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ハルヒ:会稽にしても呉にしても、ド田舎もいいところだわ。SOS団の覇業は、あのでっかい建業※の城を奪って、ようやく始まるのよ。そうでしょう!?
ハルヒがまくし立てるとおり、タテに回廊状になっている江東地方を抜け出すには、その出入り口を扼する建業を奪取しなければならない。

建業は長江に面した巨大港湾都市であり、江南の政治・商業・文化の中心地であると同時に、攻め手の気が滅入るほどの防衛力を誇る城壁と、常時数万の兵馬が駐留する一大要塞でもある。
ハルヒは、今すぐにでも、そこへ攻め寄せたくてウズウズしているようだ。
――おいハルヒ。俺たちが隘地に逼塞していて、かつこの世界がSLGベースである以上、帝国主義には目をつぶるが、問題が三つばかりある。お前はその辺を解って言っているのか。
ハルヒ:なによ。キョンの分際であたしに諫言するつもり?
言いながらも、上機嫌らしいハルヒはこちらに向き直って「まあ聴いてあげるわ」のポーズだ。いちいち業腹な野郎だが、またこいつの死の行軍に付き合わされるよりマシと自らを諌めて、ハルヒの突撃脳にも解りやすく、現状を分析してやる。
――ひとつは、呉・越の兵力の少なさだ。建業の総兵力は3万に達しているが、いま会稽と呉の兵力を掻き集めても、どうにか1万そこそこだろう。外征どころか治安維持すらままならない状況であることは、先の山越襲撃でも明らかだ。
ハルヒ:…。
もうひとつは、内政の不備だ。なにしろ、先の会稽軍の攻撃により呉は壊滅状態。会稽のありったけの兵糧と銭帛をこちらへ掻き集めても、どうにかその一万の兵力を半年維持できるかどうか、というレベルまで困窮しているわけだ。そのうえ国防予算が収支を上回っているとなれば、財政破綻は目に見えているだろう。
ハルヒ:……。
最後に、山越民族だ。この間はたまたま長門が戻っていたから撃退できたが、また何万という軍団で襲撃されたときに、誰がどの兵力でそれを迎撃するんだ? 主力部隊が駐留する呉はともかく、がら空きの会稽はどうやって守るんだ?
ハルヒ:…………。
俺が1ヶ条論駁するごとに、眉間の勾配を変えてゆくハルヒ。分かり易い野郎だな。もっとも、みるみる機嫌を損なう太守の様子に狼狽するのは、新参の呉の官吏たちばかりで、会稽からのSOS団員は平然たるものだ。
二瞬ばかり視線が飛び交った後、一同を代表して王朗さんがあやすように言上する。
王 朗:キョン殿の申し様、三ヶ条ともに尤もでございます。揚州どの(劉 )の正義を問う儀については、今しばらく民土を寧んじた後でも遅くありますまい。
相変わらず、新川執事を思わせるロマンスグレーの英国風紳士・王朗さんは、慇懃な物腰でハルヒを諭す。
この数ヶ月間で俺たちが学習したことだが、どうもハルヒの、後退のネジを外した強硬意見に対しては、早めに俺がツッコミを入れ、王朗さんか華 さんが微調整しつつ宥めすかし、最後に古泉が後工程処理をする、というパターンが有効であるらしい。
この場合も、古泉が例の無害スマイルを浮かべながら、
古 泉:王朗さんの仰るとおりです。もちろん、のんびりとはしていられませんが、もうしばらく干戈を横たえて兵馬を休め、殖産に務めるのが、むしろ覇業の近道になるものかと。
と、無難そのものの纏めに入った。
ハルヒ:…………。
ヘの字口とアヒル口の中間くらいの表情で、己を諫止する手下団員たちを交互に眺めていたハルヒは、しかし群臣をギャフンと言わせる有効な反論が思いつかなかったらしく、やがて不貞腐れたように溜息をつき、「まあいいわ」と呟いた。
が、次の瞬間勢いよく上げたその顔には、またハルヒらしい楽観的かつ好戦的な光彩が新たに踊っている。
ハルヒ:みんな分かってるわね!必ず次の年には、建業にわがSOS団の旌旗を掲げること!その為の準備期間なんだから、今日あたしを諫めたことを後悔するくらい、みんなには働いて貰うわよ! ――もちろんみくるちゃんにもよっ
みくる:ふぇ――!? はいっ――!?
まさか自分に振られると思わなかった朝比奈さんは、大きな目を白黒させてアタフタしている。奇襲効果の覿面さに満足げなハルヒの側で、鶴屋さんもその様子を見てゲラゲラと大喜びだ。
まあ、ともあれ侵攻フェーズまであと数ヶ月は猶予を貰えたと言うことだな。
………
……
古 泉:さて、問題は山越の襲撃にいかに対処するか、ですが――
内政について、やや事務的な討議がなされた後、古泉が一同の注意を喚起したことは、江東政権にとって死活問題とも言える、山越民族問題だった。
先の戦いでは、たまたま長門や古泉という知力90オーバーの軍師級武将がいたから何とかなったが、実際は彼らを圧倒するだけの大兵力を常駐させておかなければ、撃退することは不可能だ。
ちらりと長門を見ると、いつものように竹簡の黙読に余念がなさそうだ。いざとなれば、こいつを後方に残しておくという選択肢をハルヒに提言する機会かもしれん。前線にいるより安全で、読書の時間も多く取れるし、本人にとっても、その方が幸せだろう。ハルヒが承知するとも思えないが、言って損はないだろう。
ハルヒ:面倒ね。パーッと本拠地とか燃やせちゃえないの?
無茶を言うな。推定何十万、何百万人という一つの民族だぞ。どんなジェノサイドを敢行するつもりだ。
ハルヒ:わかってるわよ。そうじゃなくて、戦闘集団を一箇所に集めて殲滅できないかってこと。
鶴 屋:ねねっ、何なら私が留守番してよっかっ? こっちは任せて、ハルにゃんたちはやりたいことを全力でやりなよっ
屈託無く、鶴屋さんが申し出てくれる。
そう、何かと俺たちを巧妙にバックアップしてくれる、いつもの頼もしい先輩の顔だ。
しかし――
ハルヒ:うーん…鶴屋さんを後方に回すのは、もったいなさ過ぎるわ
と、ハルヒが渋面を作るのも無理ないことで、このマヌケ中華時空における鶴屋さんのスペックも、かなり反則気味なものだった。
鶴屋さん
| 統率 |
武力 |
知力 |
政治 |
魅力 |
備考 |
| 90 |
90 |
90 |
90 |
90 |
特技:洞察 |
ハルヒの場合と違って、たまに見え隠れする鶴屋さんの底知れない部分を考えると、そうあり得ない数値と感じられないのが怖いところだ。
ハルヒ:鶴屋さんには、政戦両略でガンガン活躍して欲しいのよ! もう一人くらいあたし級の人材が欲しいなあ、って思ってた矢先にフラっと来てくれたのよね。これは天が遣わしたものだわ。それを呉越に埋まらせるわけにはいかないわっ
鶴 屋:わはははっ、天を持ち出されると照れるにょろよっ
ケラケラと笑うSOS団臨時顧問は、ふと表情を改めて、んー、と舌を出さないペコちゃん的思案顔を一同へ向けた。
鶴 屋:でもさ、山越って人たちも、絶対に攻めてくるわけじゃないんだよねっ。じゃ、攻められない方法も考えたらどうかなっ
山越の襲撃が起こらない方法――
と言われてすぐに思いつくのは外向的な懐柔策あたりだが、こちら側からお願いする立場である以上、然るべき手当金を用意するのは当方であり、さて唯でさえ倒産寸前の呉越連合にそんな事が可能なのかどうか。
と、脳内で2bit算盤を弾いているところに、「おお」と声を上げた人物があった。
厳白虎:そういえば吾輩ら兄弟であれば、彼らを押さえることが出来るであろうな
と、かつての敵将は、こともなげに言い放った。
ハルヒ:…本当に?
と疑わしげな様子のハルヒに向かい、厳兄弟はニヤリと笑って見せた。
厳白虎:なめて貰っては困る。吾輩は山越の渠帥どもと互いの血を啜り、義を契った中だ。吾輩か弟がおる城には、彼らは決して寄せては来るまいよ
なるほど、武将特性「親越」だ。
すっかり忘れていたが、厳白虎兄弟は山越民族の有力者という設定だった。彼らのもつ特性「親越」は、文字通り山越民族と近しい武将に与えられ、彼らの襲撃を未然に防いでくれるのである。江東でなければ活かしようのない特性だが、城に居るだけで効果が発揮されるレアなものであった。
古 泉:ありがたいですね。厳氏お二人に、それぞれ会稽と呉に駐留して頂ければ、それだけで全域をカバーできます。
ハルヒ:でかしたわっ!何よ、これで問題ひとつ解決じゃない!
ま、そうだな。出来すぎといえば出来すぎな配剤だが。
会稽に弟の厳輿さん、呉に厳白虎さんが籍を置くだけで、あっさりと山越の数十万の脅威が片付いた事になる。
さんざん雑魚雑魚言っていたハルヒも、さすがにこのときばかりは、二人を見直しただろうな。
ハルヒ:とりあえずマイナス要因は払拭されたし、後は武将集めとか、計略とか、そのへんの話よね。――みんな、トイレ休憩とか挟んだ方がいい?
古 泉:府君、いかがでしょう。色々と重要な決議も出ましたし、ここは一度閉会して内容を消化して貰い、明日あらためて会同するというのは
俺たちの顔にそろそろ浮かんできている疲労を汲み取ったか、ふいに古泉が休会を提案する。まあ体感時間で7時間くらいぶっ続けだったからな。脳細胞のためにも、糖分の補給が欲しいところだ。
ハルヒはというと、あと10時間でも軍議を続けられそうなコンディションのようだったが、一応、王朗さんに視線を投げかけ、王朗さんが切り揃えた口ひげの下でやんわり頬笑んで頷くのを見ると、
ハルヒ:そうね。今日ももう遅いし、懸案事項も解決したし、一眠りして頭を休めたほうが効率いいかもね。
と、案外あっさりと明日への持ち越しを認めた。
ハルヒ:じゃあ、明日、また朝イチで集合。手ぶらで来ちゃダメよ。ちゃんと明日話し合うための腹案とか資料とかを各自まとめて持ってきなさい。そうね、一人一案、何か策を用意すること。
宿題つきかよ。策ったって何の策を提出すれば良いんだ。テーマを明示してくれ。
ハルヒ:内政でも軍事でもかまわないわ。テーマは「富国強兵」ね。――じゃ、今日はこれで解散。また前みたいに客楼でミーティングするから、みくるちゃん、用意よろしくね
みくる:は、はいっ
鶴 屋:おっ!二次会もあるのかっ。私も手伝うよっ
嬉々として手を挙げた鶴屋さんが、朝比奈さんが慌てて断るよりも数瞬早くその腕を取って、ぐいぐいと引っ立てていく。
今日からSOS団のブリーフィングも、これまで以上に騒がしくなりそうだ。
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