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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

896 名前:冷霊:2006/03/22(水) 14:31
葭萌の夜〜白水陥落・参〜

「孟達、首尾はどないやったん?」
「問題無しね。三人とも慌てて準備してたわよ」
「そうか?そんなら大丈夫やな」
葭萌門管理棟。
部屋には劉備と孟達の二人きり、劉封は只今お茶を注ぎに行っている。
「で、話したいことってなんや?なんぞ、向こうさんの情報でもあるんか?」
孟達が僅かにかぶりを振った。どうやら情報を持ってきたわけではないらしい。
僅かに息を吸う。そして孟達ははっきりとした声で言い放った。
「蜀を取った後、貴方はどうするつもり?」
部屋の空気が止まる。
一瞬だけ孟達の視線を正面から受け止め、劉備は口を開いた。
「蒼天会に対抗出来るだけの勢力を作るだけや。蒼天会や長湖部の連中とは肌が合わんしな」
真面目な口調。滅多に見せない表情に、孟達は僅かに息を呑んだ。
「そやけど……」
不意に口調ががらりと変わった。
「ウチの周りにおる奴等と楽しい学園生活を送る。これが一番の目標や」
劉備がニッと笑ってみせた。
「その為やったらウチは何でもしたる。それがウチらの夢やからな」
本心からの台詞なのだろう。孟達にもそれが伝わっていた。
鬼にも仏にもなれる人物……それが劉備なのだと。
「なんや?劉璋はんの心配しとるんか?」
一瞬の間。
「ま、まあね。していないと言ったら嘘になるわ」
孟達は視線をそらし、窓の外に目をやる。外は次第に暗くなりつつある。
「そやなぁ……劉璋はんには雲長と一緒に荊州棟でも頼もうか。あっちなら治安もええし、劉璋はんには合うてると思うで」
劉備は立ち上がり、窓から外を眺めた。孟達の反応はない。
「なんや?安心してぇな。もちろん、東州のこともまとめて面倒見るつもりやで」
その言葉を聞いた途端、孟達の顔から表情が消えた。
ギィンッ!!
次の刹那、劉備のハリセンは孟達の短杖を受け止めていた。
「劉備……やはり君とは分かり合えない」
「そら残念やったな。東州の纏め役をオトせたら楽やったんやけどなぁ」
素早く両者は距離を取る。
「多分楊懐はんの方やろ?アンタならウチのこと、わかる思うてたんやけどなぁ」
残念そうに呟く劉備。孟達がマスクを掴み、剥ぎ取る。その下から現れたのは楊懐の顔。
「分かっているつもりだ……だからこそ渡せない」
楊懐は短杖を構え直す。
「そんならどうして劉璋はんにこだわるんや!今のやり方やったら益州は……」
「わかっている」
きっぱりと、しかし強い口調で言い切った。
「今のままでは蒼天会どころか張魯にも勝てないだろう。タマは益州校区を統べる器ではない」
「うわ、きっついなぁ……」
劉備が軽く苦笑いを浮かべる。
「だが……」
楊懐が再び口を開く。
「行き場の無い私達に場所をくれたのが君郎さんだった。趙イさんが私達が問題起こしたから追い出そうとしたとき、タマは言ってくれた。私達はここにいてもいいのだ、と」
両者の間に流れる緊張した空気は変わらない。
「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」
静かながらも強い口調。
「例え、ウチらが益州校区を劉璋はんに任せる言うてもか?」
劉備が一瞬、窓の外へと注意を向ける。
「タマと君、どちらが優れているかは自明の理だろう?頭は二つも要らない」
「それは関しては同感やな」
楊懐と劉備、互いに笑みを浮かべる。
だが、両者の瞳は真剣そのものである。
「姉貴、お茶淹れてきたけどー……」
「ホウ統さんが伝言があるってー……」
劉封と関平がやってきたのはそんなときであった。

897 名前:冷霊:2006/03/22(水) 15:03
悩んだ挙句、四話構成になっちゃいそうです……冷霊です。
白水門、こういう形になっちゃいました。
劉備サイドもちょっぴし書いてみたかったもので……。
白水関って正史に記述がほとんどない場所ですからねぇ。
やはり蜀としては細かいところを伝えるわけにはいかなかったのかな、とか思ってしまいます。
次は高沛の見せ場が……うまく作れるといいなぁ、と。

>弐師様
正史を見てると越って、袁術繋がりで孫堅と共に戦ってるんですねぇ……。
こうしてみると袁術って意外と人間関係の核となってるのかも?w

そういえば厳綱もこの後の界橋の戦いで麹義とやりあってますし、
界橋の戦いを諌めたという話も聞きませんし……こういう絆があったのかもと想像してしまいますね。

>北畠様
静かに始めてみました。
確認すると楊懐の方が高沛よりも上の立場だったようで、ある意味こういうのもありなのかなぁと。
正史では二人とも酒宴の際に二人して斬られてますが。
劉闡の記述がないので、密かに悩んでたりしてますが……きっとなんとかなるでしょうw

>雑号将軍様
演義も実は正史とそこまで変わってはおりません。
ただ、楊懐が匕首を帯びていますが、暗殺しようとしたとの記述は確かなかったかと。
華陽国志やら劉焉・劉璋伝を只今読破中で御座いますw

898 名前:海月 亮:2006/03/25(土) 23:59
何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。
だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。
普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。
「…間に合うのかな…?」
自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。
「あたしが…あの武神を打ち倒すのが先か」
その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。


-武神に挑む者- 第一部 至上命令


少女…呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。
学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。
そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。
それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。

しかし。
彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。
南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。長湖部最古参のまとめ役でもあった程普、黄蓋らも時を同じくして引退していった。
公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。
魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。

在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。
しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。


「…やっぱり厳しいなぁ…」
長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。
名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。
このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。
「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」
「やっぱ厳しいん?」
「うわ!」
不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。
見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。
「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」
「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」
「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」
「なんとなく〜」
その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。
しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。
「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」
孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。
「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」
「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」
呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。
「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」
「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」
「え…?」
呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。
「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」
「うん…頑張ってみる。おおきにな」
「礼言うトコじゃないよ。あたしが勝手に思っていることなんだからな」
「うん」
自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。
人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。

899 名前:海月 亮:2006/03/25(土) 23:59
翌日の昼休み。
混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。
「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」
「ん?」
隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。
「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」
「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」
「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」
「うーん」
サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。
実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。
「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」
「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」
「うちを? でも…」
「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」
自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。
「マネージャーとはどうなんかな?」
「マネージャー?」
「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」
「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」
数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。
そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。

「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」
「あ…えっと、それは」
狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。
明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。
昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。
「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」
「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」
「あ、だからその、それはちょっとした…」
ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。
すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。
そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。
「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」
「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」
「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」
「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」
「だからそうじゃないんです!」
必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。
「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」
そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。

その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。
丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。
「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」
遊び半分ではない。
彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。

900 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:01
呂蒙は様々な折衝事を孫皎に任せ、たまたま陸遜が出張ってきている丹陽棟を訪れていた。
その棟内に足を踏み入れてすぐ、廊下の向こうから出てきた一人の少女が呂蒙に気づき、駆け寄ってきた。
「や〜、また珍しいお客さんが来たもんねぇ」
「これはこれは君理棟長殿。あんた自らの出迎えとは恐れ入るな」
襟にかかる程度の柔らかなショートカットの黒髪を揺らし、その少女…丹陽棟切っての顔役・朱治が笑う。
「まぁこんなところで立ち話もなんだし、ちょっと寄ってく?」
「うーん…そうだな、たまにはゆっくりさせてもらおうかな」
呂蒙とてそう暇があったわけではないが、そもそも彼女は此処へ人探しに来ていたわけだから、それなら顔役である朱治に話を聞いたほうが早いと判断した。
「そーかそーか。ね、ちょっとお茶用意してもらっていい?」
「はい」
傍らに寄り添っていた少女が恭しく一礼して立ち去ると、呂蒙も朱治に伴われるまま階段を上っていった。
「随分、規律が整っているもんだな」
周囲をざっと見回し、思わず感嘆する呂蒙。
棟内に落書きのようなものは一切なく、廊下で無駄話しているような生徒もいない。そしてすれ違う少女達も軽く会釈し、挨拶して立ち去っていく様子は、長湖部の本部がある建業棟にも見られないものだった。
「コイツもやっぱり、あんたの人徳のなせる業かい?」
「いやいや、とてもじゃないけどあたし一人じゃこうはならないさ。ほとんど仲翔のお陰さね」
「仲翔だって?」
意外な人物の名前を聞き、呂蒙は鸚鵡返しに聞き返した。
仲翔…即ち会稽の虞翻も、呂蒙や朱治と並ぶ"小覇王"孫策時代からの功臣の一人だ。確かに彼女みたいな"キレるとコワい"タイプの文治官僚(ビューロクラート)がいれば、このくらいの状況を作り出すのも朝飯前だろうが…。
「確かあいつは幹部会にいたんじゃなかったのか?」
「それがねぇ…」
朱治は苦笑いして、
「あの娘、どういうわけか知らないけど、唐突にこっち寄越されたのよ。別に幹部会で何かやらかした話は聞かないんだけど…どうもあの性格だからね、丹陽の風紀更正の名目で厄介払い食らわせられたのかもしれないわ」
と肩を竦める。
虞翻は確かに経理に強いし、仕事振りも真面目なのだが、その生来の真面目さゆえか自分が正しいと思ったことは梃子でも曲げない性格だ。孫権も孫権で同じくらいに意地っ張りなものだから、普段何気ないところからでもかなりの軋轢が生じているだろうこと位は、容易に想像できた。
「なるほど…確かにそういう理由付けされたら、流石の子布(張昭)さんも何も言えないだろうな」
「まぁ、お陰で私は助かってるんだけどねぇ…」
ふと、校庭の方へ目をやると、一人の少女とすれ違った二人組の少女が、眉をひそめてこそこそ言っているらしい様子が目に映る。
すれ違ったプラチナブロンドの少女は、それを意に解するでもなく、そのまま歩き去ってしまう。
「相変わらずだなぁ…仲翔のヤツも」
その様子には流石の呂蒙も苦笑せざるを得なかった。


「…陸伯言? まぁ確かにあの娘も此処にいるけど」
執務室の一角、朱治の趣味で設置された畳三畳のスペース、お茶の用意されたちゃぶ台に二人は向かい合う形で胡坐をかいていた。
そこで思いもがけぬ名前が呂蒙の口から出たことに、朱治は小首を傾げた。
「どうしてまたあの娘の名前が? 確かによく働く娘だけど、そんな目立って何かすごいトコもないような気もするけど…」
「そいつは悪いけど詮索無用で頼むわ。で、今あいつは何処に?」
「うーん…あの娘そこらじゅう動き回ってるからねぇ…呼び出す?」
あぁ頼む、という言葉が喉まで出掛かった呂蒙だったが、何故かそうしてしまってはいけないような気がして止めた。
冷静になって考えてみれば、陸遜の件に関する証言は丁奉からしか得られていない。
合肥では確かに彼女の指揮振りを実際目にしているものの…まだまだ自分の中では彼女に対する評価材料が少なすぎる。
「いや…今日は余裕があるし、散歩ついでに探してみるよ」
「そお?」
丁奉の言葉を疑うわけではないが…だがその言葉を信じればこそ、いきなり面と向かってしまえば、陸遜は警戒し、その本音を明かそうとはしないだろうと呂蒙は思った。

901 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:01
それから数刻の後。
普段は利用することすらない豫州丹陽棟の地下食堂に、ふたりの少女がやってきていた。
放課後、暇をもてあました生徒の何人かや、あるいはマネージャーたちが活動計画の話し合いに利用するなど普段は賑わっている場所にもかかわらず、そのときはそのふたりしかいなかった。
ひとりは呂蒙。
もうひとりは緑色の髪をショートボブに切り揃えた、少々気弱そうな印象を与える少女…彼女こそが、探し人の陸遜、字を伯言その人であった。
「…あの…何の御用ですか?」
「あー、急に呼び出して悪かったな。うん、用事といえば用事。だが少しその前にあんたと話をしておきたくてね」
恐る恐るといった感じの陸遜をこれ以上警戒させないよう、呂蒙は勤めて自然に振舞った。
「…お話」
鸚鵡返しに聞き返す。
ここまで来る間にも呂蒙は、それとなく陸遜の一挙一動をそれとなく見ていた。
確かに一見、何処にでもいるごく普通の少女。
そして何より、かつて自分や甘寧から散々な目に遭わされたというトラウマがあるような様子も、今のおどおどした態度を見れば疑いようがなく見える。
しかし、呂蒙は確かに、その仕草の諸所に違和感を感じ取っていた。

陸遜がかつて自分の考えるような少女であったなら、恐らくどんな手を使ってでもこの場から早く逃げたいと思っても、結局自分の気の弱さ故最後まで引きずられてしまうだろう。
だが、呂蒙は陸遜が、今この場から如何に自然に切り抜け、やり過ごしてしまおうと考えているような余裕がどこかにあるような気がした。

確信があったわけではない。
だが、こわばっているその顔の中でただ一点…彼女の瞳だけが、冷徹な光を宿しているように、呂蒙には思えていた。
呂蒙は一筋縄ではいかないと考え、その日はとりとめもない話をして切り上げることにした。


そんなことが一週間ほど続いていた。
そのころになると、呂蒙はわざわざ丹陽まで出向き、陸遜を誘い出して昼食にまで出るようになっていた。
最初のころの警戒心もだいぶ和らいできたことを見計らい、彼女はそれとなく今の状況を話してみることにした。
「…そういうわけでな。仮に相手の龍馬を攻略するにしても、どうも二、三手足りないのさ。何処かでいきなりと金をぶち込んで一気に勝負を決めるとしたら…お前ならどう考える?」
「うーん…そうですねぇ。私は将棋のことはあまり詳しくないですけど…」
「見たまんま言ってくれていいよ。参考までに、あまり詳しくないって人間がどう考えるか興味があってな」
陸遜は、その言葉の真に意味するところを気づいていない…正確に言えば、今呂蒙が問おうとしていることの趣旨に気づいていないように見える…。
呂蒙は息を呑んだ。
陸遜はその手を指し示そうとして…

一瞬…ほんの一瞬、その表情を強張らせた。

「…すいません、やっぱりいい手は思い浮かびませ…」
「場所が悪いなら、変えても一向に構わないよ」
再び困ったように作り笑いに戻る陸遜に、呂蒙は初めて、その笑顔の下に隠された素顔を垣間見た気がしていた。
恐らくは、彼女も気づいたであろう。
何故相手の王ではなく、龍馬を狙っているのかが。

盤面の龍馬は関羽。
それを守るように囲う半壊状態の美濃囲いは現在の荊州学区。
そして何故呂蒙側がわざわざ飛角落ちなのか。

それはまさに、今の長湖部を意味しているものなのだから。

「…謀ったんですか…私を」
「ああ」
互いの強い視線が交錯する。
「あんたを試した非礼は詫びる。あんたがこういう資質をまったく見せないか…むしろ持っていないのであれば、あたしは公瑾や部長を裏切らずにすんだかもしれない」
陸遜の表情は変わらない。
だがその表情は、今まで呂蒙が見たこともない、陸遜自身の激しい怒りを感じた。
「…何処で、その事を…?」
「聞かないでくれ…それを教えてくれた奴も、悪気があったわけじゃない…けど今そいつの名を告げれば、そいつにも迷惑がかかることになる」
校舎からやや離れたその広場には人はいない。
呂蒙は始めから、この場で本心を明かすつもりでいたのだ。
「あたしは公瑾や子敬から請け負った荊州奪取を成し遂げたい…そのためにはお前の力が必要なんだ! この一戦だけで構わない…だから伯言、この一戦…この一戦だけでいい! 力を貸してくれ…っ!」
呂蒙は反射的に、大地に手をついていた。


どれほど時間がたっただろうか。
自分に愛想を尽かし、その少女は自分を置いて立ち去っていたかもしれない…と呂蒙は思っていた。
だが、自分はそうされても仕方ないことをしていたことも、重々承知していた。そしてそうなってしまえば、荊州を落とす機会は二度とはやってこないだろう。
関羽が蒼天会を攻めようとしている、今をおいてその機会はないかもしれないのだ。

そうなれば、自分はどうするだろう。
やはり周瑜と魯粛の後釜として不十分、というレッテルを貼られたまま、空しく部を去るのであろうか。
それとも、それを良しとせず玉砕して終わるのか。

「先輩…顔を上げてください」
ふと見上げると、ここ数日では、恐らくはもっとも自然な微笑を浮かべる陸遜の顔があった。
「先輩のお覚悟、確かに…私如きがどれほどお役に立てるか解りませんが…この一戦、全力を尽くさせていただきます」
呂蒙もまた、自分の至誠がようやく目の前の少女を動かすことができたことを知り、笑みを返す。
「…ありがとう…これでようやく、あいつらの顔を汚さずにすむかも知れない」
ふたりはしっかりと、その手を取り合っていた。

902 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:06
久しぶりに書いた作品が>>845の焼き直しであるというお話。


えぇ加筆部分はぶっちゃけ>>901だけなんですよね実は。
あとは細かい部分、台詞直したり誤字脱字点検したりとか。


で、一応これも続きがありましてね。
私めのことなんで何処かで、正史にも演義にも準拠のない創作が混じってきます。
これから転職活動しながらぼちぼち手がけてくる予定でありますよ--)y=~~~



とりあえず留守中の作品群にもこれから読む所存でふ。

903 名前:弐師:2006/04/06(木) 19:26
ふうん、ここが南陽棟か。
玄関の前に立って、その姿を見上げる。
白亜の城、といったところか。
「お待ちしていました、公孫越さんですね?」
そうしていると一人の女性がこちらに歩いてきた。
ショートカットの艶やかな黒髪を持つその人、董卓と戦ったときに見た覚えがある。
ああ、そうだ、確か紀霊先輩だ。
高校柔道の「クイーン」と呼ばれる人だったっけ。
「あ、はい。どうも、よろしくお願いします。」
「ええ、では、こちらに。」
彼女に棟の中を案内される。外見のシンプルな美しさと異なり、至る所に金ピカのシャンデリアだとか、無駄に派手なカーテンが有ったりと、ここの棟長の性格がよく分かる内装だった。
そんな悪趣味な物の中を通り抜け、精神的苦痛を受けながらも棟長室にたどり着いた。
「じゃあ、私はここで・・・」
「はい、ありがとうございました。」
この悪趣味な空間の中で、私のそばにいた唯一のまともな感性の持ち主と別れると、一気に気が重くなる。
だけど、そんなことも言っていられない。
まず深呼吸して、私は棟長室のドアをノックした。
「失礼します。」
うわ・・・
棟長室の中は、さらにお金のかかった・・・輪を掛けて酷いセンスのインテリアで構築されていた。
ねえ、先輩。
流石に床ぐらいは普通にしましょうよ。
何で其処まで金にこだわるんですか。金の床なんてテレビでしか見たことないですよ?
嗚呼、自分の顔が床に映る・・・
「あら、公孫越さん、御機嫌よう。ほ〜ほっほ。」
だが、このセンスの伝染源は、更に・・・凄かった。
えっと、すいません、手の甲を口に当てて高笑いするのはどうかと思いますが。ベタすぎです。
このご時世にこんな人本当にいるんだ・・・
「はい。ご無沙汰しております。」
「ええ、ところで伯珪さんから、何の御用かしら?」
「はい、私どもの誠意と言うことで、白馬義従の娘達と共に、私が及ばずながらご助力に参りました。」
「あら、それはそれは、ありがたいことですわ。」
そう言って、また高笑いする。
「これであの女の最後も近づきましたわ・・・」
しかし、その笑いはすぐ途切れ、呪いの言葉へと変わった。
「あの女」とは袁紹先輩のことだろう、まったく、悲しい人だ。
聞くところによると、昔は仲が良かったのだそうだ。家を継ぐときになって家が割れて、それ以来不仲らしい。
常に自分が一番でないと気が済まないのだろう、まあ、まだそのために努力してるだけ他の連中よりは何倍もましなんだろうけど。
「失礼しましたわ、それなら、早速で申し訳有りませんが私の部下の孫堅さんが今あの女の将と戦っておりまして、加勢していただけないかしら。」
聞けば、孫堅さんが袁術先輩の口利きで豫州総代になったのが気にくわなかったらしく、同じ反董卓連合の仲間の筈の彼女に攻撃を仕掛けているそうだ。
「はい。では失礼いたします。」
そう言って、私は南陽を去った。
まったく、あんな所にいたら悪趣味が伝染する。
外に出て、白馬義従の娘達と合流したところで思いっきり深呼吸する。
周りの娘達は不思議そうな顔をしていたが、誰だってあんな所から出てきたら深呼吸したくなるだろう。
ひとしきり、「外」の空気を堪能した後、皆に指示を出す。
「じゃあ、皆さん、孫堅さんの所に行きましょうか。」
私は、袁術先輩なんかとは違う。
私は、お姉ちゃんのためなら

――――――――どんな事も厭わない。

904 名前:弐師 :2006/04/06(木) 19:27
「ああ、あなたが公孫越さんかい?」
「はい。よろしくお願いします、孫堅さん。」
「はは、同い年だろ?気楽に行こう。」
ふうん、この人が孫堅さん?
少し癖のある茶髪、赤いリボンに、整った精悍な顔立ち。
お姉ちゃんとは少しタイプが違うが、それでも相当の美人だった。
よかった、袁術先輩の部下って言うから、どんな奴かと思っていたが、とてもさっぱりとして付き合いやすいタイプの人のようだ。
「いや、にしても凄いな、あなた達のバイクの動きは。しっかり統制が取れてる。」
「そう?」
「ああ、素晴らしい。それに私たちはあまりバイクは使わないから、尚更そう見える。揚州は川ばっかだし、長湖に面してるからね。」
「へぇ・・・」
長湖か。名前は聞いたことがあるけど、私は見たことがない。
いつか、其処までの道を遮る奴らを討ち滅ぼして、絶対に、見に行ってやる!
・・・そしてウォータースポーツし放題!なんてね。
と、ふざけた妄想をしているうちに、こちらに駆け寄ってきた女性がいた
「孫堅様、報告に参りまし・・・あら、あなたが公孫越さん?私は程普っていうの、よろしくね。」
背が高く、少々あか抜けない感じの人、まあ、幽州校区の私があか抜けないなどと言えた義理でもないのだが。
「越さん、実は彼女も幽州出身なんだ。」
「あはは、そうなの。しかも北平だよ。」
そう言って程普さんはVサインを作ってにこっと笑ってみせる。
うん、そりゃああか抜けないはずだね・・・幽州だもんね・・・ははは、はぁ・・・
ま、まあそんなことは置いといて・・・ここは、本当に活気にあふれたいい軍だ。一人一人がとてもいい目をして、実に生き生きしている。


・・・そう、袁術先輩には勿体ないぐらいに素晴らしい軍。

今に袁姉妹なんて討ち滅ぼしてあげる・・・楽しみにねぇ?孫堅さん・・・



ふふ、まあそれは今は置いておこう。
今は、ね。
「そうなんですかぁ、意外だったなあ。」
「他にも韓当って娘はあなたと同じ遼西出身なの。」
「へえ!ずいぶんと遠くからみんな仕えてるんですね。」
「まったくだ、私の出身は呉だというのに。ところで程普、何の用だ?」
「あ、そうでした。あはは、すいません・・・。」
苦笑していた程普さんの顔が、少し険しくなる。少し視線もうつむきがちになった。
「袁紹配下の周昂が、部下を連れてこちらに向かっています、こちらより・・・大分人数は多いようです。」
「へえ、そうか、ありがとう。」
衝撃的な、報告。
しかし孫堅さんは顔色一つ変えずに私の方を向き、軽く笑いかける。まるで、「面白いじゃない?」と問いかけるように。
私は何も言わず、笑い返す。
それで、私の言いたいことは通じたのだろう。その笑顔のまま、よく通る声で命を下す。

「みんなー、袁紹の手先がこっちに遊びに来たみたいだ。しかも向こうさんは大人数と来てる。」
皆、彼女の前に隊列を組む。整然として咳一つ聞こえない。
その場にいた全員が、彼女の一挙一動に注目している。
「どうだ?面白いだろ!?お客さんが多い方がパーティーは盛り上がるってもんだ!さ、お出迎えにいってやろう!」
ぴんと張りつめられた空気を、彼女の一声が振るわせる。
「全軍、出陣!」



――――――――彼女の清冽な声に応じて鬨の声が響き渡る。

――――――――地の底から響くような衝動が私を揺さぶる。

――――――――体の奥から喜びにも似た感情が込み上がる。





そして、全てが混ざり合い、迸る――――――――





――――――――さあ、やっと面白くなってきた。

905 名前:弐師:2006/04/06(木) 19:28
>雑号将軍様

越、気に入っていただけましたか。よかったですw
なにやらいまいちキャラが固まりきってませんが、これからもよろしくお願いします。

あと受験!頑張って下さい!
年下の私が言うのも僭越ですが、是非、夢をつかんで下さい!


>冷霊様

楊懐が素敵です!!!
「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」
って言葉にもうしびれちゃいましたよw続きが楽しみですw

あと公孫サンは結構人間関係が凄いですよね、
越が孫堅と一緒に戦い
劉備とは同門で
単経、田揩はエン州と青州の境界のあたりで曹操とにらみ合ってた(らしい)というw


>海月 亮様


いいですねぇ、将棋に例えた駆け引き。
呂蒙を認め、力を貸すことを決意した陸遜。

関羽を討とうとする緊張とプレッシャーが伝わってきます。

では、御無理をなさらず、頑張って下さいw

906 名前:雑号将軍:2006/04/09(日) 22:32
>弐師様
おお、今度は袁術がお出ましだ!!なんというか、あのタカビー全快なあたりがちょっとキてて素敵ですね。
いえいえ、お気になさらずに。うまくいけばいいんですがね…。まあ、あがけるだけあがいてみせますよ。

907 名前:北畠蒼陽:2006/04/10(月) 00:15
おう?
なんかしばらく見ないうちにいろいろあがってますよ!?
とまぁ、すっかり過去の人っぽいです、私(笑

>海月 亮様
お、ついに関羽包囲網始動ですか。
長湖部、というか呉は正直知識が薄いのでどう書かれていくのか楽しみにさせていただきまするよ!

>弐師様
んふぅ……
袁術好きなんですよ、袁術!
(自分くらいは好きでいてあげないとかわいそうじゃない?の理論。王允とかが当てはまります)
袁術、私も書いてみたいなぁ……
まだ書いたことがなかったですよ。

908 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:46
ひさびさなので感想から。


>冷霊様
よく見たらまだ続くのですな・・・。
楊懐と高沛がどういう最期を遂げるのか・・・あるいは、更にそのあとどうなっていくのか気になります。


>弐師様
既に既出の話題ではありますが・・・袁術のキャラが本当に際立ってますね。
此処までお約束だとぐうの音も出ませんね。お見事と言うほかないです。
あと孫堅軍団。何気に私まだ孫堅軍団は手を出してないような・・・。


>北畠蒼陽様
いやー・・・何処まで史実に沿ってるかどうか解りませんよ、私の場合はww



と言うわけで>>898-901の続きから。

909 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:48
長湖部の総本山・建業棟棟長執務室。
普段なら暇をもてあました幹部たちが屯し、長湖部長孫権を中心に賑やかに過ごしているこの場所は、この日に限っては不気味なほどに静かで…何処か重い空気に支配されている。


執務室の中に居たのは数人の少女。
執務室の机に腰掛けた、金の巻き髪と碧眼が印象的な少女は長湖部長孫権。
その背後に侍している、黒髪を頭の両サイドでお団子に纏めた小柄な少女は、その孫権第一の側近を自負して憚らない「長湖一の使い走り」谷利。
それと向かい合う形で立っているのは呂蒙。

場に居る少女たちの表情は固い。


−武神に挑む者− 第二部 原石と明珠


「…此度の荊州学区攻略においては、この名簿に加えた誰一人として外しても成立しません。また、この機会を逃せば永劫、荊州奪取はならないかと存じます」
淡々と言上する呂蒙。孫権はなおも黙ったままだ。
呂蒙にも孫権の沈黙の理由は解っている。
その名簿の一番下、そこには確かに陸遜の名前が存在していた。
丁奉の話から、陸遜の件は当然孫権にとっても他人事ではないことを呂蒙は知っていた。孫権の様子は、そのことを裏付けているといっていい。
「…本当に」
内心のさまざまな感情を抑えるかのような、震える声で孫権がつぶやく。
「本当に、伯言以外の適任者は居ない…そういうんだね?」
「ええ」
そこでさらにわずかな沈黙をはさむ。
孫権は流石に、誰から聞いたのかなどとは訊いて来ないようだ。丁奉の性格を考えれば孫権には話しているのかもしれないが…いや、おそらくは。
「子敬さんがね…自分の後任として、本当は最初伯言の名前を挙げていたんだ」
一度目を伏せ、そして寂しそうに笑う孫権。
「子敬さんが認めたあなただったら…もしかしたら何時かは気がついちゃうとも思ってたよ」
呂蒙にも言葉が出ない。
「…一度だけ、なんだよね?」
念を押す様に、彼女は問いかける。
「私の、命に賭けて」
呂蒙は真剣な眼差しでそれに応えた。
二人の視線が交錯し、やがて、
「解った。その代わり…無茶はさせないでね」
「はい」
呂蒙は拱手しながら、孫権の英断にただ感謝するだけだった。

呂蒙は続けて陳べる。
「そして願わくばもう一人…現在丹陽棟にて閑職にある虞仲翔を、アドバイザーとして同行させたいのですが」
「え?」
一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を見せた孫権は、怪訝な表情を浮かべた。
「どうして…?」
呂蒙はその表情から、やはり最初自分が思ったとおり、虞翻が孫権に嫌われた為に放逐されたのだということを確信した。
「彼女の性格は周知するとおり。ですが、あの性格ゆえ力を持て余せば更なる毒気を吹くのみです。ならば、その毒こそ我々ではなく、外に向けてやるべきでしょう」
呂蒙は丹陽棟でその姿を見る以前より、荊州攻略の切り札として虞翻の"公証人"としての活用を考えていた。だが、中央で事務経理の中核をになう彼女を前線へ招聘するのは不可能、と半分諦めてもいた。
だからこそ、丹陽にいる彼女を見たとき、初めは自分の幸運を喜んだ呂蒙ではあったが…部内の"和"をを何よりも尊重するはずの孫権が、その名を聞くだけで不快な顔をすることに何か悲しさのようなものを感じていた。
「…部長、"奇を容れ異を録す"を規範とするあなたが、何故そこまで彼女を嫌うのか…あたしには少々解りかねます」
「う…でも、どうしてもあのひとがいると、みんな気まずくなって黙っちゃうんだよ…だからきっと、あのひとは幹部の中枢じゃない場所のほうが、その良さを引き出せるかと思って…」
現実、虞翻は後方支援や前線の活躍が目立つ経歴もある。現実に丹陽での風紀は厳格に守られ、治績を挙げている。
しかしその口ぶりからは、やはり結果論から来る取り繕いにしか聞こえない。
呂蒙はため息をついた。
「でしたら、ひとつ騙されたと思ってあたしに彼女の身柄も預けていただけますか? あいつの本性、見せて差し上げますから」
孫権は困ったような顔でしばらく考え込んでいたが…
「解った」
と、何処か釈然としない表情のまま呟いた。

910 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:48
一方、そのころ。
「あたしの…全部あたしの所為なんです…」
呉郡寮の陸遜の部屋へ尋ねてくるなり、普段その少女には有り得ないほど悄気た表情で座り込み、黙りこくっていた丁奉が最初に発した言葉が、それだった。
その一言に、陸遜は何故彼女が急に訪ねてきたのか察しがついたようだった。
もっとも、丁奉は陸遜の妹達とも仲がいいから、急に訪ねてくるといってもそう珍しいことではない。珍しいというなら、この時のようにもうそろそろ寝ようかという時間に突然尋ねてきたということだろうか。
「あたしが…あたしが子明先輩にあんなこと…先輩が、あんなに酷いいわれかたしたのに、あたしがむきになって…」
「…いいのよ、あなたが気に病むことじゃないわ」
頭の上に手を載せられて、恐る恐る顔を上げると、そこには苦笑する陸遜の顔があった。
「あなたのことだから、きっとそういうこともあるんじゃないかな…って思ってたわ。そこがあなたの良いところでもあるし、悪いところでもあるのかもね」
「…あうっ…」
嗜めるようなその一言に、涙目のまま体を竦ませ俯いてしまう丁奉の姿に、陸遜も可笑しくなったのか少し笑った。
「それにね」
陸遜は、穏やかな笑みのまま視線を移した。
「私もきっと、根っからの長湖部員なのよ。子明先輩が"ただ一度だけ"っていうその心意気に、私はきっと飲まれてしまったんだわ」
「先輩…」
「だから、これはきっと私が最初で最後に見せる、唯一かつ最高の戦いよ」
その言葉に丁奉は、陸遜自身がこの一戦に自らの意思で立ち向かおうとしていることを理解した。
そして…
(それに…もしかしたら先輩は…)
陸遜も気がついているようだった。
その手を取ったときの、呂蒙の体に何かしらの異変が起こっているであろうことを。


「つーわけだ。以後しばらく、あたしの軍団にアドバイザーとして参加してもらうぜ。無論部長命令だ」
呂蒙はその日のうちに丹陽棟に上がりこみ、朱治の権限を盾に虞翻を呼びつけると、その命令書を突きつけた。
傍らの朱治もにやにやと他人事のようにその様子を眺めている。
「……なんで」
それを見るでもなく、俯いたままの虞翻がぽつりと呟いた。
「なんで…私なの?」
不機嫌というよりは、なにか大いに困り果てた様子だ。
常日頃からその情け容赦ない毒舌と、ぶっきらぼうな態度からは想像も出来ない姿であるが、これこそ先代部長・孫策の一部側近しか知らない彼女本来の姿である。
一度心を許してしまうと、その相手には兎に角頭が上がらなくなる。呂蒙も朱治も、虞翻がこういう少女であることをよく知っていた。
「そりゃあ今江陵の津を固めている士仁を、懐柔出来なきゃあたしの戦略に齟齬が生じるしな。知ってるんだよ? あんたと士仁が顔馴染みなことくらいは」
「…君義(士仁)は武神・関羽に憧れて荊州入りしてるのよ…私の言葉でどうにかなるとは…」
苦し紛れなその物言いに、呂蒙はこれと解るくらい悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「そう、忠義に厚いはずの彼女が、何故こんなモノをあんたに送ったと思う?」
「!? ちょ、ちょっとっ!」
その懐から取り出された一枚の紙切れを見た瞬間、虞翻ははっきりと狼狽の色を示した。
声をあげると同時にその紙を奪い取ろうと飛び掛る虞翻にそれを奪うに任せ、呂蒙はもう一枚の紙切れを懐から取り出した。
「まぁ見せるからには何枚かコピーしてあるんだが」
「…っ…!」
怒ってるとも困ってるともつかない複雑な表情で睨みつけてくる虞翻を他所に、涼しい顔の呂蒙。
「…つかどっちも必死だねぇ…」
呆れたようにその様子を眺める朱治。
「あぁ…悪いがなりふりかまっちゃいられねぇんだ…あたしには、もうそんなに時間が残ってないみたいだしな」
「え?」
その様子に何か深刻なものを感じ取ったらしいふたりは、呂蒙の顔を覗き込んでいた。
よくよく考えれば何か違和感があった。冷静になってみると、顔色も随分悪いように見える…いや、憔悴しきった顔をしていることに、二人は気づいた。
そして…これは医者の娘である虞翻が気づいていた異変…。
「子明…もしかしてあなた…内臓のどこかを…?」
「おまえには隠し立てできないな」
呂蒙は自嘲気味に、少し笑った。
「…膵炎らしいんだ。医者の話じゃ、多分ストレスの所為だって…本来、ベッドの上に寝てなきゃいけないそうだ。あたしが長湖副部長として、現状の仕事に耐えられる時間は実質十日くらい…年末までもつかもたないかという話さ」
あまりにも穏やかな表情。一目見ただけでは、彼女の体がそう深刻な事態になっているのかどうかすら解らない。
しかし、付き合いの長いふたりには、呂蒙が嘘をつくような少女ではないことも知っていたし、こうして自分の状況を話してくれるときには余程の事態に追い込まれているということもよく知っていた。
普段はごんなことも笑って茶化そうとする朱治も、深刻そうな面持ちでその顔を見つめる。
「部長に…このことは?」
「…あんたたちにしか話してないよ。だからあたしの体がもつうちに、この大仕事だけは成し遂げたいんだ。あたしみたいなヤツにこの部を託してくれた公瑾や子敬の知遇に応えるために」
その真剣な眼差しを避けるかのように、窓の外へと目をやる虞翻。
その夕日の赤を、深く澄んだ濃紺の瞳に映し、そして大きく深呼吸して…
「…君…いえ、士仁を調略するということは、本当の狙いは南郡棟の糜芳の所持する兵力…そしてそれを利用しての江陵棟占拠…ということでいいんでしょ?」
振り向いたそこには、先ほどまで狼狽していた少女の表情はなかった。
かつて「絶対調略不可能」と言われた豫章の華キンを単身説得に向かった時の、穏やかながら自信に満ちた公証人としての彼女の顔が、そこにあった。
「やれやれ…丹陽周辺の不良どもも、仲翔のお陰でだいぶ鳴りを潜めたのにねー」
仕方ないなぁ、と言った風に、朱治がソファーに思いっきり体を預けた。
「悪いな。でもやるからには、すぐに終らせて来るさ」
生気を失いつつある呂蒙の顔にも、何時もの表情が戻ってきていた。

911 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:49
「まったく…仕方のない娘ねぇ」
その書面を受け取ったその少女の第一声が、それだった。
二年前の、董卓の専横に端を発する一連の騒動により、打ち捨てられ廃墟になっていたはずの洛陽棟。
司隷特別校区…即ちこの広大な学園都市の中心であり、長らく蒼天生徒会の本拠であった場所。
最早名目と成り果てた感のある蒼天会長を擁した曹操が、その手によって再建したその場所で、諸葛瑾は先ずその威容に呑まれた。
(これが…今の蒼天会…いえ、曹孟徳の力なの…?)
彼女もかつて、司隷校区に招かれるほどの"神童"として、初等部の頃はこの場所で過ごしていた。
一度破壊されつくしたものが、前の面影を失ってしまうのも仕方がないことだということも解ってはいた…だが、これはそういうレベルの問題ではないような気がしていた。
新旧の趣を取り入れながらも、若き才能を感じさせる内装、外観の妙。
すれ違う生徒達から見られる、革新の機運に満ちた校風。
(今の私たちに、これに抗う術があるのかしら…)
孫権から、荊州攻防戦への援助参戦という名目の書面を預けられるとともに、それとなく洛陽の様子を探ってくるよう命じられた諸葛瑾だったが、果たしてこの有様を感じたまま伝えてしまって良いものか、迷わせるほどだった。
そんな彼女の思索を打ち破ったのは、目の前に呆れ顔をしている赤い髪の少女の次なる一言だった。
「こんなものをわざわざ送って寄越したということは、多分"関羽に手を出すな"といったところで聞かないんでしょうね」
「恐らくは、仰せの通りかと」
赤髪の少女…その蒼天生徒会の覇者・曹操その人の問いに、諸葛瑾は内心の様々な感情を億尾にも出さない涼しい顔でそう応えた。
「…ふぅん…」
その受け答えに何かか感じるところがあったのか、曹操の瞳はにわかに輝いた。
「…ねぇ、この文章書いたのは君?」
「え?」
思ってもみない問いかけに、諸葛瑾は一瞬その問いの意味することを理解できなかった。
だが、すぐにあることに思い至る。
「…いえ、長湖文芸部が副部長・皇象の手によるものです」
曹操の瞳がさらに輝く。
「"湖南八絶"のひとりだよね」
「はい」
「ね、今度こっちに遊びに来るように伝えてくれないかな?」
一瞬呆気に取られ、諸葛瑾は苦笑を隠せなかった。
この才覚に対する貪欲さ…才能のあるものたちと少しでも交わりたいと思うその希求が、曹操という少女の本質であることは彼女にも解っていたが…それでも、彼女は苦笑せざるを得なかった。
「なんでしたら、八絶全員寄越せるよう、部長にお伝えしましょうか?」
「ううん、占いの四人は要らない。文芸の皇象、幾何学の天才趙達、絵画の曹不興、ボードゲームの達人厳武…それと学園都市のジオラマを作り上げた葛衡って娘がいたよね? その五人、今度来るときに一緒に連れて着てくれないかな!?」
「確と、孫権部長にお伝えいたしましょう」
拱手しながら、満面の笑みを浮かべる曹操を見て諸葛瑾は思わずにいられなかった。
(この部分は、恐らく仲謀さんでは一生敵わない部分なのかもしれないわ…)
人材を求め、優れたものに敬意を払う孫権だが、その一方で性格の合わない者を遠ざけようとする一面があることを、諸葛瑾は痛いほどよく知っていた。
今丹陽に追いやられた格好にある虞翻が、仮に曹操の元にいたらどうなるだろうか…
(多分この人なら、巧くその力を引き出せるのでしょうね。郭嘉、程G、賈栩といったそれぞれカラーの違う人たちを受け入れ、その力を十二分に発揮させてきたこの人であれば)
そのことを考えると、少し淋しくもあった。


江陵棟。
執務室の主席に座す長身で艶やかなロングヘアの美少女が、どこか気の弱そうな緑髪の少女を見据えている。
「あなたが新任の陸口棟長ね」
「は、はい…陸遜、字を伯言と言います…以後、お見知りおきを」
言うまでもなく、言葉の主はこの棟の主関羽その人。
その両翼には、左に関平、王甫、廖淳、趙累ら関羽軍団の武の要が、右には馬良、潘濬ら知の要が。
(流石は武神・関雲長というべきだわ…この威圧感、並じゃない)
会見を申し込み、相手の油断を誘うために必要以上に下手に出る陸遜だったが、それを抜きにしても"関羽の存在"が大きな圧迫感として彼女にのしかかってきた。
彼女について着ていた数人の少女達は、一人を除いて真っ青な顔をして震えているが…これほどの威圧感の中ではそれも仕方ないだろう…と思っていた。
「そちらも知っての通り、我々はこれから樊棟の曹仁・満寵を討つ無双の手続きに奔走している真っ最中…何しろ多忙なので十分なおもてなしが出来なくて恐縮だわ」
「いえ、このような席を設けていただいただけでも…その、恐縮です」
だがその最中でも陸遜はその笑み…特にその切れ長の瞳に宿る何かを、見逃してはいなかった。
「もしそちらに助力の要あらば、私たち長湖部も、協力は惜しみません」
「それには及ばないわ。軍備は十二分に整い、我らの力を天下に示すには十分。あなた方長湖部は、あくまで長湖部のためのみに動かせばいいわ。余計な気遣いは無用よ」
深々と頭を下げながら、その笑みの中に、陸遜は関羽の最大の欠点がそこにあることを完璧に見抜いていた。
(この態度…私たちを下風に見ていると言うより、それだけ自分の能力に自身があると言う証拠だわ)
陸遜は尚も冷静に分析する。
(付け入るべき隙は…十分すぎる)
気弱な瞳の中に、一瞬だけ狩人の光を見せる陸遜の変化に、気づくものは誰もいなかった。
「あの呂子明の後任というと、相当に苦労も多いのでしょう?」
「え、ええ…今こうしているのも、その、緊張に耐えません…」
おどおどしているのは芝居のつもりではあったが、陸遜はそれでも関羽の持つ威圧感に圧倒されることを否めずにいた。
「ふふ…そう硬くなることはないわ。私にしても、後方に位置するあなたたちと喧嘩するつもりはないから」
「え…えぇ、そうありたいものです」
精一杯の作り笑いを向け、陸遜は拱手し、退出した。

912 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:49
「あれが…関羽か」
棟を出て、彼女はひとりごちた。
「でもすごいよ伯言ちゃん。私だったらきっと卒倒してるわ」
ブラウンのロングヘアに、大きなリボンをあしらった少女がため息とともに言う。
「そういうあなた、全然余裕のある表情してたじゃないの、公緒」
「そう?」
公緒こと、烏傷の駱統。先ほどの会見席で、陸遜以外で唯一平然とした顔をしていた少女である。
陸遜の顔なじみであり、陸遜が特にといって自分の副官として求めた人物である。おとなしそうな顔をしているが、その穏やかで人懐こい性格とは裏腹に合気道の達人という長湖部の俊英だ。このおっとりした性格ゆえか、恐ろしく肝が据わっている。
「で、伯言ちゃんはどうみる? 関雲長を実際目の前にして」
「流石に学園の武神と言われるだけあるわ。個人としての威圧感もさることながら、その手足となるべき人物にも英傑ぞろい…正攻法じゃ、正直どうにもならないわね」
まさしく、それは陸遜が正直に抱いた感想である。
「でも…切り込む隙はありそうだよね?」
「ええ。関羽のあの尊大さ…足元を省みないあの性格は、致命傷になるわ」
陸遜は見逃していなかった。
油断なくこちらの一挙一動を見据えながらも、何処かこちらを食って掛かるような目の光を。
「子明先輩の計画では、関羽の"打ち捨てていったすべて"をすべて私たちの武器に変える…あとは、関羽が動くのを待つだけだわ」
陸遜の瞳は、江陵棟のただ一点…先ほどまで自分たちがいた執務室の辺りを見つめていた。

関羽が江陵棟・南郡棟に一部の兵力を残して進発したという報が陸遜の元にもたらされたのは、その翌日のことであった。


陸口の渡し場に続々と集結する長湖部主力部隊。
その喧騒からひとり、呂蒙は対岸の江陵棟を眺めて佇んでいた。
「いよいよやね、モーちゃん」
「あぁ」
孫皎はそのまま、呂蒙の隣、艫綱を結ぶ杭の上に腰掛けた。
「昨日の大雨で、蒼天会が送り込んできた援軍部隊は壊滅…今頃関羽はさらに図に乗って樊棟攻略に躍起になってることだろうな」
「せやけど…曹子考を護りの要とする樊棟はそう落とせるもんやない。今朝入った知らせやと徐晃を総大将とする軍が樊に向けて進発、戦況次第で合肥の張遼・夏候惇の投入もありうる、っちゅー話や」
「…もしかしたら、関羽の本当の狙いはそこにあるのかもな」
「え?」
まじまじと見つめる孫皎に振り返ることもなく、呂蒙は相変わらず一点…江陵棟を眺め続けている。
「まさか…自分ひとりで蒼天会の主だった主将の動きを釘付けにするん…?」
「んや、始末するつもりなんだろう。劉備の北伐の障害にならないように」
「そんな…」
あほな、と続けようとした孫皎の言葉を遮って、呂蒙はさらに続ける。
「このまま放っておけば、やりかねないな。あの関羽であれば…」
色を失う孫皎を他所に、呂蒙はその拳を強く握り締める。
「だから、その前に関羽を叩き潰す。あたしのすべてを賭けて」
「モーちゃん…」
その悲壮とも思える決意の宣言に、孫皎は言葉に詰まった。
もしかしたら、彼女も薄々は感づいていたのかもしれない。
呂蒙がその体の中に、もうその刻限が近づいている時限爆弾を抱えているのではないか、ということに。
(モーちゃん…なんで本当(ほんま)のこと話してくれへんのかは今は訊かんどくで)
(うちも友達(あんた)のために、この命預けたるわ)
孫皎の瞳には、まるで呂蒙がその命の灯火を、最後の力で燃えさからせているかのように見えた。
「…うちらには、ただ勝利しか先にあらへん。そういうことやな?」
「あぁ」
ふたりの瞳は、江陵棟の先…今まさに天下の覇権を決めんとする樊棟の決戦場を見ているかのようだった。

913 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:53
と言うわけで決戦直前まで。
こっからの展開もかなり出来上がってるので、あとは活字に直すのみですが・・・。


とりあえず今日は風邪のため体力切れましたonz

914 名前:北畠蒼陽:2006/04/14(金) 14:01
「ん〜……」
その少女は廊下の窓を大きく開け、まだ残暑の色濃い初秋の風を一身に受けながら心地よさそうに微笑んだ。
普段からあまり見開くことのない糸目もさらに細くなり、季節をその総身で受け止めているかのように見える。
「ここにいたんだ」
「ん?」
少女は自分に投げかけられたのであろう言葉を聞き、目線を向ける。


世界が回る直前の日


「今、いい? 子コウ」
「あ〜、かまわないけど……あんたから声かけてくるって珍しくない? 伯言」
子コウ……全ソウ。山越との抗争や生徒会との数々の戦いに参加し長湖部内でその地位を築き上げた名将。
伯言……陸遜。軍神関羽、英雄劉備を破った長湖部の大軍師。長湖部の実戦総責任者であり誰も取って代わることの出来ない才能を持った少女。
「単刀直入に言うわね。妹さん……全寄さんだっけ? あの子は孫覇さんに接近しすぎてる。そもそも後継者の順序ってのははっきりさせとかなきゃいけないもんだし……あの子の行動は危険すぎる。貴女から言い聞かせてほしい」
「言い聞かせて、っていっても……」
全ソウは困ったように頭を掻く。
「孫覇さんの側の中心人物の一人が全寄さんなの。こんなくだらない後継者争いなんかで長湖部をどうにかしたくない。子コウ、お願い。貴女に現代の金日テイになってほしい」
「伯言の言うことは……」
全ソウは陸遜の言葉に頷こうとして……動きを止めた。
「きん……じつてい?」
金日テイ……かつての蒼天生徒会の名秘書。匈奴高校生と会長を兄に持っていたが霍去病に捕らえられ、そのまま生徒会役員として名前を連ねることになる。
もともとの蒼天学園出身ではないということをよくわきまえ、自ら蒼天学園生徒から一歩離れた位置に身を置いていた。
そう……
……自分の妹が生徒会長に気に入られたときに妹の蒼天章を剥奪するほどに。
「伯言……」
全ソウの声が震える。あまりの怒りに陸遜は眉をひそめた。
「あんたは……私の妹を自分でトばせ、とそういうんだな」
「あ」
陸遜は失言……いや、自分が言い過ぎたことにようやく気がついた。
全ソウに対してそこまで言うべきではなかったのだ。
「い、いえ、違う……ただそういう覚悟だけは……」
ガシャーン!
陸遜の言葉は破壊音で報われる。
全ソウが拳で窓ガラスを殴りつけた音だった。
「……もういい。妹にはあんたの言葉を伝えるがどうなるかは責任はもてない」
ゆっくりと拳を下ろす全ソウ。ガラスを殴りつけたときに切ったのだろう握り締めた拳から血がふた筋流れ落ちる。
「でも私があんたに感じてたかもしれない友情は今ここで死んだ……もう仕事以外で声をかけてこないでほしい」
「子コウ……!」
ゆっくりと歩き去ろうとする全ソウのその背中に陸遜はなんとかフォローを入れようとする。
誰にトんでほしいわけでもない……さっきの金日テイだってただの例えで……全寄だって未来の長湖部を背負う人間の一人には違いないのだから……!
そして全ソウほどの人間の影響力と実力があれば、自分と一緒にこんなくだらない後継者争いなどすぐに終わらせることが出来ると、心の底からそう思うのだから!
陸遜の叫びにも似た声に全ソウが歩みを止める。
「子コウ!」
やっと冷静になってくれた!
陸遜は涙が出そうなほどの喜びと……
「……私はあんたを殴りたくて仕方ないんだ。とっとと失せてくれ」
汚物でも見るかのような表情と声音。
……深い絶望を同時に味わった。
そして陸遜にはもう……
歩き去ろうとする全ソウの背中を見ながらつぶやくことしか出来なかった。

……コンナハズジャナカッタノニ。

915 名前:北畠蒼陽:2006/04/14(金) 14:01
海月様支援SS投下〜?
ほら、いずれ二宮も書くとか言ってらっしゃいましたし?(笑
北畠さんはこのままダークサイドをひた走ろうと思いますので、えぇ。
ちなみに全ソウってのは北畠にとって結構思い入れのある人物で、まぁ、ポジション的に『後世、あまり目立たない立ち位置』の人……魏でいえば梁習とか、呉でいえば呂岱とか、蜀でいえば……誰だろう?
まぁ、そういうポジションってもともと好きなんですが全ソウは結構ドンピシャなところがあって……
かつ昔やった三国志武将占いで全ソウタイプです、とか出たことも!
ま、そういうちょっとした思い入れをこめて流れを読まないSS投下なのですよ〜。

>海月 亮様
そして相変わらず流れを読んでいらっしゃる(笑
続き楽しみにしますので風邪とか治してくださいねー?

916 名前:雑号将軍:2006/04/14(金) 20:14
>海月様
将棋で陸遜を引き込む辺りがぐっと惹かれました。お見事でございまする。前期丁奉を久しぶりに見た気がします。

>北畠蒼陽様
おお、ダークだ!ダークが来た!全将軍…ついに彼女が主役級に躍り出てきましたか…。陸遜、朱然に影を潜めている感があった気がします。
それ故にこの全ソウが新鮮に感じられました。

917 名前:海月 亮:2006/04/15(土) 17:34
そこで某所の三国志占いをやったら
一回目に逢紀、二回目に楊修と出た正体不明人格の私が来ましたよwww


>北畠蒼陽様
これだ!
これと絵板過去ログの歩隲&陸遜のワンシーンを組み合わせれば二宮序盤のイメージも固まりそうです^^

荊州戦終ったら二宮SSにとっかかるとしますかねぇ・・・。

918 名前:★教授:2006/04/16(日) 22:40
■■アメフリ■■


「ふーむ、私の予想通り雨になったか。天気予報というものは私くらい確実でないといかんな」
 諸葛亮は白羽扇を口元に校舎玄関前に立っていた。しとしとと雨の降り注ぐ天を仰ぎ涼しげな表情をしている。
 トレードマークの白衣を脱ぎ、髪を結わずに流したその姿は正に凛とした美少女。誰もが思わず息を呑んでしまうほどの美貌を降りしきる雨が更に引き立てる。これこそ絵になると言ったものだろう。
「ふふふ、だが私が傘を忘れるといったベタな展開にはならん。むしろ、あってはならん事態だ…萌えられる要素ではない」
 喋らなければ…だったが。
「ひゃあー…マジかよー。予報になかったぞー」
「予報はあくまでも予報…ってか。全力疾走すれば被害は少なくて済むかな」
「仕方ないですね。面倒ですけど走りましょうか」
 諸葛亮の脇を張飛、馬超、王平ら元気な娘さん達が走り抜けていく。鞄を傘代わりに焼け石に水な抵抗をしながら駆けていく後姿に諸葛亮は心の中で『あれもまた萌えというヤツだな』と頷いていた。
 続いて諸葛亮の横を通り過ぎるは、お馴染みの二人組だった。
「孝直〜…もう少し傘こっちに傾けてよー…」
「もうっ! これ折り畳みなんだからそんなに大きくないのっ! 私だって濡れてるんだから!」
 ぐいぐいと小さな折り畳み傘の遮蔽範囲に身を潜り込ませようとする簡雍とそれを微妙に防ぐ法正だ。どうやら傘を忘れた簡雍が法正の折り畳み傘に入れてもらっている御様子。結局真ん中に傘を持ってくるという事で落ち着いたのだろう、二人とも肩を濡らしながら歩いていった。
「あの二人はいつも私の心をくすぐる…。次なる策を実行に移したくなるではないか」
 ごそごそと自分の鞄に手を突っ込みながら帰宅部公認カップルを見送る諸葛亮。だが、今朝そこに入れたはずのものが見つけられない。段々と涼しい顔が引き攣り始める。
「………何故だ。間違いなく今朝入れたはずだ…折り畳み傘…」
 鞄を覗き込み、その小さいながらも雨天時に効果を抜群に発揮してくれるアイテムを目で探す。しかし、その姿を視認する事が出来ない。彼女の頭の中で仮説が二つ浮かぶ。

仮説1:入れたつもりだった

「いや、仮説にしても有り得ん話だ。用意周到だった、昼も確認した…」
 却下。

仮説2:賊に盗まれた

「一番可能性が高い。放課後間際の突然の雨、少し席を離れた私。この隙くらいしか思いつかんが…それしかないな…」
 採用らしい。

「ともあれ…仮説2だったとすると…。全く、何処の命知らずだ…定例会議にかけんとな」
 悪態を吐きながら傘の入ってない鞄を頭の上に掲げる。こうなれば仕方ない、といった表情だ。
「どう考えても傘を持ってきている連中が校舎内にまだいるとは思えん…諸葛亮孔明、一生の不覚。ラボに篭るには準備不足…」
 普段から専用ラボに篭る事もしばしばだったが、食料及び着替えが必須の泊り込み。今日は篭るつもりは無かったので用意していなかったのだ。
「運動は苦手な方だ…が、進退窮まった。やるしかない…」
 意を決すると鞄を傘代わりに勢いを増した雨の中に飛び込んでいった………────


「全く酷い目にあった…」
 寮の玄関で髪をかきあげ、溜息を吐く諸葛亮。鞄が傘の代用になるにはあまりにも小さすぎたのか、全身は濡れ鼠になり制服がべっとりと体に張り付いてしまっている。上着に至っては下着が透けてしまっていた。
「まずは体を温めんとな。風邪を引いては元も子もない」
 寮の管理者が気を利かせたのだろう、玄関先に置いてあったタオルを一枚手に自室へと向かう。と、そのドアノブに見慣れた黒いものがぶら下がっていた。持っていたタオルと鞄がどさどさっと床に落ち、わなわなと怒りに震えだす。
「これは…私の傘! し、しかも使用済みではないか!」
 そう、それは自分の所有物。市販物に頼らない彼女が買った数少ない生活用品、それだけに妙な愛着心のあった折り畳み傘だったのだ。
「おのれ、憎き下手人! 久々に私も怒り心頭だぞっ!」
 怒りに打ち震えながらタオル、鞄、そして傘を回収して部屋に入り…そして乱暴にドアを閉めた。たまたま近くにいた馬岱がびっくりして階段を踏み外したのはまた別の話。

 話はこれでお終いなのだが…さて、諸葛亮の傘を盗んだ張本人は誰だったのだろう? 最後にヒントを。
 予報になかった雨、傘を持ってきてない人多数につき濡れるは必然。でも、ずぶ濡れにならなかったのは?
 大体の予想は付いたでしょう。機会があれば、続きのお話をするとしましょう。

                       了

919 名前:★教授:2006/04/16(日) 22:53
お久しぶりです。駄文の帝王、教授です。
存在が希薄になって久しいですが…一応生きているという事で。再び駄作を世に…。
時間もなくて何だか短くて尻すぼみな内容ですみません。
一ヶ月くらい使ってゆっくりと筆を取りたいなぁ…。

諸葛亮を主人公にしてみました。意外とこの人を主役にした作品が少なかったもので、出来心的な感じのノリで書きはじめました。
完璧超人を地に我が道を進む彼女にもこんな一面が…と想像を膨らませました、が。結果は散々なもので。
このままでは私も不完全燃焼、何とか見れるものにリメイクしてあげたいなぁ…

920 名前:海月 亮:2006/04/17(月) 20:32
>教授様
つかおいらの解釈通りなら、孔明さんは自分の傘が目の前を通っていったのに気づかなかったと言うことになりますが^^A
横光三国志で孔明が天井裏に取り残されてしまったシーンを思い出してなんか和んだww


何はともあれご無沙汰しておりやした^^A

921 名前:★教授:2006/04/17(月) 21:50
>海月様

 彼女は目の前の萌えに気を取られていたのです(^^;)
 いつでも完全無欠ではないという事を表現したかっただけで…。
 ともあれ、お久しぶりでありました

922 名前:弐師:2006/05/13(土) 20:52
周りは美しい森に森に覆われていた。
その中に敷かれたとても広い遊歩道の中に私達は布陣している。
遊歩道は幅だけでも100mはあるだろうか。煉瓦敷きになっていて、平常時ならば、とても静かでいい場所だろう。こんなところで戦うというのも気が引けるが、仕様がないことだ。
・・・やはり、多くの人間が整然と隊列を組み、向かい合うのは何度体験しても興奮するものだ。
敵の周昂は、私たちの軍の二倍ほどの兵力。兵力の差だけで言えばかなり絶望的と言っても良いだろう。
しかし、つけ込む隙はある。
まず、将の器。
周昂の名前は今日初めて聞いた、しかし、孫堅さん程の将はなかなか居ないだろう。
第一、今まで名前すら聞いたことさえない将だ、まあ、その程度と言うことなのだろう。
そして、兵の質。
今、袁紹の精兵はお姉ちゃんとの戦線に居る。ここにいる兵はそれほど練度が高くはない、それは今こうして向き合っていれば分かる。以前、お姉ちゃんの元で対峙したときと、明らかに「気」が違う。
それに対して、孫堅さんの軍は精鋭中の精鋭。二倍の兵相手でもかなり持ちこたえられる筈。
まずは耐えに耐えて、敵の崩れを誘う。

そして、私の率いる白馬義従。彼女らを率いて、私が本陣に突っ込む。

それが成功すれば、勝てる。
ミスれば、それで終わり。

白馬義従の娘達の顔を見回す。誰一人とておびえている娘は居ない。
ふふ、上等じゃない。流石は精鋭中の精鋭だ。
やってやるよ。私だって公孫一族なんだから、名を汚すわけにはいかない。



「よし!進軍だ!」

孫堅さんの号令の元、歩兵のみんなが敵軍へ攻撃を仕掛ける、一段目は程普さんが指揮を執っている。一旦は押し込み、その後少しずつ誘い込む作戦だ。
まずは互いの軍の一段目がぶつかる、兵力差を物ともせず、こちらが押し込んでいっている。
段々と敵の一段目が崩れ始める、程普さんは兵達の先頭で竹刀を振り回している。

ん?・・・おかしい、だんだん敵兵が二つに別れている、誘い込み挟み込む気か。
程普さんは気づいていているのかいないのか、そのままどんどん前進している。いや、させられているのか。
敵陣に飲み込まれ、挟み撃ちに合う寸前のところで、いきなり孫堅さん自ら率いるバイク部隊が突っ込んでいく。それと入れ替わりに、程普さんが後退していく。なるほど、流石は孫堅さんの配下、よく訓練してある。
孫堅さんは挟み撃ちにしようとした兵達を追い散らし、同様に引き上げてくる。
敵は算を乱し、結局全軍で押しつぶそうと前進してくる。
必然的に、陣は乱れる。
そして、決定的な隙が出てくる。
本陣と前衛との隙間。そこに全速力で、突入。

「今だ!本陣の周昂の所に突っ込むよっ!」

大地が震える。どんどんスピードを上げ、本陣に近づいていく。

乱戦に、突入する。
周りの娘達には目もくれずに、ただ一直線に周昂の元へ向かう。
「邪魔をするなら、容赦しないよっ!」
どんどんと本陣の中を進んでいく。
それほどまでの圧力はない、やはり、大したことのない敵か。
時々遮ろうと前に出てくる娘もいたが、それもどこか及び腰ですぐに蹴散らした。
私達に合わせ、防戦に徹していた孫堅さん達の本隊も攻勢に転じている。
前からの圧力に加え、陣の内部も引っかき回されているのだ、潰走するのも時間の問題だろう。
流れは、確実にこちらに来ている、あと一押しだ。

風が私の頬を打つ、まさに天を駆けるかの如く周昂に近づいていく。
周昂まで、あと

――――――――50m
――――――――25m
――――――――10m

――――――――――0!!!

遂に、周昂をとらえた。旗本達も蹴散らし、彼女に向かう。
「覚悟!!」

間近で見た、周昂の顔、それを見た瞬間、背筋に冷たい物が走る.
私は勝利を確信した、きっとそれは正しい。
それなのに――――――――
何だというのだ、今から飛ばされようとしているのに何故っ!!

「何故貴女は、笑ってるのよっ?!」
「分からないの?所詮はあの公孫サンの妹ね・・・ふふ・・・」
「何がおかしいと言っているの!」
「ふふ、じゃあ、教えてあげる。私は、周昂さんじゃないわ・・・あなた、周昂さんの顔知らなかったでしょう?もしかして、名前すら知らなかったんじゃないかしら。
ただ、本陣にいて、旗本に守られているから、私のことを周昂さんだと思った・・・
ふふ、そう、本当の周昂さんは、本陣には最初からいなかった・・・」
そう彼女が言い終えたとき、左右の森の中から鬨の声が響いてきた。
まさか・・・伏兵・・・
森の中から出てきた軍の先頭には、目つきの鋭い、薄笑いを浮かべた女が立っていた。
あいつが、本物の、周昂・・・!!

「孫堅さぁん!!!逃げてぇっ!!!!!」

――――――――だけど、その絶叫も、


前後左右の鬨の声にかき消されて――――――――

923 名前:弐師:2006/05/13(土) 20:54



詰めの甘い越さんなのでした。


>雑号将軍さま

袁術先輩は凄いですね、ほんとに。
設定を見てるだけで私の手には負えない気がしてましたw
「一位にこだわるがそれに値する努力はしっかりしてる」というのが素敵です。


>北畠蒼陽さま

たった一言ですれ違ってしまった二人・・・相変わらずの素晴らしいダークっぷり!流石は蒼陽さまです
是非袁術先輩も書いて下さい!!
私の筆力ではこれが限界です・・・


>海月 亮さま

呂蒙の決意。そしてそれを認め、協力する少女達。青春ですね!
着々と進んでいく関羽包囲網、決戦が楽しみです。


>教授さま

完全無欠な孔明さんの弱点・・・それは「萌え」だったのですねw
いやはや、流石は教授さまでございます。

924 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:19
−武神に挑む者−
第一部 >>898-901
第二部 >>909-912



第三部 決戦への秒読み


呂蒙たちが陸口の渡し場から遠くの戦場を"観ている"丁度その頃…虞翻は手筈通り、公安津の留守居を命ぜられた士仁の元を訪ねていた。
(…成る程)
闖入者に対して何の警戒も払わないどころか、こちらを時折伺う視線も無関心そのもの。
その守備隊のかもし出す雰囲気からは、訪れるであろうに未来に絶望しているように虞翻には思えていた。
(……同情したくもなるわね)
天下分け目ともいえるこの機会に背後の守りを任されるのは良いとしても…恐らく此処に残されたものは、"前線にいても無用の長物"というレッテルを貼られて、切り捨てられた者たちであろう。
帰宅部連合がまだ弱小勢力のことから劉備や張飛らと艱難をともにし、奸雄曹操をも虜にした義の人・関雲長。
その裏に隠された関羽のもうひとつの顔を、虞翻は垣間見たような気がした。
(君義の落ち度は、此処まで酷い扱いを受けなければならないほどではないだろうに…ううん、厳粛に取りしまるとのは良いとしても)
その返り咲きの機会すら与えない…そんな関羽の冷徹な一面を垣間見た気がして、彼女は何時しか不快感すら覚え始めていた。

いや。
彼女が関羽に抱いた嫌悪感は、既にこうなる前から、持ち合わせていたものだった。
長湖部側から持ち出した親睦の歓談を拒絶し、公式の場で孫権を貶める発言をした…そのときから。

執務室に通された虞翻は、半年振りくらいに会った旧友の表情の変化に、衝撃を受けずに居れなかった。
腕前はともかくとしても、発展途上だった同門の有望株は、少なくとも此処まで覇気のない表情はしていなかったはずだ。
快活で前向きだったその彼女の面影はすっかり消え去り…瞳には絶望と憎悪が渦を巻いているように見えた。
「…あなたの言葉…信じてもいいのね?」
「ええ。ただし、条件があるわ」
既に前もって、文書で双方の意思疎通は図られていたのだ。
「……江陵棟の糜芳、その懐柔が条件よ」
「問題はないわ」
その少女は、虞翻に一通の文書を手渡す。
「我ら二名、および公安津・江陵駐屯軍の末卒に到るまで、あの女に味方するものはないわ…!」
「そう」
虞翻は此処まで自分の思い通りに運ぶとは思いもよらず、苦笑を隠せずにいた。


それから30分後、虞翻の連絡を受けた長湖部の精鋭部隊は、樊で戦う関羽にその動きを悟られることなく公安津への上陸を果たした。
「あんたが士仁だな」
「はい」
呂蒙との面会を果たし、降伏者の礼を取る士仁。
「そんなに堅っ苦しいのは抜きで良いよ。立場が立場だから暫くは肩身狭いかもしれないけど…まぁひとつよろしく頼むわ。これからの戦列に加わって協力してもらってもいいかい?」
「無論。武神などと呼ばれ有頂天になっているあの女に、是非とも一泡吹かせる機会を!」
見つめ返す栗色の瞳の奥には、憎悪の炎が渦巻いているかのよう…呂蒙もまた、虞翻が抱いたのと同じ印象を受けた。
傍らの虞翻に目をやる呂蒙。
「…彼女は私と同流派の使い手よ。先鋒に加えて、彼女やひいては我が流派が蒙った汚辱を晴らす機会を与えてくれれば、私としても嬉しい」
その応答に満足げに頷く呂蒙。
「よし決まりだ。此処の連中もやる気満々のようだし、先ずは関羽攻略に一役買ってもらうとするかな」
「…ありがとうございます!」
初めて喜悦の表情を表し、深々と一礼し退出するその少女の姿を見送り、呂蒙は再び虞翻を見やる。
「…どんなに堅い胡桃の実にも虫が食っていることがあるが…まさにその通りだな」
「そうね」
呟く虞翻には何の表情も伺えない。
彼女としても複雑な気分であっただろう。志は違えたといえど、旧友の弱みに付け込んだ格好になったのだから。
「これで私の役目は…」
「んや、あんたにはもう一役買ってもらわなきゃならん」
「え?」
立ち去ろうとした虞翻だったが、呂蒙は更なる重責を彼女に負わせるべく考えていたらしい。

ふたりがそのあと、何を話していたのか知る者はいない。
唯、以降この陣中に虞翻の名をみることはない。
その後関羽攻略を記した記事の中に唯一つ、虞翻が孫権に問われるまま占いを立て、関羽が彼女の予見したとおりの時間に囚われたことを孫権が称揚した以外には…。

925 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:19
陸遜達が夷陵棟に腰を落ち着けて間もなくのこと。
「伯言ちゃ…いやいや、主将、江陵から電報来ましたよ」
「思ったより早かったのね」
大仰に敬礼しなおして部屋に入ってくる駱統の姿に苦笑しながら、受け取った電報にさっと目を通す。幼馴染であったゆえか、陸遜は駱統にこういう茶目っ気があることを良く知っていた。
「ところで公緒、周辺の状況は?」
「とりあえず宜都、秭帰、巫の各地区に散在する小勢力の制圧は完了してるわ。此処も元々少人数しか残ってなかったからさしたる抵抗もなし。一先ず任務完了ってとこかな」
そう、と一言呟くと、
「じゃあ私も最後の仕上げにかかるとしますか…軍団のうち、300を率いて関羽包囲に加わるわ。暫定的な軍編成はここに書いたとおりに、あなたに一任するわ」
手元の書類を封筒にしまいこんで、駱統に手渡した。
「ねぇ、伯言ちゃん」
退出しようとする陸遜の背に、駱統は問いかける。
「伯言ちゃんは、これが終わったらまた、元のマネージャーさんに戻るの?」
「…そういう、約束だからね」
そのまま振り向こうともせず、陸遜は「後はよろしくね」と一言残して、その場を後にした。
その場に取り残された格好になった駱統は暫くその場に突っ立っていたが…
「……惜しいなぁー」
と一言呟き、主のいなくなった部屋のソファーにひっくり返った。


江陵陥落から間もなく、その陣中には長湖の精鋭軍を引き連れてきた孫権の姿があった。
江陵にて後方守備軍に睨みを利かせていた潘濬は、江陵をあっさりと占拠されたという事実を恥じ、寮の一室に閉じこもっていたが、孫権は呂蒙の進言にしたがって彼女と直接面談し、その協力を仰ぐことに成功した。
余談ではあるが、孫権はこのとき、布団から出たがらない彼女を、布団ごと担架に乗せて連れて来させたらしいという噂もあったという。孫権を快く思わないか、潘濬の節度を惜しんだか、あるいはその両方を持ち合わせている誰かが、そんなことを言い出したのだろう、ということだった。
それはさておき。
「ボクとしても本気で帰宅部連合と事を違えるつもりはない。そもそも荊州は長湖部が帰宅部連合に貸与したものであって、しかも境界線を犯して備品を強奪するということ事態が言語道断のはず」
執務室で、潘濬を前にして険しい表情の孫権。
潘濬はあくまで無言だった。備品強奪の件についてはまったく彼女の与り知らぬ事であり、そもそもそんな事実が存在したのかどうかすら知る術がなかったからだ。
実際、関羽は于禁率いる樊棟救援軍を壊滅させると、そこで軍備不足となったため、夷陵棟から追加兵力を導入する際に湘関にある長湖部カヌー部のカヌーを無断で使用し、挙句に戦場にまで持ち出したままになっている。
危急の事態とはいえ、あまりに言語道断な話である。仮に関羽の指示ではないとはいえ、その卒に至るまでが長湖部という存在を下風に見ていたという証左だ。
そのことを聞かされた潘濬も(あぁ、そのくらいは仕出かしているだろうな)くらいのことは考えついていた。
関羽の独断専行は今に始まったことではない。現実に関羽は荊州学区における裁量の総てを帰宅部連合の本部から一任されており…そもそも今回の樊攻めも関羽自身の判断において実行されたものである。そこに潘濬や馬良、趙累といった関羽軍団の頭脳集団にその実行の審議を求めた形跡もなく…あくまで彼女の裁定に従い、各々与えられた職務を全うすることだけが求められた。
現実、関羽の裁定に非の打ち所がなかったことも確かだ。蒼天会との戦線を開くには、蒼天会が漢中アスレチックを放棄したこのタイミングをおいて、他にない。唯一懸念があるとすれば、関羽の"馴れ合い拒絶"に心中穏やかならぬはずの長湖部の動向のみだが、その主力はあくまで合肥に釘付けになっているはず…。
彼女にとっての大きな誤算は、やはり士仁や糜芳といった不平分子が予想外に多かったこと、そして、何よりもこの南郡という場所に対する長湖部の執念だろう。
彼女は孫権の表情から、単に関羽の言動に対する衝動的な感情だけで動いたのではないことに、気がついていた。
「貸主が借主の非礼に対し、相応の行動をとったということ…そのことを伝える使者に、キミに立ってもらおうと思う」
「…何故…私に?」
降伏組なら士仁や糜芳もいるし、使者として立つべき人物は長湖部員にも多くいるはず…特に士仁らの調略に関わった虞仲翔など、その際たるものであるのに…あるいは、やはり降伏者である自分への踏み絵とでも言うのだろうか。
その考えを読み取ったかどうか。
「…キミはここにいる中では、一番関雲長に対して敬意を払っている…そういう人になら、ボクの思うべきところをちゃんと彼女に伝えられると思ったからだよ」
そういって、孫権は微笑んだ。
その微笑みに、潘濬は関羽同様、孫仲謀という少女の器の大きさを見誤っていたことを思い知らされた。
(…そうか…最大の敗因は、私達の認識不足だったということか…)
彼女はこのとき初めて、決定的な敗北感を味あわされたような、そんな気がしていた。

その使者の命を拝領して、彼女が関羽の元へ出向いたのは間もなくのことだった。

926 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:20
「…実にいい風じゃないか」
戦場に近いクリークの上。
その行動開始時間を水上で待つ蒋欽は、遠くその"予定地点"を眺めながら、そう呟いた。
銀に染めた髪を無造作に束ね、腰にはジャージの上着と共に鉄パイプを括り付け、威風も堂々と立つその姿は…かつて湖南の学区を我が物顔に支配していたレディース"湖南海王"のヘッドを張っていた彼女そのままだった。
「これから何か起こるにしては、なんとも拍子抜けじゃねぇか?」
「あたしにゃそう思えませんけどねぇ」
答えるは、傍らに座る、どんぐり眼で赤髪の少女…吾粲。
舳先に座っている所為以上に、元々大柄の蒋欽と小柄な吾粲の身長差は40センチ以上あるため、吾粲の姿は余計に小さく見えた。
「これから始まるのは、まさしく学園勢力図の情勢を一変させる戦いですよ? むしろ、この静けさのは不気味でなりませんよ」
「…そうともいえるな」
吾粲の表情は硬い。蒋欽にも、その理由は良く解っていた。
彼女達がこれから相手にするのは、学園最強の武神と名高い関雲長。
夏に戦い、結局打ち倒すことの叶わなかった合肥の剣姫・張遼と比べても決して劣らない…いや、今の学園内において、下馬評によれば関羽の将器は張遼を大きく上回るとさえ言われている。
(そんなバケモノじみた相手に、果たして長湖部の力は何処まで通用するのか…?)
長湖幹部会でも危惧されてきたことだが、前線に立つ命知らずな長湖部の荒くれたちにも、その懸念がないわけではなかった。
いや、むしろ実際前線に立ち、数多の戦いを経てきた蒋欽らのほうが、むしろその思いを強く抱いていたに違いない。
「…なぁ、孔休」
不意に名を呼ばれ、自分の頭のはるか上にある蒋欽の顔を見上げる吾粲。
「あたしはこの戦いで飛ばされるかもしれない。飛ばされないかもしれない」
その表情は、一見普段とまったく変わらない様に見える。
しかし吾粲には…その黄昏の陽を背にしている所為だったのかどうか…何処か悲壮な決意に満ちたもののように感じられていた。
「どんな結末になろうとも…必ず関羽は叩き潰す。そのために必要な力が足りないというなら、その不足分はお前の脳味噌で補ってくれ」
「…言われるまでもないですよ」
それきり、ふたりが目を合わせることはなかった。
暮れ行く冬の夕陽を浴びながら、その眼はこれから赴く戦場…その一点だけを見据えていた。


日が暮れかけてきたころ。
江陵からは孫権、呂蒙、孫皎を中心とした千名余の長湖部主力部隊が、夷陵からは陸遜率いる三百名が、臨沮には潘璋、朱然らの率いる五百名が、そして柴巣からは湘南海王の特隊を含む千名が、それぞれ行動を開始していた。
江陵陥落の報を受けた関羽が、漸くにして事態を確かめるために南下してきたのだ。その勢はおよそ五百、僅かに関平、趙累ら一部の旗本を引き連れて。
「こいつぁ大仰なことになってきたなー♪」
臨沮駐屯軍の先頭に立ちながら、ぼさぼさ頭を無理やりポニーテールにしている少女…潘璋が嬉々として言う。
「でも先…主将、いくらあの武神が相手とはいえ、相手五百に対してうちらその何倍で囲んでるんですか?」
それに併走しながら、狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女が問いかける。
少女…丁奉の言葉には、わざわざ関羽一人葬るために、長湖部の全力を傾ける必要があるのか、という不満も見え隠れしていた。
言い換えれば、関羽一人をそこまで恐れなければならない、その理由が理解できなかった。
潘璋は苦虫を噛み潰したような表情で「けっ!」と一言吐き捨てる。
「寝言は寝て言いな承淵! 相手は学園最強の武神サマだ、十倍投入してもお釣りなんか多分でねぇ!」
そして、なおも何か言おうとする丁奉の言葉を遮り、
「…確かに関羽を恐れないものはいねぇ。だがな、だからこそ今全力をかけて、ヤツを叩き潰さなきゃならない…! アイツは事もあろうに、公式の場で長湖部を…あたし達が背負ってきたものを侮辱したんだ。その落とし前もつけさせてやらなきゃなんねぇんだよッ!」
珍しく真面目な顔で言い切った。
これには丁奉も納得せざるをえない。いや、むしろ彼女にも痛いほどよく解った。
彼女達が守ってきた長湖部の名…それを背負う孫権を、わざわざ公的な場で「門前を守る犬にも劣る」と言い放った関羽。孫権に対する侮辱は、孫権に見出されて世に出た彼女達に対する侮辱でもある。
「今のあたし達には、武神に対する恐怖なんかねぇ…あの高慢ちき女に一泡吹かしてやろうってことしか頭にないんだよ!」
「…心得違いでした。あたしも、及ばずながら!」
「おうよ、期待してるぜぇ! あんたもなっ!」
その答えに、普段のふてぶてしい表情に戻って、口元を吊り上げる潘璋。その傍らにいたもう一人の少女も無言で頷いた。
それは紫のバンダナを銀髪の上に置き、そこからはみ出した前髪から、僅かに深い色の瞳が覗いている…不思議な雰囲気を持つ少女であった。
丁奉はその少女…といっても、恐らくは彼女よりもずっと年上なんだろうが…の姿に、ほんの数時間前初めてであったときのことを思い出していた。

927 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:20
ほんの十数分前、益州学区に程近い臨沮地区へ向かおうとする潘璋を呂蒙が呼び止めた。
「実はなぁ、この娘をあんたの軍団に加えて欲しいんだ」
「えー?」
呂蒙が連れてきた少女こそ、件の少女…馬忠である。
既に戦闘の段取りを組み終えたところで、逆に新たな人員を加えることは、組み上げた段取りを再構築しなければならないことを意味する。潘璋の不満げな反応も、至極当然のことだが…呂蒙の熱心な説得に潘璋が折れ、その少女は丁奉に指揮を一任されている銀幡軍団に預けられることと相成った。
話によればこの馬忠、どうも何らかのトラウマがあって、それ以来言葉を失ってしまったということだった。その代わりといってはなんだが、武術の達人であり、関羽に対してもかなり一方ならぬ感情を持っているという話だった。
挨拶を求めても、そっけない感じで会釈を返しただけで軍団の最後尾に引っ込んでしまったその少女を目で追いつつ、丁奉は呟いた。
「なんだか、とっつきにくそうな人ですね…」
「あぁ。しかも偶然とはいえ、あたしとまったく同姓同名だ。ちっと呼び分け考えてもらわんとなぁ」
「え?」
丁奉の傍に、少し柄の悪そうな金髪の少女が苦笑している。
彼女は銀幡軍団のナンバーツーにあたる、阿撞と呼ばれている少女だった。甘寧療養中の銀幡軍団の実質的なまとめ役であり、丁奉のサポート役でもある。
「なんだ承淵? まさか"阿撞"ってのがあたしの本名だと思ってたんじゃないだろうな?」
「あ…いえ、その」
年季の入った百戦錬磨のガンに、慌てる丁奉。
「そりゃあんた、まったく本名の話してなかったくせにそれはないやろ」
流暢な関西弁を喋る少女が助け舟を入れる。銀幡のナンバースリー、暴走した甘寧を止められる数少ない存在の一人である蘇飛である。
「そういううちも、話してなかったしな。堪忍な」
「ち、阿飛、あんたばっかいい方に廻るな」
固まったままの後輩の肩を叩きながら蘇飛が笑い、つられる様にして阿撞…馬忠も笑う。
「阿撞ってのは、あたしがピンでやんちゃやってたころの通り名でね…リーダーに拾われたあとも、面倒くさいからそのまま通してるのさ。まぁ名札なんてのも普段付けねーし、クラスどころか学年も違うから知らなくて当然だよな」
はぁ…とあっけにとられた感じの丁奉。
「まぁ別にええんやないの? あの娘は馬忠でええやろし、あんた呼ぶときは阿撞せぇばええわけやし」
「てきとーいってくれるなオイ…一応親からもらった名前だぞ?」
けらけらと楽しそうに笑う蘇飛と、苦笑する馬忠。
そんな先輩ふたりのやり取りを他所に、丁奉は何故か"もうひとりの"馬忠が気になっているようだった。
その容姿、仕草…そしてその雰囲気は、何処か自分の知っている人物に酷似している様に思えたからだ。後に近い将来、共に長湖部を支えていくことになるある少女…いや、正確に言えば、それと縁のある人物に。
「どうかしたのか?」
「あ…いえ、別に。行きましょうか」
自分よりはるかに年上のヤンキー軍団と、その寡黙な少女を促して、移動を始めた潘璋軍団の後尾につきながら、
(…まさか…ね)
彼女は頭を振り、その考えを否定した。
彼女の記憶にあるその人物は、決して戦陣に立つイメージは思い浮かばなかったからだ。

丁奉の思索を打ち破ったのは、突如耳に飛び込んできた怒号。
時刻にして五時半を少し周っていたが、冬という季節がら既に日は落ち、彼女達の目指す先には明かりが見て取れる。
街灯の明かりばかりではなく、この時間の戦闘になることを見越して持ち込まれた照明機材の光で、そこだけ昼間の如く明るくなっていた。その燭光で、暗がりからの攻撃をカモフラージュする意味もあった。
言うまでもなく、そこが関羽包囲網の最終ポイント。少女達が目指す場所でもあった。
「…よし、大魚は罠にかかった! 承淵、あんたは銀幡軍団とその無口ねーさん引き連れて義封と後詰めにつきな!」
そして、目指した最終戦場を見渡せる高台に軍団を展開させる潘璋。
「先輩は!?」
「このまま公奕ねーさんの軍と挟撃かける! あんたたちは包囲を完璧にして、アリの子一匹通すなよ!」
「はいっ!」
その丘に帰宅部勢と長湖部勢の激突を、そして丘の対岸に蒋欽の姿を見て取った彼女は、思い思いの獲物を手にして戦闘準備を整えた子飼いの軍団に檄を飛ばす。
「決死鋭鋒隊、あたしに続けッ!!」
潘璋を戦闘に、怒号と共に雪崩を打って駆け下りる鋭鋒隊。
時を同じくして、対岸から戦場へ雪崩れ込む蒋欽軍団。
そして、関羽の正面から姿を現す呂蒙率いる長湖部本隊。
(多勢に無勢…どう考えても逃げ道はない…でも…)
その光景を、彼女は取り残されたその場から遠く眺めながら。
丁奉は、戦場の中央で沈黙を守る関羽の姿に、形容しがたい不吉ものを感じていた。

928 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:27
実に一ヵ月半ぶりだぜイエー!\(^0^)/

そして振り返ってみたら関羽サイドの話がまったくありません><
次の話はそこら辺少し触れることになるでしょうけど、そんなに深くは突っ込まないかもしれません。



>弐師様
罠キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!(何

結末を知っているとはいえ、そこにいったいどんなドラマが待ち受けておるのか楽しみなおいらがいます^^^
くそうもっと早く読んでおけばよかったぜ…><

929 名前:北畠蒼陽:2006/06/11(日) 23:49
「これは……渡すわけにはいかへんのですえ」
「貴女の想いに関わらず、それは失われるわ」
ある一室に2人の少女が対峙する。
ドアを背にした白髪の少女が『それを渡せ』とでもいうように左手を前にして一歩近寄る。
窓を背にした黒髪の少女が自分の胸元の……その手の中にある蒼天章をかばうように二歩後ろに下がった。


罪と云う名の物語を背負って


廊下を1人の長身の少女が全速力で走っていた。
走るごとにポニーテールが上下に揺れ、流れる汗も視界を妨げる。
それでも彼女は走っていた。
そして……
「皇甫嵩さん! 廊下は歩いてください!」
目的である部屋にようやくたどり着く、そのときに少女を……皇甫嵩を妨げた少女。
この年齢の少女にしては平均身長をはるかに下回るだろう。長身の皇甫嵩からは見下ろすほどに小さい……
しかしその両の腕を横に伸ばし、ここから先には進ませないという気迫を放つ。
「……っ!」
皇甫嵩は足を止め憎憎しげにその小柄な少女……士孫瑞を睨みつけた。

「なんで貴女は……そうやって……」
黒髪の少女が白髪の少女に声をかける。
その声に滲み出るのは悲しみの感情。
白髪の少女は……なにも答えない。

「士孫瑞……貴様ら、自分がなにをやっているのかわかっているのか」
額を流れる汗を手の甲でぬぐい皇甫嵩は士孫瑞に憎悪すらこもった視線を向ける。
「貴様らがやろうと思っていることが……どんな影響を及ぼすか考えたことがあるのかッ!」
怒声。
それでも士孫瑞は腕を大きく横に広げたまま、皇甫嵩を睨みつける。
「私はあの人に救われたことがある。今度は私があの人を救う番だ。ここは通してもらうぞ」
皇甫嵩の気が膨れる。
戦場を長らく駆け回ったものだけが発する闘気ともいうべき波動。
士孫瑞はそのあまりのプレッシャーに眉を歪め……
眉を歪め……それでも2歩だけ後ろに下がって……まだ両の腕を大きく横に広げていた。
「ここは……通しません……」
皇甫嵩は鼻で大きく息を吐く。
「……死にたいのか、貴様」
澄み渡る皇甫嵩の闘気に……士孫瑞はもう下がらない。

「そんな……貴女1人が罪を被る必要はないはずや……それなのに……なんで……」
黒髪の少女は自分の制服の胸元を握り締める。
その拳の中にあるものを渡してしまったら……そのときは……

「?」
皇甫嵩がきょとんとした顔でたたらを踏んだ。
「士孫……瑞?」
冷や汗すら流し、ずっと歯を食いしばって耐えていた士孫瑞が……
皇甫嵩を平手で打った。
もちろん皇甫嵩にとってその一打で判断が鈍る、ということはない。
だが……
「なめるなよ、戦争屋ッ! こちとら蒼天会の中枢で官僚を務めてんだッ!」
ずっとあの女の腰巾着だと思っていた小柄な少女の反駁に……
皇甫嵩はわかってしまった。

930 名前:北畠蒼陽:2006/06/11(日) 23:50
「うちはトぶのが怖いんちゃいますえ……貴女が失われるのが、その覚悟がなにより怖いんや! そうでしょう……答えてや、子師はん!」
子師……王允に呼びかけるその声。
「蔡ヨウさん、貴女の蒼天章を奪うことはあなたに対して悪いと思う。でも私にはそれしか思いつかなかった」
王允は黒髪の少女、蔡ヨウの名を呼び、また一歩近寄る。
「呂布は……学園史に残したくもない、ただの猛獣だ。私はあの魔王、董卓を排除するためとはいえあのような者と手を組んでしまったのです」
私の手は汚れている、と自嘲する風すらなく言い放つ王允。
「さらに私がここで貴女を……名図書委員たる貴女をトばせばさらに私の悪名は高まる。そのときこそ……悪逆非道たる私と呂布をトばした人間を英雄として学園史は迎えてくれることだろう」
自分が悪名を高めれば高めるほど、それを倒すものは祝福とともに迎えられる。
蔡ヨウはいやいやするように首を振る。
「子師はんがその猛獣を御せばえぇ! 貴女にはそれだけの力がある!」
「残念ながら……」
王允は蔡ヨウの言葉に……初めて自嘲の笑みを浮かべた。
「私の器はあの魔王よりも下だよ。魔王すら御し切れなかった猛獣は私の手には余る」

「あんたたちは……王允もあんたもそれでいいのか!」
10年も20年も……
ずっと学園史の闇の部分を背負って……
生きていくというのか。
皇甫嵩は震えながら口を開く。
歴史に残る消せない汚名……それは死ぬよりも苦しいことなんじゃないだろうか。
「正直ね、怖いよ。いやだよ、私だって」
皇甫嵩の頬を打った右手が痛むのだろう、左手で押さえながら士孫瑞はそれでも皇甫嵩から視線をそらさずに言い放つ。
「でもね、嫌われるから官僚なんだ! 嫌われない官僚になんの価値がある!」
「……なにか私にできることは?」
皇甫嵩の言葉に鼻で笑い飛ばす士孫瑞。
「ここは官僚の戦場だ。戦争屋はすっこんでろ」
士孫瑞の言葉に……皇甫嵩はその小柄な体を強く抱きしめた。
「……あんたも……王允も本当にバカヤロウだ」
士孫瑞はその言葉に微笑みすら浮かべる。
「皇甫嵩さん、貴女は朱儁さんや丁原さんや盧植さんと一緒に卒業するって、そう約束してるんでしょう? 私たちにとってね、それが守られることがなによりも嬉しいことなのよ……私たちは卒業式に出ることはできないけど……約束して。ちゃんと4人そろって……私たちのかわりに卒業してくれる、って」
「約束する。約束するさ……」

「蔡ヨウさん、別にあなたにはなんの恨みがあるわけじゃない。ただ正義という名前の旗印として適当だったというだけ。だからとばっちりで蒼天章を奪う私のことをどれだけ恨んでくれてもかまわない」
「恨めるわけ……あらしませんやんか……」
王允は蔡ヨウの胸元に……蒼天章に手を伸ばす。
蔡ヨウは抵抗をするが……それはもはや形だけのものに過ぎない。
「本当に……ごめん」
王允の言葉とともに蔡ヨウは蒼天章を失った。

931 名前:北畠蒼陽:2006/06/11(日) 23:50
あらぁー? 何ヶ月ぶりでしょう? 何ヶ月ぶりでしょう!
ごめんなさい。さぼってました。うひぃ。
ってわけで王允話です。うひぃ。

……なんだこの話。

>教授様
あふん、萌えが書けない私にとっての癒しは他の方々の書かれる物語です。あふんあふん。諸葛亮えぇわぁ(笑

>弐師様
おぉ〜ぅ、戦場の緊迫感とか、いいじゃないすかいいじゃないすか〜。
続きー続きー。楽しみにしてますねん。

>海月 亮様
ぬぬ……虞翻さんが動いておるよ?(笑
関羽が神になっちゃっただけに呉ビジョンでの征関ってあんまないと思うんで純粋に楽しませてもらってますよん。
たーのしみー。

932 名前:冷霊:2006/07/25(火) 15:20
壱:885
弐:895
参:896

葭萌の夜〜白水陥落・肆〜

夕刻・白水門にて。
「ったくあの馬鹿!大事なときに限っていっつもアイツは……!」
「お、落ち着いて下さい!まだそうと決まったワケじゃ……」
「わかってる!そんなことあってたまるかっ!」
ガンと門柱を殴りつける。
「……っとゴメン。劉闡に当たっても仕方ないか……」
約束の時刻、白水門に楊懐の姿はなかった。
あたりにいた生徒の話だと、楊懐らしき人物が葭萌へと向かったらしい。
一人で行くということが何を意味するかよくわかっているつもりである。
「あたし行ってくる!」
「こ、高沛さん!? 行ってくるって……白水門はどうするんですか!?」
「劉闡!後は任せたっ!」
「はいっ!……ってええっ!!」
驚き顔の劉闡を尻目に、高沛は駆け出していた。
後ろを振り返りもせずに。
「高沛さん……ちょ、わ!私も行きますっ!」
劉闡も慌てて棒を握り締め、高沛の後を追う。
血の滲んだ門柱を夕日が照らしていた。

三年前、益州校区に来たばっかのあの頃、あたし等は南陽から流れてきた連中の面倒を任されていた。
あたしは特別な腕が立つわけでも、優れているわけでもなかった。
けど、君郎さんはそれでもあたし等に益州校区のことを任せてくれた。
君郎さんの考えは今でもわからない。でも、楊懐と決めたんだ。
君郎さん……いや、益州校区の皆を一つにしようって。
皆で楽しめる何かを見つけようって……。

ふっと考えが途切れる。
目の前に見えてきたのは葭萌関、その傍らには幾人かの姿があった。
「劉備……」
足を緩め、ゆっくりと立ち止まる。
「高沛はんに劉闡はん、三分遅刻やでー?」
劉備が妙に明るい声で声をかける。
「は?劉闡?」
高沛が訝しげに後ろを振り返る。
するとそこには……
「遅刻のことは……申し訳……ありません……」
劉闡がいた。
いつもより少しだけ険しい表情で。
「楊懐さんは……楊懐さんは何処ですか!?」
「劉闡……ついて来ちゃったかー……」
高沛の横を通り過ぎ、劉闡はよろよろと劉備へと歩み寄ろうとする。
「劉備さん!答えて下さ……い?」
尚も進もうとする劉闡を、高沛は片手で静止した。
「ああ、そのことに関してなんやけどちと困ったことがあってなぁ……」
劉備が少し眉をひそめる。
「困ったこと?」
「そうさね」
ホウ統が小さく頷いた。
「先程、楊懐さんが劉備さんに挨拶に来たんだけど、話の途中で武器を持ち出しちまってねぇ……」
軽くホウ統が頭を掻く。
「よ、楊懐さんが!?楊懐さんがそんなこと……」
「おっと、話はまだ終わっちゃあいないよ」
劉闡の言葉を遮り、ホウ統は言葉を続ける。
「それでウチの劉備さんも仕方なく応戦したんだけど、結果として楊懐さんの階級章を奪っちまう形になっちまったんだよ」
傍らの劉封が持っていた包みを開けた。
そこにあったのは階級章と対の短杖。
高沛には一目でそれが楊懐の物だとわかった。
「そこでだ。この事をウチが不問にする代わりに……」
「白水門の軍を寄越せっていうんでしょ?」
高沛が口を開いた。
「寄越せだなんて言い方が悪いねぇ。張魯対策に人が足りないから貸して欲しいだけさね」
「一緒のことです!高沛さん、何としても楊懐さんのもごっ!」
劉闡の口を手で塞ぐ。
「劉闡……自分がタマの妹ってこと、忘れないで」
高沛はぐっと一歩だけ前に踏み出した。
「劉闡。タマにこのことを伝えて」
「え?で、でも私も……」
「くどいっ!急いでっ!」
高沛が叫ぶ。
「……わかりました。高沛さん……どうか御無事で」
「りょーかい!」
劉闡の声に高沛はいつもの明るい声で答えた。

「いいのかい?行かせちまって」
「構わへん、元々頭数は負けとるんや。それにウチにはあんさんがおるやないか」
「へえ、評価してくれるとは嬉しい限りだね」
ホウ統がニッと笑い、そして高沛へと向き直る。
「劉備。アンタがタマを裏切ろうが益州校区を狙おうがしったこっちゃない。大体タマったら周りの意見に左右されるわ、競争心の欠片も無いわ……はぁ〜」
眉を顰め、大きく溜息を付く。
「ははは、せやろな。一月も滞在しとったらわかるわ、そんくらい」
劉備も笑い飛ばす。
「それでもあたしの友達なんだよね。タマも楊懐も」
高沛がぐっと拳を握り締める。
「だからあたしから喧嘩売らせて。買ってくんない?」
「ああ、ええで」
劉備が深く頷いた。
その口元から笑みが消える。
「りょーかい。ふぅ……」
高沛が息を吸う。
「益州校区が主、劉季玉が臣にして友!高沛参る!」
朗々とした、それでいて真っ直ぐな声が響く。
高沛は劉備に向かって駆け出した。

少しだけ高い聞き慣れた声。
何度も聞いた声。
劉闡はその声を背に受けつつ、只管に駆けていた。

933 名前:冷霊:2006/07/25(火) 15:30
うは、気が付けば四ヶ月ぶりですね。
御無沙汰しておりました冷霊です。
さーて、就活頑張らねばー(苦笑)

迷った挙句、こういう形となりました。
ホウ統の評では楊懐は名将、高沛は配下が強兵とされてましたので、こんなカンジだったのかなと。
まあ、策を弄するよりは真っ直ぐ突っ込む方が高沛らしいかなと思いまして。
劉闡については、一緒に捕らわれたのか脱出したのか結局わからずぼかしました……
何処かに表記ありましたかねぇ?(w;
でも、一緒くたにされがちな楊懐と高沛が、それぞれ少しでも生き生きと表現出来てたらなと嬉しく思います。
さて、一段落付いたら溜まってる分を一気に読んでしまいたいなぁと思っております。
葭萌関やフ水の攻防も書いてみたいなぁと思いますし。
それでは暑さにお気をつけてー。
冷霊でした。

934 名前:弐師:2006/07/29(土) 20:08
その報告を聞いたのは、あらかたの仕事を片づけて、もう休もうかとしているときだった。

越ちゃんが、飛ばされた。

すぐに私は、伯珪姉のいる棟長室へ向かった。途中で同じく報告を聞いたという単経ちゃん、田揩ちゃんと合流することが出来た。

棟長室の前へ辿り着く。少し息が上がっている、それほどまでに焦っていたのか。
少しためらいつつもドアを開く。いつもと変わらない部屋の中、ただその部屋の主だけが常ではない。
手を組み、目を堅くつぶり、近寄りがたいほどの怒気を発している。
背筋がぞくっとする。こんな伯珪姉は今までに見たことがない。
伯珪姉が口を開く、いつもより声のトーンが低い。
「来たか・・・では、行くぞ」

え?

行く?
何処に?
誰が?
何のために?
・・・思考回路が上手く働かない。自分自身焦っていることもあるが、あまりにも言葉に脈絡がない。
だが、唖然としている私達を置き去りに、伯珪姉は棟長室を出ていった。私は急いでその後を追いかける。
「い、行くって何処へですか!?」
「範、あまり愚かなことを聞くな、袁紹の元に決まっているだろう?」
そう答えながらも歩く速度はゆるめない、私の方など見ようともしない。その長く美しい髪をたなびかせながらどんどん歩いていく。
止めようと、袖をつかみ、言葉をかける
だけど、私では止められない・・・今の彼女の視界に、私は入っていない。
今の伯珪姉は、袁紹しか見えていない。
その時、廊下の向こうに一人の少女の姿が見えた。廊下の真ん中に、伯珪姉の行く手を遮るように立っている。

――――――――厳綱ちゃん・・・!

「おや・・・棟長、何処に行かれるのです?」
言葉自体は丁寧だが、厳綱ちゃんの声はどこか挑発しているようだった。
そんな彼女を、伯珪姉は押しのけようとする。
「どけ、邪魔だ」
「ふふ・・・ずいぶんと冷たいじゃないですか」
そう言い返しながら、彼女は決して道をあけようとしない。
見てるこっちがひやひやさせられる。伯珪姉はかなり苛立っているようだ。
「聞こえなかったか?邪魔だと言っている」
「何と言われようと此処を退くわけには行きませんね。越のためにも・・ね」・
「そう言うなら、何故邪魔をする?私はこれから袁紹を討ちに行こうとしているのだが・・・」
「・・・復讐は、完全に行われなければならない。それが私の持論です」
「・・・」
「あの袁紹を、完全に、完膚無きまでに、徹底的に撃ち破り、屈辱の底にたたき込んだその時に、私は復讐が完遂されると思っています。今は、まだ機が熟していない・・・私はそう思いますが」

無言。
二人の視線がぶつかり合い、火花を散らす。
どちらも退かない、真っ直ぐに相手を見据える。
暫く続いた沈黙は、伯珪姉によって破られた――――――――

「――――――――ついてこい、厳綱。これから棟長室で会議だ、お前も出ろ」

935 名前:弐師:2006/07/29(土) 20:11
会議の結果――――――――単経ちゃんは兗州、田揩ちゃんは青州、厳綱ちゃんは冀州へ、そして私は、袁紹から棟長を譲られた勃海へ向かうこととなった。

袁紹から譲られた・・・つまり彼女は私を通じて伯珪姉を何とか翻意させたいらしい。
そしてあわよくば内部分裂を謀る・・・まあ、効果的だと言っても良いだろう。

――――――――相手が、私じゃなければね。

まったく、なめられたものだ。が、くれるというのなら、有り難く貰っておこう。此処を抑えられれば、袁紹を青州方面から包み込むことが出来る。冀州はまだ、完全に治まってはいない。旧韓馥派の蜂起と呼応できれば、彼女の足下からうち崩せる。
そう、彼女を、追いつめることが出来る。


自室に戻る前、何となく気が向いて屋上に向かってみた。
越ちゃんの、好きだった場所。他と比べ少し長めの階段をゆっくりと上る。錆の来たぼろっちいドアを開け、夕暮れの空の広がる屋上へ出た。
広い屋上が、どこか不吉な黄昏色に染まっている。成る程、先人がこの時間を逢魔刻と呼んだのも無理はない。どこか非日常的な、世界の境目が無くなってしまったような感覚。
ふらふらと、夕日に誘われるようにして手すりへ近づいていく。
皆、幽州を田舎だという、結構ではないか。こんな、心が寒くなるような夕日は、此処位の田舎でしか見ることができないだろうから。
「公孫範先輩?」
後ろからの声に振り向くと、そこには厳綱ちゃんが居た。いつも越ちゃんが昼寝していたという場所、其処に彼女は腰掛け、私より早くから夕日を見ていたようだ。
「びっくりしましたよ、ふらふらって手すりの方に行っちゃうんですもん。身投げでもするのかと思いましたよ」
「あまり笑えない冗談ねぇ。それに、そう思ったならもっと早くに止めて欲しかったなぁ」

「―――――――it's a good day to die」

「え?」
「「今日は死ぬには良い日だ」ってね・・・好きな映画の受け売りですよ。それくらい、素敵な夕日じゃありません?」
そう、彼女は笑いかける。全く、冗談じゃない。
だが、そんな台詞ですら、夕日に照らされた今の彼女の微笑みは自然に思わせた。
「そうねぇ・・・そうかもしれない」
そう言って、また夕日に向き直る。今の私の顔も、そんなある種の凄惨さが映り込んでいるのだろうか。
「でも、まだ私は死ぬ気はないわ。残念ながら、ね」
「私もですよ、仇討ちの一つもできないんじゃ、つまらないですもん」
そう言って、彼女は一段高くなった場所から降り、私の隣へと歩いてきた。そして、私の顔をのぞき込む。

―――――――――さっきの微笑みを、まだ顔に張り付けたまま。

936 名前:弐師:2006/07/29(土) 20:13
その笑みに含まれた彼女の思いの深さ、悪く言えば執着の凄まじさに、思わずぞくっとさせられる。


その気持ちが、悪い方に働かなければいいのだが―――――――――








夏期補修真っ直中な弐師です、ごきげんよう。友人曰く「1.5学期」w
にしても、今回はI'veの「さよならを教えて」を聞きながら書いたので、かなりその歌詞に影響うけちゃってます・・・特に後半。


>海月 亮様

長湖部素敵だ・・・
いや、流石でございますです。
孫権の器、そしてそれを慕い、武神を討たんとする少女達・・・更に何倍もの兵で囲もうとも屈せぬ武神関雲長・・・次回を楽しみにしております


>北畠蒼陽様

いやっほう!(何
士孫瑞さんが活躍してるのは初めて見た気が(w  官僚の誇り・・・いいですねぇ
あえて悪名を被らんとする王允さんの悲壮な決意と、それを理解し、受け入れた皇甫嵩、蔡ヨウさん達の格好良さと言ったらもう・・・

>冷霊様

楊懐さんと高沛さん、どっちも特徴的でとても生き生きしてました!
「それでもあたしの友達なんだよね。タマも楊懐も」いやあ格好いい!!
就活頑張って下さい。

937 名前:海月 亮:2006/07/30(日) 13:00
だいぷすっぽかし気味でしたが一応書き進めてますよ、ってことで。
とりあえずこれからまとめて色々読んでみます><

938 名前:北畠蒼陽:2006/07/31(月) 02:04
わぁ! 遅れた無礼をお許しくださいませ、諸氏!
でもみんな、殺伐としてますねー。
あ……私が火付けですか? マジすんません。

>冷霊様
うふふふふふ、これこれ。
こういうのがダイスキなのです、うふふふふふ。
まぁ、まだまだ……まだタノシミなシーンは続いておりますので、今後に期待であります。

>弐師様
it's a good day to die
彼女たちに赤い幸福が降り注がんことを。

まぁ、なんとなく思いついただけの言葉ですが(笑
こちらもタノシミにさせていただきます。
あと、士孫瑞は恐らく学三初じゃないかな、と。まぁ、デビューいただきましたよ。
基本的に私は『一般的に好かれてる人』に対してなんの食指も働かない人間なので一昔前の王允なら書こうって気も起きなかったんですが『今だったらやれるっ!』ってやつです(笑
実際にこういう考えだったかどうかは別として、ね。

939 名前:韓芳:2006/08/06(日) 01:49
咲かぬ花
   第1章 更なる闇への突入

ここは徐州・下邳棟。
今、下邳棟は曹操・劉備連合に完全に包囲されていて、もはや勝ち目無しかと思われていた。
そんな折、陳宮が打開策を打ち出した。

「―――ということです。どうでしょうか?」
「ほかに何か意見ある?」
「あっても聞かないくせに・・・」
「陳宮、何か言った?」
「いえ、何も。」
「じゃ、この作戦で行こう。各自明日の昼までに準備を整えること!遅れると承知しないよ!」
「はっ。」
「あ、高順・・・・・・」
「? なんでしょう?」
「・・・いや、なんでもない。」
「でわ、失礼します。」
「準備よろしくね〜!・・・・・・なんでかなぁ・・・はぁ・・・」
「呂布様。明日の人数についてですが・・・呂布様?」
「ん?あぁ、何でもないわ。それで、人数は―――」


「ふぅ。忙しくなりそうね。」
降順は会議室を出て、とりあえず寮へ帰る。
下邳棟は完全に包囲されてはいるものの、一応規則があるために放課後以外戦闘はしない。
が、授業中は数人で下邳棟の交通整理を、放課後は完全に出入りを遮断し、私達を徐々に圧迫している。
何人かは学校で泊まっているほどである。
「陳宮の策かぁ・・・まあ、やってみれば分かるでしょう。」
正直なところ、高順は乗り気ではなかった。陳宮が好きになれなかったからである。
なので、いくら軍師とはいえ、普段の生活では陳宮とはあまり話したことも無く、話そうとも思わなかった。

「気が合わない分けじゃない。けど・・・」
自分の部屋に入ると、着替えを済ませベットへ倒れこむ。もちろん、すでに部下に指示は出してある。
「陳宮か・・・確かに、私たちには軍師が必要だったわ。そして、この状況を何とかしようと頑張っているのも事実。だけど・・・」
「『だけど・・・私の私の呂布様を奪い取るなんて・・・』」
「なっ・・・魏続っ!あれほど人の部屋に勝手に入るなと!!」
「わーっ!待った!ごめんごめん。独り言が丸聞こえだったから、ついね。」
顔を真っ赤にして襲い掛かろうとするところを見ると、半分事実だったらしい。
「ふぅ。・・・あやうく怪我をさせるところだった。ごめんなさいね。」
「いいよ〜♪いつものことだし。」
高順に睨まれてあわてて話題を変える。
「あっあのね、1つ重大な報告があるの。」
「?何かあったのか?」
魏続が急に真剣な面持ちで言った。

「・・・作戦が中止になった。」
「えっ・・・?なぜ・・・」
さすがの高順も焦りの色が見える。
「多分、呂布様の妹あたりがせがったんでしょう。危ない橋は渡らないで、って。私も最初は耳を疑ったわ。」
「そんな・・・今動かなければ将来もっと状況は悪くなることは分かってるのに。妹の言葉に動かされるなんて・・・」
「影で何人かは呂布様を見限り始めているわ。このままだと、下邳棟は分裂してしまうでしょうね。」
・・・・・・
「あれ?高順?まさか・・・」
そのまさかであった。すでに高順は、呂布のもとへと駆け出していった後だった。
「う〜ん、これはちょっとまずいかな〜?」
そう言うと、魏続も後を追った。

940 名前:韓芳:2006/08/06(日) 01:53
とりあえず、ごめんなさいm(_ _)m
しかも続けちゃったよどうしよう・・・

とりあえず、1つ書いてみて皆さんに意見貰おうと思って書いてみましたが、なんか、イマイチだ・・・(汗

でも、これからも頑張って書いてみたいと思うんで、何でもいいので意見ください。

941 名前:北畠蒼陽:2006/08/06(日) 03:16
>韓芳様
初陣お疲れ様です。
個人的には高順はちょいとしゃべりすぎかな、とも思いますが、ま、それは解釈しだいですし?
ただこの学三では三国時代の女性は基本はペットとかそういう扱いになることが多いので呂布の作戦中止理由としては『ネコのエサの時間だったから』とかくらいのほうがいいのかも? そうでもないかな?

ま、なにはさておきお疲れ様ですよぅ。

942 名前:弐師:2006/08/06(日) 13:16
>韓芳様

初陣お疲れさまです!
呂布陣営で高順を中心に書かれたのはとっても良いと思いますよ〜
魏続さんのキャラもいい感じですし、次回も楽しみにしています。
あ、でもちょっと誤字が有ったので其処に気をつけてみてはどうでしょうか?
(私も人のこと言えないぐらい誤字脱字が激しいのですがorz)

943 名前:冷霊:2006/08/06(日) 17:21
>韓芳様
初陣、お疲れ様でしたー。
わりと寡黙で不器用なイメージのある高順ですが、内心思う所はいろいろとあったのかもしれませんね。
やはり忠節を尽くした宿将ですし。
でも、公の場では必要最低限のことしか言わないイメージですかね?

確かに学三では女性はペットだったり人形だったりとかになってますねぇ。
密かに孫魯班あたりがどうなるか楽しみだったりしますw
学三の呂布は連環の計では犬(貂蝉)につられてますし、意外と犬好きなのかも……?

続き、まったりと楽しみにしております。
執筆お疲れ様でしたー。

944 名前:韓芳:2006/08/08(火) 00:09
気がつけば沢山の返信、本当にありがとうございます^^

>北畠蒼陽様
「呂布に絶大な忠誠」→「呂布への信頼から、呂布の言うことにほとんど口を出さない」
見たいな事考えてたんですが、『清楚潔白』だと確かにしゃべりすぎかもしれないですね〜(汗

女性はペットが多いと言うのは、完全に忘れてました・・・ごめんなさい・・・orz
幼稚園児くらいの子が「どこにもいかないで〜(泣」みたいなこと考えちゃってました・・・

>弐師様
魏続のキャラは、過去ログには載ってなかった(見逃しただけ?)ので勝手に考えてみました。
『史実で魏続の上官だったので2人は仲が良かった』といった感じで。
誤字脱字は・・・以後気をつけますm(_ _)m

>冷霊様
「呂布に絶大な忠誠」→「呂布への信頼から、呂布の言うことにほとんど口を出さない」
という感じで高順書いてましたし、史実でも内心疑ってても呂布の言ったことならほとんど何でもしてしまいそうだったので、公の場ではあまりしゃべらないイメージで書いてます。
でも、1人になるとふいに本来の自分が出てくる・・・みたいな感じもありかなと。

まだまだ修行が必要ですね・・・いろいろと・・・
今回の返信と皆様の文を参考にしながら、投稿文書いていきたいと思います。
せめて、この物語終わらさないと・・・

945 名前:韓芳:2006/08/18(金) 01:40
咲かぬ花
  第2章 終焉への道

「ここを曲がれば呂布様の部屋だけど・・・あ、いた!」
高順はすでに呂布の部屋の前に居た。
魏続が駆け寄ってみると、彼女はうっすら汗をかいていた。
「すごい汗・・・急に走ってバテたんでしょ〜?もう歳かな〜?」
いつもの様にからかってみせる。
いつもならここで厳しいつっこみがあるはずだった。
「・・・」
だが無言だった。元々口数は少ないが、それでも普通なら返答くらいはする人である。
それほどまで高順は緊張していたのだ。
「ちょっと〜、無視しないでよ〜。緊張してるのは分かるけど、そんなにガチガチじゃ話したいことも話せなくなるよ?」
「・・・すまない」
高順はそれだけ言うと、ふっと一瞬だけ笑ってみせた。
そして静かにノックをした。ノックの音が廊下に響いた様に感じた。
「どうぞ〜。」
と、呂布の声。高順の頬を汗がつたう。
(大丈夫かな〜?・・・まあ仕方ないか)
「ま、私もついていくからリラックスリラックス♪」
高順はその言葉を聞いて面食らったようだったが、小さな声で
「ありがとう。」
と言うと、呂布の部屋へと入っていった。

部屋にはすでに先客が居た。
「候成に宋憲に陳宮・・・どうしたの?」
「多分、魏続と・・・高順様と同じ。」
宋憲は言った。
宋憲の瞳の奥には何かが見えた。
陳宮が静かに切り出した。
「では、始めましょうか。」
「始めるって・・・」
魏続はそれ以上言葉が続かなかった。仮に出たとしても声にはならなかっただろう。
それほどに、この部屋の空気が重苦しくなったのだ。
その中には殺気も混じっている。

数秒間沈黙が続いたが、実際には数時間ほどに感じられた。
この重苦しい中、呂布が口をあけた。
「みんなが集まった理由は分かってるわ。何故作戦を中止したか・・・でしょう?」
表情を一切変えず呂布は続けた。
「ここで1番偉いのは私・・・そしてすべての決定権もある・・・。けど、あんたたちは私の決定に疑問を持ち、そして抗議しに来た。下手をすればどうなるか、分かっているんだよね?」
ゆっくりした話し方だったが、その溢れんばかりの殺気に、皆息を呑んだ。
「分かっています。ですが、私も軍師としての決定権はあるはずですが?」
陳宮が言い放った。呂布は睨むように見ている。
「わ、私達には、呂布様が誤った道に進まない様、意見する権利があります。」
高順が緊張で声を震わせながら言った。
それに合わせたかのように陳宮が切り出した。

「呂布様、何故作戦を中止にしたのですか?このままではどうなるかお分かりにならないのですか?」
「悔しいけど、奴らの方が知略は上・・・きっと作戦も見破られる。それなら、守りを固めて袁術を待ったほうがましよ。」
「お言葉ですが、袁術が我らの為に動くとは考えられません。それに、いくら知略が上とはいえ策は誰でもかかってしまいます。それが策の恐ろしさです。呂布様はそれさえもお分かりにならないのですか?」
「な・・・に?」
もはや一触即発の状態である。
呂布と陳宮は、お互い睨み合ったまま動かない。
「と、とにかく落ち着いてください、ね?」
候成が慌てて言った。
「呂布様も少し落ち着いてください。そんなに頭に血が上ると、それこそ奴らに・・・」
「奴らに・・・何?奴らに負けるとでも言うの?」
候成が失言に気が付いたときにはもう遅かった。
「候成、あなた私が負けると、そう思ってたのね。信じられない・・・」
「そ、そんなことはありません!私はただ・・・」
「言い訳無用!」
「!!」
「・・・大丈夫?」
呂布の鉄拳を寸前のところで高順が止めていた。
候成は半泣き状態である。
「呂布様!何も殴らずとも・・・」
「うるさい!私は最強!誰にも負けはしない!弱音を吐くやつなんか、階級章置いて出て行きなさい!」
「なっ・・・」
呂布は、もはや手がつけられない状態である。
候成は無言で部屋を後にした。階級章は置いては行かなかった。
「候成!・・・失礼しました!」
魏続と宋憲が後を追った。
少し間を置いて、
「・・・一人にして。」
呂布がぽつりと言った。
陳宮と高順は無言で自分の部屋へと戻っていった。

ふと呂布は窓の外を見た。
曇っているのか、真っ暗で星は見えなかった。

946 名前:韓芳:2006/08/18(金) 01:43
第2章ですが・・・
相変わらずというか・・・何というか・・・

宋憲ほとんどしゃべってないし、主役ずれてるし orz
さらに誤字脱字あったらどうしよう(汗

読むときは、さらっと流して読んでくださいw

947 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:28
会議が終わったあと、もう既に薄暗くなってきている自分の部屋で、伯珪は一人鏡の前に立ちつくしていた。
そして、その手には、ナイフ。

仄かな夕日を反射する鏡に映し出される彼女の顔は、喪失感と憎悪に支配されていた。

彼女はその長く美しい髪を肩のあたりで無造作につかみ、一気にナイフで切り取った。
ぶつ、という音を残してそれまで彼女の一部であったそれは、もうただの物でしか無くなった。

髪の短くなったその姿は、彼女の妹――――――越の様だった。

左手につかんだままの髪の束から、はらりはらりと髪の毛が落ちていく。
伯珪には、それが今まで自分が守れずに、手のひらからこぼれ落ちていった物達のように見えた。

それを彼女は無造作にゴミ箱へと投げ込む。
その目には、感情が宿っているようには見えなかった。
髪と一緒に、感情まで切り取ってしまったかのような、復讐しか考えていない、何を犠牲にすることも厭わない鬼の瞳――――――――――――



これで、もう忘れない。
鏡を見るたびに思い出すだろう。

この髪に、刻み込んだから。

――――――――――――憎悪と、自らへの怒りを。




そう思った。





――――――――――――そう願った。

948 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:29
「へえ、君可愛いねぇ。一緒に遊ばなぁい?」

関靖は、「いかにも」といったような古典的不良に囲まれていた。
烏丸工。幽州では有名な暴れ者どもだ。中華市で最も「夷狄」と呼ばれる男子校に近い幽州では彼らの姿を見かけることもそう珍しくはない。

関靖は可愛いと言われたことはどうでもよかった。だが、この状況は不味い。逃げ道も、味方も居ない。だからといって、お誘いにお答えしたくもない。
さて、どうしようか。
すると遠くからバイクのエンジン音が聞こえてきた。また新手?
もう観念した方がよいのだろうか?しかし遠くに見えたそのバイクは、乗り手も車体も真っ白で、まるであたしを救ってくれる白馬の王子さまのように見えた。
駄目元で、その乗り手にあたしの運命を任せてみよう。そう思った。
すぐ近くまで来てバイクが止まる。

「何だテメエ、邪魔しねぇでくれるかい!?」
「・・・」

バイクと同じ純白のフルフェイスのヘルメットを被った彼は不良どもの言葉に応えずバイクから降り、彼らに手招きする。相手は六人、彼はひとりだった。

それでも、関靖は彼が負けるとは思わなかった。何故かは自分自身でも分からない、ただ、そう思っただけだ。

激昂した連中が殴りかかってくる。だが彼は軽くいなし逆に鳩尾に肘をたたき込む。膝をついて倒れ込んだ男を見て、彼らは恐怖に抗うように突っ込んでくる。だが彼の敵ではなかった、一人、また一人と確実に仕留めていく。数人未だ残っていたが、戦意は既にないようで、背を向けて走り去っていった。

ぽかん、としている関靖の方を向いて、彼はヘルメットを外した。
その下から現れた、整った顔。
さらさらとしたショートヘアー。
すっと通った鼻。
切れ長の目。
――――――――――――そして、どこか虚ろな瞳。

美しい「女性」だった。

・・・思えば失礼な話だろう。顔が見えなくても普通体つき等で女性だと分かりそうな物だ。
だけど、焦っていたこともあるし、あれだけ強くて格好良いのだから、勘違いしてしまっても仕様がないのではないだろうか。

それに、それでもどうやら――――――――――――




――――――――――――あたしの「白馬の王子さま」は彼女のようなのだから。

949 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:30
「あ、あの・・・有り難うございました」
「・・・」
「えっと、お名前を聞かせてもらえませんか?」
「・・・公孫伯珪」
「え・・・!?」

名前は聞いたことがある。北平の雄、公孫伯珪。
幽州、いや、中華市では、その名は鳴り響いていると言っても良い。


曰く「冷酷非道、血も涙もない外道」

だが、今目の前にいる人物からは全く違った印象を受けた。
確かに顔は綺麗で、逆にそれは人間らしさ、暖かさを感じさせない類の美しさだった。
一目見た人が、冷たそうと感じるのも無理はないだろう。

しかしその瞳だけは、何かを失ってしまったような寂しそうなものだった。

この人の傷を、痛みを、治してあげたい。開いた穴を埋めてあげたい。そばにいてあげたい、そう思わせるような、悲しい瞳――――――――――――


「一人で帰れる?家は何処かな?」
「えっと・・・あの・・・あたしを北平棟まで連れていって下さい!」

伯珪は、一瞬きょとんとした顔になった。
いきなり予期していないことを言われてしまったのだから当然と言えば当然なのだが。
と、いうより関靖の発した言葉はまず質問の答えにすらなっていない。
しかし、彼女はすぐに元の表情に戻った。

「駄目だ。危なすぎる。今、北平は戦闘の準備に入っている。逆に言えば周りから攻められるかもしれないと言うことだ」
「あ、戦いの準備とかならあたし計算とかそんなの得意ですし!
それに・・・あなたのお役に立ちたいと思ったんです、駄目でしょうか・・・?」

今度は伯珪は困った顔になる。今の彼女の表情をこんなにも変えられるのは関靖くらいな物だろう。
彼女はじっと関靖の瞳を見つめた。そして、相手に諦める気がないことが分かったのだろう、今度は呆れ顔になった。

「わかった。だが、役に立たなかったら帰って貰うよ?」
「分かりました!伯珪さま!」
「「さま」って貴女ねぇ・・・」
「え、ならご主人様とか・・・」
「・・・「さま」でいい。ところで貴女の名前は?」
「関靖・・・関士起です」

「士起、ね。分かった」

そう言うと伯珪はもう一つヘルメットを取り出して関靖に投げてよこした。
今度は、関靖が戸惑う番だった。

「後ろに乗って。ちゃんと捕まらないと落ちちゃうから気をつけるようにね」
「は、はい!」


「何やら、妙なことになってしまったな」とキーを刺しながら伯珪は思わずつぶやいた。
だが、不思議と不快感はなかった。逆に何か懐かしさ、安らぎすら感じた気がした。

それはあの日、髪を切ったとき以来久しぶりに抱く感情だった。

エンジンがかかった。関靖を後ろにのせて発進する。
そういえば、誰かを後ろに乗せて運転するのは、いつか越を乗せて以来だな、と伯珪は思った。

950 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:35
明後日で夏期補修が終わります♪
つまり始業式・・・orz

>韓芳様

緊張した、険悪な雰囲気がびしばし伝わってまいりました。
「ふと呂布は窓の外を見た。
曇っているのか、真っ暗で星は見えなかった。」
最後の一文がとても印象に残りました。
とってもいい感じですね、続きが楽しみです!

ではでは

951 名前:冷霊:2006/09/14(木) 15:11
葭萌の夜〜白水陥落・後〜

「冷苞、トウ賢!二人とも待ちなさい!」
「だから東州じゃなくてオレら二人ならいいんでしょう?」
「二人も含めて東州は、タマちゃんの命令があるまで動いちゃダメなんですよ〜?」
冷苞とトウ賢は扉の前に立ち塞がる扶禁と向存を見下ろした。
二人の瞳にあるのは決意の色。
だが、行かせたら劉備に大義名分を与えてしまうだけではない。
二人をも失うことになるだろう。
成都からの連絡では、劉璋宛に楊懐と高沛が闇討ちを図ったので返り討ちにしたという書状が届いていた。
文面は丁寧であったが、内容は明らかな宣戦布告であった。
「関羽に張飛すら連れてきてない、敵は荊州の新兵ばっか……躊躇う理由は何処にあるんです!」
冷苞が拳を壁を叩きつける。
「心配要りませんって。敵の内情もこうして姉貴から……」
「残念だけど、子敬も永年や孝直と共謀してたそうよ」
扶禁の言葉にトウ賢の表情が凍る。
「……マジかよ……くそっ!」
トウ賢が壁を蹴飛ばす。
トウ賢にとって孟達は親戚であり、姉のような存在であった。
今でこそ活躍の場は異なるが、幼い頃は良く共に遊んだものだ。
「……他に内通者は?」
冷苞が尋ねる。
「まだ調査中。でも、大半の連中は親劉備派になってるだろうし期待するだけ無駄よ」
「劉備さん、あちこちのサークルに挨拶してましたからねぇ〜」
向存が徐に紙束を冷苞へと渡す。
それは益州校区に在籍する全メンバーのリストであった。
荊州から流れてきた連中もいた為かかなりの厚さがある。
「……先輩、もしかして全部……」
「ふぇ?」
向存はきょとんとした顔で冷苞を見つめ返す。
「ああ、大丈夫だよ。扶禁にも手伝って貰ったし、半分は黄権や王累に任せてるから〜」
笑顔だが目には疲れの色が見える。おそらく寝てないのだろう。
「とにかく信用出来るのは張任に厳姉に……ま、半分もいるかどうかしらね」
扶禁が溜息を付く。
「……なら成都棟に行ってきます。タマさんに許可を貰ってくれば……」
「その必要はありません!」
バァンと音を立てて扉が開けられた。
そこに立っていたのは劉循。
「循?一体どういう……」
冷苞の言葉を遮り、劉循は言葉を続ける。
「お姉ちゃんがやっと決めてくれたんです!劉備さんを相手に戦うって……益州校区を守ってみせるって!」
「よし!」
冷苞が待ってましたとばかりに手を打った。
「タマちゃんからオッケーが出たなら、もう大丈夫ですねぇ〜」
「そうね……今から反撃よ。で、具体的にはどう動くの?」
扶禁が視線を劉循に戻す。
「えっと、扶禁さんと向存さんは葭萌の奪還、冷苞とトウ賢は私たちとここを拠点にして守るって!」
「そう……わかったわ。守るならフ水門が鍵になるから注意して。アタシ達はロウ水経由で狙うから……頼んだわよ!」
「了解です。劉備の階級章……オレらで必ず取ってみせます!」
冷苞が練習用の模造刀を手に取る。
普通より長めに拵えて貰った特注品である。
頼むときにも一悶着あったが、今は頼んでおいて良かったと思える。
「無理はしちゃ駄目ですよ〜?相手には件の鳳雛もいるって聞いてますし〜」
向存が心配そうに三人を見る。
「大丈夫です!劉カイさんや張任お姉さまも応援に駆け付けるって言ってましたし!」
「張任ねぇ……へぇ。張り切ってた理由はそういうことか」
冷苞がニヤリと笑みを浮かべる。
「べ、別にそういうわけじゃ……」
思わず小さくなって赤面する劉循。相変わらず判り易い娘である。
「とにかく時間があまり無いですし、つもる話は帰ってからしましょうね〜?」
向存が冷苞の背中をポンと叩く。
「あ、そうですね……。んじゃ、張任さんが来るまで準備しとくか。な、トウ賢、循!」
「はいっ!」
「ん?ああ、りょーかい」
元気良く答える劉循、そして生返事を返すトウ賢。
四人はそれぞれに出立の準備を始める。
「劉備かー……」
少しだけ広く感じる部室の中、トウ賢は一人呟いた。

    To Be Continued to Battle of Husui & Kabou

952 名前:冷霊:2006/09/14(木) 15:36
就活終了ー、その勢いで書き上げてしまいました。
タイトルの通り、白水門のその後のお話です。
勢いが続けば、一気にフ水まで書ければなぁ〜……と。
劉闡は一時退場、次は一年(学三では一ヶ月?)に渡って劉循に頑張ってもらわねばw

>韓芳様
お疲れ様ですー。
強いが故に見えないものってありますよねぇ。
呂布とかは馬上の将軍だったから、余計にそうだったのかもしれませんが。
緩衝材の役割を務められる人物がいれば……と度々思ってしまいます。
侯成や魏続、宋憲らの今後の動きが気になるところですねー。

>弐師様
始業式……懐かしい響きですw
ファイトですよー。
関靖の行動に思わず焦る伯珪さん、ちょっと想像してクスリと笑ってしまいました。
でも、関靖と伯珪の互いの心が何だかじんわりと伝わってきます。
北平を巡る争いの中での関靖の今後、気になりますねー。

953 名前:韓芳:2006/09/18(月) 01:57
咲かぬ花
  終章 さよならの言葉

あれから数日が経ったが、事態は一向に進歩しなかった。いや、むしろ悪化していた。
呂布の候成解雇は、陳宮の裏工作により何とか降格処分で済んだが、あれ以来、下丕棟には会話と言う会話が存在しなくなった。皆、報告以外はほぼ無言だった。

「・・・ついに来たのね。」
その報告を聞いたのは昼食を終えてすぐの頃だった。
――――曹操・劉備連合、侵攻の気配有り
「呂布様より伝言です。放課後すぐに集合とのこと。」
「分かった。ご苦労様。」
「はっ。」
伝令が廊下を急いでかけて行った。
「・・・まるで図ったかのようなタイミングね・・・ 密偵でも潜んでいたのかしら・・・。」
高順に少し嫌な予感がよぎった。

放課後、高順が棟長室へ行くと、主だった面々はすでにそろっていた。
「遅かったじゃない。高順が最後なんて珍しいじゃない。」
「申し訳ありません。」
「いいわ、ちょうどこれからだし。陳宮、作戦は?」
この戦闘前の重苦しい中、呂布のみ元気だった。この状況の中、ただ戦闘を楽しもうとするその真意は誰にも分からなかった。
「作戦は特にありません。3階を呂布様と高順に固めてもらい、下の階が敵を押していたら加勢してそのまま突撃してください。もしもの時の為に、私が3階に待機しておきます。2階は、魏続と宋憲、候成に固めてもらいます。貴方たちも同様に、下の階が敵を押しているようならば、呂布様と高順と共に敵へ突撃。その他諸将は、半々に分かれて1階と下丕棟周辺を固めてください。」
「了解しました。」
諸将が指示を受け、部屋を出ようとした時・・・
「何で私は留守番なの〜?」
呂布が不満を言い始めた。だが、これはいつもの事で、皆少し飽き飽きしていた。
「留守番ではありません。それに、守りの戦いで軽々しく総大将が最前線で戦ってはいけません。もし捕らえられたらどうするのです?」
「大丈夫だって!現に今こうして――」
「駄目です!」
陳宮の睨み付ける様な視線と、周りからの冷たい視線に、呂布は仕方なく作戦を了承した。
「・・・こほん。でわ、皆の武運を祈るよ!」
「はっ!」
皆、勢い良く棟長室を出て行く。いつかのことを忘れようとするかのように・・・
―――ついに戦闘が始まった。
高順は窓から眺めていたが、外の戦況は明らかに劣勢であった。
廊下を伝令がバタバタと駆けていく。嫌な予感は増すばかりだった。

5時を過ぎた頃に、微かに下の階から騒ぎ声が聞こえた。どうやら1階に侵入されたようだ。
「だらしない、といったら可哀想だけど、これで打って出られなくなったわね・・・」
高順は、伝令の報告を聞きながらつい言葉を漏らしてしまった。
「・・・あの〜、高順様?」
「どうかした?」
「魏続様がお呼びです。何か深刻な顔をしてましたが・・・」
「・・・分かった。すぐ行くわ。」
「では、失礼します!」
深刻な顔?一体何があったのだろうか?高順の不安は頂点に達しようとしていた。

2階へ降りると、騒ぎの声がかなり大きくなった。下は大混戦のようだ。
ふと近くの教室を覗くと、ぼんやりと魏続が窓を眺めていた。
「魏続!何かあったの?」
魏続は、はっとした様子で高順を見ると、
「実は、その・・・」
と、うやむやな返事をした。
「・・・はっきり言ってみなよ。」
こうは言ったものの、正直なところ、自分の方が緊張しているように感じた。
「じゃあ、言うよ・・・けど、その前に・・・!」
ふっと後ろに人の気配を感じた。振り向くと、それは宋憲と候成だった。
「もう、脅かさないでよ〜。」
「脅かしじゃないよ。脅しだよ。」
魏続ははっきりと言い放った。

「脅しって・・・一体何の――」
突然の出来事で、高順は何もできなかった。高順は宋憲と候成に取り押さえられ、手足を縛られていた。
「一体どういうつもり!何故こんなことをっ!!」
「・・・もう、疲れたのよ・・・」
候成は静かに話し出した。
「今までこの軍団が、最強で最高の存在だと信じてきた。だからこそ、ここまで付いてきた。けど、それは違った。本当は・・・本当は、ただ呂布が自分の武をこの学園に見せ付けるだけのものだった!周りのみんなを信用せず、信じるのは自分の武だけなのよ!・・・そんなの、悲しすぎるよ・・・」
候成は泣いていた。高順は、胸が苦しくなった。
「・・・それで・・・ついに、決心が付いたの。」
「決心・・・?」
「そう・・・あなたと陳宮を捕らえて曹操と劉備を引き込む。それで、この戦いも終わりよ・・・」
「・・・」
「でも、あなたも投降するのなら・・・曹操と劉備に会ったときに話してみるわ。」
高順は悩んでいた。自分自身、確かに呂布に疑いを持っていた。だが、ここでその疑いを晴らしてよいものか、と。そして―――
「私は・・・・・・ごめん。投降は、出来ない」
「何故?あんなやつの為に何故!?」
宋憲の目には怒りと共に、涙が光っていた。
「宋憲、落ち着いて。・・・お願い高順、あなたの忠誠は認めるわ。けど、この状況でその選択は・・・」
「ごめんね、魏続。泣かないで。私は・・・たとえあんな人でも・・・好きだった。この軍団が・・・好きだったのよ。この軍団が終わるとき、それは、私の終わるときなの。」
高順もいつの間にか涙が出ていた。
「・・・さあ、陳宮を捕らえて来なさい。終わらせるんでしょ?この、戦いを・・・」
「・・・宋憲、候成、お願い・・・」
宋憲と候成は3階へと上って行った。魏続は2人が陳宮を捕らえてくるまで、ずっと高順のそばで泣いていた。さよならは、お互い言わなかった。

954 名前:韓芳:2006/09/18(月) 02:08
とりあえず、完結です。
間の数日間は外伝、と言うことで・・・(汗
キャラが初めと違う気が・・・ orz

>弐師様
私は受験生ですw
お互い新学期頑張りましょうね〜w
伯珪さん・・・カッコよすぎです><
いつか、こんな風になれたらなぁ・・・(無理

>冷霊様
就活お疲れ様です〜。
勢いで書けるなんて凄いです・・・
その点見習わせていただきますね。

955 名前:北畠蒼陽:2006/09/20(水) 05:07
学園史を彩った猛獣、呂布がトんだというニュースは瞬く間に学園中を駆け巡った。
その存在の巨大さは誰もが知り、そして誰もが少なからず影響を受けた。
そえはもちろん彼女に近しかった者たちにも……


猛獣の系譜


山中を3人の少女がこわごわと歩を勧めている。
「ね、ねぇ……ここはやばいって」
「う、うん……ねぇ、帰らない?」
後ろを歩く2人が前を進む1人に向かって声をかける。
後ろを行くのは宋憲、侯成。
前を行くのは魏続。
呂布を裏切った、という悪名の果てに彼女たちはこんな場所にいた。
こんな場所……
青州校区、泰山……
学内において神聖とされる山中に呂布亡き後、立てこもり頑強に抵抗する少女がいた。
少女は呂布の乱の際に呂布に味方し曹操に幾度となく痛い思いをさせ、乱終結後、曹操はその少女に賞金までかけ自分の前につれてくるよう命令した。

その少女を臧覇という。

「わ、私だって怖いんだからそんなこといわないでよ……」
泰山は臧覇のホームグラウンドであり、彼女は一時期この山を拠点とし暴れまわっていた。
自分たちがこの山中に侵入していることなどすでに察知されているだろうし、だとすればいつ何時どの瞬間に襲い掛かられても自分たちはなんの対処もできないだろう。
それでも……
「でも……臧覇さんに会わなきゃいけないんだから……がんばろ?」
「う、うん」
気丈な魏続の言葉に頷く宋憲と侯成。
呂布軍団の中核にあって、その力が最大限に発揮させた少女たちにとっても、この臧覇のテリトリー……結界と言い換えてもいい……の中で出し切る自信はない。
「そうかい。臧覇さんに会いたいのか」
どこからともなく声……3人に緊張が走る。
聞かれていたッ!?
そう認識する間もなく3人の周りを集団が取り囲んでいた。
集団の先頭にいるのは……見たことがある。臧覇の腹心である孫観や呉敦である。
「……すでに囲まれていた……?」
「そうとも、すでに囲んでいた。あんたたちは捕虜、ってわけだ……臧覇さんには合わせてやる。あの人が気に入ればキズモノにならずにすむだろーよ」
呉敦の言葉に呂布軍団時代とはまったく違う不気味な集団に3人は冷や汗を流した。

956 名前:北畠蒼陽:2006/09/20(水) 05:07
「なんだ。誰かと思えばお前らか……」
くだらなさそうに臧覇が吐き捨てる。
3人はロープで縛られ、臧覇の前につれて来られていた。
臧覇は顔の前に指を組んで、あまりにも面白くなさそうに3人を見つめる。
「一応聞いてやる。なんの用だ?」
言外に『下らないことを言ったらぶっとばす』という言葉を滲ませつつ臧覇が問いかける。
黙りこくっているわけにもいかない。
「こ、降伏を薦めにきました。曹操さんは寛大な処置を約束してらっしゃいます」
宋憲が口を開く。
「あははははははははははははははははは!」
臧覇が言葉を聴いた瞬間、笑い始める。そしてたっぷり10秒笑い……
「お前ら好きにしろ」
周りのガラの悪い連中に声をかけ、椅子から立ち上がる。
「わ、わー! ちょ、ちょっとまってください! 言葉が足りなかった! すごく足りなかったです! まーじーでー!」
一斉に立ち上がったガラの悪い連中を引き止めるように魏続が声を上げる。
「なんなんだ、お前ら。裏切り者のクセにのこのこやってきてんじゃねー。私に会っただけでもありがたいと思ってここで埋まってろ」
3人が一瞬目を交し合い、仕方なさそうに侯成が口を開く。
「確かに私たちは裏切り者って呼ばれても仕方ないです。というか実際そうですから……でももう一度同じ機会があったとしても、私は呂布を許さないです」
胡散臭そうに片眉を上げる臧覇。
「……でも信じてほしいのは……私は……私たちはみんな呂布軍団が最強だと信じて戦ってた、ってことです。たとえ曹操さんが相手だろうと負けるなんて1%たりとも考えもしなかった」
あの人は結局器じゃなかったんですけどね、と首を振る。
「だから裏切りました。あの人は最強の座から自ら降りてしまったのだから……でもあの人を最強と思った気持ちは死んでない。それは私たちや、文遠や……そして臧覇さんの中にも生き続けているはずです」
「だから最強の遺伝子を……私たちが半ばで奪ってしまったあの人の、かつてまぎれもなく最強だった気持ちだけを残していきたい……この泰山にいたらそれを残すこともできないんです」
3人はかわるがわる臧覇に言葉を投げかける。
それは明らかに足りない言葉ではあったが、それでも臧覇の気持ちを動かすのに十分な力を持っていた。
「……曹操は最強を語るに足るか?」
「十分です」
臧覇の問いに魏続が即答する。

最強を夢見る遺伝子は生き延びていく。
彼女たちがいなくなっても、次の世代に伝わっていくだろう。
それは獣の遺伝子。
猛獣の系譜は伝説の中だけでなく語り継がれていく。

957 名前:北畠蒼陽:2006/09/20(水) 05:07
韓芳様「咲かぬ花」終了記念リスペクト企画ですよー?
迷惑ですか。すいませんすいません。
ちなみにこの文章を書くのに1時間かかりました。うわぁ、文章力とかやたら落ちててびっくりデスよ。
あー、もう……

958 名前:韓芳:2006/09/20(水) 23:23
>北畠蒼陽様
迷惑どころか、嬉しすぎて風邪気味です(謎
私は終章書くのに2時間近くかかってます・・・
しかも腕落ちてるって・・・格が違う・・・ orz

本当にありがとうございましたm(_ _)m

959 名前:北畠蒼陽:2006/09/23(土) 21:22
「左回廊、弾幕薄いよ! なにやってんの!」
戦場に臧覇の声が響く。
戦場を見回した臧覇は近くに見知った顔を見つける。
「孫観、幸薄いよ! なにやってんの!」
「誰が不幸風味じゃー!?」
怒声をあげる孫観。だが同時に立ち上がった彼女の左足にどこからともなく誰かが投擲したのであろう、飛んできた木刀が直撃し、孫観はうずくまった。
「……やっぱ不幸じゃねぇか」
ぽつりと臧覇が呟く。


同門の人々のあれやこれや


孫観の左足は複雑骨折していた。それはそれは面白いくらい。

濡須口の戦いにおいて歴戦のツワモノである孫観が負傷したという報せはただちに曹操に届けられた。
「なっ!? 仲台ちゃんがぁ!?」
曹操は飛び上がってびっくりした。
報告した陳羣のほうがびっくりした。
まさかこの世に本当に『びっくりして椅子から飛び上がる人間』が存在するなんて……
10cmくらいは浮いていた。だがとりあえずそれは置いておく。
「ん〜と……仲台ってだぁれ〜?」
「孫観のことっ! ……で、仲台ちゃんは大丈夫なのっ!?」
ぼや〜っとした許チョに名前を教えておいてから曹操は陳羣を振り返る。
「はい、入院中だそうです」
つまり大丈夫じゃないのであった。

病院で看護婦さんに面会を告げ、病室を聞くとやたらいやな顔をされた。
「なんだろうね……?」
「さぁ、わかりません」
陳羣にわかるわけはないが律儀に答える。
「それより……それはなんです?」
曹操が手に持っているのはちょっと大きめの包装紙に包まれた箱。
「ん、モデルガン。喜ぶと思って」
「……喜ぶかもしれませんけど見舞いには向かないですよね」
陳羣はため息をついた。
「わぁー、いいなぁ」
少なくとも許チョには効果バツグンだった。

「……」
「……」
病室に近づくにつれ陳羣と曹操が黙りこくる。
陳羣は眉間に深い皺を刻ませて。
曹操はこれからの予感に目をきらきらさせて。
なにが、というとめちゃめちゃ騒がしかったのである。
「わははははははははは!」
「ぎゃー! 書くなー! そんなとこに書くなー!」
「うはははは! おもしれー!」
「やめれー! お前らぜってぇ死なす! 必死と書いて必ず死な……ぎゃー!」
……とかそんな感じ。
そしてその騒動の中心となった病室は予想通り孫観の病室だった。
こんな状況で病室という名詞が有効なのだとしたら、という話だが。
仏頂面の陳羣がそれでもノックする。
「やめれー!」
聞こえていないらしい。やめてほしいのはこっちだ。
「失礼しま……」
それでも一声かけてドアを開けた瞬間、なんかすごいもんが飛んできた。
すごいもん、というか病室備え付けのパイプ椅子。
「……ん」
陳羣の眼前でぴたりととまったパイプ椅子を横から受け取ったのは許チョ。陳羣はへなへなと腰を抜かした。

960 名前:北畠蒼陽:2006/09/23(土) 21:22
「あ、どもー」
ベッドに寝たまま何かを投げたであろうポーズの孫観が声をかける。いや、本当は孫観なのかどうかすらよくわからないのだが状況的に考えると間違いあるまい。
孫観(※不確定)の顔は真っ黒に塗りつぶされていた。あとギブスにも思う様落書きしてある。もう大変です。
しゃがんでいる臧覇。恐らく椅子をよけたのだろう。手にはマジック……油性か。
後ろでげらげら笑っている呉敦と尹礼。横で座ってにこにこしているのが孫観の双子の姉、孫康である。
泰山グループが勢ぞろいなのであった。
「やぁやぁ、諸君。私を抜かして騒ぐなんてひどくない?」
「お、曹操さん、書きます?」
「薦めんな、ボケー!」
臧覇の言葉に孫観(※不確定)がはしゃぐ。いや、はしゃぐのとはちょっと違うか。
「でも書くとこないねぇ」
油性マジックを受け取ったまま思案する曹操。
「大丈夫。脱がせばえぇんよ」
「そ、そうかっ!」
臧覇の囁きに天啓を得た曹操。
「だー! 脱がすってなんだ! お前、ぶっころ……お、おい、なんだよ、お前ら」
孫観(※不確定)が再びはしゃごうとして両脇を呉敦と尹礼にがっちり押さえつけられた。
「な、なぁ、冗談はやめようや?」
「はっはっは。冗談だったらもっとつけぬけたとこまでいってみようか」
呉敦が笑う。
「よ〜し、剥くぞう〜」
臧覇が指をわきわきさせ、曹操がきらきらした瞳で見つめる。
「ぎゃー! 姉ちゃん助けてー!」
唯一自由になる首を振って孫観(※不確定)が孫康に救いを求める。
「あらあら、相変わらず不幸な子」
にこにこ笑う。姉は役に立たなかった。
「待っててね、仲台ちゃん。仲台ちゃんがケガをしながらも勇敢に戦ったけど国のために今は休め、ってポエム書いたげるから。あと振威主将に昇進ね、やったぁ☆」
曹操が笑う。
「お、やったなぁ、エーシ♪」
「ちっともよくねぇー! やめろー!」

「んー?」
その音は許チョの耳にだけ届いた。
『うー』とかなんとか、そんな感じの音。
「んー……?」
何の音かとちょっと首を巡らせて……あとずさった。
そこには鬼が……

「静かにしなさいっ!」

窓ガラスがびりびりと震えるほどの大音量で注意が入った。
みんな声の方向に注目した。孫観(※不確定)なんかは半脱ぎにさせられながらそっちのほうを見た。
天下の風紀委員長、陳羣。怒りの仁王立ちである。
「まったく!」
つかつかと輪の中心まで歩み寄って……
「ここは病院ですよっ!」
手近にあったものに思い切り手を振り下ろした。
ビシ、といういやな感触が陳羣の手に伝わる。
「……?」
陳羣の手の下でギブスの石膏が割れ、孫観(※不確定)が悶絶していた。

孫観。あだ名は仲台。また一名をエーシ。
張角の乱のころから臧覇とつるみ、青州校区総代もつとめたことのある人間のあまりにもあっけない最後であった。
なむー。

961 名前:北畠蒼陽:2006/09/23(土) 21:23
0時にベッドに入ったのに4時間くらい眠れなくてベッドの中でなにをするでもなくもんもんとしてました。どうも北畠です。
今日の会社、寝不足でつれぇつれぇ。寝るかと思った。寝なかったけど。眠気に耐えてよくがんばった! 感動した!

というわけでチーム泰山の一員、孫観ちゃんです。
孫康ちゃんはチーム泰山とは一歩離れた位置に入るけど仲はいい、ってことでひとつ。

あと曹操はともかく陳羣と許チョはあれっすね、史実的にいえばイレギュラーですね。まぁ、そんな感じです。
いいんだ! 私のはいつもイレギュラーだから!

962 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:09
いち >>898-901
に  >>909-912
さん >>924-927

というわけで漸く続きですよコンチクショウ('A`)

963 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:10
−武神に挑む者−
第四部 悔悟と覚悟


(何故だ…)
黄昏に染まる冬の空を眺めながら、彼女は何度目か、そう思った。

自分に残された学園生活はあとわずか。
そのギリギリのタイミングで、ようやく光明が射してきた学園統一への道。
義姉妹が三年の長きを経て、ようやく磐石なものにしたその道は、思いもよらぬところから切り崩された。

長湖部の背信。
留守居の不手際。
(…否、責められるべきは……私の不明だ)
彼女は頭を振る。
それが憎悪すべき事由であるなら、その大元の原因が自分自身にある…関羽の聡明すぎる頭脳は、その答えをはじき出すのに時間がかからなかった。


遡る事二時間前。
先だって激闘を繰り広げ、自分と殺し合い寸前の立ち回りをやってのけたその少女が姿を現したとき、関羽もただ事ではないことを理解せざるを得なかった。
流れるような黒髪に、猫の鬚のようなクセ毛を突き出しているその少女の顔が、普段の明朗すぎる表情の面影のない顔で、単身陣門に現れたからだ。
「…降伏の申し出に来た…と言うわけではなさそうだな、姉御」
どんよりと分厚い雲に覆われ、冷たい風が吹き抜けていく寒空の下で、ふたりは向かい合っていた。
「……雲長、もう帰宅部連合に、帰る場所が荊州になくなったお……」
「…何…!?」
彼女は、予想だにしないその事態に、耳を疑った。
しかし、彼女はそれが自分たちを陥れるための方便であろうということなど、欠片も思わなかった。

何故ならその少女は彼女の幼馴染であり、中学時代は剣道部で互いの武を磨きあってきたことで、その性格は良く知っている。
この学園で志を違えたとはいえ、その大元となる部分はまったく変わっていない…それがこうして単身やってきたことで、関羽も事の重大さを思い知らずに居れなかった。

「で…出鱈目な! 何の根拠があって!」
傍に侍していた妹が、激昂の余り相手へ飛びつきになるのを、すっと手で制しながら、視線でその先を促した。
少女は、懐から一枚の紙を取り出し、差し出してきた。
それを一瞥し、関羽は彼女が言ったことが真実であることを確認した。
「そんな…長湖部が裏切るなんて…」
「承明は…江陵はどうなったのよ…」
その文書の内容に愕然とする関羽の側近達。
彼女らも、その少女の言葉が嘘偽りない真実であることを思い知らされた。
しかし関羽は、何の表情も見せずに目の前の少女と対峙したままだ。
「…姉御、これを私に知らせて…いったい私にどうしろと言うんだ…?」
「それはあたしの知るところじゃないお」
少女は頭を振る。
「だけど、これを知らせずにいたら、あたしが後悔すると思っただけだお…」
「そうか…済まない」
そのまま翻り、関羽は側近達に静かな口調で告げた。
「……全軍、現時点を持って撤退だ」
「姉さん!?」
「そんな…!」
少女達は言葉を失った。
そして、彼女が思うことをすぐに理解した。
対峙していた少女も、何かに打たれるかのように飛び出そうとする。
「雲長!」
「来るな、姉御っ!」
振り向かずとも、関羽には解っていた。
彼女であれば、恐らくはともに戦うと言ってくれるだろうという事を。
その気持ちは嬉しかった。だが、それゆえに彼女はこの言葉を告げなければならないと思っていた。
「姉御…いや、蒼天会平西主将徐晃。江陵平定ののち…改めて先日の決着、つけさせてもらうぞ」
そのまま、振り返ることなく立ち去っていく関羽の姿を見送りながら。

少女…徐晃には、これが学園で最後に見る関羽の姿のように思えてならなかった。



付き従う少女達にも言葉はない。
気丈な妹・関平も、気さくな趙累、廖淳の輩も、終始無言だった。

無理もない。現状は彼女達にとって、余りにも重い。
馬良は益州への連絡係として軍を離れて久しく、王甫は奪取した襄陽棟で蒼天会の追撃を抑える役目を請け負って此処には随行していない。
関羽が王甫を残したのも、先の出立の折に参謀役の趙累が「江陵には潘濬だけでなく王甫も残すべき」という献策を思い起こしていたからだ。関羽もその言葉を是と思ったものの、長湖部等の後背の防備に疑いを持っていなかった関羽は、王甫を奪い取った重要拠点の守りに据えるつもりでその献策を敢えて退けたのだ。
だから、今回は最も信頼の置ける腹心の一人である彼女を、押さえに残してきたのだ。彼女であれば、余程のことがなければ与えられたその地を守りきってくれるであろう…とは思っていたが。

関羽は嘆息し、自嘲する様に微笑む。
果たして、再び江陵を取り戻し、襄陽の戦線へ引き返すことが果たしてできるのか、と。


灰色の雲に覆われた冬空の行軍、ふと関羽は歩を止め、続く少女達に振り向いて呟いた。
「私の不明ゆえ、皆にもその落とし前をつけさせる様になった…赦せとは言えん…」
少女達は返す言葉もなかった。
この無念の気持ち、恐らくは最も辛いのは関羽自身であろうことは、彼女達にも痛いほど解っていた。
それなのにこうして、自分たちを気遣ってくれる関羽に、彼女達のほうが申し訳ない気持ちになっていただろう。
「…い、いえ! 捕られた物は取り返せば済むことです!」
「我ら一丸となれば、長湖部など恐れるに及びません!」
趙累と廖淳が、ありったけの気を振り絞り、それに応えてみせた。
「それに徐…姉御の話によれば、孫権のヤツが出張ってきてるんでしょう? いっそ、我々の手で孫権諸共長湖部を滅ぼしてしまいましょうよ!」
関平の言葉に、それまで重く沈んでいた少女達も、歓声で応えた。
「そうだ、長湖部ごときに!」
「この不始末は、孫権の階級章で贖わせてやる!」
「我ら関羽軍団の恐ろしさ、思い知らせてやりましょう!」
強がりであることは解っていた。
だが、ここまで来た以上は最早引き下がることは許されないのだ。だからこそ、この意気は関羽にも好ましいものに映っていたかも知れない。

孫権の親書を携えた潘濬が姿を現したのは、丁度そんな折だった。

964 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:11
鈍色の雲に赤みが射す黄昏の空の下、潘濬はその場に座していた。
「承明!」
「無事だったか!」
その姿に歓喜の声を上げる少女達。
しかし、当の潘濬は俯いたままだ。
「…御免なさい…」
その呟きに、責任感の強い彼女のこと、恐らくはこの不始末を関羽自らに裁かせるために現れたということだろう、少女達はそう思っていた。
趙累は駆け寄ってその手をとると、
「あんたが無事に逃げ延びてきたなら話は早い! 何、あんたなら必ず戻ってくると信じてたわ。大丈夫、この失敗は取り返すくらいわけない」
そう言って彼女を元気付けようとした。

元々頑固なこの少女は、度々関羽と衝突することも多かったが、それでもその強い意志と優れた内政手腕を高く評価していた関羽が江陵の守将として残したものだ。
その責務を完う出来なかったとはいえ、情状酌量の余地はいくらでもあるだろうし、こうしてやってきたということは敵の内情もすべて把握した上で来ているのだろう…趙累は、そこに一縷の期待をかけた。

しかし、彼女の期待はあっさりと打ち破られた。
「私がここに現れたのは……孫仲謀の代弁者としてなのよ…!」
「なん…だって…?」
その手を振り解かれたことよりも、趙累はむしろその言葉に大きなショックを受けた。
「貴様…ッ」
これほどまでないほどの赫怒の表情を浮かべ、関平がその獲物を手に歩み出る。
「江陵を手放したのみならず…あろうことか長湖部の使い走りか!」
「…待て」
飛び掛ろうとする妹を関羽が手で制する。
「姉さま!? 何故です!」
呆気にとられたのは何も関平だけではない。居並ぶ将士たちも、正面に立った潘濬ですらも、その関羽の行動を訝るかのようだった。

士仁、糜芳の例もあるように、関羽は軍の進退に関わるような失策を犯したものは決して許さない。
本来なら、潘濬が孫権の代理人として現れた時点でその剛拳で殴り飛ばしているだろう。趙累が先に飛び出してきたのも、先に飛び出して関羽の感情を和らげる意図もあったのだ。

だが、関羽はその気配も見せず…その表情は厳しいものであったが、奇妙に思えるほど静かでもあった。
「…話してくれ、長湖部長の口上を」
「………承知しました」
関羽に促されるまま、潘濬は持参した書状を広げると、その内容を堂々とした口調で読み上げ始めた。


関雲長に告ぐ
貴女は長湖・帰宅部連合の盟において定められた約定を、己の一存のみにおいて破り、我々の管理する備品を無断で持ち出し、あろうことかその貴重な品を使い捨ての如く放置するなど言語道断。
先の傲慢なる宣言と合わせ、帰宅部連合に対する南郡諸棟の貸与を無効とし、我らの領有に戻すものとする。

但し、このまま襄陽・樊を奪取するため蒼天会との戦闘を継続するとあらば、同盟修復の意思ありとみなし、我らは後方より帰宅部連合を支援する…


関羽は無言だった。
しかしその瞳は、遠く漢中の方向を向いている。
「…雲長様」
潘濬の言葉にも、関羽は動かない。
しかし彼女は、なおも言葉を続ける。
「江陵には尚、貴女の帰りを待ちわびている子達が、長湖部に人質として囚われているのです。彼女達も、貴女がこのまま襄陽へ戻られるということであれば、彼女らを解放して随行を許すとのこと」
趙累たちも、何故彼女がこの場に送られてきたのかを漸くにして悟った。
恐らく長湖部はそういう不穏分子を宥めるため、その中心的な人物である潘濬に関羽を説得させるために差し向けてきたのだろう。
潘濬は胆も座っており、弁も立つ。そして、何より…
「お願いです! 彼女らのために、何卒長湖部の申し出に応じていただきますように!!」
額を叩き割らんかの勢いで叩頭する潘濬に、少女達にもその苦衷を窺い知らずにいれなかった。

恐らくは潘濬も、命がけの覚悟で此処に現れたのだろう。
責任感の強い彼女であれば、此処で関羽の一身を救うことが叶うのなら、あとは全責任をとって学園を離れるつもりなのかも知れない。
直前まで怒りのあまり、目の前の少女を八つ裂きにしてやろうかというほどの気を放っていた少女達も、その姿をやるせない思いで眺めていた。

そしてそれと同時に、参謀格の趙累には、江陵を奪い取った長湖部の軍勢のシルエットが浮かび上がってきた。
いくら不安要素があったとて、あるいは長湖部側にどれほどの準備があったといえ、これほどの短時間のうちに堅牢で知られた江陵が完全に制圧されている…恐らくは、既に夷陵周辺も。
甘寧、朱治といった"仕事人"を欠く長湖の主力部隊に、呂蒙以外でこれほどの仕事をやってのける人間がいたことも驚愕すべき事実だが…さらに言えばこれは、それほど長湖部が本気であることを示唆していた。

「…姉さま」
関平の言葉にも、関羽は応えようとしない。
しばしの重苦しい沈黙を破ったのは、関羽の呟きだった。
「…我が主、漢中の君劉玄徳よ」
関羽は漢中の方へ向き直ると、その空に向けて拱手する。
「関雲長、義姉上の裁可を仰がず、我が一存にて孫権に断を下すことを…お許し下さい」
「…っ!」
その言葉に、潘濬は驚愕し…その意図を悟った。
次の瞬間、関羽はこれまで通りの覇気と威厳に満ちた表情で、全軍に号令する。
「行くぞ、目指すは長湖部長孫権の打倒、それひとつだ!」
「雲長様!」
取りすがろうとする潘濬を手で制する関羽。
振り向いた関羽は、一転してその表情を和らげる。
「…承明、貴女はなんとしてでも生き延びなさい…そして、江陵のことは貴女に託すわ。どのような結果になろうと、最後まで江陵の子たちのために尽くしなさい。それが私が貴女に与える刑罰」
「…雲長様…」
「此処からは、私が私自身に落とし前をつける戦い。貴女には関係のないことよ」
そのまま振り向きもせず、関羽は再び行軍を開始する。
あとに続く少女達もまた、無言でそのあとに続いていく。そこにどんな死地が待ち受けているかも知らず…いや、例え其処に破滅の結末しか見えていなかったとしても、彼女たちは関羽に付き従うことこそ本懐として、何も言わず従って行くことだろう。

潘濬もその姿を、振り向いて見ることは出来なかった。
そのかつての主の姿を見やることもなく、彼女は溢れる涙を拭う事もせず、天に向けて拱手する。
「雲長様…どうか、御武運を…!」
彼女は、ただそれを祈らずに居れなかった。

965 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:12
関羽軍団は包囲した長湖部員の人海戦術によってその九割が既に打ち倒されていた。
後続の部隊と分断され、既に先鋒軍に残っているのは関羽ただ一人。後方では関平、趙累、廖淳三将の奮戦空しく、既にその残り兵力もごくわずかだった。
関平は必死に姉の元へ駆けつけようとする。だが、其処に待ち受けていた寄せ手の大将は…。
「おっと、此処から先には行かせないわよ」
セミロングで、襟がはねている黒髪の小柄な少女。
潘璋軍の後詰めを任されていた朱然が、使い込まれた木刀を一本手にしてその目の前に立ちはだかった。
「長湖の走狗が! 邪魔をするなッ!」
満身創痍、その制服ブラウスも所々無残に敗れ、片腕も負傷してだらしなく垂れ下がっていても尚、関平は鬼気迫る形相で目の前の少女を睨みつけた。
だが…
「走狗、ね。でも貴様等みたいな溝鼠に比べればはるかに上等だ」
いかなる時も笑みを絶やさない、孫権をして「季節を選ばないヒマワリ」と形容される朱然の表情が…そのとき夜叉の如き表情に変わった。
「仲謀ちゃんを…あたし達が培ってきた長湖部の誇りを穢した貴様等に、この荊州学区に居場所を残してやるほどあたし等が御人好しと思ったら大間違いだ…!」
その憎悪の如き憤怒を帯びた闘気に関平もたじろいだ。
だが、それでも彼女はなおも構えて見せた。恐らくは「長湖部恐れずに足らず」という風潮が染み付いていた…それゆえに見せることが出来た気勢だろう。
「何を…こそ泥の分際でッ!」
関平が片手で振り上げてきたその一撃を、彼女は不必要なくらいに強烈な横薙ぎで一気にかち上げた。
驚愕に目を見開く関平のがら空きになった脇腹に、さらに横蹴りが見舞われる。
「うぐ…っ!」
「こんなもので足りると思うなッ!」
よろめくその身体を当身で再度突き飛ばすと、やや大仰に剣を振りかぶる朱然。

体制を崩すまいとよろめく関平は、驚愕で目を見開いた。
彼女はこのとき、己が対峙していたものが想像を絶する"怪物"であったことを、漸く理解した。

「…堕ちろやぁっ!」
大きく振りかぶられた剣が、大きく弧を描いて物凄い勢いで関平の右肩口に叩き落された。竹刀ではあったが、遠心力で凄まじい加重がかかった剣の衝撃はそれだけで関平の意識を吹き飛ばした。
立身流(たつみりゅう)を修めた朱然が必殺の一撃として放つ「豪撃(こわうち)」…この一撃をもって、帰宅部の若手エースとなるはずだった少女は戦場の露と消えた。


「関平ッ!」
その有様を捉えた趙累はその傍へ駆け寄ろうとする。
だが、尽きぬ大軍の大攻勢に彼女にも成す術はない。

武神・関羽が見出したこの「篤実なる与太者」も、決して弱いわけではない…関羽直々に一刀流の手解きを受け、その技量を認められたほどであったが、それでもこの劣勢を一人で覆すにはほど遠い。

「くそっ…どけというのが解らんのかよッ…!」
この激しい戦闘の最中、彼女たちを守っていた軍団員も全滅し、残るは彼女位だという事を悟るのにも、そうは時間はかからなかった。
そしてまた、自分たちが"長湖部"というものをどれだけ過小評価していたかということも。
それゆえ、こうなってしまった以上、自分たちには滅びの末路しか存在し得ないであろうことも。

だが、それを認めてしまうことは出来なかった。
この局面において退路を探ることが出来なかった以上は、許されるのはただひたすら前を目指すことだけ…しかし、その想いとは裏腹に、彼女の身体はどんどん後方へ追いやられてゆく。

「…いい加減…往生際が悪いとは思いませんか…?」
「…!」
その声とともに、人波の間から鋭い剣の一撃が飛んでくる。
彼女は辛うじてそれを受け止め…そして、その主の顔を見て愕然とした。
「あんたは…!」
そこにいたのは、数日前に江陵で面会した気弱そうな面影のない…その生来の凛然さを顕したその少女…陸遜がいた。
「学園に名を轟かす関羽軍団…その将たる者の最後の相手が一般生徒となれば、余りにも不憫。僭越ながら、私がその階級章、貰い受けます!」
気弱そうなその風体に似合わぬ不敵な言葉に、趙累も苦笑を隠せなかった。

彼女の中にはそのとき、一抹の後悔が浮かんでいたのかもしれない。
呂蒙の影で動いていた者が、目の前のこの少女であるという確信すると同時に…趙累はあの時、これほどのバケモノを目の前にしていながら、何故あの時にその正体を見破ることが出来なかったのか、と。
そして、彼女は剣を交えた瞬間、己の運命も悟っていたかも知れない。

「ふん…粋がるなよ小娘ッ!」
しかしそれでも、彼女は最後まで強がって見せた。最早、それが虚勢でしかないとしても。
「このあたしを謀った罪、その階級章で贖ってもらうよ!」
彼女は正眼に構えた剣から真っ直ぐ、陸遜の真眉間めがけて剣を振り下ろす。
「…出来ないことは、安易に口走るべきではないと思います」
その顔に似合わぬ冷酷な一言の、刹那の後。
陸遜の剣は僅かに速く、その剣を弾き返し…返す剣で趙累の身体を逆胴から薙ぎ払った。
(そんな…!)
がら空きになったわき腹に強烈な一撃を受け、彼女もまたうめき声ひとつ上げず大地にその身体を預けた。

966 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:12
関平と趙累が最期を迎えていた時…それと知らず潘璋はただその光景に言葉を失っていた。
戦闘に入ってから既に十五分余りを経過し、関羽軍団の軍団員はほぼ討ち果たされていたものの…肝心の関羽は討ち取るどころの騒ぎではなかった。

関羽一人をめがけて殺到する少女達の体が、まるで紙吹雪のように吹き飛ばされていく。
それが紙吹雪では断じてない事は、その剣が振るわれる度に飛び散る血飛沫が物語っていた。

それはまさに悪夢のごとき光景だった。


関羽の剛剣が振るわれるたび、少女数人が吹き飛ばされ、その一回ごとに戦闘不能者が生み出されている。
正面に立てばある者は肩を砕かれ、ある者は額を割られ、ある者は血反吐を吐いて悶絶する末路が待っていた。組み付こうとしてもその剛拳で強かに顔面を薙ぎ払われ、強烈な裏蹴りで肘や二の腕を破壊されてしまう。
何時の間にか、関羽の周囲はそうした脱落者ばかりになり始めていた。

「…なんだよ…」
潘璋はその凄惨な光景に、泣き笑いのような表情で呟く。
「こんな…こんな馬鹿な話ってあるかよ…?」
その問いに答えるもののないまま。

「関雲長、覚悟ッ!」
飛んできた怒声に、潘璋は漸く現実に引き戻された。
声の主は蒋欽。吹き飛ばされた生徒達の間を割って飛び込んできた彼女は、握り締めた鉄パイプを関羽の脳天めがけて猛然と振り下ろす。
背後から、人込みに紛れての奇襲。本来ならば、彼女ほどの猛者が好んで使うような戦法ではないはずだ。
だが一方で、蒋欽は己のプライドなどというものがこの戦いに何の利益ももたらさないことをきちんと理解していた。

もっと言えば、ここで関羽を確実にツブせなければ後がないだろうことも。
だからこそ、彼女はこの一瞬の中に総てをかけた。

次の瞬間。

鉄パイプはあらぬ方向を向いていた。
いや、あらぬ方向を向いていたのは、それを持つ蒋欽の左腕そのもの…その肩口に、関羽が振るった剣先が食い込んでいた。
「公奕さんッ!?」
その潘璋の悲鳴が届いていたかどうか。
その身体は大きく宙を舞った。

関羽は、ここまでの間、一度も振り返ることはなかった。


宙を舞うその身体に目を奪われた少女達の動きが一瞬、止まった。だが関羽はそれにさえ目もくれず、なおも眼前にある"敵"を屠りつくすために再度その剣を振り上げた。

「文珪先輩ッ!」

少女の絶叫で我に帰った潘璋は、次の瞬間思いきり地面に叩きつけられた。
いや、どこからか組み付いてきた少女とともに地面を回転しながら受身を取らされた格好だ。
その一瞬、地面に叩きつけられる太刀が見える。恐らく、その少女がいなかったら自分はとっくの昔にその餌食となっていたことは想像に難くない。
「承淵!」
覆いかぶさったその少女からは返事が無い。
恐らくは飛びついた際、同時に地面を振るわせた一撃の生み出した衝撃をもろに受け、意識を飛ばされたのだろう。潘璋はこの少女が身体を盾にしてくれたお陰で、その影響をほとんど受けずに済んだのだ。
その恐ろしい事実は、その切っ先がめり込むどころか文字通り叩き割ってるという凄まじい状況からも理解できた。

関羽は潘璋の姿を認めると、再びその切っ先を天に振りかざした。
彼女は丁奉の襟首を掴むと、横へ飛びのこうとするが…その切っ先の落ちてくる速度のほうがずっと速い。
そして動かない己の脳天めがけ、その剣が振り上げられるのを、潘璋ははっきりと見ていた。
その刃は、まるで総ての命を刈り取る死神の刃のように思えた。


だが、その刃が届くことは無かった。


自分たちと関羽の間に割り込んできたひとつの影が、その剛剣をものともせず、棒のようなもの一本で受け止めていた。
濃紺のバンダナから覗く、白金の髪。
「…これ以上」
言葉を失ったはずの少女が、声を発した。
潘璋はそのこと以上に、その声の主に心当たることにかえって驚愕を隠せなかった。
「これ以上、貴様如きに好きにさせるかぁぁっ!」
かつての孫策直属の側近の一人で、飛び切り不器用な性格の才媛と…目の前の少女のイメージが、潘璋の中でそのときひとつになった。


(続く)

967 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:29
仕事に就いたことでさらに出現率が低下した感じの海月です><

まーあれだ、イレギュラー言うなら最高に酷いのはむしろ私かもしれません('A`)
お察しになられる方も恐らく多いでしょうが、馬忠の正体は…


>北畠蒼陽様
ちょwwwなんで陳羣がトドメ刺してんwwwwww

こういうお約束っぽいオチ大好きですよw
史実準拠であることも大事だと思うけど、このくらいは受け入れて然るべきではなかろうかと。


そして韓芳様の呂布軍団の最期に、冷霊様の進行中の益州東州軍団SS…くそう、どいつもこいつも濃すぎだコノヤロー(≧▽≦)
私もさっさと関羽軍団を乙らせるべく奮闘中ですが、それこそ欣太センセみたく関さんがプロット潰しに来はるんですよ誰かボスケテww

968 名前:北畠蒼陽:2006/10/08(日) 12:11
>海月 亮様
おかおつおつかれさまです(それぞれ帰還と就職と投稿について
そして、関さん……っ!

正直蒼天の最後はファンタジーになっちゃってたんで、あんまり印象ってないんですよねぇ、個人的には。
ラスト近くになって一番すきなのは潘濬なんすよー。
ま、ワタクシの個人的な志向はどうでもいいんですがねー、ここでの潘濬ちゃんがやっぱいいねぇ〜。
あと『潘濬』を『いんしゅん』って打ち込んで『あれ、変換されないなぁ?』ってカチャカチャやってた私とか、いっぺん家財を泥棒に持っていかれるとよいよ。いや、やられましたが。

それはともかく大作おつさまですたよぅ。

969 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 18:36
>潘濬
っていうと四百話のアレですな。
あのシーンは関さんの一挙一動に先ず目が行くけど、こっそり潘濬もいい役どころなんですよね。関平が哀れとしか思えない('A`)www

横光はいたんだかいないんだかで、吉川だと完全に糜芳&士仁の同類扱いで終わってますからねぇ…正史に伝もあるのにねぇ。

970 名前:韓芳:2006/10/09(月) 22:43
>北畠蒼陽様
ナイスオチ♪
いや、いい仕事してますね〜(あの人風
陳羣いい味出しすぎですw

私にはこういった文章書けませんが、読んでて面白い文もいいですよね〜。

>海月 亮様
第四部お疲れ様です〜。

潘濬って、いい役どころなんですね…知らなかった… orz
横光とか(私の読んだ)演義には潘濬とか趙累とかなんて1行出たかどうかくらいでしたんで^^;
いや〜、勉強になりました。

971 名前:海月 亮:2006/10/14(土) 00:13
^^ノシ

潘濬は横光で名前のみ、吉川英治ではやはり離反組の一人として登場してます。
まぁ流石に趙累まではいませんでしたが…

潘濬の活躍ぶりは「蒼天航路」をぜひ^^^^^



さて、五部はどうまとめようかのう…。

972 名前:北畠蒼陽:2006/10/19(木) 21:25
「貴様……何様のつもりだ!」
「貴女の上官様のつもりよ。異論があるのなら会議室から出ておいきなさい」
会議室は2人の少女のにらみ合いによって緊迫の空気を帯びていた。
しかし部下であるほうの少女が足音を荒くして部屋から出て行くことによってその空気も若干和らいだものになる。
しかし……
「……よかったんですか?」
にらまれていた上官の傍らにいた少女、王基が呟くように尋ねる。
「まぁね……あれで十分」
それに答える声は獰猛な笑みを帯びていた。
「あなたや、文舒は近い将来、私に感謝することになるわよ……もっとも私は私の血筋が謀略の血筋だってことを思い知らされてへこむことになるんだけどね」
謀略の家系の、現段階でその頂点に立つ少女、王凌は自信に満ちた笑みを浮かべた。


謀の華


その月、長湖部におけるアンタッチャブル、陸遜が引退することになる。
同月、南津の橋の欄干の銅像が落雷により焼け落ちた。ちなみにこの銅像は『全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている』というシロモノだったのでみんな銅像が焼け落ちたことを内心喜んだ。
その翌週にはおりからの大雨による床上浸水で長沙棟に通う学生たちが被害を受けた。
そんな不穏な空気の中、長湖部の1人の少女が唇をなめた。

「……じゃ、もっかい手はずを確認するわね?」
車座の中心の少女が周囲を見回す。
朱貞、虞欽、朱志……
なかなかのメンツが集まったもんだ、と自画自賛。
「私たちが狙うのは部長……いや、孫権が校内に入り、おつきの連中がまだ校門付近にいる、ってくらいの絶妙なタイミング」
うん、と中心の少女の言葉に3人が頷く。
「朱貞、あんたはそのタイミングで幹部連中を全員拘束。その間に私が孫権を……」
ぐしゃ、という音を立てて少女の手の中にあったジンジャーエールのアルミ缶が潰れた。
「……そのあとは校内に立てこもって時間を稼ぎながら生徒会の救援を待つ……成功すれば委員長クラスのポストも夢じゃないわよ?」
少女……九江棟長にして征西主将、馬茂は笑みを浮かべた。

決行の日、校門が見える茂みの中に馬茂は隠れていた。
生徒会に自分がいた当時の王凌のセリフが頭の中にリフレインされる。
私を小ばかにしたあの女狐は委員長として生徒会中枢におり、その妹……王昶とかいったか……も荊州校区に勢力を伸ばしているものの、今回、これを成功させればあいつらを見下すことが出来る。
どっちにしろ名主将、陸遜のいない長湖部などすぐに壊滅してしまうのだから、私の役に立ちながら潰れるといい……

973 名前:北畠蒼陽:2006/10/19(木) 21:26
そんなことを考えていたから馬茂は後ろの気配にまったく気づかなかった。

「……いい気になるな、小者」
後頭部に竹刀で一撃をくらわせて昏倒させた馬茂の制服から蒼天章をはずし、嫌気がさしたように呟く全ソウ。
不意に足音に気づき顔を上げる。
「子山、終わった?」
「終わった終わった……まったくイヤになる」
肩をすくめながら現れた歩隲に全ソウは苦笑を浮かべた。
直前に情報が得られなければ本当に危ないところだった。もしかしたら……
いやなイメージを振り払うように全ソウは顔を振る。
「まったくね。おちおち引退も出来やしない」
「伯言がいなくなったタイミングでこれじゃ、わが身の不徳を嘆くことすら出来ないわ……っと、あんたの前じゃこれは禁句だっけね」
のうのうと言い放つ歩隲を一瞬険を帯びた目でにらみつけてから、にらみつけたところで無駄と悟ったか全ソウは『別に』と呟く。
ほい、と歩隲は全ソウに手を出し、その手に全ソウは馬茂から奪った蒼天章を乗せる。
「私はそんな高望みしてたっけかな〜、っと!」
歩隲が言葉とともに頭上に馬茂の蒼天章を放り投げた。全ソウは目でその軌跡を追うこともなくため息をつく。

「はえ〜ってタイミング」
「……小者は小者だったわね」
後日報せを受けた荊州校区で王昶と王基も頭を抱えた。
「なんで決行タイミングをこっちに知らせんかなぁ。そしたらこっちだってそのタイミングでフォローできるっつのに」
「……私たちが王凌様の息がかかってるから知らせたくなかったんでしょ」
王基の言葉に王昶は余計に頭を抱える。
「だったら公休でもいいじゃんよー!」
「……それを思いつかないのが小者の小者たる所以」
身も蓋もないことを呟きながら王基は肩をすくめる。
「……ま、確かに王凌様が1年以上前に言ってたとおり役には立ってくれたわ。つまり小者ですら孫権を狙える位置にいる、っていう事実を知らせてくれた、って意味でね」
「一石一鳥じゃ不満よ」
不貞腐れたように王昶が頬杖をつく。
「……ま、そこらへんはあなたのお姉さまの読みの甘さね」
「うわぁー! お姉さま、ツメが甘いよ! そんなんじゃダメだよ! でもマジラブ!」
王基の言葉に王昶は再び悶絶する。
悶絶といっていいのかどうかは微妙だが。
苦笑しながら王基は王昶を見、そして窓をあけ、その向こう、湖の彼方に視線を向けた。
「……熱いわね」
10月の冷たい風を浴びながら王基は呟いた。

974 名前:北畠蒼陽:2006/10/19(木) 21:26
王家に関係あるっちゃあるんだけど、誰も見向きもしないような小者オブ小者。ベスト小者スト7年連続で受賞中の馬茂さんです。
誰だこいつ、って感じですよね。本当ですよまったく。
純粋シリアスも純粋ギャグも描きたくない、って中途半端なテンションで書いたらこうなりました。
う〜ん、どうにかならんもんか……

>全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている銅像
実在します。私の実家のほうに。

975 名前:韓芳:2006/10/22(日) 23:31
>北畠蒼陽様
謀の華、お疲れ様です〜。
小物って今も昔も変わらないですよね〜、散り方(ぉぃ
王基の様子も気になるところです。

>全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている銅像
想像すると怖いんですけどw
夜とか絶対近寄れない…

976 名前:北畠蒼陽:2006/10/23(月) 00:54
>韓芳様
まぁ、実際のとこ、そこまでいうほど小者じゃなかったと思うんですけどね。
ほら、ナニゴトもディフォルメって必要じゃないですやんか?(誰に言ってるのか)

>王基の様子
ん? 王基? 王凌お姉さまのことかな?
ん〜、こんな感じかと……
------
王凌「……ふ、ふん、予想通りね」
令孤愚「彦雲姉って、なんていうか……ほんと、負けず嫌いだよね」
------
でも実際のとこ馬茂さんが魏の誰と連絡取り合って、行動起こしたのかは不明ですなぁ。多分王凌だとは思うのですけど。

>全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている銅像
う〜ん、私が子供のころにできた銅像なんですけど、はじめて見たときは怖いとかいうより愕然とした記憶がありますね。

977 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:41
スパムなんて(゚з゚)キニシナイ!!
とりあえず荊州事変の顛末とかどーぞ。

いち >>898-901
に  >>909-912
さん >>924-927
し  >>963-966

978 名前:海月 亮 :2006/10/28(土) 10:42
−武神に挑む者−
終節 ゆめのおわり


凛とした怒号とともに、変幻自在の杖捌きが関羽を襲う。
その突きの鋭さに、さしもの関羽も後退を余儀なくされた。
飛びのいて大きく間合いを取ると、二人は改めて向き合い、互いの姿を確認しあった。
「貴様は…?」
「…答える義理は無いわ」
にべも無い言葉とともに杖を構えるその姿に、達人特有の気配を感じ取った関羽も、構えを取り直す。
(…棒術…いや、これは杖術か…! …この娘、出来る…!)
一陣の風がふたりの間を駆け抜けていったその瞬間、その中間で剣と杖がぶつかり合った。
そのまま力で押し切ろうとする関羽の剣を受け流し、側面から少女は横薙ぎに杖を繰り出す。
紙一重でかわしたところへ、無拍子で直突きに切り替えてくるその一撃が、関羽の左肩を捉えた。
「…ぬ!」
当たる瞬間僅かに半歩引いてダメージをやわらげようとするも、さらに足元を掬い上げる強烈な一撃を喰らい、受身を取ってさらに後退させられる。
(………馬鹿な………甘寧なき長湖部に、まだこれほどの使い手がいるなど…!)
予想外の攻撃に当惑するのは関羽だけではなかった。
見守る長湖部員達にも、この状況でまさか関羽に一撃を加えられるほどの使い手がいることなど思いもしなかったのだ。
潘璋、蒋欽といったひとかどの猛将を悉く退けられ、戦意喪失していた部員達は、思わず歓声を上げた。

折りしもその場に到着した呂蒙も、どこかほっとした表情で呟いた。
「あいつめ…やっとその気になってくれたのかよ」
呆れてはいるようだが、こんな絶体絶命の状態になるまでその少女が出てこれなかったことを、少女が関羽に対する恐怖で逃げ回っていたというワケではないだろうことを、呂蒙は知っていた。
彼女が関羽の面前に立てなかった理由…そして、この局面において姿を現した理由は、ひとつしかなかったのだから。


その別の丘から、到着した孫権の軍団も姿を現していた。
関羽が巻き起こしたと一目でわかるその惨状の中心、暴威の如き武を振るう関羽を、単身食い止めている…いや、その見立てに誤りが無ければ…。
「…凄い…あの関羽を相手に、あそこまで戦える人が居たなんて…!」
目を輝かせて、感嘆の呟きを漏らす孫権。
傍らの周泰は、それを何処かやるせない思いで眺めていた。彼女も、眼下で死闘を繰り広げている少女の正体を知っていた…というか、一目見てその正体に気づいていた。

かつて共に孫策の元で共有した夢を実現するために戦ったその少女が、その不器用な性格ゆえに、周囲から浮いた存在になっていることも…それが孫権のことを大切に思うあまりにそうなってしまったことも。

(子瑜が髪形を変えてしまったときも気付いたほどなのに…お前の想いは、それほど伝わりにくいものだったのか…)
周泰には、そのことがたまらなく寂しいものに思えていた。


自分の疲労に気付いていないわけではなかったが、関羽は最後の最後まで、何処か"長湖部"という存在を甘く見ていた。
かつての呂布がそうだったように、己自身に敵なしとまでは思っていなかったが…少なくとも今の長湖部には、自分に比肩する武の持ち主など存在しえない、と思い込んでいた。

だから、信じられなかった。
…いや、認めるわけにはいかなかったのだ。

たとえ自分が万全の状態であっても…目の前の少女が、"武神"と呼ばれた自分をはるかに凌駕する武の持ち主であることを。


そしてその鋭い突きの一撃が、ついに武神の左肩を捕らえた。
「な…!?」
戸惑いの後、凄まじい衝撃が関羽の全身を襲う。
これが単なるまぐれ当たりではないことは、それまでの攻防で見せたその能力を鑑みれば解ることだった。彼女はインパクトの瞬間、一瞬の手首の返しと同時の強烈な踏み込みでその威力を倍化させ、その身体をさらに後方へと吹き飛ばした。

固唾を呑んで見守っていた長湖部員たちから、歓声が上がる。
関羽はその光景に、耐え難い不快感を味わっていた。義理人情に篤く、戦いに関しても常に敬意を忘れない彼女も、「武神」と持て囃させたことでそれを見失っていたのだろうか…あるいは、そのプライドから来る、今の自分に対する怒りからなのか。
(おのれ…長湖の狗如きに!)
眼前の少女に対して、このとき関羽が抱いていたのは、紛れもない憎悪だった。

大きく体制を崩した関羽めがけ、杖を脇に構えた少女が引導を渡すべく加速する。
関羽の目はなおも眼前の少女を見据えていた。
木刀を腰に構え、抜刀術の体勢をとる。そしてその闘気が一気に消えてゆく。
「…光栄に思え。まさか長湖部員相手如きに、これを使うとは思いもしなかった」
少女が異変に気づいた時には既に遅かった。


次の瞬間、少女の身体は血飛沫と共に中空を舞った。
直前まで歓喜の声をあげていた長湖部員たちから、その瞬間、総ての声が消えた。


少女の頭を覆っていた布が解け、その正体を示す銀の髪が中空で揺らめいた。
そしてその瞬間、その少女の正体を孫権もまた知ることとなった。
「…嘘…なんで、あのひとが…?」
呆然と呟くその問いに、応えるもののないまま。

979 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:42
大地に倒れ付した少女を一瞥すると、関羽はゆっくりとした動作で孫権を見据えた。
「…これで私の道を遮るものは無い」
関羽の放つ鬼気にあてられ、少女たちは思わず後ずさっていた。
ただ一人、孫権を庇うようにその前に立つ周泰を除いては。
「此処で長湖部の命運は尽きる。身の程を弁えず、私の留守を狙ったことはその存在そのもので贖ってもらおう」
「勝手なことを…!」
しかし、周泰の言葉はそこで途切れていた。
何時の間にか振るわれた鋭い横薙ぎの一撃が、次の瞬間にその身体を数メートルも吹き飛ばしていたのだ。
「幼平っ!」
「幼平さんっ!」
呂蒙と孫皎が駆け寄ろうとするが、既に関羽の第二撃が、呆然とへたり込んでいる孫権の頭上に狙いを定めている。
「…終わりだ」
抑揚のない言葉と共に、その無慈悲な一撃は振り下ろされた。


総てがスローモーションに見えるその刹那の時間の中で、孫権は再度想像もつかないものを見ていた。
振り下ろされる刃と自分の間に割って入る、銀色の影。
それは常日頃から自分の傍にあって、あらゆる危難から守ってくれた存在とは別のものであったことに、彼女はすぐに気付いた。


「…どうして」
その剛剣を杖で受け止め、その身を盾に庇う少女に、孫権は問いかけた。
「…なんで…なんであなたは…そうまでして…」
彼女は振り返らない。
服に滲む赤い染みが、彼女の受けたダメージの大きさを何よりも如実に物語っている。本来は、立っていることさえ出来ない状態のように思えた。

しかし彼女はしっかりと両方の足で大地に立ち、身じろぎひとつせずその剛剣を受け止めていた。
守るべき、少女の為に。

「私は…私にとっても、あなたが…大切な人だから」
その姿は何よりも確かに、彼女の言葉が偽らざる真実であることを物語っている。
「私は、あなたを貶めたこの女がどうしても許せない…そして、あなたに嫌われることしか出来なかった自分自身も…」
その声が震えていたのは、そのダメージの所為ではないだろうことにも。
彼女は漸くにして、この少女がどんな思いで過ごしてきたのかを知るとともに…そのあまりにも哀しい心に気付けなかった自分の不甲斐なさを痛感した。
「だから…私はこの総てを…私の身を引き換えにしてでも…ここでその落とし前をつけます…!」
そのとき、ただ一度だけ、少女は背後の孫権の方に振り向き…微笑んだ。

寂しそうな笑顔だった。
胸が詰まって、声を出そうとすれば涙が出そうな気がした。
少女は再度、視線を前へ戻す。
「…この一撃で、尊大なる武神を仕留める!」
瞬間、少女の闘気が弾けた。

杖を返し、力の均衡が崩れて体勢を乱したその手から木刀をかちあげた。
強制的に諸手を挙げさせられ、がら空きになった胴に一撃、立て続けに背、鳩尾、大腿、左腕、右肩と乱調子の攻撃が武神と呼ばれた少女の体躯を打ち据え、限界を超えていたはずのその体から容赦なく体力を奪い取ってゆく。
よろめくその身体から距離を置き、再度脇構えに杖を構えた。
「…我が力の総てをかけ…唸れ天狼の刃よ!」
銀色の閃光が駆け抜けていく。

そして断末魔の悲鳴もなく、その身体は力なく大地に倒れた。


この乱世の始まりから学園を駆け抜け、「武神」と呼ばれた少女の、最期だった。

980 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:44
「関羽が討たれた」
その報告は間もなく学園中を駆け巡ることとなる。
情報封鎖によって丸三日、それを知らされずじまいだった帰宅部連合を除いて。


王甫が防衛していた襄陽も、突如侵入した長湖部勢によって瞬く間に制圧された。
王甫は辛くも脱出に成功し、血路を開いて益州学区へ帰還することが出来たが…その道中において漸く、関羽が飛ばされたということを知る事となった。
あの死闘の最中、唯一逃げ切ることが出来た廖化と合流したことで。


その報告を受けた曹操にも、何の言葉も思い浮かばなかった。
長湖部から送って寄越されたのは、紛れもない関羽の階級章。しかし関羽の行方は、戦後処理を待たずに杳として知れないとのことだった。
関羽が何処へ去ったのか…この時点で知る者は誰もいなかった。



一通りの報告を受け、曹操は訝る蒼天会幹部に「…悪いけど、ひとりにして」と言い残し、覚束ない足取りで執務室を後にしていた。
彼女は、洛陽棟の屋上…丁度荊州学区が見渡せる場所を眺めていた。
「…とりあえず、当面の危機は去った…んじゃないのか?」
その声にも振り向こうとせず、曹操はただ、遠くに映る荊州学区のほうをぼんやりと眺めていた。
声の主…夏候惇はその隣に、手すりに寄りかかるような形でついた。
「まぁ…おまえは大分あいつのことを気に入ってたみたいだから…」
「…そんなんじゃないよ」
曹操は手すりに預けたその腕の中に、自身の顔を埋める。
「ちょっとだけ…雲長のことが羨ましいと思った」
「羨ましい?」
思ってもみなかったその一言に、夏候惇は鸚鵡返しに聞き返した。
「形はどうあれ、雲長は自分のあるべきところで学園生活を終えることが出来た…その間いったい、あたしはなにやってたんだろうな、って」
そのとき初めて振り向いて見せたその表情は、ひどく哀しげなものに見えた。


劉備や関羽が長きに渡って学園の動乱時代を、自らの足で駆けずり回ってきたように…曹操もまた、この動乱時代を先頭きって駆け抜けてきた少女である。
学園組織でその身が重きを成すようになっても尚、彼女は自らの足で戦場に赴き、常に飛ぶか飛ばされるかの危難に遭いながら、その総てを乗り越えてきた。

しかし「魏の君」という肩書きに縛られ、彼女の課外活動における行動範囲はこれまでの比でもなく狭められてしまっている。

それが彼女の行動の結果だとは言え、それが本当に彼女の望むものだったのか…。
その「羨ましい」の一言が、その思いの総てを物語っているように夏候惇には思えた。


「…そろそろ、あたし達も潮時なんじゃないかな?」
「え?」
夏候惇の言葉に、今度は曹操が驚いて聞き返す番だった。
「あまり忙しいと忘れがちになるけど…あたし達もそろそろ学園に別れを告げなきゃならない時だ。ここまできたら、もう十分やったんじゃないかな?」
夏候惇もまた、その責任の重さから既に戦場へと赴かなくて久しい。
単に従姉妹同士という以上に、常に曹操と最も近しい位置にいた彼女にも、その思うところは初めから手に取るように解っていたのかもしれない。
「まぁしばらくは大騒ぎになるかも知れんが…事後処理の面倒なところは、あたしや子考(曹仁)、子廉(曹洪)でしばらくどうにかしてやるから…残り3ヶ月の間くらいは、好きに学園生活を送ってみたらどうだ?」
「…うん」
少しだけ微笑んだ彼女の脇を、晩秋のそよ風が吹きぬけた。


こうしてまたひとり、学園史を彩った風雲児が、その歴史上から姿を消そうとしていた。
この一週間後、曹操の引退宣言でまたしても学園中は上へ下への大騒ぎとなるのだが…その影で、ひとつの悲劇がまた進行しつつあった。

981 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:44
「…どうして」
揚州学区の病院の一室に、彼女は眠っていた。
頭には包帯を巻き、その身体には所々計器が取り付けられている。静かな病室の中、無機質な電子音だけが響いている。
「どうしてこんな目に、遭わなきゃならないの…子明さん…」
孫権は呂蒙の手をとると、力なくそう呟いた。
俯いたその瞳からは、とめどなく涙が流れ続けていた。


長湖部内での論功行賞は既に済み、作戦の総指揮をとった呂蒙はもちろん、生き残った者達にはそれこそ莫大な恩賞が与えられ、今回飛ばされたもの達についても十分すぎるほどの見舞金が出されていた。
そして、丹陽に半ば放逐状態だった虞翻もまた、此度の江陵陥落の立役者としての功績が認められ、再び幹部会の会計総括として中央に戻されることとなった。

そして陸遜はというと…流石に功績の大きさから何の扱いも出来ないということはできず、名目として鎮西主将の称号を与えられ、そのまま陸口に留まっていた。
ただしそこにどのような思惑が働いていたのか…彼女はしばらくの間、これまでどおりいちマネージャーとして過ごすこととなる。


そして呂蒙。
「…そういうわけで、問題もひと段落つきましたので…勝手ながら少しの間療養の時間を頂きたいのです」
呂蒙はこの日初めて、自分の体調のことを孫権に打ち明けていた。

呂蒙は戦後処理の直後、宛がわれた自室で倒れているのが発見された。既に限界寸前まで酷使していた身体が、大仕事を成し遂げた安堵感からかその力を一気に失ってしまったようでもあった。
その後数日間病院のベッドで過ごし、この日正式に暇乞いをするために許可を得て病院を出てきていたのだ。

「後任人事は、こちらに総てあるとおりです」
提出されたその表文の中には潘璋、朱然ら現長湖部の武の要といえるものたちの名はあったが…陸遜の名はなかった。
呂蒙は病院にいた間、これまでの部員たちの行動を鑑み、かつ孫権や陸遜当人との約束を守り、その人事案を完成させたのだ。
「…うん…でもまた、帰ってこれるんだよね…?」
孫権は勤めて普段通りの口調で、そう問いかけた。
元気そうに見えたが、呂蒙の顔からもその病状の深刻さが伺えた。孫権にももしかしたら、それが叶わぬ希望とは解っていたのかも知れないが…それでも、そう言わずにいれなかった。
それを解っていたからこそ…また、自分にもそう言い聞かせるように、呂蒙も応えた。
「…ええ。ですから、まだ階級章はお返ししませんから」
「うん…じゃあ、しっかり休んできてね」
そこには涙はなかった。


建業棟を退出し、無言のまま隣り合って歩く呂蒙と孫皎。
「…悪かったな、黙っていて」
先に沈黙を破ったのは呂蒙だった。
「ええんや。今ちゃんと教えてくれたんやから」
頭を振る孫皎。
彼女にも、この戦いに賭けた呂蒙の思いを…自分を心配することで気を遣わせまいとしたその気持ちを解っていた。だから彼女は、自分を"友達"と言ってくれた呂蒙の為に、その疑問を口に出さずひたすらそのサポートに徹していた。
「ゆっくり休んで、また元気に帰ってきてくれれば、それでええねん…」
「…ああ」
寂しそうに笑う孫皎の気持ちを紛らわせるかのように、呂蒙も笑って見せた。


悲劇は、そのとき起こった。

突如黒い影が何かを振りかざし、その視界に現れた。
「…叔朗!」
その叫びよりも早く、鈍い音がして、孫皎の身体が横にふっとばされた。
「奸賊、覚悟ッ!」
殺気を感じ、呂蒙がその場を飛びのくと、それまで彼女がいた場所に何かが通り抜けて地面に突き刺さった。
それが鉄パイプであるということを呂蒙が理解するより前に、四方から立て続けに第二撃、第三撃が襲ってくる。
「ちっ…正当な学園無双で敗れた腹癒せの闇討ちが、てめぇらの流儀なのかよ!」
「黙れッ!留守居を狙ったこそ泥の分際で!」
呂蒙は紙一重でかわしながら、何とか倒れ付した孫皎を回収しての逃げ道を模索する。
しかし、無常にも彼女の体調が、それを強烈な激痛として阻んだ。

直後、凄まじい衝撃が彼女を襲った。



この下手人たちは、たまたま近くを通りかかった水泳部員達によって悉く取り押さえられたものの、そのときの惨状は筆舌に尽くしがたく、被害者たる呂蒙が一命を取りとめていたことが奇跡に近い状況であった。
全身を滅多に打ち据えられ、特に頭への一撃はほとんど致命傷といっても差し支えなかったという。

元々呂蒙は水泳部を中心に様々な運動系クラブを掛け持ちしていたことで、小柄ながら体つきがしっかりしており、その鍛え抜かれた体があったからこそ一命を取りとめることが出来た、とのことだった。

孫皎は比較的軽傷で済んだものの、こちらは目の前で親友たる呂蒙を失ったことでショックを受けて心神喪失状態となり、課外活動を続けることが困難と判断されてドクターストップがかけられてしまった。



今回の謀主でありながら、幸いにも危難を逃れた陸遜はというと。

陸口で「呂蒙闇討ちに遭う」の報を聞きつけた陸遜も、流石にショックを隠しきれずにいた。
彼女はとるものもとりあえず病院へと駆けつけ、目覚めぬ呂蒙と、その手をとって嘆き悲しむ孫権の姿を、ただ呆然と眺めることしか出来ずにいた。
(…これが…こんなことが、このひとの末路でなくてはならなかったと言うの…?)
自身の身体に埋まった時限爆弾の刻限を知り、その時間内に大望を成し遂げるために最大限の人事を尽くしたその姿を、陸遜もよく知っていた。

「この一戦だけ」と、悲壮な覚悟で自分に懇願してきた呂蒙の姿を、陸遜は思い出していた。
それが、昨年の秋口にあった事件のあるシーンと、重なって見えた。

南郡攻略に進発する周瑜を見送った、そのときと。


いずれも、ふたりと言葉を交わした、最後の瞬間だったからだ。


(どうして…どうしてふたりとも、こんな目に遭わなきゃならないの…?)
彼女の目からも涙が溢れ、流れ落ちた。
周瑜と呂蒙…このふたりのやろうとしたことの何処が、理不尽ともいえる"天罰"に触れなければならなかったのかと思い、彼女は天を呪わずにいれなかった。


そしてその場に姿を現さなかったものの…虞翻もまた、呂蒙の末路を聞き及び、一人涙した。

孫策が刺客に襲われたあの日も、そして今回も…彼女はその場に居合わせず、それが取り返せぬ時間と場所で結末のみを知る形となってしまったのだ。
(私は…また大切な人を…守ることが出来なかった…)
どうしようもない運命のなせる業であることも、彼女はその聡い頭脳で理解はしていた。
しかし、その感情は…その場に居合わせることすら出来なかった自分自身をただ責め続けていた。



この数日後、呂蒙を失ったことによる人事再編が長湖幹部内で施行された。
しかしながら、呂蒙を失った穴を埋めるには到底及ばない状態であり…長湖部は暫しの間、その中枢を担うべき将帥のない状態となる。

そしてそれゆえ、数ヵ月後に、その存亡に関わる大事件へと巻き込まれてゆくこととなる…。

982 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 11:12
なんか巧い展開が考え付かなくて結局かなり急いでるとか_| ̄|○

しかも陸遜が鎮西将軍に任命された時期も微妙に前倒しになってるとかぐだぐだですね><
…いやこれは後から気付いたけどもう面倒くさいからなんかいいや、って感じで。
実際は次の年くらいに房陵や秭帰などで蜀に親和する勢力を平定していて、そのときの功績で鎮西将軍に任じられていたとかそんな感じだったはず。




>北畠蒼陽様
きっと小物だったからこそ、自分だけで何とかできると勘違いしたのだと思いつつ。
確かに呉主伝では「孫権殺害後、石頭を占拠して魏と連絡を取るという計画を立てた」とあるだけなんですよね。

というか文舒さん悶え過ぎww

983 名前:北畠蒼陽:2006/10/28(土) 19:14
>海月 亮様
大作乙!
全5章とか、長かったですねぇ。
いや、1章から環境ががらっと変わりながら、それでも同じテンションで書けるってのはすばらすぃですねぇ。
えぇい! ツメの垢をよこしやがれー! って感じで。えぇ。
しかし、呂蒙の最後がそうなるとは予想外でしたわ。うむ。

984 名前:海月 亮 :2006/10/28(土) 20:50
>北畠蒼陽様
実はもうひとつあったんですが、さらにぐだぐだになりそうだったので結構無理やりにまとめてるんです^^A

さらにここから、二年前(<もうそんなになるのか^^A)くらいに書いた夷陵SSとあわせて完結する形であった所為もあるんですけどね。
まぁ何気に関さんが行方不明だったり、「馬忠」の正体がアレだったりするのも、多分こっちに持ってこない長湖部斜陽SSの伏線になっているとかいないとか…これに交州話や二宮の変が絡んで、漸くひとつの話が完成するとか無駄に話が大きなことに^^A


あと呂蒙は自分内の年齢設定的に、二年生でいなくなることになってるんですよ。
そうなれば、やはり飛ばされた以外に「あっ」と思うような設定が欲しかったもので…本当に死んでしまうのは郭嘉だけということで、どうか。

985 名前:韓芳:2006/10/30(月) 23:54
>海月 亮様
終節お疲れ様です〜。
毎回よくこれだけの物が書けるなぁと感心しつつ、読ませていただいてました(書き込む前から
さらば関羽&呂蒙…

>北畠蒼陽様
王凌でした… orz
変換がめんどくさくてコピペしたのが間違いか…(ぉぃ

そろそろ空白の数日間埋めないといけない予感。
さて、どうまとめるかな…

986 名前:海月 亮:2006/11/04(土) 11:08
まー書くペースと文章量が今のところ反比例してますから^^A
むしろ詰め込みすぎ乙ですな。もーちょい、自分ではすっきりまとめたいんですけどね。


さーて、私は次何をやろうかな。
というか二宮も大まかな顛末というか、ドリーム展開になりそうな予感が…。

987 名前:韓芳:2006/11/05(日) 23:54
咲かぬ花
  外伝 隠された1枚

これは、呂布陣営最後の時の、語られることのなかった数日間の物語である―――

「候成!・・・失礼しました!」
魏続と宋憲が後を追った。

「ハァ・・・ハァ・・・ やっと追いついた・・・」
そこは下丕棟の屋上だった。
2月の屋上の寒気は痛くも感じられる。
そんな中で候成は、フェンスに1人もたれかかっていた。
「さっ、寒い・・・こ〜うせ〜い!とりあえず中で話し合おうよ〜!」
「・・・」
「無視か・・・まあ、当然と言えば当然か。」
宋憲がボソッと言った。
「ねぇー!聞こえてるのー?」
諦めず魏続は話しかける。
「・・・」
だが、相変わらず無言だった。
「ここはそっとしておこう。」
宋憲は魏続にそっと話しかけた。
「・・・そうだね、そうしようか。じゃあ、私達先に戻ってるからねー!」
そう言って戻ろうとした瞬間だった。
「・・・星・・・見えないね・・・」
急に候成が喋りだした。
あまりの突然さに、2人は顔を見合わせた。
「急に・・・どうしたの?」
「私・・・この先どうなっちゃうのかな?・・・この空のように、真っ暗なのかな?」
候成はずっと空を見上げている。
魏続が元気づけようと声をかけた。
「大丈夫だって!呂布様のことだから、明日にはコロッと態度が変わって―――」
「あいつの名前を・・・口に出すな!」
「!!」
「魏続!」
「大丈夫。かすり傷だから・・・」
魏続の頬をかすめたのは、候成の階級章だった。とっさに避けなければ、大怪我になっていたかもしれないほどの速さだった。
「あ・・・ごめん・・・」
「いいよ。候成の気持ち・・・分かるから。」
3人の間を風が吹きぬけた。まるで、何かを後押しするように。

「・・・私ね、決めたの。」
候成がぽつりと言った。
「決めたって、何を?」
「私・・・曹操に降る。」
「!!」
「何だって!?」
「本気だよ。それで・・・お願いがあるの。」
魏続はただ呆然としていた。
「候成、裏切り者になると言うのか?」
「そうじゃない。現に、もうこの軍団には所属してないし。」
宋憲をなだめる様に言った。
「その階級章、返しといて。曹操に下るから、もういらないわ。」
「えっ・・・」
「それから、曹操に下っても、私がここを攻めたりしないわ。絶対に約束する。だから安心して―――」
「安心なんて・・・出来っこないよ・・・」
魏続は涙目で話し出した。
「・・・あなたが居ないのに、どうして安心できるの?」
「・・・あなたには高順様が居るじゃない。私が居なくても・・・きっと・・・」
「・・・高順様も確かに大切な人だけど・・・けど、あなたの方が・・・あなたの方が私には大切なのに!・・・そんな、そんな仲だったの?候成・・・?」
「そうだ、私たちはいつも3人一緒だったじゃないか。それを1人でなんて、許さないわ!」
「魏続・・・宋憲・・・ でも、いいの?」
「私達も最近のりょ・・・あいつにはうんざりしてたからね。お互い様だよ!」
「・・・ありがとう。」

寒空の中誓ったこの約束・・・
その後ろで動いた人影に、3人は気付かなかった。

988 名前:韓芳:2006/11/05(日) 23:59
外伝、勢いだけで書いてみました。
1枚なので裏(続き)があります(ぉぃ
しかし、気持ちの移り変わり速っ!
気付くのは遅いのに…orz

989 名前:北畠蒼陽:2006/11/06(月) 00:31
>韓芳様
信じてたものに裏切られたと感じるのは、人を信じるよりもずっとずっと短い時間で行われることなのですよー。
続き、楽しみにしておりまっす。

え? 私?
……う〜んう〜ん。

990 名前:海月 亮:2006/11/06(月) 22:07
>韓芳様
友情は信奉よりも強し、ですかね。
この三人組の心情の解釈次第では、只の「時勢に乗じただけの裏切り者」から、「理想を違えて離れた者達」という風にも受け取れるんでしょうね。

いや、実はそういう解釈が何よりも好きなおいらがいます^^A


私ゃひとつ審配&辛評、逢紀&田豊あたりでこれやってみようと目論んでるんですが…どうしても正史に沿った話がそれだと書けない罠onz

991 名前:韓芳:2006/11/11(土) 13:11
>北畠蒼陽様
そうかも知れませんね〜
やっぱり裏切られることはつらいと思いますし…(意味深
次回作ゆっくりお待ちしてます^^
>海月 亮様
裏切りにも何かしら理由が有るわけで、それを全て悪にはしたくないんですよ。場合によるけど(ぉぃ
史実通りは難しい…
水攻めとかどうしよう(汗

992 名前:韓芳:2006/11/26(日) 02:06
咲かぬ花
  外伝 隠された1枚 ―裏―

翌日――

「う・・・ん? もう朝かぁ〜・・・」
魏続は眠い目をこすりながら窓を見た。
「うわ〜、真っ白・・・ 道理でさむ〜いと思ったら・・・」
窓の外は一面の雪景色。
と言っても、積雪量としては1cmにも満たないほどであるが。
「それにしても、昨日は寒かったもんな〜・・・ 昨日・・・か。」
ふと思い出した。あれから重臣は下丕棟に泊まることになった。
おそらく陳宮と高順の配慮で、呂布に謝罪の機会を与えるためだろう。
候成と謝罪に行ったときの呂布は、どこか上の空だったのを覚えている。
「あの時、一体何を考えていたんだろう・・・」
しかし、すぐ我に返る。隣の布団では高順が眠っている。滅多なことはここではしゃべれない。
「しかし、妙に寒すぎるような・・・? いくらなんでもここまで寒くなるかなぁ? 部屋もなんだか明るいような―――」

「ふぁ・・・ もう朝か・・・ 魏続、おはよう・・・ ?」
「ちょ・・・ 見て・・・」
「どうした・・・の・・・」
思わず高順も唖然としてしまった。
2人が泊まった部屋の床が凍っていたのである。
「え・・・ なんで・・・って・・・」
「「えぇーーーっ!!」」
早朝の学校に2人の声はよく響いた。

―――3階の水道の蛇口が全開になっており、そこから水が流れ出したものと思われます。被害範囲は3階の現場地点周辺と東階段、それと2階の教室や床のほとんどすべてです。一部は1階にまで到達している模様です。」
棟長室には次々と現状を報告しにくる伝令が入ってきたが、どれも被害は甚大だった。
この事態が発覚して1時間ほどたったが、床とともに各部屋のドアもほとんど凍ってしまい、復旧作業ははかどっていなかった。
「呂布様、至急復旧作業をしましょう。これでは下丕棟を守りきれません。事態が落ち着いた後、犯人を捜しましょう。よろしいですね?」
陳宮の案はすぐに採決された。が、どこか呂布の様子がおかしい。
「うん、任せる・・・ みんな、よろしく頼むわ・・・」
「はっ!」
その場にいた誰もが「もしや・・・」と思ったが、口には出さなかった。
だが、その中に僅かに顔色を変えたのが数人いたのを陳宮は黙って見ていた。

結局この騒ぎは丸1日かけて収まった。犯人はと言うと、証拠は何一つ残っておらず、目撃者もいないため、曹操陣営による工作と言うことになった。
対策としては、警備が強化されただけに留まった。
下丕棟の誰もが、『陳宮に泣きつき呂布が罰を逃れた』、と囁きあったのは言うまでもない。
そして、この事件を後世の人に語らせない様に、さまざまな工作がなされたという。

その夜――
「・・・ねえ? 高順、私がいなくなったらどうする?」
「急にどうしたの魏続? ふぁ〜・・・」
撤去作業を終え、2人は自分の部屋へ戻っていた。
1日中氷の撤去作業を行っていたせいか、高順は眠そうだった。
「もしもの話だよ〜。 向こうには呂布様と並ぶ剛勇と陳宮様を上回る智謀を持った人がいっぱいいるから、将来どうなるかわからないな〜、と。」
「珍しく暗いわね。 疲れたの? もう寝ようか。」
高順はふっと笑顔を見せ、布団にもぐりこんだ。
「そうだね・・・ うん、おやすみ!」
魏続も布団へもぐりこんだ。
「高順・・・」
「うん・・・? どうしたの?」
「ごめんね・・・ zzz」
「ごめ・・・って、えっ?」
高順はしばらくの間呆然としていた。

993 名前:韓芳:2006/11/26(日) 02:10
遅くなりましたが今度こそ完結です。
大した物書いたわけじゃないけど疲れた… orz
PC再セットアップしなきゃいけない事態にまで落ち込んだし…

あと、勝手に『水攻め』→『氷攻め』にしちゃったけどよかったのかな? …駄目ですよね、ごめんなさい…
まったり皆さんの作品読んでよっと。

994 名前:海月 亮:2006/12/20(水) 22:56
( ̄□ ̄;)凍結!!?
でも時期的に水道管の事故はやばそうですからねぇ。

最後のシーンを想像すると、ほのぼのした雰囲気の中にひとさじの哀愁が感じられますな。
というか高順タソ…(*´Д`*)



…そういえば現行の年表設定だと確か同じ頃に孫策も乙ってるんだよなぁ…。

995 名前:韓芳:2006/12/23(土) 00:33
>海月 亮様
『若干マイナー』な武将が私好きなので(マイナーすぎるとアレですが)高順とか搦ナなど三国志でよく使ってます。
有名な人物の影でさまざまな歴史を生きている、ってなんかいいなぁ〜なんて(マニアック?

>現行の年表設定だと確か同じ頃に孫策も乙ってるんだよなぁ…。
2ヵ月後に乙ですね。
次回作に使う…のかな?

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