦っておりまして、加勢していただけないかしら。」
聞けば、孫堅さんが袁術先輩の口利きで豫州総代になったのが気にくわなかったらしく、同じ反董卓連合の仲間の筈の彼女に攻撃を仕掛けているそうだ。
「はい。では失礼いたします。」
そう言って、私は南陽を去った。
まったく、あんな所にいたら悪趣味が伝染する。
外に出て、白馬義従の娘達と合流したところで思いっきり深呼吸する。
周りの娘達は不思議そうな顔をしていたが、誰だってあんな所から出てきたら深呼吸したくなるだろう。
ひとしきり、「外」の空気を堪能した後、皆に指示を出す。
「じゃあ、皆さん、孫堅さんの所に行きましょうか。」
私は、袁術先輩なんかとは違う。
私は、お姉ちゃんのためなら

――――――――どんな事も厭わない。

904 名前:弐師 :2006/04/06(木) 19:27
「ああ、あなたが公孫越さんかい?」
「はい。よろしくお願いします、孫堅さん。」
「はは、同い年だろ?気楽に行こう。」
ふうん、この人が孫堅さん?
少し癖のある茶髪、赤いリボンに、整った精悍な顔立ち。
お姉ちゃんとは少しタイプが違うが、それでも相当の美人だった。
よかった、袁術先輩の部下って言うから、どんな奴かと思っていたが、とてもさっぱりとして付き合いやすいタイプの人のようだ。
「いや、にしても凄いな、あなた達のバイクの動きは。しっかり統制が取れてる。」
「そう?」
「ああ、素晴らしい。それに私たちはあまりバイクは使わないから、尚更そう見える。揚州は川ばっかだし、長湖に面してるからね。」
「へぇ・・・」
長湖か。名前は聞いたことがあるけど、私は見たことがない。
いつか、其処までの道を遮る奴らを討ち滅ぼして、絶対に、見に行ってやる!
・・・そしてウォータースポーツし放題!なんてね。
と、ふざけた妄想をしているうちに、こちらに駆け寄ってきた女性がいた
「孫堅様、報告に参りまし・・・あら、あなたが公孫越さん?私は程普っていうの、よろしくね。」
背が高く、少々あか抜けない感じの人、まあ、幽州校区の私があか抜けないなどと言えた義理でもないのだが。
「越さん、実は彼女も幽州出身なんだ。」
「あはは、そうなの。しかも北平だよ。」
そう言って程普さんはVサインを作ってにこっと笑ってみせる。
うん、そりゃああか抜けないはずだね・・・幽州だもんね・・・ははは、はぁ・・・
ま、まあそんなことは置いといて・・・ここは、本当に活気にあふれたいい軍だ。一人一人がとてもいい目をして、実に生き生きしている。


・・・そう、袁術先輩には勿体ないぐらいに素晴らしい軍。

今に袁姉妹なんて討ち滅ぼしてあげる・・・楽しみにねぇ?孫堅さん・・・



ふふ、まあそれは今は置いておこう。
今は、ね。
「そうなんですかぁ、意外だったなあ。」
「他にも韓当って娘はあなたと同じ遼西出身なの。」
「へえ!ずいぶんと遠くからみんな仕えてるんですね。」
「まったくだ、私の出身は呉だというのに。ところで程普、何の用だ?」
「あ、そうでした。あはは、すいません・・・。」
苦笑していた程普さんの顔が、少し険しくなる。少し視線もうつむきがちになった。
「袁紹配下の周昂が、部下を連れてこちらに向かっています、こちらより・・・大分人数は多いようです。」
「へえ、そうか、ありがとう。」
衝撃的な、報告。
しかし孫堅さんは顔色一つ変えずに私の方を向き、軽く笑いかける。まるで、「面白いじゃない?」と問いかけるように。
私は何も言わず、笑い返す。
それで、私の言いたいことは通じたのだろう。その笑顔のまま、よく通る声で命を下す。

「みんなー、袁紹の手先がこっちに遊びに来たみたいだ。しかも向こうさんは大人数と来てる。」
皆、彼女の前に隊列を組む。整然として咳一つ聞こえない。
その場にいた全員が、彼女の一挙一動に注目している。
「どうだ?面白いだろ!?お客さんが多い方がパーティーは盛り上がるってもんだ!さ、お出迎えにいってやろう!」
ぴんと張りつめられた空気を、彼女の一声が振るわせる。
「全軍、出陣!」



――――――――彼女の清冽な声に応じて鬨の声が響き渡る。

――――――――地の底から響くような衝動が私を揺さぶる。

――――――――体の奥から喜びにも似た感情が込み上がる。





そして、全てが混ざり合い、迸る――――――――





――――――――さあ、やっと面白くなってきた。

905 名前:弐師:2006/04/06(木) 19:28
>雑号将軍様

越、気に入っていただけましたか。よかったですw
なにやらいまいちキャラが固まりきってませんが、これからもよろしくお願いします。

あと受験!頑張って下さい!
年下の私が言うのも僭越ですが、是非、夢をつかんで下さい!


>冷霊様

楊懐が素敵です!!!
「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」
って言葉にもうしびれちゃいましたよw続きが楽しみですw

あと公孫サンは結構人間関係が凄いですよね、
越が孫堅と一緒に戦い
劉備とは同門で
単経、田揩はエン州と青州の境界のあたりで曹操とにらみ合ってた(らしい)というw


>海月 亮様


いいですねぇ、将棋に例えた駆け引き。
呂蒙を認め、力を貸すことを決意した陸遜。

関羽を討とうとする緊張とプレッシャーが伝わってきます。

では、御無理をなさらず、頑張って下さいw

906 名前:雑号将軍:2006/04/09(日) 22:32
>弐師様
おお、今度は袁術がお出ましだ!!なんというか、あのタカビー全快なあたりがちょっとキてて素敵ですね。
いえいえ、お気になさらずに。うまくいけばいいんですがね…。まあ、あがけるだけあがいてみせますよ。

907 名前:北畠蒼陽:2006/04/10(月) 00:15
おう?
なんかしばらく見ないうちにいろいろあがってますよ!?
とまぁ、すっかり過去の人っぽいです、私(笑

>海月 亮様
お、ついに関羽包囲網始動ですか。
長湖部、というか呉は正直知識が薄いのでどう書かれていくのか楽しみにさせていただきまするよ!

>弐師様
んふぅ……
袁術好きなんですよ、袁術!
(自分くらいは好きでいてあげないとかわいそうじゃない?の理論。王允とかが当てはまります)
袁術、私も書いてみたいなぁ……
まだ書いたことがなかったですよ。

908 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:46
ひさびさなので感想から。


>冷霊様
よく見たらまだ続くのですな・・・。
楊懐と高沛がどういう最期を遂げるのか・・・あるいは、更にそのあとどうなっていくのか気になります。


>弐師様
既に既出の話題ではありますが・・・袁術のキャラが本当に際立ってますね。
此処までお約束だとぐうの音も出ませんね。お見事と言うほかないです。
あと孫堅軍団。何気に私まだ孫堅軍団は手を出してないような・・・。


>北畠蒼陽様
いやー・・・何処まで史実に沿ってるかどうか解りませんよ、私の場合はww



と言うわけで>>898-901の続きから。

909 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:48
長湖部の総本山・建業棟棟長執務室。
普段なら暇をもてあました幹部たちが屯し、長湖部長孫権を中心に賑やかに過ごしているこの場所は、この日に限っては不気味なほどに静かで…何処か重い空気に支配されている。


執務室の中に居たのは数人の少女。
執務室の机に腰掛けた、金の巻き髪と碧眼が印象的な少女は長湖部長孫権。
その背後に侍している、黒髪を頭の両サイドでお団子に纏めた小柄な少女は、その孫権第一の側近を自負して憚らない「長湖一の使い走り」谷利。
それと向かい合う形で立っているのは呂蒙。

場に居る少女たちの表情は固い。


−武神に挑む者− 第二部 原石と明珠


「…此度の荊州学区攻略においては、この名簿に加えた誰一人として外しても成立しません。また、この機会を逃せば永劫、荊州奪取はならないかと存じます」
淡々と言上する呂蒙。孫権はなおも黙ったままだ。
呂蒙にも孫権の沈黙の理由は解っている。
その名簿の一番下、そこには確かに陸遜の名前が存在していた。
丁奉の話から、陸遜の件は当然孫権にとっても他人事ではないことを呂蒙は知っていた。孫権の様子は、そのことを裏付けているといっていい。
「…本当に」
内心のさまざまな感情を抑えるかのような、震える声で孫権がつぶやく。
「本当に、伯言以外の適任者は居ない…そういうんだね?」
「ええ」
そこでさらにわずかな沈黙をはさむ。
孫権は流石に、誰から聞いたのかなどとは訊いて来ないようだ。丁奉の性格を考えれば孫権には話しているのかもしれないが…いや、おそらくは。
「子敬さんがね…自分の後任として、本当は最初伯言の名前を挙げていたんだ」
一度目を伏せ、そして寂しそうに笑う孫権。
「子敬さんが認めたあなただったら…もしかしたら何時かは気がついちゃうとも思ってたよ」
呂蒙にも言葉が出ない。
「…一度だけ、なんだよね?」
念を押す様に、彼女は問いかける。
「私の、命に賭けて」
呂蒙は真剣な眼差しでそれに応えた。
二人の視線が交錯し、やがて、
「解った。その代わり…無茶はさせないでね」
「はい」
呂蒙は拱手しながら、孫権の英断にただ感謝するだけだった。

呂蒙は続けて陳べる。
「そして願わくばもう一人…現在丹陽棟にて閑職にある虞仲翔を、アドバイザーとして同行させたいのですが」
「え?」
一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を見せた孫権は、怪訝な表情を浮かべた。
「どうして…?」
呂蒙はその表情から、やはり最初自分が思ったとおり、虞翻が孫権に嫌われた為に放逐されたのだということを確信した。
「彼女の性格は周知するとおり。ですが、あの性格ゆえ力を持て余せば更なる毒気を吹くのみです。ならば、その毒こそ我々ではなく、外に向けてやるべきでしょう」
呂蒙は丹陽棟でその姿を見る以前より、荊州攻略の切り札として虞翻の"公証人"としての活用を考えていた。だが、中央で事務経理の中核をになう彼女を前線へ招聘するのは不可能、と半分諦めてもいた。
だからこそ、丹陽にいる彼女を見たとき、初めは自分の幸運を喜んだ呂蒙ではあったが…部内の"和"をを何よりも尊重するはずの孫権が、その名を聞くだけで不快な顔をすることに何か悲しさのようなものを感じていた。
「…部長、"奇を容れ異を録す"を規範とするあなたが、何故そこまで彼女を嫌うのか…あたしには少々解りかねます」
「う…でも、どうしてもあのひとがいると、みんな気まずくなって黙っちゃうんだよ…だからきっと、あのひとは幹部の中枢じゃない場所のほうが、その良さを引き出せるかと思って…」
現実、虞翻は後方支援や前線の活躍が目立つ経歴もある。現実に丹陽での風紀は厳格に守られ、治績を挙げている。
しかしその口ぶりからは、やはり結果論から来る取り繕いにしか聞こえない。
呂蒙はため息をついた。
「でしたら、ひとつ騙されたと思ってあたしに彼女の身柄も預けていただけますか? あいつの本性、見せて差し上げますから」
孫権は困ったような顔でしばらく考え込んでいたが…
「解った」
と、何処か釈然としない表情のまま呟いた。

910 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:48
一方、そのころ。
「あたしの…全部あたしの所為なんです…」
呉郡寮の陸遜の部屋へ尋ねてくるなり、普段その少女には有り得ないほど悄気た表情で座り込み、黙りこくっていた丁奉が最初に発した言葉が、それだった。
その一言に、陸遜は何故彼女が急に訪ねてきたのか察しがついたようだった。
もっとも、丁奉は陸遜の妹達とも仲がいいから、急に訪ねてくるといってもそう珍しいことではない。珍しいというなら、この時のようにもうそろそろ寝ようかという時間に突然尋ねてきたということだろうか。
「あたしが…あたしが子明先輩にあんなこと…先輩が、あんなに酷いいわれかたしたのに、あたしがむきになって…」
「…いいのよ、あなたが気に病むことじゃないわ」
頭の上に手を載せられて、恐る恐る顔を上げると、そこには苦笑する陸遜の顔があった。
「あなたのことだから、きっとそういうこともあるんじゃないかな…って思ってたわ。そこがあなたの良いところでもあるし、悪いところでもあるのかもね」
「…あうっ…」
嗜めるようなその一言に、涙目のまま体を竦ませ俯いてしまう丁奉の姿に、陸遜も可笑しくなったのか少し笑った。
「それにね」
陸遜は、穏やかな笑みのまま視線を移した。
「私もきっと、根っからの長湖部員なのよ。子明先輩が"ただ一度だけ"っていうその心意気に、私はきっと飲まれてしまったんだわ」
「先輩…」
「だから、これはきっと私が最初で最後に見せる、唯一かつ最高の戦いよ」
その言葉に丁奉は、陸遜自身がこの一戦に自らの意思で立ち向かおうとしていることを理解した。
そして…
(それに…もしかしたら先輩は…)
陸遜も気がついているようだった。
その手を取ったときの、呂蒙の体に何かしらの異変が起こっているであろうことを。


「つーわけだ。以後しばらく、あたしの軍団にアドバイザーとして参加してもらうぜ。無論部長命令だ」
呂蒙はその日のうちに丹陽棟に上がりこみ、朱治の権限を盾に虞翻を呼びつけると、その命令書を突きつけた。
傍らの朱治もにやにやと他人事のようにその様子を眺めている。
「……なんで」
それを見るでもなく、俯いたままの虞翻がぽつりと呟いた。
「なんで…私なの?」
不機嫌というよりは、なにか大いに困り果てた様子だ。
常日頃からその情け容赦ない毒舌と、ぶっきらぼうな態度からは想像も出来ない姿であるが、これこそ先代部長・孫策の一部側近しか知らない彼女本来の姿である。
一度心を許してしまうと、その相手には兎に角頭が上がらなくなる。呂蒙も朱治も、虞翻がこういう少女であることをよく知っていた。
「そりゃあ今江陵の津を固めている士仁を、懐柔出来なきゃあたしの戦略に齟齬が生じるしな。知ってるんだよ? あんたと士仁が顔馴染みなことくらいは」
「…君義(士仁)は武神・関羽に憧れて荊州入りしてるのよ…私の言葉でどうにかなるとは…」
苦し紛れなその物言いに、呂蒙はこれと解るくらい悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「そう、忠義に厚いはずの彼女が、何故こんなモノをあんたに送ったと思う?」
「!? ちょ、ちょっとっ!」
その懐から取り出された一枚の紙切れを見た瞬間、虞翻ははっきりと狼狽の色を示した。
声をあげると同時にその紙を奪い取ろうと飛び掛る虞翻にそれを奪うに任せ、呂蒙はもう一枚の紙切れを懐から取り出した。
「まぁ見せるからには何枚かコピーしてあるんだが」
「…っ…!」
怒ってるとも困ってるともつかない複雑な表情で睨みつけてくる虞翻を他所に、涼しい顔の呂蒙。
「…つかどっちも必死だねぇ…」
呆れたようにその様子を眺める朱治。
「あぁ…悪いがなりふりかまっちゃいられねぇんだ…あたしには、もうそんなに時間が残ってないみたいだしな」
「え?」
その様子に何か深刻なものを感じ取ったらしいふたりは、呂蒙の顔を覗き込んでいた。
よくよく考えれば何か違和感があった。冷静になってみると、顔色も随分悪いように見える…いや、憔悴しきった顔をしていることに、二人は気づいた。
そして…これは医者の娘である虞翻が気づいていた異変…。
「子明…もしかしてあなた…内臓のどこかを…?」
「おまえには隠し立てできないな」
呂蒙は自嘲気味に、少し笑った。
「…膵炎らしいんだ。医者の話じゃ、多分ストレスの所為だって…本来、ベッドの上に寝てなきゃいけないそうだ。あたしが長湖副部長として、現状の仕事に耐えられる時間は実質十日くらい…年末までもつかもたないかという話さ」
あまりにも穏やかな表情。一目見ただけでは、彼女の体がそう深刻な事態になっているのかどうかすら解らない。
しかし、付き合いの長いふたりには、呂蒙が嘘をつくような少女ではないことも知っていたし、こうして自分の状況を話してくれるときには余程の事態に追い込まれているということもよく知っていた。
普段はごんなことも笑って茶化そうとする朱治も、深刻そうな面持ちでその顔を見つめる。
「部長に…このことは?」
「…あんたたちにしか話してないよ。だからあたしの体がもつうちに、この大仕事だけは成し遂げたいんだ。あたしみたいなヤツにこの部を託してくれた公瑾や子敬の知遇に応えるために」
その真剣な眼差しを避けるかのように、窓の外へと目をやる虞翻。
その夕日の赤を、深く澄んだ濃紺の瞳に映し、そして大きく深呼吸して…
「…君…いえ、士仁を調略するということは、本当の狙いは南郡棟の糜芳の所持する兵力…そしてそれを利用しての江陵棟占拠…ということでいいんでしょ?」
振り向いたそこには、先ほどまで狼狽していた少女の表情はなかった。
かつて「絶対調略不可能」と言われた豫章の華キンを単身説得に向かった時の、穏やかながら自信に満ちた公証人としての彼女の顔が、そこにあった。
「やれやれ…丹陽周辺の不良どもも、仲翔のお陰でだいぶ鳴りを潜めたのにねー」
仕方ないなぁ、と言った風に、朱治がソファーに思いっきり体を預けた。
「悪いな。でもやるからには、すぐに終らせて来るさ」
生気を失いつつある呂蒙の顔にも、何時もの表情が戻ってきていた。

911 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:49
「まったく…仕方のない娘ねぇ」
その書面を受け取ったその少女の第一声が、それだった。
二年前の、董卓の専横に端を発する一連の騒動により、打ち捨てられ廃墟になっていたはずの洛陽棟。
司隷特別校区…即ちこの広大な学園都市の中心であり、長らく蒼天生徒会の本拠であった場所。
最早名目と成り果てた感のある蒼天会長を擁した曹操が、その手によって再建したその場所で、諸葛瑾は先ずその威容に呑まれた。
(これが…今の蒼天会…いえ、曹孟徳の力なの…?)
彼女もかつて、司隷校区に招かれるほどの"神童"として、初等部の頃はこの場所で過ごしていた。
一度破壊されつくしたものが、前の面影を失ってしまうのも仕方がないことだということも解ってはいた…だが、これはそういうレベルの問題ではないような気がしていた。
新旧の趣を取り入れながらも、若き才能を感じさせる内装、外観の妙。
すれ違う生徒達から見られる、革新の機運に満ちた校風。
(今の私たちに、これに抗う術があるのかしら…)
孫権から、荊州攻防戦への援助参戦という名目の書面を預けられるとともに、それとなく洛陽の様子を探ってくるよう命じられた諸葛瑾だったが、果たしてこの有様を感じたまま伝えてしまって良いものか、迷わせるほどだった。
そんな彼女の思索を打ち破ったのは、目の前に呆れ顔をしている赤い髪の少女の次なる一言だった。
「こんなものをわざわざ送って寄越したということは、多分"関羽に手を出すな"といったところで聞かないんでしょうね」
「恐らくは、仰せの通りかと」
赤髪の少女…その蒼天生徒会の覇者・曹操その人の問いに、諸葛瑾は内心の様々な感情を億尾にも出さない涼しい顔でそう応えた。
「…ふぅん…」
その受け答えに何かか感じるところがあったのか、曹操の瞳はにわかに輝いた。
「…ねぇ、この文章書いたのは君?」
「え?」
思ってもみない問いかけに、諸葛瑾は一瞬その問いの意味することを理解できなかった。
だが、すぐにあることに思い至る。
「…いえ、長湖文芸部が副部長・皇象の手によるものです」
曹操の瞳がさらに輝く。
「"湖南八絶"のひとりだよね」
「はい」
「ね、今度こっちに遊びに来るように伝えてくれないかな?」
一瞬呆気に取られ、諸葛瑾は苦笑を隠せなかった。
この才覚に対する貪欲さ…才能のあるものたちと少しでも交わりたいと思うその希求が、曹操という少女の本質であることは彼女にも解っていたが…それでも、彼女は苦笑せざるを得なかった。
「なんでしたら、八絶全員寄越せるよう、部長にお伝えしましょうか?」
「ううん、占いの四人は要らない。文芸の皇象、幾何学の天才趙達、絵画の曹不興、ボードゲームの達人厳武…それと学園都市のジオラマを作り上げた葛衡って娘がいたよね? その五人、今度来るときに一緒に連れて着てくれないかな!?」
「確と、孫権部長にお伝えいたしましょう」
拱手しながら、満面の笑みを浮かべる曹操を見て諸葛瑾は思わずにいられなかった。
(この部分は、恐らく仲謀さんでは一生敵わない部分なのかもしれないわ…)
人材を求め、優れたものに敬意を払う孫権だが、その一方で性格の合わない者を遠ざけようとする一面があることを、諸葛瑾は痛いほどよく知っていた。
今丹陽に追いやられた格好にある虞翻が、仮に曹操の元にいたらどうなるだろうか…
(多分この人なら、巧くその力を引き出せるのでしょうね。郭嘉、程G、賈栩といったそれぞれカラーの違う人たちを受け入れ、その力を十二分に発揮させてきたこの人であれば)
そのことを考えると、少し淋しくもあった。


江陵棟。
執務室の主席に座す長身で艶やかなロングヘアの美少女が、どこか気の弱そうな緑髪の少女を見据えている。
「あなたが新任の陸口棟長ね」
「は、はい…陸遜、字を伯言と言います…以後、お見知りおきを」
言うまでもなく、言葉の主はこの棟の主関羽その人。
その両翼には、左に関平、王甫、廖淳、趙累ら関羽軍団の武の要が、右には馬良、潘濬ら知の要が。
(流石は武神・関雲長というべきだわ…この威圧感、並じゃない)
会見を申し込み、相手の油断を誘うために必要以上に下手に出る陸遜だったが、それを抜きにしても"関羽の存在"が大きな圧迫感として彼女にのしかかってきた。
彼女について着ていた数人の少女達は、一人を除いて真っ青な顔をして震えているが…これほどの威圧感の中ではそれも仕方ないだろう…と思っていた。
「そちらも知っての通り、我々はこれから樊棟の曹仁・満寵を討つ無双の手続きに奔走している真っ最中…何しろ多忙なので十分なおもてなしが出来なくて恐縮だわ」
「いえ、このような席を設けていただいただけでも…その、恐縮です」
だがその最中でも陸遜はその笑み…特にその切れ長の瞳に宿る何かを、見逃してはいなかった。
「もしそちらに助力の要あらば、私たち長湖部も、協力は惜しみません」
「それには及ばないわ。軍備は十二分に整い、我らの力を天下に示すには十分。あなた方長湖部は、あくまで長湖部のためのみに動かせばいいわ。余計な気遣いは無用よ」
深々と頭を下げながら、その笑みの中に、陸遜は関羽の最大の欠点がそこにあることを完璧に見抜いていた。
(この態度…私たちを下風に見ていると言うより、それだけ自分の能力に自身があると言う証拠だわ)
陸遜は尚も冷静に分析する。
(付け入るべき隙は…十分すぎる)
気弱な瞳の中に、一瞬だけ狩人の光を見せる陸遜の変化に、気づくものは誰もいなかった。
「あの呂子明の後任というと、相当に苦労も多いのでしょう?」
「え、ええ…今こうしているのも、その、緊張に耐えません…」
おどおどしているのは芝居のつもりではあったが、陸遜はそれでも関羽の持つ威圧感に圧倒されることを否めずにいた。
「ふふ…そう硬くなることはないわ。私にしても、後方に位置するあなたたちと喧嘩するつもりはないから」
「え…えぇ、そうありたいものです」
精一杯の作り笑いを向け、陸遜は拱手し、退出した。

912 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:49
「あれが…関羽か」
棟を出て、彼女はひとりごちた。
「でもすごいよ伯言ちゃん。私だったらきっと卒倒してるわ」
ブラウンのロングヘアに、大きなリボンをあしらった少女がため息とともに言う。
「そういうあなた、全然余裕のある表情してたじゃないの、公緒」
「そう?」
公緒こと、烏傷の駱統。先ほどの会見席で、陸遜以外で唯一平然とした顔をしていた少女である。
陸遜の顔なじみであり、陸遜が特にといって自分の副官として求めた人物である。おとなしそうな顔をしているが、その穏やかで人懐こい性格とは裏腹に合気道の達人という長湖部の俊英だ。このおっとりした性格ゆえか、恐ろしく肝が据わっている。
「で、伯言ちゃんはどうみる? 関雲長を実際目の前にして」
「流石に学園の武神と言われるだけあるわ。個人としての威圧感もさることながら、その手足となるべき人物にも英傑ぞろい…正攻法じゃ、正直どうにもならないわね」
まさしく、それは陸遜が正直に抱いた感想である。
「でも…切り込む隙はありそうだよね?」
「ええ。関羽のあの尊大さ…足元を省みないあの性格は、致命傷になるわ」
陸遜は見逃していなかった。
油断なくこちらの一挙一動を見据えながらも、何処かこちらを食って掛かるような目の光を。
「子明先輩の計画では、関羽の"打ち捨てていったすべて"をすべて私たちの武器に変える…あとは、関羽が動くのを待つだけだわ」
陸遜の瞳は、江陵棟のただ一点…先ほどまで自分たちがいた執務室の辺りを見つめていた。

関羽が江陵棟・南郡棟に一部の兵力を残して進発したという報が陸遜の元にもたらされたのは、その翌日のことであった。


陸口の渡し場に続々と集結する長湖部主力部隊。
その喧騒からひとり、呂蒙は対岸の江陵棟を眺めて佇んでいた。
「いよいよやね、モーちゃん」
「あぁ」
孫皎はそのまま、呂蒙の隣、艫綱を結ぶ杭の上に腰掛けた。
「昨日の大雨で、蒼天会が送り込んできた援軍部隊は壊滅…今頃関羽はさらに図に乗って樊棟攻略に躍起になってることだろうな」
「せやけど…曹子考を護りの要とする樊棟はそう落とせるもんやない。今朝入った知らせやと徐晃を総大将とする軍が樊に向けて進発、戦況次第で合肥の張遼・夏候惇の投入もありうる、っちゅー話や」
「…もしかしたら、関羽の本当の狙いはそこにあるのかもな」
「え?」
まじまじと見つめる孫皎に振り返ることもなく、呂蒙は相変わらず一点…江陵棟を眺め続けている。
「まさか…自分ひとりで蒼天会の主だった主将の動きを釘付けにするん…?」
「んや、始末するつもりなんだろう。劉備の北伐の障害にならないように」
「そんな…」
あほな、と続けようとした孫皎の言葉を遮って、呂蒙はさらに続ける。
「このまま放っておけば、やりかねないな。あの関羽であれば…」
色を失う孫皎を他所に、呂蒙はその拳を強く握り締める。
「だから、その前に関羽を叩き潰す。あたしのすべてを賭けて」
「モーちゃん…」
その悲壮とも思える決意の宣言に、孫皎は言葉に詰まった。
もしかしたら、彼女も薄々は感づいていたのかもしれない。
呂蒙がその体の中に、もうその刻限が近づいている時限爆弾を抱えているのではないか、ということに。
(モーちゃん…なんで本当(ほんま)のこと話してくれへんのかは今は訊かんどくで)
(うちも友達(あんた)のために、この命預けたるわ)
孫皎の瞳には、まるで呂蒙がその命の灯火を、最後の力で燃えさからせているかのように見えた。
「…うちらには、ただ勝利しか先にあらへん。そういうことやな?」
「あぁ」
ふたりの瞳は、江陵棟の先…今まさに天下の覇権を決めんとする樊棟の決戦場を見ているかのようだった。

913 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:53
と言うわけで決戦直前まで。
こっからの展開もかなり出来上がってるので、あとは活字に直すのみですが・・・。


とりあえず今日は風邪のため体力切れましたonz

914 名前:北畠蒼陽:2006/04/14(金) 14:01
「ん〜……」
その少女は廊下の窓を大きく開け、まだ残暑の色濃い初秋の風を一身に受けながら心地よさそうに微笑んだ。
普段からあまり見開くことのない糸目もさらに細くなり、季節をその総身で受け止めているかのように見える。
「ここにいたんだ」
「ん?」
少女は自分に投げかけられたのであろう言葉を聞き、目線を向ける。


世界が回る直前の日


「今、いい? 子コウ」
「あ〜、かまわないけど……あんたから声かけてくるって珍しくない? 伯言」
子コウ……全ソウ。山越との抗争や生徒会との数々の戦いに参加し長湖部内でその地位を築き上げた名将。
伯言……陸遜。軍神関羽、英雄劉備を破った長湖部の大軍師。長湖部の実戦総責任者であり誰も取って代わることの出来ない才能を持った少女。
「単刀直入に言うわね。妹さん……全寄さんだっけ? あの子は孫覇さんに接近しすぎてる。そもそも後継者の順序ってのははっきりさせとかなきゃいけないもんだし……あの子の行動は危険すぎる。貴女から言い聞かせてほしい」
「言い聞かせて、っていっても……」
全ソウは困ったように頭を掻く。
「孫覇さんの側の中心人物の一人が全寄さんなの。こんなくだらない後継者争いなんかで長湖部をどうにかしたくない。子コウ、お願い。貴女に現代の金日テイになってほしい」
「伯言の言うことは……」
全ソウは陸遜の言葉に頷こうとして……動きを止めた。
「きん……じつてい?」
金日テイ……かつての蒼天生徒会の名秘書。匈奴高校生と会長を兄に持っていたが霍去病に捕らえられ、そのまま生徒会役員として名前を連ねることになる。
もともとの蒼天学園出身ではないということをよくわきまえ、自ら蒼天学園生徒から一歩離れた位置に身を置いていた。
そう……
……自分の妹が生徒会長に気に入られたときに妹の蒼天章を剥奪するほどに。
「伯言……」
全ソウの声が震える。あまりの怒りに陸遜は眉をひそめた。
「あんたは……私の妹を自分でトばせ、とそういうんだな」
「あ」
陸遜は失言……いや、自分が言い過ぎたことにようやく気がついた。
全ソウに対してそこまで言うべきではなかったのだ。
「い、いえ、違う……ただそういう覚悟だけは……」
ガシャーン!
陸遜の言葉は破壊音で報われる。
全ソウが拳で窓ガラスを殴りつけた音だった。
「……もういい。妹にはあんたの言葉を伝えるがどうなるかは責任はもてない」
ゆっくりと拳を下ろす全ソウ。ガラスを殴りつけたときに切ったのだろう握り締めた拳から血がふた筋流れ落ちる。
「でも私があんたに感じてたかもしれない友情は今ここで死んだ……もう仕事以外で声をかけてこないでほしい」
「子コウ……!」
ゆっくりと歩き去ろうとする全ソウのその背中に陸遜はなんとかフォローを入れようとする。
誰にトんでほしいわけでもない……さっきの金日テイだってただの例えで……全寄だって未来の長湖部を背負う人間の一人には違いないのだから……!
そして全ソウほどの人間の影響力と実力があれば、自分と一緒にこんなくだらない後継者争いなどすぐに終わらせることが出来ると、心の底からそう思うのだから!
陸遜の叫びにも似た声に全ソウが歩みを止める。
「子コウ!」
やっと冷静になってくれた!
陸遜は涙が出そうなほどの喜びと……
「……私はあんたを殴りたくて仕方ないんだ。とっとと失せてくれ」
汚物でも見るかのような表情と声音。
……深い絶望を同時に味わった。
そして陸遜にはもう……
歩き去ろうとする全ソウの背中を見ながらつぶやくことしか出来なかった。

……コンナハズジャナカッタノニ。

915 名前:北畠蒼陽:2006/04/14(金) 14:01
海月様支援SS投下〜?
ほら、いずれ二宮も書くとか言ってらっしゃいましたし?(笑
北畠さんはこのままダークサイドをひた走ろうと思いますので、えぇ。
ちなみに全ソウってのは北畠にとって結構思い入れのある人物で、まぁ、ポジション的に『後世、あまり目立たない立ち位置』の人……魏でいえば梁習とか、呉でいえば呂岱とか、蜀でいえば……誰だろう?
まぁ、そういうポジションってもともと好きなんですが全ソウは結構ドンピシャなところがあって……
かつ昔やった三国志武将占いで全ソウタイプです、とか出たことも!
ま、そういうちょっとした思い入れをこめて流れを読まないSS投下なのですよ〜。

>海月 亮様
そして相変わらず流れを読んでいらっしゃる(笑
続き楽しみにしますので風邪とか治してくださいねー?

916 名前:雑号将軍:2006/04/14(金) 20:14
>海月様
将棋で陸遜を引き込む辺りがぐっと惹かれました。お見事でございまする。前期丁奉を久しぶりに見た気がします。

>北畠蒼陽様
おお、ダークだ!ダークが来た!全将軍…ついに彼女が主役級に躍り出てきましたか…。陸遜、朱然に影を潜めている感があった気がします。
それ故にこの全ソウが新鮮に感じられました。

917 名前:海月 亮:2006/04/15(土) 17:34
そこで某所の三国志占いをやったら
一回目に逢紀、二回目に楊修と出た正体不明人格の私が来ましたよwww


>北畠蒼陽様
これだ!
これと絵板過去ログの歩隲&陸遜のワンシーンを組み合わせれば二宮序盤のイメージも固まりそうです^^

荊州戦終ったら二宮SSにとっかかるとしますかねぇ・・・。

918 名前:★教授:2006/04/16(日) 22:40
■■アメフリ■■


「ふーむ、私の予想通り雨になったか。天気予報というものは私くらい確実でないといかんな」
 諸葛亮は白羽扇を口元に校舎玄関前に立っていた。しとしとと雨の降り注ぐ天を仰ぎ涼しげな表情をしている。
 トレードマークの白衣を脱ぎ、髪を結わずに流したその姿は正に凛とした美少女。誰もが思わず息を呑んでしまうほどの美貌を降りしきる雨が更に引き立てる。これこそ絵になると言ったものだろう。
「ふふふ、だが私が傘を忘れるといったベタな展開にはならん。むしろ、あってはならん事態だ…萌えられる要素ではない」
 喋らなければ…だったが。
「ひゃあー…マジかよー。予報になかったぞー」
「予報はあくまでも予報…ってか。全力疾走すれば被害は少なくて済むかな」
「仕方ないですね。面倒ですけど走りましょうか」
 諸葛亮の脇を張飛、馬超、王平ら元気な娘さん達が走り抜けていく。鞄を傘代わりに焼け石に水な抵抗をしながら駆けていく後姿に諸葛亮は心の中で『あれもまた萌えというヤツだな』と頷いていた。
 続いて諸葛亮の横を通り過ぎるは、お馴染みの二人組だった。
「孝直〜…もう少し傘こっちに傾けてよー…」
「もうっ! これ折り畳みなんだからそんなに大きくないのっ! 私だって濡れてるんだから!」
 ぐいぐいと小さな折り畳み傘の遮蔽範囲に身を潜り込ませようとする簡雍とそれを微妙に防ぐ法正だ。どうやら傘を忘れた簡雍が法正の折り畳み傘に入れてもらっている御様子。結局真ん中に傘を持ってくるという事で落ち着いたのだろう、二人とも肩を濡らしながら歩いていった。
「あの二人はいつも私の心をくすぐる…。次なる策を実行に移したくなるではないか」
 ごそごそと自分の鞄に手を突っ込みながら帰宅部公認カップルを見送る諸葛亮。だが、今朝そこに入れたはずのものが見つけられない。段々と涼しい顔が引き攣り始める。
「………何故だ。間違いなく今朝入れたはずだ…折り畳み傘…」
 鞄を覗き込み、その小さいながらも雨天時に効果を抜群に発揮してくれるアイテムを目で探す。しかし、その姿を視認する事が出来ない。彼女の頭の中で仮説が二つ浮かぶ。

仮説1:入れたつもりだった

「いや、仮説にしても有り得ん話だ。用意周到だった、昼も確認した…」
 却下。

仮説2:賊に盗まれた

「一番可能性が高い。放課後間際の突然の雨、少し席を離れた私。この隙くらいしか思いつかんが…それしかないな…」
 採用らしい。

「ともあれ…仮説2だったとすると…。全く、何処の命知らずだ…定例会議にかけんとな」
 悪態を吐きながら傘の入ってない鞄を頭の上に掲げる。こうなれば仕方ない、といった表情だ。
「どう考えても傘を持ってきている連中が校舎内にまだいるとは思えん…諸葛亮孔明、一生の不覚。ラボに篭るには準備不足…」
 普段から専用ラボに篭る事もしばしばだったが、食料及び着替えが必須の泊り込み。今日は篭るつもりは無かったので用意していなかったのだ。
「運動は苦手な方だ…が、進退窮まった。やるしかない…」
 意を決すると鞄を傘代わりに勢いを増した雨の中に飛び込んでいった………────


「全く酷い目にあった…」
 寮の玄関で髪をかきあげ、溜息を吐く諸葛亮。鞄が傘の代用になるにはあまりにも小さすぎたのか、全身は濡れ鼠になり制服がべっとりと体に張り付いてしまっている。上着に至っては下着が透けてしまっていた。
「まずは体を温めんとな。風邪を引いては元も子もない」
 寮の管理者が気を利かせたのだろう、玄関先に置いてあったタオルを一枚手に自室へと向かう。と、そのドアノブに見慣れた黒いものがぶら下がっていた。持っていたタオルと鞄がどさどさっと床に落ち、わなわなと怒りに震えだす。
「これは…私の傘! し、しかも使用済みではないか!」
 そう、それは自分の所有物。市販物に頼らない彼女が買った数少ない生活用品、それだけに妙な愛着心のあった折り畳み傘だったのだ。
「おのれ、憎き下手人! 久々に私も怒り心頭だぞっ!」
 怒りに打ち震えながらタオル、鞄、そして傘を回収して部屋に入り…そして乱暴にドアを閉めた。たまたま近くにいた馬岱がびっくりして階段を踏み外したのはまた別の話。

 話はこれでお終いなのだが…さて、諸葛亮の傘を盗んだ張本人は誰だったのだろう? 最後にヒントを。
 予報になかった雨、傘を持ってきてない人多数につき濡れるは必然。でも、ずぶ濡れにならなかったのは?
 大体の予想は付いたでしょう。機会があれば、続きのお話をするとしましょう。

                       了

919 名前:★教授:2006/04/16(日) 22:53
お久しぶりです。駄文の帝王、教授です。
存在が希薄になって久しいですが…一応生きているという事で。再び駄作を世に…。
時間もなくて何だか短くて尻すぼみな内容ですみません。
一ヶ月くらい使ってゆっくりと筆を取りたいなぁ…。

諸葛亮を主人公にしてみました。意外とこの人を主役にした作品が少なかったもので、出来心的な感じのノリで書きはじめました。
完璧超人を地に我が道を進む彼女にもこんな一面が…と想像を膨らませました、が。結果は散々なもので。
このままでは私も不完全燃焼、何とか見れるものにリメイクしてあげたいなぁ…

920 名前:海月 亮:2006/04/17(月) 20:32
>教授様
つかおいらの解釈通りなら、孔明さんは自分の傘が目の前を通っていったのに気づかなかったと言うことになりますが^^A
横光三国志で孔明が天井裏に取り残されてしまったシーンを思い出してなんか和んだww


何はともあれご無沙汰しておりやした^^A

921 名前:★教授:2006/04/17(月) 21:50
>海月様

 彼女は目の前の萌えに気を取られていたのです(^^;)
 いつでも完全無欠ではないという事を表現したかっただけで…。
 ともあれ、お久しぶりでありました

922 名前:弐師:2006/05/13(土) 20:52
周りは美しい森に森に覆われていた。
その中に敷かれたとても広い遊歩道の中に私達は布陣している。
遊歩道は幅だけでも100mはあるだろうか。煉瓦敷きになっていて、平常時ならば、とても静かでいい場所だろう。こんなところで戦うというのも気が引けるが、仕様がないことだ。
・・・やはり、多くの人間が整然と隊列を組み、向かい合うのは何度体験しても興奮するものだ。
敵の周昂は、私たちの軍の二倍ほどの兵力。兵力の差だけで言えばかなり絶望的と言っても良いだろう。
しかし、つけ込む隙はある。
まず、将の器。
周昂の名前は今日初めて聞いた、しかし、孫堅さん程の将はなかなか居ないだろう。
第一、今まで名前すら聞いたことさえない将だ、まあ、その程度と言うことなのだろう。
そして、兵の質。
今、袁紹の精兵はお姉ちゃんとの戦線に居る。ここにいる兵はそれほど練度が高くはない、それは今こうして向き合っていれば分かる。以前、お姉ちゃんの元で対峙したときと、明らかに「気」が違う。
それに対して、孫堅さんの軍は精鋭中の精鋭。二倍の兵相手でもかなり持ちこたえられる筈。
まずは耐えに耐えて、敵の崩れを誘う。

そして、私の率いる白馬義従。彼女らを率いて、私が本陣に突っ込む。

それが成功すれば、勝てる。
ミスれば、それで終わり。

白馬義従の娘達の顔を見回す。誰一人とておびえている娘は居ない。
ふふ、上等じゃない。流石は精鋭中の精鋭だ。
やってやるよ。私だって公孫一族なんだから、名を汚すわけにはいかない。



「よし!進軍だ!」

孫堅さんの号令の元、歩兵のみんなが敵軍へ攻撃を仕掛ける、一段目は程普さんが指揮を執っている。一旦は押し込み、その後少しずつ誘い込む作戦だ。
まずは互いの軍の一段目がぶつかる、兵力差を物ともせず、こちらが押し込んでいっている。
段々と敵の一段目が崩れ始める、程普さんは兵達の先頭で竹刀を振り回している。

ん?・・・おかしい、だんだん敵兵が二つに別れている、誘い込み挟み込む気か。
程普さんは気づいていているのかいないのか、そのままどんどん前進している。いや、させられているのか。
敵陣に飲み込まれ、挟み撃ちに合う寸前のところで、いきなり孫堅さん自ら率いるバイク部隊が突っ込んでいく。それと入れ替わりに、程普さんが後退していく。なるほど、流石は孫堅さんの配下、よく訓練してある。
孫堅さんは挟み撃ちにしようとした兵達を追い散らし、同様に引き上げてくる。
敵は算を乱し、結局全軍で押しつぶそうと前進してくる。
必然的に、陣は乱れる。
そして、決定的な隙が出てくる。
本陣と前衛との隙間。そこに全速力で、突入。

「今だ!本陣の周昂の所に突っ込むよっ!」

大地が震える。どんどんスピードを上げ、本陣に近づいていく。

乱戦に、突入する。
周りの娘達には目もくれずに、ただ一直線に周昂の元へ向かう。
「邪魔をするなら、容赦しないよっ!」
どんどんと本陣の中を進んでいく。
それほどまでの圧力はない、やはり、大したことのない敵か。
時々遮ろうと前に出てくる娘もいたが、それもどこか及び腰ですぐに蹴散らした。
私達に合わせ、防戦に徹していた孫堅さん達の本隊も攻勢に転じている。
前からの圧力に加え、陣の内部も引っかき回されているのだ、潰走するのも時間の問題だろう。
流れは、確実にこちらに来ている、あと一押しだ。

風が私の頬を打つ、まさに天を駆けるかの如く周昂に近づいていく。
周昂まで、あと

――――――――50m
――――――――25m
――――――――10m

――――――――――0!!!

遂に、周昂をとらえた。旗本達も蹴散らし、彼女に向かう。
「覚悟!!」

間近で見た、周昂の顔、それを見た瞬間、背筋に冷たい物が走る.
私は勝利を確信した、きっとそれは正しい。
それなのに――――――――
何だというのだ、今から飛ばされようとしているのに何故っ!!

「何故貴女は、笑ってるのよっ?!」
「分からないの?所詮はあの公孫サンの妹ね・・・ふふ・・・」
「何がおかしいと言っているの!」
「ふふ、じゃあ、教えてあげる。私は、周昂さんじゃないわ・・・あなた、周昂さんの顔知らなかったでしょう?もしかして、名前すら知らなかったんじゃないかしら。
ただ、本陣にいて、旗本に守られているから、私のことを周昂さんだと思った・・・
ふふ、そう、本当の周昂さんは、本陣には最初からいなかった・・・」
そう彼女が言い終えたとき、左右の森の中から鬨の声が響いてきた。
まさか・・・伏兵・・・
森の中から出てきた軍の先頭には、目つきの鋭い、薄笑いを浮かべた女が立っていた。
あいつが、本物の、周昂・・・!!

「孫堅さぁん!!!逃げてぇっ!!!!!」

――――――――だけど、その絶叫も、


前後左右の鬨の声にかき消されて――――――――

923 名前:弐師:2006/05/13(土) 20:54



詰めの甘い越さんなのでした。


>雑号将軍さま

袁術先輩は凄いですね、ほんとに。
設定を見てるだけで私の手には負えない気がしてましたw
「一位にこだわるがそれに値する努力はしっかりしてる」というのが素敵です。


>北畠蒼陽さま

たった一言ですれ違ってしまった二人・・・相変わらずの素晴らしいダークっぷり!流石は蒼陽さまです
是非袁術先輩も書いて下さい!!
私の筆力ではこれが限界です・・・


>海月 亮さま

呂蒙の決意。そしてそれを認め、協力する少女達。青春ですね!
着々と進んでいく関羽包囲網、決戦が楽しみです。


>教授さま

完全無欠な孔明さんの弱点・・・それは「萌え」だったのですねw
いやはや、流石は教授さまでございます。

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