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2009.01.01

36.天子奉戴

天子奉戴

  

 中原の至宝・洛陽を手中に収めた南蛮公・呂布は、久々に穏やかな年末を過ごすことになった。
 史実ならば赤壁の戦さがあり、天下三分の大きな分岐となるべき建安13年は、静かに過ぎ去ってゆく――

呂 布:ところで前から疑問に思ってたんだけどさ、「除夜の鐘」って、 「お寺」が鳴らしてるんだよなあ。

陳 宮:…そりゃそうですが。

呂 布:でも初詣って「神社」に行くだろ? 普通。 

陳 宮:はあ、まあ。 

呂 布:でもNHK「ゆく年くる年」は、お寺も神社もいっしょに映してるだろ? よく考えたらヘンな話なんだよ。

劉 循:言われてみれば…。

呂 布:だから俺様が思うにだ。原則として「年末」の時間は主に「寺」を放送して、年が明けた瞬間から「神社」に切り替えてるんじゃないかと。 

陳 宮:ということは。

呂 布:たとえば年明け番組に映りたい奴は、寺ではなく神社に行けってことだな。

呂文姫:なるほどー!父様っ、頭いいっ!ヽ(^0^)ノ

呂 布:がっはっはっは。

呂刀姫:……。

 

 …
 ……
 凍えるような夜気を貫き、建安14年の黎明が、洛陽を照らし出す。
 新年! 
 王城の地は、正月を祝う活気に包まれていた。
 当時の祝日と言えば、上元、三月の上巳、夏季の伏日、冬季の臘日、それに夏至と冬至があるのみであったから、いわば無礼御免の大騒ぎである。この日ばかりは休沐を待たずして、官吏たちも役所を出て自宅へ帰ることが許される。
 君主たるもの、こういう祭日にこそキッチリと祭祀を司り、国の無難を祈るものだが、呂布は真っ先に小間使いや公孫楼たちを誘って初詣(?)に出かけてしまい、どうにも連絡がつかない。
 陳宮が市街を捜させたが見つからず、おそらく上下の別なく流行っている洛水遊宴に出かけているものと思われた。

呂刀姫:――まあ、前からやりたかったみたいなこと言ってたけど…

陳 宮:申し訳ありません、姫様。我らの注意不足です… 

呂刀姫:とんでもありません、軍師どの。まあ、飽きたら戻ってくるでしょうから、こちらはこちらで始めましょうか。

呂文姫:そうだねー!

 

 年始の挨拶は、交戦中の諸侯間でも行われることがある。
 呂刀姫は呂布の代理として、そういう公式の場にも出ねばならない。洛陽の宮には、すでにゆゆしき身分の国使たちが、挨拶状を持って到着している。
 たとえば孫策の使者としては、重臣の張紘。袁紹からは、長子袁譚。曹操からも司馬朗なる人物が寄越されてきていた。
 呂刀姫は彼ら国賓らに面会し、礼に則って丁重な挨拶を交換し、互いの健康などを祝し合い、決まり通りのタイミングで盞をすすめるなど、もう大忙しである。
 ――正午が過ぎ、ようやく宴席の流れが停滞したところで、刀姫は更衣(この場合、トイレのこと)ついでに席を抜け出る。
 

呂刀姫:……ああもうっ!(ぼかっ) 

張 虎:痛っ!

呂刀姫:何で私がこんな目に遭うのよ! 私、何かした!?

張 虎:うう…何で僕が叩かれるかなあ… 

呂刀姫:魏延! 

魏 延:何だ? 

呂刀姫:もう会場の警備はいいから、父上を捜してきて!

魏 延:いいのか?

呂刀姫:お願い。こういう事、あなたくらいしか頼めないんだ…。

魏 延:…あいよ、お姫様。

  「ライバル宣言」をしてだいぶ立つが、まだ二人の間にそれほどの勲功差はない。
 むろん何度も戦に出陣している呂刀姫の方が上だが、魏延はもともと基礎能力が高く、何をやっても平均以上の功績を挙げるため、その出世は早いと言えた。
 比べて、張虎は下役の端に名を連ねているだけの少年下士官に過ぎぬ。まず訓練で能力値を上げねば、PCとしても使い物にならないのだ。
 
 ……
 午後。
 刀姫が席に戻って最初に逢った客は、懐かしの女性であった。

教 母:お久しぶりでございます、姫様。

呂刀姫:まあ、母上! ようこそ…!  

 むろん教母が刀姫の母親というわけではないのだが、呂刀姫は彼女をそう呼んで慕っている。
 教母の来訪は、ひとつの大吉報を供に連れてきていた。
 年が改まったのを契機に、五斗米教団は南蛮公国帰順するというのだ。
 益州牧・張の指揮で長く進められてきた流言・調略と無言の恫喝は、どうやら教団首脳部を直撃していたらしい。
 昨年末あたりから何度か予備交渉が行われていたが、この年のはじめ、ようやく正式な降伏勧告を受け入れる準備ができたということだろう(※実際のプレイでは、無論こういうイベントはありません。翌4月のターンで降伏勧告をしただけです)。

 ……さらに元日の演目が進み、呂刀姫がクタクタになった頃に、ようやく魏延が呂布を連れ戻してきた。

呂刀姫:……。

呂 布:がっはっは! 今帰ったぞ!

呂刀姫:……父上。

呂 布:心配するな!みやげも買ってきたぞ! あ、ここで開けようか? 温かいものだし…

呂刀姫:父上っ!。

呂 布:…どうかしたか? ホラ、オマエの大好物の胡餅だぞ?

呂文姫:おいしーよー(^^)

呂刀姫:…頂きます。

 むっつりとした表情で、竹皮につつまれたホカホカの胡餅に手を伸ばす呂刀姫。
 もはや父のズレ方に諦めきった顔であった。…もっとも、一個は張虎のために別に取っておくあたり、呂布の娘であった。

 
 ――許都を襲撃し、天子を擁し奉る!
 正月騒ぎが一段落するや、その論が喧しくなっている。 
 後漢王朝は今上劉協の代で14代、およそ185年もの歴史を持つ。…が、呂布には王室を敬うだとか、伝統を重んじるだとか、そういった感覚が端から抜け落ちている。
 呂布が天子を擁すると言うことは、すなわち傀儡→簒奪への直線道路を突っ走ることなのだ。

呂 布:ふん。じゃあ一つ、許を攻めるか! 「天子強奪作戦」開始だ!

陳 宮:御意。では強奪軍の手配は…

呂刀姫:父上、私にお任せくださいませ!

呂 布:…おう、やってみろ。

呂刀姫:はっ!

呂 布:刀姫、曹操はオマエらが考えてるより数段上にいる。死にたくなければ奴の部隊には近づくな。

呂刀姫:…。

 悔しそうに父を見つめる呂刀姫。
 が、呂布の言うことは事実そのものであって、大軍略であっても一部隊単位での用兵であっても、刀姫が曹操に勝つなどあり得ない。
 

張 遼:じゃあ、殿は…

呂 布:俺は今回はパス。高順、張遼、オマエらでやれ。

高 順:は――。

呂 布:…で、徐晃、貴様はどうする。

 呂布は傍らを省みた。
 曹操軍でも屈指の勇将・徐晃は、虜囚の身を解かれ、いまや南蛮軍の中央部にいた。
 三国志VIIIのパワーアップキットの改良・あるいは改悪の一つとして、捕虜登用率の高さがある。製品版では考えられないくらいにあっさりと、敵味方が入れ替わる怖さがあるのだ。
 それだけ人情が希薄になったと言うことだろうか? とりあえず今回に関しては、ありがたいの一言に尽きる。

徐 晃:――御意のままにされよ。

呂 布:なら貴様に先鋒を任せる。

徐 晃:はっ!喜んで!

呂 布:ひょっとすると陳留から、曹操が出てくるかもしれんぞ。

徐 晃:無用の心配にござる。司空は官渡で袁紹と対峙中ですゆえ、まさか放っては来られますまい。

呂 布:ふん、劉備も袁紹も、そう言って痛い目に遭ったのだ。

徐 晃:…は。

呂 布:ま、その時はその時だ。夏侯惇が汝南にいるのがラッキーだな。

 4月に入る前、許都を出撃した夏侯惇軍は、孫策軍を蹴散らして同地を奪回している。呂布はこのときも援軍を派遣して孫策を援護したのだが、かえって勇将冷苞を失う結果となった。
 ともかく、これで布陣は定まった。
 必勝、とは言わないまでも、曹操相手に恥じ無き戦さができるであろう。 
 呂布は手を撃って立ち上がった。

呂 布:命令は唯ひとつ!サーチ・アンド・デストロイだ! 正々堂々と正面から前進して押し潰せ!

 応! と一同が一斉に拝跪する。
 中原の逐鹿はすでに天子の身柄争奪戦へと舞台を変え、いよいよ呂布の天下奪りも現実味を帯びてきていた。
 
 
 天子強奪軍団が出撃した、その夜――

呂 布:あー…そこそこ… 

小間使い:ここですかー(ぐにゅっ)。

呂 布:ゑはァ゛!

小間使い:どうしてこんなになる前に言ってくださらないのですかー。 

 
 呂布、小間使いにマッサージして貰ってる最中であった。広い呂布の背中にちょこんと乗っかり、小間使いは細腕に全体重をかけて、必死にお化けのような筋肉を揉みほぐしている。

小間使い:あー…凄い凝ってますよ。専門の先生に頼んだ方がいいですよー……よいしょお!

呂 布:そんなに大げさなもんじゃねえよ…うあだだだ!

小間使い:やっぱり、背骨の腰周りに集中してますよー。

呂 布:ぎくり。

小間使い:…?

呂 布:フ…俺様も何時までも若くはないと言うことか…。

小間使い:??

呂 布:それよりも、その体勢でマッサージするのはよせ。

小間使い:???

 ――許都近郊で行われた戦闘は、その激烈さゆえに、意外なほど早く終結した。
 戦場「許昌」は、中央部に山岳があり、塞があり、城の前を河(潁水?)が横切り…と、高低差のハッキリした地形だ。
 当然ながら、許都の防衛軍は山岳の塞に全戦力を集結させて呂布軍を迎え撃つ。
 が、初期からの南蛮軍団は、もともと山岳戦のエキスパートである。曹操軍としては、唯一の味方であるはずの地形効果さえ逆手に取られ、思うように進退できぬ。
 公孫楼や楊懐らの率いる山岳師団は、スルスルと森を超え、断崖を踏破し、曹操軍の中枢に躍り込んだ。
 次々と高レベルの落石が曹操軍の頭上に降り注ぐ中、降将・徐晃を先手にした鉄騎軍団が許都軍にくさびを打ち込み、猛烈な攻撃を加える。
 切っ先をぶつけ合うような激戦のさなか、張遼軍は猛将曹仁の反撃に遭い、潰走。張遼が曹仁に次いだというのは事実であったらしい。
 前後して、陳留から曹操軍が疾風のような早さで到着。
 街道を逆進して、許都軍を包囲している呂布軍を、さらに逆包囲しようと展開する。
 

呂刀姫:落ち着いて迎撃しろ! 

陳 宮:射よ――!  

 これあるを予測して待機していた予備兵力が、戦列を離れて陳留軍に対峙する。
 曹操、その様子を見て苦笑すると、鮮やかに軍を翻し、急進した楽進らと連携して、あっというまに呂刀姫と公孫楼の部隊を本軍から切り離してしまった。

曹 操:治ってないな陳宮。駄目だ。全然駄目だ。

 料理人の技倆のまずさを評するような口調で呟くと、曹操は赤子の手を捻る程の容易さで、女将二人への殲滅攻撃を開始した。
 包囲されている呂刀姫も必死だが、次々と「混乱」がヒットし、思うように兵団をまとめることができない。結局のところ、曹操がその囲みを解いて引き上げるまで、呂刀姫も公孫楼も、ついに鉄環を破ることも傷つけることもできなかった。
 ――会戦の決着は、いつもながら力攻めであった。
 反曹操同盟の諸侯が次々と参集する中、許都の防衛軍は押しに押され、塞を奪われ、さらに後退して河を背後に陣形を建て直したが、曹仁軍の敗走を切っ掛けに崩れ始め、形成は逆転した。
 曹操、さすがに憮然とした表情で、許都の放棄を命じる。
 その去り際、血漿にまみれた潁川の山渓へ、肩越しに別離の挨拶を吐き捨てた。

曹 操:さようなら、陛下。陛下の余生に御多幸あらんことを。

  曹操は、とうとう掌中の珠を、天下を取りこぼしてしまったのだ。

 ……許都の会戦については、どちらかといえば曹操にペースを取られっぱなしというところで、とても戦捷のうちには入るまい。
 が、勝ちは勝ちであり、曹操が本拠地に築き上げた許の都は、攻城兵器の威力を知ることもなく、その門を呂布に向かって開いた。
 形骸と化した後漢王朝を支える九卿や内官たちは、震え上がって宮内でウロウロするばかりで、抗戦しようとか、出迎えようとか、そういう積極的な行動を起こせるオトナがいないようである。
 …さすがに、呂刀姫たちも途方にくれた。
 大兵力を擁して侵攻してきた彼女たちに対して、こうまで無反応であると、正直朝廷というものの存在さえ疑いたくなる。

高 順:…どうされますか、姫様。参内されますか。

呂刀姫:――もうちょっと様子を見ましょう。 

陳 宮:確認しましたが、天子は宮から動いておらぬよし。中にいるのは間違いないようですが…

呂刀姫:とりあえず、遠巻きに囲んでおこうか。

 世にも奇妙な光景である。
 戦象軍団まで引き連れてき異相異形の南蛮軍が広壮な宮殿を遠巻きに取り囲み、凝としているだけなのだ。いっそ突入でもしてきてくれたほうが、朝廷にとっては落ち着く光景であったに違いない。
 市街は戒厳令も解かれているため、市などでは平常通りの営業が再開されている。
 要するに呂刀姫軍は、曹操軍団を追っ払って宮廷を包囲しただけで、占領政策らしい行動を起こしていない状態であった

 ――一方、報せをうけた南蛮公・呂布は、ぶつくさ言いながら本営を許へと進めた。
 赤兎にまたがり、南蛮の王者として盛装した姿は、さすがに衆目を引く。
 獣皮の戦袍に金造りの鎧を着重ね、珍しく綸子(触覚っぽい例のアレ)をユラユラ揺らせながら、南蛮兵の兵列を従える様は、まさに皇帝へ謁見する未開地の蛮王そのものであった。
 

陳 宮:おー、久しぶりに触覚付けてますな。

呂 布:触覚言うな。それより、キチンと俺様が皇帝謁見するってことは伝えてあるんだろうな。

陳 宮:まあ、一応…

 許都の帝都としての造りは、基本的に洛陽と変わらない。
 市街地内に、牆壁で囲まれた広壮な宮殿ブロックがあり、朝政はすべてその中で行われている。
 宮殿と言っても、広大な建造物がドンとあるわけでなく、宮殿群と言った方が正しい。
 ――その中の一つで、皇帝は宴席を設けて南蛮公の来訪を待ち受けているという。
 意外と気が利くじゃないかと、などと左右と談笑しながら、なんと呂布はのっしのっしと履をはいたまま、剣を帯びた姿で参内した。
 慌てたのは、内官たちである。キーキーと可聴域スレスレの金切り声で抗議をしていたが、傍らの孟獲が斧を振り上げて威嚇すると、わらわらと四囲へ逃げ散っていった。
 戈を構えて誰何する衛兵二人を両手でつまみ捨てると、呂布はど真ん中かから堂々と謁見の間に押し入った。 
 むろん陪臣の陳宮らは、御目見得の資格を持たず、ここで待つことになる。
 さて、土足で御前に参上した呂布、ズカズカと玉座の下まで歩み寄った。

呂 布:つつがないか、皇帝陛下!

 呂布が軍礼でもって起立したまま挨拶した相手こそが、後漢王朝の現皇帝、劉協そのひとである。
 その僭越、その越権――! 怒りで蒼白になる内官たちを傍目に、玉座の主は、ニヤリと頬笑んだ。
  

献 帝:懐かしいな、南蛮公。朕を前にして表面上でも恐縮しないのは、汝か董卓だけであった。

呂 布:フッフッフ、あれから20年くらいかな?

献 帝:そうじゃ。あのころ朕はまだ子供であった。

 意外にも、諸葛孔明と同年齢である青年皇帝は、南蛮王の無礼不遜を咎める色がない。

呂 布:――それにしても、何で「献帝」なの? 龍狼伝なみにアレな名前だぞ?

献 帝:便宜上の処理じゃ。赦せ。

 そんなことよりも…と、献帝は呂布を階のすぐ下まで招き寄せる。

献 帝:汝の悪名が高かった故、保護を求める書状が出せなんだ。だが、よくぞ曹操を追い払ってくれた。

呂 布:フフン…。俺様も曹操の類かもしれんぞ?

献 帝:はっはっは、心配はしておらぬ。公についてはよく知っておる。最近ヤンマガと間違えてアッパースを買ったということもな。

呂 布:…何故それを? 

献 帝:ふむ…実は朕も今週のマガジンを読んでおらぬ。それゆえ朝議に身が入らぬので困っておるのだ。

呂 布:俺様の読みさしならあるが…

 ごそごそと懐から最新号を取り出す呂布。侍官が恭しく皇帝へ取り次いだ。
 

献 帝:うむ! 礼を言うぞ、公! ――そう言えば公は何を読んでいる?

呂 布:最近はクロマティ一歩だけだな。GTOも終わったし…

献 帝:新しい系統は読まぬのか?

呂 布:何かどれも同じような絵柄で、取っ付きにくい。セリフもくさいし。

献 帝:感心できぬな。あれはあれで面白いものだ。一度我慢して、隅から隅まで目を通してみるがよい。

呂 布:フン…。

献 帝:それにしてもラブひなの終了は朕の痛恨事であった。というか、最終話を読みのがしてな。未だにどういう最後だったのか知らぬのだ…

呂 布:何年前の話だよ。つーかコミック買えよ…。

 と――ふいに献帝の視線が鋭くなった。

献 帝:朕を見損なうな、南蛮公!

呂 布:え? え?

献 帝:朕はコミックを買うほどのラブひなヲタではないぞ! ただ、その、何となく興味本位で、読んでいただけだ! そのところ間違えるな!

呂 布:そ、そうか。

 一瞬だが、気圧された呂布。なぜ人は、この種の否定になると妙な鬼気を帯びるのだろうか?
 呂布も献帝の気を察して、それ以上の追求はしない。誰にだって、他人が踏み込んではいけないゾーンがあるものなのだ。

献 帝:だが、それにしても南蛮公が思ったより話せる相手でよかった! 朕はいままで、こういう話ができる友がいなかったのだ!

呂 布:俺 同類かよ!

 露骨に迷惑そうな表情を浮かべる呂布。が、献帝は皇家のおおらかさというか、鷹揚さというか、そういう表情にまるで気づいた風もなく、目を輝かせ、かなり長時間にわたって語る気配だった。

呂 布:――さ、さて、今回は顔見せだ。詳細はまた後日に話し合うだろう。

 巧みにおりを見て、呂布は腰をあげた。
 献帝はもう少し話したそうな表情であったが、呂布はこれ以上痛い会話を続ける気はない。
 例の触覚をユラユラさせながら、南蛮公はのっしのっしと皇帝の御前を去った。

 宮殿を出ると、呂布は大きく息を吸い込み、吐き出した。
 陳宮が駈け寄ってくる。

陳 宮:首尾の方は如何でしたか――?

呂 布:なんかどっと疲れたぞ…

陳 宮:ところで、今後の皇帝の処遇ですが…。彼を傀儡と立てるなら――

呂 布:あー、その話ナシ。なんかどうでもよくなってきたぞ…

 手ヒラヒラと振って話を遮る呂布。むろん、だからといって呂布が漢王室に忠義を尽くすわけではないのだが、この話は素早く広がり、二、三日後にはえらい美談となって許都中に伝わることになる…。

 ともかく、天子の身柄を擁した南蛮公・呂布。
 洛陽と許都の連絡を密にしながら、いよいよ曹操軍との本格衝突に備えるべく、各将帥に準備を急がせる。
 あとひとつ。
 おそらくは、あと一つの勢力を滅ぼすことで、天下の形勢はほぼ固まるであろう。
 南蛮王呂布の痛快活劇、第5部終了――!

 
 
 ある夜――

呂 布:皇女の降嫁…?

陳 宮:…らしいですな。皇帝の内意だそうで。

呂 布:フン、ばかばかしい。

陳 宮:お受けにはならないので?

呂 布:当たり前だ。

 陳宮が、宮内から持って帰ってきた情報は、呂布に一笑されただけで終わった。

35.鼎の軽重

鼎の軽重

  

 建安13年。
 季節は初夏を迎え、統治者にとっては治水の出来不出来が問われる頃である。
 南陽に駐屯している呂布軍団は、後続を待ちつつ、着々と出撃準備をすすめていた。本営の宛から前進基地のある魯陽までの間、南蛮の旌旗が帳の如く地を覆い、刀槍のきらめきが旅人たちを驚かせているという様子だ。
 ――そんな折り、先に汝南攻略の援軍として孫策軍に合流していた、呂刀姫・張遼・張燕の三軍が無事に帰還してきた。
 それぞれ呂布に復命を済ませ、あらたな命を待つつもりであったが…

劉循:――じつは我らも捜しておるのですが… 

黄忠:この大事な時期に、何をやっておるのやら… 


 と、南蛮公・呂布、またしても消息不明という事態であった。
 あたまを軽くおさえた呂刀姫、心当たりがあるのか、困惑する諸将に一礼すると、羚羊のような歩調で政府を出た。そのまままっすぐ、呂布の巨館へ直行する。

 紙燭の微かな灯のほか、一点の明かりもない密室――
 互いの顔も判らぬほどの暗闇の中、数人の人影が円座になってボソボソと密談している。
 ……

呂 布:……結論が出んな。 

関 羽:それがしは主張を曲げる気はござらぬ。

呂 布:ふん、堅物め。貴様のような硬直した教条主義者が、低次元ソフトハウスを肥え太らせる原因になるのだ。

関 羽:……たとえ公といえど、聞き捨てなりませぬぞ…! 

袁 譚:まあ落ち着きなされ、関将軍。客座から一言申してよろしいか。

呂 布:何だ。 

袁 譚:我々は、いま無口っ娘の定義を討議した。だが、今やステレオタイプの無口っ娘はむしろ少数派。我々無口っ娘倶楽部としては、世間に迎合して門戸を広げるよりも、むしろそれら少数の保護を唱えることこそが急務では無かろうか、と。


   ……驚くべし。当初一部の愛好家だけで細々と裏オフをやっていた「無口っ娘倶楽部」は、いまや会員数5万余名を数える大組織となり、呂布は会員の筆頭として彼らを宰領する立場にあった。
 趣味嗜好は国境を、思想を超える。
 たとえば今発言している袁譚などは、袁紹の長子として青州の総帥たる身であるが、最近、嗜好の異なる父・袁紹や末弟・袁尚らと対立して孤立気味であった。
 そのせいか近ごろ足繁く呂布の元に通い、自らのアイデンティティを維持しようと努めているきらいがある(※実際のプレイでも、呂布は一度も袁譚の元を訪れたことがなかったのに、最終的には「親密」になるほど頻繁に遊びにきてました)。
 

関 羽:然り。青州の仰せの通り、我々が求めるべきは、純化された無口っ娘のみに絞るべきである。

呂 布:それは諸生の議論だ。それを言うなら、もはや無口っ娘は楼ちゃん一人に絞られてしまうではないか。無口なだけが無口っ娘ではないぞ。

関 羽:詭弁だ!無口でない無口っ娘など矛盾しているではないか。

呂 布:ええいくそ! まだわからんのか!

???:フォッフォッフォ…若い若い… 


 と――
 ふいに暗室の片隅に、灰色の影が揺らぎ、見る見るうちに人の形を為した。
 鬼道…! 片膝を立てて一斉に佩剣を掴む一同を、呂布は片腕で制した。

呂 布:じいさん、アンタはどう見るんだ。無口っ娘倶楽部は、本当の無口っ娘だけに絞って萌えるべきだと、奴らは言うのだが。

左 慈:さてさて…。汝らの議論はなるほど、双方が正しく、双方が間違っておるように聞こえるわい… 

 
 無口っ娘倶楽部の会長にして、天下の鬼術師である左慈元放は、一同を舐めまわすように睥睨すると、専用の小さな籐台に腰掛けた。


左 慈:さて…関将軍よ。汝が無口っ娘に惹かれる心境を説明できるか。

関 羽:……漠然とならば。  

左 慈:汝は言うに違いあるまい。――昨今氾濫しておるやたら萌え萌えしたキャラどもにない清楚さを、無口っ娘から感じられる、と。

関 羽:――仰せの通りです。師匠。

左 慈:フォっ。それはそれでよろしい。だが一号会員(※呂布)が言うておるのは、それとは少し違う次元の話なのじゃ。

関 羽:違う次元…?

左 慈:左様…そうじゃな、たとえばここに無口っ娘がおったとする。公孫楼の如く理想的な無口っ娘じゃ。…が、この無口っ娘が、決して心を開いてくれないし、何をやってもフラグも立たない、ただのネクラ娘だったとしたらどうじゃ? 汝はこのネクラ娘に萌えることができるだろうか?

関 羽:…ム…ム。

左 慈:考えるのではない…感じるのじゃ…  

 左慈老人は、頑迷な生徒を諭す老師のような表情で、一同にも黙考を促した。

関 羽:――残念ながら、それがしは萌えますまい。

 ややあって、関羽が長髯をしごきつつ呟いた。

 

呂 布:そらみろ! 

左 慈:これっ。――で、関将軍。何故に萌えぬか、解らぬ汝ではあるまい。無口っ娘萌えの醍醐味は、無口っ娘が内に秘めておる頑なさを破り、我々に心を開く瞬間――あるいはその階梯――にあるのだ。極論すれば、キャラでなくシチュに萌える、と言っても良い。

袁 譚:! キャラでなくシチュ……!

左 慈:ここまで言えば、あとは汝らで答えを出せよう…。南蛮公もいささか結論を急ぎすぎたようじゃが、無口なだけが無口っ娘では無いという言葉は、一面の真理なのじゃ。むろん、無口あるいは寡黙を条件に入れねば、素直でない意地っ娘属性もまた、無口っ娘に分類されてしまうがな。 

 
 左慈はふぉっふぉと笑うと、懐から掴みだした一巻の巻物を呂布に手渡した。
 

左 慈:まずは合格じゃ、南蛮公。汝のような出来の良い弟子を持って儂も幸せじゃ。

呂 布:こ、これは…!

左 慈:フォッフォッフォ…汝にくれてやろう。汝ならば見事に使いこなすであろう。


 左慈が手渡したのは、奇書「遁甲天書」であった。知力が10上がるうえに、極めれば特技「神眼」が得られるというスペシャルアイテムである。
 これまで幾人もの豪傑や仙人が、求めて得られなかった宝貝だ。

左 慈:フォッフォッ…ようやく受け継ぐに相応しい主が見つかったというわけじゃ!

呂 布:ム…師匠、今回ばかりは礼を言うぞ! …ところで、一巻だけなのか?

左 慈:フォッフォッフォ!第二巻以降は、セット価格3000金で承っておる。

呂 布金とるのかよオイ!  


 ――などと怒鳴りあってるところへ。


呂刀姫:父上っ! また性懲りもなく!

 猛烈な勢いで呂布の娘が押し入ってきた。ポニーテールをぶんぶんと振り回すようにして、片っ端から、四囲の帳を引っ剥がしてゆく。あっというまに、眩しい初夏の光が室内に満ち溢れた。

呂刀姫:何度も言いますけどっ、私の部屋を怪しげな集会に使わないでくださいっ! 

呂 布:はっはっは。何だ、ずいぶんと早かったなあ!

呂刀姫:まっっったくっ!どうして男って生き物はこうも両極端に分かれるのかしら!――関将軍まで! 

 呂刀姫の痛烈な視線を受けても、関羽は黙然と髭をしごいている。呂刀姫の潔癖な視線は、次は関羽の隣に隠れようとしている長身の青年を貫いた。

呂刀姫:あら、袁譚様、今日は定例集会ですか?

袁 譚:い、イヤ。その、ちょっと寄っただけで。 

呂刀姫:孫策様が汝南を足がかりに、豫州・青州へ侵攻されようとしているのに、ずいぶんと余裕ですねっ…!

袁 譚:あの、すぐに戻ります。

 そさくさと腰を上げる、袁紹軍第二軍団長。
 両手を腰に当て、ぷんぷん怒っている15,6の少女ひとりに、大のオトコ数人がすくみ上がっているカタチであった。他の参列者も、自分のところへイヤミが飛んでこないうちにと、我がちに逃げ出していた。気づけば、いつのまにか左慈もいなくなっている。
 さすがの呂布も冷や汗をぬぐっている。
 

呂刀姫:まったく! どーして私の周りはこんなのばっかり…!

呂 布:…あ、すまんすまん、タオルと思ってたら、お前の窮袴だった。こんなトコにぱんつ置きっぱなしにするなよな。

呂刀姫:………っ!


 「バカ――っ!」
 という叫び声と同時に壁が吹き飛び、破片に混ざって呂布の巨体が風を切って吹っ飛んできた。何人かの通行人が、不幸にもその下敷きになって重軽傷を負った。

 ………
 ……一刻後、呂布の執務室。

呂 布:…ふう。アレも難しい年頃だからな。

陳 宮:おそらく年頃の問題ではないような。

小間使い:まっすぐで、立派なお姫様じゃないですかー。…あ、塗り薬、終わりました。

呂 布:おう、サンクス。…しかしあいつが男うんぬんを言い出すとはなあ。汝南で何かあったか。

張 遼:…いえ、別に。

陳 宮:そんなことよりも!――洛陽へはいつ出陣されるのですか?

呂 布:まあ、そう急くな。俺様の神眼が、いましばらく待てと言っておる。

 呂布が手に入れた「神眼」は、非常に便利であった。あらゆる勢力のすべての都市情報が、居ながらにして手にはいるのだ(※結局金を払った)。むろん、この能力で色んな娘たちの入浴シーンとかを覗いていることは言うまでもない。

 ――呂布の言う「機」が動き出した。
 先に指令を受けた長安駐留の馬軍団が、潼関を抜けて弘農へなだれ込んだのだ。
 馬超を主将、韓遂を副将とした15万の騎馬軍団は、関中の地を我が物顔で蹂躙し尽くした。この戦闘で曹操軍は11万の将兵を失い、全戦力で見て20パーセント近くの低下を余儀なくされた。
 そして何より痛かったのは、族弟・曹洪の死であろう
 曹操挙兵より数えて20年。常に曹操の元で血戦し、曹操の危機には身代わりとなり、兵力不足のおりは四方奔走して兵馬を掻き集めたという。
 多少軽佻な所もあったが、広大な領土の総督としても、一軍の将帥としても、過不足ない力量を有していた。享年、40歳。
 ――曹操は先の夏侯淵についで、またしても股肱を失なったのである。

 呂布が動いたのは、その報がもたらされる10日も前であった。むろん、「神眼」によって、彼はすべてを見通しているのだ。
 呂布を主将とする今回の遠征軍団は、端から意気込みが違う。実のところ、馬超軍単独でも洛陽攻略は十分に可能なのだが、いかなる状況、シリーズの第何作目であろうと、「洛陽攻略戦」というモノは、ゲームの分岐点となりうる重要な戦さなのだ。
  歩騎象あわせて17万、従う将帥もまた、長安攻めに動員された時以来のフルメンバーである。
 
 南から攻め上がる戦場「洛陽」は、 マップ中央を横切る河(洛水?)くらいが遮蔽物となる程度の、平坦な地形である。渡河地点をわずかに越えた中州あたりに砦があり、ここの奪取こそが全戦線の帰趨を占うポイントになりそうだった。
 

呂 布:つづけ――っ!

陳 宮:あ…また!


 呂布が赤兎を駆って一騎駆けするや、17万の大軍団が、その魁偉な背中を追って移動を開始する。呂布軍の兵士たちは皆、呂布の顔は知らずとも背中は知っている、と評される所以であり、その風は二代目呂鳳にも受け継がれた。
 幸い直線上に罠は仕掛けられておらず、かっ飛ばす騎馬軍団は、たちまちマップ中央部の州上砦付近で、密集した曹操軍と接触する。
 

陳 宮:力攻めだ!押し負けるなよ!


 陳宮にしては珍しく、単純な指示であった。が、もはやここまで密集した大軍団同士の衝突になれば、区々たる用兵など必要ないかもしれない。
 制圧前進こそ、大軍の本領である。
  

徐 晃:押し包め! 呂布を絶対に通すな!

楽 進:李典の仇!

呂 布:フッフッフ、馬鹿者どもめが!


 曹操軍の名だたる驍将たちに包囲されようと、呂布の隊はそよ風ほどにも動じない。
 密集戦こそ、呂布軍団の極レベル「乱撃」の見せ場であった。
 まして周囲はなだらかな丘陵にかこまれた平地であり、呂布の乱撃はことごとくが成功する。呂布の1ターン損害、600前後に対し、周囲の受ける損害は2000×3。文字通り桁が違うのだ。
 勢いの違いもあるだろう。高順、張遼軍もくさびのように曹操軍の陣列に割り込み、極レベルの突撃と乱撃を繰り返し始めた。
 乱戦の中、徐晃はなぜか執拗に陳宮へ一騎討ちを挑んできたが、そこへ通りかかった張飛が、逆に一騎討ちへ持ち込む。
 これが張飛でなく関羽であれば、さぞかし感慨深い対決であったろうが、ともかく武力100になんなんとするS級の豪勇同士の一騎討ち、呂布も突撃を一時中断し、鉦鼓でもって華やかな演出を添える。

呂 布:張飛ーっ!負けるなーっ!

劉 備:益徳、根性決めろ――っ!

張 飛:まあ見てろって!

 騒がしい観客に向かって手を振ってみせる張飛。妙に悲壮感の漂う曹操陣営セコンドとはエライ違いである。やがて双方、馬腹を蹴って肉薄すると、目にも止まらぬ勢いで斬撃を繰り出しあった。
 大斧と蛇矛が、信じられない程の勢いでブンブン旋回しあい、人間とは思えない反射神経で、双方それを捌いてゆく。
 張飛と徐晃の一騎討ちは、かつて呂布と馬超がくりひろげたものに等しい、激烈なものであった。
 と――

徐 晃:食らえ、徐家奥義ッ! 

張 飛:ぬお…!?。


 徐晃の大斧が、ふいに変幻の妙を見せて張飛の身体をとらえた。張飛、血飛沫をあげながら、思わず後ずさる。
 ――オオ、と戦場が響動めいた。
 

関 羽:ムウあの技は!

呂 布:知っておるのか関羽……!?

関 羽:あれこそ戦斧を使う者の究極奥義「剛刃斧旋斬」!!

呂 布:「剛刃斧旋斬」だと!?

関 羽:まさかあの技を公明が体得していたとは…!


 剛刃斧旋斬(ごうじんふせんざん)。
 遙か殷の時代、周の文公が青銅の鼎を砕く際に体得したとされる剣聖技。
 春秋の頃、晋の勇者・士潘がこの技を用い、悪辣な奸臣・華伯を、その妻ごと斬り殺した話はあまりにも有名である。(※民明書房「正直VIの一騎討ちってどうよ」より抜粋)

関 羽:しかしあの技は、使う者の靱帯に過剰な負担を強い申す。二撃目が無い以上、一撃で討ち取れなかった公明に勝ちはござらぬ!


 関羽の言うとおりで、気力をも使い果たした徐晃に対し、張飛は一挙に反撃に転じる。

張 飛オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!


 張飛必殺のオラオララッシュが始まると、もはや徐晃は防御がやっと。それでも支えきれず、一撃、二撃と喰らい始めると、さらに腕が下がって新たな刺突を次々と喰らう。
 ――結局、張飛のラッシュによって、徐晃は馬上から吹き飛ばされて、地面に叩き付けられた。
 張飛、際どいところであったが、まずは雄敵・徐晃を下して一安心と言ったところである。
 呂布軍の将兵たちは、歓声を上げて勇者を出迎えた。

呂 布:そういえばVIの必殺技って「刺武叉把攻(しぶさわこう)」とかもあったなあ。

公孫楼:……甘家奥義「大海の黒い鮫」とか…

呂 布:あー。あったあった。

陳 宮:殿のって何でしたっけ?

呂 布:「真・鬼哭」。こないだ白虎退治行ったとき使っただろうが。

 すでに雑談に移っている呂布軍中枢だが、とにかく張飛の勇戦を称え、後方へ下がらせる。
 
 …別にこの一騎討ちで勝敗が決まったわけではないが、これに象徴されるかの如く、呂布軍の優勢は最後まで続いた。
 敵味方の援軍が戦場へ到着し、相次いで連合軍が駆けつけ、セオリーの底なし消耗戦へもつれ込もうかと言うとき、急進した高順軍が敵太守・鍾ヨウの軍を潰走させ、勝敗は決した。
 建安13年 10月
 旧帝都・洛陽は、南蛮軍の制圧するところとなった。

………
……

呂 布:洛陽か。何もかも懐かしいな

陳 宮:…。董卓に焼かれてから、また曹操が建て直したのでは。

呂 布:そーゆー意味じゃねえよ。 


 呂布にとっては、17年ぶりの王城の地であった。
 ――東の空がうっすらと明るくなってくる時間だった。
 冬の朝もやの中、ふたりは閑散とした大街を歩いている。
 曹操の復元もなかなか心にくい気の使いようで、新旧を調和させた見事なつくりとなっている。城市内部を散策すると、洛陽の過去を偲ばせるものは、随所に散見できる。 


呂 布:なんかこー、ココを陥とすと、俺様もいよいよ天下人か、って気になるよな。

陳 宮:それは確かに。許の都よりも「重い」ですからな。

 洛陽の帝都としての歴史は、許などと比較するのがばかばかしくなるほどに旧い。幾度か遷都があったとはいえ、起源を辿るとほとんど神話の時代からの都と言ってよかった。
 

呂 布:決めた。俺様の都は洛陽に置くぞ。

陳 宮:御意――。


 周囲には誰もおらぬ。
 呂布の言葉は、すでに大逆の言葉でもあるわけだが、陳宮は清流派の腐れ儒者ではない。
 主君の何気ない一言に、むしろ神妙な表情をして拱手する。
 

呂 布:はっはっは! そーいえば、何とか言う覇者が、周王朝に鼎の軽重を問うたというが、俺様も真似してはならぬ法はあるまい。

 意外ながら、呂布は多少なりと君主として学習しているらしいのだ。
 陳宮はコホンと咳払いすると、厳かに応えた。

陳 宮:殿はたまに無茶をなさいます。軽重を知ろうと欲するあまり、鼎を抱え上げてはなりませんぞ。

呂 布:ふん…。


 かつて本当にそれをやって、腰の骨を折って死んだという王者がいたことを、呂布は知っていたようだ。

呂 布:抱えるのは俺様じゃはない。刀姫と、オマエたちの仕事だな。


 そう嘯いて立ち止まり、眩しそうに朝日を眺めやる呂布。

陳 宮:……!

 陳宮、不意に衝動に駆られた。
 いきなり拝跪すると、呂布の姿をうやうやしく三度拝した。
 呂布は、視界の端でその光景を見たに違いないが、特に感想を漏らすこともなく、無言で旭日を眺め続けていた。
 

 ――建安13年冬。呂布は、後漢王朝の鼎の軽重を問うべき位置にある。

  洛陽を陥とし、いよいよ中原に鹿を捉える南蛮王呂布。次回、第五部最終話です。

34.小覇王

小覇王

  

 建安13年、春。
 新野城を進発した南蛮軍十四万余は、同じ南陽郡の首府・宛城を望む平原に展開した。
 おりからの小雨で視界がかすむ中、すでに要衝要衝を押さえている曹操軍の旌旗が遠望できる。 
 戦場「宛」は、マップ中央の森林地帯に塞があり、城の前を河が横切っているという、わりとオーソドックスな地形であった。

呂 布:ジジイ! 

黄 忠:なんじゃい! 

呂 布:あの塞が目障りだ!何とかしろ! 

黄 忠:いきなり年寄りに頼るな。  

 

 陣頭でだしぬけに言い合いを始める二人を後目に、公孫楼の白馬義従がスルスルと前進する。
 公孫楼の無言の指示で、劉備軍と関羽軍が右翼方面へゆるりと繞回をはじめ、張遼軍と高順軍が中堅を前進させる。 


呂 布:――で、こないだ地下鉄でさあ、お爺ちゃんの痴漢がいたんだよ。お爺ちゃんの痴漢が。 

黄 忠:儂ゃ知らんぞ。

呂 布:誰もオマエとは言っとらん!…で、その痴漢、俺様と同じ駅で降りたんだが、ホームに下りたとたん、女の人が「その男痴漢です!」って叫んでな。駅員が寄ってきたんで、お爺ちゃん、慌てて逃げ出したのだ。

黄 忠:ふんふん。 

呂 布:で、駅員さんとか、まわりの人とか、いっせいに追っかけはじめてな。お爺ちゃん、もの凄い勢いで階段駆け上るんだけど、そりゃ早い早い。あっという間に距離を離されてな。 

黄 忠:ほう。 

呂 布:で、俺様も追っかけなきゃならんと思って、一緒に追っかけたんだけど、エスカレーターの真ん中くらいで、蹴つまづいてコケちゃってさあ、後続の人がみんな一緒にコケちゃったんだよ。 

黄 忠:ぶっ! 格好悪いのう。

呂 布:結局お爺ちゃん、駅員二人の間をかいくぐって、改札機の隣の団体用出入り口をよじ登って逃げおおせたんだな、これが。 

黄 忠:…ひょっとして、それって公のせいではないのか? 

呂 布:がっはっはっは!

 

 黒煙が吹き上がり、山塞のひとつが炎に包まれた。
 どうやら、前線に到着した参軍・陳宮が総指揮を執り始めたらしく、南蛮軍の働きはますます精緻なものになる。
 森林に包まれた塞は、守りやすそうで、実はそれほどではない。山岳と違って「落石」の集団計略が使えない上に、類焼速度が早い。守備側の利点といえば、「奇襲」の成功率が格段に高くなるくらいであろう。
 劉岱や朱霊らはよく戦っているが、折からの猛火と南蛮軍の息もつかせぬ集中攻撃にさらされ、一隊、また一隊と、すり潰されるようにして兵を失ってゆく。
 ――このターン、洛陽方面から曹操軍の援軍が到着する。曹洪を主将とし、徐晃軍、于禁軍を含む大部隊であった。同時に、汝南方面からも満寵軍がかけつけ、曹操軍の数は一挙に倍にふくれあがった。
 が、ほぼ時を同じくして、遙か西方面より、おびただしい砂塵が巻き上がるのを、かなりの数の兵が目撃している。長安から緊急出動した騎馬軍団が、強行に強行を重ねて、戦場へ到着したのだ。主将の馬休のほか、馬雲緑、趙雲らの猛将ばかりであった。
 さらに、反曹を旗印とする諸侯の「連衡軍」が、次々と戦場へ到着をはじめた。
 

呂 布:おいジジイ! なんか他の連中の姿が見えんぞ! 

黄 忠:はて? そういえば向こうが騒がしいですの。 

 
 長安の時もそうであったが、曹操軍は混戦にこそ力を発揮する。1ユニットの攻撃力というよりも、そのバランスの良い「硬さ」が厄介であった。大部隊同士での消耗戦に引きずり込まれたときの疲労度は、たとえば南蛮軍や馬超軍などとは比較にならぬ。


陳 宮:いいか、確実に一部隊ずつだ! 正規軍のみを集中的に狙え!

 指揮官としては、そう命じる以外ない。
 このとき中央の塞へ迎撃に出ていたのは、正規軍の半数ほどであり、敵主力部隊はいまだ河の向こうにいる。
 これに、敵の10万におよぶ援軍が合流してしまえば、たとえ中華最強の南蛮軍といえども、その鉄壁を乗り越えて敵城を陥とす、あるいは敵正規軍を全滅させる、という絶望的な作業の中で嫌気がさして、むなしく全軍撤収ということになっていたであろう。
 が、このあたり、陳宮はせこい。わざと塞を陥とさずに、敵迎撃軍とジリジリ戦闘を続けている。
 ――ややあって、敵援軍がウジャウジャと河沿いに進軍し、陳宮らの索敵範囲にはいってくる。 

 

陳 宮:殿に伝令。――漫才をただちに中止し、老人とともに渡河されたし。

 マップ中央部の塞が健在なあいだ、一定のCOMユニットは敵も味方も、火に集まる虫の如く塞へ群がってくる。陳宮はそれを待っていたのだ。敵援軍の一部が城を離れて、こちらへ向かってくるのを。

 

呂 布:漫才だと!失敬なヤツだな! 

黄 忠:まったく! バカにするのも程がある!

 ぷんぷん怒りながら、一直線に敵城を目指す呂布と黄忠の鉄騎軍団。
 すぐに補給線の外へ出てしまうが、次のターン、それにあわせて中央部隊がすべての塞を制圧。呂布軍の行動範囲がマップ全体に及んだ。
 最初からそんなこと気にもかけない呂布と黄忠。猛然と河を渡り、城門前までやすやすと到達していた。
 

黄 忠:なんじゃ? 不用心な城じゃな…。

呂 布:やっぱアレだよ、危機管理というものをもっとだな…どわあ!

黄 忠:将軍…!? 


 油断であった。
 呂布、側頭部に矢を受けて落馬。
 あわてて駈け寄る黄忠、薙刀を振り回して、雨のように降り注ぐ飛箭を切り払い、呂布を救い上げた。呂布軍、2000ちかい犠牲を出しながらもなんとか体勢を立て直し、逆撃の構えをとる。
 至近距離で伏兵していた李典軍の一斉射であった。
 が、最初に李典の放った渾身の一矢は、呂布のコメカミからわずかに逸れた冠の留め金を射抜き、頭皮を貫通し、その頑丈な頭蓋骨で跳ね返っていた。着弾角度がもう少し急だったら、やすやすと脳に達していたであろう。

呂 布:い、痛って――――ッ!

李 典:外したか……  


 李典、観念の表情で弩をしまうと、麾下1万5千に攻撃を命じる。が、彼らは近接戦闘を苦手とする弩兵であり、対する呂布、黄忠軍3万4千とは、勝負にもならない。
 ――が、李典軍の粘りは想像を越える。


呂 布:くそったれが! 李典っ! どこだっ!

 ブチ切れた呂布が血眼になって血戦するものの、李典軍は善戦し、なかなか崩れない。そのターンのうちに、やはり伏せていた正規軍の他部隊や敵増援軍が攻撃を始め、黄忠軍と呂布軍は分断されてしまう。
 さらに、中央塞の失陥をうけて、慌てて城門へ駆けつけてきた敵援軍と、それを追って進軍してきた陳宮らが河向こうで戦闘状態に突入し、その混戦に連合軍が躍り込んでしまい、ほとんど泥沼状態となってしまった。
 結局、事態を打開したのは、いちど塞を目指して渡渉し、また逆に渡渉し直して駆けつけてくれた長安軍であった。


馬雲緑:将軍、ずいぶんと苦戦してるみたいね! 

呂 布:ふん!  遊んでるだけだ!

馬雲緑:あっそ。 

 馬超の妹は、生意気そうな微笑みを一瞬だけ呂布に向けると、すぐに李典軍へ突撃を敢行した。
 李典や徐晃といった諸軍は、あわててそちらへも兵を割いたが、それよりも早く、馬軍団が歩兵陣を蹂躙する。…

 ――長安軍の到着が決定打となり、宛の守備軍は総崩れとなる。
 最後まで踏みとどまって諸軍の撤退を援護していた李典軍は、信じられないほど激しい抵抗の後、全滅する。
 「正規軍の全滅」により、洛陽方面の援軍は南陽は呂布の手におちた。
 敵軍のあらかたは逃げおおせたが、最後まで抵抗した李典は捉えられ、他の捕虜とともに檻送された。
 呂布、すでに今日の狙撃が李典のものであるという報を受けている。

李 典:…。

呂 布:ふん、李典か。今日はヒヤッとしたぞ。 

李 典:族父の仇が討てなかったのが残念だ。

呂 布:何だ、それ?

 以前、呂布麾下の薛蘭と李封が、呂布の命を受けて大豪族・李家の一党を謀殺したことがある。が、呂布がそんな細かいことをいちいち覚えているはずがない。
 呂布が軽く合図をすると、屈強の兵士らが執刀を携えて、李典の後ろへ立った。
 脅しではない。実際これからの連戦を考えると、もうなりふり構わず敵将を斬ってゆかねばならぬのだ。
 

呂 布:オマエがうんと言ってくれんと、オマエを殺さねばならなくなる。…どうだ、俺様の部下にならんか?

李 典:ふん。

 鼻で嗤う李典。
 覚悟はとうにできているのだろう。実は戦が始まる直前に娘(登録武将。現時点で11才)を城から落とし、楽進のもとへ送っているのだ。
 呂布、もったいなさそうに良将の顔を眺めていたが、やがて手を上げ、振り下ろした。
 執刀が、李典の首があった空間を走り抜けた。
 惜しむべし、李典曼成は、まだ30も半ばの若さであった。

 ――南陽を押さえ、洛陽を指呼の距離においた南蛮軍。
 が、その活動は、なお滅亡とスレスレの崖っぷちを歩むものである。一度でも踏み外せば、いくらでも勢力差は逆転するであろう。
 手薄になった新野城へ、汝南から曹操軍が攻め込んできたのが同ターン内である。
 このときは守将の諸葛亮と援軍の黄権らの活躍で退けはしたが、ほとんど紙一重といってよい、際どい戦であった。
 宛で報を受けた呂布は、諸葛亮を賞揚すると同時に、速急の汝南攻略を命じる。
 …が、それよりも一足早く、汝南を攻略せんと兵を挙げる者がいた。
 江東の「小覇王」、孫策である。
 

呂 布:あーもう! 遅かったか~!

呂刀姫:どうされますか、父上。連合軍として、三部隊を援軍に出さないとダメなんですが。

呂 布:面倒くさいなあ…。


 呂布、頭をかいて諸将を眺めやる。
 みな、来るべき洛陽攻略戦に備えて準備をしている者ばかりであり、呂布と視線を合わそうとしない。おもむろに呂布が「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」と始めたので、皆ぎゅっと目を閉じて首をすくめている。
 結局、てんのかみさまが指名した気の毒な男は、張遼であった。

 

張 遼:ちっ…ツイてないな。

 

 苦笑しながら、佩剣をつかんで一礼し、座を去る張遼。
 他の人選は? という視線をうけて、呂布はあっさり言った。

呂 布:可愛い子には旅をさせろ。

呂刀姫:…?

呂 布:刀姫、可愛い。

呂刀姫:?

呂 布:――旅、OK!


 二人目、呂刀姫。
 結局、三人目は襄陽を守っている張燕に声がかかり、三部隊4万余は、準備でき次第の出陣となった。
 呂刀姫にとっては、はじめての連合軍参加である。
 呂布にしてみれば、別に勝つ必要もないこの戦争に、全力を投入する気はない。南蛮の旌旗を汚さない程度に戦って、さっさと引き上げてこればよいのだ。
 真面目一途な呂刀姫は、この点そういう任務に向いていないが、十分に世間ずれした張燕あたりが、その辺の呼吸を心得ているだろう。

呂刀姫:では、張将軍、頑張りましょう!

張 遼:…ま、頑張りましょう。


 馬をそろえて出撃した二人は、すぐに張燕と合流して、主戦場である汝南へと急ぐ。
 三隊が到着したのは、開戦後7ターン後くらいであろうか。
 孫策軍主力と曹操軍主力が、マップ中央の塞をめぐって激烈な白兵戦を繰り広げている最中であった。すでに許昌方面からの援軍が到着し、曹操軍はその陣容をどんどん厚くしつつある。
 

張 遼:一番乗りか。

張 燕:…他の援軍到着を待つかな。


 と、オトナ2人が打ち合わせを始めるその傍らを、呂刀姫軍が駆け抜けた。まっしぐらに敵部隊へ突撃しようと言うのだ。

張 遼:COMかよ、あのお姫様は!。


 舌打ちして、慌てて追いかける両将軍。
 もう呂刀姫は、自ら戟を舞わして敵陣の一郭を切り崩し、敵将王忠を追い回している。

張 燕:あらあら気の毒に…。


 結局のところ、この三軍団の早期参戦が功を奏したのか、他の諸連合軍が到着する頃には、敵主力部隊はあらかた全滅し、中央部の塞は孫策軍の制圧するところとなった。
 総帥孫策を筆頭に、黄蓋、韓当などといった猛将の攻撃を支えきれず、敵軍団は次々と潰走をはじめた。
 最終的には、おきまりの消耗戦となったが、孫策軍、鮮やかすぎるほどの快勝であった。

 ……
 追撃戦を終え、諸将が次々と帰投してくる本陣。
 呂刀姫は、軍団の収集を二張将軍にゆだね、ひとり孫策の元へ挨拶に訪れた。
 この日の呂刀姫の戦績は、1部隊の殲滅と2部隊のアシスト。おそらく孫策軍の誰よりも活躍したであろう。
 その昂奮もあって、呂刀姫は揚々と陣幕をくぐる。
 ――薄暗い本幕の中は、ちょうど諸将が参集したばかりと見え、あわただしく席が整えられているところであった。 両列にずらりと諸将が座り、一番奥中央の床几は、まだ空席であった。
 が、そのすぐ傍らに、ひとりの青年士官が思案顔で立ちつくしている。
 白戦袍の上に銀鎧をまとう青年は、白銀造りの剣把を無意識に弄しながら、何かを待っている風情であった。
 呂刀姫、青年の顔を見て、その美しさに思わず息をのむ。
 と、青年は、天幕から入ってきた少女の姿に気づいたらしい。ちょっと驚いた表情を浮かべると、にこっと頬笑んで歩み寄ってきた。

周 瑜:姫君、気づきもせず、申し訳ありませんでした。今回の参軍をつとめた周瑜と申します。

呂刀姫:…は、はじめまして。り、呂鳳と申します…。

周 瑜:お疲れでしょう。すぐに姫の席を用意させます。 

呂刀姫:え、いえ…っ。た、ただ討逆(孫策)さまにご挨拶をと――

周 瑜:それが、将軍は敗走する敵を討つのが何よりもの趣味でして、まだ戻って参らぬのです。どうぞそれまで、この陣でくつろいでください。


 周瑜が再三、席を促すものだから、呂刀姫もどぎまぎしながら、陣の中へ招き入れられた。
 東呉の諸将軍も、噂に聞く呂布の娘とはどのような鬼姫であろうかと思っていたらしいから、呂刀姫の、どちらかといえば可憐な外貌に驚いた様子である。
 ――と。

? ?:…ふん、オオカミの娘が、手柄面で、報償を戴きに来おったわ。

 50人ほどの部将の中から、だしぬけに、その声が呂刀姫の前へ放り出されたのだ。

呂刀姫:え…?


 思わず立ち止まった呂刀姫は、茫然として、居並ぶ諸将を見た。
 謹直そうな顔が並ぶ一隅に、確かに面白くなさそうな顔をしている集団があった。もともと呂布の台頭を快く思っていない連中であろう。
 

? ?:…父も父だが、娘はもっと油断ならんらしいな。

 ひとりがそう言うと、その周りから追従するような笑いがおこる。

呂刀姫:……っ。

 

 呂刀姫、さすがに信じられないのか、立ち尽くして声も出ぬ。いくら剛毅に育てられようと、やはりお姫様であった。ここまで直裁で露骨な悪意にさらされたことが、これまでに無かったのだ。
 それでも健気なもので、ぎゅっと手を握って、何事もなかったように、呂刀姫はその男たちの側を通り過ぎようとする。

? ?:…けっ!


 唾を吐く音を、泣きそうな顔で無視しようとする呂刀姫の傍らを、白い長套が通り過ぎた。
 周瑜はそのまま呂刀姫とすれ違い、くだんの男たちの前へ立つ。
 彼らは反周瑜派でもあるのか、この美貌の都督に対しても、うさんくさそうな表情を浮かべて畏まっていた。

周 瑜:…。


 一言も言わず、一言も言わせず、周瑜は首領らしい男の頬を、手の甲でしたたかに撃った。
 頬を張る、などというやさしいものではなかった。
 男は広い陣幕の端から端へ吹っ飛び、騒々しい音を立てて地面に叩き付けられ、まるで吸い出されるかのように、陣幕の出口まで滑走していった。
 さすがに、他の男どもも居並ぶ諸将も、蒼白になって天幕の出口を眺めるだけであった。
 ――と、その男と入れ違うようなかたちで、緋の戦袍に金鎧という、目にもあざやかな装いの青年が、大股に入ってきた。
 列将、慌てて立ち上がり、拝礼した。
 彼こそが、いにしえの項羽と擬して「小覇王」と称され、江東に紅い旋風を巻き起こした孫策伯符そのひとである。
 孫策、きょろきょろと中を見渡し、だいたいの事情を悟ったらしい。

孫 策:…なんだよ公瑾。いつもおれに部下を打擲なさいますなと叱言を言いながら、肝心のお前がそれではダメだろう?

周 瑜:申し訳ありません。 

孫 策:ふん。

 
 すました顔で頭を下げる周瑜に、孫策も苦笑をむけただけで咎めようともしない。
 孫策は呂刀姫の方に向き直ると、日焼けした精悍な顔に白い歯をうかべて、ただひとこと、

孫 策:孫策です。

 

 と名乗って破顔した。
………………
……………

 ――連合軍の呂布本陣。
 将帥の宿舎に割り当てられた館の院子から、美しい月が見えている。
 明日には本国へ引き揚げると言うことで、帰り支度も済ませた呂刀姫は、欄干のうえに腰掛け、、蒼白い光の中、ぼんやりと物思いに耽っているようである。

張 遼:姫様、明日は早いですぞ? そろそろお休みになられては。

呂刀姫:張遼将軍

張 遼:はい?

呂刀姫:周瑜将軍や孫策将軍は、奥方がいらっしゃるのでしょうか?

張 遼:…はあ。

 張遼、慎重な表情で呂刀姫を見やり、答えを選ぶ。

張 遼:確か、大喬、小喬という江南一の美人姉妹を、それぞれ妻に迎えたとか聞きますね。

呂刀姫:……張遼将軍。

張 遼:はい?

呂刀姫:そのお二人は、私なんかよりずっと美しいのでしょうか?

張 燕:ぶっ

 後ろの方でちびりちびり飲んでいた張燕が、鼻から酒を吹き出して咳き込んでいる。


張 遼:あー…その、見たことないんで。

呂刀姫:…うん…。

 呂刀姫、もう聞こえていないのか、糸のように細い新月をぼんやり眺めている。
 張遼と張燕は、そっと拝拱して姫の元を辞した。


張 遼:おい、張燕。何かとんでもないことになってないか?

張 燕:わはは、張虎には手強いライバル出現だな。

張 遼:勘弁してくれ…。

 苦笑して頭をふる張遼。ふと表情を改めて、僚友を見る。

張 遼:ところで、あの孫策と周瑜の若大将だが、どう見た?

張 燕:噂どころじゃないな。あんな傑物ふたりが、よくもまあ、同い年で隣に住んでたものだぜ。

張 遼:ああ、俺もそう思う。

 …いささか厳しい表情で、二人は夜の回廊を歩き去った。  
 
 建安13年、春。呂布は宛に本営を移し、洛陽を臨む位置にある。
 すでに長安へ、出撃命令が下っている。
 ――潼関を抜け、弘農を攻略すべし!
 長安の馬超軍団は、数日前の事前決議を受けて、すでに出撃準備を整えているであろう。
 予備兵力を含めると20万にも及ぶという西方軍団が、いよいよ本格的に中原へなだれ込むのだ。
 「洛陽にて会合せん」
 その約束を果たすために。
 

  呂布の中原進出がはじまった! 洛陽と許昌を目前にし、東西歩みをそろえて曹操を討つ! いよいよ本格化する対曹操戦争前編、次回、クライマックスです!

33.中原への道

中原への道

  

 ――建安12年(206年)。襄陽の陥落により、劉表の遺児・劉?の領地は、新野城とその周辺の数邑のみとなってしまっていた。もはや小領主といってよい。
 韓公の封爵をうけ、荊楚全域を領していた大国が、こうなると哀れなものである。
 

呂 布:おい耳にょん! 

 呂布がそう呼ばわるたびに、劉備はサササとすばやく呂布の傍らに拝跪する。

呂 布:俺様は、このターンで劉?を討とうと思う。邪魔だし。 

劉 備:おお! それは結構にございまする。

呂 布はっはっは! 結構か!


 呂布は上機嫌にわらうと、即座に新野攻略の一軍を組織させた。
 新野に逼塞する劉?軍は意外に多く、歩騎あわせて4万を数える。
 が、それでさえ襄陽に駐屯する呂布軍の数に比べれば、4分の1程度の小勢であった。さらに、安全圏となる上庸の孟達軍を含めると、荊北に動員できる呂布軍は20万ちょっとということになる。
 まだ反劉?同盟も健在であり、ここまで彼我の戦力差が歴然となると、もはや掃討戦というべきであって、呂布や幹部が出張るまでもない。
 それでも陳宮が編成した劉?イジメの軍は、蔡瑁、張允ら「荊州組」のみで編成される8万余の大部隊であった。万全を期した質量ではあるが、彼らとて気持ちのよい任務ではあるまい。
 むろん、降将をして彼の祖国の命脈を絶たしめる、というのは征服王朝の常套手段であった。
 

 ――それからわずか4日後。 


呂 布:全滅しただと!?

 呂布、飛報をうけて愕然とする。
 気候によっては攻城の黒煙さえ遠望できる至近距離である。まさか援軍依頼を出す暇もなく全滅するとは、想像もしなかったのだ。
 すでに蔡瑁、張允らは傷ついた身を引きずって城下まで逃げ及び、ほかの諸将も血路を開くか解放されるかして、かろうじて襄陽へ到着しているらしい。
 が、その中に黄忠、厳顔らの姿はなく、おそらく劉?に帰順したものと見えた。


呂 布:蔡瑁、張允! 言い遺すことがあれば言え!

 呂布、蒼白な顔で階の下にふるえる二人の敗将を睨み付ける。

 

蔡 瑁:だ、大王さま、ま、まずはお聞きくださ…

呂 布:遺言以外は受付んぞ!

 蔡瑁は口の端に泡を吹いてパクパクするだけで、張允など半ば気絶しかかっている。
 本気で赫怒した呂布の叱咤は、それだけで凡人を気殺するほどの鬼気を帯びている。とうてい、彼らに弁解する余裕などあるはずもない。


呂 布:貴様ら両名、劉?ごときに敗れ、南蛮の旗を辱めた! よって物凄い残虐な刑をもって処断する! 

蔡 瑁:あ…あ…

呂 布:貴様らは、まず最寄りのコンビニに行って来い!そこで『ヤングアニマル』の最新号を手に取り、ナレーションと効果音つきで、今週の『ふたりエッチ(克・亜樹)』を大声で朗読してこい! 
効果音つきでだぞ!

蔡 瑁:ひ……っ!

 満座、粛として声も出ぬ。時まさに昼食どきであり、女子学生やOLも多い時間帯であろう。
 剛胆さでは人後に落ちぬ列将も、目を伏せてはやく散会を待つばかりであった。  


蔡 瑁:ほ、法の保護を…!

呂 布:やかましい!

王 粲:お待ちください、大王。両将の敗戦は万死に値しますが、「ふたりえっち(克・亜樹)」とは余りにも無惨。これからの両名の活躍をもって責と換え、せめて「ももいろシスターズ(ももせたまみ)」に罪を減ずることはできませぬか!

呂 布:出しゃばるな王粲! もう決めたことだ!

陳 宮:――衛兵、はやく二人を連れて出ろ!

 陳宮が命じると、屈強の衛兵たちが蔡瑁、張允の両腕をつかみ、引きずるように外へ連行していった。最後まで情けない悲鳴が一同の鼓膜に残る。 

劉 備:うわー…

諸葛亮:フフフ(横光風)……  


 軍規秋霜――!
 一罰百戒、連勝でゆるみがちであった南蛮軍の気分も、一挙に引き締まったようである。 

 ――が、それにしても、充分に有能で器も小さくない蔡瑁ほどの将帥が、数にして半数にも満たない劉?の軍勢などに何故敗れたのか。
 考えられる理由はただひとつ。


陳 宮:李典ですな。

呂 布:おう。それを考えていた。

 新野からそう離れていない南陽の宛城には、李典を主将とする9万の曹操軍が駐屯している。彼らが滅びかけの劉?に力を貸し、南蛮の征図を挫いたに違いなかった。
 曹操の主力軍団は袁紹との戦線に貼り付けられているが、対呂布軍団だけでも南蛮全軍に匹敵するだけの質量がある。楽観すべき事態ではなかった。 


呂 布:いつまでもチンタラできん。まだ行動力があるから、このターンにもう一度攻めるぞ。――おい、耳にょん! 

劉 備:へ、へい! 

呂 布:今度はオマエ中心でやれ! 関羽と張飛も連れて行っていいぞ。陳宮と楼ちゃんも貸してやる。 

劉 備:ははー! 

 軍勢は先の倍ちかくにふくれあがり、主将の劉備をはじめ、将帥の質も先の討伐軍とは比較にならない。 
 劉備に大軍を与えるなど、虎に翼を与えて野に放つようなモノだが、万一に備えてそれなりに準備はしている。趙雲・陳到などという親衛隊は劉備から引き離して長安戦線へ送っており、代わりに劉備を警護・監視しているのは、呂布の直属兵ばかりであった。これではウソつき皇叔劉備でも身動きがとれぬ。
 ――襄陽を出た劉備軍12万は、第一次討伐軍を破って安心しきっている新野城を急襲し、たちまちこれを攻め潰した。
 宛の曹操軍も、反劉?同盟軍も、ほとんど戦線に参加するヒマがないほどに迅速な作戦行動であった。一県一城を争うような局地戦では、傭兵隊長・劉備の用兵はまず一流といってよかろう。
 かつて劉備が駐屯していた新野の城は、その劉備の手によって蹂躙された。 

呂 布:おい劉表の小倅、結局、俺様に従うのかどうか決めろ。

劉 ?:は…叔父上のご厚意に謝するためにも、これからは公に臣従いたします… 

呂 布:ふん、ならばよい。

 さきほど劉備、存外しおらしいことに、このたびの報償として呈示された荊州牧の椅子を蹴り、劉?の命乞いをしたのだ。このあたりの面倒見の良さが、劉備を劉備たらしめている点に違いあるまい。
 呂布、劉?の降伏を興味なさそうに受諾する。
 それより呂布らにとって嬉しいのは、良・越の兄弟が臣従を申し出てくれたことだろう。氏は蔡氏や馬氏などに引けを取らない荊州の大豪族であり、彼ら自身の高い統治能力と、その支持は荊州統治に欠かせぬものであったからだ。
 さらに、黄忠と厳顔というゴールデンシルバーコンビの再帰参もうれしい。もっとも「次逆らったら老人ホームにぶち込むぞ」という呂布の脅しもドコ吹く風で、茶など啜って碁を打っているが。
 このたび呂布に従わなかった者は、文聘と韓嵩くらいであり、旧劉表勢力はあらかた呂布に吸収合併されるカタチとなった。 

 …荊州に20年近く続いた劉表の王国は、建安12年の冬に滅びた。
 益州を一代で伐り盗った劉焉とおなじく、権謀の限りを尽くして築き上げた勢力は、その息子の代で南蛮王に覆滅せしめられたのであった。
 

……………
 …………
 ……

呂 布:というわけで、明日には新野へ引っ越すぞ。

小間使い:は、はい… 

呂 布:ん? 何だ?

 
 小間使い、まだくだんの赤ん坊を預かっていたらしい。
 さっきから忠吉さんが揺籃の番をしているところであった 。

呂 布:もうこの子の親はついて来れんのか?

小間使い:はー。この襄陽で職が見つかったそうで…

 この子を預かってだいぶ経つ。若夫婦も日銭を稼ぎながら、武陵からよくついて来ていたが、この襄陽に腰を落ち着ける決心をしたようだ。


呂 布:なら仕方ないな、そいつらのガキなんだから。

小間使い:……ひっく

呂 布:泣くな! だいたい子供嫌いなんだろうが!

小間使い:もー! 泣いてませんよー!

 相変わらずこういうのが苦手な呂布、むなしく忠吉さんの頭をなでている。
 小間使い、よほど情が移ったのか、赤ん坊をひしと抱きしめている。が、どこから見ても、親子と言うより年の離れた姉妹であった。


呂 布:あー…しかしアレだ、オマエもいずれ結婚して子供産んだらいいだろう。

小間使い:……。わたし、子供きらいですからー。

 小間使い、ほろ苦そうに頬笑んでいる。
 が、根っから鈍感な呂布、「何ならいい男見つくろってやろうか」などと話を続ける。
 さすがに苦笑した小間使い、少女らしからぬ落ち着いた視線で、正面から呂布と向き合った。


小間使い:私、赤ちゃん産めないみたいなんですよー。

呂 布:へ? なんで?

小間使い:はー、小さい頃、イロイロありましてー。

 にはは、と困ったように頬笑む小間使い。
 ようやく、呂布もだいたいの事情を察して黙り込む。


小間使い:だから、子供きらいなんです。

呂 布:…そうか。

 さすがに答えようがない呂布、難しい顔をして院子を眺めるふりをしている。

 ……………
 ………… 
 きたるべき建安13年に備え、歳末の活気が新野をにぎわす頃。
 呂布は意外な岐路に立たされることとなった。
 劉?勢力の滅亡によって、「反劉?同盟」が消滅してしまったのだ。
 当然のことではあるが、これまで同盟関係であった孫策勢力とも、国境を接している以上敵対せざるをえない。
 これを機に、こんどは江東の「小覇王」孫策と先端を開くべきか、それとも中原を目指して北上を続けるべきか…
 相も変わらず閣議は紛糾している。
 陳宮を首魁とする北上派と、劉?や諸葛亮ら西進派が、それぞれ説得力ある自説を主張してやまないのだ。
 結局のところ、事態を決したのは劉備の一言であった。  

劉 備:ところで、馬超将軍はいつまで待ってればええんです?

呂 布:あ。

 そういえば、馬超とは「洛陽にて会合せん」と言い残してあるのだ。
 呂布の最終目標が曹操の首であるのだから、思えば北へ進むのが当然のことであった。


呂 布:ふむ、耳にょんも正しいことを言う!

劉 備:ついては、私に考えがあります!

呂 布:何だ!

劉 備:こんどは「反曹操連合」を組むんですわ!袁紹、孫権、張魯らが加われば、曹操とてひとたまりもないハズです!

諸葛亮:(…ほう!)

呂 布:連合ねえ…

 呂布は正直、連合など本意ではない。だいたい、毎ターンのように援軍要請があり、そのたびにまとまった兵力を派遣するのだから、よい迷惑である。
 …が、もしも諸侯に「反呂布連合」などを組まれでもしたら、それこそこちらにとって迷惑この上ない事態になるだろう。

 

陳 宮:そういえば、合従連衡の故事とカタチは似てますな。

諸葛亮:フフ…つまり反曹操連合は「連衡」の変形というわけですか…

             

 現在の南蛮勢力の版図は、たしかに戦国末期の強国・秦と似ている。
 天下の西半分を押さえて中央に乗り出した秦に対し、諸侯は力を併せて「合従(縦)」つまりタテに東方諸国同盟をつくりあげて、これに対抗しようとした。
 逆に秦は諸国を連合させず、「連衡(横)」つまりヨコへ向けて一カ国づつ別々に盟を結び、天下の威圧統一を果たそうと試みた。
 呂布にとって恐れなければならないのは、「合従」をされることだろう。 

 

呂 布:毎ターン攻められるのもウザイしな。反曹操連合をつくってみるか!

陳 宮:よろしいでしょう。早速手配しましょう。

 建安17年。
 一月の正月を起日として、諸侯へむけて檄文がとばされた。
 いわく――
 天子を擁し奉り、中原に縦横する奸賊・曹操を誅滅せん。…
 総1420文字からなるこの歴史的な一文は、あらたに書佐に命じられた呂布の次女、呂文姫の手によるものであった。 
 この檄文を入手した曹操は、文面につらつら列挙された自分の悪行宣伝よりも、その修辞の美しさにおどろき、「陳琳さえ及ばぬ」と絶賛したという。
 
 それはともかく、呂布の呼びかけに応じて立ち上がった諸侯は、袁紹、孫策、公孫淵。
 「曹操包囲網」はこれで為ったわけだ。
 ――先制の一撃は、まず袁紹が行う。
 晋陽を巡って一進一退を続けていた袁紹の西部方面軍が、一挙に南下して洛陽を衝いたのだ。呂布からも数軍が派遣されてこれに合流した。
 もっともこのとき、守将の鍾はよくこれをしのぎ、敵将高幹、郭援らを退けて洛陽の防衛に成功する。
 これで各国に袋だたきにあうという現状を認識したのだろう。曹操軍は逆撃に転じ、袁紹領晋陽を奪い返した。
 …が、これは失敗であった。
 洛陽ならば防衛は比較的楽だが、晋陽はそうはいかぬ。たちまち次の同盟軍の攻撃を呼び、またまた無念の晋陽放棄に至る。
 とにかく、「同盟」とは厄介きわまりないモノであった。

呂 布:ようし、俺様も宛を攻めるぞ!

陳 宮:ナイスなタイミングですな!

 すでに長安に駐留する馬超たちへ、援軍要請の早馬がむかっていた。
 ――宛の曹操軍をうち破れば、もはや洛陽は指呼の距離。
 いよいよ、中原を巡る争覇戦に、呂布も片足を突っ込むことができるのだ。

呂 布:高順、張遼、孟獲、楼ちゃん、耳にょん、ジジイ! 

 呂布が怒鳴ると、6名の大将が拝拱して一歩前へ出る。


呂 布:天下取りだ! 俺様のために中原への道をこじ開けろ!

一 同:御意!  

 建安13年、呂布にとって最も事多き年は、こうして幕を開けた。

  呂布軍の北上が始まった! 呂布の天下取りのため、すべては呂布たった一人のため、数十万の軍団が中原へ殺到する! リプレイも最も大詰め、中原争覇編開始です! 

32.劉備退場

劉備退場

  

 樊水の畔に喚声がこだましている。
 襄陽が陥ちた。学識豊かな荊襄の士人たちとて、この学業の都が蛮人に蹂躙されるなどと夢にも思っていなかったに違いない。
 みな私塾の奥に引き籠もり、あるいは書院の奥に逃げ込み、
 ――これからどうなることやら
 と蒼白な顔を並べて呟くばかりであった。

呂 布:劉備たちを連れてこい! 

 呂布が大喝すると、鞠のように縛られた劉備一党が、呂布の前に引きずり出される。

呂 布:――劉備! 

劉 備:……。

呂 布:俺様の覇業の目的は、世界征服(※世界ハーレム化政策)と、オマエと曹操への復讐だ!今日、その三つのうち一つが果たされたわけだ!

劉 備:………………。

呂 布:よって俺様はたいそう機嫌がよい!――運が良かったな劉備!

劉 備:………?

呂 布:本来ならオマエの如き変節漢、生かしておけんが! オマエ達は斬るにはちょっと惜しいキャラだ。――生死を選択する機会をやろう。

劉 備:………………。

呂 布:ふたたび俺様の傘下に収まり、俺様の奴隷としてこき使われる覚悟があるなら、右の耳たぶを引っ張れ!――否というならば、左の耳たぶを引っ張れ!


 呂布の苛烈な宣告に、敵味方も一瞬青ざめる。劉備とその一党の生死は、まさに劉備の長い耳の左右選択にゆだねられたのだ…!
 かつて呂布が轅門で戟を射て劉備を救った故事に、形は似てないが魂は通じるであろう。
 

張 飛:兄貴! 俺たちは構わねえ! 構わないから左の長い耳たぶを引っ張れ!その獣の言うことは聞くな!

関 羽:長兄!益徳の申すとおりですぞ!左の長い耳たぶを!

趙 雲:ご主君…!左の耳たぶでございます!


 さすがに覚悟は出来ているのだろう。劉備一党は一斉に左の耳たぶを連呼した。――呂布にこき使われるくらいなら、という意地であろうか。


劉 備:………………。

 劉備、透き通った表情で呂布を見、そして彼が慈しむ半生の部下たちを顧みた。


劉 備:――みんな、ありがとな…。

 ――ポツンと、小さく呟いた。
 そして次の瞬間、物凄い勢いで自分の右耳を引っ張っている劉備の姿を、一同は見ることになる。
 

 

張 飛右かよオイ!

関 羽:長兄――!

 劉備、ソレだけでは足りぬのか、壇上へ駆け上がり、自ら右側の長い耳たぶを呂布へ差し出して哀号した。

劉 備:呂さん、呂さん、いや、義兄上!この通りや! この通り右耳を引っ張りますから命だけは…! 

呂 布:お、お…。

劉 備:さあさ、呂さんも!ホラホラ、こんなに伸びるんや、引っ張って引っ張って!

呂 布:あ、ああ…


 劉備の身投げのような命乞いは、ある意味凄かったと言えよう。
 常世と黄泉の狭間に生命が躍動する、まさにその瞬間に、劉備は自らの長い右耳たぶを物凄い勢いで引っ張った。彼の右耳は、たとえ劉備の肉体が朽ち名が千載の奥裏にひそむことがあろうと、いつまでも人口に膾炙し、唄になり、諺となって数千年を生き続けるに違いない。


呂 布:――よ、よし!じゃあオマエは今日から下僕一号だ! 

劉 備:へへ―――っ!

呂 布:呼び方も改めるぞ!以後オマエは耳にょんと呼ばれるのだ!

劉 備:へへ――っ! 貴方様の耳にょんはココに控えておりまするぅ!

呂 布:がっはっはっは!!

  盛り上がる壇上に比して――。   

関 羽:――長兄……。   

張 飛:………………。  


 痛いくらいの沈黙が支配する階下。張遼や公孫楼が、気の毒そうにその様子を眺めていた。

 ともあれ劉備の投降は大きなターニングポイントとなった!
 劉備軍団のうち、出陣していた者は張飛・周倉を除き全員が呂布の傘下におさまる。
 さらに驚くべき事に、ここでバグが発生している。
 大量に捕縛されていた劉表軍の武将たちも、文聘を除いた全員が、この一戦で呂布に従うことになったのだ。地元豪族の蔡瑁はともかくとして、厳顔、黄忠、などという死んでも呂布に降りそうもない連中が、渋々ではあろうけど、呂布に佩剣を差し出し、拝跪するということになった。

(※この現象は、三国志VIII通常版で起こりました。おそらく「劉備放浪軍の滅亡」というフラグに劉表の武将も巻き込まれ、同様の「敗戦処理」が行われたものと思います(^_^;) 珍しかったので、襄陽後始末と一連の騒ぎに関してのみ、通常バージョンのプレイメモを採用してます。ただ疑問なのは、劉備軍団は新野にいたはずだと言うこと。襄陽まで救援に出て、一戦して敗れただけで滅亡してしまうのが、システム通りなのかどうか…。あるいは呂布が攻めるターンに襄陽へ引っ越ししていたのか…)

 ……………
 ………
 建安12年、夏――
 呂布軍は総出で人材サルベージを行うことになる。
 新野や襄陽には、旧劉備軍団の人材が在野としてあふれかえっているのだ。
 新野は劉表勢力の最後の砦であるが、よほど人材がいないのか、あからさまに南蛮人と分かる連中がやすやすと潜入し、酒場で優秀な旧劉備陣営の傑物をスカウトできる。
 さすがに怒っていたのか、劉備自らは張飛の登用に失敗してしまったが、関羽が難なく引っこ抜いてきた。
 ほかにも、麋竺、簡雍、孫乾といった文官三羽ガラス、先刻逃がした周倉、関羽ファミリー、夏侯華(オリジナル武将。淵の娘)などなど、有為の大材が文字通り嚢中の石ころを拾うよりもたやすくゲットできたのだ。
 ――この意義は大きい。これまで、領地はともかく中堅不足に喘いでいた南蛮軍団に、絵に描いたような中堅集団が大量に雪崩れ込んできた事になる。
 人口・商業値力は曹操、袁紹に及ばず、人材も孫策軍の膨張ぶりに届かない状況であったものが、いま荊州の7割を制したことにより、完全に逆転した。
 呂布勢力が、総合数値においてTOPへ躍り出たのである。
 

呂 布:帰ったぞ――。しかし暑いな、オイ。

小間使:あ、おかえりなさいませ――!

呂 布:なんだ、まだこのガキ預かってたのか。

小間使:ええ。

 木陰にそっと置かれた揺籃の中で、赤ん坊がスヤスヤ眠っている。小間使いはと言うと、武器庫の掃除でもしているのか、呂布のコレクションである刀槍・甲をズラリと虫干しし、甲斐甲斐しく手入れまでしてくれているところであった。
 自分の背丈くらいに長大な剣を案外颯々と扱う様子を見て、呂布、しみじみと呟く。


呂 布:なんかこう、「斗(たたか)うメイドさん」っぽいなあ… 

小間使:? 何ですかー、それ? 

呂 布:いや、分からんならいい…  

 呂布、ふたたび揺籃の方へ視線を向けた。


呂 布:悩み無くていいよなあ~、赤ん坊は。 

小間使:あははー。あ、呂布さまは、赤ちゃんお好きですかー? 

呂 布:いや、苦手だ。泣く時に空気読まないからなあ…。オマエは赤ん坊とか好きそうだな。

小間使:嫌いですよ。 

呂 布:へ? 

小間使:子供なんか、好きじゃないです。 

呂 布:…そうか? 将来いいお母さんになれそうだと思うけど。 

小間使:なれないですよー。 

呂 布:…ふーん?  

 …なんとなくイヤそうな話題だったので、ひとまず切り上げる。
 ところで呂布、ここのところ連日、襄陽の人材発掘に精を出していた。
 劉備軍団の回収はあらかた終わったものの、新野・襄陽はもともと未発見武将の宝庫なのだ。
 ちょっと屯兵所や市場を覗いたり、郊外の農村を見聞して回るだけで、荊州の地に安穏と生活している偉材がゴロゴロ出てくる可能性があるのだ。
 そのため、呂布はわざわざ巡邏の末端兵卒にいたるまで、めぼしい人物をマークするように徹底している。
 いちいちそれらを確認するのが、最近の呂布の日課であった。


呂 布:どうだ、めぼしい人材はいたか!

兵士A:はっ。――何やら、優れた風采の人物が、工房のあたりを歩いていたのを目撃いたしました!

呂 布:よし、でかした! 

 呂布、ひさしぶりのヒット報告を受け、自ら工房まで確認しにゆく。このあたり、彼にもようやく君主としての自覚が出来てきたと言うべきだろうか。

呂 布:どれどれ、風采が優れた人物、とな…

兵士A:あ、今あの角を曲がった浪人風の男です!

呂 布:よし、行って来る! 

 呂布、その人物をいきなり呼び止めた。

呂 布:おい!そこの風采の優れた人物!

???:何ですかな? 

呂 布:………!

 呂布、クルリと向きを180度かえると、無言でスタスタ歩み去った。

兵士A:あ、如何でしたか!?

呂 布:………………

 すたすたすたすた。
 ――ぼこっ!

兵士A:ほにょげろ!!

呂 布:ごるあ!! アレのどこが「風采の優れた」人物だ! 二目と見られん醜男だったぞ!

兵士A:俺にそんなこと言われても… 

 問答しているうちに、くだんの人影は大街の人混みに消えてしまっていた。
 あー勿体ない、と呟く兵士Aを蹴飛ばして、呂布はまた政庁へ戻った。
 ――ちなみに今逃した醜男は、後に袁紹軍の総司令として、呂刀姫の北伐軍団を散々苦しめることになる天才軍師・統であった。

 ※ちなみに「発見」→「登用失敗」→「酒場で話す」→「登用」 という煩雑なプロセスのせいで、他勢力に引き抜かれてしまう事が多かった「VIII」だが、パワーアップキット版は多少は改善されている。

 しかしながら、呂布もいっちょまえに人材蒐集癖に目覚めているのだ。
 先日に懲りずに屯所巡りを怠らない呂布、またまた兵士Aと出会う。


兵士A:あ、大王さま!

呂 布:オマエに発言権は無い!

兵士A:いえいえ、今度こそ本物です! 本当に風采に優れた人物を、それほど遠くない農家のあたりで見かけました!

呂 布:……本当だな!

兵士A:もちろんです!俺の100%オススメです!

呂 布:じゃ、行ってみるか…。次ハズレだったら泣かすぞ!

 またまた自ら出かける呂布。兵士Aの先導で、目的地に到着した。


呂 布:ボロい村だな…!で、どのあたりだ!

兵士A:あ、あの岡のあたりで肥を汲んでいる御仁です! 

呂 布:うーわ、くっさー!

 渋々赤兎を降りて、その人物に歩み寄る呂布。



呂 布:………………。 

???:………………。

呂 布:………………。 

???:………………。

呂 布:………………。 

???:………………。

 くるっ。すたすたすた――


兵士A:あ! 如何でしたか!?

呂 布:…………………。

 ――すたすたすたすたすたすた…
 ばきぃっ!!

兵士A:ぐるえしふびふ! 

呂 布オマエはどういう基準で風采というものを捉えてるんだ!? 

 ガクガクと襟首を掴んで兵士Aを揺さぶる呂布。 


兵士A:え、NPCにそんなことを言われても…

呂 布:やかましいわ!  

???:あのー

 見ると、先刻の青年が、呂布のすぐ側に立っている。

  

???:南蛮王・呂布様でいらっしゃいますね。フフ…(横光風)ご無沙汰しておりました。

呂 布:何だ!俺様はオマエのような奇人に知り合いはおらんわ!

 ぴるぴるぴるぴるぴるっ…びしっ

呂 布:いてっ

 青年、やおら鼻ストローで呂布の額を撃つ。

???:お分かりにならないのもムリもありません。私が初めて御意を得たのは、もう三年も前のこと。しかも夢の中扱いになっておりますれば。

呂 布:うさんくさい奴。何を言っても覚えなど無いぞ。

???:フフフ…将軍、美少女は長じて美女となりまするか…?

 呂布、ようやく思いだしたのか、パンと掌を打った。

呂 布:おお!あのときの幻術使いか! 俺様もなぜかリアルに覚えているぞ、あの初夢は!

諸葛亮:フフフ…。私は諸葛亮、字は孔明と申す者です。

呂 布:ふむ、諸葛亮か!なんだか見ない間に雰囲気変わったなあ!

諸葛亮:フフ…

呂 布:うむ!ではさらばだ! 

諸葛亮:…って、ちょっとちょっと! 

呂 布:何だよ?

諸葛亮:フツーこういうとき、登用とかしないものなんですか? 

呂 布:俺様は変態に用はないぞ。


 無造作に言いすてると、また兵士Aを小突きながらもと来た道を戻ろうとする呂布。  


諸葛亮:…羽扇ビームっ!

呂 布ぅ熱いっ!

諸葛亮:つれないではありませんか、大王様。

呂 布:い、今オマエ、何した…?

 背中からもくもくと煙をあげている呂布。諸葛亮は艶然と微笑み、羽扇で軽く風を撫でた。
 ――諸葛亮、孔明。
 このとき二六歳。
 先に逃した「鳳雛」こと統とならび、「伏竜」すなわち眠れる竜とさえ称される偉材である。
 呂布が自ら三度赴いて出廬を促した――という美談が後世に伝わるが、実際のトコロ、この後二回ほど酒場で合い、次のターンに自ら任官を申し出てきた、というのが実情であった。

  建安12年(206年)! とうとう呂布陣営の革まる時が来た! 劉備一党に加え、謎の青年・諸葛亮も幕下におさめ、逐うは中原の天下鹿! 次回、いよいよ第5部クライマックスです! 


呂刀姫:それにしても…お前、もっと強くなれないのか? 

張 虎:く、訓練すれば僕だってなれるよ! 

呂刀姫:確かに、もうちょっと頑張らないとなー。

???:おお、張虎、そこにいたのか! 

張 虎:あ、関平さん! 

関 平:ちょうどよかった。張虎、これからしばらく、訓練がてら私と手柄で勝負しないか? 父が言うには、歳も近いし、調度よかろうって事でね。

張 虎:ぼくが、…関平さんと? 

呂刀姫:あははは!ちょうどいいじゃないか、虎! いいライバルが出来て!

張 虎:う…うん。

     ………………

呂刀姫:あーあ、お前はライバルが出来ていいよな。 

張 虎:姉上も、自分でつくればいいじゃないか。 

呂刀姫:そういうシステムならそうするよ…。

???:呂刀姫様はおられぬか!? 

呂刀姫:な、何だ…!? 

魏 延:俺は兵士A…じゃなかった、魏延、字を文長と申す者です!大王に言われ、姫様のライバルになった! 以後よろしくお願いいたす!

呂刀姫:あ…ああ? こちらこそ… 

魏 延:では、また後日に!  


呂刀姫:………………。

張 虎:ライバルってこういうふうに出来るものなのかな? 

呂文姫:違うような気もする…(^_^;) 

呂刀姫:ふーん。…魏延、かー。

呂文姫:なんかテンション高いお兄ちゃんだったね~ 

張 虎:何なんだよ、主君の姫にいきなりため口叩いてさ… 

呂刀姫:うん…。

31.劉備登場

劉備登場

  

 翌朝、呂布は長安宮に一同をあつめ、我が意思を伝えた。


呂 布:俺様はただちに荊州へ戻る!


 大方針である。呂布の所在地を大本営とするならば、ふたたび戦略の主眼は関中から楚へ戻されたということなのだ。


陳 宮:結構でしょう。ならば後の守りと、米賊はいかがします。

呂 布:うむ。――三弟!

馬 超:おう!


 進み出たのは、馬騰の子、馬超である。南蛮最強の武力101(方天戟レプリカ)を誇り、いつのまにやら張バクや孟獲とともに呂布の義兄弟格と目されている。父・馬騰のあとを継いで西部方面の総帥たり、先年長安・武都を立て続けに奪われたものの、それ以上の侵攻を見事に喰い止めている。


呂 布:またオマエらに任せる。法正とよく協議して、張魯の事など好きなようにしろ。

馬 超:任せてくれ!

呂 布:天水留守、呉懿、呉班!

 次に呂布が指名したのは、前の益州牧劉璋の義兄・呉懿と、同族の呉班。
 呉班は父・呉匡がらみで呂布とは旧知であり、呉懿は呂布とともに聖獣と闘った経緯もある。すべての能力値が70代というバランス型で(えぢたー済み)、何だかんだと毒突き合いながら、その実、呂布が生涯でもっとも信任・酷使した男たちであるとさえ評された。 


呂 布:オマエらは天水に駐留して馬超を援護しろ。武都が片づいたら、そのまま長安へ入って馬超らの監督にまわれ。

二 人:はっ!。

 その後、次々と残留組、荊州組が指名され、南蛮王の軍はふたたび二分されることになった。


呂 布:というわけで法正!西の采配はすべてオマエの脳みそだ!キリキリ働け!

法 正:御意。


 馬超の頭脳となるのは、副軍師法正。最も早く呂布に鞍替えした一人であり、その知力97は、正軍師陳宮のそれを遙かに上回り、未登場武将である呂布の末娘・呂文姫に次ぐ高数値であった。


呂 布:――以上!次に合うときは洛陽だ! 

一 同:はは――っ!

  ………………
   ………

  長安を進発するに先立ち、呂布は密かに軍列を離れ、長安城市の一画に足をのばしている。

   

呂 布:というわけで俺様は荊州へ戻る。   

蔡文姫:はい――。大王の御武運をお祈り申し上げます。  


 蔡文姫は寂しげに微笑し、一礼した。


呂 布:おう。…蒋容にも、よろしくな。

蔡文姫:はい――。

 呂布、城市内の親しき者たちへの別れを済ますと、馬上の人となる。

呂 布:じゃ、またな!  

 赤兎と呂布の巨体は、忽然、捲き上がる砂塵の中へ消えた。
 ――ふらりと出かけるような別れであったが、彼女たちにとって、これが南蛮王・呂布の最後の姿であった。 


 行軍のあいだに年が明け、建安12年――
 じつは漢中・長安方面で戦闘が続いてい間も、荊州の勢力図は変動を続けていた。
 江夏を巡って劉?軍と孫策軍は何ターンも戦争を繰り返し、その間隙を縫うように、張燕軍は江陵を確保している。
 呂布は、制圧が済んだばかりの江陵へ到着した。
 一足先に荊州へ戻っていた小間使いの元気のよい挨拶が、呂布を出迎える。


小間使:あ、お帰りなさいませ――っ!

呂 布:なんだ!?

 呂布が面食らったことに、小間使い、赤ん坊を背負って玄関掃除中であった。

呂 布いつ産んだんだ!?

小間使:もーっ、私が産むわけないじゃないですかー!

 ふくれた顔の小間使い。近所の若夫婦から赤ん坊を預かっているらしかった。

呂 布:なんだ、驚かすな!一瞬誰が相手かと思ってハァハァしたぞ!

小間使:勝手に人でハァハァするのはよくないことだと思います! 

呂 布:わからんヤツめ! ハァハァは男に許される唯一の自由だぞ!

 ………………
 …………
 館で早めの夕食をとった呂布は、政庁に入るや、全軍に出撃を命じた。
 すでに万端の準備を整えている南蛮軍9万、軍門に篝火を連ね、ほとんど下知と同時に、薄闇の立ちこめる荊北方面へと消えていった。

 ――戦場「襄陽」は、森と平野部と山岳の入り乱れるバリエーション豊かなマップである。さらに砦の先には、マップを斜めによぎる大河(樊水?)があり、地形自体が一個の防衛線を形成していると言える。
 迎撃に出た8万余は、劉?軍のほとんど全戦力であり、この一軍を失えば、もはや劉?には新野に駐屯するわずかばかりの兵しか残されておらぬ。

陳 宮:…敵援軍が新野からこちらへ直行しているようです。

呂 布:ふん、劉備一党か?

陳 宮:さあ、そこまでは…


   荊州軍は、なお強い。主将の蔡瑁もさることながら、以前呂布を散々に手こずらせた黄忠、益州から逃れていた厳顔などというゴールデンシルバーコンビ(?)がおり、ほかにも文聘、霍峻などという諸侯垂涎の勇将が集中している。実のところ、呂布軍を圧倒するくらいのクオリティである。

呂 布:続けっ!

 野生の勘で悟るところがあるのか、ちかごろ予備兵力として待機することの多い呂布、この戦ではひさびさに陣頭に立って突撃した。
 武力108に加えて、突撃・極レベル、おまけに鉄騎二万というMAXづくしである。荊州軍がいくら精鋭を揃えようとも、とうてい歯が立つユニットではない。
 決して弱くないはずの厳顔軍が紙切れのように裂け、後続の公孫楼、張遼らの猛撃をくらい、たった1ターンで7000近い損害を出して城へ引っ込んだ。

呂 布:よおし! 次ッ!

呂刀姫:父上、私が! 

 中央の森林を突っ切ってきた歩兵軍団が戦線に加わった。陳宮隊、呂刀姫隊をはじめ、士気は極めて高い。が――。

張 燕:あ、熱゛ぃ――!!

呂 布:ぶわっはっは! 格好悪ぃ~!

 突然火罠が作動し、広大な森林が瞬く間に炎に包まれてしまった。巻き込まれたのは、張燕隊ほか、なんと援軍で駆けつけてくれた孫策軍であった。運が悪いとしか言い様がない。慌てて各自鎮火を始めるが、同時に「足止め」状態になっているため、戦線に参加できそうになかった。

 

呂 布:ちっ、相変わらず使えん奴らめ!

高 順:まあまあ…

 
 遙かに武力で勝る黄忠を、一騎討ちで何とかしとめた高順、砦のひとつを制圧し、補給線を確保する。
 ――この戦、久々に呂布本人が突撃方に回ったこともあり、妙な安心感が漂っていた。
 

呂 布:よっし! 渡河開始だ!張遼、いけ――っ!

張 遼:押忍!

 森の地形を活かしてなかなか善戦していた蔡瑁軍、火炎地獄から抜け出してきた呂布軍後続に包囲されて残数2000を切り、王威や文聘らも過半を失っている。
 いわば楽勝ムードに沸く呂布軍の元へ、しかし悲報がもたらされる。
 ――張遼軍壊滅、主将行方不明、であった。
 関羽との一騎討ちに敗れたのだ。


呂 布:あ!?

高 順:馬鹿な…!

 張遼、欲張りすぎたと言うべきか。
 このゲームは一騎討ちは滅多に発生しない。せいぜい、自分より強い相手に申し込んだときくらいである。が、多少の武力差ならば、呂刀姫が文聘を討ち、高順が黄忠を斃した例の秘技で、なんとかなる。
 しかし。
 中にはボーナスポイントでもあるのではないかしら、と疑うくらいに強い武将が存在する。
 呂布もその一人であったし、関羽、張飛あたりもそうであった。
 

呂 布:くそっ! 俺様も向こう側へ行って来るぞ! 

陳 宮:気を付けてくださいよー!

 猛然と渡河を敢行すると、城門前に整然と展開している残存兵力が視界に入った。
 5000程の部隊ばかりだが、「劉」の旌旗の下、遠目にも桁外れの戦闘能力が見て取れる。

 呂布は陣頭に躍り上がると、大喝した。
 

呂 布劉備っ!――出てこい、三人とも!

 呂布の怒号は、全戦場に響き渡った。全将兵が戦闘を止め、襄陽城を見守る。
 やがて流浪劉備軍の兵列が割れ、二人の巨漢に護られつつ、堂々たる体躯の大男が姿を現した。

  

劉 備:ひっさしぶりやなあ、呂布の旦那~

呂 布:ふん。誰に断ってその大耳ブラブラ垂らしてやがる…!

 とたんに、三人の顔色が変わった。

張 飛:てめえ!長兄の長い耳は禁句って言っただろうが!

呂 布:聞いてねえよ!

関 羽:うろたえるな益徳! ――長兄、野人の言に過ぎぬ。長い耳のことなど気になさるな。

劉 備:関さん、益徳――俺ァ別に気にしてへん…。生まれつきやから、仕方がないわな…

 フっ、と馬上ほろ苦く微笑む劉備。

張 飛:呂布ッ! てめえが人の肉体的特徴をあけすけに指摘するから、長兄がまた長い耳のことで悩んじまっただろうが!

関 羽:益徳! 長兄は長い耳のことを悩んでいないと、今仰ったではないか! そう何度も長い耳長い耳と怒鳴るな!

張 飛:す…すまねえ兄ィ! 俺が長い耳のことばかり気にして、かえって長兄が長い耳を悩む事になってたかもしれねえ!

関 羽:益徳!よく悟った!――それが“”だ!

張 飛:兄ィ――! 今まで俺が間違っていた! 俺をもっと叱ってくれいッ! 


 ガッシリと、熱くアツく手を取り合う豪傑・関羽と張飛。その兄弟愛と仁義の絆には一片の曇りさえ無かった。
 

呂 布:………………。

劉 備:………………。

呂 布:あー、その、なんだ。相変わらずだな、あいつら。

劉 備:せやろ…?

 異様なまでに頼もしい二人の兄弟愛に、ホントは辟易しているらしい劉備。呂布は同情を禁じ得なかった。
 が、不意に視線を厳しくして、二人は睨み合った。

劉 備:――張遼はこっちで預かってる。欲しけりゃ力尽くで取り戻すんやな…!

呂 布:ふん、言われるまでもないわ! 

 
 全軍突撃を命じる呂布。劉表の正規部隊や援軍の存在を忘れたかのように、呂布軍はひたすら劉備軍団めがけて攻撃を開始した。
 

呂 布:張遼を返せ! 関羽、俺様と勝負しろ!

関 羽:今はその時に非ず。

呂 布:けっ、チキンが!。

 関羽が呂布の一騎討ちを断るのは無理もない。張遼の豪勇は、決して関羽にとっても楽なモノではなかったはずだ。相当の負傷をうけている。
 それにしても――恐るべきは劉備軍団のすさまじさであった。
 主将の劉備も、今作ではかなりバランスのよい戦闘屋だが、それより関羽、張飛の強さは尋常ではない。部隊の攻撃力・反抗力に武力がダイレクトに反映されるシステムの今作、武力100オーバーの部隊は、まず戦場で打ち倒すのは不可能であろう。

 …陣頭で猛烈に戦う関羽と張飛の人影は、遠目にもハッキリと見える。
 長さ4メートル以上の蛇矛や偃月刀が旋回するたび、矛を掴んでいる腕だの、中身入りの兜首だの、輪切りになった胴だの、馬の首だのが、血しぶきとともに10数メートルもはね上げられ、バラバラと雨のように落下してくる。それが扇風機のように絶え間なく続いているのだから、前線の兵士たちにとっては生きた心地のしない光景であろう。

劉 循:さすがに凄まじいものですな…。とても同じ人間とは思えぬ…。

 蒼白になって馬を寄せてきた劉循に、呂布は獰猛な笑みを向けた。

呂 布:だが人間には違いあるまい。そうだろ、劉循。

劉 循:そりゃそうですが…。

呂 布:ふん、オマエは俺様がどう呼ばれていたか知らんのか!

劉 循:!?

呂 布――人中有呂布、馬中有赤兎、ってな!


 言うや、呂布は赤兎馬を駆って陣頭に出ると、雑兵どもを殺戮しながら、一直線に張飛の立てる死屍噴水のもとへ突進した。

張 飛:やっと来おったかッ!

呂 布:泣かすぞ虎髭!  

 ただ一言怒鳴りあっただけで、二人の蛇矛と方天戟は、激烈な火花を散らし始める。不運にも逃げ遅れた兵士たちは、敵も味方も、旋回するふたりの武器に肉体を粉砕されて飛び散った。何とも迷惑な一騎討ちであった。

公孫楼:…包囲!

関 羽:む…? 

 
  関羽、見覚えのある白馬軍団の功囲を受け、不思議そうな表情を敵将たる公孫楼へむけた。、
 

関 羽:ひょっとして、貴女が伯珪(公孫)の御息女か。

公孫楼:………………  

関 羽:面影がのこっている。私を覚えておられぬか

公孫楼:………………。

 公孫楼、無言で腕を振り上げ、振り下ろす。
 1万5千の白馬軍団が、白い津波のように関羽隊2000余を呑み込んだ。関羽の姿もまた、その波濤の中に消えた。

呂 布:はっはっは!馬超のとき以来だぞ!こうまで楽しいのは!

張 飛:ぬ、ぬかせ! 

 減らず口を叩きながら、楽しそうに一騎討ちを続ける二人。――が、ほとんど勝負にもなっていない。一対一では呂布が圧倒的に強かったのだ。
 呂布の猛烈なラッシュを捌ききれず、とうとう張飛、石突きで強烈な打突をくらった。その巨体は馬上から吹っ飛び、50メートル離れた城壁に叩きつけられた。

劉 備:――救えっ! 趙雲、陳到! 俺を助けろ――!

高 順:もう二将とも手捕りにしている。豫州、覚悟されよ。  

 劉備本隊を最後まで援護していた旗本二騎が、相次いで高順軍1万8千に飲み尽くされ、劉備隊は丸裸で戦場を逃げ回っている。
 河べりに遁走を続けた挙げ句、残り500まで撃ち減らされた時点で城へ退却してしまった。
 それを合図にしたかの如く、最後まで戦場の片隅で震えていた韓嵩ら文官の部隊が壊滅し、襄陽正規軍は全滅。
 荊州の州都・襄陽は、南蛮軍の制圧するところとなった。
 残ターン、わずか4であった。

  本当に長く面白かった戦闘を終え、南蛮軍団はとうとう荊州の中枢を得る!
 劉備一党を数珠に繋いで、如何なる裁きが待ち受けているのか! 次回、臥竜覚醒編と合わせてお楽しみに!

30.第三次長安攻略戦

第三次長安攻略戦

  

 ――建安11年、10月。南蛮公呂布は3度目の長安攻略戦を開始する。
 戦象部隊を含めた約一七万という未曾有の大軍団が行軍する以上、その侵攻ルートは桟道を経ないものに限られる。
 すなわち、陳倉道である。
 狭隘な山麓の間を縫うように続く回廊状の地形であり、長安へと続くその中間地点に、小振りだが堅固な城塞群が確認されていた。

呂 布:しかし狭いところだなー…

陳 宮:これでも一番広いルートですよ? 最短の斜谷道なんか、人ひとりしか通れないんだから。


 二人にとって、「VIII」シリーズでは初の長安攻めである。
 その戦場名もそのまま「陳倉」であり、史実では蜀漢の右将軍・諸葛亮が苦戦を強いられた「第二次北伐」の舞台でもある。

 数において圧倒的な優勢を誇る南蛮軍だが、それでも陳倉城を抜く困難を考え「速攻」を選んだ。
 天水との連絡は未だ回復せず、援軍要請も無駄な状況であった。やはり敵正規軍をさっさと全滅させるのが最も確実な戦法であろう。
 やがて先鋒の公孫楼軍から敵の大部隊発見の第一報が入り、まもなく戦闘開始の報がもたらされた。 

呂 布:よーし数で圧倒する! 一部隊ずつ虱潰しにしろ!

陳 宮:いや、陳倉は狭い。もう少し敵に出てきて貰いましょうか。


 陳宮の指示は悪辣であった。白馬義従を敢えて後退させ、陳倉の城兵を誘き寄せようと言うのだ。


黄 権:――公孫将軍、気を悪くしないでしょうか?

呂 布:あっはっは! 楼ちゃんに限ってそれはないぞ!

 黄権の妙な心配も当然で、いわば囮役を押しつけられたカタチの公孫楼は、どういう顔をするだろうか。
 が、この点に関して呂布は何ら心配していない。
 ――思えばこの公孫楼と言う女性武将は、南蛮の中でも極めて特殊な位置にいる。
 ふてぶてしい「悪役」らしく、全軍、漆黒の甲冑で統一されている南蛮軍にあって、唯一の例外として存在する白一色の騎馬軍団「白馬義従」。…その総司令官たる公孫楼は、実は無位無冠であった。
 いちおう後漢王朝の大司馬・儀同三司・公爵である呂布は、自分の権限が及ぶ限りの官位を発行し、部下どもに着せてやっている。
 が、この長髪長身の美女だけは、如何なる顕官も受け取ってくれないのである。
 ある夜など、呂布はコトのどさくさにまぎれて封爵を承知させようとしたのだが、どんなに乱れようとも彼女は決してうんと頷いてくれず、呂布の自信を喪失させる事になったという。
 …文字通り「義によって従う」。公孫楼とは、そういう女性であった。
 

公孫楼:……(こく)。

 公孫楼は顔色一つ変えず陳宮の指示に従い、僚友の呉班とともに、併せて3万4千という大部隊をほとんど損なうことな後退させた。
 その手腕だけでも非凡を謳われるに足るものであったが、本来格上である曹洪や徐晃などという名将たちまでもが吊られて突出を始めたあたり、呉班も公孫楼も十分戦に錬られてきたと言えるであろう。
 数ターンにわたって根気強い追撃戦を繰り広げた二将は、とうとう呂布本軍との合流を果たす。
 ――曹操軍前衛は完全に、袋状に展開している呂布軍の縦深陣地へ引きずり込まれたのである。

陳 宮:…勝ったな。


  陳宮の号令一下、陳倉の山々に次々のろしが上がり、曹操軍があっと気付いたときには、四囲の山すべてに南蛮の旌旗が翻っていた。

 

曹 洪:おやおや…! 俺としたことが… 

李 典:申し訳ございません! 私の注意が足りぬばかりに…

曹 洪:いや、俺が熱くなりすぎたな。どうせ戻れん、派手にやるか。 

徐 晃:――はっ!


 仰ぎ見る山肌に、完全に突撃準備を整えている南蛮軍が、チラチラ見え隠れしていた。
 曹操軍の中幹ともいうべき勇将は、自分たちに勝ちが無いことを瞬時に悟ったらしい。
 ――一瞬の停滞の後、呂布子飼いの南蛮軍団が、いっせいにその牙を剥いた!

   

曹 洪:――な、な、なんだ、あのバケモノは!?   

朱 霊:ま、魔獣だ! 夷蛮に巣喰う魔獣だ!  


 呂布軍の突撃は、ほとんど天変地異に等しい。
 山岳の斜面へ向けて弩を構えていた曹操軍は、バキバキバキッと木々をへし折りながら駆け下りてくる、悪夢のような黒い肉塊の大群を見て、呆然とするしかなかった。
 そして、逃げるのを忘れて立ちつくす曹操軍の真っ直なかへ、世界最強の攻撃力を誇る戦象部隊が、遠慮容赦なく乗り入れた。
 骨ごと踏み砕かれる者、牙に貫かれる者、鼻で吹き飛ばされる者――象使いの秘術で極度に興奮している象たちは、普段の穏和さから想像も出来ない残忍性を剥き出しにして、目に映る人間という人間を殺し尽くした。

孟 獲:よ、弱い…!。

 象上、さすがに眉をひそめて惨状を眺めていた孟獲は、むしろ敵のために呟いた。
 この場合、戦象が強すぎるというべきだろう。マップ全域が山地とは言え、実際の戦場は荒野部であり、彼の四レベル突撃・乱撃を邪魔する遮蔽物は存在しない。一度の突撃で、戦象の被害100弱に対し、曹操軍は3000近くを失うのだ。
 
 ――曹操軍の名将達は、その高能力を満足に発揮する暇を与えられず、方々で崩れはじめた。
 が、タダでは崩れないのが中原最強の曹操軍というべきもので、こうなってからの奮戦は凄まじかった。

曹 洪:後ろへ逃げようと思うな! 死にたくなくば固まれ!  

徐 晃:一斉射開始! バケモノの上の兵を狙え! 

 朶思大王が曹洪との一騎討ちに敗れて手捕りにされたほか、真っ先に曹操軍と交戦状態に入った公孫楼・呉班軍も、敵の猛反撃で壊滅状態にあり、敵真っ直中で奮戦していた張遼軍も残り四千を切っている。


陳 宮:敵正規軍はあと何部隊だ!?

 陳宮は確認を急がせた。敵正規部隊はほぼ殲滅したハズであるが、敵の援軍はすでに長安城へ到着しており、油断しているとこちらが飲み込まれてしまう。
 敵が放棄した陳倉城を占拠した呂布軍は、さらに軍団を長安へ進めた。
 敵の正規軍は、残り一部隊。しかし太守の鍾が率いる二、万という大部隊である。

高 順:漢中の時と同じだそうだな。次は私にやらせて貰おうか。

陳 宮:いや、もう敵は合流を済ませている。全軍でひたすら鍾軍を追い回すとしよう。

 敵援軍がたとえ数十万いたとしても、正規軍が全滅すればこちらの勝ちなのだ。COMは、基本的に塞が抜かれると援軍正規軍ともども城門前に整列し、最後の抵抗を行ってくる。
 その中で、正規軍の鍾だけを選んで攻撃しようと言うのだ。

 すでに一〇万の大台を割り込んだとはいえ、まだまだ余裕のある呂布軍は戦線を長安直前に展開した。曹操軍、ここで何らかの策を講じればいいものの、じっと待ちかまえて動かず。
 戦闘開始から18ターン目。 
 ――呂布の総攻撃の命令が、長安周辺の沃野に響き渡った。

呂 布全軍ッ! 俺様に続きやがれ――っ!

陳 宮:だからあんたは後ろにいなさい!

…………………………………………
……………………………………


陳 宮:では、長安奪還を祝して!

一 同:乾杯――! 

 
 ――呂布軍は、勝った。
 第二次攻略戦に較べて、少しは楽な戦いができたというものだが、それでも死傷者は10万近くに及び、損耗率は50%を超す。曹操軍の抵抗のすさまじさが伺える数字であろう。

 が、この惨状にあってなお磊落であり続けるのが、呂布軍団の救いがたい特性であった。
 呂布の「野外で盛大な打ち上げをやろうぜ~!」という提案に、みな一も二もなく飛びつき、嬉々としてその準備をめ、その日のうちに盛大な酒宴を開いてしまうあたり、主将の人格的影響力というものは計り知れない。

呂 布:オイ! 俺様の盃が空いているぞ!どういうことだ!

陳 宮:ハイハイ。お注ぎしますよ。

呂 布:このど阿呆! オトコに注がれるくらいなら瓶から直接飲むわ!あっち行け!ぺっぺっぺっ!

陳 宮:汚っ!お返し!ぺっぺっぺっぺ!

呂 布:ええい! 喰らえっ、おしぼり爆弾!

呉 懿:ああもう!…小学生の喧嘩ですか! ふたりとも…ぶわっぷ!

呂 布:ぶわっはははははは! 誤爆誤爆!

呉 懿:……!たとえ殿といえどこのような無礼は許しませぬ!それがしのおしぼり爆弾を避けられますかな!

呉 班:あ、族兄上! 堪えられよ! 呂布どのは我らが主上ですぞ!

呉 懿:は、放せ――!以前から、コイツには一度ガツンと…! 

呂 布:はっはっは! 何なら二人同時でもかまわんぞ、俺は!

張 遼:……都督、今日はお疲れさまでした。公孫楼どのも。

高 順:…ああ、すまんな。

公孫楼:……(ふるふる)。

孟 獲:お、おまえも、よ、よく頑張った。

張 遼:そりゃどうも。――ホラ、空けてくれないと次が注げませんぜ…。


   天を焦がすほどの盛大な篝火の中、車座になって酒を注ぎ合う呂布軍。
 まだ始まって一刻も経たないと言うのに、一角(※呂布近辺)では早くも王様ゲームが始まり、打ち上げ会場は二次会状態を呈していた。

呂 布:だから酒が足らんぞっ! ひっく…はやく瓶ごと持ってこい…!

陳 宮:そんなん、殿が自分で持ってきなはれ…げふう…。 

 もうへべれけである。呂布、さっきからめぼしい給仕の娘をひっつかまえてはエッチなゲームを挑み、ある種のオヤジぶりを発揮しているのだが、もはや泥酔したというべきであった。
 ――そこへ。
 一人の少女が、清水の入った瑠璃杯を片手に呂布の隣にさり気なく腰をおろした。
 呂布、少女に気付かず、まだ他の女の子に声をかけようと上体を揺らしている。

 

少 女:あの…。

呂 布:じゃあ次はB地区当てゲームら~。ルールは簡単らおー! 

 嬌声をあげて逃げ回る娘たちに、だらしなく声をかけている呂布。
 少女は辛抱強く隣で気付かれるのを待っていたが、やがて堪忍袋の緒でも切れたのか、いきなり呂布の後襟をつかんでぐいっとくつろげ、手に持つ水を呂布の背中に流し込んだ。
 さすがの呂布も悲鳴を上げて、地べたへ転がった。
 そして初めて少女に気付き、驚きの声を上げた。

呂 布:う、雲緑ちゃん! な、なんれココへ!?

馬雲緑:――相変わらずね…!がっかりした…!

 少女は、怒ったような口調で呂布を睨み据えている。
 その潔癖そうな声は、馬騰の娘、馬雲緑のものに他ならぬ。呂布は酔いが一瞬で醒めたらしく、まじまじと少女を見返した。

 

馬雲緑:…せっかく、お礼を言おうと思ったのに…言う気が失せたわよっ!。

呂 布:ふん、来るなら来るっていってくれれば、盛大に歓迎してやったぞ!

 
 と、さらに何か言い返そうとする呂布の前に、こんどは長身の青年が立ちはだかった。
 

呂 布:おおお!? 久しぶりだなあー!

馬 超:はっはっは! 義兄上も酒癖女癖は変わってないな!雲緑が凄い殺気だったぞ。

 今度は、馬超であった。
 呂布の義弟にして、南蛮軍一の豪傑。涼州牧を兼ね、西涼軍団十万の総帥である。
 長安奪還と聞き、妹を伴って真っ先に馬を飛ばしてきたのだろう。
 二年半ぶりの再会に、呂布のはしゃぎぶりは並でなかった。


呂 布:とにかく、よく来てくれた! 皆、馬超が来たから、城内で二次会に移るぞ!

馬 超:まだ一次会だったのか!?

 宴はまだ始まったばかり、というヤツだ。
 付き合わされた大将たちこそ迷惑であろう…。

 

 …………………………………………
 ……………………………………
 
 その翌日、二日酔いで頭を痛めている呂布たちの元へ、急報が入る。
 呂布が漢中へ出向いている間に、とうとう江夏の孫策軍が襄陽を攻めたというのである。この荊州戦線の報は、呂布の体内からアルコール分を吹き飛ばした。
 荊州に関しては「早い者勝ち」であり、正直、盟友である孫策こそが、最も邪魔なライバルでもあるのだ。
 いちばん恐れていたことが起こったわけである。
 

呂 布:ヤバイぞオイ!どうしてくれるんだ!

陳 宮:…お、大きな声…出さないで…。

呂 布:もし荊州先に取られたらお前のせいだぞ!

陳 宮:とにかく…続報待ちましょうよ…ね…?

公孫楼:軍師、これ……(お酒を差し出している)。

陳 宮:…何? もお飲めない…

呂 布:阿呆。迎え酒だ!

 軍師の思わぬ不調で、対応がいつになく鈍い首脳部。一応出動準備は整えたまま、長安城の修復に過ごすだけの時間を送る。
 …が、翌週に入りだした報は、意外なところで二転、三転していた。
 圧倒的優勢であった孫策軍は、結局のところ襄陽を破れず後退したという。

呂 布:なんじゃそりゃ?

陳 宮:孫策軍も案外たいしたことありませんな。

馬 超:――荊州には強いヤツが居るのか!?

呂 布:そうだなあ…おお、お前とタメ張るくらいのジジイがいたぞ!

馬 超:ジジイ!?


 しばらくして、襄陽方面から詳報が入った。実際に戦闘に立ち会った冷苞、劉の口頭説明により、自体は余計に訳がわからなくなっている。
 ――荊州の援軍に、人間とは思えぬほどの豪傑が三名おり、ほとんどその三人だけで孫策軍を潰走させた――などというのである。

 

法 正:嘘くさいな…。敗戦の責を逃れるつもりでは無かろうな?

冷 苞:副軍師! 咎によって首を刎ねるのは結構。じゃが武人へ無用の侮辱は許しませぬぞ。

呂 布:まあまあ落ち着け。――劉、貴様もだてに顔が上から潰されてるわけではなかろう。詳しく申せ。

 劉の説明は、いよいよ荒唐無稽であった。
 陳宮は「阿呆らしい」一笑に付しただけだが、呂布は珍しく考え込む顔になっていた。

馬雲緑:……。

 …こういう思慮顔をしていると、存外いい男になる呂布。ぽーっと自分を見つめている少女の視線に全く気付かず、空間を睨み付けている。

陳 宮:荊州へ戻りますか?――それともあちらは姫に任せて、このまま五斗米道を攻め潰すなりなんなりするか、潼関を出て中原に攻め入るか…。

呂 布:…今それを考えている。

馬 超:何なら、俺達が義兄上の代わりに荊州へ行ってもよいが。

 思案の結果、呂布は荊州に起こった事件の意味を見切った。
 いよいよ、流浪の劉備軍団が、呂布の視野に入ってきた、と言うことなのだ。

  連載も三十回に突入し、ようやく出てきた劉備軍団! 馬超軍団と再会し、旧都長安を手中に収めた南蛮王。明日は風雲急を告げる荊州へ!次回、急展開!

29.えいえんはそこにあるよ

えいえんはそこにあるよ

  

――呂布はなお昏睡の淵にある。
兵士達も比較的楽に漢中を攻略したという悦びから醒め、気遣わしげな視線を南鄭城へ向けている。

張 遼:因果なものだ。去年は漢中で敗れ、成都で殿の蘇生を願っていたものだが…

 

  またしても病室から締め出され、待合場でたむろしている将軍たち。前回ほどの悲壮感は無いものの、このところの呂布の変容とあわせて、不吉な予感がしなくも無い。
 ――呂布が意識を失ってまる2日が経ち、彼らの間からも、そろそろ焦燥感が漂ってきていた。

 翌日。呂布の意識はまだ回復しない。一同、朝から陰気くさい顔を堂に並べ、たっぷり夜が更けるまで待ち、目礼して解散する。

 その翌日。まだ呂布が目覚めたという報告は無い。

 その翌日。陳宮から、最高幹部以外は職務に戻るよう指示が出され、待合場には、張遼、公孫楼、高沛、楊懐のみが居残ることになった。
 が、相変わらず待つだけの一日であった。

 ――そしてその翌日。
 呂布が意識を喪ってから。ちょうど7日目の朝。
 担当の典医が、恐る恐る帳をくぐって呂布の病室を伺い、血相を変えて飛び出してきた。
 彼はそこに無人の牀を見出したのだ。

 南蛮公行方不明…! 
 その異常な事態は、わりとすぐに解決された。
 陳宮が、食卓で悠然と朝食を食べている呂布を発見したからである。

小間使い:今日こそはきちんと椎茸を食べてください!

呂 布:だから俺様は喰えんと言ってるだろうが!

小間使い:どうしてそう嫌がるんですか!

呂 布:どうしてそう薦めるんだ!

 …と、その日の朝餉を挟んで対峙しているところに、出くわしたのだ。

陳 宮:…………。

小間使い:…呂布さま。椎茸は宇宙人じゃないんですよ…?一介の菌糸類じゃないですか…。

呂 布:だがIEの中止ボタンに見える事実はいまだ否定できん。

小間使い:はあ…でもXPに入っているIE6だと、それもないんですよ。

陳 宮:…………。ひとついいですか。

呂 布:おう。

小間使い:あ、おはようございます!

陳 宮……何やってるんですか!こんなところでッ!

 数時間後――。
 呂布、面白くもなさそうな顔で、諸将の拝跪をうけている。
 

呂 布:まったく! 俺様が留守の間に、こんな面白いことになっていたとは。

 どうやら、荊州を半ば制圧し、難攻不落の漢中要塞をも陥落させた、この疾風怒濤の一年間を、まるで覚えていないようなのだ。不貞腐れの原因は、それであった。

陳 宮:それより、この一年間、殿の精神はどこへ飛んでいたのですか

呂 布:ああ、ちょっと「えいえん」に行ってた。

陳 宮「えいえん」…? ――えいえんってどこにあるんですか?

呂 布:ああ、えいえんはそこにあった

陳 宮:はあ…。

 ちょっと意味不明なところも有るが、どうやら呂布、元に戻ったらしい。


呂文姫ぱんぱかぱーん!

呂刀姫:はい、ここで呂姉妹の解説です。

呂文姫いえーい!\(^O^)/

呂刀姫          呂文姫

 

呂刀姫:父上の完全復活に合わした訳ではないんですが、「南蛮王呂布の痛快活劇」は、次回から三国志VIIIパワーアップキット版に引っ越します!

呂文姫:ずいぶんと時間がかかったねえ~!

呂刀姫:まあ、一度通常版でゲームクリアしていたから、どこからデータを入れ替えるか、という事もありましたが…。

呂文姫:とりあえず、キリのいい漢中攻略地点から、ということで!

呂刀姫:そう。また状況再現に奔走しました。顔グラ交換とかね。

呂文姫:あ、こんどは光栄の配布しているオリジナル顔グラも導入したんだよね~!

呂刀姫:その通り! 以下、その一例です!

孫策

  曹仁   馬岱
   

 

改造したけどイマイチ…。

どうせなら項羽と交換。

  賈逵顔使ってたけど…。 英布顔にしちゃえ。   陸抗顔から… 高長恭へ。
               

徐晃

  羊[示古]   公孫淵
   

 

典満ヅラから…

頭巾ヘッドじゃないけど楊大眼に。

  この顔、張儼に。 憂いの名将・楽毅を!   弱そう… 勿体ないけど始皇帝。
               

夏侯栄

  張虎   孫瑜
   

 

夏侯淵の息子。曹沖タイプの神童だったけど、父と共に戦死。陳慶之顔で   まあ実際こんなもんだろうけど…。 霍去病顔に。一応主役ですし。   私を孫瑜FCと知っての狼藉か…? 李勣顔で。格好いいし。

呂刀姫:新武将については、玉川雄一様から、顔交換ができなくらいぎっしり詰まった史実補完武将を頂き、相当数流用しました!

呂文姫:祝融夫人とか孫尚香も新武将登録したんだよ~!

呂文姫:ところで、このパワーアップキット…。

呂刀姫:うん…。

呂文姫:惨憺たる出来だったんだよね…

呂刀姫:ああ…。ちょっと、ね。今回はね。

呂文姫:何せ、未登場武将が、いつまで経っても出てこないという致命的欠陥が…。

呂刀姫:ホントに致命的だったよね…。もし、まだコレを読んでて、修正パッチを当ててない方。すぐに光栄HPのユーザーコーナーから差分ファイルをダウンロードしてくださいね。

呂文姫:うーん…(‐_‐)

呂文姫:ちなみに、プレイヤーキャラクターは、今までどおり、父様、姉様。そして来年からは虎兄が加わります!

呂刀姫:う、うん…。

呂文姫:新展開♥ 楽しみだね~!

呂刀姫:お、おう!

呂文姫:うふふー。姉さま可愛い~


呂 布:ふん、大体の事情はわかった。
 

 ここ一年間の経緯についてざっと説明を受けた呂布は、不機嫌そうに頷く。
 まだ「お祭り」に参加できなかった(?)ことに腹を立てているらしい。

陳 宮:さて、殿。過ぎた話は置いといて、これからの話をしましょうか。

 口調を改めて、陳宮が一同の注意を促した。

陳 宮:ご覧の通り、我らが漢中を手中に収めたことで、米賊の勢力圏は、武都一郡のみとなっております。ここは間髪いれずに彼らを攻め潰し、涼州方面との連絡を回復するべきでありましょう。

 軍師の言に、皆一斉に頷く。
 馬超軍と分断されて、はや3年の歳月が過ぎようとしていた。
 ――が、それもあと一戦。
 あと一戦に勝ちさえすれば、懐かしいあの馬軍団たちと再会できるのだ。
 多数の将兵を失い、聖地を奪われ、西辺に逼塞している五斗米教団に、もはや昔日の威は無い。
 漢中を奪取した余勢を駆って、そのまま武都陰平を攻略すべし――!
 一同、期待を込めたひとみで呂布を見上げる。
 …ところが次に呂布が発した一言は、彼らを唖然とさせた。

呂 布:何をアホなことを言ってるんだ?

 復活した南蛮公・呂布は、むしろ純一戦士時代よりも苛烈な視線で一同を睥睨した。

呂 布:馬超との連絡を取り戻すんだろ? ならこれから長安を攻めるのが筋だろうが!

陳 宮:あっ!

 諸将は総立ちとなった。なるほど、一連の戦闘で長安の曹操軍は疲弊し、勝機があるとすれば今のうちだけかもしれない。
 …それにしても公の豪気さよ…と一同はあらためて思い知らされたようであった。

 

呂 布:俺様は冬までに長安でマターリするつもりでいるから、貴様らはその準備を整えておけ!

一 同:はっ…! 
 

 建安11年、秋。
 隴の地は、かつて見たことも無いような異相の軍団で溢れかえっていた。
 孟獲・木鹿らの大渠帥率いる南蛮軍団・7万が到着したのである。どこをどうやって運んできたのか、おびただしい数の戦象部隊が、南鄭城郊外に集結し、天幕を連ねていた。
 当初は猛烈な反発が予想された漢中在家の道教徒たちだったが、さすがにこの異様な光景に度肝を抜かれたのか、ただただ呆然と、南蛮兵や戦象の様子を眺めている。
 …そのうち好奇心の強い子どもたちが勝手に象の天幕を覗きに来るようになり、南鄭郊外はいつのまにか野外サーカスの状況を呈していた。

 ――建安11年、10月。南蛮公呂布は3度目の長安攻略戦を開始する。
 兵力は、単独の出兵としては過去最大規模の17万余。公に従う主だった将帥は、陳宮、孟獲、張遼、公孫楼、呉班、黄権らであった

 
  いよいよ三国志VIIIpkに対応し、本格始動した痛快活劇! やっぱり書きやすい通常版呂布に戻り、ストーリーは一気に佳境に! 第二部への伏線をはらみつつ、南蛮王は今日もゆく!

28.漢中へ続く道

漢中へ続く道

  

 初陣で荊州屈指の勇将・文聘を手捕りにするという大金星をあげた呂刀姫は、二月、残務処理を張燕らに委ねて帰還の途についた。
 ところがこの刀姫の凱旋より一足早く、武陵の呂布の元へ驚くべき報がもたらされる。
 ――長安駐留の曹操軍が、ついに涼州制圧に乗り出したというのである!
 情報は一刻きざみに飛来し、早くも馬超戦死だの韓遂離叛だのいうネガティブな噂が城内を駆け回っている。
 さすがに陳宮・黄権ら枢密陣は、微塵でも憶測の臭いがする情報は悉く虚報として排し、確定情報のみを採取して状況を詳かにした。
 この時点で確実に分かっていることは、馬超軍は掻き集めても6万強であること、対して出撃した長安軍の兵力は十万強であるということ、総大将は鐘ヨウであること――のみであった。

 よりにもよって、こういう時期に刀姫は凱旋したのだ。
 拍手喝采の出迎えまでは期待していなかったものの、忙中、せっかくの初陣の武勲が霞んでしまったみたいで、ちょっと刀姫は残念だった。
 が、そういう感情はちらりとも顔に出さず、刀姫は帰城早々父親の元へ復命する。ちょうど城内は、呂布の漢中再遠征の準備でごった返しており、父娘謁見に立ち会う者さえいなかった。
 無言の父に対し、刀姫は努めて事務的な口調で戦況と戦果と被害だけを語った。

呂刀姫:――以上です


 

  と、そのまま退出する長女の背中にむかって、はじめて呂布が声をかけた。

呂 布…え、えらい。

呂刀姫:あ、ありがとうございます。


 この醇朴と言っていい一言が、刀姫にとってなによりもの賞賛であった。
 彼女の帰る足は軽い――。

 それからたっぷり一月ほど間をおいて、涼州方面から詳報が届く。
 それは、一同「――ハァ?」という内容であって、陳宮でさえ状況を掴むのにかなりの時間を費やした。
 漢中が、曹操軍に占拠されたというのである。


陳 宮:何がどうなったらこーなるんだ? 

呉 班:それが、我らにも何が何だか…。

  このターンに益州入りしていた呂布の本営は、まず混乱する。取り急ぎ情報を収集して、おおよそ分かったことは、こうであった。

◆1ターン目◆
 1.曹操軍、長安を空けて天水を攻撃。失敗。
 2.張魯軍、長安を攻撃。大敗。

◆2ターン目◆(現在)
 3.張魯軍、長安を攻撃。大敗。
 4.曹操軍、漢中を攻撃。攻略。

 

陳 宮:つまり、長安に色気を出した張魯が曹操にちょっかいを出して、逆に敗れたと。

呂 布め、めでたい…!

陳 宮:めでたかないですぞ! ただでさえ漢中は攻めづらいのに…。

呉 班:というか、何か大切なこと忘れてません、私ら?

陳 宮:あ……。 

 その通り。この状況が生まれる前提として、天水に孤立していた馬超軍が曹操軍を単独で撃退した事実がある。

呂 布ば、馬超は、よ、よくやる…!

陳 宮:確かに…。いい仕事をしましたな。

 もっとも、馬軍団だけでは名将・鐘に手玉に取られていたであろうから、誰か余程な鬼謀の士がこれを扶けたものと見えた。

陳 宮:誰だっけ…?

張 遼:…わざとですか?あっちには法正が飛ばされてたでしょうが。

陳 宮:あ。

 わざとではなく、本気で忘れ(たがっ)ていた陳宮。確かに、馬超軍には法正がいた。

陳 宮:なんだぁ、あいつもたまには役に立つじゃん!

公孫楼:わざとらしい…。

 ともかく、呂布軍としては意外な岐路に立たされる羽目になった。
 このまま曹操軍が扼する漢中を力押しに攻め潰すか、今回はあきらめて荊州へ戻るか――呂布は0.5秒で即断した。

呂 布…せ、攻める。

 前回呂布軍が壊滅したのは教母の「落雷」のせいであり、生身の将兵が守る漢中要塞など、呂布にとっては階段の上に突っ立ったスペランカー程度にしか見えないらしい。
 …ところでこのターン終了間際、荊州からわざわざ劉の使者が訪れ、和平交渉のテーブルを用意したい、と言ってきている。
 呂布は面倒くさそうに会おうともせず、代理の陳宮が「このクソ忙しい時に」と毒づきながら使者と会い、当方が降を容れる以外の交渉は無用である、と追い返した。韓公家もこうなっては無惨なものであった。

 翌ターン。建安十一年夏――。
 呂布軍は怒濤の勢いで漢中盆地を席巻した。
 前回の戦闘時に大地に穿たれた大クレーターを横目に見つつ、呂布率いる騎馬軍団は、漢中の山野を我が庭のごとく駆け回った。二度目の戦闘でだいぶコツが掴めているのである。
 前回は軍を二つに分けるという奇策がかえって裏目に出、陣容の重厚さを失うことになった。今回は最初から最前線に兵力を集中し、「力押し」作戦をとっている。
 敵正規戦力はおよそ5万であり、長安方面の援軍も同程度であろう。
 対する呂布軍は、荊南・益州の安全圏から掻き集めた兵力16万が主力であり、数の上でも圧倒的であった。
 とにかく敵援軍を無視し、正規戦力のみを集中攻撃――これがセオリーである。
 むろん正規戦力「だけ」と交戦するためには、敵援軍をどこかで喰い止めておかねばならない。陳宮は、この最も地味で最も重要で最も危険な任務を、公孫楼と高沛の両騎将に委ねた。

 今回は呂布軍、圧倒的な優勢を保っている。
 緒戦で呂布が陣頭に立つまでもなく、先鋒・張遼らの猛攻で山塞は早々に陥落し、曹操軍はあっという間に戦線をズタズタにされた。この地形での戦闘は、たいがい密集している方が勝ち、分断された方が負ける。口の中で噛み砕かれたアメ玉のようなものである。
 加えて、曹操軍には山岳戦の巧者がいない。以前張魯軍にあれほど苦戦したのは、敵将張衛らの高レベル「落石」があったからだが、今回はそれを心配する必要がない。

 一方、長安方面からの援軍は、公孫楼と高沛の二人がほぼ防ぎきった。阿呆なCOMは、正規軍が壊滅の危機に陥っていても、目の前に敵がいると、とりあえず殴りかかってくるのだ。
 完全に呂布軍に呑み込まれてしまった漢中正規軍は、慣れぬ山岳戦に右往左往している間に、ほぼ全滅してしまった。

 残る敵正規軍は、漢中太守・朱霊ひとりである。


呂 布:…や、奴は、お、臆病者だ。

 最前線の味方が次々全滅してゆくというのに、南鄭城を出もしないのは怯懦である、と呂布は決めつけた。朱霊本人が聞けば歯ぎしりして悔しがったに違いない。

陳 宮:早いところその敵大将を討ち取らないと、別働隊が保ちませぬぞ。

 陳宮が心配げに言うも道理で、そもそも数からして倍の敵援軍を足止めしている公孫楼・高沛隊の苦境は、いかほどか知れない。

呂 布ち、張遼。  

 

 呂布が指名したのは、張遼であった。最前線にいつづけた割に、張遼軍は損耗が少なく、また快速の騎兵集団でもある。
 張遼は、指令を受けるや、まっすぐに南鄭城へ直行した。途中、四千あまりにまで磨り減っている公孫楼隊と合流し、合計二万の騎兵は南鄭城を目指す。
 ここで敵援軍、素直に張遼軍を追いかけて城と挟み撃ちにすればよいものの、COMの阿呆さゆえか、あっさりこれを見逃し、マップ中央部の呂布本軍へ向けてゾロゾロ意味のない進軍を続けた。
 一方、フリーとなった張遼と公孫楼の二軍は、城外まで迎撃に出てきた朱霊軍をあっという間に包囲し、代わる代わるに極レベル突撃を食らわせる。
 …が、崩れない。呂布が見たら前言を撤回するであろうほどの驍勇を発揮し、朱霊は一万六千の大軍を巧みに指揮して、しぶとく抵抗を続けた。
 ――結局、朱霊軍が全滅したのは、漢水を緊急遡上してきた上傭方面の援軍が到着してからであった。

 漢中は、陥ちた。
 マップ中央の呂布本軍と今まさに決戦を挑まんとしていた長安援軍は「えっ、そうなん?」という顔をして振り返り、慌てて撤退を開始する。
 それへ呂布軍は猛烈な追撃をかけた。有史以来、追撃戦とは殲滅戦であり、実際の会戦よりも追撃戦の方が遙かに戦死者数が多い(敵に背を向けているから)。このとき、長安軍は李典という名将をシンガガリに得ていなければ、それこそ全滅していたであろう。

 ――今回は戦の趨勢から最も離れた位置にいた首脳部、追撃戦終了後、ひとまず南鄭郊外の一平野に集合して戦勝を祝賀し合った。

陳 宮:ともあれ、おめでとうございます!

呂 布……

陳 宮:思えばここでズタボロになってからちょうど一年ですなあ、殿。

呂 布……。

陳 宮:こんな時まで黙っててどうするんですか。いつものアレを。ホラ、「め…」

公孫楼:軍師!…変だ…!


 公孫楼が陳宮の袖を引くのとほぼ同時に、呂布の巨体が、赤兎の上から姿を消した。
 ズシャ…っと重たい金属音がして、呂布の巨体は甲冑ごと地面へ叩きつけられていた。

 

陳 宮:と、殿!?。

公孫楼:す、凄い熱…!

 駆け寄った張遼が、慌てて巨体を引き起こして介抱する。
 戦勝ムードは一瞬で吹き飛んだ。司令部は騒然となり、悲鳴とも怒号ともつかなう指示が右へ左へと飛び

張 遼:早く医師を――! 

 
  期間限定の純一戦士・呂布奉先! 漢中で破れてちょうど一年、謎の発熱で人事不省。
次回、南蛮王呂布の痛快活劇、「えいえんはそこにあるよ」 ――お楽しみに!

27.韓公国無惨

韓公国無惨

  

 建安十年、冬。
 「南蛮王の大いなる午睡、あるいは覚醒」は、出し抜けに始まった。
 その第一撃は、荊州で炸裂する。――荊州方面の都督代行である長沙の張燕軍が、何の前触れもなく荊南の要衝、桂陽を電撃したのだ。

 呂布は先の敗戦で傷つき、軍団も半身不随であるはず…という劉表方の期待のウラをかいた作戦は、見事図に当たった。劉表軍はあわてて迎撃したものの、例によって発動した諸国連合軍の怒濤のような人海戦術に為すすべもなく、あっけなく全滅してしまった。
 これで、長江以南の荊州における劉表の勢力といえば、零陵のただ一郡を残すのみとなった形である。

呂 布め、めでたい…!

陳 宮:やりずらいなあ…。

 

 この張燕の快勝はおおきい。
 彼の独断専行(指示を「内政」にするのを忘れてただけ…)とはいえ、この一戦によって韓の勢力は完全に分断されたと言ってよい。
 陳宮はこの機を逃がさず一挙に荊南を陥とさんものと、前線基地のある武陵へと大本営を移した。
 呂布もまた、9ヶ月ぶりに荊州の地を踏みしめた。


呂 布ち、張燕。…で、でかした。

張 燕:は…っ!

呂 布れ、零陵を、と、取る。せ、先鋒で、ぜ、全軍を案内せよ。

張 燕:ぎ、御意。


 呂布の発する異様なオーラに圧倒されたのか、この人を喰ったような無頼漢が、妙に行儀よい。
 とにかく、零陵攻めの先鋒に指名された張燕、勇躍して陣地へ戻っていった。
 一方の呂布、先の遠征にも使用した仮屋敷に入り、準備を待つ。 


小間使い:おかえりなさいませー!

 

 いつもの通り、小間使いと忠吉さんが呂布を出迎えた。うれしそうに尻尾をふる忠吉さんを一瞥して、呂布は重々しく呟いた。

 

呂 布さ、先に忠吉さんの、さ、散歩に行く。ふ、風呂は、あ、あとでよい。

小間使い:わかりましたー! そのくらいに沸くようにしますー。

 引き綱をもって忠吉さんの散歩に出ていった呂布の後ろ姿を見送って、小間使いはうれしそうに風呂の準備を始めた。

 
 ――翌朝。
 急報を携えた陳宮が自ら駆けつけたとき、呂布邸ではいつもの食事風景が繰り広げられていた。

呂 布…………。

小間使い:あれ…、呂布様、椎茸は食べられないのですか…?

呂 布し、椎茸は、う、宇宙人ゆえ、く、喰えぬ…!

小間使い:はあ…。でも、ノーカロリーだからダイエットとかにいいんですよ。

呂 布お、俺のを、や、やる。く、喰え。

小間使い:わ、ありがとうございます!

呂 布ゆ、ゆるす。

陳 宮:………。なんか、前以上に異様な食卓風景になってるな…。

 一部始終を眺めていた陳宮、呆れたように言いながら上がってきた。 


小間使い:あっ、陳宮様、おはようございます!

呂 布ち、陳宮、き、貴様も、し、椎茸を、く、喰え!。

陳 宮:出がけに食って参りました。それより……  

 

 小間使いがさりげなく席を外すのを確認すると、陳宮はびっしりと文字の書かれた帛布を広げた。
 

陳 宮:――援軍として派遣していた冷苞らの早駆けですが…。

呂 布……

陳 宮:江夏が、陥ちましたぞ。韓公は孫策に捕らえられ、処刑された様子。

呂 布――――!


 驚くべき訃報であった。
 韓公・劉表、斬死す…!
 この報は数日を経て天下を駆け巡り、一つの時代の終わりを人々へ痛烈に突きつけることになる。
 劉表、字は景升。皇族として、また自身すぐれた学者として青年代から清明を博し、身一つで荊州を切り伐り、学問王国とも言うべき楽土を乱世の中に十年以上も保ち続けた、希有の人である。
 実体は荊州豪族連の御輿的存在にすぎなかったにせよ、この巨人の死は中原の趨勢をも左右すること間違いなかった。

 

陳 宮:孫策にとっては、韓公は父・孫堅の仇。斬って当然といえば当然ですが…。

呂 布り、劉表の子の、な、名を言え。

 

 劉表には、年若い子が二人いる。長子劉と次子劉である。
 劉表は内々に、弟の劉を愛していたようだが、ゲームでは何の悶着もなく長兄・劉が後継者に立った。能力的には、父親をさらに大人しくしたようななタイプであり、多少の吏才の他に見るべき点はない。

 

陳 宮:交戦中の君主ですが、一応、弔問の使者は出しておきました。…まァ、年明けの零陵攻略を中止するほどのものでは無いかと。 

呂 布よ、よかろう。

 
 喪中の軍を撃つは人の道にあらず、などというお題目は、この主従には通用しない。
 呂布軍は冬のあいだに着々と出撃準備を整え、武陵に残す兵力を別にしても、約七万という大部隊を編成してのけた。
 ここ連年の敗北にもかかわらず、これほど迅速に軍団を編成できるのも、ひとつには今作に訓練値の概念が無いと言うことがあげられるかもしれない。召集した新兵たちをそのまま戦場に放り込めるのだから、楽なことこの上ない。…むろん、SLGとしては欠陥というべきなのだが…。  

 ――年が明けて、建安11年(二〇六年)。
 遠征軍の壮行式と新年の祝賀とを兼ねた大宴会が、武陵の政庁前広場で華やかに開催された。隣国では、先君の服喪で歌舞音曲を控えているというのに、いい気なものである。
 このたびの出師は、征旅とよべるほどのものではなく、ほとんど掃討戦にちかい。呂布はいちいち出陣せず、総大将張遼、副将張燕のほかは、蔡勲、趙範ら荊州投降組が主力である。
 そんな中……。
 宴の演目がとぎれた頃を見計らって、一人の少女が、呂布の前へ歩み出た。

呂刀姫:父上!

呂 布な、なんだ…!

呂刀姫:私は、もう今日から十五歳でございます! 何故、この度の戦列に加えていただけないのですか!

 
 呂刀姫、ちょっと年賀の酒を飲んでしまったらしい。
 頬のあたりに、かすかな酔色を漂わせながら、呂布に詰め寄っている。
 詰め寄られた呂布はというと、洗面器のような大盃を片手に、無表情なまま娘をにらみ返している。

呂刀姫:傅父(高順)にも、すでに戦の免許を頂いております! ぜひ、私を戦列の端に加えてくださいっ!  

呂 布:………。

呂刀姫:………………………。  

呂 布:……ゆ、許す。

 オオオオ、とどよめきがおこった。
 物見遊山のようなものであった今回の遠征は、たちまち姫殿下の初陣式となってしまった。
 張遼や張燕、苦笑するよりない。

 

張 遼:フフ…元気のいいお姫様だぜ。

張 燕:まァた陣を考えんとなァ…。後ろに引っ込んでて貰うかな。  

張 遼:いや、俺の予感だが、あのお姫様、案外やるかもしれねえぜ…。

 

 張遼の予感は、痛快なほどに的中した。
 張り切って出撃した呂刀姫は、行軍中、気負いすぎて兵をいたずらに駆り立て、張遼に張り手を喰らうという目にもあったのだが、そのせいあってか、戦場では想像以上に沈着であった。
 …数からして圧倒的優勢にある南蛮軍は、連合軍と協力し、大きく敵を包み込むような進軍を続けていた。
 が、マップ中央の山塞で敵の組織的な抵抗を受け、やや出足が鈍ったかに見えた。
 ――それが敵主将文聘ただひとりのバケモノのような豪勇に支えられているのを見て取ると、呂刀姫は自ら馬をとばし、張遼に敵大将を討ち取るよう具申した。

張 遼:さすがは姫様、よく見ている。が、俺では相手してくれませんぜ。  

呂刀姫:なら、私が参りますっ…!。 

張 遼:おいおい…! 姫様に何かあったら、俺が殿に斬られちまう。

呂刀姫:大丈夫です。父上なら、よくぞあれを一人前に扱ったと、誉めてくださいます。  

 張遼、苦笑いして、この満十四歳の少女を見遣った。
 同じ年頃の娘に較べれば長身なほうだが、周囲の厳めしい鎧武者どもにくらべると、ほとんど馬に乗ったリカちゃん人形である。これを戦場へ投入しようとする男たちの方こそ、どうかしている。
 だが張遼、

張 遼:ま、…どうせ人はいずれ死ぬか。早いか遅いかだな…。

 と、とんでもないことを呟くと、急にニッコリと笑って令箭を呂刀姫に投げてよこした。

 

呂刀姫:かたじけない!

張 遼:一つコツを教えておきましょうか。一騎討ちの時は、まず最初に気力を回復すること。

呂刀姫:まず気力を回復する…。

張 遼:あとは、ひたすら気力を消費して、隙狙い、一発狙い。たいがいの敵はこれで倒せるはずだ。

呂刀姫:――ありがとうございます、将軍!

 

 呂刀姫は元気よく一礼すると、馬腹を蹴って一目散に飛び出した。

 ――なんだ、アレは。
 敵味方の将兵が騒ぐ。なにせ、目立つ。すぐさま敵方の槍襖が取り囲むが、不思議に彼女の躯にかすりもしない。颯々と白い風が吹き抜けてゆくようなものであった。
 呂刀姫は、あっというまに敵の本陣へ肉薄した。あわてて旗本たちが駆けつけ、ばたばたと討ち取られてゆく。
  文聘は、自ら馬を駆って呂刀姫の前へ立ちふさがった。

文 聘:来れるは、南蛮公の息女とお見受けする。やれ勿体なし、勿体なし。

呂刀姫:……!  

 
 文聘としては、「女にしておくのは勿体ない武勇である」と武人らしく誉めたつもりであろうが、呂刀姫は、意味を取り違え、侮辱と取った。
 無言で馬を駆け寄せざま、激烈な斬撃を放った。文聘、これを槍の柄で鮮やかに流し、薙ぎ払う。
 実のところ文聘の武力は88(えぢた~済み)であり、呂刀姫は83。尋常に打ち合えば、呂刀姫といえど、この荊州屈指の猛将には及ばぬであろう。
 が、呂刀姫には、張遼に習った必勝法がある。多少の武力差など、問題ではない。
 一騎討ちが長引くに連れ、誰の目にも勝負の行方は明らかになってきた。

文 聘:し、信じられん…!ここまでとは…。

呂刀姫:それ、お一つ進上っ!

 呂刀姫の槍はますます精緻を極め、文聘は次々と浅手を負う。そしてついには、高腿を深々と突かれ、落馬した。  

  

呂刀姫:捕らえよ!

 
 息を弾ませて馬周りに命じると、自身はただちに兵を差し招き、そのまま敵の塞へ突撃する。
 彼女の突撃はデフォルトで「四」であり、呂布の後継者としての資質は十分すぎるほどに持っていたといえよう。 
 呂刀姫の獅子奮迅の活躍もあり、零陵は、張遼の計画よりも四ターン早く陥落した。

 後の南蛮皇帝・呂鳳のデビュー戦は、彼女の将来を占うが如く、かくも華々しいものとなった。
 零陵失陥により、韓公国の領土は、新野、襄陽、江陵のみとなった。逆に南蛮公国は長江以南の荊州の地をことごとく領有することとなる。
  

  

※新規武将登録時、姉妹の年齢計算ミスしてました(;^_^A

 

  期間限定の純一戦士・呂布奉先は絶好調!娘の刀姫もレギュラーに加え、南蛮公国はいよいよ荊州をかけての大戦! 第五部、好調な滑り出しです!

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