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■ ★しょーとれんじすと〜り〜スレッド★

1 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:41
はい。こんなの作っちゃいます。
要するに、正式なストーリーとして投稿するほどの長さでない、
小ネタ、ショートストーリー投稿スレッドです。(長文も構わないですが)
常連様、一見様問わず、ココにありったけの妄想をぶち込むべし!
投降原則として、

1.なるべく設定に沿ってくれたら嬉しいな。
2.該当キャラの過去ログ一応見て頂いたら幸せです。
3.isweb規約を踏み外さないでください…。
4.愛を込めて萌えちゃってください。
5.空気を読む…。

とりあえず、こんな具合でしょうか〜。
基本、読み切り1作品。なるべく引きは避けましょう。
だいたい50行を越すと自動省略表示になりますが、
容量自体はたしか一回10キロくらいまでオッケーのはず。
(※軽く100行ぶんくらい…(;^_^A)、安心して投稿を。
省略表示がダウトな方は、何回かに分けて投稿してください。
飛び入り思いつき一発ネタ等も大歓迎。

あと、援護挿絵職人募集(;^_^A  旧掲示板を仮アプロダにしますので、↓
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/cgi-bin/upboard/upboard.cgi
にアップして、画像URLを直接貼ってくださいませ〜。
作品に対する感想等もこのスレ内でオッケーですが、なるべくsage進行で
お願いいたします。

ではお約束ですが、またーりモードでゆきましょう!

2 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:42
■■朝の風景■■


 少女たちの朝は(わりと)早い。
 全寮制である蒼天学園において、就寝時間は各々なれど、起床時間は決まって7:00。
 山の斜面沿いの、高層マンション群と見まごうほど密集した超巨大女子寮中に、
いつも通りのけたたましい起床ベルが鳴り響く。
 ――この朝も、穏やかな晴天であった。

「おはよーっ」
「おはよ…」
 珍しく朝練のない夏侯惇が、二段ベッドの下からはい出てくる。上から顔を覗かせて、
同室の曹操が元気よく挨拶。血圧低めの夏侯惇は、まだ眠そうだ。
「先トイレいく…」
「おっけー」
 曹操はパジャマ代わりのジャージ(※萌えポイント)を畳みながら、元気よく答えた。
(彼女は、効率がいいのか面倒くさがりなのか、枕元の手が届く範囲に着替えやポットや
ドライヤー一式を持ち込んでおり、二段ベッドの上はほとんど巣と化している)
 狭い空間で手早く着替えをすませると、曹操はひらりとベッドを飛び降りた。
「今朝は食堂で食べるよー!パン切らしてるから」
「わかったー」
 洗面所から顔を洗う音と歯を磨く音が聞こえる。
 やがて、眼帯をまきながら夏侯惇が出てきた。
「ちょっと遅くなったかな…」
「急げば間に合うよー」
 
 朝の寮食堂は、昼時の学食ほどでないにせよ、混む。
 モーニングセット(コーヒー付)400円は、多くの面倒くさがりの女子高生にとって
魅力的な料金設定だ。朝から果てしないお喋りを続ける者、新聞を広げてくつろぐ者、
遺恨でもあるのか殺気走った目で睨み合う者など、様々な連中が、わずか30分足らずの
朝食時間をそれぞれに過ごしていた。
 行列の最後尾に到着した曹操と夏侯惇は、トレーをひょいっとつかむと、そのまま行列を
無視して先へ行く。
 ムッとしてふたりをにらみつけた少女たちは、一瞬後、慌てて目をそらした。夏侯惇の
胸元の二千円章(※希少)と曹操の壱万円章は、彼女らにとって雲の彼方の存在なのだ。

3 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:42

「おっはー!」
「ああ、おはよーさん」
 曹操が挨拶した相手は、新任の豫州校区総代、劉備だ。関羽と張飛も両隣にいる。
「なんや曹操はんも、寮食派やったん?」
「いつもはちゃんとパン焼いて食べてるよ? 劉備こそ関羽がいるくせに寮食?」
「はは、今朝は三人とも寝坊したんや」
 他愛ない朝の挨拶。
 屈託ない二人の笑顔。
 だがそのふたりの頭上で、はやくも夏侯惇と張飛の闘気が交錯しはじめている。
「ホラ、いつまで突っ立とるんや、後ろがつっかえるやろ」
 と、不意に劉備が振り向きざま肘鉄を張飛の脇腹に突き刺した。張飛、無言でしゃがむ。
「じゃ、ウチらは、あっちで人待たせとぉから」 
「うん。あ…朝イチの現国、一緒の教室だよね。席並べよ」
「ノート写させてくれるんやったら」
「いーよー。その代わり、また四コマ漫画書いてね〜」
 ふたりは、分かれた。

 適当に空いている席(上級幹部専用エリア)に着いた瞬間、夏侯惇は頭を押さえた。
 長湖部領袖の熱血少女・孫策が、黙々とマヨネーズトッピングのサンドを頬張って
いたからだ。
 曹操は、それへ気づいた風もなく、平然と斜め向かいの席にトレーを置いた。
「おはよ、揚州」
 実にさり気なく挨拶する。このところ曹操が孫策の体育祭実行委員長就任の自薦書を
握りつぶし続けているため、ふたりの関係はよくて武装中立維持くらいである。
「…あ」
 曹操を視認した孫策、一瞬、底光りする目で曹操を見据えたが、次の瞬間、
「おはようございます!」
 と爽やかに笑った。よく日焼けした顔に、白い歯がひときわ目立つ。
「今朝は寮食ですか!」
「うん」
「ここのマヨネーズは最高ですよ! 副会長もいちど試したらどうです!?」
「い、いまは普通に食べるから…」
 無邪気な、しかしどこか挑発的な孫策の気迫には、さすがの曹操も辟易気味だった。
横ざまに突きつけられたマヨネーズを、どうやって引っ込めさそうか迷っているらしい。
 ――と。
 ふわり、とした風情で一人の少女が間に入った。
 びっくりするくらい、綺麗な肌。黒絹のような長い髪。人の容姿を気にかけたことのない
夏侯惇でさえ、思わず息をのむくらいの端整な顔立ち。
 長湖部副主将・周瑜だ。
「孫策、そうやって誰にでもマヨネーズを薦めないの」
 ぴしゃりとたしなめるその横顔に見とれていた曹操、夏侯惇の方へ、とびきりの美少女は
不意に顔を向けた。精神的に後ずさる二人に、周瑜は軽く会釈をすると、はにかむように
ほほえんだ。
「すみません、副会長。朝からご迷惑をかけました」
「い、いいえ、こちらこそ」
 なぜか恐縮する曹操に、妙に高貴な頬笑みをむけ、周瑜は席を立った。
「じゃあ、例の件、よしなにお願いいたします!」
 孫策も立ち上がりざま、周りがぎょっとするくらい大きな声で曹操へ言い、会釈した。
 長湖部の二人が去った後、曹操は呟いていた。
「あのコ、苦手…」

4 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:46
「それにしても、周瑜ってコはじめて近くで見たけど、びっくりしたねーっ!」
「話してないで走りなさいっ!」
 結局、ふたりは、何やかんやで出遅れた。かばんを小脇に抱えて、猛ダッシュ中である。
 別段、遅刻必至という時間ではないのだが、先週の週番である夏侯惇が遅れては、日誌
を次に渡せなくなる。朝のHRの二十分前には、教室に着いておかねばならないのだ。
「あはは、ごめんごめん、忘れてた」
「あんたね…」
 時間帯が早いということもあって、路面電車の停留所は空いている。
 と、いままさに一両の路面電車が、第19女子寮前駅から発車しようとしているところ
だった。二人は全力でダッシュすると、車外ステップへ飛び乗った。
「ああ、危なかった」
「今も危ないわよ…」
 路面電車は学園敷地内を五分刻みに行き交い、タダで乗り降りできる。
 時間帯によっては、乗り切れない人間が、このように車外のステップや窓枠にしがみつく、
という光景も見られるのだった。落ちれば死ぬ、というほどのスピードではないが、危ない
といえば危ない。
 次の停留所の直前で二人は飛び降り、改めて車内に乗り直した。 


「あ…」
「あ」
 飛び乗ったとたん、曹操はさっき走ったことを後悔した。夏侯惇も心の中で曹操に謝った。
 こともろうに生徒会長・袁紹が、真っ正面の席に座っていたのだ。
 かつて曹操と理想を共有し、一緒に学園を変えようと許攸や張バクたちと誓い合ったのが、
1年ほど前である。
 が、事態は複雑に骨折し、いまでは袁紹と曹操は絶交状態なのであった。
「……。」
「………。」
 …気まずい。
 袁紹も曹操に気づいてないはずがないのだが、おかしなくらい無心に単語帳を見ている。
 曹操は曹操で、必死になって天井の広告を眺めていた。
 ――夜の司州回廊で、雨に濡れながら互いの背中へ決別を言い合ってから、まだ二月も
経たない。
 あの夜から生徒会の執務も何もかも、人を介するようになり、もう差し向かって顔を
合わせる事もないと思っていたのだ。
「……………。」
 しばらく妙な空気が流れる。夏侯惇では、ちょっとこの空気を何とか出来そうになかった。

5 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:47
 と、緊張に耐えかねたのか、短い溜息をついて袁紹が単語帳を閉じた。
「――しばらくぶりね、曹操、夏侯惇」
「…うん」
「お、おはようございます」
 正副会長の思わぬエンカウント。ブン屋が乗り合わせていたら嬉々としてスクープにした
だろうが、幸い車内の誰も気づいた様子がない。あるいは、そのフリをしている。
「"そっち"の様子はどう?」
 袁紹の言う「そっち」とは、生徒会室のことだろう。蒼天会と公文書発行機能を掌握し、
事実上学園の支配権を偸盗してのけた曹操に対し、袁紹は生徒会分室を冀州校区内に移し、
徹底抗戦の構えをとった。いま学園の機能は完全な二頭状態になっていた。
「……。」
「聞いちゃいけないことだった? じゃあ私の方から言うけど、こっちは極上よ」
 袁紹はわざとらしく高慢な口調で言った。こうなると曹操、負けじと
「こっちだってばっちしだよ! みんなよく働いてくれるもん!」
 と噛みつく。
「でも、人材が足りなさそうねー? ああ、幹部クラスじゃなくて、中堅連中のことよ?」
 袁紹はいちいち曹操の弱みをつく。新興勢力の曹操に較べ、袁紹の方は中堅クラスの人材
に物理的に恵まれている。
「まあ、頑張れるところまで頑張ってよね」
 と、だめ押しの一言を曹操のちいさい胸に刺し通して、袁紹は立ち上がった。正門前に
到着したのだ。
「そっちこそ!」
 袁紹の背中に、曹操は挑戦状をたたきつけた。
「夏休みが終わる頃まで、分室があると思わないでよね!」

 …曹操と夏侯惇は、豫州校区前で路面電車を降りた。
 曹操は、もういつもの曹操に戻っていた。
「まずは、劉備からかよね…連中、飼えるか飼えないか」
 歩きながら、曹操は次の次を考えている。
「生徒会室にも評議会にも怪しいのがいっぱいいるわよね。董承先輩とか、王服とか」
「でも袁紹の下だって、一枚岩じゃない。必ず閥が出来てるはず。どうやって掻き回そう」
「長湖部の連中はどうしよう。いまは陳登ひとりで大丈夫だけど――うわっ」
 ぶつぶつ言っていると、石畳の段差で見事に蹴つまづいた。
 そのおでこが地面にたたきつけられる直前に、夏侯惇がひょいと片腕を伸ばして襟首を
掴まえた。
「イロイロ考えるのはいいけどね…」
 呆れたように、夏侯惇は言った。
「あんたはきちんと前を見ろ、前を。後ろとか横は、荀揩竓s嘉たちが見てくれるから」
「あ…」
 曹操は、一瞬だけ考え込んで、ニッコリ笑った。
「うん、前だけ見てる」
「よし」
 夏侯惇は曹操の頭をポンとたたくと、スタスタと先を歩き出した。
「急ぐわよ。――それにしても、大変な登校風景になったなぁ、今朝は」 
「ホント、誰のせいよ」
「アンタだ、アンタ」
「そうなん?」

                                  ■おわり■

6 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 00:48
何で長くなるんだ!?
サンプルとして「朝の風景」で終わらせるつもりだったのに!
ああ、投稿される方、これくらい長くなるようでしたら、メール
でも承ります(;^_^A

7 名前:japan:2002/02/07(木) 12:00
SSへの感想もこちらに記入して宜しいのでしょうか?
(それとも「読書感想文」スレの方が?)

惇姉さん、相変わらず格好良いですね。
終幕の台詞に痺れました。
あと、
>――夜の司州回廊で、雨に濡れながら互いの背中へ決別を言い合ってから、まだ二月も
経たない。
このシーンを是非読みたいです、ぐっこ様!

8 名前:香香:2002/02/07(木) 15:25
マヨネーズをすすめる孫策が、私の中でちょっと神楽と被ります(笑)。
周瑜にビビる?曹操も可愛いですねぇ(笑)。
私もjapan様に同意です!
あの名台詞を聞きたい!

9 名前:岡本:2002/02/07(木) 17:48
孫策との水面下の争いや、袁紹との官渡決戦を控えて自軍勢力
の把握を画策する曹操がいいですね。

10 名前:★ぐっこ:2002/02/07(木) 21:48
感想はこちらでよろしいですよ〜。

>周瑜
japan様の蒼天クリスマスでの初(!)出演に続き、2度目。
曹操がこのまま弱くなりそうで怖いです…(;^_^A まあ、官渡連作があるから…。

>あのセリフ
形にするとクサくなりそう(;^_^A TOPのアレが一番のできです…。

さー、次はどなたがショート書いてくださるのかなあ〜(←期待中)

11 名前:ジーク:2002/02/09(土) 17:42
■第一回紙幣章所持者親睦会■

- 某日夕刻 徐州棟食堂『張・来来軒』 -

……
「…あ、これおいしー。」
「おばさまこれ美味しいですわよ。」
「公達、オバサマはやめてってば…。」
「ちょっと孟徳。こんなに頼んで大丈夫? 経費で落とすったって限度があるでしょうに。」
「何いってんの惇。生徒会長に不可能なんてないのよ。」
「ただでさえスズメの銅像とか色々訳わからない物を作ってばかりなのに……。…頭痛が。予算が。」
「ラーメンとスープとシューマイ追加ね〜!」
「食べすぎじゃないの、子桓さん…?」

徐州棟一階、張遼の母が主を務める寮食堂でのひとコマ。彼女らは予算折衝だか蒼天通信幹部総会だかよく分からん理由をつけて現在経費で宴会中である。メンバーは曹操、曹丕及び生徒会高官達と、蒼天通信幹部勢、勢力下の各校区総代、各サークルの主要メンバーなど曹操の部下がズラリと並んでいる。要するに曹操勢力下の紙幣章所持者が勢ぞろいという奴である。ちなみにこの食堂で宴会…もとい食事付き会議が招集されたのは生徒会副会長曹丕の好物がここの料理であることと、この食堂が学園有数の大きさを誇っている為である。最も、これも曹丕が幾つか部室をつぶして食堂を拡張した為だが…。

なんやかんやで小一時間。
「ところで、これって何の会議でした?」
「さぁ……。始めのほうに何かいってた会長選挙についてじゃないの?」
会長選挙。既に死語になって久しい言葉である。
「…え、あれだけ?」
「まあ、親睦会って事にしといてくれればいーわ。
生徒の親睦を深めるのも生徒会の立派な役目なんだし。」
とは曹操。
「そうそう。仲が悪いと色々と支障がありますし。ね、徐州さん、マンセーさん。」
「全くです…。アタタタ…思い出したら腹痛が…。」…張李調停役になって久しい楽進。
最近よく神経性の腹痛に悩まされている模様。その腹痛は元はといえば張遼と李典の所為である。
張遼と李典のあまりの仲の悪さに両方と親しい楽進は心の休まる時が無いのだ。
もっとも血で血を洗うような凄惨な争いではなく、黒板消しを扉に仕掛けたり、
ブーブークッションをいすに仕掛けたりといった、或る意味平和な争いではあるが。
以前は李典がやや戦局を有利に進めていたようだったが、
最近では張遼も李典の繰り出す攻撃を見極めだしたのか、互角の争いを繰り広げている。
「私は李典サンが謝るっていうのなら仲直りしてもいいですけど。」と張遼。
「………。」無言の李典。しかしその体は「ふざけないでよ!」と猛烈な闘気を発している。
「そーいえば李典ちゃん、さっきからあまり食べてないみたいだけど、どうかしたの?」
「マンヘーはん、ほほのほーひはほれもふっごくおいひいへふほ!
はへはいいなんてほっはいはい。」
という曹丕の前には既に山と積まれた皿の山―。マダ食べる気か、この娘は。

12 名前:ジーク:2002/02/09(土) 17:43
「い、いえ……ちゃんと食べてますよ。」
いきなり曹操と曹丕に話題を変えられ、気勢をそがれた李典。
慌てて料理を取ろうとするが、知らぬ間に周りに料理が無くなっている。
「あれ、李典ちゃんのとこ、料理が無いじゃない。あ、文遠。
あの赤いすーぷ李典ちゃんにとったげて。」
ギクッ。李典の視線が一点にくぎ付けになった。『赤い』スープ……。
何故か一皿だけ置いてある『益州棟名物激辛すぅぷ』のことだ。
噂では張遼と仲の良い関羽が特別に調理法を教えたのだとかどうとか。
誰も食べなかったのは……何故かこっそり『李典曼成用』とかかれていた為だ。
まあ、書いてなくとも多分誰も食べなかっただろうが。
「はい、どうぞ。このすぅぷはとっても美味しいですよ。
リテンさん、どうぞ遠慮せず全部食べてくださいね〜。ふふっ。」
張遼が曹操の一言に追い討ちをかけるが如く笑みを浮かべて李典にそのスープを渡す。
「え、……えっと……あの…それは……」
必死で断りの言葉を探す李典だが、張遼ならばともかく曹操にきつい事は言えるわけがなく、
思うように言葉が出てこない。
「どうしたの? あ、わかった。食べさせてほしーんでしょ。
それじゃ〜私が食べさせてあげるね。はい、ア〜ン。」
カチャ。
曹操は悪魔的な笑みを浮かべてスープの皿を手に取った。
やばい、逃げないと―。
ガシッ。
蒼ざめた李典は席を立って後ずさる……ろうとしたが、後ろには何故か張遼が……。
「あ、わっ、はなせっ。……い、いやぁ〜。」
ゴクッ……一秒……二秒………ぼぅっ!
口から火焔を吐く李典。必死になって水差しとコップを探す。が、何故か水差しは姿を消していた。
張遼―。薄れゆく意識の中、李典は張遼の笑みを見た…ような気がした。
曹操は李典の末路(?)をみて腹を抱えて笑っている。
その笑いは収まる様子を見せない。そして……。

べちゃ。

食堂の床にノックダウンしている李典。対李典戦に勝利を収め、満足げな表情の張遼。
例の腹痛が再発した楽進。麻婆豆腐を顔一面にくっ付けた曹操。あきれる夏侯惇。
彼らを尻目に宴会はなおも続く……。

……

-了-

13 名前:ジーク:2002/02/09(土) 17:44
というわけでショートストーリー書いてみましたです。
疲れた…(;^^A
かってにスズメの銅像立ててしまいましたが(笑) 何か違う気もいたします。

>朝の風景読感
マヨネーズな孫策(←?)が…(^^

決別のせりふ…聞いてみたいなァ。

14 名前:項翔:2002/02/09(土) 19:58
>■■朝の風景■■
学園実力者達の緊迫したやりとりに、一気に全て読んでしまいました(^^) TOP絵の再現を大期待です!

>■第一回紙幣章所持者親睦会■
ああっ、折角の親睦会がぁ…!
…結局こうなるんですね、あの二人。(^o^)
しかし、マーボーで顔一面を濡らす曹操をもう見られるとわ!
ジーク様、大感謝です!!

15 名前:項翔:2002/02/09(土) 20:01
すみません、"学園タ力メ達の緊迫したやり謔閧ノ"→"学園実力者達の緊迫したやり取りに"です…。

16 名前:★ぐっこ:2002/02/09(土) 22:21
うーむ…今日は項翔様が祟られてる!? ちなみに昨日は私でした…(;^_^A
管理機能の修正で直せますので、よろしければメールか画像アップローダのほうにでも、
修正文あげてくださいー!

それはともかくとして!
ジーク様! ストーリー投稿ありがとうございます!
最高!不協和音有りすぎの曹操陣営! 珍しく張遼が先攻したバトル!
しかも知謀の李典の先手先手を取る手腕! ただの体育会系ではないということか!?
曹操達のちゃらんぽらんさがたまりません!(;^_^A

17 名前:玉川雄一:2002/02/11(月) 03:53
  ■まじかる☆イリュージョン■

 辺境の微動か、京師を揺るがす激震か。
 帰宅部連合実働部隊総帥・諸葛亮が企図する北伐の成否は、
ある辺鄙な校舎の去就に懸かっていた。
 荊州校区新城棟。現在この棟を預かるのは孟達、子敬。
 かつては帰宅部連合に所属しながら、故あって生徒会に身を投じていた。

 彼女は当初こそ新蒼天会長となった曹丕の覚えめでたく、
破格とすら言える待遇を受けてきた。
 しかし、得てしてこの類の栄達は凋落も早い。
 曹丕の早すぎる引退と共に、孟達の立場も微妙になっていた。
 そこへかつての僚友、李厳の私信に続いて、
諸葛亮から誘いの手が差し伸べられたのである。

 曰く、
  近々帰宅部連合は生徒会への行動を開始する。
  ついては貴方も旧に復し、我々と共に生徒会打倒を図って欲しい。
  我々は漢中アスレチックより雍州校区を目指す予定であり、
  貴方には荊州校区より司州棟を突いてもらいたい。
  これが成就すればかならずや生徒会に痛撃を与えることができる。
  その時は、貴方も安心して帰参が叶うはずだ、と。

 …ちなみに、引き続いて“同人誌界の支配者”だの、
“世界征服”だのといった意味不明な文言も見られたが、
その部分は孟達には今ひとつ意味が図りかねたのである。

 それはさておき、孟達の心は確かに揺れ動いた。
しかし、事態は彼女の予想をはるかに超えて滑り出す。
 諸葛亮は、意図的にこの情報をリークしたのである。
 新城棟に隣接する魏興棟主・申儀は孟達と折り合い悪く、
彼女を通して、「孟達に不審の儀あり」との報が密かに走った。
 孟達はそれを伝え聞き、とうとう腹をくくったのである。

 とはいえ改めて考えるに、この計画は余りに魅力的だった。
 彼女の預かる新城棟は荊州校区の西北端にあり、
現在は漢中アスレチック方面への備えの役目を果たしていた。
 しかし、この刃が翻されれば… 荊州校区北部を一気に突破し、
現在生徒会が置かれている洛陽棟を直撃することが可能だった。

 だが、一にも二にも、この作戦には迅速な行動が不可欠である。
 いかな予想外の造反とはいえ、生徒会の対応より早く事を運ぶ必要がある。
 孟達の要請受諾の連絡に折り返し、諸葛亮はくどいほど念を押していた。
 だが、孟達はこの件について何故か楽観的だった。
 悠々と決起の時を図っていたのである。

 そこへ、生徒会側から孟達を慰撫する手が打たれた。

 曰く、
  貴方は劉備を棄て、生徒会に身を投じた。
  生徒会は貴方に要地を委ねており、
  また益州校区の生徒達は貴方のことを恨んでいるだろう。
  諸葛亮の企みなど成功するはずがない…

 孟達はこれを聞いてすっかり安心し、諸葛亮の度重なる督促にも耳を貸さなかった。
 生徒会は油断しきっている。我々が本当に背くとは思ってはいまい。
 この計画は必ず成功する、そのはずだった…

18 名前:玉川雄一:2002/02/11(月) 04:00
「そ、それが…なんでこんな事になるのよ!」
 急報を受けて、棟長室から窓下を見下ろした孟達は我が目を疑った。
 新城棟を取り巻くように、生徒会の実働部隊が布陣していたのである。
 一面に広がる女生徒の群の中に何故か古風に翻る旗。
 それには「司馬」と記されていた。生徒会驃騎将軍(仮称)・司馬懿、仲達。
 孟達が進撃するはずだったルートの途上、宛棟にあって、
荊、予二校区の威力行動を司る少女である。

 孟達の楽観は、いかに成功を期された今回の状況下とはいえ、
ある意味では仕方のないことだったのかもしれない。

 原則として、大規模な威力行動は生徒会の承認を必要としていた。
 …もちろん、学園内でも生徒会の勢力下においてのみ通用するルールだったが。
 宛棟から司州校区の洛陽棟まで出動許可を得るのに1時間…
 ネットワーク環境の整った学内(ただし携帯電話等は使用不能)とはいえ、
この類の手続きはアナログ方式というのが不文律である。
 生徒会は自分を疑っていないことは先の報せからも明らかであり、
この1時間の空隙があれば有利に状況を展開できる。
 そう考えるのも無理はないだろう。
 だが、彼女の敵はそのような枠には囚われなかったのである…

 孟達の叛意を伝え聞き、司馬懿の部下達は口を揃えて様子見を進言した。
 だが、彼女は躊躇わず、独断で動員をかけたのだった。
 そして密かに宛棟を進発、急行して新城棟を囲んだのである。


「アタシが事を起こして20分、あいつらはもうここまで来てる…
 まるで、神速じゃない…」

 −異聞によれば、この時生徒会側には剣道部の俊英、徐晃が参加していた。
  孟達はなお力戦し、徐晃を昏倒させたというが…
  当時の記録によればこの時すでに徐晃は現役を退いており、
  この説は帰宅部連合贔屓の何者かが孟達にせめて華を持たせようとした、
  虚構であるとされている。
  学園史を編纂した陳寿も、それに異聞を註釈したハイショーシ君も、
  この説は黙殺している…

 司馬懿麾下の生徒達は、勇躍新城棟に殺到した。
 孟達も果敢に抵抗するも、麾下の搆ォ、李輔は昇降口から投降。
 孟達自身も捕らえられ、司馬懿の前に引き出された。

「……………」

 孟達とて、敗れたりとはいえひとかどの少女である。
 乱れた髪はそのままに、やや細くつり上がった目で司馬懿の顔を睨み付けた。
 司馬懿はそれが常のように冷然と孟達を見下ろしていたが、
やがてポツリとつぶやいた。

「戦いは…決断と瞬発が肝心…それが判らないあなたは、蒼天会には必要ない…」

 それきり、プイと身を背けて歩き出したのだった。

 無念そうにうなだれた孟達の制服に生徒会執行部員の手が掛けられ、
階級章が剥奪される。こうして、新城の叛乱は潰えた。
 諸葛亮が送り込んだ増援も生徒会に投降し、
彼女の雄図はその根本において挫折することになったのである。


 −それでもなお、諸葛亮の北進は続行された。
  だが、生徒会にとってはある意味予想外な、
  弱小部の思わぬ攻勢がさらに想像を超えた状況を作り出す。
  新星の輝きが更なるドラマを生み、学園史を飾ることになるのだが…
  それはまたいずれ語られることとなるだろう。

 今はまだ、諸葛亮の前に司馬懿という存在が立ちはだかる、
その予兆が見え始めただけだった。

 ■続く…のか?■

19 名前:玉川雄一:2002/02/11(月) 04:03
ああん、ダブルで省略… 3分割すれば良かったか。

何だか内容の割にタイトルが浮きまくってる気もしますが(^_^;)
そう、このシリーズ(?)の主人公は司馬懿だったんですね〜。
っていうか続くの?
しかし、「将軍」っていう名称の問題、解決しませんかねえ…

20 名前:三国狗:2002/02/11(月) 22:48
ん〜、どれも面白い。
小ネタとして終わらすのは何か勿体ないくらいです。
特に「親睦会」、もう笑いっ放しでしたよ。
こういうの、自分でも書けたらイイなあ・・・。

21 名前:★ぐっこ:2002/02/12(火) 00:37
おお〜っ! 司馬懿VS孟達がとうとうテキスト化されたですね!?
司馬懿のなんぞそれ神速なる! 司馬懿のセリフがまたカコイイ!
しかしタイトルが「まじかる☆イリュージョン」(¨;)…このギャップがたまりません。
密かに戦死してそうな徐晃の注釈が泣かせます…。

22 名前:玉川雄一:2002/02/12(火) 01:06
それでも見直すと直したいところがあって鬱ですな。
ま、何かの機会にでも…

そうそう、参考にしたのは晋書宣帝紀とぐっこさんに頂いた北伐小説(のそれぞれ当該部分)です。
実は北伐小説で確認するまで、晋書宣帝紀を思いっきし誤解釈してました(-_-;)
ぐっこさんアリガト〜<(_ _)>

…さすがにタイトルは誤ったやもしれぬ(-_-;)

23 名前:ジーク:2002/02/12(火) 20:39
う〜ん、最後の司馬懿の台詞が渋いっス!
将軍……棟長とか? …なにか違う。
班長(;^^A…地区長(自治会みたいだ…)…隊長…司令…荊州方面軍団長…軍曹(←!?)
ありそうで良い名前無いものですね(汗)
最後のほうは何故に軍隊に…

24 名前:★ぐっこ:2002/02/14(木) 23:40
 2月14日――
 2月14日である。
 すなわち世で言うところのバレンタイン・デイ!
 …そもそもこのバレンタインデーとは、若者達に恋の美しさを語り続け、それ故に時のローマ皇帝
クラウディウスII世(在位268-270)によって処刑された、聖ヴァレンティヌスの悲劇に由来する。
 恋人の守護者・聖ヴァレンティヌスの名を冠したこの日、ある国では男→女の本命貢物合戦、
ある国では女→男のチョコレート商戦が繰り広げられるのだ。

 ……そして、この蒼天学園では――

「なあ張飛、何で何回焼いても焦げ付いてまうんやろ!?」
「もうちょっとミルク足したらどうやろか?」
「あかんあかん。また端の方が変な色になる!」

 さして広くない寮のキッチンを、バタバタと二人の少女が右往左往している。
 この日――バレンタインデーは、彼女らにとっても特別な一日であった。
「女子校なのに何で?」
 などと言う次元ではない。女子しか居ないというこの密閉された世界に於いてこそ、この種の
イベントは果てなくヒートアップするのだ。
 まして二月中旬というと、ちょうど学年末テストも終了し、長い春休みに入る直前の期間である。
日頃まじめに単位を取っている連中なら、もう四月までほとんど授業がないという状態が普通だ。
 何でもお祭りにしてしまう蒼天学園が、こんなイベントを放っておくはずがない。

「あっ!また焦げはじめてる!真ん中の方は溶けてもないのに!」
「下手くそ! 俺に貸せよ!」
 フライパンを取り合う。半液状のチョコが飛び散る。もう周りは無茶苦茶であった。
「だから言っただろ!素直に製品モノ買っておけって!」 
「せやかて、曹操が関さんに手作りの本命渡すって、わざわざ言いに来たんやで!これは挑戦や!」
「だったらせめて前日までに仕上げろ!」
 ギャアギャア言いながら、二人は次々と買い置きしていたチョコ材料(二〇〇〇円相当)を
フライパンへザラザラと流し込む。
 一瞬、チョコレートの芳香が漂い、数秒後には胸が悪くなるような脂の臭いが取って代わった。
「なんでや! あり得へん!」
「あるやないかい!」
 不毛な罵声を浴びせ合いながら、二人のドタバタはまだまだ続きそうだった……

25 名前:★ぐっこ:2002/02/14(木) 23:41
 ――その頃。
 当の関羽は、常山神社に居た。
 正確に言えば、逃げ込んでいた。もう、学園に彼女の居場所は無いのである。
「正直、今日ばかりは困った……」
 大鳥居の基石に呆然と腰掛け、関羽は呟いていた。
 杜は、相変わらずシンとしている。時刻は午前10時を回った頃で、穏やかな冬の朝だ。
 ――傍らでは、巫女服に身を包んだ趙雲がせっせと箒を動かしている。
「ふつう、女→女という発想はないよな…」
 と、関羽。彼女は生徒会に身を置いていた頃、あまりに目立ちすぎたのか、全校生徒から露骨な
「本命狙い」のターゲットにされているのだ。
 下駄箱を開けた瞬間、明らかに下駄箱の容積をオーバーしていると思われる量のチョコが、彼女の
足もと(※彼女の下駄箱は一番下段です)からあふれ出た。彼女の上履きはもはや見る影もない。
 そして、廊下の辻辻、階段の踊り場、あらゆる教室の入り口に、意を決した表情でチョコを抱いて
待ちかまえている少女達…。これが男なら本懐というべきだが、関羽のようなノリの少女にとって、
もはや地獄であった。
 …で、とにかく目立たないように学園を逃げ回り、なんとか常山神社へ逃げ込んだ、というところ
である。

「私はダメだ…ああいうのは」
 心底疲れているらしい関羽、ぐったりと鳥居にもたれかかった。
「はい、どうぞ」
 趙雲、いつのまにか厨から、盆に小綺麗な茶碗と茶菓子を乗せて持ってきている。茶碗をとると、
上品な香が立った。 
「ああ、ありがとう」
 趙雲も関羽の隣に腰掛けると、自分の茶碗を取り、ニッコリ微笑んだ。
「先輩はああいうのお嫌いでしょうけど、私は結構好きですよ」
「意外だな…」
「だって、今年はチョコをあげたい人がいるから…」
「何!?」
 関羽は心底びっくりした表情で、この常山流薙刀術の達人を見遣った。
 趙雲、べつだん悪びれる様子もなく、悪戯っぽく笑った。
「阿斗ちゃんですよ」
「ああ、なんだ…」
 露骨にホッとした顔で、関羽はお茶をすすった。趙雲の阿斗ちゃん好きは有名であった。
「阿斗ちゃん、甘いもの好きだから喜ぶだろうなー。もう昨日から作ってるんです。あ、もちろん
先輩の分も」
「わ、私は要らないよ…」
「そんなに身構えないでください。こっちが照れるじゃないですか」
 関羽の様子に苦笑する趙雲。ちょっと他では見られない状況であった。
「友チョコっていって、普通に女の子がチョコを交換してるんですよ。本命義理抜きで。それに…」
「それに?」
「もう、先輩、私のつくったチョコレートたべてます」
「あ…」
 出された茶菓子。和菓子風に甘餅に包まれていて気付かなかったが、確かにチョコの味が口に
残っている。
「これで先輩も仲間ですよ。このお祭りの」
「………」
 関羽が何か言おうと、口を開けたその瞬間――
「いた――っ >>関羽タン――っ! ハァハァ」
 黒い人だかりが、もの凄い勢いで石階段を駆け上がって来るのが見えた。

26 名前:★ぐっこ:2002/02/14(木) 23:42
 そのナゾの集団が趙雲の前を通過する頃には、関羽の姿はもうどこにも無かった。
「>>関羽タン――ッ! ハァハァ…!」
 口々に奇声を発しながら、彼女らは関羽の姿を求めて離合集散を繰り返し、それでもまとまった
集団を保ったまま常山神社の杜を去っていった。
「……何、あれ?」
 趙雲が知らないのも無理もないが、彼女らは「羽厨(ウチュウ)」と呼ばれる連中で、巨大匿名掲示板
「Gちゃんねる」に突如発生した、ナゾの暴走集団であった。ひたすら関羽を追いかけるらしい。
 さしあたって趙雲の身に危害は加えられなかったが、去り際にひとりが集団を抜け出して、
「巫女タン…ハァハァ」と呟くのをハッキリ耳にしてしまった彼女は、限りない不安に駆られたという。

「――チョコの要はココロやっ!そうやな、張飛!」
「いや、味だろ」
 重々しく呟く張飛の顔に、劉備は無言でチョコ生地をべしゃっと叩き込んだ。
「ええい、燕雀にはウチの志がわからん! とにかく、ハート形のが一個できたっ!…」
「このペースで行くと、予定個数つくるのにあと2週間かかるぜ」
 口のところだけ穴をあけて、チョコ生地を貼り付けたままの張飛が毒づいている。
「ああもう!日が暮れてまうやんか!関さんが帰ってきてまうやんか!」
「俺に言われてもなー」
「どないしよ、もう曹操が手ぇ出してるころやないか!」

 …劉備の想像は当たっていた。
 生徒会へ荊州校区の書類を提出にいった関羽は、曹操においしいお茶をごちそうになっていた。
「ね、おいしい?」
「はい…」
 曹操の無邪気な問いに、関羽は素直にうなずいた。実際、おいしいのだ。
 控えめな青を基調にしたチャイナボーンのセットに、高価な紅茶、曹操お手製のチョコ・ババロアが
乗せられている。
 それに、学園の制服の上からメイドが着るような白いエプロン(※萌えポイント)を付けて、
くるくるとお茶の用意をして回る曹操は、関羽が思わずぽーとなるほどに可憐であった。
 夕刻を過ぎている。冀州校区にある生徒会施設の中の、品のいいラウンジに、客は関羽と曹操の姿が
あるのみだった。
「――ところでさ、関羽」
 ふいに、曹操が関羽の向かいに腰掛けた。
「想像はついてるだろうけど、生徒会に戻るつもりはない?」
「……ありません。帰宅部連合は、貧乏所帯ですけど、楽しいところですから」
 ここに招かれたときから、こういう話になることは予想がついていた。が、曹操は食い下がる。
「あれだけの才能の集団が、学園から一銭も部費が出ないなんて、おかしいと思わない?」 
「会長が出してくださらないだけの話です」
 関羽が、なるべく失礼にならない程度に冷淡な答えを返すと、曹操はニッコリ微笑んだ。
「本当にそう思う?」
 黄昏の残照が逆光になって、曹操の顔はよく見えない。でも、その奥の双眸が、怪しいくらいに
鋭く輝いているのが、関羽には見てとれた。
「豊富な資金が有れば、帰宅部連合のみんなも、もっともっと、好きなこと、やりたいことが出来る。
もっともっと、才能が伸ばせる。そうだよね?」
「…………」
「そうしてあげた方が、帰宅部連合みんなのためだよね…?」
「……」
「簡単だよ。私がひとこと、出す、っていうだけで。……この意味わかるよね?」
 要するに関羽が生徒会に戻れば、帰宅部連合に部費を出す、という脅迫だった。
 大人しいが剛毅な関羽である。普通ならこの種の脅迫を受けるや、相手構わずはり倒している
ところだろう。
 が、その相手が悪い。静かに関羽の顔を覗き込んでいる曹操には、関羽の上体をテーブルに貼り付
けるだけの迫力がある。
 それに、曹操が言うことも一理ある。
 帰宅部連合と通称されるような集団だが、本来は一国一城も堅いほどの俊傑ぞろい。まともに部活
を続けていたら金メダルも軽いのではないか、というくらいの連中が、首領の劉備が反生徒会運動を
続けている、というだけの理由で流浪の集団になっている。
 劉備と、自分たちのわがままで…このまま彼女たちの未来の可能性を摘み取っていいのか…?
 …………。

27 名前:★ぐっこ:2002/02/14(木) 23:55

「ハイ、そこまでや」
 関羽が自分の中で答えを出すより一瞬早く、一つの声がラウンジの静寂を破った。
「……ち、もう来たの!」
 舌打ちしたのは曹操である。この瞬間、関羽の身体が不意に軽くなった。まるで不可視の緊縛が
外されたようであった。
「あのなあ、曹操はん。帰宅部連合は同好会やで。部費は必要ないし、生徒会の承認を得なかん事は
せえへん。みんながお気楽にやってる集まりや〜」
 ラウンジの中に入ってくる劉備は、飄飄としているが、曹操へ向けた視線を外しもしない。
 曹操も距離をとるようにジリジリとテーブル沿いに移動する。
「…外にいた娘たちは?」
「あんなん護衛にもならへんで、曹操はん」
 曹操は内心で舌打ちした。変な嫉視反感を避けるために側近連中を遠くへやっていたことが、今回は
裏目に出た。
 もっとも、仮に劉備と曹操が激突すれば、どう考えても曹操が勝つ。だが。ここには関羽がいる。
「…私はマスターキー(※玉璽)を持ってるんだよ。退学処分も出すことが出来るんだよっ…」
「やれるもんやったら、やってみるか……?」
 曹操の脅しを、劉備はあっさり無視する。
 と、睨み合いを続ける二人のまんなかに、関羽がすっと立ちふさがった。
「はい、そこまでです」
 来たときの劉備と同じセリフで、関羽は二人を分けた。顔に苦笑がうかんでいる。
「もうやめましょう。部長、それに会長。…」
 一瞬だけ睨み合うと、劉備も曹操も、体中から緊張を抜いた。
「そうだねー」
「せやな」
 ふう、と溜息をついてふたりは腰を下ろした。
「あ、せやせや、ふたりにチョコ持ってきてん。手作りやで」
 チョコ、と聞いて一瞬身構える関羽だが、曹操は嬉々として駆け寄った。
「え、どれどれ!?」
「はい、コレ」
 包み紙から、よく言って鹿せんべいクラスの外見をもつチョコを取り出し、曹操に手渡す劉備。
 曹操、薄っぺらく伸びたハート型(?)チョコを見て、
「あははははははははははははははははははははははははははは」
 と大笑いを始めた。
「なんや! チョコの要はココロやで!」
 さすがに嚇っとなって怒鳴る劉備に、曹操はちゃうちゃう、と手を振り、
「劉備ねえ。あんた、湯煎って知らないの?」
「へ……何?それ」
「湯煎っていうとねえ…ああ、今度説明するわよ、もう」
 まだおかしいのか腹を抱えている曹操。その横を通って、関羽は劉備の方へ手を伸ばした。
「……いただきます」
「おっ、貰ってくれるかー!
 劉備は、ちょっと照れたように関羽へチョコを手渡した。よくみると、
「本命・関羽へ 姐より」
 と書かれていた。関羽、苦笑すると、いただきますと言って、パリパリに焦げた薄っぺらいチョコ
を口にした。脂が抜けきったカカオの苦い香りと、焦げた香りが口の中に広がる。
 でも――
「どや、おいしいか?」
「はい、おいしいです」
 関羽は、心の底から、そう答える事ができたのだった。

28 名前:★ぐっこ:2002/02/14(木) 23:59
 

◆おまけ

趙雲「おいしい? 阿斗ちゃん」
劉禅「おいしーよー!」


張飛「……もう喰えねえよ…」


孫権「ボクたち何か出番ないよね…」
陸遜「じゃあチョコあげます」
孫権「ありがとー」

29 名前:玉川雄一:2002/02/15(金) 00:07
◆追撃。

魏延「先輩、劉備せんぱーい! クソッ、どこ行ったんだよ!
   …そうか、またあのメガネ○○の仕業だな…」

30 名前:玉川雄一:2002/02/15(金) 04:02
 
 ◆あの姉にして…◆

 生徒会幹部の懇談会。
 …ぶっちゃけた話、お茶菓子摘みながらダベってるだけではあるが。
 そんな席の一コマ。


 司馬師がふと、同席した鍾毓に軽口を叩いた。

「ねえ、稚叔。皐“ヨウ”はどんな人物だったかしら?」

 その言葉に、陳泰、武ガイ(武周の妹)がクスクスと忍び笑いを漏らす。
 皐ヨウとは学園伝説の名会長・舜の補佐役で、校則や罰則を司った人物である。
 その実司馬昭は、鍾毓の姉にして生徒会の功労者、
 鍾ヨウと同名なのをダシにからかっているのである。

「……………」

 鍾毓は一瞬悔しそうな表情を浮かべたが、
 何事もなかったかのように司馬師を見遣る。
 少々予想外の反応に躊躇う彼女に、鍾毓は涼しい顔で言い切った。

「そうですね… いにしえの“懿(よ)き”人物ですわ」

 切り替えされてたじろぐ司馬師を後目に、陳泰、武ガイへと向き直る。
 既に気まずそうな表情を浮かべている二人ににっこりと微笑んで…

「君子は“周”して比せず、“羣”して党せず、ってとこかしらね?」

 −君子は真心を尽くし(周)ておもねりへつらう(比)ことなく、
  集まって(羣)も私心を以て助け合う(党)ことはしない− 

 この当意即妙の受け答えに、司馬昭らは声もなかった。
 鍾毓の機転が利くことはこのようだった。

31 名前:玉川雄一:2002/02/15(金) 04:06

 ◆この妹あり…◆

 今日も今日とて学園の朝は始まる。
 司馬昭は陳騫、陳泰らと寮の廊下を歩いていた。
 そこへちょうど通りかかったのが鍾会の部屋である。
 司馬昭は廊下からドア越しに呼びかけた。

「ねえ、士季、いるんでしょ? 一緒に行きましょうよ」
「は、はーい、今行きます!」

 実は、鍾会はまだ着替え中だった。
 年齢に比して少々(かなり)発育過剰気味の体
 −潁川鍾家の遺伝である−をもてあましつつ、
 何とか身支度を整えると廊下に飛び出す。

「ごめんなさい、遅れました…って、ああっ!」

 そこには誰もいやしない。
 実は司馬昭、鍾会を呼ぶだけ呼んでおいて、
 置いてきぼりにして先に行ってしまったのだ。
 鍾会はすぐさま駆け出すと、ひとっ走りして一行にようやく追いついた。
 両手を膝についてハアハアと息を整えている彼女に、
 司馬昭は意地悪く尋ねる。

「あら、やっと追いついたのね。
 行こうって言っておいて、なんてグズなのかしら?
 私達待ってたのに、“遙遙”として全然来なかったじゃないの」

 言うまでもなく、“遙遙”は鍾会の姉、鍾ヨウの名に引っかけた言葉である。
 だが、鍾会はニヤニヤしている陳騫、陳泰らをキッと見据えると言い放った。

「矯(たか)くすぐれて懿(うるわ)しく実(まこと=寔)ある人は、
 どうして羣(むれ)をなして行く必要があるのかしら?」

 一同、これには返す言葉もなかったという。

 そうこうして校舎へと向かう道すがら、司馬昭がまた尋ねた。

「皐“ヨウ”さんってどういう人だったか、あなた知ってる?」

 鍾会、済ました顔で答えて曰く、

「上は堯、舜には及ばないし、下は周公、孔子には及ばないけど…
 まあ一代の“懿(よ)き”人物、ってとこでしょうかね?」

 この少女、頭が切れるのは結構な事ながら、少々根に持つタイプのようで。
 のちのち足下をすくわれなければ良いのだが…

32 名前:玉川雄一:2002/02/15(金) 04:08
むー… 世説新語のネタをそのままパクってきたんですが、
面白くないですな。原文のテンポが生きてないし。
漢字がちゃんと当てられないと意味も伝わりにくいし。
失敗の巻♪

33 名前:岡本:2002/02/15(金) 09:40
ちらっと、顔を出します。岡本です。
久しぶりに伺いますと、更新、更新また更新と、
1つ1つ拝見できないのが残念なくらい。
玉川様、文章、プチ絵と大活躍!!!
上のネタは、結構好きですが。

34 名前:玉川雄一:2002/02/15(金) 22:54
 ◆まじかる☆イリュージョン◆

  番外編・仲達の愛犬万歳!


 さて、司馬懿には春華という愛犬(土佐犬)がいた。
 その出自は、山濤の実家からもらわれてきたものだという。
 どういうわけか司馬懿に「だけ」はよく懐いており、
 かつて司馬懿が曹操のスカウトに対して仮病を決め込んでいたとき、
それをチクろうとした生徒に噛みついたという伝説すらある。


 だが、その反面他人にはとことん愛想が悪かった。
 司馬懿の超然とした態度とも相まって、飼い主に似たのだという声が囁かれていた。

 そしてまたこの春華は贅沢なことに軟らかく煮た鶏の肉しか食べないというのである。
 噂では、生徒会特別顧問たるあの司馬懿が門限間際に寮を飛び出し、
近所の深夜営業のスーパーに駆け込むこともしばしばだという。



「フン、同じ“イヌ”同士、気が合うってことでしょ?」

 曹爽は小馬鹿にした様子でそう語ったという。
 生徒会という「主」に(少なくとも表面的は)忠実ではあるが面白みもなく、
煙たい存在である司馬懿を揶揄したのである。
 だが、それを伝え聞いた司馬懿は相変わらず動じた風もなく、

「どちらが狗かは、いずれ分かること…」

 と呟いただけであった。


 そして、司馬懿はまさしく狗の皮を被った狼だった。
 生徒会を掌握して奢る曹爽一派にクーデターを起こすと役職の返上を勧告したのである。
 この時、桓範は曹爽を諫めた。曰く、
 ここで弱みを見せれば、必ず司馬懿は容赦ない処断を下すはずだ。
 職務権限を発動して、司馬懿を打倒するべきである、と。

 しかし、曹爽はその言葉には従わなかった。
 おとなしく引退して生徒会OBとして残りの学園生活を送れるのならそれで構わない、と言うのである。
 桓範は天を仰ぐと悔し涙に暮れた。

「ああ、曹子丹は立派な人だったけど… その妹たちは、豚や犬にも及ばないのね!
 こんな奴に連座することになろうとは、夢にも思わなかったわ…」

 かくして、曹爽一派はことごとく階級章を剥奪された。
 司馬懿は曹爽に替わって生徒会長の地位を提示されたが、固く辞去したという。
 これを本心と見るか、パフォーマンスと見るかは意見の分かれるところだろう。
 だが、少なくとも彼女はやがて訪れる妹達の時代へと続く、強固なレールを敷いたのである。

 その心の内を余人が推し量るのは至難の業ではあったが、
 司馬懿は今日も今日とて春華のために鶏肉を煮るのだった。

35 名前:玉川雄一:2002/02/15(金) 23:02
いかん、読み切りっちゃあ読み切りだけど、
シリーズ化してはる…

ああ、勝手ながら、司馬懿は生徒会長にはなってないことに
しちゃいました。史実でも、丞相にはならなかったらしいので…
太傅ってことで、生徒会特別顧問あたりが妥当かな、と。

ところで、正史註の魏氏春秋だと桓範は曹爽のことを「子牛」
呼ばわりしてますが、演義だと「豚や犬にも劣る」と言っているらしいですね。
どこかで、ボンレス曹真ちゃんが紛れ込んだんでしょうか(^_^;)

36 名前:玉川雄一:2002/02/15(金) 23:05
あー、「OB」じゃねえ、「OG」だ!

37 名前:★ぐっこ:2002/02/15(金) 23:50
うを!? 玉様がこちらにも!?
うーむ、晋前後の話となると玉様の独壇場ですが、鍾姉妹…
発育過剰!? 着替えに手間取る!?(;´Д`)ハァハァ…
それはさておき、諱をつかった言葉遊びみたいなやりとり。
新語からですか〜。司馬姉妹もワンパターンというか…陳泰が腰巾着!?

>司馬懿
なんかどこかの国の軍務尚書が混ざってるような…(^_^;
彼女は生徒会長に就かなかった、と。なるほど〜、じゃあ、評議長くらいで。

38 名前:japan:2002/02/16(土) 18:01
出た! バレンタインネタ(笑)
女子高って、本当にこういう感じのノリらしいですね。
曹操ちゃんのベルジャン生チョコ使用(←推定)ババロア&フリフリエプロンよりも、姐者のこげちょこを選ぶか、関羽…まさに忠義の鑑ですな。

39 名前:japan:2002/02/16(土) 18:05
腰巾着ってゆうな〜っっ! せめてパシリと…(泣)
いや、でもこのストーリー大好きですv
何故司馬ブラザーズや陳騫ちゃんはパパの諱だけなのに、
陳泰だけはパパとひいじいちゃんまでネタにされたのか?
士季たんに小一時間(以下略)

40 名前:japan:2002/02/16(土) 18:06
<聖帝と小四姫>


「元常、ちょっといい?」

 放課後、いつものように生徒会室で事務を取っていた鍾ヨウの前にふらりと現れたのは、
生徒会の二代目会長――曹丕だった。

「あなたの妹達は学園の有名人らしいじゃない。
 一度会ってみたいから、高等部に連れてきてくれないかな?」

 一応依頼の形式をとってはいるが、あからさまな命令口調。
 鍾ヨウに拒否できよう筈がない。
 戸惑いながらも彼女が頷くと、曹丕は姉譲りの鋭い目をきらりと光らせ、
「頼んだわよ。」と念を押した。

(…まさか、ね)

 最近、学内の巨大掲示板に出没している「聖帝」なる大仰なコテハンの正体は――
 以前から薄々抱いていた疑惑を、鍾ヨウは強く頭を振って消し去った。




 数日後。
 妹達を小等部へと迎えに行った鍾ヨウを、生徒会の面々は今や遅しと待ち構えていた。

「子通は見た事あるんだよね、噂のダイナマイト小学生。」
 デジカメのメモリーカードを念入りにチェックしながら、曹洪が蒋済に尋ねる。
 
「うん。会報に『瞳を見れば将来が判る!?』って占いの記事を載せたら、
 元常さんが妹を占って欲しいって連れてきたの。」

「どうだった? 可愛かった? も、萌えだった?」
 突然二人の会話に割り入る孟達。驚いて振り返った蒋済は、
「う、う〜ん…まぁ、並外れた子だったかな。いろんな意味で。」とだけ答えた。

「よく判らない説明だなぁ。もっとこう、具体的に…」
「しっ! 来たよ!」

41 名前:japan:2002/02/16(土) 18:08
<聖帝と小四姫・その2>


 少女達が鵜の目鷹の目で見守る中、小等部の制服に身を包んだ鍾毓・鍾会の姉妹は
姉に率いられて生徒会室へと入ってきた。
 早熟なこの家系の出身に相応しく、二人とも出るべきところは出て、
引っ込むべきところは引っ込むという見事なプロポーションである。
 特に末子の鍾会は白いセーラー服の丈をぎりぎりまで詰めている為、歩くたびに
夏服の裾や袖の隙間から素肌がちらりと覗き、同性でも目のやり場に困ってしまうような
有様だった。


(くっ、負けたわ…)
(で、でかっ! 何食えばあんなに育つ訳!?)
(あんなに肌を露出するなんて、はしたないわ。そもそも制服の改造は校則違反なのに…)
(きょ、巨乳小学生…(´Д`;)ハァハァ(´Д`;)ハァハァ(´Д`;)ハァハァ(´Д`;)ハァハァ)


 様々な思惑が闇鍋の如く渦巻き、生徒会室は女子高にあるまじき異様な雰囲気に
包まれた。
 沢山の視線に囲まれた鍾毓は、居心地悪そうに冷や汗を流している。
 一方、鍾会は嫉妬と羨望と萌えの交じり合った空気にもけろりとしていた。


「会長、こちらが妹の鍾毓と鍾会です。」
 何だかんだいって妹馬鹿な鍾ヨウが、誇らしげに二人を紹介する。

 生徒会長の肘付き椅子に座した曹丕は、鷹揚に頷いて語り掛けた。
「初めまして。…ところで、どうしてそんなに汗をかいているの、鍾毓ちゃん?」

 緊張に汗びっしょりになっていた鍾毓はしゃちほこばって答えた。
「『戦々惶々として、汗出(いず)ること漿の如し』です。」

「それなら、何故鍾会ちゃんは汗一つかかないのかしら?」
「『戦々慄々として、汗敢えて出でず』ですわ、会長。」
 こちらは平然とした顔で言葉を返す。

 詩経からの引用をもじった、当意即妙な問答。
 小学生の身にしてこれ程までとは――曹丕は一瞬、驚きのあまり目を見張った。
 しかし、元よりこの種の言葉遊びを好むが故に「文サマ」と称される彼女は、
すぐに満足そうな微笑を浮かべる。

「…気に入ったわ…二人とも。」


 栴檀は双葉より芳し。
 後に「魏の最終兵器」として学園中に勇名(悪名?)を轟かす鍾会は、
齢十にしてかくのごとく並外れた少女であったという――いろんな意味で。

42 名前:japan:2002/02/16(土) 18:14
玉川様に続けーっ!
ということで、元ネタは『世説新語』言語編11&G−ちゃん(汗)より。

…しかし、まさか曹丕があんな芳ばしいコテハンになるとは思いませんでした。
G−ちゃんで集めたネタを編集して、文学史上初の志怪小説「列異伝」を
著したりするのでしょうか。

43 名前:玉川雄一:2002/02/16(土) 19:37
おお、冷汗ネタですね!? 聖帝(サ○ザー?)頑張る!
…なんだか、彼女の「…気に入ったわ…二人とも。」
が違う意味(って何さ)に聞こえてしまふ(>_<)
ビバ・潁川鍾氏!

44 名前:★ぐっこ:2002/02/17(日) 01:15
うひょー!japan様感謝!
>(きょ、巨乳小学生…(´Д`;)ハァハァ(´Д`;)ハァハァ(´Д`;)ハァハァ(´Д`;)ハァハァ)
ひたすらに笑いました…Gちゃんねる恐るべし…。
しかし小四姫たん、大活躍! 新語も大活躍! ネタの宝庫ですモノね…。
厳密に言えば、すでに鍾会たちは高校生なんでしょうけど、いっさい問題なし!
小四姫たん…。

45 名前:takayuki:2002/02/26(火) 17:36
                                  /      /
                          _,,-'~''^'-^゙-、/       /
                          ノ:::::::::::::::::::::::::::゙-_ ∧ ∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     _   i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::i(´Д`)<  巫女タンハァハァ・・・             
                   / /|  i:::::::::::::::::::;;;;;;::::__,,-''~i、 /   \_______    ∧_∧
                  / //   ゞ:::::::::::::::::::::::|.レ/:::::::i                   (´∀` )   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                / //   /ヾ_:::::::::::_,,-''ソ/::::::::::;/                   (つ趙,ノつ< コワイヨー
               / //   /   ゙-、_::: i;;;;//::::::::,-'~                   / ゝ 〉    \_______
                | ̄|/   /       ゙ヽy /_,,-''~                    (_(__)
             | ̄| ̄|  ̄   / | ̄| ̄|  /|i:|                                                               
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |  |    / ∧|  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             |  |  |    /∧∧|  | [常山神社]
         .ゾロゾロ |  |  ∧∩(´Д.|  |  
             |  |  |∧∧`)=| | |  |
             |  |∩(´Д`)  .| | |  |
 ______|_∧ ∧ _⊃_/∧..|_|____________________________________
          ∧ ∧´Д`)  ∪
         (;´Д`)ハァハァ∩
      ‐=≡ /  ∧ ∧─
   ‐=≡ / ̄  (;´Д`)ハァハァ
    ‐=≡ _____/ /_‐=≡ ∧ ∧       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ‐=≡  / .__   ゛ \_∩(;´Д`)ハァハァ <>>関羽たーん!チョコ貰って!
 ‐=≡  / // / 羽  /_____/ /_       \________
‐=≡  ⊂_// / 厨  // .__   ゛ \   .∩
  ‐=≡   | /    // /  / 羽  /\ \//
   ‐=≡  \|  _⊂_/  / 厨  /  .\_/
    ‐=≡ / \__ \ /    /
      ‐=≡ /‐=≡ / |  _|__
     ‐=≡  //‐=≡  \__ \
    ‐=≡ / | / ‐=≡ / / /
    ‐=≡ / /レ ‐=≡ // /
  ‐=≡ (   ̄) ‐=≡ / | /
        ̄ ̄ ‐=≡ / /レ                 (((羽)))
          ‐=≡ (   ̄)                 (;´Д`)  キモイヨー
                ̄ ̄                  / つ_つ
                                   人  Y
                                   し'(_)


関羽ターン!です。ケッコウ上出来・・・かな?
ASCII Art Editorで書きました。以上です。

・・・ズレてたら誰か治して(他力本願)

46 名前:takayuki:2002/02/26(火) 20:03
 曹操の涙 前編

曹操はもう二年を終えようとしていた。
官渡公園の戦いで袁紹を倒し、生徒会長になった曹操。
曹操は順風満帆だった。いつも笑っていた。
だが・・・
今日は違った。
今日の顔は悲しそうである。まるで幼馴染の友がしんだかのよう・・・
「郭嘉、元気でね・・・」
曹操は涙をこらえて言った。
郭嘉は曹操の参謀として活躍した。蒼天新聞の部費集めのため、競馬をしたこともあった・・・
「私は大丈夫です。会長もお元気で。」
郭嘉は言った。後ろには郭嘉の親がいた。
「郭嘉、ぜったい帰ってきてね・・・」
「もちろんです。会長。会長のために再び学校へ帰ってきます。」
郭嘉は静かに言った。
「郭嘉・・・ぜったいに・・・ぜったいにだよっ・・・」
「わかっています・・・会長。もう行かないと・・・」
郭嘉は後ろを向いた。車が用意してある。郭嘉と親は車に乗り込んだ。
「郭嘉、本当に元気でね・・・」
「わかっています。会長。心配なく。会長もお元気で。」
郭嘉の乗った車は校門を出て・・・遼東の方へ向かった。
「郭嘉ーーーーーー元気でねーーーーーーーー!!!」
曹操はできる限り手を振った。しかし、車はどんどん小さくなり・・・とうとう消えてしまった。
「郭嘉・・・あっ!!」
曹操は自分が手にしているものを忘れていた。郭嘉にプレゼントしようとしていた、あるものだった。
「どうしよう・・・そうだ!!淵!!淵!!・・・ああ、もう!」
すると後ろから夏侯淵がバイクに乗ってやってきた。
「淵!!ちょうどいい・・・あのね・・・」
「曹操、わかってるって。乗りな。飛ばすよ!!!」
夏侯淵は走り屋として有名だった。案の定、時速百数十キロで走り出した。

続く

47 名前:takayuki:2002/02/26(火) 20:05
 曹操の涙 後編

「早く!!早くっ!!」
「わかっている!曹操!!」
少し先に車が見えてきた。
「淵、もうすこし!!」
「わかってる・・・いくわよッ!!!」
やっと追いついた。さすが走り屋夏侯淵。車は止まり、郭嘉が降りてきた。
「郭嘉、これ!!」
曹操はてに持っていたあるものを手渡した。
「ありがとうございます。会長。最後にこれだけ言わせてください。公孫姉妹はかならず降参してきます。無駄に攻めないようにしてください。」
「わかった。郭嘉。言うとおりにするよっ!」
「会長、行かせてもらいますよ。」
「郭嘉・・・ほんとうに元気でね。」
曹操は言った。
「郭嘉・・・もどってこいよ。」
夏侯淵も言う。
「夏侯淵先輩も会長もありがとうございます。かならず戻ってきますから。」
ふたたび郭嘉は車に乗る。そして・・・車は走り出した。
「郭嘉ーーーー絶対帰ってきてねーーーーー!!!!」
車は再び進みだした。曹操も夏侯淵も手を振っていた。郭嘉も手を振る。そして・・・車は消えた。
「淵、かえろ。まだ仕事がのこってるわよ。」
「帰りも飛ばすぜ!!」

数ヵ月後・・・

曹操は赤壁島の戦いで敗北した。
悲しむ曹操にもっと悲しい知らせが入ってきた。
「郭嘉死亡」
の知らせの手紙だった。
「えっ・・・郭嘉が・・・」
曹操は気絶した。
数分後、曹操は気を取り戻した。
「ああ、哀れや郭嘉、痛ましや郭嘉、口惜しや郭嘉・・・グスン・・・郭嘉がいれば・・・こんな無駄な戦いはしなかったわよね・・・」
曹操は泣き出した。そしてみなが・・・泣き出した。
この知らせは各地に届いた。かつて郭嘉を厳しく取り締まっていた陳羣も、曹操のためにバイクを走らせた夏侯淵も、曹操の元に推薦した荀揩爭・・
そして手紙には写真が同封してあった。
郭嘉が死ぬ前の写真・・・それには曹操が郭嘉にプレゼントしたあるもの・・・曹操が自分で作ったぬいぐるみがあった。
「郭嘉・・・」
曹操は再び泣き出した。

----------------------------

・・・なんかおかしいところがあれば変えてください。
今回は悲しいお話ですね。

ではでは〜

48 名前:★ぐっこ:2002/02/26(火) 23:52
おお〜! サリゲに郭嘉のお話が!
とうとうですか〜。(T-T)
曹操との別れ…それが永遠のものになろうとは…。
夏侯淵もいい味です!
嗚呼郭嘉さえ居てくれれば…

49 名前:★ぐっこ:2002/02/26(火) 23:54
おっとお、そういえばナニゲにAAが…(^-^; これいいなあ…
趙雲萌え。

50 名前:ジーク:2002/03/02(土) 20:57
(T_T)…最後の『ぬいぐるみ』がいい味だしてます。
宿敵陳羣よ、貴方は何を思うのだろうか…。
はっ…やばい。期末テスト前にもカカワラズ書きたくなってしまった! ヤバイですよ!

51 名前:ジーク:2002/03/02(土) 20:58
■ 晩夏の黄昏- 陳羣の涙 - ■

蒸し暑い夏休みの夕暮れ。とある校舎の一室。夕陽の差し込む薄暗い一室に、一人の少女が佇んでいた。電灯をつけるでもなく、ただ書類で埋まる机の前にぼんやりとすわっている。

「……どうして。」
机中央の僅かなスペースには、一通の手紙と、ダンボール箱に入った赤ボールペンとMDプレイヤー及び…恐らく数ヶ月前の物であろう、くしゃくしゃになった競馬新聞があった。
『……派に病と闘い、あの子らしい最期を遂げました……』
…既に幾度も読み返したこの文面。だが、震える手と溢れる涙で思うように読み進める事が出来ない。
『……学校の者には伝えないで、とあの子は言っていましたが、やはり仲の良い方々に……』
少女は震える手つきで、何とかその手紙を綺麗に折り畳むと、机に突っ伏し、押さえ切れなくなった想いを溢れさせた―。
その脳裏によぎるのは、喧嘩ばかりしていたあの取り戻せぬ日々か、或いはいつかの思い出か―。

……陳羣の座る机にのっているMDプレイヤーその他2点は、病気療養のため学園を中途退学した郭嘉の物だった。この間の十月、新聞部の予算調達の為、部費を賭けて競馬をしていた郭嘉から風紀委員会の権限により取り上げた物である。荀揩フ諭しにより己の間違いに気付いた陳羣は、それを返すつもりでいたのだが…。運命とは因果なもの、その後どういう神の悪戯か陳羣と郭嘉は文字通り擦れ違いを繰り返し、郭嘉が病気療養で学園を中途退学するまで一度たりとも会う事は出来なかったのだ。
そして、郭嘉が中退すると聞いた時も、陳羣はすぐさまその場所に向かって走り出したのだが、MDプレイヤーを持ってくるのを忘れたのに気が付き、取りに戻った。そして、風紀委員としての役目を全く無視し、全速力で校内を駆け巡り、目的地にたどり着いたのだが、その時には既に郭嘉の姿は無かったのである。
「そんな…。」
MDプレイヤーを持って呆然と立ちつくす陳羣に曹操は言った。
「きっと、きっと奉孝は戻ってくるから。戻って…来る。必ず。ね?」

―手紙が届いたのは今日の放課後。風紀委員会の部屋に閉じこもって、こっそり郭嘉宛の小包を送ろうとしていた時だ。送る中身は勿論件のMDプレイヤーその他2点。長文の名に相応しく、恐ろしいまでの分量の手紙を添えて。手紙の末尾には、郭嘉に言おう言おうと思っていて結局言う事の出来なかったあの一言、
――次回からは、ちゃんと私に断ってから競馬を聴きにいくこと!
との文面。この一言に全ての思いを込め、郵便局に出しに行こうと思っていた矢先の事だった。
送り主の名前を見て、陳羣は全てを悟った。
思わず天を振り仰ぎ、神を呪った。我が身の運命を呪った。最後の最後まで打つ手が手遅れになった己の不甲斐なさを、郭嘉を容赦なく襲った死神を、全てを―。


…ふと、陳羣は目を覚ました。知らぬ間に眠っていたようだ。日も沈んで辺りは既に闇に包まれている。が、部屋の中は明るい。何故か電灯がついているからだ。
つけた覚えは無いのに―と入り口の方を振り返る陳羣。と、そこにいた人影は―。
―奉孝!? …と一瞬思ったのは目の錯覚か、そこにいたのは悲しげに微笑む荀揩セった。
「先輩…。」
「…郭嘉…残念でしたね……。」
「……あ、あんな……あんなやつ……」
「……そのMDプレイヤー、形見になってしまったわね…。」
「…あ……。」
陳羣はダンボールの中からゆっくりMDプレイヤーを取り出した。知らずラジオのスイッチを入れる。無機質なニュースの音声。ラジオ特有のノイズ。脳裏に走馬灯の如く鮮やかに蘇る郭嘉との思い出。
最早彼女の想いをせき止め得る物など無かった―。

郭嘉奉孝、八月二十一日逝去。病名ALS。享年十六歳―。

- 了 -

52 名前:ジーク:2002/03/02(土) 20:59
…はい、と言う訳で一気に書き終えました(;^^A
期末が…別に勉強しないけど(爆)
途中で切れるかどうかドキドキしながら書き込みました(笑)
japan様、勝手に台詞流用しましてすんません。
勝手に郭嘉の命日設定してすんません。夏休みで赤壁後なんでこれくらいかなぁ…と。

53 名前:チュパキャブラ:2002/03/02(土) 21:29
ジュンユウ混乱す









天気は本日も晴天、気温も暖かくかつ暑くもない。

日向ぼっこをするのにはこの上ない天気であろう。

といってるそばから身を寄せ合って昼寝をしているのが二匹、

いわずと知れたカコウエンの飼っているチンチラシルバーのユキちゃんとフクちゃんだ。

その様子をみて思わず頬がほころんでいるのがふたり、

飼い主であるカコウエンと曹操陣営の参謀の一人でもあるジュンユウだった。



エン「いつみてもかわいいなぁ〜」



ユウ「ホントですね〜」



机にはまだ白紙の化学の課題があるのだがそっちのけで昼寝している二匹の猫を観察している。



ユウ「・・・・・・」



エン「しかしホントかわいいなぁ〜・・・・ってどうした?ジュンユウ。」



ユウ「いや、こっちがフクちゃんだっけ?」



エン「いや、小さい方がフクちゃんだ。そっちは大きい方だからユキちゃん。」



ユウ「え・・・とこっちがユキ・・・フクちゃん。」



エン「?」



ユウ「小さい方がユキちゃん」



エン「小さい方はフクちゃんだってば」



ユウ「いやわかってますよ?わかってますよ?」



陽気な春の午後でした。

54 名前:チュパキャブラ:2002/03/02(土) 21:32
香香様の書いた「張飛猫を拾う」の話みてたら思いつきました。
とりあえずジュンユウはカコウエンに「課題手伝って」と呼ばれてきているとゆう設定
なんですがどうでしょうか?

55 名前:★ぐっこ:2002/03/02(土) 23:31
 >ジーク様
おおお! 郭嘉話の後日談ですか! それも陳羣の…。
やっぱりじーんときますね…。あの二人、ライバルと言うよりじゃれあう
血統書尽き猫と雑種猫みたいな関係だったみたいですから…。
一足違いで届けられなかった、MDプレイヤーとあの一言。本当に一足違いで…

 >チュパキャブラ様
ええと、あずまがネタですか? あの、こちらではちょっと…
それと、できれば漢字で入力していただければ有り難いんですが〜。
コピペして辞書登録すれば簡単なはずです。

56 名前:三国狗:2002/03/03(日) 14:39
学三がお笑い専門じゃないコトにやっと気付きました。
何かしみじみとした話ですね・・・・。

57 名前:チュパキャブラ:2002/03/05(火) 23:58
承知しました。ではコピペで辞書登録しますね。
それでは以後気をつけます。

58 名前:japan:2002/03/07(木) 21:57
郭嘉の臨終SSが二編も…(涙)
本当の三国志では無念の最期を迎えた少女達も、皆「学三」ではその後の人生を謳歌しているというのに
何故彼女ばかりが悲しい宿命を繰り返さなければならないのかと思うと切ないです。

>ジーク様
「黄昏の涙」を読んでいて泣きそうになりました。
出せなかった手紙、伝えられなかった言葉――この二人を象徴するような物語だと思います。
こんな感動的な話に拙作の台詞を引用していただき、本当にありがとうございました。

59 名前:玉川雄一:2002/03/18(月) 22:57
 ◆ 学園世説新語 第3話・前編 ◆

顧栄、字を彦先。長湖部の裏方を支えたかの無口っ娘丞相・顧雍の従妹である。
一家揃って長湖部の重鎮を務めてきたが、彼女が1年生の時に部は解散してしまう。
以後、新生徒会に入り、洛陽棟へと移ったのだった。


顧栄はあるとき、生徒会の定例会議に出席した。
そこでは、生徒会費の幾ばくかを投じて“おやつ”が出るのであるが…
彼女の元へ、雑務担当の女生徒が皿に山と盛られたそれを差し出してきた。

「あの… よかったら、どうぞ」
「あ、ありがと。 えっと…それじゃこれを」

お年頃の女子が揃うだけあり、コンビニをくまなく調べ尽くしたとおぼしきラインナップ。
顧栄はその中から、しかし場違いとすら言える「ビーフジャーキー」を選んだのだった。

「そ、それでいいんですか?」

軽く驚いた表情で女生徒が尋ねる。そもそもこんなおつまみが闖入していたというのも妙な話だが、
それをめざとく見つけてチビチビと囓る顧栄も変わり者と言えば変わり者に見えてしまう。
だが、当の本人はどこ吹く風といった様子で答えるのだった。

「んー? おいしいじゃない、コレ? ウチは一家揃って好きなのよね。従姉さんなんかと、よく食べたのよ」
「はあ、そうなんですか…」

女生徒はやっぱりピンとこないらしく、モグモグしている顧栄を不思議そうに見遣る。
それに気付くと、顧栄は皿をゴソゴソと漁り、数切れのビーフジャーキーを掴むと女生徒に差し出すのだった。

「ほい、貴女もどう?」
「え、わ、私ですか? でも私、ただの雑用だし…」
「いいっていいって! 遠慮しないでいいからさ、ホラ」

女生徒は正規の出席者でないことを理由に遠慮しているらしい。顧栄は笑ってそれを押しつける。
キョトンとしながらも、なし崩しに受け取ってしまう彼女。
そして、ちょっとバツの悪そうな顔をすると、端っこをちょっと囓ってみた。

「あ… おいしい、かも」
「でしょ? まあモノによって差があるけどねえ、これはまあ合格かな」

遠慮しいしいモグモグやっていた女生徒は、コクンと飲み込むとペコリと頭を下げた。

「ありがとうございました」
「いやまあ、そんな礼を言われるほどじゃあないけどね」

女生徒はもう一度頭を下げると、他の出席者の元へ皿を回してゆくのだった。

60 名前:玉川雄一:2002/03/18(月) 23:04
そんな生徒会も、やがて未曾有の大混乱にみまわれる。蒼天会の内紛は拡大し、学園の威光は地に墜ちた。
ついには、今となってはあの伝説の名マジシャン司馬懿に最も近い血族でもある司馬倫が蒼天会長の座を強奪。
しかし程なくして、他の司馬一族が結束して司馬倫を追い落とすというめまぐるしい展開が繰り広げられるのだった。

顧栄はといえば、司馬倫が束の間の至尊の地位を占めた際、強制的に彼女の一派に組み込まれていた。
そのため、司馬倫失脚後に連座してしまったのである。
生徒会の一室には同じ運命の十数人ほどが集められ、もはや階級章の剥奪は時間の問題となっていた…


「すみません、執行部員の顧栄さんはどちらでしょうか?」
「あ、ああ… 私だけど?」

沈みきった雰囲気の部屋の中に一人の女生徒が入って来ると顧栄の名を呼んだ。
憔悴しきった表情で顧栄が答えると、起立を促して手を取る。

「一人ずつ順番に査問を行うとのことです。最初は貴女ということですので、同行をお願いします」
「そうなの。まあ、今更言うこともないけどねえ… じゃあ、行くとしますか」

手を引かれたまま、部屋を後にする。しばらく歩いたところで、女生徒が顔を寄せると耳元でささやいた。

「顧栄さん、こちらです。見つからない内に、早く」
「えっ!?」

驚く顧栄をよそに、手を握って走り出した。様子がおかしいと思いつつ、自分に敵対するでもない風を感じ取ると、
女生徒の導くに任せて後を追う。しばらく走り、人目から離れたところでようやく立ち止まった。

「ふう、ふう、はあ… ここまで来れば大丈夫ですね。ギリギリでした」
「はあ、はあ… 何で、私を? 助けてくれたんだよね?」

息を整え、顧栄は状況を整理した。今にも階級章を剥奪される寸前だったところを、この女生徒のお陰で脱出できたのだ。
行方をくらましたことが発覚すれば追っ手が放たれるかもしれないが、ひとまずの危機は乗り越えたといっても良さそうだった。

「ええ。貴女には以前、お世話になりましたから」

ここでようやく、相手が誰かをじっくり確認することができた。この声、そしてこの顔は…

「まさか、貴女は… あの時の!?」
「はい。私のこと、雑用だってバカにしないで、お裾分けまでして頂いて… いつか、ご恩をお返ししようと思っていたんです」

救いの主は、いつぞやの会議でビーフジャーキーを分けてあげた女生徒だったのだ。
顧栄は感謝の気持ちであふれる涙を抑えながら、女生徒の手を取って押し抱いた。

「ああ、ありがとう… 些細なことがきっかけでも、こうして忘れずにいてくれるなんて… 一宿一飯の恩とは、昔の人もよく言ったものだわ」
「そんな、私は貴女の心遣いが嬉しかったんです。いつか絶対にお役に立ちたい、って思い続けてました」
「そうだったんだ。今度は、私がいつかお返ししないとね」
「どういたしまして。 …でも今は、ここから逃げ切ることが先決です。急ぎましょう」

感謝の念は尽きないが、それはいずれまたゆっくりと味わえばよい。今はただ、身の安全を確保することが第一だった。

「そうね… それじゃあ、久々に帰るか、懐かしい湖南へ… よかったら、一緒に行きましょう」
「はい!」



顧栄と女生徒は、何とか揚州校区へとたどり着いた。道中様々な苦労はあったが、二人は力を合わせて困難をくぐり抜けたのである。
この後も顧栄は数々の動乱をくぐりぬけ、『東晋ハイスクール』設立当初の重鎮に名を連ねることになった。
その傍らには、常にかの女生徒の姿があったという。

この件に関しては、顧栄も従姉にならってか多くを語ろうとはしなかった。
彼女を影で支えた少女の名は、今となっては確かめる術もない…

61 名前:玉川雄一:2002/03/18(月) 23:10
おっ、今回は省略されずに済んだか。
『世説新語』徳行編第25番目のエピソードでした。
といっても、ディテールは註に引かれた『文士伝』から採りました。
こっちの方が話が細かい。

ちなみに、何でビーフジャーキーやねん!っつうのは、
元ネタだと「炙(あぶり肉)」なんですね。
っつうかあぶり肉とビーフジャーキーが似てるかはよく知りませんが(^_^;)
これ書くときにポッキーとかでもいいかな、って思いましたが、敢えてそのままにしました。

ビーフジャーキーをみんなで食べてる顧姉妹萌え♪
ちょびっとずつ囓ってはもそもそ食べてる顧雍姉さん萌え♪

62 名前:玉川雄一:2002/03/18(月) 23:15
しかしコレ、時期的には東晋ハイスクールでしたわ。
そっちに書けば良かった。

63 名前:玉川雄一:2002/03/18(月) 23:24
いけね、>>60が第3話後編ってことで。
ちなみに第1話、第2話は、鍾毓、鍾会の名前ネタです。

64 名前:★ぐっこ:2002/03/20(水) 00:56
うを! 玉様マンセー! またあの新語ネタに追加せねば!
無口っ娘・顧雍の従妹!
ビーフジャーキーをもそもそ…(;^_^A
時期的には確かに東晋ですが…ほんとだ、どっちに分類すれば
いいんだろう。

65 名前:玉川雄一:2002/04/01(月) 00:08
 ◆ 学園世説新語・第4話 〜鍾姉妹のドキドキ☆メイクアップ大作戦!〜 ◆

 草木も眠る丑三つ時。っつぅ言い方は古くさいか。要するに、深夜。
良い子も悪い子も寝る時間、とりわけ女の子が夜更かししてちゃあいけない時間帯のこと。

 ここは蒼天学園学生寮。ゴソゴソという物音に、鍾ヨウは目を覚ました。
もとより、“あの”張遼が寝ずの警備をしているという事実無根の噂が立っているぐらいのことはあり、
誰かが忍び込む、ということは万に一つもありえない。となれば、物音の主は同室の人物に違いなかった。

「ねえ士季、やっぱりやめましょうよ」
「大丈夫だって。お姉ちゃんは心配性なんだから…」

(あら、二人してなにやってるのかしら?)

どうやら、ルームメイト、というか妹なのだが、鍾毓と鍾会が二人して何やらやらかしているようだ。
鍾ヨウは何とはなしに、声を掛けずに密かに見守ることにしてみた。気付かれないように体勢を変え、声のする方に注目する。

「えっと、確かここに…」
「ねえ、本当にあるの?」

鏡の前で、何かを探しているらしい。別に見つかって困るもの… は見つかるような所には置いていない(笑)のだが、
妹たちが何をしようとしているのかはまだ分からない。

「間違いないよ。朝、姉さんがここにしまうの見たもの。 …あ、あったあった!」
「ちょっと、声が大きいわよ! 姉さんが起きたらどうするのよ」

(…まあ、もう起きてるけどね)

鍾ヨウは心の中で苦笑する。ちなみに、鍾毓は姉妹の真ん中なので、鍾ヨウを「姉さん」と呼び、妹は「士季」と呼ぶ。
末妹の鍾会は、長姉の鍾ヨウを「姉さん」、次姉の鍾毓を「お姉ちゃん」と呼び分けていた。
ともあれ、二人は目当てのブツを発見したようだった。窓から差し込む月光のお陰で部屋の中はうっすらと明るくなっており、
目が慣れてきたこともあってその手にしているのが何であるかおぼろげながら分かるような…

「これこれ。新色なんだって。アタシも使ってみたい、って言ったら、
  姉さんたら『あなたにはまだ早すぎるわ』って言うのよ。失礼しちゃうわよね」
「まあ、確かにねえ… でもどんなのかなあ。私にも似合うかな」

(なるほど… ホントに、あの娘は目ざといんだから)

つまり、鍾ヨウのルージュを持ち出しているのだった。まったく大した姉妹である(笑)
いい意味で大人びて見える鍾ヨウには、ちょっと濃いめの色が何とも艶やかなイメージを与える。
美女揃いの姉妹の中でセンスの良さも卓越しており、嫌味にならないのがさすがというべきか。
二人の妹も負けず劣らずで、三者三様の美少女っぷりをいかんなく発揮していた。鍾会は別の意味で特に。
どちらかというと小悪魔系の彼女には少々おマセなぐらいではあったが、素質は十分なのである。

66 名前:玉川雄一:2002/04/01(月) 00:10
(続き)

「お姉ちゃん、コレ、使ってみようよ」
「ええっ! でも、いいのかな…」

まあ、持ち出したからにはそう来るとは十分予想できたが、やはり鍾会はただ者ではない。
躊躇う鍾毓に揺さぶりをかけていく。

「大丈夫! ちょこっとならバレやしないって!」
「う、うーん…」

(いや、もうバレてるけど)

鍾ヨウが一部始終を眺めているのも知らず、妹たちの謀議は続く。何やらヒソヒソと話し合っていたが、
どうやら鍾会が渋る姉を丸め込んだらしい。

「それじゃ、暗くちゃわかんないから電気点けよう」
「姉さん、起きたりしないかなあ…」
「ちょっとだから平気平気! それじゃはい、お姉ちゃん」
「え、私が先? しょうがないなあ…」

姉に先鋒を任せる辺り、無意識ではあろうが何か策士めいた物を感じさせる。ともあれ、鍾毓の方もまんざらではないようで、
妹からルージュを受け取ると、念のため部屋を見回してから明かりを付ける。鍾ヨウは薄目を開けた寝たフリでごまかした。
鍾毓はそこで、何故か鍾ヨウの方に向き直るとペコリと頭を下げ、「姉さん、ごめんなさい」と呟いた。

(?? あの娘、何のつもりだったのかしら)

そして鏡に向き直り、キャップを外して数回ひねると色合いを確かめてからスウッ、と唇に這わせる。

「うわあ…」

大人びた姉、童顔気味な妹の間でまあ年相応の顔つきの鍾毓だったが、唇に引かれたルージュがこれまたよく映えていた。
上下二人がある意味自己主張が激しいので影に隠れがちだが、彼女もまた相当の美貌の持ち主である。
思わず、密かに盗み見ている鍾ヨウも感心してしまう。

(へえ、あの娘もなかなかやるじゃない)

「お姉ちゃんもよく似合ってるよ。やっぱり、もっとメイクに凝ってみたら?」
「そ、そう? それじゃ、考えてみようかな」

やはり満更ではなかったようで、少し照れながら鍾会へルージュを手渡した。
妹はそれを受け取ると躊躇うことなく、あたかも自分の物のようにヤケに慣れた手つきで手を動かす。
と、愛らしいとすら形容できる唇(吐かれる言葉は結構アレだが)が鮮やかな色に染まったのだった。

(うわ、これはまた… 我が妹ながら、侮れないわ)

なんだかんだ言って妹馬鹿の鍾ヨウである。自らの美貌にはそれなりに自信があったが、
妹のそれはまた違った方向性で“そそる”ものがあったのである。

「どう、お姉ちゃん?」
「うーん… なんか、ミスマッチが却って効果的、っていうのかな…」
「えへへ、そう?」

二人はしばらく互いの成果を批評しあっていたが、やがて証拠隠滅とばかりに唇をふき取ると、ルージュを元の場所に戻していた。

(…なんか、ヤケに慣れた手つきねえ。まさか、今までにも…?)

鍾ヨウの胸にちょっぴり疑念がわき起こったが、始末を終えた二人が電気を消してベッドに潜り込んだのを見届けると、
おとなしく睡魔に身を任せたのだった。

67 名前:玉川雄一:2002/04/01(月) 00:12
(続き)

「ふわあ… おはようございます」
「おはよう、姉さん。 …はあぁ」
「二人とも、おはよう。何だか眠そうね」

翌朝。何事もなかったかのように… にしてはやや眠たげな二人の妹の様子を見て、鍾ヨウはちょっとした悪戯心を起こした。
何気ない風を装って、さらりとカマをかける。

「…あら? 稚叔、パジャマの胸のとこ、何か色がついてない?」
「ええっ!」
「あ、お姉ちゃん…!」

必要以上に驚きを見せた鍾毓、だが、対応がまずかった。胸元より先に、唇に指が行ってしまったのである。
あちゃー、とうなだれる鍾会を横目で見ながら、鍾ヨウはニコニコと問いかけるのだった。

「あらあら、唇の方が気になるの? まあ、あなたにはちょっとあの色は合わないかな? もう少し淡いのが似合うと思うわよ」
「………あっ」

そこでようやく、罠に掛けられたと気付いて真っ赤になる鍾毓。一方の鍾会は、悪びれる風もなく問いかけた。

「姉さん、気付いてたの? 人が悪いんだから」
「まあ… ね。偶然よ。なんだかあなた達、面白そうなことしてたみたいだし」
「姉さん、ご免なさい。勝手に使った分は返すから…」

鍾毓はちょっと混乱気味。鍾ヨウそんな妹を苦笑しながら見つめると、咎める気がないことを示しながら言葉を返す。

「それは別に気にしなくていいのよ。 …それより、あなたそれを使う前に私に頭を下げたわね。どうして?」
「わ、それも見てたの? 参ったな… ほら、メイクも儀礼の一種でしょう?
  姉さんのを勝手に借りてたこともあったし、そうしないわけにはいかなかったの」

いかにも、ヘンに生真面目なところがある鍾毓らしい答えだった。可愛い妹だと思えば自然と笑みもこぼれる。
次いで、相変わらずニコニコしている鍾会へと向き直る。

「士季、あなたはまた平然と使ってくれたわね。どうして?」
「姉さん、それはだって、アタシは姉さんのを盗んだんだもの。盗むのに礼もなにもあったものじゃないわ」
「…まったく、あなたらしいわね。まあ、それなりに似合ってたのが何だか悔しいけど」

いっそ心地よささえ漂うこのふてぶてしさ、将来が楽しみなんだか不安なんだか。
それでも、女子のたしなみと思えば許せる気がするのも、やはり妹馬鹿だからだろうか。

「そうね、今度いっしょに、あなた達に合うのを選びに行きましょうか」
「えっ… 姉さん、いいの?」
「やった、そうこなくっちゃ♪」

思わぬ姉の提案に、驚きを隠せないながらもパアッと顔をほころばせる妹たち。
今日も明日も明後日も、鍾姉妹の美への追究は飽くことを知らない…

68 名前:玉川雄一:2002/04/01(月) 00:16
えー、今回は、世説新語言語編12番目のエピソード。
japanさんの「聖帝と小四姫」の次の話が元ネタです。

もちろん、元ネタではルージュじゃありません(笑)
お酒(薬酒)を飲んじゃった、という話です。
ちなみに別バージョンがありまして、キャストは孔融と二人の子供。
まあやってることは同じですが。曲者親子ってのも共通かな(^_^;)

しかし、鍾さんとこや陳さんとこのネタ多いですなあ、世説新語。

69 名前:★ぐっこ:2002/04/01(月) 00:50
ぐわ〜〜〜〜っ!!!!!!
義兄上、ナイス!! お兄さんこういう頼もしいハァハァをお待ちしておりました!
うーむ、あのエピソードがこうくるか〜っ!
凄い!いいですぞっ!

たしかに、孔融もありましたな(^-^; 伝承作家のミス…?

70 名前:japan:2002/04/01(月) 23:37
か、かか、カワイイ〜っっ!!
あの簡潔な記述を、良くぞここまで萌え萌えなエピソードに…流石です、玉川様。
ラストも最高です。次の日曜に三人仲良くデパート巡りをしている姿が目に浮かびます。
ついでに妹達のランジェリーも選んであげる元常姉様…ハァハァ
(実は昨日こんな話をしてたり・汗)

71 名前:玉川雄一:2002/04/03(水) 02:00

 ◆ 学園世説新語・第5話 〜お茶目さん♪〜 ◆

満奮、風を畏る。(満奮は風を畏れ嫌っていた)

    奮
  (( ;゚Д゚))ブルブル

晋の武帝の坐に在り、北窓に瑠璃屏を作る、実は密なれども疎なるに似たり。

(晋の武帝司馬炎の側に坐しているとき、北の窓が瑠璃の屏になっており、
 実際はきっちり閉まっているのに透いているように見えた)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄」
―――――――――――――‐┬┘
                        |    風
       ____.____    |    が
     |        |  。。゚。°|   |   吹き込む
     |        |  奮   |   |  
     |        |∩´Д`∩ |   |  
     |        |/     ノ |   |  
        ̄ ̄ ̄ ̄' ̄ ̄ ̄ ̄    | 


奮難色有り、帝之を笑ふ。(満奮が困った顔をしていたので帝がそれを笑った)

             奮
          (((( ゚Д゚;)))ガクガクブルブル

  炎
( ´,_ゝ`)プッ


奮答へて曰く、(満奮がそれに答えて言うには)

             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           / 臣は猶ほ呉牛の月を見て喘ぐがごとし
 奮       < 
(;´Д`)ハァハァ    \ (私は、呉牛が月を見てもハァハァするようなものです)
             \_____________________


    /劉\     今で言う水牛は、江淮地方にだけ生息しているので呉牛といいます。
   ( ´∀`)      南方は暑さがひどいので、そこの牛は暑さを畏れて、
  /     \    月を見ても太陽かと思います。だから月を見てハァハァするのです。
  | | 孝標 | |   『蜀犬、日に吠ゆ』という言葉もありますね。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 ヒガイモウソウ(・∀・)カコイイ!       |

72 名前:玉川雄一:2002/04/03(水) 02:03
今回は、言語編第20番目のエピソード。
満寵の孫、満奮のお話です。「呉牛、月に喘ぐ」の故事ですね。

ところでコレ、明らかに晋代=東晋ハイスクールネタですけど、
世説新語をタネにした話はこちらのスレで行こうと思います。
東晋ハイスクールスレにはオリジナルの話ということで。

73 名前:玉川雄一:2002/04/03(水) 02:20
っつーか、よく考えたら今回学三関係ないし(-_-;)

74 名前:★ぐっこ:2002/04/03(水) 23:52
マターリ(^-^;
妙にイヤされました…不思議な間だな〜。

75 名前:玉川雄一:2002/04/13(土) 03:15

 ◆ 歴史家魂外伝・口は災いの…もと? ◆

『山陽公戦記(笑)』にいわく。

馬超は益州校区に招かれて帰宅部連合の一員となったが、劉備の厚遇と、
また生来のキャラクター故か劉備と話をするときにはいつも彼女のことを「パンダ」と呼んだ。

「ねえ、パンダぁ。こんどの原稿だけど…」
「あん? 何や、この前話し合うたやんか。いい加減忘れるなや。せやから…」

しかし、劉備との付き合いの長い関羽にはそれが心底我慢ならなかった。
常日頃は怒りを表に現さない彼女が、あの「武装した紫式部」の面もちを浮かべて劉備に願い出たのである。

「姉者、今度という今度は我慢なりません。馬超をシメさせて下さい!」

久々に見る形相だが、劉備としては馬超とのやりとりは一種のコミュニケーションであり、むしろ楽しいものであった。
とはいえ関羽がここまで怒りを露わにするのだからただ事ではない。まずはなだめにかかる。

「なんや、関さんらしくないなあ。 …ええか、あの娘は曹操に追いつめられてきたんや。
 アンタらはあの娘がウチの事をああ呼ぶゆうて物騒なこと言いよるけどなあ、そんなことじゃあ人からの理解は得られへんで」

だが、いくら敬服する劉備に言われたといって今回は承伏できることでもなかった。
そして、関羽以上に怒り心頭に発しているのは言うまでもなく張飛だったのである。

「せやったらなア、ヤツに礼儀っちゅうものを教えたるわ!」

またいかにも彼女らしく、両手の指をバキバキと鳴らしながら気勢を上げるのだった。

「はあ… まあ、気が済むようにしや。だけど、血ィ見るようなことだけはあかんで」

結局、ここまでなってしまうと劉備には二人を止める術はなかった。


翌日、帰宅部連合の緊急集会が開催された。馬超も当然招かれたわけだが、予定変更を余儀なくされておかんむりである。

「ちょっとパンダぁ、ちょおちょおむかつくー! アタシ原稿描かないといけないのにい!」

それでも渋々ながら着席して周囲を見れば関羽と張飛の姿が見えない。

「…あれえ、関Pとヒッキー(関羽と張飛のことらしい)はぁ?」

といって更に見渡すと、劉備の脇に二人が立っていた。しかも、こちらを凄まじい形相で睨み付けている!

「しおしお〜。アタシったら、部長のことパンダって呼んだから二人にシメられるところだったのね…」

馬超は、己の敗北を悟った。そうして、それ以後は劉備に敬意を持って接するようになったという−

(続く)

76 名前:玉川雄一:2002/04/13(土) 03:18

(続き)

「…だって。こんな事が書いてあったけど、どう思う?」

今日も今日とて史料を山のように積み上げて、学園史の編纂にいそしむ陳寿と生き人形(?)・ハイショーシ君。
とりあえずは史料に総当たりだ! となぜかやる気に満ちたハイショーシ君の主張に負けて、陳寿も雑多な史料を漁っていたのだ。
そんな中で馬超に関する興味深い記述を見つけたのだが、ハイショーシ君は彼好みのネタに飛びつくかと思えば
意外な反応が返ってきたのだった。

「あァ? 誰がこんなクソネタ信じるよ? …いいか、馬超は追いつめられて帰宅部連合に参加したんだぜ?
 いくら何でも劉備に対してそんな態度取るはずがねえだろうが!」
「はあ…」

何故か普段以上にテンションの上がっているハイショーシ君。時折、彼はこうしてキレてしまうのである。
いつもの様子からはちょっと想像も付かない鋭さで、彼の分析は続く。

「それにだな、そもそもこの頃関羽は帰宅部連合の荊州校区総代として江陵棟にいたはずだぜ?
 成都棟でやってた会議にどうして関羽も出られるんだよ? だいたい、関羽だって馬超が参加したときに、
 諸葛亮に馬超はどんなヤツかって聞いたぐらいだぜ? ガセネタだよガセネタ!」
「そ、そうかしらね」
「しかも、馬超が劉備のことをああ呼んだってのは、ヤツのキャラクターからすれば自然なんだよ。
 それに、それが原因で関羽と張飛にシメられそうになったかなんてあの脳天気なオツムで分かるはずないんだって!
 …ったくよお、こんなガセネタ引いてんじゃねえよ!」
「そんな、私に言われても…」

言いたいだけまくしたてると、ハイショーシ君は別の史料に没頭してしまった。
何だか理不尽な気がしないでもなかったが、陳寿は内心彼の分析力に改めて驚かされていた。

(やっぱり、見るところはきちんと見てる。これなら、うまく行きそう…)

口では何やかやと言いながらハイショーシ君がこの作業を楽しんでいることが嬉しくなり、陳寿のやる気も一段と増すのだった。


…やがて完成した学園史は、取捨選択を重ねた陳寿のシンプルな記述と、
それを批判精神豊かにフォローしたハイショーシ君の註が絶妙に融合して、稀代の名著と讃えられることになる。
だが、今のところはまだ、二人して喧々囂々のやりとりが交わされる毎日が続くのだった。

77 名前:玉川雄一:2002/04/13(土) 03:19
何だか発作的に書き上げてしまいました。
そういえば、歴史家魂の本編を完結させないといけませんね(^_^;)

78 名前:一国志3:2002/07/20(土) 18:08
一国志3と申します。

学園三國志掲示板では、はじめての書きこみになります。
拙い作品ですが、よろしくお願いします。
まだ、舞台設定を完全に掴みきれていないので、他の皆さんの話と背景が一致しない
ところがあるかもしれませんが、ご了承下さい。
元ネタは、光栄三國志2〜4の能力値(武力)とあずまんが大王の一部分です。

#三國志3の武力70は重要な分岐点ですが、覚えている人います?


定期試験〜赤点ラインの攻防〜

ここ蒼天学園でも、当然のことながら定期試験は存在する。
特に、赤点すれすれの生徒にとっては、戦いの場となるのであった。

剣道部の部員である、于禁・楽進・李典たちの場合はというと…。
于禁「歴史のテスト55点か。なかなか低レベルな争いになりそうだな。」
と言いながら、夏侯惇の机をのぞき込んでみたところ、
夏侯惇「ん、どうした?」
于禁「(93点!?夏侯惇がそんなに頭良かったとは。)
   あ、なんでもない…。」
別な机では、徐晃と張遼がテストの結果を見せ合っていた。
張遼「テストどうだった?」
徐晃「92点だった。」
張遼「あっ、惜しいな。私91点。」
于禁「もしかして、これってすごく悪いのかも……。」
楽進と李典もテストを見せ合っていたのでありが。
楽進「李典〜、テストどう?」
李典「あ、だめだめ。」
楽進「じゃあ、見せっこしようぜ。44点、あたしの負けだ〜。」
李典「えへへ〜、56点。」
于禁「わ〜い!バカたち〜!」
楽進「バカって言うな!だいたいおまえ何点だよ。」
于禁「55点。」
楽進「あたしらと変わらんじゃん。」
張遼「おまえら、これでいいのか?今回のテストは60点未満が赤点だぞ。」
楽進「え〜っ。そんなの聞いてないよ。」
于禁「でも、まだ追試があるしな。」
李典「追試だと合格点が70点だけどね。勉強しなおさなきゃ。」

で、追試が終わり、テストを見せ合う3人であった。
楽進「ひゃほ〜っ!74点だぜ。」
李典「72点か…ぎりぎりでした。」
于禁「…………。今のきみたちがまぶしく見える。」
楽進「ということは、だめだったんか、于禁?」
于禁「60点だった…。留年するかも。」
結局、于禁も再追試で74点を取り合格ラインを超えて、留年の危機を免れたのであった。

79 名前:★ぐっこ:2002/07/21(日) 00:35
うわははは! なるほど、テストの点=ゲーム武力!
学三的にはパロ系はなるべく避けてるのですが(女性読者多いので)、
これはこれでまた面白い!
しかし低武力=ボンクラーズにすると、どうしても李典がバカの仲間入り
になってしまうんですねえ…(;^_^A

80 名前:一国志3:2002/07/21(日) 01:26
さっそくのコメントありがとうございます。>ぐっこ様

実は、テストの点数を武力か知力にするか迷っていたんですよ。
あえて武力にしたのは、三國志2→3→4になるにつれて、魏の名将が真っ当な
評価になりつつある様子を描きたかったためです。
雑魚武将からの転身というテーマでは、韓浩も取り上げてみたかった人物でした。
今回の話にも登場させようかと思ったのですが、描ききれませんでした。
(三國志1〜3では、韓玄の弟という演義設定のせいで兄と似たり寄ったりの能力。
 三國志4では一旦リストラされて消え、5以降では正史修正の入った能力になる。)

81 名前:一国志3:2002/07/24(水) 01:23
一国志3です。

またまた、思いつくがままに学三のサイドストーリーを書き上げてみました。
史実で言うところの蜀滅亡のあたり、学園正史では「第二次漢中アスレチック決戦」の
あたりを題材にしています。
(このへんだと、キャラ設定のない人物が多いですね。)


■帰宅部最後の日■

2年前までは放課後の抗争が学園の華となっていた蒼天学園であった。
しかし、司馬一族が生徒会の中枢を占めてからは、部活動に対する締め付けが
厳しくなり、放課後はおとなしく勉強している生徒が多くなってきた。
そんな中、劉備−劉禅と続く帰宅部は異彩を放つ存在であった。
どこぞの光画部のように、放課後の部室にたむろして好き放題に遊びまくって
いたのである。

3学期のある日、時の生徒会長・司馬昭は、ついに帰宅部壊滅作戦を遂行する。
司馬昭「蒼天学園の恥部は、帰宅部と長湖部よ。こんな部が存在するだけでも、
    学校の品位を傷つけているわ。まずは、帰宅部の番よ。
    あの薄汚れた部室を接収して、文化的に作り変えてやるわよ。」

生徒会の不穏な動きは、帰宅部にも伝わってきた。
費[ネ'韋]が馬券購入のかどで謹慎処分を受けた後なので、帰宅部の実質トップは、
姜維であった。(部長の劉禅は飾り。)
張翼「大変〜っ!生徒会が帰宅部解散と部室退去を企んでいるそうよ。」
廖化「生徒会は、実力行使も辞さない構えみたいね。」
[言焦]周「このへんでおとなしく降参したほうがいいかも…。
     星占いの結果も悪いし。」
姜維「ちょっと、なに弱気なこと言ってるのよ!
   あっちが実力行使するなら、うちらだって全力で抵抗するんだから。」
張翼「で、何か作戦あるの?」
姜維「『バリケード剣閣』よ! 孔明さまデザインの難攻不落の要塞!
   数で押してくる生徒会なんて、問題じゃないわね。」
廖化「お〜っ、なんかすごそうだな。」
姜維「というわけで、部長、我々は作戦を遂行するのであります!」
劉禅「よきにはからえなのれす。てへてへ。」

対する生徒会側は、[登β]艾・鍾会を中心にして、人海戦術で帰宅部部室を制圧する
作戦のようである。
[登β]艾「こ、これはすごいバリケードですね。」
鍾会「バカみたいに感心している暇があったら、さっさと作戦考えなさいよ。
   だいたい、2年飛び級の天才美少女のあたしと、どもりでさえないあんたが
   同格だなんて、今でも納得できないんだからね。」
[登β]艾「・・・べ、別行動にしましょうか。」
鍾会「好きにしたら??アタシひとりで充分だからさ。」
人知れず地図マニアであった[登β]艾は、バリケード剣閣の抜け道に気付いていた。
それを顔には出さずに、密かに帰宅部部長室を目指すのであった。

部長室でのんきにお菓子をつまんでいる劉禅であった。
劉禅「なんかうるさいれすね。おちついておかしもくえないのれす。」
そんなとき、部長室の扉からノックする音が聞こえてくる。
劉禅「だれれすか?」
[登β]艾「あ、あの、生徒会の[登β]艾と申すものです。詳しくはこの手紙を。」
劉禅「(手紙を読んで)むずかしいかんじだらけでよめないのれす。」
[言焦]周「『帰宅部を直ちに解散せよ。さもなくは部員に退学を命ず。』
     部長室に生徒会側が乗りこんだということは、姜維ちゃんたちが
     力尽きたということね。……今日が帰宅部最後の日かしら。」
[登β]艾「解散か、退学、どちらを選びます、劉禅さん?」
劉禅「がっこうをくびになるのはいやなのれす。
   きたくぶは、きょうれおしまいれす。」
かくして、劉禅の一言で帰宅部の廃部が決定したのであった。
なお、その後も劉禅はお気楽な学校生活を送っている。

さて、バリケード剣閣で一進一退の攻防を続けていた姜維たちのもとにも、
帰宅部廃部の知らせが届いてきた。
姜維「本日をもって帰宅部解散!?嘘だ!嘘だろ〜?」
張翼「まだ勝負がついていないはずなのに…。何があったのかしら?」
廖化「劉禅ちゃんが先に降伏してしまったらしい……。」
姜維「帰宅部は、これで終わりなんだね。
   孔明さま……私、孔明さまにあこがれて帰宅部に入部しました。
   趙雲さん……もう一度、薙刀のお手合わせしたかったです。
   帰宅部の想い出が走馬灯のように蘇ってくる………。」
廖化「関羽さん〜〜っ。私、かっこいい関羽さんに………。」
鍾会「感傷にひたってるとこ悪いけど、あんたたちに話があってよ。」
姜維「誰……鍾会!?なんであんたがここに?」
鍾会「ねえ、ここで帰宅部再結成しない?」
張翼「エリートコースのきみが帰宅部希望だなんて、変な感じするな。」
鍾会「このままレールに乗っていくのも馬鹿馬鹿しくなってね。
   好きなことやってるあんたらがうらやましくなったってこと。」
姜維「この話乗った!やっぱり、私たちには帰宅部しかないからね。」

当然のことながら、鍾会たちの新・帰宅部は生徒会に承認されずはずもなかった。
失敗するのはわかっていて、バカをやったというところだろうか。
鍾会「生徒会から追放されて、ただの一生徒になったけど、これでいいのよ。
   だってね、好きなだけ漫画描けるし。(他人の真似ばかりなんだけどね。)」
姜維「お〜い、鍾会。この前頼んでた、孔明さまのイラストできた?」
鍾会「あいよっ。」
姜維「やっぱり、孔明さまはいいよね。うんうん。
   でも、誰かの画風にそっくりなんだけど、気のせいかな。」
鍾会「あたしのオリジナルに決まってるわよ。
   (玉川っていう人の絵をまるまる参考にしたよは言えないよな〜。)」

82 名前:玉川雄一:2002/07/24(水) 21:08
…それだ! 「鍾会の乱」をどう描くか考え所ではありましたが、
この筋なら『独立』の動機としてなかなか面白いモノになりそうです。それがコケた所まで含めて。
しかし、「姜維の肝が鶏の…」はうまくネタに入れられないかなあ(^_^;)

ただ、残念だったのは劉禅のキャラが違うかな、と。

83 名前:惟新:2002/07/24(水) 22:24
おお〜! お見事な力作!
なるほど、鍾会の「魔が差した」をそう描かれましたか!
少し路線が気になりますが(^_^;) 面白いです〜!
あ、でも玉川様がおっしゃっている通り、劉禅ちゃんだけはちょっと違う気がしますね。

>姜維の肝
そのものズバリはさすがにできませんものねぇ(^_^;)
では、こんなのはどうでしょう?

失敗したあと捕まり、それでも堂々と生徒会に噛み付く姜維。
こののち、校内で次のような噂が立った。「姜維の肝は10キロはあったに違いない」と。

ちなみに、人の肝臓の平均的な重量は1〜1,5キロらしいです。

84 名前:一国志3:2002/07/25(木) 01:05
コメントどうもありがとうございます。>玉川様、惟新様

「姜維の胆」は入れようがなかったので、無視してしまいました。
鍾会の「他人の筆跡を真似るのが上手い」は、何とか取り入れてみました。
今回の作品では、あまり姜維のキャラを立てることができなかったのですが、
私のイメージでは、夢中に突き進んで空回りするタイプといったところです。
(1年生のときは、『孔明さま』に夢中のレズっ娘ということで。)

劉禅は、2chのとある掲示板から拾ってきたキャラを流用してみたのですが、
どうも学三の設定には合っていなかったようですね。学三歴が浅いもので、
ご勘弁下さい。

85 名前:japan:2002/07/25(木) 21:55
>玉川様

陳寿たんとハイショーシ君の掛け合い漫才、良かったです〜!
令君贔屓のハイショーシ君のことだから、「荀搏`」あたりはさぞや文句たらたらだったのでしょうね。
「何で優れた人間にケチばっかつけたがるんだろうな、凡人って奴はよ!
クソネタは数あれ、これが一番酷い出鱈目だな!」
なんて息巻いてそう。

>一国志3様

はじめまして!
「三国志3」は初めにプレイしたゲームなので、懐かしく拝見させていただきました。
最近の毛カイ・韓浩あたりの再評価は魏のファンとしては嬉しい限りです。
武力=テストの点数というのは新解釈ですね。
文官verを書いてみたい…などと思ってしまいました。

鍾会たんの乱もナイスでした。
冷徹な策士のようでいて、変なところでマニアックですからね、この娘も…
意外に帰宅部生活が水に合っていたのかもしれません。
何かと話題になる鍾会の学年ですが、飛び級にすれば幼い頃から活躍していたのも理由が通りますね。
こちらも素晴らしい解釈だと思います。

86 名前:★ぐっこ:2002/07/25(木) 21:58
うお! これ案外イケル!?
ただストーリーが正史ルートですので、いずれ正式に長文にリメイク
したいところですが、このノリ、イイ!
キャラも上手いですし、ナニゲに道理が通ってます!「あーる」知らないと
キツいところもありますが…
ただ劉禅たんについては、ここの「Gちゃんねる」スレッドで、キャラが
できあがってしまったんですよ(;^_^A 大阪をもっとぼーっとした感じに…。

うーん、蜀滅亡…以前に、孔明たちの活躍をもう一度煮詰め直さないとダメですね…
北伐…どういう形にしたモノか…。
あ、孔明の年齢、設定よりさらに下げるつもりです(;^_^A

87 名前:一国志3:2002/07/26(金) 00:50
>japan様

テストの点数=知力or政治力の文官ver.だと、鍾[月缶系]あたりが
いい題材なのかなと思います。初期の三國志では二流の文官で魅力も
低く、その他大勢だったのですが、最近は政治力が90前後と
評価されています。
あと、鍾会(生年225)と[登β]艾(生年197)は、実は親子ぐらい年齢が
離れているんですよね。

>ぐっこ様
なにしろ、2時間あまりで書き上げた作品ですので、長文リメイク
していただけるとありがたいです。
(戦闘シーンは、ほぼはしょってしまいましたし。)

88 名前:玉川雄一:2002/07/28(日) 09:58
鍾ヨウに目を付けられるとはさすが! ご安心めされ。学三の鍾ヨウは半端なキャラじゃないですよ。
旧掲示板(現仮あぷろだ)の過去ログ…は当の昔に流れてしまいましたが、とりあえず
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/zinbutu/sousou/zyunikus.html target=_blank>http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/gaksan1/zinbutu/sousou/zyunikus.html
辺りを参照までに。

89 名前:一国志3:2002/12/23(月) 00:57
>>(気が向いたら、ショートストーリースレッドにでも書きこんでみるかもしれません。)

というわけで、長坂坡のくだりを書いてみました。


生徒会が袁紹一派の残党勢力をしらみつぶしにしていた頃、劉備率いる帰宅部連合は、
劉表の好意でプレハブ新野棟を借りて、何とか部室を確保していた。

だが、新年度になって劉表が卒業し、新たに荊州校区の総代となった劉[王宗]は、
生徒会に従属する道を選んでしまった。劉[王宗]・蔡瑁らは生徒会に対して恭順の
意を示すため、荊州校区からの帰宅部の追い出しを謀っているところであった。

劉備「えらいこっちゃやで。今のうちらではこの部室守りきれへんし。」
諸葛亮「いっそのこと、荊州校区の本部を急襲してみてはいかがでしょうか?
    相手が蔡瑁程度なら、私たちの側に充分に勝算があります。」
劉備「そんなのあかんで!
   いくら蔡瑁が嫌な奴いうても、劉表さんの恩を裏切ることはできへん。
   うちら帰宅部のモットーは、義理と人情の浪花節や。」
諸葛亮「次善の策としては、江夏棟に避難することでしょう。
    江夏の劉[王奇]さんなら、私たちを快く迎え入れてくれるはずです。」

帰宅部連合の部員たちは、荷物をまとめて江夏棟に避難する準備をする。
一般部員「劉備部長!私たちも一緒に江夏までついていきます。」
諸葛亮「事態は急を要します。幹部だけが先に避難すべきと存じますが。」
劉備「部員をひとりでも見捨てることは、うちにはできへん。
   帰宅部連合はいつでも一緒や。みんな、行くで〜!」

急に帰宅部連合の全員が一斉に避難を始めたので、江夏棟までの連絡通路は
渋滞してしまう。生徒会がそんな状況を見逃すはずもなく、少なからぬ数の
帰宅部部員が生徒会に捕まってしまうのであった。

荊州校区の本部と江夏棟の中間あたりに用水路があり、長坂橋という小さな
橋がかかっていた。大部分の部員たちが橋を渡り終えたのを確認したところで、
張飛と趙雲がしんがりとして生徒会の進撃を食い止めようとする。
張飛「これで主なメンバーは無事に避難できたようだな。」
趙雲「……劉禅ちゃんが!」
張飛「劉姉貴の妹じゃねえか。
   あいつトロいし、どこかで道草でも食ってるのかもしれんな。」
趙雲「……行ってくる。劉禅ちゃんを助けに……。」
張飛「…って、待てよ、趙雲!ま、いいか。
   生徒会の雑魚どもの相手なら、オイラひとりで十分だし。」

わき道を進んでいると、見覚えのある一匹の猫と出くわす。
趙雲「(あれは……劉備部長のところの……びぃちゃん?)」
猫は趙雲の姿を目にすると、草むらのほうへ駆け出す。
趙雲「(ついてこいってことか…?)」
猫を追いかけると、そこには怪我をして倒れていた劉禅の姿があった。
趙雲「どうした…?」
劉禅「わ〜い!趙雲さんが来てくれたよ〜。
   阿斗ちゃんはねぇ、道に迷って、それで転んで怪我しちゃったの。」
趙雲「もう大丈夫だ。……私に任せろ。」
趙雲は怪我をした劉禅を背負う。
劉禅「趙雲さんってどうしてそんなに背が高いんですか?」
趙雲「…小さいほうがかわいくていいよ……。」
劉禅「ふ〜ん、そうなのかなぁ?
   それとさぁ、びぃちゃんも一緒につれてってくれるよね?」
趙雲「う、うん……。(ドキドキドキ……)」
趙雲は猫を抱きかかえようとするが、逃げられてしまう。
趙雲「………なぜ?」
劉禅「あ〜っ、びぃちゃん、逃げちゃったよ〜。」
趙雲「追いかけなくては!」
謎の声「追ってはいけない。ネコの気持ちを察してあげるのだ。」
趙雲「(……誰!?)」
謎の声「あのネコは、自らの身を挺して阿斗の居場所を伝えに来たのだ。」
趙雲「(ええっ……!?でも、びぃちゃんが生徒会に捕まってしまう。)」
謎の声「君はネコの好意を無にするのか?まずは無事に阿斗を送り届けるのだ。」
劉禅「趙雲さん、どうしたの?ボーっとしちゃって。」
趙雲「いや……何でもない。劉禅ちゃん、しっかりつかまっていろよ。」

迫り来る生徒会の大軍を目前にしながら、趙雲と劉禅の逃避行が始まるのであった。

(つづく)

90 名前:一国志3:2002/12/23(月) 02:48
>>89の続きです。


劉禅を背負いながら、生徒会の手から逃れようとする趙雲であった。
途中、夏侯恩から曹操所有の竹刀「青[金工]」を奪い、この竹刀を振るいながら、
晏明ら生徒会の追っ手を退ける。

劉禅「すご〜い!趙雲さんは無敵だぁ!」
張[合β]「哀れなるものよ。戦場の華となって散りなさい。
     曹操直属の五剣士の一、張[合β]儁艾ここにあり。」
趙雲「……………。」
劉禅「ねぇねぇ、戦場の花ってきれいなの?」
仮面をつけたまま、張[合β]が挑んでくる。
張[合β]「どうです?私と剣の勝負を受けてみませんか。
     美しき戦いになりそうですよ。」
趙雲「(今は劉禅ちゃんを送り届けるのが先だ。)
   ……断る。」
張[合β]「敵を目の前にして逃げ出すとは、美しくありませんねぇ。」
趙雲「しっかりつかまって、劉禅ちゃん。」
劉禅「は〜い!がんばれ趙雲さ〜ん。」

しかし、趙雲たちが逃げた先には落とし穴が仕掛けてあった。
趙雲「ああっ……。劉禅ちゃん、大丈夫か?」
劉禅「ううん、阿斗ちゃんはなんでもないよ。それよりも、上、見て!」
張[合β]「淑女たる私であっても、大義のためならば、時には醜い手段を
     使わざるを得ないのです。」
趙雲「………………。」
張[合β]「あなたがたには、万に一つの勝ち目もありません。
     これ以上あなたの名を辱めたくはありません。潔く降伏しなさい。」
劉禅「ねぇ、趙雲さん。どうすればいいの?」
趙雲「………だめだ。あくまでも帰宅部として……。」
張[合β]「そうですか。あなたに美しき散り際を提供しましょう。」
趙雲「(劉備部長………ごめんなさい。)」
張[合β]の竹刀が振り下ろされたとき、猫型の不思議な赤い光が趙雲を包む。
趙雲「………………!!」
張[合β]「し、竹刀がはね返るとは!?」
謎の声「今のうちに逃げるといい。」
趙雲「あなたはさっきの……。」
謎の声「ああ、名乗るほどのものではないが、阿斗の父です。
    娘が世話になっています。」
趙雲「お父さん…?劉禅ちゃんの?」
劉禅「あたしのパパ?学校には来てないよ。」
張[合β]「くっ、私の剣が通じぬとは…。醜い戦いはやめておきましょう。」
趙雲「(……ありがとう、お父さん。)」

生徒会の追っ手として、今度は曹洪が現れる。
曹洪「よっしゃ、趙雲ゲット〜!賞金が……。」
趙雲「ん……?」
曹洪「あんたが趙雲ね。おとなしく生徒会に降伏しなさい。
   あんたが生徒会に従えば、あたしも賞金十万元ゲットできるのよ!」
劉禅「ねえ、阿斗ちゃんの賞金はいくらなの?」
曹洪「あんたは無能だから賞金ゼロよ。ってわけで、あたし的には価値ないの。
   曹操さんが惚れこんでいる関羽なら、賞金百万元よ!いつかは説得して…。」
趙雲「悪いが、付き合っている暇はない。」
曹洪「ふふふ………。逃がすものですか。あんたの弱点は調査済みよ。
   行け〜っ、『百万の青州兵』!!」
曹洪の号令とともに、無数の猫たちが趙雲めがけて一斉に襲いかかる。
趙雲「あ……噛み猫!」
劉禅「あ〜〜っ!ネコの爪はバイキンがあって!
   おばあちゃんがひっかかれてすごいはれて!」
猫たちが趙雲に飛びかかろうとしたとき、行方不明だったびぃちゃん(劉備の飼い猫)
が立ちはだかる。
趙雲「……びぃちゃん!?」
びぃちゃんは渾身の力を振り絞って雄叫びをあげる。
その気迫に押されて、猫の大群は四散してしまう。
趙雲「(猫を抱きかかえて)……ありがとう。」
だが、この瞬間、びぃちゃんは息を引き取ったのであった。
趙雲「うそだ………。」
劉禅「死んじゃったの?」
曹洪「まあ、所詮、ネコはネコね。役に立たないったらありゃしない。
   趙雲、今度こそおとなしく生徒会に降伏しなさい!」
趙雲「(睨み付ける)」
曹洪「い、いや、なんでもないです。(せっかく賞金もらえると思ったのに〜)」

生徒会の追っ手を振り切り、何とか長坂橋までたどり着いた趙雲と劉禅であった。
趙雲「……劉禅ちゃんを連れてきた。でも、まだ追っ手が……。」
張飛「よ〜し、あとはオイラに任せとけ!」
長坂橋は張飛に任せ、趙雲は劉禅を劉備の元に送り届ける。
趙雲「……劉禅ちゃんは無事です。でも、びぃちゃんが……。」
劉禅「お姉ちゃ〜ん!会いたかったよ〜!」
劉備「どアホ!おまえは何遍、人に迷惑かけたら気が済むんや!」
劉備は劉禅の頭をハリセンで、これでもかというほどにどつきまわす。
劉禅「え〜ん、え〜ん…。お姉ちゃん、痛いよ〜。」
趙雲「あの……、そんなに叩かなくても。」
劉備「こいつのせいで、危うく優秀な部員を一人失うところやったんや。
   え〜い、叩いても叩いても叩き足らんわ。」
諸葛亮「劉備部長、お気持ちはわかりますが、気を静めてくださいませ。
    ただでさえ足りない劉禅ちゃんの頭の中身が……。」
劉備「…す、すまん。つい、ウチとしたことがカッとなってもうてな。
   そうか、びぃちゃんが亡くなったんか。
   そこらへんに埋めとくしかできへんな……。」
趙雲「私のせいで……。」
劉備「いや、趙雲のせいやない。気にしたらあかんで。」
諸葛亮「気を取りなおして進みましょう。江夏棟まではあと少しです。」

江夏棟にたどり着いた劉備たちは関羽と合流し、舞台は赤壁島に進むのであった。

(おわり)


*張[合β]のキャラは三国無双を参考にしました。(実は未プレイですが)

91 名前:★ぐっこ:2002/12/24(火) 01:21
おお、コレは力作!
オールあずまんがですが…あずまんが知らない人はちとキツイかも…
そういえば、長坂消したままだったな…(^_^;) いや、殺伐よりも、こういう
のんびりした活劇を目指しておりますので、演義のほうは、たぶんこっち
に近いものになるでしょう〜。

ナル張[合β]…その手があったか。

92 名前:惟新:2002/12/27(金) 16:59
ナル張[合β]Σ( ̄□ ̄;)
そこ来るとはとてつもなく予想外でしたが(^_^;)
てか、張[合β]は三人いるという説も…
それはさて置き、私はあずまんがわかりますので(^_^; 楽しんで読ませていただきました。
けっこうパロディって入れられるものなんですね〜勉強になりましたですよ。

93 名前:教授:2003/01/07(火) 23:48
■■親友 〜黄忠と厳顔〜■■



 夕暮れの巴西棟。
 その屋上に一人の女性が物憂げな表情で眼下に広がる景色を見ている。
 大人びた容姿、風に靡く艶やかな髪に凛とした顔立ち。
 彼女の名は厳顔。
 劉備率いる帰宅部連合の中でも名うての人物だ。
「帰宅部連合に加わってから…色々な事があったわね…」
 小さく呟き、柵を背にもたれかかった。
 現在の主、劉備玄徳の益州校区攻め…漢中アスレチック戦…。
 厳顔が活躍した場はそれ程多くはない。
 しかし、それは彼女の中で生涯忘れる事のない出来事。
 大切な記憶なのだ。
「学園生活の最後に楽しい思い出が出来たかな…」
 感慨深く言葉を紡ぐと深く息を吐いた。
 と、屋上のドアがゆっくり開く。
「ここにいたのね。話って何?」
 ドアの向こうから大人しそうな印象のウェーブがかった髪の女性が姿を見せた。
 だが、その格好は少し変わっていた。
 ――弓道着。
 練習中だったのだろう、制服姿の厳顔とは明らかに違う。
 厳顔は親友の姿を捉えると優しくも哀しげな眼差しを向けた。
「漢升…忙しい所呼び出したりしてすまないね」
「それはいいけど…珍しいわね。貴方が大事な用事があるなんて…」
 厳顔は特に大事がない限り自分の用件は後回しにする。
 それが人づてに修練中の黄忠を呼び出したのだ。
 漢升…黄忠は厳顔の心中を察してか茶化すような事はせず、真面目な顔を見せる。
 余談だが二人は3留というかなり不名誉な経歴を持つ。
 それが故か学園内で年増コンビ呼ばわりされる事が多々見うけられた。
 憤る黄忠、それを宥める厳顔。
 無論、厳顔も腹が立たないという事はない、所詮は人間だ。
 しかし、彼女が怒りを露わにする事は滅多にない。
 以前、理由を劉備に尋ねられた。

『厳顔の姐さんは何で怒らんのや? ああも言われ続けたらいい加減キレるやろ…』
『総代…私と漢升の二人ともが怒り狂ってちゃ歯止めが利かないでしょ? だから私が気にしないようにして抑え役に回ってるってわけ』
『そんなん…腹にたまって気分悪いやろ。ウチが言わさんようにしたるさかいにな…』
『気を遣ってもらわなくてもいいよ。人の口に戸は立てられない…昔から言うでしょ。別に諦めてるとかいうわけじゃないわ…ホントの事だし』

 その時は苦笑いをしてやんわりとしていた。
 劉備も大人やなぁと感心した程だ。

94 名前:教授:2003/01/07(火) 23:51
 それから後も、年増発言は後を立たなかったが二人はいつも通り過ごしていた。
 周りからどう言われようとも、二人の仲は間違いなく良かった。
 同じ3留だからとか、年が同じだから…そんな陳腐な理由ではなく、本当に気が合う親友同士なのだ。

「総代よりも…先に貴方にだけは話しておきたかったから」
 厳顔は真っ直ぐに黄忠の目を見据える。
 黄忠もその言葉と真剣な眼差しを受け、それに応える。
 そして続きを促すように頷いた。
「私…ここで引退する事に決めたわ」
 ひどく重圧感のある言葉。
 だが、黄忠は取り乱さなかった。
 いつもと何ら変わらぬ姿勢を崩さない。
「そう…」
「…漢升は驚かないんだな」
 落ち着き払った黄忠を見て、却って厳顔の方が動揺する。
「ここに呼び出された時に…何となくそんな気がしてたからね」
 黄忠がどこか寂しげな笑みを浮かべて付け加えた。
「そっか…」
 厳顔はどこか嬉しいような安心したような気分になった。
 親友は自分の考えてたよりも、ずっと強い。
 引退しようとは前々から考えていた。
 だけど、自分の言葉で親友の心を乱すような事があれば…今後の指揮系統に支障を来たすかもしれない…。
 そんな事が脳裏を過ってなかなか言い出せなかった。
 でもその考えは杞憂に過ぎなかった。
 だが…黄忠はそんな事を言ったのだ。
「それじゃ…私も一緒に引退しようかな。年が年だしね」
 ひゅうと吹いた一陣の風が二人の髪を大きく靡かせた。
 一瞬の沈黙の後…厳顔はその言葉に首を横に振る。
「まだ…貴方は駄目」
 ここで初めて黄忠の瞳に動揺の色が表れた。
「何でなのよ…。貴方が引退するのは自由…私が引退するのも…」
「自由だ…って言いたいの? 貴方にはまだ大事な仕事が残ってるわ」
 厳顔は神妙な表情で黄忠の言葉を遮った。
「大事な…仕事?」
 黄忠は自分の言葉を先に言われ、どうしたらいいのか分からないような顔で聞き返す。
「そう…大事な仕事よ。貴方には…まだ後輩達への指導がある」
「そんな…そんな事なら貴方にだって…!」
 感極まって普段出さないような大声を張り上げて厳顔の肩を掴む。
 その顔は悲壮感で一杯だった。
 厳顔はゆっくりと首を振ると、言葉を紡ぎ始めた。
「貴方じゃないと出来ない事よ…。荊州校区の生徒に関しては私は全く分からない、何よりも貴方の方が私より優れてるし…他の誰よりも経験が豊富だから」
「それなら…二人でやればいいじゃない! それが嫌なら貴方は益州校区の生徒達だけでも…」
「…この校区の生徒達には早く総代達に慣れてもらいたいの。それに私はもう十分役目を果たしたわ…だから、ここで身を引くの」

95 名前:教授:2003/01/07(火) 23:51
「一人より二人の方が指導も…」
「漢升…分かって…」
 確固たる信念と決意、そして哀しく淀みのない眼差し。
 澄んだ瞳から発せられるどこまでも真っ直ぐな想いは黄忠の心を射抜いていた。
「………」
 黄忠は厳顔を掴む手を離すとそっぽを向いてため息を吐いた。
 そしてくるりと向き直る。
 悲壮感のない、苦笑いだ。
「しょうがないわね…貴方の気持ちは分かったわ。後は…私に任せなさい」
 力強く言い放つ。
「頼んだよ……あ、それから」
「何?」
「年増やおばさん呼ばわりされても怒るなよ〜。もう、宥める役はうんざりなんだからさ。引退してから呼び出されても困るしね」
「そんな事、保証できないわよ」
 思わず吹き出す二人。
 彼女達の明るい笑い声が屋上に響いた…。


 翌日、厳顔は劉備の元へ赴き理由も告げず自らの階級章を返上した。
 勿論、劉備や他の幹部達は厳顔を引き止めようとする。
 厳顔は振り返る事なく、ただ一つだけ皆に言い残し…。
「後は若い子に任せるわ、それじゃ」
 そして、静かに去っていった。


「………」
 黄忠は去り行く親友の背中を見送る。
 ――無意識の内にに涙が頬を伝った。
 はっと我に返り慌てて涙を拭う黄忠。
 誰にも見られていないかと内心ひやりとしたが、幸い誰も気付いていない様子に安堵の息を吐く。
 …と、劉備が黄忠の服の裾を引っ張った。
「漢升はん…ちーと話あるんやけど」 
「…総代?」
「ここやとなんやし…ちょっと奥まで来たって」
 黄忠は引張られるがままに会議室の奥の部屋に連れ込まれる。
「総代…何の用です…」
「漢升はん、あんた…厳顔の姐さんの引退の理由…知っとるやろ」
「…っ!」
「やっぱりやな…。理由も言われずにコレを返されても…かなわんわ。…理由…聞かせてくれへんか?」
 劉備の放つ威圧感に気圧される。
 黄忠は重い口を開き始めた。
「彼女…引っ越すんです。ここからずっと遠い所に…」
「そないな事やったら…言うてくれてもええのに…」
「静かに去りたかったそうです…」
「…ウチら騒がしくしたか?」

96 名前:教授:2003/01/07(火) 23:52
「…送別会が嫌だったんじゃないですか? 彼女なりに気を遣ってくれてるんです…『私なんかの為に予算使わなくてもいいよ』って…」
 その言葉に劉備は深いため息を吐いた。
「厳顔姐さん…こないな時にまで遠慮せんでもええやん…」
 呟くように言うと黄忠に暫く一人にしてくれと告げる。
 黄忠は頷くとそのまま部屋を後にした。


「………」
 黄忠の足は部室に向かっていた。
 いつも隣に居た厳顔はもういない。
 果てしない喪失感が心を支配している。
 少しでも気を紛らわせたい。
 そんな一心で部活動に励もうとしていた。
 道場の方からは既に気合いの入った声が聞こえている。
 もう練習は始まっているのだ。
 急いで更衣室に入ると、自分のロッカーを開く。
 そこには…自分の弓道着と弓、そして見慣れない竹刀袋と手紙が添えられていた。
「何かしら…」
 手紙を開く。


『漢升へ

 私がここにいなくても心はずっと傍にいるよ

 辛くなっても漢升ならきっと乗り越えられる

 がんばれ!

 私の竹刀…置いて行くから、使ってあげてね

 その子も喜ぶと思うし

 それじゃ…また何処かで会おうね!

 親愛なる友人、黄忠漢升へ…   厳顔』


「厳顔…」
 手紙の文字がぽつりぽつりと涙で滲んでいく。
 そして竹刀袋を開き、中から竹刀を取り出す。
 見間違える事はない、親友が振るっていた竹刀だ。
「う…うう…」
 黄忠は溢れる涙を抑えられなかった。
 ただ、声を殺して泣いた。
 親友の残してくれた竹刀と優しい別離の手紙を抱きしめて…。
 

「漢升…総代…そして皆…元気でね」
 荷物をまとめたバッグ(大体の荷物は既に小包にして実家に送ってある)を肩に引っさげた厳顔。
 益州校区が見える場所から静かにその景観を眺めている。
「楽しかったよ…こんなに胸が一杯になる程…」
 踵を返すと止めてあったバイクに跨る。
 ヘルメットを手にし…もう一度振り返った。
「漢升…私達はずっと親友だからね…。そう…遠くにいても…」
 厳顔の頬を涙が伝い落ちる。
 その涙を拭う事無く、そのままヘルメットをかぶると勢い良くエンジンをふかせた。
「…じゃあ…またね!」
 誰にともなく言うと、一気にアクセルを絞り込んだ…。

97 名前:教授:2003/01/07(火) 23:54
あとがき

長くなりました。しかも稚拙で申し訳ないです。
厳顔の引退で非常に悩みましたが、引越しという形にしてみました。
多分、これは賛否両論になりそう…。

98 名前:惟新:2003/01/08(水) 18:23
ゲンガ━━━━━━(T∀T)━━━━━━ ン!!!
ええもん読ませて頂きました!
最後の手紙はぐっと来ますなぁ…こりゃ名文や…

えーっと、引退方法ですか?
引越しということは転校なんでしょうか。引越しの理由にもよりますねぇ…
1、家庭の都合(転勤等)
2、特に家庭の都合はなく、自主的な転校のため
問題があるとすれば2で、3留した挙句転校されるのは親御さんが大変ですが…
でもまぁ3留を許した親御さんです、寛大に許してくださるでしょう(^_^;)
というわけで、特に不都合もなく、別にいいのでは? と私は思うのですが。

そーいや3留ってことは私と同級生の年頃なんだなぁ(^_^;)

99 名前:★ぐっこ:2003/01/08(水) 23:03
ええ話や…・゚・(ノД`)・゚・
ていうか親友同士だったんですね…姉さんコンビ…
黄忠もさびしさひとしおでしょうに…

引っ越しは問題ありませーん。というか、そう次々とリタイヤするのも
アレなんで(^_^;) そういうのもアリにしましょう!

100 名前:教授:2003/01/08(水) 23:06
書き漏れで恐縮してます。
家庭の都合(親の転勤)で引っ越す事になってます。
それも国内ではなく海外という事でして…。
投稿した後で気がつきました、大失態申し訳ないです。

101 名前:アサハル:2003/01/09(木) 21:10
乗り遅れたあ!!

厳顔姐さん格好よすぎ・・・
竹刀を置いていくということは、引越し先では
剣はやらないんでしょうか・・・
海外だから武具の店もないだろうし・゚・(ノД`)・゚・

てか、ここから帰宅部陣営、引退者続出するんですよね・・・
切ない・・・

102 名前:項翔:2003/01/09(木) 22:56
...厳顔さん......。

......大人......(T_T)

残(遺)した手紙と黄忠の涙、二輪と厳顔の後ろ姿...。

......感動です......っ!

>教授様
かッ、海外に引っ越しですか!?
家具や思い出の荷造りも大変かもしれませんが、どうか頑張って下さい!

103 名前:教授:2003/01/09(木) 23:58
拙い文章に素晴らしい感想、感謝感激です。
これからも頑張って書きますのでよろしくお願いします。

項翔様>

いえ、私が引っ越すのではなくて…(^^;)
文中の厳顔の事です、微妙な描写すいません。

104 名前:彩鳳:2003/01/10(金) 20:20
すみません。完全に遅れましたね。(--;

 厳顔姐さん・・・潔い!!
帰宅部に来る時も格好良いけど・・・去る時も鮮やかですね。

>アサハル様
海外で竹刀・・・4年前、カナダの農場で1ヶ月バイトした時に
(タダ働きでしたが)夜、どこかのチャンネルのKー1を見てたら、
竹刀持って乱入した兄ちゃんがいました。見ているこっちは「はぁ!?んなの
アリかい!」て心境でしたが、試合の方は武器アリなので
かなりやばかった(容赦無し)のを覚えています。
すみません。厳顔姐さんとは全然関係ありませんね(^^;

105 名前:教授:2003/01/11(土) 00:00
■■ 関羽の巫女さん ■■


 日曜日の午前中、場所は常山神社。
 境内で巫女服に身を包んだ少女がせっせと箒を動かしていた。
 彼女の名前は趙雲子龍。
 帰宅部陣営に属する薙刀の達人だ。
 それと同時にこの常山神社の一人娘でもある。
「子龍、頑張ってるな」
 ふと趙雲が顔を上げると長く艶やかな光沢を放つ黒髪の女性が立っていた。
「関羽さん、おはようございます」
 丁寧に礼をする趙雲。
「うん、おはよう。今日はこの間借りてた本を返しに来たんだ」
 関羽は持ってきた鞄を開くと、中から分厚い本を取り出す。
「折角の休日に持ってこられなくても学校で渡してくれれば良かったのに…どうもすみません」
「いや、暇だったしな。返せる時に返しておかないと」
 関羽は微笑むと本を趙雲に手渡す。
 と、関羽がある異変に気付いた。
「子龍…熱があるのか?」
「え? …いえ、大丈夫ですよ」
 苦笑いしながら言葉を返す趙雲。
「………」
 無言のまま関羽は趙雲の額に手を伸ばす。
 ひんやりとした感触が額から全身に伝わる。
「やはりな…。体調が悪い時くらいゆっくり休みなさい」
「…今日は両親が用事で出かけてますので…私が掃除とか管理をしないと…」
「責任感が強いのは立派な事だけど、倒れでもしたら元も子もないわよ」
 関羽は諌めるように声を掛けると、少し考え込む。
 そして、意を決したように口を開いた。
「今日は…私が変わってあげるわ」
「そんな…悪いですよ…。私なら大丈夫ですから…」
 趙雲は気丈にそう答えるが、激しく咳き込んだ。
「説得力ないぞ。今日する事を言ってちょうだい、私が変わりにやっておくから」
 優しく微笑みかけると関羽は趙雲を抱き上げる。
「すみません…」
 趙雲は申し訳なさそうに謝ると、作業の指示を関羽に伝えた。

106 名前:教授:2003/01/11(土) 00:03
「さて…趙雲はあれでいいとして…」
 関羽は趙雲を部屋まで運び(巫女服から猫柄のパジャマに着替えさせた)、自分が着るべき巫女服を見下ろした。
「サイズ…合うかな」
 巫女服のサイズを気にしながらも袖を通していく。
 案の定、彼女に見合ったサイズの服が見つからない。
「困ったな…」
 苦笑いを浮かべながら巫女服を漁る関羽。
 幸いにも関羽の体躯に合う巫女服を見つけ、着る事ができた。
「………髪も括った方がいいか」
 鏡を見ながら髪の先端を藍色のリボンで括る。
 出来あがった自分の姿を映しながら苦笑い。
「…我ながらはまってるな…」
 ため息混じりに呟くと箒を片手に境内に出た。
「こうして見ると広いんだな…境内って」
 内心、挫けそうだったが黙々と箒掛けを始める。
 ある程度は趙雲がやってくれているとはいえ、その量は半端ではない。
「これを…趙雲は一人でやっていたのだな…」
 感心しながら箒を動かす。
 黙々とひたすら掃除を続けていたおかげか、1時間余りで8割辺りを消化できた。
「これは翼徳には絶対ムリだな…」
 張飛が1時間以上も単調な作業を続けたら壊れそうだな…と思いくすくすと吹き出す。
「後は…境内の裏か」
 足早に境内の裏手に回る。
 しかし、そこは既に趙雲が掃除した後のようで綺麗に箒掛けされていた。
「こっちは済みか…」
 関羽が境内の方へ戻ろうと踵を返した時だった。
「孟徳! あんまり走りまわるな!」
「分かってるって!」
 聞き覚えのある声にぎょっとする。
 思わず関羽は身を隠してしまった。
「……まさか」
 境内の陰からそーっと顔を覗かせて声の主を確認する。
「今日は巫女さんいないよー?」
「中で掃除してんだろ? 邪魔しちゃ悪いから用事だけ済ませたらさっさと行くよ。淵も下で待ってるんだからさ」
 そこにいたのは生徒会長こと曹操とその右腕、夏侯淳だった。
 関羽は再び隠れ直すと心を落ちつかせる。
「お参りか…? よりにもよってこんな時に…」
 間が悪いとはこのような事を言うのだろう。
 しかし、関羽の不運はまだ続く。
 もう一度様子を窺おうと顔を覗かせたところ…
「あ…」
「うっ」
 曹操と思いきり目が合ってしまった。
「関羽見っけ〜」
 とてとてと走りながら関羽の傍までやってくる曹操。
 関羽の姿を見るなり、はしゃぎまくる。
「わぁ♪ 綺麗だね、巫女服」
「か、会長…」
 はしゃぐ曹操に困惑する関羽。
 それ以上に、こんな姿を見られたという恥ずかしさがあった。
 曹操は更にとんでもない事を口にした。
「私も着たい」
「ち、ちょっ…それは…」
 言い出したら聞かないのが曹操。
 不可視のオーラが関羽を包みこむ。
 しかし、神はまだ関羽を見捨ててはいなかった。

107 名前:教授:2003/01/11(土) 00:04
「わ、悪いな…関羽」
 危機的状況の関羽の元に夏侯淳がやってきて曹操を担ぎ上げた。
「わーっ! まだ話があるのに〜!」
「だから、まだ用事があるって言っただろー! 行くよ!」
 夏侯淳に担ぎ上げられた曹操はじたばたと可愛い抵抗をしながらも、そのまま連れて行かれた。
 一瞬の出来事に呆然とする関羽。
「こ、これは…助かったのか…?」



 曹操達が去ってから3時間後。
 関羽は掃き集めた落ち葉で焚き火をしていた。
「はぁ…人心地着いた気分ね…」
 既に境内の雑巾掛けや窓拭きを終えている。
 のほほんと落ちついていると、境内の方から見慣れた人物が何人も姿を見せた。
「おーい、関さーん」
 劉備だ。
 両サイドと後ろに張飛、劉禅、簡擁が付いてきている。
「義姉者、こっちです」
 関羽が手を振りながら4人を呼ぶ。
「うわっ、関さん…何で巫女服着てるんや?」
「これには事情がありまして…そこっ! 写真撮影禁止!」
 簡擁からデジカメを没収する関羽。
「ちぇっ…折角いいもの撮れると思ったのに」
 不貞腐れる簡擁。
「関羽おねーちゃん…趙雲おねーちゃんは?」
 劉禅がきょろきょろと趙雲の姿を探す。
「子龍ですか? 今…熱があるみたいで部屋で休ませてます」
 その答えに泣きそうな表情を浮かべる。
「えー! 大変だよ、死んじゃうの?」
「アホ! 神社で不吉な事言うな! 簡擁、悪いけどこいつと一緒に子龍の様子を見に行ったって」
「御意」
 簡擁は劉禅の手を引きながら神社の中に入っていった。
 さながら、迷子を連れて歩くデパートの従業員のようだった。
 だが、この時は誰も気付いていなかった。
 簡擁の懐にもう一つデジカメが忍ばされていた事に…。
 二人を見送って劉備が関羽に向き直る。
「まあ、なんや。事情は分かった気がするわ…子龍のヤツ、風邪引いとったんやな?」
「ええ。熱があるのにも関わらず仕事をしてましたから…大事を取って休ませました。よって、彼女の仕事を私が引き継いでやっていたんです」
「うん、よう分かったわ。大変やったな、関さんも…お疲れさん」
 劉備の労いの言葉に嬉しさを隠し切れない関羽。
 ふと、さっきから喋らない張飛に気付く。
「翼徳、何で喋らないんだ?」
「………」
 張飛は関羽の問いに答えず、ただ左頬を押さえていた。
「あー、このアホな。虫歯にかかりよったんや」
 劉備が屈託なく笑いながら張飛の左頬を突つく。
「んーっ!」
 張飛は激しく抵抗。
「ほな、関さん。ウチはコイツ連れて歯医者行ってくるわ」
「そうですね、早く連れて行ってあげてください」
 関羽は二人を見送ると晴れ渡った青空を見上げた。
「こんな平和が続けば…。ふふっ…無いものねだりか」
 不敵に微笑むと箒を片手に社の中に姿を消して行った…。


おまけ

「趙雲おねーちゃん、大丈夫?」
「アトちゃんがお見舞いに来てくれたから、すっかりよくなりましたよ」
 微笑ましい光景。
「…………」
 趙雲に気付かれないようにデジカメを回し続ける簡擁。
「………(宴会の席で流そうかな♪)」
 邪だった。

108 名前:教授:2003/01/11(土) 00:07
あとがき

えーと、まずはごめんなさい。
関羽と簡擁の性格が微妙になってます。
全体的に見ても非常に拙いので…ホント、申し訳ないです。

109 名前:惟新:2003/01/13(月) 01:02
>(巫女服から猫柄のパジャマに着替えさせた)
こうしたさりげない萌えポイントが光ってます(^_^;)

…で、巫女さん関羽キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
うおぉぉインスピが! インスピが舞い降りてまいりやがりましたよ!
ロクなの描けないけど描きてぇっ! 描きたいけど当分暇がねぇっ!
こ、この溢れかえる欲情(え?)をどこにぶつけたらいいんだぁああ!!
……ぷしゅ〜


落ち着きました(^_^;)
前回に引き続き…いいじゃないですか〜!
欲を言えば最後にもうひとつ何か欲しかったですが…
でも! 存分に萌えさせていただきました!
熱っぽい趙雲タンと巫女関羽タン…
ぐあぁ…!!(再暴走

110 名前:アサハル:2003/01/13(月) 01:57
簡雍!グッジョブ!!(そっちかよ!!)

趙雲かわええ〜・・・
関羽姐さんもかっこええ・・・
巫女ブーム到来の予感。
そして惇姉に担ぎ上げられる(私この辺ネコみたいに
首根っこつかまれて持ち上げられている所を連想した)
曹操がまたかわええ・・・。

私も同じく存分に萌えさせて頂きました。ごちそうさまでした(・∀・)

111 名前:★ぐっこ:2003/01/13(月) 15:42
おなじくゴチです教授様!
(;´Д`)ハァハァ…いいなあ…もう…萌える…
簡雍もイイ感じだ(^_^;)

さて…はやいところガンパレ熱を沈静させて学三補強にかからねば…

112 名前:惟新:2003/01/13(月) 17:20
結局描いちまいやした…
http://members.jcom.home.ne.jp/holly-night/kannu.GIF target=_blank>http://members.jcom.home.ne.jp/holly-night/kannu.GIF
シチュは「写真を撮ろうとした簡雍を叱る関さん」
真っ白なのはCGに慣れたら彩色しようという小さな野望です(^_^;)

…良く考えたら玉川様やアサハル様におねだりした方が良かった罠。

113 名前:惟新:2003/01/13(月) 18:05
改めて読み直してみたら箒は持ってそうにないですねぇ…
デジカメを持たせるべきであったと反省。

114 名前:郭攸長若@凡ミス:2003/01/13(月) 23:24
■信念と迷い

黄巾事件は終わった。
だが、蒼天学園を取り巻く動乱は既に収拾不可能な所まで来ていた。
黄巾事件の収拾に貢献し、その名声を学園中に轟かせた少女・皇甫嵩。
終わりを知らぬかのように思えるその動乱に、彼女は一人思いを馳せていた。

コンコン。
部屋の戸が叩かれる音、気が付けば時間は夜の九時を回っていた。
「先輩・・・私、閻忠です。ちょっとお話宜しいですか?」
「閻忠か・・・あぁ、入れ」
不機嫌なようにも思えるぶっきらぼうな態度、彼女にとっては普通であった。
後輩である閻忠もそれを知っているからこそ、何も言わずに扉を開けた。
「失礼します・・・」
閻忠は靴を脱いで部屋に上がった。
どこか真剣な面持ちだがそれは彼女とて同じこと・・・いや、もしかして閻忠も同じようにこの動乱に思いを馳せていたのかもしれない、彼女はふとそんなことを思った。
「何か飲むか?」
「いえ、すぐお暇しますのでお構いなく・・・」
僅かな沈黙の末、閻忠が口を開いた。
「先輩、チャンスってとても貴重な物なんですよ」
唐突な話だった。
閻忠という少女は唐突に話を切り出す節がある。
だから彼女もそれを心得ていた。
だがそれにしても、今までにない唐突な切り出し方である。
困惑する彼女をよそに閻忠は言葉を続けた。
「この学園をリードしてきた人達は皆、チャンスを上手く掴んだからこそそれが出来たんです。どうして先輩は、こんなチャンスを前にしながらそれを掴もうとしないんですか?」
「どういうことだ・・・?」
閻忠のかつてない勢いに押されながらも、彼女は口を開いた。
閻忠は言葉を続けた。
「この学園をリードするのに地位なんて関係ありません。先輩のような功績を挙げられる人が、あんな生徒会長のような能無しの下にいるなんてあってはならないことです! 先輩の威光は生徒会中に広がり、学園の外にまで聞こえ渡っています。多くの生徒達が先輩に注目し、先輩の為に尽くそうといきり立っているんです。それなのにあんな会長の下にいて、どうやって無事に学園生活を終えることが出来るんですか!」
閻忠の声は、興奮で高ぶっていた。
「私は生徒会に付いて行くと決めた人間、その心を忘れることはない。なのに何故そんな事を言う・・・!」
彼女は高ぶる感情を抑えて言い返した。
それに対し、閻忠もまた言い返す。
「それは違います! 昔、韓信先生は劉邦先生から受けたもてなしを裏切ることができず、蒯通先輩の言葉を拒否して、旧蒼天学園の勢力を三分するチャンスをむざむざと見逃しました。今、生徒会の勢いは当時の劉邦先生や項羽先生より弱く、先輩の力は韓信先生よりもずっと強大です。ですから先輩が立ち上がれば風雲のような勢いを巻き起こすことができるんです。学園中をまとめ上げ、生徒会を掌握し、蒼天会を押しのけて先輩が学園トップの座に就くこと、これこそチャンスを生かす最高の決断です! 先輩のような聡明な人が事態を見極めず、チャンスに先手を打たなければ、必ず後悔することになるはずです。それではもう手遅れなんですよ!」
感情を抑えず、精一杯力説した閻忠は息を切らしていた。
「先輩・・・」
彼女の目は真剣であった。
しかし彼女は何も言わない、ただその真剣な眼差しを閻忠に向けているだけだった。
「し、失礼しました!」
居たたまれなくなった様子で、閻忠は部屋を出て行った。
そして閻忠が部屋を出て行った後・・・。
「私がそんなことをしたって、学園は変わらない・・・いや、変われないさ・・・」
彼女は一人呟いていた、自分に言い聞かせるようにして。

115 名前:郭攸長若@凡ミス:2003/01/13(月) 23:42
皆様がオリジナリティ溢れる文章を書いておられる中、一人原文まんまパクリ・・・皆様の「しょ〜とれんじすと〜り」とは別種の「せっていすと〜り〜」として受け入れていただければ幸いです。
学園の平和を誰よりも願う少女、一度決めた信念は何が何でも貫き通す少女、それが私の抱く(学三での)皇甫嵩のイメージです。
一方の閻忠、実際には皇帝を批判しているはずなのですが「学三」における「蒼天会長」には実権がないので何進批判をして頂きました。
偉大なる先輩・皇甫嵩を尊敬してやまない少女、それが閻忠のイメージなんですが・・・ぶっちゃけた話、榊さんを慕うかおりんが頭に出て来てたり(爆)

で、最後に韓信についての語りなのですが・・・。
またも勝手な設定です。
私の中の設定では「蒼天学園」は昔「前漢市」にあり、劉邦先生や項羽先生は学生時代をそこで過ごしたということになっています。
つまり、劉邦・項羽・韓信・張良etc・・・は皆、蒼天学園の卒業生ということです。
この内容はここに書くことではないかもしれませんが、いかがなものでしょうか?

116 名前:教授:2003/01/14(火) 00:10
郭攸長若様>

うひゃあ…整った文体、読ませる内容…感服です…。
皇甫嵩&閻忠とは…考えもしなかった。
閻忠たんが熱い…達観した皇甫嵩たんもかっこいいです〜。
劉邦や項羽…あんまし大きな事言える身分でもないですが、その設定はかなりイケてると思います。

117 名前:教授:2003/01/14(火) 00:11
レス書き忘れ、誠に申し訳ないです。

維新様>

う、巫女関羽たん…ハァハァ。
いかん…暴走しそうだ…。
愛が感じられます、萌え〜…。

118 名前:★ぐっこ:2003/01/14(火) 23:41
皇甫嵩たんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
一時期は朱儁を凌ぎ董卓をも圧倒し、天下に最も近かった英傑!
従姉の皇甫規をも上回る声望にめぐまれ、「蒼天会長に」と
熱狂的に支持する生徒達もいたとか。

ちなみに演義での彼女は、格技研所長。バリバリの武断派であります。
イメージぴったり!

119 名前:惟新:2003/01/14(火) 23:54
ぶっきらぼうなしゃべり方萌え〜!!!
……
ハッ! いかんいかん…
え〜徳高き名将、皇甫嵩タンのご登場です!
この方には「内に秘めたる思い」があるように感じています。
彼女は何を思っていたのか…それを語るは大変意味があるかと!
…もしかすると私が皇甫嵩を掴みきれてないだけなのかもしれませんが(^_^;)

そんでもって閻忠タン! 賈[言羽]を見出したのも彼女でしたっけ。
王国が皇甫嵩に敗れた後、代わりに担がれたのが閻忠タンというのは、運命の皮肉を感じますねぇ…

>教授様
感想どうもです〜!
実は、司馬遷先生を描くまで自分がイラスト描けたことをすっかり忘れてました(^_^;)
思い返してみると半年くらい絵を描いてなかったんですよね。
「絵を描くってこんなに楽しかったんだよなぁ…」とか「そういや俺の絵柄ってこんな感じだったなぁ」とか、
思い出し思い出し描いています。
…せっかく思い出したのにこれから学業が修羅場に突入し、また忘れてしまいそうな罠。

120 名前:教授:2003/01/17(金) 22:54
■■宴会 −その後−■■


 日曜日の朝。
 けたたましく目覚し時計が部屋に鳴り響く。
「う…うん…」
 二段ベッドの上側で寝ていた少女は音の発生している方に手を伸ばす。
 何度か空やあらぬ所を掴みながらも、ようやく目的の物を掴む。
「…七時前…」
 寝ぼけ眼の法正は横になったまま顔をしかめて呆けていた。
「折角の日曜日なのに…何で目覚ましをセットしちゃったんだろ…」
 ゆっくりと上体を起こす。
 頭を鈍器で殴られたような、シェイクされたような重い痛みが走った。
「いたた…」
 額を手で押さえる。
 …と、視界の先に見知った人物がいた。
 その人物は玄関のドア辺りで、不思議な寝相でいびきをかいていた。
「…張飛さん?」
 何故、ここに張飛がいるのだろう…。
 法正は必死に記憶を整理しようと試みるが、ある時間からぽっかりと記憶に欠落が生じていた。
 そればかりか、考えれば考えるほど頭痛がひどくなる。
「だめ…思い出せない…」
 気分が悪くなりそうなので、思い出す事をやめる法正。
 大きく深呼吸をして気持ちを落ちつける。
 幾分か冷静さを取り戻すと、二段ベッドから降りた。
「あれ…? 私…こんな服着て寝てたの…?」
 自分の着ている服に戸惑いを隠せない様子。
 下着を除いて、ぶかぶかのYシャツ(男物)のみ。
 世の男性諸君には、このスタイルの良さが理解できると思われる。
「なんで…?」
 頭の中をハテナマークが支配している。
 最早、冷静な思考は限りなく不可能になってきていた。
「と、とにかく…カーテン開けて…」
 照明を点けていない薄暗い部屋に採光する為、カーテンを開く。
 眩い日の光が法正の目に飛び込んでくる。
 今日も快晴のようだ。
 取りあえず、着替える為に振り返る。
「う…こ、これは…」
 その光景に思わずたじろぐ法正。
 二段ベッドの下の部分、ここに簡擁、劉備。
 キッチンには魏延、馬超、馬岱。
 クローゼットを開ければ、中から趙雲と劉禅が出てきた。
 いびきをかいて爆睡してる者から憔悴しきって青白い顔の者まで幅広く法正の部屋を埋め尽くしていたのだ。
 おまけにそこら中に酒の瓶やカン。お菓子の袋、食事の無残な残りカスが散乱している。
 さながら戦場の死体置き場のような凄惨さだった。
「いつから…いつから私の部屋がサバトになったのよーっ!」
 収集の付きそうもない自分の部屋を前に叫ぶしかない法正であった…。

121 名前:教授:2003/01/17(金) 22:55
「…で、誰か憶えてるヤツ…おるか?」
 劉備は部屋の片付けをしながら、同じく片付けをしている周りの人間に尋ねる。
「さっぱりだな」
「全然」
「思い出せないです…」
 これだけいるのに張飛、簡擁、趙雲の3人しか返事をしない。
 他は青い顔をしながら部屋の隅で首を横に振っていた。
「うう…何で私が…」
 法正は既に半べそで掃除をしている。
 服は着替え済みでジャージ姿になっていた。
「しゃーないやろ…動けるのはこんだけなんやし」
 劉備がゴミを分別しながら法正を宥める。
「昨日、アレだったろ? 漢中アスレチック戦の祝勝会。アレの打ち上げで呑んでたじゃん」
 珍しく張飛が核心に迫る発言をした。
「でも…何で私の部屋にいるんですか…」
 酒瓶を両手一杯に抱えて恨みがましい目で張飛を見る法正。
 その時、簡擁が一本のビデオテープを劉備に差し出す。
「…これは?」
「多分、撮れてるはずだから…」
「でかした! これで全ての謎が解けるわ!」
 ビデオテープを片手に狂気乱舞する劉備。
「見たいような…見たくないような…」
 法正は複雑な気分だった。
 その後、一通り後片付けと掃除が済んだのは昼前だった。
 その間に、グロッキーだった者が次々と復活。
 劉禅を残して全員が回復していた。
「ほな…始めるで〜」
 劉備はデッキにビデオを投入すると巻き戻しを開始する。
 無機質な音がやけに心に残る時間だ。
「正直…見たくないような…」
 魏延の呟きに何人かが頷く。
「謎を解く為や。多少の恥は我慢したってーな」
 御気楽気分の劉備が再生ボタンを押した…。

122 名前:教授:2003/01/17(金) 23:01
『おっしゃー! デキあがってきた所で二次会やーっ!』 
『どこでやるんだよー!』
 一升瓶を空けた劉備と張飛が異常なテンションで宴会場を闊歩している。
『………』
 グラスを傾けながらぶつぶつ言ってる魏延。
 かなり不気味。
『孟起〜! お高くとまってんじゃねぇぞ〜!』
『ああー…ご無体な〜…』
 酔った馬岱が同じく酔った馬超にジャイアントスイングをかましている。
『アトさん…私…体が熱いです…』
『趙雲おねーちゃ〜…ん〜…私もぉ…』
 抱き合いながら桃色の空気を出している趙雲と劉禅。
 それを遠くでほくそえみながら黄忠と厳顔、そして孫乾が見ている。
 テレビ画面越しにも止めるつもりが全くないのが伝わってくる。
 他の部員は既に撤収済みなのだろう、姿が見えない。
 と、カメラのファインダーの隅に窓から逃走を図ろうとする法正の姿が映った。
『法正が逃げる! 誰か捕まえろ!』
 簡擁の声だ。
 その声と同時に張飛が動く。
『ど〜こに…いくんだぁ!』
『ひゃあっ!』
 身を乗り出して逃げようとした法正の首根っこを張飛の手が掴んだ。
『逃げられると思っとんのか? 宴会はこれからやで!』
 劉備の前に引き出された法正。
 彼女の魔手が法正の服に伸びた。
 いやいやと首を振っているが張飛に羽交い締めにされて逃げ出せない。
『お、いい画像が撮れる!』
 一際高い声の簡擁、興奮しているようだ。
 今、正に法正のおへそが露わになりかけた…その時だった。
『年増って…年増って言うなーっ!』
『誰がおばさんだーっ! ふざけんなーっ!』
 絶叫のハモり。
 もうそれ以外に例えようのない叫びが宴会場に轟く。
 劉備も張飛も…宴会場にいた全員が絶叫の轟くポイントに目をやる。
 そこには黄忠と厳顔が一升瓶を片手にふらふらと立ち上がる姿があった。
 二人とも目が座り、野獣のような唸り声を上げている。
『か、漢升はん…?』
 劉備の声が震えている。
 どうやら酔いが醒めてしまったようだ。
 それは周りの全員にも言える事だった。
『あん…? 誰がトリプルババアだってぇ…!』
『い、言ってへん! そんなの言ってへん!』
『一度痛い目に遭わさないと…ね』
 劉備の抗議に黄忠と厳顔がのそりのそりと動き出す。
 いつもは制止役の厳顔まで酔ってキレているのだから手に負えない。
『や、やばい…。ここは撤退や!』
『ど、どこに!』
『こっから一番近いのは…法正の部屋や!』
 その言葉に弾かれたように我先にと宴会場から出て行く。
 ある者は出入り口から、ある者は窓から…。
 それをビデオに収めている簡擁は天晴だった。
『待てやぁ!』
『ひぃ〜!』
 酒で動きが緩慢になっている黄忠&厳顔。
 ふらふらとした動きで迫ってくる二人は、まるでゾンビ。
『…捕まえた』
『わ、私は何も喋ってません〜!』
 逃げ遅れた孫乾が二人に捕まった事を確認すると簡擁も逃げ出した。
 テレビの中から孫乾の断末魔が響いた…。

123 名前:教授:2003/01/17(金) 23:01
「……………」
 全員が悄然としながら砂嵐を見つめていた。
 自分の酔った時の姿を初めて目の当たりにするとこんな感じになってしまうのだろう。
 御気楽気分で再生ボタンを押した劉備は青ざめていた。
 全身天然ボケの劉禅ですら口をぱくぱくさせている。
 言葉を失った重苦しい空気が流れた。
「つ、つまりは…避難場所にこの部屋が選ばれて…ここでそのまま二次会が勃発したって事か…」
 逸早く立ち直った張飛が乾いた笑みを浮かべて状況を整理する。
 それよりも孫乾の安否を全員が気にしていた。
「わ、私…帰るよ…」
 馬超は馬岱にヘッドロックを掛けながらそそくさと部屋から出て行く。
「う、ウチらも帰るわ…」
 続いて劉備、劉禅、張飛、簡擁が逃げるようにその場を立ち去った。
「あ、部長! お供します!」
 魏延も遅れて出て行く。
 風のように去っていった狼藉者達。
 二次会の現場に残ったのは部屋の主、法正と趙雲の二人だけ。
 趙雲はデッキからビデオを抜き取ると、法正に向き直る。
「このテープ…捨てましょう…」
「そだね…」
 赤い顔の趙雲と法正がビデオテープをゴミ袋に放りこむ。
 普段見る事がない趙雲と法正の姿態。
 流石に後世に残したくはないようだ。
「所で…誰が私にあんなの着せたのかな…」
 法正は首を傾げる。
「それよりも…何で私とアトさんがクローゼットの中に…」
 趙雲も首を傾げた。
 自分の身に起こった不思議。
 二人はそれ以上にある事に気が向いている。
 そして、二人の声が重なった。

『孫乾さんが気になる…』


            −謎を残しておしまい♪−

124 名前:教授:2003/01/17(金) 23:06
あとがき

またしても変なモノを投稿してしまいました。
いい加減、怒られそうですね(汗)
こちらの作品はアサハルさんのサイトにあります、『女達の宴会』のその後みたいな…感じです。
大分、キャラが壊れてます。勘弁してください…。

125 名前:★ぐっこ:2003/01/18(土) 00:36
うわははっはは!
教授様っ、もう最高!
何か楽しそう! いいなあこういうの!
クローゼットの中から発掘される趙雲たんと阿斗たん!
そして年増コンビの凄絶な迫力!

一人割を食う法正たん! 案外要領悪いのね…(;^_^A
問題は公祐たんだが。

126 名前:アサハル:2003/01/18(土) 01:05
やー萌えすぎてえらいことになりました・・・
詳しくは当方の学三屋台にて。
(流石に直リンで貼り付ける勇気はないですハイ)
しかしえーもん読ませて頂きました。
これでまた1週間頑張れます(*・∀・)=3

簡雍たんは相変わらずグッジョブですけども
助けろよアンタ!!孫乾たんを!!(w

127 名前:教授:2003/01/18(土) 01:24
おまけ ■■その後のその後■■


 簡擁は部屋に戻ると、懐から一本のビデオテープを取り出した。
「これだけは流石に一般公開できないからね〜」
 そう呟くと手早くテープをビデオデッキに挿入する。
 巻戻しをする間に冷蔵庫からカップ酒を取り出す。
 そして…再生ボタンを押した。

法『くぅ…』
簡『お、法正が無防備で寝てるじゃん。部長〜、これを法正に着せてよ』
劉『何? …面白そうなもん持ってるやん。貸してみ』
法『うーん…(何かされてるのは分かるが混濁状態)』
劉『酔いつぶれとるから、楽に着替えさせられるわ』
趙『アトさん…(見つめてる)』
禅『おねーちゃん…(とろんとしてる)』
飛『女同士でいい雰囲気出すんなら、ここ入ってろ!(クローゼットに押し込む)』
禅『狭いよ〜…(←案外素面くさい)』
趙『私が一緒です…だから安心♪(←酔ってる)』
超『くー…(馬岱に抱きついてる)』
岱『すぅ…(馬超に抱きついてる)』
魏『こいつら…何抱き合って寝てんだ…?(酔いが醒めかけてる)』
飛『お前も寝なっ(酒瓶で後頭部を不意打ち)』
魏『くは…(昏倒して倒れこむ)』
飛『…眠たい(一人で大暴れして勝手に玄関で横になる)』
劉『ここ空いてるやん。ウチはここで寝よっ(この際、中身の入った缶や料理の乗った皿をぶちまける)』

「…見せられんよな…帰宅部崩壊につながるわ、コレ」
 真面目にそんな事を言う簡擁は、このテープを肴に暫く愉しんだそうな。

128 名前:惟新:2003/01/18(土) 12:39
>教授様
グゥッジョォブ!!! これは萌える!
今週はイロイロありすぎて気持ちがドロドロでしたが、おかげさまで全部吹き飛びましたよ〜
いや〜簡雍にはぜひ殊勲賞をあげたいですな〜
てか、その後のその後でも語られなかった孫乾タンの運命はいかに(^_^;)

>アサハル様
キタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(゚∀゚)ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
いかん…ハァハァしすぎて死ぬ…
まだ見てないヤツは今すぐ巡礼し、必ず見ておかれよ!
「隠しがみつかんねぇ」とかって弱音を吐くな! 探せば見つかるっつーか全然隠れてないぞ!

129 名前:アサハル:2003/01/18(土) 20:41
つまり諸悪の根元は全て簡雍と張飛にあり、と・・・
もしや帰宅部最強(最凶)は関羽でも張飛でもなく、
ある意味実は簡雍なんじゃなかろうかと思う今日この頃。

何故か抱き合って寝てる馬ズに萌え〜・・・(*´Д`)

130 名前:アサハル:2003/01/18(土) 20:50
連投スマソです。

>惟新様
やっぱ隠れてないですね(・∀・;
でもああしたのは一応良心ということで・・・

131 名前:★ぐっこ:2003/01/19(日) 00:34
おまえらッ! 今日この日を学三の祭日に指定してアサハル様の義侠心と
萌え心を末永く称える事にするぞッ!
というわけで、1月18日は学三歴内でも「旭記念日」で休日。なぜか
色っぽいイベントがやたら起こるイベント特異日。

というわけで…(;´Д`)ハァハァ…もお――ッ!
法正たんお持ち帰りしてよろしいか。わたくし久々にときめいちゃったよ…

>教授様
なるほど! そう言ういきさつが(;^_^A
簡雍め、案外なキーパーソンと見える…磊落で関羽も孔明も屁とも思ってない
洒脱人だからこそ、こういう役回りが似合うというモノ。
あー、何か今年は萌え年だなあ…

132 名前:教授:2003/01/19(日) 01:29
反響がよくて嬉しい限りです。もー…恐縮。
アサハル様の法正タンと簡擁タンに萌えながら、宴会シリーズ最後のおまけ〜!

おまけ2 ■■ 〜後始末〜 ■■

「うーん…」
 夜も半ばを過ぎて、痛む頭を押さえながら厳顔が上体を起こす。
 横には一升瓶を抱えて眠る黄忠がいた。
 何故か体操服姿なのが妙に気になる。
「酔いつぶれて寝てしまったか…それにしても…」
 自分の姿を見ながら苦笑い。
 Tシャツに単パン、しかも酒をかぶったのだろう濡れている。
 微妙に透けているのが重要事項なのだが、これについては敢えて触れない。
 ちらりと顔を上げてみると、ぐったりしている物体が見えた。
「あれは…孫乾…か?」
 痛む頭を推して孫乾の様子を見に行く。
 頭に殴られたような痕と、背中を踏まれたのだろう足跡。
 更には酒浸しになっており、全身ずぶ濡れだった。
「これは…一体…」
 さっぱり状況が掴めない厳顔。
 不意に視線を感じ、向き直る。
「………」
 宴会場の出入り口に不自然なファインダー。
 思わず閉口して見つめてしまう。
 と、ファインダーが引っ込む。
「だ、誰!?」
 我に返った厳顔が追いかけるが、時既に遅し。
 撮影を敢行していた人物はもう影も形もなかった。
「くそっ! 逃げられたか!」
 悔しそうに地団太を踏む。
 一頻り悔しがると、思い出したかのように宴会場に飛びこむ。
「孫乾忘れてた! 大丈夫か!」
 ちなみに厳顔は自分でやった事に全く気付いていない…。


「へへー…いいもん撮れた撮れた♪」
 簡擁はほくほく顔で法正の部屋に向かう。
 全員が寝静まった事を確認してから撮影に向かったのだ。
 そして何食わぬ顔で部屋に入ると、そのまま床に就いた…。


 余談だが、孫乾は暫くの間黄忠と厳顔に怯えていた。
 当人達は何故怯えられるのか分からず、困っていた。
 事情を知る者達も頑なに口を閉ざしていた。
 真実を知る簡擁はしれっとしていた…。

133 名前:★ぐっこ:2003/01/19(日) 20:54
(;´Д`)…。
孫乾たんカワイソウ…ていうか厳顔も黄忠も覚えてないのね…
それにしても簡雍は要領がいいというか抜け目がないと言うか。
しかしお嬢ちゃんの麋竺が、三羽ガラスの中では一番要領いいのかも。

134 名前:アサハル:2003/01/19(日) 22:22
す、すげえ・・・最凶のジャーナリストだ簡雍・・・
それでも憎まれないんだからすごいキャラだ。
下手したら本当に帰宅部崩壊しかねないのに(;゚∀゚)
ていうか生きててよかった、孫乾たん・・・

>ぐっこ様
お持ち帰り上等ッス!
ってゆかこれは1月18日には何か色気な絵を描けと暗に命じて
いらっしゃるのですね?ええい臨むところよー!!(待て)
むしろ絵しか描けませんから(苦笑)、こういうところで
貢献させて頂ければ至福であります!!

135 名前:郭攸長若:2003/01/19(日) 22:56
 ■また一つの勇気■
「以上で報告を終わります・・・」
「は〜い、下がっていいわよ〜♪ じゃあ次の人〜?」
董卓によって、新たに雍州校区に設置された生徒会室。
彼女はこの場所で、学園に関するあらゆる事柄を報告させるようにしていた。
報告を行うのは、生徒会役員だけに限ったことではない。
本来は董卓の傘下ではない蒼天承認委員会や全校評議会も、何かあれば真っ先に董卓へ報告することになっていた。
この時、それほどまでに董卓の権力は強大化していたのである。

「失礼します」
生徒会室の扉がノックされ、また次の報告を行う女生徒が入ってきた。
「あっら〜、義真ちゃんじゃな〜い!?」
子悪魔・・・いや、ある種悪魔のような、人を見下した笑みを浮かべて、董卓は女生徒を字で呼んだ。
彼女の名は皇甫嵩義真、黄巾事件の殊勲者であり、董卓とは幼い頃からのライバル関係にある。
そんな彼女でさえも、董卓の権力がここまで強大化した現在では、その傘下に加わらざるをえなかった。
いや、最早学園の組織内で、董卓の権力の届かぬ所など存在しないのだが・・・。
「久しぶりだな、『会長』?」
学園の誰もが恐れる存在である董卓を前にしてなお、皇甫嵩の表情には余裕さえ感じられた。
そして董卓にはそれが、大変不愉快なことだったらしい。
「ふふっ、義真ちゃんはこの卓ちゃんが怖くないのかしら? お星様は卓ちゃんの望みなら、何だって叶えてくれちゃうのよ♪」
そう言う董卓の顔から笑みは消えていた。
代わりに、えもいわれぬ不気味な威圧感が皇甫嵩に向けられている。
そんな董卓の感情の変化を感じながら、皇甫嵩は答えた。
「会長は全校生徒の信頼を受け、生徒会を一手に支えておられるのです。そんな会長の何を怖がる事がありましょう」
凛とした表情を一切崩すことなく、へりくだった態度を見せる皇甫嵩。
これにはさすがの董卓も驚かずにはいられなかった。
そんな董卓をよそに、皇甫嵩は続けた。
「ただもし・・・会長が校則を乱用して権力を振り回すような事があれば、全校生徒は皆怯えることになるでしょう。そうなったら、怯えるのは私一人に限ったことではありません」
皇甫嵩は董卓のもとに歩み寄ると、机の上に報告書を置いた。
「報告書、確かにお渡ししました」
そう告げて皇甫嵩は会長室を去ろうとした。
そして彼女がドアに手を掛けた瞬間、呆然と沈黙していた董卓が口を開いた。
「待って、義真ちゃん!!!」
董卓は焦った様子で皇甫嵩のもとに近づき、彼女の手を取って言った。
「今日は〜・・・卓ちゃん、義真ちゃんに負けちゃったみたい♪」
そう言う董卓の顔には心からの笑みが、そして皇甫嵩の顔にも笑みが浮かんでいた。

だがこの時の皇甫嵩の心中、それを知る者は彼女自身しかいなかった・・・。

136 名前:郭攸長若:2003/01/19(日) 23:23
またも「せっていすと〜り〜」です。
もうちっと早く書き終えるつもりだったんですが書き出しやらなんやらで意外と時間かかりました。
学園設定の方に脱線してたりするし・・・(爆)

まずは今回のお話を書くに辺り、学三正史よりjapan様の「連環の計」及びアサハル様の設定画を参考にさせて頂きました。
japan様の「連環の計」は董卓像を書く上で大変参考になりました。
というより、台詞一部パクってます(爆)
アサハル様の設定画には、私、PCの前で拝礼を行いました(マテ
私の文章なんぞに萌えて下さったことをまことに嬉しく思いまする。

そして今更ながら、前回の拙文に対し私の身にあまる賛美を下さった皆様に感謝m(__)m
そろそろ「せっていすと〜り〜」は止めて普通に投稿させて頂こうかしらw

また遅ればせながらレスを・・・。
>教授様
激しくワラタ箇所が多すぎて挙げ切れませぬ!
とりあえず最初に笑わせて頂いたのは、「クローゼットを開ければ中から趙雲と劉禅が出てきた」です^^
>アサハル様
簡雍たん・・・萌えすぎて吹きました(笑)
法正たん・・・萌えすぎて泣きました(爆)
いや、美味しいもの食べて泣く事はよくあるんですがさすがにこれは初めての経験ですw

137 名前:岡本:2003/01/20(月) 02:50
郭攸長若様への支援砲撃のつもりでしたが、誤射してしまったかもしれません。
ご一読ください。

■中天の星々(1)■
蒼天学園暦 29年度 3月
何進の失脚、菫卓の騒乱、旧菫卓四天王の乱入等、蒼天学園蒼天会および生徒会は度重なる政変で権威を失墜、学園の総括は不可能となり、中華市は群雄割拠の様を示していた。それでも残された生徒会の役員たちは、旧菫卓四天王の支配下で蒼天会の位置する長安棟周辺の安寧を求めて苦慮し続けていた。

ばたばたばたばた、バンッ。
暫定生徒会会長として、執務に当たっている皇甫嵩の部屋の扉が勢いよく開かれた。
「何事だ、騒々しい。」
内心、いつ来るかと時間を読んでいたところであった。10名ほど、執行部の腕章をつけた生徒達が飛び込んでくるや入り口付近を固める。と、入り口の両側に列をつくり、巫女装束に身を固めた女生徒がその間をしずしずと通って皇甫嵩の目の前に現れた。李傕だ。
一礼して口を開く。
「会長、凶事が生じたのでございます。」
オカルトに凝っている李傕は、適当な自然現象に託けていろいろ生徒会や蒼天会に無理難題を言ってきている。今回もその例にもれまい。だが、護衛が多すぎる。
「なるほど。で、その凶事とは?」
取り敢えず聞くだけは聞いてみようと皇甫嵩は呼び水を向ける。
「昨晩深更、長安棟を掠めて隕石が落下したのです。これは地の不安定を早急に正せ、という天の催促の相違ありません。」
「それではその不安定を正せばよいということになるわね」
得たり、と李傕の顔が緩むのが分かった。
「この長安棟にて不安定なもの、それは私めの如き非才には思いもよりませぬ。」
オーバーアクションでよよ、と片袖で顔を覆ってみせる。
「ただ1つ、選挙で正式に定まることなく暫定の生徒会長をおいたことを除いては。」
落としどころはやはりそこか。
旧菫卓四天王たちは生徒会を少しでも早く牛耳りたかったのだが、生徒会を担うには彼女らでは何れも貫目にかける。また、利害関係でいがみ合う以上誰を頭にしても角が立つ。ましてや反菫卓勢力を総じて敵に廻すわけにも行かないので(いまさらという気もするが)生徒会会長を彼女らのうちから立てるわけには行かない。そこで皇甫嵩に白羽の矢が立った。涼州校区の名門である皇甫嵩は、劉宏が蒼天会会長であった時から各地での騒乱鎮圧に功をなし、対菫卓の最有力対抗馬と見做されていたものの、生徒会に対する反抗の意志は露ほども見せたことが無かった。彼女を暫定として生徒会会長に立てることは対外への宣伝効果にはもってこいだった。
が、長安棟近辺の不満をそれなりに抑え、基盤が固まり始めると形式とはいえ自分たちの上の存在は厄介になる。馬騰・韓遂の連合軍を撃退したこともあり最早、近隣に恐れるべき強敵はいない。四天王内の勢力争いに本格的に入る前に、お飾りの厄介者は降ろしておきたいのだろう。自ら暫定生徒会会長に建てた立場上、武力闘争で座を追うのは外聞が悪い。都合のいい口実が欲しかったのだ。前暫定生徒会会長の王允を蒼天会本部に押しかけて身柄を確保した上階級章の強制剥奪に及んだ以上、評判は地に落ちているにもかかわらず何とかなると考えているあたりが猿知恵だ。
しかし、隕石が降ったからとは...。もっとましな口実は無かったのか。
「先輩の卒業も間近です。私めは、先輩にも蒼天会にも良かれと思い愚考した次第。これまで生徒会を守って来られた先輩が晩節を汚す可能性を看過するわけには参りません。ここは、会長職を引退された上、恙無く卒業されることが望ましいかと。」
仰々しく巫女衣装の袖を合わせて一礼するが、抜け目のなさそうな視線が上目使いに向いている。ややこしいことになれば後ろに控えている体育科学生へいつでも合図を送る気である。常設執行官の最高位である車騎主将を務めた身だ。当然の対策だろう。
・・・猿芝居に付き合うのもこれまでだな・・・。
「了承した。」
「はっ?」
あっさり、承諾の返事が返ってきたことに拍子抜けしたのか目を丸くする。
「そもそも、暫定ということで着いていたのだ。元に戻るだけだろう。委任状はここにある。持っていくがいい。」
階級章自体には権力は付随しない。生徒会会長という地位から追ってしまえばもう恐れることは無いのだ。後1週間もしないで今年度の卒業式が行われる。皇甫嵩は来年度から大学部で学ぶよう手続きを済ませていたため、ほおって置けば今年度末に自動的にデータ・ベース上で課外活動終了の処理がなされる。階級章を奪うまでも無い。誰も、皇甫嵩の止めを刺したとして、これ以上学園生の反発を買いたくない。李傕の用件はすんだのだ。
「いや、学園を正すことに第一義をおかれる。まさに“成徳の名将”でございますね。
卒業式におきましては僭越ながら私めが、先輩の階級章をお受け取りいたします。」
愛想よく、それではごきげんよろしゅうと仰々しく一礼した上で退室する。

皇甫嵩は“聖徳の名将”と評されていたが、それは買いかぶりと思っていた。中華学園都市の中央、司州校区に鎮座する蒼天会とその実務機関たる生徒会。そこを自分の居場所と見定めていた。生徒会執行部“十常侍”の暗躍で沈没寸前とは言え沈む船から逃げられるねずみではない。いわば、船と身を共にする犬、生徒会の定める蒼天学園の安寧を妨げる外敵を狩る猟犬だ。
自らの立つ大地を支える柱が根腐れを起こしているからといって、切り倒すことはできなかった。大地を支える巨人アトラスにはなれない以上、切り倒すことは自らの破滅を意味するからだ。巨人以外にも大地を支えることができるものはいる。ギリシャ神話にてアトラスと1日代わって大地を支えた英雄・ヘラクレス。だが、生徒会の猟犬に過ぎない自分は巨人にも、英雄にもなれない。

黄巾事件の鎮圧の最中、卓抜な活躍を示した一人の騎隊長がこんなことを言っていた。
『蒼天学園を導くということは、生徒会会長にとってかわること、ましてや蒼天会会長にとってかわることとイコールじゃありません。中華市全学生の学園生活を支える生徒会を”創りあげる“ことです。』
『それは生徒会を作り変えるということなのか?』
『場合によっては。既存の統治形態に取って代わるだけで学園を導けると考えているこの争乱は失敗以外ありえません。』
漠然と感じてはいたが言葉にするほどには考えが及ばなかったことをあっさり言ってのけたこの後輩に恐れに似た感情を覚えた記憶がある。彼女が“治世の能臣、乱世の姦雄”と評された人物と聞いて頷いたものだった。

138 名前:岡本:2003/01/20(月) 02:54
■中天の星々(2)■

皇甫嵩こそが英雄と断じ、生徒会に成り代わって学園を導くようと進言した娘がいた。彼女・閻忠も、自分なりに蒼天学園の行く末を案じた上の進言だった。学園内で声望高い皇甫嵩が生徒会会長ひいては蒼天会会長に立てば学園に平安を取り戻すことができると信じていたのだ。が、皇甫嵩は、自らが立つ気が無かったことに加えて、仮にたったとしても生徒会を創りかえる方向性が把握できない以上蒼天学園を支え平安を取り戻すことはできないという気がしていたため、閻忠の進言を入れなかった。結局、閻忠は皇甫嵩自身によって追われた王国に首魁として担ぎ出されたが、自らの理想と現実のギャップに耐え切れず自己返済するに及んだ。

実際、専ら己の欲望に引きずられていたとは言うものの現生徒会へ不信感をいだき、学園のトップに立つことが学園を導くことだと考えていたものは多くいた。
涼州校区にて反旗を翻した王国、
徐州校区下邳棟で新蒼天会会長を自称した闕宣、
そして最たるは菫卓。
各騒乱の鎮圧では様々な不手際を示し、常に皇甫嵩の風下にいた菫卓は、生徒会会長就任後、彼女を呼び出した。
『うふ〜。卓ちゃんの方が凄いって義真ちゃんにも分かったでしょ〜。』
『あなたがここまでくるとは正直思いもよらなかったわ。』
『卓ちゃんは前から凄かったのよぉ〜。義真ちゃんが知らなかっただけだよぉ。』
『昔は、2人とも虎だったが、今あなたが獅子になったということよ。』
半分は本心だった。自ら餌をとる虎に対して、ライオンのオスはハイエナや他の群れのライオンを追い払うが自らは餌をとらない。菫卓は、諸悪の根源であった生徒会執行部員“十常侍”の残余を駆逐し、王允等著名な生徒を役員として抜擢、生徒会の運営を自分の恣意に反しない範囲で活動させた。自分には“十常侍”を処断する決心は付かなかったし蒼天会や生徒会役員を利用しようという考えも起こらなかった。結局菫卓は、生徒会に寄生することで残された余力を食いつぶした。
そしてその獅子、いや餓狼の食べカスを4頭のハイエナが争っている。自分が奪おうとしている舞台は、最早自力で立つこともできない状況にあることを理解しようとしていない。自分が舞う機会を作ってくれた舞台が倒れるのを見るに偲びないという理由で、倒壊確実の柱を支え続けている皇甫嵩も、蒼天会や生徒会の幻想から逃れられない点では彼女らとかわりない。

生徒会会長辞任に付属する様々な事務手続きを済ませていると、朱儁や楊彪が押しかけてきた。李傕の暴挙に悲憤慷慨する彼女らに皇甫嵩は心に期していたことを告げる。
「幕を下ろすべきときがきたのよ。もとより地位に執着していたわけじゃなく、蒼天学園の安寧を願い戦ってきた。その点では人後に落ちるつもりはない。李カクの如き小人に最後までいいようにされる気はないわ。連中の暴挙を認めたわけではないことをこの身で
示す。」
「義真、まさか…。」
皇甫嵩と共に幾多の騒乱を潜り抜けてきた朱儁には彼女の思案が読み取れた。
「あなた一人だけ逝かせる訳に行かないでしょう!私も...。」
「駄目よ。」
ピシャリと朱儁の口を封ずる。
「一人なら、あの連中も意味を深くは考えないでしょう。」
「だからといって、黙って耐えられるか...。」
「ここで全員が軽挙妄動して、劉協会長にご迷惑をかけるわけにはいかないのよ。」
彼女らをなだめているうちに時間が流れ、学生寮についたのは夜遅くになってしまった。
休むことなく机に向かうと封筒を取り出し、宛先をしたためる。
中華研究学園都市 蒼天学園事務部学生課 御中
便箋を一葉抜き、ペンを走らせる。修辞とは縁のない用件は一行で事足りた。
− 一身上の理由により、課外活動の終了を申請いたします。−
胸の階級章を取り、折った便箋と共に封筒へ収め、口を閉じる。
上着を羽織って、封筒片手に外へでる。今夜は冷え込みそうだ。

寮の外は春先で寒かった。加えて深夜ということもあり、明かりのついている寮も少なくしんと静まり返っている。
カタン、パサッ
ポストに投函するだけの作業だ。だが静寂の中、封筒の落ちる音は想像以上に耳に響いた。
ふと、頬に眦から毀れた温かいものが伝うのを感じる。
「未練など、とうに振り切ったものと思っていたが…。」
ピッと、頬に伝う液体を指でぬぐい上を向く。満天の星空だ。13校区の上に輝く1つ1つの星は、混乱期の今まさに勢力拡大を推し進める各地の群雄のようだ。その中には、将来の生徒会を担うものと嘱望されたものの、何進政権崩壊後の菫卓の横暴から現生徒会での立身を断念し、菫卓に抗った者たちがいる。彼女らは自分と違い、蒼天会の伝統という呪縛に過度に捕らわれてはいない。忘恩の徒と評されようと彼女らなりに学園を導こうとする活気が今は必要とされているのだ。大地を支えることができるものは巨人か英雄。
河北の巨人、汝南の巨人、兗州の英雄。

・・・袁紹、袁術、曹操・・・この学園のこと、頼むわね・・・。

中天にて他を圧倒せんと輝きを競う数多の星々にともすればかき消されそうではあるが、長安棟を守護するかのごとくその上に確かに蒼く瞬いていた数個の星。その1つが今、堕ちた・・・。

139 名前:岡本:2003/01/20(月) 02:58
>教授様、アサハル様
正に、一服の清涼剤!!
堅い文章しか書けなくなっている私には甘露ですね。

>郭攸長若様、惟新様
お2人の作品に触発されて書いて見ましたが、お邪魔なだけ
だったかもしれません。参考になれば幸いです。

140 名前:惟新:2003/01/20(月) 19:15
>教授様
おまけ2とは…ありがたい!
うはぁ〜またもや艶やかな! 憐れ孫乾、悲惨な姿に(^_^;)
でもって簡雍また沸いて出たか(w
いいキャラですわ、簡雍タン…

>郭攸長若様
伝説は終わらない! 皇甫嵩第二弾!!
身の毛のよだつような董卓と、カコイイ皇甫嵩タンの対比がいいですね〜!
>そろそろ「せっていすと〜り〜」は止めて普通に投稿
お待ちしてます〜!

>岡本様
援護射撃キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
心底ありがたいっす!! ぜひ参考にさせていただきます〜
これほどの名作にストーリー上で続くのが私の駄文というのが申し訳ないですが(^_^;)
やっぱり皇甫嵩ほどの大人物にはこうした花道を用意すべきですね〜
私ナンゾガテケトーニ挿入センデヨカタヨ…
にしても…やっぱカッコいいわ、義真タン…

141 名前:惟新:2003/01/20(月) 19:59
>ぐっこ様
>アサハル様
>「旭記念日」
これは確実に祭りになりますね。
では、我らの責務として当日もしくは翌日の朝までに我らが聖地「南北本命テイクオフ」神宮を訪れる「旭詣」をいたしましょう。
可能な者は旭姫にご挨拶すること。挨拶では三村つっこみ必須(マジかよ
さらに可能ならばご供物を捧げ、それがSSならば事前にしょーとれんじすと〜り〜スレッドに奉納、神のご降臨を待つこと。

…いや、出来ればの話ですよ、挨拶と供物は(^_^;)
それと、向こうの方々にご迷惑をおかけしないようにしましょう(お前が言うなよ

142 名前:★ぐっこ:2003/01/21(火) 00:11
うおっとお! またしても逸作が数々投下されている!
皆々様感謝!

>アサハル様
(;´Д`)ハァハァ…いま小細工考え中…。アレの方はやはり隠しつくって…

>郭攸様、岡本様
そして皇甫嵩! にわかに義真祭ですが(^_^
いずれの作品も非常にイイ! 案外まったりしてる董卓もそうですが、皇甫嵩
にしても通底する意思は他人には読みづらい。
そのなかでも、皇甫嵩は一本の道を守ったのですから…もっとファンが増えて
しかるべき人物ですな…

>惟新様
委細承知。

143 名前:★ぐっこ:2003/01/21(火) 00:14
ていうか、今頃13,16日くらいのメールがパラパラ到着。
惟新様の鍾ヨウたんの続きあり! 諸君ら期待せよ!

144 名前:アサハル:2003/01/21(火) 00:17
皇甫嵩・・・悲しいほど格好良すぎます・・・(つДT)
萌え〜なんて軽々しく言えません・・・
何というか、こういう群雄割拠の時代には合わない人だ・・・

・・・で、岡本様&郭攸長若様に感謝しつつ、また調子に乗ると。
http://homepage2.nifty.com/radiance/g3/post.jpg target=_blank>http://homepage2.nifty.com/radiance/g3/post.jpg

>惟新様
あにょ〜・・・
何かこう・・・こそばゆいんですが・・・(;・∀・)

145 名前:教授:2003/01/21(火) 02:34
>郭攸長若様

内に秘めた熱き孤高の魂…皇甫嵩をここまでかっこよく書かれるとは…。
正に見事としか言いようがないです。
皇甫嵩のイメージが更にグレードアップされました!

>岡本様

皇甫嵩…感動しました!
一行の短い手紙と涙…それだけでも彼女の心情がひしひしと伝わってきました!
真面目なお話を書ける事は素晴らしい事だと思います。
私はあんまり文章上手くないので、文章構成や創造力に驚くばかりです。
岡本様や郭攸長若様を見習って修行に励もう…。

146 名前:惟新:2003/01/21(火) 19:50
>ぐっこ様
あ〜今ごろ届きましたか(^_^;)
郵送事故か何かだろうと思い、三月にでも手直しして送り直すつもりでしたが…
届いたのならそれでOKです。年明けでお忙しいでしょうから、
お暇なときにでもよろしくお願いします。分量も前作比二倍以上ですし。

なお、第三部は三月にお届けする予定です。
ひょっとしたらもう一部増えるかもしれませんが。

>アサハル様
まぁその、讃える日ということで(^_^;)

それはそうとして、涙の義真タン! 素晴らしい…
見ているとぐっと来て、引き込まれるような作品ですよ。
こうした情感溢れる作品を生み出されるのは素晴らしいことです。
てかもの凄く羨ましいです…(←人物しか描けない奴

147 名前:教授:2003/01/21(火) 23:11
■■法正と眼鏡と写真■■


「ウチのメガネ知らんか?」
「はい?」
 会議室に入ってきた法正。
 いきなり帰宅部連合総長、劉備にメガネの所在を尋ねられたのだ。
 その劉備は人に尋ねるだけの事はあり、メガネを掛けていない。
 法正の目には主がやたらと新鮮に映っていた。
 メガネを外した劉備を見るのはこれが初めてだったからだ。
 当の劉備はメガネを探して必死な様子。
「メガネって…頭に乗ってるのがそうじゃないんですか?」
 法正は含み笑いをしながら答える。
「へ? あーっ! ホンマや!」
 頭に手を伸ばし、自分のメガネを確認する劉備。
 すちゃっと装備すると、いつものように微笑む。
「おーきにな。まさか、自分の頭に乗っとるなんて思わんかったわ」
「灯台下暗しって言いますし。意外な身近に落とし穴があるんですよね」
 相槌を打つと法正は自分の席に移動する。
 と、自分の席に置いてあるギンガムチェックの包装紙に包まれた小さな箱に気付いた。
 それも、ご丁寧に『法正様専用』と書かれてある。
 訝しげにその箱を凝視する法正。
「部長〜。この箱…何ですか?」
 取りあえず疑って掛かる法正は部屋にいた劉備に尋ねる。
「さあ…ウチが来た時にはもうあったで」
「そうですか…」
 贈り物と思しき正体不明の箱を前に悩む法正。
「これ…開けてもいいのかしら…」
 箱を持ち上げて周囲をチェックしながら呟く。
 重量は軽すぎと言っても過言でない程無かった。
「ま…いっか」
 妥協したのか、包装紙を丁寧に取り除いていく。
 そして本体が露わになった箱のフタを開けると…。
「……は?」
 そこにはメガネがすまし顔で鎮座していた。
 言葉を失う法正。
「なんやったん? …メガネか?」
 劉備が後ろから覗き込んでくる。
 メガネに興味があるのだろうか、法正に了解を取ってそのメガネを掛けた。
「うわっ…なんやコレ…。度が入ってないやん…」
 霞む視界に慌てて自分のメガネを掛け直す劉備。
「度が入ってない? じゃ…伊達メガネなの、これ…」
 伊達メガネと聞いて、ある事を思い出す法正。
 以前、諸葛亮がメガネを掛ける掛けないで話(一方的だった)を持ちかけてきたのだ。
「…………」
 法正は伊達メガネに手を伸ばすと、軽い気持ちで装着した。
 すると次の瞬間、ロッカーがけたたましい音を立てて開き…
「もらった!」
 …の声と、同時に飛び出してきた簡擁がシャッターを切った。
 無論、ファインダーの視点はメガネを掛けた法正。
 びっくりしたような顔の劉備と法正。
 どうやら事態が呑みこめていないようだ。
 それをいい事に簡擁が二度三度とシャッターを切りまくっていた。
 フラッシュを何度か浴びると流石に誰でも我に返る。
「簡擁〜!」

148 名前:岡本:2003/01/21(火) 23:12
>アサハル様
状況が読者の方々にイメージしやすいように雰囲気描写を
意識して書いたつもりでしたが、ここまでイメージを再現してくださるとは。
いや、感激の至りであります。

149 名前:教授:2003/01/21(火) 23:13
「おっと…それじゃ、私はこれで失礼♪」
 法正が歩みよるよりも素早い動きで会議室から脱出する簡擁。
 その神懸り的な動きを見て法正は追い掛ける事を早々に諦めた。
 代わりに劉備の方に向き直り、詰め寄る。
「部長! アレはどういうことなんですか!」
「そないな事言われてもなぁ…。それに写真の一枚や二枚くらいええやん」
「それはそうですけど…って、違います! 部長…ぐるだったんじゃないでしょうね…」
「昔っからアイツの行動パターンはウチにも読めんわ…。こっちかてびっくりしたっちゅーの」
 劉備は胸を押さえて大きく深呼吸する。
 彼女が嘘を吐いてない事は法正にも伝わってくる。
 諦めてため息を吐くと、開きっぱなしのドアを閉める。
「私の写真撮って…何するつもりなんだろ…」
 法正は小首を傾げながら伊達メガネを外した…。



後日

「法正〜見たよ〜」
 馬超がにやにや笑いながら法正の元にやってくる。
「…? 何を?」
「メガネ写真だよ、結構可愛かったじゃん」
「…っ!?」
「いやぁ〜…メガネ掛けるとこんなにも…って、あれ?」
 馬超が続きを言おうとした時には既に法正の姿はなかった。

「簡擁〜!」
 会議室のドアを荒荒しく開く法正。
「騒々しいな」
 中にいたのは諸葛亮ただ一人だけだった。
「簡擁…見なかった?」
「簡擁殿は見てないが…君のメガネ写真は拝見した。やはり想像通り綺麗だったよ」
 諸葛亮は白羽扇を口元に当てて目を細める。
 その言葉に一気に耳まで赤くする法正。
「ちなみに…これがそのネガだ」
 そう言うと、諸葛亮は懐からネガを取り出した。
「あーっ! 何で持ってるのよ!」
「私が簡擁殿に依頼したのだ。喜んで引きうけてくれたよ」
 淡々と口にするとネガを法正に投げて寄越す。
「やはり君にはメガネが似合う。私のプレゼントした伊達メガネ…大事にしてほしい」
 ぽんと法正の肩を叩くと、そのまま会議室を後にする諸葛亮。
「…やられた」
 がくりと膝を落とす法正、完全敗北だった。
 これから後、法正は諸葛亮と簡擁の動きを注意深く観察するようになったのは言うまでもない。
 今回の主役、伊達メガネは…と言うと…。

飛「なあなあ、コレどうよ」
劉「…アンタが掛けると微妙やなぁ…」
飛「なんでだよ!」
劉「アンタには宴会用の鼻メガネの方が似合ってるわ」
飛「なにをーっ!」
 張飛の元へ嫁いでいたとさ。

150 名前:教授:2003/01/21(火) 23:15
あとがき

皆様が真面目で心が熱くなるようなSSを書いてるのに…何書いてんだろ、私。
元はアサハル様の萌えイラストから来てます。パクリと言われればそれまでです。
こんなSSばかり書いてる私って…。(;_;)

151 名前:左平(仮名):2003/01/21(火) 23:50
>教授さん
ご謙遜を。面白いですよ。笑いながら拝見しました。

作品数が多いので、全部はまだ見てないのですが…。皆さん、これほどのものが書けるのですから、他のジャンルも、ぜひ!

152 名前:惟新:2003/01/22(水) 00:48
>教授様
簡雍タンは果てしなく神出鬼没ですね(^_^;)
つーかおのれ諸葛亮、やってくれる!
この孔明タンなら
「法正が性格キツいって? ふ、むしろ萌えポイントだ!」
とか言ってのけそう…
で、簡雍。ある意味三國一の豪傑(^_^;)
個人的に蜀では一番おいしいキャラだと思ってたり…

>左平(仮名)様
そのとおりです!
というわけで、ぜひがんばってみましょうよ、教授様!

…と偉そうに言ってしまいましたが、私の方では
萌えSSを書くと途中で暴走してしまいそうで、自粛してたり(^_^;)
なかなか新境地は遠いですなぁ…

153 名前:アサハル:2003/01/22(水) 01:14
やっぱ強えわ、簡雍((( ;゚Д゚)))
つかずっとロッカーの中に入ってたのね・・・
更にプラス諸葛亮の最凶コンボ・・・絶対敵に回したくねー!
個人的に最後の劉備と張飛のやりとりに爆笑しました。
鼻眼鏡てアンタ。

で、前々から法正は好きだったんですけども、最近
めちゃめちゃかわいく見えてしょうがないっす(*´△`*)

154 名前:玉川雄一:2003/01/22(水) 01:16
とりあえず、憲和タンの株が上がってきているようなので。

パシャッ    パシャッ
    パシャッ
.       ∧_∧ パシャッ   
 パシャッ (   )】     ←簡雍
.      /  /┘   パシャッ.    
     ノ ̄ゝ

155 名前:★ぐっこ:2003/01/23(木) 00:06
↑ワロタ。

そりゃそうと! 教授様最近ナイスなペース! はやいところhtmlに
してしまって(;´Д`)ハァハァしなきゃ! 神の挿絵もあることですし☆( ̄ー ̄)
学三ってのはこういう(;´Д`)ハァハァを求める世界も大切なのですよ! 感謝。
ここんところ法正たんが振り回されっぱなしでワタクシも大好きであります!

156 名前:教授:2003/01/24(金) 00:41
■■帰宅部解散 〜非業の烈女〜■■

「なんで…なんでなんだよ!」
 会議室に轟く怒声と打撃音。
 声色に違わぬ形相の少女は、主であり実の姉でもある少女に詰め寄る。
「劉シンさん、落ちついてください!」
 周りにいた幹部達が怒りの炎に燃え上がる彼女を宥めにかかる。
「うるさい! どけっ!」
 少女は幹部達を押しのけ、姉の前に仁王立ちする。
 彼女の名は劉シン。
 帰宅部の創設者、劉備玄徳の妹だ。
 熱く潔い性格は帰宅部内から益州校区でも有名だった。
 最も、どれほど小さい事でも納得できない事や卑怯な振る舞いを良しとしない厳しい性格は周りから疎遠を呼ぶ事になっていたが。
 その劉シンは今正に怒りの限界点を振り切っていた。
「…禅姉、悪い冗談はよせよ…。降伏? …ははっ、そんなわけないやろ?」
 乾いた笑みを浮かべ、姉――劉禅の肩に手を置く。
 と、劉シンの手に信じられない感覚が伝わった。
「禅姉…、何で震えてるんだよ…」
「…………」
 上目遣いで劉シンを見る劉禅。
 その瞳には、怯えの色が見て取れた。
 ――姉は…自分に怯えている…の?
 そんな思いが過った時だった。
「貴方みたいに威圧するだけじゃ駄目なのよん」
 人を食ったような口調。
 全員が声の主に振り向く。
 そこにいたのは、黄皓であった。
「あんた…か? 禅姉にいらん事吹きこんだんわ!」
 劉シンの怒りは、黄皓に向いた。
 今にも飛びかからんばかりの勢いだ。
 しかし、劉禅の口から劉シンを絶望させるに十分な言葉が飛び出した。
「シンちゃん…恐いから遠く行って…」
「禅…姉…」
 劉シンは愕然とすると同時に体の力が抜けていった。
「禅姉は…この…玄姉や孔明さんや張飛さんや関羽さん達が必死に守ってきた帰宅部を…そんなあっさり放棄するんか…?」
 つぅ…と劉シンの頬を涙が伝う。
 それは鮮烈な赤だった。
 ――血涙を流す程の訴え。
 だが、それが劉禅に伝わる事はなかった。
 劉禅は俯き、妹と顔を合わせないように背け続けていたのだ。
「ほら、部長命令よん。さっさと出て行ってね〜」
 黄皓が劉シンの背をぽんっと押す。
 その顔には勝ち誇ったような嫌らしいものが浮かんでいた。
 その場にいた幹部達も顔を背け、誰一人として劉シンを見ていなかった。
「こんなん…納得できん…」
 震える小さな声、小刻みに揺れる肩。
「…こんな…こんな運命に従うくらいやったら…」
 劉シンは階級章を引き千切る。
「こんなもんいらへん!」

157 名前:教授:2003/01/24(金) 00:45
 轟雷を思わせる叫びと共に、階級章を床に叩きつけた。
 そして、ゆっくりと会議室から出ていく。
「ふん…やっと目の上のコブが消えたね〜」
 黄皓は鼻で笑うと、降伏の準備を進め始めた…。


「玄姉…ごめん…」
 劉シンは自室で荷物をまとめていた。
 悔し涙が頬を伝う、しかし拭おうとはしない。
「合わせる顔なんて…ない…」
 元々少なかった荷物をバッグに詰めこむと、部屋から出る。
 何も言わず寮を後にする。
 途中、友人から呼びとめられたりもしたが…敢えて全てを無視した。
 いつも通っていた道を夜の帳が蒼く暗く染めていく。
 まるで劉シンの内に燃え盛っていた炎を包みこみ…そして鎮めていくようだった。
 ふと、劉シンの足がポストの前で止まった。
「もう…未練なんてない…」
 懐から一通の手紙を取り出す。
 その書面には『退学届』と殴り書かれていた。
 劉シンはそれを何の躊躇いもなくポストに入れる。
 カタン…と無機質な音が耳に残り続ける。
「…ばいばい」
 小さく…重い別れの言葉を呟くと、歩み始めた。
 溢れる涙を拭わず…覇気を失った劉シンの姿は闇の中に消えていった…。


 ――劉シンがいなくなった翌日。
 帰宅部は最後の日を迎えた――。



■あとがき 

 いつもの萌え路線から一変、シリアスものです。
 結論、慣れないモノは書くもんじゃない…。

158 名前:郭攸長若:2003/01/25(土) 11:56
久々にまた〜りとPC・・・そして皆様へのレスw
>岡本様
支援砲撃されたはずなのに私に直撃しております!(爆)
卓越した比喩的表現、設定を追いながら「しょ〜とすと〜り〜」として読ませる文章と独自のストーリー性、感服いたしましたm(__)m

>アサハル様
感動は最早言うに及ばず。
あえて言います、(義真たんの)服が萌え!(マテ

>教授様
>法正と眼鏡と写真
半ば帰宅部内でストーキングされてるような法正たん万歳w
>帰宅部解散 〜非業の烈女〜
短いストーリーの中に、各々のキャラがよく表現されてますね。
ほとんど言葉を発しない劉禅の表現が好きです。

159 名前:アサハル:2003/01/26(日) 20:41
りゅ、劉[言甚]たん…・゚・(つДT゚)・゚・
思えば退学以外に何かしら手段を思いつかなかったんでしょうか…
黄皓のキャラがハマりすぎてナイスっす。そら司馬昭もキレるわ。

160 名前:★ぐっこ:2003/01/26(日) 22:15
貰い泣き・゚・(ノД`)・゚・ つうかマジに黄皓たそがムカツク!
子上たん、やっちゃってください!
劉禅も劉禅だ…(T.T) [言焦]周たんをはじめ、「理性的降伏論者」
と「ヘタレ降伏論者」双方のプッシュがあったからでしょうけど…

161 名前:教授:2003/01/28(火) 00:43
黄皓に関してはとことん憎たらしいタイプを追及してみました。
正直、黄皓の扱いはどうしようかと悩みました。
しかし後漢末にもこういう汚れを担うキャラは必要かなーっと偏った独断と偏見でこんな風になっちゃいました。

劉シンについて。
アサハルさんのご指摘通り、退学以外の手段もあったと思います。
しかし、姉の期待を裏切った事に対する申し訳なさと後ろめたさ。
そして自分の愛した帰宅部連合の崩壊を見たくなかったのでしょう。
史上では自害してるし、自主退学が妥当かなと思いました。
これに関するレスを頂けましたら幸いです。

162 名前:彩鳳:2003/01/28(火) 21:26
 劉[言甚]の最期については、最期が凄絶なだけに自主退学も
止む無しと思います。(−−;
 大きな王朝が滅びる時は、彼女の様な人が居るものですし・・・
(郤正や司馬孚の様に、最後まで君主に尽くした人も居ますが。)

 黄皓・・・この時は、自分自身がああなるとは夢にも思わなかったのでしょうが・・・
 まぁ、董允や費イがいなくなってからは好き放題やった事でしょうし、
袁術じゃないけど因果応報って事で(^^;
 (これはこれでよくあるパターンだと思いますが)

163 名前:アサハル:2003/01/31(金) 01:33
ごめんなさい…自分のレスの2行目の主語抜けてますわ…凹

退学以外の…ってゆか、史実の劉[言甚]もそーなんですけども、
なんかこう、一家心中なり自主退学なり、玉砕みたいな手段しか
彼女は取れなかった、思いつかなかったのかなあ、と。
何か、それが惜しいなあ…と思った訳であります。うるり。

164 名前:教授:2003/02/08(土) 00:41
復活。リハビリ程度に描いた拙いSSです。

■■ 平和な会議室 ■■


「はぁ〜…平和ねぇ…」
 孫乾はぐぐーっと伸びをしながらそんな事を呟いた。
「まぁ…漢中アスレチック戦が終わった後だし、曹操だって自分のトコの立て直しで手一杯じゃないの?」
 法正がジェンガからパーツを抜きながら返事をする。
「でも長湖部の方は? 荊州棟狙ってるんだろうし…あっ!」
 簡擁は相槌を打ちながらジェンガを崩してしまう。
 法正がニヤリと口元を歪めた。
「その辺りなら関羽さんが睨みを利かせてるでしょうから暫くは問題ないかと」
 湯呑みを片手に御嬢様、麋竺がのほほんと答えた。
 その答えには全員が頷く。
「それにしても、ホント暇ね…」
「ジェンガやる? 憲和って結構弱いし」
 ちらりと簡擁を見て、法正が孫乾を誘う。
 日頃、ストーキングされてる腹いせなのかもしれない。
 当の簡擁は別段気にする風でもなく、デジカメを磨いている。
 その時、物静かに緑茶を傾けていた麋竺が口を開いた。
「…昔話に登場する人達を誰かに当てはめてみる…というのはどうかしら」
「「「それだ」」」
 瞬間的に他の三人の言葉が重なった。
 麋竺は顔色を変えずに更に口を開く。
「例えば…孫悟空=張飛さん等…ですね」
 ある意味、本人に失礼な発言に三人が吹き出す。
「なーるほどね♪ そういうのだったら…金角と銀角は黄忠さんと厳顔さんで決まりね。年増コンビだし、ピッタリだもん」
 簡擁が楽しそうに問題発言。
「それなら、三蔵法師は部長でしょ…ブタとカッパは?」
 法正が唇に指を当てながら考え込む。
「ブタさんは関羽さん…カッパさんは趙雲さんでどうですか?」
 本人に聞かれると殺されそうな発言をする麋竺。
「関羽さんはかぐや姫って感じがするわ。じゃ、牛魔王とその嫁さんは?」
 孫乾も便乗しはじめた。
「牛魔王は…孔明さん、嫁さんは馬超さんでよろしいのでは?」
 麋竺の言葉に全員が嫌そうな顔をする。
「そんな魔王…倒せるの? 嫁さんはタカビーでやかましそうだし…」
 法正は苦笑いをしながら素直な感想を口にする。
 そんなこんなで今日も平和な会議が続いていましたとさ。

■■ おまけ ■■

 簡擁は自室に戻ると、懐からカセットテープを取り出す。
 それをデッキに放りこむと、何の躊躇いもなく再生ボタンを押す。
 デッキからは、今日会議室で盛りあがった話が流れ始める。
 そう、簡擁はテープレコーダーを忍ばせていたのだ。
「さぁて…私の声の部分は編集してっと…」
 周到で狡い簡擁は自分の音声部分をカットし始める。
 …このテープが表に出たのかどうかは皆様のご想像にお任せします。

                       end
 

165 名前:アサハル:2003/02/08(土) 23:11
Σ( ̄□ ̄; ぶっちゃけトークが!!
後でどうなっちゃうんでしょう、簡雍以外のメンツ。
特に麋竺、ぽやーんとしてるよーで結構言いますなあ…
しかもまたハマり役だわ帰宅部西遊記!ウケました。

簡雍がジェンガが弱いのは、性格が大雑把だからなのか、
それとも法正が何処を引き抜いても崩れるようにし向けたのか。

166 名前:★ぐっこ:2003/02/09(日) 01:55
うわっははは! 帰宅部連合のメンツもいいなあ…!
なんかホントにサークルのノリで(^_^;)
曹操陣営は生徒会ですので、まさに設定まんまの萌世界〜♥
西遊記もホントそのままだ…。
学芸会とかでやったらはまりそう。

にしても憲和たん、最近無敵な勢い。
憲和>シチュー>お使い
でも場合によってはシチュー>憲和かも。

167 名前:教授:2003/02/10(月) 00:50
■■ 平和な会議室 -長湖部編- ■■


「ふぅ…暇ねぇ…」
 張昭はぐぐーっと伸びをしながらそんな事を呟いた。
「まぁ…赤壁島の戦いが終わった後だし、曹操だって自分のトコの立て直しで手一杯じゃないの?」
 呂蒙がジェンガからパーツを抜きながら返事をする。
「でも帰宅部の方は? 荊州棟返すつもりなさそうだし…あっ!」
 張鉱は相槌を打ちながらジェンガを崩してしまう。
 呂蒙がニヤリと口元を歪めた。
「その辺りなら周喩さんと魯粛さんが結託してやってるみたいだし…問題ないでしょうね」
 コーヒーカップを片手に諸葛謹がのほほんと答えた。
 その答えには全員が頷く。
「それにしても、ホント暇ね…」
「ジェンガやる? 子網って結構弱いし」
 ちらりと張鉱を見て、呂蒙が張昭を誘う。
「…何か仕組みそうだからやめておくわ」
 やんわりと断わる張昭に舌打ちする呂蒙。
 その時、物静かにコーヒーカップを傾けていた諸葛謹が口を開いた。
「…昔話に登場する人達を誰かに当てはめてみる…というのはどうかしら」
「「「それだ」」」
 瞬間的に他の三人の言葉が重なった。
 諸葛謹は顔色を変えずに更に口を開く。
「例えば…桃太郎=周泰さん…等ですね」
 ある意味、本人に失礼な発言に三人が吹き出す。
「なるほどね…。そういうのだったら…サルと犬は甘寧と凌統さんで決まりね。正しく犬猿の仲って事でピッタリだし」
 張昭が楽しそうに問題発言。
「それなら、キジは…太史慈かな?」
 呂蒙が唇に指を当てながら考え込む。
「お供はそんなトコだけど、攫われたお姫様は?」
 本人に聞かれるといぢめられそうな発言をする張鉱。
「お姫様は…周喩さんかな。美人だし」
「でも捕まるようなヘマしそうにないけど…まあ、あくまでも例え話だからいっか」
 呂蒙の言葉に強引に納得する張鉱。
「では鬼役は…?」
 諸葛謹の言葉に全員が顔を見合わせた。
 そして、声が重なる。
『魯粛で決まりね』
 見事にハモった事に4人が大笑いをした。
 そんなこんなで今日も平和な会議が続いていましたとさ。

■■ おまけ ■■

「…な、なんて命知らずな発言を…」
 笑い声が響く会議室の外、全ソウが冷や汗を流しながら聞き耳を立てていた。
「何がだ?」
「え?」
 突然の声に顔を上げて主を確認する。
 そこにいたのは甘寧と魯粛だった。
「な、何でここに…?」
「んー…オレは魯粛の付き添い。魯粛が何か忘れ物したようでさ」
 甘寧が鈴を鳴らしながら平然と答え、魯粛が相槌を打つようにうんうんと頷く。
 そして…甘寧と魯粛が運命の扉を開いた。
 時が止まる――
                       end

168 名前:惟新:2003/02/11(火) 00:19
>■■ 平和な会議室 ■■
堪能いたしますた!
この雰囲気いいなぁ…
教授様にはこの勢いでガシガシいってもらいたいでし!
それにしてもジェンガ、久々に聞きました(^_^;)

>■■ 平和な会議室 -長湖部編- ■■
テンプレ風とは何やら新鮮!
それぞれのキャラ設定もさることながら、
長湖部の不幸人、全[王宗]タンの薄幸ぶりがなんとも(^_^;)
よりによって長湖部を代表する無頼漢コンビが登場するとは…

169 名前:★ぐっこ:2003/02/11(火) 00:34
ワロタ。なんかイロイロできそうですねえ…(^_^;)
文化祭とかで寸劇やってるところが想像できる…(^_^;) 三蔵(周瑜)と悟空(孫策)
というのもいいかも(西遊記編)…

どうでもいい話ですが、桃太郎にお姫様っていましたっけ←本当にどうでもいい…

ところで学三における魯粛・徐庶あたりの戦闘力は相当の
クラスに属するはずで、それだけで萌え。マジ切れした魯粛に、
彼女達が勝てるかどうか…とか。(;´Д`)ハァハァ…
甘寧たんも怖いけど。

170 名前:教授:2003/02/14(金) 00:32
「………」
「………」
 すたすたと廊下を歩く法正。
 その1メートルほど後方から付いて歩く簡擁。
 法正が歩く速度を上げると簡擁も歩幅を広くして付いてくる。
 法制は立ち止まって後ろを振り返る。
 簡擁はカメラを片手にじーっと法正を眺めている。
「憲和…何で後を付けてくるわけ?」
 当然の疑問だった。
 しかも、相当機嫌を損ねている様子である。
「写真撮らせてよ」
 答える簡擁はそれを意にも介しない。
「絶対に嫌。何か企んでるでしょ」
 簡擁に対してひどく警戒心を抱く法正。
 これまでに何度となく恥ずかしい思いをしてきたのだから仕方ないが。
「何か企んでるなんて人聞き悪いなー。企んでたらこんなに露骨な真似しないってば」
「そりゃそうだけど…とにかく何かされちゃ敵わないから断わるわ」
 手をひらひらと振ると法正はまた歩き始めた。
 と、いきなり肩を組まれる。
「うわっ!」
「卒業アルバム用なんだ。協力しろって!」
 その言葉に法正の動きが止まった。
「卒業…アルバム?」
「そ。私も部長も益徳も…それから法正だって卒業じゃん。だから、帰宅部用の卒業アルバム作成♪」
 屈託なく微笑む簡擁。
 いつもと変わらない顔…だけど、今日は何処か違う。
 何かは分からない、でも…嘘は言ってない事だけははっきりと分かった。
「…一枚だけならいいよ」
 法正は苦笑いを浮かべ、ため息を吐く。
「んー…それじゃ、もう少しこっちに寄って…」
 ぐいぐいと組んでいる法正の肩を引き寄せフレーム圏内に入れようとする。
 ちなみにカメラは右手に持っている、自分も写るつもりで撮るようだ。
「ち、ちょ…近すぎ…」
 法正がかあっと頬を朱色に染め上げる。
 簡擁の顔がもう間近にあるのだから気が気でない。
 そっちの趣味は法正には皆無だし、当然経験もある訳が無い。
 いかに法正といえど、こんなシチュエーションに遭遇したのは生まれて初めての事。
 どう対処してよいのか分からず、ただただ頬を赤らめるだけだった。
「よーしっ! 撮るよ!」
 そうこうしている内にシャッターが切られる。
 眩しい光が二人を包んだ。
「ありがとね〜。それじゃ、私はこれで!」
 用事が済むと案外あっさりとしている簡擁。
 さっさと何処かへ行ってしまった。
 その場に残された法正、まだ顔が紅潮している。
「な、なんでドキドキしてるんだろ…」
 何故か高鳴っている心臓に首を大きく振って悩む法正。
「突然だったから…そうよ! 突然だったからびっくりしてるだけなんだ!」
 法正は気をしっかり持ち直したようだ。
「…でも、憲和の髪…いい匂いがした…………って違ーーーーう!!!」
 …そうでもないようだ。
 そして一週間くらい本気で悩み続けた法正でありました。

171 名前:教授:2003/02/14(金) 00:35
タイトル書き忘れてました。

■■ 簡擁と法正 〜時にはこんな日常も〜 ■■

です。
実に申し訳ない…

172 名前:彩鳳:2003/02/14(金) 05:55
>教授様 

 失礼致します。彩鳳と申します。
 
 率直に白状します。読んでいて私まで心拍数が上がってしまいました。(^^;;;
 私もこういうの結構引きずるクチなもので・・・(^^;;;

173 名前:彩鳳:2003/02/14(金) 05:59
 以前書くといっていたSSがどうにか推敲できたので、投稿致します。
 本当は全部完成してから投稿するべきなのでしょうが、大学のパソコン室が
派手に使えなくなり、私がこちらにお邪魔できる機会が減りそうなので、
最初の第一部を・・・(予定では五部構成で、進展次第で多少増減するかも知れません。)

174 名前:彩鳳:2003/02/14(金) 06:14
 ■ 一月の花時雨 ■

 第一部 ―北風の銀華(はな)― 
 

 「う〜んぅぅぅ ・・・」
 
 ・・・寒い・・・真冬の冷気が頬を刺す・・・もう朝だ・・・起きないと・・・
 
 ・・・だけど・・・寒いよ・・・もう少し・・・もう少しだけ・・・このまま・・・
 
 「んううぅぅぅ〜 ・・・」
 
 ・・・それにしても静かだ・・・変だなぁ・・・朝なのに・・・朝なのに鳥の鳴き声が聞こえてこな―――――!!―――もしかし―――

 ズゴン!!

 「いった〜ぁ!」

 目から火花が出る、とは正にこの事だ。彼女が寝ていたのは二段ベッドの下の方。勢い良く跳ね起きた彼女は、ベッドの上の階に頭をぶつけてしまったのだ。

 彼女が痛がるのは無理もない。だが、この姿を見ていたなら誰が思うであろう。痛そうに頭をさするこの少女こそ、この蒼天学園において最大の勢力を誇る新生徒会長・曹操孟徳その人であろうとは。
 
 「おはよう、朝から大丈夫?」

 一部始終を見ていたのであろう、ベッドの上の方の主(あるじ)が苦笑しながも曹操に声を掛けてくる。隻眼のパートナー・夏侯惇だ。
 既に制服に着替えている彼女は小さい棚からティーカップを取り出し、電気ポットのお茶を注いでいる。
  
 「おはよう。今日は早いね〜。いつもは私の方が早いのにね。」
 「別に早くはないよ。私血圧低いし。あんたが遅いだけ。昨日は遅くまで起きてたろ?気配で分かる。」
 「あ、気付いてたの?」
 
 曹操と話しながらも、夏侯惇は作業の手を休めない。
 「はい」と言って出来あがった紅茶と小さなタオルを彼女に差し出した。

 「あ、サンキュー☆」

 曹操は差し出されたティーカップに手を伸ばし、口元へと運ぶ。
 だが、そんな曹操に夏侯惇が待ったを掛ける。

 「孟徳? あんたひょっとして気付いてないの?」
 「?」

 お茶を飲もうとした曹操に待ったを掛けて、夏侯惇はタオルの方に手を伸ばす。
 そして、タオルを掴んだ夏侯惇の手は、そのまま曹操の口元へと伸びた。

 「あ・・・」

 どうやら夏侯惇の意図に気付いたらしく、曹操自身は動かずに大人しくしている。
 一方、「作業」を終えた夏侯惇の顔は、呆れ顔だった。

 「あんたねぇ・・・どんな夢を見たのか知らないけど、このくらい気付いたら? 生徒会長がそれじゃぁみっともないよ。」
 「だってぇ〜いきなり頭が―――あっ!!」

 突然言葉を切って、曹操が窓辺へと駆け寄る。紅茶の事は彼女の頭から消え去ってしまった様だ。(実は夏侯惇の事も。)結露して、濡れた窓に手を伸ばすと、勢い良く窓を開ける。
 
 「あぁ〜っ☆ やっぱりぃ〜!!」

 空一面は灰色の淡い斑模様に彩られ、白銀(しろがね)色の花びらが風に乗って舞い踊る。――見事な雪景色が彼女の眼前に広がっていた。   
 窓から冷たい風が吹き込んでくるが、曹操は「心、ここに在らず」といった様子で気にもしていない。
 
 「ああ、それか。昨日は天気予報で雪になるって言ってたけど、思ったよりも積もってる。このままだと・・・」
 (って、聞いてないか。)

 別に怒ったわけではないが、夏侯惇は溜息を一つ吐(つ)くと部屋の奥へ姿を消した。



 曹操は、外の光景を飽きる事無く見つめていた。空を流れる雲、寒風に舞う雪、真っ白に染まった樹木・・・。
 だが、今やそれらの何一つとして彼女のの目には入っていない。いつの間にか、彼女の目は景色への興味を失っていた。
 ならば、彼女の目には一体何が映っていると言うのか・・・?
  
 曹操は南を向いている。その方向に位置しているのは―――。だが、普段はこの窓から遠望できるカント公園も、[六兄]州校区や豫州校区の校舎群も、この日は雪のカーテンにその姿を覆い隠されていて、その姿を見る事は出来ない。なにしろ、彼女の居る冀州校区の校舎ですら、雪に霞んで見えるのだから。

 しかし、曹操の目には明らかに明確な意思が宿っている。その瞳は遠くを、雪のカーテンの遥か向こうを見ているように感じられる。その様子はまるで、見えない物が見えているかの様な印象すら放っていた。

 (北の袁尚は頑張っているけど、もう生徒会の敵じゃない。烏丸の連中と組んでる様だけど、春までにはカタを付ける。むしろ南の劉表や孫権の方が重要ね。
 孫権は孫策の件があるからまず動かない。地理的要素もあるから今は大目に見るとして、問題は荊州校区の方。
 ま、大黒柱の劉表はもうすぐ引退だからね。あそこには劉備と愉快な仲間達がいるけど、代が替わったら一気に行く。帰宅部の奴らがいくら頑張っても、物量で押しまくれば勝てる筈。いくら質的要素が侮れないとは言ってもね・・・フフ・・・。
 ・・・荊州さえ押さえれば、勝負は決まる。後は―――。)


 ボン!!


 曹操の頭を、柔らかな感触が伝わってゆく。丁寧に畳まれた彼女の制服だ。

 「考え事は良いんだけどさ・・・あんた学校休みたいの?こんなところで風邪ひいたらみんなが困るんだからさ・・・ほら!さっさと着替える!!」

 夏侯惇がボヤくのも無理はない。曹操の格好ときたら起きたままの格好―――パジャマ姿だった。

 「も〜折角考え中だったのに〜・・・元譲の乱暴者ぉ。」
 「折角持ってきたのに、感謝の言葉も無しか・・・。」

 だが、言葉を交わしつつも、曹操は制服を受け取ると部屋の奥へと小走りで駆けてゆく。

 「言っとくけど余り時間が無いから、急いで着替えなよ!」
 「うん、元譲、有難うね!」
 「・・・・・・」

 夏侯惇の予想に反して、曹操の返事は素直な物だった。思わず返事に詰まってしまう。
 
 「やれやれ・・・」

 言葉を返すタイミングを失してしまった。言うべき言葉はある。しかしタイミングが悪い。
 彼女の意図に反して、出てきた言葉は――――。  

 「はぁ・・・・・」と嘆息して、夏侯惇は窓の外へ目を移す。

 「ったく・・・窓くらい閉めていきなって・・・」


 ―第一部 END―

175 名前:彩鳳:2003/02/14(金) 06:19

・・・「銀華」を「はな」と読んだり、結構無茶してます(^^;
 まあ、タイトルもネタが思い浮かばなくてアパートの近くを散歩してたらいきなり思いついた(爆)
というシロモノです。
 幸い実家に帰れたので、これ幸いとばかりにノートに書いておいたのを一気に打ち込みました。
 (しかし作業遅すぎ・・・東の空が凄く綺麗です@滝汗)

>維新様 大変に遅れてすみませぬ。イラストの方は鐘ヨウを攻略次第、投稿致します。

176 名前:アサハル:2003/02/14(金) 15:27
>教授様
ほ、ほ、法正たーーーーん!!(*´□`*)
ああもう可愛いよう…どーしてくれようか。
簡雍たんは実は美少女だから、そりゃドキドキするわ。
そうかあ卒業か…そういえばそんなシーズンですな、今。

関係ないですが帰宅部の他のメンツ、法正以外はカメラ向けたら
喜び勇んでピースしそうな気がします(w

>彩鳳様
天井に頭ぶつけると痛いですよね…(経験者)
しかし曹操、可愛いやら格好良いやら。ギャグのような起き方を
したと思ったら次の瞬間には天下人の顔に…ドリフと乱世の覇王が
同居できるのは彼女ぐらいのモンじゃないでしょーか。(劉備は吉本)
そして夏侯惇。時々存在そのものがボケになる曹操に炸裂する
惇姉の冷静なツッコミ。最強コンビですね!
第1部ということはまだ続編が!た、楽しみです!!

177 名前:★ぐっこ:2003/02/15(土) 00:23
>教授様
相変わらずグッジョブ=b!
法正&簡雍、学三公認のカプールぶりですが、不敵な彼女らも卒業を前に
真摯な寂しさと感傷につつまれるようで…。
法正たんは他人の心をいち早く察する技術に長けてますが、自分の気持ち
には鈍感なタイプと見た(;´Д`)ハァハァ…

>彩鳳様
引き続いてグッジョブ!
曹操たんは、そりゃもの凄い存在! 存在なんですけどスポットを
あてると可愛い女の子に過ぎないと言う…。まさに学園もの大道の
生徒会長ですな〜! 夏侯惇にしろ曹操にしろ、たとえば法正や簡雍あたり
ではまともに会話することも出来ないほどの大物なんですが、こうやって
日常描くと、なんていうか幸せ〜♥
ワタクシも第二部以降おおいに期待するであります!

178 名前:惟新:2003/02/15(土) 00:53
>教授様
うわ〜萌えたっ!
ちょっとしたことですが、それをうまく描かれるのは素晴らしい!

もしよろしければシリーズ化なさっては?
「萌え請負人簡雍」シリーズとかで…(ネーミングセンス無っ!

>彩鳳様
おお! これは…!
第二部以降がいかなる話になるのか激しく気になりますよ(^_^;)
また一つ楽しみが増えました〜!
それにしても巧みな描写をなされますね〜
大期待…!

あ、イラストの件はご自分のペースでどうぞ〜
もちろん燃え上がるほど待ち焦がれていますが(^_^;)
こちらも大期待…!

179 名前:教授:2003/02/15(土) 02:58
>維新様

萌え請負人簡雍…。
個人的に彼女は手足のように扱える優秀な設定の持ち主なので、シリーズ化は必然かな?(爆)
何が起こっても酒とカメラは手放さない簡雍タンを中心にシリーズ続編を頑張りますね。

>アサハル様

元はアサハル様から頂戴いたしました、ウチのトップ絵なんですよ。
あの絵を見てぱっと閃きましてw
文章で法正率が高くなってきてる…挿絵キボンヌ…(銃声)

180 名前:雪月華:2003/02/15(土) 12:24
黄巾の落日 〜張角の夢〜
 殺風景な部屋だった。部屋の西側に窓が一つ。その下にシングルベッドが置かれている。他にあるものといえば、勉強用の書き物机。机の上にはシンプルな作りの電気スタンドが孤独に耐えてたたずんでいる。机の隣には背丈ほどの本棚。西洋の古典音楽関係の書籍が目立つ。それと最低限の教科書と参考書。逆側の壁には服用のスタンドが一つ。蒼天学園の冬服がかけられており、小物入れには黄色いスカーフが一枚、きちんと折りたたまれている。そのほかには何も無い。客用テーブルも、テレビも、鏡すらも無かった。いや、鏡はクローゼットの扉の裏にある。しかしそれも顔を映すのが精一杯の小さなものであった。カーテンも無い。驚くべきことに天井の照明も無かった。
 蒼天学園学生寮の一人部屋。今をときめく学園一のアイドル。張角の部屋である。5月のオペラ愛好会発足後、その天女声(霊波混入)とミステリアスな容姿で着実にファンを増やし、現在、学園でその名を知らぬものはいなくなった。全校生徒の過半数がファンのであると目され、そのうちの半数が親衛隊(古っ)と化している。届けられるファンレターは山を成し、プレゼントの量もまたしかり。張角はその全てを「わずらわしい」という理由で、妹達に処分させている。どうせ「崇高な理念」とやらの軍資金にされているのだろう。張角はそんなものに興味は無かった。部屋が殺風景なのは貧乏のせいではなく、いじめのせいでもない。彼女のスタンスなのである。
 短い悲鳴と共に、眠っていた張角が跳ね起きた。目には涙を浮かべ、呼吸が弾んでいる。
「…ごめん、ママ。でも、私…」
それ以上は言葉が出てこなかった。

見たことのある夢。まだ幼い頃の自分になった夢。私が10歳の頃、交通事故で死んだママの夢。周囲の風景ははっきりしない。でもママの顔だけがはっきりしてて、ママが私にほお擦りして、優しくささやいた。
「いい?あなたの声には人を元気にさせる力があるの。」
「ぱぱもままの『がんばって』ってこえをきくとげんきになるよ?」
「それとはちょっと違うわ。それはそんな気がしているだけ。元気になるきっかけにすぎないのよ。」
「?」
「あなたの声は直接心に響く。それによって心が沸き立つの」
「ふーん。わたしってすごいんだ?」
「いい?あなたが大きくなって、何かを諦めた人や、悲しそうにしている人にあったら、優しく慰めて。『がんばって』と言ってあげればその人はすぐに元気に立ち直るわ。」
「ほんと?」
「ママが嘘ついたことある?でもこれだけは気をつけてね。」
ママの目が真剣になった。
「その声をけんかや人を傷つけることに使っちゃ駄目。他人にそれをやらせるのも駄目よ。いい?」
「うん!」

 その夢を見たのが1月のはじめ。まだ2年生で合唱部に在籍していたとき。その時から声に不思議な力が宿るようになった。そして6月の終わりの今、見た夢も似たような風景だった。だが…。

 ママの目はすごく悲しそうだった。責めているという感じではない。怒っているわけでもなく、押さえつけるように厳しいというわけでもない。ただひたすら悲しそうだった。その目を見て、私は心にえぐられるような痛みを感じた。
 目を背けることができなかった。体を動かそうと思っても何者かにがっちりと握られているように動かせなかった。長い間見つめあい、やがてママが口を開いた。
「かわいそうな子。」
ママの目がいっそう悲しげになった。それを見て心の痛みはさらに大きくなった
「あなたはママとの約束をやぶったわ。無意味に人の心を煽り立てて。今はあなたの学校は傷つけあい、罵り合い、騙しあい、裏切りあう人たちであふれてるのよ。」
ようやく口が動いた。だが、出てきたのはあまりに弱々しい声だった。
「でも…あれは妹達が勝手に…」
「張宝と張梁はやってはいけないことをやったわ。でもあなたはそれを止めることをしなかった。いえ、できたはずなのに、みんなの前で歌うことができなくなることが怖くて、止めなかった。どちらがより悪いのか今のあなたにわからないはずはないでしょ。」
 何も言い返せなかった。うつむくこともできず、悲しげなママの目を見つめ、ただ心の痛みが大きくなっていくのに耐えるしかなかった。不思議なことに涙も出てこない。涙の分も心の痛みに加わっているようだった。
「あなたは近いうちに、死ぬより苦しく、辛い目に会うわ。ママが死ぬときに味わった苦痛の何倍もの痛みと苦しみを。でも逃げるなとは言わない。負けるなともいわない。約束をしても無駄になるならしないほうがいいもの。」
 違う!と叫びたかった。でも声が出てこなかった。心の痛みは今の言葉で耐え切れないほどに大きくなった。胸を抑えようとしても腕が動かない。膝をつきたくても、足が動かない。
 ママとの誓いを守らなかった。その代償として私はママに見捨てられた。その思いが心を冷たく犯し始めた。
「さようなら。生きる道があればそれにのって生きなさい。見つからなければ、ママのところへ来るのもいいわ。でもそれが何を意味するのか、ちゃんと考えてからよ。」
 ママが身を翻して歩き去ってゆく。その姿が次第にはっきりしなくなり、やがて、消えた。

 不意に恐怖が襲ってきた。ママの言っていた死をこえる苦しみとはなんだろう?学園を騒乱に巻き込んだ事件の首謀者としての処罰より苦しいのだろうか?いや、私にとって一番大切なものが失われることを、ママは予言したのではないだろうか?
 はっと気がついた。止めようも無い震えが襲ってきた。私にとって一番大切なこと。それは歌うこと。心の中の声を音楽に乗せ、歌として表現すること。歌うことができなくなる。しかもみんなの前ではおろか自分ひとりのときですら歌えなくなる!
 絶望が全身を覆った。誰かにすがりたかった。しかし今の自分には「同志」はいても「友人」はいなかった。心を開いて話せる「人」はいなかった。心を開いて話せる友。それは自分の歌を黙って聞いてくれる空であり、大地であり、風だった。それが喪われようとしている。
 しかしまだ光は見えた。現実という光だった。張角はパジャマのすそで涙をぬぐってベッドから降りるとクローゼットを開け、この部屋の唯一の鏡に向かった。
 張角は鏡を見るのが好きではなかった。見れば自分の金銀妖瞳がいやでも見える。黒い右目、黄色の左目。両親は共に黒い目だった。
 親衛隊の連中が(;´Д`)ハァハァだとか萌え〜だとか勝手にチャームポイントにしているが、張角は自分の金銀妖瞳が嫌いだった。この目のせいで友人ができなかったといってもいい。誰もが一歩引くのである。それを踏み越えようとする人にはついに出会えなかった。いや、一人いた。名を確か関羽といった。ずば抜けて背が高く、きれいな長い黒髪の佳人だった。今まで出会った人で、彼女だけが自分の金銀妖瞳を直視しても引かなかった。今は生徒会に協力して黄巾党を飛ばして回っているらしい。程遠志を飛ばしたのも彼女という報告だった。このような状況でなければいい友人になれただろうか?いや、金銀妖瞳を理由にして人を避けてきたのは自分ではなかったのか?避けられたのではなく、避けてきたのではないのか?本当は人が怖かったのだろうか?
『夢は夢に過ぎない。気にするほうがどうかしている。』
 鏡の中の黒い左目が嘲る。鏡の中なので実際とは反対の色だ。
『その「力」は1月に見た夢で見についたものだ。今の夢だけが嘘であるという証があるのか?』
 黄色の右目がつぶやく。
「やめて…」
そうつぶやいてクローゼットを閉め、ベッドに戻った。張宝の言葉が思い出された。
(明日は大事な日。黄巾党の逆転をかけての最後の啓発。張曼世が飛ばされつつも、蒼天会長室に極秘でTVケーブルをつないだ。側近の一人を買収してある。タイミングを合わせてチャンネルを変えれば、劉宏は必ず姉貴の虜になる。そうなれば後は思いのままだ。)
 どう考えても悪あがきにしか思えなかった。劉宏はkaiの熱狂的ファンである。そういう人種に自分の声が効果の無いことが、数度の舞台ではっきりしていた。
 眠りに落ちた。もう夢は見れなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
どうも。人物設定で引っ込みがつかなくなったので張角タンSSage。
「張角、南華老仙の叱責を受け、太平要術三巻を失う」を学三風にアレンジしてみました。下書き無しで一気に書くとやはり文法に粗が。
この後、最後の舞台で声帯損傷して華陀先生の下へ搬送。絶人のメスで何とか3年後にはしゃべれるようになるものの、病室に乗り込んできた皇甫嵩一統に階級章を剥奪されてしまうんです。

181 名前:★ぐっこ:2003/02/16(日) 12:24
おっとお、雪月花さま、早速の参戦感謝です!

うーん…張角を苛ますのは、幼い日の母の影か〜
彼女にとってトラウマにもなってるわけなんですね…
先天性なのか、後で選ばれたのか、とにかく人の心を無条件に奪ってしまう
いわゆる「天使の声」の持ち主であったために、彼女の思惑を外れて
どんどん事態が悪化してゆくと…
これは…萌だ…
また新しいシチュが浮かんじゃったよ…最後もまた・゚・(ノД`)・゚・

あと、どうでもいいけど張魯たんとは遠い親戚ということで。
キャラ似てますし(神秘系無口っ娘)。

182 名前:ジーク:2003/02/16(日) 15:18
おお…! 雪月花さまはじめまして。
張角キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
うーん…黄巾、良いですねぇ…。
歳後…かわいそうに(T_T)

183 名前:アサハル:2003/02/16(日) 21:21
うああああ・゚・(ノД`)・゚・
「もし自分が絵が描けなくなったら・・・」とか考えちゃいましたよ!
怖いよ痛いよ・・・
続くような形でちょっと小ネタ思いついたんで、ひょっとしたら漫画化
するかもです。(描きかけ溜まってまんがな)

どうでもいいですが速攻でこんなんが思い浮かんだ私は一体
どーすればいいでしょうか。
http://fw-rise.sub.jp/tplts/cho-kouho.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/cho-kouho.jpg
(死神と翼をもがれた天使のつもりが護衛と姫に・・・)

184 名前:惟新:2003/02/16(日) 22:15
南華老仙の話を見事に学三アレンジ!
素晴らしいですよ〜
重〜い話、それも内面への指向性をもつ話は個人的に大好きでして、楽しく読ませていただきました。

雪月花様の次回作が楽しみ…張遼タン…

>アサハル様
張角を抱く死神皇甫嵩キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!(で合ってますよね?(^_^;)
うわ〜もうめちゃくちゃカッコイイ一枚じゃないですか〜!

185 名前:岡本:2003/02/16(日) 22:16
雪月華様に触発されたSSです。西暦と学園暦の間の時間関係が
怪しくなりますし、版権とかの問題もあるかもしれませんのでこちらに。

■広宗のG・P・M(1)■
ここは豫州校区は鉅鹿棟。その一室で20名ほどの生徒たちが卓に着いて
なにやら話をしている。現在、広宗に展開している張角の妹・地公主将の
張梁が率いる軍団との戦いに備えた生徒会軍の作戦会議中である。波才を
破った皇甫嵩をもってしてもこの軍団を討伐することは難事であった。
数が多いこともあったが、最大の難点は張角の「天使の声」にあった。
張角が肉声で歌えなくなった今でも、オーディオで流される“天使の声”
の威力は健在で、

  蒼き 美空に  影落ちて
  我ら いまこそ 黄を纏え
  時は 来たれり 甲子に
  平和 いや増す 学園に

揃いのT-シャツ、黄色のバンダナ装備の黄巾軍がこの張角の歌う“黄巾の
マーチ”をBGMに意気をあげ、彼女らも歌いながら遮二無二進軍してくるの
である。恐怖以外の何物でもない。
「ウチ、思うんですけど、歌には歌で対抗する、というのはどないでしょう。」
黄巾軍討伐に義勇の徒として参加した劉備新聞部という総員4名の超弱小
サークルの長が発言した。生徒会の役職はおろかまだ、10円玉階級章す
ら得ていないが、黄巾軍の大方(大隊長級)の一人・程遠志をその副官の
茂ともども飛ばし、潁川地区長社棟付近で暴れていた波才の撃破にも功が
あったということで席を与えられていたのである。
「…それは考えはしたんだけどね…。」
その場にいた生徒会軍の指揮官たちが全員、苦笑する。
正規軍だけでも生徒会軍全体の3倍はある黄巾軍はカリスマ歌手・張角の
歌声をその行動力の基幹としている。生徒会軍にもその影響は強く、ひど
いときには耳栓をつけて戦ったこともあるくらいだ。これを断ち切れば黄
巾軍は瓦解する。が、相手は“天使の声”の持ち主だ。これを超える歌い
手は存在しない。だから、これまで生徒会軍は張角の歌声が届かないとこ
ろでの戦いはよく挑み、勝利をしてはいた。が、数が利せてなおかつ大型
オーディオの投入が可能な大会戦は不利と見て挑まなかったのだ。
何とか“天使の声”を封じ、張梁との大会戦に挑む。これが懸案事項であった。
歌には歌で対抗するというのは封じる方法のひとつではある。
決まれば一発で戦いの趨勢が決まるが、外れれば目も当てられない。
まさにハイリスク・ハイリターン。誰もが考えはするが、やろうとし
なかった所以である。
「一人でやろうとするから駄目なんで、皆でやったら何とかなるんとちゃいますぅ?」
“そう単純にいかないと思うけどねぇ…。”
提案こそしなかったが、曹操も真っ先に考えた案であった。だが、難問がある。選曲だ。
誰もが歌いやすく、ノリがよく、知名度が高いというのが軍歌の必須条件だ。
全員が一種の没我状態にならないと意味が無い。それに勢いにのっている相手を揺さぶる
ためには、相手に聴かせる必要がある。それなりの声の持ち主がリーディングで必要だ。
つまり、最初の問題に立ち戻ってしまう。
なまじ本人にも詩や音楽の才能があるため、相手の強さが身にしみて理解できるのだ。
「…あのぉ、ウチらに任してもらえんやろか…。」
言いだしっぺということを超えてこの生徒は食い下がってくる。勝算があるのか?
「何か、考えがあるのでしょう。彼女らに先行させてやらせてみてはどうです?」
曹操の助言もあった。4名を先に出して、とりあえず効果のほどを見ようというのだ。
生徒会軍総指揮官・皇甫嵩は作戦の是否を思案してみる。
成功すれば儲けもの。失敗しても全軍と別に先行させた4名が飛ばされるだけ。
「よし、分かった。明日の会戦に先立って試行してもらおう。」

「関さん、翼徳、憲和。やったで、明日、試してみぃってことになった。」
劉備の帰りをまっていた3名に会議の決定を嬉々として報告する。案が通るか
不安で待ちくたびれていたこともあり、よっしゃぁ、やりぃと張飛と簡雍は歓
声を上げる。作戦案を出した関羽は表には出さなかったが、流石に気を揉んで
いたのだろう、落ち着いた態度は崩さないが安堵の表情が浮かぶ。
「ところで、関さんに出だし頼みたいんやけど…。」
「えー!!姉貴ぃ、オレじゃ駄目なのかぁ?」
やる気満々の張飛が口を出す。
「翼徳、カラオケやろうというんとちゃうんやで。それとも何か、
選曲これやけど、あんたやったら最初っからノリノリで外さんと
いけるんか?!」
「ウゲッ、これでやるんか?うらむぞ、憲和。」
「違う、選んだのは玄徳よ!!」
「確かにこの案を出したは私ですが…。本気ですか、姉者。」
関羽と張飛は選曲として、数曲をあげていた。そこから劉備と簡
雍で選んだのだが…。いや、関羽自身が歌には歌で対抗すると考
えついた時点で最初に頭にうかんだ候補ではあった。
誰もが歌いやすく、ノリがよく、知名度も高いという軍歌に必要
な条件は満たしている。だが、余りも素で歌うにはこっ恥ずかし
い歌なのだ。
“…そういう時だけ私に頼みますか…。”
劉備に策を述べた時点でこうなる覚悟はしていた。ただ、やるには条件がある。
「ひとつ伺いますが、明日はどこで迎え撃ちます?」
もしこの策が当たればやり方次第では殲滅戦にできる可能性がある。
しかし、黄巾軍の中で本当に学園騒乱の責任を取らねばならない人物
は限られている。おそらく劉備は殲滅戦はとらないだろうが、関羽と
してはこの義姉の真意を確認しておきたかった。
「ウチは正面から行くつもりや。失敗しても後ろにおる皇甫嵩先輩に
迷惑はかからへん。それに、深く考えんと勢いで黄巾に参加した連中
はできる限り逃がしてやりたいしなぁ。」
罠を張らず正面から挑むなら黄巾軍の真後ろは空っぽだ。総崩れにな
った際に逃げ切れる数は多い。
“この人に任せて間違いはなかったな…。”
「分かりました、その役承ります。」

「後言っとくけど、2人とも明日この格好して指示通りやってな。」
「かーっ、マジ?!赤っ恥を曝せってか?」
「…毒を喰らわば皿までですか…。」
劉備に指示書を見せられて、天を仰ぐ張飛に額を押さえる関羽。
「さすがにあれはやりすぎなんじゃない?」
肩を落として出て行く二人を心配そうに見ていた簡雍がたしなめ
るが、劉備は気にした様子はない。
「憲和、心配せんでもええって。大丈夫、あの2人いざとなった
らノリノリでやるから。あ、そうそう、あんたにも大事な役ある
からそのつもりでなぁ。」
「…あのね…。」

186 名前:岡本:2003/02/16(日) 22:24
■広宗のG・P・M(2)■


翌朝、広宗の野に、大型スピーカーを通して「天使の声」の張角が歌う黄巾のマーチが流れる。
張梁旗下の黄巾軍団も歌いながら、鉅鹿棟に布陣する生徒会軍向けて進軍を開始する。
先鋒隊が生徒会軍の陣営直前に迫ったとき、彼女らの前に4名の生徒たちが立ちふさがった。
「地公主将様、いかがします?」
「構わん、押しつぶして通れ!!今日こそ、皇甫嵩を飛ばすぞ!!」
おおっと気勢をあげ、再び黄巾のマーチとともに張梁軍は進軍を開始した。
そのときである。
4名の中から、長身を武道着に包み腰に黒鞘の居合刀を帯びた女生徒が黄巾軍の前
に歩み出てきた。腰に余る豊かな黒髪とどことなく憂いを帯びた美貌を持つ佳人と
いっていい面持ちの人物だが、武道着の上からでも途轍もない心身の強靭さを秘め
ているのが見て取れる。
「今や、関さん!!」
何事、と見ていた両軍の目に、女生徒の腰間から放たれた銀の光芒が進軍を続ける
黄巾軍の行く手を断ち切るように一閃されるのが映った。黄巾軍の先頭が度肝を抜
かれて歩みを止める。剣の型を演じ続けるその女生徒の口から湧き出る深みのある
テノールが全ての喧騒を貫いて戦場に響き渡った。

 その心は闇を払う銀の剣

朗々と響き渡る歌声に合わせて、大身の居合刀が銀の光芒を放って翻る。
刀身2尺7寸(82 cm)の美しい刃紋で知られる関の孫六兼定を模した模造刀
で、関羽が“冷艶鋸”と名づけて形稽古に用いているものだ。

  絶望と悲しみの海から生まれでて

四方の敵を何れも一太刀で制する型を示した後、静かに引いた刀を
体の脇に捧げ持つように立てる“陰の構え”で止め、眼前の黄巾軍
を見据える。威圧感十二分である。
“関さん、絶ぇぇっ対、昨日演武の練習しとったな。”
苦笑する劉備に黄巾軍からのざわめきが届く。
「あれは関羽だ!」
「程遠志を飛ばした奴か!」
“黄巾のマーチ”はまだ続いているが、黄巾軍に動揺が走るのが感じ取られた。
関羽の隣に歩み出ていた少林拳の演武着を纏った女生徒が1.8 mはあろうかとい
う棍棒を構える。背は意外に低く童顔だが、全身がバネでできているかのような
逞しさをもっており、長身重厚な関羽にも見劣りしない。関羽のパートが終わる
や間髪をいれず、演武の型と共にソプラノの声が紡がれる。高いが力強さを感じ
させる声は、勇壮な演武にマッチしていた。

 戦友達の作った血の池で
 涙で編んだ鎖を引き

棍棒を瞬時に三節棍に変形させ、目にも留まらぬ勢いで連節棍の演武
を続ける。三節が攻めかかる大蛇の如き動きを見せ、歌に更なる威を
添える。

  悲しみで鍛えられた軍刀を振るう

「こんどは摶ホをやった張飛だ!!」
更なる豪勇の登場に、黄巾軍の動揺が増加する。黄巾軍の進軍は完全に止まった。
「Gun-parade march (突撃行軍歌)で来たか!!」
思わず、曹操がうなる。最近の口コミで話題になっているゲームの歌だ。蒼天学園
でもかなり生徒が知っている。内容上、これ以上うってつけの歌は無い。しかも、
リーディングに起用した人物の声が武道で鍛えたのか深みのある声が非常によく通る。
肉声は電気変換された声に印象においてはるかに勝る。
“これが劉備の勝算だったのか…。”
関・張の間に赤パーカーを羽織り両手に張り扇をぶら下げた劉備が歩み出る。
滑稽な格好だが、眼鏡の奥から黄巾軍を見る真摯な眼差しには2人に劣らぬ
心の強さが感じられる。
どこか長閑ではあるが、けして諦めない強い意志を帯びたアルトが流れる。

 どこかの誰かの未来のために
 地に希望を 天に夢を取り戻そう

両手を大きく広げるや、天地の希望と共に目の前の黄巾軍を胸に抱きしめる
ように交差させる。歌詞自体は確かに甘い、夢を描いたような望みを言って
いる。だが、それを実現するかも知れないという可能性を感じさせる歌声である。
最後は3人の声が、テノール・ソプラノ・アルトが重なる。

 我らは そう 戦うために生まれてきた 

関羽が“冷艶鋸”を沖天の勢いで振り上げるや瞬時に大地を
両断するかの如くに振り下ろして破邪顕正の威を示し、張飛が
全ての敵を薙ぎ倒さんとする三節棍の型を決めて見得を切る。
2人とは対照的に、胸の前で交差させた張り扇を両手で広々と
大文字に掲げた劉備は、降した敵を慰撫する様を示した。
この瞬間、3人の歌声は張角の「天使の声」を凌駕した。
高らかに“黄巾のマーチ”を歌っていた黄巾軍の歌声がついに途絶える。
この好機に3人の後ろについた簡雍が、生徒会軍の方を向いて“せ〜のぉ!”
とばかりに両手を振り上げてメゾ・ソプラノで続ける。

 それは子供の頃に聞いた話
 誰もが笑う御伽噺

威圧されじりじりと後ずさりし始める黄巾軍へ劉備達4人は歩を進める。
再び関羽が、

 でも 私は笑わない
 私は信じられる
 貴女の横顔を見ているから

張飛が、
 
 遥かなる未来への階段を駆け上がる
 貴女の瞳を知っている 

そして簡雍が歌う。
 
 今なら私は信じられる
 貴女の作る未来が見える 

3人が劉備の元に集まり、劉備の差し出す両手をとる。関羽・張飛・簡雍の合唱となった。
 
 貴女の差し出す手を取って
 私も一緒に駆け上がろう

高まった機運に呼応するように生徒会陣営からも歌う声が聞こえてくる。
その声を耳にした劉備が莞爾とばかりに微笑む。劉備たちの進軍に合わ
せて動き始める隊も増えてきた。関羽・張飛・簡雍と視線を合わせて頷き、
4人の合唱が野に響く。

  幾千万の私と貴女で
  あの運命に打ち勝とう 
  どこかの誰かの未来のために
  マーチを歌おう 

劉備たちの進軍に加わり斉唱に加わる者達は生徒会全軍に拡がる熱狂とともに
加速度的に増していった。最後は生徒会軍総員の進軍・大合唱になった。

 そうよ未来はいつだって
 このマーチと共にある
 ガンパレード・マーチ
 ガンパレード・マーチ… 

地を震わせる生徒会軍総員の合唱に威圧され、黄巾軍は完全に崩れた。
進軍してくる生徒会軍におびえて、張梁や黄巾部隊長の制止を振り切って
逃亡を開始する者も出始めた。
「これほど見事にあたるとはね…。」
生徒会軍総指揮官の皇甫嵩が、竹刀を高々と抜き放つ。もはや台詞はこれしかない。
「All!Handed gun-parade!All!Handed gun-parade!
 全軍突撃!
 たとえ我らが全滅しようとも、最後の最後に我らの遺志
 を継ぐ者が1人生き残れば我々の勝利だ!!
 全軍突撃!
 どこかの誰かの未来のために!!」

突撃行軍歌を歌いつつ猛進する生徒会軍の前に、もはや抗する力を失った黄巾軍は
張梁の制止の声も空しく雪崩をうって潰走した。生徒会軍全軍の追撃は夕方まで
続き、地公主将・張梁を飛ばす大勝となった。ここに、黄巾の猛威に対する一大反
抗作戦は大成功のうちに集終結し、蒼天学園全体に“聖徳の名将”、“生徒会の剣”
皇甫嵩の勇名は知れ渡った。
だが、会戦に先立つ4名の業績は生徒会の正式書類には残されていない。

187 名前:雪月華:2003/02/16(日) 23:02
>★ぐっこ様
どうも失礼してます〜。
張魯は張角とちがって親友はじめからいますよね(妹設定だったかな?)。
張衛と入れ替わりに許チョが親友になってくれるし。張角はひたすらミステリアスで孤独で悲愴でしたが、張魯の場合、神秘+天然というイメージがっ。史実でもわりといい扱いですし。
アスレチックで一番高い場所(地上30米くらい)で天文見てたら寝てしまって、気がついたら落ちそうになってて(縁に掴まってる)、張衛はじめスタッフ達ががおおわらわで助けようとしてる。
よりによって激難コースの一番上。どうやって登ったのかは不明だが、助けようにも道具が足りないので、急遽三角形態人間ピラミッド救出大作戦発動!しかーし!組みあがってわかる残酷な事実。…あと一人足りない(爆)。
するとそこに自主トレついでに遊びにきた馬超が!張衛の救援要請を快諾した馬超はピラミッドに加わらずひょいひょいとアスレチックを踏破し、あっという間にコースレコードを叩き出し、張魯のもとに到達。
あっさり救出し、張魯をお姫様抱っこしてアスレチックを颯爽と降りてくる馬超。
てっきりピラミッドに加わってくれるものだと思っていた張衛(よりによって中央の一番下にいる)。
頬を赤らめて丁寧に馬超にお礼を言う張魯。軽く片手をあげてジョギングで去ってゆく馬超。
笑顔で手を振って見送る張魯。その背後で力尽き、崩れ落ちるピラミッド…
五斗米道登場(紹介)シーン案…。宗教的団結や勤労奉仕(労働刑)がうまく表現されているのでは…。暴走しました。ゴメンナサイ。
馬超が登場したのは、北方三国志で最初、張衛と馬超の仲がわりとよかったからです。
>ジーク様
どもどもはじめまして〜。コンゴトモヨロシク(女神転生風)。
あれでも救いを持たせたほうなんです(うわ傲慢<私)、初期版ではそのまま死んじゃったんです。
流石にまずいかなと思って声帯損傷に留めたんです(やっぱり傲慢<私)次の話はライトですからご安心を。

>アサハル様
続きを漫画化!激期待です!
姫君の左目が黄色…張角!?すると護衛は…このような人がいれば張角もあんな目に遭わずに済んだかも…(遭わせたのお前やて<私)

ちょっと暗めの話になってしまいました。母親の性格がドライすぎるし(汗)スマソ。
現在執筆中のSSは孟徳様が登場するので結構スチャラカです(主役はあくまで張遼)。呂布と張遼の出会いが描かれてます。今、前半が出来上がって推敲中です。
今、密かに張遼視点の合肥の戦いの話が萌えあがってきてます。資料固めの真っ最中。タイトルは「狼、再び(仮)」。

188 名前:雪月華:2003/02/16(日) 23:24
連続レス大変失礼します。
>維新様
死神=皇甫嵩だったのかーッ!不覚!不覚にございまする!…アサハル様!申し訳ございませぬ(血涙)!。
>187 姫君と護衛じゃなかったんですね…

>岡本様
おおっ!戦シーンだ!しかし…私ガンパレ、名前しか知らないので後半の楽しみが半減。
…買ってきます!あ、しまった!今日初代ファミコンのソフト10本(1万2千円相当)買ったので金が無い!<馬鹿

189 名前:岡本:2003/02/16(日) 23:47
>教授様
いらん知恵がついて薄汚れた大人になってしまった私には
まぶしいばかりに初々しい法正ですね。そういう彼女には
少々強引でも心の扉を開いてくれる簡雍のような友人が
大切なのでしょう。

>彩鳳様
少女の無邪気さと覇王の冷徹さが同居する曹操。それを見守る
姐御・夏侯惇。さて、その日常は?てな雰囲気が溢れていて
いいですね。こういう作品も挑戦したいものです。

>雪月華様
”天使の歌声”張角のエピソードですが。彼女もまた、才に振り回された人物の
一人なのでしょうか。詳細な舞台背景に引き込まれます。
私のSSは、”買ってない人はそれなりに、買った人はより楽しく”程度
に見ていただければよろしいので...。

>アサハル様
いつも綺麗な絵を楽しんで拝見させていただいております。
ところで質問ですが、”テノール”は非常によく通る、男にしては高めで
女性にしては低めの声と理解していいのでしょうか?
文献に”中世・近代の戦闘で、テノールの声を持つ指揮官はその声が喧騒
を貫いてよく聞き取れたので、部隊指揮でかなり得をした”という内容があり、
関羽の声はこれだろうと思いましたので。

190 名前:アサハル:2003/02/17(月) 01:04
ああ誤解が起きている・・・すみません皆様・・・
画力と記述が足りなかったばっかりに・・・
一応、「狩られる張角と死神皇甫嵩」のつもりだったんですが
描き終わってみたら姫と護衛になっていたという・・・(吐血)

>岡本様
う、歌いてぇ!!元ネタ知らないですが歌いたくなりますー!!
正に歌力発伝!!

ええと、テノールなんですけども、歌に限って言えば、相当地声が
低くて低音域の発声が上手い女性がテノールを歌うということは
稀ですがあります。ただ、同じ音域でも女性では低く、男性では高いので
響き方となるとちょっと差がでてくるかと。
関羽の場合は女性なんで、男声テノールみたいにカツンと響くと
いうよりは全方向へ包み込むように広がる感じの響きじゃないかなあ
と思います。
どっちみち「よく通る」とひとくくりにできるんですけども(w

191 名前:雪月華:2003/02/17(月) 01:43
烏丸征伐反省会 その1 〜北の果ての晩餐会〜  作・雪月華

「紅茶とケーキは行き渡った?じゃあ、烏丸・袁姉妹連合(※以下、袁烏連合)征伐反省会はじめまーす!」
 曹操のよく通る声が響く。場所は幽州校区の北のはずれ。長城の外だが蒼天学園の敷地内というあいまいな地所に建つ、柳城棟の食堂付属のティーラウンジ『Willow』である。自治会によって運営されており、給仕やマネージャー、調理人まで生徒が持ち回りの当番制でこなしている。喫茶店だが、軽食も取ることができ、オススメは手作りレアチーズケーキに紅茶がついてセット価格300円。手作りなのでクセがあり、かなり好みが分かれるが、大勢の評判は良く、他の校区からも長城を越えてちょくちょく人が訪れるほどである。
 本来、この柳城棟は袁烏連合の本拠として使われていたが、袁姉妹はそれなりに風紀に気を遣っていたらしく、いくつかのバリケード以外には荒らされた形跡も無く、烏丸高校の生徒達は校外に野宿(!)させていた。故に、袁烏連合四散後も、大きな混乱も無く生徒会に接収され、半日経つ頃にはすっかり平穏になっていた。このことには、郭嘉の尽力が大きい。自治会の再編、生徒への通知などの後方勤務を恐るべき速度でこなしたのである。
 テーブルをはさむように3人がけのソファがあり、一方には曹操が中央に窓側に張遼、廊下側に許チョが。もう一方には中央に郭嘉、窓側于禁、廊下側に徐晃が座る。傍を通った給仕の一般生徒が驚きのあまりトレイを落としそうになった。全員制服姿だが、燦然と輝く一万円札紙幣章をごく自然に身に付けている一人は全校区に名だたる生徒会会長、覇王曹操孟徳その人であり、他の5人も千円札紙幣章所持者である。驚くのも無理は無かった。
 曹操はこのような反省会をよく開いた。行動を振り返り、問題点を探り出し、解決のための行動を決める。主目的はそれであるが、経費で好きなだけ飲み食いするという裏の目的もあった。とにかく、「会」がつけば経費で落とせ!が合言葉である。その経費は郭嘉が部費を農林水産省管轄のある『事業』に『投資』して『割戻』を稼いできているという話だ。正規の部費管理責任者の荀イクも「学園は今まさに乱世。平定のためなら部費くらいなんとしてでも捻出しなければ」ということで苦笑しつつ、容認している。ケーキセットで慎ましやかに始まった反省会は、曹操のプリンパフェ追加を皮切りに、一転、晩餐会の様相を呈してきた。それでも議論は中断せず、よりいっそう白熱するのが曹操軍団である。
 曹操は甘いものを中心にオーダーし、許チョはボウル一杯の杏仁豆腐をオーダー、攻略の真っ最中である。張遼はサラダをつつき、于禁はなぜかレモネードを立て続けに4杯喫している。郭嘉は食欲が無いのか、まだケーキをフォークでつつきまわしている。徐晃はよほどここのケーキが気に入ったのか、ボキャブラリーが無いのか、同じ物を注文し続けている。
「そういや会長。袁姉妹の始末つけといたぜ。さっき公孫康に会長の署名で『烏丸の残党がそっちのほうに逃げたからあとヨロシク〜☆』ってメール送っといた。6時ごろにはあの日和見もカタつけるだろうな。」
「奉孝、お見事!今回の遠征の計画といい、戦の指揮っぷりといい。深慮遠謀、神算鬼謀というべきだよねっ!」
 曹操が大仰に褒め称える。しかしその明るさにはどこか翳りがあった。近頃、郭嘉の様子がおかしい。何も無いところでけつまづいたり、ペンや箸を突然取り落とすということが頻繁にある。食欲も落ちてきているようだ。何故か陳羣が「ちょっと郭嘉。あなた最近おかしいわよ。華陀先生に診てもらったら?」と真剣に忠告している姿をよく見かける。もともと医者嫌いの郭嘉はめんどくさそうにうなずくだけで、保健室に行こうとしない。無理強いすれば反発される。もしかすると郭嘉は自分の病名を知っているのではないだろうか。それが余りにもひどい病気なので隠しているのではないだろうか。それならば医者に見せる振りでもすればこちらも余計な疑問をはさまずに済むのに。と曹操は思っている。
 議論が一区切りつくともう5時近くなっていた。ラウンジに入ったのが3時であるからたっぷり2時間は経っていることになる。うずたかく積まれた皿が片付けられ、淹れなおした紅茶を囲んでの談笑となった。そして話題は柳城で先陣を切り、敵将トウ頓を打ち倒した張遼のことに及んだ。かつて学園最強と呼ばれた呂布軍団MTB部隊の右中隊長(左は高順)を務め、その剽悍な戦い振りから「餓狼」とまで呼ばれ、呂布の次に怖れられた猛将。曹操に降伏後は剣道部に所属し、「餓狼」であることを捨て、知将としての一面を発揮し始めた良将。その風貌は…純朴な牧場の少女。その一言で表現できてしまう。
「そういえば文遠の流派って何だっけ?」と曹操。
「北辰一刀流です。一応は。父が道場を開いていて、でも道場稽古をしたのは5歳くらいまでです。基本的な型とか、防具のつけ方とか。あとは全部自己流で磨いてきました。」
「へぇー。でもなんで5歳でやめたんだ?」と郭嘉。
「父より強くなりたい。と父に言ったら、師の下で修行に励んでも師の半分に達するのがやっとだ。ということで、以後道場に出ることはほとんど無かったですね。」
「我流か。道理で動きが読みづらいわけだな。それに実戦的な動きが多い。」と于禁。
 曹操が何気なく、だが小悪魔の笑みを浮かべてつぶやいた。
「呂布んトコにいたときは毎日が実戦だったしねぇ。」
「や、やめてください会長!。その頃の話は…」
 とたんに真っ赤になってうつむく張遼。曹操が更に追い討ちをかける。
「髪型なんかすごいパンキッシュ…」
「ホントに怒りますよっ!」
 立ち上がって曹操のほうを向き、ムキになって曹操の言葉をさえぎる張遼。
「またまたぁ。いまじゃすっかり落ち着いちゃって。こんなコトしても怒んないじゃん。」
「きゃあっ!か、会長やめ…あ痛っ!」
 曹操の両腕が迅雷の速さで動き、張遼の両わき腹をくすぐる。張遼は身をよじって座り込んだ拍子に肘をテーブルにぶつけてしまい、皿とカップがテーブルの上で短いダンスを踊った。幸い、どのカップも空だったのでウェイトレスを呼ばずにすんだ。
 かすかな連続したシャッター音を于禁の耳が捉えていた。ふと窓の外に目をやるとデジカメらしきものを懐にしまっていた女生徒と目が合った。整髪量など使ったこともなさそうなぼさぼさの髪。こめかみあたりに無造作に挿した安物の髪留め。眠そうだが油断できない目。于禁は脳内の人名録の頁をたどった。該当人物が絞られてゆく。確か劉備の幕僚の、簡雍。何故こんなところに…そこまで考えたとき、すでに簡雍は近くに止めてあった自転車に飛び乗り、まっすぐに長城のほうへ走り去っていた。于禁はそれを呆然と見送るしかなかった。
 …まだ先の話だが、劉備新聞社会面にセクハラ問題の記事があげられ、「逆らえない部下に性的接触を強要する上司」との見出しでこの写真が使われることになる。抜け目無く目の部分に消しが入っており、この日の簡雍のアリバイ工作も完璧だったため、この写真が大事に発展することは無かった。

「まあ、髪形の話は置いとくとして…」
「おねがいですから忘れてください…。」
「そういえば私達が知ってる文遠と呂布って、風紀委員長だった丁原先輩の部下だった頃からなんだけど、初対面ってどんな感じだったの?」と徐晃。
「もともと呂布様と私は匈奴中学の同級生だったんです。クラスが違ったので2年次まで知り合う機会はありませんでしたが。」
 張遼は呂布の名を使うときは必ず「様」をつける。いかに尊敬していたかが伺えた。
「聞きたいなー♪そのときの話。」
「ふふっ、なんだか昔話をしたくなってきました。」
「昔って、髪型が…むぐっ!?」
 言いかけた曹操の口を絶妙のタイミングで許チョがふさぐ。曹操はしばらくぢたばたしていたがやがておとなしくなった。話の腰を折られずに済んだ張遼が懐かしそうに話し始める。

 匈奴中学。運動部高校と評される匈奴高校の付属中学のようなものであり、校風も似ている。平均偏差値は高くないが、スポーツの名門校として相当名が売れていた。男子と女子の割合が9対1という、半男子校であり、当然女子専門の部活は無い。当然男子部にマネージャーとして女子が混じることになるが、伝統なのか、女子に精強な者が多く、公式試合などでは高い実力を持つ女子を男装させて出場させることは珍しくない。全国大会への切符をつかみながらも、直前で明るみに出て、出場停止処分となる泣くに泣けないケースも年に何回か起きている。
 張遼は剣道部に所属し、呂布は当然というべきか帰宅部であった。部長が於夫羅。2年のトップは実力でいえば圧倒的に張遼だが、副部長は部長の弟の呼厨泉が務めている。1年生に劉豹がいた。だが、張遼とまともに打ち合えるものは剣道部の中にはおらず、鮮卑中学、烏丸中学への遠征試合でもこれといった相手はいなかった。そして張遼が2年生の冬。事件は起こった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
お待たせしました。三国志で私が最も愛する勇士。張文遠主役のストーリーです。
まず岡本様にお詫びを。張遼の流派を岡本様原案の北辰一刀流から、「北辰一刀流をベースにした我流」に変えさせてもらってます(_ _ペコリ
その理由はその2を読んでいただければお分かりになるかと。
全部で4部構成くらいになると思います。

192 名前:雪月華:2003/02/17(月) 02:12
烏丸征伐反省会 その2 〜呂布と張遼 −対峙−〜

 放課後の剣道場。稽古前の瞑想の時間のときである。静謐な剣道場内に、突然、無造作に扉を開ける音が響いた。呼厨泉の指示で、部員の一人が様子を見に行った。なにやら押し問答が繰り返され、いきなりその部員が剣道場内に吹き飛ばされてきた。後ろのほうに座っていた何人かが巻き込まれて転倒する。
 無造作に大男、いや大女が土足で入ってきた。ずば抜けて高い身長。黒人ソウルシンガーのようなチリチリのドレッドヘア。骨太だが無駄な筋肉が一切無い精悍な肉体。全てを見下すような目。
「呂布か!?何しに来た!」呼厨泉が色めきたつ。
「…道場破り。」
「何だと!?」
「…ヒマなの。カラダ動かしたいからつきあって。」
「ふざけるな!」
「激昂するな呼厨泉。いいだろう。学園一の戦士だとかもてはやされているが、力だけでは剣に勝てぬことを教えてやる。全員整列!。」
 見る間に部員が2列に分かれ、道場の端に並んで座る。並び方は実力順であり、張遼は儀礼上、呼厨泉の1つ下座に座した。
「防具を貸してやる。早く身に付けろ。」
「…いらない。竹刀だけ貸して。」
「ふざけるな!」
「まぁいい。多少痛い目にあえば少しはこたえるだろう。竹刀を貸してやれ。」
 部員が恐る恐る呂布に竹刀が手渡す。無造作に片手で振った。ドボッ、と空気を叩く音がした。
 できる…!と張遼は思った。同時にいままで感じたことのない昂揚感を覚えた。肌が粟立つ。
 一人目は2年生の中堅クラスの男。名前は思い出せない。部員Aとしておく。向かい合って、相手が構えても呂布は竹刀を右手に下げたままである。
「呂布!なめているのか?構えたらどうだ?」
「…これが私の構え。なめてるのは確かだけど。」
 面で隠されているのでよく見えないが、部員Aは怒りで耳まで真っ赤にし、大きく踏み込むと面打ちに行った。しかし踏み込みが足りず、竹刀が床板を打つ。すかさず呂布が剣尖を踏んだ。抜けない。はっと面をあげたところに凄まじい横面が叩き込まれた。竹刀から手が離れて吹き飛び、転がる。そのままぴくりともしない。脳震盪を起こしたのだ。通常、竹刀で面なり篭手なり打ったら反動で跳ね上げることになっている。だが呂布はどんな打ちかたであろうと打ち抜いている。気絶するのも当然だった。
 呂布は踏んでいた竹刀を蹴飛ばすと「…次」と言った。
 二人目は胴を薙ぎに言ったところ、急激に間合を詰められ、左手で面を押された。体勢が崩れるところに唐竹割りをうけ、頭から床板に突っ込む。
 三人目には無造作に間合を詰めていき、正眼(へそから竹刀を突き出すように構え、剣尖は相手の眉間に向ける。基本中の基本。)に構えたままの相手の胴を無造作に薙いだ。やはり壁際まで転がっていき、動かなくなる。
 そのときになって張遼は防具を外し始めた。どうしようもない昂揚感が体の奥から湧き上がってくる。武者震いが心地いい。
「何をしている張遼?。」と於夫羅。
 4人目の劉豹が、面打ちに行ったが平行移動でかわされ、カウンターで胴を薙がれた。張遼の目の前まで転がってきて、そのまま気絶する。恐ろしいことに胴に竹刀の跡がくっきり残っている。於夫羅が1年生最強と見込み、席次も張遼の5つ下だった劉豹があっさり破られ、部員にはっきりと動揺が浮かんだ。
「次は私が出ます。防具を外したのは動きやすくなるからです。」
 さらリ、と言ってのける。
「正気か!さっきの打ち込みを見ただろう?防具があったから失神で済んでいるのだ。」
「打たれる。とは限りません。というより打ってやります。」
 面は被っていなかったので、胴と垂、篭手を外し、純白の稽古着と藍色の袴だけになると、竹刀を携え、気絶した劉豹をまたぎ、列を出て呂布と正対した。手拭だけは汗よけのため、頭に巻いている。
「…度胸のある奴は嫌いじゃない。それにこの中では一番ましみたい。…防具はつけて。…でないと死ぬ。」
「死の覚悟はできているつもりです。手加減は…御無用!」
「…過剰な度胸、虚勢。それは傲慢に通じる。でも…あなたにはそれとは無縁の何か澄み切ったものを感じる。…防具をつけて。…死なせたくない。」
 信じられないことに呂布の声に温かみがこもったように張遼には思えた。だが張遼はそれに答えず、じわりと気を発した。ある程度以上の剣格(剣のスキルレベル)が無ければこの気を感じ取ることすらできない。それは絶対領域であり、その中に踏み込めば乾坤一擲。一瞬でどちらかが逝き、どちらかが生きる。
(無駄か。今まで生きてきて、死なせたくないと思ったのは初めて。こんなに心地いい気を発する人に出会えるのはあと10年は無いかも…)
 呂布は軽くため息をついた。次の瞬間、剣道場が内部から崩壊するのではないかと思われるほどの殺気が呂布から発せられた。
「…腕?足?そのあたりならまだ生きられる。…それとも…頭?首?…一思いに心臓?」
 声と共に竹刀がその部位を指し示す。すでに呂布の声から温かみは蒸発していた。

「あの時は本気で「死ぬ」と思いました。「負ける」ではなく「死ぬ」と思ったんです。」
シン、と一座が静まり返っている。曹操が相槌を打った。
「呂布って、剣も強かったんだ。普段のバトルでは武器持ってなかったけど。」
「剣に限らず、弓術、薙刀術、槍術、棒術、ムエタイ、カポエラ、テコンドー…呂布様はとにかく地球上の格闘技はすべて極めていらっしゃったみたいです。」
「忍術も?」
「はぁっ!?あの呂布が忍術!?羽目板外して天井裏登ったり城壁と同じ模様の布被って追手撒いたりするのか?」
 曹操が余計な茶々を入れ、すかさず郭嘉がまぜっかえした。天井裏に忍び込もうとする呂布、城壁模様の布の裏で追っ手が通り過ぎるのを期待する呂布。その姿を思い浮かべ、まず曹操が華やかな笑い声を上げる。許チョと徐晃が同時に笑い出し、郭嘉がそれに応じた。于禁はあきれて首を振ったが、口元が笑いの形に歪んでいた。張遼も、はじめは口を抑えて笑いをこらえていたが、やがて腹を抱えて笑い出した。いかに尊敬していたとはいえ、笑えるものは笑えるのだ。
「ま、まぁありえたかもしれません。でも最後に頼れるのは自分の拳だけだとおっしゃって、けっきょく得物は使われませんでした。呂布様が使った得物はたいてい一度の戦で使い物にならなくなるんです。」
 何とか笑いを収めた張遼は話を続けた。同じく笑いを収めた干禁と徐晃が熱心に聞き入っていた。曹操と郭嘉は笑い疲れたらしく、ぐったりとしている。許チョは6人分の水を持ってくるため、席を立った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
第1部、絶妙のタイミングで省略されてるなぁ…
速攻で第2部です。じらすようですがここで少し期間置きます。2,3日以内でしょうが。理由として、まだ3部の推敲が完全に終わっていない。4部が終わり方だけ決まっているもので、その他は案に過ぎない。などです。(_ _ペコリ
>岡本様
すみません。流派改変理由まだわかりませんね(._.;
次の回、ホント驚天動地です。2人ともほんとに中学生かと思えるような殺陣が繰り広げられます。

193 名前:教授:2003/02/17(月) 23:16
■■ 簡擁と張飛 〜こんな日常もたまにはね〜 ■■

「おーい、益徳〜」
「ん…?」
 ダンボールの箱を二つ抱えた張飛。
 後ろから聞き慣れた陽気な声が耳に入る。
「憲和?」
 姿を確認しようと箱を抱えたまま振り向く。
 と、同時に眩しい光が目に飛び込んできた。
「うわっ!?」
 突然の出来事に危うく持っていた箱を取り落としそうになる。
「へへー…びっくりした?」
 簡擁はカメラを片手に笑顔。
 少しも悪びれた様子を見せない。
「っつあぁ…危ねぇだろ! これ落としたら弁償モンなんだからな!」
 頬を膨らませて抗議する張飛。
 普段なら拳や蹴りの一つや二つは飛ぶ所だが、今回ばかりはそうもいかない。
 何せ抱えている箱の中には実験で使うビーカーやメスシリンダーといった割れ物が入っているからだ。
 以前、ふざけててビーカーやらフラスコを割ってしまった事がある張飛。
 その時に請求された弁償額に愕然とした苦い思い出があるのだ。
 それが故、激しく立ちまわれば九分九厘中身を壊してしまうだろう。
 箱を床に置いてから攻撃してもいいのだが、無事に済ませられるか不安なのだ。
「ごめんごめん。…で、益徳に頼みがあるの」
 しかし、それを軽く謝って流す簡擁。
 無敵街道を一直線のようだ。
「頼みぃ? 今じゃないとダメなのか?」
 ぶすっと膨れたままの張飛が嫌そうに答える。
「うん、時間ないしね。それに益徳は立ってるだけでいいよ」
「何だそりゃ? 立ったままで何が出来るんだよ…」
 笑顔の簡擁に怪訝顔の張飛。
 その笑顔のまま簡擁が要求を口にした。
「可愛いポーズ取って」
「…はぁ!?」
 簡擁の言葉が一瞬理解できなかった張飛。
 だが、落ちついて冷静に考える。
「可愛いポーズって…それで写真撮るつもりかよ! 無理! そいつは出来ない注文!」
 全身で拒否する張飛。
 簡擁は小首を傾げて小さく唸る。
「…益徳は今両手が塞がってるんだよね?」
「ああ。そうだけど…見れば分かるだろ?」
 張飛の答えにニヤリと邪笑する簡擁。
 それを見た張飛の背中に一瞬冷たいものが走った。
 これは危険だと認識して箱を床に下ろして警戒しようとした時だった。
「それじゃ…こうだ!」
「へ…? わあっ!」
 簡擁はお約束の神懸り的な動きで張飛に接近、あろう事か彼女のスカートをめくり上げたのだ。
 咄嗟にスカートを押さえてしまう張飛。
 この辺り、女性らしさの欠片が垣間見える。
「それ、いただき!」
 スカートを押さえる張飛に向けて、簡擁のカメラが火を吹いた。
 そして、『またね♪』と言い残して疾風の様に走り去る簡擁。
「け、けけけ…憲和〜! そのカメラこっちに渡せや〜!」
 耳まで真っ赤にし、まるでさくらんぼの様な張飛が嵐のような勢いで簡擁を追い始めた。
 その場に箱を残したまま…。

 後日、置き去りにした箱の件でひどく絞られた張飛。
 しかも簡擁を捕まえられなかったので踏んだり蹴ったり。
「その気持ち、よーく分かります…」
 法正に同情されて暫くの間張飛は写真嫌いになったそうです。

194 名前:教授:2003/02/17(月) 23:30
素晴らしいSSの後なのに…。
シリアス書けぬ己の力量が憎い…。

雪月華様>

張角たんと黄巾の見方が大幅に変わりました。
丁寧な文章もさる事ながらその表現力に脱帽しました。
そして呂布と張遼タン。
文章から熱さと御気楽さが同時に伝わってきました〜。
是非とも師事を仰ぎたいものです。
最も、私以外の神様達にも言える事ですけど…。

岡本様>

三姉妹がカッコイイ!
GPMは未プレイ(つーか、その名を知ったのが今年に入ってから)なので元ネタに関してはよく分からなかったのですが…。
それでも物凄い心に響きました。まるで、読み手の心をも高揚させるような…。

195 名前:彩鳳:2003/02/18(火) 01:08
 皆様、お久しぶりです。「一月の花時雨」のご感想有難う御座います。
 2,3日ほど留守にしていた間に、皆様のSSがどんどん投下されておりますね・・・。
(溜まってるので読むのが大変だ(^^; )
 
 >アサハル様
 曹操は冷徹な面もあるのですが、幼さも持ち合わせていて、その辺りの匙加減
(切り替え)が難しいです。
 しかし、頭ぶつけたり、寝ながらよだれ垂らして元嬢姐さんに拭いてもらったり、その他多数、
いくら日常モードとはいえ幼くしすぎたかも・・・やはり難しいですね(^^;
 
 >ぐっこ様
 曹操って意外と危なっかしい面もあるので、元嬢姐さんには大いに奮闘してもらう事になりそうです。(^^; 
 と言っても、次の部では場面が切り替わるので、お気に召されるかどうかが不安ですが・・・。
 
 >維新様
 イラストの方は何とか鐘ヨウのベースが固まりました。後は一番苦手なペイントですね。(爆死)
 賈[言羽]の前髪&イラストのアングルで試行錯誤し、続いて賈[言羽]よりは簡単に行くと思った鐘ヨウが
実は難しかったりと悪戦苦闘で予定が遅れまくるばかり。申し訳無い限りです。
 (まあ、簡単に描かせてくれない辺り、流石は大人物と言うべきでしょうか・・・
@画力が無いだけとも言います)

 SSの方ですが、上で言った様に第二部では場面が変化します。
 この「一月の花時雨」の主旨は簡単に言うと「雪の日の一日」なので、同じ一日を
複数のアングルから捉えてみようという実験的なところがあります。

 >岡本様
 お褒め頂き光栄です。このSSは日常生活サイドの話なので、各キャラクター
(といっても、まだ曹操と夏侯惇だけですが。)に「白馬の旋風」の様な戦闘、
戦略サイドの話とは別の面を求めてみたのですが、そこまで出来ているのやら・・・。
 ただ、出来の良し悪しははさておき、各キャラクターが強烈な個性の持ち主なので、
彼女らの個性に大いに助けられている、ってところはあります。

 すみませぬ、。長くなりましたので一旦切ります。

 雪月華様、岡本様、教授様、SSの感想は読み終え次第レス致します。(m‐‐m)

196 名前:岡本:2003/02/18(火) 09:02
>教授様、彩鳳様、雪月華様、アサハル様、
>そのほかのGPMを未プレイの方

拙作中の根幹であるGPMですが、同名ゲームのある意味根幹となる
歌です。しかし、それゆえに、実は”曲も音声付の歌”もゲーム中には
ありません。雰囲気をしめすBGMが掛かるのみです。
詳しくは別枠のGPM板にありますし、多分実際ゲームする以上に
このゲームをうまく説明することはできないと思いますが、大枠としては

人類の天敵が出現し、地球上の9割以上が席巻されるという絶望的な状況で
一高校生の主人公が生存戦をいどもうとしている(実は、我関せずとぷー垂れ
てることも可能)という筋です。
絶望下で戦い希望を未来につなぐ心の最後のよりどころがこの”こっ恥ずかしい歌”なのです。
プレイヤーのゲーム中で置かれた絶体絶命の危機の中でもなおかつ一縷の望みを未来に託さん
とする意思が最良の”イメージ音声”となるため、歌詞は出るのですが
わざと変にイメージを制限してしまう挿入歌がついていません。
(製作者側に制作費がなかったこともあるでしょうが。)

この歌のゲーム中のボーナスは”聞いている人間(友軍)の士気があがり戦闘能力が2〜3割上昇する”
というものですが、現実問題として1.2倍も能力が上がれば、それまでの2倍は強くなったように感じます。
とくに最近のゲームには珍しく、死ぬときはあっさり死に復活不能というハードな状況下では
「よっしゃ、こいやぁ!!」とプレイヤー自身の士気も上がります。

ある技能を身につければ主人公も歌えるようになるのですが、2年前の夏に
ゲーム廃人寸前まではまった私は、”歌を歌いますか?”というコマンドが
出現するときに実際、
「みんな、待たせたな、行くぞ!」
と声を出してボタンを押してました...。

拙作でこの歌をネタに取り上げようと思ったとき改めて歌詞を確認したのですが、
意外にも黄巾の乱時点の劉備・関羽・張飛・簡雍のイメージと行動原理にあっていた
ので驚いたものです。

長々と失礼しました...。

197 名前:★ぐっこ:2003/02/19(水) 01:10
ぐわ!2.3日留守にしたと思ったら…どこからレスをつけたらいいんだ!(;^_^A
わー…お話がいっぱい…書き込みがいっぱい…幸せ〜。

>アサハル様
なるほどー! 皇甫嵩が悪魔のイメージで…。張角を天使とすれば、まさに彼女は
悪魔にあたるわけですが…。でも、やはり護衛というか、張角を庇い立つような姿
に見えます。役職に逆らい、敢えて彼女の尊厳を守る立場のように…

>岡本様
ガンパレキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
っていうかそのまんま! グッジョブ! 関さん目立ってるなあ…
両軍入り乱れての合唱から、声力で相手を押し切るあたり、GPM
そのもの…。陣頭で歌う三姉妹+1は、なんかマクロスのリン・ミンメイ
を彷彿としますが…

■ところでガンパレについて■
詳しくはこちら↓(;^_^A
http://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/ganpare/index2.html target=_blank>http://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/ganpare/index2.html
まだ未プレイの方、ここに来られてると言うことは三国志フリークであり、
かつ萌をしる強者であるということ。このふたつの条件を備えている人種
にとって、このゲームは猛烈な習慣性を持つ「経験」となるでしょう。
家を売ってでもプレイすることをオススメします。

>雪月花様
まずは! その張魯たち頂きっ! 採用! なんかええなー…緊張感というか、
深刻さがない集団で…。馬超たんもナイス!
それから…次は烏丸! 張遼! 秘められた…というか本人が必死で否定している
過去の鬼姫時代の張遼たん! も、萌え〜…っ!呂布の強さも故なきものでは無い
わけですが…カコイイ! なんか隆慶の「虎が自ら鍛えてるのを見たことあるか? 強い
奴は強いんだよ」ってなシチュを思い出しますた…(;´Д`)ハァハァ…

>教授様
そしていつも通りの簡雍たん(;^_^A
彼女に限らず、三羽ガラスの存在感というのは、どうも独特のものだったようで…
法正たちといえど、本気で何とか出来る相手ではなないような(;^_^A
関・張にしたって、簡雍は最も旧い間柄なんですよねえ…。あらためて最強…

198 名前:岡本:2003/02/19(水) 08:46
>ぐっこ様、雪月華様
>隆慶の「虎が自ら鍛えてるのを見たことあるか? 強い
>奴は強いんだよ」ってなシチュを思い出しますた

私も同様な意見を持っています。隆慶一郎氏のファンでも
ありますので。
ただ、呂布についての印象は皆さんの持っているだろう印象とかなり違いが
ある恐れがあります。はっきりいうと私は”否定的な”立場です。
実は白馬の次の章はこのあたり(=張遼と関羽と呂布)に絡んでくるので
雪月華さまの作品を拝見したとき、
”しまった、人格描写が食い違う可能性がでてくる”
と、考えを練り直すため一旦筆をおいた次第です。
何とかうまい解がでないか考えて見ます。

199 名前:雪月華:2003/02/19(水) 11:32
>岡本様
これまた知らぬこととはいえ失礼を。
ちょっと私先走りしてしまったかもしれません。
実を言うとまだ文章化してませんが合肥の戦いもかなり進んで、
甘寧の細かい言葉づかいまで脳内推敲してる状況です。
最近、創作の神が無節操に降臨してくるので、
空気読みが鈍ってきたのかも…。とにかく、お詫びいたします。

200 名前:教授:2003/02/20(木) 00:07
■■法正 〜卒業前夜〜■■


 三月。
 冷たい風が徐々に暖かくなってきている。
 また一つの冬が終わり、そしてまた一つ春がやってくる。
 それでも夜風はまだ身を凍えさせるだけの冷たさを持っている。
「………」
 法正はそんな夜の帳の中を歩いていた。
 黙々と前だけを見つめるその顔からは、彼女が何を思いそして何を考えているのかは窺えない。
 白い吐息が冷えた夜の風に流される。
 彼女の足がふと止まった。
 そこは益州校区で最も美しく、最も古くからあると言われている桜の樹の下だった。
「……卒業…か…」
 まだ蕾の桜を見上げ、小さく呟く。
 月明かりの下に映し出されるその無機質な表情。
 目の前に根付く桜の方がよっぽど躍動感がある…。
 他人が見ればそう思わざるを得ない程に無感情だった。
「…私は…何を卒業するんだろう…」
 法正は右手を樹に当て、眼差しを蕾に…そして天へと向ける。
 梢の隙間から満天の星と、煌びやかな月が見えていた。
「…私が自分に納得できていないのに…。卒業した先に答えなんてあるの…?」
 星と月に向けられる清水のような淀みのない眼が次第に潤んでいく。
 心の奥から瞼の裏に様々な映像が矢継ぎ早に送られてくる。
 不遇な劉樟時代…自分の力を発揮できた帰宅部連合…。
 そして話題にも上らないちっぽけな…それでも楽しかった記憶。
 引退してからは普通に過ごしてきた。
 それもまたかけがえのない思い出。
 それが…明日終わりを迎える。
「長いようで短い…とはよく言ったものね…」
 法正は微かに苦笑いを浮かべた。
 樹を一撫でし、そして踵を返す。
「答えは…分からない。でも、明日…みんなに会えば…巡り合えるかもね…」
 自分にそう言い聞かせるように呟くと、そのまま来た道を引き返して行った。

 そして…卒業の日の朝日が昇り始める――


■あとがき

 3月の頭には投稿したいと思っている卒業ネタの予告編用です。
 お見苦しい文章で大変申し訳なく思っております。

201 名前:彩鳳:2003/02/20(木) 02:06
 
 >岡本様
「広宗のG・P・M」、拝読致しました。
 流石は無敵の新聞部と言うべきか・・・音楽に国境は無い、という事でしょうね。
 ただ、私もガンパレは詳しくないのであまりそっちの話が出来ませぬ。(‐‐;
 一番格好良いのは主役のの4人の筈なのですが、それ以上に皇甫嵩が
格好良すぎると思ってしまったり(^^; 

 すみません。ここから先は与太話です(−−;
 合唱の事は詳しくありませんが、最近のアーティストは昔と比べて声が高くなっている。
騒音の中でも声が良く聞こえるからだ・・・という内容の番組を数年前に見た覚えがあります。
そういう実験結果もあったと思います。
 また、たまたま通りかかった心理学関係のサイトでは、音程の高い曲ほどカタルシス
(=心を癒す効果)がある・・・という文章を見かけました。
 これに関しては、私の好きなワーグナーやヴィヴァルディは完全に当てはまっています。(と私は信じています(^^; 
 (ただ、両者の曲の性格上、ワーグナーは「壮麗」、ヴィヴァルディは「華麗」と言うべきだと思いますが・・・)

 >雪月華様
 「黄巾の落日」より
 何と言えば良いのか・・・切ないですね。この手のシリアス物も機会があったら手掛けてみたいです。
 本当は、「一月の花時雨」もシリアス路線の筈だったのですが、完成した第一部はああなっていた(滝汗)ので、
私としても参考になります。SSの中盤をこれから手掛ける予定なので、活かせればいいのですが・・・。  
 すみません。ものの勢いでこんなものを ↓・・・(−−;
 http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi

 「烏丸征伐反省会」より
 これは・・・!面白いです! 呂布が出てる話って余り見かけないので、新鮮な感じですね。
 次の第3部で呂布の絶大なパワーが炸裂しそうな予感ですが、張遼がどう対抗するのか・・・
非常に楽しみであります。 

 >教授様
 「簡擁と張飛」より 
 これです!私もこんなコミカル調(?)に筆を進めたいのですが、なかなか難しい・・・(‐‐;
 それにしても、簡雍の神出鬼没ぶりは神の領域に達していますね。(^^; ジャーナリストは情報力が命ですが
(世論とは別のアングルから物を見るスタンスも必要ですが。)
 簡雍に関しては、私のSSでも登場予定なので、これまた参考になりました。
 
 話は変わりますが、簡雍に海外で売られている様なウソ専門の雑誌を書かせたら無敵じゃないか?
と思うのは私だけでしょうか(^^;;;
 けどそれだと新聞部が新聞部として成り立たちませんね・・・( ̄▽ ̄;

202 名前:雪月華:2003/02/20(木) 10:39
烏丸征伐反省会 その3 〜呂布と張遼 −勝者と敗者−〜

 剣道場に殺気が満ちている。凄まじい殺気の奔流を発している呂布。急流の中に屹立する岩のようにその殺気を押し返すでなく自然に受け流す張遼。呂布は相変わらず竹刀を右手に下げ、張遼は八双に構える。部員達は呂布の気に圧倒され、ほとんど背後の壁に背中を押し付けられるようにしていた。凄まじい緊張感。
 不意に呂布がそのままの構えでスッと右側に一歩動いた。0.2秒前まで呂布の喉があった空間を張遼の竹刀が貫く(ちなみに中学生の剣道では喉への突きは禁じ手です。高校以上は有効。)。必殺の突きを外されて張遼は体勢を崩さ…なかった。刺突と同じ速さで手元に竹刀が引き戻され、すかさず胴を薙ぐ。呂布が跳んだ。3尺(約90cm)ほど飛び上がる。足の下スレスレを張遼の竹刀が通り抜けていった。呂布は着地と同時に面打ちに行く。張遼は流れた竹刀を引き戻さず、逆に竹刀のほうに体を寄せ、面をかわした。呂布の竹刀が床を打つ寸前に静止し、右膝をついた呂布は伸び上がりつつ右足を踏み込み、竹刀を凄まじい勢いで斬り上げる。体勢を立て直した張遼が袈裟懸けに斬り下げる。乾いた音がして、お互いの竹刀が中ほどから粉砕された。お互いに一歩飛び退る。張遼の突きからここまで2秒とかかっていない。
「竹刀を!」と張遼が叫ぶ。ようやく我に返った部員の一人が、立ち上がろうとして転び、また立ち上がると新しい竹刀を2本持ってきた。
 最後の連続した斬り下げ、斬り上げは燕返し。佐々木小次郎が得意とした技であり、虎斬りとも呼ばれた。上段からの見せ太刀(かわされることを前提とした剣。)で体勢を崩した相手の股間を狙って斬り上げる。地面スレスレまで振り下ろした剣をすかさず斬り上げるのだから、強靭な筋力が必要とされる。佐々木小次郎は細面の美男であると同時に筋骨隆々の大男であったといわれている。
 再び気が張り詰める。今度の対峙は長いものになった。呂布は相変わらず竹刀を右手に下げ、張遼は今度は上段にとっている。5分、10分と時が過ぎていく。一見、互角に見えるが、その実、張遼は押され始めていた。激流の中に屹立した岩はいずれ、外郭を削り取られ、ひびが張り、崩壊する。ただ、押され始めはしたが、張遼は汗もかいていなければ、震えてもいなかった。よりいっそう神経が研ぎ澄まされてゆく…
 20分が過ぎたとき、今度は張遼が仕掛けた。
「エェェェェェェイッ!」
 腹の底から裂帛の気合を発する。於夫羅でさえ聞いたことのない張遼の気合。剣道場内の時が止まった。
 止まった時の中を張遼が動いた。
 止まった時の中で呂布も応じた。
 凄まじい踏み込みとともに張遼が面打ちに行く。呂布が左手に避けた。胸の高さで張遼の竹刀が滑らかに横移動し、呂布を追う様に薙ぐ。呂布はそのままの体勢で待ち、それを1cmで見切った。胴薙ぎの体勢に入る。張遼は流れた竹刀を剣尖を回しながら八双に戻し、少し体をかがめると、空気抵抗により発火しそうな勢いで斬り上げる。柳生新陰流「逆風の太刀」である。
 もともと、戦場で使われた剣であり、唯一鎧で覆えない股間を狙って切り上げる。内股には動脈があり、それを狙う。狙う場所が場所だけに、現代の剣道では禁じ手とされている。
 呂布は右手に下げた竹刀に左手を添え、無造作に胴を薙いできた。これも発火しそうなほどの速さだ。
 だが、見事に張遼の読みどおりのタイミングである。あとは下から呂布の竹刀を擦り上げ、体勢を崩した呂布を打つ。
 思いがけないことが起こった。張遼の竹刀が何の手ごたえも無く振り上がってしまったのである。自分の時間だけが0.5秒飛んだような感覚があった。タイミングは完璧だったはずで、自分の竹刀が呂布の竹刀を擦り上げていたはずである。しかし今ここには、胴が伸びきってがら空きになった張遼と、今まさに胴を薙ごうとする呂布の姿があった。(死んだ)、と張遼は思った。
 呂布の竹刀が張遼の胴に叩き込まれた。息が詰まる。それでも必死の思いで体を伸ばし、鳩尾への直撃を外す。衝撃で自分の体が浮き上がる錯覚を覚えた。いや、錯覚ではなく実際に浮き上がり、背後の壁に向かって吹き飛びつつある。吹き飛ばされたときに汗よけの手拭がほどけ、セミロングの艶やかな黒髪が解放された。
 ほとんど本能だけで体を半回転させ、両足をそろえて「壁に」着地し、態勢を立て直して床に降り立つ。姿勢が前に崩れた。前のめりになったところを咄嗟に左手をついて上半身を支え、すかさず右手に逆手に持った竹刀を杖に立とうとする。…が、中腰になった時点でそれ以上体が持ち上がらなかった。膝に力が入らないのだ。
「…腹への打撃は足に来る。5分は立てない。」
 相変わらず竹刀を右手に下げたまま呂布が言う。不思議と嘲りには聞こえなかった。張遼は堪え切れなくなり、ぺたんと座り込んでしまう。それでも竹刀は放そうとしなかった。
 呂布の右頬にわずかに血がにじんでいる。胴を打たれると同時に張遼が横面を狙って薙いだのだ。その分、回避が遅れ腹部へのダメージは大きくなった。すんでの差でかすり傷のみに終わったが、まぎれもない覚悟と執念の賜物であった。
「…全員倒すつもりだったけど、その子…張遼って言ったっけ。…張遼の「覚悟」に免じて帰ってあげる。」
 呂布は竹刀を投げ捨て、身を翻すと入ってきたときと同じように無造作に出て行った。きちんと扉を閉めていったのは張遼への敬意だったのだろうか?
 張遼が剣道部をやめたのはそのすぐ後だった。

「その後の1年間は私のトップシークレットです。たとえ会長でもお話することはできません。」
「え〜!なんで〜?!いいじゃんかさ〜。」
「ダメです!」
「…はい。」
 于禁が感心したようにため息をついた。
「しかし中学生どうしの立会いとは思えん技の応酬だったな。呂布の強さも凄まじいが、その呂布に防具無しで立ち向かうお前もどこかキレていたとしか思えんぞ。」
「あの時は初めて自分と対等以上に戦える人に会って、どうしようもなく高揚してたものですから…つい100%の自分でぶつかってみたかったんです。」
「それで、最後に呂布が使った技、「無拍子」だろう。宮本武蔵が京都の一乗寺下り松の決闘で吉岡清十郎を破ったときに使った。」
「そうです。ぎりぎりの間合で故意に自分の動きをほんの一瞬中断させ、相手に隙を作り、そこを斬る。見切りと度胸が無ければできません。ただ、動きが中断するため威力は落ちます。私が今生きていられるのもそのおかげかもしれません。」
 しばらく、于禁、張遼、徐晃の3者間で剣談に花が咲いた。
 
 やや退屈そうに曹操が壁の時計を見る。5時52分。郭嘉の宣言した時刻まで500秒弱。
 なにげなく許チョのほうに目をやると、許チョは天井の隅あたりを見上げて茫洋としている。
 星でも見ているのだろうと解釈した曹操は新たな話相手を求めて、郭嘉のほうを向いた。
 はっとした。様子がおかしい。目の焦点が定まっておらず、上半身がかすかに左右に揺れ始めている。気を失いかけているのだ。そのまま郭嘉は、ゆっくりと、右手側の徐晃に寄りかかった。
「え?何?ちょ、ちょっと郭嘉どうしたのよ?」
 徐晃が慌てて郭嘉の肩をつかんで揺さぶる。于禁と張遼も郭嘉の異変に気づいたようだ。ややあって郭嘉の目の焦点が合い、ちょっと驚いたようにあたりを見回す。
「…え…あ、わ、わりぃ徐晃。最近、寝不足でさ…」
 声にも力がない。ほんの2時間前とは別人のようだ。
「ホントに大丈夫?ほら、そこの席空いてるから横になりなよ。」
「心配すんなって。あんまり長ったらしい話が続いたから…」
ぴんぽーん
(生徒会の郭嘉さん、冀州校区[業β]棟保健室の華陀先生から2番にお電話です。繰り返します・・・)
「華陀先生が?奉孝、あなたひょっとして…」
 曹操はなにかとてつもなく悪い予感に襲われた。そしてこういう予感は例外なく的中するものである。
「わりぃ徐晃、ちょっと通して…。」
 徐晃が立ち上がって廊下への道を空ける。廊下に出て3歩と歩かぬうちに郭嘉が膝をついた。それまで茫洋としていた許チョが機敏に駆け寄って肩を支える。たった三歩歩いただけなのにもう呼吸が荒い。
「すごい熱…」
「虎ちょ。内線まで連れてってあげて。」
「うん。」
 曹操が真剣な口調になっている。
「…よけいなことすん…」
「いいからっ!!」
 その声はほとんど叫びに近かった。周囲の数組の生徒達が何事かと視線を向ける。郭嘉もしぶしぶ承知したようだ。許チョが郭嘉に負担を与えないように注意して、レジスターの傍の内線まで連れて行く。3分ほど話が続き、許チョに支えられて郭嘉が戻ってきた。その間、曹操をはじめ4人とも一言も言葉を交わしていない。
「郭嘉、明日からしばらく絶対安静だって。放課後だけじゃなくて、授業も出られない。」
「どうして?どんな病気なの?どのくらいで治るの?」
「…言えない。」
「虎ちょ!」
「なんでもねえって…只の…風邪…だよ。3日も…すりゃ…。」
「うそっ!風邪程度でそんなにひどい症状が出るわけないよっ!」
「会長、落ち着いてください!」
「公明の言うとおりです。許チョ、君は郭嘉を寮まで送ってくれ。まだ路面電車の最終があるはず。」
 6人の雰囲気が周囲の生徒に伝染し、深刻な雰囲気に包まれたティーラウンジ。そこに場違いなほど明るい声が飛び込んできた。
「やっほー!会長ー!会長ー!あっ!やっぱりここでしたか!吉報ですよ吉報!公孫…」
「「「やかましいっ!!!」」」
 曹操、于禁、徐晃に同時に怒鳴られ、生徒会の1年生は何がなんだかわからず、床にへたり込んでしまった。あまりのショックに半べそをかいている。張遼が慌てて駆け寄り、なぐさめながら用件を聞き出す。用件を伝えた1年生は入室のときとは正反対のテンションでしょんぼり出て行った。
「会長。遼東棟長の公孫康からの封筒です。」
 曹操は張遼から封筒を受け取り、封を切ると逆さにして振った。千円札をかたどったバッジが二個、高額貨幣章が数個。裏には袁姉妹とその主立った幹部の名が刻印されていた。誓紙が一枚。内容は以降、遼東棟および周辺の各施設は生徒会に従う。というものだった。意図せずして郭嘉を除く全員が時計を見る。6時ちょうど。本来なら小躍りして喜び、郭嘉を褒めちぎるところだが、誰も喜色を示さなかった。当の郭嘉はもはや喋る気力も無いようであり、許チョにもたれかかり、浅く、短い呼吸を続けていた。
「…反省会を閉会します。明日放課後、生徒会幹部全員は冀州校区〔業β〕棟、生徒会会議室(旧生徒会分室会議室)に集合。今後の戦略を話し合います。以上。解散。」
 「幹部」の中に郭嘉が含まれることはしばらくないだろう。期待が大きかっただけに、曹操の声もどこか気落ちしていた。

その頃、荊州校区、襄陽棟近くの臥龍ヶ丘公園地下秘密実験室では…
「フフフフ…できた…できました!エキセントリック!これでワタクシの世界征服の夢は一歩前進…」
「お夕食ですよ孔明様ー。あれ?そのおっきな機械、なんです?」
「おお、これはマイ・リトル・シスター諸葛均。聞いて驚け、このマーヴェラスなマシーンは超弩級中性子ビームカノン!開発名R.E.N.D Ver.αだ!。プラズマを利用してニュートリノを核融合させ、そこから導き出される熱量を…」
「この赤いボタンを押すとビームが出るんですかぁ?えいっ!」
「うわあアあアあアぁ…」
「ああっ、孔明様がこんがりと黒焦げに。」
「だ、だいじょうぶです、ノゥ・プロブレム。身頭滅却すればマグマもまた一段とクール…」
「じゃあもう一発。えいっ!」
「うわあアあアあアぁ…………ぱた」
「あっ、倒れた。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−
ギリギリだったけどちゃんと入ったかな?お待ちかね決着編&急遽完結です。
郭嘉…。このしばらくあと、曹操の身内にも悲劇が待ってます。
「怒り、恐れ、嘆き、悶えるお前の”人の顔”を露にしてくれよう。」
とっても魯粛な気分です。あっ!いつの間にか孔明が!

203 名前:★ぐっこ:2003/02/20(木) 23:43
>呂布のキャラ
基本的に、現在の人物設定どおりだと「榊さん級」萌えキャラというところ
なんですよね…(;^_^A ただ、実際の呂布の人物と較べると、かなりギャップが…
もっと自分勝手…というか超然としたエゴとフィーリングだけで、特に意識もせず
学園史を引っかき回すような存在のほうが、よりフィットするかもです…
まあ、作品ごとに多少キャラ像が揺れても、構いません。

>教授様
む…! 「最終回予告」ノリな一本!
ここしばらくガンガン前面に出てた簡雍&法正たんですが、いよいよ
卒業の日を迎える時がキタですか〜。期待。
ほややん麋竺たんとお使い乾ちゃんも登場きぼん…

>雪月花さま
呂布の中の人…じゃない、人中の呂布の真骨頂ですな!
な、なんか凄い殺陣描写(;´Д`)ハァハァ… 張遼たんも凄いけど、
やはり呂布ですな…。
そして郭嘉たんが…

・゚・(ノД`)・゚・

204 名前:★ぐっこ:2003/02/21(金) 00:22
あ。レス抜け(;^_^A
>彩鳳様
やや、イラストありがとうございます! いかん、そういえばアプロダの
巡回しばらくやってなかった…
独特の迫力というか、切実さがひしひし伝わってくる絵ですよ…

205 名前:彩鳳:2003/02/21(金) 18:48
>教授様
 卒業式ですな! 人それぞれの思いがあるでしょうが、どうなるか・・・
 凄い重みの在る予告です!
 
 >雪月華様
 
 なんというのか・・・「るろうに剣心」の剣心vs斎藤を思い出させますね。
 アレはアレで凄まじいですが、呂布のケタ違いのパワーも凄い・・・(^^;

 問題の郭嘉が・・・あぁ・・・(T_T)

>ぐっこ様
 アレは、実は下書きの試作の方が良く出来ていたりしていまして(T_T)
 次こそは・・・・

206 名前:彩鳳:2003/02/21(金) 19:03
 さて、私も皆様に続きまして、第二部を・・・

 ■ 一月の花時雨 ■

 第二部 ―雪道の交錯―
 
 「ふぇっ・・・くしょん!!」
 「畜生! 寒くてかなわへん!!」

 ここは、荊州校区の新野棟。まだ表には出していないが、曹操が狙っている荊州校区の北東部に位置しており、校区の中枢である襄陽棟とは比べるべくも無い、辺鄙な棟である。
 だが、前年の秋に帰宅部連合総帥の劉備が棟長に就任してからというもの、事情が少々変わりつつある。
 
 前年度の夏休み、カント公園にて生徒会長の袁紹と副会長の曹操による一大決戦が行われた。
 戦闘開始直後は圧倒的な大兵力を擁する袁紹の勝ちかと思われた。だが、参謀の許攸が曹操側へ寝返った事で状況は一変、危機的状況にあった曹操が文字通りドンデン返しの大勝利を収めたのである。
 大敗北を喫した袁紹は会長を辞任、ここに曹操の覇権確立は決定的なものとなる。
 袁紹の大敗という誰もが予想出来なかった(一部の人間を除く。)結末に学園内部は震撼し、曹操の名前を知らない生徒は存在しなくなったと言っても過言ではなかった。
 当の曹操は会長に就任し、袁紹の後継者が定まらずに内部割れを起こす華北の情勢を見るや直ちに進撃を開始した。冀州、青州は立て続けに制圧され、袁氏の勢力圏は、并州の高幹と幽州の袁尚に分断された。
 なおも生徒会勢の進撃は止まらず、正月が明けてから李典・楽進率いる生徒会の大軍は高幹の守る并州校区へと動き出した。 
 数で勝る生徒会勢だが、高幹は地形を利して激しい抵抗を行っており、并州校区では現在も戦闘が続けられている。

 一方、帰宅部連合(新聞部)を率いる劉備は、カント公園の決戦直後に関羽と涙の再開を果たし、冀州に主力を向ける生徒会勢の後方攪乱を行うべく汝南棟へ移動、黄巾党の残存勢力と共に決起した。
 だが、蒼天会本部を狙う帰宅部の動きを曹操は見逃さなかった。夏侯惇、夏侯淵らの逆襲を受けた帰宅部は大敗し、汝南の地を維持出来ずに荊州校区へ逃亡したのである。
 荊州校区へ逃れた劉備一行は、校区総代・劉表の庇護を受け、新野棟長に就任。帰宅部本来の新聞部としての活動を再開し、校区公認のローカル新聞(地方紙)「新野通信」を刊行していた。
 「新野通信」は、その内容と劉備のカリスマ性との相乗効果で愛読者を多数獲得し、新野棟とその周囲の地域では徐々に劉備の名声と支持者が増大している。
 劉備の本拠地となった新野棟には劉備を慕う生徒達が集まり始め、僅かづつにではあるが辺鄙な棟は賑やかになりつつあった。
 だが、荊州校区本部では劉備の影響力を恐れ、蔡瑁を中心とするグループが密かに動き出していた。この動きは引退が近い荊州校区総代の後継者問題とも絡み、
このしばらく後から蔡瑁一派は幾度と無く劉備を付け狙う事になるのであった。

 当の劉備は、妹分の関羽と張飛を従えながら校舎への道を歩いてゆく。だが、今日は生憎の大雪で路面電車(レールバス)が止まっている。生徒達は皆、雪道に苦戦しつつも校舎への長い道を歩いていた。

 「・・・しっかしエライ雪やなぁ。歩きにくいったらあらへんで。」
 「確かに歩きにくいですが・・・姉者、雪で路面電車が止まっています。急いだほうが良いかも知れませんよ。」
 「・・・ハックション!!」

 「そやな、急ごうか。電車使(つこ)うてたから気付かんかったけど、寮から校舎まで結構な距離あるで。」
 「ええ、急ぎましょう。ここで我らが遅刻でもしようものなら、『新野通信』の名誉に関わります。折角生徒達の支持を集めてきたところです。生徒達を失望させるような真似は避けるべきです。」
 「関さん、そこまで大げさに考えんでも・・・って、遅刻する以前に朝飯食えへんな。遅れたら。」
 「・・・ハーックション!!」

 「・・・翼徳?あんた寒いんちゃう?」
 「まったく・・・だから『コートを着ていくように』と言ったのに・・・。」
 
 当の張飛は普通の制服姿だ。ただし『制服』だけであって、その上には劉備の様なパーカーも、関羽の様なコートも何も着ていない。他の生徒の様にマフラーもしていないのだ。

 「あんなのいらへん!だいたい動きにくいし面倒くさ・・・――ックショイ!!」

 『要らない』と言い張る張飛だが、意地を張っていることは誰が見ても明らかだ。
 劉備が白い溜息を付く。

 「――ったく、見てられへんなぁ。しゃーない、コレ貸してやるわ」
 「いえ、姉者がそこまでなさらなくても・・・それでしたら私が」
 「ええって、いらん言うとるねん!んな事言うひまがあったら先にいくぞ!」

 あくまでも拒絶する張飛であったが、劉備もこう言う事ではテコでも引かない。

 「うるさい!お前が着ない言うならワイが着せたる!! 関さん、手伝ってな!」
 「はぁ・・・姉者がそこまで言うのでしたら。」
 
 関羽が張飛の腕を押さえ込む。内心『こんな道の真ん中で・・・』と思っているのだが、その一方で張飛のやせ我慢に
呆れているのもまた事実だ。増してや劉備はやる気満々であった。こういう時は止めても無駄だと、長い付き合いで分かっている。

 「――っ、おい!よせって、こんな所で!!大体急ぐんじゃなんかったんか!?」
 「お前が人の言う事聞かんから、こんな所で上着着せてるんやで。それが嫌なら大人しくせや!」

 雪道の通学路でもみ合う三人。
 はっきり言って目立つ事この上ない。劉備自身多数の視線を感じているが、今更やめる気にはならない。意地でも自分のパーカーを着せる気である。

 もみ合う三人を避けて、横目で見ながら登校する生徒達。その中に紛れて――。

 「あーぁ、朝っぱらからよくやるよ・・・雪降ってるのに。ま、私は構わないけど。」

 遠巻きにこの騒動を見つめる少女たちの影に紛れ、嬉しそうに笑いを浮かべながら、一人の少女がビデオカメラを構える。周りの少女達も
目の前の騒ぎに目が向いていて、この少女の事に気付いていない。もちろん、劉備たちも――。

 「おっ、いいよいいよ。翼徳〜頑張れ〜☆」

 (『よくやるよ』って・・・そう言うあんたもよくやるよ、と私は思うね。ま、お互い様と言うところかな?)
 
 構えたビデオに夢中になっている少女をこれまた横目に見ながら、一人の女生徒がもみ合う劉備たちを眺めている。品定めをするかのようなその目つきは、
興味本位で三人を眺める女生徒たちや、すぐ近くで楽しげにビデオを廻す少女のものとは全く性質を異にしている。 
  
 「あぁ、玄徳のヤツ!何やってんだ。折角良いアングルなのに・・・」

 (『何やってんだ』はあんたもだろ。だが・・・確かに噂通り、面白そうな連中だな・・・)

 満足そうに目を細めた少女は、向きを変えて校舎の方へと再び歩き始めた。その手には、袋に納められた竹刀が握られている。
 
 (劉備玄徳・・・『新野通信』の責任者さんか。さて、どうしたものか・・・一応司馬徽先生に話しておくかな。)

 「翼徳のヤツ・・・(ププッ)パーカーのサイズ合ってないぞ。(まあ、玄徳のだから当たり前なんだけど。)しかし今日は朝からツイてるぜ〜☆」
 
 (それは良かったな。まあ、御健闘を。)

 録画の邪魔にならないよう、竹刀の少女はビデオの少女の後ろを回って、そのまま遠ざかってゆく。少し
離れたところでは、無理矢理サイズの合わないパーカーを着せられた張飛が、露骨なテレ隠しで喚き散らしていた。
いつの間にやら荷物係になっている関羽と、ハリセンを振り回して張飛と向かい合う劉備。そして、それを様々な目で見つめる女生徒たち。

 幾つもの思いが交錯しながら、新野棟の一日が始まろうとしていた。

 ―第二部 END―

  ■作者後記■

 ・・・何とか第二部、「雪道の交錯」が完成致しました。(タイトル被ったりしてませんよね?@滝汗)
 第一部、「北風の銀華」と第二部が《午前の部》
 次の第三部から《昼休みの部》となります。また製作が長引きそうで心苦しいのですが、どうか見捨てないで下さい(m‐‐m)

 ・・・張飛って冬でも薄着のイメージがあったので、あんな展開になりました・・・(^^;
 敢えて名前出さなかった人物が二名ほどおりますが、誰だか分かりますよね? (^^;
   

207 名前:教授:2003/02/23(日) 05:08
■■卒業 〜序章 曹操編〜■■


「孟徳、急げよ〜」
「分かってるって!」
 卒業式当日の朝。
 トーストを頬張りながら夏侯淳が曹操を急かす。
 いつもと変わらない朝の光景だ。
 当の本人は下着姿で制服を品定めしていた。
 その数はクローゼット一つでは納まりきらない程だった。
 同室の夏侯淳はやたらと制服を詰め込む曹操を見兼ねて、自分のクローゼットを使わせている。
 その為、自分の分のクローゼットは無くなり、仕方なく自分で作って隅においていた。
「いい加減、何か着ろよ」
 コーヒーカップを優雅に傾けながら苦笑いの夏侯淳。
「んーと…どれにしよ〜…」
 下着姿のままの曹操がクローゼットを文字通り引っ掻きまわす。
 暫くして、はたと動きが止まる。
 そして一着の制服を手に取った。
「これ! これがいい!」
 その制服は曹操自身が生徒会長に就任した時に特別に作った服だった。
 夏侯淳は曹操の手に掴まれた制服を見ると、右目を閉じ憂いを込めた笑みを浮かべる。
「…それか。そうだな、今日はそれがいいだろ」
「うん。この服は…奉公がいなかったら作れなかったもん…」
 きゅっとその制服を胸に抱きしめる曹操。
 制服の右腕部に『郭嘉奉孝』という名前が刺繍されている。
 それは彼女達を大勝利に導いた現生徒会最高の頭脳の名前。
 今は亡きその人物の功績は評価しても評価しきれない。
 それだけに早すぎるその死は曹操達に悲しみの涙を与えた。
 曹操は姿見を前に制服に袖を通していく。
 一年以上も前に作った服だが、それでも曹操の体躯にぴったりだった。
「…奉孝。今日は一緒に卒業しようね」
 鏡に映る自分の姿を見ながら、いるはずのない少女に言葉を掛ける。
 …と、その背後に微笑む少女の姿が映った。
「…! 奉孝!?」
 ばっと振り返る曹操。
 しかし、その姿は見えず、夏侯淳が不思議そうな顔をしてこちらを見ているだけだった。
「…どうしたんだ? 何か見えちゃいけないものでも見たような顔して…」
「う、ううん…何でもない…」
 曹操は苦笑いを浮かべてもう一度姿見の前に立つ。
 すると、また郭嘉の姿が曹操の後ろに見える。
「奉孝…」
 今度は驚かなかった。
 むしろ、嬉しささえ込み上げてきていた。
 鏡に映る郭嘉が囁いた。
『卒業おめでとう…これからも私は貴方を見ています…』
 懐かしくも力強い声。
 曹操の目に涙が溢れてくる。
 そして、郭嘉の姿が鏡の中から消える。
「本当にどうしたんだ?」
 姿見の前で立ち尽くす曹操を心配して夏侯淳が傍に近づいてきた。
「何でもないよ。それよりも、早くいこ!」
「お、おい!」
 涙を乱暴に拭うと夏侯淳の手を握り駆け出す。
 郭嘉が最後に見せた最高の笑顔と言葉は何よりも曹操の心に残り続けていた。

『本当にお疲れ様でした、会長。私はずーっと傍にいますからね♪』

208 名前:雪月華:2003/02/23(日) 09:11
懊悩

冀州校区[業β]棟保健室にて。
曹操が緊張した面持ちで丸椅子に座っている。
傍にはつきそいの許[ネ者]がぼーっと立っている。
パラパラとカルテをめくっていた校医の華陀がやがて重々しく宣言した。
「結果が出た。おぬしの頭痛の原因、それは…」
「ゴクリ…」
「脳腫瘍じゃ。すでに手遅れ。あと三ヶ月ももたん。」
「えええええーーーっ!!」
「嘘じゃ。そうでかい声を出すでない。」
「な、なんてこと言うんだよっ!このクソじじいっ!」
「ぐわっ!こ、校医に脳天唐竹割りを食らわすでない!」
頭を押さえる華陀と本気で怒る曹操。許[ネ者]はあいかわらずぼーっしている。
「どこも悪くないわい。強いて言えば、おぬしは一度に色々なことに頭を使いすぎじゃ。」
「どーいうことよ?」
「テストでは全科目90点台は当たり前。100点も珍しいことではない。8校区の統合生徒会長職。放課後の覇王の二つ名。おぬしは青春を謳歌しすぎじゃ。やらねばならぬこと、やりたいことがあまりに多く、それが人間の許容範囲を越え、頭痛を引き起こしておる。そうとしか言えんのう。」
「じゃあどうしろというのよ。いまさら自主返済して一般生徒に戻れとでも?」
「それはおぬしが決めることじゃ。とにかく、現状のままでは頭痛はさらに酷くなる。これだけは間違いないのう。」

「ところでおぬし郭嘉のことについて知りたがっておったの。」
「あたしは会長として部下の健康状態を知っておく必要があるのよ。」
「知らんほうがいい。知れば頭痛がいっそう酷くなるじゃろう。それでもか?」
「当然だよ!」
「許[ネ者]、すまんが席をはずしてくれんか?」
「うん。」
頷いて許[ネ者]が保健室を出ていった。
「後悔するでないぞ。ほれ。」
「カルテ…?。…ALS…。」
「筋萎縮性側索硬化症。脳からの信号が筋肉に伝わりづらくなる病気じゃ。信号が伝わらんとやがて筋肉は衰弱してゆく。影響が出るのは随意筋のみで、内臓の働きは損なわれんからいきなり命にかかわるということはないが、呼吸が浅く、困難になったり、何ともないところで頻繁に転んだりする。病状が進むと寝たきりになる。入学当初は、卒業まではもつと予想しとったのじゃが・・・」
「確か意識障害はでないはずだったけど…この間は座ったまま気を失いかけてたんだよ。熱も出てた。」
「そっちは半分、いやほとんどはおぬしに責任がある。」
「どうして?」
「確かにALSでは発熱や意識障害は起きん。だが、同時に風邪を併発したんじゃ。それも相当悪性の。原因は…わかっとるな。」
「北伐…」
「おぬしは別格として、許[ネ者]はもと女子プロ部。于禁、張遼、徐晃はみな剣道部じゃろう。だが郭嘉はどちらかといえば文化系。あまり野外活動には向いとらん。それをなんじゃ。あのクソ寒い幽州校区へ連れまわして戦(いくさ)などさせおって。」
「…」
「それでよく”会長として部下のため”などと。部下の向き不向きを見極められずして何が会長じゃ。」
「う…」
「まあ、すんだことじゃ。そう落ち込むでない。」
華陀が書類に何か書き込んでいる。
「郭嘉は来週から休学して入院じゃ。おそらくおぬしの在学中の復学は無理じゃろう。長引けば退学となるかもしれん。まだ寮で寝込んでおるから今のうちに見舞いを済ましておくとよかろう。もっとも、風邪が治らねばまともに話すのは無理じゃろうがな…」
華陀が時計を見た。13:25。
「話はこのくらいじゃ。ほれ、そろそろ戻らんと授業に遅れるぞ。頭痛薬の処方箋は出しておく。帰りにでも「黄帝薬局」にとりにいくといい。」
「…頭痛がおさまらなかったらまた来るよ。」
「おさまるはずはあるまい。あくまで薬は気休めに過ぎん。」
扉を開けると許[ネ者]が扉の傍で待っていた。
許[ネ者]と一緒に曹操は教室へ向かった。
(郭嘉の病気は…あたしのせい?まだ荊州校区や長湖の連中の事が残ってるのに…郭嘉。)
北伐に向かう前の郭嘉の言葉が思い出された。
『このあとは荊州、長湖だな。まあ、まかせとけって。最近自信が出てきてさ、あっと驚く戦略戦術が次から次に沸いてきてんだからな。これからは会長にもラクさせてやれるよ。』
「裏切者…」
「ん?何?」
「…」
「変なの。」
郭嘉は自分の信頼を裏切った。無論裏切りたくて裏切ったわけでないことはわかっていた。そしてわかっていながら裏切者と呟いた自分を、曹操は激しく嫌悪していた。
頭痛がまた始まっていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
烏丸の続きです。このあとほどなくしてtakayuki様の「曹操の涙」にシフトします。なんか最近重い話しか書いてないような…
また出そうかな、諸葛亮…。四輪車=諸葛亮発明のソーラーカー=ゆかり車(!)で同乗した劉禅がトラウマになるとか(爆)。

209 名前:★ぐっこ:2003/02/23(日) 23:09
Σ( ̄□ ̄;)!! またまた留守の間に神降臨〜

>彩鳳様
荊州編! 新野の新天地へやってきた劉備一党と、彼女らを観察する
ふたつの視点…って一つは身内か(;^_^A
それにしても、状況説明ありがとうございます。学三史のよきおさらい…
張飛は…きっと男子に生まれていたら半袖半ズボンで冬を通すタイプだったかも。
ヘタすれば凍結した長湖を車が通れるような、中華市の寒空で、コートを着ない
で頑張る翼徳たん…。
…そうだ、司馬徽って結局教師でしたっけ、先輩でしたっけ(;^_^A ここのとこ各キャラ
の低年齢化が進んでるから、「イイ! 凄くイイ!」の電波系先輩が有力だったっけか…

>教授様
むう、一転してのシリアス系。
卒業曹操verですか〜。彼女も、色々ありましたが、やはり学園を去るにあたって心に
残るのは郭嘉ですね…
郭嘉が生きていれば学園史は…などというifではなく、一緒に曹操と卒業させてあげたかった…
と素直に思います…。てゆうか彼女死なす設定にしたの私じゃないか…・゚・(ノД`)・゚・

>雪月花様
偶然なのでしょうか、ちょうど死に繋がる病に倒れる郭嘉が…
郭嘉の死に関しては、実はだいぶ前から腹案というか、実話に基づいたお話を考えて
るので、いつかは発表したいですが…。とにかく、切なくなりますよね…
本人は隠してるけど、だんだんろれつがおかしくなってきたり、お箸が持てなくなって
きたり…一日ごとに、身体の機能が低下してゆく恐怖…。しかも現在の人類の医学では、
回復する手だてさえない、死を待つだけの絶望…
郭嘉が活躍していたのは、そういう時期だったりします。そう、登場した最初から。

余談ですが、「Kanon」の真琴シナリオはこたえた…。

210 名前:アサハル:2003/02/24(月) 01:06
か、神降臨しまくってますがなー!!

郭嘉たんの最期ネタ…皆様のSSを元にしてイメージに起こさせて
頂きました。
ALSという病気のことを考えると、高等部に上がった時点で
既に発病していたと考えられますんで…
これをもちまして感想に代え…られるかヴォケ!!>自分

http://fw-rise.sub.jp/tplts/wind.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/wind.jpg

211 名前:彩鳳:2003/02/24(月) 09:24
>教授様
 曹操サイドからの卒業式ですね。

 郭嘉と共にある曹操・・・ BGMは「炎のたからもの」が似合いそうですね。
 (「カリオストロの城」で使われた曲です。ご存知ない方は、下記アドレスを) 
 
 http://www.biwa.ne.jp/~masayo-i/jmidi.html target=_blank>http://www.biwa.ne.jp/~masayo-i/jmidi.html

>雪月華様
 そういえば、曹操も持病持ちでしたっけ(‐‐;
 あちこち忙しい人って、何と言うのか、自分のことを省みない人が多くいますからね・・・

 >ぐっこ様
 司馬徽は先輩案はありましたっけ?私もこのサイトに来て一年経ちましたが
知らない事がまだまだ多い様ですね・・・。(では済まされないかも(^^;;;

 >アサハル様
 郭嘉はそうですね、自分に残された時間が無いのを知っていたからこそ
敢えてハードな仕事もこなしたんじゃないか、なんて思いますね・・・。
 

212 名前:教授:2003/02/24(月) 23:15
彩鳳様>

郭嘉と共にある曹操のBGM…イイ!!
これを書いてる時は自作のバラードを聴いてましたが…『炎のたからもの』は完全にマッチしてます!
卒業シリーズは全部で10部構成の予定。
その一つ一つにBGMを考えたらキリがなさそうだ…。

213 名前:★ぐっこ:2003/02/25(火) 23:32
>アサハル様
うが━━━━━━━━━━━━っ!!!!
郭嘉が…郭嘉が…っ
うわ、これむっちゃツボ! 自分の死をも他人事のように踏破しようとする
鬼謀の少女の生き様が…。何かで絶対に使おう…・゚・(ノД`)・゚・

>彩鳳様
司馬徽生徒説ですが…そういえばここの掲示板ではないかったような…(;^_^A
こちらでは先生説が有力ですので、当然先生でオッケーであります!
そして、カリオストロの城のBGMですか〜。確かにしっくり合ってる…

214 名前:教授:2003/03/03(月) 23:36
■■卒業 〜法正の涙〜■■


 卒業式も滞りなく終わった。
 周りには泣いてるコもたくさんいたけど…私には込み上げてくるものが何一つ無かった。
 自分でも驚くくらい呆気なく感じられた。
 卒業…まあ、勉学に関しては修めてるから卒業とは言えるだろうけど。
 でも、何か納得できない。
 満たされない…何かがまだあるの?
 難解な迷路の何ランクも上の迷宮に迷い込んだみたい…。
 答えは…何処?


「おーい、法正〜」
「ん…?」
 コートを羽織り、教室を出たところで『酔いどれクイーン』こと、簡擁憲和に声を掛けられた。
 いつも通りの元気そうな笑顔。
 だけど、それも今日で見納めかしら。
「憲和、どうしたの?」
「一人で帰るの?」
 一人で帰る?
 まあ…確かに誰かを誘うつもりもなかったし、お呼びが掛かってるわけでもないからね。
「そうね。一人で帰るつもりだったけど」
 私の答えに憲和が首を傾げた。
「今日で最後なんだから、一人で帰るのは勿体無いぞ〜」
「…別に。今までとそう変わりはないわ…」
「さみしー事言わないように。友達甲斐のないセリフだからね、それ」 
「友達…」
 その単語に心の中で何かが揺れた…。
 私を…友達だなんて…。
 …何だろう、胸が…苦しい。
 痛い程に締めつけられてる…。
 それに…自分の鼓動が耳に届いてる…。
 分からない…何でこんな事に…。
「ほーせー?」
「…憲和……っ! 何でもないよ」
 心配そうに私を覗き込む憲和に我に返った。
 でも…まだ症状は治まらない。
「何でもないって顔じゃないけどなー。っと、シチューとパシリが来た」
「卒業してもパシリ扱いってのも…」
 私は苦笑いを浮かべ、憲和の見ている方に向き直る。
 『お使い乾ちゃん』こと孫乾と『おじょーさま』ことビ竺のコンビが仲良く私達の元にやってきた。
 と、早々に子仲がにこにこと微笑みながら口を開く。
「法正さん、一緒に打ち上げ行きませんか〜?」
「打ち上げって…私はやめとく…」
「何でよー」
 憲和が抗議の声を上げる。
「…私が行っても…」
 私はここで言葉を切った。
 後には『楽しくなんかならないよ』って続くはずだったけど…。
 三人に気を遣わせてしまいそうでイヤだった。
 でも、それ以上に気になる事があった。
「それに、何で私を誘うの?」
 私の言葉に三人がきょとんとした目を私に向けた。
 な、何よ…その目は…。
「何でって…ねぇ?」
「うん、そうですね」
 憲和と孫乾が互いを見合って頷き合う。
 それにビ竺も加わった。
 何か分からないけど…。
「あのね…法正さん」
 孫乾が三人を代表して私に話し掛けてきた。
「何?」
「法正さんを誘うのって…友達だからなんですけど…」
「友達って…」
 再び蘇る諸症状。
 顔まで熱くなってきた…。
「え、えーと…友達って…、わ、私の事?」
 な、何動揺してるのよ…。
「はあ? 法正以外の誰を指してると思うのよ」 
 憲和がさも当然のように答えを返してきた。
 孫乾とビ竺も頷く。
「私が…友達…」
 やっと…自分に納得いかなかった理由が分かった気がする。
 私の事を…友達として見てる人がいなかった…。
 いや、いないと思い込んでいた。
 課外活動だけの仲間、友達未満の繋がり。
 それだけ…ただ、それだけだと…ずっと思ってた。
 でも…今、こうして目の前に私を友達と呼んでくれる人達がいる。
 霞に隠れていた…もやもやしていた部分が見えてきた…。
「ほーせー♪」
「え…っ!」
 憲和の声に顔を上げた途端、強烈な光が目に飛び込んできた。
「憲和…」
「へへー…法正の泣き顔ゲット♪」
「私の泣き顔って…あ…」
 慌てて自分の頬に触れると、濡れた感触が伝わってくる。
「さぁて、法正の泣き顔も手に入れた事だし…行きますか!」
 憲和が私の肩をぐいっと引き寄せ、そのまま歩き始めた。
「け、憲和〜…だから、近すぎるってば…」
「恥ずかしがる事ないじゃん」
 悪戯っぽく笑う憲和。
「仲がいいですね」
「…喧嘩する程仲が良いと言いますし」
 孫乾とビ竺もくすくすと微笑みながら、私達の後ろから付いて来る。
「全く…」
 私は…無意識に自分の顔が綻んでいた事に気付いてはいなかった。


 私達が校舎から出ると…そこには見た事もないような綺麗な光景が広がっていた。
「うわ…」
「綺麗…」
 憲和と孫乾が感嘆の声を漏らす。
 朝はまだ蕾だった桜が…今は大きく花を開き、文字通り咲き乱れていたのだ。
「早咲きの…桜ですか…」
 ビ竺はそんな事を呟き、風に吹かれてきた桜の花弁を手に取る。
「私達の門出には…最高の祝福…だと思いませんか?」
 にこりと微笑むビ竺。
 その目尻には涙が滲んでいた。
 私も目頭が熱くなるのを感じている。
 孫乾は…溢れてるし、憲和は…潤んでる。
「卒業は別れじゃない…また…いつでも会えます」
「そうだね…。会えなくなるわけじゃないもんな」
 ビ竺の言葉に感慨深く答える憲和。
 答えてはいないが、私も孫乾もきっと憲和と同じ事を思ってるだろう。
 と、憲和が何かに気が付いた。
「おっ、あそこにいるのは…玄徳とその妹達じゃん。合流しよっか?」
 憲和の指差す先には…元総代達の姿が見えた。
 私と…孫乾、ビ竺は顔を見合わせる。
「行こう!」
 三人の声が重なった。
 憲和はその答えに微笑みを返すと、そのまま駆け出した。
「私達も行こっ」
 孫乾とビ竺は並んで走り始める。
 私は…ゆらりひらりと舞う桜の流れを見上げていた。
「こんなにも心が軽くなったのは初めてだよ…ずっと、ずっと続いてほしい…」
 心の中にあった本当の気持ちが素直に言葉に出来た。
 もう少し早く気付いていれば良かったなぁ…。
 ちょっと後悔。
「法正〜! 早くおいでよ〜!」
 遠くの方から憲和が私を急かす。
「分かってる! そこで待っててよ!」
 私は笑顔を向けると、親友のいる場所へと駆け出した。
 きっと…心の底から笑っていられてるよね?

215 名前:惟新:2003/03/04(火) 10:36
>岡本様
>広宗のG・P・M
むむっ! 相変わらず圧倒させられる作品!
こりゃガンパレやっときゃよかったなぁ…
それなりに楽しんで読ませていただきましたが、それだけに何か悔しい(^_^;)

>雪月華
>烏丸征伐反省会
あ、こんな所にも簡雍が(^_^;)
ド迫力戦闘描写は岡本様に続く超新星のヨカーン!
今後とも大期待〜!
>懊悩
ALSといえば、ホーキング博士も若くしてこの病にかかられたんでしたね…
ああ、郭嘉…(ノД`)

>教授様
>簡擁と張飛 〜こんな日常もたまにはね〜
うおっコミカルだっ!
スカートめくられて慌てる張飛カワ(・∀・)イイ!
>卒業 〜序章 曹操編〜
郭嘉がコンボでキタヨ…(ノД`)
そうです。みんなで卒業するんですよ、ね…
>卒業 〜法正の涙〜
ああ、ヨカタね法正…(T▽T)
それにしても教授様、苦手とか言いながらシリアスでも良いものを書かれているじゃないですか!

>アサハル様
郭嘉。・゚・(ノД`)・゚・。
近い終末を知りつつ、最期まで自分らしくあり続けた彼女。
そこには多くの苦悩や、恐怖があったことでしょう。
それを見事に一枚の絵で表現なされましたね…

余談ですが、自分の前途に絶望して地下鉄に火を放ち、多くの人を巻き添えに自殺を図る人だっているわけで。
願わくば、郭嘉のような、絶望に打ち克つ強さを…

>彩鳳様
>雪道の交錯
三姉妹の心温まる冬の光景。
いいですな〜ほんわかぷーですよ〜
そしてここにも湧いて出た簡雍! もうすっかり簡雍ブームですな(^_^;)
続きが楽しみ…

216 名前:雪月華:2003/03/05(水) 00:45
長湖部夏季強化合宿。
孫堅が提唱し、孫策が受けついだ、夏休み開始から1週間にわたって行われる長湖部名物行事であり、そのハードさは孫権が三代目部長に就任した今も衰えていない。そのスケジュールは、
6:00      起床・洗顔・身支度
6:30〜7:30     長湖南岸(10km)早朝ジョギング
7:30〜8:10     朝食&宿舎の掃除
8:15〜10:00    全員での基礎体力づくり
(10分休憩)
10:10〜12:00      〃
12:00〜13:00    昼食・ミーティング
13:00〜15:00    各種目ごと練習
(10分休憩)
15:10〜17:30      〃
17:30〜18:00    全員での柔軟体操
18:00〜      自由時間(外食可)
21:00      門限(違反者は翌日、練習量2倍のペナルティが課せられる)
23:00      消灯
となる。
生徒会が荊州校区を席巻し、赤壁島の決戦が差し迫った今、イメチェンに成功した周瑜が部長の孫権の全権代理として総指揮にあたっている。脱落者、不適応者は容赦なく退部となるため、黄蓋ら3年生からは不評を買っていたが、その効果については異論のはさみようがなく、いわば実績が不満を押さえ込んでいた形であった。

…23:30
消灯時間は過ぎているが、いまだ眠る気配の無い一室がある。消灯といっても、3年生が一度各部屋を見回るだけで、それさえやり過ごせば後は結構自由な時間が持てる。
灯りを消し、なにやらボソボソと語り合う数人の気配。
魯粛、甘寧、凌統、呂蒙、蒋欽の長湖部問題児軍団に加え、陸遜、朱桓ら数名の1年生の姿も確認できる。話の内容は、怪談のようだ。修学旅行、合宿など、若い者同士の一夜の定番である。
「…つまりさ、いないはずの5人目がいたのよ。」
懐中電灯で顔を下から照らした魯粛が話を締めくくる。話をする者には懐中電灯が渡され、場を演出するために使用される。
「つまんねぇな。どっかで聞いたぜ。その話。」
「黙って聞きなよ。」
洗いざらしの金髪を無造作にタオルで包んだいわゆるタオラー状態の甘寧に凌統がつっこむ。
この二人、仲は悪いくせに不思議と隣り合って座ってしまう。教室でも、食堂でも、練習でもシャワー室でも。
「次は、えーと、一年生の君。」
「はいっ!任せてください、とっておきがあるんですから!」
仕切り役の呂蒙に指名を受けたのは朱桓休穆。部長の孫権の同級生で、スポーツ万能で学業成績もいい。性格も思い切りがよく、長湖部期待の新星の一人である。
「これは、人に聞いた話じゃなくて私が実際に体験したことなんです…」

「私が小学校4年の頃、母が風邪をこじらせて入院したので父はお手伝いさんを雇ったんです。Aさん、としておきますね。外国の方らしいのですが、日本語が堪能で、仕事も速く、正確なので父はとても気に入ってたんです。」
「外国っていうと、東南アジアあたりか?」
「タイ人だとAさんは言っていましたが…なぜか、うちの飼い犬がやたらとAさんに吠え付いたんです。今までは絶対に他人に吠えたりしなかったのに。」
「へぇ…」
「雇って1週間たったあたりで、…見てしまったんです。」
「何を?」
「あの日の夜、2時ごろでした。私はトイレに行こうと思って、2階の自分の部屋から1階に降りていったんです。そこで信じられないものを見てしまったのです。」
座が静まり返る。
「Aさんがいました。ただし首だけで。首から下が無くて、向こう側の洗面台が見えたんです!」
朱桓が懐中電灯をつけて顔を下から照らした。
その顔が3m近く上、天井近くに見えた!
「うわあぁーーー!!!」
どすん、ばたん、ゴキッ!
電灯がつけられた。
朱桓は積み重ねた布団の上に立っていただけだった。
面白そうな顔をしている魯粛。あまり動じていない蒋欽。後ろ手をついて仰け反っている呂蒙。微妙な表情をしている甘寧。そして…なぜか甘寧の首にしっかりと抱きついている凌統。一番驚いたのは間違いなく彼女である。
「ほ、ほんとの話、それ?」
「はい。信じてもらえないかもしれませんが、本当です。あの後、Aさんの部屋へ逃げていったので、追いかけたら、部屋の中でAさんが泣いていました。あのあと、すぐ辞めちゃいましたっけ。」
「追いかけたって…あんたは凄いわ。」
「……凌統。」
「なに?」
「…いつまで抱きついてるつもりだ?」
「あっ…」
慌てて凌統が離れる。
「俺様にはそんな趣味は無いんだが…」
「う、うるさい!物のはずみよ!」
「ところで陸遜は…あ」
呂蒙の隣に座っていた陸遜が目を回して仰向けに倒れている。暗闇の混乱の中、仰け反った呂蒙のエルボーをまともに顎に受けたらしい。
無防備に気絶している陸遜を眺めていた魯粛にふと、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。計画を他の者に耳打ちする。
やがて話がまとまり、甘寧が頭側を、魯粛が足を持って部屋からいずこかへ運び出していった。

…視界のエメラルド色のもやが晴れてくる。起きたら顔を洗って、歯を磨いて、寝床を整理したら着替えて食堂に。今日はトーストと紅茶のセット。残っていたらベーコンエッグも…
陸遜が目を開けるとそこには見知った、しかしそこにいるはずの無い人の寝顔があった。意識の混乱が収まり、その人物が周瑜であることに気がつくと、慌てて跳ね起きる。つられて周瑜も目を覚ました。
「な、なに、何?なんで!?」
「ちょ、ちょっと陸遜!?どうして私の布団に!?」
「ち、違います!違います!!違いますっ!!!」
何が違うのかわからないがとにかく否定する。董襲、陳武、徐盛らが起きだしてきた。絶体絶命のピンチである。昨夜、魯粛の提案で集まり、怪談話をしたところまでは覚えているが、そこから先の記憶が無い。なにやら顎のあたりが痛むが…。
廊下のほうで複数の笑い声が聞こえ、逃げるように足音が遠ざかっていった。
「あ!まさか…まてー!」
陸遜が慌てて部屋を飛び出してゆく。部屋の隅では魯粛が狸寝入りで笑いを堪えるのに苦労していた。
…夏休みの間、陸遜は周瑜に口を聞いてもらえなかったらしい。
ーーーーーーーーーーーーー
ちょっと季節外れですが、張角SS推敲の合間に息抜きのつもりで書いたものです。
実際の朱桓もこの妖怪に遭遇しているらしいです…。
最後の悪戯は、高校時代、実際に修学旅行で悪友数人と行ったもので、真っ先に寝た者を隣の部屋の誰かの布団に添い寝させるという荒技です。異性の布団だとシャレにならないことになるので、同性の布団に添い寝させ、そのまま私達も部屋に戻りました。…翌朝、隣の部屋から絶叫が(^^;)…徹底したアリバイ工作&黙秘で事件を迷宮入りさせましたが、今、この場で真相を明かします。

217 名前:アサハル:2003/03/05(水) 01:07
>教授様
・゚・(ノД`)・゚・法正たん…!!
確かに彼女、自分から友達だと思ってたのって張松ぐらいなイメージが…
簡雍の相変わらずっぷりも、またいつもと違う感じでいい味出しっぷり…

>雪月華様
!!わ、私もやりましたそれ!つかやられた経験アリ…!!
陸遜、いろんな意味でご愁傷様…。
帰宅部に簡雍がいるなら長湖部には魯粛って感じですねー。笑いました!
てゆーか朝イチで10kmって…そりゃ脱落者も出るわ…

218 名前:★ぐっこ:2003/03/05(水) 23:31
>教授様
皮肉にも、卒業をむかえる日になって初めて友情なるものを知って
しまった法正たん…。私意と利害と劉備への妙な忠誠心だけで波乱に
満ちた学園生活を送っていた法正たん。卒業した後、はじめて彼女の
学生生活がはじまるのかな…。案外女子大とかでは耳年増な純情な女の子に
なるタイプだったり…

>雪月花様
激しく笑いましたが、何と言ってもツボは甘凌ペア。これ。
おそらく一方的に突っかかる事が多いと思われる凌統たん…
魯粛も悪戯好きなんですねえ…(;´Д`)ハァハァ…ていうか周瑜
その他の面々が「小うるさい上役」になって、下の面々が
のびのび遊んでる長湖部の雰囲気が好きだなあ…

219 名前:★ぐっこ:2003/03/06(木) 00:32
>惟新様、てかALL
ガンパレードマーチは、親を売ってでも入手・プレイするべきです。

220 名前:教授:2003/03/06(木) 01:46
■■ 卒業 〜孫策と周瑜〜 ■■


「…周瑜〜」
 卒業式の朝。
 面会時間にもなってない病院の一室。
 カーテンの閉まったその窓を外から叩き親友の名前を呼ぶ孫策。
 下では梯子を懸命に支える甘寧と魯粛がいた。
「周瑜…寝てるの…?」
 再度、窓を叩く。
 あまり強く叩くと看護婦や医師に気付かれる可能性があるので、なるべく弱く。
 しかし、この状況。かなり目だって仕方がないのだが。
「…周瑜」
 寂しそうに呟く孫策。
 周瑜――かつて長湖部を支え、かの赤壁島の決戦で圧倒的不利な状況を引っ繰り返して勝利に導いた名参謀である。
 そして、孫策の親友でもあった。
 赤壁島の決戦の後、周瑜は矢傷を負い…それが元で引退を余儀なくされてしまう。
 引退してからの周瑜は傷の影響か、病気を併発し入退院を繰り返していた。
 卒業式の当日、その日も周瑜は病院のベッドの上だった。
 孫策はどうしても彼女と一緒に卒業したかった。
 それが故に無理と危険を冒して、このような行動を取ったのだった。
「周瑜…一緒に卒業したかったな…」
 諦めて梯子を降りようとした時だった。
「孫策…?」
 病室のカーテンが開き、周瑜が顔を出したのだ。
「周瑜!」
「ち、ちょっと孫策! 何してるのよ!」
「見れば分かるだろ!」
「分からないわよ!」
 窓から顔を覗かせる周瑜。
 その顔は少しやつれているように見える。
 腕や脚だけではなく全身が痩せていた。
 学園一の美女と呼ばれていた頃に比べれば大分衰えてはいる。
 それでも、美女と呼ぶには差し障りはなかった。
「こんな押し問答はどーでもいい。周瑜、今日は卒業式だ」
「知ってるわよ。…私は出られないけど」
「出るんだよ! 私と一緒に…卒業するんだ!」
 毅然とした強い眼差しを向ける孫策。
「駄目だよ…私…お医者様に外出禁止って言われてるもの…」
 その目を受ける周瑜は、ゆっくりと首を横に振り、そう呟いた。
「駄目なもんあるか! 駄目だったら抜け出せばいい! だから…迎えに来たんだ!」
「孫策…」
「早く!」
 孫策はさっと自分の利き手を周瑜に差し出す。
 信頼している相手だからこそ、利き手を預けるのだ。
 その事は周瑜自身が一番よく理解していた。
「孫策…行こう!」
 周瑜は笑顔を見せると孫策の手を取り、身を乗り出す。
「しっかり掴まってろよ…」
「分かってる…って! わわっ!」
 注意深く梯子を降りようとした孫策と周瑜。
 しかし、予期せぬアクシデントが起こったのだ。
 強烈な横風が二人を襲う。
 俗に言う春一番という強風だ。
 間一髪、孫策は梯子に掴んで難を逃れたが、周瑜はそうはいかなかった。
 長い入院生活で衰えた体には自分を支えられるだけの体力はなかったのだ。
 周瑜の手が梯子から離れる――
「周瑜!」
 咄嗟に宙に舞う彼女を捕まえる孫策。
 しかし…この行動が裏目に出た。
 周瑜の体を捕らえるのに孫策自身が両手を梯子から離してしまったのだ。
「ヤバ…」
 無我夢中になっていた。
 二人の体が引力に従い地面に落下していく。
 そして地面に打ち付けられる…はずだった。
 不思議と衝撃が走らなかった。
 ぎゅっと閉じた目を開くと澄みきった青い空が孫策の目に映る。
「先代…周瑜さん…無事ですか…?」
 その声は下から聞こえてきた。
「甘寧…? …甘寧!?」
 孫策は周瑜を抱えたまま起き上がり、下にいるその姿を確認する。
「へへ…無事で良かったですよ」
 彼女の心配を余所に甘寧が埃を払いながら立ち上がる。
「怪我は! 怪我はない!?」
「大丈夫です。丈夫な事が俺の取り柄なんスから」
 笑顔で答える甘寧。
 その元気そうな様子に安堵の息を漏らす孫策。
「孫策…ごめんなさい…」
 丁度、お姫様抱っこのような状態になっている周瑜。
 彼女は今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「気にすんなって! それよりも…早くここからずらからねーと…」
 屈託のない笑みを浮かべて周瑜を嗜めると、ちらちらと周りの様子を窺い始める。
「孫策…?」
「結構、大きな音だったからな…。気付かれでもしたら厄介だよ」
 そう呟くと、孫策は甘寧と魯粛の方に向き直る。
「それじゃ撤収!」
「了解!」
 元気良く返事をすると、三人は疾風の如き速さで駆け出す。
「そ、孫策! 自分で走れる!」
「無理言ってんな! こんな軽くなっちまった体で…走れるもんか!」
 抗議する周瑜に言い放つ孫策。
 その言葉と同時に彼女の目から涙が溢れた。
「ごめん…私が不甲斐なかった所為で…いらない迷惑をたくさん掛けて…挙句の果てにはこんな目にも遭わせちまって」
「…貴方の所為じゃない。だから…泣かないで…」
 嗜める周瑜の瞳にも涙が浮かぶ。
 互いに信頼し合い、そして誰よりも気遣い合った。
 以心伝心――二人の心は誰よりも…どんな人にも負ける事はない。
 程なくして三人は止めてあったバイクに飛び乗る。
「それじゃ、先代! 俺等がケツ持ちしますので!」
「頼んだよ!」
 ケツ持ちを買って出た甘寧(その後ろに魯粛)にこの場を託す。
「今度は飛ばされないように…しっかり掴まってろよ!」
「…今度は…離さない…絶対に!」
 孫策は力強い周瑜の言葉に思わず笑みを浮かべる。
「行くよ!」
 孫策は勢い良くアクセルを全開にする。
 そして…朝霧の中、二人を乗せたバイクは走り出した…。
 二人の未来を差す光に向けて―― 

221 名前:彩鳳:2003/03/06(木) 02:29
 >教授様
 〜法正の涙〜より 
良いですね。やはり卒業式は・・・私も一年前は高校の卒業式でした。
一応後輩から花束は貰いましたが、花吹雪はありませんでした。校門の前は
桜並木になっているのですけどね・・・(−−;

 〜孫策と周瑜〜
 ああ、やっぱ孫策は格好良いですね〜(^^) 孫策に限らず、ヤンキー揃いの長湖部は
みんな格好良いんですけど。
 しかし、ヤンキー揃いの中だと、周瑜はさぞかし目立つ事だろうと
今更ながら気付きました(^^;

 >雪月華様
 やっぱ会談話は合宿のお約束ですね(^^;
 私は高校時代、天文部の合宿の時に墓地の隣で天体観測と言う
今思うととんでも罰当たりな事もやってましたが、私が墓地のベンチで寝ていたら
誰も気付かなくて行方不明扱いされました(^^;;;
  
 しかし陸遜も気の毒に・・・ただし、見ている分には面白いのですが・・・(^^;
 凌統は凌統で、甘寧に軽くあしらわれそうなイメージがあります(^^;
 どうあれ、個性派揃いの長湖部は、何をやっても盛り上がりそうですね。

222 名前:彩鳳:2003/03/06(木) 03:09
 長々と掛かってしまいましたが、SSの第三部が完成致しました。
長くなったので二つに分割します。

■ 一月の花時雨 ■

 第三部 ―大食堂の臨時会合―

 時計の針は十二時半を指している。
 この頃から学園の各クラスとも午前の授業が終了するようになり、学園は
昼休みに入り始めた。
 時間が時間だけに、お腹を空かせた生徒たちは先を争う様にして学食や売店へと
足を向ける。
 
 廊下を歩く女生徒達の中には、彼女らの姿もあった。
 
 「あ〜ぁ、もうお腹減ったよ〜ぅ。元譲は何にする?」
 「カレーか麺類かな。今日みたいな寒い日はそういうのに限るよ。」
 「え゛〜〜!? またカレー!? 昨日食べたばっかじゃん〜。」
 「ならラーメンだな。」

 速い。即答だ。どうやら彼女の中で、既にメニューは決まってしまっているようだ。

 「ほ〜んと、元譲はいい加減だね〜。いつか体壊すよ?」
 「いい加減って・・・単純明解と言って欲しいんだけどね。人間時には単純でないと。孟徳も
心当たりがあるんじゃない?。」

 「う゛〜」と不機嫌な声を上げていた曹操だったが、急に挑発的な目つきになる。その顔には
妙な笑みまで浮かべていた。

 「元譲〜?麺類は太るんだからね〜。消化が速いから太らないと思ったら大間違いだよ〜。」

 これは事実だ。麺類はなまじ消化が速いだけに、無意識の内に沢山食べてしまうものだ。
何より、麺を主に構成しているのは澱粉(デンプン)、即ち炭水化物だ。
 炭水化物は体内で糖分に変わり、糖分は脂肪となって熱になる。消化が速いと言うことは、
血糖値が急速に上がるということでもあり、同じ炭水化物でも消化が緩やかな米飯やパン類とは
大きい差となるのである。

 「そうなのか?でもまぁ、食べた分は消費してるし問題無いだろ・・・。」
 
 まぁ、夏侯惇の得意な剣道の様に、激しく動く運動ではカロリーの消費量は人並み以上だ。
増してや今は冬。カロリーの消費量が当然増大する。冬の朝、朝食を摂らないで登校・出勤し、
寒さに震えた経験がある人なら、季節の変化とカロリー消費量の関係はピンと来るのでは
ないだろうか?
 かく言う私も麺類は好きなので、他人の事をどうこう言える立場ではないが、余り食べ過ぎると
塩分抜きでも危ないという事は言わせて頂きたい。もっとも、消化が早いので急ぎの用の時には
米飯よりも麺類の方が良いのもまた事実である。赤穂浪士が討ち入り直前に食べたのは
蕎麦だったと言われているくらいだ。
 話を戻すが、夏侯惇の場合、本人が言うように摂取量と消費量の釣り合いが保たれているので、
特に問題にはならないのだ。
 
 「元譲なら心配ないと思うけどね。けど気を付けてよ?私達はもう、学校中から注目されてる
立場なんだから。」
 「まあ、確かに目立ってるね。余り目立つのは好きじゃないんだけど・・・仕方ないか。」

 そうこうしている内に、二人の眼前に冀州校区の学生食堂が見えて来る。
 
 「うわ〜込んでるね〜。」
 「今日は凄いな・・・どうしたんだ?」

 多数の校区に無数の校舎が林立する蒼天学園内でも、[業β]棟の学食は最大規模の
キャパシティ (利用者収容能力)を誇っている。その学食が、今日は大勢の生徒で
溢れかえっていた。
 思わず顔をしかめる二人。この日は学食に呼び出した人間が多々居るので、早いうちに
並びたかったのだ。

 「今日は雪だからね〜。まあこういう事もあるって事。」

 普段ならば、外の椅子やベンチを利用する人が多いのだが、今日は生憎の大雪である。
いつもより込み具合が激しくなるのも仕方のない事であろう。だが、雪が降るような寒い日は、
学食利用者の行動にもう一つのパターンが現れてくるものだ。

 「参ったな・・・考える事はみんな一緒か・・・。」
 
 廊下で夏侯惇は「寒い日はカレーか麺類・・・」と言っていたが、これは並んでいる者の大半が
同じだった様だ。トレーを持った生徒たちは、カレー類と麺類のコーナーに集中して並んでいる。
思わず夏侯惇も苦笑してしまう。
 
 「孟徳、空いている方に行く?私達も時間があるわけじゃないし・・・。」
 「うん、子孝たちが待ってるから。麺もダメ、カレーもダメ、となると―――」
  
 二人は同時に周囲を見渡し―――

 「―――あそこ(にしよ?)しかないか。」
 
 ―――同時に口を開いていた。


 一方、学食の上級幹部専用席では、曹操に呼び出された面子――曹仁・曹洪・李典・楽進が
既に集まっている。
 
 「あぁ・・・ったくもう、今日は何でこんなに混んでるのよ!?」
 「知らねぇよ。私らは座れてるからまだましだって。」

 「ねぇ文謙?私らが呼ばれたのってやっぱり・・・」
 「并州でモタついているから・・・に決まってるじゃない。他にどんな理由が?」
 
 それぞれが、各自の話題で花を咲かせる中、呼び出された少女がやって来る。

 「おっ、奉公じゃねぇか!お前も呼び出しか?」
 「まぁね。けど、呼び出しだ本人がまだ来ていない様だな?」
 
 郭嘉の言葉に、皆の視線が学食のカウンターに注がれる。だが、長々と連なる長蛇の列の中に
曹操らの姿を見つけることは出来なかった。

 「あれじゃぁ会長もご苦労されてますよねぇ・・・まったく・・・」
 
 嘆息を漏らす李典に続き、今度は楽進が口を開いた。
 
 「ホント嫌になるよね〜。せっかく幹部専用席があるんだから、専用のカウンターも造って
欲しいよね〜。」

 「いやいや文謙さん、そりゃまずいぜ。何せ一部じゃ『専用席は逆差別だ』なんて声もあるからな。
まぁ、便利なのは確かなんだけど、『あの席が空いてれば・・・』って思う連中が居るんだよ。
 そこでだ、専用のカウンターを造ったら連中はどう思うか?
 私らだって下っ端からいまのポスト(役職)まで来たわけだし、あんたも連中の気持ちは
分かるだろう?」

 席に座りながら、郭嘉が口を開く。作戦会議以外ではあまり長話はしない彼女だけに、
皆の視線が集まる。

 「ま、あまり深く考える事はないんだけどさ、この学園じゃ一般生徒の不満がきっかけで
大騒ぎになった例はいくらでもあるだろう?最近だと黄巾の連中とか。
 だから、あまり生徒連中の不満を煽るような事は止めたほうがいいぜ。要するに生徒会と
生徒の間の信頼関係に気を配らないといけない、って事なんだけどな。」

 楽進が「そうね・・・奉公の言う通りだね。」と返事を返そうとしたが、それより先に―――
 
 「さ〜っすがは奉公!!うんうん、よーく分かってるじゃん!! 文謙も謙虚な気持ちを
持たなきゃダメだよ!」
 「いや、別にそこまで真摯に受けとめなくても・・・で、いつから聞いてたんだ、会長サンよ?」
 「う〜んと『不満がきっかけで』の辺りから。」
 
 ―――楽進よりも先に、いつの間にやって来たものやらトレーを抱えた曹操が口を開いていた。
 
 
 主催者もやって来たので、各自が自分の皿をつつきながらの臨時ミーティングが始まった。
 だが、その内容は最初から脱線してしまう。それも主催者の手によって。

 「それにしても珍しいよね〜。奉公があんなに長話するなんて。」
 「そうか? アレがそんなに長いかねぇ?」
 「うん。奉公はそう感じないのかも知れないけど、十分長いと思うよ。」

 これには曹操のみならず、全員が頷いて見せる。だが、郭嘉は別段気を悪くした様子は無く、

 「そうか・・・オレとしては、自分の意見は言える時に言っておきたいんでね。だから話が
長くなる時もあるんだろうな。
 で、それはさて置き何の為にオレらを呼んだんだ?メンツからして大体の予想は付くけど・・・
放課後までに伝えなきゃならないほど重要でもないと思うぜ。今日はあのドカ雪だから、戦いは
無理だろうし。」

 返事のついでにミーティングの軌道修正を仕掛けて来た。これには逆に曹操の方が
気を悪くした様で、口を尖らせる。

 「も〜奉公もつれないね〜。ま、いいけどさ・・・。まずは曼成と文謙?」
 「「はいっ!」」
 「高幹との戦いの件だけど、苦戦してるんでしょ? 長引く様だったら私と子孝が加勢するけど、
現場の指揮官としての状況報告を聞かせてくれない?」
 「分かりました・・・」

223 名前:彩鳳:2003/03/06(木) 03:10
并州校区は学園北部のに位置しており、劉備の新野棟並みに辺鄙な校区である。袁紹が華北を
制した際に高幹が校区総代に就任し、それ以来彼女が校区を管理している。
 前年の年末に南皮棟の袁譚を下し、冀州を制した曹操は、年度の始めから李典と学進を派遣して
并州校区の攻略に着手した。
 高幹と生徒会の戦力差は大きい。しかし、高幹には強力な切り札が残されていた。
 その切り札こそ「壺関ロック・ガーデン」(Rock garden=岩が主役の庭園・築山)である。

 岩山で構成されたこの自然公園は登山同好会の上級練習コースとしても使用されており、
屈強な要塞としての高い評価を得ている。高幹はこの公園を決戦場に選択し、地形を駆使しての
防衛戦を目論んだのである。
 
 高幹の判断は正しかった。狭く急な道を登ってくる生徒会の大部隊は、進撃ルートを制限されるが
故に用兵家のタブーである戦力の分散・逐次投入を半ば強制されたのである。
 生徒会勢は狭い道の中でダンゴ状態となり、味方同士で立ち往生しているところへ高幹の手勢から
容赦の無い十字砲火を浴びせかけられた。
 地形が地形だけに、生徒会勢は兵力の優位を生かした車懸かり(連続波状攻撃)戦法や
機動包囲戦法を取る事が出来ない。このため生徒会勢の連日の攻撃はワンパターン化してしまい、
生徒会の手勢は次々と倒れた。
 「ロック・ガーデン」はその前評判を裏切らず、未だに生徒会勢の攻勢を跳ね返し続けている。
 生徒会側も何とかしようと打開策を考えてはいたのだが、その答えはまだ出てきてはいなかった。

 「―――と言う訳で、残念ですが并州攻略の目処は今のところ立っておりません。」

 半ば予想された報告ではあったが、どうしても皆の口から溜息が出てしまう。重い空気の中、曹操が
口を開いた。
 
 「流石は壺関と言うところね。打開策は考えているけど・・・。子孝?壺関では薔苦烈痛弾のみんなに
頑張ってもらうから、そのつもりでいてね。この雪だから今日は無理だけど、雪が消えたら仕掛けるよ。」
 「―――っし!待ってました!! それで、何をすれば良いんだ?」

 曹操が考えていたのは、薔苦烈痛弾の面々による少数精鋭での奇襲作戦だ。先にも述べたが
「ロック・ガーデン」は大人数での戦闘には全く不向きな地形である。ならば、戦闘能力の高い者を
少数差し向けたほうが却ってやりやすいのではないか?と考えたのである。
 口には出さないが、すでに南の荊州・揚州校区の動向に目を向け始めている曹操としては、
ここで時間を取られるわけにはいかない。春休みまでに北方を制し、春休みを南方(特に荊州校区)
制圧のための準備期間に充てたいのが曹操の本音なのだ。

 「要するに殴り込みか! ・・・上等だ・・・!!」

 曹仁の身体から、心なしか激しいものが発せられる。その“気”を受けとめながら、曹操は次々と
指示を出す。

 「曼成と文謙はしばらく休みね。薔苦烈痛弾の皆が動く時は陽動で動いてもらうけど、こっちからは
仕掛けなくて良いよ。
 それから元譲は、南の抑えをお願いね。劉表や長湖部が動くとは考えにくいけど、元譲がいるなら
向こうから仕掛けて来る事は無いと思うから。あ、もちろんだけど北の方が片付くまでは仕掛けちゃ
駄目だよ。」
 「「分かりました。」」
 「了解。任せてもらう。」

 「・・・あの〜・・・私は何をするの?さっきから呼ばれてないけど・・・。」

 口を開いたのは、最後まで呼ばれなかった曹洪だ。参謀の郭嘉もまだ呼ばれていないので

 (最後に呼ばれるからには、きっと大事な仕事を・・・)
 
 と半ば覚悟していたのだ。が、それに反して曹操の言葉は彼女の全く予想しないものであった。
 
 「あっ、ごめ〜ん。子廉の仕事は大事だよ。并州と幽州を取ったら祝勝会を―――」
 「ゲぇッ!!!」

 曹洪の顔が一気に青くなる。そして、彼女に寄せられる同情の眼差し。

 「何よ〜『ゲッ』って。―――祝勝会をやる予定だから、会計係として頑張ってもらうってだけなのに〜。」
 「はぁ・・・新年会の残務処理が終わったばかりなのに・・・。」
 
 ゲンナリする曹洪。一方、それを見ていた夏侯惇や李典の脳裏には、書類の山と格闘する曹洪の
壮絶な姿が思い出されていた。
 冬休み期間中はクリスマス会や忘年会、そして新年会と大きなイベントが連続する。無尽蔵に等しい
資金力を持つ蒼天学園の生徒会ともなれば、その支出は半端ではない。
 増してや、曹操はこういう時はド派手に金を掛けるのだ。

 盛大に行われる大パーティ。そして、パーティにつぎ込んだ金額に比例して増える書類と会計係の仕事。
 
 冬休みが終わってから一気に寄せられてきた書類の山は、さながら霊峰・泰山の様だった。
 書類の山の麓では、曹洪が印を傍らに置きながら、必死の形相でペンを走らせている。

 寝不足気味で赤くなった目、目の下の隈、そして沢山並んだ栄養ドリンクのビン。
 年頃の女子高生のあるべき姿でない事は、誰にも分かるであろう。
 
 「けどさ、あの時は時間も掛かったけど、どうにかなったでしょ?今回は一回だけだからそんな
気にしなくて良いよ。」
 「はは・・・その『一回』が問題なのよ・・・その『一回』が。」
 
 「じゃあ会長、資金調達の方はオレに任せてもらうけど、構わないよな?」
 「うん、そっちは奉公にお任せするから、どんどん稼いじゃってね!」
 「ああ、今度は500円から頑張ってみるよ。どこまで稼げるか・・・オレの腕の振るいどころだ・・・!!」

 半ば放心状態の曹洪を脇に見ながら、郭嘉と曹操が言葉を交わす。思いっきり不謹慎な会話だが、
この生徒会が公認しているので特に問題は無い。 

 「500円って、お前本気か?0が一つ足りないんじゃないか?」
 「いや、奉公さんの事です。多分なんだかんだで大儲け・・・」
 「なんと言うのか・・・よくやるよ・・・」

 いつの間にか、ミーティングはお喋りへと変わってしまった。しかし、誰もそんな事を咎めはしない。
もう先に言うべきことは言ってしまったのだから。

 楽しげに話すその姿は、一般生徒たちのそれと何の変わりも無い。
 身も蓋も無く語り合う少女達の声は、他の生徒たちの声と重なり合い・・・喧騒となって
広い学食を満たしてゆく・・・。
 
 時間は午後の一時を回ったばかり。
 まだしばらくは、この喧騒が続きそうな気配であった。

 ―第三部 END―

 ■作者後記■
 すみませぬ。思ったよりも長くなりました。今のところ、一部と二部を合わせて26kbだったのですが、三部はそれ自体で27kbに達しました。ちょっと余計な話が多かったかも知れません。
 第四部では、いよいよお待ちかね、放課後編となりますので、どうか気長にお付き合い下さい
(m‐‐m) 

 あ、ここだけの話、壺関の攻防戦は信州上田城の真田昌幸の戦い方を参考にしております。 
 (多分気付かれた方も多いのではと・・・汗)

224 名前:アサハル:2003/03/08(土) 20:53
>彩鳳様
う…私も麺類は大好物だ…気をつけよう。

…それはさておき。
何というか、「蒼天学園」の全てがこのSSに凝縮されている
ような気がしました。
階級制度があって課外活動と称して闘争に明け暮れ、でも
その分そこには普通の学校よりもずっと濃くて熱い青春が
ある…というか。
言葉が見つからないですけど。

225 名前:★ぐっこ:2003/03/09(日) 20:15
>教授様
卒業シリーズ! 孫策と周瑜の卒業…。
切ないですよね…。
それでも周瑜を誘って、ともに卒業式を受けようという孫策たち。
この頃はもう劉備も曹操も学園にいないわけですが、もし会場で
鉢合わせたらどんな顔をするのか…。ふたりとも温かく迎えそう。
甘寧や、最近すっかり定番となったヤンキー魯粛もイイ味です(;^_^A

>彩鳳様
乙〜。アサハル様が仰るように、このシリーズも定番としていよいよ安定!
学園生活と戦略進行がイイ感じでブレンドされてると思います。
そういえば楽李コンビ、高幹攻めで手こずってましたね…
曹操麾下の連中も、あれで気苦労が絶えない様子。
特に曹洪たん気の毒…・゚・(ノД`)・゚・

226 名前:雪月華:2003/03/09(日) 23:36
I・G・Vの戦い −前編−

ここは予州、長社棟付近。鉄門峡(IronGateValley)と呼ばれる山峡の地。幅5mほど左右を岩壁にはさまれた山道を400mほど登ると、500m四方の広場に出て、100人を収容できる講堂がある。講堂の後ろの山道をさらに進むと、そのまま後方の陽城棟に辿り着く。中央の山道以外に、山の左右を自転車道が通っているが、道の途中が黄巾党による落石でふさがれており、2本とも通行止めとなっている。
張角の入院直後、広宗で張梁が飛ばされ、次の日、張宝率いる100人の黄巾党がこの難攻不落の地に拠った。すぐさま執行部は皇甫嵩、朱儁の両名に400人をつけ討伐を命じた。その中には先日の広宗で非公式ながら勝利の直接原因となった4人の姿があった。

壇上では張宝による士気を鼓舞する演説が続いている。聴衆として守備の者以外の50人がおり、講堂は熱狂に包まれていた。赤く染めた髪をポニーテールにまとめた長身の少女が壁に寄りかかって周囲とは違う醒めた目でそれを見ていた。
張宝は変わった、とその少女、厳政は思った。小学生の頃からの付き合いだが、昔はここまで右翼的な考えは無かったはずだ。理想に拘りすぎる節はあったが純粋な学生革命家であったはず。学園を変える、それに共感できたからこそ、黄巾党に加わったといっていい。執行部の気に食わない連中を十数人飛ばした。後戻りはできないことも覚悟していた。しかし、あの冀州校区音楽祭の後、数千人を自由に使える立場になったとたん、張宝は二流の政治屋や愛国屋も恥ずかしがるような台詞を吐き散らすようになった。勢いはあり、美声ではあるが、よくよく聞くと支離滅裂の内容であることが容易にわかる。
変わってしまった友人を見ているのが辛くなり、厳政はそっと講堂を出た。
山道に近いところでは巨大なキャンプファイアーが炊かれている。灯油や薪も沢山用意されているようだ。この講堂付近では大規模な焚き火が執行部により禁止されている。その裏の意味を張宝は知り、利用しているのだ。暖められた空気は気圧差とI・G・Vの絶妙な地形を経て、烈風となって麓へ噴出す。その烈風を張宝は「神風」と呼んでいる。神風で動きの止まった敵を左右の岩棚に拠った30人が投石で撃退する。いい作戦だが、いずれ石も、火も尽きる。それが張宝にはわかっていない。
もともと、張宝の理想に共感して黄巾党に加わったのであるから、張角の天使声の影響を厳政は受けていない。その共感できる張宝が変化したことで、厳政は争うことに疲れ、醒め始めていた。しかし、これからどうしたらいいのかが、わからなかった。

突撃、そして撤退。すでに5度目である。40人単位で突撃させているが、負傷者が増えるばかりで一向に事態が進展しない。山道は目を開けているのも困難な烈風が吹き降ろし、左右の岩棚に拠った30人が投石攻撃をしかける。石よけの盾を構えれば台風時の現場リポーターの如く、風圧で前に進めなくなり、進んだとしても盾の死角から投石を受ける。
「また失敗!?上にはたった100人しかいないのよ!」
「落ち着け公偉。報告によればI・G・Vには強い向風が吹いているという。山頂に煙も見える。張宝の奴はおそらくアレに気づいているな。」
「アレに?生徒会の最高機密じゃないの?。」
「執行部のデータバンクに一ヶ月も前にハッキングされた跡が、一昨日見つかってな、最高機密である戦場データの大半が閲覧されていたらしい。稚拙な足跡消しだったからすぐに犯人は割れた。例の馬元義だった。」
皮肉屋で知られる皇甫嵩は一息つくとさらに皮肉な口調で続ける。
「一ヶ月も前にハッキングされたのに、それに気づいたのが一昨日。間抜けな話だ。我々は当面、前方の敵と、後方な無能な味方の両方と戦わねばならん。」
「随分と悲観的ね。」
「お前はいいな、いつも楽観的で。この戦いが終わったら終わったで、執行部とのいさかいは必ず起こる。奴らとうまくやる自信も無い以上、一時的に生徒会から離れることも覚悟せねばなるまい。悲観的になるのも仕方ないだろう。子幹もつまらん告げ口で罷免されたことだしな。」
「まったく、執行部の奴ら、戦闘中に指揮官が変わることがどれだけ士気に響くかわかってないのね。おまけに後任に指名されたのがあの董卓。まあ、失敗続きですぐ義真が総司令になったのは嬉しかったけど。」
「重荷なだけだ。私の才は子幹に数段劣る。」
魯植子幹。読書好きの物静かな眼鏡っ娘だが、合気道の腕は師範クラスであり、その戦略戦術は生徒会随一を誇った。総司令として敵の半数の兵力で黄巾党を圧倒していたが、執行部との折り合いが悪くなり、黄巾党との抗争中にもかかわらず、罷免されてしまったのである。
「とにかく、これ以上時間をかければ怪我人が増えるばかりだ。あの4人に期待するしかあるまい。」
「大丈夫かな?」
伝令の生徒が走りより、皇甫嵩に耳打ちした。
「3人が落石の手前から岩壁を登り始めたか。で、あと1人はどうした?」
「そ、それが…ちょっと目を離した隙にいなくなってて…」
「逃げたか。まあいい。持ち場にもどれ。」
皇甫嵩は一息つくと腕を組んだ。三人がうまくやれば、風はやむはず。それまで正面から陽動し続けなければならない。失敗したら黄巾をさらに勢いづかせることになる。頼むぞ、と皇甫嵩は心から思った。

厳政は高台の端。落石でふさがれた自転車道が眼下50mに見渡せる展望台までやってきた。少し風にあたろうと思ったからだ。ふと、転落防止用の柵に寄りかかって景色を見ている女生徒がいるのを見つけた。黄色いバンダナをつけてはいるが、この山に拠った100人の中にこの生徒はいなかったはずだ。怪しく思った厳政は声をかけた。
「ちょっと、こんなところで何してるの?」
「え?あたし?」
振り向いた女生徒の顔にはやはり見覚えが無かった。意外に整った顔立ちはしているが、女子高生らしくないぼさぼさの髪。飄々としたどこか眠そうな目。
「あなた、黄巾党の者じゃあないね?生徒会のスパイ?」
「はずれ。税務署の査察員よ。」
「はぁ?」
「あなた方、黄巾党には不正な蓄財があるというタレ込みがあって、調査にきたワケ。」
「嘘でしょ?」
「そう、嘘。ただの一般生徒よ。ま、そんなことより一杯どうよ?」
その女生徒は傍らのナップザックから、ラベルをはがした500mlペットボトルに入ったグレープジュースらしきものを取り出し、傍のベンチに座った。厳政もその放胆さに呆れつつ、腰を下ろす。手渡されたペットボトルの蓋を開けて口をつけた。思わずむせた。
「こ、これ、酒!?」
「自家製の赤ワイン。3年ものよ。」
「あなた未成年じゃ…」
「5年後には成人してる。それにワインなんて南ヨーロッパじゃ子供の飲み物よ。それに未成年飲酒禁止法だっけ?あれって売ったほうの責任について明記してあるだけで、呑んだほうの罰則は具体的じゃないの。それにこれは自家製。誰にも迷惑かかってないのよ。」
「そんなものなの?」
そんな会話を重ねつつ、ペットボトルは二人の手を往復し、気づくと中身は半分以下に減っていた。喉から胃にかけて不思議な、心地よい熱さが感じられた。
「酒は2回目だから、ちょっと酔ったかな?」
「酔人之意不在酒っていうよ。なにか、でかい悩みあるんじゃないの?」
ズバリ、である。
「…人に言えるようなことじゃないわ。」
「じゃ、無理には聞かないことにする。」
そのまま無言で飲み続けた。不意に厳政が呟く。
「ねぇ、人ってほんの数日で変わってしまうものなのかなぁ?」
「人の本質は変わらないよ。山だって北から見るのと南から見るのでは形が違うでしょ。要は見る人の心がけってやつよ。」
「心がけ…か。あたしはあいつの友人面してたけど、結局何一つわかってなかったのかな…」
ふと、岩壁の下に目をやると、岩肌に取り付いて登ってくる3人の人影が見えた。
「あいつら…たしか劉備、関羽、張飛。」
「あちゃ〜、見つかっちゃったか…」
「あなたの仲間?」
「そ。奇襲しようと思って登ってきたんだけど、運が悪かったみたい。」
「正直ね。」
そろそろ潮時かと思った。そして…張宝。あいつをそろそろ楽にしてやりたかった。今のままではさらにあいつは苦しむだけだ。そのことがはっきりわかった。
「酒のお礼。いいこと教えてあげるわ。」
「え?」
「張宝はこの先の講堂で演説をしてるわ。ここから講堂までは20人の歩哨がいるけど、そいつらはみんなあたしの部下。展望台の奇襲部隊を追い落としたってことにして、全員を前線に連れていったげる。」
「いいの?そんなことして。」
「講堂を左回りに行くと裏口があるわ。そこを入って左手の2つ目の扉を開けると直接舞台袖に出られる。まだ講堂には50人いる。正面から行ったら勝ち目は無いわよ。」
「あなたはどうするの?」
「あたしは…あいつへの義理がある。前線で一人でも多く、飛ばす。」
「あいつって?」
「張宝。物心ついたときからの付き合いよ。あいつは今苦しんでるわ。一刻も早く楽にしてあげて。」
そういって腰を上げた。酔いで足元が少しふらついたが何歩か進むと、酔いも醒めた。
自分の名前は多分、張宝を裏切った卑怯者として学園史に残るだろう。それでも良かった。変わっていくあいつを見ているのはもう沢山だった。

227 名前:雪月華:2003/03/09(日) 23:38
I・G・Vの戦い −後編−

「姉者、もう少しです。静かなことから察するに、誰もいないようですな。」
「それにしても、人がこんなに苦労してる時に憲和はどこいったんや!」
「ここよ。」
「へ?」
劉備が顔をあげると、上では簡雍が微笑んでいた。
「い、いつの間に…」
「自転車道の脇に、昔の戦場の名残の地下道の入口があってさ、そこ辿ったら上に出れたの。出口で何人か竹刀もって警備してたけど、黄巾巻いてたら黙って通してくれたよ。」
「…その手があったか。」
「あんた達じゃダメ。幹部を何人か飛ばしてるから顔を知られすぎてるし。よいしょ。」
簡雍は3人を引っ張り上げながら笑った。

不意にステージの左手から3人が飛び出してきた。張宝の傍に侍立していた2人が誰何の声と共に駆け寄る。短い格闘の後、2人は関羽と張飛に叩き伏せられた。劉備が2人の前にずいと歩み出る。50人の聴衆はあっけにとられて身動きができない。
「貴様ら!生徒会か!?」
「あんたらの暴走によって迷惑をこうむった生徒代表っちゅうところやな。」
「この国賊が…」
女性ながら詰襟の学生服に身を包み、目に血光をみなぎらせた張宝が、日本刀を抜いた。水銀灯の光を照り返し、刃が不吉に光った。真剣である。周囲の空気が凍りつく。
関羽が劉備をかばうように一歩進み出た。右手には木刀が握られている。
「関さん!」
「お任せあれ。」
白刃を目の前にして、驚くほど静かな声。
「その器に見合わぬ力を持てば、その力はその器を砕く。それがその刀であり、多数の黄巾党であった。剣を引け。」
「小生には大和魂がある!亡国の非国民など斬り捨ててくれるわ!」
「聞こえておらぬか…」
「鬼畜米英!天誅を受けよ!」
張宝が袈裟懸けに斬りかかって来た。関羽は一歩踏み込むと無造作に木刀で刀を払う。澄んだ音がして張宝の刀が鍔元10cmを残して折れた。関羽はそのまま張宝の左手側に抜ける。続いて張飛が踊りかかり、例の三節棍で残った刀を叩き落として、右手側に抜けた。
「浪速の一撃!受けてみいや!」
劉備の愛用のハリセンが野球のアッパースイングの要領で張宝の顎に叩き込まれた。

20人を連れて前線についた時、後方で騒ぎが起こった。風も弱まってきている。劉備達にキャンプファイヤーが消され、張宝が飛ばされたか、と厳政は思った。うろたえる50人に対し、厳政は怒鳴った。
「地公主将が飛ばされた!神風ももうすぐやむ。逃げたい者は講堂の背後から陽城棟へ逃げるといい!」
「厳政先輩はどうなさるのです!?」
「あたしはここに残る。残って一人でも多く生徒会の連中を飛ばす。」
もとからいた30人が逃げ去っていった。残ったのは連れてきた20人だ。
「あなたたちも、ばかね。」
「ばかで結構です。がんばりましょう!」
風が弱まったことに気づいた下の生徒たちが、50人ほどで登ってくるのが見えた。
ぎりぎりまで引きつけ、ありったけの石を一斉に投げつけた。不意を疲れた50人は大混乱に陥る。石がなくなり、鍔無しの竹刀をとった厳政は白兵戦の指示を出した。
戦闘が収まり、二十数人を倒された生徒会は撤退していった。厳政の部下も7人が倒れ、苦しげにうめいている。それを見て厳政は心が痛んだ。
「もういい。あなた達も逃げなさい。」
「できません!」
「あたしは張宝とは物心ついたときから友達やってる。せめて、最後まで付き合ってやる義務があるのよ。あなた達はあたしについて2ヶ月しかたっていない。最後まであたしに付き合う必要はないわ。」
「たった2ヶ月でも部下は部下で…」
「利いたふうな口きいてんじゃねえよっ!!」
思い切り頬を張った。その女生徒は2m吹き飛んで気絶した。
「いいか、これ以上あたしに「いい人」をやらせてくれるな。まだわからないなら、あたしがあなた達を飛ばす!わかった!?」
「…」
「わかったなら、そいつら連れてさっさと逃げなさい。」
そういって背を向けた。しばらくして、背後の人の気配が消えた。

「やられた!?あの厳政って女…やるわね。どうしようか…」
「人海戦術。それしかあるまい。20、30と小出しにしても地形を利用されて犠牲者が増えるだけだ。幸い、風もやんでいる。障害はほとんどないはずだからな。」
人海戦術。中国人民解放軍お得意の戦法であり、少数の強敵に対して圧倒的な大軍をぶつけるのである。とにかく飛びかかり、のしかかり、引きずり倒す。
「全員突撃!一気に陽城棟まで押し切る!」
皇甫嵩のハスキーボイスが鉄門峡にこだました。

山道の麓から黒い川が逆流してくるように厳政は見えた。400人の突撃である。
「来ると思ったけど、いざ実際に見ると凄いわ…」
厳政は呟くと竹刀を構えた。下から道幅一杯に広がって400人が川のように走り登ってくる。不意にその川が二つに分かれた。あっけにとられる厳政の左右を数十人が駆け上った時、後ろから右肩に誰かが抱き付いてきた。もう一人に竹刀がもぎ取られる。反射的に振り上げた左手に二人が抱きついてきた。腹部に鈍い衝撃が走り、地面に引きずり倒された。意識が遠のく…
「張宝…義理は果たしたわ…お前が一日も早くまともに戻ることを…期待するわ。」
厳政の意識はそこで途切れた。

こうして、張角の入院からわずか2日で、張宝、張梁の姉妹は共に飛ばされた。まとまりを失った黄巾党は生徒会によって駆逐されてゆき、学園には束の間の平和が訪れることになる。

次の日、冀州校区総合病院の門の前に一人の女生徒が立った。皇甫嵩である。
蒼天学園。実地で覇を学ぶこの学園では、その校風ゆえ入院患者が発生しやすい環境にあるため、保健室では間に合わず、各校区にひとつずつ、入院設備の整った病院が誘致されている。学園医師会の医師が常時詰めているが、医師会会長の「神医」華陀は非常勤であり、興味の引く患者のいる校区を行ったり来たりしている。
張角は反乱の首謀者ではない。だが、学園を混乱させた元凶としての処分は与えねばならない。本当は温厚な魯植に行ってもらいたかったが、生徒会を退いた後、夏風邪を引いて寝込んでいた。頼める状況ではなかった。
「気の重い仕事だ…手負いの天使を狩らねばならんとはな…」
そう呟くと、皇甫嵩は病院の門をくぐった…
−−−−−−−−−−−−−−−−−
ふと浮かんだので、鉄門峡の戦い(横光風に劉備軍奇襲、張宝戦死)を書いてみました。
厳政がかなりかっこよくなってますが、原典どおりに、形成不利になって親玉の首を差し出した、ではなんとなく学三の雰囲気にそぐわないので、少年ジ○ンプ風に友情、努力、熱血をアレンジしてみました。結果的には裏切ったことになってるし。
簡雍、何気に大活躍(^^;)。あんなこと書きましたが、未成年の飲

228 名前:雪月華:2003/03/10(月) 15:32
お詫び
魯植タン、眼鏡っ子じゃありませんでした(^^;)スミマセヌ
あと、以前のSSで華陀先生を爺にしていましたが、
japan様、項翔様、御二方の正史を読み直した結果、女医であることが判明(汗)。
次のSSでは訂正してあります。
張角関連はあと2部ばかり続く予定(9割がた推敲済み)です。
第4部書いててふと思う…英文の作詞って難しい…
>教授様
時期的にぴったりの卒業シリーズ。微笑ましかったり、切なかったり…
そういえば彼女達の進路って一体…袁術は決まってたみたいですけど…
>彩鳳様
学園生活、戦略戦術、相反するはずの二つをうまくまとめる…お見事です。
あと、確かに蕎麦って意外とカロリー高いですよね。

229 名前:彩鳳:2003/03/11(火) 01:00
 皆様、お久しぶりで御座います。しばらく蕎麦屋のバイトで留守に
していたので返事が遅れてしまいました。
 また木曜日or金曜日には戦線離脱しますが、それまではなんとか動けます。


 私もSSのお詫びから先に(^^;;;

 「二人は同時に周囲を見渡し、同時に口を開いていた。」

 の部分で、二人(曹操&夏侯惇)は何を頼んだんだ? って思った方は当然いらっしゃると思います。
 すみませぬ。その辺りを書くのを忘れていました(ドキューン)
 SSの続きに紛れ込ませることが出来れば良いのですが・・・完全に泥縄ですね(^^;

 >アサハル様、
 アサハル様のおっしゃる様に、蒼天学園の生徒はなんだかんだで熱いと思います。
(その「熱さ」の形はそれぞれですけど・・・。)
 高校生としては洒落にならないくらいにハードな毎日ですけど、それはそれで
一つの幸せなのでは・・・とも思います。

 >ぐっこ様、
 曹洪はまだ会計係として出て来た事はありませんよね?
 私は高校時代二つの部の会計を掛け持ちしていたので、実体験を元に会計係の
曹洪を書いてみた次第です。
 学三の曹操は、お祭りになると景気良く金をつぎ込むこと間違い無いので(^^;
気の毒ですが曹洪には頑張って頂く事に・・・(それが無ければ会計ってヒマなんですけどね(^^;

 まだ構想段階ですが、部活だったら予算折衝があるので、そっちのネタでSS書ければ・・・
と思っています。(いかんせん、帰宅部が参加出来ないのがネックですが・・・)

>雪月華様
 「I・G・Vの戦い」 拝読致しました。
 厳政の葛藤が上手く書かれていると思います。しかし、こう言う立場の人って
歴史的に見ると結構多いような気が・・・

230 名前:アサハル:2003/03/13(木) 18:49
>雪月華様
厳政…!!熱い!熱いぞ!!
うああー…こんな素晴らしいSSの後に続くのが私の駄漫画というのが
申し訳ないです…(;´Д`)
しかし最近簡雍ツッ走ってますなー!ワインも醸造できるのか…凄い人だ。

てゆーか盧植はメガネっこでもいいかもと一瞬でも思った私を許して下さい。

231 名前:★ぐっこ:2003/03/14(金) 00:26
>雪月花様
むう! 黄巾の、厳政の熱い戦いを拝見しました!
黄巾の連中、とくに中堅幹部は張角への忠誠と現実の狭間で、
かなり無理をしていたようですね…
そして敵がたたる皇甫嵩らの思いもむなしく、学園史は悪化の
運命を辿るのですな…
続編に期待! 学三演義にも熱が入るというモノ!

>彩鳳様
実体験こみですか!曹洪たん…(^_^;)
ケチというところから現在の設定がある曹洪ですが、実際でも
色んなトコロから資金やら人員やらを掻き集めた苦労人なんですよね…

>アサハル様
むう、私も眼鏡っ娘盧植に萌えているところです。
本を読むときなんかはかけてるんだろうな(;´Д`)ハァハァ…

232 名前:教授:2003/03/16(日) 01:55
■■卒業 〜甘寧と魯粛〜■■


「よーし…二代目は行ったな…」
 甘寧は孫策達が走り去った事を確認すると、背中併せになっている魯粛に呼びかけ
る。
「魯粛! そっちはどうだ!」
「やっばいよ! 何か…わらわら出てきた!」
 声を荒げて状況を簡単に説明する魯粛。
 その目には、病院から巣を突つかれた蜂の群れの如く医師や看護婦、警備員から患者まで映ってい
た。
「な、なんだ〜!?」
 後ろを振り返った甘寧も、その異様な光景に思わず驚いてしまう。
「こらぁ! 患者泥棒!」
「絶対安静の患者さんを連れ出すなー!」
「俺達の公謹ちゃんを返せー!」
 様々な声や雄叫びを上げながら追っ手達が迫ってくる。
 ある種の殺気が篭ってるからこれがまた恐い。
「…興覇。ずらかるよ!」
「あ、ああ…。あれにゃ勝てる気がしねーし…」
 魯粛は世にも不思議な光景に呆然としている甘寧の肩を叩いて走り出す。
 後ろをちらちらと見ながらも甘寧が後に続く。
 幸い、近くにバイクを止めていた事もあったので追っ手に追い付かれる事はなかった。
 甘寧は素早くバイクに跨ると、思いきりアクセルをふかす。
 消音機が抜かれた違法改造バイクから放たれた轟音に追ってくる病院関係者達が足
を止めた。
「へへん! 俺様のデビルアローの前じゃカミサマだって足を止めるぜ!」
 得意気な甘寧。
 ふと、魯粛を見ると…
「うう…興覇のアホ…やるならやるって先に言え…」
 耳を押さえて蹲っていた。
「わ、わりぃわりぃ…。とにかく後ろに乗れや…な?」
「後で何か奢れよ〜…」
「分かったから…早く後ろ乗れって」
 機嫌を損ねた魯粛を宥めながら、バイクに乗せる。
 だが、ここで足の速い警備員の手が魯粛の肩を掴み、引きずり降ろそうとする。
「わあっ!」
「捕まえたぞ! おとな…しぃっ!」
 しかし、その警備員は甘寧の蹴りをまともに顔に受けて倒れた。
「ふざけんな! 捕まってたまるかよ!」
「助かったけど…口上してる暇があったら早く出して! ほらっ!」
 この間に、追っ手と二人の距離はもう目と鼻の先になっていた。
「仕方ねえ…。子敬! しっかり掴まってろよ!」
「え!? う、うん…」
 甘寧の叫びに魯粛はぎゅっと彼女の体にしがみつく…ただしそこは思ったより柔らかかった。
「ひゃっ! そ…そこは違うだろ! もっと下だって!」
 顔を烈火の如く染めて猛抗議する甘寧。
「あ…ご、ごめん」
 改めて魯粛は甘寧にしがみつく。
「よーし! 行くぜ!」
 気を取り直した甘寧の右手が目一杯絞り込まれる。
 バイクは雷鳴を轟かせながら急発進。
 だが、甘寧はここでブレーキを入れた。
 左足を地面に付け、大きくバイクを傾ける。
 そして再びアクセルを全開。
 途端にバイクは甘寧の左足を軸に半回転し…そして軸を取り除く。
 バイクは瞬時に追っ手達の方を向いた。
「悪いけどオメーらに付き合ってられねんだわ…往生しな!」
 と、同時に一気に彼等に向かって発進。
「うわわ!」
 魯粛は振り落とされないように懸命に甘寧にしがみつく。
 この突然の甘寧の攻勢に驚いた病院関係者達はその場で腰を抜かしてしまった。
「へへ…なーんてな。アバヨ!」
 甘寧はブレーキを握り、体重を移動させ、ハンドルを切る。
 その卓越した一連の動きは、最早人間業とは言えない程のものだった。
 瞬きをする程度の時間、それだけの間にバイクは既に反対方向を向いていた。
 医師達との間隔、実に1メートルあるかないかだ。
 そのまま返す勢いに乗り、甘寧達はそのまま走り去っていく。
 呆然とする医師達の耳に鈴の音を残して――。


「なー…子敬」
「んー?」
「卒業したら大学だっけー…」
「そーだけど」
「あーあ…俺もちったぁ勉強すりゃ良かったかな」
「何よ、寂しいとでも言うつもり?」
「バカ言え。俺は勉強続けるよりも気ままにフリーターやってる方が性に合ってる
さ」
「興覇らしいな、それ」
「それにな…卒業したからって会えないってわけじゃねーんだから」
「…分かってるよ。…それよりも今は…」
「ああ…そーだな…」
 バイクを走らせる甘寧、そして後ろに乗っている魯粛。
 その後ろには…。
『あー、そこのノーヘルの二人乗り。速やかに止まりなさい』
 白バイが尾いていた。
「アホか、誰が止まるんだよ」
「興覇といると退屈しないよねー」
「…お前もアホだな」
「お互いにね」
 二人は微笑むと、物凄い勢いで朝霧の中に溶けて行った――。

233 名前:★ぐっこ:2003/03/17(月) 01:46
Σ(; ̄□ ̄)!!
「ひゃっ! そ…そこは違うだろ! もっと下だって!」

(;´Д`)ハァハァ…



…いや、それはともかく! あの後にもまだドタバタが待っていたようで(^_^;)
やはり公瑾たんは病院関係者のなかでもアイドルでしたか…
魯粛と甘寧、方向性はおなじだけど進路は全く正反対の2人、これからどういう
人生を歩んで行くやら…。
どちらにしてもスレンダーで奔放な女性になりそう。

234 名前:アサハル:2003/03/17(月) 22:22
実は先んじてメールで読ませて頂いております(w

>「俺達の公瑾ちゃんを返せー!!」
に腹筋痙攣せんばかりに笑わせて頂きました。怖ー
口が悪い魯粛ちゃんに萌え…
しかしいいコンビだなあ…甘寧と呂蒙。

235 名前:アサハル:2003/03/18(火) 13:54
気づくの遅いよ!というツッコミは重々承知の上ですが
>>234…当然ながら「甘寧と呂蒙」ではなく「甘寧と魯粛」です。
すみませんすみません…あー・゚・(つДT)・゚・

236 名前:雪月華:2003/03/18(火) 16:30
Departure -First Half-

曲の中盤に差し掛かったとき、喉に奇妙な痺れを覚えた。
突然、喉のあたりで何かが破れる感じがし、灼熱感と共に凄まじい激痛が喉を襲った。喉からの血が気管支に拒絶され、咳の衝動が襲いかかり、左手で口を押さえて咳き込んだ。肘まであるレースの手袋の掌が鮮やかな赤に染まり、猛烈な息苦しさが襲ってきたが、息を吸おうとすると血が気管に流れ込み、咳こんでしまう。苦痛と息苦しさに耐えかねて膝をつき、声を出そうとしたが掠れた唸り声となるだけだった。肌身離さず身につけているママに貰った黄色いスカーフに点々と赤い染みがついているのが見えた。左手は既に手首まで赤く染まっている。
不意に、目の前が深紅に染まり、暗転した。影のように何者かが覆い被さり、それの触れたところから感覚が消えうせてゆく…
覆い被さってきたものは「死」だろうか。楽になれる…解放される…そこまで思った時、意識の最後の断片が闇に沈んだ。
 …また、あの時の事を思い出した。
上半身を起こして辺りを見回し、冀州校区総合病院の大部屋に居ることを思い出した。室内に自分以外の入院患者は居らず、8つあるベッドのうち、7つがマットレスを剥き出しにしている。時刻は…午後4時少し前。
「ん?目が覚めたか?」
窓の傍の花瓶に名残の紫陽花を活けていた白衣の女性が振り向く。校医の華陀先生。まだ20代だが、ありとあらゆる医道に通じ、日本医師会では「神医」と呼ばれるほどの存在らしい。性格に多少、難があるが…
「腹が減ったか?そろそろ、流動食をとってもいい頃だな。6時には運ばせるから、それまで読書でもしておけ。面会者があるかもしれんが、疲れたら遠慮せず追い出すこと。いいな。」
そろそろ会議がある、と言ってハイヒールを音高く鳴らし、華陀先生は出て行った。
壁の日めくりカレンダーを見て、入院、手術から5日が経っているのに気づいた。今までは点滴で栄養補給をしていたが、そろそろ胃が無為の休暇に飽きはじめていたことに気がついた。
 初めて目を覚ましたのは手術後2日してからだった。つきそっていてくれた華陀先生は長湖部のところへ行き、入れ違いに、峻厳な雰囲気を漂わせた、黒髪の背の高い女生徒が面会に来た。生徒会の大物、皇甫嵩だった。学年は同じだが面識はほとんどない。立場からすれば憎むべき敵のはずだが不思議と恨みや怒りは湧いてこなかった。自分が原因となった学園の混乱を収めてくれたことで、いっそ感謝の気持ちすら湧いてきたほどだった。部下を伴わずに一人で来た事も、好感をもてた。きつめの雰囲気はあるが、根は優しい人なのだ。
無言の短いやり取りの後、それほど高額でもない階級章と、あの舞台の前に書いておいた退学届を、皇甫嵩は預かってくれた。それを見届けると猛烈に眠くなり、目を閉じるとそのまま眠った。
夢は相変わらず見ることができず、眠ると、辛い思い出ばかりが脳裏に浮かんだ。金銀妖瞳に対する執行部からの蔑視。異能の声ゆえに自分を追い出した合唱部。自分の制御を離れ、暴走した妹達。最後に見た夢。そして最後の舞台のこと…
 3日目から何人かが面会に来た。多少、面識のある同級生。まだ熱心さを失わない親衛隊。彼女達とのコミュニケーションのために、携帯用のワープロを使っていた。目を覚ました時、華陀先生が貸してくれたのだ。
『筆談という手もあるが、君は面会者が多いだろうからな。紙とペンでは資源の浪費になる。』
ナスのような体型をしたオレンジ色の猫のような動物のマスコットがデザインされており、不思議とそのキャラクターに親近感を覚えた。
張宝と張梁は顔を見せなかった。伝え聞くところによると、相次いで飛ばされた彼女達は、ほとんど廃人同様になっているらしい。とくに張梁はまともに授業にも出席できず、寮で寝込んだままであると言う。

「失礼仕る。」
古風な言葉づかいの一人の女生徒が入ってきた。はっ、とした。女性にしてはずば抜けて高い身長。艶やかな長い黒髪、何度目かの舞台の後の握手会で会った一人だった。確か名前を関羽と言った。自分の視線をまともに受け止めた初めての人物。あの時は一言二言で別れたが、できればゆっくり話してみたいと思っていた。無意識に胸が高鳴る。
「お加減はいかがでしょうか?」
ベッドの傍の丸イスに腰掛けた関羽が躊躇いがちに尋ねた。すぐさまパタパタとキーボードに指を走らせる。
『まだ立ち上がることはできませんが、悪くはありません。関羽さん、でしたね。』
「覚えていてくださったのですか?」
『私の視線をまともに受け止めることができた人に会ったのは初めてでしたので。』
「優しい、綺麗な目です。もっと自信を持たれると良い。そんなことより…」
関羽が居住まいを正した。
「退学なさると人づてに聞きましたが、真実ですか?」
『この学園に居るとかつての私を応援してくれた人達と嫌でも顔をあわせることになります。もう彼女達の期待には応えることができない。それが辛いのです。すでに階級章は返還し、退学届も然るべき人に渡してあります。退院すれば、そのまま学園を去ることになります。』
「それほどの才を持ちながら…惜しいことです。」
しばらく二人とも黙った。
「…拙者を恨みに思っておられないのですか?」
『何故、恨まねばならないのです?』
「貴女の妹御を我らは、飛ばしました。」
『あの子達は罪に対する報いを受けたのです。残念だ、という思いはあっても、恨みには思っていません。そして何より、誰よりも罪深いのは私自身なのですから。』
「解せませんな。貴女は広告塔として担がれただけということになっているのですが…」
『冀州校区合唱祭の折、私は妹達の暴走を止めることができたはずなのです。しかし、みんなの前で歌うという小さな幸せに拘ったせいで、学園中を混乱に陥れてしまい、結果的に妹達をはじめとする多くの人達の青春を奪ってしまった。誰が一番罪深いか、聡明なあなたならおわかりになるでしょう?』
「む…」
 溌剌とした足音が病室の前を通り過ぎ、戻ってきた。
「姉者!こっちこっち。関姉がいたぜ!」
「どうも騒がしゅうしてしまって、えろうすんまへん。翼徳!病室に入る時はアイサツぐらいしいや!」
小柄だが元気の塊と言った感じの女生徒に続いて、制服の上から赤いパーカーを羽織り、眼鏡をかけた女生徒が恐縮しながら入ってきた。
「そないなことより、関さん。ずるいで〜。抜け駆けして学園のとっぷあいどるに単独インタビューなんかしよって。」
「インタビューなどと、拙者はただ、見舞いに…」
「ま、ええわ。…あ、えろうすんまへん、自己紹介がまだでしたな。ウチは劉備玄徳。」
「それでは改めて、拙者は関羽雲長。」
「オレは張飛翼徳!張飛の飛は「飛ばし」の飛…」
「それはええっちゅうねん。」
大見得を切った張飛に、すかさず劉備がツッコミを入れる。この劉備も、張飛も、恐れる風も無く自分の金銀妖瞳を見据えて話す。そこに好感が持てた。
「ウチら3人、血縁はあらへんけど、気が合うたんで心の姉妹っちゅうことになっとります。」
『関羽さんとは面識があります。いつかの舞台の後、サインを貰いに来ましたね。それも4人分。』
「せやった。あのあとウチら用事があったんで関さんに頼んだんでしたわ。ウチと翼徳と、憲和の分…」
『その憲和という方は?』
「あたしのこと。簡雍憲和、よろしくね。劉備とは小学校からの付き合いで…」
「おわっ!憲和いつのまに!」
「相変わらず神出鬼没なことですな、簡雍殿。」
見るからにルーズそうな女生徒がいつのまにか劉備の隣に立っていた。少しアルコールの匂いがする。関羽ですら入ってきたことに気がつかなかったらしく、驚いた表情をしていた。
『仲のよろしいことで。』
「かしましいだけですがな。とくに翼徳は色々面倒を起こしますさかい。」
『いえ、羨ましいことです。笑い、悩み、楽しみ、泣く。それを共有できる友人がいるのが青春でしょう。』
「いやいや…張角はんにもそういう友人はおらはるでしょう?」
『私には…親友と呼べる存在はいませんでした。』
「…さいですか…失礼なこと聞いてすんまへん。せや!ウチら4人が親友になったげるわ!それでええでっしゃろ?」
『ですが、私は後1、2週間でここを去ることになっています』
「たとえ数日でも友人は友人や!そういうのも青春の1ページになるんやで!な、関さん、翼徳、憲和。」
「そうですな。たとえ一瞬でもいい友人が増えるのは良きことです。」
「あたしも大賛成!」
「やれやれ、まるで小学生みたいだな。」
「なんやて!?行動原理が小学生以下の翼徳がなにえらそーなこと言うとんねん!」
「なにおう!?」
劉備と張飛が凄まじい勢いで口喧嘩を始めた。関羽と簡雍はあきれ返っている。なんとなく楽しい気分になり、笑いの衝動がこみ上げてきた。
突然、戸口のあたりから閃光が走り、10cmの距離までに近づいた劉備と張飛の顔の間を縫い、しかーん、と音を立てて壁に突き立った。それがメスの形をとったとき、冷ややかな女性の声が聞こえた。
「君たち、日本語が読めたら、そこの張り紙の内容を復唱してみたまえ。」
「…病室では静かに。」
「わかっているようだな。では、面会時間は終わりだ。帰りたまえ。それとも全員全治2週間でそこのベッドに並ぶか?私は一向に構わんぞ。新薬の臨床試験にはうってつけだからな。」
右手にはさらに4本のメスが光っている。噂では白衣の下には常にメスを20本近く仕込んでいるらしい。
「…か、帰ります。」
劉備たちはそそくさと去っていった。
「…さて、喉以外には異常は無いのだから明日あたりから少し歩き回っても構わんぞ。そろそろ疲れも取れただろうし、これ以上寝っぱなしでは足が萎えるばかりだからな。」
華陀先生も出て行き、病室は私一人になった。六時まで英字新聞を読み、運ばれてきたお粥を食べるとそのまま眠った。
2年間の胸のつかえが取れたような気がし、不思議と、その日からまた楽しい夢を見ることができた。
 劉備たちは2日に1度はやってきた。そのつど病院の中庭まで一緒に歩き、ベンチに座って一時間ほど歓談した。やりたいことが見つからないので幽州、冀州校区のサークルをはしごする毎日らしい。
気の置けない仲間との会話。一時的にせよ、こういう時間をもてたことを誰かに感謝したい気分だった。
 入院して2週間が過ぎ、退院の許可が出た。…つまり退学の日。
「経過は順調だ。もう声を出してもいいかもしれん。やれることはすべてやったが、以前と同じ声が出せる確率は35.94%位だな。もちろんあの超音波は二度と出せないことは確かだ。」
それでよかった。もともと2度と欲しい力でもない。
午前10時、身支度を済ませ、華陀先生一人に見送られて病院を出ると、そのまま寮に向かう。平日であるため、他の生徒の姿は無い。階段を上り、自分の部屋に入る。もともと殺風景な部屋は机と本棚を運び出したおかげで一段と殺風景になっていた。私服に着替え、制服を手提げバッグにしまい、部屋を出て鍵をかけた。鍵を舎監の孟嘗君さんに返し、寮を出ると、中原市場で購入した自転車に跨った。
振り返って冀州校区鉅鹿棟の建物をしばらく眺めた。今ごろは二時間目の半ばだろうか。入学からの2年と少しの学園生活が脳裏をよぎる。その中で一番印象に残った思い出が、ここ数ヶ月であったことを改めて感じた。
頭を振って迷いを払い、父さんの待つ外界、青州校区の東の端へ向けてペダルを踏み込んだ。
−−−−−−−−−−−
黄巾の乱完結編の前半です。
ち○ちちと張角の関連がわからない人は…金銀妖瞳つながり(w。
それでもわからない人は、あ○まんがと銀○伝を観…いや聴いてください。
しかし霧○聖先生や、か○み先生等、女医っていい性格してる人が多いような(w

237 名前:雪月華:2003/03/18(火) 16:33
Departure -Conclusion -

 校区どうしをつなぐ道路はアスファルト舗装されており、自転車を走らせるには絶好の環境にあった。昨日までの梅雨空が嘘のように晴れ渡り、水溜りが太陽の光を反射して煌き、気分が浮き立ってくる。
 不意に、体の中から言葉が溢れ出てきた。
♪The light of morning gold fades and a dazzling blue sky appears
(朝の黄金の光が薄れ、眩しい蒼天が現れる)
 自分で自分が信じられなかった。声が出る。それもあの力を得る前の自分の声。何の気兼ねもなしに歌えたあの時の声。この数ヶ月で一番欲しかったものだった。
 溢れ出た言葉は自然に音階が整い、歌となって夏の冀州校区の野原に響く。
♪From west,black cloud appear and the whole sky is covered
♪Stars in the whole sky end and oppose black cloud
♪Black cloud obtain lightning and tear between stars
♪Three novas drive off lightning and black cloud retreat to west
♪Stars also lose a settlement and are scattered to the whole sky
(西のかたより黒雲が湧き起こり、蒼天を覆う。満天の星達は集い、黒雲に抗する。黒雲は稲妻を得て、星達の間を縦横に引き裂く。三つの新星が稲光を追い払い、黒雲は西へ退く。星達もまとまりを失い全天へ散らばる。)
 いつの間にか校区の境を越え、青州校区に入っていた。梅雨明けの煌く風を感じる。今まで味わったことの無い開放感を感じた。
 さらに言葉は歌となって溢れ出す。
♪Black cloud are scratched out by lightning and lightning runs to an east
♪Two stars change to the sun and are located in north and the center sky
♪Although the star which became the moon goes to south sky, but it disappears by impatience.
♪Three novas which drove off lightning serve as jewelry and both wings,respectively,change to a dragon,and are located east sky
♪The north sun is the increase of a size slowly,The central sun runs about busily
♪Two new moons are produced,and the star which twinkles is held and it is located in the southern sky
♪A dragon is driven off by lightning in an east sky and stays at the sky of the central sun
♪Lightning is scratched out by the central sun and a dragon hears under the central sun about an opportunity
(黒雲は、稲光によりかき消され、稲光は東へ走る。二つの星が日輪へ変わり、北と中天に拠る。月へと変わった星は南へ赴くが、焦りにより消え去る。稲光を追い払った三つの新星はそれぞれ宝石、両翼となり龍に変化し、東に拠る。北の日輪はゆっくりと大きさを増し、中天の日輪は忙しく駆け回る。新たな二つの月が生まれ、輝く星を抱き、南の空に拠る。龍は稲光により東を逐われ、中天の日輪のもとに身を寄せる。稲光は中天の日輪によりかき消され、龍は日輪のもと、機会を窺う。)
 どこか予言めいている…と思わないでもなかったが、言葉は次から次へと溢れ出してくる。
 鮮やかに音階が定まり、流麗な歌となって青州校区の夏の野原に響く。
♪The north sun tends to take in the central sun,takes advantaging of it,and a dragon raises a male shout in the east sky
♪One of the two of the southern moon disappears,the star which twinkles supports the small moon and it is changed to a new crescent
♪Suddenly,the central sun tends to move to an east and it is going to take in a dragon
♪A dragon leaves one of the two's wings,and escapes to the basis of the north sun
♪The north sun and the central sun come into contact with,and a dazzling light is emitted
♪The dragon which left north goes to the southern sky,and obtains a tooth
♪The wings of one of the two of a dragon scratch out the light of two north stars,and leave it to the sky of the south in which a dragon is
♪The sun of haughty north loses the cause that it can shine,by the arrogance
♪It runs to the central sun after the sun which retreated to north,and it is taken in
(北の日輪が中天の日輪を取り込もうとし、それに乗じた龍は東の空で雄叫びをあげる。南の月のひとつが消え、小さな月を輝く星が支え、三日月へと変える。突然、中天の日輪が東進し、龍を取り込まんとする。龍は片翼を残し、北の日輪のもとへ逃れる。北の日輪と中天の日輪が触れ合い、眩い光を放つ。龍は南の空へ行き、牙を得る。龍の片翼は北の二つの星の光をかき消し、龍の拠る南の空へ去る。傲慢な北の日輪はその傲慢さによりその輝けるもとを失う。北へ退いた日輪は中天の日輪に取り込まれる。)
 いつしか青州校区の半ばを越え、外界への境界に近づきつつある。まだ言葉は溢れ続けていた。気分が高揚しているせいか、不思議と疲れは感じない。
♪The sun used as one goes to south
♪Although the clouds which should be held were obtained,the dragon which cannot obtain time takes many stars with it,and escapes to southeast
♪A new crescent unites with a dragon and sends back the sun to north by the power of the wind from southeast
♪The star which pursued the sun and which can twinkle loses light in the middle of a way,and disappears
♪A dragon goes to west sky and gains control of the ground in the twinkling of an eye
♪And the sky is divided into the sun, the moon, and a dragon.
(一つとなった日輪は南へ向かう。雲を得たが、時を得られない龍は、多くの星達を引き連れ、東南へ逃れる。三日月は龍と結び、東南からの風の力で日輪を北へ逐う。日輪を追った輝ける星は道の途中で力尽き、消える。龍は西へ行き、瞬く間にその地を制する。かくして、日輪、月、龍により空は3つに分かれる。)
 スカーフをほどき、夏の風に託した。風に弄ばれながらどこかへ飛んでゆく…。もうそろそろママの想いから解放されてもいい頃だと思った。
 さらに歌声は澄み渡り、冴え渡る。
♪Furthermore,although a dragon tends to go to north sky,a new crescent plucks off the wings of one of the two of a dragon,and it changes to half moon
♪Although the angry dragon attacks half moon,one of the two's wings are already lost by himself out of anger
♪Although the dragon which lost both of wings still goes to east sky,the shooting star which appeared suddenly breaks jewelry
♪But a dragon survives and hangs down the tail to south sky
♪The sun darkens,a sunspot appears and the size is increased gradually
♪A dragon loses a tooth,clouds and a sunspot fight it and clouds disappear in the middle of a way
♪The sun covers all dragons and attaches a dragon to eternal sleep in the sun
♪Suddenly, the sun is wrapped in the flame which blew off from the sunspot, and the sun is born again.
♪The new sun swallows the moon from west and north,and sky serves as only the sun
♪Soon,the sun sets to south and night steals near from north
(さらに龍は北へ向かわんとするが、三日月が龍の片翼をむしり取り、半月へと変化する。怒れる龍は半月を襲うが、自分自身でもう片方の翼を失う。両翼を失いし龍はそれでも東へ向かうが、突如現れた流星が玉を砕く。だが龍は生き延び、その尾を南へ垂らす。日輪が翳り、黒点が生じ、次第にその大きさを増す。龍は牙を失い、雲と黒点が争い、雲は道半ばで力尽き掻き消える。日輪が龍を覆い尽くし、龍は日輪の中で永遠の眠りにつく。突然、黒点から噴出した炎に日輪は包まれ、生まれ変わる。新たな日輪は西と東より月を飲み込み、空は日輪のみとなる。やがて日輪は南へ沈み、北より夜が忍び寄る…)
 言葉は溢れ出すのをやめた。大きく息をつく。満足感が潮のように胸に満ちた。昨日までの懊悩が嘘のように消えていることに気づいた。
 後ろを振り向くと、遠くから2台の自転車に分乗した4人が近づいてくるのが見えた。劉備、関羽、張飛、簡雍の例の4人。学園を去る間際にできた1年生の友人達だった。関羽と簡雍の乗った自転車は何事も無く停止したが、劉備と張飛の乗った自転車は、完全に停止する前に張飛が降りようとしたためバランスを崩し、2人を巻き込んで派手に転倒した。自転車のスタンドを立てた関羽が慌てて駆け寄る。
「姉者、大丈夫ですか?」
「あたたた…翼徳!ちゃんと止まってから降りぃや!」
ずれた眼鏡を直しながら劉備が張飛をこづく。
「いいのですか?まだ授業中のはずですが…」
「かまへんかまへん。そないなことより、もう会えんかもしれん友人を見送る方がだいじ…って張角はん!?喋れるようになりはったんですか!?」
「ええ、ついさっき。」
「それはなにより!しかし冀州校区合唱祭で我々が聞いたあの「声」とは微妙に違いますな。心を強烈に震わせる何かが抜け落ちて、優しさが増している…」
「ええ。これは去年までの私の声、いわば本来の私の声なのです。」
「華陀先生恐るべし、というところですな。」
「ところで張角はんはこれからどないするおつもりです?」
「姉者、そのようなことは…」
「実家に帰って、改めて地元の高校に転校し、将来は音楽関係の仕事をしたい、と思っているのですが…。」
「何度も言うようですが、自信をもたれることですな。学業はもとより、人付き合いでも、我々のようにその眼を怖がらずに付き合ってくれる人も、探せば必ず居るはずです。」
「そうだぜ。世の中には目が見えない人だって沢山居るんだ。この学園にも片目が見えない奴だっているしさ。色が違ったりビームが出るぐらい、何もおかしいところは…」
「ビームなんか出せるかいな!」
ハリセンの小気味いい音が響く。
「まあとにかく、遠く離れてもこの同じ蒼天の下にはウチらは必ず居ります。つらくなったらウチらのことを思い出すとええです。」
「ええ。忘れはしません。あなたがたことは…ずっと。」
「せや!お別れに一緒に写真撮ろうや!憲和!準備はおっけー!?」
「いいよー」
5歩ほど離れたところでは簡雍がカメラを3脚にセットし終わったところだった。ファインダーをのぞく。
「ハイ、張角さん、もうちょっと右よってー。張飛はそのままで、関羽はもうちょこっと左。劉備ー、あたしの場所空けといて。じゃあいくよー。」
シャッターボタンを押した簡雍が駆け寄ってくる。しばらく5人ともそのままの姿勢で固まった。
このときが永遠に続けば…ちらっとそう思った瞬間、シャッター音が響いた。
「…あかん、目ぇ閉じたかもしれへん。憲和、悪いけどもう一枚。」
「しょうがないなあ…あ、張角さん、あとで連絡先教えて。写真できたら送るから。」

…結局、取り直しは5回に及んだ。劉備はこういうことには拘る性格らしい。
「元気でなー!」
「またどっかで会おうぜ!」
「がんばってねー」
「お達者で…」
4人4様の別れの挨拶と握手を受け、父さんの車に乗り込む。乗ってきた自転車は劉備達に譲った。車が発進し、4人の姿と学園の門が遠ざかってゆく…
「…学園に活気に満ちた時代が来る。あの子達をはじめとする覇気に満ちた1年生によって…。騒々しいだろうけど、重く沈んだよりは、はるかにましでしょうね。それを見ることができないのが唯一の心残り。できればもうすこし遅く、あの子達と同時期に入学できてたらよかった…。」
-The end of beginning- 
──────────────
完結です。
張角の歌…日本語で詩を書いてから翻訳ソフトを通し、細かく文法直しただけなので、語呂悪すぎですが…(加筆修正コソーリ希望)。(^^;

238 名前:アサハル:2003/03/20(木) 20:34
Σ( ̄□ ̄;張角たん、天使声の次は予知能力!?
…ごめんなさい嘘です。

何というか…言葉が見つかりません。感動ッス。・゚・(つДT)・゚・

5年後ぐらいにはニューエイジ辺りで大物になっていそうな気がします。

239 名前:★ぐっこ:2003/03/21(金) 15:19
Σ<(T□T) 張角たんに敬礼!
あー、でも劉備一党が張角にからんでくるのって嬉しいなあ…
ちょっと(だいぶ?)キャラ変わってるんですが、演義版でも
張角と劉備は仲良しさんだったりしますし…。
それにしても華佗先生の心憎い腕前に感謝…
あと、微妙に紛れ込んでるネタワロタ。

>加筆修正
今なら英検4級も通りそうにない私に何か?

240 名前:岡本:2003/03/22(土) 16:38
雪月華様への支援になればと思ったのですが。単語やフレーズがごっそり
頭から抜け落ちていました。大恥ですな。受験期だったら...。
タイトルは”The myth of the blue arch”
直訳で”蒼穹の神話”、意訳で”蒼天の譜”ですか。

The Myth of the Blue Arch

Light of the golden sun becomes obscure.
Dazzle of the blue sky becomes clear.

Dark clouds come from the west and cover the whole sky.
All stars gather in the sky and counter the dark clouds.

Dark clouds get a thunder and the stars are driven away to the ground.
Three novas defeat the thunder and the clouds are driven away to the west.
All stars lose their aims and the stars are scattered into the sky.

The thunder blows out the dark clouds and runs to the east.
Two stars change to the suns and stay at the north and the middle.

One star changes to the moon and goes to the south but disappears by its impatience.
Three stars change to the heart gem and two wings and become the dragon and stay at the east. 

The northern sun increases its size gradually.
The middle sun moves its feet busily.

Two moons are given new lives and stay at the south with a bright star
The dragon is driven away by the thunder and stay in the middle with the sun

The thunder loses its destiny owing to the sun.
The dragon finds its opportunity behind the sun.

The northern sun tries to take in the middle sun and the dragon roars at the east at the same time.
The one of the southern moons fades away and the other changes into the crescent with the help of the bright star

The middle sun goes to the east suddenly and tries to take in the dragon.
The dragon drops its right wing and runs away to the northern sun.

The northern sun grapples with the middle sun.
The intense battle continues with emitting glints.

The dragon gets its fangs and goes to the south.
The right wing blows out two northern stars and follows the dragon.

The northern sun loses its shining core owing to its haughty.
The middle sun gains the sun running back to the north.

Since the sun combines with the northern sun, he goes to the south with mighty powers.
Since the dragon has no fortune besides the clouds, it runs to the southeast with many stars.

The crescent cooperates with the dragon and sends away the sun to the north with the help of the wind from the southeast.
The bright star runs after the sun but fades away on its way to the west without the help of the sky.
The dragon goes to the west and gains control over the area immediately with the help of the stars.

Then the sky is divided in three by the sun, the crescent, and the dragon

The dragon tries to go to the north, but the crescent plucks off the right wing of the dragon and changes into a half moon.
The angry dragon attacks the half moon but loses the left wing out of its anger.

The dragon which loses both wings still goes to the east but an unexpected shooting star breaks the heart gem of the dragon.
The dragon still lives long and hangs down its tail to the south.
 
The sun decreases his brightness and a macula appears on the sun. The macula becomes large as it goes.
The dragon loses its fangs and the clouds fight with the macula. The clouds get exhausted and vanish on their way.

The sun covers the dragon completely and invites the dragon to an eternal sleep.
A flame covers the sun suddenly and leads the sun to a renewed life.

The new sun absorbs the half moon from the east and the west and only the sun is left in the sky.
The sun sets to the south and night falls from the north.

*****************
・時制は前後を明確にするのが難しいため、現在形で統一。

・素人の私には叙事詩や自由詩は難しいため、無理に対句形式にしたところ
があります。そんなに内容は変えていませんが。

・雲は菫卓や諸葛亮を示すもので単数にするべきか迷いましたが、
語呂と集合名詞で使うことが多いことからcloudsで。
牙=趙雲も一本牙はおかしいとfangsに。

・sun, moonはそれぞれ男性、女性として扱うので動詞の格はそれにあわせました。

後は、現役大学生の方々、よろしくお願いします。

241 名前:雪月華:2003/03/23(日) 06:25
夜勤明け!現在帰宅!もちろん見ましたとも、東の空のmorning goldを…
結構レスさぼってたのでここらでまとめて…
>教授様
デビルアロー!!大笑いしました。さながらあの触覚はデビルウィングですか(w
#コジンテキニハリョウトウタンモカラメテホシカッタ…ナンテネ
>アサハル様
>>236の予知能力の伏線となったエピソード(家系関係)削ったの忘れてた!Σ(T□T
ちなみにmy設定では、現代ロックポップスには異常に疎いことになってます(汗

>★ぐっこ様
<(^^)答礼!ナンチテ
演義、楽しみにしてます!かんちゅーちゃんにヨロシク(笑) 

>岡本様
早速の援護、多謝!
むむ、やはり英検三級(準二級面接で4回落ち)の私にはチト無謀な試みだったか(^^;

242 名前:★ぐっこ:2003/03/27(木) 00:05
>岡山様
ぐお、英語だ! 英単語が並んでる!(((( ;゜Д゜)))
乙でございます! あ、ちゃんと対句っぽくなってるし!
これも何かでつかいます!

>雪月花様
演義! もお! 早く続き書きたいのに!
とりあえず乞うご期待でございますれば…
多分、皆様が思われてるのとちょっと違った学三世界になってるかも…
かんちゅーちゃんの暴走ですので(^_^;)

243 名前:教授:2003/03/29(土) 22:47
■■ 法正の休日 ■■


「んー…」
 CDショップで新作を物色している法正。
 普段から殺伐としている課外活動から離れれば、法正も一人の少女に戻る。
 CDを選りすぐるその姿はどこにでもいる普通の女子高生だ。
「…あった♪」
 目的の品を発見すると嬉々とした声を上げる。
 早速ブツを手にレジで清算を済ませ、店を出た。
「寮に帰ってゆっくり聴こうかな〜」
 ほくほく顔の法正、余程欲しかったのだろうか。
 その時、向かいの通りから聞き慣れた声が響く。
 ふと目線を向けると、そこには張飛を追いかける劉備の姿が見受けられた。
 追いかける劉備は悪鬼羅刹を思わせる形相。
 そして伝家の宝刀ならぬ伝家のハリセンをこれでもかというほど振りまわしている。
 一方、逃げる張飛は必死な顔でハリセンをかわしながら走っていた。
「待てや〜! ウチの肉まん返さんかい〜!」
「く、食っちまったモンを返せねーって!」
「やかまし! 食いモンの恨みは恐ろしいんやで!」
 実にくだらない理由だった。
 だが、当人にとっては自身の進退に関わるほどの重大な事のようだ。
「私は何も見てない…見てないのよ…」
 法正は見なかった事にして歩く速度を速める。
 …と、今度は眼鏡屋の前に諸葛亮を発見。
 休日のプライベートな時間なのに白衣を着こなし、白羽扇を片手に眼鏡を真剣な眼差しで見つめていた。
「ふむ…この眼鏡は彼女に合いそうだ…。いや…こちらも中々…」
 時折、白羽扇を口元に当てて悩む素振りを見せる。
「…何やってんの…あの子は…」
 関わり合いにはなりたくないと本能で感じた法正は横道に逸れてその場を後にした。
 この道は寮まで多少遠回りになるが、以前の眼鏡事件(笑)もあるので迂闊に近づきたくなかったのだ。
「憲和に会わなかった事がせめてもの救いね…」
 ため息を吐きながら寮への道を急ぐ。
 と、悪戯な風が法正のスカートをめくりあげた。
「わ…」
 スカートを押さえようとした、その時――
「いただき!」
「ええっ!?」
 法正の背後から簡擁が駆け抜けた。
 それもカメラのフラッシュを3度ほど叩いて。
 金魚のように口をぱくぱくさせる法正。
「相変わらず隙だらけ♪ じゃあね〜」
 投げキッスを寄越して、簡擁は物凄い速度で走り去っていく。
 すっかり油断していた。
 簡擁はこういう瞬間、どこからともなく現れる。
 前回で懲りてたはずなのに、ふとした気の緩みが招いた悪夢だった。
「何なのよーっ! 折角の日曜日くらい休ませろーっ!」
 法正の怒鳴り声が昼下がりの街に木霊した…。



PS.卒業シリーズの合間に(爆)

244 名前:★ぐっこ:2003/03/31(月) 01:11
うわはは!
法正たんの受難というか、いつもこういうドタバタやってるんですね、
帰宅部連合の面々…(^_^;)
なんかこう、一番の常識人というか、ペースに慣れ切れていないで
割を食ってるのが法正たん、というシチュが(;´Д`)ハァハァ…

245 名前:雪月華:2003/04/08(火) 02:54
長湖部夏合宿 その2

夏休み4日目の午前6時45分。朝日に煌く長湖の水面を右手に見ながら若々しい掛け声とともに約千人の長湖部員が早朝ジョギングを行っていた。後漢市を南北2つに分けている長湖の北岸と南岸(揚州校区限定)では気候がまったく違う。北岸は典型的な北日本的気候であり、湖岸には防風林の役目を果たす針葉樹が目立つ。さらに、冬になれば湖面は凍結し、アイススケートやワカサギ釣りをもを楽しむことができる。長湖のほぼ中央に位置する赤壁島を南に越えるとそれは一変し、湖岸にはヤシの木が立ち並び、ハイビスカスやヒマワリが咲き乱れる。冬でも雪は降らず、日中最高気温は27℃、夜の最低気温16℃と、ほとんどハワイと変わらない常夏の地域なのである。この校区だけが異常気象となった理由は、万博の折、撃ち上げられた気象操作ミラーの誤作動であり、この地域だけに他の地域の数倍の日光が降り注ぐことになってしまったからである。いまだ復旧の目処は立っていない。

早朝ジョギングとはいえ、そこは長湖部夏合宿(日程については>>216参照)。生易しいものではない。距離的には10Kmだが、すべてが舗装路というわけでは無論無く、ときに砂浜を走り、水深が腰まである幅10mの川を何本も渡り、石ころだらけの山道を踏破し、登り坂の数はそれこそ無数。あまりのハードさから「地獄の行軍訓練」との恐ろしげな通称で呼ばれ怖れられていた。だが、この行軍訓練もこの後の地獄のスペシャルメニューのいわばオードブルに過ぎないのである。現に合宿二日目の時点で、脱落し、泣きながら退部する者は70名を越えていたが、不思議と、3日目には脱落者は出ていなかった。そして4日目の行軍訓練が開始されていた。

「それにしても呂蒙サン、なんで凌統はあそこまで俺様を敵視するんスか?」
「…甘寧、あんた、それマジで聞いてる?」
「ええ。何でですかね?長湖にきてから、アイツに特別何かした記憶はないんスけど?」
甘寧は心底不思議そうな表情で、隣を走る呂蒙に尋ねた。
地獄の行軍訓練の半ば、5q地点近くである。1年生などはそれこそ必死で駆けているのだが、甘寧、呂蒙らはダベる余裕すら見せている。そもそもの基礎体力が並外れているのだ。
「あんたがまだ黄祖んトコいたとき、長湖部と黄祖んトコで遠征試合したよね。あんた、そのとき凌統の姉さんの凌操先輩をおもいっきり飛ばしたじゃないの?」
「…ああ!妙に突出してきた紫っぽい長髪の3年がいたから、逃げるフリして誘い込んで囲んだ後、全本気でアッパー食らわしたんッスよ。その直後にそっくりな顔した奴が乗り込んできて、船から落っこちたそいつを引き上げていったんスよね。道理で凌統と顔あわせたときに初対面って気がしなかったわけっスよ。」
「とにかく気をつけなよ。凌統は本気であんたを憎んでるんだからね。」
「んじゃ、凌統は姉の仇ってことで俺様を憎んでいるんスか?小さいやつっスね!」
「…誰の胸が小さいって?」
「おわっ!?凌統!?てめ、いつの間に?」
「小さい小さい好き勝手言ってるみたいだけどね、アタシ83あるんだよ。」
どうやら凌統、肝心なところを聞いていなかったらしい。その短慮を呂蒙が嗜めようとした。
「凌統、誰も胸のはなし…」
「そんくれぇで自慢になるかよ!俺様はなぁ、92あるんだぜ!」
「うそっ!?」
「バーカ。嘘だよ。いくらなんでもそこまででかいはず無いだろうが。邪魔になって仕方がねー。ま、てめぇよりあるのは確かだがな」
「何よ!でかけりゃいいってものじゃないでしょ!」
「てめぇ、さっき小さいって言われて反発してたじゃねーか!」
「やっぱり、胸の話してたんじゃないのよ!」
「…あなたたち、ずいぶん仲がいいのね。」
冷ややかな美声が果てしなく続くかと思われた口喧嘩を制した。
「げっ!副部長…」
「二人とも、自分の隊の引率はどうしたの?」
口喧嘩を続けるうちに走るペースが上がってゆき、隊列の中ほどを走っていたはずの二人はいつのまにか先頭を走る周瑜の近くまで来ていたのである。
「随分元気があまっているようね。」
「ご、誤解っス!もとはといえばこの凌統が…」
「いえ、この甘寧がもともとの原因で…」
「問答無用!ふたりともこの場でスクワット300回!隊列の最後尾が宿舎に帰着するまでに追いつけなかったら朝食抜きよ!」
「げっ!そんな殺生な!」
「監視役として陸遜を残すわ。いいわね陸遜?」
「えっ?ひょっとして私も追いつけなかったら朝食抜きってことに…?」
「当然」
「ええええええ!そんな!私が何を…」
じろり、と周瑜が陸遜を睨み、沈黙させた。どうやら一昨日の朝(>>216参照)のことをまだ根に持っているらしい。
こうして、その場には甘寧と凌統、とばっちりの陸遜が残された。甘寧と凌統はスクワットを開始し、二人のメンチに絶えられなくなった陸遜も半べそでスクワットを始める。まだ朝の7時だが強烈に照りつける太陽の下、すでに気温は21℃を超え始めていた。

7時10分。
「298、299…300!いよっしゃー!終わった!んで、甘寧はあと何回?」
「今271回目だ。」
「じゃあ、先行ってるよ。」
「てめ、待ってやろうって気はねぇのか!?」
にたり、と凌統は邪悪な微笑を浮かべた。
「てめ、何かたくらんでやがるな…」
「別にぃ」
そう言って、凌統は駆け出していった。
「ったく…陸遜、お前今何回目だ?」
「に、254回です…」
「そういや…なんでお前まで、スクワットやってるんだ?」
「お二人が睨むからじゃないですか!」
「睨んでねぇよ。ちょっと足が痛んで顔がひきつっただけだ。おい、あといいぜ。先行っとけよ。」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、お前までやる必要ねぇだろうが。ホラ。朝飯逃すぜ。」
「じゃ、じゃあ失礼します!」
すこしよろめきながら陸遜が走り去り、その一分後、甘寧も後を追った。

7時25分。約2分前に行軍に追いついた凌統。そして今ようやく甘寧が追いついてきた。流石に息が乱れている。
「おっ、随分早かったじゃないの」
「てめぇ!たった3分先行しただけで、どうやったらあそこまでトラップ仕掛けられるんだよ!」
「急ごしらえだったから足止めにもならなかったかな?」
「十分足止めになってるぞ。陸遜には」
「え?マジ?」
「…俺様はしらねぇぞ。」

陸遜が朝食をとり損ねたのは言うまでも無い…合掌。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
どうも、掲示板移転お疲れ様です。
無双3にハマっててしばらく執筆してませんでしたが、久しぶりにネタが浮かんだので記念、というカタチで投稿します(また季節外れネタ…)。
同時進行で、黄巾シリーズの董卓vs張角歌合戦というお馬鹿なSS書いているんですが、皇甫嵩ら後漢4天王や袁紹、曹操、劉備一統が絡んできて、萌え、ギャグ、シリアス入り乱れたかなりの大作に(汗)。完成はまだ遠いです。

246 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/08(火) 23:59
雪月花様ナイス! 長湖部の地獄の合宿ですな。
なんかこう、甘寧たんがイイ感じのバカで嬉しいです(・∀・)
早とちりする凌統たん萌え。しかし83…むう…ハァハァ…つか、甘寧
たんもあのサラシの下は結構なアレなようですかい!
逆に陸遜たんは気の毒な役どころが多いですねえ(^_^;) これまた
萌えキャラ定番に…


しかし最大の笑いツボは万博の折、撃ち上げられた気象操作ミラーの誤作動
うわはは! これイイ! なんかこれくらい非現実的なことがあった方が面白い!
うーん、長湖を挟んで南岸は、万年異常気象による熱帯雨林気候なわけで。
SWEET三国志の呉みたい(^_^;)

247 名前:アサハル:2003/04/10(木) 01:30
(´-`).。oO(http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg) target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg)

雪月華様のSSを読んだ直後に描いたものなんですが、
あまりに走り描きにすぎるので丁寧に描き直そうとしたら
ポーズが全然しっくり来ず動きが全然(元々ないけど更に)
無くなったのでもうちゃんと描かないことにしました。(馬鹿)

てゆーか陸遜…(さわやかに合唱しながら合掌)

歌合戦SSのも楽しみにさせて頂きますー。後漢ズ…(*´Д`)

248 名前:アサハル:2003/04/10(木) 01:31
閉じ括弧までリンクされちゃったよ…(つД`)
http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/running.jpg
でつ。

249 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/11(金) 00:05
甘寧モエ━━━━━━(;´∀`)━━━━━━!!!!ハァハァ
アサハル様、あいかわらずのグっジョブ!
うわー、年甲斐もなく胸にきましたよ胸に!これは…(;´Д`)ハァハァ…
ちうか、こういうラフがサラッと描けて、しかも上手な方がうらやましくてもう!
凌統たんもナニゲに可愛くていいなあもう!

ところでアサハル様、キャップ通知のメールって届きました?一応確認を…

250 名前:★教授:2003/04/12(土) 00:15
■■ 甘寧VS凌統 ROUND 1 ■■


「あのアマ! どこいきやがった!」
 胸元を押さえながら甘寧が更衣室から飛び出してきた。
 周囲で休憩していた長湖部の下っ端(酷)連中が驚き振り返る。
 ――が、全員が瞬間的に顔を俯かせた。
 彼女達の目に映ったのは、まさしく『鬼』だったからだ。
「おいっ! 凌統がどこ行ったか知らねーか!」
 空腹の極限に達した獣の咆哮のような怒声が下っ端に向けて放たれる。
 特に何も悪い事をしていないはずなのに、小さく縮こまる下っ端達。
 泣き出す女子もちらほら窺えた。
「し、知りません…」
 泣きそうな顔で一人の女生徒が勇気を振り絞る。
 だが、これは薮蛇だった。
「…隠すとタメにならねーぞ…」
 未だ胸元を押さえる甘寧がずかずかとその女生徒に近づく。
「ほ、本当に知らないんで…ひぃっ!」
「さっさと吐け! 今すぐ言わねぇと…潰す!」
 必死に知らないと言い張る女生徒の胸座を掴みあげ脅す甘寧。
 怒声だけで泣きそうだったのに、間近で物凄い剣幕を見せつけられる。
 もうそれだけで失神しそうになっていた。
 しかし、この哀れな子羊を神様は見捨てなかった。
「はい、ストップね。この子、本当に知らなさそーじゃん」
 甘寧の腕を横から掴む手。
 ぎろりと甘寧がその手の主を睨みつける。
 と、その姿を確認すると同時に目許が緩んだ。
「魯粛…」
「何があったワケ? それよりも、解放してやりなよ」
 いつも通り、どこか人を食ったような笑顔を向ける魯粛。
 甘寧は軽く舌打ちして女生徒から手を放した。
「うんうん。ただ恐いだけの先輩じゃダメだしね。その点、興覇は流石だよ」
「そ、そうか?」
 それとなく甘寧を誉める魯粛。
 だが、甘寧には見えないように周りの下っ端に手をひらひらと振っている。

――今の内にどっかいけ

 意味を理解したのか、そろそろと女生徒達がこの場を後にしていく。
「…で、何で怒ってるわけ?」
 魯粛は胸元を押さえる甘寧の手を見ながら尋ねる。
 その視線に気付いた甘寧が顔を紅潮させた。
「じ、じじ…じろじろ見んなよ!」
「いーじゃん、別に減るもんでもないし。それよりも何で?」
 照れ隠しに怒る甘寧に受け流す魯粛。
 口上ではやはり魯粛の方が一枚も二枚も上手のようだ。
「凌統だよ! あいつ…あいつが!」
「凌統?」
「あいつが俺のサラシ盗んでいきやがったんだよ!」
「ふーん…って、興覇…あんたまさか…」
 魯粛が訝しげな表情を浮かべた。
 そして、再び甘寧の胸元に目線を送る。
「な、なんだよ…」
「もしかして…世間一般で言うところの…『のーぶら』…ってやつ?」
 禁断の単語が魯粛の口から飛び出した。
 甘寧の頬の赤みに更に赤が追加されていく。
「は、はははは…恥ずかしい事言うなーっ!」
「わっ」
 思わず甘寧が魯粛を掴み上げた。
 この行動は後に甘寧のトラウマランキングの1位を独占する事になる。
 掴み上げられた魯粛がぽつりと一言呟いた。
「…丸見え」
「…え?」
 甘寧は一瞬理解できなかった。
 ふと魯粛の視線を辿り…そして――
「…っわああああっっっっっ!!!!!!」
 甘寧は魯粛を放り出し、何処へともなく走り去って行った――


 ――その頃の凌統

「ふふ…どんな反応しているのか楽しみー♪」
 くるくると指先で甘寧のサラシを回していましたとさ。

 後日、凌統は何者かの闇討ちに遭ったそうな――

251 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/12(土) 20:44
Σ(´Д`;)ハァハァ…
の、のーぶらの興覇たん…ウッ

ていうか公績たんは後先考えて行動するべきだと思うのですよ。
でもこの二人って、その場の思いつきでイタズラはじめるから楽しいですねえ…

教授様のSSでは長湖部の狂言まわしは魯粛たんに定着してきましたな(゚∀゚)
曹操陣営だと、誰が適任なんだろうか…

252 名前:★教授:2003/04/20(日) 23:32
■■甘寧VS凌統 ROUND2 -魯粛プロデュース 前編-■■

「甘寧! 今日こそ白黒はっきりつけてやる!」
「突っかかってくるのもいい加減にしろよ!」
 ロッカールームで衝突中の甘寧と凌統。
 厳密には凌統が甘寧に突っかかってるだけなのだが。
 周りで着替え中の除盛と丁奉は別段気にする素振りも見せない。
 目の前で繰り広げられてる軽い修羅場は彼女達には見慣れたものだったのだ。
「またやってるよ。毎度毎度飽きないもんなのかな…」
「いいんじゃない? それで本人達が楽しければ」
 所詮他人事の二人。
 だが、凌統の投げたボストンバック(水着やら体操服がぎっしりつまってる)が除盛の側頭部に直撃。
 くるりと一回転してコミカルに倒れる。
「じ、除盛!?」
 丁奉が慌てて除盛を抱え起こそうとする。
 しかし、今度は甘寧の投げたボストンバック(鉄アレイやらメリケンサック等の凶器がぎっしりつまってる)が丁奉を襲った。
「ぐはっ」
 後ろ頭に直撃した勢いで除盛の上に覆い被さるように倒れる。
 そんな哀れな被害者二人を全く意にも介さない甘寧と凌統。
 一方的に突っかかられている甘寧もそろそろ我慢の限界なのだろうか。
 こめかみにピクピクと血管が浮きあがり今にも襲いかからんばかりだ。
 と、ロッカールームに一人の女生徒が入ってくる。
「…またやってるの。いい加減にしなさい、二人とも」
 優雅な物腰で嗜める。
「あぁん…? ひっこんで…」
 タンカを切りながら振り返る甘寧と凌統。
 その目に映っているのは、周喩だった。
 周喩はダウンしている除盛と丁奉の様子を見ると、厳しい目線で二人を見据える。
「う…」
 甘寧も凌統もばつが悪そうな顔をしながらたじろぐ。
「二人とも、今からグランド30周! さっさと行きなさい!」
 周喩の怒号がロッカールームに轟く。
「はいいっ!」
 二人は稲妻のような勢いでロッカールームから出て行った…。


「くそぉ…オメーのせいなんだからな!」
「ふざけないでよ! そっちが悪いんじゃない!」
 甘寧と凌統は走りながら責任転嫁を繰り広げる。
 その下で肘や蹴りが飛び交っているのは言うまでもない。
「後1周だぞー。頑張れー」
 グランドの真ん中でメガホンを片手に魯粛の棒読みの応援。
「子敬! もう少し気持ち篭めろよ!」
 毒づきながらペースを上げる甘寧、そして負けじと凌統が横に並ぶ。
 そのまま二人が並んでゴールした。
「わ、私の方が…少し早かった…」
 息を切らしながら凌統。
「な…何言ってんだ! 俺の方が先だったろうが!」
 甘寧もぜぇぜぇ言いながら反論する。
 そこへ魯粛が近寄ってきた。
「凌統、残念〜。甘寧の方が先にゴールしたぞー」
 薄笑いを浮かべて甘寧の手を掴んで挙げる。
「な…!」
 納得がいかない様子の凌統と勝ち誇った様子の甘寧。
「残念だったな〜。やっぱ、俺の方が早かったみたいだわ」
「納得いかないよ! 何で!?」
 地団太を踏んで悔しがる凌統。
「そうだな〜。胸の差ってトコかな?」
 甘寧の胸を指で突つき、真顔できっぱりと言い放つ魯粛。
 愕然とする凌統、そして…
「な…!? は、恥ずかしい事言うなーっ! って…触るなーっ!」
 頭の芯から真っ赤になる甘寧。
 しかし、魯粛はその抗議の声を余裕で無視する。
「さて…二回戦に移ろうか。次の種目は…これ!」
 魯粛は懐から出した一枚の紙を二人に見せる。
「二回戦って…こ、これは…絶対嫌だ!」
「へぇ…面白そうじゃない」
 紙を見た途端に体全体で拒否する甘寧。
 それとは正反対に興味深深の凌統。
 その紙には『コスプレ対決』と、でかでかとマジックで書かれていた。
「絶対嫌だ! 別の事にしようぜ! なっ!」
 泣きそうな顔で魯粛に詰め寄る甘寧、必死だ。
 そこに凌統がにやにや笑いながら近づく。
「試合放棄? なーんだ、情けないな〜」
「なんだと!」
 甘寧が凌統に向き直る。
「逃げるの? いや、別に構わないけどね」
 この言葉にカチンと来た甘寧。
「誰が逃げるか! やってやらぁ!」
 勢いと怒りでつい口走ってしまった。
「じゃ、勝負は明日の昼休みで決まりね」
「え? あ、いや…これは勢いで…」
 甘寧は慌てて自分の発言を取り繕おうとする。
 ――が、時既に遅し。
「それじゃ、明日の昼休みまでに何するか決めといてね」
「分かったよ」
「ち、ちょっ! 子敬! 待てって!」
 二人に投げキッスを寄越して魯粛はさっさと校舎に入っていった。
「明日が楽しみね。それまで首は預けとくわ♪」
 自信に満ちた顔の凌統が挑発の言葉を投げかけてグランドから出て行く。
「…マジか…?」
 甘寧は呆然とグランドに立ち尽くすしかなかった…。

 そして、運命の朝がやってきた――。

253 名前:アサハル:2003/04/22(火) 22:12
甘寧って既に殆どコスプレっp(ry

徐盛と丁奉の見事な巻き添えっぷりにとりあえず笑わせて頂きました。
胸の差って…ってことは凌統の胸はサラシ巻いた甘寧より小…

ところで魯粛って「〜しなさい!」と命令口調で言われたら
「ああん?誰に向かって口利いとんじゃこのアマ!!」って
逆ギレしそうな気がします。何となく。

254 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/22(火) 23:41
ハッΣ(´Д`;)コス対決…っ
しかしながら甘寧の方が、外貌的にバリエーション豊富な気もするが…
凌統たんはどう巻き返すのか!?

>凌統の胸はサラシ巻いた甘寧より小(ry
ワロタ。言われてみれば…
魯粛は周瑜のマブだったりしますので、確かに逆ギレするでしょうねえ…

255 名前:岡本:2003/04/24(木) 02:59
■十常侍の乱(前)■

既に末期化していた蒼天学園連合生徒会の不甲斐無さが形に現れたのが黄巾事件とそれに触発された各地の反乱と見るならば、後の群雄割拠に示される学園騒乱の実質的な幕開けは何進のリタイアとそれによる洛陽棟の混乱−“十常侍の乱”−にあると目されることが多いだろう。

アイドルである妹の“Kai”がファンであった前蒼天会会長・劉宏とその妹・劉弁と姉妹の誓を交したことで、“垢抜けないもののちょっと愛嬌のある肉屋の看板娘”として平凡な学園ライフをおくるつもりだった何進の運命は急展開を示した。
なんと劉宏自身のご指名で、蒼天学園の実質最高責任者といってよい連合生徒会会長に推されたのである。ただ、何進自身はそれなりに頑張ってはいたものの、所詮“それなり”で、連合生徒会会長としての思考のスケールや実行力といった器量の需要と供給の天秤が完璧に破綻していた。野心など薬にもしたくない“気の優しい近所のお姉さん”の域を超え得なかった以上、正規の役職に着かない方が幸せであったのは間違いない。頼みの綱である連合生徒会の官僚組織ですら華夏研究学園都市の13校区を切り盛りするどころか、なんのかんの文句をつけ山のように送り届けてくる問題に対処しきれず運営機関としては末期症状を示していたのであるから悲惨であった。それに加えて黄巾賊蜂起というダブルコンボが見舞ったのであるから目も当てられない。
皇甫嵩・朱儁・盧植・といった将達が奮闘し首魁たる張角3姉妹達を処断することに成功したものの、自らの利権にのみ汲々としている蒼天会執行部“十常侍”が劉宏を動かし玉である彼女らを連合生徒会から放逐処分にすることになり、ダメージを受けた連合生徒会の傷口に薬を塗るどころか毒を塗る結果になった。劉宏に蒼天学園の現状を訴える声が直に届かない以上、唯一十常侍の障壁を超えて劉宏に話ができる何進が現状回復を訴えるのがとるべき方法であったのだろうが、悲しいかな何進自身の思考のスケールで把握できる世界がそれこそ洛陽棟に所在を構える蒼天会と連合生徒会が精一杯であり、“現状”の意味する蒼天学園規模での危険性を把握することなど不可能であった。
結果として中央集権を放棄し有能な(言い方をかえると野心に溢れた)人物を校区生徒会会長として送り込むことで各地の反乱に対処し安定化を図ったわけであるが、各校区の独立化に拍車を掛けることになる。

何進の勢力基盤は名目上とはいえ蒼天学園の最高権力者たる蒼天会会長・劉宏が持てる権力にあったのだが、これを独占していたわけでなく、蒼天会執行部“十常侍”と折半していたに過ぎなかった。
黄巾事件後の何進の連合生徒会会長としての役目は互いの存亡をかけた十常侍との権力の綱引きに終始することになる。

では、なぜ蒼天会と連合生徒会の連絡・調整役たる蒼天会執行部“十常侍”がそれほどの権力を持ちえたのであろうか。それについてはまず“カムロ”という存在について触れねばならない。
くだらないと思われる節もあるが、中華研究学園都市には奇妙なジンクスがある。
“位階・威勢を極めた組織の初代会長はなぜか胸が無い。”
それに反して、抗争で敗れたライバル達や組織のNo.2以下の部下達、そして2代目以降の会長は
通常の統計どおりにばらけているか、あるいは非常に均整のとれた容姿を誇っているのである。
例を挙げれば
連合生徒会 始会長・政
蒼天学園 校祖 劉邦
蒼天学園 光武サマ 劉秀
は全員、“のっぺり”した体型、ぶっちゃけた話“ぺた”であったらしい。
それに反して、劉邦と最後まで覇権を争った項籍、勢力を警戒されて粛清された韓信、黥布、彭越は全員非常に魅力的な体型をしていたという。
男性でも、シーザーは若禿が入っていてナポレオンが小男と外見上のコンプレックスをもっていたことを考えると、人生妙なところでバランスが取れているのかもしれない。
現在でも“神聖Aカップ同盟”という秘密同盟があるが、そもそもの起源は政や劉邦が過去の因縁を忘れて肝いりで作った“洗濯板同盟”である。皇帝の高貴な容貌のことを”龍顔“というが、蒼天学園においては伝統的に蒼天会会長の容姿を”龍体“という。龍体=流体、つまり流体力学上抵抗の非常に少ない理想的な形、というひどい駄洒落から来るネーミングである。

なにはともあれ、位人身を極めた面々にとって、公私を問わず日常生活において外観上の理由で不快感を覚えるのは堪える物が有ったらしく、日常生活上の側近という形で“女性らしさを自分以上に感じさせない”者たちをパシリとして使ったのが“カムロ”の始まりといわれている。
“カムロ”即ち“禿”で、そもそもは平家が間諜として用いた髪を短く切りそろえた少年をさす言葉である。
蒼天学園では、
1.髪を“おかっぱ”といっていいショート・ボブまで切り詰め、
2.少年と見まがうばかりに胸がない、ブ○ジャ○いらずの
者が該当した。
最初は何らかの不始末をしでかした者のうち、2に該当するものが“焼きを入れる”ということでリンチまがいに女の子の命である髪を短く切られ、ブ○ジャ○なしかサラシのみの着用に制限され、“カムロ”になっていた。なお、この刑を女性にとって恐怖の刑ということで“怖刑(ふけい)”といっていた。
彼女たちは、そもそもが処罰者ということで能力を必要とする実務上の権限を初めは全然持たされていなかったのだが、形式上とはいえ最高権力者たる蒼天会会長にもっとも近い位置にいて連合生徒会との連絡・調整役を勤めるようになったことからだんだん権力を身に帯びるようになってきた。この風潮は悪化し、後には蒼天学園内で権力を手っ取り早く掴む方法として、蒼天学園の学生としての3年間、 “女性”としてのおしゃれは日常でも厳禁というデメリットにも関わらず自ら“カムロ”に志願するものもでるようになった。事実、曹操が実姉のようにしたった従姉妹の曹騰も志願した“カムロ”であった。

さて、話を元に戻すと、互いの存亡をかけた何進と十常侍との権力の綱引きは、情勢の判断力が決定的に不足していた両者のダブルノックアウトという形で終焉となる。
蒼天会及び連合生徒会がもはや野心に溢れた群雄に対してなんら強制力を持たないという事実はこの事件によって周知の事実となる。むしろ、この時期は、強制力と野心による反発がぎりぎりの均衡を保っており、誰かが先鞭を付けてしまえばあっさり天秤が傾く状態にあったといえるだろう。
これに気づいていた居た者は蒼天会及び連合生徒会内部にはごくごく少数しかおらず、何進と共に狂言回し的な役割を演じた者に、後に河北の巨人として知られる袁紹がいる。具体的には、独立化して強大な力を持つようになった各校区の群雄たちを十常侍達への抑止力として運用しようと考えたのである。危険を感じた十常侍は一発逆転を掛け、詫びをいれるという名目を立てに何進を彼女らの本拠地たる洛陽本部棟へおびき出し始末することを計画する。うかうかと乗ってわずか数名の随員と共に洛陽本部棟へ赴いた何進は、十常侍ら“カムロ”の闇討ちですっとばされることになった。もともと“カムロ”に嫌悪感を抱いていた袁紹は、何進のあだ討ちとばかりに反撃にでることになる。
十常侍の乱当日の袁紹の対処については以下のような記録が残っている。

256 名前:岡本:2003/04/24(木) 03:00
■十常侍の乱(後)■

“何進連合生徒会会長、十常侍に討たれる!”の報は洛陽棟郡全域に野火の勢いで広がっていた。数日間の連合生徒会対蒼天執行部の情勢は非常に緊迫していたこともあり、夜にも関わらず洛陽本部棟前の広場へ集まってくる学園生は多かった。にもかかわらず、便乗してそういった学園生相手に飲食系サークルが臨時店を開いているあたり、蒼天学園生のしたたかさを感じさせる。広場の片隅のオープン・カフェも時間を延長して店を開けており、情勢を見守る学園生が多く詰めていた。

袁紹本初が急ごしらえの演壇に立ち、立ち並ぶ生徒たちにむけ激を飛ばす。彼女らは連合生徒会の実働機関たる連合生徒会執行部の部員たちだ。袁紹はその恵まれた容姿と声、機知に飛んだ文句で演説達者として知られていた。ただし、オリジナリティは模倣から始まるとはいえ、その文言は借り物が多かった。

『我々は一人の英雄を失った。これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!
十常侍に比べ我ら連合生徒会構成員の総課外点数は30分の1以下である。にも関わらず今日まで活動し続けてこられたのは何故か!執行部の諸君!我ら連合生徒会の活動目的が正義に他ならないからだ!一握りのカムロ達が中華市全域にまで膨れ上がった蒼天学園を支配して20余年、中華市に住む我々が自由を要求して、何度連中に踏みにじられたかを思い起こすがいい。連合生徒会の掲げる、学園生一人一人の自由のための戦いを、天が見捨てる訳は無い!
我らが連合生徒会会長、諸君らが愛してくれた何進は倒れた、何故だ!』

血管が数本音をたてて切れそうな勢いで熱弁を振るっていた袁紹が、聴衆の反応をみるため、そして演説にインパクトをつけるため、一息ついた。朗々たる袁紹の美声は、演壇前に集まっていた数十名の執行部員はもちろん、広場の全域に届いていた。ざわついていた広場全体がしんと静まり返る。
そのとき、オープン・カフェの片隅で、夜にも関わらずサングラスをかけ、ちゅ〜とクリーム・ソーダを飲んでいた燃えるような赤毛が印象的な小柄な生徒がぼそっとつぶやいた。
「へタレだったからよ。」
カフェにいた全員の視線が彼女に向く。その視線を気にした風も無く、再びストローを口に咥えた。
ちゅーーー、ズズズズズッ!
格好をつけたものの、クリーム・ソーダが既に無くなっていたことに気づかず、間の抜けた音がカフェに響く。バツの悪い空気が流れた…。
「だからええ格好しぃはやめろっていったろう、孟徳!」
「ここでやらずして何がお約束よぉ〜!」
相席していた片目に眼帯をつけた大柄な生徒が顔を真っ赤にして、すみません、すみません、と周りに頭を下げて小柄な生徒をひきずっていく…。
“なにをしたかったのかしら、孟徳は…。”
少々毒気を抜かれたものの、予定どおりに袁紹は演説を続ける。
『・・・学園内の混乱はやや落着いた。諸君らはこの混乱を対岸の火と見過ごしているのではないのか?しかし、それは重大な過ちである。十常侍に代表されるカムロ達は唯一絶対の犯すべからざる蒼天会会長を擁して生き残ろうとしている。我々はその愚かしさを十常侍の万札章所持者達に教えねばならんのだ。何進は、諸君らの甘い考えを目覚めさせるために、倒れた!勝負はこれからである。我々の体制は復興しつつある。十常侍とてこのままではあるまい。諸君の母も姉も、彼女らカムロの無思慮な抵抗の前に倒れていったのだ。この悲しみも怒りも忘れてはならない!それを何進は自ら連中の矢面に立つことで我々に示してくれたのだ!我々は今、この怒りを結集し、十常侍に叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。この勝利こそ、階級章剥奪者全てへの最大の慰めとなる。蒼天学園生よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ学園生!生徒会は諸君等の力を欲しているのだ。Victory for Students!』

拳を突き上げ気勢を上げる袁紹にまずはサクラの袁術が、そして息のかかった執行部員達が呼応して喚声を上げる。広場に様子を見に来ていた連合生徒会とは直接関係のない生徒たちも、雰囲気に呑まれたのか徐々に気勢を上げる面子が増え、ついには喚声が広場全体に響き渡り洛陽本部棟を揺るがせた。
“よしっ、正義は我にあり!”
「蒼天学園の勇者達よ!いまこそ“カムロ”を一掃し、学園に秩序を取り戻すのだ!門を開けよ!」
身の軽い者数名が本部棟正門を内側から開けんと、素早く塀を乗り越える。
まさか強行するとは思っていなかったのだろう、正門に警備兵はおらずすんなりと門は開いた。
竹刀を手にした袁紹を先頭に本部棟敷地内へ執行部員達は雪崩れ込んだ。
目指す本部棟の入り口には流石に警備兵がおり、突然の乱入者に色めき立った。蒼天会所属の警備兵は儀礼的意味合いが強く(どこの国も近衛師団は最弱)生徒会執行部員には及びもつかないが、騒がれると面倒である。自身で制しようとした袁紹を抑えて、鉢巻を締め白襷を掛けた袁術が稽古用薙刀を構えて進み出る。
「わたくしたちの路を遮るとおっしゃいますの?袁家の路を阻むなど、身のほど知らずもいいところですわね。」
薙刀が袁術の頭上でひゅんひゅんとうなりを上げたとみるや、刃と石突が警備兵の脛を連続して薙ぎ払う。たまらず転倒したところを留めと肩を打ち据えられ、あわれな警備兵は失神した。
お嬢様芸とはいえ、見事なものである。打ち倒した警備兵を尻目に快哉をあげる。
「いいですこと?わたくしの字は公路。わたくしの歩いた後に路はできるのですわ、おーほっほっほっ!」
妹の高ビーぶりに額を押さえたものの、袁紹は気を取り直して指示を下す。
「行けぃ!突入せよ!蒼天会会長を“カムロ”どもに渡してはならん!!」
袁紹の号令と共に、喚声を上げて執行部員達は本部棟へ乱入した。“カムロ”達と執行部員達との乱闘いや、戦闘力において遥かに勝る執行部員による一方的な“とばし”が随所で発生した。怒号と悲鳴が木霊し、蒼天学園の中心地たる洛陽本部棟は戦場と化した。

この時、洛陽本部棟には“カムロ”以外にも残務整理等にあたっていた蒼天会事務系生徒達が数多くつめていた。“カムロ”達は余り連合生徒会実働部員との接点が少なく、十常侍のような高位階級者ですらあまり顔を知られていなかった。
カムロの特徴は上に述べたように、
その1:“おかっぱ”と言っていいほどのショートカット・ボブ。
その2:実際にあるかないかは別にして、外観上は“ぺた”。下着は無しかサラシ。
必然的に、ショートカットで、“ない”者たち=“カムロ”と見なされ、該当者は実際にカムロであるかどうかに関係なく次々に捕捉され、階級章を剥奪された。
突入隊が外観だけを頼りに見境無く捕捉していることは直ぐに判明したため、この難を乗り切った“カムロ”でない該当者たちには、拘束されかかると前を開いて、「ないけど、ブ○着けてる〜!!」という涙混じりの屈辱的宣言を余儀なくされたものも多かったという…。

他の“カムロ”の面々が見事何進を屠ったという事で勝利確定と暢気に祝杯をあげていたなか、十常侍の事実上リーダーたる張譲は少しは連合生徒会内部の力関係が見えていたのか部下を本部棟入り口に貼り付けていた。急報で袁紹・袁術姉妹率いる生徒会執行部員の乱入を察知するや、かねてから用意していた付け髪と夜食の肉饅頭2個で偽装し、勝手知ったる洛陽本部棟の最短距離を疾走した。
“会長さえ押さえれば、まだ交渉の優位はこちらにある。”
半分寝入りかけていた現蒼天会会長・劉弁と従姉妹の“陳留の君”劉協を、突入隊が会長室に到達する前に確保することに成功。事態がつかめず、蒼天会会長の所在を吐かせようと本部棟の最深部まで突入してきた袁姉妹らに次々にとばされる他の十常侍や“カムロ”を見捨てて数名の側近と共に裏口から逃走したのだが…。洛陽棟の郊外で手ぐすね引いて待っていた涼州の餓狼の顎に落ちることになる。

袁紹は強硬手段をとることで、連合生徒会の天敵ともいうべき“カムロ”集団を一時的に駆逐することには成功した。とはいえ、犬を追い出して餓狼を招き入れ蒼天会と連合生徒会を共に飲み込まれる結果を導いてしまった。蒼天会と連合生徒会が餓狼から開放され暗黒時代に終焉を迎えるには更に数ヶ月の日数を要することになる。

257 名前:岡本:2003/04/24(木) 03:04
>ぐっこ様
改装、お疲れ様です。

ダンパのほうがちょっと行き詰ったので、ちょっと”Aカップ同盟”で思いついた
小ネタで書いてみました。
表現が適切でない可能性がある場合、削除していただいて構いません。

258 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/25(金) 22:11
うほ! 早速新設定投入の岡本作品が!
短編にまとめるのは惜しい舞台ではありますが、新設定のお披露目として、後続作品
や演義で補完するとしましょう!
さておき!
いきなりの神聖Aカップ同盟設定ワロタ。そこまで由緒正しい組織だったのか…(;´Д`)
そして露骨に借り物っぽい演説の袁紹ステキ…♥
逆に袁術お姉様もカコイイ! すみれ嬢ばりの女傑でございますな…。

あと、カムロじゃない証拠を見せる女子生徒たん萌へ…

259 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:31
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第一章 宿将たち

「…以上の証言、証拠から、盧植の備品横領の罪は明らかである。よって、対黄巾党総司令官職の罷免と二週間の謹慎を申し渡す」
執行部長、張譲の酷薄な声が洛陽棟生徒会室に響く。被告の席に立った盧植は、無駄だとわかりきっているからだろうか、うつむいたまま反論もしない。
何か違うな、と副官として生徒会長、何進の傍らに席を置く、書記長次席・袁紹は思った。
袁紹は公明正大、清廉潔白で知られる盧植を、生徒会の中では誰よりも、いや、蒼天会会長、劉宏よりも尊敬していた。1年生の時は何度か勉強を教わりに行ったことがあるし、生徒会に入って間もない自分の面倒を何かと見てくれたものだった。
対黄巾党総司令官として盧植が黄巾党の本隊600人を正規軍450人でじわじわと圧倒し、250人までその数を減らして黄巾党の本拠地、広宗音楽堂の攻囲に取り掛かったのは昨日のことである。攻囲の陣中に左豊という監査委員がやってきて露骨に賄賂を要求してきた。盧植は「陣中の備品は公のもの。あなたにそれを私物化する権利はありません!」と明言し、左豊を叩き出したのだが、唐突に翌日召還され、この結果である。少し握らせればおとなしく左豊は帰ったのだろうが、盧植にはそれができなかったらしい。
退室を命じられた盧植がうつむいたまま生徒会室を出て行く。今度食事にお誘いしてみようか、そう思ってしまうほど、盧植の背中は袁紹には頼りなく見えた。盧植の退室に続き、後任の総司令選抜の協議が始まった。が、協議とは名ばかりで、執行部、つまり張譲らの一方的な提案を何進がそのまま承認しただけだったが。
選抜された人物の名が、袁紹をますます暗鬱な気分にさせた。

うつむいたまま生徒会室を出た盧植を、皇甫嵩、朱儁、丁原の三人が心配そうに迎えた。三人とも、高等部進級以来の友人同士であり。皇甫嵩と朱儁、丁原と盧植は寮のルームメイトでもある。
皇甫嵩、あだ名は義真。体育委員会所属の格闘技術研究所所長と生徒会執行部員を兼ねる生徒会の重鎮中の重鎮であり、知勇の均衡が取れた生徒会随一の用兵巧者との名が高い。174cmの長身、誇り高い気質と、男性的な言葉遣いとがあいまって、一般生徒からの人望はきわめて高い。生徒会、蒼天会には絶対の忠誠を誓っているが、張譲ら執行部の上層部へは、あまり好意をもっていないようである。
朱儁、あだ名は公偉。皇甫嵩に次ぐ用兵の腕を持つ生徒会の宿将。機動性に富んだ速攻の用兵に定評があり、皇甫嵩を『静』とすれば朱儁は『動』。前髪のひとふさが天を向いて逆立っており、その速攻の用兵とあいまって、好意を持つ者からは「紅の流星」と呼ばれ、悪意ある者からは「シャ○専用」と呼ばれている。成績は中の上。噂好きで口は悪いが、人情家で屈託のない性格のため、あまり他人に恨まれることはない。皇甫嵩とは悪口をたたき合う仲ながら、小等部時代からの無二の親友である。
丁原、あだ名を建陽。匈奴南中学出身で、あの鬼姫・呂布と、後の生徒会五剣士筆頭・張遼の先輩にあたる。4人の中では一番小柄だが、特に武芸を嗜んでいるわけでもないのに、ケンカは一番強い。并州校区総番…もとい総代であり、部下を率いての突撃力は目を見張るものがあるものの、他の三人と違って、学業成績は壊滅的によろしくなく、三年生に進級するために、全教科の補習、追試を受けねばならなかったほどで、すべてを切り抜けることができたのも盧植の「3日連続徹夜猛勉強」によるところが大きい。なぜか近々統合風紀委員長に就任することが内定しており、様々な儀式や雑務のため、ここ数日は洛陽棟に詰めている。盧植とは蒼天学園高等部入学からの親友である。
「しーちゃん(※子幹)…やっぱ、コレ?」
丁原が手刀で首を切るジェスチャーをして尋ねた。
「階級章は何とか無事だけれど、2週間の謹慎よ」
盧植は力なく頷く。謹慎、とはいっても授業には出ることができる。ただ、階級章を剥奪された者と同様に課外活動への参加は厳禁される。言ってみれば、期間を限って「死んで」いることになるのだ。
「自分で自分の首を締めるとはこのことだな。生徒会も、そしておまえ自身も」
「シンちゃん(※義真)、言い過ぎだって!」
「いえ、義真の言うとおりよ建ちゃん(※建陽)。もう少し融通が利いていれば、今日にでも黄巾党を壊滅させえたのに…」
「ああ、惜しいことをした。そう思うよ」
執行部の策謀だな、と皇甫嵩は察した。本来、カリスマ性と集団指揮能力に秀でた皇甫嵩が総司令となり、盧植が参謀としてそれを補佐し、別れた敵に対しては遊撃隊として皇甫嵩に次ぐ指揮能力を持つ朱儁と、突撃力に優れた丁原がそれぞれあたる、というのが生徒会側にとっては最高の布陣であったはずだ。しかし、それでは常々執行部上層部に反感を持っている皇甫嵩ら4人の力が強くなりすぎ、張譲らに都合が悪い。そこで一番武官らしく見えない盧植を総司令とし、その下に皇甫嵩らをつけ、4人の分断を狙ったものだろう。しかし、盧植は意外に将才を発揮し、その配下となった皇甫嵩らも進んで協力したため、戦局が有利に運んだ。そのため執行部は左豊を送り込み、盧植を失脚させたのだろう。目先のことに気を取られて小細工を繰り返し、大局の見えない張譲らが皇甫嵩には腹立たしいかぎりである。
「義真…」
盧植が考え込んでいた皇甫嵩の手を取り、彼女を慌てさせた。
「な、なんだ?」
「後のことはお願いするわ。そして、あの子を、張角を救ってあげて。あの子はとても苦しんでる。私にはわかるの…」
盧植の手に力がこもる。力強くその手を握り返して皇甫嵩は頷いてみせた。
「わかった。この皇甫嵩、必ずこの乱を鎮圧し、あの子を救ってみせる。そう、誓おう」
「ありがとう、義真…」
そこまで言うと、堪えきれなくなったのか、盧植の頬に一筋の涙が光った。
突然、弾かれたように盧植が皇甫嵩の胸に飛び込んできた。
「お、おい、子幹!?」
あまりのことにあわてる皇甫嵩。盧植は答えず、皇甫嵩の胸に顔を埋めたまま、少女のように泣きじゃくっていた。
皇甫嵩はとりあえず、慰めるように盧植のふわふわの髪を優しく撫でた。さわやかなシャンプーの芳香が立ち昇り、皇甫嵩をますます困惑させた。皇甫嵩は学園内の一部腐女子から偏った人気を得ており、よからぬ噂もいろいろあったが、本人はそういうことはいたって苦手な真人間であった。一部の者には感涙ものであるこのシチュエーションも、本人にとっては、ただ迷惑なだけでしかない。
朱儁と丁原が顔を見合わせ、小声でささやきあった。
「あーあ、完全に二人の世界に入っちゃった…」
「マズイよ〜、こーちゃん(※公偉)…ここ結構人通り多いのに…やばっ!あの人達アタイら見てる!」
「えーと、あの、義真、子幹。あたし達これから用事あるから、これで…」
「シンちゃん、しーちゃんを寮まで送っていってあげて。あーそれから、くれぐれも成り行きで変なことしないように!」
「な、何だ!?変なこととは!?」
皇甫嵩は慌てて盧植を引き離す。盧植も我に返って赤面していた。
「じゃあ、ごゆっくり、ご両所」
「鳳儀亭なんか行っちゃダメだよー!」
朱儁と丁原は笑いながら走り去っていった。
「まったく、あいつらは…」
「あの、義真、これから二人で…」
「お、お前まで何を言い出す!私にはそのケはないと常々…」
「そ、そうじゃなくて…」
赤面してうつむいた盧植が消え入りそうな声で誤解を打ち消した。
「これまでのこととか、これからの戦略を引継ぎしたいから、これからファミレスにでも行こうかなと…」
「そ、そうか、そうだな。何を勘違いしたんだろうな、ハハ…」
「…」
「時間は…5時か。ちょっと夕食には早いが、とりあえずピーチガーデンに行くか」
皇甫嵩と盧植はややぎこちなく、連れ立って昇降口へ向かった。

260 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:34
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第二章 トラブル・メイカー

皇甫嵩らが去ってから約10分後、何進ら生徒会の重役達がぞろぞろと生徒会室を出てきた。最後に冴えない表情で袁紹が生徒会室を出てくると、大きく伸びをして、湿って汚れた空気を肺から追い出す。
「ずいぶん浮かない顔してるねぇ、袁紹」
手持ち無沙汰で生徒会室前の掲示板を見ていた大柄な女生徒が、からかうように尋ねた。
文醜。袁紹の入学時からの腹心であり、後日、ナイトマスターと呼ばれることになる勇猛の士である。
猪武者との周囲の評判だが、優れた集団指揮能力と戦術立案能力を有するため、袁紹は重用していた。
袁紹が棟長を勤める汝南で剣道部の指導にあたっている顔良と仲がよく「心の姉妹」の誓いを結んでいるらしい。
「機嫌も悪くなるわ、文醜。自分で望んで入った世界だけど、梅雨時の地下室みたく湿っぽくて汚れていると、いつか自分まで汚染されそうな気がするのよ。こんなことならいっそ…」
「「私が」かい?いずれはそうなるとしても、そこから先をこの場で言うのは危険すぎるよ」
軽く文醜が嗜めた時、
「あっ!本初ー!」
快活な声が廊下の奥から響いてきた。誰かな、と思ったがすぐにわかった。自分を本初と呼び捨てる人間はいまのところ校内に一人しかいない。
声のした方から軽快な足取りで小柄な少女が走ってきた。曹操、あだ名を孟徳。袁紹よりひとつ下の幼馴染であり、つい最近、袁紹の推薦で生徒会書記、騎隊長に任じられている。先の頴川における野戦では派手な戦功もたてていた。
「何の用…あっ!?」
駆け寄ってきた曹操はそのまま袁紹の胸に飛び込んできた。あまりのことに文醜も唖然とし、とっさに動けないでいる。
「ちょ、ちょっと孟徳!いきなり何するのよ!」
「だって、本初っていつもいい香りするんだもの。う〜ん、高貴な香…今日はジャスミンかな?」
「そんなことはいいから早く離れて!恥ずかしいでしょ!」
「…87、いや、88!また大きくなってる…この牛乳女!」
「な!!…」
ズバリと当てられ、耳まで真っ赤になる袁紹。曹操の数ある特技の一つである。抱きつくだけで胸の大きさわかるのだ。確度は99%(自称)であり、荀掾A張遼、関羽らの他、数十人がその被害に遭っている。3年生になってからは不思議とやらなくなったが、その理由は「狼顧の相」状態の司馬懿に試みてトラウマになったからだといわれているが、真偽は定かではない。
「お馬鹿ッ!」
「遅いよっ!」
横薙ぎの平手打ちを、曹操は跳び退って難なくかわした。踏み込みと共に襲い掛かる返しの平手も軽く屈んでかわす。燕が身を翻すように反転して駆け出そうとしたとき、素早く回り込んだ文醜が両手を広げて立ち塞がった。
「ここは通さ…あっ!」
サッカーのスライディングの要領で、曹操は文醜のわきの下をくぐりぬけた。さらに、立ち上がりざま片手を跳ね上げ、文醜のスカートを思い切りめくり上げる。
「わっ!」
「あれ残念、スパッツか。相変わらず色気「ゼロ」ですね〜。文醜先輩?」
「き、貴様ぁ〜!!」
ことさらに「ゼロ」を強調され、激怒した文醜は、笑いながら逃げ出した曹操を追いかけようとしたが、袁紹の笑い声が、それを押し止めた。
「…笑わないでよ。ま、元気になったようで良かったけどね」
「ええ。あの子を見てるとなんだか楽しくて」
「無礼だけど、不思議な奴だね」
「そういえば…何の用だったのかしら?」
疑問がわきあがり、袁紹は軽く首をかしげた。

昇降口を走り出た曹操は、一台のバイクと、その傍らに立つ女生徒を見つけ、駆け寄った。
「やっほー、妙才、みんなは?」
「惇姉は礁棟で剣道部の練習。子孝は相変わらずパラリラやってるし、子廉は相変わらず取り巻きと一緒に闇マーケットに入り浸ってるわね」
「いつもどおりってことね」
「そろそろ風紀も集団で駆けつけてくるから…って、孟徳、さっきから何見てるの」
「さっきの生徒会幹部会の議事録」
「幹部会って、あんた、確かまだ下っ端じゃ…」
「さっき本初からスってきたのよ」
「そんなもの、何に使うのよ?」
「近代戦の基本は情報だよっ!正確で有為な情報をなるべく早く入手すればそれだけ今後の戦略が組みやすくなるの!」
「戦略…ねぇ」
「なにせアタシの学園生活の目標は『目指せ!蒼天会会長!』だからね。時間を無駄にしてる暇は無いのよ」
「今、何かとんでもないこと口にしなかった?」
「気のせい気のせい…さて、そろそろかな?」
「え?」
曹操がファイルに目を通していると、校舎の奥から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。周囲にいた生徒達が、何事かと校舎の奥を見やる。
「さっすがお嬢様。悲鳴もお上品であらせられること」
「…孟徳、あんた、袁紹先輩に何をしたのよ?」
「別れ際にスカートのホックとファスナーに細工をね。40歩くらい歩くと自然にスカートがストーンと落っこちる仕掛けだから、誰がやったのかはわからないよ。本初ってば、今日は珍しくパンストはいてなかったからすごいことに…」
「孟徳ーーーーーーーッ!!!!」
校舎の奥のほうで怒りに燃えた叫びが轟いた。雷喝、というべきで、様子をうかがっていた生徒たちが思わず一歩跳び退くほどの怒りがこもっていた。
「『怒声もお上品』ってとこかしらね?ところで、あっさりバレてるみたいだけど?」
「そーだね。じゃ、礁まで逃げるよ。あっ!田豊せんぱーい。これ本初に返しといてくださーい!」
偶然、近くにいた袁紹の腹心、田豊にスってきたファイルを投げ渡すと、夏侯淵に渡された半球型のヘルメットを素早く被り、バイクの後部座席に身軽に跨る。夏侯淵はすでにフルフェイスヘルを被り、エンジンを始動させていた。
「待ちなさい!孟徳ーッ!!」
「そこのバイク!止まれー!」
腰のあたりを押さえた袁紹と風紀委員一個小隊がそれぞれの目的で昇降口を走り出てきた。だが、時すでに遅く、後輪を派手にスピンさせてバイクが走り出しており、どちらもその目的を果たすことはできなかった。
「アディオス・アミーゴ(※さらば我が友)、キャハハハハ!」
「孟徳ーッ!おぼえてなさいよーッ!」
曹操の高らかな哄笑に袁紹の無念の絶叫が重なる。黄巾の乱の最中だが洛陽棟は騒々しくも平和のようだった。

1−1 >>259

261 名前:雪月華:2003/04/27(日) 13:44
岡本様の力作に続くことになって恐縮ですが、以前ちょっと話題にした歌合戦SSです。といっても前フリですが。
実を言うと、全部できてます(^^;。歌合戦より、皇甫嵩がメインですが…
皇甫嵩。横光では登場1コマ、白目、台詞なしと、部下の雛靖よりひどい扱いですが、後漢書ではやたらカコイイエピソードが目立ちます(なにか高順と似てる)。
まあ、劉備や呂布とほとんど関わっていないので演義では目立たないのも無理ありませんが…
残りは、空気を読みまして追々…

262 名前:★ぐっこ@管理人:2003/04/27(日) 17:21
あいっ! 拝読いたしました!
あははは、雪月華さま、うまいっ!
皇甫、朱、盧、丁の4先輩たちといい、彼女らより格下とはいえめきめき
頭角を現している袁紹と言い…
その袁紹と曹操のフランクで油断も隙もない関係がまた(;´Д`)ハァハァ…
ていうか今回のお話は、お嬢様袁紹たんに存分に萌えますた…!
88!? …となると袁術たんは87か…? 
文醜も何だかんだでイイ(・∀・)!  このテンション好きだな〜

自作期待! って既に完成…!?
皇甫嵩ですか〜。楽しみ〜!

263 名前:アサハル:2003/05/01(木) 01:07
何よりも「シoア専用」で大ウケした私を許して下さい。
そしてうっかり文醜に萌えた私を許(ry

袁紹&曹操と愉快な仲間達(違)もさることながら
やっぱり生徒会カルテットの連帯が大好きです。
盧植たんもちゃんと女の子だったんだな…とか思ったり。

同じく、続きが楽しみであります!!

264 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 21:39
少々(かなり)長くなりますがこちらに投下します。
分かる人(岡本さんなら…)には分かりますが、
ネタをまんまパクってあるので演義扱いということでよろしこ。

265 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 21:41
 ▲△ 震える山(前編) △▲

雍州校区の西の端、狄道棟。
棟長・李簡の帰宅部連合への内応に端を発した姜維四度目の北伐は、数で優る生徒会の反攻に遭いまたも頓挫。狄道棟一帯は雍州校区総代・郭淮の動員した生徒会実動部隊の重囲下に置かれていた。ここ数日は一般生徒に限って臨時休校となるほどの有様であり、帰宅部連合の立て籠もる棟内への突破口を開くべく生徒会勢の攻勢が開始されていたのだった。


「第11小隊突撃開始! 第21、24小隊は後方で待機せよ!」
バリケードで固められた正門を避け、裏門あるいは塀からの突入を図るべく生徒会勢が取り付く。後方からは支援射撃も行われているが、対する棟内からの応戦は至って僅かであり、戦力を既に喪失しているか、あるいはいまだ温存しているかのどちらにせよ大勢はあらかた決しているはずだった。そのことが油断を誘ったわけでもないのだろうが…
「う、わっ、きゃああああああッ!」
「ど、どうした− ああッ!」
突如矢のように躍りかかった人影から発せられたサバイバルゲーム用ゴム製ナイフによる斬撃で、二人の女生徒が倒れ伏した。思いも寄らぬ白兵による反撃に生徒会勢は混乱し、隊列が崩れる。ようやく後方からの支援班が射線を移し始めたが、この地方独特の複雑な地形を縫うように駆けてゆくその人影に追随しきれず空しく地面に、あるいは壁にペイント弾の染みを作るだけだった。それどころかその人影から打ち出されたエアガンの弾は恐るべき精度で生徒会勢にヒットしてゆく。狄道棟裏門付近を文字通り飛ぶように走り回り、生徒会の前進部隊をひとしきりかき回して潰走に追い込んだ少女は引き上げざまに振り向くと、苦々しげにつぶやいた。
「フラットランダーが、生徒会にも山岳部隊はいるだろうに…」
汗をひと拭いして、歓喜の声に迎えられながら棟内に姿を消した少女の名は張嶷、字を伯岐。帰宅部連合の盪寇主将を務める、いまや残り少ない武闘派の筆頭格である。


それまで南中校区越スイ棟長を長らく務めてきた張嶷は、帰宅部連合総帥代行・姜維の要請に応じて今回の北伐に随行していた。利あらずして窮地に立たされたものの、南中校区で一癖も二癖もある女生徒達と渡り合ってきた彼女は今なお戦意旺盛であり、姜維らが狄道棟からの脱出策を練る間に生徒会勢の攻勢を撃退したことで他の部員達もいくらか士気を取り戻すことができたのだった。だが、数に優る生徒会側がいつ総攻撃に訴えるとしても不思議はなく、益州校区への帰還は半ば絶望視されてさえいたのである。

棟内に引き上げた張嶷がクールダウンを終えて一息ついていたところへ姜維がふらりと現れた。他の部員達は皆それぞれに用事があるのだろう、辺りに二人以外の人影は見えなかった。
「お疲れさま。噂に聞いた以上の実力じゃない。惜しいわね、貴女をもっと早く招いていれば−」
「いや、私は南中での仕事が気に入っているよ。こんなのは性に合わないな」
姜維は苦笑した。性に合わぬと言いながらも遠征随行の要請は請けてくれた上にこの戦果である。それに噂に聞いたところでは元々彼女が名を知られるようになったきっかけはといえば、劉備が益州校区入りを果たした際のどさくさで彼女が本籍を置いていた南充棟が蜂起した反対派の手に落ちた際、単身乗り込んで副棟長を救出したからだという。その度胸を買われて抜擢され、反覆常ならぬ南中校区を剛柔両面を駆使して巧みに治めてきたその手腕は帰宅部連合の中でも抜きん出ていた。だが何故、彼女は北伐への随行を承諾したのだろうか…
「さあ、ね… ただ、引退するまでにもう一暴れしておきたかったのかもしれない。 …はは、結局はそういうことなのかな」
そう言うと張嶷は少し照れたような顔で笑って見せた。その顔を見て、姜維もどこか安心できたような心地がしたのである。 −すると、張嶷がやおら立ち上がると軽くジャンプを繰り返し、腕を二、三回クルクルと回して体をほぐすと姜維に向かった。
「さてと、それじゃ、出るか…」
「ええっ!? 貴女、どうするつもりよ」
「退路は私が開く。アンタは全員を連れて脱出するんだ」
そう言うと、腰に差したゴム製ナイフを取り出し軽く振るうと、肩から下げたエアガンの動作を確認し、予備弾倉のチェックを始めた。
「そんな、まさか一人で… 無茶だ!」
だが張嶷はその言葉を遮る。姜維に向けた瞳には決意の光を宿していた。
「私に任せろ。この狄道の山、南中の奇峰に比べればどうということはない。それに、あれも役に立つ」
そういうと窓の外を指差す。校庭には部員達が構築したバリケードがさながら迷路の様相を呈していた。なおも不安の色を隠せない姜維に向かい張嶷は言葉を継ぐ。
「蒼天学園での3年間の価値は、何をなしたかで決まる。アンタの役目は連合を導くために戦うこと、私はそれを助けることが今の役目だ」
そう言うと、もはや議論は不要と背を向けて歩き出す。姜維は呼び止めようと一旦は伸ばした手を、胸の前できつく握りしめた。
「止めることなんて、できない……」
何かを思いきるようにギュッと目を閉じ、しばらく後に開く。張嶷の背中は、もう届かないほどに遠ざかっていた。
「伯岐にもしもの事があったら、私のせいか… その時には、一人でいかせはしない……ッ!」
姜維もまた己の責務を果たすべく立ち上がると、振り返ることなく歩き出した。彼女には、導かねばならぬ仲間がいる。

266 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:26
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第三章 優しいヒト

全国の中規模以上の都市に、一軒は必ずある、大手ファミリーレストランチェーン「ピーチガーデン」。後日、劉備三姉妹の結義の場として、幽州校区店は、味やサービスとは無関係なところで、人気を得ることになり、それに便乗して、当日三姉妹が頼んだメニューが「桃園結義セット」とされ、おおいに話題を呼んだが、季節ごとにメニューの組み合わせが変わるため、本当に劉備三姉妹の頼んだものであるかどうかは、怪しいものであった。
客層の99.99%が女子高生であるため、通常にメニューに加え、サラダ系のダイエットメニューやデザートの種類が通常の店舗より豊富である。客層をかんがみてか、オーダーストップは午後八時半と早めで、午後十時には閉店となる。
皇甫嵩と盧植が司州回廊店に入ったときは、5時過ぎという時間帯のためか、あまり客は多くなく、奥の日当たりのいい席に、二人は向かい合って座ることができた。
まだ夕食には早いが、皇甫嵩は、数種類のパンとロールキャベツ、ザッハトルテ、アイスココアを。盧植はエビピラフといちごのタルト、エスプレッソ・コーヒーを注文する。
50分後、食欲を満足させ、取り留めの無い雑談を一区切りさせると、盧植は手提げカバンから数冊のファイルを取り出し、テーブルの上に広げた。すでに食器は片付けられている。
「随分、びっしりと書き込んであるな」
「文字は手書きが一番よ。なまじワープロを使っていると、読みはできても実際に漢字を書けなくなるから。それに、手書きに勝る暗記方法があれば教えてもらいたいものだわ」
「同感だな」
近視用の眼鏡をかけた盧植がこれまでの経過の説明を始めた。皇甫嵩も眼鏡を取り出して装着する。
二人とも、普段は眼鏡をかけてはいないが、授業中や読書の時には、少し度の入った眼鏡をかける。とくに盧植の文字は綺麗で細かい。罫線も引かれていない紙に、少しのずれも歪みも無しに、書き込むことができるのだ。
眼鏡をかけると、盧植は、より優しそうに見えるのだが、皇甫嵩はその逆できつめの顔がよりいっそうきつく見えてしまう。さながら頑迷な女教師のようであり、皇甫嵩も密かにそれを気にしていた。
傍から見れば、仲のいい優等生同士の勉強会に見えるだろう。実際、二人とも3年生では、トップクラスの秀才ではある。しかし、話し合われている内容は、数学や物理ではなく、各校区の黄巾党の動き、戦場に適した地形とその利用法、敵味方の主だった者の緻密な情報、「後方」への対策etc…etc…およそ女子高生同士の会話とは思えない内容である。これも、武と覇を実地で学ぶ、蒼天学園ならではであろう。
手書きの地図やグラフなども交えて、盧植が説明し、時折、皇甫嵩が質問をする。わかり易く筋道を立てて盧植が答え、皇甫嵩が頷き、分厚いノートにメモを取る。一通り終わったとき、すでにとっぷりと日は暮れており、時計の針は八時半を指していた。
「これまでの経過を聞くと、作戦自体は成功しているが、思ったように隊伍を動かせずに後手後手に回っていることが多いようだな」
「私は作戦立案や情報収集、分析は得意だけど、実際に他人に命令するのが苦手なの。義真がいればと、何度思ったことかしら」
「それは光栄なことだな。場合によっては、飛ばされて来いも同然のことを、部下に言わなければならないのも、将たる者のつらいところだ。ま、お前は優しすぎるからな、なかなか部下にきついことも言えないのだろう」
皇甫嵩はわずかに身じろぎし、すらりとした長い足を組み替えると、やや照れたように付け加える。
「それが、お前のいいところでもあるのだがな…」
「ふふ、ありがと。でもね、私は学業でも、戦略戦術でもあなたに負けない自信はあるのだけど…」
「随分とまた、はっきり言ってくれるものだな」
傷ついたように横を向いた皇甫嵩に、盧植がいたずらっぽく微笑みかけた。
「そう不貞腐れないで。それでね、あなたにどうしても勝てないことが3つあるの」
「伺おうか」
「第一に、実際に部下を指揮したときの動きの機敏さ。第二に自然に敬意を寄せられるカリスマ性。そして…」
「そして?」
「その優しさよ」
しばらく、二人の間を沈黙の神が支配した。ややあって、皇甫嵩が照れ隠しに硬い笑いを浮かべて口を開く。
「何を言うかと思えば…『鬼軍曹』と呼ばれたこともあるのだぞ?私は」
「あなたが部下に対して厳しくするのは、本当に大事に思うからでしょう?」
「厳しくしなければ、集団の規律が乱れる。規律の乱れた集団が真の意味で勝利を収めた例は、歴史上まず無いからな」
「厳しいだけだったら、一段高いところから、ああしろこうしろ命令するだけでしょう?あなたはいつもみんなと苦労を分かち合っているじゃない」
「遠くから見るだけでは小さなほころびを見逃してしまう。それに、部下と苦労を分かち合うのは将たる者の最低限の義務だ」
盧植は、さも可笑しそうに低い笑い声を立て、皇甫嵩は怪訝な顔で彼女を見やった。盧植は、友人として得がたい存在なのだが、思わせぶりな言動と態度で、他人を揶揄する癖はどうにかならないものかと、皇甫嵩は思った。
「ふふ…やっぱり評判どおりね。義真って」
「評判?どんな」
「見た目はキツそうでとっつきにくいけど、その実、愛情深く、慎重で、生真面目。人の上に立つ者がどうあるべきか心得ていて、常に、そうあろうと振舞う。下級生はみんな、義真を尊敬しているわ。悪く言うのは張譲たちくらいのものよ」
皇甫嵩は、やや呆然としていたが、我に返ると、無理矢理しかめつらしい表情を作ってみせた。
「…面と向かって褒めないでくれ。つい増長してしまうじゃないか」
「はいはい。あ、もうこんな時間。建ちゃんが、ある意味心配するからそろそろ切り上げましょう?」
「そうするか」
盧植は机の上のファイルを片付け始めた。皇甫嵩も、ノートを閉じてショルダーバッグにしまう。
「義真、寮まで送っていってくれる?」
「ああ、いいとも」
「そのさりげない優しさが、あなたのいいところよ」
「…やっぱり一人で帰れ!」
「あらあら、心にも無いことを言うのね。さては義真、照れてるのね?」
「誰が照れるか!」
やや乱暴に伝票を掴んで、皇甫嵩は椅子から立ち上がった。だが、それはどう見ても照れ隠しでしかなかった。

「あっ、義真。こんな遅くまで何やってたのよーっ!まさか…不純、不純よっ!」
「不純が服を着込んだような奴に言われたくないな」
盧植を寮の「玄関」まで送り届け、別の棟の自分の部屋に戻った皇甫嵩を、朱儁の軽口が迎えた。時刻はすでに九時を過ぎている。
「がっかりさせてすまないが、何もやましい事はしていない」
「ホントー?ま、そういうことにしとくわね。あれ?義真、そのネックレスどうしたの?」
皇甫嵩の胸にシンプルなデザインのロザリオが光っており、それは細い銀色のチェーンに繋がっていた。気づいた皇甫嵩が、慌ててブラウスの内側にしまいこんだ。
「ん、ああ、これか?…別れ際に子幹から預かった物だ…公偉、何をニヤニヤしている?」
「愛のしるしってやつ?」
「世迷言を。もともとは私が子幹に贈った物だ」
「やっぱり…」
「邪推するな。総司令就任の祝いとしてだ」
「お気の毒に、気に入らないから、つき返されたのね?」
「いいかげんに恋だの愛だのといった話題から離れてくれ。司令官職の引継ぎの証だそうだ。まあ、あの金モールのついた悪趣味な腕章よりは、よほど気分が引き締まるというものだな」
無論、それだけではない。参謀として同行できない自分の、せめてもの「代理」だそうだ。だがそれを話せば、余計な誤解を招くことになる。特に、この噂好きの朱儁に対しては…
「後任の総司令の発表がある、明日の放課後を楽しみに、ってやつね。あ、それから義真」
「何だ?」
「いつまで眼鏡かけてるの?」
そのときになって、皇甫嵩はファミレスからずっと、眼鏡をかけっぱなしだったことに気がついた。

1−1 >>259 ・1−2 >>260

267 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:32
広宗の女神 第一部・洛陽狂騒曲 第四章 青空の下の憂鬱

──2日後の昼休み 洛陽棟屋上にて
六月半ばの梅雨どきにしては、奇妙に晴れた日がここ数日続いていた。気温はすでに七月半ばと同様であり、衣替え宣言は、まだ出ていないが、気の早い生徒が、すでに半袖のブラウスを着用している姿を、ちらほら見かけることができる。
生徒数、三学年あわせて一万人弱を誇る洛陽棟は、蒼天学園の中枢ということもあって、学園中で一番大規模な建築物である。通常の棟の約30倍の敷地を有し、屋上からの眺めは、後漢市でも五指に入る。
屋上は、洛陽棟に籍を置く生徒達の憩いの場であり、基本的に一日中、出入りは自由であるので、昼休みを利用して、ビーチバレーやバトミントン、バスケに興じる者や、所々に置かれたベンチで昼食をとる者、滅多に居ないが、授業を抜け出して昼寝を楽しむ、不届き者の姿も見られる。
その一角に、日除けのついたベンチのひとつを占領して、昼食をとる皇甫嵩、朱儁、丁原の姿があった。三人とも、どうにも隠しようもない仏頂面をしている。その原因は、昨日の放課後発表された、盧植の後任の人事にあった。ややあって、ベンチから立ち上がった丁原が、鉄柵を蹴りつけて喚いた。
「あったま来るな!もー!」
「よりによって子幹の後任があの董卓だなんて、下馬評では義真が最有力だったのにね」
「人事の決定権は、事実上、張譲ら十常侍にある。まめに金をくれる董卓と、一円も寄付していない私と、どちらを選ぶか、明白だろう。それに私は張譲に嫌われている。もっとも、無理に仲直りをしようとは思っていないが」
「そういえば、この間、趙忠の備品購入費のピンハネ、暴いたばっかりだしね」
「張譲発案の執行部協力費、五万円の集金も「執行部の規約に明記されていない」って言って、平然と無視してるし」
「今に始まったことではない」
BLTサンドをコーヒー牛乳で胃に流し込むと、皇甫嵩は人の悪い笑みを浮かべた。
1年生の頃、蒼天会会長直々の招聘で学園評議会議員に就任してから、上層部の汚職や無法な集金を皇甫嵩は弾劾し続けている。彼女が蒼天会会長に宛てた「上奏」は三年間で500通を超えており、その結果、張譲らも幾度か譴責処分を受けているため、皇甫嵩を逆恨みする始末である。そのため、一般生徒からの受けは極めてよいが、反対に執行部上層部からの心証は壊滅的に良くない。
さらに皇甫嵩は、黄巾事件勃発の際、張譲らの「党箇」で解散させられた優等生組織「清流会」が、黄巾党にシンパシーを抱き、協力することを警戒し、霊サマに、「党箇」を解いて清流会を復活させるべし、と上奏して、それを実現させている。そのため、まったく意外な形で清流会の支持をも得ることになり、張譲らの逆恨みも、それに比例して増加の一途を辿っている。
結果、洛陽棟内外に「皇甫嵩を執行部長に」という声も高く、張譲らにとって、皇甫嵩は二重三重に気の抜けない、いまいましい「競争相手」なのである。もっとも、さほど出世や権力に、興味の無い皇甫嵩にとって、張譲などに競争相手に擬せられるのは、不本意と迷惑の極みでしかなかったが。
「高い地位にある者が権力を濫用して不正を働いても、それを公然と非難できないことを体制の腐敗というんだ。だから私は日々、偽善者だのチクり屋だのいう陰口を甘受しつつ、上奏を続けている。もっとも、残念ながら周囲は腐敗しはじめているようだが…」
「ホントだよねー。前の執行部長で蒼天通信編集長も兼ねてた陳蕃サンが、党箇で飛ばされてから、蒼天通信も、すっかり御用新聞に成り下がっちゃって。生徒会の公表を過剰に装飾して発表するだけで、その裏面のことなんて考えもしないし。ジャーナリスト精神も何もあったものじゃないよねー」
「ありゃ単なる紙資源の無駄遣いだよ」
「建陽の場合は、読めない漢字が多いから、余計に読みたくなくなるんだよね?」
「そうそう…って、こーちゃん。アタイのことバカにしてない?」
「この間、月極を「げっきょく」、給湯を「きゅうゆ」と読んだだろう?社会に出てから困ることになるぞ」
「うぐぐ…意味が通じれば、いいんだって!」
朱儁と丁原はすでに半袖のブラウスを着用している。皇甫嵩は生真面目にブレザーを着込んでいるが、その下はやはり半袖のブラウスである。夕方、急に冷え込むことを警戒しているのだが、素肌にブレザーの裏地が心地いいというささやかな楽しみもあるのだ。
「さっきから随分落ち着いてるけど、義真。総司令の人事、怒ってないの?」
「さあな、なにか、こうシラけてしまってな。例えていうなら、前日必死で勉強したテストが延期になった気分だ」
「あっ、それわかる。なんとなくほっとするんだけど、何の解決にもなってないから余計イラつくんだよねー」
「ま、何にせよ、董卓がうまくやれるわけないよ。すぐシンちゃんに出番が回ってくるって!」
「それはどうかなー?董卓以外にも献金がまめな奴はごまんといるよ?」
「奴らがすべて飛ばされるのを待つしかないか…」
「シンちゃんってば、随分と極悪非道なことを言うんだね」
「悪いか?それはともかく、建陽。いつまで洛陽棟に居られるんだ?」
「就任の儀式練習や手続きにあと二日ぐらいかかりそうでさ、まったく、いろいろ無駄が多いんだよね。正直言うとさ、早く并州校区に帰りたいんだよ。そりゃ、シンちゃん達と一緒に居られるのは嬉しいんだけどさ…」
丁原は、深く深くため息をついた。
「青い草の海…それを渡ってくる甘い風、授業サボって昼寝するには最適な気温と湿度!匈奴高や鮮卑高といった、ケンカの相手には年中事欠かない!!并州校区は、冬は寒いけど、夏が涼しいから、これからがいい季節なのにー!何でこんな、真夏でもジメジメと蒸し暑い、ろくでもない校区に詰めなきゃならないんだっ!!?」
「田舎の番長か、お前は」
「并州校区を田舎って言うなーっ!…そりゃ確かに、校舎は昭和初期に建てられた木造だし、冷房なんて当然無いし…正直言うとさ、こっち来て、ちょっと面食らってるんだよね」
「大丈夫よ。建陽の野生動物並の適応力があれば、校舎にも仕事にもすぐに慣れるから」
「蒼天風紀委員長か…アタイが自分でいうのもなんだけど、あんな皇宮警察みたいな仕事、ガラじゃないんだよね」
唐突に、丁原は左手のヤキソバパンを前に突き出し、あのポーズをとった。
「スケ番まで張ったアタイが何の因果か落ちぶれて、今じゃマッポの手先…」
「似てる似てないは置くとして、たしかにガラじゃないようだな」
「どっちかと言うと、建陽は追っかけるより、追いかけられるほうが似合ってるし」
「そうそう…って、二人とも重ね重ねバカにするなーッ!」
「どうどう、落ち着け」
「アタイは馬か!?」
「まあ、それはおいといて…」
大きなメロンパンの最後のひとかけを飲み込んだ朱儁がやや強引に話を変える。
「私たちの敬愛する新司令官殿は今日、自分の部下100人に子幹の率いてた450人を加えた550人で広宗を攻めるそうよ。董卓からは張宝、張梁に備えて待機って命令来てたけど、二人とも先日の大負けですぐには動けないから、部下は雛靖に任せてさ、視察って名目で見物に行かない?」
「賛成。涼州校区総代の用兵手腕を見せてもらおうか」
「アタイはパス。并州校区のことや委員長就任の事でいろいろ面倒な事があるから」
「それは残念。総代も大変だな。ところで…」
飲み終わったコーヒー牛乳の紙パックを、くずかごに放ると、皇甫嵩が座りなおして丁原を見つめた。
「子幹の具合はどうだ?」
「やっぱ気になる?シンちゃん?」
「邪推する者が、そこにいるから付け加えるが、友人としてだ」
「はっきり言うと、良くない。熱は高いし、食欲はないし…」
解任直後、盧植は過労から夏風邪を引きこんでしまい、授業にも出れない有様だった。
「しーちゃん、毎日、3時間しか寝てなかったから…」
「子幹は気になることがあると眠れない体質だったからね、昔から」
「高い地位にある者は、それだけ地位に応じた責任を抱え込まねばならない。ある程度のところで「何とかなる」と割り切れればいいんだが、子幹はそれができるほど、横着ではなかったということだな」
「誰でも他人のことはよくわかるものよねー?」
「…どういう意味だ?公偉」
「ま、ま、二人とも、おさえておさえて」
そのとき、授業開始5分前を告げる予鈴が鳴り響き、慌しく3人は別れた。洛陽棟は、ただでさえ広いので、この場から教室まで相当急がなければ、始業ベルに間に合わないのである。

1−1 >>259 ・1−2 >>260・1−3 >>266

268 名前:雪月華:2003/05/03(土) 22:45
第1部はここで終了です。次回から第2部「広宗編」に突入します。
圧倒的な兵力で迫る董卓軍。半数以下の兵力で本拠地に迎え撃つ黄巾党。
勝敗を決めるのは、戦術?士気?将帥?はたまた歌声か?

>玉川雄一様
すみません。ごめんなさい。9時頃からブラウザ出しっぱなしにして、
文章の最終チェックしてたので、投稿に気づかず、かぶってしまいました。

269 名前:★玉川雄一:2003/05/03(土) 23:07
>雪月華さん
いえいえ、お気になさらず。私は書きかけの途中で細切れアップしていくところでしたので。
それよか自分の書きかけほっぽって新作を読みふけってしまいましたよ。

皆さん揃って統率者の鏡ですね。そしてこういう人たちから学ぶ人はまた強くなる。
こうして代々受け継がれる“器”は大事なものです。
とかいいつつもしっかり女子高生してるところがまたイイ!
建陽ちゃんは私の中のイメージが変わりましたわ…

あと、「桃園結義セット」ワロタ

270 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 01:24
Σ( ̄□ ̄;)!!神のダブル降臨!?
いやはや、眼福でござったわ!

>義兄上
乙! 姜維と、そして張嶷のお話でありますか!…083?
いや、元ネタが気になってググって見ました(゚∀゚)
平地戦しかできない蒼天会側を、山岳戦をもっぱらとする人間として冷笑しているシーンなわけですな!
たった一人で鬼神の如き活躍をする張嶷たん…。カコイイ! そして意外にも姜維たん初登場(だったけ?)!
狄道の狭隘な山岳地帯を舞台にサバゲ決戦を繰り広げる両陣営…。
続きに激しく期待であります!

>雪月華様
こちらも拝読! うわー、なんか凄い!
前曹袁時代の先輩達がしっかりキャラ立てされてるーー!
なんか皆それぞれに英雄の風貌っていうか、「格」があります! 一般生徒とは明らかに違う、学園の命運を
担うに足る迫力が…。
うわーっ、早く続き読みてえ!(;´Д`)ハァハァ… 雪月華様がどう董卓を料理するのかも気になる(^_^;)


ここでビジュアル的なおさらい。
アサハル絵による皇甫嵩先輩↓


朱儁先輩↓


盧植先輩と丁原先輩↓


(いずれもアサハル様のサイトより。多謝)

271 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 01:24
今しみじみとアサハル様の神絵を見つつ、思ったこと。

眼鏡っ娘の皇甫嵩たんと盧植たんキボンヌ。

272 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 01:43
あははーっ、続き書こうとしたらどんどん延びてますよーっ。

>元ネタをぐぐる
「フラットランダー」で検索すれば一件そのものズバリが出てきましたね(^_^;)
つうか、ちゃんと意味のある言葉だったんだコレ…
ちなみに、『震える山(前編)』というのがそのまま元ネタのタイトルなわけですが、
私の書くのはあと中編、後編でも終わるんだかどうだか。


盧植タン(;´Д`)ハァハァ

273 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 02:31
>>265から続き

 ▲△ 震える山(前編の2) △▲

生徒会の狄道棟包囲軍は張嶷の先の奮戦を恐れて突入を一旦諦め、布陣を改めていずれ脱出するであろう連合軍の狙撃体制を整えた。ようやく雍州方面軍にも配備が始まった虎の子の長距離狙撃用ライフルは3挺。数こそ少ないものの、射撃精度が高く数発までの連射も利く。予想される脱出ルートは狭路であり、一度に大勢が突破することはあり得ないために採用されたのである。だが、狙撃班は長射程とはいえある程度は接近する必要があり、そのために護衛部隊が臨時編成された。メンバーは雍州方面軍で頭角を現しつつあった新進気鋭の女生徒たちであり、徐質を隊長に胡烈、牽弘、楊欣、馬隆の5人が選抜されて“第08特設小隊”と命名されたのだった。


パァン、と乾いた音が断続的に響くと、棟内から姿を現した帰宅部連合の生徒に命中したペイント弾が染みを作る。その生徒は痛みも忘れて信じられない、といった表情で自らの胸元を見遣るが、そこにはまごうことなく生徒会の識別カラーで彩られた擬似的な血痕が広がっていた。こうしてまた一人、帰宅部連合はその戦力を減らしていくのだった。
−現在のように「戦闘状態」にある場合には、原則としてサバイバルゲームのルールが適用されることが諒解されていた。これはかの官渡公園での一大決戦においてその有用性が認められた方式を援用すべくBMF四代目団長である張融(二代目団長・張燕の妹)が主張したのを受けてのことであり、各校区に常駐するBMF団員が審判として立ち会うことになっている。もちろん、改めて形式を定めたサバイバルゲーム以外の『決戦』が行われることもあった− 

「おー、また命中♪ さすが新型は違うねェ」
バリケードの陰から双眼鏡をのぞき込んでいた楊欣が暢気な声を上げた。先程から狙撃班がテストも兼ねて狄道棟の連合部員への狙撃を行っており、第08特設小隊(以下『08小隊』)のオペレーターを務める楊欣はその弾着を確認していたのである。
「あんまり顔を出さないでくださいよ。向こうだってどこからか狙っているのかもしれませんし」
「おっと、そりゃ危ないわね。退避退避、っと」
いま一人のオペレーターで、最年少のメンバーでもある馬隆に諭されて楊欣は慌てて頭を引っ込めた。彼女らは狙撃班も含めて正門を突破し、校庭に築かれたバリケード地帯に前進してきている。隊長以下の3人はこの地帯を制圧するためにさらに先行しており、もう暫くで再集結することになっていた。

徐質はバリケードの陰に身を隠し、近づく足音を息を潜めて待ちかまえていた。胡烈、牽弘はある程度距離を置いて行動しており、足音の主が帰宅部連合の戦闘員であることは確かだった。こちらの狙撃班の存在を知ってその排除に動き出したようだが、護衛部隊の存在までには気が回らないものか…
(来たッ!)
徐質の隠れていた角を抜け、姿を現したのはやはり連合の生徒! だがその視線は自身の前方に向いており、直角に交わる角に隠れた(とはいえもう横を振り向けば丸見えなのだが)徐質には全く気付いていない。徐質は迷うことなくその生徒のエアガンを持った手に軽く一連射を叩き込んだ。どこか運動部に所属しているのだろう、ジャージ姿のその女生徒は驚く間もなく銃を取り落とし、しかる後に手の痛みを、そして横合いからの射撃手の存在に思いを至らせる。だが既に最初の一連射で決着は付いていた。『BB弾の連続3発以上のヒット』は戦死判定となる。
「出てこなければ、やられることもなかったのにね…」
なおも呆然としている女生徒に声を投げかけた徐質だったが、その視界の隅、バリケードの一本向こう側の通路部分を人影が走り抜けるのを見逃さなかった。
「玄武、スカート付きだ! 速いぞ!」
「了解!」
今度は文化系なのか制服姿の女子生徒だった。おそらくバリケードの構築に携わり構造を熟知しているのだろう、地図を必要としようかという程の迷路を凄まじい速さで駆け抜けてゆく。ここからでは間に合わない… 徐質は胡烈に迎撃を委ねた。その胡烈はエアガンのグリップを握り直して待ちかまえていたが、直前の角から突如姿を現した女生徒は出会い頭に何かをこちらに向けてかざす。かと思うと目の前がフラッシュでも焚いたかのように真っ白になった。 −いや、本当にフラッシュを焚いていたのだ。胡烈は知るべくもなかったがこの生徒は写真部員であり、偉大なる先輩・簡雍から受け継いだ「拡散フラッシュ砲」なる目くらましの大技を繰り出してきたのだった。反射的に左手をかざしたためその光がまともに目に入ることだけは避けられたが、完全に写真部員からは視線が外れてしまう。気付いたときには−
「上かッ!」
バリケードを踏み台に利用して、写真部員は胡烈の上を飛び越えていた。そして空中でエアガンを構えたその先には−
「301が!」
狙撃班の一人、コードネーム“301”嬢がいた。胡烈は背中から地面に倒れ込みながら真上に銃をかざすとトリガーを引く。その弾は辛うじて写真部員のライフルに命中して手から弾き飛ばすことに成功しこそしたものの、着地した写真部員は小さく舌打ちしながら白兵戦用ナイフを手に取る。その隙に301嬢は退避することができたのだが、胡烈はといえば地面に大の字で寝転がっているようなものであり、絶体絶命のピンチに陥ってしまったのだ。
「どう撃ってもスカートの中に当たっちまう!」
飛び道具であるエアガンを手にしてこそいるが、下から撃ち上げた弾がもし、相手のスカートの中に命中してしまったら… いくらルールでは『体の箇所に関わらず、当たれば有効判定となる』と規定されているとはいえ、同じ女子として引き金を引くことができようはずもなかった。それと知ってか知らずか写真部員はゆっくりとナイフを振りかざす。もうだめか、と観念したその瞬間、きゃっ、という存外可愛い悲鳴と共に写真部員はすっ飛ぶように倒れ込んだ。起きあがった胡烈の目の前に、狙撃兵301嬢(仮名)がライフルを構えて立っていた。急遽引き返した彼女が胡烈に引導を渡そうとした写真部員を背中から(しかもかなりの至近距離から)撃ったのだ。
「大丈夫?」
「ああ、助かったよ」
至近距離からのヒットの衝撃に目を回してしまった写真部員に念のため“とどめ”をさしてから、胡烈は301嬢の手を握った。彼女は胡烈の顔をのぞき込むと、悪戯っぽく笑う。
「危なかったねェ、スカートの・ぞ・き・さん♪」
「あのなあ、のぞきはやめてくれ、のぞきは…」
胡烈は半ばゲンナリしながら服に付いた埃を払う。薄氷を踏む思いではあったがこれを最後に帰宅部連合の突撃は止み、08小隊前進部隊は狙撃班と共に集結地点へと向かった。

何度かバリケードの向こうから銃声が響き、楊欣、馬隆の留守番組は気が気ではなかった。…と、そこへ人の近づく気配がしたかと思うと、戦場ならではの緊張感を帯びた声が投げかけられた。
『諸君らが愛してくれた何進は倒れた、何故だ?』
あらゆる意味で思わず耳を疑うような文句であったが、楊欣はさもそれが当然であるかのように言葉を返す。
『ヘタレだからさ』
「よし、戻ったわよ。狙撃班も順調なようね」
当の何進−数年前の連合生徒会長であり、つい先だって失脚した何晏はその妹である−にとっては酷なこと極まりない以前にまったく脈絡のない応酬ではったが、要は合い言葉である。徐質を先頭に、なおも後方を警戒しつつ胡烈と牽弘が続く。08小隊の面々は再集結を果たすと、情報の整理と分析に入った。この結果をオペレーターが狙撃班に伝え、作戦の円滑化を図ることになっていたのである。
「さて、と。みんな配置に付いたわね。それじゃあ、一旦休憩にしましょ。孝興、貴女のところにコンビニの袋、あったわよね」
徐質が促すと、はいはいっ、と馬隆は足下の袋を取り出した。その中に入っていたものは差し入れ、陣中食、レーション等々呼び方は色々あれど要は“おやつ”である。馬隆が慣れた手つきで先輩達にスナックやらチョコやらを渡して回ったが、ひとり先程から難しい顔をして耳をそばだてている楊欣の姿を見ていぶかしんだ。
「あれ、楊欣先輩どうしたんですか? いまのうちに食べておきましょうよ」
「しっ、黙って! みんなも音、立てないで」
ガサガサと音を立てるメンバーを制した楊欣の声は緊迫感を帯びていた。特製の聴音装置を駆使してターゲットを捕捉するためのレシーバーは微かな足音を捉えていた。それは近いものではないが、何か無視できないものを感じさせる。
「来る、何か来る… どこだ、どこなんだ…」
「楊欣、何が…」
「隊長、おやつは後回しだ。こいつはヤバいかもしれない…」
楊欣は間違いなく何者かの存在を捉えていた。カンカンカン、と鳴る足音は、スチールの階段を上る時に発する音。ということは…
「上かッ!」
楊欣が見上げた視線の先、狄道棟本校舎に隣接した運動部室棟、その屋上に躍り出た一人の女子生徒。逆光に照らされたその姿は遠目にも見る者を圧倒する何かを放っていた。その存在を誇示するかのように光に映える濃淡二色のブルーを配したコスチュームに身を包み、眼下を睥睨するのは張嶷その人。一騎当千の強者が、今その持てる力の全てを解き放とうとしていた。

続く

274 名前:アサハル:2003/05/04(日) 02:46
http://fw-rise.sub.jp/tplts/gls.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/gls.jpg

こんなもんでよろしーでしょーかー。

ていうか張嶷かっこええ…ええ漢や!!

感想の文章が思い浮かばないので(感動しすぎ)
これをもって感想と代えさせて頂きます(無理!)

275 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/04(日) 21:10
>義兄上
あひゃ、スマソ。すぐに続けるおつもりだったとは知らず…。
んー、やはりしょーとれんじスレも、html化した方がいいですね…
最近とみに大作ふえてますし。

そしてナニゲに強い徐質たんらカコイイ! スカート付きワロタ。
何となく元ネタのシチュを想像できるような。あと、合い言葉も。
ですが何と言っても張嶷キタ━━━(((( ;゜Д゜)))━━━━━ッ
いよいよ次回クライマックスですな!
ちなみに玉絵張嶷たん↓

カコイイ!玉絵の中でも一番バランスがいい気がする萌え絵。

>アサハル様
(;´Д`)ハァハァ
眼鏡っ娘二人、あまさず堪能いたしますた。
うわー、なんか二人ともオトナ〜。曹操たちなんかまるでガキですな。

276 名前:★玉川雄一:2003/05/04(日) 22:28
前編>>265  前編の2>>273

 ▲△ 震える山(前編の3) △▲

これまでに感じたことのないような高揚感に包まれつつも、張嶷の目もまた倒すべき目標をしっかりと見据えていた。敵は校庭に広がるバリケードの山の中に潜んでいるつもりかもしれないが、闘うものが発する独特の気配は隠しようがない。
「指揮者2、白兵3、狙撃手3、一人は真下か…」
そう、彼女の眼下には狙撃兵の一人が捉えられていた。校舎に最も肉薄しているコードネーム“303”嬢である。だがさしあたって張嶷はたった一人、対する生徒会側は指揮所の二人(楊欣と馬隆)を差し引いてなお三人ずつのの戦闘員と狙撃員を擁している。選りすぐりの精鋭であることを自負していた胡烈には少々面白くなかった。
「たった一人で…? ハッ、なめられたもんだ」
「ここからじゃ近すぎて死角だ、頼む玄武!」
牽弘は303嬢の護衛についてその近傍に占位していたため、張嶷は死角に入っている。比較的距離を置いた胡烈に狙撃を要請した。
「おうよ!」
間髪入れず胡烈は中距離射程のライフルを放つ。この射線ならば命中は確実−
「なにッ!?」
張嶷は僅かに立ち位置をずらした。それだけで、かわしてみせたのだ。まるで、弾道をはっきりと見切ったかのように… 必中の一撃を放ったはずの胡烈には信じがたい光景だった。
「白兵にも狙撃銃! 脱出部隊には脅威になる…」
自身が狙撃を受けたことについてはさして意に介するでもなく、張嶷は彼我の戦力を冷静に分析し対策を練っていた。屋上に設置された給水タンクにザイルのフックを引っかけると二、三度ワイヤーを引っ張って固定を確認し、やおら壁を蹴って降下を開始する。眼下では張嶷の出現を知った狙撃兵303嬢が退避しようと装備をかき集めている最中だった。
「もらった!」
08小隊の至上命令は狙撃班を守り抜くことである。長距離狙撃戦力を喪失してしまえば、連合残留部隊への攻撃は困難になる。一人として失うわけにはいかなかった。
「任せて、落下なら予測できるわ!」
ザイルを繰り出して部室棟の壁を蹴りながら降下してゆく張嶷に牽弘が照準を合わせる。高速で動く目標を狙撃する事は基本的に不可能であり、弾の無駄撃ちをなくすためにも避けるべきとされていた(そういう場合は弾幕をはるのだが、現在の状況では射程距離の問題上無理)。だが今回のように垂直降下の場合は軌道を予測することが容易であり、射程距離と降下速度を見越して撃てば命中させられる理屈である。エアガンの腕に覚えのある牽弘のこと、瞬時に弾き出したポイントに狙いを定めると躊躇わずトリガーを引く。
「いける!」
銃にしろ弓矢にしろ、およそ射撃の名手たるものは標的に命中する『手応え』を感じるものだという。射手と標的の間には、極めた者だけが感じ取ることのできる繋がりがあるのかもしれない。牽弘の手にもまた、BB弾がターゲットを捉えた時のあの確かな感触が伝わっていた。だが−
「………嘘ッ!?」
ペイント弾の派手な塗料は、張嶷のからだ一つ分下の壁面に花を咲かせていた。 …牽弘の狙いが外れたのではない。計算通りに降下していれば、間違いなく弾は張嶷にヒットしていたはずだ。張嶷がザイルを繰り出す手を止めて、降下に制動をかけたのである。
「もらった!」
08小隊の皆が唖然としている間に張嶷は壁に足をかけて体勢を整えると、銃の狙いを真下に定めてトリガーを引き絞る。
「ひとーつ!」
「きゃあああああああっ!!」
降り注いだBB弾の嵐が狙撃兵303嬢を包み込む。張嶷が姿を現してから、ものの一分と経っていなかった。
「アタシと牽弘が手玉に取られた…」
「あっという間に一人… こいつは、撃墜王(エース)だ!」
小隊の面々は自分たちが闘っている相手の実力に今更ながらに気付き始めていた。地面に降り立った張嶷はザイルの自分の腰側のフックをベルトから外すと、校庭に林立するバリケードの中へと駆け込み姿を消した。


彼我の戦力差は僅かではあるが縮まりつつあった。だが、有利・不利の差はまた異なるバランスの上に成り立っている。張嶷は単身であるため攻撃が集中するはずだったが、持ち前の機動力を生かして狙いを定めさせない。一方で、目標とする狙撃兵が数を減らせば減らす程、一人あたりの護衛は厚くなるはずだった。護衛部隊とまともに渡り合ってしまえば、狙撃兵を取り逃すことになりかねない。張嶷にとってみれば、できる限り各個撃破してゆくことが重要だった。
「しかし、奴らもヤキが回ったか… これでは、居場所をこちらに教えているようなものじゃないか」
生徒会側は、数を頼みに包囲しようと牽制の射撃を行ってくる。だがそれはおよそ見当違いの場所に命中してばかりだった。このバリケードには廃材やら使われなくなった机、椅子やらが使用されているようで、着弾の度に煙とも埃ともつかないような何かがもうもうとわき起こっていた。無論、校庭の乾いた砂地も事ある毎に砂煙を立て続けている。
「あの一撃が外れるなんて… 絶対、当たるはずだったのに…」
「牽弘、頭を切り換えなさい、飛ばされるわよ。悔しいけど、奴の方が一枚上手のようね」
「あ、ああ…」
先程の結果をまだ引きずっている牽弘に徐質は発破をかけた。あれはけして牽弘のミスではない。相手の運動能力が予想の範疇を超えていただけだった。空間を三次元のレベルでここまで使いこなす恐るべき機動性に今まで出会ったことはなかったのだ。

「どこだ、奴はどこにいる…」
狙撃兵302嬢を護衛している胡烈は、たった一人の刺客の動きを捉えかねていることに苛立ちと軽い焦りを覚えていた。302嬢を背後に控え、微かな兆候も見逃すまいとやっきになって前方を注視する。だが、得てしてそんな時こそ視野は狭くなるものである。突如としてわき起こった砂埃に意識の間隙が生じた瞬間−
「!? 左かッ!」
突如飛来した『何か』が彼女のライフルに直撃して持ち手に鈍い衝撃を走らせる。それは張嶷が二本目のザイルの先端部フックの重さを利用して、“鎖鎌の投げ分銅”の要領で放ったものだった。
「うっ、ぐうっ!!」
そして砂埃を突き破るかのように突進してきた張嶷のショルダータックルを食らって胡烈はバリケードに叩きつけられる。衝撃に息が詰まって一瞬気が遠くなりさえしたが、すぐに我に返ると張嶷がいるとおぼしき方向に向けてライフルを乱射した。
「こなくそーッ!」
だが、立ちこめた砂埃の向こうに人の気配は感じられない。無駄に視界を悪くしただけのことに気付いた胡烈が慄然としたその直後、最悪の事態が襲った。
「やッ、いやあああああ!」
「しまった!」
声を向く方に目を遣れば、彼女が守るはずだった狙撃兵302嬢が張嶷に背後から組み付かれている姿が飛び込んできた。302嬢はジタバタともがいてみせるが張嶷の膂力に叶いそうもなかった。もとより、狙撃班は白兵の装備を持っていない。本来は相手に素手で立ち向かうほどの格闘力が要求されるわけでもないため、接近戦に持ち込まれるとなす術がないのである。それを見越しての08小隊の護衛であったのだが、張嶷の戦闘センスはまたも彼女達を上回っていた。張嶷はチラリと胡烈の方に視線を向けると、誇示するようにナイフをかざして見せる。
「白兵戦で飛ばすつもりかッ!」
しかし胡烈の悲痛な叫びを嘲笑うかのようにナイフが振り下ろされ、峰打ちとはいえ相当な衝撃を受けたであろう302嬢は気を失ってカクンと崩れ落ちる。
「玄武、任せて!」
ようやく駆けつけた牽弘が一連射を浴びせるが、張嶷は気絶した302嬢のゼッケンを剥ぎ取ると横跳びに退いてバリケードの向こうに姿を消した。

次第に追いつめられてゆく生徒会勢。だが、次の目標は最後に残った狙撃兵301嬢ひとり。最終的に敵は彼女に近接せざるを得なくなるわけで、一人を三人で護ることも考え合わせれば敵の選択肢も少なくなってきているはずである。そして、指揮所の楊欣はついに張嶷の動きを捉え始めた。
「つかまえた… 中央6列目、長机の上!」
バリケードとして積み上げられた長机の上を張嶷は軽い身のこなしで駆け抜けてゆく。それが崩れることを考慮していないというよりは、たとえ崩れたとしても我が身を御する術を知っている故の大胆さであった。だが、狙撃によって足下をすくうことができれば、あるいは…
「301、撃てーッ!」
「このっ、当たれ、当たれ、当たれッ!」
今やただ一人となった狙撃班の301嬢が凄まじい勢いでライフルを連射する。その流れるような一連の動作には鬼気迫るものがあった。おそらくは散った二人の僚友の敵討ちに燃えているのだろう。しかしその執念をもってしても、あと少しというところで張嶷を捉えられずにいる。
「あと一人!」
張嶷の奮戦はいよいよ修羅の領域へと踏み込もうとしていた。

続く

277 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/05(月) 20:23
ぐはッ!Σ(゚□゚;)!! 張嶷たんカコイイ!
なんか単身で凄ェ活躍していますか!? 弾道を見切りつつ近接戦闘
で速射するシーンなんかもう燃え!張嶷もガンカタの使い手か!?
白兵戦闘でも、やはり牽弘・徐質など遠く及ばない!
これで南中の荒くれ者たちをまったりと統治していた棟長だったとは…
帰宅部連合の人材も、まんざら棄てたモノではありませんな!

そしてお絵描きBBSにアサハル様から神支援投下確認↓


張嶷たんマイブーム…(;´Д`)ハァハァ…

278 名前:岡本:2003/05/06(火) 22:23
GWは休養で寝倒していましたので、反応が遅れました。
お絵かき掲示板もそうですが、SSスレッドも豪華作品の林立
で圧倒されました。

>玉川様
この台詞で感想に換えたいと思います。
”...直撃か、いい腕だ...”。

>雪月華
私は後漢書を断片的にしかもっていないので詳細な内容を追えないのが
心苦しいです。
理論家・盧植と実務家・皇甫嵩の性格が現れる会話がつぼにはまりました。

279 名前:★玉川雄一:2003/05/07(水) 00:42
前編>>265  前編の2>>273  前編の3>>276

 ▲△ 震える山(前編の4) △▲


狄道棟内に置かれた帰宅部連合軍の臨時本部に詰めている姜維のもとに副官の倹盾ェやってくると、撤収の準備が整ったことを告げた。彼女は窮地にあって姜維を助け補佐の任をよく果たしていたが、さすがに精神的、肉体的両面の疲労はかなりのものになっているようだった。
「代行、いつでも出られます。あとは、張嶷主将の…」
「大丈夫、彼女なら必ずうまくやってくれるよ」
たとえ気休めだと分かっていても、今は希望を持たせることが大事だった。もっともグラウンドでの張嶷の実際の戦いぶりを目の当たりにしたならば、気休めどころか大逆転すら予測させていたかもしれない。だが実際には後方に控えているはずの生徒会勢の包囲網を突破するという難事も控えており、それこそ口に出すことさえ憚られるものの最終的にはある程度の、いやかなりの犠牲は覚悟しなければならないはずだった。
(伯岐、必ず還ってきてよ…)
姜維の願いは、張嶷に届くだろうか…

バリケードの上を駆けてゆく張嶷に、狙撃兵301嬢の狙いが少しずつ合い始める。そろそろ潮時、とみた張嶷は積み上げられた机や椅子を派手に蹴り崩すと地面へと滑り降りた。
「やった、足を止めたぞ!」
崩れ落ちた残骸のこちら側に徐質が駆けつける。素早い動きを止めれば、数に優るこちらがイニシアチブを取ることができる。崩れ去ってなお目前にそびえるガラクタの山、その向こうに相手はいるはずだ。まずは回り込んで− と足を踏み出そうとした矢先。
ギッ、ギギッ、ギイイイッ……
「え、な、なに……!?」
目の前に立っている巨大なテーブル −それは女生徒でも二人いれば運べるような折り畳み式の長机ではなく、会議室に鎮座しているような巨大な天板を持つものだった− が、ギシギシと軋みをあげながらこちらへゆっくりとせり上がってきたのだ! それはさながら“壁”とすら呼べるほどの広さを持ち、並の女生徒にはとてもではないが動かすことなどかなわないだろう。だが現実にその壁は今や直立に近い角度をとり、なおもこちらへと迫ってきた。このままでは−
「うそ、まさか、そんな…」
「そ、れっ…… そらーーーッ!」
「きゃっ!!」
ズッ、ズウウウウウン…
慌てて後ろに飛び退いた徐質の目の前で、轟音を立ててテーブルはこちら側に倒れ落ちた。バリケードの文字通り『壁』となっていた個所を無理矢理こじ開けたのだ。相手は、あの刺客は、あれほどまでのスピードに加えて、男子顔負けのパワーも併せ持つというのだろうか?
「な、なんて馬鹿力なのよ…」
激しくわき立つ砂埃の向こうにいるはずの存在に、徐質は今はっきりと恐怖感を覚えていた。あいつが単身で殴り込んできたのにはそれだけの裏付けがあったのだ。自分たちとは、完全にランクが違う…
「ふっ、ふふっ、はははははッ!」
「!!」
少しずつ晴れつつある砂煙の中から、勝ち誇ったような笑い声と共に張嶷が姿を現す。さすがに先程の大技で力を使ったらしく、ゆっくりとしてこそいるが却って力強さを誇示するような足取りで一歩一歩近づいてきた。
「あ、ああ、ああ……」
今の張嶷に先程までのスピードは皆無で、ただ真っ直ぐにこちらへと近づいてくるだけだ。エアガンを撃てば、徐質の腕前ならば軽く一連射は命中させられる距離でもある。だが、手が動かない。手だけではない。全身が凍り付いたかのように固まってしまっていた。
「おびえろーっ、すくめーっ! 山岳猟兵の恐ろしさを土産に、飛んで行けーッ!」
ことさら恐怖心を煽るかのように大喝を繰り出す張嶷は、自身が昂揚状態にあることを自覚しており、なおかつそれをコントロールできていることに内心驚いてもいた。これほどまでに心躍る戦いというのは今まで経験したことがなかったのだ。それを楽しめるということは自分は根っからの戦争屋なのではないかという思いもかすめたが、今は仲間のために戦っているのだと思えばいくらでも闘志を奮い立たせられるというものである。目の前の女生徒、腕前はなかなかのようだが完全に私の勢いに呑まれている。悪いがこのまま…
だが、並の女生徒ならば逃げ出すか、腰を抜かすか、泣き出すかというような瀬戸際で徐質は踏みとどまった。大きく息を吸い込むと、恐怖心もまとめて飲み下す。両の手に再び力を込め、地面を蹴って吶喊を開始した。
「守ったら負ける… 攻めろーッ!」
「フッ、そう来なくっちゃ!」
エアガンを連射しながら突進する徐質に対し、張嶷はその射線を見切ると左腕に装備した小型シールドで弾を受け流す。そのまま右手のナイフで前方をひと薙ぎ。だが徐質はすんでの所で踏みとどまると、膝のバネを最大限に使ってバックステップを踏む。その勢いで再び間合いを取ろうと図ったのだが、背後にはバリケードが…
 ドズウンッ!
「うっ、ぐうっ!」
背中からモロに突っ込んで息を詰まらせたのも一瞬のこと、徐質は辛うじて取り落とさずに済んだ銃を振りかざすとトリガーを引き絞る。
「倍返しだーーーーッ!」
だが狙いもなにもあったものではなく、いずれも見当違いの場所でペイント弾の塗料をぶちまけ埃を巻き上げるだけだった。張嶷は全く動じたそぶりもなく、余裕すら混じった笑みを浮かべる。
「見た目は派手だが…」
そして視線を切った向こうには−
「狙撃手がガラ空きだ!」
「しまったッ!」
本来ならば徐質が立ちはだかっているべき通路の向こうには、蒼白な顔をした狙撃兵301嬢の姿があった! 張嶷との間に、遮るものは何もない。張嶷はその姿に狙いを定めると勝利を確信してトリガーに指をかける。
「終わりだ!」
「間に合えーっ!」
背後の山を蹴り飛ばし、やはり左腕に装備したシールドを振りかざしながら徐質は張嶷の射線上に飛び込んだ。
「なんと!?」
彼女たち白兵要員が装備するシールドは激しい運動にも邪魔にならぬようさして大きくはない。だからその限られた面積をいかに有効に使いこなすかが求められるのであり、腕の一部のように自在に操れて初めて一人前の戦闘員といえる。張嶷はもちろんのこと徐質もその有資格者であり、振り上げたシールドは見事に射線と交錯、すんでの所でその向きを変えることに成功し、倒れ込んでなお繰り出された牽制射撃で張嶷の好機は封じられた。しかし、向こうの角を曲がって消えてゆく301嬢と砂にまみれて息を付く徐質を交互に見つめる張嶷の表情に悔しさの色はなかった。むしろどこか満ち足りた笑みすら浮かべると、腰のベルトから信号弾代わりの小型打ち上げ花火を取り出し発射する。ポンッ、という音と共に舞い上がったそれは上空で破裂するとヒュルヒュルと激しく回転しながら赤い煙をまき散らした。
「伯約、どうやら合流はできないようだ。私は、死に場所を見つけたよ…」
張嶷の瞳に諦めの色はない。最大の目標を達成するための新たな決意が溢れていた。


「代行、張主将からの信号弾です!」
倹盾フ声に姜維はハッと我に返る。どうやら、疲れからか少々ボーッとしていたらしい。張嶷からの信号弾ということは、少なくとも今までは彼女が健在であったという証である。打ち合わせていた信号弾の色は二色。どちらが上がるかで彼女の命運は決する。
「色は、伯岐はなんと…?」
しかし、倹盾フ表情はかき曇る。悲痛な声で絞り出したその答えは−
「赤です…」
『合流できず、残存部隊は脱出を開始せよ…』
呆然と姜維はつぶやいた。張嶷は今、どんな状況にあるのだろうか。自らの命運が断たれたことを知ってなお、戦い続けることができるのだろうか?
『全部隊脱出地点への集結完了、以後は各指揮官の指示に従え』
校内放送を通じて最後の指令が送られ、直後にブツン、とスピーカーが音を立てた。ギリギリまで残っていた通信要員も撤退するのだろう。もはや逡巡している暇はなかった。
「私達も出るわよ… 倹潤Aついてきなさい!」
「はいッ!」
張嶷の奮戦を無駄にするわけにはいかない。姜維も自らの役割を全うするべく、皆の待つ場所へと足を速めた。


 続く

280 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/07(水) 23:40
むう、以外にも徐質の善戦…。
つうか、回を追うごとにハードボイルドな展開!
張嶷たん… 将の良なるは己の役割に徹することと
いいますが、まさに今回の張嶷たんの奮戦は…・゚・(ノД`)・゚・

281 名前:雪月華:2003/05/10(土) 18:49
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第一章 軍師人形

先日、黄巾党から盧植が奪回した冀州校区鉅鹿棟を発した生徒会軍550人は一路、黄巾党本拠地である鉅鹿棟付属施設の広宗音楽堂を目指していた。付属施設といっても、鉅鹿棟からは5qの距離があり、途中、両脇を切り立った崖で挟まれた山道を3qほど越えねばならない。指揮は新たに総司令官職についた涼州校区総代の董卓である。
董卓軍はある異名を持つ。コスプレ軍団というのがそれであり、董卓配下は放課後、常に何らかの仮装をしていなければならず、それはかつての盧植配下であった450人も例外ではなかった。董卓直属の100人はそれなりに気合が入っており、いずれもハイレベルな衣装であるが、かつての盧植配下は、それを噂には聞いていたものの、突然の命令と短い準備期間だったため、良くて学芸会レベルの者がほとんどであった。
「赤兎」のサイドカーに座する、董卓の衣装がふるっていた。荒事を覚悟してきたのか、いつもの朝服…ゴスロリファッションではなく、やや戦闘的な、ひとことで言えばベル○らのオ○カルの衣装である。ご丁寧に金髪巻毛のウィッグまで乗せている。一種異様な貫禄さえ漂わせており、そのインパクトたるや、宝塚ファンが見たら生涯立ち直れないほどの衝撃を受けるであろうことは疑いない。
「李儒、お茶おねがい」
「かしこまりました」
李儒と呼ばれたメイド、正確にはメイドの仮装をした女生徒が、歩きながら器用に紅茶を淹れ始めた。流麗な手さばきであり、ティーカップの周囲には、一滴のはねもとばさない。
李儒。董卓の懐刀であり、酷薄非情の参謀兼メイドとして名高い。くせのある緑がかったセミロングの髪、きめ細かい滑らかな白磁の肌、しなやかな均整の取れた肢体、整った顔立ち。美少女の条件は充分すぎるほどに備えている。だが、完璧と賞するには、喜怒哀楽を母親の腹に置き忘れて生まれてきたかのような無表情は、無機的に過ぎ、冷たい、というよりまったく「温度」というものを感じさせない瞳は、高級フランス人形の水晶でできた瞳を思わせた。皮肉にも、その人形然とした雰囲気に、茶色のエプロンドレスを基本としたメイド姿が、身もだえするほど良く似合っている。とにかく他人はおろか自分自身でさえ、物、駒と考える癖があり、おまけに罪悪感という「脆弱な」ものを持ち合わせていないため、どんな非情な作戦や陰謀でも、眉ひとつ動かさずやってのけることができる。故に、友人は皆無だが、それを気にしている風には見えない。
董卓は砂糖壺の蓋を開けると、李儒の淹れた紅茶にティースプーン12杯の砂糖を立続けに投入し、13杯目を掬ったところで「高血圧になるからね」と慎ましく呟き、とても名残惜しそうに砂糖壺に戻した。温かい「紅茶入り砂糖水」をゆったりした仕草で喫すると、董卓は満足げなため息をもらした。
「美味しいお茶ね。アールグレイ?」
「はい」
本当はアッサム茶なのだが、あえて訂正はしない李儒である。
「それで、今回の作戦はどうなってるの?」
「はい…賈ク」
李儒が呼ぶと、傍に控えていたOL、正確にはOLの仮装をした女生徒が進み出て、持参のモバイルPCから、サイドカーの前面に据え付けられた液晶モニターにLANケーブルを接続し、左手でモバイルを持ったまま、右手のみでキーボードを操作し始めた。
賈ク、あだ名を文和。涼州校区の一年生では、際立った知恵者であり、パソコンの扱いでは涼州校区で二番目である。ハードウェア、ソフトウェア双方に精通し、ネットの技術も一流。少々幼さは残っているものの、腰の辺りで切りそろえた艶やかな黒髪の佳人であり、キツめの目元と口元にたたえられた不敵な笑みが、なかなかの曲者という印象を与える。彼女も李儒のように冷たい印象を受けるが、その目にはいくらか人間味が残っていた。いくらか、という程度ではあるが。
やがて液晶画面に、戦場となる広宗音楽堂前自然公園を上空から俯瞰し、3D化した物と、青の矢印が4つ、音楽堂を背にするように黄色の矢印が2つ表示された。
李儒が無表情に作戦の説明を始める。機会音声のような、温かみもそっけもない声であるが、一部の者には、それがたまらなく萌えるらしい。
「まず、我が軍を4つに分けます。450の生徒会正規兵を150ずつ3つの集団に分け、それらを横に3つ並べて、賊軍に正対させます。董卓様と直属の100人はその後方で待機します」
李儒の声にしたがって、画面の中の矢印が動く。
「今までの戦歴から推測するに、黄巾党の戦術はただ一つ、正面突破しかありません。というより、戦術も用兵もあったものではなく、正面からの力押ししか知らないようです。広宗の賊軍は250人。ですが、50人は音楽堂の守備に回るのと考えられるので、実質200人程度しか出てこれないと推測します。まず、450人を正面から突撃させます。賊軍とぶつかったら、両翼の300は賊軍の左右を逆進し、後背で合流後、攻めかかり、そのまま包囲、殲滅します。容易に決着がつきそうに無い場合、待機の100は混戦を迂回し直接、音楽堂を衝きます」
「それで勝てるのね☆」
「100%、とは言いかねます」
「うみゅー、どうして?」
「まず、はじめにいた賊軍600が、盧植の働きで250まで減ったということは、飛ばされるべき者が、振るい落とされたということです。必然的に、残った者は精強であり、少ない分だけまとまりも強く、あとが無いため士気も高いでしょう。一方、我々、生徒会正規軍のほうは、険しい道を踏破した疲労と、突然の指揮官交代により、少なからず動揺していますので、盧植のときと同じ士気を保つのは難しいかと存じます。ですが、この作戦が最も有効であることに変わりはありません」
コスプレによる士気低下には、紅茶のときと同じく、あえて触れない李儒である。言わなくてもいいことがあるのを、彼女は心得ているのだ。やがて、考え込んでいた董卓が重々しく首を縦に振った。
「他にいい手はないようね。わかったわ。その作戦を諒承しちゃうことにするわね」
「ありがとうございます。すべては、董卓様の覇権のために」
うやうやしく、李儒が頭を下げる。その宣言の内容とは裏腹に、声には一片の熱意もこもっていなかったが、董卓は咎めようとはしなかった。もともとこういう性格であるのは、長いつきあいでお互い十分理解しているのである。
今ひとつ気勢の上がらぬまま、生徒会軍は進軍する。やがて山道が開け、パルテノン神殿を模した広宗音楽堂とその前に広がる自然公園が、彼女達を迎えた。

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282 名前:雪月華:2003/05/10(土) 18:51
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第二章 天使の歌

広宗音楽堂。かつて冀州校区合唱祭が開催された場所であり、黄巾党蜂起に伴う合唱祭襲撃事件後は、黄巾党の本拠となっている。自らの意思に反する形で党首、天公主将に祭り上げられた張角は放課後のほとんどをここで過ごし、一時期のピンクレディー以上のハードスケジュールをこなしていた。音楽堂の前には800m四方ほどの野原が広がり、自然公園となっている。自然そのまま、といえば響きはいいが、何か施設を建てるほどの予算が、慢性的に不足している裏返しでもあるのだ。
今、そこに、西に生徒会軍550、東に黄巾党250が、互いに200mほど距離をおいて対陣していた。そろいのTシャツと黄色いバンダナに身を固めた黄巾党に対し、思い思いの仮装をした生徒会軍は、どこと無く秩序に欠け、魑魅魍魎、百鬼夜行の妖怪集団に見えなくもない。
両軍の中間地点から南に1kmほど離れた小高い丘に、2つの人影が現れた。皇甫嵩と朱儁。視察という名目で自転車を駆り、観戦にやってきたわけである。目立つとまずいので互いに一人の部下も連れていない。待機命令に違反しているが、留守番の雛靖には、厳重に口止めしているので、直接ここで見つかりさえしなければ、何も問題は無いのだ。
「やれやれ、間に合ったようだな」
「こんな映画顔負けのことがタダで見れるのも、後漢市ならではってところだよねー」
「それにしても、董卓軍は噂以上だな。盧植の元部下達も気の毒に」
「ホントホント。いきなり司令官が変わった上にこの仕打ち。やる気を出せというほうが無理よね」
抜け目無く持参した双眼鏡で、黄巾党のほうを見ていた皇甫嵩が、唐突に驚きの声を上げた。
「おい、あれって…張角じゃないか!?どうして前線に!?盧植のときは一度も出てきていなかったぞ!?」
200人の黄巾党前衛部隊の後方、50人の親衛隊に守られ、音楽堂の手前30m程の所にある国旗掲揚台に張角は立っていた。
白を基調とし、青で縁取りされた足首まである長衣。同じデザインのフード。さながら神に仕えるシスターのようだ。襟元から覗くトレードマークの黄色いスカーフ。そして見間違いようの無い金銀妖瞳。神々しささえ感じさせる美貌。紛れも無く張角本人であった。敵味方あわせて800人を超す人の群れを前にして、物怖じしたところは微塵も見られない。数々の舞台で場慣れしているからであろう。
「そんな馬鹿な…張角は平和主義者で戦いを望んではいないのではなかったのか?」
「はっきり、私たちを敵と認識したのなら厄介なことになるわね、何があったのかな?」
「生徒会ではなく、董卓個人に対する忌避であってほしいが…」
「妙なことに気づいたんだけど、あの歌が聞こえないのよね」
「黄巾のマーチか?確かに、今までの戦場ではうるさいくらい聞こえていたものだったが…というより音響関係の機材が一切見当たらないぞ?一体どうするつもりだ?」
「義真、敵の心配してどうするの?」
「敵…か。なあ公偉、張角は私たちの敵なのか?」
「組織だって学園の平和を乱してるよ。敵じゃなくて何なの?」
「そうか…そうだな」
頷く皇甫嵩の声には、納得以外の何かが含まれていた。

「黄巾党諸君。これより…」
張角は、親衛隊長である韓忠の演説を片手を上げて制止した。代わって、彼女が口を開く。
「…黄金の騎士達よ。今こそ決戦の時です」
決して声量は大きくはない。激しくもない。だが、拡声器を通していないにもかかわらず、その声は黄巾党全員にはおろか、1q離れたところにいる、皇甫嵩と朱儁のもとにもはっきりと聞こえた。張角が言葉を続ける。
「あの異形の軍団を撃破し、首領を討つのです。かの者こそこの学園を混乱させ、近い将来、学園を暗黒の奈落に落とし込む元凶。禍の根を今ここで絶つのです!」
もともと高かった士気は、張角の鼓舞で一気に最高潮に達した。必勝の意気高く、劉辟らの指揮というより煽動で、黄巾党は眼前で赤い布を振られた猛牛の如き勢いで突撃を開始した。
張角が、何故前線に出てきたのか、明らかにはされていない。張宝らに強制されたと言う説もあり、董卓の危険性を予感し、総力を持ってそれを討つべく自らの意思で出てきたと言う説もある。だが、真相が明らかになる前に張角は自主退学し、張宝、張梁らは廃人同様になってしまったため、真実は闇の中である。
黄巾党の突撃と共に、張角が目を閉じ、静かに歌い始めた。

一方、生徒会側でも董卓の演説が始まっていた。
「見果てぬ夢よ。永遠に凍りつきセピア色の…」
「あの、董卓様?」
李儒が怪訝な顔で、サイドカーの上に立つオスカ…もとい董卓を仰ぎ見た。
「メモを間違えちゃった。キャラも違ってたし。ええと…栄光ある生徒会の兵士達よ!これから黄色い賊徒に罪の重さを教え込んであげるのよ!生徒会の為に!そしてなにより、この董卓ちゃんの栄光の為に!あ、それから、賊徒に遅れをとるようなことがあったら、蒼天会長に代わっておしおきよっ!」
もともと、盧植の元部下450人の士気はそれほど高くなく、突然の指揮官交代とこの妙な仮装、演説によって、よけいに士気は下がり気味であった。だが、目の前の相手を倒さない限り、彼女達に未来はない。半ばやけくそで喚声を上げ、黄巾党へ向かって進撃を開始した。
「第一次広宗の戦い」の始まりである。

黄巾党と生徒会軍は広宗自然公園のほぼ中央で激突した。激突直後、生徒会軍の左右両翼は黄巾党の両脇を素早く逆進し、後背で合流して包囲を完成させる事に成功した。黄巾党も、もたつきながらも円陣を組んで、それに対抗する。激しい戦闘が展開された。喚声と悲鳴と竹刀をたたきあう音が幾重にも重なって、広宗自然公園に物騒な協奏曲を響かせる。
後世、群雄割拠、三勢力鼎立時代に行われた戦闘に比べると、この時代のそれは、武芸の華やかさにおいても、用兵の緻密さにおいてもいささか迫力不足であったことは否めない。個人個人の武芸の練度が低く、主将の指揮能力も不足気味であったからだ。
それでも、戦闘の始まる前に、黄巾党の敗北は決定していたようなものである。生徒会に比べ、数において劣り、戦術においても劣っていた。主要な道は生徒会に押さえられており、張宝、張梁は皇甫嵩たちにより手痛い打撃をこうむっているため援軍も出せない。おまけに本拠地に追い込まれているため、主将、つまり張角を討たれれば全ては終わりなのだ。戦う前に勝つ。盧植の戦略の凄みはそこにあった。
本来、張宝、張梁に痛撃を与えた直後、皇甫嵩、朱儁の両名と、その率いる精鋭を呼び寄せ、総勢800で決戦に臨む予定だったのだが、盧植は作戦始動直前に讒言によって解任されてしまったため、予定は未定で終わってしまった。

張角の歌が、優しく広宗の野に響き渡る。空を舞う鳥が羽を休めて枝に止まり、うっとりと歌に聞きほれている。生死をかけた追撃戦を演じていた猫とネズミが仲良く寄り添ってじっと聞き入っている。およそ戦場には似つかわしくない平和な雰囲気が辺りを包み始めた。心を揺さぶるのではなく、そっと包み込み、母親が乳児をあやすように、優しく、暖かく、心を癒してゆく。張角の天使声は絶好調であった。肉声で、しかも拡声器を通していないにもかかわらず、1km近く離れたところにいた皇甫嵩たちのもとにもその歌声ははっきりと聞こえた。
「戦場には似つかわしくない、優しい歌だな…ん?どうした公偉?」
「義真…これ、声じゃないよ!耳を塞いでても聞こえてくる!」
「初めて聞くが、これが『天使声』か…」
張角のソプラノは、世界トップクラスのオペラ歌手に匹敵する。天賦の才と、たゆまぬ努力によって、声量、声のツヤ、技巧、音程の幅広さ、いずれも高校生とは思えない程、高いレベルでまとまっているのだ。そして張角を異能者たらしめているのが、この精神感応音波「天使声」である。どういう仕組みかは不明だが、黄巾党には勇気を与え、敵対する者には脱力を強いる。その効果範囲は約700m。声自体は2q先まで届く。ただ、この超音波は現代の録音技術では拾えないため、この効果を得るには、張角自ら出向くしかない。
やがて、戦場の様子が目に見えて変化しはじめた。天使声の効果が現れ始めた為、黄巾党の圧力に抗することができず、生徒会側の包囲のタガが目に見えて緩み始めたのだ。

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283 名前:雪月華:2003/05/10(土) 19:15
─次回予告(※黄巾党視点)─
悪魔軍団の狡猾な作戦により窮地に立たされた黄金騎士団だったが、張角の歌声で劣勢を盛り返す事に成功する。しかし、悪魔軍団総帥董卓の奥の手により、再び窮地に陥る事に。その時、張角に奇跡が起こる。その最中、皇甫嵩、朱儁の友情に亀裂が…
次回、いよいよ決着。蒼天己に死し 黄天当に立つべし。 

随分長くなってますが、もう少しだけ続きます(^^;
董卓のキャラ立て、なんだか失敗しました。いまいち目立ってないです。猛省。
李儒≠セ○オ(東鳩)≠オーベルシュタイン≠綾○のつもりで書いたのですが、本末転倒と言うべきか、なんだか全部混ざったようなキャラに(^^;
ちなみに、シスター張角の衣装イメージは
その1→ttp://www.galstown.ne.jp/5/cospre/goh/trinity-2.htm
その2→ttp://www.webkiss.jp/catalog/TrinityBlood/Esther_Blanchett.html
です。個人的に、その2のメタルアクセサリ無しの方が張角のイメージに合うような気が…

>玉川雄一様
カント大戦以後のいわゆる「軍師の時代」の戦い方の代表的な例ですな。呂布、関羽といった前線で剛勇を振るう武将が戦の帰趨を決める時代から、緻密な作戦の駆け引きを必要とされる近代戦に時代が移り変わったのが良くわかります。
続き、楽しみです。
>岡本様
確かに、第一部は皇甫嵩伝をかなり参照しましたが、第二部からは、具体的な戦の資料がほとんど無い状態でして…
場面、人物共にかなりフィクションが入ってますので、続きは気楽に読めるかと思います。

284 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/11(日) 21:43
エンジェルヴォイス実戦投入キタ━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

身もだえするほどカコイイ!
書き手の力量によっては文章が浮き上がってしまいそうなシチュでも、しっかりと
地に足着けてますし!読んでいて安心できます!
すでに十重二十重に包囲されている戦況の中、張角たんの声が戦場に響く…
何とも鳥肌ものシチュではありませんかっ!
そして張角たんのコスチュームもまた…( ´Д`)ハァハァ… これでヘテロクロミア
だなんて…。ハマってるなあ…。
しかし張角の命運も、黄巾の学園革命も、佳境ですか…

そして一変して董卓軍団ワロタ。
どんどこイロモノ軍団化が進んでいましたが、とうとうその全容が明らかに!
李儒たんの冷徹メイドグッジョブ! なんかこう、隙の無い万能メイドってのがカコイイ!
キャラはそれで! 万能メイドは私心を持ってはいかんのですよ!主に忠実なのではなく
職務に忠実なのです!
そしてサリゲに中核に参加している賈詡たんもカコイイ!

それにしても次回予告が気になる…

285 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:15
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第三章 広宗の笑劇

「どうも戦局が思わしくないわねっ☆」
「士気の低下速度が異常です。張角の『天使声』…予想以上の効き目のようですね。あれを止めなければ勝利は無いでしょうから、張角に対して刺…」
「董卓ちゃん、いいこと閃いちゃった☆」
「いきなり何です?」
献策を遮られた不満をおくびにも出さず、李儒は頭上に豆電球を点灯させた董卓に聞き返した。
「歌には歌で対抗するのよ☆董卓ちゃんのミラクル★ボイスで黄色い賊徒を正気に戻してあげるわ☆」
やめておいたほうが、と言いかけ、李儒は口をつぐんだ。こうなっては、もうこの主人を止めることはできない。作戦全体の変更もやむをえないだろう。
もともと、この作戦は張角が前線に出てこない、という前提で立てたものである。その誤算が想定以上にこちらを不利にするものならば、董卓にもまだ進言していない、次善の作戦に移らねばならない。董卓の兵力を減らさず、「生徒会の」兵力をできるだけ削ぐ。そのためには…
一瞬のうちにそこまで計算し、さりげなく、李儒は董卓の傍を離れた。
「ハイ、ミュージックスタート!」
カセットデッキを持った一年生がテープを差し込み、再生ボタンを押した。
♪さぁけはのぉ〜め、のぉ〜め、のぉむならば〜、ひぃ〜の…
ぼこおん、と音がして、董卓の熊と見まがう逞しい右腕で、後頭部を強打された一年生は、上半身を地面に突っ込んだ。
「間違えないでよ!何が悲しくて黒田節を歌わなきゃならないのっ!こっちでしょ!」
董卓は毒々しいピンク色のテープを取り出すと、デッキに差込み、再生ボタンを押した。聞いていて恥ずかしくなるような、なつかしの少女アニメ主題歌が流れ出す。
「おほほほほほ!董卓ちゃんの18番!名作アニメソングメドレー50連発よ!イッツ☆ショーターイム☆」
♪西涼校区からやぁ〜ってきた♪とぉって〜もチャームな女の子♪仲頴〜♪仲頴〜♪
呆れたことに全編替え歌である。ボリュームを最大限にひねった董卓は、伝令用の拡声器を片手に、嵐のような振り付けとともに歌い始めた。
魔界のリサイタルが、広宗の野において開演された。

それよりほんの少し前、董卓直属の兵100人の中核部分において。
「華雄」
「おう軍師殿じゃないか。いよいよ突撃か?」
灰色熊のきぐるみを身にまとい、イライラと歩き回っていた華雄は、話し掛けてきたメイドに歩み寄った。歩み寄るというより、いきりたって掴みかかるという勢いであり、並の軍師なら、たとえ撤退を指示すべきでも震え上がって相手の意を肯んじたかも知れない。しかし、李儒は「並の軍師」ではなかった。
「撤退します。準備をはじめてください。…この手は何です?痛いのですが」
「一戦も交えんうちにか?少し消極的に過ぎるんじゃ…あだだだだ!」
胸倉を掴んだ華雄の右手の親指を掴むと、李儒は外側に捻った。苦痛のうめきと共に手を離した華雄を、何事も無かったかのように見据え、言葉を続ける。
「董卓様の御命令です。私としても不満ですが、不服従は許されません」
「だが、あの混戦を収拾するのは容易ではない。少なくとも半数は犠牲に…」
「その心配は無用です。撤退するのは、我々100名のみですから」
「何だと!?」
「張角が前線に出た時点で、こちらの「完勝」の可能性は消えました。この100で混戦を迂回して突撃すれば、あるいは勝てるかもしれませんが、犠牲も大きくなります」
「しかし、450名を見捨てるとは…」
「何を躊躇う必要があるのですか?別に、450人は『董卓様の』兵というわけではないのですよ。後日、洛陽棟に軍事の真空状態を作るため、追撃を防ぐ盾として、できるだけ飛ばされてもらう事を期待しているのですが」
「貴様…これは本当に董卓様の命令なのだろうな?」
「疑うのですか?董卓様自ら、しんがりを買って出ているというのに」
「董卓様自ら?危険ではないのか」
「黄巾党如きが、あのお方を飛ばせると本気で思っているのですか?」
「…わかった。撤退の準備をさせる」
董卓の名前を出されては逆らうわけにはいかず、華雄は撤退の準備を始めた。機会音声のような李儒の言葉が、華雄をさらに急がせる事になった。
「まもなく、董卓様の『あれ』が始まります。可能な限り、急いでください」
代名詞を出されただけで、華雄は事態を悟った。

♪いやよ☆いやよ☆いやよ見つめちゃいや〜☆仲頴フラッシュ!
新たに湧き起こった歌声が、夢見心地だった皇甫嵩たちの気分を粉砕した。
「な、なんだ、この声は?雷鳴か?」
「せっかくいい気分だったのにー!思いっきりぶち壊してくれるじゃないの」
「頭痛が…なあ、公偉。好きこそ物の上手なれ、という教育論の肯定例と否定例の両極端が目の前で展開されているようだな」
「さ、流石に黄巾の連中にも効いているようね」
このとき、潮が引くように整然と、董卓配下100名は戦場を離脱し始めている。だが、董卓の歌で失調していた二人は、不覚にもそのことに気がつかなかった。もっとも、気づいていても、どうしようもなかった事は確かであるが。

♪笑って〜笑って〜笑って仲頴〜
朱儁の指摘したとおり、黄巾党の勢いが目に見えて鈍った。戦闘行為を中断して、耳を塞ぐ者が続出する。だが、耳を塞げば武器を持っていることができなくなるので、耐えながら戦うしかない。一方、張角の加護を得られない分だけ、生徒会正規軍の被害はそれを上回っていた。蒼白な顔をし、胸を押さえ、貧血を起こして次々に膝をつく。空を飛んでいた鳥が次々と気絶し、地面に落下していく。1年生の中には泣き出す者もいた。いまや最悪の音響兵器と化した董卓には、それらの姿はまったく見えていない。張角の天使声と董卓のミラクルボイスに挟み撃ちにされ、戦場は奇妙な膠着状態に陥り始めた。
すでに董卓直属の100人は、華雄の指揮で戦場を完全に離脱し、いっさんに鉅鹿棟を目指していた。残された生徒会軍は、もはや人類史上最悪の音響兵器と化した董卓と、不幸な正規兵450人のみである。
董卓のミラクルボイスにより、深刻な精神的ダメージを受けた黄巾党が、救いを求めるように張角に視線を集中させた。曲の節目に来たため、張角が言葉を切る。次いで、それまで閉じられていた両目がゆっくりと開き始めた。
開かれた張角の色の異なる両目に、神秘的な輝きが踊っていた。夕日を照り返してのことではない。張角の目、それ自体が光を放っているのだ。董卓を除く、戦場にいた全員がその神秘的な光景に一時、目を奪われた。
奇妙な事に、いつのまにか風向きが変わっていた。北から吹いていた風が、東から西へ、つまり張角の背後から生徒会軍に向けて吹き始めていた。国旗掲揚台に掲げられた学園旗のなびきでそれがわかる。
張角が沈み行く夕日に両手を掲げ、声を発した。
「Hort!(※聞け!)」
広宗自然公園に衝撃が走り、戦場の空気は一変した。

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286 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:24
広宗の女神 第二部・広宗協奏曲 第四章 女神光臨

張角が新たな楽章を歌い始めた。
それは、それまでの天使の歌ではなかった。普段の温和な張角からは想像する事のできない、圧倒的な威厳を漂わせるその歌は、すべての生物を屈服させ、改宗させ、従える、女神の歌であった。広宗自然公園は巨大なオペラ座と化し、すべての生物が息を呑み、崇拝の目で張角を見つめた。その場にいた全ての者の耳に、オーケストラの演奏が聞こえたほどだといわれている。そして、黄巾党と生徒会の者は見た。シスター服をまとう張角の背中に、光り輝く天使の翼を。古代王朝の神事の如き荘厳な雰囲気の中にあって、董卓の歌など、もはや蚊の羽音に等しかった。
黄巾党の後背に回りこんだ300人は、張角の天使声と董卓のミラクルボイスの挟撃によって、失神しかけていたところに、この女神の歌の直撃を受け、一挙にとどめを刺された。黄巾党に打ち倒されるまでもなく、女神の歌で次々と魂を砕かれ、失神し、倒れこんでいく。張角の変貌から10を数えないうちに、迂回部隊の300人すべてが立つ力を失い、地に這った。最期の一瞬に何を垣間見たのだろうか。倒れた300人のすべての顔には、安らかな微笑みが浮かんでいた…
「安楽に気絶」した300人とは対称的に悲惨な目に遭ったのは、はじめに黄巾党を受け止めた150人である。女神の歌の直撃を受けこそしなかったものの、それだけ董卓に近く、ミラクルボイスの被害で、より重度の貧血状態に陥っていた彼女達には、いまや目の前で赤い布を振られ、猛り狂った猛牛でさえ青ざめて逃げ出すほどの勢いとなった黄巾党を迎撃することは当然できなかった。瞬く間に陣形を打ち破られて壊乱状態に陥り、悲鳴をあげて逃げ惑うばかりである。だが、敵味方の音響攻撃で、その逃げる力さえ蒸発しつつある。多くの者は50mも走ることができず、立ち竦んだところを黄巾党に階級章を剥ぎ取られ、呆然と座り込むばかりであった。
皮肉なことに、その妙な仮装のせいで、戦場全体の雰囲気が「黄巾の賊軍に散々に打ち破られた生徒会正規兵の災難」ではなく「女神の加護を受けた黄金の騎士団が、異形の悪魔軍団を撃破した」というように、完全に正邪が逆転して感じられてしまったのである。

「大変!助けなきゃ!」
「待て!公偉!!」
走り出しかけた朱儁の右肩を皇甫嵩の左手が掴んだ。制止した皇甫嵩を睨みつけた朱儁の目には、怒りの炎が燃え盛っている。
「止めないで!義を見てせざるは勇なきなりって、学園長も言ってたよ!」
「落ち着け!今、私たちが出て行ってどうなる!」
「でもっ!」
「あそこまで混乱してしまっていては、もう収拾する事は不可能だ!ただ勇気があればいいものではないだろう!」
「義真…まさか、まだ董卓の待機って命令に、拘っているんじゃないよね!?」
「何だと?」
「きっとそうよ!それとも、すっかりあの勢いにビビってて、董卓の命令に拘ったフリして…」
「手勢の50人もいれば、あの歌が始まる前に、すでに駆けつけている!待機命令違反などという、くだらんことに拘るものか!」
「ちょ、ちょっと義真、痛…」
右肩を掴んでいる皇甫嵩の左手に凄まじい力がこもり始め、朱儁を怯ませた。
「それとも公偉!お前はたった一人であの200人を何とかするつもりか!ここでおまえが飛ばされたらこの後どうなるか、考える冷静ささえお前は失っているというのか!!」
「痛いってば!義真!離して!」
肩の骨がきしみ、堪えきれずに朱儁は悲鳴をあげた。はっ、と我に返った皇甫嵩が左手の力を緩めると、朱儁は右肩を押さえてその場にうずくまってしまった。そして、朱儁は見た。固く握り締められた皇甫嵩の右の拳に爪が食い込み、紅い雫を滴らせているのを。皇甫嵩も、朱儁以上に義憤に駆られていたのだが、何もできない不甲斐無い自分に腹を立てていたのだ。
お互い、呼吸を整えるのに5秒ほどかかり、先に皇甫嵩が口を開いた。
「…すまない、公偉」
「義真、あなたも…」
「それ以上言うな。引き揚げるぞ。これ以上ここに居ても、何の意味もない…立てるか?」
「なんとか、ね…あ」
皇甫嵩は、朱儁の手をとって立たせると、スカートについた砂埃を払ってやった。そのさりげない優しさが、朱儁の胸にしみた。
戦場では酸鼻極まる光景が展開している。いまや、まともに階級章を所持している生徒会軍は、10人に過ぎず、それ以外の者は、女神の歌の直撃を受けて気絶しているか、黄巾党に階級章を奪われ、呆然と座り込んでしまっていた。そして彼女達も、やがて女神の歌によって意識を失っていくのである。
気を失った440人あまりの乙女達が散らばる戦場に背を向けると、皇甫嵩と朱儁は自転車を駆って、司州校区へと向かった。
自転車を駆りながら、皇甫嵩は必死で考えていた。
(あの女神に勝てるのか?張宝や張梁、他の黄巾党幹部相手なら、たとえ2倍の戦力差があっても勝ってみせる。だが、あの歌にはどうやって対抗したらいいんだ?どのような状況であれ、対峙して時間が経つにつれ、急激な速度で味方の士気は落ち、敵の士気は増す。たとえ4倍の兵力があっても勝てはしないだろう。とすれば…張角個人への闇討ち…何を馬鹿な事を考えているっ!それだけはしてはならないことだ。人道にも反するし、子幹との誓いもある。…子幹か)
無意識のうちに胸のロザリオを握り締めている自分に気がついた。そんな自分を激しく叱咤する。
(だめだ。子幹に頼るわけにはいかない。今、彼女は風邪で伏せっている。意見を求めたところで、いい考えが浮かぶはずはないし、躰に負担をかけるだけだ。そしてなにより、私の力でこの乱を鎮圧すると、子幹に誓った。私にもプライドはある。誓いは果たす。必ず!)

♪信じているの♪ミラクル☆ロマンス
メドレーは終わった。嵐のような喝采を期待して、そのままポーズをとっていた董卓だったが、いつまで待っても拍手は聞こえない。やや憤然として辺りを見回し、花束を捧げ持ったファンならぬ、殺気立った黄巾党200人に包囲されていることに、ようやく気がついた。すでに李儒や、部下の100人、愛車の赤兎は姿を消している。
「あ、あら、えーと…」
「張角様が奴の階級章を所望だ!かかれ!」
劉辟の命令で、董卓の両腕を二人の黄巾党が後方から抱え込んだ。
「いやん、お放し☆」
董卓が身をよじって思い切り両腕を広げた。二人の黄巾党は、高さにして約10m、距離にして約50mの空中散歩を無料体験することになった。それでもなお戦意を失わない黄巾党が、次々に董卓に飛びかかっていったが、いずれも先ほどの二人の後を追って空の旅に出かけていく始末である。
「いや〜ん!どいてどいて!」
董卓は逃げ出した。群がる黄巾党を右に左に薙ぎ倒し、投げ飛ばし、単身、それも徒歩で200人の包囲を突破していった。
その後を黄巾党200人は追撃してゆく。
最終楽章まで歌いきると、張角は目を閉じた。その体が前後に揺れ、やがてゆっくり、後方に倒れこんだ。護衛隊長の韓忠が慌てて駆け寄り、倒れこむ寸前で抱きとめることができた。張角は疲れ果てた表情を浮かべ、軽い寝息を立てていた。
このとき、張角の声帯に、わずかに亀裂が入っていたが、周囲の者はおろか、本人すら気がつかなかったのである。そして張角はこの後、悲しく、つらい夢を見ることになる…
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287 名前:雪月華:2003/05/23(金) 12:45
広宗の女神 エピローグ 始まりの終わりへ

董卓配下の100人以外で、進軍してきた山道にたどり着いた生徒会軍は7人に過ぎず、まともに鉅鹿棟にたどり着けたのは4人に過ぎなかった。4人のうちの一人が、董卓であるのは言うまでもない。
無事にたどり着けた理由にひとつに、追いすがる黄巾党200人に、突然現れた謎の二人組が奇襲をかけ、瞬く間に30人近くを叩き伏せ、残りの者を撤退させたということがあった。だが、董卓の提出した報告書にはその二人のことは触れられていなかったので、この二人が何者だったのかは、謎となっている。生き残った者の証言によると、一人は、ずば抜けた長身で、漆黒の見事な長髪が人の目を引く、静かだが圧倒的な風格のある美女で、竹刀を携えており、もう一人は意外と小柄で可愛らしい童顔をしていたが、隆々と盛り上がる筋肉と、常に青筋立ててる表情がそれと悟らせない少女であり、三節棍を携えていたらしい。崖の上に、さらに二人居たようだが、逃げるのに必死で、詳しくは覚えていないとのことだった。そのうちの一人は赤い上着を羽織っていて、それだけが印象的だったらしいが…
「第一次広宗の戦い」の参加者は、生徒会軍550人。黄巾党250人。飛ばされた者は、生徒会軍447人。黄巾党37人。生徒会側にとって、酸鼻極まる数字である。ことに、張角の女神の歌で昏睡状態に陥った440人あまりの生徒は、3日間意識が戻らず、まともに立てるようになるまで2週間を要した。ここまで一方的な敗北を喫したのは蒼天会成立以来であり、総司令官の董卓は更迭され、涼州校区へ戻ることになった。戦場に最期まで残って味方の撤退を助けた、という武勇伝は残りはしたが…
この敗戦により、生徒会直属である450人の正規兵を一気に失ったことで、各校区の私兵や義勇兵に頼る比率がさらに大きくなり、生徒会の権威は日に日に失墜していく事になる。

──二日後の放課後、洛陽棟第一体育館において
「皇甫嵩を対黄巾党総司令官に任命する。速やかに反乱を鎮圧し、学園をもとのあるべき姿にせよ」
「非才なる身の全力をあげて」
内心はどうあれ、表面上は完璧に礼儀を保ったまま、壇上で皇甫嵩は執行部長、張譲に対面した。洛陽棟で100円玉貨幣章以上を持つ、上級生徒全員が整列する前で「悪趣味な」総司令官の腕章と、総司令官の辞令を受け取る。
張譲らとしても、ほかに選択肢がないのである。激減した戦力を補い、勢いづいた黄巾党に対抗できる人材を、献金がまめな人物から見出すことが、ついにできなかった。醜態を演じた董卓を推薦した張譲としては、面目を失ったというところであろう。すでに監査委員の左豊に推薦の濡れぎぬを着せて階級章を剥奪しており、表面上は何事もなかったかに思えるが、この一件で何進の信用をかなり失ったことだけは確かであった。
総司令官職への抜擢。武人としては最高の名誉であり、階級章にもかなり加点される。軍事に関する権限も飛躍的に大きくなる。式典の様子は学内ケーブルテレビで、全校区に中継され、皇甫嵩の武名は学園中に鳴り響く事になる。だが、式典の間ずっと、皇甫嵩は仏頂面をしていた。もともとあるべき状態に戻っただけであり、事態が手遅れになりかけてから押し付けられ、しかも片手だけで勝てと言われたようなものである。前途のあまりの多難さに、機嫌がいいはずがなかった。

体育館を出た皇甫嵩に、珍しく改まった表情の朱儁が敬礼を向けた。あの後は、お互い少々気まずくなり、ろくに会話を交わしていなかった事を皇甫嵩は思い出し、少し狼狽した。
「公偉?」
「総司令官への就任、祝着に存じます。今後とも、全身全霊をもちまして補佐奉りますゆえ…」
堅苦しい言葉遣いからすると、やはり、まだ完全には打ち解けられないか、と、皇甫嵩は少々さびしく思った。
「…ってね、ガラじゃなかったかな?」
唐突に、朱儁は態度を変え、いつもどおり、屈託なく笑った。つられて、ずっと仏頂面だった皇甫嵩も、笑顔を見せる。
盧植は謹慎二週間に加え風邪を引きこみ、丁原は并州校区に戻ったが、まだ傍には親友の朱儁がいる。孤立無援というわけではないのだ。皇甫嵩はそう思うと、少し気が楽になった。単純だな、とやや自嘲気味に皇甫嵩は思った。
「義真、これからもずっと、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしく頼む。公偉」
皇甫嵩は、差し出された右手を強く握りかえして、最も信頼できる僚友と頷きあった。朱儁がにやりと笑って言葉を続ける。
「ほら、義真って何かと不器用だから、私がいないとダメだし…むわっ!?」
「生意気を言うのはこの口か?ん?」
皇甫嵩は朱儁の両頬をつまんで、かるく左右に引っ張った。
「やったなーっ!」
「うわっ!?お返し!」
「うきゃあっ」
胸を触られた皇甫嵩は、お返しとばかりに朱儁の「ツノ」をぐいっと引っ張った。
十年来の親友同士の、小学生のようにふざけあう、微笑ましい姿がそこにあった。
こうして、二将の間に入った亀裂は完全に修復され、生徒会の危機のひとつは回避された。吉凶定かならぬ事件の多い昨今、皇甫嵩の司令官就任と、この仲直りだけは、完全に「吉」と言えるものであっただろう。

激減した兵力の再編に忙殺されていた皇甫嵩の元に吉報が飛び込んできた。少なくとも、周囲の者にとっては吉報である。だが、皇甫嵩にとっては、このうえない凶報であった。
「黄巾党首領張角、広宗音楽堂での舞台中、吐血、昏倒」
皇甫嵩の心に氷刃が滑り、鋭く冷たい痛みを走らせた。この瞬間、盧植と交わした誓いのひとつが、永遠に果たせなくなってしまったのである。皇甫嵩は無意識のうちに、胸のロザリオに手を伸ばした。
(すまない、子幹。あの子を救う事はできなかった。だが、もうひとつの誓いは必ず果たす。あと一週間以内に張宝、張梁らを討ち、この乱を終わらせてみせる!)
誓いを新たにすると、皇甫嵩は精力的に活動を始めた。激減した兵力を補うために、各校区の総代、棟長への募兵の指示を出す。勢いを盛り返した張宝、張梁の動きはどうなっているか調べ、対策を練る…解決しなければならないことは山積しており、皇甫嵩の判断を待っているのである。なにかと煩雑で苦労の多い仕事だが、その苦労を皇甫嵩は嫌いではなかった。
−広宗の女神 完−
〜あとがき〜
まず、ぐっこ様、改装、乙かれさまです。
ようやく完結です。全9回の長い間、つたない駄文にお付き合いくださってありがとうございました。アウトルッケがようやく復活しましたので、次回から、長文はちゃんと投稿しますのでご容赦を。m(_ _)m
皇甫嵩、かっこいいですよね。強くて優しい、頼れるセンパイという感じで、書いてて楽しかったです。この後冀州校区生徒会長に就任してテーマソング作ってもらったり、董卓を引き連れて西へ行ったり、表彰式で張譲を殴ったり(?)…歳のせいか、董卓入京後は著しく精彩を欠きますが(泣)
後、李儒。こちらも結構良く書けたと思います。張角の神がかり的怖さとは対照的な、人間の怖さと言うものを書いてみたんですが…いかがだったでしょうか。
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おまけ 張角の夢 >>180 (デビューSS。今読み返してみると赤面もの(^^;)

288 名前:★ぐっこ@管理人:2003/05/24(土) 00:52
まずは雪月華様、乙っ(T_T)ゞビシ!
全九回!? そんなになりますか! 皇甫嵩・朱儁ペアを中心に
学三世界の黄巾主力と生徒会の争乱を余さず描いたロングシリーズ!
お見事に書き上げられました!

やはり皇甫嵩先輩の颯爽とした勇姿が、印象に残りますね〜。
朱儁先輩も無論頼りになる先輩でしょうけど、皇甫嵩先輩のスマートな
格好良さときたら( ´Д`)ハァハァ…。
天下を掴む力を持ちながらついに掴まなかった彼女の、引退までの学園生活
もいずれ見たいものです…。もちろんその前に、総司令官の腕章を付けた勇姿を。

そして次代の英雄達の出現。まだまだ下役ながら、ぼちぼち頭角を現しつつ
ある袁姉妹。さらにその後輩の曹操。
で、董卓。(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
存在自体がもはや冗談としか思えない彼女の、ジャイアンボイス
張角と同じ舞台同じ世界で存在することが信じられないキャラですが(^_^;)、なるほど
その戦闘能力と歌唱能力は伊達ではないと…。

んで最後にサリゲに登場した劉備一党! これまたカコイイ!
学園史に名を残さなかったとはいえ、これがデビュー戦だったわけで…
演義早く書きてーっ!

289 名前:★教授:2003/06/16(月) 00:08
お久しぶりです、忘れられてる人が大半かと思われる教授です。
復活したのに何の進歩もないまま使い回しする私って…。
前回の続き、恥ずかしながら少し詰まってまして…。
今月中には掲載予定ですので、期待しないで待っててください…。

■■必撮! 仕事人 〜法正編〜■■

「くー…」
 ふふふ…。
 法正のヤツ、またしても無防備に寝てるな。
 ま、軽く一服盛ったんだけど。
 …それにしても思ったより効くんだなぁ、目薬。
「うぅん…」
 おっ、やけに色っぽい寝返りじゃん。取りあえず一枚ゲット。(シャッター音)
 これだけでも充分ミッション成功っぽいけど…クライアントの要望には応えないとねー。
 鞄を漁り、例のブツを取り出すと…作業に取り掛かった…。

「…で、これが依頼の写真とテープよ」
 某棟某所の暗室で私は先ほど入手した写真とビデオテープをクライアントに手渡す。
「うむ…君は仕事が早くて信用できる」
「当然。伊達に仕事人をやってないわ」
 微笑んで見せたが、クライアントにはさぞ不敵に映ったはず。
 だが、クライアントは白羽扇を片手に涼やかな目をしている。相変わらず食えないヤツ。
「報酬はキミの部屋の冷蔵庫に入れておいた。苦労して手に入れた銘酒、じっくり味わってくれ」
「毎度あり。またいつでも来てね〜」
 私は契約完遂を確認してクライアントを完全に見送った。
 さて…部屋に戻って打ち上げの一杯でも頂きますか♪

 同時刻、法正の部屋――
「な、ななな…何コレー!」
 鏡の前で自分の姿を驚愕の眼差しで見つめる法正の姿があった。
 その姿は、某猫娘のライバルでもあるウサ耳娘のコスプレだった。
「け、憲和のヤツ! 一服盛ったなー!」
 蒸気を出しながら憤る。
 しかし、姿が姿なだけに却って可愛らしく見えてしまう。
 ――そういう時に限って不幸は重複するもの。
 怒る法正を余所に突如部屋のドアが開く、厳顔だ。
「法正、辞書借り…」
 目と目が合う。厳顔が言葉を失い、法正が固まる。
「え、あの…その…」
 思いきり動転して手をぱたぱたと振る法正。
「わ、悪い…私は何も見てないからな…」
「ち、違うの…これは…」
「み、見てない…お前がそんなコスプレ趣味だったなんて…」
「これは誤解だっ…」
 ばたん…。
 誤解されたままそっと閉まるドア。
「いやああああ!!!!」
 法正の叫び声が虚しく部屋に響き渡ったとさ。

290 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/16(月) 21:58
教授様復帰オメ(゚∀゚)
Σ(;´Д`)…某ウサ耳にょ?
言われてみれば髪の色が…

つうか憲和たん目薬は犯罪だよ…。
最近のは効かないともっぱらの噂ですから、旧製品を密かに持ち歩いてるのですな…

291 名前:★アサハル:2003/06/16(月) 22:30
そいやラヴィアンローズは普段は三つ編みメガネっこでしたかΣ(゚Д゚*)

その後法正たんは中華の誇るカリスマ同人屋・劉備ちゃんの
着せ替え人形になる、に3594ペリカ…
つか、何ちゅーもん依頼してんですか諸葛亮(w

292 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:20
ご無沙汰しておりました。忙中閑ありと言い訳して、ひとつ投下します。
それもまだ前後編の前編のみですが...。

■天誅−前編−■
(1)白波五人女

蒼天学園暦29年6月に張角・張梁・張宝三姉妹によって引き起こされた黄巾事件は、蒼天学園生徒会
からすると主要3名の階級章が皇甫嵩・朱儁らの活躍で剥奪されたことにより1月足らずのうちにひと
とおりの決着は見た。だが、黄巾党の根絶をなしたわけでなく、また事件決着後も黄巾の蜂起に賛同
する者は後を立たず、各地で蒼天学園の現状に不満をもつ者達が跳梁跋扈し一大勢力をなすようになる。
一例としては黄巾の蜂起に呼応して中山・常山・上党・河内地区あたりを根城に周囲を荒らしまわった
サバゲー軍団、黒山軍(Black Mountain Force)がある。他にも著名な武闘派チーマーとしては同年9月
に河東地区白波峡谷あたりを根城に、元黄巾党の郭太を長として蜂起した”白き荒波(white surge)”がある。
集団戦術などどというべきものは持ち合わせていなかったのだが、元黄巾一党の中でも武闘派とか
精鋭と称されたいずれも劣らぬ荒くれ者が揃っており、柔弱化が末期症状を呈してした生徒会正規軍
と比較するとやたら喧嘩なれしており討伐は困難を極めた。
共同戦線を張っていた黒山軍(BMF)に対抗してホワイト・サージというハイカラな(死語)ネーミングをし、
白き波頭のエンブレムに基本装備はグリーンベレー風サバイバル仕様だったにも関わらず、
首領の郭太、主要幹部の楊奉、胡才、李楽、韓暹の5名は変に傾いた趣味をもっていたことから、
“白波五人女”として恐れられていた。彼女ら5名は初期のホワイト・サージと并州・司隷校区の執行部員、
風紀委員や生徒会鎮圧部隊との戦闘の際にヒーロー戦隊よろしく、以下の口上で見栄をきっていた。
(作者注:河竹黙阿弥“白浪五人男”の“稲瀬川勢揃いの場”の口上を元にしています。七五調です。)
郭太:
♪〜 問われて名乗るも おこがましいが、生まれは兗州 浜松在、十四の年から 親に放たれ、
身の生業も 白波の 沖を越えたる 夜働き、盗みはすれども 非道はせず、
人に情けを 掛川から 金谷をかけて 宿々で、義賊と噂 高札に 廻る配附の 盥越し、
危ねえその身の 境界も もはや十八に、人間の 定めはわずか 二十年、
十三校区に 隠れのねえ 賊徒の首領 黄天郭太 ♪〜

楊奉:
♪〜 さてその次は 江の島の 岩本院の 稚児あがり、
ふだん着慣れし 振袖から 髷も島田に 由井ヶ浜、打ち込む浪に しっぽりと 乙女に化けた 美人局、
油断のならぬ 小娘も 小袋坂に 身の破れ、悪い浮名も 竜の口 土の牢へも 二度三度、
だんだん越える 鳥居数、八幡様の 氏子にて 鎌倉無宿と 肩書も、島に育って その名さえ、
弁天小僧 楊奉 ♪〜

胡才:
♪〜 続いて次に 控えしは 月の武蔵の 江戸そだち、幼児の折から 手癖が悪く、
抜参りから ぐれ出して、旅をかせぎに 西国を 廻って首尾も 吉野山、
まぶな仕事も 大峰に 足をとめたる 奈良の京、碁打と言って 寺々や 豪家へ入り込み、
盗んだる 金が御嶽の 罪科は、蹴抜の塔の 二重三重、重なる悪事に 高飛びなし、
後を隠せし 判官の 御名前騙りの 忠信胡才 ♪〜

韓暹:
♪〜 またその次に 列なるは、以前は武家の 中小姓、故主のために 切り取りも、
鈍き刃の 腰越や砥上ヶ原に 身の錆を 磨ぎなおしても 抜き兼ねる、盗み心の 深翠り、
柳の都 谷七郷、花水橋の 切取りから、今牛若と 名も高く、
忍ぶ姿も 人の目に 月影ヶ谷 神輿ヶ嶽、今日ぞ命の 明け方に 消ゆる間近き 星月夜、
その名も赤星 韓暹 ♪〜

李楽:
♪〜 どんじりに 控えしは、潮風荒き 小ゆるぎの 磯馴の松の 曲りなり、人となったる 浜そだち、
仁義の道も 白川の 夜船へ 乗り込む 船盗人、波にきらめく 稲妻の 白刃に脅す 人飛ばし、
背負って立たれぬ 罪科は、その身に重き 虎ヶ石、
悪事千里と いうからは どうで終いは 木の空と 覚悟は予て 鴫立沢、
しかし哀れは 身に知らぬ 念仏嫌えな 南郷李楽 ♪〜

ホワイト・サージは近隣の太原地区、河東地区へ乱入し、抗争を繰り返して各種小規模サークルを半
ば強引に吸収して強力化し、とうとう司隷校区洛陽棟の生徒会正規軍でも手が付けられない勢力に成
長した。并州校区総代の張懿がホワイト・サージの鎮圧に失敗し飛ばされるにいたり、劉焉の建議を
うけて各校区「総代(=刺吏)」に代わってより権限の強化された「生徒会長(=牧)」を置くことを
決定したほどである。余談ではあるが、各校区の総代は校区の支配者というよりは、地区長の
監査役程度の権限しか持っておらず、さらには各校区正規軍の指揮権は地区長にあり、総代は
独立した軍事力を持っていなかったのである。

293 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:26
■天誅−前編−■
(2)ホワイト・サージ

各校区生徒会会長の成立のように、ホワイト・サージは当時、間違いなく蒼天学園の流れを幾たびも揺
るがす潮流であった。地理的にも蒼天学園の中心たる司隷校区をその勢力範囲に押さえており、いか
なる群雄よりも蒼天学園の歴史の鍵を握りうる位置にいたと言えなくも無い。だが、曹操はおろか
菫卓、袁紹、袁術のようなある種のカリスマを備えた指導者を持たず拠ってたつ政治方針も
持たなかったことから当時のどの群雄から見ても脅威といってよい戦闘力を有していたものの、
勢力基盤となる地区生徒達(特に絶対数の多い文化系生徒達)の抱きこみはまったく進まず
“群党”の域を越えることは最後まで無かった。政情不安であった頃は後に生徒会の五剣士のひとり
となる徐晃が楊奉の旗下にいたように、腕っ節に自身のある連中が集まってきてはいたが、
だんだん各地の群雄が勢力をまし、政情が安定してくるにつれ、文にも優れたような器量のあるもの
は離れ、単なる喧嘩屋・チーマーの集まりとなっていた。
ホワイト・サージの幹部たちもそういった安定化の流れは察せられなかった訳ではなく、もっとも目端の
効く楊奉がいち早く蒼天会の擁立に動いたように、李傕・郭レの政権争いに際には楊奉をつてに
胡才・李楽・韓暹(そして匈奴高校の去卑)が両者の餌とされた蒼天会の実働部隊として李傕・郭レに
対抗し、“錦の御旗”側としての転身を図ったのである。この抗争で胡才が飛ばされたように、
ホワイト・サージは勢力で勝る李傕・郭レを相手にかなりの健闘を示し、蒼天会の生存には
(文字通り生き延びただけという話もあるが)その戦闘力を生かして一方ならぬ貢献を果たしたといえる。
だが、その戦闘力を嵩に着て、山出し同然の李楽を筆頭に思慮の足りない無茶な発言や私欲に
駆られた暴力行動をとることが多く、蒼天会の面々からは、所詮は共に語るに足りない腕っ節のみが
自慢の不良の集まりと敬遠されていた。まだ目端の効いた楊奉・韓暹は何とか学園のシンボルたる
蒼天会会長を手中に納め続けることであわよくば権力の掌握を狙い、方向転換を考えて喧嘩屋から
脱却しきれない李楽と袂を分かった。これは李傕・郭レと結んだ李楽との内部抗争へ発展し、李楽を
飛ばし李傕・郭レを出し抜くことに成功したかと思われたのだが、戦闘力のみで定見を持たない集団と
いう宿命からは逃れられず、結果、兗州校区で勢力を拡大していた曹操に、菫昭を伝手としての
蒼天会との接触を許し、学園暦30年の4月には“曹操の蒼天会会長擁立”という形で全てを攫われて
しまうことになる。
許昌棟へ蒼天会を移そうとした曹操の行く手を遮ろうと当時“最強”とまで称された戦闘集団を率いて
楊奉・韓暹は戦いを挑んだ。しかし、所詮個人戦闘の足し算に過ぎない彼女らは、数を生かす
集団戦術に長けた曹操軍団の敵ではなく、当時本拠地であった梁棟を失い、同4月、徐州校区の
席巻を図って劉備と対峙し戦力の強化を求めていた袁術を頼って落ち延びることになった。
権力の座から元のならず者集団に落ちたショックも手伝って楊奉・韓暹は袁術の庇護のもと
徐州校区・揚州校区で“かつあげ・喧嘩”を日常茶飯事として暴れ廻り、公孫瓚・袁術とともに
“第一級お尋ね者”として懸賞課外点数をかけられることになる。
ここでも、楊奉・韓暹はなんら政治方針・定見を持たず、もっぱら欲望のままに動静をきめる集団
であることを露呈する。
劉備の徐州校区生徒会長からの追い落としでは、徐州校区への勢力拡大を望む袁術と曹操に破れ
戦力再編のための基盤を必要としていた呂布(正確には陳宮)の思惑が一致していたため手を
むすんでいたのであるが、袁術が蒼天学園全体を望む意志を明らかにしてくるにつれ様相が
変わってくる。翌5月、無謀にも袁術は蒼天学園連合生徒会会長を自称した。学園全体から
つまはじきされて“賞金首”にされることを恐れた呂布は、袁術が友好締結に送った使者である
韓胤を蒼天会への誠意の証として階級章剥奪処分にふし、結果もともと信頼関係があったとも思えな
い両勢力の仲が決定的にこじれ、呂布vs袁術の全面対決と相成った。袁術はこのときのためと飼っていた楊奉・韓暹も動員し、張勲・橋蕤を主将としたバイク・歩兵合わせて数百人の軍勢を七方面
から呂布を攻めさせた。後に戦国最強軍団と評されることになる呂布軍団も高順・張遼以外は
基本的に個人戦闘の足し算に過ぎず全戦力も100〜200人そこそこであったため、数に圧倒的に勝る
袁術軍団には劣勢となる。呂布に韓胤の処断を示唆した沛地区長の陳珪は、呂布にこの戦況の原因
を作り出した責任をとるよう詰め寄られるが、有名な離間の策を提案し戦況をひっくり返したのである。
陳珪曰く、
「楊奉・韓暹がにわかに袁術と同盟したのは、もともと定見があってのことではないので維持することは
できません。もともと利と衝動で動く連中ですから、十分に利を示した書簡ひとつで操ることは可能
でしょう。」
以外に筆まめな(内容と論旨は子供じみているが)呂布は楊奉・韓暹に手紙を送り、戦利品の私物化を
認めたうえで内応を依頼した。
策を示唆した陳珪が呆れるほどあっさりと楊奉・韓暹はこの誘いに応じた。
守備兵力をも戦闘に使えるように可能な限り袁術軍団を下邳棟に近づけて呂布vs袁術の会戦は幕を
開けたのだが、両軍団の先頭が300mまで近づいたところで楊奉・韓暹の部隊は一斉に蜂起した。
まったく警戒していなかった他の部隊へ背後からの突撃を行い、乱闘の最中、その戦闘力を生かして
計10名の主将を飛ばした。突然の裏切りに混乱する袁術軍団へ同時に呂布軍団も突撃を敢行、
混戦が続く中、小沛棟からも劉備の援軍として20名ほどを率いた関羽が到着し、駄目押しの攻撃を
しかけた。結果、7手のうち2手が寝返ったとはいえ数において勝る袁術軍の総指揮官たる張勲の
部隊を大破し、次席指揮官たる橋蕤を生け捕りにする大勝利に終わった。

大勝利の殊勲として楊奉・韓暹は、利や衝動で何とでも動く連中という評価を裏付けたことも意に
介せず増長することになり、徐州・揚州校区で働く略奪・暴力行為も悪化の様相を示すようになる…。

294 名前:岡本:2003/06/18(水) 23:46
連続で申し訳在りませんが、一応プロットなどを。

「チーマー100人切り(ぐっこ様執筆の作品"頭文字R"中で指摘あり)を
学三関羽が可能にするには、何らかの潜伏技術をもっていることが必須」
と考えていたところ、PS2で発売された立体忍者活劇”天誅3”をやって
「これだ、このネタつかえないか?」と思ったのがもとです。
徐州時代に、楊奉・韓暹が劉備に粛清されたところを使いました。
さしづめ、関羽が”力○”、張飛が”彩○”というところになります。


楊奉・韓暹が”天誅”される筋書きへ以下繋がるわけですが、ただやられるだけでは
つまらんと白波賊について書いているだけでながくなり、前後2編組みと相成りました。

295 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/20(金) 23:22
うお、さすが岡本さま、相変わらず圧倒的な文章量…(^_^;)
なるほどお、白波の本家逆取り…。

確かに純粋な軍事力としては、旧白波の連中は、一つの勢力と言えるでしょうねえ…
それを二人で蹴散らした関羽たんと張飛たんの活躍が見れるですね(;´Д`)ハァハァ…

296 名前:一国志3:2003/06/21(土) 16:40
>>289 教授様

  ∧ ∧     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 / Φ Φ    /思わず法正の髪の色を確認してしまったにょ。
○w ´∀`○<  ついでに、一国志3の立てたアフォスレも晒しあげするにょ。
 (  ○ )   \http://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1027249880 target=_blank>http://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1027249880
           \_____________________

297 名前:★ぐっこ@管理人:2003/06/24(火) 00:11
あ、懐かしい(^_^;)
うーん、ぼちぼちキャラに関するガイドラインも決めた方がいいかもしれませんねえ…

298 名前:教授:2003/07/01(火) 01:02
■■必撮! 仕事人 〜皇甫嵩編〜■■

CAUTION!
皇甫嵩ふぁんの方に袋叩きに遭う事請け合いなので、皇甫嵩ふぁんの方は見ない方がいいかも…

「ふむ…提出書類はこんな所だろう」
 凛とした顔立ちの少女は筆を置き、大きく息を吐いた。
 その鷹の如き鋭い目線の先には蛍光灯の光。
 時折点滅する、そんな蛍光灯を見てまた息を吐く。今度は溜息のようだ。
「公偉に蛍光灯の交換を頼んだのにな…全く」
 溜息の後は苦笑い、そして大きな伸びをする。
 彼女の名前は皇甫嵩。生徒会の重鎮としてその存在は全校中に轟き渡っている。
 先の戦では指揮官として数多の生徒達の舵を取り、己もまた最前線に立ち数多くの戦果を挙げた。
 厳しく前を見据える双眸には強く誇り高い意志、そして仇為す敵を射抜き退かせる獅子の威圧。その二つの強さが色濃く鮮明に映し出されている。
 肩の力を抜いている今もその光を失う事無く輝き続けている。
「蛍光灯の替えは無いのか…?」
 皇甫嵩は小会議室と呼ばれるこの部屋をごそごそと物色し始める。
 余談だがこの小会議室とは名ばかりで、実際は雑用雑務処理を行う為だけにある部屋だったりする。
 主に彼女や親友の朱儁や櫨植達が書類を整理したり資料を漁ったりしている。
 平たく言ってしまえば、ここは皇甫嵩達の専用作業スペースなのだ。
 ただ一人、丁原だけはこの部屋を休憩室代わりとして使用しており、やたらと散らかすので皇甫嵩達はその都度掃除をするなどの後始末をさせられている。
 当の本人は掃除が終わる頃に見計らった様に現れてゴミ捨てだけしていたりする。
 話が大幅に逸れてしまった――が、この部屋の構造が理解してもらえたと思うので善しとしておく。
 椅子に乗ってロッカーの上の大きめのダンボール箱を開く。かなり埃をかぶっており、動かすだけで咳き込みそうになりそうな塵が舞う。
 しかし、中には少々年代物の冊子や資料が入っているだけだった。
「無いな…仕方ない、明日にでも用意するとしようか…」
 ダンボール箱を片付け椅子を降りようとする皇甫嵩。
 その時、突然椅子がバランスを崩し上に乗っていた彼女を振り落としてしまう。
「なっ…うわぁ!」
 予期せぬ出来事に皇甫嵩は派手に転倒してしまう。
「いたた…いきなり何事…ぶふっ!」
 更に予測外の事象が皇甫嵩の身に降り注ぐ。
 転倒したはずみで先ほど物色していたダンボール箱が彼女の頭に落ちてきたのだ。それも謀った様に絶妙な間で。
 しかも皇甫嵩を直撃したダンボール箱はその衝撃で壊れ、中に入っていた埃まみれの書類の束が散乱する。
「…………」
 余りに突然の出来事に暫し呆然とする皇甫嵩。
 頭には冊子が乗り、制服は埃まみれ。先刻までの威風堂々とした姿は既に影も形も無くなってしまっていた。
 大量の書類と埃の山に埋もれるその姿は、さながら戦場後に立つ敗軍の将の様。
 丁度、その時だった。窓の外からキラリと何かが光ったのは。
「…何…っ! 何だ!?」
 皇甫嵩がその光に我に返った。
 そして光を確認しようと立ちあがろうとする――が、立てなかった。
 情けない事に腰が抜けてしまっていたのだ。
「くそっ! 動け!」
 ぺしぺしと自分の足を叩く。しかし、言う事を聞いてくれるはずもなく虚しい時間が流れるだけだった。
 そして最悪の事態が訪れる――
「義真〜。書類整理終わった?」
「そんなのテキトーにやっちゃいなよ〜」
 小会議室のドアが開き、朱儁と丁原が入ってきたのだ。
 その瞬間、世界が凍りついた。――刹那、二人の少女の爆笑が小会議室を包みこむ。
「見るな〜!! 笑うなぁ〜!!!!」
 顔から火を出さんばかりの勢いで頬を紅蓮に染め上げ怒る皇甫嵩。
 だが、朱儁も丁原もお腹を抱えて転げまわっておりとても聞いている風には見えない。
「どうかしましたか?」
 そこに遅れて櫨植が現れる。と、中の様子を一望して目が点になってしまう。
「これは…義真?」
「何でもない! とにかく…出て行ってくれ〜!!!」
 依然として炎色の顔で皇甫嵩が怒鳴る。
 しかし、皇甫嵩の姿を見ていた櫨植の頬に突然朱が差す。
 その表情に皇甫嵩がびくっと体を震わせた。
「ど、どうした?」
 動揺を悟られない様に努めて平静を装う。
「義真…その…」
 もじもじと目線を逸らす櫨植。そして――
「下着…見えてるよ…」
「………」
 再び凍りつく世界。
 流石に朱儁と丁原も笑いが止まってしまった。
「お…」
 皇甫嵩が右手に冊子、左手に辞書を握り締める。
「お前ら! でてけーっ!!」
 皇甫嵩の怒叫と共に書類一式が宙を舞い出した。
「うわぁっ!」
「痛っ! やめろーっ!」
 丁原は朱儁を羽交い締め、そして盾にしながらじりじり後退を始める。
 勿論、盾にされている朱儁が皇甫嵩の攻撃を受けている。実に悲惨だ。
 櫨植は既に外に退避してロザリオを握り締めていた。要領はかなりいい様子である…。
 こうして激しい放課後が過ぎていったのであった。

 後日――丁原、朱儁、櫨植の三人は皇甫嵩から口を利いて貰えなかったそうな。



 某棟某部屋――
「これ新聞に載せない?」
 簡雍が一枚の写真を劉備に見せる。
「…載せたいけど、流石にこれはあかんやろ…」
 皇甫嵩の醜態がはっきり映し出されたその写真に複雑な笑みを浮かべるしかない劉備。
 結局、この写真は世に出まわる事なく簡雍のアルバムの中に納められる事になった。

299 名前:★教授:2003/07/01(火) 01:04
名前間違えました…。

300 名前:★ぐっこ@管理人:2003/07/02(水) 00:45
(;´Д`)ハァハァ…教授様グッジョブ!
独特のストイックな重厚さと、とっさのときの間抜けっぷりの
ギャップがまたイイ!
もはや一種のパターンと化してますな。
それにしてもまー、散々簡雍たんのネタになってしまって(^_^;)

301 名前:★アサハル:2003/07/02(水) 01:14
か→わ↑い↑い→(今時こんな言い方しないだろうな)
なんというか…先輩、そんなだから簡雍に狙われるんですよ(wと。
イメージ的には皇甫嵩たんはスカートの下に短パンかスパッツはいてそうなんで
(男性陣には却下されそうですが)やっぱブラウスのボタンが雪崩の際に
飛んじゃったんでしょうか。胸は大きくもなく小さくもなく。(何)

朱儁さん、ご愁傷様です。

302 名前:★教授:2003/07/03(木) 00:55
追記

ブラウスのボタンは当初、飛んだと書いてたのですが…いや、あんまり桃色だとまずいと判断しまして。
残念ながらそこの所は割愛となりました。割愛となっただけで、ホントは飛んでるんですけどね。

追記2

明確に記載してませんが、皇甫嵩は両手で機関銃の様な速度でモノを投げつけてますw

追記3

実はこの小会議室。私的設定では3階なのです。
…簡雍はどうやってこの部屋を撮影したのでしょうか? 私が聞きたいです(切腹)

@梯子 A都合よく植えられていた樹 B空中浮遊(爆) C盗撮 D神の力(滅)

303 名前:★教授:2003/07/10(木) 01:13
■■必撮! 仕事人 〜被害者(?)多数・デパート編〜■■

「なんでや! ウチの貴重な五百円玉が受け取られへんっちゅーんか!」
 劉備は何度入れても落ちてくる自販機に業を煮やしてガンガン蹴りを入れる。
 分からなくもないが、暴力は反対である。
「玄徳の怒りは御尤もだね」
 自販機の陰から現れた簡雍がシャッターを切った…。

「うーん…今年の夏はこれかな」
 今年の新作水着を手にした法正。結構大胆な代物だ。
「これを底上げして着ようか…」
「素が一番。小細工は無しの方向で♪」
 陳列された水着の間から現れた簡雍がシャッターを切った…。

「これをアトちゃんにプレゼントしたらきっと喜ぶでしょうね」
 猫がプリントされているビーチボールを手に微笑む趙雲。
 一に帰宅部連合、二にアトちゃん的な思考になっているようだ。
「禁断の愛は避けるべし」
 マネキン人形がくるりと半回転して簡雍が現れる。シャッターが切られた…。

「………」
 孫乾が泣きそうな顔をしながら右往左往している。
 買い物に来てまでパシリをさせられていた…。
「…可愛そうだから免除」
 流石に居た堪れなくなったのでシャッターを切らない簡雍だった…。

「こーゆー時こそ隙だらけになるんだよなー」
 簡雍は屋上のベンチでカメラのチェックを入れていた。
 皆が買い物をしている間、ひたすらターゲットを絞って撮り続けていた為か、自分は何一つ買い物をしていない。
「別段欲しいものなんて今ないしね」
 くすくすと笑いながらフィルムを胸ポケットに放りこんだ。
 その時だった、デパートの店内放送が響いたのは――

『○○からお越しの簡雍憲和さんが迷子になられております。特徴は赤いボサボサ髪に安物の髪留をしており、落ち着きの無い女の子らしいです』

「いいっ!?」
 簡雍がびくっと体を震わせる。
 周りの視線が自分に向けられているのがひしひしと伝わってきた。
 店内放送はまだ続く――

『もしおられましたら、1Fサービスカウンター前の諸葛亮様の元までおいでください』

「コーメー!」
 珍しく慌てふためく簡雍。疾風の如くサービスカウンターへ向かった。
 その間、法正に捕まりかけたがカメラのフラッシュ攻撃で撃退。
 1Fに着くと、そこには諸葛亮の姿があった。ずかずかと近づく。
「なんつー放送流すんだよ!」
「ふむ…実はだな――」
 ごそごそとポケットを漁る諸葛亮。取り出したものを素早く簡雍に装着させた。
「な、何すんだよ!」
「うむ。やはり似合うな…眼鏡も中々サマになっててよいぞ。」
「…まさか、この伊達眼鏡を着けさせる為だけに呼んだの?」
「その通り!」
 白羽扇をそよそよと振りながらきっぱり言い放つ諸葛亮。実に大胆不敵だ。
 伊達眼鏡を着けた簡雍は溜息を吐くと諸葛亮に強烈な不意打ちフラッシュを浴びせてデパートを後にした――


 その後、伊達眼鏡は簡雍の変身グッズの中に紛れこんでいたのを誰かが見た…らしい?
 

304 名前:★玉川雄一:2003/07/10(木) 02:04
今までに見ないタイプのテンポで展開されるストーリーがツボです。
そして割とウワテの諸葛亮がイカス!
憲和タン1000人斬り目指して明日も激写!

305 名前:★ぐっこ@管理人q:2003/07/11(金) 00:38
グッジョブ!!(b^ー°)
すでに夏話への前哨戦が始まっているのか!? とりあえずウソ胸着用を開き直ってる
法正たんに1000萌を。
子龍たんも、どんどこ深いトコにはまっていくようで(^_^;)
そしてお使い乾ちゃん・゚・(ノД`)・゚・
(ていうか、ちと教授様の描く孫乾像とは違ってきますが、今私の中で、乾ちゃん=マルチの
 図式が唐突に出来上がりました。嬉々として人のお使いに出向くタイプ)

やはり孔明たんは無敵か…

306 名前:★教授:2003/07/27(日) 01:14
◆◆ 〜萌えポイントって何?〜 ◆◆


 日曜日の朝。
「んー…これなんだろ?」
 タンクトップに膝が破れたGパン姿の法正が自室で首を傾げている。
 その目線の先には自分の机。その更に先にはカウンターが置かれている。
「萌えポイント…1000点って…」
 謎のカウンターを前に疑問だけが頭の中を駆け巡る。
 しかし、不思議な事にそのカウンターを排除しようという気にはならなかった。
 何故か…捨ててはいけないような気がしているからだ。
「って言うか、誰が置いて行ったのよ…」
 短い溜息を吐くと、そのままベッドに横になる。考えても埒が明かないと匙を投げたようだ。
 と、玄関のドアが開く。ノックもチャイムも無かったので思わず法正が起きあがった。
「だ、誰?」
「おっはよー。遊びにきたぞー…ゲッツ!」
 赤いボサボサ髪の少女――今日は猫プリントのTシャツに右足部分が破れて無いGパン姿の簡雍憲和が微妙に流行中のポーズをしながら部屋に入ってきた。
「もー…憲和…。ノックかチャイムぐらいしてよ」
「細かい事はいーの」
「細かくない!」
「いてっ」
 法正はベッドから飛び降りると手近にあった輪ゴムを簡雍目掛けて撃った。
「心狭いぞー。そんなだからムネの成長止まるんだよ」
「うぐっ」
 簡雍、法正に100のダメージを与えた。
 膝をついて項垂れる法正を尻目に簡雍があるものを見つける。先ほどのカウンターだ。
「何これ? 萌えポイント?」
「私が知りたいんだけど…朝起きたらあったから」
「ふーん…あ、カウンター回った…」
 何が基準で回るのか、何で自動的に動くのか、そもそも誰が置いたものなのか…存在理由も動作の原理も分からないカウンターはくるくるとアナログ数字を回している。
 簡雍は顎に手を当てて考え込む。時折、法正を見ながらだ。
 当の法正はダメージが深刻な様子で、まだ項垂れていた。
「あ、分かった♪」
 簡雍がぽんと拍手を打つ。
「法正の萌えポイントに応じてカウンターが回ってるんだ」
「私の萌えポイントって…」
 満面の笑みの簡雍と複雑な表情の法正。
 簡雍はおもむろに法正に近づくと…いきなり懐から取り出した伊達眼鏡を装着させる。
「わぁっ!」
「ほら、やっぱり!」
 驚き慌てふためく法正の後ろでカウンターがくるくると回っている。
「憲和〜!」
「取りあえず一枚…ゲッツ!」
 顔を真っ赤にして怒る法正にデジカメのシャッターを切る簡雍。
 こうしていつもの鬼ごっこが始まったのだった――

「はっ!」
 法正がぱちっと目を開ける。
「…変な夢見た…」
 冷や汗を流しながら法正は傍にあった目覚し時計を手に取る。
「3時…もう一回寝よ…」
 あまり気にしない事にした法正。再び目を閉じ眠りに落ちていく。
 ――だが、机の上には…

                            おしまい

あとがき

 ショートショート。思いつきですぱっと書いてみました。しかも夢オチだし(爆)
 1000萌(モエー)を獲得した法正たんを書きたかったので…
 萌えカウンター…謎すぎのシロモノなのであまり気にしないでください。

307 名前:★ぐっこ@管理人:2003/07/27(日) 15:33
Σ( ̄□ ̄;)!!萌えスカウター!
一流のオパーイ星人の視神経は、一目見ただけでサイズやらカップ数やらが数値化されて
表示されるらしいですが、それを物理化し、かつ萌えに焦点を合わせた謎の装置!?
…本当に正体不明の装置ですね(^_^;) 簡雍でない以上、誰が設置したかは見当も付きます
けれど…

それにしても、ショートショート(・∀・)イイ!小気味よくて読みやすい!

308 名前:★玉川雄一:2003/07/27(日) 21:16
グコーさんがスカウターって書いてるから、
てっきり「戦闘力10万、15万、20万…ッ!」のアレかと思いますた(゚∀゚)

…いや、ソレもありかも。
誰か電子工作同好会(あるんか)の人が萌えスカウター作ってくれないカシラ?
阿斗ちゃんとかで測定するとあまりの萌えっぷりに弾け飛ぶな、きっと。

てゆうか本題ですが。憲和タンの「ふーん…あ、カウンター回った…」がなんかツボに入りました。

309 名前:おーぷんえっぐ:2003/07/27(日) 22:04
この二人は仲が良いのか悪いのかw・・・その辺がわからない所がいいのですが・・・
最後の一文は、ちょっとミステリーっぽいし。
個人的にはそのオチに高いポイントが・・・(怖い話し好きで、ミステリー好き
な自分w)

310 名前:★ぐっこ@管理人:2003/07/27(日) 23:39
ああ、確かに話が飛んでますな(゚∀゚) 萌えカウンターの仕組みを考えてるウチに、
「萌え力10万ッ」の設定が脳内で完成しちゃったのですよ(^_^;) 元ネタは幕張の
「貴様のスカウターは幾つを表示している?」「戦闘力(バスト)86」みたいな会話。
科学系のサークルが開発に成功してそう…

それにしても、ホント仲いいのか悪いのか…

311 名前:雪月華:2003/08/02(土) 08:36
ひと夏の思い出 〜孫権 運命の出会い〜 その1

涼州校区の雄、董卓が夏休みを利用して中央政権の足場固めを行っているちょうどその頃…
万博の折、撃ち上げられた気象操作ミラーの故障から、凶悪なまでに豊かな太陽の恵みが降り注ぎ、完全に熱帯性気候と化してしまった揚州校区。その約半分を占める宏大な湖は、東西に長い幅を持つ事から長湖と呼称された。
約二億年前のジュラ紀前期に、火山の沈没でできた湖といわれ、その中央に位置する赤壁島は当時の火口の名残である。ジュラ紀当時のジャングルを保ち続けるこの島で、長湖部名物である、地獄の強化合宿終了後の夏休みの残りを、ごく近しい者だけでキャンプして過ごす事が、初代長湖部長にして長沙棟の棟長である孫堅の、中等部時代からの習慣だった。
キャンプといえば聞こえはいいが、実際のところは、初日の昼食と最低限の食器しか持ち込まずに、その後の食料や飲料水は全て自給自足という、完全な無人島サバイバルである。妹の孫策・孫権と、孫策の親友である周瑜も、それぞれ中等部進級と同時に付き合わされることになり、孫堅が高等部一年であるこの年、中等部三年である孫策、周瑜は三度目。二年生である孫権は二度目の体験であった。
そのハードさは、脱落者が続出する地獄の強化合宿ですら、お泊り会程度と思えるほどに過酷であり、ことに姉と違い、あまり頑健ではない孫権──とはいっても中学一年にして基礎体力は高校生クラスのものではあったが──の初参加時は、二十日間の日程で体重が半分に減ったといわれている。

「伯符ー、そっちはどうだった?」
やたら巨大なシダ植物群を掻き分けながら、高台に置いたベースキャンプ──棒を立てて防水シートで屋根をつけただけ──に這い出してきた孫策に、ベースキャンプ周辺を整備していた周瑜が問いかけた。その背中の籠に満載された果物の小山を見て顔をほころばせる。
「大漁大漁!バナナとリンゴが沢山なってた!」
「超オッケー!!」
互いに走り寄ると、頭上高く掲げた右手を打ち合わせるハイタッチの挨拶を交わし、その喜びを表現した。
「伯符おねえちゃーん、周瑜さーん、お水汲んできましたー」
「ご苦労様!後で煮沸するから、そこに置いててね。お姉様や伯符は生水飲んでも平気だけど、私達はそうも行かないから」
洗い物と水汲みを担当している孫権が、手製の濾過器を通した湖水を満載した、2リットル入りのポリタンクを右手に、洗った食器の入った籠を左手に持ち、中華鍋を頭にかぶって、200mほど坂を下ったところにある湖岸から、意外に危なげない足取りで戻ってきた。
「これで後二日は保つ…か。残り二週間、先は長いよなぁ…」
情け容赦なく照りつける長湖の太陽に手をかざし、眼下のさざ波立つ長湖に目を落として、孫策がぼやいた。三人とも、長湖部Tシャツに、膝まで捲ったジャージ姿だが、孫策はTシャツの袖を肩のあたりでちぎっている。
「いいじゃない、こういうのも。孫権ちゃんも結構逞しくなったことだし。一昨年、初めて体験した時は、さすがに死を覚悟したものだけど…」
「それにしても、お前らって日焼けしないよなぁ…ちょっとうらやましい」
「体質よ体質。もともとが白いから日光を弾くらしくて」
他校区の数倍の強さで照りつける揚州の太陽の影響で、孫策はポリネシアンさながらに日焼けしていた。一方の周瑜と孫権の肌は白いままである。
「あとは文台お姉ちゃんだけか…お魚さん、たくさん獲れたかなぁ?」
妹の心配を受けて湖水に目をやった孫策が、ある事に思い至り、周瑜に尋ねた。
「なあ周瑜、ずっとここにいたんだよな。姉貴の最後の息継ぎから何分経ってる?」
「えっと…7分!?」
「えーっ!」
「…素潜りだぞ。いくら姉貴でもやばくないか?」
「…うん…ひょっとすると」
「うう…お姉ちゃあん…」
最悪の事態が三人の脳裏をよぎる。孫権が地面に手をつくと、涙を流し始めた。
「…太く、短い人生だったな」
「ええ…でも、お姉様の雄姿と志の熱さは、私たちの心にしっかり刻み込まれているわ。お姉様の死を、私達は無駄にするわけにはいかないのよ」
「うう…」
「孫権!泣くんじゃねえ!」
「伯符も涙を拭いて…それから考えましょう。今の私たちに、何ができるのかを!」
「おう!やるぜ!姉貴の遺志を無駄にしねえ為にも、今の俺たちにできる事を精一杯…ぐあっ!?」
「なに勝手に殺してくれてんのよ」
背後から頭を思い切りこづかれた孫策が、地面にうずくまった。その背後に立っていたのは、孫堅である。東洋人離れした見事なプロポーションを、虎縞のビキニが鋭く引き締め、健康的な色気を惜しげもなく振りまいていた。腰には同じ虎柄のパレオ(タヒチなどで一枚の布を身体に巻く民族衣装。いわゆる水着の腰巻き)を巻きつけており、長湖から上がったばかりらしく、それからは湖水が滴っている。
「お、おねえちゃん!?無事だったの!?」
「あたしの肺活量を甘く見ないでほしいわね。ほら、エモノ」
「わーい…って、これ、卵?しかも氷漬け…」
孫堅が砂浜に放り出したのは直径40cmほどの氷漬けの卵だった。奇妙な模様が規則正しく全体にちりばめられており、いかにも恐竜の卵といった感じである。
「お姉様、これは湖底から?」
「もちろんよ。周瑜」
「でかっ!よし、早速ゆでるぞ!周瑜!鍋を火に…ぐあっ!?」
「何バカな事を言ってんの?博物館に売りつけてカネにすんのよ!」
割り込んできた孫策に再びゲンコツをくれると、孫堅は、がめつい事を言った。
「そ、そんなこといっても、結局んとこ魚は取れてねーじゃねえか!毎日毎日焼き林檎と焼きバナナだけじゃ味気ねーって!」
「孫策…あんた、あくまであたしに逆らうってのかい?」
「おう、実りある食生活のためなら姉貴といえども容赦はしねえ…故人曰く『食べ物の恨みは恐ろしい』ってなぁ!!」
「お姉様も伯符も落ち着いてくだ…きゃっ!」
カミソリの如き鋭さで繰り出された孫策の強烈な後ろ廻し蹴りが、止めに入りかけた周瑜の目の前を掠めて孫堅の側頭部を襲う。
大木をも粉砕するその右足を、孫堅は無造作に掌で受け止めた。
そのまま無造作に足首を掴むと、片腕一本で無造作に振り回して勢いをつけ、無造作にジャングルのほうへ放り投げた。
撃ち出された砲弾の如き速度で、原始林を薙ぎ倒しながら孫策はジャングルの奥へ消えた。
孫堅がその後を追って猛然とジャングルへ走りこんでいく。
「孫策、逃げるな!」
「姉貴が吹っ飛ばしてくれたんじゃねーかよっ!」
めくるめく轟音と土煙がジャングルの奥から吹き上がり、怪しげなエネルギー波の輝きが爆発音を伴って連鎖した。
断末魔の悲鳴をあげて次々と原生林が倒れ、赤壁島は時ならぬ地震に見舞われた。
背後の龍戦虎争など我関せずといった感じで、かがみこんだ孫権はひたすら先ほどの卵を撫で回している。赤壁島の暑熱により、周囲の氷はすっかり溶け出してしまっており、乾燥した表面は鶏卵より少しざらざらする手触りであった。
「また始まった…アレで結構仲がいいんだけど…ね?孫権ちゃん」
疲れたようなため息を漏らすと、周瑜は孫権に歩み寄った。
「あ…」
「どうしたの?」
「この卵…生きてる。いまトクンって…」
「それじゃあ…」
「間隔が短くなってる…産まれる!?孵るの!?ねえ!周瑜さん!」
「お、落ち着いて、こういうときは…そうよ!ラマーズ法よ!」
「ボクが産むんじゃないよー!」
おもいきり取り乱した二人の前で、卵の一点ににひびが入り始めた。それは蜘蛛の巣状に広がり、外周を一回りして後背で繋がる。ひとりでに卵が左右に揺れ始めた。
背後のジャングルで、やたらと大規模な姉妹喧嘩が続くさなか、神秘的な光景を二人は目の当たりにしていた。
珍しく取り乱した周瑜が、さらに二歩あとずさった。一方、落ち着きを取り戻した孫権は、卵に歩み寄り、その傍にかがみこむ。
「あ、あぶない!離れて!食べられるわよ!」
「この子…出ようとしてるんだけど、殻が破れないみたい…だんだん動きが遅くなってる…このままじゃ…」
孫権の観察どうり、卵の揺れが少しずつゆっくりになってきている。卵の中で活動可能なまでに成長したものの、殻を破る力がまだ備わってきていないのだ。孫権は、そっと卵に両手をかけた。
「孫権ちゃん!なにをするつもり?」
「ねぇ、キミ、頑張って!ボクも手伝ってあげるから…頑張って!せっかく生まれてきたのに卵の中なんかで死にたくないでしょ、生きたいんでしょ!ねえ!頑張って!外に出てきて!」
必死に呼びかける孫権の声が届いたのだろうか、卵は…いや、生まれようとする小さな生命は再び力強く動き出した。
そして、奇跡は起こった。
卵が、ひびに沿って真っ二つに割れた。勢い余って飛び出してきた黒い影に胸を直撃され、孫権は勢い余って砂浜に仰向けに倒れこんだ。掴んでいた卵の殻の上半分が宙を舞う。
孫権を押し倒した黒い影が、小さな鳴声を上げた。
それはイルカのようにすべすべした肌をしており、蛇のようにもたげた頭部にはインド象を思わせるおだやかな目があって、少しびっくりしたようすで孫権を見つめている。頭の先から尻尾までの長さは約40cm。重さは4キロほどで、4枚の足ひれから、形的にはジュラ紀前期に生息していた首長龍・プレシオザウルスによく似ているようだった。
やがて首長龍は表情を和らげ、目を細めると、その小さな頭部を孫権に擦り付けてきた。くるる、と甘えたように喉を鳴らしている。
「孫権ちゃん…大丈夫?わ、わたし爬虫類は苦手なのよ…」
「うん…この子、ボクのことをお母さんだって思ってるみたい」
「刷り込み…ってやつね、なんにせよ良かったわ〜」
「この子、あったかい…それに、いい手触り。スベスベしてるに、柔らかい…」
ほっと息をつくと、緊張がきれたのか、周瑜は砂浜にへたり込んだ。
先ほど孫権が放り投げた卵の上半分が、周瑜の頭にかぶさり、まるで、某黒いひよこのキャラを髣髴とさせているが、それに周瑜は気づいていない。
やがて孫権が体を起こし、首長龍の子供を膝の上に抱くと、首から背中にかけて優しく撫で始めた。その表情は、年齢にそぐわぬ聖母の優しさに満ちていた。
背後で草を掻き分ける音がしたとき、周瑜は振り向いたものの、孫権は首長龍に夢中で振り向こうとはしなかった。
「まったく、このバカ、てこずらせて…余計なエネルギー使ったじゃないの」
実に島の三分の一の原始林をなぎ倒すほどの激闘を制したのは、やはりというか姉の孫堅であった。激闘の証拠に、体のあちこちから血を流し、ビキニの肩紐が半分ずり落ちている。右手では、孫堅以上にボロボロになって気絶している孫策の襟首を掴んで引きずっていた。
「ええと、お姉様。伯符は死んじゃ…いませんよね?」
「一時間もすれば目を覚ますわよ。…それより、あんた面白いものかぶってるわね?」
「え、あっ!いつの間に…」
「アハハ、卵の殻かぶってて気がつか…って、それってまさか、さっきの!?」
「はい…孫権ちゃんが、孵しちゃったんです」
「ああ〜…洛陽棟の白馬博物館に卵を売った金で、東呉スポーツへの支払い目処がたったと思ったのに…また長沙棟でムチャやらなきゃなんないのね…」
目論見が外れた孫堅は、がっくりと肩を落とした。
<続く>

312 名前:雪月華:2003/08/02(土) 08:49
皆様、お久しぶりです。
修羅場も一段落(とはいっても明日より今日がマシ、という程度のものですが)しまして、
雑談スレ157番の、教授様提案『夏と乙女達』のテーマに沿ったSS書いてみました。
本当は執筆中の長編に30行ほどで挿れるエピソードだったのですが、
考えてるうちにどんどん世界が広がってきたので、ここにageさせてもらいました
さて、登場した首長龍ですが、次回、孫権によって命名されます。
史実では温厚で慎み深い人格者で知られ、孫権に最も愛された、あの人です(ここまで書けばバレるかな)。
プロットはすでに完成しているので、夏が終わらないうちに完結させるつもりです(長編は蒼天航路に追いつかれないうちに何とか…)。

313 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/03(日) 10:22
(゚∀゚)! 
雪月華様、お久しぶり!そして待望の新作っ!
うわー、最近学三に磨きを掛けるため、年代物の学園ギャグ漫画をハシゴしてるんですけど、
コレ凄い雰囲気でてるなー。
特に孫堅のキャラがナイスだなー。最近妙に孫策が話題になってますが
やはり呉の主は孫堅! 妹孫策を片手であしらう姉さんに萌え…

そして出てきた首長竜のタマゴ! うーん…誰になるのだろうか…(^_^;)

ところで↓

>「間隔が短くなってる…産まれる!?孵るの!?ねえ!周瑜さん!」
>「お、落ち着いて、こういうときは…そうよ!ラマーズ法よ!」
>「ボクが産むんじゃないよー!」

思いっきり取り乱している二人ワロタ。

314 名前:★教授:2003/08/03(日) 23:49
■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第一章〜 ■■


 ここは益州校区内にある学生用私設プール。
 夏という事もあって利用する生徒は星の数程いる。
 ――が、今日に限っては違った。
 入り口には『本日貸し切り、ゴメンネ 幹部達、一日だけの夏休み』と書かれた紙が貼られているのだ。
 これには一般生徒達も引くしかなかった。…と言うよりも『一日だけ』という文字を見て可愛そうになったのだった。
 そして…熱い一日が幕を開けた――


「やー…夏は泳ぐに限るよなー」
 プールサイドに立ち、降り注ぐ陽光に劣らぬ笑顔の張飛。
「さよか。そんでも準備運動はしぃや」
 麦藁帽子を片手に劉備が今にも飛び込みそうな張飛を窘める。
「分かってるって。健康には人一倍気を使ってるからなー」
 張飛はそう答えて柔軟体操を始めた。
「やれやれ…普段からこう素直に人の言う事聞いてくれたら苦労せんのになぁ」
「仕方ないでしょう、半ば本能で生きてるような所がありますし」
 肩を竦める劉備の後ろから諸葛亮が声を掛けてきた。
「上手い事言うやんか…って。それは…何か? 新しいジャンルの開発に成功したんか…?」
「これが私のスタンダードです」
 涼やかに白羽扇を口元に当てる諸葛亮。黒のビキニに玉虫色のパレオ、ここまでは普通。しかし、更に白衣を着こなしているのだ。これは劉備でなくとも言葉に疑問詞を付けてしまうだろう。
「総代、中々涼しそうなお姿ですね」
「シチュー。あんたは泳がんのか?」
「私は泳ぐよりもパラソルの下で読書してる方が好きなんですよ」
 白のビキニの上からいつものパーカーを着る劉備。そして、これまた白いワンピース姿のビ竺。自称『プチ清純派』と通称『お嬢様』の名にそぐわぬ井出達だ。
「あんたらしいけど…あっちももう少し色気欲しいもんやな」
 ちらりと柔軟体操をしている張飛を横目に見る。スクール水着という何ともお約束な姿だが、実によく似合ってたりする。
「関さんも子龍も来れたら良かったのになぁ」
「仕方ないでしょう。関羽殿は荊州棟の守り、趙雲殿にはアトちゃんの看病がありますから」
 溜息混じりの劉備に諸葛亮が静かに答える。
 ちなみにこのアトちゃん、先日まで元気だったのに今朝になって突然熱を出してしまったのだ。本番に弱いタイプなのかもしれない。
 そんな彼女に付きっきりになっているのが趙雲。アトちゃんの一大事とばかりに颯爽と現れて看病を買って出ているのだ。
 劉備とビ竺がパラソルと折り畳み式の椅子をセットしていると、黄忠と厳顔が姿を見せた。
 黄忠は青ラインの縦縞ビキニ、厳顔は赤ラインの横縞ビキニ。二人ともサンバイザーとサングラスを装備して大人の雰囲気を出している。
「おー…流石やなぁ。大人の魅力が炸裂しとるで、二人とも」
 ひゅうと口笛を吹いて感嘆の声を出す劉備。
「大人…まあ、そうでしょうね」
「その辺の子供には負けない自信はありますよ」
 サングラスの下から余裕の眼差しを見せる年増二人組。しかし、あんまり誇れる事でもないのだが。
「それじゃ、私達は準備体操してきますね」
 そう劉備に告げるとプールサイドで準備運動している張飛の元へ移動した。だが、その時、一筋の稲妻…は言い過ぎだがそれっぽいモノが劉備の横を駆け抜けた。そして――

「雷同(ライドゥー)キーック!」
「はぶっ!!!!」

 どばっしゃぁんっ!!!!!!

 厳顔が物凄い勢いでプールに飛びこんだ。厳密には蹴り込まれたのだが。
「厳顔!」
 慌てて黄忠が柔軟体操もそこそこにプールへ飛び込む。
 プールサイドには一瞬の出来事を呆然と見ていた張飛と、飛び蹴りを叩きこんだ雷同の姿があった。
「やった…遂に完成した! あたいの雷同キックが遂に!」
 見事に飛び蹴りが決まった事が余程嬉しかったのだろう。プール際で狂気乱舞する雷同。
 だが、喜びもつかの間だった。
 突然、水中から伸びてきた手が雷同の足を掴むと、あっという間に彼女をプールへ引きずり込んだ。

「雷同ーっ! テメー、殺す!」
「キャー! イヤー! 悪気はなかったのーっ! 背伸びしたかっただけなのーっ!」
「うるせーっ! こーしてやるっ、こうだっ!」
「やーめーてーっ! 下克上じゃなかったのーっ! 殺さないでーっ!」
「オラオラオラオラオラ!」
「っギャーーーーーっっっっ」

 …断末魔の叫び、そして喧騒が止んだ。
 厳顔と黄忠がプールから上がってくる。しかし、雷同の姿は見えない。
 暫くするとぷかぷかと雷同が水面を漂っているのが見えた。
 張飛はこの時の事を後にこう語った。

『ありゃあ…鬼だったね。雷同も自業自得っちゃあそうなんだけど…それ以上にあの二匹の獣を怒らせたってのが間違い。俺、絶対にあの二人を怒らせないようにしようって心に誓ったよ』

 
 ――場所は変わって更衣室。
「なー、法正。それウソ胸?」
「違うわよ! 素よ、素!」
 かなり失礼な簡雍に本気で返す法正。黒ビキニとパレオに身を包み、疑惑視された胸を隠す。
「素が一番だって。外観を取り繕うのはサイテーだね」
「う…そ、そうだね」
 痛い所を突かれた法正。簡雍はデジカメを首からぶら下げて法正の横を通り過ぎる。
 だが、簡雍が何もせずに通りすぎる訳がなかった。
 なんと、法正のビキニの上のヒモを引張ったのだ。
「…!! わああっ!!」
 咄嗟にビキニが落ちないように手で押さえる法正。
「いただき♪」
 簡雍の本日一枚目のシャッターが切られた。法正の怒りのボルテージが最高潮に達した。
「憲和コロスーっ!」
「あははっ、早く直さないと小ぶりの胸が見えちゃうよー」
 投げキッスを法正に寄越して簡雍が更衣室を出ていった。
 悔しさに握り拳を震わす法正。
「憶えてなさいよーっ!」
 どうやら復讐を誓ったようだ。具体的に何をするかは決めてないようだが。

 こうして帰宅部の長く熱い一日が幕を開いた。
 乙女達の夏は始まったばかりなのだ――

315 名前:★教授:2003/08/03(日) 23:54
プールSSの第一弾。雷同たんの扱いヒドすぎ。

雪月華様>

孫堅、孫策の姉妹喧嘩に激しく笑わせていただきました。
ある意味、恐竜よりも怖いっす。大怪獣激突? やはり姉に軍配が挙がったようですが。
周喩の取り乱し方は個人的にツボに入っちゃいました。

316 名前:おーぷんえっぐ:2003/08/04(月) 00:41
雪月華さん>孫権たちの合宿読みましたw 以前自分が絵描きBBSで、予定していた
      ”長湖部・海獣大決戦”の大まかな荒筋で、符合するとこがあったので
      こっちは、もうちょこっと煮詰めてからネームを一考したいと
      思いますです。 しかし、おもろかったw 一文だけで想像すると孫策が
      半分死んでるような感じが・・・・w

教授さん>雷同の登場、果たして偶然だったんでしょうか?(雷同キックで爆笑w)
     お絵かきで描いたばっかりだったので・・ついついw
     そしてトドメはやっぱりあの二人ですか・・・^^;
     この学園では、夏場は(いつも、かw)どこも修羅場ってイメージがついて
     しまいましたw

317 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/04(月) 23:19
水着祭りキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
教授様グッジョブ!!!(b^ー°)

まず雷同キックワロタ。わかる!非常によく分かる!プールでしか繰り出せない大技!
脳天気な少年役ができそうな声優が似合いそうな雷同たんが想像できるなあ…
妙にガキっぽいのが揃ってる帰宅部連合のなかで、大人な黄忠&厳顔コンビいいな。

そして法正たん…。いつもの事ながら気の毒に(;´Д`)ハァハァ…
ヤパーリウソ胸2割り増しなのかしらん…?

318 名前:★教授:2003/08/05(火) 23:36
 少し数えてみたら何と25本も駄文を書いている事が判明。
 ここまで恥を晒すと却って開き直りそうな自分に危機感を憶える今日この頃です。

おーぷんえっぐ様>

 実は雷同の登場は偶然ではありません。
 お絵描きBBSをふと拝見してたら…

『雷同…この娘は使える!』

 と、衝動的に登場をしてもらいました。厳密に言えば、張飛の他にやんちゃなキャラが欲しかったんですけどね。
 雷同キックが概ね好評のようですが、元ネタは某特撮ヒーローの必殺技です。
 最近の特撮とかアニメには疎いので…あの設定が分からなかったのですネ、これが(涙)

ぐっこ様>

 夢も希望もない事を言いますが…ズバリ、ウソ胸です。(爆)
 裏話的な事言うと、実は投稿前に修正してるのです。内容が少し大人向けに傾いちゃってたので…。(切腹)

319 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/05(火) 23:49
>教授さん
初めまして。前々からここにお世話になっていながら、数ヶ月間来れなくて色々変わっていてビックリのヤッサバ隊長です(長いなぁ)。
今後ともよろしくです。

それにしても雷同キックは、やはり狙っていましたか…。
俺も技の一号は大好きですw
なお、おーぷんえっぐさんがお絵かきBBSで紹介してた例の特撮作品についてですが、
比較的(というよりかなり)古いヤツばっかりだと思いますですよ?
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと俺を呼ぶ!」の名口上を残している仮面ライダーストロンガーとかね。
しかし本放送が昭和50年って…俺生まれてないし!w

320 名前:★アサハル:2003/08/06(水) 00:04
乗り遅れますたー!

>雪月華様
某ネコ型ロボットとダメ少年と首長龍の長編版を思い出しました…。

それにしても何してるんですか孫シスターズ(w
二人の凶悪姉妹喧嘩(戦争)をモロに受け止めてきた孫家の実家の
耐久性が妙に気になりました。
続き…どうなっちゃうんでしょう?まさか折角生まれてきたのに
喰われるなんて事は(ry

>教授様
あ、ああー(゚∀゚;)
雷同たん、ご愁傷様です…惜しい人を亡くされ………(死んでない)
それにしても水着姿にも性格が出てて藁いました。特に諸葛亮。
何気に麋竺が萌え…

321 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/11(月) 21:58
■■魏文長、その密やかなる趣味(1)■■

 魏延は生来より、豪胆かつ粗暴な女傑であった。
 しかし、蒼天学園へと入学した直後より、彼女はその性格を改め、真なる淑女…つまり乙女への道を志した。
 その経緯は、中学時代(蒼天学園中等部に非ず)剣道部に所属していた際、腰を痛めた為に一線を退く事になり、大そう悲しんだ。
 しかし、その時彼女の先輩より「女は武のみに生きるに非ず」と諭されたが故であったという。
 ともあれ、彼女は武骨な性格を正し、「乙女」として行きようと決意したのである。


「ふんふんふ〜ん♪」

 荊州校区蒼天女子寮。
 朝、誰もいない調理室で、魏延は鼻歌とともに何やら洋菓子を作っている。
 どうやらクッキーのようだが、何とその形状は「クマさん」。
 確かに、クマというところがある意味彼女を象徴するクッキーであるが、武辺者として既にその名を蒼天学園中に知られつつあった魏延が、そのようなモノを作る趣味を持っている者は、皆無と言えよう。
 いや、彼女は意図的にそのような趣味がある事をひた隠しにしてきたのである。

 かつて、このような事があった。
 まだ、魏延が帰宅部連合に参加する前の事だ。
 当時一年生だった彼女は、参加する部活を決めかねていた。
 最初は中学時代のように剣道部に入部するのが筋だと思っていたものの、「乙女を目指す」という大目標が出来た手前、体育会系の部活に入る訳にもいかない。
 そこで、荊州校区の文化系の部活に入ろうと決意したのであるが…。

「こんなんちまちまやってられっかぁぁぁっ!!」

 …と仮入部した茶道部で、あまりの退屈さに苛立ち、ついには茶釜をひっくり返すという剛毅なマネをしでかしたのだった。
 当然すぐさま追い出される魏延であったが、彼女は諦めない。
 続いて美術部へと仮入部するのだが…。

「こんなんちまちま描いてられっかぁぁぁっ!!」

 …と、例によってカンバスをビリビリと豪快に引き裂き、周囲を凍りつかせてしまう。
 当然美術部も追い出された彼女は、最後に料理研究会に入ろうとする。
 だが、既に魏延の勇名は荊州校区全体に広がっており、

「あ、あの…料理研究会に入りたいんですけど…」
「結!構!です!!」

 …と、恐る恐る尋ねた魏延を、研究会代表・趙累が一蹴してしまうのだった。
 さらに、当時魏延が所属していた長沙棟の棟長・韓玄は、粗暴な性格の魏延が大そう気に喰わなかったらしく、わざわざ魏延を呼び出してこう言い放っている。

「あんたに文化系の部活なんざ務まる訳無いでしょ。相撲部や牛乳部や魚拓部がお似合いよ」

 このセリフに逆上しそうになった魏延であったが、

(ガマン、ガマンよ文長…こんなところでキレたりしたら、あたしはこれから一生乙女でいられなくなっちゃう…)

 と、じっと怒りを抑え、悶々とする日々が続いたのである。
 だが、皮肉な事に魏延は「乙女」ならぬ「漢女」と言う異名と、武名を轟かせてゆく事になってしまうのだった。




 そのような彼女であったから、「クマさんクッキーを作る」事が趣味であるなどとは、口が裂けても言えなかった。
 それは、劉備が荊南棟群を平定し、その際に劉備に降り、名実共に「帰宅部」の仲間入りを果たした後でも変わらなかったのである。

「焼けた焼けた、っと」

 オーブンから焼きあがったクッキーを取り出し、その一つを口に運んだ。
 ポリポリとしばしクッキーを味わった後、魏延の表情が思わずほころぶ。

「んん〜、おいひぃ♪」

 正直言って、「普段の魏延」を知る者がこのシーンを見せ付けられれば、気味悪がって逃げ出してしまうだろう。
 それほどまでの変貌ぶりであった。
 魏延は焼きあがったクッキーを小さな紙箱に入れ、包装紙で包んで部屋を後にするのだった。

(このクッキー、今日こそ部長に食べてもらうんだ〜♪)

 魏延は、ルンルン気分(死語)で学園に登校する。
 しかし、そんな彼女に思いもよらぬ災難が待ち受けていようとは、この時まだ知る由も無かった…。

(2)へ続く。

322 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/11(月) 22:08
脱字発見しますた(T_T)

>既にその名を蒼天学園中に知られつつあった魏延が、そのようなモノを作る趣味を持っている者は、皆無と言えよう。

の、「趣味を持っている者は、」の部分は、
正確には「趣味を持っている事を知る者は、」が正解です(^^;

323 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/11(月) 22:12
…と言う訳で、先刻より周知しておりましたSSがようやく完成しました。
と言っても、まだ導入部分ですけど(^^;

この続きは、またの機会という事でよろしくです。

324 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/13(水) 17:18
…っΣ(´Д`;)
むう!魏延たんが人知れずクッキーを! 漢乙女の面目躍如!
戦闘時のバトル少女との落差がハァハァもの。
ところで韓玄たん、牛乳部って何でつか…(;´Д`)

続きを期待!

325 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/13(水) 23:56
■■魏文長、その密やかなる趣味(2)■■


 放課後。
 蒼天学園の生徒達がそれぞれの課外活動に精を出している中、魏延もまた荊州校区風紀委員の一人として、長沙棟内の巡回を行っていた。
 だが、一方で帰宅部連合部長という重役である劉備は、その魏延の数倍の作業をこなしている。
 無論、諸葛亮や馬良、ホウ統といった総務役も部長のサポートに回っていたのだが…。
 益州攻略の時が近づいていた今、劉備の双肩には、多大な責任が圧し掛かっていたのである。

「うー、孔明…ちったぁ休ませてんかぁ〜」
「いけません。今日中に、各予算の配分を完了してしまわねば。
 この荊州の地盤をしっかりと固めねば、長湖部に背後を襲われるやもしれません」
「さよか…ま、しゃーないなぁ」

 ブツブツと文句をたれながら、劉備は鉛筆を片手に頭を悩ませている。

「せやけど、こーゆー仕事は庶務の三羽ガラスがやるもんやろ。
 何でうちが…」
「仕事を部下に任せて、主は椅子に座って命令するだけというのは、三流の組織の体系です。
 それに、部長自らが雑務をこなす姿を見れば、おのずと部下もついてくるというものですよ」
「うう〜…」

 孔明は、お得意の舌先三寸で劉備を上手く丸め込んだ。
 しかし、問答をしている諸葛亮自身も山のような書類と格闘しており、劉備にぐうの音も言わせない。
 そんなこんなで、その日の雑務を終えた時には、既に時計は夜6時を回っていた。

「う〜、やっと終わったわ…」

 へとへとになり、思わず机にうつ伏せになる劉備。
 諸葛亮は、そんな彼女の目の前に栄養ドリンクのビンを置いた。

「部長、お疲れ様でした。
 この『スパビタンX』を飲んで、元気を出して下さい」
「おおきに、そんじゃお言葉に甘えて遠慮なく…」

 劉備は、諸葛亮に渡された栄養ドリンクを一気に飲み干す。
 しかし、直後劉備の顔が真っ青に染まり、苦しみの表情へと変わってゆく。

「ぐぁっ…!!
 な、なんやコレ!? 一体ナニが入っとんねん…?」
「ああ、それでしたら…私が市販の栄養ドリンクをベースに冬虫夏草と高麗人参、さらにはマムシやスッポンのエキスをブレンドした特製品ですが?」
「!!!?」

 それを聞いた劉備は、口を両手で抑えながら真っ直ぐトイレへと駆け込んで行ってしまう。

「…やはり、栄養を重視しすぎたかな…?」

 諸葛亮は、さして罪の意識を持っていない様子で、『スパビタンX』のビンを眺めるのだった…。



「あ〜、えらい目に遭うたわ…」

 暫くして、劉備は余計疲れたような表情でトイレから現れた。
 そんな時、偶然巡回をしていた魏延とばったり出会う。

「あっ、部長。こんな時間までお疲れ様です」
「おう、文長か。あんたもこんな時間まで大変やな」

 劉備は苦しそうな表情を必死に隠しながら、魏延と普段どおりに会話しようと努めた。

「いいえ、あたしは見回りですから。いつもデスクワークに追われている部長達に比べたら…」
「せやなぁ。孔明や士元、季常にいっつもせっつかれるんや。
 おまけに、今度益州校区まで行かなあかんやろ。大変や〜」

 劉備は力で益州を攻める事に、乗り気では無かった。
 だが、漢中の張魯が益州への侵攻を開始した為に、劉備は益州校区生徒会長である劉璋の援軍として出陣する事になったのだ。
 しかし、その裏では諸葛亮を始めとする謀臣達が益州攻略の策を練っており、一方の劉璋陣営でも親劉備派が帰宅部連合を迎え入れる準備を始めていた。
 劉備の思惑に反するかのように、時勢は激しく動きつつあったのである。

「心配しないで下さい。
 この魏文長、部長に同行する事が決まった以上、必ずやお役に立ってみせます!」

 不安を抱えていた劉備を、魏延が励ます。
 魏延は、今度の遠征で劉備と一緒に戦える事が大そう嬉しかった。
 勿論、新参者である彼女にとって、理由はどうあれ劉備の下で武功を上げられるチャンスだったからでもあるのだが。

「元気やな、あんたは。
 うちも、もっとシャキッとせなあかんな」
「部長…」

 魏延に励まされ、劉備はようやく心の迷いを僅かながら消し去る事が出来た。
 その様子を見て安心したのか、魏延の表情も綻ぶ。

「そうだ、部長に渡したいモノがあるんです。
 受け取って貰えますか?」
「お、おう」

 魏延はそう言うと、スカートのポケットの中に忍ばせておいた小さな紙の箱を取り出し、劉備に手渡す。

「開けてみて下さい」
「ん…分かった」

 劉備が箱を開けると、そこにはクマさんの形をしたクッキーが入っていた。
 だが、流石の劉備もまさかこのようなモノが入っているとは思いもしなかったようで、

「な、何やコレ!? く、クマさん…!!?」

 そう言った直後、思わず口から笑い声が噴き出してしまうのだった。

「ギャハハハハッ! あ、あんた、こないなモンどないしたんや?」
「あ、あたしが一生懸命作ったんです!
 部長に食べてもらおうと思って、誰にも見つからないように、必死にお菓子の勉強をしながら…!」

 魏延の真摯な態度に感銘した劉備は、どうにか笑いを止めて魏延に向き合う。

「す、すまん笑ろたりして。
 いや〜、それにしても『漢魏延』がクマさんクッキーたぁ、なんちゅーミスマッチやねん。
 せやけど、あんたにこんなモンを作る趣味があったなんてな」

 劉備の言葉に対し、魏延は顔を真っ赤にして俯く。
 やはり、相当恥ずかしいのだろう。

「うう〜、それについては話せば長くなるんですけど…。
 と、とにかく食べてみて下さい」
「ああ、分かった…」

 劉備は、箱の中にあったクッキーの一つを手に取り、口に含んだ。
 そして、ゆっくりとそれを噛みしめてゆく。

「んん〜…」
「ど、どうですか?」

 恐る恐る、劉備に尋ねる魏延。
 だが、劉備は満面の笑みでそれに応えた。

「うん、美味いわコレ」
「ほ、ホントですか!?」

 その言葉を聞いて、思わず喜び舞い上がる魏延。
 やはり、憧れの人物に手作りのクッキーを食べてもらい、さらに「美味しい」と言って貰えたのが余程嬉しかったのだろう。

「ああ、ホンマに美味いわ。
 よう考えてみたら、こないな手作りの菓子なんざ、もう10年は食べてへんな。
 おおきにな、文長…」
「部長…」

 感激の余り、両目が潤む魏延。
 しかし直後、薄暗い廊下に眩い閃光が走った!

 パシャッ!!

「な、何や!?」
「えっ!!?」

 二人が同時にその光の方を向くと、何とそこにはカメラを持った簡雍の姿が!!

「遂に捉えたぁ、決定的瞬間!!」
「ああっ!! け、憲和ッ!!?」
「ヒューヒュー! お熱いねぇ、お二人さん!」
「……!」

 見事にイチャイチャ(?)現場を押さえられた劉備と魏延は、驚きの表情を隠せない。
 特に、魏延は自分の一番見られたくない姿を見られたショックで、声も出ない…。

「それにしても…『漢魏延』と恐れられた魏延に、そんな趣味があるなんてねぇ〜♪」
「ぐぐぐ…!!」

 魏延は、必死に怒りを抑えて俯いているが、全身が激しく震えている。

「な、なぁ憲和…その写真のネガ譲ってんか…頼むわ」
「ん〜、どうしよっかねぇ〜」

 簡雍は、内心してやったりと大喜び。
 そして、わざと劉備達に対してそっぽを向き、二人の反応を見て楽しんでいる。

「うううう〜ッ!! 憲和様、この通りでございますッ!!
 何卒、その写真をバラ撒くのだけはお止めくださいッ!!」
「あたしからも、どうかッ!!」

 劉備と魏延は、揃って床に手をついて簡雍に懇願する。

「へいへい。んじゃ、一人2千円づつお恵みを頂きましょ〜か」

 劉備達の情け無い姿を見て満足したのか、簡雍はようやく二人を許すのだった(と言っても、しっかり金は取っているのだが)…。

「毎度あり〜♪ んじゃ、あたしはこれで」
(く〜っ!!堪忍やでぇっ!!)
(きばると文長! こげん試練も真の乙女になる為じゃッ!!)

 悠々と廊下を後にする簡雍の背中を見ながら、怒りに打ち震える劉備&魏延。
 その夜、劉備は魏延と共謀し、簡雍の部屋に忍び込んで眠っている彼女の額に「肉」の文字を黒の油性マジックで書き入れ、ささやかなる復讐を果たすのだった。

「ああ〜っ!! な、何よこれぇっ!?」



 終

326 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/14(木) 00:14
てな訳で、ついに完成しましたです。
当初は広…もとい楊儀を出して、魏延を徹底的に叩かせる展開にしようと考えていたのですが…。
それだと全然コメディにならないので、かような展開になりました。

しっかし何だか方言関連が全然ダメですな…特に魏延の薩摩弁(汗
親戚に実家が鹿児島の人がいるのに、すっかりそっち系の方言を忘れてしまいましたわ(^^;

拙作ですが、どうかお楽しみ頂ければ幸いです。

PS・諸葛亮の栄養ドリンクネタは、アサハルさんのイラストに。
   そのドリンクのネーミングは、某カンフー映画のタイトルに影響されましたw

327 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/15(金) 15:26
ヤッサバ隊長乙!
ふー。楊儀が出てこなくてよかった…(^_^;) 漢魏延たんのヨサゲなところだけで…
ナニゲに庶務三羽ガラスの呼称がツボ。ていうか、その一羽は簡雍たんなわけだが。
しかし今回、おそらく初めて簡雍たんの敗北!やはり劉備がその気になって反撃すると
簡雍たんもしれやられるということですねえ…

>某ドリンク
私はゲームの方かと。

328 名前:ヤッサバ隊長:2003/08/15(金) 17:17
考えてみたら、簡雍たんってば帰宅部連合(それ以外の陣営もですが)の機密の数々を激写してきた、かなり重要な人物ですよね。
もし彼女が生徒会に捕らえられてしまったらと思うと…(ガクガクブルブル
まぁ、劉備も彼女を信頼しているからこそ、かのような重任を命じているのだとは思いますが。

>簡雍敗北のオチ
もうちょっとその辺を詳しく書いとくんだったと激しく後悔(^^;
そうすればオチの面白さも倍増しただろうに…。

>ドリンク名称
うぃ、自分もゲームで知りましたです!w
ってか、俺が小学一年の時に初めて買ったFCソフトだったり(爆

329 名前:★教授:2003/08/18(月) 21:58
■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第二章〜 ■■


「うりゃっ」
「わっ! やったな〜」
 燦燦と降り注ぐ暑く眩い陽の下。乙女は水と、そして仲間達と戯れている。
 薄く涼しげな衣に身を包み、一時の休息を愉しむ。
 日が沈み、そしてまた日が昇るその時まで――



「だーっ! 義姉貴! 反則だぞ!」
「こういうのはアタマ使った方の勝ちや!」
 プールサイドを楽しそうに逃げまわる張飛。そしてウォーターガンを両手にガンタタスタイルの劉備。
 玩具での攻撃…と言えば聞こえはいいのだが。ウォーターガンから射出される水の勢いは明らかに玩具の粋を脱していた。
「うりゃっ!」
 劉備の放った一撃がコンクリートの壁に当たる。――穴が開いた。
 張飛はその様を見て急速に蒼褪めていく。
「な、なな…何だよ、その規格外の破壊力は!」
「孔明に改造してもらったんや。アンタは頑丈やさかい、被験体になってもらうで」
「ひでぇ! 義理妹への愛が感じられねーぞ!」
 今度は本気で逃げ出す張飛。その後ろを本気で追い掛ける劉備。
 殺人ウォーターガンを作成した孔明はリクライニングチェアーに腰掛けながら、のんびりと義理姉妹の修羅場を眺めていた。威力の確認も兼ねているようだ。
 その横でビ竺が本(恋愛小説)を広げている。その優雅な姿は正しく『深窓の令嬢』という言葉がピッタリだった。
 更にビ竺の隣では雷同が目を回してうなされている。
「鬼が…歳食った鬼が…」
 そんなうわ言を繰り返しながら痙攣していた。不憫な娘である…。
 プールの中では黄忠と厳顔が浮き輪を手にぷかぷかと漂っていた。
 無邪気に泳ぐでもなく、ただ流されるままに漂っているのだ。
 そんな二人の横を法正が泳ぎ抜けていく。
 長い髪を綺麗にまとめて華麗なフォームで水をかき分ける。
 …と、法正の横に並ぶもう一つの影――簡雍だ。
(憲和!? 負けられない!)
 簡雍の姿を確認した法正がペースを上げる。
(やるじゃん、法正)
 にやりと口元を歪めると簡雍もギアを上げた。
 そして――二人の手がほぼ同時に縁に触れる。
「ぷはっ。…ちぇっ、法正の勝ちだよ」
「憲和の方が速かったよ…」
 お互いに勝ちを譲り合う。二人の顔に自然と笑みが零れた。
 そんな二人の近くに先ほどの漂流している黄忠と厳顔が漂ってきた。
「青春ね〜…」
「そうね〜…」
 ぼーっとそんな事を呟きながら再び遠ざかっていく。
「年増舟だ! やっぱり力無く漂ってる!」
 簡雍がとんでもない発言をする。
「誰が年増だ、こらぁ!」
「いい度胸してんじゃないの!」
 この発言は年増コンビに聞こえたらしく、物凄い勢いで戻ってきた。
 身の危険を感じた簡雍は法正を盾にすると…
「…って、法正が言ってました♪」
 と、身代わりにしてさっさとプールサイドに退却。
「え? え、ええっ!?」
 法正は自分が何を言われたのか、そして何をされたのか理解し切れずに、ただうろたえるしかなかった。
「法正! テメー、死なす!」
「無事に帰れると思うなよ!」
 年増コンビはうろたえる法正を捕獲すると、浮き輪の中に押しこめてプールの中央まで拉致しはじめた。
 ここに来て自分がスケープゴートにされた事に気付く。
「憲和ーっ! 覚えてなさいよーっ!」
「生きて帰って来れたらね」
 簡雍は喚き散らす法正にひらひらと手を振って、デジカメのシャッターを切った。
 芽生えかけた友情という芽はいともあっさり摘まれてしまった…。


 法正がお仕置きという名の粛正を受けてから一時間。全員が遊び疲れてプールサイドで休憩を取っていた。
「それにしても今日は暑いなぁ」
「そうですね、私の予想では明日もこのような天気かと」
 劉備の言葉に白羽扇を口元に孔明が太陽を見上げる。ちなみに黄忠から借りたサングラスを着用しているので眩しくはないようだ。
「……………」
 孔明の隣ではビ竺が小さく寝息を立てている。そしてそんな彼女をほっとけない二人がいた。黄忠と簡雍だ。
「気持ちいい天気だから眠たくなっても仕方ないな…」
 黄忠はビ竺を膝枕しながら髪を優しく撫でている。母性本能をくすぐる寝顔についつい黄忠の顔も綻んでいた。
「夏は最高な場面に出くわす事が多いしね♪」
 周りでは簡雍が忙しく動きながらビデオ撮影中。かなり際どい画像も撮っているようだ。
 ほっとけないというニュアンスがかなり食い違っている二人である。
「ビ竺は寝てるんだ、あっちの方で撮影してくれ」
 大人の余裕を見せながら簡雍を張飛の方へ押しやる厳顔。
 分が悪いと算段した簡雍も渋々その場を離れた。年の功が悪魔を遠ざけたのだ。
「雷同…何だソレ?」
「これが無いと落ちつかなくて」
 張飛が覗きこむその先には、雷同が手にした護身用武器。
 基本的にか弱い女性が犯罪から己の身を護るべく持つ代物――そう、スタンガンである。
「ふ、ふーん…それをどうするんだ?」
「しびれる為に使う」
 ごく当たり前のように、かなり危険な返答をする雷同。
 流石にこれには引いた張飛。一歩ずつ後ずさりしながらほくそ笑む雷同から離れる。
 後日、何の因果か雷同は張飛の下に付いて従軍する事になる。時折スタンガンを手にしてニヤニヤ笑う雷同に頭を振って悩む張飛の姿が戦場で見うけられたとか…その話はまた次の機会にでも。
 そして、法正はどうなったのか――
「憲和〜…もう許さない〜…あ…年増の鬼が…」
 雷同同様うわ言の様に恨み言と恐怖に慄く言葉を繰り返しながら、うつ伏せに寝かされていた。
「簡雍殿、法正の写真を撮ってもらえないかな?」
 うろうろと動きまわりながら撮影を続ける簡雍に声を掛ける孔明。
「いいよー。あ、そうそう…ここだけの話だけどね」
 簡雍がちょいちょいと手招きして孔明を呼ぶ。
 孔明も面倒くさそうに立ちあがると簡雍の傍に近づく。
「実はね、ダンナ。法正のちょっとした…俗に言う『ポロリ』な写真もゲットしてんですよ…一枚300円でどうっすか?」
 こそこそと悪事を耳打ちする簡雍。黒いシッポと羽が生えてる…。
「ほほう…買った。そちも相当の悪よのぅ…」
「いえいえ、お代官様ほどでは…」
 邪な笑みを浮かべる二人の悪魔がプールサイドに降臨。
 B級の時代劇の悪人のような二匹の悪魔の下で法正が更に魘されていた…。


「皆さん〜、アイス買ってきました〜」
 暫く休憩していると孫乾が両手一杯に紙袋を抱えて現れた。
「お、ご苦労さん。大変やったやろ?」
 紙袋を受け取りながら労いの言葉を掛けてやる劉備。
「いえ、皆さんが喜んでくださるのなら全然苦にはなりません〜」
 にこにこと太陽に負けないくらいの笑顔を見せる健気な少女、孫乾。
 その眩しさに目を背ける張飛と雷同と簡雍。眩しすぎる程疚しい事があるのだろうか。
「…えらい! そや、アンタも泳いでいき!」
 感動して滝の様な涙を流す劉備が孫乾の肩を掴む。
「え、えーと…」
 あたふたしながら動揺する孫乾。アイスを届けに来ただけなので水着も持ってきてないので返事に困っている様子だ。
「アイス落ちてるって!」
 張飛と雷同がコンクリートの地面に落ちた紙袋をかっさらっていく。
 そして、その動きを二匹の老鷹…失礼、二匹の鷹が追いかけていった…。

 一名増えそうな勢いのプールサイド――
 乙女達の夏はまだ終わらない――

330 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/18(月) 22:15
水着祭り第二段キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

むう、やはりガンカタで張飛を射殺せんとする劉備たんに萌えるべきだが、
防戦一方の張飛たんにも今回は萌えた。
そして密かに麋竺たんの活躍も光ってるなあ…(;´Д`)ハァハァ…
案外運動神経いい簡雍たんも法正たんもツボですが、ゆらゆらと漂い去ってゆく
年増舟二艘も可愛いかも…。
つか、雷同、そこまで…
最後はお使い乾ちゃんでトドメさされました…

331 名前:おーぷんえっぐ:2003/08/19(火) 02:50
やっぱり、学三の夏(特にプール)では、どこも、こんな感じのい修羅場
なんでしょうかね。  法正・・・ゴチュージョーサマ・・基い
ご愁傷さまw

332 名前:彩鳳:2003/08/19(火) 02:58
 >皆様方へ
 どうも、長々と姿を消していた彩鳳です。(覚えてる方いらっしゃいますか?)
 SS未完成のまま消えてしまって面目無い次第です。何はともあれ、復帰の御挨拶に参りました。

 >教授様
 電気ビリビリの雷同(雷銅?)がここまで強烈なキャラになるとは・・・
 何故か電撃文庫の某小説に登場する銀髪の戦士を思い出します。(電気以外に特に共通項は
無いのですけど・・・必殺技のサ○ダーヘッドが格好良すぎて)
 簡雍&法正、黄忠&厳顔のコンビも以前と変わらぬ活躍振りですが、活躍の幅が広がっていますね。
 

333 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/20(水) 22:28
ワショイー!彩鳳様おひさしぶり! 復帰おめ&ありがとうございますっ!
げ、彩鳳様の最後の作品を拝見してから、もう半年近くになるのかΣ( ̄□ ̄;)!!
マジ戦略と萌えと笑いの三拍子揃った彩鳳作品を、また読むことができるならば
これに勝る幸いはありません…。
ともあれ、今後も宜しくお願いします〜

334 名前:彩鳳:2003/08/22(金) 00:51
 >教授様
 お節介なのは百も承知なのですが、勢いに任せて描いてしまいました。一応、

「ほほう…買った。そちも相当の悪よのぅ…」
「いえいえ、お代官様ほどでは…」    

 http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi target=_blank>http://gaksan1.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upboard/upboard.cgi

 のシーンなんですが・・・とても見えませんね(滝汗)。てか、某文和さんの時といい
なぜマトモな表情にならないのか(嘆息)
 魘されてる筈なのに無邪気に寝ている誰かさんに至っては・・・(^^;
 

335 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/22(金) 01:19
いえいえカワイイ!(゚∀゚) 彩鳳さまありがとうございます!
なんか悪代官と越後屋っぽい「目」が二人のマジ度を思わせます(^_^;)
法正タン…

336 名前:★教授:2003/08/22(金) 22:35
彩鳳様>

孔明タンと憲和タンが悪人っぽいマジな目と口元がイイ!
真剣、そして本気と書いてマジと読む。素晴らしいです、感謝の嵐でございます。
書き手冥利に尽きる一枚…頭が上がりません。

337 名前:彩鳳:2003/08/23(土) 11:35
 何を今更の感がありますが、水着の紐描き忘れてました( ̄▽ ̄;;;
 元々平面的ですが、にしても立体感に欠けると思ったら(今ごろ気付いてどうする@冷汗)
  
 ま、うつぶせな状態の訳ですから、大騒ぎするほどの問題では(ドキューン)
 

338 名前:雪月華:2003/08/29(金) 09:53
ひと夏の思い出 ─そして現実へ─
そんなこんなで、4人に一匹を加えたサバイバル生活は続いた。
島内の滝で、滝の飛沫と満月の光の組み合わせでできる白い虹『月虹』を見たり、島の北東部で偶然発見した謎の遺跡の探検中、孫策のヘマで遺跡が崩れて生き埋めになりかけたり、突如飛来したUFOらしきものに孫権がさらわれかけ、それを孫堅と孫策の連携技───超○覇○電○弾といい、後に孫策はスタンドアローンでこの技を放つ事ができるようになる─で撃墜したり(船体に『諸葛』と刻んであったようだが、長湖の藻屑となった今では確認のしようが無い)…例年に比べ、驚くほど平穏のうちに時の大河は流れ去り、夏休みも、残すところあとわずかとなった。
キャンプ最終日の前日の夕食後のことである。

「なあ、孫権」
「なあに?伯符お姉ちゃん」
膝の上で寝息をたてている首長龍の背中を、飽きもせず撫でながら孫権は上の空で返事をした。時折、のどのあたりを優しくくすぐってやると、くるる、と甘えた声を上げる。
益州校区の山々の陰に沈む夕日の、最後の光が、焚火を囲む4人をオレンジ色に染め上げている。孫策と周瑜は何やかやと冗談や悪口雑言を応酬しており、孫堅は先日の遺跡探検の際に持ち帰った壺や、怪しい偶像を磨くのに余念が無い。別に学術的熱意や考古学的愛情に駆られての事ではなく、「きれいなほうが高く売れるだろう」と抜け目無く考えた上での事であったが。
「そいつ、名前決まったのかよ?」
「うん、あゆみって決めたの」
「へぇ〜、ま、母親格のお前が決めたなら文句は無いけどよ。長湖からとって『チョーさん』って考えがあったんだけどな。首も長いし」
「伯符ったら、あいかわらずネーミングのセンスがないのねぇ。それに、なんか似たような響きの存在がある気がするから却下」
酷評に失望した孫策は、じろりと周瑜を睨むと、妙に慇懃な態度をとった。
「情け容赦無くキツイ事言ってくれますなぁ、周瑜さん」
「いえいえ滅相も無い。己の欠点を知り、屈辱をばねにして、よりいっそう成長してほしいと願う純粋なオヤゴコロですよ、孫策さん」
「いやいや、それは親心ではなく老婆心というもの。うら若きオトメでありながらババアの心を有するとは、その精神の老け方…いやいや成長には恐れ入ります。されどこの不肖孫策、もう充分にオトナであるゆえ、余計な気遣いは無用というもの」
「あらあら、そういうことはせめてバストが75を超えてから言うものですよ、伯符ちゃん」
「んな…!?」
「73・55・77。この数字は五ヶ月前からまったく変化していませんわ。伯符のことなら、もう隅から隅まで知っていましてよ。オホホのホ」
「な、何で知ってる!?身体測定の結果は全て焼き捨てていたはずなのに…」
「そんなこと、赤子の手を捻るより簡単よ。伯符って一旦寝付くと絶対に朝まで起きないから、その隙に服…」
「周瑜!それ以上言うな!」
羞恥と怒りで顔を真っ赤にした孫策が、抗議の声を上げて周瑜につかみかかった。
ひらりとそれをいなすと、跳ねるように立ち上がった周瑜は砂浜のほうへ駆け出した。
「ホホホ、捕まえてごらんなさ〜い」
「待ちやがれ!」
「終わりない鬼ゴッコを楽しむのが恋愛というものよ〜」
「いつから俺達は恋人になったんだよ!?」
周瑜にいなされてうつぶせに倒れていた孫策も、その後を追って猛然と駆け出していった。
「ったく…見てて飽きない連中だよ。ま、それだけ仲がいいってことなんだろうけどねぇ」
壺を磨く手を休めて、孫堅が苦笑した。そのまま孫権の方を見て何気なく、そして一番重要なことを質問した。
「仲謀。このキャンプが終わったら、その子はどうするつもりでいるの?」
「え…その、寮で飼え…ないか」
「育て上手のあんたのことだから、ペット管理能力に疑いは持ってないわよ。今まで拾ってきた動物、しめて5羽と22匹。いずれも老衰以外では死なせてないし、エサ代も自分の小遣い切り詰めて出している事だしね。…あたしが心配してるのは徐州校区生物部のことよ」
「生物部…最近徐州校区で興った天帝教っていうインチキ宗教に染まったっていう…」
孫権はうそ寒そうに首をすくめた。
「そう。最近、とみに汚染具合がひどくなってきたらしくてねぇ…『解剖するぞ解剖するぞ解剖するぞ』って呟きながら尋常じゃない目つきで小川を浚ってる姿も良く見かけるわね。解剖が学術的手段じゃなくて目的にすりかわっているから、その子、見つかったらただじゃすまないでしょうねぇ…」
「それじゃ、この島に残していくしか…ないのかな」
「まあ、さしあたって、それ以上の手はないわね。幸い、この島にはそう危険な動物もいないし、食べ物だって沢山ある。明日の朝十時頃に、迎えに来るから、今夜のうちに別れを惜しんでおく事ね」
そう言って、再び孫権は壺を磨き始めた。

深夜、孫権はふと目を覚ました。
赤壁島の夜は蒸し暑く、蒸し風呂という表現がぴったりだが、なぜか蚊の類がいないため、慣れてしまえば結構快適ではある。
時計が無いため正確な時間はわからないが、遠くに僅かに見える揚州校区校舎群の常夜灯も消えている事、月明かり以外に光源が無い事から、午前三時頃である事がわかった。世間一般でいう逢魔ヶ時の真っ只中である。
「…あれ?」
孫権は、半身を起こしてあたりを見回し、自分の手元から首長龍の子供…あゆみが消えている事に気づいた。
なんとなくそのまま眠ってしまおうかと考えたが、ひとつ頭を振って睡魔を追い出すと、立ち上がって、あゆみを探す事に決めた。
なにやら這いずった跡が孫権の傍から300mほど離れたところにある砂浜に続いており、それを追っていけば容易に発見できそうだ。
熟睡している姉達と周瑜を置いて、しばらくその跡を辿っていった孫権は、ふと、砂浜に立って遠い対岸のほうを見ている人影に気づいた。
ありえる話ではない。今、この島には、孫姉妹と周瑜の四人しかいないはずである。だが不思議と恐怖は無く、好奇心がそれに勝り、孫権は足を止める事は無かった。
ようやく人影が何者か判別できる距離に近づき、それが小学3年くらいの少女である事がわかった。身長は125cmくらい。白い帽子と同じく白のノースリーブワンピースを身につけている。肩の下あたりまでの、つやのある髪は、月光を浴びてやや青みがかっているように見えた。
孫権は気づいていなかったが、このとき、注意深く観察していれば、這いずった跡が少女の手前3mほどのところから人間の足跡に変化しているのに気がついたであろう。
少女が振り向いた。その表情に驚いた色は無く、ただ、優しく微笑んでいる。
大きな目をした美少女ではあるが、生徒数十万人を誇る蒼天学園には、目の前の少女以上の美人はいくらでもいた。ことに孫策の親友である周瑜は中等部三年の身でありながら、中等部、高等部に並ぶ者の無い美女であるため、孫権は美人を見慣れているはずであった。
いや、孫権の心を惹いたのは、その美貌ではない。優しさ、穏やかさ、温かさなど、人の世に存在する柔らかい単語を擬人化したようなその雰囲気が、孫権の心を引いたのである。
なんとなく立ち尽くしていると、少女が孫権に語りかけてきた。
「ありがとうございます…そして、お待ちしていました」
「え…?」
かける言葉を見つけられずにいると、少女がさらに話を続けた。10歳ほどの少女とは思えないほどの丁寧な言葉遣いである。それでいていやみが無いのは、言葉の根底を成す、その優しさからだろうか。
「…明日で、お別れですね」
「お別れって…キミは誰?どうしてここにいるの?確か初対面だよね?」
質問をしながら、孫権は急に睡魔が勢いを取り戻してきた事に気づいた。視界が揺れ、立っているのが困難になりつつある。
「別れるのは寂しいですが、お互い元気であれば、いずれまた会えます。…いつかまた、必ず会いに来て…」
「え…ちょ…ちょっと待って…キミは…誰?」
今や睡魔の勢いは孫権の全身を席巻しつつあった。視界が霞み、立っていられなくなって孫権は砂浜に膝をついた。
「私の名は、あなたがつけてくださいました。私は……」
孫権が憶えていたのはそこまでだった。

暗い夜空を駆逐して、東の空に姿を著した太陽が、空という名の山を中腹あたりまで踏破し、緩やかに波打つ長湖の湖面を、数万の宝石を浮かべたかのようにきらめかせている。キャンプ二日目の朝から見慣れた光景ではあるが、その日は少し様子が違っていた。
砂浜の端に備え付けられた粗末な桟橋には、二艘の手漕ぎボートが係留されており、六つの人影が忙しく立ち働き、キャンプ道具や発掘品を積み込んでいる。孫堅ら4人と、彼女達を迎えに来た、韓当と祖茂である。
「しかし周瑜。今朝の孫権は一体どうしたんだろうな?」
「目が醒めたらベースキャンプにいなくてびっくりしたわね。まさか砂浜で寝てるなんて」
「夢遊病の類でもないしなぁ。あそこまで寝返りを打ったってことも無いだろうし…」
二人の視線の先では、孫権がしゃがみこんで、首長龍の子供と無邪気に遊んでいた。
全ての積み込みが終わり、いよいよ別れの時がやってきた。
孫権は最後の別れを惜しむように、首長龍の子供を抱き上げると、ありったけの思いをこめて抱きしめた。規則正しい鼓動が、優しく伝わってきて、ともすれば悲しみに沈みそうになる孫権の心を励ましている。
「また、逢えるといいね…」
そう呟くと、首長龍の子供を砂浜に降ろし、船のほうに向かって駆け出した。
孫権が飛び乗ってくるのを合図に、ボートが桟橋を出た。一艘目には孫策と周瑜、最初の漕手には祖茂。二艘目には孫堅と孫権、漕手は韓堂という割り振りである。
船尾から身を乗り出た孫権の視界の中で、赤壁島と、湖岸でじっとこちらを見つめている首長龍の子供の姿が、どんどん小さくなっていく。不意に、昨夜見た不思議な少女と、首長龍の子供の姿が重なって見えた。視界が滲んだ。孫権は自分が泣いているのに気がついた。
「絶対、絶対来年も来るから、それまでボクも頑張るから!それまで待ってて!絶対だよー!」
そう叫んで、孫権は赤壁島に向かって身を乗り出すと、ちぎれんばかりに手を振った。
首長龍の子供のほうも、孫権を真似てか、小さな前ヒレをぎこちなく振っていた。
口元をほころばせ、その様を肩越しに見ていた孫堅は、韓当のほうに向き直り、少し照れくさげに言った。
「もっとゆっくり漕いでやって、義公」
「ふふ、了解しました」
韓当も柔らかく微笑み、船を漕ぐ手を少し緩めた。

その頃、少し先行するもう一艘の船では、滑稽だが、ある意味深刻な問答が交わされていた。
「頼む!周瑜!一生のお願い!宿題写させてくれ、いや下さい!」
「伯符…あなたの「一生のお願い」はこれで…ええと21回目よ。小学一年生の頃から全然成長してないのねぇ。長期休みの恒例になってるじゃないの?」
船底に這いつくばる孫策を見下ろして、周瑜はあきれたようにため息をついた。実際、心の底からあきれ果てている。
「お姉様も孫権ちゃんも、合宿始まる前に全部終わらせたのに、どうしてあなただけ毎年毎年…」
「頼む!何でも言う事聞くから!」
そう言ってしまってから、孫策は心の底から後悔した。
「何でも…ねぇ。うふふ…」
小学校入学以来、長期休みの終わり近くには毎回繰り返されてきた問答である。よく飽きないものだと思いつつも、周瑜は魔界の大魔王すら恐れおののく邪悪な微笑を浮かべながら、さて、どういう要求をしてやろうかと、その怜悧な頭脳をフル回転させていた。
ちなみに始業式は明後日である。

339 名前:雪月華:2003/08/29(金) 09:55
いや、ども、おひさしぶりです。お盆休みを5日取れたのはいいんですが、体調を崩してしまって、休みの殆どを通院する羽目に(T_T)
キャンプ関連SSとして「願いの橋」「レイダース」「魔人襲来!揚州校区最後の日」というタイトルで考えてたんですが(どういう内容かは後編の冒頭を読み返していただければわかるかと)、なんか夏が終わりそうなので急遽完結。石を投げないで下さい(^^;
学園版歩夫人詳細設定も人物設定スレに上げておきましたので、そちらのほうもご一読を…
一応、孫権の江夏攻め直前を舞台とした再開編へと続く予定ですが、長編も二つ掛け持ちしているので、いつになるかは…

ちなみに人間モードのあゆみタンのモデルは、修学旅行一日目の大阪さんだったり…ちゃんぷるー!
できれば玉川様に、こども大阪を描いていただけたらと…

老婆心ながら、正史における歩夫人の紹介を…
○歩夫人
孫権の筆頭側室。のちの丞相である歩シツの一族。その美貌と優しさを孫権に永く愛された。
その地位にも関わらず、嫉妬を知らない優しい性格であり、むしろ積極的に、後宮の他の女性たちの後ろ楯になったりしていた。
孫権が皇帝を称した際、皇后に冊立しようとしたが、太子の孫登らに、側室だからという理由で反対された。ちなみに孫登は、母親が卑賤の女であったため、孫権の正室であり、こちらは烈女として知られた徐夫人に扶育されていた。(烈しい正室と、温和な側室。長男は正室に育てられる…誰かの家庭環境と似ているような気が…その長男が早死にして、後継者争いが起きるところもそっくり。こちらの場合は、孫権の日和見によりかなり深刻な事になってしまった)
しかしながら、親戚や重臣からは中宮(皇后の尊称)と呼ばれ、宮中では皇后同然の扱いを受けていた。
問題が解決しないまま十数年が経った頃、ふとした病で急死してしまい、孫権はその墓前に皇后の印綬を供え、その死を惜しんだと伝えられている。

ちなみに孫権との間に二女をもうけており、姉が魯班、字を大虎。妹を魯育、字を小虎といい、姉の魯班は重臣の全ソウに嫁ぎ、母親の歩夫人の死後、その寵が薄れることを恐れ、個人的に対立していた王夫人や、その息子の孫和を讒言して遠ざけさせ、孫権の生涯の汚点のひとつである「二宮の変」における、孫覇側の黒幕となった烈女であった。
それ以前にも、魯班は母親の威を笠に着て好き勝手に振舞っていたらしく、どうやら歩夫人は、良妻ではあっても賢母ではなかったらしい。その全責任を歩夫人にかぶせるのは酷というものだが

340 名前:★ぐっこ@管理人:2003/08/30(土) 00:54
雪月華作品キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

うーん。さすがの一言!小ネタのバランスもいいなあ…。冒頭で三度ワロタ。
そして案外さばけてる周瑜たんハッケーン。なるほど、孫策たんとはそういう仲だったのか(^_^;)
まさに主従逆転。堅姐ェも孫姉妹の中で無敵。ええなあ…

でも今回は孫権たんに激烈に萌え。やはり動物好きなのね(゚∀゚)
心温まるエピソードや…


それにしても、あゆむタンときましたか! 人化!? 今後もしょっちゅう現れるということですが、
どういうタイミングで人化するんでしょう?あゆみたん(;´Д`)ハァハァ…

341 名前:雪月華:2003/09/03(水) 18:55
書き忘れた事 追記(人物設定スレの内容も含む)
>周瑜
やっぱり孫堅・孫策時代の周瑜はこれぐらいハイテンションじゃないかなって思います。
個人的な印象では、意外と喧嘩好きで、激昂する孫策を一応なだめているうちに、いつのまにか孫策が引くほど自分が怒りだしてしまう(笑)。
やたら鋭い勘と勢いで突進する孫策と、同じ勢いで突進しつつ、悪魔的な策をめぐらすため、敵にとっては孫策よりも厄介な存在(笑)
でも、孫策あっての陽気さというやつで、孫策リタイア後は本来の生真面目な部分が現れた、という感じですか。

>あゆみタン
・背中に二人ほど乗せて、長湖を泳げます。とはいっても、孫権と谷利以外は乗せようとはしません。
江陵棟近くの湖畔から、長湖さんの背中に乗って長湖を行く孫権の姿を見て
「いいなぁ…長湖さんいいなぁ…」と呟いた人がいたりします。
・人化の仕組みは…謎です(笑)。長湖さん本人にもわかっていません。
基本的に、初対面時以降は人化していません。ある意味、作家にとって扱いやすい設定(笑)

>>歩騭とのカンケイ
正史では同族、ということで結構悩んだのですが、
他の部員と比べて仲が良かった、というぐらいでしょうか…

>教授様
帰宅部連合夏の陣、大変楽しく読ませていただきました。
ある意味、任侠と友情だけで結束している(褒め言葉?)帰宅部連合の特徴が良く出ていると思います。
成都棟攻囲の話も楽しみにさせていただきます。遅レス失礼を…

>ヤッサバ隊長様
周瑜、魯粛と並ぶ諸葛亮伝説の犠牲者、魏延への愛情がひしひしと伝わってまいりました。
魏延と諸葛亮の関係は、いわば三国志の黒歴史というべきものですので、これからも楽しみにさせていただきます。
でも全ての事情を知ったうえでも、私は魏延が好きになれない…失礼。
同じく遅レス失礼しました。

今、関羽の長編が煮詰まってしまっているので、とりあえず、新しい構想に取り掛かっております。
無口っ娘倶楽部会長の左慈提唱、シチュに萌えるで、
「貂蝉を排除しようとしたために露骨に董卓に疎まれてしまうが、それでも「健気に」尽くす李儒と、彼女をいたわる世捨て人、皇甫嵩・盧植。その頃、董卓の副官になるのを嫌がって洛陽に逃げた朱儁は…」
また後漢ズ(李儒含む)に萌えてきました。将軍位や戦シーンなど、かなりifを含んでおりますが…

おまけ
ttp://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1994/
「書庫」にGo! 見つけた瞬間「玉川様のサイトかな?」と思ってしまいました

342 名前:★教授:2003/09/14(日) 23:09
■■ 帰宅部連合夏の陣! 〜第三章〜 ■■


「あの〜…これでいいんでしょうか…?」
 孫乾がもじもじと恥ずかしそうにプールサイドに現れる。
「スレンダーでええなぁ…うん、よく似合っとる」
 劉備の微妙な褒め言葉。しかし、それも孫乾には嬉しかったらしく素直に安心したようだ。
 ちなみにこの水着は孔明が『こういう事もあろうかと…』とか言いつつどこからか取り出したのだ。
 しかし、その水着はスクール水着。明らかに萌えを狙ったもので『そんかん』と平仮名で書かれたネームラベルが綺麗に縫い込まれていた。その場にいた一同が変な汗を流した一時であった。
「うむ。萌えポイント1000点を献上しよう」
「う、嬉しくないです〜…」
 満足げな孔明の言葉には複雑な顔をする孫乾。
 そんな彼女を二人の刺客が挟撃する。
「よーし、第二ラウンドだーっ!」
「いぇーっ!」
 張飛と雷同が絶妙なテンションで孫乾を担ぎ上げると、そのままプールの中に拉致していった。
「ふぇぇ…」
 困ったような泣き出しそうな表情で大人しく攫われる孫乾。彼女らしいと言えば彼女らしい。
「さて、私達も泳ぎにいきましょうか」
 黄忠と厳顔もゆっくり立ちあがると軽く柔軟体操を始める。
「孔明と子仲はどうするの?」
 すっかり回復した法正が何故か着崩れしていた水着を物陰で直しながら二人に尋ねた。
「私は遠慮しておきましょう」
「私も…もう少し眠ります」
 やんわりと遊泳を拒否する孔明とビ竺。一体何しに来ているのだろう。
「ウチはそろそろ泳ごかな…」
 ストレッチを入念に行いながらメガネを外す劉備。その途端、孔明の目の色が変わった。
「総代! 今日は泳がれない方がよろしいかと!」
「な、なんやねん。ウチが泳ぐくらい別にええがな」
「いいえ。今日のプールには不吉な空気が漂っております! 何かに取り憑かれますぞ!」
 ずずいと劉備に迫る孔明。目がかなり真剣だ。
「さ、さよか…。でも、今泳いでるあいつらにも言うたらな…」
「彼女達ならば大丈夫でしょう。紛がりなりにも我等が帰宅部の強者、凶兆など撃退する事です。しかし、総代にもし何かあれば…私は悔やんでも悔やみきれませぬ!」
「孔明…ウチの事をそこまで考えてくれてんのやな…。よし、分かった! 今日はここで日光浴してる事にするわ」
 孔明の言葉に感銘を受けた劉備はメガネを掛け直すとビニールシートの上に横になった。
「………(ふぅ…これで総代がメガネを外すという緊急事態を回避する事が出来たな。流石は私、見事な口上だ)」
 単にメガネを外されたくなかったらしい孔明は安心しながら自画自賛を脳内で行っていた。
「あっつぅ…」
 簡雍はアイスキャンディーを口にしながら気だるそうにプールサイドで足だけ水に浸けていた。元々インドア派の彼女にはそろそろ夏の日差しがきつくなってきている模様。
「それそれ〜っ」
「きゃーっ!」
 一方、プールでは猛烈な勢いで泳ぐ張飛に引張られる孫乾が可愛い悲鳴を上げていた。
 少し離れた所では雷同が黄忠にラリアットを、厳顔にドロップキックを食らっている。鬼神と化した二人の攻撃によって沈められた雷同の手には二人分の水着の上が握られていた。
 固く握り締められた手を無理矢理こじ開けようと奮闘する黄忠と厳顔。相当焦っている事が誰の目にも明らかだった。当然、こんなおいしい演出を見逃すパパラッチはいない。
「ナイスショット。連写モードで撮るよ〜」
 だらだらとアイスを咥えていた簡雍が突如覚醒。デジカメとビデオを構えて激写し始める。
「こらぁっ!」
 やっと雷同の手から自分達の水着を取り戻した黄忠と厳顔が簡雍に向かって猛然と水を掻き出した。
「あははっ。捕まるようなヘマは私はしないよ〜」
 悪戯っぽく笑うと手提げバッグから『ある物』を取り出して二匹の野獣に投げつける。
「な、なんだ…コレ。…いいっ! 誰の下着だよ!」
 黄忠は掴み上げたその『ある物』…誰かさんの下着に動揺と驚きを隠せない。大人っぽいその黒の下着に完全に困惑しきってしまう。
「ああああっっっっ!!!! それ…私の下着だーっ!!!」
 簡雍と反対側のプールサイドで法正が真っ赤な顔をしながら叫び声を上げた。
「今日は楽しかったよ♪ じゃ、また明日ねー」
 全員に向けて投げキッスを贈ると簡雍はさっさとプール場から出て行く。
「ま、待てえええぇっ!」
 怒りと羞恥で完全に紅潮しきった法正が簡雍を追っかけていく。
「法正まで行っちゃった…。…これ、どーしよ」
 びよーんと下着を広げながらまじまじと見つめる黄忠と厳顔。後で返せばいいと思う。
「もう一本いくぞーっ!」
「うう…もう勘弁してくださいー…っきゃー!」
 半べその孫乾を引張りながら縦横無尽に泳ぎまくる張飛。楽しそうではあるが中々に可哀想な光景だ。
 そんな喧騒を目を細めながら見ている劉備と孔明もいそいそと撤退準備を始めていた。

 こうして、騒がしくも楽しい一日が終わりを迎える。
 乙女達を照らしていた太陽が沈み、再びその姿を現す。
 それは飽くなき戦いの日々の訪れを乙女達に知らせる。
 これより後、今までよりも過酷な運命が彼女達を待ち受けている事を誰も知らない――


――翌日
「待てっ! 憲和ーっ!」
 怒りのオーラを発しながら簡雍を追いかける法正。
「そんなに怒るなよー。…あ、そうだ」
 逃げながら何かを思い出した簡雍。その直後に彼女の口から飛び出した言葉は法正の怒りに油を大量にぶちまける結果になる。
「昨日…『のーぱん』で帰ったの?」
「こ、ここここ…コロスーっ!!!」
 髪を逆立てながら簡雍を追う鬼女、法正。その目は殺意に満ちていた。
 いつもの鬼ごっこを繰り広げる二人が劉備の横を走りぬける。
「…本当にいつも通りやなぁ。さ…漢中制圧作戦、気張ろか…」
 ふぅと溜息を吐くと劉備は静かに会議室のドアを開く――

343 名前:★ぐっこ@管理人:2003/09/15(月) 00:32
>>341
見のがしたっ!スマソ、10日遅れのレスですが…
むう、確かに周瑜のキャラ造形、それくらいのアクがあった方がいいですねー!
どうも、私の中のキャラだといい娘ちゃん過ぎて。いわばキルヒアイス。
孫策と同レベルのバカ騒ぎしながら、常に二手先を読む知将ぶり!曹操がたじろく
ほどの美貌!…案外、学三は凄い周瑜像を世に送り出すやもしれぬ…(;´Д`)
あと、長湖さん(^_^;) あ、わたし乗れますよーって孫権たんが! 首長竜いいなあ…
歩騭たんとの絡み、ちょいと設定で考えてみますね〜。
おまけ…本家のガンダムスレでネタとして借用します、今から。

>>342
教授様グッジョブ!
以前の水着祭りの続きか〜。サリゲに悲惨な目にあってるライダー雷銅たん…
そして予告通り、お使い乾ちゃんの虜のようですな!教授様!
あっはっは!ヤッサバ隊長! 旧すくですよ旧すく!萌えポイント1000点!?
孔明め…さすがにあなどれんわ…!
しかしやはり学三における萌えは、法正が持っていってしまうのか…(;´Д`)ハァハァ
黒い下着…そしておそらく黒ストも所有しているでありましょう…
将来、手に負えない娘になりそう…。

344 名前:ヤッサバ隊長:2003/09/16(火) 08:45
>>342
旧スク…旧スク…旧スク……。
やってくれすぎですぞ教授殿!
俺の萌えハートは爆発寸前!! いや、今爆発!!

…暴走失礼しました。
想像しただけで、余りにも強烈なモノが脳裏に浮かんでしまったもので。
とにかく教授殿グッジョブ!!でしたw

345 名前:★教授:2003/10/10(金) 23:21
■■ 成都棟制圧 劉備と簡雍の決意 ■■


「…ちゅーわけで、これから成都棟を包囲するって事でええか?」
「異議無し。うー…燃えてきたぜ!」
「力に物を言わせて陥落させるんじゃないですよ、張飛さん」
 ここはラク棟会議室。最前線に立つ上将達が、今まさに成都棟に立て篭もる劉章達を降伏させる術を話し合っていた。
 論場で説き伏せようと意見する者、攻め落としてしまおうと意見する者。様々な意見が飛び交う中、最終的に決定されたのが『取り囲んで降伏させちゃおう』作戦だった。
 圧倒的な戦力差を見せつけ、アテもなく篭城を決めこむ生徒達の恐怖を煽る――そこはかとなくシンプルな手段だが、これ以上に効果的な手段もない。
 先日から法正が幾度と無く降伏を促す黒手紙を書きつづけているのも相乗効果をもたらしている。結構毒々しい内容なので割愛させてもらう事にした。
「ふむ…まあ伏線も引いてある事ですから、降伏して出てくるのにそう時間は掛からないと思いますが…」
 白羽扇を口元に当て、劉備一同及び会議室全体を見渡す諸葛亮。そして天井を仰ぐ。
「長引くと士気の低下、及び周辺組織の攻撃…特に曹操辺りでしょうか。…その辺りが心配になりますので…その際は諸将の方々、頼みます」
「…そうはならないようにしたいなぁ。劉章はんも頑張らんと降伏してくれればえぇんやけど…」
 劉備は溜息を吐くと窓を開けて成都棟の方角を哀しげな眼差しで見つめた。


「ふー…」
 簡雍は溜息を吐きながらラク棟をとぼとぼと歩きまわっていた。
 いつもの感じとは違う、少しアンニュイな表情を浮かべている。傍目から見ても悩みを抱えている事が誰の目にも明らかだった。
 彼女の心の中にあるのは、『益州校区成都棟総代』劉章の事唯一つ。
 劉備達と共に益州校区に入ってすぐに劉章に気に入られ、いつ何時でも彼女は簡雍を誘ってきた。色々な所へ連れて行ってもらったり色々な物を貰ってきた。自分達が益州校区を乗っ取るつもりで来た事も知らずに――。
 それだけに気に入られた自分が劉章を追い落とす…未だかつて経験した事のない『恩を仇で返す』事。それに戸惑いを覚えていたのだ。
「あの娘には法正同様裏切り者だって思われてるんだろーな…」
 ラク棟の中庭、池の側のベンチに腰を掛ける。自然と溜息が零れた。
「…玄徳の事だから降伏論で制圧論をねじ伏せてるんだろうけど…」
 そう呟きながらちらりと会議室のある棟を見上げる。丁度同じ時間に会議が終わっていた。簡雍の読み通り、劉備の降伏論で締めくくられて。
「最初は私もノリノリだったんだけどなぁ…らしくないや」
 ごろんとベンチに横たわると青々とどこまでも広がる空を、雲の流れを見ながら目を閉じる。
 浮かんでくるのは劉章の笑顔、声、そして哀しげな後姿。その背中が自分を『裏切り者』、『恩知らず』、『卑怯者』と蔑んでいる様に映った。
(違う! 裏切るつもりなんて…なかった!)
 心の中で全てを否定する。しかし、声は尚も簡雍を締めつける。木霊の様に、残響を残しながら全身を駆け巡る。
(違う! 違う! 違う!)
 何が違うのか、それすらもどうでもよくなっていた。とにかく否定する事しか出来なくなっていた。
 劉章の体がこちらを振り返る。哀しくも憎悪に満ちた目を向けながら。
『何が違うの? 仕方なかったなんて言わせない!』
 怒号が体の中に染み渡る。切り裂かれるような、引き裂かれるような…そんな痛みが突き抜けて行く。
 逃げ出したかった。形振り構わず、自分の立場もプライドもかなぐり捨てて遠く…遠くまで逃げ出したかった。
 だが、出来なかった。自分にしか出来ない事があったから――
 簡雍は心の中の劉章に真っ直ぐ目線を向けた。
(私は…君を…)




「…劉章はん。何で出てきてくれへんのや…」
 成都棟を取り囲んで既に何時間も経過していた。
 周囲には張飛、趙雲、馬超、黄忠といった名だたる将…そして帰宅部連合に降ってきた益州校区の雄将達が、攻め込む為の最終調整を行っていた。
 劉章の降伏をひたすらに待ちつづけた劉備にも焦りの色が強く浮かんでいる。
 そんな劉備に諸葛亮が最後通告を言い渡す。
「…部長。そろそろ…攻め込む時間です。これ以上は待てませんぞ」
「…仕方あらへんな…」
 最後通告、即ち劉章への死刑宣告に等しい言葉を劉備は苦々しく受け入れる。
 そして手を高らかに挙げると率いる全ての隊に号令を下した。
「全軍…とつげ…」
「あーあー…物々しいったらありゃしない」
 号令は最後まで続かなかった。眠そうなトボけた声が軍の中を割って飛び出してきたのだ。
 全員が声のする方を振り向いた。
「何? そんな大勢で取り囲んじゃ降伏できるものも出来ないっつーの」
 軍を割って簡雍が酒瓶を片手に劉備の前に立った。
「憲和…何しに来たんや? 今はあんたの出番とちゃうで」
 きっと簡雍を睨みつける劉備。しかし、それを涼やかに受け流す。
「玄徳。すこーしだけ時間ちょーだい。私が行って口説いてくるからさ」
「は、はあ? そ、そんな事したらあんた階級章取り上げられて追い出されるで!」
「大丈夫大丈夫。まあ、仮にそうなっても別にいいんだけどね」
 ぐいっと酒をラッパ呑みする。景気付けのつもりかどうかは分からないが豪気である事には違いない。
「憲和…あかんて」
 劉備は心配そうな眼差しを向ける。長い間ずっと自分に付いてきてくれた友人を失いたくはなかったのだ。
「あー…もう! 大将がそんなツラしてどーすんだよ、周りの士気も考えろっつーの。じゃ、行ってくる!」
「あ! 憲和!」
 簡雍は劉備の制止の声を聞かずに成都棟に向かって歩き出した。
 うなだれる劉備の肩に諸葛亮が手を置く。
「…今は簡雍殿にお任せしましょう。もし、簡雍殿の身に何かあった時は…」
「分かってる。でも…ウチはまだ憲和を失いたくない」
「…簡雍殿の仰られた通りですぞ。貴方がそのような顔をされると貴方に付いてきた全ての生徒が不安になられます。貴方は…我々の担ぐ神輿なのですから」
「…そやな。よしっ! 全軍、このまま待機! 指示があるまでそのままの態勢やで!」
 パシッとハリセンで地を叩く。その顔に迷いの陰はどこにもなかった――


「劉章…」
 簡雍は成都棟の正門前に立っていた。窺いを立てるので暫く待っててくれと言われているので大人しく待っているのだ。
「君は…私が…」
 天を仰ぎ、そして酒瓶を投げ捨てる。
「私が救ってみせるから!」


 ――簡雍が成都棟に入って1時間余り後
 劉章は簡雍に連れられて成都棟から出てきた――

346 名前:★ぐっこ@管理人:2003/10/11(土) 21:22
(゚∀゚)簡雍たんが初めて活躍らしい活躍を!
劉璋とは妙にウマがあったんですよねえ…。
しかし…孔明の前で堂々と酒をあおれるのはこの娘だけ。
あの自由奔放な生き様の裏には、イロイロと悩みも葛藤も
あったわけで。

ところで学三演義にて、簡雍たんにちょっとした設定追加予定。
たぶん皆さんが簡雍萌えになること間違いなし。

347 名前:★アサハル:2003/10/12(日) 16:19
簡雍たんはきっと普段のちゃらんぽらんな「萌え請負人」は仮の姿で
実は帰宅部連合の初期メンバーの一人として(或いはジャーナリストとして)
真面目で熱い娘なんだろうなあ、と思いました。
しかし降伏勧告に行くのに酒の香り漂わせてるのはマズいぞ簡雍さん!!(w

そういえば劉璋とか劉表辺りってまだキャラ絵ありませんでしたよね?

348 名前:★玉川雄一:2003/11/09(日) 21:15
とりあえず、以前書きかけてた『震える山(前編)』のケリつけちゃいます。
相変わらず元ネタモロパクリでお恥ずかしい限り。

349 名前:★玉川雄一:2003/11/09(日) 21:21
前編>>265  前編の2>>273  前編の3>>276 前編の4>>279

 ▲△ 震える山(前編の5) △▲

その頃、張嶷は徐質と対峙しつつ姜維たち本隊の脱出のタイミングを計っていた。しばらくは体勢を立て直した徐質の斬撃をいなしていたが、頃合いはよしと見計らうと地を蹴って猛然と反撃を開始する。
「それじゃ、そろそろ仕掛けさせてもらうよ!」
「くっ…」
先程までの守勢が嘘のように積極的に打ち込んでくるその鋭い太刀筋に、一転して徐質は防戦一方となってしまう。辛うじて左腕のシールドで受け止めてこそいるものの、このシールドというものはあくまでも補助的な装備であって連続した打撃を完全に防ぎ止めるための物ではない。打ち込まれた衝撃は吸収しきれずに腕にまで届いており、このままでは骨折、とまでは行かないにしても腕を痛めるのは確実だった。
「くうっ… 離れろーっ!」
徐質は隙を見計らって後ろに跳び、距離を空けるとエアガンを放つ。だがその射線は張嶷のシールドに弾かれて空しく飛び散るばかり。本来ならその時点で速やかに射撃を中止せねば無駄に弾を消耗するだけなのだが、徐質はトリガーから指を離せなかった。張嶷を相手に白兵戦を挑むことを心のどこかで恐れているのだろう。そして程なくしてガリガリッ、という嫌な音を発したかと思うと案の定エアガンは沈黙してしまったのだった。
「弾切れ!?」
双方は睨みあった体勢のままでしばらく時が流れる。徐質は相手の様子を窺いつつ腰のベルトに装着した予備弾倉のパックにそっと手を伸ばすが、張嶷がそれを制するようにエアガンを構える。身動きがとれないままでさらに沈黙が続いたが、再び張嶷から距離を詰めると嵩に懸かってナイフを振るう。弾切れを起こした徐質も接近戦で応じなければならず、弾倉交換のために距離を取るだけの余裕は皆無だった。しかし度重なる衝撃に耐えかねたのか、シールドを腕に固定するバンドの一本がバツン、と弾ける。こうなると効果的なガードはもはや不可能となってしまい、腕への衝撃は一層激しさを増す。だがそれでもなお斬撃をシールドで受け続けることができているのは彼女もまたいっぱしの格闘センスを有している証でもあった。
「はッ、反射神経だけはいいようね!」
張嶷も相手がそれなりの力量を備えていることを確信したが、さすがに業を煮やしたかこれまでの連続した攻撃から一旦呼吸を置くとナイフを持った右腕を振るう。
「だけどこれが… 避けられるかッ!」
瞬間、放り出されたナイフがあらぬ方向に飛んで行くのが徐質の視界に入る。 −そして、ついそれを目で追ってしまったのだ。
(しまった!)
近接格闘戦では、ほんの一瞬でも相手から視線を逸らしてしまえば致命的な隙を生むことになる。その間隙を埋めるべく視線を戻した時にはもう、眼前には急突進してきた張嶷の姿が迫っていた。
「目の良さが命取りよ!」
ズンッ!
「ぐうっ…」
肉薄した張嶷が放った拳が徐質の鳩尾に吸い込まれる。このままではやられる… と遠のいてゆく徐質の意識は、しかし途切れる直前に投げかけられた声で辛うじて引き上げられた。
「まだ終わっちゃいない。悪いけど、もう少し生きててもらうよ」
背後に回った張嶷が、がっちりと徐質の腕を絡め取る。動きを封じられた徐質は、これから自分はどうなるのだろうと考えようとしたが、茫洋とする意識の中でその答えは浮かんでこなかった。


「し、主将!」
「なんてことよ…」
デポ(装備補給所)で弾薬を補充して駆けつけた胡烈と牽弘の目に最初に映ったのは、ぐったりとした徐質と背後から彼女の動きを封じている張嶷の姿だった。
「畜生、弾を補充しに行ってみりゃこのザマか…」
「そのままじゃアンタらもやられてたわよ! 今は狙撃班を死守よ、死守!」
ぼやく胡烈に楊欣が半ばヤケになって応じる。張嶷は徐質の腕を固めながらも器用に自らのエアガンの弾倉を交換していたが、胡烈らがやってきたのを見ると徐質をグイと立たせてその姿を見せつけると、挑発するように言い放った。
「安心しなさい… まだ、この娘は『生きて』いるわよ!」
張嶷は実質上ダウンしている徐質のとどめを刺そうとはしないでいた。彼女の存在を人質をすることで08小隊や狙撃班の行動を掣肘し、ひいては姜維らの脱出へ時間を稼ごうと企図していたのだ。牽弘は不安げに徐質の様子を窺ったが、目立つ傷こそないものの表情は朦朧としており、張嶷から受けたダメージは確実に利いているようである。
「主将… 私達、どうすればいいの…」
残念ながら徐質にその声は届いてはいない。だが、その意識の中では何かが少しずつ浮かび、形を結びつつあった。

 続く

350 名前:★玉川雄一:2003/11/09(日) 21:24
前編>>265  前編の2>>273  前編の3>>276 前編の4>>279 前編の5>>349

 ▲△ 震える山(前編の6) △▲

(あ、ここは…)
朦朧とする意識の中、徐質はある光景を『思い出して』いた。そう、これは現実ではない。半覚醒状態にある意識が辛うじてその事だけは気付かせている。
(そうだ、これは主将の任命式ね)
無数の女生徒で埋め尽くされた大講堂。その壇上に横一列に並んだ女生徒の、さらに筆頭に彼女はいた。蒼天学園生徒会による主将の任命式で、徐質はこの度の首席たる栄誉を担ったのである。通常は各校区、あるいは各所属組織単位で行われる主将位の授与だが、この時は折しも夏侯玄、張緝、李豊らによる執行部中枢でのクーデター未遂が発覚した直後であり、生徒会長である司馬師が自己の権勢を誇示するデモンストレーションの一環として大々的に執り行ったものだった。そんな中、雍州校区代表であった徐質はその成績優秀なるをもって全校区(とはいえ現在蒼天会および生徒会の威令が及ぶのは学園の半分に過ぎないのだが)から選抜された任命者の首席として式に臨むことになったのである。
(あの場所で、あの人たちの前で… 私の実力を、認めて貰えたんだ)
彼女は高等部に進級して以来、いささか腕に覚えのあることもあって体育会系を志していた。進級する以前より高等部の先輩たちのさまざまな活躍の噂は流れてきていたが、彼女の心を捉えたのはやはり『武勇伝』の数々だったのだ。

学園史上最強とも評された孤高の戦士・呂布。
王道を夢見てひた走った顔良と文醜。
万人の敵と称された関羽と張飛。
長坂を単騎駆け抜けた趙雲。
義心あふれる神箭手・太史慈。
湖上を駈ける無頼の女夜叉・甘寧。
無双のファイター・許チョ。
長湖部の心胆を寒からしめた張遼。

中でも張遼の活躍は中等部を席巻し、「夜更かししていると張遼が竹刀持ってシバきにやってくるぞ!」と喧伝されたものであり、皆がその噂を冗談半分に楽しむ中で徐質は一人、“鬼姫”の名に似合わぬお下げ髪だという姿が本当に現れはしないかと密かに期待を抱いてみたりもしたのだった。だが、今やこういった人々はみな既に学園を去っており、『伝説』として語られるのみである。そして昨今の学園においてはといえば、残念ながらあの頃に匹敵する伝説を築くべき者は見られなかった。
(それならば、私がなってみせる!)
徐質は己の鍛錬に務めて主将の座を勝ち取った。そして、あの晴れの場において生徒会長の司馬師から直々に主将の任命書と徽章を授与されたのだった。
『おめでとう。貴女の力、存分に発揮してね。 ……期待しているわ』
『は、はいっ! 頑張りますっ!』
今をときめく学園の支配者の言葉は、いまだ夢見る少女の心をどこかに持ち続けていた徐質に染み渡った。この時の晴れがましい気持ちは強く心に刻み込まれ、支えとなったのである。しかし、あくまでそれは彼女にとって通過点として位置づけられるべきものだった。目指す高みは遥か先にあり、その途中には挫けそうになることもあるだろう。だが、それを乗り越えた者こそが伝説を残す資格を許されるのである。

(だから、こんな所で負けるわけにはいかない…!)

徐質は強く念じた。そしてそれが彼女のスイッチを再び入れる。澱んでいた意識が急速に鮮明化してゆく。辛うじてエアガンを保持していた手がピクリと震えると、それに気付いた張嶷は待ちかねたように不敵な笑みを浮かべた。
「あら、ようやくお目覚めのようね?」
「くっ…… そっ、れーーっ!」
闘争本能を急速に再充填し、全身にくまなく行き渡らせる。異常なく身体が動くと認識できた瞬間、景気づけとばかりに抑え込まれた体勢のまま両脚を跳ね上げると、背後の張嶷に向けて思いきり蹴り飛ばした。予想以上の再始動に思わず二、三歩後ずさった張嶷だが、そうこなくっちゃ、とばかりに体勢を整え、先程放り投げたナイフを回収する。その間に徐質は左腕から半ば外れかかっていたシールドをもぎ取ると、それを振りかざしてしゃにむに打ち掛かった。
「私はっ、勝つッ!」
「くっ… ふんッ!」
この時、徐質の攻撃は技量うんぬんというよりは気迫に支配されている。それだけに先を読むことは困難であり、張嶷はしばし防戦に徹していたのだが、何度目かの打撃とともに徐質の放った言葉が彼女をとらえた。
「勝ち抜いて… 学園の頂点を極めるッ!」
「なにっ!?」
昨今ついぞ耳にしたことのなかったその言葉に思わず張嶷の動きが止まりかける。学園の頂点を? 己の腕一本で? 数年前ならばともかく、この膠着した情勢下で… いや、今であればこそその『若さ』が輝くというわけか…
恐らくは深く意識して発せられた言葉ではなかっただろう。だが、その偽らざる覇気が老練な張嶷に空隙を作った。あるいは彼女もまた、入学当初の自分の姿に重ね合わせていたのだろうか。しかし、その空隙は徐質にとって好機以外の何物でもなかった。続いて繰り出された一撃が張嶷の側頭部を捉える。
「くうっ…!」
もとより決定打とはなり得なかったが、頭を揺らされた張嶷は一旦退いて体勢を立て直すことにした。あるいは、先程の徐質の言葉が思いのほか後を引いていたのかもしれない。
(自分の腕前で、やれるところまでやってみる、か… そういうの、最近忘れてたかもね…)
張嶷が姿を消した後、牽弘と胡質が徐質の元へと駆け寄る。土壇場からの復活を喜び合う三人だったが、楊欣の声がそれを遮った。
「みんな、まだ終わってないわよ! 本隊のお出ましだわ…」
「ええっ!?」
その一言で粛然とする08小隊の面々。帰宅部連合に対する脱出阻止体勢が大幅に崩れつつある今、再包囲を行わなければ大魚を取り逃がす事になりかねなかった。だが、以前その包囲網を単身押し返した張嶷はいまだ健在である…

 続く

351 名前:★玉川雄一:2003/11/09(日) 21:25
前編>>265  前編の2>>273  前編の3>>276 前編の4>>279 前編の5>>349 前編の6>>350

 ▲△ 震える山(前編の7) △▲

その頃裏門では、脱出体勢を整えた帰宅部連合本隊がいよいよ行動を開始しようとしていた。最前列にはなけなしの射撃班が銃口を揃え、押っ取り刀で駆けつけた生徒会勢の小隊へと狙いを定める。
「…撃ちます」
夏侯覇が前方を見据えたまま投げかけた起伏を欠く声に、姜維もどこか冷めたような表情で応じた。
「では、始めよう」
それを合図に、夏侯覇は差し上げた手を前方へ向かって振り下ろす。タタタンッ、という一連の銃声と共に生徒会勢が倒れ伏したのを見届けて、姜維は麾下の総勢に向かい直ると今度こそ辺りを圧する声を放った。
「突撃開始! 先鋒は夏侯覇、続いて傅僉! 中軍は句扶、後衛は廖化! 殿は私が引き受ける!」
号令一下、一団、また一団と裏門を飛び出てゆく。この中でどれほどが帰還することができるか… そう思うと、姜維の口は我知らず動いていた。
「…みんな、南鄭まで生きて戻るのよ!」
「おーーーっ!」
次々に駆け抜けてゆく女生徒達の顔には皆、深い疲労の色が浮かんでいる。だが、彼女らを辛うじて奮い立たせているのは意地と、気力と、そして奮戦する張嶷の雄姿だった。誰もが全て、彼女のような超人的な活躍ができるわけではない。だが、その姿は多くの少女達の目に焼き付き、胸に刻み込まれた。そして今、挫けそうな心を支える巨大な拠り所となっていたのである。
−それはもう、ひとつの新しい伝説の始まりでもあった。
(貴女には、まだみんなを導いてもらわなければ… だから、必ず…!)
姜維は今一度、張嶷が残っているであろうグラウンドに視線を向ける。そして強く念じるように胸の前で手を握りしめると、最後尾の集団に加わって走り出した。


校舎裏手から聞こえてくる微かな喊声に気付いたとき、張嶷は再び徐質と対峙していた。双方とも右手にナイフを構え、間合いを保って睨みあったまま互いに機を窺っている。そんな中、張嶷は目の前の少女の言葉に思いを馳せていた。
(いい気概ね。腕の方はまだまだ伸びるでしょう。後はあの気持ちを忘れなければ、あるいは本当に…)
そこまで考えて、不意に笑いがこみ上げてきた。とんだ迷い言を… 現にあの娘の目の前には、“私”がいるではないか。単身での要人救出という華々しい学園デビュー以来築き上げてきた功績は数知れず、今や帰宅部連合でも五指、いや三指に数えられるまでに上りつめた。徐質に比べれば、『頂点』は遥かに近いはずだった。だが彼女もかつては輝かせていたはずの大望は、日々の忙しさにかまけていつしか心の奥底に澱んでしまっていた。それを、この少女が再び揺り起こしたのだ。
(もっとも、頂点を目指すだけが『華』じゃないわね。自分が満足して戦えるなら、今ここで…)
「学園の頂点を極める、か。案外と、手に届く夢かもよ… でも、負けないッ!」
万感の思いを込めて全身に闘志を充填し、張嶷は真っ直ぐに徐質へと向けて駆け出す。この一撃で決まる− 徐質も自然にそれを悟った。ナイフを握った右手を振りかぶり、一気に距離を詰める。その瞬間、張嶷が地を蹴って覆い被さるように飛びかかってきた。
「!!」
徐質を驚愕させたのは、明らかに実態以上に視界を圧する張嶷の姿− 否、厳密にはそうではない。まったくのガラ空きとなったその体… 乾坤一擲というにはあまりにも無防備すぎるその体勢に、考えるより先に体が反応した。防ぐもののない張嶷の左脇腹めがけ、ゴム製のナイフがしたたかに打ち付けられる! だが…
「勝ったぞ!」
その声を発したのは張嶷だった。徐質の背にゾクリと走る悪寒。そして頭上に響くエアガンの連射音。
タタタタタッ!
「きゃあああああっ!」
「しまった!」
最後の一連射、その射線が吸い込まれてゆく先には、狙撃兵301嬢。

肉を切らせて骨を絶つ、文字通り捨て身となった張嶷の一撃は狙い過たず最後の狙撃手を葬り去った。だが同時に、何の防御も考慮していない左脇腹への一撃は徐質の名誉に賭けて『致命傷』たり得ていた。詰まる呼吸、薄れる意識… 刹那、南中校区での日々が頭をよぎる。苦難の末に結ばれた固い友情の絆、皆の笑顔… そして張嶷は己の最後の戦果を確認すると、意識を闇に委ねる。
(伯約、約束は守ったぞ… 後は、アンタ、が…)
張嶷はそのまま崩れ落ちると、乾いた地面にひとしきり砂埃を舞い上げた。


−停止した時間の中で、徐質は時間の感覚はおろか一切の外部情報から途絶していた。恐怖すら抱いた敵への確かな一撃と、『護るべき者』の悲鳴。その二つの事実の整合性が取れずに頭の中でグルグルと回っている。勝利− 何が我々の勝利か? 喜びの浮かばぬ勝利があるというのか…
やがて真っ白になっていた彼女の中で少しずつ時間が流れ始める。最初に目に映ったのは、右手に握りしめたナイフ。続いて、眼前に横たわる少女。己に課せられた責務を成し遂げたその顔は埃にまみれながらも安らかで、意識こそ失っているが胸元は規則的に上下動を繰り返していた。
「そうだ、私が、倒したんだ、この人を…」
いまだおぼつかない足を数歩踏み出し、跪く。バトルでうち倒した相手からその身の証を奪い取るのは学園の規則、バトルのルール、そして勝者の権利。青いジャージに留められたゼッケンを丁寧に取り外すその瞬間、いまだ目覚めぬ体がピクリと震えたのは気のせいだったろうか? 徐質はゆっくりと立ち上がり、新たなる伝説の体現者に一礼する。

帰宅部連合所属盪寇主将、張嶷、字を伯岐。仁・智・雄を折り重ねてきた学園活動は、そのおそらくは本分とするところをもって幕を閉じた。

−彼女の最後の死闘は新たなる伝説として、これ以後学園の歴史の中で長く語り継がれることになるだろう。
(私は、伝説に名を連ねるだろう。でも、それは添え役として… 私が、自身が、主役となるためには、まだ…!)
そこに駆け寄ってくる仲間達の声が、急速に徐質を現実へと引き戻してゆく。
「主将、無事だったか!」
「アイツを… 倒したんだね! やったじゃないか!」
「でも、狙撃班は…」
そう、局地戦は一つの幕切れを迎えたが、まだ敵は、敵の『本隊』は残っているのだ。目の前の敵を一つ一つうち倒し、そしていつかこの手に栄誉を勝ち取る日まで。戦いの道を志した少女の前に開かれた修羅の道、その終着点は遥か遠くか、あるいは一寸先か… 今また新たな一歩を踏み出す徐質の全身に、一回り強さを増した力がみなぎり始めていた。

「遺憾ながら、狙撃班は全滅した… 今、追撃の先鋒は我々だ。 …行くぞ!」
「おーっ!」

学園の戦雲は、いまだ果てることなく激しく渦巻いていた。

『震える山(前編)完』

352 名前:★玉川雄一:2003/11/09(日) 21:34
はい、お粗末様でした。
何度でも強調しておきますが原作を丸のままトレースしてますので、
オリジナリティのカケラもございませぬ。

ラストがジャンプの「第一部・完」みたいになってますがまさのその通りで、
この後に『震える山(後編)』がこないといけないのですが…
今度はさすがに元ネタとは別の話になるのですが、どう続けるかは未定でして。

ぶっちゃけ、今後の追撃戦で徐質は姜維に飛ばされちゃうんですよね。
せっかく前編で徐質がイイ感じに目覚めたのに速攻であぼーん、つうのもアレですが…
まあせいぜい姜維と華々しい一騎打ちでもやってもらうかしら…とも思いつつ、
バトルシーンの描写はちょっとネタ切れ気味(今までさんざパクってたくせに)でして、
いずれ再開するとしても後編は絶対短いです。

353 名前:★ぐっこ@管理人:2003/11/10(月) 01:00
くわっ! 何か今回は徐質たんが凄い主役ッ!
…て、確かに次回あぼーんでしたわな(^_^;) 姜維てずからの反撃で…
うーん。彼女らの世代になると、往年の「武力90代」の少女達はもはや伝説の
領域になってしまうわけで。
義兄上、相変わらずのド迫力SS乙であります!
いっぺんこのスレの正史該当作品を年表に入れ込んでいかなきゃなんないな…

そして…張嶷たん…・゚・(ノД`)・゚・
私、学三玉絵の中では、この娘が一番好きなんだなあ…


サチーソ…
帰宅部連合の華だったのに…。

やはり義兄上の続編に激しく期待しまつ。せっかく徐質たんのキャラも立ったこと
ですし、もうひと活躍の場を与えてあげて欲しいです〜

354 名前:★ぐっこ@管理人:2003/11/14(金) 22:59
アサハル様の神絵が!


くそ、出遅れた。張嶷たん…・゚・(ノД`)・゚・

355 名前:★玉川雄一:2003/11/15(土) 00:19
ううっ… 私のへっぽこ作品にはもったいないご真影を…
感謝の至りでつ。散っていった彼女もさぞや喜んでいることでしょうて。

しかし、この続きホントにどうしましょう_| ̄|●

356 名前:★教授:2003/11/18(火) 22:49
■■突発ショートショート 〜場繋ぎでごめんなさい編〜■■


▲ある日の光景

「あ…」
「あーっ! 入稿2日前なんやでーっ!」
 インクまみれの原稿用紙。劉備のハリセンで星になった張飛。

「音悪いなぁ…ぐええっ!」
「なんですって!?」
 孫策が周喩のチューニングにケチを付けた結果が首締めだった。

「…煙草やめよっかな…」
「ね、熱でもあるの?」
 ぼそっと呟いた郭嘉に変なツッコミを入れる陳グン。

「法正〜、何読んで…」
「………見たわね」
 法正がゆらりと簡雍を追い詰める。その手には『究極のバストアップ術』が…。

「闘魂注入!」
「ぬぁ…」
 甘寧の平手打ちが凌統に炸裂。

「今年こそ張遼を葬りたいです」
「今年は李典を滅殺したいです」
 李典と張遼の書初めを見ながら胃薬を飲む楽進。

「義真…おねーさまから電話だよ…」
「んなっ! 切れ! 若しくはいないって言え!」
 姉からの電話に本気でびびる皇甫嵩。朱儁も小刻みに震えてた。

「………」
「………」
 明りも付けずに部屋の隅。黄忠と厳顔が20本の蝋燭の立つケーキを無表情に見つめていた。

「興覇のマネ」
「びみょー…」
 甘寧のコスプレをする魯粛。苦笑いするしかない呂蒙。

「待った…一生のお願い!」
「一生のお願いを一日に何回してんだよ…諦めろって」
 将棋盤を前に曹操、渾身の土下座。呆れる夏侯淳も仕方なく了承。


▲ちょっと気の早い正月ネタ

「………くー…」
「………ぐぅ…」
「…蜜柑美味しいですね」
「…うん」
 麻雀牌が転がるこたつを囲んで法正と簡雍の寝正月、蜜柑を頬張る伊籍と馬良。新年早々やる事はないのだろうか。

357 名前:★玉川雄一:2003/11/19(水) 19:49
>一生のお願いを一日に何回してんだよ
激しくワロタ。
乱世の姦雄たるもの、こうでなくっちゃね! ……ね?

358 名前:★ぐっこ@管理人:2003/11/20(木) 01:01
ワロタ! 教授さまグッジョブ!
わあ、なんかこういうショートショートもいいなあ!
なにより姐さん達が。めっさ風景想像しちまう!
誰がローソク立てたんだ!

359 名前:★ヤッサバ隊長:2003/11/27(木) 19:02
ネタ投下。


「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった蒼天にこだまする。
中華(なかはな)の地に集う乙女たちが、今日も(一見すれば)天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、赤いクロスタイは翻らせないように、
ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、バイクや自転車に乗って遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。(ごく一部除く)

蒼天学園。
戦後創立のこの学園は、もとは良家のご令嬢が帝王学を学ぶためにつくられたという、
伝統ある超お嬢さま学校である。
華夏学園都市。東に長湖を、三方に山を望む緑の多いこの地区で、鍾馗に見守られ、幼稚舎から大学までの帝王学の一貫教育が受けられる乙女の園。
時代は移り変わり、始会長・政の時代より年号が三回も改まった今日でさえ、
十八年通い続ければ立派な財閥主席秘書、女総帥、大奥様などが世に送られる、
という仕組みが出来上がっている尚武と権道を重んじる貴重な学園である。



学三を「マリみて」風にしてみますた。
しかしグコ兄ィが考えてる「学三演義」の冒頭と被ってる可能性大(^^;
ところで、「学三」の舞台って後漢市なのか、それとも中華市なのか、どっちなのでせうか?

360 名前:★ぐっこ@管理人:2003/11/27(木) 23:41
(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル…かぶってるよ…かぶってるよ!
どうしよ…出だし…まあいいか…ガイドラインになるくらいなんだから…

ちなみに後漢市は年代を限定してしまうので、中国史全般に使えるよう、中華市に改名されました(^_^;)

361 名前:★ヤッサバ隊長:2003/11/28(金) 09:23
ぐは…やっぱり被ってましたか(^^;
ただ、漏れのはまだまだ精錬が足りん訳で、グコ兄ィには学三演義で是非「完全版」などを頂けたら幸い。

>中華市
ふむ、やはりそうでしたか。
んじゃ、これからもそう認識させて頂きますわ。

362 名前:★アサハル:2003/11/28(金) 17:25
>スカートのプリーツは乱さないように、赤いクロスタイは翻らせないように、
>ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。

思いっきり「うそぅ!?」(by無双袁紹の中の人with裏声)と叫んでしまいますた(w
いや、間違いなく登校がてら犬の散歩をする人(竇武裏設定)とか遅刻ギリギリでも
ないのに窓から入ってくる人とか(忍者部)セスナで登校する人(誰だ)とか
毎日変な乗り物で参上し毎日墜落させる人(諸葛亮?)とか寧ろ校舎に住み着いてる
人とか何とかその他諸々絶対いる!と思ってました(^_^;

どうでもいいですが「華夏」って「かなつ」だと思ってました。
「はななつ」だったんですね…

363 名前:★ぐっこ@管理人:2003/11/29(土) 14:11
>>361
ドンマイ! ノシ
つうか、現在の党錮SSに、「司隷特別校区」バージョンとして一部採用。
学園全土で言えば、「毎日変な乗り物で参上し毎日墜落させる人w」とかが続出
してそうですが、司州に限っていえば、「古き良き時代」は皆お嬢さまめかして
たんではないかと推測。

>>362
竇武裏設定ゲト。というか、竇武たんの従妹の竇紹たんがマイブーム。元ヤンキー(;´Д`)ハァハァ…
ところで「学三マリみて」たる「仲挙さまがみてる」は、突然「李膺さまがみてる」に
変更になりました…やはり離れて見る観察対象としては、突っ走りやすい陳蕃の方が面白そう。
逆に融通がきかないけどお人好しの李膺さんこそ、主人公のお姉様にふさわしくて…

364 名前:雪月華:2003/11/30(日) 08:39
白馬棟奇譚 ─前編─

 深夜11時。河水のほとり、エン州校区白馬棟の二階の一室には、まだ明りが灯っていた。おりしも曹操が下[丕β]棟にて呂布一党を覆滅し、宛棟の張繍、寿春棟の袁術、揚州校区の孫策らを相手に謀略戦を仕掛けながら、カントにて袁紹勢力との緊張が高まりつつある、まさにそのときである。曹袁両勢力の境目である白馬棟は、いわゆる最前線であり、来るべき決戦に備え、劉延をはじめとする30人が遅くまで居残り、校門やバリケードの補修、新規敷設や、サバゲーの訓練などを行っていた。
 分厚いカーテンの隙間から漏れる明りの質は弱々しく、光源は蛍光灯や白熱灯ではなく、ランプかロウソクの類である事が推測できた。当然、棟の外からは中の様子を窺い知る事はできない。

 白馬棟二階の、今は空き部屋となっている化学準備室。その部屋に漂う妖気は、この世のものではないようであった。ガラスの髑髏や奇妙な形の燭台、出所の知れない骨etcetc……ありとあらゆる黒魔術の小道具が、ある種の法則性に基づいて、いたるところに配置され、複雑な意匠の入った六芒星が描かれた魔方陣のシートが、四方の壁と床、天井に貼られていた。
 床の魔方陣の傍に、制服の上に西洋の魔女、いわゆるウィッチの纏う、人血で染め上げたかのような真紅の裏地を持つ、闇を固めたような黒いマントと、これまた魔女の用いる漆黒のトンガリ帽子をかぶった、つややかな黒髪の女生徒が佇み、怪しさ満点の分厚い書物に見入っていた。
「………」
 左手に書物を持ち、空いた右手で空中に印を結んでいる。ぼそぼそと呪文らしきものを呟いているが、あまりにも小さい声なので、たとえ傍らに居たとしても聞き取る事はできないはずであった。たとえ聞き取れたとしても、書物はラテン語で記されており、必然的に少女の呪文もラテン語となるため、内容を理解できる者は、ごく僅かであろう。
 怪しい彫刻が入った蝋燭の炎が揺らめき、それまで影になってよく見えなかった少女の顔が一瞬、明らかとなった。学園全体でも十指に入るであろう、憂いをたたえた瞳が印象的なその美貌を、蝋燭の心細い光が妖艶に浮かび上がらせている。
「……?」
 突然、少女の動きがぴたりと止まった。その視線は、床の魔法陣に釘付けになっている。それもそのはず、今まで何の反応も示さなかった魔方陣が、淡い燐光を発し始めていたのだ。その光は徐々に強さを増し、それに共鳴するかのように、天井と壁の魔方陣も輝きを発し始めていた。
「………!」
 狼狽し、それでもミクロ単位でしか表情を変えずにいた彼女の目の前で、突如、光が奔騰し、もと化学準備室は無彩色に染め上げられた。

 次の日 夜 深夜10時

 明りの消えた白馬棟の校門前に、二台のMTBが滑り込んできた。
「夜の学校という存在は、どこか得体の知れない雰囲気があるものだな、張遼」
「まったくですね、雲長」
 駐輪場が無いため、校門脇にMTBを止めたのは、先日、生徒会入りしたばかりの、もと呂布部下であった張遼と、現在、許昌棟でかごの鳥も同様の扱いを受けている、豫州校区総代にして蒼天会左主将である劉備の、義妹である関羽の二人であった。
 とりあえずその場にMTBを置くと、護身用の木刀を携え、六時の時点で、居残りの生徒が怖がって帰ってしまったため、全ての明りが消えている校舎に、二人は足を踏み入れた。問題があった、どうやら棟全体のブレーカーが落ちたままになっているらしく、昇降口の電灯スイッチが何の反応も示さないのだ。懐中電灯の持ち合わせも無いので、月明かりだけを頼りに、二人は夜の学校の奥へと、足を踏み入れていった。
 二人がこんな時間にここを訪れる羽目になった原因は、今朝、白馬棟にて、昨夜最後まで居残っていた生徒十四人が、校舎外で折り重なって倒れているのが発見された事にある。全員、二階の廊下の窓から外に落ちたらしいが、幸いにも、誰もが重くとも腕の骨折程度で済んでいた。だが、何者かとの闘争の結果、で片付けるには、奇妙な点が二つあった。
 ひとつは、階級章には手がつけられていなかった事。もうひとつは、落下時の捻挫、骨折以外に外傷が無いにもかかわらず、今朝からずっと、14人全員に昏睡状態が続いている事である。
 まがりなりにも、白馬棟は対袁紹勢力の最前線である。おかしな噂が立っては来るべき決戦に差し障りが出るとして、放課後一番に現場検証が行われたが、2階の落下地点の窓が枠ごと外れていた事以外は、何ら収穫が無かったと言ってよい。一応、落下した窓と、廊下を挟んで対面に位置する、もと化学準備室も調査されたが、もぬけの殻で、壁にかけられた、姿見の大きな鏡以外に、何の発見も無かった。
「それで、会議が開かれまして、深夜に調査員を送ることになったのです。そこで、真っ先に自分が行くと言い出したお調子者が1人いましてね」
「曹操殿だな」
「御名答。まさか副会長を行かせるわけには行きませんので、武道の経験のある者から、くじ引きで決めることになりまして」
「それで、おぬしが選ばれたわけか。しかし、何故拙者を誘ったのだ?呂布時代の同僚で、同じ剣道部の魏続や宋憲がおるであろうに」 関羽の問いかけに、張遼は憮然として答えた。
「下[丕β]棟の陥落以来、彼女達とは気まずくなっていまして。私自身は気にしていませんが、彼女達は、呂布を売った事を過剰に気にしているようで、避けられてしまうのですよ」
 さらに言えば、張遼は剣道部にも上手く溶け込めていない。呂布討伐後、張遼をはじめとする新規生徒会入会者への歓迎会の座興のひとつとして、蒼天会長観覧のもと、公認剣道場『玄武館』で御前試合が開かれたことがある。
 その試合において、張遼は防具をつけずに、李典、楽進、徐晃を、まったく竹刀を打ち合わせることなく撃破し、于禁とは、一度竹刀を打ち合わせただけで、わざと時間切れで引き分けたのである。それ以来、比較的に人あたりのいい、楽進や徐晃とはうまくいっているものの、李典からは血縁者の仇と憎まれ、かたぶつの于禁は、不遜な張遼をあからさまに嫌っていた。また、実戦で剣術を磨いてきた張遼は、剣道の基本である、打ってはポンと跳ね上げる『打突』や、肌の前でピタリと止める『寸止』が上手ではなく、つい、いつもの癖で打ち抜いてしまうため、一般部員からの評判も良くなかった。得物が竹刀であり、防具があるとはいえ、小手を打ち抜けば手首が腫れ上がり、面を打ち抜けば重度の眩暈を起こし、胴を打ち抜けば吹き飛んでしまう。それでいて、受け太刀というものをまったくせず、相手の打ち込みを足捌きのみでかわしてばかりいるので、まったく稽古にならないのである。そのため、一応は徐晃、楽進と同列である剣道部師範の肩書きはあるものの、張遼は放課後、玄武館には顔を出さず、MTB機動部隊の訓練に専念していた。
「音無しの剣か。あの徐晃すら軽くあしらったおぬしに、はじめて竹刀の音を立てさせるとは、于禁殿も伊達で公認剣道部の部長を張ってはおらぬということだな」
「雲長、意外に見る目がありませんね。なるほど、于禁さんの風格や、剣の知識は人一倍ですが、実際はたいした剣士ではありませんでしたよ。ただ、あの状況では、彼女の顔を立てておかないと、ただではすまなかったでしょうから」
「并州の孤狼、『剣姫』張遼も、さすがに命は惜しいか」
「何を勘違いしているのです?袁紹との決戦を目前に控えているのに、剣道部を全滅させるのは、さすがにまずいと思ったからですよ」
 傍若無人ともいえる張遼の放言に、関羽は眉をひそめた。
「不遜だな、張遼」
「他人のことが言えるのですか、雲長?」
「拙者はまだ、おぬしの返答を聞いてはおらぬぞ、何故拙者を誘った?」
「では、あなたは何故ここにいるのですか?」
「色々と、おぬしに聞きたいことがあったからだ」
「奇遇ですね。私も、そういう理由からあなたをお誘いしたのですよ。卒業まで肩を並べているにせよ、今から1分後に、どちらかがどちらかをトばしているにせよ、お互いのことをよく知るにしくはありませんからね」
 数十秒前から、二人の間で高まりつつある殺気が、臨界点に近づきつつあった。近くに誰かいれば、その殺気だけで失神してしまうかもしれない。
「……じつに後者を選択したくなってきたぞ、張遼」
「今、ここで決着をつけますか、雲長?」
「望むところだ」
「仕事を終えてからです。着きましたよ」
 関羽の威圧を、さらりと張遼は受け流した。いつのまにか、二人はもと化学準備室の前に到着していた。廊下を挟んで向かい側の窓には、応急処置のベニヤ板が張り付けられ、外からの月光を遮っている。奇しくも、満月の夜であった。
「カギはかかっておらぬのか?」
「空き部屋ですので、普段はかけていません」
「では、行くぞ」
 そう言って、関羽が、引戸の取っ手に手をかけようとした。

365 名前:雪月華:2003/11/30(日) 08:42
白馬棟奇譚 ─後編─
「……!雲長、危ない!」
 何かを感じ取った張遼が、関羽の肩をつかんで思い切り引き戻したのと、内側から爆発的な勢いで引戸が弾き飛ばされたのは、ほぼ同時であった。弾き飛ばされた引戸は、関羽をかすめ、窓代わりのベニヤ板に衝突し、それを突き破りつつ、3m下の地面へ落下していった。
 室内を覗き込んだ張遼は、驚きの色を隠せなかった。数時間前までは、完全な空き部屋であったはずの、もと化学準備室内は、完全な悪魔召喚の間と化していたからだ。天上、壁、床に貼られた魔方陣は、淡い燐光を発し続けており、室内の各所に幾何学的に配置された小道具の類は、それ自体が生命を持っているかのように、カタカタ揺れ動いている。
 そして、床の魔法陣の中央にうずくまっていた黒い影が立ち上がった。マントの襟をそばだて、とんがり帽子を目深にかぶっているため、その顔は良く見えないが、マントの下には、張遼と同じ制服を着ていることから、同じ高校生と知れた。
「張遼、これは一体……」
「何者かに憑かれているようですね。先程の衝撃波といい、彼女にとり憑いたモノが、今朝の事件の犯人に違いありません」
 そう言いつつ、一歩室内に踏み込んだ張遼に、水晶の髑髏が唸りを上げて飛来してきた。張遼は、それを難なく払い落とし、床に叩きつけて粉砕した。続けざまに飛来する、色とりどりの瓶や、出所の知れない骨も、次々とそれに倣った。
 突然、室内が夕暮れ色に染まった。いつのまにか、天井近くまで浮き上がっている女生徒の両手に、炎が燃えあがっており、熱気が張遼と関羽に向かって吹き付けてきた。
「な、何が起こっている!?どうするつもりだ、張遼!」
 さすがの関羽も動揺が隠せない。一方の張遼も、一瞬驚いたようだったが、すぐにあることに気付き、木刀を右手に下げたまま、無造作に女生徒へ詰め寄っていく。
 宙に浮いている女生徒が、バスケットのチェストパスの要領で両手を前に突き出した。燃え盛る紅蓮の炎が渦を巻いて、張遼に絡みつく。
「張遼!」
 関羽が悲鳴をあげた。だが、張遼はまったく表情を変えず、絡みつく炎を無視し、何事も無かったかように、ゆっくりと歩みを進めている。宙に浮いた女生徒に僅かに狼狽の色が浮かんだ。
 赤一色の世界が、一瞬のうちに白一色に染まった。いつの間にか、女生徒の両手から放出されている炎は、凍てつくダイアモンドダストへと変化している。晴れた日の早朝、低温により空気中の水分が氷結し、まるで氷の妖精のように輝く自然現象だが、これが魔術となると、魂魄をも氷結させる悪魔の業となる。
 しかし、それすらも無視しして歩き続ける張遼に、少女にとり憑いた何者かは、明らかに狼狽していた。そのまま、少女のすぐ傍まで歩み寄った張遼は、右手の木刀を空中の少女に突きつけた。
 張遼の口から、凄絶な気合がほとばしった。
 
 もと化学準備室の扉を開け放った関羽の目に、四方の壁、天井、床に貼られた魔方陣と、幾何学的に並べられた数種類の魔術の小道具類が飛び込んできた。そして部屋の中央の魔法陣の傍らには、黒いマントを羽織った少女がうつ伏せに倒れている。
「い、今、何が起こったのだ、張遼?」
「……一種の精神攻撃ですね。この部屋と廊下の一部を、ある種の魔術的な場で包み、踏み込んだ者を術にかける。先程、ドアを吹き飛ばした衝撃波も、私に対して放たれた火炎や冷気も、実際には発生していません。あの時、精神的に負けていれば、現実の私は、かすり傷一つ無いまま『焼死』もしくは『凍死』していました。ですが、それに打ち勝てば、術の効果はそのまま術者に跳ね返ります。つまり、彼女にとり憑いた何者かに」
「やけに詳しいな」
「こう見えても結構、オカルトに興味がありますので」
 張遼は倒れている少女に歩み寄ると、仰向けに抱き起こし、頬を軽くはたいた。少女が、物憂げに目を開ける。
「我々は生徒会の者です。大丈夫ですか?」
「………」
 こくり、と少女は無言で頷いた。
「まず、あなたはどこの棟に在籍している誰で、ここで何をしていたのですか?」
「………」
 ぼそぼそと何か言ったようだが、あまりに小さい声だったので、関羽には聞き取る事ができなかった。
「え?揚州校区の会稽棟在籍で、名前は于吉?この場所の気脈がピークだったから、死んだお祖父さんを呼び出そうとしていたが、本のページを間違えて、変なものを呼び出した後は記憶が無い?なるほど、わかりました。ここは生徒会にとって重要な場所ですので、できれば、もう来ないでほしいのですが……」
「………」
 再びぼそぼそと何か言ったようである。やはり関羽には聞き取れなかった。
「え?この場所の気脈はピークを過ぎたから、もう来ない?それはなにより。ちゃんとひとりで帰れますか?え?夜目は効くから大丈夫?わかりました。ちゃんと片付けていってくださいね」
 こくり、と于吉と名乗る少女は無言で頷いた。  

 校門を出たところで少女と別れると、関羽が張遼に溜息をついた。
「あのまま帰してよかったのか?」
「拘束してどうにかなるものではありません。とりあえず、副会長には見たままを報告して、もっともらしい理由は、程イクあたりに考えてもらいますよ。それに、于吉と言う名前も、おそらく本当のものではありません」
「何ゆえ?」
「西洋の魔術では、真実の名前を知られると、それに呪いをかけられてしまう恐れがあるので、たいていの魔術師は魔術用の名前を持っているそうです。見たところ、召喚の儀は本格的でしたし、偶然とはいえ、あれほどの精神攻撃を仕掛けられる悪魔を呼び出せた事から、彼女は相当、高位の魔術師と思えましたのでね。それより……」
「仕事は……終わったな」
 二人はほぼ同時に跳び退った。そして7mほどの間をあけて睨みあう。関羽は木刀をしっかりと正眼に構えて張遼を見据え、張遼は両手をだらりと下げ、悠然と立っているように見えた。徐々に殺気が高まり、雲ひとつ無い夜空に浮かぶ月ですら、息を呑んで二人の剣士を見下ろしているように思えた。
 関羽が、すり足で一歩間合を詰め、張遼もそれに応じて間合を詰めた。そして関羽が剣尖を上げようと、やや前傾した瞬間。
「スト────ップ!」
 爽快なほど快濶な声が、一面に満ちていた殺気を吹き消してしまった。関羽と張遼は、ほぼ同時に声のした方を見やり、腕を組んで二人を睨んでいる小柄な少女を見出した。
「曹操殿?」
「副会長ですか」
「二人とも何やってんだよっ!」 
 曹操の声が、憤りのあまりやや震えているように、関羽には思えた。
「いい?アンタたち二人は献サマと蒼天会に仕える身だよ。それにアタシの大切な友人なんだから、こんなところで軽々しく決闘に及んじゃダメだよっ!」
 もっともらしい台詞の中に、関羽は微かに違和感を感じた。
「副会長。今のお言葉、まことの事でござるか?」
「当然だよっ!アンタだけじゃなく、劉備や張飛だって、大切な友人なんだよっ!」
「拙者の疑問は、その前の言葉にござる。……近頃の、蒼天会に対するなさりようを見ていると、その言葉に違和感を感じるのですが」
 関羽が言い終えた瞬間、先程、張遼と関羽との間に発生した殺気とほぼ同種のものが、曹操と関羽との間に発生した。
「……関羽、本当はやりたくない、とは言わないよ。好きで生徒会役員やってるんだし、本当にやりたくないなら、とっとと階級章を返上すればいいんだしね。いい?やらなきゃ、アタシがやられるんだよ。アタシが言えるのは、それだけ」
「それはそうと副会長。どうしてこんな時間にここにいるのですか?」
「え?えーと、それは……」
 突然、張遼が気難しい顔で曹操に話し掛けた。明らかに曹操は動揺している。
「その、何と言うか……」
「おひとりで、夏侯惇さんも、虎ちょもいないようですし……。無断で調査に来ましたね?」
「うぐ……」
「来ましたね?」
「…ご、ごめん。文若や于禁には黙っててね?あの二人、いつまでもくどくどうざったいからさ」
 心から情けなさそうな表情をした張遼は、大きくため息をついた。
「まったく、いち勢力の首領にしては無用心すぎますよ……。わかりました。あの二人には黙っておきます」
「やったー!恩に着るよ張遼!」
「そのかわり、今夜は夏侯惇さんに、こってりと油を絞ってもらいましょうか」
「げ……、か、関羽も何か言ってよっ!」
「張遼。それはいい考えだな」
 関羽は苦笑を浮かべつつ、重々しく張遼に賛同した。
 
 午後11時半。中央女子寮C棟4階。
 黒絹のような髪のもつ、物憂げな瞳をした美少女が、『顧雍&顧譚』というドアプレートのついた扉を開けた。先程、白馬棟で大騒ぎを起こした、于吉である。部屋の中で、クッションにうつ伏せになってティーン雑誌を読んでいた、于吉にそっくりな少女が、驚いた表情で彼女を見つめた。 
「あ、元歎姉さん。昨日は帰ってこなかったけど、どこ行ってたの?龍の巣にもいなかったみたいだけど?」
「………」
「え?憶えてない?まったく、ボーっとしすぎるのも限度があるわよ。まあ、無事だったからいいけど」
「………」
 こくり。
 于吉、いや後の長湖部副部長となる顧雍は、少し恥ずかしそうに頷いた。黒魔術は、彼女のひそやかなる趣味である。
 『学園正史長湖部記 怪異説集』によると、この後、会稽棟に戻った顧雍は、夜な夜な怪しい儀式を繰り返したり、自家製の栄養ドリンクを長湖部員に無償で配ったりしていたが、そのことで孫策に目をつけられてしまった。そして、オカルトや占いを毛嫌いしている孫策に、降水確率0%の日に、雨を降らせる事ができなければトばす、という理不尽な命令を受けてしまう。結果的に、雨雲の召喚は成功し、あたり一帯は豪雨となったが、そのことで逆上した孫策に、秣陵棟じゅうを追い掛け回される羽目になってしまう。そのまま夕暮れ時まで逃げ回り、最終的に更衣室に追い詰められてしまったが、魔法で鏡の中に逃げ込むという荒技により、オバケ嫌いの孫策を失神させ、その隙に逃げ出す事に成功した。
 その後、そのときのショックが尾を引いた孫策は体調を崩しはじめ、夏休み突入後、周瑜や張昭の反対を押し切って参加した部内対抗の紅白試合で、人為的な事故に巻き込まれて重傷を負い、そのまま引退してしまう事になる。
 顧雍自身は、孫策リタイア後、生徒会から長湖部に復帰した張紘により、その吏才を見出され、長湖部の経営に携わる事となる。幸い、顧雍=于吉であると気づく者はひとりもおらず、最終的には副部長職まで務めたが、週3回ほどのペースで、黒魔術は続けていたらしい。

 ほぼ同時刻、中央女子寮B棟5階の自室に戻った関羽に、劉備が深刻な表情で、重大なことを告げた。
「関さんがおらん間に、えらい事あったで…」
「何事でござる?」
「…董承が、訪ねてきおった」
「蒼天会の車騎主将が?いったい何用で?」 
「…曹操打倒のために、勤王の志士を集めてるんやて」
 時代が急速に動き出す音を、関羽は聞いたような気がした。

366 名前:★惟新:2003/11/30(日) 18:12
オカルトキタ━━━━((( ⊂⌒~⊃。Д。)⊃━━━━ッ!!
迫力ある描写にドキドキ(゚Д゚;≡;゚д゚)ガクガク
そして、あの無口っ娘顧雍が魔女っ娘に!
何故だかヤミ帽のリリスファッションを想像して妙に(;´Д`)ハァハァ
顧雍=于吉とはこういうことでしたか〜
なにやらとても新鮮で、面白うございました。

367 名前:★ぐっこ@管理人:2003/11/30(日) 22:25
于吉たんの逆襲キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル…魔女っ娘于吉たんの恐怖…っていうか何殺伐と
してるのですか関羽たん張遼たん…
むむ、前回仰ってた于吉=顧雍説の意味が明らかに…。
ただまあ、顧雍は顧雍で長湖以南累世の名門、というステータス持ちですので、
陳寿の記述からは漏れている説かと(^_^;) そしてハイショーシが注で持ち出して
きたものと思われ。
でも確かに顧雍たんは魔女っ娘姿が似合うなあ…。鏡ネタ…。うーむ。


そして長編短編HTML化したぞ( ゚Д゚)ゴルァ!
…ひととおり確認はしたのですが、当然、採録漏れもあると思いますので、自己申告
よろ。
歴史的事実に基づいたお話は年表に、それ以外・および元ネタキャラのパロ系作品は
「異説」扱いでしょーとれんじスレ編へ収録してあります。
単純にコピペしてるだけなのですが、せっかくだからこれまで寄せられたイラストを
「挿絵」として使いたい、といわれる方、これも自己申告でよろ。

368 名前:雪月華:2003/11/30(日) 23:01
様々なベクトルの反響が大きいみたいで…

>自家製の栄養ドリンク
当時、符水というものは、お札入りのただの水ではなく、薬湯(麻薬?)のような存在だったらしいです。まあ、それを飲んで倒れた長湖部員がいたことから、孫策が乗り出し…

>『学園正史 長湖部記 怪異説集』
蒼天会ver 帰宅部ver 曹氏生徒会verも存在し、様々なオカルト現象を収録している
、といったものです。元ネタは『捜神記』etc…
以前書いた長湖部合宿SS第一話での、朱桓の怪談も収録されています。
ちなみに、地理的条件からいって、帰宅部verが、もっとも内容が充実していたり(^^;

>殺伐とした張遼
まだスチャラカな曹操軍団の雰囲気に溶け込めてないということで。
しかし、魏延、朱桓、関羽、張遼ら、有能な重要拠点軍団長には、
『部下には優しい』『同僚に対しては、やたらと傲慢』『プライドが高い』『気難しい』
という共通点があるのは、なぜでしょうかね。

369 名前:★玉川雄一:2003/11/30(日) 23:51
蒼天航路や無双なんかで張遼と関羽が仲良さげなのに慣れてしまっていたせいか、
一触即発っぽい二人の雰囲気は新鮮でした。

あと、剣道部にヘンに気を遣ってる張遼の不敵さ!
確かに、この手の軍団長クラスってあんなキャラ揃いなんですねえ。
もっとも、そうそう改めようとしないのも立派なプライド?
とはいえそれで身の破滅を招く、というのも考え物ですけど…

ところでグコーさん、私の『震える山』って確かに歴史ネタ絡みではありますが、
モロに元ネタありのパロディなんですけど年表組でいんでしょうか。
確かに、全然「しょーとれんじ」じゃないんですけどね(-_-;)

370 名前:雪月華:2003/12/01(月) 18:18
ええと、ダメ出しという形になりますが、
当スレ245の拙作「長湖部夏合宿 その2」が文庫版に掲載されていませんでした。
一応、揚州校区異常気象の設定が載っているので、できれば掲載していただきたいのですが…

※確認後、このレスは削除をお願いします

371 名前:那御 :2003/12/01(月) 20:06
顧雍タン・・・取り憑かれてるんすかw
しかし、、伯カイさんはこのこと知ってるんでしょうか?
知ってて隠してそうな怖さがある・・・

何気にオカルトに詳しい張遼。
ぶっ飛び曹操軍団に、後々溶け込める理由はこれか?

>符水
そ〜いえば符水=麻薬の話はどっかで耳にしましたね。
飲ませてラリッた教徒に、教祖の洗脳が・・・

372 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/01(月) 23:28
>>368
ぐっじょぶ! その説(・∀・)イイ!
色々出てくるオカルト話を総括することも出来そう…。ハイショーシ君も手広いな(^_^;)

>>369-370
ラジャっ! 速攻で付け加えるです!
ちなみに震える山は「元ネタキャラのパロディ」ではないので、年表組に残しますた。
あれで張嶷が固有結界「枯渇庭園」あたりを使ってたら別ですが(^_^;)
要するに「キャラの元ネタに強く依存」してるかどうかということですにゃ。あんま厳密でもないですけど。

>>370
符水(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル

373 名前:岡本:2003/12/02(火) 00:31
>教授様
日常の”クスッ”という笑いを誘われるような描写がお見事です。
こういうのはちょっと書けません。次回の作品を楽しみにしております。

>雪月華様
魔法の自己制御ができない人間を野放しにしていいのか、
陪臣同士が喧嘩した場合、勝つにしろ負けるにしろ上の人間の関係において
ただでは済まないので"飛ばす"という言葉を比較的思慮深いこの2人の間で出るのか?
という突っ込みどころは別にして、ノリを楽しむ感覚で拝読したしました。

ひとつ伺いたいのですが、雪月華様の設定では張遼の剣は自己流とのこと
でしたが柳生新陰流の影響が濃いのでしょうか。基本的に”待ち剣”が多い印象が
ありましたので、騎兵を用いて”先の先”と積極果敢に攻める張遼の印象とはなんとなく
違ったのですが。
まあ、個々人の設定の問題ですが。

音無しの構:一刀流・中西派三羽烏の一人・高柳又四郎で知られる。
起こり(相手の動きの前兆)に対応できないときは間合いを開け、相手が打ち損じた
下がり端を打ち込む。起こりに対応できるときはその出鼻をうつ。結果として竹刀が触れ合わない。
北辰一刀流創始者・千葉周作の免許皆伝祝いの試合では千葉周作の起こりが読みづらかったのと
剣の鋭さのため竹刀が打ち合い、相打ちに。

無形の位:柳生新陰流の位(構え、転じて剣の技量のことも位といいます)のひとつ。後の先を突き詰めた
柳生新陰流ではある意味究極の構えかもしれません。が、典型的な合わせ技狙いの構えです。
自分から攻める場合は全く無意味な構えです。

374 名前:雪月華:2003/12/03(水) 18:19
>373
正史の記述によると、文句なしの軍才だが傲岸不遜だったというので、あえて高柳又四郎をイメージしてみたのですが…
ちなみに、拙作・倚天の剣における皇甫嵩は、薩摩示現流の開祖、東郷重位をイメージしています。
(ちなみに盧植は富田流小太刀の達人で、幽州校区伝統技能の北斗張扇術第19代目正統継承者という、ハァ?な設定)
上意討ちの文書を全て処分していたり、幼年の者に対しても礼を尽くしていたというところが、
皇甫嵩のイメージに合ったので…

関羽→相手の剣を強引に打ち払って隙を作る。いわゆる介者剣術で『道場では』敵なし。
張遼→『待ち』ではなく、相手を動かして、その隙を斬る。無駄な動きがないため疲労が少なく、多人数相手の実戦向き。
といったイメージです。
張遼は、并州校区での対不法侵入者への実戦経験により、見切りというか、間合を極めているとmy設定しています。
がっちりと正眼に構えている相手は斬りづらいので、言葉による挑発や、あえて構えない事で
隙を見せ、相手を自分の思い通りに動かして隙を生み出し、そこを斬るという流儀。
また、対多人数戦が多かったため、構えや流れが崩れる受け太刀や突きは用いない。
それと、先の先とは、ただ単に前に出るのではなく、相手の僅かな動きから次の動きを読み、
いち早くそれに対応する動きをする、というものではないでしょうか。

余談ですが「相手を自分の思い通りに動かす」というのが、兵法の極意ではないでしょうか。
まだ、いろいろと主張したい事はありますが、それは作品中で著します(と思う)ので。

375 名前:雪月華:2003/12/04(木) 08:27
そんなこんなで、放課後は、めっさハードボイルドな張遼ですが、
「気を抜く時は徹底して抜く」というポリシーがあるので、寮生活や休日には結構女の子っぽいです。
静かだが圧倒的な風格を持つ関羽と違い、見た目では人を威圧しないタイプ。
関羽以上の親友である、薄命軍師の郭嘉曰く、
「おしゃれして街を歩けば、10分に1度はナンパされる」とのこと。

376 名前:那御:2003/12/08(月) 02:40
駄文書きました・・・
他の方に比べるとだいぶ劣りますが・・・
公孫サンと劉備は、それほど懇意じゃなかったと聴きますが、
あえて、猛烈に懇意にしてみました(絡みはないですが・・・)

― 信じられた人と信じられる人 ― 〜易京の戦い〜
公孫サンは窮地に陥っていた。
本拠地である易京棟に篭城したものの、四方を袁紹軍に囲まれ、身動きの取れない状況にあった。

公孫サン――字は伯珪。
「白馬委員長」と謳われ、幽州校区劉虞を倒し、総代となった烈女である。
一時期は、あの名門袁紹を脅かすほどに勢力を広げ、幽州、冀州、エン州と、三校区にわたって支配したこともあった。

彼女の快進撃の原動力。
それは、「白馬義従」と呼ばれた精鋭部隊である。
バイクからの射撃に優れた者を集め、制服、バイクなどを白一色で統一した部隊である。
北の鮮卑高との抗争では、この白馬義従が大活躍し、公孫サンの名は一気に知れ渡ることとなった。

しかし、彼女の誤算は、界橋にあった。
当時、郎となっていた公孫サンは、青州の黄巾の残党の討伐へと出陣。
持ち前の戦闘力で、いとも簡単にこれを平定。
返す刀で、袁紹の治める広宗棟へと軍を進め、ここに陣を構えたのである。

これに激怒した袁紹は、自ら出陣。
両軍は界橋で激突した。
この戦いのキーマンは、袁紹配下の麹義であった。
長く涼州でシゴかれ、バイクとの戦いの経験には事欠かなかった。

この麹義に、公孫サン自慢の白馬義従が、木っ端微塵に打ち砕かれてしまったのである。
そのうえ、前線で袁紹に遭遇したにも関わらず、これを取り逃がしてしまった。
公孫サンは大敗北を喫し、幽州校区への撤退を余儀なくされてしまったのである。

その後、劉虞を倒して総代の座を奪ったのだが、この劉虞が袁紹と懇意であったため、
さらに袁紹の怒りを招くこととなったのである。

袁紹は、生徒会長の権限と兵力を以て、北上を開始した。
勢いを失った公孫サンの拠点は、次々と陥落し、遂に本拠地易京での篭城戦にまで追い込まれてしまったのだった。



一人の生徒が、易京棟の一室のドアをノックした。
「・・・失礼します」
生徒の名は関靖。公孫サンの側近として仕え、よき相談役でもあった。
(また痩せられた・・・)
関靖は、公孫サンに会う度に、そう思うようになっていた。
以前は澄み切っていた蒼い眼にも、どこか曇りが見られた。

白馬義従が破られてから、公孫サンはずっとこんな具合だったのである。
自ら全身全霊を込めて育て上げた精鋭。

常にメンテナンスは欠かさないよう指示していた。
戦場も、極力走りやすい位置を選んで布陣した。
なのに・・・なぜ・・・!
公孫サンは、悔しさで頭を抱え込んだ。

(あれほど覇気に溢れた方だったのに・・・)
関靖は公孫サンのこのような姿を見るたびに、悲しくなっていくのであった。

「自軍の物資の残量を調査しました・・・ここに置いておきます・・・」
「・・・ありがと」
やはり、公孫サンは生返事であった。
関靖はファイルを机の上に置くと、そそくさと部屋を後にする他無かった。

公孫サン軍には、もはやそれほど長い時間篭城していられる余裕は無かった。
公孫サンはファイルから書類を取り出し、焦点の定まらない目で眺めた。

(姐さん・・・アンタはこうなることが分かってたってかい?)
公孫サンの頭に、卒業した元執行部員、盧植の姿が浮かんだ。

公孫サンは以前、盧植に学問の手ほどきを受けたことがあった。
学年でも名の通った優等生であった盧植の部屋には、後輩が集まり、小さな勉強会が行われることがしばしばあった。

そして公孫サンは、盧植の卒業に際して、ある言葉を肝に銘じるよう言われていた。

377 名前:那御:2003/12/08(月) 02:41
柔能ク剛ヲ制ス

柔軟な者は、かえって勇猛な者を制することができる、という意である。
盧植は、公孫サンが学問においても、兵法においても、柔軟な考えに欠けているということを懸念して、
この言葉を肝に銘じるよう言ったのであった。

しかし、公孫サンはこの言葉に反し、
領地を増やすために冀州に進入し、総代の座を奪うために劉虞を飛ばすなど、
直情的な行動が多かった。

(そのツケが今頃回ってきたってかい・・・)
こうしている間にも、袁紹軍はいろいろと仕掛けてきているのであろう。

(何か手を打たなければ・・・)
だが、考えれば考えるほど、盧植の言が頭を過ぎり、公孫サンを憂鬱な気分にさせるのであった。



遂に、公孫サンは前線に立つことを決意した。
というのは、遥か遠くに狼煙が上がっているのを確認したからである。
「ようやくご到着かい・・・」
公孫サンは、黒山賊ことBMFに使者を送り、増援部隊の派遣を要請したのである。

BMFのトップには、戦闘力に優れた張燕がいる。
(張燕の元までたどりつければ・・・この状況を打破できる!)
そう考えた公孫サンは出陣を決意した。

公孫サンは、僅かに残った部下にこう下知した。
「黒山の張燕が援軍として到着した!
私は、いったん張燕のもとへ身を寄せ、そこで再起を図ろうと思う!」

そう一声言うと、公孫サンは、愛車にまたがり、薙刀を手にし、弓を担ぐと、
一気に易京棟を飛び出し、狼煙に向かって真一文字に突き進んだ。


だが・・・
狼煙まであと百メートル、というところで、突如公孫サンの目の前に、伏兵が現れた。
「ちっ・・・蹴散らせ!」
公孫サンは、薙刀を振り下ろし、2人を倒した。
目の前が開けたところで、公孫サンはスロットルを全開にし、一気に突っ切った。

そして、狼煙が段々近づいてくる。
50メートル・・・30メートル・・・

「なっ・・・どういうことだっ・・・」

公孫サンが驚くのも無理は無かった。
狼煙を上げていたのは、張燕などではない。
事もあろうに、あの袁紹であったのだ。

「だから田舎娘は単純って言うのよね・・・」
袁紹が不適な笑いを浮かべる。

「貴様ッ!」
公孫サンが袁紹に斬り掛かるも、袁紹の隣に侍立していた文醜が、これを受け止めた。
「生徒会に歯向かおうなどたぁ、いい度胸じゃないかい!」
ナイトマスターと呼ばれ、恐れられた猛将である。

篭城の疲れと、盧植の言葉の苦悩により、公孫サンにもはや戦う余力は殆ど無かった。
一、二合交えたところで、公孫サンは撤退の指示を出した。
(とはいえ・・・もはや易京棟は落ちていよう・・・。かくなる上は、斬り死にするのが武人の名目ッ!)
公孫サンは、悲壮の覚悟で、敵軍に再び突入していった。

公孫サンの姿が見えなくなると、袁紹はとんでもないことを言い出した。
「田豊、易京棟を彼女に返して差し上げなさい。」
「・・・は?」
「公孫サンを易京棟に撤退させなさい、と言ったのよ。」
「なぜです!わが軍の勝利は決定的、それをみすみす・・・」
「あの田舎娘に、思い知らせてやるのよ・・・」
「そのようなことをすれば、わが軍に降伏してくるものはなくなります!」
「今回だけよ、あの女は・・・あの女だけは許さない!」
「・・・」

田豊は呆れ返ってしまった。
袁紹は、一時期公孫サンに苦戦したことを、かなり根に持っているようだった。
(これは・・・諌めても聞き入れて下さらないだろう・・・)
剛直で知られた田豊も、これには矛を引っ込めるしかなかった。

(どういうことだ?)
なぜか無事に易京棟に入ることができた公孫サンは、考え込んでいた。
敵軍の勝利は確実であった。にも関わらず、袁紹は易京棟を取らず、自分に棟を明け渡した。
(侮辱・・・としか思えん・・・)
この露骨な侮辱も、公孫サンの心に大きなダメージを与えた。

(姐さん・・・私は間違っていたんだろうか・・・)
公孫サンの頭に、再び盧植の言葉が浮かんだ。

自分の力、自分の意志、自分の心、それが、この動乱を切り開く唯一の武器である。
そう信じていた。そう信じて突き進んできたのだ。
だから、心から信じることが出来る人間は、殆どいなかった。
逆に、自分を信じてくれる人間も、少なかったように感じられる。

姐さん・・・アイツは・・・劉備は今どうしてるんだろう・・・
アイツらだけだったよ・・・後輩で私になついたのは・・・

玄徳・・・

つかみ所がないタイプの後輩だった。
しかし、不思議と自分と馬が合った。
ともに盧植の部屋で語らったこともあった。
自分が唯一心から信じられた後輩であった。

玄徳・・・アンタは、私と同じ路を辿っちゃならない。
乱世を切り開くには・・・力だけじゃダメだったんだ。
私は身を以てそれを知ったよ・・・

最後くらいは・・・カッコイイ事言わせてくれ・・・
アンタは、間違いなく大物になる・・・そんな気がするよ・・・


翌日、公孫サンは階級賞を自主返済し、群雄割拠の時代から、その名を消した。
心の中に、ひとりの後継者を残して・・・

378 名前:玉川雄一:2003/12/09(火) 22:18
私は長らくピンとこなかったのですが、
公孫サンも一時は袁紹をしのぐ勢力を誇っておったのですね。
しかし界橋の一戦を機に(?)パワーバランスが逆転し、
挽回もままならず易京に潰えた、と…

公孫サンはけして完全無欠の英傑ではないにせよ、
天下の一角を占めるだけの力量は確かに持っていたはずですが、
それを総合力で覆した袁紹というのはやはりただものではないということでしょうか。
(この論法で行けば曹操はさらに…)

盧植先輩と、劉備と、共に机を並べて学んだ奇妙な勉強会というのも興味がわきます(^_^;)

379 名前:★惟新:2003/12/09(火) 22:22
力作乙! やはりアサハル様の神絵にインスパイアされましたかにゃ?
姐さん…っつーか女王様な公孫[王贊]閣下の壮絶なる最期。
盛者必衰の世界が広がっていますね。
彼女もかなりの実力派だったようですが、相手があの袁紹では…

それはそうと性悪袁紹(;´Д`)ハァハァ

380 名前:★アサハル:2003/12/09(火) 22:40
姐さんの最期、実は物凄く好きなシーンでありまして。
こうして改めて文章で見ると感無量であります!!
一瞬「袁紹一発殴っていいですか?」と思ったのは(゚ε゚)キニシナイ!!

ハリセン娘2人に囲まれる姐さんってのもなかなか…
もしかしてあのナリ(自分で設定しておいて)で実はボケですか?

381 名前:那御:2003/12/09(火) 23:30
アサハル様の絵に完全にインスパイアですw
ちなみに、好きな日本文学「平家物語」が大いに影響しているかと。。
「滅び」に美しさを感じる人間ですから(爆

勉強会ネタはお気に入りw
全くテンション、キャラの違う三人の勉強会。空恐ろしいものがあります。

てか、正史の袁紹があまり好きでない、って根性が性悪袁紹の生みの親w
こう・・・裏表があって、しかも自分に手向かう者は、どうしても許したくない、
そういうキャラになっちゃいました、、

業務連絡(何)、
曲は、「皇甫嵩のテーマ・バラードアレンジ」とその他2曲同時進行中。
コツコツやっていきます。

382 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/10(水) 23:08
遅まきながら、読みますた(゚∀゚)!
公孫瓉先輩の、激しくもあっけない、自滅に近い最期。
北上してきた青州黄巾勢力を蹴散らし、幽・冀・青の三校区を圧倒的な武力で支配し、
おそらく袁紹がいなければ、あるいは韓馥がもう少し豪毅であれば、まず河北ブロック
を支配していた女傑であったでしょう。ひょっとすると袁紹が躊躇った中原進出をいとも
あっさり実現していたかもしれません。

そういう狼みたいな彼女のコアの部分には、やはり盧植先生やら後輩・劉備やらの思い出
があるわけで…。やりたい放題やってる彼女ですが、盧植先生が一瞬マジモードになって
ハリセン取り出すと、途端に硬直するものと思われ。
というか、公孫瓉もハリセンを持ってたとか…三人全員ツッコミ。

袁紹さんも、敵と認めた相手に対する底意地の悪さカコイイ! 「自分の中でその人が“どうでも
いい存在”になるまで徹底的にいじめ抜く」を地でいく袁紹お嬢さま(;´Д`)ハァハァ… 呉匡たん
の方が珍しい存在なんでしょうねえ…

>業務連絡
(゚∀゚)! 期待ナリ!

383 名前:7th:2003/12/14(日) 21:04
だいぶ遅くなりましたが感想を書かせて頂きます。

袁紹と公孫サンの対立というのは要するにお嬢様vsヤンキーの戦いなんですよね。
単純な武力主義者の公孫サンと裏表のある優等生の袁紹が理解しあえる事はない…という感じでしょうか。
公孫サンも劉虞をトばした所までは良かったんですけど、その後も同じ路線で走っていってしまったのが間違いだったのかもしれません。
頭の切り替えが出来なかったばかりに、なんとも哀しい最期を迎える事に…。

それはそうと勉強会。あの廬植とあの劉備とこの公孫サンが一つの机で勉強しているのが何か凄いんですが。
「………」
「………」
「…おい劉備、出来たか?」
「…まだです。後200」
「だー、やってられるかこんなモン。大体何でこのトシにもなって漢字の書き取りなぞせにゃならんのだ!?」
「先生は『基本を疎かにするな』って言っとりましたけど」
「アタシはこのテのちまちました作業が死ぬほど嫌いなんだ…お前もそうだろ?」
「そらそうですけど…って伯珪さん、何してるんですか」
「フケる。ここは一階だ。窓を跨げばすぐに…」
窓のすぐ外に廬植の姿。窓を開けた姿勢で硬直する公孫サン。
「すぐに…何かしら?」(ハリセン装備)
「せ、先生、何でここに…」(冷汗)
「そろそろ集中力の限界だと思って。…覚悟はいいかしら?」(いい笑顔で)
(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル(滝汗)
といった感じでしょうか。

しかし皆様レベルが高い。いまSSを一本書いていますがSS初書きの自分なんかが肩を並べるのは躊躇われますね。
取り敢えず今週中に上げられるように頑張ってみたいと思います。

384 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/14(日) 23:39
>>383
いい笑顔の盧植先生(・∀・)イイ! タイムまで把握済みとは。
そして、やはりむずかりの公孫瓉先輩。案外真面目な劉備。
三者三様の学窓ですねえ…。
盧植先輩は、どちらかというとクールっ娘っぽい外貌ですが、中身はかなり
弾けてます。普段静かなのは地声がデカイのが気になってるからで、劉備や
公孫瓉は遠慮なく大声で叱責されたり。

そして7thさま、SS期待しておりますっ!

385 名前:那御:2003/12/20(土) 01:50
注)このSSは、全て実話を元に構成されております。

長湖部調理実習  〜禁断の蒲茹でと豚汁入り〜

「あ〜、めんどくせぇ。なんで俺様がこんなことをしなきゃならないんだ・・・」
ボヤきながら米をとぐ甘寧。
その手つきは、ややおぼつかない様子である。
「まぁまぁ・・・数学よりはマシじゃないか。」
その隣でゴボウを洗う魯粛。こちらはなにやら楽しげである。

揚州校区の家庭科の授業。その一環として、今回の調理実習は行われていた。
勿論、一人で調理実習は出来ない。
班分けがあるわけだが――。

2班の周瑜班は勿論、班長周瑜が絶妙な料理の腕を振るうことが予想される。
1班孫権班には顧雍ら。4班程普班には歩シツらがいる。
文科系の彼女らも、なかなかの料理を作るであろう。
だが・・・3班だけは明らかに異彩を放っていた。

呂蒙班。その班員は、班長呂蒙以下、甘寧、魯粛、陸遜である。
陸遜は、この班編成を見て、自分の不運を呪ったという。
案の定、呂蒙は一言、
「伯言は手ぇ出さないでくれよ。お前が関わるとロクなことにならないからな。」
(それはこっちの台詞です・・・)
その一言を飲み込んだ陸遜は、ため息をついてうなだれた。

今回、学園から指定されたメニューは、白飯、秋刀魚の蒲焼、豚汁であった。
「終わり!モーちゃん皮むいて!」
ゴボウを洗い終えた魯粛は、呂蒙にゴボウをパスした。
「おい!これってどれくらいとげばいいんだ?」
「・・・既にとぎすぎです。」
あきらかにとぎすぎといえる米を見かねた陸遜が言った。
「じゃあ、それを水に浸しておいてください。」
「あいよ。」

ニンジン、ゴボウ、大根・・・
一通り野菜を洗い終えた4人。
「じゃあ、次は野菜を切らないとな。」
「よ〜し、ここは俺様の出番だ!これを一番楽しみにしてたんだ。」
そう言うと甘寧は、おもむろに両手に包丁を構えて、まな板の前に立った。
「ちょ、ちょっと!何する気ですか!」
あわてて陸遜が静止する。
「え・・・何って、野菜を切る。」
「そんな切り方って・・・」
「いいんだって!どんな切り方したって、食えないもんじゃないだろ?」
「ま、まぁ・・・」
「じゃあ、行くぜ!うぉらッ!双剣連打!」
ダダダダダダダダダン!
まな板に置いたゴボウを、二刀流で叩き切っていく。
次々とまな板から飛び散っていくゴボウの欠片。
「うわぁ・・・、あの班絶対おかしいって・・・」
1班の朱桓らが、3班を横目で見ながら呟く。
「あの面子じゃあねぇ。」

「おもしろいな!次あたしにやらせて。」
楽しさに気付いたか、魯粛が目を輝かせて言う。
「あぁ。」
「じゃあ、興覇さぁ、あたしに向かってニンジン投げて。」
「は?」
またも予想外の展開に陸遜があわてる。
「投げるって・・・?」
「まー見てなって。」

「とりゃ!」
甘寧がオーバースローでニンジンを投げ込む。
「てぃッ!」

スパッ!

ニンジンが真っ二つに切れて、その半分は調理台のうえ、もう半分は床に落下した。
「あぁ・・・。やると思った・・・」
こうなることは見え見えだったのに、と陸遜が頭を抱える。

386 名前:那御:2003/12/20(土) 01:50
「で、これどうする?」
落ちたニンジンを拾い上げ、呂蒙が訪ねる。
「う〜ん・・・、そうだ!」
魯粛が頭の上に豆電球を点灯させた。
「興覇、モーちゃん、耳貸して!」
(ヒソヒソヒソヒソ・・・)
「ははははは!そりゃあ面白い!」
呂蒙が爆笑して言う。
「で、どこの班にやる?」
甘寧が尋ねる。
(どこの班?一体どういうこと?)
「1班とか?」
「やっぱり?」
(公瑾さんの班・・・何をする気なの?)

すると、甘寧は、落としたニンジンのほうを切り始めた。
ある程度の大きさになったところで、なぜか周囲を見回し始めた。
「さ〜て、細工は流々・・・」
魯粛が、そのニンジンの一欠けらを手に取ると、
「仕上げを御覧じろ〜。」
周瑜班のメンバーの動きを見据えて・・・

ぽいっ。
ぽちゃん。

「!!!」
陸遜が言葉にならない悲鳴をあげた。
「な、なな、何してるんですか!事もあろうに公瑾さんの班の鍋に投げ込むなんて!」
「いやさぁ、あいつ料理上手いから、ちょっとくらい落ちたニンジン入っててもフォローできるって。」
「いや・・・」
「しかも皮付きときた。」
呂蒙が無意味な補足をする。
「あぁ・・・」
陸遜は、昏倒しそうになるところを堪え、
(見なかったことに・・・見なかったことに・・・。気づいてない・・・気づいてない・・・)
一人、言い聞かせ続けるのだった。

(秋刀魚・・・秋刀魚だけは私がさばかないと・・・。
あの人たちにさばかせたら、食べられるものも食べられなくなる・・・)
陸遜は、秋刀魚をさばきに取り掛かった。
幸い、甘寧らは野菜を投げ切りすることに夢中である。

「お〜、割とよさげじゃん。」
ダシ汁の中に野菜を入れて、数分。
湯気がもうもうと上がり、ひとまず食べ物らしくなってきたようだ。
「教科書には、そろそろ味噌とか七味を入れるって書いてあるが。」
「じゃあ、味噌だな。一人分いくらだ?」
「めんどい!いいや適当で。」
そういうと甘寧は、味噌を手掴みで鍋に次々と放り込み始めた。
(うわぁ・・・絶対多い・・・)
一人、調理台で秋刀魚をさばく陸遜の目にも、その光景は映った。
「したら、七味入れるよ。」
魯粛が七味唐辛子の蓋を開け、鍋のうえで振ると・・・

387 名前:那御:2003/12/20(土) 01:51
どさどさどさっ。

「あ・・・」
鍋が見る間に真っ赤に染まっていく。
中蓋が取れて、七味が一瓶、鍋の中に投入されたのだった。
「うわ〜、こりゃあ辛いぞ。」
顔は全然深刻では無い甘寧が、言う。
「あたしは辛いの平気だもん。」
「俺様も平気だが。」
「モーちゃんも大丈夫だったよね?」
「うん。」
彼女らは、調理台で顔面蒼白になっている陸遜には、全く気付かずにいる。
(あぁ・・・舌が死ぬ・・・)
陸遜は、辛いものが大の苦手だったりするのだった。

「これってさぁ・・・どっかの民族料理に近いよな。」
「インド料理だよね・・・誰がやったのよ!」
「子敬がやったんじゃん・・・」
特に深刻さを感じない三人は、ずっとこの調子である。
「そういえば秋刀魚は?」
「あれ、切ってある。残念!これも鍋に投げ込んでやろうと思ったのに・・・」
「じゃあ、教科書にある、蒲焼のタレっていうヤツを作るとするか。」
呂蒙が、教科書を片手に、
「醤油と水と砂糖で作るんだとよ。」
「砂糖醤油じゃんかよ!餅でも焼いて食うか?」
「ハハハハ!」


秋刀魚に小麦粉をつけて、ようやくひと段落、と落ち着いた陸遜だったが、
目の前にある光景を見て、再び昏倒しかけた。
あきらかに、蒲焼のタレが多い。
鍋いっぱいに蒲焼が満たしてあるのだ。
「ちょ、ちょっと・・・蒲焼って焼いてる秋刀魚にタレをかけて作るものじゃなかったですか?」
「ん?しらねぇよ。とりあえず伯言、秋刀魚貸せよ。」
甘寧は、魯粛の手から、秋刀魚の皿を奪い取ると、それを一気に鍋に放り込んだ。
「あ・・・」
秋刀魚の蒲焼は、一瞬にして秋刀魚の蒲茹でと化し、グラグラと鍋の中で茹でられていくのであった。

「ご飯どう?」
「噴いてる噴いてる!」
「火ィ止めろ!」
「え・・・、止めるんですか?」
「当たり前だろ!噴いてるんだから!」
(蒸らさない気だ・・・)
陸遜は、白飯ですらマトモに食べられないであろう、自分の不運をまた呪うのだった。

「いよ〜しっ!かんせ〜い!」
魯粛が大きく伸びをして言った。
「うわ・・・」
陸遜は、わが目を疑った。
豚汁とは思えない、燃えるように赤いスープ。野菜は粉々である。
さらに、蒲焼とは程遠い、煮物に近い秋刀魚。茹で過ぎたために、身はボソボソになってしまっている。
そして、白飯も、水を吸っていないうえ、蒸らしてもいない。かなりの覚悟が必要だろう。

「さぁ〜て、食うか!」
甘寧が音頭をとっての、食事タイム開始である。
まずは、魯粛が、豚汁入り七味スープをすする。

ずずず・・・。

「・・・うげっほ!げふん!げふん!」
むせ込んで座り込む魯粛。
「ありゃ?おい、子敬?」
「げほん!げふん!」
(うわぁ・・・魯粛さんでもああなる代物を・・・)
陸遜は、数分後に自分の身に降りかかるであろう、この惨劇を、三度呪った。

「甘寧・・・ちょっとまずかったんじゃないか?」
「でも・・・子敬が自分でやっちまったんじゃん。」
「まぁね・・・」
「じゃ〜、残りのスープを誰が飲むか、きめようぜ!」
「え!?」
甘寧は、これを飲まない気である。
(ひ、卑怯だ・・・)
「じゃあ、ジャンケンだな。」
「せ〜の、だっさなきゃ負けよ〜、さ〜いしょ〜はパー!」

・・・ぱー?

「よっしゃ!陸遜の負け!」
「やったぁ、助かった〜!」
「そ、そんなぁ・・・」
(今時、「最初はパー」で勝負してくる人間がいるとは、予想だにしなかった・・・)
「さぁ〜て、まだまだたくさんあるからな、陸遜、頼んだぜ!」
「あぁ・・・」
「ってか、俺らこれから魯粛を保健室に連れて行くから、お前一人で全部食べとけ。」
「えぇーーーーっ!!?」
「じゃ、そういうことだから。」
ピクリとも動かない魯粛を抱え、甘寧と呂蒙が走り去っていく。

「・・・そんな殺生なぁ・・・」
翌日、陸遜が喉と胃の痛みにより欠席したのは、言うまでもない・・・

388 名前:玉川雄一:2003/12/20(土) 20:49
第二作おつ。それにしてもこのメンツは動かし易いなあ(^_^;)
これまでほとんどの人が彼女らをネタにしてお話書いてません?

ただ、キャラ的にはそれぞれ上手くさばけていると思ったのですが、
甘寧までミラクル料理作りに荷担しちゃうのはいかがでしょ。
以前、『甘寧は隠れグルメ』っていうネタがあったのですが、
(今は読めないので仕方ないのですがレガッタ大会の話など)
彼女は素がああいうキャラだからこそ、
敢えて正統派に料理を追求させてみるともう一ひねりが利いたかも。

普段の活動とは違って、こと料理に関しては
暴走する魯粛と呂蒙−妙に玄人こだわりの甘寧−(相変わらず)板挟みの陸遜
といった図式もありかもしれません。

ところで、周瑜のナベに投入されたニンジン(皮付き)の行方は…?
リアルの方ともども顛末が気になるのですが(((((;゚Д゚))))

389 名前:那御:2003/12/20(土) 21:04
甘寧や魯粛には、「何をやらせても問題ない」という勝手な図式が浮かび上がっております。
雪月華様の作品の設定を、可能な限り生かしました。

>敢えて正統派に料理を追求させてみるともう一ひねりが利いたかも
そのあたりは加筆・修正を大いに希望します。
(ただしリアルでは被害者は一名)

>ニンジン(皮付き)の行方
いやだなぁw
そんなのバレていたら僕が無事にココにいられるわけ無いじゃあないですか(爆

390 名前:那御:2003/12/20(土) 22:28
てか、甘寧に対するイメージが、僕の意識の中で違ったみたいですね。
ってか、料理番を打ち殺した話のことを考慮に入れてませんでした。
反省・・・

391 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/21(日) 02:16
激しくワロタァ! 那御さまグッジョブ!
本当に悩み無さそうですな、魯粛嬢と甘寧。モーちゃんも加えて揚州の傍若無人
トリオですやね…ひたすらに悲惨な陸遜に哀悼を。
しかし、こういう連中を一瞥で大人しくさせることの出来る完璧美少女周瑜たんに
改めて憧れてみたり。描写がないぶん、異様な存在感があるのですねえ(^_^;)
皮付きニンジンどう扱うんだろう…。無様に取り乱すこともないでしょうし。

>甘寧
たしかにグルメという設定は生きてましたねえ(^_^;) ってレガッタリンク切れてる!?
岡本様の作品と言い、リンク切れ多いな…。次回で必ず復帰させます!

392 名前:7th:2003/12/21(日) 16:20
或る夏の暑い日。
「むー………」
蒼天学園の学食。そこに入るなり、何晏 は形の良い眉を顰めて唸った。
暑い。とにかく暑いのだ。
外の気温は既に35度を超している中、あろう事か食堂の冷房が壊れたというのだ。
直射日光は当たらないとはいえ、厨房の熱と大勢の人の熱がこもり、下手をすると外より暑い。
この環境下で食べるものといえば冷たいもの…素麺なんか良いかも。そう思い何晏は長蛇をなしている行列に並ぶ。
「ふっふっふ…なってないわね、何晏」
突然、後ろから聞こえた声に、何晏は振り返る。
「会長、他人の食べるものにケチを付けるのは如何なものかと思うんですけど」
会長と呼ばれた少女は腕をびしぃっ!と突き出し、人差し指で何晏を指さしていた。
彼女の名は曹叡。この学園の生徒の頂点に君臨する蒼天会長、その人である。
「甘い、甘いよ何晏。この暑い中にソーメン?栄養がないし美容に悪い。そして何より、そんなもの食べたって涼しくなんかなんないわよっ!」
夏の風物詩、素麺に対し何て事を。素麺業者の方に失礼だぞ。と何晏は思った。
「では会長は何を食べるおつもりで?まさか煮麺(にゅうめん)なんて言いませんよね」
「うどんよ。それも熱いやつ」
「………はぁ?」
何言ってんだこの女。暑さで頭がイカレたか?と半分茹だった頭で滅茶苦茶失礼な事を考える何晏。
「逆療法ってやつよ。暑い中で熱いものを食べると涼しくなるってアレね。それにソーメンよりうどんの方がカロリー低くて美容に良いのよ。何晏、あなたもうどんにしなさい。私がおごるから。」
おごると言われては是非もない。曹叡は何晏に席取りをさせ、人もまばらなうどんコーナーへと駆けていった。


………やられた。そう思わざるを得なかった。
目の前には熱々の鍋焼きうどん。てっきり、かけうどんの類だとばかり思っていたのに。
「会長、本当にコレで良いんですか?」
「もちろんよ!見なさい、貧相なソーメンと違うこのボリューム、この栄養価!」
鍋焼きうどんの上に乗っている具材を指さして曹叡は言った。野菜、カマボコ、かしわ、卵。確かに栄養価は素麺を軽くしのぐし、体にも良いのは間違いない。
しかし、しかしである。この溶岩の如く煮えたぎる鍋焼きうどん。食べて涼しくなる前に熱さでもだえ死ぬのではないだろうか。
「コレを食べれば、夏バテなんて絶対しないわ!」
ぱきぃん、と勢いよく割り箸を割り、果敢に鍋焼きうどんに挑む曹叡。
確かに夏バテはしないだろう。だがその前に熱さで…やめた。考えても埒があかない。何晏はそう判断しうどんを食べることにした。
じわじわとにじみ出る汗をハンカチで拭き、熱々のうどんをすすり込む。周囲の視線がやや気になるが、なかなか旨いものである。
何分、いや何十分経っただろうか。とにかく二人は鍋焼きうどんを完食した。
顔は汗まみれであるが、二人とも清々しい表情をしている。
何晏の顔をしげしげと覗き込んでいた曹叡が不意に言った。
「………美白」
「は?何のこと?」
「ほら、何晏の顔って白くて綺麗じゃない。それで、それが化粧か地肌かって事でもめたのよ。それを確かめる為に鍋焼きうどんを食べてもらったんだけど…。いいなぁ…美白」
「…で、会長。いくら儲けました?」
「配当8倍で4ま…っっ!」
慌てて口をふさぐ曹叡。だが時既に遅し。何晏は微笑んでいる…ただし、目は笑っていない。
「ごごご…ごめん何晏!悪気は無かったの!つい出来心っていうか………」
「良いですよ、許します。ですが、代わりに………」
びくぅっ、と身を竦める曹叡に、何晏は目に一杯の笑みを浮かべて言った。
「また、鍋焼きうどんおごって下さい。ただし、今度は冬の寒い日に」
「お安い御用よ」
安堵の笑みを浮かべ、曹叡は何晏に微笑み返した。

393 名前:7th:2003/12/21(日) 16:26
玉川様の世説新語シリーズに触発され、書いてみました。
世説新語・容止篇より、何晏と曹叡のお話です。
初SS故、至らないところも多いとは思いますが、投下させていただきます。

ちなみに上の方で言っていたSSとは別物だったり。
そっちは役職がうまく定まらなかったので後回しにしました。いずれ書き上げると思います。

394 名前:那御:2003/12/21(日) 21:44
力作乙!世説新語を上手く学三化してますね。
曹叡と何晏の、学三ならではの不思議な関係がGoodです!
てか、曹叡は曹操のキャラを受け継ぎまくりですね・・・

>何言ってんだこの女。暑さで頭がイカレたか?
何晏なら絶対考えるw

>ちなみに上の方で言っていたSSとは別物だったり。
>そっちは役職がうまく定まらなかったので後回しにしました。いずれ書き上げると思います。
期待してます!

395 名前:玉川雄一:2003/12/21(日) 22:02
むう、世説新語の完本が手元にないので元ネタを思い出せないのが恐縮ですが。
それにしてもこういうひねったネタが出るのが学三ならでは!
7thさん、初挑戦ながらなかなかやりますな( ̄ー ̄)

確かに、曹操のキャラが見えてくる曹叡がいい!
真夏の鍋焼きウドンとはまた剛毅な…
しかしトータルで見ると、何晏もなかなかいい勝負をしておる模様。
次回作を楽しみにお待ちしております。

396 名前:★ぐっこ@管理人:2003/12/21(日) 23:22
7thさまグッジョブ!
アレですね、可晏の美白っぷりに疑問を抱いた明帝が、真夏にアツアツの料理を喰わせて、
汗で流れるかどうかを観察したという…(^_^;)

何平叔美姿儀、面至白。魏明帝疑其傅粉、正夏月与熱湯餅。既ロ敢、大汗出、以朱衣自拭。色転皎然

マターリしてて、可晏たんと曹叡たん仲良さそう〜。案外おちゃめなのな、曹叡たん。さすがは
曹操の妹と言うべきか。
次回作に期待であります!

397 名前:★教授:2004/01/07(水) 00:29
 三角巾を頭に巻きつけマスクを付けて…ゴミ袋に不要な物品を放りこむ。
 ある者は箒、ある者は雑巾…力のある者は机や椅子の運び出しに粗大ゴミの撤去。
 どこにでもある学校の大掃除。それはこの蒼天学園でも同じだった。
 舞台は益州校区成都棟演劇部部室。関係者以外知る事のない季節外れの春一番が開幕していた――


■■簡雍と法正 -仲良き事は美しき哉-■■


「やー…色んな衣装があるもんだな」
 簡雍が衣装棚をごそごそと漁る。一つ手に取り、またもう一つ手に取る――先刻からこれの繰り返しだった。
「ちょっと憲和。掃除しにきてるんでしょ、衣装見てサボってる場合じゃないわよ」
 真っ白な三角巾に白衣を着こんだ法正がぽんぽんとハタキで簡雍の頭を叩く。ジャージに身を包んだ簡雍が鬱陶しそうにハタキを払いのける。
「分かってるよ、だからこうやって衣装の整理を…」
「見てるだけじゃない。それに掃除を始めて一時間、憲和は箒の一本も持ってないのよ?」
「よく見てるな…」
「総代からしっかり面倒見てやってって頼まれてるのよ」
 これ見よがしに大きな溜息を吐くと簡雍に雑巾を手渡す法正。
 当の簡雍は雑巾を渡されると頭を掻いて少しだけ眺めて、周りでダンボール箱を片付けていた女子生徒に写真を添えて渡していた。勿論、法正の見ている目の前で。
 当然、法正も黙ってるわけがなかった。簡雍の胸座を掴んでゆさゆさがくがくと揺らしはじめる。
「憲和! 何で他のコに雑巾渡すのよ! それに…今一緒に何を渡したの!」
「うぷ…やめろよー。昨晩から今朝にかけて呑み会やってたんだからー…」
 揺らされる度に青くなっていく簡雍。一瞬、法正の脳裏に1分後の凄惨な現場がちらついた。慌てて揺らす手を止めると、簡雍はふらふらと椅子に座りこんでぐったりしてしまった。酒脱人とはいえ、やはり二日酔いになるのだろう。
「もー…一体何を渡したのよぅ」
 肩を竦めて、雑巾を渡された女子生徒を見る――目が合う。と、その女子は顔を赤らめて顔を背けた。
 そのリアクションを見た法正の頭に電気が流れる。ずかずかと女子生徒に近づくと、写真を脅し取る。そして――
「け、憲和ーっ!」
 法正はコンマ何秒の世界で顔を朱色に染めると写真を放り投げ、ぐったりしてる簡雍をハタキでぺしぺし叩き始めた。
「何だろ…」
 その辺で作業をしていた他の生徒達が放り出された写真を手に取り、眺める。
「…………」
 10人前後の生徒が写真を見て、全員が同じリアクションを取っていた。
「…いや、でも法正さんだから…」
「黒下着って大人っぽいよね…ガーターだって…」
「胸なくてもこれはこれで…」
 喧喧諤諤と写真に付いての考察まで始める始末。しかし目ざとい法正がそれに気付かないわけもない。
「お前等っ! 全員でてけーっ! その写真の事を忘れなきゃヒドイ目に遭わせるからなっ!」
 ぶんぶんとハタキを振り回して女子生徒達を部室外に追い出す法正。簡雍も女子生徒達に椅子ごと運ばれて出ていった。
「はぁはぁ…憲和のヤツ、一体何処であんな写真撮ったのよ…」
 大きく息を切らしながら写真を丸めてゴミ袋に投げこむ。
「これじゃ大掃除にもならないわよ…ったく」
 深呼吸、溜息と続けると三角巾を外した。今日はもう大掃除は止めにしたらしい。汗を拭い鏡の前で髪を整える、こうしていると普通の女の子にも見えるかもしれない。
 ふと、法正の視界に簡雍が物色していた衣装棚が飛びこむ。好奇心をそそられるのか徐に近づくと衣装を手に取って眺めはじめた。
「へぇ…憲和じゃないけど本当に色々あるんだ……あ、これ…」
 一着の衣装を手にした時、法正の動きが止まる。少し考えた後、きょろきょろと辺りを警戒しながら部室の入り口に鍵を掛けた――


 約10分後――
 衣装チェック用の大きな姿見の前で自分の姿に感動している法正の姿があった。
「一度…着てみたかったんだよね…これ」
 先ほどまで怒り爆発させていた女子と同一人物とは思えない笑みを浮かべる法正、余程着てみたかったのだろう。
「女の子だったら誰でも一度は…って感じかな」
 姿見の前で軽やかに一回転。洋風の花嫁衣装…分かり易く言うとウェディングドレスの裾がふわりと浮かんだ。純白のドレスだけならまだしも、実は唇に薄紅を引いたりと化粧まで周到だった。
 一人、鏡の前で悦に浸る法正。しかし、シンデレラに制限時間は付き物だった。
「何や…鍵かかっとるわ…」
 部室のドアがガタガタと動くと同時に、外から関西弁が飛び込んできたのだ。一瞬にして青褪める法正。
「やば…総代が…」
 慌ててドレスを脱ごうとする法正、しかし焦る気持ちが手に正確な情報を伝えない。
「総代、法正はもう帰ったのかもしれませんぞ?」
「んー…そうかもなぁ…」
 ぼそぼそと聞こえてくる諸葛亮と劉備の会話が余計に法正の心をかき乱す。自分で蒔いた種とは言え、こんな姿は見られたくない――泣きそうになりながらドレスを脱ごうと必死になる。
「まぁ、でも鍵もあるさかいに…一応チェックだけはしとこ」
「そうですな。では…」
 絶体絶命の窮地に立たされる、例えるなら一人分にも満たない足場の断崖絶壁で強風が吹き荒れる――そんな所だろう。法正はじたばたしながら脳をフル回転させた。
 そして――部室のドアが開き劉備と諸葛亮が姿を見せた。
「なーんや…誰もおらん。法正、やっぱり帰っとるわ」
 制服の上からエプロンを着こみ、ハリセン代わりの箒を持った劉備は広くはない部室を見渡すと踵を返した。
「ふむ…仕方ありませんな。この部屋の掃除は明日にでもやらせますか」
 白羽扇の代わりにちりとりを扇ぎながら劉備に続いて部室から出ていく。
 長い沈黙。静かでゆっくりとした時間が流れる。その静寂を破ったのはロッカーが開く音だった。緩々と開くロッカーの中から法正が出てきたからだ。
「あ、危なかった…」
 冷や汗を流しながら安堵の息を漏らす。と、次の瞬間――
「いただき」
「え? うわっ!」
 強烈な閃光、その向こう側に簡雍が立っていた。正にお約束。
「け、憲和…何でいるの?」
 カクカクと口を動かす法正。フラッシュの眩しさ云々よりも簡雍がこの場にいる事の方がショックだったようだ。
「玄徳と一緒に入ってきてたんだよ。何かあるな〜って思って待機してたら…へぇ〜」
 にやにや笑いながらウェディングドレス姿の法正を上から下まで眺める簡雍。法正はただ頬を染めて後ろを向くしかなかった。と、ある重要事項に気付いた。
「憲和!」
「な、何だよ…急に」
「そのカメラ寄越せ!」
「わわっ! やめろって!」
 飛び掛かる様に簡雍に襲いかかる法正。無論、カメラを奪う事が目的だ。
 しかし、簡雍も折角のスクープを無に帰す訳にはいかないから抵抗する。お互いに体力、筋力は似たり寄ったりの性能なので一進一退の攻防になっていた。しかもかなりの低レベル。
 やがて、簡雍が疲れ気味の法正の隙を突いて押し倒してマウントポジションを取る事に成功。
「へへー…観念しろい」
「く、くやしーっ!」
 勝ち誇る簡雍に本気で悔しがる法正。
「さーて…どうしてくれようかな?」
「な、何よ…」
 意味深な動きで法正を翻弄する簡雍。まだ酔ってるのだろうか。
 その時だった、部室のドアが開いたのは――
「憲和〜。鍵渡すの忘れ…て…?」
 劉備が苦笑いしながら入ってきて…凍った。同時に法正も凍っていた。きょとんとしているのは簡雍一人だけだった。
「な、何してんのや…?」
 劉備から見れば『簡雍が法正を押し倒して襲ってる』ようにしか見えない。堅い笑みを浮かべながら劉備が尋ねる。
「いや、見ての通り…私が法正を…」
 簡雍が普通に答える。しかし、冷静さは時に悲劇を招く事もある。
「あ、アンタら…そんなイケナイ関係はあかんって! 同人だけにしときや!」
「は、はぁ? ち、ちょっと…玄徳! それは誤解…」
 ここで初めて簡雍が動揺し始めたが、時既に遅し。劉備は猛烈な速度で部室を後にしていた。
 マウントポジションのまま呆然とする簡雍と法正。我に返ったのはほぼ同時だった。
「ど、どーすんだよ! 玄徳のヤツ誤解したまま行っちまったぞ!」
「知らないわよ! 憲和が押し倒したりなんてするからこんな事になったんじゃない!」
「法正が襲い掛かってこなかったらこんな事にもならなかったんだよ!」
「私のせい!? 有り得ないよ!」
 そのままの体勢でぎゃーぎゃー喚き散らす二人。
 この口喧嘩の果てに得たものは大勢のギャラリーと二人に関するちょっと危ない噂だった――


 数日後の夜――
 簡雍と法正は劉備の部屋で弁解をしていた。
「そやから、二人が怪しい関係なんやっちゅー事は衆知の事実で…」
「違うって言ってるだろ! 玄徳は説明聞いてたのかよ!」
「そうですよ! 私が総代に嘘を吐くように見えますか!?」
 二人して劉備に迫る。ちょっと恐くなってるので一歩後退する。
「そんな二人して真剣やと…余計に怪しいわ…」
 苦笑いしながら二人を逆撫で。
「「そんな事はない!」」
 簡雍と法正の声が重なると、今度は矛先が互いに向き合った。
「大体、憲和が余計なマネしなきゃこんな事にはならなかったの!」
「だーかーらー! 法正が襲いかかってこなきゃ在らぬ噂をかきたてられる事もなかったんだよ!」
 弁解は何処吹く風、二人で責任転嫁を繰り広げ肥えた話術で戦闘している。こちらは高レベルな争いだ。この隙に劉備はいそいそと部屋から脱出した。ドアをゆっくり閉めて溜息を吐く。
「ふー…何やかんや言うても…あの二人、仲ええんよな…」
 苦笑いを浮かべると論争巻き起こる自室を後にした。
 それから数十分後、二人が疲れた顔をして出てくる。
「…コンビニ行く」
「私も…割引チケットあるから…使う?」
「使う…」
「じゃ、行こ…」
 簡雍と法正の微妙に和やかな光景。劉備の言う通り、本当は仲がいいのかもしれない。
 その答えは彼女達しか知らない。

「肉まん美味しいね…」
「うん…美味しい…。あ、これ法正の分のコーヒー…奢りだよ」
「ありがと…」

 コンビニ前の二人、白い息は風に吹かれて儚く消える。
 薄暗い外灯の光が缶コーヒーを持った二人に降り注ぐ。
 この御話はここで終幕。でも二人の舞台はこれで終幕ではない。
 脚本も観客もいない御話。続きが語られるのは、また別の機会――
 

398 名前:★教授:2004/01/07(水) 00:34
復帰一発目に目に悪いものを投下した事を深くお詫び申し上げます。
嗚呼、もっと文章力が欲しい…発想力も…。
ホントはXデー(1/18)用だったんですけども…別ネタが浮かんだので投下。何て安直なんだろう…(凹)
まあ、存在表明みたいな感じになればいいかと思いますし…ここ最近の参加者様に『こんな変な生き物いたんだ…』って認識してもらえれば幸いです。

399 名前:那御:2004/01/07(水) 00:56
直接教授様とお会いするのはお初でしょうか、那御と言いますデス。
過去の作品を読ませていただき、簡雍らに萌えまくったわけですが、、
いやはや、今回もこのお二人というわけで、
大掃除の時に、物を触るだけで仕事しないヒトは、どこにでもいるもんですw
2人の友情が、末永く続きますように・・・(何

400 名前:★惟新:2004/01/07(水) 09:34
教授様キタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
いやもう待ちに待ってましたって(;´Д`)
泣きそうになりながらドレスを脱ごうともがく法正とか
自爆して動揺したり誤解を解こうと必死になったりする簡雍とか(;´Д`)ハァハァ
んでもってそんな二人の仲をしっかり見抜いている劉備の深さにも(;´Д`)ハァハァ

そのうえXデー用に別ネタが!? これは楽しみに待つしかあるまいて!

401 名前:★玉川雄一:2004/01/07(水) 19:37
憲×孝スペシャルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
マウントポジションハァハァ……でなくて!
ええなあ…これでこそ学三ですわ。
なにげに、メインキャラだけじゃなくてモブ女生徒が出てるのもポイント。
でも、アレ例のセクスィ写真(絵板の旭絵)ですよね…
流出しちゃったらそれこそえらい事ですよ?


さあ、ここでドレス着用版法正を描く猛者はおらぬか!?

402 名前:アサハル:2004/01/07(水) 23:30
(゚Д゚)…

コソーリ(,,・∀・)つ http://fw-rise.sub.jp/tplts/dress.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/dress.jpg

403 名前:玉川雄一:2004/01/07(水) 23:54
          - - - -=二三⌒ヽ >>402
      - - - - - - -=二三 ´_ゝ`)
        - - - - -=二三_  /  すいません、全速力で通りつつその法正タンをいただきますよ…
⌒;   - - - - -=二三(__   ヽ
)⌒);   - - - -=二三ミ/  ̄彡
  )⌒), , - - -=二三〃 -=二彳

404 名前:那御:2004/01/08(木) 00:08
キタァ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
ダメダメダメダメ!討ち取られる!(廃人化)

>>403
一足・・・遅かったようですねw
ならば奪い取るまでッ!(←真性バカ)

405 名前:★惟新:2004/01/08(木) 00:49
さて…無双3諸葛亮伝のごとく、我ら求婚者たちは
コブシで語り合わねばならないようですね…(コキッコキッ

ああもうタマランですよ! らびゅーんですよ!(;´Д`)
おねだりされた玉川様もグッジョブ!
ドレスのデザインも素敵ですねぇ…
私もいつの日か愛しい人にこのようなドレスを着せたいもの…(;´Д`)

406 名前:雪月華:2004/01/12(月) 04:16
草原の小さな恋

 緑色に波打つ午後の草原を、甘ささえ含んだ梅雨明けの風が吹き抜けてゆく。
 7月初頭。午後三時過ぎ。幽州校区と并州校区の境目付近の草原は、輝くような優しい日差しに包まれていた。
 こんもりと盛り上がった丘の上に一本だけ立っている、常緑樹の生い茂った枝葉が作り出す陰に、長ラン・サラシ・高下駄・目深にかぶった破れ学帽に身を包んだ、身長2メートルオーバー・超筋肉質の大男が寝転んでいた。荒削りで精悍そうな顔つきであり、いかにも時代遅れの番長といった貫禄を漂わせている。木の傍には、かなり使い込まれた750tの単車が駐められていた。
 丘から二百メートルほど離れた場所には幾つかの水田が区切られており、并州、幽州の園芸部員数人が、合同で水質調査や雑草の駆除などを行っている。
 草を踏む音が近づいてきて、それが大男の頭上付近で止まった。大男がめんどくさそうに重いまぶたを開けると、そこには見知った顔が、大男の顔をのぞきこんでいた。
「ヒマヒマ星人、みーっけ」
「ち…オメーか、丁原」
 迷惑が五割、安堵が五割といった表情と声で、大男…烏丸高校総番である丘力居は舌打ちした。
「隣、いい?」
「勝手にしろ」
 丘力居の返事も半ばというところで、もう丁原は腰を下ろしている。丘力居も、めんどくさそうに上半身を起こし、そのまましばらく、二人は無言で水田のほうを眺めていた。
「一ヶ月ぶり…か?」
「そだね。黄巾事件の前に会ったきりだから」
 水田のほうを見やったまま、丘力居が短く問い、丁原が応じた。
 烏丸高の丘力居と蒼天学園の丁原は、もう一年ちかくの付き合いになる。少なくとも、恋人ではないと丘力居は言う。一年前、好奇心から、放課後ひとりで蒼天学園に侵入し、昼寝を楽しんでいた丘力居を発見したのが、巡察中の丁原の一隊であった。
 当然のことながら、丁原は退去を命令する。性格から言って、丘力居が応じるはずが無い。命令が反論を招き、それが口論に発展し、実力行使が用いられるまでに30秒とかからなかった。
 激闘は10分近く続き、それ以来、お互いを認め合い『強敵』と書いて『とも』と読む間柄となったのである。
 不意に丁原が、丘力居の顔を覗き込んだ。
「随分とシケた顔してるね?悩みでもあるの?」
「オメーにゃ関係ねえよ」
 そっけなく丘力居が応じたが、丁原はなおも食い下がる。
「やっぱりあるんだ。なに?なに?お姉さんに話してみ?」
「…ち、まあいいか。猫や犬に相談すんのは、もう沢山だからな。少なくともオメーは人間だし」
「なんか、シャクに触る言い方ね」
「気のせいだろ」
 相変わらず水田のほうに目をやりながら、丘力居が悩みとやらを打ち明け始めた。
「先週、そこの水田に農業指導に来てる人に一目惚れしちまってな…寝ても覚めても、あの人の顔が目に焼きついて離れねーんだ」
「…へえ。朴念仁のアンタが恋をねえ。こりゃあ聖母マリアさまの処女懐妊以来の大事件だよ、で、その人って誰?」
「名前までは知らん。その日以来、ほとんど毎日ここで張ってるんだけどな…」
「写真とかある?」
 これだ、といって、丘力居は胸ポケットから安物の定期入れを取り出した。それに収められた写真の中では、柔らかく後ろで三つ編みにされた豊かな髪を揺らしながら、クリップボードを持った長身の少女が、このあたりの風景と似たような草原をバックに微笑んでいる。
「…この写真、随分とアップで撮ったみたいだけど、どうやって撮ったの?」
「…撮ったわけじゃねえ。なんせ俺は、使い捨てカメラすら上手く扱えねえからな。ここの生徒から買ったんだよ」
「幾らで?誰から?」
「…二万だ。ヨレヨレの制服で、耿雍って名乗ってたな。3日くらい前、いきなり話し掛けてきて、いい写真があるから買わないかって…」
「…アンタ馬鹿でしょ」
「そんだけの価値はあるさ。いいか、俺はオメーみてえな、口より早く手が動くような暴力女には、憧れって奴を感じねーんだ…!」
 言い終わった瞬間、その巨体に似合わぬ敏捷さで、丘力居は飛びのいていた。コンマ一秒前まで丘力居の鼻のあった部分を、丁原の裏拳がマッハで通り過ぎている。
「いい度胸してるわねえ?かかってきなよ、純情君?」
「いわれるまでもねえっ!」
 言い終えるなり、丘力居は丁原に掴みかかっていった。

 …3秒後。

「あだだだだだだ!放せ!折れる、折れるって!」
「まいった?」
「ま、まいった!俺が悪かった!」
 実にあっさりと丁原にサブミッションをかけられ、右の肘と肩、手首を同時に極められて、丘力居は情けない悲鳴をあげた。
 一年近くの付き合いのうちに、幾度もド突きあいを演じているが、初手合わせ依頼、未だに丘力居は丁原に勝てないでいる。膂力や体格でははるかに勝っているものの、戦闘技術では遠く及んでいないのである。
「これでアタイの21連勝っと。いつになったら、アンタはアタイに勝てるようになるのかしらね?」
「…ってて。いいか、俺は、オメーがいちおう女だから手加減してやってんだからな。それを忘れんなよ」
「それがホントならいいんだけどねぇ?」
 右腕をさすりつつ、丘力居は憎まれ口を叩く丁原の傍に座りなおした。定期入れも返してもらい、そのまましばらく、二人は初夏の心地よい風に身を任せていた。
「…セッティング、したげようか?」
「あん?」
 唐突に、丁原が思いがけない事を言った。
「実はさ、その人のこと、満更知らない訳でもないのよ。で、アンタさえ良ければ…ね」
 そういう丁原は、どこと無く淋しそうな気配を漂わせていた。当然、そんなことに気付かず、考え込んでいた丘力居が、ようやく口を開いた。
「…そこまでしてもらう必要はねーよ」
「アタイが信用できないっての?」
「そうじゃねえ。あの人と俺とに間に縁ってものがありゃ、また会えるさ。そしてそん時、俺は…」
「俺は?」
「…真正面から」
「真正面から?」
 一旦言葉を切った丘力居が、うつむき、両手を握り締め、やっとのことで声を絞り出した。
「交際を申し込む」
 沈黙した二人の間を、夏の風が吹き抜けていった。しばらくして、丁原があきれたように、溜息をついた。
「でかいガタイに、ド凶悪な面構えの割には、やろうとしていることは、妙にプラトニックね。どうせなら掻っ攫ってきて、無理矢理キスとかしちゃえばいいのに」
「バ、バ、バ、バカ野郎!俺ぁ仁と愛に生きる正義の番長だぞ!あの人に対して、そんな下衆で破廉恥なマネができるわけねえだろうが!」
「冗談よ。なにをバカみたいに慌ててんのさ」
 二人の眼下では、一連の仕事を終えた園芸部員達が、撤収を始めていた。それを見た丘力居が、ひとつ伸びをすると腰を上げた。
「さて、もう帰るか。どうやらあの人は今日も来ねえみてーだからな。じゃ、またな、丁原」
「あ、待って」
 慌てて立ち上がった丁原が、丘力居を手招きした。2mを超える巨体の丘力居と、150cmあるかないかの小柄な丁原が並ぶと、まるで熊と猫が並んでいるかのように見える。
「ちょっと耳貸して」
「なんだよ」
 両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、丘力居が丁原の傍に立った瞬間、丁原の右拳が、完全に油断していた丘力居の鳩尾にめり込んでいた。
「ぐお…!?」
「なんで…なんで気付いてくれないのさ!この…」
 強烈なボディブローを食らって、丘力居は体を「く」の字に曲げ、顎がちょうどいい位置まで下がった。丁原が右拳を、再び後ろに引いた。その両目に涙がたまっているのが、暗くなりかけた丘力居の視界に入った。
「鈍感やろ──────っ!」
 地面を擦るように繰り出された、力石式アッパーカットが、爽快な音を立てて、丘力居の顎に炸裂した。
 ……
 …
 
 午後6時。既に草原は茜色に染まっている。心なしか、吹き渡る風も冷たさをはらみ始めているようだった。
 丘の麓で大の字になってのびていた丘力居が、ようやく目を醒ました。あたりに人影は既に無く、強烈な打撃を受けた顎と鳩尾がずきずき痛むだけであった。
「ってぇ…あの野郎…しっかりヒネリまで加えやがって…」
 顎をさすりながら上半身を起こした時、かさり、と音を立てて、胸の上に置かれていた封筒と、重石として乗せられていた小石が滑り落ちた。どこにでも売っている無地の封筒で、中に紙のようなものが入っているようだった。少々躊躇った後、丘力居は封筒から手紙を取り出した。鞄の上で書いたらしく、ミミズが這ったように字が乱れている。

『丘力きょへ
 たん刀ちょく入にいえば、アタイはあしたから、らくようとうへ、てん校します
 (えいてんだって!ワーイ\(^O^)/。でも、えいてんってどういういみ?(゜_。)? )
 今年ど中には、もう会えないと思いますが、お元気で
                                    丁原』

 読み終わった丘力居の顔に、ほろ苦い微笑が浮かんだ。
「…ち、あの野郎。最後ってんならもうちょっと素直になりゃあいいものを…、ま、ああやって意地を張り合うのが、あいつの持ち味だったんだけどな……ん?続きがあるな」

『ついしん
 アンタの思い人は劉虞さんといって、ゆう州校区総代として、けい棟に通っています。
 おとなしいおじょうさまだから、いじめちゃだめだよ。せいぜいお幸せにね(^o^)/~~~~~』

「劉虞さん…か。そこはかとなく、まろやかさを感じる名前だぜ…サンキュな、丁原」
 丘力居は手紙を封筒に戻すと、上着の内ポケットに大事に仕舞いこんだ。そして丁原がいるであろう、南のほうに向きなおり、学帽のつばを指で弾いた。
「…劉虞さんとは、意地でも幸せになってやるさ。じゃあ、あばよ丁原。オメーは俺の最高の…ダチ公だったぜ」
 そう呟くと、丘力居は丘の上に停めてある単車に向かって歩き出した。
 ひとつの恋が、おたがいの綺麗な思い出となって終わり、もうひとつの恋がこの草原で始まろうとしていた。
 茜色に波打つ夕暮れの草原を、甘ささえ含んだ梅雨明けの風が吹き抜けていった。

 −完−
 
 …その夜、中央女子寮705号室の、皇甫嵩&朱儁の部屋では、酒盛りが始まっていた…
皇「それでは!建陽の洛陽棟着任を祝って…乾杯!」
朱「かんぱーい!」
盧「乾杯」
丁「……かんぱい…クスン」
皇「そうそう、建陽。失恋おめでとう!いや、めでたい!」
朱「なんだかよくわかんないけど、おめでとう」
盧「おめでとう、建ちゃん」
丁「うわーん!しーちゃんまでひどいー!みんな嫌いだーっ!!」
 翌日、三日酔いの丁原は、洛陽棟への転棟初日に3時間の遅刻をしてしまったらしい。

407 名前:雪月華:2004/01/12(月) 04:30
リハビリ代わりに、呂布がらみ以外では今ひとつ目立っていない、丁原ちゃんのストーリーを書いてみました。
学園正史、項翔様の「秋風は遠く」から、丘力居君を友情出演させています。無断借用スマソ。
張純と組んだ丘力居が、青、幽、冀、徐州を荒らしまわったという記述があり、
ハテ、并州は?と思ったところから思いついたストーリーでして…
丁原スレに投下しようと思ったのですが、少々長いのでやはりこちらに。

さて、今回の作品は旭祭のレギュレーション「一月十八日限定シチュ」には外れてますが…
実はもう一本、長湖さんがらみのストーリーを構想しています。
そっちはレギュレーションに合わせるつもりです。構築次第では19日あたりに投下できるやもしれません。

>ドレス法正
>>402→◆⊂( ゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡≡≡ ズザー
ゲット!

408 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/12(月) 17:02
>>397
(;´Д`)ハァハァ…! 法正たんも女の子ってことか!
やはり衣装合わせは基本ですかにゃ!可愛いっ!
そして珍しく動揺する簡雍たん(;´Д`) 何だかんだいって彼女も可愛いところ
あるじゃないか…。

>>43>>407

  _           __  __           〉    待
  l  l  ロロ     l l l l          〈    て
  l  \         l__l l__l /7        〉   い
  |  |\l  l`ヽー―/ \ / /       〈
  l_l    l        /_/         ∨∨∨∨
        l           \        
       l            \      
        l                  \    
       人 <●> <●>  /\ \ 
      / /ヽ、  、_---_,     /l  \ ヽ        /
     / /   \_ `ー' _/ l    l  l       /
    / /       ̄`ー'ヽi \l    し'      ,-^
    し'                     _-‐' ̄
ー―、____          _,-―――'
          `ー――' ̄ ̄ ̄

>>402は、お前たちには早すぎる!一時私が預かろう!

>>406
雪月華さまグッジョブ!
丁原たんの、何とも無骨でほほえましい恋愛未満物語…
サリゲに簡雍たん出てる(^_^;)
楼班の兄貴・丘力居と、その舎弟のトウ頓のトリオ、コイツらなかなか面白い
キャラですし…。いずれきちんと舞台を与えてあげたいですねえ…。
っていうか演義の一話で出すか出さないか…
そして来るべき旭祭に向けて期待をさせていただく。

409 名前:★玉川雄一:2004/01/12(月) 17:33
くっ… この勝負、やはりコブシでつけねばなるまい!
ジャンケンのことだが。


               -― ̄ ̄ ` ―--  _          
          , ´  ......... . .   ,   ~  ̄" ー _
        _/...........::::::::::::::::: : : :/ ,r:::::::::::.:::::::::.:: :::.........` 、
       , ´ : ::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::::: : ,ヘ ::::::::::::::::::::::: : ヽ
    ,/:::;;;;;;;| : ::::::::::::::::::::::::::::::/ /::::::::::::::::::: ● ::::::::::::::::: : : :,/ ←敗れ去った>>408
   と,-‐ ´ ̄: ::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::r(:::::::::`'::::::::::::::::::::::く
  (´__  : : :;;:::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::`(::::::::: ,ヘ:::::::::::::::::::::: ヽ
       ̄ ̄`ヾ_::::::::::::::::::::::し ::::::::::::::::::::::: : ●::::::::::::::::::::::: : : :_>
          ,_  \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: `' __:::::::::-‐ ´
        (__  ̄~" __ , --‐一~ ̄ ̄ ̄


>>406
丁原のメールがソレっぽくてカワイイ!
耿雍(旧姓)も昔ッから手広くやってたもんですねえ。でも地元の方なのか。
丁原と丘力居、互いにキャラは異なるけど
どちらも素直になれないもどかしさが堪らんですたい。

410 名前:7th:2004/01/12(月) 18:42
>教授様
教授様の書かれる簡雍と法正はやっぱ良いですわ。
そういえば祭りの発端のSSを書かれたのも教授様でしたしね。

ぬう、>>402が欲しくば儂を倒してから征けぃ!(速攻でやられそうだが)

>雪月華様
確かにあの4人の中で一番男と接触する機会があるのは丁原ですよね。
殴り合いから生まれる恋心…丁原らしいですね。
あと簡雍、アンタはそんなトコにまで進出しとったんかい!

記念日のSS書いてて大ポカ発見しました。
『旭記念日』のSSじゃねぇ!…どーしましょう?

411 名前:那御:2004/01/12(月) 21:41
>>406
雪月華様グッジョブです!
併州校区で繰り広げられる、素朴過ぎる恋物語。
本心を言わずしての別れ・・・切ないですね、丁原。。

412 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:50
よし!こっちでも祭りだ!
いくぞ!!

413 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:52
「か〜ん〜よ〜う〜、あんたもうちょっとシャキッとしなさいよ!」
「………何で?」
だらしなくテーブルに突っ伏していた簡雍に法正が抗議の声をあげる。
髪はくしゃくしゃになり、服はヨレヨレ。おまけにテーブルの周りには酒瓶が何本か転がっている。
「んも〜、よく見れば素は悪くないんだからもっとこう……」
「へいへい…」
法正が説教をたれ、簡雍が生返事をする。彼女たちにとってはごくありふれた光景である。
「う〜ん、そうよね。素は悪くない、そうなのよ、うん。」
「もしも〜し」
何やら自分の発言に思うところを見つけた法正。既にインナーワールドへとトリップし始めている。
「そうよ、もっとしっかり着飾らせればいい感じになるわね」
「…孝直?」
「先ずはその安っぽい髪留めを外して、そんでもって服を………」
「…いや〜な予感が…」
本能的に身の危険を感じてその場を逃げ出そうとする簡雍。誰だって自分の身は可愛い。
「んじゃ、あっしはこれで」
「ま・ち・な・さ・い」
こそこそと逃げ出す簡雍の襟首をぐわしっ、と掴む法正。その目は獲物を狙う猛獣の目をしていた。
猫を持つように簡雍をひっ掴んで自分の前に座らせると、法正はおもむろに口を開いた。
「というわけでここに『第一次簡雍改造計画』の開始を宣言します!」


 〜〜簡雍改造計画〜〜


何が「というわけ」なのか。しかも改造計画!?本人の意思は関係ありませんか。…ありません?そうですか。そうですか。
……冗談ではない。
何でそんな事されないといけないんだ。他人のオモチャになるのは御免被る。
日頃の自分の行いを棚に上げて、かなり身勝手な事を考える簡雍。そんな懊悩はお構いなしに法正は携帯電話に手をかけた。
「みんなにも知らせておかないと。楽しいことは大勢でしろ、ってね」
法正がボタンをプッシュし始めたその瞬間、信じられないような瞬発力で、まさに脱兎の如く簡雍は逃げ出した。法正がそれに気付くより速くドアを通り抜け、愛用のキックボードに乗り、疾風の如く去って行く簡雍。
「ふ…ふっふっふ……イイ度胸してるじゃない」
不適な笑みを浮かべ、今し方かけようとした番号とは違う番号をプッシュする法正。数回の呼び出し音の後、電話は取られた。
「もしもし、部長ですか?法正です。大至急、手の空いてる人全員に召集をかけて下さい!」
「何や、随分と唐突やな。何やらかす気や?」
「大捕物です。詳しくは後で説明しましょう」
かくて前代未聞、帰宅部連合全てを巻き込んだ大捕物の幕が切って落とされた…。



かんかん照りの太陽の下、簡雍は独り道を歩いていた。
どうせ何時もの法正の気まぐれだ。ほとぼりが冷めるまでぶらぶらしていよう。
…それにしても暑い。既に外気は35℃を越えている。何処か涼める所はないだろうか、そう思い辺りを見渡す。…ふと目に付いた喫茶店。丁度良かった。思い立ったが早いか、手で押していたキックボードを店の前に停めて、簡雍は喫茶店のドアを開けた。

カランカラン、とドアに付いたベルが鳴る。と同時に店内の空気がひんやりと肌をなでる。
簡雍はカウンターでアイスコーヒーを注文した後で、クーラーの風が最もよくあたるポジションを確保して座った。
そして改めて店内を見渡す。しっとりと落ち着いた店内に、ゆったりと優雅なクラシック音楽が流れている。そして照明は目に悪くない程度に薄暗く、気分を落ち着かせてくれる。
良い店だった。学園都市という性質上、喫茶店、またはそれに類する店が多数存在するこの中華市において、簡雍が知る限りでも五指に入るであろう。
注文したアイスコーヒーが簡雍の前に運ばれてくる。それにストローをさし、口を付けようとして――――硬直した。
一瞬前まで只の客だった少女達が揃って簡雍を囲み、彼女に銃口を向けていた。
「簡雍さん、ですね?」
その内の一人が簡雍に問う。その全身から放たれる、殺気にも似た圧迫感。下手に答えようものなら即座に撃たれかねない。そう判断し、簡雍は素直に肯いた。
「説明を要するわね。いったい何事?」
「部長命令です。詳しくは後で法正さんに聞いて下さい」
法正、その一言で理解した。
つまり、意地でも着せ替えをさせたい、そういうことか。
…それだけでこんな大事にするか普通?しかも部長命令。劉備がからんでいるということは、捕まったら間違いなくさらし者だ。意地でも捕まるわけにはいかない。
席を立とうとする簡雍。それに合わせて上へあげられる銃口。
簡雍が立ちきったと思ったその瞬間、その姿がまるで手品のようにかき消える。
椅子から滑り落ちるように足下へと転がった簡雍は、そのまま転がり出るように店を出る。
「お客さん、勘定」
「帰宅部の法正にツケといて!」
「了解した」
こともなげに他人のツケにしていく簡雍。それにあっさりと答えるマスター。……いいのかそれで。
後ろから数人が走って追いかけてくるが、キックボードに追いつけるはずもない。ぐんぐんと距離は離れてゆく。
「くそっ、逃がすな!」
叫びはすれども足は動かず。追跡を諦めようとした彼女たちの後ろから、不意に声がかけられる。
「苦戦しているようね。まぁ見てなさい」
その声の主はクラウチングスタートの姿勢をとると、一気に駆けだした。



「待ちなさーい!」
簡雍の後方よりかけられる声。ありえない、さっきの連中は振りきったはずだ。大体、そこらの一般生徒が本気を出した簡雍のキックボードに走って追いつけるはずがない。
「待ちなさいってば!!」
声は遠ざかるどころかさらに近づいてくる。いったい何者か!?と訝しんだ簡雍は後ろを振り向いた。
「あーもう、待ちなさいって言ってるでしょう!!」
赤い髪に虎の髪留め。そして陸上部のジャージ。
「ばっ、馬超!?」
帰宅部連合、いや学園きってのスプリンター、馬超が鬼のような形相で簡雍を追いかけていた。
あわてて地面を蹴る力を強める簡雍。それによりキックボードはスピードアップするも、馬超との距離は依然として離れない。むしろ逆に縮まっている。
馬超はタイミングを見計らうや、一気に簡雍の横に躍り出た。かつて曹操を追いつめた健脚は、帰宅部入りを果たした今なお健在である。
「さーて、もう逃げられないわよ。大人しく捕まりなさい」
「くっ…さすが馬超ね。『錦』の二つ名は伊達じゃない…か。だけど!」
前輪を浮かせ、後輪のみで急ターンする簡雍。その向かう先は階段。
「こんな所で捕まってたまるかー!!」
キックボードのノーズを持ち上げ、階段の手摺りに引っかける。そして90°回転。ボードの腹を手摺りに乗せてそのまま滑りおりていく。金属の擦れ合う音と火花を撒き散らしながら最下段に到達するや、そのままの勢いでジャンプ!空中で両足をキックボードの上に乗せ、そのまま着地し、何事もなかったかのように走り去っていく簡雍。
「あーっ!それインチキよー!!」
階段の上で馬超が何か叫んでいるが簡雍には聞こえていない。追われる者は常に余裕がないのだ。



「待ちなさい。ここから先へは行かせません」
「んげっ、姐さん方」
曲がり角を曲がった簡雍の前に立ちはだかったのは黄忠と厳顔。両人とも胴着に黒袴、そして弓を携えての出で立ち。明らかに本気である。
「てか何で姐さん達まで出て来るんですか!?」
「それは……」
「……ねぇ」
顔を見合わせる黄忠と厳顔。
『一度見てみたいからに決まってるでしょう!』
…一番聞きたくなかった答えだった。しかも二人してハモって言わなくても…。
「一つ言わせて貰って良いですか?」
「ん?なにかしら。最期の一言くらいは聞いてあげるわよ」
「…いいトシしてそういう趣味はどうかなー、と」
………プチーン。
何かが切れた音。実際にはそんな音はしていないのだが、簡雍は確かに聞いた。
『ふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ』
黄忠と厳願は笑っている。否、嗤っている。
その表情はまさに悪鬼羅刹の如く。額には血管が浮き、頭からは角が生え、躯からは陽炎のように謎のオーラが立ち上っている……ように簡雍には見えている。
「どうやら」
「お仕置きが必要のようね」
予備動作無しで弓を引き、マシンガンの如く次々と矢を射掛けてくる二人。
鏃の部分をゴムに替えてあるとはいえ、当たればシャレにならないほど痛い。ましてやこの二人の弓はかなり強い。その威力、推して知るべし。
「ち、ちょっとタンマ!待った!ストーップ!!」
文字通りの矢の雨を潜り抜け、簡雍は一目散に逃げ出した。



人を斬る風だった。
とっさに飛び退った簡雍の目の前を、風を切る音と共に白刃が通過する。はらり、と前髪が数ミリ、頬を伝って落ちた。
「ち、趙雲……真剣は反則……」
「何を今更」
随分と物騒なことを趙雲はあっさりと言ってのける。
「銃刀法などこの学園では無意味でしょう?」
「イヤそれ絶対違うから」
誓って言うが、この学園内が治外法権などということは絶対にない。……多分。
「大体何でアンタまでっ!(割と)良識派だと思っていたのにっ!」
「だって…アトさんが見たいって言うから」
……あきれたを通り越してもう馬鹿馬鹿しいの領域である。そんな理由で命狙われるなんてたまったモンじゃない。
「趙雲、アンタもっと行動に主体性を持った方がイイよ」
「そう…ですか?」
「アトちゃんが可愛いのは解るけどさ、それだけじゃなくてもっと自分のことを考えてみたらどう?」
「でも、そしたらアトさんが」
「アンタが何でもしてたらアトちゃんは成長しないよ?それにアンタだって何時かは卒業する。何時だってアトちゃんの側に居られる訳じゃないんだからさ」
「そう……ですよね」
「アンタはもっと自己中心的になってもいいの。きっとその方がアンタのためになるよ。これ、先輩からの忠告。覚えときなさい」
「はい、ありがとうございました」
深々とお辞儀をして去っていく趙雲。彼女が見えなくなった後、簡雍は大きく安堵のため息をついた。
「いやー、まさかアレで何とかなるとはね」
当然、先ほどの言葉は口から出任せである。
「うん、なかなか真に迫った演技だったかも。アカデミー賞ものだね」
命がけでやれば何とかなる、ということの好例だろうか。尤もこの場合、比喩表現ではなくホントに命がかかっていたのだが。
「さて、このまま逃げているのも疲れるし…どっかに隠れようかな」
脳内の簡雍データベースから当該箇所を見つけると、そこに向かって簡雍はキックボードを走らせはじめた。

414 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:53
荊州校区と益州校区のちょうど境界に一つの建物が建っている。
「いや〜助かったよタマちゃん」
「いえ、大したことはありませんよ」
簡雍の言葉に、タマちゃんと呼ばれた少女が返事する。
彼女の名は劉璋、あだ名は季玉。故に簡雍はタマちゃんと呼んでいる。前益州校区総代であった彼女は、総代の座を劉備に譲り渡してから、この建物でまったりしていることが多い。ご多分に漏れず、この日も彼女はここにいた。
「大変だったようですね。…お茶でも淹れましょうか?」
「あ、いいねぇ。お願い」
喫茶店でコーヒーを飲みそびれたことを思い出し、簡雍は肯いた。
お茶を淹れに席を立つ劉璋。それを見送る簡雍。
ふと窓の外を見つめる。その目が捉えたのは違和感。
良く目を凝らして物陰を見遣る。そこにあったのはかすかな人の影。
気付かれたか?いや、それにしては早過ぎる。
5分ほどそうしていただろうか。そちらへ向けていた意識を、劉璋の声によって引き戻された。
「お茶がはいりましたよ〜」
劉璋がお盆の上にのせたお茶を持ってくる。よく冷えた麦茶だった。
やはりおかしい。差し出された麦茶を前に簡雍は考える。
冷えた麦茶。冷蔵庫から出してコップに注ぐだけの手順の筈が、何故こんなにも時間がかかる?
そして向かいに座った劉璋の態度が、かすかだがそわそわと落ち着き無い。
もう一度、窓の外を見遣る。巧妙に隠れてはいるが、明らかに人の数が増えている。
…つまり、結論は一つ。
「タマちゃん、アタシを売ったね?」
じっと劉璋を見据える簡雍。
「…何のことです?」
あくまで平静を装う劉璋。だがその目が泳いでいるのを簡雍は見逃さない。
「…ならアタシの前のこの麦茶、飲んでみせて」
「……っ!それは…」
思った通りだ。多分その麦茶の中には睡眠薬か何かが入れられているのだろう。
「ごめんなさい……私…」
俯いたまま泣き出しそうな声で謝る劉璋。
「ん、いいよ別に。タマちゃんが悪いんじゃないし」
彼女にそんな悪知恵があるとは思えない。きっと誰か……諸葛亮あたりに入れ知恵されたに違いない。
さて、また逃げないと。幸い、まだこの建物の周りの追っ手は少人数だ。何とか撒くことも出来るだろう。
簡雍はそう判断し、ドアを開けた。
『うえるか〜む!』
ドアを開けた先に待ちうけていたのは追跡者の皆さん。開けた早さに倍する速度でドアを閉め、鍵をかける簡雍。
「謀ったね!タマちゃん!!」
一連の劉璋の行動は全て時間稼ぎ。ここの包囲がまだ完成していないと錯覚させつつ、わざとダミーの計略を看破させ、着々と包囲を進めていたのだ。
今更気が付くも既に遅し。出口は既に固められている。
簡雍は部屋の中に入れてあったキックボードをひっ掴むと、窓の方へ向かって走る。
「か、簡雍さん、ここ二階…」
「てりゃっ!」
劉璋が止めるより先に、簡雍は窓から飛び出した。
着地。そして尻もち。落ちた先は幸運にも花壇の中だった。
「…へっへ〜、日頃の行いが良かったせいかな」
軟らかい土にショックは吸収されたせいか、服は汚れたものの、体はほとんど無傷である。
頭上から心配そうに見下ろす劉璋に親指を立てて無事をアピールすると、簡雍は少々痛む体を引きずって逃走を再開した。



「ふんふふふ〜ん♪」
鼻歌混じりに何やらごそごそと物をあさる簡雍。
あまたの監視の目をくぐり抜け、やってきたのは寮の一室…というか簡雍と法正の部屋である。灯台もと暗しとはまさにこの事か。
ポーチにフィルムその他を詰め、カメラのコンディションを確認する。
「よし、完璧」
簡雍、完全装備完了。本気の相手…タイガーファイブ級を相手取るにはこのくらいしないと、逃げ切るのも容易ではない。
「さーて、また逃げるかね」
「そうはいかないわよっ!!」
簡雍の言葉を遮る雄叫び。一瞬の後、大きな音を立てて開けれる鉄製のドア。
「…もうもうと土埃の立つ中、逆光を背負って現れたるは『漢・魏延』!」
「そこ!地の文にかこつけて口に出さない!てか絶対わざとでしょ、それ!!」
竹刀をづびしぃ!!と突きつける魏延。どうでもいいがアンタ乙女志望はどうなった?
…そんなことはどうでもいいとばかりに簡雍から目と竹刀を逸らさず、後ろのドアを蹴り閉める魏延。これで退路は窓だけとなった。
「どうする?また飛び降りてみる?尤も、ここは四階だけど」
張飛あたりならともかく、簡雍にそれは無理だ。例え無事飛び降りたとしても、下に待ちかまえているであろう連中に捕まって終わり、のはずだ。
だが簡雍に動揺はない。にいっと口の端をゆがめて、勝ち誇ったように宣言する。
「甘い」
そう言っておもむろに天井からのびたロープを引っ張る。刹那、ブラインドが下り、さらに暗幕がかかる。部屋の明かりはついていない。すなわち、真っ暗闇。
写真の現像のために、部屋を暗室にするギミックを簡雍は施していた。…まさかこんな用途で使うことになるとは思っていなかったが。
勝手知ったる自分の部屋。ベッドの位置、冷蔵庫の位置、果ては法正の持ってるぬいぐるみの位置までつぶさに記憶している。簡雍にとっては、この暗闇の中でドアまで辿り着くことなど朝飯前だ。
だが魏延は違う。暗闇に慣れぬ目を凝らし、簡雍を見つけようとするも何も見えず。駄目か、と諦めかけたそのとき、目に飛び込んでくるかすかな赤い光。
光の正体はカメラの発光ダイオード。その光の動きで簡雍の位置は手に取るように解る。
竹刀をひと振りして足下に障害がないか確認。足下の安全を確信した魏延は、一足飛びに間合いを詰める。そして竹刀を振り下ろそうとしたその瞬間――――視界が真っ白に染まった。
必殺簡雍フラッシュ。部屋が暗かった事もあって威力は倍増だ。あまりの眩しさにもんどりうって転げ回る魏延。
「あ、散らかしたのは片付けといてね」
そう魏延に告げて悠々と外へ逃げる簡雍。その言葉が魏延に聞こえているかは怪しいが。

さて、どうしたものか。このまま逃げ続けても、いずれ捕まるのは目に見えている。
ならどうするか。臭い物は元から絶つべし。ということで、この騒動の元凶である法正をとっちめて、例の言葉を撤回させれば良い。
結論は出た。ならば後は実行するのみ。
「ふっ、法正。首を洗って待ってなさいよー!」



「魏延の突入、失敗しました」
「呉班のD班、目標をロスト。現在、呉懿のB班・雷銅のF班が周辺を捜索中」
次々に持ち込まれる報告に、劉備はやれやれと嘆息した。
「無理やろな。連中ごときに見つかる程、憲和は甘ないわ」
「ほう、どういうことですかな?」
傍らに立った諸葛亮が問う。
「実戦経験の差やな。考えても見ぃ、憲和は黄巾騒動の時からウチらと一緒だったんやで?踏んだ修羅場の数なら馬超や漢升はん、子龍でさえ及ばんやろな。まして新入りの魏延や争いの少なかった益州の連中ならなおさらやな」
学園一のトラブルメーカー、劉備新聞部の初期メンバーにしてカメラマン簡雍。その役目柄、危険にさらされたことは数知れずある。しかし、彼女はトばされてはいない。
その逃げ足の早さを以て知られる劉備だが、彼女すら逃げ足という一点においては簡雍に一歩の遅れをとると思われる。
「言い出しっぺはどした?」
「法正殿なら何人か連れて外に行きましたが、何か?」
「…ま、あっちはあっちで何か企んどるんやろ」
こと戦略・戦術においては諸葛亮すらしのぐ才を持つ彼女だ。何か罠を仕掛けていることだろう。
「張飛より入電!『我、目標を発見。追いつき次第交戦を開始する』以上です!」
「益徳か!?そら拙いわ。ウチも後詰めに出る!…ちゅーことやから孔明、後頼むわ」
「お任せ下さい」
慇懃に礼をする孔明の姿を目の端に留め、劉備はその身を戦場へと赴かせた。



ばんっ!!
聞こえてきたのは炸裂音。それが聞こえた方へ劉備は走る。
校舎の角を曲がった劉備が目にしたものは、目を回してぶっ倒れている張飛と、その傍らに立つ簡雍の姿。
張飛のことだ。多分、飛びかかっていった瞬間、簡雍に返り討ちにあったと思われる。
「言わんこっちゃ無い…」
先程の音、あれはおそらくスタングレネードを使用した音。至近距離で炸裂したならば、その音と閃光によって一発で戦闘不能に陥るシロモノだ。
「丁度良かったわ。玄徳、法正は何処?」
「知らんな。それよりも憲和、そろそろお縄についた方がええんちゃうか?」
「話す気はない……ようね」
「そっちも捕まる気はないようやな」
どこからともなくハリセンを取り出し、慎重に間合いを計る劉備。
右手にカメラを、左手にスタングレネードを構える簡雍。
凍り付く気配。流れる一触即発の空気。
先に動いたのは簡雍。左手のスタングレネードを劉備に向けて投げる。
「甘いわっ!!」
気合い一閃、弾かれたグレネードは2秒後、劉備の頭上で爆発した。
ハリセンをヒュンヒュンとガン=カタばりに回し、簡雍に近づく劉備。
「さーて、そろそろ年貢の納め時やで?大人しく捕まってゴスロリを着ぃ」
「ごっ、ゴスロリぃ!?待て待てまてマテ、なにゆえゴスロリか」
「決まっとるやん。そっちの方がおもろいからや」
きっぱりはっきり断言する劉備。それを聞いて、簡雍はげんなりした。
この部はアホばっかりか?そう考えざるを得なかった夏の日だった。
「ほれほれ、考え事しとる場合やないで!」
目の前に迫る劉備の顔。そしてハリセン。紙一重でそれを避けるも、続いて二撃、三撃目が飛んでくる。いつしか背後には壁。完全に追いつめられていた。
「今大人しく捕まったら手荒なことはせんが、どや?」
完全に劣勢のこの状況。選択肢は降伏か死かと思われるこの状況下で、あろう事か簡雍は唇の端をゆがめて嗤った。
「断る」
そう言って左手に持った物体を地面に投げつける簡雍。地面にたたきつけられたそれは、凄い勢いで煙幕を吹き出した。
煙に紛れて劉備の横をすり抜ける簡雍。だがそれに気付いた劉備はしつこく簡雍を追う。
不意に、劉備の鼻先に投げつけられたボール。それは破裂すると、辺りにコショウをまき散らした。
「ぶえーくしっ、がん゛よ゛〜!ぶえっくしゅん!」
…涙と鼻水まみれになった劉備は、簡雍の追跡を諦めた。張飛はまだ目を回している…と言うか既にそれは失神から睡眠へとシフトしていた。
世界は平和である。そう思った夏の日の午後だった。

415 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 20:55
世界は平和だろうが、今の簡雍は平和とはほど遠い所に居た。
一人対数百人。かつて如何なる者も経験していないであろう戦争。タイトルを付けるならば、
まさに『真・三国無双』……シャレにならない。
そしてここに、またしても簡雍の前に立ちはだかる影が三つ。
「さぁ簡雍!!」中央に立つ、『壱』と書かれた赤色の覆面をかぶった少女が絶叫する。
「いい加減に!!」向かって左、青い覆面に『弐』と書かれている少女がそれに続け叫ぶ。
「捕まって下さいね」と、向かって右の黄色い覆面の少女がおっとりと言った。予想通り、覆面には『参』と書かれている。
「○陽戦隊サ○バルカン!?」
「違う!我々は『内政戦隊ショッカン4(−1)』!!」
簡雍のツッコミは、予想を遙かに超えたエキセントリックな答えで返された。
ホントにこの部はアホばっかりか。そう深刻に考えざるを得なかった夏の日だった。
「えーと、取り敢えず左から伊籍、孫乾、糜竺?」
「違う!左からショッカンブルー、ショッカンレッド、ショッカンイエローだ!!」
「……なんだそりゃ」
何か色々とはっちゃけすぎの三人。あきれ果てる簡雍。
ちなみに簡雍が三人を見分けたのは胸の大きさだ。孫乾<糜竺<伊籍である。
「なんかアホくさくなってきたわ。ってことであんたらスルーね」
「こら!逃げるな!」
逃げるなと言われて立ち止まる簡雍ではない。キックボードに乗って、すたこらと去っていく簡雍。
「こうなったら…ショッカンビークル!!」
そう叫ぶや、ごそごそと植え込みをあさる三人。そして取り出される、一台の買い物自転車。
それにさっそうと飛び乗る三人。自転車の三人乗りは違反です。
「待てーい!!」
叫ぶ孫乾…もといショッカンレッド。ただ乗っているだけのイエロー。そして鬼のようにペダルをこぐブルー。いせ…ブルーの中の人も大変…と言うか死にそうだ。哀れなり。
当然、三人乗りの自転車なんぞで簡雍に追いつける筈もない。見る見る距離は離れていく。
「はー、大変だねぇ…」
後ろを振り返り、のんきにのたまう簡雍。しかし次に前を振り向いたとき、その目は驚愕に見開かれた。
前から迫り来る人、人、人。ついに捜査本部は人海戦術に訴えることにしたようだ。
後ろを仰ぎ見れば必死こいて追いすがる伊籍、孫乾、糜竺。…必死なのは伊籍だけだが。
進退窮まったか、そう思って周りを見回した簡雍は細い路地を見つけた。そこに一筋の光明を見出した簡雍はすぐさまそこに駆け入った。

そこまでだった。
急に足を取られ、キックボードごと転倒する簡雍。
「あたた…って何よコレ!」
地面にぎっしり敷き詰められた粘着シート。引き剥がそうとするも、よけいに絡まってしまう。
「かかったわよ!やっちゃて!」
頭上より降ってくる法正の声、そして投網。

捜査開始より3時間57分。  簡雍、捕縛。




白いワンピース、手編みのサンダル、麦藁帽子。
白いテーブル、白い椅子、木漏れ日の影。
さらりと流れる髪、銀縁の眼鏡、手に持った詩集。
どこからどう見ても、生粋の文学少女にしか見えないのだ。あの簡雍が。
「おお〜〜〜〜〜」
ギャラリーからあがる、感嘆のため息。
はっきり言って想像以上だった。
「いや〜見違えたわ」
簡雍をひん剥いて着替えさせた劉備が言った。ちなみに彼女の提唱したゴスロリは多数決により僅差で却下されている。
「グレイトですぞ簡雍殿。どうです、そのまま眼鏡を着用しては?」
と諸葛亮。簡雍が眼鏡をかけているのは、勿論彼女の提案によるものだ。
「うぅ、持って帰りたい…」
「テイクアウトはオッケー!?」
「はうー、何かソッチの道に目覚めそう」
等々、なにやら怪しい声が飛び交う中、簡雍は面白くなさそうに、テーブルに置かれたグラスの氷をストローで突っつく。

不意に、風が吹いた。
麦藁帽子が舞い、簡雍は為す術もなくそれを見送った。それはさながら一枚の絵のようで。
「をををっ!!記録班、今の撮った!?」
「ばっちりです!カメラ、ビデオ共に撮りました!」
「グッジョブ!後でみんなで見るわよ!」
親指をびしっと立てて、法正が言った。
「いやー、それにしても予想以上ね。みんなで追っかけた甲斐があったわ」
「……追っかけられた方はたまったモンじゃないんだけど」
「まぁまぁむくれない。憲和だって乗り気だったでしょ。自分でこんな飲み物まで用意して。で、これ何?アイスティー?あ、レモン入っているからアイスレモンティーかしら?」
「あぁ、それ?ロング・アイランド・アイスティー」

『……って酒かよっ!!!』

簡雍を除く全員の声が、夏空にこだました。





※補足
ロング・アイランド・アイスティー

ドライ・ジン………15ml
ウォッカ………15ml
ホワイト・ラム………15ml
テキーラ………15ml
ホワイト・キュラソー………15ml
レモン・ジュース………30ml
コーラ………40ml
レモン・スライス………1枚

クラッシュド・アイスを詰めたゴブレットに、
上記の順で注ぎ、ステアする。
レモン・スライスを飾り、ストローを添える。

茶なんぞ一滴も入っておりません。

416 名前:7th(ver.祭り):2004/01/18(日) 21:01
以上です。
元は「蒼天乙女の春夏秋冬」として短編連作を予定していましたが、悪ノリしすぎてこんな形に。
何か性格が違うキャラが居るかもしれませんが、そのへんは大目に見て下さい。

417 名前:那御:2004/01/18(日) 21:24
おおおおおおお!7th様グッジョブ!
こっちとしても早く見たくてたまらない簡雍の姿、
それをあざ笑うかのような、簡雍の逃避行w!

(何故かw)猛烈にドキドキしましたぞw

418 名前:アサハル:2004/01/18(日) 22:06
取り急ぎっ!!
(ノ゚Д゚)ノ −=≡ http://fw-rise.sub.jp/tplts/after.jpg target=_blank>http://fw-rise.sub.jp/tplts/after.jpg

419 名前:那御:2004/01/18(日) 22:24
アサハル様グッジョブ!!
え〜、テイクアウトはオッケー!?

420 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/19(月) 00:32

>7thさま
うまい! 
素直に感心しましたわ!ノリといい掛け合いのテンポといい!
何よりもキャラのチョイスとシチュが(;´Д`)ハァハァ…!
したたか度では学三中最強の簡雍たんに次々撃ち払われてゆく、帰宅部連合の面々…
体力だけではなく口先で切り抜ける機転! なんかより簡雍たん好きになりましたわ。

それにしても…胸で識別される内政戦隊にワロタ。伊籍たんのナニゲな設定まで活かすとは
お見事!

>アサハル様

Σ( ̄□ ̄;)!! か…簡雍――ッ!?

>>419
ならぬ!>>418はワタクシがテイクアウト予約済み!

421 名前:★玉川雄一:2004/01/19(月) 01:00
ナニゲに簡雍って、
今までの総作品中で登場回数トップなんじゃないだろうか(^_^;)

いやはや、帰宅部連合のほぼフルメンバーが余すところなく活躍(?)しておりますね。
智恵と舌先三寸を駆使してハリウッド映画ばりの逃走劇…
つうかアレですか、簡雍は内政戦隊のグリーンかピンク?
これはまた、次回作が非常に楽しみでありますことよ。
帰宅部連合以外でもぜひ!

>>419-420
ええい、散れィ!(丿`▽)丿━━━━*
奪ったモン勝ちじゃあ! (゚∀゚)ノ>>418

422 名前:★惟新:2004/01/19(月) 01:18
つ、ついに法正タンの真骨頂が! 恩も恨みも十倍返しが! (;´Д`)ハァハァ…
それにしても簡雍恐るべしっ! その生命力はもはや学園最強?
そして! 結末が! 簡雍…(;´Д`)ハァハァ…

始終大笑いさせていただきましたが、中でも『内政戦隊』が無茶苦茶好き!
もうこの人たちで他にもイロイロ読みたいほど(^_^;)
時折見せる小ネタの数々もしっかりツボを抑えていてグッド!
それでいて迫力のアクション! 実に読み応えのある作品でありましたよー!
いやーこれからもよろしくお頼み申し上げます、7th様!

>アサハル様
ナント━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
しかもメガネッめがねッ眼鏡えッ!!!
なんと可憐な…これがあの簡雍とは…
私にその眼鏡の曇りを拭かせてくださいませー(;´Д`)

むむ! 諸氏には悪いが私も譲りませんぞッ!
;y=( ;゚д゚)д゚)д゚)
先祖伝来のこの種子島、そう易々とやらせはせぬっ!

423 名前:7th:2004/01/19(月) 20:22
予想外の反響!Σ( ̄□ ̄;
皆様ありがとうございますm(_ _)m
特にアサハル様!!感謝感激でありますっ!!
まさにこのイメージ!自分ごときが万の言葉をもってしても、この一枚の絵には敵いません!

なんか反響の大きかった『内政戦隊』ですが、簡雍はグリーン…かなぁ。
この後、第二世代になって、『内政戦隊ショッカン5』に…なったら面白いなぁと思ったり。
ちなみにメンバーはレッド:蔣琬 、ブルー:費禕、グリーン:董允、イエロー:尹黙、ピンク:郭攸之 とか。

424 名前:★教授:2004/01/24(土) 23:48
本日、帰国の途に着きました。とても久しぶりな日本の土は感動でした。
感想等は休養を取ってからしますので、暫しお待ちを…。

んで…これまでの『しょーとれんじすとーりー』に登場した人達を宿泊先で数えてみました。
玉川様の予想通り、1位は簡雍でした(笑) 作業時間2時間50分、信用出きると思われます(何)

1.簡雍
2.劉備
3.張飛
4.法正
5.曹操
6.皇甫嵩
7.諸葛亮
8.朱儁
9.関羽
10.厳顔
11.甘寧
12.夏侯惇
13.周瑜
14.趙雲
15.黄忠
16.孫乾
17.魯粛
18.張遼
19.劉禅
20.盧植

ベスト20の中に貴方のお気に入りのオンナノコはいましたか?

425 名前:★ぐっこ@管理人:2004/01/26(月) 00:07
教授様、おかえりなさいませ!

そしていきなり大事業乙っ!3時間弱…(´Д⊂
うーん、やはり簡雍でしたか…。そんで次点劉備…。作品中では他のキャラほど
インパクトがないのですが、それでも締め役として必ず登場してるのがポイント
ですやね。
しかし…こうしてみると、やはり長湖部勢が元気ないな(´・ω・`) 
よろしい。ならば我が手でなんとかしてみせるまで。

426 名前:★教授:2004/02/04(水) 22:43
■■ 卒業前夜第二幕 --


「郭嘉…」
 3月某日、寒風の吹きつける墓所。
 少女は墓石の一つに細く白い指先を滑らせる。彫られた文字をなぞるようにゆっくりと滑らせる。

 郭嘉奉孝――

 少女が指でなぞり、墓石に刻まれたその名前。
 連合生徒会の者なら誰もが知り、そして忘れられぬ少女の名だ。
 限りある命の中で彼女ほど美しい大輪の華を咲かせた者に列挙できる人物はそういないだろう。
 それ故に薄命であった事を悔やむ者も少なくない。彼女の主であった少女も誰彼憚る事なく大粒の涙を零し、激しく天を呪ったという。
 郭嘉が眠る墓石の前に立っている少女もまた縁浅からぬ仲であった。
「…貴女の眠ってるこの場所に私が来る…なんて意外だった…?」
 憂いを帯びた微笑を浮かべ、現世にいない少女に言葉を掛ける。まるで目の前にその者がいるかのように。
 少女は手に持っていた手提げ鞄から一台のMDプレイヤーを取り出す。
「随分遅くなっちゃったけど…これを返しに来たの」
 そっと墓前にMDプレイヤーを置く。
 生前、この少女が郭嘉から取り上げた品。風紀委員として当然の行為だった。その時はこのMDプレイヤーが遺品になるなんて予想も想像もしてなかった。
 会えば口喧嘩、顔も見たくないと思った事もあった。すれ違ってばかりの二人だったが、その相手を永遠に失ってしまって初めて気が付いた大切な何か。

 でも気付くのが遅かった――

 心の奥に悔恨という大きく深い爪痕を刻みつけられた。
 返そうと思い何度も郭嘉の下へ足を運んだ。だけど神の悪戯か、療養の為に学園を去るその日にさえ彼女と顔を合わせる事は適わなかった。
「私…貴女とゆっくり話してみたかった…」
 眼鏡の奥に佇む悲哀に満ちた双眸は既に頬を濡らしていた。
 彼女の死を哀れんでいる訳じゃない、ただ和解出来なかった事と郭嘉を理解できなかった心中の哀しみに包まれていたのだ。
 永遠に解する事の出来ない心の溝。これから先も埋まる事はない。
「明日…卒業式なんだよ? 私も…生きていれば貴女も…。だけど…何だか悲しいよ」
 吹き抜けていく風が少女の髪を靡かせる。郭嘉がいたあの頃から随分伸びた。あの時の自分を見たくはなかったから――
 少女は涙を拭うと、再び墓石に指をなぞらせる。締めつけられる胸の内をぐっと堪え、踵を返した。
「サヨナラ…またその内顔見せに来るね」
 寂しく、そして小さな背はゆっくりと墓地から姿を消して行く。まるで風に流されるかのように――


 深夜2時、草木も眠る丑三つ時。
「…………」
 墓前に置かれたMDプレイヤーに伸びるしなやかな腕。手に取りイヤホンを耳にする。
「…………」
 その人は目を閉じ微かな笑みを浮かべている。
 やがて、その姿は闇に紛れるように消えていった。墓前のMDプレイヤーと共に――


――そして卒業の時を迎える

427 名前:★ぐっこ@管理人:2004/02/06(金) 00:42
。・゚・(ノД`)・゚・…

教授様、復帰第一弾乙であります。

そしていきなりしっとり系…。
天敵どうしであった郭嘉と陳羣の、決して同じ刻に出逢うことのできない
逢瀬ですね…

ぽんぽんとお互いに悪口を言い合える二人は、曹操にとっても「見てて飽きない」
と風物詩めいた光景であったはず。失われてから初めてわかる、かけがえのない
関係。
ガチガチの風紀委員長だった陳羣も、郭嘉の死を乗り越え、だいぶ成長できたでしょう…

428 名前:惟新:2004/02/06(金) 21:54
陳羣…(つД`)
「失ってしまって初めて気が付いた大切な何か。」
でもそれは遅すぎて…それでも!

うう、愛されてますねぇ郭嘉…


昨年度末、私たちを涙させた卒業前夜の第二幕が明ける。
教授様ついに本復帰!? 今後も目が離せないですよー!

429 名前:那御:2004/02/06(金) 22:46
泣いた・・・いい話じゃねぇかぁ!。・゚・(ノД`)・゚・
遅すぎた和解・・・帰ってくることの無い時間を悔い、
お互いすれ違いばかりだった日々を悔いる。

でも、そういう辛く、悲しい過去をバネにしたからこそ、
学園での陳羣があったのかもしれないですね・・・

あ〜泣いた。教授様の完全復帰とあらば、強力な作品がまたまた・・・

430 名前:★おーぷんえっぐ:2004/02/07(土) 19:11
昨今、他の用事で多忙を極め、SSさえ読んでるヒマありませんでした(汗)
教授さんの得意分野が見事に炸裂した、シットリとくるお話ですな^^
”喧嘩するほど仲が良い!”
を地で行く二人の姿を見せてもらった気がします。

431 名前:★教授:2004/02/15(日) 23:05
■■ バレンタインSS -多人数SP- ■■


「関さんは例年通り指名手配になっとるけど…」
「関姉も大変だなー…俺らも今大変だけど…」
 成都棟屋上、給水塔下で劉備と張飛は毛布を頭からかぶって茣蓙の上に座りながら七輪で暖を取っていた。
 今日は2月14日。世はバレンタインと呼ばれる女の子に取っても、男の子に取ってもあらゆる意味で緊張する日である。
 女子高でもあるこの学園でもバレンタインというイベントは発生する。むしろ、それは必然であるとも言える。こんなイベントを放っておく女子などいないのだ。
 …で、何故劉備と張飛が寒空の下でこんな事をしているのか。答えは簡単、一般女子のチョコ攻めから逃れる為だ。
 益州校区を落としてから一気に株が上昇した二人は前日の深夜から異様な視線を感じていた。そこで諸葛亮に調査を依頼した所、驚愕の事実が判明。逃亡のきっかけとなったのは、諸葛亮の資料と共に添付されていた見るからに毒々しいラッピングのチョコを見た事だった。
 ちなみにこの場にいない荊州校区を管理している関羽は妹や水練達者な部下の助けを借りて今も逃亡中である。最も妹と部下は既に大量の靴跡の烙印を押されて倒れているのだが――
 暖を取りながら潜伏中の二人以外にも馬超、黄忠、厳顔も同様の被害に遭っている。黄忠、厳顔は大人の対応で凌いでいるが馬超はそうもいかない。如何に帰宅部屈指のスプリンターと云えども限界はある。逃げ場を失って拉致されていく姿を馬岱が見たそうだ。
 しかし、趙雲はチョコ被害に遭っていない。その時彼女の周りには簡雍、法正と敵に回したら最強最悪の二人がいたからだった。流石に自分の命と引き替えにチョコを渡す強行には出る事は出来ない。
 場面を戻そう。劉備と張飛は給水塔の下で難を逃れていたが、そろそろ限界を感じてきていた。先ほどから屋上の探索に何人か現れているのだ。1分前に一度見つかったが、その時は張飛が間髪入れずに記憶消去(頭部強打)をしたお陰で命拾いはしている。見つかるのはもう時間の問題っぽいが――


 場面は変わり、益州校区郊外の丘の上。
 ここで簡雍と法正がベンチに腰掛けていた。趙雲がアトちゃんの部屋に入ったのを確認すると二人で適当な雑談をしながらぶらぶら歩いていたらこんな所まで来てしまっていたのだ。
 しかし、どことなく二人の間に気まずい空気が流れていた。
「………」
「………」
 お互いに目線も合わせずに落ちつかない様子。簡雍も法正も頬を染めている。
 二人とも綺麗にラッピングされたハート型のチョコを一つずつ持っていた――


 更に場所は変わりラク棟――

「毎年毎年…何で私がこんな目に!」
 半泣きになりながら一人の少女が一個師団にも匹敵する集団に追われている。
 悲しい事に、課外活動から退いている今でもこの日になると逃げ回る事を余儀なくされるのだ。
 必死に逃げ惑う少女、通称『益州タカラヅカ』張任。潔さと忠信の高さが仇となってしまっている。そこはかとなく報われない少女――


 夜――

 劉備と張飛は撤収しようとした所を待ち伏せしていた諸葛亮率いる女子達に取り囲まれていた。夜まで粘ってた事は誉めてやるべきだろうか――
 余談だが、今年の関羽は無事逃げ切る事に成功していた。尊い犠牲、名誉の殉職者2名――

                糸冬

432 名前:那御:2004/02/15(日) 23:49
バレンタインキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
劉関張、年増コンビ(後で二人に殺されるさ!)、馬超、簡雍法正コンビはもちろんのこと、
何より『益州タカラヅカ』こと張任がイイ!
間違いなく、バレンタインとかに興味関心0。それでも顔を真っ赤にして逃げる張任に惚れ。。

433 名前:惟新:2004/02/16(月) 20:40
ウァレンティーヌスの贈り物━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
対策の違いにキャラの個性がしっかり出てますね〜!
にしても簡雍と法正は何イイ雰囲気出してますかー(;´Д`)ハァハァ
何気に幸せ不幸の張任ワラタ。
彼女の苦労伝説は続く…

434 名前:★ぐっこ@管理人:2004/02/17(火) 00:47
むう、あのチョコ話(>>24-29)から一年経つのか…(;´Д`)ハァハァ
って二年経ってるやんけΣ( ゚Д゚) うわ、やっべ…
あー、あのころはまだ今ほど校区がどうこういう話になってなかったのね…

さておき、教授様グッジョブ!
むう、舞台が益州に移り、張任たんもその毒牙にかかってますか(^_^;)
簡雍と法正は相変わらず、劉備は今回は追われる側…
悲喜こもごものバレンタインだったようで…

435 名前:★教授:2004/02/25(水) 23:41
■■ THE EARLY DAY -法正と簡雍- ■■


▲15:40 法正専用作業室という名の図書準備室

「参ったなぁ…」
 法正は鉛筆を動かしながらため息を吐く。しきりに柱時計や腕時計をチェックしながら筆を進めていた。随分と焦っている様子が見て取れる。
 傍らには『定軍山攻略報告書』と書かれたA5の用紙が山のように積まれていた。そう、法正は劉備に提出する為の報告書を書いていたのである。メインの活躍を見せた黄忠&厳顔の御姐様コンビは別件でこの場にはいない。法正に言わせてみれば一人の方がスムーズに作業が進むのでむしろいない方がいいらしい…のだが、今回ばかりは後悔していた。
「こんなに報告書があるなんて…予想外だったわ。憲和待たせてるからなー…」
 どうやら想像以上の報告書と重なって簡雍と約束をしていたようだ。
 待たせたりすっぽかしたりしたらどんな恐ろしい事が待っているか――法正の脳内で想像するには容易い事であった。それ故にのんびり筆を進めている場合ではなかったのだ。
「絶対17時までに完成させなきゃ!」
 凝った肩を数回叩くと集中作業モードに以降した――

▲16:00 某喫茶店

「可愛いバイト雇ってるねー…マスター」
「ははは、よく働いてくれるし助かってるよ」
 カウンター席に腰掛けて紅茶を飲む簡雍。その正面で喫茶のマスターが愛想良く話相手になっていた。
「マスター! 私、表を掃除してきます!」
 そして、可愛いと評されたバイトの娘さんは照れ隠しかどうかは分からないが、怒りながら箒とちりとりを持って外へ出て行ってしまう。その様子をマスターと簡雍が微笑みながら見送った。
「張任ちゃんも案外照れ屋だからね。あんまり囃したてないでよ」
「マスターの頼みじゃ断われないね」
 こんな調子でちっとも待っているという素振りのない簡雍だった。

▲16:58 法正専用作業室という名の図書準備室

「終わらないっ! 絶対ムリっ!」
 壊れかけの法正が冷や汗を流しながら筆を進めていた。自分では頑張っているのだが、思うように作業が進まない。苛立ちと焦りが余計に作業を滞らせるのだ。
 別に今日中に提出という訳ではないが、中途半端に残すのも寝覚めが悪い。変な使命感が後押ししながら死に物狂いで報告書を仕上げていく。
 しかし、待ち合わせ時間は17時半…柱時計の短針が5になった。

▲17:27 某喫茶店

「おっそいなー…いつもなら5分前には来てるのに」
 小洒落た柱時計を見ながら簡雍がぼやきはじめた。真正面ではマスターが夕刊を、張任が食器を洗っていた。柄無しの赤いエプロンが似合うがどこか家庭的な印象を受ける。
 やがて時刻が17時半になると、簡雍はため息を吐いた。その仕草にマスターが新聞から顔を上げる。
「簡雍ちゃん、待ち人来ず…かい?」
「今、約束の時間丁度。もう少しだけ待ってみるよ」
「そうかい。ま、ゆっくり焦らずにね」
「いぇっさー」
 ぷらぷらと足を揺らしながら簡雍の目は柱時計を見据えていた――

▲19:00 法正専用作業室という名の図書準備室

「お、終わったー…」
 がたんと椅子から立ち上がり勢い良く背伸びをする法正。その顔は達成感に満ちた何とも爽やかなものだった。
 報告書をまとめてファイリングしながらちらりと柱時計を見てため息を吐く。
「流石にこんな時間じゃね…明日憲和に謝らなきゃ…」
 何されるか分かったものではないが、仕方ない。自分が蒔いた種だ…と覚悟を決めると、再び大きなため息を吐いて図書準備室の明りを落とした――

▲20:30 某喫茶店

「………」
 簡雍はうっすらと目を開け、顔を上げる。マスターの顔が目に入った。
「おはよう…と、言いたいけど…もう閉店の時間なんだよね」
「やべ…寝ちゃってたのか…」
 無造作に頭を掻く簡雍。柱時計に目を遣りため息を吐いた。
 そんな簡雍の前に一杯の珈琲が差し出される。珈琲とマスターを交互に見遣る。マスターは微笑するとエプロンを外した。
「それは奢りだよ。ぐいっと飲んで眠気覚ましてから帰りなさい」
「太っ腹だねー…それじゃ、遠慮なくいただきまーす」
 丁度、金銭面で四苦八苦してたので珈琲一杯でも随分助かる。簡雍に取っては優しさも立派な渡りに舟にもなっていた。
「それじゃ、マスター。私はこれで失礼します」
 張任がエプロンを外しながら奥から出てきた。…どうやらこの店では学生服の上からエプロンで仕事をしているようだ。
「ああ、お疲れ様。明日もよろしくね」
「はい。それじゃ失礼します」
 礼儀正しく挨拶をすると入り口から出て行く。実直なその姿は簡雍も魅せられるものがあった。
 やがて、珈琲を飲み終える。カップを返却して鞄を掴むと笑顔を見せた。滅多に人には見せない、そんな笑みだった。
「ごちそうさまでした」

▲21:00 寮前

「はー…随分遅くなっちゃったわ」
 とぼとぼと歩く法正。学校を出る頃にはもう真っ暗になってしまっていた。
 報告書は科学室で怪しげな発明をしていた諸葛亮に渡してあるから問題無い、取りあえず今日はゆっくり寝て明日の簡雍の襲撃に備えよう――半ば開き直りを見せているようだ。
 寮の門をくぐった時だった。目の前に馬超が――鉢合わせてしまっている様子。
「馬超じゃない…何してるのよ、こんな時間に。寮が違うでしょ? もしかして寝ぼけてる?」
「そんな訳ないわよ! 何で『夜はこれから♪』な時間に寝ぼけなきゃならないのさ!」
 疲れてるから普段の2割増しで言う事がキツイ法正に何処となく不良じみてきた馬超、姦しい。やがて疲れてる法正が折れる事に。
「まあ…何でもいいけど。早く戻らなくてもいいの?」
「憲和にこの間の漢中での写真貰おうと思ったんだけどな。待ってても帰ってこないから」
「あー…ずっとシャッター切ってたものね…って、今何て言ったの!?」
 危うく聞き流しかけた。法正が馬超に詰め寄る。
「え…いや、簡雍いなかったからって…」
「ウソ! じゃ…まだ待ち合わせ場所にいるの…もしかして!」
「ちょ…いてっ!」
 法正は馬超を突き飛ばすと踵を返して駆け出した。馬超は門で頭をぶつけて悶絶。馬超1回休み――

▲22:00 某喫茶店

「………憲和」
 閉店した様子の喫茶店の前に立つ法正。明りも消えて人の気配すらしない店内をちょろちょろとカーテンの隙間から覗きこむ。もしかしたら――そう思うと必死になって辺りも探し始めた。
 元々は自分が誘ったのに何で一番最初にここに来なかったのだろう、法正は激しく後悔していた。――次の瞬間!
「いつまで待たせるのよ! このバカ法正!」
「きゃっ!」
 後ろから鞄で法正の頭を殴った輩に痛そうに頭を押さえて蹲る法正。痛みを堪えながら後ろを振り返ると、そこに立っていたのは簡雍だった。
「憲和…ずっとここにいたの!?」
「待たせすぎ! 自分から誘っておいて…許せないぞ!」
 今度はでこぴん。小気味いい音が静かな通りに響いた。
「…ごめん」
 額を押さえながら深く頭を下げる法正。流石に悪いと思っているようだ。その姿を見て簡雍も怒るに怒れなくなってしまう。
「…牛丼奢ってくれたら許す」
「…いいの? そんな事で…?」
「お腹空いてるの!」
 ふんっと鼻を鳴らすと歩き始める簡雍。慌てて法正も後に続く。
「言い訳しなくていいからなー…来たんだから謝る代わりに奢れよー」
「…味噌汁と玉子も付けるわ」
「んじゃ、手打ちね」
 くるりと簡雍が振り返ると法正に微笑みかけた。その笑みを見て法正も自然と笑顔になれていた――

▲22:30 某牛丼チェーン店

「いらっしゃ…マジ…?」
 バイト着に身を包んだ張任に呆気に取られる簡雍と法正。そそくさと外に出て大笑いしていた――

▲24:00 法正の部屋

「くー…」
「………ぐぅ…」
 法正と簡雍が静かに寝息を立てていた。
 この後から二人の少し変わった日常が始まる――

          糸売 or 糸冬

436 名前:惟新:2004/02/27(金) 22:03
法×簡シリーズまだまだ続くっ!
もはや学三には無くてはならない名物となりつつありますなー(;´Д`)ハァハァ

気が付けば二人の友情も温まり。
艱難辛苦も何のその、すっかりわかりあってるじゃありませんか!
心の中が温まるですよ〜
そんでもって張任タンが可愛くて仕方が無いです(;´Д`)
壮絶にいじらしいですよもう!

ところで牛丼が食べたくなったですが、絶滅危惧種…

437 名前:那御:2004/02/27(金) 22:36
教授様による法&簡シリーズキタ―(・∀・)―!!
実務が多い法正に対し、簡雍は暇そうですね・・・
ズボラな性格でも、心は暖かいことこの上ないですね。。
サブキャラ馬超、張任も良い味出してる・・・

438 名前:国重高暁:2004/04/05(月) 16:12
 ■■ 小さな才媛 ■■

「公路お姉ちゃん、こんにちは!」
 敷地中雪化粧した豪邸の、その母屋の表出入口に、一人の幼女の姿があった。
 両手に大きな包みを抱え、ちんまりと立っている。
「はい、今開けますわ」
 公路お姉ちゃんと呼ばれて返事をしたのは、年の頃十六、七の少女。
 その声には品があるが、なぜか元気がない。
 彼女はドアを開け、幼女と対面した。
「あら、あなたは……どこの子でしたかしら?」
「お姉ちゃん、あたしのこと忘れたの? わーん」
 泣きじゃくる幼女を制止しながら、少女は懸命に自分の記憶をたどる。
「えーと、ちょっと待ってらして……ごほ、ごほ」
 ただの咳払いではない。彼女はここ数日、風邪で四十度の熱に苦しんでいるのである。
「思い出しましたわ。確か……陸さんちの績ちゃんでしたわね?」
「よかったあ。ちゃんと覚えててくれて」
「ごめん遊ばせ。私、こういう体でございますから、ちょっと頭がぼけておりまして……」
 大いに謝りながら、少女は持っていた絹のハンカチで、幼女の顔を丁寧に拭いてあげた。

 この少女の姓名は袁術、字は公路。
 ここ荊州でも他に比類なき豪家の令嬢で、蒼天学園高等部の生徒会副会長を務めている。
 一方、やってきた幼女の姓名は陸績、のちに字して公紀。
 今春から小学生になるところだが、既に微積分の知識を持ち、「小さな才媛」と評判の幼女である。
 もとより彼女も深窓の生まれであり、したがって家族ぐるみの交流を持つ。
 そんな陸績を自室に通すと、袁術は悪趣味なベッドに身をゆだねた。
「績ちゃん、私を見舞いにいらしたのね?」
「うん。だから、あたし、これ持ってきたの!」
 こたつに入った陸績が包みを解くと、立派なかごに盛られたフルーツが姿を現した。
「お姉ちゃん、しっかり食べて、元気出してね」
「あら、フルーツなら、既にたくさん届いておりましてよ」
 袁術は豪家の令嬢であるから、当然見舞い品の差し入れも多い。
 現に、こたつの周りには、フルーツを盛ったかごが所狭しと並べられていた。
「そ、そんな……三十分もかけて、せっかく持ってきたのに……」
「泣かない、泣かない。私、あなたの分もちゃんといただきますわ」
 再び涙目になる陸績を、袁術は丁寧になだめすかす。

「では、とりあえず……オレンジでもいただきましょう」
「お姉ちゃん、風邪にオレンジはあまり効かないんだけど」
「病は気合で治すものですわ。お黙り!」
 医学的知識をひけらかす陸績を抑え、袁術は彼女の持ってきたかごからオレンジを一個取る。
 そして、自らもこたつに入り、片隅に置かれていたナイフでこれを割いた。
 「こたつミカン」ならぬ「こたつオレンジ」である。
「績ちゃん、あなたもお食べなすって」
 オレンジの一切れを食べながら、別の一切れを陸績に勧める。
「いらない。せっかくあたしが持ってきたんだから、全部お姉ちゃんが食べて」
「うーん……しようがないですわ」
 残ったオレンジを食べ終わると、件のかごからまた一個のオレンジを取り出す。
 結局、袁術は陸績の持ってきた三個のオレンジを全部食べた。

「これ、人のかごに手をつけるんじゃありません!」
 すさまじい怒号である。袁術は、陸績が突然、他人の贈ったかごからオレンジを三個取るシーンを見透かさなかった。
「お姉ちゃん、怒らないで。あたしの一生のお願いだから」
「怒りたくないのはこっちですわ! なんてはしたないことを……」
「はしたないけど許して。これには深いわけがあるの」
 涙をこらえ、陸績は事情を説明し始めた。
「あたし、これから家に帰って、ママにもオレンジを食べさせてあげたいの」
「なるほど」
「今、あたしんちがどうしようもない状態なの、お姉ちゃんも知ってるでしょ?」
「もちろんですわ」
「だから、お姉ちゃんからもらったことにして、このオレンジをママにあげたいの。ねえ、いいでしょ?」
(な、なんとまあけなげな子……)
 袁術は思わず涙腺を緩めた。この幼女が高校生並の知能だけでなく、並ならぬ孝心をも備えていようとは。
「わかりましたわ。では、私のことをよろしくお伝えくださいませ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
 陸績は、三個のオレンジを先刻のかごと同じ包みに納め、これを懐にして去った。
 一方、ベッドに戻った袁術の枕元には、彼女の持ってきたかごと並んで、先ごろ入手したばかりの「伝統の蒼天会印」が置かれていたのであった。

                   糸冬

439 名前:国重高暁:2004/04/05(月) 16:29
いかがでしたでしょうか。
呉書陸績伝などにある、かの有名な
「陸績懐橘」の故事をSS化してみました。
元来は九江県で起こった出来事なのですが、
ここは袁術の本拠・宛県にしておきました。
伝国の玉璽については未だに公式設定がない(?)
ようなので、とりあえず「伝統の蒼天会印」と
しておきましたが……宜しかったでしょうか?

以上、国重でした。

440 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/05(月) 23:50
国重高暁さま、初参加初登校ありがとうございますヽ(´∀` )ノ
袁術の前で橘を懐に入れたという陸郎のお話ですな!
これまでSS化されていなかったあたりですので、これでまた一つの物語が
学三史に組み込まれたことに…
健気な幼女・陸績たんと、お嬢様袁術たん…(;´Д`)ハァハァ…


ちなみに学三史的修正ですが、陸績は陸遜より4つ年下なので、新設定でいえば
4ヶ月年下。まず、同学年。諸葛亮や孫権とも同年なんですねえ(^_^;)
つまり袁術が玉璽を手に入れてた頃だと、中学二年生だったり。

もちろん国重高暁さまの投稿は他のSSと同じく“異説”ですので、こういう細かい
ことは気にせずに! これからもよろしくお願い致しますねー!

441 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/05(月) 23:57
>>435
                  __ __ __ __ __                 __ __
                 ∠__∠__∠__∠_.∠_../ |        __∠__∠__∠l__
               ∠__∠__∠__∠__∠__/|  |        ∠__∠__∠__∠__/.|_
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        __ _|    |__|__|__|__|/| ̄ ̄|  |    ∠__|__|__l/   /|  |/|  |
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.     ___|__|__.| ̄ ̄|  |_|/      |    |  |__|/     |    |    |    |    |  |/|  |
.   /   /   /  |    |/|.         |__|/|          .|__|__|__|__|/|  |/
  | ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|  |.         |    |  |            .|_|    |    |  |__|/
  |__|__|__|__|/        |__|/               |__|__|/


今日の今日まで投稿に気づきませんでした…_| ̄|○  スマソ教授さま…

うーん、法正と簡雍の凸凸コンビ。すっかり定番というか、学三的に定着して
しまってますが、いよいよ熟年期のカポーじみてきましたねえ(^_^;)
法正のようにある意味人見知りするタイプだと、ツボに入るようで…

442 名前:那御:2004/04/06(火) 00:12
というわけで、国重様初投稿乙!
何を隠そう私は隠れ陸績ファンでして・・・
文人なのに剛毅な人物っていうところにツボがあるのかも(孔融とか)
「陸績懐橘」・・・陸績を語る上で欠かせないイベントですよね。
それを見事に学三へ、良かったです!

443 名前:惟新:2004/04/09(金) 04:05
いらっしゃいませ国重高暁様!
さっそくのご投稿、拝読させていただきました!
おおっ! しっかり学三風にアレンジされてますよ!
何気に感受性豊かな袁術たんイイ(・∀・)!!

444 名前:はるら:2004/04/17(土) 14:09
■平和なひと時■


「だぁ〜〜〜〜〜!!!遅〜れ〜る〜!!!」
平穏そのものの学園に一人の少女の声が響き渡る。
「あっ、伯珪先輩!!どうかしたん〜!!」
「やや、玄徳!お前こそ何やってる?きょう授業あるぞ!!」
「ええぇ!!!!先輩マジ!?」
「嘘ついてど〜すんだよ!!!また盧植先生に怒鳴られるぞ!!・・・てもういないし」
伯珪と呼ばれた少女はまた駆け出した。


所変わって盧植先生の部屋。
「……遅い………」
盧植先生が呟いたその時、
「ギリギリセ〜フ!」劉備が部屋に猛ダッシュで突入した。
「いえ、47秒遅いです」
「ってえぇ〜!!なんで秒単位なん!?」
「…まぁ、1分以内ですから特赦としましょう」
そう言って盧植先生、ドアを閉める。
ドドドドドドォ〜〜!!!!!
「えっ??何かしら???」
その時公孫サンがドアにスライディングをかまし、ドアが吹っ飛び、
盧植先生に激突した!!
「どりゃ!!!よっしゃ〜!!ギリギリセ〜フ!!!」
劉備心の声「(どこがやねん!?)」
「は、は、伯・珪〜〜〜〜!!!!!!」
「え、えぇ〜??(先生キレちゃったよ、ちょっとドア吹っ飛ばしただけじゃん)」
「あなたはどうしてもっとおとしやかにできないんですか!?」
公孫サンため息をつきながら
「い、いや、先生それは先生だって・・・」
「なにか?」盧植先生、先手を打つ。
「う、(先生、顔は笑ってるけど目まで笑ってない。む、むしろ怖い…)」
劉備心の声「(っは!これはピンチや!!伯珪先輩にとってもあたしにとっても!!)」
「(こりゃ、なんとかせな・・・!!あれや!!!)」
「せんせ〜!このクッキー食べていい〜!?」劉備が話を変えようとする。
「な、げ、げ、玄徳〜〜!!!!!」
「は、はぅ〜!?(ミ、ミスった〜)」
公孫サン心の声「(馬鹿でしょ!?)」


―何だかんだで2時間経過―

「…………わかりましたか?二人とも!」
公孫サン「へぇ〜い」
劉備「(先輩、やる気ねぇ〜)は、はい!!」
「よろしい」
「本来なら今日は英作文のテストをしようと思っていましたが、
あなたがた二人のせいで見事潰れてしまいました」
公孫サン&劉備の心の声「(イヤッホ〜〜〜!!!!!)」
「なので今日は不本意ながら英単語のテストをしましょう♪」
「大差ねぇ〜」公孫サンがやる気のない声をあげる。
劉備心の声「(鬼や、本物の鬼がおる・・・!!)」

「コンコン」ノックが鳴る。
「どなたですか??」
「しーちゃん元気ぃ〜!?」朱儁が現れた!!
公孫サン心の声「(先生が、先生が『しーちゃん』!?)」公孫サンは吹き出した。
しかし劉備が公孫サンの口をふさいだ。
「伯珪先輩、今度こそ死んじゃいますよ!?」

「…しーちゃん、あの子達…」朱儁が劉備と公孫サンを指をさす。
盧植の目は恐ろしく凍りついている。
「こーちゃん、お願いだからちょっと部屋から出ててくれない???」
「…えっ、いいけど。……あの二人かわいそーに」そう言って朱儁は部屋を出た。

盧植先生、足早に二人を間合いに詰める。
「あっ、先生!……いつもながらスマイルが素敵ですね!!」劉備は適当に誤魔化した。
「ふふふ、ありがと、玄徳。……と・こ・ろ・で伯珪、どこに行くのかしら??」
さっさとエスケープを試みる公孫サンに魔の手が!!!
「…えっ!!あ、あ、先生……、いやちょっと…」口ごもる公孫サン。
その時、公孫サンは秘計を閃いた!!
公孫サン心の声「(こ、これだ!!)」
「あっ!!!先生このクッキー食べていいですか!?」
劉備心の声「(何考えてんねん!?)」

「あなたもですか!?……あなた達二人はそんなにクッキーが食べたいのですか!?」
盧植は怒りを通り越して泣きかけている。そんな盧植の様子を見かねた朱儁が
「ほら!しーちゃん!!しっかりして!!!嫌なことは皆で飲み明かして吹っ飛ばそうよ!!…ね」
「あなた達も飲みあかそ〜♪」
かなり陽気な朱儁を前に公孫サンは怖気づいた。
「い、いえ遠慮させてもらいます。仲のいい先輩二人で飲んでください。な、なぁ玄徳!?」
「あ、そりゃええ!先輩方二人でど〜ぞ!」
「ふ〜ん、じゃ、しんちゃんと建ちゃんも誘って飲もぉ〜!!!」

盧植と朱儁は部屋を出て行った。と思ったら盧植がドアからひょっこり顔を出して言った。
「…伯珪、玄徳、今日はまともな授業ができなくて申し訳なかったと思います。
………しかし、宿題は出させてもらいます。
…今日の反省文を400字詰めの作文用紙10枚以上で書いてくること。今日はこれだけにします。
くれぐれも体には気をつけるように。……では、また明日」そう言って盧植は行ってしまった。

部屋に沈黙が漂う・・・。

「な、なぁ玄徳、盧植先生まだ怒ってるよ」
「せやね、いつもの1.5倍は宿題でとるで」
「しかも明日までって先生あたし達を殺すきか!?」



―5時間後、皇甫嵩の部屋―

「で、なんで私の部屋なんだ!?」
「うっわ〜!!義真、ひっど〜い!!!
しんちゃんのセンチメンタルな感情を蔑ろにするつもり!?」
「そうそう!!しんちゃんがかわいそーだよ!!!」
「け、建陽、おまえもか!!」
「……ぎ、ぎし〜ん!!もうやだよぉ〜!!!」
「って、し、子幹……!?」
盧植に思いっきり抱きつかれ困惑する皇甫嵩。
それを見て笑っている朱儁と丁原。



―同時刻、劉備と公孫サンは・・・―

「…玄徳、何枚終わった??」
「………二枚。先輩は??」
「……一枚半……」
ひたすら文を書きまくる劉備と公孫サン。・・・でもあまり進まない。



色々あったけど今日も平和な一日でした。


― 平和なひと時 完―

445 名前:はるら:2004/04/17(土) 14:10
盧植と公孫サンと劉備、どうしてもこの三人の逸話が書きたかったんで書いてみました。
7thさまのスレを一部参考にさせて頂きました。
書いてみてはじめてわかったんですけど、大阪弁ってムズイですね。
何か文章的におかしい部分もあるかと思いますが生暖かいスルーをお願いします(爆

446 名前:惟新:2004/04/19(月) 23:05
盧植先生のありがた〜いご指導には劉備も公孫[王贊]も適わない!
はるら様GJ! 勢いを感じさせる作品ですよ〜!
劉備の必死な誤魔化し方とその結果がとても可愛らしいです(*´Д`)
そしてクッキーワラタ。なかなかツボを心得ていらっしゃいますよ〜!

447 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/20(火) 01:14
はるらさま、グッジョブ!!(b^ー°)

盧植とて、後輩たちのまえでは先生でいたいようですし(^_^;)
昔劉備と公孫瓉が机を並べていた光景って、こんなカンジだったのでしょうね〜。
あのころは朱儁も皇甫嵩も丁原も居なかったので、非常にスムーズに授業が…
出来る分けないか、この二人が生徒なら(^_^;)

盧植先生は、学三的にもっと書き込みたいキャラ。演義の無口っ娘はできれば無しの
方向で…

448 名前:那御:2004/04/20(火) 01:42
いやぁ、はるらさまGJ!

相変わらず人気抜群の盧植先生、そして最強(笑。
両名、「頭はさほど悪くないのに授業を聞かないからできない」を地で行ってますな。
そして言い訳でスベりまくる二人に爆笑。

449 名前:国重高暁:2004/04/20(火) 16:41
■■ 将軍の飼い方 ■■

「呂奉先さん、いらっしゃいますか?」
「いるよ。入っといで」
 いつもどおりのぶっきらぼうな口調で、安楽いすの呂布は来客を室内に迎えた。

 ここは、下ヒ棟の徐州校区総代室。
 元来の校区総代である劉備が、関羽らを率いて袁術を攻めた隙に、棟を守っていた張飛らを呂布が駆逐し、この地を制圧したのである。
「そりゃそうと、あんたはどこの何者よ?」
「お初にお目にかかります。私は、蒼天会の役員で韓胤と申します」
「そ、蒼天会?!」と呂布はマルボロを一服噴かした。
「蒼天会って、もはや袁グループのお嬢様に乗っ取られるほど権威が墜ちてるじゃんか。今更そんなとこから使いをよこすなんて……一体どういう風の吹き回し?」
「申し上げます。実は、その袁お嬢様が、妹をあなたのプティスールにしたいとの思し召しで……」
「プティフール?! 旨そうじゃん。あたいにもちょうだい」
「いえ、そうではございません。プティスール、つまり、妹分にしていただきたいので……」
「あんたを?」
「私ではございません。袁お嬢様の妹でございます」
 袁お嬢様とは、もちろん、先日から蒼天会長を勝手に名乗り始めた袁術のこと。
 自分の宿敵たる劉備を呂布が庇護したので、妹を彼女のプティスールにさせて懐柔し、地盤の安定を図ろうというのである。

 しかし、呂布は首を縦に振らなかった。
「韓胤ちゃん、あたいをプティスールなんか取る柄だと思って?」
「では、一昨年、丁建陽さんのプティスールになられたのはどこのたれでしょう?」
「うっ……」呂布は困惑した。
 丁建陽は名を原といい、もと生徒会執行部員の一人である。
 しかし、董卓が会長職を奪うと、プティスールの呂布に裏切られ、階級章まで剥奪され、今春、失意のうちに高等部を卒業していた。
「確かに、丁先輩はあたいのグランスールだったけど……あんなもん、出世の手がかりにすぎなかったわ!」
「奉先さん、なんということを……」
「とにかく、嫌といったら嫌だかんね!」
「あの、ケホッ……そんなに、ケホッ、ケホッ……嫌ですか?」
 呂布の噴き出す紫煙に咽びながら、韓胤は更に言葉を続けた。
「袁お嬢様は、妹をプティスールにする見返りとして、あなたを蒼天会書記に任命するとの思し召しですが……」
「そんなもんに釣られるあたいじゃないわよ。さあ、とっととお帰り!」
「奉先さん。あくまで固辞するのでしたら、私自らの手であなたの階級章を……」
「聞き分けのない娘ね。みんな、やっておしまい!」
 呂布の号令である。たちまち、室内のそこかしこに隠れていた彼女の部下たちが次から次へ飛び出し、逃げ帰ろうとする韓胤を、あっという間にしばきあげた。
 捕縛された韓胤は階級章を剥奪された上、制服を引き裂かれ、実にあられもない姿となったのである。

 翌日、呂布の部下の一人・陳登は韓胤を連行し、許昌棟の「蒼天通信」編集室へ乗り込んだ。
「編集長、いらっしゃいますか?」
「いるわよ。入っといで」呂布そっくりの応対である。
「お久しぶりです。下ヒ棟の陳登と申します」
「あら、こちらこそ……って、その縛られてる娘は一体?」
 編集長の曹操が韓胤に目配せすると、それまで押し黙っていた彼女が漸く口を開いた。
「韓胤でございます。南陽棟の袁お嬢様の思し召しで、彼女の妹をプティスールにしていただくべく、呂奉先さんの所へ参ったのですが……」
 ここで、陳登がすかさず縄目を解く。
「固く拒絶された上、私をこのような姿に……シク、シク」
 慟哭する韓胤の制服はズタボロに裂かれ、階級章もついていなかった。
「さすが奉先ちゃん、ひどい仕打ちね……それはそうと、元龍ちゃん」
「はい?」曹操の突然の質問に、陳登は驚きを隠せない。
「将軍の飼い方について、あなたはどうお考えかしら?」
「しょ、将軍の飼い方ですか……」彼女はしばし考え込んだ。

 やがて、陳登は自分の脳内を整理すると、曹操にこう語った。
「将軍を飼うのは、虎を飼うようなもんだとわたしは考えてます」
「それはなぜかしら?」
「満腹時、つまり任務を負ってる時はいいんですが、空腹時、つまり任務のない時は、ひたすら暴れ回って手がつけられません」
「なるほど……」と曹操が小さくうなずいた次の瞬間、彼女の反論が陳登を襲った。
「あいにく、わたしはそうは思わないわ」
「とおっしゃいますと?」
「将軍を飼うのは、鷹を飼うようなもんよ」
「と、鳥の鷹……ですか?」
「ええ、そうよ」
「それはなぜでしょう?」
「獲物、つまり野望があるうちは必要だけど、それがなくなれば不要になっちゃうからよ」
「正に『狡兎死して走狗烹らる』ってわけですね」
「そういうこと」
 曹操は私見を説き終えると、大きく伸びをしてから、傍らの缶コーラを一気に空けた。

 続いて、陳登が先刻とあべこべに曹操へ質問する。
「孟徳さん。あなたは、呂奉先さんをどんな方だと思いますか?」
「うーん、あいつは……ボブ=サップみたいな娘ね。タイマンで勝負させたら、かなうやつなどたれもいやしない。蒼天じゅうが『学園に呂布あり』などと誉めそやすのもうべなるかなって感じ」
 曹操の回答は正鵠を射ていた。実際、呂布は「鬼姫」と渾名されていて、喧嘩の強さはおろかバイクの運転技術も学園一……というのが専らの評判である。
 しかし、イバラにもとげあり。
 陳登は、そんな彼女の無二の汚点を見抜いていた。
「あいにく、わたしはそうは思いませんね」
「っていうと?」
「はっきり言って、彼女は……接着剤みたいな娘です!」
「せ、接着剤?!」
 狐につままれたような曹操に、陳登は呂布の本心を打ち明ける。
「呂奉先さんは、ただ強いだけで計画性のかけらもないんです。目先の利益に流されるまま、昨日はあの娘、今日はこの娘と接着を繰り返してきました」
「それで?」
「新学期に入ってからも、劉玄徳さんを追い落として徐州校区総代の座を奪い、ただ今は南陽棟の袁お嬢様を飛ばして、蒼天会長の称号を我が手に収めんと必死になってます」
「ふーん……それで、あたしにどうしろと?」
「孟徳さん! 彼女を飛ばすため、早急に軍を下ヒ棟へ差し向けてください。わたし、いざとなればあなたに寝返りますから」
「わかったわ。南陽棟を奪う前に下ヒ棟を押さえとけば、いい行きがけの駄賃になるし」
 一礼すると、曹操は何やら文書を作り始めた。
「元龍ちゃん、今日は奉先ちゃんの本心を暴いてくれてありがとう……さあ、今すぐこれへサインして」
 陳登は、彼女の示した文書に目を通すと、二つ返事で署名捺印した。
 新たなる広陵棟長の誕生が、「鬼姫」退学の端緒を開いた瞬間であった。

        糸冬

450 名前:国重高暁:2004/04/20(火) 16:54
いかがでしたでしょうか。
今回の出典は「綱鑑」です。
曹操と陳登との談義が実に
面白いので、SS化してみました。
政略結婚については公式設定がない(?)
ようなので、「マリア様がみてる」風に
「スール(義姉妹)の契り」と表現して
みましたが……これで宜しかったでしょうか?

以上、国重でした。

451 名前:はるら:2004/04/20(火) 17:56
国重高暁さまはじめまして、はるらです。
早速ですが読ましていただきました。国重高暁さまグッジョブ!!
呂布が接着剤・・・。思わず「おぉ!!」と感嘆してしまいました(^_^;)

452 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:36
■ 邂逅 ■(1)

「あれっ、憲和。この写真って…。」
帰宅部連合写真部の記録保管庫にて整理作業中に一休みしてアルバムを見ていた法正はその中にあった一枚の写真に目を留めた。アルバム自体もほこりの多い片隅に平積みと保管が悪かったため、ほとんどの写真はセピア色に色褪せていた。

法正が課外活動からの引退を決意したのは高2の12月。帰宅部連合の一員としてやりたいことは先週の漢中アスレチックス攻防戦の勝利で大体終え、受験を考えての惜しまれながらの早期引退を行ったのである。1つ上の悪友というべき簡雍も卒業を控えてほぼ同時期の引退を決意。以後、帰宅部連合を揺り動かす大事件が連続して起こることは神ならぬ彼女らには予想もできなかった。
ともかく、2人は年明け1月の引退を考えた引継ぎ作業に12月の中旬はてんてこ舞いであった。もっとも、主として引き継ぎ作業で忙しかったのは運営の重鎮であった法正の方で、ものぐさな簡雍のほうは帰宅部連合劉備新聞部写真班班長および帰宅部連合写真部部長であったのだが、書類仕事は前々から全部後輩に投げていたので事務上の手続きの手間は実質皆無であった。
なのに今、保管庫の整理を法正がしているのは新聞部と写真部に残された簡雍の管理物品(のはずの物)の整理に駆り出されたからである。当初は簡雍の手伝いをしていたのであるが、肝心の簡雍がすぐにサボるため、法正も途中で忍耐を切らし、気晴らしに古いアルバムを見ていた。
本当に闇に葬らねばならない、墓場まで持っていかねばならないような社会的に政治的にヤバイ代物、あるいは金になりそうな物件は簡雍自身がちゃっかり安全なところにいち早く動かしていたのだが、それ以外のあまり重要でないか重要そうに見えないもの、公的に発表して問題ない物は“やはり”新聞部の私物棚に投げっぱなしになっていた。こういう物件に関して簡雍は自分の手から離れた瞬間存在自体を忘れることも多々あるので、最初のファイル閉じのような整理作業自体も行ったのは実際にその写真を使用した別人であるに違いない。
当然、荊南地区を制覇して正式に帰宅部連合が発足した今年度初頭以前のネガやデータファイルは全て処分されている。片隅に積み上げられていたこのアルバムもそれ以前のものであるため、もはや焼き増しもできず後は朽ちる一方である。

セピア色に色褪せた写真には、満開の桃の花のした、筵に座って甘酒が入っていると思われる器を手にした人物が3人写っている。折りたたんだ三節棍を腰に挿し片膝立てて座り、左手に杯を持ち右手でヴイサインをしている張飛に、刀袋を脇に正座して両手に杯を持ちカメラに向かって穏やかな笑みを浮かべる関羽、そして二人の間で甘酒の入っていると思しき酒瓶と切り分けられた肉料理を載せた皿を前において、胡坐をかいた劉備が右手の張り扇を肩に担ぎ、左手に杯を持って、二カッと朗らかな笑顔を向けていた。また3名とも制服ではなく私服姿である。劉備はトレードマークの赤パーカーを緑のシャツとジーパンの上に羽織っている。関羽は黒のシャツとベージュのチノパンの上にカーキ色のトレンチコート。張飛はオレンジ色のタンクトップの臍だしルックにデニムパンツとジージャン。
日時は3年前の3月3日。劉備、関羽、張飛そして簡雍がまだ中等部3年もしくは新高1としての期待に胸を膨らませていたであろう時期である。それに日付。“桃の節句”
間違いない、“ピーチガーデンの誓い”の写真だ。

最近の帰宅部連合の隆盛はすさまじく、劉備、関羽、張飛の所謂“ピーチガーデン三姉妹”の名は蒼天学園でも知らぬものがない。
−我ら三姉妹、蒼天学園に入学した時期は違えど、願わくば同じ年、同じ月、同じ日に引退せん。−
“ピーチガーデンの誓い”は彼女らの交誼の固さを示すものとして既に学園の伝説となっている。帰宅部連合の前身である劉備新聞部発足時に、資金・印刷機器と取材の足を提供してくれた張世平と蘇双の縁者が現在、幽州校区における3姉妹関係のグッズやイベントに関しての権利を持っている。例えば、該当地の幽州校区涿地区のピーチガーデンにおいては、“ピーチガーデンの誓い”で当の三姉妹が食したという“桃園結義ランチ”なる便乗メニューがあったりする。
だが、その誓いが存在したかの真偽のほどが疑問とされていた以上、このメニューに付属する話も疑わしい。3人も初期の活動区域は涿地区だったため、ランチ自体はどの時期にかは食べていた可能性はある。つまり決定的な証拠がないのである。

ピーチガーデンの宣伝パンフに“ピーチガーデンの誓い”の説明として、咲き乱れる桃の花のした、劉備が差し上げた張り扇に両脇に居並んだ関羽と張飛がおのおの居合刀と連結式三節棍を交差させている写真が添付されているが、この写真は人差し指を突きつけての“異議あり”の連発である。3名とも蒼天学園“高等部”の制服姿であるし、つけている階級章も当時着けていたと思われる1円玉でなく高額の紙幣章である。第一、3人ともいかにも“やらせ”と分かるぎこちない笑みを浮かべている。この写真自体は実際の年以降、おそらく今年の春に撮影されたものであることは明らかである。

当事者の3名に聞けば一発で分かると思われるが、3名の名がここまで大きくなった今、“あれはあったのですか”と直に聞けるほどの度胸の持ち主はほとんどいない。とはいえ、宴会の席等でぽろっと漏れた情報が皆無というわけでもなかった。法正は、その証言内容を思い起こしてみた…。

453 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:37
■ 邂逅 ■(2)

尋問内容:
“3年前の3月3日 幽州校区涿地区ピーチガーデンであったことを証言してください。”

証言その1:赤パーカーと眼鏡着用の張り扇娘
「3年前なぁ、あの年は暖冬で桃の開花が早かったから桃の節句に花が咲いたっちゅうんでピーチガーデンに翼徳とバイトついでに花見に行ったんは覚えとるわ。もうひとりいたような気もするけどな…。そうそう、行った先でたまたま関さんに会うたんやった。“関さん”って呼び出したのもあの日からやったなぁ…。せやせや、関さん昔から年の割りに落ち着いてて貫禄あるから、てっきり上級生と勘違いしてもうてなぁ〜。」
韜晦が巧みなのか、大事な情報は多いものの直接関係のある証言はどうしても引き出せず。ゆさぶればゆさぶるほど脱線するようにも思えたので尋問は中断。

証言その2:長身の美髪嬢
「…私が蒼天学園に入学した日ですね。私は姉者や翼徳に出会い、共に蒼天学園での3年を過ごそうと心に誓いました。それで充分ではないでしょうか。」
核心は突いてるがあまりにも漠然に過ぎる。取り付く島もなくこれ以上の証言は引き出せず。

証言その3:スタイル抜群の格闘娘
「う〜ん、先週の宿題の内容忘れてるアタシが3年も前のこと覚えてると思うか?いや、そこで頷かれるとなんか腹立つんだけど。…あのときから姉貴たちにはほんと頭あがんねぇんだけどな。でも今やったら…。あ、やべ、姉貴や関姉には言うなよ。」
忘れた振りをしているのか本当に忘れているのかが判明しないところもあるが、何かをごまかそうとしているのは確かである。だが、釘を刺していたのが義姉二人らしいので尋問は断念。

はっきり“誓い”が成されたかは証明されなかったものの、3年前の3月3日に幽州校区涿地区ピーチガーデンの桃の花見で3人が出会ったことは間違いない。

興味深いのは劉備の「もうひとりいた」という発言である。
劉備新聞部の最初期メンバーは劉備玄徳、関羽雲長、張飛翼徳、簡雍憲和であるが…。
「この中にそのもう一人がいるのよね…。しかも見方を変えると2人…。」
ケース1:簡雍憲和
簡雍は劉備の幼馴染であり、劉備との縁はもっとも長い人物のはずであるが“ピーチガーデンの誓い”は3人姉妹である。
ケース2:関羽雲長
劉備、張飛、簡雍の3名とも蒼天学園の本籍地といってよい最初の登録は幽州校区涿地区内である。関羽の本貫は司州校区河東地区解棟である。このときが初対面だった可能性もある。

が、“もう一人”が関羽だと後の証言に繋がらないし、ピーチガーデン“3姉妹”である事実との矛盾が説明できない。
「…ここらあたりの矛盾に証言がはかばかしくない答えがありそうね…。」
その答えをくれそうな人物は法正に片付けの仕事を任せてサボっていた。

確かに重要人物の一人であることには間違いないが、うかつにつつくと何が出てくるか分からないのと、成都棟開放を除けばあまりにも蒼天学園の公務には関わってこなかったので誰もが尋問をスルーしていた人物でもある。彼女に尋問できる人物はごく限られている。ピーチガーデン3姉妹と諸葛亮、つきあいのある運営庶務三羽ガラスのあと二人である糜竺と孫乾を除けば法正しかいない。
「…どーした、孝直、仁王立ちになって。」
「どーでもいいわよ、キリキリ白状なさい!3年前の3月3日、何があったか。あんた知ってんでしょう!!」
「おいおい〜そんな昔のこと覚えてるわけ…。何、その右手で高々と差し上げた如何にも重そうなアルバムは?」
「いや、ショック療法してあげようかと…。」
にこやかに微笑みながらアルバムを振りかぶる法正に、流石に粘る限界を感じたのか簡雍は内心はともかく急いで寝転んでいたところから起き直った。これを見てとばかりに突きつけられた一枚の写真に、ほぉと目を丸くする。
「…しっかし、よくこんな写真見つけたよねぇ〜、アタシ自身今見せられるまでふと忘れてたのに…。」
あやしい。今の3姉妹の株を考えれば正統的に金を儲けられるこんなお宝写真を撮ったことを簡雍が思い出さないはずはない。何かしら忘れたあるいは積極的に忘れたがっていた理由があるはずである。
「…話してもらえるわよね、何があったか。劉備新聞部の最初期メンバーのあんたが知らないはずはないものね…。」
予想はできるが、この相手は転んでもただではおきない。
「じゃあ、対価は片付け全部やってくれるということで…。」
「うぐっ、多すぎ!せめて3分の1!もともとあんたの仕事なんだから!」
「誰も知らない情報なんだからねぇ〜。3分の2!」
「半分!これ以上は負けられないわよ!!」
「…ま、そこで手を打ちますか…。」
意外にすんなりと商談成立。
「...(ひょっとして謀られた?)…。」
なんとなく納得のいかない表情をしている法正に、簡雍が写真を見ながら思い起こしつつ話したのは次のような内容だった。

***

454 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:38
■ 邂逅 ■(3)

3年前の3月3日、蒼天学園司州校区河南地区洛陽棟にある司州校区事務課は学生でごった返していた。年度末の風物詩、事務手続きである。窓口のひとつでも背丈から中等部と思しき生徒が事務員と応対していた。その後ろは数名生徒が順を待って並んでいる。早くしろとの無言の威圧はかなり大きい。
「あら廖淳さん、あなた本貫の欄が抜けてるけど。」
「あぁ〜〜、すみません。えぇっとぅ、荊州校区襄陽地区です。」
廖淳と呼ばれた生徒は必要書類の不備を指摘されて、慌ててカバンから筆記用具を出そうとした。が、慌てていて見つからない。見かねた事務員が窓口の横にあるペンたてを指差す。すみませ〜んと頭を下げて、ペンを取ろうとしたがつかみ損ねて、途中で取り落としてしまった。
あっちゃ〜何泡食ってんのよ、アタシってドジ、と思ったところ、横からすっと伸びてきた手がペンを掴み上げた。慌てていたことと、急な動きでは無かったことでそのときには凄いとは思わなかったのだが、後にして思えば反射神経や運動神経が良いだけの者と違い、瞬発スピードに頼らない無駄のない動きで落ちる前に自然に摘み上げていたのである。よほど武道か舞の修練を積んでいないとできない動きであった。なお、廖淳自身も後に武闘派として年季を積んで帰宅部連合・右車騎主将という高位に着くのであるが、このときの動きはいつまでたっても真似できなかったという。
だからといって廖淳を後代において
“廖化当先鋒”− 廖化を先鋒にする = 人材不足
とあげつらうのは不当に過ぎるだろうが…。

「どうぞ。」
「あっ、ありがとうござい…(うわっ、デカっ!)」
声に応じてペンを受け取ろうとした廖淳は、振り向いたときに目に入った人物、いや正確には眼の高さにあった“物体”に驚いて声をとぎらせた。
そう、目の前の人物は“いろいろな意味で”大きかった。
170cmを越える長身に広い肩、癖がなく艶やかな腰に余るほど長い豊かな黒髪。そして廖淳の目の高さにある物体。そのくせ全体で見るとすらりと均整が取れている。
「どうかしましたか?事務員さんがお待ちしていますよ。」
廖淳の不躾な視線に気を悪くした様子もなく、女性にしては低い深みのある声で丁寧に廖淳に注意を促す。容貌も声のイメージに違わず、派手ではないが落ち着いた美貌である。

今は進学の決まった生徒たちが高等部の進学、そして大学部の進学手続きを済ませに来る時期である。各校区所轄事務課でも手続きができないわけではないが、蒼天学園という単位互換性を持つ仮想巨大学園が存在する華夏研究学園都市においてはいろいろな事情で手間取りそうな場合、中央事務管理課とでも言うべき司州校区事務課で手続きをするのが通例である。2月下旬から3月中下旬までの一ヶ月はこういった学生たちで大病院の待合室並みの大きさがある司州校区事務課のロビーはごった返すのである。廖淳もその口で、追試が幾つかあったため荊州校区での正規中等部進級手続きに遅れ、慌てて司州校区で手続きに来たのである。
“高等部の先輩かな…。”
担当事務員の手続きに時間がかかりそうな廖淳は、これまでの後ろからのプレッシャーもなんのその、件の人物をゆっくり観察することにした。
彼女は廖淳の隣の窓口で事務手続きを受けていた。
黒のシャツにベージュのパンツ、上に深緑所謂カーキ色のトレンチコート(長身の人が着るとすごく映える)を羽織った男装の出で立ちであるが、声高に上等を叫ぶ連中に在りがちな伊達や無頼を気取っているわけでなく、またマニッシュとも違う。マニッシュというのは“男っぽさ”というより敢えて男装することで逆に女性としての色っぽさをアピールしている感がなくもないが(宝塚の男役はどうみても“美男子”でなく女性の色気がある)、この女性の場合は単に動きやすい服装を選んだらこうなったという様子で、無駄を省いた機能美のほうを考えているようである。
左手に紫の袋(刀袋)に包んだ1 mを越える棒状の物を携え、脇には風呂敷包みを抱えている。蒼天学園の“武闘派”集団のなかには電動ガンや模造刀をこれ見よがしにぶら下げているものも多いが、本来銃刀法では刃のない模造刀といえど公共の場では刀袋に収めておくことが規定されている。
風呂敷には書類や筆記用具が包まれていたのがこれまた古風である。
ちろちろと横目で書類をみると、氏名は関羽、本貫は司州校区河東地区解良棟ということであった。
“…関羽先輩か、よし覚えた…。しっかし、妙に気になる人だなぁ…。”
事務課の他の窓口に来た生徒たちも廖淳ほどじろじろ見ることはないが、時折盗み見たり振り返る者がいた。
いかにも物に動じない穏やかな内にも威を納めた風だが無闇に威圧感があるわけでもない。整った顔立ちに出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ長身、そして腰に余るほど豊かにある癖のない艶やかな黒髪と、1つ1つがモデルでもなかなか見れないような要素を持っているが全体的には落ち着いてまとまっており花が咲き誇るような派手さがあるわけではない。きびきびと動きのつぼを押さえた水際立った挙措であるが、ありがちなオーバーアクションではないので身体の大きさに反して目立つわけでもない。
だが存在感は比類なく大きい。

この女性の方は廖淳と違い書類に不備がなかったようですんなりと事務手続きは終了した。
一度も廖淳の方には振り返らなかったが見遣っていたのは気がついていたようで、それではお先に失礼、と微かに微笑んで会釈し、事務課を後にした。
「…やっぱり、高等部の先輩方ってかっこいいですねぇ。私も後3年もしたらああなれるのかなぁ…。」
絶対無理よ、という社会的・教育的に問題のある突っ込みは内心にとどめ、書類手続きをしていた事務員さんは問題にならないほうの突っ込みを口にした。
「…あの娘、あなたと同じ中等部よ。あ、もっとも新高1という意味で高等部の先輩というのは正しいけどね。高等部への入学手続きだったから…。」
「…え゛っ!大学部への進学だったんじゃないんですかぁ?!」
この時期に進学でなく高等部に入学するというのは妙である。入学試験・正規入学手続き自体は既に終わっている。正確に言えば新高1への編入ということになる。蒼天学園への編入は言ってしまえば試験に合格さえしてしまえば365日いつでもOKである。ということは…。
「体育科だったんですか?」
あの体格ならさもありなんである。
「い〜え、それが普通科よ。久々に編入試験の数学で満点が出たという話よ。」
次の生徒の事務作業を済ましつつ、事務員は廖淳に返事を返す。
世間話をしながらでも作業効率がさほど落ちないのは流石プロというべきか。もっとも華夏研究学園都市の事務員は時折学生の年齢や入学年度が正規書類と合わなかったりと総じてかなり作業内容がアバウトらしいが…。
「え゛え゛っ!!」
一芸でも飛びぬけていれば入れる専門科でなく普通科であると編入の場合満遍なくかなり成績が良くないと入れない。コネでもない限り正規入学者の上位10分の1に入れるくらいでないと駄目である。聞くところによるとかなり珠算が巧みらしく、非常に素早く正確に検算していたため、膨大に計算せねばならないはずの数学で満点が取れたらしい。
…天は二物を与えずって嘘じゃないの…?いや、あの人だって何もせずにああなったわけじゃない、私だっていつかはきっと!廖淳、ガンバよ!!
廖淳、本質は打たれるほどに強くなる熱血体育会系である。
「…廖淳さん早くして…。」
廖淳の夢想は後ろからの催促で破られた。
約1年半後に廖淳はこの娘と再会する。

***

455 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:38
■ 邂逅 ■(4)

ところ変わって、冀州校区常山地区に存在する華夏研究学園都市唯一の神社である常山神社では近日に迫った“曲水の宴”の準備で大忙しだった。

〜 曲水の宴 〜
― 観梅の時期、三月の第一日曜日[古代では三月上巳(弥生はじめの巳の日)]に行われる雅やかな歌会。梅園の中を流れる曲がりくねった小川に小船に乗せた酒盃を流し、それが目の前を流れる前に漢詩(奈良時代)もしくは和歌(平安時代)を読む宮廷人の遊びである。作品が出来たらその杯の酒を頂き注いで再び流すというものと、作品が出来ない場合に罰として酒を飲ませるという2通りがあるようである。
東晋の右将軍 王羲之が353年3月3日に主催した流觴曲水(りゅうしょうきょくすい)が高雅な現在の形の曲水の宴の起源といわれ、日本では485年に始められた。現在も日本の各地で行われ、太宰府天満宮では、958年に太宰大弐 小野好古が菅原道真の往時を偲んで始めたと伝えられる。
本来、中国においては春の禊の行事であり、秦の時代に清らかな流れに杯を流して禊払いの儀式として行われたのが始まりと言われ、平安時代には杯でなく穢れ払いの人形を流していたのが貴族の姫の雛かざりとなって桃の節句に発展する。―

本来が節句の禊の行事のため、多数の参加希望者の中から抽選で選ばれた衣冠束帯(男役)や十二単(女役)の先輩方の歌会の前には白拍子の舞そして巫女の神楽舞がある。
常山神社の一人娘である趙雲子龍、常山流薙刀道の同輩にして巫女見習いの陳到叔至、そしてバイトで雇われた彼女らの友人にしてライバルの田豫国譲の3人は、この日、神楽舞の練習をしていた。長髪の趙雲と陳到、ショートカットの田豫はいずれもそろいの巫女姿である。
午前中は3人とも物珍しさも手伝って見物にきた生徒たちの撮影に気軽に応じていた。ところが暖冬の影響で桃の開花が早まったため、幽州校区のピーチガーデンでの桃の花見のついでに訪れる生徒がかなり多かったのである。
そのため舞の練習と撮影が度重なると流石に疲れ、午後は人の来ないところで一息入れようと、お茶とお茶菓子を用意して普段は人の来ない神社の裏手に向かった。
ところが薄暗く人けがないはずの裏手からは、やぁ、とぅ、と掛け声が聞こえてきた。
裏手に回ると先客がいた。それも抜き身の刀を持って。といっても危険人物というわけではない。見たことのない長身の生徒が模造刀と思しき刀で剣術の稽古をしていたのである。
関羽も最初は近場の体育館に行こうとしたのであるが、どの体育館も既に部やサークルが練習に使っており、個人が居合刀を遣うスペースを借りられそうになかった。地図を頼りに何箇所か歩き回った挙句、人けのない常山神社の裏手を借りて型を遣うことにしたのである。軒下に風呂敷包みをおき、コートを脱いだシャツ姿であるが既に長時間稽古していたようで寒そうではない。
巫女服姿の三人に気づいて、神社の関係者と思ったのか(趙雲がいる以上間違いではない)、練習を中断し、会釈して“お邪魔しています、ご迷惑をお掛けしたなら引き払います”と聞いてきた。場を弁えた態度に、趙雲が、ご自由にお構いなく、と返事を返すと謝意を示して再び稽古を再開した。三人もタオルで汗をぬぐい、湯のみ片手に軒下に座わり、休憩方々何とはなしに稽古を眺めていた。
大きく動く度にそれに合わせて豊かな黒髪がうねるように波うつ様は印象的であった。が、それ以上に3人の関心を引いたのは、この人物の滑らかな挙措と3人の耳に微かに聞こえた風切り音であった。
趙雲、陳到、田豫の3名とも中学生としては傑出した格闘技能を持っているため、挙動の一つひとつを見ただけで、この人物の力量のおおよそは見て取れる。滑らかな無駄のない動きで俄かには真似できそうにない。また、遠目には撫でる様に大きく軽く振っているように見えたのだが、風切り音はこれまで耳にしたことがないくらい短く鋭いものであった。
「…なあ、子竜。あの人の刀って普通より短いのか?」
疑問に思って、田豫が尋ねる。薙刀をたしなむ二人と違い、田豫は格闘畑である。
「どうしてそう思うの?」
「いや、竹刀に比べたら短いしさ。それだったら早く振れるのも分かる気はするけど…。」
だが、力任せに振ったからといって速く振れるわけではない。
この人物の動きは根本的に違う。
田豫の疑問にクスッと陳到が笑って答える。
「あの人の遣っている刀はかなり長いですよ。背が高いからでしょうね。」
確かに目の前の人物は3人に比べて頭一つ以上高い。
「…デカいのタッパだけじゃないけどな…。」
田豫の視線は胸の辺りにいっていた。
「…それは言わないほうが無難でしょう…。」
趙雲、陳到ともに、自分の胸部を無言で見た後に付け加えた。
竹刀は大体全長が3尺6寸から9寸ある(110 cm 〜120 cm)。真剣に直したならば刃渡り3尺(90 cm)クラスの大業物になる。現在、居合いによく遣われるのは刃渡り2尺4寸5分(74cm)のもの。江戸時代の常寸(普通の長さ:治安にも関わるので触れで規定が出されることも)は時期にもよるが2尺2寸から4寸位である(67 cm ~ 72cm)。
「そんなものだったのか?もっと長いものだと思ってたよ。」
「私の見たところ、2尺6寸(80 cm弱)かそこらだと思いますけど。」
「80 cmよりはちょっと長いんじゃないか?」
「2尺7寸(82 cm)ね。」
こういった得物の寸法の見極めは間合いの見切りの深さにも通じる。その技量はこの3人では陳到<田豫<趙雲であった。

456 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:39
■ 邂逅 ■(5)

外野の雑音を気にした風もなく、件の人物は稽古を続けている。ビュッ、ビュッと短い風切り音が聞こえるが、力任せに振っているようには見えない。つまり得物の重心を把握した上で無理なく全身運動で振るっているため、動きの途切れがなく“きれ”が非常によい。よほどこの得物を使いこなしているのであろう。
一つ一つの型の終わりでは血振りしての納刀が入るのだが、その血振りと納刀がまた一風変わっていた。通常の血振りと納刀は右手のみで握った刀を頭上を通るように斜めに振り、そのまま鞘の鯉口に当てた左手の親指と人差し指の又に刀の棟を載せて切っ先を誘導して納める。この人物の場合、諸手の残心の構えから右手を離し鍔のすぐ上の棟のところを握り拳にした右手で音を立てて叩くのである。そして逆手で握りなおした右手のみで柄を握り、そのまま下から刀身を半回転させて左の二の腕と少し抜いた鞘の鯉口に当てた左手の親指と人差し指の又に載せ、切っ先を誘導して納めるという見慣れない血振りと納刀の仕方をするのである。実際にやってみようと思うと少々ややこしい動きであるが、これもまたよほど遣り込んでいるらしく滑らかな動きである。
「あれは多分、香取神道流です。」
納刀を見て首をかしげていた陳到の疑問に答えるかのように趙雲が口を開いた。
「あの棟を右手でたたく血振りと持ち替えて刀身を回転させる納刀は香取神道流独特のものと聞いたことがあります。」
香取神道流の特徴は常に戦国時代さながらの実戦を念頭に置き、相手の攻撃に対し一瞬早い攻撃により必ず倒すという、全ての技に一撃必殺の工夫がなされていることにある。稽古では木刀を使い防具はつけず常に怪我、最悪死と隣合わせる厳しいものであるが、その一方で“試合は死に合い”、“兵法は平法なり”として戦うこと厳しく戒めている。事実、鹿島の本拠では開祖・飯篠長威斎以来600年もの間、他流試合が行われたことない。すなわち兵法は平和のための法であって、戦わずして勝利を得ることが最上であると教えている。門流に“無手勝流”の塚原卜伝がいることも無縁ではない。一撃必殺の技術の習得と平法の順守という一見矛盾したところにこの流派が600年もの間失われることなく昔の型を継承した答えがあるのかもしれない。

「あれで血振りができるのでしょうか?時代劇や先輩方の居合いですと片手でブンって振るものですし、握りは変えずに素早く納刀する人もいますが…。」
陳到の疑問も当然である。
「血振りのことを言うのなら、どのやり方も本当に血はぬぐい取れません。懐紙でぬぐわねば駄目だったそうです。居合いでの血振りの動作は敵を倒して所作の終了を示す合図に過ぎませんから。それに居合いで納刀するとき、古流では相手を既に倒しているわけですから早く納刀する必要はどこにもありません。却って指を切ったり鞘内にぶつけて刃を痛めたりことがあったそうです。抜くときは文字通り抜く手も見せないくらい早く行いますが。」
事実、抜き打ちを見せたが、居合腰で右手の甲を柄に当てそれが翻ったと思ったときにはビュッと短い風きり音とともに白い光が水平に走っていた。
一度見せた型などは、片膝立てて座った状態から瞬時に1mも飛び上がって抜き打ちを放ち着地時に間髪をいれず拝み打ちを切り下ろすとんでもないものであった(抜附の剣)。
居合、立合の抜刀術の後は、刀を改めたのち、太刀術の稽古を始めた。相手(打手)が居ることを想定して型を遣っていることは分かるのだが、1つ1つの型が他流派の数個分ほどに長い。
「しっかし、古流剣術っていったらいろいろ“奥義”とかがあったりする訳だろ。今日はたまたまとはいえ人前で見せていいものなんかね?」
「…普段の稽古では見学に来た他流の武芸者に技を盗まれないようにいろいろ工夫していると聞きます。たとえば、今遣っている太刀術でも一つの型が非常に長いのは、実戦なら打ち合わせず相手の動きに応じて変化して仕留めるところをわざと相手の太刀を受けて次の動きにつなげているからだと聞きました。」
それを表の型、相手の動きに応じて変化する技を裏の型という。それを抜きにしても、型が長いのは鎧武者による剣術(介者剣術)を想定して、長時間の行動に耐えうるだけの体力をつけるためという理由もある。また、鎧をつけない素肌剣術を想定した系統の技も存在する。

3人の持ってきた急須の茶が冷めるころまで件の女性は型を遣ったのち、稽古をやめて近くにあった笹の茂みの方へ歩いていった。
常山神社裏手にはここそこに七夕祭りで学園生が切りに来る笹が生い茂っている。その1つの前に居合刀を構えてしばらく佇んでいたかと思うと、3度大きく鋭く太刀を振るった。
ビュッ ビュッ ビュッっと連続した音が届いてくる。
しばらく残心したのち、よしとばかりに頷くや、血振りをくれて納刀し腰から居合刀を鞘ごと抜いた。これでおしまいということだろう。首筋の汗をぬぐってコートを羽織り、風呂敷包みの上においていた刀袋に居合刀を納めて本殿に一礼した後、荷物をまとめてスタスタと常山神社の大鳥居の方へ歩み去っていった。その際、律儀に“お邪魔しました”と三人に挨拶をするのも忘れていなかった。

「最後、何やってたんだろうあの人?」
「さぁ?」
「…ひょっとしてこれじゃ…。」
田豫の指差した先には小指ほどの大きさの笹の葉があった。何の変哲もない笹の葉である。他の葉と違い、同じ長さで縦に4等分されていたことを除けば。
3人は思わず顔を見合わせた。
「…出来る?」
「…アタシの得物は拳だよ…。」
「…無理ね…。」
3名とも武道や格闘と戦闘系の分野では中等部で期待の人材と目され自身でもそれなりの自負はあったのであるが、こと蒼天学園においてはいろいろな分野でいそうもない人物が集うという事実を改めて突きつけられた気がした。
「…練習に戻ろっか…。」
「…そうね、私も…。」
「…宮司さん、そろそろ探しにくるだろうしな…。」
しばらく無言でいた三人は誰からともなく練習再開を口にした。あたかも、衝撃から気をそらそうとするように。

***

457 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:39
■ 邂逅 ■(6)

関羽は、境内で香取神道流の型を一通り遣って一汗かいた後、山門から石段を下るときに目に入った桃園によることにした。
緑の木々の間に淡い桃と白の花が慎ましくも美しく咲き乱れ、遠目にも芳しく薫るようである。18年後に陶淵明が随説を書く、荊州校区は武陵地区の秘境・桃源郷にも見劣りはしないであろう。

桃はバラ科サクラ属モモ亜属、つまり桜の仲間で花を楽しむ花桃と果実も取れる実桃がある。3月の花であり、古来東洋では明るく美しい女性の象徴である。
“ほとんどの桃の花の開花時期は3月下旬から4月上旬。暖冬とはいえ今咲いているということは桃色は矢口、白色は寒白ですね…。”
花桃の主な種類としては早生種の矢口(桃)、寒白(白)、中生種の源平(一つの木に桃と白の花が咲く)がある。雛祭りで用意されるのは矢口であるが、これは枝ごと切ったものを温室においてより早く開花させたものである。
一般の桃の花の開花時期は桜とほぼ同じくらい、もしくは少し遅いのである。3月3日は“桃の節句”というが、本来は陰暦の三月最初の巳の日の行事であり、これは現在の3月末から4月中旬にあたる。ここらが通常桃の花の咲く季節である。今日は、暖冬の影響で、花開いたものと思われた。桃園に近づいていくにつれて周りの景色が華やかになっていくが、人の数も増していた。ごった返すというほどではないが、かなりの学園生が花見に訪れているようである。
人の流れに逆らわないように、桃園の奥へ向かう路を両側に立ち並ぶ桃の花を楽しみながら抜けていくと、陸上競技場ほどに大きく開けた広場にたどり着いた。広場を囲むように立ち並んだ桃の木々が遠めに見た以上に華やかに咲き乱れ、蒼天学園生が開いている花見客相手の出店も数多く立ち並んで食欲を誘うにおいを振りまいていた。客寄せの声が活気よくここそこであがっている。
花より団子というわけでないが、かなり運動したこともあり、昼食抜きは流石に応える。
飲食物を扱っている出店の一つに立ち寄ろうとして、ふと足を止めた。
“今日は手持ちが不如意でしたね…。”
進学手続きで授業料を納入したこともあり、帰りの運賃を払ってしまえば手元にはほとんど残らなかったのである。せいぜい、甘酒を1杯買える程度で食事するほどはない。編入試験が好成績だったおかげで、明日からは中等部の学生相手の家庭教師のバイトの口があり日々の食費は購えるのであるが…。
夕飯まで我慢することにしようとしたところ、食欲をそそる匂いに釣られて、ぐうぅぅぅぅ、と腹の虫が鳴るのが分かった。思わず顔を赤らめる。
“少々、見っとも無かったですね。”
武士は食わねど高楊枝という言葉もあるが、腹が減っては戦はできないのも事実である。少しは腹を満たしてからゆっくり桃の花を楽しみたい。さて、どうするかと思案しつつ出店を縫って歩いているうちに、解決策と思しきものが目に入った。
“ひとつやってみましょうか…。”
関羽は広場の一角の人だかりの方へと歩みを向けた。

ギャラリーの注目の中、がっしりとして体力に自信のありそうな女生徒が手に唾してハンマーを振りかぶる。掛け声と共にハンマーを勢いよく台に振り下ろした。
次の瞬間、激突音とともに錘が高く設えられたカウントタワーを跳ね上がっていったが、半分に到達したところで失速し始め、頂上まではまだだいぶ残したところで止まってしまった。あ〜あ、というため息が上がる。
「ざーんねん、惜しかったねぇ、75点。熊のぬいぐるみはあげられないわよ。」
制服を着ていた赤毛の生徒が、がっくりとうなだれた客からハンマーを受け取りつつ、得点の景品を渡した。
この日、簡雍憲和は広場の一角に設えたハンマーストライカーの担当をしていた。劉備玄徳とその義妹の張飛翼徳、そして劉備の幼馴染である簡雍憲和の3人で立ち上げた非公認サークル劉備新聞部の運営資金稼ぎの一環であった。

〜ハンマーストライカー〜
― 昔ながらの遊園地なら大体あるレクリエーションのひとつ。ハンマーで台をたたくと10mの高さのカウントタワーに錘が上昇する。上昇した高さに応じて点数が決められており、点数に応じた景品を渡す。返しばねの着いた板を押しのけて上昇していくので頂上に着かなければ最後に通りきったところで止まる。頂上にゴングが設置してあって最高得点に到達した場合には最後のばねとゴングの間で錘が跳ねてベルが連続してなるようになっている。最高景品は 熊のぬいぐるみ というのが定番。
使用するハンマーは大体、子供・女性用のものと男性用の2つが用意されており、男性用のものは2倍近くの重量がある。運動エネルギーを位置エネルギーに変換するゲームなので、ハンマーの重量よりも叩き付けるスピードのほうが効いてくる。―

458 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:41
■  邂逅 ■(7)

客の半数近くが中等部であるが、たまに高等部、時には大学部とも思える客も来た。そういった如何にも記録を出してくれそうな客にはハンディとして男性用のハンマーを使ってもらっていた。
このハンマーストライカーの最高得点は100点であるが、簡雍の目利きも効いていて、女性用ハンマーを使った最高得点は80点、男性用のハンマーを使った最高得点は今の75点というところであった。
景品が取れないと客から文句が出ないように、1時間に一回、張飛がサクラで男性用ハンマーを振り、最高得点を出すというデモンストレーションをしている。とはいってもこういった景品つきの出し物は、普通ならどうやってもトップ賞は取れないように仕組んであるものである。男性用ハンマーを使った場合、張飛が本気で叩かないと最高得点がだせないように錘と返しばねを調整してあった。ちなみに、張飛は中学3年生にも関わらず重量挙げのトータルで200 Kgをマークしている。なお、女子53 Kg級の重量挙げ世界記録はスナッチ(腕の力だけで一気に足元から頭上まで上げる)97.5 Kg、ジャーク(胸から頭上へ上げる)121.5 Kg、トータル217.5 Kgである。
この日の特賞の景品は、恒例の熊のぬいぐるみと大皿に盛られた見事な東坡肉“トンポーロー”だった。

〜東坡肉“トンポーロー”〜
― 北宋の詩人、蘇東坡(1036−1101)が政変で杭州に左遷されたとき、不作だったのを西湖の土木工事で領民を飢えから救った。そのお礼に領民が豚肉と紹興酒を送ったが蘇東坡は受け取らず、醤油と紹興酒で角切りにした豚肉を煮込んで振舞ったのが始まりと言われる。
もっとも、本場は黄州という説もある。実際、蘇東坡は杭州にも黄州にも赴任しているし、以下のように“食猪肉”という題の調理法を記した詩も黄州に残している。

食猪肉      豚肉を食べるなら

黄州好猪肉    黄州の豚肉は上等で
価銭等糞土    値段は非常に安いが
富者不肯喫    金持ちは食べたがらないし
貧者不解煮    貧乏人は調理法をしらない
慢著火      火はゆっくりつけ
少著水      水は少なめにする
火候足時他自美    充分煮込めば自然にうまくなる
毎日起来打一碗    毎日起きたら一皿にだけつくる
飽得自家君莫管    自分の腹が満たせればいい
              他人の知ったことではない

『漢詩紀行』(二)P.111(NHK取材グループ編、NHK出版刊)

日本の豚の角煮のルーツとも言われるが、中国の東坡肉は似て全く非なるものである。皮付きの豚バラ肉を土鍋に入れ、紹興酒と香辛料の入った醤油ダレで長時間煮込む。肉は、やわらかく、とろけるような口当たりに仕上がる。本場中国杭州の東坡肉は筆舌に尽くしがたいほどおいしいらしい。―

この東坡肉は劉備の義妹、張飛が手間隙かけてつくったものであった。張飛は実家が肉屋であることもあり、料理などできそうもないがさつな普段の行動とは裏腹に、肉料理に限っては実は大の得意である。ハンマーストライカーのそばに、これまた劉備新聞部の運営費を稼ぐため、豚肉料理を扱った出店を開いていたが、昼の食事時が終わる前に売り切れる盛況ぶりだった。なお、左脇に劉備担当の同人誌を出していたが、こちらもそこそこの客足であった。劉備と張飛は、今は休憩方々桃園内をあちこちを冷やかして歩き回っているはずである。
さて、この東坡肉であるが、もともとはハンマーストライカーの景品にするつもりはなかった。売り物に出している物とは別に、今日のバイトが終わった後に姉貴分の劉備に花見方々食べてもらおうとよい部分を選んで特別に時間をかけてじっくり煮込んで作った自慢の一皿である。
間違って売らないように取り分けておいたのであるが、特賞の景品がいくらかわいいからといって熊のぬいぐるみだけだと引き寄せられる客層が限られるので、簡雍が食欲旺盛な体育会系も取り込もうと「どうせ、だれも取れないだろうから貸してくれない?」と借り出したものであった。ハンマーストライカーの錘設定には張飛自身が立ち会って、主な客層である幽州校区の人間ではおそらく張飛以外では最高得点が取れないようにしくんでいたこと、劉備新聞部の運営費をもっと稼ぐためという簡雍の誘い文句にのったことで、張飛も借用には同意していた。もちろん、絶対に取られないようにと念押しはしておいたが。

459 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:43
■ 邂逅 ■(8)

昼時を回ったこともあり、熊のぬいぐるみ目当ての中等部生や、花見で浮かれたついでに仲間内の力試しを楽しむ連中に加えて張飛自慢の東坡肉の臭いにつられて挑んでくる体育会系の客層も多い。作戦は成功だったと気をよくしていた簡雍に、新たな客が声をかけてきた。
「…最高得点を取ったなら、この景品がいただけるのですか?」
トレンチコートを羽織った大柄な女性がトップ賞の札がつけられた棚に熊のぬいぐるみと共に置いてある東坡肉の皿を指差している。
「お目が高いねぇ〜おねーさん。こいつはちょっとやそっとじゃ味わえない、自慢の逸品さね。これをちょっとハンマー一振りしただけで差し上げちゃおうっていう、この気前のよさ。どうよ、ひとつ“力試し”してみない?」
取れないように仕組んであるからこそいくらでもいえる台詞。
相手も苦笑交じりに口上を聞いている。
「ええ、美味しそうですね。ひとつ、“運試し”してみましょうか。」
運試し、と言い換えた時点でそれなりに力に自信があり、何か細工していることに気づいてることは伺える。小脇に抱えた風呂敷包みと長い紫の紗の袋を置き、財布を取り出そうとしている間に簡雍は客をじっくり観察する。長身に広い肩。そして刀袋
“…この姐さんは武道系か。”
簡雍は、張飛という規格外の格闘マニアと知り合いであることと、劉備新聞部カメラマンとして多くの被写体を撮っていることもあって、体つきを見ただけでその人物の得意な運動を大体判断できる。剣道部やテニス部といった長物を振るのに慣れていそうな連中も挑戦していたが、ハンマーのように重いものを振るのはかなりの筋力と慣れが必要で、木刀やラケットを振るようにはいかなかった。柔道や空手やレスリングの格闘関係も、筋力は仮にあっても振り慣れていなくて駄目であった。張飛以外での最高得点である75点を出したのは巻き割りやくい打ちの経験がある山岳部の連中であった。
“…ま、男用だったら大丈夫か…。”
簡雍は何気ないそぶりで百円硬貨と交換に男性用のハンマーを渡した。客はハンマーを受け取ると、静止線から離れて、ごく近くに人がいないのを確認してハンマーを持ち上げた。
「おっとっと、走っちゃだめですぜ、おねーさん。」
ハンマーを肩に担いで走りこみ、勢いを稼ごうとする者もよくいるので、そこは注意する。
が、そんなことはしないとばかりに再び苦笑が返ってきた。
その場で2,3回ゆっくり振っただけだった。重心の位置を確かめていたのである。
改めて静止線に立って、静かにハンマーを上段に構える。真面目にすっとハンマーを構えた姿はかなり滑稽味がある。失笑が周りの客たちからあがった。
だが、簡雍の本能には警鐘がなっていた。
“なんか嫌な予感がするのよね…。”
思うに、相手の立ち姿とハンマーを軽く振った様子からより正確に筋力を推察していたのだろう。だが、劉備や張飛ほど喧嘩慣れしていなかったため、こういった類の推測の作動するのが遅れてしまった。張飛なら挙措を見ただけで能力をより正確に推し量ってくる。
既に料金は受け取っていた。受け取る前なら苦しいが言い逃れの仕様はあった。
簡雍の不安をよそに、件の客は一瞬後、短い気合と共にハンマーを振り下ろした。
豊かな長い黒髪が舞い上がる。
腹に響く鈍い衝撃音と同時に張飛の時と劣らぬスピードで錘がカウントタワーを駆け上がった。
“うそっ、やばい!”
カンカンカンカン!!
簡雍の心中とは逆に、済んだ鐘の音がギャラリーの歓声を圧して桃園に鳴り響いた。
「…では、お言葉に甘えさせていただきます。」
目論見が外れて呆然としていた簡雍の耳には、ギャラリーの歓声も相手の受領の宣告も届いていなかった。われに返ったときには、既に相手は景品の熊のぬいぐるみと東坡肉の大皿を持ってその長身を花見客の中に紛れ込ませていた。

関羽は広場の喧騒から離れ、より奥まったところに一本はなれて聳え立つ桃の大木に向かっていた。桃園を通り抜けている間に目をつけていた静かな場所である。大皿の東坡肉を左手に捧げ持ち、右手に刀袋と栓をした酒瓶をぶら下げている。あの後、甘酒売り場を担当していた中等部学生に交渉して、熊のぬいぐるみと甘酒とを交換してもらったのである。
大木の下に腰を降ろして、一息つく。
杯に甘酒を注ぎ、大皿に載せられていた小刀で東坡肉を切り分ける。
「では、いただきましょうか。」
小さく切り分けた東坡肉を一口含む。空腹だったこともあるが、それ以上にあまりの美味に思わず表情がほころぶ。箸で掴むのが難しいくらいトロトロと軟らかいのに、長時間じっくり煮込んであって油が抜けている。紹興酒とタレ、香料、砂糖もよくしみており、調理した人物の熱意が感じられる逸品である。

甘酒で疲れを癒し、美味い料理に舌鼓を打ち、咲き誇る桃の花を一人静かに楽しむ。
これほどの贅沢はそうはあるまい。
桃の花を見上げて寛ぐ関羽の口から、感に堪えぬかのように言葉が漏れた。
…幸せだ…

***

460 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:43
■ 邂逅 ■(9)

幸せに浸っている人間のいる一方で地獄の業火に焙られかけている人間もいた。
“…やばい、やばい。マジで翼徳にどやされるかも…。”
張飛に本気でどやされたら命に関わりかねない。
「.どーいうことだ、憲和ぁ!獲られないはずじゃなかったのかよぉ!!」
簡雍の前には、鐘の音を聞いて休憩を切り上げてすっ飛んできた張飛がいた。劉備をほっぽって全力で駆けてきたようで顔に血が上っており、中3にしてはかなり豊かな胸がオレンジ色のタンクトップの下で上下している。
「オレが姉貴のためにどれだけ手間暇かけてあれをつくったのか…」
怒りのあまり、知らないわけじゃないだろぉ、という後半のせりふは声にならなかった。
折角丹精込めて劉備のために用意した料理が反古になっただけでない。自分ほどに強いものなど学園全体ならいざ知らず、この校区程度なら絶対いないと思っていたプライドが傷ついたことも手伝って気が立っている。
「翼徳、ごめん!気持ちは分かるけど、まあ甘酒でも飲んで落ちついて。」
頭に血を上らせたまま状況を説明するのは危険だった。簡雍は持参のポットに入れてあった甘酒をコップに注いで張飛に渡す。これには落ち着かせる意味以外にも別のもくろみがあった。この甘酒は普通の甘酒ではない。中学生とはいえ呑み助の簡雍が普通の甘酒を飲むはずがない。
“翼徳は調理酒を料理の味見する低度しか飲んだことないはずだから、甘さにごまかされて多分分からないだろう。走ってきて息を切らしている今なら簡単に酔いが回って動けなくなるはず。”
ゆっくり事情を話して酔いが回る時間を稼ぎ、動けなくなっている間に劉備を探してなんとかなだめてもらおう。そう考えたのだが展開は再び簡雍の甘い予想を裏切った。
確かに特製甘酒の効果はあり、コップ片手に事情を聞いている張飛の視線に変化が出てきた。だが、とろんと視線がさ迷うなんて甘いものではない、完全に目が据わり始めた。
「…頭下げて少しでも返してもらうように頼み込むなんてまどろっこしいことしてられねぇな。憲和、そいつ武道やってるようだっていってたな…。」
あろうことか、隣の肉料理屋台の暖簾の竿代わりにしていた六尺棒を降ろし始めた。義理の姉の劉備に、他人様に向けるなとたしなめられていた得物である。
“翼徳のやつ、酒乱の気があったのか…。”
飲ませてしまったものはもどってこない。策士策に溺れる。
「…あの、翼徳サン、どうなさるお積りなんでしょう?」
一縷の望みを託して尋ねるものの、むなしい希望は打ち砕かれた。
「決まってんだろ!勝負して獲られたもんは勝負して獲り返す!うだうだ言うようだったら、張り倒してでもな!!」
“やばい、血の雨が降る…。”
張飛は暴走寸前である。相手の女性が話の分かる人間であることを期待するしかないが、張飛より先にあの女性を掴まえて事情を説明し、少しでも返してもらうよう交渉するしかなかった。
「あたし先に行ってその人と…」
「憲和、お前も着いて来るんだ。オレはそいつの顔を知らねぇ。探すの手伝え。」
簡雍の台詞を聞きもせず、襟首を万力さながらの握力でむんずと捕まえる。得意の逃げ足を披露する暇もなかった。
“…天中殺だ、今日は….。”

目立つ人間であっただけに、件の女性の足取りはすぐに判明した。
「いた、翼徳。あそこ。」
簡雍の指差した先には、満開の桃の花の下に静かに佇み、花を見遣る佳人一人。
甘酒を慌てるでなくゆっくりと口に運び、東坡肉を少しずつ味わうように食べている。
其処だけ切り出せば一幅の絵になる。
“いい被写体ジャン。”
切迫した状況に関わらず暢気な思考が生じたが、張飛のほうは東坡肉が半分近く無くなっているのを見て形相が一気に険しくなる。問答無用で腕ずくに出られてはたまらない。
「翼徳、ちょっと待ってて。」
喧嘩腰で話を進めては、まとまるものもまとまらない。ましてや、景品にしたこちらのほうが立場が弱い。諦めろと言われても本来返す言葉は無いのである。仮に返してくれるとしても、代償に何を要求されるか分からないが、できるかぎり穏便に済ませたい。事件を起こして活動停止などたまったものではない。
花を眺めていた女性は近づいてくる簡雍に気づいて振り返った。
「…どうかしましたか。」
実に切り出しにくい用件だが仕様がない。
「いえ、あの、その東坡肉、ほんとに申し訳ないんですけど、返品願えませんでしょうか?」
簡雍の不躾と言える要望に、訝しげに柳眉を顰めて問い返してくる。
「…詳しく事情を聞かせていただけませんか。そう伺っただけではなんともご返事できませんが。」
もっともである。
「…あれはこいつがうちの大将に食べてもらおうと手間暇かけてつくったやつなんです。客引きしようと景品にしたのはあたしの手落ちです。ほんとに済みませんけど、かわりの景品用意しますから、残った分だけでも交換してもらえませんか。」
頭を下げ下げ頼み込む簡雍の姿に、関羽はしばし顎に手を当てて考えた。軽率な判断ではあったが、ここまで頭を下げに来たのである。顔は立てねばなるまい。幸い、自分はそれほど大食漢ではない。空腹は完全ではないが満たされている。
「….成程、あらましは伺いました。こちらはもう充分堪能させていただきました。半分ほどしか残っていませんが、それでもよろしければ。」
「….憲和、なに長々とくっちゃべってんだ。ぺこぺこ頭下げる必要ないぞ!」
何とか話が通じ、助かったと思ったところ不機嫌そうな大声が後ろから飛んできた。二人が振り返った先には目を怒らせた張飛がいた。

461 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:45
■ 邂逅 ■(10)

張飛にとって、問題は東坡肉を食べられてしまったことにとどまっていない。東坡肉を食われて悔しいのもあるが、それ以上に自分より強い人間が目の前にいるかもしれないという事実に苛立ちを感じるのである。自分の苛立ちの原因がどちらに主にあるのか判断するには張飛は酔っていて冷静さを失っていた。また、簡雍が頭を下げているのを見るのも、自分の力量が足りないことを示しているようで腹立たしかった。
二つの鬱屈を収めるには、目の前の人間を叩き伏せて自分のほうが強いと証明し、東坡肉を獲りかえすのが手っ取り早い。
「翼徳、ようやく話がつきそうなところを。」
「黙ってろ。これはオレの問題だ。」
止めようとした簡雍を押しのける。完全に意地になっていた。
「オレは張飛っていって、腕っ節じゃちっとは知られた顔だ。そいつはあんたが勝ち取った景品だ。だがこっちもただで返してもらうわけにはいかねえ。勝負で獲られたもんは勝負で獲りかえすのがオレらの鉄則だ。」
目的が少しでも東坡肉を返してもらうことから喧嘩に完全に摩り替わってしまった。
「…勝負といわれましてもね。」
「な〜に簡単さ。こいつでケリをつける。あんたも腕に覚えがあるんだろ。その刀袋はお飾りじゃないだろうしな。」
ブン、と手にした六尺棒を一振りする。怪しい雲行きに何事かとギャラリーが集まり始めてきた。編入したての関羽に知る由はなかったが、階級章の強制剥奪権をかけた決闘・喧嘩は蒼天学園では日常茶飯事であった。
「翼徳、よしなって。玄徳が怒るよ。」
「うるさい憲和。文句言うくらいなら、お前の甘酒もう一杯よこせ。」
簡雍の文句も聞かず、有無を言わさずにもう一杯特製甘酒を注がせる。
関羽の鼻腔にぷ〜んと明らかに甘酒のそれと違う酒の香りが伝わった。張飛の思考が短絡的な理由が薄々分かる。
「酔っていますね…。」
びくっと脛に傷のある簡雍が反応する。
「酔う?甘酒で酔うやつなんているかよぉ〜」
呂律が少々回っていない。ぐびっと一気に飲み干して器を投げ捨てる。
“飲んだのが本当に‘甘酒’だったらね…。”
桃の木の下に転がった器を手に取ると、壁面に白い酒粕がこびりついている。そこまでは通常の甘酒であったが、ぷんと鼻腔にかなりきつくアルコールの匂いが伝わった。
“…やはり思ったとおりですか。いい加減な人間が知らずに偶然作っのたか、それとも手の込んだ悪戯だったかは分かりませんが…。”
甘酒の造り方は2通りある。
1) 米麹、ご飯、水を2:2:1の割合でまぜ55 ~ 60度で5時間ほど保って糖化してつくる。
2) 酒粕100 gに水1リットルの割合で水に溶かし砂糖と塩、生姜で味を調えて沸騰させつくる。
問題はこの2つめのほうである。
酒粕の含むアルコール濃度は8 %ぐらいのため、10分の1に薄めればアルコール濃度は1%未満になり酒税法上は「酒類」にはならない。
が、酒粕を使って作る元禄時代の焼酎は、酒粕を細かく砕いて水に漬け、これを温度を保って長期間発酵させて作っていたのである。‘92に再現された薩摩焼酎「辛蒸(からむし)」では7日間の発酵の後の一回目の蒸留で既にアルコール度数は20度あったという。
つまり、誰かが酒粕から甘酒を作ろうとして、水で溶いた溶液を数日くらいうっかりか確信犯かで寝かしておいて発酵させてしまい、それを煮詰めて外観は甘酒であるがその実、酒成分が充分高い濁り酒(どぶろく)を作ってしまったのである。一人暮らしの会社員が炊飯器にご飯を残していたのを忘れて長期出張から帰ってくると酒になっていたという話もあるが、もっとも湿度と温度が適度に(麹菌にとって適度ということで社会生活上はむしろだらしないほうに入るかもしれない)保たれていないとカビが生えてこうはならない。

酔っ払い相手にまともな会話は成り立たないと、無理やりつれてこられたと思しき簡雍と話をしようと思ったが既に近くにいない。見覚えのある赤毛がギャラリーの中へ紛れ込もうとするのが見えた。
“…逃げましたか…。”
当然の判断かもしれない。相手はかなり熱くなっている、衝突は避けがたい。無責任な野次や掛け声もギャラリーから飛んでくる。
「ここまで来て、逃げようって奴は学園にゃいないぜ。腹くくりな。…いくぜ!」
だが、ギャラリーはおろか張飛も知らないことだが、関羽も並大抵ではない。既に尋常でない修羅場をくぐっていた。この時期に編入したのも、とある事件を起こして県下の不良高校生を百人単位で病院送りにしたからである(参考:ぐっこ様“頭文字R”)。だが、そのような事件をまた起こすなど願い下げであった。
“腹をくくれ、ですか…。”
改めて張飛の得物を観察する。六尺棒のようであるが、三等分する位置に金輪が二つついている。それにスイングと風斬り音からただの木製とは思えないほどの重量があるのが分かる。
“六尺棒ではありませんね、あれは…。”
足捌きを駆使して迫り来る棍をさけつつ、刀袋の口紐を解いて模造刀を鞘ごと取り出す。
だが、まだ柄に右手はかけない。一度すっぱ抜いてしまうとただではすまなくなる。極力抜かずに済ませたい。左手で柄を、振った弾みで鞘走らないように右手で鞘の鍔元を握って構える。かわすのみで凌ぎぎれる相手ではない。杖のようにふるって対処しようとした。
“止むをえん!”
打撃のカウンターに柄で突きを入れ、左右の袈裟懸けを繰り出し、膝を払う。が、相手の反応は予想以上であった。棍棒を支点にして軟らかく上体を振ることで突きと斬りを外し、アクロバットのように開脚して飛び上がることで脛払いを避けたのである。当たりそうで当たらない。鞘ごと振っていた上に相手が避けに徹したとはいえ、同世代の人間にここまで完全に避けられたことはない。
“カンフー映画みたいな避け方をしてくれるとは…。”
また、攻撃をかわした張飛としても目を瞠ることであった。たいていの相手なら、少なくとも最後の開脚で飛んで避けるときに同時に棍を振りかぶり、相手の攻撃が空を切ったところを打ち降ろす余裕があったはずである。まだ相手を甘く見ていた分もあるが避けに徹せねばならないのは初めてである。
“やってくれるじゃねえか…、面白え!どっちが強えぇかとことんやってみっかぁ!”
血中のアドレナリンが(アルコールの助けを借りて)身体を駆け巡るのを感じる。
“…ちっとマジにいくぜ…。”

462 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:46
■ 邂逅 ■(11)

「喧嘩だ喧嘩だー!!」
ピーチガーデンを満たしていた長閑な雰囲気が破られた。
「張飛が新入り相手に喧嘩売ったんだって。」
「へえ〜相手もかわいそうに。秒殺?」
「それがまだ結構もってるらしいよ。見物らしいわ。」
災難を避けようとする生徒もいるが、野次馬に参加する生徒も多い。
良くも悪くも活気のある生徒がこの学園にはそろっている。もちろん、中には呆れたように、はぁ〜と長々とため息をついた生徒もいた。
「…翼徳のやつ、また羽目外しよったんかいな。性懲りもない話やなぁ…。」
赤パーカーを羽織った生徒は眼鏡のズレを直しながらぼやいた。
まあ、祭りや花見に喧嘩は付きもんやけどな、とつぶやくと、 
「どら、おおごとになる前に止めんとな。」
ホタホタと右手の張り扇で肩を叩きながら、喧騒轟く奥へ向かっていった。

真剣試合において精神的重圧は非常に大きい。剣道の試合においても気分をほぐすためコップ一杯ビールを引っ掛ける人がいるくらいである。まして生死とは言わないまで大怪我に発展しかねない野試合の場合のプレッシャーは想像に難くない。何も考えずに暴力を振るえる人間は真性の馬鹿かこれまで強い相手と当たったことがなくまた勝ったにしても大事に発展させるほどの力量もなくゲーム感覚で喧嘩をしてきた人間のみである。
さて、今の相手はアルコールのせいで判断力が甘くなり箍が外れてこのような暴挙に出たのは明らかだが、その実力のほどは関羽をして気を引き締めさせるものがある。
通常ならこのまま動き回らせてガンガンにニトロを燃やさせてエンジン加熱によるオーバーヒート(酔いつぶれ)、もしくは大惨事だがラジエータの逆噴射(バーストによる行動不能)を狙うところであるが、注入されたニトロがそれほど大量ではなかったようで適度に燃えているというところである。酔いの助けで身体能力のリミッターが外れ、威圧や痛覚に対しても鈍くなっているので、駆け引きを抜きにした単純な攻防能力では素面の時を上回っているであろう。頼みの綱は、ニトロが尽きるまで持たせるのみであろうが…。
“この相手に、抜かずにいつまでかわしきれるか…。”
模造刀の重心は杖のそれとは違うので、今の握りでは思うように扱いきれない。防御主体では限界が見えてきた。
「そらそらそらぁー!!何時までもよけてちゃ始まんねえぜぇ〜〜!!」
怒涛のラッシュが襲い掛かる。
“これほどとはッ!避けきれんッ!”
最大の危機に日ごろ鍛え上げた身体が無意識に反応した。瞬時に左手の握りを変え、腰を抜刀の位置に捻るや右手が翻る。白光が関羽の腰間から張飛目掛けてほとばしった。
ギャリンッ!
鈍い金属音が響く。間髪をいれず、両者は即座に飛び下がって間合いを開けた。抜き放たれた白刃が関羽の右手で光芒を放つ。
“…やってしまったか…。”
緊張に引き締まった張飛と違い、関羽は少し苦虫を噛み潰したような苦渋の表情を作っていた。それが次の瞬間には拭い取ったかのように表から消えた。
一度抜刀してしまうと却って開き直れたようである。動揺していた気持ちが落ち着き、目の前の人物をはっきり“打ち倒さねば止められない相手”と認識できた。
切れ長の目がきゅっと細くなる。
張飛のほうでも相手の雰囲気が変わったのは判った。これまでは感じられた動揺・躊躇いがなくなっている。それに先ほどの横薙ぎの一閃。とっさに柄の中ほどで受けたのだが打点を外したつもりが間に合わなかったようで、受けたと思われる場所に切れ込みが走り、その奥の隙間がキラリと日を受けて光るのが見えた。棒をしごいて構えを左右に変えると見せて回転させ、相手に切れ目が見えないようにし、棒の金輪部分を両の手の内に納めるように握りなおす。
酔っているとはいえ緊張からか、無意識にペロリと舌で乾いた唇を湿らせていた。いや舌なめずりかもしれなかった。
“…やっとマジになったってとこか。この張飛様をビビらせるたぁ、やるじゃねえか。だがな、まだこっちには奥の手がある。実戦にこれを使おうと思わせたのはあんたが最初だよ…。リーチの差とこの奥の手、あんたに凌ぎきれるかぃ?”

463 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:47
■ 邂逅 ■(12)

関羽は抜きつけの一閃後右手で刀を相手に擬したまま、張飛は構えの左右を変えたまま、間合いを空け、互いの隙を窺うかの様に回り始めた。対峙するその意識下で、彼我の状況の観察が続けられる。
関羽の模造刀は“超薄刃仕立て”というが本身ではない。遠めには真剣に見えるが焼入れのできない特殊合金製で、普通の模造刀なら刃の代わりに平面のでている部分が鋭角になっているものである。とはいえ、関羽ほどの達者なら刃筋が狂わず手の内がしまっておれば棍棒ぐらいは両断できる。その刀身の“物打ち”(切っ先から10 cm位までの刃部)が1cmほどにわたってわずかではあるが潰れて捲れ上がっている。
“…先程の音と手ごたえ、妙な位置に二つある金輪、そして捲れたこの刃。あの棍、やはり疑ったとおりか…。”
関羽は視線を相手から外さず右手で刀を擬したまま、左手で器用にベルトに鞘を挿すと、両手に刀を構え直した。

本来、刀を腰に帯びない状態から抜刀した場合は、諸手で剣を振るうことができないため、即座に鞘を捨てるのが普通である。巌流島の戦いで浅瀬に鞘を捨てた佐々木小次郎を宮本武蔵が“小次郎敗れたり、勝つ者が何で鞘を捨てようか。”と喝破したのは有名である。しかし、これは佐々木小次郎が “物干し竿”の刀身(3尺1寸5分=96 cmと1mない。だが、江戸初期の常寸とされた2尺4寸= 72 cmに比べれば圧倒的に長い)と“燕返し”(佐々木小次郎の流派・巌流では虎切あるいは虎切刀というのが正式名称。振り下ろしの一刀で相手の動きを牽制し、返す刀を振り上げて仕留める二拍子の技)を生かして、海から来た武蔵を足場の効かない浅瀬で仕留めようとしたのを、それを読んだ武蔵がまだ足場の効く波打ち際まで上がる時間を稼ぐために放った揶揄である。長い鞘なので身に帯びるのは邪魔になる。鞘に砂が入ると刀を納めるときに刃を痛めるので海中に捨てるのが乾かすのに要する時間を除けばベストである。けれども既に2時間以上待たされて精神力を消耗していた小次郎はこの揶揄に引っかかってしまった訳であるが。

ひゅんひゅんと唸りをあげて面上と膝に六尺棒の両端がマシンガンのごとく連続で襲い掛かる。関羽は間合いをぎりぎりに開けてこれをかわし、引き戻したところをピタリと張飛の六尺棒に剣先を貼り付けた。押し付け、圧力を加えることで張飛が思うように六尺棒を振るのを妨げる。少々振ったくらいで外れず、強引に振り払おうと張飛が足場を固めて一瞬、動きを止める。関羽はその隙をついて剣先を棒に沿って滑らせ、間合いを一気に詰めてきた。“橋掛かる攻め”である。
長物に剣先を付け、そこを支点にして力を加える(=橋掛ける)ことで長物の動きの自由を奪い、付け入って間合いをつめる。香取神道流では対長物の定石である。だが、張飛の方に動揺は無かった。純粋な長物ならこれは大ピンチだが、あいにくこの得物では一発逆転の対応策がある。足場を固めたのも有効に効く。
“いまだ!!”
両の掌に包み込んだ金輪を素早く緩め、六尺棒を一瞬にして三節棍に変える。先ほどの関羽の斬撃で生じた金属音は模造刀の刃が三節棍を繋いでいた鎖に切り込んだものだったのである。驚いたことに焼入れした刃がついていない模造刀とはいえ、関羽の一撃は棍の木製部を切り裂き、鎖にわずかながらも切れ込みを入れていた。だが、攻撃に支障はない。
固い足場を生かして腰を捻り、勢いよく振り出した。圧力を急に逃がされて、橋架けていた剣先が外れる。それだけではない。関羽の側からは死角になる張飛の背面から、反動で三節棍のもう一方の先端が飛んできた。
“もらった!”
だが、相手も然る者。とっさに歩をとめ、強靭な手首を利して、棟で打ち落とす。
ガシン!!
体の左に張飛の攻撃を捻り落とし、次の連続攻撃が来る前に飛び下がって間合いを開けた。

剣術の攻防において、最善は相手の打撃を受けずにかわして切り込むことである。かわしきれず受けざるを得ないときはまず棟で弾き、次善が刃で受けることである。流派によっては頭上に横たえた刀の鎬で受けカウンターで突きを入れる技もあるが、刀の側面である鎬は刀の弱点であるので、極力鎬で相手の打撃を受けないに越したことはない。
また、実戦においてはまったく見たこともない太刀筋、嵌め手を持っている剣士が存在しうる。現代剣道と違い、剣先が掠っただけで命獲りになりかねない武者修行をしていた武芸者達は、どうしても体捌きでかわしきれないときには、手首の捻りで相手の攻撃を棟で左右に払い落とし、身に掠らせもしない技術を身に付けていた。

“けっ、不発か。まぁ、あんだけ良い反応じゃしゃぁないか。だが、これで攻撃力はさっきより増えるぜぇ。”
ひゅんひゅんとヌンチャクのように一方の端を持って握りを左右変えつつ右肩、左肩そして腰周りを回して周囲をなぎ払う型を示して、威勢を振るう。最後に開いた左手を前に突き出して、バンッと型を決めたときにはギャラリーから畏怖のどよめきすらたった。
リーチの差を抜きにしてもその遠心力から来る打撃力、速度。そして真ん中の節で受ければ先端が襲い掛かり、先端で受ければ真ん中と手元の節での打撃をうけるという構造を持つ三節棍は、一刀での対処はきわめて難しい。間合いを十二分に空けて完全にかわすか、届くぎりぎりの間合いで先端の節を外せば防ぐこと自体は可能だが、これでは防戦一方である。リーチの差のため、一撃をかわして飛び込むのも難しく、張飛もそれは当然のこととして折込済みである。
だが、関羽は中段正眼に構えたまま、表情・様子は変わらない。
むしろ、予定どおりという雰囲気ですらある。
この連結式三節棍、六尺棒を格闘中に三節棍にするのはたやすいが、三節棍を六尺棒に瞬時に戻すのはほぼ不可能である。早めに奥の手と思われる三節棍での不意打ちをつぶして勝負を挑むのを選択したのである。
“その余裕…、気にいらねぇなぁ…。まあいい、化けの皮剥いでやる!”
掛け声とともに、中央の節と末節を握って間合いを変化させつつ左右の連打を頭部、胴、そして膝へ繰り出す。関羽は短い間合いを見切って足捌きでかわし、踏み込もうとするが張飛もすかさず引き戻しながら動いて間合いを開け、長い間合いでの打撃を踏み込んできた関羽へ繰り出す。踏み込む呼吸に合わされ、今度は足捌きではかわしきれず、棟で先端を弾いて払い落とした。三度、両雄は矛を交えたが、互いに付け込む隙はやすやすとは見出せそうになかった。

464 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:47
■  邂逅 ■(13)

生徒集団間の勢力争いが絶えなかった蒼天学園において、戦略や謀略のみならず、戦闘に直接関係する武道や格闘技、戦闘術に秀でた生徒はどの時期においても数多く出現した。後代からそれを振り返って、所詮“見てきたような嘘を言い”の域を超えはしないものの “最強コンテスト”なる私選の番付をするものは多い。その上位陣の常連となる面々はいずれも大規模な騒乱が起こった時期の学生に集中しているのも当然であろう。
後に陳寿著の学園史“学園三国志”で扱われる時期もよく取り上げられる年代であり、 人外の範疇に入りそうな常識はずれの豪勇を示すエピソードを持つ人物が数多く存在した。そういったいずれ劣らぬ猛者の中でも、こと剣技とその駆け引きにおいては関羽が一目置かれていたらしいことは次の言い回しが残されたことで明らかであろう。
“関公面前要大刀” ― 関羽の前で刀を振るう = 身の程知らず
当時の張飛では知る由もなかったが、関羽はその豊富な鍛錬・実戦経験を元に布石をしいてチャンスを待っていたのである。これまでの打ち合いで手の内をそれほど見せず、足捌きか棟での打ち落としで対処していたのも駆け引きであった。

「せやぁ!!」
数度の打ち合いの後、改めて繰り出した張飛の三節棍が関羽の右膝を薙ぐように襲い掛かるが、なんと片足立ちで膝を折り曲げ回避してきた。その足を下ろす動作に合わせた踏み込みで、大技・右片手打ちが得物の間合いの差を埋めて張飛の右側頭部を狙ってすっと伸びてきた。実際、対薙刀対策として古流には膝を狙ったときに狙われた前膝を折り曲げてすかしたところを切り込む手がある。
“これがその余裕かぃ!だが甘いんだよ!!”
空ぶった引き戻しに恐ろしく呼吸を合わせてきたが、余人ならいざ知らず張飛なら対応できなくはない。それが長物と刀の埋めようのないリーチ差からくる余裕だ。それよりこれで胴ががら空きになった。カウンターへのカウンター、ダブルクロスカウンター狙いだ。
“もらったぜ!!”
中央部を右手一本で握り、関羽の攻撃をかがんで避ける勢いで三節棍のもう一端を関羽の右胴へ振り込んだ。これを喰らえば如何に強靭な身体の落ち主であろうと耐えられまい。
ガシッッ!!
張飛の目に映ったのは、会心の一撃が、抜き打たれた左手の鞘で絡めとられている様だった。右片手打ちは三節棍を絡めとるための見せ業だったのである。二刀の心得もある関羽ならではの伏せ技であった。
“がぁっ、なにっ?!”
がしゃんと音を立てて、絡みついた三節棍とともに鞘が張飛目掛けてたたきつけられた。思わず左手で攻撃を受ける。視野がふさがって、一瞬ではあるが関羽自身からは注意が逸れた。即座に注意を引き戻したが、目の前に相手の姿はなく、長い黒髪がぶわっと尾を引いてたなびくのが映った、その先は…がら空きの左!
“本命は左か!!”
模造刀を諸手に振りかぶり、これまでと比較にならない鋭さで風を巻いて袈裟懸けに切り込んできた。
“いけねぇっ、やられる…”
模造刀とはいえ、相手は棍の木製部を切り裂き、鋼の鎖に切れ込みを残したほどの手慣れである。その刃が如何に鍛えたとはいえ人体に当たればどうなるか…。生命の危機に本能が反応して、全身の血が引き背筋に冷たいものが流れ、アルコールとこれまでの剣戟で高揚した気分が一瞬にして冷めた。切り込んでくる相手の鋭い視線がそれに拍車を掛ける。
“ちくしょう、動きがやたらスローモーションに見えやがるぜ…。”
が、こちらの体は指一本動かない。アドレナリンのせいで時が止まったように感じるだけだ。心臓の鼓動がやけに大きく響く…。
どくん
「その喧嘩っ、うちが預かったぁ〜〜!!」
一瞬後、張飛の視界は赤いもので遮られた。



どくん
予期した衝撃はなく、静寂は心臓の鼓動で破られた。一瞬恐怖のあまり意識が飛んだようであった。
“オレ、助かったのか…?!”
赤いのは血でなく、関羽と張飛の間に飛び込んできた人物のパーカーの色であった。
張飛に振りおろされるはずの模造刀は二人の間に飛び込んできた眼鏡の女生徒の眼前でぴたりと静止していた。
「…全く、無茶をする御仁ですね…。」
呆れとも叱責ともつかぬ言とともに関羽は刀を引いた。あまりのことに正直毒気を抜かれたのである。張飛の方も戦闘継続の意欲を失っているようであった。人騒がせな方法ではあるが、取り敢えずの水入りはなった。だが、これからの展開は予想もできない。流れは鉄砲玉のように飛び込んできたこの人物が握っていた。

465 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:48
■ 邂逅 ■(14)

「こらっ、翼徳!あれほど他人様にその道具むけたらあかんてゆぅたやないかぁ!!」
赤パーカーの生徒からは、先ほどまで続いていた剣戟に負けないほどの叱責の声が上がっていた。伴奏にスパコーン、スパコーンといっそ気持ちがいいまでに張り扇の乱れ打ちが続く。打たれるほうの相手もこれまでの勢いはどこへ行ったのか、両膝を折って、頭を守るかのように合わせた両手を持ち上げて平謝りの体勢に入っている。先ほどの瞬間にアルコールが全て飛んでしまったようである。
「うぅっ、姉貴ィ〜〜、相手が歯ごたえありそうだったんでつい熱くなっちまったんだよぅ〜!ごめんよう〜〜。」
どうやらこの眼鏡の人物が、簡雍の言う“うちの大将”らしい。
「皆さん、お騒がせしてすんませんでしたなぁ。さぁさぁ、見世物はお開きでっせぇ。」
どうやらこの人物はこのあたりでかなりの顔役らしい。ギャラリーにもこの人物の素性は知れ渡っているようで、口々に勝手な感想は言っているものの素直に場を離れていった。
血の雨が降るか、という状況を強引ではあったがあっさりかたを付けてしまったのだ。
“…たいした御仁のようですね。”
これで事は済んだもの、と鞘と刀袋を拾い模造刀を納め、甘酒の瓶と大皿の東坡肉は迷惑料に残してこの場を離れようとした。が、そうは行かなかった。
「そこのお人。すんませんなぁ、ウチのアホがご迷惑おかけしたようで。うちは新高1の劉備っちゅうけちな同人屋ですわ。親しいのは玄徳って呼んでくれますけど。こいつ、翼徳の姉貴分やってますんや。」
いかにもお気楽そうだが、いったんつかんだら離しそうに無い。なかなかの曲者だ。巧みにペースに乗せられそうである。
「大事に至らずにまとめられたのはお見事ですが、少々危険でしたよ。」
「いやなぁ〜、最初はちょっとやばいかって思うたけど、結局あんさん棟返したやないですか。それなら痛いで済むし。」
“!…この御仁、傍から見ていたとはいえ私が棟を返すのを見て取ったのか…。”

“棟打ち”というのは時代劇のように相手の見ているところで棟を返して打つことを言うのではない。真剣で切ると見せて振りかぶった一瞬で相手に判らないように握りを変えて切り下ろすのである。相手は棟で打たれた衝撃を真剣で切られたものと勘違いして戦意を喪失もしくは失神するのである。同様に、時代劇における剣術の誤用例として、握りを変えたときにチャッと音が入る“鍔鳴り”がある。効果音としては格好がいいが、実際のところ、鍔の上下を切羽という矩形の金具(切羽詰まるの語源)で挟みつけ、これを柄できっちり押さえて目釘という芯で刀身に固定する日本刀の構造から考えると、“鍔鳴り”がするというのは切羽が緩々になっていて手入れの悪い刀(酷いときは振ったときにガタついた振動で目釘が抜け落ちて刀身が柄からすっぽ抜ける)のことを示すものなので、実は非常に恥ずかしいことである。また“鍔鳴り”がするようだと手入れ云々を抜きに相手に握りを変えたことを悟らせる可能性があるので関羽の模造刀ではそのようなことがないように手入れはしてある。

関羽の選択は“棟打ちで張飛を当て落とす”ことであり、当然、当事者である張飛には棟を返したのは悟らせなかった。闘争の場では相手は一人とは限らないので棟を返すのは一瞬であるし、またすぐに元へ戻す。棟打ちによる無力化は時代劇ほど単純なものではない。張飛の横へ回り込んだ一瞬で握りを変えたので、岡目八目とはいえ、見物していた者でもそれを見て取れたものはいないはずである。それに刃を止めたときも、そのとき刃がどちらを向いていたかは正面にいたこの女生徒にはわからない。第一、これまでの剣戟の激しさから考えると、寸止めになると予想した見物人はほとんどいないため、剣が止まったことにのみ気がいったはずである。関羽自身がすぐ刀をひいて元の握りに戻したこともあり、そのとき刃がどちらを向いていたかは後でゆっくり思い返してもわかるかどうかは不明である。
となると、この女生徒は関羽が勝負どころで多分棟を返すと思って刀身を注視していたことになる。
「こら翼徳!どうせあんたが先に手ぇ出したんやろ!途中から見てたら、このお人、どうやら、極力あんたを痛めつけんようにことを納めようとしてたようやないかぁ!!」
お見通しである。関羽のほうを向いて続ける。
「…それに翼徳相手にして棟返すような優しいお人やったらうちが飛び込んでも多分寸止めくらいはしてくれるやろ思いましたしなぁ。」
あけっぴろげな人物ではあるが、そこまで自分の観察眼を信じられるものなのであろうか。それに、
“…私が、優しい…。”
面と向かって言われると面映いものである。関羽自身の持つ超然とした雰囲気もあいまって、ほとんどの相手は相対する際には良いにつけ悪いにつけ何らかのフィルターがかかっていた。このようなストレートな対応に関羽は弱いところがある。
「…だからといって、私が刃を止めるとは限りませんでしたよ。」
「でもあんさんは止めれたし実際止めてくれはった。それならええやないですか。」
裏表のないカラッとした笑顔でそういわれると反論に困る。こちらの弱いところというかツボを無意識であろうがついてくる。だが、それに付け込むという風もない。
ええでっか、とばかりに指を立てて、二カッと笑って続ける。
「なぁあんさん、“付き合い”ちゅうんはな、ウチの思うところ、心と心の“ドツキあい”ですねん。真剣になればなるほど相手の本音っちゅうか本質が見えてきますわ。ウチはけちな同人屋ですけど、そこらへんはちっとは分かってるつもりですわ。簡単に手ぇ出すようなこいつみたいな奴はまだ心が弱い。まぁ強い人はなかなか手は出さへんけど出すときは凄いんですけどな。あんさんは強いし優しいお人や。それは一件見てただけでもよう判りましたわ。」
不思議な人物である。こちらの心を意図せずに開かせるような懐の広さを感じる。争闘の直後ということで、張り詰めていた神経がほぐされるのを感じる。思わず表情が緩んだ。
それを見て、“おっ、笑いはった”と当人も嬉しそうに微笑んで、予期せぬ、いや内心期待していたかもしれない言葉を口にした。
「なぁ、あんさんお一人でっか?よかったら喧嘩の詫びというのもなんやけど、うちらと一緒に花見の続きでもやりまへんか?」
「…よろしいのですか?」
「折角ここまで足運んでもらいましたのに、このアホとの喧嘩でわやになったままお返しするのは気がひけますしなぁ。それに“袖摺りあうも多少の縁”言いますやろ。そうそう、あんさんのお名前聞いてへんかったなぁ、お聞かせ願えませんやろか?」
「…誠に失礼しました。申し遅れましたが、私、関羽と申します。皆は雲長と呼びます。」

466 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:49
■ 邂逅 ■(15)

関羽としては最初はごたごたが済めばこれ以上関わるつもりはなかった。だから無礼を承知で仲裁にたったこの人物に名を告げるつもりは無かったのであるが、この人物との縁をこれで終わらせるのも惜しい気がした。この人となら蒼天学園でやっていけると感じた瞬間かも知れなかった。それに一見して乱暴者の張飛がこの劉備の妹分であるあたり、張飛自身もこの劉備と共感しあうものがあるのだろう。この姉貴分のために手間暇かけて美味い東坡肉を作ったあたり、ただの喧嘩屋ではない。
関羽は東坡肉の大皿を取り上げ、劉備と張飛のほうへ差し出した。
「….お受けください、迷惑料です。」
「…いや、それは姐さんがとったもんで…。」
劉備に東坡肉を振舞って喜ぶ顔を見れないのは残念である。しかし、落ち着いて考えれば、事情はともあれ自分は景品にすることを承諾したのである。騒動を劉備に預かってもらったこともある。こだわってこれ以上姉貴分に迷惑をかけるわけにはいかない。
だが…、
「ここまで手塩にかけたものを、おいそれといただくわけには参りません。」
背景を知り、劉備が気に入ってしまった以上、景品としてとったとはいえ、関羽としても黙って受け取るわけにも行かない。
このままでは意地の張り合いでまた押し問答になりそうであった。
膠着しかけたところ、救いの手が文字通り伸ばされた。
関羽の持った皿に劉備の手がすっと伸ばされて、東坡肉を一切れ摘み上げる。二人が反応するまもなくむしゃむしゃと頬張った。ほうっ、見張った目がとくりくりと愛嬌たっぷりに眼鏡の奥で動いた。
「翼徳、腕上げたやないか。美味いでぇ。」
張飛が状況を飲み込めないうちに畳み掛ける。
「昨日からじっくり煮込んでくれててんやろ、ごっつう嬉しいわぁ。おーきになぁ。」
関羽もまた劉備の意図を読んで動いた。
「ええ、私も美味しくいただきました。もう少しいただくことにしましょうか。…絶品ですよ。」
自分もまた一切れ口にし、張飛に微笑みかける。
流石に張飛にも分かった。再び収拾が着かなくなりそうなところを劉備が収め、そして関羽が折れてくれたと。二人が自分を許してくれたと。
ぶわっと両の眼に光るものが溢れる。
「姉貴、ごめんな…。…姐さん、ありがと…。」
「こらこら、なに泣いとんねん。あんたも食べえや。美味いもんはみんなで分け合う、そうすりゃもっと美味くなるってもんや。なぁ、関羽さん。あんさんもそう思うでっしゃろ。」
「ええ、そうですね。甘酒もまだ大分残っておりますし、いかがです。」
「ほう、こりゃええですなぁ。ちょっとした宴ですなぁ。翼徳、あんたもお流れ頂戴しぃや。」
「う、うん。姐さん、ごめんな、ホントに…。」
先ほどまでいきり立っていた張飛が今はやけにしおらしく関羽の杯を受けているのがなんとなく微笑ましい。
「関羽さんか…。なんか呼びづらいなぁ、“関さん”で構いませんやろか?年上の人には無礼かも知れまへんけど…。」
「いえ、お構いなく。私も貴女方と同じく新高1ですから…。」
「え゛っ、そうなんや…。」
流石の劉備もこのときだけは絶句したという…。
誕生日は劉備が関羽より一ヶ月早く、関羽は張飛より4ヶ月ほど早かった。
以後新学期までの2,3ヶ月で、彼女ら3名の縁は深まり、いつしか劉備を長姉、関羽を次姉、張飛を末妹とした“ピーチガーデン3姉妹”として知られることになる。

****************************************

「…で、そのときの桃の花見をとった写真がこれってわけよ。私が昔っから歴史の観察者だってことがよく分かったぁ?こんなお宝画像撮ってたんだから。」
「…ええ、よく分かったわ。昔っから騒動の根源はあんただったって。張飛さんのそもそもの暴走の原因があんたの都合と酒にあって、起こした騒動が手がつけられないほど大きくなったことに慌てて、関羽さんと部長が沈静化させるまで逃げて部外者の顔してたから結局“3姉妹”に入れなかったってことが。」
表では如何に喧伝された歴史でも、その裏側など所詮こんなものなのかもしれない。
「うぅ〜、孝直ちゃん、お姉さんは悲しいよぉ〜。こんなひねた娘になっちゃってぇ〜。」
「多少ひねてるのは昔から。それに自業自得も少しは入ってるんじゃないの?大体、撮ったときはあの3人があれほどビッグネームになるなんていくら憲和でも夢にも思わなかったことはこの写真の存在自体忘れて保存が悪くてネガも処分していたことが何よりの証拠じゃない!!」
現在、この写真の焼き増しを持っている可能性があるのは当事者の3姉妹のみである。当然、非売品である。
「…いや、まだ遅くない最後の大もうけにはまだ…。」
「お生憎様。私たち階級章返却したから課外活動行為は退学処分よ。」
「…そうね、最期くらい後輩に土産やっとくか….。」
翌日、色褪せたこの写真は小さな額に入れられて帰宅部連合写真部の壁に歴史の瞬間として掛けられた。後、帰宅部連合が解体されたとき、その直後の騒乱で行方不明になったとの話があるが、司州校区洛陽棟の蒼天学園記念館の倉庫の片隅に眠っているという説もある。

467 名前:岡本:2004/04/20(火) 18:55
岡本です。全15回と意味も無くやたら長い作品で申し訳ありません。
一気に読むと疲れますので、ごゆっくりお読みください。
日本にいる間に完成させるつもりでしたが、今日になりました。

元ネタは桃園結義ですが、
関羽関係は民間伝承から引っ張ってきたネタが多いです。

断っておきますが、一応中国版の三国志演義連環画を読んで、演義では
どの武将がどの武器を使用しているか大体把握しています。
ただ、そのものずばりは面白くないという理由で、学三に起こす際には
イメージに合う武器やスポーツ・格闘技に置き換えています。
関羽が香取神道流というのはあくまで学三(もっと言ってしまえば、勝手な私設定)限定です。

468 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/23(金) 00:17
>>449
国重高暁さま、グッジョブ!曹操と陳登でしたか…
なるほど、タイトルの意味がわかりましたわ(^_^;)
虎にせよ鷹にせよ、呂布の存在をよくよく表しているワードですものねえ…
誰からも、飼い慣らす、という発想を得られなかったのが呂布の不幸か。
それにしてもスール制度か〜…ホント、結婚の類ってどうしたものでしょうかねえ。
「義姉妹の誓い」ってのはちゃんとありますし…


>>452-467
相変わらず凄いボリュームですね、岡本様(^_^;)
これほどまでの長さになると、しょーとれんじではなく立派な長編ですので、
メールで頂ければありがたいです…

さて、何度かに分けて読もうかと思いましたが、一気に読めました♪
ピーチガーデンの誓いの岡本版真相ですにゃ( ̄ー ̄)
随所ににやりとする民間伝承ネタあり! なるほど、劉備は通りがかった仲裁
ではなく、最初から張飛の悪徳商法のグルで…。簡雍が何故義姉妹から外れてる
かという謎も解決〜
廖化になる前の惇さんもいいなあ…

469 名前:那御:2004/04/25(日) 14:29
>国重高暁さま
結婚に関しては、これもまたちゃんと確定しておきたい事柄ですね。
だんだんと最期へと近づく呂布を見事に描いていますね。
「接着剤」、切れ者陳登のキツイ一言が、引導を渡すか・・・

>岡本さま
う〜む、膨大な知識に裏打ちされた大作!
毎度お馴染み武道ネタから、今回は料理ネタにまで、本当に知識が幅広い・・・
民間伝承も盛り込まれて、いやぁ楽しめました。

廖惇がイイのは私もですがw

470 名前:岡本:2004/04/25(日) 16:12
〜 移ろい行くもの、受け継がれるもの 〜

学園三国志の舞台となった時期は、まさに激動の時期であった。学園運営活動に対する価値観や行動理念が学年ごとにくっきりと色濃く分かれ、主たる統治形態に固定概念など存在せず、時流に流されるがごとく、様変わりしていった。
末期の連合生徒会で声望があったのは、双璧といわれた皇甫嵩に朱儁、気骨の文官・盧植、北方の監視者・丁原。政務では千里の駒といわれた王佐の才・王允、カムロと実務の調整役として重きをなした袁隗。やり方に違いはあったとはいえ、彼女らは当時の連合生徒会を支える屋台骨であったはずである。が、如何に個人として優れていようと、その人物の価値観を取り巻く情勢や時の流れが許さない場合、表舞台から駆逐され退場せざるを得ないのが歴史というものであろう。彼女らが学園、蒼天会や生徒会にかけた思いにも関わらず、黄巾事件や菫卓の専横に示されるように、既に連合生徒会には自力で学園を統率するだけの能力を失っていた。それが各校区の総代・生徒会会長や地区長の独立を呼び起こし、群雄割拠の事態を招いたともいえる。結果、彼女らは連合生徒会と象徴たる蒼天会の権威失墜を回復することかなわず、学園の表舞台から不遇のままに消え去ることとなった。

彼女らにとって変わって、群雄割拠の時節に学園の表舞台に上がったのは、袁紹・袁術姉妹や公孫瓉に代表される世代である。彼女らは蒼天会や連合生徒会の無力さを肌で感じて中央から脱却した経緯を持つ。それぞれ、基盤としたものは各地に連綿と受け継がれた名声であったり辺境守備戦の実績であったりしたが、蒼天会に依存しない実力を背景に独自の秩序だてを模索していた。一面、実力が物を言う時節に突入したわけであるが、力のみで泳ぎきれるほど甘くも無かった。公孫瓉は白馬義従と呼ばれ恐れられた当時随一の機動戦力を有していたものの、劉虞を問答無用で飛ばしたことなどで政治的な失敗が重なって諸勢力からそっぽを向かれ、結局は袁紹との政治力や統治能力、声望も含めた総力戦で敗れ去った。袁術は、袁家の権威のみでは求心力には決定的にかけるということに気づかず、地道に自勢力の運営を行って地力を付けることを怠り、諸勢力間の叩きあいで勢力を減退させ、退場することになった。

残った北方の巨人・袁紹は最大勢力となり無敵と思われた。だが、彼女ですら、時流を読み、波に乗った姦雄・曹操の前に激闘の末、敗れた。曹操は、最初は袁紹の下働きから始まったものの、学園の混迷がいまだ深い中、勢力間の権力闘争に参加することで徐々に力を蓄えた。どの勢力も、万人の総意として蒼天学園全体に対し自己の権威を確固たる物と認めさせる根拠は薄弱であった。その点を見据えて、蓄えた実力だけをあてにするのでなく、流浪していた蒼天会会長・劉協を擁立して権威面での補強を行い、のし上がっていったのが曹操というわけである。
強大な群雄がサバイバルレースから脱落した中、リタイア必至と見られながらも、今なお駆け続けている弱小勢力の主がいる。劉備、あだ名は玄徳。
盧植門下生であり、公孫瓉の後輩でもある。が、彼女の行動理念や価値観は、この2人とは全く違っていた。それが全てとは言わないが、生き残った原因のひとつであることは間違いあるまい。
「うちはうちや。蒼天学園や連合生徒会についての考え方や価値観もまるで違うしな。第一、盧植先生や伯珪先輩自身が、そんなことは望んでへんかったやろし。」

だが、変化の渦中においても連綿と受け継がれるものはあった。学園生活にかける思い、熱意である。
“おまえの思うようにやれ。だけど最後くらい、先輩面はさせろ。”
徐州校区生徒会会長・陶謙の厄介になると決めて、公孫瓉の元から離れることを決意し別れの挨拶に赴いたとき、公孫瓉はそういって、身に付けていたクロスタイを外して劉備に渡したものだった。丁度、公孫瓉と劉備の活動方針や考え方にすれ違いが見え始めていたころだった。袂を分かつことを劉備が必要以上に気に病まないように、せめてさっぱりと送り出してやりたいという、妹分に対する気遣いだったのだろう。己の信念を胸に駆けようとしている者同士だからこそ理解できる相似と相違。
「正しいか正しくないか、時節に合ってたか合ってなかったかは別にして、一所懸命、自分の信じるものを貫こうと頑張った人らがこの蒼天学園にはいた。それだけは忘れとうないし、そういう気持ちは後輩のうちらが引き継いでいかないかんことやと思うんや。」
盧植、公孫瓉、陶謙、袁紹、劉表。
劉備がこれまで厄介になった先輩達である。

劉備は、引退したり中道で果てたりした彼女らの思いを受け継ぐかのように、彼女らに由来するものをその都度身に付けていた。盧植からは張り扇。公孫瓉からはクロスタイを。そして、陶謙、袁紹、劉表からは新しくあつらえて貰った伊達眼鏡、総帥旗の旗竿に赤パーカーを。
それらを身に付けていると、苦難をものともせず学園生活を精一杯に駆け抜けた彼女らの思いが感じられる。それが劉備の力になる。
過去となってしまった人物だけではない。劉備と共に歩み続けてきた者達。自身の未来を劉備に預けようと集ってくる者達。
彼女らと思いと共に、玄徳は学園を駆ける。

帰宅部連合の門出のこの日。
指示を仰がんとする面々を前に、届いたばかりの帰宅部連合総帥旗を担いで号令をかける。
「皆の衆、ほな行こか!」
数多の先人たちの思いをはらんだかのように、帰宅部連合総帥旗が“宅”の緑字も鮮やかに蒼天に翻った。

471 名前:はるら:2004/04/25(日) 16:52
>>470
アサハルさまのイラストを見事活用しきって・・・
岡本さまお見事です^^
個人的には、伯珪姐さんの、
>“おまえの思うようにやれ。だけど最後くらい、先輩面はさせろ。”
が、かなりかっこよかったです^^

472 名前:★ぐっこ@管理人:2004/04/26(月) 00:35
(゚∀゚)! 確かにカコイイ! 
公孫瓉先輩、ホントにキャラとしてはつかみづらいところがありますが、
それでも盧植先生の「後輩」で、劉備の「先輩」でいたかったのですよね…
一代で駆け抜けた曹操と違い、劉備は多くの人の夢やら何やらのリレーを
引き継いでいたのですな(´Д⊂

473 名前:はるら:2004/04/26(月) 18:26
■■盧毓が行く■■


はじめましてー、盧毓です。
わたしはかなり前の連合生徒会の盧植の妹で、
今は蒼天会の文サマこと曹丕さんのもとでスカウトとして働いてます。
ところで、わたしはこの学園じゃあんま、たいした事じゃないかもしれませんけど、
結構数奇な学園生活を送ってるんですよー。
そこで!!
そのお話を皆さんに話そうと思います。



 〜 姉は総司令官!? 〜

と、いうわけで姉盧植との思い出について話していきたいと思いますー。
あれはあたしが中2の時でした………。

「あら、子家……。ここは連合生徒会の管轄の部屋よ。ダメじゃない…」
あっ、子家っていうのはわたしの事ですよ。で、話に戻ります。
「えっ、……でも、to不定詞がわかんなくって…」
姉は少し困惑してちょっと考えて、
「……わかったわ。不定詞は大切だからね。お姉ちゃんが教えてあげるわ!!」

姉はいっつもわたしに、いえ、皆に優しかったです。
姉の瞳を見てると、何かこう、”癒される”っていうか、なんか神秘的なモノがありましたね。
……でも神秘的って言ったら張角さんの方が数枚上手でしたけど。

「あ、ありがとー!おね―ちゃん!!」
姉は教えるのが上手かったです。あ、劉備さんと公孫サンさんも姉に勉強習ってたんですよね!!
しかも姉はそれでいて蒼天会の参事官。それに比べてわたしは……。うぅー。
っとと、話がずれちゃいましたね。

姉の教師魂に火がついて三十分くらい経ったとき、
 コンコン!
「盧植さーん?連合生徒会の何進ですけど、いらっしゃいますか??」
「あ、はい!どうぞ!!」
「失礼しま〜す。………あ、よく整理してますね〜」
「い、いえ、それ程でもありませんよ」
姉はきちっとした性格だったので整理整頓がよくできていてこの部屋もとても綺麗でした。
それにしても何進さん、何進さんの方が姉よりも位高いのに何か立場逆みたいに見えますよね。

「それで、今日は何でまた??」
「あっ、いや、最近張角さんが大変なことになってるじゃないですかー。
あっ、でも私は張角さんの声はいい声だと思うんですけど、蒼天会サイドはそうは思ってないみたいなんですよ。
それで実は盧植さんを総司令官として張角さんと戦ってもらいたいんですけど……、どうでしょうか??
…あ、嫌なら良いんですよ!!」
「…………身に余る光栄です…私なんかでよければ……」
「盧植さん、ありがとう!!。任命式はまた日を追って知らせますんで、今日はこれで!」

で、何かわたし、何進さんの眼中に完全に入ってなかったっぽいです。
うぅー、少しは気ずいて下さいよぉ〜。

で、それから二日後に任命式があったそうです。
………え、わたしですか?もちろん入れませんでしたよ。
忍び込んだんですけどね、捕まって怒られてしまいました。でも偶然通りかかったおねーちゃんに助けてもらいました。
おねーちゃんありがとー♪



というわけで、今回は姉盧植と何進さんの邂逅をわたしが
偶然見てしまった事を話させていただきましたー。
この後姉は、皇甫嵩さん、朱儁さん、丁原さんらと協力して張角さんを追い詰めていったんですね。
そして姉はちょっとした事で総司令官を辞任させられちゃうんですよね。
しかしそれはまた別の物語。またの機会に話させてもらうとしましょう。
    
     それじゃ、またね〜〜〜!!!!


 ― 盧毓が行く〜姉は総司令官!?〜 完 ―

474 名前:はるら:2004/04/26(月) 18:30
今回の作品は盧毓が語り部として今までの事を振り返っていく、
というもので一応短編集チックなモノにしようかなと思っています(w
第一弾は盧植と何進の会話でそれを盧毓が聞いてしまう、というものです。
・・・かなり無理がありますよね、スイマセンm(__)m

475 名前:岡本:2004/04/26(月) 23:12
>国重高暁様
虎と鷹。こういった何かに喩えるものを現代学園に置き換える作業は難しいですがその分、書き手の
方の解釈が伺えて興味深いです。国重様の場合は鷹=>接着剤ですか。二股膏薬にもつながりますね。

>はるら様
著名な人物の日常・非日常を裏から見たら、という切り口は面白いですね。
現実のほうでも、中郎将任官の打診・根回しが非公式にあったかも知れません。
このような作品を拝見すると、現実の三国志を女子高生の学園ライフにかなりの
精度で置き換えることは不可能ではないと実感します。...私も精進しますか。

>ぐっこ様、那御様
やたら長くてくどいマニアな話で恐縮でした。
関羽ファンの私の妄想が暴走したようで、注意したはずなのに比重がもろ偏ってますし。
しかし、なぜに廖惇の人気が高い?!

476 名前:★ヤッサバ隊長:2004/04/28(水) 00:19
よー、皆。あたしさね。
え?文章だけじゃわかんないって?
しゃーない、面倒いけど自己紹介するか。
あたしは姓は龐(ホウ)、名は統。あだ名は士元。襄陽棟出身。
世間じゃ「鳳雛」って言われて、ちーとばかり名前が知られてる女さね。
だけど、何故かセットで覚えられている「臥龍」諸葛亮孔明の方が知名度が高いだな、これが。
…ふん。どうせ、あたしゃ不細工で目立たない女だよ。

さて。今日は、そんなあたしが劉備さんの幕下に加わった時のエピソードでも話してやるかね。
ん? そんな話聞きたくない?
やなこった、嫌でも聞かせちゃるわ。


● 鳳凰飛翔 ●


あれは、劉備さんが荊州南部を統一した頃の話。
その頃のあたしゃ、長湖部の連中と一緒に行動する事が多かったっけ。
けど、あそこの上層部の連中ったら、あたしの事を口を揃えて「不細工」だとか抜かしよった。
そんな所にいたって気分が悪くなるだけだし、あんまりうだつが上がりそうになかったし、周瑜が引退した後、
魯粛の薦めで友人である孔明のいる帰宅部連合に参加する事になったんだけど……。


「なあ孔明。こないな娘が、ホンマにあんたの言っとった『鳳雛』なんか?」

部長の劉備さんってば、あたしのラフな格好を見てこう言い放ちよった。
やれやれ、人望厚い天下の劉備玄徳ともあろうお方までも、あたしの外見で判断して見下すなんてねぇ。
やっぱり所詮器の小さい奴なんだろうか…。

「いいえ、部長。外見で人を判断してはいけません。
 この女性こそ、紛れも無く私の友人である『鳳雛』龐統です」
「ん〜、さよか。せやけど、ウチの方針としてまずは『班長』からやってもらおか」

劉備さんは、まだ私の力量っつーもんを理解していないようだった。
しょうがないので、とある班の班長になってみたものの、あまりにも仕事の中身がショボかったので、とてもやる気が起きなかった。
周りの生徒達は、私のボサボサの髪に分厚いメガネ、さらにはそばかすだらけの顔を見て、皆避けていたので、余計気分が悪かったし。
酒でも飲んでなきゃやってられなかったよ、ホント。
そんな訳で、とうとう班長の仕事をクビにされようかという頃、事態は一変した。
あたしを帰宅部連合に推薦してくれた魯粛から、劉備さんに書状が届いたのだ。
その後、慌ててあたしの元を訪れた劉備さんは、これまでの態度を一変させ、土下座しながら私に訴えかけてきた。

「龐統はん、ウチが悪かった!
 あんたの才能を、もう少しで潰してしまう所やった!!
 これからも、ウチらの為に働いて下さい!!」

どうやら魯粛が、あたしの為に世話を焼いてくれたようだった。
あたしは決して自分の実力に自惚れているつもりは無かったけれど、それでもあたしの事を正しく評価してくれたのだから。

「劉備さん、顔を上げて下さいな。
 あたしゃ、そーゆーことをされるのが苦手でねぇ…ホント」

照れ隠しに、そう言ってみた。
帰宅部から除名される危機は去ったのでホッとしたのは確かだけど。
ともあれ、その後孔明の強い進言もあったのか、あたしゃいきなり孔明の次席について仕事をする事になった。
ついでに言っておくと、それまで溜まっていた班長としての仕事は半日で終わらせた。





「しっかしさぁ…アレだよねぇ。
 あんたも運が悪いというか、何と言うか…。
 あんたが部にずっと残っていたら、もう少し帰宅部のピンチを回避出来たかもねー。
 少なくとも、関羽が暴走する事は無かったんじゃない?」

それから数年後。
あたしは卒業の際、既に学園を卒業した簡雍先輩と出会った。
酒好きという共通点もあり、互いに先輩後輩の垣根無しで、良く夜通し語り合ったもんだった。
今でも、その交友は続いている。
ちなみに、あたしが部にいられなくなった直接の原因である通称「落鳳事件」の際には自主退学も考えたが、勉学第一と考えて踏みとどまった。

「歴史に『IF』なんて禁句さね。
 それに、もし『あの場』にあたし一人いたところで何かが変わったとは思えんし」
「ふーん、相変わらずの達観ねぇ。
 どう?卒業記念に一杯やらない?」
「おっ、いいねぇ」

おっ、孔明の奴もこっちに来たみたいだ。
あいつってば、帰宅部の存続に奔走する余り、学業をおろそかにして単位を落として落第たあ、本末転倒だねぇ。
まぁ、あいつらしいって言えばあいつらしいけど。

「お二人とも、お揃いのようで」
「やー、落第生」

わざと強調して言ってみる。
これくらいからかっても良いわな。

「不注意で階級章を取られて、リタイアした人に言われたくありませんね」
「そう言うのを五十歩百歩って言うんだぞ、あんたら」

簡雍先輩の鋭いツッコミ。
この人、ボケだけじゃなくてツッコミまで出来たのか。

「悔しかったら、あたしみたく平穏無事に学園を卒業すりゃ良かったのにさ」
「…ふぅ、あんたにゃ勝てんよ。色んな意味で」

梅の花が咲き始めた校門を、3人で後にする。
ま、これからも何とかなるさね。
好きな酒と、かけがえのない友がいれば……。

477 名前:★ヤッサバ隊長:2004/04/28(水) 00:29
てな訳で、三国志ファン(特に蜀ッカー)ならば良く知っている龐統初登場のエピソード+αを書いてみました。
本人視点からの内容という事で、あまり目新しいネタを入れられなかったのはアレですが…。
ちなみに後半部分の龐統卒業時の話に、矛盾点などのツッコミがあれば遠慮なく指摘をお願いします(^^;

478 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 21:45
 ◆ 学園世説新語・第六話 〜豪華三本立て! 荀勗の名門でいってみよう!〜 ◆

はぁい、アタシは荀勗。潁川の荀氏っていったらみんなも聞いたことあるんじゃないかな?
自分で言うのもなんだけど、まあちょっとしたお嬢様ってわけなんだなこれが。
…あー違う違うの、別にそんなこと自慢したいんじゃなくて!
今日はね、アタシの実力の程をちょこっとだけご披露しちゃおうってわけ。
清流会の七光りじゃないってところ、よーく見ておいてね。それじゃいってみよー!

 ★ その1・絶対音感頂上対決! ★
えーと、やっぱり自慢になっちゃうかなあ? アタシってば音感には自信があるのよ。
これは決して思いこみじゃないんだよ? オーケストラ部の人たちだって認めてくれてるんだから。
それで、みんなが使ってる楽器の調律をやったわけよ。
そうそう、どうしても合わせられない音階がひとつあったんだけど、
アタシは以前に趙で聴いたカウベルの音がそれだ!って閃いたの。
さっそく趙の学区からありったけのカウベルを集めてもらって調べたら、
そのものズバリの音が見つかった、なんてこともあったわね。
ちょっとした大仕事だったけど、効果のほどは覿面ね。
試しに演奏してもらったら、これまでよりは確実に音が良くなっていたわ。
微妙な、本当に微妙な差なんだけど、分かる人には分かっちゃうんだな。
『闇解』(これでも褒め言葉よ)なんて呼んでもらっちゃって、悪い気はしない… のだけど。
一人だけ、そうたった一人だけ文句ありそーな顔をしてる娘がいたの!

その娘は阮咸。ほら、阮籍っているじゃない? 気分のままに好き放題しててさ、
何様のつもり? ってカンジでアタシは嫌いなんだけど… って、ごめんあそばせ。
その阮籍の従妹なんだけど、悔しいけど音楽のセンスはなかなかのものを持っているのよね。
クラシックギター同好会をやってたりするんだけど、
ズバリ彼女の名前がついた“阮咸”なんてモデルが人気らしくてね。
ううん、別に羨ましいわけじゃないのよ? アタシは他人の実力だって認める…つもりだし。
なにせ彼女も『神解』なんて呼ばれちゃってね、まあ学園でも指折りの音感を持ってるって評判なの。
で、アタシが気に入らないのはよ? 言いたいことがあるんならはっきり言えばいいのに、
アタシの調律した演奏を聴いててもなーんだか文句ありげな顔して黙ってるのよ!
あーもうムカつくったらありゃしない! さすがのアタシも腹に据えかねて、
始平棟長に左遷してやったわ。あら、ちょっと意地悪だったかしら?

……でね、ここからはオフレコなんだけど。
倉庫の掃除をしていたら、学園設立のころに使われていたモノサシが見つかったの。
これがまた年代物のくせに、もうこれこそがスタンダードっていう精巧さだったわけよ。
それでこっそり調べてみたら、どうもアタシの調律はびみょーにズレてたんだなこれが。
でもでも、ちょっぴりよちょっぴり! ほんの黍(あわ)一粒分だけだったんだから!
…そりゃ、アタシだって完璧ではないってことよ。謙虚にならなきゃね。
でも癪だから阮咸には言わないでおくわ。


 ★ その2・違いの分かる女 ★

えーっと… そうそう、たしか、安世(司馬炎のこと)が蒼天会長になってからのことだったんだけど。
ちょっとしたパーティーをしよう、って話になってね、
そしたら安世が趣向を凝らした内容にしよう、とか言い出して、
まああの娘もちょっとかわってるところがあったんだけどさ、タケノコご飯を炊く、ってことになったのよ。
何とも渋い趣向もあったもんだけど、
安世はそりゃもう乗り気で材料の調達やらかまど(本格的!)の手配から指示して回ってたっけ。
さて、当日になってみれば気合いを入れただけあって、出来映えはさすがのものだったわね。
みんなたいがい舌の肥えた(それなりに、ね)連中ばかりだったけど、絶賛の嵐で安世も喜んでたわ。
そこで水を差すつもりはなかったんだけど、アタシは気付いてしまったの。
「これ、使い古しの木を薪にしてかまどの火を焚いてるよね」って。
みんなは信じようとしなかったけど、かまど担当の生徒に訊いてみたらどうしても薪が足りなくて、
古いリヤカー(というか大八車ね)を解体してその車輪の木を使ってたんだって。
どう、アタシの目利きもなかなかのものじゃない?


え? 薪が違うと何か影響があるのか、ですって?
そりゃアレよ、ご飯の炊きあがりとか、味の染み込み具合とか…
だからァ、その辺の微妙な機微がね、違いの分かる女ってやつなのよ!

 続く

479 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 21:51
 ★ その3・仁義なき戦い“潁川死闘編” ★

アタシは親戚がいっぱいいるんだけど、おなじ潁川の鍾氏なんかは家族ぐるみで色々お付き合いがあるの。
ウチの文若(荀彧)従姉さんや公達(荀攸)従姉さんもお世話になった元常(鍾繇)従姉さんなんか、
同じ女の子のアタシからみても憧れちゃうぐらい素敵な人で!
一緒に活動できなかったのが残念なんだけど、その元常従姉さんの妹がね…
とくに士季(鍾会)! アイツはもう天敵ね。
あのマセガキってばちょっと口が達者だからって憎ったらしいてばありゃしない… ごほんごほん!
えーと、まあともかく士季とはちょっとばかし相性が悪いっていうかウマが合わないっていうか。

で、ウチの実家にはちょっと自慢の(これは自慢していいわよね)ルージュがあるんだけど。
母さんが愛用してて、自然な感じなんだけど自己主張も忘れないっていうか、
よくぞこの色を選んだ! みたいな逸品なわけ。それをあの士季が目を付けてね。
まったくどこで覚えたのやら(※『学園世説新語』第四話参照)使ってみたい、とか言い出したのよ。
当然、そんなこと許すつもりはなかったんだけど…
士季ってばあろうことかアタシの筆跡を真似て手紙を偽造すると、母さんの所から取り寄せちゃったの!
信じられる!? それで本人知らんぷりして返そうとしないんだから腹が立つったらありゃしない!
だいたい騙される母さんも母さんよ! いくら身内(実は母さんは鍾氏の出身なの)だからって、
実の娘の筆跡を偽造されても気付かないなんて… それだけアイツの腕前が立つってことなんだけどね。
それどころか、母さんってば『士季ちゃんにもちょっと貸してあげればいいじゃない』なんて、
あーもう姪には甘いんだから! マセガキの得意げな顔がちらついて堪らないわ。

で、他人の助けは借りられないと、アタシはひとりでも戦うことを決意したの。
突然だけど、アタシは絵の方もちょっと心得があってね。美術部と漫研からスカウトされたこともあったっけ。
その線で行こうと決めたところにちょうどいい突破口が開いたってわけよ。
士季とそのすぐ上の姉の稚叔従姉さん(鍾毓。まあこの人には個人的な恨みはないんだけど)が、
寮の部屋を改装したの。二人は今の部屋からそこに引っ越す予定らしくて、
アタシもチラリと覗きに行ったんだけどあなたそりゃ実家じゃないんだからって程の豪華さだったわ。
そこでアタシはちょいと筆を振るったわけなんだけど、元常従姉さんの絵を描いたのよ。
ほら、学長室に歴代の学長先生なんかの肖像画とか飾ってあるじゃない? あんなやつね。
自分で言うのもなんだけど、そりゃもう従姉さんが現役だった頃の姿が浮かぶ様なほどの出来映えだったわ。
それを例の部屋の壁にひっかけといたら、もうクリーンヒット級の大当たり!
引っ越してきた二人がそれを見て、元常従姉さんのかつての姿を思い出しちゃったみたいなのよ。
ほら、あの娘たちってば元常従姉さんにベッタリだったでしょう?
まあ元常従姉さんの方も姉バカっていうくらいに二人を可愛がってはいたんだけど。
で、あの二人こんな部屋にいると元常従姉さんを思い出しちゃって耐えられない、ってんで
引っ越しは取りやめにしちゃったんだって! 士季のヤツに一泡吹かせたと思うとせいせいしたわ。

それであの娘も懲りれば良かったんだけど、相変わらずだったわね…
アタシたち身内同士の話で済んでいればまだしも、他人様にまで迷惑かけちゃあおしまいよ。
益州校区に遠征して帰宅部連合を解体した後、また手紙を偽造して鄧艾先輩を陥れたあげくに
自分は姜維に焚き付けられて自立しようなんてバカな事を言いだした時には心底呆れたわね。
さすがのアタシもかばうにも限度があるし、
ヘタするとアタシ自身があの娘の身内だからって疑われかねなかったから
心を鬼にして司馬昭会長に彼女の討伐を進言したわ。
まあ何とか大事に至らず済んだけど、とばされた士季は自業自得よね。
ちなみに例のルージュなんだけど、士季がリタイヤして退寮になったとき、私物整理の際に取り返してきたわ。

まったく、こんなご時世に大それた事なんて考えるものじゃないわよね。
アタシはお陰様で今の蒼天会でいいポジションをもらってるし、うまいことやってみせるわよ。
潁川荀氏の看板も使いよう、ってね。
さて、と。最近茂先(張華)が何かとうるさいからしっかり相手してやらなくちゃね…

 おしまい

480 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 21:57
ネタは世説新語から三つのエピソードを合体。
タケノコご飯(元ネタだとタケノコとご飯は別に食べたっぽい)のお話は
なんかほのぼのしてますけど、
他の二つは一筋縄ではいかないっぽいのがこの人らしいとゆうか。

ちなみに最後のネタで、ルージュは宝剣だったんですけど。
さすがに扱いが難しそうだし、以前書いた鍾姉妹のメイク話に繋げてみました。

しかし、はるらさん、ヤッサバ隊長殿に続いて自分語りネタ三連発になったんですが、
私のはおネエ言葉な上に頭悪そうでアレな気分です(^_^;)

481 名前:玉川雄一:2004/05/01(土) 23:30
ニューフェイスも増えて賑わって参りました。

■(゚∀゚)ゝプロフェッサー!
陳羣の墓参、これまでにも何度かネタにされてきましたがやはりジワリときますね。
どこか不器用な彼女だからこそ映えるシリアスな一コマ…
すれ違っても、ぶつかり合っても、二人が共に時を過ごした日々のことももっと見てみたいです。

そしてバレンタイン。バラエティに富んだ面々がそれぞれ繰り広げる逃避行。
…そうか、やっぱみんな逃げるんですね(^_^;)
あと簡×法は反則。なんだよイイ雰囲気ですやん!

さらには回を重ねてなお新鮮さと萌えを損なわない簡×法シリーズですか。
やっぱ簡雍ってば、日頃のはっちゃけ属性だけじゃここまでブレイクしなかったですよね。
法正とのこんな一面があってこそ、ここまで厚みのあるキャラクターになったってことでしょうか。
しかし張任ワロタ。特に牛丼屋でのエンカウントが。

■国重さん
おいでませー。これからもどんどん投稿よろしくお願いします。

さて一発目は陸績と袁術のエピソードですね。
陸績の健気なまでの孝心が微笑ましくありますが、袁術お姉さまの挙動にも注目。
各メディアで何かとアレな扱いを受けることが多いこの人ですが、
この学三では案外とおいしいポジションを貰うこともしばしばです。
(相応のポカをやらかしてることもありますけど)
国重さんの作品でも、名家のお嬢様らしい振る舞いが素敵な雰囲気を醸し出しています。
陸績をなだめるシーンはツボに来ましたよ!

続いて群雄割拠の角逐の水面下で密かに進むハンターキラーの策動という。
中堅勢力時代の曹操が、強敵・呂布を相手取るために布石を打つわけですが…
一方の陳登も自身の思惑を持って乱世の一角を(ほんの僅かの間ながら)占めることになるだけに、
侮りがたい深慮で虚々実々の駆け引きを繰り広げると。
餓狼軍団との本格的な激突がこれからどう展開してゆくのか、期待が膨らむエピソードでした。

■はるらさん
こちらもニューフェイス! 新風が吹いてイイ感じ。

東漢カルテットと後輩たちのタテの繋がりというのはいくつかありますが、
この盧植センセイを巡る面々は公孫サンに劉備と一癖も二癖もあるメンツですね。
盧植が先輩として、教師として後輩に臨む姿と、親友たる朱儁に対する姿が交錯するあたりが魅力的。
事ある毎に書いていますが、私はこういった異世代(この場合は学年が違う程度ですけど)間の
交流が好きなんですよね。まだまだヒヨッコの公孫サンたちも微笑ましいものがありました。

盧毓って今までなかなか出番がなかったのですが。
東漢カルテットのひとりである盧植を姉に持ち、
また自らは蒼天会の変転を長く見続けることになる貴重な存在ですよね。
彼女がこれから何を見て、何を綴ってゆくのか楽しみです。

■岡本さん
もはやしょーとれんじにあらざる超大作!
全体的なボリュームはおくとして、若干重く感じられもしましたが、
さすがに綿密な考証に裏打ちされた展開は読者を飽きさせませんね。
個々の場面に納得のゆくまでの説明が施されているので、
ストーリーが飲み込みやすいといえるでしょう。
また、格闘シーンにおいてもわずかコンマ何秒かという間に繰り広げられる
矢継ぎ早の動作をテキストで表現しながらもそれがビジュアルとして想像できる描写力は毎度ながらさすが。
基本的に読んでいて破綻していないんだから羨ましい限り。

内容については、伝説のピーチガーデンの近いにまつわる秘話(?)ということで、
それぞれの思惑が絡み合ってやがてまとまってゆく流れでした。
簡雍はまあ、あの頃からうまいことやっていたというか… とはいえ、
いくら当事者であっても将来を見通すことは難しいということですね。
浮き沈みの激しいこの一党ではなおさらのことでしょうが(-_-;)

ちなみにやっぱり廖惇いいですよね(^_^;) 彼女が関羽に再会してから、とかも… ねえ。

そして新生帰宅部連合の門出を前にした劉備の述懐を兼ねた学園史の俯瞰。
わずか数年の間に、それまでには思いも及ばなかった程の大変革が起こったこの学園で、
生き延びるということだけでもままならない中で無念の涙を飲んだ者は数知れず。
さらには僥倖と実力を兼ね備えた者だけが自らの手で学園を動かすに至ったわけですが、
去っていった者たちとの間はあるいは紙一重であったりあるいは遠く離れていたり、
その中で変わらずに受け継がれてゆく物は確かに存在するというのですね。
多くのものを背負い、劉備の新たな一歩が踏み出されるのか…

■ヤッサバ隊長殿

そういえば今までホウ統の出番ってなかったんじゃ…?
確かに活動期間は短い(考えたらものっそい短いやん)のですが、
その中でも印象的な場面は色々とあったわけでまずはその立志編ですやね。
卒業間際からの回想って形がポイントかも。諸葛亮と簡雍をふくめたやりとりがもっと見たいなあ。

そういや、キャラ絵描いたときには意識してなかったんだけど、無双口調が違和感ないですのう(^_^;)ゞ
しかし『落鳳事件』気になるなあ。隊長の次回作に期待してよかとですか?

482 名前:★ぐっこ@管理人:2004/05/02(日) 00:17
うほッ! またまた豊作だーヽ( ´∀`)ノ!
管理人はなくともサイトは育つ…←ってそれじゃ駄目だって。

>はるら様
ほほう! 盧植姉妹の日常エピソード!
当時はまだ平凡な中学生である盧毓たんから見た、お姉さんの姿…
妹から見たら、頼りになる姉である盧植は、実は学園の情勢を単身で
左右できるほどの超大物であるわけで、そのへんのギャップがまた萌える…

>ヤッサバ隊長
あー、そういえば龐統ってあまり出てこなかったですねえ(^_^;)
酒飲み、そばかす、面倒くさがり、眼鏡外せば割と美人、と萌えポイントがここまで
揃ってるキャラってのに…。やはり早死にだからキャラにしづらいのね…
んで、今回は落第県令・龐統のエピソードですやね(゚∀゚) 彼女の物語もまた、痛快な
サクセスストーリー。今回はまったりだけど、親友である諸葛亮との密かな確執とか、
色々面白くなりそう…

>義兄上
東晋系ストーリー乙! うーん、荀勗って私も蜀攻め進言したエピソード
しか知らなかったので、このSSで激しく学習。色々エピソードあるキャラ
だったのね…相変わらず、不思議と勉強になるサイトだ( ゚Д゚)!
最初にアレンジ読んでから、オリジナルの世説新語読むのも斬新。
こうして見てみると、完璧美女・鍾繇たんもカワイイかんじだなあ…。

483 名前:那御:2004/05/02(日) 21:25
溜まりに溜まった感想たち。

>岡本様
上手い!アサハル様の設定を見事に生かし切った形となりましたね。
そして相変わらずの知識量を強烈な文で綴ってらっしゃる。
あんな文は書けませんて(何。

>はるら様
盧植&盧毓ストーリー、出てきましたね。
学園屈指の女傑の妹って、立場的にビミョーなんだろうなぁ。
それでも明るく楽しく、姉に誇りを持って生きる盧毓タンに乾杯!
中学生っぽさ爆発の盧毓タンの行動に萌えw

>ヤッサバ隊長殿
龐統の出仕ネタ!語り口調で面白い!
しかし、人生を達観してるだけあって、なかなか毒のあるキャラですなw
そしてラストは簡雍と酒で締める!
簡雍はホントどこに出しても味のあるキャラですねぇ。

>玉川様
荀勗もまた毒のあるキャラですねーw
そういえば陳寿を左遷したのも荀勗じゃなかったですか?
『魏志』の自分の記述が不満だったとか・・・
鍾会との確執というか、ガキっぽい喧嘩がなかなかスリリングですね。
(しかしマセガキって・・・w

484 名前:那御:2004/05/02(日) 21:48
−占いに無い出会い−

「ふぅ・・・」
夜も更けた深夜1時。すっかり冷え切ったコーヒーを飲み干し、譙周は溜息をついた。
『仇国論』と銘打たれた、原稿用紙数十枚にも渡る論文。
幾度となく繰り返される無謀な北伐の意義について、友人の陳祗と語った内容を、文章で綴ったものである。
今回はこの内容をお話しすることはないが、彼女が帰宅部連合の行く末を憂いていたことが伺える。

譙周、あだ名は允南。
帰宅部連合随一の古典好きで、よくひとりでニコニコしながら古文を暗誦していたようだ。
明晰な頭脳の持ち主であったが、切れ者というわけではなく、不意の質問には答えられないことが多かった。
誠実かつ素朴な人柄で、トレードマークは長い髪の毛を束ねる緑色のリボンと縁無しの眼鏡。
どこか抜けたところがあり、諸葛亮と始めて会ったときには、諸葛亮の部下が笑いを堪え切れずに吹き出してしまったという。
諸葛亮曰く、「私ですら我慢できなかったのですから、あの娘たちに我慢しろと言う方が無理ですよ・・・」と。

最近、帰宅部連合について何度占っても、あまり良い結果は得られない。
事実、北伐によって疲弊した軍と、腐敗した中央政権。これで良い結果を望むほうが無理なのだろうか。
(これから連合は一体どうなっちゃうんだろうな・・・)
こんな時間は、なぜか物思いに耽ってしまうことが多い。
(伯瑜さん・・・貴女の言葉の重み、今になって実感しています・・・)


譙周の言う『伯瑜さん』とは、杜瓊のことである。
杜瓊はもともとは益州校区総代・劉璋の下で働いていたが、劉備が益州に入ると、書記として仕えることになった。
小等部に在学中に、周りの友人が『こっくりさん』に興じるのを見て、
「くだらない・・・」と言い放ち、これを聞き付けた占い部の部長・任安にスカウトされて占いを始めたという経歴がある。
そして任安が卒業するまで、その知識の全てを叩き込まれ、その技量は神業級であった。

一口に占いといっても、その種類は膨大なものである。
学園で正式とされている『易』では、筮竹と呼ばれる長さ30〜40cmほどの細い竹の棒50本と、
算木、もしくは卦子と呼ばれる1.5cm角で長さ9cmほどの棒を6本用いる。
筮竹を規則に従って両手で操作し、片手で掴み取った数によって算木を配列する。
算木の2面には、黒く色が塗ってある。これは陽爻を表す。
また、残りの2面には溝が彫ってあり、溝の内側は赤で目印が付けられている。これは陰爻を表す。
筮竹の操作によって得られた爻は、順番に並べられて卦を構成する。
六卦を得るためには、計18回もの筮竹の操作が必要で、算木はそれを暗記するための道具であるといわれている。


杜瓊は、その天才的な占いの技術の反面、彼女は口数も少なく、人付き合いが苦手であったため、
殆ど友人らしい友人はいなかった。
しかし、ある日・・・

「伯瑜さん、お願いですッ!私に・・・私に占いを教えてくださいッ!」
・・・もう何度頭を下げたことだろうか。でも、伯瑜さんの答えは素っ気無い。
いきなり押しかけたのがまずかったのだろうか。
「・・・何度も言わせないで。駄目な物は駄目。」

しつこく訊き過ぎたかもしれない。呆れられているかもしれない。
それでも、私は占いの道を究めてみたい。
占いで切り開ける未来。そういうものを私は見てみたい。
でも、今のままじゃダメ。何か決定的なものが、私には欠けている。
それを、伯瑜さんに教えてもらいたい。
そのためには、私は何度だってお願いする・・・

「なんでです?ど・・・して駄目なんで・・・か?こんなに・・・願いしているのに・・・」
なんだか鼻声になってきている。目の辺りも熱い。
もしかして・・・泣いてるのかな・・・私。
「お願いしますッ!」

485 名前:那御:2004/05/02(日) 21:50
気がつくと、私は中庭のベンチに横になっていた。
・・・あれ?さっきまで私は、廊下で伯瑜さんに頭を下げ・・・

「お目覚め?」
頭の上のほうから、聞き覚えのある声。

「・・・って、ええぇーーーっ!!!??」
私が今、頭の下に敷いているもの。それはなんと伯瑜さんの膝だった。

「・・・そんなに驚かないで貰えない?」
「うひゃあっ!」
私は思わず、がばっと飛び起きてしまった。
せっかくの伯瑜さんの膝枕・・・もうちょっと横になっていればよかったかも・・・

「・・・私、あの後どうなったんですか?」
私は恐る恐る訊いてみた。
「いや・・・さんざん喚いたあと、貴女、抜け殻みたいになっちゃって・・・。
放っておくのも悪いかと思って、ここに連れてきたわけ。」

「・・・まずかった?」
赤面して黙り込んでしまった私に、伯瑜さんは尋ねる。

「でも、貴女、面白い娘だね・・・私に好き好んで近付くなんて。」
「いや・・・あの・・・」
あぁ・・・私は今、憧れの伯瑜さんと話している。伯瑜さんって、思ったより取っ付きやすい人だったんだなぁ・・・
そして改めて見ると、美しい方だ。長い黒髪・・・どこか憂いを秘めたような瞳。
・・・って、私は何を考えてるんだ・・・

「貴女、占いやってるの?」
「えっ?」
伯瑜さんの唐突な、それも核心に迫る質問。
「そ、それは・・・」
「その顔を見ると、ある程度は齧ってるみたいね・・・」

伯瑜さんは、少し考え込んでから言った。
「私ね・・・私の知識を誰かに教えたいとは思ってないの。別に意地悪とかそういう意味じゃなくて。」
「どうしてですか?伯瑜さんの占いは、これからもずっと引き継いでいくに相応しいものだと思うんですが・・・」
「私は占いは『易』とかの概念とはちょっと違って、まずその対象をよく観察して、本質を見極めるの。」
「はぁ」
「だから、他人の目や言葉を信用したりしては、この占いが根底から崩れることになるの。分かる?」
「・・・」
「私の占いは、明らかにすることは困難だと思うの。だって他人を信用することができないから。
他人に話すことができないから。全て自分ひとりでやらなければならないのよ・・・。これって悲しいことだと思わない?」
「でも・・・」
「それに占いで知った未来が、必ずしも良いものだとは限らないのよ。でも、結果は結果として受け止めなければならないのよ。」

その言葉一つ一つに、伯瑜さんの心の憂いが詰まっていた気がした。
『他人を信用できない』もの。こんな悲しいことは、確かにない。
伯瑜さんの瞳に宿る、暗い影。その正体を、私はたった今、知った。

「・・・だから、こんな昏い世界に踏み込まないほうが無難だと思うの。どう?これでも分かってくれない?」
「伯瑜さん・・・。伯瑜さんは、私も信じていないんですか?」
「えっ?」
「他人を信じられないなら、私も信じることができないんですか?」

486 名前:那御:2004/05/02(日) 21:54
あぁ・・・言っちゃった・・・。自分でも爆弾発言だと思うくらいだから・・・
伯瑜さんは、やっぱり苦笑いを隠せなかった。
「・・・参ったわね・・・」
「伯瑜さん・・・ごめんなさい・・・」
「いや、参ったってのは・・・私が今、貴女を信じてることに気付いたってことよ。」
「えっ?」
「本当は、貴女みたいな良い娘には、この世界に入って欲しくないんだけどね・・・。
でも・・・どうしてもって言うんでしょ?そんなに頼み込まれたんじゃあ、無下には断れないわね。」
「それじゃあ・・・」
「えぇ。貴女に私の知識の全て、受け継いで頂くわ。」
やったぁ!ついに・・・ついに念願が叶った!
あれ・・・?またなんか目から涙が・・・
このまままた気絶して、もう一回膝枕・・・なんて、そんなうまく行かないよね。

「そういえば、名前・・・」
「あっ・・・」
しまった・・・弟子入りを志願しに行ったのに、名前も言って無かったなんて・・・
「譙周と言います。允南って呼んでください!」



暫しの間、回想に耽っていた譙周であったが・・・
「・・・あれ?」
長い髪を束ねていたはずの緑色のリボンが見当たらない。
先程、外してポケットに入れたことは、数分のうちに彼女の記憶から消えていた・・・


     −占いに無い出会い− <完>
**********************************
というわけで、占い師弟の杜瓊・譙周ネタ。
譙周に関しては、アサハル様の設定を利用させていただきました。
杜瓊ってマイナーですね・・・

487 名前:7th:2004/05/03(月) 09:07
内政戦隊ショッカン4  〜〜ショッカンロボ、大地に立てるか?〜〜


ある日の昼下がり、帰宅部は珍しく静かだった。………その時までは。
「…戦隊モノにはやっぱり巨大ロボが必要だと思うの」
事の発端は孫乾のその一言。折しも内政戦隊こと孫乾・糜竺・伊籍・簡雍が、仕事を終えて一息ついている時のことであった。
あまりに唐突すぎるその一言に、きょとんと呆ける三人。
しばしの沈黙の後、漸くその意図を理解したのか、「あー、そりゃ要るねぇ」と、こくこく肯く伊籍。何か思う所でもあったのか、額に指をあてて考え込む糜竺。そしてしょっぱなからやる気の欠片もない簡雍。「頭いてー」とばかりに頭を抱え込む。
そんな簡雍を尻目に、ますますヒートアップする孫乾。
「正義の味方あるところ、必ず悪の怪人が居るのよ。そして一度負けてから巨大化、これ鉄則。だから正義の味方にも巨大ロボが要る、これも鉄則よ!」
やたらテンション高い孫乾。
この人、かの鄭玄に推挙されて劉備新聞部に入ったほどの能力の持ち主なのだが、戦隊モノや仮面ライダーモノがやたらと好きなのだ。尤も、新聞部には更に個性溢れる面子が揃っていたため、さほど目立つことはなかったが。
その彼女が、その場のノリで最近結成したのが「内政戦隊ショッカン4」。半ば無理矢理ながらもまんざらでもなさそうな糜竺と伊籍、滅茶苦茶嫌がっている簡雍が隊員である。
「よし、多数決を取る!必要だと思う隊員は挙手願いたい!」
………賛成3、反対1。よって本案は可決されました。ありがとう。
「宜しい、では善は急げ!よって正義の味方も急げ!早急に本案を実行に移すべく出撃ー!!」
『おーー!!』
気勢を上げる三人と、それに引きずられていく簡雍。
「『正義の味方』って………何処に悪の怪人が居るのよ」
その問いは、誰にも聞かれず大気に消えた。


「と云う訳なので、巨大ロボを作りなさい」
「何故私が?」
「あなた以外に作れる人が居ないからよ」
益州校区、科学部部室。
劉焉・劉璋が益州校区総代を務めていた頃は只の地方弱小部の部室だったそこは、劉備の益州校区乗っ取りと共にその主を替え、閑散としていた部屋は魔窟へとその姿を変えた。
既に科学部は無く、そこの主は只一人。ガラクタの山の中で謎の研究を行っている。
主の名は諸葛亮。帰宅部連合の幹部にして生粋のマッドサイエンティストである。
「唐突な上にに命令形ですか」
孫乾が部室に入って開口一声それである。やれやれと首を振る諸葛亮。
「何よ、作れないって訳でも無いでしょう」
「左様、可能と言えば可能です。が、大事なことを忘れていらっしゃる」
「む?」
「予算は何処から出るんですか」
「う゛っ」と呻く孫乾。どうやらその辺の細かいところ迄は考えていなかったらしい。
「帰宅部の予算から―――」
「出る訳無いでしょう」
一撃轟沈。がっくりと肩を落とす孫乾。後の三人も簡雍を除いて心なしか残念そうだ。
がっくりと、この世の終わりでも来たかのように肩を落とす孫乾。他の人にはどうでも良い事なのだが、彼女にとっては非常に重要なことなのだ。「神は死んだー円谷も死んだー」とか訳のワカラン事を呟きつつ天を仰いでいる。錯乱し過ぎ。そして大袈裟過ぎ。
流石に見かねた――と云うか鬱陶しくなった――諸葛亮が孫乾の肩にぽんと手を置く。振り返った孫乾が見た物は、微妙な笑みを浮かべる諸葛亮と怪しく光る彼女の眼鏡だった。
「ふ……あなたの熱意には負けました」
正確にはそんなモノには負けていないのだが、この場合は方便である。時に真実は人を傷つけるのだ。
「確かに私には作ることが出来ます。が、それにはかなりの時間と、途方もない費用がかかることは先ほども申しました通り。ならどうするか。…簡単です、一から作るから時間と金がかかるのなら、最初からそこにある物を使えばいい」
そう言ってガラクタの中から一枚の紙を取り出す(もしくは掘り出す)諸葛亮。
「地図……かな?」まじまじと紙に書いてある点と線を見つめる簡雍。
「荊州校区辺りみたいですわね」思い当たる地形があったのか、位地を特定する糜竺。
「そしてこのあからさまに怪しい×点はもしや」伊籍がその特異点を指し示し―――
「宝の地図かーーっ!!」孫乾、大絶叫。
「左様。宝と言うにはやや語弊がありますが、まぁあなた達にとっては宝には違いありませんな」
そう言った諸葛亮の眼鏡が更に怪しげな光を放つ。
「取り敢えずそこへ行きましょう。話はそこで」


かつん、かつん、と。薄暗い階段に靴音が響く。
「随分と深いわね。かれこれ三階分は下りたと思うけど……」
「もうすぐですよ」
とは言うものの、通路は果てしなく続き、靴音は先の見えぬ闇に吸い込まれてゆく。
二度ほど折り返しただろうか。漸く暗闇が途切れ、大きな鉄扉が代わりに現れた。
「時に…皆さんは公輸般(こうしゅはん)と云う人を知っていますか?」
扉の前で立ち止まった諸葛亮が、芝居がかった口調で問う。
「何十年か昔、この町に住んでいたと云う発明家でしたわね」
「木製のグライダーを作ったって話よね。三日間飛び続けたとか云う奴」
眉唾ものだけど、と付け加える孫乾。
「で、それが何なのよ」
「鈍いですな孫乾殿。つまりここは公輸般の秘密の研究所。そしてこれが―――」
地響きと共に鉄扉が左右に開く。その奥、地下とは思えないほど広大な空間に横たわる巨大な物体。
それには腕があった。
それには足があった。
それには顔があった。
それは人の形をしていた。
「ここで建造された巨大ロボ。名を公輸8号と云います」
絶句。その大きさ、その存在、そして何より、その形に―――
「これって……」
「まさか……」
「ねぇ……」
「先○者じゃん……」


それには腕があった。…やけに細くて手の平がしゃもじ形の。
それには足があった。…これは本当に立てるのか?と思うほどにひょろい足が。
それには顔があった。…やけに安っぽい顔が。しかも何だかフレンドリー。
それには大砲がついていた。…あろう事か股間に。
「身長18m、乾燥重量36t、全備重量は64t。材質は主に鋳鉄、一部に謎の合金が使用されています」
「動力と武装は?」
「風水式龍気変換炉による大地のパワー。武装は股間にある中華キャノンです」
「パーフェクトだ孔明。……形を除いて」
「感謝の極み。形状は私の知ったことではありません」
何やら何処かで見たような会話を繰り広げる孫乾と諸葛亮。違いがあるとしたら、孫乾が話の中身の半分も理解し切れていないと云うことか。
「で、動くの?コレ」
「無論。ただ、変換炉を起動するのに多少のエネルギー投入が必要でして。勿論、そのための用意はしてありますが」
そう言って胸のハッチをあける諸葛亮。どうやらそれはコクピットハッチだったらしく、内部にはシートだのコンソールパネルだのが設置されていた。そしてその片隅に鎮座している、前輪を外して床に固定された自転車。
「…自転車」
全員の目が一斉に伊籍に集中した。


曰く、発電によって得たエネルギーを更に水晶髑髏により変換・増幅。そのエネルギーをもって変換炉を起動させると言う話だ。
「な、何で私がぁ……」
縦割り社会の不条理を嘆きつつ、ペダルを鬼漕ぎする伊籍。後輪に取り付けられた十連装ダイナモが唸りをあげて駆動し、伊籍の体力と引き替えに電力を生み出していく。
「98、99、100%! 変換炉、起動します!」
「リフト起動。地上まで上げるぞ」
天井が開き、床ごと機体が持ち上がって行く。約3分後、数十年の時を経て、ついに機体は日の目を見た。
「さぁ、立ちなさい!ショッカンロボ!」
正式名称そっちのけで自分のインスピレーションから湧き出た名を叫ぶ孫乾。片隅で簡雍が「センスねぇなー」と呟いていたが、無視した。
その叫びに応じたように、上半身を起こし、更に足を立てて起きあがるショッカンロボ。姿が先○者のせいか余り迫力はないが、とにかくショッカンロボは立ち上がったのだ。
「わー」と拍手する糜竺。「つっかえ棒無しで立てたのか」と驚きを隠せない簡雍。どうだ!とばかりに胸を張ってふんぞり返る孫乾。伊籍は…自転車に突っ伏して動かない。合掌。
「よーし!今からこの世の悪を打ちのめすべく、ショッカンロボ発進よ!」
「しつもーん」
「何よショッカングリーン」
「…悪って何処にいるわけよ?」

沈黙。

「何でそれを早く言わないのよー!」
「いや、言ったって」
泣きそうになりながら叫ぶ孫乾に、あくまで冷静につっこむ簡雍。
「こ、この振り上げた手の立場は何処に…」
「ないない、ンな物」
身も蓋もなく撃沈。と、そこに
『あー、孫乾殿。聞こえますかー?』
スピーカーから聞こえてくる諸葛亮の声。
「うぅ、何よ」
『簡雍殿の言は尤もですので、ここはひとつ穏便にいきましょう。……只、折角ですから動作確認を兼ねて中華キャノンを、一発ドーンと撃ってみませんか?』
「え、良いの?」
『構いません。ドーンといっちゃって下さい。ドーンと』
泣いたカラスがもう笑ったとはこの事か、と言わんばかりの早さで立ち直る孫乾。つくづく感情の起伏の激しい人だ。
「ぃよーし!派手に一発いってみよー! 総員、中華キャノン発射準備!」
「えーと、大地のパワー吸収っと……えいっ」
そう言って糜竺がボタンを押した途端、凄まじい揺れがコクピットを襲った。
外から見る分には足をバタつかせているようにしか見えないが、中はトンデモないことになっている。
シートに座ってシートベルトを締めていた孫乾・糜竺・簡雍はまだマシだが、自転車に突っ伏していた伊籍はたまったものではない。自転車からズリ落ちて、そこら中を跳ね回っている。
10秒ほどで充填は完了したものの、伊籍は白目むいてダウン。他三人もげんなりしている。
「ま……まだ続けるわけ?」
「も……勿論よ。今更止められるわけないわ。…次、キャノンにエネルギー注入」
「待て、確か次は……」
簡雍が言い終わるより早く、またしても激しい揺れが襲いかかる。
今度の揺れは縦。伊籍が床と天井をばいんばいん往復している。さほどの高さはないので命の危険は無いと思われる。死んだ方がマシとの見解もあるが。
今度は5秒ほどで終わった。が、三人の顔色は死人さながら。
「う゛ぇ〜、24時間耐久でジェットコースターに乗った気分」
「バーテンさんにシェイクされるカクテルの気持ちがよ〜く解りましたわ……」
「めげないで二人とも。…後は撃つだけよ。私たちの努力も、これで報いられるわ」
眼前にある操縦桿を握りしめ、照準機を起動させる。今回はカラ撃ちなので、照準レティクルを何もない空に合わせる。何時の日か、悪の巨大化怪人に向ける日を夢見て。
「よーしっ、中華キャノン、ファイヤー!!」
瞬間、世界は白光に満たされた。


「…オチは読めてたんだ、オチは。くうっ、一瞬でも淡い期待を抱いたアタシがバカだった…」
学園の保健室。体中を包帯でぐるぐる巻きにされた簡雍が呟いた。
「なら止めろ。体を、さもなくば命を張ってでも」
その韜晦をにべもなくあっさり斬って捨てる華陀先生。
「まぁあの爆発でその程度の怪我で済んだんだ。神様か何かに感謝しろ」
爆発半径30メートル。おそらくは市内全域から確認できたであろう大爆発。
原因は注入されたエネルギーのオーバーロードであるらしいが、何にせよ5人が生き残っていたのは奇跡に近い。と云うか奇跡そのものか。
「私、テロに巻き込まれても生き残る自信がつきました」
いや糜竺。今ので一生分の運を使い果たしたと思うぞ。
「うぅ、私今回良いこと無し?」
負けるな伊籍。きっと何時かいいことあるさ。何時かは知らんが。
「う〜ん、ちょっと勿体なかったかなぁ。ま、いっか。また今度に期待しよ」
まだ懲りんのか、孫乾。
「……所で先輩方。実はまだ調整中の機体が何機かありますが…また挑戦しますか?」
『あの人の機械には金輪際乗らん!!』
満場一致、簡潔極まりない結論によって、諸葛亮の提案は却下された。


………その後、公輸般の秘密の発明品を見た物は居ない。一説によれば、学園がその役割を終えた後も、静かにそれは荊州校区の地下に眠っていると云う。

488 名前:7th:2004/05/03(月) 09:18
ご無沙汰してました7thです。
しばらく来ぬ間に職人の方も増えて喜ばしい限りです。
…で、何書いてるんでしょうね自分。皆様がまじめな作品を書いてるのに何なんだコレは(w
時間軸としては簡雍改造計画の後。孫乾が暴走し過ぎたり、糜竺の影が薄かったり、伊籍がひたすら不幸だったりしますが、その辺は目を瞑っていただきたく思います。

…別に伊籍が嫌いなわけじゃないですよ?彼女には何とか幸せになって貰いたい物ですね。
内政戦隊モノの中では無理かもしれませんが。

489 名前:はるら:2004/05/03(月) 11:57
■■盧毓が行く■■


はい!!皆さんお久しぶりですー!!盧毓で〜す!!!
今回はわたしが中一のとき、乙女百合様にお会いした話です。
    はぁ〜、優しかったなー、劉虞さま………。


 〜女神さまとわたし〜

「………はぁはぁはぁ」
わたしは正直なところ運動が苦手です。ドッチボールでは常に逃げ惑って、そして途中で力尽きてあっさり当てられるタイプです。
特に中学生のころは運動音痴も甚だしいって感じでした。
でもこの時わたしは走り続けていました。なぜならこの時わたしは何故か道に迷って幽州女子学院の中等部ではなく、
高等部の区域に入り込んでいた事にさっきようやくきずいたからです。
それだけでもかなりダメダメなのにわたしはよりにもよって野良犬に追われていました。
・・・ぼけー、と歩いてた時尻尾を思い切り踏んでしまったようです。皆さんはちゃんと前を向いて歩きましょうね。
盧毓心の声「(あー、もう駄目……。声も出ないよー、助けて…)」
完全に力尽きようとしたその時、わたしは幸運にも女神様にお会いできました。
わたしが野良犬を巻こうと曲がり角を急に曲がったその時!!
  ドン!!!!!
「あう!!!」
出ましたね……、声。
「あ、痛い!!」
「…あ、すすす、スイマセン!!だいじょーぶですか!?」
見事高等部の先輩と頭がごっつんしました。
頭が割れそうに痛かったです。…向こうの方もそうなんでしょうけど。
「あ!!!!!」
わたしと高等部の方が倒れていたところを野良犬がゆっくりこちらに向かってきました。
そのときわたしは湿布を覚悟しました。
盧毓心の声「(うぅ〜、追いつかれたー。どうか優しく噛んでくれますよーに)」
「あら!!林芝!?こんなトコで何やってたの…。探したのよ…」
林芝「クゥ〜ン」
うそ……!?あの野良犬が懐いてる!?
「あなたが林芝を探してくれたんですか??ありがとうございます!」
その高等部の方の顔は満面の微笑みを顔に浮かべてわたしに言った。
やっぱ言えない……。林芝ちゃんの足を思いっきり踏んだなんて言えない…。
ていうか、野良犬だと思ってました。ごめんなさい。
「あの…、お礼をさせていただきたいんですけど……」
「貴女のお時間さえよければ、お茶でもしませんか…??」
え、なんか、その………、積極的。見かけはお嬢様って感じなのに…。
「………ダメ…ですか??」
え、そんな目で言われると断れない……。


「へぇ〜、劉虞さんっていうんですか〜。いい響きですねー」
んで、結局その高等部の人、劉虞さんっていうんらしいけど、一緒に
ピーチガーデンに行きました。…あ、林芝ちゃんも一緒に。
「盧毓さんは今、中一なんですよね〜。どうです?学園には慣れましたか??」
「うーん、ビミョーですね。」
うーん、我ながらあいまいな返事!!
「ふふ、ここであったのも何かの縁。何か困った事があったら私に言って下さいね」
「あ、ありがとうございます!!」
「ところで林芝ちゃんって劉虞さんの部屋で飼ってるんですか?」
せっかく食事に誘ってくれたんだから話をとぎらせ無い様にと何気ない話題を持ち出した。
「そう、ね。この子、もともと野良犬だったのを前の乙女百合さまの劉淑さまに頂いたの」
「あ、頂いたじゃ失礼よね、ゴメンね…、林芝……」
   …………劉虞さん…、優しい………。
盧毓心の声「(ところで、乙女百合……、劉淑さまとお知り合い……、で劉虞さん…
      どっかでつながってる様な、何だったっけなぁ……」
「あら、もうこんな時間ですね…。そろそろお別れですね」
林芝「クゥ〜ン」
そういえば林芝ちゃん、『クゥ〜ン』しか言わなかったわね…。
「はい、今日は会えてよかったです。それじゃ、劉虞さんごきげんよう!!」
「ごきげんよう…、盧毓さん……」


以上がわたしと劉虞さんの出会いです。
劉虞さん、ホントに女神さまみたいに優しかったですー。
ちなみにわたしが劉虞さんが現乙女百合さまで幽州校区総代である事を知ったのは
この日から四日ほど経ってからでした。何できずかなかったんだろー??
で、その後わたしは劉虞さんにお会いすることなく劉虞さんは姉盧植の教え子、公孫サンさんに
よって引退に追い込まれてしまいました…。 世の中って変なトコでつながってますよね……。
もう一度、もう一度でよかったから優しい劉虞さんのお世話になりたかったなー。

         それじゃ、皆さんサヨナラ〜〜〜!!!!

― 盧毓が行く〜女神さまとわたし〜 完 ―

490 名前:はるら:2004/05/03(月) 11:59
今回はなぜか盧毓が乙女百合様こと劉虞に会ったという話です。
正史だと明らかに劉虞が善人で伯珪姐さんが悪人ってかんじですよね。
まぁ、伯珪姐さんは悪な感じなのが魅力の一つなんですけど(^_^;)

以下感想文
>岡本様
やっと邂逅シリーズ読み終わりましたー!!(遅っ!)
巨編お疲れ様でした。お見事の一語に尽きる傑作でした。
何と言ってもやはり岡本様の武道や料理の知識量が凄すぎます。
私もそれだけ博識だと色々と便利なんですけどねw

>ヤッサバ隊長様
確かにホウ統の出番ってあまりありませんでしたね。
それだけにおもしろかったですw
特に孔明とホウ統の五十歩百歩なあたりがウケました。

>玉川様
学園世説新語乙です!!
荀勗……申し訳ないことにあまりイメージがありません。
でも何か色々凄い逸話をお持ちのようでw
個人的にはやはりキャラの濃い鐘姉妹に萌え。

>那御様
占い師弟……いいですね〜、何かオカルトな香りプンプンなトコが(爆
そして学園公式の易の説明が凄い…。かなり本格的( ゚Д゚)!

>7th様
初めまして、はるらと言います。
内政戦隊ショッカン4……笑いまくりました。
何気に戦隊ヲタな孫乾とトコトン不幸な伊籍がナイスキャラ!!
ショッカンロボこと公輸8号…何か凄い物体ですね…。そしてその存在を知っていた孔明って……。

491 名前:★ぐっこ@管理人:2004/05/04(火) 00:49
>那御さま
うお、譙周とは渋い選択を! 彼女もキャラ絵持ちでしたな(^_^;)
杜瓊さん相手に舞い上がっているのが可愛い…
それにしてもリアル譙周って、当時では三国中一位二位を争う大学者だったんですねえ…
門弟には陳寿をはじめ羅憲や杜軫などビッグネームが。
おまけに実家の譙家は益州土着の大姓で、劉氏でさえ憚るほどの実力者…。意外だ…

>7thさま
激しくワロタ( ゚Д゚)! 魯般神あんた何造ってるんだ!
あー、ていうか先行者ネタ、何かで使おうと思ってたんですねえ(^_^;)
学三世界だとガンダム等の版権モノが使えないので、その代替で。学三世界
の人気アニメシリーズで、先行者乙、先行者乙乙、先行者種、みたいな。
それにしても、7thさまの描かれる三羽ガラス(というか孫乾)は元気が
あっていいなあ…。

>はるらさま
や、今度はリリウム・ルベルムこと劉虞さまと!
お姉さん絡みと言えばそうとも言える関係。
意外に人見知りしないんですねえ、劉虞様。まあ、だからこそ異民族な男子生徒
たちと仲良くできるのか…
もし公孫瓉に一言言える立場であれば、盧植は絶対教え子を叱ってたでしょうね…

492 名前:★教授:2004/06/22(火) 03:33
◆◆復活ショートショート ある日の更衣室◆◆


「でさー…玄徳のヤツ、『頼む! 殺さんといてくれ!』って言うんだよねー。それがあまりにも悲痛だったから思わず情が移っちゃった」
「でも、殺っちゃったんでしょ?」
「当たり前じゃん。この憲和様の『爆弾包囲網』で爆殺してやった。そしたら『もう1回チャンスくれ!』って…何度もしつこいっての」
「ゲームでそこまで熱くなれる人も珍しいですよね」
 簡雍はスカートを下ろしながら隣で着替えをしている伊籍と談笑している。どうやら簡雍と劉備のゲーム対決が話題の中心になっているようだ。
「げーむとは云えど手を抜かないのが礼儀というものでしょう」
「お、いい事言った! その通りだってばー、玄徳に言っちゃれ言っちゃれ」
 伊籍の更に隣で着替えをしている趙雲も話に参加。談笑の熱がまた加熱された。
「………」
 そんな笑い声やおしゃべりが絶えない更衣室に一人ぽつんと椅子に座って姦しい3人の美女を物憂げに見つめている女子がいた。
「………(大きいよ、3人とも大きいよ…)」
 その恨めしそうな瞳の先には自分にない大きなもの。法正は心の中でため息を吐いた。
 自分は大きくない、むしろ小さい、お父さんお母さん、貴方達を恨みます…と、ずっとその事を呪い、気にしていた彼女に取って、今この空間は地獄にも匹敵する。もし、念で人に呪いを掛けられるのならこの3人の胸を小さくしてくれと心底考える辺り随分と心が荒んできてる。
 法正の恨みがましい視線に気付いたのが簡雍。憎悪とも取れる眼差しの奥にあるその羨望と嫉妬の心も勿論読んでいた。物凄くいやらしい笑みを浮かべると、いきなり隣の伊籍の胸を後ろから掴む。その行為に思わず吹き出す法正。
「きゃあ! 憲和さん…わ、私にはそんな趣味は…」
「愛い奴め、何食べたらこんな大きくなる?」
 耳元で息を吹きかけながら嫌がる伊籍を責めたてる簡雍、超危険な女だ。たまらず伊籍が隣の趙雲に助けを求めるが…
「………」
 手製のアトちゃん人形を見ながら遠い世界へ行ってしまっていて伊籍の助けを呼ぶ声は届いていなかった。伊籍の胸を掴んだまま方向転換して法正に向き直る簡雍。
「今年は豊作だぞー…ほれほれ」
「う、羨ましくなんかないわよ! 何さ、牛乳! 大きければいいってもんじゃないわよ!」
 カチンときた法正が食らい付いてきた。簡雍にしてみれば狙い通りであったのだが。 
「わ、私で遊ばないでくださいよ! それに牛乳って私の事!?」
 抵抗及び脱出を試みた伊籍だが、しっかり簡雍の巧みなロックに阻まれて文句の声だけが法正に届く結果に終わった。
「どうせ、私は小さいよ! 肩凝らない分お得だもんね!」
「んー…法正ったら可愛い!」
 伊籍を解放して今度はふてくされる法正に躍り掛かる簡雍。瞬間的に赤ランプが激しく点灯した法正、驚異的な反射神経でそれを回避した。
「待て待てー」
「あーもう! 何でこうなるのよ! あっちいけったら!」
 更衣室内に巻き起こる壮絶な鬼ごっこ。今日は捕まったら一巻の終わりの法正が逃亡者、捕まえたら悪戯三昧の簡雍が鬼…珍しい光景だった――


「更衣室が何が何やら騒がしいな」
「いつものアレでしょ。放っておこう」
 黄忠と厳顔がどったんばったん騒がしい更衣室を横目に通り過ぎる。大人の反応なのか関わり合いになりたくなかっただけなのかは分からないが…。
 20歳の現役高校生の二人、体育の授業なのだろう…体操服姿ではあるが…。
 飽きたのか更衣室から出てきた簡雍。二人の姿を見るなり正直な言葉が飛び出す――

「うわ、きっつ!」
「「何だとコラ!」」

今度は簡雍が二人に追い掛け回される。今日も平和だ――


「よいしょ…」
 簡雍、黄忠、厳顔がいなくなった廊下に法正と伊籍を担いで歩く趙雲の姿があった。
 法正と伊籍が何をされたのかは不明。当人達も語らないし誰も触れない――

              言迷を残して糸冬言舌

493 名前:那御:2004/06/23(水) 00:18
復活SS乙!そしていきなり超絶クラスのを投下してきましたな。
いよいよ簡雍はセクハラオヤジ化w。相変わらず法正は気にしてますねー。
良くも悪くも以心伝心の簡雍と法正、そして姐さんコンビの体操服・・・

短い中にも、読み応え(萌えとも言う)たっぷりでした。。

494 名前:★ぐっこ@管理人:2004/06/24(木) 00:09
やや、教授さま、ご帰還の手土産ゴチであります!
うーん、帰宅部位置頭がキレてひねくれ者な法正たんも、身体のことについては
コンプレックスが激しいようで(;´Д`)ハァハァ
逆に伊籍たんのぎゅーにゅー体型もまた、法正をからかうダシに使われて哀れ(^_^;)

ちうか、二十歳の大台コンビの体操服&ブルーマ姿(;´Д`)ハァハァ…

495 名前:takahisa:2004/08/12(木) 18:11
皆様、始めまして&お久しぶりです。
覚えている方は少し(ていうか、いない)と思いますが、私、昔「takayuki」と言う名前で何度か書き込みさせてもらいました。

結論から言うと、「takayuki=takahisa」ってことです。あと、別の名前で書き込んでいたこともあるような気が…。
えっと、まあその、一応、「しょーとれんじすと〜り〜2『曹操の涙』」の著者です。

手ぶらで復活ってのもアレですんで、『曹操の涙-りめいくばーじょん-』でも…。
今見ると2年前の文章は幼稚臭いなーとも思ったりしてかなり恥ずなぁと思ったんですが、
今書き直してもどうせ意味のわからん文章になっちまうんだろうなぁ…。
まあ、リハビリみたいなモノ(なんせ2年間来てないものでして…)なんで、「設定とは違うぞ( ゚Д゚)ゴルァ!takahisaしっかりしる」という点があればハリセンで突っ込んであげてください。

…というわけで、皆様以後宜しくお願いします。

しかしまぁ、『曹操の涙』ってかなりヤバい作品ですな。
何ですかあの郭嘉!もうtakahisa逝ってヨス!みたいな。
あんなの郭嘉じゃねぇ…(涙

なんか独り言だけでだいぶ使ってしまったな…。
とにかく、「曹操の涙-りめいくばーじょん-」スタートです!

 ― 曹操の涙 前編 ―

官渡公園にて袁紹を倒し、今やこの学園都市の北方をほぼ制圧した、連合生徒会会長、曹操孟徳。
彼女は今、冀州学院校区にある連合生徒会会議室にいた…。

生徒会室にカツ、カツと靴の音が鳴り響く。その音の主は、「連合生徒会 会議室」と書かれているドアの前で止まった。
「…ここだな…」
レーシングスーツをまとい、フルフェイスメットを2つ抱えた夏侯淵が呟いた。
ノックもせず、「孟徳…いるか?」と部屋に入って行く。予想通り、会議室の一番奥のソファーに、曹操が座っていた。どうやら寝ているようである。
起き上がった曹操は、「んぁ…もしかして、寝てた?」と夏侯淵に問う。
「ああ、爆睡してた…。それより、大丈夫なのか?」と夏侯淵は問い返した。
「大丈夫って…何が?……………っ!!!!!」どうやら気がついたらしい。
「あああああーーーーーっっっっっ!!!!!」…急に叫びだす曹操。
それを見て、夏侯淵はフルフェイスメットを1つ、曹操に投げた。「まだ間に合うだろ?出発は…9時だったな」こくりと頷き、曹操は走り出した。夏侯淵もそれを追う。
すべるように非常階段を降り、止めてあった夏侯淵の愛機・CB400Fに跨る。
「…さて、行くか。司隷までの道はピンクパンサーズに確保してもらってる」キーをひねりながら、夏侯淵が言った。
「さすが妙才!頼りになるわね…」曹操は右手を振り上げる。「目標は司隷!出発進行〜!」その右手を振り下ろしながら、曹操が叫んだ。
フルフェイスヘルメットを着けながら、夏侯淵が答えた。「了解!飛ばすからな!…振り落とされるなよ!」
力強くアクセルを踏む。もの凄い轟音を残し、バイクは走り出した。

司隷へと続く道。両端にはピンクパンサーズが警護している。その中を夏侯淵と曹操は駆けていく。
「絶対に…郭嘉に、絶対会わないと…」
郭嘉奉孝。
思えば曹操はかなりこの人に世話になっていた。
部費が足りない時、競馬で75万を儲けたてくれたこともあった。
―もっともその時、こっぴどく陳羣に怒られたりもしたのだが―。
そして、北伐。
軍師として獅子奮迅の活躍、そして烏丸の残党の降伏の時間をピタリと当てた。が…。
…それ以後、連合生徒会室で彼の姿を見ることは、一度しかなかった。

その病名は、ALS―筋萎縮性側索硬化症。
脳からの信号が筋肉から伝わりにくくなる病気である。
病状が進むと呼吸が浅く、困難になったり、何もないところでよく転ぶようになる。病状が進むと、寝たきりにもなる病気である。
校医の華陀曰く、「入学当初は卒業まで持つはずだったのに…」らしいが…。

―今となっては、それはどうでもよいこと。

…ふと、曹操の頭に郭嘉の台詞が浮かんだ。
「このあとは荊州、長湖だな。まあ、まかせとけって。最近自信が出てきてさ、あっと驚く戦略戦術が次から次に沸いてきてんだからな。これからは会長にもラクさせてやれるよ」

…ずっと郭嘉との思い出を思い浮かべていた曹操を現実世界に引き戻したのは、夏侯淵の声だった。
「…孟徳!近道だ、揺れるからしっかり捕まっとけよ!」
「へ!?」曹操が答える前に、夏侯淵はハンドルを右に切った。森の中へ入っていく。
「ちょっ…ここ、大丈夫なの!?」夏侯淵に捕まりながら、曹操が言う。
夏侯淵はちょっと間を置き、「司隷への近道って、曹仁が言ってたが…」と後ろを振り向く。

深くて暗い森を突き進むバイク。
数分後、「おし、森を出るぞ!」と夏侯淵が叫んだ。それと同時にバイクは森を抜け…宙を舞った…。絶叫する曹操。

「妙才!な、なんで飛んでるのーーーーーッ!?」

496 名前:takahisa:2004/08/12(木) 18:12
 ― 曹操の涙 中編 ―

「待ったーーーーーッ!」曹操が叫ぶ。郭嘉と郭嘉の両親が辺りを見回す。やがて、空を見上げると…。

ズッドーン! …ギリギリセーフ!

郭嘉の両親は驚きで顔面蒼白になっているが、郭嘉はいたって普通の様子であった。
この学園では何が起きてもおかしくないと、身をもって学んでいるからだろうか。

…バイクを降りると曹操は一直線で郭嘉の元へ走った。「会長…見送りか?」と、いつものように郭嘉は言う。
「そう…見送りよ…うっ…」いつの間にか、曹操の目には涙が浮かんでいた。反応に困る郭嘉。
少し離れたところで見守る夏侯淵。いつのまにか曹仁を先頭にピンクパンサーズも到着していた。
「それよりも…」郭嘉の一言に曹操が顔を上げた。「『これからは会長にもラクさせてやれるよ』…って言ったけど、嘘になっちまったな…。許してくれ」と頭を下げた。
「いや…もういいよ…今はゆっくり休んで…また、私と一緒に…」曹操の一言に、郭嘉は首を縦に振った。
「当たり前だ。またもう一度、会長のために働くよ。ちゃんと待っててくれよ?」二度三度と曹操は首を振る。
郭嘉の両親が、郭嘉の耳元で何かを呟く。「わかった」と郭嘉は答える。
「すまん、会長。もう行かないと…」すまなさそうに郭嘉が言う。曹操は右手をポケットに突っ込み、何か探しているようだ。
「あ、あった…。郭嘉、これ!」曹操が差し出した右手には、古いお守りがあった。曹操がいつもポケットに忍ばせていたお守りである。
曹操がどんな危機に陥っても、このお守りを握っていればどうにかなったという、結構有名なお守りである。
「大切な物だろ?預かってていいのか?」郭嘉が問う。「大切だから預けるの…。ちゃんと…返しに来てね…」
まだ半泣きの曹操の発言を聞いて、郭嘉は笑い出した。「ハハハ、嬉しいな!それだけ私は信頼されてるんだな!…何があっても返しに来るからさ、ちゃんと待ってろよ?」
そう言いながら郭嘉はお守りを曹操から受け取り、握り締めた。
「そんじゃ…会長の武運を祈ってるぜ」といいながら、車に乗り込む。
車の窓を開け、曹操に向かって手を振る。
「んじゃ、会長…元気でな!また帰ってくるからさ!…夏侯淵も曹仁も、見送りありがとな!」夏侯淵と曹仁にも手を振る。
「ああ…。お大事にな。」と夏侯淵。「また来いよ!」と曹仁。
車の窓が閉まり、車が走り出す。
「よーし、みんな!郭嘉を見送るわよ!…ミュージックスタート!」頬の涙を拭い、曹操が言った。
とたんに、司隷特別校区中に生徒会の突撃行軍歌が流れ出す。曹仁の指揮でピンクパンサーズのバイク部隊が郭嘉の乗る車を囲む。
そしてだんだんと野次馬が集まり、辺りは「英雄の出陣」という感じになってきていた。

「♪誇り高き学園の為に 命を賭けて敵を討て
 ♪胸に黄金の勲章をつけた勇者を 皆で称えよ我等が連合生徒会…」

「ヒュー、突撃行軍歌で見送りか…まるで英雄気分だな…」
外を見ながら郭嘉は呟いた。その右手には曹操から贈られたお守りが握られている。
空は素晴らしい蒼に染まっていた…。

497 名前:takahisa:2004/08/12(木) 18:14
 ― 曹操の涙 後編 ―

夏休みが終わって、曹操が郭嘉を見送って、2ヵ月後。
曹操は赤壁の決戦に敗北、失意のうちに連合生徒会室にいた。
「郭嘉がいれば…ね…」
郭嘉がいれば、どうなっていただろうか。
赤壁での敗戦はなかったかもしれない。もしかすると、孫権・劉備を倒し、学園のほとんどを手中に収めていたかもしれない。
椅子から立ち上がり、夕焼けの見える窓際へと行く。
誰もいない部屋。コツ、コツと足音だけが聞こえる。しばらく曹操は夕日を眺めていた…。

バタバタバタッ!誰かが走っている。「も、孟徳ッ!大変だッ!」と、雪崩のように夏侯淵が部屋に入ってきた。
「何?何処かから攻められたの?」窓の外を見ながら、曹操が言う。
「違う!それ以上に大変だ…。郭嘉が…ッ、死んだ…」
曹操は後ろを振り向き、一言「えっ…」と叫ぶと、その場に崩れ落ちた。「孟徳!?」と夏侯淵が駆け寄る。
「大丈夫…。嗚呼、哀れや郭嘉、痛ましや郭嘉、口惜しや郭嘉…。ありがとう、郭嘉…。私、あなたのことは、絶対に忘れないから…」
「…それから孟徳、これを…」と夏侯淵が取り出したのは、真っ白な封筒。「曹操会長」と宛名が書かれている。

「会長、すまないがもうヤバいらしい。主治医は大丈夫って言ってるが、自分の体は自分が一番わかってる。
 まあ、悔やんでも仕方ないんだが…それより、二度も裏切ってしまって、申し訳ない。
 これからは天から会長を見てるから。会長は学園の統一目指して頑張ってくれ」

そして、その封筒には、曹操が渡したお守りも入っていた。

「追記…。そのお守りのおかげかわからんが、予想以上に生きれた気がする。…ありがとう」

…曹操はただ泣くしかなかった。夏侯淵は何も言わず、無言で部屋を後にした…。

    ― 終わり ―

…っていうか、郭嘉って殺してもいいですよね…?

それから後半は眠くて疲れてかなり手抜き。誰か書き直して下さい_| ̄|○

ちなみに今回、『曹操の涙』をリメイクしようと思った(ていうか、再び「学園三国志」に参加しようと思った)のは、雪月華様の「烏丸反省会、懊悩」の最後に、
>このあとほどなくしてtakayuki様の「曹操の涙」にシフトします
というのを発見、「こんな素晴らしいお話の後に俺のクソッタレな、そして設定無視なお話を見せてしまっては読んでいる方もそうだが雪月華様にも失礼だッ!」という気持ちからです。どうでもいい話ですが…。
ちなみに現在は帰宅部連合オールスターズvs曹操軍団オールスターズの野球のお話を執筆してます。
「西方の守護神」郭淮、ついに復活…!?の予定。昜が!陳泰が!姜維が!夏侯覇が!グランドを所狭しとかけまわる!…予定。
ていうかあんまり三国志に詳しくない(ちょっと読んだ程度)の知識では架空の話しか書けないんですねぇ…。

それから、もひとつ予告を。
「学園三国志ゲーム化計画」がtakahisaの脳内で進行中です。確か昔、誰か(=takahisa)が宣言してからあんまり進行してなかった気が…。
ひとまず導入部分だけ作って公開しますんで、お楽しみに…。

498 名前:★ぐっこ@管理人:2004/08/13(金) 02:41
。・゚・(ノД`)・゚・

お久しぶりです、takayukiさま改めtakahisaさま。
曹操の涙リメイクバージョン、確かにお預かりしました…

あー、なんか今やってるゲームが結構こういうシーンとかある
ものだから、余計に胸にくるなあ…。勝手にBGMが…。
ええ、郭嘉は残念ながら、本当に死んでしまう役回りです。
急激に進行が早まったALSで、一日ごとに身体のどこかが動かなくなってゆく
状態でありながら、誰にもそれと悟られることなく、立っていられる最後の
日まで、曹操の側にいるわけで。

演義の構想だと、セクションごとのオムニバスになるので、官渡以降のあたり
は、実は郭嘉視点になる予定なんですねえ…(^_^;)
彼女の死に際しての態度とかは、これとはちょっと違ってくるのですが、もちろん
「曹操の涙」の郭嘉もまた、学園三國志版郭嘉の一つ…。

それにしても新企画をイロイロひっさげてらっしゃる(゚∀゚)!
期待しておりますよ〜!

499 名前:takahisa:2004/08/13(金) 02:57
お久しぶりですぐっこ様。
ひとまず2年分の遅れを取り戻すため怒涛の勢いでSS投下&ゲーム製作をするつもりなんで、まあよろしくお願いします。

ゲーム化なんですが、まずは素材集めからやってます。
何故かRPGツクールというソフトには中世っぽい素材しかないので現代風の素材を集めないといけないんですな…。
オマケにゲームの方向性なども決めないといけないわけでして、できればこの掲示板にゲーム化の本部スレでも立ててもよろしいでしょうか?

ひとまずオープニングだけでも、今月のうちに…。

それでは、ひとまずSS書いてきます…w

500 名前:国重高暁:2004/08/31(火) 17:15
 ■■ レリーフ ■■

(やはりあの時、素直に階級章を返上すればよかったか……)
 于禁は、深く後悔していた。

 思えば、今を去ること二ヶ月前。
 彼女は、樊棟を守る曹仁の援護に赴いた。しかし、その正門前に罠があった。
どこからか流れてきた油に足をとられ、同行したホウ徳とともにスリップ。巨大な大阪城の置物に頭から激突し、目を回したところを、帰宅部連合の将軍・関羽に捕らえられたのである。
敵陣内へ引き出され、ホウ徳はその場で階級章を返上。しかし、于禁はこれを選択しなかった。
「今回は思わぬ計略のために敗れたのだ。ここで終わるわけにはいかぬ!」
 熱意が通じ、彼女は階級章剥奪をまぬかれた。そして、帰宅部連合から長湖部を経、このたび生徒会へ戻ってきたのである。
 ところが、生徒会は既に「生徒会」ではなかった。姉の後を継いで会長となった曹丕が、「献サマ」こと劉協に蒼天会長を禅譲させ、生徒会を発展的解消させたのである。
 于禁は、それから冷遇されていた。安遠将軍に任命されたものの、どうにも遠征の機会がないのである。
 捕囚されている間、心労ですっかり青みの抜けた髪も、今やますます色彩を失っており、彼女がかつて学園の剣道部協会の総長であった頃の面影には程遠い。
(やはりあの時、素直に階級章を返上すればよかったか……)
 于禁は、深く後悔していた。

「……文則ちゃんね」
「いかにも」
 新・蒼天会長じきじきの呼び出しである。重要任務の依頼に違いない。
「本日は、どのような用件でございましょう?」
「あんた、長湖部へ行ってくれないかしら」
(なるほど、遠征の要請か……)
 于禁は、噂に聞いていた。妹分の関羽・張飛を相次いで失った劉備が、このたびリベンジの兵を挙げたということを。
 彼女は一礼して、言った。
「わかりました。早速、長湖部へ援軍を送り、私を解放してくれた恩に報いるとしましょう」
「……いや、その前に」
 曹丕の口から意外な言葉が漏れる。
「その前に?」
「ギョウ棟を視察してきてほしいわ」
(遠征の前に自勢力の視察……一体どんな思惑があるのだろう?)
 于禁は、曹丕に彼女の本心を聞いてみた。
「会長、そんなことをする必要はないのでは?」
「必要があるから言ってるんでしょ!」
 拳で机を強く叩くと、曹丕は更に言葉を続ける。
「実はね、ギョウ棟の構内に新しくできたものがあるの」
「剣道場か?」
「違う、孟徳記念館よ」
 前生徒会長(であると同時に曹丕の姉)の曹操は、于禁が捕囚されている間に引退したが、現役のうちから、巨大な記念館を造らせていたのである。
「ほーお、ついにそんなものができたのか……これは視察する価値があるな」
「でしょ、でしょ? だから、長湖部より先にそっちへ行ってほしいってわけ」
 于禁はぽんと手を打って、言った。
「わかりました。私、これより、ギョウ棟を視察してまいります」
 出発しようとする彼女に、曹丕は最後の楔を打ち込む。
「たれが今すぐ行けと言った? 行ってほしいのは明日よ、明日」
「そうですか……では、明日は日曜日ですから、朝食をとったらすぐに現地へ向かいましょう」
 于禁は一礼して、会長室を去った。

 翌朝。
 于禁がギョウ棟の正門をくぐると、陰から不意に飛び出してきた者がある。
「文則ちゃん、おはよう!」曹丕であった。
「会長、なぜここに?」
「あんた、孟徳記念館は初めてでしょ。だから、あたしが案内してあげるわ」
(な、何とありがた迷惑なことを……)
 于禁の心に一抹の不安が募る。
「何か言った?」
「べ……べ、べ、別に……」
「じゃ、さっさとついてきなさい!」
 于禁は小さくうなずいて、走る曹丕を追った。
 学生玄関を左へ折れ、本校舎と塀との間を抜けると、グランドをはさみ、向こうに巨大な建物。自分が見も知らぬ施設である。
「すいません。今日は部下を案内しに来ましたので……」
 曹丕の二人分無料入館願いは、あっさり認可されるところとなった。

 彼女は于禁を連れ、ずんずん奥へ通っていく。
 順路やフロアに所狭しと並べられた、姉・曹操の遺品。しかし、そんなものはどうでもよかった。
「会長。私は、ゆっくり時間をかけて見物したいのですが……」
「いいから、いいから!」
 広い館内のガイドを、曹丕は一気に進めてしまう。
 そして、最上階に設けられた「魏の君の間」へ到達した時のことであった。
「これは……前会長の等身大人形ですね。間近に見れば見るほど、小柄さがよくわかります」
「失礼なこと言わないの! その上を見なさい、上を」
 指示されるまま、于禁は視線を移す。
「う、浮き彫りのようですが……」
「レリーフと言え、レリーフと! とにかく、それをもっとよく見なさい」
「そ、そうおっしゃいましても……あーっ!」
 レリーフを凝視した次の瞬間、于禁はたちまち血の気を失った。
 何と、彼女が関羽の虜となり、階級章剥奪を恐れてぺこぺこしているさまが彫られていたのである。
 曹丕は、力強くこう言い捨てた。
「文則ちゃん……あんたは、永遠に、この情けない姿を見られる運命にあるのよ。姉さんも言ってたわ、『あんたを知って二年以上になるけど、階級章剥奪を恐れて降伏するとは思わなかった』てね」
 この声を聞くなり、于禁は憤怒の形相で、のっしのっしと曹丕に歩み寄る。
そして、次の瞬間、鳩尾へ肘鉄砲を撃ち込んだ。後は、「魏の君の間」を出て一気に走り去るばかり。
「……文則ちゃん?」
 曹丕がふらふらと立ち上がった時、彼女の周りにはもうたれの姿もなかった。
「あ、あいつ……蒼天会長に何ということを……」
 曹丕は、ただ呆然とするだけであった。

 翌日、蒼天学園事務局に、一枚の退学届が提出された。
 いわゆる「五将」の筆頭として重きをなした于禁は、高等部二年の十二月、転校という形で学園史から姿を消したのである。

        糸冬

501 名前:国重高暁:2004/08/31(火) 17:17
いかがでしたでしょうか。
僕としては約四ヶ月ぶりとなる学三小説、
今回のテーマは「于禁の最期」です。
年表に、彼女の転校は「夏侯淵のリタイアと
同時期」と記されていますが……
正史でも曹操より後に死んでいますので、
これは年表を修正してしかるべきでしょう。

      以上、国重でした。

502 名前:★ぐっこ@管理人:2004/09/05(日) 22:32
( ゚Д゚)!
曹丕たんのサディスティックな面が最も現れているエピソード!
降った于禁も于禁ならば、それを容赦なく辱める曹丕も曹丕と…
この件、誰にとっても後味悪いことになったでしょうね…

でも今回は、于禁が最後の意地を曹丕に返したと言うことで…救いには
ならないけど、ちょっと溜飲下がったカンジ。

503 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:17
こちらでは初書き込みの海月です。
やっとこさSSが仕上がったんで、もってきました。何気に全六話。
しかも詰め込みすぎて一話一話がバカみたいに長いので…全部見せるのにスレッドをいくつ消費するのやら…

というわけで今回は第一話のみを置いていきます。


「風を継ぐ者」
-第一部 鈴音の鎮魂歌-

「ええっ、叔武と義封が…!」
「はい…帰宅部連合の勢いは抑えがたく、早急に援軍を要するとの事です!」
揚州学園の中枢にして、長湖部の総本部がある建業棟に、その報がもたらされたのは孫桓出陣の二日目でのことだった。
その報を受け、まだ幼さの残る長湖部代表・孫権の表情が驚愕に染まる。集まった幹部達にも動揺は隠せない。
孫桓軍団の"三羽烏"こと李異、謝旌、譚雄のリタイア。
そして追い詰められた孫桓とお目付け役の朱然が夷陵棟に押し込められた格好で孤立しているという、最悪の戦況。前線からの報告から察するに、孫桓の類稀な指揮能力を百戦錬磨の朱然がサポートすることによって、辛うじて現状を維持しているという有様である。
そのとき、孫権の右側、廊下側の壁に腕組みしてもたれていた、ロングの黒髪をきちんと整えた眼鏡の少女…いや、年齢的には、女性というべきか…が、これ見よがしに溜め息をつく。
皆の注目を集めたその女性…既に学園から卒業したものの、いまだに長湖部の顧問を気取っているかつての功臣・張昭は孫権をたしなめるように、口を開く。
「言ったとおりでしょ、関羽を処断したことがどういうことを意味するかって」
「うぐっ…でも、でもあっちが悪いんだよ! ボクだけじゃなくて、お姉ちゃん達のことやみんなのことまでバカにするなんて…」
「………………」
その一言に、ロバの耳に見える特徴的な癖っ毛の少女−諸葛瑾は、バツが悪そうに視線を逸らした。先に関羽の元に使いにいって、その「暴言」を直に浴びせられ、せがむ孫権にそれを一言一句過たず伝えた張本人こそ、彼女であったからだ。
「確かにあの態度は頭に来るわね…あたしのことまで、散々馬鹿にしてくれたみたいだし。でも、荊州学区さえ手に入れれば十分にヤツの鼻もあかせるし、送還させたって勢力はこっちのほうが上になるから、仕返ししたくたって手出しできなくなるわよ」
「うう…でも、飛ばしておけば厄介事がひとつ減ると思ったから…」
「ええ、そりゃあひとつは減ったわよ、その意味では正解。その代わり、呂蒙は関羽軍団残党の闇討ちにあって飛ばされるし、今劉備の怒りも買っちゃった意味では、大失敗じゃない。収支はマイナスだわ」
「…うう…だってぇ…」
ほら見なさい、と言わんばかりの口調の張昭に、部長たる孫権は完全にやり込められ、半べそどころかもう完全に泣いている。張昭の言い方もどうか、と思う他の幹部達も、その言葉が正鵠を射ている以上フォローの言葉も出てこない。
一人息巻く張昭と、泣きべそをかいている孫権、いまだ視線を逸らしたままの諸葛瑾、そして現状の居辛さと事の深刻さに何の言葉も出てこない他の幹部達…普段は孫権以下和気藹々と進行していくはずの長湖部幹部会議は、ここ数日はそんな重苦しい空気に支配されていた。その理由は、既に学園を去りながらも、いまだにこうして首を突っ込んでくる"御意見番"張昭の存在だけでないことは、誰の目から見ても明らか…今、長湖部全体が置かれているのは、その存亡の危機だったからだ。
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事の発端は、荊州・益州の二学区を支配下に治めた劉備が、その統合生徒会長(←正史で言えば漢中王)の座に就いた事にあった。
かつては幽州近辺の非公認報道組織の長として、様々な実力者の庇護を受けながら各地区を流れ歩いていただけの少女が、遂に蒼天学園を三分する大勢力の一角を担うまでになったのだ。
早くから蒼天会の中枢部にいて、学園を動かす立場にあった曹操にすれば、実に面白くない話である。かつては自分の庇護の元に居たクセに、妙な野望をもって自分に歯向かい続けた挙句、自分と対等の勢力と権力を得る…曹操の性格を考えれば、黙って見ている筈がない。
だが、敵は劉備率いる帰宅部連合だけではない。それと手を結び、赤壁島で曹操の学園制覇の野望を頓挫させたもうひとつの勢力の存在が、劉備との全面戦争を躊躇わせていた。その存在こそ、今や孫姉妹の三女である孫権に受け継がれた長湖部である。
曹操はまず、長湖部を唆して帰宅部連合に当たらせることを考えた。
長湖部にしても、勢力拡大の為に荊州学区の領有、ひいては、益州学区までを制圧する遠大な戦略構想を抱いていた。だが、後に言う「赤壁島の戦い」のどさくさに紛れて荊州学区を抑えた帰宅部連合の為に、その戦略も大きな見直しを余儀なくされた。
曹操の蒼天会に対抗するために、劉備と結んだことが今や大きな癌となって、長湖部幹部を悩ませていたのだ。
曹操の申し出に議論百出する長湖部にあって、その重鎮の一人・諸葛瑾が一策を案じる。すなわち、劉備の名代として、荊州学区の生徒会長代行の座に収まっている関羽に個人的な友誼関係を持ちかけ、荊州学区併呑の布石にし、蒼天会に対抗する力をつけてからその申し出を受けるというものだった。
もし関羽がこれを突っぱねたら、それを口実に帰宅部連合との同盟を破棄し、このとき荊州を伺うために出張ってきていた曹仁をぶつけ、その隙に荊州を狙う…という二段構えの策だ。
その案が通り、言い出しっぺの諸葛瑾は関羽の元へと赴くが、関羽はそれ突っぱねるどころか長湖部を挑発するかのような暴言を吐く有様だった。口を渋る諸葛瑾からその口上を聴きだした孫権は、普段の彼女からはとても想像出来ないくらい激怒し、完全に頭に血が上った孫権の剣幕に押される形で、諸葛瑾が示した第二の策は決行された。
果たして曹仁と関羽の激戦が繰り広げられ、戦線は関羽軍有利の状況で進んでいた。蒼天会が送り込んできた大援軍も、関羽の水攻めによって壊滅、総大将の于禁は関羽の虜囚となり、名将(ホウ)徳を筆頭に多くの将が処断された。
それで勢いに乗ったことが仇となり、荊州学区は完全に手薄の状況となる。その一因には、荊州学区との境目に当たる陸口棟の責任者が、名将で名高い呂蒙から、その呂蒙の策謀で、当時学園全体ではまったくの無名だった陸遜にかわったこともあった。呂蒙はこの機を逃さず、荊州学区諸棟の責任者の調略にかかる。
関羽の勘気を被って後方支援を任されていた傅士仁、糜芳を筆頭に、長湖部の威容を恐れた各棟の責任者は先を争って帰順し、関羽の退路を断つことに成功する。
さらに曹仁の援軍として現れた徐晃の活躍もあり、関羽は荊州学区の外れにある、廃棄寸前の麦棟へ敗走した。そして長湖の大軍勢に包囲された関羽は、脱出に失敗してとらわれ、件の暴言に対する怒りの覚めやらぬ孫権の独断で、その部下もろとも処断されてしまったのだ。
その後、この復讐の機を劉備と共に伺っていたその義妹・張飛が、自身の不始末によって引退を余儀なくされたことで焦りを覚えた劉備は、学園生活最後のこの時期に、長湖部への復讐を遂げるための大号令をかけたのである。
関羽・張飛縁故の者達と、連合の荊州学区系構成員の意気は凄まじく、それを迎撃するために孫権の妹分の一人・孫桓が勇んで出陣していったのだが…その顛末は、冒頭のとおりである。
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「まぁ、過ぎたことを今更言っても仕方ないわ。向こうが烏合の衆でないことが解った以上、こちらも戦い慣れた古参の手練で対抗すれば良いだけの話でしょ」
「で…でも、ほとんどの人たちはもう、引退しちゃったんだよ?」
大学生にもなってこんなトコに顔出してるあなたを除いては、なんて言葉が喉まで出かかっていたが、孫権はぎりぎりのところでその言葉を飲み込んでいた。多少感情を乱していても、張昭を徒に刺激することの愚は承知していた。
後ろに控えた谷利から手渡されたハンカチで涙を拭うと、孫権はすがるような目で張昭を見つめた。
これまで部を支えてきた周瑜や魯粛、そして先に不慮の事故でリタイアした呂蒙といったメンバーが居ない以上、今この場にいるメンバーで一番頼りになるのは張昭しかいないこともまた、孫権は理解していた。
流石の張昭も、頼りにされるのは悪くないと見え、柄にもなくちょっと照れ臭そうに視線を逸らす。この甘え上手なところも、孫権の長所であり武器である。
「ん…まぁ、そうだけどさ。幸いにも韓当はまだ残っててくれてるし、周泰や凌統、徐盛だっているじゃないの。連中を駆り出して、当たらせるのが最善手ね。山越高や対蒼天会の護りは呂岱や賀斉で十分だし」
そこまで話し、急に普段どおりの真面目な顔に戻る。
「ただ、総指揮を任せるとなると適任は…」
「それだったら、俺様が引き受けるぜ」
そのとき、不意に会議室の扉が開け放たれ、全員の視線がそちらへ集まる。"御意見番"の完全な一人舞台状態に割って入ったのは、先に引退を表明したばかりの甘寧だった。

504 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:18
「甘寧…? 貴女、どうして此処に…?」
卒業生だから、という理由もあったが、呂蒙が不慮の事故で引退を余儀なくされた頃から、彼女も著しく体調を崩していた。
その理由については明らかではなかったが(その原因を聞いていたとしても、おそらく彼女のことだからそんなものをいちいち覚えてはいないだろう)、そのために風邪をこじらせていたのは事実である。
万全の状態なら誰も文句はつけないだろうが、今の甘寧はお世辞にも本調子とは言いがたい。
現に、甘寧はほんの数時間前まで病院のベッドの上にいたはずなのだ。顔は蒼白で、ほとんど気合だけで立っているふうに見え、今までの彼女を知るものから見れば、その姿にかつてのような覇気は感じ取れないだろう。だが…。
「公式にはまだ、俺の蒼天章も、階級章も返上されてないからな…それなら、問題ねぇハズだよな?」
「確かにそうだし、そりゃあ貴女が往ってくれるなら心強いけど…でもあんた、風邪こじらせて入院してたはずでしょう? そんな身体で…」
「引退直後に古巣がなくなりました、じゃ、寝覚めが悪すぎらぁ。理由(ワケ)なんざ、知ったこっちゃねぇが、これ以上、あんな山猿共にキャンキャン騒がれるのも…ムカつくんでな」
息は荒く、言葉も途切れ途切れだったが、そう言い切った甘寧の眼は未だ死んでいない。合肥で蒼天会の本陣に数名で奇襲をかける、と言い出したときの、そのままの眼光を保っていた。
そんな眼をしている以上、例え「駄目」と言ってベッドに無理やり寝かせつけようとしても、彼女は這ってでも独りで戦線へ突っ込んでいくだろう。その気迫に呑まれ、流石の張昭にも反対すべき言葉が出てこない。一息ついて、孫権の方を見る。
「…と、彼女は言っているようですけど…どうする部長?」
孫権も迷ったが、他に頼れる者も思い当たらない。悲痛な面持ちのまま甘寧を見つめ、断を下す。
「……………解った。興覇さん、お願い」
「へっ、そうこなくっちゃ…な」

「どうして、どうしてアンタがここにいるのよ、興覇ッ!?」
「なんでぇ、公績…俺様が、ここにいるのが、まぁだ気に喰わねぇのか…?」
その姿を認めるなり、手前にいた黒髪をショートにした少女…凌統は、思わず大声をあげた。
凌統以下、救援軍の編成に当たっていた諸将にとっても、彼女がそこにいることが信じられなかった。ましてや凌統は、先刻病室で甘寧を見舞っているのだ。
かつて姉を飛ばされたことで甘寧を激しく憎悪していた凌統だったが、先の合肥戦のさなか、楽進・曹休のタッグからの攻撃から身を呈して救った挙句、孫権を護って逃げるための殿軍(しんがり)まで買って出てくれた甘寧の行為に、その憎悪は彼女に対する尊敬へと変わっていた。
一方の甘寧にしてみても、相手が恨んでいない以上こちらからも恨む理由はない、ということで、ふたりはこれまでとはうって変わって、良き戦友と呼べる仲になっていた。
「そんなんじゃないわよ! アンタ絶対の安静だって、医者に言われてるんでしょ!? そんな身体で…」
「公績先輩の言う通りですよ!」
凌統の隣りに居た丁奉も声を挙げる。ポニーテールにまとめた、生来のものである狐色の髪が特徴的なこの少女は、中等部入学直後の夏休みに孫権直々のスカウトを受けた逸材である。並み居るの先輩部員を差し置いて、将として認められていることからも、その実力は明らかだろう。
彼女は現在潘璋の副将という立場にあったが、かつては甘寧の部下に配され、こき使われながらも一方で非常に可愛がられ、今では一番の妹分と言っても過言ではない。言うまでもなく、彼女の甘寧に対する尊敬の情も、ひとしおだ。
「ここで無理をしたら、大変なことになりますよ! ここはあたし達が…」
「やかましいッ!」
甘寧の大喝に、気圧されて黙り込むふたり。
蒼白の顔に、脂汗まで滲ませているその容貌にかつての精彩はない。だからこそなのか、その貌(かお)には鬼気迫る何かがあった。その勢いに、まだ中学二年生の丁奉は半泣き状態になり、気丈な凌統も言葉を失った。他の一般部員の中には、腰を抜かしてへたり込んでしまったものもいた。
「俺は…俺も、失いたくないんだ…! はみ出し者だった俺を"仲間"として扱ってくれた長湖部を…」
「…興覇」
「興覇先輩…」
甘寧の表情は、悲痛で、真剣だった。その心底を洗い浚い吐き出すような言葉は、少女達の心を打った。
「俺は、こういうカタチでしか、恩義を返せない、人間だから…だから、最期まで戦わせてくれ…頼むッ!」
そのとき、甘寧の身体がよろめく。しかし、その身体はすぐに背後から現れた人物に支えられる。
艶のある黒髪をショートに切り揃えた、整った顔立ちの少女。その少女は甘寧同様に卒業を控えた、初期長湖部からの功臣・韓当だった。
「義公…さん」
「いろんな意味であなたのその性格は、死んでも治りそうにないわね。居残り組最古参の私を差し置いて総大将に名乗りをあげたことの文句のひとつでも言ってやろうかと思ってたけどね…」
私だって有終の美を飾りたかったのに、とか言わんばかりの口調だが、これも悲痛な空気を少しでも紛らわそうとする韓当流の言い回しである。そろそろ付き合いも長い甘寧達にも、それはよく解っていた。
ふぅ、とひと息ついて、韓当は続ける。
「まぁ、部長の命令も出たことだし、今のを聞かされた以上、もう何も言わないわ。その代わり、承淵を副将に連れときなさい。文珪や上層部(うえ)には、私が話しとくから」
「すんません…恩にきります」
苦笑を浮かべる韓当に、何時もより弱々しくも、苦笑で返す甘寧。
「あなた達もいいわね?」
「そう仰られるなら…異存はありません」
「…任せてください! 全力でお守りします、先輩!」
「へっ、こいつ…ナマ言いやがって…」
もはやふたりにも反対の言葉は出てこなかった。苦笑して返す凌統と、涙を拭って極力笑顔で返す丁奉を軽く小突く甘寧を見て、韓当は「よろしい」と軽く呟いた。
それから数刻のうちに、編成を終えた総勢500名弱の夷陵棟救援軍は甘寧を総大将に、先手を潘璋、左右に周泰と韓当、後詰めに凌統、そして中軍の副将に丁奉といった錚々たるメンバーとともに建業棟を進発した。

505 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:19
夷陵棟に程近い(オウ)亭広場で、長湖部軍が帰宅部連合軍を迎撃する形で開かれたその戦況は、時間がたつにつれ長湖部にとって芳しくない状況になりつつあった。甘寧の想いとは裏腹に、帰宅部連合の勢いに押された長湖の精鋭たちはじりじりと後退を始めていた。
一説では、潘璋隊に帰宅部の"五虎(タイガー・ファイブ)"の一角として知られる黄忠が単騎で大立ち周りを演じ、自身は最終的に飛ばされてしまうものの、潘璋隊に壊滅的な打撃を与え、逃げる潘璋はその途上、関興に飛ばされた…などという説話もあったほどだ。
無論これは帰宅部寄りの誰かが言い出した俗説に過ぎず、黄忠はこのころ既に引退しており、潘璋が引退したのも夷陵回廊戦の翌年度である。しかしながらそんな俗説が飛び出るくらい、長湖部の孫桓救援軍が手痛い打撃を受けていた、ということなのだろう。
先に旗色悪しと見て、帰参を申し入れた傅士仁、糜芳の二人が、関興によって心ゆくまでぶちのめされた挙げくに処断されてしまったことも手伝い、荊州棟出身者で、関羽を裏切る形で長湖部についた者達は関興の姿を確認するや、その怒りを恐れて我先にと逃げ出す始末であった。
そのことが、長湖部軍全体に恐慌となって伝播し、さらには姉の復讐に燃える関興の働きもあって、先手は潘璋の奮戦空しく壊滅に近い状態となった。命からがら逃げてきた潘璋は、残存隊員をかき集めて既に退却を開始していた。
剛毅で無鉄砲な性格で知られる甘寧も、この状況にあっては流石に焦燥を隠せない。病状は会戦直前に飲んだ頓服薬のお陰で小康状態を保っていたが、今度はこの戦況のために顔色が変わる。
「くそっ…これじゃあ勝負にならねぇじゃねぇかよ!」
先鋒の潘璋隊壊滅の余波を受けて、恐慌は甘寧、凌統、丁奉のいる中軍にまで伝播してきていた。両翼に居た周泰や韓当の隊でも、副将を飛ばされて後退を始めている。勢いに乗った帰宅部期待の新星・関興、同じく張苞の隊が中軍に突っ込んでくるのも時間の問題だった。
「興覇先輩ッ、正面の敵本隊も進軍を開始しましたッ! このままじゃ三方向から挟み撃ちですよッ!?」
丁奉が悲痛な叫び声を挙げ、甘寧も舌打ちする。中軍の部隊も、外側では関興・張苞隊との戦闘が始まっていた。
「ええいッ、 引いて軍を整える! 俺らは後ろの凌統隊に合流し、来る連中を撃退しながら下がるぜ! 俺も戦闘に入る!」
「ええっ!? 大丈夫なんですか!?」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇ! "覇海"を寄越せ、来るぞッ!」
傍らに居た甘寧子飼いの親衛隊−かつて彼女を首領とした不良集団・銀幡あがりの少女が、ひときわ大きな木刀を甘寧に手渡したのと、正面の布陣が割れたのはほぼ同時だった。崩れた一角から、怒号とともに帰宅部の精鋭たちがなだれ込み…。
「いたぞッ!」
「甘寧を狙え! ヤツさえ飛ばせば軍は崩せるッ!」
「ヤツは半病人だ! 囲めば確実にとれるぞ!」
他には目もくれず、混乱する少女達を尻目に、甘寧をめがけて殺到する。
「興覇先輩!」
「しゃらくせぇ、やれるもんならやって見やがれっ! 承淵、遅れをとるんじゃねぇぞ!」
言うが早いか、銀幡時代からの愛刀・覇海を一閃し、群がってきた数名を吹き飛ばした。いくら病に体を蝕まれていても、やすやすと飛ばされるほど衰えてはいない。まさに鬼神の如き働きで、一時は帰宅部軍を押し返していた。
しかし、そのために彼女は、何時しか敵軍の深みに入り込み、孤立した状態になってしまっていた。
深入りを認識し、血路を開いて後退しようとする甘寧の前に、ひとりの少女が立ちふさがった。青みがかった髪を無造作にショートで切り、春先だと言うのに夏服を着ているその腕には無数の傷があり、頬にもバンドエイドを貼り付けている。
猛禽を思わせる鋭い目つきと言い、その雰囲気からも只者ではない気配を漂わせていた。
「甘興覇先輩とお見受けします…お手合わせ願います!」
「け、上等だッ! 病院送りにする前に名前だけ聞いといてやらぁ。かかって来な!」
「益州学区古武道同好会主将、沙摩柯。参るッ!」
言葉と同時に、沙摩柯と名乗った少女が、一陣の疾風に変わった。3メートルほどの間合いが、一瞬にして0になる。古武道の達人が成せるその驚異的な踏み込みに、甘寧の顔から一瞬にして笑みが消えた。
(! コイツ…っ)
一瞬にして間合いの中に斬り込み放った必殺の掌を、甘寧は恐るべきカンでぎりぎりかわしていた。それと同時に、逆手に構えていた覇海を振り上げる。スウェーでかわした沙摩可が反撃に出ようとした瞬間、即座に手首を返して全体重をかけた返しの一太刀を振り下ろす。
はっとして、沙摩可は即座にバックステップで回避した。仕留めるつもりで放った一撃をかわされた甘寧だったが、間合いを離してにらみ合った相手に対して、再びニヒルな笑みを浮かべて見せた。
「ちっ…右か左にかわしてくれれば、ワキにヒザでもくれてやろうかって思ってたけどよ」
「流石です…合肥での風聞は、本物だったみたいですね。その剣…いえ、格闘術は我流ですね?」
「こちとら、生まれてこのかたキチンとした武道なんてのに手ぇ出したことがないんでね…暴走族(ゾク)仕込みの喧嘩殺法ってヤツだ、よ!」
言うや否や、鳩尾を狙っての独特な前蹴り…俗に「ヤクザキック」と呼ばれる蹴りを放つ。踏み込むと同時に、左拳と木刀の歪なワンツーが沙摩柯を襲う。
木刀をいなすことは出来ても、拳は辛うじてガードする。一撃の重さで彼女の全身に衝撃が走った。攻撃の隙を見出して反撃しようにも、衝撃に痺れた腕が上手く反応してくれない。
(くっ…一見出鱈目に見えて、思った以上に無駄がない…単純に喧嘩慣れしてるだけで、ここまで出来ると言うの…!?)
休むことない連続攻撃に、沙摩柯は防戦一方だった。しかも木刀だけでなく、単純な拳打の重さもハンパではない。ガードの上からでも、ダメージは蓄積されていく。
「そら、足元がお留守だぜッ!」
「あっ…!」
拳打を受けるのに精一杯で、足元から注意をそらしてしまったのが仇となった。強烈な左のローキックを軸足に受け、沙摩柯は大きくバランスを崩した。そこに、かつて甘寧が凌統の姉・凌操を飛ばしたときに使った、全力のアッパーがよろめく顔めがけて飛んできた。
(くっ…やられる!?)
だが、その必殺の一撃を放とうとした瞬間、これまで小康状態を保っていた高熱が、強烈な眩暈となって甘寧を襲った。
自分の体調について決して無関心でなかった甘寧だったが、この一騎打ちは当人の予想以上にその体力を奪い取り、薬の効き目を打ち消していたのだ。アッパーを放つためにとった体制のまま、甘寧の体が大きくよろめいた。
(ちぃっ…こんな、時にッ!)
「もらった!」
体制の崩れたその一瞬を、沙摩柯は逃さなかった。バランスを失って前のめりになった甘寧の顎を、何とか踏み止まって放った右の掌底が捉える。甘寧の意識が、もぎとられるように吹き飛んだ。
「嘘ッ……興覇先輩ッ!」
ゆっくりと崩れ落ちる甘寧には既に、丁奉の叫びも届かなかった。

506 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:20
倒れ伏した甘寧の姿を見つめ、沙摩柯は何の感慨もなく、呟いた。
「まさか…本調子ではなかった…?」
切れ長の双眸には、長湖部軍の筆頭将を打ち破ったことへの歓喜はない。沙摩柯にも解っていたのだろう、もし甘寧の体調が万全であれば、あのアッパーで自分が飛ばされていたことを。
古武道の達人である彼女の実力であれば、徒手であっても並の剣士など物の数ではない。しかしながら、今打ち倒した相手は、剣術の心得はないものの、合肥で「学園最強剣士」として名高い張遼と互角に戦ったといわれる学園屈指の喧嘩屋なのだ。
何でもありの「喧嘩」ということであれば、その戦闘能力は帰宅部の誇る"五虎"とほぼ同等とまで言う者さえいる。それが誇張だとしても、明らかに今の自分より格上であったことは間違いないことは、現実に手合わせして思い知っていた。
「でも、此処は戦場…悪く思わないでください」
そう割り切った沙摩柯は、気を失った甘寧の階級章にゆっくりと手を伸ばす。その刹那。
「やらせるもんですかぁー!」
怒号と共に、頭上から降って来る一撃を、軽くいなす。
降って来たのは狐色の髪の少女。いなされてもバランスを崩すことなく着地すると、間髪いれずに横凪ぎの一撃を繰り出す。
「ふん…甘いッ!」
その少女−丁奉の一撃を見切った沙摩柯は、右手で難なく木刀を掴み取る。反撃の一撃を加えようとして引き寄せるが、予想外の"軽さ"に違和感を覚える。そこにあったのは木刀だけだったのだ。
「何…!」
気づいたときには、倒れていた甘寧の姿がない。丁奉は自分の木刀の一撃を囮に、甘寧の救出を第一義としたのである。てっきり自分に向かってくるはずだと思っていた沙摩柯は、完全に裏をかかれた格好になった。
加えて、甘寧との戦いで受けたダメージが、反応をわずかに鈍らせていた。
甘寧を背負って既に駆け出していた丁奉は、落ちていた覇海を空いている手で拾い上げ、前方の長湖軍に兵が集中したことで完全に手薄になった、帰宅部本営の方向へと疾走していた。
「興覇先輩は返してもらったよっ! この借りは、絶ッ対返してやるからねッ!」
「味なマネを…くっ…誰か奴等を追え! 逃すな!」
追いかけようとするが、甘寧からもらったローキックが激痛となって、彼女を阻む。駆けつけた来た古武道同好会の部員に追撃の指示を出しながら、沙摩柯は甘寧を連れて逃げ去る少女にも感嘆の意を禁じえなかった。
人一人を背負ってあれだけの速さで走るなどと言うのは尋常なことではない。それを、自分よりも頭一個小柄な少女がやってのけているのだ。
「あの娘、良い資質を持ってる…上手く逃げおおせたなら、手合わせする機会が楽しみだわ…」
自分の指示で数名が追いかけていくのを、足を抑えて座り込んだ沙摩柯はじっと眺めていた。その顔には、大魚を逸した悔しさではなく、期待に満ちた笑みを浮かべていた。

反射的に人手の薄い方へ駆け出してしまったものの、自軍本陣からは反対方向であることは丁奉も理解していた。前方への敵に集中していた連中が自分達に気づけば、本営に控える連中と一斉包囲されて一巻の終わりだ。
彼女は、進行方向を直角に曲げると、南側に広がる林の中へ駆け込む。比較的手薄な、長湖に続く支流周辺まで出れば、そこを辿って本営まで帰ることもできるかもしれない…丁奉はそう考えた。
しかし、沙摩柯子飼いの古武道同好会の部員が迫ってくるのを見て、その考えが甘いことを悟った。彼女等の対処に手間取れば、おそらく本隊も駆けつけてくるに違いない。
たとえ人一人抱えていても、水泳部のホープで、揚州学区から赤壁島までの遠泳を毎日の日課とする丁奉なら、安全な対岸へ泳いでいく事もできるのだが…。
(駄目っ…興覇先輩の体調を考えれば、この季節の渡河は命取りになっちゃう…!)
木々が疎らになり、目指す河岸にたどり着いた。だが、その先どう逃げるかの結論が出ない。河を渡ろうにも、船代わりになるものもない。
(どうしよう…このままじゃ…)
「…承淵、か? 俺は…一体…」
そのとき、気を失っていた甘寧が眼を覚ました。
「興覇先輩! 気がついたんですね!」
丁奉は甘寧をゆっくりと背中からおろすと、適当な樹にもたれさせる。
そのとき、はっとして甘寧の左腕を見た。あの時無我夢中で気づかなかったが、敵将は甘寧の階級章に手をかけていたことを思い出したのだ。
だが、その心配は杞憂に終わる。木々の中を無理に走ってきたせいで上着はボロボロだったが、それでも左側は幸運にも無傷で、彼女の殊勲に比べればあまりに低いのではないかと思える硬貨章も、そこに顕在だった。丁奉は、ほっと胸をなでおろす。
「…へへっ…俺様としたことが、あんな三下に遅れを、取るなんてな…」
「そんな日だってありますよ」
力なく笑う甘寧に、丁奉も精一杯の笑顔で応える。だが、来た道から無数の足音が近づくにつれて、丁奉の顔にも焦りの色が濃くなってくる。意を決したように、彼女は今来た方向へ向き直る。
「此処まで、か…ちょっと待っててくださいね。あんな奴等、すぐに蹴散らして…」
「止めておけ…タイマンならともかく、多勢に無勢ってヤツだ。ましてやお前、丸腰だろ」
「でも、足止めくらいになります…地の利もこっちにあるし…」
「時間が経てば、不利な状況は増える…奴等も、バカじゃない…おっつけ、こっちにも本隊が、来るだろうよ…大将を、ふたりも、飛ばせば、どうなるか…言わなくたって、解るだろ…?」
無鉄砲な性格で、暴れん坊として知られた甘寧を、「勇猛無策」と評するものもいる。だが、幾度となく死線を潜り抜け、学園にその悪名を轟かせた銀幡の首領の座を保ってきたのは、その状況観察能力に裏打ちされたところも大きい。
長期戦略の面においても、初期から周瑜同様、荊州から益州までの侵攻計画を献策したことで知られている。だからこそ、この危難の局面で防衛軍の総大将を任されたのだ。丁奉は今更ながらも、感嘆の息をついた。
「…だから俺様を置いて…お前だけでも、さっさと、泳いで逃げろ。お前一人なら、問題ねぇだろ?」
丁奉の腕をつかんだまま、甘寧が厳しい口調で言う。まるで先ほどまでの自分の思考を読み取られたようで、丁奉ははっとして甘寧の顔を見た。

507 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:20
本来の病状に加え、先ほどのダメージの為に顔色は目に見えて悪く、息も荒い。触れた手からは、明らかに高熱を発していることも理解できた。表情には出さないが、今こうしていることも、甘寧にとっては辛いことなのかもしれない。
「でも…先輩を置いていくなんて…ッ」
「バカヤロウ、此処でお前までっ、飛ばされたら…お前のことを任された、部長に、申し訳たたねぇんだ!」
その一喝に、丁奉は二の句が告げない。泣きそうな表情の丁奉に、甘寧は不意に表情を緩めた。
「俺が…お前のこと、任されたとき…将来長湖部に、とって、必要な人材になるから、大切にしてあげて、って…部長が、言ってたよ。俺なんかの、せいで…そんなヤツを、さっさと、飛ばされるわけに…いかねぇ。ここは、逃げ延びるんだ…部長の、ためにも…俺の、ためにも…」
「でも…」
「俺のことなら、心配ない…奴らも…俺が、病人だと、わかれば…そう悪くは、扱わないだろ…ましてや、既に……飛ばされて、いるので、あれば…っ!」
「え!?」
言うが早いか、甘寧は自らの階級章に手を伸ばし、無造作に引きちぎった。そして、呆気に取られる丁奉の手に、それを握らせる。
「これで、文句は、ねぇだろ…さ、解ったら、さっさと…逃げろ」
「そんな…先輩!」
「…いいから…行けっつってんだよ!」
甘寧は最期の気力を振り絞って立ち上がると、小柄な丁奉の身体を河へと突き飛ばす。大きな水音と共に、丁奉の身体は河へと投げ出された。
不意の一撃で頭から突っ込んでしまった丁奉は、河の流れに一瞬抵抗できずそのまま流される。しかし流石に水泳部のホープとまで言われただけあって、すぐに体制を立て直して顔を出す。そして、突き飛ばされた岸へ戻ろうとする。
「せ…先輩、どうして…」
「この、バカ…戻るんじゃ、ねぇッ! 行けッ! 行くんだッ!」
「興覇…先輩」
「後は、頼んだぜ…コイツは、俺様からの…餞別だ」
岸から甘寧が投げてきたものを、丁奉は反射的に掴み取る。それは、逃げるときに一緒に掴んできた、甘寧の愛刀・覇海。それには何時の間に付けたのか、甘寧の腰につけられていた鈴飾りも括り付けられていた。
「大切に、使ってくれよ…じゃあな、承淵」
「…うぐぅ…っ…先輩…」
まだ春から遠いことを知らせる冷え切った流れに身を任せながら、その冷たさも忘れたように丁奉は何時までも、岸辺に残った甘寧のほうを見ていた。流れ落ちる涙を拭うこともせずに。
そして、意を決したかのように顔だけで小さく会釈すると、覇海を抱いたまま流れに乗って、下流へと泳いでいった。本隊が集結しているであろう、陸口の本営に向けて。
(そうだ…それでいい…絶対、逃げ切るんだぜ…)
それを見て、甘寧は満足げに、普段とは違う穏やかな笑みを浮かべた。その姿が視界から消え、甘寧が樹にもたれたとき、木々の間から帰宅部の追っ手が姿をあらわす。
「ふふ、遅かった、じゃ、ねぇか…」
「長湖部の甘寧先輩とお見受けします」
その言葉を気にした風もなく、その中の小隊長と思しき少女が、問い掛けてきた。
「上意により、階級章を貰い受けに参りました。観念してください」
「だから、遅ぇっての…よく見な、俺はもう、飛んでるんだ…からよ」
「え!?」
そういう甘寧の左腕には、確かにあるべきものが存在していなかった。呆気に取られる少女達。一体どうしたのか、の誰何の声を上げる前に、甘寧はつぶやく。
「理由は、どうあれ…これで、俺も"戦死"扱いの、脱落者だ…囲むだけ無駄、だぜ。だがもし…慈悲が、あるなら…早く搬送して、くれると…助かる……」
「あっ!?」
崩れ落ちた甘寧を反射的に抱きとめてしまった少女は、その事実に驚愕せざるを得なかった。
「すごい熱……ま、まさかこの人、こんな体調で沙摩柯さんをあそこまで追い詰めたって言うの!?」
「なんて人なの…」
その事実に、もう一人の少女が既に安全圏まで逃げおおせたことなど、彼女等には気づけるはずもなかった。眠りに落ちた甘寧の寝顔は…その息づかいこそ苦しげだったものの…満足げに微笑んでいた。


(第二部へ続く)

508 名前:海月 亮:2004/12/17(金) 03:26
と、此処までで第一話終了です。
後の文章量もさほど、変わらんのですが…外見描写とか余計なんだろうか…。

史実どころか演義と比べてもなにやら無理のあるキャストになってます。
甘寧最期のシーン、実は横光三国志のオマージュなんですが…

…てか、承淵ちゃん活躍しすぎ?

509 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 21:49
第一部 >>503>>507

風を継ぐ者」
-第二章 その涙は誰が為に-

「…そう…興覇のヤツ、最後の最後までカッコつけて…もうっ…」
すっかり落ち込んで、何時もの調子がない丁奉を慰めるかのように、凌統はそんな軽口を叩いた。その眼にも、かすかに涙が滲んでいる。
完全な濡れ鼠になって、陸口にある長湖軍の本営に丁奉がたどり着いたのはすっかり日が落ちてからだった。甘寧と沙摩柯の一騎打ちの決着から既に5時間以上が経過し、何とか敗走する本隊をまとめながら、凌統や韓当たちは此処まで退却して来ていた。
凍りつくような河の流れの中で、半ば意識を失いかけていたところを、ライフセーバーの卵である凌統が見つけてくれなければ、丁奉の身もただでは済まなかっただろう。
意識を失いながらも、丁奉は甘寧の階級章と、覇海をずっと離さなかった。
それから丸一日眠りつづけた彼女は、目を覚まして凌統の姿を認めるや否や、大声をあげて泣き出した。
何度も何度も、甘寧の綽名を呼びながら。
その様子から、凌統も甘寧の身に何が起きたかを悟った。かつては恨み骨髄の相手ではあったが、わだかまりを解いた今は、大切な仲間であり、尊敬できる先輩だ。それを思い、彼女も泣いた。
そして今、ようやく落ち着きを取り戻したところだった。揚州学区のはずれにある学生寮の丁奉の部屋には、凌統の連絡を受けた周泰と潘璋もやってきていた。
「さっき荊州学区の病院から連絡があったんだ、峠を越えたってさ。てことは、帰宅部の奴等もその辺のことは、ちゃんとわきまえててくれたんだな」
「まぁ、キミが無事だったのは、不幸中の幸いだったわね。興覇だけじゃなくて、キミまで飛ばされてたらどうしようかって思ったけど」
普段は寡黙な周泰や、口の悪い潘璋も、そう言って励まそうとする。しかし、そのことが責任感の強い丁奉にとっては、かえって耐えられないことだったに違いない。潘璋が甘寧の綽名を言ったあたりで、丁奉の眼には再び涙が溢れる。
「でも…でもっ…あたしは先輩を護ることが出来なかった…っ」
「……承淵」
居合わせた諸将に、返す言葉もない。
甘寧を護る事が出来なかったと言うなら、中軍を無防備に晒した左翼の周泰、先鋒軍の潘璋、そしてその危機を救うことを出来なかった後詰めの凌統にも共通した無念の感情である。
だが危地から上手く逃げおおせたとはいえ、最後の最後で結果的に甘寧を見捨てる形になった丁奉の心痛とは比べるべくもない。
赤壁後の南軍攻略戦以後、ずっと副将として付き従い、妹分として可愛がられた彼女を知る諸将にも、その気持ちは痛いほど伝わってきていた。
「そうね、確かにあなたは、副将としての役目を完遂できなかった」
「!」
沈黙を切り裂いたのは、部屋に入ってきた韓当だった。
総大将・甘寧リタイアの報を受け、最高学年生として臨時に軍の総指揮に当たっていた彼女も、丁奉回復の報告を受け駆けつけてきたのだ。
彼女自身も乱戦の中無数の傷を受け、手足や額に巻いた包帯にはわずかに血が滲んでいる。
「私の副将はね、私を護るため身代わりになって張苞に飛ばされたわ。もうすぐ卒業する私をかばって、これからも長湖部の一員として働かなきゃいけないあの娘が」
そう言って丁奉を見つめる韓当の表情は、一見普段と変わらない様に見えた。
しかし、その瞳はどこまでも深い哀惜を湛えている。
「あの娘は確かに副将の役目を果たしたわ…でも、あたら若い才能を潰してしまった私の気持ちはどうなるのよ…あの娘を目の前で飛ばされてしまった、私の気持ちは!」
「…先輩」
長湖部設立から部を支えつづけてきた、その少女の双眸からは何時しかとめどなく涙が零れていた。流れる涙を拭おうともせず、韓当はなおも続ける。
「あなたも興覇も幸せ者よ…あなたは彼女の意思を、継ぐことが出来た。何時までもめそめそしてるヒマがあるなら、これから何をなすべきか、それを考えなさい…彼女のことを思うなら、尚更のことよ…!」
「…………はい」
何時しか、居合わせた全員の目から、涙が流れ落ちていた。
だが、最初に泣き出した少女の表情に明るさが戻ったのを見ると、韓当も満足そうに頷いた。
その一方で、彼女の心の片隅で、これからの展望への不安は依然渦巻いていた。
(でも…興覇やあたし達総出でも支えきれなかったあの勢いを止めるなんて…せめて、せめて公瑾や子明…あるいは、それに匹敵する将帥がいてくれれば…)
敗戦に沈む少女の涙は晴れても、長湖部にかかる暗雲は、未だ晴れ間を見せる事はなかった…。

510 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 21:50
(や〜れやれ…まさか、興覇までやられちゃうなんてねぇ…)
この日…甘寧脱落の報を受け、さらに沈み込んだ長湖部本営の会議室を一番最初に出てきたのは、ボリュームのある色素の薄い髪を、無造作に二つ括りにした少女だった。
どこか人を食ったような細いタレ眼が特徴的なその少女の名は(カン)沢、綽名を徳潤という。
苦学生であったが、記憶力に優れた明晰な頭脳と、かつて赤壁島戦役において曹操に黄蓋の偽降を信じ込ませたといわれるほどの能弁を認められ、長湖部の重鎮に登りつめた一人である。
実家が寺であったことから仏教関係の事跡に特に詳しく、のちに揚州学区の外れにある古寺を改修した際、一言一句過たずに書き上げられた経典を奉納したことで知られることとなる…それは、さておき。
(カン)沢の明晰な頭脳は、先ほどの会議のあらましを正確にリピードしていた。
喧喧囂囂と意見のまとまらない幹部達。中には、先に協力関係を結んだ蒼天会に援助を求めるべき、などという意見を吐くものもいる。
(どいつもこいつも、わかってねぇよなぁ…表面上は友好関係にあるたぁはいえ、曹丕のやることなんざ信用できねぇだろ…そんなことを申し入れれば、どんな無理難題を吹っかけてくることか…でももし、このまま何もせずにいて、義公先輩達まで崩される事になれば…)
「…ぱい、徳潤先輩!」
考えながら歩く(カン)沢は、はっとして自分を呼ぶ少女に振り向いた。
光のあたり具合では緑がかって見える髪をショートボブに切り揃えた、利発そうな少女だ。制服の着こなしからも、その真面目な性格が読み取れる。
「あ…なんだ、伯言か」
「なんだ、とは酷いですよ。考え事しながら歩いていると、階段から落ちますよ? ただでさえ、徳潤先輩は熱中すると周りが見えなくなるんだから」
大げさなくらいぷーっとむくれてみせるその少女−陸遜をなだめるように、(カン)沢は笑った。「伯言」は陸遜の綽名である。
「悪ぃ悪ぃ…オマケに待ち合わせの時間もオーバーしちまったしな」
「…仕方ないです…こんな状況ですからね…」
「こんな時に転院だなんて、公瑾さんも複雑だろうなぁ。課外活動から退いたうえ、病院暮らしも長ぇのに、ずっと部長のこと、気にかけていたからなぁ」
公瑾こと、元長湖部副部長・周瑜は、かつて長湖部二代目部長・孫策の親友として、孫策のリタイア後も現部長・孫権を補佐し、圧倒的不利といわれた蒼天会の攻勢を赤壁島で撃退してのけた知将だ。
才色兼備の人物だったが、激情家としての一面があり、それゆえに南郡攻略戦で回復不能に近い大怪我を負い、今なお病院暮らしを余儀なくされている。
その周瑜は此度、現在入院中の揚州学区の病院から、より設備の整った司隷特別校区の大病院へと転院することになった。彼女の才能を惜しんだ学校側の配慮により、個人授業などで卒業単位を稼げるように配慮し、それを受けた周瑜の両親の勧めに従ったものである。
しかし、それは同じ学園に居ながらにして、場合によっては永劫の別れになる可能性があることも示している。司隷特別校区は、現在曹丕が支配する「蒼天生徒会」の本拠地…課外活動に参加できないリタイア組はともかく、現長湖部員がおいそれと踏み込める場所ではなかった。
そのことを鑑みて、陸遜の発案と呼びかけにより、周瑜の歓送パーティを開催することになった。もっとも、時期が時期だけに、幹部のほとんどは不参加で、参加者は後輩だらけになってしまったが。
不意に、その眼差しが真剣な光を帯びる。
「情けない話さ…これから部をどうこうしていくってヤツが雁首そろえて、なんの役にも立てねぇときてやがる。あたしにそんな力があれば、こんな気持ちになることもないのに」
この現状に際して、何も出来ないことに対する悔しさが、言葉に満ちていた。握り締めた拳が、まるで泣いているかのように、震えていた。
「…それは私だって、同じです。伯符先輩や公瑾先輩、そして部長やみんなの思い出が詰まった場所ですから…失いたくない気持ちは一緒ですよ」
陸遜の笑顔は、ひどく悲しげな笑顔だ。本当は泣きたいのだろうが、その感情を無理に押し込んでいるような、そんな悲しい笑顔だった。
「何も出来ないでいる自分が、悔しいです…赤壁島で蒼天会を打ち破った公瑾先輩のように、なれない自分が」
不意にその笑顔が、悲痛なものに変わった。これから行うことを考えて、その気持ちを解きほぐそうとしたのか、(カン)沢はあえて茶化すように言った。
「まぁ、なんつーか…あんたも健気だねぇ…あれだけあしらわれてても、その公瑾さんのこととなると真っ先に気を使ってさ。今回の件の為に、ヒマな連中をかき集めたり、プレゼントとか用意したり、病院に便宜を図ってもらうよう動いたのはあんたらしいじゃん」
「え…え〜と…」
「こんなときだからこそ、余計な心配をかけさせまいとするあんたの心がけは立派だよ。どーして公瑾さんは、そういうところを解ってくれないのかねぇ」
「………」
陸遜はちょっと困った表情で、俯いてしまった。
周瑜の陸遜に対する風当たりは厳しい、というのが長湖部構成員、特に幹部クラスの人間にとってはほぼ常識といって良かった。
周瑜が対応にてこずっていた山越高校の荒くれを手なづけて、協定を結んで後背の憂いを絶ち、しかもそのときに作った対応マニュアルは賀斉や鍾離牧といった後任者に「これじゃああたし達が新しい方策をわざわざ考える必要ないわよね〜」と絶賛される出来だった。
この完ぺきな仕事振りに、周瑜が嫉妬している…というのが、表向きの評判だった。
だが実際は、赤壁直前に行われた強化合宿の朝に起きた出来事が原因となって、周瑜が陸遜を一方的に嫌っているのだが…この事は、長湖部の幹部級の者たちで、そこに居合わせた者と孫権しか知らない。
(カン)沢も、その数少ない一人である。
「まぁ、そんなこと言ってても仕方ないか。早く行かないと、それを理由にまたどやされるかもしれないな…行くぜ、伯言っ」
「あ…待ってくださいよ〜」
困ったように黙り込んだ陸遜の様子に「余計なこと言ったかな?」と思った(カン)沢は、陸遜の肩を軽く叩くと、視界に映りこんだ病院の建物に向かって駆け出し、陸遜も慌ててそれに続いた。

511 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 21:50
「どうして、あんなに伯言に冷たくあたるんです、公瑾さん?」
群がっていた後輩達と陸遜を帰したあと、(カン)沢は周瑜と1対1になった個室の病室でこう切り出した。普段は飄々とした(カン)沢が、柄にもなく真顔で問い掛けてくるのを見て、周瑜は苦笑した。
「なにを言い出すかと思えば…まさか徳潤、そんなことを聴く為に残ったの?」
「…真面目な話ですよ。まさか去年の合宿の一件、まだ根に持ってるんですか?(「長湖部強化合宿〜ひと夏の思い出」参照のこと)」
この、ささやかな歓送パーティの際もやはり周瑜は、陸遜とまともに取り合おうとさえしなかった。
他の若手部員の手前、あからさまに無視するようなことはしなかったが、一瞥した程度ですぐに別の後輩達の相手をする。
それを何時しか一歩離れて見ていた(カン)沢には、なんともやりきれない気分になった。周瑜の表情を見る限り、このイベントを迷惑がっている風はなかった。
「仲…いえ、部長も、こんな気を遣わなくたって…」と声を詰まらせていたのは、芝居には思えなかったし、心からの一言に思えたからこそ、(カン)沢は横から、これは陸遜の仕業だ、とわざと茶化した風に言ってみせた。
だが、それを受けても周瑜は「部長が来れないから、代わりに来てくれたんでしょ? 無理しなくてもいいのにねぇ」なんて言い出す始末だ。
一見、陸遜に対する労いにも聞こえなくないが、これでは立役者の陸遜も浮かばれない。(カン)沢は、それが哀れでならない。
そんな周瑜の態度を気にした風もなく、輪から外れて言葉をかけかねている後輩を促して歩き、満座に気を遣う陸遜の姿を見れば、ひとしおだ。
分かれゆく陸遜にも、一言も声をかけない周瑜の態度を見かねたからこそ、(カン)沢は周瑜にその訳を問い詰めるつもりでいた。
「言ってる意味が解らないわよ…そんなことに付き合ってられる程ヒマじゃないわよ、私」
「とぼけないでください!」
あくまではぐらかそうとする周瑜の態度に(カン)沢は思わず手を壁に叩きつけた。その視線には、らしくなく怒気を含んでさえいる。
「伯言の力量(ちから)は、既にあなたの後継者として十分でした! 聞けば、子敬ねぇさんが引退するときに、わざわざ口を出して、伯言をその後継にすることを邪魔したなんて話も聞いてます! どうして、そんなことをしたんですか!? あいつは…あいつはあんなに、公瑾さんのことを…」
「…いい加減にして徳潤…誰か聞いていたらどうするの?」
そう言って(カン)沢の言葉を途切れさせようとする周瑜だったが、無駄なことだと悟っていたかもしれない。おそらく(カン)沢は、あらかじめ人払いくらいはしているだろう。この少女の抜け目ないところは、周瑜もよく知っていた。
「構うもんですか! それにあなただって今の長湖部がどういう状況だってわかっているでしょう!? せめて置き土産として、伯言を推挙してあげてもバチは…」
「……わかった風な……こと言わないで……」
興奮気味だった(カン)沢は、消え入りそうな声にはっとして周瑜を見つめなおした。何時しか目の前の少女は耳をふさぐようにして俯き、かすかに震えている。その表情はわからないが、声は泣き声だった。
「あなたに…あなたに、私とあの娘の何がわかるって言うのよ…!」
「解りますとも! 少なくとも、あの合宿から、あなたがそれとなく伯言を避けている位は…いえ、あなたがあの娘のことを嫌っているくらいは!」
「馬鹿言わないでッ!」
周瑜の凛とした、そしてトーンの高い怒声が、夕日の差し込む病室に響いた。眦を引き裂き、涙で真っ赤に腫れ上がった瞳で、キッと(カン)沢を睨みつけた。
その迫力は、かつて赤壁直前に黄蓋とやらかした芝居の喧嘩のときに見せた表情に似て、それにはない鬼気迫るものがあった。その迫力に、(カン)沢は思わず倒れそうになり、なんとかふんばって見せた。
あまりの剣幕に呆気に取られた(カン)沢が周瑜の方へ向き直ると、当の周瑜は俯き、泣いていた。
「公瑾…さん」
「馬鹿なこと…言わないでよ…私はあの娘のこと、嫌いじゃない…嫌いなんかじゃない……っ」
それこそ、それまでずっと彼女が抱きつづけていた、本音なのだと(カン)沢は悟った。
それと同時に、自分はそれを知らず、彼女の心の、決して他人が土足で踏み込んではいけないところに、自分が踏み込んでしまっただろう事にも、気がついた。
でも、だからこそ聞きたかった。聞かずにはいられなかった。わざと陸遜を避ける、その理由を。
「だったら…何故」
「徳潤、もうそのくらいにしてあげて」
不意に別の声が聞こえ、此処には自分と周瑜しか居ないと思い込んでいた(カン)沢はぎょっとしてそちらを振り向いた。そこには孫権の姿がある。
前線に駐屯している周泰ならいざ知らず、いつもちょこまかと後ろについてきている谷利の姿もなく、一人でそこにいた。

512 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 21:51
「部長…どうして、ここに?」
「…ボクも公瑾さんに、ちゃんと挨拶しときたかったから。子布さんを撒くのは大変だったけど」
必死に感情を抑えようとしているみたいだったが、眼と声は嘘をつけない。その声は、今にも泣きだしそうなくらい、震えていた。
「みんなには内緒だったんだよ…」
そう言って席につくと、孫権は懐から一枚の写真を取り出した。それを手にとった(カン)沢は怪訝な表情をして孫権に問い掛けた。
「これは…」
「ボク達が毎年、赤壁島でキャンプしてるの、知ってるよね? それが今年のヤツだよ。今年は、公瑾さんが入院中だったから、これは出発前に此処で撮ったんだけど」
その写真には、やや後ろで斜に構えた孫堅と、ベッドの傍らの椅子に座る孫権と、それぞれの両サイドに、ベッドから体を起こした笑顔の周瑜を孫策ともう一人、見覚えのある狐色の髪の少女が肩を組むように、ちょっとバランスを崩した真ん中の人物を抱き寄せている。
はにかみ笑顔のその人物は…。
「これは……どうして、伯言が…それに、この娘は承淵じゃないか? 何でこのふたりが」
そう、孫姉妹が身内だけで毎年の如く敢行している赤壁島キャンプに、孫策と義姉妹の関係である周瑜はともかく、陸遜や丁奉が参加しているのは意外なことであった。
ただ孫権と仲がいいだけの理由なら、ここに谷利と周泰が居てもおかしくないが、(カン)沢はちょうどその時期に、ふたりと揚州校区近くの繁華街でよく会っていたのだ。
谷利が「キャンプにまた連れてってもらえなかった」と、会うたびに愚痴っていたのを(カン)沢はよく覚えていた。
「……去年はね、一緒に過ごしてたのよ、ふたりと。だから、仲謀ちゃんが誘ったのよ」
俯いて肩を震わせていた周瑜が、少し落ち着いたと見えてかすかに、顔を上げる。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
病院暮らしが長かったせいでやや、やせこけて見えたが、その顔はかつての美貌の面影をとどめている。
「…あの一件が子敬たちの悪戯だったってことは、合宿の後に直接、子敬から聞いたわ…そうでなかったら、少なくとも夏の間だけは、絶対あの娘と口なんか利いてやるもんか、って思ってた…我ながら、大人気ないとは、思ったけどね」
涙を拭って、周瑜はまるで、その日のことを思い返すかのように視線を中空へ投げた。目には相変わらず涙が溢れ、一言紡ぐたびに、とめどなく流れてくる。
「その次の日、だったかな。文台姉様から"今年もキャンプするぞ"って連絡があって。知っての通り、あの年は休み明けに蒼天生徒会との決戦があったでしょ? だから、最初は何とか取りやめてもらおうかと思ってた…まぁ、結局、押し切られちゃったけどね」
「……」
「次の日、だったかな。たまたま自主トレの遠泳にやってきていた承淵と出会って…そしたら、伯言ったら、途中でボートをひっくり返してね、溺れてたみたいなのよ…承淵が見つけてくれなかったら、あの娘本当に、長湖の藻屑になるトコだったわね…」
「そうだったね…たしかあゆみちゃんが、じゃれて伯言のボートをひっくり返したんだってね」
泣きながらも、周瑜は微かに微笑んだ。孫権も相槌を打つ。あゆみちゃん、というのは、一昨年のキャンプのときに赤壁島で孫権が孵した首長竜のことだ。長湖部幹部は皆その存在を知っており、誰が言い出したか、今では「長湖さん」の方がとおりがいい。(カン)沢も見た…もとい、「会った」ことがある。
「あの娘ね、ずうっと私に謝りたくて、追っかけてきたって言うの。真剣な顔してさ、泣きながらそう言うから…子敬に事の顛末を聞いてなくても、きっと許してたと思う。そのときはいつもどおり過酷で、でも賑やかで楽しいキャンプだった」
(カン)沢はこのときになってようやく、去年の夏明けに陸遜が恐ろしくやつれていたことの本当の理由を知った。
それまでは、ずっと周瑜との一件で大げさに悩みつづけてたんだろう、としか思っていなかったのだ。そのあとに紹介された丁奉はけろっとしていたが。
「そうだったよね…伯言と承淵が仲良くなったのも、あのキャンプがきっかけだったかも。それに…」
「私だってそう。でも、仲良くなって、あの娘の才能を知って、でもそれ以上にあの娘の優しいところを一杯知ったわ…だから」
そこで、聞き入っていた(カン)沢の方へ向き直った。悲痛な眼だった。
「私がリタイアするときに、あの娘に長湖の副部長になれ、なんて言えなかった…確かにあの娘の才能なら、申し分はない…だけど、あの真面目で優しい伯言に、そんな重荷を背負わせたくなかったのよっ!」

513 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 21:52
日はすっかり落ち、何時しか、病室の電灯に明かりが灯っていた。時計は、5時半を少しまわっていたので、本来ならとっくに面会時間は過ぎていたはずだ。恐らくは、孫権が入ってくる時に職員に頼み込んだか何かしたのかもしれない。
そこには少女三人を中心に、沈黙があるだけだった。いったい最後の言葉から、どのくらいの時間が経っていたのだろう。その沈黙を突き破るように、(カン)沢は心なしか重くなったような、自分の口をようやく開いた。
「そうだったんですか…」
まるで独り言のように、そう言うのが精一杯だった。彼女の聡明さは、総てを聞かずとも、その真相を完全に解き明かしていた。
陸遜のことを大切に思っていたからこそ…その才能を知りながら…自分の後継者として申し分ないと思っていたからこそ、自分と同じ道を歩ませたくなかったのだ。
おそらくは自分と魯粛の跡目についた呂蒙の末路を聞き及び、その想いを一層強くしていたのだろう。
写真に写る、この笑顔を失わせたくないと思って。
孫権は当然として、おそらくは丁奉も、このときに言い含められていたのだろう。普段丁奉が陸遜のことを「仲のいい先輩」程度にしか言っていないのが、その証拠だ。
誰もがその実力を知る周瑜が皆の前で大げさに陸遜を避けて、その才能を大仰に過小評価しておけば、そんな辛い道へ引き込ませずに済む。陸遜もそんな周瑜の優しさを知って、あえて昼行灯を演じていたのかもしれない。思い返してみれば…。
「だからこそ、荊州攻略の後、かえって伯言は沈んでいたんですね…あなたを悲しませたことを、気に病んでいたから…あなたの心に反して、自分の名を高めてしまったと思ったからこそ」
だからこそ、しつこいくらいにへりくだって、それを呂蒙の功績として称えていたのだろう。
一瞬の沈黙をおいて、周瑜も口を開いた。
「…問題は他にもあるわ…ウチの娘達は、荒くればかりだと思えば、実は目敏い娘も結構いるでしょ? 子敬とか、あなたのように」
そう言って上げた周瑜の顔は、泣き腫らしたと見えて何時もの凛とした表情は何処にもない。
「そういった人たちが、あの娘の真の才能を見抜いてしまうのが怖かった。山越の連中との折衝云々にしても、本当は見事な外交手腕だと思っていた。でも、それをあえてひどい言葉で濁したのは、辛かったわ…でも子敬の場合、私のそんなところまで見抜いていたみたい」
ありうるかもしれない、と(カン)沢は思った。彼女の考えでは、長湖部で一番の目利きは、多分魯粛であろう。
ましてや魯粛は周瑜と仲が良い。気心の知れた友人の心の機微を読むとなれば、朝飯前だろう。
「だから子敬が、自分も伯言の名前を出さない、って言ってくれた時、正直ほっとした。子布先輩に仲翔、子瑜、元歎にすら、騙せ遂せたと思ってから」
確かに、一癖も二癖もあるが、張昭や虞翻、諸葛瑾に顧雍といった連中は、人を見る目は確かである。
もし周瑜が何もしていなければ、いずれその中の誰かしらが陸遜の類稀な才能に気づき、強く推挙したかも知れない。
特に、発言力の強い(というか、言い返せるものが居ない)張昭が言い出せば、即決定事項だ。
何も起こらないままなら陸遜は、以降もうだつのあがらない長湖部のいちマネージャーとして平凡に学園生活を送り、卒業していくのかもしれない。それが、周瑜や孫権の願いでもあったのだろう。
「だから…徳潤。あなたにも黙っていて欲しいの…御願いだから…あの娘に、そんな過酷な道を歩ませないで…」
その言葉の最後は、嗚咽に霞む。縋り付くように懇願する周瑜の姿に、(カン)沢は胸が締め付けられるようになった。
できるなら、彼女の懇願を受け入れ、自分も知らん顔をしていたいと、そう思った。これが普段の平穏な長湖部における、次期副部長を決めるとか言う話であれば、(カン)沢は一も二もなく、それを受け入れたことだろう。
でも、今は違う。多くの先人達の血と汗と涙で築きあげ、以降も陸遜がその一員として過ごしていくだろう長湖部存続の危機だ。その窮地を救える者もまた、彼女しか居ないのならば…彼女が、それを望んでいることを、知っているから。
(カン)沢は、周瑜の体をそっと立て直すと、その目を見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「でも…それでも、今の長湖部には伯言の力が必要なんだと思います。あいつも言っていましたよ…あなたや他の先輩達が築き上げてきた長湖部を、失いたくないって…そのために、何も出来ない自分が悔しい…って」
「!」
「上手くいえないけど…あいつはあいつなりに、自分が何も出来ずにいる現状を、歯噛みしているんだと思いますよ…あなたや部長を、本当に大切な仲間だって…思っているから。それを、護りたいと思ってるから」
「徳潤…」
「だから…恨んでくれても構いません、公瑾さん、部長…あたしは、明日の会議で、伯言を推挙する。あの娘の決意を、無駄にしないためにも」
決意を秘めた視線が、二人の視線と交錯する。ここにいる彼女だけでなく、この場にはいない陸遜の想いさえも、その眼差しに込められているように思えた。孫権と周瑜は、一瞬視線を交わし、覚悟を決めたように頷いた。
「………………時がきた、ということかしらね。それが、あの娘の宿命だというなら」
「ボクの心も決まったよ…徳潤、キミの良いようにはからって頂戴」
悲しげに満ちた、決意の表情だった。
(カン)沢は、そんなふたりに対して、深々と一礼した。
その瞳から零れた一滴の涙は、まるで彼女の心の痛みをあらわしているかのようだった。

514 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 21:59
その翌日のこと。
会議はいまだ紛糾の様相を呈していた。先に停戦和議の為に赴いた程秉も、傅士仁・糜芳が関興によってぶちのめされる様を記録したビデオを上映しながら、劉備のドスが利いた「宣言」を聞かされたショックで寝込んでしまう始末だった。
いわゆる「文官系幹部」の中でも、肝っ玉の据わった程秉がそんな有様なのは、いかにそれが凄惨な有様だったかをよく物語っていた。和議が叶わないと言う事は、劉備の態度を鑑みれば帰順を申し入れても無駄だということと同義といっていい。
「まぁ、これで張昭大先輩お得意の"降伏ー!"は使えないわよね〜」
「聞こえてるわよ歩隲ッ! それどういう意味よ!」
「あ!い、いえ、これはただのジョークでして…」
「言って良い事と悪い事と、状況ってモンがあるでしょうが! だいったいねぇ……」
聞こえないくらいの小声で言った皮肉を聞き取られ、怒る張昭に慌てて弁明する歩隲を尻目に、それこそ誰にも聞こえないくらいか細い声で「言葉通りです」と顧雍が呟く。それを地獄耳で聞きつけた張昭は、今度は顧雍にも怒声を飛ばす。
まくし立てるうちに感情をヒートアップさせ、怒り心頭に達した張昭が歩隲と顧雍に飛び掛ろうとするに至って、流石に傍観していられなくなった諸葛瑾や陸績、虞翻等は張昭をなだめに入った。
その喧騒の外、孫権の後ろに侍立しながらその様子を困ったような苦笑いを浮かべて見ていたた谷利は、ふと、主・孫権に目をやった。
そんな喧騒さえ聞こえないかのように、孫権は俯いたままだった。
いまだ救出の目処が立ってない孫桓のこと、先にリタイアした甘寧のことなどが、彼女の心に重くのしかかって、不安で押しつぶされそうになっているのであろうか…。
孫権の悲痛に歪んだ表情と、何処か中空の一点を見つめて動かない瞳から、谷利はそんなことを考えていた。そこには、孫権第一の側近であると自負して憚らない彼女も知りえない感情があることなど、気付く筈もなく。
そのとき、不意に会議室のドアが開いた。おどろいた少女達の脳裏に、先日甘寧が入ってきたときの光景がオーバーラップする…が、そこに立っていたのは、本日大幅に遅刻してやってきた(カン)沢だった。
「なんでぇ諸君、あたしの顔になんかついてるかい?」
「なんだじゃないわよ! 貴女一体どこほっつき歩いてたのよ!?」
咎める張昭の口調は、先程からのテンションそのままに、その怒りを今度は(カン)沢に向けてきた。いつのまにか怒りの矛先が変わったことに胸をなでおろす歩隲と顧雍を他所に、その剣幕を気にした風もなく、彼女は飄々とした体を崩すことなく後ろ手に扉を閉め、部屋の中心に歩み出る。
「ヒデェなぁ子布先輩、あたしゃ一応、吉報ってヤツをお届けにきたのさ。ちょっとくらい大目に見てくれよなぁ」
「はぁ? 吉報ですって!?」
「あぁ。今もなお病床の身にありながら、部の行く末を案じて止まない公瑾大明神の有難いご神託だ」
公瑾、の名を聞いたとたん、満座の面々がお互いの顔を見合わせ、にわかに座はざわめく。俯いていた孫権がいつのまにか顔を上げ、ふたりの視線が交差する。(カン)沢は小さく頷くと、息を整えておもむろに口を開いた。
「どいつもコイツもあまりにも"人"ってヤツを見ていねぇ。確かに公瑾さんや子明とか、先日リタイアした興覇とか、こういう危難に頼りになる連中はどんどんいなくなっちまった。でも、そうして失ったものの大きさが解るくせに、残ったあたしらの中にとびっきりの大物が隠れていることに気づきもしない」
「馬鹿な事言わないで(カン)沢…それとも自分が、それに当たるとでも言うの!?」
「それこそ"馬鹿なこと"だよ。あたしがそんなんだったら、既に興覇の代わりに出撃(でて)るって」
「じゃあ貴女は…」
食って掛かる張昭を制し、孫権が割ってはいる。
「…言って、徳潤…キミの言う通り、その娘の力を用いるべき時が…来たのかもしれない」
幹部達は、その孫権の台詞に、一瞬怪訝なところを感じた。だが、真剣そのものの孫権の表情に並々ならぬ決意が現れているのを見て、先ほどの(カン)沢の発言に応えた揶揄程度のもの、と考えていた。居並ぶ幹部達の注目も集まる。(カン)沢は一度目を閉じ、一拍置いてから、口を開いた。
「それは他でもない…いま呂蒙の後釜として、臨時に陸口棟の指揮をとってる陸遜だよ」


(第三部に続く)
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ここまででようやく第二部。
何気に雪月華さまの作品のネタを引用させてもらっています…
この場をお借りして、お詫びいたします。できるなら、以降も容認していただければ…(おい

515 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 22:03
「風を継ぐ者」
-第三部 風を待った日-

一体どれほどの者か…と期待していた幹部達にとって、それはあまりに意外すぎる人物の名前だったに違いない。満座、呆気にとられて開いた口が塞がらない様子であったが、皆一様に「何を言ってるんだ、コイツは」と言う表情をしている。
ただ一人、孫権を除いては。
「なんですって!!」
「ちょっと徳潤、あんた正気なの!?」
「………………!!」
満座の沈黙が発する圧力をなんとか押しのけた張昭、歩隲、顧雍が同時に非難の声をあげる。もっとも、顧雍の声は相変わらず、聞き取れないほどだったが。
「元歎ですら、何か悪いものでも食べたの、って言いた気よ…徳潤、いくらなんでも悪い冗談は止めたほうがいいわ」
そんな諸葛瑾の一言に、顧雍は少しむくれた表情に変わる。実は顧雍は「熱でもあるの?」と言っていたのだ。その表情は、正確に聞き取ってくれ、という非難の意味合いであるらしい。
「冗談? 子瑜さんまでんなこと言うとは心外だな。冗談や酔狂でこんなこと言うかい?」
それを受けて、虞翻も続ける。
「そう聞こえたからだ。もし仮に、陸遜にそれだけの才能があったとしよう。でも、あの娘が公瑾に相手にもされてなかったことを知ってる者は多い…彼女と仲が良かった承淵ならまだしも、とてもじゃないがあそこにいる連中を統率できるとは思えない。舐められて戦う前に軍団が四分五裂が関の山だ」
「まぁ…あれはな、子敬ねぇさんや興覇にも原因があるんだけどな…それに、子明は常日頃から2つも年下の伯言を尊敬してた。陸口棟長に仕立てたのは計略のせいもあっただろうが、計略とはいえ本当にどうでもいいヤツを自分の代わりにするなんて、子明がするとも思えない」
「でも、あの娘はこんな血なまぐさいことに向かない優しい娘よ! 危険だわ!」
議論の俎上に上がった陸遜にとっては従姉妹に当たる陸績すらそんなことを言い出す。それを受けて幹部達も孫権に対し、口々に「危険だ」だとか「自殺行為はするべきでない」と声を挙げる。
その様子を見ながら頬を掻き、苛立つような仕草をしていた(カン)沢は、おもむろに息を吸い込み「やかましい!」と一喝した。
その瞬間、幹部達の口の動きは一斉に止まった。今まさに何か言おうとしていた張昭すら、それに面食らって口を噤んだほどだったので、よほどの剣幕であったことが伺えるだろう。
「危険は承知! どうせ負ければ長湖部は終わりだ! 失敗したら階級章と言わず、あたしの命もくれてやる! 満座の中で腹でも首でも、リクエストどおりにかっさばいてやるよ!」
眼をかっと見開き、物騒な宣言をしてのける(カン)沢の気迫に満座は呑まれた。いつも飄々とした(カン)沢しか知らない幹部達は、半ば呆気にとられているようにも見えた。
何しろ、普段表情の読み取り難い顧雍でさえ、それと解るくらいに目を見開いて、きょとんとした表情をしていたほどだ。
「…徳潤の言う通りだよ…どのみち、このままじゃ長湖部がなくなっちゃうだけ…」
そのやり取りを真剣な目で黙って見ていた孫権は、意を決したように言葉を紡ぐ。その顔は、真剣を通り越して既に悲痛な表情だった…だが、その真意を知るのは、この場に当人と(カン)沢しか居なかった。
孫権の顔が、不意に厳しい表情に変わる。
「ボクは、伯言に賭ける。谷利、伯言を呼んで来て…すぐにッ!」
「は、はいっ、ただ今!」
主の放つ聞きなれないトーンの声に吃驚した谷利は、矢の如く会議室を飛び出していった。
もっとも、指示通りに陸遜を伴って連れて来るまで、三回ほど帰ってきては、張昭に怒鳴られていたが。

「現時点を以って…陸遜、キミ…いえ、あなたを長湖部実働部隊の総司令官に任命します」
「…長湖部存亡の時、辞すべき理由はありません…大役、謹んでお受けいたします」
こんな日は、来て欲しくないと願っていた。
でも、荊州学区を力ずくで取り戻し、そのために呂蒙が不慮の事故でリタイアの憂き目にあったことで、陸遜自身にも何となく予感はあったのかもしれない。
前任者の魯粛、呂蒙の時の例に倣い、長湖部創始者たる孫堅が陣頭で用いた大将旗を孫権は、何処か釈然としない表情で、それでも整然と並ぶ幹部達の列の間に立つ陸遜へと手渡す。
「畏れながら、部長」
それを恭しく両手で受け取り、一礼した陸遜はそう切り出した。
「私は未だ名声無き弱輩の身…恐らくは、前線の諸将はただ私が出向いたところで容易に諾する事は無いでしょう。そして、鬼才・諸葛亮や名将・趙雲を欠くとはいえ、相手は強敵です。更なる大将の増援と、信頼できる副将を頂きたいと思います」
「承知します。副将には駱統と、既に前線に居る丁奉を命じ、部長権限において宋謙、徐盛、鮮于丹らに出陣命令を通達し、駱統以外の諸将には陸口棟にて合流の手筈としましょう。駱統、いいですね?」
「は、はいっ、畏まりました!」
幹部列の最後尾にいた、亜麻色のロングヘアーに青のリボンをあしらった、大人しめの少女が進み出て、緊張した面持ちで深々と一礼する。
その少女…駱統は綽名を公緒といい、陸遜とは同い年の親友であったが、お互いにその才能を認め尊敬し合う関係にある。早くから文理にその頭角を顕し、一年生ながら既に幹部会の末席を与えられている俊才である。
若手の中では、丁奉や朱桓の武に対して文の逸材として期待されている存在だ。温和な性格は先輩受けも良く、見た目に反して芯が強く弁も立ち、しかも合気道の達人でもある。腕っ節の強い荒くれを制するにはもってこいの人物だ。
「では以上にて、総司令官任命の式を終了とします…伯言、公緒、直ぐに出立して」

516 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 22:04
ところ変わって、陸口棟。
「何ですって? それ本当なの?」
「ええ…今通達が来ました。もうすぐ、到着するそうです」
陸遜、前線総司令の任に就く……その命令を受け、諸将は困惑の色を隠せない。
ただ一人、丁奉を除いては。
「部長も人が悪い…こんな時に新手の冗談を試さなくてもいいものを」
「あんな文学少女にこんな大役、勤まるわけないじゃん。部長も何考えてるんだか…」
仏頂面をさらに難しい顔に変える周泰、そして不満一杯の表情で毒吐く潘璋。陸遜に先立って棟の幹部室に来ていた宋謙や徐盛にとっても「とてもあの娘なんかじゃ…」というのが本音である。
長湖部に参画する数少ない文化部のひとつである軽音部のマネージャーで、賀斉の所属するビーチバレー部のマネージャーを兼任する陸遜は、経理の才能などは「そこそこできる」程度の認識はされていた。
だが当然ながら、そこからはとてもこの局面に総大将として用いるに足りる才能があるとは思われていなかった。
潘璋の揶揄も、普段から陸績と一緒に所構わず文庫小説を読み漁っている姿を目撃されていることに起因する。陸遜(と陸績)の「本の虫」ぶりはある意味では語り草になっているほどだった。
だが、丁奉だけは違う。去年赤壁島キャンプに紛れ込み、陸遜と仲良くなったことでその才覚をよく知っている彼女は、この局面をひっくり返せるだけの能力が、陸遜に備わっていることを信じて疑わない。
そのキャンプの後、周瑜にきつく言われていた彼女は、いつかうっかりそのことを話してしまった呂蒙以外にそのことを話していない。
「冗談じゃない…あの娘に止められるようなら、あたし達が既にやってるよ!」
「まぁまぁ…みんな、そこまでにしましょ。今までの印象はそうかもしれないけど、もしかした本当に何かあるのかもしれない…ここは、彼女の戦略方針を聞いてから判断しても、遅くは無いわ」
凌統をなだめ、最高学年として表面上取り繕ってみせる韓当にしてみても、不満の色は隠せない。諸将も彼女の顔を立て、渋々納得してみせたという顔つきだ。
そのことから見ても、此処での実質のまとめ役は韓当であることに間違いなく、韓当が陸遜の展望に不満を示せば、暴発は必至だろう。
しかし、丁奉はそれすらも、陸遜なら多分変えてしまえると確信していた。
恐らく、慎重な性格の陸遜なら、初めはいろいろ言われるかもしれない。その分、この戦いが終焉したときには、陸遜へ寄せる信頼や尊敬は揺ぎ無い物となるだろう。
(伯言先輩なら、きっと大丈夫…でも…本当にこれで良かったんですか?…部長、公瑾先輩…)
その一方で、丁奉はどこか、酷く寂しいモノを感じていた。
もう二度と戻らない、彼女達が願ったひとつの小さな幸せは、今ここに終わってしまったのだから。

「…という訳で、菲才ながら私、陸遜が此度の大役を任されることになりました。宜しく、御願いします」
諸将を幹部室に集め、命令文書を読み上げた陸遜は、手短にそう挨拶した。
丁奉、駱統以外の諸将の顔はなおも不満そのもの、韓当は「お手並み拝見」といった感じで、表面上は涼しい顔をしている。
「それでは、これからの戦略方針についてですが…公緒、近隣の地図を」
「はいっ、只今」
控えていた駱統が、あわただしくも手際良い動きで鞄から地図を取り出し、黒板に貼り付ける。そして陸遜の指示に従って、地図にマグネットの部隊マークを配置する。
赤のマグネットは帰宅部連合、青のマグネットは長湖部の布陣を表していた。
「現在、オウ亭を最終防衛ラインとして、既に韓当先輩が完璧な布陣を終えてくださいました。現状、この布陣において特に付け加えるべき点はございません。宋謙先輩、徐盛先輩は、それぞれ左翼、右翼の中核に配し、後は遊撃軍として、本陣に置きます」
それを聞くと、一部の者は明らかに小馬鹿にしたようにクスクスと笑った。「コイツ、やっぱりわかってないなぁ」といった感じのあからさまな嘲笑である。
「えと、お静かに。御意見がある方はお伺いします」
「では、僭越ながら一言、具申させて頂く」
座の中から、周泰が進み出た。
「先に出陣し、やむなく夷陵棟にて篭城を余儀なくされている孫桓殿と朱然殿のことだ。知っての通り、孫桓殿は部長の従姉妹であり、部長の一家の中では、もっとも部長の寵愛を受けている。その方の危難を一刻も早く救い、部長の心痛を安堵させることが重要と思われるが」
普段無口な周泰が、こうも饒舌になるのは珍しいことである。諸将も思わず、聞き入ってしまっていた。しかし陸遜は、気にした風も無く、彼女が言い終わるのを待ってから、おもむろに己の見解を述べる。
「確かに、それも重要です。しかしながら夷陵は堅牢な地であり、そこには非常食の蓄えなども十分との報告を頂いています。その上で、恐らくは若手随一の指揮能力をお持ちである孫桓さんと、実戦経験豊富な朱然さんがサポートについているのであれば、落ちる事はほぼ無いでしょう。むしろ、そこを包囲している帰宅部連合の精鋭を釘付けに出来ている意味では、現状のままにしておくのがベストです」
人物評価に誇張せず、その上で現状を踏まえた、これまた見事な答弁であった。この一言を吐いたのが周瑜や呂蒙であれば、諸将はみな感服して、大人しくその指示に従っただろう。
しかしながら、これまで歯牙にもかけていなかった一書生の意見、として諸将は見ている。ましてや、彼女等は先の敗戦の恥を雪ぐため、血気にはやる風をみせているだけに尚更であった。
「よって、現状で特に大きな変化が無い限り、我々も特に動いてみせることもありません。各員、指示があるまで防御を固めて待機といたします。軍議は、以上とします」

517 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 22:05
「馬鹿なことを!」
解散の指示を出そうとした刹那、諸将から一斉に不満の声があがる。誰も皆、満面に怒気を浮かべ、もし後ろに立てかけてある大将旗が無ければ今にも飛び掛ってきそうな勢いである。突然のこの勢いにおろおろする駱統を他所に、卓に着いたままの陸遜は、何の表情も無くそれを眺めている。
怒気を露に不満をぶちまける諸将を制し、今まで事態を静観していた韓当が進み出た。
「伯言…あえて、こう呼ばせてもらうわ」
本来なら総司令ともなれば、「都督」の尊称で呼ばなくてはならない。いくら相手が下級生といえども、例外ではないはずで、まして韓当であればそのあたりの礼儀をきちんと弁えている。
それがあえて綽名を呼び捨てるという行為に及んでいるあたり、彼女もかなり腹に据えかねているものがあるとわかる。
「ここに居るのは、皆一様に長湖部の命運を賭け、一身を顧みない覚悟でやってきている娘たちよ。ましてや私や幼平、文珪なんかは、緒戦の恥を雪ぐため、玉砕も辞さない覚悟で居る。特に計略も無く、待機せよなんて言われて、収まりがつくと思う?」
「お気持ちは解りますが先輩、良くお考えになってください。ここで私達が無策のまま玉砕覚悟で決戦を挑み、僥倖にも勝利を得ればそれで良いかもしれませんし、そのほうが簡単でしょう。しかし、敗北は破滅に直結します。こちらで我々が持ちこたえ、その間に相手の破綻を見出し、そこを突く事が出来れば一戦にして、より安全に勝利を得ることが出来ます」
「しかし、その間に劉備たちが兵を引けば?」
「ありえないことだとは思いますが、そうなればこれ以上ない幸運です」
その一言に、場はどよめく。駄目だ、コイツはといわんばかりの嘲笑もあがる。陸遜の表情は相変わらずだったが、傍に立っていた駱統と、意見の為に正面に立っていた韓当はその変化に気付いた。
何かメモを取ろうとしていたのか、持っていたボールペンが…いやその根元、陸遜の両拳が震えていた。
次の瞬間、ボールペンは派手な音を立てて真っ二つに折れ、陸遜の形相は夜叉の如く豹変した。
「お黙りなさいッ!」
卓を叩いて立ち上がり、そう叫んで凄まじい形相で睨み付ける少女の迫力の前に、呆気に取られた諸将は思わずそちらを振り向いた。普段の彼女を知るものであれば、尚更にそのギャップで固まっている。
キャンプ以来、陸遜と親しくしている丁奉も、親友である駱統も、陸遜のそんな表情を見るのは初めてのことだった。
「私は一書生の身ながら、此度大命を拝して部長に代わって貴女方に令を下す立場にあります! これ以上の"異論"に対しては、何者であろうと、この大将旗の元に処断し軍律を明らかとします!」
凛とした良く通る声と、毅然とした態度には「虎の威を借る狐」なんて形容は出て来そうにない。その迫力に不覚にも怯んだ諸将は、未だ釈然としない表情をしながら、静かに退出していった。
ただ、陸遜当人と駱統、そして韓当の三名を除いて。
机に叩きつけていた右の掌からは、既に血が滲んできていた。慌てた駱統が薬箱を取りに部屋を飛び出したところで、ようやく韓当が口を開いた。
「…あなたにも、あんな表情(かお)が出来たのね」
「……まだ何か、御用ですか?」
昂ぶった感情がいまだに収まらないのか、陸遜の表情は険しい。陸遜の警戒はまだ解けない…そう感じた韓当は、不意に表情を緩めた。
「正直、納得がいかないのは確かよ。あなたが去年の夏合宿の一件以来、公瑾に嫌われていたのを知らないわけじゃない。でも、この局面においてあえてあなたの名前が出てきたことを考えれば…公覆も徳謀も、去年の赤壁の時にあえて公瑾に歯向かってみせて大略を成し遂げたことを思い出したのよ」
「えっ…?」
「最後の最後になって、やっと私にもそのお鉢が回ってきた、と受け取るべきなのかしらね」
韓当は自分のポケットからハンカチを取り出し、彼女の右手にそれを巻いた。戸惑う陸遜だったが、彼女の真意を察して、ようやく表情を緩めた。
目の端には僅かに涙も滲んでいたが、それは掌の痛みからではない。
「…ごめんなさい、です。私みたいな娘が来たことで…」
「そんなこと、言うものじゃないわ。で、私は…何をすればいい?」
「このままで構いません。私に対して諸将が不満を抱きつづけ、先輩を中心にしてまとまりを持っている状態を見れば、劉備さんの油断を確実に誘えます。その後は…」
「…勝算は、あるのね?」
小さく頷く。その目には、己のプランに対する絶対的な自信と、確信があった。
「かつて関羽さんが使おうとした発煙筒と、"風"を使います。この時期、必ず吹いてくる、春を呼ぶ嵐を」
陸遜の告げた一言に、韓当は納得のいった表情で頷く。
「!…そういう事…解ったわ。なら私は、あなたの思惑通りに動いてみる。このことはもちろん、口外無用よね?」
「はい…ご迷惑をお掛けします」
「いいのよ。けど、本当に"来る"の?」
韓当は、当然の疑問をぶつけた。微妙なずれはあるが、この時期にもお決まりの自然現象が起こる。それが長湖部にとって、確実な"春を呼ぶもの"になるだろう。
しかし、自然というものは気まぐれである。人間の小賢しい頭でコントロールできるようなものでないことは、ウォータースポーツに勤しむ彼女等にとってはわかりきったことであるが…。
「雲の流れ、長湖の波の動きを見る限り、間違いないと思います。流石にこればかりは、孔明さんといえども手出しできないと思いますから…期日は、来月の頭」
「一週間か…永いわねぇ」
冬と春の微妙な境目にあるこの時期の、まだ多分に寒々とした色を湛える茜空を眺めながら、韓当はそう呟いた。

518 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 22:07
「陸遜? 誰や、ソイツは」
長湖部の総大将が代わった、と言う報告は、夷陵に程近い馬鞍山に仮設テントを張る帰宅部連合の本陣にも届いていた。その総大将の名を聞き、帰宅部連合総帥・劉備は首をかしげた。
この局面において、わざわざ総大将に抜擢するほどなのだから、それなりに出来た人物だとは思うのだが…幕中の帰宅部連合幹部達も、誰一人として知らないようだった。
「まぁ、だぁれも名前知らへんようなヤツなら、どうせ大したモンやないやろなぁ」
「そんなことありません! 孫権さんは、思い切った人選をしてきたようです」
本陣の大きなテントの幕を開けて飛び込んできたのは、南郡の実力者達の調略に動いていた馬良であった。
「お、季常やんか。いつ戻ったん?」
「たった今です。長湖の司令官が代わったと聞いて、慌てて戻ってきたんですが」
「へぇ…あんたが慌てるくらいなら、相当なモンなんやろな。でも、まったくそんな名前、聞いたことあらへんけど」
「確かに陸遜さんは、今までは長湖部のいちマネージャーでしかありませんでした。どういう経緯からかは存じませんが、周瑜さんからは随分と嫌われていたようです。そのために、あまり重用はされなかったそうですが」
「ふ〜ん…あ、そや思い出した。もしかして、ウチが長湖部に遊び行ったとき、そんな名前のヤツが公瑾はんの傍をウロチョロしとったかも知れへん。確か…こんな感じの娘やなかったかな?」
劉備ははっと思い出したように、手を打った。周瑜の謀略で長湖部に招待されたときに見た、周瑜に睨まれて退散していた気の弱そうな少女の顔が、彼女の脳裏に浮かんだ。
置いてあった紙の裏に、彼女が3年間の同人生活で培った画力は、そこに正確な陸遜の似顔絵を描いていく。それを見た馬良は、何時もながらの劉備の腕に感服し、頷いた。
「ええ、その娘です。私が江陵で面会した人相と一致します」
「そないなヤツなら、尚更大したこっちゃないんやないか?」
「いいえ、早くから山越高校との折衝術において長湖幹部でも彼女に一目置くものは多いです。そして何より、呂蒙さんは彼女の才覚を見抜き、実は荊州学区攻略の際の戦略は呂蒙さんの立案というより、陸遜さんの知嚢から出たものといっても、決して過言ではないのです。私にとっても、不覚でした」
「なんやて…!」
いままで軽く聞き流していた劉備だったが、それを聞いたとたんに、わずかに眦を吊り上げた。
「せや何か、その陸遜こそが、関さん追い落とした真犯人とちゃうねんか!?」
「そう考えても、宜しいかも知れません」
「何で早よそれを言わんのや! せやったら、即座に出てヒネリ潰したるモンを…」
「それは早計です。彼女の才能は、決して周瑜さん、呂蒙さんに劣りません…いえむしろ、この二人以上の強敵です。軽々しく出ては…」
「ふん! いくら能力がおっても、実際他の連中に舐められて、統率出来てへんゆうやないか。そんなん恐れるに足らんわい!」
興奮して息巻く劉備の姿に、もはや馬良にも止めるべき言葉が出てこない。劉備は今までの経験からしっかり相手の陣に間諜を放っており、敵陣の様子をうかがわせていたようだが、今回はそれが見事に裏目に出ているようだった。
その翌日、劉備の号令の元、先陣は長湖部の先陣近くまで移動した。しかし、相手の陣があまりにも静か過ぎ、挑発にも乗ってこない。流石の劉備も、相手の異常な静けさに不気味なモノを感じたらしい。
「ち…そっちがそのつもりなら、こっちも持久戦や。思いっきり威圧してくれて、ビビッて出てきたところを粉砕してやろやないか…!」
しかし、長湖部の陣はまったく動きを見せない。いや、正確には周泰、潘璋などといった血の気の多い連中が、時折陸遜のもとへ駆け込んで、ひと悶着起こしているという報告が入ってきている。
それにすっかり安心したのか、劉備は諸将の言葉を容れ、まだ春の遠いことを示す冷たい風を避ける場所へ陣を動かすことを許可した。
なんとも言えぬ不安を抱いた馬良は、たまらず劉備に進言した。
「今の陣立てにしてしまっては、敵に何かしらの計があった場合反応が鈍くなるのでは?」
「敵も寒いんは一緒や。せやったらこっちはそれをなるべく避け、鋭気を養おってコトや」
「それも一理ありますが…なにか嫌な予感がしてなりません。今、孔明さんが漢中アスレチックに出張ってきているそうなので、現状に対する意見を聞いておこうと思うのですが」
劉備はふっと、溜め息をついた。
「心配性やな、季常は。まぁええわ、孔明が近くにおるなら、近況を教えてやっといてもええかもな」
「ありがとうございます」
一例をして退出した馬良は、地図に敵味方の陣立てを書き込み、なにやら一筆したためるとそれ一式を封筒に詰め、呼びつけた少女にそれを手渡した。
「一刻も早く、孔明に届けて。なんだか嫌な予感がする」
「はい」
そのやり取りは、まさに陸遜が決行を予言した、その当日の出来事であった。
風はないが、雲の流れは速い。同じ空を陸口の空から眺めていた陸遜は、力強く頷いた。
「公緒、皆を呼んで。かねてからの計画を実行にうつす時が来たわ」
傍らの駱統に振り向いたその表情は、自信に満ちながらも、微塵の油断もない。長湖部の命運を背負って立つ、総大将としての威厳が、そこにあった。

519 名前:海月 亮:2004/12/20(月) 22:13
なんだかミョーな歌を大音響でたれ流しながら、漢中アスレチックの管理人棟の一室にソイツはいた。
目鼻の整った顔、軽くウェーブのかかったセミロングの髪、そして白衣をまとった上からでもわかる、高校生離れしたプロポーション。
黙ってさえいればほとんどの人間が「美人」と呼ぶだろうその人は、しかして蒼天学園"最凶"の名をほしいままにする奇人、帰宅部連合ナンバー2の鬼才・諸葛亮、綽名を孔明である。
彼女の趣味でその部屋に取り付けられた、部屋の殺風景さから見るとどう考えても不似合いな、豪華なダブル・ベッドに寝転びながら、その脇に山と積まれたアニメ雑誌、ゲーム雑誌の類を貪るように読んでいた。
恐らくは、次のイベントで描く同人誌のネタを、そこから探しているのだろう。既存の人気作品にこだわらず、常に新しいところから読者のニーズに応える作品を生み出す…これが、彼女や劉備のポリシーでもある…と、考えているのは恐らく当人だけではなかろうか。
そんな彼女の一時をぶち壊しにしたのは、前線からやってきた一通の封筒だった。
「ふむふむ、これはまいすてでぃ・季常からのラブレターというわけだな。我輩との関係であれば、メールのひとつでも事足りるというのに…」
やれやれ、と肩を竦めて、少女から封筒を受け取る。先ずは、手紙に目を通す。手紙にいわく。
 長湖部の総大将は陸遜が抜擢されている。
 長湖諸将は弱輩の彼女を侮っており、我が総帥以下殆どの者がまるで無警戒の状態だ。
 恐らくは、これこそが彼女の狙いだと思われる。
 乞う、総帥は君の忠告にならば耳を貸すかもしれない。
 あわせて、敵味方の現状の陣図も送る。
そのとき、諸葛亮の顔が一変する。封筒から乱暴に地図を引っ張り出し、広げ…
「……何よ、これ…っ」
諸葛亮の顔が、これとわかるくらいに青ざめた。
「マズい、これはマズすぎる! 一体何処のどいつよ、こんな陣立て献策した大馬鹿は!」
「え?…えっとこれは、総帥自らのご立案で…」
その言葉を聞いていたのかいないのか、諸葛亮は窓から劉備たちのいるあたりを眺めた。雲の流れが速い。その向きを見れば、長湖部の陣から劉備たちのいる陣に向けて流れている。その顔は何時になく真面目で、悲嘆の色が伺える。
「これでは…あぁ、我等の大望も、此処までなのかもしれない」
「え…あの、孔明さん…どうしてそんなコトを仰るんですか? 見たところ、相手は与し易く…」
「そこが大問題なのよ。私が長湖部に遊びに行ってたとき、あの娘に直に会って、その人となりはよく知ってるわ…確かに彼女は一見周瑜に詰られるだけのつまんない娘に見える…けど、あれは多分見せかけだわ。あの娘が山越折衝で開花させた能力は本物よ」
先程の諸葛亮の絶叫を耳にしたのか、彼女にくっついて漢中に来ていた楊儀が口をはさむ。
「あたしにはそんな、大騒ぎするような娘には思えませんけどねぇ…荊州の一件だって、ほとんどは呂蒙の手柄でしょ?」
「理由は知らないけど、そう見せかけているだけよ。あの娘はもう多分、行動を開始している。恐らくは一部の連中が陸遜の考えを読み取って、あえて陣内に不和を掻き立てているかもしれない。それに、この陣立て、相手がこれから来る"モノ"を戦略に練りこんでいたなら、多分一人として無事に戻ってこれない…今から止めに行っても、多分手遅れだわ」
そこまで言われて、楊儀も気付いた。
「まさか…今年の春一番」
「それに雲長さんが緊急連絡用に残した大量の発煙筒…多分、気づいてるでしょうね」
かつて関羽が荊州学区に君臨していた頃、彼女は陸口に詰めていた呂蒙の侵攻を警戒し、狼煙による連絡網を完備していた。その設備がそっくり、長湖部に接収されていることは、想像に難くない。
それに発煙筒の使い道は、連絡のためだけではない。数が集まれば、立派な目くらましになる。長湖部は風上から風下に攻めれば煙の影響を受けにくいので、有利になるのだ。
そこまでいわれ、連絡係を仰せつかった少女は、ようやく事の重大さに気付いた。
「…そんな…じゃあもし、私が戻ったときに本陣が崩れていたら」
「戻る必要はないわ…多分、今から戻っても無駄。あなたはすぐに江州棟の子龍のトコへいって、玄徳様を迎えに行くように指示して」
「で、でも、相手がそこまで追って来たら」
「大丈夫。多分、それ以上は踏み込んでこれない…それどころか、上手くいけば頭痛の種がひとつ消える」
「え? どうして?」
妙に確信に満ちた顔で、諸葛亮は笑みを浮かべる。その顔には、いつのまにか普段の表情が戻り…そしていかにも絵に描いたような、悪代官の笑みを浮かべていた。
「そのときが来れば解る…ニヤソ」
釈然としない少女だったが、不意にまた真面目な顔に戻った諸葛亮に命令書を託され、少女は自転車に飛び乗ると江州棟を目指した。日は大きく西に傾いている。
ふと、劉備の陣の方向を見ると、うっすらと黒煙があがっているのが見える。事態の異常さを再確認した少女は、自転車をこぐスピードをあげていた。皮肉なことに、吹き始めた強烈な春一番が、彼女の助けとなった。

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ここまでが、現時点で推敲が終わった部分です。六部構成の前半部分が丁度終わってますね。
何気にここから玉川様の「春の嵐」へ読み継いで貰った方が無難かも…

実は三部の主役は、陸遜と見せかけて韓当とかいうウワサ(w

520 名前:北畠蒼陽:2005/01/21(金) 21:30
-覇者と英雄(1/4)-

「あら、おいしい」
袁紹が少し驚いたように箸を止めた。
世界有数の名門、袁ファミリーお抱えの料理人の手によるものである。不味いわけがない。ないのだが……
「なかなか上質の和牛が手に入りましたもので……」
慇懃に料理人が頭を下げる。
袁ファミリーの厨房を預かる人間をして『上質』と言わしめるその素材の味はいかばかりか。
もちろん値段も庶民的なものではないであろう。
「ふ、ん」
袁紹は少し感心したように皿の上の料理を見た。
料理人のセンスをうかがわせる上品なもりつけに袁紹好みの薄味。
不意に袁紹は箸を置いて立ち上がった。
「え、袁紹様。なにかお気に召さないことでも……?」
狼狽する料理人に袁紹は大輪の笑顔を見せる。
「その逆。すごくおいしい。すごくおいしいから……」
袁紹は言葉を切り、傍らに控える張コウに声をかけた。
「車を出してちょうだい。曹操にこれを食べさせてやりたくなったから」

曹操と袁紹が対立を始めて久しい。
学園最大手新聞『蒼天通信』を掌握した曹操と冀州校区の覇者でありまさに最強の勢力を誇る袁紹。
その対立こそ学園の事実上の最高峰へと登る道であった。

521 名前:北畠蒼陽:2005/01/21(金) 21:31
-覇者と英雄(2/4)-

「も、孟徳ッ!」
「……う、にゃあ!?」
夢の中で泣きながら電子レンジの塩焼きを食べることを強制されていた曹操はその慌てたような声に叩き起こされた。
時計を見る。
……布団にはいってから1時間ほどである。
曹操は恨めしげに自分を叩き起こした隻眼の少女……夏侯惇にいった。
「いい夢見てたのに……それに寝てから1時間って起こされると一番つらいんだけど……」
本当に『いい夢』だったのかはよく思い出せないが。
「ばッ……! それどころじゃない! 袁紹が今、本陣のすぐそばまでやってきてるんだッ!」
「……ふぇ?」
曹操はぼ〜っと瞬きをした。

「久しぶり」
夜闇を照らす月明かりの中の袁紹の笑顔に曹操は苦笑する。
袁紹が今、いるのは自分の陣の前だ。
今、自分が『かかれ』と一言言えばいかに袁紹といえどもひとたまりもないだろう。
現に曹操側の面々は曹操のその『ヒトコト』を待ってじりじりしている様子が見て取れる。
今は敵味方に別れてはいるが曹操と袁紹は幼馴染だった。袁紹のその口調はまったくその当時のままだった。
今のこんな現状でも昔のままでいる袁紹を曹操はほんのちょっとだけすごいと思った。
「今日はうちの料理人がいい素材、手に入れたんでね。おすそ分け」
曹操は不審を顔に浮かべた。
「まさか電子レンジ?」
「……は?」
「いや、なんでもない。忘れて」
袁紹はなにを言っているのかわからない、という顔をしばらくしていたがすぐに肩をすくめてぱちん、と指を鳴らす。
曹操側の面々が『おぉ〜』と控えめな歓声を上げた。
「おすそ分け……昔はよくやったでしょ」
袁紹はくすり、と笑う。

522 名前:北畠蒼陽:2005/01/21(金) 21:32
-覇者と英雄(3/4)-

運び込まれる肉の塊をちら、と横目で見て曹操は袁紹になんとなく、の疑問をぶつけた。
「袁紹は私が憎くないの?」
月が雲に隠れ、完全な闇があたりを包み込む。
一瞬の無言。
そして……
「……ぷっ」
袁紹の吹き出すような声。
「なッ……まじめに聞いたんだぞー!」
「ごめんごめん」
そう言いながらも袁紹はおかしそうに目じりをぬぐいながら……
「バカね、孟徳。あなたのことが憎いわけなんかない」

曹操はその言葉に衝撃を受けたように黙り込む。
その様子に気付いているのか気付いていないのか、袁紹は微笑みながら言葉を継いだ。
「私は次期蒼天会長になる。そして孟徳、あなたは私が誤ったらそれを正しい方向へと導く大事な人間。憎むはずがないじゃない」
「じゃあ……今は……」
呆然と声を震わせながら曹操が問いを口に乗せる。
「そうね……」
袁紹が少し考えこみ……そして悪戯っぽく微笑んだ。
「かわいい部下との武力を使ったレクリエーション、ってところかしら」
曹操は完全に黙り込んだ。
そして袁紹がその場を立ち去るまで身動き一つしなかった。

523 名前:北畠蒼陽:2005/01/21(金) 21:35
-覇者と英雄(4/4)-

曹操は夜闇の中、立ち尽くす。
「孟徳……夜風は体に悪い。風邪を引くぞ」
夏侯惇の言葉に……曹操は火がついたように……
苛烈に地団太を踏んだ。
「う、うああああああああッ!」
獣のような声を上げ、あたりかまわず殴りつけようとする曹操を……
「やめろ、孟徳!」
少し驚いたように、しかし慌てずに夏侯惇が曹操を背中から抱きすくめ止める。
曹操は……人目をはばからずに泣いていた。
泣き、わめいても発散できないストレスを押さえつけるように暴れた。
「元譲……私、いったん許に帰るから……蒼天会長にいろいろ報告もあるし」
曹操は夏侯惇に抱きかかえられたまましゃくりあげながらそれでもしっかりと言葉を刻んだ。
「再び私がカントに帰ってきたとき、本初お姉ちゃんを全力でつぶす」

「袁紹様、よかったのですか?」
張コウが車内で袁紹に声をかけた。
袁紹は、曹操とあったことで明らかに憔悴していた。
(無理もない)
張コウは心の中でそう思う。
袁紹が生まれついての『覇者』なら曹操も生まれついての『英雄』だ。
むしろあの曹操を相手に内心はともかくまったく表情を変えなかった自分の主君を誇りに思った。
「……張コウ」
袁紹は目を閉じながらがぐったりと口を開く。
「私は孟徳との勝負に勝つかもしれない。負けるかもしれない」
張コウが口を開こうとするのを手で制し、袁紹はそのまま言葉を紡ぐ。
「もし私が負けたら蒼天学園は孟徳のものよ……でも長湖部をはじめとしてまだまだたくさん敵はいる」
張コウは黙って袁紹の言葉を聴く。
「あなたは顔良、文醜すらがリタイアしたこの戦いで生き残っている。これからも生き残りなさい。そして孟徳軍の要になりなさい」
目を閉じ、月明かりに身を任す。
張コウはその主君の横顔を見つめ、そしてハンドルを握りなおした。

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というわけではじめてこういう形式のbbsにカキコして、しかもはじめてのSS投稿です。
泣きそうです。泣きませんけど(ぇー
大目に見ながら宍道湖くらい広い気持ち(中途半端)で読んでやってください。
お目汚し失礼いたしました。

524 名前:★惟新:2005/01/26(水) 07:34
むしろ田沢湖並の深さでキュンキュンしてしまいました(;´Д`)ハァハァ
軽妙な流れの中、グッと引き締まる、宿敵となった幼馴染同士!
二人とも優れていればこその複雑な心境…くぅ!
それにしても袁紹さまの大物っぷりにやられました〜(=´∇`=)

525 名前:北畠蒼陽:2005/01/26(水) 14:49
>惟新様
ぇ〜、こんなモノに過大な評価、光栄の至りです。
またなんか思いついたら投下しますねー。

526 名前:北畠蒼陽:2005/01/26(水) 23:16
-或る少女の最後の日-

「うふふっふ〜♪」
少女はうかれていた。
子供の頃からずっといじめられてきた自分が今、この場に立っていることが信じられなかった。
自分は一生、地虫のようにはいつくばって生きていかなければならないのだと思っていた。
それが……
今の状態はどうだ!
これだけの戦功を打ちたて!
あの才能の塊のような少女を出し抜いた!
この自分が、だ!
それがなによりも嬉しく、だからこそ少女は有頂天になっていた。
「や、やっと荊州校区に錦が飾れるかな」
少女の名前は昜士載。漢中アスレチック攻略戦の最大の功労者であり……

……そしてこれから悲惨な末路をたどる、そんな少女。

「おきろ、田舎モノ」
「……へ?」
いつの間にか寝入ってしまったのだろう、昜を起こしたのは冷たい声だった。
「え……? 鍾会、さん?」
冷たく自分を見下ろすその少女と少女が引き連れる部下たちに周りを囲まれている状況に昜は目を白黒させた。
鐘会士季。
生徒会の大功労者、鍾ヨウ元常の実の妹にして生徒会の次代を担う、と期待される逸材。
子供の頃からずっといじめられてきた昜とは正反対の陽光のあたる場所をずっと歩いてきた才能の塊。
そしてともに漢中アスレチック攻略戦を任された戦友……

だったはずだった……

パシッ!
鋭い音が室内に響く。
昜はなにが起こったのか理解できないような顔をする。
事実、彼女にはなにが起こったのかわからなかった。
いや、なにが起こったのかはわかったがなぜそうなったのかがわからなかった。
鐘会が昜の頬を打ったのだ。
「え……あ、え? 鐘会、さん?」
「うるさいぞ、田舎モノ。私の名前を呼ぶな、汚らわしい」
鐘会の冷たい言葉に昜は魂が抜けたように黙り込む。
なぜこんなことになったのか……
少なくとも攻略に挑む前はこんなことは言われなかった。
昜の言葉も認めてくれたし、だから昜も彼女のことが嫌いではなかった。
なのに、なぜ……
「昜士載、生徒会からの辞令だ。あんたのどもりはうざいから階級章剥奪とする」
鐘会が昜の目の前に紙を突きつける。
確かにそれは昜の階級章剥奪の辞令だった。
もっとも反乱を企てたことによる命令であり、決してどもりが理由ではなかったが。
「そ、そ、そんなこと考えてません! 鐘会さん、お、お願いです! 生徒会に抗弁の機会をください!」
しかし鐘会はその昜を鼻で笑う。

「バカか、あんたは。抗弁なんかさせたらあんたが反乱を企ててないことがばれるだろうが」
なにを言われたのかわからなかった。
わかりたくなかったのかもしれない。
「い、今、なんと……?」
「田舎モノは理解も遅いなぁ」
鐘会が酷薄な笑みを浮かべる。
普段は小悪魔的な少女であるだけに凄みがある。
「つまり、ね」
鐘会が昜の階級章に指をかけながら優しく諭すように言う。
「私よりも才能のある人間は許さない!」
昜はもう疲れたような表情をして鐘会のほうを見ることしか出来なかった。
「鐘会さん、わ、私は……あなたのこと、ダイスキだったんですよ……」
「奇遇ね、昜。私もあなたのこと好きだったわ。この漢中アスレチックであなたがそんな煌くものをひけらかさなければもっと好きでいられたのにね」
ぴっ……
音を立てて昜の胸から階級章がはずされた。

-------------------------------------------------------
完全に救われない話を書いてみました。
いや、鐘会・イン・ザ・ダークはこんな感じじゃないかな〜、と。
鐘会ファンのみなさん、ごめんなさい ><
でも頭の中で考えてた段階では昜のこと足蹴にしてたんです ><

527 名前:海月 亮:2005/01/26(水) 23:58
>北畠蒼陽様
お初にお目にかかります、半年ほど前から入り浸って、このサイトで狼藉の限りを尽くしている海月という者です。
考えてみれば1/20の時点で、SSスレに最期の投稿やらかしてたのは私だったから、本来は私が一番最初に気づいていなければいけなかったとか何とか…
_| ̄|○無礼の段、何卒お許しを。

っと、昜&鍾会ですな。
私めも鍾会なら他人を足蹴にすることくらいなんとも思ってないとは思ってましたが…。
救われないなぁ…昜。

さすれば私めもひとつ。祭のテンションを引きずる形で、長湖部・東興戦役SSを放り込んでおきますね。

528 名前:海月 亮:2005/01/27(木) 00:00
-東興・冬の陣-(1)

「左回廊、弾幕薄いよ! 何やってんの!」
トランシーバーを左手に、蒼天学園公認のモデルガンを右手に、長身の少女が檄を飛ばす。
小さなお下げを作った黒髪を振り乱しながら、窓の外へモデルガンを乱射しつつ指示を飛ばすその少女の名は留略という。長湖水泳部の現部長・留賛の妹である。
長湖部次期部長選抜に伴う内輪もめ…後に「二宮の変」と呼ばれる事件を経て、孫権が引退した直後の混乱を突いた蒼天会の大侵攻作戦が実行に移されたのだ。それを、前線基地である東興棟で留略と、先に引退した全Nの妹・全端がその猛攻を食い止めている状態だ。
その形式は、蒼天会お得意のサバイバルゲーム形式。数だけでなく、その形式では戦闘経験も武器の質も勝る蒼天会にとって有利であったが、それでも留略達は地の利を活かしてぎりぎりで食い止めていた。
「主将! 向こうのほうが火力も上です! もう保ちませんよぅ!」
「泣き言なんて聞きたかないね! なんとかおしッ!」
隣りの少女の泣きそうな叫び声に叱咤を返し、空いた手にモデルガンをもう一丁構えた留略はそれも眼下の敵軍に打ち込んでいく。
留略とて不安でないわけではない。何しろ、ここを取り囲んでいる大軍とて、相手の先手に過ぎない。その背後には、名将で知られる諸葛誕の率いる第二陣が控えている。同時に南郡も王昶を総大将とする軍の大攻勢を受けており、近隣からの応援は期待できそうにない。
援軍として進発した長湖副部長・諸葛恪や水泳部副部長・丁奉らの到着が遅れたら…最悪のシナリオを頭から振り払うかのように、留略は叫んだ。
「皆ッ、元遜さん達が来るまでの辛抱だ! ここが踏ん張り所だよっ!」
不利な戦線を懸命に守り抜こうとする少女達への激励は、何よりもむしろ、挫けそうな自分に対する叱咤のようにも聞こえていたに違いない。
(正明姉さん…承淵…御願いだから早く来てぇ〜!)
それが偽らざる、今の留略の本心である。

「奇襲をかけろ、と?」
「ええ」
出陣を目前にして、総大将・諸葛恪に意見する少女が一人。狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女は、長湖部の最高実力者であるクセ毛の少女に、臆面も無く告げた。
「確かにあなたの威名は、蒼天会にもよく知られています。さらに王昶、胡遵らの輩はあなたに及ばず、あなたの親戚の諸葛誕さんも、才覚としてはあなたに一歩譲るところがあり、良く対抗できるものはいないでしょう」
少女の言葉に、諸葛恪は思わず顔を綻ばせた。諸葛恪というこの少女、確かに智謀機略に優れ、長湖部にも右に出るものが無いほどの天才である。しかし、やや性格に難があり、自信過剰で不遜な一面がある。
少女は諸葛恪のそうした性格を良く熟知しているらしく、先ずはその顔を立てて見せ、そしておもむろに思うところを述べた。
「しかしながら、相手は許昌、洛陽に詰めているほぼ全軍とも言える大軍を投入しています。負けることは無くとも、相当の苦戦は免れません。ここは機先を制し、我々の威を示すことが、戦略の妙かと思われます」
「ふふ…その言葉、尤もだわ。ならばあなた達水泳部員に先鋒軍を任せるわ。存分にやって頂戴、承淵」
「畏まりました」
上機嫌の諸葛恪の言葉に、恭しく礼をすると、その少女…丁奉は、本営のテントを退出した。
すると、そこには松葉杖をついたセミロングの少女が待っていた。
「承淵、首尾はどう?」
「バッチリですよ。季文にも教えて下さい、すぐに出ますよ正明部長」
「流石だわ」
にっと笑って見せる丁奉に、セミロングの少女…現水泳部長・留賛も笑顔で返した。
「で、先輩にも御願いがあります。あたしは集めた決死隊の連中引き連れて先に行くので、他の娘達と一緒に後で来て下さい」
「ちょ…どういう事よ?」
留賛はその言葉にちょっと気分を害した様子だった。
留賛はかつて初等部にいた頃、黄巾党の反乱に巻き込まれ、反抗的な態度をとった見せしめとして片足に大怪我を負い、後遺症で今でも杖無しで歩くことはままならない。それゆえ、水泳に青春をかけたことで知られている。
そのことを馬鹿にされたと思ったのだろう。しかし、
「いえ、あたしが先行して敵の目を惹きつけます。その間に、先輩達には蒼天会の連中が作り始めてる浮橋を始末して頂きたいと思いまして。アレを壊せば、勝敗の帰趨は決まると思いますから」
留賛はつまらない邪推をしたことに気付き、それを恥じた。だが、それでもなお、納得のいかない表情で、
「あ…で、でもアンタの子飼いだけじゃ、いくらなんでも兵力差があり過ぎるわ…危険よ」
「相手の先鋒は韓綜だって聞きました。アイツなら、寡兵で行けば相手にもしませんよ。その隙を突けばいくらでも時間は稼げます。任せといて下さいよ!」
自身満々の表情で言う少女に、その少女の経歴を知らないものなら危ぶんで止めに入るところである。
しかし、留賛は知っている。目の前の少女は、高校二年生にして、既に課外活動五年目に入ろうというベテラン中のベテランであるということを。
「ん…解った。妹のこと、宜しくね」
「はい!」
留賛がその肩に手を置いてやると、その小柄な少女は元気のいい笑顔で応えた。

529 名前:海月 亮:2005/01/27(木) 00:01
-東興・冬の陣-(2)

そのやり取りから三十分ほど後、丁奉率いる奇襲部隊は、東興棟を対岸に臨む地点へ到達した。遠目に、未だ東興守備を任された少女達の奮戦も見て取れる。
「間に合ったみたいです、主将!」
「お〜、流石は略ちゃんだよ〜。頑張ってるわね〜」
三十に満たない人数の先頭に立ち、丁奉は感心したようにそう言った。
「感心してる場合じゃないですよ主将。それに、この人数で奇襲をかけるってもどうするつもりなんですか? 向こう、少なく見積もってもうち等の十倍は居ますよ?」
彼女達長湖部員が本陣を置く揚州学区では、校舎の棟と棟の間は幾つものクリークに分断されており、普段の移動には船やボートを利用するのが普通である。
まぁ中には、泳いで棟移動するツワモノもいるにはいるのだが…今は二月である。はっきり言って、この時期の渡河は命がけだ。この先遣隊を率いる丁奉も、かつてこの時期の渡河で死にかけた事があった。
だが…
「決まってるじゃん、泳いで渡るんだよ」
「うげ……………やっぱり」
あっけらかんと言い放つ丁奉に、少女達はげんなりした様子でうなだれた。
「ボートなんかで渡ったら狙い撃ちだからね〜、水の中なら治外法権よ?」
「いや、それはそうですけど…主将アンタ、いっぺん死にかけたこと忘れたんですか?」
そう言った少女も、又聞きの話なので大袈裟な表現ではなかったか、とも思っていた。だが、冬だけは熱帯から寒帯に気候が激変する長湖周辺である。
現に今、気温は10℃を割っている。水に入ったときはいいとして、上がった途端に地獄を見るのは容易に想像できた。
「あのときはあのときだよ。それに何のために、下に水着着て来てって言ったと思ってるの? まさか、気合入れるためとかそんなことだと思ってた?」
いや、むしろそうであって欲しかった…それが少女達の正直な感想だった。
うなだれる少女達を見て、丁奉は怒気を露に言い放った。
「こうしている間にも略ちゃん達は追い詰められてるんだよ!? 皆だってあの娘を助ける為に決死隊に参加したんじゃない! …もういいよっ、あたし一人で行くから!」
言うが早いかジャージの上下を脱ぎ捨て、いわゆる"競スク"一枚になった彼女は、傍らの少女から愛用の大木刀を引っ手繰ると、凍るような河へ飛び込み対岸へ向けて泳ぎ始めた。
「あ〜あ、行っちゃったよ…どうする?」
「どうするも何も、主将一人で行かせる訳にもいかないでしょうが」
「仕方ないなぁ…あたし達も行くよ、主将に遅れるな!」
主将の姿を眺め、少女達も意を決したように頷くと、各々ジャージを脱ぎ捨て水着一枚になると、次々と獲物を手に河へと飛び込んでいった。

その頃、対岸では…
「主将、対岸に敵の応援部隊が現れました! 数はおよそ三十!」
「…は?」
その報告に、寄せ手の先鋒を任された韓綜は首を傾げた。
この韓綜、長湖部の立ち上げからその重鎮として名を馳せた烈女・韓当の実の妹であり、元々は彼女も長湖部の幹部候補として優遇されていた少女である。
だが、生真面目で礼儀正しい人格者の姉と異なり、この妹は放蕩に耽り品行も悪く、自分を常にかばってくれた姉の引退後、わが身に危険を感じて蒼天会に寝返りを打ち、以来隣接する長湖部の勢力範囲内で散々悪行を重ねていた。それゆえ、前部長・孫権を筆頭とする長湖部員全員から恨みを買っていた。
「うちらの十分の一にも満たないわね…てゆーか、どうやって渡ってくるつもりかしら?」
「えっと…物見の報告では、何でも河に次々飛び込んでるらしいんですよ」
「マジ? ……あ、ホントだ」
韓綜は双眼鏡を手にとると、その光景を確認して唖然とした。そして、心底呆れたように、
「どうしようもないアホも居るモンねぇ。冬の長湖で寒中水泳なんて、正気の沙汰じゃないわね」
「どうします主将? もし泳ぎ着けば、ここを強襲されそうですが…」
「…放っといていいんじゃない? あんな自殺行為して、もしここまで辿り着いてもマトモに動けないでしょうし…来たところで数も少ないし、せいぜい好きにやらせときなさいな」
「それもそうですね」
そうやって取り巻きと時々その様子を眺めては嘲笑し、その姿が水面から消えると、その侮蔑の笑い声はさらに大きくなった。
韓綜以下、これが命取りになろうとは、誰も想像できなかったに違いない。

530 名前:海月 亮:2005/01/27(木) 00:03
-東興・冬の陣-(3)

対岸からここまでゆうに300メートルある。先に報告が入ってから僅か3分で、丁奉率いる先遣隊は韓綜のいる辺りに上陸を果たした。
対岸まで数十メートルというところで少女達はわざと水中に身を隠し、その恐るべき肺活量でまったく水面へ顔を出すことなく、残りを泳ぎきったのだ。
「ぷはっ…よ〜し、到着〜」
丁奉の能天気な声とともに、冷たい河の流れの中で潜泳を敢行した少女達が、一度に顔を出した。
その水音に驚いた韓綜達を尻目に、一番に河から上がった丁奉は、唖然とした蒼天会軍の少女達の目の前で、まるで子犬のように顔を震わせると、満面の笑顔で小さく手を振りながら、
「は〜い、お元気ぃ?」
と、やってみせた。目の前の少女達は、呆気に取られてぽかんとそれを眺めていた。
「う、ノリ悪いなぁ…挨拶は?」
「駄目ですよ主将〜、韓綜程度のバカにそんなユーモア通じませんって」
「そ、そ。コイツ等、オツムの血の巡り悪いから」
「むぅ…それもそうか」
続々と泳ぎ着いた少女達が、ちょっとむっとした丁奉にそんなことを言った。
「…はッ! て、敵しゅ…」
「遅いッ!」
正気に戻ったが早いか、少女は叫ぼうとした。その刹那の間に、木刀を構えた丁奉が駆け抜けざまに次々と少女達を打ち据え、昏倒させていく。
北辰一刀流の極意、"仏捨刀"である。
夷陵回廊戦で垣間見せた見様見真似の剣技は、その後に水泳の片手間に入門した剣術道場での修行の成果があって、二年経った現在では見違えるほど洗練されていた。
「皆、主将に続けッ! 寒けりゃその分動き回りゃいいんだよっ!」
「応よ!」
丘へ上がってきた少女達も、獲物を手に取り、四方八方の敵を打ち崩していく。蒼天会先鋒軍は、瞬く間に恐慌を来たし、大混乱に陥った。
そして、恐怖にかられ逃げようとする韓綜の前に、丁奉が立ちふさがった。
「あなただけは許さないから…覚悟しろ、この裏切り者ッ!」
「く、くそッ! 承淵の分際でぇ!」
「あなた如きに分際呼ばわりされる義理はないわよッ!」
丁奉は韓綜の繰り出した一撃を無造作に弾き飛ばすと、先ず肩口に強烈な一撃を見舞う。さらに間髪入れず、逆風に放たれた太刀を左脇腹に叩き込むと、韓綜は呻き声を上げることなくその場に崩れ落ちた。

蒼天会の軍勢をあらかた追い散らし、戦況も落ち着いてきたその時。
「…あ、お〜い、正明せんぱ〜いっ!」
ノーテンキな笑顔でぶんぶんと手を振る丁奉の姿を認めた留賛は、一瞬呆気に取られた。と同時に、丁奉が何を仕出かしたかを理解した。
早足をするかのように杖をつき、そちらへ向かっていくと…
「くぉのおバカ! この寒い時期になんつーカッコしとるんじゃあ!」
ごきん!
「あうっ!」
ややフック気味に振り下ろした拳骨を、その狐色髪の天辺に叩き込んだ。
「…う〜…痛いですぅ〜…時間稼ぎはちゃんと成功したじゃないですかぁ…」
「やかましい! 皆にまで迷惑かけやがって…そういう馬鹿にはこうしてやるッ!」
「あうぅぅ! なんでぇ? どうしてぇぇ!?」
留賛は丁奉を小脇に抱え、額にウメボシを食らわせつつ東興棟へ歩を返す。
その光景に苦笑した少女達も、それに続いていった。

531 名前:海月 亮:2005/01/27(木) 00:14
-東興・冬の陣-(4)

その後、後続の諸葛恪率いる本軍が到着し、蒼天会本隊の胡遵軍は壊滅状態となった。更に朱異らの手によって、蒼天会軍が作成中だった浮橋が壊されたことで、諸葛誕率いる蒼天会軍第二波の侵攻も食い止められたのである。王昶率いる南郡棟攻略中の別働軍も、南郡棟守備隊の奮戦に攻めあぐね、東興侵攻軍の敗北の報を受けて退却した。
とりあえず、当面の危機は去ったのである。
ついでに言えば、丁奉達の脱ぎ捨てたジャージやらなにやらは、後から来た諸葛恪達が回収して東興棟に届けたくれたのだそうな。
で、その翌日…丁奉の寮部屋では。
「くしゅん!」
「…八度五分…文句つけようも無く、風邪ね。馬鹿も風邪ひくなんて、意外だわ」
体温計の表示を見て、陸凱は呆れたように呟いた。その脇では、先に引退した陸遜の妹・陸抗も心配そうにその様子を眺めていた。
「しょーちゃん、大丈夫…?」
「あぅ〜…頭痛いよぅ〜…寒いよぅ〜」
「ったく、アンタ何時か死にかけたの忘れたの? それとも、馬鹿は死ななきゃ治んないって?」
「ふーちゃん、言い過ぎだよぅ…しょーちゃんだって、頑張ったんだから…」
「甘い、甘いよ幼節! 一度きちんと思い知らせておいた方が、この馬鹿の為だ! 喰らいやがれッ!」
怒り心頭に達したらしい陸凱は丁奉を無理やり起こすと、こめかみの両サイドにウメボシを仕掛けた。
「あうぅぅ〜……勘弁してぇ敬風ぅ〜…」
「駄目だよぅふーちゃん…病人にそんなことしたら…」
おろおろしながらそれを宥める陸抗。
後に、その場は違えど、一致団結して斜日の長湖部を支えていく少女達の、ささやかな平和のひとコマがそこにあった。

余談だが、この時丁奉とともに寒中水泳に望んだ少女達は、やはり皆風邪をひいたという話である。
さらに言えば、一番酷い症状を出した丁奉は、その後一週間ほど寝込んだという。
その悪化の裏に陸凱や留賛のウメボシ攻撃が作用していたかどうか…知る術は無い。

(終劇)
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というわけで、東興戦役・承淵ちゃん薄着突撃のお話…ってか、寒中水泳やってますな(w
演義とかだと渡河中に鎧を脱ぎだしたとかそんな話だったので、そちらを参考にしたのやらしてないのやら(どっちだよ
あと…拙作「風を継ぐ者」でもやった仏捨刀→逆風の太刀コンボとか、丁奉の口癖とか、冒頭の留略の台詞とか…悪ふざけしすぎてます。
平にご容赦の程を…_| ̄|○

532 名前:北畠蒼陽:2005/01/28(金) 18:48
>海月 亮様
こちらこそよろしくお願いします〜。
ちなみに昜は足蹴にしようと思ってそのシーン、書くには書いたんですけど……
あまりにも救いようがなくて……えぇ(ノ_・。

そして東興・冬の陣はお見事! 丁奉かわいいなぁ(ぇー

さてんじゃあこっちももいっこ投下ですよ〜。
最近のログ見ると海月様と私のリレーになってますか!?
かまうもんか!(ぇー

ってわけでまだ誰も語ってない(っぽい?)夏侯惇の隻眼ストーリーです。

533 名前:北畠蒼陽:2005/01/28(金) 18:49
-隻眼の小娘とりんごの悪夢(1/3)-

「叔母様、準備はいいですか?」
「その名前で呼ばないでっていってるでしょ!」
「こちらも準備はできたぞ」
「あらあらあら、もう死ぬ準備ができたんですの? 賈ク様のことですからきっと素晴らしい遺言を聞かせてくださるんでしょうね♪」
「はっ、おもしろい冗談ですな、荀攸殿」
明るいざわめき、というには多少とげとげしいものがある。
そんな声を聞きながら隻眼の少女は苦笑しながら手を叩いて注目を自分に集めた。
「はいはいはい、今日はいい日なんだから2人ともいがみ合うの禁止」
少女……夏侯惇が話をはじめただけでざわめきはぴたっとおさまりその言葉にみなが聞き入る。
「みんな、準備はいい? じゃあ烏丸・袁姉妹連合留守番部隊の打ち上げはじめるよー」
打ち上げとはいっても名目は反省会であり、ここで飲み食いしたお金は経費で落とされる。
冀州校区ではそれなりに名前の知られた中華レストラン『鳳陽』を借り切って反省会、とは名ばかりの宴がはじまろうとしていた。

みながハメをはずさぬように、ドリンクバーで持ってきたメロンソーダを飲みながら夏侯惇は少し離れた場所でぼ〜っと喧騒を眺めていた。
「ふぅ……」
最近、前線に立っていない。
現地で祝勝会に参加している許チョや張遼たちに嫉妬すら感じる。
なぜ孟徳は私を後方に残しておくかなぁ……
夏侯惇はくしゃりと髪をかきあげた。
まぁ、理由は自分以外に世話係がいない、というだけなのだが。
理由も自分でわかっているだけに夏侯惇の口元からは苦笑しか漏れてこない。
「夏侯惇さん、もっと真ん中にきてくださいよ。そんな隅っこに貴女みたいなひとがいるってのも落ち着きません」
苦笑を浮かべながら韓浩が夏侯惇に近寄ってくる。
「貴女みたいなひと、って私はどんなのだよ」
韓浩の言葉に苦笑を浮かべ、またメロンソーダを一口。
韓浩も夏侯惇にそれ以上真ん中にくることを薦めることもなく口の端に笑いを見せた。
「隣、いいですか?」
「あぁ……」
そのまま2人で人の流れを眺める。

「夏侯惇さ〜ん☆」
しばらくぼ〜っとしていると夏侯惇に黄色い声がかかった。
それを見て韓浩は顔色を変えた。
「いっぱい食べて楽しまなきゃいけませんよぉ☆ これ、おいしいですよぉ☆」
娘の手にはアップルパイがあった。
「離れて!」
夏侯惇に声をかけてきた娘に注意するよりも早く夏侯惇の手が娘の手にあったアップルパイを叩き落す。
そして娘を睨みつけた。
「ひ……」
そのあまりの迫力に娘はへたり込み、泣きそうな顔になっている。
「どうしたんですか、夏侯惇さん……元嗣?」
騒ぎを聞きつけて史渙が近寄ってきた。
「どうもこうもないわ、公劉。この子が夏侯惇にりんごを見せただけ」
韓浩の簡潔な説明に史渙は手で顔を覆って天を見上げた。
「あちゃ〜……」
「ホント、あちゃ〜、ね。公劉、この子のことお願いできる? 私は……」
ちょいちょい、と夏侯惇を指差しながら苦笑する。
「ん、おっけ……はいはい、もう大丈夫だからちょっと外いこうね〜」

534 名前:北畠蒼陽:2005/01/28(金) 18:50
-隻眼の小娘とりんごの悪夢(2/3)-

娘を離れた場所に連れて行く史渙をちら、と見やってから韓浩は夏侯惇に視線を戻した。
「まぁ、『りんご』ってのは夏侯惇さんのNG品目だから仕方ないんですけどね。あの子にだって悪気があったわけじゃないんだし許してやってください」
幾分落ち着いたか、それでも興奮の冷め遣らぬように夏侯惇は椅子に乱暴に腰を下ろした。
「あの子に悪気がないのはわかってる。あとで謝らなきゃね」
そんな怖い顔で謝っても逆効果だよ、という本音をちら、とも見せることなく韓浩は頷いた。
「夏侯惇さんのりんご嫌いは有名ですからみんな知ってると思ったんですけどね」
「有名ってのもあんまり嬉しくないわね」
夏侯惇はメロンソーダに再び口をつけ、ようとしてやめた。
「でも私だって夏侯惇さんがりんご嫌いな理由までは知らないんですから、もしかしたらあの子が知らなかったのも当然かもしれませんよ」
夏侯惇は韓浩の言葉にぎこちない笑みを浮かべる。
「あんまりおもしろくない話よ? それにどれだけいっても孟徳のバカ話だしね」
そして夏侯惇はゆっくり口を開いた。

シャギャア、シャギャア……
モケケケケケケケケ……
よく密林の探検隊とか動物番組とかで聞かれるようなよくわからない動物の声があたりに響いている。
足元に多い茂る草をかきわけ、木の間に道を見出し2人の少女は前へ前へと進んでいた。
正確に言えば小柄な少女に大柄な少女が引っ張られていた。
2人ともエン州校区初等部の制服に身を包み、いかがわしい幼女マニアが見れば一発で役満に振り込むこと間違いなしだ。
「孟徳〜、ほんとにこんなとこなの?」
「間違いないよぉ。元譲だってりんご好きでしょ〜?」
いやまぁ、好きなのは好きなんだけどさぁ……
元譲と呼ばれた少女、夏侯惇は口ごもる。
夏侯惇と小柄な少女、曹操は交州校区の片隅の密林を歩いていた。
なぜこんなところに2人の少女が歩いているのか……
話せば長くなる。
だが語れば短い。
要するにテレビを見ていた夏侯惇が『りんごおいしそう』と言ったのを聞きつけた曹操が夏侯惇をりんご狩りに誘ったのだ。
交州に。
ばさばさばさばさ……
頭上を極彩色の鳥が飛んでいく。
ここは本当に中華市なんだろうか……
夏侯惇の頭に至極真っ当な疑問が浮かんだ。
しかし夏侯惇はりんごがどんなところに生息する植物なのか知らない。
だから少し怖いがこんなもんかも、と思っていた。
りんご狩りって命がけなんだなぁ〜、と少し的外れなことを思いながら。

535 名前:北畠蒼陽:2005/01/28(金) 18:52
-隻眼の小娘とりんごの悪夢(3/3)-

「う〜ん……」
「ど、どうしたの、孟徳」
「いや、ここに来る前にね、おばあちゃんに聞いたの」
おばあちゃん……曹騰である。
現在の蒼天会長である桓さまこと劉志の3代前の蒼天会長、順さま、劉保の親友にして学園の伝説的カムロ。AAAカップの守護者、と呼ばれ学園史に巨名を轟かせた鬼才である。
そして曹操はおばあちゃん子であった。
「おばあちゃん言ってたもの。『りんごは交州校区のような危険な場所にできるものなんだよ。怖いんだよ。1人でいっちゃいけないよ』って」
夏侯惇はしばらく考えて口を開いた。
「……あんた、それは……あんた1人で勝手にいかないように怖がらせようとしただけじゃないのか……?」
「あ〜、夏侯惇もそう思う? 私もそんな気がしてきたよー」
「ッ!!!!!!??????」
夏侯惇の声鳴き悲鳴が密林にこだました。
モケケケケケケケケケケケケ……
こだまはしたがすぐにかき消された。

「元譲〜、機嫌直してよ〜」
「……」
あからさまに不機嫌な夏侯惇とあまり誠心誠意とはいえない態度で謝る曹操。
2人は今、遭難中であった。
とにかく帰り道がわからないのである。
当たり前な気はするが。
なぜ帰り道の目印の一つもるけておかなかったか。
曹操曰く『あ、そっか。帰んなきゃいけないんだっけ』とのこと。
バカ丸出しである。
「帰ったらりんご食べたいねー」
ヒトゴトのように言う。
誰のせいでこうなったんだ! という言葉を夏侯惇は口に出さない。
曹操がどんなヤツかってことは昔から身にしみている。
「とにかく帰ろう」
憮然と呟いて歩いてきた方向……と思われる方向に向かって歩き出す。
「あぁ! 元譲まってよ〜」
待ってやる自分がいじらしいな、と夏侯惇は足を止め、曹操のほうに振り返る。
そして両目を見開いた。
「も、孟徳! 後ろッ!」
「ふぇ?」
トラが唸り声を上げて2人の方向を見ていた。
「はぁい♪」
手を振ってみた。
トラは飛び掛ってきた。
「バカ孟徳ーッ! 逃げろーッ!」
「ごめんよー! ごめんよー!」
2人は全力で逃げ出した。

「……んで2人で全力で逃げて。ふ、と気付いたら片目がなかった」
中華レストラン『鳳陽』の片隅。
夏侯惇の腕組みしながらの告白に韓浩は口元を引きつらせた。
隻眼に関してはなんらかの武勇伝があると思っていたが想像以上の武勇伝だった。
しかも想像の上斜め50度くらいを横切っていくような予想外っぷりである。
「そ、それは大変でしたね」
それしか言えない。
そしてしばらく2人は見つめあい……
やがて韓浩はなにかに気付いたように口を開いた。
「りんごがトラウマなのはなんとなく理解できましたけど……その話を聞いてると私が当事者だったらりんごよりも曹操さんに対してのトラウマが出来そうな気がするんですが……」
夏侯惇は韓浩を呆然と見やった。
「……そ」
「そ?」
「そんなこと考えたこともなかった……」
「か、考えてくださいッ! 重要重要!」
そんなあらゆる意味で平和な日のことだった。

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カムロ設定は岡本様の『十常侍の乱』より。百万の感謝を。
ちなみに実際に目を失ったシーンは私が書くとどうやってもグロにしかならないのでぼかさせていただきました^^;
もう、いろいろぐだぐだなんで許してやってくださいけぷ☆(吐血

536 名前:海月 亮:2005/01/28(金) 19:44
おお、今度は惇姉の隻眼秘話ですな。
確か人物設定のところでも、課外活動とは無関係の所で、恐らくは曹操が原因で片目を失った、とあったと思いましたし。
しかし、トラですか。片目で済んだのが奇跡みたいな話で笑えるなぁA^^)

>ログがリレーに…
なってますね…まぁ、私もですけど、きっと皆様こないだの祭(←旭記念日スレ)で萌え尽きてるor現在も奮闘中でしょうから…。

537 名前:北畠蒼陽:2005/01/28(金) 20:08
>こないだの祭
ちょうどおわったあとくらい(ROMを含めたらもうちょい前からこのHPにいましたが)に
カキコはじめた私にはお祭りに混じれなくてはふんorz
もうどうしたもんか、って感じですprz<スネ夫

>片目で済んだのが奇跡みたいな話
今、思いついたのはそこを救ったのが許チョとか(笑
蒼天航路リスペクト! なのですよ〜(笑

538 名前:★ぐっこ@管理人:2005/01/30(日) 00:54
正直スマンカッタ( ゚Д゚)!
あらためましてはじめまして、北畠蒼陽さま!
旭祭に夢中なあまり、素で>>520に気付きませんでした_| ̄|○
このバカを存分に罵り辱めてくださいませ(;´Д`)ハァハァ…

>覇者と英雄
(゚∀゚)! 蒼天テイスト!
そんでもって、やはり背伸びしても袁紹の王者っぷりには届かない曹操!
これイイ!袁紹ってなんだかんだいって、曹操のお姉さまですから!

>鍾会と昜
これもキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
鍾会の性悪さより、昜たんのうろたえっぷりにときめきました。
存外、二人ともプライド高いので、水面かでの張り合いが激しかったのでは
と推測。萌える…

>-隻眼の小娘とりんごの悪夢
(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
そうだったんだ( ゚Д゚)! いや私も全く考えてなくて、なんとなく曹操のせい
だろうな…とか思ったたのでマジ採用! 交州校区にて夏侯惇隻眼!
そして許褚の登場!?うわははは!これいいッ!
北畠蒼陽さま!ありがとうございますっ!

>海月 亮さま
うお、丁奉たんの寒中水泳( ゚Д゚)! で、韓当たんの不詳の妹の始末と!
相変わらず学三はレアなキャラが出てくるなあ…留姉妹あたりが出てくるとは。
(゚∀゚)GJ! そういや留賛も、最後は結構壮絶な散りざまでしたやね(´Д⊂

539 名前:北畠蒼陽:2005/01/30(日) 01:25
>ぐっこ様
拙作に過大な評価痛み入ります。1億の感謝を。
ただすべての作品でいろいろミスってるのが難点といえば難点orz
曹操&袁紹はサバゲ決戦だってことを知らずに書いてるし
鍾会&昜はあだ名を名前の後ろに書いてるし
曹操&夏侯惇は3/3で「あ〜、夏侯惇もそう思う?」って……
元譲って呼んであげて(ノ_・。

あと曹騰は従姉妹のお姉ちゃん、ってことで正式に後漢話を
書き出しました。
新参者のクセにすげぇ長編になりそうでそれはそれでへこみorz
「読みたくねぇ」とか言われると地の底までへこむので
心の中で思うだけにしといてください(笑

それはともかくこれからよろしくお願いします! なのですよ〜。

540 名前:★教授:2005/01/30(日) 14:52
■■ 合肥の戦 〜凌統vs楽進〜 ■■

「このままくたばれっかよ!」
「きゃあっ!!!」
 凌統は襲い来る敵に自慢のヌンチャクを振るいながら自身の置かれている状況を再確認する。周囲には傷付き倒れた自分の部下、そして敵が無造作に横たわっていた。そして凌統自身もまた全身に痣や切り傷を作り大きく肩で息をしている。勇猛果敢の遜色に少しずつ翳りが見えていた。
 その姿を小高い丘の上で見ている少女がいた。最近、長湖部では『泣く子が更に泣く』やら『鬼道娘』で恐怖の的とされている蒼天会屈指の実力者――張遼、その人であった。マウンテンバイクに跨り双眼鏡で戦況を確認しつつ、手に握る模造刀に力が篭る。
「意外と頑張るわね…あの娘」
「そうみたいだな…見た目はフツーなのにな」
 感嘆の声を漏らしてにやりと口端を歪める張遼に相槌を打つのは楽進だった。こちらは少し難しい顔をして望遠鏡を覗き込んでいた。ちらちらと張遼を見ながら不満の声を挙げる。
「ねぇ…何で、私は望遠鏡で見てるのかな…。近すぎて見えたり見えなかったりなんだけど…」
「仕方ないじゃない。双眼鏡はこれしかなかったんだし…あ、その望遠鏡は壊したら弁償って徐州天文部が言ってたからね」
「分かってるよ…流石にこんな高い代物は経費で落ちないだろうしな…。つーか、何で望遠鏡なんて借りてきたのさ…これなら肉眼の方が…」
「なら、李典を叱らなきゃね…それ借りてきたのはアレなんだし」
「ごめんなさい…我侭言いませんからケンカはしないで…」
 溜息を吐きながら楽進は再び望遠鏡を覗き込んだ。恐らく胃も痛くなってることだろう。
「……まあ、あの調子だと長くは持ちそうにないわね。私はその辺りに潜伏してるかうろついてる長湖部の残党を制圧してくるか…。ここは任せたわよ」
 双眼鏡を楽進に投げて寄越す張遼。楽進はそれを振り返る事なく片手でキャッチして頷いていた――

「はぁ…はぁ…………もう終わりかっ! 怖気付いたのなら…そこを退けぇっ!!!」
 息が上がり疲労困憊が誰の目から見ても明らかな凌統。しかし、檄する声には気迫――いや、ここは鬼迫とも言うべき殺気が濃縮されている。その鬼の咆哮に張遼軍の生徒達が息を呑み、間合いを取りはじめた。鬼腕張遼の直属の配下、死をも恐れぬ狂戦士の隊。通称『羅刹隊』がたじろいだのだ。これには遠くで見ていた張遼と楽進も驚きの色を隠しきれなかった。
 しかし、凌統の敗色を秒刻みで濃くなっている。彼女の周囲に味方は誰一人として残ってはいなかったのだ。凌統の配下は唯の一人として生き残ってはおらず、全員見事に飛ばされていたからだ。唯一の救いは降伏した者がいなかった事くらいだろう。
「怯むな! あの姿を見ろ! あれで満足に戦えるはずもないだろう!」
 羅刹隊の一人が凌統を指差し、周囲を見る。しかし、自分で発した言葉に誰も頷く事はなかった。全身青痣だらけ、そして自身の血と返り血で赤く染まった制服。大きく肩で息をしているその姿に戦える余地は何処にも見えない。だが、それでも羅刹の軍は動けずにいた。目が――全く死んでいないのだ。それどころか襲い掛かれば襲い掛かるほどに満ちていく殺気に彼女達も慎重にならざるを得なかった。
「来ないのかよ……来ないなら…こっちが行ってやるよ!」
「ひぃっ!」
 じりじりと間合いを詰め始める凌統に明らかな怯えを見せる羅刹隊。死への心構えが出来ているとはいえ、こんな魔界の生物を相手にしてしまった事を後悔しつつあったのだ。
 ――と、羅刹隊の後方に砂煙を立てながら迫ってくるマウンテンバイクが凌統の目に映った。
「どけどけぇっ!」
 羅刹隊が何事かと振り返った瞬間、その姿は宙を舞っていた。その軌道はスローモーションの様に目に映り、ゆっくりとトレースするような不思議な感覚に陥っていた。そして、その人は激しい音を立てて着地する。無造作に切った髪、傷だらけの顔、体操服に身を包んで身の丈はある棍を手にした堂々たる姿に羅刹隊も喚声を上げた。凌統もその威風堂々たる姿に一瞬呑まれそうになる程であった。
「私は楽進。アンタに引導を渡しに来た! いざ勝負されよ!」
 マウンテンバイクから降りると羅刹隊に下がるよう指示を出す楽進。
「ふん…勇ましい事だね。気に入った…私は凌統、いざ尋常に!」
 凌統は口元を吊り上げ、構えと間合いを取る。楽進もまた棍を中段に構え出方を窺う。
 互いに隙を見せる事なく一歩、また一歩とその間合いを詰めていく。冷たく重い空気が漂う二人の周囲に固唾を飲んで見据える羅刹隊。どの少女を見ても瞬き一つしていない。そして二人の間合いは2メートル弱にまで詰まる――

 
 ――――――刹那の瞬き、空気を裂く乾いた鉄音と縫う様な深く重い鈍音が戦場に轟いた――――――



「ふぅ……」
 孫権は船上で深い溜息を吐いていた。彼女の周りには甘寧や周泰達が控えており、散々たる戦況を思い返し怒りとも悔恨とも付かない表情を浮かべていた。
「本当に拙い戦にしてしまったわ……赤壁で一度勝ったくらいで何を浮かれていたの…私」
 ぎゅっと船縁を握り自分への怒りを露にする。飛ばされた部員や幹部の数は数えても数え切れない、全ては自分の慢心がさせた事。悔いても仕方ない事だが、悔わずにはいられなかった。
 そして、一番気掛かりなのは自分を助ける為に戦場に残った凌統だった。まだこれから伸びる可能性を秘めた長湖部のホープの一人…こんな所で飛ばす訳にはいかなかった。しかし、それでも自分には生き延びなければならない責任があった。姉二人に託された長湖部、それをこんな形で終わらせるわけにはいかない。まだ何も成し得ていない。飛ばされる訳には行かない、慕って徒いてきてくれる部員達の為にも―――
 悲しみと怒りを抑え付け、前を見据える孫権。その視線の先には先ほどまで居た戦場があった。そして、船に近づいてくるマウンテンバイクが一台。近づけば近づくほどに見覚えのある姿、そして孫権が目を凝らしその姿を確認した時、驚嘆と驚喜が入り混じった。
「あれは…公績! 助けに行って! 早く!」
「御意!」
 孫権が言うや否や、周泰が直属の部員を引き連れ船を飛び降りた――

「公績…」
 長湖に帰る船上。凌統に掛ける言葉が見つからず涙ぐむ孫権と満身創痍の凌統が船縁にもたれかかって寝息を立てて、そこにいた。その胸には血塗れの階級章が鈍く赤黒い光をぬらぬらと放ち、その傍らに砕けた愛用のヌンチャクと誰の物か分からないマウンテンバイクがあった。彼女は飛ばされていなかったのだ。生きてこの場にいるのであった。
「公績……ごめんね…そして、ありがとう…。私は…もう今までの私じゃない、安心して」
 孫権は目元をごしごしと拭うと船頭に振り返る。そこにいた甘寧、そして周泰や徐盛は主の姿に迷いが無い事を悟った。先ほどまでの幼さが残っていたその風貌には、最早それは無かった。精悍な表情、そして統率力という名の気勢を全身から放つその姿は正しく姉である偉大なる初代、孫堅。そして長湖の覇者、二代目孫策にも勝るとも劣らないほどであった。
「部長……」
 凌統は孫権の大きく成長した後姿を薄目でしっかりと見ていた。そして、ゆっくり双眸を閉じて戦場を振り返る――


「ぐふ…」
「く……」
 ヌンチャクの鎖が引き千切れ、四散していく。そして凌統の右肩の横で棍が小刻みに震えていた。
 楽進の渾身の棍撃は凌統に命中する事はなかった。そして自身の胸に凌統のヌンチャクの柄が減り込んでいた。
 紙一重の世界だった。楽進の棍の僅かな狂いに凌統が一撃を合わせたのだ。それは達人の域ではなく、神の領域が為せる潜在的なものに近かった。
 楽進の口元から赤い雫が零れ落ちる。確かな手応えを凌統は感じていた、恐らく肋骨の数本は持っていったはず――だが、楽進は倒れなかった。震える膝を懸命に踏ん張り、棍を落とす事無く凌統に満足げな笑みを浮かべていたのだ。
「…み、見事……まさか…あの一撃にカウンターを入れるなんて…」
「偶然…だよ。正直…やられるかと思ってたから…。……これ、借りるな」
 壊れたヌンチャクを懐に入れると、ふらりと振り返り…重い足を引き摺って楽進のマウンテンバイクに跨る凌統。そして楽進も黙って頷きバイクを凌統に委ねた。
 今まで唖然としていた羅刹隊は、楽進が敗れた事に大きなショックを隠しきれないでいた。しかし、ふと我に返った。このままあの娘を長湖に帰してはいけない…いずれ必ず大きな災厄となる…。そう思った時には既にモデルガンを握り締めて凌統にその銃口を向けていた。
 ――が
「行かせて…やんな」
「楽進…さん? しかし…」
「指揮を任された私が負けたんだ。これ以上は恥の上塗りだよ…」
 息も絶え絶えの楽進がそれを制したのだ。その言葉に二の声も上げられなくなる。
 遠ざかる凌統の危なっかしい運転を見ながら楽進は満ち足りていた。真剣勝負の中で倒れられる事は彼女に取って喜ばしい事だったから――ゆっくりと目を閉じるとうつ伏せに倒れた――
「楽進さん!」
 羅刹隊が駆け寄った時には、既に楽進の意識は無かった。

 後日、楽進はこの時の怪我が元で課外活動から退く事になる。曹操、夏候淳、夏候淵、李典、張遼、除晃らの必死の呼びかけに気丈な返事を返していたが、傷は思ったよりも深く致命的でドクターストップが掛かったのだ。
 その後、病室で楽進は紫の髪の少女を思い返していた。満足な戦い、そして苦くない敗北の味。いつか、またリベンジしたいものだ、と――

541 名前:★教授:2005/01/30(日) 14:56
はい、お粗末様でした。いや、ホントに粗末なんですけど(T_T)
時間に猶予も無く死兆星を見ながら書いてましたが…いやぁ、読み返すと短い短い…。
もう少し内容詰めて書きたかったというのが本音です。

その内、リメイクするかもしれません。つーか、する(断言)

542 名前:北畠蒼陽:2005/01/30(日) 18:18
>教授様
(゜V+゜)b
素晴らしいSS、眼福でございます。
一騎打ち、というか戦闘シーンがあまり書けない人間なのでうらやましいなぁ。すごいなぁ。

自分もがんばらなきゅあ……

543 名前:海月 亮:2005/01/30(日) 20:25
>教授様
凌統vs楽進ですか! しかも凌統のエモノがヌンチャクですと!
何気に三国無双新作で凌統登場という情報に、嬉しさのあまり魂抜けかけてたタイミングにこれを読むことになろうとは…
お見事でございます(´ー`)b
…ぬう…書きかけだった甘寧と凌統の仲直りの話、書き直さねば…(え?

それでは私めもひとつ。
毎度毎度長湖部員ネタで恐縮ながら、投下の機会を得ずにお蔵入り寸前だった子瑜さん話を。

544 名前:海月 亮:2005/01/30(日) 20:27
-子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのいち

電子音のベルが鳴り、少女は枕元の時計に手を伸ばす。
デジタル時計の表示は八時。少女はゆっくりと体を起こし、伸びをする。
のそりと布団から出て、眠たい目をこすりながら洗面台に向かい、大して乱れてもいない髪を梳かし始める…すると、
「…………………え?」
少女は何故か唖然として、洗面台の姿見に映る自身の顔を、始めて見る物のように覗き込んだ。
ややツリ目がちな、見慣れた自分の顔。
その頭には、艶のある栗色のロングヘアー。
しかし、そこにはあるべきものが存在していなかった。
「アレが…ない?!」
そう呟く少女…諸葛瑾は、何度も自分の頭の両サイドを触り、呆気に取られていた。

「いやゴメン、マジで気ぃつかなかった」
「…別にいいんだけどね」
放課後の揚州学区のカフェテラスで、見慣れたクセ毛のない諸葛瑾と、魯粛は向かい合って座っている。
諸葛瑾にとって親友である魯粛でさえ、初めはその少女が諸葛瑾だと気付けなかった。
「でもさ、いったいどうしたってのかねぇ…突然"ロバの耳"がなくなるなんて」
"ロバの耳"…それは、諸葛瑾のトレードマークといっても過言ではない、彼女の頭の左右両サイドに、普段存在するクセっ毛のことである。その形がロバの耳のように見えることから、友人達からはその名で親しまれていた。
幼い頃、ある日突然出現したそれは、長い間彼女のコンプレックスでもあった。どんな整髪料を使おうとも、その部分を逐一切り落としても、やがては元通りになってしまうのだ。
諸葛瑾もやがて諦め、かれこれ十年以上この"ロバの耳"と付き合ってきた。何時しか、彼女もそれに愛着を持つようになり、毎日念入りに手入れしていたりもしていた。
「そんなの、むしろ私が訊きたいわよ」
「心当たりは? 例えば、何か違うシャンプーか何か使ったとか」
「朝起きて、一番に鏡を見て、その時にはもう無かったのよ。ついでに言えば、昨日使ったシャンプーもトリートメントも、何時もと同じモノだし…濡れてる間にタオルで締め付けたってなくなるようなモノじゃない事だって、子敬も知ってるでしょ?」
「そりゃあ、まぁ…」
「どうしたらいいかなぁ…これじゃ、誰も私だって解んないだろうし…第一落ち着かない」
諸葛瑾は本気で困っている様子だった。誰だか解らない、というのも、そもそも魯粛にも解らなかったんだから、多分他の長湖部員も目の前の少女が諸葛瑾だと解る者は居ないだろう。
現にこの日、多くの幹部仲間とすれ違ったが、誰も気付かなかった。たまりかねた諸葛瑾が、魯粛に話し掛けたからからこそ、やっと気づいてもらえたようなものだった。
何だか気の毒に思えてきた魯粛も、真剣な顔になって考えていた。ふと、周りを見回すと、様々なヘアースタイルの少女の姿が目に飛び込んできて…。
「!…そうだ、子瑜。ちょっとここで待ってて」
「え?」
魯粛は何を思い立ったのか、席を立つと、そのまま何処へとも知れず駆け出していった。

545 名前:海月 亮:2005/01/30(日) 20:28
-子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのに

よ〜し…こんなもんですかね。目、開けて」
「ん…」
言われるがまま、ゆっくり目を開けると…そこには、両サイドの丁度"ロバの耳"があったあたりに、根元を紅いヘアゴムで結ばれた、小さなツイン・テールが出来ていた。
「ちょっと感じが違うけど…まぁ、見えなくはないんじゃないかと思う」
魯粛はあの時、カフェテラスの隣りにある購買へ駆け込み、ヘアゴムを買ってくると諸葛瑾をトイレに連れ込み、その髪を"ロバの耳"っぽく結い上げることにしたのだ。
「う〜ん…なんか、子供っぽくない?」
「いいじゃないの。結構似合ってるよ、子瑜」
「でもなぁ…」
「何時までも気にしないの! さ、そろそろ幹部会の時間だよ、行こっ」
様相をいつもと違えた"ロバの耳"モドキを弾いたり摘んだりしながら、尚渋った様子の諸葛瑾を引きずり、魯粛はその場を後にした。

「あはははは! そ、それ傑作! 傑作ですよ子瑜先輩っ!」
こくこくこくこくっ。
「…………………煩い」
爆笑する歩隲と、表情を動かさないものの普段より明らかに勢いよく頷く顧雍の姿に、諸葛瑾はむすっとした表情でそっぽを向いた。
その様子を見、傍らの魯粛が「あっちゃ〜…」といわんばかりに首を振った。
案の定、幹部会で誰もそれが諸葛瑾と気付くものは居なかった。傍にいた魯粛が逐一説明し、その都度皆同じような反応を示していた。
ほとんど表情の解らない顧雍以外は、皆笑いをこらえているのが見え見えだ。中でも歩隲に至っては、この有様である。
「え?…えっと、可愛らしい感じでいいですね…あはは…」
「あ〜、なんて言いますか、そういうのも悪くは…ないっスね、うん」
メンバーの中でも比較的気を遣ってくれる部類に入る駱統や吾粲ですら、言葉とは裏腹に必死で笑いをこらえている有様だった。
メンバーが姿をあらわすたびに諸葛瑾は不機嫌になっていくのも自然な反応と言えた。
そして…
「みんな揃った?…って、あれ? あなたは…えっと…どなたでしたっけ?」
孫権のその一言に、笑いをこらえていた顧雍以外の幹部会メンバーは遂に我慢の限界を迎え、どっと笑い声が上がり、たちまちの内に大爆笑になる。
慌てて魯粛が耳打ちをすると、孫権は慌てて、
「あ…え、えっと、髪型、変えたんだね?」
と取り繕おうとしたが、むしろ、それは逆効果であった。
再び、満座がどっと沸き、それが止めになった。
「……っ!」
「あ…!」
「お…おい、子瑜っ!」
諸葛瑾は立ち上がると、倒した椅子を直すこともせず会議室を飛び出していってしまった。
慌ててそれを追って孫権が飛び出していったのと、満座から一名を除いて笑いが消えたのは同時だったと言っていい。
魯粛はその唯一の音源…歩隲の頭に拳骨を一発見舞って黙らせると、会議室を飛び出していった二人の後を追いかけていった。

屋上に続く踊り場に座り込み、彼女は泣いていた。
愛着のあった"ロバの耳"がなくなったということもショックだったが、何より、孫権すら自分が誰かを理解してくれなかったことが、一番ショックだった。
荊州学区返還交渉の際、相手の参謀に自分の妹が居る、ということで随分陰口を叩かれたが、孫権はその都度「子瑜がボクを裏切らないのは、ボクが子瑜を裏切らないのと一緒だよ!」と、彼女をかばってくれていた。
それ程の信頼を寄せてくれた人が、ハプニングのためとはいえ髪形が変わってしまった自分に気づいてくれなかった…それが、悲しかった。
「…あ、こんなトコにいた」
「子瑜っ!」
後ろから抱き付かれた感覚にはっとして振り向くと、そこには孫権の姿があった。階下には、魯粛の姿もある。
「ごめんね、ボクが無神経すぎたよ…何時もとちょっと感じが違ったから、からかってみようと思ったんだ…」
「……え…じゃあ…私の事」
「ちゃんと解ってたから…その髪型も、似合ってるよ、子瑜」
そう言って、笑って見せた孫権の目の端にも、うっすらと涙の跡があった。
「…ありがとう…部長」
涙を拭うことも忘れ、諸葛瑾は孫権を強く抱きしめていた。

546 名前:海月 亮:2005/01/30(日) 20:29
-子瑜姉さんと"ロバの耳"- そのさん

「……ふむ…まさか、こんな長い間効き目があるとは思わなかったが…」
「やっぱり、テメェの仕業だったのか、孔明」
荊州学区・公安棟。かつては江夏棟の名で呼ばれたそこは、帰宅部連合と長湖部の勢力範囲の境目にあたり、その二勢力の中立地帯となっていた。
魯粛は今回の事件の原因が諸葛瑾の妹・諸葛亮にあると考え、渋る彼女を無理やりに引きずってきたのである。
「勘違いしないで頂きたいな。私がやったのは、"ロバの耳"を作り出したことだ」
「はぁ?」
「何ですって!?」
諸葛亮のしれっとした一言に、二人は唖然とした。
「お姉様も知っての通り、お母様の寝癖は相当に酷かっただろう。毎朝、何十分もかけて髪を梳かすその姿を見て、幼いながらも私は心を痛めていた…」
そう言って、視線を遠くへ投げる。
「そこで私は毛根に作用し、決まった髪形を維持する髪質に変える整髪料を開発したのだ。実際の効能がどれほどのものか試すため、私はある日、お姉様と元遜が寝入ったところを見計らい…」
「…………………………ようするに、貴様の仕業か」
妙にドスの利いた声。普段聞きなれないその少女の声に、魯粛は愚か、諸葛亮でさえ思わず息を飲んだ。
言うまでもなく、その声の主は諸葛瑾である。
諸葛瑾がゆらりと立ち上がると、その背後は怒りのオーラで景色が歪んでいる。
「お、お姉様落ち着いて…まさか私も、効果が10年も持続するなんて考えても…ひぃッ!」
その言葉か聞こえていないかのように、壁際に追い詰めた妹の襟首を、諸葛瑾は千切りとらんばかりにねじ上げた。
「し、子瑜…アンタが怒るのも解るけど、そいつ殺したらヤバい事になるから…いろんな意味で」
「………直せ」
魯粛の言葉も無視し、諸葛瑾は普段より数段トーンの低い声で、妹に命令した。
「え? でもこれでお姉様の髪型は元通り…」
「いいから、私の髪型を普段通りに戻せと言っている…ッ!」
何故か目深になった前髪から、殺気立った目が覗く。
その形相に恐れをなしたらしい諸葛亮は、まるで壊れた人形のようにがくがくと首を縦に振った。

かくして一週間後、その特徴的な"ロバの耳"は再び元通りになった。
「いや〜、ホンッと良かったですねぇ、先輩。あの髪型もキマってたのに残念ですね〜」
こくこくっ。
「……黙れ、子山。元歎も同意すんな」
先日の一件で一番大笑いしてた張本人の一言に、直前まで上機嫌だった諸葛瑾はむっとした顔で二人を睨んだ。
「でもやっぱり、その髪型のほうが子瑜らしくていいと思うよ。可愛いし」
「それもそうですねぇ…いっそ、その根元にリボンでも結ってみます? もっと可愛くなるかも知れないですよ」
こくこくっ。
孫権の言葉に冗談とも本気ともつかない提案を投げてくる二人(?)。
「お前等なぁ…それより、今回は孔明のヤツも災難だったかもな」
「いいのよあのくらい。たまにはいい薬だわ」
そうである。
何せその薬そのものが残っていなかったため、諸葛亮はかつて自分が作った試作品のレシピをほじくり返し、急遽作ることになったのだ。
しかも、材料も入手困難なものばかりらしい。
その内訳が明かされることはなかったが、材料をかき集めて帰ってきた諸葛亮の白衣は見るも無残な状態で、しかも供をしたらしい趙雲たちに至ってはそれ以上の有様だったことを鑑みれば…。
「…………なんてーか、いろんな犠牲を払ったんだなぁ…その"ロバの耳"は」
孫権の言葉に再び上機嫌となった諸葛瑾の姿を眺めながら、魯粛はしみじみとそう言った。
そして、成都棟の(元)科学部部室では…
「!………う〜む、まさか、また何年後かに同じ事が起こるんではなかろうな………」
姉の見慣れない形相を思い出し、思わず身震いした諸葛亮であった。
ちなみに、諸葛姉妹の母親にこの薬が使われたか否か、定かではない……。

(終劇)

547 名前:海月 亮:2005/01/30(日) 20:38
以上でござる(゚∀゚)>
「風を継ぐ者」の閑話休題的に書いたお話なのですが…出来上がってみるとまったく無関係に(オイ
時期的には長湖部&蒼天会が合肥と濡須でドンパチやる直前くらいになるでしょうか。

>ぐっこ様
留賛。そうなんですよ、彼女の散り様はいずれ書かねばならぬと思っておるのですよo(>ω<o)
でも先に審配さんの散り際やっちゃいそうです。何気に、キャラデザがないのをいい事にイメージだけで描いていたら、その光景が脳裏に(ry
とりあえず、それもうぷろだに置いて帰ります。

548 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:26
ご無沙汰です。
えっと、まだ未完成の作品なんですが前に言ってた曹騰の話です。
実は今週引越し予定でして、しかもまだ引越し先にネット環境が整ってない、いつ復帰できるかもわからない状況なのでとりあえず出来ているところまで投下です。
ちなみに全8話の予定。ちょい長いですな……

549 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:27
-Sakura-
第1話:紅華

時計の秒針が時を刻む音だけが聞こえる。
曹騰はうららかな昼下がり、1人で縁側に正座し緑茶をすすっていた。
すごくおばさんくさい。
しかし普段着ではなくぱりっとスーツを着ているのは違和感がある。
茹でた青菜のようにはんなりとした時間が過ぎていく。
自分の学生時代の激動からは考えられないようなゼイタクな時間に曹騰は人知れず笑みを浮かべた。
「あつつ……」
お茶の熱さに舌を火傷しそうになり苦笑する。
あの頃の熱さにもう一度戻ってきてもらいたいとは思わないが懐かしく感じることは事実だ。
「ただいま〜!」
静寂のときを破る声。
曹騰はぼんやりと時計を見た。
(あぁ、ほんと、学校の終わる時間だわ)
かなり長い間、ぼ〜っとしていたことに気付き、少し赤面しながら曹騰は立ち上が……ろうとしてこけた。
足が痺れていた。
上半身を床に突っ伏したまま、ひくひくとうごめく。
虫みたいだった。
「お姉ちゃ〜……って、う……えっと……どうしたの?」
曹騰の頭上で本気で心配する声がした。
心配しなくていいから見ない振りをしてほしい。
「な、なんでもないわ、孟徳ちゃん。おかえり」
脂汗をかきながら必死で笑顔を浮かべる。
痛々しい。
「……!」
孟徳……自分を実の姉のように慕ってくれている従姉妹の曹操。今はエン州校区の小学校に通っている……に微笑みかけた曹騰の目に飛び込んだのは泥にまみれた服と無数の擦り傷だった。
「孟徳ちゃん、どうしたの!?」
「え、あ……なんでもない! なんでもないよっ!」
曹操は焦りながらぶんぶんと手を振った。
あからさまになにかある、という態度である。
曹騰は片ヒザ立ちで座り……足の指を両手でほぐして痺れを取ろうとちょっと必死になりながら……真剣な顔を曹操に向ける。
「孟徳ちゃん、ちょっとそこに座りなさい」
ちょっとホンキ。
こうなると曹操は弱い。
まず年齢が一回りも違うのだからその潜り抜けてきた修羅場の回数も当然のようにまったく違う。
その従姉妹の『ホンキ』に曹操の小学校レベルのキャリアが太刀打ちできるわけがない。
まるで『曹騰に怒られる曹操』のようにしゅん、となって曹騰の前に正座する。
比喩じゃなくてそのままである。
「孟徳ちゃん、いじめられたのね」
「……」
「返事は『はい』。それ以外認めません」
『はい』しか認めないんだったら聞く意味ないだろう! と、ちょっとだけ曹操は思ったが反論できない。
「……はい」
「私が『カムロ』だから『カムロの従姉妹』って言っていじめられたの?」
「……言いたくない」
とたんに曹操のほっぺたが曹騰に掴まれた。

550 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:28
「そんなことを言うのはこの口? この口?」
むにむにと引っ張る。
「ひ、ひたい! ひたいよぉ〜!」
むにむにむに。
ほっぺたをむにむにと引っ張っているとまた足の痺れが襲ってきて曹騰は再び突っ伏した。
「うぐ……と、とにかく孟徳ちゃんはそんなことを気にすることはないの! みんなに嫌われたら私がその分、愛してあげる。そして本当に友達、って言える人たちができるまでずっとずっと守っていてあげる」
曹騰はいいことを言った。
いいことを言ったのだがいかんせん上半身を床に預けたまま、お尻を上に向ける、といういかんせんはしたないポーズのためまったく威厳はない。
「……トモダチ」
そんなポーズながら曹騰の言葉は曹操の心に響いたようだ。
人間わからないもんである。
「トモダチ……よくわかんないよ」
従姉妹の夏侯惇や夏侯淵、曹仁や曹洪らは友達、と言えるかもしれないが、それ以外に自分が『カムロの従姉妹』と知っても付き合ってくれるようなトモダチなど曹操に心当たりはなかった。
「……」
曹騰は溜め息をつき再び足指をほぐしだした。
もうしばらく立ち上がれそうにない。
「『カムロの従姉妹』どころか『カムロ』にだって友達は出来るものよ。私にも高校の頃、とっても素敵な友達がいた」
「……え!?」
従姉妹の言葉に素っ頓狂な声をあげる曹操。
「失礼ねぇ……私が友達できないくらい性格悪いって?」
やや憮然とした声で曹騰が曹操を睨む。
もちろんそういう意味ではなく『カムロ』というものがそれくらい忌み嫌われている、という意味の驚きである。
曹騰は仕方がない、という顔をし短い髪をかきあげた。
「じゃあ……私の高校の頃の話……とても素晴らしい友達の話でもしてあげる」
どちらにしろ足の血行が戻るまでまだまだ時間がかかるだろう。
それに今日は……
まぁ、それまでの暇潰しに話をするのも悪くない。

そして曹騰は語りだした。

……彼女たちは本当に輝いていた。
そして私の人生は彼女たちによって鮮やかに彩られた……

551 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:28
……

とても目立つ少女だった。
遠目にもつややかな髪をばっさりとオカッパにまとめ、さらなる特徴として誰が見ても明らかな胸のふくらみのなさ。
そして制服も膝がちょうど隠れるくらいのショートパンツ。
典型的なカムロである。

解説しよう。
カムロとは髪をショートボブまで切り詰め、少年と見まがうばかりに胸がないブラジャーいらずの
もののことである。
なぜそのような存在が学園に存在するか、についてはいろいろある、としか答えようがない。
答えたくとも説明が長くて答えるのが面倒だ、というのが本音である。
とりあえず今は話を少女に戻そう。

「なんでこの私の……曹騰の名前がないわけぇ〜ッ!?」
「さぁ、そんなことを私に言われてもねぇ……困るんですよ、とにかく。あなたの名前はこの名簿にありません。つまり入寮は許されません」
学生課……
そう書かれた看板の下で曹騰と係員が言い争っていた。
正確には言い争っている、と感じているのは曹騰だけであり、係員にとってはうるさいハエをつぶすことすら面倒だから放っておいている程度のことだろう。

「だいたいカムロごときが、この司隷特別校区にというのも、ねぇ」
係員の言い草に曹騰の怒りゲージは急速に溜まっていく。
今の曹騰であれば水温94度くらいでお湯が沸騰する。

『カムロ』というのはつまり学園の象徴である『学園都市女子高等学校連合生徒会代表会議』……通称、蒼天会の会長にはべり、連合生徒会との連絡、調整役を勤めるのが役目なのである。
もう少し世代交代すればそうでもなくなるが、現時点では勉強の成績もあまりよくない人間が多く、無教養で軟弱、と見られることが多かった。
曹騰とてあまり勉強ができるわけではないが、それでもこの言い方はあんまりだと思う。
だいたい曹騰なりにがんばって、ようやく掴み取った司隷特別校区……そう、蒼天会、生徒会などの全管理機能が集中している学園都市最大の『首都』への切符をこんな係員ごときにバカにされなければならないのか。
しかも入寮名簿に名前を書き漏らしたのはそっちだろうに……!
「とにかく本日の入寮は認められません。後日、書面で入寮申請をお願いします」
『お願いします』などとは言っているが明確な拒否である。

552 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:30
「……ッ!」
「それは酷くないですか?」
曹騰が口を開こうとした、まさにその瞬間、後ろからの涼やかな声がやんわりと割って入る。
「それに彼女だって遊んでここまでこれたわけではないはず。先ほどの『カムロごとき』という言葉は取り消すべきだと思います」
係員はぱくぱくと金魚のように口を開け閉めさせて顔を青ざめさせている。
いい気味、と思いながら曹騰は天使の声の持ち主を見た。

天使だった。

腰まで届くような長い髪。
優しげな顔。
曹騰は今まで『美人』に会ったことならあったが『天使』に出会ったのは初めてだった。
惜しむらくは胸の大きさが曹騰と比べても遜色ないところだが……まぁ、これは好みが別れるところであろう。
天地がひっくり返ってもこんな娘にはなれない……曹騰は人知れず敗北感に浸った。
「なんとか彼女を寮に入れることはできないのですか?」
「し、しかし……規則は規則ですので……」
抗弁を試みる係員。
「わかりました。もう頼みません。彼女は私と同じ部屋に来ていただきます。私もちょうど1人部屋でしたからちょうどいいですわ」
「あぁーッ!? そ、それはいけません!」
「もう決めました」
真っ青になる係員。
彼女ってば……こんな傍若無人な係員が一発で恐れ入っちゃうくらい良家のお嬢様なのかな? 曹騰はそっと彼女の顔を盗み見る。
目があった。
恥ずかしくなって顔を伏せる曹騰に彼女はにっこりと笑いかけ、手を差し伸べる。
「これからよろしくお願いしますね……私は劉保、と言います」
劉……
蒼天会長の家柄……この娘が誰だかよくわからないけどいいとこのお嬢さん、という推測は間違っていなかったようだ。
「りゅうほ……劉保ね。私は曹騰! 季興って呼んでね。これからよろしく!」

曹騰が彼女の差し出した手を握り締める。
そのときの彼女のなぜか、曹騰に対して驚いたような表情が印象的だった。

553 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:32
-Sakura-
第2話:琴平

「劉保ってお嬢様なんだよねぇ〜?」
「りゅ、りゅうほ……!?」
曹騰の言葉に劉保は目を白黒させた。
曹騰はくるくると逢魔が時の薄暗闇の中を回転しながら……
そして劉保はそれを楽しそうに眺めながらしずしずと、2人は並んで歩いていた。
「あっれ? 劉保って名前じゃなかったっけ? 違った?」
心底、不思議そうに曹騰が劉保に問う。
「いえ、劉保であってます。ただ……」
「ただ……?」
不思議そうな顔を浮かべる曹騰に劉保は苦笑を浮かべる。
「あまりそう呼ばれ慣れなかったものですから」
「呼ばれ慣れなかったって……」
自分の名前だろうに、と思いはしたがそれも家庭の事情なのだろうと思って言葉を飲み込む。
どういう事情だかはよくわからないが。
「……で、お嬢様なんだよね?」
露骨な曹騰の言葉に劉保は再び苦笑。
「そう、かもしれませんね」

思えば子供の頃から大事にされすぎて同年代の友達を得ることも出来なかった。
周りがみな自分の名前を知っているのだ。
近づいてくるのは自分の名前を利用して出世しようとするやつらばかり……

だから劉保にとって自分のことを知らないでいてくれる曹騰ははじめての興味深い存在だった。
「ねぇねぇ、劉保ってあだ名ってないの? あだ名」
「あ、あだ名!?」
劉保は一瞬、呆然としたがすぐににっこりと笑った。
「あだ名、というのはありません。私のことは劉保とだけ呼んでくれればそれで十分です」
「ふ〜ん……あ、そうそう……」
何気ない会話。
曹騰が振ってくる……彼女にとっては本当に何気ない話題なのだろうが……それは劉保にとってはとてつもなく新鮮な時間だった。

「……ってば! 劉保ってば!」
少しぼんやりしていたのだろう。
ふ、と気付くと曹騰の顔がほんの目の前にあった。
「は、はい?」
「あ〜、びっくりした。劉保ってば急に立ち止まるんだもん」
屈託なく笑う。
「ちょっと考え事をしちゃいました」
「わかるわかる」
なにがわかるというのか、曹騰は劉保の言葉にしきりに頷いてみせる。
それもまた……なにか嬉しかった。

554 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:33
「で、どうかしましたか?」
劉保の言葉に曹騰は『あぁ、そうそう』と言った。手をポン、と打つアクション込みで。
芸の細かい娘である。
「劉保って何年生なの?」
曹騰は学生課の係員を明らかに圧倒する存在感から自分よりも1歳か2歳は年上だと思っていた。
胸は……まぁ、成長期には個人差がある。きっとこれからだ。大丈夫。
「今年から高等部です。曹騰さんと同い年ですね」
劉保の言葉に曹騰はぴしっ、と石化した。
「あ、あの……えっと……季興さん?」
まるまる30秒固まってから曹騰は目をぐるぐるさせながら喚いた。
「お嬢様で、キレイで、私よりも年上かと思ったら実は同い年でーッ!? 完璧超人か、あんたはーッ!?」
「え、えぇッ!?」
劉保にとっては……まぁ、当たり前であろうが……はじめてこんなことで怒られているわけである。
「天は二物どころか森羅万象をあんたに与えたかーッ!?」
「そ、そんなッ!?」
理不尽である。
目をぐるぐるさせていた曹騰は……しかし、ある一点を見やってからふむ、と考えこんだ。
「き、季興さ……わひゃあ?」
劉保が変な声をあげた。
曹騰が劉保の胸を前から揉みはじめたからだ。
「ごめんごめん。完璧超人じゃなかったね」
「あ、いや。やめてください……季興さん」
ふにふにふに。
顔を真っ赤にして悶える劉保。
「これが劉保の完璧超人っぷりを阻害してる、と思うと愛しく思えるねぇ」
「あ、だめ。そこ……や、やめて、ください」
ふにふにふに。
ちっちゃいが感度はいいようだ。いいからどうだ、というわけでもないが。
不意に曹騰の手が止まる。
「あ、ん……え?」
「へへ〜、劉保ちゃん、感じちゃった? 可愛かったよ〜」
胸を揉まれたときとは違う気恥ずかしさで再び劉保の顔が朱に染まる。
「もう、季興さんなんて知りません!」
ぷいっ、とそっぽを向く。
「ごめんごめん」
へらへらと笑いながら劉保に謝る曹騰。
「許しません」
しかし劉保の口元はその言葉とは裏腹に笑みを形作っていた。
……こんな友達なんてはじめてだったからだ。

555 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:34
「うっわぁ」
曹騰はその巨大な建物に驚きの声をあげた。
司州蒼天女子寮。
さすが学園都市の首都の寮である。
その威容はまだこの司隷特別校区に到着して間もない曹騰を驚かせるに十分なものだった。
「ふふ、どうしました?」
曹騰の驚いた顔を見て劉保はくすり、と笑った。
「びっくりしたよ〜。こんな大きいんだねぇ」
心の底からの驚きに劉保はまた笑みを漏らす。
「さ、お姫様。こちらが女子寮になりますわ」
「うん、苦しゅうない」
劉保の言葉に曹騰は尊大に頷き……吹き出した。
「く、くくく……劉保っておもしろいんだね」
「そんなことはありませんわ……さ、司州蒼天女子寮へようこそ」
劉保が曹騰を招き入れる。
そこも……曹騰が見たことがない別世界だった。
「ほぇ〜」
感嘆にもならないような声をあげる曹騰。
それを微笑ましげに見ていた劉保の顔が不意にこわばる。
「ここにおられたんですか」
「あ、えぇ……ただいま帰りました」
曹騰は劉保に声をかけてきた女性を横目で観察する。
背の高い、しかし目の細い女性である。

竹刀を片手に持っていることから恐らくは軍人なのであろう。
ぽわぽわとした喋り口調ながら劉保には礼儀を尽くしているようだ。
しかし……そう、親しそう、という言い方は少し違うような気がする。
どこかに遠慮が感じられる口調。
まぁ、無遠慮よりはいいだろう……
自分のことを棚に上げて(曹騰の心には棚が108個ある)曹騰は女性の胸を見た。

でかい! いや、そうじゃない!
女性の胸には燦然と輝く二千円札階級章。
カムロの自分にとっては雲の上のひとである。
思わずびしっと気をつけをしてしまう。
というか……
「劉保……ねぇ、このひと……」
誰? と聞こうとする曹騰の目の前になにかが突き出された。
目で追うと……女性の手元に……って、竹刀!?
「うわぁッ!」
跳び退る曹騰。
女性はにこにこと笑みを浮かべたまま竹刀を曹騰に向けたまま……
(こ、こあい……)
目の前の女性はとりあえず名前がまだわからないので曹騰の中で『ぽわぽわ暴力的二千円』と命名された。
そのまんまである。そうでもないか。
「そこのカムロ……この方を誰だと考えているのかは知りませんが呼び捨てにする所見をぜひとも伺いたい」
「え? ……えぇ?」
呼び捨てにする所見、ってあんた……
「梁商さん、季興さんは……このひとはなにも知らないの!」
慌てて女性……梁商と呼ばれたか……の腕にすがる劉保。それでも竹刀の切っ先はピクリとも動かず曹騰に突きつけられたまま。
「なにも? ……なにも、とはどういうことです?」
劉保は梁商に答えず曹騰に向き直り、少し痛々しい笑みを浮かべた。
「隠していたわけじゃないんですけど……私、次期蒼天会長に指名されているんです」
劉保の言葉に曹騰は意識が遠くなりそうになった。
雲の上どころか大気圏の上のひとだ。すでに人間ではない……

556 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:34
蒼天会……
正式には『夏学園都市女子高等学校連合生徒会代表会議』。校祖である劉邦からはじまって以後、数十年もの伝統をもつ組織。
学園の学園であるための象徴的組織、そしてその頂点に……5万余にも及ぶ学生たちの頂点に君臨する存在こそ蒼天会長であった。

次期蒼天会長、ということは……

曹騰は前を歩く劉保のあとをとぼとぼ歩く。
その後ろを牽制するように歩く梁商が怖いわけではない。
梁商のことは多少しか怖くない。
それよりも……

ぴたっ、と劉保が足を止めた。
びくっ、と曹騰も足を止める。

「なんで……隣を歩いてくれないんですか……?」
劉保の声は悲しみに満ちていた。
しかし曹騰にとってはもう取り繕うだけで精一杯である。
「え、いや、だって、ほら、次期会長サマの横を歩くなんて恐れ多い……」
「サマなんて呼ばないでッ!」
曹騰の言葉を切り裂くような劉保の悲鳴。
曹騰は梁商と一瞬、顔を見合わせる。
「季興さん……私のことを呼び捨てにしてくれたじゃない……それははじめてのことで……とても嬉しかったのに……」
劉保は泣いていた。
「いつだってみんな私のことを知っていた……だからなにも知らないでいてくれたあなたのことがすごく嬉しかった……でも、もうそれもおしまい」
歌うように呟く劉保。曹騰もカムロであるから差別を受けてずっと生きてきた。
無視される辛さはこの身に染みているはずだ、なのに……今、自分が劉保を傷つけてしまった……
「ごめん、劉保」
悲しみに彩られたその口調に償いの言葉はすんなりと口の端に乗せられた。
この子を悲しませるくらいなら地獄の業火に焼かれてしまえ、とそう思った。
「申し訳ありませんでした。次期会長がそんなことを思い煩わされていたとは露知らず……しかしわたくしはもうずっとこの態度で慣れてしまいました。いずれお名前を呼び捨てにさせていただきますので今はこれでご勘弁を」
梁商も首をたれる。
「曹騰さん、さっきはごめんなさいね」
首をたれながら梁商は曹騰にもそっと呟く。
いいひとなんだな、と曹騰は漠然と思った。
「ホントにごめん。もうサマなんて言わない。ごめんね」
曹騰の言葉に劉保はようやく涙を流しながら笑顔を見せた。
「今度、サマなんて言ったら絶交、ですよ……」

557 名前:北畠蒼陽:2005/02/10(木) 16:36
とりあえずあんまり連投もあれなので2話までです。
復帰したら続投の方向性でお願いします。

まぁ、引越しは土曜なのでそれまでに3話くらいまで投下するかもですが^^;

558 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:50
>北畠蒼陽様
(;;゚Д゚)曹騰キタ―――――!!!
とか言いながら、実は党錮事件以前(しかも第二次以前)の知識はさっぱりな私_| ̄|○
とすれば今の私に残された道はひとつ、話そのもののよさに浸るしか…続きが楽しみであります!
一刻も早いオンライン復帰を心よりお待ち申し上げる!

では、今度は私めが北畠様の後を追っかける形になりますな。
実は個人的に好きな人物である審配の最期SS、僭越ながら上梓致します。

559 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:55
-邯鄲の幻想(まぼろし)-

冀州校区、ギョウ棟。かつては邯鄲棟と呼ばれ、先代、先々代の学園混乱時代から、この地屈指の堅城として知られる棟だ。袁氏生徒会役員の残党と、曹操率いる蒼天会との戦いも、この地の陥落をもって一区切りのついた形だ。
「ようやく、落ちたな」
「そうね〜、こんなに梃子摺るなんて、思ってもみなかったなぁ」
そのギョウ棟がよく見渡せる小高い丘の上に、二人の少女が立っていた。その腕には、蒼天会役員であることを表す腕章と、その身分を表す紙幣章をつけている。片一方の、小柄で赤みがかった髪の少女のつけているのは、学園組織の中でも数名しか存在しない一万円章だ。
小柄な少女は、いまや蒼天生徒会を掌握する、蒼天会長の曹操。
その傍らに立つのは曹操幕下きっての参謀・郭嘉。
「会長、ギョウ棟の主将、ご命令通り捕縛いたしました」
「ん、ご苦労様」
報告に駆けつけた少女に労いの言葉をかけ、
「でさ、何人か集めて棟の執務室を掃除しといて。例の娘は、別の部屋で待ってて貰うように…くれぐれも、丁重にね」
「畏まりました」
命令を受けた少女は再び、本陣のほうへ駆け戻っていく。
「…会長、あんたマジであいつを口説き落とすつもりか?」
「もっちろん。アレだけの逸材、放っとく手は無いでしょ」
「…きっと無駄だと思うけどなぁ…」
呆れ顔の郭嘉を他所に、曹操はこれから会いに行く少女にどんな言葉をかけようか、どう用いようかと、そのことで頭が一杯になっているように見えた。

宛がわれた部屋で、少女は椅子に腰掛けたまま項垂れていた。
飴色の光沢がある髪を、スタンダートなツインテールに纏めている髪型は幼い印象を与えるが、その幼い顔立ちのせいか良く似合っている。笑えばかなりの美少女のように思えるが、その鳶色の瞳は虚ろで、何の表情もみせていない。
手は布で戒められているが、その布は手触りこそ柔らかだが恐ろしく丈夫な、学園の制服にも使用されている特殊素材だ。かつて「鬼姫」と恐れられた呂布の力を以ってしても、紐状に捻ってあるこの布を引き千切ることが出来なかったと言うウワサがある。
その少女の名は審配、綽名して正南。かつてこの地を治めていた実力者で、曹操との戦いに敗れて失意のうちに引退した袁紹の専属メイドのひとりであった。袁紹が学園に覇を唱えるべく動き出すと、その才覚を見出され、参謀として抜擢された逸材だ。自分を認めてくれた袁紹への忠誠心は正に鉄石、その遺志を奉じ袁尚の副将としてギョウ棟の守備を任されていた。
そう、「いた」のだ。
彼女はギョウ棟を追われてしまった主・袁尚の留守を護り、迎え入れるために必死に棟を護ってきた。曹操の腹心・荀揩ネどは彼女を「我が強くて智謀に欠ける」なんて酷評していたが、その指揮能力の高さは曹操も舌を巻くほどだった。
攻めあぐねた曹操は、審配が従姉妹の審栄をはじめとした同僚達と不仲であったことを利用し、離間の計で内部から切り崩したのだ。ギョウ棟を守った忠義の名将は、哀れにも身内の手によって戒めを受けることとなった。
「いい様ね、正南先輩」
不意に扉が開かれ、一人の少女が入ってきた。
黒髪をポニーテールに結った、真面目そうな雰囲気の少女。先に袁氏を見限り、曹操の傘下についた辛(田比)、綽名して佐治である。邯鄲陥落の直前に、審配とも顔見知りだったことから、降伏勧告を呼びかけてきた少女だ。
審配は一瞥し、再び視線を戻す。
「知ってますか? あなたがあの時投げ捨ててくれたティーセット、アレは私の宝物だったんですよ?」
審配は何の反応も示さない。
「此処の初等部に入学した際、記念に祖母が贈ってくれた大事なものだったんです」
独白を続ける辛(田比)の顔にも表情は無い。いや、正確にいえば、感情を努めて押し殺しているように見える。
「…だから…何」
一拍置いて、審配はようやく口を開いた。
「宝物を壊された仕返しに、私をこの窓から放り投げてやるとでも?」
「…!」
相変わらず表情は無いが、抑揚の無い声には、明らかな蔑みの響きがある。辛(田比)の表情は、見る間に険しくなっていった。
「折角あんたの頭を狙ってやったのに、外したのが残念…」
「貴様ぁぁー!」
刹那、辛(田比)は怒りで顔を紅に染め、審配を無理やり立たせると、その顔面へ向けて思いっきり拳を振り下ろそうとする。
「はい、そこまで」
その拳が、寸前で止まる。手首を捕まれた辛(田比)が振り向くと、曹操を始めとした蒼天会幹部の面々が何時の間にか立っていた。手首を掴んでいるのは、曹操が最も信頼するボディーガード・許チョ。この緊迫した事態にあってもぽやんとした表情を崩さないあたりは、流石は許チョといったところか。
「曹操…会長」
「駄目だよさっちゃん。どんな事情があっても、捕虜の私刑はご法度なんだからね!」
そんな一連の事態の渦中にあっても、審配の表情は相変わらず、虚ろなままだった。

560 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:58
整然と片付けられた執務室。
部屋の壇上、曹操が卓に着き、その後ろには、ぼんやりした表情の許チョが立っている。
その左には夏候惇、張遼ら曹操幕下きっての猛将たちが揃い踏み、右には郭嘉、荀攸、程Gといった鬼謀の知者がずらりと並ぶ。その片隅には、先程揉め事を起こした辛(田比)の姿もあった。
壮観な風景である。この中央に立たせられ、曹操と面と向かい合って立つものの殆どは、その威風に居竦み、あるいはその名誉に打ち震え、あるいは己にもたらされる末路に恐怖する。
しかし、審配はそのどれにも当てはまらない。席を与えられ、腰掛けている彼女の表情は虚ろなままだ。
「っと、さっきのはごめんね。理由はどうあれ、あたしの監督不行き届きが招いたことだから」
気を取り直すように、曹操は努めて明るい口調でそう言った。
「いやぁ、この邯鄲棟を落とすのにそりゃあもう苦労させてもらったわよ。いくら棟内部を知り尽くしてるからって、あそこまで護りきれる人なんて滅多に居るもんじゃないよ」
「…何が…言いたいの?」
ようやく、沈黙を守っていた審配が口を開いた。相変わらず表情は無く、声に抑揚も無い。
学園で袁紹を見かけると、顔良や文醜といった輩に混じって、明るい笑顔を振り撒くこの少女の姿をよく見ていた曹操は、少し寂しい気持ちになった。しかし、それをおくびにも出さず、なおも明るい口調を崩さず、
「ようするにあたし、キミのこと気に入ったんだ…どうかな、蒼天会に協力してくれないかな?」
「…部下になれ、と?」
「ぶっちゃけて言えば、そういう事になるのかな。もちろん、ただでとは言わないよ。何か条件があれば…あ、もしかして袁尚たちのことが心配なら、可能な限りその立場は保障する。キミが彼女達を説得してくれるならそれでも…」
「ふざけた事言わないでッ!」
その瞬間、審配は怒声をあげ立ち上がった。ギョウ陥落以降、彼女が見せた初めての感情は、怒り。
「私は腐っても袁家の…ううん、袁本初の遺志に殉じる臣よ! そこの辛(田比)みたいな日和見主義者と一緒にされるなんて侮辱以外の何者でもないわ!」
その言葉に、辛(田比)の顔色が変わる。曹操は目配せをして、その両隣りに立たせていた徐晃と夏候淵に辛比を制させた。激昂する審配は、自分の階級章に手をかけると、それを無造作に引きちぎり…
「虚しく虜囚となった今、本初様に合わせる顔も無い…私の答えは、これだッ!」
「!」
ほんの一瞬前、曹操の顔があったあたりに何かが飛んできて、背後の黒板に当たって跳ねた。
床に落ちたそれは、審配のつけていた貨幣章だった。袁紹の寵を受けながら、富貴を求めず、ただ誠心誠意仕えたことを示す、その重責に似合わない低い階級章は、まこと彼女らしいといえる。
曹操の表情から、笑みが消えた。居並ぶ諸将の表情にも、緊張の色が浮かぶ。
「さぁ…放校だろうが、退学だろうが、好きになさい! もう、未練は無いわ!」
「そう…なら、キミに相応しい罰を受けてもらうよ…」
静かだが、内面に沸き起こる憤怒をこめた曹操の視線が、審配を射抜く。しかし、審配は気丈にも、それを睨み返していた。

どの位時間が経っただろうか。
あのあと審配は、最初に居た部屋に戻されていた。その手に、戒めはない。
(終わったのね…すべて)
彼女は、ジャージのズボンのポケットから何かを取り出し、手の上に載せた。それは小さなロザリオの着いた、銀のネックレス。
官渡公園での決戦が行われる直前、兵卒を預かる将の証として袁紹から下賜されたものだ。審配にとっては、敬愛する袁紹に認めてもらえた確かな証。殆どの袁氏生徒会役員達が自身の保身の為に打ち捨て、あるいは討たれて戦利品代わりに持ち去られていってしまった。
恐らくは、これを保持しているのは彼女のほかは、今なお戦い続けているであろう袁尚、袁熙姉妹か、高幹といった袁紹の身内連中くらい…いや、それも怪しい所だ。
(…申し訳ありません…私は、あなたの遺志を守ることは出来なかった…)
手の中のそれを、強く握り締めた。
彼女が見つめる窓の先には、リタイアしてのち、一般生徒として生活する袁紹が居るだろう学生寮が見えた。その瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
(私は学園を、あなたの元を去ります…これで、さよならです…二度と、お会いすることは…)
「お待たせ〜」
先程とはうって変わって、実に能天気な調子の曹操と、郭嘉のふたりが部屋に入ってきた。慌てて涙を払い、再び気丈な表情で、曹操と向き合う。
「まぁ…いろいろ考えさせてもらったんだけどね。やっぱりこれしかないと思ってわざわざ来て貰う事にしたんだ。入って」
「えっ…?」
曹操が促すと、ひとりの少女が部屋に入ってきた。その人物を見た瞬間、審配の表情が凍る。
山吹色のヘアバンドで留めた、流れるような光沢のあるストレートの黒髪。多少やつれてはいるが、目鼻の整った気品のある美貌と、制服の上からでも解るスタイルの良い長身。その雰囲気は、深窓の令嬢という表現以外に出て来そうに無い。
彼女こそ、袁紹そのひとだった。
「たっぷり、叱って貰うといいわ…後は、彼女にキミの処遇を任せるから…じゃあね」
それだけ言うと、曹操たちは二人を残し、部屋を後にした。
閉じた扉の音が、何よりも残酷なものに、審配には思えていた。

561 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 21:58
「…あ…あの、私…」
沈黙を破ったのは審配だった。
「私…何も出来ませんでした…顕甫お嬢様を護るどころか、曹氏蒼天会に一矢報いることさえ」
袁紹は黙ったままだ。その沈黙が、自分を責めたてているように思えた。
「私にそんな力は無いのに…いきがってつまらない意地張って…こんなことに」
俯いた瞳から、涙が零れる。
不意に、抱き寄せられる感覚に審配は驚き、顔を上げた。
「…え…」
「御免ね…私が愚かなばかりに、あなたをこんなに苦しませてしまうなんて…」
「そ…そんなっ! 本初様は何も悪くないです!」
袁紹は頭を振る。表情はわからないが、その声は涙声だった。
「…私は、たくさんの娘達を…私を信じてついて来てくれたみんなを…裏切ったのよ。そして、残ったあなたたちに、すべてを押し付けて逃げた卑怯者よ…」
「本初…様」
「許してなんて言えないわ…本当に…ごめんね…」
審配は思い返していた。
この部屋に入ってきた袁紹の顔は、酷くやつれていた。官渡の決戦に敗れ、失意の引退宣言をした時よりもずっと、やつれているのが解った。覇道を断たれ、一線を退かなくてはならなかった無念がそうさせたのだと、審配は最初思っていた。
しかし、彼女はそれが間違いだったことを理解した。袁紹はずっと、自分の不明によって失ったかつての仲間達や、残った自分達の事を思い、それに罪の意識を抱き、苦しみつづけていたのだろう。恐らくは、ひとりで。
だから、彼女は思った。
「…大丈夫ですよ…みんなきっと、あなたの事を恨んでなんか居ません」
「…え?」
「考えたプロセスが違ったかもしれないけど、みんな同じ未来を目指して、あなたについてきたんですから」
自分は心底、この人のことが好きだからこそ、この人を見捨てることが出来ないから。
「だから、もうそんなに、ご自分を責めないで下さい…それでもあなたが、ご自分を許せないと言うなら」
それが自分の償いの道であると、そう思ったから。泣き笑いのその表情は、何処か吹っ切れたように見えた。
「私にも、その苦しみを、背負わせてください」
「…正南、さん」
泣き崩れた大切なひとの身体を、審配は強く、抱きしめていた。

部屋を立ち去り、屋上に上った曹操は、振り向きもせずに呟く。
「…どうして、なんだろうね」
「あん?」
「公台も、雲長も、あの娘も…どうして、あそこまでひとりのひとについて行けるんだろうね」
その背中は、酷く寂しそうに見えた。元々小柄な少女だが、郭嘉にはそれが一層小さく見えるように思えていた。
郭嘉は、口にくわえた煙草に火をつけ、その味を一度確かめる。そして、おもむろに言った。
「…そりゃあな、きっとあたし達があんたにくっついていくのと変わらないんだと思うぜ」
「え?」
「あいつ等にはあいつ等の信じたヤツと同じ未来しか見てないように、あたし達は曹孟徳と同じ未来しか見てないんだ…そういうもんさね」
「…そっか」
振り向いた曹操の笑顔は、何処か寂しげだった。
「さ、もう往っちまった連中は放っておいて、これからのことを考えようぜ。まだまだ、先は長いんだからな」
「ん…そだね」
眼下には、棟から去って行く二人の姿が見えた。
かつて課外活動で己の覇道を貫こうとした少女と、それを支えた名臣は、今や只の一生徒でしかない。しかし、彼女等はそれでも、よき友で在り続けることを選んだようだった。
いや、多分、これからふたりは本当の"友達"になるのかもしれない。
曹操の目には、それがあまりに寂しくも見え、羨ましくも見えた。
「ね、奉孝」
「何だ?」
「もし…もしもだよ、あたしが本初みたいになったら、キミはあたしについてきてくれるかな?」
一瞬、呆気に取られる郭嘉。次の瞬間、さも可笑しそうに笑う。
曹操は少し不機嫌そうに、
「な、なんだよ〜、あたしは真面目に話してるんだよっ!」
「ははは…そんなこと、させねぇよ…あたしの命に賭けても、会長を袁紹みたいな目に合わせやしないさ」
「もしもだって言ったじゃん」
「…その、もしも、もありえないさ。絶対に」
微笑んだ彼女が見上げる空は、何処までも青く澄みきっていた。
最期の言葉は、その身に待ち受ける、あまりに過酷な未来をも覆せるようにと…そんな彼女の願いもこめられているようだった。

(終わり)

562 名前:海月 亮:2005/02/10(木) 22:09
以上です。
主役は審配のハズですが、実は最後で、雪月華様の「烏丸反省会、懊悩」への微妙な複線になってるとかなんとか。

あと、袁紹との絡みは完全にドリーム(つーか妄想?)です。
審配(&逢紀&郭図)もオフィシャルがなかったみたいなので、またしても勝手に描いてしまいました…
それものちほど持ってきます。

563 名前:北畠蒼陽:2005/02/11(金) 00:05
>海月 亮様
くはぁ……
さすがのヒトコトですな……

思えば私が審配ってヒトを意識したのは中学生の頃、市立図書館で読んだ三国志の小説。
誰が書いたものかは忘れてしまいましたがちょうどこのSSのように辛ピがでてきて……
辛ピの兄、辛評の仇の審配を号泣しながら責め立てようとするシーンがありまして、それが三国志を人間ドラマとして見る一番最初の理由だったような気がします。
曹操にとっても審配をとるか辛ピをとるか、ってんですごい悩んだでしょうね、実際のとこ。

とりあえず眼福で御座いました(笑

564 名前:海月 亮:2005/02/11(金) 22:25
>北畠蒼陽様
なんですと!(;;゚Д゚)そんな素晴らしい小説があるなんて…!
私が審配を知るきっかけになったのは吉川栄治「三国志」なんですよ。アレだとそのシーンの描写も素っ気無いんですけどね。
それはさておき、実は審配や、(異論はあるかもしれないですが)日本でいえば真田幸村とか島左近とか山中鹿之助とかのように、忠義に殉じて散った人物が大好きなのですよ。

565 名前:岡本:2005/02/13(日) 16:58
海月亮様、北畠蒼陽様 岡本と申します。
こちらに貢献できなくなって久しいですが、閲覧は続けております。
活気を呼び込んでいただいてありがたいです。

>海月亮様
文章はお見事ですが、なまじ私も正史を読んでいるだけに、
”そこは解釈が違うんじゃないか””あまりにも主人公側を持ち上げ、
敵役を(背景を考えずに)安易に貶めすぎてはいまいか”と気になってしまいますね。
まあ、そこは各執筆者様ごとの見解の違いであって云々すべきところ
ではないかも知れませんが。

丁奉=個人的には”三国で見ても最後の豪勇”ですね。そういう意味では興味深い
一人ではあります。ただ、切り込み隊長的スタンスから最後まで抜け出せなかった
のが惜しまれますが。この人は最終的に大将軍や大司馬までなっていますが、多大な
功績はともかく政略眼や将帥としての才幹が乏しい人間がこういう地位にいるのは
国としてはある意味不幸だったかも...。攻撃型君主待望論にのって孫皓を皇帝に推挙した
人間の一人でもあるんですよね...(そういう意味では孫皓は末期まで軍官からは以外に悪く言われていません)

韓綜=初期の元勲の不肖の息子(ここでは妹)という立ち位置ですが、そう単純な話でも
なさそうなんですよ、これが。韓当の葬儀にかこつけて一族郎党を国外逃亡させ、その際にも部下に親族の娘を
娶わせて離反を防ごうとしています。突発的に反抗したのでなく、かなりの計画性を感じます。
わざと不評を流すことで、処罰を恐れた部下の踏ん切りをつけさせたという説も聞いたことがあります。
結局、20年近く対呉戦線で暴れていたことを考えると軍人としてもこの時期では優秀な部類に入ります。
周瑜の息子が優遇されなかったことに関して、孫権はもっともらしいことをいっていますが、
豪族連合体で権力基盤の弱い孫家を脅かしかねない大姓を一つ一つ牽制していた可能性があります。
程普・黄蓋の息子が優遇されていない、甘寧の息子は交州送りという事柄を考えると、勢力基盤が0に近い一代目は
他の大姓を牽制するために優遇しますが、2代目以降になると逆に彼らが大姓化して孫家を脅かす可能性が無視できなくなり
勢力を削るようになっていたという考え方もできます。

審配=忠魂烈士と評がある人物ですが、彼(彼女)が忠義を尽くしたのは袁紹というよりむしろ袁尚という気がしてます。
かなりきついタイプの人ですね。袁譚と袁尚の仲たがいで決定的に袁家勢力が弱まったことを考えると、果たして
本当に忠義の人物だったか?といわれると首をすこし捻りますね。ギョウ攻防戦で見せた防戦指揮はすばらしいものでしたが、
こと際まる直前に袁譚派の辛評の家族を抹殺したのは、”曹操を手引きした”という問題を追求した結果にせよ、人間として超えては
いけない一線を越えた人物という印象のほうが強いです。私は独善性の強い激情家と解釈しています。

以上、長々とあら捜しのような発言で失礼いたしました。

566 名前:海月 亮:2005/02/13(日) 21:18
>岡本様
お初にお目にかかります、昨年末よりこちらにお邪魔させていただいている海月でございます。
こちらこそ、私めの瑣末な文章に対し、ご丁寧な指摘の数々、恐れ入ります。

仰る通り、私が話を書く場合、どうしても話の主役(この場合は丁奉と審配ですな)に重点を置いてしまい、その他の登場人物を軽く扱ったり、それが敵対者であれば主役を引き立てるために必要以上に貶めて書いてしまうのです。
これが性分だ、と言ってしまえば簡単ですが、こうやって人様の目に触れる場所に拙作を上梓する以上、キチンと考えなければならない問題だと思いました。
確かに、物事には複雑に絡み合った事情があるわけで、そういったものを巧く書き出せば、より良い作品が出来るのも道理です。
実際、呉の凋落を招いたのは孫氏と配下にある有力豪族との関係に齟齬を生じていたことに遠因があったわけですし、韓綜出奔の事情も、そこに求めることだって出来るわけですし…それを無視していたことは、大きな失敗でした。

ここはこのご指摘を心に留めて素直に己の未熟を猛省し、更なる精進を積み、岡本様始め参画者の皆様方に納得して戴ける作品を上梓することで、お詫びに代えさせていただきたく存じますm(__)m
と、いうわけで、お目汚し失礼いたしました&未熟者ですがこれからもよろしく御願いいたします。では。

567 名前:★ぐっこ@管理人:2005/02/13(日) 21:42
あー、私出遅れすぎ。

>>540
教授様GJ( ゚Д゚)!
凌統。・゚・(ノД`)・゚・いや、楽進の方か。・゚・(ノД`)・゚・
このシーンで飛ばされるということは蒼天テイスト込み…
そういや無双でも出てくるんですね、凌統…つうことはアレか、
甘寧とのカラミが増えて呉スキーたちはハァハァなんだろうな…

>ロバミミモード
うわははははは!海月様!イイ!
何がいいといって、顧雍たんや歩隲たんの反応がっ!
海月様はこのへんの脇キャラが特にうまいなあ…。
あのロバ耳の原因は、やはり孔明だったか(;´Д`)

>曹騰初登場( ゚Д゚)
北畠蒼陽さま!キタ!キタ!キましたよ!?
あっ、何かが降りてきた!Σ(・∀・)ピキーン
チクショウ、もっと早く熟読しておけば!東鳩2なんかやってるんじゃなかった!
曹騰姉さん、キャラのディテールとかはこちらの脳内騰たんと多少違うとはいえ、
順サマとの関係とか、梁商とか、イイ感じに降りてきましたよ!?
リヨみてとかリヨみて外伝とかの、更に源流になる物語!
むう、双璧祭と兼ねて何かできそう…(;´Д`)ハァハァ

>審配
(´Д⊂…!
いや、彼女の場合、なんつうか姜維と似通った暴走癖みたいなのが印象
に残ってますが、それでも当代の人物には違いない。郭図もそうですが
リヨみて的世界観でいえば、袁紹お嬢様の側近として「ごきげんよう」
の世界を守ろうと頑張っていたに違いない…

そういやBSでやってたドラマでも、辛[田比]が審配を鞭で叩いてました(;´Д`)

568 名前:海月 亮:2005/02/15(火) 00:30
>ロバ耳誕生秘話
なんでもかんでも孔明に帰結させるのは正直、安直な気もしましたが…。
まぁ、孔明ですから、何しててもおかしくないってことで、どうかひとつ。

>BSのドラマ
…ってあの人形劇のヤツでしたっけ?
何気にそのシーン、観たかも知れない…。

先日は申し述べることを忘れていたので、ここでひとつ審配のことについて。
海月の解釈は、審配が袁尚に忠義を尽くしたのは、袁紹が袁尚を後継者にしたいと思っていたことを汲んでのことだと思ってます。
袁紹に対する忠誠心ゆえに、袁尚に尽くしたという解釈です。袁紹が袁尚を後継者にしたいと思っていたことについては、袁紹伝にも記載されてましたし。
もっとも審配が「独善性の強い激情家」ということについては、私も同意見ですが。

それと郭図。
何気にぐっこ様の一言で、イメージがうまく固まりそうです。
何かいい味が出せそうな予感が…(;´Д`)

569 名前:北畠蒼陽@ネットカフェ:2005/02/17(木) 19:48
ネットカフェからこんばんは。
明日がお休みであることをいいことに今日は徹夜でネッカです。

それはともかくまだネット環境復活しません。
しばらく復活しないかもしれません。
なので投下もできません。
5話まで完成してるのにぃ(ノ_・。

まぁ、岡本様のおっしゃる活気からは程遠い人間ですがもうしばらくお待ちを^^;

570 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:17
えっと……
昨日の19時にネッカから復帰できないと書き込んでおいて家に帰ってみたらネットがつながっていたすごいかっこ悪いメルヘンです。
復帰記念に第3話投下させていただきますよぐすん(ノ_・。

571 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:17
-Sakura-
第3話:平野突羽根

劉保、曹騰、梁商の3人は劉保の部屋でくつろいでいた。
……広い。
広すぎる……
これが特権階級というものなのか……
曹騰は唖然としたが、よく考えたら自分もこの部屋に住むことになるのだ。
さらに唖然。

「……わたくし? 2年生ですわ」
ファーストインパクトは恐怖しか感じなかった梁商も話してみるとやけにいいひとだった。
劉保はお茶を入れると言って(本当は梁商が『わたくしがやります』と言ったのだけど劉保が自分がお茶を入れたい、と言って譲らなかったのである)
「梁商さんは〜……じゃあ劉保のおつきかなにかなの?」
「えぇ、そうお考えください」
よかった。もう呼び捨てても怒られない。
曹騰はない胸をなでおろす。
「曹騰さんはどうしてカムロに?」
「え〜と……私のお姉ちゃん、曹節っていうんだけど『一流の人間になるためには一流のものに触れ続けるのが一番だ』ってのが持論で。この学園都市の『一流』ってやっぱり司州だからどうしてもここにきたくて。でも私、カムロになるくらいしかここにくる方法がなかったの」
私、頭が悪いから、と言ってえへへ、と笑う。
「なるほど……」
正直な曹騰の答えに梁商も苦笑をもらした。
「……だったらこうしてはどうかしら」
台所でお茶を入れていた劉保がティーカップを手に持ちながら話に加わる。
「私と一緒の先生に勉強を教えてもらう、というのは……はい、梁商さん、どうぞ」
「ありがとうございます、次期生徒会長……なるほど、『一流』に触れる、という観点から見るとそれもいいかもしれませんね。班昭先生をはじめとして学園の頭脳と呼べる方々に教わることができますから」
細い目をさらに細めてティーカップに顔を近づけお茶の香りを楽し……もうとして梁商は固まりつく。
なんで緑茶なんだろう……
まぁ、飲めるからいいか。梁商はにこにこと笑みを顔に貼り付けたままなにも言わない。
「はい、季興さんもどうぞ」
「ありがとう……でも私なんかが一緒に教えてもらってもいいの?」
「えぇ、かまいません」
にっこりと微笑む劉保につられて笑いかけながら曹騰はティーカップの中身を指差した。
「ところでなんでこれりょ……」
その瞬間、風圧にも似た強大な『気』が曹騰を襲う。
にこにこと笑顔の梁商。
その目は『次期生徒会長が入れてくださったお茶だ。黙って飲め』と語っていた。
「どうかしましたか?」
「なんでもないよ」
冷や汗を隠しながら曹騰は笑みを浮かべ、ティーカップを傾けた。

緑茶はおいしかった。

572 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:18
蒼天会長、安サマの治世はおおむね平穏に過ぎていた。次期蒼天会長である実の妹、劉保もおり、後継も万全と言えるだろう。
しかし安サマは小、中等部の頃から英才教育を受けてはいたもののまだ学園の裁量を取り仕切るには力量不足であり、先々代蒼天会長、和サマの頃からの副会長、搴Mが実際の政務を取り仕切っているのが現状であった。
搴Mは成績向上を推進し、また蒼天会内部の経費節約につとめた。
だが匈奴高校をはじめとする他校とのトラブルが絶えず、完全に安定している、とは言いがたい。
しかしそれらは対外的な問題であり、搴Mの欠点ではない。
搴Mにはただ一点、本当に困った面があったのである。
一般学生の前には決してその姿を現さなかったのだ。
先々代蒼天会長のパートナーであり、優秀な学園都市の牽引役ともいえる彼女はそれだけで学園のアイドルとも呼べる存在であったが、姿を表さなかっただけでミステリアスというよりも不気味さをまとい学生を引かせてしまった観は否めない。
一般学生の前に姿を現さなかった、ということは一般学生と彼女との橋渡しをする役目が当然のように必要になってくる。
それをおこなったのが蒼天会秘書室のカムロたちであった。
これによってもともとただ蒼天会の事務を司り、ハンコを捺すだけの庶務部署であったはずの秘書室は権力を増大させていったのである。

「……へぇ〜、そうなんだぁ」
「そうなんだ……って」
梁商が困ったような顔で曹騰を見る。
現在の蒼天学園についてあまりにも無知すぎる曹騰に現状を教えようとした梁商は眉を八の字にした。
「曹騰さん……一流に近づきたくてカムロになったのではなかったの?」
「うん、そうだよ」
屈託なく答える曹騰。
「……だったらなぜカムロが一流に近い位置にいるのか、ということを知らなかったのはなぜ?」
「知らないものは知らないよ〜」
知ろうとしろ、と思ったが口には出さない。
「仕方ないですよ、梁商さん。季興さんはまだ司州に到着したばかりなんですから」
劉保までも曹騰にフォローを入れてくる。
到着したばかり、なのが問題ではなく到着するまでに下調べをしておかなかった、ことが問題のように思えるのは梁商の考えすぎだろうか。

573 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:19
翌朝、曹騰は眠い目をこすりながら劉保の後ろについて歩いていた。
梁商はいない。
彼女は彼女で忙しいのである。
「劉保〜? どこいくの〜?」
あくびをしながら声を出すので『ううほ』と聞こえた。
「えぇ、これから季興さんには私と一緒にあるひとにあってもらいます。忙しいひとですからあまり時間は取れませんでしたが」
忙しい、と言っても劉保ほどではないはずである。
しかしだからといってあんまり偉いひとにあって、その目の前で劉保のことを呼び捨てにしてもいいもんだろうか……
昨日、竹刀を目の前に突きつけられたばかりだし……
曹騰が控えめにそれを劉保に伝えると劉保はしばらく考え、そして笑いながら言った。
「大丈夫だと思います。あのひとは大雑把なひとですから」
大雑把なひと、って……
「それに……どんな場所であれ、私にサマなんてつけて呼んだら絶交ですからね」
悪戯っぽい表情。
曹騰は苦笑しながら素直に両手を挙げて降参の意思表示をした。

劉保より忙しいひとはそうはいない。
それは正確な言葉である。
次期蒼天会長である劉保が忙しいことについてはなんの異論もないからだ。
しかし『そうはいない』ということは『まれにいる』ということの裏返しである。

曹騰は緊張にこわばった顔でそのひとを見た。
背は曹騰より少し高いくらいだろうか。曹騰自身の背がかなり低いので彼女も世間一般的に見てもそれほど身長があるわけではない。
一見すると美人、と言っても差し支えないような顔つきだが目つきは鋭く、一概に美人と呼ばれることを拒否しているようにも見える。
髪は後ろでゆるく三つ編みを結んでいる。
そしてその胸に光るのは一万円札階級章。

蒼天会副会長、搴Mの実の姉であり連合生徒会会長、晁ォ。
超オオモノであった。

「晁ォ会長、ご無沙汰しておりました」
劉保が優雅に一礼する。
その瞬間、ずっと睨むような表情だった晁ォの顔に笑みが広がった。
「よ〜。どうだった、次期会長。体とか壊してねぇ?」
けらけらと笑う。
気難しいひとかと思ったら、ただのとらえどころのないひとだったようだ。

574 名前:北畠蒼陽:2005/02/18(金) 13:19
「妹が副会長なんかになるから私がこんなとこに座んなきゃいけなくなるんだっつの。まったく……どっかに優秀な人間がいれば喜んで階級章返上するのになぁ」
ぴん、と指で自分の胸の一万円をはじいてみせる。
「困ります。晁ォ会長は私の下でも生徒会長として指導していただかなくては」
「あっはっは。次期会長には梁商ちゃんがいるじゃねぇの。大丈夫大丈夫。あの子にだったら今すぐにでも階級章を譲ってかまわないね」
他愛ない世間話、というにはいささか庶民的ではない時空の話が続く。
「……で、その子は?」
笑顔のまま晁ォが曹騰のほうへ顔を向ける。
「きこ……曹騰さんといいます。昨日から私のルームメイトになりました」
「あ、あの! 曹騰です! 劉保のルームメイトになりました! よろしくお願いします!」
かちこちになりながら慌てて頭を下げる。
頭を下げる瞬間に見えたのは晁ォの獲物を見定める鷹のような目。
……このひと……ただの豪快なひとじゃない……
下を向いているが冷や汗が止まらない。
「……劉保、ね」
やがて晁ォは呟く。
その口調は先ほどの笑顔の表情と同じものだ。
「よかったじゃん、次期会長。友達が見つかったな」
「……そんな」
劉保の照れくさそうな声。
多分、真っ赤になっているのだろうな、と曹騰は下を向いたままで思う。
「っと、曹騰ちゃん。いつまでも下向いてるこたぁねぇ」
晁ォの明るい声。
曹騰は頭を再びあげる。
「曹騰ちゃん、ね」
晁ォのどこか底の知れない、だが不快ではない笑顔。
「あんたがどっからきた誰なのか、私には興味がない。だけど次期会長があんたのことを信頼している以上、私もあんたのことを信頼してやる」
晁ォは言葉を切り、窓の外を眺めた。
鳥が飛んでいる。
一層笑みを深くし、晁ォは言葉を続ける。
「秘書室に入るためには誰かの推薦が必要になる。私があんたを秘書室に推薦してやろう」
劉保は笑みを曹騰に向けた。
「ただし……この信頼を裏切ったら私があんたをぶっ殺す」
笑顔のままさらっと言ってのける。
しかし曹騰の答えは決まっていた。
「失礼ですが晁ォ会長は劉保のことをよくわかってません」
疑問を顔に浮かべる晁ォ。
「私がそんなことをしたら……」
曹騰は劉保の顔を一瞬見てから笑って言った。
「絶交されちゃうじゃないですか」
晁ォは曹騰の言葉に爆笑した。

晁ォに見えないように曹騰と劉保は手をつないでいた。
この手が離れることがありませんように……

575 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:49
-Sakura-
第4話:千里香

それからしばらくは勉強の日々だった。
劉保の教師は確かに一流であった。
明らかに学力の劣っていた曹騰にもわかりやすい、しかも高度な授業、というのはそうあるものではないだろう。
自分が補完されていく感覚は曹騰にとって嬉しいものだったし、それになにより劉保も一緒にいてくれたことが曹騰にとってのなによりの支えだった。

講義後の部屋。
たった2人を教えるために教室を使う、というのも妙な話ではあるので寮の私室を使っている。
つまり教師を寮まで来させているわけだ。
VIPってすごい……
「季興さんって覚えが早いんですね。先生も褒めてましたよ」
劉保がにこにこと笑いながら湯飲みを差し出してくる。
中身はチャイだった。
もう慣れた。
「覚え……早いのかな」
曹騰は苦笑する。
苦笑の主な原因はチャイなのだが。
「早いですよー。私がずっと教わってきたことにもう追いつかれちゃいましたから」
そう言いながら劉保は嬉しそうだ。
追いつかれて喜ぶ性格かと一瞬思ったがそうではないだろう、多分。
「私が蒼天会長になったら政務は全部、季興さんに任せて大丈夫そうですね」
悪戯っぽく笑いながらとんでもない発言をする劉保の顔めがけて曹騰は思い切り飲んでいたチャイを吹き出した。
「汚ーッ!」
「わぁ! ごめん!」
劉保が半泣きで制服の濡れた部分を指でつまんだ。
「うぅ、クリーニング代がもったいないなぁ」
意外とけちくさい。
「劉保がいきなり変なこというからビックリしたじゃないのさ」
心臓がばくばくいっている。
「変なこと……先生も褒めてました?」
「そのあとそのあと」
劉保は形のいいあごに指を当てて考える。
「クリーニング代?」
それは吹いたあとの発言である。
「ん〜と……政務全部?」
こくこく頷く。
「変かな?」
自覚がない。
「私、そんな権力なんていらないよ〜」
曹騰はたった1人、劉保と一緒にいられる、というだけで幸せを感じていた。
だから権力など必要ない。

「権力なぁ。まぁ、私もいらねぇなぁ」

いきなり後ろから声がした。

576 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:50
「よぉ」
曹騰は声の主を目で確認すると同時に背筋を伸ばす。
連合生徒会会長……
「晁ォ会長……」
……であった。
劉保が困ったような顔で晁ォの名を呼ぶ。
「どした?」
「ノックくらいしてください。いきなりはビックリするじゃないですか」
晁ォは劉保の言葉に初めて気付いたように手を打った。
「おぉ、すまんすまん。じゃあ……」
部屋から出て行く。
コンコン。
ノックしてからまた入ってきた。
「これでいいか?」
いいわけがない。
「えぇ、結構ですわ」
劉保はにっこり笑った。
……曹騰には理解できない感情だった。
「で、だ……」
晁ォは気をつけの姿勢をとったままの曹騰に普通の姿勢でいるよう促すように手をひらひらさせる。
「楽にしていいぞ。取って食やしねぇよ」
別に食べられることを心配しているわけではない。
しかしまぁ、言われて休まないのも失礼な話ではあるので曹騰はまたチャイを飲む姿勢に戻った。
「うん……前に言ったあれだけど覚えてるか?」
あれ、と言われても困る。
「秘書室に推薦してやる、ってやつだ」
忘れていた。
「秘書室を極めれば蒼天会長の側近に行き着く……ま、お前の望みどおりじゃねぇか?」
忘れていたとはいえ確かに望みどおりであることは確かである。
曹騰はチャイで口を湿らせてる。

カムロになったときにいずれは蒼天会長の側近になりたい、という思いがあったことは確かだ。
蒼天会長の側近になり権力の座につきたい、という思いが昔はあったことは確かだ。
昔は、である。
今、権力がほしいか……
そう聞かれれば即答できる。
権力などいらない。
その意味では秘書室に入り込むのは望みどおりなどではない。
でも……
曹騰は横を見る。
劉保は曹騰の秘書室への推薦を心から喜んでいるように見える。
だったら……
劉保のために権力を使うのも悪くない。

答えなど最初から決まっていた。

577 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:50
……と、簡単に秘書室入りを決めたわけではなかった。
内心、十分に考えてから決めたことのはずなのだが……

秘書室初日の感想は『早まったかな〜?』だった。

秘書室長、江京や実力者の李閏を中心にいつも集団行動。
ちらちらとこっちを見てはくすくす笑い。
非常に殴ってやりたくなる。
もっとも曹騰にとっても居心地が悪いことこの上ないが、江京たちにとっても連合生徒会会長の推薦というのは目の仇にされるものらしく曹騰は初日から孤立状態であった。

しかしそんな状況であれ仕事はあるらしく(もっとも秘書室長らは仕事などしていないが)曹騰もデスクにつき資料のまとめをしていく。
劉保と一緒に勉強したことが役に立っているようで、それだけが今のところほぼ唯一の秘書室での収穫だった。

ぺしっ。
なにかが頬に当たる。
……というか痛い。
ころころと書類の上を転がるそれはシャーペンの折れた芯だった。
指でつまんで折れた芯を眺める。
シャーペンの芯というのは曹騰の知っている限り、折れることはあっても顔に跳んでくることはめったになかったはずだ。
つまり……
……いやがらせ?
不機嫌な顔で芯が飛んできた方向を睨みつけてやる。

いやがらせではなかったらしくメガネをかけた同僚が声は出さずに、それでも口の動きと雰囲気で謝っている。

まぁ、どんな場所でも追従するやつらばかりじゃないってことか……
曹騰はそんなことをぼんやりと考えつつ、まだ必死で謝っている少女に『いいよ』と手の動きをしてみせる。
少女は頭を下げることこそやめたがそれでも手のひらを合わせたままウィンクしてくる。
そのポーズがやけにかわいくて……
曹騰は内心の思いに修正を加えた。

唯二の秘書室での収穫だな。

578 名前:北畠蒼陽:2005/02/19(土) 22:51
「いや〜、ごめんね、さっきは〜」
孫程と名乗った少女と照れ笑いを浮かべていた。
「ホント、気にしなくていいから」
ここまで謝られると曹騰のほうが恐縮してしまう。

2人は屋上で弁当を広げていた。
孫程も『集団行動』というやつは苦手らしい。
その意味でも収穫、という言い方は正しそうだ。

「いや、私、今でこそカムロやってるけどもともと体育会系だからね〜」
タコさんウィンナーをぱくつきながら、いかにも図書委員的な外見の少女はさらっと体制批判して見せた。
ここまで素直に言われると逆に心配になってくる。

しかし……曹騰は孫程の頭からつま先までをゆっくり見つめた。
カムロの象徴であるオカッパ。
フレームなしのメガネの下のちょっとタレ気味の目。
ほんのちょっとでも力を入れたら折れそうなくらいに細い首。
曹騰よりも小さいのじゃないか、と思わせる胸。
華奢、という言葉以外で言い表せそうにない腕。
すらりと伸びた、といえば聞こえはいいがやせっぽち、とも言いかえられる足。
曹騰はゆっくりと孫程の全身を眺めてから目線をもう一度合わせた。
「体育会系ってうそでしょ?」
「たは〜。まいったなぁ」
孫程は自分の後頭部をぺしん、と叩いて見せた。

体育会系かどうかはともかくとして図書委員ではありえないことだけは納得できた。

「本当ですか!?」
『ただいま〜』の声よりも先に部屋の中から劉保の叫び声にも似たような声が響く。
クエスチョンマークを頭に浮かべながら曹騰は室内に入った。
劉保は少し顔を青ざめさせて電話に向かっていた。
受話器をぎゅっと握り締めている。
「えぇ……えぇ、わかっています」
顔を青ざめさせながら、それでも普通に対応している。
明らかにまずい案件だ……
曹騰はそう判断し劉保の邪魔にならないよう部屋の隅で着替える。
着替えがようやく終わる頃、劉保の電話がようやく終わった。
電話が終わった瞬間、劉保はソファに倒れこむように座り込んだ。
相当まずい案件であることが伺える。
「ただいま。どうしたの?」
劉保はちらっと曹騰の顔を見て、再びうなだれた。
「おかえりなさい……」
そして意を決したように、それでも目を伏せたままぼそぼそと言った。
「摯實長がご病気で副会長を辞任なさるそうよ。階級章もすでに返上なさったんだって……」
予想以上にとびっきりまずい案件だった。

579 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:50
-Sakura-
第5話:白妙

「……で、お前たちはなぜここにいる?」
にこやかな笑みを浮かべたまま連合生徒会会長の椅子に深く腰をかけ晁ォは自分を取り囲む生徒会執行本部の面々を睥睨した。
そう、睥睨である。
晁ォはそれほど背が高いわけではなく、また座っているため見下ろしていられるわけがない。
それでも場を支配し、圧迫しているのは晁ォだった。
「と、晁ォ会長。あなたを解任します……私たちも手荒な真似はしたくありませんから階級章の自主返上をお願いしま……」
執行本部員たちの中でも一番偉いのであろう晁ォの目の前に立った娘が発言しようとし……しかし言葉の途中で晁ォの闘気とも呼べる異常なまでの気配をもろに浴び、最後まで発言することすらできずにへたりこんだ。
「あぁ? ……返上、だと?」
ゆっくりと執行本部員たちを見渡す。
執行本部員たちは青ざめ、まともに話ができる状態ではない。
「私は聞いてるんだ……いいか? 返上なのか? と聞いている」
デスクをはさみ、へたり込んだ娘のあごをゆっくりとなでながら優しく晁ォは尋ねた。
もう執行本部員たちは戦意を喪失していた。
「まったく……あまり彼女らをいじめないでほしいものですね。彼女らは貴女と違って前途ある若者なのですから」
その声に晁ォは執行本部員のあごをなでる手を止め、入り口の方向を睨みつけた。
執行本部員の人垣がわれ、その向こう側からおかっぱの女が姿を現す。
不健康なほどやせた体。
ひとを小バカにしたような目。
「……江京、てめぇか」

安サマは小、中等部の頃から英才教育を受けており昔は神童と呼ばれたものだった。
しかし実際に政務を取り仕切ることはない。
なぜならそこに蒼天会副会長、搴Mがいたから。連合生徒会会長、晁ォがいたから。
あまりにも優秀な人間に囲まれたため自分がなにもすることができなかったのだ。
もちろん彼女らがいなければ自分1人でどうする、というビジョンも持ち合わせていなかった。
ただ自分でなにかやりたかったのだ。
その安サマにとってこの搦o妹は本当に邪魔な存在だった。
彼女らがいなければどうなる、ということも考えもせずにただ邪魔だったのだ。

その反動はこの搴M引退の日にすべて降り注いだ。

580 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:51
「へッ」
晁ォは鼻を鳴らして笑った。
江京の姿を見た瞬間、すべてを理解した。
安サマがどれだけ自分を邪魔に思っているか、そしてどれだけ自分を憎んでいるか……

やってられるか。

正直な感想はそれだった。
搴Mと自分がいなければ何一つ満足に出来ないような小娘に自分の運命を左右されるのは癪だった。
ふむ……
腰に右手を当てて周りを見回す。
執行本部員は15人……
少ないな。
こいつらは血祭りにしてやろう。
その後、江京を人質にとってクラウドタワーを占領する……人質の役に立たなくなるのも困るから江京は半殺しで勘弁してやろう。
連合生徒会会長として子飼いの委員たちも数多い。
また各校区の総代の中にも彼女が目をかけてやったものも数多くいる。
時間が経てば経つほどこっちに有利になるのか……
しかも自分の元のポストは蒼天会長のボディガードだ。
もちろん元のポストなだけに自分のあとを継いだ後輩も自分がなにかをする、といえば力を貸してくれるだろう。
……おぉ、クーデターすら起こせそうじゃないか?
そのまま安サマをとばして自分が蒼天会長になってやるのも悪くはないな……

「く、くくッ」
自分の考えについつい笑いがもれる。
バカバカしい。
権力など自分には無用のものだったはずだ。
ましてこんなくだらない学校組織のために指一本分の労力を使うことすらお断りだ。
「どうしました? いきなり笑い出して……おかしくなってしまいましたか?」
自分のことを嘲笑する江京に逆にバカにするような笑みを浮かべる。
「いや? べぇ〜つにぃ〜」
あからさまにバカにした晁ォの言葉に江京はむっとした顔を浮かべた。
……自分がバカにされるのは耐えられないってか。心底小物だな。
「これだけの数の執行本部員を前にいつまでその余裕が続けられるのかしら!? 私が命令すれば貴女をいつでもとばせるんですよ!」
「少ねぇよ。私にかすり傷を負わせたかったらこの二乗倍の人数は用意しな」
江京は絶句した。それはそうだろう、15人を少ない、と言い切れる実力を江京は想像すらできない。
「……あ、安サマは寛大にも階級章のみの返上で貴女を許して差し上げよう、と仰っておいでです」
「ありがたい。ありがたいねぇ」
へッ、と鼻を鳴らす。
「ありがたすぎて反吐が出る」

晁ォは階級章と蒼天章を投げ捨てた。

581 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:52
劉保のことを一番に気に入っていたのは搦o妹だった。
劉保はその庇護下での次期会長であったのだ。
安サマのパートナーであり、搴Mのあとを継いで副会長になった閻姫は安サマの恨みにつけこむ。
その耳元でこう囁くのだ。
「次期会長は……あなたの妹は『あの』搦o妹の息がかかってるんですよ」

劉保の運命が決定した。

「なんだってッ!?」
劉保は諦めたようにうなだれたまま。
梁商はなにも言わず竹刀を片手に握り締めたままでティーカップからはと麦茶を飲む。
全校評議会からの使者の言葉に激昂したのは曹騰だった。
「もう一回言ってみろ!」
「か、カムロ風情がいきがらないで貰おう。私は蒼天会の正規の使者だ」
使者を名乗る女性の胸倉をつかみ、犬歯をむき出しにする曹騰。
「使者がなんだッ! もう一回言えと言ってるんだッ!」
「う、うあ……」
あまりの迫力に使者が口をぱくつかせる。
「曹騰さん、離してあげなさい。苦しそうですよ」
梁商がやんわりとたしなめる。
「……」
曹騰は使者を睨みつけながら、それでも梁商に従って手を緩める。
「はぁ……た、助かった」
息をつく使者に……その目の前に竹刀が突き出された。
「助かってはいないです。わたくしも『もう一度』言ってほしいのですから……今度は命をかけて内容を伝達していただきましょう」
使者が泣きそうな顔になる。
しかしどこにも助けなどない。
意を決し、そして使者はゆっくりとその内容を伝えた。

「劉保様を次期蒼天会長から解任します」

空気が重くなるのを感じる。
梁商がゆっくりと立ち上がった。
「ひ……わ、私はただの使者です! た、助けて……」
しかしその言葉に曹騰は冷たい目を向け、梁商は竹刀をふりかぶる……
「やめてあげて」
凛とした声で制止が入った。
……劉保。
「彼女はただ言われたことをこなしただけ。なにも悪くない」

582 名前:北畠蒼陽:2005/02/25(金) 20:52
「劉保、それは間違ってるよ。彼女は決定的に悪い」
曹騰が劉保のほうに視線も向けずに使者を睨みつけながら言い捨てる。
「決定的に『運』が悪いんだ。梁商さんも私も……機嫌の悪いところにこの部屋に来てしまったんだから」
「曹騰さんの仰るとおりですね。今ならどんなに無様に土下座されても許さない自信がありますよ」
曹騰と梁商、2人の腹心の言葉に……それでも劉保は言った。
「お願い。やめてあげて」
部屋を沈黙が支配する。
「2人がなにに怒っているのか、わかるつもりです。でも、やめて、あげて」
曹騰は憎々しそうに目線を落とした。
梁商は竹刀を床に叩きつけた。
そして……

劉保はただの劉保になった。

次期蒼天会長から済陰の君、というなんの権限もないただの名誉職に格下げされた劉保は、それでも表面上だけでも明るく振舞っていた。
曹騰も梁商もその明るさにずいぶんと助けられた。
くる日もくる日も好きなだけ勉強をし、好きなだけ体を動かし……
権力という鎖から解き放たれ……
それはそれで楽しい日々だった。

1ヶ月が過ぎた。
安サマが急病のために引退を宣言した。

「……蒼天会長の引退を新聞で知る羽目になるとはね」
曹騰が苦笑しながら蒼天通信を梁商に放った。
「まぁ、1ヶ月前であれば考えられないことですね」
肩をすくめながら新聞を受け取り、トップページを開く。
「ふ〜ん、ヘルニアですか」
どうでもよさそうに新聞をナナメ読みして梁商が呟く。
「腰痛い、とか言われてもねぇ」
曹騰が苦笑を返す。
制服を着た劉保が奥の部屋から姿を現したのはそのときだった。
「おや? 劉保、どっかいくの?」
曹騰が見咎める。
梁商も不思議そうな顔を劉保に向けた。
「えぇ……季興さんもついてきてください」
「いいけど……どこいくん?」
不思議そうな曹騰に……決心をこめて劉保は言い切った。
「安サマの……お姉さまのお見舞いに行きます」

583 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:40
-Sakura-
第6話:雨情枝垂

「はぁ?」
人を小ばかにしたような表情と態度に曹騰の怒りが急速にたまっていく。
江京……
蒼天会秘書室長。
良識人であり、学園の総鎮守たる搴Mが現役だったころにはカムロも常識人、と呼べる人間ばかりが登用され、江京は歯牙にもかけられないような小物であったが今では……
その蒼天会秘書室長が……
なぜこいつがこんなところにいるのか。
病気療養のために引退した……そのはずの安サマの病院の前にこいつがいるのか。
あまつさえ……
「安サマがあんたがたのような下賎の人間にお会いになるわけがないでしょう?」
……きれそうになる。
一歩前に出……ようとして劉保に袖口をつかまれて止められた。
「季興さん、だめです」
ちょっと涙目。出ていけない。
「あらあら。負け犬同士、仲のよろしいこと」
おほほ、と笑う。
似合ってない。
というかむかつく。
「あんたになんでそこまで言われなきゃいかんのか理解しかねるとこはあるけど、それはともかくなんであんたに一個人の見舞いの面会の可否まで許可を取らなきゃいけないんだ」
曹騰は額に青筋を浮かべながら精一杯丁寧な言葉で言う。
言い方は丁寧ではないが、普通だったら怒鳴り散らしてる。
そういう意味では十分丁寧。
「はッ」
しかし曹騰の内心の葛藤もむなしく江京は鼻で笑う。
「バカじゃない? 今の私は秘書室長様なわけ。つまりあんたがたのようなゴクツブシよりもはるかに偉いわけ。もう雲泥なわけ」
『雲泥』を『ウンディー』と発音するところがまたむかつく。
「あんたがたのようなザコと話してたら気品が腐るわ」
おほほ、と笑う。
それにこいつに気品なんてない。
断じてない。
「だめです、季興さん。いけません」
肩口で劉保の声がする。
どうやらそうとう力が入っていたらしい……
劉保のほうがもっと怒っていいはずなのに……
「そうそう、済陰の君閣下。そうやって権力者におもねっておけばいずれは中央に戻ることができるかもしれませんよ……気が向けばねぇ」
ふん、と笑う。
むかついた。

584 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:41
「ごめんかった!」
結局、安サマには一目も会えず……
そして意気消沈して帰ろうとする2人の足を止めたのはそんな明らかに間違っている日本語だった。
孫程……
「そっか。あんた、秘書室に残ってたんだっけ……」
曹騰は劉保と一緒に野に下った。
孫程は秘書室に残った。
野に下ったほうが精神的には楽だったろうな……
心労だろうか。少しやせ……
やせ……
やせ……
「あんまりやせてないね」
「まぁ、食べるもんは食べてるからね」
これ以上やせたら困る、とでも言いたげに孫程は苦笑する。そりゃそうだ。
「まぁ、それはともかく……」
孫程は済陰の君……劉保に向き直る。
「本当にごめんでした」
深々と頭を下げる。
こんな場面、他のやつらに見つかったらまた大問題であろう。
「あの、頭を上げてください」
「日本語間違ってるから」
曹騰と劉保は苦笑を浮かべながら同時に発言する。発言の方向性はまったく違うが。
「いや、なんつか……秘書室に愛想が尽きそうです」
悔しそうな顔になって言う。
良識人は中にもいたか、よかったよかった……というのは曹騰たちの側から見た感想であり、実際に内部の腐敗していく様子をまざまざと見せ付けられる孫程にしてみればこれ以上に悔しいものはないだろう。
「まぁまぁ……」
なだめてみる。
なだめてはみるがさっきの江京を思い出し……あれと一緒にいて自分だったら『まぁまぁ』程度じゃ落ち着かないなぁ、と思ってやめた。
「とにかく!」
孫程は急に頭を上げた。
なだめていた曹騰のあごに孫程の後頭部がジャストヒットした。
「お、ぉぉぉ……」
「く、くぁぁ……」
2人とも患部を抑えて倒れこむ。
これは痛いですよ、実際。
「きゅ、急に立ち上がらないでよ! 私のあごがバカになったらどうするの!」
「わ、私が悪いのぉ!?」
「そりゃそうよ! あごがだめになったらガラスのあごなんていわれて世界が狙えなくなっちゃうじゃない!」
なんの世界だ。
「そ、そうか。ごめん」
納得したらしい。
それを見て……
「……くす」
劉保の張り詰めていたものが緩んだ。
今日、初めて口からこぼれた笑みだった。

585 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:41
劉保と初めて会ったのが4月……
……そして劉保が次期生徒会長でなくなったのが4月の終わり。
5月終わりには安サマがリタイアし……
「……」
曹騰は窓の外の雨を眺めていた。
手に持っているのは蒼天通信。
世界は移り変わっていく……
自分たちを置いていくように……

新しい蒼天会長に抜擢されたのはわずか初等部2年の少サマである。
このあまりにも年若い蒼天会長が治世を取り仕切ることなど当然できはしないことは自明の理である。
つまり学園は閻姫とその姉妹たちによって私物化されつつあった。

あの伝説の孔子に並び称され『関西の孔子』とまで呼ばれ、この後、孫の楊彪に至るまで4人の連合三長を排出し……また教授の推薦のための賄賂を贈り、『誰も見てないんだから受け取ってくださいよ』と言った少女に対し『天が見てる。神様が見てる。貴女が見てる。私が見てる。誰も見てないなんてとんでもないわ』と言い賄賂をはねつけた仁者、生徒会執行本部と全校評議会の長を歴任した客員教授(こののち洛陽大学に招かれ名誉教授となる)楊震は安サマの在職中にすでにとばされていた。

晁ォの後を継ぎ連合生徒会会長になった耿宝……
耿宝の派閥であり江京とともに劉保を陥れたカムロ、樊豊……
蒼天会長ボディガードの謝ヲとその妹の謝篤……

閻姉妹に逆らうものがどんどんととばされていった。

「〜……♪」
曹騰は雨を見ながら鼻歌を歌っていた。
陽気な歌、というわけではないが暗い、というほど暗いわけではない。

学園は大変みたいだ。

「〜♪」
曹騰はぼんやりと窓の外を眺めながら鼻歌を口ずさむ。
正直、もうどうでもよかった。
いや、それは正確な言い方ではない。
劉保がいて梁商がいて……
他にはなにもないけどそれで十分に思えた。
それ以外のことなんてどうでもいい。

雷が鳴った。
曹騰は鼻歌をやめて空を見上げる。
ゴロゴロゴロゴロ……
遠雷。
「ん〜、落ちてきそうだな……」
再び雷。今度は近い。
「近くに……落ちたなぁ?」
窓の外を見回し……そして曹騰は窓の外の雨の中にたたずむ人影を見つけた。

586 名前:北畠蒼陽:2005/02/28(月) 16:42
部屋に招き入れると人影はぶるっと大きく震えた。
梅雨といっても濡れれば寒いに決まっている。

服から雨雫がたれる。
こんな雨の中、コートも傘も差さずにずっと立ってたのか……
「やぁやぁ……」
人影……孫程は弱弱しく笑った。
弱弱しい……
まさにそのとおりであった。
あれほどのバイタリティの塊であった孫程も心労によってか見る影もなく……
「……やせ、たね」
そしてやせていた。
「いやぁ、ははは。ダイエットの手間省けちゃったよ」
普段の孫程であれば絶対に口にしないようなタイプの冗談……
それほど……
中央はそれほどに腐りきっているのだろう。
「いやぁ……あはは」
孫程は笑いながらうなだれる。
曹騰は黙って孫程のぬれた体をタオルで拭いた。
孫程は拭かれるに任せるかのように黙って目を閉じる。
しばらくは布がこすれる音だけが室内に響いた。

「ふぅ」
ようやく服が乾き始めたころ……
孫程がため息のような声を漏らした。
「なに?」
「いや、さ……」
苦笑の雰囲気。
「曹騰に見つけてもらえなかったらそのまま帰ろうと思ってたんだよ、ほんとはね」
「……」
再び沈黙。しかし今度はそれほど長くかからなかった。
「曹騰……済陰の君閣下に会わせてくれないかな」
「……会ってどうするの?」
決意を込めた声。
「言いたいこととか言わなきゃいけないこととか言うだけだよ」

587 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:51
-Sakura-
第7話:墨染

「……」
部屋の中には沈黙が落ちていた。
曹騰、梁商にとって孫程の言葉は悪い話ではない。
もはや失うものなどなにもない。
しかし……
「孫程、さんとおっしゃいましたね」
「……はい」
劉保は静かに孫程に語りかける。
「私に……お姉さまの指名なさった後継者と争え、とおっしゃるの?」
窓の外では雨が降っていた。

孫程の話は単純なものだった。
今の学園は秩序を失いつつある。
また劉保はなんらかの罪があって次期蒼天会長の座から降格されたわけではなく、前会長、安サマが閻姉妹の悪口を信じたために降格されただけにすぎない。
本来であれば蒼天会長は劉保が継いでもいいはずなのである。
秩序回復のために劉保に蒼天会長になってほしい。

孫程の話は本当に単純なものだった。

「お姉さまの意思に逆らうのは私の本意ではありません。申し訳ありませんが聞かなかったことにさせてもらいます」

蒼天会の内外で閻姉妹の横暴に対する批判の声は根強く残っていた。
劉保が一声発すれば理解あるものの賛同が得られるであろう。
ただ……
劉保本人だけがそれに反対していた。

「済陰の君閣下……学生たちはみな秩序を求めています。貴女が一声発すればそれに賛同し、貴女を蒼天会長の座へと導くことでしょう。決して勝ち目のない戦いではありません」
孫程の言葉に劉保はゆっくり首を横に振る。
「勝ち目のあるない、が問題ではないです。ただお姉さまと争いたくないだけなのです……孫程さん、これ以上なにもおっしゃらないでください」
曹騰、梁商にとって劉保の今の状況は当然、納得できるものではない。
しかし劉保がそう考えているのであれば反論することなどできはしない。

劉保は奥に下がり、部屋に曹騰、梁商、孫程だけが残された。

588 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:51
「……」
「……」
曹騰も梁商も無言だった。
本音を言えば孫程の言葉どおり劉保が蒼天会長になること以上に望むことはない。
だが劉保があそこまできっぱりと意思を口にした以上、無理強いすることもできない。
「つまりは……この考えは無理だってこと」
肩をすくめて曹騰が呟く。
劉保が部屋から出て行ってなお無表情だった孫程の顔にようやく表情らしい表情が浮かんだ。
「……まぁ、本音をはなしたわけじゃなかったしね。さて……お次は済陰の君閣下の側近中の側近の2人に聞いてもらおうかな」
「どういうことです?」
梁商の言葉に孫程も笑みを浮かべる。
「いや、つまりさっきの私の言葉だけが本音じゃないってことです……いや、さっきのも本音ではあるんだけどそれがすべてじゃない」
孫程は窓の外に目を向ける。
梅雨が窓を濡らしている。
「……私は本当は学園なんてどうでもいいです。自分が身動きできるちっぽけな範囲内が平和であればいい」
曹騰も梁商も黙って孫程の言葉に耳を傾ける。
「ほとんどの生徒がそういう考えなんだと思いますよ? 自分が不幸にならなきゃいい……みんながそう思うからまずは自分の身近が幸せであるように……それが積み重なって全員の幸せにつながるんだと思います」
雨は音もなく降りしきり、孫程の言葉だけが静まり返った室内に響く。
「だから私は自分のちっぽけな領域を幸せにするために蒼天会長をかえようとしています。まぁ、済陰の君閣下を利用しようとしている、なんていわれちゃあ返す言葉もないんですけどね」
苦笑。
しかし曹騰も梁商も黙ったまま。
「これが……」
孫程は黙って懐から書類を取り出した。
「済陰の君閣下が蒼天会長になってくれれば幸せになってくれる人間の署名です」
そのリストはカムロからも実力者の王康や王国といった政権の中枢部にいるような名前も見受けられた。
「……すごいね」
曹騰が正直な感想を漏らす。
「それ集めるの、ちょっと苦労したんだからね」
孫程はにっこりと笑った。

589 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:52
「済陰の君閣下の安サマを思う気持ちはわかるつもりですがこれだけの人間が貴女の発する言葉を望んでいます、とそんだけ伝えてくれないかな」
孫程はすべて伝えきった、という顔で笑う。
梁商はリストを一瞥し……
ボールペンでその最後尾に自分の名前を書き足す。
「済陰の君閣下の説得は私たちが承りました」
ボールペンを指先でくるり、と回してから胸ポケットにしまう。
曹騰は……
腑に落ちない顔をして孫程のほうに顔を向けた。
「……あんたの気持ちはわかったけど……なんでそれをさっき直接、劉保に言わないかなぁ?」
「そんなん決まってんじゃん」
曹騰の至極当然の疑問に孫程も当然のような顔で答える。
「あんたらのほうが今の私の気持ちを私以上にしゃべることができる、ってそんだけ」
にやりと笑いながら言う。
「私は体育会系だからね。体育会系には体育会系の仕事があるってこと」
カバンから分厚い本を取り出す。
本のタイトルはマルクス全集と書かれていた。

「劉保、はいるよ〜」
孫程を送り出し、先に奥の部屋に閉じこもった劉保を追って曹騰、梁商はドアをノックする。
……返事がない。
ただのしかばねのようかどうかは別としてまったくのノーリアクションだった。
「……?」
曹騰と梁商は顔を見合わせてからドアノブをひねる。
カチャ、と軽い音を立ててドアは開いた。

部屋の中は真っ暗だった。

「劉保? 目が悪くなるよ〜」
「電気はつけないでください」
茶化して電気をつけようとする曹騰を劉保の言葉が止めた。
「私にはわからなくなってきてしまいました」
ぽつり、と暗い部屋の中、劉保は独白する。
「私はただお姉さまと仲良くしたかっただけなのに……」
雨はまだやまない。

590 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 01:53
お姉さま……
安サマ……
前蒼天会長、劉祐……
劉保の実の姉であり劉保を失脚させた張本人。
だから曹騰にとっても梁商にとってもあまりいい印象のある人物ではない。しかし……
「お姉さま、子供のころは本当に優しかったんです」
遠い過去を懐かしむ口調で劉保が呟く。
今はないもの……
だからこそ人は過去をいとおしく思うのだろう。
「お姉さまはいつかわかってくれると思います。だから私はお姉さまが許してくれるまでずっと雨宿りしようと思います……やまない雨はないのですから」
劉保の言葉が窓の外の雨にかき消される。
「やまない雨、ってずっと待ち続けるの?」
曹騰の言葉に劉保は頷く。
曹騰は黙って窓を開けた。
雨が降っている。
雨が降っている。
雨が降っている……
「やまない雨はないかもしれないけどやむまで時間のかかる雨ばっかりだよ、この世は」
梁商が劉保にリストを差し出す。
「貴女が一声かけるだけでこれだけの……いえ、これ以上の人が幸せになれるんです」
「……」
劉保は肩を震わせて、それでもリストを受け取る。
「雨がやむのを待つのもいいかもしれない。でも雨に濡れる覚悟ってのもたまには必要だと思う」
「……雨に濡れる、覚悟?」
劉保が初めて聴く言葉に顔を上げた。
「雨って冷たいよ。だから濡れたくなんてない。でもいつまでもやまない雨を呪って空を見上げるより一歩を踏み出すのも大事なことなんじゃないかな、ってそう思う」
「……覚悟」
劉保は曹騰の言葉を繰り返す。
「覚悟のためにお姉さまを裏切れ、というの?」
「裏切る裏切らない、じゃないよ。劉保が劉保でいるために必要なことなんだと思う」
劉保はゆっくり考える。
そして……
「私が雨に濡れて……幸せになれる人がこれだけいるんですね?」
曹騰、梁商は力強く頷く。
「わかりました。傘を持たずに出かけましょう」
歌うような劉保の言葉。それは曹騰がはじめて出会ったころの響きだった。
「行きましょう、司隷特別校区へ!」

591 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:00
-Sakura-
最終話:染井吉野

「うん、うん……わかった……ありがとう……うん、それじゃまたあとで」
孫程は携帯電話をゆっくり置いた。
やはりあの2人に済陰の君の説得を頼んでよかった。
自分であればなせなかったであろうことをあの2人はこんなにも短時間で成し遂げてくれた。
……さて……
机の上に置いた携帯電話を指でもてあそぶ。
これで終わった、といえないのが体育会系のつらいところ。
「むしろこれからが本番、ってね〜」
左手で携帯電話をくるくると回しながら器用に右手に皮のグローブをつける。
ぱちん……最後にバタンを留める。
グローブが手になじむのを……自分の手と同化していくのを感じる。
「ふぅ……」
さぁ、これから、だ……

このとき、孫程すらも知らなかったことだが少サマは喘息で入院しており、明日にも蒼天章を返上するかもしれない、という状況であった。
少サマはわずか初等部2年生……
もちろん政治がどういうものか、ということはわかりもしないし後継者を指名するなどできようはずもない。
密室政治により後継の蒼天会長は河間の君、劉簡と決まっていた。
もはや一刻の猶予すらなかった。

孫程は肩をぐるぐる回しながらそこに立っていた。
風が身にしみる。
目線を少し上にやると司隷特別校区の名物校舎、3号館、通称西鐘校舎が見える。
無機質に校舎を眺めてから孫程は再び体をほぐしにかかる。
孫程はいつものカムロの服を脱ぎ去っていた。
かといってスカートなどをはいていたわけではない。
孫程はその身に拳法着をまとっていた。
これは動きやすい。
動きやすいが目立つ。
だが目立とうと目立つまいと孫程にはまったく関係なかった。

(とりあえず……うん……)

心の中で手順の確認。
そして腕時計を見る。

592 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:02
(そろそろ頃合かな……)

孫程はディパックからただ1冊……
マルクス全集を取り出す。

(この本もかなり読んだよね……)

本にすら愛しさを感じる。
だから今日、この場に持ってこようと思ったのだ。
「ふぅ……」
ディパックを肩に背負い、屈伸を2回してから孫程は西鐘校舎を背に歩き出した。

(次にこの校舎を見るとき、私は逆賊かな? 英雄かな?)

「江京様の悪知恵の働かれること、まったく鬼謀とはよくいったものですねぇ」
「こらこら、誰が鬼ですか」
そして笑い声。
秘書室の有力者たち、江京、劉安、陳達、李閏がまとまって帰宅しようとしていた。

(まだ仕事が残っているはずなのに……部下に任せて自分らはさっさと帰宅かぁ)

ふぅ、と溜め息をひとつついてから孫程はそのまま足を進める。
最初に孫程に気づいたのは江京だった。

「あぁ、孫程……あんた今日、サボったわね。クビよ、クビ。明日から来なくていいわ」
江京の言葉に左右からどっと笑い声が漏れる。
孫程は目を伏せたまま近づき、20歩の距離を残して立ち止まる。
「……」
「なぁにぃ? 聞こえないわ?」
孫程が口の中でぼそぼそと呟くのを見て江京がはやし立てる。
また笑い声が上がる。
劉安が孫程の手に持ってるものに目を止めた。
「こいつ、マルクス全集!? 共産主義なんてバカみたい!」
共産主義がバカのように見えるのは民主主義が共産主義を駆逐した現在の歴史を知っているからだ。
ディパックを左手で捨てながら孫程は笑顔を江京たちに向ける。
「先輩、こんな言葉って知ってます?」
「……?」
孫程は笑いながら言葉を接ぐ。
「イギリスの元首相、チャーチルの言葉です……20歳をすぎて共産主義を信奉するようなヤツは知能が足りない。でも……」
孫程は笑みをたたえたまま……
「20歳までに共産主義にかぶれないヤツは情熱が足りない。先輩たちに足りないものは……まさにそれ」
孫程はマルクス全集を空高く放り投げ、そして江京たちに向かって声も上げずに突進した。

593 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:02
李閏は目の前で何が起こったのかわからなかった。
孫程がすすす、と近寄ってきたかと思ったら先頭の劉安がいきなり吹っ飛んだ。
なにをされたのかわからなかった。
孫程が手の甲を江京に向ける。江京は自分をかばおうとしてカバンを盾にした。そして次の瞬間、孫程のひじから先が消えたかと思うと江京が白目をむいてひざから崩れ落ちる。
なにをされたのかわからなかった。
そのまま回転するように孫程は陳達に近づく。陳達は逃げようとして……孫程が回転したかと思うと陳達は顔から地面に突っ込んでぴくりとも動かなくなった。
なにをされたのかわからなかった。
そして孫程はそのまま右手を高々と上げる。
空を舞っていたマルクス全集はまるでそこが安住の地であるかのように孫程の手の中にぴたり、と収まる。
まるでなにかのショーを見ているようだった。
ショーと違う点は次に襲われるのは自分だ、ということ。
李閏は左右を見回す。
江京、劉安、陳達……微動だにしない。
今、これだけの武威を見せ付けられ、抵抗してもどうにかなるとは思えない。
生き残ることは出来ない……
絶望すら感じることが出来ずに李閏はぺたり、と座り込んだ。
目の前の今までバカにしていた孫程、という少女が怖くて仕方なかった。
「……さて」
李閏が息をすることすら忘れたようにじっと孫程のことを凝視している。

孫程は心の中だけで苦笑する。
自分、それほど怖くないのになぁ……
しかし相手が自分のことを怖がっているのならそれも武器には違いない。

李閏にマルクス全集が突きつけられる。
それを手にしているのはもちろん孫程。
「李閏先輩、あなたは秘書室内の諸先輩方の中でも『多少はまとも』と思われていますからあなただけは生かしておいて差し上げます」
孫程はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「次期蒼天会長に……済陰の君閣下を推薦する、といえば良識人であるあなたのこと、当然賛成してくれるでしょうね?」
李閏はゼンマイの壊れたおもちゃのようにがくがくと頷いた。

594 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:03
……

「……あの日、1日だけでそりゃ大変だったねぇ」
懐かしそうな目で曹騰が語る。
西鐘校舎の前で済陰の君の即位式をやった。
たった何人か、だけの即位式。
しかしそのうわさを聞きつけ、多くの人々が新蒼天会長の下に集まってくれた。
もちろん閻姉妹がそれを放っておくはずがない。
それに対して戦って……戦って……
何度、自分もリタイアするかと思ったことか……
そして戦いも終わって……
劉保とは友達のままでずっといられたと思う。
梁商も約束どおり最後には劉保のことを『劉保』と呼んでいた。
そして3人は本当に友達、だったのだと思う。
曹騰は懐かしさに目を細め、ながらふ、と時計に目をやった。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん……続きは〜?」
「ぎゃ!」
続きを催促する曹操に意味不明の叫びが浴びせかけられた。
叫びだけじゃなくて唾もちょっとだけ飛んだ。
「もうこんな時間じゃない!?」
「え、えぇッ!?」
意味不明にあわてる曹騰を見て曹操もあたふたした。
曹操はあたふたしなくてもいいと思う。
「ごめんね、孟徳ちゃん! 私、今日は同窓会だから続きはまた今度ね!」
曹操は苦笑する。
なるほど、同窓会だからそんなよそ行きの服を着てたのか……
同窓会……
同窓会……
「! ……お姉ちゃん、もしかして!?」
気づいたように顔を上げる曹操に曹騰は親指を立ててウィンクした。

桜が舞っている。
あのころの熱さがうそのようだ。
こんな静けさがこの世に存在するなんてあのころは気づきもしなかった。
歩を進めながら思う。
彼女たちを友達に持つことができて本当によかった。
彼女たちが友達でいてくれたことに誇りを感じる。
だから……
桜の花冠の向こうで小柄な影が大きく手を振った。
その横には少し大柄な女性が会釈してみせる。
曹騰も小柄な、その人影に負けずに大きく手を振り返しながら大声で叫んだ。
「劉保! 梁商さん! 久しぶりーッ!」

  〜了〜

595 名前:北畠蒼陽:2005/03/04(金) 21:12
ってわけで終了です。
なんか、こう、打ち切りチックですね。
まぁ、それはそれ。

なんかまったく反響のない中つらつら書いてしまいましたがまぁ、まったく意味のない作品、という単語すらおこがましいものになってしまったので……そんでも途中で止めるのはあれだなぁ、と思ってここまで書きましたが、まぁ、その意地もここまで、ってことで。
なんというか……まぁ、自分の文章力のなさを痛感するとともに、ぐっこ様にはこのような駄文でサーバーに負担をかけてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいです。このHPにきておられる諸氏にとってもこのようなモノがTOPにある、というのは見苦しさを感じておられたと思いますし、本当に私の意地だけでここまで引っ張ってしまったことに謝罪の言葉すらありません。
もう一足早く桜を散らせときましたのであとはROMに戻らせていただきみなさんのすばらしい作品を楽しませてもらおうと思います。
今まで本当にでしゃばってすいませんでした。

596 名前:海月 亮:2005/03/04(金) 23:19
・゚・(ノД`)・゚・
いや、お見事ですよ! 久しぶりに良いものを観させていただきましたとも!
立場を超えた友情、よくぞここまで書き上げられました…脱帽であります!
…うぐぅ、なんだか上手く感想をまとめきれない我が文章力の貧困さが恨めしい_| ̄|○

>反響が無い
大丈夫ですってば…少なくとも私めは感想を言うの、全て終わってからだと決めてましたから…
きっと誰もが続きどうなるのか楽しみにしてたのではないかと…

惜しむらくは私がこのあたりの史実を知らないと云ふ事…_| ̄|○

597 名前:岡本:2005/03/05(土) 14:28
北畠様
宦官であった曹騰のエピソードを絡めて、宦官が政権決定に力を示していた
時期を記述された作品ですね。楽しんで読ませていただきました。
宦官・外戚・官僚・地方豪族が絡んでいく政争の変遷を考える上でも興味深い
作品です。これが、党コ・何進との闘争・董卓の専横とつながるわけですね。
また歴史の裏面というべき私生活ですが、私はそういうのを書くのが
苦手ですので、ただただ感心させられました。

>反響が無かった
レスが着かなかったことが作品の質・内容に原因があるのではと
判断されたようですが、そのようなことは当然ありません。
時期が時期であったことが(決算期・新作三国志系ゲームの発売)
最大の理由かと思います。

何より、歴史を調べて自分なりに解釈し形にして公表したことは
よほど脱線して自己陶酔しないかぎり、コメントという形の批評を
受けはしますが評価こそされ非難されることはありえません。

598 名前:北畠蒼陽:2005/03/05(土) 19:33
……???

ぎにゃーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
ち、違うんです! 違うんです!
まず謝罪を! 次に謝罪を! 最後に謝罪を!

……595番目の北畠蒼陽名義の書き込みは無視でお願いします、違うんです。
繰り返します。595番目のやつは無視でお願いします。

えっと……事情説明ですね、私も理解できてるわけじゃないですけど……

昨日、最終話を書き上げまして、まだ推敲もしてなかったんですがそれなりに満足してシャワー浴びて寝たわけですね。
今日、推敲して投稿させていただくつもりだったんです。

えっと……

同居人が推敲前の文章をそのまま投稿してやがった……
しかもオリジナリティあふれる文章を添えて……

同居人は今日の朝から旅行に出かけてるため真意を問いただすことは出来ませんが私にも意味不明です。

とりあえずみなさまがたには辛気臭い文章を(私の本意ではないにせよ)お目にかけてしまったことと海月 亮様と岡本様には温かい言葉をかけていただき30年間はご飯を食べなくてもおなかいっぱいです。
とりあえず同居人にはすげぇ怒っておくつもりですんでなにとぞご寛恕のほどを〜。
えぇ、あんな笑いどころのない文章を書いたことを怒っときますよ!(そっちか!(そっちさ!

みなさまがたには微妙な心境にさせてしまって申し訳ありませんでした。1億5000万の謝罪を(ノ_・。


とりあえず北畠個人は反響があると逆に照れて書けなくなっちゃうんで^^;
595番目のヤツと本当に正反対です^^;

599 名前:海月 亮:2005/03/05(土) 21:31
>595の件
ぬわんだとぉぉぉ━━━━━━( ゚Д゚)!
つーかアレで推敲前だったと! マジですか!?
じゃあなにか、実はアレよりも洗練されたモノがあると…!

なんたることだ…これ以上のものがあるというなら、私感動のあまり死にますよ!?(w
ただでさえ続きが気になって、自分のSS製作ほったらかしにしてたってのに…(え?

600 名前:★ぐっこ@管理人:2005/03/07(月) 00:05
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!

北畠蒼陽さま! GJ杉!
いやさ、このへんモロストライクですがな私( ゚Д゚)!
本家ラウンジの四方山スレに書いた通りの事情で、長期間ネット断ち
続けておりますもので、レスが遅れに遅れてしまいましたが…
とにかく、順さまと曹騰の友情、そして孫程らカコイイ秘書連中の活躍!
そういや蔡倫もいたっけか…仲悪かったようですけど…

むう!やるやると口で言いながら全然進んでない党錮事変の、更にベース
なっているこの孫程のクーデター!貴重な情報源ありがとうございます!

601 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:46
-あおいそら-

その日……
彼女は桜の並木道を歩いていた。
もちろん桜の季節にはまだ早い。
葉もない桜などただ物悲しいだけである。
彼女はそんな道を歩いていた。

向こうに見知った顔を見つけはっとする。
その少女は大勢の少女に囲まれ楽しそうに話をしていた。
「……でん」
声をかけようとして思いとどまる。
いまさらどんな顔をして会え、というのか。
少女の胸には誇らしげにコサージュがゆれている。
そして親友、なのだろう……
4月に学園生活の転機が訪れて……そして彼女にはすでに親友とも呼べるひとがいる。

自分の隣には誰もいない……

彼女は伸ばした手を下ろし……
そして軽くこぶしで自分の額をこつん、と打ちつけた。
彼女……袁紹は1人だった。

学園の卒業式は通常、校区ごとに行われる。
そして冀州学院校区……
この場所において袁紹は卒業式を迎えようとしていた。

式も単調に進められていく。
その中でも袁紹はたった1人だった。
一般学生たちが袁紹のほうを見て、なにかを囁きあい、そして笑っている声が聞こえる。
仕方がない、と思う。
自分はそれだけのことをやってしまった。
多くの人を……自分を信じてついてきてくれた人を裏切ってしまった。そう思う。
卒業式という行事の中、袁紹は一人ぼっちだった。

「……続いて連合生徒会会長よりの祝辞です」
退屈な式を聞き飛ば、そうとして袁紹ははっ、と顔を上げた。
連合生徒会会長!?
まさか、と思った。
彼女がこんなところに来るわけがない……
彼女を魏会長に推す動きがあることは袁紹も風の噂で聞いていた。
そんな大事な時期に彼女がこんなただの一般行事にくるわけがない……!

小柄な少女がステージの壇上に姿を現した。

602 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:47
「みなさん、連合生徒会会長の曹操です。まずは先輩がたの卒業をお祝いします。
さて……本来であれば私はここに来るつもりはありませんでした。私も忙しい身ですし卒業式程度、私が出席しなくても進行することは知っているからです。代理人を立てようと思えばいくらでも立てられる……私にとってはその程度のものでしかありません。
でも、それでも私がここにきたのには理由があります。
それは……みなさんには申し訳ないのですが諸先輩がたを祝福するためではありません。

たった1人の人を見送るためです。

その人はいつも毅然とした人でした。
その態度のりりしさに私は憧れを抱いていました。
私はいつしかその人のことを『姉』と呼んでいました。
『姉』のしゃべり方に憧れていました。
『姉』の立ち振る舞いに憧れていました。
『姉』の……そう、すべてに憧れていました。
私はその人のことを好きだった……いえ、今でも好きです。

『姉』とは結局、いろいろあって別れることになってしまいました。
そのことをご存知の人もいると思います。
『姉』のことをリタイアさせた私がこの場に立っていることをこっけいに思う人もいるかもしれません。
でも私はあのとき、一生懸命考えて、そして自分で選んだ道を間違っているとは思っていません。
『姉』とは進路が別たれてしまったけれど、それは『姉』が悪い、ということではなくただ立場が違っていただけです。
私が彼女を敬愛しているのは今でも間違いありませんし、まぁ、彼女のほうが私をどう思っているかは知りませんが……とにかく他人からどうこう言われたくはない、というのが本音です。

『姉』は世界でも有数の財閥の次期当主です。
卒業したらさらに帝王学を身につけ、そしてきっと本当に世界でも有数の経営者になることでしょう。
私が今後、どうなるかはわかりませんが私は何年かして『姉』とあのころの話を笑って話すことができればいい、心からそう思っています。

……すいません。もう時間のようです。
忙しくていけませんね、この立場というやつは。
最後にもう一度だけ……
ありがとう! そしてこれからもがんばってね、本初お姉ちゃん!」
小柄な少女がステージを降りた。

603 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:48
「……」
誰もいなくなった式場。
そこに袁紹はたった1人で座っていた。
曹操が自分のことをあれほどまでに思っていてくれたのが嬉しかった。
誰の祝福よりも胸を張って受け取れる、とそう思った。
ことり……
後ろから物音。
「おめでとうございます、袁紹先輩」
袁紹がゆっくり振り返る……

夏侯惇。曹操の腹心。
「孟徳も本当に忙しくて……今日、アレだけの時間をとるのも精一杯でした。先輩に直接、お祝いを言うんだ、って3日徹夜で政務を片付けてましたけど……すいません」
隻眼の少女が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
袁紹は微笑みながら首を横に振った。
「そんなことはない。むしろ孟徳が挨拶に来るとは思わなかったからびっくりしたわ」
来る、と知っていたら心構えも出来たのに、と苦笑する。
「それに『隻眼の鬼主将』様が忙しい孟徳の代理を務めてくれてるわけじゃない? 光栄に思わないわけがないわ」
夏侯惇が憮然とした顔をする。
それがおかしくて袁紹はまた笑った。

「さて、そろそろいかなきゃね……」
袁紹が立ち上がる。
「寮まで送りますよ」
その夏侯惇の言葉に袁紹は首を横に振る。
「……ここも私にとって馴染み深い場所だからね。最後に1人でゆっくりと歩いて回りたいの」

明日からはもう、この場所に帰ってきてはいけないんだよ。

「そうですか……」
目線をふ、と下に向けた夏侯惇に袁紹の手が差し伸べられる。
その手には……
「袁紹先輩……?」
その手には今まで袁紹の髪に結ばれていたトレードマークとも言うべき黄色いヘアバンドが握られていた。
「これを孟徳に渡してくれないかな? 私はこの学園になにも残すことが出来なかったからこんなものしかないけど……ほんとにちっぽけなものだけど私からの礼だ、って」
「ありがとうございます。孟徳もきっと喜びます」
笑顔の袁紹に泣き笑いのような顔になって夏侯惇はヘアバンドを受け取った。
「じゃあ、そろそろいくね。見送りありがとう、夏侯惇」
夏侯惇は袁紹に頭を下げる。

袁紹は心地よい気分のまま式場をあとにする。
見上げれば3月の青い空。
その日差しに袁紹は眩しそうに目を細めながら笑った。

604 名前:北畠蒼陽:2005/03/07(月) 02:53
というわけで学三参加1週間後に書きたくて書きたくてでも書けなくて、これって恋?
いや、ただ時期ものだったから書けなかっただけです、というものがようやっと書けました。
あと書きたい人物は……王允、かなぁ?
王允書きたいかなぁ?

>ぐっこ様
本家HPのほうには伺ってなかったので状況を今日、初めて知りました。
心痛お察しします、と言葉で言うのは簡単ですが私にはなにもわからないんですよね。
ただぐっこ様やご家族の方が苦しんでおられる状況でなにもわからずのほほんとしている自分が悔しいです。

今はただご家族の一刻も早いご回復をお祈りいたします。

605 名前:海月 亮:2005/03/07(月) 19:21
>ぐっこ様
重い…重過ぎますよこれは。何というか、本当にシャレにならない事情の中で奮戦されて居られたのですね…。
何の事情も存じあげず、好き放題振舞う毎日を送る私めなど、この件について何か言うべき資格はなさそうですが…それでも、なにとぞご自愛の程を。
そして此方に戻って来られる日を心待ちにしております。

>北畠蒼陽様
ああ、卒業かッ! そういやもうそんなシーズンになってたんだなぁ…(しみじみ)
しかし、何というか北畠様の曹操と袁紹って、表面上はともかく心の何処かで繋がっている、っていう雰囲気が良いですね。


私めのSS製作もそろそろ佳境です…もうじき、持って来れるかもしれません。

606 名前:北畠蒼陽:2005/03/11(金) 16:34
-王允の亡霊-

「お久しぶりです、お姉さま〜♪……って、なんであんたがッ!?」
「……それはこっちのセリフ」
喫茶店に回るようにくるくると踊りながら駆け込んできたロングヘアーを無造作に後ろに流した少女をすでに席についていた肩のラインで髪をそろえた少女が紅茶を傾けながら冷静にツッコんだ。
「なんであんたがここにいるのよ、伯輿!」
「……多分、文舒と同じ理由。あなたの『お姉さま』に呼ばれただけ」
文舒……王昶。
曹丕にその才能を見出され、エン州校区総代に抜擢され功績を挙げた。また荊・予校区兵団長となり司馬懿に学園人事について意見を求められた際にも意見状を提出し事務員の賞罰の基準を定めさせた。
のちに学園都市運営会議議長までのぼりつめることになる。
伯輿……王基。
孤児だったが叔母の王翁に引き取られて育つ。安平棟長として順当に出世街道を歩むかに見えたが、一時期曹爽の副官だったことが災いし、その失脚時に免職となる。だがつい最近、ようやく復帰し荊州校区総代に就任した。
のちにリタイア後、学園都市運営会議議長を贈られる。
「いやだわ、お姉さまったら。伯輿の前で私たちのラヴラヴっぷりを見せ付けるつもりなのかしら」
「……見ててもいいけどね。どうせ慰めることになるのは私だし」
頬に手を当てて考え込むようにした王昶にやはり冷静に王基がツッコむ。
「まてぇ。誰が慰められることになるんだぁ!」
「……恋愛運占ってあげようか?」
「あんたの占い、当たらないからいいわ」
「……失敬な」
憮然とした顔で紅茶を傾ける王基。
しかしそれ以上薦めないということは占いが当たらない自覚だけはあるらしい。
しかしこの2人は一見、口ゲンカしているように見えるが実は仲がいい。まぁ、どうでもいいことだが。
「あ、ルイボスティーね……で、なんであんたがお姉さまに呼ばれたの?」
ウェイトレスに注文しながら王昶は王基に尋ねる。
「……さぁ?」
「ふ〜ん」
口数少ない王基に王昶は気を悪くした風もない。
長い付き合いで親友がどういうやつかは大体わかっている。

「待たせたわね」
しばらくして喫茶店に涼やかな声が響いた。
「お姉さま♪ ……と、公治? ……いやだわ、お姉さま。ギャラリーが多いほうが萌える性癖なのかしら」
喫茶店に入ってきたのが1人ではなかったことで混乱する王昶。
「お久しぶりです、王凌先輩。おかわりはありませんか」
丁重な王基の挨拶をにっこりと笑いながら王凌は優雅に会釈をした。

607 名前:北畠蒼陽:2005/03/11(金) 16:36
王凌……あだ名は彦雲。
かの王允の従妹。後に各地の棟長を務め、曹丕によってエン州校区総代に任命された。その後は揚、予校区の総代を歴任し、いずれも生徒から好評を得る。揚州校区兵団長に転じ、校区総代を引き継いだ孫礼とともに長湖部の全Nの攻勢を撃退した。
現在は生徒会の生徒会執行本部本部長として辣腕を振るっている。
……ちなみに王昶とプティスールの契りを交わしている。
また王基の才能を一番最初に見出したのも彼女であった。
王昶が公治と呼んだのは令狐愚。
王凌の姪であり、各地の棟長を勤めた令狐邵の妹。曹爽に才能を見出され現在はエン州校区総代を勤めている。
「で、どうしたんです、お姉さま?」
王昶の質問に王基も王凌のほうを見る。
「えぇ……その、そう。王基の復帰記念パーティってとこかな」
歯切れが悪そうに答える王凌。
令狐愚は一瞬なにかを言いたそうに口を開こうとしたが結局、なにも言わなかった。
「王基の! 復帰記念パーティ!」
くぎりながら王昶が叫ぶ。
「いいですね、伯輿パーティ! じゃ、あんたはここで公治と2人でパーティしてなさい! 私はお姉さまとどっかいってくるから!」
「……趣旨違うから、それ」
王昶のムチャクチャな言葉に王基は、しかしまんざら気分を悪くした風もなく言った。

そして4人は楽しいひと時を過ごした。
王凌は王昶と王基の掛け合いをずっと楽しそうに聞いていた。

王昶と王基が帰宅して……
喫茶店に王凌と令狐愚だけが残る。
「彦雲姉、あの2人をなんで誘わなかったの?」
恨めしそうに令狐愚が王凌に言った。
「彦雲姉、このまま曹芳サマが蒼天会長にいたんじゃ司馬姉妹の思うつぼだ、って。だから曹彪サマを担ぐんだ、って言ってたじゃん。あの2人なら彦雲姉が誘えばついてきてくれたのに……」
「そうね、そのとおり。あの2人ならついてきてくれたかもね……でもね、少なくとも司馬懿は悪政をしてるわけじゃない。子師姉さまのときは董卓という絶対悪のために反乱、と位置づけられたけど今は少なくともそうじゃない。私は子師姉さまの亡霊に衝き動かされてるだけ」
王凌は力なく微笑む。
「そんな無意味なクーデターにあの前途有望な2人を巻き込むことは出来ない……公治、あなたもそろそろ私から離れたほうがいいわ」
「もう肩までどっぷり浸かっちゃったんだ。いまさら離れてももう遅いよ」
王凌の言葉に令狐愚は冷めた紅茶を不味そうに飲み干しながら吐き捨てた。

608 名前:北畠蒼陽:2005/03/11(金) 16:43
わぁお、王允の話を書くつもりだったのにー!
まぁ、王昶の話しもいずれ書きたかったので、その前準備と割り切りました。
ちなみに王昶&王基は玉川様イラストの外見とちょっと違うような性格ですが私の脳内ではあの外見でこういう性格です。

令狐愚は……もうちょっとバカのような気がします。

>海月 亮様
そんなシーズンですよ、いつの間にか。
本当はこの2人に許攸とかも絡ませられればいいんでしょうけど3人友情ストーリーってなかなかずるずると長くなるばっかりで書きにくいですからねぇ。
精進精進。

609 名前:北畠蒼陽:2005/03/13(日) 21:10
-晋の系譜-

東晋ハイスクールの誕生……
それは落日の司馬蒼天会の意地、といっても過言ではないだろう。
生き残りのための共学化。
後漢市南部の荊、揚、廣、交をおさえるのみではあるが、しかしそれでもその誕生に多くの少女が期待を胸に抱いた。
そして東晋ハイスクール初代蒼天会長、司馬睿が就任したその日、そのブレーン、王導のもとを1人の少女が訪れた。

「な……!」
少女……いや、もう少女と呼べる年齢ではない。
毋丘倹、文欽の叛乱鎮圧で功績を挙げ、曹髦のクーデターに対し司馬昭の名を汚さぬよう自らすべての汚名を引き受け、また長湖部にとどめを刺す、その戦いの総指揮官であった女性。
すでに学園を卒業したが司馬蒼天会の基礎を築いた大元勲であり王導にとっては伝説、とも呼べるレベルにある女性。
……賈充。
その言葉に王導は驚愕で口をパクパクとさせた。
「あなたは司馬睿……元サマの親友なんでしょ? だったら知っておかなければいけないわね」
賈充は……幾多の修羅場を真っ向からねじ伏せたその女性は顔色一つ変えることなく王導に諭すように語り掛ける。
「もう一度言うわ……元サマは司馬家の血を引いていない」

……

「納得できねぇな」
つるつるに頭を剃りあげたスキンヘッドの少女が目の前の少女を睨みつけた。
後主将、牛金……もともとは曹仁指揮下の暴走族、『薔苦烈痛弾』の特攻隊だったが曹仁のチーム解散宣言により更正……だがスキンヘッドは変わらない……し、その後は司馬懿に属し馬岱や公孫淵と戦った。
今は自らが最前線に立つことはないとはいえ気の弱いものであればそれだけで失神するであろうほどの威圧を受け、それでもなおその目の前に立つ少女は不思議そうに小首をかしげた。
「敵対者を打ち倒して……なにが悪いの……?」
司馬懿……あだ名は仲達。
現蒼天会の最高権力者。
一時期、曹爽との政争に敗れたものの今、再び勢力を盛り返し……そして今まさしくその曹爽を捕らえる命令を牛金にくだしたところであった。

610 名前:北畠蒼陽:2005/03/13(日) 21:11
「確かに敵対者を叩き潰すのは反対しねぇ。だがそうなると曹仁の姉御から続くピンクパンサーズヘッドの……曹真の姉御の妹をトばす、ってことになる。アタシにゃあそんな義理を欠くようなまねはできねぇな」
力強く言い切る牛金に……
司馬懿は再び少し考えるようにして……そして執務机から乗り出すようにして牛金の胸元の蒼天章をつまんだ。
司馬懿が少し力を入れれば簡単に蒼天章は牛金の胸元からはずされることだろう。
だが牛金は司馬懿を睨みつけたまま微動だにしない。
「……義理のために蒼天章を失っても……いいというの?」
「蒼天会はあんたにのっとられるかもしれない。だがそんな滅びていくものに殉じるバカがいても悪くない」
司馬懿の言葉に、しかし一片の感情すらも浮かべることなく牛金は言い切った。
「……牛金には確か、妹がいたよね?」
「? あぁ、まだ初等部だけどな」
突然の司馬懿の話題転換に牛金は不審そうな顔を浮かべる。
「剛毅なる猛将、牛金に最大限の敬意を。あなたの妹は私が引き取るわ……私にトばされた牛家の人間となれば世間の風当たりはきついかもしれないけど私の従妹、司馬覲の妹ぐらいに書類を書き換えてしまえばいいわ」
「好きにしろ」
司馬懿の言葉に牛金は苦笑にも似た笑みを浮かべる。

牛金の蒼天章は失われた。

……

「……そ、そんなことって……」
「そんなこと。確かにバカな話よね」
絶句する王導に賈充は面白くもなさそうに応じた。
「でもあなたは元サマの親友として……またこの東晋ハイスクールの重鎮として知っておかなければならないの」
賈充の言葉に弱弱しそうに眉を寄せて王導は呟く。
「……このことが一般学生に知れたら……司馬一族の血を引いてない人間が蒼天会長になってることに不満を持ち、また『自分が』って思う生徒だって出てくるでしょう……」
「そうね。だからこのことが一般学生に知られたら他の誰でもない、私があなたを殺すわ」
賈充の明確な殺意。
それはあくまで自分への信頼である。
王導はそれを知って、なお呟かずにはいられなかった。
「……知らないほうが幸せなことって……あるんですね」

611 名前:北畠蒼陽:2005/03/13(日) 21:12
えと、その……
北魏正史の司馬睿伝で『司馬睿は牛金の子である』とか書かれてるんで想像を逞しくしてしまいました。
まぁ、ぶっちゃけ年齢的にありえない話ではあるんですけど、年齢の垣根が低いこの学三だったらやれるかのぁ〜、と。
とりあえず参考文献、というか早稲田大学三国志研究会による『三国志大研究』という本において以下のような仮説があるためそれに準じてみましたー。

以下、引用。

牛金は何らかの重大な原因により司馬仲達に粛清され、晋の人陳寿はその功績を記録することが許されなかった。《玄石図》は金徳の晋が土徳の魏に代わる権威付けとして作られたが、北魏に至り東晋を貶めるために牛金粛清事件ともからめて、司馬睿牛氏説が流された。――時期的に見て、仲達のクーデターと何らかの関連が想像できる。

以上!
連投ダイスキ(ぇー)北畠蒼陽でした!

612 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:20
-銀幡流儀-
そのいち 「夜襲、銀幡軍団」

「ええええ!? たった10人で曹操会長の本陣に〜!」
「ああ…やらせてくれ、部長」
濡須棟の棟長室、その机を蹴倒さんばかりに驚いて仰け反る孫権を目の前にして、甘寧は内心の怒りを最大限に抑えた表情で、そう告げた。
「悪いが俺は、あんな屈辱を喰らって、指咥えて済ませられるほど大人じゃねぇ。張遼がかましてくれた上等の礼をくれてやりたいんだよ…ッ!」
「で…でもでもっ、こないだ公績さんだって酷い目にあってきたばかり…」
「な〜に、なにも奴等を潰しにいくんじゃねぇ、からかってくるだけだ。もし一人でも飛ばされるようなことがあれば、好きなように処断してくれてかまわねぇ」
孫権は少し考えた。
この孫権という少女、普段は温和で大人しい少女なのだが、その根っこのほうはかなりの負けず嫌いだ。
本音を言うと先の合肥における学園無双において、長湖運動部の精鋭500が、合肥を護る張遼率いる僅か50足らずのMTB隊に蹴散らされ、自分も壊された橋の上をママチャリで跳んで危難を脱する羽目に陥ったことをとにかく悔しがっていたのだ。
それに、甘寧の言葉は一見すると無謀なものに聞こえるが、この甘寧という少女もまた、何の考えもなく無茶をやるような人間ではないことを、孫権は知っていた。
「…勝算は、あるの?」
「当っ然、必ず連中の鼻をあかしてやるさ」
「じゃあ、御願いしようかな。メンバーは、興覇さんの好きに決めていいよ」
「流石は部長、話がわかるぜ」
甘寧は不敵な笑みで応えると、背に飾った羽飾りを翻し、部屋を後にした。

「お〜い承淵、興覇さんが呼んでるぜ〜。あたし先行ってるからな〜」
「あ、は〜い、すぐ行きま〜すっ!」
髪の色を派手な金髪に染めたちょっと柄の悪い先輩に呼ばれ、承淵と呼ばれた狐色髪の少女はストレッチを済ませ、ぱたぱたと駆けだした。言葉使いは真面目そうだが、その明るい髪の色に木刀なんてモノを持っていたら、何処からどう見てもヤンキーの妹分にしか見えない。
いや、実際この少女−丁奉は、現時点では長湖部最凶の問題児・甘寧の妹分である。髪の色云々ではなく、この底抜けに人当たりのいい性格で、問題児集団である"銀幡"の先輩達から何気に可愛がられ、何の違和感もなく溶け込んでいる感がある。
やがて校庭の一角、甘寧の羽飾りを見つけた丁奉。よく見れば、"銀幡"軍団の何人かと軽くチューハイをあおってるらしい。先刻彼女を呼びつけた少女も、その中にいた。
「先輩っ、呼びました?」
「おぅ承淵、待ってたぜぇ。まぁ、お前も一杯やっとけや。あ、お前はまだ酒駄目だからこっちだけど」
そう言って甘寧はジュースの缶を投げて寄越す。見回せば、学区周辺の名店から取り寄せたオードブルが円陣の中を埋め尽くしている。
「え、いただいていいんですか?」
「もち、部長のおごりだ。いっちょパーッとやってくれや」
「わぁ…!」
円座の中に混じって、丁奉も並べられたご馳走に舌鼓を打った。
その後、何が起こるのか夢想だにもせずに…。

日も暮れ落ち、学園無双終了の規定時間が近づき、宴もたけなわになった頃、甘寧はおもむろにこう告げた。
「さぁ、景気良くやれよ! これからこの10人で、曹操の本陣に上等くれてくるんだからな!」
「!!」
その一言に、何人かが酒を吹いた。丁奉も鶏のから揚げを喉に詰まらせたらしく、目を白黒させている。その背中を叩いてやりながら、少女の一人が問い返した。
「ちょ…マジですかリーダー?」
「冗談でしょう? いくらなんでも10人ってアンタ」
「冗談でンなコト言うか。まぁ、酔狂ではあるだろうが」
何を今更、といった感じで返す甘寧に、他の9人は目を見合わせた。はっきり言って無茶もいいところである。これでは、無駄に飛ばされに行くだけじゃないか…。
そんな部下達の感情を読み取った甘寧、傍らに置いた愛用の大木刀"覇海"を掴んで立ち上がり、それを少女達に突きつけて、怒色を露に言い放った。
「てめぇら、甘えたこと言ってんじゃねぇ! 大体お前等悔しくないのか!? 張遼の野郎に我が物顔でうち等の目の前に上等くれられてよ! 俺等"銀幡"のモットーは何だ!」
その言葉に少女達は目の色を変えた。
「…そうよ、リーダーの言う通りだわ」
「あんな上等かまされて、泣き寝入りはアタシ等の流儀じゃないね…!」
「目には目を、だな。よ〜し、一丁やってやろうじゃねぇか」
「それでこそ"銀幡"特隊だぜ…ん、承淵どうした?」
満足げに少女達を見回す甘寧、傍らに座らせていた丁奉がなにやら不安と期待に満ちた目でこちらを見ているのに気がついた。
「あたしも、あたしも連れてってくれるんですか!?」
「何言ってやがる、その為に呼んだんだぜ?」
その言葉に満面の笑みをこぼす妹分の頭を、甘寧は乱雑に撫でてやった。

613 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:21
「てめぇら、準備はいいな?」
「オッケー、何時でも往けるぜ、リーダー」
目印に羽飾りをつけた鉢巻を身に付けた、"銀幡"軍団は合肥棟入り口正面の草陰に潜んでいる。
「よし…先ずお前、ブレーカーの位置はわかっているな?」
「もちろん、任せといて下さいよ!」
「おう…行けっ!」
甘寧の指示を受け、少女は物影から物影へ駆けていく。
「よぉしお前ら、電源が落ちたら…解ってるな?」
少女達が頷く。
「…あと、承淵」
「! あ、はいっ、なんですか先輩っ」
唐突に名を呼ばれ、ちょっと面食らった丁奉に、甘寧はなにやら耳打ちする。その内容に、少女は目を丸くした。
「えええ! 本当にやるんですか!?」
「たりめーだ、戦利品も必要だからな。それを奪われたとあっちゃ、奴等の面目丸つぶれだぜ? 奴等の目は俺たちでひきつけるから安心しな」
暗がりだが、他の少女達も「任せろ」と言わんばかりに親指を立てているのが解る。丁奉も、俄然やる気になった。
「…解りました、必ず取って来ます!」
「よし、いい返事だぜ…ん!」
その瞬間、合肥棟は暗闇に包まれ、少女達の悲鳴が上がる。
「行くぜ野郎共、目に物みせてやれッ!」
甘寧以下、"銀幡"選りすぐりの猛者たちは、怒号とともに合肥棟へ突っ込んでいった。

「敵だ! 敵が侵入ーッ!」
瞬く間に合肥棟内は大混乱に陥った。日もどっぷり暮れた午後七時半、終了間際のロスタイムを狙っての奇襲はまんまと図にあたり、合肥棟守備軍は次々に同士討ちを開始する。
執務室の曹操も大慌てだった。
「もうっ、何だよいったい!? いきなり停電ってどーゆーことだよっ!」
「…多分…ブレーカーを落とされてる…」
「んなこたぁわかってるっつーの!」
傍らに立っていた司馬懿の呟きに、鋭くツッコミをいれる曹操。気にした風もなく、何かの気配を敏感に感じ取った司馬懿はぼそっと呟く。
「会長…誰か、来る」
「無視すんなー…って、えっ?」
曹操も気付いた。執務室の前に、人の気配を感じる。
「誰? そこに居るのッ!」
「…いよぅ会長サン、気分はどうだい?」
「!」
扉の前に居たのは言うまでもなく甘寧。曹操は怒気を露に、かつ静かな語調で言う。
「なめた真似してくれるじゃん…どうせ執務室(このなか)が手薄だってコト、知っててやってるんでしょ?」
「さぁ…どうだかねぇ?」
お互い暗闇の中で、しかも扉越しだったが、お互いどんな顔をしているのかはよく解っていた。
そのまま、どの位経っただろうか。その雰囲気に場違いなくらいの軽い足音と、明るい声が響く。
「せんぱ〜い、例のモノ、手に入りましたよ〜! あと、残ってるのあたし達だけです!」
「おしッ、良くやった! じゃあな会長サン、俺たちゃこれでずらからせてもらうぜ!」
「…! ちょっと、待ちなさいよぅ!」
慌てて執務室を飛び出す曹操。開け放たれた窓から階下を覗けば、其処には既に走り去る少女達の姿しか見えない。良く見ると、一人の少女が何かを手に持っている。街頭の下、その正体が見えると曹操は絶句した。
「…んな!」
「…蒼天生徒会の生徒会旗…」
その時、電源が復旧する。時計は既に八時を指していた…。

甘寧が10名で奇襲を敢行した翌日。
「ほい、コイツは戦利品ですぜ。承淵!」
「はいっ、こちらですっ!」
「わぁ…!」
合肥棟から奪われてきた生徒会旗を手渡され、満面の笑みを浮かべる孫権。それを見ると居並ぶ長湖部幹部、主将達も感嘆の声を挙げた。ただ一人、隅っこで面白くない顔をしている凌統以外はだが。
「すごいっ、すごいよ興覇さん!」
「こういうことやらせると、やっぱアンタは一流だねぇ…」
この間の溜飲はすっかり下がって上機嫌の孫権、その隣りにいた長湖部実働部隊総括の呂蒙も、呆れ半分にそう言った。
「しかし10人、誰一人として飛ばさずに戻ってくるなんてね」
「本当だよ〜、承淵まで連れ出してるとは思わなかったけど…」
「あったりまえですよ。暗がりを利用して押しかけるなら、少人数のほうが却って安全なんですよ。それにコイツにも、どんどん経験を積ませてやらなきゃいけねぇし」
甘寧はそう言って、傍らの少女の背を軽く叩いた。
「まぁ、そういう事解ってそうだったから止めなかったんだけどね。とはいえ、お見事だわ」
「いやぁ…」
呂蒙の言葉に、普段は不遜な甘寧も少し照れたようだった。
だが、沸き立つ長湖部幹部・主将陣の片隅、それを眺めながら凌統が悔しそうに歯軋りをしていたのを、甘寧と孫権は見逃さなかった。
(続く)

614 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:21
-銀幡流儀-
そのに 「混沌の中の純潔」

「…くっ!」
執務室から離れて一人、凌統は壁に拳を打ち付けた。
惨めだった。
蒼天生徒会が誇る"鬼姫"張遼が、その威名だけで戦場を引っ掻き回していたあの日。凌統はすべての部下を戦闘で失い、蒼天生徒会五主将の一角・楽進を破るもその階級章を手にしたわけでもない。
残ったのは、全治一ヶ月の大怪我で戦える状態にない自分自身と…尊敬する姉から課外活動の舞台を奪い去った怨敵・甘寧の功績に対する見苦しいまでの嫉妬心。
「ちくしょう…ちくしょぉぉッ!」
獣の如き雄叫び…いや、慟哭の叫び声とともに繰り出される拳が、壁に自身の血を染め付けていく。
それでも、彼女はその行為を止めようとしない。拳は既に血にまみれ、一振りするごとに鮮血が舞う。
不意に、その手が掴まれた。
「………止めとけ」
「…ッ!」
振り向くと、其処には甘寧が居た。
振り解こうとするが、怪我の為に身体に巧く力が入らない。もっとも、万全の状態でも凌統が甘寧の力でねじ伏せられた場合抜け出すことはほぼ不可能だった。
「離せッ!」
もう片方の拳で甘寧の顔を殴りつけようとするが、それもあっさり止められてしまう。
そんな凌統を見つめる甘寧の眼は、何時ものそれではなく…酷く、哀しい眼だった。
その眼が、まるで自分を哀れんでいるように思えた。
その眼差しに、心の中を満たした悔しさと嫉妬が、暴れ狂うのがわかった。
「ちくしょう…さぞかし気分がいいだろうな! あたしはこの有様で、貴様は立派に面目を躍如して見せた! どうせこの負け犬みたいなあたしを嘲笑いに来たんだろうが!」
甘寧は無言だ。普段なら嫌味のひとつでも返してきそうな彼女がそんな態度をみせているのが、激昂した凌統をさらに苛立たせていた。
「何とか云えよッ!」
「なぁ凌…いや、公績」
不意に、自分のことを字で呼ばれ、凌統は驚いた。
本名でなく、字で呼ぶのは一種の礼儀である。自分のことを煙たがっていると思っていた甘寧が、自分に対して礼儀を払ってくれたことが、凌統には意外なことだった。
「お前が俺の行動に対して何思おうが勝手だ。確かに何時も何時もお前が突っかかってくるのは面倒じゃあったが…本音、嬉しくもあった」
「…え?」
「知っての通り、俺は不良上がりのはみ出し者だ。チームの頃からの仲間ならともかく、どいつもこいつも俺のことを怖がりこそすれ、親しく付き合ってくれるヤツなんて殆ど居なかったし、俺が不良上がりってことで馬鹿にするヤツだっていた」
甘寧の眼差しは、変わらない。凌統も、こんな甘寧を見るのは初めてのことだ。
「俺も俺で、そうやって意味なく怖がったり馬鹿にしたりするヤツ…お前のことだってうぜぇと思ってたのは確かだよ。だがな、思い返してみれば、それでも俺をかまってくれたのは子明さんと子敬と承淵、あとはお前くらいだって、気づいたんだ」
そう言って、寂しそうに微笑んでみせる甘寧。何時しか、凌統の心を満たしていたはずの負の感情は消え失せ、その一言一言に聞き入っていた。
「公績…お前が俺のことを嫌いだというなら、それでも構わない。でも、お前にもしものことがあって、俺に突っかかってこれなくなったら…やっぱり寂しいんだ」
甘寧は掴んでいた凌統の両腕を解放する。凌統は、自身の血で濡れた拳を、所在無さ気に下ろした。
「…言いたい事は以上だ。その怪我、ちゃんと診て貰えよ。じゃな」
それだけ言うと、甘寧は羽飾りを翻し、その場を立ち去っていった。
凌統には、その背中が、何時もよりずっと弱々しいものに見えていた。
「…公績さん」
はっとして振り返ると、そこには孫権の姿があった。どうやら、孫権も凌統の様子にただならぬものを感じ取って後を追ってきたようだった。
「公績さんの気持ちも、よく解るよ…でもね、興覇さんの気持ちも、すこし考えてあげて…」
泣きそうな顔でそう告げる孫権に、凌統は俯いたまま、無言でその場を立ち去っていった。

あの後、凌統は部屋の中で、今日あったことをずっと思い返していた。
姉の仇。不倶戴天の敵。打ち倒すべき相手。今日、自暴自棄になっていた自分を止めてくれた甘寧は、それまで自分が抱いていたどんな甘寧のイメージにも当てはまらないものだった。
(あいつは…あたしのことを純粋に心配してくれていた)
一番遠いところに居たと思っていた存在が、実は一番近いところに居たことを知って、正直、凌統は戸惑っていた。包帯の巻かれた両拳を見つめると、甘寧と孫権の言葉が、頭の中で繰り返される。
-お前にもしものことがあって、俺に突っかかってこれなくなったら…やっぱり寂しいんだ-
-興覇さんの気持ちも、少し考えてあげて-
何時もなら、顔を思い浮かべるたびに不快感を覚えるというのに。
(あいつの力なら、何時でもあたし一人潰すくらいわけないのに…あいつが、あんなふうに考えてたなんて…なのに、あたしは…!)
初めて相対した舞台は、去年の年明けにあった長湖部体験入部。その大舞台で、"銀幡"の演舞に踊りこんだ自分が、衆人環視の前で敵対宣言したのが初め。それ以来、凌統は甘寧を敵視し、逆もまた然りだった…はずだった。
何時から、甘寧の中でそれが違ってきたんだろう。
自分は、変わることがなかったというのに…
(違う…あたしは、最初はそんなこと、思ってなかった)
(あたしは…彼女を…甘興覇を超えようと、そう思ったんじゃないか…)
凌統は、そんな自分の愚かしさに、ただ涙を流すのだった。

翌日。
「こぉの恥知らずの外道どもがぁぁ! あたし達の怒り、思い知れぇぇ!」
先鋒軍の先頭に、普段はバットを持つ手で竹刀をぶん回しながら、長湖部の軍勢に突っ込んでいくのは満寵。何時ものぽやんとした温和そのものの表情は何処にもなく、こめかみに青筋すら浮かばせ、憤怒を露に次々と長湖部員を薙ぎ払っていく。
「旗なんて飾りに過ぎねぇけどなぁぁ! ヤツらの奪ったのはあたし達の魂だぁぁ!」
「このあたしがついていながら! このザマは何事だぁぁ!」
その左翼から曹仁、右翼から夏候惇も怒号とともに突撃をかける。
蒼天会旗を奪われたことは、やはりというか、蒼天会の主将たちにも大きな衝撃を与えていた。もっとも彼女達の怒りは、「会旗を奪われた」と言うことではなく、むしろ「会旗の近くにいた曹操を危険に晒してしまった」ことによるものである。
更に言えば、曹操に危害らしい危害を与えず、自分達を小馬鹿にするかのような、そんな行為に対する怒りでもあった。
「あ〜むっかつく〜! 大体ブレーカー周りを無防備にさらしすぎだっつーの!」
蒼天会本陣・合肥棟の屋上で戦況を眺める曹操も、悔しそうに地団駄を踏んだ。後ろに侍した劉曄がぼんやりした表情で呟く。
「…今回の件が帰宅部連合へ知られれば、彼女達も何処かの局面で使ってくるかもしれません」
「解ってるわよそんなことっ。ねぇ子揚、何か対策とかできない?」
「前々から申し上げていると思いますが…やはり本来の電源とは別に存在する、各棟の予備電源の復旧作業を早めるべきでしょう」
「そ〜ね〜…」
曹操はふと、怪訝そうな表情で劉曄のほうを振り向いた。
「…ちょっと待て…何時言ったんだよ、そんなコト? てかそんなのあったの?」
「…………ごめんなさい、知ってると思ってました」
ぼんやりした顔のまま、劉曄は悪びれることなくさらっと言った。
実は蒼天学園の各学区には、棟ごとに緊急時の予備電源が存在するのだが…黄巾党蜂起のドサクサで学園全体にある八割以上の棟で予備電源が壊され、二年以上経った現在もそのままである。メイン電源の安全性が良過ぎる為にほとんど支障は出ず、それゆえに直されもせず放っておかれたのだ。
そんな説明を受けた曹操は、
「そんなの初めて聞いたよ…つーか何で誰もそんなこと言わなかったのよぅ?」
「さぁ…」
同じ表情のまま小首を傾げる劉曄に、曹操も呆れ顔になる。
「まぁいいや、知ったからにはどうにかしなきゃなんないわね。次の生徒会会議で優先事項として審議にかけないと…とりあえず勢力境界線にある合肥や襄陽、長安あたりのを速攻で直しておきたいわね〜」
なにやら懐からメモ帳を取り出し、メモをとりだした曹操の姿を見ながら、劉曄は相も変わらずぼんやりと突っ立っていた。

615 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:22
曹操と劉曄がなにやらやり取りしていた、同じ頃。
「ええ!? ちゃんと探したの!?」
「すいませんッ! あたし達がちょっと目を離した隙に…」
狼狽した表情で濡須棟執務室から飛び出した孫権。その後ろ、数人の少女達が後を追って出てくる。
「公績さん、絶対安静の大怪我なんだよ? …それに、武器だって壊れちゃったんでしょ?」
「え、ええ…確かに凌統先輩愛用の"波涛"は前の戦闘で壊れましたが…」
「…じ、実は凌操先輩の"怒涛"を持ち出したみたいで…」
「嘘ッ!?」
少女の言葉に、孫権は狼狽の表情を強める。
"波涛"とは、凌統の愛用していた両節棍(ヌンチャク)の名前で、先に凌統が楽進と戦った際、最後の一撃を繰り出した時に破壊されたモノだ。"怒涛"は凌統の姉・凌操が愛用していたもので、"波涛"よりも重く、棍の部分も長めなので、取りまわしが難しい。
凌統は、それゆえこれまでに参加した戦闘で一度も"怒涛"を使ったことがなかったのだ。
「無茶だよ! 普段だって使わなかったものなのに…」
「部長!」
正面から駆けて来たのは甘寧と、数人の"銀幡"の少女達だった。
「興覇さん! 公績さんが…!」
「解ってる、承淵のヤツが一度止めたらしいんだが…今あいつに後を追わせてる。俺もヤツを連れ戻しに出るが…」
どうやら甘寧も甘寧で、丁奉らに凌統の様子を見張らせていた様である。待機命令の出ている甘寧のことなので、恐らくここへは出撃許可を取りにきたというところであろう。
「御願い! 早く、早く連れ戻して!」
「承知ッ!」
言うが早いか、甘寧は窓を開け放つと、そこから一気に一階へと飛び降りた。

「はぁ…はぁ…」
戦場の一角、小さな林の中に、彼女はいた。
年季の入った大振りの両節棍をしっかりと掴んだ手の包帯は、紅い染みをつけている。
「やっぱり…まだあたしには早かった…かな?」
肩で息をしながら、自嘲気味に呟く。
顔は蒼白で、体中の包帯や湿布の存在が痛々しい。この満身創痍の状態のまま、凌統はこっそりと寮部屋を抜け出し、合肥と濡須の間にある戦場へと舞い戻ってきていた。
壊れた"波涛"の代わりに持ち出してきた"怒涛"の重さと長さは、傷ついた彼女の身体に予想以上の負担を強いていた。数人を薙ぎ払うだけで、かえって自分の体力を大きく奪われていったのだ。
「公績先輩っ!」
林の中に人影が飛び込んできて、凌統は弱った身体を叱咤して身構える。それが丁奉であることに気づくと、凌統は再び背後の木にもたれかかった。
「承淵か…」
「先輩、御願いですから戻ってくださいっ! 皆さん、先輩のこと心配してるんですよ! 部長だって…それに…興覇先輩だって!」
凌統の服に取りすがって、丁奉はなおも叫ぶ。
「先輩…先輩は御存知ないかもしれませんけど…興覇先輩、ずっと公績先輩のこと心配していて…今回、あえて出撃を辞退して待機しているのだって、公績先輩が戦えないって事を知ってたから…公績先輩と一緒に戦えないのが嫌だ、って言って…」
「解ってる…解ってるんだ、そんなコトは」
「…え」
丁奉はきょとんとした表情で、凌統を見た。
「つまらないことに固執して…あの人を…興覇のことを解ろうともしなかったのは、あたしのほうだったんだ…あたしは興覇を越えたい…そのために、この程度の怪我で寝てるワケにいかない…」
よろめきながら、凌統は再び立ち上がった。その表情からは、鬼気さえ漂い始めていた。
「…あたしの命に代えても…張遼を飛ばしてみせる!」
「いい心がけだ」
ふたりが振り向くと、そこにはひとりの少女が立っていた。
口元にはわずかに笑みがあるが、その瞳はあくまで冷たい。冷たいながらも、その瞳の奥には確かに憤怒の炎が燃え盛っているように思えた。
その正体に気づいた瞬間、丁奉の表情が恐怖に凍る。
(張遼さん! そんな…こんなところで…!)
ふたりはまるで金縛りにあったかのように、微動だにせずその少女−張遼を見つめていた。
「ここで討つのは惜しい気がするが、文謙を倒すほどの力量を持った貴様をただで帰すつもりはない…手負いといえど加減は無いぞ!」
突きつけた竹刀を八相に構えると、張遼の周囲の木々が、僅かに揺れて音を立てた。まるで、その鬼気から逃れるかのように。
「…願ってもない相手だ」
「先輩!?」
震える足を、よろめく身体になんとか気合を入れなおして、凌統は構えをとった。
「承淵…あんたは逃げろ。張遼の狙いもあたしだ。あんたには関係ない」
そんな凌統に触発されたのか、丁奉も持っていた木刀を正眼に構える。恐怖のためか顔は強張っているが、それでも何とか、腹を括って踏ん張ってみせた…そんな感じだ。
「先輩を、置いてはいけません…それが、あたしの役目ですから」
「バカっ! そんなことはどうだって…」
「それに、ふたりがかりでも…あたしも、挑戦してみたい」
「承淵…あんた」
「いい根性だ…張文遠、参る!」
一瞬笑みを浮かべた張遼の形相は、次の瞬間、鬼のそれに変わった。

「くそっ…あいつら、いったい何処まで行きやがったんだよ…!」
甘寧は数名の“銀幡”メンバーとともに戦場を駆けていた。その表情には焦りの色も見える。
「多分ですけど、あいつ蒼天会の本陣にでも向かってるかもしれませんよ? あいつがリーダーに対抗意識を燃やしてること考えれば…」
「ちっ…他の奴等ならいざ知らず、公績なら十分有り得る! だが、承淵のヤツが何処で食いついたかさえ解れば…」
そして、数分前まで凌統たちがいたあたりに辿り着く。
そこには凄まじい戦闘の跡があった。細い木は悉く折れ、太い木の幹にも何かで抉り取られたような痕が生々しく残っている。折れた木の様子から、そうたいした時間が経っていない事も読み取れた。
「な、何これ…!」
「いったい…ここで何が…」
その時、木々の折れる音が聞こえる。その中にはかすかに…。
「居た! あいつ等だ!」
「って、ちょっと待って、まさか戦ってるの…」
その相手を類推し、少女達の顔から笑みが消えた。
「は…ははは…マジか、オイ」
甘寧も流石に苦笑するしかない。手負いの凌統と、素質はあってもまだまだ発展途上の丁奉の二人が、どのくらいの時間かは知らないが、あの張遼を相手に戦っているらしいことなど、考えもつかないことだった。
「…どうします? 向こうもひとりだと思うんですが…」
「どうしますもこうしますもねぇだろ…俺が張遼を食い止めるから、おまえ等は公績と承淵を抱えて逃げろ、いいな?」
少女達は一度、互いの顔を見合わせて、頷いた。
傍らの少女から愛用の大木刀“覇海”を受け取り、一振りする甘寧。
「いくぞおまえ等! 目的履き違えるなよ!」
「応ッ!」
甘寧が林の奥へと飛び込むとともに、少女達も次々と藪の中へ突っ込んでいった。

何度目だろうか。
張遼の鋭い一撃が、一瞬前まで自分の頭があったあたりを掠め、大木の幹に痕をつける。エモノが竹刀であるにもかかわらず、「学園最強剣士」の名をほしいままにする張遼が繰り出す一撃は、まるで鋼鉄の棒で殴りつけたような衝撃を生むものらしい。
ふたりは、その恐怖の一撃をカンと偶然だけでかわしていた。林という地の利が無ければ、恐らく一番最初に放ってきた一撃だけでふたりは飛ばされていたかもしれない。凌統も丁奉も、相手の力量と自分達の力量の差を読み違えていた愚を悟り、何時しか逃げることに専念していた。
走っているうち、不意に目の前が開けた。合肥棟の裏山、その反対側であるのだが、凌統たちにはそんなコトは解るはずも無い。しかし、自分達が絶体絶命の窮地に追い込まれたことは理解できた。
「…鬼ごっこは終わりだ。ここなら、遮るものは何も無いぞ」
振り返った先に姿をあらわした張遼は、まったく息を切らしている様子は無い。満身創痍の凌統は言わずもがな、その凌統を庇いつつ逃げてきた丁奉も完全に息が上がっている。
「覚悟しろ…貴様等の健闘に免じて、痛いと思う前に意識を飛ばしてやる」
踏み込みとともに剣閃が飛んでくるのが見えた。
ふたりは無意識のうちに、互いを庇いあうようにして目を閉じた。
(続く)

616 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:23
-銀幡流儀-
そのさん 「果てしない青空に誓う」

まるで雷鳴のような音がした。
しかし、痛みのようなものは何処にもない。目を開けたふたりが見たのは、鮮やかな一対の羽飾り。
「…間一髪、だな」
「興覇先輩!」
甘寧は振り向いてふたりの無事な姿を確認し、口元を緩めた。次の瞬間、猛獣のような咆哮とともに、力任せに張遼の身体を後方へ突き飛ばした。
「…ぐ…!」
不意を突かれた張遼は大きく間合いを離されたが、それでも難なく踏ん張ってみせていた。
間髪いれず、茂みの中から飛び出してきた"銀幡"の少女達が、凌統と丁奉のふたりを護るように集まってきた。
「よし、そのまま行けッ!」
「おのれッ…!」
甘寧の合図とともに少女達が凌統と丁奉を抱えて逃げ出すのと、体制を立て直した張遼が再び踏み込んできたのはほぼ同時だった。
甘寧はその前に立ち塞がるように滑り込むと、再び覇海を縦に構えてその剣を受け止めた。
「そうはいかねぇぜ大将、ここからは俺様が相手だ」
「ふ…そう言えば貴様にも、蒼天会旗奪取の屈辱の件で、叩きのめす理由があったな…甘寧!」
「報恩と報復、それが俺達"銀幡"のモットーだ…てめぇがかましてくれた上等の礼、気にいったか?」
「ほざいてくれる…」
膂力は互角。少女同士の立ち合いとは思えない鍔迫り合いは、張遼が不意に力を緩めて後方へ飛びのいたことで均衡が崩れた。
「…!?」
勢い余ってバランスを失った甘寧。
その隙を逃すことなく、張遼は踏み込みと同時に袈裟懸けの一撃を繰り出してきた。
茂みの中でその様子を見た丁奉が堪らずに叫んだ。
「先輩!」
「ちっ…甘ぇんだよ!」
驚異的なバランス感覚で踏み止まった甘寧は辛うじてその一撃を払い返した。
しかし張遼は怯むことなく、その刹那の間に剣を柳生天に構え直す。
(!)
甘寧の背筋に一瞬、悪寒が走った。
先に放った"仏捨刀"はオトリ。本命は、この構えから繰り出される"逆風の太刀"。
「これで、終わりだッ!」
火の点くような速度と勢いで、逆風に切り上げられた竹刀の一撃が、甘寧のがら空きになった左脇腹へと吸い込まれていった。

かしゃん、と音をたてて、グラスが床で砕けた。
「わ! 仲謀様っ、大丈夫ですか!?」
「あ…う、ううん」
谷利が慌てて箒と塵取りを持ってきて、破片を手際よく片付ける。
「ダメですよぼーっとして…仲謀様、どうかなさったんですか? 顔色、良くないです」
孫権のただならぬ様子に気づいた谷利が、心配そうに主の顔を覗き込む。
「あ、えと…大丈夫だよ…ごめんね阿利」
「…そうです、大丈夫ですよ…興覇さんだったら、きっと巧くやってくださいますよ」
あわてて取り繕ってみせる孫権の心中を悟ったのか、谷利はそう言って元気付けようとする。
「うん…」
しかし、孫権の胸騒ぎは収まる気配を見せようとしない。
窓の外を眺める孫権の表情は、今にも泣き出しそうなくらい、不安に満ちていた。

ふたりは技の極まった体制で、ピクリとも動かない。
少女達も茂みの中で立ち止まり、その光景に釘付けにされている。
「…捕まえたぜ」
「な…!」
見れば、甘寧は技を極められた状態で、脇腹と肘で竹刀を受け止めている。
甘寧は技の極まる一瞬、僅かに前へ踏み込んで、鍔元を受けたことでダメージを減殺したのだ。
「今度は、こっちの番だ…喰らえッ!」
甘寧は張遼が見せた隙を逃さず、その肩口を掴んで思いっきり頭突きを食らわせた。
「ぐあ…!」
直接、脳へダイレクトに伝わった強烈な衝撃に、さしもの張遼も大きく体制を崩した。
軽い脳震盪を起こした彼女の膝が地に付く。
「よし、今のうちにずらかるぞ!」
「くっ…待てッ!」
「待てと言われて待つバカはいねぇよ! あばよ、張遼!」
甘寧が茂みに飛び込み、少女達とともに逃げ去るのを、張遼はただ眺めていることしか出来なかった。

それから数刻、凌統と丁奉の救出に成功した甘寧ら"銀幡"軍団は、引き上げにかかっていた周泰の軍団と合流し、誰一人欠けることなく濡須棟へ帰還してきた。その際、甘寧は帰路に立ちふさがった蒼天会の一軍を散々なまでに討ち散らし、その将と思しき少女を負傷させるという活躍を見せた。
その討ち漏らした少女が何者だったかなどと言うことは、甘寧以下誰も知ることはなかった。ただこの日の一戦で、蒼天会でも夙に名の知られた良将・李典が帰還中の長湖部軍と遭遇し、それとの戦闘によって受けた怪我が元で引退を余儀なくされたという記録が残っている。
この二つの記録に整合性があるのか否か、はっきりはしていない…何しろ、その記録もいわゆる風説の類であり、その根拠として信用できる史料がないのだから。

617 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:23
「公績さんッ!」
抱えられていた凌統の姿を認めると、棟の昇降口で待っていたらしい孫権が泣き顔で駆け寄り、その傷ついた身体を抱き寄せた。
「ばかばかっ! なんでこんな無茶なことしたんだよっ! どれだけ、どれだけ心配したと思ってるんだよっ…!」
「…すいません、部長」
その様子を見ていた甘寧が呟いた。
「部長…差し出がましいことかも知れねぇけど、公績の気持ちも酌んでやってください。コイツはコイツなりに、必死に考えた末の事だと思いますから」
そして、しゃがみこんで凌統の肩を叩く。
「無茶をやらかすのは結構だが、せめて怪我してるときくらいは大人しくしてな。お前が万全なら、張遼のタコに負ける要素なんて何処にもねぇんだからな?」
「…うん。た…助けてくれて、ありがと…先輩」
恥ずかしそうに俯いて、呟くように言う凌統に、甘寧は苦笑した。
「ああ…でも先輩は止せ、そんなの承淵だけでたくさんだ」
「…わかったよ、興覇」
そうやって笑いあう二人には、もうこれまでのようなわだかまりはすっかり消え去っていた。
だが、異変が起きたのはそのときだった。
「っと、これで…俺様の……仕事、は…」
立ち上がろうとした甘寧の体が、突如力を失ったようによろめく。
動かない世界の中で、まるでスローモーションを見ているかのように、その体が大地に倒れた。
「興覇さんッ!?」
「先輩!?」
一瞬置いて、孫権と丁奉の悲鳴が上がる。
慌てて身体を抱き起こす少女達。
「ちょっと、リーダー! しっかりしてくださいっ!」
「先輩っ! 先輩っ!」
「ちぃっ、救急車だッ…誰か救急車呼んで来いッ!」
その騒ぎに、帰還してきた呂蒙、潘璋、徐盛も慌てて駆け寄ってきた。
「そんな……」
その光景を眺めていた凌統は、呆然と呟いた。

それから一週間の時が過ぎた。
合肥・濡須の攻防戦は、秋口からの風邪の流行のせいもあり、合肥棟と濡須棟の中間点を長湖部・蒼天生徒会双方の勢力境界線とすることで和議が成立し、束の間の平和が訪れた。
凌統の怪我も、彼女の強い自己治癒力のせいもあってかほぼ平癒し、日常生活には殆ど支障がなくなっていた。
しかし、甘寧の容態は予想以上に深刻で、未だに揚州学区の総合病院の集中治療室にいるらしい。
総大将不在という事もあり、丁奉を含めた"銀幡"軍団は臨時に潘璋預かりになった。
濡須棟の屋上で、孫権と凌統は互いに顔を合わせることなく、戦場となった大地を見下ろしていた。
「…肋骨を2本、折ってたんだって。内臓も少し傷つけてるって…全治六ヶ月って、お医者様は言ってた」
「そうですか…」
凌統には、その原因はわかっていた。
(もし、あれを受けたのがあたしなら…今頃は土の下か)
凌統は、甘寧が張遼の逆風の太刀を受けたシーンを思い返していた。
やはり、いくら技の威力を減殺したとはいえ、受けた場所が悪かったのだ。
それでも、やはり甘寧だったからこそ、こうして生き延びることが出来たのだろう。
「あたしは…あいつが、興覇がいなければ、今此処に居られなかったんですね」
「え?」
自嘲気味に呟く凌統に、初めて孫権は振り返った。
「もしかしたら、あたしがそれと気づいていないだけで…もっと何回も、興覇に助けられていたような、そんな気がします」
「…うん」
「あたしがもっと素直に彼女のことを理解することができていれば、こんな気持ちになる事だって…」
「公績さん…」
凌統の目から涙が溢れ、俯いたその頬を流れ落ちる。
「…まだ、決着だって…つけてないのに…」
「縁起でもない事言わないでくださいッ!」
その時、屋上のドアを勢いよく跳ね飛ばし、丁奉がそこから踊り出た。
「興覇先輩はあんな程度でまいるほどヤワな人じゃないです! そんな言い方、先輩に失礼ですよっ!」
そう言って、ぷーっと膨れてみせる。
呆気にとられた孫権と凌統だったが、そんな丁奉の様子がおかしかったのか、つい噴き出してしまった。
「う、うん、そうだよ。承淵の言う通りだよ」
「…そうだな…こんな程度でどうにかなるようなヤツじゃないよな、興覇は」
「そうですよ」
ふたりが笑顔に戻ったことを確認し、丁奉も少し笑った。
「そうそう、今日ようやく…先輩と面会ができるようになったんです」
「本当!?」
「ええ…そんな長い時間は無理だったんですけど…それで公績先輩に、届け物を預かってきたんです」
そうして差し出されたのは、一通の手紙だった。
凌統がそれを開くと、そこには、
-じきにこんなトコ抜け出て来てやるから、そうしたらお前との勝負、受けてやるから覚悟しとけ!-
そう簡潔に、勢いの良い字で書かれている。
「有難いこった…今からちゃんと技を磨いて、今度こそあっと言わせてみせるさ…」
どこか吹っ切れたように、凌統は手紙を握り締め、何処までも蒼く広がる空を見上げる。
その先で、苦笑する甘寧の顔が見えたように、彼女には思えていた。

余談になるが、公式記録では、この戦いののちにあった荊州攻略戦の参加主将の中に、甘寧の名を見ることはない。甘寧の武を誰よりも評価し、彼女を活かしてきた呂蒙が指揮していたハズのこの戦いにおいて、その名が見られないのは不思議である。
そのため、合肥・濡須攻防戦において華々しい戦績を挙げた甘寧は、その理由も定かならぬまま突如引退したとも囁かれたが…ある記録によれば、長湖部存続の危機とも言われた夷陵回廊戦の前哨戦にて、病に冒された身で出陣し、激戦の中で散ったとも伝えられている…。
(終わり)

618 名前:海月 亮:2005/03/16(水) 21:42
なんだかSSを持ってくるのがえらい久方ぶりになってしまいました…ってなわけで、海月です。
まぁ、一話ずつ上がり次第持ってくれば良いような気もしましたけど、そうすると、多分完成しないような気がしたんで…所詮、人間失格ですので_| ̄|○

前々から甘&凌の和解話を書こう書こうと思ってたんですが、なかなか構想がまとまらなくて(楽進も別件で飛ばされてしまいましたし;w)最終的にこの形になるまで随分かかりました。
甘寧の百人夜襲(ここでは十人ですが)もセットで。あと、「玉屋歴史館」(玉川様のページのコーナーですな)に取り上げられていた甘寧の最期に関する記事も取り入れてみたり。

でも出来上がってみると、拙作「風を継ぐ者」の冒頭展開につながってるようで居て、微妙につながってないような。
毎度の如く歴史考証もさっぱりだし…相変わらず承淵嬢ちゃんの出番むだに多いし…むぅぅ…いずれ書き直すかなぁ。

619 名前:岡本:2005/03/17(木) 15:49
海月様
>久方ぶりのSS
私から見れば驚異的なハイペースですが。お話としては、甘寧&凌統の魏呉激突
前後の諍いと和解ですね。凌統の無双W登場もあって学三の気運を高めるには
効果的な話題ですね。

>楽進
個々人によって解釈や膨らませ方は違いますので、無理に先人の作品に
こだわる必要はないと思いますよ。納得できない解釈がなされている作品例
も多々ありますし。異説によると...が蔓延しているのが学三ですから。
>丁奉の出番
呉の趨勢を長年見ていた人物としてはむしろ最適では。
そういえば蜀では廖化がいましたが、魏には該当する人物がいましたっけ?
私も関羽に比重が恐ろしく偏っていて、なんとか釣り合いをとらねばと
考えています。
気にされていると思われる、”贔屓がすぎて読者にひかれるのでは?”という
事に関しては、各筆者の常識と良識に任せるとしか申し上げれられません。

>痛い三国迷のコメント
私個人として、(張遼を持ち上げるためだけに)
逍遥津で凌統が楽進を倒したのと甘寧が李典を倒した設定は
蒼天航路の数あるミスでも容認できないものです。
魏書を読めば、李典や楽進は凌統や甘寧程度で釣り合う相手ではないと分かります。
(甘寧に関しては、限られた条件内では戦術能力で五覇に匹敵しえますが、将としてのトータルで
考えると大きく劣ると考えています。)
そもそも、水戦ならいざ知らず、陸戦で呉が魏と互角に戦えるはずがありませんから。
逆も真なりですが。合肥・濡須を巡る戦いでは双方共に強化された防御線と兵科特性の相性の
悪さで決め手に欠いていたのが実状ではないかと。
大体、キャラ数を三国でそろえるためだけに、どう考えても”三国無双”にはほどとおい連中の
比率が呉では魏・蜀よりも圧倒的に高いです。
もちろん、呉で上から拾っていけば凌統は無視できる存在ではありません。

620 名前:海月 亮:2005/03/17(木) 18:47
>異説
そいつを言われてしまうと…
ただ、楽進vs凌統の展開は活かしたうえで話を書きたかったってだけでして。
満寵達がキレて突っ込んでいくのも、何気に「蒼天航路」のオマージュですからね。

>「蒼天航路」逍遥津
仰られる事、確かに一理あると思います。
将器そのものに釣り合いが取れているかどうかの解釈は、人それぞれではないかとは思いますが、少なくとも張遼、李典、楽進の三人に関しては、そこまで差があるのかとは思いますし。
というより、むしろ「張遼がそこまで抜きん出ていたのか?」というところでしょうか。
甘寧の百人夜襲もですが、騎馬八百で孫権の本陣を急襲した件のインパクトが強すぎるせいもあるかと。
結局、目立ったもの勝ちなんですかね?

621 名前:北畠蒼陽:2005/03/17(木) 20:38
>海月 亮様
まずはわけのわからん名前でメールを出してしまったことに10万の謝罪を……
いや、あれ、私がネットゲームで使ってるキャラの名前なもので^^;

んで感想ですけどまぁ、私はシーンが最初に頭の中に思い浮かんでそのシーンを描くためにストーリーを作っていく、っていう邪道1207%(約12倍の邪道)な人間なんで
『あ、このシーンいいな!』とかそういうこと思いながら読んでました!
えぇ、孫権のばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか、ばかばかっ!とか。

まぁ、全部の作品の設定をすべて包括しつつ描ければそれがベストなんでしょうけど、そげなこと難しいけぇ(方言)逆に学三、という世界の設定に幅が出て面白いんじゃないでしょうかね。
『この人はこう書いたけど自分はこう書くよー!』みたいな感じでしょうか。

そうでも思わなきゃ自分は……自分は……(ノ_・。

>今週の蒼天航路を読んでのご感想
……牛金の話を書いた直後に……_| ̄|○
近所のコンビニまで旅に出ます。探さないでください。

622 名前:岡本:2005/03/17(木) 22:06
>結局目立った者勝ち?
大抵の人が三国志に足を踏み入れる原因が三国志演義であり横光であり人形劇
であったり三国無双であったりするわけです。客引きができないとお話にならないわけです。
目立った活躍をした人物に光があたり、さらにファンが煽って尾ひれをつけて
新たなファンを生むという構造上、目だった活躍をする人間のファンが持ち上げられる傾向
にあるのは必然でしょう。
受け入れられる裾野を広げる意味では当然の流れでしょうね。

ただ、よりこの時代に興味を持つと単なる荒唐無稽な英雄譚に飽き足らなくなって
実状はどうであったのか個人的に調べるようになり、新たな見方を見つけていくのだと思います。
三国迷の誕生ですね。そしてマイナーといわれる人物に目をむけ、彼らも決して
メジャーな人物に引けをとるわけではないと見るようになるわけです。
学三で、”演義でメジャーな人物の登場が遅れる”というのもその例です。

ですが、最初っからそういう人物を好む傾向が現れるのは不気味でもありますよ。
例えば張遼の活躍する合肥戦役以前にも2,3回、孫権の10万の軍による襲来を合肥城は撃退
しています。これらの戦いには張遼は全く関係有りません。殊勲甲は揚州をにらむ上で合肥の重要性に
着目し廃城と化していた合肥城を整備して周辺の豪族を慰撫した劉馥です。
彼のような有能な人物が多数いたことが曹魏の強さの一つですね。
こういった人物の存在に気づくことで、張遼がいたから(もちろん、彼の果した役割も大きいですが)
合肥戦役で孫権を撃退できたわけではないと理解を深めていくことができるわけです。

けれども、蒼天航路で劉馥ファンになったならいざ知らず、最初から
「劉馥サイコー」といっている三国志ファンがいたらかなり怖いですよ。

623 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:35
-どおきのきづな-

……同級生は仲がいいものだ、とか世間では思われているようだ。
……確かに私にだって仲がいい人がいないわけじゃない。
……でも、なぁ、とか思う。

「んあ?」
……本当に同年代ってのは仲がいいものなんだろうか、そういったことを尋ねたとき彼女の第一声がそれだった。
……私の同級生といえば彼女……寮でも同室の王昶……文舒のほかに諸葛誕、胡遵、昜、司馬姉妹。それから今、眼前の寿春棟に自分の妹、カン丘秀とともに立てこもる彼女、カン丘倹……
……別働隊を率いている文欽、といったところだろう。
……彼女は叛乱を起こし、私たちはそれを鎮圧に来ていた。
……彼女がなぜ叛乱を起こしたか、ということはわからなくもないつもりだ。
……年下ながらひときわ強い光を放つ夏侯玄に魅せられながら、同じく彼女の未来に夢を見ていた李豊が司馬師を失脚させ、夏侯玄をトップに据えよう、などと考えたことから夏侯玄もトばされ……
……カン丘倹は夢を失った。
……今、カン丘倹には司馬師に復讐することしか考えてないんだろうなぁ、と思う。
……でも私には特にそれ以外の感慨も沸いてこない。
……しょせんヒトゴトなんだろうな、と思う。
……そんな関係の同級生が仲がいい、とかいわれてもぴんと来ないのである。
……文舒にそう言うと……
「伯輿ってば難しいこと考えてんね」
……んっと、あなたは考えないの? あっそう……

……私は王基、あだ名は伯輿。
……荊州校区総代として王昶と一緒に長湖部を攻めたりしている。
……自画自賛だけど文舒とのコンビプレーだったらそうそう負ける気はしない。
……今回もそれを買われてカン丘倹の反乱鎮圧に送り込まれた、わけだ。

……客観的に見てカン丘倹の叛乱は成功することはないだろう。
……司馬師を筆頭に文舒、昜、諸葛誕、胡遵……そして私。
……同年代のほとんどを敵に回したこの戦いで勝機など万に3つしかありはしない。
……1つ、戦いの長期化とこの叛乱に呼応する長湖部の援軍。
……2つ、戦いの長期化と病気なのに強行してこの戦いに参加している司馬師の病状悪化。
……3つ、カン丘倹と一緒に叛乱を起こした文欽は寿春棟から出ているので、その別働隊としての動き。
……まぁ、そういったことに気をつけていればほぼ負けはありえない。
……だから逆にかわいそうなんだよね、カン丘倹。
……滅びの美学、ってのは私も持ち合わせてるつもりだから。

624 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:35
「戦場で余計なこと考えてるとトばされるよ、伯輿。今は同級生がどう、って話じゃない。私たちが戦ってるのは同級生、カン丘倹じゃない。ただの敵」
……文舒に叱られた。
……反省。確かに王昶の言うとおり。迷いは戦いのあとに置いておくものだ。
……
……? 文舒?
「ん? なに?」
……その拡声器はなに?
「いや、これで投降促すの。戦いがなければそれに越したことはないしね」
……戦いがなければそれに越したことはない、という彼女の言葉は正論だ。
……でも、なぜか私は言い知れない不安を感じた。

「あー、あー……カン丘倹のとこのみなさ〜ん。毎度おなじみの生徒会ですー。あんたがたは完全に包囲されてまーす!」
……拡声器を通して文舒の声が響き渡る。
「みなさんが叛乱起こしてー、故郷のお母さん、泣いてるんじゃないかなぁ! きっとお母さん、涙流しながらこう言うんじゃないかなー? 『人生に絶対はない。でも人に迷惑かけたらあかん』……お母さんそう言ってあんたがたのことを育ててきたんじゃないかー!?」
……不安的中。文舒は説得に向いてない。それも致命的に。
……しかもなんでお母さん、関西弁?
「うぅ……お母さん!」
「まてまて、秀! あれは敵の誘降の策略だ!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……あれでなんで泣けるか。
「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」
……危なかったのか。

「私は生徒会の胡遵です! みなさんを説得しにやってきました!」
文舒の次に拡声器を持ったのは胡遵だった。堂々としてる、声だけは。
「みなさんの叛乱に一般学生は迷惑を被っています! 一般学生にこれ以上の圧力をかけないためにも矛を収めてもらえないでしょうか!」
言うことは立派だ、言うことは。
「うぅ……ごめんよ、一般学生!」
「まてまて、秀! そういったこと前もってわかってただろうが!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……面白いなぁ、棟内。
「このようなあなたがたの暴虐に対し……」
「うるさいぞ! 地味っ子、胡遵!」
……あ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! 地味なんて酷いーッ!」
胡遵は拡声器を捨てて泣きながら走っていった。
「ウィークポイントをついた一言。敵ながら見事だね」
……うん、お見事。
……いつの間にか役目を終えて私の隣に来ていた文舒に私も深く頷いた。
……文舒がやけにすっきりした顔をしていたのが気になった。そんなにお母さん話をできて満足なんだろうか。

625 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:36
「カン丘倹! なんで私に相談してくれなかったの!?」
……次に拡声器を持ったのは諸葛誕。
……うん、それだったら期待できそう。
「私に相談してくれればもっといい方法だって思いつくことが出来たのに! ……文欽ね!? 文欽でしょ!? あの女狐がカン丘倹をそそのかしたんでしょ! 文欽めー! 曹爽とかと同系列のくせにー! 死んじゃえー!」
……うーわ。まともだと思った私が早計だった。
「うぅ……そうだ、文欽が悪い!」
「まてまて、秀! あれ、もう説得になってないから!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……よくいえば感受性が強い、とかそういう感じなんだろうな。
「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」
……カン丘倹、大変だなぁ。

「えっと、あの……う、あ……えー、えっと……そ、その……あの……えっと、えー……あー、その……うん、あの……」
……次に拡声器を持ったのは……昜。
……ここでようやく私は気づいた。
……やばい、司馬師面白がってる。
「えっと……あの、えっと……み、みなさん……だから、その、あー……うん、と……あの、だから……えー、や、やめたほうがいいと思います、けど……えっと、な、なんでかっていうと、あ、あの、つまり……えっと……あの、や、やめたほうがいいと思います」
……どもるにも程があるだろう。
「うぅ……どもってるよぅ!」
「まてまて、秀! いや、だからなんでそうなるんだよ!」
……寿春棟の中から声が聞こえる。
……カン丘倹のことを思うと涙が出てくる。
「危ない危ない! 敵の策略に引っかかるところだった!」
……かわいそうなカン丘倹。

……私は司馬師のところにいこうとしていた。
……こんな説得ショーで時間つぶすより、今は速攻で片付けるべきだと思ったからだ。
……司馬師は、いた。そしてサイコロを振っていた。
「あ、王基、ちょうどよかった。今、2が出たから次、貴女が説得してきて」
……サイコロで決めてたのか。
「ね? 説得任せたから」
……私、口下手だから。
「あらそう、残念……んじゃショータイムも終わりってことでそろそろ動きますか」
……了解。その言葉を最初から聞きたかったけどね。

「イッツァショーターイム♪」
……嬉しそうに司馬師は叫んだ。

626 名前:北畠蒼陽:2005/03/18(金) 11:42
学園モノなんだから同級生モノってことでやっちゃいました……_| ̄|○
まぁ、王昶&王基がこの中じゃ一番仲いいんでしょうけどね。

ちなみにツッコまれる前に補足。
カン丘倹が立てこもってたのは寿春じゃないですね。
まぁ、学園における『棟』って単語をどこまで使っていいかわかんなかったのでこうなりました。
これは私の設定知識の不足ってことで反省してきます。
反省して三国志大戦してきますひゃっほう。

627 名前:海月 亮:2005/03/18(金) 18:16
自作品について、泣き言をひとつ。
結局のところ、初心者スレで呉派を宣言して入って来た以上、どうしても作品の方向性が呉に偏らざるを得ないのですよ、ワタクシ。
ただ、それだけですから。ええ。

でも次はそろそろ、蒼天会で何か書きたい気分…陳矯か、陳泰&昜あたりで。

北畠様へ。
>メール
つかこちらこそ、返信が随分遅れて面目次第も(以下略
もしかしたら、おいらのは宛名が本名になってる可能性が(オイ
>孫権たん
海月のなかでは大体、(シラフのときは)あんなイメージなんですよ。
あれが二宮の変の頃になるとどうコワれていくか、想像するだけでも萌えると思いませんか?
>毋丘倹と毋丘秀
仲恭ねーさん哀れすぎ…。
個人的には泣きながら走り去る胡遵がツボです。なんか、絵ぇ描けそうなくらいはっきり想像できました(w
あと、どもり昜と暴走諸葛誕もいい味出てますなぁ〜。

628 名前:★ぐっこ@管理人:2005/03/22(火) 01:35
>卒業
。・゚・(ノД`)・゚・

そうですよねっ!袁紹は曹操にとって、長年世話になったお姉さまですもの!グランスールですもの!
許攸…難しいキャラですよねえ(^_^;)
リヨみての中では白薔薇っぽい立ち位置にいますが。彼女の場合、「おこった事」の解説
(言い訳ともいう)は天才的。難解な事態に遭遇しても、蕩々と現状分析とかするから、
みんなそれに感心して、よほどの鬼謀の女と思い込むのですが、実は「これから起こる事」
の予測は凡人レベルだったり。荀揩竓s嘉たちとの決定的な差ですな。

袁紹や袁術は、それぞれ財閥の後継者として巣立ち、例えば荀揩ネんかは、後に天才
経営コンサルタントとして、財界に名を馳せることになったり。
曹操と劉備はどうなるんだろ(^_^;)


>王凌
なるほど…。最後まで読んで、王允の亡霊の意味がわかりました〜
太原王氏も含め、このへんの王姓のひとってややこしいなあ(^_^;)
揃いも揃って高官になってるし…久々に辞書読み返して再確認…。
そういや王淩も、叛乱を起こす直前まで、三議長のポストを歴任するほどの大物だったのですね…

>牛金
そういえば今週の蒼天。・゚・(ノД`)・゚・
牛金ネタといえばhttp://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=sangoku&key=1036208714&ls=50
あたりが懐かしい。
彼女も曹仁の下で相当に鍛えられて、司馬姉妹に恐怖されるほどの女傑に成長したっぽい。
牛氏の小吏に関する真偽はさておき、学三的には彼女をピックアップしたいところ( ゚Д゚)!

>銀幡流儀
大作乙( ゚Д゚)!
むう、シーンとしてはあのへんか!
魏は魏で、呉は呉で色々あるんだなあ、というドラマが詰め込まれてるシーンんになって
ますやね〜。
まだまだ甘寧に貫目が足りない凌統はもとより、丁奉が健気な後輩ってのもいいなあ〜。
この暴風娘甘寧の姉貴分である呂蒙が、登場しないぶん頼もしく感じる…
でも、学三の戦闘、もうちとソフトのがいいかも…

>同期の説得とか
ワロタ。みんな個性がある…つうか毋丘秀いい娘や…(´Д⊂ そういや彼女だけなんとか
逃げ延びるあたりがまたツボ。
個人的には諸葛誕の「死んじゃえー」がヒット。さすがは諸葛たん!
全てにツッコミを入れてる王基のキャラに、新しい何かをかんじますた。

>議論
…(-_-)

>棟の範囲
ケースバイケースになりますねえ(^_^;) 特に魏呉の国境あたりは校区が入り乱れてるから特に…

629 名前:海月 亮:2005/03/22(火) 22:01
>戦闘
………………気がついたら結局殴り合いしか書いていないという。
「学園モノ」ならでは、という対決を考えつけない未熟者ゆえ…_| ̄| ...○オユルシヲ

このあたりはもちっと考えて然るべきところですよね。
樊城の曹仁vs関羽とか、漢中攻略とか、まだ誰もSSでやってない戦役も多いことですし、そのあたりで何か考えてみようかと思います。
どこかで水泳大会とかやってみたいなぁ…孫策の江南平定戦とかどうかなぁ…むぅぅ。


あと、ここでの争論も原因は私…狼藉の数々、平にご容赦の程を…。

630 名前:★ぐっこ@管理人:2005/03/28(月) 00:58
いえいえオキニなさらず〜。
というかアレです、最近リヨみてとかで、マターリした学園モノが念頭にあるから。
でもまあ、基本的に女の子同士の喧嘩ですから、流血とか骨折とかは無しで、
コミック時空よろしく、「吹っ飛ばす」くらいの流れの方がよいかなあ、と(^_^;)

631 名前:国重高暁:2005/05/21(土) 18:12
■■ シ水関 ■■

 劉備・関羽・張飛が蒼天学園高等部へ進んだ頃、その内側はかなり荒れていた。
 涼州校区総代だった董卓が、生徒会執行部員十名の追放を口実に洛陽棟へ入り、一挙に学園の主機能を制圧し、蒼天会長を少さまから献さまへすげ替えるなどの暴威を振るったのである。
 これをみて、陳留棟の曹操は中華市内各地へ檄を飛ばし、南皮棟の袁紹らと「董卓追討軍」を結成。横河の南岸のシ水関で衝突したが、苦戦を強いられ、果ては敵将・華雄により、孫堅軍の剛勇・祖茂をリタイアさせられたのであった。

「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
 追討軍の盟主・袁紹が、本陣全体を見渡して号令した。と、そこへ、冀州校区総代・韓馥の部下、潘鳳が進み出て言う。
「俺が飛ばしてやるぜ!」
「頼もしいですね。では、お任せしましょう」
 癒し系の声援を受け、彼女は戦場へ飛び出した。
「行くぜ!」
 気合一閃、模造刀を振るって斬りかかった次の瞬間。
(き……消えちまった?!)
 何と! 相手の姿が、視界から外れたではないか。
(全く、あんたは猪武者ね)
 華雄は、潘鳳の切先をかわし、背後へ回り込んでいた。そして、自分の模造刀で、うろたえる彼女を袈裟懸けに斬った。葛餅みたいに三角に……はならなかったが、それでもうつ伏せにばったり倒れた。
「じゃ、これはもらっていくわ」
 華雄は、潘鳳の階級章を引きちぎり、横河へ向かって思い切り投げ捨てたのである。

「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
 袁紹は、再び本陣全体を見渡して号令した。と、そこへ、彼女の異母妹・袁術の部下、兪渉が進み出て言う。
「先輩、わたしにお願いできないでしょうか?」
「では、あなたが潘鳳さんのリベンジを果たすというのですね」
「はい。この兪渉、必ず、あの娘を飛ばしてまいります!」
 不退転の決意と共に、彼女は出陣した。
「先輩、胸を借りさせていただきます」
 両手両足をおっ広げ、ちらちらと誘いの隙を見せる。
(もらったわ!)
 挑発された華雄は、模造刀を振るって斬りかかったが、それが相手の思う壺。先刻とあべこべに、自分がバックを取られる破目となった。
(見せましょう。わたしたち、柔道部員の力を……)
 兪渉は、腕をフックし、担ごうとする。
(甘い!)
 これをみて、華雄は右足を振り上げ、恥骨結合の辺りをぼかんと蹴りつけた。相手がびっこを引いて飛びのくと、容赦なく鉄拳制裁を食らわす。
「人の三大急所、それは眉間・鳩尾・恥骨接合よ。覚えときなさい!」
 彼女は、仰向けに倒れた兪渉の階級章を引きちぎり、横河へ向かって思い切り投げ捨てたのであった。

「たれか、あいつを飛ばせる娘はいないの?」
 袁紹は、三たび本陣全体を見渡して号令した。
「本初ちゃん、あんたの部下を出したら?」
 と提案したのは、傍らにいた曹操。彼女とは、幼馴染で同級生の間柄である。
「いえ、それが、その……わが冀州校区の誇る『ソードマスター』と『ナイトマスター』が、まだここへ到着しておりませんので……」
 袁紹は、歯噛みしてそう言った。
 こんな彼女たちの会話を、本陣の片隅で聴いていた三人娘がある。
「何や、かったるいな……」
 最も小柄な、ショートカットの眼鏡っ娘が、大きく伸びをしてそう言った。
「姉者、いかがなされた?」
 最も大柄な、ストレートロングの少女が問う。
「どないしたもこないしたもあるかい。本初先輩の派遣した娘が、あっちうまに二人も飛ばされて……うち、もう観ちゃおれんのや」
「よし、ほな、うちがやっつけたる!」
 立ち上がるなり、右手を高々と挙げて叫んだのは、両者の向かいに座っていたツインテールの少女である。
「益徳、行くな!」
 やにわにその場を離れようとする彼女の袖を引き、ストレートロングが警告した。
「何でやねん?」
「あの娘は腕っ節も強いが、頭脳プレーもできる。お前のような猪武者では危ない」
「はあ、さよか……」
ツインテールがしおしお引き返す。入れ替わりに、ショートカットがストレートロングへ近づいて言う。
「雲長、どないする?」
「姉者、お任せくだされ。私には、あの娘を飛ばす自信がある。早速、本初先輩へ掛け合うといたそう」
 寸考ののち、ショートカットはぽんと手を打って答えた。
「よし、ここはあんたに頼も。ほな、飛ばされんように頑張りや!」
 ストレートロングは小さくうなずき、袁紹の元へ馳せ参じたのである。

「見慣れない娘ですね……あなたは、一体たれなのでしょう?」
 盟主の問いに答え、かの少女は自己紹介をした。
「私は、姓を関、名を羽、字を雲長と申す者。平原棟の弓道部長を務めておる」
「平原棟といえば……玄徳さんのところですね」
「いかにも」
「わかりました。それはそうと、この私に何の御用でしょう?」
 関羽は、戦場の華雄を指して言った。
「当方、あの娘の階級章を剥奪したいと存ずる」
「何ですって?!」
 驚いたのは袁紹である。幾ら平原棟長・劉備の義妹といっても、身分の低い者を前線へ出すわけにはいかない。
「ちょっと、地位をわきまえてくださいません?」
「身分などどうでもいい。私には、あの娘を飛ばす自信がある」
「とはいえ、うかつにあなたを派遣いたしますと……」
 悩んでいるところへ、曹操が再び首を突っ込んだ。
「本初ちゃん、この娘は闘いたくてうずうずしてるわ。罪を糾すなら、負けて逃げ帰ってからでも遅くはないわね」
 寸考ののち、袁紹は答えて言う。
「わかりました。あなたがそうおっしゃるなら、私も従いましょう」
 そして、温かい緑茶の缶を関羽へ差し出した。
「雲長さん、景気付けに飲んではいかがですか?」
「いや、今はいらん。まず、あの娘を飛ばしてからいただくとしよう」
 彼女は、袁紹のもてなしをはねつけ、凛々と戦場へ向かったのである。

 腰の模造刀を抜き、関羽と華雄は身構えた。互いの眼が光る。
「華雄先輩、階級章は奪わせていただく!」
「さあ、それはどうかしら?」
 と、先に仕掛けたのは相手方であった。
「わが刃、受けなさい! 燕返し!」
 右腕一本で模造刀を持った華雄が、体をぶん回しながら斬りかかる。

 ジャキーン!

 互いの刃が触れた次の瞬間、彼女は仰向けに倒れていた。必殺の「燕返し」を関羽に受け止められ、頚動脈を斬られたのである。
(な、何という強さ……)
 あわれ、華雄は階級章を剥奪され、永久に蒼天学園の歴史から除去されたのであった。

 大きな戦利品を手に、関羽は本陣へ舞い戻った。
「お帰り。結果はどないやった?」
「うち、それだけを気にしとってん……」
 劉備や張飛から声がかかる中、彼女は華雄の階級章を提示する。
「わお、華雄先輩の階級章やないか!」
「ほんまや……ほんまに、華雄先輩の階級章や……」
 しばし茫然とする両者を差し置き、関羽は袁紹の元へ向かった。
「当方、約束どおり、あの娘を飛ばしてまいった」
「何ですって?!」
 盟主も驚きを隠せない。何しろ、既に友軍武将を三人も飛ばされたのだから。
「ちょっと、冗談は止してくださいません?」
「冗談ではない。彼女の階級章がここにござる」
 と、関羽は後ろ手に握っていた物を提示した。
「な、何と! あ、あなたが華雄さんを……い、一介の棟長の部下にすぎないあなたが、よくも、まあ……」
 不快感を覚えた袁紹が、彼女へ撃ちかかろうとすると、曹操が割り込んで制止した。
「本初ちゃん、あたしの言ったとおりでしょ? 『罪を糾すなら、負けて逃げ帰ってからでも遅くはない』って」
 そして、乳房の間から、先刻の缶入り緑茶を取り出す。
「これ、懐で保温しといたわ。さあ、一気に飲み干しなさい」
「かたじけのうござる。では、お言葉に甘えて……」
 関羽は、軽くタブを開け、両手で缶を奉げ持ち、まだ冷めていない緑茶をキューッと空けた。彼女の傍らには、華雄から奪った階級章が投棄されていた。

                   糸冬

632 名前:国重高暁:2005/05/21(土) 18:14
いかがでしたでしょうか。
当方としては、約七ヶ月ぶりのSSとなります。
虎牢関の戦いについては、既に新・参・者さんが
書いていらっしゃいますが……こちらは、それに
先行する「シ水関の戦い」を小説化してみました。
なお、潘鳳・兪渉の出撃順は、演義とあべこべに
してあります。

          以上、国重でございました。

633 名前:海月 亮:2005/05/24(火) 22:22
-水際の小覇王-

「暇だねぇ…」
揚州学区の中心地、寿春棟の屋上に少女がひとり、大の字になって流れる雲を見上げていた。
スタイルには難があるが、顔立ちそのものは十分に美少女の範疇に入るだろう。明るい栗色の髪をショートに切り、見た感じも少年のようである。
少女の名は孫策、字を伯符。
かつて荊州学区は長沙棟を中心に、様々な暴動を鎮圧して名をあげ、反董卓連合軍でもその人ありといわれた孫堅の妹である。

司隷特別校区における一連の騒乱が沈静化してきた頃、孫堅は荊州学区の覇権を賭け、襄陽棟において権勢を振るう劉表と妨害、直接攻撃何でもありのトライアスロンで対決したのだが…あと僅かで勝利、というところで劉表側の仕掛けたトラップに引っかかり、高さ数十メートルの崖に落ちて大怪我し、引退を余儀なくされてしまった。
普通の人間なら死んでるだろうが、それでも何の後遺症もなく、二月ほどベッドの上に居ただけで済んだのが彼女の凄い所だ。
とはいえ、この事件で孫堅の軍団は瓦解してしまう。その妹達を取りまとめることになった孫策は、彼女等を比較的騒乱の影響が少ない曲阿寮に留め置くと、数ヶ月前からここ寿春棟を支配する袁術のもとに厄介になっていた。

何をするでもなく、ただぼーっと空を眺める孫策の視界を、ひとりの少女が遮った。年の頃は孫策とさほど変わらない、ちょっとキツめの顔に散切りの黒髪を載せたその少女は、皮肉めいた笑みを浮かべる。
「なによ伯符、またこんなことろでふててるの?」
「別にぃ」
孫策はその顔を避けるように寝返りを打つ。しかし、少女はその動きを見透かしたかのように一瞬早くその視線の先に自分の顔をもってきた。逆に返しても、その先には変わらぬ表情が待っている。
「…なぁ君理…あたしの顔なんか見てて楽しいか?」
呆れ顔の孫策。君理と呼ばれた少女は、その傍らに腰掛けた。
君理こと、朱治は揚州学区でも名門の一族の子息である。孫策の姉・孫堅が作り上げた軍団の若手として課外活動に参加していたが、軍団瓦解後は呂範、孫河らと一緒になって、孫策と行動を共にしていた。
「人に話をしたいときはその人の顔をちゃんと見なさいっていうのが、うちの父ちゃんの口癖でね。親孝行なあたしとしては、何時でもそれを実践するよう心がけてんのよ」
「自分で言うなっての」
孫策は苦笑して、その身体を起こして座り直す。
「で? その親孝行な君理さんが、このヒマ人に何の御用で?」
「御用もへったくれもないわよ…伯符、あんた何時までこんなところでくすぶってるつもり?」
朱治の表情から、笑みが消えて真剣なものにかわる。
「聞いたわよ、慮江の話。あのバカ令嬢、またあんたとの約束破ったんでしょ」
「毎度のこった。いちいち腹立ててられるかよ」
再び仰向けに寝転がる孫策の顔を、朱治は覗き込んだ。
「…ねぇ伯符、あんた何時まで袁術の飼い犬で居るつもり? いっておくけど、あんなバカが好き勝手やってられなくなるのも時間の問題よ」
「そうだな…でも、姉貴の軍団は散り散り、あたしに独り立ちできる基盤もない…せめて、袁術お嬢様から手下をパクる材料があれば…?」
そこまで言った時点で、何かを思い出したように跳ね起きた。唐突だったので朱治は吃驚して、
「きゃ…! な、何よ伯符」
「ある…あるぞ、あのドケチから兵隊をふんだくる方法が!」
嬉々とした表情の孫策に、朱治はその意味を図りかねて小首を傾げる。
「ちょ…どういう事?」
「へへっ、まぁ、今に解るさ」
怪訝な表情の朱治を尻目に、孫策はおもむろに立ち上がり、その場を立ち去った。

634 名前:海月 亮:2005/05/24(火) 22:23
「兵を借りたい?」
「ええ」
それからすぐ、孫策は袁術に面会の約束を取り付け、会うなりそう切り出した。
「従姉妹の呉景たちが今、丹陽地区で劉ヨウの圧力に苦しめられているのを、助けてやりたいんです。貴方にとっても、劉ヨウは勢力拡大の障害。悪い提案ではないと思いますけど」
ふぅん、と怪訝そうに鼻を鳴らす袁術。袁術としても、勢力拡大の手駒として孫策の存在は魅力的であったに違いない。
しかし、孫策の能力を知っているだけに、あまり大きな力を持たせるのは危険であることも、袁術は理解していた。このあたり、袁術がただのタカビーお嬢様ではないことを良く物語っているが…同時に、それが彼女の器の限界でもあった。
「でもねぇ…今徐州攻めの計画が進行中で、余分な労力を割く余裕なんてないですわ」
「ほんの数人で構いません。あとは、道すがら頭数を集めますから」
「う〜ん」
あくまでとぼけた感じで答えを渋る袁術。しかし、孫策にとってはそんなことも想定内の反応だ。
「まぁ、ご信用ならないのも無理もない話です。こちらもただで、とは申しませんよ。あたしの姉がかつて洛陽棟に一番乗りを果たした際、校舎の片隅で見つけた蒼天会のマスターキー、質として献上いたしましょう」
懐から袋を取り出し、中から一枚のカードキーを捧げ出す。
それを見た瞬間、袁術の顔は瞬時に綻んだ。
「え? 私にこれを?」
「歯牙無い居候の身が持っていても役に立たないものです。これを代賞とし、是非貴方の厚恩に対する恩返しの機会を与えていただければ、それ以上のことはありません」
その、由緒ある品物を手渡された袁術は、もはやそれを手に入れた喜びで頭が一杯になりかけていた。辛うじて保っていた僅かな理性でも、長湖周辺地区の勢力を孫策が平らげきれないだろうという考えしか出てこなかった。
「仕方ないですわね〜…でしたら、部下として三十名、貴方に預けて差し上げますわ。それに今確か、蒼天学園水泳部長のポストが空いていた筈…蒼天会に掛け合って、そのポストに就けるよう、取り計らいますわ。そうすれば、討伐遠征主将としての名目も立ちますわね?」
「勿論です…破格の待遇、痛み入ります」
恭しく一礼する孫策、その顔には「してやったり」の表情が張り付いていた。

「はぁ!? あんたいったい、何考えてるのよっ!」
水泳部長の認定を表すバッジを階級章の脇につけた孫策を迎えた朱治の第一声が、それだった。
「随分な言われ様だなぁ…要らないものを要るものに変えてもらっただけだぜ、あたしは」
「だからって…だからって何も蒼天会のマスターキーを渡すことないじゃない!」
「だって此処にいる分にはまったく使い道なんてないし、思いうかばないし」
孫策の言うことも、あんまりといえばあんまりな言葉である。
蒼天会のマスターキーといえば、東西南北へ広大に広がる蒼天学園都市の、いわば最大権力者の証。確かに司隷特別校区から遠く離れた一校区支配者にとっては、その実際の大きさからは想像もできないほど重い。ましてやそんな一校区の支配者の下に飼われているような身分であればなおさらだ。
そう言う意味で言えば、孫策の言い分も理解できないこともない。もっとも、孫策自身はカードキー一枚“ごとき”にどうしてそんなに大騒ぎしなければならないのかあまり解っていないようだったが。
この思い切りの良さだとか、物怖じしないようなところは彼女の長所でもあることは朱治も解っている。それでも、使い方次第では“天下取りの特急券”にもなるマスターキーをこんなにあっさり手放してしまったことを惜しくも思っていた。孫策の天運、天賦を考えればなおさらのこと…朱治は心底残念そうに項垂れた。
「それにしたって…くれてやる相手が違うよ。あいつがそんなの持ったら何仕出かすか…」
だが、孫策は真顔で言った。
「あたしが欲しいのはあんなちっぽけなものじゃない…この学園の覇権、そのものだ」
「伯符…あんた」
「抜け殻になった権力の象徴なんて要らないんだ…そんなの、欲しいヤツにくれてやればいい。今の公路お嬢様にこそ、お似合いだよ」
手摺りにもたれ、掻き揚げた前髪をそっと風が薙いでいく。
「あたしは手始めに、この地に覇を唱えてみせる。姉貴がやれなかったことを、あたしは存分にやってみたい」
「…伯符」
「それにさ」
振り向いた孫策が、不意にいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「本当に必要になれば、きっとまた戻ってくるんじゃないかな、ああいうのってさ?」
その笑顔が妙に眩しかったのは、照り返した太陽の光のせいじゃないように、朱治は思った。
その笑顔につられるように、彼女も微笑んだ。
「そうだね…あんたなら、またきっと手に入れちゃうかもね、あれくらい」
「そう言うこった」
朱治も孫策に倣って、手摺りにもたれて吹く風に身を任せてみた。
心地よい風。
「一応な、散り散りになってた連中とかにも声掛けたよ。子衡や伯海も来るし、徳謀さん達とは途中合流だ」
「そっか…じゃあまた、賑やかになるね」
「ああ、そうだな」
こんな風に、これから隣の少女が巻き起こす“風”に身を任せてみたら、きっともっと凄いだろう。
「さ、そろそろ出かけようぜ…あたし達の、天下を獲りに!」
「ええ!」
互いの拳を突き合わせた少女ふたり。
その眼下には、いくつもの水路が蒼く彩る揚州学区と、広大な長湖が広がっていた。

635 名前:海月 亮:2005/05/24(火) 22:48
うおー、二ヶ月ぶりになんか書いてみたー(゚∀゚)

てなわけで、海月です。
同じシーンでは居たはずの呂範がいなかったりとか、
話的には相方はむしろ周瑜のほうがしっくり来るんじゃないかとか、
袁術のキャラがえらく薄味な感じがするだとか…

久しぶりにやった割にはあまり覇気が感じられない作品だな_| ̄|○


>国重さま
お初にお目にかかります…(<今ごろかよ!)海月というケチなモノ書きもどきでございます。
いや、もうなんと申しましょうか、曹操の行動がナイスですね(´ー`)b
てか関さんもツッコミなしですか。さらしと流して飲み干しちゃうとこが更にいいです…すいません、真面目な話なのにヘンなトコばかり見てしまって(つД`)

636 名前:北畠蒼陽:2005/06/05(日) 22:03
飢狼の血族

「あんた、呂布に私と戦うな、っていったらしいね?」
烈女と呼ばれ、学園にその名をとどろかせた少女が両の指をぽきぽきと鳴らしながら横を静かに歩くその少女に語りかけた。
真っ暗で人気のない廊下。
月明かりが窓から差し込んでくる。
「ねぇ……」
少女……姉が無実の罪で陥れられたとき自分のチーム、たった十数人を率いて倍以上の数の護送者に囲まれた姉を助け、張角の乱では陶謙に従いそれを打ち破った武勇の人。のちに琅邪棟長の蕭建が呂布の脅迫を受け、その圧力に屈したとき、それに反発し蕭建をトばした硬骨の人。またそのまま蕭建の守っていた校舎に立て籠もり呂布の猛攻を守りきった知略の人……数々の賛美で彩られながら面白くなさそうな目で月の明かりを睨みつける少女、臧覇は感情を浮かべないまま自分の横でぴったりと歩む少女を見る。

臧覇は呂布と敵対し、しかしまた和睦した。
今、この下ヒ棟まで出向きこれからの方策について話し合ってきたところだ、が……

臧覇は人知れずため息をついた。
自分の横にいる少女はこの世の中になにも冗談がない、というような眼をして前だけを見ている。
呂布が今、ここでこの少女に臧覇をトばせ、と命令すれば少女は一瞬すら迷わずにそれを実行するだろう。
それでなくても少女のその鍛え上げられた体は歴戦の臧覇すら引くものであった。

つまり、これは……呂布はまだ自分を信用してない、ってことか。
私をこうして威圧して屈服できないようにするつもりか。
2回目のため息。
信用しないのなら盟約など結ばなければいい。盟約を結んだからには骨まで信用してほしいものだ。
臧覇は心のうちで自分の理論を展開し、憤慨する。

「……多方面に敵を抱えた状態で呂布さんにあなただけを見ることは危険だ、と思っただけです」

「?」
臧覇はきょとんとした顔でどこからか聞こえてきた声の主を探した。
廊下には自分たち2人以外誰もいない。
ということは……
「今、しゃべったの……もしかしてあんた?」
大柄な少女、高順はさっきまで無表情だった顔を少し照れたように歪ませながら一度だけ頷いた。

637 名前:北畠蒼陽:2005/06/05(日) 22:03
「私だけを見ること、って……」
なにを言っているのか、と笑い飛ばそうとして臧覇はふ、と気づく。
「もしかしてさっきの言葉って……私の『呂布に私と戦うな、っていったらしいね』って言葉の返答?」
無愛想に頷く高順。
臧覇は一瞬、唖然とする。
こんなに時間をかけて、そんなことを答えなくても、と思った。

よく見ると高順の頬はすこし赤く染まっているようだ。
『言わなければよかった』と後悔しているさまがありありと見て取れる。
それを見て……
「……ぷ」
笑いがこみ上げてきた。
「く、くく……」
そうか。
私も不器用な人間だった。
姉を救う方法がわからなくて殴り込んだ。
今、思えば中央に正式な抗議文書のひとつでも出せばよかったのかもしれない。
私も、不器用な、人間だったんだ。
だからこそこの高順の感情の表し方が……
「あっはっはっは!」
すごく好ましいものとして臧覇の目に映った。
「わ、笑わないでください」
憮然として高順が遠慮なしに大声で笑う臧覇に抗議する。
「だ、だって……ぷ……あーっはっははははは!」
腹を抱えて笑う臧覇にいつしか高順も笑顔を浮かべていた。

そうだ。
わかりあうのは夕日の河原で殴りあい、だけとは限らないじゃないか。
臧覇は苦笑にも似た笑みを浮かべる高順を見ながら大声で笑い続けた。

「見送りはここまででいい」
「はい」
ひとしきり大声を出した後、臧覇と高順は校門まで来ていた。
臧覇はバイクにまたがり高順を見る。
あれだけとっつきにくさを感じた顔が今では好ましいものとして映っていた。
「狼の血族はどんなに飢えても同族を裏切ることはない。私はお前を裏切らない……そう呂布に伝えてほしい」
そう……
呂布も私も……そして高順も、みな飢えた狼だ。
この世のなにもかもを噛み切ってやればいい!
「承りました」
頭を下げる高順に笑みを残し、臧覇は風になった。

638 名前:北畠蒼陽:2005/06/05(日) 22:11
文章家なら文で語れ!
語ると思う。
語るんじゃないかな。
ま、ちょっとは語っておけ?

とりあえず雑号将軍様は高順がお好きとのことで復帰1発目は高順&臧覇になりました!
まぁ、臧覇は1回書いてみたかったので書きながら楽しかったのですが……
しばらく書いてないと腕落ちるなぁ……
常になにかを書いて生きていきたい……

>国重高暁様
いやぁ〜……これがもともとの常連の人のお力ですよ……
華雄いい! とりあえず華雄ステキですよー!

>海月 亮様
ところでまったく関係ない話ですが海月様のHPのbbsで三国志大戦のことが書いてありましたがもしかしてやっておられる?
三国志大戦における朱治は弱すぎて……つ、使えなくて……(ノ_・。
それはさておきGJ! なのですよー!

639 名前:海月 亮:2005/06/06(月) 00:44
>三国志対戦
ええ。でも正確に言えば「やっとりました」なのですがw
朱治に限らず呉将はどいつもこいつも呂蒙が居ないと(ry

まぁ、こっちでは三国志対戦を置いてあるゲーセンがないみたいなので…。
…音ゲーは充実してるのになんでなんだろうな…。

>高順と臧覇
というか高順。「倚天の剣」でもあんまり喋らないって話は出てましたが…。
てか声を意外がられて照れるってシチュは高順ならでは、といったら言い過ぎなんですかね?
臧覇もカッコいいですね〜。学三の不良三巨頭(=臧覇、曹仁、甘寧/勝手に命名w)の一角としてもっと活躍の場を見せてほしいトコですね。
何はともあれ、復活作、お見事です。

640 名前:北畠蒼陽:2005/06/06(月) 01:38
>私をこうして威圧して屈服できないようにするつもりか
うああわ。屈服できないようにしてどうしますか、臧覇サン!

○屈服させるつもりか
×屈服できないようにするつもりか

これで脳内補完よろしくお願いいたしますorz

641 名前:北畠蒼陽:2005/06/09(木) 22:43
ハッピーハッピーバースデイ

「ぶ〜んわ♪」
聞きなれた声が私を呼ぶ。
今となっては私のことをこう呼ぶ人など1人しかいない。
王佐の叔母と姪も純粋軍師もすでにリタイアしている。もっとも彼女らが私に親しみを感じているなど冗談にしてもそう出来のいいものではないが。
あの無愛想な大女はまだリタイアしていなかったが私に対して感情は上記3人と似たようなものだろう。
つまり、この声は……
「なんでしょうか、魏の君閣下」
私が振り返ると敬愛する上司は子供のように歯を見せて笑った。

賈ク……
この私の名前がかつての閣下にとって絶対の悪魔、と同義語であったであろうことは想像に難くない。
私にとっても閣下の……曹操の名前はかつての上司、張繍さんと一緒に学園を支配するために絶対に打ち倒さなければならない名前だった。
今、こうして一緒にいることが不思議な経歴ではあるがそれこそ敵対したからこそわかる親近感、というものなのだろう。

「ねぇ、賈クってコンピュータ好きだったよね?」
唐突に曹操閣下が私に言った。
当然である。自慢ではないが私はこの学園でナンバー1のハッカーである。そして私は嫌いなものを続けられるほど人間が出来ているわけではない。
「よかった、それじゃあ……」
曹操閣下はいたずらっぽく笑い……
「誕生日おめでとう!」
私に箱を突き出した。

不覚だった。
私は子供のころから……親にすら誕生日、というものを祝ってもらったことがなかった。
はじめて私の誕生日を心から祝ってくれたのは張繍さん……
あとはもうゴミのような連中だ。
だからこの曹操閣下の不意打ちは……
胸の奥が暖かいもので溢れるほどの不覚だった。
私は頬に涙が流れるのを感じた。
「なにぃー? 文和、泣いてるのぉ?」
曹操閣下がにやにやと私の顔を覗き込む。
「ち、違います! これは閣下の心理を虜にするための策略です」
あわてて涙をぬぐいながら我ながら取り乱した弁解をする。
「ね、ね。開けてみて」
曹操閣下が期待のこもった眼差しで私を見る。
私は若干の照れを感じながら箱を受け取り……

http://www.thinkgeek.com/stuff/41/fundue.shtml target=_blank>http://www.thinkgeek.com/stuff/41/fundue.shtml

目が点になった。
箱の中のシロモノをじっと見て、もう一度、曹操閣下を見る。
100%の好意が目に溢れている。
……好意なのか、これ?
「あー、賈クが喜んでくれてよかった!」
喜んでるように見えるのか、おい。
しかし相手が好意でやってくれている以上、うん、なんというか……うん。やりづらいことこの上ない。
「あ、っと。そろそろこっちも仕事あるから行くねー」
私を残して曹操閣下が走っていく。
私に箱を持たせたまま曹操閣下が遠ざかっていく。

……これ、使わなきゃだめなんだろうか?

642 名前:北畠蒼陽:2005/06/09(木) 22:46
もうじき賈クタンの誕生日ですよ!
ってわけでどっちかといえば反則ぎりぎり一歩向こう側なネタ投下でございました。

>補足
USBフォンデュセットは今年のエイプリルフールのネタなので実在しません。
あったらほしいし!(笑

643 名前:雑号将軍:2005/06/10(金) 22:50
ほんとに遅くなって申し訳ありません!実はクラブの原稿の制作に追われてこの一週間ネットを開けなかったのです!と、そんなこと言っても言い訳にしかなりませんけど・・・・・・。
今日やっと皆様の作品を読むことができました。

>国重高暁様
はじめまして。最近書き込ませていただいた文字通り新参者の雑号将軍です。
それにしても国重高暁様の作品すばらしいです!僕には真似できませんね。有名なシ水関をここまで再現できるとは!
三国志の知識が豊富だからなせる技だと思いましたっ!見習いたいです。
ふと思ったのですが、曹操と袁紹って同級生だったのですか?曹操の方が一学年低かったような気がするのですが。

>海月 亮様
お見事です!孫策の袁術から羽ばたいていく瞬間と言えばいいのでしょうか?とにかく孫策の意気込みが伝わってくるような作品でした。
>話的には相方はむしろ周瑜のほうがしっくり来るんじゃないかとか
そういえばこのとき周瑜でてこないんですよね。このとき周瑜はどこにいたんでしょうか?勉強し直してきまーす。

>北畠蒼陽様
一週間の間に二作品も!すごいです・・・。僕は昨日やっとクラブ用の原稿が書き終わって、ここに投稿させて頂くための作品の制作に取りかかったとこだというのに。
>飢狼の血族
臧覇が呂布と盟約を結ぶ所ですか。よく知らないお話だったので、とても勉強になりました。臧覇の悟りが印象的でした。
>雑号将軍様は高順がお好きとのことで復帰1発目は高順&臧覇になりました!
北畠蒼陽様、ホントにありがとうござりまする。僕は正史の高順伝?を読んでからというもの、高順の大ファンになっています。
>ハッピーハッピーバースデイ
賈クの意外な一面がみられたような気がしました。賈クにもちゃんと感情はあったんですねっ!

新参者がながながと失礼いたしました。

644 名前:北畠蒼陽:2005/06/10(金) 23:44
>雑号将軍様
書かないペンは錆び付く一方なので1週間に最低1度は集中してものを書くようにしてるのですよ(笑
まぁ、集中してこの程度かよ! というのはあまり深くツッコまない話。

>周瑜はどこに
あの人は今? のノリですな!(違
正史周瑜伝にジョにずっといたんだけどおじさんが丹陽太守になったんでご機嫌伺いに出かけたらそんときに孫策が軍をあげてたらしいよ? みたいな記述があるんでそのころはまだ無名の人、ですね。

>臧覇
一時期、ただの武将ではなく群雄の1人でしたから、この人。
呂布亡き後は曹操に仕えてますね。
この人は爆笑三国志の『三国志より水滸伝に出てきたほうがしっくりするような経歴』という書かれ方が印象に残ってますね〜。

645 名前:雑号将軍:2005/06/11(土) 11:24
>書かないペンは錆び付く一方なので
それわかります。僕も一ヶ月ぶりにクラブ作品(続き物)を書いてみると、これがまあ散々なできで・・・・・・。
それで、一週間の間、必死になって書き直してのです。

>正史周瑜伝にジョにずっといたんだけどおじさんが丹陽太守になったんでご機嫌伺いに出かけたらそんときに孫策が軍をあげてたらしいよ? みたいな記述があるんでそのころはまだ無名の人、ですね。
そ、そうだったのですか!全然知りませんでした。まだ正史「三国志」は高順伝?と張嶷伝ぐらいしかまともに読んでないありさまで。教えてくれたありがとうござりまする。

>『三国志より水滸伝に出てきたほうがしっくりするような経歴』
そ、それはまあ。なんともな。きっとかなりのアウトローぶりだったんでしょうな〜

646 名前:海月 亮:2005/06/12(日) 13:54
>USBフォンデュ
そ…そんなネタがあったなんて…
しかしまた最近になってエイプリルフールって言われるようになりましたね。一時忘れ去られたような気さえしますが…。

ついでに言えば賈(言羽)の話、見たらまた「蒼天航路」16巻の烏巣攻めのシーンを読み返しちゃいました。いいわぁ。

>キャラクターの年齢
実は書く人によって解釈それぞれだそうです。おいらなんぞは、書いたSSの張昭が年表設定より一歳年上だったりしたし…。

>周瑜の事跡
補足(蛇足?)になりますが、周瑜伝ではこのようになっておるようです。
故郷の舒県から叔父の居る丹陽へ→そのとき孫策に手紙を貰って合流→横江、当利、秣陵攻撃に参加→劉ヨウ撃破後に丹陽へ一時帰還→袁術に招かれて寿春へ→外地勤務を願い出て居巣へ→呉へ帰還(一九八年/周瑜二十四歳)
参考までに。

>書かないペンは…
引越しのごだごだでしまいこんでいたインクが固まった私…。
ちょっとシャレになりませんね。気持ちの上だけじゃなくて、道具にさえ見放された私って…_| ̄|○

647 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 14:34
>キャラクターの年齢
ああ!なるほど。そうなんですか。そうとは知らず・・・国重高暁様疑ってしまい本当にごめんなさい・・・・・・。

>周瑜の事跡
おお!流石は呉を愛される海月 亮様ですな。
みなさん三国志に詳しくて勉強になってますっ!

あと、ここに書くべきじゃないのかもしれないのですが、まだ初来訪者様歓迎スレッドの僕の書き込みについてのぐっこ様の返事が来ていません。その状態で投稿はしてもいいのでしょうか?どなたか教えてください。
と、言ってみたものの、まだ作品は完成してないんですけど・・・・・・。

648 名前:★惟新:2005/06/12(日) 17:31
や、ぐっこ様は多忙につきお返事できずに
いらっしゃいますが、お気になさらずどうぞ♪

はじめまして雑号将軍様! 
私もご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません…orz
よろしくお願いいたします〜!

649 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 22:35
これはこれは惟新様。お返事&回答ありがとうございます。新参者のくせにやたらめったら書き込んでいる雑号将軍です。
惟新様のサイトにも行かせて頂きました。僕も一度、川中島合戦絵巻に出場したいものです。

>ぐっこ様は多忙につきお返事できずに
いらっしゃいますが、お気になさらずどうぞ♪
そ、そうですか。そうおっしゃって頂けるのなら、作品が完成次第投稿させて頂きます!
そのときはだめ出しをして頂ければ幸いです。

>私もご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません…orz
よろしくお願いいたします〜!
なんのなんの。お気になさらずに〜。こちらこそ大して役にも立ちませんが、よろしくお願いします!

650 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 22:39
こちらこそはじめまして。新参者のくせにやたらめったら書き込んでいる雑号将軍です。
惟新様のサイトへも行かせて頂きました。僕も一度川中島合戦絵巻に出場したいものです。

>や、ぐっこ様は多忙につきお返事できずにいらっしゃいますが、お気になさらずどうぞ♪
そ、そうですか。そう言ってくださるなら、作品が完成次第、投稿させて頂きます!
そのときはだめ出しをして頂ければ幸いです。

>私もご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません…orzよろしくお願いいたします〜!
なんのなんの。お気になさらずに!
こちらこそ大して役にも立たないと思いますがよろしくお願いします。

651 名前:雑号将軍:2005/06/12(日) 22:41
すみません。僕の不注意で同じ書き込みをしてしまいました。本当にごめんなさい・・・・・・。
できるなら削除をお願いします。

652 名前:★惟新:2005/06/13(月) 00:57
や、それは惟新違いの別の方でいらっしゃいます(^_^;)
私もあの方みたいにああいったのに出場してみたいなあ、とか思っていますが…
比較的近い、壇ノ浦の武者行列にはついぞ参加できませんでした(つД`)
でもあちらをご覧になられたということは、島津家についてもアレコレお読み頂けたのですかにゃ( ̄ー ̄)

さておき! 作品、楽しみにさせていただきます!(*´Д`)ハァハァ

653 名前:雑号将軍:2005/06/13(月) 22:01
遅くなってしまいました。

>や、それは惟新違いの別の方でいらっしゃいます(^_^;)
なっ!なんとっ!人違いとは!申し訳ありません・・・・・・。

>でもあちらをご覧になられたということは、島津家についてもアレコレお読み頂けたのですかにゃ( ̄ー ̄)
もちろん、読ませて頂きましたよ〜!なんというか、僕は日本の戦国時代は常人程度の知識しかないので、かなり勉強になりました。
高校の日本史のテストはもらいましたよ!?

>作品、楽しみにさせていただきます!
ようやく完成にこぎつけられたので、推敲した後に投稿したいと思います。

654 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:56
「全員、まだよー」
少女が微笑みすら口元に浮かべながら目の前の敵を睥睨する。
彼女の前には1000人にも届こうかという敵の一団が、そう、彼女に向かって突進してくる。
その迫力たるや無様に泣き叫んで許しを乞うても誰からも批判されることはないだろう。
それが戦場のプレッシャーというものである。
だが彼女は微笑み……
「はい、よく我慢したね。んじゃ撃とうか」
軽い調子でタクトを振るかのように自分の後方に控えていた少女たちに指揮を飛ばす。
我慢に我慢を重ねた少女たちは手にしたエアガンを一斉に放つ。
策もなにもなく、ただ1人の少女だけを目標に突撃を敢行していた一団はそれだけでパニックに陥り……
「た、退却だー」
やがてその声に従うように隊列を崩したまま撤退していく。
「追撃しますか?」
「んー、こっちも陣形を整えるのに時間かかるでしょ。今は撤退させてやろっか」
部下の言葉に気楽に言い放ち、そしてふと気づいたようにわざとらしく額の汗をぬぐうふりをした。
「あー、緊張した」
少女……王昶はににっと笑いながら言った。


策を投じる者〜王昶の場合〜


長湖部は揺れていた。
絶対的なカリスマである部長、孫権もその長きに渡る統治により水を淀ませている。
のちに二宮の変と呼ばれる事件により陸遜という稀代の名主将は放逐され、また部長、孫権ももはやすでに引退時期を考えている、という風のうわさすら流れていた。
そんな時期、荊・予校区兵団長の王昶が生徒会に1つの提案をした。
「孫権って最近、能力持ってる人間を次々トばしちゃって、しかも後継者争いなんかさせちゃってる状況みたいなんですよー。今のうちに長湖部を攻めたらいけるとこまではいけると思うんですよね。白帝、夷陵の一帯とか黔、巫、シ帰、房陵のあたりなんて全部、長湖のこっち側ですからね。あと男子校との境目だから混乱も起こしやすいし。今が攻め時、お得ですよ!」
生徒会はその進言を受け入れ、荊州校区総代の王基を夷陵へ。荊・予校区兵団長の王昶を江陵へ進撃させた。

荊州校区に熱風が吹き荒れる。

「しまったなぁ」
王昶は頭をかきながらぼやいていた。
眉間にはしわ、しかも相当深い。
「大失敗だぁ」
誰にともなく呟き、ため息をつきながらがっくりとうなだれた。
彼女の眼前には江陵棟の威容がそびえていた。

王昶は緒戦で長湖部の施績を完膚なきまでに打ち破った。
施績はそれにより江陵棟まで撤退せざるを得なくなった、それはそれで完全勝利といえる。
精神的優位に立った王昶はそのままの勢いで攻め続ける……そのつもりだった。
「まさか校舎に閉じこもったまま出てこないとわ……」
本日何度目かのため息。
王昶は撤退した敵はそのままある程度持ち直したら逆襲してくると考えていた。
そのまま校舎に閉じこもるなど思いもよらなかった。

だがそれはそれで正しいといえる。
一般的に篭城を打ち破ろうと思えば10倍の兵力が必要といわれる。
しかもそれで勝ったとしても多大な犠牲込みである。
兵力に劣り、さらに策謀に劣ったとしてもこうしてひたすら閉じこもり援軍を待たれれば疲弊するのは王昶の側である。
当然、王昶としても疲弊を望んでいるわけではない。
だからこそ……
「しまったなぁ……多少、強引でも追撃して校舎に立て篭もらせないようにすべきだったか」
……なのであった。

655 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:56
「ん〜」
少しだけ考えて……
「よし!」
王昶はパシンと両の頬を自分で叩き気合を入れる。
このあたりの切り替えの速さは名将の素質といえるだろう。
そのままアウトドア用の折りたたみいすに前後逆に座り両の頬に手を当てたまま目をつぶって前後に動いた。
「お姉ちゃ〜ん」
不意に響くどピンクのその声に王昶はびっくりしてバランスを崩す。
そして受身も取らずにいすに座ったまま後ろに倒れ、後頭部を地面に打ち付けた。
結構いい音がした。
「……っ……っっ……!?」
後頭部を抑えてうずくまる。
これは痛いですよ、実際。
「ど、どしたの、お姉ちゃん。なにやってるの」
「な、なにやってるように見える?」
痛みがようやく引いたか、しかし涙目になって王昶は自分のことを『お姉ちゃん』と呼び心配そうに見下ろす少女……王昶の妹で名前を王渾、あだ名は玄沖という……を据わった目で見返した。
「えっと……遊んで、ないよね?」
「当たり前でしょ」
不機嫌に勢いをつけて上半身だけ起こしながら王昶は王渾を見た。
「玄沖、あんた、ここは公の場所であって私は主将、あんたはその部下なんだから『お姉ちゃん』はやめなさい。ほかのひとに示しがつかないでしょ」
「う、うん。ごめんなさい、お姉ちゃん、じゃない。主将」
王渾の受け答えに王昶は転んだせいではないたぐいの頭痛を覚えた。
「……で、なんだって?」
眉間を揉みほぐしながら王昶は王渾に尋ねる。
「うん〜。おね……主将がこれからどうするのかなぁ〜、って」
「どうするのか、って?」
王昶の反問に王渾は少し困ったような顔をした。
「う〜んと、ほら、校舎って攻めづらいから……う〜んと、なんで攻めづらいのかって説明しにくいけど……う〜。もしおね……主将が校舎をそのまま攻めるつもりなら止めなきゃって思ったの」
王渾のたどたどしい説明。
しかし悪くはない。
もしここで校舎攻め強行なんぞを提案してきたらはったおしているところだ。
「じゃ、具体的にはどうする?」
「え、う……え〜と」
そこまで考えていなかったらしい。王渾は目を白黒させた。
まぁ、いいか……
校舎攻めが下策ってことを看破しただけでここのところは及第点としておいてやろう。
「玄沖、見ておいで。『お姉ちゃん』が戦い方を教えてあげる」
地面から上半身を起こしたままの格好で王昶は不適に微笑んだ。

施績は江陵棟の執務室で落ち着き払いタンブラーに入ったブレンドコーヒーを飲んでいた。
戴烈と陸凱の救援隊が今、江陵に向かっていることは知っていたし、諸葛融にも援軍を要請していた。
敵がある程度の能力を持っているやつらなら援軍到着前に撤退するだろうし、もしなんの取り柄もない無能モノが敵の主将なら大きい勲功を上げることが出来る。
私の役目はそれまでずっと校舎に立て篭もっておくことだけだ……
施績は余裕の笑みでタンブラーを傾け……
「し〜せきちゃ〜ん、あ〜そ〜ぼ〜!」
……思わずタンブラーを手から滑らせた。
「な、なに!? なに、さっきの声は!?」
床で転がったタンブラーを踏みつけ、転びそうになりながらなんとかバランスを保つ。
「誰か状況を説明しなさい!」
取り乱した施績の言葉に部下の鍾離茂が駆け寄る。
「え、っと……説明するより窓の外をご自分で見ていただいたほうが……」
なにやら言いにくそうな鍾離茂にクエスチョンマークを頭に浮かべながら施績は窓の外を見る。

敵主将、王昶がたった1人で拡声器を持っていた。

656 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:57
「し〜せきちゃ〜ん、あっそびっましょ〜」
遊びましょ、って……
おびき寄せるにしてもあまりにも幼稚な方法に苦笑を禁じえない。
これは敵は無能だわ。援軍到着と同時に大勲功かなぁ……
ここで大出世しちゃうのは悪くないなぁ……
施績は頬の辺りが緩むのを感じた。
「もぉ〜、しせきちゃん、いけずだね〜。遊んでくれないんだったら帰っちゃうぞ〜」
帰るの?
だったらそれはそれで悪くはない。
敵壊滅には劣るけど江陵棟を守りきるだけでも十分な功績だ。
「それにしてもここらへん湖が近いからかな? 寒いね〜」
寒いか?
施績は校舎を守りきった人間の余裕で王昶を見る。
あいつはしょせん敗残者だ。
ここを守りきった私の足元にも及ばない。
「あ〜、鼻水出てきた……ハンカチハンカチ」
……いや、そんなことをいちいち拡声器を通していわなくても。
苦笑する。
「チーン」
鼻をかむ音がやけにリアルに響く。
施績は吹き出しそうになった。
「ん? なにこれ?」
王昶の不思議そうな声が拡声器を通してあたりに響く。
なにがなんだというのだ?
「ん? ……んー?」
ハンカチ、にしてはやけに大きい……
「あー」
ハンカチ、のようなものを広げた王昶が照れの混じった声を出す。
施績はすでにそんな声など聞いていなかった。

王昶が鼻をかむのに使ったのは長湖部のジャージだった。

施績の頭が真っ白になる。
泣き笑いのような表情のまま……
「鍾離茂、全軍特攻準備を」
「……はい、わかりました」
鍾離茂も真っ白な頭のままで無表情に言う。

あいつらは長湖部の魂を踏みにじった。
この罪はトんでも償えない。

王渾は手近な建物に身を潜めながら姉の言葉を聴いていた。
「おね……主将いじわるだよぉ」
敵ながら長湖部の連中がかわいそうになる。
敵が校舎から総攻撃をかけようと出てくるのが見えた。
「……ふぅ」
息をひとつ大きくつき心を落ち着かせる。
戦場が頭にリアルに思い浮かんだ。
「じゃ……とっつげき〜!」
王渾の指揮で伏兵が熱い奔流となり、指揮系統のない狂乱の群れの横っ腹に突き刺さった。

凱旋。
圧倒的勝利を収め帰途につきながら……
王昶は遠く長湖を眺めた。
あれだけ混乱した状態でありながら結局は湖を渡ることが出来なかった。
本格的に湖を渡るには……時間が必要か……
横で嬉しそうににこにこ笑う妹を見る。
「玄沖、長湖はお姉ちゃんの代じゃ渡れないかもしれない」
王渾は笑いを収めて敬愛する姉を見た。
「もちろん私だって出来る限りの手は打つつもり……でももしお姉ちゃんが長湖を渡れなかったら……玄沖が渡るんだよ」
一瞬、王渾は不思議そうな顔をし……
「うんっ!」
元気に頷いた。

657 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 17:58
雑号将軍様が投稿しようとかいってらっしゃる空気を読まずに『策を投じる者〜王昶の場合〜』です。
タイトルの前に1シーンあるのはちょっとアニメっぽく、って感じですかね。
というか3つに分けたのに3つ目だけ省略されてしまった……orz

嘉平2年(250年)のこの戦いは赤壁なんかと同じで魏と呉でまったく書かれ方が違うんですよねぇ。
魏書だと戴烈&陸凱とか出てこないし!(戴烈&陸凱の記述は呉主伝参照のこと)
呉側から見た場合は……海月様に書いていただくとしましょうか(笑

あ、ちなみに王渾ちゃんはのちに呉討伐戦で建業一番乗りを王濬ちゃんにとられちゃったのでダダをこねちゃうんです。
「私が〜! 私が建業一番乗りしなきゃいけないのに〜! 私が〜!」
机をバンバン叩きながら超涙目。かわいいデス。

次回は『策を投じる者〜王基の場合〜』です。
ホントは当時、同時行動した州泰の場合も書きたいんだけど〜……州泰はねぇ〜……
資料がなさすぎで……
とりあえず州泰が戦った相手やら、なんか情報お持ちの方がいたら教えてほしいのデスよorz

658 名前:海月 亮:2005/06/14(火) 22:25
>王昶
「どおきのきづな」でもいい味出してましたが…やってることがエグくていいですな。
史実では馬に奪い取った鎧と兜をつけた首を乗っけて城の周りを駆けさせたらしいですが…。

>呉側で…
王昶伝では挑発に乗って出た朱績(施績)の軍を散々に打ち破ったってありますが、朱績伝だと逆ですからね。
朱績は退却する王昶の軍を追撃したんだけど、諸葛融の軍が来なくて不利に陥ったって書いてあったし。

そういえばおいらは東興堤しか書いてないや。

>州泰
一応魏書昜伝におまけで州泰伝がありますぜ御大。
それによれば、裴潜がまず従事として召し出したのですが、孟達が反逆した時司馬懿の軍に従軍して、そのとき軍を先導してたんだそうです。
当時州泰は両親と祖父を立て続けに亡くして喪に服してたようですが、司馬懿は彼の喪が明けるのを待って新城太守に抜擢したんだとか。
司馬懿は宴会で鐘ヨウに州泰をからかうよう仕向けたんだけど、州泰は見事に言い返して見せて喝采を浴びたとか。
後にはエン州、豫州刺史を歴任して高い治績を上げたとあります。
字が伝わってないのは、彼が平民の出だったせいみたいですが。


おいらも一本書いてる途中だけど…小分けして出してもあれなんで自粛するかな。
交州でのある人のお話。多分に異論が出そうです(^_^A

659 名前:海月 亮:2005/06/14(火) 22:36
>州泰補足
結局州泰伝も、そのくらいしか書いてないわけでして。
州泰が出向いたところに誰がいたか、なんて話は呉書にも書いてなかったですし…。

660 名前:北畠蒼陽:2005/06/14(火) 22:45
>王昶
いっや、彼女、それくらいやるだろう、と(笑
エグいのダイスキデス!(笑
ま、実際、兵書を書いてる程度には軍事に精通してるみたいなんで曹操のすでにいないあの時代では屈指の指揮官だったと思うのですよ。

>州泰
おー、さっそくチェック!
……なるほど、確かに司馬懿に新城太守に任命されてますね。
ただ問題はこの250年の戦いでは州泰はすでに新城太守なんですよね(王昶伝参照)
この戦いのことが書いてある資料はないのかー! ないのかー!
とりあえず調べていただきありがとうデスよ。
まさか昜伝に書いてあるとは^^;

>交州
あのひとか!? それともあっちか!?
わくわくしながら待ってますデスよ♪

661 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 21:44
  ■影の剣客 その一

 この年の一〇月、この蒼天学園を根本から揺るがす大事件が起こった。
 なんと張角をはじめとする「オペラ同好会」の会員が蒼天学園東部で一斉に蜂起したのである。それはもはや革命だった。
参加者は「オペラ同好会」の会員にだけにとどまらず、一般生徒も加わり、その数は見当がつかないほどだ。
この集団は「黄巾党」と呼ばれた。それは指導者である張角がいつも黄色のスカーフを巻いていたのにあやかって、参加者全員がどこかに黄色のスカーフを巻いているからである。
そして、その黄巾党の大軍が蒼天学園の首都ともいえる洛陽棟まで迫ろうとしていた・・・・・・。

そしてそんなある日の早朝
「皇甫嵩。そなたに左軍主将の位を与える。この学園の平和を取り戻すのだ」
「はっ、我が身に変えましても」
 静まりかえった会場に、マイクを通した声が響き渡る。ここは司隷特別校区、洛陽棟の第一体育館。床には真っ赤なカーペットが敷き詰められ、その中央に大きな舞台が設けられている。
 その舞台に立つのは二人の少女。ひとりは無表情で渡された文章を棒読みしている少女。彼女はこの蒼天学園の象徴である蒼天会会長・霊サマ。そして、いま一人・・・・・・皇甫嵩と呼ばれた少女は屹立して、それを聞いていた。
 そして、少女はうやうやしく、任命書と金の勲章を受け取り、一礼した。
 同時に一般生徒は少女にわれんばかりの拍手を送る。
 この少女の名は皇甫嵩。親しい者は義真と呼ぶ。蒼天学園一の用兵巧者との誉れ高い人物である。今の蒼天学園を救うことができるとしたら、彼女、以外には考えられないだろう。
 しかし、与えられたのは「黄巾党」討伐の総司令ではない。彼女に与えられたのは一方面軍の指揮官という役職で、総司令となったのは、また別の人物であった。
 皇甫嵩は謀略だと気づき、自身の左前側に立っている、おかっぱ頭の女生徒を鋭い目つきで睨み付けていた。
 その鋭い眼光で睨み付けられている、少女はすくんだ身をなんとか動かし、皇甫嵩から目をそらすことに成功した。
 この皇甫嵩という少女は、このおかっぱ頭の少女たち、つまり蒼天会秘書室と正面から対立している。そのため、秘書室としては皇甫嵩の名声を高めるようなことは極力したくないのだ。
 自らの地位を守ることしかできない。そんな秘書室に皇甫嵩は憤りを感じていた。
 しばらくすると、皇甫嵩は憤りを押さえ込んで、一般生徒の方に振り返り、微笑を浮かべ右手を挙げてその拍手に答えようとした。
そのとき。まさにそのとき――
キャーという黄色い悲鳴が一斉に沸き起こったのである。なかには、涙を流している者さえいる。
皇甫嵩はこの歓声に顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
彼女のすらっとした長身から発せられる男口調は一部の腐女子から偏った影響を受けているため、今日みたいなことがあると、こういうことになる。
もちろん皇甫嵩にその気はないのだが・・・・・・。

 会場からでできた皇甫嵩を待っていたのは、最愛の友たちであった。
「義真、頑張ろうね!」
「ああ、もちろんだ!公偉」
 皇甫嵩が多少顔をほころばせ、赤髪の少女としっかりと握手を交わす。
 面倒な行事が終わりほっとしているのだろう。
彼女は朱儁。親しい者は公偉と呼ぶ。彼女もまた、黄巾討伐の一方面軍の指揮を任された逸材である。
 皇甫嵩は朱儁の横にいた、もう一人の少女を見た。
「義真・・・・・・」
 腰までありそうな緑色の長髪を赤いバレッタで結んだ少女が、力なく言う。その少女はただただ地面だけを見つめていた。
 彼女は盧植。親しい者は子幹と呼ぶ。彼女こそが今回の黄巾討伐軍の総司令であった。
「どうした、子幹。顔色が良くないぞ?」
 盧植を見た皇甫嵩があわてて言う。
それに盧植はうつむいたまま、呟くように答えた。
「・・・・・・私に司令官なんて、できるわけない・・・・・・。義真と公偉は別働隊で行っちゃうし、建ちゃん(丁原)は食中毒で倒れちゃうし・・・・・・。どうすればいいのかわからないの・・・・・・」
「そんな顔をしていてどうするんだ。それじゃあ、指揮に関わるぞ」
「・・・でも・・・・・・」
皇甫嵩の励ましはなんの効果もなかった。盧植はがっくりと肩を落とし、その声は今にも消えそうだった。
「子幹・・・・・・不安なのはわかる。私だって今回の作戦が成功するか不安だ。だがそんなことは言ってられない。ここで逃げたら、いったい誰がこの学園を守るんだ?だからお願いだ、子幹。今はその不安を押し隠してでもいい。総司令として、頑張ってはもらえないか?」
 皇甫嵩は子どもをあやすように優しく語りかけた。
 盧植は顔を上げて、皇甫嵩を見つめた。距離にして30センチ強。その潤んで光る盧植の両目を皇甫嵩はしっかりと見つめ返した。
 そして、盧植が恐る恐る、口を開いた。
「・・・・・・ええ、そうね。私は総司令。弱音なんか吐いちゃいけないのよ・・・・・・。わかってる、わかってるの・・・・・・だけどっ!」
 ついに堪えきれなくなった盧植の身体は地面から離れ、そして皇甫嵩にもたれかかってきた。
「おっ、おい!子幹!」
 なんとか盧植を受け止めた皇甫嵩だったが抱きしめる形になり、あたふたしている。
 皇甫嵩の狼狽ようは尋常でなく、眼をキョロキョロさせ、顔を真っ赤にして盧植から視線をそらす。
もちろん確信犯の盧植は離れる様子など無い。
「ごめんなさい・・・・・・。義真。帰ってくるまではもう絶対、弱音なんか吐かない・・・・・・だから、今だけ、泣いてもいいよね・・・・・・?」
 盧植の嗚咽が自分の顔のすぐ側から聞こえることに皇甫嵩はますます困惑して、顔をしかめた。
しかし、皇甫嵩にはどうすることもできなかった。
「あ、ああ・・・・・・」
 皇甫嵩はそれだけ言うと、盧植の長い髪をゆっくりと撫でてあげた。
 盧植はただただ泣きじゃくっていた。
 このとき、カメラのシャッターを切る音がしたのには、だれも気づいてはいなかった。
「・・・・・・義真に子幹。わ、私、兵の訓練をしなきゃいけないから、さ、先に行くね!そ、それじゃっ!」
 居たたまれなくなった朱儁はそれだけ言うと、その場から逃げ出すように、猛スピードで走っていった。

 それから、数分後。
「ありがとう。義真。おかげで楽になったわ。ごめんね。変なことしちゃって・・・・・・」
 顔と眼を真っ赤にした盧植がそう言った。皇甫嵩は咎める様子もなく、ポケットから何かを取り出した。
「私からの総司令就任祝いだ。・・・・・・その、なんだ、一緒に戦場に行ってやれないせめてもの償いというやつだ。それなら、寂しくはないだろ?」
 皇甫嵩は自分の言葉に恥ずかしさを感じ、口元を手で覆うようにして、照れ隠しした。
そして盧植の後ろに回り込むと、持っていたあるものを盧植の首からかけてあげた。
それは細い銀色のチェーンに繋がったロザリオだった。
「これ・・・。ありがとう、義真。これなら私、頑張れそう!・・・・・・でも、義真、知ってたの?自分が総司令になれないこと・・・・・・」
 盧植は目を光らせ、大事そうにロザリオを両手で包み込んでいる。
「ふっ、薄々とはな。今の蒼天学園は秘書室が支配しているようなものだ。
そんな世界で、秘書室と仲の悪い私が総司令に慣れるはずもないだろう」
 皇甫嵩は苦笑しながら言う。
その眼は雲一つ無い青空を見つめていた。
「そうね。変わってしまったのね。なにもかも。・・・・・・義真、私もそろそろ行くわ。このロザリオ大事にするからね。今日はありがとう。おかげで楽になったわ。公偉(こうい)によろしく」
「元気になったならよかった。さっきも言ったが、子幹ならできる。頑張れよ。子幹。絶対に飛ばされるなよ」
「義真も・・・・・・」
 二人はそう言うと、皇甫嵩は東側に、盧植は西側へと歩いていった・・・・・・。

662 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 21:50
  ■影の剣客 その二

 グランドの前にある何かのクラブの部室で待っていた朱儁はニタニタしながら、現れた皇甫嵩に話しかけた。
「あっ、もう、子幹との愛の誓いは済んだの?」
「なっ!何を言う。そんな誓いなどしていないっ!断じてない!そんなことよりも、黄巾党の動きはどうなんだ?」
 戦況不利と判断した皇甫嵩が無理矢理話題を変える。朱儁もしぶしぶ、それを聞き入れると、話し始めた。
「今、あたしたちが倒さなきゃいけない敵は豫州学院校区にいる。その数は報告によると三〇〇人。義真とあたしの兵がそれぞれ四00ずつ。それからたった今、秘書室から作戦が通達されたのよ。これよ」
 皇甫嵩は「秘書室」という言葉に顔をしかめて不快感をあらわにした。
そして、朱儁からその命令及び黄巾賊の情報がまとめられた書類を受け取ると、皇甫嵩は近くにあったパイプ椅子に腰掛けた。
皇甫嵩は一通り目を通すなり低い声で言った。
「『敵は少数。そのため朱儁隊を先鋒とし、敵を壊滅させ、皇甫嵩隊は洛陽棟で命令あるまで待機』か・・・・・・。公偉。どうやら私たちの敵はどうやら黄巾の連中だけではないらしいな」
「あたし、一つのことしかできないからさ。今は豫州にいる、あいつらをどうにかしなくちゃいけない。それだけよ」
「前だけを見つめている公偉らしい意見だな。そういう公偉は好きだ」
 皇甫嵩は少し恥ずかしげにそう言うと、足を組み、椅子にもたれかかった。
「ありがと!・・・それで作戦だけど、命令に逆らうわけにはいかないから、あたしが先鋒隊として四〇〇人を引き連れて出るよ。義真は許可が出たら来てくれればいいよ」
 皇甫嵩は迷った。報告通り黄巾党の数が三〇〇人ならいいのだが、もし増えていたとしたら・・・・・・。だからといって、今出陣しなければ黄巾党の思うようにされてしまう。
「・・・・・・わかった。公偉、頼むぞ!私も許可がおり次第、直ちに援軍に向かう。それまで持ちこたえてくれればいい」
 ここまできたら、これは賭だった。味方の報告を信じるしかなかった。
「まかせといてよ!黄巾賊なんかあたし一人でなんとかしてみせるよっ!」
 そんな皇甫嵩の悩みに気づく様子もなく、朱儁は親指を上げてそれに答える。
 そして、朱儁は愛用の深紅のリボンを結ぶと、部室から出て行った。
(頼むぞ、公偉。絶対に飛ばされるな)
 皇甫嵩はそう願うよりほかになかった・・・・・・。

  それから約一時間後・・・・・・
「なっ、なんだと!公偉が敗れと!?」
 部室で事務処理をしていた皇甫嵩に届いたのは突然の悲報であった。
「そ、それで、公偉・・・いや右軍主将はどうなったのだ?それ以前に敵はどうやって我が軍を打ち破ったのだ?」
 皇甫嵩がいつになく動揺した様子で、報告に来た伝令に詰め寄る。
 伝令は一歩後ずさりすると、息も絶え絶えに話し出した。
「敵はあらゆる所に兵を隠していたようで、我が軍勢は広場に差し掛かった所を賊軍に包囲され、朱儁主将はなんとか敵の包囲を脱しましたが兵の半数が飛ばされました。賊軍の将は波才。その数は一〇〇〇人に上るとのこと」
 皇甫嵩は天を仰いだ。怖れていた事態が起こった。
しかし、皇甫嵩は怖れてなどいられなかった。
(十年来の友を助けねばならぬ!)
 皇甫嵩は即座に決断した。
「悪いがもうひと働きしてもらいたい。これからこの場所に行って、そこにいるメンバーを一人残らず連れてきて欲しいのだ。私が呼んでいると言えば、納得してくれるはずだ。頼めるか?」
 伝令が頷くと皇甫嵩は地図を手渡した。地図を受け取った伝令は、皇甫嵩に一礼する。そして、振り返って走り出そうとしたとき、それを皇甫嵩が呼び止めた。
「腕から血が出ているぞ。ちょっと待っていろ・・・・・・」
 皇甫嵩はそう言うと、ポケットから消毒液を取りだし、傷口を洗うと、今度はまた別のポケットから大きめのばんそうこうを取りだし、その伝令に張ってあげた。
「これでよし・・・・・・と。悪いな、怪我しているというのに」
 皇甫嵩は若干視線を下げるとそう言った。
 伝令はぶんぶんと顔を横に振ると、一目散に地図に書かれた方へと駆けていった・・・・・・。
 
 一〇分としないうちに、四〇〇人の女子生徒がグランドに集まった。
「これから、我らは豫州学院校区にはびこる黄巾賊を討ちに行く!しかし、我らの出陣は生徒会からは認められてはいない。これは私の独断である。故にこの出撃に異議のある者は待機していてくれればいい。もし私を信じて着いてきてくれるならば私と共にこれより出陣して欲しい!」
 皇甫嵩が彼らの正面に立ち演説する。
彼女から滲み出る風格、威厳は蒼天学園に籍を置くいかなる者も上回ることはできないだろう。
しかしながら、そんな皇甫嵩といえども、軍律違反はとなればその罪を免れることはできない。
それでも皇甫嵩はやめようとはしない。学園を護るためには自分の階級章など惜しくはないということだろう。
この皇甫嵩の決死の覚悟は四〇〇人の生徒の心を大きく震わせた。
四〇〇人の生徒は歓声を上げると共に、一斉に竹刀を天に向けて突き上げたのだ。そして一人の女生徒が一直線に皇甫嵩を見つめ、問いかける。
もうこれは睨んでいるといった方が正しいのだろう。
「義真!なに三年間も一緒に剣道やって来て、水くさいこといってんの!私たちはみんな義真のことを友だちだと思ってるのよっ!義真は私たちを友だちとは思ってくれないの?」
その声には怒気が込められていた。
 皇甫嵩はしばらく黙り込んだまま何も言わない。悩んでいるのだろう。
(友だちだと思っていないはずなどあるか。友だちだからこそ、こんないらない罪を着せるのは嫌なんだ。私はどうすれば・・・どうすればいい?)
 耐えきれなくなったさっきの少女が皇甫嵩の胸ぐらにつかみかかる。
「なに迷ってるの!そんな暇があれば早く命令出しなさいよ!私たち義真のためだったら階級章なんか捨ててやるよっ!」
 女生徒は皇甫嵩を見上げ、睨み付ける。
 二人の睨み合いがしばらく続いたが、ついに皇甫嵩が声を上げて笑った。
「はっはっはっは!お前たちも馬鹿な奴だ・・・・・・」
「・・・・・・義真にはかなわないけどね」
 二人はそう言うと、声高らかに笑った。もう皇甫嵩に迷いはなかった。
 一つ深呼吸すると断を下した。
「よし、全軍、出陣するぞ!」
 こうして皇甫嵩とその兵四〇〇人は出撃していった。

 皇甫嵩隊四〇〇人は驚異的なスピードで行軍し、通常三〇分はかかる司隷特別校区から豫州学院校区までの道のりをたった一五分でやってのけてしまったのだ。
 その甲斐あって、黄巾党が到着する一歩前に、彼女たちは豫州学院校区に数多く存在する校舎の一つである長社棟に立てこもることができた。
 外に陣を張らなかったのは皇甫嵩が数的不利だと判断したからだ。
 そして、防戦準備を整え終えたのと同じ頃、ついに正面のグランドに一〇〇〇人を超える人の群れがあらわれたのである。
 そして、なにやら何人かの生徒が拡声器を手に取って歩いてくる。
「やーい、へなちょこ。くやしかったらでてきてみなさ〜い!」
 罵声だった。それにまた数人の生徒が続く。
「あんたたちみたいな、おこちゃまなんか、家でおままごとでもしてなちゃ〜い!」
「あら〜でてこれないの〜?それとも腰が抜けちゃったのかなあ?え〜!おしっこ、ちびっちゃたの?もうだめね〜!」
 罵声はやむどころかどんどんエスカレートしていく。
 要は長社棟に籠城されて攻めあぐねた黄巾党は挑発して皇甫嵩たちを誘い出そうというわけだ。
 ついに耐えきれなくなった一人の女生徒が、屋上からその光景を眺めていた皇甫嵩のところに詰め寄った。
「義真っ!もう頭、来た!今すぐ出撃の許可を出してちょうだい!」
 皇甫嵩は首を二度、横に振った。
「いいか、戦とは実と虚の二つしかない。だからこそ、これら二つの組み合わせが肝要だ。あのような子どもにでもできる挑発しかできない奴らだ。後、二時間もすれば、おそらく彼らの語彙も尽き果てて、ぴくりとも動かない私たちに油断しているころであろう。我らがその隙をつき、そして、援軍を引き連れた朱儁隊が四方から攻め立てれば賊軍共は・・・・・・壊滅!する」
 そう言うと、皇甫嵩は左手を腰に当てたまま、右手で竹刀を大きく振り上げ、そして、振り下ろした。
(公偉、頼むぞ。お前なら、私の作戦・・・・・・理解してくれるよな)
 皇甫嵩は目を閉じ、後ろから吹いてくる風に髪をゆらせながら、そう自分を納得させると、棟長室へと戻っていった・・・・・・。

663 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 21:51
 ■影の剣客 その三
  そして約二時間後・・・・・・
 時間は午後五時四〇分。沈み駆けた夕日のまばゆいばかりの光を背中に浴びながら、一人の少女が屋上からグランドを見下ろしていた。
 彼女の見える光景は、もはや挑発の語彙が尽き果て、ただ馬鹿騒ぎをして挑発している者と、することもないので、弁当を食べている者のいずれかであった。
 皇甫嵩は右目と上唇をつり上げ、そして、ニヤリと一流の殺し屋のような笑みを浮かべる。
そのニヒルな笑みが夕日のバックには面白いようにマッチする。
そして、皇甫嵩は決断した。
(今こそ攻める!)
 このときに備えて、皇甫嵩は二時間前から長社棟の倉庫にあった、百本近いロケット花火に爆竹と煙玉をセットし屋上に配置させていた。
 
屋上から戻った皇甫嵩は四人の部隊長を集めて作戦を発表した。
「まず、棟長は元々この長社棟にいた一〇名と共に屋上にセットしておいた、ロケット花火を遠慮無く賊軍の陣に打ち込んでくれ。打ち尽くした後は背後から敵の強襲を受けないように注意!では、棟長は直ちに準備にかかってくれ!」
 棟長は皇甫嵩に一礼すると、準備のため屋上に駆け上がっていった。
 それを見送った皇甫嵩は話を続ける。
「我らは賊軍が混乱を始めたと同時に敵陣に斬り込む!我らが『抜刀隊』の剣技を見せつけてやるぞ!我らは出撃まで昇降口で待機する」
 皇甫嵩は両手でバンと机を叩いて立ち上がると、そう言いはなった。

  午後六時
 長社棟周辺が轟音に包まれた。ついに皇甫嵩の反撃が開始されたのだ。
屋上からは無数のロケット花火が流星雨となり黄巾党の陣に降り注いだ。
 着地するたびにドーンという炸裂音が鳴り響く。
 黄巾の将・波才は仮眠を取っていた急造仕様の小屋から飛び出してきた。
 状況を確認しようにも煙のおかげで一メートル先も見えない。
 波才はとにかく、敵の襲撃に備えなければならないと考え、小屋においてあった木製の薙刀を掴むと、必死に声を張り上げて事態を収拾しようとする。
 しかし、彼女の声はロケット花火の轟音にかき消されて、味方の兵たちには届かなかった。

 そんな、黄巾の陣を静かに見守っているものたちがいた。皇甫嵩率いる四〇〇人の精鋭部隊である。
「伝令!ロケット花火は全弾打ち尽くしました!」
 屋上から一人の生徒が駆け下りて来るなり皇甫嵩に報告する。
 皇甫嵩はこくりとそれに頷くと、声を張り上げて言った。
「これより我らは敵陣に斬り込む!全員藍色の鉢巻きは巻いているな。間違っても同士討ちはするな。よし、打って出る!」
 皇甫嵩は竹刀を右手で握り直すと、四〇〇人の先頭を切って、走り出した。
 正面にいた門番役の黄巾の兵士の胴を薙ぎ払うと、皇甫嵩を始めとする四〇〇人は一斉に斬り込んだ。
 彼女らは目の前にいる黄巾の兵たちをばったばったと切り倒していく。
 なかには竹刀を振りかぶり打ち合ったのだが、その竹刀が自分の顔面に跳ね返って脳震盪を起こし気絶する者さえいた。
 皇甫嵩とその兵四〇〇人のだれもが黄巾党の兵三人を同時に相手にしていた。
 それから数分後、五〇人ばかりのマウンテンバイクに乗った軍勢が戦場に現れた。その指揮を執っていた小柄な少女が戦場の光景を見渡す。
彼女の見た光景は凄まじいものであった。
 脇腹を押さえてもがき苦しむもの。竹刀で滅多打ちにあっているもの。顔が腫れ上がっているもの、恐怖に泣き叫ぶもの。
 その中で暴れ回っているのが皇甫嵩を中心とする部隊だと、その少女は気がついた。
 少女はこの光景に足が震え、前に進むことができなかった。
「あ、圧倒的じゃない!こ、これが、皇甫嵩先輩の用兵・・・・・・」
 そう言った少女の目は視点が合っていなかった。一種の錯乱状態に陥っていたのかもしれない。
 そのとき、放たれた矢のような物体が凄まじいスピードで少女に迫ってきたのである。
 その少女がそれに気がついたとき、それはもう数メートルの所まで迫っていた。
 少女は身体が動かなかった・・・・・・いや動かせなかった。戦場にうごめく恐ろしいまでの気迫に少女は飲まれてしまっていた。
 流星が少女にぶつかるほんの一瞬だけ、ほんの一瞬だけ早く、後ろに控えていた長髪の少女がそれを自らの竹刀で弾き飛ばした。
「げ、元譲!」
「何ぼやっとしているんだ、孟徳!敵は乱れている。今が攻め時だろ?」
「そ、そうだよね!全軍攻撃!あたしたちの力見せつけてやるよ!」
 正気を取り戻した少女は一度深呼吸をすると、一斉攻撃を告げた。

 援軍が到着した頃、皇甫嵩は敵陣深くまで斬り込んでいた。理由はもちろんこの軍勢の指揮を執っている波才を飛ばすためだ。
 皇甫嵩はただただ奥へ奥へと進んでいると、視界に数人の生徒を従え、薙刀を構える少女が飛び込んできた。
「貴様が波才か!?」
「そうよ!この計略は見事だった。けどね・・・・・・まだ終わったわけじゃないわよ!」
 波才がそう言うと、小屋の中から数十人の生徒が飛び出してきたのである。
 そうして、皇甫嵩の周囲は瞬く間に黄色の集団に囲まれてしまった。
「ふふふ・・・・・・。形勢逆転ね。冥土のみやげにその名前を聞いておくわ」
 腕を組んだ波才が不敵にそう言う。
「私か・・・私は皇甫嵩。貴様ら悪しきものを破るために生まれてきた剣だ」
「なによ。かっこつけちゃって!みんな、やってしまいなさい!」
 波才が断を下すと、まず三人の少女が皇甫嵩に斬りかかってきた。
皇甫嵩は大上段から斬りかかってきた少女の竹刀に合わせるようにして、下段から竹刀を振り上げた。
 すると少女の竹刀は根本から砕け散ったのである。次に少女が目にした光景は皇甫嵩の竹刀がめり込んでいる自分の胴だった。
 さらに体勢を立て直した皇甫嵩は右肩に向かって振り下ろされた竹刀を持ち前の見切りでかわすと、前のめりになった少女の首に皇甫嵩は手刀を見舞った。
そして左からの浮かび上がってくる竹刀は左手で持った竹刀を振り下ろして叩き折ると、間髪容れずに少女の脇腹に回し蹴りを決めた。
ここまでわずか6秒。皇甫嵩を囲んでいた少女たちは恐怖に顔をゆがめた。
「どうした。もうお終いか・・・・・・。貴様らにはもう、うんざりしていてな・・・・・・決めさせて貰うぞ!」
 皇甫嵩はそう言うと、正面に突っ立ていた少女を逆袈裟に切り上げると、同時に横にいた少女の腹に蹴りを入れた。
 そうして、皇甫嵩は流れた竹刀を引き戻すと、右手で自然に振り上げた形に左手を添えるようにして、上段に構えた。
 辺りにぴりぴりとした緊張感が漂っている。竹刀を上段に構えた皇甫嵩の頬からついに汗が流れた。
(どうする・・・・・・。敵はざっと見て二〇人。周りに味方はない。多勢に無勢というやつだな・・・・・・。まったく、あの将軍様はいつもどうやってこの修羅場をくぐり抜けているのか問い詰めてやりたいところだ・・・・・・)
 皇甫嵩が頭の中で皮肉を漏らす。
確かに今、皇甫嵩が置かれた立場は某時代劇番組に出てくる将軍様によく似ている。悪代官の屋敷で多数の手下に囲まれた将軍様・・・・・・敵将の陣近くでその配下に囲まれた皇甫嵩。そっくりである。
 皇甫嵩が考えていると、ついに前後から二人の少女が斬りかかってきた。
 前から向かってきた少女めがけて、皇甫嵩は竹刀を振り下ろす。少女は慌てて受けをとろうとしたのだが、気がついたときには右肩に重い衝撃を受けて、地面に叩きつけられていた。
 そうして後ろから迫ってきていた少女の胴を振り返る際の回転力を利用して薙ぎ払おうとした。
 しかし、皇甫嵩の竹刀は大きく空を斬った。なんと皇甫嵩は向かってきた少女は腰を曲げ、皇甫嵩の両足を掴もうとしていたのだ。
 皇甫嵩は体勢が崩されていたので両足を掴むのは容易であった。両足を掴まれた皇甫嵩は、そのまま地面へ押し倒されてしまう。
 そして、少女が皇甫嵩の階級章に手を伸ばした。
 そのとき・・・・・・
 少女は首に衝撃を受けて皇甫嵩に倒れ込むようにして気絶した。
 皇甫嵩がその少女をどかして、顔を上げる。飛び込んできたのは真っ赤な髪の少女。さらに髪のひとふさが逆立っている。
 こんな少女は皇甫嵩の知り合いに一人しかいなかった。
「助かったぞ、公偉!」
 朱儁だった。朱儁は皇甫嵩に気さくに笑いかける。
「なんの、なんの。義真、立てる?」
 差し出された朱儁の手につかまるようにして、皇甫嵩は立ち上がった。
 皇甫嵩が辺りを見渡すと、皇甫嵩を囲んでいた少女たちがばたばたと倒されていく。
 戦っているのは朱儁が連れてきた援軍だった。
「ごめんね。義真。遅くなって。兵を集めてたら時間かかっちゃったっ!」
 そう言って朱儁が舌を出す。
「構わんよ。さすが公偉だ。私の作戦に間に合うように来てくれたのだから・・・・・・」
「残念でした〜!義真の作戦に気がついたのはあたしじゃないのよね」
「なに!・・・・・・そうか、蒼天学園もまだまだ捨てたものではないようだ」
 皇甫嵩は朱儁の答えを聞くと一瞬驚いたような仕草を見せたが、すぐに微笑を浮かべてそう言った。
「義真、あたしたちも行こっ!まだ敵は残ってるんだから」
「そうだな。よし!行くぞ!」
 皇甫嵩はさっきの揉み合いで手放してしまった、愛用の竹刀を拾い上げると朱儁と共に地面を蹴って走り出した。

 この戦いで皇甫嵩軍は大将の波才こそ討ちもらしたものの、七〇〇人あまりの黄巾党員を飛ばすことに成功し、その半数以上が骨折などで入院生活を余儀なくされた。
 そして戦場には根本から折れた一〇〇〇本近い竹刀が残されていたという・・・・・・。

664 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 22:06
 ■影の剣客 その四
 激戦が終わり、長社棟の体育館で行われたささやかな祝勝会。
「みんな、よく頑張ってくれた!今日は戦いの疲れを癒してくれ!それでは・・・乾杯!」
 皇甫嵩の音頭と共に祝勝会が始まった。
音頭を終えた皇甫嵩が舞台から降りると、朱儁がグラスを片手に立っていた。その横には朱儁よりも小柄な少女が背筋をピンとたたせ起立していた。
「どうした、公偉。こんなところで」
「あっ、義真。紹介するわ。今回義真の作戦を見抜いた――」
「皇甫嵩先輩ですよね?あたしMTB(マウンテンバイク)隊長をしてる曹操、あだ名は孟徳って言いますっ!あ、あのよろしくお願いしますっ!」
 朱儁が紹介しようとするのを遮って、少女つまり曹操はあいさつすると、腰を曲げるようにして頭を下げた。
「上官を見て硬くなるのはわかるが、もう少し落ち着いたらどうだ。朱儁まで使って私を捕まえようとしたのだ。なにか訊きたいことがあるのだろう?」
 皇甫嵩は舞台裏の壁にもたれかかり、腕を組む。
「・・・・・・さすがは皇甫嵩先輩。では、率直に伺います。皇甫嵩先輩の部隊はいったいなんなんですか?あの異常なまでの強さ。恥ずかしいですけど、戦場に着いたとき、足が震えました。そんなプレッシャーを放てる皇甫嵩先輩たちはいったい何者なんですかっ!?」
 曹操は見上げるようにして、長身の皇甫嵩の目をしっかりと見つめる。
「今回の作戦に参加した私の部隊は『抜刀隊』だ」
「『抜刀隊』・・・・・・」
 曹操は自分の記憶をひもとくが、どこにもその名前は記されていなかった。
 皇甫嵩は続けて言う。
「知らないのも無理はない。今回が『抜刀隊』の初陣だったのだ。皆、私と同学年の『格闘技術研究所』に所属している者たちだ。私を含めた『抜刀隊』のメンバーは皆、示現流を使う。そのため『人に隠れて稽古すべし』という心得に忠実でな。今まで表立って何かをしたことがないのだよ。言うならば影の剣客だ・・・・・・」
 皇甫嵩の凛とした声が舞台裏に響き渡った。
「影の剣客・・・・・・」
 曹操はそう呟いた。
話し終えた皇甫嵩が腕組みを解いたその刹那、皇甫嵩の話に聞き入っていたかに見えた曹操が皇甫嵩の胸に飛び込んできた。
「なっ、なんのつもりだ。曹操!」
 皇甫嵩の問いかけもなんのその、曹操はなにか考え事をしている。
「七二・・・違う・・・見切った!七六だ!」
 曹操の言葉が皇甫嵩の耳の先まで真っ赤に染め上げた。曹操は皇甫嵩のバストをズバリ言い当てたのだ。
 横にいた朱儁も曹操の見事な答えに目をパチクリさせている。
「はっ、離れんか。この無礼者!」
 皇甫嵩が強引に曹操を自分の胸から引きはがす。
「はあ、はあ・・・・・・。まったく貴様にはわずかな油断が命取りとなりそうだ」
 なんとか曹操を引きはがした皇甫嵩の息は上がっていた。
「お褒めにあずかり光栄です。お礼にこれ、差し上げます」
 曹操はそう言うと胸ポケットから一枚の写真を取りだした。
「誉めてなどいない!・・・写真?・・・・・・なっ!」
 皇甫嵩は絶句した。その写真には盧植に抱きつかれて狼狽した自分の姿が写っていたからである。
 皇甫嵩が顔を引きつらせ、こみかみをピクピクさせている。
そして、曹操を捕まえようと顔を上げたとき、つい数秒前までそこにいた曹操の姿はなかった。
「・・・公偉。ヤツは?」
「写真を渡すなり、帰っちゃったけど?」
 朱儁の回答に皇甫嵩は目を丸くして驚いていた。しばらく目線を落としていたが、あるとき何かが吹っ切れたのか大声で笑い出した。
「はっはっは!曹操か・・・・・・その名覚えておくぞ」
 皇甫嵩は振り返ると舞台裏にある窓から見える空に向かってそう言った。
「そんなに胸の大きさを当てられたのが悔しいの?」
「う、うるさいっ!い、行くぞ、公偉!」
「あ〜ん。待ってよ、義真〜!」
 皇甫嵩は朱儁から目をそらすと、スタスタと会場の方へと走っていった。
 外ではさわやかな秋風が吹き抜けていた・・・・・・。


  「あとがき」みたいなもの・・・・・・

 長くなってしまいました。ほんともう、なんかぐだぐだになってしまってますね。次回までにもっと練習しておきます・・・・・・。
 僕が皇甫嵩萌えになった理由は雪月華様の「倚天の剣」を読んで皇甫嵩のかっこよさに気がついたからです。だから、雪月華様の「倚天の剣」で紹介されていた皇甫嵩が大活躍する長社棟を書いてみたいなあと思って書いてみると・・・・・・申し訳ありません!僕のレベルではここまでしか表現できませんでした・・・・・・。
 戦いは「倚天の剣」で書かれていたことを基本にし、ほんのちょっとだけ手を加えさせていただきました。
 後、雪月華様の設定には「皇甫嵩と曹操が師弟のような関係」みたいなことが書かれていたような気がしたので、皇甫嵩と曹操の初めて?の出会いを書かせて頂きました。
 雪月華様。雪月華様が創られた設定を無断で使用してしまったことに不快感を感じられましたなら、なんとお詫びしたらよいかわかりませんが、この場を借りてお詫びさせて頂きます。
 こんな長々しい文章にお付き合い頂きありがとうございました。

665 名前:北畠蒼陽:2005/06/15(水) 22:18
>雑号将軍
皇甫嵩の話、まずはお見事!
かっこいいデスよ、十分(笑
おもしろかったので今後にも期待! なのですよ〜。

666 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 22:48
これで一応「影の剣客」完結です!あとがきにも書きましたがホント長くなってしまい申し訳ありません・・・・・・。
ちょっと盧植の性格が違ったかな〜と苦悩している今日この頃です。

>北畠蒼陽様
遅くなってごめんなさい・・・・・・。
それで・・・『策を投じる者〜王昶の場合〜』読ませて頂きました!王昶ってなかなかの名将だったんですね!ドジなところがまたいい感じで。
僕は蜀が滅んだあたりぐらいから呉の滅亡までに出てくる武将はホントに有名な武将しか知りません・・・・・・。だから王昶がこんなに優れた人物であったとは露にも知らず。ふう、もっと勉強しないとなあ・・・・・・。

>交州
海月 亮様、僕は交州っていわれるとあの人しかわからないのですが、とにかく楽しみに待っておりまする〜!

あ、あと、どなたか、皇甫嵩が董卓と一緒に梁州の賊の王国を討伐しに行くときの流れを教えて頂けないでしょうか。次はその話を書きたいなあと思っていますので・・・・・・ご迷惑ばかりかけて本当にすみません。

667 名前:雑号将軍:2005/06/15(水) 22:53
うわっ!ごめんなさい・・・・・・ 北畠蒼陽様。全然気がつきませんでした。
感想ホントにありがとうございますっ!
そんな、まだまだです。もっと頑張らないといけない部分も多くて・・・・・・。
お褒めに預かり、光栄の限りですっ!

>おもしろかったので今後にも期待! なのですよ〜。
はい!いつできるかわかりませんが全力で頑張ります。

668 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:29
-意思の担い手たち-


「…なんっつーか、あたしも御人好しだよな」
目の前をあわただしく走って行ったり、集まって何か指示を受ける少女たちを高台から見やりながら、緑の跳ね髪が特徴的なその少女が呟いた。
長湖部の本部がある建業棟は、長湖制圧を目論む蒼天会の大侵攻を迎え撃つべく出撃準備で大忙しの状態。
学園に在籍しているとはいえ、陸遜や朱然といった名将たちも既に課外活動から身を引き、長湖部は数の上でも質の上でも人員不足というこの時期に、狙い済ましたかのような今回の凶報である。
(そんな人材不足の元凶が…あの部長にあるなんてな)
少女はほんの数ヶ月前…年末にあった忌まわしい事件を思い返していた。
次期部長の座をかけた、ふたりの少女の取り巻きが引き起こしたその事件により、実に多くの名臣たちが長湖部を去っていった。
今でこそ健康を取り戻したが、陸遜に至ってはストレス性の胃炎で吐血し、病院に担ぎ込まれたほどだ。
この事件がきっかけだったかどうか…その不祥事を取りまとめられないほどの精神不安定であった部長・孫権が正気を取り戻したものの…。
(納得はしてないさ…そんな簡単に、割り切れてたまるか。伯姉や子範さん…敬宗まであんな目に遭わせたあの人は許せない。だけど…)
少女は、雪の舞う空へと、その思いを馳せた…。

「あなたの気持ちも、よく解る…双子の妹を傷つけられても黙っていられるって言うなら、むしろ私があなたを許さないわ」
「だったら!」
感情のあまり大声を出してしまったが、少女はそこが病室であることを思い出し、一端は口を噤んだ。
「だったら、どうしてそんな事…! あたしは、あたしは絶対に…」
「あなたが仲謀さんをどうしても許せないなら、私にそれを止める権利はない…でもね、敬風」
ベッドの少女は、あくまで優しく、穏かな口調でそう呼びかけた。
「それでも、あなたにも頼まなきゃならない…孫家のためにじゃなくて…これまで長湖部を支えてきた総ての人のために、あなたにも長湖部を援けていって欲しい…」
「…伯姉」
「一昨年の夷陵回廊…私は大好きだった公瑾先輩の意向に逆らってまで大任を受けた。大好きな人がいっぱいいて、いろんな思い出の詰まった長湖部を、無くしたくなかったから」
少女の表情は、酷く悲しげで…涙はないが、その声も、表情も、泣いているように見えた。
「私はもう、長湖部に関わることは出来ない…だから、これから部を支えていくだろうあなたたちに頼むしかないの。幼節や承淵、公緒、子幹、敬宗…それに、あなたに」
「そんな…そんな言い方勝手すぎるよ、伯姉…あたしたちに、伯姉たちの代わりなんて勤まるわけないよ…っ!」
少女の目から、何時の間にか大粒の涙が落ちていた。
ベッドの少女は身を起こし、傍らの少女をそっと、抱き寄せた。
「ごめんね…でも、私は心配なんて全然してないわ」
突然のことに驚いた少女は、間近になった族姉の顔を覗き込んだ。
「あなた達は、きっとあなた達が思っている以上に、ずっと凄いことができるって、信じてるから」

どんよりと空を覆う雪雲の中に、その時に見た族姉・陸遜の穏かな笑顔を見た気がして、陸凱は苦笑した。
「あんなこと言われたら、断るに断れないよ…」
尊敬する族姉を、大好きな妹を追い詰めた孫権のことが許せないのは変わらない。
それでも、彼女がこうしてまた、長湖部を守るために戦場に出ようとしている理由は、ふたつ。
「主将、出撃準備整いました!」
「解った、すぐに行く」
その妹が、族姉が、それでも長湖部を守りたいと言ったから。
そして、彼女の愛すべき友人たちが、その思い出と共にまだ長湖部にいるのだから。
「我らは江陵の援軍として赴く! 全軍、出撃!」
号令と共に整然と出立する少女たち。
雪の舞う校庭から、少女はその強い意思を胸に、戦場へと消えていった。

669 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:30
「此処まで予想通りだと却って清々しいもんだねぇ…」
「落ち着いてる場合ですか! 早く助けに…」
「もうちょい待って。もう少し喰らいつかせてから」
陸凱は、気のはやる部下を宥め、草陰に潜んで戦況を眺めていた。
陸凱率いる軍団が江陵棟に辿り着いた時、雪のちらつく校門前は人並みでごった返していた。
要するに凄まじい大混戦だったのだが、恐慌状態だった長湖部勢がほとんど一方的に飛ばされている状態。
(ま、あっちの主将があの天然性悪の王昶で、こっちが感受性の塊みたいな公緒なら仕方ないか)
陸凱は王昶がどんな手を使って、江陵の主将である朱績を引きずり出したのか直接は知らなかった。
しかし、相手の性格の悪さならよく知っている。あの何とも言えないナイスな性格の持ち主である王昶なら、先に引退したばかりの長湖部総参謀・朱然の妹で、これまたその後を継ぐ者としてプレッシャーの中にいる朱績を江陵棟から引きずり出すなんて朝飯前だろう。
(でもっ、調子に乗りすぎだよ…王昶!)
伏兵の王渾軍があらかた出尽くし、後方に控えていた王昶の本隊が動き出すのと同時に、陸凱は叫んだ。
「よし、全軍突撃! あの座敷犬どもに目にもの見せてやんなっ!」
「おーっ!」
陸凱号令一下、彼女の軍団が怒号と共に勢いづいた蒼天会軍の横っ腹めがけて突っ込んでいった。

「てかさぁ…気持ちは解るけどそんな教科書通りの挑発に乗るなっての」
そんな挑発の仕方なんて教科書に載ってはいないんだろうが、と心の中で自分ツッコミする陸凱。当然ながら、この失態の悔しさに未だ涙を止めるきっかけすらつかめない朱績からそんなツッコミが飛んでくるとは、陸凱も思っていない。
「…だよ…っ」
「ん?」
そのとき、嗚咽の中からそんな声が聞こえた。
「あたしに…あたしなんかに…お姉ちゃんの…代わりなんてっ…」
「そ〜だろうね〜」
この重苦しい雰囲気を意に介するでもなく、軽く流す陸凱に、朱績は悔し涙を払うことなく睨みつけた。
「伯姉なら言うに及ばず、義封先輩だったらきっと笑って流したでしょうね。周りが呆れたって、自分の感情を無闇やたらと周囲に振りまくような人じゃなかったしね」
しかし、それでも陸凱は取り合おうともしない。更に少女の心を抉るような言葉を容赦なく吐きつけた。
「酷いよっ!…何でそんな、酷いこと…平気で…」
朱績が掴み掛かってきても、陸凱はまったく動じない。そのまま彼女の胸に顔を預け、再び泣き出してしまう。
陸凱は振り払おうとせず、その体を抱き寄せた。
「なぁ公緒、あたしたちはどう頑張っても、あんな人たちの代わりになんてなれやしないんだ」
「…ふぇ…?」
「いくら能力があったって、たとえ血のつながりがあったって…あたしや幼節が伯姉の代わりなんて出来ないだろうし、承淵が興覇さんの牙城に迫ることも出来ない。季文も休穆先輩と似てるのは性格だけだ。世洪は仲翔先輩みたいになれないだろうけど…まぁ、あれはならないほうが無難かもな」
冗談めかしてそんなことを言って、そして真顔で続けた。
「あんたも同じだ、公緒。だったら、あたしたちはあたしたちなりに、頑張るしかないんだ。失敗したら、また次へ活かしていけばいい…」
その言葉に、弱々しいながらも「うん」と朱績は頷いた。

670 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:31
それから少し時間が空いて、落ち着いた朱績はこれまでの戦況を語りだした。
「…本当はね」
「うん」
「本当だったらね、叔長と挟み撃ちにするって話、昨日の打ち合わせでしていたんだ。でも、アイツはまったく動いてくれなかったんだ」
「…叔長だって!?」
陸凱は耳を疑った。
叔長とは諸葛融の字だ。彼女はかつて“長湖部三君”の一角になぞらえられていた諸葛瑾の末妹にあたり、今現在、長湖部でも中心的な立場にあり、次期部長の後見役と目されている俊才・諸葛恪の妹だ。
穏かな性格で、質実剛健を旨としていた諸葛瑾と対照的に、諸葛融は派手好きで奔放な性格…陸凱に言わせれば、我侭なお子ちゃま丸出しのガキ。陸凱は大雑把なくせしてやたらと才能を鼻にかける諸葛恪共々、彼女らのことを快く思っていない…いや、むしろ嫌いな範疇に入るだろう。
それはさておき、
「バカな…アイツ、あたしが此処へ来る前に建業棟で見たぞ。それに、こっちへ来たのはあたしと戴陵だけだ」
「そんな…!」
その瞬間朱績の顔から一気に血の気が引いた。
恐怖からではなく、信用していた人間に裏切られたというショックからだったことは、次の瞬間一気に顔が紅潮して来た事からも明白だ。朱績は怒りで震える拳を、思いっきりテーブルにたたきつけた。
「…結局、あいつらも子瑜先輩には遠く及ばない。しかもあいつらは、自分にそれ以上のことが出来て当然って勘違いしてやがる…現実を見れないって悲しいことだな」
嫌いではあったが、陸凱は彼女らのことが心の底から哀れだと思った。

「さて、机と書きモン貸してくんないかな。諸葛融の件も一緒に報告するよ」
「え…」
今度は朱績が自分の耳を疑う番だった。いくら相手が約束を違えたっていっても、相手は次期部長後見役の妹だ。下手に告発すれば、逆に陸凱が処断されかねない。
「ダメ、それはダメだよ敬風! あんな連中のために敬風の手をわずらわせるなんて…」
「今までならいざ知らず、正気を取り戻した孫権部長が黙ってるとも思えないしな。大丈夫、勝算はあるさ」
そうして部屋の机からメモ用紙と筆箱を取り出すと、陸凱はその場で何やら書き出し始めた。恐らくは、きちんとした報告書として報告するための草案を書いているのだろう。
「…やっぱり、敬風は凄いや」
そんな陸凱の姿を見て、朱績はそう呟いた。
「そうかい?」
「うん。今のあたしじゃ、太刀打ちできそうにないよ。いろんな面で」
その言葉に、羨望はあっても嫉妬じみたものはない。この素直なところは、陸凱に限らず多くの同僚たちが好感を抱いている朱績の美点でもあった。
「でも、あんただっていいとこはいっぱいあるだろ。例えば…」
「例えば?」
朱績にそう真顔で聞かれて、陸凱は返答に困ってしまった。こう言うときは「そ〜お?」とか言って能天気に流してくれる丁奉や鐘離牧の方が数倍やりやすいと、陸凱は思った。
「う〜ん…まぁ、少なくとも奴らよりはマシだわな。少なくとも今回の失敗で、次どうすればいいか勉強にはなったろ?」
「う〜…やっぱりバカにしてる?」
「あのなぁ」
ぷーっと膨れて抗議する朱績に苦笑しつつも、陸凱はあえて、彼女の良いところはまだおおっぴらに言わないほうがいいかも、と思った。これからは、もっといいところが増えていくかもしれない、と思ったから。
(そうなれば、あたしたちも伯姉たちの期待に、少しは応えられるかな?)
窓の外を見れば、雪はもう止んでいた。
雲に覆われた、くぐもった茜色の空のなか、彼女は満足げに微笑む陸遜たちの顔を見たような気がしていた。

(終)

671 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:43
で、触発されて書いてみました(゚∀゚)
挙げて見たら「号令一下」の前、接続詞「の」が抜けていましたので、各自補完の事w
あと施績が朱績になっちょりますが、同一人物なのには変わりませんので気にしないでくださいな。
これはまぁ、書かれ方が違うということで。

おいらの本命、ある人の交州日記話はもう少しで完成です。週末には完成予定…かな?

672 名前:海月 亮:2005/06/15(水) 23:51
>影の剣客
雑号将軍様、初投稿乙です!(>Д<)ゝ
いや、正直な話皇甫嵩関連は何か語り尽くされた感があったと思っていましたが…なんのなんの、また新たな切り口を見出せそうですぞ!!
いや、お見事でござる。

というか、DG細胞かTウィルスに冒されてそうなあの丁原たんが食中毒ってw


以上、自作うぷ直後に作品があげられていることに気づいたw海月でした。

PS:何も交州って言っても、そこで活躍した人をメインにするとは限りませんよ?

673 名前:北畠蒼陽:2005/06/16(木) 01:19
>海月 亮様
わおー!
陸凱だー! 陸凱だー!
私の中で陸凱の評価って蒼天航路の張遼の関羽まんまの評価なんですよね。
『互角に見えて打ち倒すのは至難』ってやつです。
ま、イメージ的なものですケドね(笑

>天然性悪の王昶
ある意味最大限の好評価、ありがとうございます(笑

>交州
歩さんか虞さんという予想をしておりマス(笑

>王国についてあれこれ
まず『梁州』ってなぁなにか、デスよね〜。
梁州は益州を分割した漢中一帯なんですけど、これ、晋になってからはじめて作られるんですよねぇ。
後漢書皇甫嵩伝に以下記述があります。

(※英雄記に書いてあるんだけどね。涼州の賊王国とかが兵を起こしちゃってさ、閻忠に迫って盟主とかやっちゃって三十六郡を統べさせて、車騎将軍とか自称しちゃったんだってさ。閻忠、もうプレッシャーとかいろいろで死んじゃった。なむー)

ってとこから梁=涼カナ? と。
そのわりに王国サン、陳倉を包囲してるんでもうゴチャゴチャ! どっちがどっちやねーん!
まぁ、後漢書の成立年代がかなり下ってるんで『涼』のほうが間違いかもしれんです。

とりあえず王国とのいろいろについて書くとかなり長くなるのでパス。
『皇甫嵩 董卓 王国』でGoogle検索して一番上にあるページはかなりわかりやすいのではないかと思われマス。

とりあえず皇甫嵩にクーデターを薦めておいて却下されたら身の危険感じて逃げて、逃げた先でなぜか賊の大将に祭り上げられてる閻忠タン萌えー。

674 名前:雑号将軍:2005/06/16(木) 22:25
>海月 亮様
おおぅ!陸凱が遂に主役となるとはっ!
海月 亮様の陸凱を拝見して以来、彼女が動くとどうなるのかなとわくわくしながら考えていましたが、遂にこのときがやって来ました〜!
まさに、お見事!見習いたいものです。

海月 亮様、北畠蒼陽様・・・・・・これが、常連の技というものですな!

>丁原たんが食中毒
ああっと、それは、丁原が盧植と一緒だった記述がなかったからどうにかしないと→アサハル様の設定をお借りする・・・・・・とまあ付け焼き刃なんです。

>王国についてあれこれ
な、なるほど、難しいですな〜。これは設定を練るのに時間がかかりそうです。まずは教えて頂いたサイトを検索してみます。
本当にこんなに細かく教えて頂きありがとうございます。

675 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:49
-蒼梧の空の下から-
第一章 「追憶」


交州学区、蒼梧寮。
今でこそ長湖部の勢力範囲となっている僻地、交州学区に籍を置く生徒たちの多くが生活の場とする場所である。
かつては士姉妹を初めとして、長湖部の勢力拡大を良しとしないものたちが互いに覇権を競い合ったこの地だが、呂岱、歩隲の活躍によりその問題勢力は一掃された。
後世、交州統治といえば歩隲と呂岱(あるいは、稀にだが陸胤)の名が挙がるのは、それだけ彼女らがこの地の統治に心血を注いだ結果であったと言って良い。

加えてこの地は長らく、長湖部の中央で何らかの不始末を犯した者達の左遷先、というイメージも持たれていた。
しかし、一般的な記録では「左遷されてきた」者達の中にも、別の目的があってあえてこの地へ来ることを望んだ少女が居たことは、ほとんど知られていない。

それもそのはず。
それはあくまで、後世の学園史研究家の間で「もしかしたら…」程度に言われる説のひとつに過ぎない。
その実情を知るのが、その当人を含む、ほんの数人の少女だけしか居なかったのだから。


蒼梧寮の前庭。休みの日で昨日からその住人たちは学園都市の中心街に出払ってしまい、すっかり人気のないその場所に、ただひとりだけ、彼女はいた。
この地に住む人種としては珍しい、柔らかそうなプラチナブロンドの髪。スタイルも背丈も、歳相応と言ったところ。
その出で立ちは学園指定の体操服、夏用の半袖とブルマという姿。真冬の朝に外に出るには心ともない格好だが、彼女は意に介した風を見せていない。
手にはその背丈と同じくらいある木製の棍が握られている。
彼女はふぅ、と一息つくと、その棍をゆっくりと構えた。
様になっている、というどころの話ではない。その構えは堂に入っており、全身から達人特有の気迫が感じられる。
「はっ!」
気合とともに、踏み込みから一閃。
そして立て続けに、連続で払い、打ち下ろし、打ち上げと技を繰り出していく。
ただ闇雲に振り回しているのではない。彼女の動きは、型通りの演舞から、次第に乱調子の動きへ変化するが、その動きにはまるで無駄が感じられなかった。もし彼女の目の前に人体模型でも置いてあれば、そのすべての一撃がその急所すべてを打ち据え、薙ぎ払い、衝きとおしていることだろう。
そして彼女は渾身の横薙ぎを放つと、そのままの勢いのまま最初と同じように構えなおした。彼女はこうした演舞を、何回かに分けて、既に一時間近く行っていた。それゆえか、季節外れの薄着でも、気にならないのも当然である。
彼女は一息ついて、構えを解こうとした…まさにそのときだった。
「!」
僅かに風を切る音が聞こえた瞬間、彼女は反射的に振り回した棍で何かを叩き落し、それを地面に押さえつけてから視認した。その間コンマ何秒という世界である。
その目に飛び込んでいたのは、己の棍と地面のアスファルトの間できれいにつぶされていた空き缶…と思われるものだった。
「お見事ですね」
拍手とその声が聞こえてきた方向には、ひとりの少女の姿があった。
棍を構えていた少女と、背丈は同じくらい。色素の薄い髪の、あどけなさを残した温和そのものといった表情が特徴的な少女…彼女こそ、この交州学区現総代・呂岱、字を定公である。
棍を地面に突き立てたまま、少女は苦笑した。
「…毎度毎度不意打ちを食らわせてくるなんて…あまりいい傾向とは言えないわよ、定公」
「そんな事言わないでくださいよ、ほんの挨拶程度じゃないですか」
「それはまた随分なご挨拶ね。仮にも二年年上の人間に空き缶を投げつけるのが挨拶とは畏れ入るわ」
「それはあんまりじゃないですか〜。だって先に“隙があったら何時でも仕掛けて来い”って仰ったのは仲翔先輩のほうじゃないですか」
「…そうだったかしらね」
少女は缶のなれの果てを、見事な棍捌きでかち上げ、近くにあったくず入れに放り込んだ。


棍の少女の名は虞翻、字を仲翔という。
元は会稽棟にその名を知られた名士・王朗の副官であったが、この地を席巻した小覇王・孫策の眼鏡に適い、長湖部の経理事務を一手に引き受けたほどの人物である。
孫策が思いもがけぬ理由でリタイアすると、そのあとを継ぐことになった孫権に仕え、張昭らと共に長湖部の活動を裏方でバックアップしていたのだが…彼女生来の歯に衣着せぬものの言い方と、正しいと思うことを憚りなく主張するその性格が災いして孫権の怒りを買い、ついには孫権の個人パーティーの席で失態を犯して左遷させられたのだ。

しかし、彼女が交州の地に送られた頃は、丁度帰宅部連合との一大決戦があって、その事後処理で政情不安定だった時期である。いくら虞翻の性格が災いしたとはいえ、人使いに長けた孫権が一時の怒りに任せて彼女ほどの逸材を左遷してしまったことは、後世学園史研究者の疑問の種となった。
その多くは結局、「二宮の変」に代表される孫権の狭量さを表す一事例、として片付けてしまった。
しかし僅かながら、そこに何か別の意味を見出した者達も、確かに存在していた。

676 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:50
一息ついて、寮玄関の花壇に腰掛ける虞翻。羽織った自前のコートを汚すのを厭わず、呂岱はその近くに腰掛けた。。
「しかし勿体無い事ですね。それほどの腕をお持ちなら、部隊の主将としても申し分ないでしょうに」
「どうも荒事には向いてないみたいでね。本来は護身術兼息抜きとして始めたものだったんだけど」
「知ってますよ。前部長が孤立したとき、先輩が傘一本で血路を切り開いたって話」
「大げさな…まぁ確かに、相手の獲物を奪った最初のときだけ使ったんだけどね」
苦笑しながら彼女はそう言った。
「え、本当なんですか?」
「一発でダメになったわ。流石に相手が木刀だとコンビニ傘じゃ荷が重過ぎるわよ。相手が一人だった事も幸運だったかもね」
「へ〜え」
なんともウソっぽく聞こえる話だが、呂岱は虞翻が、弁が立つくせに冗談を言うのが苦手なことを良く知っていた。ましてやあの見事な演舞を日常的に見ていると、ウソには聞こえないだろう。だからこそ、素直に感心した。


会稽寮から程近い山中。
虞翻は道なき道、草の生い茂った獣道を遮二無二突っ込んでいく。彼女の制服は所々土で汚れ、手には一本の木刀を持っている。普段も寡黙で気難しそうにしている顔を一層険しくし、彼女は何か…いや、誰かを探していた。
「部長っ、何処ですか! 孫策部長!」
「おう、仲翔じゃねぇか」
不意に彼女の左手の草陰から、ひとりの少女が姿を現した。明るい色の髪を散切りにし、真っ赤なバンダナを巻いている、少年のような風体の少女だ。その少女こそ、虞翻が探していた長湖部の部長・孫策である。
「大声出さなくたって聞こえてるって。てか、何をそんな慌ててんのさ?」
あまりに能天気なその応えに、虞翻は一瞬眩暈すら覚えた。
無理もない、このとき彼女らは、活動再開して間もない長湖部の利権を守るため、学園都市で不祥事を起こす隣町の山越高校の不良たちの取締りと摘発の真っ最中なのだ。
「…何を、じゃないですよまったく…部長の腕が立つのは良く存じてますが、こんな時にこんなところでひとりで居るなんて正気の沙汰じゃありませんよっ! おまけに親衛隊まで全部散らしてしまって! あなたの身にもしものことがあったら…っ!」
大声でまくし立てる虞翻。どうやら彼女、何時の間にかはぐれてしまった孫策が心配で追って来た様子。激昂のあまり、そのまま泣きわめきそうな勢いだ。
「解った解った。それ以上言うなって。それにあんたが来てくれただけでも十分だよ」
孫策がそういってなだめると、虞翻は一瞬目をぱちくりさせた。
「そ…そんなことっ……と、とにかく此処も危険です。私が先導しますから、皆と合流しましょう」
そして気恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてしまった。声の調子も少し上ずっていて、孫策も思わず苦笑した。
そのとき、ふと孫策は気づいた。
「そういや仲翔、その木刀どうしたんだ?」
「え?…あ、これは…その、此処へくる途中でひとり捕縛したのですが…彼が持っていたモノを拝借して…」
「え、まさか素手でか!?」
「あ、い、いえ。実は私、杖術の道場に通っておりまして…ビニール傘で応対したんです。結局、傘は壊れちゃったんですけど…」
「へぇ…」
先導する虞翻が丈の長い草を掻き分け、その後に続きながら孫策は感心したようにそう呟いた。
「ああ、じゃあその手のタコはそのせいだったんだな」
「え?」
孫策が納得したようにそう言ったのに驚き、虞翻は思わず足をとめてしまった。そして虞翻が振り向いた瞬間、歩みを止めていなかった孫策と見事に額を衝突させ、獣道の中にひっくり返ってしまう。ふたりの背丈が丁度、同じくらいなのが災いした。
「痛ぁっ…急に振り返んなよ…」
「うぐ…ごめんなさい…」
そして、お互い額を真っ赤にし、涙目になってるのが可笑しくて、同時に噴出してしまった。
一息ついて、虞翻は上目遣いに孫策を見る。
「…気づいて、いらしたんですね」
「ああ。初めて会ったとき、会計担当って言うわりに随分身のこなしに隙がなかったしな。それに、可愛らしい顔してるくせに、握手したらえらくごっつい手だと思った」
孫策の一言に、虞翻は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
こんな時にというのもあったが、こんな真顔で“可愛い”なんて言われた事、自分の体に女の子らしからぬ表現をされてしまった事、そのどちらも恥ずかしかったからだ。
流石に悪いこと言ったかと、孫策も気づいたようだ。
「ま、気にすんなよ。別にそんなこと気にすることないって。徳謀さんとか義公さんだって、あの顔で結構ガタイいいし…それに比べりゃあんたはルックスもいいし、スタイルだって十分…」
「も、もういいかげんにしてくださいよっ…行きましょう」
うつむいたまま立ち上がり、虞翻は足早に再度前進し始めた。
「あはは…解ったもう言わないよ。てか置いてくなってよ〜」
「知りませんっ」
そのあとを、さして慌てた様子もなく孫策が続いていった…。


ほんの僅かな間、虞翻は当時のことを思い返していた。ふと我に帰った彼女は、傍らの呂岱に問い掛けた。
「ああ、そういえばあの頃、君はまだ中等部に入ったばかりだったっけ?」
「ええ。運良くというか悪くと言うか…中等部志願枠に入ってすぐですよ。次の日にいきなり、部長がリタイアですからね。お陰でまた一般生徒に逆戻りで…」
「それもすごい話ね」
「部長も、一日しか参加していなかったあたしのこと、すっかり忘れてたみたいだったし」
呂岱はそう言って苦笑する。
「どうかな…仲謀部長のことだから、わざと知らないふりをして、君のことを試したのかもね」
「そうですかね?」
「あの娘はよく気のつくいい娘だよ…あ、今や平部員の私がそんな言い方をしたら、いけないか」
虞翻はそう言って、少し寂しそうに微笑んだ。
でも、呂岱はそれを咎め立てる気にはならなかった。彼女は十分理解していたのだ…目の前の少女が、その風説とは裏腹に、孫権とは深い信頼関係で結ばれていると言うことを。
そして、その身を案じてやまないからこそ、虞翻が今の立場を受け入れていることを。

677 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:51
-蒼梧の空の下から-
第二章 「少女の檻」


実は呂岱も、元々虞翻と気の合う方ではない。
そもそも虞翻はその難儀な性格ゆえか、本音で語り合えるような友人というものが少ない。先にこの交州に左遷され、間もなく課外活動から引退した陸績、劉備の元で蜀攻略に参加した「鳳雛」ことホウ統…あるいは、いまやほとんど連絡も取らなくなった王朗くらいが、彼女にとって“友人”といえる存在だった。
虞翻は多くの有能な少女たちにアプローチをかけ、その少女が大成するよう世話を焼いたことも少なくはない。しかし、そうした少女たちもまた、彼女を尊敬することはあっても、親しく付き合うまでには至らなかった。あるいは虞翻自身が己の性格と、鼻つまみ者である自分との関わりが足枷にならぬよう、わざとつき離していたせいもあっただろう。
だから呂岱も始めは、あまり彼女に関わらないようにしていた。

「突然で、なんですけどね」
「ん?」
暫くの沈黙の後、呂岱はそういって切り出した。
「あたしも始め、やっぱり仲翔先輩のこと、とっつきにくい人だって…正直、あまり関わりたくないと、思ってました」
「…随分はっきり言うじゃないの」
「すいません…でも、これだけはどうしても言っておきたくて…あたし、最近よく思うんです。もし先輩が裏から色々と手引きしてくれなければ、今此処にこうして居れなかったんじゃないか、って」
その思いつめたような表情に、虞翻は呂岱が何を言わんとしているかに気がついたようだった。
「…考えすぎだよ。交州平定は君や子山の成し遂げた功績…私には何の関わりもないわ」
「その子山先輩名義で来てた手紙だって…よくよく考えればあの先輩がマメに手紙を書くような人じゃない事だって解るでしょう! 仲翔先輩、本当はあなた、部長のために敢えて罪を…」
そこまで喋りかけたところで、その口に指を当てられた。不意を突かれて呂岱は思わず口を噤む。
「それ以上は言わないで、定公。それはあくまで、私の我侭でやったことだから」
言いながら、虞翻は頭を振る。その口調は何時になく穏かな、それでいて何処か寂しげだった。


「…本気、なんだね…仲翔さん」
「ええ。是非ともその大任、私にお任せいただきたい」
人払いの済んだ…常に孫権の元に同席している周泰や谷利の姿すらないその部屋で、虞翻と孫権は二人きりで居た。
「既に子布先輩の許可も頂いています。あとは、部長の指示次第です」
「でも…それじゃあ仲翔さんは…」
「覚悟の上です。それに、変に肩書きがないほうが隠密行動の上では便利ですよ。それに、私と部長の関係が表面上巧くいっていないからこそ取れる戦法ですし…皆も、私が交州に流された所で、誰も異を唱えることはしないでしょう」
「だって…そんなのって…ねぇ、やっぱり考え直してよっ…ボクにはそんな残酷なこと、できないよ…! 伯符お姉ちゃんの時から、仲翔さんたちがずっとずっと裏方を支えてくれたからこそ、今の長湖部があるって…皆だってちゃんと解っているから…だから…そんな事言わないでよっ…」
泣きそうな表情で、虞翻に取りすがる孫権。
帰宅部連合との全面戦争、そしてその隙を突いた蒼天会の急襲。そのふたつの危機を乗り切ったとはいえ、それがために長湖部勢力下の政情は非常に不安定なものだった。
それまで鳴りを潜めていた反乱分子、あるいは山越高校の不良たちの暗躍が再燃し、それに同調する形で交州学区にも不穏な空気が渦巻いていた。それでも、士一族の棟梁格である士燮がいたうちはまだ良かった。彼女が大学生活の合間を縫って、その妹や親戚の少女たちの不満をなだめていたおかげで、爆発寸前の士一族はまだ抑えられていたのだ。
しかし、彼女が協力してくれる期限も残り僅か。この局面で交州勢力が暴発すれば、三度長湖部崩壊の危機だ。
この危機に虞翻は、先だって交州入りし、後に士一族勢力の根絶をも視野に入れた交州平定の人的な橋頭堡を作る策を提言した。
しかもそのために、自ら平部員として赴くことも併せて、である…。
これには孫権もかなりの難色を示した。表面上、孫権は何処か、苦手とする張昭によく似た虞翻を快くは思っていなかった。張昭同様、姉・孫策の信頼していた少女たちであり、実際長湖部に必要な人材だからと割り切って付き合っていた。
だから…孫権は虞翻が己の一身も省みず、自分のために尽くしてくれる覚悟を聞かされたことで、明らかに当惑していた。
「…私は…長湖部の危機を、既に二度も見て見ぬふりをしてしまいました」
虞翻は孫権を抱き寄せると、静かにそう言った。
「え…」
「赤壁島の時と、今年の夷陵回廊と…私は、あなたと長湖部に尽くすという、伯符さんとの約束を二度も破ったのです。私は、公瑾や伯言のような勇気のある人間じゃない…でも、今度も見て見ぬふりをしてしまえば、私には伯符さんに合わせる顔がないから…」
「仲翔、さん」
「だから、征かせてください」
寂しげな笑みだったが、その瞳には悲壮ともいえる決意があった。
「…解ったよ」
孫権は止めても無駄だということを悟り、その意思を尊重した。その瞳から大粒の涙が溢れ、抱き寄せてくれた少女の胸に、その顔を預けた。

翌日。
彼女は孫権や張昭との打ち合わせ通り、パーティが盛り上がりを見せたところで暴言を吐き散らすという暴挙に出て見せた。シャンパンのアルコールが効きすぎた上での失態と周りが取り成したが、それでも孫権は彼女を許さず、即時幹部会の任を解き、交州往きを命じたという。
このとき、彼女と親しかったはずの敢沢すら彼女を庇おうとはしなかった。敢沢はこの事件について多くを語ろうとしなかったが…恐らくは、この事件が彼女たちの仲にヒビを入れたのだろうと噂された。その真実は、明るみに出ることはない…。

678 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:52
「本当に…これで良かったんですか、仲翔さん…」
「ええ…ごめんね、君や伯言にも不快な気持ちにさせてしまって」
そのパーティから数刻の後、荷をまとめる虞翻の元を敢沢が訪ねてきていた。
「構いませんよ。それにアイツには、折をみてあたしから事情を話すつもりだし」
「そんな必要はないよ。むしろ、私のことなんて忘れてもらったほうが良いかもしれない」
「そんな…」
実のところ、虞翻は予めこのことを敢沢に打ち明けていた。
彼女も思いとどまるよう口を極めて説得したが、結局は折れた。敢沢も一度決めたら梃子でも動かないという虞翻の性格を良く知っていたし、むしろ敢沢自身も夷陵回廊の時何も出来なかった無念があったため、虞翻の気持ちは痛いほど解ってしまったのだ。そうなると、もはや止めるべき言葉も出て来なかった。
「それに皆、僻地だというけど…高望みの受験をする場合、むしろ中心街から離れた静かなところのほうが受験勉強には良いかも知れないしね」
珍しく、冗談めかした台詞が、その口から飛び出した。
敢沢の瞳には、その寂しげな笑みが、柄にもない冗談が…その仕草の総てが、痛々しいものに映った。

さして多くもない身の回りのものを、一通りまとめ終わると、彼女は待たせてある配送屋にその荷物を託し、部屋を後にした。
「…徳潤、部長のこと…よろしく頼むよ」
「ええ…仲翔さんも、お気をつけて」
それきり虞翻は振り返ることなく、住み慣れた会稽の寮を後にしようとした…その時だった。
目の前に、ふたりの少女が駆けて来るのが見えた。
「…部長…それに子瑜まで」
「仲翔さんっ!」
飛びついてきた孫権の勢いに思わずよろけそうになったが、彼女は何とか踏みとどまってその体を抱きとめた。
その腕の中で泣きじゃくる孫権をなだめながら、ようやく追いついてきたクセ毛の少女−諸葛瑾を見やった。
「これは…どういう事、なんだろうね?」
「聞きたいのは私のほうよ…私はどうしてもあなたの交州左遷に納得がいかなかった。子布先輩や徳潤まで何も言わないし、それを部長に問いただそうとしただけよ」
諸葛瑾の表情は何時になく険しい。
「ねぇ、どういうことよ! 一体どうしてこんなことに…!」
「ごめん…これは、私の我侭なんだ。私も、自分の身を切り捨ててでもこの娘の…長湖部の力になりたい」
「…!」
その一言と、後ろにいた敢沢の表情から、諸葛瑾も何かを悟ったようだった。
「やっぱり…狂言だったのね」
「ええ。どうせ私がどうなろうと気にする人なんてそう多くないと思ったけど…念には念を入れて」
「…馬鹿よ、あなたは」
俯いたその瞳から、大粒の涙が地面へと吸い込まれていく。
「あなたは他人だけじゃなくて、自分自身も傷つけなきゃ気が済まないなんて…本当の馬鹿だわ…」
「否定はしないわ…それが、私だから」
口ではそう言ったが…虞翻はその心の中で、ただ純粋に自分のことを心配してくれていた者がいた事を嬉しく思うと共に…己の預かり知らぬところで、そんな存在を傷つけてしまったことに慙愧の念を禁じえなかった。
ただひたすら、心の中で謝り続けることしか出来なかった。


「私…先輩が部長に当てた手紙、見てしまったんです」
「え?」
「部長が長湖部を生徒会執行部組織として独立したとき、仲翔さんが部長に当てた手紙を、です」
その正体に気がついた虞翻は、思わず大声をあげてしまった。
「ちょっとちょっと…あの手紙見られたの? ていうか人様の手紙盗み見るのはあまりいい趣味じゃないわよっ」
「あ、やっぱり恥ずかしいモンなんですか? 確かにちょっと、ラブレターっぽかったですしね」
「あんたねー!」
顔を真っ赤にして、照れたような怒ったような口調で呂岱を責める虞翻。以前の彼女ならそれこそ人の肺腑をえぐるようなキツい一言が飛んで来るところだろうが…彼女の言葉が以前よりずっと丸くなったのも、余計な肩書きがなくなったせいだけでないのかも知れないと、呂岱は思った。
「あはは…すいませんってば。…でも、確かにあの手紙で私も、ずっと仲翔先輩のこと誤解してたんだって思いました。でも、それだけじゃなくて」
全然本気ではないけど、しつこく小突いてくる虞翻を宥め、呂岱は続けた。
「あのあと、私はふと気がついて、今まで子山先輩名義で届いていた手紙を引っ張り出したんです。あの手紙を見なければ、今まで子山先輩からだと思い込んでいた手紙の、本当の送り主も知らずにいたかもしれません」
「そう…私かなり練習したんだけどな、子山の筆跡」
「なんとなくですけど…字の運びとか違和感は感じてました。でも倹約家の子山先輩が、あんなマメに手紙を書く人だとは思ってませんでしたから、だからさして気にしてはいなかったんです」
「そっか…そうだったわね」
虞翻はそれを聞いて、ため息を吐く。
あまり親しくもしていないから、そんなちょっとしたことも忘れてしまっていた。そのことが少し寂しかった。
諸葛瑾のことにしてもそうだ。
彼女なら、どんな点からでも、どんな僅かな長所であろうと、見逃さずに褒めてくれる様な心の優しい少女だということを忘れていたのだから。
「私は…私が思っている以上に、周りに対して無関心に過ごしてきたんだね…」
そう呟いた彼女の表情は、涙こそないものの、泣いているように呂岱には思えた。

679 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:53
-蒼梧の空の下から-
第三部 「還るべき場所」


「これって…どういう事?」
「さぁ…私はただ、部長にこれを届けてくれって頼まれただけなんですが」
交祉棟の執務室で、呂岱はそれを受け取ると、その意味をはかりかねて首を傾げる。
なんでもない、一通の手紙。
問題は、その宛名が部長・孫権宛だった事、そして、差出人の名前が…。
「あの虞翻先輩ってところが、どうも引っかかるのよねぇ…」
「ですよね」
虞翻が常々孫権の意向に反した言動を取り、ついには年度始め、帰宅部や蒼天会との悶着がひと段落ついたところで、孫権の怒りを買って交州流しにあったことを知らない長湖部員はいない。ただ、御人好しの権化ともいえる諸葛瑾ひとりが、最後の最後まで彼女のことを取り成した以外、誰も彼女を庇ってくれるものがいなかったという話も。
「とりあえずそのまま渡しに行くのも怖かったんで…此方にお持ちしたんですけど」
「好判断だわ。今、長湖部の独立政権樹立に向けての準備に忙しい折…こんな時に部長の機嫌を損ねられても困るしね…解ったわ、コレは私が預かっておくわ。もし行方を聞かれたら、もう出したとか何とか行って誤魔化しておいて」
「解りました」
手紙を持ち込んだ少女は、その手紙を呂岱に宛がうと、一礼して執務室を退出した。その顔が、来た時の困りきった表情から、あからさまな安堵の表情に変わったのを見ると、呂岱も苦笑するしかなかった。
「ったく…こんな僻地に居ても、周りの顔色変えさせ続けるなんてたいした先輩だわ」
その手紙をひらひらと弄ぶ。
今度はその手紙を宛がわれた呂岱が困る番だった。受け取ったはいいが、相手が相手だけに一体どんな内容なのかを考えるだけでも悪寒が走る。
孫権は相変わらず張昭と、年齢と立場の垣根を越えたバトルを展開する毎日。別に虞翻が張昭と仲が良いとかいう話も聞かないが、このふたりの言うこと成すことは何処か似ていから、どうせ碌なことは書いてなさそうだと、呂岱は思った。
(でもそう言えば、私はっきりと虞翻先輩が部長に何か言ってたの、見たことないのよね)
そうである。
長湖幹部会のことなんて、それ以外の人間には噂話でしか聞こえてこないのが常だ。虞翻の毒舌ぶりだって、噂でしか聞いたことがない。
確かにとっつきにくそうな人ではあったが、直接何か言われたわけでもない。それどころか、口を利いたことすらなかった。
(…なんかそう思ったら、ちょっと見てみたい気が…)
人様の手紙の内容を覗き見るのはマナー違反のような気もするし、ちょっとは心も痛んだりするが…留まる所を知らない好奇心がそれを押し切った。
(これもこの地の風紀を守る総代としての責任…災いの芽を摘み取るためだからね)
そんな建前をつけ、とうとう呂岱はその手紙の封を切ってしまった。

それを読んでしまったことで、深い感銘と、深い慙愧の念を同時に抱く事になるとは知る由もなく。

「そんな…そんなことって」
彼女は普段は整えていた本棚の中身をひっくり返し、その中心で呆然と呟いた。
その目の前には、数え切れぬほどの手紙をばら撒いて。
その宛名から、どれも同一人物によって書かれたものだと推測される。そして、件の手紙とは字の細さは全然違うが、その筆跡は同じことに気づいた。
今まで、その宛名を鵜呑みにしていた彼女は、それがまったく違う人物の手によるものであったことを知り、愕然とした。
それと共に、その手紙の真の差出人に対して、自分が今までとってきた態度を思い返し、自分の不明が情けなく思えてきた。
その人物は、己を殺し、あとからやってきた自分がやりやすいように、実に細やかな心配りをしていてくれたというのに…それを知ることさえしない自分がたまらなく恥ずかしかった。
(こんなに…こんなにも、誰かのために尽せる人だったなんて)
知らず、涙が溢れてきた。
(こんなにも…部長のことを、好きでいてくれているなんて)
いてもたってもいられなくなった呂岱は、執務室を…交州学区を飛び出していた。
その手に、件の手紙を握り締めて。

680 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 00:53
「そっか…気づかれちゃったんだね」
それから小一時間後、呂岱は建業棟にいた。
目の前には、長湖生徒会の座に就任したばかりの孫権。その手には、虞翻が寄越した一通の手紙がある。
その手紙をいとおしそうに眺める孫権の姿に、呂岱は衝動的に地に手をつけ、その額をリノリュームの床に押し付けた。
「申し訳ありませんっ…」
「…え?」
「私は…私は衆目の邪推を間に受け、先輩の真情も知ろうともせず、あまつさえ総代の地位を盾にそれを踏みにじりました…! そして、今まで先輩が影ながら助けてくださっていたことも知らず、己の功績ばかりを鼻にかけて…私のような人間が総代など、おこがましい話…なにとぞ!」
その表情はわからないが、激昂したその声には嗚咽が混ざっていた。
「私の如き菲才ではなく、是非とも仲翔先輩に…!」
「駄目だよ」
穏かだが、はっきりとした否定の響きを持つその声に、呂岱は思わず顔をあげた。孫権の視線は、その手の中にある手紙からまったく動く気配がない。
「仲翔さんは、きっとそんなの喜ばない…ボクだって何度も仲翔さんをこっちに帰してあげたかった…でもね、自分はもう十分働いたから、どうかこのまま卒業まで居させて欲しい…って。もう自分の出番は終わったから、これからの長湖部を担う子達の席次を、私なんかに与えないでくれって…」
言葉と共に、孫権の碧眼からも涙が伝わり、落ちてゆく。呂岱は、その涙に孫権の真意を見た。
「ボクはそれ以上何もいえなかった。ボクだって、あの人のことずっと誤解してたから…理解しようとしなかったから。だから、最後くらいは、あのひとの望みをかなえてあげたいんだ」
「…はい…」
呂岱はただ、頭を下げることしか出来なかった。


「そっか…あれはちゃんと、部長の下に届いていたんだね」
「…本当に」
座ったまま大きく伸びをする虞翻に、俯いたまま呂岱が問い掛けた。
「先輩は本当にこのままで良かったんですか…? あなたなら、私なんかよりずっと総代として相応しい才覚を持っている…その気になれば、始めから総代としてこの地に赴き、平定する事だって出来たはず…」
「…性に合わないんだ、そういうの」
跳ねるように立ち上がり、もうひとつ伸びをしながら言う。
「私はやっぱり、こういう裏方仕事のほうが好きなんだ。それにさ」
そして棍を一振りし、それを担いで振り返る。
「私には決定的に人望ってモノが欠けているからね」
「そうでもないと思うよ?」
不意に背後から、酷く懐かしい声がする。呂岱も思わず目を丸くした。
恐る恐る振り返った、その視線の先には…。
「部長…それにみんな」
その視線の先には、孫権を筆頭に、彼女が交州へ赴く直前の幹部会メンバーが居た。
ただし、家の事情で既に学園を去った駱統と陸績はおらず、その代わりに潘濬と陸遜がいたのだが。
虞翻はこの突然の事態に、言葉を失った。

「あなたは冗談だけじゃなくて、芝居を打つのも下手だってことなのかしらね…まぁ、アレは私の立案だから言えた義理ないけどさ」
「およ、ご自分のことはちゃんとお解かりでしたか大先輩」
張昭の一言にすかさず茶々を入れる歩隲。その隣では顧雍と薛綜が納得したように頷いた。
「まぁ子布先輩の独りよがりは今に始まったことじゃ…」
「なぁんですってぇ〜!」
厳Sが余計な追加攻撃を叩き込むが早いが、張昭の怒りが爆発し、蜘蛛の子を散らすように散開する少女たちを追っかけていく。
「…ったく、アイツは何時も一言多いんだから」
「まったくですね」
逃げ惑う少女たちのきゃーきゃー言う声と、ヒステリー全開の張昭の声をBGMに、諸葛瑾と敢沢が呆れたように呟く。
視線のその先では、立ち位置のせいで無理やり巻き込まれた感のある潘濬が張昭に捕まっていた。
「…どうして」
虞翻はようやく、それだけの言葉を喉からしぼり出すことが出来た。相当に感情が高ぶっているのを最大限に抑えたような、震えた声だった。
「どうして、こんなところへ来たのよ…こんなところ、せっかくの休みの日にくるようなトコじゃないでしょ…?」
「どうして…って言われても」
「ねぇ」
手前に居た陸遜と孫権が顔を見合わせた。
「会いたくなったら、会いに来ちゃいけないんですか、先輩?」
「そうだよ〜」
その笑顔を見たら、もう歯止めなんか利くはずもなかった。
人目もはばからずに、まるで幼い子供のように大声をあげて泣き出した“仲間”の姿を見て、張昭たちも追いかけっこを止めて微笑を浮かべていた。
「話には聞いてましたけど…現物は凄いですね」
潘濬が感心したように呟くと、
「“泣きの仲翔”は健在、って所かしらね」
「あ、巧いこと言いますね。それいただき」
張昭と歩隲がそう付け加えた。その隣で、珍しくそれと解るほどの微笑を浮かべた顧雍が頷いた。


その日の夜。
彼女は別れ際、孫権から手渡された一通の案内状を、飽きることなく眺めていた。
約一ヶ月後に控えた長湖部体験入部、その案内状だった。しかし彼女はその裏側…本来何もない面を眺めている。其処には、孫権が書いたと思われるもうひとつの“案内状”があった。
曰く『そのあと、みんなで打ち上げをやります。先に引退した人もみんな呼んで楽しくやりたいから、絶対に来てね』と。
「…打ち上げ、か」
そろそろ、学園生活も終わりに近い。
一匹狼で居るのにもいささか飽きていた彼女は、このまま、誰とも打ち解けずに学園を去ることが寂しいと思うようになっていた。
「推薦入試の結果ももう出てるし…楽しみだね」
呟いて、彼女は目を細めた。
もう既に、その心は一ヵ月後に飛んでしまっているようだった。

その飲み会で何が起こるかなんてことは、今の彼女には知る由もなかっただろうが…。

(終わり)

681 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 01:13
というわけで、こんなお話。

実は虞翻左遷の裏には何かしらの意図があったんではないか、っていう話が、いつか立ち読みした三国志関連の書籍にあったんですよ。その書名は忘れちゃったんですけど。
それを読んだ時「ああ、こう言うのがネタでも良いかもなぁ」とか思ったものですが、当時は色々あって一本の話に練り上げるまでに至らなかったのです。

何せ、海月がいちばん最初に上梓した「風を継ぐ者」を書いてた頃の話ですから(^^A

>互角に見えて…
あ、確かに。「三国志]」の能力値見ると本当にそんな感じがします。
そう言えば、「三国志]」の王昶と陸凱、能力値構成似てませんかね?よく見ると。

>歩さんとか虞さんとか
解りやすい答えを引っ張りすぎて本当すみま(ry
次は陸胤の話っつーことでどーですかね?

>王昶付記
まぁなんつーか、ナイスな性格ですね。海月の貧相な語彙で巧く表現するにはアレが限界です…。

>丁原
むしろそのギャップが良いと思うんですよ(^^
いや、それこそ本当に巧いことやりましたね。それこそ脱帽ですわ。

682 名前:北畠蒼陽:2005/06/17(金) 02:27
>海月 亮様
虞翻お見事です!
いやぁ、なんというか私が長湖部メンバーの中で虞翻左遷後の話は書いてみたいなぁ、と思ってたんでたまたま予想が当たってしまっただけです^^;

>互角に見えて…
言い方変えれば『誰とでもライバル足りえる存在』って感じですかね。
陸凱ってのはそんなひとのような気がします。
で、能力値、確かに似てますね(笑

683 名前:雑号将軍:2005/06/17(金) 20:13
>海月 亮様
流石は海月 亮様!僕では足下にも及びませぬ。まさにお見事!この一言に尽きます。
虞翻・・・・・・横山三国志しか読んだことがない僕では影の薄い方で。実は三國志でも袁紹→新武将とプレイするので、登用する機会がないんですよ。
でも、彼女?が登用できるなら、今度は孫策あたりでプレイしてみようかと考えたり。
僕は歩隲かな〜と思ってたので。虞翻とはダークホースでしたっ(いや、僕に三国志の知識が足らんだけか・・・・・・)!

>丁原の設定
いや、あの、すごいのは僕じゃなくて、アサハル様でして・・・・・・。詳しくはアサハル様の学三コミックの方に。
こう考えると今回僕が書かせて頂いた作品、皆さんの設定を借りまくっているような・・・・・・。みなさん、すみません・・・・・・。

684 名前:海月 亮:2005/06/17(金) 23:15
>仲翔さんといえば…
まぁ横光だと、王朗の小鳥を逃がした人。そんな程度でしたしね。
「蒼天航路」じゃもっと影が薄いです。

「三国志]」の虞翻は何気にスゴいですよ?提督とか医者とか持ってるし。


>コミック
ああ…あの伝説の飲み物の…(((;;゚Д゚)))ガクガク

685 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:30
「……って知ってるぅ?」
「はぁ?」
李崇は唖然として部長……孫権の言葉に頷くことも出来ず、語尾を上げて聞き返した。
その態度はいささか礼儀知らず、といわれてもおかしくないものであったが当の孫権は気づかないようで『ちょっと会ってみたいかもね〜』などと言っている。
李崇は孫権の目をまじまじと覗き込んだ。
まだ孫権が精神不安定状態から脱却していないかと思ったのだ。
しかし李崇の思惑に反し、孫権の目は明らかに正気だった。李崇はさらに愕然とする。

――正気でそんなのがいると思ってるのッ!?

いや、いやいや。もしかしたら自分の聞き間違いかもしれない。
そうそう、自分の聞き間違いだとしたらなんの問題もない。
「あの、部長……あの、もう一度、おっしゃってもらえます?」
李崇の言葉に孫権はにっこりと笑っていった。
「揚州校区の臨海棟に美少女宇宙刑事がいるんだってさ♪」

李崇はかなり死にたくなった。


戦え☆美少女宇宙刑事 王表!
第7話『きゃっ♪ 部長さんに会っちゃった☆』


そんなわけで李崇は臨海棟にいた。
なんで自分がこんなところにいるんだろう、とかそういうことは何度も考えたけどもう考えるのはやめた。
んっと、名前は確か……
棟長に『美少女宇宙刑事』とやらを探させてる間に棟長室の柔らかいソファに寝転がって李崇はその資料をぼんやり眺めた。

名前は王表。
普通の日本語をしゃべり、普通のご飯を食べるが、ややマヨネーズが好きらしい。
授業にはあまり出ていないらしくクラスに姿を見せることはまれらしい。

――普通のひとじゃんッ!

李崇はこれまで何度も繰り返した心の中のセルフツッコミを敢行する。
「あの……李崇さん」
「ん、あ、あぁ。見つかった?」
物思いにふけっている間にいつの間にか帰ってきたらしい棟長の言葉に李崇は現実に強制的に引き戻された。
「えぇ……見つかっちゃいました」
棟長は言外に『見つからなければよかったのに』と雄弁に語りながら残念そうに頷いた。
その気持ちは今の李崇にはよくわかる。
「大丈夫。あとは私が引き受けるわ……よくがんばったわね」
「すいません、お願いします。私じゃもう無理です」
完全に弱気に陥ってしまった棟長を痛ましく眺めながら……
李崇はその背中に隠れるようにしている小柄すぎる人影を見た。

686 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:31
どピンクの塊だった。
頭の後ろに巨大すぎるリボン。顔よりリボンのほうが大きいのは問題じゃないのか?
すでに改造、という範疇に入っているのかどうかすらわからないピンクの制服。
スカートは膝上25cm……短すぎないッ!?

その人物は明らかに規格外だった。

「えっと……あなたが王表、さん?」
「そうですよこんにちはーっ☆」
くぁッ!? なんでそんなに元気なのよッ!?
「あのね、孫権部長があなたに会いたいんだってさ。もしよければ一緒に来てくれないかな?」
断れーッ! 断れーッ! と心の中で祈る。
「喜んでーっ☆」
祈りは通じなかった。
「そ、そう」
……であれば一番言いたくないあの言葉も言わざるを得ない。
部長の命令だ、本当に仕方ない。
「王表さん、あなたを輔国主将に任命します」
「ほ、輔国主将ーッ!?」
李崇の言葉に棟長は顔色を失わせ、壁にふらふらと力なく寄りかかった。
気持ちはよくわかる。
「あ、あの……李崇さん、参考までに輔国主将って俸禄はいかほどですか?」
顔を蒼白にさせ棟長は李崇に尋ねた。
聞かなければいいのに……
李崇はその絶望に満ちた顔から目をそらし、ゆっくりと口を開く。
「俸禄は大してあなたとかわらないわ……でも権威的には部長付官僚の私と同格。あなたよりはるかに上」
「……あぁ」
棟長は泣きそうな声で呻いた。
かわいそうに。
一方の王表はにこにこ笑いながら……
「わぁい☆」
……喜んだ。

「……で、キミが王表ちゃん?」
「そうですよこんにちはーっ☆」
このやり取りはどこかで聞いたことがあるような気がする。
李崇はそう遠くない過去に思いをはせた。
問題は王表にそれを確認しているのが私ではなくて部長、ってこと。
諸葛恪をはじめとする諸官僚の愕然としている様がよくわかる。
「へぇ〜、すっごいね〜♪」
「えへへ〜、部長さんにほめられちった☆」
……なんなんだ、この頭の弱そうな会話は。
「じゃあさっそく本題で悪いんだけど……」
部長がまじめな顔になった。
なんだ? なんだ、その本題ってのは……?

「変身してもらおうかな♪」

687 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:32
はぁーッ!?
声すら出せずに自分も含めた諸官僚が固まりつく。
へん……なんだって?
へん、へん……
あぁ、返信の聞き間違いか?
でもそれにしては文脈おかしくない?
じゃあ文脈にあった『へんしん』ってなにさ?
『変身』……かなぁ?

諸葛恪が自分を睨みつけているのが見えた。
いや、私だって変身なんてはじめて知ったんだってば!

「他ならぬ部長さんの頼みですっ! 王表ちゃん、がんばって変身しちゃいますよーっ☆」
が、がんばるなーッ!?
「じゃ、ちょっとスペースあけてもらっていいですか? あ、そこのロバ子さん、2歩くらい下がってくださぁい☆」
ロバ子さん呼ばわりされた諸葛恪が釈然としない顔で言われたとおり下がる。
怒る気すらないらしい。
「じゃぁ☆」
王表がなにやらかわいいポーズをとる。
孫権が胸の前で握りこぶしを作ってわくわくしているのが横目に見えた。

「スペースノイドポリス! プリティパワーでメイクアーップ☆」
李崇が一生かかっても言えそうにないような言葉を平然と口にした王表が光に包まれる。
ふりふりの服が光の中で輪郭をぐんにゃりと形を変え、体にぴったりしたものに置き換わっていく。
やがて光が収まり、王表の姿が李崇たちにも見えはじめる。

奇妙な形のフルフェイスヘルメット。
コーティングされたバイザー越しに王表の笑みが透けて見える。
腕や両足などが金属? なのかどうかすらよくわからない材質に覆われている。
ボディラインもよくわかるような鎧? の右胸にはかっちょいいエンブレムが燦然と輝いていた。

「愛と☆」
(ポーズ:ビシィッ!)
「勇気の☆」
(ポーズ:ビシィッ!)
「美少女宇宙刑事、王表ちゃん! 悪い子はおしりぺんぺんよ♪」
(BGM:ちゃーちゃっちゃっ♪ ちゃーちゃっちゃっ♪ ちゃちゃんっ♪)

……コメントしようがない空気の中、誰かが手を叩く。
誰か、というか具体的には孫権。
「すっごーい! すごいすごいー♪」
いや、すごいことはすごいが……
「どうやって変身してるの?」
「それはβイナンモナンソ波動のせいですー。そんな見つめられると王表ちゃん、恥ずかしいですっ☆」
「すっごーい! すごいすごいー♪」
ご満悦すぎな孫権とポーズのまま照れる王表。
なんなんだ、この空間は。

不意に李崇の肩がポンと叩かれた。
後ろを振り返ると諸葛恪が疲れたような顔をして眉間を揉みほぐしていた。
「李崇、あとで校舎裏まで付き合いなさい」
……私が悪いのぉッ!?

688 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 12:33
王基の場合を書くつもりだったんですけどその前にネタが思い浮かんじゃったんで。すいません。反省してますorz
やらなきゃよかった、とかちょっと思いました。後悔しても遅いですねそうですねorz

こりゃ孫盛さんに邪神いわれても文句いわれないわ(ぇー

あ、ちなみに1〜6話はロストしました(ぇー

さらに補足。輔国主将っつったら蒼天の大カムロ、曹騰やら長湖部に引導を渡した龍驤主将、王濬やらと同格ですね。げんなりはふん。
うわ、丁原も同格だわorz

689 名前:雑号将軍:2005/06/19(日) 14:00
>北畠蒼陽様
お疲れ様です!これまたすばらしき作品で。なんか、李崇がかわいそうになりました。
きっと諸葛恪に存分にいたぶられるのでしょう・・・・・・そんな姿が思い浮かんでみたり。
王表、学三では凄まじいキャラになりそうです。

690 名前:海月 亮:2005/06/19(日) 14:53
>宇宙KG
うーわまさかこんな一撃で来られようとは…。
てか魔法少女とか魔女っ娘じゃなくて、美少女宇宙刑事ってとこがミソですかね?
何気に魔法少女は顧雍っていう前例があるわけだし…w

あと、あのBGMってもしかしてギャ○ンですか?


海月はネタが尽きたので暫くは見る側にまわります…。
というか朱績(施績)と虞姉妹描きたいので(オイ

691 名前:北畠蒼陽:2005/06/19(日) 15:07
>雑号将軍様
いや、無理無理。
これ、すばらしいとかいうの無理。かいかぶりすぎデス(笑
スレッドでも最近シリアス物が続いてる中での久々のギャグだったんでやや滑りました(やや、か?
王表、はじめて正史読んでまず読み流して10秒後に気づいてその行をもう一回読み直して
( д )             ゚     ゚


あと李崇なむ。

>海月 亮様
ギャフンですか!
ごめんなさい冗談です。
ちょうど直撃その世代です。
ただそのわりにはBGMとかまったく覚えてないですねぇ……
BGMは『ありがち』な感じで(笑

最初は美少女戦士にしようかとも思ったんですがそれだと……ねぇ?
いろいろ水兵服のひとらが……ねぇ?

692 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:27
「……進め! 全員、自分の横は見ず、ただ前だけを向いて戦いなさい!」
苛烈な命令が少女の口から飛ばされる。
敵と少女の率いる部隊が真正面からぶつかり合った。
しかしその人数差は圧倒的に少女の側が上回っている。
敵はその圧力を耐え切れずに……
そう、もうじき壊走をはじめることだろう。
少女の頭はそれをどう追撃するか、ということにすでに意識が傾けられていた。
「珍しいですね」
部下が少女に声をかける。
「あなたがまさかあんな命令を出すなんて」
少女は部下の言葉の意味を一瞬、考え、頷いた。
「……あの、『進め』ってこと?」
いかにも優等生然としたその風貌からそんな言葉が出てくるとは考えにくいことであるし、事実、珍しいことでもある。
「……そうね。でも……まだ若いんだし、たまには無茶もしないとね」
少女……王基は前髪をかきあげながらうっすらと微笑んだ。


策を投じる者〜王基の場合〜


長湖部は揺れていた。
絶対的なカリスマである部長、孫権もその長きに渡る統治により水を淀ませている。
のちに二宮の変と呼ばれる事件により陸遜という稀代の名主将は放逐され、また部長、孫権ももはやすでに引退時期を考えている、という風のうわさすら流れていた。
そんな時期、荊・予校区兵団長の王昶が生徒会に1つの提案をした。
「孫権って最近、能力持ってる人間を次々トばしちゃって、しかも後継者争いなんかさせちゃってる状況みたいなんですよー。今のうちに長湖部を攻めたらいけるとこまではいけると思うんですよね。白帝、夷陵の一帯とか黔、巫、シ帰、房陵のあたりなんて全部、長湖のこっち側ですからね。あと男子校との境目だから混乱も起こしやすいし。今が攻め時、お得ですよ!」
生徒会はその進言を受け入れ、荊州校区総代の王基を夷陵へ。荊・予校区兵団長の王昶を江陵へ進撃させた。

荊州校区に熱風が吹き荒れる。

夷陵……
かつて劉備が当時、無名であった陸遜に敗れ、リタイアの遠因となった地。
その威容を眺め、王基はうっとりとため息をついた。
「……確かにこれは難攻ね。不落とは思わないけど」
陸遜はこの校舎を囮に劉備を引き付けておいて、大風の日を待ち、発炎筒を大量に炊きつけることにより混乱させるという奇策により劉備を打ち破った。
しかしそれもこの夷陵が大風の日まで持ちこたえる、という前提のもとでの作戦である。
夷陵が大風以前に陥落していたとすれば、それは作戦ではなくただの『世迷言』と分類させるべきものであろう。
「……げにおそるべきはこの校舎の防衛力、か」
もちろんそれは孫桓と朱然という2人の手腕であることは否定できない。
王基は手元の資料に目を落とす。
「……今の主将は……歩協? ……歩ってことは……あぁ、やっぱり元副部長、歩隲の妹なのね」
納得したように頷く。
歩協の実力は未知数だが……
まぁ、この土地を任されている、ということはやはり長湖部内ではそれなりに評価されているということで間違いないだろう。
だが……
「……なんなの、これ」
王基の顔が不機嫌そうに歪む。

693 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:28
夷陵棟の校門は厳重に閉ざされ、完全に守りに入っていた。
「……もしかして……劉備のときと同じ作戦とろうとしてるのかしら。もしそうだとしたら……私がそれに引っかかると思われてるのかしら」
「せっかくだから夷陵攻めのとき、劉備が拠点として使った馬鞍山に仮設テントでも張っちゃいましょうか」
王基のグチに部下の1人が軽口を飛ばし、王基は苦笑した。
発炎筒で大混乱大作戦大発動。
そんなばかな。

奇策は1回限りであるからこその奇策なのであり、それにこだわりを持つようなものではない。
「……まぁ、いいわ」
王基が肩をすくめる。
「……敵が弱いのは私の責任じゃないし」
そして校舎を睨みつける。
「……そして曹仁先輩や張遼先輩で生徒会の伝説のネタが尽きたわけじゃない、ってことを教えてあげなきゃいけないしね」

「なんとか……なる、かなぁ?」
かつて長湖部三君の1人に数えられた姉を髣髴とさせる風貌の少女がカーテンの脇から外を見、胃の痛みに必死で耐えていた。
歩協。現在の夷陵主将である。
戴烈と陸凱の救援隊がこちらに向かっていることは知っている。

一戦してよくわかった。
正攻法で勝てる相手ではない。
自分はもちろんのこと戴烈や陸凱でもどうなるかわからない。

もちろん王基が直前に言ったグチのように同じ作戦を取ろうとしているわけではない。
さすがにそんな作戦を再び取ったところで無理であろうことは当の歩協が一番よくわかっていた。
歩協の願いはただ1つ。

『夷陵』と『援軍の主将は陸の苗字』という2つのキーワードに怯えて敵に撤退してほしい、というだけであった。
しかし……
「あい……たたた……」
胃がきりきりと痛む。
カーテンから覗き見た敵の部隊はすごく士気盛んに見えた。
撤退は露ほども期待できそうにない。
「なんであんなにやる気なのよ……!」
歩協は神を呪った。

694 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:28
譚正は事務仕事に追われていた。
後方でのフォローなしにいかなる戦闘も機能しないというのは歴史の教訓といってもいいだろう。
譚正は後方校舎においての事務に精力を費やしていた。
「まったくぅ……私、安北主将よ? なんでこんな地味な仕事ばっかり……!」
毒づきながら書類をまとめる。
校舎の一室で譚正のグチとキーボードのカタカタという音だけが響く。
「歩協主将から食事の催促メールきてます。なんて返事しましょう?」
「あー、もう! カップラーメンでもすすってろ……!」
毒づきながらキーボードに指を走らせる。
1000人からの学生が篭城している中で、カップラーメンだけとはいえ当然備蓄は……
「あう……足りない」
譚正は呆然と呟いた。
正確に言えば足りることは足りるが今後、心もとない、というところであろう。
「ここでなんかあって、んで私に食糧輸送の怠慢があった、とかいわれるのもたまらないしなぁ……送っとくか」
譚正の呟きと同時に教室の外がにわかに騒がしくなった。
「なに!? 静かにしなさいよ、もう!」
バン、と机を叩いて立ち上がると同時にガラっとドアが開けられる。
開けたのは……見覚えのないような女だった。
肩のラインで髪を切りそろえた少女、その後ろには武装した少女の部下と思しきやつらもいる。
見覚えがない、ということは自分の部下ではない。
ということは歩協の部下か?
なんのつもりだ?
大量の疑問符が譚正の頭の中に飛び交う。
「なんなの、あんたたち!」
だから口にした質問は一番汎用性に富んだそれだった。
少女は譚正の言葉に少し考え……
「……こういうとき文舒なら『毎度おなじみ生徒会です』って言うんだろうけどね。別におなじみになるつもりはないけど生徒会荊州校区総代、王基っていうわ」
て、敵!?
……判断を下すより早く王基の部下が部屋を制圧していく。
竹刀を突き立てられ、誰1人としてまともな抵抗をすることもなく両手を上げる。
「……さ、いい子だからあなたも手を上げてくれるかしら? もちろん私は荒事は嫌いだけど『嫌い』というのは『やらない』というのと同義語じゃない、ってのはわかってくれてるわよね?」
歌うように囁きかける。
ちら、とさっきまで自分が叩いていたキーボードとパソコンを見る。
もちろんそこにSOSが書かれているわけではないし、そもそもメーラーが立ち上げられているわけもない。
メーラーが立ち上げられていたとして、そのメールを運良く送信することが出来たとしても、今の現時点での状況打破にはなりようがない。
譚正は嘆息し、両手を頭の上に上げた。
「降参だ」

「王基さん、これで撤退でいいんですか?」
「……うん、十分」
敵の後方支援を管理していた部隊をつぶしたのであればさらに粘れば夷陵も陥落させることが出来たのではないか、その思いを言外に滲ませながら尋ねる部下に王基は笑いながら答えた。
「……そろそろ敵も応援が到着するころだしね。応援に対しての備えは完成していない以上、しかも敵の地元だから地の利だって敵にある以上、長居してもいいことはないわ」
部下は王基の言葉に口ごもる。
確かに敵からしてみれば夷陵を簡単に手放すことが出来ない以上、応援とするのは『どんな状態にも対応できる手腕の持ち主』であろう。
そうなれば勝敗の行方はどうなったか知れたものではない。
「……それより早く帰っておいしいものでも食べようよ」
王基は笑いながらそう言った。

695 名前:北畠蒼陽:2005/06/26(日) 12:30
王基です。
州泰は書きようがないですね、あれは。
次はなに書こうかなぁ……

696 名前:雑号将軍:2005/06/26(日) 22:27
>北畠蒼陽様
王基編お疲れ様です。自分も新しい作品を書きたいのですが、テスト、テストがあー!!
すみません。取り乱してしまいました。
王基も伊達に荊州を任されてるわけじゃないみたいですね。
歩協・・・たしか、羅憲にやられた人でしたよね。この人ってあんまいいとこがないような・・・・・・。
王基、王昶・・・・・・蜀でいうと誰辺りがそれなんでしょう?呉懿とか張嶷、馬忠がその辺りだと考えているのですが。

697 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 00:14
「つわものどもが夢のあと〜、ってねぇ」
長髪の少女が歌うように呟き、そして寒さにコートの前を合わせる。
「夏草や、っていうにはちょいと寒すぎだねぇ」
苦笑しながら少女が振り向いた視線の先にはもう1人の少女が割れた窓ガラスを物憂げな表情で見つめていた。
「どうしたー?」
物憂げな表情の少女に前を歩く少女が声をかける。
「ん、いや……夢のあと、ね。仲恭はどんな夢を見てたのかな、って思ってね」
「しらーん」
アンニュイに染まろうとする空気を少女は一声で吹き飛ばす。
しかし外を見つめていた少女はその言葉にきっと眉を吊り上げた。
「仲恭は本当に曹家のことを考えてたんじゃないかって! もしかしたら私たちが仲恭を討ったのは間違……」
しかしその言葉は前を歩いていた少女の視線によって途中で止められた。
「それ以上言ったら私も聞いてない振りができなくなるわ」
2人の少女……王昶と諸葛誕は黙って対峙した。


乱世を見る方法


この月、北辺に割拠する公孫淵を攻め、さらに進んで高句麗高校にも遠征し生徒会内で実力、実績ともに抜きん出た存在であった毋丘倹が自身の勢力基盤であった揚州校区を中心として長湖部すらも巻き込んだ大叛乱を起こし、そして討伐された。
叛乱の理由はただ一点。
当時より蒼天会長、曹家を凌ぐほどの影響力を持っていた司馬師を除くため、であった。
すでに司馬姉妹は生徒会内でもはや誰も……蒼天会長すらも……太刀打ちできないほどの力を持っており、それに対し憤りを感じるものも少数ではなかった。
毋丘倹以前にも生徒会執行本部本部長の王凌がやはり揚州校区を中心に叛乱を起こし敗れ、そして今回の毋丘倹の失敗により……

……もはや司馬姉妹への流れ、という大勢は決していた。

「別に聞いてる振りをして、ってお願いしてるわけじゃないわ」
諸葛誕は腕を組み目を伏せる。
「ただ……仲恭の気持ちがよくわかる、ってだけ」
仲恭……毋丘倹は2人にとっても同期の友人であった。
2人は数瞬、毋丘倹に思いを馳せる。
「私には……仲きょ、毋丘倹の気持ちは欠片もわからない」
王昶は諸葛誕を睨みつけながら言い放った。
諸葛誕が驚きに目を見張る。
「私はね、公休。曹だろうが司馬だろうがどっちだってかまわない。ただ学園の平和のためなら戦える。どんな汚い真似だってできる……でも平和を乱す毋丘倹の行為は絶対に許せない」
王昶と諸葛誕が睨み合う。
「文舒、それは間違ってる。だったら今、司馬姉妹が蒼天会長を名乗らないのはなぜ? やつらは『部下として』『会長に』汚名を着せようとしてるだけ。許せるわけないじゃない」

698 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 00:14
王昶は思う。この目……まっすぐだな……
とてもうらやましいと思った。
そして自分がこれほどまでに汚れていることを悲しく思った。

諸葛誕は思う。自分の戦歴は負けで覆い尽くされている。
だから毋丘倹や王昶の才能に嫉妬を感じたことは一度や二度ではない。
それでも……と思った。

「はい、これまで」
首筋を撫でながら……先に視線を外したのは王昶だった。
「私は公休を手伝うつもりはない。でも邪魔はしない……がんばれ」
諸葛誕にとって王昶のその言葉は完全に満足のいくものではなかった。
だがそれでも王昶の考えからすれば最大限の譲歩なのであろう。
「ありがとう……」
そして諸葛誕は踵を返し、もう王昶のほうを振り返らなかった。

王昶はひらひらと手を振る。
振り返りもしない相手に手を振り続けることは自己嫌悪の裏返しか……
「……そんなに悲しいなら公休を止めればよかったんじゃない」
王昶の横から声が投げかけられる。
王基……醒めた瞳の少女が階段の上から面白くなさそうに王昶を眺めていた。
「いつから聞いてた?」
「……多分最初から」
王基がいることなどわかっていたのだろうあまり驚いた様子もない王昶のもとに階段を二段飛ばしで王基は歩み寄った。
「……公休、叛乱起こすだろうね」
「だね」
王基の言葉に王昶は無理に笑みを形作り頷く。
「……『乱』を嫌う文舒がそれを止めようとしないのはなぜか。『お姉様』とまで慕っていた王凌先輩のときも毋丘倹のときも」
「私たちの代じゃ学園都市の統一が難しいから……だから妹の世代、玄沖たちに実戦の経験をさせなければならない……ゲームでいえば公休はただの経験値」
呟き……王昶は顔を覆った。
「私は最低なやつだ! 学園の平和のためとか言いながら友達を売ろうとしている! 公休は私のことを信じたのに! なのに……!」
いきなり泣き崩れる王昶を王基は後ろから抱きしめる。
「……大丈夫。あなただけの罪じゃない。私も半分罪をかぶってあげる……半分こだもの、それほどの重みでもないでしょ?」
王昶の頭を撫でながら王基は他の誰にも見せないようなやさしい顔をする。
「……それでも重かったら荷物を地面に置けばいい。疲れが癒えたらまた歩き出せばいい」
「……」
ひとしきり泣いた王昶が一瞬、沈黙したかと思うと……ひらひらと手だけ上げてみせた。
王基は苦笑し、上がった手に自分のポケットから取り出したハンカチを持たせる。
王昶がそれを受け取り、そしてもぞもぞと動き……涙を拭いているのだろう……そして次に顔を上げたとき、もういつもの王昶だった。
「うん……んじゃ視察はここらで切り上げて帰ろうか。おいしいラーメン屋見つけたんだ」
ににっと笑い、そして王基に背を向けて歩く。
王基はその背中に笑みを見せ……
「……またつらくなったら泣き用の胸は用意しとくよ」
「ありがと」
前を行く王昶からそっと漏れ聞こえた言葉に王基は再び笑みを見せた。

699 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 00:32
ぐっこ様帰還記念!

もうなんつ〜か前にどこかで誰かが『各時代に名物チームがあった』みたいなことおっしゃってたような気がしますが、この時代の魏のキーマンはやっぱ王基&王昶だと思うのです。
なわけでこの2人好きなのデス。なんか他の時代の名物チームに比べて地味で(笑
あれです。
誰も応援してあげないから私くらいが好きでいてあげないとかわいそうじゃない!? ってやつ?(笑

まぁ、王昶とかもカンペキ超人じゃなくて普通の女の子なんでー、って話です。

ちなみに私の人物評価。

政治力
王昶>諸葛誕>王基>毋丘倹
諸葛誕が『自分が三公になるのは王昶のあとじゃろ? ギャワワー』といってるため王基よりは上と考えられる。毋丘倹はあの戦歴をもってしても都督止まりだったためなんらかの政治バランス的な欠陥があったのではないか、と。

統率力
毋丘倹>王基>王昶>諸葛誕
王基は王昶に比べて曹爽のために一時失脚というハンデをおいながらも、その能力ですぐに返り咲いていることから上かと。でもそれでも毋丘倹の実績にはかなわないなぁ、というのが本音。高句麗討伐ってのはあんた何様のつもり! ……諸葛誕は呉との戦いだと出ると負けてるので。

ま、こんな感じで。

700 名前:雑号将軍:2005/07/03(日) 13:57
北畠蒼陽様、お疲れ様です!ホントにすごいですね。一週間に一作品つくられてるんですから。
僕は…季節はずれですが、やっと書きたいのが決まったのでそれを書こうかと。要は卒業式&ピアノネタを…。ここまで言うと誰かわかってしまうかもしれませんが。
皇甫嵩と張嶷の方は設定にもう少し時間がかかりそうなので、設定ができてるもので・・・・・・。逃げです…。ごめんなさい。

>政治力
なるほど・・・・・・。諸葛誕が二番目とは。なんか政治バカのイメージがあったんで。理由はないんですけど。

>高句麗討伐
前から疑問だったんですけど、毋丘倹が高句麗という立派な大国を討伐できたんですかっ!?実は毋丘倹の統率力ってかなり高いんですか?張遼、関羽くらいに。

701 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:12
で、王基から王昶&王基を連続で読んだ私。
何というかこのコンビ、北畠様の筆に馴染んだと言うか、昔からそう言うキャラだったのか、って感じになってきましたねぇ(´ー`)
う〜ん、いい仕事してますねぇ(←中島誠之助風

>政治力とか
統率力はそうかもしれませんね、諸葛誕は。
人望にしても、私兵団からは絶大な信望を寄せられていましたけどね…それ以外は…。

海月的には文欽はともかく、毋丘倹の義理が低いのが納得いかない、といったらどうですかね?
あれは単に「司馬師が気に食わなかったから」での反抗だったわけだし…あ、それでもダメか。


でもって海月も>>690の宣言から二週間足らずでもうヘンなSS書きましたので投下。
麻雀を知らない人は読み飛ばすか、麻雀の本を読みながら御覧になるのが吉。

702 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:13
「真冬の夜の夢」


「…と言うわけだ、皆の衆」
と、数人の少女たちを眼前に置き、その緑髪の少女はそう言った。
その少女と少女たちの間には、意味ありげに置かれた二つのケース。
「何が“というわけ”なのよ。突然呼びつけておいてなにやらかそうっての?」
「そうだよ〜、早く寝ないと、舎監の先生に怒られるよ?」
少女たちは一部除いてみな不満げだ。その一部だって、眠たいのかしきりに目をこすっているから、おそらく話の趣旨なんてまったく理解していないだろう。
「ふむふむ…諸君の言い分はもっとも。しかし、われわれ来年度新入生をお迎えになった先輩方が打ち上げと称して今も酒盛りの真っ最中。それなのにわれわれは何もなくただ不貞寝するしかないと来た。理不尽とは思わないか?」
「…そりゃあ…そうだけどさ」
「承淵みたく部員待遇でもなく、ましてやまだ高等部に入学したわけでもないあたしらを入れてくれるとは思えないわよ」
「その承淵だって、結局ここにいるわけだし…」
「………ふぇ?」
少女の一人が、隅っこでとろんとした表情をしている狐色髪の少女を小突く。その衝撃で、承淵と呼ばれたその少女も夢心地だったところから現実に引き戻されたようだった。
緑髪の少女はにっ、と笑った。
「そりゃそうだ。何せこれからやることに必要だったからあたしが引きとめたんだよ」
「どういうこと?」
柔らかなプラチナブロンドをショートカットにした少女が、怪訝な表情をして聞き返す。
「実は今日、確かな筋からの情報で舎監不在は確認済み。で、来年度の長湖部幹部候補生たる我々しかこの寮に残っていないことも確認済み。で、この場にはあたしら八人しかいない」
「え? え?」
「ちょっと敬風、もったいぶらずに本題言いなさいよ。あたしの予想が正しければそれ」
「…大歓迎だろ、世議」
「もっちろん! 他のみんなは?」
世議と呼ばれた、亜麻色のロングヘアの少女が嬉々とした顔で満座を見回した。
「あたしもいいけど…」
「でも敬風ちゃん、まさかただ延々と朝までそうしてるってのも」
「心配無用だ皆の衆。景品は用意済み、うちの堅物伯姉が珍しく手ぇ廻してくれたから…総合1位は豫州学区本校地下のバイキングタダ券一か月分!」
敬風と呼ばれた、そのリーダー格と思しき少女が懐から取り出した回数券の束を見て、少女たちから思わず感嘆の声が飛び出す。蒼天学園生徒の憧れの的とも言える、学園最高級との呼び声高い学生食堂のタダ券を目の前にしたのなら、それは当然の反応だ。
「そして当然、ノーマルな賭けも同時進行だ。世議や世洪は物足りないかもしれないけど、小遣い事情を考えて点五(千点=50円レート)で。その代わり回転数を上げるためのデンジャラスなルールも取り入れますんで」
「お、話わかるじゃん」
「というわけで、これからヨチカのタダ券を賭けた、旭日祭後夜祭麻雀大会の開催に異議あるものは!?」
「異議な〜し!」
その元気のいい満場一致を見て、敬風こと陸凱は満足そうに頷いた。

その参加者は陸凱以下、実に濃いメンツだった。
プラチナブロンドのショートカットを、ぱっちりとした大きな、かつ勝気そうな瞳が特徴的な顔に乗せているのは虞レ、字を世洪。
亜麻色のロングヘアをストレートに流している、ツリ目で長身の少女は呂拠、字を世議。
黒のクセっ毛を、ツインテールに束ねた童顔の少女は朱績、字を公緒。
セミロングの黒髪をうなじのあたりで二つ括りにした、どこか柔らかな雰囲気のある少女は丁固、字を子賤。
緑髪の少女があと二人いるが、そのうちのセミロングで陸凱によく似た顔立ちをしているのは、陸凱の双子の妹・陸胤、字を敬宗、もう一人の、ロングヘアにして三つ編みを作っているのは現長湖部の実働部隊総帥である陸遜の実妹・陸抗、字を幼節。
そして結局最後の瞬間まで夢うつつだった狐色髪の少女は、中等部生でありながらその陸遜軍団の突撃隊長として名を馳せる丁奉、字を承淵。
後に長湖部の柱石となり、あるいは外地でさまざまな功績をあげる事となる名臣たち…そんな少女たちが高等部入学を目前に控えたこの時期に、このような馬鹿をやらかしていたという話が学園史に残っていることもなかった。


八人が二卓を作り、最初は特に何もせず打って、その中で上位陣四人と下位者四名を分け、以降は一局終わる毎に上位者二名と下位者二名を入れ替える。
回転数を上げるために割れ目適用、二家和(ダブロン)あり、さらに上位陣では陸凱が定めたルール…というか、彼女が普段虞レや呂拠と卓を囲んでいるときのルールが適用される。
即ち、5・10のウマ、飛ばし賞あり、役満賞あり。サシウマと飛ばしで点五でも一局で万近い儲けまたは損が出る恐るべきシロモノだ。しかも上位者に名を連ねる陸凱たちはイカサマも平気でやるからそのハンデを埋めるため、いくつか厳しいルールも付け加えている。麻雀にあまり慣れてない陸胤は罰符の適用外であることもそのひとつだ。

そんなこんなで、慮江の中等部寮で長湖幹部候補生たちによる、学食のタダ券を賭けた血で血を洗う戦いの幕は切って落とされた。

703 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:14
「よし来た! リーチ一発ツモタンピン三色…裏乗ってドラ2、親倍満八千オール!」
「え、嘘っ!?」
「うっわ…いきなり飛ばしてきやがったなこの女…」
陸凱が倒した手は、まるで麻雀のガイドブックにお手本で載っているかのような、整った手役である。そのあまりの鮮やかさに、上家の虞レも呆れ顔だ。別卓の陸抗や朱績も思わず手を止めて覗き込んできた。
「そりゃあなんたってあんた、ヨチカのタダ券懸ってますから」
「あざといねぇ…子幹や敬宗もいるんだからちったぁ遠慮しなよ…あ」
清算を終えてがらがらと牌をかき混ぜ始めた陸凱を嗜める呂拠だったが…
「悪ぃ、あたしもツモだ。メンホン一通でハネ満、六千の三千」
「…世議も言えた義理な〜い」
「ホントだよぅ」
こちらも呆れ顔の朱績と陸抗のブーイングを食らうのであった。

(さぁて…世洪は多分万子の真ん中辺、敬風は張ってる気配ないな。問題は承淵だが…)
二局目。上位陣の構成メンツは周りの予想通り虞レ、陸凱、呂拠の三名、それに前局で後半に追い込みを見せた寝ぼけ眼の丁奉を加えた四名という顔ぶれ。呂拠は聴牌となった己の手牌と、場の捨て牌を眺めて思案顔。
(一色系なんだろうけど鳴いてないのが不気味なんだよな…てかコイツ、半分寝ってるせいか表情読めね〜…)
ちら、と呂拠は下家の丁奉を見る。まだ眠いのかぼんやりしていて表情が読みにくいことが戸惑いに拍車をかけた。普段なら、読みたくなくたって考えが読めるほど解りやすい相手のはずなのだから。
(まぁいい…ヤツは放っといて一気に決めるか)
呂拠は思案の末捨てようとした索子の四を、瞬時に目の前の山の一牌とすり替える。
そこには先ほどすり替えた北の牌。
「リーチ」
まさに一瞬の動作で難なくそのイカサマを実行し、完全な安牌であると思われたその牌を横倒しにして置く。
ついでに言えば山に戻したのはちょうど自分のツモ牌、かつ高目のあがり牌だ。流石に百戦錬磨の玄人呂拠、そつがない。
そして、リーチ棒を置こうとすると…。
「あ、出さなくていいよ〜。それだからぁ」
「はぁ!?」
半分眠ったような顔で、ゆらゆらと揺れる丁奉の“意外な”反応に、捨てた呂拠どころか虞レと陸凱も思わず間抜けな声をあげて見事にハモってしまった。そして、パタパタと音を立てて倒れる牌を見て呂拠の表情が一瞬で凍った。
「えっとぉ、国士無双〜…割れ目で倍だから六万四千〜」
「えー!」
信じられない単語が飛び出して満座の注目を一気に集める。わらわらと集まってくる少女たち。
「…あ…有り得ねぇ…」
「なんか知らんけどナチュラルのコイツは得体の知れないトコ、あるからなぁ…」
呆然と呟く虞レと陸凱。
残った卓ではただ一人、朱績が自分の手役と牌の山から好き勝手に牌を弄くっていることに誰も気づかなかったという…。

試合開始からわずか三時間の間に、消化した局は六局にもなっていた。
一時休憩の間、談話室のホワイトボードに貼り付けられた点数表を目の前に、どっかりと陣取りながらにらめっこしている緑の跳ね髪少女が一人。言うまでもなく、今回の発起人である陸凱その人だ。
「…こりゃあ意外な展開になってきたな〜」
書かれた点数を計算してみると、1位はぶっちぎりで丁奉という有様。そのあとには朱績、虞レ、陸凱と続く。哀れなのは二局目で丁奉の割れ目役満に振り込んで以来ビリをひた走る呂拠だ。
「うわ、コレは思った以上にめちゃくちゃな順位ねぇ」
「まったくだよ…てか、今の承淵は一体何なんだろうな?」
頼まれていた緑茶の缶を渡し、横に腰掛けた虞レに陸凱が問いかける。
「そんなの私が聞きたいよ。それに公緒、アイツも結構やり口があざといわね」
「ああ…でも多分ヤツは次に討ち取れるよ」
「おや、これは自信満々な」
「まさかとは思ったけど…あの子のお姉さん、義封先輩とやり口が一緒だからね。承淵が国士あがったとき、アイツだけ顔見せてなかったから、そのときも何かやってたみたいだし」
陸凱の慧眼に思わず口を鳴らす虞レ。お茶を飲み干した陸凱が大きく伸びをした。
「さぁて、世議がへこんでいる今のうちに、せめて点数だけは荒稼ぎしておかないと」
「承淵は?」
「ほっとこう。あいつが勝てば、もしかしたら振舞ってくれるかもしれないし」
「……言えてる。あなたなら絶対そんなことしないでしょうけど」
「一言余計だ」
その会話が終わるころ、思い思いに休憩を取っていた少女たちが戻ってきた。
話題に上った丁奉が“目を覚ました”のはそれから五分後のことだった。

704 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:14
「いや〜…まさかあたしがそんなに勝ってたなんてねぇ…」
「本当に覚えてないの、しょーちゃん?」
「世議さんなんて魂抜けかかってたよ〜」
「覚えてない覚えてない…っと、これでリーチかな」
それから更に三局を消化して、何時の間にか総合得点がマイナスに転じていた丁奉は陸抗、陸胤、丁固を含めた下位卓の顔ぶれに混じって居たりする。
あのあと意識がはっきりするにつれて、彼女は人が変わったように負け始めた。自然体でのらりくらりとかわされて対策に頭を悩ませていた陸凱と虞レの集中攻撃を受けて、金額にすれば三万円近い勝ち分を一気に吐き出したのだ。同時に、仕掛けていたガンパイのタネを見破られた朱績も陸凱の逆襲を受けて大きくへこまされていた。
「まぁ、この手のゲームは欲がないほうが強い場合ありますからね」
言いながら丁固が、引いてきた牌と手役を見ながら言う。
「あと承淵さんは、半分寝てるときのほうが手強いかも、です」
その次に牌を捨てながら陸胤も続ける。
「そんなもんなのかな…あ、残念違うか」
「あ、それ当たりだよ〜」
「え、うっそ?」
丁奉が切った牌を取り上げて、手役を開陳する陸抗。
「だって普段のしょーちゃん、何考えてるか解りやすいんだもん。あ、断公のみで千点だよ〜」
「ちぇ〜」
素面に戻った彼女の周囲では、まぁそんな平和な空間が生まれていたわけである。

順位はほぼ固定されつつあった。一局ごとに陸凱、虞レ、そして調子を取り戻した呂拠の三名でトップの順位はめまぐるしく変わり、下位四名からちまちまと点を稼ぎながらやっとの思いで追随する朱績。
(まいったなぁ…おねーちゃんから教えてもらった手は敬風達に見破られてるみたいだし…何か良い手はないかなぁ)
またしても下位卓に引きずり降ろされて来た朱績。対面の丁固が何か切ろうとしたが、それは今張っている朱績の当たり牌であることは彼女には解っていた。そういう仕掛けをしたからである。
しかし、どういうわけかそれが切って出されることはなかった。
(あれ…まさか、あんな牌を抱え込むなんて?)
一瞬、彼女は違和感を感じた。しかし、陸胤のことだから何か珍しい手を狙ってるのかもしれないと思い直し、上家の丁奉の牌を覗き込む。こちらにも、同じ牌を握っているようだ。
だが、彼女もそれを切ることはなかった。
(え…承淵まで…?)
偶然にしてはおかしい。いくらなんでも二人して示し合わせたように同じ牌を抱え込むなんて。
まさかこの二人にも仕掛けがばれたのだろうか。先の局も、陸抗に何故か狙い撃ちされている時点で、彼女は仕掛けがばれたことを疑うべきだったのだが…。
(はは…まさか、ね)
タネをばらしてしまうと、彼女が何らかの“目印”をつけていたのは万子の一から三の牌。彼女はわずかな間に各二枚づつ計十八牌、両方の卓合わせて三十六牌に印をつけていたのだ。そして、彼女が引いてきたのは、今現在の手役に不要な二の万子。彼女の記憶が間違っていないなら、丁奉と陸胤の二人が抱え込んでいるのは一の万子。
捨て牌を見る限りではそれを利用できる手役ができているとも思えない…というのは、あくまで彼女の希望的観測でしかない。わずかな時間で牌に目印をつけるくらいの腕があるくせに、捨て牌から手役を読める能力がなかったことが致命的な弱点であった。
プラス、自分の力を過信していたことが朱績の命取りとなった。
彼女の姉・朱然なら、危険を察知し確実に戦略を切り替えていただろう。あるいは、そこいらの有象無象が相手なら、それでも良かったのかもしれない。だが今此処にいるのは、まかりなくも何か光るものを見出され、長湖部幹部候補生となった少女達なのだ。
「ロン、一通ドラ2で満貫です♪」
「同じく、純チャンドラ1。あたしは親満ですかね?」
「何でー!?」
同時に牌を倒す丁奉と丁固。
この瞬間、朱績はトップ争いの争奪戦から一気に引き摺り下ろされた。

対戦数は既に十回をとうに超え、薄く開いたカーテンの隙間から、弱々しい冬の朝焼けの光が入ってきた。
時間ももう朝の五時を指していた。そろそろ限界に近い者も出始めたようである。
「よ〜し…じゃあ泣いても笑ってもこれで最後にするよ〜」
「え〜?」
陸凱の提案にひとりだけブーイングを飛ばす朱績。
「これで終わったらあたし逆転できないよ〜」
「文句言うな。承淵や敬宗、子賤だって逆転不可能なんだからあきらめろ」
実は陸抗もなのだが、まぁ、とにかく陸凱、呂拠、虞レ以外は誰がどうがんばっても1位は望めない。暫定1位の呂拠を引き摺り下ろしたって虞レか陸凱が優勝を持っていく状態だ。
「そんなぁ…」
がっくりとうなだれる朱績を見かねたのか、その暫定1位が助け舟を出した。
「いいじゃないの敬風、最終戦くらい派手にサシウマつけよーよ」
「あぁ?」
「このままじゃどうせあたしか世洪かあんたしか得しなさそうだし…順位に応じて、サシウマの値を変えてやってもバチ当たんないでしょ?」
「それが勝負、ってモンでしょ。あたしはむしろ今止めたって文句言うつもりないよ」
「面白くないじゃん。最後の一発であたしら三人が負けたとき、あたしらの得点を0換算にして買ったヤツにつぎ込んでやるとかよくない? そうすれば計算上ドンケツの敬宗も逆転可能だし、あたしらが勝てば儲け倍だし、そのほうがスリルあっていいよ?」
「う〜ん…世洪は?」
「私は別にいいよ…ふぁ…そういう理不尽な大博打も、たまには」
あくびをかみ殺して虞レも同意する。
「なら認めてやるか。その代わり、あんたが悪戯した分の牌はとっかえて使わせてもらうから…いいわね公緒?」
「う…わかったわよぅ…」
渋々承諾する朱績。
予備に用意された牌と、印付けされた牌を交換する数分のインターバルを挟んだ後、運命の最終戦が幕をあけた。

705 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:15
上位陣。人のことをいえた義理もないあざとさで派手な手役を組み上げる陸凱だったが、南場に入る直前…。
「ちょっとタンマ」
牌を引く直前、不意に虞レに腕を捕まれ、しまった、という表情を一瞬見せる。そして普段出したことのない猫撫で声で言った。
「…えと、なんでしょうか世洪さん?」
「とぼけたって駄目。あんたらしからぬミスだわね敬風…そのお手々、開いて見せて?」
なんというか、そう言う虞レの笑顔はとてつもなく怖かった。かつて彼女の姉・虞翻をして「あの子の笑顔ほど恐ろしいものはない」と言わしめた、その“凍りついた”笑顔がそこにあった。
その異様な雰囲気のなか、恐る恐る覗き込んできた朱績と陸胤も、一歩引いた位置で成り行きを見守っている。
冷や汗とともに開かれた手からは、牌が二つ出てきた。よく見れば彼女の手牌も規定より一枚少ない。
つまり陸凱は、不要牌と山の牌を交換しながら牌を引いていたのだ。
「…この罰符、役満払いで文句なくて?」
「ちっ……………覚えてろコノヤロウ」
さらににっこり具合を強める虞レをジト目で睨みつける陸凱の背後では、呂拠と丁奉が必死に笑いをこらえていた。

「ふっふ〜♪」
イカサマ発覚のあと、トップ争いから外された陸凱を尻目に着々と点を稼ぐ朱績を見、虞レは怪訝そうな表情をした。
(おっかしいわね〜…この短い間でまた何をやったのかしら、コイツは?)
見れば陸凱も同じような顔だ。一瞬目が合ったが、彼女はぷいとそっぽを向いてしまう。まぁ、先ほどの一件を鑑みれば仕方ないとは思うのだが。
(駄目か。敬風も割りと根に持つからなぁ…彼女なら見破ってそうなんだけど、これが見破れないと、優勝さらわれちゃうかもね)
そうして再び手役に目を戻す虞レ。
その隣の陸凱、朱績が何をしているかをほぼ九割がた、見破っている様子だ。
(世洪め、やってるれるわ本当に…それに公緒、コイツも懲りないわね。義封先輩なら見破られた戦法なんて二度三度と使ってこないわよ)
おそらくその技は、先ほどと同じくガンパイであることは九割九部、間違いないようだ。ただ、先ほどとはその目印が違うらしい。
更に言えば、目印をつけた牌もそう多くなかろう。
だが、同じ技を使っている以上、決めてかかればタネを見破るくらい陸凱にとっては朝飯前だった。
そして、目当ての牌を引き入れ、わずかに笑みを浮かべた。
(見てろコノヤロウ…この陸敬風の本気、思い知れ!)
朱績の優位がひっくり返されるのは、その一巡後のことであった。彼女は陸凱がすり替えた牌を握らされ、ドラをたっぷり抱え込んだ倍満手を喰らい、一気に最下位に引きずり落とされるのだった。

波乱に満ちた最終戦、そのクライマックスを彩ったのは意外にも陸胤だった。
「えと…待ってくださいね……わ、すご〜い」
「え?」
パタパタと倒れた手牌。
「あがっちゃってます〜、しかも字の牌ばっかり〜」
「…………………!!」
天和、大三元、字一色。当然ながらこの組み合わせなら四暗刻もつく。親の四倍役満、十九万二千点…いや、割れ目ルールがあるから更に六万四千点加わって、その得点は計二十五万六千点也。
はっきり言って平打ちなら有り得ない展開だ。
呆気に取られて言葉を失う陸凱。しかし一瞬後、彼女はなんとなくだがその理由に気がついた。
このとき皆が牌を引いたのは、陸凱の積んだ山からだったのだ。陸凱はオーラスに最後の望みをかけ、盲牌で探り当てた字牌を自分のところにかき集めていたのだ。それが巧い具合に、彼女の対面に座っていた双子の妹のところに集まってしまった…。
(てとなにか、原因は…………あたし?)
隣では朱績と虞レが酸欠の金魚よろしく口をパクパクさせている。
呂拠、丁奉、丁固の三人も思わず目が点。
ただ一人陸抗だけが「すごーい」とかいって素直に喜んでいた。

この一発をもって、豫州地下学食のバイキングタダ券を賭けた少女たちの仁義なき戦いが幕を閉じた。
下位卓は呂拠が無難に勝ちを収めたが…陸凱と虞レのふたりを飛ばし、有り得ないほどのサシウマが加算された陸胤が総合優勝を掻っ攫うという、誰もが予期していなかった結果に終わったという。

706 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 16:19
その決戦の翌々日、件の豫州地下食堂には特徴的な緑髪の少女たちの一団がいた。
「じゃあ結局、敬宗がタダ券持ってったわけ?」
その顛末を聞き終えて、口火を切ったアップのヘアスタイルは、既に長湖部を引退して久しい陸績。
「え〜そうですよ〜。あたしと世洪が仲良く下からワンツーっておまけつきで」
ふてくされた様子でテーブルにへばっている跳ね髪は陸凱。
「それは災難ねぇ。でもあなた達の場合は因果応報ってトコだわ」
痛烈な台詞を吐くショートボブは陸遜。
「何でよ」
「どうせまたあざとい手使ってたんでしょ、あなたも虞レさんも」
「え〜使いましたともさ。だってヨチカのタダ券欲しかったんだも〜んだ」
更なる陸遜の追い討ちに、むくれてそっぽを向く陸凱。
そのとき、何か違和感を感じたらしい陸績。
「じゃああなた、負けたんなら余計に此処、いれないんじゃないの?」
「それは異な事を仰るな公(きみ)姉。なら前金制の此処に負け組のあたしや幼節その他がいてたまるか」
「そういえば…」
集まった面子はその夜の参加者八名を含んでいる。単なる打ち上げというなら、裏から景品を廻した陸遜はともかく、不参加の同級生や長湖部員でない陸績が呼ばれるのもおかしな話だった。
「コレはみんな敬宗のおごり。ついでに言えば、あたしたちは賭け金も鐚一銭払ってませんよ」
更なる証言に顔を見合わせる陸遜と陸績。
「勝負は勝負で面白かったからお金賭けるのナシ、とか言い出したんだよアイツ。ダントツの大勝がそんなこと言い出したもんだから他も何もいえなかったってオチだよ」
「はぁ…なるほど」
「あの娘らしいわね」
そこまで聞いて、二人も納得したようだった。
「しかも今日でタダ券もばら撒くつもりみたいだよ。みんなで食べたほうがおいしいです〜とか言って。こんな結果になるなら、一昨日のあれはなんだったんだか」
呆れた様な表情で息つく陸凱。
それを挟んで両サイドの陸績と陸遜が、
「いいじゃないの、楽しんだんだから」
「さしずめ“真夏の夜の夢”ならぬ“真冬の夜の夢”かしら」
「あ、巧いこと言うわね…差し詰めタダ券を廻してあげた私は、夢の運び手ってところかしらね」
そんなことを言った。そんな族姉ふたりの隣で陸凱は「勝手に言ってろ」とふてくされたように呟いた。
三人の振り向いた先には、わいわい言いながら色とりどりの食材を取って回る少女たち。
その中心では、
「それでも敬宗ちゃん凄かったよ〜」
「えへへ…まぐれですよ〜」
その状況を作り出した張本人が、はにかんだ顔で笑っていた。
(終わり)


裏「長湖・新春の攻防戦」、そのとき丁奉たちは何をしていたかを書いてみました。
最近になって気づいたことですが、海月が旭祭りに持ち込んだSSには丁奉がいなかったのですよ。
まさかヤツも人知れず暴れていた、というのも寂しい気がしたので…

密かに後期長湖部主要メンバーが勢ぞろいなSSであります。
実におばかな話で恐縮ですが(^^A

707 名前:北畠蒼陽:2005/07/03(日) 18:31
>筆に馴染んだ
こりゃまたありがたいお言葉で、いやはや。
今度はここらへん連中を建業あたりに遊びにいかせてみようかとか考えてます。

>義理
いや、私も毋丘倹はハチャメチャに義理堅い人だと思いますよ?
曹か司馬か、ってのはここらへんの世代の魏将だと常に考えさせられる問題でしょうからねぇ。

>んで麻雀かよッ!?(三村風
久しぶりに打ちたくなりました(笑
私も今、ちょっと別のことで麻雀を文章にする機会があったんですけど難しいんですよねぇ、文章だけで牌を書くの、って。
麻雀をよく知ってるの人に文章見せたら『わかりづらい』って言われてがっくりです。
とりあえずこういう日常が私ももっと書きたいですね、せっかくの女子高ですし(笑

708 名前:海月 亮:2005/07/03(日) 21:13
>麻雀ネタ
確かに、文章で表現するのはかなり難しいですね。私は書いた当人だから、どんなシーンになってるか解らなかったら問題ありますけど(^^A

で、本題ですが間違い数点。
>>703
第一段落 ×子幹→○子賤(実は最初、丁固じゃなくて鐘離牧がいたのです(^^A
>>704
第二段落 一箇所だけ陸胤になっている箇所がありますが、丁固の誤りです。

以上。よく見てから投稿しない海月のせっかち加減に乾杯_| ̄|○

709 名前:★教授:2005/07/03(日) 22:47
◆◆ 大切なおくりもの ◆◆

「公祐…何してんの?」
 簡雍の第一声はこの言葉だった。
 色彩感に溢れる毛糸玉達が小会議室のあちこちに所狭しと我が物顔に転がり、思わず足の踏み場に困る簡雍。更にそれを修飾するかのように型の崩れた雑巾みたいな物体が折り重なって倒れている。公祐こと、孫乾はその中心に正座して入り口に背を向けていた。
 何かに集中しているのか簡雍の問い掛けに気付いた風もなく、黙々と上半身を揺らしている。
(あののんびり娘がこんなに集中出来る事があるなんて……)
 簡雍はある種の異様な空間に思わず固唾を飲んでしまう。悪戯をしたいとは不思議と思わず、ただその後姿を見ているしかなかった――


――3時間後

「出来た…」
「ほぇ?」
 今まで黙々と作業を続けていた孫乾が小さく呟くと、障害物を横に避けて寝そべりながら海苔煎餅を齧っていた簡雍も変な声を出してしまった。
 と、慌てた様子で孫乾が振り返り青いような赤いような驚愕の表情を簡雍に見せる。きょとんとそれを見ていた簡雍は『やぁ』と片手を挙げてそれに応えた。
 それには不可思議な表情をしていた孫乾の顔がはっきりと赤くなった。そして目尻に涙が溜まっていくのが簡雍にも視認出来た。
「い、いたのなら声くらいかけてくださいー!」
「声掛けても返事しなかったじゃん………ってか、泣くなよ」
「だ、だってだって…恥ずかしいですぅ…」
「あーっ! 泣かないの! 私が悪かった!」
 ぽろぽろと涙を零して泣き出した孫乾に白旗を挙げて降参する簡雍。宥めるのにこれまた時間が掛かって今度は簡雍も泣きたくなってしまった。


――1時間後

「で、何してたわけ? 周りが見えなくなる程の事だから余程って感じがするけど」
 簡雍は両手を出して毛糸を巻きつかせながら孫乾に尋ねる。
「えーと…マフラー作ってました…」
「まふらぁ? アンタ、まさか…おと…」
「違います違います違います!」
 物凄い勢いで否定されて、一歩退く簡雍。孫乾は一息置くと先ほどまで格闘していたマフラーを広げる。
「私から…頑張ってるあの人に心を篭めたおくりものなんです。私にはこれくらいしかできませんから…」
 所々がほつれたり形が崩れたりしている手製のマフラー、お世辞にも上手とは云えない出来栄えだ。しかし、空気を読めない簡雍ではない。
「いいじゃん、それ。高価なマフラーを贈るよりも下手でも手で編んだ方が美しいってね。贈られるヤツは三国一の幸せ者よ」
 にかっと白い歯を見せて笑う簡雍に照れ笑いを浮かべる孫乾。
 外はもうじき桜が満開になる季節、時期外れの贈り物は誰に贈られるのか。簡雍はそれには一切触れなかった。ただ、分かっている事が一つだけある。それは――

「頑張り屋さんからの贈り物は同じく頑張ってる人に贈られるんだろうね」

 そして、孫乾もまた贈る人にこんなメッセージも添えていた――

「復帰おめでとう! これからも頑張ってくださいね、風邪なんかに負けちゃダメだよ」


――30分後

「おーい…何とかしてよ…」
「あれ…こんなはずじゃ…」
 毛糸でぐるぐる巻きにされて揉みくちゃにされた簡雍とそれを助けようとして一緒に絡まってる孫乾が小会議室に転がっていた。
 この後、偶然通りかかった李恢に助けられ事無きを得たようです。

710 名前:北畠蒼陽:2005/07/04(月) 01:57
>教授様
あ〜、ぐっこ様へ向けてのメッセージってのはこうやって発信するんかー!(目からうろこが5、6枚
大変勉強になりました(笑

>雑号将軍様
カキコに気がつかなくて申し訳ないです^^;
高句麗討伐については正史を読む限りは100%毋丘倹の功績ですねー。
ただ句麗王、位宮が率いた兵力が20000ってのは一国としては明らかに少ないのも事実。
これがなにを意味するのか、ってのは私も不勉強でわかってないんですけどね^^;
でも20000の兵を10000で打ち破る、ってのはほんとありえない功績ですよ。

711 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:11
 ■卒業演奏 Part1■
卒業式・・・ただの通過儀礼だと考える人も、どうでもいいと考える人もいます。でも私はそうは思えないのです。私にはどうしてもやりたいことがあったから・・・・・・。

 そんな卒業式の一ヶ月前。私は洛陽棟の体育館に行きました。中央には大きく重厚なグランドピアノ。そして体育館を埋め尽くさんとする学園の生徒たち。そんななか、私はなにをするのか?それは・・・・・・。
「エントリーナンバー一四、劉協さん。演奏を始めて下さい」
 体育館にアナウンスが響き渡る。
そう私の名前は劉協。一年くらい前までは「献サマ」と呼ばれていました。これでも蒼天会会長をしていたんですよ。でも、その位は別の方に差しあ
げることにしました。
 それから私はある目標のためだけに頑張ってきました。その目標を叶えるために今ここに立っています。
 私は来て下さった生徒の方々に一礼し、椅子に座ります。そして、両手をグランドピアノにのせ、動かしました。
 そう今日は卒業式のピアノ伴奏者選考会なのです。私はどうしても自分の卒業式で合唱のピアノ伴奏をしたかったのです。理由は簡単です。ただ、いつまでも、ピアノが弾いていたかったから・・・・・・。
 
劉協の奏でる音色は本当に美しかった。しかし、どこか悲しげであった。「哀愁に満ちた旋律」とでもいえばいいのだろうか。そんな劉協の旋律は
それを聴いていた生徒たちの心を震わせていた。
そうして、劉協の演奏は終焉を迎えた。もう勝負は誰の目から見ても明らかだった。割れんばかりに響き渡る拍手が劉協の実力を照明していた・・・・・・。

「ふうー」
 自分のやれる限りのことはやった。素直にそう思えます。心地よい達成感。それともこれは私の自己満足に過ぎないのでしょうか。・・・・・・やめましょう。  
それを決めるのは私ではないのですから。
私は最初と同じように、来て下さった生徒の皆様方に深々と感謝の意を込めて頭を下げました。
そうすると、皆さんはもう一度大きな拍手を私に送ってくれました。本当にうれしくて、少しだけですが、私の目から涙がこぼれました。

その日の放課後。私は結果を聞くために控え室で待っていました。不思議と負ける気はしませんでした。
なぜなのかはわかりません。でも、そんな気がしたのです。
「劉協さん。おめでとう。あなたが卒業式のピアノ伴奏者に選ばれたわ。しっかり頑張ってちょうだい」
「は、はいっ!」
 私は満面の笑顔でそれに答えた。自分で言うのもなんだが、ここまで笑ったのはいつ以来だろう。もしかしたら、生まれて初めてかもしれないと思えるほどでした。
 それと同時になにか足りない。そう一つ欠けたパズルのような、何とも言えない空虚感に囚われていました。
 しかし、その気持ちはすぐに解決することになります。
「あの子がいれば、周瑜さんがいたら、どうなっていたかわからなかったわね・・・・・・」
 先生が、私から目をそらして、呟くように言いました。
 私には「周瑜さん」がどなたかは知りませんでした。でも、知っているような気がしたのです。だから私は訊いてみることにしました。
 先生は悲しそうに答えます。
「えーと、あなたとの一年先輩だったんだけど、事故があってね。今年、卒業できることになったの。黒髪で・・・腰くらいまであったかしら。ビックリするくらいピアノが上手かったのよ。でも、卒業する単位を取るだけで精一杯だったの。だからピアノを弾いてる時間がなかったのね・・・・・・」
 私のある記憶にいる少女とその「周瑜さん」が一致しました。
いつだったでしょうか。あるとき、一人のミカン売りの少女がやってきました。彼女は私の部屋にあったピアノを弾きたいと言いました。
 私は断る理由もないので、許可しました。そうして、私は横にあった椅子に腰掛けて、席を譲りました。
 彼女は席に座るなり、ピアノの鍵盤に指をのせ、弾き始めました。その音色はもう言葉では言い表せないほどにすばらしく、人の心を震わせる力がありました。
彼女の演奏は、私の到底及ぶところではありませんでした。
 
 それ以来、私はその少女を目標にピアノを頑張ってきましたの。無意識のうちにその少女・・・周瑜さんに勝ちたいと思っていたのかも知れません。
この場所で・・・・・・。
それが叶わなかったこと、それが私の身体の中に空洞を創り出していたのでしょう。
「・・・・・・協さん?劉協さん?」
 考え込んでいて、意識が別の方にいってしまっていたようです。気がつくと先生が心配そうな顔でこっちを見ておられました。
「す、すみません。それでは、私、練習してきます。周瑜さんの分まで頑張らないといけませんから」
 その気持ちにウソはありませんでした。せめて、私がどれだけ成長したのか、見せつけてやりたいのです。私だってここまで出来るんだって。
 私って、もしかすると負けず嫌いかも知れませんね。

 それから一ヶ月の間私は、練習に練習を重ねました。
周瑜さんが訊いて満足してもらえるような、一緒に卒業するみんなが納得してもらえるような、なにより、自分が納得できる演奏にするために・・・・・・。

712 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:20
 ■卒業演奏 Part2■
 ついに卒業式がやってきました。
 私は朝の光をいっぱい受けながら、大きく深呼吸をします。
「三年間、ありがとう。最後だけど、今日もよろしくね」
 そう語りかけて、制服に袖を通しました。最後だと思うとなんだか悲しい気持ちになります。
 それでも、私は新しい世界が待っています。そこへ進むためには私は前に進まなければなりません。だから私は自室を後にすることにしました。

 洛陽棟第一体育館。もうたくさんの生徒でごった返していました。そこには私が知っている方々の姿がちらほら。
 そんなことを考えながら、私は自分の教室に向かおうとしました。そのとき、ほんの一瞬でしたが、懐かしい人の姿が見えました。
「あ、あれは孟徳さん!?」
 私が振り返ったとき、もうその姿はありませんでした。
曹操 孟徳・・・・・・私がこの学園で最も信頼していた先輩。中には彼女のことを悪く言う人もいたけれど、私は思います。あの人以上に学園の統一を望んでいる人はいない・・・と。

 教室では担任の董仲舒先生が号泣していました。まだ卒業式も始まっていないのに。
 そんな先生は私たちに卒業式の諸注意をすませると、体育館へと移動することを、促しました。
 廊下に並んだ私たちは下級生から胸に付ける花を受け取り、体育館へと歩いていきました。

「卒業生入場」
 司会の先生合図で私たちは会場へと向かいます。ここまでくると、やっぱり緊張するものです。私は何度も深呼吸をして、自分を落ち着かせようとしましたが、むしろ逆効果でした。
 席に着いてから私は気が気じゃありませんでした。
 失敗しちゃいけない・・・・・・。そんなプレッシャーが私の身体の中を満たしているみたいな気がします。
 でも、私は負けるわけにはいきません。選考会で私と一緒に競い合った人たち、私に投票して下さった皆さんの想いを受けて、私はこの場に立つことができているのですから・・・・・・。

「卒業生全員合唱」
 ついにこのときがきた。私はすっと席から立ち上がり、グランドピアノのある方へと向かいます。
 こつこつと、革靴の乾いた音が体育館に響きます。それほどまでに体育館は静まりかえっていたのです。
 席に着き、私は気持ちを指先に集めます。これは私がピアノを弾くときに必ずします。こうした方がピアノに気持ちが乗りやすいような気がして。
 指揮者が私の方を向き、指揮棒を振り始めました。それに合わせて私も鍵盤に指を滑らせるようにして、ピアノを弾き始めました。
  ♪僕らの前にはドアがある いろんなドアがいつもある 
  ♪ドアを大きく開け放そう 広い世界へ出て行こう
 これは「広い世界」という名前の歌です。小等部の卒業式で歌った歌で、もう一度、歌ってみたくて、皆さんにお願いしてこの歌にしていただきました。
 私はそこまでしてくださった皆さんに応えるために、必死に、全力で、自分の最高の演奏を目指しました。
 周りではみんなが泣き声になりながらも歌っています。泣いていたのはみんなだけではありませんでした。私も、三年間を振り返ると、自然と涙が溢れて、止まってくれません。
 それでも、私は持てうる力のすべて、なにより想いをピアノに載せて、ピアノを弾き続けました。
  ♪雨に打たれ 風に吹かれ
  ♪手と手をつなぎ 心をつなぎ
  ♪歌おう 歌おう 歌いながら
 もう、この曲も終わりに近づいてきました。この歌が終わってしまうと、もうみんなは別々の道へと旅立ってしまう。
 そう思うと、一度は止まりかけた涙が、もう一度、堰を切ったようにまた溢れてきました。もうこの想いは止められませんでした。
私はせめてこの想いをこの会場にいる皆さんに伝えるために、より一層、気持ちを前面に押し出し、ピアノと心を一つに、そして、最高の音色を響かせようと努力しました。

歌は終わりました。
すると、会場にいた皆さんが本当に、本当に、会場が揺れるんじゃないかというほどの拍手を私たちに向けて送って下さいました。
下級生、招待席に座っていた誰もが、涙を流してくれていました。
これが、多少なりとも自分の演奏のおかげだと思うと、今度はうれし泣きをしてしまいました。今日は泣いてばっかりです。
みんなに会場に来ているみんなと想いを共有することができるから、ピアノはやめられないのだなあと私は改めて思いました。
 そして、私はそんな自分の気持ちがピアノで伝えられる。そんなピアニストになりたいです!それが私の夢・・・・・・。


卒業式は終わった。荷物をまとめ、懐かしい中等部時代の友だちと昔話を弾ませた後、私は体育館に舞い戻ってきていた。
体育館の舞台に上がった私は、その横に置かれている、漆黒でとても大きな友だちに触れました。
「二年間、ありがとう。あなたと一緒にいられて楽しかったです」
 窓の隙間から差し込んでくる光は私の友だち・・・グランドピアノを鮮やかに輝かせます。その姿が笑いかけてくれているように見えました。
「最後にもう一曲だけ、一緒に・・・・・・ね」
 私はそう言ってゆっくりとその頭を撫でてあげた後、椅子に腰を下ろし、このピアノとの最後の演奏をしようと鍵盤に手を添えたとき・・・・・・。
「伯和ちゃん!最後の演奏にあたしを呼んでくれないってのはどういうことなのっ!」
「ほんま、ほんま。伯和はん、つれないやないですか〜」
 二人の少女の声が私の耳に響き渡ったのです。
この声の主を私は知っていました。私を「伯和」と呼んでくれる人なんて、あの二人しかいませんから・・・・・・。
「孟徳さん!玄徳さん!」
私はその名前を大きな声で呼びました。
「伯和ちゃん卒業おめでとっ!あたし感動して泣いちゃったんだから!」
 そう言って、孟徳さん・・・曹操は私の方にパタパタと走って来ます。
その後ろを追うようにして、玄徳さん・・・劉備が私の方へと来てくれました。
「邪魔かも知れませんけど、伯和はんの高校生活最後の演奏、うちらも参加させてもらいますわ。うちもギターくらいは弾けますし!」
 玄徳さんはそう言って、不敵な笑みを浮かべていました。この笑顔にはなにか人を惹きつける力があるような気がします。
「いいんですか?じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
 私はうれしさ半分、恥ずかしさ半分でそう言うと、二人は笑い、そして頷いてくれました。

713 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:27
 ■卒業演奏 Part3■
しかし、不意の客人はこの二人だけではなかったのです。私が、二人と談笑しているまさにそのとき。
私がもっとも会いたかった人が来てくれました。
本当に綺麗にまっすぐと腰まで伸びる黒髪。痩せてしまっていたけれど私は一目見て彼女が周瑜さんだとわかりました。
「ちょっと伯符、自分で歩けるからっ!」
「なに言ってるんだ。さっきも倒れそうになったくせにっ!」
周瑜さんは伯符という少女に抱きかかえられて、私の方まで来ると降ろしてもらい、恭しくひざまずくと、その美しい声で私に声をかけました。
やっぱり病気のせいか、どことなく顔が強ばっているような気がします。
「今日はお疲れ様でした。実は私、献サマにお詫びしなければならないことがございます」
「や、やめて下さい。私はもう「献サマ」じゃないんですから。劉協というただのピアノが好きな女の子です」
 私の言葉に周瑜さんは最初、驚かれていましたが、微笑すると、近くにあった椅子に腰を下ろしました。
 私は周瑜さんが落ち着かれたのを見て、話を進めました。
「ミカン売りの少女は自分だった・・・ですよね。音楽の先生が教えて下さいました。周瑜さんのピアノは本当にお上手で、私なんかは到底及びませんでした。今日はどうでした?ちょっとは周瑜さんに追いつけましたか?」
 私は訊いてみることにしました。訊くのが怖くないと言えばウソになります。でも、私は、どうしても訊いておきたかったのです。
私が前へ進むために・・・・・・。
 周瑜さんはしばらく黙り込んでいました。
やっぱりまだまだだったのでしょうか。私がそんな悲観的になり顔を打つ目受けて考え込んでいると、ついに周瑜さんがその口を開いて私の質問に答えてくれました。
「・・・・・・私の負けです。もう献・・・劉協さんのピアニストの実力は私の全盛期のものを遙かにしのぐほどに成長しています。だから、もっと自分に自信を持って下さい。貴女には私なんかとは比べものにならないほどの素養を持っておられるのですから・・・・・・。今日の演奏が何よりの証拠です」
 私はうれしかった。本当にうれしかった。自分が目標、いや、憧れとしていた人から誉めてもらえるなって思ってもいませんでした。
 私はちょっぴり泣いてしまいました。私はそれを隠すように手で拭うと一つ提案しました。
「今から、孟徳さんと玄徳さんと一緒に演奏しようと思うんですけど、周瑜さんとそちらの方もどうですか?」
「あっ、紹介が遅れました。私の幼なじみで親友の孫策という者です。今日も彼女のおかげで卒業式に来ることができました」
 周瑜さんは慌てて横にいた少女・・・孫策を私に紹介します。
「私、孫策って言うんだ。よろしく。で、公瑾。どうするんだ?」
 孫策さんは私にからっとした笑顔で答えてくれました。
「でも、そろそろ帰らないと・・・・・・」
「公瑾〜。そんなにしたそうな顔で『帰らないと』とか言われてもなあ。やってたらどうだ?自分の後悔がないようにさ」
 孫策さんの言葉に周瑜さんはうれしそうに頷いていました。二人は通じ合っているみたいです。私もそんな友だちがほしいです。
「やれやれ。蒼天学園の元トップどもが、がん首揃えて演奏することになるなるとわねっ!」
「まったくや。関さんや益徳にも見せたかったわぁ」
「普通は見られないスペシャルステージってとこだ」
 孟徳さん、玄徳さん、孫策さんの三人が代わる代わるそう言いながら、笑っています。私もそれにつられて声を上げて笑ってしまいました。

 しばらく、みなさんと蒼天学園での出来事のお話をしていました。楽しかったこと、つらかったことなど、いろいろなことを聞きました。
やっぱり箱に開けられたちっぽけな窓から見える世界だけでは、すべてを見ることはできなかったんですね。
「じゃあそろそろ、やろっか」
 話しが一段落したところで孟徳さんが切り出しました。それに皆さんも素直に答えます。
 玄徳さんはギター、孫策さんがドラム、孟徳さんは指揮者を務めることになりました。
「ピアノは劉協さん、弾いてもらえますか?」
 私は思わず息をのみました。周瑜さんが私に、ピアノを弾いて欲しいと言って下さったのですから・・・・・・。
「よ、よろこんでっ!じ、じゃあ、周瑜さんはシンガーをお願いできますか?」
 私の混乱する言語中枢は必死に言葉をたぐり寄せ、周瑜さんの問いかけに答えることができました。
「わかりました・・・・・・。それで、歌う歌は?」
「これしかないじゃないっ!この歌がなかったらあたし今頃こんな生活してなかっただろうし」
周瑜さんが物腰鷹揚にそう尋ねると、横で鞄の中を探っていた孟徳さんは四人分の楽譜を取りだして手渡します。
どうやら孟徳さんはここに来る前からこうなることを予測していたみたいです。
「こ、これは・・・・・・」
 その楽譜は古びて、セピア色になっていていました。端の方はもうぼろぼろです。それでも私はこの曲を弾いていたときのことを昨日のことのように、本当に鮮明に覚えています。
「じゃ、いくよっ!」
 そう言うと、孟徳さんは腕をゆっくりとなだらかに振り始めました。私もゆっくりと鍵盤の上を滑らせます。
 それに続いて、玄徳さんのギター、孫策さんのドラムが音を奏でます。そして・・・・・・周瑜さんの美声が波が海岸に広がっていくかのように、体育館全体を流れていきました。
 この日は私は生まれてから一番楽しい日だと思います。
 


ひとりごと・・・・・・
「卒業演奏」これでお終いです。なんとか短くしようと頑張ったのですが、無理でした・・・・・・。
 誰か書きたいなあって掲示板をさまよっていると、雪月華様の「学園正史 劉氏蒼天会紀 孝献蒼天会長紀」を見つけまして・・・・・・。さらにある一部分にひどく萌えてしまって、こんなことに。申し訳ありません。雪月華様。一度ならず二度までも面汚しをしてしまいまして・・・・・・。
 後、どうでもいいことなんですが、あの「広い世界」は自分が小学校の卒業式で歌った歌で、僕が音楽の授業で歌ってきた歌の中で一番好きな歌です。
 でも歌詞がちゃんと覚えて無くて・・・・・・。
 もう感想は躊躇無く批判して頂けるとありがたいです。
 読んで頂き本当にありがとうございました。

714 名前:雑号将軍:2005/07/04(月) 22:34
玉川様、教授様、アサハル様、はじめまして!梅雨入りで蒸し暑いこの季節になぜか卒業ネタを書いた雑号将軍です。
常連の皆様が次々と復活されて・・・・・・。ほんとに楽しみですっ!なんの役にも立たないですが、よろしくお願いします。
も、申し訳ないのですが、皆様の作品は修学旅行から帰ってきてから、ゆっくりと読みたいと思います。
自分勝手で申し訳ありません。

715 名前:北畠蒼陽:2005/07/04(月) 23:39
>雑号将軍様
献サマの卒業式ですか。いいですねぇ、しみじみ。
時期モノなだけに今の季節ってのが残念デス^^;

>修学旅行
あっ!? あっ!?
なんか降りてきた! 降りてきましたよ!(DM

716 名前:雑号将軍:2005/07/09(土) 12:13
>海月様
なんかもう、かなりのマイナ・・・・・・失礼、後期の武将が多かったですな。とくに陸姉妹と半分寝てる丁奉!いいですなあ。

>教授様
あらためてご挨拶を。はじめまして。教授様がいない間に学三に巣くっていた雑号将軍というヤローです。
さすがは教授様!孫乾って主役になったの初めてじゃないですか?もうまさに「ぽややんネゴシエーター」ですな!

717 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:14
「旅行の夜といえば枕投げ、でしょお?」
毋丘倹がどアップで言い切った。
顔があまりにも近かったのでみんな離れながら頷いた。


枕の杜に見る夢

※誰が戦死したかメモをとりながら読むとわかりやすいかもしれません。


中華学園都市も当然、学園であるからには学校行事というものが存在する。
ただやはりいまだに生徒会も学園統一を成し遂げていない以上、各校区1つ1つがばらばらに旅行をするというのは……学園都市においてすべての課外活動が単位となる、と定義づけられている以上……敵対勢力につけこまれるもとになりかねない。
かといってすべての校区がまとまって旅行に行く、というのもコストがかかりすぎる。
折衷案として提出されたのが現行の『何方面かに校区を分割し、まとまって旅行に』というものだった。

今、ここに対長湖部において名を馳せた少女たちが集っていた!
全員浴衣で!

「……でね? そのとき後ろを振り返ると人形が血まみれで廊下にぽつーん、と落ちていたの」
「あ、あぁうぅぅぅぅ」
王昶はマイペースに昜を怪談で泣かしていた。
昜半泣き。怖いのなら聞かなければいいのに。
「はい、そこ。いいから話を聞け」
毋丘倹がツッコむ。
「……ん〜、でも……テレビが……」
旅館備え付けのテレビに100円を入れようとしながら王基が呟く。
「あとにしろ。あーとーにー」
毋丘倹がツッコむ。
「ねぇ? それより温泉入りにいかない?」
うきうきしながら諸葛誕が言った。ちなみに10分前まで温泉に入っていた。まだ入るのか。
「さっきも入ってただろ、お前!」
毋丘倹がツッコむ。
忙しいやつだ、毋丘倹。
「それってさ、『ホンキ』でやっちゃっていい、ってことだよね?」
令孤愚の言葉に毋丘倹は笑いながら頷いた。
「戦術の粋を集めた枕投げ。おもしろそうじゃない?」

ルール。
枕が当たったものは戦死扱いとする。
2チームに別れ相手チームを全滅させたほうの勝ち。
枕さえ使えばあとは自由。
フィールドは旅館の敷地すべて。
単純明快なルールである。

「んじゃグーとパーでチームわけー」
「10人かぁ……5人ずつに別れる、って結構珍しいんじゃない?」
「……別に同戦力で開始しなくてもいいじゃない」
「うわ、なんかすごい意見が出た。じゃあ1対9もありってこと?」
「いじめじゃない、それ」
「ちょ……もしかして今、チョキ出したら……死?」
「死だねぇ、それは」
「第3勢力誕生かよ!」
「あんまり勢力が拮抗しそうにないよね、それ」
「じゃあいくよー」
『グーとパー!』

ちょうど5人ずつにわけられた。

718 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:15
便宜上、Aチーム、Bチームとわけられるそのメンバーは……
「よおお待ちどう」
「……それ、別のAチーム」
そのメンバーは……っ!

Aチーム。
世代無双! 毋丘倹。
現生徒会において、図抜けた統率力を有し、次代のリーダーシップを期待される戦乙女。
どもりの国のプリンセス! 昜。
地理の成績だけ天才的。ただしいまだ開花しないものの統率の才能は先輩である万能の怪物、郭淮のお墨付きである。
静かなる威風! 胡遵。
文武の才をあわせ持ち、西方の大実力者、張既によって召し出された俊才。
心にいつもひとかけらの邪心! 令孤愚。
四天王の北、田豫を校則で取り締まったために蒼天会長の叱られ、そのときの言葉をそのまま名前にしたある意味、剛毅な少女。
冷徹な智将! 王基。
生徒会執行本部本部長の王凌に見出され、その信頼ぶりは中央執行部からの王基召集命令を無視するほどのものであった。まさに文武両道の申し子である。

Bチーム。
小さな駿馬! 州泰。
一般生徒から1日にして棟長に上り詰めた奇才。その才能はからかいの言葉を投げかけた鍾ヨウすらを喜ばせるものであった。
勇武英略! 王昶。
毋丘倹がナチュラルに戦うことを得意とするのならば彼女はすべての意図を戦闘に乗せることを得意とする。その瞳は常に悪いことを考えている。
戦一文字! 文欽。
まさに剽悍。反乱者、魏フウと仲がよかったために一時失脚するものの、その才能で返り咲き、またその協調性のなさでたびたび弾劾されたが蒼天会長に庇われる才人。
義士! 諸葛誕。
蒼天会長、明サマには疎んじられたものの、その言葉は夏侯玄、トウヨウらとともに生徒の人気を集めた。諸葛瑾、諸葛亮の従妹にあたる。
楽進の風格! 楽チン。
果断剛毅。楽進の実の妹であり『そっくり』といわれるほどの風格の持ち主。姉に似て、背は高くないもののその胆力は戦場を脅かす。

「Bち……B……! くっ! ボケられないっ!」
「……無理にボケなくていいから」
戦いのはじまり、である。

旅館の通路に2つのチームが対峙する、両手には枕。ハートには野獣。いや、野獣かどうかは微妙だが。
「んじゃコインが落ちた瞬間、戦闘開始ねー」
王昶がにやにや笑いながら左手でコインをつまんでみせる。
コイントスする人間は最初から左手に枕を持つことができない、というハンデはあるものの戦闘開始タイミングをある程度左右することができる、というメリットも存在する。
どちらが有利に左右するかはともかく王昶がなにかを考えていることだけは敵として対峙していなくてもよくわかる。
「んじゃ開始ー」
王昶は左手を高く上げゆっくりとコインを放り投げ……

719 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:15
Aチームの面々がコインの軌跡を追う。

王昶は高々と上げた左手をいきなり振り下ろした。

Aチームメンバーは唖然とし、次の瞬間、王昶の考えを理解する。
王昶はこう言った。『コインが落ちた瞬間、戦闘開始』……別にコインを放り投げたあともう一度、コインに触れない、とは一言も言っていない。
Aチームメンバーが理解したときには加速度をつけた左手とともにコインが旅館廊下に叩きつけられ……

「おぶわッ!?」
諸葛誕が横殴りの一撃を受けて吹っ飛んだ。
「ふふ……ってなんで諸葛誕ーッ!?」
王昶が勝ち誇った笑みと同時に絶叫する。なかなか器用である。
ちなみに諸葛誕はBチームだ。
諸葛誕に枕を投げつけたのは文欽だった。
ちなみに文欽もBチームだ。
「おぉっと、あまりにも偽善者くさいから間違えちった。なに? オウンゴールってやつ?」
そんなに嫌いか、諸葛誕のことが。
Aチームメンバーが呆然として事の成り行きを見守る。
頭を抱える王昶。気持ちはよくわかる。
そして悪びれない文欽。
「あ……あんたってやつは……」
側頭部に強烈な一撃をくらいながら、諸葛誕は唖然と文欽を見上げる。
「うるさい。戦死者に発言権はない」
Aチームもどう動いていいのかわからなさそうに顔を見合わせ……

王基がしゃがんで頭上を高速で吹っ飛んでいく枕を回避し、令孤愚は枕をモロに顔面で受ける羽目になった。
「ちぃ、当てるつもりだったのに!」
「こっちは撃墜マーク1個、まぁまぁね」
地団太を踏んで悔しがる楽チンとガッツポーズの州泰。
さすがに諸葛誕戦死は予想外であったものの、その混乱に付け込むことができずただ呆然とする敵に対し、立て直し、即反撃するところはさすが生徒会の一流ドコロといえた。

しかし当然、Aチームも生徒会の猛者である。

武器である枕を手に全員が散会した。

州泰は旅館通路をひた走っていた。
ルールはよく覚えている。
枕が当たったものは戦死扱いとする。
逆を言えば極論、銃で撃たれても戦死にはなりえない。
ではその枕はこの世に無限に存在するのか?
否、である。
フィールドが旅館のみに限定される以上、当然のように枕の数も有限である。
武器がなくなればジリ貧になることは間違いない。
であればまずは武器の確保にいそしむべきであろう。
どこから武器を徴収する?
いくらなんでもまったく知らない客が泊まっている部屋に入っていって枕を要求するわけにもいかない。
当然、同じ修学旅行という空間である以上、同じ旅館に泊まっている学校の人間に要求することになるが……
「え、えっと……そ、そこまでです」
後頭部に枕がぽすん、と当たる感覚に州泰は天井を見上げた。

720 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:16
「どもー! 実況の令孤愚です! 昜選手、素晴らしい動きです!」
令孤愚がマイクを握り、興奮したようにしゃべりまくる。
「枕を確保しようとした州泰選手の進路を読みきった上で先行し、隠れてやり過ごした上で後ろからの攻撃! これには州泰選手、どうしようもありません! 今の昜選手のプレイをどう見られますか、解説の諸葛誕さん」
「文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね」
解説どころか会話になっていなかった。

楽チンの目の前には毋丘倹が立っていた。
楽チンの背を冷たい汗が伝う。それはそうだ、毋丘倹と勝負するには楽チンには圧倒的に経験が足りない。
しかしそれでも姉譲りの胆力は健在であった。
「ここであんたを討ち取れるなんてね」
よし、声も震えていない。
楽チンは自分をほめてやりたくなった。
ぎゅっと枕を握り締める。
毋丘倹はその楽チンの両の手に目をやってから楽チンの目を正面から見据える。
「楽チン……」
両手に1つずつの枕を持ち、毋丘倹は流れるように動いた。
無造作に左手の枕が楽チンの眼前に投げ出される。
その枕は緩慢な動きで……
「こんなので私の動きを止めるつもりかぁ!」
楽チンが左手で簡単に枕をキャッチしたそのとき……
毋丘倹の右手の枕によって楽チンは足を払われ、尻餅をついた。
「……あんたが私を討ち取るなんて無理があるんじゃない?」

「毋丘倹選手、貫禄の勝利です。先に投じた枕で楽チン選手の視界を奪った上で、しゃがみながらの足払い! これには楽チン選手、対応できません」
「文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね文欽死ね」
令孤愚が恨みがましい目で諸葛誕を見た。

「さて……どこに隠れてんのかな?」
にやにやと笑いながら文欽が歩く。
実のところ敵の位置は大体わかっていた。
毋丘倹はさすがに気配を消す術にも長けているものの楽チンとの無用な勝負によって位置をさらけ出してしまった。
「まぁ、まずは昜、かな」
自分が昜ならどうするか考える。
さすがの文欽でも昜の地理把握能力には感服せざるを得ない。
昜はすでにこの旅館の1部屋1部屋に至るまで自分の空間として自在に移動することができるだろう。
ならば……
考えろ、文欽。
自分がそんな能力を持っていたとしたら、『文欽』という人間をいつ、どこで襲うか……
文欽の唇が笑みの形に持ち上がった。
いつ襲うか?
そんなの決まっている。
「今だろうがぁッ!」
文欽はいきなり後ろを振り返り、枕を投げつけた。
後ろからそ〜っと近寄っていた昜はその一撃を顔面に受け昏倒した。

「えっと……文欽選手、お見事です」
「……ッ!?」
令孤愚がすごい目をした諸葛誕に睨まれた。

721 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:16
「あんまりいたずらが過ぎるんじゃないかな、文欽」
ついに毋丘倹が文欽の前に立つ。
「そうでもないよ。みんな準備運動にも付き合ってくれないんだもん……毋丘倹だったら準備運動くらいにはなるかな?」
そのあまりにも大胆な発言に毋丘倹は苦笑する。
「ご期待に沿えるかはわかんないけど努力してみるわ」
そういいながら両の足を大きく広げ、両手に持った枕をやや後ろに構える。
投擲する気か?
しかも両方?
文欽の心に迷いが生まれる。
投擲は確かに遠距離の相手に対して有効だ。
しかし避けやすい、という欠点もある。
……だったら避けて攻撃、だね。
にやり、と笑い文欽は毋丘倹の攻撃を誘うように大きく構えを取る。
一瞬、緊迫した時間が流れ……
毋丘倹が両手の枕を文欽の足元を狙うように投げつけてきた。
……なるほど、こういうことか。
文欽は感心する。
枕はほぼ横に並び、横に避けるというのは難しそうだ。
普通に避けようとしただけでは足を枕がかすっていくことだろう。
だが……!
「横がダメなら縦で……ッ!」
ジャンプして避ければなんの問題もない。
ましてや毋丘倹はすでに両手の枕を使い切り、武器がない状態だ。
取れる……ッ!
口元を哄笑するように歪めながら、しかし枕を投擲せずにより確実に止めを刺すために握り締める。
そのとたん毋丘倹はばっ、と廊下に伏せた。
文欽はジャンプしながら唖然とする。
両足を大きく広げ構えていた毋丘倹の向こう側には……
「……いくら文欽でもジャンプしてるときに軌道を変えるのは難しいんじゃない?」
冷静な王基の超遠距離狙撃が宙を舞う文欽の胸に吸い込まれた。

「おっと王基選手、頭脳プレ……」
「うわはははははははははははははははははっ! 文欽ざまあみろー!」
解説しようとした令孤愚の頭を押さえつけ、諸葛誕が涙すら流しながら爆笑した。
「あー、気分いい! 気分いいから温泉いってくるー」
諸葛誕は鼻歌を口ずさみながら上機嫌でタオルを持って立ち上がる。
「いや、また入るのかよ!」
聞いてない。
諸葛誕はスキップでもしそうな足取りで立ち去り……
「えっと……?」
マイクを持ったまま令孤愚は途方に暮れた。
昜がなぜか期待するような視線を令孤愚に送ってくる。
「あんた、どもるからダメ」
令孤愚の言葉に昜はショックを受けたように黙り込んだ、半泣きで。

722 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:17
……残りは文舒。
……だがこれは難敵だ。
毋丘倹と別れ、王基は廊下を走る。
どこにいるか想像もつかないがどこにいたとしてもおかしくない。
王基は長い付き合いの親友に思いを馳せる。
……文舒なら絶対にありとあらゆる策略を駆使して自分を葬り去ろうとすることだろう。
王基は考えながら走り……
前方から旅館の仲居さんが歩いてきた。
ぶつかるのもアレなので王基は走るスピードを少しだけ落とそうと……
「……ッ!?」
バランスを崩しながらも仲居さんが投じる枕を避けた。
「……なるほど。そうきたか」
「ま、着替えちゃダメ、ってルールもなかったしね」
仲居さんから着物を借りたのであろう、にやにやと王昶が笑う。
……まずいな。
心の中で王基が思う。
さっき枕を無理に避けたから、あまりにも体勢が悪すぎる。だが姿勢を直そうとする隙を見逃してくれるほど甘い相手ではない。
王昶はふ、と唇の端だけで笑いながら枕を持つ右手を下ろし、なにも持たない左手を上げる。
「……?」
いぶかしそうな表情の王基にくいくいと手首だけで挑発。
「待っててあげるから体勢立て直しなさい」
……なにを考えているのかわからない。
……でも彼女がなにを考えてるか想像して泥沼にはまるよりはマシか。
王基はゆっくりと体勢を立て直し、構えを取る。
「……礼はいわないからね」
「言ってほしくもない」
対峙する2人。
「……でもそんな優しい文舒に選択肢をあげる。Bチームはあとあなた1人だけ。降参するなら枕をぶつけないでおいてあげるけど?」
「わぁ、嬉しい。断ったらどうなるのかな?」
お互いに会話を楽しむ風を装いながら相手の隙を探そうとする。
「……そうね。断った場合は……何世紀も変わらない措置を繰り返すことになるわ」
「やれやれ……肉体労働は苦手なんだけどなぁ」
王昶は苦笑しながら背を丸め……左足を少し前に出し、手をだらんと下げた構えをとる。
右手にはしっかりと枕が握られ……
……なるほど。王昶はホンキってわけだ。
……恐らくあの体制から一瞬で間合いを詰めながら振りかぶった枕で攻撃してくるつもりなのだろう。
王基には王昶の攻撃までの動きがありありと脳裏に浮かんで見えた。
……だったら王昶が動いた瞬間、機先を制して枕を投擲する。
王基の心は決まり……そしてお互いが相手の動きを待つ……
ふ、と王昶の目が驚いたように見開かれ、伸び上がって左手を振った。
王基の後ろにいる『誰か』に合図するように。
……誰!?
王基の集中力が一瞬削がれ……
それが致命傷になった。
気づいたとき、王昶の顔がほんの目の前にあり……
「もうBチームは私1人だー、ってさっき言ってたじゃん」
優しくすら聞こえる言葉と同時に王昶は右手の枕をぽん、と王基の肩に当てた。

723 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:17
ぱちぱちぱちぱち……
場違いなほどに緊迫した空間に拍手が響く。
「王昶、すごいなぁ。王基を一蹴かぁ」
ずっとその決戦の行方を見ていたのだろう、毋丘倹が柱の影から顔を出す。
「一蹴ってほどでもないさ。今日はたまたま私に軍配が上がっただけ」
毋丘倹がいたことに驚くことすらなく興味もなさそうにため息すらまじえながら王昶がいう。
「私はどう料理してくれるのか、楽しみになってきちゃうな」
「我に策なし。困ったなぁ」
嬉しそうに微笑みながら構えを取る毋丘倹に王昶はにやにやと笑いながら再び猫背になる。
一触即発。
緊迫感だけがどんどんと高まっていく。
現生徒会最強を決めるにふさわしい勝負が……

王昶の後頭部に枕がぶつかった。

……あっけなく終わった。
王昶だけでなく対峙する毋丘倹も不思議そうな顔をする。
「私がいるってこと、忘れてもらっちゃ困るわね」
……胡遵。
「あ、いたっけ。すっかり忘れてた」
「あー、地味すぎだよぉ」
王昶だけでなく毋丘倹からも忘れられていた。
「え……忘れていた、って冗談、よね?」
胡遵の言葉に2人はそろって首を横に振る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! ひどいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
胡遵は泣きながら走り去った。
あまりといえばあまりな仕打ちである。

「えぐ……えぐ……」
戦い終わってみんなで温泉に浸かっていた。
大浴場だから結構広い。
「胡遵泣かないで。大丈夫だから」
州泰が慰めているがなにが大丈夫なのだろうか。
文欽と諸葛誕は目すらあわせようとしない。目があったら血の雨が降る、多分。
楽チンはお湯に顔を半分浸からせてぶくぶくさせて遊んでいる。結構満足そうだ。
毋丘倹は文欽と諸葛誕のフォローに入ろうかどうか迷っているようだ。気苦労が耐えない性格である。
令孤愚は昜をからかって遊んでいるようだ。確かにからかいがいはあると思う。
「……文舒、ぼーっとしてどうしたの?」
同級生たちをただ見ていた王昶に王基が声をかける。
「いや……変なやつらだなぁ、と思ってね」
「……朱に交われば赤くなる、ってやつね。文舒も十分に変だってことを自覚したほうがいいと思う」
王基の身も蓋もないセリフに王昶は苦笑を浮かべながら手ぬぐいを頭の上に乗せた。

724 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 00:18
まったく関係ないけど七夕会話。
王昶「あぁ!? 織姫と彦星!? 勝手にデートしてるがいいさ、ファミレスの天の川支店で!」
王基「……ロイホじゃないと思う。多分、ガスト」
諸葛誕「お前ら、うるさいよ!」

というわけで修学旅行です。
私の出身学校では2年で修学旅行だったんでそんな感じです。
枕投げとか雪合戦ってのはいくらでもホンキになれるんだなぁ、とか思いました。

>雑号将軍様
前にちょいと話題になった高句麗の件なんですが魏書の東夷伝にモロ答えが書いてありました。

高句麗は遼東郡の東1000里くらいのとこにあって、南は朝鮮・ワイ貊と、東は沃ソと、北は夫余と国境を接してるんだって。丸都山のふもとに首都があって、その領域は2000里ぽっち、戸数は30000。

戸数が30000ほどだったら人口は15万人強ってとこでしょうね。

いや、兵力20000を動員、ってすげぇがんばったよ、位宮サン。
ただがんばりすぎて余力がまったくない状態です。民衆も不満ありありな状態だろうからそれ以上無理ができないし。

725 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 01:21
>卒業演奏
おお…ついにこのシーンがSSになろうとは…。
これは私にも何か火がつきましたですよ?
むしろ何かいじるとしたら海月は周瑜&献サマ&曹丕&長湖部一味だな…(←何コレ?

>枕投げ戦争
(・∀・)イイ!
これ本当に笑えますよ!てか諸葛誕がナニかいい味だしまくってますよ!?
そしてどもりで令狐愚に一蹴される昜に、最期まで目立たず泣きながら走り去る地味っ娘胡遵!
てかもうすべてのシーンが明確に浮かんできてますよー!?(;;゚Д゚)

いや、GJですよ本当。
欲を言えば、折角話題に出たんだから「特○野郎●チーム」みたいなナレーションがあれば尚…。



海月も大ネタを執筆中。
その前に荀揩ナ何か、書いときたいなぁ。あと献サマ卒業式の裏ネタとか。
書きたいもの多すぎるよ何とかして・゚・(ノД`)・゚・

726 名前:雑号将軍:2005/07/10(日) 11:11
>北畠蒼陽様
お見事っ!これが修学旅行ですよね!!暴れ回った後、ゆっくりとみんなで大浴場or温泉に入る。…うちの修学旅行はユニットバスでしたけど。
いやあ、もう諸葛誕と文欽の仲の悪さ炸裂ってかんじですな!昜の喋り方、いいですねえ〜。

>高句麗の件
あ、ありがとうございまする。よくわかりました。なるほど〜それ以上徴兵したらもう住民蜂起でうちから滅んじゃいますね。
それでも毋丘倹は頑張ったんでしょうなあ。なにせ倍の兵力と対峙し打ち破ったんですから。

海月様も新作の制作に着手されたとのこと、僕も頑張って完成させないとっ。

727 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:10
僭越ながら・・・。
>枕投げ
楽チンが可愛いよ!!これぞ烏丸の求めていた楽チンちゃんですウボアー。
修学旅行の夜ってわくわくしますよね。
今のところ、五将軍妹者たちの小説はあるのですが・・・。そうだよなほかのキャラのも書かなきゃだよなウボアー
ハイ、ちゃんとUPしてからいいます。こういうことは_| ̄|○

728 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:13
五将軍+1の妹たち、の朝。



 まず見えたのは少女の左足。外気にさらされて寒いのか、すぐ足を引っ込める。そこに。
 「張雄!起きろ!!今日は日直だろう!」
 張雄と呼ばれた少女は、寝ぼけ混じりに、布団を引き上げた。
 「于圭、うるさい・・・。」
 「うるさいじゃなーい!おりゃ!」
 于圭と呼ばれた少女は、無理やり掛け布団を引っぺがし、自分のベッドへ押しやった。張雄は今度は敷布団をかけようとする。
 「起きろっつってんの!」
 肩関節を軽くひねり、あとの足やら腕やらを捕らえると、軽く引っ張る。そうして、今日も今日とて大音量の悲鳴が響くのであった。
 「きゃああああああああ!!」



 起きた二人は、徐蓋と李禎の部屋へ向かった。于圭が立ち止まる。
 「どうかしたの?于圭。」
 張雄が尋ねると、于圭は顔をしかめた。
 「どうもこうもない。またあれが妙なものを作っていたら、今度こそ無事ではすまなくなるからな。」
 于圭のいいように、張雄は首をすくめた。ありえないとでもいうように。
 「いくらなんでも、李禎が居るところで作ったりはしないでしょ。徐蓋はそんなに常識はずれじゃないと思うな・・・。」
 「私もそう思う。いや、そうであって欲しい。だが、あれは徐晃先輩と張遼先輩(じぶんのあねとそのゆうじん)の前で"マックスコーヒー"なるものを煮詰めていたからな。あれは煮詰めてはいけないだろう?だから、私はそんなに楽観的にはなれない。」
 于圭が苦笑しながら張雄に説明すると、急に扉が開いた。見ると、噂の徐蓋である。
 「于圭、あなたは私をなんだと思ってるの?」
 呆れながら出てくる。後ろには李禎も居た。張雄が驚く。
 「へえ、徐蓋起きてたんだ。」
 「あの音量を隣で聞いてたら、誰だって起きるわよ。」
 あの音量とは、言うまでも無く張雄の悲鳴の音量である。李禎がさわやかに言った。
 「おはよう、于圭ちゃん、張雄ちゃん。張雄ちゃん、今日はよろしくね。」
 「ああ、よろしく。」
 そういっているところに、二つの人影が近づく。真っ先に気付いた李禎が挨拶した。
 「あ、張虎ちゃん、楽チンちゃん!おはよう!」
 「おはよー!今日もいい天気だね李禎!うけーたちおはよー!今日も凄かったねぇ、張雄の悲鳴。」
 「おはよ。」
 頭を抱えながら張虎は挨拶をする。徐蓋が尋ねた。
 「どうしたの張虎。またいつもの?」
 「うん。気にしないで・・・。」
 いつものとは、立ち眩みのことだ。この少女は頻繁にある。まあ、成長している、ということだろう。楽チンが言った。
 「それより、早く食堂行こう。お腹減ったー!」
 その意見で、四人は食堂へ行くこととなった。

729 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:15


 流石に、朝も早いこの時間、食堂には人がいなかった。四人は、自分の分のトレーを受け取ると、いつもの席へ向かった。
 それぞれに食べ始めると、二人の女性が近づいてきた。
 「あ、張遼先輩、李典先輩。」
 真っ先に気付いた于圭が言った。それは、犬猿の仲とも呼べる組み合わせだった。そんな二人が食堂で食べるとは、珍しい。
 「おはよう、皆。」
 「おはよう。」
 先輩が挨拶したからには、こちらも挨拶し返さないといけない。
 「「「「「「おはようございます!」」」」」」
 そして、二人は席に着いた。張遼は張虎の隣。李典は李禎の隣。真反対の方向であった。二人の先輩は気にしないで食べ始める。
 やがて、李典がお代わりすると言い出した。飯櫃に一番近いのは張遼である。張遼が厭味たらしく言った。
 「あらー、李典さんお代わりするの?運動しないのに?そ ん な だ か ら最近横っ腹が出てきてるんじゃありませーん?」
 李典も負けじと言い返す。
 「あらー、じゃあ張遼さんはお代わりしないの?そ ん な だ か ら試合中集中力が途切れたりするんじゃありませーん?」
 二人の視線は、冷たい氷のように寒い空気を生み出した。それに気付いた徐蓋が言った。
 「李典先輩、私がくみます!」
 徐蓋の伸ばした手に、李典のお茶碗が乗っかると、張遼は『フンッ』とでも言うようにそっぽを向いた。それに胃を痛くしたのは李禎である。
 「どうして二人とも、仲良くできないかなぁ・・・。」



 学校へつくと、張雄と李禎とは分かれた。二人は日直なのだ。階段を上りながら、楽チンはのんきに言った。
 「今日も仲悪かったねぇ、張遼先輩と李典先輩。」
 「そうだねぇ。卒業しても、お姉さまと李典先輩の仲はよくならないと思うな。」
 受け答えをする張虎も、のんきなことだ。于圭は呆れた。
 「張虎、お前には自分の姉たちを仲良くさせようとする気は無いのか。李禎はあんなに胃を痛めてるというのに・・・。」
 「だって、無駄でしょ?」
 悪びれず答える。こんなのを説得するほうが時間の無駄である。そんなこんなで、教室に着いた。
 「ねえ于圭、今日の数学の宿題やった?見せてー!」
 教室に着くなりそんなことを言っている楽チンに、于圭は特大の怒鳴り声を浴びせた。
 「そんなん自分でやれぇーーー!!」
 
 

730 名前:烏丸 沙宮:2005/07/10(日) 20:19
 ごめんなさい、張虎の設定も好き勝手っぽいっすこれじゃ・・・。
 それより、徐蓋のブラックな設定も活かせなかった・・・それよりキャラが大爆発してるのは于圭ですね。レッツ、突っ込み役。。。

731 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 20:50
>烏丸 沙宮様
うけータンかわいいよ。うけータン。
ちなみに多分、王昶&王基世代と五覇妹ズ(ごはいもず)は世代的にタメと思われるので私も小説に使いやすかったり! なんだ結局は自分がかわいいのか!あぁ、そうさ!(ナニ?


でも実際になにをやったか、ってエピソードが残ってるのは楽チンの『しょかつたんにころされちゃった。てへv』だけなんだよなぁ……
エピソードなくて使いづらいなぁ。
うけータン、もっとがんばらなぁあかんよ?

732 名前:雑号将軍:2005/07/10(日) 21:06
>烏丸 沙宮様
おお!ついに学三もここまで来ましたか!!たぶん、どこの三国志小説サイトさがしても、魏の五将軍の息子(妹)が登場するのはここしかないでしょう!
お疲れですっ!お見事です!僕も于圭いいと思いましたよ〜。彼女らのキャラ絵が楽しみです!
僕も五虎将軍の娘たちやってみようかな。
そう言えば、呉でもし五将軍がいたとしたら誰だったんでしょうね。

733 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:09
>五覇妹ズ
とうとう来やがったかッッ!!(;;゚Д゚)
てかマックスコー○ーを煮詰めたらヤバいですよ、マック○コーヒーは。
海月も大学の旅行で出会ってトラウマになった飲みモノですし…(((((;;゚Д゚)))))

>呉の五将軍
そういえばそんなの考えたこともないぜコンチクショウ_| ̄|○
呉で五人…孫堅、程普、韓当、黄蓋、祖茂ですか?とか本気で言いそう。
その頃にはまだ組織としての「孫呉」という概念もなかったはずだし…。

呉書第十から適当に誰か見つくろってみます?

734 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:11
「独立政権を作るべきではない」
隣に腰掛けた、赤い髪の小柄な少女がそう呟く。
「董昭たちが何考えてるのかなんて知らないけどさ、文若が考えていることなら良く解ってるつもりだよ…でもね」
私が彼女と行動を共にするようになってから、既に二年の月日が流れていた。
乱れた学園を自らの手で立て直すと言って、ただがむしゃらに駆け抜けてきた少女と共に、何時か自分も彼女と同じ夢を見ているような、そんな気がしていた。
「“魏の君”の名前なんて、あたしにとっては“奸雄”の呼び名となんら変わることもないんだ」
「…ええ」
そう言った瞳も、彼女の心も、私が知る彼女のまま、変わることはなかった。

何時から、それが食い違っているように思えるようになったのだろう?
董昭が発議した、魏地区独立政権樹立運動の頃からだろうか?
彼女が、実績や品行を問題とせず、広く人材を募ると言う「求賢令」の発令を求めた時だったろうか?
それとも…彼女が孔融先輩を不敬罪で処断した時から?

もしかしたら、もう私が彼女と出会ったそのときから、それはあったのかもしれない。
私が勝手に作り上げた「彼女のイメージ」と、現実に目の前にいる「彼女本人」の違い、というものが。


-輪舞終焉-


私は部屋の中、彼女が寄越してくれたと言う箱を眺めていた。
何処にでもある、ケーキを入れるような真っ白な紙の箱。
中身は何も入ってなくて、何か書いてあるのかと思って分解してみても、文字どころか何の汚れも見当たらない。

中身のない、純白の空箱。
もしかしたらコレは、それ自体が彼女のメッセージなのかもしれない…そう思い至るのに時間はかからなかった。
その意味しているものに思い至った時、私はそれに気づいてしまった自分自身を呪わずにいられなかった。

「自分からはもう取るべきものは何もない」
すなわち、もはや「曹操」にとって、「荀撻が無用の存在である…そう示唆しているようにしか思えなかったからだ。

私の瞳から、堰を切ったように涙が溢れた。

735 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:12
そのあと、どのくらいの間、そうしていたのか解らない。
何時の間にかあたりはすっかり暗くなっていて、その夜闇の中、目の前に鎮座している白い紙箱が、妙に目立って見えた。
たんに瞬きもせずに目をあけていたせいのか…それとも、既に涙も涸れ果ててしまったのか…乾ききった私の瞳には、その白さがただ、痛かった。

私はそれを燃やしてしまおう、と思った。
この中に彼女との想い出も詰め込んで、一緒に焼いてしまえばいい…楽しかったことも、辛かったことも…そうすれば、楽になれるような気がした。

私はマッチと、火が周りに燃え移らないように大き目の皿を取り出し、その上に紙箱を置いた。
おもむろにマッチを一本取り出すと、ふと、脳裏にひとつの考えが浮かんだ。
「もし…このまま私が死ぬのなら…神様は幻でも見せてくれるのかしらね…?」
誰に言うともなく、そう呟く。
昔読んだ童話では、少女は寒空の中、売れ残ったマッチの火の中に、楽しかった思い出の日々の幻を見ていた。
だったら、すぐに消えてしまうマッチの火ではなく、この紙箱を燃やしたら、何が見えるのだろう?
捨て去ろうとした想い出が、走馬灯のように流れていくのだろうか?
自分がまだ、こんなことに思いを馳せるくらいの心の余裕があったことに、私は苦笑した。
そして…マッチに火をつけ、紙箱の中に投じた。

燃え盛る火の中に、やはり幻は見えない。
ましてや、私が彼女と過ごしてきた日々の想い出も、心の中に色褪せず残ったまま。
そんなことは解りきっていたことだ。この行為に何か意義があるかどうかなんて、期待はしていない。
だったら、私は何を求めていると言うのだろう?

彼女との想い出を、総てなくすことなのだろうか?
それとも、またあの頃みたいに、一緒にいたいというのか?

「…解らないよ…」
私は頭を抱えた。
切なくて、苦しくて…気が狂いそうなほど、何かを求めているのに、その「何か」が見えてこない。
私は、この火に何を求めようとしたのだろう?
いや、この白い箱の中に、何が入っていることを望んでいたのだろう?
心に渦巻く奔流が、その堰を破って噴出そうとした時。

「荀揩ヘ、荀揩ナあればいいんだよ」

はっきり聞こえたその声に、私はその声の方向へ振り向いた。
何時の間に開け放たれたのか…さして明るくもない廊下の非常灯が、嫌に明るく見えて私は目を細めた。
そこにいた人影が、一瞬彼女に見えた気がしたが…
「…公達」
いたのは、穏かな笑みを返す、同い年の姪っ子だった。
「伯母様、その箱の中には…何が見えました?」
その声の中に、求めて止まなかった幻はもう、消えうせていた。

736 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:13
それから、その火が燃え尽きるまで、ふたりでただそれを眺めていた。
相変わらず目に映るのは、炎の柔らかな緋の色と、その中で黒く小さく変わっていく、白かった紙箱の慣れの果て。
私には、まるでそれが今の…いや、これまでの自分のように思えていた。
緋の炎は彼女。
私はその中で、その炎が消えないようにしてきたんだと、そう思えてきた。
だったら…その「白い箱」が私自身であったと言うのなら…
「…なぁんだ」
私はきっと、とんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
きっとこの白い箱には、最初私が思い込んだ意図など、何処にもなかった…。
「答え、見つかりました?」
「ええ…荀揩ヘ荀揩ナしかない、って、こう言うことだったのね」
私の心の靄は、もうすっかり晴れて…その向こうにあった私なりの「答え」を、ようやく見つけることが出来た。



合肥棟の屋上で、眼下の戦場を眺める少女ふたり。
眼下の喧騒に比べ、曹操と夏候惇がいるその場所だけが、まるでそこだけ別の世界のように静かだった。
「文若さんたち…引退、するんだってな」
「うん。でも…いいんだ」
背後に立つ従姉妹に振り向くこともなく、寂しげな笑顔を空に向けながら、曹操は呟いた。
「あたしの気持ち、ちゃんと解ってもらえたと思うから」
「そうか」
少女は、かつて自分を影ながら支えてくれた少女が身に付けていたストールを翻す。
(今まで…ありがとう。たまには、学園から出て一緒に遊びに行こうね)
今まで影ながら支えてくれた少女に、彼女はしばしの別れを告げた。
その瞳から流れる涙は、風が払ってくれた。

737 名前:海月 亮:2005/07/10(日) 22:22
重苦しい話でごめんなさい_| ̄|○
「蒼天航路」29巻と「静かなる夜のまぼろし」見てたらこんな話が書きたくなっただけなんです…。

二宮の変もそろそろやりたいんですが…構想がまとまらないので先にもうひとつの大ネタにとっかかります。
孫皓関係の話なので、多分めちゃめちゃ重苦しい話になるでしょう。

738 名前:北畠蒼陽:2005/07/10(日) 23:13
>海月 亮様
おぉっと、荀令君! こりゃまたお見事っす。
呉ネタだけでなく魏ネタもかいちゃうとこ、見習わなきゃいけませんねぇ。
でも私が呉……呉かぁ。
……ネタが浮かばないなぁ。

んー、あの大軍師の最期はいろんな人がいろんなこといってますけど私は大澤教官の『真実の三国志』第8章で書かれたのが一番近いんじゃないかな、と思いますがいかがなもんでしょうか?

まぁ、人の数だけ物語がある、ってことでこれはこれでGJなのですよ〜。

739 名前:★玉川雄一:2005/07/11(月) 02:33
>>732-733
http://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=sangoku&key=1035648903&ls=50

ちなみに魏だとこういうのもある
http://gukko123.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=sangoku&key=1035648462&ls=50

まあ、千葉県民の漏れにとっちゃマクースコーヒーなんざ湯水のごとくあびるよオにいけるがな(´ー`)y-~~~



……ゴメンナサイイッポンデカンベンシテクダサイ_| ̄|●

アタシも二宮の変書きたい…けどそれ以前のネタで行き詰まってるし('A`)

740 名前:雑号将軍:2005/07/11(月) 23:20
>海月様
お見事っ!呉だけでなく魏の話しまで書かれるとは…。感服つかまつりましてござりまする。
荀掾cなんか曹操の軍師ってみんな最期が切ないですよね。荀揩ゥあ。僕も今度は魏の武将書いてみようかなあ。

>玉川様
ありがとうございます!さっそく覗かせて頂きました。なるほど。やっぱりこういう談義あったんですね。
僕もみなさんとだいたい一緒で、甘寧、朱然、朱桓、徐盛、太史慈だと考えています。時代がバラバラですが…。

741 名前:海月 亮:2005/07/16(土) 11:51
荀令君のあとまったくネタも浮かばない私が来ましたよ(^^

>北畠様
てか王表の6話までをキボンヌ。とか言ったらダメですかね?
私めはそろそろ蜀でも誰か書きたい気もしますが…。

>雑号将軍様
魏将は書く人間に事欠きませんからねぇ。
まだまだ書いてみたいとかSSを見たいヤツはゴマンといますよ。

そういえば私、何時か書こうと思っていた陳泰&昜の話の草案、何処やったっけ…?(オイ

>呉の五将
こいつぁとても参考になりますねぇ…。
皆様それぞれでやはり大いに見解の割れるところなんですね。
周瑜、魯粛、呂蒙、陸遜はやはり別格としても朱然、朱桓、全N、呂岱、賀斉の名が挙がってきそうです。
徐盛も捨てがたいんですけどね。

甘寧は確かにゲリラ戦術に長けてはいると思うのですが…「五将」と言うカテゴリーにはまるかは個人的には疑問の残るところ、ですかね。
同様に、伝では諸侯扱いになった感のある太史慈は別格の存在だった気もします。


孫皓時代になると陸抗を別格に置いて、丁奉、施績、留平、鐘離牧、陸凱という実に海月好みのメンツしか挙げられないと言う罠。

742 名前:海月 亮:2005/07/16(土) 12:08
…と思ったけど、甘寧の件で早くも訂正。
考えてみれば甘寧は蜀攻略を献策したり、戦闘以外でも活躍していること思い出した…
甘寧も五将の候補に加えても問題ないですね。

743 名前:雑号将軍:2005/07/16(土) 13:28
同じく、何もネタが浮かびそうで浮かばない雑号将軍です。一応、絵描きBBSで談義した曹操の話を書こうと思ってはいるのですが。

>私めはそろそろ蜀でも誰か書きたい気もしますが…。
それなら羅憲と歩協の戦いとかどうですか?まあ、僕の希望ですが…。

>呉の五将
そうですよね。やっぱり四大都督は別格として・・・・・・朱然、朱桓は決定。後が、魏や蜀のメンツから比べると見劣りしてしまうんですよね。呉ファンの皆さんごめんなさい。
甘寧。そうかもしれませんね。趙雲もそうなってしまいそうですが。そうでしたね。太史慈はなんか別格の扱いを受けてました。手元に正史三国志がないもので…。本気で購入考えようかな。
孫皓時代は海月様とまったく同じですね。張悌はどうなんですかね?政治家なのか将軍なのかよくわかりません。

744 名前:海月 亮:2005/07/16(土) 17:48
>羅憲VS歩協
…が、頑張ってみます…。
でもそれなら何気に丁奉の出番があるかも。

>甘寧と張悌
いえいえ、甘寧は入れちゃっていいと思いますよ(^^A
最近思い入れ持ちすぎないよう過小評価しているきらいがあったものだから…

張悌は…たしかにかなり難しいところですよね。
あの時代になるともう、ひとかどの人物を呉で探すことが最早困難なような気がしますが…まぁ張悌ならあの時代では、呉将でも飛びぬけた存在ではあることは間違いない気がしますね。

745 名前:雑号将軍:2005/07/16(土) 21:57
>羅憲VS歩協
あ、あの、ただの独り言と思ってスルーしちゃってもかまいせんからっ!気を使わせてしまったようで…。

>呉の五将
なんか難しいですね。やっぱり呉で同時期に五人の将を集めるのは難しいのでしょうかね?

>張悌
そうですね。あの時代になるとホントに…。後は・・・・・・ごめんなさい、僕の知ってる限りでは見つかりません。
こう考えると呉が滅亡したのは自然だったのでしょうか?

746 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 10:40
「〜♪」
王昶がお気に入りの洋楽を口ずさんでいる。
王基がそれを胡散臭そうな顔で見た。
王昶はスカートの丈をヒザ下まで伸ばし、別に目に異常があるわけでもないのに右目にアイパッチをつけている。本人に聞いたら『ファッションだ』と言い張ることだろう、恐らく。
ちなみにアイパッチにディフォルメされ可愛くなったドクロのマークが描かれているところなんぞはもうどうツッコんでいいのかすらよくわからない。
だがそういう王基からして曹爽副官時代に着ていたボレロを身に着けているのはアナーキーっぷりを存分に発揮しており、いい感じといえるかどうかすら微妙なのだが。


東興の日


その日、長湖部の巨人、孫権が引退した。
これは蒼天会にとって混乱しているであろう長湖部を打ち倒す千載一遇のチャンスであった。
司馬師はこの機を逃さず諸葛誕と胡遵を東興に、王昶を南郡に、毋丘倹を武昌に進めさせた。
これは現蒼天会を代表する人材であり、まさに司馬師のこの一戦にかける意気込みが伝わるものであった。

「まさに無人の沃野を征くが如し♪」
王昶が本陣とする仮設テントの長机に腰掛けながらご機嫌に呟いた。
王基は微妙な表情をする。
確かに『無人の沃野』だ。人がいなさ過ぎる。
恐らく東興か武昌に全軍を集結させているのだろう。
そちらの戦線が敗れれば……あまり好ましい事態にならないことは確かだろう。
王昶が王基の表情に気づき苦笑する。
「わかってるって、私だってバカじゃない……まぁ、かった〜い校舎があるんだからそれを利用した防衛、ってのが正攻法。多分、敵が集結してるのは胡遵のとこだろうね」
「……うん。だったら今、惜しいものは時間」
「そぉそ♪ OGの孫ビン先輩は敵国に攻められた趙を助けるために敵国の本校舎に直接攻めかかったらしいけどね。つまり私らのなすべきことは……」
「……今だから建業棟を目指す。それがわかってるんだったら……」
すぱこーん。
王基が王昶の頭をスリッパで叩いた。
いい音がした。
「……テントなんか撤収してとっとと動く。一刻一秒の無駄は許せないわ」
「えぇい、伯輿だけが副官ならわざわざ意思確認なんて必要ないわい! 他にもひとがいるから意思疎通のための会議が必要なんでしょ!」
頭を庇うように腕を上げて王昶が王基に抗弁する。
……まぁ、それもそうか。
王昶の妹の王渾をはじめとして幕僚には恵まれている。だが恵まれてはいるものの意思疎通は重要だ。
「……じゃ、もういいでしょ。動く動く」
「ぇー、まだいいよー。胡遵も諸葛誕もバカじゃないんだから。まともに戦闘せずに時間稼ぎに徹してさえくれれば私と毋丘倹でなんとかするさ」
王基が拳を振り上げると王昶はカンフーポーズで対抗した。よくわからない。

伝令が息を切らして王昶のテントに飛び込んできたのはちょうどそんなときだった。

747 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 10:43
「あのバカッ!」
シニカルな笑みを浮かべるか、またはにこにこと笑うか……どちらにしても王昶にしては珍しいことに激情を顕わにして机を拳で打ちつけた。
王基も気に入らなさそうに鼻にしわを寄せている。
しかしそれを王渾をはじめとした幕僚たちも止めることはできない。
伝令の伝えたニュースはそれほどショッキングなものだった。

東興において諸葛誕と胡遵、敗北。

韓綜や桓嘉はトばされ、主将の諸葛誕と胡遵も身ひとつで逃げるという絵に描いたような大敗北であった。

王昶も王基もそのまま固まったように動かない。
幕僚たちも戸惑いを止めることはできない。なんといっても今、この場に2人以上の戦歴の持ち主はいないのだ。
実質、指示待ちではあるもののその肝心の2人ともが動かない状態であった。

たっぷり2分凍りついたように動かないでいた王昶がやがてぼそっと口を開く。
「撤収するよ」
「おね……主将! 私たちは無傷です! ぜんぜん戦える状況ですよ!」
抗弁する王渾に今度は王基が答える。
「……ここは長湖部領内ってことを忘れちゃいけないわ。これは一方面の敗北ってだけじゃない……『蒼天会のホンキ』の敗北よ……ただ」
王基がちら、と王昶を見る。
「……文舒、責任とろうなんて考えてないでしょうね?」
「軍隊を無傷で撤収させるんだ。せっかく高まってた士気もがた落ち……誰かが責任とらにゃあいかんだろ」
拳を机に打ちつけたまま王昶が答える。
王渾たちははっと息をのんだ。
それはそうだ。中央の人間の中にも今の自分のように『まだ戦える』と考える人間だっているだろう。
まだ戦えるにもかかわらず撤収などをすれば処罰……最悪、自主引退……
「玄沖、その場合はあんたが指揮権を握るんだよ。大丈夫、あんたまで責任が回らないようにはしてやる」
「おね……!」
なにかを言おうとする王渾に、王昶はやっと顔を上げ、笑顔を見せた。
「責任者ってのは文字通り責任を取るためにいるんだ。なにもおかしくはない」
「……ふ〜ん」
今にも泣きだしそうな顔の王渾。
しかし王基だけがさらに不満げな顔をする。
「……文舒、1人で責任取るなんてかっこつけたこと、許せないんだけど」
「あんたは残れ、って言いたいけどね。ま、そういう顔したときはなに言っても無理か」
王基は王昶の苦笑交じりの言葉ににっこりと笑った。
「……長い付き合いだからね。諦めなさい」

748 名前:雑号将軍:2005/07/17(日) 10:59
またまた来ましたな、王姉妹&王基!責任者は責任を取るためにいる…なんか前にもどこかで聞いたことがあるような…。
性格が悪い王昶もこの辺りは流石に名将と呼ばれることはありますね。格好いいですなあ。
僕も曹操ネタそろそろまとめないと・・・・・・。

749 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 11:06
以前、海月 亮様が書いてた東興の別視点ですね。

いや、これは私事なんですが前に入院してたうちの祖父が亡くなりましてちょっと里帰りなぞをしておりました。
純粋文人(になりたいなぁ、と思っている)北畠としてはへこんでいるときにしか書けない小説もあるはずだ、などと思ったわけですが……
ごめん、ただの支離滅裂ものだったorz
あ、ちなみに祖父はもともと医者から夏まで生きられない、といわれてたんで精神的なへこみはそれほどないのです。
むしろ今まで生きていてくれたことにむしろ7月までよく生きてくれたなぁ、とか思うわけです。
さすが若いころは満鉄の機関士だった男だぜ! 関係ないですけど!

生き死にとかに触れたあとでごく普通のテンションのものってのはちょいと書きづらかったですね、精進が足りませぬ。

>王表の6話まで
か、勘弁してください(吐血笑

>五呉将(『ごごしょう』は非常にゴロがいいです
黄蓋、韓当、程普、祖茂、凌操ってのはなしですかっ!?(笑

>呉滅亡についての所見
いや、実際のところ自分の個人的意見ですが『人1人の能力ってのはそれほどかわらない』ってものがありまして。
まぁ、確かに失敗者と成功者がいるわけですが『能力』としてはそれほどの違いはないと思うんですよ。
じゃあ呉末期に有名な人がいないのはなぜか。

呉は負けましたから!

実際、無能モノばっかりだから自分らが攻めていって住民を解放してあげた、という体裁をとらないと王朝としても都合が悪いでしょうしね。
えぇ、本当はいたと思いますよ、歴史が語る以上の『名将』は。

750 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 11:16
わおお、あとがき書いてる間に先行カキコされたー!(笑

>雑号将軍様
やっぱ性格悪いだけじゃ『いくさ人』じゃないですよ。
私の尊敬する隆慶一郎先生がその小説に書いてることを自分なりに考えたのですが……

徳川家康はタヌキ親父などといわれているが戦国時代を通して織田、徳川連合ほど強固で礼儀正しい同盟は存在しない。
だからこそ関が原においていくさ人たちは『このひとであれば自分が信用するに足りる』と徳川方についたのである。
家康はもちろん策略などは使うが武人としての『ルール』は守る。

もちろん『責任者だから責任を取る』ってのもルールだと思うわけですよ。
王昶は『武人としてのルールだけは守る策略家』……そういうふうに書いていきたいなぁ……

あ、ちなみにこのとき王昶&王基は罪に問われてません。
この一事だけを見ても司馬師ってすごいな、と思うわけです。

751 名前:雑号将軍:2005/07/17(日) 13:08
>入院してたうちの祖父が亡くなりまして
えーと、なんて言えばいいか…。ご冥福をお祈りいたします。すみません。いい言葉がみつかりませんでした。

>五呉将
おおお!あなすばらしや!あなすばらしや!ここは一発どなたかに五呉将ネタを!って自分出かけよ…。それ以前に五呉将ってホントに誰なんだ?他の皆様方はどうかんがえておられるのでしょう?

>家康&王昶
そう考えると家康って劉備に似てません?えっ僕だけ?まあ劉備は家康と違って強大な力が消える前に自分が消えちゃいましたけど。

王昶・・・・・・これこそが大将の器ですよね!これからも頑張って下さい。期待してますっ!

>司馬師
司馬懿の息子というのはどうやら伊達ではないようですな!実は僕、司馬師なんかしらないけど好きじゃないんですよ。司馬懿、司馬昭は好きなんですけど…。う〜んなんでだ?あっ!毋丘倹の呪いかっ!

752 名前:海月 亮:2005/07/17(日) 21:20
ふむ、これで東興堤はいっちょあがり…かな?
今うちとこ置いてあるリミックス版と読み合わせても違和感とかまったくなかったです。
同じ事件を取り扱っていても、切り出した方面からまた違うドラマが見えてくる…すばらしいことです。

てか王昶たんカコイイ…(;´Д`)

>五呉将
とりあえず海月だと陸遜、甘寧、呂蒙、虞翻、丁奉とか。
ただ好きな呉将を並べたと言う罠_| ̄|○
コレは冗談ですんで…

海月の本音はこんなあたりを参照のこと→>>742 >>743

>歴史が語る以上の名将
とりあえず吾彦の名があがると思われ。
孫皓が彼の忠告に耳を貸していればもしかしたら…。

まぁ敗者の業績は抹消されるが世の常。直江山城とか島左近とか。

>毋丘倹の呪い
じゃあ海月の場合、諸葛亮先生が嫌いなのは漢乙女・魏延の呪いっつーことでどうかw

753 名前:北畠蒼陽:2005/07/17(日) 21:43
>呪い?
実は私も諸葛亮のひとが嫌いなわけですが誰の呪いってことにしとく?(笑

>ちなみに
絵描きbbsで玉川雄一様がイメチェンについて述べておられましたが……えぇ、まぁ、それに触発されたわけで今回から王昶書くときは服装の描写していこうかな、と思ってます。
ちょい変わったモノ着せていきますんでヨロ。

>日本だけど
北条家宿老、松田憲秀は裏切りの事実すらなかったと思われるわけです。
史実には『豊臣の誘いを受けて、息子らと共に豊臣家に寝返ろうとするのだが、次男がそれを北条氏直に密告したため、計画は露見して捕らえられ、小田原城の開城後、豊臣秀吉に裏切りの件を咎められ、切腹を命じられた』なんてことになってるわけですが当時、秀吉の敵は北条家が最後ではなく、まだ東北地方にバラバラと潜在敵国の勢力が残っていたわけですから『わざわざ自分から降伏してくれた敵将』を大事にしないわけがないのです。
だってこのあと伊達家とかいろいろ攻めなきゃいけないのに敵勢力からの降伏者は認めない、なんて宣言してるようなもんですからそりゃ今後の戦いが泥沼化しちゃいますよ。

松田憲秀は恐らく北条家にとって真に名将と呼べる人物であり、だからこそ秀吉は彼を恐れて貶める宣伝をしたのではないか、というのが私の推測です。

754 名前:★玉川雄一:2005/07/19(火) 01:37
>呉末
やはりまずは猛獣キラーにしてマルチロールファイターの吾彦があがりますね。
あとは交州統治に携わった陶[王黄]、周魴の子の周處あたりも指揮官としてなかなか。

他には、後に晋朝に仕えて「東晋中興の名将」と謳われた周訪や、
同じく東晋の重鎮・陶侃らも呉の出身で、彼らの父は呉将でした。
他にも戴淵(戴烈の孫)、甘卓(甘寧の曾孫)らも呉の出身ですね。

ただ、各人ともそれぞれちょうど成人した頃に呉が滅亡してしまっており、
それまでの活躍というのはほとんどなきに等しいといったところです。
彼(彼女?)らが主役となるのは『東晋ハイスクール』(そういうネタがあるのよ)
においてということになりますね。

755 名前:雑号将軍:2005/07/19(火) 22:00
>呉の末期の名将
な、なるほど。皆さんの意見を総合すると、吾彦は呉末期にしてはかなりの名将であった…ということですな。
不甲斐なきことに、僕はまともな三国志の資料が三國志]の武将ファイルしかないので良くはわからないのですが、見るところによるとかなりの名将のような気がします。
陶[王黄]、周處、周訪、陶侃、戴淵、甘卓…玉川様!ごめんなさい。マジでわからないです・・・・・・やっぱり正史三国志買うべきですかね?やっぱり学校の図書室じゃあ無理あるしなあ…。

756 名前:★玉川雄一:2005/07/20(水) 20:10
щ(゚Д゚щ)オイデオイデー 来たれ正史の世界へ!
『読むのタルい』『おもんない』『長っ!』などと言われてはおりますが、
ポイントを掴めば正史には正史なりの面白さというものがありまする。
むしろ『正史ならではの楽しみ』を見いだせるようになれば、
めくるめく三国志ライフがあなたをさらなる泥沼へと誘うことでしょう…
サクッと買いそろえるには少々値が張りますが、
一生モノだと思えば悪くない投資ですぞ。

ところで上記のメンツなのですが、だいたいが三国時代というよりは
次の晋代に活躍した人物でして、一部を除いては三国志には記述がないのです。
ですが『晋書』には彼らの伝が立てられており、その業績を知ることができます。
とはいえ晋書の和訳はまだ存在しないので、私が以前2ちゃん等に投下した
自己流人物小伝をあげておきます。ご参考までにどうぞ。

757 名前:雑号将軍:2005/07/20(水) 23:18
>来たれ正史の世界へ!
本当は飛びつきたいところなんですが…やっぱり全巻まとめて買うと高いですしね〜。・・・・・・でも、買いますっ!決めました!たぶん…。と言っても10月くらいになるでしょうけど。
僕の三国志の知識は少ないですが、三国志が好きなのは皆さんと同じだと、独りよがりに浸っておりますので。やっぱり必要ですよね。高順伝?を読んだときにいたく感動して「いつか正史を我が手に!」と思っていたので、そろそろ頃合いかと…。
ありがとうございます、玉川様!僕の背中を押して頂いて。

758 名前:北畠蒼陽:2005/07/21(木) 01:48
>雑号将軍様
あ、あんまり無理しないでね?^^;
学生さんなんだからこれから、でも間に合うと思います。
私もはじめて正史を買ったのが社会人になってから、なんで^^;
えぇ、それまでは図書館通いでしたとも。

まぁ、あれです。無理はしないでくださいね、ほんと。

759 名前:北畠蒼陽:2005/07/21(木) 03:19
>海月 亮様
いつぞや朱績さんをコケにして楽しむお話を書いたわけですが現在、その『無能モノ』が『名将』として覚醒するトコを書いてます。
んで呉末期を牛耳る(笑)海月様に1点、確認させていただきたいのです。

確認点/とりあえず朱績に竹刀持たせてるんですが、なんか彼女に使わせたい流派とかあります?
もしあればそちらに沿わせていただく感じで行きたいと思います。

あ、ちなみに『意思の担い手たち』を確認したところ朱績の一人称って『あたし』だったんですねっ!
最初、『私』で書いてて全部手直しになったのは秘密秘密。

760 名前:海月 亮:2005/07/21(木) 19:02
…知らなかった…今私が牛耳ってたのか(;´Д`)(>呉末

てか私はエモノを何にしようかにすら考えてなかった(^^A
とりあえず丁奉が柳生新陰流&北辰一刀流、虞姉妹は流派未定ですが杖術のなにか、陸凱は御殿手、呂拠は少林の棍法って言うのが海月の妄想設定なのであります。
香取神道流とか二天一流なんかどうですかね?

あと、一人称とかも変えちゃって吉かも知れませんよ? 精神的な成長を果たした、ってことで。

761 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:13
「うわ! あつぅ〜っ!」
前線から聞こえてくる声に朱績は唇を噛む。
見上げれば校舎屋上に敵主将、王昶の姿。
その手にはカップ焼きそば。
どうやら屋上から下に向かって湯きりをしたらしい。
お湯の直撃を受けた人はいないようだが……こうもあからさまな挑発はむかつくっ!
鼻歌でも歌いだしそうな……いや、実際に歌っているのかもしれないが……表情で焼きそばにソースと青海苔を絡めている。どうやらマヨネーズは使わないらしい。
「……あい……つ……!」
朱績は眉を危険な角度に吊り上げながらぎゅっと竹刀を握り締めた。


夾石のディキシィ


それは長湖部の人間にとって信じられないニュースであり、第一報を聞いたときは誰もが耳を疑ったものだった。
諸葛誕の蒼天会造反。
誰がこんな展開を想像したことだろう。
確かに長湖部にとって諸葛誕という人物は課外活動で実績を残しているわけではなかったが、それでも揚州校区の北側で睨みをきかせるその姿は目の上のたんこぶという以外の形容詞がなかった。
諸葛誕はすぐさま妹を長湖部に派遣し援軍を要請。
孫リンはこの機を逃さず文欽、唐咨らを派遣した。

長湖の畔が激情に揺れる。

本当に大丈夫?
承淵はあたしにそう聞いた。
そのときあたしはどう答えただろうか?
よく覚えていない。
だけど恐らく……承淵を怒鳴りつけただろう。
『あたしがあの女に負けるとでも思っているの!?』と。
承淵の心配があたしの能力を疑っての悪意のある発言ではないことはわかっている。

あたしはわずか半年前にあの女にいいようにされ、陸凱によってなんとか救い出されたようなものだった。
心配する気持ちはわかる。
だけど……
……だからこそあたしはあいつに勝たなきゃいけない。
江陵棟の主将として諸葛誕の援軍として動こうとすればどうしてもあいつとぶつからなければならない。
今度こそ……
今度こそ目に物を見せてやる。
見てなさいよ、王昶!
あたし……朱績は竹刀を振った。

あたしの予想通り王昶は私が援軍として動くことを阻むように新野棟から夾石棟までのこのことでしゃばり、そしてあたしを挑発するようにまともに戦おうとしなかった。
あいつの目的が時間稼ぎだってことはわかっている。
こっちが援軍にいけないことで困窮していくのは蒼天会ではなく長湖部。
あいつはただへらへらと時間を稼げばいい。
しかしあたしたちにはあいつらを無視して前に進むこともできない。
後ろに敵を残したまま前進するなんて危険な真似、できやしない。
つまりどちらにしてもあたしはあいつにつきあってやらなければならないのだ。

あいつをトばさなきゃいい夢なんて見ることできるわけないじゃない!

その感情は多分、恋にも似てた。

762 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:14
ここ何日か夾石棟を包囲し、それを陥落させようと躍起になってはみたものの、あたしの打つ手はほとんど先回りして潰されているような状態であった。
あたしはあいつには勝てないんだろうか。
いや、弱気になっちゃダメだ、朱績!
そして今日も……
「しゅ〜せきちゃ〜ん!」
……屋上からの拡声器の声。
1日に1度はこれを聞かされる。
挑発だとはわかっているけどどうしてもむかつく。
「期待してたんだよぉ? 半年前とは違う成長した姿見せてくれなきゃぁ」
『ふぁいとぉ』などと煽る。
……ガマン。ガマンだ。
「それともあれですか〜? チキン・オブ・ハートの朱績ちゃんとしてはとりあえず逃げ帰りたい気持ちでいっぱいかしらぁ?」
くねくねと体を揺らす。
ガマンだ。ガマンしろ、あたし。
「まったくさぁ? そんなカタどおりの攻め方ばっかでおもしろい? おかしい? 狂おしい? こっちはま〜ったくおもしろくないよ〜」
ぱたぱたと手を振る。
ガマン……
「まったく朱然センパイ? あのひとも後継者に恵まれなかったご様子……あ、それともこれで恵まれてるのかしら、ぷぷぷ」
口元に手を当てて笑う。
ガ……無理。
「お姉ちゃんの悪口を言うなーッ!」
「あ、やべ。聞こえちゃった」
拡声器を通してなんか言ってる。
「お姉ちゃんだったらお前なんか左足の薬指だけで一発だっつの!」
「……器用だな、おい」
若干引きながら王昶が呟いた。
「このバカー! おたんこなすー! ピザ屋のバイクー!」
「うわ、すごい悪口言われてる……ピザ屋はともかく」
あくまで余裕を見せ付ける。
あいつはなんだ? 神か?
どんどん感情が高まってくる。
「王昶! 一対一で勝負だ!」
私の激情に落ちる沈黙。
「……なんで?」
たっぷり25秒の沈黙の後、王昶は心底不思議そうな声で聞き返した。
「なんで、って……いや、だって……へ、へへん! あんた、よわっちぃからやりたくないんでしょ! あー、わかるわかる。怖いんだもんねー?」
やっと攻め口が見つかった!
あたしはどんどん言葉を回していく。
これで冷静な判断を失わせればいい。
かつてのあいつにやられたこと……それを思い出し、私は内心ほくそえむ。
「弱虫王昶ちゃん? ここはあなたみたいな子がいていい場所じゃないのよ? 公園のブランコに1人で座って夕日をバックに寂しそうにしてなさい……うわ、ほんと寂しそう! 同情するわ! 友達いないんだから仕方ないよねー!?」
「こ、この! 言わせておけばー!」
かかった!
「……なんて言うと思った? 残念。私の部下ちゃんズはみんなできた子でね。私は一騎打ちを断ったくらいじゃ信頼は失墜しないみたいよ?」
ぐ……ぬ、ぬけぬけとっ!
あたしは言葉が空回りしたことに歯軋りをする。
「だいたいさ、なんつ〜か……私、直接的な暴力で泣かすのは好みじゃないんだよね」
……もう勝ったつもりか。
……勝てるつもりなのか。
「朱績、落ち着いて。こんなの、あいつの常套手段でしょ」
副将の全煕があたしに声をかけてくる。
えぇ、えぇ。あたしは落ち着いてますよ? 地獄の業火のように落ち着いてますとも。

763 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:14
「まったく……一騎打ち? そんなバカなことばっかり言ってるとMNSVに犯されてえそ斑点病になっちゃうぞっ!」
えそ斑点病ってメロンの病気じゃないかッ!
せめて人間様の病気を言えッ!
ストレスがたまるのを感じる。
なるほど……承淵の心配どおりになった。

そう自分で思い当たった瞬間、なぜか心が楽になった。
なるほど。『突き抜ける』っていうのはこういうことなのか。

「朱績ちゃん、聞いてる? おぉ、不肖の主将よ。人の話を聞かないとは嘆かわしい」
王昶がわざとらしく首を横に振る。
なぜかそのときのあたしの心の中は余裕で満たされていた。
「全煕、全員を下げさせて」
傍らの全煕に指示を出す。
「え、でも……」
「いいから」
全煕の反論をにっこりと笑って封じる。
『なにがいいものか』という全煕の顔。多分、彼女はまだあたしが感情に突き動かされてる、と思ってるんだろう。
気持ちはわかる。
でもあたしには勝算があった。
全煕が渋々、全員を後退させる。
「……?」
拡声器からの声はない。でも当惑の雰囲気だけは伝わってくる。
……大丈夫だよ? その当惑に答えを与えてあげる。
あたしは全煕にさらに指示を出したあとゆっくりと拡声器のスイッチを入れた。

「やぁやぁ、さすがは名将? あたしじゃ太刀打ちできないからこのまま撤退させてもらおうと思うんだけどそういうのってどんなもんかな?」
あいつは……
王昶は確かにすごい。それはもう認めざるを得ない。
でも、だからこそ。
今、あたしは撤退を宣言した。
実際にその選択肢も幕僚会議で出ている。
あたしはあくまで援軍。援軍『だけ』で決まる勝負なんてこの世に存在しない。
要するに主戦場の朱異ががんばってくれさえすればあたしまでがんばる必要はないのだ。

そう思っても……誤解させてもおかしくないのだ。

だから撤退する。
王昶ならそれを追撃することだろう。
後方からの攻撃というのはいつでも、誰にとっても弱点だからだ。
しかも相手はあたし……王昶にとって安全牌以外の何者でもないだろう。
だから追撃させる。
王昶に校舎の主力部隊を空にさせる。
その隙に伏兵に校舎を攻めさせる。
今、全煕に精鋭を募らせている。
あたしが弱いからこそ……
……必ず王昶をトばすことができる。
あたしは確信していた。

764 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:15
「ふ〜ん」
冷静な声が校舎の拡声器……王昶……から聞こえる。
「なるほど、私が追撃してるうちに伏兵で校舎を直接攻めようって? その攻め方は『いい』ね。ちょっと感心した」
……ッ!
あたしは呆然とする。
こいつはなぜこんなにも……ッ!
「あぁ、誤解しないで。私は本当に褒めてるんだよ? 実際にいきなりだったら本当に撤退してるとこを追撃することに頭が回ったと思う……ただ朱績ちゃんの今までの言動からするとそれが考えられない。裏がある、と思っただけ」
作戦自体は本当に素晴らしいね、拡声器からの声。
あたしはしかし……屈辱に震えていた。
褒められても嬉しくもなんともない!
しかも見破られたのがあたしの今までの言動自体だったなんて!
悔しくて涙が出そうだ。
「しまったな。『羽化』……させちゃった、かな」
王昶の意味のわからない呟きにも反応の余裕がなかった。
あたしは……
そのとき拡声器を通じて聞こえてきた声はあたしの理解を完全に超えたものだった。
「玄沖、しばらくあんたが主将代理ね。好きなように指揮してみなさい」
指揮権の譲渡?
どういうこと?
「今までで一番楽しませてくれた朱績ちゃんのその作戦の敬意を表して一騎打ちなんてどんなもんだろう?」

あたしはきっとそのときとてもマヌケな顔で校舎を見上げていたんだと思う。

「朱績ちゃん、おまたせぇ♪」
王昶が笑いながら校舎の外から出てくる。
手にはなんの変哲もない丸い棒。木刀よりちょっと長いだろうか……あれがあいつの武器?
ブラウスにタイ……それはいいとして頭に赤いベレー帽。ブレザーのかわりに迷彩柄のハーフコート、手は袖に通さずいつでも脱げるように肩にかけてあるだけらしい。スカートのかわりに迷彩柄のハーフパンツ……これはなにかの主張があるんだろうか?
あたしは応じることなく竹刀を構える。
ここで……
たしかにあたしは弱いかもしれない。
でもやっと自分の土俵に誘い出せた。
それがとても満足だった。
あたしの表情に気づいたのか王昶が表情を緩め、そしてため息をひとつ。
「……さっきのね? 伏兵で校舎を奪い取っちゃおう大作戦、ね。本当に素晴らしいわ」
王昶が笑いながら語りかける。
隙を作ろうというのだろうか?
あたしは油断なく王昶の様子を伺う。
「もう、ね。この時点で私の負けなわけ。わかる? つまり……」
王昶は言葉を切り、ため息2回目。
「……私は朱績の才能を開花させてしまった。これはカンペキに私の失態、ね。だから……」
あ……
王昶の言葉からあたしに対するちゃん付けが取れた。
あたしは……王昶に認められた。
「……絶対に建業棟に帰さない。才能がまだ蕾であるうちに刈り取らせてもらう」
言葉とともに王昶は少し身をかがめ、コートをあたしに向かって投げつける。
視界を奪うつもりか……!
左上から鋭角なものが振り下ろされるイメージがなんとなく頭の中に浮かぶ。
あたしはそれにとっさに竹刀を合わせた。
棒の重い一撃があたしの手を痺れさせる。
でも……でも受け止められた。

765 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:15
「へぇ……これは本当に開花させちゃったかな。しまったな」
無表情で無感動に呟く王昶。
これがこいつのホンキか!
あたしは素早く様子を見るための距離をとる。
棒の長さは木刀以上……実際にどれくらいだ!?
間合いがとりづらいことこの上ない。
「突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀……神道夢想流杖術、王昶、参る」
じょ、杖術!?
聞いてない!
技を見たこともない……つまり王昶がどんな間合いで仕掛けるのかまったく想像もできない……
「こうしようか。あんたは私の体に竹刀をかすらせれば勝ち。私はあんたの蒼天章をはずせば勝ち……現時点ではそれくらいの実力差がある」
バカにしてっ! ……とはちっとも思わなかった。
ただ相手が塩を送ったことによってチャンスが広がったと思った。
30分前の自分ならきっと王昶のその言葉だけで冷静を失い、ラッキーとは思えなかっただろうな……自分に苦笑。
しかし……
王昶を見る。
まったく『殺気』とか『覇気』とか、そういったものが伝わってこない。
伝わってくるのはただ純粋な戦闘力。
こいつは……
こいつは……なにかをしよう、というんじゃなくただ呼吸をするのと同じ感覚で私をトばそうとしているんだな……
私は心を決める。

決めるのは最初の一発。
後の先で一太刀浴びせる。

竹刀を正眼に構え、目をつぶり、一呼吸。
「天眞正傳香取神道流、朱績、参ります」
「よく吼えた。泣いて謝っても許さないからね」
王昶が無感情に吐き捨てる。
あとはただゆっくりと……
無言で時間が流れていく。
空気が張り詰める。
なにも……

王昶が動いた。
あたしはどう動いたのか覚えていない。

「……ちっ」
王昶は自分のブラウスの袖を見下ろし、不機嫌に眉根を寄せた。
足元には朱績が倒れている。
完全に首筋に一撃を叩き込んだ。
まぁ、しばらくは起き上がることもできないだろう。
夢の中の住人でいるがいいさ、と思う。
だが……
王昶のブラウスの袖は鋭い刃物で切り取ったように裂け、腕の肌が姿を見せていた。

避けたつもりだったけど……予想以上に鋭かった、か。

今、こうして倒れた朱績の蒼天章をはずそうと思えばいつでもやれる……
だけど……
「……ま、約束は約束か。向こうの剣は私をかすった。朱績の勝ちには違いない」
本当は……約束なんぞ反故にしてでもこいつをトばしておいたほうが蒼天会のためになることは間違いないが……
「……ちっ」
倒れた朱績を助けようと、非好意的な視線を向ける全煕に目をやる。
「私のせいで長湖部に名将が誕生してしまった。早く回収して手当てしてやりな……そして呪われろ」
手をひらひらと後ろ手に振って王昶は校舎の中に消えた。

766 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:15
「あれ……あたし……?」
ぼーっとする頭をさすりながら起き上がる。
「痛!」
首筋を押さえる。
なにか……あったっけ?
「朱績ー! 気づいたんだねー!」
全煕があたしの胸に飛び込んでくる。
「う、うわわっ!」
あたしはそれを支えきれず倒れこんだ。当然後頭部を打った。

「〜っ!」
「……いや、悪かったって」
睨みつけるあたしに全煕が謝る。
「とりあえず朱績が……いや、朱績主将が眠っておられる間に夾石棟からは撤退しました」
全煕の言葉……
あぁ、そうか……
あたしは夾石棟で王昶と一騎打ちをしたんだっけ……
あたしが眠っていた、ということはあたしは負けた、ってことか。
……?
蒼天章はあった。
「へ? あたし勝ったの?」
「んー、勝ちかと聞かれれば……んー、勝ち、かなぁ?」
歯切れ悪っ!
「まぁ、いいや。あたしたちが撤退することで王昶が油断するのなら……あいつが油断しきったときにもう一度攻めかかればいい。そのための休憩」
あたしの頭にはどうやって攻めるのか、往路では思いつかなかったような考えが湧き水のように噴出していた。

「お姉ちゃん、よかったの?」
王家の食卓。
王昶と王渾が鍋を囲んでいた。
まだ残暑が激しいのに。
「玄沖、白菜も食べなさい、白菜も」
「いやぁーッ!」
王渾が嫌がる。
「いやじゃない。栄養あるんだから食べるの」
「だめぇーッ!」
王渾が嫌がる。
王昶は有無を言わせず王渾の取り皿を白菜満載にした。
「あぁッ!? お姉ちゃん、ひどい! この暴君ッ!」
「なんとでも言いなさい」
呆れるように王昶は豆腐を口に運んだ。
「で、よかった、ってなにが?」
「んっと、朱績? のこと」
王渾の言葉に王昶の右眉がつりあがった。
「い〜わけないでしょ〜!?」
しかも声が裏返っている。
「ん、ごほん……あれは完全に大失敗。長湖部を潰すのがまた遅れたことは間違いないわね」
王昶は平然を装って言うがこめかみが高速で痙攣している。
「あー……あはは。でもほら……ね? うん、大丈夫だよ」
王渾が言う。なにがだ。
「……」
「え? お姉ちゃん、なに?」
王昶の聞こえないほど小さな言葉に王渾が聞き返す。
「く……」
「く……クエン酸ナトリウム?」
なぜ添加物なのだろう?
「くきぃーッ!」
「わぁ! お姉ちゃん、奇声を上げてもお鍋してるときのちゃぶ台返しはダメーッ! キケンーッ!」
王家の夜はふけていく。

建業棟。
「公緒ちゃん、どうだった?」
承淵の心配そうな表情にあたしは笑って親指を立てて見せた。
「まぁ、結果は残せなかったけど、それ以上に大事なものをゲットしたよ」
あたしの言葉に承淵も笑顔を見せる。
……これから。これからだ!
あたしは北の空を見上げて指鉄砲を撃った。

767 名前:北畠蒼陽:2005/07/23(土) 21:16
はいほう、週刊北畠蒼陽です。
あ、いらないとか言わないで! へこむから! へこむから!

というわけで朱績復権の一幕です。
本当はもっと一騎打ち描写をねちっこくやろうと思ったんですけど……よく考えたらそういうときってどう動いたかぜんぜん覚えてないんですよねぇ、自分でも。
客観的に見たらどう動いたのかわかるけど、自分がやると無意識ですからねぇ……
なのでこんな感じになりました。うん、一人称ならこんなもんかと。

>天眞正傳香取神道流
神道夢想流杖術って香取神道流の流れを汲んでるんで本当はあんまり使いたくなかったんですよねぇ。
まぁ、あんまり見たことがないエモノって意味ではいいかな、と思ったんでそのまま書くことになりました。
いや、書き直したんですよ、これでも?(笑

>承淵
えぇ、必要ないのに丁奉がでしゃばって意外とおいしいトコもってってるのは一応、海月様リスペクトってことでひとつ(笑

768 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:27
キタ――――――――――――(゚∀゚)――――――――――――!!!!

てかココまでやられちゃったら私ゃどうすりゃいいんだ!?(;;゚Д゚)
ついでに言えばこれから繁忙期にはいるっぽいんでSSが(ry

てかやはり王昶がカコイイ(;´Д`)
いろいろ頑張っちゃ見たが、今の海月では逆立ちしてもこれ以上の王昶を書けん…。
くそう、こうなったら絵だ!絵で支援するッ!!(;;゚Д゚)ノシ


で、気を取り直して。
繁忙期に入るのはマジなので、大ネタの一発目を落っことしておきます。
明らかに尻切れトンボなので、先の展開は色々想像して見てください(←無責任

769 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:29
降り注ぐ雨の中、向かい合った少女たち。
同じ長湖部の旗を持って対峙しているのだが、それが学園無双の演習などではないことは、双方の先頭に立つ少女ふたりがかもし出す異様な雰囲気が否定している。
目の前に立つかつての友を、何の感慨もない冷たい瞳で見据える、紅髪で長身の少女。
それと対峙する狐色髪の少女の表情は、困惑しきっていて…今にも泣き出しそうにも見えた。
「…どうして」
狐色髪の少女が、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「どうしてなんだよっ、どうしてあんたが長湖部を裏切るんだよ…世議っ!」
「…裏切り、か」
紅髪の少女の吐いた言葉は、何処までも静かに…そして冷たかった。
「孫峻や孫チン、それに学外から紛れて来た雌ギツネに食い散らかされたアレを…あんたはまだ、長湖部だと言うの…?」
「…っ!」
「あたしは認めない。もう、長湖部なんてものは、存在しないんだ」
止まぬ雨が、彼女の涙にも見えた。
「いいかげんに目を覚ませ、承淵! あんたが真に“長湖部”を想うのであれば、もう終わらせてやるべきなんだ!」
「違うっ!」
狐色髪の少女が頭を降る。
「まだ…まだやり直すことだってできるんだよ! 幼節も、敬風も、公緒も…みんなみんな、そのために必死に頑張ってるんだよ!? まだまだこれから、ううん、むしろあたしたちの手で新しい長湖部を…」
「寝惚けるな!」
その大喝に、狐色紙の少女は口を噤まされた。
「あたしは、もううんざりだ…尊敬するひとたちが、大切な友達が、仲間が…あたしは部長の一門に使い潰されるなんて真っ平ご免なんだよっ!」
「…世議」
紅髪の少女が、背に差していた棍を取り、目の前の少女に突きつけた。
「だから、あたしが間違っているってなら…あんたがあたしを止めろ、承淵。あんなクズ共にあたしが粛清される前に、せめてあんたの手であたしを葬って見せろ…!」
その悲愴な宣言と共に、少女は棍を構えた。

決着は一瞬だった。
紅髪の少女の乱調子が、小柄な体を容赦なく打ち据えてくる。
狐色髪の少女は、紙一重でその乱撃をかわしながら、それでも尚、彼女を止めるべくその言葉を模索した。
だが、紅髪の少女の決心が変えられないと悟り…柳生天に構えた大木刀で、少女の棍を一撃で粉砕した。
そして、残りの部分で捨て身の攻撃を仕掛ける紅髪の少女と、狐色髪の少女が放った“月影の太刀”が交錯した。
淀みのない太刀筋は、一瞬で紅髪の少女の鎖骨を砕き、その意識を彼方へ飛ばした。
だが、捨て身に放った棍の一撃は、幼さを残した少女の顔を確かに捉えていた。

少女が昏倒するのにあわせて、その顔から血の飛沫が飛ぶ。
「…どうして…」
呟いた少女の顔から、紅の雫が涙のように滴り落ちて…秋雨に濡れる大地に溶けた。


-長湖に沈む夕陽-


「…夢、か」
まだ薄暗い部屋の中、目を覚ました丁奉はその痕を確かめるかのように、顔に触れた。
彼女の左目の下には、未だ消えることのない傷跡が残っていた。
半年前、晩秋の氷雨の中で戦ったかつての親友・呂拠の放った最後の一撃によってつけられたものだ。
それまで良く笑う素直で真面目な性格だった彼女は、その日以来、めっきり口数も減り、笑うこともなくなっていた。

公式記録によれば、呂拠は孫チンのもとに長湖勢力が力を結集したのを知り、自ら階級章を返上したことになっていた。
それ以後、呂拠の姿を長湖部管轄校区で見たものは誰もいない。

770 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:30
それからは怒涛の如く、長湖部の内情は変化した。
権力を掌握して好き放題の孫チンを粛清すべく動いた部長・孫亮は、クーデターによって部長職を追われた。
しかも直後一週間行方不明になり…その空白の時間に、一体どんな目に遭わされたのか…発見された時には心身ともに無残な状態だった。
その一週間の間に、孫チンは自ら部長職に就くという野心を顕にした。この時、虞レが尤もらしい言葉で彼女の野心に釘を刺し、当初の予定通り孫亮の実姉で、孫権の母方の従姉妹である孫休が部長職に就いた。
孫休は、妹が受けた仕打ちが孫チンに原因があることを九割九分証拠をつかんでおり、孫チンを憎悪していた。
いずれ手をこまねいていれば自分も同じ目に遭うと考えた孫休は、先手を打って孫チンを謀略で陥れ、粛清した。その際、丁奉も彼女に協力し、孫チンに引導を渡すことと相成ったのだ。


学園祭後夜祭が終わっての定例会議の席で、その変事は起こった。
物々しく武装した風紀委員会が部屋を埋め尽くし、数人の少女たちに地面に押さえつけられた少女…孫チンは、何の感慨もなさそうに自分を見下ろす部長・孫休に、狼狽を含んだ怒声を浴びせた。
「い…いったいこれって…説明しなさいよッ!」
遠縁の従姉妹に向けた孫休の瞳は、何の感情もない、冷たい視線でそれを見下ろしていた。
「この長湖部はあなたの遊び場ではないの。そして、子明にあなたがしたことを知らないわけではないわ」
孫チンは孫休の瞳の中に、自分に対する激しい憎悪の炎が燃え盛っていることにようやく気がついた。
「うぐ…な、なら私が権力の座を手放して、一般生徒に戻ればいいんでしょ…? そうすれば、私も責任を…」
その瞬間、孫チンの目の前の床に木刀が突き立てられた。それに驚いた孫チンは短い悲鳴を上げ、恐る恐る上目にその人物を見た。
「…承淵」
「答えろ。だったら貴様は何故、世議や季文、承嗣さんや孫亮部長を一般生徒に戻してやらなかった…?」
その紅玉のような瞳は、気の弱い人間ならそれだけで心臓が止まるのではないかと思われるほどの殺気を、視線に込めていた。
図太い性格の孫チンですら、その殺気に顔色を失った。
「何故…彼女たちを私刑で傷つけたんだ…?」
「し…知らない! あたしは無関係だ! あたしの妹たちが勝手に…」
その瞬間、数枚の写真がその目の前にばら撒かれた。
その正体に気づいた瞬間、孫チンの全身から一気に血の気が引いた。
「…放校処分だけで済ませるつもりは毛頭ない…貴様らにも、同じ目に遭ってもらうぞ…!」

その後、孫チンや彼女の妹たちがどうなったかを知る者はいない。
何らかの処罰を行ったらしい丁奉が、そのあらましを報告しに戻った際、その衣服は髪飾りの鈴に至るまで、真っ赤に染まっていたという。

丁奉は年を経るごとに、様々な功績を認められ、長湖部の武闘派として押しも押されぬ地位にまで登りつめた。
彼女は要所要所で部の危機を救い、そのために汚れ役も厭わなかった。
しかし…あまりに多くの「闇」を見続けた彼女の心は…いくつもの深い傷跡を刻み、表情からもかつての面影を消し去っていた。

771 名前:海月 亮:2005/07/23(土) 23:30
ベッドから身を起こし、彼女は衣服を整えた。
ふと、目をやった先には一着の水着が架けてある。
もっともかつての彼女であれば、例え今が真冬であろうとも、すぐに水着に着替えて部屋を飛びだすところであるのだが…今ではそれを着る回数もめっきり減ってしまっていた。
「…今の私に、そんなお遊びをやっている暇などない…な」
そうひとりごちて、彼女は部屋を後にした。
部屋の机の上には、倒されたままの写真立てがひとつ、残されていた。

「こんな朝早くに呼び出したからには、相当の理由があるんだろうな…?」
呉郡寮からそう離れていない河原に、その少女たちはいた。
安物の釣竿で釣りに興じている跳ね髪の少女…現長湖部の副部長である陸凱は、かつての親友が吐きつけた言葉に溜息を吐き、大仰に頭を振って見せた。
「随分な言い草じゃないか。棟が違うから滅多に会えない旧友に対する久闊の言葉もないとは」
「無礼はお互い様だ、敬風。互いに暇もない身、用件なら手短に済ませて欲しい」
その抑揚のない口調と、何の感慨もない無表情。
任務によって離れ離れになった僅かな間に、こうも丁奉が変わってしまったことに少なからずショックを受けたが、それでも表面上はこれまでと同じよう接していた。
「嫌味を言うつもりはないが、暇なしはお前にも原因がある。お前と張布が結託してつまらん事をしてくれて以来、あたしも子賤もロクに寝てない有様だ」
その一言に、丁奉はその鉄面皮の表情を、僅かに曇らせた。
「…あの娘は…孫皓は、部長の器ではなかったか」
「ああ。あんたは見事に張布のアホに丸め込まれたわけだ。結局張布は擁立した相手に粛清されてやがるし、その尻馬に乗っかった濮陽興には同情の言葉もないね」
引き上げた釣竿の先には、餌どころか針すらついていない。その妙な釣竿を仕舞うと、彼女は丁奉と向き合った。
その表情は、険しい。
「勿論あんたにもだ、承淵」
きっぱりと言い放ったその瞳には、強い非難の視線があった。

しばしの沈黙のあと、口火を切ったのは丁奉のほうだった。
「…私に、何をしろ、と?」
陸凱は表情を緩め、普段どおりの皮肉めいた笑みを浮かべる。
「別に責任とって階級章返上しろ、と言うつもりはない。あんたの一友として、汚名返上の機会を与えてやろうかと思ってね」
「…御託は良い。本題は?」
「孫皓を部長職から引き摺り下ろす。そのためにはどう考えても、あんたの存在が鍵になる」
「何…!?」
丁奉は二の句を失った。
目の前の少女が、よもやそんなことを言い出すとは夢想だにしていなかった。
「馬鹿な…敬風、お前何を言っているのか、解っているのか!?」
「何も孫チンみたいに部を引っかき回すつもりはないし、張布の真似する気もない。ヤツを活かそうと必死の努力してきたつもりだが…肝心の本尊が足を引っ張っている有様なのは、お前にも良く解ってるはずだ」
「だが、やろうとしていることに変わりはないだろう! 何で好んで悪名を残すこと…」
目の前の少女は、その言葉を遮り、つかみかかって来た手を払いのける。
「ならば、お前にどんな良策がある?」
「え…」
その一瞬の出来事に戸惑う丁奉を睨む瞳には、涙を浮かべていた。
「孫皓の排斥を抜きにして…長湖部を立て直す方策が、これを見てもお前には思いつくのかよっ!」
怒声と共に、紙の束を叩きつけるように押し付けた。
それは、孫皓が部長に就任して以来の、長湖部の様々な事務文書だった。武闘派を束ねる丁奉には縁の薄いものではあったが、それでも、そこに記録されるデータから、最早長湖部がその組織を維持することが不可能な状態にあることは理解できた。
そして、それが総て孫皓の行動によってなされていることも。
「…もう、どうにもならないところまで来ているんだよ…あたしや子賤、恭武のやれる所はここで限界なんだ…! 孫皓をこのまま野放しにしていたら、長湖部は…あたしたちの代で終わるかもしれないんだよっ…」
その瞳から流れ落ちる涙を、言葉の端から漏れる嗚咽を隠すように、陸凱は丁奉の体にしがみついた。
「…伯姉達との約束を、破ることに…だから、今しか…」
「聞かせて…あたしは…何をすればいいのか」
そっと肩を抱かれ、陸凱は丁奉の顔を見上げた。
その瞳には、既に失われたと思われていた…かつての親友の面影を取り戻していた。

772 名前:北畠蒼陽:2005/07/24(日) 14:01
>長湖に沈む夕陽
血がー! 血がー!
超好みの展開です(難儀な性格
ホンネをいえば丁奉が陸凱の言葉を受け入れるまでもっとひねてくれれば……(友情がこじれる雰囲気ダイスキ

とりあえずお仕事がんばってください!
そして続き期待してます(笑

773 名前:雑号将軍:2005/07/24(日) 21:39
>北畠蒼陽様
週刊お疲れ様です!もうこれはミスターサタデーオブ学三(語呂悪い…)とお呼びする以外にありませんな!…って呼びませんよ。語呂悪いし、嫌でしょうし。
王昶って、杖術使うんですね。一番驚いたのは、朱績が香取神道流を使ったことですけど…。となるとやはり朱然もよほどの使い手だったのでしょうか?

>海月 亮様
後期版丁奉お疲れ様です!いや〜ほんとに変わっちゃいましたね。丁奉。なんかこう…寂しいですね。でも、人は変わっていくものですからこれでいいのかもしれませんね。とかちょっとかっこつけてみたり。
いつも海月様の作品読んでて思うんですけど、陸凱いいキャラしてますよね〜。きっとあの世で泣いて喜んでいるはずです!

僕は・・・・・・・・・・・・すみません、本当にごめんなさい。まだいいのが思い浮かびません。曹操ネタがまとまりそうでまとまりません。なので…しばらくかかりそうです…。

774 名前:海月 亮:2005/07/24(日) 22:50
脳は煮込まず半生で…というのは荀揩ナも曹操でもない海月には無理_| ̄|○
ナウ●カ風に言えば「腐ってやがる…早すぎたんだ!」ってトコですね。

そうですねぇ…むしろ呂拠のあたりから練り直してもいいかもしれませんね。
性格的に嫌われる要素を少なくしてしまったもんだから、正史の「おごり高ぶるように…」とのつじつま合わせしようと必死でして…。
やっぱり時間と余裕をたっぷり持って書きたいなぁ…

>ミスターサタデーオブ学三
略してMSG。なんだか少しカコイイ…

>陸凱
(;´▽`A゙ 三 ゙A´▽`;)゙
そう言っていただければ、私としても考えたかいがあるというものです(^^)
自サイトでも触れてますけど、もうキャラデザの時点でかなり趣味に走ってますからねぇ(オイ
あと「良いキャラ」といえばやっぱり王昶と張嶷(ry

775 名前:北畠蒼陽:2005/07/24(日) 23:40
ども〜、MSGです(ぇー
いや、ミスターってほどの仕事はしてませんし!(笑

>杖術
まぁ、イメージ的なもんですけどねー。
剣って感じでもなかったし、薙刀ってのも違うような気がしたんでこうなりました。
実際に正史に武芸に優れてた、とか書かれてるわけでもないのにねっ!
ちなみに朱然は対魏戦線の重鎮ですぞ?
呂蒙のあとをついで江陵入りしたほどの実力の持ち主!
実績と実力を兼ね備えた名将です! 背は低かったみたいだけどねっ!

>いいキャラ
王昶をいいキャラといっていただけるのはなんだか照れくさかったり(笑
ちなみに裏設定ですが……

南方の重鎮、満寵とお姉さま、王凌がもともと仲が悪かったことから王昶もさんざん満寵をバカにしたような言動を取ったため、拳で躾けられる。
それから多少は生意気も治った。

……ってのもあったり。
多分書かないけど(笑

776 名前:雑号将軍:2005/07/25(月) 20:45
>むしろ呂拠のあたりから練り直してもいいかもしれませんね
いやいや!そんな滅相もない。あれで十分だと思いますよ。丁奉はどこまでも丁奉でしょうし!あんまり奢りたかぶらせると、別の人になっちゃいそうですし。僕はあれで十分だと思いますよ。もうホントに!

>朱然とか王昶とか
朱然…そうですよね。呂蒙の跡を継いだんですもんね。当然ですよね。なに言ってんだか。僕は…。って背、低かったんですか?曹操と同じくらいに?
王昶も杜預と同じタイプの武将なんでしょうか?いや杜預は言い過ぎか…。

777 名前:北畠蒼陽:2005/07/25(月) 21:50
>杜預と王昶
んー、杜預ほど文系文系してないかと。
あそこまで運動音痴なら正史にもなにか書かれてるだろうし。
それがなにも書かれてないということは『個人的な戦闘能力』は並だったのではないかな、と。
王昶は……誰と同じタイプなんだろう?
トップに立って指揮できる文官、なんですよね。
鍾ヨウ? タイプはね。

>奢りたかぶらせる
それがまたいいのです(邪笑

>朱然
彼は169cmに満たなかったーって記述がありますね。

778 名前:雑号将軍:2005/07/25(月) 22:10
>みんなまとめて
なるほど、王昶は馬にも乗れたし、剣も使えたし、弓も引けたという、基本的な戦闘能力は持っていたということですな!
鍾ヨウってかなりすごい人なんですか?正史読んでないのでじつは鍾ヨウを掴みきれてなくて…。もしかしたらこれは雑談スレの方がいい質問だったのかもっ!?
169pって、なるほど、たしかに高くない…。曹操よりは高かったような気がしますけど。

779 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 20:06
「うあぁぁぁぁぁん! お姉ちゃん助けてー!」
泣き声とともに王渾が王昶の執務室に入ってくる。
王昶はいなかった。
かわりに王基がいた。
王基が少しびっくりしたような顔で扇子を手に持ってソファに座って涼んでいた。
日の丸に『Japan!』と金で書かれた扇子。
「ん、と……伯輿ちゃん、その扇子、すごいセンス悪いよ」
「……これ、あんたの姉さんの扇子だよ」
王渾はホンキで嫌そうな顔をした。
「うわぁぁぁぁ……」
顔だけじゃなくて声も出た。


統率指揮概論T


部屋に入ってきたときに比べ幾分落ち着いた王渾に王基が尋ねる。
「……で、文舒なら今、買い物にいってるけどなにか用?」
「うん、あのね、私、墨テキ教授の統率指揮概論Tをとってるの」
王基は頭に墨テキの顔を思い浮かべた。
「……あのひと、優しいけど怖いからね。それで?」
「うんー……で、レポートを宿題に出されたの。学園課外活動における統率法において注意しなければならない点をできる限り詳しく述べよ、って」
……なるほど。それで姉の話を聞きにきたわけか。
確かに王昶であれば話を聞いて、まとめるだけで十分なレポートになるだろう。
「……感じないこと」
「お姉ちゃんに話し聞こうと思ったのにいないんじゃどうしよ、って……え? 伯輿ちゃん、なに?」
聞き返す王渾に王基は苦笑を浮かべる。
「……もし私でよければ話をするくらいかまわないけど?」
「わぁー、伯輿ちゃん、ありがと!」
王渾はにぱぁと笑った。

「……有名な映画でね、カンフースターがこんなセリフを言ってるの。『考えるな。感じろ』って」
「あぁー! ブルーさん!」
……なんでブルーで切るか。
多少ツッコみたいものを残しながら王基は話を続ける。
「……人を指揮するってのはまったく逆の作業。『感じちゃダメ。考えなさい』ってとこかな」
「ふむ」
小首を傾げて考える。
「どういうこと?」
わかってなかったようだ。
「……敵の動き、味方の動き、双方の人数、天候、地形、時間、時期、温度、湿度……人によっては成績とか教授との相性とかを考えなきゃいけないこともあるかもね……つまりそういった要因をすべて考えることによって判断を下すこと」
「考える……?」
王渾は『う〜むむむぅ?』と頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「んでも一瞬の判断ってないの? 『こう感じたからこうだ!』っていうのはよく話とかであると思うんだけど……」
「……そういうのは3つのパターンにわかれるわね。まず1つ目は計算が異様に早い人」
……『名将』の部類に入るわね、と王基は付け加える。
「……これがすごい、ってのはまぁ、言わなくてもわかると思う。瞬時に、しかも総合的にすべての要因を計算しつくした上で判断し、決断する、ってのは誰にでもできるもんじゃないわ」
「なるほど」
頷く王渾。

780 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 20:06
「……2つ目は計算している自覚のない人」
……意味はちょっと違うけど『天然』な人よね、と付け加える。
「……ほら、なんとなく雨が降りそうだ、とかあるでしょ? あれって天気予報を見なくても空を見ればなんとなくわかる。つまり空模様を見て無意識で『計算』してるのね。ただ自覚して計算してる人間に比べると判断に『抜け』が多いと思うわ」
「ふむふむ」
メモを取る王渾。
「……まぁ、どっちにしろ計算ミスってのはありえるわ。または計算に入れるべき要因を考えていない、というのも致命的なミスよね。それが積み重なったものが敗北だと私は思う」
……計算がいくら速くても間違えてたら仕方ない、ってこと。
呟きながら王基はペットボトルの紅茶を飲んだ。
「ん〜と……伯輿ちゃん、3つ目を忘れてるよ?」
尋ねる王渾に王基は肩をすくめた。
「……3つ目は参考にもならないから言わなかっただけ。つまり……『天才』よ」
紅茶を口に含みながら話を続ける。
「……迷惑なことに何百年に1人くらいそういう人間が出てくるらしいわね。幸いにして私は出会ったことないけど。そういう人たちに常識は通用しない。計算してるかどうかすらも不明……ただ、常に、正しい。それだけが真実」
……歴史上で『軍事を革新した』とか言われるのはそういう人なのかもね。
面白くなさそうな声で呟く。
「……ま、そういう人は人間と思わないほうがいいわね。『天才』は異種族と思ってもらってかまわない」
「敵に『天才』がいたらどうするの?」
ペットボトルに口をつけながら目だけで王基は王渾を見る。
「……諦めるわ」
あまりにも早い王基の回答に王渾は苦笑を浮かべる。
「……でも幸いなことに『天才』なんて何百年に1人、ってシロモノよ。まぁ、私がここにいる間に出会うことはないでしょうね」
……生きてる間にすら出会えるかどうか、と苦笑交じりに呟く。
「……そしてただ計算が速いだけ、とかの人間ならいくらでも対処できるわ」
「ほえ〜」
王渾が感心したような声を漏らした。
「……とりあえず3つ目は考えなくていいわ。とりあえず言えることは計算ミスをしないこと」
「けいさんみす」
ひらがな発音で王渾が繰り返す。
「……私は速攻にこだわりを持ってるけどそれは計算すら早く行う、ってことじゃない。そういうことを考えるのはいくら時間がかかってもいいと思う。答えが出てから迅速に動けばいいだけ」
……まぁ、何日も考え続けて手遅れ、ってのは笑える話じゃないけどね、と苦笑。
「んっと……つまり自分が考える。相手がその対処法を考えてきたら、さらに自分はその対処法を考える。考え尽くしたほうが勝つ、って理解でいいのかな?」
「……もちろん答えを出すまでの時間が短ければ短いほどいいでしょうね。そして相手がミスをしたらすぐにそれにつけこまなきゃいけない」
忙しいんだー、とヒトゴトのように驚く王渾。
「じゃあ、じゃあ。伯輿ちゃんにとって絶対にやっちゃいけないこと、っていうのは?」
「……感じること。感情に身を任せて突っ走っても、少なくともこの学園都市の課外活動において利点はないわね。『猛将』っていわれてる人たちは感情の生き物だと思われがちだけどそういう人たちもほとんどなんらかの計算の上で行動してるわ」
なるほどー、という王渾の声。
しばらく王渾がメモをまとめるシャーペンの硬質な音が響く。
「うん、いいレポートがかけそう! 伯輿ちゃん、ありがとね」
「……どういたしまして」
『伯輿ちゃん』は苦笑を浮かべながら飲みかけのペットボトルのキャップを閉めた。

781 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 20:07
ってわけで軍事論です。
『感じるな。考えろ』というのは私が昔、TRPGでやったキャラのセリフだったりするわけですが実際に北畠の軍事理論そのままだったりします。

まぁ、ちょっと毛色の違うSSになりましたとさ。

今回は王昶いないんで服の描写はないですがかわりに扇子を書いときました。センスの悪い扇子っていうのはダジャレじゃないよ。ホントダヨ?

782 名前:雑号将軍:2005/07/30(土) 23:04
北畠蒼陽様…じゃなかったMSG様!「統率指揮概論」お疲れ様です!いつも思うんですが、王基や王昶、王渾が登場するSSって、学三だけですよね。
なにはともあれ「統率指揮概論」…なるほど参考になります。感じるんじゃなくて、計算するんですね。僕はどうも計算遅いですけど…。
天才…ああ、王基は曹操の戦い見たことないんですよね?
僕も『納涼中華市祭』のSS早く仕上げないとなあ。先鋒という大役を任されちゃいましたから…。

783 名前:北畠蒼陽:2005/07/30(土) 23:14
>雑号将軍様
計算だけが人生じゃない、と自分に言い聞かせて生きている北畠です。

で、ですね。実は私の中では曹操は天才に至ってないんですよ。
曹操は破格の才能を持ってるけど天才ではない、ってのが私の評価です。

なんていうか天才論を組み立てる中で能條純一氏に出会ってしまったのが運のつきと言うかなんと言うか……
なんというか『すべてわかってないと』天才とは認められなくなってしまったのです、私(苦笑

784 名前:雑号将軍:2005/07/31(日) 22:12
>曹操云々
なるほど〜曹操は天才ではないんですか…。言われてみるとそんな気がしないでもないですが、寂しいと言えば寂しいです。
僕はどう考えても蜀大好き人間なんですけど、曹操が好きだったり、趙雲があんまり好きでなかったり(ファンの方土下座するんでお許しを)するんですよね。
まあ、雑食性なんでしょうね。僕。

785 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:26
「……これ、は?」
司馬昭からのメールに目を通した王基は思わず眉をひそめた。
「……多分……いえ、でも……」
……多分間違いないとは思うが……こういうときは親友の意見も必要か……
王基は頭の中の考えをまとめるようにそっとノートパソコンを閉じた。


冬空の鼓動


襄陽棟長であり車騎主将、胡遵の妹である胡烈からひとつの連絡が生徒会の中央執行部にもたらされた。
長湖部、摎Rが蒼天会に帰順するという……
それと同時に胡烈は期日を約束し、摎Rと合流し長湖部を混乱に陥れる案を提出した。
これを受け、連合生徒会会長、司馬昭は征南主将、王基に胡烈のフォローを命じる。

……だが……
王基はメールの文面を思い出す。
摎Rとの合流場所として指定された地点は……
……あまりにも長湖部領域の中に入り込みすぎる。
王基は摎Rという人間を知らなかったが、考えれば考えるほどこの帰順は策略としか思えなかった。
……確かに本当に摎Rの帰順があるのであればこれはチャンスであるといえる。
……だけど。
リスクがあまりにも大きすぎる。
……それに、ねぇ。
初期長湖部から夷陵回廊の決戦にいたるまで常に最前線に立ち続けた最古参主将、韓当の……その妹、韓綜が蒼天会に帰順してなお長湖部を瓦解させるには至らなかったのだ。
もはや長湖部は1人の寝返りで崩れるほどぬるい組織ではない。
……リスクのわりにリターンが少なすぎ、ね。
ハイリスクローリターンなんて笑えやしない。
……さて……
……この件、文舒ならどう結論付けるかな。
少しだけ口の端から漏れる笑いをかみ殺し……
王基は学園都市運営会議議長の執務室の前に立つ。
王昶は三委員長の一角にまで上り詰めながら荊・予校区兵団長を同時に勤め、最前線である荊州校区から中央執行部としての任を果たしていた。
「……?」
ノックをしようとして違和感。
王基は眉をひそめる。
部屋の中の人間……まぁ、王昶なのだろうが……せわしなく動いている雰囲気を感じ取ったのでる。
……忙しいのならあとにしようか。
そうは思うものの本当に忙しいのかどうかもわからない。
……とりあえず様子だけ見てみよう、かな。
王基は一人頷き、ノックをする。
「あいよー。あいてるよー」
あまりにも無防備なその物言いに王基は苦笑を浮かべつつドアを開け……

面食らった。

786 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:26
「おぉ、伯輿か。ちょうどよかった。話したいことがあってね」
「……ん。それはいいんだけど……これ、は?」
あっけらかんとした王昶の態度に王基は今、見ているものが信じられない、というように瞬きを繰り返した。
王昶は珍しく制服を着ている。
いや、ただの制服ではない。
肩章、ネクタイ、スカート……
式典のときのみに着用される幹部用制服である。
王昶であればこの制服どころか講義時にさえ通常の制服ですらまともに着ることは少ないというのに……
しかもそれだけでなく部屋は……そう……

……その部屋はまるで引越し準備だった。

「……ん、んー」
ようやく頭が推測を導き出す。
さすがに地方にあって中央執行部の仕事をするのは無理がありすぎたか……
恐らくは司馬昭に召還されたのだろう。
であればこの引越しのような荷物も納得できる。
……そうなるとこの荊州校区における後任は誰になるんだ?

考えてみればみるほどありがちな推測に聞こえた。
だからやっと王基は余裕を取り戻す。
王昶はそんな王基に背を向け『あれー? どこにしまったかなぁ?』などと言っている。
……なるほどそれで『話したいことがあってね』か。
……ついでになにかを渡したいのだな……
「あー、これこれ」
王昶が王基に封筒を放り投げる。
……封筒、ね。
……後任が誰かは知らないけど私にお守りをしろ、ってことか。
……恐らく封筒の中身はなにか秘密の弱みメモとかそんな感じだろう。まったく王昶らしい。
そうか、制服を着ているのも引継ぎのためか。
苦笑を浮かべながら封筒を受け取り……

違和感。

硬質の小さなものが封筒の中に入っている感触。
……手紙、ではない?
再び王基の頭の中をとらえどころのない靄のようなものが湧き出す。
……なに?
……なにを話そうとしているの、文舒?

封筒の中から王基の手のひらに蒼天章が転がりこんだ。

「……」
「あー、びっくりした? いや、まぁ、びっくりさせようとおもったんだけどさ」
王昶がけらけらと笑いながら3段に積み上がったダンボール箱の最上段にジャンプし、腰掛ける。
「いや、いろいろ考えたんよ」
しみじみと王昶が呟く。
「ほら、この前、伯輿と同じ大学いくんだー、っていったじゃん?」
……確かに言っていた。
王基は黙って頷く。
「あれねー。私、推薦入試のとき、受験会場にいけなかったんだわ」
たはは、と苦笑を浮かべる。
「いや、三委員長になんかなるもんじゃないね。受験の日の昼ごろまで公務終わらなくてさ」
結局、受験いくの諦めて寝ちゃったよ、と王昶はいつもの顔で笑う。

787 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:27
「もう私らも卒業近いしね。ま、聞いた話だけどあの仲恭ですらどっかの大学受かったみたいなんで焦ってるわけよ、こう見えても」
あのバ毋丘倹がねぇ〜、などと呟く顔からは焦りはまったく伝わってこない。
でも、確かに……忙しすぎる、というのは事実なのだろう……
「ま、伯輿とおんなじトコいこうと思ったらちょっと一般入試に向けて勉強に励もうかな、と思いましてね」
……文舒だったら……
……文舒だったら合格通知を簡単に奪い取ることだろう。
……だが、それは……時間があれば、ということだ。
「だから引退、さ」
……なぜ。
……私と同じ場所に来るために引退する、と言ってくれるんだ。
……なぜ止められる。
「やぁ、よかったよ。伯輿に一番最初に報告できてさ」
……一番、だったのか。
そんなことはどうでもいい。
ただ心情を聞けた、それだけでいいような気がした。
「で、伯輿は? 用事なしでここにきたわけじゃないっしょ? これから中央執行部に引退の届出しなきゃいけないからそれほど時間は取れないけど、ね」
『ん? 言ってみ?』という顔で王昶が言葉を促す。
……言えるわけがないだろう。
これから引退しようという人間に……しかもその理由が自分と同じ場所に来てくれるため、という人間になぜこれ以上の心労を煩わせなければならないのか。
きっと相談すれば王昶であれば適切な答えを出すことだろう。
そして……
そしてきっと……すべてに決着がつくまで引退を先延ばしにすることだろう。
……それは。
……本意ではない。
「……いや、なんかごそごそうるさかったからね。なるほど……引越し、っていうか引退準備だったのね」
肩をすくめる。
……内心の想いがばれていませんように。
「ってわけで、あとを全部任せちゃって悪いけどさ。頼むわ」
……そんな満面の笑顔で頼まれたら断れないだろう。

王基は廊下を歩く。
……結局……この件は私が始末をつけなきゃいけない、ということか。
廊下に冷たい風が吹き込み、王基は身を縮こまらせた。
どこかの窓が開いているのだろう。

……これからは1人でこんな冷たい風を浴びていかなきゃ。

王基は窓の外の風に揺れる木に指を差し伸べ……
そしてもう振り返らず歩き去った。

788 名前:北畠蒼陽:2005/08/06(土) 18:27
三公にまで上り詰め位人臣を極め、シアワセに引退した王昶に全部押し付けられた不幸風味な王基話です。
ちなみに王基もこのあとすぐに引退してますけどね!

あ、ちなみに史実での王昶死亡のタイミングは摎R帰順事件の2年前なんでこういう話が史実であったか、っつったらありえないことですがね。
まぁ、王基が仕事押し付けられたのは間違いないと思われます。

789 名前:雑号将軍:2005/08/07(日) 14:30
やばいやばい。前夜祭用のSS書いていたら気づきませんでした・・・・・・。え、本祭用?あはははははあ…。

おお!ついに王昶が引退!?ってことはもう北畠蒼陽様のSSには王昶は出てこられないんですか?
残念だなあ。まあでもまだ王基とか王渾とかがいますもんね。う〜ん、早く王渾が王濬に先こされるところみたいです。所詮、僕の希望なんで、あっさりスルーされて構いませんので。これこそ、ハイリスクローリターンですから。

王基もすぐ引退しちゃったってことはさらに仕事押しつけられちゃった可哀想な方がいらっしゃるんですね。

790 名前:北畠蒼陽:2005/08/07(日) 19:12
>引退王昶さん
あー、いや、なんつ〜か、私の作品時系列を順番に書いてるわけじゃないので、ごめんなさい。王昶、まだ出てきます(苦笑
今、学園史デビューの話書いてるし(苦笑
ちなみに王昶王基のあとくらいにくるのが羊コ、にらいになるのかな? かな?

>王渾王濬
ん〜、正直、あんまり書こうという気はおきてなかったんですが、今まで……
雑号将軍様の文章を読んでなんかインスピレーションというか……
セリフが1つ浮かびました。
「待ちなさいよ、王戎。私があの蜀の山猿に遅れを取るというの!?」
セリフだけセリフだけ。
でもなんか熱そう。書いてみたくなりましたね。

問題は私、晋書読んだことがないから資料とかまったくないということですがっ!

791 名前:雑号将軍:2005/08/07(日) 21:21
>王昶さん引退疑惑
おお!まだ出るんですね!いやあ、もう北畠蒼陽様王昶がみれなくなるではないかと危惧しておりましたので安心安心。なにせ北畠蒼陽様の作品を読んで以来、王昶が三國志\でフル稼働していますので。

>王渾王濬
いえいえ、まったく僕の言葉なんて気にしないで下さい。ふと読んでみたくなっただけなので。
資料ないと辛いですよね…。それがしも正史がないのでつらいのなんのって、今は三國志]武将ファイルで頑張ってます…。


792 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:09
「湿っぽいとこだねぇ! 早く中央に戻りたいよ!」
「……」
電車を降りて大声で第一声を放つ少女とそれに影のように従う少女。
『湿っぽいところ』よばわりされた荊州校区の皆さんは、剣呑な視線を少女たちに向けながらも特になにも言う様子はない。
少女たちにはまさにエリートのみが放つ風格、とでもいうものが備わっていた。
それに気おされた、というのはあまりにも言いすぎだろうが係わり合いになることを避けた、というのはあながち間違った見方ではない。
王昶と王基……
学園1年生。
このとき2人は自信に満ち溢れていた。


愚者の嵐


このとき荊州校区は2人の大物とも呼べる人物の権力争いの最中であった。
かたや『曹操とともに戦った世代』であり対長湖部戦線の重鎮、満寵。
かたや董卓トばしの名委員長であるあの王允の従妹であり、自身も類まれな政治センスに恵まれた治世家、王凌。

この2人はもともと仲が悪く、『張遼、李典に続いて満寵、王凌というのはきっと中央執行部は対長湖部戦線メンバーは仲が悪くないと勤まらないと考えているか、そういう伝統を作ることが好ましいと考えているに違いない』と陰口を叩かれるほどであった。
王凌はここにきて目の上のたんこぶともいえる満寵を排除するために2人の子飼いの1年生を招いた。
王昶と王基である。

「さて、キミたちは私の指揮下にはいることになるわけだが、なにか質問は?」
満寵は目の前の2人に辟易しながら、それでも事務的な口調を崩さずに言った。
この2人が王凌の腹心ということは知っていたし、王凌になにか……まぁ、自分を排除することだろうが……言い含められていることも簡単に予想できることであった。
1人は静かに視線をこの部屋中にさまよわせて……いや、さまよわせているのではない。この部屋の防衛力を測っている。あまりにも冷静だ。
1人は制服すら身に着けてはいない。黒い着物、その背には白く『楽園』という文字……あまりセンスがいいとは言えないな。それと緋色の袴に身を固め後ろ髪を真っ赤なリボンでまとめている。挑発するような笑みを口の端に浮かべ、満寵を睨みつけていた。その自信は悪くない。
生意気そうな笑みを浮かべる王昶が口を開く。
「はーい、質問でーす」
バカにしたようにひらひらと手を挙げる。
「センパイってホントに私らを使いこなせるくらいスゴ腕なんスかー?」
けけけ、と笑う。

793 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:09
「貴様ッ……!」
激昂した妹……満偉が殴りかかろうとするのを右の手をわずかに上げただけで静止し、満寵はゆっくり口を開く。
「そうね。私が凄腕かどうかはじっくりと見定めればいいわ」
満寵の言葉に王昶は露骨に顔を歪め、舌打ちする。
「わかんねーヒトっスねー。アンタじゃ役不足だってことを遠回しに言っただけなんスけど!」
王昶の後ろでは王基が冷静に満寵の一挙手一投足を見定めている。
その王昶も傍若無人な言葉使いに見えるが目の奥には冷静の影が見え隠れしている。
なるほど……なかなかいいコンビだ。
確かに王凌が懐刀として信頼するだけのことはある。
だが……
「ふぅ」
満寵はため息をつき椅子から立ち上がる。
「表へ出な」
……まだ不足だ。

対峙する1人と2人。
南方戦線最高峰の女傑と2人の1年生。
校庭へ出た3人を校舎の中から興味深く皆が眺めていた。

もちろんこの南方の重鎮が負ける、などと考えている人間などいはしない。
生意気な1年生が何秒持つか、だけをただ興味深く眺めていた。

「あの目、気に入らなーい」
校舎のほうを睨みつけ王昶が呟く。
今、自分がこの校舎の英雄をどれほど挑発したか、は自覚していたし、それによってここの校舎の学生たちがどれほどの敵意を抱いたのかはなんとなくわかっているつもりだ。
だが敵意だけを自分にぶつけてあとは満寵に任せようとする、その根性が気に入らない。
「……」
だがその王昶に王基はちら、とも視線を向けることなく注意を喚起することもない。
『油断するな』とか『集中しろ』とかいう言葉は必要ない。悪態ついてるあの状況が王昶の集中、ってことか。
「センパイ、早く終わらせましょう。気分が悪い」
吐き捨てるようにいう王昶。
それをことさらに無視するように満寵は王昶の傍らに立つ王基に声をかける。
「そっちの……王基だっけ? あんたはしゃべんなくていいの?」
「……正直、あなたにかかっていくのは時期尚早だと思う」
ほう、と思う。
「……今、あなたをぶちのめしてもあなたに政治的に最大限のダメージを与えられるわけじゃない。本当はもう少し工作したかった」
ただの腰巾着かと思ったら……言ってくれるじゃないか。

794 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:10
ふ、と笑みを浮かべる自分に満寵は気づいた。
「いいね。いいよ、お前ら……若いうちは多少の無謀は許される」
久しぶりの……
「それを躾けるのは……年長者の『権利』だ」

……本気だ!

中天に月が昇っていた。
「……文舒……生き返った?」
「んあー」
校庭に2人の影が大の字で転がっていた。
ケガをしていない場所のほうが少なく、立つ気力すら残っていない。
2人はずっと……
……悪夢のような2分を経て、気絶していた。
「……あれが……曹操先輩と一緒に戦った世代、なのね」
「リビングレジェンド、ってやつね……いや、あれは無理だわ」
夜闇の中に苦笑の雰囲気。
「どうする?」
「……どうする、って?」
聞き返す王基に王昶は聞かなくてもわかるくせに、と唇を尖らせる。
「私は……あの満寵『先輩』からその経験も知識も実力も……すべて吸い取ってやる。それまで中央には帰らない」
「……そうね。私も悔しいもの」
満身創痍。だが心はなぜか晴れ晴れとしていた。
「んじゃがんばろっかね」
「……そうね」
月が2人を照らす。

……
……
……
「って、のはまぁ、昔の話だがねぇ」
「うっわ。お姉ちゃん、無謀さんだったんだ」
王家の食卓。なぜか王基もいる。
まぁ、なぜか、というか王昶の執務室での昼食なのだが。
ちなみに今日は弁当である。
手作りではない。コンビニ弁当。
女子高生3人がコンビニ弁当、というのはビジュアル的にいかがなものか。
「……あれが……まぁ、ターニングポイントだったことは確かね。今でも満寵先輩は怖いわ、私」
「あの人にゃあ逆らえない」
しみじみと呟く2人に王渾の口元が引きつる。
王渾にとってはこの2人こそがリビングレジェンドである。それが怖いという満寵先輩というのはどんなのだ、と。
……ひょい。
「って……伯輿ーッ! 私のだしまきタマゴ、略奪してんじゃねーッ!」
「……ほほう、タマゴに名前が書いてあったのかな?」
平然とタマゴを食べる王基。
「てめぇ、表ぇ出ろーッ!」
王家の食卓は今日もにぎやかだった。

「騒がしいね、まったく……オシオキ、かな」
ある卒業生が大学の休暇を利用して懐かしい校舎に足を踏み入れていた。
「まぁ、それも『権利』だね」
にやにやと笑いながら彼女は懐かしい執務室のドアに手をかけ……

795 名前:北畠蒼陽:2005/08/13(土) 19:11
王昶&王基のボコされ話、書かないって言ったのに……

はいほう、嘘つき北畠です。狼少年でも可。
「オオカミがきてたぞー!(過去形)」
はい、勢いだけであとがき書いてます!

しかしこの文章のまとまってなさはなんだ!?
小学校の作文でも余裕でこれ以上の文章書かれてそうでかなりしょんぼりです。スランプかなぁ……
なんか書くだけ書いたけどそれだけ……って感じですね。ほんと申し訳ない。
もっと文章上手くなりたーい。
あと20億円くらいほしーい(関係ない)

796 名前:雑号将軍:2005/08/13(土) 22:29
あわわ!北畠蒼陽様、これで今週四本目ですよね?すごいです…。どうやったらここまでたくさんのネタが思い浮かぶのでしょうか?ほんともう一日かけてお聞きしたいくらいです。
これがこの前言われた、王昶の学園史デビューの話ですな!
スランプいや、大丈夫ですよ!(僕の保証があてにはなるかは不明ですが…。)
僕は満寵が格好良く感じました。曹操時代のメンバーは根っからの戦争屋ですからね。強いですよね。

797 名前:海月 亮:2005/08/17(水) 00:39
そして国家予算くらいの金が欲しいけど、使い道の思い浮かばない海月が来ましたよ(え?

満寵…いや、王昶もだけど…このあたりの連中の描写は流石の一言に尽きます。
つかどーしてそんな格好良く書けるのやら。私めもあやかりたいものです^^A


そしてキャラの年齢設定とかわりとどうでもいいことが気になる海月…

798 名前:北畠蒼陽:2005/08/17(水) 18:43
はいほう!
格好よくかけないよ! かけないよ! 書きたいよ!
いや、ほんと精進が必要です^^;

>年齢設定
女の子に年齢を聞いちゃいけません! うそです、ごめんなさい!
満寵/曹丕・陳羣・鍾ヨウ・趙雲と同世代
王凌/曹叡・曹真・司馬懿・孫権・陸遜と同世代
王昶/劉禅・姜維・昜・司馬師・司馬昭と同世代
王渾/司馬炎・孫晧と同世代
……ってつもりで書いてます。
海月様キャラで言えば王昶&王基世代は丁奉たちの1個上ってつもりで書いてます。
王渾は丁奉たちの1個下ですね。
満寵>王昶>羊コというのが私の中では対長湖部戦線黄金リレーですだよ。
王凌は……ん〜、どうなんだか、あのひとは……

799 名前:北畠蒼陽:2005/08/20(土) 16:01
冷気が立ち込めている。
上弦の月が天に輝き、その光はやけに眩しい。
冬の長湖湖畔。
水面は月の光を照り返し、幻想的ですらあった。
そこに1人の少女が立っている。
この寒空の中、稽古着と稽古袴。
八尺槍……長さ3.6mもの稽古槍を手に幾度も幾度もゆっくりと構えを取る。
激しい動きなどなにもなく、ただ静寂に包まれた基本の動作。
その張り詰めた空気が……わずかに揺らいだ。
「伯輿、待ったか?」
言葉とともに缶コーヒーが投げつけられる。
「……ううん、そう待ってもいないわ」
伯輿……王基は構えをとき、投げられた缶コーヒーを受け取った。
缶の熱気が冷えた指にしみわたる。
「さみぃなぁ、しっかし」
あとから来た少女……令孤愚が肩をすくめる。
湖畔に2人の少女が対峙する。


冷気の天秤


「……悪かったわね、こんなときに呼び出して」
王基はゆっくりと缶コーヒーのプルトップを開け、口に含み、あまりの甘さに顔をしかめた。
「いやいや、王基主将の相談とあればいつでも駆けつけるさ」
ひょい、と肩をすくめる令孤愚。
そのおどけた仕草に王基は苦笑を浮かべる。
「で、実際のとこ、相談ってなんなの? まぁ、私だけを呼んだってことで文舒には内緒のことなんだろ?」
「……そう。そうね……文舒のことだから気づいちゃうかもしれないけど……基本的には内緒にしておきたいわね」
わかりにくい王基の言葉に苦笑を浮かべる令孤愚。
「まぁ、気づかれても仕方ないけどあまり気づかれたくない、ってことか……ってことは基本はオフレコ、だろ?」
頷く王基。
「オッケーオッケー。ま、なんで私なのかはわからんがな」
王基に背を向け、長湖に向かって石を投げる。
「私が王基と会うことは彦雲姉にすら言ってないわ。ほんっとにオフレコの相談乗っちゃうぞ」
彦雲姉……王凌の名前を出して確約する令孤愚。
風のない長湖に石が飛び込んだ波紋が広がっていく。
王基も令孤愚もただ黙ってその光景を見ていた。
「いいにくそうだなぁ」
「……まぁ、ね。でも言わなきゃいけないことでもあるからね」
ため息をつき王基は令孤愚の背中に語りかける。
「……まず公治。基本的に私はあなたのことを高く買ってる」
「おやおや、そりゃありがたいねぇ」
石が投げ込まれる。波紋。
「……王凌さんのブレーンとして、その能力は過はあっても不足はまったくない。私がもし委員長であればあなたを側近として指名したいくらい」
「えっと……そんな手放しで褒められると恥ずかしいぞ」
照れたように頭をかく令孤愚。
そして王基は決定的な言葉を投げつけた。

「……曹彪さんはなんて言ってる?」

800 名前:北畠蒼陽:2005/08/20(土) 16:01
びくり、と令孤愚の背が震える。
「なんのことかな?」
「……無理に答えなくていいわ。質問の形式をとってはいるけど実際はただの確認だから」
王基の言葉に黙り込む令孤愚。
「……文舒も気づいてるけどね。あの子はクーデター……というか乱というものを許せない性質だからね。あの子、あれで意外と生真面目なとこあるから……だから今回、王凌さんとクーデター阻止の板ばさみで結構、つらい思いしてる」
……誰にも言わないけどね、そんなことは、と付け加える。
「……私は公治ほどには王凌さんを買ってない……あなたさえいなければ……」
令孤愚の背が王基の隙をうかがっているのがありありとわかる。
王基もすでに稽古槍を両の手に持ち、戦闘体勢に入っていた。
「……あなたさえいなければ……クーデターは失敗する」
「文舒のために戦うって? かっこいいねぇ」
「……えぇ、私は文舒の剣だもの」
誇り高く答える王基。そして……
「あっそう」
言葉とともに令孤愚が動く。
渾身の抜き手が王基の眉間を正確に狙う。
会話の最中に戦闘に移行……
無手として槍という武器を対峙するために相手のタイミングを完全にはずした攻撃。
それは間違いなく令孤愚のこれまでの人生で最高の一撃だった。
王基は目をつぶり……

令孤愚が湖畔に倒れていた。
その一撃は王基に届くことなく……
その手は天に届くことなく……
槍の間合いに素手で飛び込むなどという無謀。
そうせざるを得ないよう仕組んでいたのは自分だ。
「……」
令孤愚の胸からはずした蒼天章を手のひらの上で弄ぶ。
そしてなにも言わずに倒れた令孤愚に一礼し、王基は歩き出した。

……
……
……
新野棟の一角の兵団長執務室。
放課後の倦怠感の中、王基と王昶はぼーっとしていた。
王基はクロスワードパズルの雑誌を手にソファに寝転び、王昶もファッション誌などを手にポテトチップなどを食べている。
「……文舒……薩摩鶏、名古屋コーチンと並ぶ日本三大美味鶏ってなに? 5文字で2文字目が『ナ』」
ポテトチップをとる手を止め、一瞬、記憶を探るかのように視線をさまよわせる。
「あ、『ヒナイドリ』だね」
「……さんきゅ」
そしてまた沈黙。
「そうそう。公治が病気療養のために蒼天章の返上をしたんだってね」
「……へぇ」
……さすがに情報が早い。
内心の想いを顔に出すことなく王基は軽く返事をする。
王昶が立ち上がったのが視界の隅に見えた。
そして近づく気配。
王昶は王基の横で立ち止まり、その肩に手を置く。
「ごめん……いやな仕事押し付けた」
「……気にしなくていい。文舒と私は一蓮托生だもの」
……さすがに気づかれたか。
苦笑しながら……王基はそれでも満足感を感じていた。

801 名前:北畠蒼陽:2005/08/20(土) 16:02
祭りは今日までッ!
まだのひとはお早めにねっ!

さて、評価が微妙な令孤愚です。
最初、私はムノーモノのつもりで令孤愚を書いてたわけですが正史を読み返してみると……なんつか、いいよ、このひと。

田豫が蛮族討伐で功績を挙げたときに、ちょっと規律違反があったんで令孤愚が取り締まったら帝に『バーカ!』ってすげぇ怒られたよ。

とか書いてあるんですけど……まぁ、状況がわからんから断言はできませんけど一読してみると帝(曹丕)怒った理由って『功績のある人間をそんな些細なことで陥れるな』ってこと?
……いやいや、それを取り締まるから有能な官僚っていえるんでしょ。わかってくれよ、曹丕サン。
まぁ、性格とか結構恨みを忘れないようなとこはあったみたいだけどそれは決して無能の証ではないわけで。
もっとも『清潔でつつましく質素でゴホウビなんかはみんな部下連中にあげてたんだってさ。蛮族の贈り物なんかも全部帳簿につけて上に納めて、家には入れなかったから家族みんな超貧乏だったんだって』とか書かれる田豫にどういう違反があったのか、なんて上層部が取り合わないのもそれはそれでわかる気はしますがねー。そんでも一方的に令孤愚がワルモノってのはどうよ? と。

そんなわけで今回は王基主人公ですが、それも令孤愚のアシストがあってこそですよー。

802 名前:雑号将軍:2005/08/20(土) 23:16
北畠蒼陽様、お疲れ様ですっ!僕は最近いつも疲れてますけど…。ではでは感想を…まずまず最初に感じたのは「令孤愚ってだれ?前にも出てきたような…」という非常に申し訳ないものでした…。今回は王基が汚れ役を演じていたことろがすごいかっこよかったですっ!あと3m強ある槍を練習では使われるんだなあと、感心していました。

>令孤愚とか田豫とか
僕は令孤愚をよく知らないのでとくに言えたことはないのですが、北畠蒼陽様がおっしゃる通り、「性格とか結構恨みを忘れない≠無能の証」だと思います。その代表として法正がいますし…。
田豫の慎ましさには敬意を表しますが、家族みんなが貧乏になるまでする必要はあるんですかね

803 名前:北畠蒼陽:2005/08/21(日) 00:12
>令孤愚さん
令孤愚は王昶のお姉さまの従妹です。わかりにくい関係ですな(苦笑
エン州校区総代に赴任し、当時車騎主将だった王凌とともにエン豫青徐あたりを牛耳る一大勢力にー。
んで叛乱を起こそう、ってことになって曹彪のとこに使者を送った……直後くらいのシーンですね、これは。

毋丘倹ほどではないけど味のあるひとだと思いますよー。

>法正さん
……ほど実力はないけどね(笑

804 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:39
「ッ!? ……そう、わかったわ。ありがとう」
報告を受けた毋丘倹の顔が一瞬こわばり……しかしそれでもそれをできる限り表に出さないよう、平静を装おうとする。
寿春棟、揚州校区兵団長の執務室。
そこに集った毋丘倹をはじめとした、その幕僚たちの顔には隠すことのできぬ疲労の影が落ちていた。
校舎の外からは騒がしい声。
蒼天会において曹操が卒業した翌年に高等部に進学した世代の中で突出した実力と実績を誇った戦乙女、毋丘倹。彼女は曹家蒼天会を裏で操ろうとする司馬師に反発し、やはり同世代の文欽とともに揚州校区を中心として大規模な叛乱を起こした。
その趣旨は『対司馬師』の一点のみであり、まぎれもなく政治の領域の話であった。毋丘倹にとって不幸なことに毋丘倹にも文欽にも、またその幕僚たちにも司馬師に対抗できるほどの切れ者はおらず、この叛乱はまさに暴発という色すら帯びていた。まさに『不幸』である。
そして今……
校舎外でゲリラ活動をしていた盟友、文欽が司馬師の本隊に遭遇し、その最精鋭MTB部隊によって壊滅させられたとの報告が寿春棟に届けられていた。
とびっきりのバッドニュース……
「仲恭姉さん……どうするの?」
毋丘倹の妹の毋丘秀が、その顔を歪めながらそれでも気遣うように問いかける。
もう敗北は決定付けられた……どんなに残酷でも、ここは主将に決断してもらわなければならない。
「落ち延びよう。これ以上は……もう無益」
悔しそうに唇をかみ締め、毋丘倹が呟くように言う。
「でもッ! ……外はあんなに敵に囲まれてッ!」
叫ぶように反論する毋丘秀。
毋丘倹はゆっくりと顔を上げた。
「私が……みんなが落ち延びる時間を稼ぐ」


殺戮の戦乙女


普段はクローゼットの奥にしまわれたままの幹部生徒専用の制服に身を包んだ王昶はパイプ椅子に座ったまま遠く寿春棟を眺めた。
そして周りを見回す。
荊州校区総代、王基。
征東主将、胡遵。
豫州校区兵団長、諸葛誕。
エン州校区総代、昜。
そして連合生徒会会長、司馬師。
この世代を代表するメンバーである、が……
裏を返せばそれだけ仲恭が恐れられてる、ってことか。
確かに仲恭は並外れた実績がある。
私ですら彼女の功績の前には一歩譲らざるを得ない。
それだけに……
今、仲恭は追い詰められている。
仲若を失い、また助けのない籠城戦を強いられるという屈辱。
翼を失い堕天した戦乙女。
今、彼女は焦っているだろうか……
自分の考えにバカバカしくなって王昶は苦笑をもらす。
仲恭は追い詰められても冷静を欠くことはない。それは実績が証明していることだ。
だったら……
「おね……主将、どう動くの?」
傍らの王渾が声をかけてくる。
「玄沖、毋丘倹はどう動くと思う?」
「え、えっと、仲若ちゃ……文欽がもういなくなった以上、撤退を考えてると思うの。バンザイアタックとかって毋丘倹に似合わないもんね」
そう、仲恭は撤退を考えているだろう。

805 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:40
すべての部下に戦ってトばされる……華々しく散ることを強要する毋丘倹など想像も出来ない。
「じゃあ……玄沖、こっちがそれに対してどう動く?」
「う……え……」
王渾は王昶の問いに一瞬、言葉を詰まらせたがそれでもなんとか答える。
「このまま包囲、かな。どう考えても人数も戦意も上なんだから撤退のための道を作らせない。数で圧倒するのがいいんじゃない……かなぁー?」
自信なさそうなその答え。
しかし王昶は内心、笑みを浮かべる。
パーフェクトな解答だったからだ。
だったら……
「よし」
満足して王昶はパイプ椅子から立ち上がる。
「玄沖。今からの指揮権を委任するわ……私はちょっと出かけてくる」
「え! し、指揮権!? えう!? いや、だ、だめだよぉ!」
慌てる王渾。いつかはまっとうな主将になってもらわなければならないのにこの引っ込み思案は困ったものだ。
「玄沖は私のあとを継がなきゃいけないんだからこの程度でびびってどうすんのさ」
王昶の言葉に王渾は不安げに顔を歪める。
「で、でも……お姉ちゃんはどこにいくの?」
泣きそうな顔の王渾。
「あぁ……なんつーか……」
王渾の問いに言いにくそうに頭をかく王昶。
「今からの私の行動は悪い見本だ。立派な主将になるために絶対に真似するんじゃないぞ」
その王昶の言葉とほぼ同時に校舎南側でひときわ大きな声が上がった。

包囲網の薄そうなところを切り取っていこうと思ったが……なるほど公休の陣だったか。
毋丘倹は妹や自分につき従ってくれた幕僚を先に落ち延びさせるためにたった1人、ここに立っていた。
堅実な陣ね。
堅実なだけに読みやすい。
木刀を振るい、諸葛誕の部下たちを叩き伏せながら冷静に考える。
まぁ、それはそうだろう。
諸葛誕は心情的に対司馬の曹寄りであることは間違いない。だからこそ親曹の旗の下、叛乱を起こした私とは戦いづらいのだろう。
その想いが部下にも伝染し……私がたった1人でここにいることに困惑と弱気を隠せないでいるのだろう。
私を討ちたくない……そう思う諸葛誕の弱気こそが私の勝機だ。
時間は稼げそうね、なんとか……
毋丘倹は木刀をだらりと下げ笑ってみせる。
ホンキで振るった木刀……
もう幾人もその額から血を流し、地に横たわっている。
そして私は体中、その返り血に塗れ、制服もところどころ破れ泥や血や埃やいろいろなもので汚れている……
「道をあけろ……貴様ら、皆殺すぞ」
これが公休の部下たちの目にどう映るか。
返り血で真っ赤に濡れた、その中の凄惨な笑み。
自分が相手であれば……こんなビジュアルのシーンを前に立っていたくないと思う。
ま、これくらいの演技は許されるよね。
苦笑しながら自分の左肩をちらと見る。
さすがにこれだけの人数を相手に無傷というわけにはいかない。左肩は脱臼し、まったく使い物にならなくなっていた。
救いがあるとすれば返り血か私自身の血か見分けがつかず、相手は誰も私の負傷に気づいていないということだろう。

806 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:40
「聞こえているのか、ゴミムシども……まぁ、いい。このぶんだと地獄に雀卓があといくつ立つか、楽しみじゃないか?」
余裕を装い、右肩に木刀を乗せる。
疲労は体中を覆い、今すぐにでも倒れてしまいたい。
それでも毋丘倹は立ち、そして笑っていた。
諸葛誕の部下たちが目に見えて戦意を失っている。
もうちょっと……もうちょっとだけ時間を稼ぎさえすれば十分かな。
もうちょっとだけ脅して……そして倒れよう。もう疲れたしね……
毋丘倹は薄く笑い一歩踏み出す。
包囲網が一歩後ろに下がる。
毋丘倹はもう一歩踏み出そうとして……足を止めた。
文舒……

肩に棒を担いではいるがその一見、緊張感のない顔は戦場に不似合いだ。その不似合いさが実際の戦場においてどれほどの一瞬の集中力につながるかは味方として戦っていたときから十二分に理解していたが。
「さすがだなぁ、仲恭」
王昶ののんきな言葉に思わず苦笑する毋丘倹。
王昶はその光景を見回し……
「凄惨だねぇ」
ヒトゴトのように言う。
「やぁ、文舒。この光景の一部になりにきてくれたのかい?」
挑発する毋丘倹。
王昶の手の棒を見たときから毋丘倹はなんとなく気づいている……
「あぁ、秀たちは包囲網を抜けたみたいだぞ」
そうか……なんとか抜け出してくれたか。
毋丘倹は王昶の言葉に感謝する。
「さて……おい、こいつは私がもらうぞ。公休には悪いが手柄は私がかっさらう」
王昶が冗談めかして諸葛誕の副官である蒋班に声をかける。
……包囲網はそのまま観客にかわった。
「すまないわね」
「あぁ、気にするな」
毋丘倹の短い感謝にどうでもよさそうに答える王昶。
いくさ人であれば戦友を看取るのは当然である。
それが自らを囮にして部下たちを落ち延びさせ、そして自分はトばされてもかまわない、と戦っているものならなおのことだ。

王昶は戦友、毋丘倹を自ら看取るためにここに立っていた。

「さて……んじゃやるか、仲恭。泣いて許しを乞う準備はできてるか?」
「文舒もうがいとかはちゃんとしてる? 汚い舌で靴を舐められても嬉しくないわよ?」
2人は笑顔で対峙する。
片や柳生新陰流、毋丘倹。
片や神道夢想流杖術、王昶。
2人ともが黙ったまま……
「? ……仲恭」
やがて王昶が毋丘倹の左肩の異変に気づき口を開くが……なにもなかったかのように口を閉じる。
これで王昶は間違いなく左肩を狙ってくるだろう。
相手の弱点を狙うことは卑怯ではない。むしろ自分の力の及ぶ限り、相手の弱点を叩くことが礼儀ともいえる。
毋丘倹は内心の苦笑を押し殺す。
少しの手加減も望めない相手に弱点を知られた。
恐らくはかなり痛い目にあわせられることだろうなぁ……
でも……こうして最後の戦いに立ち会ってくれる親友に心からの感謝を。
毋丘倹は……今までで一番澄み切った境地に立っていた。
風が吹く。

2人が同時に動いた。

807 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:40
「あ、ぐぅ……ぅ、あああ……」
勝負は一瞬。そしてあまりにもあっけないものだった。
毋丘倹は迷うことなく必殺の突きを王昶に見舞う。
王昶は毋丘倹の左肩を狙うように見せかけ、突きにあわせるように木刀に焦点を絞り、それに向かって棒を叩きつける。
毋丘倹は折れた木刀にこだわることなく王昶の棒の軌跡から体を翻すように王昶の胸に右正拳を叩き込んだ。
「あ……がはっ。ぐ……ぅ」
胸を押さえ片膝を地に付ける王昶。
それを立ったまま見下ろす毋丘倹。
「お、おま、えなぁ……ろ、肋骨が、お、折れたらどうす、んのよ」
はぁはぁと息を荒げ王昶が抗弁する。
「大丈夫だって。手加減はしてないけど」
毋丘倹の返答に苦笑する王昶。
「どうす、る? しょ、勝者のけん、りだ。もって、いくか?」
脂汗を流し、それでもにやり、と笑って自分の胸を指す王昶。そこには蒼天章が光っていた。
「いや、やめとくわ。せっかくここまで来てくれた親友をリタイアさせる趣味はないしね」
「けっ……呪われろ」
毋丘倹の答えに王昶は笑いながら毒づく。
「仲恭、南に進め。ここを抜けたらそれ以降はまだ包囲網は完成していない……長湖部領内に入れば私らでも追うことはできない」
荒い息の下、王昶はウィンクしながら毋丘倹に進む道を示す。
「……私も疲れてるのに……さらに前に進めって言うのね、あんたは」
「当たり前だ。私に勝ったやつにこんなところでトんでもらうと困る」
あきれたように苦笑する毋丘倹。
そして王昶は自分の手にしていた棒を毋丘倹に放る。
「もってけ。折れた木刀よりゃマシだろ」
「ありがとう……さよなら、文舒」
棒を手に背を向け歩き出す毋丘倹。
「じゃあな、バ毋丘倹」
王昶は毋丘倹をを目で追うこともなくそっと呟き、そして前のめりに倒れ、そのまま気を失った。

……
……
……
寿春棟、旧揚州校区兵団長の執務室。
部屋の元の持ち主の性格を物語るかのような実用性のみの無骨な部屋に生徒会のトップたちが集う。
「やぁ、みんな。ご苦労ご苦労♪ バ毋丘倹は逃がしたけど十分じゃない? もう二度と歯向かおうって気にはならないだろうさ♪」
執務机に座りご機嫌な司馬師。
王昶はあきれたような視線を向けた。
毋丘倹はそんな小さな人間じゃない。
長湖部まで逃れることさえできれば……そう彼女はあまりにも強大な敵になるだろう。
王昶の脳裏にはすでに対毋丘倹の作戦がダース単位で練られていた。
この胸の痛みは7京倍にして返してあげるから楽しみにしてなさい……内心の想いを隠し切れず口元に笑みを浮かべる。
「大変です!」
だからそのとき執務室に飛び込んできた伝令にも特に注意を払うことはなかった。
「毋丘倹が安風で見つかりました! その班長の配下の張属というものが毋丘倹をトばしたそうです!」
「お〜、ハッピー♪ いいねいいねぇ、最高じゃない!」
司馬師の歓声が遠く聞こえる。
言葉が嘘に聞こえた。
でも嘘とは思えなかった。
ひとつ大きなため息をついて王昶はソファに深く座り込んだ。

808 名前:北畠蒼陽:2005/08/27(土) 19:41
ラスト・オブ・淮南三叛の第2弾です。
令孤愚-王基
毋丘倹-王昶
……第3弾は地味なひとを目立たせようかと。

今回ので思い知ったのですよ、あまりにも悲しかった事実。私、萌えを書くの無理(ぁ
もうかっこいいのほう専門で。あとギャグと。ちなみにギャグのほうはかなりの割合ですべるので注意が必要です。逃げてーッ! ……かといってかっこいいほうもかっこよく書けるわけではなく。なんとかしたいもんです。
いや〜、萌え文章書こうとすると、なんか違和感ががが。他のひとのを読むのは好きなのにねぇ……

809 名前:雑号将軍:2005/08/27(土) 20:45
おお!今度は毋丘倹がやられましたか…。どうなんでしょう?彼がもう少し我慢(司馬師が死ぬまで)していれば、魏国でまだまだ活躍できたんでしょうか?
今回、毋丘倹の強さを改めて思い知らされたような気がします。王昶でさえもやられることになるとは…。それとも王昶はわざと・・・・・・。
第三弾は誰が来るんでしょう?文鴦とかでしょうか?いや、奴は地味じゃあないか…。

810 名前:北畠蒼陽:2005/08/28(日) 00:28
>わざと
いやいや、超ホンキですよ。
毋丘倹はそういうことに関しちゃ図抜けてる、と思うのでー。
まぁ、ちょいとやりすぎ気味なモノなんで……まぁ、ねぇ?

>ラスト
文鴦は書くつもりないですけど……あー、その意味で言えば文欽もありなのか。
まぁ、文欽はいずれってことで。

811 名前:海月 亮:2005/08/29(月) 18:08
なんと申しますか、海月的にはこういう展開が大好きなのですよ。
コブシとコブシのぶつかり合いでしか語れぬ、そんな不器用さがたまりませんね。

展開からいえば楽リン→諸葛誕&文欽とかいうのが自然な流れのような気もしまふが…。
それと地味っ娘胡遵は、終始地味なままで終わっちまうんですかね?


そろそろいつぞやの話の続き書かないとなぁ…。

812 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 18:52
           Memory that should be abhorred
              〜忌むべき記憶〜

 夏休みも終わり、幾分か夏の暑さも和らいできた。もうそろそろ、冬用の制服も出さなければならないのだろうか?できればもう少し、地肌に日光を浴びていたいものだなあ。
 そんなことを考えながら、皇甫嵩(義真)は頬杖をつきながら、窓から見える景色を眺めていた。
 ここまで、私はいろんなことをしてきた。しかし、今はそんな血なまぐさい世界から抜け出したただの隠居人だ。もうなにもすることはないだろう。
 皇甫嵩はぼんやりと空の景色を眺めながらそんな取り留めのないことを考えていた。
 そんなとき、皇甫嵩の親友である盧植が教壇の中央に立った。彼女の腰まであるライムグリーンの髪と犬のように愛らしい眼は男女問わず人気がある。もっとも、皆、恐れ多くて一歩下がって憧れるしかないのだが・・・・・・。
「今日は今年の華夏大学園祭での、我がクラスの出し物を決めたいと思います。何か意見のある人はいますか?」
 盧植の言うように、毎年一〇月にこのでは華夏大学園祭――世間一般に言う文化祭や学園祭――が催される。これは華夏学術学園都市に所属するすべての教育機関合同で行うため、さすがに規模も広い。そして内容も凝っているのでちょっとやそっとのものでは客が見込めない。





だから、今回、文化委員になった盧植は皆に意見を求めているのだ。
しかし、盧植はなんとも嬉しそうに頬を転ばせている。いや、にやけていると言った方が正しいだろう。まるで、好きな人への想いが届いたかのようなのだ。
(子幹の奴・・・・・・なにかあるな)と皇甫嵩は勘づいた。
これはただの行き当たりばったりなどではなく、盧植とのつき合いからのデータによる確率計算による。
しかし、所詮数字では次のような言葉が飛び出すことは予測不可能であった。
 盧植に呼応するように、金髪の少女・丁原(建陽)が右手を天井に向けて高々と上げた。そして、恐るべき一言を繰り出した。
「はい〜はい〜!あたいは『コスプレ喫茶』がいいと思いまーす!」
 すぐにクラスの中がざわつく。当然である。急に「コスプレ喫茶」をすると言われればそうもなる。しかし、それも彼女の一言に一蹴され、歓声へと変体することとなる。
「あたしもー!それがいい!みんなも義真のコスプレ見たいでしょ?」
 さらには赤紙のひとふさが飛び跳ねている少女であり、皇甫嵩の親友である朱儁(公偉)までもがクラスの出し物に「メイド喫茶」を開くことに賛同したのだ。
 すると、辺りから一斉に歓声が上がった。キャーキャーと黄色い悲鳴さえも響いてくる。皇甫嵩はそのルックスと物言からどうも女生徒から人気がある。だからこそ、この一言には万金の重みのがあった。
 皇甫嵩はこのとき「しまった」と本気で後悔した。
「なぜもっと早くきがつかなかったのか」そんな無念でいっぱいであった。気付く機会ならいくらでもあった。
なぜなら最近、彼女ら三人は何かと集まっていたのだ。どうやら皇甫嵩が反対することを見越して、三人で話を進めていたのだろう。
(あの子幹のことだ。票集めは完璧だろう・・・。さらにあの公偉の言葉でクラスの浮動票もすべて賛成に変わるだろう。だとすれば、私がその悪鬼から逃れる方法は・・・・・・)

813 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 18:53
「義真・・・・・・すっごい似合ってる!」
「シンちゃん(皇甫嵩)ってこんな服も似合うんだ・・・・・・」
「こっ、こっちを見るな!あっちを向け、あっちを!」
 皇甫嵩が耳の先まで真っ赤にして、賛美の言葉を贈る朱儁と丁原に怒鳴っている。それに対して、朱儁と丁原は品定めするように皇甫嵩を凝視し、ときどき下衆な笑みを浮かべていた。
 とうとう皇甫嵩は悪鬼の軍勢から逃げ延びることはできず、今こうして彼女らの餌食となっているわけだ。
 それで、皇甫嵩の着ている服装なのだが・・・・・・。
「・・・・・・義真・・・そのメ・イ・ド・服、ばっちりみたいね。流石は私の義真だわ」
 盧植はしたたかな女だ。「メイド服」と「私の」をしっかりと強調し、皇甫嵩が照れるのを狙ってきた。もちろんそんな言葉を書けたのは皇甫嵩が照れるところを見たいからだとは言うまでもないだろう。
 盧植の言うように、皇甫嵩が着せられたのはメイド服だった。
フリルがちりばめられていることは当然として、ミニスカート調のワンピースに純白のエプロンドレスにカチューシャ、さらに白のロングニーソックスも忘れてはいない。
 盧植はこのときに備えてある人物に皇甫嵩にぴったりのメイド服の製作を要請していたのだ。もっとも自らにもナース服を用意していたようだが・・・・・・。
その証拠に急造仕様の更衣室から出てきた盧植は桜色のナース服に着替えている。もちろん頭にはナースキャップがピンで留められていた。
それは盧植のライムグリーンの髪と合わさって、まるで草原に花開く白菊のようであった。
「いつから子幹のものになったか。私は?」
 皇甫嵩が左手を腰にあて、普段の低い声で盧植に抗議する。どうやら冷静であるとみせようとしたのだろう。しかし、顔が真っ赤であるため照れ隠しにさえなってはいない。
盧植はまったく気にする素振りも見せずに、あるいは聞こえていなのか、ただくすっと口元に手を当て微笑して、メイド服姿の皇甫嵩を見つめている。
 流行りの服を着せられたマネキンのような気がして、皇甫嵩はどうも落ち着けなかった。
 そんな皇甫嵩に魔の手が伸びてくる。
あろう事か、盧植がじりじりと歩を進め始めたのだ。皇甫嵩にとっては、森の中で熊に狙われたも同じであった。
「こ、こら!近づくのはやめろ!頼むから、な、子幹!」
 皇甫嵩が珍しく取り乱し、両手を前に突き出して盧植をこちらに来させまい必死である。しかし、盧植にはそんなものは通用しなかった。蛇のように身体をくねらせ、城門を突破し、本陣へと飛び込んだ。
 皇甫嵩が声を掛けようとしたとき、皇甫嵩の首に盧植の両手が迫った。皇甫嵩は今度はなにをされるのかと焦りを隠せなかった。
 だが、それは全くの杞憂であった。盧植は襟元に着いているピンク色のリボンを直しただけであったのだ。
「義真・・・。あなた、リボンを結んだことないでしょ?もうめちゃくちゃよ。じっとしててよ。今なおすから・・・・・・患者さま、じっとしていて下さいね」
「し、しかたないだろう。今までこんな、女っぽい服は着たことがないのだから・・・・・・」
 皇甫嵩の視線がわずかにうつむいた。それと同時に声にも力がない。
なにやら不安そうにも聞こえてくる。
無論、盧植が看護師になりきっているのがその原因ではない。まあ、まったく違うとは言わないが・・・・・・。
彼女は今まで、ジーンズやカッターシャツやトレーナーなどどちらかといえば、男装をすることの方が多い。なにぶんと皇甫嵩にはこんなフリルの付いたスカートを履いたことがないのだ。
そんなことを知ってか知らずか、自らの衣装に身を包んだ朱儁が皇甫嵩の両肩に手をのせ、その愛嬌のある顔を覗かせる。
「だいじょぶだって!義真は十分に綺麗だからっ。こんなメイドさんならみんな自分に仕えてほしいって思うよ!」
「な、なにを言うか!わ、私が、き、綺麗なはずなどあるか!そ、それにな、なんだ公偉、その白一色の服は?」
 「綺麗」とひとさら強調された皇甫嵩は気恥ずかしくなってどもってしまった。むしろ「仕えてほしい」のほうが皇甫嵩の自尊心の高さから気になるのだが・・・・・・。
なんだかんだ言っても皇甫嵩も女子高生のようだ。
 「かわいいでしょー」と言って朱儁はその場でくるりと回ってみせる。
 朱儁は白一色のワンピースを着ていた。
もっともところどころにピンクのリボンがあしらわれているので完全な白とは断言できないのだが。
ワンピースは胸元までのミニスカート調で、両腕には純白のアームカバー(日焼け防止が目的ではない)をつけ、首には首輪とおぼしきものが付いている。さらに衣装の先端という先端にはフリルがあしらわれている。なんとスカートのフリルはなんと二段になっていた。
「これこそ、白ロリファッションよ!」
 朱儁は目を輝かせてそう言い放ち、見事にポーズを決めた。
 そんなとき、朱儁と入れ違いに更衣室に入った丁原が弾丸のように飛び出してきた。そして、皇甫嵩と朱儁の間で見事に止まる。
「じゃーん!見て見て、シンちゃん!こーちゃん!この耳としっぽ、かわいいと思うでしょ!」
 丁原が教室中に響き渡るような大音量で言う。さらには右手を猫手にし、それを付け耳にあてて、ポーズを取っている。
 猫だ。丁原はセーラーブラウスに猫耳としっぽを付けていた。
しっぽはスカートの下から垂れるように伸び、耳の毛は茶色で肌触りも良さそうである。着衣もセーラーブラウスこそ、学園のものだが、スカートはミニもミニ、なんと、膝上十五センチという驚異の短さである。
しかし、これが背の低い丁原2は恐ろしいほどに映えていた。
 皇甫嵩は朱儁と丁原、さらに思い思いのコスプレを施した、クラスの面々を眺め、最後にメイド服を身に纏った自分を鏡越しに見た。
 かつては「生徒会の剣」として、畏敬の対称となった皇甫嵩が今はメイド服を着ている・・・・・・。そんな自らの姿にあきれるのも無理のないことだった。
 しかし、皇甫嵩もまんざらではないようで、クラスメイトに「メイド服姿かわいいっ!」とか「綺麗よね。義真って」とか言われるたびに否定をしながらもどことなくうれしそうだった。
 そんな姿を盧植はちらちらと皇甫嵩の方を見やり、そのつど、笑みを浮かべている。その笑みも微笑といえるような見やすい者ではなく、ニヤリと笑う下卑な笑みを浮かべて愉しんでいた。
が、しばらくして、思い立ったように椅子からすっと立ち上がり、再び教壇に上がった。
「皆さんー!集まってください。学園祭までもう日にちがありません。したがって、これから練習に入ります。今日はプロの方にも来て頂きました。それでは、以下の班に分かれてください。一班・・・・・・・・・・・・」
 皇甫嵩は盧植の言葉を聞いたとき、なぜか背筋に冷たいものが流れた。
(なにやら、そのプロとやら・・・・・・。いやな予感がする)自らの勘がそう訴えかけていた。

814 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 18:54
皇甫嵩の予感は的中した。もっとも、これが悪いものか良いものかは皇甫嵩自身もわからなかった。わかるのは盧植にはめられたということ・・・・・・。
 そしてそのプロというのが・・・・・・。
「り、李儒ではないか!?何故ここに?」
 皇甫嵩は走り出したが、どうやら自分が短いスカートを履いていることを忘れているらしい。
 それに気が付いた李儒と呼ばれた深緑のショートカットに癖毛が特徴の少女は両手を前で組み、無表情だがたしなめるように言う。
「皇甫嵩様。メイドは極力走らないようにしなければなりません。そして、歩くときは両手をお腹の前で合わせるように、スカートを乱さないようにゆっくり歩いてください。判って頂けましたか?」
 この少女の声にはどうも音の強弱がない。本当に一定のリズムで話す。その声は澄んでいて、よく通っているのだが、いかんせん聞き手には怒っているのか、冗談なのかの区別が付かない。
極論すれば彼女の言い方は感情がこもっていないのだ。
「そ、そうなのか?す、すまぬ・・・・・・。このようなことしたことがないので勝手がわからんのでつい・・・・・・」
 皇甫嵩が李儒のペースに飲まれている。もっとも皇甫嵩が李儒に弱いというのも関係しているのだが・・・・・・。
 李儒はすぐさま言葉を続ける。
「皇甫嵩様。そのような言葉遣いもメイド服を着ているときはおやめ下さい」
「なに?それもいかんのか・・・・・・。ならば、どのような話し言葉がよいのだ?」
 最初はやる気の全くなかった皇甫嵩だが、今では李儒の説明に聞き入っている。盧植の思うつぼということに皇甫嵩はまったく気が付いていない。
しかし、次の一言は皇甫嵩のプライドを打ち砕くものであった。
「では私のいう言葉を復唱してください。『ご主人様、おかえりなさいませ』はい、どうぞ?」
「・・・・・・・・・・・・」
 皇甫嵩は顔を真っ赤にし、口をかすかに上下させていたが、李儒の言ったことをリピートすることはできなかった。
「言っては、いただけないのですか?これでは私が盧植様にしかられてしまいます・・・・・・」
 なんということであろうか。
今までまったく感情もこもらず無表情で話していた李儒が一変した。目を皇甫嵩から眼をそらし、うつむき加減となり、細々と消え入りそうな声で言った。
「な!卑怯だぞ、李儒、こういうときだけ感情を表に出すとは!」
 皇甫嵩が一瞬ドキッとしながらも、激しく抗議している。それが、自らの首を絞めることとなった。
 李儒は皇甫嵩のそれほど大きくもない声に驚いた振りをし、泣きそうになりながら、頭一つ大きい皇甫嵩を上目遣いで見てくるのだ。
 もはや、皇甫嵩に選択の余地はなかった。
「わかった、言う!言うから!」
皇甫嵩はがっくりと肩を落としてそう言った。このとき彼女は自らのプライドを捨てたのだ。
「本当ですか?!では『ご主人様、今日は早く帰ってきてくださいませ。私、ご主人様がいなくては寂しくて寂しく、我慢できません・・・・・・』どうぞ」
(くっ!わざわざ台詞を変えたな!もうなんでもよい!)皇甫嵩は横で盧植が見ているのにも気付かずに、李儒の言葉を復唱する。
「ご、ご主人様、今日は、早く帰ってきてくださいませ。わ、私、ご主人様がいなくては・・・寂しくて寂しくて、我慢できませんっ!・・・・・・これで満足か・・・・・・?」
 皇甫嵩がどもりながらもなんとか最後まで言い切った。
照れていて、声が擦れたり上擦っていたりもしたが、それはそれで初々しいと思えば、むしろ、良い効果であるといえた。
「八十点です」
「なんだと!私のプライドを捨てての文字通り捨て身の演技だったのだぞ!」
「いいえ、まだまだ、練習が必要のようです」
 もう李儒はいつもの無表情に戻っていた。それに皇甫嵩は為す術もなく飲み込まれてゆく。まるで荒波が小舟を吸い込むように。
こうして、皇甫嵩の高等部生活最後にして最凶の学園祭が始まろうとしていた・・・・・・。

815 名前:雑号将軍:2005/10/29(土) 19:02
どうもご無沙汰でした。やっと、学校の行事もすべて終わり、時間ができたので書いてみました。ネタは…特にないです。なぜコスプレ喫茶にしたのかも不明。強いて言うなら、Yahoo!のニューストピックスに、メード喫茶がなんとかと書いてあったからでしょうか?
話として・・・・・・また気が向いたら、いや時間があれば、文化祭当日も書くかもしれません。時間があれば!ですが。
補足として、朱儁の白ロリファッションはアサハル様のを参考に、皇甫嵩のメイド服はサクラ大戦のメルさんをイメージさせて頂きました。

816 名前:一国志3:2005/10/30(日) 00:14
>>812-815 雑号将軍様

こういう砕けた話は好きなので、コメントしてみます。
かつてはオタク客だけだったメイド喫茶も、一般人に知れ渡った存在に
なっていますね。
硬派キャラの皇甫嵩も、コスプレ色物キャラの董卓軍(李儒、李カクなど)の
カラーに染まってしまうのでしょうか。

文化祭があったら、帰宅部陣営(劉備軍)も独自にコスプレ喫茶を
催しそうな気がします。

817 名前:一国志3:2005/10/30(日) 01:15
自己レスになります。

インデックスから、人物設定を再チェックしてみたときに浮かんだことです。
帰宅部のコスプレ喫茶で、劉禅+東鳩2制服→このみ、
諸葛亮+メイド服→咲夜(東方)、に近くなるのかと思ってみたり。
(キャラ絵からだけのイメージですが。)

改めて見返してみると、葉鍵を知っているとにやりとするキャラデザが
それなりの数ありますね。

818 名前:雑号将軍:2005/10/30(日) 10:14
>816
一国志3様、お返事ありがとうございます!そうですね…僕としては皇甫嵩は董卓連中とは逆ベクトルだと思っているので染まることは無いですね。盧植が愛しの皇甫嵩にメイド服を着せたくてコスプレ喫茶を開いたと考えてもらえれば幸いです。

>帰宅部陣営
なるほど…その手がありましたか…。ただ諸葛丞相なら長湖部に「ツンデレが多い」とかいう理由でコスプレ喫茶を開かせようと策を巡らせようとする気もしたり・・・・・・。そのときは呉筆頭の海月様にお願いしましょうか。

819 名前:海月 亮:2005/10/30(日) 10:52
今しがた自サイトにドリームSSを封印してきたばかりの私がきましたよ(゚∀゚)
つか最近は某ゲームのIRとネット対戦にかまけてまったく何も考えてないです_| ̄|○

ちなみにコスプレネタは私も考えたんですが、死ぬほど季節外れ(卒業イベント)な上、曹操や献サマまでからんでドリームどこの騒ぎでなくなってきたので封印しようか迷ってる状態^^A
服装ネタヒント:5割がポップン、4割が東方。周泰が「くらにゃど」バージョンの智代になっている(w
…これ以上は恐ろしくて云えません(オイ

学園祭ネタはちょっといい話というか「蒼梧の空の下から」の別話で書き進めてます(というか書き始めました^^A)。
その前に陳矯の話が仕上がりそうなので、そっちを先に持ってくることになるでしょうけどね…。

820 名前:雑号将軍:2005/10/30(日) 11:16
>ドリームSS
丁度、読み終えたところであります!海月様のSS読んでるといつも思うのが、キャラが確立してますよね。10人くらい出てくるのに…。惜しむらくはそれがしが呉の人物の字を覚えきれていないってことでしょう…。ドリームSSで虞翻に興味を示し始めた今日この頃。

>卒業イベント
いやいや、封印してはもったいないですぞ!かくいう自分も七月に卒業式ネタ投稿しました。クソ暑い中だというのに。たしかタイトルは「卒業演奏」…。献サマが周瑜と争うは曹操、劉備、孫策登場するはのてんやわんやの大騒ぎだった気が……。でも献サマは面白いのでまた何かでだしたですね。例えば官渡の戦いとか。

821 名前:海月 亮:2005/10/30(日) 18:38
>雑号将軍様
というか感想を書くのをすっかり忘れてた^^A

なんというか、萌えました(*´Д`*)
皇甫嵩でこのネタは反則ですよマジで(*´Д`*)
なんだかコレ以降は廬植だけじゃなくて李儒にもおもちゃにされそうな気配が(*´Д`*)

>卒業演奏
もちろん、熟読させていただいた上での悪さですよ、あの卒業式ネタは。
何気に作られたお話に関連付けして何か話作るの大好きなんです^^

>あの人の話
正史と演義を読み比べるととにかくとんでもない人だったということが分かります。
もっとも、さんざん馬鹿にされてたくせに、魏に帰るとその人物を賞賛した于禁はさらに一枚上手のような気もしますが^^A

822 名前:一国志3:2005/10/30(日) 22:07
>>818 雑号将軍様
皇甫嵩他、霊帝紀の名将たちは正統派路線でこそ生きる
キャラですしね。
逆に、董卓陣営や帰宅部はお笑い路線のほうで生きるキャラ
かと思っています。個人的には、後者のほうがいじりやすくて
親しめるのですが。

823 名前:雑号将軍:2005/10/30(日) 23:14
>海月様
萌えて頂けて恐縮であります。「李儒は皇甫嵩によって心を開き、感情の起伏が徐々に現れるようになった」設定なのでこれからも李儒は皇甫嵩で遊んでくれると思いますよ。もっとも、また書く機会があればですが…。どうも気分で書く習性があるらしくので……。

>于禁の謎
そうなのですかっ!?これは火曜日なんとしても図書室で正史「三国志」虞翻伝(違ったら正式名称を教えてください)を読まなければ!!

824 名前:海月 亮:2005/10/31(月) 01:01
>虞翻伝
合ってますよ。
因みにちくまなら七冊目に収録の、呉書十二の筆頭です^^A

虞翻は他に張昭にも喧嘩売ってたり、宴会の席で酔った孫権に殺されかけたという逸話もあります。あとは正史を読んでみてのお楽しみ(w

825 名前:北畠蒼陽:2005/10/31(月) 14:58
あらま、久しぶりにきてみたらなんかSS投下されてますね。
私? 私は、えぇと……
みんなもうっかり入院とかしちゃだめだぞっ☆

orz

>SS
なんか最近まったくなにも書けてなくて、今もキータッチがおぼつかなくてかなりザンネンな雰囲気を醸し出しているわけですが……
で、SSの感想なんですが……いやぁー、萌えるねなごむね〜。
さすが雑号将軍様、ここらへんの書き方はうまいなぁ、と感心することしきりであります。

この作品を力にして今しばらくの闘病生活を乗り切ろうと思います。
復帰したら罵声を浴びせてくださいませ^^

明日からはまた病院なんでしばらくHPにもくることはできないわけですが、このSSスレが皆様の才能に彩られることを切に祈っています。

826 名前:北畠蒼陽:2005/10/31(月) 15:12
追記。
どうでもいい話なんですが10月29日が私の誕生日でして、このSS投下も10月29日ってことで、まぁ、誕生日プレゼントを頂いたと思っときます。ありがとうございましたー(笑

827 名前:雑号将軍:2005/10/31(月) 22:53
>北畠蒼陽様
に、入院でありますか!?大丈夫…じゃないから入院するですよね。愚問でした。このようなものでよろしければ、お誕生日プレゼントしてお持ち帰り下さい。おお!萌えて頂けましたか。ありがとうございます。個人的にもツンデレの勉強してきたのでパワーアップした皇甫嵩(ツンデレではないかもしれませんが…)をお見せしようと意気込んでおりましたので皆様に萌えて頂いて嬉しい限りです。
ただ、まだまだ、海月様や北畠蒼陽様のように情景描写が上手く書けていないのでその辺りはこれから勉強が必要です…。
闘病生活を乗り切られたら後、是非ともSSを!!楽しみに待っております!ではくれぐれもお大事に。

828 名前:海月 亮:2005/11/15(火) 22:27
>北畠蒼陽様
多くは語りませんぞ。
ただただ、一日も早く快癒し、再びこの地にて相まみえんことを切に願うのみです。

そして私もそろそろ何か書いてうぷしたい_| ̄|○(<しろよ

829 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:55
「はぁ?」
あたしの言葉の何処がおかしかったのか…目の前の少女は心底呆れたような顔をして見せた。
そしてたっぷり三分ほど顔を見合わせると「…はぁ〜」と特大の溜息をついて、視線を手元の本に戻す。
「やっぱどう転んでも公緒は公緒か。夾石棟の一件聞いたときはちったあ成長したかと思ったんだけどなぁ」
「ど〜ゆ〜意味だよっ!」
なんかすっごく馬鹿にされてる。
この緑の跳ね髪の少女…陸凱(敬風)はあたしの友達だけど、どういうわけかあたしに対しては辛辣すぎるきらいがある。
まるで蒼天会のあるひとを連想させるくらいに。

−巣立つ若鳥を謳う詩−

あたしの名は朱績、字は公緒。
かつてはこの長湖部でその人ありといわれた名将・朱然の妹として、その名を辱めないよう日々努力している…つもり。
だけどあたしが頑張ろうとすればするほど、かえって散々な結果になってばかり。しかも敵にも味方にも一癖も二癖もある人間ばかりで、どんどん気が滅入ってくる。
でも、この間の寿春攻略(あ、それは全体の結果としては失敗だったんだけど…)で、あたしはようやく"敵方の嫌なヤツ"に一目おいてもらえるようになったみたい(?)なんだけど…。
あたしはまだ、その"嫌なヤツ"こと、現蒼天会きっての名将・王昶を今度こそ打ち倒すべく、色々研究しているワケ。

夾石棟では結局、あたしは王昶先輩に勝ったわけじゃない。
あっちが勝手に決めて、勝手に引き下がっただけ。
相手の技…確か、杖術って言うらしいんだけど…の正体なんか掴むどころの騒ぎじゃない。だからあたしは、次に直接対決する機会のため、その技に詳しそうな人に話を聞きに着た、というわけ。
本当だったら承淵(丁奉)とか幼節(陸抗)とか、長湖部でも武道に通じた人に聴きたかったんだけど…承淵は最近色々ありすぎてそっとしておいてあげたかったし、幼節は幼節で余りそういうものに興味がなさそうだからやめた。
だから長湖部でもかなりのトリビア王である彼女…敬風に聞くことにしたんだけど…やっぱやめときゃよかったかも。


「…というかあんたは自分のやってる武道の流派も知らんのか。そんなことだから何時まで経っても"朱績ちゃん"呼ばわりされるんだ。相手のことをどうこういう前にちったぁ自分について勉強しろ」
敬風はあたしのほうに視線を戻してくる気配がない。完璧にあきれ返った様子。
けどあたしとしてはなんか納得行かない。知らないものは知らないんだし、わざわざ恥を忍んで教えてもらおうと、好物の珍味・鮭冬葉まで差し出したのにこの態度。当然ながらあたしもムキになりますとも。
「何でよぅ! あたし杖術なんて全ッ然知らないもんっ! そういう敬風だってホントは知らないんでしょ!?」
「…知ってるも何も、神道夢想流はおまえがやってる香取神道流の流れを汲む杖術の流派だ。いうなれば親戚のようなものだろ。神道流やってるなら知ってて当然の知識だと思うけどな」
知らない。ていうか断じて知らない。
というかあたしの通っているのは剣術道場であって、そんな聞いたこともない獲物を扱う道場じゃない。道場のパンフとかにもそんな説明なんて書いてなかったし。
「まぁ確かに杖術の知名度そのものはそんなにはないだろうが…一応、知り合いに神道夢想流の使い手がひとりいるはずだけど?」
「はい?」
あたしは思っても見ない言葉に絶句した。
鏡がないから解んないけど、きっとあたしはすごくマヌケな顔をしてる事だろう。
「先に言っておくが、あんたが目の仇にして止まない王昶先輩じゃないぞ。ちゃんと長湖部身内の人間だ」
そうして再び彼女は、視線を本からあたしに移し変えた。
そして敬風はあたしの献上した鮭冬葉を一切れ、口に放り込んでしばしその味を確かめていた。
「…それ、初耳だよ。だって承淵が柳生と北辰、幼節も柳生でしょ。あたしが香取神道流で…」
「不慮の事故で姿を消した世議は截拳道、同じく季文は少林寺の棍だな。棍と杖もまた勝手が違うものだが」
敬風はまるで当然のようにさらりといったが、世議(呂拠)と季文(朱異)はこの間、部内のごたごたに巻き込まれて退部してしまった仲間。あたしは二人のことを思うと…寂しくなるから、あまり口にしないことにもしていた。
当然ながら、ふたりがどんな武術に通じていたかとかなんてあたしもよく知ってる。
「ついでにあたしが何をやってるかは知ってるか?」
「諸嘗流でしょ。古武術の」
…ばかにするなコノヤロウ。
しつこいようだがあたしは身内だったら大体誰がどんな武術に通じているか知ってるつもり。防具があってもそれが意味を成さないといわれる諸嘗流の使い手は、少なくとも長湖部では敬風以外にはいないと思う。
だからこそ、杖術なんて知らなくても当然。身内に使ってる人間なんて…。
「…じゃあ、世洪は?」
「え?」
あたしは小首を傾げた。
世洪(虞レ)…なんかいまいちピンと来ない。あたしの記憶が確かなら…。
「確か世洪って運動神経キレてるはずだよ? だって逆上がりも出来ないし、マラソンだって何時もビリ…」
「あぁ、やっぱり知らなかったか。てことは知ってるのはあたしと承淵位じゃないかな…世洪は件の神道夢想流の使い手、いや、達人といってもいいな。アイツは部のごたごたに巻き込まれたくないから、わざとネコ被ってるんだよ」
「うっそ〜? あの世洪が?」
「そうだなぁ…今の部はだいぶ落ち着いてきたから、久しぶりにやってるかもしれないな」
あたしは未だに信じられず、美味しそうに鮭冬葉を味わうその顔を凝視した。
もしかしてあたしはまた馬鹿にされて、一杯食わされかかってるんじゃないかって身構えた。あたし、敬風には常日頃からかわれてわりと痛い目観てるしね。
「ウソだと思うなら、明日5時頃に起きて寮の中庭見てみな。運がよければ面白いものが見れるよ」
そう言って、敬風はまた一切れ、鮭冬葉を口に放り込んだ。

830 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:56
次の日の朝。
あたしはいつもより一時間半早い目覚ましに起こされ、晩秋の冷たい空気から逃れるように布団の中に…戻ろうとしたところでようやく、目覚ましを早くセットした理由を思い出した。
半信半疑というか、あたしはまったく信じていないし、はっきりいって騙されるのは癪だったけど…まぁウソならウソで、たまには朝から勉強してもいいかなと思ってとりあえず起きることにした。
…確か中庭を見てみろ、とかぬかしてたよね。
いいわよ、見てやろうじゃないの。どうせまだ街灯がついたままの、寒々とした石畳の景色が見えるだけなんだから。
そうして、あたしはカーテンを明け払った。寮の三階にあるあたしの部屋のその位置からなら、ちょうど中庭が見れるはずだったから。
そうして辺りを見回す。窓を閉めた状態では見える位置も多寡が知れているので、あたしは強烈な冷気が部屋に入るのを承知の上で窓まで明け払い、寒さを感じる前にベランダに飛び出し…そして見えたのは。
「…誰もいないじゃない」
まぁ予想していたとおり、あたしはまたしても彼女に一杯喰わされたわけだ。
結局彼女の言葉を少しでも信じようとした自分に腹が立つと同時に、一気に寒気が襲ってきてあわてて部屋の中へ戻ろうとした。
「あれ…?」
もしそのときそれに気がつかなければ、あたしは今日も敬風にいわでもなことをいって、散々馬鹿にされたのかもしれない。
振り向きかけたとき、寮の玄関に人影が見えた。
遠目でもはっきりわかる学校指定の青いジャージ、そしてその特徴的なプラチナブロンドの髪は…。
「…世洪?」
見間違えようがない。彼女みたいな目立つ容姿の娘はそういない。
それに自慢じゃないけど、ゲーマーでも本の虫でもないあたしの視力は両目とも1.5あるからはっきり解る。
みれば彼女、手には棒の様なものを携えている。
中庭に出てきた彼女はストレッチを始め、よく身体を解している様子。ストレッチを終えると、身体も温まってきたらしい彼女はジャージの上を脱ぎ、袖を腰のあたりにまき付け縛り付けている。そして、おもむろに手に持った得物を構える…次の瞬間。
「…やっ!」
凛とした、よく透る声の気合一閃、彼女の技が、放たれた。
踏み込んで突き。横薙ぎ。打ち下ろし。突き上げ。
時折織り交ざる掛け声で技はどんどん変化していく。総ての技がまるで流れる水のように、まったく無駄のない連なったひとつの動きを…ううん、もう言葉じゃ全然説明できない。
「…綺麗…」
素直に、そう想った。
例えるなら、日本刀の美しさに近い。
引き込まれそうな美しさを持ちながら、あの前に自分がいたら…という恐怖感も併せ持つ…そんな美しさ。
あたしはその見事すぎる"練武"から、何時の間にか目が離せなくなっていた。
「…お〜い、公緒、起きてるか〜?」
不意に真下から軽そうな声が聞こえてくる。
その声に、あたしは現実から引き戻された。下を見れば、上着を脱いだままの世洪がいる。
「お〜、珍しいじゃない。寝惚けて這い出てきたってワケでもないみたいね〜」
彼女は何時もの彼女に戻っていた。
これがついさっきまであの見事な技を繰り出したのと同一人物とは信じられなかった。

あたしは自分の目に写ったものの真実を確かめるため、自分もジャージに着替えてその上からパーカーを羽織り、中庭に出てきていた。
「…おはよ」
「うむ、おはよう」
挨拶を交わす。
でも、そのあとの言葉が続いてこない。
訊きたい事が多すぎて、一体何から話したらいいのか…そう思っていたら、彼女のほうから口火を切ってきた。
「…あたしがこんな事してるなんて、やっぱり意外だった?」
「あ、えっと、その」
「あたしも隠すつもりはなかったけど、あんまり騒がれるのって、好きじゃないから」
その淡々とした口調に、なんだか悪いことをしてしまったんじゃないかという気になってくる。
「ごめん…でも、気になったから…敬風が言ってたことが本当かどうか…」
「ええ? まさかアイツこのこと知ってんの? 巧く隠してたと思ってたんだけどな〜」
驚いてる。なんだか意外なことだったらしい。
「…見てるヤツは結構見てるもんねぇ。それであんたはまたしても敬風に一杯食わされて見ようと此処に出てきた、というわけね」
あたしは頭を振る。半分はあたりだけど、もう半分の理由。
「それもあるけど…あたし、これが本当だったら…世洪に、訊きたい事があったから」
「ふむ」
彼女は腕組みしてちょっと思案顔。
「あたしに答えられる範囲でならいいけど…後で良いかな。流石にそろそろ皆起きだしてくるし、朝食の準備もあるからね」
「う、うん」
そしてあたしも彼女にくっついて自分の部屋へと戻っていった。

831 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:57
その日の昼休み。
あたしは彼女と図書館の談話室に来ていた。子賤(丁固)とか他の娘達も何事かと思ってついて来ようとしたのを、敬風が気を利かせて巧く丸め込んでくれたらしい。振り向きざまににかっと笑って見せたあたり、昨日の鮭冬葉の礼のつもりなのだろう。
世洪にも何か奢ろうとしたけど、今朝のことをおおっぴらに言わなければ別にいいとのたまった。けどまぁ、後でお茶の一本も奢る事にしておくかな。
「…んで、訊きたい事って何なのさ?」
「う、うん。実はね…世洪がやっているあれって…」
「神道夢想流杖術…ああ、なるほど。あんたまだ、あのひとに打ち勝つことに拘ってるのか」
ずばり言い当ててくれるよ、このひとときたら。
あたしが余程解りやすい人間なのか、それとも彼女や敬風の洞察力がバケモノじみてるのか…あるいはその両方なのかもしれないが、もう呆気にとられる他にない。
「うん…だから、せめて詳しい人に、どんなものだか教えてもらおうと思って。今のあたしには、どうしてもあのひとのことを、よく知っておきたいと思うから」
「なるほどねぇ」
彼女は腕組みしたままうんうんと頷く。
「…王文舒先輩の腕前が実際どれほどのものかはあたし知らないけど、少なくとも杖術というならとんでもないひとを、あたしはひとり知ってる」
「え?」
とんでもない、と彼女が言った。
先に対決した王昶先輩ならいざ知らず、世洪の技量だって今のあたしにとっては勝てるかどうか解らない。
…ううん、正直、勝てる気がしない。それがとんでもないひと、なんて…あたしには想像もつかなかった。
「誰なの、そのひとって…?」
あたしは恐る恐るといった具合に、目の前の少女に尋ねてみた。
「姉さんよ、あたしの」
それはなんとも意外すぎる人物であった。

「姉さんは一般的には長湖随一の口の悪さのほうが有名だったアレもあるけどね。良くも悪しくもお祭り人間の多い長湖初期の経理を一手に引き受けていた業績のほうが目立つから、姉さんが杖の達人だったことを知ってる人はかなり少ないと思う」
確かに、彼女のお姉さん…仲翔(虞翻)先輩といえば、皮肉屋として有名な人だ。
でも、先輩は先代部長のために、あえて濡れ衣を被って誰の目からも触れないところから長湖部の危機を救ったひとであり…先代部長と先輩がどれほど強い絆で結ばれていたか…そんなことを知っているのは今の同期の中でもごくごく少数。あたしも、その少数のひとりだ。
けど、仲翔先輩が杖術の使い手だったなんて話は、これが初耳だ。
「姉さんはあくまで護身のためと言い張ってたけど…あたしに言わせれば、あのひとが戦線に立たなかったのが不思議なくらいよ」
「強かった、ってこと?」
「そんなレベルじゃない…はっきり言って、姉さんは天才よ。姉さんが編み出した"秘踏み"は、恐らくは世に出ずに終わる絶技…あたしが主将にならないのは、せめてあたしがあの"秘踏み"をモノにしてから…そう思っているからよ」
そう言った世洪…その顔は、ちょっと寂しそうに見えた。
彼女も、やっぱりお姉さんの後姿を見ながら、色々考えたり、悩んだりしているのだろう。未だに義封(朱然)お姉ちゃんの影を追い続けている、あたしのように。
「やっぱり、その技って難しかったりするの? いろいろと」
「ううん、"秘踏み"の理論そのものは単純よ。公緒、"一の太刀"は知ってるわよね?」
「うん…まだ、習った事はないけど…確か逆足踏み込みから、更に利き足で一気に踏み込みながら撃つのよね」
「そうね。でも"秘踏み"は更にもう一度、そこからさらに逆足で踏み込みながら一気に斬り抜けるの」
「…ええ?」
ええと、つまりはこういうことか。
利き足で踏み込んで撃って、そのまま更にもう一歩踏み込んでいくと…でも。
「そんなことしたら、振りぬきの勢いがかかりすぎて自分の足まで斬っちゃうんじゃ?」
「真剣でやったら、そうかもね。杖や木刀でも、誤爆は骨折の元になるわ。だからしばらくあたし、朝のをしばらく休んでたんだけどね」
一瞬また敬風に騙されたと思ったけど、よくよく考えれば彼女は秋頃しばらく体育は見学してたっけ。
それに頭のいい世洪のこと、のっけの幸いと本当に猫を被ってたのかもしれない。
孫峻先輩ならいざ知らず、見境のない孫リンが彼女の実力を知っていれば本気で潰しにかかるくらいはやってたかもしれないし。
「…ねぇ、世洪」
しばしの沈黙を挟んで、あたしは世洪に問い掛けた。
「もし世洪さえ良ければ…あたしも朝のあれ、いっしょにやっちゃ…ダメかな…?」
恐る恐るその顔を覗き込んでみる。
何か呆気にとられたような顔をしていたが、彼女は、
「そうね。ひとりよりも、ふたりのほうが何か掴むものがあるかもしれないわね」
そう言って微笑んだ。

832 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 20:57
以来、あたしは彼女と一緒に、朝に自主トレを始めるようになる。
王昶先輩が突如引退を表明したことを知ったのはそれから間もなくの事で…敬風なんかは「押しかけて闇討ちでもいいからちょっと叩きのめして来い」なんて言ってたけど、実際のところ再戦を申し込むという考えは、あたしにはなかった。

「随分剣も鋭くなってくるわね。あたしがこういうのもなんだけど、やっぱりあんたスジが良いわ。"一の太刀"の極意を掴むにもそう時間は要らなさそうね」
「…それほどでもないよ」
朝、毎日30分ほどのトレーニングを続けることふた月が経とうとしている頃。
あたしはようやくこの生活に慣れてきて、最初は目で追う事すら出来なかった世洪の"乱調子"も、かなり見えるようになってきていた。
今日は休日で、他の子達もほとんどは夢の中。あたしたちは普段より長めにトレーニングの時間を取っていた。
どちらともなく休憩を取ろうと、中庭にベンチに腰掛けた。
「…でも公緒、本当にいいの? 王昶先輩の事」
世洪が不意にそんなことを訊いてきた。
確かに再戦する機会があれば、あたしはもう一度戦っては見たかった。
けど、その勝負での勝ち負けが、すべてじゃない…あたしは、そう思っているから、
「あたしにはあたしのやり方で、"勝つ"ことは出来ると思うから」
頭を振りながら、あたしはそう応えた。
「それも、そうだよねぇ」
彼女もそれを酌んでくれたのか、にっと微笑(わら)い返した。
「…そろそろ、一度手合わせしてみようか?」
「そうだね」
そしてあたしたちは、今日もそれぞれの"目標"に向けて歩み続ける…。


そんな二人の様子を眺める、二つの影がある。
ひとりは紫がかったロングヘアの少女。筆書きで「海老」と白抜きに大書された紺のトレーナーに、デニムジャンパーとヴィンテージ物らしいジーンズに黒のブーツを身につけて、どこか緊張感のない表情で朱績たちを眺めている。
もうひとりはそれとは対照的に、ウェーブのかかった黒のセミロング。ベージュのハーフコートから、厚手のチェックスカートが覗いており、お揃いのブーツを身につけている。
「やれやれ…もうこりゃあ、ちょっと突っついてどうにかできるシロモノじゃなくなっちまったなぁ」
「完全なミスね、文舒。引退は良いけど、とんでもない厄介事残して…玄沖が可哀相だわ」
ウェーブ髪の少女の淡々とした物言いに、文舒と呼ばれたその少女は、朱績たちを指差しながら言う。
「まぁ、いいんでねぇの? そのくらいの"壁"があったほうが、かえって玄沖のためになるし?」
「相変わらずね」
やれやれ、といった風に、少女は頭を振る。
「…それにあなたも、再戦は果たさなくて良いの?」
「愚問だな」
踵を返し、その少女が振り向きつつ言う。
「そんなものは、何時だって出来るし、何時だって受ける事も出来る。そうだろ、伯輿?」
「そうね」
「今はただ、あいつらが何処までやってくれるのか…そして玄沖たちがそれをどうするのか…それを見届けてみるのも一興だな」
立ち去るふたり…蒼天生徒会随一の名将であった王昶と王基の言葉を聴くものは、その場には彼女たちしかいなかった。


(終)

833 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 21:02
「夾石のディキシィ」の後日談的な話を勝手に考えてみました(゚∀゚)
結局陳矯の話も全然カタチにならねぇし斜陽期長湖の続きも巧くまとまらないし。

本当の「大法螺吹き」と言うのは海月みたいなのを言うのだろう_| ̄|○


しかし此処へSS持ってきたのはあれか、夏祭り以来か。ずいぶんご無沙汰だったんだなぁ…(  ̄ー ̄)y=~~~

834 名前:烏丸沙宮:2005/11/16(水) 21:09
>海月 亮様
す・すすす素敵妹キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!! 可愛いなぁこのヤロウ。
虞レ可愛いよ可愛いよ虞レ。


それでは、ネタSS投下行きます。

835 名前:烏丸沙宮 『マックスコーヒー。。。』:2005/11/16(水) 21:13
 それはいきなりだった。
 「おねーちゃん!今日は私が作るよ!!」
 その言葉に固まったのは、徐晃と張遼。
この二人は剣道部つながりで友達であり、『つくる』と言った人物
――徐蓋と張虎――の姉である。徐晃が徐蓋の肩を揺さぶった。
 「ねぇ蓋!お菓子が欲しいならお姉ちゃんが買ってきてあげるから
止めよう!?かなり怖いよそれ!!」
 「大丈夫だよ。そんなに信頼ない?」
 不平な顔をした徐蓋に、張遼がつぶやく。
 「虎はともかく、蓋ちゃんじゃなぁ・・・。」
 「姉さま、駄目?」
 「いや、虎が手伝う(というかほとんど作る)ならいいよ。」
 張遼は妹に、少し甘いようだ。いや、張虎はお菓子作りが得意だから、
それでいいのだろうが。それに徐蓋が喜ぶ。
 「んじゃ、早速作るよー!!」



 「えーと、まずは・・・。」
 「ゼラチンを溶かさないとね。湯煎しよう。」
 「ゆせんってなあに?そもそも普通に鍋で溶かせばいいんじゃあ・・・。」
 「・・・鍋で溶かしたら凄いことになるよ。お湯を沸かして、その中で溶かす
のよ。お菓子を作るなら、それくらい覚えておかなくちゃ。」
 なんやかんやとやっている二人のすぐ後ろで、姉たちはため息をついた。
 「・・・不安だなぁ。ま、虎がいるから大丈夫だろうけど・・・」
 「やっぱり文遠もそう思う?・・・ゲテモノ食わされないかしら。」
 
 「えーと、それでこれを入れて・・・。」
 [え?何入れてるの?]
 考えながら何かを入れている徐蓋に、張虎が問う。徐蓋は当然とでも言う
ように答えた。
 「んー?マックスコーヒー。これ甘くて美味しいよ?張虎も飲む〜?」
 「・・・いや、いい。」
 遠慮した張虎に、徐蓋はつまらなそうに眉根を寄せる。
 「え〜?美味しいのにぃ・・・。」
 そういいながら一口ソレを飲んだ。



 やがて、台所から噎せそうなほど甘い匂いが漂ってきた。
張遼が吐き気をこらえて徐晃に聞く。
 「ねぇ。徐蓋はいったい何を作ってるの・・・?」
 「知らない・・・。寧ろ私が聞きたい・・・。」
 徐晃が頭を抱えて答えた。向こうから徐蓋と張虎の声が聞こえた。
 「よし、後はこれを冷蔵庫で冷やして固めるだけ!だよね、張虎。」
 「うん・・・頑張って・・・もう、駄目・・・・・・。」
 早速張虎が逃げたようである。姉二人は顔を見合わせてため息をついた。



 その後。残りの五将軍と李典、そしてその妹たちが呼び寄せられた。
 「何だ徐蓋・・・って、ま、まさか・・・!!」
 不機嫌なのは于圭。于姉妹の妹である。だが、すぐにおびえたような表情
になった。・・・ゲテモノを食わされた経験があるらしい。
 「大丈夫だよー。(外見的には)そんなに不味い物じゃないから。」
 笑う徐蓋に、全員がほっとした。・・・張虎と于圭を除いて。

 全員が席に着くと、徐蓋が手際よくデザートを運んでいく。そして、
並べ終わった後。
 「んじゃ、いただきまーす!」
 思いっきり食べ始めた。甘くて美味しいという徐蓋に、皆がそのゼリーを
口に運ぶ。そして、徐蓋を除く皆が叫んだ。
 「甘過ぎッ!!!」




 PS.その後、ばたばたと人が倒れていく、最後には徐蓋が総て食べつくし
たという・・・。

836 名前:海月 亮:2005/11/16(水) 23:30
おお、久方ぶりの五覇妹話ですな(゚∀゚)
前回に引き続きマックスコーヒーにこだわる徐蓋タンいいわぁ(*´Д`*)

というかどんな材料にマックスコーヒーを混ぜていたのやら…?((((;;゚Д゚))))
そして全員がノックアウトされたシロモノを食べ尽くす徐蓋…「ONE」の茜なみの甘党だな…。


ちょっと思い出したので、余談めいた話をひとつ。
実際にコーヒーゼリーを作る場合、実は冷やすと甘味が感じにくくなる事を考慮してかなりの量の砂糖を加えなければならないそうで。
普通にコーヒーを飲むときに入れる量の割合(カップ1杯に大体角砂糖1〜2個)では甘味なんてなくなるので、実はマックスコーヒーをそのまま固めるくらいが丁度良いとか…?

837 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 16:59
「きゃっ」
「わぁ」
王昶の体の上に柔らかいものが覆いかぶさってきた。
柔らかいが重いものだった。


王家只今合宿中


それは夏休み前までさかのぼる。

「夏休み、みんなでうちの別荘にいかない?」
王凌が読んでいた単行本から、ふ、と顔を上げてみんなに声をかけた。
青州棟の棟長の執務室にいた人間がみな王凌の顔を見る。
王凌と姉妹の契りを交わした王昶。
王凌に見出された王基。
王凌の従妹、令孤愚。
3人の1年生の視線が王凌に集中する。
「えっと……お姉さま、今なんと?」
他の2人の思いを代弁するかのように王昶が口を開いた。
「合宿……そうね、合宿とでも思えばいいわ。今の時期ならお姉様もおられるはずだし……」
王凌が呟くように言う。お姉様……かつて学園の全校評議会評議長にまで上り詰めた王允のことだろう。
夏休みの予定……3人はそれぞれ考える。
もちろん王凌の申し出を断る理由は見つからなかった。

「いらっしゃい、みんな」
白いワンピースに身を包み、深窓の令嬢といった風貌の王允が4人を出迎える。
にっこりと微笑みながら……このような笑みは学園にいたころの、あの苛烈な性格からは考えづらいものだ。昔のように皺が眉間に刻まれていることもない。
『いろいろ苦労したんだろうなぁ』とか思いながら王凌以外の3人は内心でうんうんと頷く。
「お姉様、しばらくよろしくお願いしますね」
「こちらこそ……さ、疲れてるでしょ。入って」
笑顔の王凌に笑顔の王允。
珍しいことではある。
玄関から入っていく2人の後ろを見ながら、王昶、王基、令孤愚は一瞬顔を見合わせて、いそいそとあとに続いた。

838 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 17:00
「やっぱり久々だとずいぶん埃もたまってるわね……」
いち早く荷物を部屋に置いて、応接室でくつろいでいた王昶に、やはり部屋に荷物を置いてきたのであろう、2階から下りてきた王凌が声をかけた。
王基と令孤愚はまだ部屋で荷物の整理中。
王允はキッチンでご飯を作っているようだ。
王昶も王允の手伝いをしようとしたのだが『お客様はもてなされるのが礼儀よ』とやんわり断られてしまったので手持ち無沙汰なのである。
つまり応接室にはお姉様とたった2人なのだ。
「……あ」
それと自覚した王昶は顔が赤くなるのを感じる。
それに気づいているのかいないのか、王凌は王昶の座っているソファのそばにより……壁を指でなぞり……
「ほら、ここなんてこんなに……」
そのままバランスを崩して王昶の上に倒れてきた。

そしてシーンは冒頭に移行する。

下から王昶は王凌の体を抱きしめながらドキドキしていた。
ちょっと重たいがそんなことは問題ではない。
王凌の匂いとか体温とかそういったものがいろいろ感じられて……鼻血が出そうだった。
「はい、そこまでー」
「……17時台でそれ以上の展開はダメよ」
2階に2人ほどお邪魔キャラがいたのを忘れていた王昶は真っ赤になって王凌から離れた。
「文舒、ラブコメなら私らのいないとこでやれ」
「……ま、あとで思い出になるわね」
令孤愚はからかうようにいい、王基は冷静に手元にあるデジカメを確認する……ってデジカメーッ!?
「伯輿……それはどんな思い出なのかな?」
「……お姉さまに押し倒されたのになにもできなかったヘタレな思い出」
冷静に受け流しながら満足そうに頷く王基。
いい画像が撮れていたらしい。
「にゃんだとーッ!?」
王昶は王基につかみかかろうとし、王基は2階に逃げる。あとはお定まりの鬼ごっこ、だ。
少し呆然としていた王凌だったがやがてくすりと笑みを漏らす。
「彦雲姉、ご機嫌じゃん」
ととと、と階段をスキップするように下りたった令孤愚が王凌の顔を覗き込む。
「そうね……」
2階ではどすんばたん、という音。
「楽しい夏休みになりそうだな、って思って……ね」
呟いてくすり、と笑う。
「みんなー、ご飯できたわよー」
王允の声が別荘に響いた。
夏の一番星が別荘の上に輝く。

839 名前:北畠蒼陽:2006/01/08(日) 17:01
あれー? 何ヶ月ぶりー?
どうも空気を読まない北畠蒼陽です。
一応、復活ってことでよろしくお願いしますよ。こんだけブランクあいたってことで新入り扱いで。午後ティー買ってきまっす!

せっかく海月様が旭日記念日をあげたのにSS投稿という自分のクオリティに大変満足しつつネタもないのに文章を書こうとするとこんな支離滅裂なものになってしまうので注意が必要です! みんなはマネしちゃだめだぞっ☆
しかも季節感度外視だしなっ☆

840 名前:海月 亮:2006/01/08(日) 22:08
久しぶりのことなんで散々ネタに逡巡した挙句、結局普通の挨拶しか思い浮かばないヘタレの海月が来ましたよ(゚∀゚)


それはさておき、お久しぶりです。
なんにせよ、無事こうやってお姿を拝見するだけでなく、このような土産を引っさげてお帰りになられたこと、ただ感動するほかありませぬ(ノД`)


…というか旭日祭を前にしてここまで萌えさせられたらたまりませんな(;´Д`)
つかあの文舒たんが完全に祐巳すけ状態…(;´Д`)
いや、「マリみて」にこんなシーンはなかったとは思うけど、なんとなくそんなイメージが湧いただけで…(;´Д`)


よーし、私めも前哨戦に何か持って(ry

841 名前:雑号将軍:2006/01/08(日) 22:16
ど、どうも、おひさしぶりであります。それからあけましておめでとうございます。 北畠蒼陽様、ついに復活して頂けましたか!待っておりました。これからもよろしくお願いします。

王允がまさか登場するとは!それも丸くなってる!!皇甫嵩たちといろいろあったんでしょうねぇ。王昶が麗しのお姉様に囲まれて顔がゆるんでいるとこを想像してしまいました。
僕?えーと・・・ただいま制作中・・・・・・。

842 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 10:59
「センパイ……ここ、間違ってますよ」
「あ、ご、ごめんなさい」
年下の棟長の冷ややかな視線が突き刺さる。
「私だってヒマじゃないんですよ。補佐ってのは私の仕事を楽にしてくれるためにいるんであって、仕事を増やすためにいるわけじゃないと思うんですよね」
「ごめんなさい。す、すぐに訂正します」
滑稽なほどぺこぺこと頭を下げる彼女。
その目の端には涙が……


日のあたる場所


彼女はベンチに座ってずいぶんと遅い昼食をとっていた。時刻はもう3時を回っている。
自分が不器用なのは知っていたけど、まさかここまでなんて、ね……
彼女はそういって自嘲気味に笑う。
膝の上には弁当。家計を切り詰めるためだ。自炊しなければならない。コンビニ弁当なんて贅沢なんてできやしない。
彼女は手を合わせていただきます、と言おうとして不意に視線を感じ顔を上げた。

そこにはいたのは少女だった。
目が悪いのだろうかメガネをかけた少女はじっと彼女のほうを見ている。
少女は中等部の制服を着ていた。まぁ、このベンチは校内とはいえ立ち入りのできない場所にあるわけではない。そう珍しくもないことだ。
しかし彼女はそう思いながら少女から目をそらすことができなかった。
それは少女の強い目の光を見てそう思ったのだろうか……だから彼女は少女がベンチに向かって歩いてくるのを見て思わず心臓が高鳴るのを感じた。
その少女は紛れもなく彼女を見ていた。
彼女も少女をずっと見ていた。
そして時間が流れる。

「先輩、この校区の方じゃないですよね?」

少女がようやく口を開いたとき彼女は一段と心臓が高鳴るのを感じた。
「ど、どうしてそう思うの?」
見透かされた、と思った。
「いえ、昔話です。この潁川棟が韓信先輩の本拠地だったころに今、先輩が座っているベンチが韓信先輩のお気に入りだったんです。なんとなく座らないようにしよう、って不文律があるんですよ」
少女の言葉を聞いて彼女は仰天し、立ち上がろうとする。
「じゃ、じゃあ……」
別のベンチに、と言おうとして少女の次の行動にあっけにとられた。
「でもただの昔話。そんなの守る義務はありません」
少女はすとん、と彼女の横に腰を下ろした。

843 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 11:00
彼女はどぎまぎしながら少女のことを見ていた。
少女は黙って紙パックから牛乳を飲んでいる。ぶらぶらさせる足が可愛らしい。
「先輩、出身校区はどこなんですか?」
紙パックから口を離して少女が彼女に尋ねた。
「え、あ、うん。私は涼州校区」
「そんな遠くから?」
少女は彼女の答えに若干驚いたようだ。この校区出身ではないにしてももっと近い校区だと想っていたのだろう。
「うん、私、バカだからね。課外活動に参加しようと思ったら出身校区じゃなくても、どんなとこにでもいかなきゃ」
彼女の苦笑にも似た笑いに少女が眉をひそめる。
「課外活動は義務じゃありません……なぜそこまでして……?」
「はは、私が多少でも課外活動しておかないと妹が課外活動をするとき苦労するでしょ? 多少でもコネ……まぁ、ないよりマシ程度だけどさ……作っておいてあげないと、ね。私はこんなだけど妹は棟長……もしかしたらそれ以上になれるくらいの人間だと思ってるから」
彼女の言葉を少女は黙って聞き……そしてやがて深いため息を漏らした。
「先輩の妹さんはとても幸せ者ですね。ここまで想ってくれるお姉さんなんてなかなかいません」
自分の出身校区である涼州校区から、ここまで遠く離れた予州校区まで来て……
そして年下の棟長に疎まれ、文句を言われながらも……
それもすべて妹のため。
「先輩、もしよければ先輩のお名前と妹さんのお名前を教えていただけませんか? もしかしたら先輩の妹さんがいずれこの校舎の棟長になるのかもしれませんし……」
少女はそこまで言ってはっ、と気づいたように口を押さえた。そういった仕草は歳相応で可愛らしいのだが発言は大人びている。
「失礼しました。私は……」
彼女は少女の名前を胸に刻む。
「私は荀揩ニ言います」
うん、と彼女は頷いた。
「私の名前は……」
荀揩ヘ彼女と、その妹の名前を胸に刻む。
「私は董君雅。妹の名前は董卓よ」

844 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 11:00
『冬の体があったまる飲み物ってな〜んだ?』と聞かれて『しょうゆ』と即答できる北畠蒼陽です。あったまるけど健康にはむやみに悪いですね。
異色な2人を書いてみました。ありかなしかの2択でいったら……あり? ぎりぎりあり?
ま、董君雅が涼州出身でありながらまったく違う場所に派遣された、とか、嫌いではないエピソードなのですよ。年下の上司にいびられたんだろうなぁ、とか。
この2人のことは気が向いたらまた書くかぁも?

あ、ちなみに今はリハビリ代わりに連投してみただけなんでペースは続きませんよ?
あ、あとは任せた(ガクリ

845 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:31
何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。
だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。
普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。
「…間に合うのかな…?」
自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。
その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。


-武神に挑む者-


呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。
学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。
そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。
それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。

しかし。
彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。
南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。
公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。
魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。

在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。
しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。

「…やっぱり厳しいなぁ…」
長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。
名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。
このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。
「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」
「やっぱ厳しいん?」
「うわ!」
不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。
見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。
「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」
「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」
「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」
「なんとなく〜」
その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。
しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。
「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」
孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。
「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」
「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」
呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。
「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」
「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」
「え…?」
呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。
「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」
「うん…頑張ってみる。おおきにな」
「礼言うトコでもないよ、もう」
自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。
人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。

846 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:31
翌日の昼休み。
混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。
「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」
「ん?」
隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。
「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」
「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」
「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」
「うーん」
サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。
実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。
「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」
「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」
「うちを? でも…」
「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」
自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。
「マネージャーとはどうなんかな?」
「マネージャー?」
「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」
「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」
数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。
そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。

「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」
「あ…えっと、それは」
狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。
明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。
昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。
「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」
「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」
「あ、だからその、それはちょっとした…」
ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。
すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。
そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。
「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」
「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」
「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」
「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」
「だからそうじゃないんです!」
必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。
「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」
そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。

その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。
丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。
「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」
遊び半分ではない。
彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。

847 名前:海月 亮:2006/01/09(月) 17:41
とりあえず先の展開が思い浮かばないSSのキリのいいところまでをうぷってみた。反省はしていない。


はい、実はこのSSを書いたのも何気に二月ほど前です^^A
夷陵回廊戦SSも時折手を加えたりもしておりますが、そろそろその前に起きた事件…呂蒙の荊州取りの話を書こうと思ったまではいいのですが。
構想は出来上がっているのに、同時に長湖の卒業話だとか、孫皓排斥計画だとかの長編を同時進行で書いてるうちに存在そのものを忘れかけていたという…。


>董卓の姉貴…
思わず正史董卓伝を見返しちまいましたよ。
つかうちのソースは三国志だけですから実はよう知らんのでして…。

でも異色だからこそ許される組み合わせだってあるでしょう。
このあとの董卓の専横やら、それに逆らって投獄された荀攸とかの件で思い悩む荀令君を想像して(;´Д`)ハァハァするのも一興…(<何処のアブないひとだ


そしてこの勢いで旭日祭とかいったりするのかな?かな?(;´Д`)

848 名前:北畠蒼陽:2006/01/09(月) 20:05
>海月 亮様
あれ? これは続きを書かなきゃいけないんじゃないかな? かな?
ガンバッテクダサイ。

>董君雅
もうちょっとこの2人のコンビは掘り下げて書いてみたいと思ってます。いつくらいになるかわかりませんが〜。

849 名前:海月 亮:2006/01/11(水) 00:47
>続き
誰か考えてくださいとか言っちゃダメですか?ダメですよねそうですね_| ̄|○
いや、流石にそれは冗談ですが^^A

一応持ち込みきれずに仕舞い込んでみた卒業話も完結したので、旭日祭明けくらいにとりかかる……かも。
多分最後のほうはドリームです。それも、冗談抜きで非難浴びるくらいの…。

850 名前:海月 亮:2006/01/28(土) 23:27
ついでなのでこちらもそろそろ再浮上させますかねぇ(゚∀゚)


というわけで予告。
そろそろ荊州奪取の続き書きます。何気にネタ固まってきたので。


うちのサイトでリク貰った甘寧の話とかも書かなきゃらならんとは思うんだけど…ネタが…_| ̄|○

851 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:13
易京棟、
それは、彼女、公孫伯珪の心の如く、高く堅く、そびえ立っていた――――――――




「えっと、伯珪さま・・・書類を持ってきました。」
「ああ、ありがとう士起、其処に置いていてくれ。」
生徒会長室を出て、あたしはため息をつく。
最近は、伯珪さまはあたし以外を部屋に入れようとしない、従妹の範さま、中等部の妹、続さまですら、だ。
憂鬱な気持ちのまま廊下をしばらく歩いていると、前から範さまが歩いてきた。
「あら、士起ちゃん、どうしたの?そんな顔しちゃって。」
「え・・・」
あたしの悪い癖、気持ちがそのまま顔に出るのだ、ただでさえ範さまは鋭い、すぐにあたしの気持ちなんか看破してしまう。
「いえ、その・・・最近の伯珪さまの様子を見ていると・・・」
「そうね・・・最近の伯珪姉は、以前に増して引きこもり気味よね〜。」
あたしを励ましてくれようとしているのだろう、明るく話しかけてくれる。
なんていい人なのだろう、あたしと同い年とは思えない、そう思うと、逆に、もっと落ち込んでくる。
「まあ、流石の伯珪姉でもさ、敵さんが来れば立ち直るでしょ、そう落ち込みなさんなって。」
「ありがとうございます」
それで話は終わり、寮の自分の部屋に戻る。
いつか来るべき袁紹との戦いを考えると、その夜は、なかなか寝付けなかった




それは、予想外に早く訪れた。
袁紹の攻撃、そして
伯珪さまとの、別れ――――――――


3月、桜の季節。
花びら舞い散る中、彼女、袁紹は攻めてきた。
桜吹雪の中布陣する彼女の姿は、名家の風格を感じさせた。
だけど、伯珪さまはきっと負けない。
あの方は、決して、負けない。
あたしは、そう信じている。



「ふん・・・」
屋上から布陣を見下ろす、
たかが棟一つにご大層なことだ、だが・・・面白い。
久しぶりに、血が騒ぐ。
しかし、だ、白馬義従だけでは、勝ち目はないだろう。
棟の中に戻り、続を探す。
「続、いるかい?」
「なあに、お姉ちゃん」
「悪いけど、BMFのところに使いしてくれないか。」
「張燕先輩のとこだよね、わかった!」
そう言って、すぐに駆けだしていく、よっぽど嬉しかったのだろう、まったく、変わった娘だ、そんなに「お使い」は楽しいのか?
まあ良い、袁紹、首を洗って待っていろ。






やった!お姉ちゃんから久しぶりにお使い言いつけられちゃった!
あいつ、関靖先輩がきてから、お姉ちゃんは、私に冷たくなった、範お姉ちゃんも何も言わないからって関靖先輩ってば、調子に乗っちゃってべたべたして・・・
と、噂をすれば、あの人だ。
「ああ、続さま。」
笑いながら会釈してくる、なによ、いちいち、頭に来る人。
なんなのよ、私に何の用?いいかげんにしてほしいわ。
「あなたに、さま付けされる覚えはありません!」
そう言い放って、あの人を残してガレージまで一気に走る。
いらいらした気分のまま、私は愛車にまたがった。



「・・・と、言うことなんです。」
「ふーむ、士起ちゃんも大変ね。」
廊下を歩いていた士起ちゃんを「範先生の、お悩み相談室〜!」と称し、私の部屋に連れ込んだ。
理由は単純で、私が見ていられなかったからというだけ。
彼女が「範さまってこんなひとだったっけ?」みたいな顔しているのはまあ、放っておいて、大事なのは彼女から聞いた話だ。
まったく、続ちゃんも困ったものだ、なにも、其処まで言わなくてもいいのに。
だが、だいぶ周りに馴染んでいるといっても、まだ伯珪姉の元に来て日の浅い士起ちゃんが、一部の人から少なからず疎まれているのは事実だ。
そう言う私だって、嫉妬が全くないと言えば嘘になるだろう。
本人は至ってよい娘なのだが・・・「新参者」の悲しさか。
「まあ、あの娘が帰ってきたら、私からも言っておくから、元気出して、ね?」
「はい・・・ありがとうございました」
一応、彼女を部屋まで送ってあげることにした、伯珪姉は、戦いの準備で忙しそうで、彼女にかまってばかりもいられないだろう、士起ちゃんは、今、とても寂しいのだと思う。
だから、私だけでも、この娘を大切にしてあげなければ。
わかっている、だけど、どうしても
――――――――胸の奥の嫉妬は消せなかった。

852 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:14
その次の日、私と士起ちゃん、単経ちゃん、田揩ちゃんの四人が、生徒会長室に呼び出された。
士起ちゃん以外の娘―もちろん私も含めてだが―は生徒会長室に入るのは久しぶりだ。
私はわくわくしていた、自分でもすこし恥ずかしいほど、だ。
「ああ、よく来てくれた、早速だが、本題に入らせてもらう。」
話というのはこうだ、伯珪姉が白馬義従を率いて突撃、袁紹軍の背後を遮断、そして私たちが棟から打って出て、挟撃する。ということらしい。
確かに、白馬義従と伯珪姉ならば不可能ではないかもしれない。
だが・・・
「そんな!危険です!それに伯珪さまが今この棟を出たら、みんなの心はばらばらになってしまいます。」
最初に口を開いたのは、士起ちゃんだった。
そう、私が危惧しているのも其処なのだ、今、人心は離れてきている、それでもこの篭城戦が破綻しないのは、伯珪姉がこの棟内にいるからだ。
もし、突破に成功し、袁紹軍の背後を突けても、上手く呼応できないかもしれない。
リスクが、大きすぎる。
「そうですよ!もし、失敗したら貴女の身まで危険に・・・」
田揩ちゃんが続く。いつもはおどおどしている彼女が、これほど大きな声を出すのは珍しい。
「だが、田揩、今の状況を打開するには、これしかないんじゃないか?もし、などとばかり言っていては、何もできないぞ?」
今まで口を閉ざしていた単経ちゃんが口を開く。
「だけど・・・!」
「まあ、そう熱くなるな、二人とも。範、貴女はどう思う?」
「そうですね、確かに、この作戦はリスクが大きすぎます、張燕さまの援護を得た上で実行するのがよろしいかと。」
「ふむ、なるほど・・・皆、それで良いか。」
誰からも異議は出なかったので、これで会議はお開きになった。
とりあえず、張燕殿が到着するまでは、特に仕事はないだろうと思ったのだが、何故か皆解散した後、私と士起ちゃんだけ、また呼び出された。
「ふむ、来てくれたか。」
「どうなさったのですか、伯珪さま?」
「先ほどの話に関わる話なのだが、範、おまえは士起を連れ文安棟に移ってくれないか。」
「え・・・」
文安棟は此処より五キロ程西にある棟で、今はそれほど重要な拠点でもない。
其処に移るということは、今回の決戦には参加できないということ、そして、何より・・・
「何故!?何故なんですか!?そんなにあたしは足手まといですか!?」
悲痛な叫びだった。士起ちゃんの気持ちはよくわかる、彼女は運動こそ苦手なものの、事務的な仕事はよくやってくれていた、決して足手まといなどではない。
伯珪姉も唇をかみ、俯いていた。
私が士起ちゃんを宥めようとした時、伯珪姉が口を開いた。
「すまない、私だって貴女と離れたくない、だが、此処は危険なのだ。わかってくれ。」
伯珪姉が士起ちゃんに話しかける、私ではなく、彼女にだけ。
不意に、嫉妬がこみ上げる。
伯珪姉が、離れがたいのは、彼女だけ。


私 じ ゃ な い 。

そ う

彼 女 だ け。







結局、その言葉に士起ちゃんも折れた。
と、いうわけで、早速私たちは出発することになった。
いまさらながら、あんな風な感情を抱いてしまった自分が嫌になってくる、それなのに、士起ちゃんは、私のことをいつものように見つめてくれる。
やめて。
私は、そんな目で見てもらえるほど、綺麗な人間じゃないの。
もちろん、そんなこと口には出せない。
そんな私の心を知ってか知らずか、士起ちゃんが「いきましょうか?」と声をかけてくる
これ以上考えたら、本当におかしくなりそう。
すべての感情を振り切って、私はバイクのエンジンをかけた。

853 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:16
遂に来た。
続からの連絡、「あと二十キロほどの地点に到着、合図は狼煙によって行う。」
ついに、越の敵をとれるのだ。
白馬義従に出撃の準備をさせる、あと少し、あと少しだ。
じりじりするような焦燥、そして興奮が私を支配する。
それからしばらくして、黒山の方に狼煙が上がった。
「よし!我が精鋭達よ、出陣だ!」







あたしは、範さまと一緒に、空を見ていた。
文安棟から見る空は、易京の空と変わらないはずなのに、どこか寂しく映る、それは、範さまも同じだと思う。
あれ?
「範さま、あれって。」
「狼煙ね、張燕さんはいつもああやって連絡を取るの。」
「へえ・・・」
「でも、少し妙ね。」
「と、いうと?」
「いえ、ちょっとね、なんかいつもより上げかたが下手な気がするの。」
「そうなんですか、あたしにはぜんぜんわからないです」
「うん・・・私の気のせいかもね。」







「そんな・・・」
違う、あの狼煙は違う。
お姉さま・・・そんな
「ちっ・・・袁紹め」
張燕さまも口惜しそうに俯く。
どうする、どうするのよ・・・
考えるのよ、公孫続!
そうだ・・・
「張燕さま、バイク部隊を、私に貸していただけないでしょうか。」
私には、それしか考えつかなかった。全力で行っても、間に合わないかもしれない。
しかし、何もしないのは最悪だ。
「続、落ち着け、あんたが行ったところで、伯珪さんは救えない、それより、あんたが飛ばされずにいる方が大事じゃないか?」
「でも、でも・・」
そんなこと、私にはできない。
お姉ちゃんを、見捨てるなんて、できない。
「・・・本気だな?」
何も言わず、頷く。
「ふぅ、わかった、其処まで言うならこの黒山の飛燕、断るわけにはいかないな。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そう言って、私は、バイクに乗った。
エンジンの震えが伝わってくる、深呼吸して、みんなに呼びかける。
「皆さん、行きますよっ!」







風を切っていく。
袁紹軍の先頭とぶつかり、押し込み始める。
私が突破したところを、田揩と単経が左右から挟撃する。
先頭が崩れ、退いていく。
だが、何か妙だ、退くのが早すぎる。
嫌な予感がする、全軍一旦退け。そう言おうとしたところで、敵の伏兵が現れた。
あの狼煙は偽報ということか。
「退け、退け!易京棟まで退くのだ!」
今度はこちらが挟撃される。
私の周りにいる娘達も少なくなっていく。
どうやら囲まれてしまったようだ、全軍で、ではなくまだ一部の連中なだけましか。
だが、どうしたものか、そう思っていると、いきなり一隊が囲みを突き破ってきた。
「単経!それに・・・続!?」
「お助けに参りました、伯珪さま。」
「同じくだよ、お姉ちゃん!」
相変わらず無表情な単経と、疲れ切った様子だが、笑顔を作る続。
多勢に無勢には変わりない、が、今の私にはとても心強かった。




文安棟に届いた使い、それがもたらした報せは、衝撃的なものだった。
「なんですって!」
伯珪さまが・・・危ない。
さっきの範さまの言ったとおりだったのか。
どうしたらいい?
周りを見ても、みんな驚き、考えが回らないようだ。
こんな時、範さまが居れば・・・
彼女は、用事があるからといって、どこかに行ってしまった。
此処にいる娘達は、いわゆる「文官」というやつで、戦うのは得意でない。
むろんあたしも含めて、だ。
だけど、此処でじっとして居ちゃだめだ、それじゃ、あのとき、伯珪さまと初めてあったときと変わらないじゃない!
今度は、あたしが助けるんだ!
「ちょっと、どこに行くのよ。関靖ちゃん。」
「伯珪さまを、助ける。」
「助けるって言っても、無茶よ!」
「それでも、行かなくちゃいけないのっ!一人でも、あたし行くよ。」
それに、あたしがあのとき止めなかったら、単経さんの言うとおりにしていれば・・・
そう思えば、なおさらだ。
「そうだ、無茶だね。」
この声は、範さま!?
いつの間にか帰ってきていた範さまが後ろにいた。
「あなたまで、そんな・・・」
「第一、  あなた免許持ってないでしょ、そんなんでどうするつもりだったの?」
「でもぉっ!」
「わかってるわ、行くな、って言ってるんじゃないの、私の後ろに乗っかっていく気はない?って言ってるの。」
「えっ・・・」
「ほら、どうするの?」
「い、行きます、お願いします!」
ガレージに向かう範さまの後についていくとき、後ろから呼び止められた。
「あの・・・関靖ちゃん、頑張ってね。」
其処にいた三人、確か劉緯台ちゃん、李移子ちゃん、楽何ちゃんだったか。
「伯珪さまは、いじめられていた私たちに、まるで兄弟みたいに接してくれた・・・私たちが行っても、足手まといになるだけ、だから・・・」
「うん、わかった!みんなの分まで頑張るよ。」
「ありがとう・・・」
「お別れは終わった?」
「あ、はい!済みませんでした、じゃあ、行って来るね。」
「うん・・・頑張ってね。」
それ以上何も言わず、あたしは笑顔で手を振った。





「ねえ、士起ちゃん。」
そう声をかけたのは、文安棟を出て、暫くしてからだった。
「なんですか?」
「あのね、私今まで貴女に嫉妬してたの。」
ああ、言っちゃった、もう戻れないぞ。
「えっ、あっ、その。」
はは、戸惑っちゃてる、それはそうよね、今まで信じてきた人からこんな風に言われたんだもんね。
「だって、普通そうじゃない?私はさ、董卓と戦ってた頃、いや、もっと前から居たのよ?
それがいきなり新しく来た貴女に負けたのよ?」
「えっと、えっと・・・すいません・・・」
本当に、この娘は。なんでこんなこと言ったのにそんな綺麗な瞳で私を見れるの?
「いいの、言ったでしょう?今まで、って。」
「え?」
「さっきもさ、実を言うとね、貴女と居たくなかったから、貴女と居るのが怖かったから、用事って言って逃げたの。でもそれも虚しくなって戻ってきたらさ、伯珪姉がピンチって聞いて、その上貴女が思い詰めた顔でどっか行こうとしていたんだもの、驚いちゃった、でも、その時思ったの、ああ、この娘には勝てないな、ってさ。」
この娘の気持ちは本当、そう痛感したから、私はふっきれた。
「でも・・・範さまの方が綺麗で、優しくて、思いやりがあって・・・」
「そんなの関係ないよ、さっきの貴女を見て、本当にそう思った・・・格好良かったよ、士起ちゃん!自信もって良いよ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
そう、その笑顔。
その笑顔に私は負けたの。
ずっと、そのままの笑顔で、ね・・・
「よし、じゃあ話は終わり!ほら、戦場が見えてきたよ。」
本当だ・・・あ!あれは
「伯珪さまぁ!」
思わず涙がこぼれる、だけどそんなこと気にしている場合じゃない。
「よし、飛ばしていくよ!」
「はい!」
待っててください、伯珪さま。





ある程度は退いてこれたのだが、最早周りには続しかいない。
単経は、私のために殿を努め、
田揩も、乱戦の中で見失った。
「どうしよっか、お姉ちゃん。」
「うむ・・・」
最早、道はないのか、そう思っていると、聞き慣れた声がしてきた。
「伯珪さま!」
「士起!?」
そんな、馬鹿な。
何故士起が此処に?
「関靖先輩!?」
何でこいつが居るのよ、そんな怖がっちゃって。
馬鹿じゃないの?
本当に馬鹿じゃないの?
「あ〜もう!どうでも良いです!とにかく先輩は伯珪お姉ちゃんと退いてください。
ここは私がくい止めます!」
「貴女だけじゃないわよ?私だって居るわ。」
「あ、あたしも・・・」
「先輩は早く行ってください!」
伯珪お姉ちゃんとあいつが遠ざかっていく。
「貴女、士起ちゃんが嫌いなんじゃなかったの?」
範お姉ちゃんが面白そうに聞いてくる。
「あの人は馬鹿です!ついさっきわかりました!でないとろくに戦えないくせに此処まで来ようなんて思いません!でも・・・」
「でも?」
「私は、馬鹿は嫌いじゃないんです。」
「なるほど、良い答えよ。」
そんな話をしていると、袁紹軍が迫ってくる、ざっと五十人ほどだ。
「じゃあ、振られた者同士、いっちょやりますか?続ちゃん?」
「振られた、って言うのがなんか引っかかりますけど・・・まあいいです。」
「よし、行くよ!」
私たちは、敵の群に突っ込んでいった。
関靖先輩、お姉ちゃんを頼みましたよ。







なんとかあたし達は、易京棟まで戻ってきた、ほとんど全員を連れて出陣したらしく、棟内はがらんとしていた。
「ありがとうね、士起。」
「いえ、伯珪さまのためですから。」
「ふっ、そうか・・・なあ士起、私は階級章を返済しようと思う。」
「えっ、そんな・・・」
わかっている、それしかないのだろう、袁紹に奪われるよりはましだ。
でも・・・
「済まなかったな、今まで本当に苦労をかけた。」
「いえ・・・お世話になったのはこちらです、貴女に会えなかったら、あたしは弱虫のままでした。」
「そうだな、私も貴女に会えなかったら、私は一人ではないことにずっと気がつかなかっただろう。」
越がいた、厳綱がいた、単経がいた、田揩がいた、範がいた、続がいた。廬植先生だって、玄徳だって、子竜だっていた・・・みんな、私の周りにいてくれた。なのに、私は気がつかなかった、ひとりぼっちだと思っていた。
「貴女がそれに気づかせてくれた、そして、こうしてそばにいてくれる。
私は幸せ者だ。」
そうだ、玄徳、貴女は、もう気づいてたんだね、一人じゃ何もできないって。
最早夢の終わりだというのに、不思議と口惜しくはなかった。
楽しい、夢だった。
みんな、ありがとう。

854 名前:弐師:2006/02/05(日) 18:25
なんとか合格した弐師です
>北畠蒼陽様

一応高校受験です。
三国志大戦ってやったことないんです(一応ゲーセン禁止なので)w
高校に入ったらやってみたいですね。

>海月 亮様
ありがとうございます、何とか受験は終わりましたが、どっさり宿題が・・・
それに油断していると受験に向け必死の皆さんにすぐに追い抜かれてしまうので。
(て、言いますか実際段々数学がやばいことに・・・orz)

では、駄文失礼しました

855 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:46
「こんにちは、今日はいいお日柄ね?」
「……」
上機嫌に語りかける少女にもう1人の少女は無愛想に応じた。
袁紹と公孫サン。
易京棟の戦いの勝者と敗者が、同じ易京棟の生徒会長室において顔をあわせた。


ブルーブルーデイズ


「……私はすでに蒼天章を返上した身だ。なんの用だ?」
公孫サンはうんざりしたように……袁紹と目を合わせることもなく視線を斜め下に泳がせながら呟くようにいった。
その背には田楷、関靖ら、公孫サンの腹心たちが憔悴した顔で付き従っている。
「なんの用、ですって?」
公孫サンの言葉に眦を吊り上げる袁紹。
「貴女1人が蒼天章を返上したところで劉虞さんは帰ってこないわ。無意味なのよ、貴女は」
吐き捨てるように言う袁紹。
その話か……公孫サンは顔を下に向け苦笑した。
劉虞は私にとってジャマだった。だから潰した……それだけのことだ。
「なにがおかしいというの……ッ!」
手を振り上げる袁紹。
パシーンという音が鳴り響き、公孫サンが左頬を押さえて1歩後ろに下がった。
「貴様……!」
袁紹に飛び掛ろうとする関靖を左手で制して公孫サンは右手で口の端をぬぐう。
おっと……唇を切ったようだ……
どうでもよさそうに公孫サンはその血を眺めた。
「ふん……無能は無能なりによく躾けてあること。ただその程度が腹心、ってようじゃ私に逆らうのは早すぎたみたいね」
揶揄するように袁紹が呟く。
「……なぁ、袁紹殿。もう開放してもらってもいいだろうか? 今日は見たいテレビ番組があるものでね」
小ばかにしたように言う公孫サンに袁紹の眉が危険な角度につりあがっていく。
お、もう一発殴られるかな……
公孫サンは苦笑する。お嬢様のお守りも大変だ。
しかし次の瞬間、袁紹の顔には微笑が広がった。
「……?」
なんだ、この余裕は……?
「そうね。もう帰ってもかまわないわ……麹義」
「はーいよ♪」
袁紹は後ろに控えていた腹心の名を呼ぶ。それと同時に顔良、文醜……2人が公孫サンの斜め後ろについた。

856 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:46
「みなさんをお連れして頂戴」
「はいはい、了解」
袁紹の言葉に麹義は砕けた一礼をしてから部屋より退出する。
なんだ、この胸騒ぎは……
公孫サンは嫌な予感に眉をひそめる。
「そちらは……部下に対しての躾が完全に行き届いているようね。まったく羨ましいわ」
嫌味でも言わないと……自分が抑えられない。
「まぁ、待っていなさいな」
ふん、と笑う袁紹。
「大将、つれてきたよ〜♪」
「入っていただいて」
廊下からの麹義の声に、視線を公孫サンから離すことなく袁紹は言う。
公孫サンは唖然とした。
そこに入ってきたのは自分の戦友たち……白馬義従の面々。その胸に輝く蒼天章に公孫サンは顔をほころばせた。
……よかった。私のせいでトばされずにすんだんだな。
「よかったわ、貴女が忘れっぽいひとじゃなくて……この方々の顔も覚えておられなかったらどうしようかと思ったところよ」

公孫サンのその表情に満足したように袁紹は、その白馬義従の1人の蒼天章を中指で弾き飛ばした。

一瞬なにが起こったのかわからなかった。
「あらあら、どうしたのかしら、呆けちゃって」
袁紹はくすくすと笑いながら2人目の蒼天章に手を伸ばす。
「貴様ッ! やめろーッ!」
袁紹に飛び掛ろうとした公孫サンは……しかし後ろから顔良、文醜に肩を押さえ込まれ床に倒れる。
袁紹はくすくすと笑いながら……次々と蒼天章を弾き飛ばしていく。
「やめろッ! やめろーッ!」
悲痛な叫び。
袁紹は振り返る。
その目に……公孫サンは初めて恐怖を感じた。
笑みなどもうすでにその顔には浮かんでいない。あるのはただ純粋なまでの憎悪。
「劉虞さんがそういったとき貴女はどうなさったのかしら……?」
公孫サンは黙り込む。
これは罰だとでも言うのか……
黙り込んだ公孫サンに袁紹は白馬義従からはずした蒼天章を公孫サンの顔めがけて叩きつける。
蒼天章は公孫サンの額にぶつかり、血が流れた。
「私は……貴女をトばしたことを誇らない。最も恥じるべき愚者、公孫サン、貴女はこの学園に通う価値もないわ」
袁紹の宣告にも公孫サンは答えることができず……

翌日、公孫サンは転校届けを出した。
彼女がどこに転校したのかは学園史にも残されていない。

857 名前:北畠蒼陽:2006/02/05(日) 20:47
かっこいいエンディングのあとには醜いほどのエゴがあるッ!
どっちかといえばエゴのほうを書いてたほうが楽だと思う北畠です、ごきげんよう。

>弐師様
……に影響されて公孫サン&袁紹を書いてみました。
公孫サンを書いたのははじめてかな?
かっこいい話のあとなんでおもいっきしアレな話にしちゃいましたが……なんか、ねぇ?
最近ギャグを書いてないのでギャグが書きたい! もう空気読んでないようなギャグが!

とりあえず合格おめですよぅ。
高校受験といえば……うちの中学もゲーセン禁止だったんですが受験の帰り道、ゲーセンに寄ったら先生に見つかって補導されたのはいい思い出ですあははははは!
三国志大戦はおもろいですよ〜。もしよかったらいろいろ教えますし(笑
ぜひやりまっしょい。

858 名前:海月 亮:2006/02/07(火) 20:40
うむ?



( ̄□ ̄;)


おい俺は越されたのかぁぁぁ━━━━━━(;;゚Д゚)━━━━━━ !!??



やばいよここんとこ2chの音ゲー板で遊んでたよ私!?
つか私ってば確か関羽攻略の続き考えてたと思ったら…

ぜんぜん話進んでないようわーん回線切って吊ってやるー!・゚・(ノД`)・゚・


…冗談はさておき(半分本気だったけどw)
>弐師様
いやぁやれやれ、なんだかあっという間に追い越されちまいましたよてかもうメチャ萌えた(;´Д`)
大丈夫大丈夫、腑抜けた今の私じゃあ束になってもこれ以上の作品かけませんって_| ̄|○

こうなったら絵で支援だ、近日ちうに関靖描いて来る!!(;;゚Д゚)ノシ

>北畠蒼陽様
お嬢様黒いよお嬢様ッ!(;;゚Д゚)でもそういうのも私は大好きだ!!w
いつぞやの鐘会もそうだったけど、人間のこういう面を巧く書けるのってめっさ羨ましいです本当に。
私はそういう表現が下手くそだから未だに岑昏と郭図のイメージが巧く出来なくて困ってますよ_| ̄|○

859 名前:弐師:2006/02/08(水) 20:36
>北畠蒼陽様

良いですね、劉虞を飛ばしてからの「小董卓」的な公孫サンにはこういう結末しかないでしょうね
私にはこういった話は書けないのでうらやましい限りです。
三国志大戦には劉虞と公孫サンは出てるんですか?

>海月 亮様

いえいえ、まだまだ未熟者でございます。
続きを期待していますです。
無理せず頑張ってくださいませ。


さて、次はどうしましょうねぇ。
九泉での劉虞と公孫サンの話とか、界橋とか、劉虞戦とか。
個人的には劉虞も好きなのでその話になりますかね。

860 名前:冷霊:2006/02/11(土) 16:41
白水門への出立

「やっぱり行くんですか?」
「ああ、タマのお願いなら断る理由がないだろう?」
楊懐が荷物をまとめ、問いかけに答える。
「でも、先輩達がわざわざ白水門まで行かなくても……」
「あたし等だから行くんでしょ?」
トウ賢の言葉を高沛が遮る。
「それだけ信頼されてるって証拠でしょう。嬉しい話じゃないの」
高沛がトウ賢の肩に手を置く。
「それに気になることもあるしね……」
高沛が楊懐に視線を送る。
楊懐は応じるかのように頷く。
「……荊州の劉備」
視線の意味を理解した冷苞が口を開く。
「いくら張魯対策っつっても、わざわざ呼ぶ必要もないと思うんですけどねー……」
トウ賢が呟く。
周りの意見を鵜呑みにするのは劉璋の悪い癖である。
今回は曹操への偵察もこなした張松の提案だが……どうも腑に落ちない。
賛成派が異様に多かったのも気になる所である。
「張魯くらい、オレとトウ賢でもトバせるのに……」
「冷苞、相手を倒すだけが戦いじゃないぞ」
楊懐が嗜めるように言う。
「相手を制するのも戦いだ。お前等が行けばどれだけ怪我人が出ると思う?」
「あ……」
冷苞が不意に声を漏らす。冷苞やトウ賢が腕が立つのはわかる。
下手すると高沛や楊懐とタメを張るかそれ以上なのだ。
そんな二人が行けば当然敵にも大きな被害が及ぶだろう。
「タマちゃんの優しさってトコかな?相手のことまで気使う必要ないのにさ」
クスリと微笑む高沛。
「ま、逸る気持ちも分からないでもないが、な」
楊懐が笑みを浮かべ、冷苞の肩を叩く。
「楊懐さん……」
冷苞が握り締めていた拳をそっと解く。
「ま、私の初陣もお前達と同じ頃だったからな」
懐かしそうに楊懐が遠くを見つめる。
その様子を見て、同じく目を細める高沛。
「そうそう、初陣と言えば楊懐が……」
「こ、高沛!」
少しだけ慌てた様子で楊懐が声を張る。その頬は僅かに紅潮している。
「初陣がどうしたんですか?」
冷苞が首を傾げた。
「ん?聞きたい?聞きたい?」
「聞きたいでーす」
トウ賢が口元を綻ばせながら答える。
一方、尋ねた高沛の口元も既に緩みっぱなしだったりする。
「無駄口を叩くな!高沛、さっさと行くぞ!」
「楊懐せんぱーい、まだ荷物詰め終わってないんじゃないんですかー?」
憮然と立ち上がる楊懐へトウ賢が追い討ちをかける。
「だ、だからさっさと準備を済ませろ!それに高沛も終わってないだろう?」
「……あ」
そこには詰める途中で放置された高沛の荷物が置いてあった。
「それじゃ、さっさと準備済ませちゃいましょーか。冷苞は楊懐先輩の手伝い宜しくー」
トウ賢はすたすたと高沛の後に付いて行く。
「うーん……一体何が……?」
冷苞は首をかしげたまま、楊懐の方へと歩み寄っていった。

861 名前:冷霊:2006/02/11(土) 17:02
いろいろ迷った挙句、一旦出発の話を書いてみました。
劉璋や劉闡も登場させたかったのですが、とりあえず東州関係者でまとめてしまいました。
劉備との対面なども結局書き直したり……むぅ、ぼちぼち頑張らねば(汗)

>弐師様
まずは合格おめでとう御座いますー。
改めて読み返してみると、関靖が酷吏と呼ばれてたのを初めて知りました(汗)
でも、公孫サンに信頼されてたり袁紹軍に突撃したりなど一概にそう言えない面も……
何だかそういう関靖の一面を感じちゃいました。

>北畠様
因果応報といいますか……歴史の影の部分を垣間見たような気も致します。
やはりこういう話も時には必要となるわけで……見習わなくては、ですね。
いつかきちんと、こういう話も書いてみたいものですね。

862 名前:北畠蒼陽:2006/02/12(日) 21:19
>冷霊様
んー、東州をこのまま進めていくと……
いや、とても私好みの血で血を洗う展開になりそうです。めでたい!
とりあえず楊懐&高沛はがんばってほしいですね。うひひ。

863 名前:北畠蒼陽:2006/02/17(金) 17:59
夏の日差しがプールの水面に乱反射する。その眩しさに諸葛誕は目を細めた。
「いっやー、あっついねぇ! もう青春って感じだねぇ!」
隣にはご機嫌な王昶。王基はちょっと離れたところで泳いでいる。
「ちょっと静かにしなさいよ……っていっても聞いてくれるようなタマじゃないわね」
諸葛誕が自分のセリフに諦めたように視線を斜め下45度のあたりへ彷徨わせた。
「こう暑いと太陽に向かって叫んじゃうね! 青春セリフバンザイ!」
青春セリフってなんだ……
「あぁ、叫んでもいいから大人しくしてて」
「公休は不純異性交遊のエキスパートになりましたー!」
王昶は諸葛誕にエアウォーターガンの射撃を食らった。
「目がー目がー」
「水が当たったのは胸だし! あんたが向かって叫んだのは太陽じゃなくて女の子だし! そもそも不純じゃないし!」
泳いでいた王基が諸葛誕の方向に顔を向ける。
「……不純じゃないってことは男がいる事実だけは認めるのね」
「あんたらなにやってんのよ……」
視線を向けると諸葛恪が怖い顔をしていた。


なついあつのほにゃらら


「あー、やっほー、元遜」
「やっほー」
諸葛誕が嫌な汗を額に浮かべながら手を振る。王昶もまねをした。王基は無表情に手だけ振った。
「あんたら、なにやってんのよ……」
諸葛恪がもう一度同じ質問を発する。
「ほら、泳ごうと思って」
王昶が滅多やたら明るく答えた。
「あの……私は止めたのよ?」
諸葛誕が目線をそらす。
「泳ぎたい、それはわかった……で……」
諸葛恪が言葉の途中に無理やり笑みを浮かべる。額にはもちろん青筋。

「な ん で わ ざ わ ざ 建 業 棟 ま で 泳 ぎ に 来 る の か し ら ?」

「ん、だってここのプール広いじゃん」
王昶がこともなげに言って王基はこくこくと頷いた。んで泳ぎだした。
「泳ぐな人の話を聞けー!」
王基が不満そうな顔をして泳ぐのをやめる。
「いや……私は止めたのよ?」
諸葛誕は目線をそらしたまま。でもしっかり水着を用意しているので同罪だと思う。
「……まぁまぁ、夏休み中は無礼講」
とりなすように言う王基。
「無礼すぎるわッ! ……うっ」
頭に血があがってちょっとふらっときたようだ。
「あー、大丈夫?」
「はぁはぁ……大丈夫、ありがとう……じゃないわよッ! ……うっ」
ふらっときた。
「もぉ……ほんとに夏休み中だけだからね! それ以降来るんじゃないわよ! あとあんたらが来たらうちの部員がドン引きするから前もって襲撃を連絡してちょうだい!」
不機嫌な表情のまま、それでも何を言ってもムダと悟ったか諸葛恪がため息をついた。
「悪いわね、元遜」
「いいわよ。あんたもヘンなヤツらのお守り大変ね、公休」
従妹同士が苦笑を交わす中、王昶が張り切って宣言した。
「じゃ、前もって連絡ってことで明日明日ー!」
「毎日来るつもりかよッ! ……うっ」

864 名前:北畠蒼陽:2006/02/17(金) 17:59
やっとギャグが書けました。
これを書いてる最中に新聞屋が襲撃したので撃退成功。つまりこの物語が書けたのは新聞屋のおかげです。ありがとう新聞屋。もうこなくていいよ!

夏ダイスキ星人、北畠にとって今の季節ってのは、まぁ、じょじょにあったかくなってきてるとはいえ苦痛でしかないので夏ですよ! ド夏!
はやくあったかくなれー。30度くらいに。

865 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:18
-何処までも甘い一日-


妙に開けづらいと思ったら、空けた瞬間に何か大量の包み紙がぎっしりと詰まっていた。
私は徐にその一角を摘み、引きずり出そうとするが…どんな密度で詰め込まれているのか、まったくびくともしない。
「…どうやって詰めたのよ、こんなに…?」
私は包み紙の大群に占拠された自分の下駄箱の有様に苦笑するしかなかった。

たっぷり30分かけて下駄箱から内容物のすべてを引き出し、それを体操服の入ったリュックサックへと詰め込んだ。
今日は体育があったんで、学生鞄とは別に持ってきたものなのだが…普段体操服一式を入れるだけではいささか大きすぎるそれが、見事に満杯だ。
面倒くさいのと、さすがに時期が時期だけにスカートだけじゃ寒いので、体操着の半袖どころかジャージの下まで着込んでいた分あったスペースなんてあってないようなものだ。
「…というか去年より多い」
…いやいやいや、そうじゃないだろ私。
状況をストレートに口に出してしまったが、どう考えても女子高で女の子がバレンタインにチョコ貰うのっておかしいでしょ。
しかも私は去年も、一昨年も貰っている。しかもその9割が差出人不明だ。
そりゃあ私だって、妹達にチョコをあげたり貰ったりしてるし、医者という仕事柄滅多に家にいない父のためにチョコを用意したりもするけど…でもこの場合「私がこんなに貰ってどうすんだ?」って言う気持ちがある。
いったい、私の何処が良くて、みんなこんなに一生懸命になって用意してくれるのか…それだけがよく解らなかった。

そして何より、私はチョコレートというヤツが、実は死ぬほど嫌いなのだ…。



一方その頃、呉郡の中等部寮では。
「…それで此処まで逃げてきたってワケですか?」
「まぁそういうこった」
部屋の主と思しき、狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女…丁奉が差し出した水を、一気に飲み干す茶髪の少女はその姉貴分である甘寧。
部屋着代わりに学校指定じゃない紺ジャージの丁奉に対し、甘寧は制服姿である。かつて学園の問題児であった甘寧も卒業を控え、それなりに真面目な学生生活を送ってきたことをうかがわせる。
現在一留の三年生で、しかも既に引退して往年のパイナップル頭を辞めて久しい甘寧だが、彼女は暇をもてあますとふらっと長湖の三年部員の元に現れては自堕落な休日を過ごすこともしょっちゅうである。だが、いくら親しくとも流石に中等部にいる後輩のところに転がり込んでくるようなことはなかった。
まぁそれだけの緊急事態であることは察しがつく。何しろ今日は学園全体がある種の狂気に支配される日なのだ。
甘寧にとってみれば、何故自分が標的にされてしまうのかと首を捻っているのだが…。
「幼平や公績も俺同様逃げ回ってるクチだし、文珪は何処行ったかよくわかんねぇ。子明さんと子敬は大学寮の下見で不在。あと頼りになりそうなのはお前くらいしかいねぇんだ」
ほとほと困り果てた様子で溜息を吐く甘寧。
「それじゃあ阿撞さんと蘇飛さんは?」
「……多分生きてると……思いてぇな……」
遠い目をする甘寧。どうやら甘寧は、銀幡の二枚看板ともいえるこの二人の尊い犠牲があって、ようやくノーマークの丁奉の元へ逃げてきたようである。
丁奉も流石に苦笑を隠せない。
「つーわけだ、ほとぼりが冷めるまでちと匿ってくれないか? 礼は必ずするから」
「お礼なんて…何にもない部屋ですけど、こんなところで良ければ」
急須にポット、更にはお茶菓子まで一通り出し終えたところで、丁奉は甘寧と向かい合う形で座った。
そして悪戯っぽく笑う。
「それにお礼なら、阿撞さんたちにしてあげたほうがいいと思いますけど、ね」
「…それはもちろん」
後輩の鋭い一発に、最早苦笑するしかない甘寧であった。



「…勘弁してよ」
教室へ行けば黒山の人だかり。その中心には私の机。
下駄箱があんな感じだったから大体予想はついたが…机の鞄架けに引っ掛けてある袋包みの数も、机からはみだしている包みの数も…いやもう置ききれなくなったらしい包みが机の上にも所狭しと並んでいる。
異常だよ。はっきり言うけど。
「あ、仲翔先輩、おはようございます」
その中心で、風紀委員の腕章をつけた少女数人を引き連れていた、ライトブラウンのロングヘアが特徴的な少女が、にっこりと笑いかけてきた。
交州学区総代の呂岱、字を定公。色々あって、結果的に親しくさせてもらっている後輩の一人だ。
「…おはよ。ていうか、この状況は…ナニ?」
「いやいや、先輩に心当たりがないとなると私にも解りませんって」
それもそうね、と返して、互いに苦笑する。
話を聞けば、どうやら私よりも先に来ていたクラスメートが私の机の状態を見て、驚いて風紀委員を呼びに行ったらしい。
まぁ無理もない。ほとんど"学園の辺境"とも言える場所柄か、構内の何処かで何か興味を引く事件が起こると皆寄って来てしまう。見回せば、別クラスの同輩はおろか下級生達もわんさか寄って来ている。
「…とりあえず…コレどうします先輩? このままでは、机もろくに使えなくて困りますよね?」
「うん…どこかに置いておける場所とかない? 帰りに取りに来るから」
「解りました、じゃあとりあえず執務室もって行きましょう。ね、たしか使ってない段ボールあったよね、持ってきてくれる?」
定公の命令一下、風紀委員たちはパタパタと駆け出していった。

866 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:19
所変わって…。
「…で…なんで私まで巻き込まれなきゃなんないんですか…?」
「…済まん…本当に済まん」
呉郡寮に程近い公園の茂みの中に、二人の少女が隠れていた。
ひとりは緑がかった髪をショートボブに切りそろえ、小柄ではあるがスタイルの良い童顔の美少女。
もうひとりは流れるようなロングヘアを銀に染め、目鼻の整った長身の美人。
緑髪の少女…陸遜は制服を着ているが、銀髪の少女…周泰は"長湖さん"トレーナーに黒のハーフコート、ジーンズにスニーカーと文句のつけようがない私服。
「しかし何で毎年毎年こうなるんだ…私がいったい何をやったと…」
心底困り果てた様子で空を見上げ、長嘆する周泰。
実はというと、陸遜は午後の授業に必要な教科書を寮に忘れたことに気づき、昼休みのうちに取りに戻ろうとした途中、暴徒の大群に追われていた周泰とばったり出くわし、勢いでその逃亡劇に巻き込まれてしまったのだ。
なんというか…陸遜も始めはその理不尽さに、当然ながら少々ご機嫌斜めの様子であったが、気分が落ち着いてくるにつれて周泰の立場に同情の念を禁じえなくなっていた。
(というか…このひとが人気ないってったら、きっと関羽先輩だって追っかけまわされずに済むんでしょうけどね)
そう考えると、少し可笑しくなって、陸遜は少し笑った。
「…何が可笑しいんだ…?」
それに気づいて恨めしげな目で睨む周泰。
「いえ、別に。ところで先輩、これからどうしましょうか?」
「どうしようか…って言われてもなぁ…去年の様子を見るからに、多分このまま廬江棟に行っても公績も居ないだろうし…」
今頃は自分と同じく、暴徒の大群に追っかけまわされているだろう友を想い、さらに途方にくれる周泰。
陸遜も巻き込まれた以上、流石にあの暴徒の群れに捕まるのは御免被りたいところである。自分の身を守る意味でも、ちゃんとした逃亡経路を見つけ出す義務はあるだろう…そう思うと、彼女の脳裏にある場所が思い浮かぶ。
「…そうだ…今日確か中等部の三年生は午前放課だったから、寮にうちの妹が居るかも」
「え?…あ、そうか呉郡寮か!」
「いくらなんでもあの場所までは誰も考えてないでしょう。身を落ち着けるのはもってこいです」
ようやく安堵の表情を見せた周泰が、感心したように呟く。
「流石は伯言…こう言うのもなんだが、結果的にお前を巻き込んだのは大正解だった」
「いや〜…私としては、大迷惑極まりないんですけどね」
陸遜は苦笑を隠せない。
ふたりは茂みの中をこそこそと、今だ彼女達を探して大路地を行ったり来たりしている暴徒の目を避けるように移動し始めた。



放課後。
しゅんとした表情の、金髪碧眼で巻き髪が特徴的な少女と、耳のようなクセ毛のある黒のロングヘアの少女、そして定公と私が向かい合う格好で、執務室のソファに座っている。
「…こりゃあまた…」
黒のロングヘアの少女…子瑜(諸葛瑾)が、呆れたというか面食らったという感じで苦笑しながらつぶやいた。
その視線の先には、回収されたチョコレートが溢れんばかりに詰め込まれた段ボールが二箱。
実はあれから、休み時間の度に見知らぬ女の子たち(恐らく後輩)に次から次へと押し付けられ、更にひと箱ぶん増えてしまったのだ。
「…なんというか、モテモテじゃない」
「ごめんその冗談笑えない」
我ながら見事な棒読み。きっと表情もなかったかもしれない。
「幹部会にすら仲翔の本性知らない人間が多かったんだから、学園にいるほぼすべての人間は仲翔がチョコ嫌いってコト知ってるわけもないか」
「え? そうなんですか?」
溜息交じりな子瑜の解説に、定公が目を丸くする。
まぁ話してもないことを知ってられてもそれはそれで困る。でも私の記憶が確かなら子瑜に話したこともなかったはずだけど…。
「話してもいい?」
「いいけど…情報源(ソース)は何処よ?」
「昨日、部長に内緒で幹部会のみんなと商店街に行ったときに伯言(陸遜)から。彼女は彼女の妹からあなたの妹経由で聞いたらしいんだけど」
納得。
そういえば妹…世洪の世代はみんな仲がいい。伯言の妹…幼節(陸抗)とかならうちによく遊びにくるしね。
まぁ子瑜の場合、いったい何処から情報を得ているのか解らない事も時々ある。何しろ彼女の身内には、今は故あって課外活動を退かなければならなくなった奇人・諸葛亮が居るわけだし…子瑜はともかく、あの孔明ばっかしは得た情報で何を仕出かしてるか解ったもんじゃない。
「じゃあ当人の口から聞いたほうが早いでしょ。あまりいい話じゃないけどね…」
溜息をひとつ吐き、気が重いながらも私はその経緯を語って聞かせた。


遡る事十年前。
虞姉妹に六人目の妹が生まれると言うことで、身重になった母親は父親の勤める病院に入院してしまい、姉妹のうち八つになった長女と四つの次女、三つになったばかりの三女は、近所に住んでいた父方の祖父母に預けられることとなった。

そんなある日、祖父母がたまたま家を空け、長女は妹二人を監督する大役を仰せつかっていた。
戸棚にはその前日買ったばかりの袋入りチョコレートがあり、祖母からおやつとしてあてがわれていた。
学校帰り、保育園へ妹二人を迎えに行き、そして帰宅。
「ねーねー、おやつまだー?」
しばらく遊んでいた二人の妹が、生真面目にも机に向かっている長女の袖を引いてきた。
時計を見れば、ちょうどそういうものが恋しくなる時間帯。
「はいはい。今用意するから、一緒に食べよ」
「はーい♪」
妹二人を引き連れ、いそいそと台所へ向かう。
ご多分に漏れず甘いものが大好きだった姉妹にとって、袋いっぱいのチョコレートとくればまさに宝の山。
長女は菓子皿にそれをすべて注ぎいれ、皆で行儀良くテーブルに着くと、姉妹で心行くまで頬張り始めた。

「あぅ…」
食べ初めて間もなくのころ、長女はなんだか妙な感覚に襲われていた。
何処かふわふわといい感じなのに、何でか天地がぐるぐると回転してそこはかとなく気分が悪い。そして何より、体が火照ってしまって二月とは思えないくらい暑かった。
「おねーちゃん…どうしたの?」
「お顔がまっかだよ?」
心配して覗き込んでくる二人の妹の顔が、ぶれて一人が三人にも四人にも見えた。
目がちかちかとしたと思ったら、そのまま長女の視界が暗転した…。

867 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:19
「後で知った話なんだけど、祖母が買ってきた袋入りの中に、ウィスキーボンボンが一個偶然に紛れ込んでたらしいの。しかも製作工程のミスで、全然アルコールが飛んでなかったらしくて」
「知ってた人間が言うのも何だけど…なんともありえない話よね」
呆れ顔の子瑜。でも現実に起こったものは仕方ない。
「一応、父さんがすぐ飛んできてくれてね。私の胃の中身まで出して検査してくれたカルテの写しがまだ残ってるけど…見てみる?」
「そんなものって…とってあるものなんですか?」
「裁判沙汰になったからね。証拠品として」
ぽかんとした顔で、はぁ、と相槌を打つ定公。
まぁこんな荒唐無稽な話、鵜呑みにするほうがヘンだ。事実は小説より奇なり、とも言うけど。
「それで三日ほど生死の境をさまよったトラウマでね、チョコの匂い嗅いだだけでも気持ち悪くなるの」
「それだったら仕方ないわね…とのコトですが、どうします部長?」
そうしてさっきから一言も喋らず、俯いている少女に問いかける子瑜。
金髪の少女…長湖部長である仲謀(孫権)さんが此処にきたのも、その手の中のものを見ればなんとなく察しがつく。ひとつは定公の分だろうが、やはりもうひとつは私のためにわざわざ用意してくれたものなのだろう。
もっと早くこのことを話してあげるべきだったと、申し訳ない気分だ。
「…知ってたもん」
「そうですよね〜知ってますよね〜…って、知ってたんですか?」
ようやく口を開いたその言葉に、子瑜だけでなく私まで面食らってしまった。
「伯符(孫策)お姉ちゃんから聴いたんだ。仲翔さんならどんなのを喜んでくれるか知りたくて…だからはじめからチョコなんて買ってないし作ってない」
そういった彼女の顔は至極不機嫌に見えた。
確かに私は、一昨年のバレンタインデーにチョコ交換会をやるって話になったとき、伯符さんや子明(呂蒙)、君理(朱治)など一部にそういう話をしたことがある。孫姉妹はきわめて仲がいいから、よくよく考えれば仲謀さんが最初から知っていても不思議ではない。
でも、だったらどうしてこんな表情を…?
「…本当はボクがいちばんにあげたかったのに…」
「え…」
その一言に、私の心臓がまるで口から飛び出してしまうんじゃないかと思う勢いで跳ねた。
次の瞬間、頬の温度が一気に上がっていく感覚に襲われる。
「あ…えっと…その…」
あとで思えば、自分でも可笑しくなるくらい狼狽している自分が居たと思う。
とても嬉しかった。
かつては決して受け入れてくれないかも知れないと思っていたひとが、今こうして私のことを想っていてくれた事に。
「順番なんて…そんなの関係ないです。あなたの気持ちが、私には、一番…嬉しいから」
「…仲翔さん」
驚いた風に私を見つめてくる彼女。
見る間にその頬が紅潮し、再び俯きながら、その胸に抱いていた包みをそっと、差し出してきた。
「うん…じゃあ、これはボクから。受け取って…もらえるかな?」
「…喜んで」
差し出された包みを受け取ると、彼女はようやく満面の笑顔を見せてくれた。



「…で、結局お前達もここに居るってオチなのか」
テーブルの前に胡坐をかいて、呆れたような眼差しで先客を見やる周泰。
「いやぁ…流石に今年も寒中水泳したら、多分死ぬし」
「つか最終的に頼りになるのは承淵しかいなかったってことでファイナルアンサー」
丁奉の部屋には甘寧のほか、ジャージ姿の凌統の姿もある。
周泰と陸遜は幸運にも暴徒達の目を逃れ呉郡寮に辿り着いたものの、陸遜が頼りとしていた陸抗も、親戚の陸凱、陸胤も夕食の買出しで不在という有様だった。それゆえ、丁奉の部屋に上がりこんでいた。
まぁそれもそのはず、生徒が自炊しているこの中等部寮においては、基本的に人数分の食糧しか用意されていないのだ。それゆえ、この三十分ほど前に命からがら逃げ込んできた凌統を迎え入れた時点で、これ以後も逃亡者が来るだろうことを見越して買出しに出かけたのである。
「まぁお陰で俺達はこうしてのんびりできるわけだがな。お、これで王手だな」
「え…うわ、そう来たかっ!」
流しではお茶の用意をしている丁奉を尻目に、先輩二名はのんびりと将棋を指していた。序盤は凌統の攻勢を許しながらも、残った駒で美濃囲いを完成させた甘寧が形勢を逆転したと言った風の盤面である。
「…てか客分を満喫しすぎじゃないですか?」
「…朝から追っかけまわされた身にもなってよ…あたし此処に来るまで五時間飲まず喰わずでトライアスロンやらされる羽目になったんだから」
陸遜の一言に、泣きそうな表情で反論する凌統。
「一応その代わりと言っちゃなんだが、連中が戻ってきたら俺達が夕飯を作ることにしてるんだよ」
「まぁ、そのくらいしてやらなきゃ罰が当たるな…ん?どうした伯言?」
甘寧が「夕食を作る」といったあたりでびくっと震え、真っ青になってかたかたと怯えている陸遜。
かつて合宿で炊事をやった際、陸遜は甘寧、魯粛、呂蒙の問題児三人組の班に放り込まれ、三人がふざけて作った超激辛スープ(豚汁らしい)の餌食になったことがあった。
それを思い出し、げらげらと笑う甘寧。
「まぁ安心しろって、一応俺様も以後はちゃんと料理作れるように勉強はしてるんだからよ!」
「…秋に紅天狗茸でキノコ汁作ったのは何処の誰だったっけ?」
「…う」
凌統の冷静なツッコミに言葉を失う甘寧。
「あぁ、あの時も大変だったな。仲謀さんと仲翔が完全に出来上がって…」
「傑作なことは傑作だったけどね〜」
「う、煩ぇ! 大体お前等だって美味しい美味しいって人一倍貪り食ってやがったクセに!」
「まぁまぁ、先輩が料理上手なのはうちらも良く知ってますから。あ、こういうのもなんですけど、一応バレンタインデーということでどうぞ」
居間へ戻ってきた丁奉の差し出した、菓子皿一杯の一口チョコレートに、一同は苦笑しながら顔を見合わせた。



「ちわっす。例のもの、回収しに来ましたよ」
しばらくして、交祉棟執務室に数人の少女が顔を見せた。
徳潤(敢沢)、子山(歩隲)の長湖苦学生コンビに、何故か文珪(潘璋)まで。
「あら、早かったわね…てかどうしてあんたまで居るのよ文珪」
しかも徳潤たちは制服着てるのに、文珪だけ何故かジージャンにジーパン、青のチェックが入った厚手のシャツという超私服…多分バレンタインの騒ぎに乗じて学校サボってたのかも知れない。
「チョコ嫌いなのにやたらとチョコを押し付けられてしまうヤツが居るときいて、そのおこぼれ頂戴に来たんだよ。文句あるか?」
しかもなんて言い草だよコイツは。
てかこうもストレートに欲求を言われると最早怒る気もしないから不思議なものである。まぁ確かに彼女の言うとおり、私はチョコを一切食べられない口なのだが。
「しっかし、今年はやけに多いですね〜」
「コレなら三人で山分けしても十分でしょ〜ね♪」
感心したような様子の徳潤に、まるでお宝の山を目にしたみたいに嬉しくて仕方ないといった感じの子山。実は去年もこのふたりにチョコを食べてもらったのである。
「ばっか言え、半分はあたしが戴く。あんた達はこっちひと箱」
「うっわ、なんかとんでもねー狼藉働いてる人が居るよおい」
やや多めに入った箱のほうを自分のほうに引き寄せ、しっかりキープする文珪と、ぶーぶーと遠まわしに文句を言う子山…浅ましいなオイ。
「あんた達ね〜、自分で買いも貰いもしないくせに、ひとのもらい物で…」
「まぁまぁ、私が持っていても仕方のないものだし…私がコレをくれた娘たちの気持ちさえ受け取っているなら、あとに残ったチョコレートはこの娘たちの胃袋に収めてもらったほうがいいわ」
「…そういうものなの?」
そう。大切なのは中身じゃなくて、それをくれたひとがこめてくれた想いだから。
私は中身のそれを食べることは出来ないし、どうしてこんなにも自分のために一生懸命作ってくれるのかは理解できないけど…それでも、その気持ちだけは無性に嬉しかった。

そして私の頭には、さっき貰ったばかりの、緋色のリボンが結いつけられている。
其処に刺繍されている"長湖さん"が、彼女の手によるものであることをちゃんと主張していた。
「大切に、使わせてもらいますね」
「うん」
おそろいの、紺色のリボンを結いつけている送り主が、柔らかな笑みを返してくれていた。



(終わり)

868 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 00:29
一週間ほど過ぎてしまいましたがバレンタインのお話。


余談ですがベニテングタケは死ぬほどの毒キノコではないです。
バイキングは闘争心をかき立てる為、戦闘前にはこのキノコを食べてトリップ状態になったとも言いますし。
あと塩やウオッカ漬けにして普通に食べるという地方もあるそうで。

まぁ私は喰ったことないですけどね^^A



>北畠様
いやぁ暑いですね良いですねw
スク水大好き人間というどう見ても「人間的にどうよ?」な某も夏が恋しいのであります。

ともかくGJであります(´ー`)b
あぁ、読んでたらなんか急に西瓜喰いたくなって来たw

869 名前:弐師:2006/02/19(日) 19:56
「あ、あのぉ・・・」
「ん?」
声をかけられて、振り返る。
そこには、小柄な、いかにも気の弱そうな少女が立っていた。
何度か、北平棟で見かけたことのある顔だが・・・はて?
「ぜ、単経さん・・・ですよね?」
「ああ、そうだけど。」
「私、田揩っていいます・・・その、弟子にしてください。」
「?」
何を言っているのだろう。変わった人だ。
そういえば、田揩。
そう、そうだ、そんな名前だったな。
ああ、すっきりしたな。
「じゃあ、そう言うことで。」
すっきりしたところで行くか。
「え・・・」
田揩君が唖然としているが、どうしたんだろう?
「あの・・・弟子・・・」
ああ。
そうだった。
つい私は人に言われたことを忘れてしまう。
悪い癖だ、まったく。
「いいけど、何故私の弟子などになりたい?私は裁縫もペン習字もできないぞ?」
「い、いえそんなのじゃなくて、その・・・」
彼女は自分の話をたどたどしくし始めた。
自分の気の弱さ、そんな自分が嫌いで変わりたいということ。
なるほど、それで仏頂面で有名な私のところに。
よし、納得。
「じゃ、そう言うこ・・・」
「待ってください!」
ああ。
なんかついさっきもこんなことが。
これがデジャ・ヴというものか。
「まあ、話は理解した。それで、だ、田揩君。」
「あ、田揩でいいです、弟子ですから。」
「・・・」
私はどうしたらいいのだろう。
ううむ・・・
「あれ〜単さん。どうしたの?」
おや、越君。
助かった。
これで何気なくこの場を・・・
「おお、田さんまで。二人って仲良かったんだ。二人とも仲良くね。それじゃあ、ばいばい。」
ふむ。
これってもしかして気を逸したのではないだろうか?
これが戦だったら飛ばされてたぞ。
って、そんなことはどうでもいい。
まあ、しょうがないか、諦めよう、降伏だ。
「・・・わかった、だが、私は人に何か教えるのは苦手だ。其処のところは覚えておいてくれ。」
「いえ、そんな、そばに居させてもらえるだけで良いんです。」
「あと、私のことも単経で良い。師匠などと呼ばれても困る。」
「はい!単経さん!」

870 名前:弐師:2006/02/19(日) 19:58
それから、一週間ほど彼女、田揩と過ごした。
やはり、そう簡単に性格など変わるものではない、彼女はまだおどおどしていることには変わりない。
だが、少しは変化があった。
私には、何故か常に笑顔で話してくるようになったのだ。
まあ、それは良い傾向なのだろう。
彼女の笑顔を見るのは、私も嫌ではない。
それに、段々と彼女の話を聞くのが楽しくなってきたのだ。
他愛ないような話。
例えば、今日は誰々と話すことができた、こんな話をできた。
私からしてみたら、あまりにも「普通」なこと。
それでも彼女は、まるで子供のように、目を輝かせながら話してくれる。
そしてそのたび、「ありがとう」と私に言う。
「あなたのおかげです」と。
彼女は私のことをまだ凄いと思っているのだろうか?
こちらにしてみれば、彼女の方が偉いと思う。
私も、変わりたいと思っていた。
そう、私は、彼女とどこか同じ部分を持っていた。
それなのに彼女は、変わっていっている。
私を、残して。

「君は・・・偉いな。」
「え、何がですか?」
「いや・・・この少しの間に、君は確実に変わっていっている、それに比べ、私は情けないな。」
「そんなことないです、単経さんだって、変わって来ていると思いますよ?」
「私が?」
「そうです、こんなこと言ったら失礼かもしれないですけど、単経さん、笑うようになりました。」
「私が、笑う?」
「はい、私と話しているとき、楽しそうに笑ってくれてますよ。だから、いつも言うんですよ?私の話を微笑みながら聞いてくれてありがとうって、あなたが微笑んでくれてるから、私も、同じように笑いながら話せるんです、変わって来ていると言うのなら、それはあなたのおかげです。」
「そうか、いや、むしろ、礼を言わないといけないのは私の方だな。ありがとう」
「いえ、そんな・・・じゃあ、お互い様って事で。」
そう言って彼女は笑う、竜胆の花のように。
可憐に、それでいて控えめに。
そんな彼女につられ、私もいつの間にか笑っていた。
笑うというのは、良いものだな。
今は、本当にそう思う。
そう思えるのも、彼女のおかげだ。
彼女が居てくれたから、私も、変わっていけた。
心から、感謝している。

871 名前:弐師:2006/02/19(日) 19:59
単経さんに弟子入りしてから二週間、私と単経さんは、北平棟の棟長室に呼ばれた。
伯珪さんが言うには、私たちに烏丸工の抑えをして欲しいとのことだ。
それまでは、彼女の一つ下の妹である越ちゃんと、その越ちゃんと同じ学年の厳綱ちゃんがその役を負っていたのだが、彼女たちでは抑えきれなくなり、私たちに変わって欲しいと言うことらしい。
私では、力不足かもしれない、だけど、伯珪さんの期待を裏切るわけには行かない。
それに、私一人では無理でも、単経さんがいてくれる。
「わかりました。」
「が、頑張ります!」
「じゃあ、頼んだよ、二人とも。」


漁陽棟を出て、少し北に奴らはいた。
見回りの中、数人の娘しか連れてないが、こんな連中にはこれだけで十分だ。
「田揩、私はあいつらの中に突っ込むから、君は後詰めを頼む。」
「え・・・でも・・・こちらの人数が少な・・・」
「大丈夫、私があんな奴らに負けると思うのか?」
そう言って、私はバイクを走らせる。
皆、敵に突っ込んでいくのは恐ろしいという、伯珪さまですら、そうなのだそうだ。
何故、私はそうじゃないのだろう?
私は狂ってでもいるのか?
皆、そんな私を賞賛しながら不気味がっている。
田揩も、こんな私を見たら、嫌いになってしまうのだろうか?
だが、敵が近づいてくると、そんなことはどうでも良くなった。
連中の一人を、バイクから叩き落としてやる、それで、怖じ気づいたか、あいつらは逃げて行く。
それを私は追い討つ、有る程度痛めつけてやった方が良いだろう。
そして、気付いたら、少し深追いしていた。
まずい、戻らなくては。
そう思ったとき、後方から悲鳴が聞こえた。
まさか、罠?
だとしたら、田揩が危ない。
そう気付いた瞬間、背中に悪寒が走る。
頭が上手く回らない。
血の気が引いていく。
これが、恐怖という物か?
気付けば、私は叫び声を上げながら引き返していた。
田揩・・・!
どうか、無事で。
――――――――私は、生まれて初めて、神に祈った。

872 名前:弐師:2006/02/19(日) 20:00
この娘達は、飛ばさせない。
元はといえば、私の油断のせいだ。
単経さんを追いかけて前進したところに、物影から彼らが襲ってきた。
なんとか一撃目は避けたものの、向こうの方が人数が多く、取り囲まれてしまった。
「皆さん!私のあとに続いてください!」
一点に集中攻撃、包囲をうち破る。
「皆さん、先に退いてください。」
「え・・・でも田揩さんは・・・」
「いいから!早く退いてください!」
私は一人残る、所謂「殿」と言う奴だ。

相手の木刀を摺り上げ、手元を打つ。
突っ込んで来るところに、突きを放つ。
面を打つふりをして、思いっきり逆胴を決める。
襲いかかってくる人たちをあしらっていく、だが、バイクの乗り方は向こうが上、段々押されてくる、まだ倒したのは二、三人程。
もう、無理か。
そう思ったとき、奴らの後ろから、白い学ランを着た男が現れた。
この人は、蹋頓!
烏丸工のナンバー2まで出てきちゃったか、これは私も年貢の納め時ってやつかな。
「ふん、なかなかの根性だな、気に入った。一騎打ちをしないか?子分には手出しさせない。あんたが俺と戦っている間は、あんたの部下の連中を追っかけたりしない。それでいいかい?」
「へえ、話がわかりますね。」
もちろん、ただの強がりだ。
怖い。
とても、怖い。
だけど、私が戦わなきゃ。
「はっはっは、可愛い顔して、言ってくれるねえ!」
何も言わず、私は隙を探す。
バイク同士での一騎打ち、向こうの方が運転技術が上なら、私は一撃に賭けるしかない。
「一撃に賭ける、か?いいぜ、来いよ。」
二人の間の緊張が高まる。
まだ
まだ
まだ――――――――
「よし!」
一瞬できた隙、そこに、私は迷わず突っ込んでいった。
胴を薙払う、しかし、それは紙一重でかわされ、学ランを裂いただけ。
そして、肩に響く一撃。
さっきのは、誘いか。
体が宙に舞い、次の瞬間激しく地面に打ち付けられる。
まずい・・・体が言うことを聞かない・・・
「惜しかったな。」
そんな声も遠く聞こえる。
蹋頓が、階級章に手を伸ばしてくる。
そこに、いきなりバイクが走り込んでくる。
単経さん!?
「貴様・・・よくも田揩を・・・許さん、絶対に許さんぞ!」
単経さん、駄目だよ。
そんな怒ってたら、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ・・・
「ほう、あんた、そいつの友達かい?」
「そうだ。彼女は、田揩は私の親友だ。」
え・・?今、私のこと親友って・・・
「そうか・・・」
新しく出てきた女の放った言葉。
親友。
俺には、使う資格のない言葉。
その言葉を聞いて、今も思い出すのは、俺が守ってやれなかったあいつ。
張純のこと。
俺がもう少し強ければ、あいつも烏桓高でやっていけたはずなのにな。
結局、あいつは此処にもいられなくなって鮮卑高まで逃げて、そこで・・・
くそっ!!
「よし、今日は、退いてやる。」
「な・・・!貴様!逃げるか!」
「勘違いするな、おまえなんかには負けないよ、それに、そんなことよりそいつを早く病院にでも連れていった方が良いんじゃないかい?」
「ちっ・・・」
「じゃあな。」
そう言って、彼は走り出した。
だが、暫くして振り返り、一言だけ、私たちに話しかけた
「親友は・・・大事にしろよ・・・」
その後、私は立ち上がりバイクにまたがろうとした。
だけど、もう意識も遠のいてきて・・・だ・・・め・・・だ・・・・・

873 名前:弐師:2006/02/19(日) 20:01
目覚めたのは、夕方。
清潔な部屋、真っ白なシーツ、此処は北平棟の保健室か。
そっか、あの後、此処に・・・
それまでの経緯を思い出そうと寝返りを打つと、そこにいたのは・・・
「単経さ・・・」
一瞬大声を出しかけたが、すぐに彼女が眠っていることに気がついて、口をつぐんだ。
期せずして凝視することになってしまった、単経さんの寝顔。
思わず、息をのんでしまう。
そこには、いつものクールさより、どこか年相応の可愛らしさを感じた。
「む・・・田揩、目が覚めたのか。」
「え、わ!その!」
今度こそ本当に大声を出してしまった。
恥ずかしい・・・
「よかった・・・本当に、良かった・・・」
しかし、次の瞬間には、彼女は涙を流し始めた。
またもや初めて見ることになった、単経さんの涙。
どうしよう、と思っていると、いきなり彼女から抱きしめられる。
「本当に・・・心配した・・・」
「・・・単経さん・・・」
初めて見る、彼女の無防備で、弱い部分。
そんな彼女の頭に、そっと手を置く。
「大丈夫ですよ、私はここに、ちゃんと居ますよ・・・」
「うん・・・」
「ほら、笑ってください!笑ってる単経さんの方が、綺麗ですよ?」
そう私が言うと、単経さんは、照れたように微笑んだ。
純白のカーテンの隙間から差し込む夕日が、彼女の微笑みを照らす。
それは、今まで見たどんな物より、綺麗だった。

874 名前:弐師:2006/02/19(日) 20:03
ども、宣言と全く関係ない物を書いてしまいました・・・

>冷霊様

二人の先輩達の覚悟が格好いいです。
に、しても!
楊 懐 さ ん の 初 陣
 
気になりますねーw

ぜひそちらも読んでみたいですね。


>北畠蒼陽様

いいですね、夏ですね、堪りませんね!(何が?

な ん で わ ざ わ ざ 建 業 棟 ま で 泳 ぎ に 来 る の か し ら ?


がつぼにはまりましたw
諸葛誕さんもかわいくていやなんとも・・・

本当に夏が待ち遠しくなってきました。


>海月 亮様

凄まじい逃走劇の中、丁奉さんの部屋に集まってしまった皆様方と、仲謀さんと仲翔さんのほのぼのさが最高です!
特に仲謀さん、萌え殺されるところでしたよあなたw


こんな感じの季節ネタが書けるのは流石ですね。
堪能させて頂きました。

あと、関靖!良かったです!
ちょうど私の中のイメージとぴったりですよ!
ありがとうございました。

875 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 22:34
>弐師様
いやいや、貴殿こそGJでござるよ(<何時の時代の人間だw
というか女の子同士の友情は萌えるのでつよ。
不器用なふれあいが何時しか絆に変わる、その過程がよいのです。


で、私なんぞはそれが無残にも砕け散る一瞬もまた好きだとか(オイ
そしてそれがまた新たな絆を生むとかだったらもうさらに以下略w


余談ですが…。
馬忠(阿撞)と蘇飛がどうなったのか知りたい方は>>431を、
甘寧&呂蒙&魯粛がやらかした悪事wについては>>385を参照のこと。

引用失礼。

876 名前:海月 亮:2006/02/19(日) 22:37
いやまて、>>431は「参照」じゃないな。「参考」ですなw


あと関靖が御気に召していただけたようで一安心でつ^^A

877 名前:北畠蒼陽:2006/02/19(日) 23:43
>海月 亮様
のー、バレンタイン! バレンタインですから!
蒼天長湖部方面軍の連中のバレンタインは……諸葛誕くらいしか思い浮かばないなぁ。あの子に彼氏がいるのは私の中では確定だし(ぁ
あぁ、毋丘倹は多分チョコは作るけど渡せないの。乙女だから。
あ、そうそう。最近思いついたネタで丁奉使いたいと思ってるんですが、丁奉はいつごろから悪丁奉ちゃん予定です? 悪丁奉ちゃんvs某人をかいてみよーかなー、と(笑

>弐師様
ごきげんよう、三国志大戦で公孫サンだけはどう使っていいのか見当もつかない北畠です。というか使ってる人見たことないしっ!
劉虞に至っては登場すらしてませんっ!
あと昔は単経のほうな娘が好きだったものですが最近は田揩のようなストレートな子の可愛さが身にしみるお年頃で、あぁもう!
とりあえずgjですよー。

878 名前:海月 亮:2006/02/20(月) 08:17
>豹変の話
うーむはっきりとは考えてませんが…諸葛誕が飛ぶ頃かも。
帰宅部消滅の頃には間違いなく変わってるかと。


これまでバレンタインという大ネタの主役って言えば関羽だったからなぁ…。

879 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:25
「……聞いてるの、承淵」
黎斐が声をかけてくる。
うるさい。うるさい。うるさい。
他人の戦場に駆り出されてなにをしろというんだ。
ふざけやがって。どいつもこいつもどうせ私の前から去っていってしまうんだ。
強くならなきゃ……
もっと……強くならなきゃ……


新陰流の系譜


眼前の戦場の様子に丁奉は鼻で笑い飛ばした。
まるでお遊戯……
蒼天会はトップクラスのメンバーを総動員してこの戦いに挑んでいる。
こちらはそれに引き換えはるかに小勢。
蜂の一刺しでどの程度のダメージが与えられるものか。
季文もこんなどうでもいい戦いの責任を押し付けられてかわいそうに。
校舎を見る。
あの校舎に立て篭もっているのは今まで敵だった人。
諸葛誕先輩。
蒼天会の中で……蒼天会の今の三年生世代の中でずば抜けて軍事的才能がなく、しかしその圧倒的な政治力を駆使して長く長湖部のマウントを取り続けた女性。
そして毋丘倹の乱で長湖部に身を寄せた文欽先輩もまたあの分厚い包囲網の中にいた。
どうということはない、もともとは蒼天会の内部分裂。
こんなどうでもいい場所でなぜトばされなくてはならないのか。
丁奉はあきれたようにため息をつく。
「季文からの伝令よ、承淵。できるだけ包囲網を崩して欲しい、って」
黎斐が返事もしない丁奉に気分を害したように、それでも事務的な口調で伝えた。
「はぁん? これを抜けろっていうの?」
季文もよほどテンパってるらしい。
まぁ、いい。やれるところまでやるだけ、だ。
そう思い木刀を握った丁奉に1人の人影が飛び込んできた。
それは戦場から離れたところにたった1人でたたずんでいる人だった。
戦場の様子を遠めに見ている一般生徒……
一見そう見える……だが……
丁奉の唇が獰猛な笑みを形作る。
「……承淵?」
丁奉の様子を不審に思ったのだろう、黎斐が声をかけてくる。
「あぁ、黎斐。ちょっとだけ出かけてくる……包囲網の切り崩しはそのあとね」
「ちょ……ちょっと!」
黎斐の呼び止める声にもかまわずに丁奉は駆け出していた。

880 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:26
彼女はどんな思いでこの戦場を見ているのだろう。

丁奉が彼女のそばに近寄ったとき……彼女は遠めに見たときと同じ佇まいでそこにいた。

彼女の目にはなにが映っているのだろう……?

「なにかしら……? 私はただの一般生徒よ」
すでに丁奉が傍によっていることに気づいていたのだろう、背を向けたまま彼女は丁奉に問いを発する。
「今はただの一般生徒だろうとなんだろうと……あなたの名前には意味があるんですよ」
丁奉の言葉に彼女はゆったりろ振り返る。
その顔は不思議なものでも見るような表情が浮かんでいる。
「私の名前に意味?」
……蒼天章なんてすでにないのに、わずらわしいことね。
苦笑を浮かべる彼女。
「有名税ってやつですよ、毋丘倹先輩」
丁奉の言葉に彼女……毋丘倹は苦笑を濃くする。

長湖部に身を寄せた文欽先輩はことあるごとに言っていた。
お前の剣は毋丘倹にははるかに及ばない、と。
同じく新陰流を使うものとして毋丘倹という名前は知っていた。
……私よりも強いのならなぜそうそうにリタイアなどするのか。
私はまだ、ここにいる!
文欽先輩の言葉はただの身内贔屓だろう。
毋丘倹先輩は弱いから、弱いからリタイアすることになったのだ。
弱いから……リタイア……
私の脳裏に誰よりも強くて、でも病気を押して戦場に立ち……私を生かして自分はリタイアした人の姿が浮かんだ。
爪を噛む。強く。強く。
私はその人よりも強いことを証明しなければならなかった。

「それで私にどうしろっていうのかしら。私もそろそろ帰って受験勉強でもしたいんだけど」
困ったように毋丘倹は首をかしげる。
受験勉強……あまりにも眼前の戦場にそぐわない単語に丁奉はあきれたような顔をする。
「勉強もせずに、こんなところにいていいんですか、先輩」
「そう。そうね……」
丁奉の嫌味に、しかし毋丘倹は再び戦場に目を向ける。

「これが……蒼天会3年生の最後の光だからね。私もあの中にいた人間として看取ってあげなきゃいけない」

881 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:26
戦場を眩しそうに見つめる毋丘倹に丁奉は黙り込み……そしてやがて口を開く。
「……るだけですか?」
「ん?」
聞き取れなかった毋丘倹が顔を丁奉に向ける。
「看取るだけですか!? それじゃああんたはただの弱虫だ!」
戦ってる仲間がすぐ傍にいるのに……力があるのに助けようともしない。
ただ見ているだけ!
「私はすでにリタイアした身よ」
苦笑を浮かべる毋丘倹。
「……まぁ、それでもあなたが言うように出ていきたくなるわ。手を差し伸べたい。助けたい」
毋丘倹は言葉を切り……そして再び戦場を眺める。
「でも絶対に助けない。私がいないことを前提で全力で戦ってる親友を侮辱することになる」
「……理解できません」
丁奉の呟きに毋丘倹は肩をすくめる。
「別に理解する必要なんてないわ。考えずに感じろ、なんていうつもりもない。ただそんなもんなんだ、って思っておけばいいわ。さて……」
毋丘倹はゆっくりと丁奉に体を向ける。
「あなたは誰? そして私になんの用かしら?」

なんの用……そんなことなどわかりきっているのだろう。
冬の朝の空のように澄み切った純粋な闘気が風のように丁奉に向かって吹きつける。

これが……これが在校生最強の新陰流の使い手か……

額を汗がつたうのを感じる。
「長湖部虎威主将、丁奉、です」
「あぁ……あなたが、あの……」
眉をぴくんと上げる毋丘倹。
「蒼天章を返上した人間にもケンカを売られれば買う権利くらいはあるのを知ってるわよね?」
「えぇ、そのために売ってますから」
丁奉の答えに納得した表情の毋丘倹。そして……
「!?」
毋丘倹がすばやく太刀を振りぬき、丁奉の右手首を打ち抜く。
丁奉は2歩下がり木刀を構え臨戦態勢に……

毋丘倹先輩は太刀など最初から持っていただろうか?

毋丘倹は最初となにも変わらずポケットに手を入れたまま、そこに立っていた。
「ただのフェイントだから気にしなくていいわよ」
かといってなにも反応されなかったら悲しいものがあるけどね……そういいながら苦笑する毋丘倹。
反応しないでいられるものか。あんなに純粋な殺気をフェイントに使うなんて。
しかし丁奉は顔に笑みを浮かべる。
これだ。
こいつに勝ってこそ私は今よりも強くなれる。
「先輩のエモノがないですね。どうしましょう?」
構えを崩さず、また呼吸を精一杯に落ち着かせながら丁奉は毋丘倹に尋ねる。
「あぁ、いらないわ」
毋丘倹は気軽に答えた。

882 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:27
「……無刀取りでも気取るつもりですか」
上泉伊勢から柳生石舟斎に伝えられた新陰流の極意。
「まさか。あんなのが使えるのは歴史に名前を残すようなバケモノだけよ」
にっこりと笑いながら……
「でも状況を見て利用する、って技術は私程度でもできるわ」
足元の砂を蹴り飛ばす。
こんなものを目くらましにするつもりか。バカにしてッ!?
バックステップしてかわそうとする丁奉の正面……砂煙の向こうから斧のようなものが振り下ろされるイメージ。
慌てて目を向ける。
そこには砂煙を抜け……砂を蹴り飛ばすのと同時に全力で前進していたのだろう毋丘倹が拳を握っていた。
間に合わない!
丁奉は迷わず木刀を捨て、正確に心臓を狙って打ち出される正拳をなんとかガードする。
自分からジャンプしてパンチの衝撃を殺してなお、丁奉のガードした腕に鈍痛が走る。
「あぁ、決めたつもりだったんだけどなぁ」
ぼやくように言う毋丘倹。
「まぁ、そっちも木刀を失ったわけだし、よしとしましょ」
足元に転がる木刀に見向きもせず再びポケットに両手を入れる。
小細工と圧倒的な力。
これが蒼天会最強の戦乙女、毋丘倹。
丁奉は深呼吸する。
間合いは槍の間合い。剣には遠く、ましてや無手の間合いではない。
しかしさっきの毋丘倹のダッシュを見る限り、彼女であればこの間合いを一瞬で詰めることが可能だろう。
……そこまで考えて丁奉は舌を巻いた。
なるほど、さっきのダッシュを見せ付けたのはこの間合いを自分が一瞬で詰められることをアピールし、警戒させるためか。
一挙手一投足に意味がある。ではなぜそれをアピールしなければならないか。
……恐らくは……
ふっと、丁奉の力が抜ける。
「?」
そして構えを解き、ゆっくりと毋丘倹に向かって歩を進めた。
「なるほど。ばれちゃったか」
毋丘倹が苦笑を浮かべる。
あの距離は本来の毋丘倹の間合いではないのだろう。
ただあの間合いを嫌って不用意に丁奉が近寄ることがあれば自分の間合いに入った瞬間に牙を剥く。
「先輩、お互い忙しい身ですし一撃だけで決めましょう」
「賛成だわ」
丁奉が立ち止まる。
毋丘倹が薄く笑った。

何の前触れもなく……
2人が交差する。

「こっちの……勝ちです」
丁奉の拳が毋丘倹の心臓を捉え寸止めされていた。
「そうね。あなたの勝ちよ」
毋丘倹は微笑む。
勝者と敗者が決定する。
風が吹いた。
「戦場はまだ止まらないわ。あなたは自分の剣を振るえる場所に行きなさい」
毋丘倹の言葉に丁奉は頷いた。

883 名前:北畠蒼陽:2006/02/27(月) 05:27
特になんでもないんですがあれですよ。
ねぇ? えっと……ごめんなさいorz

884 名前:海月 亮:2006/03/01(水) 19:04
>北畠御大

( ̄□ ̄;)
や…やられた…



おいらが「孫皓排斥計画」のクライマックスに考えてるのってこういう展開ですよまさに。
まぁキャストは違うんですけどね^^A



だんだん「排斥計画」の構想が固まってきたので、いずれリンク先だけ持ってきます。
此処に本文うぷしたらものすげぇレス数食いつぶしそうだし…ww

885 名前:冷霊:2006/03/04(土) 20:34
葭萌の夜 〜白水陥落・壱〜

「劉備が帰る?それホントなの?」
高沛がページをめくる手を止める。
「ああ、何でも荊州校区の方でトラブルがあったそうだ」
楊懐が何やら作業をしつつ答える。
「確か蒼天会の侵攻でしたっけ。皆、その話題で持ち切りですよ?」
劉闡が稽古の手を休め、棒を傍らに置く。
「え?あたしは長湖部が荊州返せってもめてるって聞いたけど?」
「あれ?そうなんですか?」
高沛の言葉に首を捻る劉闡。
「うーん、あたしはそう聞いたんだけど……」
高沛も劉闡に続き、首を捻る。
「どちらにせよ、帰ってもらえるのなら幸いだな。戦力の低下は免れんが、皆が落ち着くのは確かだ」
楊懐が静かに呟く。劉備が来て以来、益州校区では全体的に落ち着きが無かった。
葭萌門や白水門だけでは収まらず、成都棟よりはるばる劉備の顔を見に来た生徒もいた。
一方の劉備も益州校区への挨拶回りをきちんとやっており、益州校区の大半の生徒が劉備の顔がわかる程だった。
「じゃあ、帰る前にもう一回くらい挨拶しといた方がいいかもね。世話になったのは事実だしさ」
「そうですね。それなら何か、手土産とか準備した方がいいですか?」
「んー、そうだね。今の季節だと蜜柑とか温泉の素とかでいいかな?」
高沛が蜜柑を手に取る。そのとき、がらりと扉が開けられた。
「楊懐いるー?」
「あ、孟達さん」
入ってきたのは孟達、現在は法正と一緒に葭萌門の劉備の手伝いをしつつ目付役を務めている。
「劉闡も一緒?なら丁度良かったわ」
「ほうひはほ?ははひはひひはひは……」
「高沛、飲み込んでから話せ」
楊懐が冷静に言う。
「えっと、どうなさったんです?」
劉闡が孟達に駆け寄る一方、高沛は口一杯に頬張った蜜柑を何とか飲み込もうとしていた。
「三人に招待状だそうよ、ホラ」
孟達は足を止めると、駆け寄ってきた劉闡に招待状を差し出した。
「劉備が荊州に帰るって話は聞いてるわよね?」
「聞いた聞いた。荊州の方で何やら揉め事だって?」
高沛がごろりと寝転がり、孟達を見上げる。どうやら炬燵から出て来るつもりはないらしい。
「そう。だから、世話になったお礼も兼ねてパーティーを開くそうよ。」
「パーティーですか?そんなこと、わざわざして頂かなくてもいいのに……」
劉闡が招待状を受け取り、申し訳なさそうに小さくなる。
「タマも来るのか?」
楊懐がふと疑問を口にした。
「急な話だったから劉璋さんは来れないみたい、残念だけど」
孟達が小さな溜息をついた。楊懐は耳だけを傾けている。
「その代わりってわけじゃないけど、それも兼ねて劉闡には是非とも来て欲しいって言ってたわよ」
「わ、私もですか?」
自分の名前を呼ばれ、思わず声が裏返る劉闡。
「えっと、私はその……」
劉闡が申し訳なさそうに楊懐達を見やる。
「三人にって言ったでしょう?今夜はもちろん空いてるわよね?」
孟達が高沛を見下ろす。
「うーん……見張りは皆に任せてもいいし、問題無い……かな?」
高沛が首を傾げ、楊懐の方を見やる。
「……ん?ああ、必ず行く」
楊懐が腕組みを解き、孟達に視線を移す。
「わかったわ。それじゃ、今夜六時に葭萌門に来て頂戴ね」
「りょうかーい」
高沛が手をひらひらと振って、孟達の後姿を見送る。
「高沛さんどうしましょう!?お土産の準備とかまだ出来てないですよ!」
劉闡が戸棚や冷蔵庫の中身を慌てて確認する。
「お土産ねぇ……どうしよっか?身嗜みも整えないといけないし……っと、楊懐」
「ん、すまない」
高沛が楊懐に櫛を放り投げる。楊懐は櫛を受け取ると、鏡台に向き直る。
「六時から、か……」
長い髪を梳かしながら、楊懐は再び呟いた。

886 名前:冷霊:2006/03/04(土) 21:18
いよいよ白水門の本編開始してみました。
遅筆ですがのんびりと書き連ねております。
三部構成のつもりですが、勢いとノリによっては増えるかもですw

>北畠様
血を血で洗う展開ですかー……
ある意味では緊迫した展開になりそうな気がしております。
血が流れるかどうかは……予定は未定ということで。

それにしても建業棟までわざわざ行くとはw
諸葛誕も諸葛恪も何だか苦労性な印象を受けつつありますw
暑いのは苦手ですが夏はやはり好きですねぇ、イベント事も結構多いですし。

>海月様
バレンタイン、甘いものが苦手な人にはつらい日ですね。
ふと蒼天で最も多くチョコを受け取っているのは誰かと気になってみたりw
孫晧排斥計画ですかー……三国志の終盤のイベントですから気になっております。

>弐師様
単経に田楷とは……やられました。
公孫サン陣営への印象が次々に変わっておりますw
激しくGJですよー。

楊懐の初陣に関しては劉焉周りを暖めてからになるかもですね。
過去ログより劉焉周りをしっかりと調べておかねばですね。

887 名前:海月 亮:2006/03/05(日) 01:34
>冷霊様
お、白水門の攻防ですな。
この展開を見ると、かなり濃いものが期待できますな。


あと、バレンタインの話
>>431もそうですが、過去ログ読むと恐らくは関羽かと。あと張任かな。

そして私・海月は甘いものは好きだけどチョコは苦手というひねくれものです^^A

888 名前:弐師:2006/03/05(日) 11:20
今日もまた、屋上でうたた寝をする。
つまらない授業をほっぽりだして、私はここに来ていた。
授業が解らないのではない、解るから、つまらないのだ。
あんな風に、他の人たちにも解るように、ゆっくり、丁寧に進んでいく授業など、つまらない。
もちろん教師達は正しい、わかりやすいように教えるのは、彼らの仕事であり、それが当然の事なのだ。
それに馴染めない、私が異端なのだ。
まあ、だから、というわけでもないのだけれど、いつしかここで、授業をさぼって一人で寝るのが習慣となっていた。
一人で、
そう、独りで。
「あれ、其処にいる人、どなたですかぁ?此処は立入禁止だよ?」
うとうとしているところに、急に声を掛けられ、そちらへと顔を向ける。
其処にいたのは、栗色の髪の少女。
そうだ、この人は確か・・・
「棟長さんの妹さんか、こんな場所に何の用?」
そう、彼女は確か公孫越と言って、この北平棟の棟長である公孫サン先輩の妹だった。
「えっとね、「授業をさぼってばっかりだけどテストの点は良い」って言う人類の敵見たいな娘が私の同級生に居るって聞いたからね、探してたんだ。よろしくね
厳  綱  さ  ん  ?」
にっこりと、挑発するかのように微笑む彼女。
ご丁寧に、私の名前の部分にアクセントをつけてくれた。
なにが「どなたですかぁ?」だ、まったく。
最初から私目当てか。
棟長の妹って言うから、ただの真面目な娘かと思ってたが、なかなか、食えない娘じゃないか。
面白い。
「ふふ、人類の敵とは言ってくれるじゃない。」
「だって、そうでしょう?私みたいなお馬鹿さんには貴女の存在はもはや犯罪だよ?」
また嘘?
この娘は、一年生どころか、上級生にも負けないほどの知謀を持っている。
ただ、それを表に出さずにこにこしてるだけ。
ほんとに面白い娘。
「で?結局何の用?人類の敵をやっつけにきたのかしら?」
「まさかぁ、そんなことしないよ。ただね、会いたかったの、厳さん、あなたにね。」
それから毎日、彼女は屋上に来た。
くだらない言葉遊び、だけど、どこか私のことを探っている。
そして、ある日彼女は遂に私に自らの目的を打ち明けた。
「ねえ、私のお姉ちゃん・・・公孫伯珪に仕えない?」
何だ、結局それ?
実を言うと、同じ事を劉虞先輩のところから言われていたのだ。
劉虞先輩は、優しく、慈愛の心にあふれた、女神のような――――――――
――――――――そんな、とてもつまらない人。
だからといってそんな彼女と真逆な公孫サン先輩に協力する気もない。
正直、興醒めだ。
「興味ないわね、他の、もっと真――――――――

他の、もっと真面目な人にでも言ってみたら?
そう言いかけたところに、彼女の声が割り込んできた。
始めて会った時みたいな、誘うような声で――――――――

「退屈なんでしょ?」

タ イ ク ツ ナ ン デ シ ョ ?

「別に?何でそう思うのかしら?」
動揺を悟られないように、慎重に声を絞り出す。
とことん、面白い娘だ、的確に心を攻めてくる。
「嘘・・・ふふ、厳さん、嘘は良くないよ?」
「誰が嘘なんてっ・・・!」
思わず声を荒げてしまう
「ほらぁ・・・そんなに怒らないの。可愛い顔が台無しだよ?ふふふ・・・」
ちっ・・・危うくこの娘に乗せられるところだったわ。
「解るよ、だって、私も退屈だったからね・・・
くだらない授業、くだらない友達、くだらない毎日。そうでしょう?
何もかもつまらない、世の中馬鹿ばっかり、何か物足りない・・・
・・・貴女は飢えている、渇いている。」
自分の満たされない心を見透かされ、思考回路が破裂寸前になる。
「だから、どうだと言うの。」
そう言って私は、彼女から顔を背ける、私にできる抵抗は、最早それだけだった。
しかし、彼女はそんな私の顎をつかみ、自分の方に向け、私にとどめを刺すように、耳元で囁いた。



「私なら、貴女の心を満たしてあげられる・・・」


よく小説などで、悪魔の誘惑と言う物がある、まさしくこんな感じなのだろう。
この錆び付いた心に、熱い血が通っていく。
もう、止められない。
「わかったわ、だけど、貴女のお姉さんの為じゃない。私の渇きを満たすため。
それでいいかしら。」
「ふふ・・・御自由にどうぞ。よろしく、厳さん。」

面白い事になった。
これが、私の望んでいたことなのだろうか?
いや、そんなこと、どうでも良い。
今、私は楽しんでいる、こんなにも愉快な思いは初めて。

それだけで十分だろう――――――――

889 名前:弐師:2006/03/05(日) 11:21
>北畠 蒼陽様

格好いい承淵アンド毋丘倹に萌え燃えですよw
後期の人たちは殆どわからないので、毎回イメージが塗り替えられていきます
にしても、やっぱり一瞬の勝負っていいですね。
自分も剣道をしてるのでそんな緊張感大好きです。
にしても三国志大戦の公孫サン・・・イラストはとても男前なのに・・・
劉虞に至っては登場すらしてないとは・・・
まあ、でも董卓も袁紹もいるようなので、そちらに望みを・・・

>海月 亮様

孫晧排斥計画、楽しみにしてますです。
呉は自分も好きなので。
張布・濮陽興でしたっけ?廃位しようとしたのは。
間違ってたら済みませぬ・・・


>冷霊様

白水門、来ましたね。
いままであまり注目してなかった東州の皆さんの物語から目が離せません。
印象が次々に変わっているのは私もですw





にしても、我ながら何故越はこんなキャラに・・・orz

890 名前:北畠蒼陽:2006/03/05(日) 16:23
>冷霊様
きたきたきたきたぁぁぁぁぁッ!
うふふ、これからが楽しみな展開じゃありませんか。
血なんて流さなくてもそれ系の展開でおなかいっぱいですよ。
うぅふ、楽しみ。がんばってくださいね!

>弐師様
んー、これまた私好みのナンパですね(ぇー
越っちゃんがまたもう、いい雰囲気じゃないですか!
GJ!なのですよー!
ちなみに今、董卓は大ブレイク中のカードでネコも杓子も董卓って感じです。なので使ってあげません(笑
袁紹はあんまり人気がないカードですけど弱くはないですよ〜。今、試行錯誤してなんとか使おうと必死になってます(笑

891 名前:海月 亮:2006/03/05(日) 18:36
>弐師様
悪魔の囁きは何処までも甘いのですな( ̄ー ̄)
私もこういう展開大好き。いやマジで。


そして廃位計画の話。時代的には、
1.濮陽興、張布
2.陸凱、丁奉、丁固
の順です。1は決行前に孫皓がふたりを粛清して、2は実行には至らず終っています。

以降はぐだぐだで、万揩烽モと不満を漏らしたのが原因で留平もろとも粛清されています。
そのあとにも賀循、楼玄、王蕃といった連中が孫皓の逆鱗に触れて殺されていますが・・・
陸凱の件にしても、陸凱伝に触れられているのみで、真偽のほどははっきりしてないんだそうですよ。

まぁだからこそいじくり甲斐があるわけでwww

892 名前:弐師:2006/03/11(土) 17:57
あ〜あ、暇だなぁ。
私は、いつも厳さんで遊んでる屋上に寝転がって、空を見ている。
仕事が、無い!
私たちのルールは「自分の仕事は自分で、己が領分を越えるな」なので、自分の仕事が終わるとかなり暇だ。
仕事中の厳さんでもからかって遊ぼうかな?
あ、単さんだ、どうしたんだろ。
あの人は厳さんと違って乗りが悪いからなぁ、冷静すぎてつまんない。
弱点の田さんも弄りにくい人だし・・・
そんなことを勝手に考えていると、彼女は私を見つけて話しかける
「おや、越君じゃないか、伯珪さまが呼んでいたぞ。」
「え、本当ですか?ありがとうございます。」
よかった、このままだと暇で暇で死ぬところだった。
跳ね起きて、一直線に階段に向かう。
「じゃあ、失礼します!」
「あ、ああ。」
まったく、相変わらず元気な娘だな。
だが・・・何か彼女には引っかかるところがある、何が、とは言えないが、彼女は自分自身を隠している気がする。
その時、一陣の風が、吹き抜けた。
まるで、彼女のことを、私の頭から追い払おうとするかのように――――――――



「お姉ちゃん、入るよ?」
「ああ、越。よく来てくれたね。」
そう言って、お姉ちゃんはいつものように私に微笑む。
本当に、この人は私の誇りだ。
「それで、用というのはだな・・・」
言いにくそうに、お姉ちゃんは私にそれを告げた。
袁術先輩への、使い。同盟の強化のために白馬義従の人たちを十人くらいつれて、彼女の元へ行くということだった。
はあ、あの人のところに行くのか。
お姉ちゃんは、私が彼女に好意を抱いてないのを知っているはずだけど。
「そう嫌そうな顔をするな。仕様がないことだ。劉虞さんも自分の妹を送ったんだ。
本来なら範に行ってもらうところだが、生憎範には張燕さんの所に行ってもらっているから。」
「うん、わかってる、せいぜいあのお嬢様のご機嫌を損ねないように気をつけるよ。」
「ああ、済まないな。頼んだよ。」
「ふふ、任せといてよ!」
そう言い放って、私は棟長室を飛び出した。
よし!やりますか!



疲れた。
全く、確かに以前よりはずっとましだが、デスクワークはつまらない。
やはり人間嫌なことをしたら疲れるわけで・・・
「あ!厳さん!もう仕事終わったの!?凄いね!早いね!」
疲れてるときにはあまり会いたくない奴が来た・・・
なんでこんなに元気なんだこいつは・・・
「えっと、まあ、何て言うか、とりあえず越、落ち着け。」
「だって、これからお使いだよ、テンション上げないと!」
「え?」
それは初耳だ、いったい誰の所に?そう言えば、詔勅が出たとか言って劉虞先輩が袁術先輩の元に兵を送ったらしいが・・・ならば袁術先輩か?
「そうだよ、その通り。袁術先輩のとこ。」
「そうだったんだ・・・って私は何も言ってない!」
「ふふ、顔を見れば分かるよ。」
こいつは・・・本当に疲れる。
でも、逆に言えばこいつぐらいしか私を疲れさせられるような奴は居ないし、それはそれでいいのかも。
って何を考えてるんだ、私は。
「じゃあ、いってきま〜す!お土産はいらないよね?」
そう言って、あいつは笑い、私に背を向ける。
あたりまえでしょう、と言い返そうとしたが、その言葉は胸に詰まって出てこなかった。
何故か、あいつが帰ってこないような気がしたから――――――――
私が何も言えないでいると、あいつは不思議そうな顔をして振り向いた。
「ん?どしたの?」
「いや、その・・・ちゃんと、帰ってきてね。」
「おやおやぁ?ラブコールですか?わかりました!厳綱姫!必ずこの公孫越、貴女の元に!」
「違っ・・・別にそんなつもりじゃ・・・!」
「ははは、わかってるよ、安心して。私は、ちゃんと戻ってくるから。」
静かに笑いながら、あいつはそう言った。
だけどその笑顔が、さっきの背中以上に儚く見えて、私は、目を背けた。
「どうしたの?赤くなっちゃってさ。」
「うるさい!元はといえば貴女が・・・!もう、知らない!とっとと行けばいいでしょう!」
「ふふ、はいはい、言われなくても行きますよ〜。」
そう言って、いつもの意地の悪い笑顔で走っていった。
大丈夫だ、きっと私の杞憂で終わる。
あんな憎たらしい奴が、そう簡単に飛ばされるはずはない。

きっと・・・そうだ。

893 名前:弐師:2006/03/11(土) 17:59
> 北畠蒼陽様


とりあえず、越を気に入ってもらえたようで。
董卓大ブレイクですか、それはそれで楽しそうですね。
そして袁紹はあんまり人気が無いんですかそうですか・・・
とりあえずルールとか全然分からずにイラストだけで判断してますw
魏続が妙に格好いいのがツボですw


>海月 亮様

ふむふむ、勉強になります。
丁奉さんは好きなんですが、陸凱さんなんかは海月様の紹介で初めて知りました。
呉は2代目世代はあまり分からないです・・・
では、期待しています!

894 名前:雑号将軍:2006/03/12(日) 15:10
えーと、その…はじめましてじゃないけど、はじめまして。雑号将軍です。
皆さんの作品、読ませて頂きました!

> 北畠蒼陽様
なんか、毋丘倹格好良くないですか!?これはもう、三國志\の毋丘倹の武力と統率を90に編集するしかないですね!
お見事でした。

>冷霊様
お見事です!白水関をここまで再現されるとは!そんな偉そうなこといいながらも、僕は演義でしか白水関のあたりは知らないんですけどね。
これからの展開に期待しておりまする。

>弐師様
それがしめも越殿はお気に入りとなりました。いや横山三国志でも「兜(ていうかツノ)がいいなあ」と一人で思っていたのですが、今度はこのなんとういうのか小悪魔な感じがよいですなあ。

それがしめも何か書こうと思うのですが、難しいものです…。大学受験と言う名の戦に巻き込まれ始めたので…。

895 名前:冷霊:2006/03/22(水) 14:26
葭萌の夜〜白水陥落・弐〜

夕日がもうじき沈む。
「もうすぐやな……」
劉備は一人、夕日を見つめながら呟いた。
「悪いけどウチはここで止まるわけにはいかへん……」
ぐっと拳を固める。
それは皆の誹りを受けるかもしれない恐れとそれに対する覚悟の表れであろうか。
士元とも十分に話し合って決めたことだ。
だが、ここまで着実にやってきたが為に踏み切れない。
「孔明なら……いや、気にしてもしゃあないな」
ふと漏らす一言。士元が頼りになるのもわかっている。
だが、それ以上に孔明という存在は彼女の中で大きくなっていた。
「姉貴、どうした?」
不意に後ろから影が差す。
「ん?いや、次は誰のネタで行こうか思うてな」
劉備は振り返り、劉封にニッと笑ってみせる。
「次のネタねぇ……」
劉封は少しだけ腕組みをし、考え込む。
「そうだ。法正さんや孟達さんとかどう?」
「孟達はもうちょいしてからの方がええやろ。法正は……一考の余地はありそうやな」
何やら笑みを浮かべつつ手帳に書き込む劉備。
「お。ここにいたんだねぇ」
後ろから声がかけられる。
「ホウ統はんか。どないしたんや?」
劉備が振り向く。そこにいるのはホウ統だった。
今回の張魯征伐……いや、蜀攻略の軍師である。
「劉備さんにお客さんさね。なんでも孟達さんが話したいことがあるんだとさ」
「孟達が?今頃何の話やろ?」
手帳を仕舞うと劉備はホウ統に目を向けた。
「ま、一応聞いといてやりなよ。いい報せだといいねぇ」
ホウ統はくいと管理棟の方に視線をやる。
「管理棟やな?わかった、すぐ行く」
劉備は歩き出そうとして、もう一度だけ夕日の方を振り返った。
「姉貴?」
劉封が止まった姉を怪訝そうに見やる。
すると突然、劉備がパァンと己の頬を叩いた。
劉封が驚きの表情を見せる。
「ウチはウチのやりたいことをやる……それだけや」
ぼそりと呟き、劉備は葭萌門へと向かう。
「そう、うまく行けばいいんだけどねぇ……ホント」
劉備とその後ろを付いて行く劉封の姿を見送りつつ、ホウ統は呟いた。

896 名前:冷霊:2006/03/22(水) 14:31
葭萌の夜〜白水陥落・参〜

「孟達、首尾はどないやったん?」
「問題無しね。三人とも慌てて準備してたわよ」
「そうか?そんなら大丈夫やな」
葭萌門管理棟。
部屋には劉備と孟達の二人きり、劉封は只今お茶を注ぎに行っている。
「で、話したいことってなんや?なんぞ、向こうさんの情報でもあるんか?」
孟達が僅かにかぶりを振った。どうやら情報を持ってきたわけではないらしい。
僅かに息を吸う。そして孟達ははっきりとした声で言い放った。
「蜀を取った後、貴方はどうするつもり?」
部屋の空気が止まる。
一瞬だけ孟達の視線を正面から受け止め、劉備は口を開いた。
「蒼天会に対抗出来るだけの勢力を作るだけや。蒼天会や長湖部の連中とは肌が合わんしな」
真面目な口調。滅多に見せない表情に、孟達は僅かに息を呑んだ。
「そやけど……」
不意に口調ががらりと変わった。
「ウチの周りにおる奴等と楽しい学園生活を送る。これが一番の目標や」
劉備がニッと笑ってみせた。
「その為やったらウチは何でもしたる。それがウチらの夢やからな」
本心からの台詞なのだろう。孟達にもそれが伝わっていた。
鬼にも仏にもなれる人物……それが劉備なのだと。
「なんや?劉璋はんの心配しとるんか?」
一瞬の間。
「ま、まあね。していないと言ったら嘘になるわ」
孟達は視線をそらし、窓の外に目をやる。外は次第に暗くなりつつある。
「そやなぁ……劉璋はんには雲長と一緒に荊州棟でも頼もうか。あっちなら治安もええし、劉璋はんには合うてると思うで」
劉備は立ち上がり、窓から外を眺めた。孟達の反応はない。
「なんや?安心してぇな。もちろん、東州のこともまとめて面倒見るつもりやで」
その言葉を聞いた途端、孟達の顔から表情が消えた。
ギィンッ!!
次の刹那、劉備のハリセンは孟達の短杖を受け止めていた。
「劉備……やはり君とは分かり合えない」
「そら残念やったな。東州の纏め役をオトせたら楽やったんやけどなぁ」
素早く両者は距離を取る。
「多分楊懐はんの方やろ?アンタならウチのこと、わかる思うてたんやけどなぁ」
残念そうに呟く劉備。孟達がマスクを掴み、剥ぎ取る。その下から現れたのは楊懐の顔。
「分かっているつもりだ……だからこそ渡せない」
楊懐は短杖を構え直す。
「そんならどうして劉璋はんにこだわるんや!今のやり方やったら益州は……」
「わかっている」
きっぱりと、しかし強い口調で言い切った。
「今のままでは蒼天会どころか張魯にも勝てないだろう。タマは益州校区を統べる器ではない」
「うわ、きっついなぁ……」
劉備が軽く苦笑いを浮かべる。
「だが……」
楊懐が再び口を開く。
「行き場の無い私達に場所をくれたのが君郎さんだった。趙イさんが私達が問題起こしたから追い出そうとしたとき、タマは言ってくれた。私達はここにいてもいいのだ、と」
両者の間に流れる緊張した空気は変わらない。
「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」
静かながらも強い口調。
「例え、ウチらが益州校区を劉璋はんに任せる言うてもか?」
劉備が一瞬、窓の外へと注意を向ける。
「タマと君、どちらが優れているかは自明の理だろう?頭は二つも要らない」
「それは関しては同感やな」
楊懐と劉備、互いに笑みを浮かべる。
だが、両者の瞳は真剣そのものである。
「姉貴、お茶淹れてきたけどー……」
「ホウ統さんが伝言があるってー……」
劉封と関平がやってきたのはそんなときであった。

897 名前:冷霊:2006/03/22(水) 15:03
悩んだ挙句、四話構成になっちゃいそうです……冷霊です。
白水門、こういう形になっちゃいました。
劉備サイドもちょっぴし書いてみたかったもので……。
白水関って正史に記述がほとんどない場所ですからねぇ。
やはり蜀としては細かいところを伝えるわけにはいかなかったのかな、とか思ってしまいます。
次は高沛の見せ場が……うまく作れるといいなぁ、と。

>弐師様
正史を見てると越って、袁術繋がりで孫堅と共に戦ってるんですねぇ……。
こうしてみると袁術って意外と人間関係の核となってるのかも?w

そういえば厳綱もこの後の界橋の戦いで麹義とやりあってますし、
界橋の戦いを諌めたという話も聞きませんし……こういう絆があったのかもと想像してしまいますね。

>北畠様
静かに始めてみました。
確認すると楊懐の方が高沛よりも上の立場だったようで、ある意味こういうのもありなのかなぁと。
正史では二人とも酒宴の際に二人して斬られてますが。
劉闡の記述がないので、密かに悩んでたりしてますが……きっとなんとかなるでしょうw

>雑号将軍様
演義も実は正史とそこまで変わってはおりません。
ただ、楊懐が匕首を帯びていますが、暗殺しようとしたとの記述は確かなかったかと。
華陽国志やら劉焉・劉璋伝を只今読破中で御座いますw

898 名前:海月 亮:2006/03/25(土) 23:59
何時かはこんなときがくる…なんとなくではあったが、彼女にもそんな"確信"があった。
だがむしろ彼女は、周瑜、魯粛という余りにも偉大な先達の後釜に据えられたそのときから、「自分こそがそれを成し遂げなければならない」という、そんなプレッシャーとともに毎日を過ごしていた。
普段は億尾にも出さないが、彼女を襲う頭痛は日に日に強さを増していた。
「…間に合うのかな…?」
自分がこの頭痛で参ってしまうのが先か、それとも…。
「あたしが…あの武神を打ち倒すのが先か」
その呟きを聞く者は、その場には自分だけだった。


-武神に挑む者- 第一部 至上命令


少女…呂蒙が長湖部の実働部隊を総括するようになってから、既に半年が経とうとしていた。
学問を修め、驚異的な成績アップを果たして注目を集めるようになった彼女は、好んで兵学書を読むようにもなり、一読すればまるで乾いた真綿が水を吸い込んでいくかのように、その内容を覚えていった。
そしてその知識は、合肥・濡須棟攻防戦において見事昇華し、その戦いの決着がつく頃には「長湖に呂子明あり」というほどの名将にまで成長していた。
それまではただの「十把一絡げの悪たれのひとり」でしかなかった少女は、その一挙一動を注目される存在にまでなってしまったのである。

しかし。
彼女がその名を不動にする頃には、長湖部は実に多くの名将を失っていた。
南郡棟攻略時の事故で周瑜を欠き、合肥・濡須攻防戦以降は甘寧も動ける状態になく、時を同じくして魯粛も留学のため学園を去った。長湖部最古参のまとめ役でもあった程普、黄蓋らも時を同じくして引退していった。
公式には甘寧は未だ課外活動に在籍している。しかし、戦場に突出した凌統を庇いながらの、張遼との戦いで受けた怪我のダメージは大きく、何時ドクターストップがかかるか解らない状態だ。
魯粛も年度末には学園に戻るとはいえ、学園から籍をはずす以上は活動からも引退を余儀なくされる。復学したとしても、課外活動への再参加は認められていない。

在籍する中では、初代部長孫堅以来からの古参組である韓当や宋謙、孫策時代からの猛将として知られる蒋欽、周泰、潘璋、凌統、徐盛といった輩も居る。
しかし、そう言った荒くれ連中をまとめ、大々的に戦略構築が出来る人間は、知られる限りでは呂蒙ただひとりだった。


「…やっぱり厳しいなぁ…」
長湖部員で主将・副将クラスに属する少女の名が記された名簿を睨みながら、そのサイドポニーの少女…呂蒙は、そう呟いた。既に時計は深夜0時を回り、締め切った部屋の明かりは手元のスタンドだけ。
名簿には、色とりどりのマーカーや蛍光ペンで、その少女に対する短評がつけられている。それも総て、呂蒙が実際のその少女と会い、あるいは噂話や実際の仕事振りから気がついた点を書き出したものだ。
このマメさこそ、今の彼女がある…そういっても、過言ではない。
「何処かにもうひとり、興覇クラスの"仕事人"が居てくれりゃあなぁ」
「やっぱ厳しいん?」
「うわ!」
不意に後ろからひとりの少女が、肩口から顔を突っ込んできたのに驚いてのけぞる呂蒙。
見れば、それは同い年くらいの人懐っこそうな風体の少女だ。栗色のロングヘアに、学校指定ではない臙脂色ジャージの上下を着ている。呂蒙はシンプルな水色のパジャマを着ているところから考えれば、彼女はそのルームメイトであり、かつその格好が彼女のラフな格好なのだろう。
「驚かすなよ叔朗…寿命が12年は縮まったぞ」
「心配あらへん。モーちゃんならきっとまだ五百年生きるやろから十二年くらいどってことないで」
「…あたしは何処の世界の妖怪だ。つか、何処にそんな根拠がある?」
「なんとなく〜」
その、どこか"ほわわん"としたその少女の受け答えに、思わず頭を抱える呂蒙。
しかしその少女…孫皎、字を叔朗という彼女は、現長湖部長孫権の従姉妹に当たり、この天然なピンクのオーラで甘寧とひと悶着起こしたほどの猛者である。幼い頃は関西にいたらしく、その京訛が特徴的だ。
「せやけどモーちゃん、あんまり気ぃばっか張っとったら身体に毒やで。うちなんかと違(ちご)おて、モーちゃんにもしもの事遭ったら、皆きっと悲しむで?」
孫皎が心配そうな面持ちでその顔を覗き込んできた。
「うちにはモーちゃんの代わりになれるような能力(ちから)もないし、友達とかもようおれへん。せやから」
「んなこたねぇだろ、あんたがあたしのサポートをしてくれるおかげで色々巧くいってんだ。それに、あんたのとこにはいつも人が集る」
呂蒙の言葉を否定するように、孫皎は寂しそうな顔で頭を振る。
「ちゃうよ。あの子達はみんな、うちが仲謀ちゃんのイトコやから、ちやほやしてくれるだけ…うちには、ほんまに仲良いなんて、おらへんのや」
「ばか、それじゃああたしはあんたの何だってんだ。あたしが一方的に"友達"だと思ってただけか?」
「え…?」
呂蒙はそう言って孫皎の額を小突く。
「あまり自分のことを悪く言うな。興覇だってあんたのこと、胆の据わった大したヤツだって褒めてたよ。それに今度の戦いはあんたの頑張りを全部引き出してくれないことにゃ始まらないんだからな」
「うん…頑張ってみる。おおきにな」
「礼言うトコじゃないよ。あたしが勝手に思っていることなんだからな」
「うん」
自分のベッドにもぐりこんだ孫皎が自分に微笑みかけてくるのを見て、呂蒙も苦笑を隠せない。
人選の刻限は徐々に近づきつつあったが、彼女は"友達"に倣ってとりあえず切り上げ、寝ることにした。

899 名前:海月 亮:2006/03/25(土) 23:59
翌日の昼休み。
混雑しているだろう学食を避け、予め出掛けに買い込んでいた菓子パンを頬張りながら、再度名簿と睨みあってる呂蒙。
「なぁモーちゃん、文珪ちゃんとこのこの娘とか、どない思う?」
「ん?」
隣りでサンドイッチを食べながら、孫皎が指差したのはひとりの少女だった。
「あぁ、承淵か…確かにいい素質は持ってんだけどなぁ」
「あかんかなぁ…確かにまだ中学生やけど、こないだの無双でもいろいろ活躍しとったし」
「主将クラスは足りてんのさ。あたしが欲しいのは、スタンドアローンで動ける軍才を持った、それなりに無名の人間だ。関羽が油断して、江陵周辺をがら空きにしてくれるくらいで、その留守の短い間にその辺平定しちまうくらいの」
「うーん」
サンドイッチを口にくわえたまま、腕組みして考え込んでしまう孫皎。
実際に難しい人選である。というか、ほとんど無茶に近いといってもいい。要するに呂蒙が欲しい人材というのは、呂蒙と同等かそれ以上の能力を持ち、かつまったく名前の知られていないということ…。
「でもそれやと、興覇さんがおったとしてもあかんのやないの?」
「んや。その場合は誰か適当なヤツをあてがって、その隙にあたしと興覇が別々に動くことができる。興覇が入院中の今となっちゃ、それが厳しい状態だ。その代わりにあんたを使うことを考えても見たんだが…」
「うちを? でも…」
「実力的には申し分ない。けど、今あたしの軍団からあんたを欠くのはマジで痛いからな。編成している中では潘璋分隊の義封、蒋欽分隊の孔休を外すと途端に機能不全だ。同じことがあんたにもいえるからな」
自信なさ気な孫皎を気にかけるもなく、パンを飲み込みながら難しい顔の呂蒙。
「マネージャーとはどうなんかな?」
「マネージャー?」
「うん。マネージャーで、なんかすごそうな人。例えば、こないだの濡須とき、援軍を指揮してた緑髪の娘とか。あの娘確か公苗さんとこのマネージャーって」
「陸伯言か。そう言えばこないだ興覇とふたりで承淵をからかった時、話題は伯言の話だったな…」
数日前、呂蒙は甘寧の妹分であった丁奉を伴い、入院中の甘寧の見舞いに行った。
そのとき、去年の赤壁決戦前の夏合宿で調理実習をやったとき、同じ班に居た陸遜の話で話題が盛り上がったときのことを、呂蒙は思い出していた。

「はぁ? 伯言が公瑾のお墨付きだぁ?」
「あ…えっと、それは」
狐色の髪が特徴的なその少女は、ベッドから上体を起こした状態で呆気にとられた甘寧と、その傍らでぽかんとした呂蒙の視線を浴びて、明らかに動揺していた。
明らかに、いわでもなことを言ってしまった…そんな感じだ。
昨年の合宿では自分たちの悪戯のせいで周瑜に完全に目の仇にされ、ただおろおろしているだけの気の弱そうなヤツ…ふたりにとって陸伯言という少女はその程度の存在でしかない。朝錬の際甘寧と凌統が喧嘩したのに巻き込まれたときも、周瑜に命ぜられるまま律儀にふたりに付き合って罰ゲームを受けたり、失敗した料理の処理をまかされて保健室へ直行したり…まぁ流石のふたりも「悪いことしたなぁ」くらいは思っていたが。
「ということはなぁ…承淵の言葉が正しければあのあと、あいつらが仲直りしていたってことになるが」
「となると休み明けに伯言がやつれてたのそのせいか。あの赤壁キャンプを乗り越えたとなれば相当なもんだな、伯言のヤツ」
「あ、だからその、それはちょっとした…」
ひたすらおろおろと取り繕おうとする狐色髪の少女…丁奉の慌てる様子から、呂蒙と甘寧もその言葉の真なるところを覚った様子だ。中学生ながら、荒くれ悪たれ揃いの長湖部の中で一目置かれるこの少女だが、それだけにその少女の性格はよく知られていた。
すなわち、絶望的にウソをつくのがヘタな、素直で真面目な性格の持ち主であるということだ。
そして自分の尊敬する者に対して強く敬意を払う。彼女の普段の甘寧への接し方を見ていればよく解る。それが彼女らにとって取るに足りない存在だった陸遜に対して「周瑜が認めた天才」と言うのであれば…。
「まぁ能ある鷹はなんとやら、とも言うしな。長湖実働総括も伯言に任せりゃちったあ楽できるかね、あたしも?」
「だ、だめです! そんなことしたら公瑾先輩が…」
「なんで? いいじゃねぇか、公瑾が出し惜しむならあたしが伯言を活かしてやるまでさ」
「きっとその方があいつだって喜ぶだろうしなぁ」
「だからそうじゃないんです!」
必死にその言葉を取り消させようとする少女の姿が面白くて、呂蒙も甘寧も完全に悪乗り状態だ。陸遜に実力があるかどうかは別として、今はそのほうがふたりには面白かった。
「…解りました…でも、なるべくなら他の人には黙っててください…こんなことが知れたら、あたし長湖部に居れなくなってしまいますから…」
そうして、半泣きになった彼女は、ことの詳細をふたりに語って聞かせた。

その話を聞いてもなお、呂蒙は半信半疑だった。
丁奉は話し終えると、何度も何度も念を押す様に「このことは絶対に内緒にしてください」と取りすがるようにして懇願してきた。恐らくは相当の事情があるのだろうことは呂蒙にも理解できた。だから、以降はその話題に触れまいと思っていたのだが…。
「ここはひとつ、承淵の顔でも立ててみるかねぇ?」
遊び半分ではない。
彼女はそれがまだ見ぬダイアの原石であることを信じ、陸遜の元へと出向くことにした。

900 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:01
呂蒙は様々な折衝事を孫皎に任せ、たまたま陸遜が出張ってきている丹陽棟を訪れていた。
その棟内に足を踏み入れてすぐ、廊下の向こうから出てきた一人の少女が呂蒙に気づき、駆け寄ってきた。
「や〜、また珍しいお客さんが来たもんねぇ」
「これはこれは君理棟長殿。あんた自らの出迎えとは恐れ入るな」
襟にかかる程度の柔らかなショートカットの黒髪を揺らし、その少女…丹陽棟切っての顔役・朱治が笑う。
「まぁこんなところで立ち話もなんだし、ちょっと寄ってく?」
「うーん…そうだな、たまにはゆっくりさせてもらおうかな」
呂蒙とてそう暇があったわけではないが、そもそも彼女は此処へ人探しに来ていたわけだから、それなら顔役である朱治に話を聞いたほうが早いと判断した。
「そーかそーか。ね、ちょっとお茶用意してもらっていい?」
「はい」
傍らに寄り添っていた少女が恭しく一礼して立ち去ると、呂蒙も朱治に伴われるまま階段を上っていった。
「随分、規律が整っているもんだな」
周囲をざっと見回し、思わず感嘆する呂蒙。
棟内に落書きのようなものは一切なく、廊下で無駄話しているような生徒もいない。そしてすれ違う少女達も軽く会釈し、挨拶して立ち去っていく様子は、長湖部の本部がある建業棟にも見られないものだった。
「コイツもやっぱり、あんたの人徳のなせる業かい?」
「いやいや、とてもじゃないけどあたし一人じゃこうはならないさ。ほとんど仲翔のお陰さね」
「仲翔だって?」
意外な人物の名前を聞き、呂蒙は鸚鵡返しに聞き返した。
仲翔…即ち会稽の虞翻も、呂蒙や朱治と並ぶ"小覇王"孫策時代からの功臣の一人だ。確かに彼女みたいな"キレるとコワい"タイプの文治官僚(ビューロクラート)がいれば、このくらいの状況を作り出すのも朝飯前だろうが…。
「確かあいつは幹部会にいたんじゃなかったのか?」
「それがねぇ…」
朱治は苦笑いして、
「あの娘、どういうわけか知らないけど、唐突にこっち寄越されたのよ。別に幹部会で何かやらかした話は聞かないんだけど…どうもあの性格だからね、丹陽の風紀更正の名目で厄介払い食らわせられたのかもしれないわ」
と肩を竦める。
虞翻は確かに経理に強いし、仕事振りも真面目なのだが、その生来の真面目さゆえか自分が正しいと思ったことは梃子でも曲げない性格だ。孫権も孫権で同じくらいに意地っ張りなものだから、普段何気ないところからでもかなりの軋轢が生じているだろうこと位は、容易に想像できた。
「なるほど…確かにそういう理由付けされたら、流石の子布(張昭)さんも何も言えないだろうな」
「まぁ、お陰で私は助かってるんだけどねぇ…」
ふと、校庭の方へ目をやると、一人の少女とすれ違った二人組の少女が、眉をひそめてこそこそ言っているらしい様子が目に映る。
すれ違ったプラチナブロンドの少女は、それを意に解するでもなく、そのまま歩き去ってしまう。
「相変わらずだなぁ…仲翔のヤツも」
その様子には流石の呂蒙も苦笑せざるを得なかった。


「…陸伯言? まぁ確かにあの娘も此処にいるけど」
執務室の一角、朱治の趣味で設置された畳三畳のスペース、お茶の用意されたちゃぶ台に二人は向かい合う形で胡坐をかいていた。
そこで思いもがけぬ名前が呂蒙の口から出たことに、朱治は小首を傾げた。
「どうしてまたあの娘の名前が? 確かによく働く娘だけど、そんな目立って何かすごいトコもないような気もするけど…」
「そいつは悪いけど詮索無用で頼むわ。で、今あいつは何処に?」
「うーん…あの娘そこらじゅう動き回ってるからねぇ…呼び出す?」
あぁ頼む、という言葉が喉まで出掛かった呂蒙だったが、何故かそうしてしまってはいけないような気がして止めた。
冷静になって考えてみれば、陸遜の件に関する証言は丁奉からしか得られていない。
合肥では確かに彼女の指揮振りを実際目にしているものの…まだまだ自分の中では彼女に対する評価材料が少なすぎる。
「いや…今日は余裕があるし、散歩ついでに探してみるよ」
「そお?」
丁奉の言葉を疑うわけではないが…だがその言葉を信じればこそ、いきなり面と向かってしまえば、陸遜は警戒し、その本音を明かそうとはしないだろうと呂蒙は思った。

901 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:01
それから数刻の後。
普段は利用することすらない豫州丹陽棟の地下食堂に、ふたりの少女がやってきていた。
放課後、暇をもてあました生徒の何人かや、あるいはマネージャーたちが活動計画の話し合いに利用するなど普段は賑わっている場所にもかかわらず、そのときはそのふたりしかいなかった。
ひとりは呂蒙。
もうひとりは緑色の髪をショートボブに切り揃えた、少々気弱そうな印象を与える少女…彼女こそが、探し人の陸遜、字を伯言その人であった。
「…あの…何の御用ですか?」
「あー、急に呼び出して悪かったな。うん、用事といえば用事。だが少しその前にあんたと話をしておきたくてね」
恐る恐るといった感じの陸遜をこれ以上警戒させないよう、呂蒙は勤めて自然に振舞った。
「…お話」
鸚鵡返しに聞き返す。
ここまで来る間にも呂蒙は、それとなく陸遜の一挙一動をそれとなく見ていた。
確かに一見、何処にでもいるごく普通の少女。
そして何より、かつて自分や甘寧から散々な目に遭わされたというトラウマがあるような様子も、今のおどおどした態度を見れば疑いようがなく見える。
しかし、呂蒙は確かに、その仕草の諸所に違和感を感じ取っていた。

陸遜がかつて自分の考えるような少女であったなら、恐らくどんな手を使ってでもこの場から早く逃げたいと思っても、結局自分の気の弱さ故最後まで引きずられてしまうだろう。
だが、呂蒙は陸遜が、今この場から如何に自然に切り抜け、やり過ごしてしまおうと考えているような余裕がどこかにあるような気がした。

確信があったわけではない。
だが、こわばっているその顔の中でただ一点…彼女の瞳だけが、冷徹な光を宿しているように、呂蒙には思えていた。
呂蒙は一筋縄ではいかないと考え、その日はとりとめもない話をして切り上げることにした。


そんなことが一週間ほど続いていた。
そのころになると、呂蒙はわざわざ丹陽まで出向き、陸遜を誘い出して昼食にまで出るようになっていた。
最初のころの警戒心もだいぶ和らいできたことを見計らい、彼女はそれとなく今の状況を話してみることにした。
「…そういうわけでな。仮に相手の龍馬を攻略するにしても、どうも二、三手足りないのさ。何処かでいきなりと金をぶち込んで一気に勝負を決めるとしたら…お前ならどう考える?」
「うーん…そうですねぇ。私は将棋のことはあまり詳しくないですけど…」
「見たまんま言ってくれていいよ。参考までに、あまり詳しくないって人間がどう考えるか興味があってな」
陸遜は、その言葉の真に意味するところを気づいていない…正確に言えば、今呂蒙が問おうとしていることの趣旨に気づいていないように見える…。
呂蒙は息を呑んだ。
陸遜はその手を指し示そうとして…

一瞬…ほんの一瞬、その表情を強張らせた。

「…すいません、やっぱりいい手は思い浮かびませ…」
「場所が悪いなら、変えても一向に構わないよ」
再び困ったように作り笑いに戻る陸遜に、呂蒙は初めて、その笑顔の下に隠された素顔を垣間見た気がしていた。
恐らくは、彼女も気づいたであろう。
何故相手の王ではなく、龍馬を狙っているのかが。

盤面の龍馬は関羽。
それを守るように囲う半壊状態の美濃囲いは現在の荊州学区。
そして何故呂蒙側がわざわざ飛角落ちなのか。

それはまさに、今の長湖部を意味しているものなのだから。

「…謀ったんですか…私を」
「ああ」
互いの強い視線が交錯する。
「あんたを試した非礼は詫びる。あんたがこういう資質をまったく見せないか…むしろ持っていないのであれば、あたしは公瑾や部長を裏切らずにすんだかもしれない」
陸遜の表情は変わらない。
だがその表情は、今まで呂蒙が見たこともない、陸遜自身の激しい怒りを感じた。
「…何処で、その事を…?」
「聞かないでくれ…それを教えてくれた奴も、悪気があったわけじゃない…けど今そいつの名を告げれば、そいつにも迷惑がかかることになる」
校舎からやや離れたその広場には人はいない。
呂蒙は始めから、この場で本心を明かすつもりでいたのだ。
「あたしは公瑾や子敬から請け負った荊州奪取を成し遂げたい…そのためにはお前の力が必要なんだ! この一戦だけで構わない…だから伯言、この一戦…この一戦だけでいい! 力を貸してくれ…っ!」
呂蒙は反射的に、大地に手をついていた。


どれほど時間がたっただろうか。
自分に愛想を尽かし、その少女は自分を置いて立ち去っていたかもしれない…と呂蒙は思っていた。
だが、自分はそうされても仕方ないことをしていたことも、重々承知していた。そしてそうなってしまえば、荊州を落とす機会は二度とはやってこないだろう。
関羽が蒼天会を攻めようとしている、今をおいてその機会はないかもしれないのだ。

そうなれば、自分はどうするだろう。
やはり周瑜と魯粛の後釜として不十分、というレッテルを貼られたまま、空しく部を去るのであろうか。
それとも、それを良しとせず玉砕して終わるのか。

「先輩…顔を上げてください」
ふと見上げると、ここ数日では、恐らくはもっとも自然な微笑を浮かべる陸遜の顔があった。
「先輩のお覚悟、確かに…私如きがどれほどお役に立てるか解りませんが…この一戦、全力を尽くさせていただきます」
呂蒙もまた、自分の至誠がようやく目の前の少女を動かすことができたことを知り、笑みを返す。
「…ありがとう…これでようやく、あいつらの顔を汚さずにすむかも知れない」
ふたりはしっかりと、その手を取り合っていた。

902 名前:海月 亮:2006/03/26(日) 00:06
久しぶりに書いた作品が>>845の焼き直しであるというお話。


えぇ加筆部分はぶっちゃけ>>901だけなんですよね実は。
あとは細かい部分、台詞直したり誤字脱字点検したりとか。


で、一応これも続きがありましてね。
私めのことなんで何処かで、正史にも演義にも準拠のない創作が混じってきます。
これから転職活動しながらぼちぼち手がけてくる予定でありますよ--)y=~~~



とりあえず留守中の作品群にもこれから読む所存でふ。

903 名前:弐師:2006/04/06(木) 19:26
ふうん、ここが南陽棟か。
玄関の前に立って、その姿を見上げる。
白亜の城、といったところか。
「お待ちしていました、公孫越さんですね?」
そうしていると一人の女性がこちらに歩いてきた。
ショートカットの艶やかな黒髪を持つその人、董卓と戦ったときに見た覚えがある。
ああ、そうだ、確か紀霊先輩だ。
高校柔道の「クイーン」と呼ばれる人だったっけ。
「あ、はい。どうも、よろしくお願いします。」
「ええ、では、こちらに。」
彼女に棟の中を案内される。外見のシンプルな美しさと異なり、至る所に金ピカのシャンデリアだとか、無駄に派手なカーテンが有ったりと、ここの棟長の性格がよく分かる内装だった。
そんな悪趣味な物の中を通り抜け、精神的苦痛を受けながらも棟長室にたどり着いた。
「じゃあ、私はここで・・・」
「はい、ありがとうございました。」
この悪趣味な空間の中で、私のそばにいた唯一のまともな感性の持ち主と別れると、一気に気が重くなる。
だけど、そんなことも言っていられない。
まず深呼吸して、私は棟長室のドアをノックした。
「失礼します。」
うわ・・・
棟長室の中は、さらにお金のかかった・・・輪を掛けて酷いセンスのインテリアで構築されていた。
ねえ、先輩。
流石に床ぐらいは普通にしましょうよ。
何で其処まで金にこだわるんですか。金の床なんてテレビでしか見たことないですよ?
嗚呼、自分の顔が床に映る・・・
「あら、公孫越さん、御機嫌よう。ほ〜ほっほ。」
だが、このセンスの伝染源は、更に・・・凄かった。
えっと、すいません、手の甲を口に当てて高笑いするのはどうかと思いますが。ベタすぎです。
このご時世にこんな人本当にいるんだ・・・
「はい。ご無沙汰しております。」
「ええ、ところで伯珪さんから、何の御用かしら?」
「はい、私どもの誠意と言うことで、白馬義従の娘達と共に、私が及ばずながらご助力に参りました。」
「あら、それはそれは、ありがたいことですわ。」
そう言って、また高笑いする。
「これであの女の最後も近づきましたわ・・・」
しかし、その笑いはすぐ途切れ、呪いの言葉へと変わった。
「あの女」とは袁紹先輩のことだろう、まったく、悲しい人だ。
聞くところによると、昔は仲が良かったのだそうだ。家を継ぐときになって家が割れて、それ以来不仲らしい。
常に自分が一番でないと気が済まないのだろう、まあ、まだそのために努力してるだけ他の連中よりは何倍もましなんだろうけど。
「失礼しましたわ、それなら、早速で申し訳有りませんが私の部下の孫堅さんが今あの女の将と戦っておりまして、加勢していただけないかしら。」
聞けば、孫堅さんが袁術先輩の口利きで豫州総代になったのが気にくわなかったらしく、同じ反董卓連合の仲間の筈の彼女に攻撃を仕掛けているそうだ。
「はい。では失礼いたします。」
そう言って、私は南陽を去った。
まったく、あんな所にいたら悪趣味が伝染する。
外に出て、白馬義従の娘達と合流したところで思いっきり深呼吸する。
周りの娘達は不思議そうな顔をしていたが、誰だってあんな所から出てきたら深呼吸したくなるだろう。
ひとしきり、「外」の空気を堪能した後、皆に指示を出す。
「じゃあ、皆さん、孫堅さんの所に行きましょうか。」
私は、袁術先輩なんかとは違う。
私は、お姉ちゃんのためなら

――――――――どんな事も厭わない。

904 名前:弐師 :2006/04/06(木) 19:27
「ああ、あなたが公孫越さんかい?」
「はい。よろしくお願いします、孫堅さん。」
「はは、同い年だろ?気楽に行こう。」
ふうん、この人が孫堅さん?
少し癖のある茶髪、赤いリボンに、整った精悍な顔立ち。
お姉ちゃんとは少しタイプが違うが、それでも相当の美人だった。
よかった、袁術先輩の部下って言うから、どんな奴かと思っていたが、とてもさっぱりとして付き合いやすいタイプの人のようだ。
「いや、にしても凄いな、あなた達のバイクの動きは。しっかり統制が取れてる。」
「そう?」
「ああ、素晴らしい。それに私たちはあまりバイクは使わないから、尚更そう見える。揚州は川ばっかだし、長湖に面してるからね。」
「へぇ・・・」
長湖か。名前は聞いたことがあるけど、私は見たことがない。
いつか、其処までの道を遮る奴らを討ち滅ぼして、絶対に、見に行ってやる!
・・・そしてウォータースポーツし放題!なんてね。
と、ふざけた妄想をしているうちに、こちらに駆け寄ってきた女性がいた
「孫堅様、報告に参りまし・・・あら、あなたが公孫越さん?私は程普っていうの、よろしくね。」
背が高く、少々あか抜けない感じの人、まあ、幽州校区の私があか抜けないなどと言えた義理でもないのだが。
「越さん、実は彼女も幽州出身なんだ。」
「あはは、そうなの。しかも北平だよ。」
そう言って程普さんはVサインを作ってにこっと笑ってみせる。
うん、そりゃああか抜けないはずだね・・・幽州だもんね・・・ははは、はぁ・・・
ま、まあそんなことは置いといて・・・ここは、本当に活気にあふれたいい軍だ。一人一人がとてもいい目をして、実に生き生きしている。


・・・そう、袁術先輩には勿体ないぐらいに素晴らしい軍。

今に袁姉妹なんて討ち滅ぼしてあげる・・・楽しみにねぇ?孫堅さん・・・



ふふ、まあそれは今は置いておこう。
今は、ね。
「そうなんですかぁ、意外だったなあ。」
「他にも韓当って娘はあなたと同じ遼西出身なの。」
「へえ!ずいぶんと遠くからみんな仕えてるんですね。」
「まったくだ、私の出身は呉だというのに。ところで程普、何の用だ?」
「あ、そうでした。あはは、すいません・・・。」
苦笑していた程普さんの顔が、少し険しくなる。少し視線もうつむきがちになった。
「袁紹配下の周昂が、部下を連れてこちらに向かっています、こちらより・・・大分人数は多いようです。」
「へえ、そうか、ありがとう。」
衝撃的な、報告。
しかし孫堅さんは顔色一つ変えずに私の方を向き、軽く笑いかける。まるで、「面白いじゃない?」と問いかけるように。
私は何も言わず、笑い返す。
それで、私の言いたいことは通じたのだろう。その笑顔のまま、よく通る声で命を下す。

「みんなー、袁紹の手先がこっちに遊びに来たみたいだ。しかも向こうさんは大人数と来てる。」
皆、彼女の前に隊列を組む。整然として咳一つ聞こえない。
その場にいた全員が、彼女の一挙一動に注目している。
「どうだ?面白いだろ!?お客さんが多い方がパーティーは盛り上がるってもんだ!さ、お出迎えにいってやろう!」
ぴんと張りつめられた空気を、彼女の一声が振るわせる。
「全軍、出陣!」



――――――――彼女の清冽な声に応じて鬨の声が響き渡る。

――――――――地の底から響くような衝動が私を揺さぶる。

――――――――体の奥から喜びにも似た感情が込み上がる。





そして、全てが混ざり合い、迸る――――――――





――――――――さあ、やっと面白くなってきた。

905 名前:弐師:2006/04/06(木) 19:28
>雑号将軍様

越、気に入っていただけましたか。よかったですw
なにやらいまいちキャラが固まりきってませんが、これからもよろしくお願いします。

あと受験!頑張って下さい!
年下の私が言うのも僭越ですが、是非、夢をつかんで下さい!


>冷霊様

楊懐が素敵です!!!
「タマと……季玉といる益州校区が私達の居場所なんだ。私の中にある益州校区に君はいない」
って言葉にもうしびれちゃいましたよw続きが楽しみですw

あと公孫サンは結構人間関係が凄いですよね、
越が孫堅と一緒に戦い
劉備とは同門で
単経、田揩はエン州と青州の境界のあたりで曹操とにらみ合ってた(らしい)というw


>海月 亮様


いいですねぇ、将棋に例えた駆け引き。
呂蒙を認め、力を貸すことを決意した陸遜。

関羽を討とうとする緊張とプレッシャーが伝わってきます。

では、御無理をなさらず、頑張って下さいw

906 名前:雑号将軍:2006/04/09(日) 22:32
>弐師様
おお、今度は袁術がお出ましだ!!なんというか、あのタカビー全快なあたりがちょっとキてて素敵ですね。
いえいえ、お気になさらずに。うまくいけばいいんですがね…。まあ、あがけるだけあがいてみせますよ。

907 名前:北畠蒼陽:2006/04/10(月) 00:15
おう?
なんかしばらく見ないうちにいろいろあがってますよ!?
とまぁ、すっかり過去の人っぽいです、私(笑

>海月 亮様
お、ついに関羽包囲網始動ですか。
長湖部、というか呉は正直知識が薄いのでどう書かれていくのか楽しみにさせていただきまするよ!

>弐師様
んふぅ……
袁術好きなんですよ、袁術!
(自分くらいは好きでいてあげないとかわいそうじゃない?の理論。王允とかが当てはまります)
袁術、私も書いてみたいなぁ……
まだ書いたことがなかったですよ。

908 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:46
ひさびさなので感想から。


>冷霊様
よく見たらまだ続くのですな・・・。
楊懐と高沛がどういう最期を遂げるのか・・・あるいは、更にそのあとどうなっていくのか気になります。


>弐師様
既に既出の話題ではありますが・・・袁術のキャラが本当に際立ってますね。
此処までお約束だとぐうの音も出ませんね。お見事と言うほかないです。
あと孫堅軍団。何気に私まだ孫堅軍団は手を出してないような・・・。


>北畠蒼陽様
いやー・・・何処まで史実に沿ってるかどうか解りませんよ、私の場合はww



と言うわけで>>898-901の続きから。

909 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:48
長湖部の総本山・建業棟棟長執務室。
普段なら暇をもてあました幹部たちが屯し、長湖部長孫権を中心に賑やかに過ごしているこの場所は、この日に限っては不気味なほどに静かで…何処か重い空気に支配されている。


執務室の中に居たのは数人の少女。
執務室の机に腰掛けた、金の巻き髪と碧眼が印象的な少女は長湖部長孫権。
その背後に侍している、黒髪を頭の両サイドでお団子に纏めた小柄な少女は、その孫権第一の側近を自負して憚らない「長湖一の使い走り」谷利。
それと向かい合う形で立っているのは呂蒙。

場に居る少女たちの表情は固い。


−武神に挑む者− 第二部 原石と明珠


「…此度の荊州学区攻略においては、この名簿に加えた誰一人として外しても成立しません。また、この機会を逃せば永劫、荊州奪取はならないかと存じます」
淡々と言上する呂蒙。孫権はなおも黙ったままだ。
呂蒙にも孫権の沈黙の理由は解っている。
その名簿の一番下、そこには確かに陸遜の名前が存在していた。
丁奉の話から、陸遜の件は当然孫権にとっても他人事ではないことを呂蒙は知っていた。孫権の様子は、そのことを裏付けているといっていい。
「…本当に」
内心のさまざまな感情を抑えるかのような、震える声で孫権がつぶやく。
「本当に、伯言以外の適任者は居ない…そういうんだね?」
「ええ」
そこでさらにわずかな沈黙をはさむ。
孫権は流石に、誰から聞いたのかなどとは訊いて来ないようだ。丁奉の性格を考えれば孫権には話しているのかもしれないが…いや、おそらくは。
「子敬さんがね…自分の後任として、本当は最初伯言の名前を挙げていたんだ」
一度目を伏せ、そして寂しそうに笑う孫権。
「子敬さんが認めたあなただったら…もしかしたら何時かは気がついちゃうとも思ってたよ」
呂蒙にも言葉が出ない。
「…一度だけ、なんだよね?」
念を押す様に、彼女は問いかける。
「私の、命に賭けて」
呂蒙は真剣な眼差しでそれに応えた。
二人の視線が交錯し、やがて、
「解った。その代わり…無茶はさせないでね」
「はい」
呂蒙は拱手しながら、孫権の英断にただ感謝するだけだった。

呂蒙は続けて陳べる。
「そして願わくばもう一人…現在丹陽棟にて閑職にある虞仲翔を、アドバイザーとして同行させたいのですが」
「え?」
一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を見せた孫権は、怪訝な表情を浮かべた。
「どうして…?」
呂蒙はその表情から、やはり最初自分が思ったとおり、虞翻が孫権に嫌われた為に放逐されたのだということを確信した。
「彼女の性格は周知するとおり。ですが、あの性格ゆえ力を持て余せば更なる毒気を吹くのみです。ならば、その毒こそ我々ではなく、外に向けてやるべきでしょう」
呂蒙は丹陽棟でその姿を見る以前より、荊州攻略の切り札として虞翻の"公証人"としての活用を考えていた。だが、中央で事務経理の中核をになう彼女を前線へ招聘するのは不可能、と半分諦めてもいた。
だからこそ、丹陽にいる彼女を見たとき、初めは自分の幸運を喜んだ呂蒙ではあったが…部内の"和"をを何よりも尊重するはずの孫権が、その名を聞くだけで不快な顔をすることに何か悲しさのようなものを感じていた。
「…部長、"奇を容れ異を録す"を規範とするあなたが、何故そこまで彼女を嫌うのか…あたしには少々解りかねます」
「う…でも、どうしてもあのひとがいると、みんな気まずくなって黙っちゃうんだよ…だからきっと、あのひとは幹部の中枢じゃない場所のほうが、その良さを引き出せるかと思って…」
現実、虞翻は後方支援や前線の活躍が目立つ経歴もある。現実に丹陽での風紀は厳格に守られ、治績を挙げている。
しかしその口ぶりからは、やはり結果論から来る取り繕いにしか聞こえない。
呂蒙はため息をついた。
「でしたら、ひとつ騙されたと思ってあたしに彼女の身柄も預けていただけますか? あいつの本性、見せて差し上げますから」
孫権は困ったような顔でしばらく考え込んでいたが…
「解った」
と、何処か釈然としない表情のまま呟いた。

910 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:48
一方、そのころ。
「あたしの…全部あたしの所為なんです…」
呉郡寮の陸遜の部屋へ尋ねてくるなり、普段その少女には有り得ないほど悄気た表情で座り込み、黙りこくっていた丁奉が最初に発した言葉が、それだった。
その一言に、陸遜は何故彼女が急に訪ねてきたのか察しがついたようだった。
もっとも、丁奉は陸遜の妹達とも仲がいいから、急に訪ねてくるといってもそう珍しいことではない。珍しいというなら、この時のようにもうそろそろ寝ようかという時間に突然尋ねてきたということだろうか。
「あたしが…あたしが子明先輩にあんなこと…先輩が、あんなに酷いいわれかたしたのに、あたしがむきになって…」
「…いいのよ、あなたが気に病むことじゃないわ」
頭の上に手を載せられて、恐る恐る顔を上げると、そこには苦笑する陸遜の顔があった。
「あなたのことだから、きっとそういうこともあるんじゃないかな…って思ってたわ。そこがあなたの良いところでもあるし、悪いところでもあるのかもね」
「…あうっ…」
嗜めるようなその一言に、涙目のまま体を竦ませ俯いてしまう丁奉の姿に、陸遜も可笑しくなったのか少し笑った。
「それにね」
陸遜は、穏やかな笑みのまま視線を移した。
「私もきっと、根っからの長湖部員なのよ。子明先輩が"ただ一度だけ"っていうその心意気に、私はきっと飲まれてしまったんだわ」
「先輩…」
「だから、これはきっと私が最初で最後に見せる、唯一かつ最高の戦いよ」
その言葉に丁奉は、陸遜自身がこの一戦に自らの意思で立ち向かおうとしていることを理解した。
そして…
(それに…もしかしたら先輩は…)
陸遜も気がついているようだった。
その手を取ったときの、呂蒙の体に何かしらの異変が起こっているであろうことを。


「つーわけだ。以後しばらく、あたしの軍団にアドバイザーとして参加してもらうぜ。無論部長命令だ」
呂蒙はその日のうちに丹陽棟に上がりこみ、朱治の権限を盾に虞翻を呼びつけると、その命令書を突きつけた。
傍らの朱治もにやにやと他人事のようにその様子を眺めている。
「……なんで」
それを見るでもなく、俯いたままの虞翻がぽつりと呟いた。
「なんで…私なの?」
不機嫌というよりは、なにか大いに困り果てた様子だ。
常日頃からその情け容赦ない毒舌と、ぶっきらぼうな態度からは想像も出来ない姿であるが、これこそ先代部長・孫策の一部側近しか知らない彼女本来の姿である。
一度心を許してしまうと、その相手には兎に角頭が上がらなくなる。呂蒙も朱治も、虞翻がこういう少女であることをよく知っていた。
「そりゃあ今江陵の津を固めている士仁を、懐柔出来なきゃあたしの戦略に齟齬が生じるしな。知ってるんだよ? あんたと士仁が顔馴染みなことくらいは」
「…君義(士仁)は武神・関羽に憧れて荊州入りしてるのよ…私の言葉でどうにかなるとは…」
苦し紛れなその物言いに、呂蒙はこれと解るくらい悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「そう、忠義に厚いはずの彼女が、何故こんなモノをあんたに送ったと思う?」
「!? ちょ、ちょっとっ!」
その懐から取り出された一枚の紙切れを見た瞬間、虞翻ははっきりと狼狽の色を示した。
声をあげると同時にその紙を奪い取ろうと飛び掛る虞翻にそれを奪うに任せ、呂蒙はもう一枚の紙切れを懐から取り出した。
「まぁ見せるからには何枚かコピーしてあるんだが」
「…っ…!」
怒ってるとも困ってるともつかない複雑な表情で睨みつけてくる虞翻を他所に、涼しい顔の呂蒙。
「…つかどっちも必死だねぇ…」
呆れたようにその様子を眺める朱治。
「あぁ…悪いがなりふりかまっちゃいられねぇんだ…あたしには、もうそんなに時間が残ってないみたいだしな」
「え?」
その様子に何か深刻なものを感じ取ったらしいふたりは、呂蒙の顔を覗き込んでいた。
よくよく考えれば何か違和感があった。冷静になってみると、顔色も随分悪いように見える…いや、憔悴しきった顔をしていることに、二人は気づいた。
そして…これは医者の娘である虞翻が気づいていた異変…。
「子明…もしかしてあなた…内臓のどこかを…?」
「おまえには隠し立てできないな」
呂蒙は自嘲気味に、少し笑った。
「…膵炎らしいんだ。医者の話じゃ、多分ストレスの所為だって…本来、ベッドの上に寝てなきゃいけないそうだ。あたしが長湖副部長として、現状の仕事に耐えられる時間は実質十日くらい…年末までもつかもたないかという話さ」
あまりにも穏やかな表情。一目見ただけでは、彼女の体がそう深刻な事態になっているのかどうかすら解らない。
しかし、付き合いの長いふたりには、呂蒙が嘘をつくような少女ではないことも知っていたし、こうして自分の状況を話してくれるときには余程の事態に追い込まれているということもよく知っていた。
普段はごんなことも笑って茶化そうとする朱治も、深刻そうな面持ちでその顔を見つめる。
「部長に…このことは?」
「…あんたたちにしか話してないよ。だからあたしの体がもつうちに、この大仕事だけは成し遂げたいんだ。あたしみたいなヤツにこの部を託してくれた公瑾や子敬の知遇に応えるために」
その真剣な眼差しを避けるかのように、窓の外へと目をやる虞翻。
その夕日の赤を、深く澄んだ濃紺の瞳に映し、そして大きく深呼吸して…
「…君…いえ、士仁を調略するということは、本当の狙いは南郡棟の糜芳の所持する兵力…そしてそれを利用しての江陵棟占拠…ということでいいんでしょ?」
振り向いたそこには、先ほどまで狼狽していた少女の表情はなかった。
かつて「絶対調略不可能」と言われた豫章の華キンを単身説得に向かった時の、穏やかながら自信に満ちた公証人としての彼女の顔が、そこにあった。
「やれやれ…丹陽周辺の不良どもも、仲翔のお陰でだいぶ鳴りを潜めたのにねー」
仕方ないなぁ、と言った風に、朱治がソファーに思いっきり体を預けた。
「悪いな。でもやるからには、すぐに終らせて来るさ」
生気を失いつつある呂蒙の顔にも、何時もの表情が戻ってきていた。

911 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:49
「まったく…仕方のない娘ねぇ」
その書面を受け取ったその少女の第一声が、それだった。
二年前の、董卓の専横に端を発する一連の騒動により、打ち捨てられ廃墟になっていたはずの洛陽棟。
司隷特別校区…即ちこの広大な学園都市の中心であり、長らく蒼天生徒会の本拠であった場所。
最早名目と成り果てた感のある蒼天会長を擁した曹操が、その手によって再建したその場所で、諸葛瑾は先ずその威容に呑まれた。
(これが…今の蒼天会…いえ、曹孟徳の力なの…?)
彼女もかつて、司隷校区に招かれるほどの"神童"として、初等部の頃はこの場所で過ごしていた。
一度破壊されつくしたものが、前の面影を失ってしまうのも仕方がないことだということも解ってはいた…だが、これはそういうレベルの問題ではないような気がしていた。
新旧の趣を取り入れながらも、若き才能を感じさせる内装、外観の妙。
すれ違う生徒達から見られる、革新の機運に満ちた校風。
(今の私たちに、これに抗う術があるのかしら…)
孫権から、荊州攻防戦への援助参戦という名目の書面を預けられるとともに、それとなく洛陽の様子を探ってくるよう命じられた諸葛瑾だったが、果たしてこの有様を感じたまま伝えてしまって良いものか、迷わせるほどだった。
そんな彼女の思索を打ち破ったのは、目の前に呆れ顔をしている赤い髪の少女の次なる一言だった。
「こんなものをわざわざ送って寄越したということは、多分"関羽に手を出すな"といったところで聞かないんでしょうね」
「恐らくは、仰せの通りかと」
赤髪の少女…その蒼天生徒会の覇者・曹操その人の問いに、諸葛瑾は内心の様々な感情を億尾にも出さない涼しい顔でそう応えた。
「…ふぅん…」
その受け答えに何かか感じるところがあったのか、曹操の瞳はにわかに輝いた。
「…ねぇ、この文章書いたのは君?」
「え?」
思ってもみない問いかけに、諸葛瑾は一瞬その問いの意味することを理解できなかった。
だが、すぐにあることに思い至る。
「…いえ、長湖文芸部が副部長・皇象の手によるものです」
曹操の瞳がさらに輝く。
「"湖南八絶"のひとりだよね」
「はい」
「ね、今度こっちに遊びに来るように伝えてくれないかな?」
一瞬呆気に取られ、諸葛瑾は苦笑を隠せなかった。
この才覚に対する貪欲さ…才能のあるものたちと少しでも交わりたいと思うその希求が、曹操という少女の本質であることは彼女にも解っていたが…それでも、彼女は苦笑せざるを得なかった。
「なんでしたら、八絶全員寄越せるよう、部長にお伝えしましょうか?」
「ううん、占いの四人は要らない。文芸の皇象、幾何学の天才趙達、絵画の曹不興、ボードゲームの達人厳武…それと学園都市のジオラマを作り上げた葛衡って娘がいたよね? その五人、今度来るときに一緒に連れて着てくれないかな!?」
「確と、孫権部長にお伝えいたしましょう」
拱手しながら、満面の笑みを浮かべる曹操を見て諸葛瑾は思わずにいられなかった。
(この部分は、恐らく仲謀さんでは一生敵わない部分なのかもしれないわ…)
人材を求め、優れたものに敬意を払う孫権だが、その一方で性格の合わない者を遠ざけようとする一面があることを、諸葛瑾は痛いほどよく知っていた。
今丹陽に追いやられた格好にある虞翻が、仮に曹操の元にいたらどうなるだろうか…
(多分この人なら、巧くその力を引き出せるのでしょうね。郭嘉、程G、賈栩といったそれぞれカラーの違う人たちを受け入れ、その力を十二分に発揮させてきたこの人であれば)
そのことを考えると、少し淋しくもあった。


江陵棟。
執務室の主席に座す長身で艶やかなロングヘアの美少女が、どこか気の弱そうな緑髪の少女を見据えている。
「あなたが新任の陸口棟長ね」
「は、はい…陸遜、字を伯言と言います…以後、お見知りおきを」
言うまでもなく、言葉の主はこの棟の主関羽その人。
その両翼には、左に関平、王甫、廖淳、趙累ら関羽軍団の武の要が、右には馬良、潘濬ら知の要が。
(流石は武神・関雲長というべきだわ…この威圧感、並じゃない)
会見を申し込み、相手の油断を誘うために必要以上に下手に出る陸遜だったが、それを抜きにしても"関羽の存在"が大きな圧迫感として彼女にのしかかってきた。
彼女について着ていた数人の少女達は、一人を除いて真っ青な顔をして震えているが…これほどの威圧感の中ではそれも仕方ないだろう…と思っていた。
「そちらも知っての通り、我々はこれから樊棟の曹仁・満寵を討つ無双の手続きに奔走している真っ最中…何しろ多忙なので十分なおもてなしが出来なくて恐縮だわ」
「いえ、このような席を設けていただいただけでも…その、恐縮です」
だがその最中でも陸遜はその笑み…特にその切れ長の瞳に宿る何かを、見逃してはいなかった。
「もしそちらに助力の要あらば、私たち長湖部も、協力は惜しみません」
「それには及ばないわ。軍備は十二分に整い、我らの力を天下に示すには十分。あなた方長湖部は、あくまで長湖部のためのみに動かせばいいわ。余計な気遣いは無用よ」
深々と頭を下げながら、その笑みの中に、陸遜は関羽の最大の欠点がそこにあることを完璧に見抜いていた。
(この態度…私たちを下風に見ていると言うより、それだけ自分の能力に自身があると言う証拠だわ)
陸遜は尚も冷静に分析する。
(付け入るべき隙は…十分すぎる)
気弱な瞳の中に、一瞬だけ狩人の光を見せる陸遜の変化に、気づくものは誰もいなかった。
「あの呂子明の後任というと、相当に苦労も多いのでしょう?」
「え、ええ…今こうしているのも、その、緊張に耐えません…」
おどおどしているのは芝居のつもりではあったが、陸遜はそれでも関羽の持つ威圧感に圧倒されることを否めずにいた。
「ふふ…そう硬くなることはないわ。私にしても、後方に位置するあなたたちと喧嘩するつもりはないから」
「え…えぇ、そうありたいものです」
精一杯の作り笑いを向け、陸遜は拱手し、退出した。

912 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:49
「あれが…関羽か」
棟を出て、彼女はひとりごちた。
「でもすごいよ伯言ちゃん。私だったらきっと卒倒してるわ」
ブラウンのロングヘアに、大きなリボンをあしらった少女がため息とともに言う。
「そういうあなた、全然余裕のある表情してたじゃないの、公緒」
「そう?」
公緒こと、烏傷の駱統。先ほどの会見席で、陸遜以外で唯一平然とした顔をしていた少女である。
陸遜の顔なじみであり、陸遜が特にといって自分の副官として求めた人物である。おとなしそうな顔をしているが、その穏やかで人懐こい性格とは裏腹に合気道の達人という長湖部の俊英だ。このおっとりした性格ゆえか、恐ろしく肝が据わっている。
「で、伯言ちゃんはどうみる? 関雲長を実際目の前にして」
「流石に学園の武神と言われるだけあるわ。個人としての威圧感もさることながら、その手足となるべき人物にも英傑ぞろい…正攻法じゃ、正直どうにもならないわね」
まさしく、それは陸遜が正直に抱いた感想である。
「でも…切り込む隙はありそうだよね?」
「ええ。関羽のあの尊大さ…足元を省みないあの性格は、致命傷になるわ」
陸遜は見逃していなかった。
油断なくこちらの一挙一動を見据えながらも、何処かこちらを食って掛かるような目の光を。
「子明先輩の計画では、関羽の"打ち捨てていったすべて"をすべて私たちの武器に変える…あとは、関羽が動くのを待つだけだわ」
陸遜の瞳は、江陵棟のただ一点…先ほどまで自分たちがいた執務室の辺りを見つめていた。

関羽が江陵棟・南郡棟に一部の兵力を残して進発したという報が陸遜の元にもたらされたのは、その翌日のことであった。


陸口の渡し場に続々と集結する長湖部主力部隊。
その喧騒からひとり、呂蒙は対岸の江陵棟を眺めて佇んでいた。
「いよいよやね、モーちゃん」
「あぁ」
孫皎はそのまま、呂蒙の隣、艫綱を結ぶ杭の上に腰掛けた。
「昨日の大雨で、蒼天会が送り込んできた援軍部隊は壊滅…今頃関羽はさらに図に乗って樊棟攻略に躍起になってることだろうな」
「せやけど…曹子考を護りの要とする樊棟はそう落とせるもんやない。今朝入った知らせやと徐晃を総大将とする軍が樊に向けて進発、戦況次第で合肥の張遼・夏候惇の投入もありうる、っちゅー話や」
「…もしかしたら、関羽の本当の狙いはそこにあるのかもな」
「え?」
まじまじと見つめる孫皎に振り返ることもなく、呂蒙は相変わらず一点…江陵棟を眺め続けている。
「まさか…自分ひとりで蒼天会の主だった主将の動きを釘付けにするん…?」
「んや、始末するつもりなんだろう。劉備の北伐の障害にならないように」
「そんな…」
あほな、と続けようとした孫皎の言葉を遮って、呂蒙はさらに続ける。
「このまま放っておけば、やりかねないな。あの関羽であれば…」
色を失う孫皎を他所に、呂蒙はその拳を強く握り締める。
「だから、その前に関羽を叩き潰す。あたしのすべてを賭けて」
「モーちゃん…」
その悲壮とも思える決意の宣言に、孫皎は言葉に詰まった。
もしかしたら、彼女も薄々は感づいていたのかもしれない。
呂蒙がその体の中に、もうその刻限が近づいている時限爆弾を抱えているのではないか、ということに。
(モーちゃん…なんで本当(ほんま)のこと話してくれへんのかは今は訊かんどくで)
(うちも友達(あんた)のために、この命預けたるわ)
孫皎の瞳には、まるで呂蒙がその命の灯火を、最後の力で燃えさからせているかのように見えた。
「…うちらには、ただ勝利しか先にあらへん。そういうことやな?」
「あぁ」
ふたりの瞳は、江陵棟の先…今まさに天下の覇権を決めんとする樊棟の決戦場を見ているかのようだった。

913 名前:海月 亮:2006/04/13(木) 20:53
と言うわけで決戦直前まで。
こっからの展開もかなり出来上がってるので、あとは活字に直すのみですが・・・。


とりあえず今日は風邪のため体力切れましたonz

914 名前:北畠蒼陽:2006/04/14(金) 14:01
「ん〜……」
その少女は廊下の窓を大きく開け、まだ残暑の色濃い初秋の風を一身に受けながら心地よさそうに微笑んだ。
普段からあまり見開くことのない糸目もさらに細くなり、季節をその総身で受け止めているかのように見える。
「ここにいたんだ」
「ん?」
少女は自分に投げかけられたのであろう言葉を聞き、目線を向ける。


世界が回る直前の日


「今、いい? 子コウ」
「あ〜、かまわないけど……あんたから声かけてくるって珍しくない? 伯言」
子コウ……全ソウ。山越との抗争や生徒会との数々の戦いに参加し長湖部内でその地位を築き上げた名将。
伯言……陸遜。軍神関羽、英雄劉備を破った長湖部の大軍師。長湖部の実戦総責任者であり誰も取って代わることの出来ない才能を持った少女。
「単刀直入に言うわね。妹さん……全寄さんだっけ? あの子は孫覇さんに接近しすぎてる。そもそも後継者の順序ってのははっきりさせとかなきゃいけないもんだし……あの子の行動は危険すぎる。貴女から言い聞かせてほしい」
「言い聞かせて、っていっても……」
全ソウは困ったように頭を掻く。
「孫覇さんの側の中心人物の一人が全寄さんなの。こんなくだらない後継者争いなんかで長湖部をどうにかしたくない。子コウ、お願い。貴女に現代の金日テイになってほしい」
「伯言の言うことは……」
全ソウは陸遜の言葉に頷こうとして……動きを止めた。
「きん……じつてい?」
金日テイ……かつての蒼天生徒会の名秘書。匈奴高校生と会長を兄に持っていたが霍去病に捕らえられ、そのまま生徒会役員として名前を連ねることになる。
もともとの蒼天学園出身ではないということをよくわきまえ、自ら蒼天学園生徒から一歩離れた位置に身を置いていた。
そう……
……自分の妹が生徒会長に気に入られたときに妹の蒼天章を剥奪するほどに。
「伯言……」
全ソウの声が震える。あまりの怒りに陸遜は眉をひそめた。
「あんたは……私の妹を自分でトばせ、とそういうんだな」
「あ」
陸遜は失言……いや、自分が言い過ぎたことにようやく気がついた。
全ソウに対してそこまで言うべきではなかったのだ。
「い、いえ、違う……ただそういう覚悟だけは……」
ガシャーン!
陸遜の言葉は破壊音で報われる。
全ソウが拳で窓ガラスを殴りつけた音だった。
「……もういい。妹にはあんたの言葉を伝えるがどうなるかは責任はもてない」
ゆっくりと拳を下ろす全ソウ。ガラスを殴りつけたときに切ったのだろう握り締めた拳から血がふた筋流れ落ちる。
「でも私があんたに感じてたかもしれない友情は今ここで死んだ……もう仕事以外で声をかけてこないでほしい」
「子コウ……!」
ゆっくりと歩き去ろうとする全ソウのその背中に陸遜はなんとかフォローを入れようとする。
誰にトんでほしいわけでもない……さっきの金日テイだってただの例えで……全寄だって未来の長湖部を背負う人間の一人には違いないのだから……!
そして全ソウほどの人間の影響力と実力があれば、自分と一緒にこんなくだらない後継者争いなどすぐに終わらせることが出来ると、心の底からそう思うのだから!
陸遜の叫びにも似た声に全ソウが歩みを止める。
「子コウ!」
やっと冷静になってくれた!
陸遜は涙が出そうなほどの喜びと……
「……私はあんたを殴りたくて仕方ないんだ。とっとと失せてくれ」
汚物でも見るかのような表情と声音。
……深い絶望を同時に味わった。
そして陸遜にはもう……
歩き去ろうとする全ソウの背中を見ながらつぶやくことしか出来なかった。

……コンナハズジャナカッタノニ。

915 名前:北畠蒼陽:2006/04/14(金) 14:01
海月様支援SS投下〜?
ほら、いずれ二宮も書くとか言ってらっしゃいましたし?(笑
北畠さんはこのままダークサイドをひた走ろうと思いますので、えぇ。
ちなみに全ソウってのは北畠にとって結構思い入れのある人物で、まぁ、ポジション的に『後世、あまり目立たない立ち位置』の人……魏でいえば梁習とか、呉でいえば呂岱とか、蜀でいえば……誰だろう?
まぁ、そういうポジションってもともと好きなんですが全ソウは結構ドンピシャなところがあって……
かつ昔やった三国志武将占いで全ソウタイプです、とか出たことも!
ま、そういうちょっとした思い入れをこめて流れを読まないSS投下なのですよ〜。

>海月 亮様
そして相変わらず流れを読んでいらっしゃる(笑
続き楽しみにしますので風邪とか治してくださいねー?

916 名前:雑号将軍:2006/04/14(金) 20:14
>海月様
将棋で陸遜を引き込む辺りがぐっと惹かれました。お見事でございまする。前期丁奉を久しぶりに見た気がします。

>北畠蒼陽様
おお、ダークだ!ダークが来た!全将軍…ついに彼女が主役級に躍り出てきましたか…。陸遜、朱然に影を潜めている感があった気がします。
それ故にこの全ソウが新鮮に感じられました。

917 名前:海月 亮:2006/04/15(土) 17:34
そこで某所の三国志占いをやったら
一回目に逢紀、二回目に楊修と出た正体不明人格の私が来ましたよwww


>北畠蒼陽様
これだ!
これと絵板過去ログの歩隲&陸遜のワンシーンを組み合わせれば二宮序盤のイメージも固まりそうです^^

荊州戦終ったら二宮SSにとっかかるとしますかねぇ・・・。

918 名前:★教授:2006/04/16(日) 22:40
■■アメフリ■■


「ふーむ、私の予想通り雨になったか。天気予報というものは私くらい確実でないといかんな」
 諸葛亮は白羽扇を口元に校舎玄関前に立っていた。しとしとと雨の降り注ぐ天を仰ぎ涼しげな表情をしている。
 トレードマークの白衣を脱ぎ、髪を結わずに流したその姿は正に凛とした美少女。誰もが思わず息を呑んでしまうほどの美貌を降りしきる雨が更に引き立てる。これこそ絵になると言ったものだろう。
「ふふふ、だが私が傘を忘れるといったベタな展開にはならん。むしろ、あってはならん事態だ…萌えられる要素ではない」
 喋らなければ…だったが。
「ひゃあー…マジかよー。予報になかったぞー」
「予報はあくまでも予報…ってか。全力疾走すれば被害は少なくて済むかな」
「仕方ないですね。面倒ですけど走りましょうか」
 諸葛亮の脇を張飛、馬超、王平ら元気な娘さん達が走り抜けていく。鞄を傘代わりに焼け石に水な抵抗をしながら駆けていく後姿に諸葛亮は心の中で『あれもまた萌えというヤツだな』と頷いていた。
 続いて諸葛亮の横を通り過ぎるは、お馴染みの二人組だった。
「孝直〜…もう少し傘こっちに傾けてよー…」
「もうっ! これ折り畳みなんだからそんなに大きくないのっ! 私だって濡れてるんだから!」
 ぐいぐいと小さな折り畳み傘の遮蔽範囲に身を潜り込ませようとする簡雍とそれを微妙に防ぐ法正だ。どうやら傘を忘れた簡雍が法正の折り畳み傘に入れてもらっている御様子。結局真ん中に傘を持ってくるという事で落ち着いたのだろう、二人とも肩を濡らしながら歩いていった。
「あの二人はいつも私の心をくすぐる…。次なる策を実行に移したくなるではないか」
 ごそごそと自分の鞄に手を突っ込みながら帰宅部公認カップルを見送る諸葛亮。だが、今朝そこに入れたはずのものが見つけられない。段々と涼しい顔が引き攣り始める。
「………何故だ。間違いなく今朝入れたはずだ…折り畳み傘…」
 鞄を覗き込み、その小さいながらも雨天時に効果を抜群に発揮してくれるアイテムを目で探す。しかし、その姿を視認する事が出来ない。彼女の頭の中で仮説が二つ浮かぶ。

仮説1:入れたつもりだった

「いや、仮説にしても有り得ん話だ。用意周到だった、昼も確認した…」
 却下。

仮説2:賊に盗まれた

「一番可能性が高い。放課後間際の突然の雨、少し席を離れた私。この隙くらいしか思いつかんが…それしかないな…」
 採用らしい。

「ともあれ…仮説2だったとすると…。全く、何処の命知らずだ…定例会議にかけんとな」
 悪態を吐きながら傘の入ってない鞄を頭の上に掲げる。こうなれば仕方ない、といった表情だ。
「どう考えても傘を持ってきている連中が校舎内にまだいるとは思えん…諸葛亮孔明、一生の不覚。ラボに篭るには準備不足…」
 普段から専用ラボに篭る事もしばしばだったが、食料及び着替えが必須の泊り込み。今日は篭るつもりは無かったので用意していなかったのだ。
「運動は苦手な方だ…が、進退窮まった。やるしかない…」
 意を決すると鞄を傘代わりに勢いを増した雨の中に飛び込んでいった………────


「全く酷い目にあった…」
 寮の玄関で髪をかきあげ、溜息を吐く諸葛亮。鞄が傘の代用になるにはあまりにも小さすぎたのか、全身は濡れ鼠になり制服がべっとりと体に張り付いてしまっている。上着に至っては下着が透けてしまっていた。
「まずは体を温めんとな。風邪を引いては元も子もない」
 寮の管理者が気を利かせたのだろう、玄関先に置いてあったタオルを一枚手に自室へと向かう。と、そのドアノブに見慣れた黒いものがぶら下がっていた。持っていたタオルと鞄がどさどさっと床に落ち、わなわなと怒りに震えだす。
「これは…私の傘! し、しかも使用済みではないか!」
 そう、それは自分の所有物。市販物に頼らない彼女が買った数少ない生活用品、それだけに妙な愛着心のあった折り畳み傘だったのだ。
「おのれ、憎き下手人! 久々に私も怒り心頭だぞっ!」
 怒りに打ち震えながらタオル、鞄、そして傘を回収して部屋に入り…そして乱暴にドアを閉めた。たまたま近くにいた馬岱がびっくりして階段を踏み外したのはまた別の話。

 話はこれでお終いなのだが…さて、諸葛亮の傘を盗んだ張本人は誰だったのだろう? 最後にヒントを。
 予報になかった雨、傘を持ってきてない人多数につき濡れるは必然。でも、ずぶ濡れにならなかったのは?
 大体の予想は付いたでしょう。機会があれば、続きのお話をするとしましょう。

                       了

919 名前:★教授:2006/04/16(日) 22:53
お久しぶりです。駄文の帝王、教授です。
存在が希薄になって久しいですが…一応生きているという事で。再び駄作を世に…。
時間もなくて何だか短くて尻すぼみな内容ですみません。
一ヶ月くらい使ってゆっくりと筆を取りたいなぁ…。

諸葛亮を主人公にしてみました。意外とこの人を主役にした作品が少なかったもので、出来心的な感じのノリで書きはじめました。
完璧超人を地に我が道を進む彼女にもこんな一面が…と想像を膨らませました、が。結果は散々なもので。
このままでは私も不完全燃焼、何とか見れるものにリメイクしてあげたいなぁ…

920 名前:海月 亮:2006/04/17(月) 20:32
>教授様
つかおいらの解釈通りなら、孔明さんは自分の傘が目の前を通っていったのに気づかなかったと言うことになりますが^^A
横光三国志で孔明が天井裏に取り残されてしまったシーンを思い出してなんか和んだww


何はともあれご無沙汰しておりやした^^A

921 名前:★教授:2006/04/17(月) 21:50
>海月様

 彼女は目の前の萌えに気を取られていたのです(^^;)
 いつでも完全無欠ではないという事を表現したかっただけで…。
 ともあれ、お久しぶりでありました

922 名前:弐師:2006/05/13(土) 20:52
周りは美しい森に森に覆われていた。
その中に敷かれたとても広い遊歩道の中に私達は布陣している。
遊歩道は幅だけでも100mはあるだろうか。煉瓦敷きになっていて、平常時ならば、とても静かでいい場所だろう。こんなところで戦うというのも気が引けるが、仕様がないことだ。
・・・やはり、多くの人間が整然と隊列を組み、向かい合うのは何度体験しても興奮するものだ。
敵の周昂は、私たちの軍の二倍ほどの兵力。兵力の差だけで言えばかなり絶望的と言っても良いだろう。
しかし、つけ込む隙はある。
まず、将の器。
周昂の名前は今日初めて聞いた、しかし、孫堅さん程の将はなかなか居ないだろう。
第一、今まで名前すら聞いたことさえない将だ、まあ、その程度と言うことなのだろう。
そして、兵の質。
今、袁紹の精兵はお姉ちゃんとの戦線に居る。ここにいる兵はそれほど練度が高くはない、それは今こうして向き合っていれば分かる。以前、お姉ちゃんの元で対峙したときと、明らかに「気」が違う。
それに対して、孫堅さんの軍は精鋭中の精鋭。二倍の兵相手でもかなり持ちこたえられる筈。
まずは耐えに耐えて、敵の崩れを誘う。

そして、私の率いる白馬義従。彼女らを率いて、私が本陣に突っ込む。

それが成功すれば、勝てる。
ミスれば、それで終わり。

白馬義従の娘達の顔を見回す。誰一人とておびえている娘は居ない。
ふふ、上等じゃない。流石は精鋭中の精鋭だ。
やってやるよ。私だって公孫一族なんだから、名を汚すわけにはいかない。



「よし!進軍だ!」

孫堅さんの号令の元、歩兵のみんなが敵軍へ攻撃を仕掛ける、一段目は程普さんが指揮を執っている。一旦は押し込み、その後少しずつ誘い込む作戦だ。
まずは互いの軍の一段目がぶつかる、兵力差を物ともせず、こちらが押し込んでいっている。
段々と敵の一段目が崩れ始める、程普さんは兵達の先頭で竹刀を振り回している。

ん?・・・おかしい、だんだん敵兵が二つに別れている、誘い込み挟み込む気か。
程普さんは気づいていているのかいないのか、そのままどんどん前進している。いや、させられているのか。
敵陣に飲み込まれ、挟み撃ちに合う寸前のところで、いきなり孫堅さん自ら率いるバイク部隊が突っ込んでいく。それと入れ替わりに、程普さんが後退していく。なるほど、流石は孫堅さんの配下、よく訓練してある。
孫堅さんは挟み撃ちにしようとした兵達を追い散らし、同様に引き上げてくる。
敵は算を乱し、結局全軍で押しつぶそうと前進してくる。
必然的に、陣は乱れる。
そして、決定的な隙が出てくる。
本陣と前衛との隙間。そこに全速力で、突入。

「今だ!本陣の周昂の所に突っ込むよっ!」

大地が震える。どんどんスピードを上げ、本陣に近づいていく。

乱戦に、突入する。
周りの娘達には目もくれずに、ただ一直線に周昂の元へ向かう。
「邪魔をするなら、容赦しないよっ!」
どんどんと本陣の中を進んでいく。
それほどまでの圧力はない、やはり、大したことのない敵か。
時々遮ろうと前に出てくる娘もいたが、それもどこか及び腰ですぐに蹴散らした。
私達に合わせ、防戦に徹していた孫堅さん達の本隊も攻勢に転じている。
前からの圧力に加え、陣の内部も引っかき回されているのだ、潰走するのも時間の問題だろう。
流れは、確実にこちらに来ている、あと一押しだ。

風が私の頬を打つ、まさに天を駆けるかの如く周昂に近づいていく。
周昂まで、あと

――――――――50m
――――――――25m
――――――――10m

――――――――――0!!!

遂に、周昂をとらえた。旗本達も蹴散らし、彼女に向かう。
「覚悟!!」

間近で見た、周昂の顔、それを見た瞬間、背筋に冷たい物が走る.
私は勝利を確信した、きっとそれは正しい。
それなのに――――――――
何だというのだ、今から飛ばされようとしているのに何故っ!!

「何故貴女は、笑ってるのよっ?!」
「分からないの?所詮はあの公孫サンの妹ね・・・ふふ・・・」
「何がおかしいと言っているの!」
「ふふ、じゃあ、教えてあげる。私は、周昂さんじゃないわ・・・あなた、周昂さんの顔知らなかったでしょう?もしかして、名前すら知らなかったんじゃないかしら。
ただ、本陣にいて、旗本に守られているから、私のことを周昂さんだと思った・・・
ふふ、そう、本当の周昂さんは、本陣には最初からいなかった・・・」
そう彼女が言い終えたとき、左右の森の中から鬨の声が響いてきた。
まさか・・・伏兵・・・
森の中から出てきた軍の先頭には、目つきの鋭い、薄笑いを浮かべた女が立っていた。
あいつが、本物の、周昂・・・!!

「孫堅さぁん!!!逃げてぇっ!!!!!」

――――――――だけど、その絶叫も、


前後左右の鬨の声にかき消されて――――――――

923 名前:弐師:2006/05/13(土) 20:54



詰めの甘い越さんなのでした。


>雑号将軍さま

袁術先輩は凄いですね、ほんとに。
設定を見てるだけで私の手には負えない気がしてましたw
「一位にこだわるがそれに値する努力はしっかりしてる」というのが素敵です。


>北畠蒼陽さま

たった一言ですれ違ってしまった二人・・・相変わらずの素晴らしいダークっぷり!流石は蒼陽さまです
是非袁術先輩も書いて下さい!!
私の筆力ではこれが限界です・・・


>海月 亮さま

呂蒙の決意。そしてそれを認め、協力する少女達。青春ですね!
着々と進んでいく関羽包囲網、決戦が楽しみです。


>教授さま

完全無欠な孔明さんの弱点・・・それは「萌え」だったのですねw
いやはや、流石は教授さまでございます。

924 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:19
−武神に挑む者−
第一部 >>898-901
第二部 >>909-912



第三部 決戦への秒読み


呂蒙たちが陸口の渡し場から遠くの戦場を"観ている"丁度その頃…虞翻は手筈通り、公安津の留守居を命ぜられた士仁の元を訪ねていた。
(…成る程)
闖入者に対して何の警戒も払わないどころか、こちらを時折伺う視線も無関心そのもの。
その守備隊のかもし出す雰囲気からは、訪れるであろうに未来に絶望しているように虞翻には思えていた。
(……同情したくもなるわね)
天下分け目ともいえるこの機会に背後の守りを任されるのは良いとしても…恐らく此処に残されたものは、"前線にいても無用の長物"というレッテルを貼られて、切り捨てられた者たちであろう。
帰宅部連合がまだ弱小勢力のことから劉備や張飛らと艱難をともにし、奸雄曹操をも虜にした義の人・関雲長。
その裏に隠された関羽のもうひとつの顔を、虞翻は垣間見たような気がした。
(君義の落ち度は、此処まで酷い扱いを受けなければならないほどではないだろうに…ううん、厳粛に取りしまるとのは良いとしても)
その返り咲きの機会すら与えない…そんな関羽の冷徹な一面を垣間見た気がして、彼女は何時しか不快感すら覚え始めていた。

いや。
彼女が関羽に抱いた嫌悪感は、既にこうなる前から、持ち合わせていたものだった。
長湖部側から持ち出した親睦の歓談を拒絶し、公式の場で孫権を貶める発言をした…そのときから。

執務室に通された虞翻は、半年振りくらいに会った旧友の表情の変化に、衝撃を受けずに居れなかった。
腕前はともかくとしても、発展途上だった同門の有望株は、少なくとも此処まで覇気のない表情はしていなかったはずだ。
快活で前向きだったその彼女の面影はすっかり消え去り…瞳には絶望と憎悪が渦を巻いているように見えた。
「…あなたの言葉…信じてもいいのね?」
「ええ。ただし、条件があるわ」
既に前もって、文書で双方の意思疎通は図られていたのだ。
「……江陵棟の糜芳、その懐柔が条件よ」
「問題はないわ」
その少女は、虞翻に一通の文書を手渡す。
「我ら二名、および公安津・江陵駐屯軍の末卒に到るまで、あの女に味方するものはないわ…!」
「そう」
虞翻は此処まで自分の思い通りに運ぶとは思いもよらず、苦笑を隠せずにいた。


それから30分後、虞翻の連絡を受けた長湖部の精鋭部隊は、樊で戦う関羽にその動きを悟られることなく公安津への上陸を果たした。
「あんたが士仁だな」
「はい」
呂蒙との面会を果たし、降伏者の礼を取る士仁。
「そんなに堅っ苦しいのは抜きで良いよ。立場が立場だから暫くは肩身狭いかもしれないけど…まぁひとつよろしく頼むわ。これからの戦列に加わって協力してもらってもいいかい?」
「無論。武神などと呼ばれ有頂天になっているあの女に、是非とも一泡吹かせる機会を!」
見つめ返す栗色の瞳の奥には、憎悪の炎が渦巻いているかのよう…呂蒙もまた、虞翻が抱いたのと同じ印象を受けた。
傍らの虞翻に目をやる呂蒙。
「…彼女は私と同流派の使い手よ。先鋒に加えて、彼女やひいては我が流派が蒙った汚辱を晴らす機会を与えてくれれば、私としても嬉しい」
その応答に満足げに頷く呂蒙。
「よし決まりだ。此処の連中もやる気満々のようだし、先ずは関羽攻略に一役買ってもらうとするかな」
「…ありがとうございます!」
初めて喜悦の表情を表し、深々と一礼し退出するその少女の姿を見送り、呂蒙は再び虞翻を見やる。
「…どんなに堅い胡桃の実にも虫が食っていることがあるが…まさにその通りだな」
「そうね」
呟く虞翻には何の表情も伺えない。
彼女としても複雑な気分であっただろう。志は違えたといえど、旧友の弱みに付け込んだ格好になったのだから。
「これで私の役目は…」
「んや、あんたにはもう一役買ってもらわなきゃならん」
「え?」
立ち去ろうとした虞翻だったが、呂蒙は更なる重責を彼女に負わせるべく考えていたらしい。

ふたりがそのあと、何を話していたのか知る者はいない。
唯、以降この陣中に虞翻の名をみることはない。
その後関羽攻略を記した記事の中に唯一つ、虞翻が孫権に問われるまま占いを立て、関羽が彼女の予見したとおりの時間に囚われたことを孫権が称揚した以外には…。

925 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:19
陸遜達が夷陵棟に腰を落ち着けて間もなくのこと。
「伯言ちゃ…いやいや、主将、江陵から電報来ましたよ」
「思ったより早かったのね」
大仰に敬礼しなおして部屋に入ってくる駱統の姿に苦笑しながら、受け取った電報にさっと目を通す。幼馴染であったゆえか、陸遜は駱統にこういう茶目っ気があることを良く知っていた。
「ところで公緒、周辺の状況は?」
「とりあえず宜都、秭帰、巫の各地区に散在する小勢力の制圧は完了してるわ。此処も元々少人数しか残ってなかったからさしたる抵抗もなし。一先ず任務完了ってとこかな」
そう、と一言呟くと、
「じゃあ私も最後の仕上げにかかるとしますか…軍団のうち、300を率いて関羽包囲に加わるわ。暫定的な軍編成はここに書いたとおりに、あなたに一任するわ」
手元の書類を封筒にしまいこんで、駱統に手渡した。
「ねぇ、伯言ちゃん」
退出しようとする陸遜の背に、駱統は問いかける。
「伯言ちゃんは、これが終わったらまた、元のマネージャーさんに戻るの?」
「…そういう、約束だからね」
そのまま振り向こうともせず、陸遜は「後はよろしくね」と一言残して、その場を後にした。
その場に取り残された格好になった駱統は暫くその場に突っ立っていたが…
「……惜しいなぁー」
と一言呟き、主のいなくなった部屋のソファーにひっくり返った。


江陵陥落から間もなく、その陣中には長湖の精鋭軍を引き連れてきた孫権の姿があった。
江陵にて後方守備軍に睨みを利かせていた潘濬は、江陵をあっさりと占拠されたという事実を恥じ、寮の一室に閉じこもっていたが、孫権は呂蒙の進言にしたがって彼女と直接面談し、その協力を仰ぐことに成功した。
余談ではあるが、孫権はこのとき、布団から出たがらない彼女を、布団ごと担架に乗せて連れて来させたらしいという噂もあったという。孫権を快く思わないか、潘濬の節度を惜しんだか、あるいはその両方を持ち合わせている誰かが、そんなことを言い出したのだろう、ということだった。
それはさておき。
「ボクとしても本気で帰宅部連合と事を違えるつもりはない。そもそも荊州は長湖部が帰宅部連合に貸与したものであって、しかも境界線を犯して備品を強奪するということ事態が言語道断のはず」
執務室で、潘濬を前にして険しい表情の孫権。
潘濬はあくまで無言だった。備品強奪の件についてはまったく彼女の与り知らぬ事であり、そもそもそんな事実が存在したのかどうかすら知る術がなかったからだ。
実際、関羽は于禁率いる樊棟救援軍を壊滅させると、そこで軍備不足となったため、夷陵棟から追加兵力を導入する際に湘関にある長湖部カヌー部のカヌーを無断で使用し、挙句に戦場にまで持ち出したままになっている。
危急の事態とはいえ、あまりに言語道断な話である。仮に関羽の指示ではないとはいえ、その卒に至るまでが長湖部という存在を下風に見ていたという証左だ。
そのことを聞かされた潘濬も(あぁ、そのくらいは仕出かしているだろうな)くらいのことは考えついていた。
関羽の独断専行は今に始まったことではない。現実に関羽は荊州学区における裁量の総てを帰宅部連合の本部から一任されており…そもそも今回の樊攻めも関羽自身の判断において実行されたものである。そこに潘濬や馬良、趙累といった関羽軍団の頭脳集団にその実行の審議を求めた形跡もなく…あくまで彼女の裁定に従い、各々与えられた職務を全うすることだけが求められた。
現実、関羽の裁定に非の打ち所がなかったことも確かだ。蒼天会との戦線を開くには、蒼天会が漢中アスレチックを放棄したこのタイミングをおいて、他にない。唯一懸念があるとすれば、関羽の"馴れ合い拒絶"に心中穏やかならぬはずの長湖部の動向のみだが、その主力はあくまで合肥に釘付けになっているはず…。
彼女にとっての大きな誤算は、やはり士仁や糜芳といった不平分子が予想外に多かったこと、そして、何よりもこの南郡という場所に対する長湖部の執念だろう。
彼女は孫権の表情から、単に関羽の言動に対する衝動的な感情だけで動いたのではないことに、気がついていた。
「貸主が借主の非礼に対し、相応の行動をとったということ…そのことを伝える使者に、キミに立ってもらおうと思う」
「…何故…私に?」
降伏組なら士仁や糜芳もいるし、使者として立つべき人物は長湖部員にも多くいるはず…特に士仁らの調略に関わった虞仲翔など、その際たるものであるのに…あるいは、やはり降伏者である自分への踏み絵とでも言うのだろうか。
その考えを読み取ったかどうか。
「…キミはここにいる中では、一番関雲長に対して敬意を払っている…そういう人になら、ボクの思うべきところをちゃんと彼女に伝えられると思ったからだよ」
そういって、孫権は微笑んだ。
その微笑みに、潘濬は関羽同様、孫仲謀という少女の器の大きさを見誤っていたことを思い知らされた。
(…そうか…最大の敗因は、私達の認識不足だったということか…)
彼女はこのとき初めて、決定的な敗北感を味あわされたような、そんな気がしていた。

その使者の命を拝領して、彼女が関羽の元へ出向いたのは間もなくのことだった。

926 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:20
「…実にいい風じゃないか」
戦場に近いクリークの上。
その行動開始時間を水上で待つ蒋欽は、遠くその"予定地点"を眺めながら、そう呟いた。
銀に染めた髪を無造作に束ね、腰にはジャージの上着と共に鉄パイプを括り付け、威風も堂々と立つその姿は…かつて湖南の学区を我が物顔に支配していたレディース"湖南海王"のヘッドを張っていた彼女そのままだった。
「これから何か起こるにしては、なんとも拍子抜けじゃねぇか?」
「あたしにゃそう思えませんけどねぇ」
答えるは、傍らに座る、どんぐり眼で赤髪の少女…吾粲。
舳先に座っている所為以上に、元々大柄の蒋欽と小柄な吾粲の身長差は40センチ以上あるため、吾粲の姿は余計に小さく見えた。
「これから始まるのは、まさしく学園勢力図の情勢を一変させる戦いですよ? むしろ、この静けさのは不気味でなりませんよ」
「…そうともいえるな」
吾粲の表情は硬い。蒋欽にも、その理由は良く解っていた。
彼女達がこれから相手にするのは、学園最強の武神と名高い関雲長。
夏に戦い、結局打ち倒すことの叶わなかった合肥の剣姫・張遼と比べても決して劣らない…いや、今の学園内において、下馬評によれば関羽の将器は張遼を大きく上回るとさえ言われている。
(そんなバケモノじみた相手に、果たして長湖部の力は何処まで通用するのか…?)
長湖幹部会でも危惧されてきたことだが、前線に立つ命知らずな長湖部の荒くれたちにも、その懸念がないわけではなかった。
いや、むしろ実際前線に立ち、数多の戦いを経てきた蒋欽らのほうが、むしろその思いを強く抱いていたに違いない。
「…なぁ、孔休」
不意に名を呼ばれ、自分の頭のはるか上にある蒋欽の顔を見上げる吾粲。
「あたしはこの戦いで飛ばされるかもしれない。飛ばされないかもしれない」
その表情は、一見普段とまったく変わらない様に見える。
しかし吾粲には…その黄昏の陽を背にしている所為だったのかどうか…何処か悲壮な決意に満ちたもののように感じられていた。
「どんな結末になろうとも…必ず関羽は叩き潰す。そのために必要な力が足りないというなら、その不足分はお前の脳味噌で補ってくれ」
「…言われるまでもないですよ」
それきり、ふたりが目を合わせることはなかった。
暮れ行く冬の夕陽を浴びながら、その眼はこれから赴く戦場…その一点だけを見据えていた。


日が暮れかけてきたころ。
江陵からは孫権、呂蒙、孫皎を中心とした千名余の長湖部主力部隊が、夷陵からは陸遜率いる三百名が、臨沮には潘璋、朱然らの率いる五百名が、そして柴巣からは湘南海王の特隊を含む千名が、それぞれ行動を開始していた。
江陵陥落の報を受けた関羽が、漸くにして事態を確かめるために南下してきたのだ。その勢はおよそ五百、僅かに関平、趙累ら一部の旗本を引き連れて。
「こいつぁ大仰なことになってきたなー♪」
臨沮駐屯軍の先頭に立ちながら、ぼさぼさ頭を無理やりポニーテールにしている少女…潘璋が嬉々として言う。
「でも先…主将、いくらあの武神が相手とはいえ、相手五百に対してうちらその何倍で囲んでるんですか?」
それに併走しながら、狐色の髪をポニーテールに結った小柄な少女が問いかける。
少女…丁奉の言葉には、わざわざ関羽一人葬るために、長湖部の全力を傾ける必要があるのか、という不満も見え隠れしていた。
言い換えれば、関羽一人をそこまで恐れなければならない、その理由が理解できなかった。
潘璋は苦虫を噛み潰したような表情で「けっ!」と一言吐き捨てる。
「寝言は寝て言いな承淵! 相手は学園最強の武神サマだ、十倍投入してもお釣りなんか多分でねぇ!」
そして、なおも何か言おうとする丁奉の言葉を遮り、
「…確かに関羽を恐れないものはいねぇ。だがな、だからこそ今全力をかけて、ヤツを叩き潰さなきゃならない…! アイツは事もあろうに、公式の場で長湖部を…あたし達が背負ってきたものを侮辱したんだ。その落とし前もつけさせてやらなきゃなんねぇんだよッ!」
珍しく真面目な顔で言い切った。
これには丁奉も納得せざるをえない。いや、むしろ彼女にも痛いほどよく解った。
彼女達が守ってきた長湖部の名…それを背負う孫権を、わざわざ公的な場で「門前を守る犬にも劣る」と言い放った関羽。孫権に対する侮辱は、孫権に見出されて世に出た彼女達に対する侮辱でもある。
「今のあたし達には、武神に対する恐怖なんかねぇ…あの高慢ちき女に一泡吹かしてやろうってことしか頭にないんだよ!」
「…心得違いでした。あたしも、及ばずながら!」
「おうよ、期待してるぜぇ! あんたもなっ!」
その答えに、普段のふてぶてしい表情に戻って、口元を吊り上げる潘璋。その傍らにいたもう一人の少女も無言で頷いた。
それは紫のバンダナを銀髪の上に置き、そこからはみ出した前髪から、僅かに深い色の瞳が覗いている…不思議な雰囲気を持つ少女であった。
丁奉はその少女…といっても、恐らくは彼女よりもずっと年上なんだろうが…の姿に、ほんの数時間前初めてであったときのことを思い出していた。

927 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:20
ほんの十数分前、益州学区に程近い臨沮地区へ向かおうとする潘璋を呂蒙が呼び止めた。
「実はなぁ、この娘をあんたの軍団に加えて欲しいんだ」
「えー?」
呂蒙が連れてきた少女こそ、件の少女…馬忠である。
既に戦闘の段取りを組み終えたところで、逆に新たな人員を加えることは、組み上げた段取りを再構築しなければならないことを意味する。潘璋の不満げな反応も、至極当然のことだが…呂蒙の熱心な説得に潘璋が折れ、その少女は丁奉に指揮を一任されている銀幡軍団に預けられることと相成った。
話によればこの馬忠、どうも何らかのトラウマがあって、それ以来言葉を失ってしまったということだった。その代わりといってはなんだが、武術の達人であり、関羽に対してもかなり一方ならぬ感情を持っているという話だった。
挨拶を求めても、そっけない感じで会釈を返しただけで軍団の最後尾に引っ込んでしまったその少女を目で追いつつ、丁奉は呟いた。
「なんだか、とっつきにくそうな人ですね…」
「あぁ。しかも偶然とはいえ、あたしとまったく同姓同名だ。ちっと呼び分け考えてもらわんとなぁ」
「え?」
丁奉の傍に、少し柄の悪そうな金髪の少女が苦笑している。
彼女は銀幡軍団のナンバーツーにあたる、阿撞と呼ばれている少女だった。甘寧療養中の銀幡軍団の実質的なまとめ役であり、丁奉のサポート役でもある。
「なんだ承淵? まさか"阿撞"ってのがあたしの本名だと思ってたんじゃないだろうな?」
「あ…いえ、その」
年季の入った百戦錬磨のガンに、慌てる丁奉。
「そりゃあんた、まったく本名の話してなかったくせにそれはないやろ」
流暢な関西弁を喋る少女が助け舟を入れる。銀幡のナンバースリー、暴走した甘寧を止められる数少ない存在の一人である蘇飛である。
「そういううちも、話してなかったしな。堪忍な」
「ち、阿飛、あんたばっかいい方に廻るな」
固まったままの後輩の肩を叩きながら蘇飛が笑い、つられる様にして阿撞…馬忠も笑う。
「阿撞ってのは、あたしがピンでやんちゃやってたころの通り名でね…リーダーに拾われたあとも、面倒くさいからそのまま通してるのさ。まぁ名札なんてのも普段付けねーし、クラスどころか学年も違うから知らなくて当然だよな」
はぁ…とあっけにとられた感じの丁奉。
「まぁ別にええんやないの? あの娘は馬忠でええやろし、あんた呼ぶときは阿撞せぇばええわけやし」
「てきとーいってくれるなオイ…一応親からもらった名前だぞ?」
けらけらと楽しそうに笑う蘇飛と、苦笑する馬忠。
そんな先輩ふたりのやり取りを他所に、丁奉は何故か"もうひとりの"馬忠が気になっているようだった。
その容姿、仕草…そしてその雰囲気は、何処か自分の知っている人物に酷似している様に思えたからだ。後に近い将来、共に長湖部を支えていくことになるある少女…いや、正確に言えば、それと縁のある人物に。
「どうかしたのか?」
「あ…いえ、別に。行きましょうか」
自分よりはるかに年上のヤンキー軍団と、その寡黙な少女を促して、移動を始めた潘璋軍団の後尾につきながら、
(…まさか…ね)
彼女は頭を振り、その考えを否定した。
彼女の記憶にあるその人物は、決して戦陣に立つイメージは思い浮かばなかったからだ。

丁奉の思索を打ち破ったのは、突如耳に飛び込んできた怒号。
時刻にして五時半を少し周っていたが、冬という季節がら既に日は落ち、彼女達の目指す先には明かりが見て取れる。
街灯の明かりばかりではなく、この時間の戦闘になることを見越して持ち込まれた照明機材の光で、そこだけ昼間の如く明るくなっていた。その燭光で、暗がりからの攻撃をカモフラージュする意味もあった。
言うまでもなく、そこが関羽包囲網の最終ポイント。少女達が目指す場所でもあった。
「…よし、大魚は罠にかかった! 承淵、あんたは銀幡軍団とその無口ねーさん引き連れて義封と後詰めにつきな!」
そして、目指した最終戦場を見渡せる高台に軍団を展開させる潘璋。
「先輩は!?」
「このまま公奕ねーさんの軍と挟撃かける! あんたたちは包囲を完璧にして、アリの子一匹通すなよ!」
「はいっ!」
その丘に帰宅部勢と長湖部勢の激突を、そして丘の対岸に蒋欽の姿を見て取った彼女は、思い思いの獲物を手にして戦闘準備を整えた子飼いの軍団に檄を飛ばす。
「決死鋭鋒隊、あたしに続けッ!!」
潘璋を戦闘に、怒号と共に雪崩を打って駆け下りる鋭鋒隊。
時を同じくして、対岸から戦場へ雪崩れ込む蒋欽軍団。
そして、関羽の正面から姿を現す呂蒙率いる長湖部本隊。
(多勢に無勢…どう考えても逃げ道はない…でも…)
その光景を、彼女は取り残されたその場から遠く眺めながら。
丁奉は、戦場の中央で沈黙を守る関羽の姿に、形容しがたい不吉ものを感じていた。

928 名前:海月 亮:2006/06/04(日) 21:27
実に一ヵ月半ぶりだぜイエー!\(^0^)/

そして振り返ってみたら関羽サイドの話がまったくありません><
次の話はそこら辺少し触れることになるでしょうけど、そんなに深くは突っ込まないかもしれません。



>弐師様
罠キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!(何

結末を知っているとはいえ、そこにいったいどんなドラマが待ち受けておるのか楽しみなおいらがいます^^^
くそうもっと早く読んでおけばよかったぜ…><

929 名前:北畠蒼陽:2006/06/11(日) 23:49
「これは……渡すわけにはいかへんのですえ」
「貴女の想いに関わらず、それは失われるわ」
ある一室に2人の少女が対峙する。
ドアを背にした白髪の少女が『それを渡せ』とでもいうように左手を前にして一歩近寄る。
窓を背にした黒髪の少女が自分の胸元の……その手の中にある蒼天章をかばうように二歩後ろに下がった。


罪と云う名の物語を背負って


廊下を1人の長身の少女が全速力で走っていた。
走るごとにポニーテールが上下に揺れ、流れる汗も視界を妨げる。
それでも彼女は走っていた。
そして……
「皇甫嵩さん! 廊下は歩いてください!」
目的である部屋にようやくたどり着く、そのときに少女を……皇甫嵩を妨げた少女。
この年齢の少女にしては平均身長をはるかに下回るだろう。長身の皇甫嵩からは見下ろすほどに小さい……
しかしその両の腕を横に伸ばし、ここから先には進ませないという気迫を放つ。
「……っ!」
皇甫嵩は足を止め憎憎しげにその小柄な少女……士孫瑞を睨みつけた。

「なんで貴女は……そうやって……」
黒髪の少女が白髪の少女に声をかける。
その声に滲み出るのは悲しみの感情。
白髪の少女は……なにも答えない。

「士孫瑞……貴様ら、自分がなにをやっているのかわかっているのか」
額を流れる汗を手の甲でぬぐい皇甫嵩は士孫瑞に憎悪すらこもった視線を向ける。
「貴様らがやろうと思っていることが……どんな影響を及ぼすか考えたことがあるのかッ!」
怒声。
それでも士孫瑞は腕を大きく横に広げたまま、皇甫嵩を睨みつける。
「私はあの人に救われたことがある。今度は私があの人を救う番だ。ここは通してもらうぞ」
皇甫嵩の気が膨れる。
戦場を長らく駆け回ったものだけが発する闘気ともいうべき波動。
士孫瑞はそのあまりのプレッシャーに眉を歪め……
眉を歪め……それでも2歩だけ後ろに下がって……まだ両の腕を大きく横に広げていた。
「ここは……通しません……」
皇甫嵩は鼻で大きく息を吐く。
「……死にたいのか、貴様」
澄み渡る皇甫嵩の闘気に……士孫瑞はもう下がらない。

「そんな……貴女1人が罪を被る必要はないはずや……それなのに……なんで……」
黒髪の少女は自分の制服の胸元を握り締める。
その拳の中にあるものを渡してしまったら……そのときは……

「?」
皇甫嵩がきょとんとした顔でたたらを踏んだ。
「士孫……瑞?」
冷や汗すら流し、ずっと歯を食いしばって耐えていた士孫瑞が……
皇甫嵩を平手で打った。
もちろん皇甫嵩にとってその一打で判断が鈍る、ということはない。
だが……
「なめるなよ、戦争屋ッ! こちとら蒼天会の中枢で官僚を務めてんだッ!」
ずっとあの女の腰巾着だと思っていた小柄な少女の反駁に……
皇甫嵩はわかってしまった。

930 名前:北畠蒼陽:2006/06/11(日) 23:50
「うちはトぶのが怖いんちゃいますえ……貴女が失われるのが、その覚悟がなにより怖いんや! そうでしょう……答えてや、子師はん!」
子師……王允に呼びかけるその声。
「蔡ヨウさん、貴女の蒼天章を奪うことはあなたに対して悪いと思う。でも私にはそれしか思いつかなかった」
王允は黒髪の少女、蔡ヨウの名を呼び、また一歩近寄る。
「呂布は……学園史に残したくもない、ただの猛獣だ。私はあの魔王、董卓を排除するためとはいえあのような者と手を組んでしまったのです」
私の手は汚れている、と自嘲する風すらなく言い放つ王允。
「さらに私がここで貴女を……名図書委員たる貴女をトばせばさらに私の悪名は高まる。そのときこそ……悪逆非道たる私と呂布をトばした人間を英雄として学園史は迎えてくれることだろう」
自分が悪名を高めれば高めるほど、それを倒すものは祝福とともに迎えられる。
蔡ヨウはいやいやするように首を振る。
「子師はんがその猛獣を御せばえぇ! 貴女にはそれだけの力がある!」
「残念ながら……」
王允は蔡ヨウの言葉に……初めて自嘲の笑みを浮かべた。
「私の器はあの魔王よりも下だよ。魔王すら御し切れなかった猛獣は私の手には余る」

「あんたたちは……王允もあんたもそれでいいのか!」
10年も20年も……
ずっと学園史の闇の部分を背負って……
生きていくというのか。
皇甫嵩は震えながら口を開く。
歴史に残る消せない汚名……それは死ぬよりも苦しいことなんじゃないだろうか。
「正直ね、怖いよ。いやだよ、私だって」
皇甫嵩の頬を打った右手が痛むのだろう、左手で押さえながら士孫瑞はそれでも皇甫嵩から視線をそらさずに言い放つ。
「でもね、嫌われるから官僚なんだ! 嫌われない官僚になんの価値がある!」
「……なにか私にできることは?」
皇甫嵩の言葉に鼻で笑い飛ばす士孫瑞。
「ここは官僚の戦場だ。戦争屋はすっこんでろ」
士孫瑞の言葉に……皇甫嵩はその小柄な体を強く抱きしめた。
「……あんたも……王允も本当にバカヤロウだ」
士孫瑞はその言葉に微笑みすら浮かべる。
「皇甫嵩さん、貴女は朱儁さんや丁原さんや盧植さんと一緒に卒業するって、そう約束してるんでしょう? 私たちにとってね、それが守られることがなによりも嬉しいことなのよ……私たちは卒業式に出ることはできないけど……約束して。ちゃんと4人そろって……私たちのかわりに卒業してくれる、って」
「約束する。約束するさ……」

「蔡ヨウさん、別にあなたにはなんの恨みがあるわけじゃない。ただ正義という名前の旗印として適当だったというだけ。だからとばっちりで蒼天章を奪う私のことをどれだけ恨んでくれてもかまわない」
「恨めるわけ……あらしませんやんか……」
王允は蔡ヨウの胸元に……蒼天章に手を伸ばす。
蔡ヨウは抵抗をするが……それはもはや形だけのものに過ぎない。
「本当に……ごめん」
王允の言葉とともに蔡ヨウは蒼天章を失った。

931 名前:北畠蒼陽:2006/06/11(日) 23:50
あらぁー? 何ヶ月ぶりでしょう? 何ヶ月ぶりでしょう!
ごめんなさい。さぼってました。うひぃ。
ってわけで王允話です。うひぃ。

……なんだこの話。

>教授様
あふん、萌えが書けない私にとっての癒しは他の方々の書かれる物語です。あふんあふん。諸葛亮えぇわぁ(笑

>弐師様
おぉ〜ぅ、戦場の緊迫感とか、いいじゃないすかいいじゃないすか〜。
続きー続きー。楽しみにしてますねん。

>海月 亮様
ぬぬ……虞翻さんが動いておるよ?(笑
関羽が神になっちゃっただけに呉ビジョンでの征関ってあんまないと思うんで純粋に楽しませてもらってますよん。
たーのしみー。

932 名前:冷霊:2006/07/25(火) 15:20
壱:885
弐:895
参:896

葭萌の夜〜白水陥落・肆〜

夕刻・白水門にて。
「ったくあの馬鹿!大事なときに限っていっつもアイツは……!」
「お、落ち着いて下さい!まだそうと決まったワケじゃ……」
「わかってる!そんなことあってたまるかっ!」
ガンと門柱を殴りつける。
「……っとゴメン。劉闡に当たっても仕方ないか……」
約束の時刻、白水門に楊懐の姿はなかった。
あたりにいた生徒の話だと、楊懐らしき人物が葭萌へと向かったらしい。
一人で行くということが何を意味するかよくわかっているつもりである。
「あたし行ってくる!」
「こ、高沛さん!? 行ってくるって……白水門はどうするんですか!?」
「劉闡!後は任せたっ!」
「はいっ!……ってええっ!!」
驚き顔の劉闡を尻目に、高沛は駆け出していた。
後ろを振り返りもせずに。
「高沛さん……ちょ、わ!私も行きますっ!」
劉闡も慌てて棒を握り締め、高沛の後を追う。
血の滲んだ門柱を夕日が照らしていた。

三年前、益州校区に来たばっかのあの頃、あたし等は南陽から流れてきた連中の面倒を任されていた。
あたしは特別な腕が立つわけでも、優れているわけでもなかった。
けど、君郎さんはそれでもあたし等に益州校区のことを任せてくれた。
君郎さんの考えは今でもわからない。でも、楊懐と決めたんだ。
君郎さん……いや、益州校区の皆を一つにしようって。
皆で楽しめる何かを見つけようって……。

ふっと考えが途切れる。
目の前に見えてきたのは葭萌関、その傍らには幾人かの姿があった。
「劉備……」
足を緩め、ゆっくりと立ち止まる。
「高沛はんに劉闡はん、三分遅刻やでー?」
劉備が妙に明るい声で声をかける。
「は?劉闡?」
高沛が訝しげに後ろを振り返る。
するとそこには……
「遅刻のことは……申し訳……ありません……」
劉闡がいた。
いつもより少しだけ険しい表情で。
「楊懐さんは……楊懐さんは何処ですか!?」
「劉闡……ついて来ちゃったかー……」
高沛の横を通り過ぎ、劉闡はよろよろと劉備へと歩み寄ろうとする。
「劉備さん!答えて下さ……い?」
尚も進もうとする劉闡を、高沛は片手で静止した。
「ああ、そのことに関してなんやけどちと困ったことがあってなぁ……」
劉備が少し眉をひそめる。
「困ったこと?」
「そうさね」
ホウ統が小さく頷いた。
「先程、楊懐さんが劉備さんに挨拶に来たんだけど、話の途中で武器を持ち出しちまってねぇ……」
軽くホウ統が頭を掻く。
「よ、楊懐さんが!?楊懐さんがそんなこと……」
「おっと、話はまだ終わっちゃあいないよ」
劉闡の言葉を遮り、ホウ統は言葉を続ける。
「それでウチの劉備さんも仕方なく応戦したんだけど、結果として楊懐さんの階級章を奪っちまう形になっちまったんだよ」
傍らの劉封が持っていた包みを開けた。
そこにあったのは階級章と対の短杖。
高沛には一目でそれが楊懐の物だとわかった。
「そこでだ。この事をウチが不問にする代わりに……」
「白水門の軍を寄越せっていうんでしょ?」
高沛が口を開いた。
「寄越せだなんて言い方が悪いねぇ。張魯対策に人が足りないから貸して欲しいだけさね」
「一緒のことです!高沛さん、何としても楊懐さんのもごっ!」
劉闡の口を手で塞ぐ。
「劉闡……自分がタマの妹ってこと、忘れないで」
高沛はぐっと一歩だけ前に踏み出した。
「劉闡。タマにこのことを伝えて」
「え?で、でも私も……」
「くどいっ!急いでっ!」
高沛が叫ぶ。
「……わかりました。高沛さん……どうか御無事で」
「りょーかい!」
劉闡の声に高沛はいつもの明るい声で答えた。

「いいのかい?行かせちまって」
「構わへん、元々頭数は負けとるんや。それにウチにはあんさんがおるやないか」
「へえ、評価してくれるとは嬉しい限りだね」
ホウ統がニッと笑い、そして高沛へと向き直る。
「劉備。アンタがタマを裏切ろうが益州校区を狙おうがしったこっちゃない。大体タマったら周りの意見に左右されるわ、競争心の欠片も無いわ……はぁ〜」
眉を顰め、大きく溜息を付く。
「ははは、せやろな。一月も滞在しとったらわかるわ、そんくらい」
劉備も笑い飛ばす。
「それでもあたしの友達なんだよね。タマも楊懐も」
高沛がぐっと拳を握り締める。
「だからあたしから喧嘩売らせて。買ってくんない?」
「ああ、ええで」
劉備が深く頷いた。
その口元から笑みが消える。
「りょーかい。ふぅ……」
高沛が息を吸う。
「益州校区が主、劉季玉が臣にして友!高沛参る!」
朗々とした、それでいて真っ直ぐな声が響く。
高沛は劉備に向かって駆け出した。

少しだけ高い聞き慣れた声。
何度も聞いた声。
劉闡はその声を背に受けつつ、只管に駆けていた。

933 名前:冷霊:2006/07/25(火) 15:30
うは、気が付けば四ヶ月ぶりですね。
御無沙汰しておりました冷霊です。
さーて、就活頑張らねばー(苦笑)

迷った挙句、こういう形となりました。
ホウ統の評では楊懐は名将、高沛は配下が強兵とされてましたので、こんなカンジだったのかなと。
まあ、策を弄するよりは真っ直ぐ突っ込む方が高沛らしいかなと思いまして。
劉闡については、一緒に捕らわれたのか脱出したのか結局わからずぼかしました……
何処かに表記ありましたかねぇ?(w;
でも、一緒くたにされがちな楊懐と高沛が、それぞれ少しでも生き生きと表現出来てたらなと嬉しく思います。
さて、一段落付いたら溜まってる分を一気に読んでしまいたいなぁと思っております。
葭萌関やフ水の攻防も書いてみたいなぁと思いますし。
それでは暑さにお気をつけてー。
冷霊でした。

934 名前:弐師:2006/07/29(土) 20:08
その報告を聞いたのは、あらかたの仕事を片づけて、もう休もうかとしているときだった。

越ちゃんが、飛ばされた。

すぐに私は、伯珪姉のいる棟長室へ向かった。途中で同じく報告を聞いたという単経ちゃん、田揩ちゃんと合流することが出来た。

棟長室の前へ辿り着く。少し息が上がっている、それほどまでに焦っていたのか。
少しためらいつつもドアを開く。いつもと変わらない部屋の中、ただその部屋の主だけが常ではない。
手を組み、目を堅くつぶり、近寄りがたいほどの怒気を発している。
背筋がぞくっとする。こんな伯珪姉は今までに見たことがない。
伯珪姉が口を開く、いつもより声のトーンが低い。
「来たか・・・では、行くぞ」

え?

行く?
何処に?
誰が?
何のために?
・・・思考回路が上手く働かない。自分自身焦っていることもあるが、あまりにも言葉に脈絡がない。
だが、唖然としている私達を置き去りに、伯珪姉は棟長室を出ていった。私は急いでその後を追いかける。
「い、行くって何処へですか!?」
「範、あまり愚かなことを聞くな、袁紹の元に決まっているだろう?」
そう答えながらも歩く速度はゆるめない、私の方など見ようともしない。その長く美しい髪をたなびかせながらどんどん歩いていく。
止めようと、袖をつかみ、言葉をかける
だけど、私では止められない・・・今の彼女の視界に、私は入っていない。
今の伯珪姉は、袁紹しか見えていない。
その時、廊下の向こうに一人の少女の姿が見えた。廊下の真ん中に、伯珪姉の行く手を遮るように立っている。

――――――――厳綱ちゃん・・・!

「おや・・・棟長、何処に行かれるのです?」
言葉自体は丁寧だが、厳綱ちゃんの声はどこか挑発しているようだった。
そんな彼女を、伯珪姉は押しのけようとする。
「どけ、邪魔だ」
「ふふ・・・ずいぶんと冷たいじゃないですか」
そう言い返しながら、彼女は決して道をあけようとしない。
見てるこっちがひやひやさせられる。伯珪姉はかなり苛立っているようだ。
「聞こえなかったか?邪魔だと言っている」
「何と言われようと此処を退くわけには行きませんね。越のためにも・・ね」・
「そう言うなら、何故邪魔をする?私はこれから袁紹を討ちに行こうとしているのだが・・・」
「・・・復讐は、完全に行われなければならない。それが私の持論です」
「・・・」
「あの袁紹を、完全に、完膚無きまでに、徹底的に撃ち破り、屈辱の底にたたき込んだその時に、私は復讐が完遂されると思っています。今は、まだ機が熟していない・・・私はそう思いますが」

無言。
二人の視線がぶつかり合い、火花を散らす。
どちらも退かない、真っ直ぐに相手を見据える。
暫く続いた沈黙は、伯珪姉によって破られた――――――――

「――――――――ついてこい、厳綱。これから棟長室で会議だ、お前も出ろ」

935 名前:弐師:2006/07/29(土) 20:11
会議の結果――――――――単経ちゃんは兗州、田揩ちゃんは青州、厳綱ちゃんは冀州へ、そして私は、袁紹から棟長を譲られた勃海へ向かうこととなった。

袁紹から譲られた・・・つまり彼女は私を通じて伯珪姉を何とか翻意させたいらしい。
そしてあわよくば内部分裂を謀る・・・まあ、効果的だと言っても良いだろう。

――――――――相手が、私じゃなければね。

まったく、なめられたものだ。が、くれるというのなら、有り難く貰っておこう。此処を抑えられれば、袁紹を青州方面から包み込むことが出来る。冀州はまだ、完全に治まってはいない。旧韓馥派の蜂起と呼応できれば、彼女の足下からうち崩せる。
そう、彼女を、追いつめることが出来る。


自室に戻る前、何となく気が向いて屋上に向かってみた。
越ちゃんの、好きだった場所。他と比べ少し長めの階段をゆっくりと上る。錆の来たぼろっちいドアを開け、夕暮れの空の広がる屋上へ出た。
広い屋上が、どこか不吉な黄昏色に染まっている。成る程、先人がこの時間を逢魔刻と呼んだのも無理はない。どこか非日常的な、世界の境目が無くなってしまったような感覚。
ふらふらと、夕日に誘われるようにして手すりへ近づいていく。
皆、幽州を田舎だという、結構ではないか。こんな、心が寒くなるような夕日は、此処位の田舎でしか見ることができないだろうから。
「公孫範先輩?」
後ろからの声に振り向くと、そこには厳綱ちゃんが居た。いつも越ちゃんが昼寝していたという場所、其処に彼女は腰掛け、私より早くから夕日を見ていたようだ。
「びっくりしましたよ、ふらふらって手すりの方に行っちゃうんですもん。身投げでもするのかと思いましたよ」
「あまり笑えない冗談ねぇ。それに、そう思ったならもっと早くに止めて欲しかったなぁ」

「―――――――it's a good day to die」

「え?」
「「今日は死ぬには良い日だ」ってね・・・好きな映画の受け売りですよ。それくらい、素敵な夕日じゃありません?」
そう、彼女は笑いかける。全く、冗談じゃない。
だが、そんな台詞ですら、夕日に照らされた今の彼女の微笑みは自然に思わせた。
「そうねぇ・・・そうかもしれない」
そう言って、また夕日に向き直る。今の私の顔も、そんなある種の凄惨さが映り込んでいるのだろうか。
「でも、まだ私は死ぬ気はないわ。残念ながら、ね」
「私もですよ、仇討ちの一つもできないんじゃ、つまらないですもん」
そう言って、彼女は一段高くなった場所から降り、私の隣へと歩いてきた。そして、私の顔をのぞき込む。

―――――――――さっきの微笑みを、まだ顔に張り付けたまま。

936 名前:弐師:2006/07/29(土) 20:13
その笑みに含まれた彼女の思いの深さ、悪く言えば執着の凄まじさに、思わずぞくっとさせられる。


その気持ちが、悪い方に働かなければいいのだが―――――――――








夏期補修真っ直中な弐師です、ごきげんよう。友人曰く「1.5学期」w
にしても、今回はI'veの「さよならを教えて」を聞きながら書いたので、かなりその歌詞に影響うけちゃってます・・・特に後半。


>海月 亮様

長湖部素敵だ・・・
いや、流石でございますです。
孫権の器、そしてそれを慕い、武神を討たんとする少女達・・・更に何倍もの兵で囲もうとも屈せぬ武神関雲長・・・次回を楽しみにしております


>北畠蒼陽様

いやっほう!(何
士孫瑞さんが活躍してるのは初めて見た気が(w  官僚の誇り・・・いいですねぇ
あえて悪名を被らんとする王允さんの悲壮な決意と、それを理解し、受け入れた皇甫嵩、蔡ヨウさん達の格好良さと言ったらもう・・・

>冷霊様

楊懐さんと高沛さん、どっちも特徴的でとても生き生きしてました!
「それでもあたしの友達なんだよね。タマも楊懐も」いやあ格好いい!!
就活頑張って下さい。

937 名前:海月 亮:2006/07/30(日) 13:00
だいぷすっぽかし気味でしたが一応書き進めてますよ、ってことで。
とりあえずこれからまとめて色々読んでみます><

938 名前:北畠蒼陽:2006/07/31(月) 02:04
わぁ! 遅れた無礼をお許しくださいませ、諸氏!
でもみんな、殺伐としてますねー。
あ……私が火付けですか? マジすんません。

>冷霊様
うふふふふふ、これこれ。
こういうのがダイスキなのです、うふふふふふ。
まぁ、まだまだ……まだタノシミなシーンは続いておりますので、今後に期待であります。

>弐師様
it's a good day to die
彼女たちに赤い幸福が降り注がんことを。

まぁ、なんとなく思いついただけの言葉ですが(笑
こちらもタノシミにさせていただきます。
あと、士孫瑞は恐らく学三初じゃないかな、と。まぁ、デビューいただきましたよ。
基本的に私は『一般的に好かれてる人』に対してなんの食指も働かない人間なので一昔前の王允なら書こうって気も起きなかったんですが『今だったらやれるっ!』ってやつです(笑
実際にこういう考えだったかどうかは別として、ね。

939 名前:韓芳:2006/08/06(日) 01:49
咲かぬ花
   第1章 更なる闇への突入

ここは徐州・下邳棟。
今、下邳棟は曹操・劉備連合に完全に包囲されていて、もはや勝ち目無しかと思われていた。
そんな折、陳宮が打開策を打ち出した。

「―――ということです。どうでしょうか?」
「ほかに何か意見ある?」
「あっても聞かないくせに・・・」
「陳宮、何か言った?」
「いえ、何も。」
「じゃ、この作戦で行こう。各自明日の昼までに準備を整えること!遅れると承知しないよ!」
「はっ。」
「あ、高順・・・・・・」
「? なんでしょう?」
「・・・いや、なんでもない。」
「でわ、失礼します。」
「準備よろしくね〜!・・・・・・なんでかなぁ・・・はぁ・・・」
「呂布様。明日の人数についてですが・・・呂布様?」
「ん?あぁ、何でもないわ。それで、人数は―――」


「ふぅ。忙しくなりそうね。」
降順は会議室を出て、とりあえず寮へ帰る。
下邳棟は完全に包囲されてはいるものの、一応規則があるために放課後以外戦闘はしない。
が、授業中は数人で下邳棟の交通整理を、放課後は完全に出入りを遮断し、私達を徐々に圧迫している。
何人かは学校で泊まっているほどである。
「陳宮の策かぁ・・・まあ、やってみれば分かるでしょう。」
正直なところ、高順は乗り気ではなかった。陳宮が好きになれなかったからである。
なので、いくら軍師とはいえ、普段の生活では陳宮とはあまり話したことも無く、話そうとも思わなかった。

「気が合わない分けじゃない。けど・・・」
自分の部屋に入ると、着替えを済ませベットへ倒れこむ。もちろん、すでに部下に指示は出してある。
「陳宮か・・・確かに、私たちには軍師が必要だったわ。そして、この状況を何とかしようと頑張っているのも事実。だけど・・・」
「『だけど・・・私の私の呂布様を奪い取るなんて・・・』」
「なっ・・・魏続っ!あれほど人の部屋に勝手に入るなと!!」
「わーっ!待った!ごめんごめん。独り言が丸聞こえだったから、ついね。」
顔を真っ赤にして襲い掛かろうとするところを見ると、半分事実だったらしい。
「ふぅ。・・・あやうく怪我をさせるところだった。ごめんなさいね。」
「いいよ〜♪いつものことだし。」
高順に睨まれてあわてて話題を変える。
「あっあのね、1つ重大な報告があるの。」
「?何かあったのか?」
魏続が急に真剣な面持ちで言った。

「・・・作戦が中止になった。」
「えっ・・・?なぜ・・・」
さすがの高順も焦りの色が見える。
「多分、呂布様の妹あたりがせがったんでしょう。危ない橋は渡らないで、って。私も最初は耳を疑ったわ。」
「そんな・・・今動かなければ将来もっと状況は悪くなることは分かってるのに。妹の言葉に動かされるなんて・・・」
「影で何人かは呂布様を見限り始めているわ。このままだと、下邳棟は分裂してしまうでしょうね。」
・・・・・・
「あれ?高順?まさか・・・」
そのまさかであった。すでに高順は、呂布のもとへと駆け出していった後だった。
「う〜ん、これはちょっとまずいかな〜?」
そう言うと、魏続も後を追った。

940 名前:韓芳:2006/08/06(日) 01:53
とりあえず、ごめんなさいm(_ _)m
しかも続けちゃったよどうしよう・・・

とりあえず、1つ書いてみて皆さんに意見貰おうと思って書いてみましたが、なんか、イマイチだ・・・(汗

でも、これからも頑張って書いてみたいと思うんで、何でもいいので意見ください。

941 名前:北畠蒼陽:2006/08/06(日) 03:16
>韓芳様
初陣お疲れ様です。
個人的には高順はちょいとしゃべりすぎかな、とも思いますが、ま、それは解釈しだいですし?
ただこの学三では三国時代の女性は基本はペットとかそういう扱いになることが多いので呂布の作戦中止理由としては『ネコのエサの時間だったから』とかくらいのほうがいいのかも? そうでもないかな?

ま、なにはさておきお疲れ様ですよぅ。

942 名前:弐師:2006/08/06(日) 13:16
>韓芳様

初陣お疲れさまです!
呂布陣営で高順を中心に書かれたのはとっても良いと思いますよ〜
魏続さんのキャラもいい感じですし、次回も楽しみにしています。
あ、でもちょっと誤字が有ったので其処に気をつけてみてはどうでしょうか?
(私も人のこと言えないぐらい誤字脱字が激しいのですがorz)

943 名前:冷霊:2006/08/06(日) 17:21
>韓芳様
初陣、お疲れ様でしたー。
わりと寡黙で不器用なイメージのある高順ですが、内心思う所はいろいろとあったのかもしれませんね。
やはり忠節を尽くした宿将ですし。
でも、公の場では必要最低限のことしか言わないイメージですかね?

確かに学三では女性はペットだったり人形だったりとかになってますねぇ。
密かに孫魯班あたりがどうなるか楽しみだったりしますw
学三の呂布は連環の計では犬(貂蝉)につられてますし、意外と犬好きなのかも……?

続き、まったりと楽しみにしております。
執筆お疲れ様でしたー。

944 名前:韓芳:2006/08/08(火) 00:09
気がつけば沢山の返信、本当にありがとうございます^^

>北畠蒼陽様
「呂布に絶大な忠誠」→「呂布への信頼から、呂布の言うことにほとんど口を出さない」
見たいな事考えてたんですが、『清楚潔白』だと確かにしゃべりすぎかもしれないですね〜(汗

女性はペットが多いと言うのは、完全に忘れてました・・・ごめんなさい・・・orz
幼稚園児くらいの子が「どこにもいかないで〜(泣」みたいなこと考えちゃってました・・・

>弐師様
魏続のキャラは、過去ログには載ってなかった(見逃しただけ?)ので勝手に考えてみました。
『史実で魏続の上官だったので2人は仲が良かった』といった感じで。
誤字脱字は・・・以後気をつけますm(_ _)m

>冷霊様
「呂布に絶大な忠誠」→「呂布への信頼から、呂布の言うことにほとんど口を出さない」
という感じで高順書いてましたし、史実でも内心疑ってても呂布の言ったことならほとんど何でもしてしまいそうだったので、公の場ではあまりしゃべらないイメージで書いてます。
でも、1人になるとふいに本来の自分が出てくる・・・みたいな感じもありかなと。

まだまだ修行が必要ですね・・・いろいろと・・・
今回の返信と皆様の文を参考にしながら、投稿文書いていきたいと思います。
せめて、この物語終わらさないと・・・

945 名前:韓芳:2006/08/18(金) 01:40
咲かぬ花
  第2章 終焉への道

「ここを曲がれば呂布様の部屋だけど・・・あ、いた!」
高順はすでに呂布の部屋の前に居た。
魏続が駆け寄ってみると、彼女はうっすら汗をかいていた。
「すごい汗・・・急に走ってバテたんでしょ〜?もう歳かな〜?」
いつもの様にからかってみせる。
いつもならここで厳しいつっこみがあるはずだった。
「・・・」
だが無言だった。元々口数は少ないが、それでも普通なら返答くらいはする人である。
それほどまで高順は緊張していたのだ。
「ちょっと〜、無視しないでよ〜。緊張してるのは分かるけど、そんなにガチガチじゃ話したいことも話せなくなるよ?」
「・・・すまない」
高順はそれだけ言うと、ふっと一瞬だけ笑ってみせた。
そして静かにノックをした。ノックの音が廊下に響いた様に感じた。
「どうぞ〜。」
と、呂布の声。高順の頬を汗がつたう。
(大丈夫かな〜?・・・まあ仕方ないか)
「ま、私もついていくからリラックスリラックス♪」
高順はその言葉を聞いて面食らったようだったが、小さな声で
「ありがとう。」
と言うと、呂布の部屋へと入っていった。

部屋にはすでに先客が居た。
「候成に宋憲に陳宮・・・どうしたの?」
「多分、魏続と・・・高順様と同じ。」
宋憲は言った。
宋憲の瞳の奥には何かが見えた。
陳宮が静かに切り出した。
「では、始めましょうか。」
「始めるって・・・」
魏続はそれ以上言葉が続かなかった。仮に出たとしても声にはならなかっただろう。
それほどに、この部屋の空気が重苦しくなったのだ。
その中には殺気も混じっている。

数秒間沈黙が続いたが、実際には数時間ほどに感じられた。
この重苦しい中、呂布が口をあけた。
「みんなが集まった理由は分かってるわ。何故作戦を中止したか・・・でしょう?」
表情を一切変えず呂布は続けた。
「ここで1番偉いのは私・・・そしてすべての決定権もある・・・。けど、あんたたちは私の決定に疑問を持ち、そして抗議しに来た。下手をすればどうなるか、分かっているんだよね?」
ゆっくりした話し方だったが、その溢れんばかりの殺気に、皆息を呑んだ。
「分かっています。ですが、私も軍師としての決定権はあるはずですが?」
陳宮が言い放った。呂布は睨むように見ている。
「わ、私達には、呂布様が誤った道に進まない様、意見する権利があります。」
高順が緊張で声を震わせながら言った。
それに合わせたかのように陳宮が切り出した。

「呂布様、何故作戦を中止にしたのですか?このままではどうなるかお分かりにならないのですか?」
「悔しいけど、奴らの方が知略は上・・・きっと作戦も見破られる。それなら、守りを固めて袁術を待ったほうがましよ。」
「お言葉ですが、袁術が我らの為に動くとは考えられません。それに、いくら知略が上とはいえ策は誰でもかかってしまいます。それが策の恐ろしさです。呂布様はそれさえもお分かりにならないのですか?」
「な・・・に?」
もはや一触即発の状態である。
呂布と陳宮は、お互い睨み合ったまま動かない。
「と、とにかく落ち着いてください、ね?」
候成が慌てて言った。
「呂布様も少し落ち着いてください。そんなに頭に血が上ると、それこそ奴らに・・・」
「奴らに・・・何?奴らに負けるとでも言うの?」
候成が失言に気が付いたときにはもう遅かった。
「候成、あなた私が負けると、そう思ってたのね。信じられない・・・」
「そ、そんなことはありません!私はただ・・・」
「言い訳無用!」
「!!」
「・・・大丈夫?」
呂布の鉄拳を寸前のところで高順が止めていた。
候成は半泣き状態である。
「呂布様!何も殴らずとも・・・」
「うるさい!私は最強!誰にも負けはしない!弱音を吐くやつなんか、階級章置いて出て行きなさい!」
「なっ・・・」
呂布は、もはや手がつけられない状態である。
候成は無言で部屋を後にした。階級章は置いては行かなかった。
「候成!・・・失礼しました!」
魏続と宋憲が後を追った。
少し間を置いて、
「・・・一人にして。」
呂布がぽつりと言った。
陳宮と高順は無言で自分の部屋へと戻っていった。

ふと呂布は窓の外を見た。
曇っているのか、真っ暗で星は見えなかった。

946 名前:韓芳:2006/08/18(金) 01:43
第2章ですが・・・
相変わらずというか・・・何というか・・・

宋憲ほとんどしゃべってないし、主役ずれてるし orz
さらに誤字脱字あったらどうしよう(汗

読むときは、さらっと流して読んでくださいw

947 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:28
会議が終わったあと、もう既に薄暗くなってきている自分の部屋で、伯珪は一人鏡の前に立ちつくしていた。
そして、その手には、ナイフ。

仄かな夕日を反射する鏡に映し出される彼女の顔は、喪失感と憎悪に支配されていた。

彼女はその長く美しい髪を肩のあたりで無造作につかみ、一気にナイフで切り取った。
ぶつ、という音を残してそれまで彼女の一部であったそれは、もうただの物でしか無くなった。

髪の短くなったその姿は、彼女の妹――――――越の様だった。

左手につかんだままの髪の束から、はらりはらりと髪の毛が落ちていく。
伯珪には、それが今まで自分が守れずに、手のひらからこぼれ落ちていった物達のように見えた。

それを彼女は無造作にゴミ箱へと投げ込む。
その目には、感情が宿っているようには見えなかった。
髪と一緒に、感情まで切り取ってしまったかのような、復讐しか考えていない、何を犠牲にすることも厭わない鬼の瞳――――――――――――



これで、もう忘れない。
鏡を見るたびに思い出すだろう。

この髪に、刻み込んだから。

――――――――――――憎悪と、自らへの怒りを。




そう思った。





――――――――――――そう願った。

948 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:29
「へえ、君可愛いねぇ。一緒に遊ばなぁい?」

関靖は、「いかにも」といったような古典的不良に囲まれていた。
烏丸工。幽州では有名な暴れ者どもだ。中華市で最も「夷狄」と呼ばれる男子校に近い幽州では彼らの姿を見かけることもそう珍しくはない。

関靖は可愛いと言われたことはどうでもよかった。だが、この状況は不味い。逃げ道も、味方も居ない。だからといって、お誘いにお答えしたくもない。
さて、どうしようか。
すると遠くからバイクのエンジン音が聞こえてきた。また新手?
もう観念した方がよいのだろうか?しかし遠くに見えたそのバイクは、乗り手も車体も真っ白で、まるであたしを救ってくれる白馬の王子さまのように見えた。
駄目元で、その乗り手にあたしの運命を任せてみよう。そう思った。
すぐ近くまで来てバイクが止まる。

「何だテメエ、邪魔しねぇでくれるかい!?」
「・・・」

バイクと同じ純白のフルフェイスのヘルメットを被った彼は不良どもの言葉に応えずバイクから降り、彼らに手招きする。相手は六人、彼はひとりだった。

それでも、関靖は彼が負けるとは思わなかった。何故かは自分自身でも分からない、ただ、そう思っただけだ。

激昂した連中が殴りかかってくる。だが彼は軽くいなし逆に鳩尾に肘をたたき込む。膝をついて倒れ込んだ男を見て、彼らは恐怖に抗うように突っ込んでくる。だが彼の敵ではなかった、一人、また一人と確実に仕留めていく。数人未だ残っていたが、戦意は既にないようで、背を向けて走り去っていった。

ぽかん、としている関靖の方を向いて、彼はヘルメットを外した。
その下から現れた、整った顔。
さらさらとしたショートヘアー。
すっと通った鼻。
切れ長の目。
――――――――――――そして、どこか虚ろな瞳。

美しい「女性」だった。

・・・思えば失礼な話だろう。顔が見えなくても普通体つき等で女性だと分かりそうな物だ。
だけど、焦っていたこともあるし、あれだけ強くて格好良いのだから、勘違いしてしまっても仕様がないのではないだろうか。

それに、それでもどうやら――――――――――――




――――――――――――あたしの「白馬の王子さま」は彼女のようなのだから。

949 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:30
「あ、あの・・・有り難うございました」
「・・・」
「えっと、お名前を聞かせてもらえませんか?」
「・・・公孫伯珪」
「え・・・!?」

名前は聞いたことがある。北平の雄、公孫伯珪。
幽州、いや、中華市では、その名は鳴り響いていると言っても良い。


曰く「冷酷非道、血も涙もない外道」

だが、今目の前にいる人物からは全く違った印象を受けた。
確かに顔は綺麗で、逆にそれは人間らしさ、暖かさを感じさせない類の美しさだった。
一目見た人が、冷たそうと感じるのも無理はないだろう。

しかしその瞳だけは、何かを失ってしまったような寂しそうなものだった。

この人の傷を、痛みを、治してあげたい。開いた穴を埋めてあげたい。そばにいてあげたい、そう思わせるような、悲しい瞳――――――――――――


「一人で帰れる?家は何処かな?」
「えっと・・・あの・・・あたしを北平棟まで連れていって下さい!」

伯珪は、一瞬きょとんとした顔になった。
いきなり予期していないことを言われてしまったのだから当然と言えば当然なのだが。
と、いうより関靖の発した言葉はまず質問の答えにすらなっていない。
しかし、彼女はすぐに元の表情に戻った。

「駄目だ。危なすぎる。今、北平は戦闘の準備に入っている。逆に言えば周りから攻められるかもしれないと言うことだ」
「あ、戦いの準備とかならあたし計算とかそんなの得意ですし!
それに・・・あなたのお役に立ちたいと思ったんです、駄目でしょうか・・・?」

今度は伯珪は困った顔になる。今の彼女の表情をこんなにも変えられるのは関靖くらいな物だろう。
彼女はじっと関靖の瞳を見つめた。そして、相手に諦める気がないことが分かったのだろう、今度は呆れ顔になった。

「わかった。だが、役に立たなかったら帰って貰うよ?」
「分かりました!伯珪さま!」
「「さま」って貴女ねぇ・・・」
「え、ならご主人様とか・・・」
「・・・「さま」でいい。ところで貴女の名前は?」
「関靖・・・関士起です」

「士起、ね。分かった」

そう言うと伯珪はもう一つヘルメットを取り出して関靖に投げてよこした。
今度は、関靖が戸惑う番だった。

「後ろに乗って。ちゃんと捕まらないと落ちちゃうから気をつけるようにね」
「は、はい!」


「何やら、妙なことになってしまったな」とキーを刺しながら伯珪は思わずつぶやいた。
だが、不思議と不快感はなかった。逆に何か懐かしさ、安らぎすら感じた気がした。

それはあの日、髪を切ったとき以来久しぶりに抱く感情だった。

エンジンがかかった。関靖を後ろにのせて発進する。
そういえば、誰かを後ろに乗せて運転するのは、いつか越を乗せて以来だな、と伯珪は思った。

950 名前:弐師:2006/08/26(土) 15:35
明後日で夏期補修が終わります♪
つまり始業式・・・orz

>韓芳様

緊張した、険悪な雰囲気がびしばし伝わってまいりました。
「ふと呂布は窓の外を見た。
曇っているのか、真っ暗で星は見えなかった。」
最後の一文がとても印象に残りました。
とってもいい感じですね、続きが楽しみです!

ではでは

951 名前:冷霊:2006/09/14(木) 15:11
葭萌の夜〜白水陥落・後〜

「冷苞、トウ賢!二人とも待ちなさい!」
「だから東州じゃなくてオレら二人ならいいんでしょう?」
「二人も含めて東州は、タマちゃんの命令があるまで動いちゃダメなんですよ〜?」
冷苞とトウ賢は扉の前に立ち塞がる扶禁と向存を見下ろした。
二人の瞳にあるのは決意の色。
だが、行かせたら劉備に大義名分を与えてしまうだけではない。
二人をも失うことになるだろう。
成都からの連絡では、劉璋宛に楊懐と高沛が闇討ちを図ったので返り討ちにしたという書状が届いていた。
文面は丁寧であったが、内容は明らかな宣戦布告であった。
「関羽に張飛すら連れてきてない、敵は荊州の新兵ばっか……躊躇う理由は何処にあるんです!」
冷苞が拳を壁を叩きつける。
「心配要りませんって。敵の内情もこうして姉貴から……」
「残念だけど、子敬も永年や孝直と共謀してたそうよ」
扶禁の言葉にトウ賢の表情が凍る。
「……マジかよ……くそっ!」
トウ賢が壁を蹴飛ばす。
トウ賢にとって孟達は親戚であり、姉のような存在であった。
今でこそ活躍の場は異なるが、幼い頃は良く共に遊んだものだ。
「……他に内通者は?」
冷苞が尋ねる。
「まだ調査中。でも、大半の連中は親劉備派になってるだろうし期待するだけ無駄よ」
「劉備さん、あちこちのサークルに挨拶してましたからねぇ〜」
向存が徐に紙束を冷苞へと渡す。
それは益州校区に在籍する全メンバーのリストであった。
荊州から流れてきた連中もいた為かかなりの厚さがある。
「……先輩、もしかして全部……」
「ふぇ?」
向存はきょとんとした顔で冷苞を見つめ返す。
「ああ、大丈夫だよ。扶禁にも手伝って貰ったし、半分は黄権や王累に任せてるから〜」
笑顔だが目には疲れの色が見える。おそらく寝てないのだろう。
「とにかく信用出来るのは張任に厳姉に……ま、半分もいるかどうかしらね」
扶禁が溜息を付く。
「……なら成都棟に行ってきます。タマさんに許可を貰ってくれば……」
「その必要はありません!」
バァンと音を立てて扉が開けられた。
そこに立っていたのは劉循。
「循?一体どういう……」
冷苞の言葉を遮り、劉循は言葉を続ける。
「お姉ちゃんがやっと決めてくれたんです!劉備さんを相手に戦うって……益州校区を守ってみせるって!」
「よし!」
冷苞が待ってましたとばかりに手を打った。
「タマちゃんからオッケーが出たなら、もう大丈夫ですねぇ〜」
「そうね……今から反撃よ。で、具体的にはどう動くの?」
扶禁が視線を劉循に戻す。
「えっと、扶禁さんと向存さんは葭萌の奪還、冷苞とトウ賢は私たちとここを拠点にして守るって!」
「そう……わかったわ。守るならフ水門が鍵になるから注意して。アタシ達はロウ水経由で狙うから……頼んだわよ!」
「了解です。劉備の階級章……オレらで必ず取ってみせます!」
冷苞が練習用の模造刀を手に取る。
普通より長めに拵えて貰った特注品である。
頼むときにも一悶着あったが、今は頼んでおいて良かったと思える。
「無理はしちゃ駄目ですよ〜?相手には件の鳳雛もいるって聞いてますし〜」
向存が心配そうに三人を見る。
「大丈夫です!劉カイさんや張任お姉さまも応援に駆け付けるって言ってましたし!」
「張任ねぇ……へぇ。張り切ってた理由はそういうことか」
冷苞がニヤリと笑みを浮かべる。
「べ、別にそういうわけじゃ……」
思わず小さくなって赤面する劉循。相変わらず判り易い娘である。
「とにかく時間があまり無いですし、つもる話は帰ってからしましょうね〜?」
向存が冷苞の背中をポンと叩く。
「あ、そうですね……。んじゃ、張任さんが来るまで準備しとくか。な、トウ賢、循!」
「はいっ!」
「ん?ああ、りょーかい」
元気良く答える劉循、そして生返事を返すトウ賢。
四人はそれぞれに出立の準備を始める。
「劉備かー……」
少しだけ広く感じる部室の中、トウ賢は一人呟いた。

    To Be Continued to Battle of Husui & Kabou

952 名前:冷霊:2006/09/14(木) 15:36
就活終了ー、その勢いで書き上げてしまいました。
タイトルの通り、白水門のその後のお話です。
勢いが続けば、一気にフ水まで書ければなぁ〜……と。
劉闡は一時退場、次は一年(学三では一ヶ月?)に渡って劉循に頑張ってもらわねばw

>韓芳様
お疲れ様ですー。
強いが故に見えないものってありますよねぇ。
呂布とかは馬上の将軍だったから、余計にそうだったのかもしれませんが。
緩衝材の役割を務められる人物がいれば……と度々思ってしまいます。
侯成や魏続、宋憲らの今後の動きが気になるところですねー。

>弐師様
始業式……懐かしい響きですw
ファイトですよー。
関靖の行動に思わず焦る伯珪さん、ちょっと想像してクスリと笑ってしまいました。
でも、関靖と伯珪の互いの心が何だかじんわりと伝わってきます。
北平を巡る争いの中での関靖の今後、気になりますねー。

953 名前:韓芳:2006/09/18(月) 01:57
咲かぬ花
  終章 さよならの言葉

あれから数日が経ったが、事態は一向に進歩しなかった。いや、むしろ悪化していた。
呂布の候成解雇は、陳宮の裏工作により何とか降格処分で済んだが、あれ以来、下丕棟には会話と言う会話が存在しなくなった。皆、報告以外はほぼ無言だった。

「・・・ついに来たのね。」
その報告を聞いたのは昼食を終えてすぐの頃だった。
――――曹操・劉備連合、侵攻の気配有り
「呂布様より伝言です。放課後すぐに集合とのこと。」
「分かった。ご苦労様。」
「はっ。」
伝令が廊下を急いでかけて行った。
「・・・まるで図ったかのようなタイミングね・・・ 密偵でも潜んでいたのかしら・・・。」
高順に少し嫌な予感がよぎった。

放課後、高順が棟長室へ行くと、主だった面々はすでにそろっていた。
「遅かったじゃない。高順が最後なんて珍しいじゃない。」
「申し訳ありません。」
「いいわ、ちょうどこれからだし。陳宮、作戦は?」
この戦闘前の重苦しい中、呂布のみ元気だった。この状況の中、ただ戦闘を楽しもうとするその真意は誰にも分からなかった。
「作戦は特にありません。3階を呂布様と高順に固めてもらい、下の階が敵を押していたら加勢してそのまま突撃してください。もしもの時の為に、私が3階に待機しておきます。2階は、魏続と宋憲、候成に固めてもらいます。貴方たちも同様に、下の階が敵を押しているようならば、呂布様と高順と共に敵へ突撃。その他諸将は、半々に分かれて1階と下丕棟周辺を固めてください。」
「了解しました。」
諸将が指示を受け、部屋を出ようとした時・・・
「何で私は留守番なの〜?」
呂布が不満を言い始めた。だが、これはいつもの事で、皆少し飽き飽きしていた。
「留守番ではありません。それに、守りの戦いで軽々しく総大将が最前線で戦ってはいけません。もし捕らえられたらどうするのです?」
「大丈夫だって!現に今こうして――」
「駄目です!」
陳宮の睨み付ける様な視線と、周りからの冷たい視線に、呂布は仕方なく作戦を了承した。
「・・・こほん。でわ、皆の武運を祈るよ!」
「はっ!」
皆、勢い良く棟長室を出て行く。いつかのことを忘れようとするかのように・・・
―――ついに戦闘が始まった。
高順は窓から眺めていたが、外の戦況は明らかに劣勢であった。
廊下を伝令がバタバタと駆けていく。嫌な予感は増すばかりだった。

5時を過ぎた頃に、微かに下の階から騒ぎ声が聞こえた。どうやら1階に侵入されたようだ。
「だらしない、といったら可哀想だけど、これで打って出られなくなったわね・・・」
高順は、伝令の報告を聞きながらつい言葉を漏らしてしまった。
「・・・あの〜、高順様?」
「どうかした?」
「魏続様がお呼びです。何か深刻な顔をしてましたが・・・」
「・・・分かった。すぐ行くわ。」
「では、失礼します!」
深刻な顔?一体何があったのだろうか?高順の不安は頂点に達しようとしていた。

2階へ降りると、騒ぎの声がかなり大きくなった。下は大混戦のようだ。
ふと近くの教室を覗くと、ぼんやりと魏続が窓を眺めていた。
「魏続!何かあったの?」
魏続は、はっとした様子で高順を見ると、
「実は、その・・・」
と、うやむやな返事をした。
「・・・はっきり言ってみなよ。」
こうは言ったものの、正直なところ、自分の方が緊張しているように感じた。
「じゃあ、言うよ・・・けど、その前に・・・!」
ふっと後ろに人の気配を感じた。振り向くと、それは宋憲と候成だった。
「もう、脅かさないでよ〜。」
「脅かしじゃないよ。脅しだよ。」
魏続ははっきりと言い放った。

「脅しって・・・一体何の――」
突然の出来事で、高順は何もできなかった。高順は宋憲と候成に取り押さえられ、手足を縛られていた。
「一体どういうつもり!何故こんなことをっ!!」
「・・・もう、疲れたのよ・・・」
候成は静かに話し出した。
「今までこの軍団が、最強で最高の存在だと信じてきた。だからこそ、ここまで付いてきた。けど、それは違った。本当は・・・本当は、ただ呂布が自分の武をこの学園に見せ付けるだけのものだった!周りのみんなを信用せず、信じるのは自分の武だけなのよ!・・・そんなの、悲しすぎるよ・・・」
候成は泣いていた。高順は、胸が苦しくなった。
「・・・それで・・・ついに、決心が付いたの。」
「決心・・・?」
「そう・・・あなたと陳宮を捕らえて曹操と劉備を引き込む。それで、この戦いも終わりよ・・・」
「・・・」
「でも、あなたも投降するのなら・・・曹操と劉備に会ったときに話してみるわ。」
高順は悩んでいた。自分自身、確かに呂布に疑いを持っていた。だが、ここでその疑いを晴らしてよいものか、と。そして―――
「私は・・・・・・ごめん。投降は、出来ない」
「何故?あんなやつの為に何故!?」
宋憲の目には怒りと共に、涙が光っていた。
「宋憲、落ち着いて。・・・お願い高順、あなたの忠誠は認めるわ。けど、この状況でその選択は・・・」
「ごめんね、魏続。泣かないで。私は・・・たとえあんな人でも・・・好きだった。この軍団が・・・好きだったのよ。この軍団が終わるとき、それは、私の終わるときなの。」
高順もいつの間にか涙が出ていた。
「・・・さあ、陳宮を捕らえて来なさい。終わらせるんでしょ?この、戦いを・・・」
「・・・宋憲、候成、お願い・・・」
宋憲と候成は3階へと上って行った。魏続は2人が陳宮を捕らえてくるまで、ずっと高順のそばで泣いていた。さよならは、お互い言わなかった。

954 名前:韓芳:2006/09/18(月) 02:08
とりあえず、完結です。
間の数日間は外伝、と言うことで・・・(汗
キャラが初めと違う気が・・・ orz

>弐師様
私は受験生ですw
お互い新学期頑張りましょうね〜w
伯珪さん・・・カッコよすぎです><
いつか、こんな風になれたらなぁ・・・(無理

>冷霊様
就活お疲れ様です〜。
勢いで書けるなんて凄いです・・・
その点見習わせていただきますね。

955 名前:北畠蒼陽:2006/09/20(水) 05:07
学園史を彩った猛獣、呂布がトんだというニュースは瞬く間に学園中を駆け巡った。
その存在の巨大さは誰もが知り、そして誰もが少なからず影響を受けた。
そえはもちろん彼女に近しかった者たちにも……


猛獣の系譜


山中を3人の少女がこわごわと歩を勧めている。
「ね、ねぇ……ここはやばいって」
「う、うん……ねぇ、帰らない?」
後ろを歩く2人が前を進む1人に向かって声をかける。
後ろを行くのは宋憲、侯成。
前を行くのは魏続。
呂布を裏切った、という悪名の果てに彼女たちはこんな場所にいた。
こんな場所……
青州校区、泰山……
学内において神聖とされる山中に呂布亡き後、立てこもり頑強に抵抗する少女がいた。
少女は呂布の乱の際に呂布に味方し曹操に幾度となく痛い思いをさせ、乱終結後、曹操はその少女に賞金までかけ自分の前につれてくるよう命令した。

その少女を臧覇という。

「わ、私だって怖いんだからそんなこといわないでよ……」
泰山は臧覇のホームグラウンドであり、彼女は一時期この山を拠点とし暴れまわっていた。
自分たちがこの山中に侵入していることなどすでに察知されているだろうし、だとすればいつ何時どの瞬間に襲い掛かられても自分たちはなんの対処もできないだろう。
それでも……
「でも……臧覇さんに会わなきゃいけないんだから……がんばろ?」
「う、うん」
気丈な魏続の言葉に頷く宋憲と侯成。
呂布軍団の中核にあって、その力が最大限に発揮させた少女たちにとっても、この臧覇のテリトリー……結界と言い換えてもいい……の中で出し切る自信はない。
「そうかい。臧覇さんに会いたいのか」
どこからともなく声……3人に緊張が走る。
聞かれていたッ!?
そう認識する間もなく3人の周りを集団が取り囲んでいた。
集団の先頭にいるのは……見たことがある。臧覇の腹心である孫観や呉敦である。
「……すでに囲まれていた……?」
「そうとも、すでに囲んでいた。あんたたちは捕虜、ってわけだ……臧覇さんには合わせてやる。あの人が気に入ればキズモノにならずにすむだろーよ」
呉敦の言葉に呂布軍団時代とはまったく違う不気味な集団に3人は冷や汗を流した。

956 名前:北畠蒼陽:2006/09/20(水) 05:07
「なんだ。誰かと思えばお前らか……」
くだらなさそうに臧覇が吐き捨てる。
3人はロープで縛られ、臧覇の前につれて来られていた。
臧覇は顔の前に指を組んで、あまりにも面白くなさそうに3人を見つめる。
「一応聞いてやる。なんの用だ?」
言外に『下らないことを言ったらぶっとばす』という言葉を滲ませつつ臧覇が問いかける。
黙りこくっているわけにもいかない。
「こ、降伏を薦めにきました。曹操さんは寛大な処置を約束してらっしゃいます」
宋憲が口を開く。
「あははははははははははははははははは!」
臧覇が言葉を聴いた瞬間、笑い始める。そしてたっぷり10秒笑い……
「お前ら好きにしろ」
周りのガラの悪い連中に声をかけ、椅子から立ち上がる。
「わ、わー! ちょ、ちょっとまってください! 言葉が足りなかった! すごく足りなかったです! まーじーでー!」
一斉に立ち上がったガラの悪い連中を引き止めるように魏続が声を上げる。
「なんなんだ、お前ら。裏切り者のクセにのこのこやってきてんじゃねー。私に会っただけでもありがたいと思ってここで埋まってろ」
3人が一瞬目を交し合い、仕方なさそうに侯成が口を開く。
「確かに私たちは裏切り者って呼ばれても仕方ないです。というか実際そうですから……でももう一度同じ機会があったとしても、私は呂布を許さないです」
胡散臭そうに片眉を上げる臧覇。
「……でも信じてほしいのは……私は……私たちはみんな呂布軍団が最強だと信じて戦ってた、ってことです。たとえ曹操さんが相手だろうと負けるなんて1%たりとも考えもしなかった」
あの人は結局器じゃなかったんですけどね、と首を振る。
「だから裏切りました。あの人は最強の座から自ら降りてしまったのだから……でもあの人を最強と思った気持ちは死んでない。それは私たちや、文遠や……そして臧覇さんの中にも生き続けているはずです」
「だから最強の遺伝子を……私たちが半ばで奪ってしまったあの人の、かつてまぎれもなく最強だった気持ちだけを残していきたい……この泰山にいたらそれを残すこともできないんです」
3人はかわるがわる臧覇に言葉を投げかける。
それは明らかに足りない言葉ではあったが、それでも臧覇の気持ちを動かすのに十分な力を持っていた。
「……曹操は最強を語るに足るか?」
「十分です」
臧覇の問いに魏続が即答する。

最強を夢見る遺伝子は生き延びていく。
彼女たちがいなくなっても、次の世代に伝わっていくだろう。
それは獣の遺伝子。
猛獣の系譜は伝説の中だけでなく語り継がれていく。

957 名前:北畠蒼陽:2006/09/20(水) 05:07
韓芳様「咲かぬ花」終了記念リスペクト企画ですよー?
迷惑ですか。すいませんすいません。
ちなみにこの文章を書くのに1時間かかりました。うわぁ、文章力とかやたら落ちててびっくりデスよ。
あー、もう……

958 名前:韓芳:2006/09/20(水) 23:23
>北畠蒼陽様
迷惑どころか、嬉しすぎて風邪気味です(謎
私は終章書くのに2時間近くかかってます・・・
しかも腕落ちてるって・・・格が違う・・・ orz

本当にありがとうございましたm(_ _)m

959 名前:北畠蒼陽:2006/09/23(土) 21:22
「左回廊、弾幕薄いよ! なにやってんの!」
戦場に臧覇の声が響く。
戦場を見回した臧覇は近くに見知った顔を見つける。
「孫観、幸薄いよ! なにやってんの!」
「誰が不幸風味じゃー!?」
怒声をあげる孫観。だが同時に立ち上がった彼女の左足にどこからともなく誰かが投擲したのであろう、飛んできた木刀が直撃し、孫観はうずくまった。
「……やっぱ不幸じゃねぇか」
ぽつりと臧覇が呟く。


同門の人々のあれやこれや


孫観の左足は複雑骨折していた。それはそれは面白いくらい。

濡須口の戦いにおいて歴戦のツワモノである孫観が負傷したという報せはただちに曹操に届けられた。
「なっ!? 仲台ちゃんがぁ!?」
曹操は飛び上がってびっくりした。
報告した陳羣のほうがびっくりした。
まさかこの世に本当に『びっくりして椅子から飛び上がる人間』が存在するなんて……
10cmくらいは浮いていた。だがとりあえずそれは置いておく。
「ん〜と……仲台ってだぁれ〜?」
「孫観のことっ! ……で、仲台ちゃんは大丈夫なのっ!?」
ぼや〜っとした許チョに名前を教えておいてから曹操は陳羣を振り返る。
「はい、入院中だそうです」
つまり大丈夫じゃないのであった。

病院で看護婦さんに面会を告げ、病室を聞くとやたらいやな顔をされた。
「なんだろうね……?」
「さぁ、わかりません」
陳羣にわかるわけはないが律儀に答える。
「それより……それはなんです?」
曹操が手に持っているのはちょっと大きめの包装紙に包まれた箱。
「ん、モデルガン。喜ぶと思って」
「……喜ぶかもしれませんけど見舞いには向かないですよね」
陳羣はため息をついた。
「わぁー、いいなぁ」
少なくとも許チョには効果バツグンだった。

「……」
「……」
病室に近づくにつれ陳羣と曹操が黙りこくる。
陳羣は眉間に深い皺を刻ませて。
曹操はこれからの予感に目をきらきらさせて。
なにが、というとめちゃめちゃ騒がしかったのである。
「わははははははははは!」
「ぎゃー! 書くなー! そんなとこに書くなー!」
「うはははは! おもしれー!」
「やめれー! お前らぜってぇ死なす! 必死と書いて必ず死な……ぎゃー!」
……とかそんな感じ。
そしてその騒動の中心となった病室は予想通り孫観の病室だった。
こんな状況で病室という名詞が有効なのだとしたら、という話だが。
仏頂面の陳羣がそれでもノックする。
「やめれー!」
聞こえていないらしい。やめてほしいのはこっちだ。
「失礼しま……」
それでも一声かけてドアを開けた瞬間、なんかすごいもんが飛んできた。
すごいもん、というか病室備え付けのパイプ椅子。
「……ん」
陳羣の眼前でぴたりととまったパイプ椅子を横から受け取ったのは許チョ。陳羣はへなへなと腰を抜かした。

960 名前:北畠蒼陽:2006/09/23(土) 21:22
「あ、どもー」
ベッドに寝たまま何かを投げたであろうポーズの孫観が声をかける。いや、本当は孫観なのかどうかすらよくわからないのだが状況的に考えると間違いあるまい。
孫観(※不確定)の顔は真っ黒に塗りつぶされていた。あとギブスにも思う様落書きしてある。もう大変です。
しゃがんでいる臧覇。恐らく椅子をよけたのだろう。手にはマジック……油性か。
後ろでげらげら笑っている呉敦と尹礼。横で座ってにこにこしているのが孫観の双子の姉、孫康である。
泰山グループが勢ぞろいなのであった。
「やぁやぁ、諸君。私を抜かして騒ぐなんてひどくない?」
「お、曹操さん、書きます?」
「薦めんな、ボケー!」
臧覇の言葉に孫観(※不確定)がはしゃぐ。いや、はしゃぐのとはちょっと違うか。
「でも書くとこないねぇ」
油性マジックを受け取ったまま思案する曹操。
「大丈夫。脱がせばえぇんよ」
「そ、そうかっ!」
臧覇の囁きに天啓を得た曹操。
「だー! 脱がすってなんだ! お前、ぶっころ……お、おい、なんだよ、お前ら」
孫観(※不確定)が再びはしゃごうとして両脇を呉敦と尹礼にがっちり押さえつけられた。
「な、なぁ、冗談はやめようや?」
「はっはっは。冗談だったらもっとつけぬけたとこまでいってみようか」
呉敦が笑う。
「よ〜し、剥くぞう〜」
臧覇が指をわきわきさせ、曹操がきらきらした瞳で見つめる。
「ぎゃー! 姉ちゃん助けてー!」
唯一自由になる首を振って孫観(※不確定)が孫康に救いを求める。
「あらあら、相変わらず不幸な子」
にこにこ笑う。姉は役に立たなかった。
「待っててね、仲台ちゃん。仲台ちゃんがケガをしながらも勇敢に戦ったけど国のために今は休め、ってポエム書いたげるから。あと振威主将に昇進ね、やったぁ☆」
曹操が笑う。
「お、やったなぁ、エーシ♪」
「ちっともよくねぇー! やめろー!」

「んー?」
その音は許チョの耳にだけ届いた。
『うー』とかなんとか、そんな感じの音。
「んー……?」
何の音かとちょっと首を巡らせて……あとずさった。
そこには鬼が……

「静かにしなさいっ!」

窓ガラスがびりびりと震えるほどの大音量で注意が入った。
みんな声の方向に注目した。孫観(※不確定)なんかは半脱ぎにさせられながらそっちのほうを見た。
天下の風紀委員長、陳羣。怒りの仁王立ちである。
「まったく!」
つかつかと輪の中心まで歩み寄って……
「ここは病院ですよっ!」
手近にあったものに思い切り手を振り下ろした。
ビシ、といういやな感触が陳羣の手に伝わる。
「……?」
陳羣の手の下でギブスの石膏が割れ、孫観(※不確定)が悶絶していた。

孫観。あだ名は仲台。また一名をエーシ。
張角の乱のころから臧覇とつるみ、青州校区総代もつとめたことのある人間のあまりにもあっけない最後であった。
なむー。

961 名前:北畠蒼陽:2006/09/23(土) 21:23
0時にベッドに入ったのに4時間くらい眠れなくてベッドの中でなにをするでもなくもんもんとしてました。どうも北畠です。
今日の会社、寝不足でつれぇつれぇ。寝るかと思った。寝なかったけど。眠気に耐えてよくがんばった! 感動した!

というわけでチーム泰山の一員、孫観ちゃんです。
孫康ちゃんはチーム泰山とは一歩離れた位置に入るけど仲はいい、ってことでひとつ。

あと曹操はともかく陳羣と許チョはあれっすね、史実的にいえばイレギュラーですね。まぁ、そんな感じです。
いいんだ! 私のはいつもイレギュラーだから!

962 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:09
いち >>898-901
に  >>909-912
さん >>924-927

というわけで漸く続きですよコンチクショウ('A`)

963 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:10
−武神に挑む者−
第四部 悔悟と覚悟


(何故だ…)
黄昏に染まる冬の空を眺めながら、彼女は何度目か、そう思った。

自分に残された学園生活はあとわずか。
そのギリギリのタイミングで、ようやく光明が射してきた学園統一への道。
義姉妹が三年の長きを経て、ようやく磐石なものにしたその道は、思いもよらぬところから切り崩された。

長湖部の背信。
留守居の不手際。
(…否、責められるべきは……私の不明だ)
彼女は頭を振る。
それが憎悪すべき事由であるなら、その大元の原因が自分自身にある…関羽の聡明すぎる頭脳は、その答えをはじき出すのに時間がかからなかった。


遡る事二時間前。
先だって激闘を繰り広げ、自分と殺し合い寸前の立ち回りをやってのけたその少女が姿を現したとき、関羽もただ事ではないことを理解せざるを得なかった。
流れるような黒髪に、猫の鬚のようなクセ毛を突き出しているその少女の顔が、普段の明朗すぎる表情の面影のない顔で、単身陣門に現れたからだ。
「…降伏の申し出に来た…と言うわけではなさそうだな、姉御」
どんよりと分厚い雲に覆われ、冷たい風が吹き抜けていく寒空の下で、ふたりは向かい合っていた。
「……雲長、もう帰宅部連合に、帰る場所が荊州になくなったお……」
「…何…!?」
彼女は、予想だにしないその事態に、耳を疑った。
しかし、彼女はそれが自分たちを陥れるための方便であろうということなど、欠片も思わなかった。

何故ならその少女は彼女の幼馴染であり、中学時代は剣道部で互いの武を磨きあってきたことで、その性格は良く知っている。
この学園で志を違えたとはいえ、その大元となる部分はまったく変わっていない…それがこうして単身やってきたことで、関羽も事の重大さを思い知らずに居れなかった。

「で…出鱈目な! 何の根拠があって!」
傍に侍していた妹が、激昂の余り相手へ飛びつきになるのを、すっと手で制しながら、視線でその先を促した。
少女は、懐から一枚の紙を取り出し、差し出してきた。
それを一瞥し、関羽は彼女が言ったことが真実であることを確認した。
「そんな…長湖部が裏切るなんて…」
「承明は…江陵はどうなったのよ…」
その文書の内容に愕然とする関羽の側近達。
彼女らも、その少女の言葉が嘘偽りない真実であることを思い知らされた。
しかし関羽は、何の表情も見せずに目の前の少女と対峙したままだ。
「…姉御、これを私に知らせて…いったい私にどうしろと言うんだ…?」
「それはあたしの知るところじゃないお」
少女は頭を振る。
「だけど、これを知らせずにいたら、あたしが後悔すると思っただけだお…」
「そうか…済まない」
そのまま翻り、関羽は側近達に静かな口調で告げた。
「……全軍、現時点を持って撤退だ」
「姉さん!?」
「そんな…!」
少女達は言葉を失った。
そして、彼女が思うことをすぐに理解した。
対峙していた少女も、何かに打たれるかのように飛び出そうとする。
「雲長!」
「来るな、姉御っ!」
振り向かずとも、関羽には解っていた。
彼女であれば、恐らくはともに戦うと言ってくれるだろうという事を。
その気持ちは嬉しかった。だが、それゆえに彼女はこの言葉を告げなければならないと思っていた。
「姉御…いや、蒼天会平西主将徐晃。江陵平定ののち…改めて先日の決着、つけさせてもらうぞ」
そのまま、振り返ることなく立ち去っていく関羽の姿を見送りながら。

少女…徐晃には、これが学園で最後に見る関羽の姿のように思えてならなかった。



付き従う少女達にも言葉はない。
気丈な妹・関平も、気さくな趙累、廖淳の輩も、終始無言だった。

無理もない。現状は彼女達にとって、余りにも重い。
馬良は益州への連絡係として軍を離れて久しく、王甫は奪取した襄陽棟で蒼天会の追撃を抑える役目を請け負って此処には随行していない。
関羽が王甫を残したのも、先の出立の折に参謀役の趙累が「江陵には潘濬だけでなく王甫も残すべき」という献策を思い起こしていたからだ。関羽もその言葉を是と思ったものの、長湖部等の後背の防備に疑いを持っていなかった関羽は、王甫を奪い取った重要拠点の守りに据えるつもりでその献策を敢えて退けたのだ。
だから、今回は最も信頼の置ける腹心の一人である彼女を、押さえに残してきたのだ。彼女であれば、余程のことがなければ与えられたその地を守りきってくれるであろう…とは思っていたが。

関羽は嘆息し、自嘲する様に微笑む。
果たして、再び江陵を取り戻し、襄陽の戦線へ引き返すことが果たしてできるのか、と。


灰色の雲に覆われた冬空の行軍、ふと関羽は歩を止め、続く少女達に振り向いて呟いた。
「私の不明ゆえ、皆にもその落とし前をつけさせる様になった…赦せとは言えん…」
少女達は返す言葉もなかった。
この無念の気持ち、恐らくは最も辛いのは関羽自身であろうことは、彼女達にも痛いほど解っていた。
それなのにこうして、自分たちを気遣ってくれる関羽に、彼女達のほうが申し訳ない気持ちになっていただろう。
「…い、いえ! 捕られた物は取り返せば済むことです!」
「我ら一丸となれば、長湖部など恐れるに及びません!」
趙累と廖淳が、ありったけの気を振り絞り、それに応えてみせた。
「それに徐…姉御の話によれば、孫権のヤツが出張ってきてるんでしょう? いっそ、我々の手で孫権諸共長湖部を滅ぼしてしまいましょうよ!」
関平の言葉に、それまで重く沈んでいた少女達も、歓声で応えた。
「そうだ、長湖部ごときに!」
「この不始末は、孫権の階級章で贖わせてやる!」
「我ら関羽軍団の恐ろしさ、思い知らせてやりましょう!」
強がりであることは解っていた。
だが、ここまで来た以上は最早引き下がることは許されないのだ。だからこそ、この意気は関羽にも好ましいものに映っていたかも知れない。

孫権の親書を携えた潘濬が姿を現したのは、丁度そんな折だった。

964 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:11
鈍色の雲に赤みが射す黄昏の空の下、潘濬はその場に座していた。
「承明!」
「無事だったか!」
その姿に歓喜の声を上げる少女達。
しかし、当の潘濬は俯いたままだ。
「…御免なさい…」
その呟きに、責任感の強い彼女のこと、恐らくはこの不始末を関羽自らに裁かせるために現れたということだろう、少女達はそう思っていた。
趙累は駆け寄ってその手をとると、
「あんたが無事に逃げ延びてきたなら話は早い! 何、あんたなら必ず戻ってくると信じてたわ。大丈夫、この失敗は取り返すくらいわけない」
そう言って彼女を元気付けようとした。

元々頑固なこの少女は、度々関羽と衝突することも多かったが、それでもその強い意志と優れた内政手腕を高く評価していた関羽が江陵の守将として残したものだ。
その責務を完う出来なかったとはいえ、情状酌量の余地はいくらでもあるだろうし、こうしてやってきたということは敵の内情もすべて把握した上で来ているのだろう…趙累は、そこに一縷の期待をかけた。

しかし、彼女の期待はあっさりと打ち破られた。
「私がここに現れたのは……孫仲謀の代弁者としてなのよ…!」
「なん…だって…?」
その手を振り解かれたことよりも、趙累はむしろその言葉に大きなショックを受けた。
「貴様…ッ」
これほどまでないほどの赫怒の表情を浮かべ、関平がその獲物を手に歩み出る。
「江陵を手放したのみならず…あろうことか長湖部の使い走りか!」
「…待て」
飛び掛ろうとする妹を関羽が手で制する。
「姉さま!? 何故です!」
呆気にとられたのは何も関平だけではない。居並ぶ将士たちも、正面に立った潘濬ですらも、その関羽の行動を訝るかのようだった。

士仁、糜芳の例もあるように、関羽は軍の進退に関わるような失策を犯したものは決して許さない。
本来なら、潘濬が孫権の代理人として現れた時点でその剛拳で殴り飛ばしているだろう。趙累が先に飛び出してきたのも、先に飛び出して関羽の感情を和らげる意図もあったのだ。

だが、関羽はその気配も見せず…その表情は厳しいものであったが、奇妙に思えるほど静かでもあった。
「…話してくれ、長湖部長の口上を」
「………承知しました」
関羽に促されるまま、潘濬は持参した書状を広げると、その内容を堂々とした口調で読み上げ始めた。


関雲長に告ぐ
貴女は長湖・帰宅部連合の盟において定められた約定を、己の一存のみにおいて破り、我々の管理する備品を無断で持ち出し、あろうことかその貴重な品を使い捨ての如く放置するなど言語道断。
先の傲慢なる宣言と合わせ、帰宅部連合に対する南郡諸棟の貸与を無効とし、我らの領有に戻すものとする。

但し、このまま襄陽・樊を奪取するため蒼天会との戦闘を継続するとあらば、同盟修復の意思ありとみなし、我らは後方より帰宅部連合を支援する…


関羽は無言だった。
しかしその瞳は、遠く漢中の方向を向いている。
「…雲長様」
潘濬の言葉にも、関羽は動かない。
しかし彼女は、なおも言葉を続ける。
「江陵には尚、貴女の帰りを待ちわびている子達が、長湖部に人質として囚われているのです。彼女達も、貴女がこのまま襄陽へ戻られるということであれば、彼女らを解放して随行を許すとのこと」
趙累たちも、何故彼女がこの場に送られてきたのかを漸くにして悟った。
恐らく長湖部はそういう不穏分子を宥めるため、その中心的な人物である潘濬に関羽を説得させるために差し向けてきたのだろう。
潘濬は胆も座っており、弁も立つ。そして、何より…
「お願いです! 彼女らのために、何卒長湖部の申し出に応じていただきますように!!」
額を叩き割らんかの勢いで叩頭する潘濬に、少女達にもその苦衷を窺い知らずにいれなかった。

恐らくは潘濬も、命がけの覚悟で此処に現れたのだろう。
責任感の強い彼女であれば、此処で関羽の一身を救うことが叶うのなら、あとは全責任をとって学園を離れるつもりなのかも知れない。
直前まで怒りのあまり、目の前の少女を八つ裂きにしてやろうかというほどの気を放っていた少女達も、その姿をやるせない思いで眺めていた。

そしてそれと同時に、参謀格の趙累には、江陵を奪い取った長湖部の軍勢のシルエットが浮かび上がってきた。
いくら不安要素があったとて、あるいは長湖部側にどれほどの準備があったといえ、これほどの短時間のうちに堅牢で知られた江陵が完全に制圧されている…恐らくは、既に夷陵周辺も。
甘寧、朱治といった"仕事人"を欠く長湖の主力部隊に、呂蒙以外でこれほどの仕事をやってのける人間がいたことも驚愕すべき事実だが…さらに言えばこれは、それほど長湖部が本気であることを示唆していた。

「…姉さま」
関平の言葉にも、関羽は応えようとしない。
しばしの重苦しい沈黙を破ったのは、関羽の呟きだった。
「…我が主、漢中の君劉玄徳よ」
関羽は漢中の方へ向き直ると、その空に向けて拱手する。
「関雲長、義姉上の裁可を仰がず、我が一存にて孫権に断を下すことを…お許し下さい」
「…っ!」
その言葉に、潘濬は驚愕し…その意図を悟った。
次の瞬間、関羽はこれまで通りの覇気と威厳に満ちた表情で、全軍に号令する。
「行くぞ、目指すは長湖部長孫権の打倒、それひとつだ!」
「雲長様!」
取りすがろうとする潘濬を手で制する関羽。
振り向いた関羽は、一転してその表情を和らげる。
「…承明、貴女はなんとしてでも生き延びなさい…そして、江陵のことは貴女に託すわ。どのような結果になろうと、最後まで江陵の子たちのために尽くしなさい。それが私が貴女に与える刑罰」
「…雲長様…」
「此処からは、私が私自身に落とし前をつける戦い。貴女には関係のないことよ」
そのまま振り向きもせず、関羽は再び行軍を開始する。
あとに続く少女達もまた、無言でそのあとに続いていく。そこにどんな死地が待ち受けているかも知らず…いや、例え其処に破滅の結末しか見えていなかったとしても、彼女たちは関羽に付き従うことこそ本懐として、何も言わず従って行くことだろう。

潘濬もその姿を、振り向いて見ることは出来なかった。
そのかつての主の姿を見やることもなく、彼女は溢れる涙を拭う事もせず、天に向けて拱手する。
「雲長様…どうか、御武運を…!」
彼女は、ただそれを祈らずに居れなかった。

965 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:12
関羽軍団は包囲した長湖部員の人海戦術によってその九割が既に打ち倒されていた。
後続の部隊と分断され、既に先鋒軍に残っているのは関羽ただ一人。後方では関平、趙累、廖淳三将の奮戦空しく、既にその残り兵力もごくわずかだった。
関平は必死に姉の元へ駆けつけようとする。だが、其処に待ち受けていた寄せ手の大将は…。
「おっと、此処から先には行かせないわよ」
セミロングで、襟がはねている黒髪の小柄な少女。
潘璋軍の後詰めを任されていた朱然が、使い込まれた木刀を一本手にしてその目の前に立ちはだかった。
「長湖の走狗が! 邪魔をするなッ!」
満身創痍、その制服ブラウスも所々無残に敗れ、片腕も負傷してだらしなく垂れ下がっていても尚、関平は鬼気迫る形相で目の前の少女を睨みつけた。
だが…
「走狗、ね。でも貴様等みたいな溝鼠に比べればはるかに上等だ」
いかなる時も笑みを絶やさない、孫権をして「季節を選ばないヒマワリ」と形容される朱然の表情が…そのとき夜叉の如き表情に変わった。
「仲謀ちゃんを…あたし達が培ってきた長湖部の誇りを穢した貴様等に、この荊州学区に居場所を残してやるほどあたし等が御人好しと思ったら大間違いだ…!」
その憎悪の如き憤怒を帯びた闘気に関平もたじろいだ。
だが、それでも彼女はなおも構えて見せた。恐らくは「長湖部恐れずに足らず」という風潮が染み付いていた…それゆえに見せることが出来た気勢だろう。
「何を…こそ泥の分際でッ!」
関平が片手で振り上げてきたその一撃を、彼女は不必要なくらいに強烈な横薙ぎで一気にかち上げた。
驚愕に目を見開く関平のがら空きになった脇腹に、さらに横蹴りが見舞われる。
「うぐ…っ!」
「こんなもので足りると思うなッ!」
よろめくその身体を当身で再度突き飛ばすと、やや大仰に剣を振りかぶる朱然。

体制を崩すまいとよろめく関平は、驚愕で目を見開いた。
彼女はこのとき、己が対峙していたものが想像を絶する"怪物"であったことを、漸く理解した。

「…堕ちろやぁっ!」
大きく振りかぶられた剣が、大きく弧を描いて物凄い勢いで関平の右肩口に叩き落された。竹刀ではあったが、遠心力で凄まじい加重がかかった剣の衝撃はそれだけで関平の意識を吹き飛ばした。
立身流(たつみりゅう)を修めた朱然が必殺の一撃として放つ「豪撃(こわうち)」…この一撃をもって、帰宅部の若手エースとなるはずだった少女は戦場の露と消えた。


「関平ッ!」
その有様を捉えた趙累はその傍へ駆け寄ろうとする。
だが、尽きぬ大軍の大攻勢に彼女にも成す術はない。

武神・関羽が見出したこの「篤実なる与太者」も、決して弱いわけではない…関羽直々に一刀流の手解きを受け、その技量を認められたほどであったが、それでもこの劣勢を一人で覆すにはほど遠い。

「くそっ…どけというのが解らんのかよッ…!」
この激しい戦闘の最中、彼女たちを守っていた軍団員も全滅し、残るは彼女位だという事を悟るのにも、そうは時間はかからなかった。
そしてまた、自分たちが"長湖部"というものをどれだけ過小評価していたかということも。
それゆえ、こうなってしまった以上、自分たちには滅びの末路しか存在し得ないであろうことも。

だが、それを認めてしまうことは出来なかった。
この局面において退路を探ることが出来なかった以上は、許されるのはただひたすら前を目指すことだけ…しかし、その想いとは裏腹に、彼女の身体はどんどん後方へ追いやられてゆく。

「…いい加減…往生際が悪いとは思いませんか…?」
「…!」
その声とともに、人波の間から鋭い剣の一撃が飛んでくる。
彼女は辛うじてそれを受け止め…そして、その主の顔を見て愕然とした。
「あんたは…!」
そこにいたのは、数日前に江陵で面会した気弱そうな面影のない…その生来の凛然さを顕したその少女…陸遜がいた。
「学園に名を轟かす関羽軍団…その将たる者の最後の相手が一般生徒となれば、余りにも不憫。僭越ながら、私がその階級章、貰い受けます!」
気弱そうなその風体に似合わぬ不敵な言葉に、趙累も苦笑を隠せなかった。

彼女の中にはそのとき、一抹の後悔が浮かんでいたのかもしれない。
呂蒙の影で動いていた者が、目の前のこの少女であるという確信すると同時に…趙累はあの時、これほどのバケモノを目の前にしていながら、何故あの時にその正体を見破ることが出来なかったのか、と。
そして、彼女は剣を交えた瞬間、己の運命も悟っていたかも知れない。

「ふん…粋がるなよ小娘ッ!」
しかしそれでも、彼女は最後まで強がって見せた。最早、それが虚勢でしかないとしても。
「このあたしを謀った罪、その階級章で贖ってもらうよ!」
彼女は正眼に構えた剣から真っ直ぐ、陸遜の真眉間めがけて剣を振り下ろす。
「…出来ないことは、安易に口走るべきではないと思います」
その顔に似合わぬ冷酷な一言の、刹那の後。
陸遜の剣は僅かに速く、その剣を弾き返し…返す剣で趙累の身体を逆胴から薙ぎ払った。
(そんな…!)
がら空きになったわき腹に強烈な一撃を受け、彼女もまたうめき声ひとつ上げず大地にその身体を預けた。

966 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:12
関平と趙累が最期を迎えていた時…それと知らず潘璋はただその光景に言葉を失っていた。
戦闘に入ってから既に十五分余りを経過し、関羽軍団の軍団員はほぼ討ち果たされていたものの…肝心の関羽は討ち取るどころの騒ぎではなかった。

関羽一人をめがけて殺到する少女達の体が、まるで紙吹雪のように吹き飛ばされていく。
それが紙吹雪では断じてない事は、その剣が振るわれる度に飛び散る血飛沫が物語っていた。

それはまさに悪夢のごとき光景だった。


関羽の剛剣が振るわれるたび、少女数人が吹き飛ばされ、その一回ごとに戦闘不能者が生み出されている。
正面に立てばある者は肩を砕かれ、ある者は額を割られ、ある者は血反吐を吐いて悶絶する末路が待っていた。組み付こうとしてもその剛拳で強かに顔面を薙ぎ払われ、強烈な裏蹴りで肘や二の腕を破壊されてしまう。
何時の間にか、関羽の周囲はそうした脱落者ばかりになり始めていた。

「…なんだよ…」
潘璋はその凄惨な光景に、泣き笑いのような表情で呟く。
「こんな…こんな馬鹿な話ってあるかよ…?」
その問いに答えるもののないまま。

「関雲長、覚悟ッ!」
飛んできた怒声に、潘璋は漸く現実に引き戻された。
声の主は蒋欽。吹き飛ばされた生徒達の間を割って飛び込んできた彼女は、握り締めた鉄パイプを関羽の脳天めがけて猛然と振り下ろす。
背後から、人込みに紛れての奇襲。本来ならば、彼女ほどの猛者が好んで使うような戦法ではないはずだ。
だが一方で、蒋欽は己のプライドなどというものがこの戦いに何の利益ももたらさないことをきちんと理解していた。

もっと言えば、ここで関羽を確実にツブせなければ後がないだろうことも。
だからこそ、彼女はこの一瞬の中に総てをかけた。

次の瞬間。

鉄パイプはあらぬ方向を向いていた。
いや、あらぬ方向を向いていたのは、それを持つ蒋欽の左腕そのもの…その肩口に、関羽が振るった剣先が食い込んでいた。
「公奕さんッ!?」
その潘璋の悲鳴が届いていたかどうか。
その身体は大きく宙を舞った。

関羽は、ここまでの間、一度も振り返ることはなかった。


宙を舞うその身体に目を奪われた少女達の動きが一瞬、止まった。だが関羽はそれにさえ目もくれず、なおも眼前にある"敵"を屠りつくすために再度その剣を振り上げた。

「文珪先輩ッ!」

少女の絶叫で我に帰った潘璋は、次の瞬間思いきり地面に叩きつけられた。
いや、どこからか組み付いてきた少女とともに地面を回転しながら受身を取らされた格好だ。
その一瞬、地面に叩きつけられる太刀が見える。恐らく、その少女がいなかったら自分はとっくの昔にその餌食となっていたことは想像に難くない。
「承淵!」
覆いかぶさったその少女からは返事が無い。
恐らくは飛びついた際、同時に地面を振るわせた一撃の生み出した衝撃をもろに受け、意識を飛ばされたのだろう。潘璋はこの少女が身体を盾にしてくれたお陰で、その影響をほとんど受けずに済んだのだ。
その恐ろしい事実は、その切っ先がめり込むどころか文字通り叩き割ってるという凄まじい状況からも理解できた。

関羽は潘璋の姿を認めると、再びその切っ先を天に振りかざした。
彼女は丁奉の襟首を掴むと、横へ飛びのこうとするが…その切っ先の落ちてくる速度のほうがずっと速い。
そして動かない己の脳天めがけ、その剣が振り上げられるのを、潘璋ははっきりと見ていた。
その刃は、まるで総ての命を刈り取る死神の刃のように思えた。


だが、その刃が届くことは無かった。


自分たちと関羽の間に割り込んできたひとつの影が、その剛剣をものともせず、棒のようなもの一本で受け止めていた。
濃紺のバンダナから覗く、白金の髪。
「…これ以上」
言葉を失ったはずの少女が、声を発した。
潘璋はそのこと以上に、その声の主に心当たることにかえって驚愕を隠せなかった。
「これ以上、貴様如きに好きにさせるかぁぁっ!」
かつての孫策直属の側近の一人で、飛び切り不器用な性格の才媛と…目の前の少女のイメージが、潘璋の中でそのときひとつになった。


(続く)

967 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 00:29
仕事に就いたことでさらに出現率が低下した感じの海月です><

まーあれだ、イレギュラー言うなら最高に酷いのはむしろ私かもしれません('A`)
お察しになられる方も恐らく多いでしょうが、馬忠の正体は…


>北畠蒼陽様
ちょwwwなんで陳羣がトドメ刺してんwwwwww

こういうお約束っぽいオチ大好きですよw
史実準拠であることも大事だと思うけど、このくらいは受け入れて然るべきではなかろうかと。


そして韓芳様の呂布軍団の最期に、冷霊様の進行中の益州東州軍団SS…くそう、どいつもこいつも濃すぎだコノヤロー(≧▽≦)
私もさっさと関羽軍団を乙らせるべく奮闘中ですが、それこそ欣太センセみたく関さんがプロット潰しに来はるんですよ誰かボスケテww

968 名前:北畠蒼陽:2006/10/08(日) 12:11
>海月 亮様
おかおつおつかれさまです(それぞれ帰還と就職と投稿について
そして、関さん……っ!

正直蒼天の最後はファンタジーになっちゃってたんで、あんまり印象ってないんですよねぇ、個人的には。
ラスト近くになって一番すきなのは潘濬なんすよー。
ま、ワタクシの個人的な志向はどうでもいいんですがねー、ここでの潘濬ちゃんがやっぱいいねぇ〜。
あと『潘濬』を『いんしゅん』って打ち込んで『あれ、変換されないなぁ?』ってカチャカチャやってた私とか、いっぺん家財を泥棒に持っていかれるとよいよ。いや、やられましたが。

それはともかく大作おつさまですたよぅ。

969 名前:海月 亮:2006/10/08(日) 18:36
>潘濬
っていうと四百話のアレですな。
あのシーンは関さんの一挙一動に先ず目が行くけど、こっそり潘濬もいい役どころなんですよね。関平が哀れとしか思えない('A`)www

横光はいたんだかいないんだかで、吉川だと完全に糜芳&士仁の同類扱いで終わってますからねぇ…正史に伝もあるのにねぇ。

970 名前:韓芳:2006/10/09(月) 22:43
>北畠蒼陽様
ナイスオチ♪
いや、いい仕事してますね〜(あの人風
陳羣いい味出しすぎですw

私にはこういった文章書けませんが、読んでて面白い文もいいですよね〜。

>海月 亮様
第四部お疲れ様です〜。

潘濬って、いい役どころなんですね…知らなかった… orz
横光とか(私の読んだ)演義には潘濬とか趙累とかなんて1行出たかどうかくらいでしたんで^^;
いや〜、勉強になりました。

971 名前:海月 亮:2006/10/14(土) 00:13
^^ノシ

潘濬は横光で名前のみ、吉川英治ではやはり離反組の一人として登場してます。
まぁ流石に趙累まではいませんでしたが…

潘濬の活躍ぶりは「蒼天航路」をぜひ^^^^^



さて、五部はどうまとめようかのう…。

972 名前:北畠蒼陽:2006/10/19(木) 21:25
「貴様……何様のつもりだ!」
「貴女の上官様のつもりよ。異論があるのなら会議室から出ておいきなさい」
会議室は2人の少女のにらみ合いによって緊迫の空気を帯びていた。
しかし部下であるほうの少女が足音を荒くして部屋から出て行くことによってその空気も若干和らいだものになる。
しかし……
「……よかったんですか?」
にらまれていた上官の傍らにいた少女、王基が呟くように尋ねる。
「まぁね……あれで十分」
それに答える声は獰猛な笑みを帯びていた。
「あなたや、文舒は近い将来、私に感謝することになるわよ……もっとも私は私の血筋が謀略の血筋だってことを思い知らされてへこむことになるんだけどね」
謀略の家系の、現段階でその頂点に立つ少女、王凌は自信に満ちた笑みを浮かべた。


謀の華


その月、長湖部におけるアンタッチャブル、陸遜が引退することになる。
同月、南津の橋の欄干の銅像が落雷により焼け落ちた。ちなみにこの銅像は『全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている』というシロモノだったのでみんな銅像が焼け落ちたことを内心喜んだ。
その翌週にはおりからの大雨による床上浸水で長沙棟に通う学生たちが被害を受けた。
そんな不穏な空気の中、長湖部の1人の少女が唇をなめた。

「……じゃ、もっかい手はずを確認するわね?」
車座の中心の少女が周囲を見回す。
朱貞、虞欽、朱志……
なかなかのメンツが集まったもんだ、と自画自賛。
「私たちが狙うのは部長……いや、孫権が校内に入り、おつきの連中がまだ校門付近にいる、ってくらいの絶妙なタイミング」
うん、と中心の少女の言葉に3人が頷く。
「朱貞、あんたはそのタイミングで幹部連中を全員拘束。その間に私が孫権を……」
ぐしゃ、という音を立てて少女の手の中にあったジンジャーエールのアルミ缶が潰れた。
「……そのあとは校内に立てこもって時間を稼ぎながら生徒会の救援を待つ……成功すれば委員長クラスのポストも夢じゃないわよ?」
少女……九江棟長にして征西主将、馬茂は笑みを浮かべた。

決行の日、校門が見える茂みの中に馬茂は隠れていた。
生徒会に自分がいた当時の王凌のセリフが頭の中にリフレインされる。
私を小ばかにしたあの女狐は委員長として生徒会中枢におり、その妹……王昶とかいったか……も荊州校区に勢力を伸ばしているものの、今回、これを成功させればあいつらを見下すことが出来る。
どっちにしろ名主将、陸遜のいない長湖部などすぐに壊滅してしまうのだから、私の役に立ちながら潰れるといい……

973 名前:北畠蒼陽:2006/10/19(木) 21:26
そんなことを考えていたから馬茂は後ろの気配にまったく気づかなかった。

「……いい気になるな、小者」
後頭部に竹刀で一撃をくらわせて昏倒させた馬茂の制服から蒼天章をはずし、嫌気がさしたように呟く全ソウ。
不意に足音に気づき顔を上げる。
「子山、終わった?」
「終わった終わった……まったくイヤになる」
肩をすくめながら現れた歩隲に全ソウは苦笑を浮かべた。
直前に情報が得られなければ本当に危ないところだった。もしかしたら……
いやなイメージを振り払うように全ソウは顔を振る。
「まったくね。おちおち引退も出来やしない」
「伯言がいなくなったタイミングでこれじゃ、わが身の不徳を嘆くことすら出来ないわ……っと、あんたの前じゃこれは禁句だっけね」
のうのうと言い放つ歩隲を一瞬険を帯びた目でにらみつけてから、にらみつけたところで無駄と悟ったか全ソウは『別に』と呟く。
ほい、と歩隲は全ソウに手を出し、その手に全ソウは馬茂から奪った蒼天章を乗せる。
「私はそんな高望みしてたっけかな〜、っと!」
歩隲が言葉とともに頭上に馬茂の蒼天章を放り投げた。全ソウは目でその軌跡を追うこともなくため息をつく。

「はえ〜ってタイミング」
「……小者は小者だったわね」
後日報せを受けた荊州校区で王昶と王基も頭を抱えた。
「なんで決行タイミングをこっちに知らせんかなぁ。そしたらこっちだってそのタイミングでフォローできるっつのに」
「……私たちが王凌様の息がかかってるから知らせたくなかったんでしょ」
王基の言葉に王昶は余計に頭を抱える。
「だったら公休でもいいじゃんよー!」
「……それを思いつかないのが小者の小者たる所以」
身も蓋もないことを呟きながら王基は肩をすくめる。
「……ま、確かに王凌様が1年以上前に言ってたとおり役には立ってくれたわ。つまり小者ですら孫権を狙える位置にいる、っていう事実を知らせてくれた、って意味でね」
「一石一鳥じゃ不満よ」
不貞腐れたように王昶が頬杖をつく。
「……ま、そこらへんはあなたのお姉さまの読みの甘さね」
「うわぁー! お姉さま、ツメが甘いよ! そんなんじゃダメだよ! でもマジラブ!」
王基の言葉に王昶は再び悶絶する。
悶絶といっていいのかどうかは微妙だが。
苦笑しながら王基は王昶を見、そして窓をあけ、その向こう、湖の彼方に視線を向けた。
「……熱いわね」
10月の冷たい風を浴びながら王基は呟いた。

974 名前:北畠蒼陽:2006/10/19(木) 21:26
王家に関係あるっちゃあるんだけど、誰も見向きもしないような小者オブ小者。ベスト小者スト7年連続で受賞中の馬茂さんです。
誰だこいつ、って感じですよね。本当ですよまったく。
純粋シリアスも純粋ギャグも描きたくない、って中途半端なテンションで書いたらこうなりました。
う〜ん、どうにかならんもんか……

>全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている銅像
実在します。私の実家のほうに。

975 名前:韓芳:2006/10/22(日) 23:31
>北畠蒼陽様
謀の華、お疲れ様です〜。
小物って今も昔も変わらないですよね〜、散り方(ぉぃ
王基の様子も気になるところです。

>全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている銅像
想像すると怖いんですけどw
夜とか絶対近寄れない…

976 名前:北畠蒼陽:2006/10/23(月) 00:54
>韓芳様
まぁ、実際のとこ、そこまでいうほど小者じゃなかったと思うんですけどね。
ほら、ナニゴトもディフォルメって必要じゃないですやんか?(誰に言ってるのか)

>王基の様子
ん? 王基? 王凌お姉さまのことかな?
ん〜、こんな感じかと……
------
王凌「……ふ、ふん、予想通りね」
令孤愚「彦雲姉って、なんていうか……ほんと、負けず嫌いだよね」
------
でも実際のとこ馬茂さんが魏の誰と連絡取り合って、行動起こしたのかは不明ですなぁ。多分王凌だとは思うのですけど。

>全裸の男が帽子だけかぶってサックスを吹きながら歩いている銅像
う〜ん、私が子供のころにできた銅像なんですけど、はじめて見たときは怖いとかいうより愕然とした記憶がありますね。

977 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:41
スパムなんて(゚з゚)キニシナイ!!
とりあえず荊州事変の顛末とかどーぞ。

いち >>898-901
に  >>909-912
さん >>924-927
し  >>963-966

978 名前:海月 亮 :2006/10/28(土) 10:42
−武神に挑む者−
終節 ゆめのおわり


凛とした怒号とともに、変幻自在の杖捌きが関羽を襲う。
その突きの鋭さに、さしもの関羽も後退を余儀なくされた。
飛びのいて大きく間合いを取ると、二人は改めて向き合い、互いの姿を確認しあった。
「貴様は…?」
「…答える義理は無いわ」
にべも無い言葉とともに杖を構えるその姿に、達人特有の気配を感じ取った関羽も、構えを取り直す。
(…棒術…いや、これは杖術か…! …この娘、出来る…!)
一陣の風がふたりの間を駆け抜けていったその瞬間、その中間で剣と杖がぶつかり合った。
そのまま力で押し切ろうとする関羽の剣を受け流し、側面から少女は横薙ぎに杖を繰り出す。
紙一重でかわしたところへ、無拍子で直突きに切り替えてくるその一撃が、関羽の左肩を捉えた。
「…ぬ!」
当たる瞬間僅かに半歩引いてダメージをやわらげようとするも、さらに足元を掬い上げる強烈な一撃を喰らい、受身を取ってさらに後退させられる。
(………馬鹿な………甘寧なき長湖部に、まだこれほどの使い手がいるなど…!)
予想外の攻撃に当惑するのは関羽だけではなかった。
見守る長湖部員達にも、この状況でまさか関羽に一撃を加えられるほどの使い手がいることなど思いもしなかったのだ。
潘璋、蒋欽といったひとかどの猛将を悉く退けられ、戦意喪失していた部員達は、思わず歓声を上げた。

折りしもその場に到着した呂蒙も、どこかほっとした表情で呟いた。
「あいつめ…やっとその気になってくれたのかよ」
呆れてはいるようだが、こんな絶体絶命の状態になるまでその少女が出てこれなかったことを、少女が関羽に対する恐怖で逃げ回っていたというワケではないだろうことを、呂蒙は知っていた。
彼女が関羽の面前に立てなかった理由…そして、この局面において姿を現した理由は、ひとつしかなかったのだから。


その別の丘から、到着した孫権の軍団も姿を現していた。
関羽が巻き起こしたと一目でわかるその惨状の中心、暴威の如き武を振るう関羽を、単身食い止めている…いや、その見立てに誤りが無ければ…。
「…凄い…あの関羽を相手に、あそこまで戦える人が居たなんて…!」
目を輝かせて、感嘆の呟きを漏らす孫権。
傍らの周泰は、それを何処かやるせない思いで眺めていた。彼女も、眼下で死闘を繰り広げている少女の正体を知っていた…というか、一目見てその正体に気づいていた。

かつて共に孫策の元で共有した夢を実現するために戦ったその少女が、その不器用な性格ゆえに、周囲から浮いた存在になっていることも…それが孫権のことを大切に思うあまりにそうなってしまったことも。

(子瑜が髪形を変えてしまったときも気付いたほどなのに…お前の想いは、それほど伝わりにくいものだったのか…)
周泰には、そのことがたまらなく寂しいものに思えていた。


自分の疲労に気付いていないわけではなかったが、関羽は最後の最後まで、何処か"長湖部"という存在を甘く見ていた。
かつての呂布がそうだったように、己自身に敵なしとまでは思っていなかったが…少なくとも今の長湖部には、自分に比肩する武の持ち主など存在しえない、と思い込んでいた。

だから、信じられなかった。
…いや、認めるわけにはいかなかったのだ。

たとえ自分が万全の状態であっても…目の前の少女が、"武神"と呼ばれた自分をはるかに凌駕する武の持ち主であることを。


そしてその鋭い突きの一撃が、ついに武神の左肩を捕らえた。
「な…!?」
戸惑いの後、凄まじい衝撃が関羽の全身を襲う。
これが単なるまぐれ当たりではないことは、それまでの攻防で見せたその能力を鑑みれば解ることだった。彼女はインパクトの瞬間、一瞬の手首の返しと同時の強烈な踏み込みでその威力を倍化させ、その身体をさらに後方へと吹き飛ばした。

固唾を呑んで見守っていた長湖部員たちから、歓声が上がる。
関羽はその光景に、耐え難い不快感を味わっていた。義理人情に篤く、戦いに関しても常に敬意を忘れない彼女も、「武神」と持て囃させたことでそれを見失っていたのだろうか…あるいは、そのプライドから来る、今の自分に対する怒りからなのか。
(おのれ…長湖の狗如きに!)
眼前の少女に対して、このとき関羽が抱いていたのは、紛れもない憎悪だった。

大きく体制を崩した関羽めがけ、杖を脇に構えた少女が引導を渡すべく加速する。
関羽の目はなおも眼前の少女を見据えていた。
木刀を腰に構え、抜刀術の体勢をとる。そしてその闘気が一気に消えてゆく。
「…光栄に思え。まさか長湖部員相手如きに、これを使うとは思いもしなかった」
少女が異変に気づいた時には既に遅かった。


次の瞬間、少女の身体は血飛沫と共に中空を舞った。
直前まで歓喜の声をあげていた長湖部員たちから、その瞬間、総ての声が消えた。


少女の頭を覆っていた布が解け、その正体を示す銀の髪が中空で揺らめいた。
そしてその瞬間、その少女の正体を孫権もまた知ることとなった。
「…嘘…なんで、あのひとが…?」
呆然と呟くその問いに、応えるもののないまま。

979 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:42
大地に倒れ付した少女を一瞥すると、関羽はゆっくりとした動作で孫権を見据えた。
「…これで私の道を遮るものは無い」
関羽の放つ鬼気にあてられ、少女たちは思わず後ずさっていた。
ただ一人、孫権を庇うようにその前に立つ周泰を除いては。
「此処で長湖部の命運は尽きる。身の程を弁えず、私の留守を狙ったことはその存在そのもので贖ってもらおう」
「勝手なことを…!」
しかし、周泰の言葉はそこで途切れていた。
何時の間にか振るわれた鋭い横薙ぎの一撃が、次の瞬間にその身体を数メートルも吹き飛ばしていたのだ。
「幼平っ!」
「幼平さんっ!」
呂蒙と孫皎が駆け寄ろうとするが、既に関羽の第二撃が、呆然とへたり込んでいる孫権の頭上に狙いを定めている。
「…終わりだ」
抑揚のない言葉と共に、その無慈悲な一撃は振り下ろされた。


総てがスローモーションに見えるその刹那の時間の中で、孫権は再度想像もつかないものを見ていた。
振り下ろされる刃と自分の間に割って入る、銀色の影。
それは常日頃から自分の傍にあって、あらゆる危難から守ってくれた存在とは別のものであったことに、彼女はすぐに気付いた。


「…どうして」
その剛剣を杖で受け止め、その身を盾に庇う少女に、孫権は問いかけた。
「…なんで…なんであなたは…そうまでして…」
彼女は振り返らない。
服に滲む赤い染みが、彼女の受けたダメージの大きさを何よりも如実に物語っている。本来は、立っていることさえ出来ない状態のように思えた。

しかし彼女はしっかりと両方の足で大地に立ち、身じろぎひとつせずその剛剣を受け止めていた。
守るべき、少女の為に。

「私は…私にとっても、あなたが…大切な人だから」
その姿は何よりも確かに、彼女の言葉が偽らざる真実であることを物語っている。
「私は、あなたを貶めたこの女がどうしても許せない…そして、あなたに嫌われることしか出来なかった自分自身も…」
その声が震えていたのは、そのダメージの所為ではないだろうことにも。
彼女は漸くにして、この少女がどんな思いで過ごしてきたのかを知るとともに…そのあまりにも哀しい心に気付けなかった自分の不甲斐なさを痛感した。
「だから…私はこの総てを…私の身を引き換えにしてでも…ここでその落とし前をつけます…!」
そのとき、ただ一度だけ、少女は背後の孫権の方に振り向き…微笑んだ。

寂しそうな笑顔だった。
胸が詰まって、声を出そうとすれば涙が出そうな気がした。
少女は再度、視線を前へ戻す。
「…この一撃で、尊大なる武神を仕留める!」
瞬間、少女の闘気が弾けた。

杖を返し、力の均衡が崩れて体勢を乱したその手から木刀をかちあげた。
強制的に諸手を挙げさせられ、がら空きになった胴に一撃、立て続けに背、鳩尾、大腿、左腕、右肩と乱調子の攻撃が武神と呼ばれた少女の体躯を打ち据え、限界を超えていたはずのその体から容赦なく体力を奪い取ってゆく。
よろめくその身体から距離を置き、再度脇構えに杖を構えた。
「…我が力の総てをかけ…唸れ天狼の刃よ!」
銀色の閃光が駆け抜けていく。

そして断末魔の悲鳴もなく、その身体は力なく大地に倒れた。


この乱世の始まりから学園を駆け抜け、「武神」と呼ばれた少女の、最期だった。

980 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:44
「関羽が討たれた」
その報告は間もなく学園中を駆け巡ることとなる。
情報封鎖によって丸三日、それを知らされずじまいだった帰宅部連合を除いて。


王甫が防衛していた襄陽も、突如侵入した長湖部勢によって瞬く間に制圧された。
王甫は辛くも脱出に成功し、血路を開いて益州学区へ帰還することが出来たが…その道中において漸く、関羽が飛ばされたということを知る事となった。
あの死闘の最中、唯一逃げ切ることが出来た廖化と合流したことで。


その報告を受けた曹操にも、何の言葉も思い浮かばなかった。
長湖部から送って寄越されたのは、紛れもない関羽の階級章。しかし関羽の行方は、戦後処理を待たずに杳として知れないとのことだった。
関羽が何処へ去ったのか…この時点で知る者は誰もいなかった。



一通りの報告を受け、曹操は訝る蒼天会幹部に「…悪いけど、ひとりにして」と言い残し、覚束ない足取りで執務室を後にしていた。
彼女は、洛陽棟の屋上…丁度荊州学区が見渡せる場所を眺めていた。
「…とりあえず、当面の危機は去った…んじゃないのか?」
その声にも振り向こうとせず、曹操はただ、遠くに映る荊州学区のほうをぼんやりと眺めていた。
声の主…夏候惇はその隣に、手すりに寄りかかるような形でついた。
「まぁ…おまえは大分あいつのことを気に入ってたみたいだから…」
「…そんなんじゃないよ」
曹操は手すりに預けたその腕の中に、自身の顔を埋める。
「ちょっとだけ…雲長のことが羨ましいと思った」
「羨ましい?」
思ってもみなかったその一言に、夏候惇は鸚鵡返しに聞き返した。
「形はどうあれ、雲長は自分のあるべきところで学園生活を終えることが出来た…その間いったい、あたしはなにやってたんだろうな、って」
そのとき初めて振り向いて見せたその表情は、ひどく哀しげなものに見えた。


劉備や関羽が長きに渡って学園の動乱時代を、自らの足で駆けずり回ってきたように…曹操もまた、この動乱時代を先頭きって駆け抜けてきた少女である。
学園組織でその身が重きを成すようになっても尚、彼女は自らの足で戦場に赴き、常に飛ぶか飛ばされるかの危難に遭いながら、その総てを乗り越えてきた。

しかし「魏の君」という肩書きに縛られ、彼女の課外活動における行動範囲はこれまでの比でもなく狭められてしまっている。

それが彼女の行動の結果だとは言え、それが本当に彼女の望むものだったのか…。
その「羨ましい」の一言が、その思いの総てを物語っているように夏候惇には思えた。


「…そろそろ、あたし達も潮時なんじゃないかな?」
「え?」
夏候惇の言葉に、今度は曹操が驚いて聞き返す番だった。
「あまり忙しいと忘れがちになるけど…あたし達もそろそろ学園に別れを告げなきゃならない時だ。ここまできたら、もう十分やったんじゃないかな?」
夏候惇もまた、その責任の重さから既に戦場へと赴かなくて久しい。
単に従姉妹同士という以上に、常に曹操と最も近しい位置にいた彼女にも、その思うところは初めから手に取るように解っていたのかもしれない。
「まぁしばらくは大騒ぎになるかも知れんが…事後処理の面倒なところは、あたしや子考(曹仁)、子廉(曹洪)でしばらくどうにかしてやるから…残り3ヶ月の間くらいは、好きに学園生活を送ってみたらどうだ?」
「…うん」
少しだけ微笑んだ彼女の脇を、晩秋のそよ風が吹きぬけた。


こうしてまたひとり、学園史を彩った風雲児が、その歴史上から姿を消そうとしていた。
この一週間後、曹操の引退宣言でまたしても学園中は上へ下への大騒ぎとなるのだが…その影で、ひとつの悲劇がまた進行しつつあった。

981 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 10:44
「…どうして」
揚州学区の病院の一室に、彼女は眠っていた。
頭には包帯を巻き、その身体には所々計器が取り付けられている。静かな病室の中、無機質な電子音だけが響いている。
「どうしてこんな目に、遭わなきゃならないの…子明さん…」
孫権は呂蒙の手をとると、力なくそう呟いた。
俯いたその瞳からは、とめどなく涙が流れ続けていた。


長湖部内での論功行賞は既に済み、作戦の総指揮をとった呂蒙はもちろん、生き残った者達にはそれこそ莫大な恩賞が与えられ、今回飛ばされたもの達についても十分すぎるほどの見舞金が出されていた。
そして、丹陽に半ば放逐状態だった虞翻もまた、此度の江陵陥落の立役者としての功績が認められ、再び幹部会の会計総括として中央に戻されることとなった。

そして陸遜はというと…流石に功績の大きさから何の扱いも出来ないということはできず、名目として鎮西主将の称号を与えられ、そのまま陸口に留まっていた。
ただしそこにどのような思惑が働いていたのか…彼女はしばらくの間、これまでどおりいちマネージャーとして過ごすこととなる。


そして呂蒙。
「…そういうわけで、問題もひと段落つきましたので…勝手ながら少しの間療養の時間を頂きたいのです」
呂蒙はこの日初めて、自分の体調のことを孫権に打ち明けていた。

呂蒙は戦後処理の直後、宛がわれた自室で倒れているのが発見された。既に限界寸前まで酷使していた身体が、大仕事を成し遂げた安堵感からかその力を一気に失ってしまったようでもあった。
その後数日間病院のベッドで過ごし、この日正式に暇乞いをするために許可を得て病院を出てきていたのだ。

「後任人事は、こちらに総てあるとおりです」
提出されたその表文の中には潘璋、朱然ら現長湖部の武の要といえるものたちの名はあったが…陸遜の名はなかった。
呂蒙は病院にいた間、これまでの部員たちの行動を鑑み、かつ孫権や陸遜当人との約束を守り、その人事案を完成させたのだ。
「…うん…でもまた、帰ってこれるんだよね…?」
孫権は勤めて普段通りの口調で、そう問いかけた。
元気そうに見えたが、呂蒙の顔からもその病状の深刻さが伺えた。孫権にももしかしたら、それが叶わぬ希望とは解っていたのかも知れないが…それでも、そう言わずにいれなかった。
それを解っていたからこそ…また、自分にもそう言い聞かせるように、呂蒙も応えた。
「…ええ。ですから、まだ階級章はお返ししませんから」
「うん…じゃあ、しっかり休んできてね」
そこには涙はなかった。


建業棟を退出し、無言のまま隣り合って歩く呂蒙と孫皎。
「…悪かったな、黙っていて」
先に沈黙を破ったのは呂蒙だった。
「ええんや。今ちゃんと教えてくれたんやから」
頭を振る孫皎。
彼女にも、この戦いに賭けた呂蒙の思いを…自分を心配することで気を遣わせまいとしたその気持ちを解っていた。だから彼女は、自分を"友達"と言ってくれた呂蒙の為に、その疑問を口に出さずひたすらそのサポートに徹していた。
「ゆっくり休んで、また元気に帰ってきてくれれば、それでええねん…」
「…ああ」
寂しそうに笑う孫皎の気持ちを紛らわせるかのように、呂蒙も笑って見せた。


悲劇は、そのとき起こった。

突如黒い影が何かを振りかざし、その視界に現れた。
「…叔朗!」
その叫びよりも早く、鈍い音がして、孫皎の身体が横にふっとばされた。
「奸賊、覚悟ッ!」
殺気を感じ、呂蒙がその場を飛びのくと、それまで彼女がいた場所に何かが通り抜けて地面に突き刺さった。
それが鉄パイプであるということを呂蒙が理解するより前に、四方から立て続けに第二撃、第三撃が襲ってくる。
「ちっ…正当な学園無双で敗れた腹癒せの闇討ちが、てめぇらの流儀なのかよ!」
「黙れッ!留守居を狙ったこそ泥の分際で!」
呂蒙は紙一重でかわしながら、何とか倒れ付した孫皎を回収しての逃げ道を模索する。
しかし、無常にも彼女の体調が、それを強烈な激痛として阻んだ。

直後、凄まじい衝撃が彼女を襲った。



この下手人たちは、たまたま近くを通りかかった水泳部員達によって悉く取り押さえられたものの、そのときの惨状は筆舌に尽くしがたく、被害者たる呂蒙が一命を取りとめていたことが奇跡に近い状況であった。
全身を滅多に打ち据えられ、特に頭への一撃はほとんど致命傷といっても差し支えなかったという。

元々呂蒙は水泳部を中心に様々な運動系クラブを掛け持ちしていたことで、小柄ながら体つきがしっかりしており、その鍛え抜かれた体があったからこそ一命を取りとめることが出来た、とのことだった。

孫皎は比較的軽傷で済んだものの、こちらは目の前で親友たる呂蒙を失ったことでショックを受けて心神喪失状態となり、課外活動を続けることが困難と判断されてドクターストップがかけられてしまった。



今回の謀主でありながら、幸いにも危難を逃れた陸遜はというと。

陸口で「呂蒙闇討ちに遭う」の報を聞きつけた陸遜も、流石にショックを隠しきれずにいた。
彼女はとるものもとりあえず病院へと駆けつけ、目覚めぬ呂蒙と、その手をとって嘆き悲しむ孫権の姿を、ただ呆然と眺めることしか出来ずにいた。
(…これが…こんなことが、このひとの末路でなくてはならなかったと言うの…?)
自身の身体に埋まった時限爆弾の刻限を知り、その時間内に大望を成し遂げるために最大限の人事を尽くしたその姿を、陸遜もよく知っていた。

「この一戦だけ」と、悲壮な覚悟で自分に懇願してきた呂蒙の姿を、陸遜は思い出していた。
それが、昨年の秋口にあった事件のあるシーンと、重なって見えた。

南郡攻略に進発する周瑜を見送った、そのときと。


いずれも、ふたりと言葉を交わした、最後の瞬間だったからだ。


(どうして…どうしてふたりとも、こんな目に遭わなきゃならないの…?)
彼女の目からも涙が溢れ、流れ落ちた。
周瑜と呂蒙…このふたりのやろうとしたことの何処が、理不尽ともいえる"天罰"に触れなければならなかったのかと思い、彼女は天を呪わずにいれなかった。


そしてその場に姿を現さなかったものの…虞翻もまた、呂蒙の末路を聞き及び、一人涙した。

孫策が刺客に襲われたあの日も、そして今回も…彼女はその場に居合わせず、それが取り返せぬ時間と場所で結末のみを知る形となってしまったのだ。
(私は…また大切な人を…守ることが出来なかった…)
どうしようもない運命のなせる業であることも、彼女はその聡い頭脳で理解はしていた。
しかし、その感情は…その場に居合わせることすら出来なかった自分自身をただ責め続けていた。



この数日後、呂蒙を失ったことによる人事再編が長湖幹部内で施行された。
しかしながら、呂蒙を失った穴を埋めるには到底及ばない状態であり…長湖部は暫しの間、その中枢を担うべき将帥のない状態となる。

そしてそれゆえ、数ヵ月後に、その存亡に関わる大事件へと巻き込まれてゆくこととなる…。

982 名前:海月 亮:2006/10/28(土) 11:12
なんか巧い展開が考え付かなくて結局かなり急いでるとか_| ̄|○

しかも陸遜が鎮西将軍に任命された時期も微妙に前倒しになってるとかぐだぐだですね><
…いやこれは後から気付いたけどもう面倒くさいからなんかいいや、って感じで。
実際は次の年くらいに房陵や秭帰などで蜀に親和する勢力を平定していて、そのときの功績で鎮西将軍に任じられていたとかそんな感じだったはず。




>北畠蒼陽様
きっと小物だったからこそ、自分だけで何とかできると勘違いしたのだと思いつつ。
確かに呉主伝では「孫権殺害後、石頭を占拠して魏と連絡を取るという計画を立てた」とあるだけなんですよね。

というか文舒さん悶え過ぎww

983 名前:北畠蒼陽:2006/10/28(土) 19:14
>海月 亮様
大作乙!
全5章とか、長かったですねぇ。
いや、1章から環境ががらっと変わりながら、それでも同じテンションで書けるってのはすばらすぃですねぇ。
えぇい! ツメの垢をよこしやがれー! って感じで。えぇ。
しかし、呂蒙の最後がそうなるとは予想外でしたわ。うむ。

984 名前:海月 亮 :2006/10/28(土) 20:50
>北畠蒼陽様
実はもうひとつあったんですが、さらにぐだぐだになりそうだったので結構無理やりにまとめてるんです^^A

さらにここから、二年前(<もうそんなになるのか^^A)くらいに書いた夷陵SSとあわせて完結する形であった所為もあるんですけどね。
まぁ何気に関さんが行方不明だったり、「馬忠」の正体がアレだったりするのも、多分こっちに持ってこない長湖部斜陽SSの伏線になっているとかいないとか…これに交州話や二宮の変が絡んで、漸くひとつの話が完成するとか無駄に話が大きなことに^^A


あと呂蒙は自分内の年齢設定的に、二年生でいなくなることになってるんですよ。
そうなれば、やはり飛ばされた以外に「あっ」と思うような設定が欲しかったもので…本当に死んでしまうのは郭嘉だけということで、どうか。

985 名前:韓芳:2006/10/30(月) 23:54
>海月 亮様
終節お疲れ様です〜。
毎回よくこれだけの物が書けるなぁと感心しつつ、読ませていただいてました(書き込む前から
さらば関羽&呂蒙…

>北畠蒼陽様
王凌でした… orz
変換がめんどくさくてコピペしたのが間違いか…(ぉぃ

そろそろ空白の数日間埋めないといけない予感。
さて、どうまとめるかな…

986 名前:海月 亮:2006/11/04(土) 11:08
まー書くペースと文章量が今のところ反比例してますから^^A
むしろ詰め込みすぎ乙ですな。もーちょい、自分ではすっきりまとめたいんですけどね。


さーて、私は次何をやろうかな。
というか二宮も大まかな顛末というか、ドリーム展開になりそうな予感が…。

987 名前:韓芳:2006/11/05(日) 23:54
咲かぬ花
  外伝 隠された1枚

これは、呂布陣営最後の時の、語られることのなかった数日間の物語である―――

「候成!・・・失礼しました!」
魏続と宋憲が後を追った。

「ハァ・・・ハァ・・・ やっと追いついた・・・」
そこは下丕棟の屋上だった。
2月の屋上の寒気は痛くも感じられる。
そんな中で候成は、フェンスに1人もたれかかっていた。
「さっ、寒い・・・こ〜うせ〜い!とりあえず中で話し合おうよ〜!」
「・・・」
「無視か・・・まあ、当然と言えば当然か。」
宋憲がボソッと言った。
「ねぇー!聞こえてるのー?」
諦めず魏続は話しかける。
「・・・」
だが、相変わらず無言だった。
「ここはそっとしておこう。」
宋憲は魏続にそっと話しかけた。
「・・・そうだね、そうしようか。じゃあ、私達先に戻ってるからねー!」
そう言って戻ろうとした瞬間だった。
「・・・星・・・見えないね・・・」
急に候成が喋りだした。
あまりの突然さに、2人は顔を見合わせた。
「急に・・・どうしたの?」
「私・・・この先どうなっちゃうのかな?・・・この空のように、真っ暗なのかな?」
候成はずっと空を見上げている。
魏続が元気づけようと声をかけた。
「大丈夫だって!呂布様のことだから、明日にはコロッと態度が変わって―――」
「あいつの名前を・・・口に出すな!」
「!!」
「魏続!」
「大丈夫。かすり傷だから・・・」
魏続の頬をかすめたのは、候成の階級章だった。とっさに避けなければ、大怪我になっていたかもしれないほどの速さだった。
「あ・・・ごめん・・・」
「いいよ。候成の気持ち・・・分かるから。」
3人の間を風が吹きぬけた。まるで、何かを後押しするように。

「・・・私ね、決めたの。」
候成がぽつりと言った。
「決めたって、何を?」
「私・・・曹操に降る。」
「!!」
「何だって!?」
「本気だよ。それで・・・お願いがあるの。」
魏続はただ呆然としていた。
「候成、裏切り者になると言うのか?」
「そうじゃない。現に、もうこの軍団には所属してないし。」
宋憲をなだめる様に言った。
「その階級章、返しといて。曹操に下るから、もういらないわ。」
「えっ・・・」
「それから、曹操に下っても、私がここを攻めたりしないわ。絶対に約束する。だから安心して―――」
「安心なんて・・・出来っこないよ・・・」
魏続は涙目で話し出した。
「・・・あなたが居ないのに、どうして安心できるの?」
「・・・あなたには高順様が居るじゃない。私が居なくても・・・きっと・・・」
「・・・高順様も確かに大切な人だけど・・・けど、あなたの方が・・・あなたの方が私には大切なのに!・・・そんな、そんな仲だったの?候成・・・?」
「そうだ、私たちはいつも3人一緒だったじゃないか。それを1人でなんて、許さないわ!」
「魏続・・・宋憲・・・ でも、いいの?」
「私達も最近のりょ・・・あいつにはうんざりしてたからね。お互い様だよ!」
「・・・ありがとう。」

寒空の中誓ったこの約束・・・
その後ろで動いた人影に、3人は気付かなかった。

988 名前:韓芳:2006/11/05(日) 23:59
外伝、勢いだけで書いてみました。
1枚なので裏(続き)があります(ぉぃ
しかし、気持ちの移り変わり速っ!
気付くのは遅いのに…orz

989 名前:北畠蒼陽:2006/11/06(月) 00:31
>韓芳様
信じてたものに裏切られたと感じるのは、人を信じるよりもずっとずっと短い時間で行われることなのですよー。
続き、楽しみにしておりまっす。

え? 私?
……う〜んう〜ん。

990 名前:海月 亮:2006/11/06(月) 22:07
>韓芳様
友情は信奉よりも強し、ですかね。
この三人組の心情の解釈次第では、只の「時勢に乗じただけの裏切り者」から、「理想を違えて離れた者達」という風にも受け取れるんでしょうね。

いや、実はそういう解釈が何よりも好きなおいらがいます^^A


私ゃひとつ審配&辛評、逢紀&田豊あたりでこれやってみようと目論んでるんですが…どうしても正史に沿った話がそれだと書けない罠onz

991 名前:韓芳:2006/11/11(土) 13:11
>北畠蒼陽様
そうかも知れませんね〜
やっぱり裏切られることはつらいと思いますし…(意味深
次回作ゆっくりお待ちしてます^^
>海月 亮様
裏切りにも何かしら理由が有るわけで、それを全て悪にはしたくないんですよ。場合によるけど(ぉぃ
史実通りは難しい…
水攻めとかどうしよう(汗

992 名前:韓芳:2006/11/26(日) 02:06
咲かぬ花
  外伝 隠された1枚 ―裏―

翌日――

「う・・・ん? もう朝かぁ〜・・・」
魏続は眠い目をこすりながら窓を見た。
「うわ〜、真っ白・・・ 道理でさむ〜いと思ったら・・・」
窓の外は一面の雪景色。
と言っても、積雪量としては1cmにも満たないほどであるが。
「それにしても、昨日は寒かったもんな〜・・・ 昨日・・・か。」
ふと思い出した。あれから重臣は下丕棟に泊まることになった。
おそらく陳宮と高順の配慮で、呂布に謝罪の機会を与えるためだろう。
候成と謝罪に行ったときの呂布は、どこか上の空だったのを覚えている。
「あの時、一体何を考えていたんだろう・・・」
しかし、すぐ我に返る。隣の布団では高順が眠っている。滅多なことはここではしゃべれない。
「しかし、妙に寒すぎるような・・・? いくらなんでもここまで寒くなるかなぁ? 部屋もなんだか明るいような―――」

「ふぁ・・・ もう朝か・・・ 魏続、おはよう・・・ ?」
「ちょ・・・ 見て・・・」
「どうした・・・の・・・」
思わず高順も唖然としてしまった。
2人が泊まった部屋の床が凍っていたのである。
「え・・・ なんで・・・って・・・」
「「えぇーーーっ!!」」
早朝の学校に2人の声はよく響いた。

―――3階の水道の蛇口が全開になっており、そこから水が流れ出したものと思われます。被害範囲は3階の現場地点周辺と東階段、それと2階の教室や床のほとんどすべてです。一部は1階にまで到達している模様です。」
棟長室には次々と現状を報告しにくる伝令が入ってきたが、どれも被害は甚大だった。
この事態が発覚して1時間ほどたったが、床とともに各部屋のドアもほとんど凍ってしまい、復旧作業ははかどっていなかった。
「呂布様、至急復旧作業をしましょう。これでは下丕棟を守りきれません。事態が落ち着いた後、犯人を捜しましょう。よろしいですね?」
陳宮の案はすぐに採決された。が、どこか呂布の様子がおかしい。
「うん、任せる・・・ みんな、よろしく頼むわ・・・」
「はっ!」
その場にいた誰もが「もしや・・・」と思ったが、口には出さなかった。
だが、その中に僅かに顔色を変えたのが数人いたのを陳宮は黙って見ていた。

結局この騒ぎは丸1日かけて収まった。犯人はと言うと、証拠は何一つ残っておらず、目撃者もいないため、曹操陣営による工作と言うことになった。
対策としては、警備が強化されただけに留まった。
下丕棟の誰もが、『陳宮に泣きつき呂布が罰を逃れた』、と囁きあったのは言うまでもない。
そして、この事件を後世の人に語らせない様に、さまざまな工作がなされたという。

その夜――
「・・・ねえ? 高順、私がいなくなったらどうする?」
「急にどうしたの魏続? ふぁ〜・・・」
撤去作業を終え、2人は自分の部屋へ戻っていた。
1日中氷の撤去作業を行っていたせいか、高順は眠そうだった。
「もしもの話だよ〜。 向こうには呂布様と並ぶ剛勇と陳宮様を上回る智謀を持った人がいっぱいいるから、将来どうなるかわからないな〜、と。」
「珍しく暗いわね。 疲れたの? もう寝ようか。」
高順はふっと笑顔を見せ、布団にもぐりこんだ。
「そうだね・・・ うん、おやすみ!」
魏続も布団へもぐりこんだ。
「高順・・・」
「うん・・・? どうしたの?」
「ごめんね・・・ zzz」
「ごめ・・・って、えっ?」
高順はしばらくの間呆然としていた。

993 名前:韓芳:2006/11/26(日) 02:10
遅くなりましたが今度こそ完結です。
大した物書いたわけじゃないけど疲れた… orz
PC再セットアップしなきゃいけない事態にまで落ち込んだし…

あと、勝手に『水攻め』→『氷攻め』にしちゃったけどよかったのかな? …駄目ですよね、ごめんなさい…
まったり皆さんの作品読んでよっと。

994 名前:海月 亮:2006/12/20(水) 22:56
( ̄□ ̄;)凍結!!?
でも時期的に水道管の事故はやばそうですからねぇ。

最後のシーンを想像すると、ほのぼのした雰囲気の中にひとさじの哀愁が感じられますな。
というか高順タソ…(*´Д`*)



…そういえば現行の年表設定だと確か同じ頃に孫策も乙ってるんだよなぁ…。

995 名前:韓芳:2006/12/23(土) 00:33
>海月 亮様
『若干マイナー』な武将が私好きなので(マイナーすぎるとアレですが)高順とか搦ナなど三国志でよく使ってます。
有名な人物の影でさまざまな歴史を生きている、ってなんかいいなぁ〜なんて(マニアック?

>現行の年表設定だと確か同じ頃に孫策も乙ってるんだよなぁ…。
2ヵ月後に乙ですね。
次回作に使う…のかな?

996 名前:管理部:2007/01/07(日) 19:05
僭越ながら、続きのスレッドを立てさせて頂きました。
次スレ:ttp://gaksan2.s28.xrea.com/x/cgi-bin/12ch/read.cgi?bbs=gakuenn&key=1168166033&ls=50

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